約 42,615 件
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/2023.html
正面から父親と話すのも久しぶりだ。病み上がりのせいかどうかわからないが、少し痩せたように思う。いかつい 顔はかわらないが。この顔を受け継がなくて、そのあたりは母親に感謝したい。 「心配をかけたな」 「いえ・・・・・・無事に回復してよかったですよ」 「これからは少し節制しないとな。今まで通りにはいかんだろうから」 大病をして、少しは反省をした様子だ。豪放さが父の売りだが、それも落ち着くだろう。 「話というのはだ、実はお前と京子の婚約を解消することにした」 一瞬、父の言った言葉に、自分の耳を疑った。 「京子本人から申し入れがあった。お前との婚約を白紙に戻して欲しいとな」 「待ってください、一体どういうことです?」 お互いの両親達により、僕等は婚約者とされた。こちらの意見も聞かず、勝手に話を決めたことに、僕は反発して 家を出た。 「京子から言われたよ。『おじさまたちの気持ちはわかりますが、一樹さんの未来は一樹さんの意思により決めら れるべきです。一樹さんの意思を尊重してあげてください』、とな」 「京子がそんなことを・・・・・・」 「京子はお前のことを本当に大事に思っているんだな。親よりも余程しっかりとお前のことを見ている」 小さい頃より一緒に育った仲だ。お互いのことはよく知っていると思っていた。 でも、京子がそこまではっきりと物を言うとは思わなかった。 日が沈み、ようやく暑さが衰えてきた黄昏時、庭に虫の鳴く音が響いていた。 縁側に腰掛け、その音を聞きながら、ぼんやりと昼間の父の言葉を思い返していた。 「古泉」 森さんが僕を呼ぶ声で、僕は回想を破られた。 「ちょっと一緒に来なさい」 「どこへ行くんですか?」 「いいから付いてきなさい」 言葉に有無を言わさぬ迫力がある。年齢不詳の美人だが、こういう時の森さんは少し怖い。 「少しドライブするわよ」 BRZに乗るたびに思うのは、この車が森さんにピッタリあっているということだ。自分の手足のようにこの車を使 いこなしている。 「話は聞いたわよ。橘さんも思い切ったことをしたわね」 父の優秀な秘書としての顔ではなく、森園生というひとりの女性として、森さんは微笑みながらそう言った。 「あなたの婚約者に決まった時、誰よりも喜んでいたのはあの娘だったわ。光陽に転入するとき、『一樹さんの傍 に行けるので嬉しいです』なんて言っていたのを覚えているわ」 「今じゃ休みの度に僕の家でくつろいでいますよ」 「でも、そのことは嫌じゃないんでしょう?」 確かに森さんの言う通りだ。昔みたいに京子が側にいるのが当たり前のような、そんな気さえしている。 開けた車窓から入ってくる、海から吹く夜の浜風はかなり心地よかった。この時期は海岸でいちゃつくカップルの姿 が目立つが、今日はほとんど姿が見えない。 「古泉。自分の未来は自分の意思でもって決めなさい。橘さんがあなたのくびきを取り払ったのだから、あなたがこ れから先どうするか、よく考えて行動しなさい」 森さんの言う通りだった。京子は僕と両親の間の緩衝材になってくれたのだ。 それから四日後、僕は京子と一緒に自分の家に戻った。 文芸部(SOS団)の今年の旅行は、去年と違い、今年は山へ出かける事になった。メンバ-は文芸部とSOS団 の部員(団員)、中河君に”彼”の妹さん、お払い箱になったはずの谷口君(”彼”が誘い、鶴屋さんがOKを出した )とその彼女の周防さん、そして京子。それからもう一人は言うまでもなく、”彼”の恋人、佐々木さん。 夏休みに入り、佐々木さんはインドネシアから帰ってきて、”彼”の家に二週間滞在するとのことだった。 「本当はキョンの家に夏休みの間全部いたいのだけど、そういうわけにもいかないから」 もちろん、旅行先でも、彼の横は佐々木さんの指定席だった。 「ちょっと、佐々木さん。少しひっつきすぎじゃないの?」 多いに不満顔の涼宮さん。 「そうかしら、でも、最近部室ではキョンの横はいつも涼宮さんが座っていると聞いているけど」 「べ、別にいつも、てわけじゃないわよ。優希が隣に座っていることだって多いんだから!」 2人のやり取りをきいて、全員苦笑する。 ”彼”は少し困った顔をしている。 「お家でも、佐々木のお姉ちゃんはいつもキョン君の部屋にいるもんね。寝ている時ぐらいだよね、別々にいるのは 。あ、でも、朝にキョン君を起こしにいくのは佐々木のお姉ちゃんか」 妹さんは無邪気に爆弾を投下した。 「古泉君、楽しんでいるかい?」 高原の風が吹く山のホテルの中庭でくつろいでいると、鶴屋さんが声をかけてきた」 「はい、おかげさまで。すいません、いつもいろいろお世話になりまして。今回は京子までお世話になりまして、 ありがとうございました」 「あの娘は古泉君の幼馴染かい?かなり仲がよさそうだったが」 「はい。親同士が親友で、京子とは小さいときから一緒に育ちました」 「ふうん。そうかい、良い娘さんだね、あの子は」 「はい。僕もそう思います」 「ねえ、古泉君。もうすぐ私もみくるも北高を卒業するっさ。卒業したら、みんな別々の道を進むかもしれないし、 同じ道を進むかもしれない。それでも北高で出会えた仲間たちは、一生の宝物だと思うんだな。だからこそ、私は皆と 楽しみたいのさ。もしかしたら、将来、共に力を合わせて行動する日がくるかもしれない。そういう時がきたら、これ 程心強い仲間はいないよ」 「国木田君のようにですか?」 鶴屋さんの表情がほんのり朱色に染まる。 「国木田君は、私が共に同じ道を歩きたいと思った男性さ。私の為に、私の横に並ぶのにふさわしい人間になりたい と言ってくれる。そこまで言ってくれて、行動してくれるのは国木田君しかいないのさ。小さいころから国木田君は私 だけを見てくれた。これから先も私が一緒に居たいと思うのは国木田君だけだね」 クリスマス会の時、鶴屋さんはおそらく次期当主としての決意を固めていたのではないか。だからこそ、国木田君を 公の場に同伴させたのではなかろうか。 誇らしそうに国木田君への思いを語る鶴屋さんの横顔が、眩しく輝いて見えた。 二泊三日の旅行を終えて家に戻ってきた後、僕は実家に連絡を入れ、京子と共に戻った。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 実家に戻った後、僕は改めて京子と婚約をした。今度は親が決めたのではなく、自分の意思で京子と婚約をした。 「京子の伴侶としてふさわしい男になるように、これから精進していくつもりです」 京子の両親に僕は頭を下げて誓った。 そして、もうひとつ。僕は決めた事があった。 それは北高を去り、実家に戻り、後継者としての修業を積む事だった。 「お前が夏休みが終わる前に、転校すると聞いたときは、さすがに驚いたんだが・・・・・・俺たちと旅行に行った時、 既に決めていたのか?」 「ええ。いろいろありましたが、京子の行動、鶴屋さんの言葉、いろいろ考えて、最終的に自分でそう決めました 。僕が進むべき未来、やらなければならない事、自分の責任において選択した道でした」 「そうか・・・・・・」 京子が入れてくれたお茶を飲んで、”彼”はしばらく沈黙した。 「正直、北高の皆さんと別れるのは寂しかったですが、でも、あなたと涼宮さんが僕に言ってくれたように、僕が 皆さんに言ったように、どこにいても、僕は仲間ですから」 「そうだな。お前の言う通りだよ。俺達はずっと仲間だよ」 ”彼”は笑顔で頷いた。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------- 北高を去る一日前、僕は涼宮さんと二人だけで、遊びに出かけた。 いつも、SOS団(文芸部)で出かけことが多くなっていて、二人だけで外出するのは久しぶりだった。 中学二年生の時、僕は東中に転校して、そこで涼宮さんと出会った。 そのころの涼宮さんは「変な女」として扱われていた。美人だったので、言い寄ってくる男子生徒はいたが、取り あえず付き合ってはみるものの、全部振ったということでかなり有名だった。あの谷口君も振られた一人で、噂による と、5分で振られたという話だ。 そんな涼宮さんだったが、真っ先に僕に声をかけてくれて、クラスに溶け込めるようにしてくれたのは彼女だった。 僕は彼女と友人となり、やがて彼女に心惹かれた。 僕の心が彼女に届くことはなかったけど、今はそれも良い思い出だ。彼女を好きになったことを僕は誇りに思う。 「古泉君、たとえ離れても、私達はSOS団の仲間で、そして古泉君は私にとって、最も信頼出来る親友だから」 その言葉だけで、僕は充分だった。終わった過去の思いを伝える必要はもうない。 ”さようなら、涼宮さん” -------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「そうか、結局、お前は涼宮に想いを伝えなかったんだな」 「ええ。京子と自分の意思で婚約した時、既に涼宮さんに対する気持ちは過去のものでした。今の僕には思い出の一 コマです」 「橘との未来か・・・・・・」 「あなたと佐々木さんとの未来も楽しみですね」 僕の切り返しに”彼”は苦笑した。 「ところで、あなたは進路はどうされるおつもりですか?」 「そうだな。いろいろ考えているんだが、国立K大、あそこは教養課程が充実しているだろう?入学後はまず、すべ ての学生は教養過程を履修して、それから専門課程に進むそうだが、その途中で進路変更が出来ると聞いた。可能性を 広げるためにな。俺はK大を受けてみようと思っている」 「佐々木さんはどうされるんです?」 「佐々木も受けてみたいと言っていたな。まあ、あいつは東大でもハーバートでも通るとは思うがね。ただ、K大は、 理数系に関しては東大を上回る学部も多いからな。長門も受けてみたいとか言っていたな。前に一緒に行った時、設 備が整っているのに感激していたしな。下手すりゃ涼宮や国木田も受けるかもな」 長門さんは”彼”に対する気持ちもあるのだろう。佐々木さんが日本にいない今、”彼”が最も信頼している友人は 長門さんで、彼女も”彼”のことを大いに信頼している。 単純な男女の恋愛感情だけでなく、”彼”と佐々木さんとの繋がりとはまた違った結びつき。 人の繋がりは、いろいろな形があるのだ。 ”それにしても・・・・・・” もし、彼らがK大に行くのであれば、僕はまた皆と一緒に学ぶことになるかもしれない。 より強い、新しい絆の糸が、僕等の間に再び結びつきますように。 そんなことを心の中で僕は思った。
https://w.atwiki.jp/idol8/pages/1647.html
佐々木綾美をお気に入りに追加 佐々木綾美とは 佐々木綾美の38%は不思議で出来ています。佐々木綾美の33%は微妙さで出来ています。佐々木綾美の22%は勇気で出来ています。佐々木綾美の7%はビタミンで出来ています。 佐々木綾美@ウィキペディア 佐々木綾美 佐々木綾美の報道 gnewプラグインエラー「佐々木綾美」は見つからないか、接続エラーです。 佐々木綾美をキャッシュ サイト名 URL 佐々木綾美の掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 佐々木綾美のリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 佐々木綾美 このページについて このページは佐々木綾美のインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される佐々木綾美に関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/yaruotrigger/pages/104.html
佐々木隊へ移動
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/367.html
1 ちょっと一休みのつもりが、あまりの心地よさついウトウトとしてしまい、 そのまま熟睡まで一気に転がり落ちてしまった。 ぼんやりと意識が覚醒しかけると、やけに柔らかい感触と、 クーラーではない、柔らかな風の快適さが身に沁みる。 「……やあ、キョン。ようやくお目覚めかい」 いつもよりも小さい、ささやくような佐々木の声。 まるで眠っていた子供をやさしく見守るような目で、佐々木がくすりと微笑んだ。 膝枕してくれてた上に、団扇で扇いでいてくれたのか、すまんな。 そこらへんに転がしておいてくれてもよかったのに。 「そうもいかないさ。で、僕のひざの上での寝心地はどうだったかな。疲れが取れたのならいいのだけれど」 ああ、ずいぶんリフレッシュしたよ。おかげでずいぶん長く眠り込んじまった。 お前も疲れたろうに。悪いことしたな。 「そう思うなら、もうひと踏ん張りで終わる宿題を、きっちり片付けてくれたまえ。 僕の分は、君が寝ている間に終わらせたからね。後は君が終わるのを見届けるだけさ」 へいへい。特等席で眠らせてもらったからな。せいぜいがんばるよ。 そう応えると、あいつはいつものように、「くっくっ」と喉を鳴らして微笑んだ。 2 夏休み最後の日、二人で宿題を片付ける。 といっても、僕の分はほぼ終わっているので、残りを整理しつつ、キョンの宿題を見てあげるという形だけれど。 彼は決して自分で言うほど勉強が苦手なわけではない。その証拠に、詰まっている所も、 僕が1つ、2つヒントを与えれば、すぐに自分で解法を見出している。 多分、教科書とか授業の時間とかとの相性が悪く、いくつかの暗記すべき所で躓いているだけで、 その気になれば僕や国木田くんと同じレベルにまで達するのに時間はかからないと思う。 いや、これはちょっと贔屓目が過ぎるかな。何しろキョンのことだけは、客観的に見られる自信がないから。 ご家庭の人のご厚意で昼食を頂いていから、ようやくキョンも集中しだしたらしく、 しばらく会話もなく、互いに自分の問題を片付けていた。 充実した時間が過ぎ、自分の宿題を完遂して両手を伸ばすと、時計は午後3時を回っている。 「どうだねキョン、進み具合は……」 ふと見ると、彼は平机に突っ伏して沈没していた。 やれやれ。 まあ昨日も徹夜でようやく目処が立つ所まで来たみたいだから、そろそろガス欠になってもおかしくないかな。 不自由な姿勢で寝ていると、却って疲れてしまうし、ヨダレでせっかくの宿題を汚してもまずかろうと思い、 そっとキョンを床に伏せさせる。それでも目が覚めないのだから、本格的に疲れているのかな。 ノートの様子からみるにあとちょっと。頑張ったねキョン。 効きの悪いクーラーを止め、彼の部屋の窓を開け放つ。 途端にセミの声と熱気が襲ってくるが、もう盛夏の勢いはない。 暑さ寒さも彼岸まで、とはよく言ったものだ。先人の知恵は偉大だね。 机から団扇を一つ取り、彼の頭をそっと持ち上げて、横すわりした僕の太ももの上に横たえる。 わずかに秋の気配を含んだ風を、そっと団扇であおぐと、少し汗の浮いた彼の寝顔が、心なし和んだように見えた。 「……ねえキョン、夏が過ぎ行くよ。受験生の宿命とは言え、思い出に残る夏とは行かなかったじゃないかね。 おまけに君は、僕とは違う学校に行くというし、いったい僕はどうすればいいんだい」 ささやくように呟いても、キョンは目覚めない。もちろん、目覚めないように小さな声で呟いているのだけれど。 「僕が君に合わせて志望校を変えたとしても、多分君は喜ばないだろうね。 君は僕のような変人を、そのまま許容してくれたけれど、 その一方で、僕が変わることを無意識のうちに禁じてしまってもいるんだね。 僕が突然君に一途に尽くす、クラスの誰かさんみたいな一女子生徒になったら、君は絶句するだろうなあ。 でも僕とて年頃の娘なのだよ。三年先の大学受験や何かより、「好きな人と一緒の学校に行きたい」 なんて、やや子供っぽい理由で志望校を選んでも、そんなに不思議じゃないんだ。 しかし、君にとっての僕は、そういう人間ではありえないんだろう。 なんでも見透かしたような顔をして、衒学の諸事に現をぬかし、年相応の問題で悩む姿なんて、 君には想像できない変な女。いや、そもそも君は、僕を「女」と認識しているのかね。 あまり真剣に検討したくはないな。結果を受け止めきれる自信がない」 夏が終わり行くせいだろうか。いつも胸の奥にしまってある言葉が、ぽろぽろとこぼれてしまう。 「キョンくーん! おやつ……」 ノックなしで、アイスを手に持った妹さんが飛び込んで来たが、眠っている彼の様子を見て、 途中で静かになった。 僕が唇に人差し指を当て、にっこり微笑むと、妹さんもわかってくれたらしく、 「にひひ」と擬音がつきそうな満面の笑みを浮かべると、無言で僕にだけアイスバーを手渡して そっと部屋から出て行った。 「……あいにくと僕も、こんな僕自身を気に入っているし、なかなか持って生まれた性質は変わらないから、 多分君ともずっとこのままでいくしかないのだろうね。 でも、学校が変わっても、君は僕のことを覚えていてくれるかな。 いつかまた、こんな風に、君を膝枕して扇いであげる機会がもてるのかな。 ねえキョン。 私のこと、忘れないでいてね」 セミの声にまぎれるようにして、眠る彼の頬に、そっとそんな言葉をのせた。 眠り続ける彼の頬は、うっすらと汗の味がした。 3 ちょっと一休みのつもりが、あまりの心地よさついウトウトとしてしまい、 そのまま熟睡まで一気に転がり落ちてしまった。 ぼんやりと意識が覚醒しかけると、やけに柔らかい感触と、 クーラーではない、柔らかな風の快適さが身に沁みる。 「……やあ、キョン。ようやくお目覚めかい」 いつもよりも小さい、ささやくような佐々木の声。 眠っていた子供をやさしく見守る目で、佐々木がくすりと微笑んだ。 膝枕してくれてた上に、俺たちを団扇で扇いでいてくれたのか、すまんな。 俺だけなら、そこらへんに転がしておいてくれてもよかったのに。 「そうもいかないさ。ただ、僕の膝の上は、もう君専用ではないからね」 俺の隣で同じように眠る、俺たちの幼子のあどけない寝顔。 二人ぶんじゃ重かったろう。 「そうでもないさ。いつか思った疑問の答えも出せたしね」 よくわからんことを言うと、俺の細君は、二人の話声で目を覚ましてぐずりだした子を、 やさしく抱き上げてあやし始めた。 しかしまあ、学生時分はよかったね。あの長い夏休みが懐かしいよ。 「君の場合、いつも最後まで宿題を残して大騒ぎだったじゃないかね。 忘れたとは言わせないよ」 まあ、そのたびにおまえには迷惑をおかけしました。たいへんカンシャしております。 「ま、君ももう若くないし、この時期は体調を崩しやすいからね。 君一人の体じゃないんだから、油断しないで頑張ってくれたまえ」 へいへい。特等席で眠らせてもらったからな。せいぜいお前さんたち二人のためにがんばるよ。 そう応えると、あいつはいつものように、「くっくっ」と喉を鳴らして微笑んだ。 おしまい
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/477.html
佐々木「ふむ、サヨナラエラーで優勝というのもらしいというか何というか。 やってしまった選手も可哀想に。当分叩かれるのではないかな」 キョン「なんだ佐々木、プロ野球に興味があるのか? 巨人ファンとは意外だな」 佐々木「いや、親につきあってTV中継を時々見る程度で、別にファンではないよ。 まあ一般教養レベルだね。キョンはどうだね? やはり地元らしく阪神ファンなのかね」 キョン「んー、俺も別にどこを応援してるわけでもないな。 ……ホーミングモードのバット持ってる球団とかじゃなけりゃどこでもいいよ」 佐々木「なんだねそれは? まあしかし、スポーツで、しかもプロとしてやっている以上、 観客を魅了するプレーには、敵味方を問わず拍手を送る姿勢がほしいね。 それこそがスポーツマンシップというものだろう」 キョン「……まあ、ここらはそこらへん悪評高い球団だからな。 道頓堀も飛び込まないよう工事したっていうし」 佐々木「勝負事で、自分の好きな球団が負けて、そこで相手を褒め称えろというのは 確かにお題目に過ぎないかもしれないが、そこは少しだけでも余裕を持って、 明日の勝利を祈念する方向にシフトしてほしいものだね。 何というか、熱狂的に自分の好きなものにアタックし、そのライバルに敵意をむき出しにする、 それだけが「好き」の感情の表現法だとは思いたくないんだ。 一歩引いて、対象も、その全ても見回して、全てを包みこめるような、 そんな「好き」のあり方もあっていいと思わないかね、キョン」 キョン「まあ野球の場合、応援で騒いでナンボってところもあるからな。なかなか難しいと思うぜ」 佐々木「……そうだね。本当に難しいと思うよ。涼宮さんなんかは、そんなあり方は 「まどろっこしい」と一蹴するんじゃないだろうかね。くっくっ」 キョン「アイツは自分で参加しちまうからな……。しかも本気で勝つつもりで。 付き合わされるほうの身にもなってほしいぜ。 それ考えると、今年阪神が優勝しなかったのは良かったかな。アイツが下手に興味もたれたらたまらん。 まあ、まだクライマックスシリーズも日本シリーズも残ってるが」 佐々木「最近は何か色々ややこしいんだね。ところでキョン」 キョン「何だ?」 佐々木「バース、岡田、掛布の打撃陣はすごいのに、何故阪神は勝てなかったんだろうね」 キョン「ぶふぉっ」 佐々木「どうしたねキョン?」 キョン「ち、ちょっとまて佐々木。そりゃいつの話だ」 佐々木「え? 去年はあの3人がバックスクリーン連続ホームランで優勝したんじゃなかったのかい?」 キョン「よく考えろ佐々木。掛布は時々CMにも出てるし、解説してるだろ。 ほら、高い声で「ホワスト」って発音する人」 佐々木「ああ、あの頭部の可哀想な……」 キョン「そこには触れてやるな。武士の情けだ。 あと岡田は今阪神の監督やってるだろ。どこをどうしたらヤツラが去年現役でやれるんだ」 佐々木「そうなのかい? 阪神の監督は「どんでん」という人か「そらそうや」という人だとばかり思ってたよ」 キョン「お前の野球知識が非常に偏ってることは分かった。あと「にしこり」という選手はいないからな」 佐々木「そうだったのか。奥が深いね」 キョン「……佐々木、お前にそのデタラメな野球知識吹き込んだのは、親父さんか?」 佐々木「いや、橘さんが色々教えてくれたんだ。彼女が「バースは凄かった」「掛布のあのHRは」 と教えてくれるものだから、てっきり去年優勝したものだとばかり思っていたよ」 キョン「ああ、一部の熱狂的な阪神ファンの中には、そういうやつがいるんだ。 あの時代で時間が止まっちまってるんだ。まるで昨日の話みたいに、当時の話をしやがる。 ちなみに佐々木、その3連続HRで阪神が優勝したのは、1985年だ」 佐々木「僕たちが生まれる前じゃないかソレ!?」 キョン「あの人たちにとっちゃ、「この前」なんだよ……」 橘「まだクライマックスシリーズがあるのです! JFKは短期決戦では無敵なのです!!」 藤原「……その、未来の事を教えるのは禁則事項なんで教えてはやらんが、 ……まあ、なんだ。あまり入れ込まない方がいいぞ」 橘「なんですかそれー!!」 九曜「--ユニー、く?……」 特に意味もなくおしまい
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/2022.html
佐々木が日本を経ち、戻ってくるまでの二年間、時はあっという間に過ぎ、それぞれに大きな変化があった。 二年生になり、クラス替えがあり、俺と長門、古泉、涼宮、国木田、朝倉は進学強化クラスに編成された二年 5組になった。なお、谷口は隣の6組である。 文芸部は春先に新入部員を募集したが、入部希望者は無く、同好会に格下げの危機を迎えたが、元のクラスメ ートで図書委員だった阪中が入部してくれたのと、結局涼宮がSOS団を文芸部に合流させることにより、数だ けは、一年前より増えた形となった。(ついでに書けば、その時点で涼宮は谷口をお払い箱にした。酷い奴だ。) 俺は塾に通う回数を増やし、佐々木がいなくなって成績が悪くなったと言われない様に努力した。その結果、俺 は国木田と共に、学年のみならず、全国模試でも成績を競う様になり、俺の学力は更に伸びていった。 「日本に帰ってくるのが楽しみだね。君とどこの大学に行こうかな?」 一日一回、佐々木と連絡を取りながら、近況を報告し合った。 鶴屋さんと朝比奈さんは3年生になり、進路を決める為にいろいろと忙しくなっていたが、それでも出来る限り 文芸部兼SOS団の活動に参加してくれて、俺達は充実した学園生活を満喫していた。 それでも、やはり俺にとって、佐々木がその場にいない淋しさはどうしてもあった。 そんな俺を、皆気遣ってくれて、特に長門は力になってくれた。涼宮も、持ち前の力強さで俺を引っぱってくれた。 生徒会の人事交替の時期を迎え、投票の結果、会長に立候補していた国木田が当選し、朝倉が書記になり、新体制が スタートした。国木田の応援は鶴屋さんが行い、朝倉の応援は喜緑さんがやってくれた。まあ、朝倉の場合は、自分の 後釜に立候補するようにと、喜緑さんが頼み込んだから、当然と言えば当然だった。 「SOS団兼文芸部から生徒会役員が出るなんていい感じね。この調子で、北高に勢力を広げるわよ!」 変なラノベの読み過ぎじゃないか?俺はそう突っ込んだが、涼宮は意気揚々としていた。 充実して、楽しい事も大変な事も多い学園生活だったが、途中で悲しい事もあった。 それは古泉が二学期が始まる前に転校していったことだ。 古泉も俺の大事な友人となっていたから、佐々木の時と同様、俺は悲しかった。 ”転校しても、僕はみなさんの仲間です” 古泉は別れ際にそう言って、転校していった。 夏のある日、古泉の父親が倒れ(幸い発見が早くて治療が迅速に行われた為、大した後遺症も残らずに済んだそう だが、)このことがあり、古泉は家族と話し合った結果、実家に戻ることを決めた。 転校する前に、古泉は涼宮と二人だけで何か話しをしたようだ。何を話し合ったのかは聞かなかったが、 涼宮に自分の思い を伝えたのかどうかも分からなかった(後日、古泉の実家に遊びに行った時、古泉が話してくれたが) ただ、古泉が転校すると同時に、光陽にいた橘も転校していった。そのことは、谷口を通じて周防が教えてくれた。 古泉は、涼宮ではなく、橘を選んだのだ、と俺は気付いた。 これから話すことは、古泉の実家に遊びに行った時、古泉が俺に聞かせてくれたことだ。 「僕を友人といってくれたあなたにはきちんと話しておこうかと思いまして」 古泉の実家は俺達の住むところから、急行電車で一時間半程の、でかい屋敷が集まっているところだった。 鶴屋さんの家にはかなわないが、格式のある家だった。 「お久しぶりです、キョンさん」 その家の応接室で、橘が入れてくれたお茶を飲みながら、俺は古泉の話に耳を傾けた。 庭の木々が木蔭をつくり、直接強い日差しが室内に入って来るのを防いでくれているのだが、それでも夏の 暑さはこの身にまとわりついてくる。 「そういう時はクーラーに限ります」 洋間のソファの上で横になり、アイスを咥えながら、京子はリモコンで温度を調節している。 「朝からこんなに暑いと何もする気がおきません」 「課題ぐらいは取り掛かっておかないと、夏休みの終わりに泣くことになりますよ」 夏休みに入ってから、京子は実家に帰る事なく、僕の家に泊まっている。まあ、冬休みも春休みもそうだった ので、いまさらどうのこうのいうことでもない。 幼いころから一緒に育ち、いつも一緒にいた。居なかったのは中学二年の途中から、去年の秋ぐらいまでで、 今はまた昔の様な感覚に戻っている。 ただ、あの頃と違うのは、お互いそれぞれ心身共に成長しているということだ。 なんとか今日の分の課題を済ませると、時計の針はお昼近くになっていた。 二年生になり、将来に向けての受験勉強にも取り組まなければならない時期が近付いている。何処に行くか、 まだはっきりとは決めていないが、去年京子と一緒に、父親の使いとして挨拶にいった、国立K大は興味があ る。僕の友人である”彼”も、候補の一つだと言っていた。 「一樹さん、お昼は何を食べます?」 「そうですね……たまには外にでも食べに行きますか?まあ、あなたがこの暑さのなか、歩き回るのが嫌だ と言うのなら、やめておきますが」 「いえ、行きましょう。今の言葉で元気が出ました!」 強い日差しを避ける為に、京子のトレードマークのツインテールが隠れるくらいに鍔が広い空色の帽子をか ぶせ、二人で外に出る。 夏真っ盛りの街中を歩きながら、ふと去年の夏休みの旅行の事を思い出す。 ”今年も皆でどこかいくわよ!” 夏休みに入る直前、涼宮さんが部室で、勝手に計画を立てていたが、”彼”は彼の恋人の佐々木さんが一時 帰国するのに合わせて行きたい、と言いだし、涼宮さんは不機嫌になった。 涼宮さんは”彼”に想いを寄せている。だけど、僕の想いが涼宮さんに届かない様に、彼女の想いもまた”彼 ”には届かない。 結局、お昼は鰻を食べることにした。これは昔から京子の好物で、季節に関係なく、よく食べていた。 「夏バテにはこれですね」 京子は嬉々として、座敷席に座り、二人で鰻重が出て来るのを待つ。 「お待たせいたしました」 店員が重箱に詰められた鰻重を二人の前に並べた。 「いただきます」 「実に美味しかったです」 京子は満足した様子でそう言った。 「元気が出ました。一樹さん、このまま何処か遊びに行きましょう」 朝のバテた具合はどこへやら、僕は苦笑した。 代金を払って店を出た時だった。 スマートフォンが、着信音を鳴らした。 ”この音は……” 「もしもし、森さんですか」 森さんからの電話をうけたあと、僕等は急いで僕の家に引き返した。 耳の奥に、森さんの冷静ながらあまり感情のこもっていない口調――そんな喋り方をする時ほど、重大な事が 起こっているということを、僕は経験上知っている。 「一樹さん、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」 京子が心配そうに僕の顔を覗き込んでいるのを見て、僕は我に返っていた。 一時間後、僕の家の前に、赤いスバルBRZが横付けされる。運転席にいるのは、もちろん森さんだ。 「二人とも、すぐに乗りなさい。このまま、病院に直行します」 僕は助手席に、京子は後ろの席へ座った。シ-トベルトを締めると、車は急発進する。 「状況は先ほど説明したとおりです。幸いにも、側におられたのが お父さんのご友人のお医者さんだったので、 すぐに病院に搬送されました。つい1時間半前のことです。診断は脳梗塞。治療は開始されているそうです。現時点 で分かっているのはここまでです」 森さんの言葉を聞いて、少し安心する。脳梗塞の治療は、発症3時間以内が最も後遺症を少なくし生存率を高くする 境目だと、昔親戚筋の医者から聞言いたことがある。診断と対応は早ければ早いほどいいのだ。 「搬送先の病院の名前は?」 「富坂脳神経外科病院。その友人のお医者さんの知り合いだそうよ」 京子がスマートフォンに情報を映し出す。なるほど、父は幸運だったようだ。脳関係の症状では、かなり実績のある 病院だそうだ。 母親と顔を合わせるのは、春休み以来だった。なるべくなら実家には寄りたくないからであるが、事態が事態だけに、 そんなことは言ってられない。 「おばさま、おじさまの様子は大丈夫なんですか?」 京子が母親に声をかける。 「今のところは。治療は終わったそうよ。良くはわからないけど、血管内カテーテル挿入t-PA投与と毛細血栓レーザー 照射破砕治療を実施した、と言われたわ」 後でわかったのだが、どちらも最新鋭の脳梗塞治療法だった。 「すると、おじさまは今、どこにいるの?」 「術後ICU(集中治療室)で管理だそうよ。でも、先生の話では早めに治療したから、回復は早いだろう、て・・・・・・」 そこまで言って、母親の体がふらついたように見えた。 「・・・・・・大丈夫、少し気が抜けただけだから」 僕と京子に支えられ、母親はとりあえず、病院の椅子に腰掛けた。 「お父さんには私がついているから、一樹と京子さんは、一度家に戻って。それから一樹、森さんと家政婦さんに手伝 ってもらって、今からいうものを病院に持ってきて頂戴」 「わかりました」 母親の言葉に素直に頷いて、とりあえず、京子と一緒に実家へ戻ることにした。 早期の治療が功を奏したのか、父親はその日のうちに意識を取り戻し、五日後には退院していた。 懸念していた後遺症もなく、正直医学の進歩には驚嘆せざるを得ない。 「おじさま、良かったですね」 娘のように可愛がっている京子に言われ、普段いかめしい表情をしている父親も相合を崩した。 「無事で良かったですよ」 それは僕の偽らざる気持ちだった。 こちらの意思も聞かず、勝手に京子を婚約者に決めたり、人の人生を決めつけたがる親で、はっきりいえばいい感情は あまり持っていないのだが、やはり自分の親が倒れるのは嫌なものだ。 とりあえず、後一週間程はここに残ることを決めた。 それから三日後。僕は父に話があると言われ、父の部屋に呼ばれた。
https://w.atwiki.jp/wrtb/pages/2322.html
佐々木優子 出演作品 長編 ズートピア(ボニー・ホップス) トレジャー・プラネット(サラ・ホーキンス) モンスターズ・ユニバーシティ(会社職員、司書) 中・短編 モンスターズ・パーティ(ティミーのママ*) TV ターザン*(グリーンリー)ターザン&ジェーン(グリーンリー) Hello! オズワルド*(マダム・バタフライ) TV:実写 ワンス・アポン・ア・タイム*(イングリッド【エリザベス・ミッチェル】) TV映画:実写 アップサイドダウン・マジック*(ヘッドマスター・ナイトスリンガー【ヴィッキー・ルイス】) Disney+ ズートピア+(ボニー・ホップス(#1)、ヤギ老婦人(#3)) Disney+:実写 ファミリー・リブート ジレンマ家族の再起動(ベッキー(#5)) ゲーム ディズニーインフィニティ(エルサ) 実写 アイ・アム・ナンバー4*(サラの母【ジュディス・ホーグ】) オスカー*(リサ・プロボローネ【マリサ・トメイ*】) グッドモーニング、ベトナム(トリン【チンタラー・スカパット】)※VHS版 殺したい女(サンディ・ケスラー【ヘレン・スレイター】) ジャック(カレン・パウエル【ダイアン・レイン】)※ソフト版 ジャッジ・ドレッド(イルサ【ジョアン・チェン】)※ソフト版 スリーメン&リトルレディ(シルヴィア・ベニントン【ナンシー・トラヴィス】)※日本テレビ版 セクレタリアト 奇跡のサラブレッド*(ペニー・チェネリー【ダイアン・レイン】) 戦火の馬*(ローズ・ナラコット【エミリー・ワトソン*】) ターナー&フーチ すてきな相棒(エミリー・カーソン【メア・ウィニンガム】)※テレビ朝日版 天才マックスの世界(ローズマリー・クロス【オリヴィア・ウィリアムズ】) トスカーナの休日*(フランシス【ダイアン・レイン】) ネゴシエーター(ロニー・テイト【カルメン・イジョゴ】)※ソフト版 張り込みプラス(ルー・デラノ【キャシー・モリアーティ】)※ソフト版 ビッグ・グリーン でこぼこイレブン大旋風(アンナ・モンゴメリー【オリビア・ダボ】) ミステリー、アラスカ*(ドナ・ビービィ【メアリー・マコーマック*】) ゆりかごを揺らす手(クレア・バーテル【アナベラ・シオラ】)※ソフト版 ワイルド・レンジ 最後の銃撃*(スー・バロウ【アネット・ベニング*】)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5378.html
~佐々木宅にて~ 電話が鳴る。誰からだろう。 「はい、もしもし」 携帯から聞こえてきた声を聞いて安心する。 「おう、佐々木か?」 彼だ。 僕が別人だとしたら、君は一体誰の携帯に電話しているんだい?」 言う必要のない文句を一つ。 それを彼は、笑って返してくれる。 「はは。そういうなよ。社交辞令みたいなもんだろ」 「くつくつ。それでどうしたんだい?待ち合わせの時間まで、まだ二時間以上はあるけど?」 私の声が聞きたくなったの? ……もちろんそんなことは聞けない。 まだ恥ずかしい。 「あぁ、それなんだが……すまんが今日は行けなくなったんだ」 なるべく不機嫌になったのを悟られないように言葉を返した。 彼の勘はなかなかに鋭い。こと恋愛ごと以外には。 「……訳を聞こうか?」 理由はこうだ。 妹が風邪をひき、家には親がいない。 そして彼はそんな妹を一人にしとくのは気が引ける、と。 「シスコンってわけじゃないが、休みの日に寝込んでる妹を放って遊びに行くわけにもいかんだろ」 そんな妹想いな彼にまたいらない文句を。 「そうだね。君にしては正論だ」 「一言いらんぞ」 だって彼は仕方ないとはいえ、私との約束を守れなかった。 これくらいはいいよね? 「くつくつ。気をつけるよ」 「そういうことだ。悪いが、その、デ、デートはまた今度でいいか?」 「そ、そんなに恥ずかしそうに言われると、僕まで照れてしまうよ」 「すまんな、こればっかりは言い慣れていないからどうしようもない」 彼とは付き合い始めてまだひと月と少し。 長い間友達だった分、彼氏彼女の関係にはどうして慣れない。 「構わないよ。僕としては君とのデートも大事だけど、キョンの妹ちゃんの方が心配だし」 これは本心。だって彼は優しいから。 「悪いな」 「謝ってばっかりだな」 横にある枕を抱き寄せる。なぜだろ? 「そりゃな、穴を開けたのは俺だ」 「あんまり謝ってばかりだと、本当に謝ってもウソに感じてしまうよ?」 「それもそうだな」 「くつくつ。それじゃあ、妹ちゃんをお大事に」 「ありがとうな。またな」 彼からの電話が切れる。少しは甘い内容の会話をしてほしいものだよ。 でもそんなことを彼に期待するのは、本物のUMAを発見するより難しい。 そんな彼を好きになってしまった自分を責めるほかない。 それにしても、今日の予定が無くなってしまった。 二時間後に控えた三度目のデート。 さて、どうしたものだろう。 橘さんに連絡を取る? きっと彼女なら喜んで駆けつけてくれる。 ……彼は今頃妹の面倒を見ているのかな? 熱を測ってあげたり、水枕やタオルを換えてあげたり、お粥を作ってあげたり。 「くつくつ」 そんな彼の姿を想像すると笑ってしまう。 それと同時に、彼の妹に多少の嫉妬を。 病人に嫉妬なんて不謹慎にも程がある。でも彼に構ってもらえるなら、甘んじてその役を代りたい。 たった一週間会えないだけでこんな風に思ってしまう。 付き合う前は一年も我慢したのに。 でも仕方がないと思う。 気持ちが通じたのだから。だからこそ、より愛しく感じる。 恋愛は精神病の一種。 付き合ってしまえば治ると思った症状は、まさかの大悪化。 この病気の特効薬はどこで手に入るのだろう。 風邪と水虫の特効薬を完成させればノーベル賞が貰えると聞いたことがある。 きっと恋愛の特効薬を見つけることが出来ても、ノーベル賞が貰えるかも。 !!! 退屈な休日をどう過ごそうか考えていると、 ここで名案が一つ浮かんだ。 我ながらいいアイデアだと思う。 双方にとって得のあるアイデア。 まさに一石二鳥。 よし、準備をしなきゃ! ~キョン宅にて~ 「ケホケホ。キョンくんごめんね?」 布団に寝ている妹が俺に謝ってくる。 お前は熱があるんだ、仕方ないだろ? 「でも、きょうはデートだったんでしょ?」 子供がそういうこと気にするな。いつの間にそんなにマセたんだ? 「えへへ」 俺に出来ることなんてたかが知れているし、症状はただの風邪。 まぁ、体格的にも幼い妹だ。ただの知恵熱かもな。 「なにか食べたいものあるか?」 「えっとね、アイス」 予想していた答えとはいえ、まだまだ子供だな。 「わかったよ。ちょっとそこのコンビニ行ってくるから、おとなしく寝てるんだぞ」 「はーい」 「で、どんなのがいいんだ?」 「あまいのがいい」 甘くないアイスがあるなら、俺は是非食べてみたいな。 「ちがうよー、あっまーいのがいいの」 どう違うのかはイマイチ分からなかったが、妹にはすぐに戻るからとだけ伝え、コンビニに向かった。 「いってらっしゃーい、ケホケホ」 ~コンビニにて~ 風邪にはなにが効くんだっけかな。 ビタミンCだっけ? 個人的にはとりあえずみかんのゼリーと、やっぱりポカリだよな。 それと甘ーいアイスか……どれも大して変わらんだろ。 バニラアイスを四つくらい買っとくか。 こんなもんでいいだろ。 ~キョン宅にて~ 「キョンくんおかえりなさい」 さっきより少し顔が赤い。熱がまた出てきたのかもな。 冷えピタでも差し入れてやるか。 「ただいま。今食べるか?」 「う~ん、あとにする」 まだ食欲は戻ってこないか。無理に食べさせるのも酷だな。 「そうか、じゃあ俺はリビングにいるから、腹減ったり、構ってほしくなったら呼べよ」 「わかったー」 仕方ないとはいえ、やはり元気がない。 いつもの元気な声が聞けないのは、兄にとっても寂しい限りだぞ。 「子機、枕元に置いとくから」 「ありがとー」 そう妹に告げ、頭をひとなで、ふたなで。 嬉しそうにする妹の笑顔を見れるだけで、少し俺も優しい気持ちになれる。……ような気がする。 はは、がらにもなかったな。 さて、暇になったわけだが……何をするか。 部屋に戻って勉強、それは嫌だな。 なら片付けでも、いやいやそれだとうるさくなるな。 どうしたもんかね。 そういえば俺の昼飯ってあるのか?まずは冷蔵庫チェックだな。 ピンポーン。 間の抜ける音だな。来客か?そんな話聞いてないんだがな。 ピンポーン。 分かった分かった、今出るから待ってろ。 「はーい、今出ますよっと」 ガチャ 「……あれ?」 おかしいな、なぜここに? 「や、やあ」 扉の先にいたのは佐々木だった。 「どうしてお前がここに?」 さっき頭の中に浮かんだ疑問を、本人に直接伝える。 「ど、どうしてって、それはその……」 少し顔を赤くした佐々木が、俯き気味にぼそぼそと言う。 う~ん、聞き取れん。 「まあ、玄関で立ち話もなんだから上がってくれ」 中途半端に開かれた扉を大きく開く。 外の暖かい空気が家の中に流れ込んでくる。 「お邪魔します」 どうぞ。 パタン 来た。彼の家に来た。 いつぶりだろうこの家に来るのは。 通されたリビングを見ると、昔からあるものがチラホラ。 人の家なのに勝手に懐かしさを感じてしまう。 「妹の見舞いにでも来てくれたのか?」 コップにオレンジジュースを持ってきてくれた彼が、それを私の前に置き聞いてきた。 「あ……うん」 なんとも歯切れの悪い答え。自分に減点! 「ありがたいんだが、ただの風邪だからたいしたことないぞ」 「そう」 「悪いな、わざわざ」 「……」 緊張して上手く喋れない。 彼氏の家に遊びに行くのって、こんなに緊張するんだ。 「佐々木?」 あまりに喋らない私を気にして話かけてくる。 何か喋らなきゃ。 「今日はご両親がいないんだろ?」 「あぁ夜まで帰ってこないんだ。おかげで飯の用意もしなくちゃだ。お粥なんか作ったことがないんだけどな」 つまり、これで私のアイデアが活かせる状況になったというわけだ。 私が願ったから?そんなことはないはず、まだ私は不完全。 完全になりたいというわけではない。 いや、今はそれどころじゃない。次の言葉を言わなきゃ。 「も、もし、もし君さえ良かったらなんだが」 「なんだ?」 もう一声。 「ぼ、僕がご飯くらい作ってあげようか?」 「佐々木が?」 その言い方だと、私が料理出来ないみたいじゃない? ほんとにそういった心遣いは皆無なんだから。 「これでも多少は心得があるんだ」 誇張はしない。ほんとに多少だから…… 「いや、悪いだろ」 そう返すことは想定の範囲内。だってキョンだもん。 「気にしなくていいよ、そもそも君のおかげで今日の予定は無くなったんだ」 ここで小言を一つ。会話の主導権を握らなきゃ。 「耳が痛いな」 「くつくつ。一概に誰かのせいって訳ではないんだがね」 「しかしだな」 彼が喋り終わる前に言葉を被せる。 「それに不慣れな君の料理を食べて、妹ちゃんが体調を悪化させても可哀想だろ?」 我ながら、素直じゃないなぁ、とは思う。でも今の私にはこれが精一杯。 「ぐっ、まったくだ」 「そういうわけだよ。僕は暇を持て余している、君は人手がほしい。利害の一致さ」 君に逢いたかった、こう言えればいいのに…… 「いいのか?」 「もちろんだよ」 「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」 「賢明だね」 「すまんな」 「それで、キョンはお昼はどうしたんだい?」 「これからだ。ちなみに妹は今は食べたくないそうだ」 「じゃあ早速作ってあげる!」 早速のチャンスに気持ちが早って、口調がおかしくなってしまった。 「ごちそうになろうか」 よかった。あまり気に留めてはいないみたい。 「冷蔵庫開けさせてもらうよ」 「どうぞ」 彼の実家で、彼のために私がお昼を作る。 どうしよう。顔がにやけてしまう。 これも一つの幸せの形なんだと思う。 ふふ、まだ高校生なのにそんなものを感じるなんて、いささか生意気かな? ふと、何かの気配を感じる。誰かが近くにいる訳ではない、感じるのは視線。 「ん?僕の顔に何か付いてるかい?」 彼の視線に気付いた私は彼を見て微笑む。 どうかな、私の飛び道具は。少しは自信があるんだ。 それにこんな笑顔を見せるのは君だけなんだよ? 「いや、なんていうんだろうな。なんかいいなぁって」 強烈なカウンター。なんとかテンカウント以内に反応しなきゃ。 「……ま、真顔で言わないでくれないかな?」 私のダメージはご覧の通り。もうフラフラ。 反撃の言葉も出ない。押されれば倒れてしまいそう。 「正直な感想だよ」 そして、放たれたフィニッシュブロー。 もう決定。彼は天然の女ったらし。 鏡を覗けば、まるでトマトのように顔を赤くした生き物が見れると思う。 あまりに恥ずかしい。ちょっと話題を変えなきゃ。 「そ、そういえばこの間CDを買ったよね?」 自分の記憶を探って一つの話題を。これなら無難かな。 「……あぁ、The Tel○ersか。よく覚えてたな」 「あの日の出来事は、そうやすやすと忘れられるようなものじゃないよ」 ひと月と少し前、彼と一年ぶりに再会を果たし、彼に自分の気持ちを伝えた日。 忘れられない日。 「そうだな」 彼にとっても忘れられない日。……だと思う。 「せっかくだし聞かせてくれないかい?」 聞かせてくれる約束をしていたしね。 「わかった」 そう返事をした彼は、自分の部屋へと戻っていく。 ふぅ、彼と二人っきりの空間は、まだちょっとキツイかな。 普段より余計に意識してしまう。 あれこれ考えていると彼が戻ってきた。 そしてCDをDVDプレーヤーに入れる。 「君のオススメをとりあえず聞かせてほしいな」 彼のセンスをお手並み拝見。 「いいぞ。そうだな……If I S○yなんてどうだ?」 彼の口から出てくる英語に妙な違和感を感じる。 単純に似合ってないだけだけど。なんだか背伸びしてるみたい。 TVのスピーカーから優しい音が流れてくる。 聞く人によっては女性の声に聞こえそうな柔らかい男性の声。 軽やかなギター。自己主張が激しすぎないドラム。 ふむ、彼のセンスはなかなかによろしい。 そして、この歌詞。……分かっているけど、自覚は無いんだろうね。 「……柔らかい声だね」 率直な感想を言う。 「悪くないだろ?」 「いいね。普段は洋楽なんて聞かないからとても新鮮だよ」 洋楽なんて、有名どころしか知らない。 「俺もだよ。友達に紹介されるまで見向きもしなかった」 笑いながら彼が言う。彼が言うには、その友達はすでに四百枚以上のコレクションがあるらしい。 高校生のくせに随分とお金廻りがよろしいことで。 「ところで君はこの歌詞の意味を理解してるのかな?」 答えは分かっている。だけど、一応聞いてみた。 もしかしたら、ね? 「それが今まで洋楽を聞かなかった理由だな。さっぱりわからん」 やっぱりね、日本人は勤勉なわりに英語の苦手な人が多い。 「君らしい理由だ。まぁ、みんなそうか」 やれやれ、と彼は肩をすくめて苦笑い。その癖は変わらないね。 「友達にな、Sig○r Rsというバンドを紹介されたんだ」 「うん」 「音楽的には好みじゃなかったんだが、歌詞がアイスランド語と造語だと聞かされてな」 「それは画期的だね。そもそもアイスランド語さえ初耳だよ」 果たしてアイスランド語なんて身近にあるのかな? 多分聞いたことが無い。 「だろ?そのバンドが世界中から大絶賛されたんだと。つまり、いい音楽は歌さえ楽器なんだ、と教わったよ」 「言語は関係ないと?」 「歌詞に意味はあるが、それを歌う言語は関係ない、だそうだ」 実に興味深い。 考え方は人それぞれということだね。 「はは、実際同じ日本人でも歌詞カード見なきゃ、何言ってるかわからんやつらは山ほどいるからな」 「くつくつ。たしかにね」 彼のいうことも分かる。もしかしたら今の日本人は母国語のリスニングすら危ういのかも。 「そういえば、佐々木は英語のリスニングは出来るのか?」 「人並みにはね」 「すごいな」 猛勉強したからね、とは答えずに謙虚に答える。 「そんなに誇れるものじゃないさ」 だってこう言ったほうが、より出来るように聞こえるでしょ? 「さっきの歌はなんて言ってたんだ?」 ……それを私の口から言わせるんだね。君は。 「……えっと、その」 ほら!口篭ってしまったじゃないか! 「……もしかして、卑猥な内容だったのか?すまん」 そこで申し訳ない顔をされるとね。答えるしかないじゃない。 「ち、違うよ!その、ね、熱烈なラブソング……だった」 歌詞の内容は、 愛してると言ったら君にも言ってほしい、泣いていたらキスをしてほしい、死ぬ時は一緒に、お願いだらかどこにも行かないで だいたいはこんな感じ。ただの未練がましい男の言葉にも感じるけど、私にはプロポーズに感じる。 だから私は後者を彼に言った。変な他意はないよ? 「……」 そこで黙らないでほしいな、こっちだって恥ずかしいんだから。 「その、もし君が歌詞を理解していて、そのうえで聞かせてくれてたら、か、カッコよかった、かな?」 って、何を言わせるの君は! 「悪い、ちょっと恥ずかしかった」 それは私の台詞。耳まで熱い。 いったい今日は何回赤面すればいいんだろ。 これは釘を刺しとかなきゃ。 「まったく、もう少し勉強を頑張った方がいいんじゃないかい?」 「精進するよ」 「そうしてほしいね。それとお昼ごはん出来たよ」 「それはありがたい」 ~食事後~ 「ごちそうさま」 そう言って彼は、お皿にスプーンを置く。 作ったのはオムライス。これならあまり多くの食材を使わなくても出来る。あくまで人の家だから多くは使えない。 ケチャップでハートを書こうと思ったのは内緒。 黙って彼を見つめる。まだ感想を聞いていないからだ。 「ん?あぁ言ってなかったな。おいしかったよ。ついつい食べるのに夢中になってな」 私の視線に気付いた彼が笑ってそう言った。 「くつくつ。君の口にあってよかったよ」 それに私も笑顔で答える。 でも、そこはキョン。次の瞬間には私の笑顔も凍りつく。 「しかしあれだな、将来お前と結婚するやつは幸せだな」 ……今なんて? 「こんなうまい飯を毎日食べれるんだからな」 さて、今のキョンの発言は二種類に取れる。 一つ、その将来の相手を自分と置いての発言。 二つ、お得意の鈍感、無神経。 どちらにしても私の止まった時間は動かない。 「どうした?」 どうしたと思う?わからないんだろうな。 君って人は本当に、 「馬鹿」 「へ?」 ほら、その反応だもの。……いいんだけどね、もう慣れたよ。 「そろそろ妹のとこにも顔を出さないとな」 そう言って彼が椅子から立ち上がり、冷蔵庫の前に歩いていく。そして中から手にしたのは、冷えピタ。 「結構熱があるのかい?」 「さっき見たときは顔が真っ赤だったな」 それはなかなか辛そう。 「こんな時期に珍らしいよ」 「夏風邪は馬鹿が引くっていうじゃないか、あいつもまだまだお子様だからな」 それは聞き捨てならないね。ここは妹ちゃんに加勢しておこう。 「くつくつ。キョン、それはおかしいよ」 「なにがだ?」 不思議そうな顔でこちらを見てくる。この小言にカウンターが出来るならしてもらおうか? 「その通説通りなら、この家に病人がもう一人いることになるよ」 「言ってくれるじゃないか」 「くつくつ。反論出来るかい?」 今日は彼のペースにハマりまくり。ここらで挽回しないと。 「悔しいが出来んな。しかしだ、そんな俺を好きになったお前はほんとに物好きだな」 彼の口元が意地悪く歪む。なんてやつ! 認めるほかない。私は彼以上に恋愛に奥手なようだ。 今も私は顔を赤くしながら、口を金魚みたいにパクパクさせてる。 「あっはははは、悪い悪い、冗談だ。そんなに困った顔をしないでくれないか」 なんでそんなに余裕な態度なの?なんだか別人みたい。 とりあえず私は俯いてから、彼のすねをトゥーキックしてやった。 痛みにのたうちまわる彼を捨て置いて、妹ちゃんの部屋に向かう。 コンコン ノックに返事はない。まだ寝てるようだ。 「お邪魔しまーす」 小さな声で部屋に入る。なんだか忍び込んでるみたい。 大佐、標的を発見した。これより標的を介護する。 小さく寝息をたている妹ちゃんの枕元に近づく。 もう温まりきっている冷えピタを剥がし額に触れてみた。 まだ少し熱っぽいかな? 顔に浮かんだ寝汗を濡れタオルで拭いてあげ、彼から取り上げた新しい冷えピタをつける。 「……ん」 寝言かな? そう思っていると、うっすらと目を開けて私を見てきた。 「……おかあさん?」 へ?どうやら寝ぼけてるみたい。 ここは一つ、彼女の言葉に付き合ってあげよう。 「大丈夫?」 声真似は出来ないからなるべく優しく声をかけた。 「まだ、ぼーっとするー」 たしかに。表情がそう語っている。 「何か食べたいものある?」 私の母は熱を出した時にこうやって聞いてくる。 「えっとねー、キョンくんがねー、アイスかってきてくれたのー、それがいいー」 むむ、ちゃんとお兄ちゃんやっていたんだね。 「じゃあ今持って来るね」 そう言って妹ちゃんの頭を撫でて、部屋を出ようとした。そしたら、 「ありがとー、おかあさん」 ふふ、お母さんじゃなくてごめんね。でもそのうち本当のお姉ちゃんになるかも。……なんてね。 リビングに戻ると、彼はさっき食べた食器を洗っていた。 「具合はどうだった?」 「前の様子は見てないから比べられないけど、食欲は出たみたいだよ」 「そうか」 そう言って安心した顔をする。実に妹思いだね。 「なにが食べたいって?」 「アイス」 彼は少し笑って冷蔵庫へ。そしてアイスを手にしてリビングを出た。 「さっきよりは具合が良さそうだ」 その言葉を聞いて、少し安心した。 「くつくつ。良かったじゃないか」 「あぁ、まったくだ」 彼はソファーに座るとTVを付ける。 旅番組。お昼の情報バラエティー。昼ドラ。 どれもこれも退屈なものばかり。 それでもこの時間は悪くない。何の会話をせずともゆったりした気持ちでいられる。 悪くない、悪くないよ。 楽しいときの時間の流れというのは、あっという間だ。 特に何かをしたわけじゃないけど、最近の出来事を話したり、昔話に花を咲かせたり。 とても充実した時間が流れたと思う。 すでに時間は夕方の五時。親には六時くらいには帰ると言ってある。 そろそろおいとましないと。 「キョン、僕はそろそろ帰るよ」 「ん、……あぁ」 歯切れの悪い返答。思わず聞いてしまう。 「どうしたんだい?」 佐々木が俺に声をかけてくる。 古泉の言葉が頭によぎる。 本当に言うべきか分からない。 でも、古泉は言っていた。 佐々木もまたハルヒと同じ力があると。 この一年で、俺は古泉が信用できる人物だと思っている。 本当は今日のデートの帰りにでも言おうと思っていた。 なんて? お前はおかしな力があるのか? 俺の記憶をいじってないか? 世の中を都合のいいようにしているのか? お前は、いわゆる神なのか? お前は……普通じゃないのか? こんなこと言えるわけがない! じゃあ、何も知らないフリをしてこのままいられるのか? それは無理だろ。でも、言うことでお前を傷つけたら……俺は…… 「キョン!」 佐々木の大きな声で、嫌な思考の流れから我に返った。 「いったいどうしたんだい?」 「いや……大丈夫だ」 「大丈夫なわけないだろ!顔が真っ青じゃないか!」 「本当だ、具合は問題ない。ただ考えごとをしてた」 本当に心配そうな顔をした佐々木が、俺を覗き込んでくる。 よりによって、なんでお前なんだよ。 「僕でよかったら相談に乗る。何でも言ってくれないか?」 言うべきか。 でもな、佐々木?これは俺だけの問題じゃないんだよ。 「僕にも……言えないことかい?」 佐々木は問いに一向に答えない俺に向かって、とても寂しそうな表情をして言ってきた。 頼む、そんな顔をしないでくれ。俺が泣きそうだ。 「キョン、泣いているの?」 どうやら、佐々木の言葉通り、俺は泣いているらしい。 なんて情けないんだ。 「分からないよ、さっきまで僕はあんなに楽しかったんだ。それを突然涙するなんて」 「悪い、笑っていいぞ。ちょっと感情のコントロールが出来なかっただけだ」 「笑えるわけないだろ!」 ついに怒らせちまった。 「どうしたんだよ!全くもって意味不明だ!」 そうだな。客観的に考えれば俺もそう思う。 「……先週のことだ」 「先週?」 話そう。そして佐々木との関係をゼロに戻す。俺の余計な考えを全て話し、真っ白な状態でお前に向き合うよ。 そして、また好きだって言ってやる。必ずだ。 「いや、その前に一つ確認させてくれ。お前は神をどう思う?」 「か……み?」 その反応が俺に確信を持たせてくれる。 古泉、俺は本当にこのまま続けていいのか? 「あぁ、神だ」 「ど、どうって、そ、そんなの空想の産物、だろ?」 「そうだな。しかし俺は、影で神と信じられている人間を一人知っているんだ。もしかするとそれは二人かも知れん」 「……」 佐々木が無言になる。辛いよな、すまん。 「そいつは自分自身の力に気付いてはいないが、どうやら思ったことを何でも現実にすることが出来るみたいなんだ」 俺の話は続く。佐々木は口を開こうとはせず、下を向いている。 「そして、そいつが望んだとおりの登場人物が周りに集まりだした。どうやら俺もその一人だったみたいだ。まぁ、イレギュラーみたいなもんだと信じたいがな」 話を続けた。長門の情報統合思念体、古泉の機関、朝比奈さんの未来人としての情報。 そういった情報はなるべく包み隠しながら。 どれくらい話たんだろうな。 しばらく話してから、俺は佐々木に聞いた。 お前の顔を見れば答えは分かる。 でも聞かなくちゃな。 「佐々木」 肩がビクリと動く。 「なんで俺がこんな話をしたのか……分かるだろ?」 「……」 「冒頭の話に戻るぞ。俺は先週、お前がもう一人の神であると言われた」 佐々木の体全体が震えている。本当にすまない。 「以前の俺なら、鼻で笑っておしまいだ。でもこの一年間で状況は変わったんだ」 「……誰だかは知らない。でも、その人の言葉を信じるのかい?」 弱々しい声。こんな佐々木は初めてだ。 「実際は半信半疑だ。でもそいつは信用できるやつなんだよ。しかしだ。お前が違うと言うなら、俺はそれを信じる。天秤にかけるまでもない」 「……僕は」 ここは黙って答えを待とう。 佐々木を追い詰めるなんて、俺にはもう無理だ。 「僕は、僕は神なんかじゃない。……でもキョン。僕には力がある。君が言った不思議な力があるんだ」 佐々木の目からは涙が零れている。 「不完全な力さ。でも言われたよ。僕の力が整えば全てが思いのままだとね」 情けないことに言葉も出ない。俺には相槌をしてやるのが精一杯だ。 「初めはスゴイと思ったよ?でもよく考えてみてくれ。何でも出来るんだ、そんなの……人間じゃない。バケモノだよ」 「違う!」 かろうじて声が出た。バケモノ?少なくともそれだけは間違っている。 「違わないさ。昔から異能の人間は決まってバケモノなんだよ」 なかば諦めにも似た表情で微笑んでくる。 「誰かに言われたのか?」 「いや、ただ第三者の視点で見るとそうだろ?僕が誰々が嫌いだと強く思えば、その人は消えてしまうかもしれないんだ。そんなの普通って言えるのかい?」 確かに異常なことだ。でもな、佐々木。お前はそんなやつじゃないだろ。 「そうかもね。でも……」 こんなこと言わなきゃよかった。佐々木が辛い顔をするのだって分かってた。 だが、それも後の祭りだ。でも俺は…… 「別に佐々木を責めてるわけじゃない、俺がしているのは確認だ。現に俺はお前より強力な力を持つやつと一年間一緒にいたんだ」 そう、古泉が言っていた。まだ佐々木の力は弱い。 「確認?確認したらどうなるっていうんだい?」 「現状が分からなきゃ、お前の力になれないだろうが」 佐々木が不思議そうな顔をしてきた。なんだ、何か間違ったか? 「僕の力に?」 「当たり前だろ?」 「無理だよ。君は普通の人間なんだろ?僕の友達も言ってたよ」 そうだな、普通だ。それでもな、俺はお前の彼氏なんだ。 普通とか普通じゃないとか関係ない。自分の女の力になる。 理由はそれで十分だろ? 「……不思議だよ。君はそんなことが言えるタイプの人間じゃないはずだろ?」 さぁな、お前と付き合いはじめてからは世の中が変わって見えたんだ。 つまり色々と価値観が変わったんだろうよ。 「くつくつ。……君は、僕が普通じゃなくても一緒にいてくれるのかい?」 嫌いになる理由が分からんな。 「……」 俺は気持ちを固めた。だから再度佐々木に言おうと思う。 「以前言ったとおりだ、俺はお前が好きだよ。この気持ちに気付かせてくれたのは、佐々木、お前だ」 頼むよ佐々木。俺の言葉なんかで泣かないでくれ。 俺は泣かせるつもりでこんなことを言ったんじゃないんだ。 「だって、ひっく、だって」 古泉、お前は俺が鍵だって言ったよな。扉にしろ、箱にしろ、鍵がないと物は開かない。 俺が鍵なら、佐々木は絶対に安全な存在だ。誓ってもいい。 佐々木は泣きながら言葉を続けた。 「君に、き、嫌われると思ってた。ひっく、だから、だから絶対にばれないようにと思ってたんだ。でも、それでも君は受け入れてくれた」 「おいおい、俺を見くびるなよ?」 「そ、そうだね。ひっく。君は変に達観したところがあったから」 やっと佐々木の顔にも少し笑顔が戻ってきた。やっぱりこっちの方が似合う。 彼が昼間に聞かせてくれた曲。私の心境はまさに今そんな感じ。 こんな私を彼は好きだと言ってくれた。ありのままの私を。 だから少し行動を起こそう。 今日は彼に主導権を握られ続けてる。 この行動はあの歌詞の引用。でも、今はそんな気持ちだから。 彼の目を見つめ、そっと目を閉じる。 それだけ。いくら察しの悪い彼でも、これぐらいなら気が付くはず。 私は泣いているんだ。だから、その涙を止めて? 「それじゃあ帰るよ」 「送っていく」 彼はそう言って靴に足を通す。 「大丈夫さ、まだ外は明るい。それに妹ちゃんについていてあげてほしい」 「しかしだな」 「ほんとに大丈夫さ。きっと僕の知らないところに、護衛みたいな人もいるんだろうし」 彼が苦そうな表情をする。けして自虐的な意味で言ったわけじゃないんだ。 「だから、ね?」 「……分かったよ、気をつけて帰れよ」 「もちろんさ、じゃあまた」 玄関を開けて外に出る。空は夕暮れで赤く染まっている。 今日は思いがけない展開だった。 でも、おかげで彼との心の距離はなくなった。 けして綺麗ではない空気を大きく吸う。 なんだか清々しい。 キョン。 私が好きになったのが君で、本当によかった。 ~To Be Continued~
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/1443.html
ここを編集 ■アパッチ野球軍 演出助手 8 11 13 15 ■マジンガーZ 演出 60 65 71 78 84 ■タイムボカン 演出 3(佐) 6(布) 13(秦) ■一発貫太くん 演出(23話は佐々木的一表記) 17(高) 23(高) 31 36 ■ルパン三世 新 絵コンテ 140 ■さすがの猿飛 チーフディレクター 絵コンテ 1 27 48 68 ■らんぽう 演出 14A ■あした天気になあれ 絵コンテ 1 ■名門!第三野球部 コンテ(佐々木こういち名義) 19 ■発明BOYカニパン 絵コンテ 11 17 22 27 ■名探偵コナン 構成 138 絵コンテ 138 演出 138 143 149 155 160 ■こちら葛飾区亀有公園前派出所 絵コンテ 129 131 140 146 153 163 166 171 180 182 193 208 217 229 237 241 247 252 259 266 271 285 291 297 303 309 314 320 323 329 337 341 349 352 357 362 366 369 演出 208 211 217 229 237 241 247 252 259 266 271 278 285 291 297 303 309 314 320 323 329 337 341 349 352 357 362 366 369 ■モンスターファーム~円盤石の秘密~ 演出 25 ■ドキドキ伝説 魔法陣グルグル 絵コンテ 5 12 22 29 36 演出 5 12 18 22 29 36 ■カスミン 絵コンテ 11 18 27 35 47 55 61 69 76 演出 5 11 18 27 35 47 55 61 69 72 ■電光超特急ヒカリアン 演出 3B 5B 8 11A ■アソボット戦記五九 演出 48 ■かいけつゾロリ 絵コンテ 15 20 演出 9 15 ■まじめにふまじめ かいけつゾロリ 絵コンテ 6 ■忍たま乱太郎 (13期) 演出 24 26 27 43 44 45 ■かりん 演出 4 10 16 22 ■わがまま☆フェアリー ミルモでポン!ちゃあみんぐ 演出 154 160 165 170 ■ちょこッとSister 演出 12 ■ハチミツとクローバーII 演出 3 ■ゼロの使い魔 絵コンテ 4 演出 4 ■レ・ミゼラブル 少女コゼット 演出 15 21 ■京四郎と永遠の空 演出 7 ■ぷるるんっ!しずくちゃん 演出 2 7 12 17 22 27 32 37 42 47 ■ゼロの使い魔~双月の騎士~ 絵コンテ 8 演出 8 ■ぷるるんっ!しずくちゃん あはっ☆ 演出 2 6 11 17 22 27 32 37 42 47 ■全力ウサギ 絵コンテ 6 11 12 17 18 24 演出 5 6 11 12 17 18 23 24 ■ジュエルペット 絵コンテ 25 39 46 演出 4 11 18 25 32 39 46 ■ジュエルペット てぃんくる☆ 演出 25 ■関連タイトル ゼロの使い魔 Blu-ray BOX スペシャルCD2枚付 rakuten_design= slide ;rakuten_affiliateId= 053df7e0.7c451bd1.0c852203.190c5695 ;rakuten_items= ctsmatch ;rakuten_genreId=0;rakuten_size= 468x160 ;rakuten_target= _blank ;rakuten_theme= gray ;rakuten_border= on ;rakuten_auto_mode= on ;rakuten_genre_title= off ;rakuten_recommend= on ; 随時更新! pixivFANBOX アニメ@wiki ご支援お待ちしています! ムック本&画集新刊/個人画集新刊/新作Blu-ray単巻/新作Blu-ray DVD-BOX アニメ原画集全リスト スタッフインタビューwebリンク集 最新登録アイテム Switch ゼルダの伝説 Tears of the Kingdom Switch 世界樹の迷宮Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ HD REMASTER Switch ピクミン 4 大友克洋 Animation AKIRA Layouts Key Frames 2 小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女 1 ONE PIECE FILM REDデラックス・リミテッド・エディション 4K ULTRA HD Blu-ray Blu-ray 劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ 完全生産限定版 Blu-ray 映画『ゆるキャン△』 Blu-ray 【コレクターズ版】 Blu-ray ウマ娘 プリティーダービー 4th EVENT SPECIAL DREAMERS!! Blu-ray 天地無用!GXP パラダイス始動編 Blu-ray第1巻 特装版 天地無用!魎皇鬼 第伍期 Blu-ray SET 「GS美神」全話いっき見ブルーレイ Blu-ray ソードアート・オンライン -フルダイブ- メーカー特典:「イベントビジュアル使用A3クリアポスター」付 ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 5th Live! 虹が咲く場所 Blu-ray Memorial BOX 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち Blu-ray BOX 特装限定版 地球へ… Blu-ray Disc BOX 完全生産限定版 神風怪盗ジャンヌ Complete Blu-ray BOX HUNTER×HUNTER ハンター試験編・ゾルディック家編Blu-ray BOX BLEACH Blu-ray Disc BOX 破面篇セレクション1+過去篇 完全生産限定版 MAZINGER THE MOVIE 1973-1976 4Kリマスター版 アニメ・ゲームのロゴデザイン シン・仮面ライダー 音楽集 テレビマガジン特別編集 仮面ライダー 完全版 EPISODE No.1~No.98 MOVIE リスアニ!Vol.50.5 ぼっち・ざ・ろっく!号デラックスエディション ヤマノススメ Next Summit アニメガイド おもいでビヨリ アニメ「魔入りました!入間くん」オフィシャルファンブック 『超時空要塞マクロス』パッケージアート集 CLAMP PREMIUM COLLECTION X 1 トーマの心臓 プレミアムエディション パズル ドラゴンズ 10th Anniversary Art Works はんざわかおり こみっくがーるず画集 ~あばばーさりー!~ あすぱら画集 すいみゃ Art Works trim polka-トリムポルカ- つぐもも裏 超!限界突破イラスト&激!すじ供養漫画集 開田裕治ウルトラマンシリーズ画集 井澤詩織1st写真集 mascotte 鬼頭明里写真集 my pace 内田真礼 1st photobook 「まあやドキ」 進藤あまね1st写真集 翠~Midori~ 声優 宮村優子 対談集 アスカライソジ 三石琴乃 ことのは 亀田祥倫アートワークス 100% 庵野秀明責任編集 仮面ライダー 資料写真集 1971-1973 金子雄司アニメーション背景美術画集 タローマン・クロニクル ラブライブ!サンシャイン!! Find Our 沼津~Aqoursのいる風景~ 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会[復刻版] 梅津泰臣 KISS AND CRY 資料集 安彦良和 マイ・バック・ページズ 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』編 氷川竜介 日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析 Blu-ray THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th Anniversary Celebration Animation ETERNITY MEMORIES Blu-ray おいら宇宙の探鉱夫 ブルーレイ版 Blu-ray 映画 バクテン!! 完全生産限定版 アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~ Blu-ray BOX 初回生産限定版 はたらく細胞 Blu-ray Disc BOX 完全生産限定版 Blu-ray 長靴をはいた猫 3作品収録 Blu-ray わんぱく王子の大蛇退治 Blu-ray 魔道祖師 完結編 完全生産限定版 魔道祖師Q Blu-ray Disc BOX 完全生産限定盤 にじよん あにめーしょん Blu-ray BOX 【特装限定版】 Blu-ray 鋼の錬金術師 完結編 プレミアム・エディション Blu-ray付き やはりゲームでも俺の青春ラブコメはまちがっている。完 限定版【同梱物】オリジナルアニメ Blu-ray「だから、思春期は終わらずに、青春は続いていく。」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5763.html
~佐々木宅にて~ 電話が鳴る。誰からだろう。 「はい、もしもし」 携帯から聞こえてきた声を聞いて安心する。 「おう、佐々木か?」 彼だ。 僕が別人だとしたら、君は一体誰の携帯に電話しているんだい?」 言う必要のない文句を一つ。 それを彼は、笑って返してくれる。 「はは。そういうなよ。社交辞令みたいなもんだろ」 「くつくつ。それでどうしたんだい?待ち合わせの時間まで、まだ二時間以上はあるけど?」 私の声が聞きたくなったの? ……もちろんそんなことは聞けない。 まだ恥ずかしい。 「あぁ、それなんだが……すまんが今日は行けなくなったんだ」 なるべく不機嫌になったのを悟られないように言葉を返した。 彼の勘はなかなかに鋭い。こと恋愛ごと以外には。 「……訳を聞こうか?」 理由はこうだ。 妹が風邪をひき、家には親がいない。 そして彼はそんな妹を一人にしとくのは気が引ける、と。 「シスコンってわけじゃないが、休みの日に寝込んでる妹を放って遊びに行くわけにもいかんだろ」 そんな妹想いな彼にまたいらない文句を。 「そうだね。君にしては正論だ」 「一言いらんぞ」 だって彼は仕方ないとはいえ、私との約束を守れなかった。 これくらいはいいよね? 「くつくつ。気をつけるよ」 「そういうことだ。悪いが、その、デ、デートはまた今度でいいか?」 「そ、そんなに恥ずかしそうに言われると、僕まで照れてしまうよ」 「すまんな、こればっかりは言い慣れていないからどうしようもない」 彼とは付き合い始めてまだひと月と少し。 長い間友達だった分、彼氏彼女の関係にはどうして慣れない。 「構わないよ。僕としては君とのデートも大事だけど、キョンの妹ちゃんの方が心配だし」 これは本心。だって彼は優しいから。 「悪いな」 「謝ってばっかりだな」 横にある枕を抱き寄せる。なぜだろ? 「そりゃな、穴を開けたのは俺だ」 「あんまり謝ってばかりだと、本当に謝ってもウソに感じてしまうよ?」 「それもそうだな」 「くつくつ。それじゃあ、妹ちゃんをお大事に」 「ありがとうな。またな」 彼からの電話が切れる。少しは甘い内容の会話をしてほしいものだよ。 でもそんなことを彼に期待するのは、本物のUMAを発見するより難しい。 そんな彼を好きになってしまった自分を責めるほかない。 それにしても、今日の予定が無くなってしまった。 二時間後に控えた三度目のデート。 さて、どうしたものだろう。 橘さんに連絡を取る? きっと彼女なら喜んで駆けつけてくれる。 ……彼は今頃妹の面倒を見ているのかな? 熱を測ってあげたり、水枕やタオルを換えてあげたり、お粥を作ってあげたり。 「くつくつ」 そんな彼の姿を想像すると笑ってしまう。 それと同時に、彼の妹に多少の嫉妬を。 病人に嫉妬なんて不謹慎にも程がある。でも彼に構ってもらえるなら、甘んじてその役を代りたい。 たった一週間会えないだけでこんな風に思ってしまう。 付き合う前は一年も我慢したのに。 でも仕方がないと思う。 気持ちが通じたのだから。だからこそ、より愛しく感じる。 恋愛は精神病の一種。 付き合ってしまえば治ると思った症状は、まさかの大悪化。 この病気の特効薬はどこで手に入るのだろう。 風邪と水虫の特効薬を完成させればノーベル賞が貰えると聞いたことがある。 きっと恋愛の特効薬を見つけることが出来ても、ノーベル賞が貰えるかも。 !!! 退屈な休日をどう過ごそうか考えていると、 ここで名案が一つ浮かんだ。 我ながらいいアイデアだと思う。 双方にとって得のあるアイデア。 まさに一石二鳥。 よし、準備をしなきゃ! ~キョン宅にて~ 「ケホケホ。キョンくんごめんね?」 布団に寝ている妹が俺に謝ってくる。 お前は熱があるんだ、仕方ないだろ? 「でも、きょうはデートだったんでしょ?」 子供がそういうこと気にするな。いつの間にそんなにマセたんだ? 「えへへ」 俺に出来ることなんてたかが知れているし、症状はただの風邪。 まぁ、体格的にも幼い妹だ。ただの知恵熱かもな。 「なにか食べたいものあるか?」 「えっとね、アイス」 予想していた答えとはいえ、まだまだ子供だな。 「わかったよ。ちょっとそこのコンビニ行ってくるから、おとなしく寝てるんだぞ」 「はーい」 「で、どんなのがいいんだ?」 「あまいのがいい」 甘くないアイスがあるなら、俺は是非食べてみたいな。 「ちがうよー、あっまーいのがいいの」 どう違うのかはイマイチ分からなかったが、妹にはすぐに戻るからとだけ伝え、コンビニに向かった。 「いってらっしゃーい、ケホケホ」 ~コンビニにて~ 風邪にはなにが効くんだっけかな。 ビタミンCだっけ? 個人的にはとりあえずみかんのゼリーと、やっぱりポカリだよな。 それと甘ーいアイスか……どれも大して変わらんだろ。 バニラアイスを四つくらい買っとくか。 こんなもんでいいだろ。 ~キョン宅にて~ 「キョンくんおかえりなさい」 さっきより少し顔が赤い。熱がまた出てきたのかもな。 冷えピタでも差し入れてやるか。 「ただいま。今食べるか?」 「う~ん、あとにする」 まだ食欲は戻ってこないか。無理に食べさせるのも酷だな。 「そうか、じゃあ俺はリビングにいるから、腹減ったり、構ってほしくなったら呼べよ」 「わかったー」 仕方ないとはいえ、やはり元気がない。 いつもの元気な声が聞けないのは、兄にとっても寂しい限りだぞ。 「子機、枕元に置いとくから」 「ありがとー」 そう妹に告げ、頭をひとなで、ふたなで。 嬉しそうにする妹の笑顔を見れるだけで、少し俺も優しい気持ちになれる。……ような気がする。 はは、がらにもなかったな。 さて、暇になったわけだが……何をするか。 部屋に戻って勉強、それは嫌だな。 なら片付けでも、いやいやそれだとうるさくなるな。 どうしたもんかね。 そういえば俺の昼飯ってあるのか?まずは冷蔵庫チェックだな。 ピンポーン。 間の抜ける音だな。来客か?そんな話聞いてないんだがな。 ピンポーン。 分かった分かった、今出るから待ってろ。 「はーい、今出ますよっと」 ガチャ 「……あれ?」 おかしいな、なぜここに? 「や、やあ」 扉の先にいたのは佐々木だった。 「どうしてお前がここに?」 さっき頭の中に浮かんだ疑問を、本人に直接伝える。 「ど、どうしてって、それはその……」 少し顔を赤くした佐々木が、俯き気味にぼそぼそと言う。 う~ん、聞き取れん。 「まあ、玄関で立ち話もなんだから上がってくれ」 中途半端に開かれた扉を大きく開く。 外の暖かい空気が家の中に流れ込んでくる。 「お邪魔します」 どうぞ。 パタン 来た。彼の家に来た。 いつぶりだろうこの家に来るのは。 通されたリビングを見ると、昔からあるものがチラホラ。 人の家なのに勝手に懐かしさを感じてしまう。 「妹の見舞いにでも来てくれたのか?」 コップにオレンジジュースを持ってきてくれた彼が、それを私の前に置き聞いてきた。 「あ……うん」 なんとも歯切れの悪い答え。自分に減点! 「ありがたいんだが、ただの風邪だからたいしたことないぞ」 「そう」 「悪いな、わざわざ」 「……」 緊張して上手く喋れない。 彼氏の家に遊びに行くのって、こんなに緊張するんだ。 「佐々木?」 あまりに喋らない私を気にして話かけてくる。 何か喋らなきゃ。 「今日はご両親がいないんだろ?」 「あぁ夜まで帰ってこないんだ。おかげで飯の用意もしなくちゃだ。お粥なんか作ったことがないんだけどな」 つまり、これで私のアイデアが活かせる状況になったというわけだ。 私が願ったから?そんなことはないはず、まだ私は不完全。 完全になりたいというわけではない。 いや、今はそれどころじゃない。次の言葉を言わなきゃ。 「も、もし、もし君さえ良かったらなんだが」 「なんだ?」 もう一声。 「ぼ、僕がご飯くらい作ってあげようか?」 「佐々木が?」 その言い方だと、私が料理出来ないみたいじゃない? ほんとにそういった心遣いは皆無なんだから。 「これでも多少は心得があるんだ」 誇張はしない。ほんとに多少だから…… 「いや、悪いだろ」 そう返すことは想定の範囲内。だってキョンだもん。 「気にしなくていいよ、そもそも君のおかげで今日の予定は無くなったんだ」 ここで小言を一つ。会話の主導権を握らなきゃ。 「耳が痛いな」 「くつくつ。一概に誰かのせいって訳ではないんだがね」 「しかしだな」 彼が喋り終わる前に言葉を被せる。 「それに不慣れな君の料理を食べて、妹ちゃんが体調を悪化させても可哀想だろ?」 我ながら、素直じゃないなぁ、とは思う。でも今の私にはこれが精一杯。 「ぐっ、まったくだ」 「そういうわけだよ。僕は暇を持て余している、君は人手がほしい。利害の一致さ」 君に逢いたかった、こう言えればいいのに…… 「いいのか?」 「もちろんだよ」 「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな」 「賢明だね」 「すまんな」 「それで、キョンはお昼はどうしたんだい?」 「これからだ。ちなみに妹は今は食べたくないそうだ」 「じゃあ早速作ってあげる!」 早速のチャンスに気持ちが早って、口調がおかしくなってしまった。 「ごちそうになろうか」 よかった。あまり気に留めてはいないみたい。 「冷蔵庫開けさせてもらうよ」 「どうぞ」 彼の実家で、彼のために私がお昼を作る。 どうしよう。顔がにやけてしまう。 これも一つの幸せの形なんだと思う。 ふふ、まだ高校生なのにそんなものを感じるなんて、いささか生意気かな? ふと、何かの気配を感じる。誰かが近くにいる訳ではない、感じるのは視線。 「ん?僕の顔に何か付いてるかい?」 彼の視線に気付いた私は彼を見て微笑む。 どうかな、私の飛び道具は。少しは自信があるんだ。 それにこんな笑顔を見せるのは君だけなんだよ? 「いや、なんていうんだろうな。なんかいいなぁって」 強烈なカウンター。なんとかテンカウント以内に反応しなきゃ。 「……ま、真顔で言わないでくれないかな?」 私のダメージはご覧の通り。もうフラフラ。 反撃の言葉も出ない。押されれば倒れてしまいそう。 「正直な感想だよ」 そして、放たれたフィニッシュブロー。 もう決定。彼は天然の女ったらし。 鏡を覗けば、まるでトマトのように顔を赤くした生き物が見れると思う。 あまりに恥ずかしい。ちょっと話題を変えなきゃ。 「そ、そういえばこの間CDを買ったよね?」 自分の記憶を探って一つの話題を。これなら無難かな。 「……あぁ、The Tel○ersか。よく覚えてたな」 「あの日の出来事は、そうやすやすと忘れられるようなものじゃないよ」 ひと月と少し前、彼と一年ぶりに再会を果たし、彼に自分の気持ちを伝えた日。 忘れられない日。 「そうだな」 彼にとっても忘れられない日。……だと思う。 「せっかくだし聞かせてくれないかい?」 聞かせてくれる約束をしていたしね。 「わかった」 そう返事をした彼は、自分の部屋へと戻っていく。 ふぅ、彼と二人っきりの空間は、まだちょっとキツイかな。 普段より余計に意識してしまう。 あれこれ考えていると彼が戻ってきた。 そしてCDをDVDプレーヤーに入れる。 「君のオススメをとりあえず聞かせてほしいな」 彼のセンスをお手並み拝見。 「いいぞ。そうだな……If I S○yなんてどうだ?」 彼の口から出てくる英語に妙な違和感を感じる。 単純に似合ってないだけだけど。なんだか背伸びしてるみたい。 TVのスピーカーから優しい音が流れてくる。 聞く人によっては女性の声に聞こえそうな柔らかい男性の声。 軽やかなギター。自己主張が激しすぎないドラム。 ふむ、彼のセンスはなかなかによろしい。 そして、この歌詞。……分かっているけど、自覚は無いんだろうね。 「……柔らかい声だね」 率直な感想を言う。 「悪くないだろ?」 「いいね。普段は洋楽なんて聞かないからとても新鮮だよ」 洋楽なんて、有名どころしか知らない。 「俺もだよ。友達に紹介されるまで見向きもしなかった」 笑いながら彼が言う。彼が言うには、その友達はすでに四百枚以上のコレクションがあるらしい。 高校生のくせに随分とお金廻りがよろしいことで。 「ところで君はこの歌詞の意味を理解してるのかな?」 答えは分かっている。だけど、一応聞いてみた。 もしかしたら、ね? 「それが今まで洋楽を聞かなかった理由だな。さっぱりわからん」 やっぱりね、日本人は勤勉なわりに英語の苦手な人が多い。 「君らしい理由だ。まぁ、みんなそうか」 やれやれ、と彼は肩をすくめて苦笑い。その癖は変わらないね。 「友達にな、Sig○r Rsというバンドを紹介されたんだ」 「うん」 「音楽的には好みじゃなかったんだが、歌詞がアイスランド語と造語だと聞かされてな」 「それは画期的だね。そもそもアイスランド語さえ初耳だよ」 果たしてアイスランド語なんて身近にあるのかな? 多分聞いたことが無い。 「だろ?そのバンドが世界中から大絶賛されたんだと。つまり、いい音楽は歌さえ楽器なんだ、と教わったよ」 「言語は関係ないと?」 「歌詞に意味はあるが、それを歌う言語は関係ない、だそうだ」 実に興味深い。 考え方は人それぞれということだね。 「はは、実際同じ日本人でも歌詞カード見なきゃ、何言ってるかわからんやつらは山ほどいるからな」 「くつくつ。たしかにね」 彼のいうことも分かる。もしかしたら今の日本人は母国語のリスニングすら危ういのかも。 「そういえば、佐々木は英語のリスニングは出来るのか?」 「人並みにはね」 「すごいな」 猛勉強したからね、とは答えずに謙虚に答える。 「そんなに誇れるものじゃないさ」 だってこう言ったほうが、より出来るように聞こえるでしょ? 「さっきの歌はなんて言ってたんだ?」 ……それを私の口から言わせるんだね。君は。 「……えっと、その」 ほら!口篭ってしまったじゃないか! 「……もしかして、卑猥な内容だったのか?すまん」 そこで申し訳ない顔をされるとね。答えるしかないじゃない。 「ち、違うよ!その、ね、熱烈なラブソング……だった」 歌詞の内容は、 愛してると言ったら君にも言ってほしい、泣いていたらキスをしてほしい、死ぬ時は一緒に、お願いだらかどこにも行かないで だいたいはこんな感じ。ただの未練がましい男の言葉にも感じるけど、私にはプロポーズに感じる。 だから私は後者を彼に言った。変な他意はないよ? 「……」 そこで黙らないでほしいな、こっちだって恥ずかしいんだから。 「その、もし君が歌詞を理解していて、そのうえで聞かせてくれてたら、か、カッコよかった、かな?」 って、何を言わせるの君は! 「悪い、ちょっと恥ずかしかった」 それは私の台詞。耳まで熱い。 いったい今日は何回赤面すればいいんだろ。 これは釘を刺しとかなきゃ。 「まったく、もう少し勉強を頑張った方がいいんじゃないかい?」 「精進するよ」 「そうしてほしいね。それとお昼ごはん出来たよ」 「それはありがたい」 ~食事後~ 「ごちそうさま」 そう言って彼は、お皿にスプーンを置く。 作ったのはオムライス。これならあまり多くの食材を使わなくても出来る。あくまで人の家だから多くは使えない。 ケチャップでハートを書こうと思ったのは内緒。 黙って彼を見つめる。まだ感想を聞いていないからだ。 「ん?あぁ言ってなかったな。おいしかったよ。ついつい食べるのに夢中になってな」 私の視線に気付いた彼が笑ってそう言った。 「くつくつ。君の口にあってよかったよ」 それに私も笑顔で答える。 でも、そこはキョン。次の瞬間には私の笑顔も凍りつく。 「しかしあれだな、将来お前と結婚するやつは幸せだな」 ……今なんて? 「こんなうまい飯を毎日食べれるんだからな」 さて、今のキョンの発言は二種類に取れる。 一つ、その将来の相手を自分と置いての発言。 二つ、お得意の鈍感、無神経。 どちらにしても私の止まった時間は動かない。 「どうした?」 どうしたと思う?わからないんだろうな。 君って人は本当に、 「馬鹿」 「へ?」 ほら、その反応だもの。……いいんだけどね、もう慣れたよ。 「そろそろ妹のとこにも顔を出さないとな」 そう言って彼が椅子から立ち上がり、冷蔵庫の前に歩いていく。そして中から手にしたのは、冷えピタ。 「結構熱があるのかい?」 「さっき見たときは顔が真っ赤だったな」 それはなかなか辛そう。 「こんな時期に珍らしいよ」 「夏風邪は馬鹿が引くっていうじゃないか、あいつもまだまだお子様だからな」 それは聞き捨てならないね。ここは妹ちゃんに加勢しておこう。 「くつくつ。キョン、それはおかしいよ」 「なにがだ?」 不思議そうな顔でこちらを見てくる。この小言にカウンターが出来るならしてもらおうか? 「その通説通りなら、この家に病人がもう一人いることになるよ」 「言ってくれるじゃないか」 「くつくつ。反論出来るかい?」 今日は彼のペースにハマりまくり。ここらで挽回しないと。 「悔しいが出来んな。しかしだ、そんな俺を好きになったお前はほんとに物好きだな」 彼の口元が意地悪く歪む。なんてやつ! 認めるほかない。私は彼以上に恋愛に奥手なようだ。 今も私は顔を赤くしながら、口を金魚みたいにパクパクさせてる。 「あっはははは、悪い悪い、冗談だ。そんなに困った顔をしないでくれないか」 なんでそんなに余裕な態度なの?なんだか別人みたい。 とりあえず私は俯いてから、彼のすねをトゥーキックしてやった。 痛みにのたうちまわる彼を捨て置いて、妹ちゃんの部屋に向かう。 コンコン ノックに返事はない。まだ寝てるようだ。 「お邪魔しまーす」 小さな声で部屋に入る。なんだか忍び込んでるみたい。 大佐、標的を発見した。これより標的を介護する。 小さく寝息をたている妹ちゃんの枕元に近づく。 もう温まりきっている冷えピタを剥がし額に触れてみた。 まだ少し熱っぽいかな? 顔に浮かんだ寝汗を濡れタオルで拭いてあげ、彼から取り上げた新しい冷えピタをつける。 「……ん」 寝言かな? そう思っていると、うっすらと目を開けて私を見てきた。 「……おかあさん?」 へ?どうやら寝ぼけてるみたい。 ここは一つ、彼女の言葉に付き合ってあげよう。 「大丈夫?」 声真似は出来ないからなるべく優しく声をかけた。 「まだ、ぼーっとするー」 たしかに。表情がそう語っている。 「何か食べたいものある?」 私の母は熱を出した時にこうやって聞いてくる。 「えっとねー、キョンくんがねー、アイスかってきてくれたのー、それがいいー」 むむ、ちゃんとお兄ちゃんやっていたんだね。 「じゃあ今持って来るね」 そう言って妹ちゃんの頭を撫でて、部屋を出ようとした。そしたら、 「ありがとー、おかあさん」 ふふ、お母さんじゃなくてごめんね。でもそのうち本当のお姉ちゃんになるかも。……なんてね。 リビングに戻ると、彼はさっき食べた食器を洗っていた。 「具合はどうだった?」 「前の様子は見てないから比べられないけど、食欲は出たみたいだよ」 「そうか」 そう言って安心した顔をする。実に妹思いだね。 「なにが食べたいって?」 「アイス」 彼は少し笑って冷蔵庫へ。そしてアイスを手にしてリビングを出た。 「さっきよりは具合が良さそうだ」 その言葉を聞いて、少し安心した。 「くつくつ。良かったじゃないか」 「あぁ、まったくだ」 彼はソファーに座るとTVを付ける。 旅番組。お昼の情報バラエティー。昼ドラ。 どれもこれも退屈なものばかり。 それでもこの時間は悪くない。何の会話をせずともゆったりした気持ちでいられる。 悪くない、悪くないよ。 楽しいときの時間の流れというのは、あっという間だ。 特に何かをしたわけじゃないけど、最近の出来事を話したり、昔話に花を咲かせたり。 とても充実した時間が流れたと思う。 すでに時間は夕方の五時。親には六時くらいには帰ると言ってある。 そろそろおいとましないと。 「キョン、僕はそろそろ帰るよ」 「ん、……あぁ」 歯切れの悪い返答。思わず聞いてしまう。 「どうしたんだい?」 佐々木が俺に声をかけてくる。 古泉の言葉が頭によぎる。 本当に言うべきか分からない。 でも、古泉は言っていた。 佐々木もまたハルヒと同じ力があると。 この一年で、俺は古泉が信用できる人物だと思っている。 本当は今日のデートの帰りにでも言おうと思っていた。 なんて? お前はおかしな力があるのか? 俺の記憶をいじってないか? 世の中を都合のいいようにしているのか? お前は、いわゆる神なのか? お前は……普通じゃないのか? こんなこと言えるわけがない! じゃあ、何も知らないフリをしてこのままいられるのか? それは無理だろ。でも、言うことでお前を傷つけたら……俺は…… 「キョン!」 佐々木の大きな声で、嫌な思考の流れから我に返った。 「いったいどうしたんだい?」 「いや……大丈夫だ」 「大丈夫なわけないだろ!顔が真っ青じゃないか!」 「本当だ、具合は問題ない。ただ考えごとをしてた」 本当に心配そうな顔をした佐々木が、俺を覗き込んでくる。 よりによって、なんでお前なんだよ。 「僕でよかったら相談に乗る。何でも言ってくれないか?」 言うべきか。 でもな、佐々木?これは俺だけの問題じゃないんだよ。 「僕にも……言えないことかい?」 佐々木は問いに一向に答えない俺に向かって、とても寂しそうな表情をして言ってきた。 頼む、そんな顔をしないでくれ。俺が泣きそうだ。 「キョン、泣いているの?」 どうやら、佐々木の言葉通り、俺は泣いているらしい。 なんて情けないんだ。 「分からないよ、さっきまで僕はあんなに楽しかったんだ。それを突然涙するなんて」 「悪い、笑っていいぞ。ちょっと感情のコントロールが出来なかっただけだ」 「笑えるわけないだろ!」 ついに怒らせちまった。 「どうしたんだよ!全くもって意味不明だ!」 そうだな。客観的に考えれば俺もそう思う。 「……先週のことだ」 「先週?」 話そう。そして佐々木との関係をゼロに戻す。俺の余計な考えを全て話し、真っ白な状態でお前に向き合うよ。 そして、また好きだって言ってやる。必ずだ。 「いや、その前に一つ確認させてくれ。お前は神をどう思う?」 「か……み?」 その反応が俺に確信を持たせてくれる。 古泉、俺は本当にこのまま続けていいのか? 「あぁ、神だ」 「ど、どうって、そ、そんなの空想の産物、だろ?」 「そうだな。しかし俺は、影で神と信じられている人間を一人知っているんだ。もしかするとそれは二人かも知れん」 「……」 佐々木が無言になる。辛いよな、すまん。 「そいつは自分自身の力に気付いてはいないが、どうやら思ったことを何でも現実にすることが出来るみたいなんだ」 俺の話は続く。佐々木は口を開こうとはせず、下を向いている。 「そして、そいつが望んだとおりの登場人物が周りに集まりだした。どうやら俺もその一人だったみたいだ。まぁ、イレギュラーみたいなもんだと信じたいがな」 話を続けた。長門の情報統合思念体、古泉の機関、朝比奈さんの未来人としての情報。 そういった情報はなるべく包み隠しながら。 どれくらい話たんだろうな。 しばらく話してから、俺は佐々木に聞いた。 お前の顔を見れば答えは分かる。 でも聞かなくちゃな。 「佐々木」 肩がビクリと動く。 「なんで俺がこんな話をしたのか……分かるだろ?」 「……」 「冒頭の話に戻るぞ。俺は先週、お前がもう一人の神であると言われた」 佐々木の体全体が震えている。本当にすまない。 「以前の俺なら、鼻で笑っておしまいだ。でもこの一年間で状況は変わったんだ」 「……誰だかは知らない。でも、その人の言葉を信じるのかい?」 弱々しい声。こんな佐々木は初めてだ。 「実際は半信半疑だ。でもそいつは信用できるやつなんだよ。しかしだ。お前が違うと言うなら、俺はそれを信じる。天秤にかけるまでもない」 「……僕は」 ここは黙って答えを待とう。 佐々木を追い詰めるなんて、俺にはもう無理だ。 「僕は、僕は神なんかじゃない。……でもキョン。僕には力がある。君が言った不思議な力があるんだ」 佐々木の目からは涙が零れている。 「不完全な力さ。でも言われたよ。僕の力が整えば全てが思いのままだとね」 情けないことに言葉も出ない。俺には相槌をしてやるのが精一杯だ。 「初めはスゴイと思ったよ?でもよく考えてみてくれ。何でも出来るんだ、そんなの……人間じゃない。バケモノだよ」 「違う!」 かろうじて声が出た。バケモノ?少なくともそれだけは間違っている。 「違わないさ。昔から異能の人間は決まってバケモノなんだよ」 なかば諦めにも似た表情で微笑んでくる。 「誰かに言われたのか?」 「いや、ただ第三者の視点で見るとそうだろ?僕が誰々が嫌いだと強く思えば、その人は消えてしまうかもしれないんだ。そんなの普通って言えるのかい?」 確かに異常なことだ。でもな、佐々木。お前はそんなやつじゃないだろ。 「そうかもね。でも……」 こんなこと言わなきゃよかった。佐々木が辛い顔をするのだって分かってた。 だが、それも後の祭りだ。でも俺は…… 「別に佐々木を責めてるわけじゃない、俺がしているのは確認だ。現に俺はお前より強力な力を持つやつと一年間一緒にいたんだ」 そう、古泉が言っていた。まだ佐々木の力は弱い。 「確認?確認したらどうなるっていうんだい?」 「現状が分からなきゃ、お前の力になれないだろうが」 佐々木が不思議そうな顔をしてきた。なんだ、何か間違ったか? 「僕の力に?」 「当たり前だろ?」 「無理だよ。君は普通の人間なんだろ?僕の友達も言ってたよ」 そうだな、普通だ。それでもな、俺はお前の彼氏なんだ。 普通とか普通じゃないとか関係ない。自分の女の力になる。 理由はそれで十分だろ? 「……不思議だよ。君はそんなことが言えるタイプの人間じゃないはずだろ?」 さぁな、お前と付き合いはじめてからは世の中が変わって見えたんだ。 つまり色々と価値観が変わったんだろうよ。 「くつくつ。……君は、僕が普通じゃなくても一緒にいてくれるのかい?」 嫌いになる理由が分からんな。 「……」 俺は気持ちを固めた。だから再度佐々木に言おうと思う。 「以前言ったとおりだ、俺はお前が好きだよ。この気持ちに気付かせてくれたのは、佐々木、お前だ」 頼むよ佐々木。俺の言葉なんかで泣かないでくれ。 俺は泣かせるつもりでこんなことを言ったんじゃないんだ。 「だって、ひっく、だって」 古泉、お前は俺が鍵だって言ったよな。扉にしろ、箱にしろ、鍵がないと物は開かない。 俺が鍵なら、佐々木は絶対に安全な存在だ。誓ってもいい。 佐々木は泣きながら言葉を続けた。 「君に、き、嫌われると思ってた。ひっく、だから、だから絶対にばれないようにと思ってたんだ。でも、それでも君は受け入れてくれた」 「おいおい、俺を見くびるなよ?」 「そ、そうだね。ひっく。君は変に達観したところがあったから」 やっと佐々木の顔にも少し笑顔が戻ってきた。やっぱりこっちの方が似合う。 彼が昼間に聞かせてくれた曲。私の心境はまさに今そんな感じ。 こんな私を彼は好きだと言ってくれた。ありのままの私を。 だから少し行動を起こそう。 今日は彼に主導権を握られ続けてる。 この行動はあの歌詞の引用。でも、今はそんな気持ちだから。 彼の目を見つめ、そっと目を閉じる。 それだけ。いくら察しの悪い彼でも、これぐらいなら気が付くはず。 私は泣いているんだ。だから、その涙を止めて? 「それじゃあ帰るよ」 「送っていく」 彼はそう言って靴に足を通す。 「大丈夫さ、まだ外は明るい。それに妹ちゃんについていてあげてほしい」 「しかしだな」 「ほんとに大丈夫さ。きっと僕の知らないところに、護衛みたいな人もいるんだろうし」 彼が苦そうな表情をする。けして自虐的な意味で言ったわけじゃないんだ。 「だから、ね?」 「……分かったよ、気をつけて帰れよ」 「もちろんさ、じゃあまた」 玄関を開けて外に出る。空は夕暮れで赤く染まっている。 今日は思いがけない展開だった。 でも、おかげで彼との心の距離はなくなった。 けして綺麗ではない空気を大きく吸う。 なんだか清々しい。 キョン。 私が好きになったのが君で、本当によかった。 ~To Be Continued~