約 23,430 件
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/169.html
リビングメイルと苦学生 5 859 ◆93FwBoL6s.様 好奇心は猫をも殺す。 興味を抱かない方が身のためだ、と常々思っていた。それが彼女のためであり、自分自身のためなのだと。だが、結局調べてしまった。そして、後悔した。挙げ句に忘れようにも忘れられなくなって、眠気が失せてしまった。 薄暗い天井を見つめながら、祐介は嘆息した。下半身には、求められるままに精を放った余韻が残っていた。今夜もまた、アビゲイルは祐介に迫ってきた。体を動かすための力を得るために、祐介の持つ生命力を吸収した。以前に比べれば慣れてきたが、それでもまだ拙さの残る愛撫を受けながら、途中で余計なことを考えそうになった。勃起が完全に衰える前に放つことが出来たが、あまり時間が掛かっていたら、出すどころではなくなっただろう。 祐介の精液と生命力を受けて満足したアビゲイルは寝室を後にし、祐介は達成感を味わいながら眠りに落ちた。だが、眠りが恐ろしく浅く、すぐに目が冴えてしまった。性感に身を委ねても、どうしても払拭出来なかったからだ。それから一時間以上布団に寝転がっているが、眠くなるどころか更に頭が冴え渡り、目を閉じているのが苦痛だ。横になっていることすらも嫌になるが、眠ってしまうべきだと思う。しかし、意志とは反対に意識は冴えたままだ。 「…くそ」 ナツメ球の淡い光が広がる天井に、苛立った呟きが溶けた。 「どうして俺は、あんなこと調べちまったんだよ」 とうとう横になっていられなくなり、祐介は起き上がった。掛け布団を剥いで胡座を掻き、無意味に髪を乱した。勉強机の上には図書館でコピーしてきたレポート用の資料に混じり、中世時代の武具についての資料もあった。だが、今回のレポートは歴史ではなく、経済だ。だが、魔法関連の書籍が並ぶ棚に無意識に足が向いてしまった。そして、アビゲイルのようなリビングメイルが量産されていた時代の資料を漁り、それを見つけ出してしまった。 「魔剣って、何なんだよ」 勉強机の前に座った祐介は、デスクライトを付けた。ナツメ球よりも鮮烈な白い光が、手元を明るく照らし出した。 「なんであいつが、あんなのを持っているんだよ」 祐介は分厚い参考書の下に隠していたコピー用紙を出し、見下ろした。粒子の粗い写真には、剣が写っていた。飾り気はないが頑丈な銀色の鞘に収まり、植物のツタの模様が柄に刻まれている、有り触れた西洋剣だった。だが、その隣の抜き身の写真では、黒曜石のようにどす黒く艶を帯びた刀身にびっしりと文字が刻まれている。一目見て、異様な剣だと解る。そして、写真に付けられたキャプションは、この剣の恐ろしさを素っ気なく語っていた。 中世時代に作成された魔法剣だが、他の魔法剣には見られない特性を持ち、殺害した相手の魂を吸収出来る。人の血を吸えば吸うほどに魔力が増大し、使い方に寄れば一振りで一万の軍勢を滅ぼすことが可能である、と。実際の歴史上でも、魔剣ストームブリンガーを携えた騎士が現れたことにより、戦況が一変した戦争が起きていた。他にも細々と説明が書かれていたが、目に入れたくなく、祐介はコピー用紙をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。 伝説の魔剣ストームブリンガー。それは、アビゲイルが所有している正体不明の西洋剣と、全く同じ外見だった。ただの偶然だ、と割り切ることが出来れば良かった。だが、ストームブリンガーの機能と彼女の体質は酷似している。リビングメイルについても調べたが、一度魂を固定する魔法を施せば、個人差はあるが数百年は魂を維持出来るそうだ。だが、アビゲイルは違う。一週間程度で力が底を突き、祐介を求めてくる。今までは、それが当たり前だと思っていた。調べれば調べるほど一般的なリビングメイルとアビゲイルとの差異が目に付いてしまい、最後には調べることを止めた。あの剣が魔剣でなかったとしたら、それはそれで後味の良い結末だ。だが、魔法の才がなくとも嫌な予感ぐらいは感じる。 「アビー…」 彼女と自分を隔てるふすまを見やり、祐介は力なく漏らした。彼女が現れてからというもの、祐介の生活は一変した。最初こそ、記憶をさっぱり失っていたので何をするのも上手く行かなかったが、一ヶ月もするとその才能を発揮し始めた。元々器用だったのか家事全般をそつなくこなすようになり、味見が出来ないのに丁度良い加減の食事を作ってくれた。だが、それだけではない。学業やバイトに疲れて部屋に帰ると、アビゲイルは部屋に明かりを付けて待っていてくれる。温かい料理を食卓に並べ、祐介を労い、話を聞いてくれる。それだけのことで、どれだけ祐介が救われてきただろうか。 「どうすればいいんだ、俺は」 アビゲイルを手放したくない。彼女のいない日々など考えたくない。だが、彼女の傍には魔剣と思しきものがある。もしも、あの剣が本物のストームブリンガーだったとしたら、祐介には何も出来ない。何かしたくても出来るわけがない。せいぜい、ストームブリンガーに斬られて血の飢えを潤すだけだ。力もなければ頭もない祐介は、所詮その程度だ。 ふすまの向こうで、畳に金属に擦れた音がした。祐介が顔を上げると、ふすまに手が掛かり、躊躇いがちに開かれた。寝室を覗き込んできたアビゲイルは、少し迷うようにヘルムを伏せたがすぐに上げ、ふすまを開けて寝室に入ってきた。 「祐介さん。起こしちゃったかしら?」 「寝付けなかっただけだ。アビーは寝たんじゃなかったのか?」 「そのつもりだったんだけど、なんだか落ち着かなくて」 アビゲイルは祐介の枕元に膝を付き、正座した。 「誰だって、そういう夜はある」 祐介は努めて平静を装った。アビゲイルは肩を縮め、俯く。 「ねえ、祐介さん。私、本当にここにいてもいいのかしら」 「何、言い出すんだ」 「私が何者なのか、解らないのが怖くない? 私が剣を持っていたことが、怖いとは思わない?」 アビゲイルは太股の上できつく手を握り締め、肩を震わせた。 「私は、とても怖いわ。自分のことを何も覚えていないなんて、凄く変よ。それなのに、あんな立派な剣を持って いるなんて物凄く変よ。ねえ、祐介さん。怖いのなら言って、本当のことを言って、お願い!」 表情が出ないはずのヘルムが、涙で歪んだように思えた。 「私、祐介さんと一緒にいられて幸せだと思っているわ。茜ちゃんやヤンマさんも私に良くしてくれて、とても嬉しいわ。だから、ずっと祐介さんの傍にいたいって思っているのに、あの剣が目に付くの。私の知らない私が、剣を取れって言うの」 両腕を掻き抱き、アビゲイルはか細い声を絞り出した。 「祐介さん…。私、どうしたらいいのかしら」 女性型と言えど無骨な銀色の甲冑が、いつになく弱々しく見えた。そして、その内に眠る女性の姿が見えた気がした。過去を知らないことは、地に足が着いていないようなものだ。振り返ろうとしても道程はなく、それなのに自分が在る。現実を感じていても手応えはなく、自分を成すものが見えない。それがどれほど不安か、祐介は考えたこともなかった。 アビゲイルが弱音を吐くのは、これが初めてかもしれない。彼女は、いつも優しい態度で祐介を受け止めてくれたからだ。だが、それはきっと、祐介に嫌われまいとするためにアビゲイルが無意識に纏ってしまった心の鎧だったに違いない。 「アビー」 祐介は、アビゲイルの震える肩に触れた。 「怖いなら、何も考えなきゃいいんだ。その方が、ずっと楽だ」 「でも…」 「嫌なことを無理に見る必要はないんだ。皆、そうやって生きているもんだ」 「祐介さんも、そうなの?」 「俺だって人間だ。向き合えることもあれば、見るのも嫌なこともある」 それが、今だ。アビゲイルの正体、魔剣ストームブリンガーと思しき剣、そのどちらも向き合えるとは思えなかった。だから、適当なことを言ってアビゲイルを受け流そうとしている。真情を吐露した彼女への態度としては、最低だった。他にどうしようもないからだ、と言い訳がましい言葉が祐介の脳裏を過ぎるが、同時にとてつもなく情けなくなってきた。アビゲイルを利用するだけしておいて、肝心な時には話も聞いてやれないような男が、これから何の役に立つのだろう。そう思ったら、情けなさが十乗にも百乗にもなった。祐介は切なげな視線を注いでくるアビゲイルと、目を合わせた。 「ごめん、言い直す」 祐介は自嘲の笑みを浮かべ、アビゲイルの兜を押さえた。 「アビーはずっと俺の部屋にいればいい。むしろ、いてくれ。そうじゃないと色々と困る」 「本当に、いいの? だって、私は」 「半年以上も一緒に暮らしてきたんだぞ、今更出ていけなんて言えるか。それに、アビーが誰だろうが何だろうが」 妙に照れ臭くなった祐介は彼女と目を合わせづらくなり、ぐいっと兜を押し下げた。 「俺にはどうでもいいことだ」 「何よそれぇ」 アビゲイルは祐介の手の下から顔を上げ、言い返した。 「もうちょっと気の利いたこと言えないの、祐介さん?」 「他に思い付かなかったんだよ!」 祐介はなんだか照れ臭くなって、アビゲイルから手を離した。身を起こしたアビゲイルは、すかさず迫ってくる。 「そんなんじゃ、女の子に嫌われちゃうわよ?」 「お前が部屋にいたんじゃ、彼女が出来ても連れ込めないだろうが」 「あら、その時はちゃんと外に出ていくわよ?」 「変に気を遣われると、尚更やりにくいんだが」 「じゃあ、どうしたらいいのよ、祐介さん」 からかい混じりに笑うアビゲイルに、祐介はほっとした。これでこそ、いつものアビゲイルだ。 「好きになってもらえないのは解っているし、好きになってほしいなんて我が侭は言わないわ」 だが、アビゲイルは途端に声色を落とした。銀色の手を伸ばし、祐介の頬に触れてくる。 「だから、これからも、祐介さんを好きでいさせて。祐介さんが普通の女の子を好きになったって、私は邪魔しないわ。いつか祐介さんが私を必要としなくなっても、それだけは許してほしいの」 「馬鹿、言うな」 アビゲイルの手を外させた祐介は、その硬い手首を握り締めた。こんなに思われているのに、自分は何が不満なのだ。アビゲイルがリビングメイルでなければ、躊躇わなかったのか。だが、リビングメイルではないアビゲイルなど想像も付かない。リビングメイルでいることも含めて、アビゲイルはアビゲイルなのだ。それなのに、中途半端なところに留まり続けている。 祐介はアビゲイルの手首を離すと、彼女を居間に促した。アビゲイルは少し渋ったが、祐介に従って寝室を後にした。ふすまが閉められると、二人の空間が区切られた。仰向けに寝転がった祐介は、再び天井を見つめ、強烈に自責した。それでも、これでいいのだと自分に言い聞かせる。魔剣ストームブリンガーが本物であったら、祐介は何も出来ない。だから、部屋の主と居候という関係のままの方がいい。その方が、何かが起きてもアビゲイルを苦しめずに済むはずだ。 いや。苦しみたくないのは、自分だ。 ←・→ タグ … !859◆93FwBoL6s. *人外アパート
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/188.html
OLとシオカラトンボ 3 859 ◆93FwBoL6s.様 思わず、耳を疑った。 まさか、こいつの胸郭からそんな言葉が発声されるとは。ヤンマは心底驚きながら、背後に振り向いた。シオカラはいつものようにへらへらと笑っていて、ヤンマが殴り倒した五匹の羽アリ人間を片付けていた。街の上空を飛び回っていたヤンマに絡んできた連中で、路地裏に連れ込んで十秒と立たずに倒したのだ。そして、事を終えたヤンマが飛び去ろうとすると、どこからともなくシオカラが現れた、というわけである。 シオカラが家族ごと上京して以降、シオカラは何はなくともヤンマを追いかけてきてはまとわりついている。地元時代は中学高校と後輩でもあったので、会う機会は多かったが、ぞんざいにあしらってばかりいた。だが、ヤンマが高校を卒業し、シオカラが茜と同じ高校に転校してからは、馴れ馴れしさが増長してきた。正直鬱陶しいが、茜以外でそこまで慕ってくれるのはシオカラぐらいなものなので、はねつけられずにいた。 駅前の大通りから外れた裏路地の、更に奥まった袋小路の中で、ヤンマは黒い爪を振って汚れを払った。そして、再度シオカラに振り返ると、シオカラは人間で言うところの笑みを見せるかのように顎を広げていた。 「…でえと?」 ヤンマがシオカラの言葉を反芻すると、シオカラは透き通った羽を細かく揺らした。 「そうっすそうなんす、俺っち、デートするんすよ! つか、マジヤバくないっすかパネェっすよね!?」 「ああ、そうだな。ヤバすぎてどうしようもねぇや」 ヤンマは羽アリ人間を小突き、昏倒していることを確かめてから、薄汚れた壁に背を預けた。 「相手は虫か、獣か、それとも人か?」 「人間っすけど!」 「じゃ、尚更ヤバいじゃねぇかよ。お前なんかがデートなんて、百年早ぇ」 ヤンマは爪に張り付いた羽アリ人間の体液を刮げ取り、足元に投げ捨てた。 「んで、俺にその話を聞かせてどうしろってんだよ」 「解り切った話じゃないっすか、兄貴! つか、兄貴は茜をどこに連れていくっすか!?」 シオカラに詰め寄られたので、ヤンマは下右足を上げてシオカラを阻んだ。 「そんなもん、自分の脳みそで考えろ!」 「考えても解らなかったから聞いてんじゃないっすかあ、兄貴ぃ!」 「だっ、大体、俺のなんて参考にするんじゃねぇよ!」 シオカラを蹴り倒したヤンマは、長い腹部を反らした。 「茜は良い奴だから、俺があいつをどこに連れて行こうが基本的には喜んでくれるが、俺に気を遣ってんだよ! 後から聞いたら、楽しんでたのは俺だけだって場所も多かったし、ていうか俺はああいうのは苦手なんだよ! で、でも、たまにはそれらしいことしねぇと彼氏の立場がねぇし、茜が喜ぶ顔も見たい、っていうか何言ってんだ!」 うぁ゛ー、と頭を抱えたヤンマは、自分で言った言葉に恥じ入った。ヘタレぶりを暴露してどうする。 「ていうか、俺よりも当てになりそうなのがいるだろうが。まずはそっちに聞けよ」 「心当たりは聞いてみたんすよ、マジでマジで」 砂埃を外骨格に付けながら起き上がったシオカラは、ヤンマを見上げた。 「最初に祐介兄さんに聞いてみたんすけど、あっちも兄貴と似たようなリアクションっつーか、むしろ兄貴より根が深い感じがしたっす。ほら、アビーさんってあれじゃないっすか、ヨロイ。だから、普通の女性が喜ぶような場所に連れて行こうと思っても、色々と引っ掛かっちゃうじゃないっすか。服が着られないだとか化粧が出来ないだとか、モノが食べられないだとか、まあ色々と。祐介兄さんはマジ悩みしてたっぽくて、最後の方は俺っちが愚痴を聞かされちゃったっす。マジ長かったっす」 確かに、祐介はその手の苦労が多そうだ。隣人の青年の苦悩を思い、ヤンマは嘆息した。 「あいつも大変だなぁ…。てぇことは、アーサーの野郎にも聞いてみたのか?」 シオカラはヤンマに近付き、頷いた。 「もちろんっすよ、真夜の旦那っすから。でも、アーサーの旦那の方が役に立たなかったっすねー、マジで。てか、あの人は真夜に連れて行ってもらう立場っすから。マジ過去の人間っすから、現代のことなんてまるで解らないっすからね。だから、結局は真夜の惚気を聞かされただけっす。マジでマジで」 「つくづく役に立たねぇなー、俺ら…」 ヤンマが肩を落とすと、シオカラは触覚を揺らした。 「でも、俺っち、他に聞く当てなんてないっすから。んで、どこに連れて行けば喜んでくれるっすかね?」 「相手の年代とか、趣味にも寄るだろ。俺の経験上、俺が楽しいところは茜は楽しくなかったからなぁ…」 過去のデートの失敗を思い出したヤンマが項垂れると、シオカラはけらけらと笑った。 「あー、それ、茜から聞いたことあるっすー。兄貴が一人で楽しみすぎちゃって、茜を置いてけぼりにしたんすよねー」 「人の古傷を抉るな! ま、まあ、俺が全面的に悪かったんだが!」 ヤンマはぱかりとシオカラを一発殴ってから、顎を軋ませた。 「そういやぁ、ここんとこデートなんてしてねぇな。茜もバイトやら何やらで忙しいし、俺も仕事があるが、だからって何もしねぇのはまずいよなぁ…。休みを合わせて、適当な場所に連れていかねぇと、拗ねられちまう」 「だから、兄貴、どこに行けばいいっすかね?」 「最初に言っておく! 自分が楽しもうとするな!」 ヤンマは自戒を込めて吐き捨ててから、四枚の羽を広げた。 「後は自分で考えろ! 俺も考えることが出来たからな!」 日没までには帰れよ、とヤンマは釘を刺してから、澄んだ羽を震わせて上昇し、茜色の空へと飛び去っていった。シオカラは滑らかに飛ぶヤンマを見送ってから、足元を蹴り付けて飛び上がり、四枚の羽を震わせて急上昇した。裏路地を成す古びたビルの間を擦り抜けると、鮮烈な西日が全身を焼き、藍色の複眼が朱色に染められてしまった。一瞬、視界を奪われたが、しばらくすると慣れた。夕暮れに染まる町並みは、昼間とは打って変わって幻想的だった。 淀んだ空気が詰まったビル街を取り囲んでいる民家の屋根が朱色に輝いていて、荒く波打つ海面のようだった。東側の空には夜の気配が広がり始めているので、この美しく刹那的な光景が見られるのは、十数分しかないだろう。ヤンマからは早く帰れと言われたが、見逃してしまうのがなんとなく惜しい気がしたので、シオカラは高度を上げた。 初夏の湿っぽい空気が巻き上げられたビル風を羽で切り裂きながら、風を掴んで上昇し、あらゆる建物を超える。街全体を見下ろせる位置に至ったシオカラは、ホバリングして高度を安定させ、無数の生命が蠢く世界を見下ろした。 この中に、ほづみがいるのだろうか。そう思っただけで、無数の複眼に映る景色が、新たな色を帯びた気がした。ほづみにアドレスを伝えたが、あれからほづみから電話もメールも来ることはなく、膨張した期待を持て余していた。連絡もないのに舞い上がり、空回りしている自分に呆れてしまうが、そうでもしなければ身も心も落ち着かなかった。じっとしていると体の芯から焦げてしまいそうで、ほづみに再会した夜に感じた訳の解らない衝動に煽られてしまう。 会えるものなら、今すぐにでも会いたい。けれど、何を話せばいいのか解らないし、会うべきではないとも思った。再会した夜は舞い上がり、ほづみに誘われるまま、再び彼女を抱いてしまったが、それで良かったのかどうか。良くないことだと何度となく思うが、なけなしの理性と自制は青臭い衝動に塗り潰され、結局は流されるままだった。 恋を、しているのだろうか。 そして、日曜日。 ほづみから電話を受け、デートの日程を伝えられたシオカラは、持てる知識を総動員してデートの計画を立てた。ヤンマを始めとした男達の意見は参考にならなかったので、考えるだけ考えて、どちらも楽しめそうな場所を選んだ。けれど、いざ現地に来てみると、何か間違っているような気がした。いや、気でなく、本当に間違えたようだった。 「十何年振りかしらねぇ、こんな場所に来るのは」 長い髪を巻いて後頭部でまとめ、ビスチェの上にジャケットを羽織り、ミニスカートを履いたほづみは呟いた。 「なんか、マジすんません…」 平謝りしたシオカラの背後を、きゃあきゃあと歓声を上げる幼児と若い両親が通り過ぎ、ゲートに入っていった。その上には、可愛らしくデフォルメされた動物に挟まれた看板があり、丸文字の平仮名で、どうぶつえん、とあった。ほづみは大きなサングラスを掛けているが、明らかに怪訝な顔をしていて、シオカラとその看板を見比べている。受付で入場チケットを買っている客層は、親子連れや小中学生のグループが多く、ほづみのような女性はいない。 考えすぎた挙げ句、ヤンマの忠告を生かせなかったらしい。動物園に来たかったのは、シオカラだったのだから。シオカラの地元には動物園はなく、水族館には何度も行ったことはあったが動物園は一度も行ったことがなかった。だから、一度は行ってみたいと心の片隅で思っていたが、だからといって何もこんな時に果たす願いではない。 「まあ、いいわ。最初から期待してなかったし」 ほづみはサングラスを外すと、シオカラを見上げた。 「行きましょ」 「え、あ、いいんすか?」 「せっかく来たんだから、せめて見ていきましょうよ」 「あざーっす!」 シオカラはほづみの心の広さに心底感謝し、彼女に続いて親子連れが連なる受付に並び、入場チケットを買った。それを持って入場ゲートから園内に入った二人は、とりあえず、真っ当に順路を辿って動物を見ていくことにした。ほづみを喜ばせるために来たのだから、とシオカラは自制しようとしたが、入場してすぐの動物を見た途端に切れた。 「ふおおお!」 早速当初の目的を忘れたシオカラは、キリンが悠然と歩いている檻に駆け寄った。 「お姉さんお姉さん、キリンっすよキリン! マジキリンっす!」 「見りゃ解るわよ」 「うおおおお…。すっげぇー、つかマジでけぇー…。マジキリンすぎだし」 顎を全開にして感嘆するシオカラに、ほづみは呆れながらも笑ってしまった。 「今時、キリンなんて珍しくないじゃん」 「や、だって、マジ長いっすよ、首とか足とか」 シオカラは隣に立ったほづみを見下ろし、爪先でキリンを示した。 「そりゃそうだけど」 ほづみは、もしゃもしゃと草を咀嚼するキリンを仰ぎ見た。 「そういえば、前々から思っていたことがあるんだけど」 「なんすか?」 「あんたって、人間じゃないのよね?」 「そうっすよ。俺っちや兄貴は、生まれも育ちも池のトンボっす、マジトンボ」 「だから、あんたは厳密に言えば動物なのよね。なのに、檻に入っている動物を見てもなんとも思わないの?動物園っていう概念、嫌だって思ったりはしないの?」 ほづみにまじまじと見つめられ、シオカラはその視線に戸惑いながらも答えた。 「嫌、っつーか、動物は動物で、俺っち達は俺っち達っすから。たぶん、他の獣人もそう思ってんじゃないっすか?」 「もうちょっと具体的に言ってくれないと、解るものも解らないんだけど」 「んーと、そうっすねー…」 シオカラは驚くほど睫の長いキリンを見つめながら、言いたいことを整理した。 「俺っちみたいなのは人間じゃないっすけど、動物ともその辺の虫とも違うっすから。人間じゃないけど、人間みたいに喋ることも出来るし、俺っちは頭悪いっすけど考えることも出来るし、本能はあるけど理性である程度押さえられるし。だから、人間じゃないけど動物でもないっすから、檻に入った動物を見ても変だとは思わないし、嫌だなんて思うこともないっすね。ほら、人間だっているじゃないっすか、サルをペットにする人。でも、普通の人はそれを見たところで嫌だなんてこと、そもそも考えないじゃないっすか。だから、まあ、つまりはそういうことっすよ」 ほづみはシオカラの言葉を聞き終えてから、少し考え、言った。 「あんたは虫だけど、価値観は動物よりも人間に近い、ってことね」 「そうっすそうっす、マジそうっす」 「でも、やっぱり虫は虫なのよね」 「けど、だからって何をどう思うってこともないっすよ。俺っちはトンボだから俺っちなんすから」 「ついでにもう一つ聞いてもいい?」 「あ、はいっす」 「あんたって常に全裸だけど、そういうことは気にならないの?」 ほづみの問い掛けに、シオカラは閉じかけた顎を開いた。 「ふへ」 考えてみたら、そんなことを気にしたことはなかった。人に近い獣人は服は着るが、昆虫人間は何も着ない。そもそも、着る必要がないからだ。外骨格は下手な武装よりも強固で、種族によっては弾丸をも跳ね返せる。体温維持が難しい冬場は冬眠を防ぐために防寒着を着ることもあるが、それでも着ている期間はごく僅かだ。服を着ると、トンボの命とも言える羽が引っ掛かってしまうし、傷付いてしまっては飛行能力が低下してしまう。だから、昆虫人間には日常的に服を着るという概念自体がないので、何も着ていないことを気にするわけがない。 けれど、改めて考えてみると、妙な気もする。様々な種族に混じって社会生活を営むのに、全裸というのは。だが、やはり、服を着た虫は変では。シオカラはいつになく真剣に考え込んでいると、ほづみが覗き込んできた。 「そこまで考え込むようなこと?」 「つか、今の今まで、そんなこと考えたことなかったっすから、いやマジで」 「でも、あんたは服を着ない方がいいかもね」 「え、あ、そうっすか?」 「だって、結構良い色してるから」 ほづみは、シオカラの水色の外骨格を小突いた。 「隠しちゃうのは勿体ないじゃない」 ほら、次行くわよ、とほづみに上左足を引っ張られ、シオカラはキリンの檻の前から通路へと移動させられた。子供や家族連れの間を擦り抜けて歩きながら、シオカラは上左足を掴むほづみの白い手を見下ろしていた。爪は綺麗に磨かれていて、指は白く細長い。外骨格を握る力は強く、虫に対する力加減が解らないようだった。彼女の表情を窺おうとしたが、歩調に合わせて揺れる髪に隠れてよく見えず、化粧の匂いが触覚をくすぐった。 女の匂いに、頭の芯からくらくらした。 思いの外、動物園を楽しんでしまった。 ちらほらと街灯が灯り始めた歩道をシオカラと共に歩きながら、ほづみは心地良い疲労感を味わっていた。あの動物園を訪れたのは小学生時代以来だったが、久々に見た動物達の姿は新鮮で、純粋に面白かった。 ほづみの少し後ろを歩くシオカラは、人間で言うところの満面の笑みであるらしく、きちきちと顎を鳴らしていた。最初の頃は音の聞き分けなど出来なかったが、しばらく付き合っていると、その時々で微妙に力加減が異なる。喜んでいる時は音が高く、苛立ったり怒っている時は音が低く、微妙な感情を表す時は間延びした音を出す。昆虫人間は顔が顔だけに表情が出せないかもしれないが、注意深く見ていれば、おのずと感情は伝わってくる。 だから、今のシオカラは物凄く喜んでいた。動物園のお土産が詰まった紙袋を下げ、顎を細かく擦らせている。ほづみもブランドのハンドバッグと一緒にお土産の入った紙袋を下げ、ヒールを鳴らしながら、帰路を辿っていた。 「パンダ、可愛かったっすねーマジで!」 「そうねー」 「つか、クマだって解ってんのに普通のクマとはマジ違うっすよね! 超白黒だし!」 「パンダだもの、当然でしょ」 「てか、マジで尻尾白かったんすね! つか、俺っち、なんかマジ感動したっす!」 「パンダの尻尾ぐらいで?」 「尻尾は大事っすよ、マジでマジで。ああ、俺っちのは尻尾じゃなくて腹っすけどね、腹」 「解っているわよ、それぐらい」 ほづみは横目にシオカラを見てから、頬も声色も自然と緩んでいることに気付き、そんな自分に安堵していた。同僚の男に浮気された挙げ句に一方的に別れを告げられてからというもの、笑顔は無理に作ってばかりだった。仕事の最中は無理にでも笑っていないと、挫けてしまいそうだったからだ。だが、やはり、辛いものは辛かった。けれど、シオカラの前ではいくら虚勢を張っても意味がない。年上の見栄や意地はあるが、彼は単なる知り合いだ。だから、自分でも気付かないところで心が緩んでいた。シオカラの年相応の振る舞いも、見ていて微笑ましい。 もっと甘えてしまいたくなる。けれど、それはいけない。ほづみはシオカラの横顔に視線を向けたが、伏せた。これきりにしてしまおう、と強く思うのに、これで終わってしまいたくない、と弱り切った自分が胸中で喚いている。捨てられて参っていたところに丁度良く現れ、丁度良く気を紛らわせた相手だから、丁度良い場所に収めたいのだ。 だが、そんなものは恋ではない。ほづみの見苦しいエゴであり、好意を示してくれるシオカラに対する侮辱だ。好かれているから傍に置きたい、などと少しでも考えてしまった自分が心底嫌になり、ほづみは目線を落とした。 「…どうしたんすか?」 シオカラは立ち止まると、ほづみを覗き込んできた。藍色の複眼には、見た目だけ綺麗に着飾った女が映った。だが、その中身は泥臭くて意地汚くてどうしようもない。そんな女だから捨てられたのだ、と今更ながら痛感した。それに比べて、シオカラは気が良すぎる。夕暮れの空から零れる茜色の日光が、四枚の透き通った羽を光らせた。 「ねえ、あんた」 ほづみは手を伸ばし、シオカラの顎に触れた。 「私のこと、好き?」 「そりゃ…」 シオカラは顎から染み渡るほづみの体温を意識しつつ、答えた。 「好きっす、大好きっす」 「ヤらせてくれたから?」 「えっと、それもあるっすけど、なんていうか、まあ…」 シオカラは言葉を濁していたが、語気を強めた。 「好きだから好きっす!」 「そう」 ほづみはシオカラの顎からするりと手を外すと、シオカラの長く伸びた影に目線を投げた。 「私は、あんたのこと好きじゃないわ」 「虫だから、っすか?」 「そんなんじゃないわ。私が悪いの、最初からね」 ほづみはシオカラに背を向け、ことん、とヒールでアスファルトを小突いた。 「自棄になっていたからって、あんなことしていいはずない。しかも二度も。今日のデートだって、結局のところ、あんたをダシにして遊んだだけだし。だから、もう、これっきりにした方がいいのよ。どっちにとってもね」 「俺っちは、ダシにされたとか、そんな」 「あんたがそう思っていなくても、私はそう思うのよ。だから、お願い」 ほづみは鮮烈な西日を背にして、シオカラに振り向いた。 「私のこと、嫌いになってよ」 複眼と単眼を焦がすような目映い逆光に包まれた彼女は、やはり表情が窺えなかったが、語気は弱かった。平坦に言い切ったつもりなのだろうが、僅かに上擦っている。寂しい人なのだ、とシオカラは悟ってしまった。 一人でいることが耐えきれないくせにプライドが高く、大人だから、縋り付ける相手をはねつけようとしている。どう見ても、無理に無理を重ねている。再会した夜に吐露した苦しみも、まだ振り切れていないのだろう。振り切れていたら、シオカラとデートなどしないはずだ。それなのに、彼女は痛々しく意地を張ろうとしている。 「マジ無理っす、それ」 シオカラはほづみに歩み寄ると、上左足から紙袋を落とし、力任せに抱き締めた。 「…馬鹿よ、あんた」 ほづみはシオカラを押し返そうとしたが、力では勝てず、青空に似た水色の外骨格に身を預けた。 「どうしようもないぐらい」 出来ることなら、体を締め付ける足を振り払ってしまいたい。二度と顔を合わせたくなくなるほど、罵倒したい。思い切り嫌われて、避けられて、疎まれた方が良い。けれど、冷たい外骨格はそんな感情を吸い込んでいった。シオカラの紙袋から転げ落ちたパンダのぬいぐるみは二個あり、恐らくその片方はほづみのためのものだろう。 これでは、尚のこと、彼を家に帰せない。 二人は、言葉少なに帰宅した。 あれから、お互いに様子を探り合ってしまって、上手く言葉が出てこなくなってしまった挙げ句に黙り込んだ。結局、安普請のアパートに到着するまではまともな会話も出来ず、帰宅してからもシオカラはぎこちなかった。初めて部屋に連れ込んだ時とは違った意味で緊張しているらしく、居間の片隅で正座して固まってしまった。 ほづみは寝室にしている六畳間に入り、髪を解いて派手な化粧を落とし、気合いの入った服を脱いでいった。案の定、パンダのぬいぐるみの片方はほづみにプレゼントされ、乱雑なドレッサーの脇にちょこんと座っていた。部屋着にしているTシャツとハーフパンツを着てから居間に戻ると、シオカラは正座したまま動いていなかった。 「そんなに畏まることないでしょうが」 ほづみがシオカラの傍に腰を下ろすと、シオカラは俯いた。 「いや、そうなんすけど、この流れだと、やっぱりアレっすか…?」 「嫌なの?」 「いや、嫌ってんじゃないっすけど、なんていうか、その」 「だったら、止めておく?」 ほづみが言うと、シオカラは顔を上げて顎を開いた。 「うへ?」 「あんたがどうしても嫌だって言うんなら、無理にしようなんて思わないわよ」 「あ、いや、俺っちはそういうことを言いたいんじゃなくて、あーもうっ!」 シオカラはぎりぎりと顎を噛み合わせていたが、ほづみに向き直った。 「本当にそれでいいんすかっ! つか、マジ俺っちでいいんすか!」 「私のこと、好きなんでしょ?」 「そりゃマジ好きっすけど!」 「じゃあ、問題ないじゃない」 「そりゃまあないっすけど、でも、なんか、ああ、なんてーかなぁこういうの!」 シオカラは上手く言葉に出来ないのがもどかしいのか、虚空を掻き毟ってから、ほづみに迫った。 「なんかもうマジすんません! 無理っぽいっす!」 「ちょっ」 ほづみが身を引くよりも早く、シオカラは顎を大きく開いて細長い舌を伸ばし、ほづみの唇をぬるりと舐めた。口紅の味がほんの少し付いていて、首筋から立ち上る香水の残り香が触覚を惑わし、感覚が狂いそうになる。 上両足で柔らかな体を押さえ付け、中両足で引き寄せ、下両足で囲む。トンボの足は、捕らえるためのものだ。カゴのように捕らえた獲物を抱え込み、そして、喰らう。顎を広げるだけ広げ、伸ばした舌を首筋へと滑らせた。 「ん…」 唇を解放されたほづみは小さく声を漏らし、冷たい感触に身を捩った。 「あ、ちょっと、や…」 首筋をぬるぬると舐められながら、ほづみはTシャツの裾を捲り上げようとしてきた中右足を阻もうとした。だが、その手は上右足に捕まれてしまい、ほづみのTシャツは一気に胸の上まで引き上げられてしまった。ブラジャーも押し上げられ、少し汗の浮いた乳房が零れ出た。シオカラは首筋から顔を上げ、舌を引いた。 「次、下、いいっすか」 「触るの? それとも、舐めるの?」 「舐めた方が楽っすよね、お姉さんは」 「ダメ、だって今日は外にいたし、暑かったし、自分でも解るくらい汚れてるし!」 ほづみは首を横に振るが、シオカラはほづみの両腕を上両足で押さえたまま、畳の上に押し倒した。 「あぅ…」 だが、シオカラの中両足は一息でハーフパンツと下着を引き上げ、脱がされ、足を思い切り広げられた。ほづみは今までで一番恥ずかしくなり、唇を噛んだ。一度目と二度目は、何も感じなかったというのに。見られても気にするような相手だと思っていなかったし、恥ずかしいとすら思わなかったが、急に変わった。 「あ、ふぁ、ぁ…」 シオカラの舌が陰部を割って入り、滑り込んできた。人のそれよりも冷たいが、心地良かった。 「くぁ、ぅ、うぁ」 ぐじゅぐじゅと粘っこい音が立てられ、細長い舌が前後し、ほづみの胎内から掻き出しているかのようだった。奥にまで至るが、触れるだけだ。粘膜と粘膜が擦れ合って互いの体液が分泌され、混じりながら滴り落ちる。いつのまにか、彼の黒い顎は光沢を帯びるほど濡れていた。それが無性に恥ずかしく、ほづみは目を閉じた。だが、目を閉じると、一心不乱にほづみの陰部を舌で抉る音だけが聞こえてきて、皮膚の感覚も鋭敏になる。 舐められている間に尖ってきたクリトリスが、時折シオカラの外骨格に触れるが、触れるだけでその先がない。押し付けてしまいたい、と思っても、シオカラとの距離が狭まらないどころか、舌が抜かれると遠のいてしまう。それが何度も続くと堪えきれなくなって、ほづみはシオカラの首に足を巻き付け、彼の硬い顎に押し付けた。 「あはあぁあっ」 喉を反らして声を上げたほづみに、シオカラは白濁した体液に濡れた舌を引き抜いた。 「あ、やっぱりそっちの方がいいんすか?」 「だ、だってぇ…」 ほづみが恥じらうと、シオカラはほづみの汗と体液に濡れた顎をがちがちと鳴らした。 「んじゃ、こうしてみるっすか?」 「え…」 ほづみが少々戸惑うと、シオカラはほづみを押さえていた足を全て外し、ほづみを抱えて膝の上に座らせた。胡座を掻いた足の上に置かれたほづみは、中両足で太股を持ち上げられ、上両足で乳房を無造作に掴まれた。 「ちょ、ちょっと、何これ」 「見ての通り、俺っちなら出来る態勢かなぁーと。虫っすから」 「そりゃそうかもしれないけ、どぉ…」 ほづみは言葉が継げなくなり、弛緩した。乳房から外された上右足が、硬く充血したクリトリスを擦ってきた。爪は使わず、人間で言うところの手首に当たる外骨格でぐりぐりと押さえ付けるが、陰部には触ってこない。 「どうっすか、これなら痛くないっすよね、爪じゃないっすから」 「いたく、ない、けどぉっ…」 最も弱い部分を責められ、ほづみは浅い呼吸を繰り返した。頬と同じく紅潮した首筋には、舌が這い回る。左の乳房は柔らかく絞られ、下と同じく硬く尖った乳首を爪の腹で潰され、至る所から快感が襲ってくる。今し方まで責め抜かれていたのに異物を失った陰部は、寂しげに疼き、体の奥底からじわりと滲んできた。 「あーもう、どこもかしこもマジ最高っすよ、お姉さん」 ほづみの首筋を甘噛みしながら、シオカラは感嘆した。 「おっぱい大きいし、全部柔らかいし、俺っちが何しても感じてくれるし、マジエロ過ぎだし」 「一気にやられたら、誰だって、感じるわよ」 ほづみが力なく返すと、シオカラは左の乳房が歪むほど握り締めた。 「そうっすか?」 「ひゃうあん!」 思いがけず強い刺激にほづみが嬌声を放つと、シオカラはきちきちと顎を擦らせて笑った。 「マジ可愛すぎだし、お姉さん」 「ね、もう、いい、でしょぉ…? おねがいぃ…」 ほづみが切なく漏らすと、シオカラは腰を上げて、生殖器官が露出した腹部を前に出した。 「俺っちも、もうなんかヤバげっす」 「ふぅ、あ、はぁ、あっ…」 圧倒的な質量を誇る異物を押し込まれ、ほづみは涙を滲ませた。 「俺っちなんかで良かったら、いくらでも好きになってやるっすよ、お姉さん」 か細い泣き声のような声を漏らすほづみを責め立てながら、シオカラが言うと、ほづみはシオカラの足を掴んだ。 「ほんとうに? わたし、なんかでいいの?」 「それを言うのは俺っちの方なんすけど」 「だ、だって、私、あんたのこと、ずっと、利用して…」 「そんなの、とっくに知ってるっす。でも、俺っちは、たまんないんすよもう!」 ぐん、と熱い胎内の中心を突き上げると、ほづみは仰け反った。 「あぁ、あぁあんっ!」 外骨格越しにでも解るほど、強く締め付けられた後、ほづみはだらりと脱力してシオカラに寄りかかってきた。 「好きっす、お姉さん」 ほづみを見下ろしながらシオカラが呟くと、ほづみはシオカラに体重を預け、涙を拭った。 「うん。私も、もう、無理…」 好きになってはいけないと思えば思うほど、意識してしまう。けれど、真っ向から認めることに躊躇いがある。だから、今はまだ言えない。体を繋げるだけの浅はかな関係のままではいたくないが、勇気が足りなかった。だが、いずれちゃんと言おう。そうでなければ、迷いなく好意を示してくるシオカラに対して申し訳ないからだ。 「だから、俺っちと付き合って下さいっす、マジ彼女になって下さいっす」 と、背を当てている胸郭から聞こえた声に、ほづみは途端に興醒めしてシオカラを張り飛ばした。 「突っ込んだまま言うんじゃないわよ!」 「あおっ!」 張り飛ばされた勢いで頭を逸らしたシオカラは、首を捻って元に戻し、不可解そうにしつつ生殖器官を抜いた。ほづみは足と腰に力が入らなかったので、シオカラの傍に座り、なぜ殴られたのか解っていない彼を睨んだ。せめて、抜いてから言って欲しかった。だが、今、それを強調するのは多少気恥ずかしかったので飲み下した。 乱れた服と髪を整えてから、ほづみは双方の体液に汚れたシオカラの顎を拭ってやってから、キスをした。シオカラはきょとんとしていたが、意味が解ると照れてしまい、だらしなく笑いながら四枚の羽を揺らしていた。浮かれ切っているシオカラの様を見ていると、ぐだぐだと悩んでいたことが馬鹿らしくなって、ほづみは笑った。 落ち込んでいるのは、もううんざりだ。 ←・→ タグ … !859◆93FwBoL6s. *人外アパート
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/158.html
関連 → ヤンマとアカネ リビングメイルと苦学生 3 859 ◆93FwBoL6s.様 午後八時を回ると、なんとなく気が抜ける。 夕食も食べ終わり、かといって風呂に入るには少し時間が早く、勉強に取り掛かるにはいくらか気力が足りない。祐介は頬杖を付いて意味もなくテレビを眺めながら、傍らで背筋を伸ばして正座しているリビングメイルに目をやった。アビゲイルは、明らかに西洋生まれのリビングメイルであるにも関わらず、純日本人である祐介よりも礼儀正しい。膝をきっちりと揃えて正座していて、滅多なことでは崩さない。甲冑だから足が痺れないから、なのかもしれないが。 祐介の視線に気付いたアビゲイルは祐介にヘルムを向け、恥じらいが滲む笑みを零して、マスクに手を添えた。祐介はすぐさま目を逸らし、芸能人がつまらないクイズに興じるテレビに向いた。これだけだったら、どれだけ良いか。交際しているわけではないし、成り行きで同棲状態に陥っているだけであって、決して恋愛感情は持っていない。中世時代には汎用されていたが現代では生産が禁止されているリビングメイルが物珍しいから、傍に置いている。それに、アビゲイルがいなくなってしまえば、この部屋は二日と経たずに荒れ放題になり、食生活も乱れるだろう。 そうだ、それだけなんだ。間違っても、アビゲイルに襲われて生命力を吸収されるのが楽しいから、ではないのだ。先日のこんにゃくを用いた行為を思い出しかけてしまった自分を叱責するため、祐介は何度となく心中で繰り返した。 「あら」 チャイムが鳴らされ、アビゲイルが顔を上げた。祐介が立ち上がるよりも先に、アビゲイルが立ち上がった。 「誰かしらね、こんな時間に。新聞とガス料金の集金は終わったはずなんだけど」 アビゲイルが鍵を開けてドアを開けると、アパート前の街灯の明かりを背負った昆虫人間とその彼女が立っていた。 「こんばんは」 「おーす」 茜が頭を下げると、ヤンマは上右足を掲げた。 「あら、茜ちゃん。ヤンマさん。どうかしたの?」 アビゲイルが尋ねると、茜は膨らんだトートバッグを抱え、ばつが悪そうに眉を下げた。 「うちの給湯器が壊れちゃったみたいで、お湯が出ないの。だから、お風呂、貸してもらえないかなぁって」 「ついでに言っちまえば、銭湯が遠いんだよ」 二駅先だ、とヤンマが肩を竦めたので、アビゲイルは居間に振り返った。 「祐介さあん。お風呂、茜ちゃんに貸してあげてもいいわよね?」 「…風呂?」 なんだ、その嬉しすぎる展開は。祐介は動揺を押さえてから、返事をした。 「別に構わないぞ。それぐらい、どうってことないからな」 「わーい、祐介兄ちゃんって優しーい」 御邪魔しまーす、と茜が部屋に上がると、長身を折り曲げながらヤンマも上がってきたので、祐介は興醒めした。考えるまでもなく、茜が来ればヤンマも来るのだ。妄想が現実になったような展開に喜びすぎたせいで、忘れていた。しかも、勢いが余りすぎてアビゲイルの存在を失念していた。俺って奴は、と祐介は内心で自虐するしかなかった。 「じゃ、私、お風呂を沸かしてくるわね。茜ちゃんとヤンマさんはゆっくりしていてね」 アビゲイルは風呂場に入り、二人を居間に促した。 「はーい」 茜は返事をしてから、祐介の向かい側に座った。その隣でヤンマが胡座を掻き、長い腹部を伸ばして畳に付けた。茜の方を向くと、当然祐介の視界にヤンマが入る。エメラルドグリーンの複眼と黒と黄色の外骨格は、凶悪で毒々しい。座っても充分大柄で、祐介よりも頭一つは座高が高い。肩幅も広ければ胸も厚く、獲物を噛み砕く顎は見るからに強靱だ。この大きさで虫なのか、とつい思ってしまう。これまで、祐介の身の回りには、昆虫人間はほとんどいなかったからだ。大学には多種多様な人間以外の種族が通っているが、祐介が選択した科目やゼミには、昆虫人間は一人もいなかった。小中高ともクラスメイトはほとんどが人間で、それでなければ人に近い獣人か完全自律型のロボットぐらいなものだった。 だから、どう接していいのか解らない。ヤンマの性格が、平凡そのものである祐介とは懸け離れているせいでもあるが。このままではいけないが、どうしたらいいのやら。祐介は笑顔の茜と表情の読めないヤンマと向き合い、顔を引きつらせた。 アビゲイルがいれば、なんとかなるかもしれない。 それから十数分後。 祐介は見たくもないテレビを凝視し、必死に彼から目を逸らしていた。ヤンマは胡座を掻いたまま、押し黙っていた。風呂場からは茜の声に混じり、アビゲイルの声も漏れ聞こえてくる。どうしてこうなるのだろう、と祐介は考え込んでいた。 湯が溜まり、茜が風呂に入るとアビゲイルも同行した。確かに彼女は全く錆びないのだが、風呂に入る意味が解らない。だが、祐介がアビゲイルに意見するよりも早く、アビゲイルは茜と一緒に風呂に入ってしまい、きゃっきゃとはしゃいでいる。頼みの綱であるアビゲイルが風呂に入ってしまったことで、祐介の居心地はますます悪くなり、動くことすら出来なかった。おまけに、ヤンマが全く喋らない。何か喋ってくれれば話題の振りようがあるのだが、喋らないのではどうしようもない。 「アビーさん、そんなところ触っちゃダメぇ」 「うふふふ、だって茜ちゃんってどこもかしも柔らかいんだもの。触り甲斐があるわぁ」 「やぁっ、くすぐったいってぇ」 「いやぁん、可愛い声」 「そんなこと言わないでよぉ、恥ずかしくなっちゃう」 ダメ押しに、風呂場から聞こえる会話が艶めかしい。何をしているのか気になって、余計に居心地が悪くなる。 「…おい」 ようやく口を開いた、というより、顎を開いて胸郭を震わせて作った声を聞こえやすくさせたヤンマは、祐介を睨んだ。 「一字一句記憶するんじゃねぇぞ。覚えてやがったら、頭蓋骨を噛み砕いて脳髄を啜り出してやる」 「俺の部屋の風呂なんだから、聞こえるのは不可抗力じゃないか」 ヤンマの脅し文句の汚さに気圧されそうになったが、祐介は言い返した。 「大体な、茜がお前の部屋の風呂に入るってのがまず面白くねぇんだよ」 ぎちぎちと顎を噛み鳴らしながら、ヤンマは複眼に祐介を映した。 「だが、夜道を歩かせる方がもっと嫌なんだよ。それでなくてもあいつは脳天気だから、何がどうなるか解りゃしねぇ」 「だったら、茜ちゃんと一緒に行けばいいことじゃないか」 「生憎、俺は夜目が利かねぇんだよ。だから、昼間に比べりゃ勘が鈍っちまう」 心底悔しげに吐き捨てたヤンマは、テーブルに拳を振り下ろしかけたが、寸止めして畳に押し付けた。 「…暴れてぇな」 「え!?」 祐介がぎょっとすると、ヤンマは行き場のない感情の籠もる上両足を組んだ。 「つうか、最初から俺はお前が気に入らねぇ。他人のくせに兄ちゃん呼ばわりされて、茜にも馴れ馴れしくちゃん付けしてよ」 「いや…あれは茜ちゃんの方から」 「俺を一度だってそう呼んだことがあるのか、あいつは! いや、ない!」 ごん、と壁にヘッドバッドを喰らわせたヤンマは、苛立ちのあまりに長い腹部を反り返らせていた。 「あーくそ…。面白くねぇ…」 「前々から、聞いてみたかったんだが」 祐介は腰を引いてヤンマとの距離を開きながら、尋ねた。 「お前と茜ちゃんって、どういう経緯で付き合うようになったんだ?」 「余計なことを聞くんじゃねぇよ。まあ…幼馴染みなんだよ」 姿勢を直したヤンマは、渋っていたが話し始めた。 「俺がヤゴだった頃からの付き合いでよ。俺が住んでた池と茜の実家が近所だったから、昔からよく遊んでたんだ。んで、俺が羽化してから学校に通うようになったんだが、俺の方が三つ上だから、上手い具合にずれちまってな。俺が中学を卒業した次の年度に茜が入学する、ってことになって、そりゃあもう盛大に拗ねられちまったよ。茜と関係が変わったのも、その頃だったな。具体的に何があったってわけじゃねぇが、何もなかったわけでもねぇ」 ヤンマは反り返らせていた腹部を戻し、少々口調を和らげた。 「んで、俺が地元の高校を卒業する時もそうなっちまってな。本当なら、茜も地元の高校に進学するはずだったんだ。だが、俺が就職先を見つけて上京する、つったら一緒に行くって聞かなくってよ。随分反対されたが、結局来やがった。茜はこっちの高校に二次試験で合格して、今に至るってわけだ。だが、三ヶ月もしないうちに俺の方が干されちまってな。原因は、この街の虫共を一掃するために暴れ回ったせいなんだがな」 ヤンマが話し終えたので、祐介は前々から引っ掛かっていたことを口にした。 「今、茜ちゃんは二年生だよな?」 「それがどうかしたのか?」 「お前がクビになってから、一年近く過ぎてないか? その間、どうやって暮らしていたんだよ」 「茜の親からの仕送りとか、茜のバイト代とか、まあその辺だが」 「だから、その間、お前は何をしていたんだ?」 「縄張り争いに決まってんだろうが」 悪びれずに答えたヤンマに、祐介は渋い顔をした。 「よくそれで茜ちゃんから捨てられないな…」 「馬鹿言ってんじゃねぇよ。茜に限って俺を見限ることなんてあるか」 「馬鹿はお前だ!」 祐介は腰を浮かせかけたが、下ろし、深くため息を吐いた。 「とことん悪いのに引っ掛かっちゃったんだなぁ、茜ちゃんは…。せめて養ってやれよ、成人してるんだろうが…」 「それが出来たら苦労はしねぇよ!」 ヤンマは身を乗り出し、顎を全開にした。 「俺だってやるだけやってみたさ! だがな、面接受ける前から弾かれるんだよ! 虫は労働力にならねぇってのかよ! そりゃ確かに普免も持ってねぇし高校ん時の資格も半端なのばっかりだが、それと俺が虫だってのは別問題だろうが!」 ああくそ、とぼやきながら、ヤンマは身を戻した。 「…お前に言ったってどうしようもねぇんだけどな」 「ああ、うん、そうだな」 祐介が曖昧に返すと、ヤンマは顎を閉じて触角を下げた。 「その辺、人間ってのは楽でいいと思うぜ。少なくとも、履歴書は受理されるはずだからな」 「近頃はそうでもないぞ。俺だって、身に覚えはある」 「すまん」 絞り出したような声で呟き、ヤンマは顔を伏せた。 「八つ当たりだ。忘れてくれ」 表情こそ見えないが、感情は生々しく伝わってきた。祐介はヤンマの大きな複眼を眺めつつ、彼に対する考えを改めた。なんだかんだで、ヤンマも苦労しているのだ。ヤンマが吐き出した言葉通り、人間以外の種族が生きやすい世界ではない。そもそも、この世界は人間を中心にして出来上がっている。人間以外の種族の存在を認めても、そこから先はまだまだだ。それは、アビゲイルが生身だったであろう中世時代からも変わらず、祐介も大学の講義で人間本位の歴史を知っている。世の中の作りを変えていこう、という流れはないわけではないが、何かが変わったわけではなく、簡単に変わるものでもない。人間同士でも相容れないのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、それだけで終わらせるのは冷酷だ。 祐介がいつになく深刻な考えに耽っていると、風呂場から漏れる可愛らしい声が耳に届き、ごく自然にそちらに気が向いた。今し方までの考えはどうしたんだ、と自分でも思ったが、男の性には逆らえず、祐介は茜とアビゲイルの会話に聞き入った。 「あっ…そこぉ、ちょっと、痛いかも…」 「あら、そう? じゃ、こうしたら気持ち良くなるかしら」 「うん、そっちは気持ちいい…。アビーさんって、こういうのも上手だね」 「うふふふふ、いつも祐介さんにしてあげているもの。手が覚えているのよ」 きゃふうっ、との茜の高い声が上がり、尚更想像を掻き立てる。ヤンマは肩を怒らせ、胡座を掻いた膝を握り締めていた。ヤンマなりに、風呂場に飛び込みたい衝動を押さえているのだろう。祐介にも、ヤンマの気持ちは痛いほど理解出来た。アビゲイルは貞淑そうな顔をしているが、痴女だ。もしかして、けれどそんなことは、いや、それはそれでまた良いような。 男二人の孤独な戦いは、それから三十分は続いた。元々長風呂の茜は、アビゲイルと一緒だったために長引いたのだ。風呂から上がった茜は体全体が上気してリンスの香りを漂わせ、高校生にしては幼すぎるデザインのパジャマを着ていた。アビゲイルも銀色の装甲から湯気を昇らせていて、温まっている。鎧が風呂に入る意味があるとは到底思えなかったが。 「あー気持ち良かったぁ」 茜はぺたっと座ると、ヤンマに縋った。 「ヤンマ、祐介兄ちゃんと仲良くしてた?」 「なあ茜」 「ん、なあに?」 茜が聞き返すと、ヤンマはその両肩を掴んで向き直らせた。 「お前は風呂でアビーに何をされたんだ!」 「何だと思ったの?」 茜がにやけたので、ヤンマは顔を背けた。 「何って…そりゃ…」 「変なこと考えたんなら、教えてあげない」 「おい、そりゃねぇだろ! 余計に気になっちまうだろうが!」 「じゃ、ヤンマはどんなことだと思ったの? それを教えたら教えてあげてもいいよ?」 ねー、と茜がアビゲイルに向くと、アビゲイルは含み笑って祐介を見つめた。 「ええ、そうね。祐介さんも、茜ちゃんと私の会話で何を想像したのか、教えてくれたら教えてあげるわ」 「別に何も考えちゃいない!」 「うふふふふふ。明日の朝が楽しみね」 祐介はやり場のない目線を彷徨わせていたが、畳に落とした。ヤンマを見やると、こちらも祐介と似たようなものだった。彼の膝の上を陣取っている茜はアビゲイルと意味ありげな視線を行き交わせていて、邪推しようと思えばいくらでも出来る。漫画などによくあるパターンで、ただのマッサージだということもある。しかし、アビゲイルなので、万が一ということもある。拍子抜けする答えがいいような、だが、やはり。祐介とヤンマは揃って同じことを考えながら、それぞれの同居人を見やった。 結局、翌日には男二人が折れて真相を聞くことになり、その話の流れでヤンマの不満も暴露されることになってしまった。それから数日間、ヤンマは茜にからかい半分でお兄ちゃん呼ばわりされてしまい、新たな路線に目覚めてしまいそうになった。祐介とヤンマが言葉を交わす機会が増えたのは良いことだが、ヤンマは茜に弱みを握られてしまったのもまた事実だった。 真相は、お約束のマッサージなのだが。 ←・→ タグ … !859◆93FwBoL6s. *人外アパート
https://w.atwiki.jp/wiki8_unknown/pages/73.html
ようこそ人外研究室へ ここはガレオンに出現する【人外】を研究分析するページです。 無害なものから有害なものまで。気が付かれましたら追加・修正 してください。 悪魔 *~* いろは ウミウシ くろいけだま *~* 毛羽毛現 げしょ ゴーレム すねこすり ドラゴンエンジン *~* 変なアイオーン ようせい *~* 来訪獣 Lie *~* Lily *~*
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/234.html
けいちつ【啓▼蟄】二十四節気の一。太陽の黄経が三四五度になったときをいい、現行の太陽暦で三月六日頃。二月節気。また、このころ冬ごもりをしていた虫が穴から出てくることをいう。[季]春。《—の土くれ躍り掃かれけり/吉岡禅寺洞》 goo辞書より 啓蟄 859 ◆93FwBoL6s.様 季節は移ろいつつある。 一気に暖かくなり、寒さがぶり返し、を繰り返していくうちに気候が安定し、強張った冬の空気に身を縮めていた草花が息吹を取り戻していく。春一番が吹き抜けると、二番、三番、と続き、南風によって撒き散らされる花粉と埃には辟易するが、 水と土の温む匂いも同時に運ばれてくる。道端に咲く菜の花や、堅いつぼみを膨らませかけている桜の木を見ると、訳もなく心が弾んでくる。そして、気温の上昇に伴って体液の温度も上がり、循環も良くなり、触角や外骨格を舐める刺激も増え、 凍えていた地中から這い出せと言わんばかりに脳が活性化し、余計なものも活性化してくる。 「あー…」 体液の過度な循環によって脳が茹だった気分になり、人型オニヤンマの青年、鬼塚ヤンマは頭を抱えて呻いた。 「ほづみん襲いてぇ」 ヤンマの隣でヤンキー座りをする人型シオカラトンボの少年、水沢シオカラは呆れるほど実直に欲望を吐き出した。 「言うな、情けなくなる」 ヤンマが黒く鋭い爪の生えた上右足でエメラルドグリーンの複眼を覆うと、シオカラはびいいんと羽を震わせた。 「でも、兄貴もそうじゃないっすか。だーからアパートに居づらくなって、俺っちと逃避行なんつーマジダッセェことを」 「それも言うな。もっと情けなくなる」 ヤンマは短い触角をぐにゃりと下げ、複眼を伏せた。二人が座っている場所は、どこともつかない山中に張り巡らされた鉄塔だった。周囲には芽吹き始めた木々が生い茂っていて、都市部にアレルゲンを撒き散らす元凶である植林された杉が風を受けるたびに雄しべから無数の花粉を飛ばしていた。 昔々に天文学の粋を集めて作られた単位、暦は感嘆するほど正しい。だから、啓蟄も正しすぎだ。三月に入ったばかりの頃はなんともなかったのだが、啓蟄を過ぎた途端に気候に応じて色々なものが活性化し、冬の間はそれなりに大人しくなっていた性欲やら何やらに歯止めが利かなくなってきた。体が気候に慣れてしまえば、体液もホルモンも落ち着いてきてそちらの方も落ち着くのだが、春になりかけた頃はそうもいかない。そんな時に限って茜は高校の春休みに入り、アルバイトと友達付き合いと買い物以外はアパートもえぎのの自室に入り浸り、ここぞとばかりにヤンマに甘えてくる。それが我慢出来るわけがない。 「基本的に絶倫っすからねー、俺っち達みたいなのって」 シオカラが欲望が突き抜けすぎて不自然なほど冷静な口調で言うと、ヤンマはぎちぎちと顎を擦った。 「下手に出ない分、終わりってものがねぇしなぁー…」 「ほづみん喰いたい」 「俺だって茜を喰いたい。そりゃあもうどこまでも喰いたい」 「でも、やりすぎたら怒られちまうっす。かなり嫌われるっす、それマジヤベェっす、マジ切ないっす」 「それなんだよ。かといって、他で発散するわけにもいかねぇしなぁ」 「最終手段は木の股とかっすかね。でなきゃなんすか、そこら辺に穴でも掘ってズッポズッポと」 「それはどこの世界の拷問だ」 「サーセン」 「俺、自己嫌悪で死ねそうだ」 ヤンマは上両足をだらりと下げ、長い腹部を丸めた。シオカラは藍色の複眼に春の空を映していたが、がっくりと項垂れた。 性欲自体はある程度は備えておくべきで、悪いものではないのだが、限度がある。これが単なる昆虫なら問題はないのだが、 人型に進化して文明と知性に染まった昆虫人間だから、大いに問題なのだ。人間でないにせよ、世間一般では人間とほぼ同等に扱われている以上は節度を守らなければ暮らしていけない。それは、二人の恋人である人間の女性に対しても同じことが言えるわけで、本能に任せて襲い狂ったら、それはもうひどい結末が。 恋人が好きすぎるのも、時には困り者だ。 何がいけなかったのだろう。 稲田ほづみは仕事用の髪型に整えた自分を睨み付けながら、化粧を施していた。気が逸れているものだから、普段よりも雑になりがちだった。それもこれも、近頃、シオカラと会っていないからだ。ケンカをした覚えもなければ、彼の機嫌を損ねるような言動を取った覚えは今のところはない。性格が違いすぎるので噛み合わなかったことは多いが、仲違いをするほどではなかったはずだ。バレンタインデーだって、かなり苦労した上に物凄く恥ずかしかったが、アビゲイルに教えてもらって手作りチョコを渡した。ホワイトデーには、シオカラがバイト代を工面して、ほづみが欲しいと思っていた香水を買ってくれた。 もちろん嬉しかったし、恐ろしく照れ臭かったが御礼も言ったつもりだ。それなのに、シオカラは電話はおろかメールすら寄越さなくなってしまった。シオカラと交際する以前の経験を踏まえても、良くない兆候だ。こうなってしまったら、大抵はもう他の女がいる。或いは、ほづみから興味を失っている。そう思ってしまったら、化粧をしたばかりなのに泣きたくなった。 「なんて女々しい」 ほづみは自分自身に毒突いてから、ストッキングを履いた太股を叩いた。 「好きだ好きだって言ってくるのはシオの方じゃない」 畳の六畳間には馴染まない洒落たデザインのドレッサーの前から立ち上がったほづみは、タイトスカートを整えた。 「それなのに、なんでこんなことするのよ。訳解らない」 出勤用のバッグを肩に掛けたほづみは、悪態を吐きながら窓の鍵を閉めてカーテンを閉ざした。 「私の気を引きたいっての?」 だが、シオカラは駆け引きをするタイプではない。シオカラはほづみに心酔しているし、ほづみもシオカラに浸り切っている。 年下だから、というのもあるのだが、いちいち危なっかしくて放っておけないのだ。そのくせ、ほづみを甘えさせてくれるような余裕もあり、兄貴分のヤンマの影響なのだろうが筋の通った男らしい面もある。それらを思い出してしまうと、ほづみはカーテンを握り締めて赤面し、内心で悶えた。会いたくて会いたくてたまらなくなってしまったからだ。 思い出してみれば、ホワイトデーに会った時もシオカラは素っ気なかった。バレンタインデーの時はその場でほづみを抱き締めて空に飛び出しそうなほど喜んでくれたのに、落差が激しすぎる。三月に入ったことで、進級試験や何やらで忙しいのだろうと自分に言い聞かせたが、その時から不自然だった。もしかしたら、シオカラはほづみと別れるつもりでは。 今まで付き合ってきた男に別れを告げられた時は、ひたすら腹立たしいだけだったが、シオカラが相手となると別だった。 目眩がするほど、寂しくなった。 気もそぞろだったせいで、仕事に身が入らなかった。 おかげで、普段なら絶対にしないような凡ミスを繰り返してしまった。人間関係にうんざりして前の会社を辞め、以前から興味のあった業界の会社に再就職し、ようやく仕事にも慣れてきたのに、この体たらくでは。情けないほど、シオカラに依存している。恋愛に不慣れな中高生でもあるまいに、とほづみは自嘲するが、帰宅する電車の中でも意味もなく携帯電話を開いてはメールが届いていないかを確かめた。だが、やはり、シオカラからのメールは届いていなかった。フリップを閉じてバッグに突っ込んでから、ほづみは歩調を速めた。こうなったら、夕飯の材料と一緒に酒でも買って気を紛らわすしかない。 「……あ」 人間と人外が入り乱れている駅前商店街の雑踏の先に、忘れもしない水色の外骨格の主が立っていた。彼もほづみに気付いたようだったが、藍色の複眼はすぐに逸らされた。ほづみは嬉しいやら腹が立つやらやるせないやらで、雑踏を掻き分けてヒールを鳴らしながら大股に歩き、シオカラに追い付いた。 「ちょっとあんた!」 「うおっ!」 ほづみに上左足を引っ張られ、シオカラはよろけた。 「何するんすか、もう」 「それは私が言うべき言葉よ、とにかく来てもらうわよ!」 ほづみはシオカラを強く引っ張り、ヒールを折らんばかりの強さでアスファルトを踏み締めながら突き進んだ。背後のシオカラは抵抗らしき言葉を漏らすものの、ほづみの手を振り払おうとしなかった。その態度の曖昧さが、訳もなく苛立ちを煽ってきて、ほづみは唇を噛んだ。言いたいことが次から次へと出てくるのだが、いざ口から出したら恨み言になりそうな気がしたので懸命に堪えた。とにかく今はアパートに帰り、自室に戻り、その上でシオカラを問い詰めてやる。 寄り道もせずに真っ直ぐ帰路を辿ったほづみは、アパートもえぎのの自室にシオカラを放り込み、ドアを閉めて施錠し、 退路を塞ぐために立ちはだかった。重たい荷物が詰まったバッグを靴箱に置いてからシオカラに向き直り、藍色の複眼を見据えたはいいが、言いたいことが喉の奥で詰まってしまった。怒りたいのも山々だったのだが、それ以上に会えたことが嬉しくて感極まってしまった。ほづみはシオカラに飛び掛かるように抱き付き、固く閉ざされた顎に思い切り唇を押し付けた。 「…香水」 胸郭を震わせて発声したシオカラは、短い触角を上げ下げし、ほづみの首筋から立ち上る匂いの粒子を絡め取った。 「そうよ、あんたが買ってくれたやつよ」 ようやく唇を離したほづみが照れ臭くなって目を逸らすと、シオカラはいきなりほづみを抱き竦めた。勢い余ってドアにぶつかり、 安普請の薄い壁までもが揺れた気がした。一回りも年下ではあるが昆虫人間故に大柄なシオカラの胸にすっぽりと収められ、 ほづみは年甲斐もなくどきどきした。シオカラは上中両足でほづみを押さえ付けると、派手に口紅が塗り付けられた顎を開いて細長い舌を伸ばしてきたので、ほづみも口を開いた。冷ややかな舌がほづみの舌に絡められていたが、引き抜かれて首筋を這い回った。香水を落とした箇所を探しているかのようだったが、そのまま舌先はブラウスの襟元に滑り込み、カーラーと肌の隙間をぬるりと動いて、早足で歩いたせいで少しばかり滲んだ汗も舐め取られた。 「ふ…うぁっ」 それだけのことなのに、ほづみは身震いした。興奮していたせいだろうか、触られた部分が少ないのにやたらと感じてしまう。 シオカラはほづみを抱き寄せてドアから離すと身を反転し、狭い廊下にほづみを押し付けた。スーツが埃で汚れる、とほづみは頭の隅で考えたが、それを口に出来る余裕はなかった。シオカラの頭を抱えて向き直り、乾いた唇を一度舐めてから、夜明けの空に似た藍色の複眼を見つめた。光沢のある表面には、僅かな愛撫ですっかり頬を上気させた化粧の乱れた女が映っていた。 「ひゃっ」 前触れもなくタイトスカートの中に差し込まれた腹部に気付き、ほづみは息を飲んだ。尻尾のように長く、器用に折れ曲がる腹部の先がほづみの股間に触れ、既に露出している生殖器が抉ってきた。ストッキングとショーツ越しとはいえ、刺激は充分すぎるほどだった。シオカラの頭を抱えたまま、ほづみは息を荒げ始めた。 「ね、ねぇ、もういいでしょ? 上がってからの方がやりやすいってぇ、あぅっ!」 外骨格で出来た硬い生殖器の先端でクロッチに染みるほど濡れた陰部をなぞられ、ほづみは声を上擦らせた。 「よくないっすよ、なんにもよくないっす」 シオカラは脱力したほづみを俯せにさせると、タイトスカートの裾をずり上げて丸い尻を露わにさせた。 「いや、恥ずかしいぃ…」 ほづみはパンプスが脱げかけた足を閉ざそうとするが、シオカラの下右足がすかさず阻んできた。それらしい雰囲気になり、 それらしい流れであれば羞恥心など感じないのだが、ここは玄関だ。扉一枚隔てれば外界で、住宅街なのでそれなりに人通りもある。増して、安普請なのだ。下手に声など上げようものなら。頬が押し当てられた廊下の板が冷たかったが、体は隅々まで熱していた。羞恥心と戦う一方で、早く事を収めなくては、とも思っていた。ほづみはストッキングとショーツに手を掛けると、 太股の付け根まで下げたが、陰部に貼り付いていた布が剥がれていく際に小さな水音が聞こえ、ますます恥ずかしくなった。 ダークグレーの透けた薄布とそれよりも濃い黒のレース地のショーツが取り除かれると、丸く形の良い尻とその中心で熱く濡れている陰部が冬の冷たさを残す外気に触れた。ほづみは精一杯の意地を張り、ストッキングから手を離した。 「するなら、早くしなさいよ」 間を置かずして太い針に似た生殖器が突き立てられ、ほづみの内に責め入ってきた。 「あ、あぁっ、あうん!」 一息に奥まで至り、ほづみはぞくぞくした。シオカラはほづみを後ろから抱き締めると、言葉もなく律動を始めた。その冷淡さもまたシオカラらしくなかったが、充足感が疑念を誤魔化した。上両足でジャケットをはだけられ、ブラウスの上から乳房を握り締められ、 中両足に腰を支えられていたが、ほづみの足は玄関に出たままだった。パンプスだって脱いでいないし、バッグも下駄箱の上に置いたままだ。それなのに、こんなにも荒々しく貫かれている。ほづみは訳もなく背徳感に駆られたが、今となっては劣情を煽る材料にしかならなかった。 「もう、もうダメぇっ、イッちゃいそぉっ!」 上り詰めてきた快感にほづみが切なく喘ぐと、シオカラは上中両足でほづみをきつく抱いた。 「そんなにいいんすか?」 「だ、だってぇ、どんだけ寂しかったと思ってんのよぉ」 快感に煽られるあまりに自制心も緩んだほづみは、涙混じりに本心を吐露した。 「バレンタインの時にはあんなに喜んでくれたのに、ホワイトデーになったら素っ気ないし、メールもちっとも返してくれないし、電話もしてくれないし、会いに来ないし…。私、何か悪いことした? 怒らせるようなことした? ねえ?」 いつになく気弱なほづみは、振り返り、今にも泣き出しそうな顔でシオカラを見上げた。 「ぐわあ可愛いっ!」 シオカラは途端にテンションが上がり、生殖器の根本までほづみの奥に押し込んできた。 「くぁああっ!」 ほづみは一気に訪れた強い快感に震えると、シオカラはぼやきながらも責め続けた。 「なんすかもー、そんなん言われたらマジヤバいじゃないっすか、俺っちの頑張りとか全部無駄じゃないっすかー、あーもう」 「な、何言ってんのよぉ」 「もういいっす、我慢出来るわけねぇっす、こうなったらもう徹底的に!」 シオカラの鋭い一撃に、高ぶりに高ぶったほづみの体が跳ねた。背筋から手足の先まで走った甘い電流に、ほづみは弛緩したが、それでも尚、シオカラは生殖器を抜こうとしなかった。律動が繰り返されるたびに、粘り気のあるほづみの体液がシオカラの生殖器を伝ってストッキングや床に散らばった。シオカラの宣言通り、それからほづみはかなり時間を掛けて蹂躙された。体位を変えることはあったが、場所だけは変わらず、最初から最後まで狭苦しく埃っぽい玄関で事が行われた。 お互い、夢中になりすぎたからだ。 腰だけでなく、腕や足もだるかった。 硬い床に俯せになったり、変な姿勢になったりしたからだろう。ほづみは濡れた髪を首に掛けたバスタオルで拭いながら、 夕食である宅配ピザを囓った。だが、受け取った場所は玄関ではなくアパートの前で、シャワーを浴びているほづみの代わりにシオカラが受け取ってくれた。さすがに、あんなことをした直後の空間に他人を招き入れられるほど剛胆ではないからだ。 ビールでも飲みたい気分だったが、生憎冷蔵庫には缶チューハイしか入っていなかったので、ほづみはピザを食べながらライム味の薄い酒を流し込んだ。シオカラはといえば、テーブルの向かい側で黙々とピザを囓っていた。 「やりすぎたわね」 「そうっすね…」 冷静になると後悔が襲ってきたのか、シオカラは項垂れた。 「スーツはスペアがあるからいいけど、玄関がねぇ…」 一応消臭剤吹いておいたけど、と、ほづみは玄関を見やると、シオカラも複眼の端を向けた。 「せめて換気出来ればいいんすけど、時間も時間っすからねぇ…」 「で、なんだっけ? あんたが発情した原因は」 ピザの耳まで食べ終えたほづみが問うと、シオカラはトマトソースがべったり付いた顎を紙ナプキンで拭いながら答えた。 「春になったからっす」 「裸にコート羽織って下半身露出しに来る変態みたいなこと言うんじゃないわよ」 「でもマジなんすから、いやホント! マジリアルな話なんすから!」 「解りやすいと言えば解りやすいんだろうけど、短絡的すぎて逆に面白味がないわね」 「面白がられても困るんすけど」 「で、その春の陽気に誘われた変態じみた発情と、私に素っ気なくした理由には何か関係があるわけ?」 「言うまでもないと思うっすけど、いやホント。てか、変態からマジ離れてくれないっすか?」 「つまり、あんたは私に無闇に襲い掛からないために離れていたってこと?」 「そうっすそうっす」 「だったら、事前に説明しなさいよ。おかげでこっちは」 言いたくもないことを、とほづみが口の中で呟くと、シオカラは顎を開いてにやにやした。 「毎度毎度思うんすけど、ほづみんってヤられてないとデレられないんすか?」 「そういうわけじゃないわよ。ただ、タイミングってものがあって」 「だったら、俺っちが襲う前に言ってくれりゃ、俺っちとしてもやりようがあったんすけど。なのに、いきなりがばーって来られちゃ、誰だってヤりたくなっちまうっすよ、マジでマジで」 「私だってそのつもりじゃなかったわよ、でも、なんかこう、堪えられなくなって」 ほづみは語気の弱まりを紛らわすために缶チューハイを傾けるが、シオカラはにやけたままだった。 「ああもう可愛いなぁー、そんなに俺っちが好きっすかー?」 「それはシオの方でしょうが、私は引き摺られてるみたいなもんよ!」 「可愛い可愛い可愛い!」 「うるさいうるさいうるさいっ! とにかく、もう黙れ!」 ほづみはシオカラに言い返してから、背を向けた。可愛いと言われれば言われるほどに嬉しいのだが、嬉しすぎるせいで恥ずかしくてどうしようもなくなる。シオカラもそれを知っていて、可愛いと連呼してくる。居たたまれなくなったほづみは台所に向かい、冷蔵庫を開けて二本目の缶チューハイを出して呷った。アルコールによる高揚で気恥ずかしさをいくらか打ち消してから、 ほづみはシオカラに振り返った。 「で、ヤンマ君の方はどうなってるわけ? あっちもシオと同じ状態なんでしょ? あれじゃ茜ちゃんの身が持たないわ」 「ああ、兄貴の方はっすね、変なところで真面目なもんだから律儀に山籠もっちゃってるっすよ。せっかくだからってことで、その山の麓で出稼ぎもしてくるらしいっすけど」 「あんた達も苦労するわね」 「どれだけガタイが立派になったって、俺っち達はどこまでも虫っすからね」 シオカラがしみじみと頷いたので、ほづみは冷蔵庫に寄り掛かって足を組んだ。 「まあ、そればっかりはどうしようもないわよね」 「てぇことでほづみん、次回の玄関プレイは!」 シオカラが腰を浮かせたので、ほづみは一缶目である空き缶を投げ付けた。 「二度とあるかぁっ!」 軽快な音を立て、シオカラの頭頂部に空き缶が命中した。ほづみはバスタオルで生乾きの髪を掻き乱し、なんでこんなのが好きなんだ、と思ってしまったが、好きなのだから仕方ない。シオカラは外界と扉一枚隔てただけの痴態に味を占めたらしく、 いかに今回の蛮行が良かったかを説いてきたが、ほづみはそれらを全て聞き流して酒に没頭した。そうでもしないと、気が紛れなかったからだ。確かに気持ち良かったのだが、それはそれだ。玄関は所詮玄関であって、性欲を満たす場所ではない。 まかり間違ってアブノーマルな性癖に目覚めてしまったら、それこそ取り返しが付かなくなってしまうだろう。 己の過ちを春のせいにしては、春に対して失礼だ。 ↑ 名前 コメント すべてのコメントを見る タグ … 人間♀ 和姦 昆虫類 !859◆93FwBoL6s. *人外アパート
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/155.html
新婚さん 3-470様 ごくりと生唾を呑み込むと、薄く開いた唇からは熱く湿った息が漏れた。 己の腕の中では、先程から顔を赤くした少女が精一杯腕を伸ばして、それでも巡り会わない両掌で背中を抱き寄せている。 早春とは言え、今年は比較的温かい。 先に流してきた筈の汗が、毛皮に包まれた熱に誘発されて滲み始めていた。おかげで、まだ抱き合っているだけだと言うのに、二人の身体は酷く熱い。 「ねえ、ルフ。暑い」 「お前のせいだ」 まだ十六になったばかりの少女は、なんでよう、と呻く様に言って、そのくせ更に腹に顔を埋め込む。縦も横も二倍程体格の違う二人は、抱き合うと、少女の頭は硬い腹の上部に埋まってしまうのだ。 見た目と色に反して、存外柔らかい毛並みに頬を擦り寄せつつ、ルフールの熱の心地よさに、これから先への期待に、溜息を漏らした。 「お前のせいで、俺も暑い」 狼の様な犬の様な、人間とは随分と形状の違うその顔では、キスをするには随分身体を話さなければならない。 前倒しにしていた上半身の姿勢を正して、大きく太い指で少女の顔をぎりぎりまで上向けると、背中を丸めて顔を向き合わせた。 「覚悟してろよ、美奈」 大きく平べったい舌で、遠慮も為しに首筋から顎をなぞった。 ぷると小さく震えた美奈の顎を、小さく開けた口であま噛みする。小さく開かれた小さな唇の奥に、舌を無理に押し込むと、舌の先端だけですっかり埋まってしまった。 「っう、ふ……!」 苦しそうな非難の息を聞き流して、小さな舌を絡めて嬲る。 美奈はそれに答えたかと思うと、舌先を絡めてもう少しルフールの舌を引き入れ、舌の裏側を舐めつつ、徐々にあま噛みしていく。息を詰まらせながら、懸命に愛撫しようとする美奈の姿に、それだけで快楽が生まれる気がする。 ヤバい、と息を止めたルフールは、突然に胸を摘むと、柔らかいそれをゆっくりと撫でる様に揉み始めた。 そうして無理矢理に舌を引き抜き、二人を繋ぐ唾液を巻き取る様にして、口の中にしまい込む。首筋に牙を押しあてて痕を付けると、満足そうに顔を歪めた。 「なんだか、ずるいなあ。私、ルフールにキスマークとか残せないんだよ?」 やわやわと触れる五本指に右手を重ねて、その動きを感じる。 するともう片方の胸の頂を摘まれた。 「にゃぅっ!」 「うるせえんだよ。ったく、恥ずかしいことぬかしてんな」 そのまま空いている片手を移動させ、既に潤んでいた陰部をするりと撫でてやった。 「ん、だって、ずる、い」 前後に動かしてやると、自分の指に重ねられていた掌と、ルフールの死角でベッドのシーツを掴んでいた掌とが、彼女の下半身を弄る大きな掌を掴んだ。 しかし、その動きを止めることは出来ない。ルフールはむしろ楽し気に指を前後させ、指先を僅かに沈めさせてみたり、一番上の出っ張りを撫でてみたりする。 「や、ちょ、っん、やぁ」 焦らす様な動きに、美奈の掌は、今度はルフールの掌を自分のそこに押し付けようと、引き寄せようとする。 「おいおい、我が侭なお姫さんだなあ?」 荒い息をなるべく静かに吐き出しつつ、ルフールはにやりと目を細めた。わざとそのまま続けて、柔らかに触っていた筈の掌で、胸を強く揉みしだく。 物足りない身体が、快楽を求めて感度を増す。 女唇が涎を垂らして、早く貪らせろと疼く。 心境の変化に対する羞恥と、それでも欲しい快楽に困惑した美奈が、ルフールに倒れ込む様にすると、ルフールはどうしたのかと手を止める。 「 て。もっと、ちゃんとして。気持ち良くして!」 目を見開いたルフールは、ああ、と愛おしさに目を細めて、直ぐににやりと笑う。肩を押さえ込む様に抱き寄せると、表面をくすぐっていた指を、ゆっくりと突き入れた。 途端に大声を上げそうになる美奈を抱き寄せて、身体で口を塞ぐ。 暫くそのまま遊んでいたルフールは、徐々に気になり始めた、手の動かしずらさを解決する為に、体位を替えることにした。とはいえ、二人はこれでも新婚でその上初夜である。ルフールは、なるべく妻の顔を見ていたかった。 一先ずに手を止めたルフールは、大きな両掌の人差し指と中指で、細く柔らかいわきを挟んで抱き上げた。 わざわざ余しておいた親指で、胸の頂を捏ねつつ、胡座を組んでいた脚を広げる。 その上に美奈を座らせた。 「な、っん……何?」 硬くなったそこを執念に責め立てられながら、わざわざ膝の上に乗せられた疑問を口にする。すると、自分を固定していた掌は、す、と下に降りて行った。 左手は腰を支え、右手は陰部に潜り込んで行く。 丁度良く脚を開かされた体勢だと気付いたのは、中に指が入ってきたからだった。 「んんっ」 大きな声が出そうな気がして、口を噤む。案の定であった声は、くぐもって口内に押しとどめられた。 「やっぱり、新婚さんはおアツイねえ」 ボロいとまではいかなくとも、このアパートは木で出来ている為、かなり古い建物であることは、一目にも明らかである。 その床から滲み出してきた、液体の様な生命体スライムは、顔の上部だけを形成した姿で、二人の濡れ場をじいと見つめていた。己の彼女を思い浮かべると、体中の気泡が口の辺りから溢れ出していくのが分かる。 「ツンツンもかわいいけど、たまには甘くヤってみたいもんだ」 本人に聞かれてしまえば、バカ!と顔を真っ赤にして叩かれそうだ。 一人想像して、そのかわいさに体温を上げたスライムは、ちらりと目前の二人に目を向ける。どうにかして雰囲気を作ってみよう、そう決意して、すうと床に染み込んでいった。 おわり ↑ 名前 コメント すべてのコメントを見る タグ … 人間♀ 和姦 犬科 狼 獣 獣人 !3-470 *人外アパート
https://w.atwiki.jp/2jiwiki/pages/240.html
二次裏で働くメイド・キャラクターのサブカテゴリーです。他のカテゴリーに属さない人外のキャラクターをまとめます。 アルファベット→五十音→記号の順にして下さい。 A-Z ア行 カ行 サ行 タ行 ナ行 ハ行 マ行 ヤ行 ラ行 ワヲンヴ 記号 【A-Z】 上に戻る 【ア行】 いもげいさん えびふらいさん 上に戻る 【カ行】 カロリメイド ぎたいさん くさいさん 上に戻る 【サ行】 ジッケンタいさん 上に戻る 【タ行】 力ロリメイド ちこいさん ちすいさん 上に戻る 【ナ行】 上に戻る 【ハ行】 ひのとりぃさん ひらたいさん 上に戻る 【マ行】 ミネルヴァ様 メデュいさん 上に戻る 【ヤ行】 ヤバいさん 上に戻る 【ラ行】 上に戻る 【ワヲンヴ】 上に戻る 【記号】 3mさん 上に戻る memo: 訂正、追加情報等。 名前 コメント 最終更新日:2010年12月06日 (月) 22時22分28秒
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/157.html
関連 → ヤンマとアカネ リビングメイルと苦学生 2 859 ◆93FwBoL6s.様 夕暮れに染まる街を越え、古びたトタン屋根に足を下ろした。 下両足の黒い爪でトタンを掴むと、砂っぽい感触が伝わった。透き通った四枚の羽を下げてから、街並みを見渡した。駅前に立ち並ぶビルは半身を朱色に染め、周辺の民家は濃い影に埋まり、家路を急ぐ子供達の姿が複眼に映る。今日も特に異変が起きなかったことを安堵する傍ら、少々不満に思いつつ、ヤンマはアパートの屋根に腰を下ろした。 茜と共にこの街に来たばかりの頃は、排気ガスと人いきれで息が詰まりそうだったが、今ではそれにも慣れてしまった。ヤンマは茜と同じ地方都市の出身だ。中途半端に発展した中心部から離れれば、すぐに田んぼや山が現れる場所だ。人間や昆虫人間の密度が低いので飛ぶのはかなり楽だったが、この街は違う。どこもかしこも、物や人が詰まっている。当然ながら昆虫人間の数もかなり多く、本能的に縄張りを決めてしまうオニヤンマにとっては、それは許し難いことだった。 茜には荒事を起こすなと言われているが、DNAに刻まれた本能だけはどうにもならず、ついつい昆虫人間と戦ってしまう。害のない性格の相手だったら一言脅して見逃すが、自分のように血の気の多い相手だったら、戦わなければ気が済まない。勝った回数も多いが、同時に返り討ちにされたことも少なくない。けれど、戦わずにいると、体の奥底がむず痒くなってくる。それを我慢出来ればいいのだが、何をどうやっても堪えきれない。その結果、傷だらけになって茜にこっぴどく怒られてしまう。 言ってしまえば、戦わなければ落ち着かないのだ。昆虫人間は人間と共生しているが、人間のようには生きられない種族だ。だから、茜と一緒に暮らしていても訳もなく不安になる。そういった鬱屈した感情を晴らすためにも、暴れずにはいられない。 「お帰りなさい、ヤンマさん」 下から声を掛けられたので、ヤンマは身を乗り出し、アパートの正面を見下ろした。 「よう、アビー」 声の主、リビングメイルのアビゲイルは、白いエプロン姿で両手鍋を抱えていた。 「街の様子、どうだった?」 「大して変わりゃしねぇよ。だが、これから気温が上がると、変な連中が沸いて出てくるだろうな」 よっ、とヤンマはアパートの屋根から飛び降りると、アビゲイルの目の前に着地した。 「そういえば、昨日の夜、祐介さんのお部屋にもゴキブリが出たわ。そういう季節になったのねぇ」 アビゲイルが苦笑すると、ヤンマはがちがちと顎を鳴らした。 「ああいうのは喰っちまうしかないな。あいつらも役に立たないわけじゃねぇが、多すぎて鬱陶しいんだよ」 「だったら、今度出たら捕まえておくわね。殺虫剤は使わないように気を付けるわ」 「あ、おう…」 アビゲイルの言葉に、ヤンマは曖昧に答えた。肉食であるヤンマはゴキブリも捕食出来るが、大して好きではない虫だ。生臭く、べとべとして味が悪い。そして、そういった害虫を喰っていると、茜は思い切り嫌な顔をしてヤンマから離れてしまう。それが嫌だから、ゴキブリはあまり食べたくない。だが、隣室でむやみに殺虫剤を使われないためには仕方ないことなのだ。 「それでね、ヤンマさん」 アビゲイルは抱えていた両手鍋を差し出し、ヤンマに持たせた。 「ちょっと作り過ぎちゃったから、またお裾分けするわね」 「そりゃどうも。んで、今日は何なんだ?」 「おでんよ。鍋は後で洗って返してくれればいいから」 茜ちゃんによろしくね、と手を振ってから、アビゲイルはがちゃがちゃと金属製の足を鳴らしながら階段を昇っていった。その背を見送ってから、ヤンマは重たい鍋を見下ろした。まだ温もりが残っていて、蓋の隙間からは良い匂いが零れていた。 「あ、ヤンマ! 帰ってたの?」 弾んだ声に振り向くと、食料品の詰まったスーパーの袋を下げた茜が駆け寄ってきた。 「お帰り、茜。アビーからまたもらったぜ」 ほれ、とヤンマが鍋を茜に見せると、茜はスーパーの袋をヤンマの中左足に引っ掛けてから、鍋の蓋を取った。 「わあ、おでんだね! でも、なんか…妙じゃない?」 「何が?」 「だって、ほら」 茜は湯気による水滴が滴る鍋の蓋で、鍋の中を示した。醤油色の透き通った煮汁には、大根や卵や練り物が浸っている。中でも、圧倒的に多いのがこんにゃくだった。白と黒が同じ比率で詰め込まれていて、どれもこれも妙な切り方をされている。料理上手なアビゲイルらしくない、いびつなものばかりだ。茜の手を引いて蓋を閉めさせたヤンマは、隣室の扉を見上げた。 「今夜は騒がしくなるかもしれねぇな」 「なんで?」 茜はきょとんとしたが、スーパーの袋を中左足にぶら下げて鍋を抱えたヤンマは、足早に階段を昇った。 「今に解る」 「えー、何ー、教えてよぉー」 茜の声を背に受けながら、ヤンマは合い鍵で鍵を開け、先に部屋に入った。靴を履かないので、まずは下両足を拭いた。茜から押し付けられた買い物袋を冷蔵庫の前に置いてから、アビゲイルから受け取ったおでんの鍋をガスコンロに載せた。ただいまー、と明るく言いながら部屋に入ってきた茜を複眼の端で捉えつつ、ヤンマは隣室に面した日焼けした壁を見やった。 安普請の中の安普請であるこのアパートは、防音性が皆無だ。部屋を仕切っている壁は薄く、拳一つで簡単に破れそうだ。だが、他の行くところがないので、それを承知の上で住むしかない。立地条件も悪くないし、何より家賃が格段に安いのだ。しかし、それ故の弊害も大きい。どうなることやら、と思いつつ、ヤンマはセーラー服から私服に着替える茜から目を逸らした。 どうせ、後で存分に見ることになるのだから。 勉強に一区切りを付けた祐介は、風呂に向かおうとした。 ジャージの上下と下着とタオルを抱え、勉強部屋を兼ねた寝室と居間を繋ぐふすまを開けたが、祐介はその手を止めた。食卓用のテーブルが壁際に立てかけられていて、寝室と同じく畳敷きの六畳間の中心では、アビゲイルが正座していた。それだけならまだいいのだが、三つ指を付いている。そして、どこで手に入れたのかよく解らない短いスリップを着ていた。エプロン同様新婚臭い、フリルたっぷりのスケスケだ。淡いピンクの薄い布地越しに見えるのは、肌ではなく銀色の甲冑だ。 アビゲイルは恥ずかしげに祐介を見上げたが、可愛らしく小首を傾げた。途端に、祐介は半開きのふすまを全力で閉めた。だが、締まり切る前にアビゲイルのガントレットが挟まれ、祐介の力に勝るほどの力でアビゲイルはふすまを開けようとした。 「せめてリアクションしてぇ、祐介さぁん!」 「出来るかっ!」 ふすまを閉めることを諦めた祐介は、ふすまを全開にし、アビゲイルを罵倒した。 「いい加減に自分の外見を自覚しろ! でもって自重しろ!」 「祐介さんったら、つれない人ね」 「変な格好の甲冑につれる方がどうかしている。俺は風呂に入りたいだけだ」 「ああん、待ってぇ、せっかく準備したのにぃ」 祐介はアビゲイルを押し退けて風呂に向かおうとするが、アビゲイルは祐介の足に縋り付いた。 「何をだよ!」 「そりゃもちろん、アレよ、ア・レ」 「具体的に言え」 「いやぁん、女の子の口から言わせる気?」 アビゲイルは祐介の足を離さないまま、スリップの裾を持ち上げて金属製の太股を見せた。 「頑張って作ったんだから、祐介さんが楽しんでくれないと困るのよ」 太股の内側からは粘り気を持った水滴が垂れ、畳の上に落ちていた。 「まさか」 次第に状況を理解してきた祐介は、アビゲイルの腕の中から足を抜き、呆れた。 「お前、股間にこんにゃくを仕込んだのか?」 「うふふ、素敵でしょ?」 「道理でこんにゃくだらけの夕飯だと思った…」 となると、先程食べたものは失敗作の成れの果てだったのか。祐介は今夜の献立を思い出し、げんなりしてしまった。こんにゃくだらけのおでんを始め、炒め物や和え物が並んでいた。その時は、特売だったのだろう、としか思わなかった。だが、そうではなかった。確かに、世間にはこんにゃくに逸物を突っ込んで快感を得る輩がいるとは聞いたことがある。けれど、祐介にはそこまで快楽を求める嗜好はなく、間違っても中身が空っぽの甲冑にそれを仕込もうなどとは思わない。 「風呂に入る!」 こうなったら、風呂に逃げる他はない。祐介は意地で足を進めようとするが、アビゲイルも意地になっていた。 「お願い、祐介さん。こんにゃくだって人肌に暖めてあるんだから、冷めちゃったら気持ち良くなくなっちゃうわ」 「いい加減にしろ! 生身の女ならともかく、こんにゃくに突っ込んだって面白くもなんともない!」 「私だって、祐介さんに楽しんでもらいたいのよ? ただ吸収するだけじゃ面白くないんだもの」 「そういう問題か!」 「一緒に気持ち良くなりましょう、祐介さん? ね?」 「突っ込んだところで、お前は何も感じないだろうが!」 「それは気持ちの問題よ。感じたいって思えば、感じたことになるんだから」 祐介のジーンズのベルトを握ったアビゲイルは、身を乗り出し、艶っぽく囁いた。 「私達が始めれば、茜ちゃんだって始めちゃうかもしれないわよ?」 「…おいおい」 祐介は顔を歪めたが、本心は違った。ヤンマと茜が一線を越えている関係であることは、隣人の特権で知っている。どうやって異種族の昆虫人間と事を致すのかは解らないが、時折、茜の可愛らしい喘ぎ声や悩ましい呻きが漏れてくる。アビゲイルが迫ってこない時は、それで処理していたほどだ。悪くないかもな、と思っているとアビゲイルが抱き付いてきた。 「ね、祐介さん?」 「今回だけだからな」 アビゲイルの言う通りになる保証はないが、なったら嬉しい。そう思った祐介は、着替え一式を風呂場に置いてきた。居間に戻ると、アビゲイルは祐介を座らせた。膝を崩して銀色の指先を入れると、溢れるほど潤っている股間に触れた。 「大丈夫ね、まだ冷めてないわ」 アビゲイルは股間からちゅぷんと指先を抜くと、背を伸ばして身を乗り出してきた。キスをしろ、ということなのだろう。キスでも生命力を吸収出来るが、射精の方が効率が良いので回数は少ない。祐介は少々躊躇ったが、兜を掴んだ。手に広がる感触はやはり金属で、ヘルムの隙間から見えるのは薄暗い闇だ。どこに魂があるのか、未だによく解らない。彼女の顔の下半分を形作るマスクに顔を寄せ、唇と思しき部分に唇を当てるが、鉄臭さと冷たさしか感じられなかった。だが、アビゲイルは別らしく、床に付いた両手を握っている。祐介が顔を離すと、彼女はため息を吐くように肩を落とした。 「なんだか、どきどきしちゃうわ」 アビゲイルは祐介の唇が触れていたマスクを押さえていたが、スリップの肩紐を片方だけ外した。 「ねえ、祐介さん。一杯触って、一杯感じさせて」 「その代わり、隣に聞こえるぐらい声出せよな」 「うふふ、言われなくても出ちゃうわよ。だって、祐介さんが触ってくれるんだもの」 照れ臭そうに微笑んだアビゲイルの言葉に、祐介は少しぐらついたが、目に映る彼女の姿は相変わらずの甲冑だ。一瞬で素に戻ってしまったが、続けなければ意味がない。祐介はアビゲイルを横たわらせ、その上に覆い被さった。女性型の甲冑とはいえ、身長は祐介とそれほど変わらず、体の厚みは女性的な曲線を抜きにしても祐介よりもある。両肩も装甲が付いているために大きく、上腕も太い。抱き締めたところで、手応えもなければ温もりも得られない体だ。 薄い生地の下から現れた硬いだけの乳房に触れてやると、アビゲイルはぎちっと関節を軋ませ、身を強張らせた。普段は攻めるばかりだから、攻められるのに慣れていないらしい。揉むことは出来ないので、撫で回すことに専念した。生身なら先端があるであろう部分に触れると、アビゲイルの反応は一気に増し、祐介の腕を掴む手に力が込められた。 「あん、そこはぁ」 「だったらもっと触るまでだ」 彼女が反応するのが楽しくなってきた祐介は、スリップのもう一方の肩紐も外させて、上半分をずり下げてやった。薄っぺらい布でも剥がされてしまうと羞恥心を感じるのか、アビゲイルは顔を背け、肩を縮めて悩ましげな声を漏らした。 本物の胸とは違って柔らかさは欠片もないが、胸は胸だ。そう思った祐介は、アビゲイルの銀色の乳房に唇を付けた。ありもしない乳首を含むようにしてやると、アビゲイルはびくっと小さく震え、金気臭い肌を舐めてやると喘ぎが高まった。 「ふあぁんっ、あ、あぁ、ああっ」 思いの外色気のある喘ぎ声を聞かされたことで、祐介の下半身は素直に反応し、茜の痴態を想像するまでもなかった。自分の若さを痛感しながら、祐介はアビゲイルの乳房を舐める傍ら、生温い雫が伝い落ちる太股の間にも手を差し込んだ。躊躇うように閉じていた太股を開かせ、彼女自身が備えたものから零れた潤いを使ってなぞると、アビゲイルは喉を逸らした。 「ひあんっ!」 「なんだ、そっちの方が弱いのか」 祐介が顔を上げると、アビゲイルは肩を縮めた。 「それもそうなんだけど、恥ずかしいから…」 「自分でここまでやっといて、今更何を言ってんだよ」 「でも、やっぱり恥ずかしいわ。祐介さんに全部見られちゃうんだもの」 「どうせこんにゃくしか入ってないんだ、見られたところでどうってことないだろ。でもって、お前は常に全裸だろうが」 「それを言わないでちょうだい」 それなりに気にしていたらしく、アビゲイルは畳にヘルムを埋めた。表情が出ていれば、頬を張って膨れていたのだろう。妙な状況だが、微笑ましいと思った。祐介は段々調子に乗ってきたこともあり、体を下げてアビゲイルの両足を開かせた。いやあんっ、と拒絶とは言い難い甘ったるい声が上がったが、奥に仕込まれたものを直視しては興醒めするのは間違いない。物凄く気になるが出来るだけ目を向けないように気を付けて、祐介はアビゲイルの太股に唇を当て、わざとらしく音を立てた。 「あ、あぁ、あぁあっ」 アビゲイルは思わずマスクを押さえるが、声は押さえらない。それどころか、自分の発する声が兜に反響し、尚更高ぶる。祐介はアビゲイルの太股から顔を外すと、内側を緩やかに撫で上げた。本当に弱いらしく、胸を上げて仰け反ってしまった。 「あひゃあんっ!」 一際高い声を放ったアビゲイルは、力を抜くように細く息を吐いた。 「私ばっかりじゃ、いけないものね」 身を起こしたアビゲイルは祐介のベルトを外し、脱がせてしまうと、股間から滴る潤いをマスクになすり付けた。 「うふふふ、もうこんなにしちゃって…」 硬く張り詰めた性器を掴んだアビゲイルは、マスクを押し当てて下から上に向けて擦り上げ、先端にマスクを押し付けた。双方の水分が混じり合い、僅かばかりの異音を作る。口に含めないまでも、舐めるような気持ちで何度も何度も擦り上げる。しどけなく体を伏せて両足を投げ出しているアビゲイルは、夢中になって祐介の性器を弄び、陶酔し切った声を漏らしていた。それがまた、欲情を煽ってくる。欲情させた相手に欲情されるというのは悪くない。それどころか、征服感すら感じてしまいそうだ。 「もう、いいだろ」 自身の強張りを確かめた祐介がアビゲイルの顔を離させると、アビゲイルはシワの寄ったスリップを脱ぎ、横たわった。 「早く入れて、祐介さん。祐介さんが欲しいの」 「どこでそんなの覚えるんだよ、お前は」 「うふふふふ、秘密」 「だろうと思ったよ」 祐介はアビゲイルの作った生温い陰部にあてがい、腰を前に進めた。生身のそれよりは冷たいが、感触は近いものがある。 「どうだ、感じるか?」 「ええ…凄く…」 アビゲイルは祐介の背に両手を回し、服を掴んだ。背筋を這い上がる独特の感覚に、おのずと声が上擦った。 「出来るだけ意識を向けて、鎧だけじゃなくてアレにも感覚が生まれるようにしてみたけど、やれば出来るものなのねぇ」 「だったら、もっと感じろ、アビー。その方が面白いからな」 「言われなくても、もう感じちゃってるわよっ…」 祐介にしがみつくアビゲイルの手には、最早余裕はない。そのおかげで、中身が何であるか知っていても冷めずに済んだ。生身のそれよりも若干狭い作り物の陰部は、腰を動かすに連れてぐちゅぐちゅと生々しい音を発し、潤滑液が溢れてきた。どうやら、アビゲイルが仕込んでおいたものらしい。これまたどこで手に入れてきたのかは解らないが、凝りすぎている気もする。 「祐介さあんっ、もっと、もっとぉ!」 祐介の腰にも足を巻き付けたアビゲイルは、堪えきれずに首を左右に振った。 「アビー、お前、どこまで淫乱なんだよ!」 「だってぇ、祐介さんが欲しいんだものぉっ、祐介さんじゃなきゃダメなのよぉっ!」 「ああ、そうかい! だったら、いくらでもくれてやるよ!」 普通の女性ではまず言ってくれないであろう言葉の数々に、祐介はとてつもない優越感が生じ、思い切り彼女を突いた。 「あ、ああ、あぁ、あ、あぁああっ!」 祐介の精液が放たれると、アビゲイルは喘ぎと言うよりも悲鳴に近い声を上げて、上体を反らした。 「好きよぉ…祐介さぁん…」 熱い吐息混じりの弛緩した声で名を呼ばれ、祐介は多少心が動きかけたが、彼女から自分のものを引き抜いて我に返った。熱中している間は忘れていたが、やはり、こんにゃくはこんにゃくだ。どうやって固定しているかと思ったら、瓶詰めになっている。精液とローションと思しきものが混ざった液体が糸を引き、とろりと流れ落ちている。畳に染みたら困るので、早々に拭き取った。 「人として大事なものを失った気がする…」 こんにゃくを装備した鎧を犯すとは、変態にも程がある。祐介は猛烈な自己嫌悪に陥り、項垂れずにはいられなかった。 「あらぁ、とっても良かったわよ。またしましょうね、祐介さん」 アビゲイルは祐介の背にしなだれかかってきたので、祐介は乱暴に彼女を振り払い、浴室に向かった。 「二度目はない。今度こそ風呂に入る」 「背中、流してあげてもいいわよ?」 「余計なお世話だ!」 強く言い切った祐介は、脱衣所に入って扉を閉めた。アビゲイルの残念そうな声が聞こえてきたが、無視することにした。服を脱ぎながら盛大にため息を吐いた祐介は、結果としてアビゲイルで達してしまった自分に気付き、ますます落ち込んだ。感じやすさは普通の女性以上だったし、反応も素晴らしかった。増して、あそこまで自分を求めてくれるような女性は初めてだ。 高校時代に付き合った最初の彼女は至って普通の女の子で、最後まで行ったものの、自然消滅する形で別れてしまった。若さと好奇心に任せて体を重ねたが、どちらも至らなさが目立ち、相手を満足させれば自分が満足出来ず、逆も然りだった。だから、セックスとはそういうものなのだろうと変な諦観をしていたが、あそこまで感じてもらえると鎧が相手でも嬉しくなる。けれど、やはり我に返ってしまう。我に返るべきか否かを本気で悩みながら、祐介は冷め気味の湯船に熱の残る体を浸した。 隣室からは、耳に馴染んだ声が漏れていた。 どうやら、あちらは一段落したらしい。 だが、こちらはまだそうもいかない。ナツメ球が放つ弱いオレンジ色だけが光源の寝室で、ヤンマは茜に縋られていた。普段は茜しか使わない布団の上にヤンマも座っているが、茜はヤンマの胡座を掻いた屈強な下両足の上に跨っていた。長い腹部の先端から伸ばした生殖器で、茜の暖かな体内を深く抉ってやると、茜はヤンマの黒い外骨格に爪を立ててきた。 案の定、こういう展開になった。薄暗い中でも解るほど頬を紅潮させた茜は、ヤンマの胸にしがみつき、懸命に声を殺していた。声を出させるのも良いが、声を殺している様を見るのも楽しい。上右足を伸ばして爪を横たえ、控えめな乳房を握ってやる。 「ふ、くぁっ」 殺しきれなかった声を漏らし、茜は涙の滲む目をきつく閉じた。下半身は全て脱がされているが、上半身は着たままだ。前のボタンは全て外されて肌着もめくられているので、着ているとは言い難い状態なので、脱がされていないだけとも言える。 「あっちは終わったみたいだぜ。何、遠慮することはねぇよ」 細長い舌を伸ばして茜の目元を舐めたヤンマは、低く囁いた。茜は眉を下げ、俯く。 「でも…」 「それとも何か、お返しにこっちの一部始終も聞かせてやるか?」 「だ、ダメぇっ、そんなのダメぇ!」 茜は慌てるが、ヤンマの生殖器がぐいっと奥を突き、それ以上は続けられなかった。 「あうぅっ!」 「よく言うぜ。どうにもならなくなって、自分から俺を呼んだくせに」 「や、ヤンマだって、充分その気だったくせにぃ」 むくれた茜が睨んできたが、目が潤んでいるのと声が上擦っているので迫力は欠片もなく、むしろ可愛らしかった。たまらなくなったヤンマは茜を抱き締め、茜が最も良く反応する部分に生殖器の先端を抉り込ませ、声を上げさせてやった。後で怒られるかもしれないが、それはそれで楽しい。太い針のような生殖器を伝い落ちた熱い体液が、シーツに染み込む。ヤンマの肩に力一杯爪を立てた茜は、掠れた声でヤンマの名を呼びながら達してしまい、脱力して体を預けてきた。息を荒げる少女を支えてやりながら、ヤンマはなんともいえない嬉しさを噛み締めるように、ぎちぎちぎちと顎を鳴らした。自分から茜に迫るのも良いが、茜から迫られるのは格別だ。茜をその気にさせてくれたアビゲイルには、感謝しなくては。 今ばかりは、安普請が素晴らしく思えた。 ←・→ タグ … !859◆93FwBoL6s. *人外アパート
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/24.html
S令嬢×M人外男 1-201様 音もなく雨の降る夜更け、古いがよく手入れをされた洋館。その裏手にある小さな扉が細心の注意を払って開かれ……入ってきたのは、人の形をしているが、体毛はなく、代わりにところどころを甲殻が覆っている、そんな生き物だった。 彼は開かれた扉からするりと身体を滑り込ませ、注意深く辺りを見回し――正面にある階段の上に仁王立ちして、彼を見つめる少女に気付いた。 「――ジェシカお嬢様」 彼は頭を下げる。その動きに合わせてシャラリと首に巻かれた鎖が鳴った。鎖の留具にはこの屋敷のいたるところに刻まれている紋章が、同じように入れてあり――それは即ち、彼がこの家に「モノ」として属していることを示していた。 「こんな時間に、どこへ行っていたのかしら?シルヴァ」 純白の夜着の上から、刺繍の細かさで高価な事が見て取れる若草色のストールを羽織った少女は、あからさまに不機嫌な声音で尋問の言葉をつむぎ、カツカツと足音を立てながら階段を下りた。 シルヴァは頭を下げたまま視線を動かし、ジェシカの足をちらりと盗み見る。彼女は柔らかな室内履きでなく、艶やかな黒革のピンヒールを履いていた。 その禍々しい艶にゴクリ――と思わず唾を飲む。 「まぁ、だんまりなの、シルヴァ――顔をお上げなさい」 「……」 カッ、と足音を一際高く立ててジェシカはシルヴァの前に立ち、自分より頭二つ分くらいは長身のシルヴァを見上げ、彼の金の瞳を睨みつける。シルヴァは黙ったまま、ただジェシカの紺碧の瞳を見返していた。 「お前が黙りこくったところで、意味がないわ。だってわたくし、知っているのですもの――『あの女』のところに、行っていたのでしょう?」 「――ッ!!」 ピンヒールの尖った踵が、シルヴァの足の甲を覆う甲殻の隙間に刺し込まれた。 甲殻の下の柔らかな皮膚が彼の弱点である事を知り抜いた的確な攻撃に、思わず叫び声をあげそうになる。 「ほらシルヴァ、何とか言ったらどうなの?」 ぐりぐりと弱点を抉られながらでは、叫び声をあげないでいるのがやっとだ。 「ッ――ぉ、」 それでも懸命に言葉を搾り出す。だんまりのままでいられるのは、彼女の最も嫌うことだと知っているから。 「なぁに?シルヴァ」 「ぉ、母上を、そのよ、うにッお呼びになっては――ガぁッ」 ぶちり、とシルヴァ足の甲がたてた音は、彼の漏らした呻き声にかき消された。 忌々しそうな顔で少女が足を引くと、鮮やかな緑色の血が漆黒のヒールに滴った。 それを見てシルヴァは跪き――当然といわんばかりにジェシカは折られた膝の上に汚れたヒールを載せた。 「お前のせいで汚れてしまったわ……綺麗になさい」 シルヴァは首と舌をあらん限り伸ばし、ヒールに付着した己の血液を舐め取る。 雨に濡れた彼の身体に触れぬよう抓んで持ち上げられたスカートの中からは、興奮したジェシカの匂いが薄く香り、シルヴァは内心安堵する。 これはいつもの戯れで、自分は本当に嫌われているわけではない。 それさえ分かれば彼にとってはどんな仕打ちも無上の喜びだ。 一方ピチャピチャと靴を舐めるシルヴァの様子を眺めたジェシカは、彼の痩せてはいるが広い背に目を向ける。 昼間に彼女がつけた傷痕が刻まれている筈のその場所に、今はガーゼが丁寧に貼られていた。『あの女』の、仕業だ。 生れてすぐに母と死に別れたジェシカに、多忙ゆえに共にいられない日の多い父親が、ペット兼下働き兼ボディガードとして与えたのがシルヴァだった。 彼は主の言いつけを守り、いつもジェシカの傍に仕え、彼女の言うどんな我侭にも従ってくれた。 それなのに…… (あんな女、母ではないわ。決して許さない……お父様だけでなく、シルヴァまでわたくしから取り上げようとするだなんて) 「もういいわ。身体を拭いたら、わたくしの部屋にいらっしゃい。勿論背中の、汚らしい膏薬も取ってね……おまえにはまだ、躾が足りないようだから」 「――畏まりました」 翌日。 元気一杯スッキリした様子の少女と、対照的に青い顔をした男が逃げるように宿を後にし、後には半分溶解した部屋と掃除に来たままノブを握りしめ硬直した宿の主人が残された。 ↑ 名前 コメント すべてのコメントを見る タグ … SM 主従 女性上位 鬼畜
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/40.html
サイボーグ×豹合成獣 機械×少女 の外伝 人間♂+サイボーグ×豹合成獣 1-318様 透明な液体を滴らせながら屹立するペニス。異臭を放つそれに顔を寄せ、舐め始めた。ぴちゃぴちゃと水音が響く。不快な臭いと味に、途中一度二度吐き気がこみ上げたものの、我慢して舐め続け、そして、口に含んだ。 牙を立てないように、相手の不興を買わぬように、おそるおそる行う口唇愛撫。客はそれに満足できなかったのか、わたしの頭部をその節くれだった手で押さえつけ、喉の奥までを犯しぬくように前後させ始めた。 「ん、ぐっ・・・ぐぶっ、かはあっ・・・!」 恐怖と嫌悪に体毛が激しく逆立った。もがいて逃れようにも、がっちりと固定された手は離れない。わたしは知っている、これはしばらく我慢していればすぐに終わること。下手に抵抗すれば、後で「飼育係」にどんな事をされるか分からない。 あきらめて、身を任せていればいい。抗う事は寿命を縮める。その認識を肯定するように、男の性器がびくびくと痙攣し、口内に熱く臭い体液を放出した。 簡単な体調チェックの後、わたしの檻に戻ることが許された。帰還すると部屋にざわめきが生じたが、それはすぐに収まり、しばらくして仲間のひとりが声をかけてきた。 「大丈夫だったかい?酷い事はされなかった?」 「ありがとう、大丈夫です。痛めつけられたりはしなかったもの」 疲労して口も利きたくないが、心配してくれている相手に冷たい返事をするわけにもいかない。酷い事はされていない。 少なくとも、肉体的には。生き物を切り刻みたがる、変態的なサディストはいくらでもいるのだ。 「そう、それならいいんだけどね・・・」 今わたしに話しかけている女は、もちろん人間ではない。彼女は人間の頭と猛禽の体を与えられたキメラだ。ギリシア神話に現れる、セイレンという魔物を模して作られたもの、と誰かが言っていた気がする。人面獣体である点では、豹のキメラであるわたしに似ていると言えない事もない。 この部屋を見渡せば、そのような人外のものたちがいくらでも目に入る。しなやかな体をくねらせる人魚、蝶の翅を持つ妖精、蛇体のラミア、天使、ケンタウルス・・・。それらはもちろん自然に生じたものではない。我々は、人間の性欲を満たす為にのみ造られた、生まれながらの娼婦だ。性行為と客を喜ばせる為の僅かなパフォーマンス以外は何も教えられず、客をとっていない時は、この狭い部屋でうずくまって時を過ごす運命にある。 人魚が哀しげな声で歌い始め、わたしはそれを子守唄に眠りにつく。生は苦痛、眠りは死。せめて痛みのない死を望みたい。 ある日、セイレンが脆い体を傷つけられ、包帯だらけで戻ってきた。翼は骨を折られたのか痛々しく垂れ下がり、羽毛は逆立って何箇所か禿ができていた。慰めようにも、鉄の檻に阻まれて触れる事さえかなわない。 「大丈夫ですか?ひどくやられましたね」 「なに、よくある事さね。逆らってどうにかなるもんじゃないしさ、仕方がないよ」 確かに、こういった事はよくあるとは言えないものの、決して稀な出来事ではない。我々は「高価な品物」ではあるが、「取替え不能な誰か」ではないからだ。それなりの代金を払えば、どんな行為も許される。 「大丈夫、アタシはこんな事でへこたれやしないさ。元気になってみせるよ」 彼女は無事なほうの翼を広げて、だからそんな顔をするのはおやめ、と笑う。翼端が狭い檻の格子を掠め、風を送って寄越した。 翌朝、檻の中には襤褸の塊のようになって横たわる彼女の屍があった。「飼育係」が義務的にそれを回収し、我々は彼女が運び去られていくのを黙して見送らねばならなかった。 「うらやましいわ・・・」 人魚がぽつりと零す。 「やっとここから出て行けるのだもの。あのひとは自由になったんだわ」 いくたりかが同意の言葉を返し、部屋はそれきり静かになった。 我々は死ぬまで自由にはなれない。それが当然だと思っていた。 「おい、ちゃんとご奉仕してくれよ。お前達はそのためにいるんだろ?」 セイレンの死に様が強く記憶に残り、どうしても行為に力が入らない。昨日の今日で客を取らせる、「飼育係」達の配慮のなさに問題があると思う。 「あー、もういいや。股開け」 わたしは大人しく言われるままの姿勢を取り、男が唾液まみれの男根を挿入しようとする様を冷静に眺めた。行為自体は不快であるが、わたしの意志を介在させずに済むという点ではありがたい。準備の出来ていない体にむりやり侵入される痛みには、もう慣れている。 ピストン運動が体をゆすぶり、結合部分が激痛を訴えてもわたしは声を上げずに耐えた。この程度の苦痛など、セイレンの受けたものに比べれば何ほどの事もない。 「もっと反応して見せろや。喘ぐなり泣き叫ぶなりしてもらわにゃ張り合いがねぇだろうが!」 ああ、そういう嗜好の人なのか。ならばそれなりの演技をせねばならないかと、わたしは頭の隅で考えた。 ぎしぎしと騒音が起こり、埃が天井の通風孔から降り注ぐ。数秒の後、がたりとカバーが外れ落ちて、何事かと律動を止めた客と、わたしの目の前にひとりの男が降ってきた。 「うわっ!!な、なんだっお前ぇ」 わたしの中でたちまちの内に性器が萎え、客は声を裏返らせながら無様にわめく。侵入者は冷ややかにそれを見据え、一言囁いた。 「黙れ」 客は瞬時に口をつぐむ。男はわたしをちらりと一瞥した。片手に握られた銃。ゴムの焦げたような臭い。 「騒ぐなよ」 向こうで起きている喧騒が、次第にこちらへと近づいてきている。 「騒げば、殺す」 「・・・殺してくださるのですか?」 男は一瞬虚を突かれたような表情になったが、すぐにかっと目を見開き、わたしを睨みつけた。わたしも彼を見返す。奇妙な沈黙の中で気付いた。このひとは呼吸をしていない。 「殺して欲しいのか?」 扉の前で足音が止まり、ドアが勢いよく開かれた。 「いいえ、誰も来ませんでしたけれど」 性交が行われていたのが奥の部屋だったのが幸いだった。わたしは嘘をついてのけ、不審そうな表情の「飼育係」を追い返す。彼らもまさか合成獣如きに騙されるとは思わなかったのだろう、大人しく引き下がってくれた。 「多分もう大丈夫でしょう」 奥からのそりと侵入者が現れた。 「妙な奴だな」 無表情だった顔を、微かに笑みの影がよぎる。 「何処に行かれるのかは知りませんけれど、気をつけてくださいね」 あの「飼育係」達に嘘をついたのだ、わたしはただでは済まないに違いない。しかし気分がいい。あのいやらしい連中を騙しおおせたのだ! これはわたしなりの仇討ちとも言えなくもなかろう、切っ掛けを与えてくれた彼に感謝したい気分だ。 「本当に、妙な奴だ・・・名を聞いても?」 一瞬考え込む。「飼育係」たちに個体名を付けられた記憶はないし、個体が頻繁に入れ替わるキメラ同士では、名を付ける習慣はなかった。 「わたしに名はありません。どうか、気をつけて。本当に」 覚悟はしていたのだが、何故だかわたしにお咎めはなかった。「飼育係」達が慌しく働いている雰囲気のみがあり、誰にも客が来ない日が 数日間続いた後に、わたしだけが連れ出された。 「久しぶりと言うべきか。元気そうだな」 いよいよ廃棄の日が来たかと、身を硬くしていたわたしを待っていたのは、あの侵入者だった。 「あの方がお前を引き取りたいそうだ。命拾いしたな」 奇妙にかすれた声で、「飼育係」がそう言った。 「おい、どうした、起きろペルラ」 主がわたしを呼んでいる。意識が覚醒し、自分の現状を把握しようと働きだす・・・嫌な夢を見た。 「わたし、魘されていましたか?」 無言で頷き、背をさすってくれる主。わたしは微笑んでみせようとしたが、うまく行かなかった。あの施設に閉じ込められていた同胞たち。彼女らは今どうしているのだろうか。セイレンのようにひそやかに息絶えたか、わたしのように誰かに買い取られたか。あるいは あの冷たい牢獄の裡に、今なお囚われているのか。 「ご主人様、わたしを何故買い取ったのです?」 前脚の付け根辺りで手の動きが止まり、主は微かに目を細める。 「・・・おまえはあの時、殺して欲しいと言ったな」 体温を持たない掌が移動し、猫にするように喉元を撫で上げる。 「キメラのおまえが。死にたがる獣はいないものだが」 ほんの僅かに、指先に力が篭められた。 「おまえは今でも死を望んでいるか?」 喉に食い込んだ指が顎を押し上げ、強引に視線を固定される。貫くようなまなざし。咄嗟に言葉が出ず口ごもるわたしを見て、主は口元だけで笑うとあっさり手を離した。 「合成獣とサイボーグ。つくりもの同士似合いだと思わないか?」 わたしの身体を冷たい手が蜘蛛のように這い回る。黄褐色の獣毛を散らしながら爪が皮膚を掻き、血がにじむ傷を残した。主はわたしの髪に顔を埋め、手負いの獣のように唸る。 「おれを憎むがいい、ペルラ」 冷たい腕が豹の胴に回され、低い声が囁く。 「おまえにはその資格がある」 背中側から抱かれている為、表情はわからない。 「あなたを、憎む・・・?」 頷く気配。 「な、ぜっ」 言葉が途切れる。指が2本秘所に挿入され、体液を溢れさせるそこをかき混ぜ始めた。 「あぁあっ・・・ん、はうっ」 鉤爪を布団に食い込ませ悶える。布団がやすやすと引き裂かれ、白っぽい詰め物が飛び散り、そこに体液が滴り落ちて染みを作った。 全てが済んだ後も、主はわたしの身体に腕を回したままじっとしている。そんなにわたしを求めるくせに、あなたは憎んで欲しいのか。なぜか突然悲しくなって、腕を外さないようにそっと向きを変えると、抱き返すような形で彼の肩に前足をかけた。 「ご主人様、あなたは憎まれていたいのですか?」 今度はわたしが見つめる番だ。彼は逃げるように顔を背け、喉の奥から言葉を搾り出した。 「失言だ。忘れろ」 いや、忘れはしまい。横を向いている主の頬を舐めた。冷たいゴムの感触。 「わたしはあなたを憎みはしない」 あなたはわたしに様々な物をくれた。知識、快楽、ひとを愛する心、そして名前。名前のない合成獣を「ペルラ」にしたのはあなただ。二度とわたしは死を望みはしないだろう。一分一秒でも長く生きてあなたの傍に居たい、例えあなたが望まぬとしても。 「あなたを、愛しています」 一瞬、ほんの一瞬だけ、主の顔がひどく悲しげに歪んだ気がした。 「おれにそんな資格はない」 小さく低い声でそう言った主の姿は、これまでにないほど弱々しく見えた。 ↑ 名前 コメント すべてのコメントを見る タグ … 人外×人外 人造 人間♂ 合成獣 娼婦 獣 鬼畜 !1-318