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※期末試験の問題は一度授業で出題したタイトルについてのみ出題 1学期期末試験対策1スレ目 2835 教科:不明 1スレ目 3481 教科:音楽 1スレ目 3914 教科:日本史 1スレ目 7250 教科:音楽 1スレ目 8479 教科:生物 1学期期末試験対策 1スレ目 2835 教科:不明 【2005年にオーガストより発売されたゲーム「夜明け前より瑠璃色な」に登場する「スフィア王国」は何処に存在する国?】 1. ヨーロッパ 2. 月 3. アジア 4. ポートアイランド +... 答え:2. 月 スフィア王国は「月」に存在する王国。 過去に地球との間で戦争が起こったことが描写されており、劇中時点で地球と講和条約を結んでいる。 月の人間だが、その祖先は地球人である。 主人公が住む街には月の人間、即ち月人が居住する「月人居住区」が存在し、 月と地球が行き来する宇宙船の「ターミナル」が存在する。 このため、スフィア王国の王女「フィーナ・ファム・アーシュライト」が地球に留学しに来る、 というのがお話の始まり。 月に留学したことがある従姉のコネクションによりフィーナやそのメイドと同棲することになる主人公。 一国の王族が近くに来る、という非日常が日常に落ち着いてゆき、 そしてそこから育まれる恋愛と身分違いの葛藤、それでも結ばれたいという想いと行動が描かれる。 が、何故か月の人間よりも地球人の攻略キャラの方が多く、 先述の従姉以外のシナリオでは月とかの設定は基本的にかなり空気。なんでや。面白いけどさ。 アニメ化はされていない(重要) 1スレ目 3481 教科:音楽 【2008年にあかべぇ そふとつぅより発売されたゲーム「G線上の魔王」において ヒロイン「浅井 花音」の個別ルートで彼女が踊ったフィギュアスケートのテーマ曲は以下の内どれ?】 1. おお、運命の女神よ 2. Lascia ch io pianga 3. エリーゼのために 4. 我が母の教えたまいし歌 +... 答え:4. 我が母の教えたまいし歌 花音のルートで扱われるテーマは「親子」であり、実の母と花音の確執と和解が描かれている。 そのクライマックス、花音のフリープログラムで披露された「我が母の教えたまいし歌」の下での演技は、 結末までを含めてG線上の魔王の中で最も鮮烈で美しい名シーンの一つ。 ところどころしょーもなすぎてツッコミを入れたくなるが、 それでも古典映画のような美しさを誇る不朽の名作の一つだと思われる。 1スレ目 3914 教科:日本史 【2015年にinre(インレ)より発売されたゲーム「ChuSingura46+1」について ルートの名称として不適当なものを選べ】 1. 假名手本忠臣蔵編 2. 江戸急進派編 3. 仇華・宿怨編 4. 刃・忠勇激烈編 +... 答え:4. 刃・忠勇激烈編 正しくは刃・忠勇義烈編(やいば・ちゅうゆうぎれつへん)。 ChuSingura46+1には他にも「百花魁編(ひゃっかさきがけへん)」がある。 ChuSinguraはルートが終わるごとに最初の時間軸に回帰させられるという「ループ物」の構造を取っており、 1ルートごとに喜びと悲しみ、希望と絶望を体験する主人公の心情も良く描かれている。 ループ物の最大の利点ともいえる同一事象の別視点での解釈が豊富に取り入れられており、 ルートを跨いで明かされる真実に不思議な感動が感じられたりする。 史実の忠臣蔵の主人公大石内蔵助に視点を寄せた假名手本忠臣蔵編、 主人公の視点を江戸に移すことで赤穂藩の中での対立に焦点を当てた江戸急進派編、 前二つの視点を補完し、物語に一つの区切りを与える百花魁編、 そして少し視点をメタ化し、「忠臣蔵」という物語そのものを見つめる仇華・宿怨編、 物語そのものの集大成である刃・忠勇義烈編で構成される。 物語全体に様々な伏線が巡らされ、多少の設定の粗こそ目立つものの、非常に良い作品に仕上がっている。 次回作MIBURO、2017年秋発売予定。このスレが続いていれば、おそらく出題されるであろう。買おう(提案) 1スレ目 7250 教科:音楽 【2009年に暁WORKSより発売されたゲーム「コミュ - 黒い竜と優しい王国 - 」において 劇中で「こころのプリズム」を歌ったのは誰?】 1. 柚花 真雪(ゆうばな まゆき) 2. 春日部 春(かすかべ はる) 3. 我斎 五樹(がさい いつき) 4. 比奈織 カゴメ(ひなおり かごめ) +... 答え:1. 柚花 真雪 「柚花 真雪」は実はアイドル「結奈」であることが個別ルートで明かされるが、 「こころのプリズム」は「結奈」の曲である。 「コミュ」は虚無的な価値観が蔓延する現代社会において、 その虚無性を打破するアンチニヒリズムを主眼に置いた作品。 残酷に平等な「優しい王国」であるこの世界において、如何に生き足掻くのかを描いている。 異能を持ち込んでいるにもかかわらずリアリスティックで、地に足のついた人物設定、 悲劇に嘆き、挫けてしまう登場人物達の心、そして時にそれでもなお立ち上がる決意が描かれる。 世界の非情さと人間の意志を力強く描いた良作。 1スレ目 8479 教科:生物 【2010年にpropellerより発売されたゲーム「エヴォリミット」において、 主人公、不知火義一に移植された心臓のドナーは以下のうち誰?】 1. シャノン・ワードワーズ 2. ツナミ・カラニコフ 3. 皇 千慧(ホアン・チェンフイ) 4. 鷹星カズナ(たかぼし かずな) +... 答え:3. 皇 千慧(ホアン・チェンフイ) 義一に移植された心臓は「ココロ」という人格を持ち、義一と精神世界で会話することが可能だった。 このココロこそが生前の千慧であり、このことが後に彼女の兄と義一の因縁となる。 エヴォリミットは生物、とみに人類の可能性を「進化」というキーワードで括った物語。 百年間のコールドスリープから目覚めた主人公が目にしたのは、「進化の力/パッチ」を得た人類の高度文明。 しかし、あまりに強大な力により、逆に人類の文明は停滞してしまっていた。 高度故に停止してしまっていた人類に対し、進化を停めるなと襲い来る「災害」を名乗る怪物達。 彼らは百年前の主人公の仲間、「カラミティ・モンキーズ」たちだった。 諦めず、挫けず、皆で協力し立ち向かう。 「災害」をはねのけ進化する人類の姿が描かれる。 特に最後のルートでの百年前の仲間たちの見せ場は最高。流れを知っていても余裕で号泣できる。 友情、愛情、そして憎悪。超人たちのエゴとエゴがぶつかり合う様子は、しかしただの人間のそれと相似している。 20世紀のSFが好きな人は特にハマるかも。 クリア手順はカズナ→リーティア→雫を推奨。
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それがどれほどの悪夢だったのか、美優には想像できなかった。 ただ、そこほでのことがあれば、世界を滅ぼして自らの望む世界を作るなんて事を考えてしまうのかもしれないな、とは思った。 レン「つまり貴様は、我々の世界でも、この世界でもない別の世界の人間だというのか?」 エラーズ「ええ。この世界のように魔法なんてまったくない世界。それが私の出身です」 エラーズが生まれたのは、魔法や神秘などとは程遠い世界だった。高層ビルが立ち並び、ネットワークが世界を包み、それでも諍いはなくならない世界だった。 魔法や超能力など、存在しない。はずだった。 だが何事にも例外はあったのだろうか、彼の世界にただ一人だけ、魔法のような力を持つ人間が現れた。その人物は自分の能力を研究し、それを子供達に植え付けることで広げ、世界を改革できないかと考えた。エラーズは、その子供の中の一人だった。 無論前例のない実験と言うこともあり、数多くの失敗があり、失敗の数だけ子供達は死んだ。エラーズはたまたま生き残ったうちの一人だ。 それでも、ある程度実験が進めばそういう事故も失敗も減った。子供達の間にも友情や連帯感というものが生まれ、研究施設での生活はそう悪いものではなかった。 ある日……子供達のうちの一人の能力が暴走するその日までは。 暴走した力により施設は壊滅したものの、幸運にもその事故による死者はでなかった。ただ一人、力を暴走させた子供が行方不明になった。 それから彼らは最初の能力者――彼らは『母』と呼んでいた――と共に、各地を転々としながら研究を続けていった。しかしその生活が数年も続いた頃、次々に研究員や仲間達が襲われることになる。犯人は、暴走させた子供だった。 それから色々あって……エラーズは一度だけ、その子供――『彼』と会話をした。 『彼』の目的はただひとつ。その世界から『母』の力を駆逐することだった。『彼』は自分の力を憎み、『母』を憎み――かつての仲間達を、ただ普通の生活に返したかったのだった。そして、ただ一人助けたい人が居た。 それからエラーズは、『彼』と会うことはなかった。その前に、事故で異世界に吹き飛ばされていたのだ。そうして、数年かけてようやく自分の世界に戻った時、そこは何も変わらず、そしてエラーズの知る世界ではなかった。 その世界には実験によって死んだはずの子供達が存在し、『母』はおらず『彼』が救いたかった人も存在した。 なかったのは、『彼』とエラーズの姿だけだった。 その世界を見たエラーズは悟った。『彼』は目的を達成し仲間達に普通の人生を送り消えていったのだと。不幸にもエラーズはその際に異世界に飛ばされていたせいで、元の生活には戻れなかったが……エラーズがそれを後悔することは、なかった。 己の全てを犠牲にして、多くの幸福を取り戻した人が居た。それをせめて自分だけが覚えていられるのならそれは幸運だったと思うのだ。 エラーズ「けど、思うんですよどうしても。私と『彼』は別段親しい間柄ではなかったですが……『彼』は果たして、幸福だったのでしょうか?」 それは永遠に答えの返ってこない問いかけ。自分の目的を達し願いを叶えた男は……果たしてそれで満足したのだろうか。ただひたすらに自分に絶望し続けた人間は、果たして最期には自分を許せたのだろうか。 自分が死ぬために生き続けた果てに何を見たのか。エラーズはそれが知りたかった。 願いを叶えることで本当に人が幸せになれるのか、ただそれだけが知りたかった。 美優「それで……それを知って、あなたはどうするんですか?」 エラーズ「そうですね。可能であれば『彼』が生きて幸せになる世界を見てみたいですね。彼には恩も義理もありませんが、誰かの不幸の上に世界が成り立ち、そのことを本当に誰も知らないなんて、納得できないでしょう?」 レン「その為にその『彼』が守った人々が犠牲になる可能性があるとしても、か?」 エラーズはすっと、その面を外した。 その下から現れた顔に、美優とレンは息を呑んだ。 エラーズ「その全てを背負う覚悟はある。この左目は、その世界に埋めてきた」 顔の大きな傷をそっと指でなぞるエラーズ。そこにどれほどの想いを込めたのか。 レン「なぜそこまで知ろうとする? そこまでして知るべきことなのか、それは!?」 『単剣二刃』レンが床に剣を突き立てると、剣から二筋の光の斬撃が突き進む。エラーズは体を大きくそらすと、両腕を鞭のようにしならせ、迫る斬撃に正面から叩きつける。衝突した力と力は渦を為し、破裂する。 戦技と呼ばれる、エラーズ含む子供たちが習得した戦う術だ。『母』から受け継いだ力は特殊魔法のように一人一種類の力しか発揮されないが、その力を体の中にめぐらせることにより体に鋼以上の硬度を与えることができる。 美優「『鏡界回廊』!!」 ずらりと廊下一杯に鏡がそこかしこから現れる。美優の魔法『鏡界』は、鏡を生み出す魔法だ。生み出した鏡には様々な効果を付与することができるが、その条件が高度になるほど鏡の耐久度は低下する。 その中の一枚を狙って、美優は雷を走らせる。『反射した魔法の威力を増幅する』鏡に反射した雷は、威力を増してエラーズへ向かうが、落ちる木の葉のような動きでかわされる。そこに、鏡の陰からレンが現れ鋭い一撃を放つ。エラーズはそれを、手近にあった鏡を引き寄せて弾く。 エラーズ「知るべきかどうかは分かりません。ただ、知る義務がある、『彼』をあらゆる世界の中でただ一人覚えている人間として」 美優「けれどそれは、悲劇を繰り返すだけになるんじゃないですか? そんなの、悲しすぎます!」 鏡が一斉に砕け、光と散る。 レン「ミユ殿の言うとおりだ、一度過ぎた悲しみをなぜ繰り返さなくてはいけない。それも、同じ人間でありながらそれらはまったくの別人なんだぞ!」 レンとエラーズの蹴りがぶつかり合い、光が刃となって降り注ぐ。 エラーズ「己の間違いは百も承知しています。ですがそれを知らなくては、ファイバーの結末も私は知ることができないのです」 レン「何っ!?」 刃を数本肩に受け、傷を負いながらも二人から距離を離すエラーズ。 エラーズ「ファイバーも『彼』と同じ結末を歩むつもりです。彼は世界の礎をその体に受け入れ、世界そのものとなって彼の意識は消滅します。ただその目的を達して。それが果たして幸福なのか、私はそれが知りたい。ただ一人の友人として」 エラーズは握った拳を前に突き出す。そこに込められたのは、ひとつの覚悟。 エラーズ「かつて世界から放逐された存在として、今度こそ全てを見届けたいのです!」 そこにどれほどの力が込められたのか。もはや光として視覚できるほどに集められた力を、拳ごと床へと叩きつける。 不可視の渦となった力が、暴力的な荒々しさで廊下を埋め尽くしながら突き進む。 レン「く……止められるか!?」 剣に魔力を込めるレン。その前に立ちはだかる影。 レン「ミユ殿!?」 美優「レンさん、下がっていてください!」 二人を包むように鏡を三枚、錐を成すように配置する。ただひたすらに強度を高め、迫りくる暴威を迎え撃つ。 ドン! 全身が痺れる程の衝撃が二人を飲み込んだ。 美優「あなたが……あなたが、どんな決意でそれだけのことをするのか、私には想像することしかできません。たぶん、一生理解できません」 ピシ、と鏡にひびが入る。鏡がたわみ、しなる。 美優「ワタシもそういう人を知っています。ずっと、自分のことが分からなくて苦しんでいる人を。その人は、他人のためにしか一生懸命になれなくて、自分自身のことなんか、あんまり気にしてくれない人です。知りたいことが知れなくて、そんな自分がもどかしかったのかもしれません。それを埋め合わせるために、他人の力になろうとしていたのかもしれません」 レン「ミユ殿、それはまさか……」 鏡全体に大きく亀裂が入る。ぱらぱらと二人の頭に鏡の破片が降り注ぐ。 美優「でも……その人はちゃんと守るべきものを持っていた! 知るために他の全部を棄てるようなことだけはしないでくれた! お兄ちゃんは、ずっとワタシ達を守ってくれてたんです!」 鏡が、砕け散る。破片へと散った鏡は暴威の渦に飲み込まれ、力はかろうじて鏡に守られていた二人を飲み込まんとうねりをあげ――弾け飛ぶ。 美優の鏡に与えられた属性は『力の拡散』粉々に砕かれ暴威全体へばら撒かれた鏡は、その力を一気に拡散させてしまった。 美優「そのお兄ちゃんが、やっと自分のために戦おうとしているんです。あなたにはあなたの戦う理由があるように、ワタシにもとても小さいけれど、戦う理由があります」 エラーズ「……それは?」 美優は、小さく息を吸い。 胸を張って、答えた。 美優「やっとワタシたち家族がみんな前を向いて歩き出せそうなんです。その未来を、こんなところで終わらせたくなんて、ありません。こんなところで終わっちゃったら困るんです」 レンは言葉を失った。 そういえばと、いつだったか大翔が稽古の合間に言っていた言葉を思い出す。美優は一番我が侭だと。道を間違えない我が侭が、そのまっすぐさが羨ましいと。 なるほど、とレンは納得した。 戦う理由は千差万別。レンも、世界のためというよりはユリアのためにここで剣を振るっている。 小さなものだと思う。世界という大きな舞台の中で、あくまで小さな理由で戦う自分達ほどちっぽけな存在はないだろうと。だがそれを悪いとは思わない。敵も味方も、ただ自分の意地を通したいだけなのだ。それがたまたま、世界を滅ぼすか守るかという違いとして現れただけ。 美優「だからこの世界は終わらせません。だからごめんなさい、あなたの願いは、潰します」 その我が侭を押し通す。それが美優の戦う理由だった。 別に俺はファイバーがどんな願いを持っていようと、それを達成しようがしまいが本来は関係ないんだ。ただこの世界を滅ぼすとか言い出すから止めなくちゃならないだけで。どっちにしろ我が侭を押し通すことに変わりはない。 だから、そこにどんな理由があっても――俺はこの拳を下ろすことはない。 大翔「他の連中は、生かすために、お前は、殺すために。その為に新しい世界――正確には、その礎が必要だってのか」 ファイバー「その通りだ。もはや姉は通常の手段では殺すこと適わぬ。世界の一部として組み込まれ、それでも世界とは別の存在である以上、その世界を砕いたところで彼女の存在だけは混沌の海に残ってしまうのだ。殺すためには、こちらも世界となり、あちらの世界のシステムに干渉せねばならぬ」 ファイバーが殺したい人物――殺さなくてはいけない人物というのは、ヤツの姉のことだった。 その人は今、ユリアさんの世界の辺境の奥地で、生きず死なず、ただ存在し知覚し記憶をため続け、しかし何の反応もできないまま磔になっているのだそうだ。 事の起こりはファイバーが子供の頃。 彼の村が日照りにさらされ、雨が降らなくては村が全滅というところまで追い込まれたことに始まる。そこで彼の村は、生贄を差し出すことになったのだという。 ちなみに生贄だが、ユリアさん達の世界では実際に効果があるらしい。通常魔法と世界を流れるエネルギーにうまく干渉することで一時的な天候操作が可能なのだとか。ともあれ、話の流れからも分かるとおり、それに選ばれたのがファイバーだった。 だがその時の二人はまだ幼かった。その為、姉にだけそのことが告げられ、ファイバーには何も告げられなかった。せめて全てが終わるまでは、という村人の情けだったのだろう。それが裏目に働くことになるとは誰も思わなかっただろう。 間は省く。結論だけ言おう。 ファイバーは不運にもその儀式を目撃し、魔力を暴走させて儀式を妨害した。意識が朦朧としたまま村人を悉く殺害、村は壊滅。そして生贄にされていた姉はといえば、儀式の最も深い部分で中断された上にファイバーの魔力の煽りで異変を起こした。 先も言ったように通常魔法で世界を流れるエネルギーに干渉するのが生贄の儀式なわけだが、それが更に深い部分まで干渉してしまった。ファイバーの姉の存在そのものが世界と繋がってしまった。姉は人間でありながら、世界そのものともいえる存在へとなってしまったのだ。 世界は喋らない動かないただそこにあるのみ。年をとらなければ傷つくこともない。そういう存在になったのだという。 それはもはや生きてるとはいえない存在である。まるで植物状態のように、しかし目の前のものを知覚し記憶も記録される、のだそうだ。そういう人間としての機能は残っているらしい。 それがどれほどの苦痛なのかは想像してみるといい。例えば、ベッドに括りつけられて目の前の光景をただひたすらに見せられ続ける。まあ苦痛を認識しても苦痛と感じる感情が存在しないのだが。 それがどれほどの地獄かは分からない。だが大切な人をそうさせてしまった責任にファイバーが狂おしいほどの怒りを己に覚えたことだけは事実だろう。 もはや姉を人に戻すことも殺すことも適わない。世界の一部となった存在をどのように引き剥がせばいいのかなんて想像もつかなかっただろうし、彼女は世界であり世界を一人の人間が壊すことなどできない。たとえ肉体をばらばらにしたところで彼女という存在は消滅しない。ばらばらのまま生き続ける。 けれどどうにか……どうにかしなくてはという焦りだけがあったんだと思う。 その気持ちはたぶん俺にもよくわかる。だけど、でも……なんかな、すっげぇムカつく。 大翔「ふっざけんなよ、お前!」 身を低くしてファイバーの前まで一気に踏み込む。床を強く踏みしめ、足から伝わるエネルギーをそのまま拳へと伝える。腕を捻りながら、渦巻くように体を捻り手刀で喉を狙う! ヂャッ! 指先が頬を削り、血が舞う。それを横目で見送って―― ファイバー「ぬぅん!」 丸太のように太い脚が振り下ろされる。それを前に飛び込んでファイバーの股下を潜り後ろに抜け、両手をついて体を縮め、全身をばねのように跳ね上げて両足でその背中を蹴り上げる。響く鋼鉄の音。それにあわせて全身を包む悪寒。その場を転がる俺を追うように、風の槌がドン、ドン、ドンと振り下ろされた。跳ね起き、跳んでかわす。 大翔「世界に直接干渉できるのは世界だけ――だからお前は世界になって、ユリアの世界の法則に干渉する。それが世界を滅ぼすことになると知っていてもそうする。あとはその体を核に新しい世界を作って仲間の連中の望む世界を創造する。それはいい、それは理解した、それはたぶん俺にも分かる。けど、けどさ……」 理解できないこと。したくないこと。 ファイバーのやろうとしていることは納得ができない。この世界を滅ぼして、異世界を滅ぼして、自分の願いだけかなえて。そんなの納得がいかない。それはたぶん、俺の世界が巻き込まれているから、だと思う。俺は聖人君子じゃないから、きっと自分の世界が巻き込まれていなければファイバーが何しようが気にしなかったと思う。ユリアが直接頼みに来たのだとしても、たぶん。そういうのは、どちらかといえば親父のやっていたことだ。俺は親父のようには、きっとなれない。俺はもっとちっぽけな人間だ。 だから、ファイバーのやろうとしていることで俺が許せないのも、すごく、ちっぽけで、頭の悪い理由で。 だけどそれでも、認めたくないことなんだ、俺にとっては。 大翔「お前結局、その姉さんを独りぼっちにしてるじゃねえか! お前は生きるべきなんじゃないのか、そこは!?」 ファイバー「なにを、わけの分からないことを!!」 炎が逆巻く。吹き付ける熱風から両手で顔をかばう。 炎とその先にいるやつを睨みつける。ああ、そうだろうさ、分けわかんないだろうよ。俺にだって、きっちり説明できない。 大翔「お前……お前らの夢は何で全部そこで途切れちまってんだよ、何でそんな願いばっかり抱えてんだよ! お前らがそれで満足したって結局誰も幸せになってないじゃねえか!」 どいつもこいつも過去に苦しみを抱えて苛まれて、そして見た夢が『自分の代わり』だった。自分が幸せになる方法を、その道を見つけられなかったから、自分じゃない誰かにその先を委ねた。放り投げた。逃げ出した。 大翔「そんなに幸せになるのが怖いか! 過去の連中の負い目抱えて罪に塗れて罪悪感を背負い込んで、幸せになるのがそんなに怖いのか!?」 ファイバー「知った口を叩くな小僧! 貴様に分かるのか、大切な人の想いを抱えさせられ、罪を背負い、それを更なる罪でしか拭えぬ気持ちが!」 炎の中から現れたファイバーが拳を振り上げる。風を纏った一撃は轟と空を裂く。腕で払い上げ懐に隙を作り、 大翔「わかんねえよ! けど俺は、誰も幸せになれないのにその為に戦うなんて、認めたくないだけだ!!」 密着するほど接近し、両掌を揃えて突き出す。腕が震え背中に突き抜ける衝撃の全てを叩きつけ、その巨体を押し返した! ドンッ! 大砲のような音が響き、ファイバーが大きく吹き飛ぶ。 大翔「はぁっ、はぁっ、はぁ……は、初めてまともに決まった……あ、今のうちに、ユリアを……!」 緊張の糸が切れて力が抜けそうになる膝を叱咤し、ユリアに駆け寄る。まさか今のでファイバーを倒せたとも思えないが、ノーダメージなんて事はない……と、思いたい。 大翔「よう、ユリア。久しぶり」 ユリア「ヒロトさん……その、私、その、あの!」 何か口にしようと必死になっているユリアを軽く撫でて落ち着かせる。大丈夫。無理をしなくてもいい。 俺は急いでユリアの縄を解く。解放されたユリアは、両手をついてうなだれるようにして言った。 ユリア「私……今まで自分勝手な気持ちを隠していたのかもしれません。それに、あなた達を巻き込んでしまって……」 大翔「そんなこと、気にしなくていいって。たとえユリアがどんな気持ちでも、俺達と一緒にいた日々は嘘じゃない。そうだろ? ならそれでいいと俺は思うよ。それに最初に俺が言っただろ、好きなようにしろって」 ユリアは小さく、けどしっかりと肯いた。やれやれ、助かった。 ユリア「と、ところでヒロトさん……その、呼び方……」 大翔「うん、呼び方がどうかした?」 ユリア「いえその、だからですね、なんといいますかその……」 しどろもどろになりながら俺を見上げた――瞬間、その顔色がさっと青ざめた。 ユリア「ヒロトさん、後ろ!!」 大翔「っ!?」 その叫びに振り向く俺の肩が硬いごつごつとした感触に掴まれる。更にもう一組の腕が、俺を組み伏せた。 ユリア「ヒロトッ!! あうっ!?」 叫ぶユリアの腕を捻り上げる影。それは……なんだ、こいつは!? ファイバー「岩人形……俺の特殊魔法『魂吊』は、無生物に命を吹き込むことや、その逆が可能だ」 たま……つり? それがファイバーの特殊魔法、切り札か。油断した。 ということは学園の入り口で俺達を襲ってきた人たちを操っていたのも。いやまて、そうなると、つまり何か。あの人たちは全員……死人? ファイバー「少々油断したが、貴様の負けだ。さて姫君、この小僧の命が惜しければ我々に協力してもらう」 ユリア「な……んですって!?」 大翔「てめえ……最初からそれが目的か!」 ファイバー「その通りだ。姫君が己の命と引き換えの取引を要求したところで答えないことは分かっていた。それならば、取引の価値のある相手を用意するだけだ」 つまり……俺は最初からユリアの人質としておびき寄せられたってことか。 くそ、完全に人のこと舐め腐りやがって! ファイバー「魔法は使うな。そのそぶりを見せれば、即座に小僧の命はない。小僧貴様もだ、動けば、姫君の命はないぞ……?」 大翔「は、なんだそりゃ。お前ら、ユリアの協力が必要なんじゃないんか? だったらそんなことできるわけがないだろうが」 ファイバー「だがそういっておけばお前は動けない。俺が姫君を殺さない保障はどこにもないからな。姫君がいなくてもこの計画に支障がないと、貴様にはその保証がない」 ああ畜生その通りだよクソッたれ! ユリアの協力がなくてはこの計画が完成しないのなら、俺は無理にでも動ける。ユリアを殺すことがヤツにはできないからだ。だがそんな計画、本当に立てるか? この世界で行った計画に必要なファクターとして異世界人のユリアを加えるなんて、普通はしない。だからユリアの存在は必要なのではなく有用、そう考えるのが妥当だ。となれば、ファイバーは躊躇いなくユリアを殺すだろう。 大翔「ユリア、聞くな……! 俺と世界のどっちが重要かなんて分かりきってることだ!」 ファイバー「その通りだユウキヒロト! だが思い出せ、姫君はこの世界に何をしに来たのか。タイヨウの死に報いるためだ、そのために来たというのに果たして姫君にお前を見捨てることができると思うか!?」 大翔「それでも守らなきゃいけないもんがあるだろ、ユリア!?」 その言葉に、ユリアはなぜか顔を青ざめさせ、瞳を大きく見開いた。まるで何か重大な事に気付いてしまった、そんな表情だった。 なんだ……どうしたんだ? 怪訝に思っている俺の目の前で、ぽろりと、一粒だけユリアの瞳から涙が零れた。 そして、きっとファイバーを睨みつけたユリアは、 ユリア「私を殺しなさい、ファイバー。そしてヒロトを解放しなさい」 静かに、とんでもないことを言い出した。 大翔「おい、ちょっとま――ぐっ!!」 岩人形達に頭を押さえつけられ、口をつぐまざるを得なくなった。くそ、邪魔だよお前ら、どけ! 起き上がろうと足掻くが、その体の重さには敵わない。 ファイバー「変わったことを言うな姫君。それでは俺は骨折り損ではないか、君の協力は得られず、敵一人をのうのうと生かすなど。君を殺すのならば小僧も殺す。小僧を生かしたくば我々に協力するほかないぞ」 ユリア「………………………………、ヒロト、ごめん」 その謝罪の言葉に、血の気が引いた。たったその一言で彼女がどういうつもりなのかを理解してしまった。 嘘だろやめてくれ。そんなの間違いだって分かってるだろ? そんな辛そうな顔をするならなんでそんな……! ユリアはゆっくりと俺から離れていく。その背中を、視線だけを動かして追う事しかできない。ああ自分が不甲斐ない、俺が弱いなんて事今更だ、でもそれでも今はこうして這い蹲ってるのはだめだそんなの認めない、今この瞬間は、俺が弱いなんてそんな事実で現実を受け入れられない。 それじゃあ何も守れない。守りたいものが守れない。 大翔「ぐぅ……うぐ、ああああああっ!!」 ファイバー「無駄だ、人の力で岩人形を押しのけることはできん」 魔法を使うな、力は足りない。じゃあ今俺にできることは何だ、どうしたらユリアを止められる!? 大翔「――ユリアッ! やめろ、そんなの……お前、それでいいのか!?」 ユリア「……でも私には他に、どうしたらいいのか、分かりません……どうしたら、あなたを救えるのか……」 大翔「俺の、事なんか気にしてる場合かよ……っ、このままじゃ、この世界も、お前の、世界も……!」 ユリア「それは分かっています! でも、でも……気付いてしまったから……私がこの世界で一番守りたかったのは、私がこの世界に来た、本当の理由は――!!」 ユリアが悲壮な顔で言葉を続ける前に、突然、ごばぁっ! と何かが砕ける重い音がして、唐突に背中が軽くなった。ユリアとファイバーの顔が、同時に驚きに染まる。怪訝に思う俺の前に、ごとり、と落ちてきたのは岩人形の頭部。その頭には、槍投げの槍を短くしたようなものが突き刺さっていた。どうやら、これが岩人形の頭を貫いたらしい。 よし、今なら! 俺は衝撃に揺らめく岩人形の拘束から抜け出し、もう一体の岩人形の頭部を蹴り飛ばす。人の形を失ったらもう操れないのか、それきり岩人形は動かなくなった。 ファイバー「ちぃ、貴様っ!!」 悪寒を感じて振り返ると、ファイバーはその手に巨大な雷球を生み出していた。人一人なんか簡単に焼き殺せるのは間違いない。俺はといえば、すぐに動ける体勢ではない。 終わる――!? 俺は死を覚悟し、ファイバーが雷を放った瞬間。 ユリア「だめぇっ!!」 ユリアの風が彼女を拘束していた岩人形を吹き飛ばし、その風に乗って彼女は俺の前へと飛び込む! っておいこらちょっと待て、そのタイミングで割り込んだら……! ユリア「ヒロトは……ヒロトは私が守りますッ!!」 両手を広げて、俺の前に立ちふさがるユリア。その体にもはや風はなく、守るものは何もない。その体で守るのは自身の命ではなく俺の命。 ああ――なんで、こんな――俺はいつも、守られてばかりで。 世界が、ざあっと色を失った。目の前の光景が異常にゆっくりと流れていく。 このままではユリアは為すすべなくその身を焼かれてしまうだろう。俺はその背中を見ることしか、できない。 ……本当に? なあ、本当にそう思っているのか、結城大翔。思い出せよ、お前の願いと、お前の親父の願いを。お前の親父がお前に託した願いを。 言ってただろ、親父は『僕は生きた』と最期に言っていたと。なあ、何でそんなことを親父はいったんだと思う? それはな、親父が最期まで自分らしく生きたからなんじゃないかって、俺は思う。親父はたぶん、問いかけの答えを見つけたんだ。親父は自分の命をかけて、夢あるものの夢を守ろうとしたんだ。 夢。願い。希望。 お前も――俺も、その一人だろう? 親父に守られた、その、一人だろう? 記憶が。俺の中の記憶が、湧き出す。 俺は親父の最期を……ああ、そうだったんだ。だから俺は、自分の魔法を信じられなくなった。そういうことだったんだな。 俺は――一度だけ、ユリアの世界を訪れたことがあった。 最後のたび。最後の、時間。それは、親父が死ぬことになった、最後の日のこと。 俺は親父をずっと待っていた。あれは、町外れの丘の上だったか。高い樹が一本立っていて、街を眺めることができる高さにあった。その場所からは、王城もよく見えたものだ。 その日親父はやることがあるといって、朝から俺をそこにおいて一人で街へ行っていた。俺は昼過ぎても戻らない親父に少しの不安を覚え、街へ行くかどうか悩んでいた。そんな時だった。親父が女の子一人を抱えてやってきたのは。 親父は気絶したままの女の子を俺へ預けて隠れるように言うと、後から追ってきた男と戦いだした。それは今までに見たことのない親父だった。力強く、荒々しく、雄雄しく戦う親父は、いつもの優しい雰囲気とは違ったが……それでも、だからこそ、俺はその姿に見入った。 だが親父の形勢はだんだんと悪くなっていた。原因は分かっている。俺達が隠れている場所へ間違っても敵の攻撃を飛ばさないためだ。俺は恐怖にさらされながら、ただ女の子を強く抱きしめた。その温もりがなくては、俺は泣き叫んでいたかもしれない。俺は守っているはずの女の子に、目の前で戦う親父に、守られていた。 そして、男が勝負をかけた巨大な一撃。親父はそれから俺達を守るために正面から立ちはだかり……倒れた。 男も俺の存在……というか、そこに何かが隠されているのをうすうす察知していたのだろう。こちらへとゆっくり歩み寄ってきた。俺はただ声もなく震えていることしかできなかった。 だがしかし、そこで街の方から大勢の鎧を着た人たちが駆け寄ってきた。男はそちらを睨み舌打ちすると、親父を一瞥してその場から消えた。 俺はただ何もできずに、その鎧の人たちに保護された。ぼんやりとした頭で事情を話すと、鎧の人たちは涙を流しながら、口々に俺と親父に礼をいい、俺を手厚く保護してくれた。 親父が死んだという報告を受けたのは……それから、しばらくしてのことだった。俺はその間中ずっと、ただうつむいていた。 それからしばらくして……俺は、迎えに来た乃愛さんに抱きついて、その世界を後にしたのだ。 俺は、隠れている間ひたすらに怯えていた。怯えるだけで何もできなかった。魔法という力なんか何の意味もなかった。そんなもの関係なくただ俺は弱かった。 なら……どうせ弱いのなら、役に立たないのなら、俺の存在は、魔法は、意味なんかないと、そう思った。 だから、親父の葬儀の時に涙を流す妹達を見ながら、俺は誓った。魔法なんかなくたって俺が妹達を守ってみせる。家の事だって全部やるし親父達の代わりだって努めてみせる。役に立たないものには、最初からすがりつかない。 そう、雨の公園で震えながら誓う俺に声をかけてきたのは――あの時の、女の子だった。 女の子は言った。雨の中で空を見上げる俺を見て『泣いているみたい』と。何を馬鹿な事を、と思った。俺は泣かない。泣くわけがない。 だって俺は何もできなかったんだから。見ていただけだったんだから。今泣くくらいなら、あの時動くべきだったんだ、俺は。そう思った。 でも、それはたぶん、違った。 親父が守ったのは俺の命と女の子の、ユリアの命だった。でもそれ以上に守り通したものがあった。 『他人の夢を守りたい』という、親父の願い。悩んで悩んで悩み続けて、それでも親父はきっとそれを守り通した。そうして『生きた』んだ。 たぶん、そういうこと。親父が最後、こちらを振り向いて笑ったのはきっと、そういうこと。 だから、あの言葉も。 『だから君も生きてほしい』 俺は俺の夢を精一杯生きてほしいと、たぶん、そういうこと。俺の夢、俺の願い。そして今も『生きている』 親父が守った夢は、今もこうして生きている。俺達はこうして夢を見て、願って生きている。 さあ立て、結城大翔。お前がここでやらけりゃ、親父が守った夢が消えちまうぞ。それよりも何よりも、俺の夢が消えちまう。 俺の願いは何だ? 家族を守る、家族がいられる場所を守る。 『幸せを守りたい』 ただそれだけだ。単純でそれだけに難しい願いだ。幸せって何だ、どうやって守ればいい? そんなことは分からない。でもひとつ分かっていることがある。 目の前のこの女性を失うことは、絶対に不幸だ。 だから、いつまでも意地張るのはやめよう。そうだ、俺の魔法を思い出そう。 そうしなけっりゃ――今度こそ、両親が俺に伝えてくれた全部、意味のないものになっちまうから。 だから、さあ。 俺の魔法よ。全てを貫く『貫抜』よ――この目の前の彼女の危機を―― 覚醒は、一瞬。発動は、刹那。 大翔「貫けええぇぇぇぇっ!!!!」 右拳を突き出す。その先から溢れた力が、ユリアの目の前の雷球を貫き吹き飛ばす! ファイバー「何っ、馬鹿な!?」 俺はユリアを後ろから抱きかかえ、ファイバーから大きく距離をとった。にやりと不敵な笑みを浮かべてみせる。 ユリア「え、な、ヒロト!?」 突然の自体にユリアも混乱している。俺は肩をぽんぽんと叩くと、その前に立った。 大翔「思い出したぜ、俺の魔法、俺の過去。全部全部、ようやく取り戻した――これが本当の、俺の全力だ」 ファイバー「……今までは、全力ではなかったと?」 大翔「いんや、全力だったさ。ただ、制限がかかった全力だったって事だ。こっから先は制限抜き、今までとは一味違う俺が楽しめるぜ」 ファイバーはふん、とはなで息をすると、そこらに転がった瓦礫から岩人形を作り出した。これでお互いに全力、ていうことか。 いけるだろうか、今の俺に。たとい魔法を万全に使えても、やつの実力が俺より高いのに違いはないのだ。 大翔「ユリア。さっきなんかしようとしてた事は後で怒るとして」 ユリア「あうっ、や、やっぱり怒ってますか?」 何を当然のことを。正直言っちゃってさっきの行動はかなーりトサカに来てますよ。 まあそれだけ大事に思われるのは男の子としては悪い気分はしないものの、やっぱり総合的に見ると納得はいきませんですはい。 とはいえ、そのおかげで記憶が全部帰ってきたといえないこともないんだけどな。 大翔「ま、かるーくね。んでまあそれよりもまず。今はここをどうにかしないといけない。ユリア、いけるか?」 ユリア「――はい、当然です」 大翔「いい返事だ。んじゃまあ、さっさと片付けて家に帰るか!」 ユリア「ハイ!」 岩人形の兵隊がずらりと並ぶ。従えるのは屈強の戦士。立ち向かうのはお姫様と頼りない騎士。 実にファンタジーだ。それでもどれだけ現実味がなかろうと、ここにあるのは現実。 大翔「行くぜ、親父……あんたの夢、ひとつ潰すけど許してくれよ!」 ユリア「え……えぇっ!?」 ユリアの疑問後驚愕の叫びを後ろに聞きながら、俺は風に乗って一瞬で岩人形の群れの真ん中に飛び込んだ。 何も驚くことじゃない。通常魔法に必要なのは血と知覚。ユリアが美羽に通常魔法の基礎を教える場面を見ていたから知識はもう入っている。そして幼い頃にユリアの世界に行って、しかもあれだけ強烈な体験をしたのだ。あの空気を忘れないわけがない。 だから、本当は使えて当然だった。 大翔「まとめて……ぶち抜け!」 ぎゅるぁっ! 突き出された拳の先から力が溢れ、その先の岩人形の胴体が一斉に貫かれる。 特殊魔法『貫抜』の効果は、その名の通り対象を問答無用に貫く。一切の壁も合切の障害も許さない最強の矛。それが俺の魔法だ! 岩人形達を片付けるのには数秒で事足りた。ユリアが呆然と見ているのを感じながら、ファイバーと炎の中向かい合う。 ファイバー「なるほど……それが貴様の、全力か」 大翔「そうなるな。数年ぶりに使うけど……確かにこれが、俺の全力だ」 ちらちらと赤い火の粉が舞う。 ファイバー「その力、我々の障害になることは間違いないだろう。今ここで、貴様を潰す」 大翔「やってみろよ、俺はそもそもお前をここで潰す気満々なんだからな」 ドン! 床を蹴る音が同時に響き、俺達は激突した。 互いに風を操り、ありえない速度で正面からぶつかり合う。だが腕力では敵わない。俺はずるずると押され始める。が、 ユリア「炎、氷、雷、風、刃となりて我が敵を切り裂け!!」 ユリアの魔法が襲い掛かる。ファイバーは俺から飛びのき、光を放ちそれらを蹴散らした。そこへ『貫抜』を放つ。 ファイバー「ぬるい!」 俺の拳の動きを見切ったファイバーは身を屈め、床を砕きながら突進してくる。砕けた破片が雨のように降り注ぎ、視界の邪魔をする。その向こうから、太い腕が現れた。受け止めようとするが速さの乗った拳は受け止めきれずに額を強打され吹き飛ばされた。 駆け寄ろうとするユリアの足を狙って雷が放たれる。それをかわし、巨大な炎を生み出して放つユリア。炎はせり出した石柱に阻まれ、屋上全体に散った。 大翔「いってえ……くそ、次はこうはいかねぇ」 ユリア「ヒロト、大丈夫ですか? でも、どうして通常魔法を……」 大翔「その話は後だ。とにかく、今は……」 立ち上がり、拳に力を込める。いつの間にか貯水タンクの上にファイバーが立っていた。 ファイバー「我らの悲願――ここで潰えさせるわけにはいかん!!」 光が集まる。そのヤバさが桁外れだと直感が告げる。 大翔「やること、やんないとな」 ユリア「……はい」 ユリアの手を借りて立ち上がる。 大翔「お前の願いも分かるよ、けど何度も言うように、俺はそれを潰さなきゃならない」 ユリア「私の世界、この世界、そして……私の守りたいもののため、私の我が侭のため、あなたの願い、打ち砕きます!」 ぎゅっと手を握る。 何年も前にも感じた、この暖かさ。俺を守ってくれたこの温もり。 大翔「行くぞファイバー、これが、俺達の選択だ」 今度は、俺が守る。
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知らない、世界 暗い部屋の中、誰かがそれを覗いてた。四角い箱に押し込められた小さな映像盤。そこからはキラキラとした光が漏れてて、その誰かはそれに見惚れてた。 可愛いお洋服を着て、怖い魔獣と戦う女の子達。あんなふうになりたいなぁ、私にも出来るかなぁ。箱の中をじっと見つめてその子は胸に憧れを抱いた。 その子は私、トゥル・ミスルトゥ。ありきたりで、そこら辺の石ころみたいな、ちっぽけな女の子。魔法はたくさん使えないし、使えばすぐに疲れちゃう。周りの子たちと比べると少し後ろを歩いてたかも。 だから私は憧れた。夢に見た。いつも暗い部屋の中、箱の中の映像板を、二人で、一緒に、覗き込んで。 ――――まって。 少し開かれた窓、カーテンが風に揺れる。私は窓から射し込む光に「朝だよ」って照らされて目を覚ました。 何回目の夢だろう。私が上手に魔法を使えなくなってから少しして、私はこの夢を毎日見るようになった。そして私は何度も繰り返し、気が付くと13歳になっていた。 暗い部屋の中で、私の隣に寄り添っていた子の事を思い出す。夜の始まりから終わりまで、あの子はずっと私の隣に居て、気が付くとすぅっと遠くなっていく。それでもなんだかずっと近くに居るような気がして……。 「あの子はいったい誰なんだろう」 私は金色の長髪を梳かし、左右でまとめてから、学校の制服に着替えて、やっと居間の扉を開ける。そこにはまだ昨日の、私の為のささやかなバースデーパーティーの飾り付けが残されていた。 「おはよーぅ……」 まだ眠たい目を擦って椅子に座る。机の上には人数分の朝ご飯のお皿、私とパパと弟そしてママの分。ママはいつも朝が早くて、空っぽのお皿を残して仕事に行った。 「おはようトゥル。今日はいつもより遅かったね」 弟の口に着いた食べかすを拭きながらパパは時計の方へ目配せした。 「えっ……」 刻まれる秒針に合わせて鼓動が打たれる。血潮が引き、ひんやりとした感覚が心を支配していく。朝の低体温症というわけではない。確かに血の気が引き、冷や汗が流れている。 「いっ、いってきまーす!」 慌てて靴を履き、朝食のパンを口に加えたまま庭に置かれたピギーバックのハンドルに手を触れる。 そのハンドルに触れた瞬間、スッと身体から何かが流れ出る感覚がする。流れ出した魔力は私からハンドルを伝ってピギーバックへと流れていく。黄色の細身のフレームを持つ人形が立ち上がった。私はその背に背負われるように座席へと腰を沈めた。 「あんまり急ぎ過ぎるんじゃないぞー」 一目散に走り出した私のピギーバック、背後から投げかけられたパパの声が遠ざかっていく。 土の地面から石畳へ、木々と農場から煉瓦造りへ、ミーグリーヒルズの街並みが流れていく。モノクロの世界は私の視界の端を通り過ぎて移ろっていく。胸が次第に苦しくなる、呼吸が途切れ途切れになり始め、意識が宙に浮き始める。 ふらついて道端に寄せた時、後ろから声が近づいてきた。 「おーい、大丈夫ー?」 その声はだんだんと近付いてきて、そして通り過ぎた。そして私のピギーバックは魔力を流していないにも関わらず走り始める。もう一台のピギーバックに手を引かれながら。 「トゥトゥがこんな時間に登校するなんて珍しいんじゃない? 寝坊でもしたー?」 赤髪のショートカットが振動で小刻みに揺れている。 「そんな……感じ……」 彼女は私とは対照的にはつらつとしていて元気に話しかけてくる。だけど今の体調じゃあんまり耳に入ってこない。だけどナンシーが、アンナ・シンクゥがこうしてくれていることに安心が出来る。 結局私は1限目を保健室で欠科した。これじゃあ遅刻したのと変わりない。モノクロの天井に浮かぶ乾いた陽射しがやけに私を突き刺している。ベッドの上で私は無気力に光を睨みつけて全てを呪った。 どうして私はこんなにも魔力を扱うことが出来ないのだろう。そこにはとても大きな何かがつっかえていて、私はそれを探ることが出来ない。 「この様じゃ中等部まで入れてくれたのに、顔向け出来ないよぉ……」 結局私は2限目の魔法の授業でまた倒れた。 「おっす! 元気ぃ?」 そして迎えた放課後、私はこんなだからピギーバックでゆっくり帰ろうと準備していた所をナンシーに声を掛けられた。 彼女はこんな落ちこぼれでも友達にしてくれる優しい子だ。ナンシーだったり、パパやママ、それに大切な私の弟。こんなダメダメでも優しくしてくれる人がいるから、まだ笑顔でいようと思える。 だから私は笑顔にして応えた。 「まぁまぁなんとかね」 それを聞くと彼女は何かぱっとして、にっかり笑った。 「じゃーさ、カフェに行こう! 面白いところ見つけたんだ」 「えっでも私あんまり遠くまで動けないよ? 帰りに倒れちゃうのも嫌だし……」 私を友達として誘ってくれるのは嬉しいけど、素直な気持ちと裏腹に声のトーンはだんだん下がっていく。 「そんな気にしなくていいよ。これからも、帰りも、私が引っ張ってあげるよ」 私は多分、また露骨に変な顔をしちゃってたと思う。ナンシーはキョトン混じりに顔をむっとさせて、私をじっと見つめてる。嫌な気分にさせちゃったかなぁ。 「ううん、ありがとうナンシー。一緒に行こ」 だから私はまた笑顔にした。 青空と夕暮れの中間の空、陽の光に包まれて二人は並んでゆっくりと歩いていく。日々モノクロの世界でも、大切な人と一緒に居るときは、ちょっとだけ色付いて見える。 「でさでさーそのカフェの名前、魔法少女のくちづけって言うんだけどさぁ……」 これから行くカフェについて楽しそうに話すナンシー。 「まったく人生観変わっちゃうよなぁ」 私はあまり持ってないから、彼女に話すことは出来ない。それでも彼女が持っている、話してくれるもので私は私の知らない世界を見ることが出来る。それは広い世界を自由に見る事のできない私にとって――――。 「知らない、世界……っ」 息を呑んだ。 目の前の風景が犯されていく。極彩色のカーテンが開き、巨大な扉が開いていく。 ――――3、――――2、――――1。 色とりどりのカーペットが周囲に敷き散らかされる。踊り子は撓るように緩急を付けて揺らめき、うねり上がる。バイオリニストの大群が騒音を奏で、楽譜が風にたなびいた。 その姿は異形、まるで人間の形を著しく不愉快に変形させた姿。四つん這いは、悲劇のオーケストラを鳴り響かせるように背中のずらりと並んだ穴から蒸気を噴出させる。 「こんな街中に魔獣!?」 なんとかして都市同盟軍に知らせなければとあわあわしていた私とは違ってナンシーは魔獣を睨みつけていた。 「呪い魔獣ッ――――!」 ナンシーは制服の懐から一つの注射器のような物を取り出した。それはまるで2本の注射器を1本に束ねたようで、宝石のように輝いている。 彼女は制服の袖を捲り、それを左腕の紋様のような部分に指した。押し子が押され、赤とオレンジの液体が彼女の中へ流し込まれていく。 「一時の夢、幸せな時間、たとえその身と引き換えにしても……」 ほんの一瞬、それとも数時間か、世界が止まったような気がした。 「インッ……ストォーールゥッ!!!」 周囲の極彩色が瞬時に真っ白な閃光に包まれた。 それは先程の光を全て飲み込んでしまったかのようにそこに現れた。闇のような深い黒、艷やかさを持つその美しい黒。全てを魅了して取り込んでしまうのではないかと思えた。そして彼女の足下には血溜まりのように広がる黒いシミ。 まるで闘犬のようなその少女は、私に向かって一言こう言った。 「トゥトゥはそこで待ってて。すぐ片付けるから!」 「ナンシーなのっ!?」 私の驚きを他所に、彼女は高く高く跳躍し、魔獣を見下ろした。 「危ないから下がってて!」 そう言って彼女はまるで抜刀するかのように右手を大きく振り、黒い水滴のような弾丸を無数に召喚した。大気が痺れる、服が、髪が、オーラが、彼女の周囲が逆立ち始める。 「いっけぇ!」 弾丸は雷の軌跡を残して一斉に魔獣へと向かう。しかしそれは魔獣の、まるで壊れた金管楽器のような叫び声に防がれてしまった。空気が鋭く揺れ、地面に押し付けられる。 「ぐっ、今回のけっこうグロテスクだから近づきたくないんだよなぁ」 ナンシーはその両腕に黒い液体で鋭利な鉤爪のような物を形作った。 そして彼女の周囲からさらに、無数の黒い人影が現れる。それはまるでナンシーと同じシルエットのようであり、その数なんと20。 「遠距離攻撃が効かないなら、さっさと懐切り刻んでやる!」 周囲に鼻をつく強烈な臭いが漂い始めた。その臭いに思わず顔を覆う。 「この臭い、油だ!」 「でえぇぇぇぇぇえりゃあっ!」 ナンシーと黒い影達は魔獣を囲んで一斉に攻撃を始める。それに対し魔獣は手足を振り回し、影を潰していく。閃光と油が飛び散った。バイオリンの音はまだ響いていて、彼女を斬りつけている。 「やけにタフなんだけど……っ」 ナンシーが苦戦しているとき、魔獣の右腕がぶくぶくと、醜く変形し始めた。 「ナンシー、危ない!」 気が付くと叫んでいた。そして肥大化した腕が破裂して巨大なバイオリンの弓のような物が飛んでくる。それを彼女は間一髪で避けた。が、次の矛先が向かうのは。 私は腰を抜かしてその場に尻もちをついた。巨大なバイオリンの弓は私のすぐ隣に突き刺さっている。 「トゥトゥ!?――――ぐあっ!!」 彼女の視線が魔獣から外れたその瞬間、四つん這いのオーケストラは好機と言わんばかりにその腕で弾き飛ばした。勢い良く壁にぶつかり、苦しそうな空気を漏らした。 「ナンシー!」 私が駆け寄ろうと立ち上がり掛けた時、上の方から声が聞こえた。 「動かないでっ!」 そのあまりに激しい圧倒に私は硬直してしまった。そして聞こえてきた囁くような、それでいて単調な詠唱。 「火、射、単、T1、補正2、上位……」 周りがさっきまでとは違うような、熱のゆらめきに満たされていく。そして、 「放て」 その掛け声を合図に巨大な火球が魔獣へと降り掛かった。魔獣は油の弾丸の時のように音圧でそれを防ごうとしたが、火の勢いが弱まるだけで、それを止めることが出来ない。着弾の瞬間、魔獣は勢い良く燃え盛った。全身に付着したナンシーの油に引火したのだ。 悶え苦しみ、泣き叫ぶ哀れな鳴き声、そしてスタンディングオベーションのような拍手喝采、だんだんとフェードアウトしていき、最後には自分達が元いた場所に戻っている。 私は急いでナンシーの場所を確認した。自分から数メートル先で起き上がろうとしていた。 「ナンシー、大丈夫!?」 私が駆け寄った時にはもう立ち上がっていて、そこに落ちていた歪な魔石を拾っていた。 彼女は笑顔を私に向けて言ってみせた。 「全然大丈夫。それよりカフェ」 「そうだよね、こんなことがあったんだし後日日を改めて……」 そう私が言いかけた時、きっぱりと彼女は口にした。 「話さなきゃいけない事が出来た。今すぐ行くよ」 とても真剣な眼差しで私を見つめる彼女、私はとても信じられないという様子で目を見開いた。 「ぇ、ええーー!?」 そして微妙な雰囲気、二人並びまた歩き出したけれど、私達を助けてくれた人の姿はどこにも見当たらないのでした。 戦闘BGM ※流しながら読んでください
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問題集(もんだいしゅう)とは、クイズ問題を収録した書物のこと。大会や例会で使用した記録(スラッシュやレポート、優勝者手記など)を含むものは特に「記録集」と呼ばれる。 ここでは、愛好者間に流通する同人誌について扱う。商業流通するものに関しては市販本の項目を参照のこと。 概要 オープン大会やサークルの例会で使用した問題、また自作の問題を編集したものなどが1冊にまとめて本にされる。 現在制作され流通しているものの多くはB5サイズ・横書きである。 かつては文書を印刷・コピーしたいわゆる「コピー本」が多かったが、近年は同人誌の印刷業者を通したオフセット印刷のものが主流になっている。 近年はより手軽に出版可能な電子書籍としての販売も多い。 ページ数は十数ページ~百ページ超まで様々、価格も数百円~千円を超えるものもある。 入手するには 入手するには、主に以下の3つの手段がある。 オープン会場などでの購入オープン大会などの人が集まる場では、発行者が問題集を売っている場合が多い。 通信販売問題集・大会DVDの通販を行っているサイトにて購入する。専門サイトではクイズ宅配便(https //q-tak.com/)、一般サイトではBOOTH(https //booth.pm/ja)が主に使われる。 ダウンロード日本クイズ図書館(https //quizlibrary.wixsite.com/quizlibrary)では、PDFファイルの形で過去の問題集を配布している。 この他、知人から譲り受けたり、許可された範囲でコピーするという方法もある。 オープン大会では参加者に配布されることもある。その場合、記録は後日発売の映像ソフトのみとなる場合が多い。(abc、×[BAD]など)
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とある頭痛薬の半分は優しさでできているそうです。 なので皆さんも、もう少し私めに優しくしてくださったりなどは……あ、はいそうですか、してくれませんか。 では参りましょう。はい、せーの。 「ぎゃぁぁぁっ! く、口の中で死霊の阿波踊りがあぁぁっ!?」 「ちょっと兄貴、病人なんだから静かにしてよ!」 まさに恐怖! まさにクレイジー! 「つうかこれのどこが健康食だ!? 明らかに健康を損なう代物以外の何物にも見えないぞ!」 確かに俺は全身凄まじい勢いで打撲やら骨折やらありますよ。病人というか怪我人です。しかも一刻も早い治療が必要だ。確かにそれはそうだ、認めるところだ。だがしかし、これだけは認めない。断じて認めない! 「おかゆにサプリメントやら栄養ドリンクやらぶち込むとか、アホか、アホの子なのかお前!?」 「な、なによ手っ取り早く栄養が取れそうだからいいじゃない!!」 喧々囂々とはまさにこのこと。ていうか怪我人に怒鳴るな叩くな。お前は俺を治したいのかベッドに縛り付けたいのか、どっちなんだ? 俺はため息をつきながら、昨日のことを思い浮かべた。 あの後、ノアは姿を消した。あの後応援を呼んで俺たちはまとめて病院へ担ぎ込まれたらしいのだが、やる事があるとの沙良先生の言葉により緊急を要する怪我人以外は応急処置を済ませるにとどめたらしい。とはいえ、沙良先生や専門の魔法使いのおかげで傷は一両日中にはあらかた治るという話だ。 ちなみに緊急を要する怪我人とは、貴俊と陽菜の二人。特に陽菜は腹に穴が開いてしまっていたのだという。何とか傷跡は残さないようにしてくれるという話だ。 貴俊は……ガーガーの馬鹿力を立て続けに食らったせいで、生きているほうが不思議という診断を下されたらしい。だが今は陽菜よりも元気になっていて病院内を暴れまわっているんだとか。 そして俺もそれなりに重症だったらしいのだが、沙良先生がなにやら強引な手段を用いたとかで軽症と呼べるレベルまで回復させたらしい。その話になるとみんな目を逸らすんだから気になって仕方ない。 ともあれ、一日を病院で過ごしたみんなは、俺を連れて自宅に戻った。 そこで見たのが、家の中の惨状だ。現在、世界中で地震や嵐などの天変地異が頻発しており、家も地震の被害にあったのだという。幸い、家が潰れるような威力のものではなかったがその中は酷い有様だった。 そんなわけで大掃除が始まったわけだが……なんというか、騒音に『誰だ騒いでるのはあああ!!』と叫びながら俺が目を覚ましたというところから察してもらいたい。 そして今に至る。日付は変わりそろそろ寝ようかと思っていたところに、傷が深いから栄養のあるものを、ということで美羽が用意してくれたらしいのだが。てめえどう考えても嫌がらせだろこれ。なによそれせっかく人が親切心で。その親切心は致死性だ。 などと騒いでいたら、 「やかましい! 深夜なんやからぎゃぁぎゃぁ騒ぐな!!」 「「ご、ごめんなさい」」 俺と同じくらいに傷を負っていたはずの沙良先生は、すでに完全回復していた。本当に傷ひとつないのだ。 『家に帰るなり冷蔵庫の中身を食べつくして、その後お風呂場に入って出てきたら元通りだった』とは美優の談だ。どういう身体構造してんだ、あの人。 「結城姉もおにーちゃんが心配なんはわかるけど今日は寝とき」 「いやでも」 「肌が荒れるで」 「お休み兄貴☆」 ばたん。 どうやら結城家長女は長男の体の具合よりも自分のお肌の健康のほうが優先順位が高いらしいです。しかもあの即決具合からして、不等号ひとつふたつのレベルの差ではないだろう。 ……覚えてろよ。 「人気者は辛いなぁ、おにーちゃん?」 「人をからかうのがそんなに楽しいですか……」 それはさておき、と沙良先生は扉に背を預けた。真剣な瞳がまっすぐに俺を射抜く。 「あんた……あんときに乃愛……あー、ノア、か? 音が一緒でややこしいなぁ。そのノアから、何か情報、うけとっとるんか?」 「…………」 おそらく、誰もが尋ねたくて口に出せなかった言葉。 みんな信じたくないんだろう、俺だって信じたくない、信じられない。あの乃愛さんが、こんなことをするなんて。 あの人は言った。乃愛ではなく、ノアだと。言葉通り、雰囲気も考え方もまるで乃愛さんとは違う印象だった。でも、それでも……。 「……一応、ある程度の情報はなぜか頭の中に入っています」 「そ、か。そんならええ。とりあえず話は明日や、明日、みんなの前で話してもらう」 「今聞かないんですか?」 沙良先生と乃愛さんの関係はよくわからないが、単なる同僚以上の関係がある事だけは何となく感じていた。それだけに、沙良先生はこの事を気にしていないはずが、ない。 「時間、あぶないんか?」 肯く。俺に入ってきた知識からして、時間は三日も残されていないだろう。 「なら……焦って、どうにかなるんか?」 その言葉に、俺は。 「いいえ」 首を横に振った。そう。 ノアの与えた情報に……この、最後の事態を打開するための手段は入っていなかった。当たり前だ、わざわざ敵に、そんな情報を送りつける人間なんかいるわけがない。 「せやろ? ならとりあえず今日は寝る。まずは体を少しでもよくして、それから考える。それにな……あんたは忘れとるかも知れんけどウチは教師や、生徒に無理をさせるようなことは、せんよ」 そういって沙良先生は部屋を後にした。 その背中を見送って、思わず、大きなため息がこぼれる。 「乃愛さん……ノア……。一体、何だってんだよ」 どうしてこうも世界ってのは嫌味たらしいのか。 親父が死んでから初めて、親父が生きていてくれたら、と。そんな恨み言をこぼした。 「料理? ……ユリアが?」 「だめ、でしょうか?」 いや、だめってことはないけども。 朝、前日からずっと寝続けていたこともあって早くに目を覚ました俺は、英気を養う意味でも気合の入った朝食を作ろうとしていたのだ。といっても朝食だからそんなに重たいものは作れない。 「でも、何でいきなり?」 「やっぱり、何もしていないのは不安ですから……それに私にも少しくらい、あなたを手伝わせてくれてもいいでしょう?」 確かに、何もしていないとどうしても考えてしまう。世界の終末を。外の景色はこんなにも晴れやかだというのに、どこかぴりぴりとした緊張感が漂っている。誰もが本能で感じているのだ、終わりを。 なんて暗い考えに浸っていても仕方ないし意味がないし趣味じゃない上にキャラじゃねえ。 「よし、それじゃあ今日の朝食はオープンサンドにするか」 「おーぷん?」 疑問符を浮かべるユリア。そんな彼女に簡単な説明をしながら作業を進めていく。 たどたどしい手つきに危険を感じる時もあるが、元々手先が器用なのだろう。何とか仕事をこなしていくユリア。ふむ、初心者には危ないと思っていたが包丁を持たせても平気かもしれない。 師匠は弟子の成長につい期待してしまうのだ。 「そういえば……」 ユリアがゆで卵を慎重に真っ二つにしたところで、何かを思い出したらしい。 「ヒロト、通常魔法なんていつ覚えたんです? ていうか、私の世界の感覚なんてどこで?」 「ああ、それは……それは……」 親父が死んだ時に恐怖と共にしっかりと刻み込まれていました、とか言えるわけないだろ常識的に考えて。 「あー、うんまあ、なんかほら……本能?」 「本能で魔法が使えたら誰も苦労なんてしませんよ……」 呆れられてしまった。 ちなみに俺の通常魔法の才能は美羽や美優と比べたら非常にお寒いものである。何しろ親父がそういっていたんだから間違いない。ちくしょうめ。 その代わり親父から叩き込まれた格闘術は、通常魔法と組み合わせることでその威力を何倍にも引き上げることができるようになっている。もっとも、何年も修行していないのだから今使えといわれても無理だろうけど。 更に、ちょっと変わった魔法の使い方も教えてもらった。親父曰く魔法以前の技術、との話だが。 「そりゃそうだろうけどさ……てかまて、ちょっと待て」 「はい?」 「ユリアさ、何で俺のこと呼び捨て?」 ユリアが俺のことを呼び捨てにしていた。ついでに言えば距離感も今までより大分近い気がする。無論悪い気はしないのだが、いきなりのことで戸惑ってしまう。 「え……と、それを言うなら、ヒロトも、ですけど……」 「え、俺?」 ふと昨日からの言動を思い返し、愕然とした。 本当だ、俺いつの間にかユリアを呼び捨てにしてるっ!? 「い、今まで気付いてなかったんですかっ!?」 「いや切っ先をこっちに向けなあああっぶねええええっ!!!!」 思い切り振り向いた勢いで包丁の切っ先が俺の腕を掠めていった。心臓がバクバク言っている。 つい先日危うく死ぬところまで追い詰められても怖いものは怖いままらしい。 「うーん、でもいつの間に呼び方が……戻したほうがいいか?」 「そ、そんなことはないですよ。今のままで……今のほうがいいです」 どこか幸せそうにユリアは言った。 ユリアがそれを許してくれるというのなら、俺も積極的に前の呼び方に戻そうとは思わない。悪くない――どころか何となく嬉しいのだ、この距離感が。 朝食はユリア作オープンサンドと俺作のスープ、ついでに余った野菜と果物でジュースも作った。お手軽だがバランスのよいメニューだ。 「ど、どうでしょう?」 「うん、うまいよ。初めてでこれだけできれば上出来だろ」 実際うまかった。初めてということもあって手つきはたどたどしいものだったが、これならすぐに上達するだろう。 ……少なくとも超絶化学変化や味見無用のビックリおかゆなんて作る連中よりは。 「な、兄貴その目は何!?」 「うぅ……わ、ワタシだって、練習すれば……」 お前らは練習する前にまず常識を身につけろ。 「兄貴だって、最初はすごいの作ってたくせに」 「そ、そんなの最初だけだろ! ちゃんと練習してこうやってだな」 「お兄ちゃんはその練習の機会をワタシたちから奪ってるー、おーぼー」 お、おのれ……こんなところで結託しおって! つーか数日前に目玉焼きの練習で凄まじい化学変化を引き起こしたことを忘れたとは言わせんぞ、美優。 「あー、楽しそうなのは結構やけど話をきかせてもらってもええかー?」 沙良先生が呆れた視線で俺たちを見ていた。む、確かにいつまでもふざけているわけにもいかない。 俺は肯くと、ノアによって詰め込まれた知識を口にした。 数十分後。 みんな黙り込んでいた。食器は綺麗に片付けられて、それぞれの前に醒めた紅茶が置かれている。 俺が伝えた情報は結局のところみんなの絶望をより深く、確かなものにするだけだったのだ。それでも言わないわけにはいかなかった。 「しかし、本格的に手の打ちようがない……か」 レンさんは深いため息をついた。 ノアは……乃愛さんが現在どういう状況にあるのか、俺に伝えられたのはその情報だけだった。 乃愛さんは現在、ノアにその肉体の主導権を握られた状態で眠っているのだという。また、ノアはこれまでの乃愛さんの中で過ごしてきた人生の知識、経験を全て引き継いでいるとのことだ。あの時、俺を投げ飛ばしたのはノアの強さであると同時、乃愛さんの強さでもあったわけだ。 そしてノアは今、この世界を壊そうとしている。 理由? ……ノアは、そういう物だから、だそうだ。細かいごちゃごちゃとした理由はあるらしいが、そんなこと知ったところで何が変わるわけでもない。 そして彼女の言う根源を操るという力は、世界のエネルギーを少し操作する程度の力らしい。だが今は礎を手に入れたことでその力も『錯覚』も比較にならないほど強化されている。 そして何故ノアが入ったものが死なないかといえば……。 「神を殺すことは不可能だから……結論ありきの話なんて反則にも程があるね」 やはりわけのわからない理論だが、もはや理解は放棄している。そういうものだ、と思っていたほうがいいだろう。 「とにかく……ノアの目的は世界を壊すただそれだけ。そのために生まれて、それを終えたら死ぬ、そういう存在らしい。だからこそそのチャンスは絶対に逃すことはないんだそうだ」 更に言えば……なぜ、ファイバーが世界の礎を生む方法を手に入れられたのか。それも、ノアの手の平の上ということだ。 礎生成の舞台となった世界はそのまま壊れるらしい。さらには礎を手に入れた存在が渡り歩いた世界も次々に壊れていくそうだ。 今はノアの体がそうなっているが、今のノアの存在は世界と同義らしい。ひとつの世界の中にもうひとつ世界が存在する、そういうありえない現象の重みで世界は塵となる。 さて、果たしてそんな物騒なものを過去に生み出し、あまつさえ記録を残せるような奴がいたんだろうか。いないとは言い切れないが……。 「乃愛さんはユリアの世界に行ったこともある筈だ。そのときにノアが何かしらの細工を施していたんだろうな」 どこまでがノアの思惑なのかはわからない。 計画といえるほどのものがあったわけでもないだろう。ただ、少しでもノアの軌跡に触れたものは、どこまでも吸い寄せられていく。ノアのただひとつの目的のために。 偶然を手繰り寄せ自分にとっての都合のよい必然を生み出す、魔法でもなんでもない、そういう存在。 「そう考えれば、確かにファイバーが見たという資料を当てにするのは危険ですね」 「でも……それじゃあ本格的に手がかりが何もないわよ!?」 美羽の言葉に、ついに誰もが口を閉ざす。 俺はただ己の無力にくちびるを噛み、拳を握り締めることしかできなかった。 陽菜が病院から戻ってきたということなので見舞いに行く事になった。 「あ、ヒロ君。なんかここ最近ずっとあってたから一日ぶりにあうとなんだか久しぶりだね」 「思ったより、元気そうだな……」 ほっとした。さすがにベッドの上で横になってはいるが。腹を貫通したという話を聞いたときには血の気が引いたし。 「今回は、悪かったな。でも助かった、ありがとう」 本当なら陽菜はこんなことに巻き込まれなくてもよかったはずだ。たまたまあの場所にいてしまっただけで、しかも俺たちが連れてこなければあんなところに来ることさえなかったはずなんだから。 「いいんだよ、ヒロ君。それにようやく、ヒロ君に借りてたでっかい借りが返せたんだしね」 「借り?」 陽菜に貸しなんてあっただろうか。むしろ俺が陽菜に山ほど借りを作っている気がするけど。 俺の疑問に、陽菜はどこか寂しげで、暖かな微笑を浮かべた。 「犬の、こと」 「…………」 「陽菜、ずっとあのことが気になってたから。ヒロ君があの後、どうなったか……ちゃんと、思い出したんでしょ?」 俺は無言で肯く。 あの頃――親父が死んですぐのころ、俺は妹達や陽菜を守ることに執着していた。それこそ、どんなことをしてでも、だ。親父の死に際に何もできなかった自分を否定するかのように。 だが俺の力では犬を追い払うことすらできなかったのだ。同年代の男子との喧嘩に負けることはなくても、犬相手ではまともに立ち向かうこともできなかった。それでも陽菜を守ることに――守る自分に執着するために、俺はあっさりと、使わないと決めたはずの魔法を使った。 結果、犬はあっけなく死んだ。本当に、あっけなかった。 俺にはそれだけの力があった。俺の力には、それだけの事ができてしまった。 命を、あっさりと奪ってしまうだけの。 その事実に、現実に、俺の心は恐怖した。 そして俺は―― 「あの後のヒロ君、酷かった。自分の魔法も、自分自身も、全部嫌ってた。それでも陽菜たちの事だけは大切にしてくれた……ううん、陽菜たちの事だけを、大切にしてくれちゃってた。自分で自分を、傷つけるくらいに」 陽菜はうつむいた。あれを、思い出したのだろう。 俺の弱い心は己に対するやり場のない憤りだけを溜め込み、そしてある日、爆発させた。 自分の腕を、掻っ捌いた。あの頃の自分が何を望んでそんな行動を起こしたのかは、もう覚えていない。いや、当時の自分もわかっていなかったと思う。ただ、衝動的に。親父の部屋にあった大きなナイフで。 おそらくその後、病院で乃愛さんと陽菜が魔法で俺の記憶を封じたのだろう。 ただ、恐怖とやるせない怒りだけは残り、風化し、俺の中の曖昧な違和感として残った。 刃物に対する恐怖。 魔法に対する不信。 「けどありゃあ、俺の自業自得だ。別に陽菜が気にする必要はないんだぞ?」 「えへへ、ヒロ君ならそういうと思ってた。だから陽菜も言うけど、この怪我も陽菜の自業自得だよ、だから気にしないでヒロ君。その代わりに、陽菜はこんなに今、気分が晴れてるんだもん」 そういって顔を上げた陽菜の笑顔は、まるで太陽みたいで。 見ているこちらの心が、じんわりと暖められてしまうようだった。 「でも……やっぱり、そんな怪我させてしまったし」 「しつこいなぁヒロ君。あのねぇ、ヒロ君はそうして何でも守るつもりだけどそれってよろしくないよ、陽菜的には」 「う……そ、そうか?」 うんうんと肯く。うー、でもなぁ、ほら。 「犬の事もそう、今回の事もそう。陽菜はヒロ君に感謝して、みんなもヒロ君を許して。それでもヒロ君が悩んでたらどうしようもないじゃない。ねえ、一体どうすればヒロ君は自分を許してあげられるの? どうなったらヒロ君は自分を許してあげられたの? ヒロ君の望む結末は、どんなものならヒロ君自信が満足できるの?」 その、問いかけに。どこまでもまっすぐで、必死な問いかけに。 俺は――答えを見つけ出す事ができなかった。 「俺、は……」 ぱくぱくと、口を開閉する。今の俺のはさぞかし間抜け面をさらしている事だろう。 そんな俺をみて、陽菜は笑い出した。 「あはははは! ひ、ヒロ君、変な顔ー!!」 「うううううるせー! 悪かったなこんちくしょう!!」 それにつられて、俺も笑う。 二人でひときしり笑いあって――それがようやく収まって、陽菜は言った。 「ヒロ君」 「ん?」 「どうせなら……陽菜は、みんなが笑っていられる、そんな結末がいいよ」 「……」 ああ、そうだな。 そうなれたらきっと――素晴らしい。 大翔が去った扉を見ていた陽菜は、くるりと窓の外に視線を向ける。 「ユリアちゃん?」 「うえぇっ!?」 なぜか窓の外からユリアの声が聞こえた。陽菜はそれにくすりと笑い、窓を開けた。すると、ぴょこりとユリアが顔を出した。 「な……なぜわかったのでしょう……?」 「んー、勘?」 勘は勘だったが陽菜の場合、自分もするだろうなーと思っただけの話だった。別に外れなら外れで構わなかったが、当たってしまったらしい。 似通った思考と行動の意味するところを思い、陽菜の心に痛みと温かみが同時に生まれた。 「ほらほら、いらっしゃーい」 陽菜はユリアを招き入れた。ユリアは戸惑いながら靴を脱ぎ、部屋に入る。 ふと、空が視界に入った。外はいい天気だ。世界が終わりに向かって大きく動いていることなど思わせないような。 「それで、ユリアちゃんは何をしてたの~?」 「え、ええと、それはその……」 意地悪な陽菜の問いかけに、ユリアは焦った様子で言い訳を探している。が、うまい言葉が見つからなかったのかそのまま口を閉じてしまった。 (自覚、ないんだろうなぁ) 心の中で呟く。 「ねえ、ユリアちゃん」 「な、なんです?」 「ヒロ君、これからどうすると思う?」 陽菜の質問にユリアの表情に陰りが生まれる。 (ああ――気付いてるんだ) だからこそ、こうして話を聞きに来てしまったのだろう。そう結論付けた。 「ヒロトは――最後まで、乃愛さんを救う方法を探し続けると思います」 大翔の性格を考えればそうするであろうことは容易に想像できた。そして…… 「私やレン、エーデルさんには……」 ユリアは口を閉ざす。その先の言葉を拒絶するように。小さな手が、膝の上で握り締められた。 大翔は三人に『帰れ』というだろう。 ユリアもエーデルも、国にとってはなくてはならない存在なのだ。こんなところで死んでしまっていいわけがない。 つまり、この世界の命運はそれほどまでに追い詰められているということだ。 だが…… (離れたくないよね……) それがよいとわかっていたとしても辛いことである事実に変わりはない。 陽菜が決断した大翔との別れ。だがそれも、いずれはという希望があったからこそ決断できたことだった。二度と会う事ができないとなれば、陽菜も大翔の記憶の封印に協力できた自信はない。 だが今回の別れに次がある可能性は限りなく低い。 「ねえ、ユリアちゃん……陽菜にはユリアちゃんが背負っているものはわからない。陽菜はただの女の子だから王女様がどれだけ大変な仕事と役目を担っているかなんて、本当に想像できないんだ。だから陽菜から言えるのは、ただの女の子から女の子への、本当の秘密だけ」 陽菜は、初めてその秘密を他人に告げた。 「陽菜ね……ヒロ君のことが、大好きだよ」 何よりも大切な宝物を教えるような口調で、何よりも大切な秘密を打ち明けた。おそらくはまだ己の本当の気持ちに気付いていない、可愛らしい『女の子』に。 陽菜の言葉にユリアは目を見開いて……だが、納得の表情を浮かべた。だがその中に小さな戸惑いと焦りが浮かんだのを陽菜は見逃さない。 「そ、そうだったんですね……。でも、どうして、わ、私にそれを?」 ユリアの思考がなぜか真っ白に染まり、目の前の景色が遠いものであるかのように感じられた。 陽菜から見ても明らかなほどユリアは動揺を隠しきれていなかった。そしてその事実に……いや、自分が動揺している事にも気付いていなかった。 「ユリアちゃん。陽菜はここに居る。たとえ明日世界が終わるって知って、ユリアちゃんの世界に行けば助かるってわかっても、陽菜はここに居るよ。だってここにはヒロ君がいるから。陽菜にとって一番大切なものが、ここにあるから。陽菜にとって一番大切な人と、最後の瞬間まで同じ時を感じたいから。だから陽菜はここに居る、それだけのために、ここに居るよ」 陽菜はユリアの手をとり、優しく、暖かく包み込むような笑みを浮かべる。 「ユリアちゃん……ユリアちゃんにとってはヒロ君も国もどちらも大切なんだよね。自分がいて欲しい人と、自分にいて欲しいと思ってくれている人たちがいる場所、どちらも大事だもん。でも……だから……ユリアちゃん。どっちを選んでも後悔するなら、自分の大切な人がその選択を祝福してくれたら、きっとそれは力になるよ」 それが陽菜の精一杯だった。自分の中のあやふやな、それでもまっすぐな気持ちを、言葉を、飾らず正直に伝えること。陽菜にできる、ユリアへの精一杯のエール。 そうして、沢井陽菜は恋敵の背中を押した。その結果がユリア・ジルヴァナにどのような選択を決断させるのか、彼女にもわからない。だが自身の大切なものはさらけ出した。陽菜の大切なものを受け止めるに足ると、そう信じることができたからこそ。 それが彼女のスタンスであるが故に。 夜、食事も風呂も終えて練る準備を済ませた俺はベッドの上で思索にふけっていた。 どうにも、納得の行かないことがある。 何故ノアはあんな情報を俺に伝えてきたのだろうか。そもそも、なぜ世界崩壊にリミットを設けたのか。 単純に準備にそれだけの時間が必要だと考えることもできる……というよりは、そう考えるのが妥当だろう。だがそれを俺たちに伝えるメリットはなんらないはずだ。 それに、自分の力の大まかな説明まで。俺たちが意地でも妨害しようとすることはわかっているはずなのに。単に自信の表れ? 可能性はゼロではないだろう。だがしかし、それもないように思えた。 アイツの言動は、余りに乃愛さんを思わせるもの過ぎた。もしもあれが、意図的なものでないとしたら? ノアは生まれてすぐに乃愛さんと同化した。そして乃愛さんの感じるありとあらゆるを感じ、時に運命に悪戯を仕掛けてその命を致命的な危機から守ってきた。ずっと一緒だったのだ。 その乃愛さんの影響を受けていないとは、言い切れないのではないか。もしそうなら、乃愛さんが絶対にやらない事をあえてノアがしていったことに何か意味を感じてしまう。 そう、例えば……ヒント、とか? 「……この知識の中にこの状況を打開するヒントがあるとでも?」 それはさすがに都合のよすぎる想像だ。 だがもしそうだとするのなら……考えなくてはならない。 こんこん ドアが軽くノックされた。体を起こしベッドに腰掛けるように座り、音の主を招き入れる。 「どうぞ、ユリア」 「入ります」 ユリアが入ってきた。その表情はやはりどこか暗いものがあったが……昼に話をしたときとはまた違う雰囲気だ。どうしたんだろう? 「ヒロト……無駄とわかっていながら、ひとつ提案します」 なんだろう、奇妙な言い方だ。 「あなたたちだけでも……私の世界へ移り住むつもりはありませんか?」 その提案に、 「いいや。少なくとも俺にそのつもりはない」 なるほど、ユリアの言ったとおり俺は首を横に振った。 「けど他のみんながどうするかまでは――」 「聞かずともわかります」 ……そ、そうか。 なんだかユリアの雰囲気に気圧される。なんだろう、少し怖い。 っと。俺も言っておかないといけないことがあるんだった。正直気が重いのだが、言わないわけにはいかないだろう。 「俺も言わないといけないことがあった。……ユリア、今まで本当にありがとう。こんなに尽くしてもらった結果がこんなことになって不甲斐ないけど、それでもユリアたちと過ごせたことは、俺にとっては」 「ま……待って下さい!!」 「え? うわっ!?」 どさ。 ユリアに押されてベッドに仰向けに倒れこんでしまった。 ふわりと、シャンプーの香りが顔を撫でる。胸にのしかかる柔らかな重みに、胸の鼓動が否応なしに高まる。 しんと静まり返った部屋。だが、聞こえてきた音に体の熱が一気に醒めた。 「ユリア?」 最初は聞き間違いだと思った。だが聞けば聞くほど疑いようはなかった。 ユリアが、泣いていた。顔を胸にうずめて、小さな声ですすり泣いていた。 何がなんだかわからない。どうして、ユリアが泣き出したのか。一体何があったのか。俺のせいなのか。何一つ、わからなかった。 「ヒロト……私、私は……一国の王女です。私という存在が国にどれだけの影響を持っているのか、十分、理解、しています……して、いるんです」 涙ながらの声に、俺はただ肯いて。 金の髪を優しく撫でることしかできなかった。 「教えてくださいヒロト……あなたは今でも、私の味方でいてくれていますか?」 一瞬、戸惑った。その言葉はいつかどこかで彼女に言った記憶がある。俺はユリアの味方でいると。 あの時は、確か……え? その意味をおそらく正確に理解できた瞬間、今度こそ俺の全身から血の気が引いた。頭のてっぺんから足の指先までの血液が一瞬で凍りついたかのように、心臓の鼓動が止まるほど衝撃を受けた。 そう、俺は確かに彼女の味方になると言ったのだ。 エーデルに、元の世界へ戻れといわれた時、戻らないと言った彼女の選択を尊重すると。 あの時俺は我が侭になれと言った。じゃあ、この場合。この世界に残ることと一刻も早く自分の世界に帰ること、どちらが我が侭だろうか。考えるまでもない。 「ユリア……そんな、まさか、そんな事……!!」 「準備は……準備はしておきます! すぐにでも戻れるよう、その手はずは整えておきますから!!」 「そういう問題じゃないだろ!? 崩壊が進めばまともに世界を超えられるかどうかもわからないんだ。今こうしている間にも、この世界はどんどん不安定になっていっている……それこそ、明日中には戻らないと!!」 「お願いです! …………お願い、だから……」 悟った。 ユリアはどれだけ言っても俺の意見は聞かないだろう。彼女が時に見せる頑固な部分を、この数ヶ月で俺は何度も見てきたのだから。 ああ、なんてこった……。 気が遠くなりそうだった。そんな自分を繋ぎとめるためか、俺の腕は無意識に、彼女の背中に回っていた。 ぎゅっと華奢な体を抱きしめる。何度、このぬくもりに俺は守られるんだろう。 考えないといけない。希望でも絶望でも事実でも妄想でも何でも構わない。俺は、考えなくてはならない。見つけ出さなくてはならない。 今度こそ。 今度こそ、俺が君を守る。 翌日。 川を眺めながらぼーっとしていた。 昨晩の話をレンさんとエーデルに話したところ、二人ともあっさりとそれを受け入れたのだ。特にエーデルなんかは意地でも引っ張って帰るとか言うと思っていた――いや、それを期待していたのに。 ユリアは―― 「何をそんなに、必死になってるんだ? 何を焦って……」 この世界や、親父や……俺たちに対しての責任感? 愛着? けど下手をすれば死んでしまうんだぞ? こんな時にまで一人の女の子としてうんぬんかんぬん言っている場合じゃない。王女として、彼女が選ぶべきは決まっているはずだ。なのに…… 「なんで……ほっとしてんだよ、俺は……っ!!」 そう。 あろう事か俺は、ユリアが帰らないと聞いて喜んでしまったのだ。無論、帰って欲しいと……生き残って欲しいという気持ちには嘘はない。そのくせユリアとまだ一緒にいられることを喜んでいる俺も確かにいるのだ。 ……節操がないにも程がある。 そんな自己嫌悪と後ろ暗さから家にいづらくて、こんなところでボーっとしている。 風はやや強め。集中すれば微震が繰り返していることにも気付く。 変わらないのは日の光ばかり。 「世界の終わりって……なんだろうな……」 そんな呟きが漏れて、そういえば乃愛さんにも同じことを聞かれたなと思い至る。 その彼女に俺は『乃愛さんが死んだら、たぶん俺は世界が終わったような気にはなると思います』と言った。 世界の終わり……この星が、この宇宙が終わる。だが俺にとっての終わりとは即ち、周りの人たちの死だ。たとえばこの世界の崩壊を回避できたところで、俺の家族全員が死んでしまえば俺にとってはそんな未来、世界の終わりと変わりない。自分勝手でちっぽけな考え方だが、俺はその程度の人間なのだ。 だから怖い。世界が終わることではなく、それに巻き込まれて、みんなが死んでしまうことが。 だから昨日のユリアの提案は実に魅力的なものだった。自分たちが助かるためにその他の多くを見捨てることになるのは理解しているが、それでも確実にみんなを守れるという事実に魅力を感じないわけがない。 けど俺は行くわけにはいかない。乃愛さんをこのまま放っておけるはずがないから。 ユリアが言うには他のみんなも同様だという話だったが……実際にそれとなく聞いてみたところその通りだった。美優にいたってはちょっと命の危険を感じるほどだった。普段の沸点が高い分、逆鱗に触れた場合の恐ろしさは美羽よりも遥かに上なのだ。 「せめてみんなだけでも逃げてくれれば安心できるんだけどな……」 はぁ。 ため息とぶおん! という空を薙いで何かが頭上を通り過ぎていったのは同時だった。何事かと頭を上げると……何事? 「おおおおおおおあああああああああぁぁぁぁ…………」 みょーに聞き覚えのある声が地面に着地――に失敗。ぐきりといやな音を立てて足がくにゃりと曲がり目の前の地面を凄まじい勢いで転がって……あ、川に投げだされて……おお、飛び石のように一回二回、ああさすがに散会は無理だった。 沈んでいく。 「ば、バカが出たぞおおおおおっ!!!!」 近所の子供たちが悲鳴のような声を上げて囃し立てる。すっげぇ楽しそうだ。犬の散歩をしていたおじいさんも何か壮絶なものを見たような顔をしていた。 「か、カバが出たぞおおおおおっ!?!?」 「何いィッ!?」 驚愕に目を見開くと、マジでカバがいた。カバが川をこちら側へと泳いでくる。ウォーキング中のおばあさんも何か微笑ましい光景を見るような目をしていた。 やがてそのカバが陸へと上がって来る。 「ワニだああああ!!!!」 ……もうどうにでもなれ。こどもに囲まれるカバのキグルミ中から出てきたワニのキグルミを遠目にため息をついた。なんだかさっきまでの真剣に考えていた自分が酷く滑稽に思えてくる。 やがてそのワニのキグルミの背中を割って飛び出してきた貴俊とこども達の追いかけっこが始まり、追いかけっこが鬼ごっこになり――リアルファイトに遷移してボコボコにされた貴俊がこちらへと歩いてきた。 つーか怪我人、何してやがる。貴俊は普段どおりの格好だったが歩き方や仕草などから傷が治っていないことは明白だった。病院の外で怪我を増やしてどうするんだこいつ。 「あーっはっはっは! いやいや、最近のガキは凶暴だな!!」 「最近のガキもお前にだけは言われたくないだろうよ……」 「何だとこのやろう! 俺を誰だと思ってげふっ!?」 唐突に血を吹いて倒れた。叫んで傷口が開いたんだろう。しばらく倒れてしおれた貴俊を見ていたが、いつまでたってもおきない。 「……まあ、肥料にはなるか?」 「ちくしょう! お前の愛には涙が出るぜ!!」 元気に立ち上がる貴俊。さすがゴキブリ並みの生命力は伊達じゃない。スリッパ如きでは倒せないタフさまで兼ね備えているんだからゴキブリなんて目じゃないといったほうが正しいだろうか。うむ。 軽く殺意がわいてくるぞ。おのれ高機動節足黒体生命体が。 「大翔の目つきが凶悪なものに……あ、いかん。ゾクゾクしてきた」 「お前って本当に楽しそうだよなちくしょうめ!!!!」 今度は俺が泣き寝入りする番だった。 「というかだな、お前病院は?」 「逃げたよあんなとこ。大体先端技術のオンパレードじゃねーか、親父もきやがるしあんなところいられるわけがねーっつの」 「あ、やっぱり来たんだ」 思わず口元に笑みが浮かぶ。貴俊は横を向いて不機嫌に鼻を鳴らした。 「親父のことはいいんだよ。んなことより……お前がこんなところで一人寂しく考え事ってことは、状況は最悪って感じか?」 相変わらず勘だけはいい男だった。ただ俺の行動をその根拠にあげるのはやめてくれないかね、まったく。 「んでー? 何を悩んでたんだ? 大翔マニアの俺に相談してみろよ」 「一気に相談する気が消滅したんだが……まあいいか。けど俺も、何を考えればいいのかいまいちわかんないんだよな」 ノアをどうやって止めればいいのか、結局はそういうことになる。手探り状態でこの世界の危機を回避するための手段を模索している。次に打つ手があるのかないのかさえも見えない状態で。 「ふむ。俺は乃愛さんのことはよくわからんが、あの人は基本的に解けない問題を生徒に提示するような人じゃないだろ」 「……つっても、今の乃愛さんはノアの中で眠ってる状態だろ? 乃愛さんと同じような考え方をするかなんてわかんない――いや、そうじゃない可能性のほうが遥かに高いと思うぞ?」 なにしろ神を名乗るような存在だ。一応行動原理などは俺の知識として渡されたが、どうにも人間離れしていて理解しがたい。 だが貴俊はなにがおかしいのか、くっくと喉を鳴らして笑っていた。 「なあ大翔、お前いつから俺と会ったときみたいな性格だったんだ? まさか生まれたときじゃないだろ。俺だってそうだぜ? 最初は結構まともだったんだよ、途中で壊れてそれもまたぶっ壊されて、そんで今だ。なあ大翔、人間の性格、性質ってな案外コロって変わっちまうもんじゃねえのか?」 それは、つまり……。 「俺は少なくとも四年目だったぜ、お前と出会った時はな。つまりそれ以前の俺は実に聞き分けのいいガキだったわけだ。それが破綻してお前と出会うまで四年。四年間ってなぁ、結構長いぜ? それをお前とであってほんのひと月少々でぶっ壊された。変わっちまう理由さえあればあっさり変われるもんだろ。人間と同じように物を感じることができればな」 仮にも獣とあだ名されていた以前の貴俊の倫理観は相当ぶっ壊れていた。それはさておき、そんな貴俊でも今は割とこう……ふ、普通? 普通に罪悪感を覚える表現だがまあ普通に生活している。 それはノアにもいえるのだろうか。乃愛さんの中でその生き方を見て、感じて、そうして影響を受けていたりするのだろうか。 もしそうならば。 「近くにいる人間の影響ってのはどうしたって受けちまうだろ? お前だってこの数ヶ月で結構変わったじゃねえか。以前のお前なら誰かを助けるために自分の家族を危険に巻き込むなんて死んでもやんなかったくせに」 言われて気付く。そう、俺も確かに変わっているんだ。ほかならぬユリアのおかげで。 「第一相手が神様だかなんだかしらねーが乃愛さんに会って影響を受けない奴がいるほうが信じらんねーよ、俺は」 その言葉になんとなく感心して笑ってしまった。 確証はなく保障もできないことなんだが、それでも光明が見えた気がして少しだけ心が軽くなった。 「よし、じゃあ貴俊、ちょっと頼みごとがあるんだが。お前としてはすっげぇいやだろうけど、お前んちの力を借りたい」 そういう俺に案の定いやな顔を――さっぱり消し去り、逆に気持ち悪いくらいの笑顔になりやがった。 「はっはっはっは! なぁにお前の愛と比べりゃあんな家いくらでも使ってやるぜ!! あ、でもひとつ貸しひとつな」 「お前、もっと親父さんと仲良くしろよ……。ま、まあいいや……」 俺は貴俊に用件を伝える。貴俊はそれを聞いてすぐさまその場から走り去った。ちなみにその後をわらわらと追いかける黒服の一団があったりなかったりしたが本編には関係ないので省略しよう。 もし乃愛さんなら、という仮定の上での考察を立てる。 これが非常に危険だということは自覚している。推論に推論を重ねる場合、最初の推論が外れていたらその上の全てが瓦解するからだ。だが他に道はないと考え、この可能性に賭ける事にする。 もし俺の考えの通りだとするならばそれは同時にこの世界の未来が俺の双肩にかかっていることを意味する。今にも胃がキリキリと泣き出してしまいそうだが逃げてもいられない。家族を守るためには俺がしなくてはならないのだから。 乃愛さん――ノアを破る方法はおそらくひとつだけ。しかしそれが可能であるという確証はやはりない。ない……が、可能であると信じている。俺の魔法、親父が遺してくれたこと、母さんが教えてくれたこと。全てはこのためにあったようにさえ思える。 もしそうなら、俺は本当の意味でようやく自分の魔法を取り戻したのだろう。 だがしかしノアが乃愛さんの影響を受けて、その思考、思想に沿った行動をとっているとしてもやはり疑問は残る。ノアにとって、世界を滅ぼすとい運は己の生きる意味であり、存在価値そのものであるのだ。いくら影響を受けているとしても、俺にヒントを――選び取る道を残すような真似をするだろうか。 考えてもわからない、答えは出ない。 故にただひとつわかっていることを頼りに俺は行動をおこす。 即ち、俺の根源であり、強くなった理由。俺の生きる意味で、存在価値そのもの。 現状を放置しては世界は崩壊し、結果として俺の大切な人たちの命が失われる。その結末だけは認めるわけにはいかない。 故に俺は別の結果を掴みに行く。家族を守るという、そのためだけに。 だが、まだ、わからない。 俺の望む結末とは結局、これでいいのだろうか。
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時計屋敷 凍らせし過去の洞窟 時間列車ユグドラシル 管理人シキのホーム 帽子名:イリバルデュシャス 時魔法が習得できます。 また、戦闘に参加する全てのキャラクターの行動順番が狂いなく分かります。 価値観が高い状態で管理人を倒すとダメージの限界値が上がります(MAX99999) シキ編以外では、ツバメがいるとデコイボス初撃破時とシキ戦時(一度倒すまで)に会話追加。 時計屋敷 時の世界、1つ目のダンジョン。 シキ編で最初に挑むマップ。 マナ回復量は2、デコイはウォッチャー、呪いの砂時計、ルイピン、キーマウス、南京ロックが出現する。 クリア後、カフェ依頼「古時計の修理」が発生する。 ?フロアには「吸血鬼の断罪」で訪れることになる。 ?フロアにはツバメがおり、話しかけると仲間にできる。 固定宝箱の中身はアクセ「ルビーネックレス」 + ボス攻略 ボスは時計うさぎ。 + 時計うさぎのステータス(デコイランク17) 時計うさぎのステータス(デコイランク17) 性格:気が短い ライフ:28,900 ソウル:637 攻撃力:28 物理防御:11 魔法防御:9 戦闘力:7,506 種族:妖精ボス 腕力:15 器用さ:17 素早さ:27 体力:11 魔力:14 運:11 気絶:A 睡眠:B スタン:C 混乱・魅了:B 毒:B OS低下・封印:B マヒ・石化:B 能力値低下:B 剣:0 槍:0 斧:0 弓: -10 杖:0 銃:0 拳:0 火:30 水:30 風:30 土:30 光:30 闇:30 時:0 装備ジェム 風魔法Lv5 カウンターLv5 スペルカウンターLv5 素早さアップLv3 行動が速く、行動の遅いキャラを優先して狙う OS時に行動回数を倍にするモードに入る 通常時は物理属性のアーツと風魔法を使ってくる。 素早さが一番低いキャラを常に狙う。 マナの量に応じて物理攻撃と魔法攻撃を使い分ける。マナを調節して得意な技を使わせよう。 素早さが一番低いキャラが2人以上いると、その中で一番行動が遅い1人を狙う。 同じ素早さのキャラはランダムに行動順番が決まるのでターン毎に狙われるキャラが変わる。 時魔法アセンシアやクロックダウンで素早さは変えられるが、狙われるキャラはターンの途中では変わらない。 「リフレット」を使ったら、魔法キャラは火魔法のオーラボルトや全体攻撃魔法で攻撃するか、土魔法のキャンセラで解除しよう。 全体攻撃は風魔法の「ナイトメア」と「テンペスト」だけ。 最初のOS行動は「オーバーロード」で、敵の行動回数が2倍になる。 2回目以降のOS行動は8回連続の単体物理攻撃「八艘飛び」でターゲットはランダム。ブロッキング可能。 「オーバーロード」による『行動回数倍化』は土魔法キャンセラで解除できない。 行動回数が倍になると通常時は4,6回行動になるが、OSターンは「八艘飛び」1回だけ。 「八艘飛び」のターゲットは行動順番や囮に誘われない。 素早さが一番低いキャラの防御を固めて回復を手厚くしよう。 スーパーガードとブロッキングがお手軽、カウンターで攻撃もできる。ブロッキングとカウンターはどちらかしか発動しない。 敵の素早さがとても高いので「足払い」の『スタン』で遅いキャラが行動不能になりやすい。 だからといって時魔法パラダイムシフトやクロックダウンで敵の行動を最後にまとめると、コンボされやすいので注意しよう。 魔法と「投石」以外はブロッキング可能。マナを減らすとブロッキング出来ないのは「投石」だけになる。 「八艘飛び」だけは全体ターゲットのようでセイブブロッキング対象外。 凍らせし過去の洞窟 時の世界、2つ目のダンジョン。 「時計屋敷」クリア後に挑めるマップ。 シキ編では帽子を5つ集めた後に挑めるマップ。 マナ回復量は2、デコイはスノーマン、ペンタ、オユキ、シロクマン、クラゲネコ、サハギン、ヤドカリータが出現する。 クリア後、カフェ依頼「氷の女王」が発生する。 クリア前でも、右の?フロアの先でサブイベント「友達の管理人モーノ」が進行する。 左の?フロアの先には「氷の女王」で訪れる。 固定宝箱の中身はアクセ「パールイアリング」 + ボス攻略 ボスはアイスゴーレム。 + アイスゴーレムのステータス(デコイランク18) アイスゴーレムのステータス(デコイランク18) 性格:頑固 ライフ:38,000 ソウル:1,140 攻撃力:40 物理防御:30 魔法防御:0 戦闘力:11,191 種族:氷魔ボス 腕力:20 器用さ:12 素早さ:12 体力:18 魔力:16 運:18 気絶:★ 睡眠:A スタン:A 混乱・魅了:A 毒:A OS低下・封印:A マヒ・石化:A 能力値低下:B 剣:30 槍:60 斧:20 弓:50 杖:30 銃:30 拳:30 火: -90 水:30 風: -60 土: -60 光: -60 闇: -60 時:0 装備ジェム 水魔法Lv6 ブロッキングLv3 レジストLv3 マナ回復量アップLv3 物理攻撃に耐性を持ち、OS攻撃も強力 水以外の魔法攻撃、特に火魔法が弱点 通常時は物理属性のアーツと水魔法を多く使う。マナ回復量が多く水魔法の使用頻度が高い。 デコイランクによっては水の大魔法を使うようになる。 OS技と水魔法で水の属性値が上がりやすい。大魔法「マキュリエーデ」を防ぐ手段を準備しよう。 マナか水属性値を減らすか、水魔法Lv6を装備して大魔法を相殺したい。魔法以外にも属性値UPのアーツを使ってもいい。 水魔法以外は物理単体攻撃が多い。「アイスブレス」は例外。 「ライトニングエッジ」はブロッキング不可の最大ライフ割合攻撃。最大ライフの30%ぐらいのダメージ。 ブロッキングやセイブブロッキングの装備数が多いと、対策されて物理攻撃が「ライトニングエッジ」ばかりになる。 囮役のキャラに装備させるぐらいに留めよう。それでも「ライトニングエッジ」はダメージ軽減しにくい。 OS攻撃は物理・水属性全体攻撃「大氷河崩壊」と水魔法「イナムラウェーブ」 「大氷河崩壊」は見切り・ブロッキング可能。また、ターン終了時に「大氷河崩壊余波」で追加攻撃してくる。 「大氷河崩壊余波」は見切りもブロッキングも不可。 物理防御に物理属性耐性が軒並み高い。逆に魔法防御は0、水と時属性以外の耐性はなく火魔法が弱点。 物理攻撃で攻めるとよほどキャラを育てていない限り長期戦になる。 素直に火マスタリーLvをデコイランクに近い値まで育てた方が早いかもしれない。 デコイランク-5のLvまでは最長でも火魔法を20回使うまでに火マスタリーが1Lv上がる。 時間列車ユグドラシル 時の世界、3つ目のダンジョン。 「凍らせし過去の洞窟」クリア後に挑めるマップ。 シキ編では「ホーム」から2段ジャンプとチャージアクションを使っていつでも移動できる。 なお、帽子を5つ集めるまでは、デコイと戦闘にならない。 マナ回復量は3、デコイはバンシー、ポイゾナスライム、小悪魔メイド、シャドーマン、ダイナスライム、ニンジャ、くのいち、チューカマンが出現する。 2段ジャンプとチャージアクションを用いて、列車の屋根の上に上ることができる。 屋根の上では、他世界のデコイも出現し、先頭車両付近の屋根の上では他主人公におけるラスダンの敵まで出現することがある。 クリア後、カフェ依頼「暴走コック」が発生する。 隠しフロアあり。 列車の屋根の上全体、特に先頭車両の屋根の上に宝箱あり。 先頭車両の屋根の上の宝箱の中身はOP「エデンのリンゴ」 EXITの屋根の上をさらに右に行ったフロア。 EXIT右の車両にある宝箱の中身はOP「卑弥呼の金印」 + ボス攻略 ボスはシキ。 + シキのステータス(価値観99%) シキのステータス(価値観99%) 性格:退廃的 ライフ:79,750 ソウル:3,262 攻撃力:59 物理防御:29 魔法防御:29 戦闘力:68,841 種族:管理人 腕力:40 器用さ:40 素早さ:45 体力:37 魔力:40 運:35 気絶:★ 睡眠:A スタン:A 混乱・魅了:★ 毒 A OS低下・封印:- マヒ・石化:★ 能力値低下:B 剣:0 槍:0 斧:0 弓:20 杖:0 銃:0 拳:0 火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:0 時:20 装備ジェム 時魔法Lv6 マナ回復量アップLv3 マナコストダウンLv3 ジャミングLv3 OS時にリンゴドライブで連続行動する。 マナ枯れに弱いため、ジャミングが尽きると脆い。 通常時は魔法属性のアーツと時魔法が多い。カウンターできる物理攻撃は使わない。 マナが多い時はほとんど時魔法「レボリューション」を連発するだけ。 価値観が高いと「レボリューション」は風魔法リフレットの『魔法反射』を貫通する。 シキは弓装備で通常攻撃はクリティカルすることもある。カウンターやスピアアーツ「風車」は発動しない。 ジャミングを装備したキャラがいると「カス魔法大連打」でジャミング回数0にしてくる。 「マジックアロー」は最大ライフの約30%ダメージ。名前の割に戦術『物理結界』で軽減できる。 時魔法「クロックダウン」は確実に『素早さ低下』を付与される。 レジストを装備するほどではないが、行動順番をずらされて回復やコンボに支障が出るかもしれない。 全体魔法攻撃の頻度が高く、「ファイアブレス」「毒ガスブレス」「催眠ブレス」「咆哮」と多彩。 OS時は「マナポーションS液」でマナを回復した後、時魔法「リンゴドライブ」を発動する。 「リンゴドライブ」は発動時のマナに比例した回数、連続行動される。 「リンゴドライブ」の連続行動の最後には全体攻撃の「龍破」を使う。 敵の連続行動中は味方全員が『行動停止』状態になり、防御やトリガージェムの発動が出来ない。 「リンゴドライブ」の発動前にマナを枯らしておくことが重要。 戦術『コンボ妨害』等で「マナポーションS液」と「リンゴドライブ」の間にマナを0にできると最高。 マナを枯らすことはマナ消費系のアーツでも可能。ソードアーツとスピアアーツで取得可能。 手間がかかるが、闇魔法デュアルスペルの即発と解除を繰り返すとターン消費せずにマナを減らせる。 マスター魔法ではデュアルスペルの即発はできないが、複数の属性の妖精召喚を繰り返すことで代用できる。 (例:火魔法サモン・アグニスと水魔法サモン・アクアを交互に即発する。各マスタリ16以上が必要) 「マナポーションS液」直後に水魔法マスタヒールや風魔法アドバンシアを使うと上手くマナ0にできる。 連続行動回数が多いと、「リンゴドライブ」だけで敵のOSゲージが満タンになる。 全体攻撃を繰り返す可能性も上がる。逆に連続行動回数が1,2回だと最後の「龍破」も発動しない。 残念ながら戦術『行動順逆転』で「マナポーションS液」と「リンゴドライブ」の順番を逆転することは出来ない。 ジャミング持ちなので、コンボを狙うかジャミングを使い切らせるまで魔法キャラが行動できない。 マナを枯らすだけなら魔法コンボでなんとかなる。回復や強化がやりにくいならジャミングを一気に使い切らせたい。 ジャミングを使い切らせる時はコンボにならないようにしよう。 全体的にマナが少なくなる戦闘なので、魔法キャラは光魔法ミスティリオンや闇魔法サクリファイス等でマナ枯れに対処しよう。 時の帽子を返還して再戦するときや周回プレイ時は、時魔法リンゴドライブを使ってはならない。 リンゴドライブを使うと「リンゴドライブ返し」で無効化されて、使用したキャラが連続行動できたはずの回数の4倍ぐらい連続行動される。 「トキノフリーズ」で時間停止させたあとでリンゴドライブを使ってもしっかりと返される。 「龍破」は見切り可能。必要装備はジャミング、時魔法、光魔法、OP古代金属ボルト。戦闘前にマナをトキノフリーズを使える最低限の数値にしておく(ワンダワールドで不利選択肢を選ぶため)1ターン目最初にOP古代金属ボルト装備(ジャミング無効)キャラがトキノフリーズ。 次にワンダワールドの『敵全員のオーバーソウルゲージを満タンにする』を選ぶと2ターン目にリンゴドライブせずに「龍破」を使う。 + シキ編ボス攻略 シキ編ボスはサラワティとカフェメンバー4人。 + サラワティのステータス サラワティのステータス 性格:争い嫌い ライフ:18,000 ソウル:2,250 攻撃力:35 物理防御:11 魔法防御:32 戦闘力:13,168 種族:管理人 腕力:17 器用さ:17 素早さ:21 体力:19 魔力:21 運:21 気絶:★ 睡眠:A スタン:A 混乱・魅了:★ 毒 A OS低下・封印:A マヒ・石化:★ 能力値低下:B 剣:0 槍:0 斧:0 弓:0 杖:0 銃:0 拳:0 火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:0 時:0 装備ジェム 水魔法Lv6 光魔法Lv6 OS上昇量アップLv5 ライフ自動回復Lv1 オーバーソウルゲージを低下させる攻撃が得意 水属性の攻撃を好む + ポリィのステータス ポリィのステータス 性格:人懐っこい ライフ:24,000 ソウル:1,500 攻撃力:37 物理防御:21 魔法防御:21 戦闘力:11,403 種族:管理人 腕力:19 器用さ:19 素早さ:17 体力:23 魔力:17 運:19 気絶:B 睡眠:B スタン:C 混乱・魅了:B 毒 C OS低下・封印:C マヒ・石化:B 能力値低下:C 剣:0 槍:0 斧:0 弓:0 杖:0 銃:0 拳:0 火:0 水:0 風:20 土:0 光:0 闇:0 時:0 装備ジェム 風魔法Lv6 ブロッキングLv3 セイブブロッキングLv3 リカバリーLv1 ディフェンダーの能力が高くブロッキングを好む ライフが減るとリカバリーで全快する + ミンミンのステータス ミンミンのステータス 性格:守銭奴 ライフ:22,000 ソウル:1,500 攻撃力:42 物理防御:21 魔法防御:11 戦闘力:10,588 種族:人間 腕力:20 器用さ:19 素早さ:23 体力:19 魔力:8 運:12 気絶:B 睡眠:B スタン:C 混乱・魅了:B 毒 C OS低下・封印:C マヒ・石化:B 能力値低下:C 剣:0 槍:0 斧:0 弓:0 杖:0 銃:0 拳:20 火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:0 時:0 装備ジェム 格闘アーツLv5 カウンターLv5 OS上昇量アップLv5 素早さアップLv3 物理アタッカーとしての能力に秀でている脳筋 魔法が使えないためブロッキングに弱い + ジュリエッタのステータス ジュリエッタのステータス 性格:少し変 ライフ:20,000 ソウル:1,500 攻撃力:35 物理防御:16 魔法防御:16 戦闘力:11,272 種族:管理人 腕力:17 器用さ:21 素早さ:19 体力:17 魔力:19 運:19 気絶:B 睡眠:B スタン:C 混乱・魅了:B 毒 C OS低下・封印:C マヒ・石化:B 能力値低下:C 剣:0 槍:0 斧:0 弓:0 杖:0 銃:0 拳:0 火:0 水:0 風:0 土:20 光:0 闇:0 時:0 装備ジェム 水魔法Lv6 土魔法Lv6 リザレクションLv2 ライフ自動回復Lv1 魔法サポーターの能力が高く補助魔法を好む リザレクションがあるためしぶとい + ジャスミンのステータス ジャスミンのステータス 性格:能天気 ライフ:18,000 ソウル:1,500 攻撃力:33 物理防御:11 魔法防御:21 戦闘力:11,036 種族:管理人 腕力:13 器用さ:17 素早さ:19 体力:17 魔力:20 運:19 気絶:B 睡眠:B スタン:C 混乱・魅了:B 毒 C OS低下・封印:C マヒ・石化:B 能力値低下:C 剣:0 槍:0 斧:0 弓:0 杖:20 銃:0 拳:0 火:0 水:0 風:0 土:0 光:0 闇:20 時:0 装備ジェム 闇魔法Lv6 スペルカウンターLv5 マナコストダウンLv3 マナ回復量アップLv3 デュアルスペルで魔法攻撃を強化する マナが低いと魔法をライフ消費に切り替える サラワティ含め全員1回行動。ジャスミンは2ターン目初めに参戦し、3ターン目から行動する。 ただし、以下の場合は上記より早く参戦する。 1ターン目に空振りでないリンゴドライブを行った場合、その次の行動後に参戦。 1ターン目にジュリエッタの最後のリザレクションを発動させた場合、その直後に参戦。 1ターン目にヴォルティレーチェでジュリエッタのリザレクションを発動させずに全滅させた場合、その直後に参戦。ツッコミのセリフあり。 サラワティとバランスのとれたカフェメンバーが組んでとても厄介なパーティになっている。 全員アタッカーの中で、ポリィが物理タンク、ジュリエッタが魔法ヒーラーを兼ねている。 「デュアルスペル」を使ったジャスミンの攻撃力は飛びぬけている。 サラワティは前とほぼ変わらず「ゼロクール」「ディバインオーラ」「鎮魂のセレナーデ」をよく使う。 ポリィは物理単体攻撃が多目で、ブロッキング・セイブブロッキングが面倒。 風魔法「ツイスター」「リフレット」「ナイトメア」「テンペスト」も使う。 残りライフを把握してリカバリーは発動させないようにしたい。 最大ライフ割合攻撃「エナジーボール」を使う。最大ライフの30%ぐらいのダメージ。 ミンミンは通常は物理単体攻撃しか使ってこない。カウンターに注意。撃破優先度は低め。 最大ライフ割合攻撃「スパイククラッカー」を使う。最大ライフの30%ぐらいのダメージ。 ジュリエッタは攻撃・強化・弱体化魔法全て使い、「マナゲイン」でマナ不足も防ぐ。「トリイトメント」とリザレクションでしぶとい。 3人倒すと1度だけ「マスタヒール」を使う。 早めに倒そう。 通常時も全体攻撃「イナムラウェーブ」「アースシェイカー」を使う。 通常攻撃が物理遠隔攻撃、スピアアーツ「風車」の対象外。 最大ライフ割合攻撃「ライトニングエッジ」を使う。最大ライフの30%ぐらいのダメージ。 ジャスミンは闇魔法ばかりで、マナが減ると魔法をライフ消費に切り替える。 2人気絶すると「デュアルスペル」を使う。 優先的に倒したい。 OS以外でも全体攻撃「シャドーレイヴ」を使う。 振り逃げしたキャラに「バニシュ・デスゲート」で『気絶』付与する。 基本は各個撃破、相手のOS攻撃を同時に複数受けないように全体攻撃を避けるか、OS技の前に倒して止めたい。 OS時以外でもサラワティの「召雷」やジャスミンの「シャドーレイヴ」などの全体攻撃が重なるとかなり辛い。 ジュリエッタを最後に残すと「マスタヒール」で全員回復するので注意。 OS攻撃はサラワティがスタン付与の水属性全体魔法攻撃「メイルシュトローム」 ポリィが全体物理攻撃の「真・ねこ爪拳」 ミンミンが全体物理攻撃「大通背拳」 ジュリエッタが闇属性全体魔法攻撃「鳥獣戯画」 ジャスミンが闇魔法「シャドーレイヴ」 管理人シキのホーム 「時間列車ユグドラシル」の屋根の上から右に向かった先にある。 シキ編以外ではシキのホームと喫茶店予定地跡がある。 ホーム内にはシキがいて、仲間にしていなければツバメもいる。 椅子に座るとツッコまれる。 また、喫茶店予定地跡の屋根の上にはクリスがいる。 主人公の「ホーム」の喫茶店前にクリスがいる場合は、ここにいない。 条件(*1)を満たして話しかけると「クリスイベント」が発生する。 上記「クリスイベント」を終えると、ダークえのきとしめじが出現するようになる。
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空の果てに存在するとされる世界。星の民達はここから空の世界へとやってきた。(要出典) 星の世界は、星の民に作り出された星晶獣にとって故郷のようなものである、と考える者もいる。(ソフィア光SSRフェイト)
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結城大翔ですが、居間内の空気が最悪です。 唐突に現状報告してしまった。今日は文化祭で、普通ならわくわくした状態で学校へ向かう日のはず。そのはずなんだ……。 それなのに……なぜか美羽はあの夜から一言も口をきいてくれないし、ユリアさんも事あるごとにあのプレッシャーを放ってくる。 ちょっと怖かったけどちゃんと話したよ? 美羽にもちゃんと謝って、無理をしない事を条件に口を出さず家でみんなの事を待つと伝えた。ユリアさんも怒っていないって何度聞いてもそう答えてた。 だったら何でこんなに重苦しい空気が漂ってるんですか。 「あのー、みなさん。き、今日は楽しい文化祭なワケですが……」 「知ってるよ。生徒会がどれだけ苦労して準備したと思ってるわけ?」 「学園でも皆さん精力的に活動なさっていましたからね。ええ、本当に楽しみです」 ゴゴゴゴゴ。二人の背後にそんな文字が見える気がする。どう見ても怒っています。本当にありがとうございました。 この二人の妙なプレッシャーのせいで美優もレンさんも食卓での会話が妙に少ない。そのくせ、俺が洗い物をしてたり風呂から上がってきたりしたときはみんな和やかに会話している。そこに俺が入ろうとするととたんに空気が悪くなる。というか、この二人が拗ねる。 いくら理由を問い詰めても『拗ねてなんかいない(ません)!』の一点張り。息も荒く頬を膨らませてそんな事言われても納得できないというか、どう考えても拗ねてるだろお前ら。いくら何でもお兄ちゃん怒るよ? ――とはいえ。 状況に流されやすい俺が何か強いことを言える訳もなく。今日も今日とて、重苦しい朝食の時間が無言のまま過ぎていくのだった。 ……はぁ。せっかく、みんなで回ろうと思ってたんだけどなあ、文化祭。 学校の賑わいは凄いものだった。普段は交流のない学外と学内の唯一の交流の場ともいえるのだから当然だろう。学外からやってくる街の人たちの話は、それだけで学生――特に新入生の興味をかきたてる。 それだけに、妙な騒ぎが起こったりもするわけだが。 「ま、とりあえず君らは祭りを楽しみたまえ。こんな状況では周辺調査もままならないし……なにより、そんな気分でもないだろう」 「ありがとうございます、先生……現状、祭りを楽しめる精神状態でもないですがね」 理由なく目の敵にされてるとさすがに疲れる。 「彼女ら以外にも何か原因があるようだがね。君の最近の疲れ方は、なんというか、少々異常だ」 乃愛さんには事情を話してある。ていうか口を割らされたのだ。 「異常……ですか? ていうか、そんなにくたびれて見えますかね、俺?」 「ああ。うーん、口では説明し辛いのだが……サラ、これはどういえばいいのかな?」 沙良先生はいかにも興味がなさそうにこちらに視線を流す。どうやらぬいぐるみ改造手術に夢中で俺の相手どころではないようだ。 「ただ精神的に疲れとるだけってワケでもないやろ。せやなあ、確か、あの姫さんらが来たときみたいな感じに見えるな。アンタ、ここ最近まともに寝てないやろ」 「そんなことまで見てたらわかるんですか? なんか最近寝付けないんですよね」 正確には、眠りにはつけるようになったもののたびたび妙な夢で目が覚める。夢の中で身に覚えのない体験をするのはわかる。けど、見たこともない景色を妙にリアルに見たりするのだ、ここ最近。 それが、妙に気になるというか、なんというか。 「君は本当に不可解なことに巻き込まれる性質があるからね。まあ、今日は気にせず精一杯楽しむことだよ。せめて仲直りくらいはしてみせたまえ。仲直りというのが正しい表現かどうかはさておき、ね」 乃愛先生の励ますつもりがあるのかないのかよくわからない激励を受けて、保健室を後にする。とりあえずは一度教室に戻って、それからどうするか決めるとするか……。 「よく言えたもんやな、乃愛……まあ、それが結城の為なんやっていうんやろ、アンタはどうせ」 「最近は、それでいいのかもわからないがね。むしろ彼は、全てを知ったほうがいいのかもしれないとも思うよ」 「はん。難儀なのはアンタもアイツも一緒やな。そういうんは、ウチは結構や。……ちょっと寝かしてもらうで」 「ああ。私はもうしばらくここにいるよ。オヤスミ、サラ」 教室はなかなかの盛況を見せていた。まあ、この狭い教室に店が3つもあるのだ。ジャンルもばらばらだし、ぱっと見て興味をそそられるのは確かだろう。だが、解せない店がひとつだけある。 「貴俊、あいつらは何故水着姿でワッフルの販売なんて狂気的な行動に走ってるんだ?」 「インパクトが大事だとか言ってたぜ? まあ、インパクトはあるな。愛がないけど」 いや愛はひそもそも必要ないだろう。そういう貴俊はかつおのたたきをきれいに切り分けていく。嫌味なくらいに様になっていた。俺はその隣でたたきをパックにつめてたまねぎとタレをかけるかかり。隣や後ろには梱包係や冷凍されたかつおを解凍する係りなど分担作業が行われている。 つーか、みんな妙に熟練してるんだが、お前ら普段なにしてるんだ。どう考えても数日の練習の成果の手つきじゃないぞ。 残るひとつの店は女子中心の店で、パイを販売している。ユリアさんもその店で販売員をしたり、なれない手つきでパイを作っていた。クラスメイトと楽しそうにしている姿がほほえましい。 「――――――――っ!!」 ……目が合った途端物凄い勢いで逸らされたけどね……。ちょっと泣きたい。 ああ、ちなみにワッフルを売っている店の店員は全員男子だ。だからなるべく視界には入れないようにしている。誰も買わないだろうとか思っていたら意外と普通に客が入っていて正直納得いかない気分。 「おいおい……大翔お前、まだユリアちゃんとケンカしてんのか? もう1週間以上だろ。いったいなにやらかしたんだよ?」 「何もやってないってば……うわ、このワッフル滅茶苦茶うまいぞおい」 「すっげぇ練習してたからなあいつら。水着姿なのもその辺と関係があるらしいぜ? どうせお前、誰かといちゃついてるところでも見られたんだろ」 二人でワッフルをほおばる。水着姿とこのおいしさがどういう関連を持つのかがまったく理解できない。店員全員ブーメランパンツでワッフルがうまくなる魔法でもあんのか。 「いちゃつくって……相手がいないだろ、相手が。大体、それを見て俺が怒られるのも納得がいかないじゃないか」 「……はああぁぁぁ。まあお前にそういう機微を期待すんのが間違ってんだろーなぁ」 これでもかといわんばかりの盛大なため息。なにをそんなに呆れてるんだ、こいつ。 貴俊は『お前は何もわかっちゃいない』だの『それじゃあ俺の愛を受け止めきれない』だの『むしろ俺を愛せ』だのいつもどおりわけのわからないことを口走りながら、華麗にかつおを捌いていく。 こいつ、たまに妙な技能とか知識を持っているけど、この見事な包丁捌きもそのひとつだろうか。 「どーでもいい知識と技能ってのは溜め込んどいて損ないぜ? イロイロと役に立つからなぁ。知ってんだろ?」 「お前の役立たせ方が偏ってるのだけはよーく憶えてるよ、寒気がするほどにな」 あまり思い出したくもない記憶が浮かび上がってきた。 あー、あの時は痛かったなぁとか、あの時は死ぬかと思ったなぁとか、あの時は本気で殺意芽生えたなぁとか。ろくでもない記憶ばっかりだ。 「おうおう、愛のなせるワザだな! その愛に免じて、今日は手伝いもういいから自由に回ってきていいぞ」 「うん? まあ、別に俺がいなくても店は回るだろうけど。いいのか、俺だけ回ってきて」 「別にみんな割とテキトーにやってるしなー。それに、せっかくの祭りだ。仲直りの機会にはもってこいだろ? こっちは俺たちに任せてさ」 周りの生徒がうんうんとうなずく。クラス中から喧嘩中と認識されている俺だった。なぜか美羽が機嫌悪いことまで知れ渡っているのだからタチが悪いことこの上ない。 せっかくだし、貴俊の言葉に甘えることにするか。仲直り……か。ユリアさんは同じ教室内にいるから誘いやすいな。美羽は生徒会で動き回ってるし見つけるのは難しいかも。せっかくだしユリアさんを誘ってみるか。 ……考えるとちょっと緊張するな。いや、別に同居人に一緒に回ろうって言うだけなんだから、臆する必要なんてないよな、うん。 「というわけで貴俊、どうしたらいい?」 「そういう誘い文句ぐらい自分で考えろよ。つかお前がどうしたいんだよ」 俺がどうしたいのか、といわれましても。とりあえずはまあ、何故機嫌が悪いのか。いや、それはもういいから、とにかく機嫌を直してもらいたいってところか。このままじゃ家の中の空気も悪いし、俺も精神的にしんどい。あと、正直話しかけて無視されるのがすごく寂しい。あの笑顔が自分に向けられないことがひどく寂しいのだ、なぜか。 「正直、一刻も早く仲直りしたいです。助けてください」 「お前なぁ……。いや、いいからとにかくユリアちゃんを誘って色々まわってこい! いいか、とにかくキーは会話だ。会話をして相手のテンションを盛り上げるんだ。祭りなんだし話題には困らないだろ? あとは勢いだ。なーに、ユリアちゃんだってお前に誘ってもらえば悪い気はしねーよ。それどころか嬉しいんじゃねえ? ほら、わかったら無意味に悩んでないでとにかく行ってこいって!!」 貴俊に背中を押される。くっ……貴俊の言うとおり、覚悟を決めるしかないようだ。 俺は戦地に赴く武士のような気持ちで、ゆっくりと足を踏み出した。いざ行かん、我が戦いの場へ――! 「すみません、たたき2パックくださーい」 「「まいどあり~~!!」」 悲しいほどに商売人根性が染み付いた俺だった。 喧騒で賑わう学校の中を無言で歩く一組の男女。片や美しさと気品を兼ね備え、その実中身は可愛らしかったり微妙にどじだったり天然入っていたりと狙ってんのかコイツなスーパーお姫様。片や特徴の乏しい顔に品性何それな雰囲気を垂れ流し、その実中身は学園きっての問題児の片棒とまで言われ昔の話をされると恥ずかしさで首を吊りたくなるようなお馬鹿な一般人。 俺とユリアさんは一定の距離を保って、すたすたと早足で無目的に廊下を歩いていた。祭りを楽しむ側も楽しませる側も、それどころか客引きでさえ俺たちの前ではその道を譲る。ふははは、モーセにでもなったような気分だな! ……なんて、気楽な気分じゃいられないワケで。 なんというか、ユリアさんの発する気配があまりにも――こう、近寄り難い。まるで硬質の壁一枚を挟んでいるかのような感じ。話しかけることを自然とためらってしまうような、そんな空気。この状態のユリアさんに声をかけられるのは、間違いなく空気が読めない奴だろう。 何しろ、あのレンさんが『ヒロト殿。もはや私にはどうすることもできない! 頼む、姫様のご機嫌をどうか宥めてくれ! 私の力不足が恨めしい限りだが、私ではもはやどうすることもできないのだ』と涙ながらに語るほどなのだから。 ちなみにその後、レンさんは涙を流しながら切腹に踏み切ろうとしてクラスメイト達に止められていた。確実に時代劇の影響が出てきている。 ともあれ、このままではクラスメイト達にヘタレ呼ばわりされてしまう! 今動かずしていつ動けというのか。今だ、今この時こそ歴史を動かすときなのだ!! 空気が何だ、そんなもの読めてたまるか!! 「というわけでユリアさん! 何か食べたいものとかない?」 「え……あ……は、はい。その、なにがあるんですか?」 ごめん知らない。勢いだけで口にしたから。ぐるりと辺りを見回してみる。 とりあえず目に付いたので、ゴーヤーチャンプルー、ウエディングケーキ、ステーキ、ホイコーロー、枝豆、バナナひと房。ちょっと待てお前ら、どう考えてもこのラインナップはおかしいだろ。何で客側も普通に買ってんだよ。バナナとかスーパーで買えばいいだろなんで文化祭で買うんだよ!? 「あ、バナナがおいしそうですね!」 「そこで出てくるチョイスがそれ!? いや食べたいのなら俺はぜんぜんかまわないけど!!」 バナナのおいしさを否定するつもりはない。みるとこの店で売っているバナナは超高級品らしい。さらに、バナナを台の上に置くことはせず壁から壁にロープを渡して、そこに吊り下げる形で並べている。細やかな気遣いがうれしい。けど、なんか努力の方向ちがくない? 文化祭でやることじゃないと思わない? そう思うのは俺だけ? ……まあ、ウチのクラスも似たようなもんか。学校自体が変なところあるしな。 「ヒロトさん、おいしいバナナの選び方とかはあるんですか?」 「ああ、あるよ。まず、青いのよりは表面に黒い斑点ができているほうがいいな。それから、表面が角ばっているのはバランスよく熟していないからこれも除外。あとはヘタに傷がないものを選ぶといい。とりあえずこの辺を考慮した上でさらに俺の審美眼を掛け合わせると……これがこの中でもっともうまいバナナだと俺は睨む!!」 数あるバナナの中からひと房を手に取り、天に掲げる。見よ、感じよ、この芳醇なる果実の香りを!! いつの間にか集まっていたギャラリーどよめき、拍手を浴びる。うん、凄く恥ずかしい。なにしてんだ俺。 「……これください」 まいどありーという店員の声を後に、急いでユリアさんの手を引いてその場から離れる。さらに湧き上がる歓声と規模を増す拍手。なにやら言っているようだがそんなことを気にしている余裕なんかとうの昔に吹っ飛んでいた。 「ヒ、ヒロトさん、どこまで行くんですか?」 「え、ああごめん。ちょっと焦ってた……ああ、丁度いいか。せっかくだし、屋上でのんびり食べようか」 立ち止まった場所は屋上に続く階段の前だった。どのくらい逃げてきたのか。 俺の提案にユリアさんがうなずき、俺たちは屋上への扉を開いた。吹き込む熱気が顔にかかり、思わず顔をしかめる。 「うわ。さすがに、もう今の時期は大分暑いな。ユリアさん、大丈夫?」 「平気ですよ、太陽くらいなんてことないです」 うん、ならOKだ。 屋上に出て日陰にはいる。はぁ。なんだか何もやっていないのに妙に疲れたな。それを考えると、バナナを買ったという選択は意外とナイスチョイスだったのかも。栄養価高いし。疲れたのは自業自得なんだけどさ。 「あの……ヒロトさん…………」 そんなことを考えていると、ユリアさんがうつむきがちに声をかけてきた。なんだろう。 「……その……手を…………」 て? てって……ああ、手か。 ――手。手って。手っ手。てっていう。 なんか、妙に右手があったかくて柔らかくて、ちょっぴり汗ばんでいて。ずっとその感覚を、握りっぱなしで。 視線がゆっくりと右手におりていく。見るまでもない。俺の右手は、しっかりとユリアさんの左手をにぎっていた。 「「…………」」 慎重な動きでそっと右手を離す。ユリアさんはうつむいたまま、解放された左手を胸によせ、右手で包みこんだ。その優しい、いとおしげな仕草になぜか胸が揺さぶられた。 沈黙が場に降りる。けれどそれはさっきまでとは違う。背筋がムズかゆくなりそうな、この場から大声を上げながら走り去ってしまいたいような、妙な衝動がくすぶった沈黙だ。さらに言うと……なぜか、さっきの沈黙とは違い、居心地が悪いのに居心地がいい。よくわからない空気。 「バ、バナナ食べましょう、バナナ! せっかくヒロトさんが選んでくれたおいしいバナナですから!!」 「そ、そうだな! なんか高級っぽいし食べないと損だよな!!」 あは、あははははははははっ!!!! 空々しい笑いが青空に吸い込まれていく。ユリアさんの顔が妙に赤いのはたぶんいきなり屋上に出て熱いせいだろう。だから俺の顔が妙に火照っているのもそのせいだ。うん、その通りだ。よし食べよう。バナナ食べよう。 二人並んでフェンスに背を預ける。かしゃんと小さく金属がこすれる音が響く。 空は青く、空気は澄んでいる。ところどころに浮かんだ真っ白な雲がゆったりと流れていき、その間を切り裂くように一筋の飛行機雲が横切っていった。下から聞こえてくるのは祭りの喧騒。笑い声や叫び声、たまに泣き声なんかもまざった、浮かれた陽気な祭りの喧騒だった。 空は遥か、祭りも遠く。狭間の奇妙な空間で、バナナの皮をむいて一口ほおばる。程よい甘みと酸味が口に広がり、喉を伝っていく。 せみの鳴き声や階下の喧騒は確かに聞こえるのに、ここにいるだけでまるで別世界のように遠い出来事のように感じた。空でも、祭りでもないここにいる俺たちは、まるで二人だけの世界にいるようだった。 「風が……気持ちいいですね。この世界の風は、すごく、活気があって、にぎやかで……元気がでてきます」 「ユリアさんの世界の風は、こっちとは違うの?」 俺の質問に、ユリアさんは空を見上げた。フェンスが、小さく軋んだ。 「私の世界には、この学校みたいな巨大な施設はそんなにたくさんはありません。人々の住む家ももっと雑然と並んでいますし、道路の整備も王都を出れば荒地が続いているような有様です。でも……あの世界の風は、とても穏やかで、優しくて……ほっとするんです。どちらの世界の風も、私は大好きですよ。その世界の人たちがそこにいると、感じることができますから」 静かに語る横顔からは、紛れもない深い愛情を感じた。彼女がいかに自分の世界を愛しているのか、それだけで理解できた。 少し、羨ましいな。俺はそんな風にこの世界を愛することはできない。正直な話、この世界が崩壊すると聞いてもいまだに納得できないし、もしそれが本当だったとしても……俺はきっと自分が何もしないだろうと、そう気づいていた。 あのとき、ユリアさんに自分が何かできないかと聞いたのは――たぶん、意地とか、そういうのだ。この世界がなくちゃ生きていけない。それはわかってる。でもあのとき、俺が何よりも納得ができなかったのは、この世界がなくなることよりも、ユリアさんの役に立てないこと。 ただ、それが悔しかっただけなんだ。 つくづく、自分の器の小ささにはあきれ返るばかりだ。これじゃあ、美羽や美優の兄貴として役不足だと言わざるをえんな。最近の2人は俺よりもしっかりしているくらいなのだ。今この瞬間にでも、俺は必要とされなくなるのかもしれないのだ。 「俺の親父はさ、どんな仕事やってるのか知らなかったんだけど、世界中のいろんなところを飛び回ってたんだ。俺もたまについていっていろんな街を見たりした。あの頃はただ、そうやっていろんな物が見れるのが楽しかった」 親父も母さんも生きていた頃の事だ。母さんが死んでからは親父は長い期間家を留守にすることはほとんどなくなったし、兄妹3人はずっと一緒だった。だからもう、最後に親父とどこかに行ったのは……十年近く前になる。 いや、そうだ。親父が死んでしまう少し前、ちょっとだけ、親父と一緒に見知らぬ街に行ったっけ。毎度の事ながら、どこへ行ったのかは憶えていないけど。ただ、そう。俺はそこで。 「最後の旅のときに親父が『ヒロはこれから沢山苦労するだろうから、そんなときは今まで行った街の事を思い出すといい。行った事だけでも思い出すといい。その街の事は憶えていなくてもいい。ただ、そこへ行った事、世界中に、自分が行ったところがある事、それを覚えているといい。そして一番大切なものがある場所を、よく考えてみるといい』って、言った。今、なんとなく思い出したよ、そんな事を」 親父がなにを言いたかったのかよくわからなかった。そもそも今まで深く思い出すことのなかった言葉だ。でも、なんとなく……ユリアさんの言葉を聞いて、親父の言いたいことがわかったような気がした。 世界を愛するということ。俺にはやっぱりそれはよくはわからないけど……でも、想う。想い描く。この世界にはありふれた幸せが、不幸があって。そこに人がいる。そんな全てを愛するということ、俺がここにいるということ、だれかがどこかにいるということ。自分と同じように立っている人がいるということ。 一人でも、独りじゃないこと。 「今でもやっぱりよくわからないけど……それでも、ユリアさんのおかげでなんとなく、親父がそう言った気持ちがわかった気がする。ありがとう、ユリアさん」 「な、ななな、なんですかいきなり。そ、そんなほめたって何もでませんよ!」 頬を赤く染めたユリアさんの手のひらがぺちぺちと俺の腕を叩く。あははは、ぜんぜん痛くないぜ。むしろくすぐったいくらいだ。 心地よい、ふれあい。 「ところでユリアさん、調査のほう、はかどってる?」 「あ、はい。学園の周囲のどの辺りが異常が濃いかを調べて、特に濃い部分を特定しています。えーっと、つまり、異常の中心点を探っているんです。一応、当初の予定通りに進んでいます」 そっか、順調か。一応乃愛さんにもちまちま聞いてはいたんだけど、あの人は別件で忙しいから調査の詳しい段階までは知らないっていってたからな。ユリアさんの口から聞けて安心した。 ――それに、どこかのガキが来た様子もないみたいだし。来たら来たで乃愛さんの言うガードの人やアホ王子が何かしらの動きをみせてると思うけど。 「そっか。よかった。こうやって空を見てると、世界が1年で崩壊してしまうなんて信じられないよな」 「はい……私も、たまに思います。世界が崩壊なんて事しなくて、何事もなく、ずっとみんなでこうやって過ごしていけたらいいな……って」 確かに、それが一番だろう。何もない日常がずっと続いていく。そんな当たり前をどうしても望んでしまう。 ……当たり……前? 「ああ……なんだよ、ちくしょうめ」 はは、はははっ。そうだ、当たり前なんだよな。俺たちが、俺とユリアさんがこんな風にしていることが。こんな風に、していられることが。だから落ち着かなかった。だから寂しかったんだ。そんな当たり前からはじき出されて。 それほどまでに、俺は新しい家族たちをもうどうしようもないくらいに、家族だと、思っていたんだと思い知る。 「さーて。いつまでもこうして座ってるのもなんだし、祭を楽しみに行こうか。まだ色々、見たいものあるだろ?」 立ち上がり、体を天に向かって大きく伸ばす。 「はい、そうですね。私、こちらの世界の祭がどういうものか、とっても興味があります」 ユリアさんも立ち上がり、スカートをはたく。さて、今日の学校はお祭り騒ぎそのものだ。いくらでも楽しむすべはある。 頭の中でどこでなにをやっているのかを思い出しながら、前を行くユリアさんの後を追って足を踏み出して―― 「……あん?」 グラウンドを見下ろすと、アホ王子が女の子2人組みをナンパしているようだった。 ……おかしいな。一瞬、アイツがこっちを見ていたような気がしたんだけどな。気のせい、か? 「ヒロトさーん、どうかしたんですか?」 「あ、いや、なんでもない。今行くよ」 もう一度、グラウンドを見下ろしたときには、アホ王子の姿はどこにもなくなっていた。 ……また面倒なことになりそうだな。根拠もなく、そう思った。 それから、ユリアさんと2人で文化祭を回った。射的や輪投げ、金魚すくいなどの基本の遊びに始まり、鬼ごっこや腕相撲大会などにも参加した。格闘大会なんかも行われていたが、魔法の使用が許されているため格闘じゃなくなっていた。そこでは、メイド服のままの姿のレンさんと貴俊がタッグを組んで次々に対戦相手を倒していた。 「おらおらどうしたぁ! せめてマイダーリン位とはいわねえが、その十分の一でも俺を追い詰められるやつはいねーかあ!?」 「いや……お前、店はどうしたんだよ?」 「はっはっは。なんかお前がいないとイマイチ暇だったから抜けてきた」 ……こっちは俺たちに任せろとかなんとか言ってたくせに、結局それかよ。大丈夫なのか、ウチの店。 意味もなく威張り散らす貴俊に頭を抱えた。 「大翔もどーだ一戦? いやー、もうさっきから連戦連勝で面白みがねーんだ。レンさんが滅茶苦茶強いしな」 そりゃー強いでしょうともよ。レンさんを見るとなにやら複雑そうな表情。 「レンがこういったのに出るのは珍しいわね。ちょっと驚いたわ」 「いや……私は遠慮したのですが、なぜかいつの間にか出ることになっていて」 無理やり引き込んだらしい。少しは自重しろ貴俊。 「別に適当に負けてしまえばいいんですよ。アイツも飽きっぽいからしばらく遊ばせてりゃ勝手にやめるだろうし」 「戦うからには負けるわけにはいかないだろう」 大真面目なレンさん。几帳面な性格の人は大変だな……。そして貴俊、期待に満ちた目で俺を見るんじゃない。俺は金輪際お前とはやりあわないって昔言っただろうが。 その後もしばらく二人の独壇場だったが、貴俊が突然飽きてどっかに行ってしまうとレンさんもさっさと自分の仕事に戻っていってしまった。マイペースな二人組に散々もてあそばれた挑戦者達が屍の山を積み上げた伝説は、しばらく残りそうだ。 美優のクラスに行くと、カフェをやっていた。軽食とドリンクを出していた。ところで、俺に出されたこの皿の上の黒い物体とコップに入ったコールタールのようなものは何だオイ。 「あの……わ、私が、作ってみたんだけど」 ユリアさんの前には普通のケーキがおかれている。ユリアさんは固まった笑顔でこちらを見ているが、微妙に視線を逸らして俺と目をあわせようとしない。どうやら関わりたくないらしい。 周囲から好奇の視線が集まる。その視線の一つ一つがおれに訴えかけてきている。食え……それを食してリアクションをみせてみろ……と! お前らふざけんなどう考えてもこんなの食べて人体が耐え切れるわけないだろ! ブラックホールを思わせるほどの黒さの上にたまにぴくぴくと震えるんだぞ? ためしにフォークを突き刺してみたら紫色の液体がぴゅーって飛び出すんだぞ!? ていうかフォークの表面が泡立ってるのは酸化してるんだよなこれ、溶けてるんだよなこれ!? これを食えと。俺に食えと!? 「………………………………。あ、あの、やっぱりいいよ、お兄ちゃん」 そういって皿に手を伸ばした美優の目じりには、小さく涙が浮かんでいた。 「うわーいおいしそうだなこんちくしょうっ! 食うよ食えばいいんだろうがああ!!」 ――――ええい、材料はまともなはず! 死にはすまいよ!! ぱくっ 「た――――食べたっ!?」 『おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』 歓声が。俺を称える声が聞こえる。 ああ……この歓声があれば、俺はこの口の中に広がるカオスさえも許容できるかもしれない。そう、舌の上でどろりという食感を残し、喉を通るときはするりと滑り込み、胃の中に入れば暴れまわるこの物体も。 口の中に辛さと甘さを撒き散らし、たとえようのない匂いで嗅覚を抹殺してしまうような、この物体を認め―― 「られるかぁぁぁぁぁっ!! ごぶふぁっ!?」 脳が危険を感じたのか、全神経をシャットアウト。唐突に意識が途切れ、ふっと体の力が抜けた。 「お、おおおおお、お兄ちゃあああぁぁっ!?」 「ヒロ、ヒ、ヒロトさあああん!?」 途中、文化祭の運営に駆けずり回る美羽とも遭遇した。 「おう、忙しそうだな美羽」 「当然。方々で騒ぎが起こってるわよ。いっとくけど、変なことしたら承知しないからね兄貴」 だから俺はそんなことしないから。 「お前祭楽しめてるのか?」 「楽しんでるわよ。アタシなりに楽しいと思ってやってるんだから」 なるほど。世話好きの美羽らしいといえばらしいのかもしれないな。祭をこうやって影から支えて、みんなの楽しみを支えて。 そういうことに喜びを見出すのも、まあいいだろう。……もっと自分のことに精一杯になってもいいとも思うけど。 「兄貴は――ま、楽しんでるみたいね。感謝してよね、この祭の運営、大変なんだから」 「おー、感謝してるって。終わったら飲み物でも奢ってやるよ」 駆けていく美羽の後姿に声をかける。返事はないが、聞こえてはいるだろう。なんか、久しぶりにまともな会話をした気がするな。 「ふう……忙しさで頭が一杯で怒ってる余裕もなくなったか。それにしても、結局なんで美羽の機嫌が悪いのかわからなかったな」 「そういえば、美羽さん最近あまりヒロトさんとお話していませんでしたね」 そうですね。でもそれ、自分にも言えるって気付いていってますかお姫様。 やがて、祭りも終わりを向かえ、グラウンドの真ん中でキャンプファイヤーが炊かれた。その周りを生徒や教師、その他もろもろのが自由に踊っている。 無論全員がそんなことできるわけもないので、交代になるし、そもそもその輪に入らない人たちもいる。 俺とユリアさんは、その輪に入らずに外から眺めていた。 「今日は楽しかったです。一緒にヒロトさんとお祭を見て回ることができて、とても楽しかったです。ありがとうございました」 「俺も楽しかったよ。それにいろいろ思うところもあったし……こちらこそ、ありがとう」 並んで壁にもたれかかって缶ジュースを飲みながら、燃え盛る炎を眺めている。祭りの終わりを予感させるせいか、炎は、どこか寂しさを感じさせた。 もうすぐ祭りが終わる。いってしまえばそれだけなのに、それだけじゃないような、もっと大切なものが過ぎ去って行くような、そんな錯覚。 「思えば……こちらの世界に来てから色んなことがありました。いろんな人に出会いました。大切な、思い出がたくさん、できました。今まで知らなかった世界が、空が、大地が、風が、こんなに素晴らしいのだと、そう思いました。そこに住む人々がこんなに暖かいのだと、そう知りました」 それは誰に聞かせるための言葉でもなくて、ただ、自然と思いが言葉という形を持って吐き出された、ただそれだけのことだったんだと思う。 「世界は炎のように力強く揺らめいて、私たちは火の粉のように頼りなくて。それでも、明るくて、暖かくて。この世界を好きになれて、よかったと思います。それだけで、私は、この世界に来れた意味があると、思います」 「うん……なんとなく、わかるよ」 親父が言っていた事。まだどんな理由があったのかよくわからないけど。でも、確かに知らない世界を知るということは、それだけで俺の中に何かを残してくれていると思う。自分の知らない人たちが、それでも、世界のどこかで俺と同じように生きていること。あるいは俺よりも、ずっと必死に生きていること。 そして、思い出す。自分にとって大切なものがある場所を。自分にとっての大切なものを。目の前にある、大切なものを抱える人々を見て、思い出す。 「ならさ……もっと、いろんなものを見ようか。いろんな思い出を、みんなで残そう。君がいなくなる、その日まで」 「………………は…………い」 その小さな返事が妙に気になって、彼女を振り返ってみたけれど。 「どうしたんですか、ヒロトさん?」 いつもどおりの笑顔があった。 気のせい、か? そうとは思えなかった。でも、理由は聞けなかった。なんとなく、陰のある笑顔を浮かべる彼女に、その悲しげな笑顔の理由を聞くことは、俺にはできなかった。 理由は、よくわからない。 祭が、終わっていく。 「そういえば何で今まで怒ってたの?」 「……怒ってなんかいませんっ」 いやほらそうやってまた拗ねる。その姿はまるで子供だ。 「ただ、そう。ちょっとだけ、わかったことがあるという、それだけのことです」 「わかったこと?」 「ヒロトさんが、ずるい人だと、悪い人だということです。いいですか、全部ヒロトさんが悪いんですからね?」 それは何か、無茶苦茶を言われていると思った。なのに、ああそうなんだ、なんて思ってしまったのもまた事実で。 こんな無茶苦茶を無理矢理納得させてしまう、そんな彼女に思わず、 「あー! 何を笑っているんですか、もう! ちゃんとわかってるんでしょうね」 「わかった、わかったよ。うん、俺が悪い、ね。なんかよくわかんないけど、今後気をつけるよ」 顔を引き締めて答えた。とはいえ、何をどう気をつければいいのやら。 彼女の言う俺の悪い部分がわからないのだから手のうちようが無い。せめて具体的に教えてくれたらもう少しどうにかしようがあるのだが、彼女はつーんとそっぽを向いてしまってとても教えてくれるようには見えない。 それでもその様子は今朝までのそれとは違うものだった。どこがどう違うのかと聞かれれば、うまく説明できないけれど。 うまく説明できないといえば、今の俺の状況もそれに該当すると思う。実に中途半端だ。 何をするべきかもよくわからず、何ができるのかも判然としない。ただ守りたいものがあって、守ることだけは決めている。それが現実としてできるかどうかはわからずとも。 それを決めるきっかけになったのは、果たしてなんだったんだろうか。 「ヒロトさん、また笑っていますよ?」 「あれ、俺笑ってた?」 口元に手をやると、確かにそこには笑みが浮かんでいた。自然な、柔らかい。目の前の少女が浮かべるものと、きっと同じ。 そのことが少し――いや、正直に言うとかなり、嬉しかった。
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問題3 問題セーブデータ(Ver 1.6) 手番 赤 時刻:夜1 問題 上記のような状況で、どのように攻撃を行うのが良いか? 夜1 1p UD 暗黒僧侶 HP27 俊敏知的 骨斧 アンデッド 骨弓 アンデッド グール アンデッド勇敢 2p オーク 兵卒(手前)HP37 強力敏捷 兵卒(奥)HP44 頑強強力 解説はこちら
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急速に黄昏てゆく世界を学園の屋上から見下ろしながら俺とノアは並んで立っていた。 「うん? ああ……ようやくきたね。ふふ……まったく」 ノアが突然、フェンスの向こうを眺めながらそんなことを言っていた。 「何か?」 「いやなに。そろそろ決着かなと、思っただけだ」 決着。その言葉が心に重くのしかかる。 世界の壁を貫きこの世界へやってきた俺に、ノアはそのすべてを語った。 ノアはこの世界を滅ぼす。そういう存在でありそうあらなくてはならないから。だがそれにあたり、彼女は宿主たる乃愛さんの願いを可能な限り受け入れることにした。 それが、新しい世界の創造。 滅ぼしておいて新しい世界を作るなんてどんなだよと思わずにはいられないが、ノアは世界を滅ぼすという行為さえできればよいのだとか。そして滅ぼした世界の存在の一部を新たな世界に回すことで、俺たちの世界は疑似的にとはいえ存続する形になる。 無論昨日の続きの世界ではない。新しい歴史、新しい人々の作る世界だ。そこへ俺たちの存在をオーバーライトする。 この世界はいわゆるその下準備の段階の世界で、俺たちの今への歴史をたどっているところだという。そして、この世界の歴史と俺たちの世界の歴史が重なった瞬間、一つの世界が崩壊し、一つの世界が生まれる。 生まれる世界は幸せに満ちていて、誰もが笑って暮らせるような、そんな世界なのだそうだ。 そこには俺がいて美羽がいて。陽菜も、貴俊も、沙良先生もいて。それどころか、親父や母さんもいて。 しかしユリアたちとの世界のつながりは消える。美優もうちに来ることはないだろう。無論出来上がった世界次第ではあるのだが。 今あるものが消えて、代わりに手に入る失ったもの。 「それもこれもぜんぶ、乃愛さんの記憶と存在を失うことによって」 「不満かい? 乃愛の望むことなのだがね」 「不満を感じないわけがないだろ。俺は乃愛さんを助けに来たんだ」 固く握った拳を突きつけた。ノアはそれを見て呆れたと笑って一歩、距離を離す。間合いの外へと。 「そんなに不満か、君の大切なものが奪われることが。そんなに不服か、君の望みが果たされないことが。そんなに不快か、君の世界が侵されることが。まったくもって君も乃愛もそしてこの私も、ずいぶんと腐れ切った勘違いを犯したものだね!!」 ドンッ!! 世界が震え、唐突に空が赤から青へと切り替わる。時計の針が急速に回転を早めだす。 「君の狙い通りだ、ああその通りだとも! 私の中の礎は君の一撃で破壊することができるとも。むしろ君にしかできないことだ。だからあえて君にのみ私の知識を伝えた。そして私の予想通り、乃愛の期待を外れ、君は一人でやってきた」 乃愛さんの期待とノアの予想? 「君も乃愛も気に食わない。君たちはいつだってそうだ、己の箱庭の中にすべてを閉じ込めようとする。自分も、自分の大切なものも。そしてそれを守っていればそれで満足なんだろう。それが私には気に食わないと言っているんだ!!」 「ごぉっ!?」 衝撃を受けたと理解した時には吹き飛ばされていた。自分が何をされたのか、どこに攻撃を受けたのかも理解できなかった。 「げ……ほっ!? いったい、何を言って」 「そうやって理解しない、しようともしない! 同じところをぐるぐる回っているだけのくせして前を向いたり後ろを向いたり!! 同じ結論にしか辿りつくつもりがないのなら最初から希望を持たせるようなまねをするな!!」 胸倉を乱暴に掴みあげられる。ごつんとひたい同士がぶつかり、乃愛さんの表情で、乃愛さんでは見せないような烈火の如き怒りのありのままをその顔に浮かべて。 ノアは、怒っていた。憤っていた。 何に? 神を名乗るような、事実そのような行いをしている存在が、何を憤る? 「それが君の誤りだ。それが乃愛の過ちだ。貴様ら何様のつもりだ、失いたくないだの守りたいだの。そのためになら自分がどうなってもいい? 別にそれが悪いとは言わないさ、だがね、それを相手が当然のように受け取ると思い込んでいるその傲慢に腹が立つ!!」 床に叩きつけられた。激痛が脳髄を痺れさせる。だが終わらない。ノアはどこまでも止まらない。 何だこいつ……こんなの、まるでどころじゃない。この感情が、人間、そのもの以外の、何だって言うんだ? 「立ち向かえよ、阻んで見せろよ! 人間だろう、生きているんだろう!? それともそれが貴様らの生き方か、それが貴様らの死に方か?」 「何を、言ってんのか――わっかんねえんだよ!!」 後頭部を踏みつける足を乱暴に張り飛ばして立ち上がる。 「聞いてりゃわけのわからないことをごちゃごちゃと……お前は結局何がしたいんだよ!?」 「それを惑わしたのが乃愛で貴様だ! ただ壊すだけでよかった、ただ滅びを与えればよかった。そうして私は消えてしまうだけだった。感情や理性なんて必要なかった! 乃愛と貴様が、私にそれを与えたのだ!! 貴様らを恨んだよ、憎んだよ、愛したよ、慕ったよ。こんなものを与えた貴様らを、恵んだ貴様らを。だから腹が立っているんだろうが、貴様らが何の迷いも無く死を選ぼうとしていることが!!」 その言葉に。 一瞬で、全身が鎖に絡め取られてしまったように、固まってしまった。 「ヒロト君、君の考えはこうだろう。『私の中の礎を部分的に破壊することで引き剥がし、それを己の中に取り込んで己ごと貫き滅ぼす』――確かにそれは可能だよ。難しいが不可能ではない。君の『貫抜』はその効果を物理的なものに限定しないからね」 その通りだった。それだけがおそらく、乃愛さんの命とこの世界、そして家族を守る、唯一の手段だった。 乃愛さんが俺に与えたヒント。あの人がヒントを与えた以上、絶対どこかに回答があるはずなのだ。世界の崩壊を回避する手段が。 ノアを殺すことは不可能だ。彼女の運命がそれを阻む。それならば、その中に在る礎だけを破壊すればいい。 問題は、礎の破壊を行えば乃愛さんまでも消滅してしまうということだった。そして、礎を破壊できるのは誰かに宿っている間のみ。となれば俺が取るべき手段は一つしかなかった。 それが、ノアが言った事だ。 それしかないと思った。 「ふざけた考えだ。腑抜けた考えだ。その思考にたどり着くまでにおよそ自分の死というものに対する恐怖が無い。そうして自分の大切なものが守られていればいいんだろう。そうして箱庭に収まっていれば安心なんだろう」 「――んだと?」 なぜかその言葉に、怒りが呼び起こされた。 「君は誰も守ってなんかいない、君が守りたいのは家族なんかじゃない。君は恐れているだけだ、失うことを。失った自分が壊れてしまうことを。だから真っ先に自分を失おうとする。幸せな箱庭を眺めながら死んでしまっていいと結論付ける。幸せな夢を見ながら最期を迎えようとする」 その勝手な言葉がいちいち癇に障る。 ふざけるな。俺はただみんなを守りたいだけなんだ。だから、なのに。なんでこんな言葉に動揺しているんだ。 「君が守っているのは、置いていかれる事に怯え続ける、自分の心だけだ」 「……黙れ」 「無責任な愛情を振りまいて己の幸せに浸っていただけだ」 「黙れよっ!!」 乾いた音を立てて、俺の放った拳はあっさりとノアの拳の中に納まった。 冷たい瞳がこちらをじっと見下ろしている。突き放すような、それでいてどこまでも踏み込んでくるような視線。 「母親が自分を置いて逝ってしまったことが、そんなに怖かったのかい?」 「あ……がっ!?」 気を抜いた刹那に腕を捻られる。腕が後ろに回されがっちりと極められてしまった。 「自分はそうはなるまいと思った。守るべき妹を、家族を君は最期まで守ろうと思った。それは立派だと思うよ。だがダメ押しのように君は父親まで失った。自分の力への信頼を失った。残った自分はただ弱いだけの存在だった」 耳元でささやかれる言葉は嘘か真か。それさえも正確に判断できない。 何か自分にとって嫌なものが顔を出しそうな、そんな気配があったから。 「弱い君には家族は守れない。いつか君はもう一度大切なものを失い傷つき絶望する。それをただ恐れるが故に、なけなしの力を振り絞って戦って守って、それでも届かないのなら己の命を投げ出す。せめて自分が傷つかなくて済む様に」 「ち、ちが……」 そんなこと考えてなんかいない。俺は、そう、みんながちゃんと明日からも生きていけるようにと、それだけを願っている。そこに嘘なんかない。 「ヒロト君、君は私に言ったね。私が死ねば世界が滅んだも同じだと」 その言葉にはっとして、小さな炎をてのひらに生み、相手がそれにひるんだ隙に拘束を解いた。 即座に向き合う形に立って、相手の顔をまっすぐに見る。 「……乃愛、さん?」 「ああ。なんだか久しぶりだね、ヒロト君」 間違いない。その笑顔は乃愛さんのものだった。しかし、どうして……? 「選手交代さ。ノアは言葉がうまいほうでもないし、君も私も人の言葉で己の意志を曲げるような素直な人間じゃないだろう? だから手っ取り早く済ませようと思うのさ」 時間もないことだしね、と肩をすくめる乃愛さん。間違うはずが無い本来の彼女の仕草だ。相変わらず何を考えているのか読むことはできない。 彼女はにっと笑って腕を組み、空を見やる。 「私の記憶、か」 「乃愛さん?」 「いや、なんでもない。世界の作り変えの話の詳しい話はしたんだっけ?」 詳細については聞いていないので首を振った。俺がノアから伝えられたのはこれから行うこととその結果だけだ。 「ならついでだし話しておくかな。本来ノアの役目は世界を滅ぼす事だから、こうして作り変えにも近いことを行うのは本分ではないんだ。が、それを可能にしているのがこの礎だ」 とん、と己の胸を指した。神経を集中させれば、そこに確かに乃愛さんとは違った力の流れを感じることができる。 「この世界に私の記憶を上書きする。思い通りの世界を想像して創造する。言ってしまえばそれだけさ」 世界を滅ぼすだけなら、礎以外にももっとスマートな方法があるのさ、と笑って恐ろしいことを口にした。 「その結果、乃愛さんの記憶は全て失われて、さらに乃愛さんという存在自身も消滅する……」 乃愛さんは笑ったまま肯いた。その己の未来に何の憂いもないとばかりに。聞いている方からしたらワケのワカラントンデモ話なのだが、乃愛さんはそれができると確信している。礎を手に入れたことによるのかそれともノアの知識を共有しているのか。 「止めますよ、絶対に。そのためにここに来たんですから」 「ああ、わかっているとも。君がそうすることくらいわかっていたさ。君と私はとても似ているんだから。ところでヒロト君、同属嫌悪という言葉を知っているかい?」 笑顔ですっげぇ理不尽な事を言われ始めている気がするのは俺の気のせいか? そして今感じている強烈な殺気はなんだろうか。 「いやなに、ノアがムカついているということは私もわりかしムカついているということなんだよ。うん、私も君の立場なら同じようにするだろうがなるほどこれは、かなりムカつくね」 笑顔でムカつく連呼されたのは人生初めての経験です。なんだこれ。クライマックスでこんなわけのわからない状況かよ。 「いちいちまじめになるのも馬鹿くさいからね。君は君のやりたいことを、私は私のやりたいことをすればいい。君だって私の選択には少なからず苛立ちを感じているだろう? 私としては、これ以上の結末は望めないと思っているんだけどね」 「乃愛さんが死ぬのにそれが最高の結末なわけがないでしょう」 「最高とは言ってないさ、現状これ以上はないといっているだけだ。こうでもしなければ、何もなくなるか君が死ぬか。君の頭の中にある二択はそれだけだろう? 私を犠牲に世界を救うなんて考えてもいないんだ」 こちらの考えていることは全部筒抜けだ。乃愛さんの考えなんて俺にはさっぱりわからないのに、不公平にも程がないか? この人はいつもそう。こちらの考えのずっと先を見て導いてくれていた。その人が今度は、俺たちの道の先を封じようとしている。 「あなたを殺して世界が続いたってそんなの、辛いだけですよ」 「…………君は、自分のことしか考えないねぇ」 え? 「私が新しい世界を作ろう、なんて考えたのはね。タイヨウさんとミクさんの二人が、この世界にいないからなんだ。あの二人のいる世界が手に入るのなら、私は今の世界をなかったことにしてもいい。そう思ったんだよ。たとえその世界に私がいなくても、ね」 語る乃愛さんの瞳には、深い愛しさが感じられた。その声が、表情が、どれだけあの二人を慕っていたのかを物語っていた。 乃愛さんにとっても、親父と母さんは親だったんだろう。そんな人だから、俺たちを姉のように導いてくれたんだろう。 「ノアの言葉を借りるのなら、私の箱庭は二人がいて初めて完成されるわけだ。もっともこんなチャンスでもなければそんなことを考えたりしなかったろうけどね」 「チャンス、ですか」 これを、この状況をチャンスと捉えたのか、この人は。 「そう怖い顔をしないでくれ、言葉の綾だ。とにかく、私の考えはそんなところさ。時にヒロト君、君がポーキァと戦って大怪我を負って返ってきた時、ミウやミユがどんな反応をしたのか知っているかい? 酷い有様だったよ。ミウは茫然自失で何を言っても反応しないし、ミユは泣いて暴れて手が付けられないし。つれて返るにも一苦労だったよ」 「つれて帰る?」 「ああ、あの時ミユも一応学校へ行っていたんだよ。戦いには参加していなかったようだが……まあそれだけに責任を感じていたのかな。君が死んでいれば後追い自殺でもしていたんじゃないのかな」 恐ろしいことをさらりと言われてしまった。 「君の怪我でその騒ぎだ。さて、君がいなくなったら彼女らはどうなるだろう?」 「……でも、あいつらは強いですよ。少なくとも、俺なんかよりはずっと、しっかりしている」 「そうだね、君にとってはそのほうが都合がいいものな」 随分と嫌味な言い回しをされてしまった。というか言葉からにじみ出る悪意が非常に居心地悪い。時計を見ると、リミットは刻一刻と迫っている。こんなことをしている場合じゃない。 のだが、なぜか会話を断ち切って無理にでも攻撃をする気にはなれなかった。 「けどなぁ、ヒロト君。君はそうして世界を守るつもりなんだろうが、やっぱり世界は壊れてしまうんだよ、それではね」 謎かけのような言葉。意外にも、その意味をあっさりと彼女は告げた。 「君は私の死を世界の終わりと同義に答えた。君がそれだけ私を大切に思ってくれていることは実に喜ばしいよ。そして君は君の世界を守るために私を生かす。その結果として、ミウやミユの世界は壊れる。ノアの言っていたことはそういうことさ。無論、君が純粋な想いからみんなを守ろうとしていることは知っているさ。けどね、どうもね。ほら、君と私は似ているから」 乃愛さんの言葉は、突き出された現実は。驚きも何もなく、ただ俺の心の中に受け入れられた。 守りたいという意志に嘘はない。失いたくないという言葉に偽りは無い。 間違っていたのは認識。俺が何のためにこんなところまで来たのか、その意味。 「俺は、自分の願いが叶っている状態に浸っていたかっただけなんですよね」 「私は、自分の願いが叶わない状態で満足することを覚えていたに過ぎんよ」 笑った。酷く空虚な気持ちで、互いを嘲りあった。 なるほど。これは酷い。酷い、裏切りだ。 俺はここへ、みんなを裏切りにきた。守る守ると嘯いて、みんなを傷つけにきた。そうすることが、俺が一番傷つかないから。乃愛さんも守れてみんなも守れて――少なくともその瞬間には誰も傷ついてはいないんだから。 うん。 「なるほど、こりゃムカつく」 連呼されても仕方ない。 仕方ない、が。 「やめるわけにも、いかんでしょうよ」 「諦めるわけには、いかんのだよ」 ため息をついて。 肩をすくめてて。 やっぱり笑うしかないのだ。この喜劇に。バカな道化が二人で踊った、それだけの話。いや、道化のほうがまだましだ。道化は他人に笑顔をくれるが俺たちはみんなの世界を奪うのだ、自分の笑顔のために。 「残って欲しいから、生きていて欲しいから。それが俺が生きている意味だから」 みんなにも、乃愛さんにも。 「せめて私を切り捨てることができれば、ね。君の強いる痛みは、君自身が耐えられなかったものだよ。それを耐えてくれると信じることがどれだけ残酷だと思う? 少なくともタイヨウさんは、それを君に強いたとは思わないよ」 それは同感だ。親父が俺を守ったのも、あの世界を見せたことも、最期まで笑ってくれていたことも、全部ただの優しさだ。 俺にはない最高の想いだ。 「自分が誰かの痛みになるって、親父はわかってた。それでもせめてその痛みを小さなものにしたい、救ってあげたい。親父の考えはたぶんそういう、当たり前のことなんですよ」 そんな当たり前の優しさを身につけられなかったから、こんなことになった。他人のためを謳い己のためだけに必死になる姿にノアが怒りを覚えるのも仕方の無いことだろう。 「さあ、時間もない。決着をつけよう。勝負は一撃。君の力が私に届くか、私の力が君の力を捻じ曲げるか」 乃愛さんのかざした手の平を中心に空間が歪む。 「ノアの力と私の力を組み合わせてみたものだ。私の力で世界にひとつの錯覚を与え、ノアの力をより大きく作用させている。つまりこの空間では私への攻撃は幸運にも全てそれていくという、そういう力だ。これを、君の力で破って見せるといい」 全力の一撃だ。許すのはそれだけ。 そう告げた乃愛さんを包むように、空間が更なるゆがみを見せていく。まるでピカソの絵画のように前後左右があべこべの空間。半端な攻撃ではこの力を貫くことはできないだろう。 己の全力をかけて、この空間を、その先の乃愛さんを――その奥の礎を貫かなくてはならない。外せば、俺の負けだ。全力の攻撃を放った後の隙を乃愛さんが逃すはずが無い。 「この俺の魔法が……運命なんかに歪められるものか。どんな悪運だって貫き砕いてやる」 「やってみるといい。神の力と師の力、超えて己の意志を貫き通せるのなら見せるがいい」 呼気ひとつ。 下腹に力を込め、一歩を踏み出す。 残り三歩。力の全てを右の拳に纏い、収束し、撃鉄を起こす。 残り二歩。体をひねり大きく拳を引き、狙いを定める。 残り一歩。歯を食いしばり地面を踏みしめ背中のバネに力を込める。 衝突。 「おおおおあああああああああっ!!!!」 「かああああああああああああっ!!!!」 ドンッ! 衝突は物理的衝撃を伴って空間に響き渡った。床は抉れ風が暴れまわり、溢れる力が雷光となって空間を焼く。 拳は歪んだ空間にぶつかり、その先を目指す。が、固い岩盤に当たったようにびくともしない。だがそれでも力は迸る。前へ、先へ。貫く存在を目指して。 空間はめまぐるしく映す景色を変える。万華鏡に映った乃愛さんの顔も、全力の力を振り絞っていた。 「はははは! 強い強い、大したものだ。だが私を殺せない、その君の弱さがある限り、この壁を貫くことはできない!!」 「弱くなきゃあなたを失うってんなら弱くて構わない!」 「そして誰もが傷つく! 君が本来成さねばならないのはその痛みから皆を守ることだというのに、だ!」 「でも今までこうしてやってきた。今更それを無理にでも変えろってのが無理な話だ!」 吹き荒ぶ風は耳にやかましいというのに、どこまでも彼女の声は明瞭だった。 どこまで……どこまであんたは、俺のことを思えば気が済むんだ!! 「君の世界に彼女達が必要なように、彼女達にも君が必要なことくらい自覚しているだろう! ミウにとって君がどれほどの目標になっているのか、ミユにとって君がどれほどの支えになっているのか、それがわからないではあるまい!?」 壁が複雑さを増し、腕を押し返す。その勢いに負けぬよう、ひたすらに足で体を支え、拳を前へと押し出す。 「ヒナが君を何年も抱き続けたその純粋な想いはどこへ行く。何の決着も付けられないままに彼女の気持ちを放り出すのか!」 腕の感覚はすでになく、頬にかかった赤い飛沫で、腕が裂けていることにようやく気付いた。 「姫君の献身と純心はどうなる。タイヨウさんを通して君を見て、純粋に君だけを見るようになって、君だけを望む彼女の想いを切り捨てて!」 ごきり、という不快な音が耳に届いた。握る拳の指先が抉れ、白いものが顔を出している。だが痛みなど感じない。もっと大きな痛みに隠れてこの程度の痛みは少しも響かない。 「君の彼女達への気持ちはどうなる。君が愛し共に育った妹達、君が信頼し共に歩んだ幼馴染、君が出会い君を変えて君に数多くを気付かせてくれた少女。彼女らへの思いは、私を殺すことよりも軽いと、そういうつもりかユウキヒロト! 君の君自身の大切な想い全てをブチ壊してまで私を生かして本当にそれで満足か貴様!! 彼女らと歩む未来のために私を殺す事もできないのか? これまでの歪んだ自分全てを壊して生きたいと、本当に想わないのか君は!!! それでも私の弟か!!!!」 「っく、ねぇよ」 歯を食いしばる。血が滲むほどに奥歯を強くかみ締める。腕は震え力は今にも抜けそうで、支える足はギシギシと軋み支える床に体が沈む。 俺が。 俺がなんでこんなことをしなくちゃならないんだ。大切な人を奪うのか自分が死ぬのかでしか、大切なものを守れない。絶対に誰かが傷つくしかないんだ。 理不尽だ。理不尽だけど、どうしようもなくありふれた事だ。 「死にたく、ねぇ」 大切な人たちを守るつもりだった。最初はそう想っていたはずだった。でもいつからか俺は、自分が傷つきたくないだけになっていた。 だからか? そんな事を考えたから、こんなことになったのか? けど誰だってそうだろ。痛い思いも苦しい思いも悲しい思いも、しなくて済むならそっちのほうがいいに決まってる。 だから、俺の間違いはそこにあった。 「死にたくなんか、ない!!」 「なら殺せ! 私を殺してその痛みを抱えてそれでも足掻いて生きて見せろ!!」 自分のために人を傷つけることを意識しなかったこと。それが許されてきたこと。その二つを自覚しなかったこと。 結局俺は守られていた。母さん、親父、美羽、美優。陽菜に、乃愛さん。俺に関わってくれていたみんな。 ユリア。 「さあ、さあさあさあさあ! 時間も力も私の記憶も、残りはもはや僅かに過ぎない、迷うな考えろ決断しろ!! その答えを見せてみろ!!」 それでも、俺は。 ぐしゃり、と指先が潰れた。押し出す力と壁の圧力に、グローブをもってしても拳が耐え切れなくなったのだ。 同時、壁がぐにゃりと歪む。綻びの生まれた力の隙間に、体ごとぶつかる勢い全てを拳に乗せた。 「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 拳が壁を突破する。右腕に無数の傷が走り鮮血が弾ける。服が肩まで細かに千切れる。互いの視界が刹那、紅白のまだらに埋もれ―― 「「――っ!!」」 互いの放った一撃が交差し、それぞれの胸に正確に打ち込まれた。体が勢いよく吹き飛ばされる。 ごきり、と嫌な音が首から響き、したたかに床に叩きつけられ、転がり、めくれた床に弾かれてフェンスにぶつかってようやく止まった。 「がっ、あ、ぐ、あああああっ!!」 砕けた床の石の破片が刺さったのか、体の前後に刺さるような痛み。加えて今更右腕が焼けるように痛み出す。 ひときしり叫びを上げて、額を強く床にたたきつけた。左手でフェンスを掴み立ち上がる。 「かはっ! は、ははは……やれやれ、強いなぁ、君は。強くて、強くて……せめて弱さに膝を折ることができたら、生きるために私を殺せたかもしれないのに」 そう呟く乃愛さんの表情は。 なんというか、本当に。 悔しそうだった。 ああ……この人は本当に、優しい、人なんだ。 自分の存在が世界を滅ぼすようなものになって果たしてどれだけ苦しんだだろう。その上で自分に何ができるのかを考え、自分のやりたいことを考え、その上で俺のことまで考えてくれた。真剣に悩んでくれたと思う。 だから少し、心苦しい。 俺は宙に浮かぶそれを――淡く薄緑色に輝く光を睨みつけた。世界の礎。こんなもんを生み出した馬鹿野郎を口汚く罵りたい。 礎は大きな核となる部分と、力の切れ端となった小さな部分が幾つとかに分かれて、ふわふわと浮かんでいる。 「結局、乃愛さんにとってはどんな結末が望むものだったんですか?」 こんなに俺を追い込んで、俺に殺されようとして。それでも本気で、新しい世界を望んで。 「さあどうだろう。たぶん、どっちでもよかったのさ。私にとって大切なものはいつだって目の前にあるのだから」 深いため息と共に呟かれた言葉は、目的を果たせなかった無念ではなく、すがすがしさを帯びていた。 遠く、どことも知れない場所から響いてくるのは大地がその身を揺する声か。学園も少し揺れている。いずれはもっと大きな揺れが襲うだろう。 すぐにでも礎を収めなくては。この身の内に。 体を引きずるようにして、礎を目指す。ああくそ、しんどいなぁもう。けどそれももうすぐ終わりだ。永遠の終わりだ。 そう思うと、記憶の箱がひっくり返されたみたいに色々なものが溢れてきて――それを、無理矢理押し込んだ。 一歩一歩を踏みしめるように歩く。傷口から流れ出る血液の一滴一滴が、俺の命が流れていっているみたいで不謹慎にも笑いが漏れた。 それでも、歩くことをやめはしない。 そして、後一歩で手を伸ばせばたどり着く、というところで。 「なぁ、ヒロト君。私ね、君からはじめて聞いたような気がするよ」 「はい?」 その声はどこか満ち足りていたのに、酷く、悲壮な響きを持って耳を打った。 「『死にたくない』って、初めて、君の口から。それは己の存在の消滅を拒絶する言葉だ、己のための言葉だ。君が始めて口に出した、君のためだけの、言葉だ」 「今まで都合よく隠していただけですよ、守るって言葉で」 「だがそれを口に出せたというだけで、聴くことができたというだけで、私にとってこの戦いの価値は計り知れないものとなったよ」 そういう割りに、どこか乃愛さんは物足りない様子だった。 「けどそれだけ。君の我が侭はそこで終わり、か。くくく、いやいやそれは私の役目ではなかったのか、欲張りはよくないな」 乃愛さんは仰向けのまま髪をかき上げ、肩を震わせた。 俺は無言で、一番そばにあった比較的小さな礎の破片に手を伸ばした。ゆっくり、ゆっくりと指先を近づけ、それが触れた瞬間―― 「うっ!? げ、お、が、ごぶっ、ふ……おえ、え、おぶええっ!?」 世界の色が無限に入れ替わる。赤が白になり緑が黄色で黒が銀で青が茶色で白がオレンジで茶色が朱色で金色が灰色で灰色が極彩色。 方向が回転する。北は南で南は上で下が左で右は下で北東は南東で正面は背後。 感覚が万化する。風が肌を焼き夜の冷気が皮膚を破り傷の痛みは甘美な刺激で踏みしめる力はおぞましく舐めるよう。 匂いが鼻を刺す。甘い匂い辛い匂い腐った匂い肉の焼ける匂い糞尿の匂い。 「はぁ、はっ、はぁっ……」 気付けば、酷い倦怠感が全身を包んでいた。そのくせ、先ほどまで感じていたありとあらゆる感覚が正常に戻っている。 なん、だったんだよ、さっきのは……。 「世界になるというのは、世界の持つ全ての要素を抱え込むということ。私にはノアがそのあたりの全てを引き受けていてくれたが、何の素養もない人間が受け入れられるものでは到底ないさ。無理にでも押さえ込むというのなら、突出した力が必要だろうね。あの姫君のような」 ユリアレベルの力だとさ、笑うしかない。ユリアの世界でも二人といないといわれるほどの傑出した才能の持ち主だというのに。 対する俺の魔法の素養は実に平凡なものだ。 「ちなみに襲ってくる感覚は破片の大きさによるぞ? しかも核は破片とは密度がまるで違う。ただしその力で狂うことだけは絶対にない。どうだい、諦めて私に礎を戻すつもりは、ないかな?」 からかうような乃愛さんの言葉に、俺は行動で答えを返す。 「ごがああえおうあっ!?」 痛みが、嘔吐感が、快楽が、飢餓が、渇きが、息苦しさが、全部が全部押し寄せてくる。視界は明滅と色彩の乱舞に狂い、触覚の全てが知りうる全ての感覚を再現し、知らないあらゆる経験を押し付ける。味覚は突き刺さる刺激のような味から吐き気がするような甘ったるさまでのありとあらゆるを口の中で撹拌させる。嗅覚を刺激するのは芳醇な香りと吐き気を催す香りと既知未知全ての刺激を織り込んでくる。耳の奥でがなりたてるのは優しい木々のざわめきやさざ波の柔らかな音で、それに混じり絶望の悲鳴や天地引き裂く破壊音。 理解できないような大量の情報を押し付けられ、それでもその全てのひとつひとつをつぶさに理解させられてしまう。 ぱたり、と意識の全てが正常を取り戻す。うつぶせに倒れだらしなく口を開き、己の吐瀉物とよだれに塗れて息も絶え絶えにもだえ苦しんでいる己を自覚する。 震える腕で体を持ち上げる。びちゃびちゃという音だけが響いた。意識が絶望を感じさせるほどに透き通っていた。前後不覚にでもなっていればこの苦しみの一厘でも理解できずに済むかもしれないのに。 そんな泣き言を押し込む。 「なんでその苦しみを受け入れられて私を殺せないか実に不思議だよ」 「じゃああんた、同じ状況で親父を殺せるかよ」 その言葉に、初めて乃愛さんは口を閉じた。 三つ目の破片に手を伸ばそうとしたところで、ようやく彼女は静かに口を開いた。 「……ならばやはり、私ではだめだったということだろうね。必要であるという大切さと、失いたくないという大切さ。違いは決定的ということか」 腕が止まった。 言葉の響きが若干違うものになったから。 「君にとって何よりも大切なものがなんなのか、しっかり自覚したまえ」 そう言って、乃愛さんは深く息を吐いて瞳を閉じた。胸の上下は安定しているから、危険な状態になったということではないだろう。 今の言葉の意味を考えようとも思ったが、思考は鈍くとても考えがまとまりそうにない。加えて時間もない。 けど……。 「大切な、もの。何よりも大切な」 何よりも? 何にも優先するもの? わからない。思考は空転し答えは出せない。 自分にとって何よりも優先するものとはなんだろう? 家族だと思う。でもノアの言葉によってメッキは剥がれ、家族を守ろうとしたのは結局俺自身のためだった。まあ、家族を大切だと思う気持ちに嘘はないけれど。 なら、俺自身を、その心を何よりも大切にしているんだろうか。ありえる。でもそれなら、この死にたくないという思いに素直に行動しないのは何故? 結局このふたつに優劣はつけられない。どちらを優先するかは俺のそのときの気分次第にでもなるんだろう。 だとするなら、本当に俺にとって大切なものって、なんだろう。 ふと、風が吹いた。見上げた空に月が見えた。 綺麗な、月だった。心地よい、風だった。 「……そ、か。もう会えないのか」 連想したのは一人の少女。 爽やかな風を思わせ、月がとても似合う。真面目で、純粋で、そのくせ妙に恥ずかしがり屋で。 「もう、会えないのか」 ただその事実が酷く、寂しいのだ。悔しいのだ。悲しいのだ。会えない事実が、あの温もりがもう手の届かない場所にあることが。 そんな彼女を守りたいという思いと。 世界も何も投げ出して、そんな彼女と一緒にいたいという思いと。 そんな相反する想いが渦巻いた。 「ユリアに――会いたかったな」 せめて最後に一目だけ。 それだけでも俺はきっと満たされたに違いないから。この寂しさのほんの少しでも埋められたに違いないから。 などと贅沢を言うわけにもいかない。俺は目の前の欠片に向かって、手を―― 「――あ?」 衝撃。途端に苦しくなる呼吸。両足から揃って力が抜け、膝をついた。 「いし、ず、え」 手を伸ばす。届かない。後一歩が足りない。その一歩を踏み出せない。 なん、だよこれ。おいちょっと、なあ。 「が、ふっ!」 喉が、何か、どろりとしたものが逆流して。あ、鼻の奥を血の臭いが。え、何これ。 左手で胸に触れる。右の胸。熱い。光の刃が突き立っている。 い……たい。痛いのに、痛くない。痛みが限界を通り越して感覚が麻痺している。ただ、焼けるような感覚。熱い。胸に全身の熱が集中したみたいだ。 喀血。咳き込むと胸が痛む。あれ、だって。 倒れた体で、首だけを、どうにか背後に。まわし――え? なん、で? 「ゆ……り、あ?」 血と共に吐き出されたのは、荒い呼吸を繰り返し、顔を伏せたまま右手を突き出した。 月の似合う、少女の名前。 ああくそ。 息。できな―― 声。 風にまぎれて、記憶の底から、水底から。 澱が浮かんでくるように、声が浮かびあがった。 ――君のその生き方は、いずれ自分の大切な人と決定的に衝突することになるぞ。