約 1,037 件
https://w.atwiki.jp/darakuhime/pages/55.html
前ページNameless Archives/2ちゃんねる・エロパロ板/タイトル記録ミス 題 裏・クロウガルトの魔法戦士 作者 -- Lunatic Invader -- ゴア 取得元 タイトル記録ミス,http //www2.bbspink.com/eroparo/kako/1060/10603/1060398502 取得日 2005年09月27日 タグ Author ゴア mc ファンタジー 悪堕ち 洗脳 肉体操作 概要&あらすじ 魔法戦士アリシアは、魔法使いクレストとの戦いに破れ、家畜奴隷へと調教される。その10/10 ページ 1-2-3-4-5-6-7-8-9-10 ご注意:以後の作品の著作権は、作者(書き込み主)にあります。 裏・クロウガルトの魔法戦士第10話(最終回) (18) 「この野郎・・・!」 廊下で遭遇した護衛の戦士は全部で6人だった。 全員がチェインメイルを身に着けていた。手入れの悪いロングソードを振り回 して、1人の侵入者に襲いかかった。 剣を構えて迎え撃つ侵入者は、金髪をなびかせた、美貌の女戦士。 いや、家畜牝奴隷戦士だった。 牝奴隷戦士は革の鞘と鞘帯、手首までの革手甲、そしてロングブーツを身につ けていた。そして、それ以外は鎧どころか一切の衣服を身にまとってはいなかっ た。その代わり、家畜奴隷の身分を示す装飾品で全身を飾っていた。 彼女の乳首と、小陰唇にはピアッシングが施されていた。小さな宝石の付いた プラチナのピアスは複雑な細工が施された高級品で、庶民の一財産に相当するほ どの値打ちものだった。奴隷の証しの首輪は裏にフェルトを貼った金属製で溶接 されており、道具無しでは外せない様になっていた。 首輪にも宝石がはめ込まれ、簡単な装飾とともに「クレストの家畜奴隷アリシ ア」という文字が彫りこまれていた。 家畜牝奴隷戦士アリシアは、銀色に輝くロングソードを手にしていた。魔法剣 ヴァルキュリアだ。耳にはピアス型の対呪文用の護符もつけていた。 かっての冒険者、魔法戦士アリシアの、変わり果てた姿だった。 ぎいん! 孤を描く白刃が弾け、火花を散らす。 アリシアは魔法の剣を、相変わらず目にも止まらぬ早さで振るっていた。 1人の戦士の剣を弾き、返す刀で別の1人の首をを切り飛ばす。 素早く踏み込んでもう一人の戦士を袈裟がけに切り捨てた。 戦士はチェインメイルごと文字どおり両断されて絶命した。 あまりにも素早い動きに怯んだ隙を逃さず、さらに先刻剣を弾いた戦士を切り 伏せた。 その動きにつれて美しい金色の長髪が舞う。 同時に豊かな乳房がはずみ、先端のピアスが踊った。松明の明りを反射してき らり、と光る。耳元でも、股間でも、アリシアの動きにつれてピアスがきらきら と輝いた。 かっての優美さに加えて、今や淫蕩さが加わったアリシアの剣技は、美しく、 妖しく、危険な剣の舞だった。10合と打ち合わずに、6人すべてを切り伏せて しまっていた。 「ふぅ・・・」 血の臭いが充満する廊下で、アリシアは甘やかなため息をついた。手にした、 血に染まった魔法剣を見やる口元が釣り上がる。 「ちょっと、だけ・・・」 そう呟くと、アリシアは廊下に背を預けてもたれかかり、内股を開いた。そう して、手にしたヴァルキュリアの柄頭を股間にあてがい、すでにしこっているク リトリスに押し付けて、くいくい、と腰を動かして刺激を与えた。 「あふ・・・んんん」 アリシアは、今では、一日に1回は必ず剣の柄を自分の性器に差し込む様になっ ていた。 今のアリシアには戦士としてのプライドはおろか、人間としての誇りさえかけ らも無くなっていた。家畜牝奴隷戦士となったアリシアはクレストの命令なら子 供でも平気で殺した。そうして罪を犯すほど、アリシアの身体は昂ぶり、剣を振 るいながら股間を濡らすことさえあった。それほどに堕ちていながら、アリシア の剣技も魔法の腕も人間だっころに劣らない腕前のままだった。 まさに完璧な調教の成果が、今の牝奴隷魔法戦士アリシアだった。 「あふっ、うふぅ・・・んん・・・良い・・・」 目の前に累々と横たわる屍の前で、アリシアは淫らに腰を振って剣オナニーを 楽しんだ。自分のしている事の異常さや、こんなことをしている時に敵に発見さ れたらと思うと、罪の意識とスリル、自虐の快感に頭の芯が痺れ、あっという間 に軽い絶頂がやって来た。 「あはぁっ!んんふぅ・・・・んふ・・・ん・・・良かったぁ・・・・ あはは・・・私ったら、本当に最低・・・・」 絶頂の余韻に体を震わせながら、牝奴隷らしく自分を辱める独り言を呟くアリ シアだった。 「んん、ふう・・・行かなくちゃ」 そうして、柄頭についた愛液を舐め取りながら一人呟くと、アリシアはその 場を立ち去った。 軽く頭を振って絶頂の余韻を振り払うと、その歩き方は既に油断の無い戦士 のものに戻っていた。 魔法使いクレストの手によって完全な家畜奴隷へと調教されたアリシアは、そ の後クレストの所有物となり、性奴隷兼護衛戦士としてクレストに仕える事にな った。 魔法戦士としての能力を残したアリシアや、それが一介の調教師のものとなる ことを危険視する声も上がったが結局はクレストの思惑通りになった。人身組織 には共有という制度はなく、コボルドの慰み物になった家畜をあまり積極的に欲 しがる事は貴族のプライドに関わる行為だったからだ。 そうして数ヶ月が過ぎ、今アリシアはクレストと共に、ミリアムを買った貴族 の館を襲撃していた。襲撃には山中のアジトで一緒だった魔法使いの2人も手下 と共に参加していた。 アリシアは貴族の本館の片翼を制圧する任務を与えられていた。建物や財産に は傷を付けず、一人も生かして残すな、という命令に従って、アリシアは館の中 を駆け巡り、使用人も護衛の戦士も出会うものはすべて斬り殺していった。当然、 家畜奴隷は財産に含まれるため、殺さず部屋でおとなしくしている様に命令を与 えた。この館の家畜奴隷は判断力をほぼ失わせる調教を施されたものがほとんど だったため、抵抗するものも無くアリシアの任務は完璧に終了した。点検を終え たアリシアは報告のため中央の大広間に向かった。 アリシアが大広間に着くと、ちょうど戦闘が終わったところだった。 上座のテーブルには、主人の貴族が剣を突き立てられ、座ったまま絶命してい た。 その回りには護衛の戦士の死体が数体転がっていた。 そして、麻痺させられて倒れている冒険者数人のパーティーの姿もあった。 「これで『冒険者と密通した挙げ句に仲間割れを起こした貴族』の一丁上がりか。 我々調教師が発見して処理。裏切り者の財産は発見者でかつ事態を処理した我々 3名で分配・・・か」 魔法使いの一人がつまらなそうに言った。 「言っとくけど、手を貸すのはこれっきりよ」 女魔法使いがクレストに向かってそう言った。 「ちゃんと証言してやる。これで貸し借り無しだからな」 男の方も念を押した。 「分かってる」 クレストは、二人に向かっててを振ると、アリシアに歩み寄った。 「終わったか」 「はい、ご主人様」 アリシアはクレストの前に土下座すると、サンダルにキスをしてから、任務を 終えた報告をした。 クレストは肯くとアリシアに新たな命令を与えた。 それは、麻痺して横たわる冒険者達を、一人を除いて斬り殺し、残った一人に 肉人形の首輪をはめる様に、というものだった。 「はい、ご主人様」 アリシアはそう答えて立ち上がり、命令に従った。 アリシアが館の戦士の剣で冒険者達を一人ずつ斬り殺していると、ミリアムが 大広間にやって来た。ミリアムは嬉しそうにクレストの前に跪いて、任務を果た した報告をした。ミリアムはこの貴族の家畜奴隷として仕えながら、偽の証拠書 類の偽造と館の隠し財産の調査をするために、クレストによって送り込まれてい たのだ。 「密通の証拠書類はこれです。ちゃんと、前のご主人様本人のサインです。 それからこれが隠し金庫のカギ、これが隠し部屋のカギ。見取り図と目録はこ れです」 カギと書類をクレストに渡すと、ミリアムは主人に甘える犬のように クレストの足に抱きついた。 「嬉しい!これで今日からまたご主人様のおしっこが飲めるんですよね、ね」 「分かってる。後で飲ませてやるから待ってなさい」 そう言ってクレストはミリアムを下がらせ、二人の魔法使いの方に歩み寄った。 「お前、腕がいいのは認めるがな、 ああいう家畜を作ってるとそのうち寝首をかかれるぞ」 首を振ってミリアムとアリシアを示し、忠告する男にクレストは答えなかった。 ちょうどその時、館のもう片翼を制圧した戦士達が大広間に入って来た。 アリシアは男の冒険者を殺し終えると、麻痺して横たわる僧侶の法衣を着た少 女の横に膝を突いた。15、6才だろうか。茶色の髪をした、純情そうな顔立ち をしていた。麻痺した顔はこわばった表情をしていたが、アリシアの姿を映す瞳 は恐怖と、憎悪と、軽蔑をないまぜにした内心を現わしていた。 「ふふ、大丈夫。何も恐い事なんて無いの。 家畜奴隷ってね、とっても良いものよ。あなたにも、すぐに分かるわ」 そう言って、アリシアは神に仕える少女に、肉人形の首輪をはめた。 (19) クレストと、魔法使いの二人は、貴族の財産を点検し、分配するために大広間 を離れた。 ミリアムは、クレストに褒美の小便をご馳走してもらった後、肉人形と化した 神官少女と2人で、男魔法使いの部下の褒美として身体を提供していた。 場所を玄関ロビーに移して、2人は床に四つん這いに這い、前後から犯されて いる。 そしてアリシアも、同じ場所で褒美を与えられていた。 数ヶ月ぶりに、女魔法使いが下僕として使っているコボルドと交わって見せる 事を許されたのだ。 アリシアは、コボルド3匹を全裸に剥くと、自らも全裸になり、並べて立たせ た3匹のペニスを順番にしゃぶり立てていた。 部下の戦士や魔法使い達は、玄関ロビーに点検の終わった財宝や家畜奴隷を運 んで来て並べては、アリシアがコボルドと絡む淫らなショーを眺めながらミリア ムか神官少女を犯し、精を放ったらまた仕事に戻る、ということを許されていた。 男達は目を丸くしてアリシアの痴態を眺めていた。それは見世物を眺める目つ きであり、アリシアの事を自分の欲望の対象として見る目ではなかった。アリシ アもまた、コボルドのペニスを堪能して絶頂したら男達に奉仕する様命じられて はいたが、コボルドの精液を浴びた女を抱くものはいないと思われた。 「あぁぁ・・・いぃ・・・」 コボルドに跨って腰を沈め、アリシアは切なげに吐息を漏らした。 身体を駆け巡る快感に、震えながら浸る。すぐにもっと刺激が欲しくなり、自 分からゆっくりと腰を動かし始めた。 2匹のコボルドのペニスを同時に手でしごきながら、あさましく身体をくねら せる。 「あふっ、んんっ、あふぅ・・・」 嬉しげな息が漏れる。顔がほころぶ。 神官少女を後ろから貫いている男が、 あきれたような表情を浮かべいてた。 (あは、そうよ、もっと見て、あきれて、笑って・・・) 蔑む視線が心地好い。家畜奴隷であることの幸せを感じる一瞬だ。 顔に精液を浴びせられているミリアムと目が合う。 2人で、お互いを祝福する微笑みを投げあった。 偉大な主人に仕え、魂まで支配されて屈伏する事の至福感。それを味合わせて くれる支配者にめぐり合った事。こうして慰み物や見世物になることの快美感。 それらを、今の幸せを目線で確認しあったのだ。 (良かったね) (うん、良かったね) そうして二人の目線は、犯されるもう一人の少女へと向けられる。 肉の人形と化して男の欲望を受け入れている少女の心の中には、今どんな嵐が 吹いているのか。 身体から与えられる快感と、信仰や正義感から来る屈辱と罪の意識が混じり合 って溶けず、それぞれが心を傷つけていく。今あの少女は自我の危機を迎えてい るだろう。 だが、必ずやがては自分達と同じものへと堕ちていく。 人では無い生き物に。 家畜奴隷に。 それは、 とても、とても素晴らしい事。 (良かったね) (すぐ、なれるよ) (良かったね。騙されて、負けて、這いつくばって、慰み物にされて) (卑しい生き物として生きていくの) (良かったね) (良かったね・・・・・) どぷっ コボルドのペニスが爆ぜ、精液がアリシアの子宮を満たしていく。 「あ・・・ふぁぁぁぁぁぁーっ!」 犯される少女に心からの祝福を送りながら、アリシアは絶頂した。 ------------------------------------ 裏・クロウガルトの魔法戦士 終り -- Lunatic Invader -- ゴア 前ページNameless Archives/2ちゃんねる・エロパロ板/タイトル記録ミス Counter today - ,yesterday - ,summary - . Page created 2007-10-14,last updated 2008-02-06 19 15 11 (Wed),and copyright by 堕落姫乃眸.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4400.html
this page was created at 2008.03.05 this page was modified at 2009.02.23 TAGにTRIP埋め 「Happy Birthday, ハルヒ」 「ありがとう。でも、この歳になると誕生日もあれね。うれしくもあり、うれしくもなし」 「いいじゃないか、互いに年をとっていくんだ。置いてけぼりは勘弁してくれ」 「それに、年中行事はとことん楽しむのが流儀だったろう?」 俺たちが知り合った高校一年の春から、60年あまりが過ぎた。今日はハルヒの78回目の誕生日だ。 「そうね。それで、今年はどんな風に楽しませてくれるのかしら?」 多少のしわは刻まれたし髪もすっかり白くなったが、78歳になってもハルヒはきれいで いたずら気味な微笑みは若い頃とちっとも変わらない。 俺の方は…聞くな。せいぜい、白髪のダンディなじいさんを想像してくれ。 「さあてな。何かあるかもしれないし、何もないかもしれない」 「なによそれ。何にも準備しなかったの?」 「準備はしてるんだが、なにせ自分でも忘れてたからな。どうなるかさっぱりわからん」 「???」 「お茶でも淹れて待ってればわかるさ」 よっこらせと腰を上げ、キッチンへ向かう ヤカンに水をくみ、ヒーターのスイッチを入れながら居間に声をかける 「それに、二人きりの誕生日は久方ぶりだろ。思い出を数えるのも悪くない」 「今年は誰も来ないんだものね。毎年孫曾孫が誰かしら祝いにきてくれたのに。寂しいわねぇ」 今年は二人きりで祝いたいと、事前に根回しをしたのはハルヒには内緒だ ヤカンがチンチンと泡のはぜる音を立て始める。温度の見極めが勝負だ。 茶道楽に手を染めてみたが、ハルヒを満足させる茶はまだ淹れられない。 曰く、朝比奈さんの淹れるお茶の足元にも及ばないそうだ。 …自分なりにはおいしく淹れられてると思うのだが。 「はい、お待ちどう」 「ありがと。…今日のお茶は色が薄いわね。葉っぱ変えた?」 「祝いの日だからな。珍しいお茶を淹れてみた。中国茶で『銀針』というんだ」 「まずい!おかわり!」 もうちょっと味わって飲んでくれよ。ま、顔はおいしいって言ってるからいいけどな。 はい、おかわり。 「文芸部室でも何度かキョンがお茶淹れてくれたわね」 「そのたび、今とおんなじ台詞を言われたな。多少は上達したと思うんだが」 「上達はしてるわよ。でも、みくるちゃんの淹れるお茶は超・達人の域だったのよ」 なんだ、超・達人て。言わんとするところはわかるが (キンコーン) 「誰か来たみたい」 「ん、俺が出る」 「はい?」 インターホンに映るのは忘れもしない、懐かしい顔だった。 『僕です』 「久しぶりだな。今開ける、勝手に上がってくれ」 「どなた?」 「おまえがびっくりする客だ」 「どうも。お邪魔します」 「古泉君!?」 「ご無沙汰してすみません。誕生日おめでとうございます。相変わらずお美しい」 古泉から花束を受け取るハルヒの、びっくりした表情に密かに満足しながら古泉に声をかける 「まぁ座れ。すぐに茶を出そう。それから人の嫁さんに色目を使うな」 「おやおや。仲睦まじいようで何よりです」 古泉のにやけスマイルは今だ健在か 絵に描いたような好青年がそのまま絵に描いたような好々爺になった風だな 「元気だったか?」 茶を出しながらたずねる 「えぇ。おかげさまで。息災でやってます」 (キンコーン) 「千客万来だな」 「誰?まさか…」 インタホンの画面の前に立つ俺をハルヒは期待のこもったまなざしでみつめ、腰は既に浮いている。 これで集金だったりしたら、不運な来訪者のためにお経を唱えなきゃならんところだ。 ハルヒに 出てみろ と目配せした。 画面に映る来訪者を確認したハルヒの顔はたちまちくしゃくしゃの泣き顔になり、玄関にかけていった。 誰が来たのかは言うまでもないだろう。すぐに大きな叫び声が聞こえるはずだ。「みくるちゃん!」と。 さて、超・達人に出すには気が引けるが、お茶の準備をして待っていよう。 二人が目を赤くして居間に戻ってきたのは、熱いお茶が子猫の舌にも優しい温度になるくらいたってからだった。 朝比奈さんとは俺たちの結婚式を最後に音信不通だったからな。なにも知らないハルヒにはつらかったろう。 すまんな、ハルヒ。だがそれも今日までだ。 「キョンくん、お久しぶりです。古泉君も」 「お久しぶりです、朝比…あ…」 「昔のままで呼んでください。そのほうが私も懐かしいですから」 見る者を萌やしつくすマイエンジェルの微笑みがいまだ健在であることに大いに感動しつつ言い直す。 「お久しぶりです、朝比奈さん。相変わらずお美しい」 古泉の挨拶が続く 「お久しぶりです。ほんとうにお変わりなく」 「みくるちゃん今までどうしてたの!悪い男に引っかかったりしなかった?心配したんだから!」 「いいじゃないか、ハルヒ。それより、再会とお前の誕生日を祝して乾杯しよう」 「でも…まだ…」 「長門も来る。そしたらまたすればいい。何度したっていいさ」 (キンコーン) 「おや。ひょっとして、うわさをすれば影ですか?」 インタホンの画面を確認した俺は、そこに映った姿に文字通り天を仰いだ。 確かに長門だ。北高のセーラーを着た、当時と寸分たがわぬ長門がそこにいた。 いくらなんでもいきなりそれはまずいだろう、さてどうやって誤魔化したものかな と視線を戻すと、 長門が相応に年を重ねたらこんな感じだろう と思わせる姿に変わっていた。 やれやれ、いい先制パンチだ。どこでそんな技を覚えたんだ。 「どうやらそのようだ。雰囲気のいい和服美人だ。いかにも長門らしい感じだな」 「いきましょ、みくるちゃん。有希を迎えに!」 玄関に向かう二人を目で追いつつ、古泉が言った 「役者がそろいましたね」 そうだな。 「このまま、再会を誕生日プレゼントにした一日にすることもできますが?」 そうだな。だが俺の腹はもう決まってるんだ。あいつは大丈夫だ。 お前も朝比奈さんも長門も、大丈夫だと判断したからここに来たんだろう? 「そうですね。あの二人の判断はわかりませんが、『機関』の判断はそのとおりです」 「ですが、なぜ今更という疑問は残ります。なぜなのですか?」 そいつはみんな揃って、そのときになったら言うよ。 すっかり高校時代まで精神年齢を退行させたハルヒが二人を引っ張って居間に戻ってきた。 「みくるちゃんはここ。有希はここね。古泉君はここ座って」 「キョンはそこ!」 部屋の隅っこを指さされた。 亭主の威厳?いやいや、今の俺は雑用その1だからな。しかしまあ、抗議くらいはしておこう。 「おいおい、文芸部室にだっておれの椅子くらいはあったぜ?」 「しょうがないわね、じゃあどっからか持ってらっしゃい」 「自前調達かよ」 言い合いながらキッチンからお茶とお菓子を運び、面々の前に置いていく。 「朝比奈さんの淹れたお茶には敵いませんが、どうぞ」 「そんなことないですよ。さっきのお茶もおいしかったです」 超・達人にそう言っていただけるとほっとします。 「久しぶりだな、長門。変わったことは無いか?和装も似合うんだな」 「問題ない」 「…ありがとう」 今のはお茶のお礼じゃないよな。 長門も変わったんだな。たぶん、良いほうに。 「ほれ」 「僕にはそれだけですか。つれないですね」 十分だろうが 「はいよ、団長様」 「ごくろうさま」 キッチンから折りたたみの踏み台を持ってきて、椅子代わりにして座った。 ハルヒは上座に仁王立ちして、SOS団定例活動第1回を宣言した。 「みんな集まってくれてありがとう。あとで連絡先教えてね」 「さて…」 「あたしたちもたっぷり歳をとりました。これだけ生きてれば不思議なことの一つや二つはあるでしょう」 「今日はみんなの話をいぃぃぃっぱい!聞かせてもらうからね!」 聞き役のはずのハルヒが一番しゃべってるのはもはやお約束だな。 アルバムなんか引っ張り出してきて、俺の恥ずかしい過去を暴露しまくるのは勘弁して欲しいが それも含めて幸せってやつさ。俺も歳食ったね。 しかし、みんな変わってないな。ひねくれ頑固老人が一人くらいいてもおかしくなかったが。 「高校で鍛えられましたから」 「こ~い~ず~み~く~ん~?」 ハルヒの地獄耳をなめてはいかんぞ、古泉。 (キンコーン) 「あれ?こんどは誰?まさか鶴屋さんだったり?」 「料理が届いたみたいだな。古泉、運ぶの手伝ってくれ」 「承知しました」 どんどん運び込まれる料理の数々。ちょっと多すぎたか? 居間におさまりきらず、キッチンまであふれだしている。 「バカキョン!何人分頼んだのよ!」 「7人分だ。おまえと長門が2人分」 「歳と常識考えなさいよ?!」 おまえに常識いわれるとは… どうだ、長門? 「問題ない」 だ、そうだ。おまえも負けずに食え。 余ってもタッパーに詰めればいいから気にするな。 なんだかんだで料理はほとんど無くなった。 長門が以下略 腹もふくれて、ハルヒもみんなも幸せそうにまったりしている。 本当にこのまま一日を終わらせてもいい気がしてくるが、全員が揃うのは おそらく二度とないだろうから、今日を逃すわけには行かない。 「長門」 長門の黒曜石の視線がこちらを向く 「朝比奈さん」 緊張を含んだ朝比奈さんの視線がこちらを向く 「古泉」 にやけスマイルの張り付いた古泉の視線がこちらを向く 「みんな、約束を忘れないでいてくれてありがとう」 「なら、俺がこの後なにをしようとしているかもわかっている筈だ」 「反対なら今、言ってくれ」 ハルヒは不思議そうにしているが、緊張感は敏感に感じ取っている様子だ。 不安そうな視線が俺と三人のあいだを行ったりきたりしている。 「約束って何?」 「いったい何をするの?」 やがて古泉が口を開いた 「僕のほうからは既に先ほど申し上げましたが、反対ではありません」 「ですが、やはり先ほどの疑問には答えをいただきたいと思います」 「なぜ、今更に?」 朝比奈さんが口を添えた。 「私たちも同じです。反対ではありませんが…」 長門? 「憂慮すべき事態が発生する確率は観測されなかった」 つまり? 「反対する理由はない」 「わかった。反対は0だな。感謝する」 「では理由を述べよう。こうだ」 俺たちも歳をとった。現実にやってくる『死』を意識しても落ち着いていられるくらいにな。 だが俺はずっと気になっていたんだ。『魂』は存在するのか? 禁則だ。わかってる。だから俺は存在するという仮定の下にこの話をしている。 もし存在するとしたら。もしハルヒに隠し事をしたまま『魂』になっちまったとしたら。 俺はあの世でハルヒにメチャメチャな目にあわされる!絶対に! そ れ だ け は 避 け な け れ ば な ら ん ! 身振り手振りを交えて力説する俺を見る、みんなの視線にふと気がついた。 あのー、もしもし?なんですか? その、あきれ返って何もいえないっていう目は? おいハルヒ、おまえまでそんな目で見ること無いだろ! 「バカはほっときましょ」 「御意」「はい」「…」 おーい……… ぉーぃ…… オーイ…… orz ・ ・ ・ 「で、あたしに隠し事ってなんなの?」 布団に入ってから、ハルヒがきいてきた。 「ああ…」 「おまえが神様で時間のゆがみで自律進化の可能性で」 「古泉が超能力者で朝比奈さんが未来人で長門が宇宙人で」 「おれがジョン・スミスだって話だ」 「なにそれ。そんなことあるわけ無いじゃない」 「じゃあ、どうして俺がジョン・スミスの名前を知ってるんだ?」 「だってあんたに言ったことあるし。中一の七夕に遭った変な高校生の話」 「あれ?そんなことあったっけ」 「あったあった。まったく、どうしたら昔話の登場人物に自分を重ねられるのよ」 布団からガバッと身を起こしたハルヒが人差し指を突きつけながら言った。 「いい?不思議はそんじゃそこらに転がってなんていないの!」 「今日はみんなの連絡先もわかったし、また集まって不思議探しをするわよ」 まじか。ていうか朝比奈さん、未来に帰らなくていいんですか? 「まだ言ってる。寝言は寝てから言うものよ?」 「電気消すわよ」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ キョン。まだ起きてる? あぁ 今日はありがと。またみんなで集まれるなんて、思わなかった 新婚旅行から帰ったら有希ともみくるちゃんとも連絡がつかなくなってて きっともう二度と会えないんだと思ってた…二人とも元気そうで良かった… 約束って、何だったの? おまえの78歳の誕生日に、みんなでもう一度集まろうって 結婚式のあとにな。 どうして78なのよ。40とか、50とかでも良かったのに 俺が78って数字が好きなんだよ なにそれ、ばかみたい 長生きするわよ。ホント 長生き、してね…キョン… おまえこそ。置いてけぼりは勘弁してくれよ? ……… ……… おやすみ、キョン… おやすみ、ハルヒ…
https://w.atwiki.jp/junretsuwago/pages/340.html
辞書 品詞 解説 例文 漢字 日本国語大辞典 助詞 [1] 〘格助〙① 連体関係を表わすもの。体言、または、体言と同資格の語句を承け、それが同種の語句に対して並立関係にあることを示す。 ※万葉(8C後)四・六六〇「汝を与(と)吾を人そ放くなるいで我が君人の中言聞きこすなゆめ」※伊勢物語(10C前)五〇「行く水と過ぐるよはひと散る花といづれ待ててふことを聞くらん」 ② 連用関係を表わすもの。(イ) (①の用法から転じて) 共同の相手を表わす。…とともに。 ※古事記(712)下・歌謡「梯立の 倉梯山は 嶮しけど 妹登(ト)登れば 嶮しくもあらず」 (ロ) 引用を表わす。文あるいは文相当の語句や擬声語を承け、下の動詞(「思う」「言う」「聞く」などの場合が多い)の内容を表わす。 ※古事記(712)下・歌謡「宮人の 足結の小鈴 落ちにき登(ト) 宮人響(とよ)む 里人もゆめ」※万葉(8C後)一三・三二七〇「ぬばたまの 夜はすがらに 此の床の ひし跡(と)鳴るまで 嘆きつるかも」 (ハ) 体言を承けてそれを状態性概念とし、また、擬態語を承けて状態性副詞を構成し、動作概念を修飾する。体言を承けた場合、比喩的修飾となることがある。 ※万葉(8C後)二・二〇四「やすみしし 吾が大君 高光る 日の皇子 久方の 天つ宮に 神ながら 神等(ト)いませば」※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「こまこまとかたらひ聞え給へば」 (ニ) 形式用言の実質を示す。 ※万葉(8C後)一二・三〇八六「なかなかに人跡(と)あらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり」※伊勢物語(10C前)一二三「野とならばうづらとなりて鳴き居らむかりにだにやは君は来ざらむ」 (ホ) 比較の基準を表わす。 ※伊勢物語(10C前)一二四「思ふこと言はでぞただにやみぬべき我とひとしき人しなければ」※源氏(1001‐14頃)玉鬘「かたちなどはかのむかしの夕顔とおとらじや」 (ヘ) 同じ動詞、または、形容詞の間に用いて強調を表わす。動詞の場合は連用形を承け「し」が下接することが多く、形容詞の場合は終止形を承け「も」が下接する。 ※竹取(9C末‐10C初)「大納言は我が家にありとある人をあつめての給はく」※古今(905‐914)仮名序「生きとし生けるものいづれか歌をよまざりける」 (ト) (打消の言い方を伴って) その限度を表わす。 ※浮世草子・風流曲三味線(1706)六「おらんが死骸土にまぶれて中々二目と見られず」 [2] 〘接助〙① 動詞および動詞型活用の語の終止形、形容詞および形容詞型活用の語の連用形を承け、仮定の逆接条件を表わす。中古以降の語。…ても。→補注(2)。 ※宇津保(970‐999頃)国譲上「藤壺『千年をかねてきき給ふと、これよりはいかでか』との給ふ」※今昔(1120頃か)一一「然計の智者にては罵(のる)と咎むまじ」 ② 活用語の連体形を承け、順接条件を表わす。中世以後の用法。(イ) 仮定の順接条件を表わす。 ※虎明本狂言・煎物(室町末‐近世初)「笛ふきいだすと、になひ茶屋を、橋がかりへもってのく」※歌舞伎・仏母摩耶山開帳(1693)二「これ藤、俺がいふ事聞くと、明日から元の高尾の太夫にする」 (ロ) 常に同じ結果の生ずる条件を表わす。…時はいつも。 ※虎明本狂言・二千石(室町末‐近世初)「はじめは上座にござるが、すは、うたひになると、すゑ座へさがらせられて」※歌舞伎・傾城浅間嶽(1698)中「此子は火を見ると、寝たがる」 (ハ) 時間的な継起関係を表わす。 ※仮名草子・竹斎(1621‐23)上「君は此世を去り給ふと、夜半に紛れて黒谷の野辺の煙となしたる由」※歌舞伎・傾城若紫(1705頃)中「一人の子を儲け、生み落すと否や抱取りて帰る」 接続詞 [3] ((二)が自立語化したもの) 前の事柄に引き続いて、後の事柄が生じることを示す。すると。 ※歌舞伎・彩入御伽草(おつま八郎兵衛)(1808)小平次内の場「在郷唄にて幕明く。ト正作、親仁(おやぢ)の拵へにて、仏壇に向ひ、鉦打鳴らし、看経してゐる」 [補注](1)(一)の語源は「とにかく」の「と」のような指示性の語にあると言われる(アストン・小林好日・亀井孝・橋本進吉)。(2)(二)①の用法は、本来「も」の力によって仮定の逆接条件を表わす助詞としての機能をもつ「とも」の「と」がそれだけで用いられるに至ったものと考えられる。(3)(二)②の用法は①からの発展ではなく、格助詞「と」に源があると推定される。 広辞苑 助詞 ➊(格助詞)体言あるいはこれに準ずる語句、または文に付く。①それと指示・引用する意を表す。「見る」「聞く」「思う」「言う」などの動詞の内容を示す。 古事記上「 越 (こし)の国にさかし女をあり―聞かして」。万葉集1「よき人のよし―よく見てよし―言ひし吉野よく見よ」。「だめだ―分かっていながら」 ②動機・理由などを表す。…と言って。…と思って。 万葉集2「吾が背子を大和へやる―さ夜ふけて暁つゆに我が立ちぬれし」。源氏物語桐壺「よせおもく疑ひなき儲の君―世にもてかしづき聞ゆれど」。「相手を笑わそう―、滑稽な振舞をする」 ③ある事物・状態であると認定して資格を与える。指定の助動詞「たり」の連用形に相当する。㋐…として。 万葉集8「吾妹子が 業 (わざ)―造れる秋の田の」 ㋑(数値を表す語句に付き、後に打消の語を伴って)それを超えない範囲を表す。 「二度―ない機会」「五分―かからない時間」 ㋒比喩を表す。…と同じように。…のごとくに。 古今和歌集秋「たちどまり見ても渡らむ紅葉は雨―降るとも水はまさらじ」。夫木和歌抄18「月日のみ流るる水―早ければ老のそこより年はかへらず」。「玉―散る」 ㋓状態を表す。…で。 伊勢物語「つれづれ―、いともの悲しくておはしましければ」。東海道中膝栗毛初「むだを言はず―早く食はつし」。「にこにこ―笑う」「次々―できる」 ㋔転化の帰着を表す。 伊勢物語「野―ならば鶉―なりて鳴きをらむ」。「自分の物―する」「道が川―なる」 ④動詞を二つ重ねて、意味を強める。㋐「すべての」の意を表す。 古今和歌集序「生き―し生けるものいづれか歌をよまざりける」。源氏物語若菜下「世にあり―ありここに伝はりたる譜といふものの限り」 ㋑どんどん…する。 土佐日記「 来 (き)―来ては、川のぼり路の水を浅み」 ⑤共同の意を表す。㋐動作・作用の協同者を表す。…と共に。 万葉集10「紐解かず恋ふらむ君―居らましものを」。万葉集19「 天地 (あめつち)―久しきまでに 万代 (よろずよ)に仕へまつらむ」。「君―行く旅」 ㋑動作・作用の相手を表す。 万葉集1「香具山―耳梨山― 闘 (あ)ひし時」。「人―争う」 ㋒対等の資格の物事を列挙する。ただし、最後の「と」は省くことが多い。並立助詞とする説もある。 万葉集3「 潜 (かず)きする 鴦 (おし)―たかべ―船の上に住む」。古今和歌集春「ふく風―谷の水―しなかりせばみ山隠れの花を見ましや」。後撰和歌集秋「君―我いもせの山も秋くれば色かはりぬるものにぞありける」。「国語―数学の試験」 ⑥比較される物を示す。 源氏物語玉鬘「かたちなどはかの昔の夕顔―劣らじや」。「彼―の差はごくわずかだ」「以前―同じ状態」 ➋(接続助詞)(活用語の終止形に付く。後に連体形にも)①逆接を表す。(中古以後の用法。現代語では推量を表す語の後に用いる)…とも。…ても。 蜻蛉日記上「嵐のみ吹くめる宿に花すすき穂に出でたり―かひやなからむ」。梅暦「言はず―知れたこと」。「行こう―行くまい―勝手だ」 ②(主に江戸時代以後の用法)それに伴って後のことの起こることを示す。動作と動作とが引き続いて起こること、習慣になっていること、あるいは偶然のことも当然のこともあり、仮定条件の提示にも用いられる。 狂言、吃り「私の留守になる―酒ばかり飲うで」。歌舞伎、助六所縁江戸桜「アノ様なものと心安くする―、終にはわれもまつ裸体」。「雨が降る―道がぬかる」「箸を置く―、黙って席を立った」 ➌係助詞的に用いられる。(上代東国方言にだけ見られる。係助詞「そ」の転か) 万葉集20「荒らし男のい 小箭 (おさ)手挟み向ひ立ちかなる 間 (ま)しづみ出でて― 吾 (あ)が来る」 ➍終助詞的に用い、相手の発言を受けて、問い返す。 「駄目という―」 大言海 天爾遠波 第一類ノ天爾波。指ス所アルモノ。其意、種種ナリ。(一)差シ定ムル意ヲナスモノ。 竹取物語「書キハツルと絕エ入リタマヒヌ」古今集、四、秋、上「ヒグラシノ、鳴キツルナベニ、日ハ暮レヌと、思フハ山ノ、陰ニゾアリケル」源氏、五十一、蜻蛉 五十四 「花と云ヘバ、名コソアタナレ、女郞花、ナベテノ露ニ、亂レヤハスル」「某とイフ人」 夫 (ソレ)と定ム」 是 (コレ)と知ル」 (二)の如く、ノ意ヲナスモノ。 古今集、八、離別「白雲ノ、コナタカナタニ、立チワカレ、心ヲ 幣 (ヌサ)と、碎ク旅哉」夫木抄、十八「月日ノミ、流ルル水と、早ケレバ、老イノソコヨリ、年ハカヘラズ」更級日記「笛ノ音ノ、タダ秋風と、聞ユルニ、ナド荻ノ葉ノ、ソヨト答ヘヌ」「雪と散ル」霜と消ユ」 (三)として。と思ひて。ソレナラヌモノヲ、ソレトシテノ意ヲナスモノ。 萬葉集、二 廿九 「 御立 (ミタタ)シシ、島ヲモ家 跡 (ト)、住ム鳥モ、アラビナ行キソ、年替ルマデ」同、十四 十一 「信濃ナル、知具麻ノ川ノ、 細石 (サザレイシ)モ、君シ蹈ミテバ、珠 等 (ト)拾ハム」宇津保物語、俊蔭 十三 「モミヂノ露ヲ、乳房とナメツツアリフルニ」「花と見ル」露と置ク」 (四)となりて。ソレナラヌモノノ、ソレトナリテ、此物ノ彼物ト 化 (カハ)リテ、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、二 三十六 長歌「久方ノ、天ツ宮ニ、神ナガラ、神 等座 (トイマ)セバ」同、三 五十四 長歌「足引ノ、山邊ヲ指シテ、 晚闇跡 (クラヤミト)、 隱 (カク)リマシヌレ」古今集、一、春、上「今日來ズバ、明日ハ雪とゾ、降リナマシ、消エズバアリトモ、花ト見マシヤ」 (五)とて、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、一 十 「 熟田津 (ニギタツ)ニ、船乘セム 登 (ト)、月待テバ、潮モカナヒヌ、今ハコギイデナ」同 廿二 長歌「 其 (ソ)ヲ取ル 登 (ト)、騷グ御民モ」同、二 十二 「吾 夫 (セコ)ヲ、大和ヘ遣ル 登 (ト)、小夜深ケテ、曉露ニ、吾ガ立チ濡レシ」 (六)にて、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、三 四十六 「 逆言 (オヨヅレ)ノ、 狂言 (タハゴト) 等 (ト)カモ、高山ノ、巖ノ上ニ、君ガ 臥 (コヤ)セル」古事記、中(神武) 十三 「畝傍山、晝ハ雲 登集 (トヰ)、夕サレバ、風吹カムトゾ、木ノ葉サヤゲル」續紀、一、文武天皇元年八月、宣命「 天皇 (スメラ)ガ 大命 (オホミコト) 良麻止 (ラマト)、 敕 (ノ)リタマフ大命」 (七)と共に、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、一 廿六 「アラレフル、アラレ松原、住吉ノ、 弟日娘與 (オトヒヲトメト)、見レド飽カヌカモ」同、二 三十二 長歌「君 與 (ト)時時、 幸 (イデマ)シテ、遊ビ給ヒシ」同、三 十六 「人コガズ、アラクモシルシ、カヅキスル、鴦 與 (ト)高部 共 (ト)、船ノ上ニ住ム」 (八)とある、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、十五 廿三 長歌「スメロギノ、遠ノ 朝廷 (ミカド) 等 (ト)、韓國ニ」 (九)とありて、ノ意ヲナスモノ。 萬葉集、十八 廿 長歌「天ノ日嗣 等 (ト)、知ラシ來ル、君ノ御代御代」 (十)又、ノ意ヲ示スモノ。 讚岐集「シバシトモ、我ハトドメジ、春ノ內ハ、 來 (キ)と 來 (コ)ム人ヲ、花ニマカセテ」古今集、十六、哀傷「秋風ノ、吹キと吹キヌル、武藏野ハ、ナベテ草葉ノ、色カハリケリ」「降リと降ル」有リとアル」 検索用附箋:助詞訛語 検索用附箋:接続詞 附箋:助詞 接続詞 訛語
https://w.atwiki.jp/zero-flora/pages/367.html
※集合時間と再調査手順(調査役割)の詳細は、予定日の日付をクリックしてください。 12ごとに区切りが入っています。 再調査箇所 学問 地図名 目的地 必要スキル ランク 発見物 予定日 完了日 編集 クレタ島内陸 考古学 古代文字の粘土板の地図 カンディア郊外のクレタ島内陸、巨大枯れ木の近く。 探索、考古学 9 クレタ文字の粘土板 2018/06/09 2018/06/09 編集 マケドニア地方 考古学 古代の金装飾の地図 サロニカ郊外のマケドニア地方、大岩のちかく。 探索、考古学 8 古代マケドニアの金装飾 2018/06/16 2018/06/16 編集 パフォス郊外 考古学 王家の墓の地図 ファガマスタ外のパフォス郊外、廃墟の近く。 探索、考古学 4 カトパフォスのネクロポリス 2018/06/17 ☆レモンパイ☆さんが報酬をもらった日 編集 ビブロス郊外 考古学 割れた石碑の地図 ベイルート外のビブロス郊外、逆さ岩の近く。 探索、考古学 4 ビブロス文字の石碑の破片 2018/06/30-2018/07/01 2018/07/01 編集 ルクソール地方 考古学 そびえ立つ石柱の地図 ナイル川の中流で上陸、奥地のとんがり岩の北の建物の近く。 探索,考古学 5 トトメス1世のオベリスク 2018/07/07 2018/07/07 編集 ビュルサの丘 考古学 豊穣の女神像の地図 チュニス郊外のビュルサの丘、大きな木の近く。 探索、考古学 3 アスタルテ像 2018/07/28 2018/07/28 編集 アナトリア高原 宗教学 十字架の首飾りの地図 トルコ北岸で上陸。奥のアナトリア高原。大岩の近く。 探索、宗教学 6 十字架の首飾り 2018/07/29 2018/07/29 編集 レプティス 考古学 大理石の女神像の地図 トリポリ郊外のレプティス、とんがり岩の近く。 探索、考古学 3 レプテス・マグナのヴィー ナス像 2018/08/04 2018/08/04 編集 ソールズベリー平原 考古学 太陽を指し示す石の地図 ブリテン島南岸で上陸。奥のソールズベリー平原。北西。 探索,考古学 3 修道士のかかと 2018/08/05 2018/08/05 編集 カルナック 考古学 森の中の巨石の地図 ナント郊外のカナルック、白い花の近く。 探索、考古学 3 マニオの巨石 2018/08/05急遽実施 2018/08/05 編集 ガラパゴス島奥地 考古学 南米の土器の地図 ガラパゴス島南岸で上陸。奥のガラパゴス島奥地。南東。 探索、考古学 7 インカの土器 2018/09/01-2018/09/02 2018/09/01 編集 マヤ低地 考古学 王のレリーフの地図 ヴェラクルス南の郊外、マヤ低地にある南の神殿の近く。 探索、考古学 12 パカル王のレリーフ 2018/09/02 2018/09/02 編集 エチオピア北部 考古学 王の石碑の地図 マッサワ郊外のエチオピア北部、テーブル岩の近く。 探索、考古学 5 エザナストーン 2018/09/08 2018/09/08 編集 ウル地方 宗教学 ウル王朝の法典の地図 バスラ郊外のウル地方、逆さ岩の近く。 探索、宗教学 6 ウル・ナンム法典 2018/09/15 2018/09/15 編集 タンジャーウール地方 宗教学 寺院のレリーフの地図 ポンディシェリ南の奥地、南の大岩の近く。 探索、宗教学 5 カーリーのレリーフ 2018/09/16 2018/09/16 編集 パガン地方 宗教学 パガン王朝の仏典の地図 ペグー郊外のパガン地方、赤い花の近く。 探索、宗教学 8 上座部仏教の仏典 2018/09/29 2018/09/29 編集 コナーラク地方 考古学 インドの技芸書の地図 カルカッタ郊外のコナーラク地方にある哺乳類の骨の近く。 探索、考古学 4 古代インドの建築技芸書 2018/09/30 2018/09/30 編集 ジンバブエ内陸 考古学 儀礼用剣の地図 アフリカ南東岸で上陸。奥のジンバブエ内陸。南西のほう。 探索、考古学 5 青銅の儀礼用剣 2018/10/06-2018/10/07 2018/10/07 編集 長崎北 考古学 英雄譚の地図 長崎の門の外、斜め岩の近く。 探索、考古学 6 百合若 大臣 2018/10/13 2018/10/13 編集 淡水河西 考古学 契約文書の地図 淡水郊外の淡水河西、重ね岩の近く。 探索、考古学 12 新港文書 2018/10/14 2018/10/14 編集 台湾島南東岸 考古学 並んだ石柱の地図 台湾島南東岸で上陸。東にある赤い花の近く。 探索、考古学 12 掃叭石柱 2018/10/27 2018/10/27 編集 朝鮮半島北岸 生物学 可憐な花の地図 朝鮮半島北岸で上陸。北北東にある重ね岩の近く。 生態調査、生物学 6 オオバオオヤマレンゲ 2018/10/28 2018/10/28 編集 雲台山西 宗教学 泰山の女神像の地図 雲台山の門の外、テーブル岩の近く。 探索、宗教学 6 碧霞元君像 2018/11/03 2018/11/03 編集 公州北 考古学 百済王の石碑の地図 朝鮮半島西岸で上陸。奥の公州北。北東の赤い花の近く。 探索、考古学 10 武寧王の誌石 2018/11/04 2018/11/04 編集 黄土高原 宗教学 石製の仏塔の地図 黄河の下流で上陸、奥の黄土高原、巨大枯れ木の近く。 探索、宗教学 9 石製の浮屠塔 2018/11/10 2018/11/10 編集 近江 考古学 土色のつぼの地図 日本列島南東岸で上陸。奥の近江。西のとんがり岩の近く。 探索、考古学 12 信楽のつぼ 2018/11/11 2018/11/11 編集 ポンペイ島奥地 考古学 古代のカヌーの地図 ポンペイ島南岸で上陸。奥のポンペイ島奥地。南西のほう。 探索、考古学 8 オロシーバ兄弟のカヌー 2018/11/24 2018/11/24 編集 ヴィンランドの岬 考古学 ヴァイキングの盾の地図 テラ・ノヴァ北岸で上陸。奥のヴィンランドの岬。北西のほう。 探索、考古学 12 ヴァイキングの鉄盾 2018/12/01 2018/12/01 編集 コパン川北岸 考古学 祭壇のレリーフの地図 グァテマラ郊外のコパン川北岸の重ね岩の近く。 探索、考古学 12 祭壇のレリーフ 2018/12/02 2018/12/02 編集 ここから下は1つの再調査地点につき陸地再調査地図は3枚あります。 編集 西シベリア平原 地理学 書きかけの地図 黒海東岸で上陸。奥のコーカサス地方、南東のほう。 視認、地理学 5 カスピ海 2018/12/08-2018/12/09 2018/12/09 編集 西シベリア平原 地理学 書きかけの地図 黒海東岸で上陸。奥のコーカサス地方、北西のほう。 視認 地理学 6 コーカサス山脈 編集 西シベリア平原 宗教学 病除けの首飾りの地図 バルト海北で上陸。奥の西シベリア平原。東のほう。 探索、宗教学 7 ズメエヴィク 編集 コーカサス地方 生物学 俊敏なイヌの地図 バルト海北で上陸。奥の西シベリア平原。北東のほう。 生態調査、生物学 3 ロシアンウルフハウンド 2018/12/15-2018/12/16 2018/12/16 編集 コーカサス地方 生物学 水辺に住むモグラの地図 バルト海北で上陸。奥の西シベリア平原。東のほう。 生態調査、生物学 5 ロシアデスマン 編集 コーカサス地方 財宝鑑定 変色する宝石の鉱脈の地図 バルト海北で上陸。奥の西シベリア平原。南西のほう。 探索、財宝鑑定 6 アレキサンドライトキャッツアイ 編集 サハラ 地理学 書きかけの地図 アフリカ北岸で上陸。奥のサハラ。哺乳類の骨付近。 視認、地理学 4 ウニアンガ湖群 2018/12/22-2018/12/23 2018/12/22 編集 サハラ 考古学 古代壁画の地図 アフリカ北岸で上陸。奥のサハラ。南西の大岩の近く。 探索、考古学 6 タドラルト・アカクスの岩絵 編集 サハラ 生物学 クモのような虫の地図 アフリカ北岸で上陸。奥のサハラ。南のテーブル岩付近。 生態調査 生物学 7 ヒヨケムシ 編集 ザンベジ川中流 考古学 古代石器の地図 アフリカ南南東岸で上陸。奥のザンベジ川中流。西側。 探索、考古学 5 ホモ・ハビリスの石器 2019/01/05-2019/01/06 2019/01/06 編集 ザンベジ川中流 宗教学 アフリカ南部の神像の地図 アフリカ南南東岸で上陸。奥のザンベジ川中流。北の端。 探索、宗教学 7 ニャミニャミ像 編集 ザンベジ川中流 生物学 奇抜なトカゲの地図 アフリカ南南東岸で上陸。奥のザンベジ川中流。赤い花。 生態調査、生物学 6 レインボーアガマ 編集 アマゾン奥地 生物学 実のなる木の地図 アマゾン川上流で上陸。奥のアマゾン奥地。入ってすぐ西。 生態調査、生物学 6 アサイー 2019/01/12-2019/01/13 2019/01/13 編集 アマゾン奥地 生物学 大きな目の鳥の地図 アマゾン川上流で上陸。奥のアマゾン奥地。南の大岩付近。 生態調査、生物学 6 タチヨタカ 編集 アマゾン奥地 生物学 奇妙なカエルの地図 アマゾン川上流で上陸。奥のアマゾン奥地。南西のほう。 生態調査、生物学 8 グラスフロッグ 編集 パラグアイ川上流 財宝鑑定 奇妙な道具の地図 南米南東岸で上陸。奥のパラグアイ川上流。 探索、財宝鑑定 6 ボンビーリャ 2019/01/26-2019/01/27 2019/01/28 編集 パラグアイ川上流 生物学 茶葉にする植物の地図 南米南東岸で上陸。奥のパラグアイ川上流。北のほう。 生態調査、生物学 5 イェルバ・マテ 編集 パラグアイ川上流 生物学 走る鳥の地図 南米南東岸で上陸。奥のパラグアイ川上流。北の隅。 生態調査、生物学 8 アカノガンモドキ 編集 ナイアガラ川流域 地理学 書きかけの地図 北米大陸東岸で上陸。奥のナイアガラ川流域。門から南。 視認 地理学 6 エリー湖 2019/02/02-2019/02/03 2019/02/03 編集 ナイアガラ川流域 地理学 書きかけの地図 北米大陸東岸で上陸。奥のナイアガラ川上流。門から南。 探索、地理学 7 オンタリオ湖 編集 ナイアガラ川流域 地理学 書きかけの地図 北米大陸東岸で上陸。奥のナイアガラ川流域。門から南。 視認 地理学 8 ヒューロン湖 編集 ロッキー地方 生物学 小さなウサギの地図 ロッキー地方で上陸。門から出て東。 生態調査、生物学 7 ナキウサギ 2019/02/09-2019/02/10 2019/02/10 編集 ロッキー地方 生物学 奇妙なトカゲの骨の地図 タコマ門の外。奥のロッキー地方。門から出て北。 探索、生物学 9 胴が扁平なトカゲの骨 編集 ロッキー地方 生物学 奇妙なトカゲの骨の地図 タコマ門の外。奥のロッキー地方。門から出て南。 探索、生物学 7 頭頂部が丸いトカゲの骨 編集 ウスチュルト台地 財宝鑑定 中央アジアの楽器の地図 黒海北東岸で上陸。奥のウスチュルト台地。北東のほう。 探索、財宝鑑定 4 コムズ 2019/03/02-2019/03/03 2019/03/04 編集 ウスチュルト台地 地理学 書きかけの地図 黒海北東岸で上陸。奥のウスチュルト台地。北のほう。 視認、地理学 10 カラ・ボガス・ゴル湾 編集 ウスチュルト台地 生物学 巨大な魚骨の地図 黒海北東岸で上陸。奥のウスチュルト台地。東のほう。 探索、生物学 3 サメの歯の石 編集 ベンガル湾北岸 地理学 書きかけの地図 ベンガル湾北岸で上陸。南のほう。 視認、地理学 6 パンゴン湖 2019/03/09-2019/03/10 2019/03/10 編集 ベンガル湾北岸 宗教学 古代の聖典の地図 ベンガル湾北岸で上陸。逆さ岩の近く。 探索 宗教学 9 テルマ 編集 ベンガル湾北岸 生物学 植物の生息地図 ベンガル湾北岸で上陸。とんがり岩の近く。 生態調査 生物学 4 ワタゲトウヒレン 編集 ヒマラヤ山脈周辺 地理学 書きかけの地図 ベンガル湾北岸で上陸。奥のヒマラヤ山脈周辺 視認 地理学 5 ランタン谷 2019/03/23-2019/03/24 2019/03/24 編集 ヒマラヤ山脈周辺 地理学 書きかけの地図 ベンガル湾北岸で上陸。奥のヒマラヤ山脈周辺。北のほう。 視認 地理学 7 イエローバンド 編集 ヒマラヤ山脈周辺 地理学 書きかけの地図 ベンガル湾北岸で上陸。奥のヒマラヤ山脈周辺。西のほう。 視認 地理学 7 イムジャ湖 編集 バイカル湖周辺 地理学 書きかけの地図 オホーツク海西岸で上陸。奥のバイカル湖周辺。南東の方。 視認、地理学 4 オリホン島 2019/03/30-2019/03/31 2019/04/05 編集 バイカル湖周辺 地理学 書きかけの地図 オホーツク海西岸で上陸。奥のバイカル湖周辺。西の方 視認、地理学 7 アンガラ川 編集 バイカル湖周辺 宗教学 古びた書き物の地図 オホーツク海西岸で上陸。奥のバイカル湖周辺。南のほう。 探索、宗教学 8 古儀式派祈祷法本 編集 シベリア地方 生物学 白黒の鳥の地図 シベリア地方で上陸。重ね岩の近く。 生態調査、生物学 6 ソデグロヅル 2019/04/06-2019/04/07 2019/04/07 編集 シベリア地方 生物学 奇妙な獣の骨の地図 シベリア地方で上陸。とんがり岩の近く。 探索、生物学 5 コブのある獣の化石 編集 シベリア地方 生物学 シベリアの花の地図 シベリア地方で上陸。大岩の近く。 生態調査、生物学 8 シベリアヒナゲシ 編集
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1488.html
キュルケ達と別れた私達は妨害もなくフネへと到達し、ラ・ロシェールを飛び立った。 正直、三人が心配で仕方がない。 けれど、今私が握っているのはトリステインの未来だ。 今は、大丈夫だという虎蔵の言葉を信じよう。 宵闇の使い魔 第拾弐話:空の浮島 「これ、乱気流とかに入ったら一発で引っくり返る気がすんだがなぁ―――」 虎蔵は月夜の空を進むフネの甲板で、のんびりと葉巻を吹かしていた。 あの後、裏口から脱出した三人は全く妨害されることなく桟橋にたどり着いた。 とてつもなく巨大な樹の枝を利用した桟橋には、まるで飛行船のような形状でフネとやらがぶら下がっている。 元の世界では中々考えられない光景に軽いカルチャーショックを受けた虎蔵だが、 ワルドが船長との交渉を終えるとすぐさま出航となった。 この世界のフネは、《風石》というアイテムで浮き上がり、帆船の要領で風を受けて推力としている。 原理的には、プロペラの変わりに帆の付いた飛行船といったところだろうか。 船体側面にも羽が付いているのだが、十分な揚力を発生させているようには見えないことから、 推力の補助と船体のバランス維持が目的だろう。 スピードは中々出ている。 聞いたところによれば、明日の昼過ぎにはアルビオンのスカボローという港につくそうだ。 接触しなければならない《王党派》は既に王都ニューカッスル付近に構築した陣を包囲されているという。 スカボローからニューカッスルまでは馬で一日。 陣中突破しか手はない。 ―――なんとも面倒なこったな――― ふぅ、と忌々しげに煙を吐き出す虎蔵。 空はゆっくりと黎明時へと移り変わっていた。 数時間後、虎蔵が仮眠を終えて甲板に出てくると、船員達が忙しなく走り回っていた。 鐘楼の上に立った見張りの船員が「アルビオンが見えたぞー」と大声を上げる。 「おはよ、虎蔵。そろそろ見えるわよ」 生欠伸をかみ殺しながらぼりぼりと頭をかく虎蔵にルイズが近づいてくる。 虎蔵はおう、とだけ返して首を回してはゴキゴキと鳴らす。 ふと視線を上に上げれば、雲の切れ間から黒々と大陸が覗いていた。 よくもまぁ、こんな物が浮いているものだ。 「落ちたら大惨事だな」 「―――不吉な事言わないでちょうだい。ただでさえ色々あるんだから」 「へいへい――」 肩をすくめる虎蔵。 昨夜のルイズはキュルケ達を心配して顔色が悪いままだったが、 軽口に乗ってくる程度には持ち直したようだ。 だがその時、鐘楼に立つ見張りが再び大声を張り上げた。 『右舷上方の雲中より、フネが接近してきます!』 船員達に緊張が走る。 見張りの言うとおり、雲の中からフネが一隻近づいてきた。 黒くタールが塗られた舷側からは二十数個の大砲が突き出していて、まるでこちらを威嚇しているかのようだ。 「いやだわ――《貴族派》の軍艦かしら」 ルイズの呟きが風に流される。 虎蔵は次々とやってくるトラブルにため息をつくのだった。 どうやらそのフネは空賊の物だったらしく、停船させられると何人もの武装した男たちが乗り込んでくる。 黒船の舷側にも何人もの男たちが弓やフリントロック銃を持って並んだ。 大砲でも狙われていることを考えれば、抵抗は得策ではない。 更には乗り込んできた水兵に驚いたワルドのグリフォンが、魔法によって眠らされてしまう。 メイジも居るようだ。 その後、虎蔵達は身代金目的ということで黒船の船倉に閉じ込められていた。 ワルドとルイズは杖を取り上げられたものの、虎蔵の武器をただの空賊が発見できる訳がなく、 彼は何も取り上げられていない。 そのため、ルイズもこれといって不安そうにはしていない。 「さて、使い魔君。頼めるかい?」 「構わんが――もう少しまとうや。どうせなら、奴さん方に陸まで運んでもらおうじゃないの」 ――それに、ちょいと気になる事もあるしなぁ。ただの賊とは思えん―― 暫く船倉に雑然と押し込まれた酒樽や穀物の詰まった袋、火薬樽などを眺めていたワルドが虎蔵に声を掛ける。 だが虎蔵は達観した様子で壁際に腰を下ろして身体を預け、欠伸を漏らす。 ちらりと一瞬だけルイズの指に輝く《水のルビー》を見る。 これほど見事な指輪を取り上げない賊など居るものだろうか? ルイズは緊張感のなさに一瞬ムッとするが、すぐにそれが正論だと気づいて自分も腰を下ろした。 ワルドもそれにならう。 「しかしアレだな。杖がないと何もできんというのは中々不便なもんだな」 虎蔵が頭の後ろで腕を組んで二人に告げる。 完全にリラックスしている様子である。 はっきり言って囚われている人間の行動ではない。 「君みたいに何本も隠し持っておくというのは、有効な気がしてきたね」 「でもボディチェックされたら確実にばれるのよね――アレのやり方教えてよ」 「―――あー、気が向いたらな」 苦笑するワルドに、隠器術を羨ましがるルイズ。 虎蔵は面倒臭そうに肩をすくめる。 一朝一夕で教えられるものでもないのだ。 と、そんな話をしていると扉が開いて太った男が「飯だ」と言って入ってきた。 手にはスープの入った皿を持っている。 ワルドとルイズの視線が虎蔵に集まった。 扉に一番近いこともあり、「あ゛ー」とかなり面倒臭そうな声を出しつつ立ち上がる。 虎蔵はトレイに手を伸ばすのだが、男はひょいと引っ込めた。 「質問に答えてからだ」 「あ゛?」 虎蔵は滅茶苦茶不機嫌な声をあげて、ギロリと睨み付ける。 その瞬間、男が持っていた自らが優位にあるという思いは、一瞬にして吹き飛んだ。 視線だけで殺されるのではないかという悪寒が背筋に走り、男は「ひっ」と情けない悲鳴を上げる。 「ちょっとトラゾウ―――」 それを見たルイズがしぶしぶと立ち上がり、彼の前に出る。 ワルドもその男の情けなさにくくっと肩を揺らした。 虎蔵が軽く肩を竦めて一歩引くと、ようやく男が口を開いた。 「お、お前たち――アルビオンに何の用だ」 「旅行よ」 「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行?いったい何を見物するつもりだかな――」 男はスープの皿をルイズに押し付けると、逃げるように出て行く。 鍵が閉まる音を聞くと、ルイズが虎蔵の真似か肩を竦めて見せた。 その後、暫くすると再び扉が開いて痩せぎすの男が入ってきた。 彼はルイズとワルドに向けて、アルビオン貴族なのかと聞いてくる。 彼が言うには、自分たちは《貴族派》ではないが、彼らと協力し合っているため、 アルビオン貴族であるなら安全に港まで運んでやるとの事だった。 ここでルイズがYesと答えれば丸く収まってスカボローなり何処かの港なりに運んでもらえるだろう。 だが、そこはやはりルイズである。 彼女は首を横に振って、真っ向から痩せぎすの男を睨み付けた。 「誰が薄汚いアルビオン貴族なものですか。バカ言っちゃいけないわ。私達はトリステインからの《王党派》への使いよ。 つまりは大使なのよ。分かる?分かったら、大使としての扱いを要求するわ!」 「ふん―――正直なのは、確かに美徳だが、お前たち、ただじゃ済まないぞ」 きっぱりと言い切るルイズに、痩せぎすの男は呆れたように答える。 だが――― 「いや、ただじゃ済まないのはお前さんだなぁ―――」 「へ―――なッ!?」 男は硬直して、驚愕に目を見開いた。 それもそうだろう。 虎蔵はボディチェックで何も出てこなかったし、この部屋には武器の類は置いていない。 にも拘らず、彼の手には刀が握られ、それが一瞬の内に自らの首に押し当てられているのだから。 「馬鹿だな。護衛も付けずに―――死ぬか、頭の所に案内するか。どっちが良いよ?」 「――――わ、分かった。案内する。するから、これを――」 「駄目だ。大声を上げようとしたら首が飛ぶと思えよ?神様にお祈りする暇なんぞやらんぜ」 そう言って彼の首筋に刃を押し当てながら、船倉を出て行く一行。 ルイズは自らの使い魔の手際の良さに満足気である。 虎蔵は途中でワルドと交代し、船員に発見される度に一瞬で肉薄し、首筋に手刀を叩き込んで気絶させていった。 そして船長室にたどり着くと、痩せぎすの男を先頭にして中へと滑り込む。 部屋の中には豪華なディナーテーブルがあり、その上座で派手な格好の空賊が腰掛けていた。 その空賊は大きな水晶の付いた杖を弄っている。 どうやら、こんな格好なのにメイジらしかった。 「ん、なんの―――貴様らッ!?」 彼は虎蔵達に気づき、慌てて立ち上がって杖を構えようとするのだが―― 「―――ぐッ!」 「残念。警戒が足らんね」 「頭ッ―――!?」 虎蔵は空賊の頭が杖を構えた瞬間に刀を投擲し、杖を弾き飛ばす。 ワルドに刀を突きつけられたままの痩せぎすの男が叫び掛けるが、ワルドが刃を首にわずかに食い込ませて押し留める。 そして虎蔵が一息にテーブルを飛び越え、男に刀を突きつければ、完全に形勢が逆転した。 「くッ―――武器は全て取り上げた筈じゃなかったのか?」 「俺ァちょいとばかし"手品"が得意でな」 憎々しげに呟く男に虎蔵がニヤリと笑みを浮かべる。 ルイズは弾き飛ばされた杖を拾い上げると、彼に向けて突きつけた。 そして精一杯胸を張り、堂々と告げる。 「卑しい空賊。私はトリステインからアルビオンへの特使です。 貴方たちの小金稼ぎに付き合っている暇はありません。命が惜しければ、今すぐにフネを最寄の港へ。 無駄な殺生は好みません。そうすれば命は助けます」 その言葉を聴いた頭の顔色が変わった。 彼の探るような視線がルイズに向けられる。 ルイズはソレを正面から睨み返す。 婚約者の威風堂々とした仕草が嬉しいのか、ワルドは笑みを零している。 「頭―――」 「ん?お前―――その指輪は―――」 男はルイズの指に輝く《水のルビー》に気づき声を漏らした。 ルイズは《水のルビー》を軽く掲げる。 その凛々しい佇まいと相まって、それはとても輝いて見えた。 「これは姫殿下より頂いたものよ。これがどうかしたのかしら」 「いや、これは失礼したね。大使殿――」 男の口調ががらりと変わり、三人とも目を見張る。 彼は刀を突きつけられたまま黒髪をはぐ。カツラだったようだ。 眼帯を取り外し、汚らしい髭をびりっと剥がす。 見事な変装だったようで、現れたのは凛々しい金髪の若者であった。 痩せぎすの男が「で、殿下―――」と呻く。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官―――そしてアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。 ようこそ、アルビオン王国へ―――出来れば、剣を引いて欲しいのだけど。駄目かな?」 その男、ウェールズは首筋に触れる刃を恐れることなく、微笑んだ。 ルイズはぽかんと口を開いて、唖然としている。 それもそうだ。薄汚い空賊の男が、突然王子様に代わってしまったのだから。 虎蔵は虎蔵で、彼の言っていることが真実か分からないのでどうしたものかとルイズに視線を向ける。 ワルドだけが興味深そうにウェールズを見ていた。 「と、トラゾウ。収めて!」 「あいよ」 ハッと我に返ったルイズが慌てて虎蔵に命令する。 虎蔵はスッと刀を納めて、何処ともなく"隠して"しまう。 ワルドも痩せぎすの男を開放して、刀を虎蔵に返した。 「大変失礼を―――」 「いや、あんな格好をして居たのだからね。仕方のないことだ。 こちらも大使殿を船倉などに閉じ込めてしまった訳だから、お互いに水に流すという事でどうかな?」 「分かりました―――しかし、なぜこの様なことを?」 「敵の補給路を立つのは戦の基本。だが、まっとうにやってはあっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまうからね」 ウェールズの言葉になるほど、と頷くルイズ。 痩せぎすの男がすっとウェールズに耳打ちすると、全員に一礼して出て行った。 来る途中に気絶させてきた船員達を起こして、事情を説明しに行くのだろう。 確かに、よくよく見れば身なりこそ空賊らしいが、立ち振る舞いからは粗野な感じがしない。 「して、御用向きは何かな」 「はい――アンリエッタ姫から密書を言付かって参りました」 「ふむ、姫殿下とな。君は?」 「私はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。 そしてこちらが姫殿下より大使の任を仰せつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔に御座います」 ワルドがすっと歩み出て、見事な作法で挨拶をする。 ルイズはそれに習うが、虎蔵はいつもの如く何処吹く風で壁際に下がった。 ルイズは胸のポケットから密書を取り出すと、恭しくウェールズに近づくのだが、途中で足を止める。 「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」 「まぁ、さっきまでの格好を見れば無理もない。そうだな――― これなら信用して頂けるかな。アルビオン王家に伝わる《風のルビー》だ。 君のその《水のルビー》に近づけると―――」 「まぁ、これは――」 二つの王家に伝わるルビーが近づくと、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 ルイズは思わず驚きの声を漏らす。 「水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ―――」 ウェールズは今や風前の灯となったアルビオン王家を思ってか、何処か寂しそうに呟いた。 「そうか。結婚か。あの愛らしいアンリエッタが―――私の可愛い、従兄弟は」 その後、アンリエッタからの手紙を呼んだウェールズはそう呟き、微笑む。 ルイズにはそれが心からの笑みには思えなかった。 彼はアンリエッタからの手紙を丁寧にたたんで胸のポケットにしまう。 「だが残念ながら、あの手紙は今手元に無くてね。ニューカッスルの城にあるんだ。 多少面倒だが、ニューカッスルの城まで足労願いたい」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4104.html
this page was created at 2008.03.05 this page was modified at 2009.02.23 TAGにTRIP埋め 「Happy Birthday, ハルヒ」 「ありがとう。でも、この歳になると誕生日もあれね。うれしくもあり、うれしくもなし」 「いいじゃないか、互いに年をとっていくんだ。置いてけぼりは勘弁してくれ」 「それに、年中行事はとことん楽しむのが流儀だったろう?」 俺たちが知り合った高校一年の春から、60年あまりが過ぎた。今日はハルヒの78回目の誕生日だ。 「そうね。それで、今年はどんな風に楽しませてくれるのかしら?」 多少のしわは刻まれたし髪もすっかり白くなったが、78歳になってもハルヒはきれいで いたずら気味な微笑みは若い頃とちっとも変わらない。 俺の方は…聞くな。せいぜい、白髪のダンディなじいさんを想像してくれ。 「さあてな。何かあるかもしれないし、何もないかもしれない」 「なによそれ。何にも準備しなかったの?」 「準備はしてるんだが、なにせ自分でも忘れてたからな。どうなるかさっぱりわからん」 「???」 「お茶でも淹れて待ってればわかるさ」 よっこらせと腰を上げ、キッチンへ向かう ヤカンに水をくみ、ヒーターのスイッチを入れながら居間に声をかける 「それに、二人きりの誕生日は久方ぶりだろ。思い出を数えるのも悪くない」 「今年は誰も来ないんだものね。毎年孫曾孫が誰かしら祝いにきてくれたのに。寂しいわねぇ」 今年は二人きりで祝いたいと、事前に根回しをしたのはハルヒには内緒だ ヤカンがチンチンと泡のはぜる音を立て始める。温度の見極めが勝負だ。 茶道楽に手を染めてみたが、ハルヒを満足させる茶はまだ淹れられない。 曰く、朝比奈さんの淹れるお茶の足元にも及ばないそうだ。 …自分なりにはおいしく淹れられてると思うのだが。 「はい、お待ちどう」 「ありがと。…今日のお茶は色が薄いわね。葉っぱ変えた?」 「祝いの日だからな。珍しいお茶を淹れてみた。中国茶で『銀針』というんだ」 「まずい!おかわり!」 もうちょっと味わって飲んでくれよ。ま、顔はおいしいって言ってるからいいけどな。 はい、おかわり。 「文芸部室でも何度かキョンがお茶淹れてくれたわね」 「そのたび、今とおんなじ台詞を言われたな。多少は上達したと思うんだが」 「上達はしてるわよ。でも、みくるちゃんの淹れるお茶は超・達人の域だったのよ」 なんだ、超・達人て。言わんとするところはわかるが (キンコーン) 「誰か来たみたい」 「ん、俺が出る」 「はい?」 インターホンに映るのは忘れもしない、懐かしい顔だった。 『僕です』 「久しぶりだな。今開ける、勝手に上がってくれ」 「どなた?」 「おまえがびっくりする客だ」 「どうも。お邪魔します」 「古泉君!?」 「ご無沙汰してすみません。誕生日おめでとうございます。相変わらずお美しい」 古泉から花束を受け取るハルヒの、びっくりした表情に密かに満足しながら古泉に声をかける 「まぁ座れ。すぐに茶を出そう。それから人の嫁さんに色目を使うな」 「おやおや。仲睦まじいようで何よりです」 古泉のにやけスマイルは今だ健在か 絵に描いたような好青年がそのまま絵に描いたような好々爺になった風だな 「元気だったか?」 茶を出しながらたずねる 「えぇ。おかげさまで。息災でやってます」 (キンコーン) 「千客万来だな」 「誰?まさか…」 インタホンの画面の前に立つ俺をハルヒは期待のこもったまなざしでみつめ、腰は既に浮いている。 これで集金だったりしたら、不運な来訪者のためにお経を唱えなきゃならんところだ。 ハルヒに 出てみろ と目配せした。 画面に映る来訪者を確認したハルヒの顔はたちまちくしゃくしゃの泣き顔になり、玄関にかけていった。 誰が来たのかは言うまでもないだろう。すぐに大きな叫び声が聞こえるはずだ。「みくるちゃん!」と。 さて、超・達人に出すには気が引けるが、お茶の準備をして待っていよう。 二人が目を赤くして居間に戻ってきたのは、熱いお茶が子猫の舌にも優しい温度になるくらいたってからだった。 朝比奈さんとは俺たちの結婚式を最後に音信不通だったからな。なにも知らないハルヒにはつらかったろう。 すまんな、ハルヒ。だがそれも今日までだ。 「キョンくん、お久しぶりです。古泉君も」 「お久しぶりです、朝比…あ…」 「昔のままで呼んでください。そのほうが私も懐かしいですから」 見る者を萌やしつくすマイエンジェルの微笑みがいまだ健在であることに大いに感動しつつ言い直す。 「お久しぶりです、朝比奈さん。相変わらずお美しい」 古泉の挨拶が続く 「お久しぶりです。ほんとうにお変わりなく」 「みくるちゃん今までどうしてたの!悪い男に引っかかったりしなかった?心配したんだから!」 「いいじゃないか、ハルヒ。それより、再会とお前の誕生日を祝して乾杯しよう」 「でも…まだ…」 「長門も来る。そしたらまたすればいい。何度したっていいさ」 (キンコーン) 「おや。ひょっとして、うわさをすれば影ですか?」 インタホンの画面を確認した俺は、そこに映った姿に文字通り天を仰いだ。 確かに長門だ。北高のセーラーを着た、当時と寸分たがわぬ長門がそこにいた。 いくらなんでもいきなりそれはまずいだろう、さてどうやって誤魔化したものかな と視線を戻すと、 長門が相応に年を重ねたらこんな感じだろう と思わせる姿に変わっていた。 やれやれ、いい先制パンチだ。どこでそんな技を覚えたんだ。 「どうやらそのようだ。雰囲気のいい和服美人だ。いかにも長門らしい感じだな」 「いきましょ、みくるちゃん。有希を迎えに!」 玄関に向かう二人を目で追いつつ、古泉が言った 「役者がそろいましたね」 そうだな。 「このまま、再会を誕生日プレゼントにした一日にすることもできますが?」 そうだな。だが俺の腹はもう決まってるんだ。あいつは大丈夫だ。 お前も朝比奈さんも長門も、大丈夫だと判断したからここに来たんだろう? 「そうですね。あの二人の判断はわかりませんが、『機関』の判断はそのとおりです」 「ですが、なぜ今更という疑問は残ります。なぜなのですか?」 そいつはみんな揃って、そのときになったら言うよ。 すっかり高校時代まで精神年齢を退行させたハルヒが二人を引っ張って居間に戻ってきた。 「みくるちゃんはここ。有希はここね。古泉君はここ座って」 「キョンはそこ!」 部屋の隅っこを指さされた。 亭主の威厳?いやいや、今の俺は雑用その1だからな。しかしまあ、抗議くらいはしておこう。 「おいおい、文芸部室にだっておれの椅子くらいはあったぜ?」 「しょうがないわね、じゃあどっからか持ってらっしゃい」 「自前調達かよ」 言い合いながらキッチンからお茶とお菓子を運び、面々の前に置いていく。 「朝比奈さんの淹れたお茶には敵いませんが、どうぞ」 「そんなことないですよ。さっきのお茶もおいしかったです」 超・達人にそう言っていただけるとほっとします。 「久しぶりだな、長門。変わったことは無いか?和装も似合うんだな」 「問題ない」 「…ありがとう」 今のはお茶のお礼じゃないよな。 長門も変わったんだな。たぶん、良いほうに。 「ほれ」 「僕にはそれだけですか。つれないですね」 十分だろうが 「はいよ、団長様」 「ごくろうさま」 キッチンから折りたたみの踏み台を持ってきて、椅子代わりにして座った。 ハルヒは上座に仁王立ちして、SOS団定例活動第1回を宣言した。 「みんな集まってくれてありがとう。あとで連絡先教えてね」 「さて…」 「あたしたちもたっぷり歳をとりました。これだけ生きてれば不思議なことの一つや二つはあるでしょう」 「今日はみんなの話をいぃぃぃっぱい!聞かせてもらうからね!」 聞き役のはずのハルヒが一番しゃべってるのはもはやお約束だな。 アルバムなんか引っ張り出してきて、俺の恥ずかしい過去を暴露しまくるのは勘弁して欲しいが それも含めて幸せってやつさ。俺も歳食ったね。 しかし、みんな変わってないな。ひねくれ頑固老人が一人くらいいてもおかしくなかったが。 「高校で鍛えられましたから」 「こ~い~ず~み~く~ん~?」 ハルヒの地獄耳をなめてはいかんぞ、古泉。 (キンコーン) 「あれ?こんどは誰?まさか鶴屋さんだったり?」 「料理が届いたみたいだな。古泉、運ぶの手伝ってくれ」 「承知しました」 どんどん運び込まれる料理の数々。ちょっと多すぎたか? 居間におさまりきらず、キッチンまであふれだしている。 「バカキョン!何人分頼んだのよ!」 「7人分だ。おまえと長門が2人分」 「歳と常識考えなさいよ?!」 おまえに常識いわれるとは… どうだ、長門? 「問題ない」 だ、そうだ。おまえも負けずに食え。 余ってもタッパーに詰めればいいから気にするな。 なんだかんだで料理はほとんど無くなった。 長門が以下略 腹もふくれて、ハルヒもみんなも幸せそうにまったりしている。 本当にこのまま一日を終わらせてもいい気がしてくるが、全員が揃うのは おそらく二度とないだろうから、今日を逃すわけには行かない。 「長門」 長門の黒曜石の視線がこちらを向く 「朝比奈さん」 緊張を含んだ朝比奈さんの視線がこちらを向く 「古泉」 にやけスマイルの張り付いた古泉の視線がこちらを向く 「みんな、約束を忘れないでいてくれてありがとう」 「なら、俺がこの後なにをしようとしているかもわかっている筈だ」 「反対なら今、言ってくれ」 ハルヒは不思議そうにしているが、緊張感は敏感に感じ取っている様子だ。 不安そうな視線が俺と三人のあいだを行ったりきたりしている。 「約束って何?」 「いったい何をするの?」 やがて古泉が口を開いた 「僕のほうからは既に先ほど申し上げましたが、反対ではありません」 「ですが、やはり先ほどの疑問には答えをいただきたいと思います」 「なぜ、今更に?」 朝比奈さんが口を添えた。 「私たちも同じです。反対ではありませんが…」 長門? 「憂慮すべき事態が発生する確率は観測されなかった」 つまり? 「反対する理由はない」 「わかった。反対は0だな。感謝する」 「では理由を述べよう。こうだ」 俺たちも歳をとった。現実にやってくる『死』を意識しても落ち着いていられるくらいにな。 だが俺はずっと気になっていたんだ。『魂』は存在するのか? 禁則だ。わかってる。だから俺は存在するという仮定の下にこの話をしている。 もし存在するとしたら。もしハルヒに隠し事をしたまま『魂』になっちまったとしたら。 俺はあの世でハルヒにメチャメチャな目にあわされる!絶対に! そ れ だ け は 避 け な け れ ば な ら ん ! 身振り手振りを交えて力説する俺を見る、みんなの視線にふと気がついた。 あのー、もしもし?なんですか? その、あきれ返って何もいえないっていう目は? おいハルヒ、おまえまでそんな目で見ること無いだろ! 「バカはほっときましょ」 「御意」「はい」「…」 おーい……… ぉーぃ…… オーイ…… orz ・ ・ ・ 「で、あたしに隠し事ってなんなの?」 布団に入ってから、ハルヒがきいてきた。 「ああ…」 「おまえが神様で時間のゆがみで自律進化の可能性で」 「古泉が超能力者で朝比奈さんが未来人で長門が宇宙人で」 「おれがジョン・スミスだって話だ」 「なにそれ。そんなことあるわけ無いじゃない」 「じゃあ、どうして俺がジョン・スミスの名前を知ってるんだ?」 「だってあんたに言ったことあるし。中一の七夕に遭った変な高校生の話」 「あれ?そんなことあったっけ」 「あったあった。まったく、どうしたら昔話の登場人物に自分を重ねられるのよ」 布団からガバッと身を起こしたハルヒが人差し指を突きつけながら言った。 「いい?不思議はそんじゃそこらに転がってなんていないの!」 「今日はみんなの連絡先もわかったし、また集まって不思議探しをするわよ」 まじか。ていうか朝比奈さん、未来に帰らなくていいんですか? 「まだ言ってる。寝言は寝てから言うものよ?」 「電気消すわよ」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ キョン。まだ起きてる? あぁ 今日はありがと。またみんなで集まれるなんて、思わなかった 新婚旅行から帰ったら有希ともみくるちゃんとも連絡がつかなくなってて きっともう二度と会えないんだと思ってた…二人とも元気そうで良かった… 約束って、何だったの? おまえの78歳の誕生日に、みんなでもう一度集まろうって 結婚式のあとにな。 どうして78なのよ。40とか、50とかでも良かったのに 俺が78って数字が好きなんだよ なにそれ、ばかみたい 長生きするわよ。ホント 長生き、してね…キョン… おまえこそ。置いてけぼりは勘弁してくれよ? ……… ……… おやすみ、キョン… おやすみ、ハルヒ…
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/940.html
前へ お嬢様が、クリスマス会の企画係を任された、翌日の朝。 制服に着替えて自室を出ると、ちょうどお隣のなっきぃが、目をこすりながら戸締りをしているところに出くわした。 「キュフゥ・・・愛理」 「ケッケッケ、おはよう、なっきぃ。寝不足みたいだけど?」 原因は聞くまでもない。お嬢様のことが心配で、眠れなかったのだろう。 茉麻ちゃんから“お嬢様一人で考えるように”とお達しがあった以上、なっきぃの性格上、はぐれ(ryのように、それを平然と破ることはできない。 お嬢様が新しいことに挑戦するのを誰よりも望みながら、その反面、根っからの心配性でもあるなっきぃ。 眠れないほど気にかけてしまうなんて、面白・・・いやいや、なんて思いやりがあるんでしょう、ケッケッケ。 「・・・もし私がお嬢様のように重要任務を任されたら、なっきぃは徹夜で身を案じてくれるかなあ?」 「ギュフーッ!これ以上心労を増やさんといてー!」 ケッケッケ、なっきぃったら、ソソるリアクションをするから、ブラックちゃんが疼いてしまう。気を付けないと。 「おはよー!」 「あ、おはよう」 そのうちに、みんなも部屋から出てきて、ぞろぞろと食堂へ向かう。 扉を開けると、上座席に既にお嬢様がちょこんと腰をかけていた。 ただし、ボーッとしたお顔で、あまりお肌の艶もよろしくない。よっぽど夜遅くまで頑張ったんだろうな、というのが一目でわかる。 「キエーッお嬢様!おいたわしや・・・さっそく今から二度寝を!私の腕の中で!」 「きゃんっ!栞菜ったら、どうしてそんなところに触れるの!おやめなさい!千聖は十分に元気よ、ご心配なく」 見れば、お嬢様はお手元に、分厚いルーズリーフを携帯している。 「それ、企画書ですか?」 問いかけると、目を三日月にしてうなずき返してくれた。 「ええ、千聖のお仕事ですもの。準備が大変だったけれど、今、とても充実感を覚えているわ」 おっしゃる通り、お顔は疲れ果てているものの、表情は暗くない。 いつものふんわりのほほんとしたお嬢様も可愛らしいけれど、こういう一面があるから、お嬢様は人を惹きつけるんだろうな、なんて思った。 「・・・ん?なんでしゅか、愛理。何で舞の方じろじろみてるの」 「いえいえ、ケッケッケ」 「さ、ごはん食べましょう、お嬢様!キュフフ、企画立案の次は、プレゼンがありますからね、まだまだここからです!」 運ばれてきたお味噌汁は、私が最近ハマッている、白みそ×カブの黄金コンビ。 「私これ好きなんですよ~、いつもありがとうございます、執事さん」 「ひぎぃ!あばばば」 ケッケッケ、美味しいもの食べて、今日も一日元気に過ごせそうだ。 ***** 「えーっ、と」 ランチタイム。 私、生徒会長須藤茉麻は、目の前のに座るニコニコ顔のお嬢様と、長机の上にどっさり置かれた書類の山を見比べた。 “学園で、クリスマスパーティーを開催したいわ”そんな提案を受け、私が千聖お嬢様に出した宿題。 これがその“答案”なのだろうけど・・・正直、私の想定の範囲を超えていた。 「あまり時間がなかったものだから、準備の足りていない部分があるかもしれないけれど・・・」 「いやいや、何をおっしゃいますか。よくぞこんなに・・・ママは嬉しいよ、うんうん!」 マザーモードで深くうなずく私を、梨沙子が白い目で見てきた。 「ママ、まだ肝心の中身確認してないじゃーん。こんなに頑張ったのはすごいけどぉ、やっぱり内容が大事じゃない?」 ――まあ、りしゃこったら、現実的なんだから!大体、そんな言い方したら、お嬢様が・・・ 「ねえ、岡井さんだって、ちゃんと見てから評価してほしいんじゃない?」 「ウフフ、そうね。せっかくですから、皆さんのご意見をお伺いしたいわ」 おお、そうか・・・。私ったら、ちょっと過保護すぎたかもしれない。梨沙子の方が、ちゃんとお嬢様の気持ちを理解してたんだな。ベイビーちゃん扱いしていたけど、二人ももう立派な(ry 「それでは、本日のランチ会議は、昨日お嬢様から提案のあった、クリスマス会を議題にしたいと思います!」 書類の束を見た瞬間に睡眠・・・いや、瞑想モードに入ってしまった熊井メンバーはさておき、生徒会室に集まった幹部たちが、一斉にお嬢様に視線を向けた。 「あら、ウフフ・・・いやだわ、なんだか恥ずかしい。あの・・・えと」 「ハァーンお嬢様かわいいかんな大賛成だかんなその案でイクだかんな!」 「まだ何にも言ってないだろっ黙るでしゅ!」 ℃突き漫才をニコニコと見届けたお嬢様。 製本された資料を配り終えると、「では・・・」と口を開いた。 「まず、これは実現できない、と感じたプラン・・・ということですが」 「うんうん」 軽く息を吐いたお嬢様は、真面目な顔でこう言った。 「サンタクロースさんに来ていただく、というのは、難しいかと思いました」 部屋の空気が、一気に何とも言えない生温いもの変わったような気がした。 「あー・・・サンタ、さん」 「ええ。どちらにお住まいなのか、詳しいことはわからないのだけれど、きっと遠方でしょう?交通費は千聖の家の運転手を派遣する形でも構わないけれど、ただでさえ今はお忙しい時節でしょうし・・・」 眉を困らせて、残念そうに呟くお嬢様。・・・世間一般の高校2年生は、さすがにもう、ねえ? 当然ながら同い年トリオの二人、梨沙子と愛理も、お嬢様に同調している様子はなく、梨沙子にいたっては、どうしたもんかといつものあばば癖が出始めている。 「う、うん。・・・なるほどね。うん、学校でのイベントだから、よそから来てもらうのは、ねえ?よし、じゃあ他には?」 その可愛すぎるプレゼンに栞菜がノックアウトされ、舞様も呆れ顔をしつつ口を挟んでこない今だから、とりあえず先を促してみることにする。 「ヘリコプターで、イブの夜景をと思ったのだけれど、夜遅くでは参加が難しそうだわ」 「トナカイ牧場を訪ねて、クリスマスのルーツを(ry」 「全校を上げてのクリスマスプレゼント交換会(ry」 「校庭いっぱいに巨大なクリスマスケーキを(ry」 ――お嬢様、次々と自分の考えた実現不可能なプランを上げては、セルフダメ出しでぶったぎっていく。 「・・・本当に、役に立たない案ばかり。私、何もできないわ」 そのうちにどんどん声のトーンが落ちていき、しまいには謎の凹み芸まで。 何せ、その膨大な会議資料のほとんどが、没案・・・つまり、自分への牽制のような役割を果たしてしまっていて。 確かに私は言った。実現不可能な案もプレゼンするようにと。しかしそれは、そこから拾えるものを考えるためであって・・・まさか、メインに持ってくるとは思わなかった。 「よく考えてみたら、自分の考えた企画の穴ばかりを考えて、昨日は“これをやりたい”という具体案は1つも出すことができなかったわ。千聖の力不足で・・・何1つ決めることすらできない・・・」 おお・・・なんて重い空気。お嬢様が隠れネガティブというのは聞いていたけれど、これほどまでとは。 「おじょじょ!逆に素敵じゃないですか、ねえ!いい意味で!キュフフ」 「なっちゃん、少し落ち着いたら?ふふん」 寮生たちは、こういうお嬢様の性格をよくわかっているからなのか(なっきぃを除いて)概ね慌てずに見守っているスタンス。 だけど、心優しい私の梨沙子なんて、落ち込みモードのお嬢様を気の毒に思ったのか、もう涙目だ。人の痛みに敏感な我が子よ、さあママの胸に(ry 「えー、何で落ち込むんですか!すごくないですか!!!」 しかし、その微妙すぎる空気を、くまくまボイスがぶわっと吹き飛ばしていった。 寝起k・・・いやいや、瞑想後だから超元気だ、この人。目をらんらんとさせて、お嬢様の企画書に見入っている。 「こんなたくさん、企画を思いつくなんて。うちじゃ絶対無理!お嬢様はアイデアマンですね!・・・いや、違うな。お嬢様はアイデアお嬢様ですね!」 「熊井ちゃん、そこは別に言いなおさなくてもいいでしゅから」 「でもでも、せっかくこんなに考えたのに、全部没にするっていうのはもったいなくない?時代はエコでソーラー自家発電が(ry」 いつもどおり脱線していくくまくま演説はともかく、 “もったいない”というのはおっしゃる通り、。 「お嬢様、諦めるのはまだ早いよ!」 この世の終わりみたいに凹んでるお嬢様に声を掛けると、子犬みたいな黒目でおずおずと私を見つめ返してくる。 「サンタさん、この時期は忙しいからね。来てもらうのは難しいね。でも、例えば“他のサンタさん”に、頼むことはできるんじゃないかな」 「まあ・・・他のサンタクロースさん?」 「ほら、お嬢様のお父様が、海夕音お嬢様のために、サンタさんの恰好をして、パーティーでプレゼントをお渡しなさったりするでしょう?ケッケッケ」 「ああ、そうね。執事が代役を務めることもあるわ」 「この時期だと、商店街やショッピング街で店員さんがサンタになりきってることもあるかんな」 萎れていたお嬢様の表情が、だんだんと溌剌としたいつものものに戻っていく。 「パーティーを開催するとして、どなたかに、サンタクロースさんの役を引き受けていただけば、盛り上がることでしょうね。さっそく執事に・・・」 「ちしゃと、学内でやることなんだから、家の人に頼むのは筋が違うんじゃない? ふふん、“千聖は子供じゃないのよ”なんて言うなら、家族に頼ったらかっこ悪いでしゅ」 しかし、間が悪く落とされる舞様爆弾。 正論とはいえ、完全に蛇足だったその言葉は、さらにお嬢様のお顔を、不機嫌時のそれに変化させていってしまう。 「・・・ええ。ええ、舞に言われなくても、わかっているわ。私は子供じゃないもの。ちゃんと、学内の方に依頼させていただくわ。さっきのは言葉のあやというものよ。 でもね、それなら言わせて頂くけれど、舞だって昨日、給水塔でお昼寝しているときに寝言で、舞のお母様の・・・」 「それ今関係ないじゃん!ちしゃとのほうが絶対ガキだもん!」 おーおー、可愛らしい子犬のケンカがはじまった。 そのうち熊井裁判長の仲裁が入ることだろう。そう考えて、私はお嬢様の作成した資料に目を通すことにした。 手書きの文字が躍るノートに、大きなクリスマスツリーやプレゼントの挿絵が入って、お嬢様の並々ならぬ気合いを感じさせる。 こんなの、どうしたって、叶えてやりたくなっちゃうじゃないの、ママとしては! 見れば、愛理になっきぃ栞菜、梨沙子まで、各々お嬢様の提出したノートを手に取って、付箋やらマーカーやらでチェックを入れていっている。 「岡井さん、頑張ったもんね。いいイベントになるように、私も考えてみる」 「まあ、ベイビーちゃんったら!みやびのこと以外でも、ちゃんとやる気だすこともあるんだね!」 「何それー!ママ、失礼じゃーん!」 やがて、「ケンカ両成ばーい!」という大熊さんのドスの聞いた声と、ゴスッという音(たぶん強制的に仲直りのごっつんこを・・・)の後、ようやく子犬たちの言い争いの声は収まった。 「会議、続けるよー?」 「・・・わかった」 赤くなったおでこをさすりながら、舞様が着席し、目をチカチカさせているお嬢様もそれに倣う。 「えっへん」 「あのね、熊井ちゃん・・・まあいいか。 んで、お嬢様。とりあえず、参加者の範囲を決めようか」 「まあ、茉麻さん・・・。こんな穴だらけの企画なのに、採用してくださるの?」 「あはは、いい企画を、より進化させていくのが、生徒会の仕事でしょう?ネガティブ発動させてないで、ほらほら企画会議始めるよ! で、さっそくだけど、舞ちゃんに栞菜、この巨大スノードームっていうの、なんとか作れないかな?予算は・・・えっと、まあ愛理様の御采配で・・・」 「できましゅ。っていうか」 「やるかんな。お嬢様の期待に応えるのが、添い寝係兼肉よkいででで萩原つねるなよ!」 舞栞菜はさっそく肩を並べて、素材がどうの規格がどうのとやり始めた。 「あー、私、やっぱまーさママ大好き!イヒヒ」 「私もまーさちゃん大好き!キュフフフ」 上手いこと事が進んでるのがよっぽど嬉しいのか、めずらしくなっきぃまでもが抱きついてきてくれた。 その温もりに和みつつ、残る二人の動向を目で追うと、大熊お嬢様コンビは、熱心にパソコンに向かっていた。 「まーさ!うちとお嬢様は、招待状とポスターを作るから!それが終わったら何すればいいか考えといて!茉麻たち三人は、もう一度お嬢様のプランを読み直して、アイデアを広げていくこと!OK?」 おお、熊井ちゃん、スイッチ入ってる。目がつりあがって殺気立っていてなかなか恐ろしい形相だけれど、やる気を出した時の特徴だ。これは頼もしい。 「熊井ちゃーん、まだお客様決まってないよー・・・先そっち決めた方がいいよ」 「なんだとー!とりあえず、みやびは呼んでいいよ、うちの生徒だからね!」 「なんっわたっそんなあばばばば」 ――はいはい、その辺もこっちで詰めてくからご心配なく、熊井ちゃん。 当日、クリスマスのBGMの中、キャッキャウフフとはしゃぐ学園生の姿を想像しながら、なっきぃたちとの打ち合わせに没頭していった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/epicofbattleroyale/pages/158.html
人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり。 武田信玄の在り方について、後世の歴史家が語った言葉である。 人を多く殺しもしたが、活かしもしたのが信玄だった。 なればこそ、甲斐の武田軍は、攻めるも守るも一級品の、無敵の軍隊として機能した。 なればこそ、堅固な城を建てずとも、決定的な敗北もなく、戦い続けられたのだろう。 無論、だからと言ってこの言葉が、城の存在自体を無用であると、そう解釈するのが誤用であるのは、今更言うまでもない。 天然の要塞である甲斐の地形を、的確に利用した成果が、不落の躑躅ヶ崎館であるというのは、言うまでもない。 仕掛けの整備を行ったのが、信頼し合える部下であることも、無論、言うまでもないことなのだが。 ◆ 岐阜の県境を跨いで、隣の県の長野のあたり。 かつて信濃と呼ばれた土地に、武田信玄の居館はあった。 本当ならば、本拠地である、甲斐に陣地を構えたかったそうだが、状況が状況だったために、召喚された土地で妥協したらしい。 「お城を想像してたんですけど、違ったんですね」 「大掛かりな城は手間を要する。おまけに悪目立ちもすると来た。期待に沿えなかったのは悪いが、故にこそ生前に倣わせてもらった」 生前の信玄の本拠・躑躅ヶ崎館は、文字通り天然の要塞であった。 山と川とに四方を囲まれ、的確に仕掛けを備えた館は、大掛かりな壁を要さずとも、攻め込み難い鉄壁を有するに至ったのだという。 まぁ、二回ほどボヤ騒ぎ起こしてるんだがな――とも、本人は苦笑気味に証言していたのだが。 ともあれかくして、藤丸一行は、武田軍との合流の末に、新生躑躅ヶ崎館へと案内されたのだった。 『信濃国には、ここの他にも、松代城というお城もあるそうです。調べたところ、終生のライバル・上杉謙信と、川中島というところで戦うために建造されたのだとか』 『この時代にも残っているのだろうけど、あれは前線基地だからね。こういう本拠地とは、求めるものが、恐らく違っているんだろうさ』 謁見の広間へと通され、小太郎、ランスロットと共に座す立香。 そんな彼に通信を送った、マシュとダ・ヴィンチのやり取りだ。 そうした考え方には、覚えがあった。確かにフランスやローマにおいても、様々な城を巡ったものだ。恐らくその松代城も、同じようなものなのだろう。 世界存亡の危機なんてものは、起きないに越したことはないのだが、こうした歴史観への理解が深まったのは、拾い物の一つなのかもしれない。 「いやぁ、待たせた! 遅くなったな」 そうこう話しているうちに、城の主がやって来た。 赤備えの派手な姿から一変、渋い色合いの着物を纏い、どっかと上座に腰を下ろしたのは、素顔を晒した信玄である。 たてがみで隠れていた地毛は、短めに切られたボーイッシュ・ヘアだ。窮屈なのか、着崩した胸元からは、案の定乳房の谷間が覗いていた。 どのあたりに感心したのかは謎だが、ほぅ、とランスロットが感嘆する。通信からマシュの咳払いが聞こえたので、直後にぴくりと背筋を伸ばす。 そんなやり取りを目の当たりにしてか、共に現れたアグラヴェインの視線は、以前に目の当たりにした時よりも、随分と白けたものに見えた。 そして加えてもう一人、立香とさほど変わらない、少年と呼べる歳の男が一人。彼らが信玄側に着き、三対三で向き合う形で、会談の場は整った。 「さて、改めて武田信玄だ。此度はライダーのサーヴァントとして、この聖杯戦争に当たっておる」 「藤丸立香です。人理を守るカルデアという組織で、サーヴァントのマスターをやってます」 「此奴のことは、もう知っておるのだったか。この時代で見つけたはぐれサーヴァントとやらでな。なんだったか、そう、鉄腕制裁オグラベインという」 「わざと言っているな貴公」 この後一通り、両陣営の、簡単な自己紹介を済ませる。 驚きだったのは、信玄側の残り一人が、かの小早川秀秋だったということだ。 本来あるべき関ヶ原の戦いを、傾けた一因であったと言われている、日本一有名な裏切り者の一人だ。 それ以上のことは知らなかったので、ここまで年若い武将であったというのは、正直なところ、意外だった。 『しかし今に始まったことじゃないが、まさか女性だったとはね』 「女だからと黙っておれぬと、そういう事情があったと思ってくれればよい。男と語り伝えられるのも、まぁ慣れた話ではあるさ。長尾の方が可愛げがあるくらいだからな」 あれはまた見ものだぞ、と、終生のライバルの名を挙げて、信玄はにやにやと下世話に笑った。 長尾景虎――上杉謙信は、そちらにこそ女性説がささやかれていたのだったが、事実は小説より奇なり、と言うべきか、机上の空論と言うのが正しいのか。 『落ち着いたところで、信玄さん。この時代に起きていることについて、詳しく教えていただけないでしょうか』 「そうさな。何から話すべきか……」 言いながら、ちらと信玄が秀秋を見やる。何やら後ろめたいことがあるのか、秀秋は実に不安げな顔だ。 忠義と恩義で板挟みになり、寝返りを即決できなかった秀秋は、とかく優柔不断に見られがちなのだが、実態も小心者だった、ということなのだろうか。 「まず、貴様らの認識から聞きたい。貴様らはこの時代の関ヶ原を、如何様な戦として捉えておる」 「えっと、まず豊臣秀吉が亡くなって……徳川家康と石田三成が、その後の日本の支配権を、争った戦いだったと教わってますけど」 「うむ、まぁその通りのようなんだがな。――そ奴ら二人共、既に死んでおる」 その一言を聞かされた時、立香は耳を疑った。 当事者の二人が、死んでいる? 関ヶ原の戦いの結末が、歪められたというのならまだいい。家康が死んで三成が勝ったとか、そういうのならまだ分かる。 しかし二人共死んだとは、一体どういうことなのだ。 それでは関ヶ原はどうなった。まともに決着はついたのか。あるいはそもそも戦い自体――始まる前から終わっていたのか。 「あるべき関ヶ原は、起こらなかった。そこな小早川の話によるとな。戦が起こるその前に、大将二人が殺されたというのだ」 「あ……あいつだ! お前達と同じ、サーヴァント! 恐ろしき剣士のサーヴァントが、三成様を殺したんだ!」 思い出すのもおぞましいと、身の毛がよだつといった様子で、がたがたと震えながら秀秋が言う。 「そこから先は滅茶苦茶よ。セイバーを現界せしめた聖杯とやらは、わしら残る六騎をも呼び寄せ、新たな戦を起こすよう求めた。聖杯戦争という名のな」 ここまでの話をまとめると、こうだ。 藤丸達がレイシフトする以前に、徳川・石田両名は死亡。関ヶ原の戦いは起きることなく終わった。 その事態を招いた聖杯は、下手人たるセイバーを含めた、七騎のサーヴァントを召喚。 史実とは全く異なる形で、七騎のサーヴァント達による、関ヶ原での戦争を欲したというのだ。 無論、これまでの特異点のように、ランスロットやアグラヴェインなど、例外のはぐれサーヴァントも、同時に現界しているようだが。 「まるでイスラエルの再来だな……」 「三つ巴でなく、七つ巴だ。陣営の数だけを見るならば、あれよりも更に混沌としている」 沈痛な面持ちで呟くランスロットに、アグラヴェインが補足する。 第六特異点たるイスラエルは、立香達が来る前に崩壊していた。 他ならぬ円卓の騎士達が、十字軍を打倒したことによって、歴史の前提を崩してしまったのだ。 そうして打ち立てられたキャメロットと、同時に顕現したエジプトの軍勢、そして地元の暗殺教団による、三つ巴の大混戦こそが、第六特異点の様相である。 無論、ランスロットにとっては、未だ拭い難いトラウマの一つだった。 「そう、これは七つ巴の戦だ。どうも真っ当な聖杯戦争では、こうはならんようなのだがな……我ら七騎は、このわしのように、全員が軍隊を保有しておる」 『軍隊を……ですか? つまりこの聖杯戦争は、大勢対大勢の集団戦……!?』 『はぁ、これはまた本当に滅茶苦茶だね。現代社会で再現すれば、ありとあらゆる勢力図が、開幕と同時に崩壊だ』 これはもう、とんでもない話だ。 科学が台頭する現代においては、神秘は秘匿されなければならない。 故にこそ、かつての聖杯戦争は、サーヴァント七騎のみによる、個人競技として執り行われた。 しかし、誰に憚る必要もない、この特異点もどきの過去世界においては、その大前提が通用しない。 何百何千、何万の兵士が、合計七つの陣営に分かれて、超絶大乱戦を繰り広げているというのだ。 そこもキャメロットとの共通点ではあったが、倍以上の陣営数となると、もう考えるだけで頭痛がしそうになってきた。 「実際、先の戦も我が軍と、ランサーの軍によるものでな。ランサーめを打倒したわしが、敵将討ち取ったりと広め回っておったところで、貴様らに出くわしたというのが真相だったのだ」 「ランサーを!? もう一組目が、脱落しているんですか!?」 立香の問いに、信玄が頷く。 あの時既に、七騎のサーヴァントのうち、一騎がライダーによって討たれていた。 であればこの戦は、残り六騎だ。そしてその討たれた一騎とは、どのようなサーヴァントだったのだ。 「あれはなかなかに難敵であった。見る間に城を建てたかと思えば、やかましい騒音を撒き散らして、我が方の兵達をなぎ倒しておってな」 と、思ったのだが。 しかし実態を耳にした瞬間、疑問は即座に氷解した。 氷解したはしたのだが、これまでの緊迫がどこへやら、思いっきりやるせない気分に襲われることになった。 『あのぅ、先輩、それってひょっとして……』 「何度も出てきて恥ずかしくないのかな、彼女……」 知っている。 そいつの顔は絶対に知っている。 ランサー軍の残党が、竜牙兵で占められていたのも、それを聞いてしまえば納得だった。 これで一体何度目だ。第一特異点にも現れ、第五特異点にも現れた。しかも今度は聖杯に乗せられ、戦争に参加していたのだという。 もう何なんだお前は。何を考えているんだ。まぁ霊基が継続していないのなら、また知らない彼女が現界していたのかもしれないが。 「しかし、アレがよくなかった。竜の娘を自称されては、さすがに黙ってはおれんからな。ついカッとなり『風林火山』を、全て使って叩きのめしてしまった」 『あー……まぁ確かに。越後の龍のことを思えば、同類を名乗られるのはいい気しないだろうね』 越後の龍、というのは言うまでもなく、前述した謙信公のことである。 元より彼の存在がなければ、竜虎相搏つの虎の異名が、信玄のものになることもなかったのだろう。 それほどに執心したライバルなのだ、であればどんな人間であれ、あのランサーに同類ヅラされるのは、たまったものではなかったに違いない。 「ともかく、これで残る敵は五つとなった。セイバー、アーチャー、キャスター、バーサーカー。そしてアサシンの五つの陣だ」 「うむ。我らはこれを打ち倒し、この状況を終わらせねばならん。故にこそ、アグラベインの進言に従い、貴様らをこの館へと招いたのだ」 アグラヴェインの名前を、上手く発音できないというのは、どうやら本当だったらしい。 どこか引っかかりのある呼び方をしながら、信玄は話をまとめにかかる。 要はこういうことを言いたいのだ。人理修復を成し遂げた手腕を、この状況の終結のために貸してほしいと。 「……戦いを終わらせるのが目的なら、聖杯は欲しくはない、ということなんですね?」 なればこそ、問わねばならなかった。微妙な言い回しに突っ込んで触れた。 武田信玄の思惑が、聖杯による人理の転覆であるなら、当然従うことはできない。 しかし信玄は、聖杯を欲しいと、自ら口にすることはなかった。 であるならばと、問うたのだ。自分とお前、二人の目線は、同じ方を向いているのかと。 「無論。願いを叶える万能の器、確かに惹かれるものではある。しかし我が身をも含めた、人の世そのものと引き換えては、本末転倒というものだろう」 即答する信玄の金の瞳は、まっすぐにこちらを見据えていた。 見るだけで分かる。立香にも分かる。何の嘘も偽りもない、本心からの言葉と瞳だ。 こういう目をした英雄達と、立香は何度も出会ってきた。彼らは例外なく高潔であった。だからこそ信じられるのだ。 きっと、手段は違っても、人類を生かそうとしていたアグラヴェインが、同じく彼女を信用したのも、同じ理由だったのだろう。 「主殿」 風魔小太郎が先を促す。ランスロットも無言で頷く。 申し出を断る理由などない。武田信玄は、信用できる。藤丸立香はそう判断した。 「俺が力になれるのなら、喜んで協力させてもらいます」 「成果を期待させてもらうぞ、人理救済の英雄よ」 世界を救ったのは確かだが、未だ本物の英雄達から、そのように呼ばれるのはむず痒い。 それでも、頷くことに対して、迷う気持ちは微塵もなかった。 こうして藤丸立香一行は、ライダー・信玄の陣営に、客将として身を寄せることになる。 本来あるべき聖杯戦争を、大きく逸脱した大いくさ――すなわち、聖杯大戦争。 これまでだってそうだったのだ。であれば、この未曾有の戦いを止めるためには、やはりカルデアだけの力では足りない。 故にこそ、世界を救うための、共同戦線の態勢が、今ここに敷かれたのであった。 BACK TOP NEXT 世界を変える準備はいいか(2) 天頂統一戦線 関ヶ原 咲き並んで幾百の華(1)
https://w.atwiki.jp/jososs/pages/185.html
「泡沫~うたかた~」第一話 山間の集落の日暮れは早い。 辺り一帯の山の中でも一番高い通称『御山』の中腹に鎮座する神社の本堂。その軒下に並んで 腰掛け、静かに暮れてゆく茜色の空を手を重ね合って見つめる二つの影。 「なぁ、やっぱり受けてみないか? 行くかどうか決めるのは後でも良いからさ?」 真っ赤な空に目を向けたまま口を開いた少年、真人の横顔を上目遣いの申し訳なさそうな顔で 見つめながら、ごめんねと唇を動かす巫女装束の明日華。 「真人と離れ離れになるの、本当に寂しいけど私には御山を守るお役目があるし……村の外は やっぱり恐いよ……」 現在、この村の小中併設校に通う児童は全部で五十人足らず。 その中で来年に卒業を迎える真人と同い年なのは明日華一人だけ。 物心がついた頃には二人は一緒だった。一緒に野山を駆けまわって川で泳いで勉強して気付いた 時には互いを唯一の存在と認め、そろそろ幼馴染みという曖昧な距離感を卒業しようと真人が村の 外への進学に誘った時、二人の時間は終わってしまったのだ。 この村は御山の白大蛇様の御力に守られている。 それが村の大人達、その中でも特に絶大な発言力を持つ年配層の口癖である。 曰く、この神社の更に奥にある村唯一の水源には古くから白い大蛇が住み水を通して村全体に 神通力をもたらしている。故に村の水を飲んでいる村人は病気とは無縁だし田畑は毎年のように 豊作だし、川の魚が尽きることも無いというのが彼らの言い分である。 そして明日華は村の地主神である白大蛇を祭り崇める神社の次女。蛇神としては風変わりな 白大蛇は御山を男子禁制と定めていると古くから伝えられているため、母や姉と共に明日華は 村中の期待を背負い、幼い頃から祭事にも積極的に関わっている。 「俺と一緒でも……恐いのか……」 だからこそ、真人は明日華の手を引いて村の外へ出たかった。大人達の勝手な期待で明日華を 押し潰されたくなかった。広い世界で色々な物に触れて、もっと輝いて欲しかった。巫女としての 微笑みじゃなくて、幼い頃と同じ元気いっぱいの笑顔が見たかった。 「真人じゃないよ。私が……臆病なだけだから……」 そして明日華は外の世界で全てを失ってしまう未来が恐かった。田舎娘の自分が都会に出て、 他の女の子達と張り合えるわけがない。真人の事が好きで、信じているからこそ万が一にでも 他の少女の洗練された輝きに目を奪われたり心が揺れてしまったりする瞬間を目の当たりに してしまったら、とても耐えられそうにない。 なら、いっそのこと離れ離れになることを自ら選び、手が届かないから仕方ないと自分に 言い訳しながら白大蛇様に尽くすことで忘れた振りをして一生片思いのままの方が良い。 そんな真人と明日華の姿を、木の枝に巻き付いた白い蛇が見つめていた。 「決めたぞ、おぬしじゃ!!」 そんな幻聴に驚き、机に向かったまま寝てしまっていた真人は椅子から転げ落ちそうに なりながら目を覚ました。 「って夢かよ……」 あれから何度か誘っても明日華は首を縦に振ってはくれないが、だからと言って簡単に は諦められない。幼い頃から時間をかけて温めてきた初恋は、もう切り離すことの出来ない 真人の心の一部。 「……やっぱり明日華以外なんて考えらないって!」 それを再確認した真人の受験への意気込みは少し変わった。 もちろん明日華への説得はギリギリで続けるつもりだが、もし最後まで折れてくれなかった としても真人は一人ででも都会の学校に合格して村を出る決意を固めた。 そして高校でも一生懸命に勉強して立派な社会人を目指して、明日華を幸せに出来るだけの 生活力を手に入れてから迎えに戻ってプロポーズする。 それを村を離れる時に伝え、待っていて欲しいと頼むつもりなのだ。 「って、その為に気合い入れて寝落ちとか本末転倒だよなぁ」 少し根を詰めすぎたか、などと考えながら側で充電しているスマートフォンで時間を確認 しようと伸ばした右腕の肘が何かに当たり、重そうな音と共に机から落としてしまった。 「………………蛇?」 寝ぼけ眼のまま拾い上げてみると、それは見覚えの無い置物だった。長さというか高さは 30センチ弱くらい、太さは真人自身の親指と同じくらいの木製の蛇の彫り物。鎌首を 持ち上げているというかコブラが威嚇している時のようなポーズで直立しているが形自体は 普通の蛇。手に持ってみると、先程の落下音ほどの重さは感じないが。 「誰のイタズラだよ、これ?」 というより、この村で蛇の置物と言うことは受験への縁起担ぎだろうか? だとすると 両親か祖母がこっそり差し入れてくれたのかも知れない。 そんな事を暢気に考えながら明くる朝も普段通りに学校に向かい、真面目に授業を受け 放課後のスケジュールを組み立てながら帰宅した真人を待ち受けていたのは悲痛な顔の 父と母と祖母と、明日華の姉と、 『人身御供』 という時代錯誤な迷信だった。 「どうしてっ! ねぇどうしてなのっ!?」 制服のまま半狂乱で駆け込んできた明日華は、当事者である真人が驚いて言葉を失って しまうほど憤り大人達に食って掛かっていった。 「お、落ち着いて明日華ちゃん」 そう真人の母が宥めようとしても、 「おばさん達こそ、なんでそんな簡単に認めちゃってるの! 真人だよ、真人がいなく なっちゃうのなんて嫌でしょ! 絶対におかしいもん!!」 怒りの余り、明日華の口調が幼い頃と同じ強気な物に戻っている。 「いい加減にしなさい明日華!」 「それにお姉ちゃんはお姉ちゃんで何なの、その格好! 祭事の時しか着ない千早まで 引っ張り出して威圧して、真人を苛めて心は痛まないの? 真人が可愛くないの? もう、 みんな信じられないよっ!!」 「お、おい明日華……」 「絶対に認めないっ、認めないんだからっ!!」 幼馴染みの怒りが激しい余り、なんだか怒るに怒れず冷静さを取り戻してしまった真人の 頭を胸に抱きしめ、普段は恥ずかしがって見せない八重歯を犬歯のように尖らせて大人達を 威嚇する明日華。 「もう誰にも、真人には指一本触れさせ……」 「我が儘も大概にしなさい、明日華!!」 「っ!?」 まさに鶴の一声。 村内の序列最高位に位置する一人。男子禁制の御山を守る神社の現宮司である自分の 母が玄関から飛ばした一喝には、流石に明日華も言い返せない。悔しそうに目で訴えながら 渋々真人の頭を解放し、代わりに手を握りながら大人しく口を噤み真人の横に正座する。 「娘の粗相、代わってお詫び申し上げます」 挨拶代わりに頭を下げた明日華の母を恭しく迎え、上座を勧める真人の両親と祖母。 宮司の参上により、ようやく場が落ち着きを取り戻した。 「先ず真人君に確認したいのだけれど、これは昨日まで無かった物なのですね?」 煎れ直したお茶が揃い、一同が話を聞ける状態にまで戻った事を確認した明日華の母が 宮司の顔で巫女装束の懐から件の木彫りの蛇を取り出す。 「は、はい……」 「そして今朝、目が覚めると枕元に置いてあった?」 正確には机の上だが、机に向かったまま寝ていたわけだから枕元と言っても良いだろうと 考え素直に頷く真人。 「いつ、誰が置いていったのか見ましたか? あるいは誰かが部屋に入って、これを 置いて去る音を聞きましたか?」 「いえ、誰も見ていませんし音も聞いていないと思います。けど……」 「けど?」 「たぶん夢だと思うんですけど、子供っぽい声で『決めたぞ』みたいな言葉を聞いたような 聞かなかったような……」 真人の言葉に両親と祖母は顔を見合わせ、宮司は眉を曇らせ、明日華は握る手に力を込め ながら悲しそうに瞳を揺らす。 「そうなると、もう疑う余地はなさそうですね」辛そうに溜息をつく宮司「もう陽菜から 聞いているとは思いますが、宮司として改めて断言します」 「うぅ……」情けない声を漏らす明日華。 「この蛇は白大蛇様からの賜り物で、白大蛇様が真人君をご所望なさっているという白羽の矢 に間違いない……と私は考えます」 反論も疑問もなく、明日華が駆け込んでくる前と同じ重苦しい空気が一同の背中に多い被さり 口を封じてしまう。 「しょ、所望って……」 「真人君のご家族ではないことは確認済みですし、この村で蛇の置物を悪戯に使うような 不信心者などありえません。その上で誰も姿を見てなく音も聞いておらずとなると、夢の中の 御言葉が白大蛇様のお告げと考える他にないでしょう」 そんな非科学的な! と真人が反射的に言い返さなかったのは幼い頃から白大蛇の伝承を 繰り返し聞かされ、大人達は聞く耳を持たないだろうという確信があったからだ。 また、明日華の親や姉に悪う印象を持たれたくないという思いも少なからず存在したのかも 知れない。 「別に真人君を縛って沈めるとか、そういうことをする訳じゃないのよ?」そんな真人の 顔色を見て胸の内を悟ったのか誤解したのか。慌てて言い添える明日華の姉、陽菜「まだ 詳しくは教えてあげられないけど、真人君には自分の足で歩いて一人で白大蛇様の泉まで行って もらうだけだから」 「俺が? 自分で歩いて、ですか?」 予想外の内容に、思わず真顔で聞き返してしまう真人。 「神社の奥から川に沿って道があるので、それを遡って行けば辿り着けます」 「そうなんですか。それで、白大蛇様の泉に着いた後は……?」 「嫌だったら断っても良いんだよ真人!」 村の水源である白大蛇の泉は神域とされ、普段は立ち入ることを禁じられている。 人身御供という言葉に不吉な物を感じていた真人が拍子抜けするほど簡単っぽい儀式の 内容と、村の水源に興味を示した途端に明日華が割り込んできた。 「あ、明日華……?」 「私だって調べたもん! 白大蛇様の賜り物を頂いた後でも、それを無効にする方法が あるんだよね、お姉ちゃん? お母さん!?」 「え、ええ……」 「あることは、あるけど……」 「あるんですか?」 これまた意外な事実を知って身を乗り出してしまう真人。 「白大蛇様の賜り物を頂戴したとしても、村を捨て全ての縁を切ってしまうと決めれば 生涯村と関わりを持たない代わりに儀式を辞退できます」 そう説明する宮司の声色には、僅かながら不満そうな色が漏れ出している。 「それ以外の方法はないんですか?」 村との関わりを一切合切絶つと言うことは、村に戻れなくなるどころか村人と交わ ることも出来なくなる。明日華を迎えに戻る未来も消失してしまうのだ。 それだけは絶対に選べない。 「あと一つだけ、白大蛇様は清い者以外を御身に近づけないとされています。です から誰かと契りを結んでしまうと資格を失ってしまうとされています……が……」 「ちち、契りって……!」 ありたいていに言ってしまうとセックスの事である。 「白大蛇様から賜り物を頂いたって事は、真人君はまだ誰とも経験してないんだと思うの。 だけど将来一緒になるって約束してる子がいるんだったら今からでも間に合うよ?」 妹の様子をチラチラ横目で伺いながら真人の顔を見つめてくる陽菜。 そうやら真人の片想いはお見通しらしい。 「真人! あのね、真人の為だったら私……」 「どっちも無理です!」 心臓に杭を打ち込まれたような痛みを覚えながらも幼馴染みの少女を遮る真人。真人が 人身御供から逃れるためなら明日華は全てを許してくれそうな気がするが、それで明日華と 繋がることが出来たとしても、それは真人の本意とは少し違う。 きちんと想いを伝えて受け止めてもらい、明日華を一生涯守り切れる男として全ての人が 認めてくれた上で、体を重ねたその先も覚悟して抱きたいのだ。 二人で絆を育む前に、祭事を言い訳にして初めてを奪ってしまうなんて言語道断だ。 「……真人……」 「ごめん」 そして誰も口に出さない最終手段。 駆け落ちという名の逃避行は考えるのに値しないとさえ真人は決めている。 明日華の為にも、堂々と娶る以外の選択肢は初めから存在していのだ。 「俺、白大蛇様の泉に行きます。そして戻って来ます!」 だが、まだ真人は何も知らなかった。 明日華が身を張ってまで思いとどまらせようとする理由。 大人達が言葉を濁し、全てを語ろうとしない訳。 男子禁制である自分の神域に、白大蛇自らが真人という少年を招く真意。 そして一同が囲むテーブルの上に鎮座して真人を見つめる木彫りの蛇の本当の意味も。 こうして五十余年の時を経て古の儀式が再び幕を上げた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8549.html
前ページ次ページゼロのペルソナ 塔 意味…価値観の崩壊・緊迫 ガリア首都リュティスのヴェルサルテイル宮殿の一室に二人の男がいた。 一人はこの宮殿の主ガリア王ジョゼフ。 もう一人はすらりとした体に長い金髪と耳を持つエルフ、ビダーシャルだった。現在、ジョゼフの部下となっている。 彼は任務の失敗を自分の主である男に報告しに来ていた。 彼がジョゼフの下についたのはガリア—エルフ間の密約のためであり決して彼が望んだわけではない。 だが望んだものでなくても、目的が果たされるまでのほんの一時期の関係であれ、部下となったからには失敗の責は受けなければならない。 だからビダーシャルはジョゼフに任務の失敗を語っている。 彼の姪とその母を守りきれなかったこと。 襲撃者の中にジョゼフの言った水のルビーの保持者がいるかどうか知る前に傷を負ってアーハンブラ城から撤退したこと。 ビダーシャルが苦渋の顔で語っている間、ジョゼフの顔には激しい感情は浮かんでおらずそれは語り終えた後も同じであった。 ジョゼフはビダーシャルが喋り終えたと知ってから口を開いた。 「なら次の作戦に移るとするか」 ビダーシャルは眉をひそめた。そして不思議そうに尋ねる。 「任務に失敗ことについて言うことはないのか?」 ジョゼフはめんどくさそうに答えた。 「余が命令して、お前は失敗した。それだけではないか。お前だって罰して欲しいわけでもあるまい」 ビダーシャルは不審げにジョゼフを見た。全く腹の読めない男であった。 世間では無能王と呼ばれているらしいが、決して無能ではない。 やはり、シャイターンの力を持つ者は普通ではないのであろうか。 「次の作戦とは……」 「そうだ、戦争だ」 言っている内容に反してジョゼフの姿にまったくの気負いはない。むしろその姿は気だるげでさえあった。 陽介たちはアーハンブラ城からタバサを救出した後、数日馬車に揺られトリステインではなくゲルマニアのキュルケの生家、ツェルプストー家の領地を訪れていた。 彼らはツェルプストー領地内にある深く濃い黒い森の中に立つ城の中で休息をとっている。 一行がトリステインではなくゲルマニアに逃げこんだのはアーハンブラ城が地理的にガリアの中でもっともトリステインに遠い位置にあったからという理由もあったが、 それだけでなくタバサの母——オルレアン公夫人の処遇が問題であったからだ。彼女は謀殺された現王の弟の妻であり政治的な価値が大きすぎるのだ。 なので無断でトリステインに連れて行くことをはばかり、現在はゲルマニアで休息している間に手紙をトリステイン王家に送り判断をあおいでいる状況にある。 そしてゲルマニアのツェルプストー家をその休息の場所としたのはキュルケの強い勧めのためだ。 オルレアン公夫人の処遇についての手紙はトリステインでも指折りの名家ヴァリエール家の娘であるルイズが親しいアンリエッタに送った。 もちろん、出来る限りいい返事をもらうためであるが、その手紙の中にでさえ、オルレアン公夫人がどこにいるか書いてはいない。 トリステインに勝手につれて行くのが政治的にまずいのだから、当然ゲルマニアにいるのもまずいのだ。だからアンリエッタにさえ話せない。 話せば住居を貸してくれているキュルケに多大な迷惑がかかってしまう。 そしてオルレアン公を匿っているのはキュルケの独断であるため、ガリアの重要な貴人がゲルマニア国内にいることをゲルマニアの主である皇帝はもちろん、 現在彼らが宿を借りている城の主であるツェルプストー当主さえ知らない。 そのキュルケに多大な恩恵を預かっている二人は屋敷の中を歩き、みなが待っている部屋に向かっていた。 オルレアン公夫人がみなに感謝したいと話の場を設けることを求めたためだ。 「こんな悪趣味な館見たことないわね」 自分たちが世話になっている館に文句をつけているのはルイズだ。 廊下を歩きながら、彼女の目には奇怪に見えるこしらえを睨みつけるように見ている。 「オメエなあ、世話になってんだから、んな文句つけんなよ」 至極常識的な注意をしたのは彼女の横を歩く巽完二だ。 この彼女の使い魔は悪ぶっているわりに時々、常識人であることを示す。 「もちろん、わたしだって恩を感じてないわけじゃないわ。ただ、それとこれとは別よ。 ヴァロン朝かと思ったら、途中でアルビオン式になってるってどういうことよ?意味がわからないわ」 「知るかよ……」 ゲンナリとして完二は言う。この世界の建物の様式など完二が知るはずもない。 ただ、彼女がちゃんと恩を感じているのを理解したので、再度注意することは思いとどまりルイズの不満は適当に聞き流すことにする。 ルイズがツェルプストーの館がどれほどハルケギニアの文化と伝統をないがしろにしたものか並び立て、完二が相槌も打たずに聞き流しているうちに約束の部屋についた。 扉を開けると今やって来た二人を除く全員が、白いクロスがしかれた長い机の席についている。 机は長方形で長い方の二辺に彼らは腰かけている。入り口から見て左の上座近くからオルレアン公夫人、その娘タバサ、そしてその使い魔陽介。 オルレアン公はクマのアムリタにより心を取り戻しており、目にはもはや狂気は浮かんでいない。 未だにやつれが残るものの生気を取り戻した娘、タバサと似た美しい女性であった。 右側は同様の並びでキュルケ、その使い魔クマが座っている。ルイズと完二はクマに続いて座った。 そこは食事の場所であったが机の上には何も置かれておらず部屋には給仕の一人もいない。 口火を切ったのはオルレアン公夫人だった。 「このたびはわたくしと娘を助けていただいてありがとうございます」 そういうと彼女は頭を下げた。感謝された側は思わず居住まいを正してしまう。 彼女が心はすでに取り戻していたのだが、ちゃんと話すのはこれが始めてであった。 無論、心を取り戻してから娘のタバサとは馬車の中でさえ常に一緒にいたが、まだ全てを話しきるには時間が圧倒的に足りないであろう。 彼女は真摯な顔を斜め前の席に座るクマに向ける。いつもは丸みをおびたキグルミを着た、金髪碧眼の少年が治療してくれたことはすでに説明されている。 「その上、心を失ったわたくしを治してくださり、どのような言葉でならこの感謝の言葉を言い表すことができるのかわたくしは知りません」 「そ、そんなにかしこまらんでよいですと!どうしたらいいかわからんでクマっちゃうクマ」 オルレアン公夫人は恩人の愛嬌のある態度を見て微笑む。心を取り戻したその笑みは美しかった。 「ありがとうクマさん」 「いやーそれほどでもないクマよー」 クマは笑顔に魅了されながらくねくねと喜んだ。クマの奇態に全員が笑う。タバサも薄く微笑んだ。 笑いが収まるとオルレアン公夫人は語り始めた。 「かつてガリアが二分され内乱におちいる危機がありました」 その声には憂いの色があった。かつての罪を告白するかのようだ。 「わたくしはガリア王の手にかかることでその争いを回避しようとしました。これは自分たち一族のいさかいであって、それを国の争いにしてはいけないと思っての行動でした」 全員がオルレアン公夫人の話を真剣に聞いていた。タバサはじっとテーブルクロスを見ている。陽介はそっと小さな自分の主の肩に手を置いた。 オルレアン公夫人の告白は続く。 「ですがわたくしが正気を失っている後も貴族の間に不満は残り、シャルロットは苦難の中にいました」 その声に強い憂いの色が含まれる。 「わたくしのやったことは王族としての責務を、母親としての責務を捨てただけなのかもしれません……。 娘の代わりになるなどと綺麗な言葉で飾り立てた覚悟で毒酒を飲み、 それから娘にどんな過酷な処遇がもたらされるか知らず……いいえ、考えもせずに」 そこで彼女の言葉は終わり、重苦しい雰囲気が流れる。 その中、陽介が立ち上がり、タバサの後ろに立ち、彼女の母に力強く語りかけた。 「ならこれからはこいつのそばに居てやってください」 うつむいているタバサの両肩に手を置く。自分が彼女の味方であることを強く示すように 「俺には王族とかわかりません。いや、母親についてもよくわかんないかもしんないス。でもこいつが寂しがってたことは知っています」 陽介に力を貸してもらったかのようにタバサはゆっくりと顔を上げた。その顔は涙でぬれている。いつもの無表情ではない。ただただ母を求める娘の顔だ。見つめられた母は息を飲む。 見つめるだけのタバサを、伝えたいことがあるはずの自分の主の背中を、陽介は押す。 「言いたいことがあるならちゃんと言っとけ」 タバサは悲しみでにごった声を出した。いつもの無感動な声ではない、聞いた者がいやおうにでも感情がわかってしまうほど感情が発露されている。 「母さま……もうどこにも行かないで……」 タバサは声を絞り出したことで感情が抑えられなくなったのか、泣きながら母に抱きついた。感情を抑える理性の防壁が決壊したのは母も同様だ。 二人は涙を流しながら抱きしめあった。お互いの存在を確かめるように。今までの年月を埋めようとするように。 キュルケは瞳を涙で潤ませながら優しげに親友を見、陽介も感慨深そうにご主人さまを見ていた。 ルイズと完二は懸命に涙を堪えている一方で、クマは声を上げて泣いていた。 親子の長い長い抱擁が終わった後にキュルケは手をパンパンと叩いた。 「さあ、食事にしましょう。これから一緒にいるなら楽しい思い出も作らないといけないわよ。ほらクマもいつまでも泣いてないでメイド呼んできて」 ぼろぼろと泣いていたクマは鼻を啜りながら涙を抑えて部屋から出て行って話の間、遠ざけていた使用人たちを呼びに行った。 それからは楽しい食事の時間となった。 完二は出された今まで見たこともない料理を出来る限り食べようとフォークと口を盛んに動かし、クマは人の皿に乗った料理まで食べようとした。 ルイズはゲルマニアには食文化さえも品が感じられないといい、キュルケがそれに反論した。 陽介はオルレアン公夫人に話しかけられ戸惑いながらもタバサと一緒に話をした。 食事がお開きになった後、陽介はオルレアン公夫人とタバサの部屋に呼ばれた。 陽介は親子の間にわけ入るのは、と遠慮しようとしたがオルレアン公夫人の強い勧めで結局、招かれることにした。 タバサ親子と一つの机を囲んでいるが、少し硬い。やはり親子二人の部屋に招かれるのは陽介も緊張した。 「あなたのような人が娘の使い魔で本当によかったわ」 「い、いや恐縮っす」 朗らかに笑うタバサの母に陽介は本当に恐縮しきっていた。 「もしいたら、わたくしの息子くらいの年齢かしら」 「17歳っスからちょっとデカいですよ」 陽介はおどけてみせる。 実際にタバサの母が若く見えるほど美しく、そして場を和ませるための冗談の意味も含めての発言だったが、 そのことから陽介にとって衝撃の事実が判明する。 「あら、それならシャルロットと二つ違いじゃない」 彼はその言葉が理解できなかったが、ゆっくりと理解してから驚きの声を上げた。 「ええええ!!ちょっ、おま、タバサいくつだよ!?」 単純な算数をして答えを出しておきながら陽介は答えを尋ねる。 「15」 陽介より年上で19歳ではなかったのでそれは陽介が計算で出した答えと同じであった。が、それでも驚きは弱まらない。 「おっま、てっきり12、13だと……」 使い魔がそういうと、その主はじっとその顔を見てきた。どこか非難めいたものがあるように感じるのは気のせいではないだろう。 娘の不機嫌とは母は反対にころころと笑った。 「あらあら若く見られてうらやましい限りよ。それに年齢が近いならあなた本当にわたくしの息子にならない?」 「え、それってどういう意味っスか?」 陽介はタバサの母の言いたいことがわからずに不思議そうに尋ねた。 「本当と言っても義理ということよ」 「母さま」 タバサは非難めいた顔を使い魔から母へと向けた。その頬に少しだけ朱がさしていた。 二人のやり取りを見ながら遅まきながらオルレアン公の言いたいことを理解してまたも驚き、それからニヤっと笑って見せる。 「いやあ、タバサはかわいいですけど、できればあと2年は待ちたいですね」 「あらあらシャルロットふられちゃったわね」 オルレアン公夫人は楽しげに笑う。 タバサは不満げに二人の顔を見てから「もう知らない」というように顔を背けてすねてしまった。 母と陽介は顔を見合わせ笑い、それからタバサに謝り始めた。 それはまぎれもなく家族と過ごす何気ない日常であり、タバサが強く望んでいたものであった。 望むことすらできないと諦めてしまいそうになったこともあった。 しかし長い逆境に耐え、自分の隣に立つ者を手に入れた彼女はそこにたどり着いた。 誰もがこの日のような楽しい日々が長くはなくとも続くものだと思っていた。 トリステインへルイズが出した亡命の願いは受け入れられるにしても退けられるにしても時間がかかるものと推測していた。 だが翌日トリステインから早急に手紙が返ってきた。 こちらから送るときも早くに返答がもらえるようにと急いで送ったがそれでもこれは異常なほどに早かった。 そして手紙の内容はそれ以上に驚くべきものだった。 オルレアン公の遺児シャルロットをガリアの新王として迎え入れ、そしてその母オルレアン公夫人も国賓として受けいれるとのことであった。 それは現ガリア政府へ対立姿勢を示すための象徴を欲したからであった。 そうロマリアを滅ぼすという蛮行を行ったガリア王ジョゼフに対抗する王が必要だったのだ。 6000年の歳月をかけて積み上げられた塔は崩壊を始める。 前ページ次ページゼロのペルソナ