約 1,838,650 件
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/155.html
強欲者の末路 Telescope. 1 『魔女狩り』。 中世において十字教の教えに背き悪魔と契約した人間――魔女を裁いた風習である。その過程において、多くの魔術師でない無罪の人々が裁かれたとして、十字教の負の歴史の一つとして有名な文化だが、魔術界においては別の意味を持つ。 即ち、拷問技術の発達だ。 確かに、魔女狩り裁判は証拠も何もない酷いものだった。しかし、それでも一般に語られているほど理不尽なものではない。確かに、悪しき魔術師も裁かれていたのだ。しかし、そんな魔術師はたとえ捕まったとしても何らかの反撃をする恐れがある。当然、拷問する側の魔術師もそのリスクを考え、必然的に拷問に使われる魔術的技術は発展していった。 より肉体的苦痛を、より精神的苦痛を、そして、より魔術的苦痛を求めるようになっていったのだった。 しかし、科学技術や倫理哲学の発達により『魔女狩り』の文化は幻想となった。元々負の文化であるという自覚はあったのか、現代においてはきちんとした魔女狩りの資料さえ遺されていない。よって、『魔女狩り』に使われていた拷問用・処刑用の魔術は現代の魔術師の解釈によって千差万別ある。 まあ尤も、魔術界隈では『過去の事実における解釈の違い』によって同じ伝承を使っていても魔術の効果が違うのは間々ある事なのだが――…………。 2 ロンドンの郊外に、『職人街』と呼ばれる一画がある。 帽子やコート、靴、鞄、ベルト、その他ありとあらゆる革製品を取り扱う店舗が所狭しと並んだ町並みである。一つ一つの店舗の大きさはファーストフード店以下だが、その半数近くが王室御用達の認定を受けているなど、服飾関係の業界人からは密かに憧れられているエリアだったりする。 魔術関係の服飾店も存在しており、拘束服や拷問具のジャンルでは知らない者などいないほどの職人、エーラソーンの自宅もこの職人街にあるという話である。 ともあれそんな性質上、町並みは必然的にどこか大人びた、クラシックな雰囲気となり、歩く人も年配になってくる為、若年層の通行人など殆ど見られない。特に、未成年と思われる容姿の通行人など皆無に近い状態である。 そんな町並みの中に、少女がいた。 少女はブロンドの髪を肩あたりまで伸ばした、中学生くらいの少女だった。肌も白く、欧州人らしい容貌だったが、双眸だけが黒く、東洋人を思わせた。 特筆すべきは、彼女の服装だろう。彼女の服装は……何と言うか、エロかった。布面積が極めて少ない黒革のボンテージを着用し、足には米軍払い下げかと思うような編み上げ式に黒革の意匠が備えられたゴツいブーツ、両手は鉄の枷に戒められており、左右の枷に渡って長い鉄製の鎖が繋げられていた。これだけ見たら、他人からは彼女が奴隷か何かに見える。 彼女の名前はハーティ=ブレッティンガム。元々は処刑《ロンドン》塔にて罪人相手に拷問《オシオキ》をしていたのだが、最近は必要悪の教会《ネセサリウス》所属の魔術師として、もっぱら悪い魔術師相手に拷問《コウゲキ》をすることが増えてきたバイオレンス系少女である。 既にほぼ日も暮れた職人街にて、ハーティはいつもはキツい眼差しを心なしか緩め、ほくほくした表情で歩いていた。 「ふふ。まさか本当に買えてしまうだなんて。中世の異端審問にて使われていた『絞首刑』の縄を再現した霊装。しかも、エーラソーンの新作!! これがあれば私の術式にも大分幅が広がりますね。うふ、うふふ……」 ……訂正しよう。古めかしい縄の入った紙袋を持ってにやにや笑っている表情は、『ほくほくした』というより『危ない』と表現した方が適切である。 魔術師とはいえ精精中学生くらいのハーティが、年代物の服に魅力を感じるような年代の人間ばかりが御用達の職人街に来ているのには、二つ理由があった。 一つが、コレ。彼女は元 処刑《ロンドン》塔の拷問官だ。現在は魔術師として活動してはいるものの、現在も拷問官時代の相棒であった『偶像の理論を用いた拷問具型霊装』は欠かせない。その関係上、彼女は自分の命を預ける霊装の修理や新たな霊装の購入のため、頻繁に此処を……正確には、エーラソーンの魔道具店を訪れていた。 「うへぇ……。こんなのが今回のアタシの相棒なんスか?」 と、ハーティの背後から一人の少女の声が聞こえた。ハーティが声のした方を振り向くと、そこには一昔前の日本の女子学生のような服装をした、金髪碧眼の少女が立っていた。 ハーティは、『嫌なモノを見られた』と己の迂闊さを軽く恨みながら、疲れたように溜息をついた。 「……随分な言い草ね。私だって、こんな日に『仕事』なんて嫌ですよ」 ……もう一つは、彼女の『仕事』の待ち合わせの為だ。 3 「ええと、指令の方を伝達しますが、その前にアタシの自己紹介をしても構わないッスかね?」 誰もいない、夜の公園の片隅で金髪の少女はそう切り出した。少女は綺麗なゴールドの髪を腰ほどまで伸ばし、おそらく日本の学校の制服を模したと思われる紺色のセーラー服にブレザーのような上着を、下には一昔前のスケバンよろしく脛あたりまで伸ばされた同色のスカートを履いていた。 「お願いするわ。私、貴女がどこの所属かすら分かりませんから」 スケバン少女の問いかけに、ハーティは僅かに頷く。 「アタシの名前はヴィクトリア=ベイクウェル。一応、アナタと同じ『必要悪の教会《ネセサリウス》』の一人ッス。使用術式は主に北欧神話の豊穣神『フレイ』にまつわる術式ッス。一応、女子寮で何度もすれ違ってますし、言葉をかわしたこともあるんスけど……、覚えてないッスか。そうッスか」 はは、とヴィクトリアは悲しそうに笑った。『言葉を交わしたこともある』という言葉に、ハーティはバツの悪そうな表情を浮かべる。彼女はあまり人付き合いのいい方ではない。よって清教でも知り合いは一緒に仕事をこなした何人か以外は殆どいないし、拷問官時代も何人かの上司以外とは会話さえ交わしたことはなかった。清教に入ってからは事務連絡などで知り合い以外と会話する機会も増えたが、そうした場合でも彼女は話した相手の情報は興味がなければ覚えていなかった。 「で、私と貴女が呼ばれた『仕事』というのは何なの?」 「ん~、簡単に言うと、『身内の後始末』ッスね」 ヴィクトリアはつまらないことを話すようにぽりぽりと頬を掻き、 「最近、ロンドンの郊外で幼い少女が行方不明になる事件が多発してるんスよ。で、それをどっかのジーンズ店主に調べてもらったところ、どーも魔術的、物理的痕跡が足らなすぎるっていう結論に行き着きましてッスね、そこから証拠が意図的に消されてる可能性に行き着きまして、『これって内部の犯行じゃね?』という運びになった訳ッス」 「なるほど、清教の魔術師が犯人である可能性が高い、と。で、犯人に目星はついているんですか?」 退屈そうに紙袋の中の縄を弄っていたハーティは、ヴィクトリアの話が区切れたタイミングで声を上げた。対するヴィクトリアは軽く頷き、 「まだあんまり。これからそこの『詰め』に入るんス」 ズコォ!! とハーティが体勢を崩した。 「駄目じゃない……。どうせなら、そのジーンズ店主に全部やらせればいいんじゃないですか? 大体あのジーンズ屋、予約ばかりで人が入ってるところはあまり見たことないし」 「いやぁ、そうしたいのはヤマヤマだったんスけどね。何だかジーンズ店主が『駄目だから!! 大体俺はこの前もわざわざ世界中飛び回ってルーンの秘密やらなにやらに首突っ込んでんだよ! これ以上は本当に本業に響くから駄ぁぁぁぁ目!! それに佐天ちゃんから送られてくる催促のメールがもう本場ブリティッシュ並みのバリバリ英罵倒語と化しちゃってるから!!』とか言って徹底拒否の構えに入っちゃったんスよねー。あ、あと『清教内部に調査しにいくとかどう考えても部外者の領分越えてるだろうが!』とか怒ってましたね」 ジーンズ店主がどういった人間なのかは分からない二人だが、部外者と言うことを鑑みれば、少なくとも常識的に考えたら尤もな言い分である。しかし、ヴィクトリアもハーティも自分が仕事をしたくないが為に『ジーンズ屋の店主はなんて心が狭いんだろう』と呆れることにした。 「はぁ……。もう良いです。それじゃあ、とりあえず貴女の知ってる情報を聞かせて」 「とりあえず、清教の中でもそれなりの地位を持っている人物が怪しい、というのは分かるッスよね? これに加えて、女の子が誘拐された現場では魔力の痕跡は全く見られなかったらしいッス」 「つまり?」 「恐らく、いたいけな女の子が警戒しないような『表』のポジションを持っていた、ということになると思われるッス。となると、犯人は必要悪の教会《ネセサリウス》の捜査網に強い干渉力を持ち、尚且つ『魔術師』以外の肩書きを持つ人物……、即ち必要悪の教会《ネセサリウス》所属の司教あたりが怪しい、という訳ッスね」 ヴィクトリアの話を聞いて、司教……、とハーティの口から言葉が漏れた。 「司教に何か心当たりがあるんスか?」 「……いや、昔の上司を思い出してただけよ。そういえば、今も司教だったはずですし」 軽く首を振って答えるハーティに、ヴィクトリアは『そうッスか』とだけ答え、 「それじゃあ、アナタの自己紹介もお願いしてもいいッスか?」 「あら、私のことは知ってるんじゃないの?」 「そりゃあ、名前や元の所属くらいは知ってますけど。使ってる霊装とか、術式とか、そういうのも知っておきたいじゃないッスか。これから連携する相棒《パートナー》としては」 拗ねたように口を尖らすヴィクトリアにハーティは少しだけ笑う。 「そうね。とりあえず、私の使う魔術は道すがら話しましょうか」 4 夜の道に、二人の少女の足音が響く。辺りは既にクラシックな雰囲気漂う職人街ではなく、緑もまばらで人気の少ない散歩道に差し掛かっていた。 『私の使う術式は、基本的には『持ち運ぶことの出来ない大型の拷問具を小型化した霊装』よ。たとえば「鉄の処女《アイアンメイデン》」。あんなもの、一々持ち運んでたらただの鈍器としてしか扱えないわ。そこで、「鉄の処女《アイアンメイデン》を構成している必要最低限の要素だけ抽出した霊装」を使ってるんです』 手に持った札のような霊装で魔術的な会話を行うハーティに、同じく札のような霊装を持ったヴィクトリアが魔術的な会話で問いかける。 『方式としては、「歩く教会」なんかと似たようなモノッスか?』 『そうね。アレと同じように「偶像の理論」を使ったものが大半よ。というか、現代の魔術師が使う「拷問器具」なんていうのは、大体が「拷問・刑罰用の大型機械」の一部もしくはシンボルに偶像の理論を作用させて、オリジナルと同じ殺傷能力を与えたものばかりね。たとえば、私の持ってる長針なんかは、鉄の処女《アイアンメイデン》を構成する魔術的要素を抽出したものだから、一回刺せばそれだけで自動的に相手の身体に無数の針穴が開けられる仕組みになってますし』 軽々と惨い説明をするハーティに、ヴィクトリアが顔を青ざめさせる。しかしハーティにとってこれくらいのえげつなさはむしろ序の口なのか、少しだけ心外そうな口調で返す。 『基本的に、「拷問具」っていうのは相手を生かさず殺さず、「情報を吐くだけの肉塊」にする為にあるものですよ? だから当然、無数の針穴が空いたとしてもどれも致命傷にはなり得ないわ』 『逆に、そっちの方がキツイかもッス……』 これ以上道具についての話を聞いても自分の気分が悪くなるか、相手の機嫌を損ねるだけだと判断したのか、ヴィクトリアはそれ以上何も聞こうとしなかった。 『それじゃあ、次は貴女の使う魔術を教えてもらえます? 「フレイについての術式」……だけじゃ、流石に分からないもの』 『ああ、そうッスね。それじゃあ話しますね。……アタシの使う術式は、「幻影の王」っていう術式ッス。スウェーデンの有力者が、三代目スウェーデン王フレイの死後に塚を築き、「フレイはまだ生きている」としてその名声だけで国を三年間安定させた伝承を応用して塚状の簡易儀式場を作ることで「決して死ぬことのないフレイの幻影」を生み出す術式ッス。後は、勝利の剣とか魔法の船《スキーズブラズニル》とか。……ああ、あと裏技ですけどレーヴァテインもどきくらいなら使えますね』 ハーティは静かに頷いた。基本的に魔女狩りなどの拷問魔術の専門であるハーティだが、北欧神話について何も分からないというわけでもない。まして、フレイは北欧神話の中でもかなりポピュラーな部類である。十字教の中でも北欧系の魔術が浸透している清教の一員である彼女が知らない道理などなかった。 『そういえば、さっきから大事そうに抱えている紙袋《それ》はなんですか?』 『ああ、これは「縄」よ。魔女狩りの時に、絞殺刑を執行する為に使用していた縄を魔術的に解析した一品。イギリスでは魔女狩りの死刑執行は首を縄で括る絞殺刑が多かったのです。だから、魔術で対抗する魔女に対して自然と縄の魔術的攻撃力も上がっていったの』 『はぁー……』 『で、この「縄」の開発には私も携わっててね!! 私は、中世の異端者に対する拷問では魔術対策に「魔力の循環阻害」が行われていたと考えているんです。その解釈を元に、この縄には縛った空間の魔力循環を阻害する仕組みが備わってるのよ!!』 (この服、寒くないんスかねぇ……) テンションが上がりまくって解説に熱が篭るハーティの話をスルーしたスケバン少女は、拳を握る新感覚SM系ボンテージ魔術師を見てぼんやりとそんなことを考える。なに、『縄で縛れば魔術が使えなくなる』とでも覚えておけばいいんでしょ? くらいに考えているスケバンだが、実はもっと奥が深かったりするのだった。 「で、今はどこに向かってるのかしら?」 ひととおり説明しおえて満足したのか、妙に清々しい表情のハーティはケロっとしてヴィクトリアに問いかける。当のヴィクトリアも、その問いかけで北欧神話のどの神と対応させた水着を作れば冬の海でもバカンスが楽しめるんだろーとかアホっぽい思考の海から戻ってきた。 「えっと、今はロンドン郊外の『グリニッジ』に向かってますね」 「グリニッジ……って言ったら、旧王立天文台《ロイヤルオブザバトリー》があるところよね」 ハーティが清々しい表情を一転、怪訝な色に変えて問いかけた。 無理もない。グリニッジはロンドン郊外に位置している。同じロンドン郊外である職人街からはそこまで遠くないものの、グリニッジ周辺にある魔術施設など旧王立天文台《ロイヤルオブザバトリー》くらいしかない。そもそも大きな教会だってないのだ。そんなところに、イギリス清教の司教がいるなんて思えるはずもない。 しかし、ヴィクトリアはそんなハーティの考えを読んだかのように微笑した。 「確かに、イギリス清教の司教、という線で行くと不自然かもしれないッスけど、そもそもそれはまだ推理の領域を出てないッス。そこで、旧王立天文台《ロイヤルオブザバトリー》に行って捜査の為の術式を用意しようという話になった訳ッスね。……まあ、あのへんは特に行方不明者も多いッスから、そこの調査もついでに任されてるんスけど」 「……なるほどね」 行方不明者の多数出る地域に、中世からの魔術施設。底知れない悪寒を感じつつも、ハーティ達はグリニッジへと向かった。 5 グリニッジ天文台――通称 旧王立天文台《ロイヤルオブザバトリー》は、天文台に偽装した魔術要塞である。 勿論、天文台としての機能も有してはいるものの、その本領は魔術の構成を星座形式に翻訳し、簡易版大規模魔術に変換して放つことにある。 たとえば、『炎を放つ魔術』をこの天文台を利用して使えば、『天空から放たれる巨大な火柱の魔術』に変換される、という訳だ。勿論、変換作業や翻訳の誤差の修正、星座を使うことによる使用条件の限定化なども考えると、おいそれと使える機能ではないのだが。 この機能は初代天文台長であり自ら『宮廷付占星術師』を名乗ったジョン=フラムスティードによって整備され、大航海時代のイギリスの覇道を大きく補助した、と魔術サイドの歴史では語られている。 現在も天文台としての機能は科学サイドの成長にあたり他の施設に移動して博物館となっているものの、『旧』王立天文台として魔術要塞の機能は此処に残り、天文台長という職業も魔術要塞の点検役として存続していた。 「……で、本当に此処で良いのかしら?」 「ハイッス。これから、この天文台の魔術機能を使って捜索魔術を大規模変換し、この周囲一帯の行方不明者に魔術的な関連付けを行って犯人の特定を行うッス。使用魔術は北欧神話系ッスから、アタシの術式にあわせてもらう形になるッス」 「……ははぁ、なるほどね」 すらすらと今後の動きを説明するヴィクトリアに、ハーティは納得した様子で頷いた。 「貴女は、北欧神話系のスペシャリスト。そして私は、偶像の理論のスペシャリスト。今回使う『簡易大規模術式』の大元となる術式は貴女がいないと使えないけど、偶像の理論のスペシャリストである私がいないと作業時間がかさみ、却って捜査は遅延してしまう。私が呼ばれたのは、翻訳作業を円滑に進めるためですね」 「そういうことッ……、」 言いかけたヴィクトリアは、そこで即座に懐から布を取り出した。 布は即座に展開されると急速に盛り上がり、大きな船となった。 「これは……?」 「フレイの持つ霊装の一つ、魔法の船《スキーズブラズニル》ッス。普段は布切れッスけど、魔力を流せばこのとおり」 瞬間的に現れた船の陰に隠れるような位置となったハーティとヴィクトリアは、船の端から炎が流れていくのを見た。……明らかに指向性を持った、魔術特有の炎だ。 「……どうやら、私たちに捜査をされると困る輩がじきじきに来てくれたみたいですね」 ハーティは懐から長針や鉄槌を取り出し、 「確か、貴女の切り札は『塚』を作って、そこから『幻影』を生み出す魔術だったわね。とすると、準備の他にも防御用の術式や隠蔽用の術式が必要なんでしょう? 私が接近戦で時間を稼ぐから、貴女は一刻も早く『幻影の王』を生み出して合流するのよ」 「え、あ、できれば『幻影の王』を出した後も援護射撃に徹したいなって……」 「冗談ですよね。下手に『幻影の王《たて》』から離れたら、いざという時危ないのは貴女よ。最低限中距離でいなさい」 「だぁーもう! だからアタシは後方支援担当でそもそもこういう風に戦線に立つこと自体おかしいんスって!!」 『そもそも今回のお仕事だって戦闘なんか依頼に含まれてなかったのにぃー!!』と世の不条理を嘆くヴィクトリア。しかし、嘆いても敵は待ってくれない。魔法の船《スキーズブラズニル》は強固だが、それでも無限の防御力を誇る訳ではない。意を決したハーティは、船の陰から躍り出て、そこで愕然とした。 「……ノーランド…………司教……!?」 そこには、彼女のかつての上司が佇んでいた。 次へ 戻る
https://w.atwiki.jp/monmas_x/pages/920.html
ヴィクトリア 種族 タイプ 属性 レア コスト HP 攻撃 魔力 防御 素早 パッシブスキル名 パッシブスキル(最大時) 神 攻撃 雷・光 ★5 35 2272 2311 1035 982 972 剛の極意 【全】攻撃力1.5倍+連続攻撃 ★6 55 3300 3237 1087 1128 1125 勝利神の導き手 【全】攻撃力2.5倍+連続攻撃+【赤・青・緑】HP1.5倍 詳細 覚醒 70 聖戦を翔る煌翼 【個】攻撃力1.4倍
https://w.atwiki.jp/ssfate/pages/57.html
データ 登場歴 データ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━┓ 【名前】:ヴィクトリア 【残令呪数】:3 ┣━━━━━━━┳━━━━━━━╋━━━━━━━┳━┻━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━┫ 【筋力】:E 【耐久】:E 【敏捷】:C 【魔力】:D 【幸運】:C ┣━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┫ 【特徴】:ホムンクルス ┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ . 〈 l| ∧ \ | | | ∨ ト、 ∧ 丶 | | | . ∨ l l \. ∧ \ l| | | ∨ l l \ ‘, \. l| | | . ∨l ハ. /,ィ拆、\` ー=ニ二\l| | { . ‘. ∧ f { 爿\ \ l  ̄| | | ハ \ ‘, V/ ト--- ! l l l ∧ \ ', '′ / l l l| │ ∧ , \ 、 ,' ' │ l l| │ ∧ . /  ̄ / / /| l | | ! \ `ヽ / / / | | |l| l \ -r─ ′ / / /| | l! | └ / / ' /│ | | | ∨ / / / , | ! / / / / / i │ l| / /__/_/__/ | | l| . x< ̄ ̄ ̄\ \ | l | |l l| . x< \ | | | li l| 代理AA:ヴィクトリア・パワード(武装錬金) ┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫ 【スキル】 ◆アンダーグラウンドサーチライト 迷宮の踏破、迷宮の作成に才能を発揮する。 ◆皮肉屋 物事を素直に受け取れない性格。 相手によってはコミュニケーションに問題が発生するだろう。 しかし悲観的・露悪的な思考は思わぬ罠から身を救うことも? ◆風魔術 五大元素の一つ。 彼女は風の精密動作を得意にし、人形の遠隔操作や飛刀の軌道変化などを行う。 反面、風の塊をぶつけたり、自身の体重を浮かせたりする術は苦手としている。 ┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫ 設定: 作りかけのまま放置されたホムンクルス。彼女を作成した魔術師が家を売却 その跡地には学校が建てられたため、偶然地下室で目覚めた彼女は完全に閉じ込められていた。 コツコツと壁を掘って下水道に到達、さらにマンホールから外に出ることはできたが、 如何せん生活の基盤がない。常識もひどく歪である。結局地下室で暮らすしかなかった。 人に見つからないように夜中の学校に忍び込んだり、こっそり遠巻きに授業風景を見ている内に 学校の七不思議扱いにされてしまった。聖杯への願いは、自分が普通の人間として日常を送れるよう世界を改変すること リアル: 親の仕事の都合で海外で生活している日本人の子供。 外国に馴染めずに引き籠った。趣味はネトゲと迷路(既存のを解いたり、自分で作ったり) 国粋主義者の維新志士のサーヴァントが召喚されたのはその為。 ┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫ 聖杯戦争オンラインの公募マスター 登場歴 【地球製】聖杯戦争オンライン The Earth【安価とコンマで聖杯戦争】 1 2 3 4 5 6 【地球製】聖杯戦争オンライン The Earth 2nd【安価とコンマで聖杯戦争】 1( 666~) 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/2243.html
神の鉄槌の振り下ろされる先 Der Ring des Nibelungen. 1 『北欧神話』。 文字通り、北欧において信仰されていた神話だ。 民俗学的な観点から言えば……世界の誕生から始まり、神々の伝承が語られ、そして繁栄をきわめた神々が争いによって零落し世界が終わる。しかしその後に新たな支配者と人民が生まれるだろう――といった、実にスタンダードな再生神話を備えた神話体系だ。 魔術的な話をすると、ルーン魔術と呼ばれる魔術形態も元をたどればこの神話に行き着き、西洋魔術師は十字教の術式でなければ大半はこの形態の魔術を使っているといっても過言ではない。 だが一つ。 北欧神話にはさらに『奇異な点』が存在する。ほかの魔術体系には存在しない点だ。 『運命』。 北欧神話において、その言葉はかなり重要な役割を持つ。 もちろん、どの神話にも『運命』という言葉は登場する。十字教でも死者の数は定められていて、人の外たる天使が人を殺めれば世界のシステムに歪みが生じてしまう。 だから、北欧神話において特異なのは『運命』というものの扱い方だった。 絶対的『すぎる』のだ。 世界の全てを支配する隻眼の老人も、規則の抜け穴を通り抜けるトリックスターの悪神も、結局は決められた宿命の元に散った。一度決められたレールは、誰でも覆すことができなかった。 それが『運命』。 そして、魔術世界において神話とは突き詰めて言ってしまうと『再現可能な現象』でもある。 オリジナルと同等のものは現代の技術では不可能だとしても。 もしも誰にも克服不可能な『運命』が部分的とはいえ『再現可能な現象』だとしたら。 それは確実に――『最強の魔術』と言えるものだろう。 2 その日、 必要悪の教会《ネセサリウス》は慌しい雰囲気に包まれていた。 多くのシスターや神父がいそいそと教会内を駆け巡っている中で、その少女はコツコツと革靴の靴音を立てて急ぎ足でとある場所へ向かっていた。 「聞きましたか」 ハーティ=ブレッティンガム。 元拷問官にして、現在は 必要悪の教会《ネセサリウス》にて活動している少女だ。 肩のあたりで切り揃えられたブロンドの髪の向こうの無感情な瞳が印象的な少女だが、最も印象的なのはその服装か。 全身の八割が露出した扇情的――というには幼すぎるが――な 拘束服《ボンテージ》姿。幼い首筋にはゴツゴツとした物々しい首枷がつけられており、ともすると彼女を奴隷のようにも見せるが……、両手の枷を繋ぐ様に伸びた鎖はまるで踊り子のベールのようでもあり、全身から溢れる自信に満ちた雰囲気は、彼女が単なる被虐主義者でないことを示している。 「ええ、もちろんッス」 それに返すのはヴィクトリア=ベイクウェル。 彼女もまた、純朴そうな表情とは裏腹に血みどろで命の駆け引きをする 必要悪の教会《ネセサリウス》のエージェントの一人。とある事件をきっかけにハーティと共に活動することが多くなり、最近はすっかりハーティのパートナーを自認するようになっていた。 見た目はブロンドの髪を無造作に伸ばしただけの素朴な容姿の少女だが、彼女もまた身につけている服装は異様だった。一昔前の日本の女学生の制服――スカートが踝丈まで伸ばされている、いわゆる『スケバン』の格好だ。しかも、それが妙に様になっている。 「……状況は、あまりよくないようね」 苦々しい表情を浮かべたままのハーティに、ヴィクトリアは首肯だけで返す。普段は天真爛漫といった風体の彼女のその様子が、端的に状況の悪さを物語っていた。 『やあ! 景気が悪そうな顔してるね! 世界恐慌でも起こったのかい!』 そんな二人の後ろから、陽気そうな声がかけられる。 ヴィクトリアとハーティが弾かれたように声の主の方へ振り返ると、そこには二羽の鴉の人形がバサバサと羽毛と思しきパーツをばら撒きながら飛んでいた。 『やだなあムニン! 景気が悪いわけがないだろう? だって僕ら、この間ライン川で「黄金」を発見したんだよ!』 『ああ! こりゃしまったなフギン! そういやそうだった! みんな、そのせいで景気の悪そうな顔してるんだったな!』 「……くだらない三文芝居はやめてください。今私は気が立っているのよ。……ポーラ」 そう言って、ハーティは懐から鉄槌を取り出し、すっと空を切る。 それだけで、何もなかったはずの空間に切れ目が入って黒子姿の女が虚空から浮かび上がった。 全身を黒い貫頭衣で多い、顔自体も同色のベールで覆っている女性だ。全身真っ黒の上、唯一見えている口元も黒いルージュが引いてある。肌は色白なので、口元と僅かに露出した細い指先とのコントラストが妙に目立つ魔術師だった。 見れば分かるように、自身の霊装を介してしか会話できないという 必要悪の教会《ネセサリウス》を構成する魔術師を代表するような典型的『社会不適合者』である。 「……貴女はあくまで通信担当。その程度のルーン魔術、門外漢の私でさえ見破れる程度のものでしかないですよ」 『おお、こわいこわい! ムニン、僕たちの諜報で仕事もらってるくせにハーティ嬢は相変わらずエラソーだね!』 『言ってやるなよフギン! それ言うとハーティ嬢から「お前だって情報処理は部下任せだろ」ってツッコミが飛ぶぜ!』 「まあまあ、ここで立ち話もナンッスし、本題に入りましょう」 このままだと味方同士で魔術戦(といっても、後方支援タイプのポーラとバリバリの過激派であるハーティとでは戦闘にもならないが)をはじめそうな二人の間に、ヴィクトリアが割って入る。最近はこんな具合に拷問官サマと他の教会魔術師との折り合いをつけさせるのも手馴れてきたスケバンである。 改めて歩きながら、ハーティは黒子姿の女――ではなくその周囲を飛び回っている二羽の鴉に問いかける。そうしないと、目の前の彼女は『誰に向かって話しているんだい?』『ハーティ嬢はまだ頭が眠っちまってるみたいだな!』と取り合ってくれないのだ。 「『黄金』関連の続報は?」 『うんうん! まずはそこだよね! それじゃあムニン!』 『ほいきたフギン! まあ正確に言うと俺らの情報じゃなくて、「俺らを経由して部下どもが解析した情報」なんだけどな!』 『それは言わない約束だよムニン!』 そんなことを言いながら、フギンはバラバラとひときわ激しく飛び回る。ボロボロと、黒い布切れがばら撒かれる――が。 ただばら撒かれているわけではない。落ちていった布切れは、ひらひらと舞い散りながらも不思議と空中で一塊になり、一つのスクリーンのようになる。 そして、フギンの瞳を構成するビー玉から光が照射される。 これがポーラの扱う霊装――『フギンとムギン』の特性の一つだった。 『フギンとムニン』とは、北欧神話において主神オーディンの先触れとして情報収集を行っていた二羽の鴉の名だ。ポーラはこれを『情報を互いに送受信する媒体』と解釈し、フギンの布とビー玉から取得した音や光景をムニンが受信し、それを展開することで遠隔地の情報を取得することができる。 難点として『得られる情報が無差別すぎる』というものが存在しているのだが、それはこの霊装を扱うプロであるポーラの情報取捨選択などで大分軽減されている。彼女もまた、一角のプロということだ。 映像を展開し終えたフギンとムニンが、話を切り出す。 『ライン河流域に突如発生した「黄金」を監視していたところ、その監視網に引っかかった魔術師がいたんだぜ』 『魔術師の名前は「ジークフリート=ドラッヘン」。北欧神話系の、魔剣の術式を主に扱うフリーの魔術師だよ。とはいえ、最近はとある結社に肩入れしているようだけどね』 フギンとムニンの言葉の通り、羽毛のスクリーンには屈強な体躯の男が河の中から出ていく映像が映っていた。両腰と背中に計三本の大剣を差し、さらに全身に赤い刺青を彫った姿は、紛れもなく『魔術師』だ。魔術的な細工が施してあるのか、手のひらサイズの古めかしい袋を手に持っていた。次に場面が切り替わり、水中の映像が流れる。河の中にあったはずの黄金は、跡形もなく消えていた。 「……とある結社、ッスか?」 『ジークフリートの足取りを追ったところ、ヤツの背後にいる組織も見えてきた。名前は「虹の橋を渡る者」。「アスガルド」と呼ばれる主神の居城が存在する世界を発見してテクノロジーを手に入れることを目的とした魔術結社だ』 スクリーンの映像が切り替わり、細かな数値が記された図が表示される。「虹の橋を渡る者」の組織的な戦力を表している図だ。ハーティとヴィクトリアは、軽くそこに目を通していく。 構成員は十数名。主要な術式は北欧神話だが、結社の構成は『黄金』系の流れを汲んでいる。リーダー格の魔術師が一人、幹部級の魔術師が二人。いずれも清教のブラックリストに載っている魔術師だ。 「……異世界渡航者になりたいってことッスか? でも、いくらなんでも位相の違う世界に飛び立ちたいっていうのは無茶すぎないッスか?」 『連中は、アースガルドの住人であるワルキューレ達が下界にしばしば降りてきたことから、アースガルドの入り口……「ビフロスト」とかに「位相」を変換する為の機能が備わっていた、と考えているみたいだよ。その為の術式を開発しているらしい』 「……それで、その術式の開発とやらは上手くいっているの?」 さらりと説明したフギンに、ハーティは静かに問いかける。 総合的に言ってハーティ達がいつも相手をしているような『愚かな行動目的を掲げた背信者』だが、『黄金』を使っているという一点が、事態のややこしさを加速させていた。 ジークフリートが回収したと思われる『黄金』は、『美神の涙』という術式によって生成されたものだ。この『美神の涙』は正体不明の第三者から『誘拐者』と呼ばれる魔術師に伝えられたものであり、正体不明の第三者はここ最近連続して起こっている『成功すればイギリスに破滅を齎す性質の事件』の黒幕の可能性が高い。 その黒幕が絡んだ『黄金』を回収したということは、当然『虹の橋を渡る者』が黒幕と繋がっている可能性も否定しきれない。そしてその可能性が正しいものだった場合、普段なら『愚かな行動目的』と切り捨てられる目標も、『結果的にイギリスを破滅に導きかねない』性質を持ってしまう。 そんな懸念を孕んだ疑問にムニンはあっさりと、 『さあな。そこまでは俺達の情報網にも引っかからなかったぜ。『黄金』が単なる詐欺の為の道具なのか、何か大規模な術式の霊装の材料なのかも今のところは分かっていないな』 「不明ッスか。肝心のところが分かっていないっていうのは正直キツいッスね……」 「ジークフリートのその後の足取りは?」 『掴めていないぜ。どうやら奴さん雲隠れしちまったようだ。イギリスから出ていないのは確実だと思うが」 「……どうするッスか、ハーティ。まず『虹の橋を渡る者』への斥候から始めるッス?」 ヴィクトリアの問いかけにフギンが首(?)を振る。すると、スクリーンの映像が切り替わる。 映像には紳士風の青年が馬鹿笑いしながら炎を振り回しているのが映っていた。 『そっちについては問題ないよ。クリストファーが先行してくれているからね。「久しぶりの対結社戦だーっ!! !!」ってはしゃぎ倒していたから、それなりの成果は持ってきてくれると思うけど』 「(……そういえばあのエセ紳士、この間コーンウォールで財閥の娘とよろしくやっていたとか言ってた気がするんスけど、あれはどうなっていたんでしたっけ……?)」 「それでは、私たちの今回の目的は?」 ブツブツと呟くスケバンをよそに、ハーティはフギンとムニンに向き直って問いかける。対する二羽の回答はシンプルだった。 『残党処理』 『ジークフリート=ドラッヘンは結社の外部の人間だ。そしてクリストファーの術式は尋問には向いていないし「虹の橋を渡る者」を叩き潰したところで、それ以上の情報は得られない可能性が高い。そこで、お前達には「虹の橋を渡る者」の残党を尋問して、ジークフリートを追い詰めてもらいたいってわけだ』 要するに、拷問官ハーティ=ブレッティンガムの面目躍如ということなのだった。スケバンは隣から漂う歓喜のオーラに冷や汗を流しながら言う。 「……なんか急速にハーティの目が輝き始めたんスけど。これ、どう責任取ってくれるんスかポーラ」 『俺らポーラじゃないしぃーフギンとムニンだしぃー』 『だからポーラが悪いわけじゃないしぃー』 「だぁークソ!! 誰も腹話術にツッコまないのを良いことに霊装に責任転嫁しやがったッスっ!?」 3 「やあ、遅かったじゃないか二人とも!」 現場と思しき家屋は、完全に無傷だった。結社相手の戦闘があったとは思えないくらいに穏やかな静寂を守っている。 何の異変もないことが、既に異変でしかない状況。 そんな不自然な空間で、栗色の髪を持つ紳士然とした青年は朗らかな笑みを浮かべていた。 「……クリストファー、相変わらずの火加減ッスね」 「まあね。ぼくはこういった面も含めて『対結社戦のスペシャリスト』な訳だから。仕事も完璧に終わらせているよ」 呆れたようなヴィクトリアの台詞に、クリストファーと呼ばれたジャケット姿のエセ紳士はそんなことを返した。 クリストファーの扱う魔術は、簡単に言うと『聖火崇拝』を軸にしたものだ。ある面で炎というのは神聖な意味を持つ。たとえば魔女狩りにおける『火炙り刑』というのも、元をただせば『穢れた邪悪な背信者を聖なる炎で清める』という宗教的な意味を含んでいるのだ。 クリストファーの扱う魔術――『殲滅せよ、主に背きし椎端を《セイクリッドフレイム》』は、魔女狩りにおける炎の『聖なる役割』を神の子の象徴とされる十字架に対応することで、『十字』の形状のものから炎を放つ術式となっている。 そして、聖なるものから放たれた炎には聖なる力が宿る。 この術式では、自らに敵対するものを『聖なる存在に抗う神敵』と定義し、それのみを攻撃しそれ以外には一切の被害を与えない――そんな『対象選別』に応用していた。 無差別に広がり敵のみを焼き殺し、他の一切には何ら被害を与えない術式。 それが、クリストファーを『対結社戦のスペシャリスト』にまで押し上げている戦力の一つだった。 「それで、残党は?」 「焼き加減はレアで止めておいてあるよ」 「死んでなければそれで良いですけど」 「仕事が終わったのなら、ぼくはこれで。この後も予定が立て込んでいるんでね。……あのクソ女狐が……」 家屋の焼け跡に進もうとするハーティの背中に、クリストファーはそう声をかける。『予定……?』と首を傾げかけたヴィクトリアだが、なんかそれを聞いたら藪蛇そうなのでスルーすることにした。スケバンの地雷探知能力はかなり向上していた。 「……半死半生、といったところね」 家屋の中には五、六個の肉の塊が転がっていた。一人は辛うじて息をしているようだったが、他は全て動かない。クリストファーの魔術は質より量を優先しているので殺傷力は高くなく、精々重傷を負わせる程度が限界なのだが、その程度の火でも呼吸器を炙れば殺すのは容易だったりするのだ。 生き残っている人間に関しても、舌を焼かれ詠唱ができなくされた上で、皮膚を溶かされ身振り手振りによる魔術的記号も作れないようにされていた。――尋問役のハーティが到着するまで、ありとあらゆる方策の『悪あがき』を潰す為に施したであろう『処置』だ。 そんな光景を見て、ヴィクトリアは感心しながら言う。 「クリストファー、火加減上手くなったんじゃないッスか? 最近、問答無用の結社戦以外の任務を任されているって言っていたッスけど、その影響ッスかね?」 「何でも良いわ。私は私の仕事をするだけです」 そんなスケバンとは対照的に、眉ひとつ動かさずにハーティは死なない程度に火傷を負った男に近寄って行った。そしてその白魚のように細い指で顎を持ち上げると、何事かを耳打ちしていく。 「始まったッスねー……」 此処から先は 拷問官《ハーティ》の領域である為、ヴィクトリアにできることは少ない。もちろん、ハーティもそれを織り込み済みの上で、『仕事』の間はヴィクトリアに護衛を任せたいという考えなのだろうが……、 「……忘れられている気がするんスけど、私は本来後方支援専門であって『拷問』中の護衛をするような魔術師ではないッスよ……?」 とはいえ、文句を言っていられる状況でないのも事実である。ヴィクトリアは仕方がなく懐からカーペットを取り出し、床に広げる。彼女の扱う『幻影の王』という魔術は、北欧神話においてフレイが人間界ミッドガルドにて王を務めていた時の伝承を利用したもので、フレイが人間界ミッドガルドを去った後、国の有力者が塚を築いて金銭を納めることでそうしていた三年間もフレイが治めていた時と同じ平和を齎した――というエピソードから、『塚』状の神殿を築くことでフレイの幻影を召還し、それを操る術式となっている。 呼び出したフレイの幻影は『既に人間界にはいない』フレイであるがゆえに殺すことはできず、フレイの幻影であることから魔術生命体を生み出す過程で未だ解析できていない魂を生み出すことができるのと同じように、彼が持っていたと言われていながら未だ解析が出来ていない『接続術式』を部分的にではあるが再現している。この為、ヴィクトリアが作成した普通のフレイ関係の霊装を『幻影の王』に振るわせるだけで、特別な威力が発揮できる――というからくりが出来上がっているのだ。 だが当然、『塚』を壊されれば術式は簡単に終わってしまう。もちろんヴィクトリアも『塚』には幾重にも防御術式や隠蔽術式は施しているのだが、それでも明確な弱点が存在する魔術師というのは脆い(『弱い』のではなく、『脆い』のだ)為、本来なら後方支援を担当しているのが役割的にも正しいのだが……。 「……まあ、相棒が武闘派じゃ、それも無理な願いッスかね……」 残念ながら、彼女の相棒は現場で悪い魔術師を直接 拷問《オシオキ》するタイプの魔術師なので、後方支援に回ることはできなかったりするのだった。清教のブラックさに戦くしかないスケバンである。 無意識に武闘派たるハーティの『相棒』というポジションにいることを前提としているあたり、彼女も実はまんざらでもないのかもしれないが、今そこにツッコめる人間は二重の意味でいなかった。 「さて、設置は完了。あとは配置につくだけッスけど……」 と、そこでヴィクトリアはあるものを目にした。 それは、一つの通信用霊装のようだった。古びた羽ペンと羊皮紙が、ポツンとそこに置かれている。 どうやら北欧神話における『神託』を応用したものらしく、通信内容が自動的にペンで書かれる仕組みらしかった。 ヴィクトリアはすぐさま古代ヨーロッパ然とした美丈夫を呼び出し、警戒態勢にあたらせる。 「これは……? 救援要請ッスかね? 友好関係にある結社に助けを求めようとしたとか?」 もっともこの分では具体的な救助要請を出す前にクリストファーが片をつけたようだが……と思いつつ、ヴィクトリアは内容に目を通す。 『幻影の王』は自動操縦モードだ。少し前に自動操縦用思考ルーチンの開発に成功したので、こういうこともできるようになったのであった。 「えーと、どれどれ」 霊装に書かれた文書には、こんなことが記されていた。 『しくじった。どうやら清教に嗅ぎつけられたらしい。援護を頼む』 「……? 救援要請、成功してるんじゃないッスか? となると、相手の結社から無視を決め込まれた……?」 怪訝に思いながら、ヴィクトリアは続きを読み進めていく。 『やってしまったな。私達としても、貴様らの救援をしたいのはやまやまだが、流石に清教から派遣された「対結社戦のスペシャリスト」を相手にするのは分が悪すぎる』 『待て。この霊装が清教に見つかれば、お前達の居場所も逆探知される恐れがあるんだぞ!?』 『それについても、既に対策が済んである』 「……対策……?」 きな臭い話になって来たなと思いつつ、さらなる情報を読み取る為、ヴィクトリアはさらに視線を進めていく。 その下には、こんな文章が並んでいた。 『そもそも、こちらから提示された「思考によって文章が描かれる」という回りくどい通信霊装の仕組みに違和感を覚えなかったのか? 霊装と貴様らの思考の間に築かれた「ライン」を元手に、「マーキング」されているとは思わなかったのか? ……「そこ」は既に「対象選別」を済ませてあるよ』 そして文章の最後は、こんな言葉で締めくくられていた。 『もっとも、神の鉄槌を受けることになるのは貴様らではなく――貴様らを殺した後の追手たちだろうがな』 瞬間、ヴィクトリアの背筋に冷たいものが走った。 心理的なものではない。 上方に出現した『魔力』の余波に、魔術師としての感覚が否応なく警鐘を鳴らしているのだ。 ハーティはそれに気付いていない。周囲に警戒していたヴィクトリアだけが、そのことに気付けている。 「まずっ、ハーティッ!!」 思わず、ヴィクトリアは声をあげた。 同時に、『それ』が振り下ろされる。 ――次の瞬間、『虹の橋を渡る者』のアジトはまるで特撮映画のミニチュアのように粉砕されていた。 4 どこかぼんやりとした意識の中、ヴィクトリアは覚醒した。 あの瞬間、咄嗟に『幻影の王』に上空から来る『衝撃』を相殺する為力を振るわせた結果、何とかヴィクトリアは無事だった。もっとも、衝撃に衝撃をぶつけて相殺した結果、はじけ飛んだ『余波』のせいでそれなりのダメージを負ってしまったのだが。 「……クソったれ。こんな、攻撃……私が止めてなかったら、地盤ごと粉砕されかねない威力だったッスよ……?」 個人レベルで扱う魔術の威力には、どうしても限界がある。 たとえばクリストファーの術式であれば、五〇〇メートルほどの射程距離を誇るかわりに、人一人消し炭にすることすら出来ない出力に甘んじている。ヴィクトリアの相棒でもあるハーティなどは、確かに対魔術師戦ではかなりの強さを誇るが、それはあくまで対魔術師の強さであって、こういった分かりやすい出力の強さは持たない。 「つまり……私と、同じタイプってワケッスか」 ヴィクトリアの『幻影の王』と同じような――『裏技』によって、普通では有り得ない出力を実現させているタイプ。 そんな相手には、今までヴィクトリア達も何度か遭遇してきた。大望遠鏡《テレスコープ》を用いた『術式の星座化』、シェフィールド大学をバベルの塔に見立てた『天使の力《テレズマ》貯蓄庫』、そして複数の人間の魔術を統合して出力を上乗せした『美神の涙』。今回もおそらく、何らかの方法で術式の出力を水増ししているはずだ。 「……っと、いけないッス。ハーティ!? ハーティ生きてるッスか!?」 そこで相棒のことを思い出したヴィクトリアは、あんまりにもな言い方でハーティに呼びかける。 「…………生きてるか、とは随分な言い方ですね……」 果たして、ヴィクトリアの予想通り、ハーティは陰鬱そうだがしかししっかりとした声で応答した。とりあえず無事なことに安堵するヴィクトリア。 「……あれ、でも何か声がくぐもっているような?」 「そこなんだけど、ちょっと面倒なことになってしまったの。怪我はしていないのですが……」 「どうしたッスか?」 「……瓦礫に、埋もれてしまって」 ハーティの方に近づいてみると、屋根やらの建築材が折り重なるようにして山を形作っていた。そして、その横から小さな少女の下半身だけが突き出ている形になっていた。 ……非常に扇情的と言えなくもない体勢だが、此処にいるのは女二人。そういう視点で物を見る人間は此処にはいない為、一二〇%笑いものだった。 「ぷくくっ、くすくす、ハーティっ、アナタそれっ……」 「笑っているんじゃありません!! 早くそこの木偶の坊にでもこの瓦礫の山をどかせなさい! 腕まで固定されているから力が入れ辛いんですよっ!!」 「はいはい、分かりましたよーすぐに出してあげま、」 と、暢気に笑いながら『幻影の王』を動かそうとした、その瞬間だった。 ゴバッッ!! !! !! と。 彼女たちの四方八方から、『緑』が吹き荒れたのだ。 「クソっ、ぬかったッス、まだ襲撃は終わっていなかったんて……っ!?」 言いながら、ヴィクトリアは『幻影の王』の右手にある細身の剣を振りかぶらせる。 轟!! !! と暴風さえ発生させるような一振りは、その余波だけでハーティの上にのしかかっていた瓦礫の山を乱暴に吹き飛ばした。 当然、こんなことをすればハーティにも多少のダメージが入るはずだが……、 「っ!! ヴィクトリア! この馬鹿!! 何を考えているんで、……チッ!! 貴女がもたもたしているから!!」 「すみませんッスって!!」 ヴィクトリアに厳しい檄を飛ばしながら起き上がったハーティには、砂埃こそついているものの擦り傷の類すら存在していなかった。 ハーティの着ている 拘束服《ボンテージ》は、当然ながらただのファッションではない。 拷問を受ける罪人は、およそ人間の受けるものとは思えない責め苦を味わう。それこそ、普通の人間なら死んでしまうような。だからそれを防ぐために、魔術的な 拘束服《ボンテージ》というのは罪人へのダメージを抑える為、ある程度の防御力を持っているのだった。これを逆用すれば、自らを守る防護服として機能させることも出来る。 「これは……」 起き上がったハーティが見たのは、瓦礫に生えた無数の植物だった。 ツタが寄り集まって出来た大きな樹は、今も抑えめではあるが成長を続けていた。それが、アジト跡のいたるところから伸びている。 「……何者かが操作していますね。動きに知性が感じられるわ。ヴィクトリア、レーヴァテインへの換装は?」 「時間がかかりすぎるッス。いつ攻撃が来るか分からないこの状況で、換装作業はちょっと……」 「なら私が時間を稼ぎます。だからそちらは自分の作業に集中していて」 言って、ハーティは思い切り地を蹴り植物の群れの中へと飛び込む。 少女の身体からは想像もつかない瞬発力で、まるで雌豹か何かのようにハーティは群れの中心に立った。 「攻撃が、あくまで『操作』であるのなら――」 ガンゴンガガン!! と甲高い音が連続する。 次の瞬間には、人の身体ほどもある幹に無数の『釘』が突き刺さっていた。 たったのそれだけで、不気味に蠢いていた植物がまるで本来の役割を思い出したかのようにぴたりと静止する。 「私の魔術で、動きを止めることは出来ます。……もっとも、一時的に、だけれど」 ハーティの扱う魔術は、拷問魔術だ。 鉄槌や鉄針など、『拷問器具を象徴する武器の要素を抽出した霊装』を扱うことにより、偶像の理論によって『元となった器具をそのまま使った結果』を相手に叩き込むことが出来る。 さらに、魔女狩りの中で魔術師に用いられることが前提だった『拷問』は、『魔術殺し』の側面も持っている。つまり、ハーティの拷問器具で攻撃を受けた者は魔力の流れに乱れが生じ、魔術の行使が不完全になるという訳だ。 (『操作』しているということは、何らかの形で魔力がこの植物に循環している――『霊装として機能している』ということ。勿論別の方式で行っている可能性もあったのですが、流れをせき止めたとたんに停止したところを見ると私の考えは間違っていなかったようですね) だが、この一瞬でハーティが動きを止めることが出来たのは精々三本。全部で八本ある『植物』は、まだ五本も動く個体が残っていた。次の瞬間には、鉄槌を振るい切って隙が大きいハーティの脇腹を抉り取らんと飛びかかって来る。 「チッ……!! 数が多すぎるのよ!」 鉄槌での防衛が不可能と判断したハーティは、すぐさま足に力を込めて跳躍する。ドッ!! と、人類の限界を軽く超えたハーティは眼下に複数の『植物』を収め、やたらめったらに『釘』を乱射する。 ゴガガガガガガ!! !! という破砕音が連続した。 「これなら、流石に……」 と、表情を緩めたハーティはそこで思わず絶句する。 『植物』のうちの二本が、盾のように他の『植物』の上に重なり、ハーティの『釘』を守る役割を果たしていたのだ。 ハーティの拷問魔術は、相手を殺してしまわないようにと出力に一定のセーブがかかっているものが殆どである。ゆえに『植物』を一撃で貫通するほどの威力はない。それが裏目に出る形だった。 そして何より危険なのは、ハーティが今空中にいて、攻撃されても身動きが取れないということ。 「まず……ッ!!」 自らの失策を悟り、次の瞬間の攻撃に備えて構えるハーティ。 しかし、『植物』は結局動かなかった。 防御の構えをとっていた為多少不恰好な着地になりつつ、ハーティは怪訝な表情を浮かべる。 (あの状況で『植物』が私への攻撃を躊躇う理由はなかったはず。一体、どういった理由で私に攻撃できなかったんです……?) 油断なく鉄槌を構えるハーティだったが――やがて、その必要すらないことに気付いた。 停止している。 不気味に蠢いていた『植物』群が、普通の植物に戻ったかのように、微動だにしていなかった。この状況で『当たり前』な挙動をしていることに、ハーティは逆に違和感を覚えてしまう。 「……一体……どういう……、あ」 考え込みそうになったところで、ハーティはあるものを発見した。 空中から『植物』に向けて乱射した『釘』の流れ弾だ。『植物』に当たらず、どうやらそのまま地面に突き刺さってしまっていたようだった。 そして、それを見た瞬間ハーティの中に電流が走った。 「地面……地脈……そういうことだったんですか!!」 此処で重要になるのは、『地面に「釘」を撃ち込んだだけで植物全体の動きが止まった』という点だ。 実際に操作している植物ならともかく、そうではない『地面』が魔術の制御に関係している、ということは……、 (『地脈』。それを介して術式を管理していた、という訳ね!) 「ヴィクトリア!!」 「はいッスっ!? 私まだ何もやらかしてないッスよ!!」 「違うわ馬鹿! レーヴァテインへの換装はもう良いから、『幻影の王』経由で地脈の様子を探って! 貴女の『幻影の王』は地脈から稼働エネルギーを賄っているんでしたよね!?」 「その通りッスけど……繋がりっつったってエネルギー源程度の微々たるモンッスよ!? 様子を探るなんて……」 「そこから、敵の居場所が感知できるかもしれないの!!」 「なんスってッ!?」 たとえ無茶でも、それが作戦行動に関わるならプロとして最大限の努力をせざるを得ない。ヴィクトリアは『幻影の王』の稼働状況を確認する。 古代ヨーロッパ然とした美丈夫の姿は、普段見るものと何ら変わりない。だが、少しばかり動かしてみるとやはり普段とは違う『何か』があるようにも感じられた。普段この術式を扱うヴィクトリアでさえ、注意深く確認しないと分からない程度の『何か』が。 「……確かに、僅かではあるッスけど、自動操縦用の思考ルーチンに多少のラグが発生している……ッスか……? 多分、地脈に何らかの影響が出ているんだと思うッス。此処に、敵の細工が仕込まれているワケッスね」 「決定ね」 ハーティは即座に判断した。彼女の予想通り、敵は地脈に何らかの細工を仕込み、そこを経由して『植物』を生み出し操作していたのだ。言うなれば、地脈を『植物』と術者を繋ぐためのケーブルに改造していた、といったところか。 「その細工が仕込まれている場所は分かるかしら? そこに行けば、何らかの痕跡が見つかるかもしれないです」 「だからそういうのは本来の使い方じゃないんスって…………んー、遠くはないって感じッスかね。けっこう近場ですよ。ロンドン近郊ッス」 「それだけ分かれば十分ね」 ハーティは頷き、懐からとある霊装を取り出す。戦闘用のものではない。羊皮紙めいたそれは、魔術師同士の連絡をサポートする為の霊装だった。 そしてこの場合、用途も変わらない。 「……あの黒子女の手を借りるのは勘弁したいところだけど、あれでヤツも有能だからね……」 「とか言いつつしっかり仲間としてその技量を信頼しているあたりに、おねーちゃんはハーティの成長を感じるッスよー」 沈黙ののち、鈍い音が響く。 「ブン殴られたいの?」 「殴ってから言わないでくださいッス!!」 そんな漫才を遮るように、通信用の霊装から返事が来た。 『ハロ~。丁度良かった。こっちも連絡があったんだよ』 「フギンね。こちらの方が重要よ。尋問をしに行ったところ、敵の魔術師から攻撃を受けました。真上から、ヴィクトリアが対応しなければ地盤ごと粉砕されかねないレベルの衝撃をね。その後、地脈を用いた植物攻撃まで仕掛けてきました。……ヴィクトリアのお蔭で、攻撃を放った相手はロンドン近郊にいることが分かったわ。こっちで観測した数値を送るから詳しい座標を調べてくれませんか?」 『……了解した……けど、どうやらこれは話が繋がりそうだね』 「どういうことです?」 『テムズ川のロンドン橋でジークフリート=ドラッヘンを捕捉したんだよ』 瞬間、ハーティとヴィクトリアの表情が驚愕に染め上げられる。現状、ハーティ達を襲った『衝撃』と『植物』の使い手も、一番怪しいのはジークフリートだ。そのジークフリートが捕捉されている。しかも、テムズ川といえば御誂え向きにロンドン近郊である。 「それで、そのジークフリートは?」 『既に 必要悪の教会《ネセサリウス》が動いているよ。ジェイルが討伐に向かっているみたいだね』 霊装越しのフギンの言葉に、ハーティは軽く首を傾げる。 「‥…ジェイル?」 「はぁ……ハーティはいい加減同僚の顔を覚えた方が良いッスよ」 「し、仕方ないじゃない! それに、最近は女子寮の人達は名前と顔が一致するようになりましたし!」 『ジェイルっていうのは、ジェイル=ドント。北欧神話の雷神トールに関連する術式を扱う魔術師だね。まあ、雷神トールの術式はけっこう有り触れているから、かなりアレンジを加えているみたいだけど』 「なるほど。ですが一連の事件の黒幕であるジークフリート=ドラッヘンが一筋縄で行くとは思えません。向こうには『黄金』もあることですし……今報告した戦力のことも含めて伝えておいてもらえますか」 『アイツもアイツで魔術結社一つをたった一人で潰せる稀有な戦力の一人なんだけどな~」 「それでも、よ」 『分かった。そういうことなら任せておいてよ! それじゃあね』 ブッ、と千切れるような音を最後に、通信は切断される。 「行くわよ。こちらとしても、止まる訳にはいきませんからね」 通信霊装を懐に戻したハーティは、くるりと鉄槌を回転させ、 「イギリスの敵に『神の鉄槌』を振り下ろさせてもらいましょう」 「私の場合は、剣ッスけどねー」 二人の魔術師は、そんなことを言い合いながら戦場へと駆けていく。 これから戦うのは、イギリスを何度も破滅に導こうとしてきた事件の黒幕。彼女たちが今まで向かってきた事件の中でも、トップクラスの『壮大さ』を持つ敵だ。まさしく死地に赴いている真っ最中だったが、二人に過度な緊張は見られなかった。 イギリスの危機を目の前にして戦っていたのは、今までも同じ。 自分の命すら危うい戦いを乗り越えてきたのも、今までと同じ。 二人の魔術師にとっては、今回の事件も『そういうこと』なのだった。 5 「そういえば、『虹の橋を渡る者』での尋問ではどんな情報が得られたんスか?」 テムズ川の近くまで来たところで、最終確認のようにヴィクトリアが問いかけてきた。 それを聞いてやっと思い出したように、ハーティは頭を振る。それは、有益な情報が得られなかったということでもある。 「大した情報はなかったわよ。どうやら『虹の橋を渡る者』がジークフリートと手を組んでいたのには、相応の理由があったみたいね。組織としての運営が立ち行かなくなるくらいに切羽詰っていたらしかったです。同盟関係にあった結社とも関係が悪化していたらしかったし、おそらくビジネスに失敗したのね。そこをジークフリートに付け入られたのでしょう」 「はぁー、やっぱり魔術結社は大変なんスねぇ……。私らは国民の血税で食って行けてますけど」 「そう暢気してると、貴女もそのうちクビになりますよ。……あとは、そうですね。救援を要請していた魔術結社の名前は、『川底の黄金を奪いし王』だったかしら。こちらについてもあとで報告しておかな、」 「ハーティ、それは……有り得ないッス」 何気なく言ったハーティに、ヴィクトリアは静かに返した。いつになく真剣な様子のヴィクトリアだが、自分の専門分野でもある『拷問』の成果を否定されたハーティはむっとする。 「何? 私の『拷問』で得た情報が間違いだと言うの? 魔術を使って真実しか吐けないように調整しているというのに、……」 「そうッス。確かに拷問中はハーティの魔術で『真実しか吐けない』ようにしているのかもしれないッス。けど、そもそもその『真実』が本当の意味での『真実』であるかどうかは言った本人にすら分からないんスよ」 血を吐くような調子で言ったヴィクトリアは、さらに続ける。 「必要悪の教会《ネセサリウス》の活動にあまり興味を示さないハーティは知らなくて当然ッスけど、『川底の黄金を奪いし王』っていう魔術結社は、ちょっと前に壊滅してるんス」 「な、なんですって……!?」 「確か、例の聖人様の事件に横槍入れようとしたヤツ……そうだ、ステイルに討伐されたリチャードの一件の直後に、ジェイルが壊滅させていたはずッス。だから、ソイツらが同盟結社として救援を頼まれることなんて絶対にあり得ないんスよ」 「……ってことは……、」 「! ハーティ、見えましたよ!」 驚愕の新事実による動揺が抜けきる前に、考えを進める間もなくヴィクトリアが声を上げる。街道を抜けた先には、二人の魔術師がいた。 一人は、全身に赤い刺青を刻んだ筋骨隆々の男。軽装だが、背負った一本と両手に構えた二本、合計三本の大剣が纏っている明らかに異質な雰囲気が目を惹く。――ジークフリート=ドラッヘンだ。 一人は、これまた赤い髭に赤いスーツの三〇代程度の男。彼もまた軽装だったが、手に持った長大な鉄槌が彼が魔術師であることを教えている。――ジェイル=ドントだ。 人払いの結界が貼られているらしく、周囲に通行人などは一人としていない。 「ジェイル! 助っ人に来たッスよ!!」 そう言って、ヴィクトリアは一気にロンドン橋へと駆けて行く。 しかし、ジェイルはそれに返答しなかった。 にやり、とジークフリートが静かに笑みを浮かべる。 「気を、つけろ……」 ポツリ、とジェイルは言った。 「や、つの……魔術、は…………防げな、ご、ぽッ」 言葉が、途切れた。 同時に、ジェイルの身体が傾き――べしゃり、と半端な水音を立て、ロンドン橋の上に落ちる。 まるで糸の切れた人形のようにあっけない倒れ方だった。 じんわりと、倒れたジェイルの身体から漏れ出していくかのように、橋の上を赤い液体が侵食していく。 そして、それが何を意味するのか、ハーティもヴィクトリアも痛いほど理解していた。 「ジェイ、ル……!」 「遅かったですか……! ヴィクトリア! 行きますよ!」 「……はいッス!」 言葉と同時に、仲間の死に全くへこたれずに二人の魔術師が行動を開始する。 まず、ハーティが動いた。猛獣のように機敏な動きでジークフリートに肉薄した彼女は、まずその両手にある大きな剣に注目する。 「その剣……どちらも『シグルドの剣』ですか!」 「いかにも――これは 破滅の剣《グラム》、そしてこれが 復讐の剣《バルムンク》だ、お嬢さん」 肉薄したハーティは、ジークフリートが『破滅の剣《グラム》』と呼んだ大剣が高い熱を持っていることに一瞬で気付き、触れるのは悪手だと悟った。 ただし、大剣を振るうジークフリートにとってこの距離は逆に不利。刃を当てづらい為、本来の攻撃力を発揮できないのだ。ハーティが相手の戦力も分からないうちから距離を詰めたのも、必要以上に近ければどんな魔術を使おうと本来の力が発揮できないだろうと踏んでのことだった。 しかし、ジークフリートはそんなハーティの予想を軽々と越えていく。 ドッ!! と。 ジークフリートの、何でもない蹴りがハーティの腹に突き刺さった。 「ごっ、はぁっ!?」 たったのそれだけで、ハーティの身体はまるでボールみたいにロンドン橋の上を吹っ飛んでいく。 まだ 拘束服《ボンテージ》の加護があるだけマシだった。これがなければ、ハーティは今頃蹴りの一撃だけで上半身と下半身が分断されていたことだろう。 「なん……げは! がはごふ!!」 「ハーティ!!」 此処で、ヴィクトリア――正確には、その魔術である『幻影の王』がハーティの傍に駆け寄った。 「私は、大丈夫です。それより気をつけなさい。……相手も、私と同じように身体機能を強化しているわ。それも、私よりも遥かに高い強度で」 「ハーティは『とりあえず当たって敵戦力を確認』ってことが多すぎるんスよ。まあ、その 拘束服《ボンテージ》の加護があれば大抵のダメージは大したことなくなっちゃうのかもしれないッスけど……」 ヴィクトリアはそう言って、不気味にこちらの様子を窺っているジークフリートを見る。 その後方に転がるジェイルはさらに赤い染みを広げていたが、もはやヴィクトリアはそのことに拘泥したりしない。プロの世界で味方が死ぬことなど当たり前。……『一定以上に親しい人物』でなければ、彼女達が心を乱すことはない。 「まずは、遠距離攻撃で敵の出方を窺うのが先決ッスよ!!」 『幻影の王』が、その手に持った細身の剣――『勝利の剣』と呼ばれる霊装を振るう。 霊装自体は豊穣神フレイの持っていた『敵を自動で狙い切り裂く剣』という武器を『任意の座標に遠距離から斬撃を加える』武器と解釈した、普通の霊装なのだが、部分的に接続術式を再現しているこの『幻影の王』が扱えば――、 音さえも切り裂かれた。 地盤そのものを粉砕しかねない一撃にすらも対抗できるその斬撃は、ジークフリートの持っている霊装に関係なく、正確無比に彼のみを切り裂――かなかった。 空気の断層さえ生みかねない斬撃は、ジークフリートの掲げた 復讐の剣《バルムンク》に触れた瞬間綺麗さっぱり消失してしまう。 「チッ……大した威力だ。これが限界だな」 必殺の一撃を防御しておきながら、それでもなお不満げにジークフリートが呟き、剣を軽く振るった瞬間だった。 ボッ!! !! と、突如として『幻影の王』の上半身が爆散した。 いや、違う。爆発的な勢いで両断された為、その勢いで『幻影の王』の上半身が吹っ飛んだのだ。 「まずは、厄介な木偶人形を潰せたか……あとは、二人」 「いいえ、『幻影の王』に『死』はないッス!」 ヴィクトリアの言葉通りに、上半身が失せた『幻影の王』に霧のようなものが纏われ、そして一瞬のうちに元の姿が再形成される。手には、先程と同じように『勝利の剣』。 厄介な『幻影の王』を始末しても、地脈を流れる世界の力を元手に『幻影の王』はいつまでも再構成される。ヴィクトリアを殺さない限り、それは決して終わらない。――魔術師ヴィクトリア=ベイクウェルの厄介さは、そこにある。彼女を護る仲間がいれば、その厄介さは数倍以上にも跳ね上がる。 「……チッ、必要悪の教会《ネセサリウス》の癖に、ロシア成教のような真似を……」 悪態を吐きながらも、ジークフリートは 復讐の剣《バルムンク》を盾のように構える。 「……あの『黄金』は、どこへやったのですか。ジークフリート=ドラッヘン」 口許の血を拭いながら、ハーティは毅然とした様子でジークフリートに問いかける。 「私の撃退が困難と踏んで、『黄金』を破壊することで私の目的を潰えさせようという魂胆か? 甘いな。もう既に『アレ』は完成したよ」 戦況が優勢だからか、あるいはこうして話をすること自体に意味を感じているのか、ジークフリートは饒舌に語る。 「そもそも、君たちは知らないのだろう? 私がどうしてあの『黄金』を求めたか。そして、ライン川から取り出した『黄金』をこのテムズ川まで運んできたのか」 「……『黄金』は、この川にあるのですね」 「揚げ足取りのつもりか? もう既に完成していると言っただろう。――ラインの『黄金』。そこのフレイの魔術師ならば、その意味が分かるだろうと思うがな」 「…………、……まさか……『ニーベルング』……?」 「いかにも」 ジークフリートは、堂々と頷いた。 「ライン川に『黄金』を転移するようにあの誘拐犯に教えた術式に仕込んでおいたのも、そしてこのテムズ川で儀式を行おうとしているのも――『ニーベルングの指環』をなぞる為の準備だ」 ニーベルングの指環、という歌劇がある。 生み出したのはリヒャルト=ワーグナー。 北欧神話のシグルズとブリュンヒルデの伝承を下敷きにした物語であるが、これはただの芸術作品ではない。 たとえば現在の魔術界隈でも使われているワルキューレの代表的な術式 九人祝い《ナインサポート》はワルキューレが九人で構成されていたという理論によって構成されているが、ワルキューレが九人姉妹だったとしているのも、このワーグナーによる歌劇のものだ。 この歌劇の中心、『ニーベルングの指環』の元となる『黄金』は、もともとはライン川に棲む乙女が守護しているものであった。『黄金』は愛と引き換えに得ることができ、世界を支配する力を得る能力を持っていた。 ニーベルング族のアルベリヒは愛を捨てることで『黄金』を得て、それにより世界を支配し、自分の世界に住まうニーベルング族を配下に置いたのだった。 「……そういうこと、ッスか。だけど、術式の地理に関係があるのはライン川のみのはず。テムズ川で儀式を行うことは……」 「甘いな。まあ、科学に疎い魔術師では仕方のないことだが」 ジークフリートは溜息を吐き、 「お前たちは知らないだろうがな。……大昔、更新世と呼ばれていた時代、ライン川とテムズ川は陸続きで繋がっていたんだよ」 「!!」 「つまり、地脈の上でラインとテムズはほぼ同等。さらにイギリス、とりわけロンドンには魔術施設が大量に設置されている。この『立地』こそが最高だ」 「世界を、支配する……! それが、アナタの目的ってことッスか!?」 「近いな。だが、そこまで即物的な望みでもない」 ジークフリートは手の中の剣に視線を落とす。 「『世界を支配する』と一口に言っても、その『方法』は何通りも存在する。だが、あらゆる人間の意思を捻じ曲げることが出来るだとか、誰よりも強い力を持っているとかでは、『世界を支配している』とは到底言えないだろう。……特に後者は、ついこの間、第三次世界大戦で十字教の馬鹿どもが盛大に痛い目を見た訳だしな」 「……、」 「『法則』だ」 ジークフリートは長年の研究成果を披露するように、誇らしげな口調で言う。 「私が、地脈に造詣が深いことくらい、貴様らは承知の上だろう?」 ……星座形式に術式を直すことにより、『縄を操る魔術』を『地脈を操る魔術』へと変換させようとした、キース=ノーランド謀反事件。 ……地脈に 天使の力《テレズマ》を流すことで、大天使並の量の 天使の力《テレズマ》を貯蓄する神殿『バベルの塔』を生み出した、フレデリック=モンドリオ謀反事件。 複数の『美神の涙』を自身の手で統括していた誘拐者ダーフィット=シュルツは、どのようにして遠隔地から術式の発動点を自分の手元に移したのか? ……今なら、分かる。 全てに、『地脈への干渉技術』が用いられていた。 イギリスに甚大な被害を与える性質ばかりに目を取られていたが、そのすべてに『地脈』への干渉という共通点が存在していたのだ。 そして、それの意味することは即ち。 「……データは、十分に取れた。地脈そのものを操作するのに必要な動力も発生した際に生まれる影響も、地脈に莫大な力を流し込んだ時に生まれるリスクも、流し込んだ結果得られる『結果』の性質も」 この男は、ジークフリート=ドラッヘンは、目先に見える『派手な危険』の裏で、着々と『本命の術式』のテストを行っていたのだ。 「なるほど」 ジークフリートの言葉に、ハーティは静かに頷く。 その表情に、絶望や焦燥の色は見られない。 「つまり、今ここで貴方を始末すれば全てが解決するということです」 「……フン。ならばやってみろ魔術師。……ところで、私が今まで何の意味もなく長話をしていたとは思っていないよな?」 ジークフリートがそう言った瞬間。 バガン!! と橋の一部が溶け落ちる。 見ると、分かり辛いが 破滅の剣《グラム》は高熱を放っているようだった。話の間中ずっと、高熱を放ちロンドン橋を落とすつもりだったのだろう。 「なっ!? 野郎、橋ごと私らを叩き落すつもりッスか!?」 「ヴィクトリアは『幻影の王』で自分の身を護っていて!! 私はヤツを叩く!」 「くそう、『ロンドン橋落ちた』にまた新たな一節が加わっちまうッス……」 即席の打ち合わせをし、ハーティは一気にジークフリートの方へと飛びかかって行く。その裏で、ハーティは高速で思考を巡らせていた。 (先程の一撃。攻撃を『吸収』して、それを利用する……といったところでしょうか? 二度攻撃をしかけてきたところを見ると衝撃を小出しにすることもできるのでしょうが、それにしても疑問が残るわ。何故、『幻影の王』にそれを使ったのか。そして何故あのタイミングだったのか。私やヴィクトリアは生身だからそっちに叩き込む方が合理的だし、タイミングにしたって『幻影の王』の攻撃を妨害するようなタイミングの方がこちらのリズムを乱せる。にも拘らず、何の得にもならないあの時点で『幻影の王』に攻撃を加えた。……そこに、あの霊装の弱点も隠されているはず!!) 一瞬で判断したハーティは、『盾』として扱っている 復讐の剣《バルムンク》ではなく、密かに高熱を放っている 破滅の剣《グラム》目掛けて鉄槌を振るう。空気を押し固めて作られた『釘』が放たれ、ガイィン!! という音と共に空中で拮抗する。 破滅の剣《グラム》は『釘』とぶつかった結果刃毀れしたが、そのわずかな傷はすぐさま修復された。破滅の剣《グラム》に、自動再生の機能が備わっているのだろう。 それを認めたハーティは即座に地を踏み締め空中へと飛び上がり、懐から別の霊装を取り出す。それは、木で作られた天秤のような霊装だった。片方には椅子に括り付けられた女のミニチュアが設置され、片方には何も置かれていない。 ハーティがそれを掲げると同時、ゴボッ!! とジークフリートの持つ 破滅の剣《グラム》の周囲に水が発生する。 これはヨーロッパで行われた拷問刑である『水責め』の亜種で、池の畔などに椅子をくくりつけた巨大なシーソーのような道具を取り付け、勢いよく受刑者を水の中に叩き込むのを繰り返す拷問であった。 この術式には他のハーティの術式と同じく『偶像の理論』が用いられている為、実際に発動する為には女のミニチュアに対象の身体の一部を付着させないといけないという条件があるのだが――、 「今の一撃で、貴方の剣の破片を回収させてもらいました」 ハーティはプロの――それも、自らの肉体を使い戦う魔術師である。ただ攻撃を受けただけでは、終わらない。 「さあ、その高熱が貴方に牙を剥く番よ」 ハーティが狙ったのは、あくまでジークフリートではなくジークフリートの持つ 破滅の剣《グラム》だ。そして、その 破滅の剣《グラム》は高熱を持っている。そんなところに、水が纏わりつこうとすれば――、 ドッジュウウウウウウウウ!! !! !! と、水が一気に蒸発する音が響いた。 高熱の水蒸気が、 破滅の剣《グラム》を中心に発生する。 「フン。この程度の熱で 竜血魔装《ファフニール》が破れるものか」 しかし、ジークフリートは何ら慌てない。ジークフリートに人外の膂力を与えている魔術は、同時に攻撃への耐性もまた与えていた。 「伝承においてシグルドは竜の血を浴びることで不死身となった。私はそのシグルドの模倣だ。貴様らイギリス清教の騎士派さえ凌駕する力を、私は事もなげに扱える、と言っている」 「分かっていますよ」 しかし、ハーティはさらりとそれを受け流した。 ゴボボボボ!! !! と、さらに 破滅の剣《グラム》の周囲に水が発生する。 「……何だ? まさか剣の熱を下げようとしているのか……?」 破滅の剣《グラム》は高熱を放っているが、破滅の剣《グラム》自体が高熱を持っているという訳ではない。それは、ハーティが毀れ落ちた破片を簡単に回収できたことからも分かるだろう。だから、熱を一気に下げたとしても刃が熱疲労によって破壊されることは有り得ない。そもそも、水をかけた程度で 破滅の剣《グラム》の熱を下げることなどできはしない。 だが。 ハーティの狙いは、そもそもそこにはなかった。 ハーティは、水蒸気の上からさらに水を重ねた。水蒸気は冷やされ、また水となり 破滅の剣《グラム》を覆う訳だが……当然、それにも限界が生じる。絶えず生み出される水と 破滅の剣《グラム》の間には水蒸気の膜が生じる。そして、高熱の物体と水、水蒸気の膜という条件が揃った時に起こる物理現象が、一つだけ存在してた。 「――あなたは、知らないですか? 『水蒸気爆発』という現象を!!」 ドッッッ!! !! !! と、小型の手榴弾並の爆発が発生した。 空中にいたハーティはその爆風で思い切り吹き飛ばされ、『幻影の王』の傍らまで転がっていく。 「ハーティ!! 大丈夫ッスか!?」 「私のことは良いから!! それより、早くヤツに『幻影の王』の斬撃を叩き込みなさい――今なら確実にやれる!!」 「……っ!!」 『幻影の王』を用いてハーティを助け起こそうとしたヴィクトリアに、ハーティは鋭い檄を飛ばす。それで状況を理解したヴィクトリアは、すぐさま決断し――轟!! と『幻影の王』の一撃が振るわれた。 同時に、ハーティもまた飛び起きて再度の攻撃を開始する。 『幻影の王』の一撃によって払われた水蒸気の先には――折れた 復讐の剣《バルムンク》の手に呆然としているジークフリートの姿があった。 「……貴方の行動は、確かにおかしかった。単純に攻撃を吸収し再利用する術式があるなら、もっと効果的な利用方法があったはず。たとえば自分で空振りを連発し、何かにぶつかった衝撃を吸収する、とか」 鉄槌を構える。 「それをしなかったということは、即ち『対象選別』に条件があったということ。たとえば――攻撃を与えた張本人にしか、『自動攻撃』は使えない、とか」 ジークフリートは剣を構えようとするが、元々が二刀流で戦っていた魔術師だ。どうしても一本の剣が折れたことで行動に精彩を欠いている。 「そして、術式を使用するタイミングもおかしかった。『幻影の王』を狙うにももっとタイミングはあったはずなのに、あそこで振るう必要はない。貴方は、あの場で自分の意思で霊装を振るったんじゃない。振るわざるを得なかったんです。そうしなければ、霊装が蓄えられる『攻撃力』の『限界』に到達してしまうから!!」 それが、ハーティの策だった。 水蒸気爆発を間近で受けたジークフリートには、その威力を 復讐の剣《バルムンク》で受け止める以外の選択肢がなくなる。そして、水蒸気爆発の水はハーティが生み出したものだが、引き起こしたのはあくまで 破滅の剣《グラム》の高熱だ。つまりこの場合、 復讐の剣《バルムンク》が狙えるのは 破滅の剣《グラム》だけになる。 この状況で『幻影の王』の振るう勝利の剣の威力を受け止めれば確実に 復讐の剣《バルムンク》は『限界』を越え崩壊するが、かといって水蒸気爆発の威力を 破滅の剣《グラム》に叩き込めば、それだけで刀身は粉々に粉砕される。破滅の剣《グラム》は修復機能を備えているが、それが完遂するよりも早くハーティがやって来ることは火を見るよりも明らかだった。 つまり、水蒸気爆発を引き起こされた時点でジークフリートは詰んでいたのだ。 (しかし――まだ、安心はできない) 確殺の策を張り巡らせておきながら、ハーティはまだ安堵していなかった。 『虹の橋を渡る者』との攻防の中で受けた、あの衝撃と『植物』。まだジークフリートはそれを見せていない。それに、今までの事件で起こっていた『イギリスを破滅に追い込むような性質』の魔術も、未だに見せていない。 これはあくまで小手調べの領域だ、ということをハーティは強く意識する。 そして。 ドッ!! と。 あっさりすぎるほどあっさりと、ハーティの鉄槌がジークフリートの横っ面に直撃した。 「……は……?」 そう、信じられないものを見たような声で呟いたのが自分だと認識するのに、ハーティは数秒かかった。 ゴロゴロゴロ!! と、ジークフリートは最初のハーティのように無残にロンドン橋の上を転がっていく。ちょうど、ジェイルが倒れていた位置に、だ。 真っ赤な一帯の上に、ジークフリートの身体が独りで転がる。 「…………待って。独りで、ですって?」 そこで、ハーティは違和感を察知した。 ジェイルは――あそこで倒れていた魔術師ジェイル=ドントの死体は、一体どこだ? 「……な、ぜだ……ジェイル……」 ジークフリートは、そう言って殺した男の名前を呼んだ。そこでハーティは、初めて気付く。ジークフリートの腹が、赤く染まっていることに。その赤く染まった腹から、鋭く尖った『植物』が顔を出していることに。 「ま、さか……!」 その植物の出所――ジークフリートのほんの十数メートル先に、赤い髭に赤いスーツの紳士――ジェイル=ドントが何事もなかったかのように佇んでいることに。 あれほどの魔術師が、急にハーティの攻撃を受け止めたのは、なんてことのない、ただ横槍によって予想外のダメージを受けたからという、ただそれだけのことだった。 「ジェイル=ドント! 貴方、生きていたのですか!?」 「無論だよ、ハーティ=ブレッティンガム。私は一度として死んでいない。……私の顛末に関しては、そこのジークとの共同作業でもあったわけだからな」 それは、端的に言えば自白であった。 ジェイル=ドントは、 必要悪の教会《ネセサリウス》を欺きジークフリート=ドラッヘンと手を組んでいた――という、最悪の事実の。 しかし現実として、ジェイルはジークフリートを裏切っている。この意味は一体どういうことか――とハーティが考えを巡らせたところで、瀕死のジークフリートが吼えた。 「何故だ、何故だジェイル!! 何故、こんな仕打ちを、ごぶげば!! 私達は仲間ではなかったのか!! 細かい目的の差異はあれど、『北欧神話の世界をこの世に実現させる』という――」 「騒ぐな、ジーク」 激昂するジークフリートに、ジェイルは静かな言葉をかけた。 「『我々の目的』は、確かにこの『黄金』を加工し『ニーベルングの指環』を作ることだった。しかし……お前は知り得ないタイミングだったが、調整した『ニーベルングの指環』に関して少し問題が出てな」 ジェイルは、呆然とするジークフリートにさらに続ける。 「『ニーベルングの指環』は、世界を支配することができる。だが、同時に『死の呪い』もかけられているのだ。扱う者には、『死』が纏わりつく。やがては術者を食い殺す霊装なんだ、これは。調整によって排除したつもりだったが……やはり、世界を支配するほどの出力を発揮するには、そのデメリットを取り除くことはできなかったらしい」 ジェイルは、そう言って手に持っている『黄金の指環』を撫でる。 「そこで、『呪いの対象』を変更した」 「な……?」 「忘れたか、ジーク。この『黄金の指環』のもととなった『黄金』を回収したのはお前だ。つまり、お前にもこの『黄金』とのラインは形成されているということだ。勿論、『ニーベルングの指環』は一人を呪い殺すだけでは収まらない。ファーゾルドを殺した後も、『ニーベルングの指環』は神々の凋落さえ引き起こしたのだからな。だから、『呪いの空転』を起こすことにしたのだ。……既に死んでいるものを対象に選べば、『ニーベルングの指環』の機能は永遠に死なない者を呪い殺そうとする。……死んでいる者は、もうそれ以上殺すことはできないからな。そうだろう? フレイの魔術師」 「……!」 自身の術式の特性を言い当てられ、ヴィクトリアは思わず息を呑む。 つまり。 ジェイル=ドントは。 自身の持つ霊装のデメリットを完璧な形で排除する為、最大の協力者をその手にかけたのだ。 「ジーク。お前は此処で死ぬが、お前の悲願は私が代わりに達成しておいてやる。…… 両断の剣《ノートゥング》は、私が使っておこう」 「じぇ、いる……貴様ァァあああ……!!」 「感謝しているよ。ジークフリート=ドラッヘン。お前は私を此処まで押し上げてくれた」 あっけない感謝の言葉を最後に。 ずるり、と『植物』がジークフリートの身体から引き抜かれ、背中に備えられていた大剣を奪い主のもとへと帰還する。 ジークフリートは、それを最後に明確に息絶えた。 その瞬間だった。 ハーティとヴィクトリアの第六感とも呼べる感覚に、明らかな『異変』が生じる。 それが何かは、二人には分からない。 だが、奇妙な確信だけがあった。 もう、此処は今までのルールが通用する場ではない。 「さあ始めようか、 イギリス清教の魔術師よ」 ジェイル=ドントは。 雷神トールの鉄槌に、英雄の剣を携えた魔術師は、そう言って笑った。 念願のオモチャを手に入れた、無邪気な子供のように。 「――――『戦争の神』の管理する世界は、君たちが思っている以上に残酷だぞ?」 『運命』が。 人間が太刀打ちすることのできない『大きな流れ』が、二人の少女に牙を剥く。 前へ トップ 次へ
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/285.html
天罰と傲慢の違いは何か The_tower_of_BABEL. 1 『天罰』。 十字教においてはしばしば現れる『「神」から人類への干渉』である。例を挙げると、ソドムとゴモラの裁き、ノアの大洪水、バベルの塔の崩壊などがある。都市の壊滅、文明の崩壊、言語の分裂……どれもこれも、『天罰』というのはとてつもない威力を持つ。 その上、これらの事象でさえ本当に『神』からの直接干渉であるかというとそうではなく、堕落都市ゴモラを火の矢の雨で焼き払った 神の力《ガブリエル》からも分かるとおり、実質的な裁きは『神の 御使《みつかい》』たる天使が行っている。 しかしながら、高密度の 天使の力《テレズマ》の塊ともいえる天使の扱う力といえば当然人間の感覚でいえばまさしく『天災』であり、それらを再現した術式であっても通常の魔術師では到底再現も出来ないレベルである。 この『天罰』のメカニズムを再現した魔術師としては、現代では元『神の右席』前方のヴェントなどが挙げられるが、彼女にしても『完全なる死を伴った天罰』までは使えなかった。 しかし、人が完全な天使の術式が使えないのは『人間だから』ということが理由であるわけではない。単純に、『出力』が足りないのだ。天使の力《テレズマ》というと、どうしてもひと括りに考えがちだが、実際には対応する天使ごとの属性というものがあり、天使の術式レベルの魔術となると特定の属性の 天使の力《テレズマ》をかき集めないと発動することができないわけだ。それにそもそも、人間の身体にそれほどの要領の 天使の力《テレズマ》を封入してしまえば、その大規模なパワーを制御仕切れず爆散してしまうのが関の山。そういうわけで、『天罰』は天使のみが使え、人間は使うことが出来ない、という結論に至るのである。 ……では、もしもそれに足るだけの、聖書の中でだけ語られるような『天罰』を起こすに足る 天使の力《テレズマ》をかき集め、制御する方法があったとしたら? ――その時は、恐れ多くも神話の世界の『天罰』が、現代の世の中に顕現することとなるだろう。……尤も、現代社会はそれと同レベルの天変地異を第三次世界大戦中に体験しているのだが。 2 イギリスはロンドンの中央部からほんの少しだけ離れたところに、『聖《セント》ジョージ大聖堂』はある。『元々窓際部署だった「必要悪の教会《ネセサリウス》」の本部に使う教会を探していた際、中心部から少し離れたところにあるこの聖堂が起用されたものの、その後件の教会が異例の成長を遂げてしまった為、なし崩し的に清教の頭脳部となってしまい、施設の重要さと比べると立地条件が悪くなってしまった』という残念な逸話のあるこの大聖堂だが、現在大広間のような荘厳な空間には三人の少女しかいなかった。 「………………………………」 「……、」 「……、」 無言な三人の中でも特にむすぅっとしているのは、ハーティ=ブレッティンガムという中学生くらいの少女である。もう冬も近いこの季節なのに、『おいおいそこまで見せちゃっていいの!? ええ、そこイっちゃう!?』って感じの下手をしなくてもR-15レベルの黒革拘束着を着ている酔狂な少女だ。……まあ、これには拘束具の内包する魔術的な意味などもあるのだが、最近出来た彼女の友人に言わせてみれば『ただの露出狂ッス』らしい。実際、社会の大多数の人間は同じ意見を抱くだろう。 ちなみに、むすぅっとしているのは機嫌の問題ではなく、彼女が常に仏頂面な為だ。ハーティは現在、必要悪の教会《ネセサリウス》所属の魔術師として活動しているわけだが、それ以前は処刑《ロンドン》塔にて罪人相手に拷問《オシオキ》する拷問官として活躍していたのである。拷問官といえば、拷問中でも受刑者に感情を見せてはいけない。そんな訳で、魔術の闇は一人のいたいけな少女をデフォ仏頂面少女へと変貌させてしまったのである。 「……ええと、スンマセン。今回の用件について、早いトコ説明してくれると嬉しいんスけど」 そんな沈黙の空気に耐えきれずに口を開いたこの高校生くらいの少女は、ヴィクトリア=ベイクウェル。紺のロングスカートにセーラー服、その上からブレザーのような上着を羽織るという、今時日本でも見られないような典型的なこの金髪スケバン少女は、つい最近隣のR-15少女とともに『とある事件』を解決させ、その報酬をもらえるということで彼女と同じように女子寮でのんびりティータイムと洒落込んでいた彼女をとっ捕まえてこの大聖堂にやってきた訳なのだが。 「…………」 肝心の召集した張本人、イギリス清教のトップにしてこの聖《セント》ジョージ大聖堂の主である大学生くらいの少女、ローラ=スチュアート、通称『最大主教《アークビショップ》』はハーティたちと顔を合わせた瞬間から何故か無言を貫き通していた。まるで、何かに怯えているような表情で。 「……あの。さっきから何に対して怖がっているというの?」 言外に『何も用事がねーならさっさと帰らせろよ』と言いたげに問いかけるハーティ。不機嫌な訳ではないが、彼女もティータイムの途中だったのだ。もう紅茶は冷めてしまっているだろうが、入れなおして仕切り直しはしてもいいじゃないかと思っている次第である。 「おっ!! お、おおお、怯えているっ!? この私が!? バカなことを言いなしよ、ハーティ! 私はイギリス清教の最大主教《アークビショップ》なるのよ!? まさかちょっと不機嫌な部下に指令を言ひ渡したれば何を言わるるか怖しとて怖気づきたる訳などなしにけりなのよっ!!」 「……そうですか。じゃあこれは独り言なんだけれど、この仏頂面は職業病なだけで別に不機嫌な訳じゃないわ」 がくがくと震えながら本音を駄々漏れにするローラに、ハーティは上司の顔を立てて『独り言』を呟く。すると、捨てられた子犬のようだったローラは見る間にしゃっきりと己を取り戻していった。この威厳をいつまでも持続して欲しいものだ、と思う魔術師二人である。 「まず、先の『キース=ノーランド謀反事件』の解決に関して。二人の迅速かつ的確な対処、褒めて遣わしたるわ。銀行の口座にボーナス振り込みたるから、確認すべしよ」 ボーナス、という言葉にぴくりとスケバンが反応するが、それ以上の反応は出てこなかった。清教の魔術師は殆ど公務員のような扱いである。食いっぱぐれはないが、かといって仕事の出来が給料に直結するようなことは少ない。そんな環境でのボーナスに反応が乏しかった理由は簡単、 「……で、そのボーナスを餌にチラつかせてまた面倒な仕事を押し付けるって? 随分な飴と鞭じゃない。貴女、拷問官に向いてますよ」 「う、うう……。かようなるから嫌なりと思いたるのよ……。ステイルはまだ可愛げがありしけど、ハーティは何だか戯れに済まなし恐ろしさがありけるし」 「まあ、何だかんだ言って元拷問官ッスからね……。ちっぱいの癖になんか生意気ふべぇっ!? ぎゃあ!! スンマセンハーティさん!! 調子コきましたッス!!」 無礼を働いたスケバンに自慢の拷問器具で折檻した元拷問官の少女は、そのまま無言でローラに続きを促す。一瞬にして気圧された最大主教《アークビショップ》(笑)は冷や汗を額に貼り付けながらも続きの説明を始めた。 「今回は犯人の特定などといふ小難しき任務にはあらず。ずばり、『フレデリック=モンドリオ』を始末せよ!! それだけの単純な任務にありけるのよ~」 「……『フレデリック=モンドリオ』?」 「……って、ええ!? あの『フレデリック=モンドリオ』ッスか!?」 ローラの言葉に、様々な反応を返す二人の少女。ちなみに言うまでもないことだが、前者はハーティ、後者はヴィクトリアである。 「『フレデリック=モンドリオ』って言ったら、ハーティは知らないかもしれないッスけど、科学サイドとの『境界』を割った魔術師を特に、……というか、ほぼ専門的に狩ってる魔術師ッス。確かに、アイツ『科学と「折り合い」をつけてる魔術師が気に入らん』とかいって感じ悪かったッスけど、そんな殺すとかまでしなくてもいいんじゃ……、」 「そうじゃなしよ、ヴィクトリア」 おずおずと言うヴィクトリアに、ローラは緩く首を振った。 「確かにアレの科学嫌いはどこかで修正せねばとは思ひたりてはいたけれど、それとは関係なし。……ここ最近、イギリスに住む科学サイド推進派の役人が連続で殺されたる事件は知りしね?」 そう言うローラに、ハーティとヴィクトリアは両人とも頷いてみせる。 「その容疑者に、フレデリック=モンドリオが挙げられたるのよ。アレは結構有能な人材だったからどうにか庇ひたかったのだけど……流石に証拠が揃ひすぎたりければ、さしもの私も庇ひきれずして、指名手配さるるといふ訳よ」 「科学排斥、っていう訳ね……。個人の主義主張はどうでもいいけど、それを自分の中に留められずに曝け出すのは間抜けとしか言いようがないわね。まあ、それが魔術師というものなんですけど」 「随分な物言ひね? あなたも魔術師にありけるでしょう?」 「私は、魔術師である以前に『拷問官』ですから」 「アタシも、古きよきリーゼントの住まう国ジャパンにある技術がそんなに悪いものとは思えないんスけど……。テレビとか、ない生活なんて考えらんないッスし」 どこか抜けた回答をするスケバンに、ハーティとローラの二人は『テレビはともかくリーゼントが既に絶滅種であることは黙っておこう……』と思う。 「で、始末というからにはフレデリック=モンドリオの使用魔術と居所くらいは教えてくれるんでしょうね?」 「ええ、それは勿論調べ尽くしたるわ」 ローラはそう言って、得意げに人差し指を振る。すると、それだけの動作で虚空から一枚の古びた羊皮紙が現れ、ハーティの手元に収まる。 「『シェフィールド大学』。彼奴は其処に潜伏したるといふ情報が、既に私の下に入りたるわよ」 3 そんなこんなでシェフィールドである。 シェフィールドとはイングランド中部にあるイギリス有数の工業都市であり、現在も学園都市系列の外部協力企業が点々と存在しており、一種の学術都市としての様相を呈している、魔術大国イギリスの中では珍しく科学色の比較的濃い都市だ。 『確認するわよ』 手の中で通信用の札型霊装を弄びつつ、ハーティは話を切り出した。 『フレデリックの使う魔術は主に「ソドムとゴモラ」の伝承に基づく魔術よ。より正確に言うと、「ソドムとゴモラを滅ぼした硫黄と火の矢の雨」の応用ね。平面を「天空」と対応させて、床や壁、天井から火の弾を撃ち出す術式、といったところです。あとはまあ、ロトが「天罰」を逃れた洞窟の伝承を応用した防御術式があるとか、そのくらいね』 『フム……。「天罰」ッスか。確か、「前方のヴェント」の使ってた魔術も「天罰」ッスよね』 『まあ、「天罰」といえば「天罰」だけど。……そもそも、天使は「天罰」なんて魔術は使わないですけどね』 ハーティの発する魔術的な会話に対応して、溜息をつくように彼女の手の中の霊装が震える。 『「天罰」っていうのは基本的に天使が行うものだから、その本質は「天使の術式」と何ら相違ないものなの。「神の右席」の使用していた術式は高純度で、フレデリックの扱う術式は一般人でも使用できるように純度を薄めたもの、それくらいの違いしかないんですよ』 『ふむぅ……』 『それに、「天使」という要素よりも「高純度」という要素の方が重要だって言うのは、貴女が自分自身の使う魔術で証明しているでしょう?』 ハーティの言っているのは、ヴィクトリアの使う北欧神話系の術式、『幻影の王』である。幻影の豊穣神を呼び出し使役するという、割と珍しい形式の魔術なのだが、これはいわば『神のレプリカ』とでも言うべき術式で、細かい理論は省くが彼に対応する霊装を振るわせればそれがたとえレプリカでも普通の魔術師の数十倍単位の威力を発揮してくれるという、極めてお得な魔術なのだ。 『えへへ、そんなに褒めないでくださいッス』 (……別に、褒めた覚えはないんだけどね……) 勝手に照れだしたヴィクトリアに、ハーティは心中で溜息をつく。 『それに、科学を併用したプロの魔術師を何人も屠っているような相手が、全くの無策で篭城したっていうのも腑に落ちないしね』 『どういうことッスか?』 『相手は魔術師との戦闘のプロよ。私たちもそれなりに場数は踏んでるけど、多分フレデリックに比べれば鼻で笑われる程度のもの。『そういう修羅場』をくぐってきた人間が、何の魔術的役割も持たないところに篭城するっていうことは、そこに留まることで何らかの手――、おそらく、大規模術式を使う手立てが出来る、というわけなんだと思います』 『……、』 『でも、フレデリックの使う「ソドムとゴモラ」の魔術には「水」――つまり、「神の力《ガブリエル》」の 天使の力《テレズマ》が深く関係しているわ。そして、このシェフィールドに「水」の属性を持つ世界の力が流れた地脈は通っていない。これが何を意味するか、分かりますか?』 問いかけるハーティに、ヴィクトリアは怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。呆れたハーティは溜息をついて、 『つまり、フレデリックにはまだ切っていない手札があるってことよ』 そんな訳でハーティとヴィクトリアの二人はシェフィールドのイギリスには珍しい科学的な街並みを歩いていた。 普段はかなり『悪目立ち』する外見のハーティだが、この街は学園都市の影響か、かなり変わったファッションが流行っているので特別視線を集めることはなかった。尤も、ハーティもバカではないので一般人の多い街に紛れ込むときには自身の認識に違和感を感じさせないように相手の感覚を弄くる魔術を使ったりするのだが。 「で、フレデリックが潜伏しているのはシェフィールド大学、だったかしら」 言いながら、ハーティは手持ちの携帯電話(スマートフォン)を操作して画面上に地図を呼び出す。地図上では、ハーティ達の現在地点が赤い点として点滅しており、その上に目的地であるシェフィールド大学が緑の点として点滅していた。 ハーティが携帯電話の画面上の緑の点を触れると、そこから新たにシェフィールド大学の情報が記されたウィンドウが表示される。 「学園都市を除いた世界の大学の中でもトップ七〇位に君臨する学校、ね……。フレデリックが好きそうな学校じゃないですか」 「どうするんスか? 清教の方から大学には入場許可をもらってるらしいッスけど、まだ日中だし、学生の多いこの時間帯に戦闘するのはマズくないッスか?」 不安げに尋ねるヴィクトリアに、ハーティは緩く首を振った。 「それに関しては問題ないわ。最大主教《アークビショップ》から人払いのルーンを預かってますから」 そう言うハーティの右手には、確かに人払いのルーンが描かれた紙(防水《ラミネート》加工済み・ステイル=マグヌスお手製)があった。 人払いのルーンとは数多にある『ルーンの魔術』の中でも最も基本的なものであり、それだけに使用者(作成者)の実力が問われるルーンの一つである、ルーンにより『地脈』の流れに干渉、人に『近づこうと思わせない』ことで、結果的に人を払うという結果を発生させる魔術だ。 今回、市街戦になることを考慮した最大主教《アークビショップ》が、ハーティに何枚か持たせていたのだった。 「とはいえ、さっき話したフレデリックの持つ『手札』はおそらく地脈や世界の力に関するもの。最悪、人払いのルーンが無効化されることも有り得るわ。そのつもりで、短期決戦を挑みますよ」 「了解ッス!!」 そう言って、気持ちも新たにガッツポーズするヴィクトリアだったが、気合を入れて右手を挙げた拍子に通行人にぶつかってしまう。ドン、と自分よりも明らかに大柄な男とぶつかったヴィクトリアは僅かによろめく。 「あ……、すみませんッス」 反射的に謝るヴィクトリアだが、ぶつかられた通行人はむすっとした表情でヴィクトリアを一瞥した後、すたすたと歩き去ってしまった。周囲の通行人も、そんなヴィクトリアの方を白い目で見つめていた。 「……、」 ヴィクトリアは去っていった通行人の方を少しだけ苦い表情で眺めていたが、その姿が見えなくなると、すぐさまハーティの方に向き直った。 「……なんスかアレ! 感じ悪っ!!」 「いや、今のは貴女が悪いでしょ?」 「にしても、シカトじゃなくたって、『ちゃんと前見て歩けやボケ!!』とか『おぉい……気ぃつけろよ嬢ちゃん……』とか『いってぇ~、腕折れちまったじゃねえかよぉ~弁償しろよぉ~』とかあるじゃないッスか!!」 (そっちの方がマズイと思うんですけど……) 「それによーく周りを見渡してみたら……、」 そう言って、ヴィクトリアはあたりを見渡す。 「なんつーか、街全体が『冷たい』感じしないッスか? 通行人同士が互いに避けあってるみたいな……。ロンドンだって都会ッスけど、ここまでお互いに避けあったりはしてないッスよ」 言われてみて、ハーティは周囲を見渡してみた。どうでもいい人間はとことんどうでもいいハーティは今まで気付かなかったが、確かに街は車などが出す以外の音――店の売り子や、通行人同士の会話の声などは殆どなかった。たまに聞こえる会話の声も、歩きながら携帯に話しかけているようなものばかりである。 「……まあ、科学サイドの都市なんて大体こんなものじゃないの? そこまで気にするほどのことじゃないと思うけど。むしろ、こっちの方が静かだから私は好きですね」 「ええー……、まあ、ハーティみたいな変人、……もとい!! もといって言ってるから鉄槌構えないで!! ……『大人しい子』にとってはこっちの方がいいのかも知れないッスけど、感じ悪いことに変わりはないと思うッス」 むぅ、と唸るヴィクトリアに、ハーティは呆れ、 「別に私たちがここに住む訳じゃないんだからどうでもいいじゃない。それより、侵入の手順ですけど……、」 「そ~ゆ~ことじゃなないんスよ~~!!」 ……スケバンと拷問官の凸凹コンビ、こういうところの温度差はまだ激しい。 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/286.html
4 「イギリス清教の職員、ハーティ=ブレッティンガムとヴィクトリア=ベイクウェルです。話は通っているわね?」 「はぁ……、確かに、入場許可証はありますね。それではごゆっくり」 シェフィールド大学にやってきたハーティとヴィクトリアは、受付にいた四〇代くらいの男と軽く会話を交わすと、そのまますんなりと入場した。 入場し、人払いのルーンを何箇所かに施した後で、後ろをちらちらと振り返りながらヴィクトリアが言う。 「……何だか、拍子抜けッスね」 「何? 入場して早々魔術攻撃が来るとでも思ったの?」 「事実、前回は似たようなモンだったじゃないッスか」 前回――『キース=ノーランド謀反事件』では、目的地に到着するや否や戦闘が始まった。今回の場合も、フレデリックは追っ手がやってくる可能性を考えているだろうし、まして彼は現役のプロ、ノーランドよりもよっぽど強力な罠を仕掛けることだって可能だったはずだ。 「……考えられる可能性は二つ。フレデリックはただの魔術師二人なんて簡単に殺せると舐めてかかっている。もしくは、フレデリックの『手札』の関係上、必要以上に動き回ることが出来ないでいる。どっちだと思います?」 「……そりゃもう、言うまでもないッスよ」 瞬間、二人の少女の纏う空気が変わる。 ヴィクトリアは右手を自分の身体の影に隠す。いつもよりも細められ、敵意に満ちている彼女の眼差しの先には、爬虫類を思わせる目つきの痩せぎすな小男が佇んでいた。 「どうやら奴さん、早速現れたみたいッスよ。『手札』の準備が終わったか、それとも何も考えずノコノコ出てきたか……、どちらにせよ、攻撃する以外に道はないッス!!」 ヴィクトリアは叫ぶと同時、左手を振る。すると、彼女の手の先に一振りの細い剣が現れる。 この剣は『勝利の剣』という霊装で、豊穣神フレイの持っていた『賢い者が振るえば使い手の手を離れて勝手に敵を斬ってくれる』という剣《つるぎ》のレプリカである。レプリカゆえ本物のような威力はないものの、『距離を超越して相手を斬りつける』能力を持っている。 しかし、ヴィクトリアがこの剣を振るう前に相手も動き出す。 「――『堕落には裁きを《JIGTD》』」 「――ッ!!」 瞬間、考えるよりも早くハーティはヴィクトリアの後ろに立った。明らかに炎と分かる熱量を後ろから感じたからだ。 ドガガガガ!! という音と共に、ハーティの背中に痛みと熱が走る。 「ぐう……ッ!!」 「は、ハーティ!!」 背中に炎弾を受けて思わず悲鳴をあげかけるハーティに、ヴィクトリアは慌てて駆け寄ろうとするがそれをハーティは手で制する。 「……大丈夫よ。この拘束着にはある程度だけど防護機能もありますから。火刑と水刑への耐性はある程度持っています。……私はアイツの注意をひきつけておくから、貴女は早く『王様』を連れて援護にきてね」 「駄目ッスよ!! そんな危ない……、そうだ、コレ持っててくださいッス!!」 今にも泣きそうな情けない顔でハーティを引き止めたヴィクトリアは、そう言って彼女の手に布袋を手渡す。 「これは……まさか、」 「魔法の船《スキーズブラズニル》ッス!! 魔力を流せば誰でも簡単に船に出来るッス。動かすことはできないッスけど、丈夫だから盾くらいにはなるはずッス!!」 「…………分かったわ。ありがとうございます」 ハーティは少しだけ微笑んでそう言うと、ダン!! と地面を踏み慣らし中学生程度の少女とは思えない機敏な動きでフレデリックに肉薄する。 「…………近づかれるのは危険だな、危険……。『堕落には裁きを《JIGTD》』」 「――二度同じ手は食いませんッ!!」 余裕の表れか、今度は攻撃の方を見ずに懐から取り出した鉄槌をそのまま振るハーティ。ゴガン!! という音が響き、ハーティの死角から放たれた炎の矢は弾き飛ばされた。 「……チッ。気に食わない気に食わない……。何故貴様らは『科学』の肩を持つ? 貴様らは『魔術』師だろう。敵対している科学を打ち滅ぼさないで何をする。不可解、不可解だ……」 「魔術師の貴方なら分かっているでしょうに」 不快そうに眉を顰めているフレデリックを鼻で笑い、ハーティは言う。 「魔術師にとっては、『科学』だの『魔術』だの以前に、何よりも『大切なもの』の方がよっぽど優先されるということをッ!!」 「――ッ……!! 『ロトは洞窟に身を隠す《RHHIAC》』……!!」 即座に振られたハーティの鉄槌に対応し放たれた空気の釘を見たフレデリックは、即座に叫ぶ。すると、釘はフレデリックの前方数センチほどの位置で見えない何かに遮られ攻撃力を失った。 間近で見るフレデリックは、ハーティの想像以上に高身長だった。否、あれは極端な猫背の所為で身長が小さく見えていただけだったのかもしれない。 「有り得ない有り得ない……。そもそもそれが間違いだと言っているのだ……。主の教えを忘れ、『科学』などという自分たちのちっぽけな力を信じ込む行動……堕落、堕落だろう……!! 形こそ違えど、堕落都市ソドムとゴモラの焼き直しそのものではないか…………!!」 「貴方……イギリス清教よりローマ正教の方が向いてますよ」 それだけ言葉を交わすと、戦闘は再開された。 「『堕落には裁きを《JIGTD》』ッ……!!」 フレデリックの叫びに呼応するようにハーティの足元から炎が現れる。対するハーティは、その一瞬で懐に鉄槌をしまい、黒いペンのような霊装を取り出し振る。 ヒュウン!! と何かが風を斬る音が響き、数発の炎弾が何かに叩かれたようにひしゃげて飛び散る。 「な……、」 「『鎖鞭』ですよ。まあ、持ち運びの利便性を考えて『鎖』はその場にあるありあわせで『生成』してるけどね」 ハーティの持つペンのような霊装の先には、こびりついた炎の破片によって透明な『鎖』の姿が浮かび上がっていた。ハーティは鎖鞭を振ることで残った炎を完全に消し飛ばすと、そのまま鎖鞭を持った右手を突きつける。 「私程度にてこずっているようでは、勝ち目などないわ。最後通告です。此処で大人しく降伏すれば命だけは助けてあげる」 言いながら、ハーティは疑問を感じていた。科学という『禁じ手』を使って強化された魔術師相手に戦ってきたプロが、如何に実力ある魔術師とはいえハーティ一人にここまで手古摺ることなど、有り得るだろうか? 「……愚問だ愚問……!! 私は、こんなところで止まっているわけにはいかんのだ…………!! 『堕落には裁きを《JIGTD》』……!!」 しかし、フレデリックはハーティに考える暇を与えない。返す刃で放たれた炎の弾丸は、ハーティの『鎖鞭』によってあっけなく弾き飛ばされる。 「……それが答え、ね」 「無論、無論だ…………。この程度の妨害で私を止められると思っていたのか? 笑止、笑止だ……」 嘲るようにフレデリックは言う。自らの得意術式を完璧に防がれ、一方的に相手の間合いで『料理』されている最中の発言とは、とても思えない様子だった。しかし、そんな余裕なフレデリックを、ハーティもまた鼻で嗤う。 「なら仕方ないですね。貴方は『王』に裁かれなさい」 は? と聞き返す暇すらなかった。 道を譲るように僅かに横にずれたハーティの背後には、古代ヨーロッパ風の衣装を身に纏った美丈夫を伴わせたヴィクトリアの姿があった。その手には、細身の剣が握られている。 フレデリックは、『天罰』……特に『ソドムとゴモラの伝承』を専門としている魔術師だが、それでも他の伝承について知らない訳ではない。例えば同じ『天罰』の代表である『バベルの塔』関係にもある程度の知識を持つし、魔術師と相対する関係上、北欧系の神話にもそれなりの知識はある。だから、ヴィクトリアの使っている『勝利の剣』という霊装がどういうものなのかも知っていた。 この霊装は、豊穣神フレイの持っていた『賢い者が振るえば使い手の手を離れて勝手に敵を斬ってくれる』という剣《つるぎ》のレプリカで、レプリカゆえ本物のような威力はないものの、『距離を超越して相手を斬りつける』能力を持っている。レプリカで、その威力。この上、『幻影の王』の効力によって威力が跳ね上がったりすれば、一体どうなるのか。 「……ッ……!! 危険、危険だ……!!」 「逃がすわけが、ないでしょう?」 即座にその場を離れようとするフレデリックだが、それは既に遅かった。彼がその場から離れようとした時には、既に彼の身体には見えない鎖が巻きつき、彼の体の動きを完全に抑えていた。 「『鎖鞭』の応用ですよ。『鎖』部分を拘束具の一部と対応させることで、貴方の動きを封じさせてもらったわ。なに、安心していいわよ。拷問魔術には致命傷を負った罪人を延命させることで情報を吐かせる術式も存在しています。上半身と下半身が永遠に分かたれたからといって、すぐに死ぬわけじゃないわ。……それが幸か不幸かは分かりかねるけどね」 「…………――ッ…………!!」 問題は、拘束だけではなかった。ハーティの魔術の効力か、体内での魔力循環がバグを起こしているのだ。まるで、魔力の回路がところどころガス詰まりを起こしているかのような、そんなイメージ。下手に体内に魔力を流せば、すぐにでも爆発してしまいそうな不安定。 打開策など有り得ない。通常の魔術師は勿論、あの『神の右席』だってこの状況から巻き返せといわれてもできっこないだろう。 「――行くッスよォ!!」 ヴィクトリアの宣言がその場に響いた瞬間、あらゆる音が消し飛んだ。 いや、正確には違う。斬撃が発した轟音を、斬撃の衝撃波自身が消し飛ばしたのだ。たったそれだけで地面は抉れ、大学のとある中庭は戦場跡と化した。 しかし、そこにバラバラになったフレデリックの姿はない。 代わりにいるのは、苦々しい表情を浮かべ呆然としているハーティの姿。 「危なかった危なかった……。かなり、惜しいところまで行っていた」 フレデリックは、そんなハーティの目の前で当たり前のように佇んでいた。 「……私の魔力回路を封じ……、完全に無力化した上で必殺の一撃を決める……。……確かに、良い作戦だった。……私でなければ、……いや、この作戦を遂行している最中でなければ、確実にやられていた……。賞賛、賞賛しよう……」 「……何で、私の『拘束』を……」 困惑した表情で呟くハーティを、フレデリックは鼻で笑う。 「愚問だ、愚問……。貴様らだって、私がこの何の変哲もない大学に篭城した時点で『私が地脈に何らかの細工をしようとしている』可能性に気付けただろう? 私と地脈の間には、一種の魔術的なリンクが生まれている……。それを利用して魔力回路の異常を修正し、『私自身にかかっている魔術的な位置捕捉』を回避した……、それだけの話だ」 当たり前のように言うフレデリックだが、それでもハーティには納得できなかった。フレデリックが偶像の理論の応用により『地脈と体内の魔力回路の類似性』を利用して自分の魔力回路にかけられたハーティの魔術を解除したのは理解できた。しかし、そもそもフレデリックにはその魔術を解除する為の魔術が使用できないはずだった。 「まだ気付かないのか……? 愚鈍だな、愚鈍……。『人払いのルーン』だ。貴様らが張ったのだろう……」 「……、」 そこまで言われて、ハーティは相手の行った行動の全貌を理解した。 「……『人払いのルーン』は、地脈の流れに干渉することで人に『その場に近づきたい』と思わせないことによって結果的に人を払う効果を発生させるルーン……。それは、広義では地脈の流れをある程度自由に操作することができるということ。つまり、偶像の理論を対応させることで『人払いのルーン』を自分の管理下に置き、ルーン自体の魔力を使用することで私のかけた『魔力阻害』にひっかかることなく『魔力阻害』自体を解除させた訳ですね……」 「……理解したか。意外に聡明、聡明だな……。――『ロトの妻は塩となる《RWBAS》』」 フレデリックが呪文を唱えた瞬間、バアッ!! とフレデリックの体から塩が舞い、同時に散らされる。塩を散らした彼の視線の先には、腕を振った直後と思わしき『幻影の王』と、彼を背後に佇ませたヴィクトリアの姿があった。 「……流石に、このままの状況だと無勢……無勢だな。一旦、撤退、撤退させてもらおう――『御使は直訴を聞き入れる《AAGAP》』」 「く、待……、」 膝をついたハーティはフレデリックの動きを止めようと追い討ちをかけるが、フレデリックはこれをあっさりと防いでしまう。そうこうしているうちに、フレデリックはヴィクトリアの追撃が来る前に虚空に溶けるようにして消えてなくなった。 5 二人の少女は、建物の外の物陰で息を潜めながらフレデリックを探していた。 「……フレデリックの動きはどうなってるの?」 「うーむ……。どうやら相手のほうで妨害術式を組まれてるクサイッスね。大まかな位置は探知できるッスけど、それ以上は分からないッスね」 「そう……」 古代ヨーロッパ然とした美丈夫の幻影を背後に漂わせたヴィクトリアの言葉に、ハーティはため息をついた。 現在彼女達は、即席の認識阻害魔術(地脈を介したものは操作される恐れがあるので、個人の魔力を利用したもの)を中庭にかけてフレデリックを追撃していた。 「大体なんなんスか、アレ。全然 最大主教《アークビショップ》の話と違うじゃないッスか、フレデリックの使用術式。火の矢の術式と防御術式は正しい情報だったッスけど、アタシの『勝利の剣』を回避した術式とか、最後の消える術式なんて全く説明なかったじゃないッスか」 「そうね」 不信感を露にするヴィクトリアに、ハーティはあっさり頷いた。 「そもそも、おかしいといえばフレデリックの実力からよ」 「……? フレデリックの実力? 確かに奴はスッゲェ強い奴ッスけど……、」 「そうじゃないわ。確かにフレデリックは強いです。でも、あれじゃ精精上の下。正直私程度でも普通に勝てる程度の力量でしかないわ」 「…………アタシ一人じゃ勝てそうもないような相手だったッスけど……」 「それは単に相性の問題でしょう。地面に神殿を築く関係上、地脈の影響を受けやすい貴女の魔術じゃ、地脈に深い知識を持っているフレデリック相手に敵わないのは当然よ」 「……そう! おかしいって言えばそこもおかしいじゃないッスか!! フレデリックはそもそも『ソドムとゴモラの神話』に長けた魔術師だったんじゃないッスか!? 確かに、魔術師としての実力もあるんスから色んな方面の術式を収めててもおかしくないッスけど、アイツの使用魔術を見る限り地脈から界力《レイ》を抽出するようなやり方をいつもしてるようには思えないッス!」 「……、」 ヴィクトリアの指摘に、ハーティは押し黙った。 ハーティとしても、そこは気になるところだったのだ。魔術というのは、やり方さえ知っていればどんな凡人だろうと扱うことの出来る『技術』である。しかし、一方で魔術とは『学問』でもある。例えば火を自在におこせるようになりたければ、火に関する魔術的な法則を学ぶ必要がある。だから、北欧神話系の魔術を修めた魔術師はほかの魔術について全く知らないわけではないが、同様にアステカ神話の魔術を修めた魔術師と同じような魔術を使える訳ではない。 今回の場合も、拷問魔術を使用する関係で『偶像の理論』について造詣の深いハーティならともかく、神の力《ガブリエル》の行使した魔術の中でも特に『ソドムとゴモラの神話』関係の魔術に特化している『だけ』のフレデリックが地脈を、それも自分の体と対応させて操作するという離れ業を扱えるはずなどなかった。 「……でも、現に使えてしまっているわ。いくら畑違いの魔術を使用しているのが有り得ないといっても、現実に使えてしまっている以上その理由を考えるのは無駄でしょう。あの様子だと、ソドムとゴモラの伝承の中で何らかの小細工を用いて結果的に地脈を操作しているという訳でもなさそうですし」 「そうッスね」 「問題は、相手の手札に『地脈の操作』というピースが増えてしまったことです。魔術はその特性上大多数は応用の効かないものが多いですが、相手はプロの魔術師を何人も屠った存在。実力が見立てよりもないということは咄嗟の応用力に優れている可能性が高いわ。気を引き締めていくわよ」 それだけ言うと、ハーティは『鎖鞭』の霊装を左手に持ち、右手で『鉄槌』の霊装を持つ。 『鉄槌』の握り心地を再確認したハーティは、適当にビュンビュンと地面に空気の『釘』を刺していく。 「……何やってんスか?」 「私の扱う魔術は『魔力の流れを阻害する』ものよ。通常は地脈を流れる『世界の力』には効果を与えることはできないけれど、さっきの戦闘でフレデリックは『自分の体と地脈を対応させている』と言っていたわ。なら、偶像の理論の逆流によって地脈にもごく少量魔力が流れていて、それが奴の作戦に何らかの加護をもたらしているかもしれません。だから、念のためこうやって杭を仕込んでおいて相手の手札を少しでも減らそうとしてる訳です」 「はぁー……」 言いながらカン! と空気の『釘』を飛ばすハーティに馬鹿正直に感心したヴィクトリアを見て、彼女はため息をついた。 「……感心しているようだけど、貴女の方は大丈夫なの? 貴女の魔術は塚を模した神殿を作る関係上、地脈の影響をモロに受けるはずでしたが、向こうから妨害されたら面倒じゃないですか?」 「……あー、多分大丈夫ッスよ。一応アレの防御術式の中には『「世界の力」をそのままの形で溜めておくことで地脈関係を操作されても一定時間貯蓄した「世界の力」を使うことで機能を維持する』機能もあるッスからね。直接ブチ込まれない限りは大体三〇分持ちますし、フレデリックの地脈の操作法からしてもそれはないでしょ、うし……」 説明していたヴィクトリアは、その途中で急に目の色を変えた。 いや、目の色を変えたのはヴィクトリアだけではない。ハーティもまた、驚愕に目を見開いた。理由は簡単。その場の『空気』が一瞬にして変質したからだ。 「……これは…………天使の力《テレズマ》!? でも何で!? こんな 天使の力《テレズマ》……第三次世界大戦中に確認された『神の力《ガブリエル》』レベルッスよ!?」 「それだけじゃないわ!! この感じ……このシェフィールド大学全体が『神の力《ガブリエル》』の 天使の力《テレズマ》を溜め込む神殿に作りかえられてるわ!! おかげで外界に 天使の力《テレズマ》が漏れている様子はないですが……、このままだと、地脈が超過圧に耐え切れずに破裂しますよ!?」 クソ、とハーティは歯噛みした。 おそらく、フレデリックの不気味な篭城はこの為だったのだろう。元々の主目的は、この神殿の立ち上げ。しかし、それがバレてしまうと清教指折りの魔術師……例えば魔術サイドでは核兵器級の戦略的価値を持つ聖人の神裂火織や、一四才にして教皇級魔術を修めたステイル=マグヌスなど、途方もない戦力を注ぎ込まれる事となる。それを避ける為にあえて『科学サイドの要人殺害』というそれなりに脅威的な別の罪科を作ることで、敵戦力を弱く『調整』したのだ。 「このままではマズイ……! フレデリックが何らかの大規模魔術を行使するつもりにしても、地脈を超過圧で爆裂させるにしても、これほどの 天使の力《テレズマ》を使ったらロクな結果にならないことは目に見えてるわ!! 今すぐ止めに行くわよ!!」 「……ッ!! はいッス!!」 幸い、膨大な 天使の力《テレズマ》を使われている為神殿の中心部は捜索術式無しでも特定できた。 後は、イギリスと世界の平和の為に悪い魔術師を拷問《オシオキ》するだけである。 6 膨大な 天使の力《テレズマ》の出所はシェフィールド大学の中でも西に位置する、オクタゴンセンターの中心だった。西、という方位にハーティは不穏な感情を覚える。 何せ、神の力《ガブリエル》は『神の後方に立つ天使』や『水と月の守護者』と同じくらい、魔術界隈では『西方を守護する者』として有名なのだから。 (この 神の力《ガブリエル》の 天使の力《テレズマ》、フレデリックの専門分野、そしてこの方角……) 体全体が震えるような 天使の力《テレズマ》を感じながら、ハーティは思う。 (マズイわね……。地脈を暴走させて自爆するつもり? 周辺住民の退避は……間に合わないですね。地脈が爆発しないうちにフレデリックを始末しなくては) 「……此処ッスね」 ヴィクトリアの強張った声にハーティが顔を上げると、目の前には既に八角形のホール、オクタゴンセンターがあった。学園都市の建築技術によってちょこちょこ改築が施されているらしく、周囲のレンガ造りの景観に上手く溶け込むように設計された『科学的意匠』が随所に組み込まれている。 天使の力《テレズマ》を内部に蓄えている影響か、全く魔術的要素がないにも関わらず一種の神殿と化してしまっており、周囲の地脈から吸い上げられた世界の力が自動的に界力《レイ》に変換されている有様だ。 「……不安定ね」 それは特に神殿の建設に詳しい訳でもないハーティでも分かるほどに危険な状態だった。 そもそも、神殿というのは魔術を使う為の霊装が大きくなりすぎた為、個人の魔力では動かせなくなって仕方がなく世界の力や 天使の力《テレズマ》に頼ったものである。しかしこの場合『天使の力《テレズマ》が大きくなり過ぎたため、その濃度によって爆裂しないように建物自体が半ば自動的に神殿としての機能を得た』状態であり、順序が逆な前者に比べて当然のごとく魔術的に不安定な状態になっている。それでも下準備や応急処置などが施された形跡は見られるのだが、明らかに修復が間に合っていない。 「…………マズイわね……。このままだと、不完全な神殿自体が 天使の力《テレズマ》に押し負けて後五分もしたら爆裂してしまうわ」 「クソッタレ!! あーもう何だってアタシ達はこうシビアな仕事ばっか任されるんスか!? あの程度のボーナスでちょっと大きめのカップラーメンが出来るまでに地球を救えってウルトラマンでも無茶な難題叩きつけるなんて最大主教《アークビショップ》はどうかしてるッス!!」 「ウルトラマンはいつもスタンダードなカップラーメンが出来るまでに地球を救ってるわよ」 苛立ち紛れに壁を殴りつけるヴィクトリアにハーティは適当に言って、扉を開く。 天使の力《テレズマ》は本来別位相のエネルギーであり、三次元世界に呼び込んでも人間の五感で察知できるものではないのだが……、それでも語弊を承知で表現すると、扉を開けた瞬間ハーティは『もわっ』とした蒸気のような何かを感じた。 それほどまでに高濃度の 天使の力《テレズマ》が呼び込まれていた。 ホールの中は八角形を構成している角のうち四つに四角形が描かれるよう四枚の『人払いのルーン』が張られており、その四角と中心を結ぶ直線状の中点に赤・緑・黄・青の四種類の柱が立っており、科学の中に魔術が点在している様子はまるで現在の世界の情勢を表しているようだった。 「……フレデリック=モンドリオ」 そして、その中心にこの未曾有の大事件を起こした張本人は佇んでいた。 「……『バベルの塔』だ」 二人がオクタゴンホールに入ったのを察知したフレデリックは、ささやくようにそう言った。 『バベルの塔』。旧約聖書の『創世記』において、ノアの大洪水の後に世界各地に散ることになった人類が、それを免れる為に建てようと計画した塔の名である。この塔の高さは天に届くまでになるはずだったと言われており、現にこの塔の完成を危惧した神が破壊し、二度と同じことが出来ないように人類の言語を部族ごとにばらばらにしたと言われている。 「……『バベルの塔』ッスか?」 およそ塔らしき装飾がない神殿を俄かに見渡したヴィクトリアが怪訝な表情で呟くと、フレデリックは軽く頷いた。 「……肯定、肯定だ……。伝承に登場するアレは、『神の住む世界にも到達するほど高い建造物』とされていたが、今日《こんにち》の魔術業界の常識でもあるように、天界とはそもそも『高度』で語れるような場所ではなく、別位相に存在するものとされている。そもそも、『バベルの塔』とは元々は『バビロン』……『神の門』が語源だと言われているしな……。そこで私は、『バベルの塔』を『天界とこの世を接続する為の神殿』と定義した……」 「……馬鹿な。『天界とこの世を接続する』ことが仮に出来たとして、そんなことをしたら地脈が暴走して爆裂するはずです!!」 「……愚問、愚問だな……。だからこそ『バベルの塔』は崩壊したのだろう……?」 その言葉に、ハーティは思わず絶句した。フレデリックの『バベルの塔』が崩壊したことに対する解釈に、ではない。彼が、『バベルの塔』の崩壊……即ち未曾有の大災害に全く関心を払っていないことに対して、だ。 「……安心しろ安心しろ……。心配しなくとも、『まだ』この地を滅ぼすつもりはない。たとえ本物の天使級の 天使の力《テレズマ》が集まったとしても、本物の天使級でないと使えない燃費の術式を並行して行使すればしばらく暴発せずに神殿はとどまるだろう?」 フレデリックはそう言っているが、この街はどちらにせよ破壊されるだろう。術式に 天使の力《テレズマ》を供給させているうちはいい。しかし、術式が終了し、天使の力《テレズマ》を流す先がなくなれば、行き場を失った 天使の力《テレズマ》は比較的似た力の流れる地脈に一気に流れ込み、結果的に容量過多になった地脈は爆裂、イギリスの三分の一弱が焦土となるはずだ。 (……それに) これほどの出力を要する大魔術が生半可な目的で使われるわけがない、とハーティは思う。この魔術師の性格上……、 「それで、学園都市を滅ぼす、という訳ですか」 「名答、名答だ……。学園都市は、大きくなりすぎた……。主の教えを忘れた愚かな子羊に、主の御手の尊さを思い出させるのだ……!」 恍惚とした目つきで語るフレデリックに、ハーティは思わず歯を噛み締めた。 「確かに、学園都市は第三次世界大戦に勝利し、大きくなりすぎたわ。貴方が誰にも迷惑をかけず、学園都市の要人だけ暗殺したのなら私も見逃したことでしょう」 でも、とハーティは言う。 「だからといって、何の罪もないシェフィールドの住民を巻き込んで良い理由にはならない。イギリスにいる科学サイド推進派の人間を殺して良い理由になんかならない」 「意味の分からないことを……!! シェフィールドの何処が無辜だと言うのだ……!! この建物を見て分からないか……!? 骨の髄まで科学に犯されたこの堕落都市の有様を……!! 罪科、罪科の塊だろう……!!」 怒り狂うフレデリックに、ハーティは『話にならない』と心中で吐き捨てた。この男は、この狂人は最早どこまで行っても止まらない。自分の中の独りよがりな『正義』に則って、どこまでも傲慢な『天罰』を下し続けるのだろう。 「イギリスの汚点め……、叩き潰してやるッス!!」 「何を言うか何を言うか……!! 汚点は貴様らの方だろう……!! 科学と馴れ合いばかり、魔術国家の名が廃る!! 貴様らには魔法名さえ名乗る価値はない!! ――『振り向いてはいけない《DNTA》』!!」 フレデリックがそう声を響かせた瞬間、ゾン!! と二人の背後から『何か』の気配が発生した。殺気、敵意、視線、重圧……そういった『第六感』的な未分類情報が、背後にある『何か』の存在を訴えていた。 (こ、れは……神の力《ガブリエル》の『伝令の天使』という性質を利用した、『第六感』への干渉? く、悪趣味な術式《モノ》を……!!) 「ヴィクトリア!! 後ろの気配はおそらくブラフよ!! フレデリックから視線を外さない様に、」 「『堕落には裁きを《JIGTD》』……!!」 フレデリックの一挙手一投足を見逃さないようにしているハーティは彼から目をそらさずにヴィクトリアに忠告しようとするが、轟!! という音と共に発生した炎弾によって妨害される。 「く、ヴィクトリア、大丈、……」 咄嗟に自身ではなく先ほどヴィクトリアから譲り受けた『魔法の船《スキーズブラズニル》』を盾にしたハーティは、即座にヴィクトリアの安全を確認しようとして、またもやその動きを中断した。 とさり、という音とともに、ヴィクトリアが前のめりに倒れこんだからだ。 「ヴィクト、リア……?」 信じたくない、といった表情で下に視線を落とすハーティ。彼女の視線の先には、まるで死んでしまったように倒れこんでいるヴィクトリアの姿があった。 「……、…………。…………いや、今は考えている場合ではないわね!!」 一瞬、本当に一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべたハーティだが、すぐに無表情に取り繕うと、ドッ!! と超人的な膂力を持ってフレデリックとの距離を詰める。 「……意外、意外だな……。仲間が死んだことに動揺して、まともに戦えなくなると思っていたが」 「お生憎様。私は味方の死をすべて未然に防げるほど優秀じゃないもの。今までだって味方の死は経験してきたわ。それより、貴方は儀式場を守ることに専念したほうがいいんじゃないの? 下手にアレが潰されたら、貴方も私も天国行きよ?」 「面白い面白い……。それもまた一興という奴じゃないか……? この堕落した都市と引き換えに滅びるというのも、なッ……!! 『堕落には裁きを《JIGTD》……!!」 またもや背後から放たれた炎弾を、ハーティは横に跳ぶことで回避する。 (また『背後』……。折角椅子や机があるのだからその物陰から攻撃すればいいのに、どうして『殺気』を浴びせて過敏になっている背後から攻撃しているの?) 先ほどハーティが感じた『殺気』や『視線』はまだ抜けていない。そんな状態で背後から攻撃したところで、『かわしてくれ』と言っているようなものである。 「フム……。面白い。 『ロトの妻は塩となる《RWBAS》』」 フレデリックが興味深そうに笑うと、彼の服の中からドバッ!! と大量の塩が撒き散らされ、ハーティの視界が覆われる。 最初は目晦ましかとも思ったハーティだが、すぐに異常に気がついた。 「こ、れは……!! 『感覚』が……」 魔術師は、みな無意識に『魔力』を感知して周囲の生物の所在を把握している。自分自身の放つ魔力の所為で精度はかなり甘いが、それでも『あって当然』としている魔術師にとって、『魔力』の異常というのはかなり異質な異常だったりする。 そして、現在ハーティを襲っている『異常』は、『周囲の空間すべてからフレデリックと同じ魔力が感じられる』、というものだった。 「く、こんな目晦まし……!!」 『鉄槌』を振ることで空気の釘を乱射し塩を飛ばそうと考えるハーティだったが、それは敵わない。 ドガガ!! という音とともにハーティの背中に鋭い熱の痛みが走る。 「ぐ、がッ……!?」 質量さえ持っていそうな炎に吹き飛ばされたハーティは、ホールの座席の上を水切り石のように吹っ飛んでいく。 『…………どうだ? 私の本領を味わった感想は』 何らかの魔術でも使っているのか、フレデリックの声はすべての方向から聞こえてくるようだった。 「……目晦ましに、相手の意識を散らす術式。加えて死角からの攻撃……。正直、残念です。『科学』の力を使った魔術師を屠ってきたというのだから、どれほど強い魔術師なんだろうと思っていたんだけれど……。これが本領なんて、とんだ三下ですね」 『……笑わせるな笑わせるな。現に貴様は何もできていないではないか……。その拘束服の恩恵も、いつまで持つのだ?』 塩の粒一つ一つが放っているようにさえ錯覚するフレデリックの声に、嘲笑の色が混じる。その言葉に、ハーティは鎖鞭を持つ左手で自らの肩を抱く。確かに、彼女の拘束服は先ほどからの攻撃で傷み始めていた。 (考えなさい……。この状況で、助けなんか来るはずもない絶望的な状況で、すべてをひっくり返せる方法を。……おかしいところはいくらでもあったはず。そこから最善策を考えて、フレデリックの有利を潰せば……、) フレデリックが呑気に嘲笑しているうちに、ハーティは自分の持てるすべてを駆使して状況を打開する策を探す。 (何故フレデリックは私の前から姿を消したの? 『科学』と交わった強力な魔術師さえ嬲れるほどの戦力なら、私程度に余計な小細工をする必要なんてないはず) そこで初めて、ハーティは明確な違和感を感じ取った。 (そもそも、私がこの段階で立っていられること自体が不自然なのよ。敵の、『科学』と交わった強力な魔術師を葬れるはずの攻撃を二発も食らっているのに、こうして動き回っていられるなんて) 少しずつ、ピースがそろっていく。ハーティの口元は既に苦しみではなく余裕を浮かべていた。 (……考えられる可能性は、一つ) 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/actors/pages/1760.html
ヴィクトリア・ヒルをお気に入りに追加 ヴィクトリア・ヒルのリンク #blogsearch2 ヴィクトリア・ヒルとは ヴィクトリア・ヒルの26%は苦労で出来ています。ヴィクトリア・ヒルの22%は成功の鍵で出来ています。ヴィクトリア・ヒルの20%は情報で出来ています。ヴィクトリア・ヒルの13%は回路で出来ています。ヴィクトリア・ヒルの12%は勢いで出来ています。ヴィクトリア・ヒルの6%は毒物で出来ています。ヴィクトリア・ヒルの1%は純金で出来ています。 ヴィクトリア・ヒル@ウィキペディア ヴィクトリア・ヒル ヴィクトリア・ヒルの報道 ヴィクトリアズ・シークレットの元専属モデル、過酷で危険なダイエット方法を告白! スリムな体型を要求するブランドからのプレッシャーでうつ、摂食障害、不安症などの健康問題がモデルの間で多発していた - tvgroove - TVグルーヴ・ドット・コム 香港・炮台山に公共広場誕生 香港島と九龍半島両岸を同時に臨める防波堤も - 香港経済新聞 ツールを走ったバーレーン・ヴィクトリアスのバイクたち メリダ 新型SCULTURA、TIME WARP TTほか - ツール・ド・フランス2021プロバイクVol.20 - cyclowired(シクロワイアード) 元ヴィクシーエンジェルのジャスミン・トゥークス、スナップチャットの重役と結婚 - ELLE テイラー・ヒルが“セルフメイク”を公開!愛用するコスメや使い方を全部見せ - フロントロウ ヴィクシーエンジェル=ジャスミン・トゥークスの独身最後のパーティーにテイラー・ヒルら人気モデルが大集合! 和気あいあいとした様子にファン歓喜 - tvgroove - TVグルーヴ・ドット・コム 元ヴィクシーエンジェルのテイラー・ヒル、交際1年ちょっとでスピード婚約(25ansウエディング) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ヴィクトリアズ・シークレットがアスレジャーコレクションを発表 - ハーパーズ バザー・オンライン ブランドの方向性を一新した「ヴィクトリアズ・シークレット」、ついにファッションショー業界へ返り咲きへ! 「我々が『ファッションショーとは何か』を再定義します」 - tvgroove - TVグルーヴ・ドット・コム 香港よ、変わり果てたあなたを憂いて - Newsweekjapan 「嫌な予感しかない」膨らんだ靴下の中から血を吸い巨大化したヒル現る(豪) - ニコニコニュース 看護師の女性が、下着ブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」のモデルに! 撮影現場で交通事故が発生し、看護師のスキルを活かして活躍 - tvgroove - TVグルーヴ・ドット・コム 日本に行きたいセレブが続出!テイラー・ヒルやリリー・コリンズが日本を恋しがる - フロントロウ 「ヴィクトリアズ・シークレット」モデル テイラー・ヒルがついに婚約! 相手の男性の職業も話題に[写真あり] - tvgroove - TVグルーヴ・ドット・コム テイラー・ヒル、25歳の誕生日プレゼントのかわりにお願いしたことに拍手喝采 - フロントロウ 旬の切りっぱなしボブは、テイラー・ヒルに学ぼう! ボブヘアアレンジBEST20 - ELLE サラ・サンパイオ、「モデルのリアルな姿」を公開して称賛の声 - フロントロウ テイラー・ヒル、仕事現場に恋人を同伴させ海上デート - フロントロウ テイラー・ヒル、24歳になり16年前の「まるこちゃんヘア」を公開 - フロントロウ テイラー・ヒル、同僚モデルにいたずらする「人懐っこさ」に胸キュン - フロントロウ シンプルな美容法でありのままの美を楽しむ、テイラー・ヒルのビューティダイアリー - ハーパーズ バザー・オンライン ヴィクトリアズ・シークレットの大人気エンジェルによる、日本限定出版。『Taylor Hill To Japan With Love テイラー・ヒル 日本へ愛をこめて』発売。 - PR TIMES 冬のソナタ またでるよ 冬のソナタ 韓国KBSノーカット完全版 DVD BOX(初回限定 豪華フォトブックレット&スペシャル特典ディスク付) 本当に長い間、待たせてごめんなさい。「冬のソナタ」韓国KBSノーカット完全版をいよいよお届けします。 映像は韓国KBSのオリジナルそのままに、音楽に関してもユン・ソクホ監督が想いを込めて監修し、一部楽曲を変更しました。初回限定特典にはぺ・ヨンジュン 独占インタビュー/ユン・ソクホ監督&田中美里の対談スペシャルDVDの他、DVDオリジナルポストカード、シリアルNo付 豪華フォトブックレット(20P)を封入しております。 今までの日本用編集版よりも約166分長いノーカット映像(本編後のエンドロールも収録!)に加えて、映像特典の【スペシャル短編集】には、ペ・ヨンジュンのスノーボードシーンの撮影風景も収録しています。 【ここが違う!8つのポイント】 ◆今までの日本用編集版よりも約166分長いノーカット映像(本編後のエンドロールも収録!) ◆ファン待望の「ダンシング・クィーン」「白い恋人たち」をついに収録。 ◆日本語吹替を再収録。萩原聖人さん、田中美里さんが担当、その他主要人物もなつかしいあの声で。 ◆本編は日本語字幕に加えて韓国語字幕も収録 ◆一部変更した楽曲をユン・ソクホ監督が想いを込めて監修!(一部BGMはオリジナル版より変更されています) ◆<初回限定特典1>スペシャルDVD:★ぺ・ヨンジュン 独占インタビュー/★ユン・ソクホ監督&田中美里の対談 ◆<初回限定特典2>豪華フォトブックレット:シリアルNo付(20p) ◆<初回限定特典3>DVDオリジナルポストカード3枚 ヴィクトリア・ヒルのキャッシュ 使い方 サイト名 URL ヴィクトリア・ヒルの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ ヴィクトリア・ヒル このページについて このページはヴィクトリア・ヒルのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新されるヴィクトリア・ヒルに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/nrks/pages/376.html
Ⅰ-Anger dwells only in the bosom of fools. Ⅱ-Anger is a brief, or a momentary, madness. Ⅲ-Do not fear death so much, but rather the inadequate life. 名前 ヴィクトリア・キルシュネライト 年齢 年齢不詳 外見上は20代前半くらいだろう 性別 女性 種族 人間 身長 163cm 体重 血染め 所属 カノッサ機関 肩書き No.99 Profile カノッサ機関、ナンバーズに所属する女。 ナンバーは99であり、前任のナンバーズを殺しその席を奪って今の席に収まっている。 首から下の運動神経が切れており、能力を使用しなければ指先の一本すら動かすことが出来ない。 体の随所に縫合痕や注射痕が目立ち、本人曰くは『糞ったれな前任』の残したものらしい。 平時は財力と権力と武力に対する強い執着心を持ち、他者に対して攻撃的かつ好戦的な態度が目立つ。 口調もまた同じくぶっきらぼうで、ちょくちょく怒声を撒き散らす事が多い。 が、極々稀にまるで上流階級生まれかのように穏やかかつ気品のある口調で喋ることも有るようだ。 ナンバーズとして暴虐の限りを尽くしており、略奪虐殺人身売買なんでもござれ。 しかしながら、彼女の口座には全くといっていいほど金銭は残っていないようだ。 その日の食事を一円でも安くしようと倹約を極めている傍ら、住んでいる場所は大きな屋敷。 屋敷の中は幾つもの芸術品や調度品にうめつくされている様で、海外にもいくつかの別荘が有る模様。 だが、そのかわりに日常の生活費を限界まで切り詰め、金品や芸術品を略奪している。 この行動にはなにか理由があるようだが……? 外見 ほぼ坊主に近い金髪のベリーショートヘアで、頭皮にはトライバルパターンの十字架のタトゥーを入れている女。 瞳の色はチェレンコフ光を思わせる程に鮮やかな蒼色で、見るものを呪殺しかねない程に鋭い。 服装はレザー&スタッドと言う、所謂ヘヴィメタルバンドのイメージを思わせる格好を好む。 そんな異様に個性的な外見の女だが、案外顔立ちには気品がある。 時折ウィッグを被り女性的な格好をしている時もあるようだが……。 ちなみにどんな場合にも首には黒革のチョーカーをつけている。 Skill <Painkiller> 範囲と対象を限定された念動力であり、『自分』を自在に操ることができる。 これは、四肢などに限らず、血液や内臓等も自在に操ることが出来、また己の血液や体組織を浸潤させた物質も同様に操ることが可能。 操作の範囲は、己を中心とした球状の半径10m以内でその外に有るものは操作不能。 この異能を用いれば、四肢が切断されようが心臓を貫かれようが『意識を失わなければ』戦い続けることができる。 ただ、ヴィクトリアは通常の人間と同じく痛覚を持ち合わせている為、激痛で気絶する事は当然存在する。 その為、いくら継戦能力が高いとは言っても限度というものが存在する。 一言で言ってしまえば、肉体の完全なマニュアル操作と言って良いだろう。 ヴィクトリアは能力の活用として、全身のマニュアル操作により人間の限界を越えた運動性能を発揮させている。 と言ってもあまりに無茶をすると肉体が自壊してしまうので、肉体が耐えられる限度で平時は使用。 また、血液を高速で圧縮して噴射する事でウォーターカッターのように攻撃できるが、それほど高い威力は無い。 真価は、血で汚染した物質を操る場合であり、血が馴染めば馴染む程に自分の一部であるかのように扱える。 Item 赤錆びた砂鉄 2kgの砂鉄状の合金に500mlの血液を混合して作った、錆鉄の砂状金属。 2.5kg存在しており、これがヴィクトリアの武器であり、防具。 矢として飛ばしたり、凝縮して防壁として扱うも良し、散布して視界を阻害するも良し。 半径10m以内に於いて、この砂鉄はヴィクトリアの生命線ともなる装備である。 手首と脚部にそれぞれ500gずつ。腰のベルトに500gずつ分けて付けられており、暗器のような使い方や四肢の補強も可能。 輸血パック 自分の血液の輸血パックを常に10L分ねぐらに用意してある。 また、500mlのペットボトルに入れた血液を、一本持ち歩いていることが多い。 単体で血液が足りない場合に使用する他、手近なものに血をまぶして即席で操作する事にも使う チョーカー 重厚な作りの黒革の首輪じみたチョーカー 血が染みこんでおり、所々染みが強く残っている。 中にはbeyond2が2錠仕込まれている。 履歴 酸性の水を操るガキと出会って戦った。大分楽しめたが、殺すより面白そうだったから哲学者の卵をぶち込んできた。 速攻で孵化したっぽいから、今後どうなるかが超楽しみだなァ。……ぶっ壊れちまえばいいのにな、どいつもこいつも。 http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1360771671/ レス番 740から (2013-02-25 23 05 58) 腹が減ったから場末の店に入ったら客がうるさかったから半殺しにしてやった。殺しちゃいないがまともに右腕は使えないだろうな。気味が良い。 んで、ぱっぱと飯食おうと思って注文したら店員が二人共ナンバーズだった。一人はアッシュって呼ばれてたNo.32のナンバーズで、やたら色目使う気色悪い女。 もう一人は名前は分かんねぇけど多分店長のおっさん。No.14だったな。どっちもオレよか上で余裕綽々でいらついてきた、いつか殺す。 ただ、No.14の奴は気前が良かった。いい酒と良いつまみをタダでオレにくれた。折角だから全部飲んで食ってやろうと思ったが、全部飲み切るのも骨だからNo.32に少し分けてやった。 http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1361539926/ レス番 493から (2013-02-26 00 45 03) コメント counter - Last update 2013-03-03 15 38 04 (Sun) 個人的なもの 名前:ヴィクトリア=キルシュネライト 性別:女 年齢:20代前半 種族:人間 国籍:不明 一人称:オレ 二人称:テメェ、お前、アンタ 三人称:ヤツ、あいつ 社会的地位:カノッサ機関ナンバーズ 職業:カノッサ機関 信仰する宗教:無政府主義 好きな物事:財力、権力、武力、暴力 嫌いな物事:貧乏、圧政、不自由、非力、文句 趣味:暴力、金を数える 癖:高笑い、口元ピクピク ポリシー:あらゆる力に貪欲に生きる。目的のためには手段を問わない。我慢をしない。 長所:迷いがないから強い。強くなることに躊躇いがない。 短所:短気は損気 知性:口調や態度は粗暴そのものだが案外まとも 知識:人を殺す知識、金を奪う知識、人を恐喝する知識、テーブルマナー、立ち居振舞い 健康状態:首から下が不随。異能によって補われている 特技:この世の物事の8割方にいちゃもんを付けることができる 武器:砂鉄 武術:我流 魔法:使用しない その他の能力:Painkiller 過去のトラウマ:意識が有るまま体を切り刻まれたことがある 両親、親戚、兄弟姉妹:確認されていない
https://w.atwiki.jp/yarunaisen/pages/141.html
ヽ、 ィ , ,,,-'''~~'''-、 iヽ//, - ‐ 、/ | ,,,-''' `' / .|ヽ、 ,,,-' / .|\. .,,,-'''_ { | ヽ,  ̄/ ! .! ヽ ―― 福祉省・官僚 ―― / イ ` ー ' ヽ ヽ / .,,-フ / | /| / イ \ . } N ∠ ‐'' / // | ./ | |{ | \ .| ヽ | |. /イ / ,サ―{/―ゞ | l|,,,=''ヽ } } . } |. ' |/{ /. .{━┿━ ヽ、| ━━┿ .リ| .|_|\ | (({ || ___・_ ヽ ___・ | /。) ヽ ヽ! | {  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄||||| リ_ノ、|. V/ヽ _.....,, / //i -,, ー===ニニ,,..,,,../ ノ { / - ,,, _ _ ,,, - '' \. //V| /1 Tコ ヒニカ_。\|\|ヽ~. |/ W/何 ̄何 \ / ム Y ム. \。 ,「. l〒〒l | l〒〒l iクl / l ,ワ,ノ | l ,ワ,ノ |ニ| / lヽ | | | <=======================================> > セラス・ヴィクトリア(ヘルシング) ・【属性】:官僚(左派・武官) ・【性格】:外向・感覚 ・【能力系統】:秘書系・鎮圧系 ・【補正能力】:左派系政治家の補正能力1.5倍 福祉省関連鎮圧行動+15% _______________________________ ・:【備考】 実はアーカードの後輩だった経歴あり。 その後は色々あって、アンデルセンに色々と教わる羽目になっちゃった。 結果、本人は文官になりたかったのに武官の道へ…… _______________________________ ・:【イベント能力】 ・『異色の左派武官』……??
https://w.atwiki.jp/mechashor/pages/27.html
「申し訳ありません(パクパク)。食事中は(モグモグ)上官殿でなければ(ガツムシャ)話を聞く事(ムグッムグッ)、が……(モッシャモッシャ)」 《キャラクター》 【名前】ヴィクトリア・S・エルウィード 【年齢】16 【出身】??? 【身長】156cm 【体重】42kg 【概要】 対フィーンド掃討用戦術的人工兵器「Saber-Weapon 003」通称「S-W.3」 フィーンドへの対策に軍が決行した人工人間製造企画、その三番目の機体である。 三番目の機体であり、一番目、二番目は失敗。三番目にやっとのことで成功したが、一番目、二番目に失敗した分のコストも合わせて、コストが異常であり、それを取り戻す為に倒さなければならないフィーンド総数は常人の20倍以上はあると言われている。 言語能力に問題があるわけではなく、複数の思考が入り混じっているからか、言語機能が複雑で、珍しい言動を示す事もある。 思考が混じっているせいであると思われる。 複数のセイバーユニット搭乗者の死因、フィーンドの回路から死因となる物を「デジャヴ」として直感することで回避する事が可能。 ヴィクトリアの能力の中でも特に秀でて、後述する回避前提の低装甲のセイバーユニットで生存できたのはこれが理由でもある。。 その身体はセイバーユニット搭乗の為に改造されており、女性としての機能はセイバーユニットに搭乗する為に女性ホルモンが分泌されているだけで 生殖機能は存在せず、体の何処からでもエネルギーを補給し、セイバーユニットへと変換できる構造になっている。 この機能が成功した試験体が三番目のヴィクトリアであり、後に04,05と開発したがそれも失敗。現状では不明瞭な部分も多く、奇跡的な成功として扱われている。 その為、厳密には排泄行為すら必要としない。 体内構造に置いてもその差は大きく、腕は細いが、内部機能的にはかなりの強度を誇り、他に比べコンディション維持の為の睡眠に極端に少ない。一日に20時間の活動が目安であり、一週間の連続稼働までは可能であるといわれている。 しかし、本人はかなり燃費が悪い。よくご飯を食べる。瞳は輝いているようにも見える、とか、声は多少の抑揚が見られる、とか、嬉しそう、とか、美味しそうに食べる、とか。 …………ちなみに、可愛い女の子にしてください、という要望があったそうだが、これは発案者の趣味である。 【性格】 冷静沈着、無表情というような正に作り物。 声も非感情的で、合理主義、と絵にかいたようなロボット。 髪はポニーテール、保護色からはかけ離れた紅い髪。 ――――なのだが、どこかでは悲しそうな表情を浮かべ、僅かの表情の変化が、大きな変化に見える。 墓地に顔を出して、何時間もそこで座り込んでいる――等、奇怪な行動報告が多々ある。 この点からも、感情が無い訳ではなく、ヴィクトリア自身も「感情のある兵器は失敗作」と自らの事を評している。 その実は、今までのセイバーユニット搭乗者の戦闘データ、フィーンド等の破片パーツから取り込まれた幾重もの人間の集合体。 故に、その真の情緒は不安定。感情抑制を実験段階中に実行され、今に至る。 無感情に見えるのはその為で、哀愁のみが残ってそれが切欠で感情が零れてしまう。 ヴィクトリアはその自らの突出した部分も含めて、前述のとおり「失敗作」と自らの事を思っている。どうしようもない、戦闘に不必要な悲しさだけが体に残り続ける存在。と――――――実際はどうなのか、というのは闇の中。 逆に、フィーンドと対抗した場合は、想いの欠落と、集合が募り驚異的な集中力、思考力、敵対意識を見せる。 その時のヴィクトリアは普段では見せない位の鋭い瞳と、威圧感を発揮する。 機械である自分と、人間的である自分の存在に困惑し、どちらかに傾きつつある状況を綱渡りな状況と思っているが、それに対しさしたる危機感がないのは不明。 本人も言われれば確かに、と問題を頭の中で提起するが、それを重要に取り扱わないのは、人間的部分が大丈夫と機械的に判断しているから、というのは現状では気づけないだろう。 最近、アイスと甘酒を飲んだ。甘くて、それでほんのり苦い味がするのに、嫌いになれない。 《搭乗セイバー》 【名称】BOL.03-F 【概要】 BreakOverLimit.03-Falcon. 性能を極限まで高める事を目標に製造された、限界突破武装といわれるセイバーユニットの一つ。 三つのユニットが製造されたが、どれも人の手に余る代物――つまりは、負担がかかりすぎる物の為、製造は中止、長らく埃を被っていた物なのだが、ヴィクトリアが製造に成功。念願の実戦投入に成功する。(念願だったのは作成者含む数名の実であるが) しかし、限界突破武装はチューンはされたものの、製造自体は現代より前であり、当時ほどのオーバーパワーははない。 それでも人を度外視したユニット、力は強力である。今回ヴィクトリアが装着している物は、強襲型のFalconと呼ばれる物。 【フォルム】 フィーンドの核に装甲の強化、更には伝達から信号までの誤差を無くすために首元にFalcon自体とチューブにより接続された信号を送るパッチがつけられており、そこからダイレクトに信号の通信を行う事で機敏性を極端に追い求めた、速度重視の強襲型セイバーユニット。紅を基調とした造形であり、ヴィクトリアはこれを装着する際、髪を解いている。(邪魔になるから) 搭乗する、というよりは装甲服の側面が強く。装着型ユニットという方が正しいかもしれない。 太腿まである脚部装甲、腕部装甲、背部に装甲がついており、それを装着(形式的には穿く、着るといったほうが近い)する事でこのセイバーユニットを装備した状態となる。 背部ブースターユニット、そこから体に対し垂直方向に伸びた追加ブースター、補助スラスター、合計12の加速装置により音速での行動が可能。 また、首元につけられた信号パッチからヴィクトリアが体内で生成したエフ=フィールドを供給する事も可能な為、期待の燃費はよく、消費を抑える必要がない(本人の燃費は悪い) それに耐えられるようにパイロットは調整されており、ヴィクトリアは体への負担を最小限に抑えつつ、最前線へ切り込み、進路を開く切り込み隊長としての役を行っている。 本来、セイバーユニットは着脱のしやすさの為に露出部分が多いが、BOLは他の装着者が存在しない為、パーツの回収を行っても意味がなく、その為パイロットの死=Falconの死である。 よって、生存目的でのパーツ製造はされておらず、緊急時の脱出には時間がかかる。 元々装甲が薄いが、ヴィクトリアが選んだ武装もあって、装甲の薄さを機動性による回避に任せているところが大きい。 エフ=ディフェンサー等の武装もあるが、それでも装甲の薄さは一撃で致命傷ともなり得るレベルで、この部分も搭乗者がいなかった理由と考えられる。 ヴィクトリアは左手にエフ=スライサー、右手に試作型ゼロ距離用エフ=シューターという武装を装備している。 また、火力という火力は積んでいるものの、大型機、重装甲機に比べ火力、破壊力は劣る物があり、大型機との戦闘は基本的に向いていない。 【兵装】 背部ブースターユニット 背部中央に取り付けられたブースターユニット。 両脇には高度調整用の小型ロケットブースター装着されている。(形状的には、ロケットの固形ロケットエンジンが近い) Falconのメインブースターであり、背部のブースターで速度調整を行い、両脇のロケットエンジンで高度調節を行う。 エフ=ディフェンサー、小型補助スラスター。 本来は各部位につけられた小型スラスターにおける細部調節が目的であったが、そこからエフ=フィールドを発生させる事により実現した局地的防御機能。 肩部、裏膝、足の踵につけられたスラスターパーツからエフ=フィールドを瞬間的に発生させ、空気抵抗、摩擦を減少させる事による体への負荷の減少、それに伴う速度維持が目的。 また、この元来の目的から発展させ、エフ=フィールドを集約させる事で、薄い膜のバリアを形成する事が可能。 攻撃を逸らす、または吸収し、無効化する機能をとりつけた物。 元は補助ユニットの流用の為、大型の攻撃に耐える事は難しいが、取り付けられている位置の関係から体の全体を覆うバリアを張る等の行動ができ、応用力は高い。 エフ=ディフェンサーを防御に回している間スラスターからの補助ができない為、機動力と細部の動作性が落ちる。 バリアの強度をある程度上昇させることもできるが、その間は停止状態になる必要がある事 元々Falconはヴィクトリアの「デジャヴ」による回避を前提している事、緊急時のどうしようもない時以外は使用されず、使用する状況は焼け石に水な事が多いという理由により、使用される機械が殆どない。 それでも、流れ弾等の、他の機体なら損害にもならない程度の物ですらFalconなら致命傷に繋がる為、かかせない武装である事に変わりはない。 エフ=スライサー 本来は別機体の武器だが、ヴィクトリアが好んで使用している物。 トンファーのように短い持ちて部分があり、それを持つ事によって使用する対フィーンド用近接武器。 また、左手を覆うようにして装甲が追加されている。 いざという時はこの左手の装甲部分での防御が可能だが、装甲部分が小さいため、攻撃を逸らす、または衝撃の緩和以上の使い方は期待できない。 元は超振動によって切断力を上昇させたナノスライサーという武器だったが、それにエフ=フィールドの効果を相乗させる事により、エフ力場を相殺し、直接一閃する一撃必殺の武器となっている。 エフ=フィールドはFalconとヴィクトリア自身から供給される為、他の機体よりも燃費が良い。(良いというよりかは、バックパックが追加されているだけだが) その分ヴィクトリア自身の燃費はよくない。食費的に。 試作型ゼロ距離用エフ=シューター 対戦車用ライフルなのだが、中に弾丸は込められていない。 その変わりFalconからエフ=フィールドを弾丸として凝縮し、発射する為の機構を取り付けてある。 トリガーを引くと、砲身内部でエフ=フィールドを凝縮し、弾丸として発射するという代物になっている。 本来取り付けられていない機構の為、エフ=フィールドが形を保っていられる時間が極端に短い。 安定して使う為には零距離、またはそれに近い超近距離が目安となる。 相手へと押し付ける形で撃ち、超近距離における圧倒的火力でねじ伏せる試作兵器。 弾丸を持たない理由として、弾丸の装填、重量等を考慮した結果、無い方がいいという判断との事。 ヴィクトリアの独自解釈における結論なので、それが正しいのかはわからない。とりあえず戦果は出てる。 日記 つけたほうがいいと言われたので、つけてみます。 とりあえず本日。晴れ、ご飯おいしい。訓練あった。終わり。 +フランス奪還作戦、ぜんじつ コンディションによる若干の変調か、それに類する事象により睡眠時間が僅かにズレた為、甲板に。 隊長殿にあった。終わり。 +フランス奪還作戦、ついき 同期に日記を書いている所を偶然見られ、これの何処が日記なんだと呆れられた。 人間らしい書き方という物を教わったので、戦闘時における柔軟な思考の練習として記してみる。 前日の詳細な話。 前日は隊長殿に対して、随分と失礼な態度を取った。恐らく自らの頭の中にあった幾人かのデータに当て嵌まったのだと思われる。 隊長殿の入隊時期にもよるが、世話になった人間もいる可能性がある。それに引かれたのかもしれない。 無礼な態度をとった事で処罰を受けるかと思ったが、そんな事も無かった……律する時間もない程、フランス奪還作戦は厳しい物になるのかもしれない。 それにしても、人間と機械の明確な差。それが私以上に彼ら、彼女らにはわかっているのだろうか。 気になる。とても。すごーく。 +フランス奪還作戦、けっこう 生きて、帰ってこれた。 機体の損傷が激しいが、五体は満足。 後遺症もない。 今私が死ねば、開発にかかった費用の三分の一も回収できない。頑張らねば。 …………ただ、この理由の為だけに戦う事に、何処かしっくりきていない自分がいる。 何故だろう。これは深刻な問題かもしれない。 解決しないのであれば、近々検査を受ける事も視野に入れよう。 ただ、この時期は人一人ですら欲しい時期、今問題が発覚した場合、戦線に出れない。悩む。 +じゆうじかん ――――また無礼な行為を働いてしまった。 どうしてだろう。考え込もうと思ったが、正直今現在の私の脳みそは頼りにならなそうだ。 情報パターンが足りない。新しい選択肢を開拓するには時間がかかる…………。 にしても、隊長殿はもしかしたら機械に対しての性癖の偏りがあったのだろうか。 もしそうなら本当に詫びなくてはならない。 +じゆうじかんそのに 副隊長殿にあの後話しかけられたのは何かだかなんだかの嫌がらせのように感じる。 殴れば解決する…得tンそれくらい単純であればよかったのだろうけど、それで解決しないのはわかる。 そもそも階級無しの私がそれをしたら投獄ものだ。それでも、言いたい事は分かった。 ……がんばろう、うん、がんばろう にしても、副隊長殿は何度か独房に入れられている筈なのに、どうやって切り抜けてきたのだろう。 もしかしたら参考になるかもしれない、ちょっと聞いてみたい気もする。