約 454,635 件
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/13.html
たくさんの宿題と小さな一歩 作者:にっぷし 高町ヴィヴィオが通うSt.ヒルデ魔法学院にも、長期休暇は存在する。 たくさんの休日とたくさんの宿題を与えられたヴィヴィオは、嬉しさ半分戸惑い半分で帰宅した。 最近では珍しく先に帰宅して待っていたなのはが、それを出迎える。 「おかえりー、ヴィヴィオ」 「ただいまー。宿題たくさんでたよー……」 オッドアイのお子様は、ハァ、と妙に大人びたため息をつく。 渡された宿題は、簡単な計算ドリルや絵日記など、大人から見れば可愛らしいものばかり。 けれどもそれは、ヴィヴィオにとって、背中に大きな石を背負わされたような重圧だった。 あまりにたくさんありすぎて、どれから手をつけていいのかもわからない。 「毎日少しずつやれば終わるから、ちゃんと頑張るんだよ」 「はーい」 宿題は、まるで太陽を隠す雲のようだ。 長期休暇という素敵な花畑も、少しばかり魅力を減らしてしまう。 珍しく間延びした返事をするヴィヴィオに、なのはは子供の頃を思い出してクスクスと笑うのだった。 魔法少女リリカルなのはStrikerS ユーノスレ用SS 「たくさんの宿題と小さな一歩」 「――それで、ヴィヴィオ、宿題頑張ってる?」 長期休暇が、最初の10日を過ぎた頃。 娘に少し遅れて休暇が始まったなのはは、一緒に朝食を食べながらヴィヴィオに尋ねる。 それを聞いてビクッと身体を強張らせた娘の様子に、母親が気付かないはずがなかった。 「……ヴィヴィオ~?」 「ううう……ごめんなさい。絵日記しか頑張れてないです……」 ここで嘘を付いたらすごくすごく怒られる。 それを良く知っているヴィヴィオは、叱られるのに怯えながらも正直に告白した。 キャラメルミルクの入ったマグカップを両手で持ちながら、フルフル震える愛娘。 その様子に怒るに怒れないなのはは、「甘いなあ」と思いながら通信を開いた。 「ユーノくん、もう起きてる?」 『顔洗ったとこだよ。どうしたの、なのは』 連絡先は、今なら自宅にいるはずの幼馴染の青年ユーノ・スクライア。 同じタイミングで休暇を取り、ヴィヴィオと三人で出かける予定だった相手に事情を説明する。 『――ヴィヴィオの宿題を見たい?』 「うん。だからお出かけは午後からに変更していいかな?」 『構わないよ。どれくらい時間かかりそう?』 トントン拍子で進む話に、ヴィヴィオの顔がサーッと青くなっていく。 今日は朝からママと一緒に過ごせるお休みの初日なのだ。その予定が狂うのは辛すぎる。 自分が悪いとわかっていても、どうしてもゴネずにはいられなかった。 「えー!! せっかく三人でお出かけなのにヤダー! 宿題明日やるからー!」 「ダメだよ。ちゃんと宿題しなかったヴィヴィオが悪い。見ててあげるから、頑張ろうね」 駄々をこねるヴィヴィオにぴしゃりと言い放ち、笑顔で言うなのは。 涙目で脚をぱたぱたさせるヴィヴィオを横目に、ユーノとの通信を続ける。 『もう起きちゃったし、そっちで待ってて良いかな。ボクもヴィヴィオの勉強も見てあげたいし』 「うん。ありがとうユーノくん。お昼は家になっちゃうけど、美味しいの作るからね」 そしてヴィヴィオの手の届かない大人の領域で、話が纏まってしまう。 宿題はやっぱり嫌いだ。自分が悪いとわかっていても、ヴィヴィオは思わずにいられなかった。 呼び鈴を鳴らす音に、なのはが栗色のサイドテールをなびかせてパタパタと玄関に向かう。 扉の向こうにいたのは予想通り、長い金色の髪を緑のリボンで結わえた青年だった。 「いらっしゃい、ユーノくん」 「お邪魔します、なのは」 笑顔で迎え入れる幼馴染の女性に、ユーノも明るい笑顔で返す。 一緒に廊下を歩きながら、ユーノは読書魔法に興味を示し始めた女の子の様子を尋ねた。 「ヴィヴィオの様子はどう? 頑張ってる?」 「うん。やれば出来る子だからね。一度に宿題出されちゃって、どうしたらいいかわからなくなってたみたい」 「なるほどね。ボクも一度に検索依頼が押し寄せたときはそんな気分になるよ。呆然としちゃうっていうか」 自らの体験と重ねて肩を竦めるユーノに、なのはがクスクスと笑う。 不意に視線が重なった二人は、一瞬視線を動かせなくなったあと、微笑みあってリビングへ向かった。 そこには、低いリビングテーブルに宿題を散りばめて、ペンを握り締めているヴィヴィオの姿。 ソファーに座ると高さが合わないようで、カーペットにクッションを置いてその上に座っている。 宿題の配信をデータではなく紙媒体を使用しているのは、伝統ある魔法学院らしいこだわりだった。 文字をきちんと書いて覚える練習にもなるだろう。 「お邪魔します。頑張ってるみたいだね、ヴィヴィオ」 「ユーノさん……うー、ゴメンなさい。ヴィヴィオのせいで予定が変わっちゃって……」 ユーノの挨拶に顔を上げるが、目が合うなり、しゅんとうな垂れてしまうヴィヴィオ。 自分の髪よりやや色濃い金髪をした少女の頭を、ユーノはよしよしと撫でてやった。 「大丈夫だよ。気にしないで。わからなかったら、なのはとボクが教えるから、しっかりね」 「うにゅ……はい……」 ヴィヴィオは申し訳なさで一杯のようだったが、ユーノは気にしてはいなかった。 小さな子が一生懸命に努力している姿は、眺めているだけで心を満たしてくれる。 幼馴染の女性が引き取った娘に対して、ユーノはいつしか父性めいたものを感じていた。 カーペットに腰掛けて宿題の一つをパラパラめくっていると、なのはが胸を張って口を開く。 「ママが子供の頃は頑張って宿題を早めに終わらせて、それからゆっくり遊んだんだよ?」 えっへん、という感じで胸を張るなのは。 毎日コツコツやるというやり方のさらに一段階上の方法を聞かされて、ヴィヴィオが愕然とする。 「そ、そんな方法があったなんて……ヴィヴィオびっくりだよ……なのはママすごすぎるよ……!!」 たくさんの宿題を一網打尽にやっつけるなんて力強い考えは、ヴィヴィオには浮かばなかった。 敵を一度にやっつけられるすごい魔法を使う母親らしい考えと実行力に、尊敬の念を新たにするヴィヴィオ。 キラキラした眼差しを受けて微笑むなのはの姿を見ながら、ユーノは昔のことをチラリと思い出していた。 ☆ ☆ ☆ 若き天才魔導師として多くの人に目をかけられ、入局早々引っぱりだこになる高町なのは。 彼女の夏休みは決まって、管理局サイドの人々と、海鳴市に住む友人や両親で綱引きが行われていた。 将来を嘱望された魔導師を育てたいという面々と、大切な親友や家族と共に過ごしたいという面々。 二つの陣営の水面下の綱引きは、たくさんの予定となってなのはに押し寄せる。 なのははなのはで、周囲からの期待や寂しさを感じると、求めに応じずにはいられない。 周囲の期待に応えて成長し、友人が感じている寂しさを埋めて楽しむため、スケジュールは過密なものになった。 そしてそれらの無茶は決まって、残ってしまった夏休みの宿題という形で押し寄せていた。 セミの声も弱くなってきた夏休み終盤になると、恒例となったなのはの情けない声が響く。 「うえ~ん、宿題終わらないよ~!! アリサちゃ~ん、すずかちゃ~ん!!」 天才魔導師としての貫禄など微塵もない様子で、助けを求める声をあげるなのは。 監視しているアリサと見守っているすずかは、情けない姿を晒す親友の姿に苦笑を交わらせた。 「仕事と両立してるとはいえ、自業自得でしょ。はやてもフェイトもちゃんと終わらせてるわよ」 「なのはちゃん、頑張ってね。あんまり無理しちゃダメだよ?」 優しいけれど甘くはない友人たちは、宿題を丸ごと写させるという逃げは打たせない。 自由研究などどうしても達成が困難な部分は手伝ったが、設問が並ぶドリルなどは本人にさせていた。 「あーんっ、だってたくさんありすぎて、どれからやるか迷って……フェイトちゃ~ん、はやてちゃ~ん」 さすがに理数系は得手があり、スラスラと問題を解いていく。 だが得意だからこそ後回しにしたツケが祟って、延々と続く計算の連続に手も頭も疲れていた。 シャーペンを持つ左手が疲れてしまい、プラプラと振って強張りを解こうと努力する。 泣きつく声におろおろと反応したのはフェイトだった。 「えっと……なのは、間に合わないなら、答え写させてあげようか?」 「アカンて。ここはしっかりせな、なのはちゃんのためにならんよ?」 フェイトが伸ばそうとした救いの手を、はやてがピシッと取り押さえる。 八神家の主と夜天の主をしているお嬢さんは、締めるところをキチッと締める性格をしていた。 うんうんと肯くアリサ。それでもフェイトは、苦笑して見守るすずか同様、なのはの弁護側に回る。 「でも、なのはの場合はご両親がミッドのこと知らないし、私たちくらい理解と協力をして貰うのが難しいから……」 「う、まあ、それはそうなんやけど……私もかなりシャマルたちに時間作って貰ったしなぁ……」 フェイトの言葉に、うーむ、と考えこんでしまうはやて。 そんな二人の様子を見て、なのはは申し訳なさそうに苦笑して口を開いた。 「ありがと。頑張るから大丈夫だよ。……アリサちゃん、現代文のわからないとこ教えてくれる?」 「いいけど、物理は終わったみたいだけど、数学はまだ残ってるじゃない」 「うん。でもこっちは時間かければなんとかなりそうだから。わからなくて詰まりそうな方を済ませたいの」 「なるほどね。オッケー」 なのはのすぐ側に座りなおすアリサと、休めていた手を動かし始めるなのは。 残された三人は紅茶を飲みながら、努力する親友の姿を見守るのだった。 ――そしてその夜。 なのはの部屋の窓の小さな隙間から、一匹の小動物がするりと入りこむ。 「こんばんは。頑張ってるみたいだね、なのは」 「ユーノくんっ、あうう、毎年ゴメンね~っ」 フェレット姿で現れた幼馴染の少年に、なのはは申し訳なさそうに言う。 親友たちと別れた夜更けこそが本番だった。眠気と戦いながら宿題をこなさなければならない。 そんな孤独な戦いを勝ち抜く自信がないなのはは決まって、ユーノに助っ人をお願いしていた。 勉強机にヒョイっと飛び乗ったユーノは、髪を下ろして勉強に臨んでいるなのはを見上げる。 小さく出された指先をチロチロと舐めると、なのはは安心したようなため息をついた。 勉強を再開したなのはを見て、ユーノは外されて置いてあるレイジングハートに額をコツンと付ける。 なのはの許す範囲で昼間の出来事を教えてもらうと、頑張って手伝うことを心に誓った。 そして始まる、長い長い静かな夜の戦い。その最中、何度目かの眠気に、頭をフラフラとさせるなのは。 ユーノはなのはの腕を伝って肩に乗り、眠気覚ましのための小さな魔法を発動させる。 (なのは、起きて) 念話で言いながら、ふーっとアイスブレスを耳の穴に送り込むと、なのはの身体がビクンと跳ねた。 「ひゃっ……! ううう、耳は反則だよぅ、ユーノくん……」 (でも、少しは目が覚めたでしょ?) 首筋も冷やしてあげたユーノは、小さな口先で耳たぶにキスをして、とととっと机の上に戻っていく。 むー、と唇を尖らせたなのはは、寝ぼけて引いてしまった線を消しゴムで消して、課題を再開した。 「ううう……終わんないよ……終わんないよ……」 (大丈夫。頑張ろうなのは。ボクも手伝う。わからないところは教えるから。ね?) 「うん……ありがと、ユーノくん……」 途中、何度も諦めかけるなのはを励まし、時にはわかり易く解説をして助けるユーノ。 外が明るくなるまで続いた果てのないような戦いは、課題の終了をもって幕を引くことができた。 変身魔法を解除したユーノは、机に突っ伏して眠るなのはの身体に毛布をかける。 そして再びフェレットに戻ると、レイジングハートに短く挨拶をして、窓の隙間から出ていった。 ☆ ☆ ☆ なのはが中学を卒業するまでの間、繰り返されていた光景。 それを思い出したユーノは、娘の前で堂々と胸を張るなのはを見てクスクスと笑ってしまう。 そんな様子にきょとんとしたなのはだったが、次の瞬間ユーノが何を思い出したのか悟って顔を赤くした。 耳まで赤くなったなのはは、ヴィヴィオの視界の外、テーブルの下で咎めるようにユーノの腕をつねる。 ぎゅーっとつねられたユーノは、痛みに片目を閉じながらなのはに念話を送った。 (イタタ……痛いよなのは) (知らないっ……ユーノくんのイジワル) 拗ねたように言うなのはのつねる手を、ユーノはもう一方の手で触れて外させる。 カーペットの上に下ろされたなのはの手は、小指の先がユーノのそれと重なった。 偶然の出来事に二人の手が微かに反応するが、どちらも黙ってそのままにする。 曖昧な沈黙を感じながらヴィヴィオに視線を向けると、勉強に励む小さな姿が昔のなのはと重なった。 (……懐かしいね) (……うん) 過去を懐かしめるほど、近くにお互いを感じながら、それぞれの道を歩いてきた二人。 ヴィヴィオという存在が現れたことで、少しずつ変わってきたお互いの心。 息をひそめるようにして二人がそれを静かに感じていると、ヴィヴィオが元気な声を上げる。 「できたー! できたよ、ママ、ユーノさん!」 「どれどれ~ちゃんとできてるかな~?」 「頑張ったね、ヴィヴィオ」 自然に指先を離した二人は、今日のノルマを終えたヴィヴィオの隣に左右から寄り添った。 誇らしげに笑顔を浮かべるオッドアイの少女を二人で撫でながら、三人一緒に解答欄の埋まった宿題を見る。 ヴィヴィオの頑張りを仲良く褒めていると、不意にユーノとなのはの肩が触れ合った。 反射的に振り向いた二人は間近で相手の瞳を見て――その奥に揺らめく一つの確信を感じ取る。 ――もう、自分たちがその境界を越えられることを、なのはもユーノもわかっていた。 幼馴染、大切な友達、親友――そういったものと、境界を隔てた向こう側に進めるということを。 そして、その境界を越える方法も二人は知っていた。知っていたから、二人は片手をヴィヴィオの顔に乗せ―― 「ふえ?」 そうして、目隠しされたヴィヴィオがきょとんと顔を上げる後ろで、二人はそっと唇を重ねた。 カーペットについた指先を絡めてのファーストキスは、頭が真っ白になりそうなほど気持ち良いものだった。 60スレ SS なのは にっぷし ユーノxなのは ヴィヴィオ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/274.html
幻は遠く、消え入りそうなほど儚く t/uEltcA こつ、こつ。研究所内に足音が響く 音の主はユーノ・スクライア。スカリエッティラボの客人である。大切な そう、大切な被検体である。『聖王の器』ヴィヴィオに試す、前の。できそこないであったが。 攫われた身とはいえ、親友である高町なのはの娘であり、個人的に気に掛けていたヴィヴィオの為ならと、 代わってやれるものならと、ユーノはその役目を受け入れていた。 レリックの一時適合には成功したものの……残念ながら、『ゆりかご』の稼働には到らず、 ……Drや長姉ウーノの協力の下、予想しうる限りの負担や危険の軽減は成されたが、 少女『ヴィヴィオ』の出番を待つことになった こつこつ、こつこつ。ユーノは、いつのまにか足音が増えているのに気付く。 だが、ユーノは気にしなかった。いつものことだったから。 とん。 軽く跳躍するような音を最後に、ユーノは軽く拘束される。誰かの左腕で、 「クアットロ、何の用?」 その声に応えず、クアットロは手を動かす。そ~っと。 「あら?なかなか強いのですね」 「……人の眼鏡盗らない」 振り向かず、ユーノは窘める。 「は~い。返しますわぁ」 そしてクアットロの手で、眼鏡が掛けられる 「……て、これ君のじゃない。しかも、伊達だったんだね君」 「あら~?良くおわかりで」 何処か嬉しそうに、クアットロは回る 「このくらいはね。それより、伊達の君には度がきついと思うよ、それ。だから返す」 「い、や。です」 「転ぶよ」「そ、れで、も」 ひたすら楽しそうに、回って回って回る。そして、目も回る 「みやっ!?」 「いわんこっちゃない!」 「ふぇっ……?あれ、めがね」 「起きた?」 てく、てく、てく。背中に乗せて、部屋まで進め 「……あのっ、大丈夫ですから!降ろしてくださいましっ!……っ」 無理矢理床に降り立ったクアットロだったが、すぐに顔を顰め、足を抑える 「ちょっとひねってるみたい。今は、任して」 「……はぁい」 「あ、眼鏡は返して貰ったから。度が合わないと危ないし」 「……返して、下さいましー」 ユーノの耳元からか細い声が聞こえる 「元々僕の。で?何でこんなのが欲しいの、言ってみて」 「はぁ~……い」 ぽつぽつと喋り始める 「………八神はやてに蒼天の書・リインフォース 高町なのはに不屈の心・レイジングハート。羨ましいですわ~羨ましいですわ~」 「……つまり、自分も何か欲しいと?」 「イエス。ですわぁ~」 もたれかかってる。たれてるクワットロが肯定する 「でも、囚われの身の貴方にたいした持ち合わせも、ないでしょ~?ですから、それがよいかなぁ、と」 「よく、リボン盗らなかったね」 「それはぁ、彼のエースオブエースのものでしょう? そんなもの、いりませんわぁ」 よく調べてる、ユーノは感心した。そして、少し愛おしくなった。 「渡せるもの、無いわけじゃないんだけどね」 「ぇ?」 背に顔を押しつけたクアットロから、とても小さな声が漏れた 「はい、これ」 ユーノはそういって、五枚のカードを取り出す。 それは、ナンバーズたちが知ってるかは不明だが、闇の書事件の時にリーゼ姉妹が使用したものと同じ、 デバイス不要の簡易型のカートリッジシステムのような働きをする、使い捨ての魔力蓄積装置であった。 「一応、咄嗟のプロテクションから、必要ならスフィアプロテクションまで使えると思う。もってて」 それを聞いて、クワットロは吹き出す。とてもおかしそうに、楽しそうに 「……ここ笑うとこ、かな?」 「………いえ、貴方らしい実用的なものだと思いまして。ふふふふっ」 笑いを全くこらえようとしないクアットロを横目に、ユーノは一人考える (僕は、機動六課の敵に……なのはの敵に、何をしてるんだろう、ね) でも今は、背中のクアットロと一緒に、ただ笑うことにした 終わり 甘えっ子になった。 566さんありがとー投下予告でしたー 27スレ SS クアットロ ユーノ×クアットロ ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2544.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ ドアがかちゃりと鍵が開ける音を立てた。 次にデルフリンガーに何をやらせるか考えていたルイズも、自分のありのままの姿に喜びを見いだしたデルフリンガーも、2人を仲裁しようとしていたユーノも一斉にドアに注目する。 鍵は内側からかけているので、外から開けるにはアンロックを使わなければならない。 そして、そんなことをするのはこの学院ではただ1人しかいない。 3人はお互いにそれぞれの姿を見る。 ルイズはネグリジェ。問題はない。 ユーノはフェレット。問題はない。 デルフリンガーは通常サイズ。問題はない。 互いに確認し合った3人はうなずいて全員問題ないことを伝え合う。 デルフリンガーがどうやってうなずいたかは謎だ。 確認完了と同時に扉が一気に開けられた。 「こんばんわ、ルイズ」 いつものように止める暇もなく、長い足で部屋の中に飛び込んだキュルケは、これまたいつものように部屋の中の物色を始める。 「おかしいわね。いないわね」 「なにやってるのよ、あなたは」 キュルケは部屋の中に興味を引くようなものがないのを確認し終えると、ベッドに腰掛けているルイズを見下ろした。 こういう時のキュルケの邪魔をしないのがいつもの流れになっている。 「今度の使い魔の品評会。あなたはどうするのかなー、と思って。見に来てあげたのよ」 「それで部屋の中を見回してどうするのよ」 「あなたが隠している男の子が来てないかなって思ったのよ。どこに隠れてるの?」 「隠れてないわよ」 当然だが、ユーノは足下にいる。 「それより、今度は別の男を連れ込んだの?」 「なんでよ」 「さっき中から男の声がしたじゃない。誰かいるんでしょ?随分太い声だったから、この前の男の子とは違うと思うんだけど」 「ああ、それならこれよ」 物色を再開しそうになるキュルケにルイズはデルフリンガーの鍔元にある口らしきものを見せてやる。 「んーー?」 キュルケは藪睨みになってデルフリンガーに目を近づけ、かなり悪い目つきで隅々まで観察を続けた。 「よ、よぉ。ねーちゃん。俺はデルフリンガーってんだ。よろしくな」 「きゃっ」 突然の声に驚いたキュルケが体を跳ねさせる。 片耳を押さえているのは、デルフリンガーのだみ声を間近で聞いてしまったからだろう。 「何よこれ、インテリジェンスソードじゃない」 「そうよ。あなた、きっとこれの声を聞いたんじゃない?」 「んーー」 キュルケが腕を組んで思い出そうとしているのをルイズはじっと見る。 今回は問題なくごまかしきれるはずだ。 さっきの叫び声はデルフリンガーのもので、ユーノの声ではないからだ。 「そういえばそうね」 ──よし。 ルイズは心の中で快哉を上げる。うまくいってる、と。 「で。あなた、もしかしてこんなものを買いに街まで行ってたの?」 「そうよ」 「おい、本人を前にこんなものはねえだろう」 デルフリンガーの抗議は無言で却下される。 ルイズにとってもインテリジェンスソードなんて物はユーノが使うのでもない限り、邪魔になるだけのこんなものだからだ。 「今度の品評会に使うには手頃でしょうけど。錆びてて安物だし」 「そうよ。安物よ」 「人を安物と言うんじゃねえ」 実は安物どころではなく拾いものだ。 「それで帰りにあの木の化け物と戦ったりしてたのね」 「そう……」 次に出てきそうになった「よ」の文字を飲み込む。 ──危ない危ない 思わず誘導尋問に引っかかるところだった。 「んなはずないでしょ。私だってあの時は逃げ回ってたのよ」 顔から溢れそうになる汗を抑えてキュルケの出方を待つ。 だが、伏兵は思わぬ所にいた。 「どうしたんだ。嬢ちゃん。えらく緊張してるみたいだぜ」 ルイズはデルフリンガーを床にたたきつけて、こっそり言ってやった。 「余計なことは言わないでよね」 「はい」 デルフリンガーにはルイズとユーノの事情はすでに話してある。 もし、ばらすようなことをすればラグドリアン湖の底に沈めるとも言ってある。 「なにしてんのよ」 「なんでもないわ」 「まあ、いいけど」 今の行動はかなり怪しかったかもしれないが、どうやらこれもうまくごまかせたようだ。 早く何とかして追い出さないといけないが、口実が見つからない。 「で、これを使ってユーノが何をするの?」 「え?」 「だから、これを使ってユーノが何かするんでしょ?」 「え、ええ」 ──しまった。 そのいい訳を考えていない。 貴族が剣を買うという不審な行動をしているのだから、何か考えておかなければならないのだが、まさかユーノが人間になって使います、とは言えない。 「この刃の上をユーノが歩くの?」 「そんな危ないことするわけないでしょ!」 「そう?私、蛇とかカタツムリを這わす芸を見たことがあるんだけど」 「そんなのがあるの?」 「あるわよ。昔、実家に来た旅芸人がしてたもの」 こういう変なことを知っているのは成金のツェルプストーならでわかもしれないが、そんなことはどうでもいい。 それよりもルイズはようやくキュルケを追い出す糸口を見つけた。 「ま、まあそんなとこだけど。これからユーノと品評会の練習をするの。だから、今日はもう出て行って」 「えー、いいじゃない。見せてよ」 「だーめ、本番までは秘密」 キュルケの背中を入り口まで押していく。 意外と素直に歩いてくれるのには助かった。 「あなたもフレイムとしっかり練習した方がいいわよ」 「だったら、私のも見せてあげるから。すごいのよ。フレイムの炎の芸術」 次の言葉がキュルケの口から出る前に部屋の外まで追い出した。 そこではフレイムがじっと待っていた。 「本番に見せてもらうわ。おやすみ。ミス・ツェルプストー」 音を立てて扉を閉める。その上、鍵を念入りにかける。 扉に耳をつけて、外の音を聞くことしばらく。遠ざかるキュルケの高笑いが聞こえた。 「ちょっと気になるけど、諦めてくれたみたいね」 ようやく落ち着けそうだ。 外に追い出されたキュルケは閉められた扉に耳をつけて、中の音を探った。 待つことしばし。何も音はしない。 きっと向こうも警戒しているのだろう。 今日の所は諦めて部屋に戻ることにした。 「それにしてもガードが堅いわよね」 本当は城下町で白いドレスを着たルイズを目にしたときに全部話させるはずだった。 それなのに、タバサがあれはリリカルイズというルイズとは別人だと言いはる。 そんなはずはないと思うのだが、タバサはついに譲らなかった。 そうなったら、キュルケは決定的な証拠を見つけるまで気がすまなくなった。 「リリカルイズ。その正体をきっと暴いてやるわよ。それからあの男の子を……うふふふふふふ」 怪しい笑い声が女子寮の廊下に響き渡っていった。 扉から向き直ったルイズがまず見たのは硬直しているユーノだった。 なにやら少し震えているようにも見える。 「どうしたの?」 「ね、ねえ。ルイズ。ほんとに僕、剣の上を歩かないといけないの?」 「そんなはずなんでしょ!」 ユーノはほっとしている。 ──もうちょっと信用してくれてもいいじゃない。 そんなことを思うがデルフリンガーに無体なことを言いまくった後ではしょうがない。 ルイズはそれには気づかず、ふくれてベッドに口をとがらせて座る。 デルフリンガーが少し気の毒になったユーノは今のうちに話題を変えてしまうことにした。 「品評会はどうするの?僕、芸はできないよ」 「そうね……」 それはルイズも気になっていることだ。 ユーノはいろんなところで、いい使い魔だと思う。 だけど、それは他人に見せられないようなものが多い。 「うーーん」 それでも何かしないといけない。 何より今度の品評会は特別だ。 絶対にいいところを見せなければならない。 「そうだ、僕が考古学のスピーチをやろうか?」 「す、スピーチ」 「うん、ここに来る前にジュエルシードを産んだ文明に関する論文の手伝いをしてたからそれならできるよ」 「ふーん」 ルイズは生返事を返す。 はっきり言ってルイズにはさっぱりわかっていない。 古代の遺跡をほじくり返す山師のようなことが何故学問になるのかさっぱり理解できない。 「うん、例えば……」 ユーノはそんなルイズに気づかず、久しぶりに専門分野を語る機会に巡り会えて楽しくなってきていた。 以下、ユーノの考古学講座が30分続きました。 「ゆ、ユーノ。待って」 「どうしたの?」 ルイズはベッドに仰向けになって倒れてしまった。 「それ、きっと誰も理解できないと思うからだめよ。それにユーノが言葉を話せるところはまだ誰にも知られない方がいいと思うの」 「あ、そうだったね」 再び2人は考え始める。 どうも、いい考えが浮かばない。 誰もが感嘆するようなこと。それでいてユーノの真価を知られない方法。 なにかいい方法がないか考え続ける。 そのうちなにやら変な音が聞こえてきた。くぐもったような、蛙の鳴き声のようなそんな音だ。 その音の元を探すとデルフリンガーだった。 「ZZZzzzzz」 寝ている。完全無欠に寝ていた。 鼻提灯まで出しているのは気のせいだろうか。 「あんたもなにか考えなさいっ」 ルイズは長剣を蹴っ飛ばし、倒れた所をげしげし踏みつける。 踏みつけて、踏みつけて、踏みつけまくる。 ユーノが止めるまでそれは延々続いた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3080.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 出発は次の日の朝早くだった。 朝靄にけぶる校門の前で、ルイズは右手にはめた指輪をじっと見ていた。 「母上にいただいた水のルビーです。今の私にはこれくらいしか報いる物がありません」 と言ってアンリエッタ王女がルイズに渡した物だ。 おそらくはとても大切な物なのだろう。 そこには、ルイズに対する信頼と期待が込められているに違いない。 「よし」 ルイズも決心を新たにする。 この任務を達成するためにはミッドチルダ式の魔法を含めた自分にできるあらゆる方法を使うつもりだ。 「よし……はいいんだけど」 やたら情けないギーシュの声が聞こえる。 これから出発だというのに、もう疲れ果てているあたりかなり情けない。 「なんで僕が君の馬の用意をしたり、荷物を持ったりしなければいけないんだい?」 「当たり前じゃない」 ルイズは腰に手を当ててナイ胸を張り、できの悪い生徒に教える教師のように振る舞う。 「いい?この任務は私が最初に姫さまから申しつけられた物なの。で、あなたはその後に志願した。つまり私が先任なの」 「君の方が先と言っても1時間も差がないじゃないか」 「わずかだろうが、なんだろうが先任には違いないでしょ。あなたも軍人の家系ならそれがわかるでしょ」 「うぐ……た、確かにその通りだ」 「で、あるならば新任のあなたは先任の私に従うべきでしょ。それに、言ってみれば私はこの特務部隊の隊長よ」 「た、隊長?君がかい?」 「何か文句ある?」 ギーシュはルイズの目の中にともる異様な炎にたじろぐ。 何となく、逆らったら身が危ういような気がしてきた。 「い、いや……何も、ありません」 「なら、さっさと準備をしなさい!姫さまが言ってた護衛の人が来るのはすぐなのよ」 「は、はいーーーっ」 再び馬に荷物をくくりつけ始めるギーシュを見て満足そうにうなずいたルイズは、まだ靄にかすんでいる校門から伸びる道をなるべく遠くまで見通そうと目をこらした。 その先にはまだ影すら見えない。 (護衛の人、まだかな) ユーノがルイズの方に駆け上り、念話を使う。 (もうちょっとよ。きっと) 後ろではまだギーシュがひーこら言っている。 あれが終わるまで出発はまだできないので待っているしかない。 もう一度遠くに目をこらすルイズの足下で、土の地面がもごもご動き出した。 「え、なに?」 下を見ると、今度は土は盛り上がっていく。 「きゃあっ」 足を取られひっくり返るルイズに地面の下から出てきたモグラがのしかかる。 そうモグラは人にのしかかれるほどに大きいのだ。つまり、ジャイアントモールというやつである。 (ルイズ!) ルイズの下敷きになる前に地面に飛び降りたユーノは声を出すのをやめ、フェレットのうなり声のような物を出す。 ユーノなりにフェレットらしい威嚇をしているのだ。 だが、あまりにも大きさが違いすぎる。 ジャイアントモールはユーノのことなど意に介さず、ルイズに鼻先をこすりつけ始めた。 「何よこれ!」 ルイズは手足をばたつかせるが、人間と同じくらい大きなジャイトモールがそれでどうなるという物でもない。 「ルイズ、それは君の指輪のせいだよ」 ギーシュがルイズとモグラの側に立ち、見下ろしていた。 なにやら妙に自信ありげにしている。 「ジャイアントモールはね。宝石が大好物なんだ。それでそうやってるわけさ」 「なんですって!じゃあ、姫さまの指輪を?」 「そうだろうね。ところでルイズ。そのジャイアントモールは僕の使い魔のヴェルダンデなんだ。連れて行きたいんだけど良いかな?」 「なにいってんのよ!アルビオンに行くのよ!ダメに決まってるじゃない!」 「そんなことを言わずに。頼むよルイズ」 切迫しているルイズに対してギーシュはやたら余裕がある。 ルイズに取引を持ちかけているつもりなのだろう。 「あんたねぇ!」 そのとき、風の魔法がジャイアントモールのヴェルダンデをルイズの上から吹き飛ばした。 風の魔法のを使ったメイジは護衛のワルド子爵と名乗った。 背筋が自然に伸びた立ち姿、鍛えた体に誂えた服。 少し細面のようだが手入れされた髭がそれを補っている。 その姿は日頃ルイズが言っている立派な貴族そのものだ。 ──これが本物の貴族なんだ。 ユーノはなるほどと納得した。 彼と出会って、ユーノがまず一番に驚いたのはグリフォンだった。 この世界に来てから多種多様な使い魔も見てきたし、次元世界でもそれこそたくさんの動物を直接、間接に見てきたがこれほど見た目にも格好のよい生物はそうはいない。 これに比べられるとしたらドラゴンくらいだろう。 次に驚いたのは彼の立場だ。 魔法衛士隊という女王直属の部隊の隊長なのだそうだ。 と言ってもこっちの方はグリフォンほどに驚いていない。 よく考えたら昨夜は王女自ら依頼に来たのだ。 今更驚くようなことでもなかった。 ルイズの後ろでやたら喜んでいるギーシュにつられたのかも知れない。 まあ、最後の驚きに比べればそれも最初と誤差範囲だ。 あまりの驚きにユーノは出発してからしばらくぽかんとしていたほどだ。 やがて、2頭用意していた馬の1頭は厩舎に戻される。 ルイズはワルドとグリフォンに同乗し、ギーシュが馬でそれを追うようにして3人は街道を進み始めた。 (ルイズって、婚約者がいたんだ) 今頃になって落ち着いてきたユーノがルイズに聞いてみる。 ユーノがこの世界に来てしばらくたつが、昔のルイズの知り合いに会うのは初めてだった。 (そうよ。どうしたの?) (ルイズって、僕よりずっと年上なんだな、っておもってたんだ) (それってちょっと違うわね。私がワルド子爵と婚約したのはユーノよりずっと年下の時だったし) (ええっ!?じゃあ、そんな時からルイズはワルドさんが好きだったんだ) (あ、うん……そうなのかな。でも、婚約を決めたのはお父様だし) (ええっ!?) グリフォンの速度はルイズが空を飛ぶほどではないが速い。 驚きと風にあおられて、ルイズの肩からずり落ちそうになったユーノは登り直す。 (親が決めた婚約者?) (そうよ。どうしたの?) (あ、うん。ホントにそんなのがあるんだなって思って) (貴族の娘にはよくある話よ) (そうなんだ。よかったね。ルイズ) (よかった?何が?) (ワルド子爵みたいにいい人が婚約者でよかったってこと) ワルドはずっとルイズに気遣いを見せている。 それは婚約者に対する物かも知れないが、ユーノにしてみればフェレットの姿では難しいルイズを守ると言うことを任せられる人でもあるように思えた。 実際、さっきはヴェルダンデからルイズを守ることはできなかったが、ワルドはそれをやっている。 一方、ルイズは他のことを考えていた。 ──それはそうなんだけど ユーノの言葉を聞いて胸のあたりに重みを感じる。それから背中に寒さを感じた。 ──なに、これ そう、ルイズは寂しさを感じた。 何故かわからない。わけのわからない寂しさだ。 それを紛らわそうとワルドの背中に頬を当てると、横を走るギーシュが見えた。 体中汗だくで、目がうつろになっている。 あと1時間は走ってもらうことにした。 馬を乗り継ぎ、主にルイズの心情的な理由であまり休憩を挟まなかったおかげで、その日の内に一行はラ・ロシェールの入り口についた。 (へえ、ラ・ロシェールの港って山の中にあるんだ) (そうよ。知らなかった?って、知らないわよね。ユーノはここに来るの初めてなんだから) (どんな空港なんだろう。でも、夜だからよく見えないかもしれないな) ──陸にある港なら空港だよね 初めて見るハルケギニアの空港に思いをはせるユーノが乗るグリフォンの前が、突如明るくなった。 崖の上から、いくつもたいまつが投げ込まれたのだ。 さらに、そこに射られる矢が十数本。 ギーシュはあわてふためき落馬するが、ワルドは慣れた物である。 落ちたギーシュを拾い上げ、近くの影になる岩場にすかさず飛び込んだ。 「さて、どうしたものか」 ワルドが細い剣にも似た杖を片手につぶやいた。 「どうしたの?ワルド」 「あの山賊どもをどうしようかと思ってね」 「危険なの?」 「なに、私もメイジだ。山賊ごときに後れを取るつもりはないよ。だが、場所が悪い。少し長期戦になるな。おっと」 矢が一本、岩を超えて飛び込んできた。 ワルドはそれを風の魔法で吹き散らす。 (ルイズ。僕が行くよ) ルイズの肩から降りたユーノがささやく。 念話なので、その声は誰にも聞こえはしないのだが、雰囲気でそうなってしまった。 (危ないわ。ユーノ) (平気だよ。デルフリンガーもあるし) そう言うとユーノは崖に向かって走り出す。 炎の灯りがわずかの間、ユーノを照らしたがそれもすぐに見えなくなった。 (本当に危なくなったら逃げなさいよ) 崖の上に出たユーノはさらに走る。 夜闇が小さい体を隠してくれた。それに、フェレットを気にかける者は誰もいないだろう。 「次はどうするの?」 駆け出す前に、ユーノはデルフリンガーと相談をすませていた。 細かい戦術がさっぱりのユーノにデルフリンガーが作戦を教えてくれていた。 「あの山賊どもの後ろに回ってから奇襲をかけてやるんだ。あいつら、自分たちが奇襲をかけたつもりでいるからな。効果覿面よ」 崖の上にも岩陰がいくつかある。 ユーノはそこに身を潜めて人間の姿になり、デルフリンガーを抜いた。 一定の間隔を置いて射られていた矢がいつまでたっても来なくなった。 さらに崖の上からは叫び声と剣戟の音が聞こえる。 「ほう……ルイズ。ギーシュ君。乗りたまえ」 素早くグリフォンに乗ったワルドがルイズに手を伸ばす。ギーシュは自力で何とかはい上がった。 「上で何が起こっているかわからないが、今がチャンスだ。討って出る!」 ギーシュがまだ乗り切れていないのに、ワルドはグリフォンを走らせる。 鋭い爪と羽を使うグリフォンが崖を駆け上がり、その上に飛び出した。 崖の上ではユーノが山賊達と立ち回りを演じている。 走るデルフリンガーが山賊の剣をはじき飛ばし、光るシールドが突進を止める。 そして、少し離れていたところでは別の山賊が弓をユーノに向けていた。 「誰だかわからないが、感謝するよ」 ワルドはユーノに向かって叫び、操るグリフォンが着地させると同時にルーンを唱える。 風が弓を射た山賊に飛び、放たれた矢ごとそいつを吹き飛ばした。 「さて、後は親玉を見つけられれば文句なしなんだが」 空気がふるえて少し離れた場所で爆発が起きる。 「うわーーーーー」 そして、風がその叫び声の主を巻き上げた。 「ひえーーーーー」 最後に聞こえてきたのは、きゅるきゅると言う声とばっさばっさという羽音。 「どうやら、手間が省けたみたいだね」 山賊の親玉を捕まえたのは鳴き声から考えたとおりに、キュルケとタバサだった。 学園から出発したルイズ達を見て追いかけてきたらしい。 ルイズがキュルケとの口論に負けたおかげで、どうやらこの後も着いて来るみたいだ。 山賊はただの物取りとわかった時点で捨て置くことになった。 秘密の任務の途中では、ラ・ロシェールの衛士に引き渡すこともできないからだ。 そこまで決まったところで、ワルドは茶色のマントを着けた長剣を持つ少年、つまりユーノに目を向けた。 「ありがとう。君のおかげで助かったよ」 「は、はい」 実のところユーノは困っていた。 ここを去るタイミングを逸してしまったのだ。 「いや、しかしすばらしい剣と魔法の腕だったね。まだ若い、いや幼いと言ってもいいのに大した物だ。名前を教えてもらいたいな」 ワルドは握手を求めて右手を差し出した。 「えーと、名前は……」 ユーノはそれに答えはする物の、名前をはどうしようかとルイズに視線を送る。 「ユーノでしょ」 ルイズが偽名を考えようとしていいる間にキュルケが答えてしまう。 「あなた、ユーノの名前知ってたの?」 ──なんで?なんでなんでなんでなんでなんで? これは大問題だ。 もしかしたら、フェレットと人間のユーノの関係についてもばれてしまっているかも知れないからだ。 「知ってるわよ。だって、ルイズと」 「リリカルイズ」 タバサの訂正が入る。 「そうそう、リリカルイズと最初に会うったときに『ユーノ、私、今幻覚を見たの』なんて言ってたもの。あなたの使い魔と同じ名前だったから一回で覚えたわ」 「あーー」 あの後キュルケの前で隠そうとしていたのがバカみたいだ。 空を見上げてしまうルイズの側で、ワルドはユーノと話を続けていた。 「ほう。君が……リリカルイズの」 「ワルド。リリカルイズを知っているの?」 「ああ、土くれのフーケが大暴れした事件が魔法衛士隊の隊長の耳に入らないはずがないだろう?それに関わったというリリカルイズの話も当然耳に入ってくるさ。たしか、王女殿下からの伝言があったはずなんだが……」 あごに手を当てるワルドに代わって答えたのは、またキュルケだ。 「そうそう、王女様が言ってたわよ。勲章とご褒美を出すから、お城に来てって。早く行った方がいいわよ。ユーノ」 そう言いながら、キュルケはルイズを意味ありげな目つきでちらちら見る。 「そう言うことだ。早く城に出てもらうと私も助かる」 ユーノはまたルイズを見る。 城に出ていいかどうかわからないのだ。 (ユーノ、ここは適当なこと言って逃げて) (適当って……) (だから、今の用事が済んだら行きます。でいいわよ) ユーノは小さくうなずいて、ワルドとの握手を解いた。 「わかりました。後で必ず行きます。僕はこれで!」 「待ちたまえ!後ではなく……」 ワルドの止める言葉を続けさせるまもなくユーノは空高く飛んでいく。 あっという間に暗い空に消えて見えなくなってしまった。 「どうやら、よほど急いでいたらしい」 首を上げていたワルドは肩をすくめてそう言った。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/201.html
せんせーと夜食のラーメン 作者:◆pxoVQARIYU 氏 「で、何で僕は外に連れ出されて屋台でラーメン食べてるんだろう・・・」 「それはですね、私が食べてみたかったからです!」 「ははは、なるほど・・・」 「あーっ!せんせー笑ったひどーい」 今は緊急の依頼もないので、無限書庫職員(一般司書)は労務管理の規定により 既に皆帰宅していたが、管理局総務部に特別協定書を提出しているユーノにはそんなの関係なかった。 今日も時刻は夜中を回り、夜食を取ろうと書庫を出たところで最近魔法を教えるようになったスバルに捕まり、 局内のホットミール自販機で済ませるつもりだったのに外に連れ出され、最近出店したらしい屋台にたどり着いた。 「しかしミッドチルダにラーメンの屋台が出来てるとは思わなかったよ。よくこんなの知ってたね」 「はい。なのはさんや八神部隊長が懐かしいって話してたんです。それで私も食べてみたくなったんですよー」 「へぇ。確かに僕もラーメンを食べるは数年ぶりかな」 「せんせーも食べたことあるんですか?」 「うん。まだ地球に居た頃に何度かね」 喋りながら食べているのにも関わらず、スバルのペースはユーノに比べて早い。 食事をハイペースで摂るのは胃に悪い行為ではあるが、ここに来るまでに少し遠出を してきていることもあるため、ユーノもスバルに合わせてペースを上げることにした。 「スバルって確かパートナーの娘がいたよね?彼女とは来なかったの?」 「ティアのことですか?」 「うん」 「私も最初はティアを誘ったんですけど、ティアってば今日お出かけから帰ってくるなり ベッドに倒れこんで『あたし疲れてるからパスー。ユーノ先生と行ってきなさいよ』って言って寝ちゃったんです」 「それで僕がスバルのお相手って訳か」 そういうやりとりを交わしながらもユーノの丼の中身はなくなりつつあり、スバルの丼は空になった。 そういえばティアってばベッドに倒れる前にしきりに腰叩いてたなーという言葉がスバルの口から 漏れたのが聞こえたが、聞かなかったことにしたほうが平和だと判断したユーノは黙っていた。 「あ、そうだせんせー。おかわりしてもいいですか?」 「ん?別に構わないよ。ラーメン気に入った?」 「はいっ!」 「そっかぁ。じゃあ僕ももう少し食べようかな。 すいません、ご主人。麺のおかわりお願いします。」 「あ、おじさーん!私は麺とスープとネギと、後あの白くて柔らかくて 中に渦巻きみたいなのがあるやつ、おかわりおかわりぃ~!」 「・・・最初からもう一杯下さいって言えばいいのに」 「あっ、そうでした」 思わず苦笑いするユーノに、照れ笑いで応えるスバル。 でもまぁたまにはこんな夜食もいいな、と心もお腹も暖かくなったような気がしたユーノであった。 「ねぇスバル」 「はい、なんでしょうかなのはさん」 廊下を歩いていたスバルだったが、後ろから上司であるなのはに 呼び止められたので立ち止まってから声のするほうへ振り返った。 しかし振り返った先のなのはの表情は、いつぞやティアナを撃ち墜とした時のそれだ。 予想外の展開に戦慄したスバルは思わず一歩後ずさる。 「ユーノ君から聞いたんだけど・・・昨日ユーノ君と一緒にご飯食べに行ったんだって? ねぇ・・・スバル・ナカジマ二等陸士、事情を説明して貰おうか?」 「い、今少しお時間とかを頂ければ・・・」 「スバル・・・弁解は罪悪と知ったほうがいいよ?」 なのはが一歩進むと、スバルは一歩下がる。 ここは天下の往来、管理局建物内の廊下なので他に通る人間もいるのだが 危険な空気を察した他の局員はそんな二人に近寄ろうとはしなかった。 「とりあえず訓練室に行こうか?でも話はこれで終わったと思わないでね? 向こうでたっぷりお話させてもらうから」 「えぇぇ~~~~!?」 スバルはなのはに引き摺られ、消えて行ったとか。 15スレ SS スバル・ナカジマ ユノスバ ユースバ ユーノ・スクライア 高町なのは
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/69.html
タイトル「愛おしき月の彼方、舞い踊れ君と」 作者:41-740 本文 「……すずか」 「……ユーノくん」 ――色濃い影が支配する、月光を遮る家屋の中で 「……はあっ……」 「……んぁんっ……」 ――二人は、血を、唇を、交わした 服装を整え、眼鏡を掛け、感覚を研ぎ、暗闇に目をこらす。そして確かになる 途切れた意識が戻った頃、ユーノの傍らには、誰もいなかった 「……寒い?」 はためくカーテンの向こうから、冷たい夜風が、部屋に入り込んでいた 風に混じる、なじみ深い香りを追いかける。穏やかな静寂の中、自身の音を聞きながら 見上げた小さな光の先、満ちた月が輝く空の下、夜にその身を沈ませながら、少女は静かに佇んでいた 「置いていくなんて、ひどいと思うよ? すずか」 ユーノの声に、夜空に浮かぶ月から向き直り、すずかは応えた 「待ってたよ、ユーノくん。一緒に踊ろう」 「寒いのに?」 二人とも、今の格好は殆ど寝間着のようなものだ 「関係ないよ。こんなに月が綺麗なんだから、踊らないと損だよ?」 そういってすずかは、赤い眼を輝かせ、蠱惑的に微笑んだ。 ユーノはその瞳の、奥を見つめる。そういえば月が、酷く近い。 鈍く光る月の熱に、浮かされているのだろうか……なんにせよ、お姫様のたまの我が儘だ。 「仰せのままに。じゃあ、踊ろっか」 叶えてあげるのが、男の役目だろう 少女の伸ばした手を、引き寄せられるように少年は取る タン、 闇に埋もれた影を踏みしめ、二人は舞い始める ただ願うがままに、求めるがままに、地を翔る。自由に タン、 宵闇に紛れ、鏡の中から、月の向こうから、別の世界が顔を覗かせる 彼と彼女が、自分と自分が、二人が重なり、声が溢れる。楽しそうな、笑い声が タン、 踊ろうというすずかの言葉は、遊ぼうという子どもの願いと等価に響いた 朱いこの時間だからこそ、その願いは叶えないと。何より、こんなに楽しいことを拒む理由がない タン、 ふと、二人を照らす月に、想いを寄せる。明るすぎる月は、人を狂気に誘う それは、向こうの自分が笑いかけるから。だからすずかは、異様に楽しそうなのかもしれない。 そして―――――― ――――トン、 終幕。少し息を切らせながら、二人の足が止まる 「ユーノくん、ありがと。楽しかったよ――――っ?」 ぱたり、と。すずかを優しく押し倒す 「ねえすずか――眠る前の続き、しよ?」 月の熱に浮かれているのは、ユーノも同じだ すずか ユノすず ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/123.html
お泊まり会のあくる朝-アリサ視点 作者:ID tq1NCTUA 澄んだ空気と、常緑樹の硬い葉と、薄いカーテンとが濾過した柔らかい光はアリサ・バニングスを射抜いた。 「ぶぇっくしょい!」 乙女にはとても似つかわしくないくしゃみが辺りに響き、同時にアリサの頭に鈍い痛みを与えた。 「う、うーん」 頭痛と眠気に唸りながら寝返りをうつと、毛布の隙間から浸入してきた底冷えの鋭利な空気が肌を撫で回した。 「さ、さむっ!」 否応無しに意識が半覚醒する。毛布を手繰り寄せて体を丸めようとしたが、朝に弱くなく無駄な時間を嫌う彼女は このまま寝ていても仕方がないと思って毛布の温もりを諦めてゆっくり上体を起こそうと力んだところで、違和感を感じた。 「……なんで裸なの?」 寝ぼけ眼で下に目を走らせると、流れるようにつるっとへそに達した。ショーツははいているようだ。 ちょっぴりと自分の平坦な胸への恨めしさが湧いて、眉をひそめる。 ふふふ、今は、まだ、いいのだ。将来は、きっと、大きくなるのだから。 アリサはそう自分に言い聞かせながらも、うーんと隣から細いうめき声が聞こえたので、ふと隣に目をやった。 アリサがふと自分の隣に目をやると、くすんだ金髪の裸体が横たわっていました。 毛布から覗く背中から、自分と同じく裸のようであることが分かりました。 ビックリしたアリサは、思わず目を背けてしまいました。 きっと今のは何かの見間違いであろうと思い直し、 再びそこを見やると、なんとそこには誰かの裸体が眠っていたのです。 アリサは思わず溜息をつき目を背けましたが、きっと疲れていて見えもしないものを見てしまったのだと思い直し、 覚悟を決めて、改めて目を向けました。 するとそこには、何者かの裸体が寝転がって、自分より広いすべすべの背中を向けているのです。 アリサはビックリして、息を吐きながら目を背けましたが、きっと幻覚を見たに違いない、 最近あまり寝てないから、見えもしないものが見えてしまったのだと思い直し、 目を向けました。するとそこには、くすんだ金髪のかわいらしい裸体が横たわっていました。 驚いたアリサは、気がつけば目を背けていましたが、気のせいだと思い直し、 再び目を向けると、やっぱり金髪のしなやかな裸体が、広いすべすべの背中を向けて寝ているのです。 思わず目を背けてしまいましたが、きっと幻覚に違いありません。最近寝てなかったから。 と、思い直し目を向けると、やっぱり誰かの裸体が転がっているのです。 思わず目を背けたアリサでしたが、これは何かの間違いに違いない。 疲れているから見えもしない物が見えたのだと思い直し、目を向けると、 そこにはなんとくすんだ金髪の裸体が……、うわっと思い目を背けしたが、 きっと疲れのせいで幻覚を見たに違いないと自分に言い聞かせ、 再び目を向けると、なんと誰かの裸体が広いすべすべの背中を向けて寝ているのです。 思わず目を背けましたが、きっと気のせいで、 何かと見間違えをしたのだと自分に言い聞かせ、目を向け直すと、 なんとそこには、何者かの裸体が自分より広いすべすべの背中を向けて寝ていたのです。 あああああああああああああああああああああ いやいやいやいやいやいやいやいやまて、まって! 金髪!そう、突然フェイトの髪がくすんだのかもしれないでしょ! そうよ!そうよね!まさか、まさか私とあいつが一緒に寝てた訳が……!! 「うーん」 と次の瞬間くすんだフェイト(仮)がこっちに寝返りをうったことで彼女の希望はあっさりと、本当にあえなく打ち砕かれた。 どうみてもユーノです、本当にありがとうございました。 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。 そんな、確かに、最近の小学生は早いと聞いてはいたけど、まさかこんな、 でも欧米でも性の芽生えとともに近所や学校の子といたしてしまうと聞いたことがある。 そんなユーノと、まさかユーノと、でもユーノとなら……、まて、まてまて、落ち着け、落ち着くんだ。 はしたないけど、少しショーツを下ろして下腹部に目を走らせると、流れるようにまるっとそこに達した。 ……異常はないようだ。肺の奥に重く溜まった空気を吐き出し胸を撫で下ろす。 そりゃあ、そうだろう。早いって言ったって、いくらなんでもあたしがそんな……。 ああ、よかった……でも……でも?でもってなに!? なにはともあれ、とにもかくにも、噂に聞く鈍痛も感じられないし、痛いのは頭くらいだ。 そしてやっと、なぜこんな状況におかれているのか、 初めて冷静に(裸に対する羞恥心をすっかり置き忘れているあたり冷静ではないのかもしれない)考える。 頭痛に苛まれながらグヂャグヂャの記憶を辿る、辿る。 『ユーノ―の―――、興味――へん?』 あ、ああ、ああ!そうだ!思い出した! すずかの家でみんなでお泊り会を開く予定だった日に、たまたま久々にユーノが海鳴に戻ってきたとかで、 なのはがユーノを一人で高町家に泊めるのはかわいそうだとごねて、あたしは反対したけど、みんなに押し切られて、 それで結局ユーノとお目付け役に恭也さんも一緒にすずかの家に泊まることになって、 久しぶりに見たあいつの顔はやっぱり女顔だったけど、でもちょっとだけ男らしくなってて、そんなのはどうでもよくて! 夕食のあとすずかの部屋にユーノも含めみんなで集まって、近況を教えあったり、ゲームしたりしてたら、 ファリンさんが差し入れにお菓子や缶ジュースを持ってきてくれて、みんなで食べ飲みしてたら突然ユーノが潰れて、 みんなも高揚してきたから缶ジュースはお酒だということがわかって、でもみんなテンションが上がってたから呑み続けて、 とりあえず仕事で疲れているらしいユーノは一旦すずかのベッドに寝かせて、ユーノも起きる気配がないものだから、 女の子5人水入らずで姦しく話していたら……、 『ユーノ君の寝顔ほんとに女の子みたいやなー』 『男の癖に肌も綺麗だし』 『女装したらはまりそうだよね』 『……起きないね』 『寝酒って数時間はぜんぜん起きないらしいよ。それにユーノ君お仕事で疲れてるし』 『ユーノはほとんど毎日徹夜してるらしいしね』 『…………』 『……すずかちゃん』 『……なぁに?』 『お洋服、借りていい?』 あ、ああ、 『わーやっぱり可愛いー!』 『ジュルリ……』 『随分と様になってるわね……』 『ねぇねぇわたしたちの服とかも着せてみない?』 『おー胸も脚もすべっすべやなー』 『髪の毛もさらさらー』 『こいつは本当に男なの?』 『ホントは女の子だったりして』 『あはは、まさかー』 『確かめてみいひん?』 『……え?』 『ユーノ君のアソコ、興味あらへん?』 ああ、ああああ、 『ちょっとはやて、まさか』 『はやてちゃん流石にそれは……』『は、はやて?』 『あれ、あれあれあれ、みんな興味ないのん?まぁ、やっぱりアリサちゃんみたいなお子ちゃまにはちぃーと刺激が強いもんなぁ?』 『な、お子ちゃまって何よそれ!』 『おーおー別に怖いなら無理せんでええよ』 『は、はやてちゃん』 『なっ、なら、好きにしなさいよ!勝手にすればいいじゃない!』 『あ、アリサちゃんまで!』 『じゃ、好き勝手にやらせていただきますー』 『い、いいのかなあ……』 『いひひ。さーん、にーぃ、いーち』 ああああああああああああ 『…………あ』 『な、な、な、』 『これは…………』 『すごく……フェレットです……』 『可愛い顔してうちのザフィーラのより…………』 『ね、ねぇ、もうやめたほうが』 『よっと』 『なっ!』 『に、にぎっ』 『はやてちゃ!』 『え?いやー、どんな感触なのか気になってな』 『だからって……』 『……そ、それで、どんな、感じ?』 『え?うーん、なんかあったかいな』 『ほ、他には?』 『えー、そうやなぁ、やわくてすべすべしとる。……気になるんやったら触ってみたら?』 『え、いや、それは……』 『……えいっ!』 『あら、なのはちゃん大胆』 『……わ、わたしも』 『すずかまで……』 『う……』 『フェイト……』 『アリサちゃんも怖がってらんとー』 『誰も怖がってないわよ!』 『……』 『新感覚……』 『ぴくぴくしてる……』 『やわらかい……』 『う、うーん』 『もしかして起きた!?』 『ううん、大丈夫みたい』 『ひあっ!』 『いきなり赤くなって、どうしたのよはやて』 『え、や、その、な』 『なになに?』 『心なし……硬くなっとる気が』 『……』 『……』 『……』 『……』 『……しまおっか』 『……うん』 『……そうだね』 あああああああああああああああああああああ! なんでお酒がとか、いくらユーノでも酷いことをしたとか、そういえばシャワーも浴びてないやだとか、 そんな懸念が些細なことに思えたほど、ただひたすら恥ずかしかった。顔が熱い。骨が溶けてるみてーだ。 あたしは、なんてことを。それにしてもまさかユーノのアレが…… いや、落ち着け、少し頭を冷やそう。事故だったのだ。お酒の勢いもあったし、仕方がなかったことなのだ。 そう自分に言い聞かせると、羞恥で潰されそうだった心も、幾分か楽になった。 「そういえば、なのはたちは」 落ち着いてそっと起き上がりあたりを見回す。 ユーノの奥に艶やかなな金と、薄く茶色がかった髪。 毛布を捲って中を覗き込むとと、青みがかった黒と、栗色が丸まっているのが見える。 ユーノで着せ替えしてたからみんな上半身裸なのねと苦い笑いを浮かべながら、 何回目か分からないため息を胸の奥底から押し出し、そのままぽすんと背中をベッドに預けた。 あたしだけが慌てるなんて、こんな思いをするなんて、実に不公平じゃないか! 騒ぎを起こすのは面倒だし、悪乗りしたみんなにもあたしと同じ目に遭ってもらわなければ気が晴れない。 ああそうだ、万が一ユーノが先に起きてあたしの裸を見たら、お詫びにどこかに連れて行ってもらおう。 われながら、完璧な作戦だ。こそこそと毛布にもぐりこむ。ふふふ、みんなもあたしの恥を味わいなさい! 毛布の上から柔らかい光がアリサ・バニングスを撫でる。みんなのあたたかい温もりが睡魔を誘う。 いつもの騒がしい日常もいいけど、今はこの平和な時間がたまらなくいとおしい。 ゆっくりとまぶたが下りてゆく。 「おやすみ、ユーノ」 お酒はファリンさんのドジ補正だったこと、 インジューノは寝酒なので一番最初に起きてしまい狸寝入りをしていること、 すずか、なのははもう既にアリサと同じ目にあっていること、 恭也が起こしにきてひと悶着あったことは、また別のお話。 13スレ SS アリサ ユノアリ ユーノ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2164.html
「おい、あの高町教導官と一緒にいる奴って誰だ……? 何か……やばくね?」 「次元犯罪者か……? でも、バインドとか全然してねぇし……」 時空管理局本局。 なのはは周囲の局員達から寄せられる視線と、僅かながら聞こえてくる彼等の困惑の声に溜息をついた。 その原因は、彼女の後ろにいる人物……Lにあった。 両目の周りには、重度の不眠症を思わせるかのような真っ黒な隈。 これ以上はないと言えるレベルにまで曲がっている、極度の猫背。 両足にはスニーカーを素足で、踵を踏んで履いている。 そしてその手には、現在進行形で食べられている大判焼き。 はっきり言って、その風貌はこれ以上なく異様なのだ。 正直な話、なのはも最初にLを見た時はそう思った。 そんな彼が周囲の注目を集めるのは、至極当然である。 しかし、彼自身はと言うと全くそんなものは気にしていない。 極めてマイペースに、本局内の様子をじっくりと監察している。 L change the world after story 第3話「二人の天才」 「成る程、流石は本局です。 余程大きな建物ではあるだろうと予想はしていましたが、これは予想以上でした。 セキュリティも整っている様ですし、まるで要塞ですね」 「にゃはは……私も初めて本局に来た時には、凄い驚きましたよ」 「これならば、無限書庫の規模にも期待できそうです」 Lはなのはと何気ない会話をしながら、しかし注意深く周囲に視線を配らせる。 彼は今、本局内の内部構造を、目に見える範囲全て頭の中に叩き込もうとしているのだ。 これから先、この本局に出入りする機会は確実に増える。 単なる来訪・捜査協力・本局のジャック……考えられるケースは幾らでもある。 そしてそれらの際に、一々地図などを確認する手間をかけたくない。 そこでLは、丁度良い機会だから今のうちに覚えておこうと考えたのである。 (広さは首相官邸以上。 周囲は次元の海で、転送魔法等の特定の手段を使わない限りここからは逃れられない。 同様の理由で、外からの侵入も容易ではない……そして何より、魔道士の方々が常に数十人はいる。 防犯面に関してはかなりの物だ……) 「Lさん、着きましたよ」 数分後。 二人は、目的地である無限書庫に到着した。 Lは持っていた大判焼きを一口で飲み込み、服の裾で手を軽く拭く。 流石に書庫内は飲食禁止の様なので、さっさと食べ終えたのである。 なのはがドアを開き、中へと入っていく。 Lも彼女に続き、無限書庫へと足を踏み入れ……そして、感嘆の溜息をついた。 「これが無限書庫……凄いですね」 無限書庫の実態は、Lの想像を遥かに超えた代物だった。 彼は無限書庫を、とてつもなく大きい図書館の様なものであると考えていた。 しかし、実際は図書館なんてレベルではなく……図書館とは、遥かにかけ離れていた姿であった。 まず書庫内の壁は、出入り口を除いてその全てが本棚。 それらが円柱状に積み重なって、軽く100メートルは越えているであろう高さを為しているのだ。 言うなればこれは、本棚で出来た巨大な柱の内部。 Lはその凄まじさを実感しつつ、更に一歩前へと足を踏み入れる。 すると、その次の瞬間だった 「!!」 体がふわりと宙に浮いた。 続けて、隣にいたなのはも同様に浮き上がる。 一体何事かとLは感じたが、すぐに冷静さを取り戻して状況を理解する。 実際に体験するのはこれが初めてだが、こういう状態をどういうのかは勿論分かっている。 「成る程、魔力による擬似的な無重力空間ですか」 無限書庫の内部は、俗に言う無重力状態であった。 しかし完全な無重力と言うわけではないらしく、その証拠に、本棚に置かれている本はちゃんと立っている。 また、司書達が狙った本棚付近で停止できている様子から察するに……恐らく、中央に向かうに連れて重力が軽くなっているのだろう。 書庫としてちゃんと機能できるように、上手い具合に調整が出来ている。 Lはこの仕組みに感服しつつ、体をぐるりと回転させて体制を整える。 司書の全員が空を飛べるとは思えないこの書庫内において、高い位置にある書物をどうやって取るのかと思ったが、これで納得がいった。 Lはそのまましばらく、書庫内全体の様子を見渡してみる。 すると……一人の青年が、上方からこちらに向かってきているのが見えた。 「いらっしゃい、なのは」 その青年は、なのはへと挨拶をする。 Lはそれを聞き、ちらりと横目でなのはの表情を確認した後、再び青年へと目を向ける。 眼鏡をかけた、いかにもといった感じの好青年。 なのはの嬉しそうな表情から察するに、どうやら間違いなさそうである。 「ユーノ君、久しぶり♪」 やはり、無限書庫の司書長―――ユーノ=スクライアであった。 ユーノはゆっくりと降下し、二人と同じ位置まで下がる。 久しぶりになのはと会えたからか、彼も彼女同様に嬉しそうな表情をしていた。 その後、ユーノは一度なのはに微笑んだ後、Lへと片手を差し出す。 彼は他の局員達と違い、前もってなのは達から来訪の連絡は受けていたので、Lに関してはある程度分かっていた。 また、無限書庫司書長という立場上、彼以上に得体の知れない人物とは何度も出会っている。 その為、彼に対しての抵抗は殆どなかった。 「はじめまして、Lさん。 司書長のユーノ=スクライアです」 「こちらこそはじめまして、ユーノさん。 私がLです」 Lもユーノに答え、片手を差し出す。 世界一の探偵と称され、世界中の全警察組織を動かす事が出来る唯一の存在であるL。 無限書庫の司書長という、管理局内でも極めて高い位に立ち、考古学者としても有名であるユーノ。 共に優れた知力を持つ二人の天才が、しっかりと握手を交わし合う。 「それでLさんは、どういった資料が必要なんですか?」 「とりあえず、ミッドチルダの歴史に関しまして、少し。 この世界に来て間もないですから、詳しく学んでおきたいと思うんです。 後、辞書も貸してもらえると助かります、意味の分からない専門用語等が出てきた時の為に」 Lはユーノへと、簡潔に己の用件を告げる。 なのは達へも言ったように、その目的はミッドチルダの歴史に関して詳しく学ぶ事である。 この世界で生活するに当たり、こう考えるのは極めて自然な事。 だから、なのはもLを素直にユーノの元へと案内した……しかし。 ユーノは、そんな彼の言葉に少しばかりの違和感を覚えた。 (とりあえず……?) Lが最初に呟いた『とりあえず』という一言。 これが、ユーノにはどうも引っかかったのだ。 普通に考えれば、他にも何か調べたい事があるという意味なのだろうが…… これは、無限書庫に他に用事があるという意味にも取る事が出来る。 調べ事以外にも、やる事があるという様に取れるのだが……考えすぎだろうか。 「それじゃあ、私はちょっと書類を出してくるから。 ユーノ君、Lさん、また後でね」 「はい、分かりました」 「うん、また後で」 なのはは他に用事がある為、ここで無限書庫の外に出る。 それを見届けた後、ユーノは早速Lの要求に応えることにした。 比較的分かりやすい類の歴史書を一冊と、辞書を二冊程取り出して手渡す。 片方は言うまでもない国語辞典、そしてもう片方は、地球で言う広辞苑のミッドチルダ版である。 大抵の用語に関しては、この二冊があれば十分に事足りる。 それでも分からない部分が出た時は、直接教えればいい問題である。 「分からない部分があったら言ってください。 僕の分かる範囲でですが、説明しますから」 「ご配慮ありがとうございます、ユーノさん。 それじゃあ、早速失礼いたします」 Lは両手の親指と人差し指とで、歴史書の両端をそれぞれつまみ、ページ目を開く。 独特な、少なくとも普通とは言いがたい読書の仕方だった。 見た目が奇妙ならば、その動作もまた同様ということなのだろうか。 ユーノや、見ていた他の司書達はついついそう考えてしまうが…… 彼等が本当に驚かされたのは、この直後だった。 「え……そんな早く読み進めて、大丈夫なんですか?」 「はい、問題ありません」 Lが、かなりのスピードでページを次々にめくり始めた。 並外れたスピードでの速読を開始したのだ。 恐らくは、自分達が今まで見てきた中で最速のレベル。 他に並べる者がいるとすれば、恐らくユーノ一人だけだろう。 彼ならば、魔法を使えばLと同じスピードで書物を読むことは出来る。 だが……Lには、魔法も何もない。 彼は素で、スクライア一族の探査魔法に並んでいるのだ。 尤も、一度に複数の書物を見る事ができるという点では勝っているが……それでも、これは十分凄い。 ちゃんと内容も頭の中に叩き込めているようであるし、たいした物である。 「凄いですね……それじゃあ、僕は仕事に戻ります。 何かあったら、気軽に声をかけてくださいね」 「そうさせていただきます」 Lは一瞬だけユーノに視線を向けてお辞儀をし、再び読書に戻る。 ユーノは彼からの返答を聞いた後、仕事を再開すべく魔法を発動させた。 本棚から複数の書物を引き寄せ、それを自分の周囲に配置。 魔法を使い、それら全てを一度に読み始めるが……それから十数分後、ユーノがある事に気づく。 いつからだろうか、Lがずっとこちらに視線を向けているのだ。 「……ユーノさん」 「Lさん、どうかしましたか?」 「羨ましいです」 「え?」 Lの口から出た予想外の言葉に、ユーノは呆気に取られた。 羨ましいといきなり言われても、何の事なのかが分からない。 一体彼は、自分の何が羨ましいと言っているのか。 ユーノは少しばかり考え、とりあえず一番可能性の高そうなものを口にしてみる。 「……僕の魔法の事ですか?」 「はい。 一度に複数の資料を読み進められるというのは、凄く便利です。 捜査の際には、容疑者リストやら過去の事例やらに目を通さなければならないのですが……」 Lが羨ましいと感じたのは、ユーノの予想通り魔法のことであった。 探偵という役職にあるLからすれば、彼の魔法はかなり魅力的だった。 推理材料として大量の資料を読むというのは、彼にとっては日常茶飯事である。 そして、それに時間を費やしてしまうという事もザラである。 それ故に、ユーノの魔法をこの上なく羨ましく感じたのだ。 もしも自分にも彼同様の力があれば、大幅な時間の短縮ができ、他の作業を円滑に進めることができるだろう。 だが……それは叶わない願いである。 「残念なことに、私に魔法は使えません。 尤も、リンカーコアがあるかないかをまだ調べてはいないですから、もしかすると使えるかもしれませんが。 しかし私に魔法が使えたとしても、ユーノさんの使っているその魔法は恐らく使えないでしょう」 「どうしてそう思うんですか?」 「ユーノさんが司書長だからです」 「……成る程」 Lの簡単な、しかし的確すぎる答えに、ユーノは思わず感心してしまった。 彼の言うとおり、この探査魔法はスクライア一族固有のもの。 誰にでも、簡単に使えるものではない……Lはその事実を、即座に見抜いたのだ。 「ユーノさんはかなり若い、普通に考えれば司書長という役職としてはあなたは異例すぎます。 順当に考えれば、もっと経験豊富な年配の方が就くのが妥当です。 しかし、しっかりした実力があるならば話は別になります。 あなたが異例であられたのは、特別な魔法が使えたからであり、その御蔭で無限書庫内ではこれ以上ない戦力になるから。 他にその魔法を使えるものはいない、いや、いたとしてもあなたのレベルには及ばない。 だからあなたは司書長という立場にいられ、だから私にはあなたの様に魔法を使う事は不可能です」 「はは……確かに、この魔法があるからこそ、僕はここで働けてますからね」 「ええ、ですがそれだけではなく、あなた自身に人望があるというのも大きいでしょう。 そうでなければ、これだけ司書の皆さんが一緒に仕事はしてくれませんから」 Lの見事なまでの分析力に、ユーノは感嘆の息をつき、他の司書達はただただ呆然としていた。 流石は、世界一の探偵と呼ばれているというだけの事はある。 もしもこれで、彼が本当に魔法を使えれば相当の事になるだろう……それこそ、ユーノの様な力があれば鬼に金棒である。 そんな期待を抱きながら、ユーノは思い切ってLに尋ねてみる。 「じゃあLさん、後でリンカーコアの検査を受けてみませんか? 僕の様な魔法は使えないにしても、何か発見があるかもしれませんし」 「お心遣いありがとうございます、ですが。 私は別に、魔法が使えなくても構いませんから」 「え?」 Lからの意外な返答に、ユーノは言葉を失ってしまう。 普通、魔法の存在を初めて知った者というのは、自分にも使えるかどうかというのを気にするのが殆どである。 だから、Lも魔法が使えたらという期待を同様に持っているものだと思ったのだが……答えは真逆だった。 別に魔法が使えなくても何も問題は無いと、言い切られてしまった。 一体どういう事なのか、ユーノはその理由を尋ねてみようとするが、それよりも早くLが口を開く。 「私には、ここがありますから」 己の頭を人差し指で指しながら、簡単に答える。 知力さえあれば、別に魔法が使えなくともどうにでもなる。 この上なく単純な、しかし説得力のある答えであった。 確かに管理局内にも、魔法が使えずとも高い地位についている局員はいる。 そしてその多くは、Lが言うように頭が切れる者達である。 「使えるにしても……そうですね。 ユーノさんのその魔法以外じゃ精々、念話ぐらいでしょうか、使いたいと思うのは」 Lが他に使いたいと思えたのは、念話の力だった。 携帯電話や無線等を使わずとも簡単に連絡が取り合えるというのは、中々便利である。 これさえあれば、周囲に怪しまれる事無く情報のやり取りが出来る。 誰にもばれるリスクが無い連絡手段というのは、張り込みや潜入捜査等において相当強力である。 これは使えると、確かにそう思ったが……実はこの念話の力は、使おうと思えば使える。 いや、既にLは昨日の時点で使っているのだ。 そしてこの事実には、ユーノも気付いている。 「でも念話だったら、専用の機材があったら使えますよね?」 「はい、実際に昨日ゲンヤさんと一緒にやりました。 現場に直にいる時には流石に無理ですが、それ以外なら大丈夫です」 昨日の空港火災。 現場の指揮を取っていたLとゲンヤの二人は、通信機越しに魔道士へと指示を出していた。 そしてそれは、魔道士達へと念話の形で受け取られた。 これが意味する事は一つ……魔法が使えなくとも、機材を介するという条件付ならば念話は誰にでも使えるのだ。 厳密に言えば、魔法の使えない側は普通に機材へと喋る必要があるので、念話とは呼べないかもしれないが…… 「使えるのならば、それはそれで良し。 使えなくても、別に代用は可能……はっきり言ってどちらでもいいです。 まあそもそも、リンカーコアがあるか無いかが分かってない以上、こういう事を言ってても仕方ありませんが」 Lは軽く溜息をついた後、歴史書を閉じてユーノへと手渡す。 元々相当の速読なのに加え、前もってネットで簡単な知識は調べていたのも手伝って、読み終えるのに然程時間はいらなかった。 辞書も結局の所、2~3回程使ったぐらいである。 (さて、と……) Lはこれからどう動くかを考える。 知りたかった事の大体は知る事が出来たが、細かい専門的な知識に関してはまだである。 ユーノに新たな書物をもらい、それに関しても学んでおくか。 それとも、調べ事を一回ここで切り上げ……もう一つの目的を果すべきか。 (あまり時間が経ってからでは、なのはさんがここに戻ってきてしまう。 そうなると、タイミングを計るのが少し難しくなる……やはり今か) やるのは今。 今のこのタイミングが最適と見て、Lは決行を決めた。 他の者達に怪しまれぬ様、さりげなくユーノへと言葉をかける。 「ユーノさん、すみませんがお手洗いに案内してもらってもいいですか? 私には、ここがどうなっているかが分からないので」 「あ、いいですよ。 それじゃあ、ちょっと待っててくださいね」 ユーノは資料にしおりを挟み、作業を中断。 出入り口へと、ゆっくりと降下していった。 Lもその後に続き、二人は書庫を出る。 そして、扉から数歩ほど離れた後……ユーノはLへと、口を開いた。 「……Lさん。 本当に、お手洗いなんですか?」 「……流石です、気付いていましたか」 ユーノはLの目的に気付いていた。 やはり最初に違和感を感じたとおり、彼は他に用件があって無限書庫に来た様だった。 そう確信に近づけたのは、先程のLの言葉。 お手洗いに『案内してほしい』という一言であった。 一見、何てことのない単なるお願いであるが……実はこの一言には、不自然な点があった。 何故ここで、案内してほしいと言ったのか。 こういう場合、『場所を教えてほしい』と聞くのが普通である。 案内をしてほしいと言うにしても、やはり最初に場所は尋ねる。 しかし、それをすっ飛ばしていきなり案内して欲しいとは普通はあまり言わない。 場所がトイレというならば尚更である。 トイレに案内してほしいなんて、下手をすればとんでもない誤解を招きかねない。 L程の知力がある者が、そういった問題に気付かないとも思えない。 ならば、彼がこう言った目的は一つ……自分と一対一で話をする為である。 だが……万が一、単なる言い間違えや、天然という可能性もある。 単に、自分が気にしすぎているだけかもしれないし、もしかするとそれ以上……なるべく考えたくない展開もありえる。 そこで、Lにカマをかけたのだ。 「やっぱりでしたか……今のでやっと確信できましたよ」 「……私としたことが、迂闊でしたね」 他に何か目的があるんじゃないか。 思い切ってそう尋ねる事で、ユーノはLの真意を確かめにかかったのだ。 結果は見事成功……Lには他に目的があることが判明した。 他の誰かに聞かれてはまずい、自分にだけ話したい事があるのだと。 「まあいいでしょう、説明の手間は省けましたしね。 とりあえずユーノさん、廊下で立ち話では流石に話を聞かれる可能性があります。 どこか、近くにいい場所はありませんか?」 「それでしたら、すぐそこにあります」 ユーノは少し離れた位置にある部屋の扉を開け、Lを中に招き入れる。 この時間ではあまり使われる事の無い、小さな給湯室。 ユーノはLが中へと入ったのを確認して、鍵をかけた。 これで条件は整った……一対一で会話する事が出来る。 「余り話が長引きますと、司書の皆さんに怪しまれます。 なので、手っ取り早く話をさせていただきます。 私はこのミッドチルダにおいて、これまで同様に探偵として動きたいと思っています、しかし。 この世界に来て間もない私には、人脈は皆無です……これでは依頼も殆ど入らないでしょう。 そこで、ユーノさんにお願いがあります。 ユーノさんは無限書庫の司書長として、管理局の様々な部署に顔が知られています。 顔の広さは相当のものでしょう、ですから。 私の方で、当面の衣食住の方が整いましたら、連絡をしますので、局内全体に私の事を話してもらえませんか? 解決できない事件等があったら、いい探偵が一人いるから回して欲しいと」 「……それはつまり、僕に仲介役をして欲しいという事ですか?」 「それが私にとっては一番理想的な形です。 ですが、ユーノさんの忙しさも分かってはいますので、全部が全部とは言いません。 やってもらうのは、最初の内だけでいいんです。 私の名前がそれなりに知られるまでの間だけで」 Lの主な頼みと言うのは、自分の事を紹介・仲介してほしいという事であった。 今はまだ、昨日の空港火災を解決に導いたという実績しか自分にはない。 ゲンヤやはやて達、昨日の現場に居合わせた者達の間では確かに噂にはなっているだろう。 しかし、局内全体に名前が知られているかいないかと聞かれれば、答えは後者。 しっかりとした土台を作り、管理局との太いパイプを持つ為には、それでは駄目なのだ。 だからLは、ユーノに頼んだ。 管理局内に広い人脈を持つ彼は、宣伝をしてもらうには一番の適役なのだ。 「まあ、他にも捜査協力をお願いする可能性があるにはあります。 事件解決のため、無限書庫の資料をお借りしたいと思うときは必ず来るでしょうから」 「成る程……だから一対一にしたんですね」 「正解です、鋭いですね」 ここでユーノは、Lの真意を察する。 捜査協力を頼むかもしれないという言葉が、この状況を作った理由に直結したからだ。 まず、何故Lは一対一で話をしたかったのか。 紹介役や捜査協力の依頼というのは、別に書庫内でも十分出来る話である。 しかし、それをしなかったのは……他の司書達に話を聞かれたくなかったからだ。 Lの言うとおり、無限書庫の資料と言うのは、事件次第では解決の強力な武器と化す。 だが、それと同時に……強力な犯罪の武器ともなりえる可能性がある。 まだ見ぬ未知のロストロギアに関する情報や、その取り扱い方に関してなど、危険なものも多いのだ。 「万が一、司書の中に犯罪者に加担している者がいれば、その人は私を脅威と思うかもしれません。 確実に、何かしらの対策を打つでしょう……そうなれば厄介です。 それを防ぐ為に、ユーノさんだけにこうして話をしたんです。 あなたは信頼できそうですから」 無限書庫内に悪人がいた場合、自分の存在を知られれば対策を立てられる。 それを防ぐ為に、Lはユーノだけにこうして話したのだ。 しかし……信頼しているからというのは、はっきり言えば嘘である。 ユーノも、その事は分かっていた。 出会って間もない人間をすぐに信頼する探偵など、普通いる筈が無い。 疑う事が彼等の仕事と言っても、過言ではないのだから。 つまりこれは、別に真意があるという宣言。 それに気づけと言う事であり……ユーノは、すぐに気づく事が出来た。 Lの目的の一つは、釘を刺すことだと。 (もしも司書長の僕自身が悪事に加担しているとなれば、あえて暴露する事で牽制になる。 自分は疑いをかけているんだと、下手な動きが出来ないよう抑止力を働かせられる。 それにこれは、他の司書達をよく見張れっていう意味にもなる。 万が一、Lさんの言うとおりな人がいた場合は、司書長の僕にそれを止める責任がある。 それが出来なかった場合、僕も当然上司としての責任があり……上手く考えられてるな) 敢えて情報を相手に晒し、逆にそれで動きを封じる。 かつてLが夜神月に対しても実行し、彼を精神的に追い詰める事に成功した、効果的な攻めである。 ユーノもまた、その攻めの良さに感心せざるを得なかった。 これでは、対策を立てるのは難しくなる。 何せ、自分達は疑われているのだと堂々と宣言されているのだから、下手な動きを見せる事が出来ない。 見せれば即座に手を下すという、強烈な意思表示をされているも同然なのだから。 尤も、自分達には何の落ち度もないのだから、そう心配する必要は無いのだが。 それに……これは釘を刺す事よりも寧ろ、もっと重要な目的がある問いだという事に、ユーノは既に気付いている。 「……僕の事を試してみた結果はどうでしたか?」 「その言葉が聞けた以上、合格ですね」 Lのもう一つの目的。 それは、ユーノの知力を試す事であった。 期間限定といえど、仲介役として選ぶ以上はそれなりの実力が無ければ困る。 何でもかんでも依頼を持ってくるのではなく、依頼をそれなりに選んで欲しいからだ。 「正直に言うと、私はまだ管理局に不信感を抱いています。 これだけ大規模すぎる組織となると、どうしても穴はあるでしょうからね。 私のいた世界でだって、警察や政治家の汚職等はザラでしたし……知らぬ内にそんな悪事に加担する事になれば、最悪です。 ですので、そういう事を防げるように、ユーノさんにそれなりに依頼を選べるだけの実力があればと。 無論、悪事に加担するような依頼であると判明した場合は、その依頼人を罰するつもりでいます。 気分を悪くされたならばすみませんが、これが今の正直な気持ちです」 「……いえ、Lさんの言うとおりです。 確かに管理局内には、黒い噂のある人はいますし……それに……」 ユーノは、かつての闇の書事件の事を思い出す。 彼自身の知り合いにも一人、犯罪行為に手を伸ばしてしまった局員がいた。 闇の書を止める為にとはいえ……その局員は、少々行き過ぎた手段をとってしまった。 今はその罪を償い終え、二人の使い魔と共に故郷で平和に暮らしているが…… ここでユーノは、軽く頭を振って考えを消す。 昔の事を懐かしむよりも、今はLへの対応を考える方が先である。 「……いえ、何でもありません。 Lさん、話はこれで全部ですか?」 「はい、お手数おかけして申し訳ありませんでした……それで、どうでしょうか? 無論、無償でしてほしいなどと言う馬鹿な事は言いません。 報酬は山分け……いえ、ユーノさんの方が多めに取ってもらってもこの際構いませんが」 「……」 果たして、Lに協力するか否か。 ユーノは決断を迫られ、しばし考える。 いきなり自分の実力を試され、管理局への不安をぶちまけられと、物事を頼むには失礼な態度。 普通ならば、当然断るのだが……どういう訳か、不思議とそんな気が起こらなかった。 それどころか……ここまでLと会話を交わし続けている内に、彼の中にはある思いが芽生えつつあった。 (参ったなぁ……見てみたくなっちゃったよ。 Lさんが実際に、事件を解決する所を) ユーノの心は高ぶっていた。 Lのその高い知力を以てすれば、きっと相当なことが出来るに違いない。 彼と組めば、面白い仕事が出来るのではないかと思えてしまったのだ。 それは、かつてLと行動を共にしていた、南空ナオミや駿河秀明達が抱いた気持ちと全く同じであった。 ユーノは、己の好奇心が高まりつつあるのを感じながら……ゆっくりと、Lへと答える。 「よろしくお願いします、Lさん」 ユーノはLへと協力することを決めた。 彼の助けとなる為、彼と共に戦うために。 互いに手を差し出し、しっかりと握手を交わす。 「ありがとうございます……ユーノさん」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/310.html
遊乃堂奇譚その六?「造られし者達の」空気読まずに1レスもの R8rHjTvr ここは海鳴町の片隅にある古びた佇まいの古書店『遊乃堂』。 いつも静かな古書店はやはり今日も穏やかでゆっくりとした時が流れていた。 ――こんな物まで集めてくるなんて僕が想像しているよりも上をいっているな、あの“無限書庫”は。 ユーノは指定席となっているカウンターのある席で何やら分厚いハードカバーの本を読みふけっていた。 そしてそこに書かれている人物に対して思いを巡らせる。 ――でも彼も考えようによっては少し似ている存在なのかな。 それに彼があんな事を起こした気持ちもわからなくはないな、とも彼は思った。 「どうなさったんですか? 我が主ユーノ。何か浮かない顔をしていらっしゃいますが」 アインスは暗い表情で読みふけるユーノの顔を心配になってのぞき込んだ。 「いや、僕らの“無限書庫”でね、ジェイル・スカリエッティのデータを見つけたんだ。 それをまとめて文書データにした物を読んでいたんだけど……、だからたいしたことじゃないんだ」 ユーノが隠してしまうよりも早くアインスはその“書籍”の上に手をのせた。 その書籍と触れたアインスの手がほのかに青く光る。 「私が新たに復元される前に起こったJS事件の首謀者。彼のプロフィールも含まれています」 「まあ、そうだね」 ――相変わらずお優しい方ですね、主ユーノは。 「彼は私と同じ、何かをなす目的で人為的に作られた存在なのですね」 ――だから私のことを考えて暗い顔をなさっていたのでしょうか。 「いや、だから同じも別もないと思うけど……」 ――僕だってもしかすると何かによって造られた存在かも知れないんだよ。 ユーノは慰めにしか聞こえないその言葉をギリギリのところで口にするのをやめたが。 「そうですね。彼は人造であっても生命体であり私はデバイスの管制人格に過ぎず、比較対象にはなりません」 「だからさ、君にはそんなことを言って欲しくも考えて欲しくもないんだけど!」 珍しく大声を上げるユーノ。 「……申し訳ありません。僭越なことをいったようです」 深々と頭を下げるアインス。 「そうじゃなくてさ。 大切なのはどう生まれてきたかじゃなくて、どう生きていくかなんじゃないかって僕は思うんだ。 ……なるほど僕は幸せ者だよ。それは今、誰にも憚らずに胸を張って大声でいえるよ。 たとえ両親を知らなくてもや僕の生まれが実のところはよくわからなくてもね。 スクライアの村のみんなに育てられて、そしてこの世界でなのはやフェイトや、ま、クロノもかな……、 みんなに出会えて、そして今も君やアルフと一緒にここにいられるからね。 その上、夢だった書籍や資料に囲まれた生活が出来てるし。 だから君が不幸だと思っているとしたら、それは君の心の持ちようと、 そして主として側にいる僕に力がない からだと思う」 ――主ユーノ、貴方の幸せの中に私も含まれているというのならばそれだけで私はとても幸せです。 「申し訳ありません。……私にとって言葉というものは伝達がうまくいかなくてももどかしいものです。 私はこの自分という存在も生まれも別に悲しんではおりません。そのように聞こえたのであれば謝ります。 私がこのような存在だからこそ新たな主として貴方と出会うことが出来た。 今も貴方という存在のそばにいられる私は大きな幸せを感じることが出来る。 だからむしろ私がこのような存在であることに感謝をしたいくらいなのです」 ユーノはアインスのその言葉に正直ホッとした。 「ならいいんだ……。もし僕という存在が君の幸せであるというのなら君は僕のそばにずっといるといいよ」 「はい。主ユーノがおそばにいていいというのであればずっと」 ――いつか私という存在が消えるまで…… 見つめ合う二人の近くでわざとらしい咳払いが聞こえた。 「プロポーズの最中に悪いけどさ、アタシ晩ご飯の買い物に行ってくるんだけどいいかい?」 「ア、アルフ、プ、プロポーズって……」 「いいえ、主ユーノが私などにプロポーズをするわけはありません!」 「あれ、さっきのはそんな風に聞こえたんだけどね。ユーノはアインスじゃあご不満かい?」 「いや、そんなことはないけど……」 いたずらっ子のような笑みを浮かべてアインスに目配せするアルフ。 「じゃあ、いいんだ。そしてアタシはユーノに振られちゃったぁ~と♪ お邪魔虫は消えよっかな」 「だからさ~……」 アインスは幸せな気持ちを胸に抱いて 目の前の二人のいつもの掛け合い漫才のような会話を微笑みながら見守る。 窓の外には冷え冷えとした情景とは別にこの古書店の中には暖房よりも少しだけ暖かな空気が漂っていた。 29スレ SS アルフ ユーノ×アインス ユーノ・スクライア リインフォース・アインス
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/482.html
明日に架ける橋 ◆Qpd0JbP8YI 「それじゃあ、スクライア」 ブレンヒルトは銀色の艶やかな髪を後ろに撫で付けながら、話し始めた。 「まずはあなたのことについて話してもらおうかしら」 「ぼ、僕?」 彼女の見た目に似合わぬ流麗な様に多少見惚れながらも、 ユーノは質問にハッキリとした声で答えた。 「僕はユーノ・スクライア。時空管理局内の無限書庫の司書長をやらさせてもらっている」 「無限書庫?」 「うん、無限書庫というのは、あらゆる次元世界の書物やデータを集めたデータベースのこと。 世界の記憶を収めた場所とも呼ばれていて、そこにない情報はないとも言われているところだよ」 その言葉を聞いて、ブレンヒルトは心の中で笑みを浮かべた。 今まで足りないと思っていた情報。 それをフェレットが山のように抱え込んできたのだから、それも当然といえるだろう。 「なるほど、それなら司書長さん、ずばり聞くわ。あなたはこのゲームをどう考えているのかしら?」 ブレンヒルトの瞳が真っ直ぐとユーノに注がれる。 死と隣接するゲームに直面し、それでも抗おうとする真摯な目。 しかしその視線を受けて、ユーノは僅かに冷や汗を浮かべた。 殺し合いが始まって、既に半日が経過。 その間、何をしていたかと言えば、彼自身余り思い出したくないもの。 そこから何かしらの考察を得るというは、幾らユーノとはいえ、無理なことだった。 とはいえ、ユーノ自身、素直に何も考えていなかった、と言うのも憚られる。 「た、確かなことは、まだ何も言えない。情報が足らなさ過ぎる」 「スクライア、あなたは無限書庫の司書長なのでしょう? 情報は足りているんじゃないのかしら? それとも怪我のせいで思い出せないのかしら? だとしたら、大変ね。 その傷が頭に影響を与えているとは考えづらいけれど、 念の為にその傷がどうなっているいるか調べたほうが、やっぱり良いわよね?」 そう言いながら、ブレンヒルトは自らの手をニギニギとさせ、 ゆっくりとユーノのお腹へと近づけていく。 「ちょ、ちょっと待って! 幾ら司書長だからって、 全ての情報を記憶出来るわけないだろう? だ、だから、薄ら笑いを浮かべながら、こっちに来ないでくれ!」 悲鳴とも言えるユーノの声を聞いて、ブレンヒルトは盛大に溜息を吐いた。 「じゃあ、あなたはこのゲームについて、本当に何も知らないの?」 「う、うん。まだ確かなことは何も……」 使えないわね。 心の中で呟きながら、ブレンヒルトはユーノを見下ろす。 これならまだバルディッシュのほうが役に立つというものだ。 「じゃあ、あなたはこれからどうするつもりなの?」 「なのはと明日香と……ルーテシア、それにジュエル・シードを探そうと思っている」 恐らくは高町なのはを意味するであろう名前を声にする目の前のフェレットを ブレンヒルトは幾分か不思議に感じたが、今はそれに勝る疑問が彼女にはあった。 「そう……それであなたは無事に全部見つけたとして、どうするつもりなの?」 その質問には沈黙を返すユーノ。 その居ずまいに、思わずブレンヒルトの額に青筋が浮き立つ。 無限書庫と言われる何だか壮大な所に勤めておきながら、先を見通そうとしない浅慮。 ブレンヒルトの苛立ちに限界が来るのは当然のことだった。 「このバカフェレット! 今の状況が分かっているの? それじゃあ、あなたの目的を果たしたところで、全てが解決するというわけじゃないのよ。 今、私たちはデスゲームの真っ只中にいるの。 このゲームに対して、何かしらの解決策を導かなきゃ、あなたもあなたの探し人も全部終わりよ。 それともスクライア、あなたは優勝でも目指しているのかしら?」 波濤の如く押し寄せるブレンヒルトの言葉。 その波に飲み込まれて、平常心を保つのは難しい。 だけどユーノは平然と佇立し、思いがけない方法で、その波を受け返した。 「いや……ここからの脱出の手段なら、ないこともない……」 「何ですって!!?」 その言葉を聞いたブレンヒルトは、 思わず怪我をしているフェレット姿のユーノのムギュッと両手で掴み、詰め寄った。 「さっさと答えなさい、スクライア!」 「ちょ、痛い、痛い! ブレンヒルト、痛いよ!」 見てみれば、ユーノの傷からは僅かに血が滲み出ていた。 「あ、あら、悪かったわね、スクライア。つい興奮してしまって……」 「いや……うん……いいよ、ブレンヒルトの気持ちも分かるし」 ユーノはフィジカル・ヒールの魔法を新たに発動させながら答える。 その様子に若干の居た堪れなさを感じながらも、ブレンヒルトは未だ興奮を隠せずにいた。 「それでスクライア、その方法は何? それは今すぐに出来ることなの? というか、さっさと私を元いたところに返しなさい!」 「いや……えっと……」 「ほら、さっさと答える!」 まくし立てるブレンヒルトにユーノは思わず怯み、言葉を失う。 その様子に痺れを切らしたブレンヒルトは威嚇するかのようにモギュッとユーノの身体を掴んだ。 「ちょっ、痛いって! 痛い! 話すから放して、ブレンヒルト!」 「よし! それじゃとっと話しなさい」 そう言ってブレンヒルトはユーノをベッドの上に放った。 そんな手荒な扱いに内心文句を募らせながら、 ユーノはブレンヒルトの興奮を治めるように、ゆっくりと説明を始めていった。 「まず最初に言っておきたいんだけど、これは安全で確実な方法じゃない。一種の博打みたいなものなんだ」 「随分と剣呑な言い方をするのね。それじゃあ、失敗したら、私たちの身に危険が及ぶような口ぶりじゃない」 「うん、実際、危険な方法なんだ。そしてやる価値があるのかも、今は分からない。それでも聞くかい?」 「ええ、聞くわ。どの道、今の私にはここを脱出する手段なんて何も思い浮かばない。 それなら何もない道を進んで迷うよりかは、危険だと分かっていても、 今にも切れそうな吊り橋を渡った方が、よっぽど安心できるわ。 何てったって橋の先には明日が見えているんだからね」 「そうだね。そうかもしれない」 ブレンヒルトの言い回しに、ユーノは同意した。 「それで、その危ない橋を渡る方法は何かしら?」 「ブレンヒルトはジュエル・シードというものを知っているかい?」 「ジュエル・シード? さっきあなたが探しているものって言ってたわね?」 「うん」 「残念ながら知らないわ。説明をお願い出来るかしら?」 「うん。ジュエル・シードはロスト・ロギア、古代遺産の一つで、何でも願いを叶える宝石と言われているものなんだ」 「ちょっと、待って、スクライア。あなたの言う脱出手段って、 もしかしてそのジュエル・シードに、願いを叶えてもらうってことなの? それともこれは何かしらのジョークなのかしら?」 ブレンヒルトは何とも呆れた顔でユーノに聞いた。 期待して質問してみたら、返ってきた答えは、何ともメルヘンチックなもの。 そんな現実感を感じさせないご都合主義的なもので、彼女は到底納得できるはずもなかった。 「いや、ジョークじゃないよ、ブレンヒルト。大真面目さ」 侮蔑の眼差しを送るブレンヒルトに、 ユーノは至って真面目な視線を送り返し、更なる説明を加えていった。 「ジュエル・シードに願いを叶えてもらうってことで間違いはないけれど、厳密には違う」 「どういうこと?」 「結論から言えば、ジュエル・シードの力を解放させる」 「解放?」 「うん。ジュエル・シードは願いを叶えるという側面もあるけれど、その実体は次元干渉型のエネルギー結晶体。 そのエネルギーを解放させれば、次元震が起きて、このフィールドを覆う結界が壊れると思う。 また壊れないにしても、次元震が周りに与える影響は大きい。 恐らく……というより、十中八九、時空管理局がその反応を捉えて、ここにやって来ると思う。 そうなれば、プレシアもこんなゲームを続ける余裕はなくなるだろうし、僕たちも無事にここを脱出することが出来る」 ブレンヒルトはユーノの説明を聞き終えると、指を顎にあてながら、じっと考え始めた。 そしてその時間が終わると、すぐに彼女は口を開いてきた。 「スクライア、幾つか質問があるわ」 「なんだい?」 「まず最初にそのジュエル・シードがこの会場にあるかということ。 そんなゲームの盤台をひっくり返すようなものを、 あの腹黒そうなオバサンが私たちに支給するとは思えないわ。 二つ目は、その次元震とやらが、私たちにどういった影響を与えるか。 結界に覆われていても、尚、反応を確認できるようなエネルギーを目の前にして 果たして私たちは無事でいられるか。 そして三つ目。これは一番肝心なことよ。 スクライア、あなたの考えには首輪のことが欠落しているわ。 あなたは一体この首輪をどうするつもりなの? 取り敢えず、以上の三つよ。答えてもらえるかしら、スクライア」 「まず一つ目の質問だけど、答えは、ある。 実際ルーテシアのバッグに入っているのを僕が確認した。 恐らくはプレシアは殺し合いの促進を目的として、配ったんだろうね。 ジュエル・シードの願いを叶えるというのは、ものすごくあやふやなものなんだ。 上手く扱わなければ、ジュエル・シードは暴走して、持ち主を取り込んで、モンスターとなる。 そうなれば参加者の間に友好的な関係が出来るはずもなく、自然と戦闘が生じてしまう。 そういった事を考えれば、多分だけど、 他の参加者にも支給されている可能性も高いんじゃないかな」 「なるほど、ジュエル・シードがあるというなら安心だわ。 だけど、スクライアはそんな危ないものを上手く扱えるのかしら?」 「どうだろうね。ジュエル・シードの力を解放することは、僕でも出来ると思う。 だけど、それを完全に制御するとなると、僕一人じゃ、やっぱり難しいかな」 「一人……ね。というと、複数なら可能というわけね。 それでそのメンバーに入るのに、何か資格は必要なのかしら?」 「資格というわけではないけれど、補助系の魔法に長けた人物が欲しいね」 「それはこのゲームの中にいるの?」 「うん、僕の知る限りではシャマルとザフィーラの二人かな。 彼らがいててくれれば、何とか制御はできると思う」 「そう。それでその人たちは殺し合いに乗るような人かしら?」 「普段の彼らを見る限りでは、そういったことは考えられない。 でもこの場でなると、正直、分からないところがある」 「まあ、そうでしょうね。それにその人たちが脱出に必要というのなら、 どちらにしろ、会ってみないことには何も始まらないしね。 それじゃあ次の二つ目の質問の答えをいいかしら?」 「その答えは、何ともいえない。言っただろう、博打だって? 上手く制御できれば、何も問題はない。 だけど制御できなければ、次元震によって、この世界は崩壊。 そして、それに巻き込まれて僕たちは死ぬことになると思う。 勿論、全員ね」 「そう」 「そう、って……驚かないんだね」 「十分驚いているし、嘆き悲しんでいるわ。 でも、このままここにいても、死ぬという可能性は絶えず付き纏う。 だから、あなたのいうことは、今と大して状況が変わらないということなの。 なのに、それを今更、他人に分かるように驚いてみせる必要はないでしょう?」 「まあ、そうかもね」ユーノは苦笑した。 「それで三つ目は?」 「三つ目の答えは、僕自身、まだ何も考えていない」 「はー!? あなたは何を言っているの!?」 「いや、待って、落ち着いて! お願いだから、ブレンヒルトはこっちに手をのばさないで!」 「……ふん、あなたがそう言うとなると、まだ先に答えがあるというわけね?」 「うん。首輪の方は、多分、Lが考えていてくれていると思う」 「L?] 「僕のパートナー……というのかな? 探偵をしている人間だ」 「探偵ね~」 「そんないぶかしむ必要はないよ。彼の能力の高さは僕は保証する。 それに彼自身も名簿を見て、僕と同じ結論に達したと思うしね」 「結論? それは一体どんなものなのかしら?」 「結論といっても、そんな大げさなものじゃない。 ただ単に自分の役割を認識したというだけのことだよ。 僕がこのフィールドを覆う結界をどうにかして、 Lが首輪を解除の手段を模索するということを。 一応、僕が結界魔導師と呼ばれていることを、彼は知っている。 そしてその名の通り、僕は他の魔導師よりかは、結界について一日の長があると自負している。 そんな僕に彼が期待することは、勿論、決まっているだろう?」 「結界の解除、もしくは破壊といったところね」 「それにLには戦う能力はなく、また結界についての知識もない。 だとしたら、彼が選び取る行動の選択肢は予想がつく。 つまりは、首輪の解除。 Lがそう動いてくれるなら、僕は安心して他のことに専念できる」 「随分と信頼しているのね?」 「まあ、そうだね」 「信頼も結構だけど、スクライア、あなたはやっぱり今という状況を失念しているんじゃないかしら? あなたはさっき言ったわね。Lに戦う能力がない、と? そんな人がこんな所で無事に生き残っていられると思う?」 「う~ん」 ユーノは腕を組み、首を傾げながら、唸り声を上げた。 あの濁りきった目をした人間が、死ぬということが、上手く想像できなかったのだ。 寧ろ死んだとしても、そのまま普通に動き出しそうで怖い。 「どうだろう。 彼は頭も良いし、行動にも抜け目がない。 恐らくは生き残っていると思う。 でもそれについは、次の放送で分かるんじゃないかな」 「そうね。そういえば、放送も近いわね」 結果がすぐに分かるというなら、もしものことについてわざわざ頭を悩ます必要はないだろう。 「そういえば、あなたはジュエル・シードを持っているの? 見せてもらえるかしら」 「いや、ルーテシアに預けてあるよ」 ブレンヒルトは思わず眉をひそめた。 ルーテシアは先程、ユーノの腹を刺した張本人。 しかも、ゲームに乗っているという最悪な人物だ。 そんな人間の手に肝心なジュエル・シードが渡っているというのでは、 折角見えてきた脱出という文字が、遠ざかっていくのを感じずにはいられない。 そこで彼女が気になるのは、先程言っていたユーノの言葉。 「スクライア、あなたはさっきルーテシアを探すと言っていたわね。彼女を探して一体どうするの?」 「彼女と会って……うん……話をしてみるよ」 ユーノは言葉を選びながら、ゆっくりと答えた。 ゲームに乗ったものと対峙する。 ブレンヒルトはユーノとルーテシアの関係など、想像もつかなかったが、 それでもユーノの答えは危機感を放棄した馬鹿な考えとしか思えなかった。 「スクライア、確認するけれど、あなたは何故ルーテシアがあんなことをしたのか、ちゃんと分かっているの?」 ブレンヒルトの台詞を聞いて、ユーノはその答えを探す。 思い返せば、ユーノは出会って早々にルーテシアの裸を視姦し その次には彼女のいじらしい胸をまさぐっていた。 何とも破廉恥な行いをしてきたものだ。 それでは彼女が怒るのも当然といえる。 今まで無事だったのは、ひとえにユーノがフェレットという認識がルーテシアにあったからに過ぎない。 しかし、ユーノはミスを犯してしまった。 先の襲撃の際に、ユーノは咄嗟に変身を解いてしまい、人間体へと戻ってしまったのだ。 ルーテシアはマフィアだ。 そしてマフィアはプライドや面子を大切にするという。 あのナイフを持ったアクションは自分に不義を働いた人間ユーノに対して、 ルーテシアなりのケジメをつけたのだろう。 ユーノはそう判断する。 無論、何をするにしても、あんな状況ですることとは思えないが、ルーテシアはマフィアの跡目。 流石は肝が据わっている、ということなのだろう。 そんな彼女に対してユーノとて恐怖が湧かないわけではないが、 ここでちゃんと謝っておかないと、後々尾を引きかねない。 もし眼帯をした少女やそのファミリーにルーテシアの怒り、ユーノの正体がばれたらどうなるか。 それではこの会場における自身の危険性が遥かに増すし、 ユーノの関係者も見せしめとして処分されかねない。 またここを無事に脱出できたとしても、その後の命に保障がもてない。 やはり一番に解決すべき問題なのだろう。 「うん……分かっているよ」 ユーノは頼りなくはだが、しっかりと答えた。 「そう、分かっているのね」 今までとは違った優しい声が、辺りに響いた。 ユーノはてっきり軽蔑されるのかと思っていた。 自らの猥褻行為を省みれば、それも当たり前。 だけどユーノの目の先には、何とも柔らかな眼差しを送るブレンヒルトがいた。 「あなたがそこまで言うのなら、私からは何も言えないわ。 ただし、約束なさい。ちゃんと彼女を、ルーテシアを説得すること。いい?」 「えっ、う、うん、約束するよ」 ユーノの戸惑いをよそに、ブレンヒルトは感心していた。 ルーテシアはゲームに乗っていて、ユーノを傷をつけた。 それなのにユーノは彼女の行いを許し、説得しようというのだ。 全く馬鹿げた奴だ、とブレンヒルトは思う。 だけどそれと同時に、ユーノへの信頼が自分の内に湧いてくるのを、 彼女は感じずにはいられなかった。 【1日目 昼】 【現在地 H-8 畑の隅にある小屋】 【ブレンヒルト・シルト@なのは×終わクロ】 【状態】健康 【装備】1st-Gの賢石@なのは×終わクロ、バルディッシュ・アサルト(カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、首輪(矢車)、ランダム支給品0?1 【思考】 基本:ここからの脱出。 1.ジュエル・シードの捜索 2.L、シャマル、ザフィーラの捜索 3.残り15人になったら車庫の中身を確認してみる(信用できる人以外に話す気はない)。 4.キース・レッドとの約束は一応守るつもり。 5.戦闘には極力関わらない。 6.フェイトの生い立ちに若干の興味。 【備考】 ※自分とバルディッシュに共通する知人に矛盾がある事を知りました(とりあえず保留、別世界の可能性を考慮)。 ※キャロ、金髪の青年(ナイブズ、危険人物と認識)、銀髪の青年(殺生丸)の姿を遠くから確認しました。 ※車庫を無理に開けようとすれば首輪が爆発すると思っています。中身は単体で状況を変え得る強力な兵器だと思っています。 ※ルーテシアの話の真偽は保留。 ※ユーノ・スクライアのことを信用しました。 ※ルーテシアのことはユーノにまかせるつもりです。 【ユーノ・スクライア@L change the world after story】 【状態】魔力消費(中)、腹に刺し傷(ヒーリング中)、フェレットに変身中 【装備】なし 【道具】なし 【思考】 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊 1.ルーテシアと話をする 2.ジュエル・シードの捜索 3.シャマルとザフィーラの捜索 4.Lや仲間との合流。 5.首輪の解除。 【備考】 ※JS事件に関連した事は何も知りません。 ※プレシアの存在に少し疑問を持っています。 ※ルーテシアがマフィアや極道の娘だと思っています。 ※ルーテシアに刺されてから小屋に着く途中まで気絶していたのでルーテシアや明日香がどうなったのか知りません。 ※ルーテシアに刺されたのは、自分が破廉恥な行いをしたからだと思っています。 ※結界を壊す一つの手段として、ジュエル・シードの力の解放を考えていますが、実際にやるかどうかはまだ分かりません。 Back かがみとバクラが堂々とホテルで休憩するそうです 時系列順で読む Next The people with no name Back かがみとバクラが堂々とホテルで休憩するそうです 投下順で読む Next The people with no name Back Reconquista(後編) ブレンヒルト・シルト Next 誇りの系譜(前編) Back Reconquista(後編) ユーノ・スクライア Next 誇りの系譜(前編)