約 454,632 件
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/84.html
タイトル「前スレ最後のスーパーアリサタイムから」 作者:25-43 本文 前スレ最後のスーパーアリサタイムからちょっと妄想した その日、ユーノ・スクライアは無限書庫司書長としてではなく、管理局所属の遺失物調査官としてエリオとキャロが辺境自然保護隊として生きる世界を訪れていた 調査員からその世界にある遺跡からロストロギアが発見されたのだというのだ 調査依頼を受けたユーノは輸送担当のヴァイス、護衛を直々に担当するクロノ率いるクラウディアとともにその世界を訪れ、エリオと合流し遺跡へと向かった 遺跡へと到着した4人は訝しむ。確かにロストロギアは発見した、だがそれは本当にただの古代遺失物でしかなく、態々自分達が調査に向かうほどのものでもない。 何かがおかしい、そう彼等が考えた時にはもう遅かった。 遺跡を囲む森の中より、突如地をも揺るがさんばかりの怒号が響いた。 押し寄せてくる人の並、反管理局主義者のゲリラ達だ。その数850人、そう、遺跡調査は彼等によって仕組まれた罠だったのだ。 4人は分断され、圧倒的な物量の集中砲火を受ける。 元武装隊局員、現提督、将来有望な少年に結界魔法のエキスパートたる彼等であっても、さしもの約210倍の戦力の前には勝ち目は薄い。 なんと15時間もの間孤立しつつも必死に奮闘したことは賞賛に値しよう。 だが敵の波状攻撃の前についに彼等にも限界が訪れる。 一人、また一人と攻撃の前に倒れていく仲間達。そしてユーノ自身にも高ランク魔導師と物理兵器による攻撃が襲い掛かった。 プラズマフィールド発生装置・サイクロプスの瞳 ユーノの展開する結界の周囲に設置された高出力電磁波発生装置は、瞬時に結界内部を電子レンジへと変えてしまう 四方からの攻撃と全身を内側から焼き尽くそうとする熱波に絶叫するユーノ 僕はこんなところで死んでしまうのか? 彼女達と二度と会えなくなってしまうのか? まだ自分にはしなければいけないことがあるはずなのに 自分には守りたい人がいるのに 意識が白く濁り弾けようとした…その瞬間! ユーノの周辺に展開されたサイクロプスの瞳が上空から飛来した真紅の魔力弾丸によって破壊され、おって吹き荒れた炎の旋風によって周囲の魔法使いも吹き飛ばされた かろうじて意識を取り戻し、壊れかけていた全身を結界の治癒作用が修復していく感覚を感じながら、ユーノは空を見上げ息を呑んだ 少女が、いた 紅の鎧に身を包み、その背中からは燃え盛る炎がさながら翼のように吹き溢れ、赤い粒子がその周囲を舞っている 忘れるはずがない、見間違えるはずが無い、だが…なぜ彼女がここに? 朧かかった思考のまま伸ばされたユーノの手を、少女…アリサ・バニングスは取って微笑んだ 「生きてる?」 アリサ ユノアリ ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/334.html
チンクの無限書庫動乱期12話 作者:◆SgPKSOv5H6 ここはいつも騒がしい無限書庫司書長室。 普段ならここには司書長であるユーノが座っているのだが、ただいま仮眠中のため司書長代理であるチンクが座ってる。 ここ最近役職が増えすぎた為、司書長代理で役職を統一した。 とはいえ名称が変わっただけでやる仕事とは大して変わってない、せいぜい司書達への大まかな指示が追加されたぐらいだ。 重要な仕事や書類への判はユーノの指示がなければ何もできない。 もっとも重要な仕事を除いたとしても仕事は多いが。 (これだけの仕事をよく短時間でこなすものだ) ため息を吐きつつユーノの仕事のスピードの速さに改めて驚く。 その上予算やら資料提出の日程調整やらをやるのだ。 (実は情報処理専門の機人といわれても驚かんな。とはいえ何時まで司書長でいられるのやら……) ユーノとて只の人間と解っているチンクでさえ、そう思わざる終えないほど能力は異常だった。 皮肉な事にその並外れた能力のおかげでユーノが辞めた場合の後任が選出できない事態になっている。 今現在の司書たちでは大きく見劣りしているから全体のスピードが一気に落ちるだろう。 本局の人間は論外ですらある。 まぁ、ユーノは辞める事なんぞまったく考えてないし、辞める事になったらそれこそ管理局自体が崩壊しかねない、現状でそれを望む馬鹿もいない。 かといってユーノとて不老で無いからいつかは辞める、さすがにその時までは今のままではないと願いたい。 (まぁ、長期的にやっていくしかないか) 問題は山積みだが解決できない問題ではない、今は苦しいが頑張って将来を変えればいいのだ。 そう思いつつ仕事を続けていくチンク。 そんな時一本の業務通信があった、その瞬間司書長室どころか無限書庫全体にDanger、Dangerとアラームが響く。 チンクはその音を聞き思わず天を仰ぐ。 外で作業していた司書達は怨嗟の声を上げる。 「畜生、またか」 「冗談よしてくれよ」 「絶対俺たちを過労死させる気だ!あの提督」 「俺、明日は久々の休暇だったのに!」 他の司書達も大体似たような内容を叫ぶ。 このアラームはある一人の提督が業務連絡をよこす時に鳴る。 そしてその提督は無限書庫司書全員から嫌われている、無論チンクとユーノも含めて。 チンクも非常に憂鬱な気分になりながら通信をつなげる。 「なにか御用かな?ハラオウン提督」 「なに、大した用事ではないさ、チンク司書長代理」 其処にはユーノの古くからの知り合いであり、 そして無限書庫に膨大な資料請求と言う厄災を振りまくクロノ・ハラオウン提督がいた。 (嘘だな) 付き合いが短いチンクでさえそう勘ぐるほどクロノの要求は容赦ない。 大した用事ではないと言っておきながらも通常の資料請求の数倍になるのだから、そう思われてもしょうがない。 性質が悪い事にクロノ本人もその事を自覚していたし、司書達の評判を大して気にしていなかった。 このまま通信を切ってしまいそうになる衝動を堪えながらチンクは会話する。 「スクライア司書長は今お休みですので。なんでしたら起こしましょうか?」 「いや、スクライア司書長を起こすほどの事でもない。最初に言っただろう?大した用件ではないと」 (と言う事は内容自体は資料請求で決まりだな) 大事な用件ならどんな時でも容赦なくユーノを呼び出すこの提督がチンクでかまわないと言ったら、チンクでも決定権がある資料の事に関してだけである。 一体どれほどの量の資料請求がくるのやらと心の中で嘆くが、顔には出さないでおく。 「それでご用件は?」 「ああ、このロストロギアに関して調べてくれ」 そう言って表示される一つのロストロギア、表示されるのはこの一件のみである。 「これだけですか?」 「大した用件じゃないと言っただろ」 拍子抜けして思わず出た声にクロノは憮然とした声で応じる。 「提出期限は?五時間後とか」 「そんなわけ無いだろう!一体君は僕を何だと思っているだ」 チンクのかなり失礼な問いにクロノは心外だと言わんばかりだった。普段の自分を振り返ればどう思われるか解ると思うが。 そして提出期限に関してもかなり余裕を持った物が言い渡された、チンクは今日はエイプリルフールかと疑った。 「君には僕に対する認識を改めてほしいのもだ」 一連の反応がはなはだ不本意だったらしく、憤慨した表情で言うクロノ。 チンクがどのような言い訳をするか悩んでいたとき。 「普段が普段だからしょうがないさ」 と声が響いた、チンクが声のしたほうに向くと無限書庫司書長ユーノ・スクライアが立っていた。 しかも少し前から起きていたのか右手には湯気が出ているマグカップまで持っている。 「それは一体どういう意味かな?スクライア司書長」 「言葉道理の意味だよ、ハラオウン提督」 軽い皮肉の応酬、この二人にとってはいつものことだ。 「いつも君からくる仕事の依頼は僕たちを涙させる。」 「嬉しさのあまりか?」 「本気でそう思っているのなら、今すぐ医務室へいくことをお勧めするよ」 「この前の健康診断では健康そのものと診断されたな。そういう君こそ行ったほうが良いんじゃないか?」 「君がよこす仕事の量が改善されたら考えよう。」 このまま皮肉合戦に突入していく二人、これがこの二人にとって挨拶みたいな物だった、嫌な挨拶だが。 (仲が良いのか悪いのか・・・) 二人の応酬をいつも聞いているチンクとしては判断がつかなかった。 だが二人とも付き合いが長いのできっと仲がいいのだろうと思う事にした。 そんなやり取りを聞いていたチンクは少々あきれた表情をしていたら、クロノの目に付いたらしい。 「君がそんなことばかり言うから彼女が呆きれているよ」 「それは多分君のせいだ。ね、チンク」 そう言ってチンクに近づいてコップを机の上に置きチンクに抱きつくユーノ。 「こら、一体何するんだ!」 「エー、抱きついているだけ」 顔を真っ赤にしながら怒鳴るチンクを無視し、長い銀髪に顔を埋めるユーノ。 これじゃ只の変態だ! 「ウーン、いい匂い」 「ふざけるな、良いから離れろー!」 そんな二人のじゃれあいを見ていたクロノは笑いながら話し掛ける。 「ユーノ」 「なんだい?クロノ」 「あまり職場でからかうと帰宅してから大変だぞ?」 「まるで経験があるように聞こえるね」 「君より多少物事を多く経験した人生の先輩としての忠告だ」 「わかったよ」 人生の先輩としての忠告ならば従ったほうがよさそうだと思い、チンクから離れるユーノ、チンクは恥ずかしさのあまり唸っている。 ちなみにユーノとチンクの同棲を無限書庫以外の人間で知っている数少ない人間であるクロノ、そして友人としてぶっ壊れている面も知っている。 今の光景は彼にとっては普通のありえる光景だった。 そしてそろそろ仕事の話に戻ろうかと思い確認事項を聞くユーノ。 「それで、本当にこれだけでこんなゆっくりで良いのかい? 「ああ、今やっている調査のついでみたいな物だ、さして緊急と言うわけではない」 「わかったよ、調べておく」 「提出はいつも通り期日ギリギリでな」 「何を言っているだい。無限書庫は忙しいんだ。期日ギリギリなのはしょうがないじゃないか」 「ああ、そうだったな」 無限書庫は資料を完成させても、緊急用件以外はほとんどが期日ギリギリだ。 期日より前に提出すれば次からは量が増やされるか期日が短くなる。かといって期日を過ぎれば今度は信用をなくす。失った信用は取り戻すのは難しい。 つまりは無限書庫現状維持に最適なのが期日ギリギリと言う事だ。 無論、クロノもその事を理解している。彼が普段よこす膨大な量の仕事はギリギリ終わるように全部計算されている。だからこそ嫌がられるのだが。 だが、やはりそれを口に出すのはよろしくないのでユーノは訂正した。 クロノも少々ばつが悪そうだった。 「それじゃ、頼んだぞ。」 「はいはい」 そう言って通信が切れる。ユーノは自分が暇なときにでもやっておくかと考えていたとき。 「ユーノ、人が見ているときにああいう事をするんじゃない!」 「えー、君と僕の関係なら問題ないじゃない」 そう言ってユーノに向かって立ち上がりながら訴える。 それをかなり怪しい発言で返すユーノ、どういう関係だ? からかわれる事にはなれているチンクだが、やはり他人が見ていると恥ずかしいので文句を言い続ける。 そんなチンクの様子が可愛かいいと思ったユーノは更にからかう行動に出る。 「そんなことより仕事仕事」 「な!おい、なにを!」 チンクを捕まえてそのまま椅子に座る、チンクはユーノの上に座る形になる。 まるで子ども扱いだ。確かにチンクの体格は育ちがいいとは口が裂けてもいえないが。 「ふざけるな!こんなので仕事できるか!それに人が来たらどうする!」 「別にいいじゃない、どうせくるのは司書達だけだよ」 「ふざけるなー」 チンクはユーノの暖かさを全身で感じる事と前の風邪事件の際の出来事がフラッシュバックしたので顔を真っ赤にしつつ反抗する。 しかしながら思ったより体が動かないので微々たる物になってしまう。 「さっさと仕事しないと今日は帰れないよ」 「ム~」 ユーノがこの姿勢をとく気は無い事がわかり唸るチンク。 そんなチンクを無視して仕事を始めるユーノ、どうやら本気でこの体勢で仕事をする気らしい。 チンクはそれを理解して渋々仕事をし始める。仕事が終わらないとどうにもならないと悟ったらしい。 慣れてくるとその暖かさが不思議と心地よいものにに変ってきた。 そのまま黙って仕事を続けていく二人。部屋は静かになるが嫌な雰囲気はなかった。 チンクはそんな雰囲気を感じ取って仕事をしつつ思う。 (こんな穏やかな時間が少しでも長く……) そんな穏やかな時間が流れて言った。 40スレ SS クロノ・ハラオウン チンク ユーノ×チンク ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/aren1202/pages/73.html
ユーノに付き従う魅力的な黒猫 名称:フレム(性別:?) 風紀委員長ユーノの使い魔で艶のある黒毛と紅い目が特徴的な猫 行く先々でフレムを触ろうと自然と長蛇の列が出来てしまう、そんな不思議な魅力を持ち、一説には「チャーム(魅了)」の魔法を習得しているのではないかという噂も 主であるユーノとは強い繋がりをもっているらしく、相互に感情や感覚の共有関係にあり、その繋がりの遮断は完全には出来ないらしい また機嫌が悪いと高熱を発することがある。 関連項目 ユーノ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1831.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ トリステイン城下町の細い路地の奥で男は痛む右手を押さえて壁にもたれかかった。 男の生業は間諜である。 トリステイン王家の醜聞に関わる証拠。 その奪取が男の任務だった。 醜聞が広まればトリステインの内情はいくらか不安定になる。 そうなれば男の祖国に有利に働く。 そのために男は城に忍び込んだ。 だが、その後がいけなかった。 桃色がかったブロンドを持つ女に不審をとがめられ、己の正体を暴露されてしまった。 その上、その女の一撃を右腕を受けてしまったのだ。 後は騒ぎを聞きつけた魔法衛士隊に捕まる前に逃げ出し、ここまで逃れてきたわけだ。 だが、それもいつまでもはもたない。 右腕から落ちる血が道しるべとなり、追っ手を導くことになる。 案の定、路地を走る音と声がする。 すぐに目の前に衛士どもが現れた。 男は手近にあった鉢植えを握る。 これを投げつけて、その間に逃げればまだ時間を稼ぐことはできる。 時間を稼げば彼を助ける者が現れる。 男にはその当てがあった。 男の握った鉢植えの中には大きな力が眠っていた。 青い宝石の形をとるそれは男の強い思いに応じ、目を冷ます、青い光を放つ。 それは少しずつ強さを増していった。 フォークがさくりと心地よい音をたててパイ生地に突き刺さる。 少し下品だが大きめに切り取ったパイを口に運ぶ。 クックベリーの甘い香りがいっぱいに広がっていった。 ぱくり。 もしゃもしゃ。 「んーー、甘い。おいしい」 頭に閃光のイメージ一瞬浮かぶが甘さがそれを打ち消す。 ルイズは落ちそうになる頬を押さえる。 これ以上ないくらいに顔がとろけていった。 ここはトリステイン城下町にあるケーキ屋「翠」。 腕のいいパティシエのいるこの店の人気は高い。 特に、この特製クックベリーパイの予約は半年先まで詰まっている。 そして今日のこの日はルイズが待ちに待った予約を入れた日なのであった。 この最初に口に入れる瞬間のためにルイズは朝食を控えた上に、馬の背中に3時間も乗ってここまで来たのである。 その間、ユーノはずっとルイズの肩にしがみついていた。 馬に乗って揺れていたので何度か落ちそうになったがどうにか到着した。 そのユーノは今は人間の形に戻ってルイズと同じテーブルの向かいの椅子に座っている。 「ルイズ、おいしそうだね」 「うん。すっっっごく。ユーノも早く食べなさい」 「う、うん」 ユーノとルイズの前には1ホールずつ切り込みを入れたパイが置かれている。 正直、1人で食べるには少し多すぎる量だ。 「いつも私が食べてる分の半分をあげるのよ。ありがたく思いなさい」 「う……うん」 ということは、ルイズはいつも2ホール食べていたことになる。 と、言っている間にルイズの前のパイはすでに円から半円になっていた。 ユーノも一切れ小皿にとり、小さく切ってぱくり。 「あ、これ、ほんとにおいしい」 「でしょ?あー、待っててよかった」 ぱくぱくぱくぱく。 ルイズの目の前の円はさらに欠けていく。 ユーノはその間にまだ一切れしか食べていない。 「ねえ、ルイズ。これ、半分持って帰っていい?」 「どうして?」 「お土産にしたいんだ。シエスタさんに」 「シエスタ?」 ──何故ここであのメイドのの名前が出てくるの! ルイズの声が少し裏返る。 せっかく2人で来たのになんでメイドが! いや2人で来たからって何があるってわけでもないけど。 「いつも手伝ってもらっているから、お礼をしたいな、と思ったんだけど……」 ユーノはなにかわからないルイズからのオーラにたじろいでしまう。 それを見たルイズはオーラを静めて考える。 シエスタに頼んでいることは本来、学院のメイドの仕事ではない。 それなのにシエスタにやらせている。 シエスタは平民でメイドだからお礼はいらない。 しかし平民の仕事に報いるのは貴族の義務だ。 だからユーノの言うようになにかを与えるのはあたりまえだ。 だが……それをユーノにあげたパイから出すというのが気に入らない。 それでは、まるでユーノがあのメイドにプレゼントをしているみたいではないか。 それがなぜか気に入らない……。 「そのクックベリーパイは持って帰ったら味が落ちるの。後でなにか包んでもらうわ」 というわけで、このあたりで妥協することにした。 自分が買って帰るのだからユーノからのプレゼントにはならない。 それなら安心。 「うん」 ユーノの返事を聞いてからまたクックベリーパイを口に運ぶ。 少し大きめの切って口に入れる。 ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく。 お皿が空になってしまった。 少し物足りない。 いつもの半分しか食べてないのだからあたりまえだがもうちょっと欲しい。 ユーノの方を見ると、まだパイが四分の三も残っていた。 フォークの先にすごい視線を感じたユーノはもしやと思いその元を追ってみた。 予想どおり視線の元はルイズだった。 すごい目つきだ。 いや、すごいなんて物じゃない。 視線に物理的圧力があったらパイが穴だらけになるんじゃないかと言うくらいの目つきだ。 「あの……ルイズ。僕、全部食べきれないから残りで良かったら食べる?」 その途端ルイズの目つきが変わる。 「ほんと?ほんとにいいの?」 眼がキラキラ星が散ったように光り出す。 顔は満面の笑みを通り越して、笑顔があふれ出ている。 背景が光っているようにも見えるから不思議だ。 「いいよ……どうぞ」 ユーノはパイを乗せたお皿をルイズの方に押す。 手が短いので机の真ん中あたりにしか届かない。 ルイズも手をお皿に伸ばす。 「しょ、しょうがいないわ。余り物なんて貴族が食べる物じゃないけど、ユーノがせっかくくれたんだからもらってあげるわ」」 使い魔にお礼は簡単に言う物ではないのでこう言っておく。 「あー、もー、ほんとにありがとう」 なにか余計な言葉がこぼれたみたいだがルイズは気づかない。 お皿の端に手をかけて引っ張ろうとした途端……店の窓を突き破って太い鞭のような物が入ってきた。 それはルイズの前に落ちてきて、四分の三残っていたパイを机ごと木っ端微塵にした。 「ル……ルイズ?」 ルイズは何も言わない。 落ちて動かなくなった鞭のような物に目を移すとそれがなにかよくわった。 植物の蔓だ。 長い蔓だ。 根本は外にあるようで店の中からは見えない。 その蔓は勢いよくはじけて、店の壁と天井を壊しながら外に出て行った。 ルイズは静かに立ち上がる。 呆然としている店員や客を避けながら店の入り口へ。 入り口横の机にバン、と音を立てて金貨を数枚置く。 「次の予約、半年後でいいわね」 入り口にいた店員が首を痙攣させるように縦に振る。 異様な雰囲気を纏わせながらルイズは外へ出た。 「待ってよ、ルイズ」 ユーノもあわてて店の外に出た。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/187.html
夏祭りの夜に 前編 作者:91-375 『ふふ、お祭りなんて久しぶりだね』 「本当だね、なのは」 夏の海鳴の夜風を感じながら、ユーノとなのははしみじみと言葉を交わしていた。 海鳴市の古くからある神社での夏祭り。 はやての発案で、今日は元機動六課を中心としたメンバーで遊びに来ている。 今回はなのはを通してユーノにも声が掛かったので、たまには良いかと休暇をとり、 こうしてついて来ていた。 『エリオとキャロもこっちでのお祭りは初めてだね』 『はい!』 『フェイトさんからお話は聞いてたから楽しみです!』 フェイトの言葉に、エリオとキャロが明るく答える。 二人とも今日は年相応の子どもとして目を輝かせていることだろう。 「そっか。二人とも、いい思い出になるといいね」 『は、はぁ……』 思わずそう話しかけると、少し戸惑った様子の声が返ってくる。 ユーノは内心、しまったと呟いた。 無理もない。こちらはなのは達から話に聞いてよく知っているとはいえ、 実際にエリオとキャロに会うのはアグスタでの一件以来だ。 馴れ馴れしく聞こえただろうか? 『あ、あの、ありがとうございます……スクライア司書長』 しかしユーノの心配を他所に、少し間を置いてエリオがぎこちなくそう続けた。 「はは……エリオくん、キャロちゃん、肩書きはいいよ。フェイトたちと同じように呼んでくれれば」 『は、はい!』 『えっと、ユーノ……さん』 エリオに続くように、キャロも遠慮がちにユーノの名を呼ぶ。 「前はあんまり時間が無かったし、今日はいろいろ話せるといいね」 『……はい!』 いい子達だ。 元気な返事に、そう再確認して微笑ましい気持ちになる。 『さて、和んどるんはええとしてや』 と、そこではやての声が割って入った。 『ええ加減この状態なんとかせんとあかんやろ?』 『えーっと』 『まぁ……ね』 「そうでした……」 トーンを抑えたはやての声に、なのは、フェイト、ユーノはため息をつく。 おそらく言葉に出さないだけで、他のメンバーも同じ気持ちだろう。 『何でもええから早よぉ合流せんと、お祭り終わってまうやん!!!?』 そうなのだ。 なのは、フェイト、はやて、そしてユーノ。少なくとも今この4人は同じ場所にはいない。 いや、海鳴の夏祭りの会場に来ているのは間違いないのだが。 『みんなで一緒に来んかったんは失敗やったなぁ……』 はやての言う通り、それぞれのスケジュールの都合もあり、 ミッドチルダを出た時間がまちまちになってしまった。 なのはとヴィヴィオは2日も前から海鳴に帰省していたし、ユーノが着いたのはほんの20分前だ。 しかも順次到着したメンバーから会場に入っていったせいで、 その後の大混雑に見事に巻き込まれ、数人ずつのグループごとにバラバラに分断されてしまった。 一応念話で意思疎通はできているものの、そのためにいまだに合流が果たせないでいた。 『まさか今年はこんなに混むとは思わなかったよ……とにかく、みんな今どこにいるか確認しようか?』 『無駄やてなのはちゃん。試しに今自分どこにおるか言うてみ?』 『え? 今はちょうどヨーヨー釣り……にゃにゃ!?』 『なのは!?』 『だ、大丈夫ちょっと人の波に流されただけ…… あ、今はフランクフルト屋さんの前に……わ~、ヴィヴィオ!?』 今度は傍にいたヴィヴィオが流されていったらしく、なのはの悲鳴が続く。 『な? この調子やと、どっかに留まっとくんも無理やで』 歴戦のエース・オブ・エースも管理外世界の人ごみには勝てない。 いくらなのは達ほどの強力な魔導師でも。 いや、強力な魔導師であるからこそ、非常時でもないのにこんな大勢の前で転移したり、 宙に浮かぶわけにはいかないのだ。 ましてピンクの砲撃で周囲の人間をなぎ払うなどもってのほかである。 いや、もちろんそんなことをする人物はいないが。念のため。 『それじゃあ、一旦どこか外で待ち合わせするのはどうでしょう?』 『うーん……』 ティアナが提案するが、今度はなのはが難色を示す。 『待ち合わせするからには皆で集合したいけど…… 全員が集まれるだけの場所となると、かなり時間かかっちゃいそうなの』 「ここの神社、裏山は暗くて危ないし、 石段の下はすぐ車道だから……だいぶ離れないと一息つける場所は無いね」 海鳴に住んでいたことのあるメンバーは、なまじ近隣の地理を知っているだけに頭を抱える。 『そやから、とりあえずは各自お祭り楽しみながら、出会い次第合流して行かへん? 外に出て待ち合わせし直しとったらお祭り終わってまうわ』 『そうしようか……自由に方向は選べないけど、出店の前は通過できるわけだし』 はやての提案に、フェイトも同調する。ユーノ達としても異存はなかった。 『花火の時間までには合流したいけどねー……』 今日の夏祭りでは、クライマックスに打ち上げ花火が上がることになっている。 あと1時間ほどで打ち上げられる予定だが、 つまりその頃まではまだまだ混雑は収まらないということでもある。 『ま、とりあえず今誰が誰と一緒かだけ聞いとこか』 リーダーらしいはやての言葉に、じゃあまずは私からと、人の流れの隙間をくぐりながらなのはが言う。 『私のところは、ヴィヴィオとシグナムさん、シャーリーにヴァイスさん、あとリインちゃんだね』 『あ、リインそっちやったか。ヴィヴィオもやけどつぶれてへんか~?』 『なんとか大丈夫です~……むぎゅ』 念話は周囲の音を拾ったりはしないので分からなかったが、 なのはの周りにはそれなりに固まっていたらしい。 普段の大きさならこの混雑でも平気なのだろうが、 人目を考えればフルサイズにならざるを得ないリインは苦労しているようである。 『じゃあ次は私だね。こっちはエリオとキャロと私だけだよ』 『ふむ、フェイトちゃんとこが3人か……』 日頃からセットで行動しているエリオとキャロは、今回もはぐれずに済んだようだ。 保護者のフェイトとも一緒で、人数は少ないとはいえベターな組み合わせかもしれない。 『こっちはあたしとヴィータ、シャマル、ザフィーラにティアナとアルトやね』 『むぅ、私が主とはぐれるとは……ザフィーラ、そちらは頼んだぞ』 『ははは、ちゃんと人の姿であたしのこと守ってくれとるよ』 『……うむ、抜かりない。そちらもヴィヴィオやリインが迷子にならぬようにな』 『あれ、ということは……』 頭の中で数を整理しながら、なのはが言う。 確かに大所帯で遊びに来たが、 どうしても都合がつかずに来られなかったメンバーを除けば、もういくらも残っていない。 『ユーノくんのいるグループって……』 「うん、僕と……」 なのは達に言葉を届けながら、ちらりと後ろを振り返る。 そこには、先ほど名前が挙がらなかった元機動六課の一人が、 所在なさげにユーノの浴衣の袖をつかんでいた。 「えー……ナカジマ一等陸士、だけだね」 ※ 正直なところ、スバルは戸惑っていた。 数日前に部隊長から連絡をもらった時は、心底喜んだものだったが。 (久しぶりにティアとかなのはさんとか、みんなと楽しく過ごせると思ったんだけどな~) 今日もこちらに来るまでは、八神家の面々と一緒だったのだ。 ティアナやシャーリー達と一緒に、はやてにこの世界のユカタという服を着せてもらっていた。 しかしいざ出発というところで急な用事が入ってしまい、 スバルだけ30分ほど出発が遅れることになったのだ。 そしてなんとか会場についてみるとこの大混雑。 スバルが落ち合えたのは、今目の前にある背中の持ち主、ユーノ・スクライア司書長だけだった。 「本当にこの混雑はひどいな……、ちゃんとそこにいるよね?」 「は、はい! スクライア司書長!」 左右を大柄な男にぎゅうぎゅうと挟まれて、振り返れないままユーノはスバルに話しかける。 「良かった。僕達二人しかいないから、 みんなのグループよりははぐれにくいとは思うけど……これ以上バラバラになるとまずいからね」 そう言うとユーノは、スバルの方を向かないまま数歩前に進んだ。 摘んだ浴衣の袖が先に進み、スバルもそれに続く。 はぐれないようにと、彼に浴衣の袖を摘んいるように言われてそうしているが、 これも居心地がよくない原因の一つだった。 相手は一応それなりに大きな部署の責任者であって、元々一局員としては近づき難いという事もあるが。 やはり単純に、仲間達と一緒にお祭りを楽しみたかった。 ティアナやキャロとなら、話したいこともたくさんあったのだが。 ほとんど面識のない、しかも立場にも差のある人物と二人っきりでは、いくらスバルでも羽目を外せない。 (せめてノーヴェ達が一緒に来られればよかったのにな~……) 最近増えた姉妹達に思いを馳せるが、仕方がない。 彼女達にはまだ、観光目的であっても時空を超える許可は出ないのだ。 だいたいこの人数が一度に海鳴に来られること自体、八神部隊長やハラオウン家の力があってこそなのだし、 これ以上贅沢は言えない。 「……あれ?」 憂鬱になっているうちに、ふと気付いた。 いつの間にか右手が自由になっている。摘んでいた浴衣の袖がない。 「え、はぐれちゃった!?」 辺りを見回すが、この町では目立つはずの長い金髪は見当たらない。 スバルが浴衣を手放した事に気付かないまま、どんどん進んでいってしまったのだろうか。 近くにいないのなら、探しにいくしかない。 幸か不幸か今のスバルは一人。この人ごみの中でも、ある程度は自由に動けるが…… (……同じ探すなら、ティア達を探してそっちに合流しちゃえば……) そんな考えが一瞬頭をよぎった。 しかしブンブンと頭を振って、思い直す。 最終的に落ち合うためグループで行動しようと決めたのは、なのは達だ。 自分が楽しくないからといって、その意向を無視するわけにはいかない。 それに、一人で迷っている人を放置するなど救助隊員のすることではない。 (なんだかほわっとして頼りなさそうな感じの人だし……あたしがちゃんと探してあげなきゃ!) 気を取り直し、辺りを見回すこともままならない状態ながらも、 キョロキョロと目を動かしてユーノを探してみる。 「スクライア司書長ー!」 「何?」 「わーー!?」 小さく名を呼ぶと、突然背後から答えが返ってきた。 「な、なんで後ろにいるんですかぁ!」 「ごめんごめん、これを買いに行ってたんだ」 「そんな! はぐれちゃ駄目って言ったのはスクライア司……」 身をよじって、なんとかユーノに向き合うスバルに差し出されたのは、真っ赤な球体。 「これ……」 「りんご飴って言うんだ。 ここのお祭りは初めてなんでしょ? せっかくなんだし、楽しまないとね」 「……は、はぁ」 スバルが退屈そうにしているのは、とっくに見抜かれていたようだった。 そんな様子を心配して、こうして買ってきてくれたのか。 割り箸に刺されたそれをスバルが一つ受け取ると、ユーノは自分の手に残った方を大きく齧る。 あまり分厚くない飴が噛み砕かれると、封じ込められていた果実の香りがほんのりと漂った。 「ん、中身がちょっと酸っぱいけど美味しいよ」 しばらくそんなユーノの様子を見ていたスバルだったが、 少し表面の飴を舐めてから、同じように齧り付いた。 甘い飴と果実の酸味が、同時に口の中に広がる。 「……ほんとに、美味しいです」 正直な気持ちが、自然と声になった。 そして、ユーノの顔を改めてよく見てみる。 女性とも間違えられそうな白い肌は辺りのさまざまな色の灯りに照らされているが、 その優しい笑顔ははっきりと分かった。 するとなんだか、一人でモヤモヤしていたのが馬鹿らしいように思えて。 自然とスバルの顔にも同じような笑みが浮かんでいた。 「ふぅ……ご馳走様です、スクライア司書長」 「そうそう、その呼び方なんだけどさ」 「え?」 「こんな場所だけどやっぱり聞かれると目立つだろうから……良かったら、司書長とかは無しにしない? ナカジマさん」 「あ、はい、スクライアさん」 しかしユーノは、なんだか煮え切らない表情をする。 「あの?」 「……エリオくん達と一緒がいいな~」 「あ……」 わざとおどけた様な口調で言うユーノに、スバルは一瞬呆気にとられるが、 言わんとすることを理解して元気に答えた。 「わかりました、ユーノさん!」 ※ 「あ、ユーノさん! あれ何ですか!? 白くてふわふわしたのが大きくなってます!」 「わたあめだね。食べてみる?」 「はい!」 顔を合わせてからしばらくの気まずさはどこへやら。 ユーノに慣れたスバルはすっかり普段の元気を取り戻し、日本の夏祭りを満喫していた。 「わ~、すごい、軽い!」 「気をつけて、それ結構ベタベタするから」 「っと、それじゃユカタにくっつかないように気を付けなきゃダメですね」 「そうだね。その浴衣はなのはに借りたの?」 「いえ、部隊長が着せてくれたんですよー」 「ああ、はやてかぁ……うん、よく似合ってるよ」 「そ、そうですかー?」 はやてが用意した白地に紺と紫の朝顔模様の浴衣を褒められて、スバルは頬を緩ませた。 たこ焼き、かき氷、焼きとうもろこし、そして今食べているわたあめ。 夏祭りならではの味も順調に堪能している。 「ユーノさん、あれは?」 「金魚すくいだよ。薄い紙を貼った輪であの赤い魚を水から掬い取るんだ」 「へー……やっぱりショウユとワサビで食べるんですか?」 「え!?」 初めて目にするものばかりとあって、スバルらしい勘違いもあったが。 ユーノは昔なのは達とここの夏祭りに来たことがあるらしく、丁寧に祭りの風物詩を教えてくれた。 「さて、そろそろ食べ物以外の店にも寄ってみたいけど…… こう混雑してるとなかなか思うようにいかないもんだね」 「ほんとに……あ、あそこ空いてますよ!」 「ん、あれは……よし、行ってみようか」 「はい! すみません、通りまーす!」 人ごみに押し流される前に並べそうな列を見つけて、二人はその最後尾に何とか入り込む。 「って、とりあえず並んじゃいましたけどこれ何でしょう?」 「ああ、これはスーパーボール……あ」 説明しかけて、ユーノが気付いた。ちょうど目の前に並んでいる3人組は…… 「フェイト!」 「ユーノ? 良かった、やっと合流できた!」 そう、フェイト、エリオ、キャロの3人だった。 フェイトは金髪の映える黒地の浴衣姿。 エリオとキャロは浴衣ではないもの、夏らしい涼しげな服装だった。 エリオは一年前と比べて、キャロとの身長差が少し増えているようだ。 「キャロ、エリオ! 会いたかったよ~!」 「スバルさん、お久しぶりです!」 「ちゃんと会えるか心配だったんですよー」 4人の同期のうち3人までが揃って、スバル達は途端に元気になる。 「これで一安心かな。こんばんは、エリオくん、キャロちゃん」 「スク……じゃなかった、ユーノさん!」 「さっきはどうも!」 念話越し以外では初対面以来のユーノとの顔合わせに、 エリオとキャロは少し緊張しながらも嬉しそうにしている。 ユーノは優しく笑いかけると、屋台の看板に目を向ける。 「スーパーボールすくいか……エリオくんがやりたかったの?」 「は、はい」 照れた様子で返事をするエリオの両肩に、背後からフェイトがポンと手を置いた。 「やっぱり男の子はこういうのが好きなのかな? さっきはキャロの希望でカラーひよこを見に行ったから、今度はエリオの番なんだ」 「生き物は連れて帰れないから買えなかったけど……いっぱい触っちゃいました♪」 興奮冷めやらぬ様子のキャロにも笑顔を向けながら、ユーノはエリオの手をとる。 「ほら、そろそろ順番みたいだ。一緒にやろっか」 「はい!」 そんな二人の様子を眺めながら、スバルはフェイトの傍へと移る。 「スバル、ユーノとはどうだった?」 「へ?」 フェイトから突然そう聞かれて、スバルは首をかしげた。 「よく知らない世界で、よく知らない人と二人だけで心細くないか、ちょっと心配だったんだ」 「ああ……確かに、最初はちょっとそうだったかもしれないです」 それも本当に最初のうち、まだろくに話しもしていない間だけだったが。 「フェイトさん」 「何?」 「ユーノさんって、いい人ですね」 「うん。そうだよ」 エリオにポイを破らず大物をすくう方法を伝授する後姿を眺めながら、フェイトは当然のように言う。 「私にとっては……なのはと同じくらい昔からの友達なんだ。 その頃から、芯の部分は全然変わってない気がするよ」 「幼馴染の一人なんですよね」 「うん。昔から丁寧で気配りが出来るから、ユーノをちゃんと知ってて嫌う人なんて見たことないよ。 ほら、いつもあんな感じ」 見ると、エリオとキャロ相手に楽しそうに会話しながら、 ユーノはもう手元の容器をボールでいっぱいにしていた。 二人ともそんなユーノの様子に目を輝かせている。 「なんとなく、わかるなぁ……」 もうすっかり並んでいても違和感のない3人の姿を目にして、スバルはそう呟いた。 エリオ達はいい子だが、これだけすぐに心を許したのはやはり相手がユーノだからなのだろう。 つい先ほど、自分もあっさりユーノの人柄に馴染んでしまったから、それが実感できた。 「ふふ、もう少し二人っきりが良かったかな?」 「え?」 悪戯っぽく言ったフェイトの一言は、一瞬遅れてスバルの頭に入ってきた。 「!? いえそんな、は、はやくティアやなのはさんとも合流しなきゃ、って!」 「それはそうだけど、他の皆も今は今で満喫してるだろうし。 スバルがユーノと二人っきりで楽しいなら、それでも良かったと思うよ?」 「……!」 フェイトにしては珍しい冗談は、なぜか冗談に聞こえなくて。 スバルは、別にそんなことはないとあしらおうとしたが、意思に反して急に早まった鼓動に邪魔された。 「なんてね。エリオとキャロがユーノに会えて嬉しそうだし、 私もユーノと一緒のお祭りは久しぶりだし、合流できて良かったね」 「あ、そ、そうだ、あたしもすくってきます!ボール! ユーノさん!あたしにも教えてくださーい!!」 「あれ?」 結局、否定の言葉を口に出すのは諦めて、スバルはユーノ達のところへ駆け寄った。 勢い余ってユーノの背にぶつかり、彼がすくったボールは全部プールに落ちてしまったが。 ※ 「綺麗だね、エリオくん」 「うん! キャロにも一つあげるよ」 スーパーボールすくいが終わって、5人は屋台から離れた。 エリオはかなりの数をすくえたが、 スバルはコツを教えられてもどうしても全力で水ごとすくってしまい、成果はゼロ。 おまけで小さく透き通ったボールを一つだけ貰った。 「でもユーノさん。このボール、水に浮かべてすくう以外にはどうやって遊ぶんですか?」 「うーん、遊び方はいろいろあるけど……例えば、これは小さくてもすごくよく弾むんだ。 だから地面に叩きつけて、跳ねた距離を競ったりとかね」 「はぁ……」 感心しながらボールを一つ握った片手をおもむろに上げたエリオを、ユーノは慌てて止めた。 「っと、駄目だよエリオくん。 こんなとこだと変な方向に飛んで失くしちゃうし、周りの人にも迷惑だからね」 「あはは、そうですよね」 「わー!? ユ、ユーノさん! ボールが!ボールがーーー!?」 「…………」 「…………」 傍で聞いていたスバルが、自分のスーパーボールを地面に叩きつけたらしい。 かなり力を入れてしまったようで、なんとまだ上昇中である。 「ど、どーしましょう!?」 「待ってて、今受け取るから! エリオくんはフェイト達の方に行ってて…………あ、駄目だ! ナカジマさん、もうちょっと左!」 「わわ、あ、駄目です、落としましたー!」 「大丈夫、また跳ねたから……ああ、しまった斜めに跳んだ!?」 と、ユーノとスバルで大慌てで追ったものの、結局ボールは二人の手をすり抜け、どこかへ行ってしまった。 仕方なく立ち止まって、一息付いてあたりを見回す。 「はぁ……あれ?」 「フェイトさん達は……?」 「また……はぐれちゃったかな?」 「え……えぇ~~~っ!?」 呆然とする二人に構わず、祭囃子はますます盛り上がる。 あと30分ほどで、盛大に花火が上がるのだ。 <続く> 91スレ SS なのは エリオ キャロ スバル フェイト ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/279.html
ティアナの憂鬱 ◆kd.2f.1cKc 女の子にとって、甘い物は別腹などという言葉がある。 それは真っ赤な嘘である。 後で結果はきちんと返ってくる。そして大抵、その時になって慌てる。 だが、往々にして不公平な事に、食べても太らない体質の人間と言うのは存在する。 痩せの大食いと言う言葉も存在する。 そしてさらに不公平な事に、後天的にそうなった人間がいる。 その一例が、コンビの相方曰く“人間ポリバケツ”こと、スバル・ナカジマであった。 6課解散直前の、ある非番の日。 スバルは、行きつけにしているアイスクリームチェーンの店に足を運んだ。 新作が発売されるという情報を聞きつけての来店だった。 なんでも、第97管理外世界を原産とする植物の実を使った物らしく、 一見は抹茶と似たような緑色をしていた。 もっとも実際に買うのは、例によって例の如く、聳え立つ10段重ねの巨塔。 新作のフレーバーはその1ブロックしかない。 これを嬉しそうに舐めながら、スバルは歩道を歩いていた。 「にしても、ティアも来れば良かったのに」 と、スバルは呟く。 既に管理局内にその名の轟く凸凹コンビだったが、 意外にも、朝は真面目なティアナのほうが弱く、天然のスバルの方が早い。 休日ともなれば、なおさらだった。 もちろんお構いなし天災少女、同室のティアナを叩き起こし街へ遊びに行こうと騒いだが、 ティアナはベッドの中でうずくまって出てこない。 そして、スバルが「新作アイスが食べたい」と、本心を打ち明けたとき、 「うっさい殺すぞこっちは石炭食っても燃焼するような身体じゃねぇんだ一般人巻き込むな1人で行って来い」 …………正直、この時のティアナの気迫なら、それだけでなのはに勝てるような気がした。 「お腹でも痛かったのかな……でも、それならそうって言ってくれれば良いのに」 自分に心配をかけまいとしたのだろうか。スバルはそう思った。 「相変わらず、ティアってば素直じゃないなー」 そんな事を考え、浮かれながら歩いていたのが悪かった。 ドンッ 「ふぁっ!?」 「うわっ!?」 突然、スバルの行く手を、何かが遮った。当然、スバルはそれにぶつかる。 想定外の衝撃に、さしものスバルも姿勢を崩し、後ろに尻餅をついてしまった。 「いたーい!」 思わず、子供のような声を上げてしまう。 「っ、す、すみません! 少し考え事をしていて……」 ぶつかった相手のものか、だいぶキーは高いが、恐らく男性の声が、スバルにかけられる。 「あ、こ、こっちこそ、よそ見していました! す、すみません!」 スバルは、相手の男性が手を差し出しているのにも気付かず、 飛び上がるように立ち上がり、頭を深々と下げる。 「って、あれ?」 頭を上げると、そこにいたのは、男性にしてはあまり身長の高くない、 しかし端正な顔立ちと、後ろに縛ったハニーブロンドの長髪を持つ、青年の姿だった。 どこかで見覚えがある。 はて……スバルは左手で右腕の肘を押さえつつ、右手の人差し指を自分のおでこに当て、 クロック周波数8MHzとティアナに揶揄される頭をフル稼働させる。 「あっ、スクライア! ユーノ・スクライア司書長ですね!? 無限書庫の」 その情報に行き当たり、スバルは声を上げた。 「そうだけど……君は?」 ユーノは、自分の名前を言い当てられて、キョトンと目を円くしながら、スバルに聞き返してくる。 「あっ……と、あたしは、機動6課、スターズ分隊所属、スバル・ナカジマです」 スバルは少し顔を赤らめて、気恥ずかしそうに言う。 「ああ……なのはから聞いてるよ。元気な教え子がいる、ってね」 ユーノは穏やかに微笑みながら、そう言った。 「あははは……」 照れ隠しに苦笑するスバルだが、そこでふと気付く。 「って、あ。服が……」 ユーノは、パーカーにコットンパンツという地味かつラフな出で立ちだったが、 そのパーカーの胸元に、べっとりと染みが出来上がっている。 「いや、それは君も」 ユーノは、スバルの胸元を指差す。 お子様な頭脳に反比例して立派に育っている部分を覆う場所は、 とてもカラフルな染みがデカデカと出来ていた。 元は何だったのかは考えるまでもない。コーンだけが、むなしく歩道を転がっている。 「あ、あの、すみません、ごめんなさいっ」 「い、いや、僕は良いよ……下までは染みてないし」 ユーノは、むしろ自分の方が申し訳なさそうに言う。 それから、パーカーを脱ぎ、カッターシャツ姿になった。 「でも、スバルは脱げば良いってわけにも行かないな……」 言うと、ユーノは辺りを見回す。 「スバル、これから予定とかあるの?」 ユーノは視線をスバルに戻すと、そう訊ねた。 「いえ、別に。今日は1日暇な予定でしたから」 スバルは、キョトン、としつつ、ユーノに言う。 「それじゃあ、悪いけど、ちょっと付き合ってくれるかな?」 「?」 ――――――――――――――――――――――――― 「えっ、えっと、あ、あたしの方が悪かったのに、これは悪いですよ」 スバルが連れて来られたのは、まぁそれとしては特に変哲もないブティック。 「いや、前を見ていなかったのは僕も同じだし。 それにスバルのその格好じゃ、風邪引くよ?」 ユーノの言う通り、この寒空だというのにスバルはへそ出しルック。 色気というより活動性優先ではあったが、 あまり重ね着していたわけでもなく、ジャケットも前を空けていた。 「あ、あたしはこれぐらいじゃ風邪ひかない身体なんです」 「そう言わないの。それに、寮に帰るまでそのままって言うわけには行かないでしょ?」 スバルはそう言うが、ユーノは苦笑混じりに言い返す。 「まぁ、それは……」 「1着ぐらい、奢らせてよ。 最近は給料の使い道も、なくってさ」 苦笑しながら言うユーノに、スバルはしぶしぶ、付き従った。 付き従った、ものの…… 「このあたりなんかどうかな……」 ユーノがスバルを引っ張ってきたのは、ロングスカートのワンピースの並ぶ棚。 そして、彼が手に取ったのは、カーディガンがセットになった、白のワンピース。 「スバル、サイズは?」 「大丈夫です!」 思わず、反射的にそう返事してから、 「でも、こんなの、あ、あたしの柄じゃありませんって」 と、困惑気に言う。 「そんなことないと思うけどな」 ────う、可愛い。 困り顔のユーノを見て、不謹慎にも、スバルはそう思ってしまった。 年上に向かって失礼だとは思ったが、こう、小動物チックなイメージが、愛らしく見える。 「スバルが嫌ならしょうがないか……」 「あっ、あの……」 スバルは、ユーノに申し訳ないというか、 いたたまれなくなったような気がして、思わず、声を上げていた。 「な、なに!?」 突然のスバルの声に、ユーノはドキリとして、スバルを見て目を円くする。 「い、いえその……」 ユーノを制したものの、続けて何を言うべきか何も考えていなかった8MHzは、 思わず視線を逸らしてしまってから、少しどもった後、 「や、やっぱり着てきます」 と、ユーノがハンガーに戻しかけていた、ワンピースを手に取った。 「そ、そう?」 ユーノはいくらか怪訝そうに思いつつ、試着室に向かうスバルを見送った。 ────な、なんだろう、この感じ…… 試着室に収まったスバルは、初めて覚えるその感覚に、戸惑いを覚えていた。 ────胸の奥がキューってする……も、もしかして、これって…… 恋、という言葉が頭をよぎる。 途端、スバルの顔が、真っ赤に染まり、比喩ではなく、耳から湯気を噴出した。 ────落ち着け、落ち着け、相手は本局の、無限司書の司書長。 それに、確か……そ、そう、スクライア司書長って、なのはさんの彼氏とか言うはず。 なのはの相手に横恋慕なんてとんでもない! スバルは、胸に手をあてて、 ドキドキとはしないが確実に噴流圧力の上がっている心臓を抑えるようにしつつ、大きく溜息をついた。 ────でも、それって所詮酢飯情報だし。 それに、今日はなのはさんだって非番、お互いのたまの休日に、一緒じゃないってのも……うん…… 酢飯情報、とは、ティアナが名付けた“根も葉もない噂”の隠語である。 シャーリーがそう言うゴシップ好きな性格をしているため、シャーリー→シャリ→酢飯と捻られたのだ。 ちなみに、エロ関係は『キ-84情報』とも言う。 この隠語は、意外にもスバルがつけたものだ。由来は、某部隊長こと管理局史上最大のセクハラ女王である。 ────少しだけ、そう少しだけなら、期待しても良いよね? ふと、手元に視線を移す。ユーノが見繕ってくれた白いワンピース。 カーディガンは暖色系だが、色は白で、青のアクセントラインが入っている。このカラーリングは…… 「あ」 ────そっか…………うん、だから、ほんの少しだけだよ なんとなく、ツンデレの心境が少しだけ解った、スバルだった。 軽く溜息をついてから、来ている汚れたシャツに、手をかけた。 一方、試着室の外のユーノは、ユニセックス向きのパーカーを見繕っていた。 ユーノの体格であれば、女性用のサイズでも、LL以上ならなんとか入らないでもない。 そう思うと、少しむなしくもなったが、暇つぶしだと思って、諦めた。 「それにしても、遅いな……」 10分ぐらいは優に経っただろうか。女性の着替えは時間がかかることはわかっているが、 スバルがここまで着ていた衣装からして、そんなにかかるものだろうか? と、首を捻る。 「お待たせしましたー」 ちょうど、その時に、ユーノの背後から、スバルが声をかけてきた。 「おっ」 ユーノは振り返る。 スバルは見事に、ワンピースとカーディガンを着こなしていた。バンダナも外している。 髪が短いのが若干ミスマッチ気味だが、悪くはない。 「どうでしょうか?」 スバルは、フレアのスカートを舞い上がらせるように、くるりと1回転した。 ────こ、これは…… ユーノは、一瞬、顔を紅くして、見とれかけた。 「やっぱ、似合ってないですかね」 あはは、と、スバルは顔を紅くし、苦笑する。 「そんなことないよ。よく似合ってる。可愛いよ」 ユーノは、慌てて笑顔を取り繕い、そう言った。 ただ、嘘は言っていないつもりだ。 「ほっ、ホントですか!?」 スバルは、一瞬、目を輝かせて、満面の笑顔になり、そう言った。 「うん、お世辞じゃないよ。似合ってる」 「あ、ありがとうございます」 えへへ、と、今度は照れ隠しの苦笑になり、頬を紅く染めて、そう言った。 「それじゃあ、すみません」 ユーノは、店員に声をかける。 「これ、そのまま貰えますか? それと汚れ物は、袋詰めで」 そう言って、電子キャッシュのカードを差し出す。 「畏まりました」 店員は、そう言って、POS端末のところへと、2人を先導する。 「でも、ホントに良いんですか?」 今更、という感じで、スバルはユーノの顔を覗き込み、そう言った。 「いいから、気にしないで」 ユーノは苦笑しつつ、そう言った。 「ありがとうございます」 スバルは、はにかむように微笑みながら、そう言った。 店員から、紙袋に入った、ここまで着ていた服を受け取る。 「それじゃあ、今度は、男物の店に行かないと、ですね」 「え?」 ブティックを出たところで、スバルは、ユーノに向かって言う。 ユーノは、キョトンとして、聞き返した。 「お返しです、お返し」 「いや、そんなのは良いよ、僕は、これでも平気だし」 悪戯っぽく言うスバルに、ユーノは戸惑い、困惑気に苦笑して手を振る。 「いいからいいから、あたしも、あんまし給料の使い道ないんです。 だから、1着ぐらい、奢らせてください」 ユーノと同じ言い回しで、立てた人差し指を添えて、スバルは悪戯っぽくウィンクした。 「え、いや、その」 「ほらほら、レッツゴーです」 戸惑うユーノを、スバルは手をとって引っ張り、強引に歩き出した。 しかし──── このブティックは、機動6課メンバー女性陣の大半の行きつけであった。 もちろん、シャーリーや、はやても含めてである。 機動6課の女性で、この店と縁がないのは、スバルと、シグナムぐらいだった。 ティアナも、ここに来る時は、スバルが飽きて駄々を捏ねないよう、1人で来るか、 アイスクリームを買いに行かせてその間に選ぶかしていた。 だから、スバルは、その事実を、うろ覚えにしか記憶していなかった。 ――――――――――――――――――――――――― 「それで、この大惨事っちゅうわけやな」 腕を組んで、騎士甲冑姿のはやては、やれやれと溜息をついた。 廃棄区画の9パート程が、 まるで核爆弾の直撃にでもあったかのように完全に更地になっている。 否、その場に居合わせた者からすれば、核爆発の方がまだしも生易しかっただろう。 事実、キャロと、それからトラウマの再燃したフェイトが、 寄り添ってうずくまり、まだガタガタ震えている。 つまり、俗に言う“魔王様の「ちょっと頭冷やそうか」”である。 ただ、これまでの同種の事件とは、若干経緯が違った。 最終的に頭冷やされて、爆心地と思しき点でアスファルトにメリ込んでいるのは、魔王様の方だったのだ。 そしてそれを、スバルが必死に「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら、手で掘り返している。 「スターライトブレイカー……スバルが、見よう見まねでスターライトブレイカー……」 ティアナと、ヴィータは、呆然として、そう呟きを繰り返している。 「超えられよったなぁ、なのはちゃん」 はっ、と溜息をついて、はやては肩をすくめた。 「管理局の白い悪魔、2代目襲名っちゅうことか」 次の非番。────なのは入院中。 本当に、神様は不公平だ。ティアナはそう、実感していた。 いや、スバルがSLBを撃った事は、この際どうでも良い。 戦闘機人だけに、それに耐える身体と、魔力の供給力があっただけの事だ。 しかし……いや、これも、スバルが戦闘機人であるが故のモノではあるのだが…… これを認めることは、女性としての沽券に関わる。 ついでにスカートやらズボンのホックにも関わる。 「ねーねー、ティアー、遊びに行こうよー。 アイスの新作が出たんだよー、食べに行こうよー」 「うっさい殺すぞこっちはC重油飲んでも燃焼するような身体じゃねぇんだ一般人巻き込むな1人で行って来い」 26スレ SS スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター ユースバ ユーノxスバル ユーノ・スクライア 一部ギャグ 八神はやて
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/235.html
ヴィヴィオ17歳 作者:bdqz7PNt 「んっ……んぅ、ふぅぁ……ん、あったかい」 無限書庫、司書長室。 その一角にどこか陶酔したような声が響く。 そこにいる人間は二人。一人はその部屋の主、ユーノ・スクライア。 もう一方は見事な金髪のサイドポニー、赤と緑のオッドアイを持つ少女、ヴィヴィオだった。 いや、もう少女と呼ぶにはその少女は大人びすぎていた。 腰の辺りまで伸びた美しい髪。細身ながらも必要な箇所にはしっかりと脂肪が行き届いた体躯。 今年で17才になった彼女は引く手数多の美少女に成長していた。 しかし輝くような光を放っていた両目は今だけ見ることができない。 「ほんとに君は昔っから甘えん坊なんだね、ヴィヴィオ」 「だってそれは、ん……ユーノさんがぁ……」 「僕が……なに? 教えて?」 「あぅぅ」 その両方とも蕩けるような表情の中に埋没してしまってぴったりと閉じていた。 ベッドに腰掛けるユーノの太股の辺りに頬を擦り付けて甘える姿は猫そのものだった。 そんな姿の少女、いや、女性を見てユーノはまだこれは夢なのではないかと思っていた。 これはつい最近まで日常的に行われていた親子のスキンシップとはまったくかけ離れた行為。 『ずっと好きだったんです』 恐らくは世界中の全ての人間が言えてしまえそうなほど使い古された言葉。 だけれども、彼女に言われることは、彼女以外のAさんに言われるのとでは大きく意味合いが違っていた。 つい最近、そう記憶に残るほど身近な時間からそ少女からは『パパ』と呼ばれていたのだから。 かれの幼馴染が養子にとって、”たまたま”なつかれた実の娘のような女の子から誓いを迫られた。 気持ちの整理もできなくて、 言葉の意味も分からなくて、 それなのに……それなのに、 彼は首を縦に振っていた。 「嬉しかったから……絶対に受け入れてもらえないと思ったから……だから、だから」 たどたどしくこぼれていく声は歓喜に震えてうまく聞き取れない。 「どうして、そう思ったの?」 撫でられるように添えられた手の中で彼女は口を開こうか開くまいか思案しているようだった。 間もなく、意を決したのだろうか? 彼女は緩慢な動きで火照る唇をすりあわせた。 「ユーノさん、私が子供の頃にした、告白って……覚えてる?」 「え?」 少し意表をかかれたように驚くユーノにヴィヴィオは可笑しそうに微笑んだ。 初めてこの人を困らせてやったとでも言いたげに。 「あれ私、本気だったんだよ?」 それはまだ少女に『パパ』と呼ばれていた頃。いつものように無限書庫に遊びに来ていた少女は言ったのだ。 『わたし、しょうらいはゆーのぱぱのお嫁さんになるんだぁ!』 まるで、夕食の献立をみて喜ぶ子供のように、無邪気で、あまりにも見通しがない子供心の軽い、”出来心” だからこそ、一般家庭の父親のように笑顔で流してそれっきり。 二人の血の繋がりがないことくらい分かりきっていたことなのに。 「ずっと、切なかった。 12歳になっても、15歳になっても、管理局に入っても、 ユーノさんにとってはいつまでたっても私は『娘』で、 撫でられる手が心地よくても、その意味を考えると切なくなって……」 「ヴィヴィオ……」 顔を真っ赤にさせて嗚咽させた顔を見られたくないのか、ユーノの胸にしな垂れかかるように顔をうずめる。 (ごめんなさいなのはママ。ママの気持ちも知ってるのにこんな……) 何かを呟いた、のだろうか? 少女の静かな慟哭は収まる様子はなかった。 自然に伸びた腕が頭のてっぺんから腰の上辺りを通り過ぎていた。 いままでの頭の一部だけを往復させていたその掌の突然の動きに敏感に反応してしまう。 ユーノ自身はただ泣き止ませたい一身だったのだが…… 「ふ、ふぇぇ!? んんん、あぁ……」 そんな彼女の様子にユーノはかなり焦っていた。やっぱり手の動きがアレだったのだろうか? すると、……訴えられる? いやいやいや! 曲がりなりにも今、彼女とは恋人関係なのだ! 新聞には載らない! せめて砲撃魔法で折檻? いやいやいや! いまや母親を超えて『すこし、頭冷そ(ry』の代名詞になっている彼女の砲撃魔法は致死量を吹っ飛ばす。 自分の人生、これまで? そこまで煮詰まって恐る恐るヴィヴィオの方向に顔を向ける。 案の定、彼女の顔はご機嫌ではなかった。どこか、不満があるような…… 「あの、ヴィヴィオさん? どうしてんでせうか?」 思わず卑屈になってしまう。元・娘に敬語は正直かなりなさけない。 砲撃カウント開始? などと思っていたユーノに、しかし来たのは予想外の言葉で。 「今ユーノさん。『パパ』の声だった」 「へ?」 ぷーと頬っぺたを膨らませる彼女はどうやら、先程自分を慰めてくれたユーノの態度が気に入らないらしい。 優しく声を掛けて撫でる仕草は、長い年月の間に繰り返した父と娘のもので。 やっとこさ漕ぎ着けた関係にそんな態度はよく考えなくても御法度で。 そんなことも朴念仁を削って作られた彼には、分かる道理はなかった。 「あ、ゴッゴメン! あんまりこういうの、慣れてなくて……」 「う~~~もう」 低く唸ったその顔も頬を緩ませる麻薬にしかなりえなかった。 勝手に溶けて行く表情筋を必死に留まらせながらもいい訳をするも、さして効果はないらしい。 すると何を思ったのか、子猫のように威嚇していた彼女は、ぽふんとベッドに倒れこんだ。 「じゃ、じゃあ、”そういう”関係じゃないことをすれば、恋人として見て、くれるよね?」 顔は依然上気したまま。両腕は両側に投げられ目は節目。 これでもかという無防備な格好に呆然としてしまう。 それも数秒。 必殺の一撃はすぐに襲い掛かってきた。 「『娘』には、絶対に出来ないこと、して?」 意識が飛んだ。 覚えているのは暖かな肌の感触。視界を埋め尽くした赤と緑の瞳。 それだけだった。 19スレ SS ユーノ×ヴィヴィオ ユーノ・スクライア ヴィヴィオ 微エロ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/222.html
Non-derelict 作者:Ri9hYt2A 無限書庫に勤める者にとって本局の定めた勤務時間を二回りもした頃に業務が終了するのは日常茶飯事、 でもなく、数年前から健全化された体制下の運営においても幾分か早いとさえ感じられる程の事である。 無限書庫はそれほどまでに多忙なのだ。 本日は司書長のユーノが尋常ではない働きを見せたお陰で、平時組の司書たちは早々に解放される目を見た。 次いで、各世界を旅する次元航空艦隊からミッドチルダ標準時など省ずに請求される資料を捌く徹夜組がやってくる。 引き継ぎに集った両組の司書が仕事の少なさを賑やかに喜び、 それを導いたユーノに感謝の雨を降らしている中、しかし、当の本人のユーノは一人浮かない顔をしていた。 「あ、あの、チンクさん?」 「……ふん」 引き継ぎを終えた頃を見計らってユーノが声をかけると、チンクは憮然としてそっぽを向いてしまった。 ユーノはがっくりと肩を落とした。 「これはだいぶ嫌われとるな」 その肩を叩いたのは、定時を一回りしたころにはもうやってきていたはやてである。 なんでも、散々自分を巻き込んだ事件の決着を見届けたいとのことだった。 「本当はあまり使いたくない手段だったんだけど。仕方がないか」 呟きは遠く、チンクはそのまま無限書庫から出ようとしたところで足を止めた。 「久しぶりね、チンク」 目の前に立ちはだかるのはギンガだった。 「む、ギンガ。久しいな。どうしてこんなところに」 「ちょっと司書長さんに用があって」 「あの変態なら中にいるぞ」 「へ、へんた……仮にも上司の方にそんなこと言ったらだめじゃないの」 熾烈な言動を窘めるが、チンクは「かまうものか」とだけ言い残して無造作に脇を通り過ぎた。 余りにも露骨な対応に奥で悄然と佇むユーノへ、ギンガは慰めるように苦笑を送った。 直後、チンクは足を止めた。そうするしかなかった。身体が前に進まなくなっていた。 「なにをする」 不機嫌を隠そうとはせずに眉を顰め、チンクは徐に顔を持ち上げ、ギンガの顔を逆さまに仰視した。 背後でギンガがチンクの小さな体躯を包み込むように抱き止めていたのだ。 「ごめんなさい、本当はユーノさんに仲介を頼まれてて」 結局強談になってしまう自分のがさつさを内心で恥じ入った。 最初は話し合うつもりだったけど、それにしてもここまでとは計算違いだった。 「なに!?」 驚愕の顔をみせると、上から覗き込んでくるギンガの顔は申し訳なさそうな色を帯びた。 「その、謝りたいけど顔を合わせてくれないって相談されちゃって」 言うが早いか、腕に力を込めてチンクを持ち上げた。 「あっ、こら!」 「ごめんね」 身を捩るがびくともしない。 両の腕を拘束された状態で二周りも大きいギンガを振り払えと言うのは酷な話だった。 言葉とは裏腹に、ギンガは半身を翻してチンク共々ユーノと対面した。 「おい!これは卑怯だぞっ!」 ユーノが正面に立つと、ギンガの両の手で抱えられたチンクはそのまま横暴に大口を開けて吼えたくった。 「ああ、まずはそれから謝るよ。卑怯な真似してごめん」 「こ、こいつ……いけしゃあしゃあと!」 しれっと返されて、余りの怒りにどうしていいか分からないといった様子だった。 はやてはチンクに淡い共感を寄せた。 「先ずはお話しないと何も解決しないでしょ?」 唸り始めるチンクを見咎めたギンガが諌めるが、全く聞こうとしない。 「しかしこいつは、くっ、いいから下ろせ!」 再び身を捩る捩る。顔をふりふり、足をばたばた。 童女然としたチンクを前に、口に出すと酷く怒られるので、 やっぱり可愛いなと内心のみで思いながらギンガは優しい表情をする。 「もう、そんなに怒る事ないじゃないの」 笑いかけるギンガに一瞬動きを止めたチンクは、すぐ顔を上げて泣きついてきた。 「わ、私の背を、ち、ちっちゃいと言うだけならまだしもだ!こいつは私の」 「すまなかった!」 胸を、と言い切らないうちにユーノは深く平伏して額を床に擦りつけた。 傍で見ていたはやては既に草臥れていた。 「君を貶めるような事を言ってしまって、僕は君に謝りたい」 今度ばかりは本当に真摯な気配なのが、はやての胃にとって唯一の慰めとなった。 「老成した精神とは釣り合わない幼い身体にコンプレックスを抱いているのは知っていた。 それなのに、ついからかうような事を言ってしまって……本当に申し訳ない」 チンクも複雑な表情で土下座するユーノを見下ろしていた。 口頭の発言に著作権ってないのかな、とはやては上の空だった。 「君も女の子だ。自分の身体的特徴を気にするのは当たり前なんだ。 僕は男として、一人の少女に愚かな無礼を謝りたい。改めて、本当にすまなかった」 ギンガ及び周りの司書達はユーノから発せられる真剣な空気にすっかり飲まれているようだった。 もしかして自分は浮いているのではないかとはやては少し不安になった。 「相談を受けたときね、ユーノさん、凄い反省なさってたのよ。 それだけじゃなくて、チンク、あなたの事も心配してた。 最近はろくに話せていない、無限書庫は激務だから体調が心配だ、って」 期せずして抱きしめる手に少しだけ力がこもった。 「……ギンガ、放してくれ」 抱きかかえられていたチンクはすっかりと脱力してなすがままになっていた。 「まったく、怒る気にもなれん」 ギンガは無言でチンクを床に下ろした。 「ああもう、情けない。顔を上げろ」と言うと、ユーノはおずおずと捨て犬のように見上げてきた。 チンクは仕方がないといった顔を作った。 「そんなに真剣に謝られたらな……聞き届けたよ」 「ゆ、許してくれるのかい?」 「ああ。だが次はないぞ」 ユーノはしおらしく頷いた。 「次は私の番だな」 「え?」 チンクは出し抜けに言った。ユーノは目を丸くした。 「いきなり眼鏡を壊してしまった非礼を詫びる。すまなかった」と言って、チンクは深く頭を下げた。 「いや、それだけの事をしたんだし、そもそも僕の責任だから」 「それでも、いきなり眼鏡を爆破するなんて思慮に欠ける行いだった。 高価なものかも、あるいは掛け替えない大切なものだったかもしれないのに。 あそこまで木っ端微塵にしまったらもう戻らないだろう。すまないことをした」 俛伏するチンクに、ユーノは膝立ちのまま慌てて手を振った。 「いや、ただの安物だよ。それに、僕も君を傷つけて信頼関係を壊してしまったんだから」 噛み締めるように言ったユーノを見るに、どうやら本当に反省しているようだとはやては一つ頷いた。 「しかしそれは修復可能な程度だったし、現実にもう直っているだろう?」 ようやく顔を上げるがチンクは声を強くして憚らない。ユーノは困ったように顎に手をやった。 「それじゃあ、今度の休日にはやてと眼鏡を買いに行くんだけど、一緒に選んでくれないかな」 「監督責任者が同伴して偶には外出させよう、というわけか」 チンクは意地悪くにやりと笑った。返す言葉に詰まる。図星だった。 自分に非があるのだからチンクに何をさせるわけにもいかないし、調度よい機会だと、 未だに無限書庫と施設を往復するのが専らのチンクを思いやっての算段だったが、 こうもあっさりと見抜かれてしまってはいっそう負けが惜しまれる。 「……君もなかなかどうして難儀な性格だね」 「お前に言われたくはないな。上司のくせに、今更気付いたのか」 チンクは不敵に鼻で笑い、堂々と胸を張った。矮小な背丈も、胸を張ると妙な威圧感をもった。 「再確認しただけだよ」 一拍置いて、それから二人は笑い合った。和解の雰囲気が漂った。 固唾を呑んで展開を見守っていた司書とギンガも二人に釣られて笑い出した。胸を張るチンクと、 あたかもそれを崇め仰ぐユーノらの織り成す一種の儀式めいた滑稽なさまを見ると、 尚の事笑いが収まらなかった。 賑やかな笑い声の中、しかしはやては一人呆れ果てていた。義務の念のごとき気持ちがその内にあった。 頃合を見てユーノは訊いた。 「はやて、いいかな?」 「お昼を奢ってくれるんなら、別に」とは言うものの、はやては少しだけ不服そうだった。 「そういうことでよろしくね、チンク」 「頭を撫でるな!」 おあいこだね、と頭に置かれたユーノの手をチンクはすぐさま振り払った。 司書達は笑いながら二人を見守っていた。 「ユーノ君、仕事中だといつもあんな感じなんですか?」 楽しげなユーノの横顔を見ながら、はやてはなんともなしに近くにいた司書達に尋ねた。 「いえ、最近になってお人が変わったように子供っぽくなられて……」 「あんなにはしゃぐ司書長は私たちも」 「はぁ」 反省や心配をしてらしたのは確かなのですが、 と言う司書達は戸惑いながらもどこか嬉しさに浸っているようだった。 何かから放免されたような儚さを感じて、はやては続けて話しかけることを躊躇った。 「私たち、あんまり必要なかったみたいね」 いつの間にか隣に立っていたギンガが苦笑した。はやては視線を泳がした。 「……いろんな意味で、ギンガがいてくれたおかげで土下座できたんやろうけどな」 「え?」 「いや、なんでもない」 事態の改善は喜ぶべきことだとはやては自分を納得させるが、 外面ばかりを取り繕うユーノには眉間の皺が増えるばかりだった。 ふと、どうして自分はユーノの肩を持ち続けているのだろうと考えたが、すぐに答えは出なかった。 そんな周囲を傍らに、ユーノは笑いながら怯むことなくチンクの頭を撫で続けていた。 「はっはっは、やっぱりちっちゃいなぁ」 「謝った先から子供扱いをするなっ!」 それは父娘ではなく兄妹のような戯れあいだった。しかし、チンクは奇妙な充実感を感じていた。 ユーノにもまた不思議な質感があったが、彼はそれに身を任せるのを善しとせず、そっと頭から手を離した。 手に残る温もりが失われてゆくのを、ユーノはどこか冷めた頭で惜しんでいた。 21スレ SS ギンガ・ナカジマ チンク ユーノ・スクライア 八神はやて
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/18.html
作者:にっぷし 還暦か…… 立て続けに起こる震動。 考古学発表会は阿鼻叫喚の坩堝と化す。 混乱の中、魔導師でもある若き考古学者、 ユーノ・スクライアも身動きが取れずにいた。 崩落する天井、シールドが間に合わない―― 「大丈夫かい?」 頭上からの声に目を開き、顔を上げる。 そこには一人の魔導師がいた。 三つ網の髪をたなびかせる女性魔導師。 身に纏う魔力は凄まじく、 杖を握る手は力強かった。 華奢な――年下の少女といった風体だというのに、 背中に守られて安心感を抱いてしまう。 圧倒的な存在感を纏った少女だった。 彼女は崩落した天井を瞬く間に片付けると、 呆然としているユーノを振り返った。 全てを見透かすような透きとおった瞳に、 思わず吸いこまれそうになる―― 「らしくないねぇ。ぼうっとして」 クスクスと笑う少女は、床に着地する。 ユーノは、相手が自分より小さいことに驚いた。 スタスタと歩く少女は無防備にユーノの目の前に立ち、 薄い胸が触れそうなほど近くで、じっと瞳を見つめてくる。 突然のことに驚くユーノを眉を顰めて怪訝そうに見上げると、 少女は何かに気がついたように笑い出した。 「えっと、どうかしたんですか」 「いや、そうか、坊やは知らなかったんだな、と思ってねぇ」 年齢にそぐわない口調と仕草が不思議な色香となった少女は、 三つ網の髪を揺らし、満ち溢れた魔力で自らを輝かせ、 自信に満ち溢れた瞳で名乗りの口上をあげた。 「――私だよ、ユーノ坊や。ミゼットだ」 ニッと笑ってウィンクをする堂々とした少女に、 ユーノは頬を染め―― 「えええええっ!?」 とてつもなくビックリした。 それを見て若い姿のミゼットがクスクスと笑う。 「それじゃ、救助と元凶の懲らしめにいくとしましょうか。 手伝いなさい、ユーノ坊や。……まだ引退には早いでしょ?」 そう言って飛び出すミゼットに、慌ててユーノがついていく。 ミッド史に残るおかしなコンビは、こうして生まれたらしいです。 おわり。幻海師範方式で若くなるミゼットっていう。 還暦記念小ネタ。色んな場所で被ってそうですな。では。ノシ 60スレ にっぷし ミゼット 小ネタ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/265.html
Non-derelict LgkSJuGP 国賓や諸外国からの来賓、高級官僚も宿泊する高級ホテル、インターオーシャニックホテルクラナガン。 そこに一つの影が飛び込んでいった。それはスーツ姿のギンガ・ナカジマだった。 群青の髪はアップに纏め上げられ、スレンダーな体躯と相俟って、 彼女は17歳とは思えぬ大人らしさを振りまいていた。 ようやくギンガは荘厳な扉を潜り抜けて、薄暗い、しかし暖色の照明に彩られたラウンジに踏み込んだ。 切れ切れの荒い息を抑え、腕時計を確認してから、 早く行こうと顔を上げると、そのまま口を空けて茫然と凍りついた。 ギンガは屹然と空を凌ぐ吹き抜けの天井と広濶な空間に一瞬にして圧倒されていたのだった。 冷静になってから気付いたホテルの巨大さはギンガを驚愕させ、重い心をさらに重くさせた。 磨き抜かれた黒大理石の床が天井の煌びやかな照明を写す閑雅なロビーには、 しかし数多くの老若男女が屯し、談笑していた。 そしてその全てが典麗な様子だった。その中には著名人の顔もちらほら見えた気がした。 ――やっぱり私、場違い? ただっ広い未知の空間に一人佇むギンガにすれば、それは宇宙に投げ出されたような孤独と不安だった。 しかし、ギンガがあわあわと一人で立ち尽くしていると、 黒いスーツをぴっしりと着込んだ壮年の男性に声を掛けられた。 「ギンガ・ナカジマ様ですね?」 人の良さそうな顔で問いかけてきたのは、熟練を思わせるホテルマンだった。 「え、は、はい。そうですけど……」 おどおどして答えると、 「ユーノ・スクライア様からお連れするようにと承っております」 と言われ、ギンガはただ従順した。 最初はホテルマンの後ろを付いて歩いていただけで一杯一杯だったが、 メインバー『ウォモウニヴェルサーレ』に近づくにつれて、 段々と柔らかさを増すライトジャズのピアノがギンガの耳を誘い、心に余裕を孕ませた。 茶色の絨毯が優しく反発して踏み出す足を前に押しやった。間接照明に仰視された柱が静かに伺侯していた。 通路の脇々にはイタリアルネッサンス調の調度品や上品で重厚な木目調の円卓に、 肘掛け付きのシックな椅子が数脚。 それが何百組も整然と配置されている様子は、ホテルロビーの豪壮さとはまた違った趣があって圧巻だった。 しかし店内を支配する重厚感は、押し潰すようではなく、 落ち着いた雰囲気をもって包み込むようにギンガを迎えていた。 未だ嘗て体験したことが無い光景に、ギンガはきょろきょろと目線を泳がせてしまった。 目に入ったのは仕立てのよいスーツや高級そうなドレスに身を包んだ紳士淑女だけだった。 居た堪れなさがぐっと増した。失敗だった。見なければよかったと後悔した。 俯いて悔恨に耽っていると、急にホテルマンが立ち止まってぶつかりそうになった。 浮遊する思いから醒めて、驚き慌てて顔を上げる。 「あちらでございます」 捜していた茶色と金髪の頭が見えた。二人は円卓を囲んで談笑していた。 そして、椅子が一つ空いていた。 ホテルマンは「ではごゆっくり。失礼します」とだけ残して悠然と立ち去っていった。 チップとかは払わなくてよかったのかしら、と暫く立ち止まって考えたが、 はっと我に返ってすぐ二人のもとへ駆け寄ろうとした。 が、走り出すのはしたないと思い止どまって、淑やかに早足になるだけにした。 自分のがさつさが情けなくなって縮こまった。 しかし、悄然とした顔では失礼だと思い、気を取り直した。 最後に冷静になって、今までずっと慌てていた自分の度胸のなさを恥ずかしく思った。 「遅れてごめんなさい」 ようやく見慣れたはやての顔を見つけて、自然と安堵の溜息が漏れ出した。 はやてはグラスを円卓に置いて顔を上げた。 少ししか減っていない様子のカルーア・ミルクが刻限に遅れたギンガの心を慰めた。 到着したギンガに、はやての隣りに座る金髪の青年が組んだ足を戻して立ち上がろうとすると、 「ギンガ、よう来たな。ほら、ここに座り」 はやてがそれを左手で押し止どめて、右手で空席を引いた。 「え、でも」 「ええからええから」 ギンガがちらりと金髪の青年を見ると、中腰で止められていた彼は苦笑して席についた。 ギンガもそれに従った。 「ほい。こちらが、件のユーノ君」 「どうも、はじめまして」 はやては指を揃えて青年を指し示した。ユーノはにこりと笑って会釈した。 「で、ユーノ君。こちらが、ナンバーズ更生プログラムに参加してたギンガ」 「はじめまして」 できるだけにこやかに微笑み返した。 「えー、今日はユーノ君からギンガに頼みがあるそうで……」 はやてがユーノを横目で見上げると、次いでユーノは、自分の胸に掌を当てて自己紹介をし始めた。 「改めまして、ユーノ・スクライアです。 本日はお忙しい中、わざわざ御足労いただきまして、誠にありがとうございます」 ――彼が、無限書庫司書長のユーノ・スクライアさん。 公式には民間人扱いとはいえ実際は高官同然であるユーノを前に、ギンガは少し気持ちを引き締めた。 「これはご丁寧にどうも。ギンガ・ナカジマです。最近妹のスバルがお世話になってるそうで……」 「いえ、そんなことは。僕の好きでやってることですから」 最近スバルがユーノに師事しだしたと聞いたときは驚いたものだった。 忙しい業務を片手間にスバルの望みに応じてくれるユーノへ、感謝の念を込めながらギンガは言った。 「スクライア司書長のお噂は、はやてやスバルからかねがね伺っております。 常々お会いしたいと思っていました。なんでも、優しくて頼れる、素敵な方だと」 「ギンガ、ちょ、ちょっと、恥かしいやん!」 ね、とギンガが目配せすると、珍しくはやては狼狽して素っ頓狂な声をあげた。 「へぇ、それは嬉しいですね。僕もスバルさんから、格好よくて自慢のお姉さんだと」 意地の悪い嗤いが浮かんだ目ではやてを見遣ってから、ユーノが熱心な調子で言い始める。 「格好、いい……ですか」 ギンガはくすぐったそうに、しかし少し恥ずかし気にはにかんだ。 「ああ、すみません。格好いい、は失礼でしたかね。 しかし、とても凛々しくしっかりしてそうなご様子で、スバルさんに本当によく似ていらっしゃる。 実際にギンガさんにお会いして、スバルさんが自慢されるのもなるほどと納得するばかりです」 そんなことはないです、と笑うギンガに、ユーノも紳士然と処世して笑顔を崩さない。 一向に前に進まない二人の応酬に、ついにはやては呆れた顔で口を挟んだ。 「こらこら、チミたち。お見合いやないんやから。二人とも私にはタメ口なのに。 いや、ギンガには私が頼んだんやけどな。 ユーノ君もいちいち言葉が堅い。 ギンガも、まぁ、今はオフなんやから、こんなのにわざわざ敬語使わんでもええんやで」 「こんなの、って酷いな、はやて。でも確かに、あまり堅いのは僕も苦手ですしね。無理にとは言いませんが」 「でも、スクライア司書長とは階級も歳も離れてますし……」 促すユーノに、ギンガはいじらしくたじろいだ。 「なにゆーとるんや。ユーノ君はこのはやてちゃんのパートナーやで。そんなん気にするたまやない」 「初対面の方を前に誤解を招く表現は慎んでくれるかな。 しかし、君と同類みたいに括られると何故か大変不愉快だ」 「どつくで?」 くすくすという忍び笑いが小さく耳に響き、はやてとユーノは口を噤んで視線を戻した。 「あ、すみません。あは、はやてと仲がいいんですね。 ふふ、いきなり呼ばれたときは驚きましたけど、いい人そうで安心しました」 楽しげに戯れ合う二人の様子を愛おしむような温かい笑みが、徐々にギンガの表情を満たしていった。 言うに事欠いて、ユーノは渋面を作って見せ、はやてと複雑な顔を見合わせた。 ギンガはそれを見て再び笑った。 「年上ですし、まだお会いして日が浅いので、敬語はこれから努力するということでお願いします。 だからもう、私に敬語は結構ですよ。その、ユーノさんに敬語を使われちゃうと恐縮しちゃいますから」 快活に笑うギンガに、ようやくユーノは強張った表情筋を崩した。 「我が儘を聞いてくれてありがとう。よろしくおねがいするよ、ギンガさん。 ああ、いや。しかし、すっかり肩が凝ったよ」 それまでの顔が不器用な笑みに見えるほど柔らかい笑みを湛えて、 ユーノはギンガと顔を見合わせて笑いあった。 しかし、二人の間でははやてが眉を顰めて膨れた面をしていた。たまりにたまったという気配だった。 「肩が凝った?ふん、肩肘張って格好付けようとするからやで。これだから男って奴は、ああ、汚い汚い。 それになんや、この対応の違いは。 いつも飲む時は私の行きつけのこじんまりした店でしめやかに飲んでたのに。 ギンガも来るし今日はユーノ君の行きつけにしようかー、ってなんやこれは、高級官僚の接待か。 ええ加減にせえよ? 私はこんな豪勢なホテルバーなんか連れて行ってもらった覚えはないで。 しかも司書長の権力まで濫用しよって」 「え、そうなの?」 顔を顰めて投げやりに愚痴るはやてに、先のホテルマンの対応を思い出しながらギンガがきょとんと聞き返す。 「ちょ、ここは仕事用だし、 司書長としての要談だからこの位の対応は当然だ、とか執拗に言い張ったのははやてじゃないか! 僕は気後れさせちゃうかもしれないからって反対したのに、 そもそも、折角だからここで飲んでみたいって君が強引に……」 ユーノはさらに抗弁しようとしたが、いっそう大きくなったくすくすという笑い声に気付いてしまったら、押し黙るほかはなかった。 20スレ SS ギンガ・ナカジマ ユーノ・スクライア 八神はやて