約 454,620 件
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/152.html
服従の深夜散歩 作者:ID 623kRwJ5 ―――身に着けているのは脚を覆うニーソックスと、 忠誠の証の首輪だけ。 恥ずかしげに身体を隠そうとして隠せていないフェイトをユーノは いつもとまったく違う目で見下ろしている。 「良い格好をしてきたね」 「・・・クリスマスの・・・プレゼントだから・・・」 ユーノが酷薄な笑みを浮かべ、俯き加減につぶやくフェイト の頭をなでると彼女は頬を紅潮させながら軽く身を震わせる。 「ごほうびが、必要だね」 言葉を聞き、フェイトが期待と不安を入り混じらせた表情で ユーノを見上げる。 「散歩に、連れてってあげるよ」 薄暗い廊下に男女が一組。 女はほぼ一糸纏わぬ姿で四つんばいで歩を進めている。 首には首輪がつけられ、鎖を男が握りしめている。 「もうダメ・・・お願い、誰か来たら・・・」 フェイトは小さな声でつぶやいて、ユーノを見上げる。 僅かな光の中で彼の瞳だけが、彼女に語りかけていた。(あぁ・・・また・・・) ユーノは、普段は誰にでも優しい。そんな彼が、フェイトだけに見せる本当の表情。 (私にだけ・・・私だけのユーノ) 彼を本当に独り占めできる限られた時間。 ゾクゾクするような感覚。 空調管理されているとはいえ、服を着ていなければ少し肌寒い。 しかし、彼女の身の震えは寒さのせいではない。 恍惚に身体全体を紅潮させながら、歩をまた進める。 夜は、まだ長い。 15スレ SS フェイト ユノフェ ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/264.html
* 作者:W13zo6nE 目に入ったのは、見知った天井だった。しかしそれはおかしなことだった。 「ここは――」 自室のベッド。言い切らないうちに起き上がろうとすると、酷い頭痛に襲われて断念した。 「なんで……」 片手で顔を両の目を覆う。直ぐに、ブラッディ・マリーの鮮烈な赤が脳裏の暗闇を支配した。 ――そうだ、僕ははやてと飲みに行っていた筈だ。 頭痛に負けじと翳した手に力を込め、脳漿を搾り出すように頭を掴んだ。思い出せ。過去を顧みろ。 しかし――カウンターに座り、はやてから部隊の指揮統制システムについて相談を受け、 古代ベルガの軍政に於ける戦略C4ISRについて論じ、 無限書庫が巻き起こした情報RMAの旋風を軽んずる本局監察査察室の頭の固さについて愚痴った後は―― 何一つ覚えていなかった。 それでも、薄ぼんやりとした何かが頭に引っ掛かった。 そして、途端に視界へ色が戻った。鳥の囀りが耳を洗った。違和感が腕を掴んだ。 喉がからからに渇き、その内からきりきりと首を絞めていた。 嫌な予感に動かされて、ユーノは恐る恐る顔を横に向けた。 案の定、胸の中、驚くほどすぐそばにはやての顔があった。 一気に目が覚めた。頭が真っ白になって、ユーノはしばらく何も考えられなかった。 はやては純白のシャツを羽織っていたが、それは気休め程度にそっと身を包んでいるだけだった。 肌蹴た衣からは鎖骨が見え、胸が飛び込み、臍が覗いたところで、ユーノは慌てて視線を戻した。 そしてそのまま、ただ虚ろにはやての寝顔を観察していると、 示し合わせたかのようにその両の目蓋がゆっくりと開いた。 静かに息を飲むユーノに、はやては微笑みで彩られた寝ぼけたような顔を向けてきた。 「はやて――」 噛み締めるように呟いた。それでもユーノは現実感を抱けずにいた。 はやては身を捩って顔を上げた。 首を伸ばし、ユーノの首のあたりにキスをし、そのまま唇をユーノの口まで滑らせた。 口の中に舌が潜り込む。意識せずユーノは目を瞑り、はやての頭に手を回し、髪をかき撫でまさぐった。 ずずっ、じゅる、にちゅ、ぴちゃ、くちゅり。 打ちっぱなしの壁に生々しい水音が響いていた。興奮が脊髄を走り、快楽信号が頭を散らす。 二人は唇を押しつけ、舌を絡ませ、受け入れ、押し返し、引き抜き、差し込み、歯を愛撫して、頬を嬲った。 ほんの目の前に迫る、だらしなく肉欲に浮かんだ煽情的な顔を薄目になって見ると、一層劣情が掻き立てられた。 情欲の赴くままに、更に舌を蹂躙し、歯茎を凌辱し、唇を甘噛みして、その粘膜をたっぷりと犯した。 喉を鳴らす。酒気は飛んでいたが、濃厚なトマトジュースの味が交じった淫美な味だった。 それを孕んだ熱く荒い吐息が、口内に篭り、更に互いを行き来していた。 二人の唇からは、そのどちらのものともつかない唾液が止めどなく溢れていた。 渇いていた喉は、とっくに潤っていた。 「ふ、あ……」 やがてはやてがゆっくりと顔を引いたことによって、永遠かと思えた逢瀬も幕を閉じる。 しかし、銀糸は別離を惜しむかのように、未だに二人を繋いでいた。ユーノは口に残る唾液を嚥下した。 熱の冷めやらぬうちに、上気した顔ではやてが訊いてきた。 「気分はいかが?」 「……わけがわからない」 初めて顔を見合わせる。ユーノは目を瞬いた。はやては蕩けた瞳で見上げていた。 「……覚えとる?」 「残念ながら、全く」 ユーノは感情を抑えた低い声で言った。それは虚偽であった。はやての顔が歪んだ気がした。 脳裏に断片的な映像が激流となって一気に戻った。そこから記憶が派生し、広がり、均していった。 柔らかい唇、肌蹴た服、なまめかしい肢体、滑らかな肌、甘い吐息、艶やかな髪、弾ける嬌声、そして――。 ――その胸の内奥には、二人で飲みに行くようになってからは、朧気な予想が確かにあった。 はやても確信があったかもしれない。 もう大人の男女なのだ。酒に呑まれて一夜の徒情、ということも十分ありえた。 そして、そんな未来を何処かで許容していた。 それは認識ある過失ではなく、未必の故意だった。自ら望んだことなのかもしれない。あるいは……。 ――しかし、それでも! ユーノは醜くくも、惨たらしく後悔していた。しかし、言葉が出なかった。 ただ、眼前のはやてに懺悔するように眉を歪ました。 「ユーノ君……」 どんな罵詈雑言が吐かれるだろうかと案じ、萎縮し目を瞑った。 ふと、胸に温かいものが広がった。しかし、内奥は未だ極寒。それは、はやてが覆いかぶさってきたからだった。 はやては頬を胸に摺り寄せた。口許に残っていた唾液が滑油となって胸を濡らす。 つつ、と舌が這う感触があった。胸を吸われる痛みがあった。 それがどうしようもなくおぞましく思えて、ユーノは言ってしまった。 「ごめん」 謝罪がユーノの急務だった。 はやては顔を上げてしばらくユーノの顔を見つめた後、そっと唇を寄せてきた。 それは小鳥が啄ばむような可愛いキスだった。 「ええんよ」 ユーノは息を飲み、はやての目を見返した。目尻が柔らかく緩んでいた。心臓の鼓動が速まった。 「でも」 しかし、ユーノの声に張りはなかった。 「責任、感じてるん?」 「それは……」 口ごもった。図星だった。 「……私じゃ、不満?」 更に詰問され、言葉に窮した。 「僕は……」 「ええんや」 はやては胸に身体を預けて俯き、それだけ言った。 軽く一蹴されて、ユーノは落胆した。しかし、再びの宥恕には、あっさりと引き下がる気にはなれなかった。 「責任は、ちゃんと取るよ」 考えあぐねた末という顔をユーノは作った。声は重く、悔恨を帯びていた。 しかし、胸の中で表情が厳しくなった気配がした。直ぐにはやてが下から睨めあげてきた。 「そんなの、必要ない」 はやては顔を近づけてきた。じっと目を見つめてくる。瞳の中には、黒み掛かりたじろぐユーノがいた。 像は収斂せず、ただ乱反射していた。ユーノはさかしまに写るり、歪む自身の横っ面を張りたくなった。 まもなく、はやてはユーノの手をそっと握った。吐息に酒気は無かった。 「私は、ええんや」 そう答えながらもはやての声は震えていた。握られた手が痛かった。いよいよ瞳が光に歪んだ。 一瞬にして心が奪われ、漸くユーノは微酔から抜け出した。 最初に感じたのは陶然だった。二度目は自責だった。三度目は……。 それを見て奥底がら湧き上がった確かな真情を、ユーノは隠さないことにした。 誤魔化すな、欺くな、そうだ、僕は――。 「僕は、君が欲しい」 意外な言葉を耳にしたというように、はやては目を丸くした。 はやての返事を待たずにユーノははやての頭をかき擁き、深い深い接吻をした。 張らした頬を舐めると、塩辛い味がした。 20スレ SS ユノはや ユーノ・スクライア 八神はやて 微エロ
https://w.atwiki.jp/horserace/pages/1545.html
コウユーノミチをお気に入りに追加 コウユーノミチの情報をまとめています。リンク先には学生・未成年の方には不適切な表現内容が含まれる場合があります。またリンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。 コウユーノミチ <保存課> 使い方 サイト名 URL コウユーノミチ <情報1課> #bf コウユーノミチ <情報2課> #blogsearch2 コウユーノミチ <情報3課> #technorati コウユーノミチ <報道課> gnewプラグインエラー「コウユーノミチ」は見つからないか、接続エラーです。 コウユーノミチ <成分解析課> コウユーノミチの63%は情報で出来ています。コウユーノミチの22%は鉛で出来ています。コウユーノミチの11%は魔法で出来ています。コウユーノミチの3%は下心で出来ています。コウユーノミチの1%はビタミンで出来ています。 ページ先頭へ version3.0
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3519.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 闇を閃光が切り裂いた。 仮面の男の杖がまさしく閃光のような鋭さでユーノの胸に迫る。 「デル・イル・ソル・ラ……」 ユーノの振り上げるデルフリンガーが仮面の男の杖とぶつかり、小さく火花を上げる。 デルフリンガーの剣先は天を向き、男の剣先も天を向く。 勢いのままにユーノは弾むように後ろに飛び退いた。 軽い男の杖の方が先に攻撃可能となる。ルーンの直感がそう教えてくれたからだ。 そして、その通りに男は風切る音を鳴らす杖を振り下ろした。 「ウィンデ」 それで男が唱えていた呪文が完成する。 杖先に突如現れた空気の固まりが槌となった。エアハンマーの魔法だ。 ユーノはさらにもう一歩飛び下がり、剣から離した左手を広げ前に突き出す。 「シールド!」 エアハンマーがシールドとぶつかる音が夜のラ・ロシェールに響く。 手をたたき合わせたような軽い音だが、シールドを支えるユーノの腕には衝撃がわずかだが届いた。 「ふぅ、相棒。危なかったな。その光の盾がなかったら、骨の2本……いや5、6本くらい折れてたぜ」 ユーノの返事はない。 ただ、荒い息だけが連続している。 体が酸素を求めて、肺を無理矢理動かしていた。 咄嗟に返事などできはしない。 「あいつ、並じゃねえな」 町を覆うほどの木の化物。 無数のロケット砲を備えたゴーレム。 どちらも単純な攻撃力で言えば仮面の男よりもずっと強力だが、この男にそれらにない物がある。 優れた技量。 対人戦闘の経験の浅いユーノには、それは単純な破壊力よりもずっと恐ろしい。 今、仮面の男との距離は剣の間合いではなく魔法の間合い。 二つの月の光が互いの姿が隠すことなく見せている。 「来ない……か」 男がぽつりと呟く。どこかで聞いたような声だった。 「なら、先に行かせてもらうとしよう」 男が駆けだした。 ユーノに向かってではない。 桟橋に伸びる道につながる小さな路地に向かい駆けだしたのだ。。 「あっ!」 ユーノは男を追って走る。 空を飛ぶ魔法は使えない。重なる屋根が仮面の男を隠してしまう。 ルイズ達を追わせるわけにはいかないのだ。 息切れはまだ続いているが、ルーンがユーノの足に力を与えてくれる。 風の速さでユーノは仮面の男の前に駆けだした。 剣と杖、魔法とシールド、そして追跡。 ユーノと仮面の男はそれを何回も続け、そしてなおも続いていた。 戦う場もいつしか移り変わり、横に見えるラ・ローシュの整えられた崖の上にはフーケのゴーレムだった残骸が見える。 互いに相手を倒すほどの一撃を繰り出すせてはていない。 仮面の男が回り込み、桟橋に走ろうとすれば、ユーノはその前に立ちはだかる。 仮面の男の魔法はユーノのシールドに防がれる。 そして、ユーノの剣は仮面の男を倒せはしない。ユーノにはそれができない。 互いに決め手を欠いている。 ──ルイズを追わせないなら それでいいはずだ。 ワルド子爵もいるが、ルイズを守りながらの戦いでは不利になるはず。 だから、仮面の男はここで止めておかなければならない。 ユーノは仮面の男の動きを注視する。 ──次は魔法、杖、それとも…… 仮面の男はじりじりと間合いを詰め、また間合いを開ける。 そして、もう一度間合いを詰める、かとも思ったが仮面の男は足を止めた。 「終わらせるとしよう」 仮面の男が杖を空に突き出す。 杖の先から巻き上がる風は頭上のゴーレムの残骸とぶつかり、微妙な平衡を持ってそこにあった残骸を大きく揺らす。 そうなれば、支える物のない岩はその身を重力に任せ遙か下へとただ、ただ落ちていった。 その下にいるユーノはわずかに顔を上げると、左手を頭上に掲げた。 直後、光の魔方陣が湖面に広がる波紋のように姿を現す。その儚げな見かけとは裏腹に光の魔方陣は落ちる残骸を全てはねとばす。 同時に身を低くした仮面の男は呪文を唱えながら前に飛んだ。 「あっ!」 ユーノの作るシールドの傘の下に潜り込んだ仮面の男が呪文の最後の一説を唱える。 「ウィンドブレイク」 杖の前に渦巻く風が現れる。 さらに踏み込んだ仮面の男が杖を振ると、風は暴風となりユーノを襲った。 「う、わぁあっ!」 ユーノはデルフリンガーを振り下ろそうとする。が、体が硬直する。 わかっているのだ。剣では魔法は防げない。 「相棒!振れ!思いっきりな!」 デルフリンガーの怒鳴り声に押されるようにユーノは剣を振り下ろす。 切れるはずのない魔法の風を斬らんばかりの勢いで。 デルフリンガーが魔法を切り裂いた。少なくともそのように見えた。 魔法の風の中に入ったデルフリンガーは突如、光を放つ。 光の中で風はねじれ、うねり、刀身の中に吸い込まれていった。 「なにっ!?」 男が驚きの叫びを上げる。 それは、魔法がデルフリンガーに吸い込まれた事のみによる物だけではなかった。 振り下ろしたデルフリンガーは地面とぶつかり固い感触を腕に伝える。 その少し前、デルフリンガーは地面とは別の固い感触をユーノの腕に伝えていた。 今、ユーノの目の前に仮面の男はいない。 仮面を切り裂かれ、素顔をさらした男が1人いるのみ。 しかもユーノはその男を知っていた。 その男はユーノが信頼し、信用できると思った男だった。 ルイズを守ってくれると思った男だった。 「ワルド……さん!?」 ワルドはルイズと桟橋まで行ったはず。 そのときには間違いなくワルドと仮面の男は同じ場所にいた。 なら、このワルドは? ユーノは心当たりを1つ見つける。 ルイズと風の魔法のレポートを書いていたときに調べたあの魔法なら…… 「わかったようだな」 ワルドは唇をゆがめ、その表情に悪意を隠そうともしない。 「だが、私の勝ちだ。見たまえ」 ワルドの天を指す杖の遙か上を、空を飛ぶ帆船が通り過ぎていく。 「あれが……船?」 見ただけでは、どのような技術を使っているかはわからないが次元世界を探しても滅多に見られないような航空機だ。 あの、帆船のような形をした航空機こそフネなのだろう。 ユーノの目の前でフネは腹を、次に背中を見せる。 ルイズはあのフネの中にいるはずだが、その姿はユーノは見えようはずもなかった。 見えるはずもないが、ユーノは確かに船の中にルイズの存在を感じていた。 ユーノはその感覚に手を伸ばし、のばしきっても届かず、石畳を蹴る。 それでも届かず、魔力を体に纏わせ、空を飛んだ。 「私の勝ちなのだよ」 口の端をゆがめるワルドの持つ杖が、魔法を紡ぐ。 魔法の力はわずかに口笛の音を立てながら空気を集め、その固まりをユーノめがけてごうっと振り下ろした。 「わぁっ!あ、あああっ!!」 ユーノの体をくの字に曲げて地面にぶつかる。何かが砕ける音が体のどこかでした。 次に、ユーノの体は伸びきって弾み、路地の中に飛び込んでそこに置かれた木箱の上に落ちる。 月明かりがあるとはいえ、今は夜だ。 うっすらとした埃が路地の入り口をふさいでしまった。 「ふ……む」 ワルドは振り下ろした杖を再び上げ、次の呪文を唱える。 組み合わせるのは、風を3つ。 少年1人を砕くには十分な数だ。 倒すではない。殺すでもない。 ワルドはユーノの体を砕こうと、呪文にあわせて杖を振った。 「がぁああああああああっ!?」 ワルドの口から出たのは呪文の最後の一節ではなかった。 苦痛の叫びを上げ、地面を転がる。 杖と共に貴族の象徴であるマントが深紅に燃え、彼の背中を飾っていた。 「ワルド子爵。今のはどういうわけかしら?」 ワルドを燃やす火の魔法の使い手の声が夜の町に響く。 炎に照らされる赤い髪と褐色の肌。 伸ばした長い手に杖を持ち、倒れているワルドを見下ろすのはキュルケ・フォン・ツェルプストー。 彼女の右には眼鏡の奥から静かな視線を向けるタバサが体には不釣り合いな杖をワルドに向け、その左にはしきりにワルドとキュルケを見比べるギーシュがおろおろしていた。 「彼は私達の敵だったのだ」 「あら、それは嘘ですわね」 杖を振るう音が小さくする。 ワルドがその音の元を見ようと首を動かしたとき、タバサの唱えたウィンディアイシクルの氷の槍がその体を貫ぬいた。 とたんに突風が吹き上がり、ワルドを包む炎がさらに大きくなった。 「し、子爵が。あぁあ……き、君たち。何をしたかわかっているのか?」 大きく開いた口をわななかせて、無意味に手足を振り回すギーシュを無視してキュルケは燃えるワルドを蹴飛ばしたが、彼女の足には何も当たらない。 「え?」 「よく見なさい。何もないわ」 蹴散らされた火が爆ぜて消えていくだけだった。 「ど、どういうことだい?」 「あなた、授業を聞いていなかったの?」 ため息混じりにのキュルケが足下の火を踏みつけていく。 すでに魔法の効果の切れた炎はそれだけで消えていった。 「ミスタ・ギトーが言ってたでしょ。飽きるくらいに。風の遍在よ」 「遍在?」 「そう、遍在。あのお髭の子爵様、スクエアだって話だし。それなら、風の遍在が使えても不思議じゃないわね」 「だったら、子爵が言ってたようにあのユーノという子供がルイズ達の邪魔をしようとして、それで子爵が魔法を使ったんじゃないのか?」 「あ、それはないわね。絶対に」 根拠など無い女の堪ではあるが男のこととなるとキュルケはこれを滅多に外さない。 タバサのことで外したことはあったが、あれはタバサが女なので数には入れていない。 そのタバサはと言うと、ユーノが飛び込んだ路地の入り口にしゃがみ込んでその中を杖で探っていた。 「何か見つかった?」 こくりとうなずいて、タバサは立ち上がって振り向く。 手の中には小さな白いフェレットが抱かれていた。 「みつけた」 「あら、そっちのユーノ?人間のほうは?」 「いない」 タバサの胸元でユーノはぐったりと動かない上に、元は淡い琥珀色の毛皮の所々には赤い汚れがついている。 ワインや果物の染みではない。間違いなく血だ。 「大丈夫なの?」 タバサはうなずく。 「傷はふさがっている。息もしている。平気」 ユーノがわずかに動いて空に向かって小さく鳴く。 キュルケにはそれが空にいるルイズに声を届けようとしているように見えた。 その後、キュルケ達はゴーレムが暴れた現場を急いで離れた。 ゴーレムがいなくなって、ようやくラ・ロシェールの衛兵達が駆けつけてきたのだが、キュルケ達はそれにつきあうつもりはなかった。 これで静かになって今後のことを考えられるかと思ったがそうはいかない。 「あぁ、どうしよう。どうしよう。僕はこれからどうすればいいんだ」 頭を抱えるギーシュがそこら辺を歩き回って、かなりうるさい。 「少しは落ち着きなさいよ」 「落ち着けるものか!一体ルイズはどうなったんだ?子爵は何をやっていたんだ?任務はどうなるんだ?」 「黙りなさい!」 魔法で作った炎でギーシュの髪の毛を軽くあぶってやった。 少しは静かになるかと思ったが、逆にギーシュのわめき声で騒がしくなってしまう。 「はぁーー、これからどうしよう」 ため息をつくキュルケに頭の火を消し終えたギーシュが勢い込んで答える。 「もちろん僕はルイズを追う。そして任務を達成する!」 「あんた、ルイズがどこに行ったか知ってるの?」 「う……アルビオンじゃないかな」 「そんなことわかってるわよ」 またため息が漏れる。 そんなことは分かり切っている。 こいつは当てになりそうにない。 「ねえ、タバサ。貴方はどうするの?」 「追いかける」 即答だった。 しかも、それはたぶん無いだろうと思っていた答えが即答で返ってきた。 「本気?」 タバサはいつものように無言で首を縦に振る。 ワルド子爵が怪しいのなら、ここから先は今までよりもさらに危険になるかもしれない。 戦地のアルビオンに行くとなればなおさらだ。 それなのに、タバサがそこまでしようとするとは思わなかった。 「貴方、そんなにルイズと仲良かった?」 今度は首を横に振る。 「でも心配。だから行く」 それならキュルケもタバサを1人で行かせのは不安になる。 ギーシュも着いていくのならなおさらだ。 キュルケまでルイズの心配をしているように見られそうなのが釈然としないが、 「ま、一緒戦った仲って事にしておきましょう」 キュルケはそれで納得することにした。 とはいうものの、それでも問題はまだある。 「ねえタバサ。あなたのシルフィードでアルビオンに行ける?」 タバサは黙って肯定する。 いつもながら、簡単な答えだ。 「じゃあ、アルビオンまではそれで良いとして問題はアルビオンのどこに行けばいいかよね。ギーシュはどこが目的地かは知らないって言うし……」 「うむ。目的地はルイズにしか伝えられていない。重要な任務だからね」 ──ダメだ。こいつ本当にダメだ 三回目のため息をつき、キュルケは夜空を見上げる。 とりあえず、アルビオンに行ってみるのがいいかもしれない。 アルビオン最接近より前の日にラ・ロシェール出て、アルビオンの港に入るフネはかなり珍しいはずだ。 そこから辿れるかも知れない。 ──よし、これでいきましょう 「うわああ?わあ、あぁあああああ!?」 ようやく決まった決心を台無しにするギーシュの叫び声。 キュルケが赤い怒りを宿したような視線を向けると、ギーシュの背がどんどん伸びていく。 「た、助けて。助けてくれぇえ」 よく見ると背が伸びているわけではない。 ギーシュの足下がどんどん盛り上がっているのだ。 木の芽が土を割る様子にも似ているが、そんな物とは比べものにならない速さでまだ盛り上がる。 「だ、誰か。だれぁ……ぐあっ」 ふるえる足を踏み外したギーシュはひっくり返って盛り上がった土の上から落ち、後頭部を石畳にぶつける。 目を回すギーシュの上に黒い影がのしかかった。 土をふるい落とし姿を見せたのはギーシュの使い魔ヴェルダンデだった。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/92.html
タイトル「アリサ・バニングスの場合?」(前編) 作者:80-470 本文 では投下します。 アリサ1人称のユノ×アリ未満の話です 海鳴3人娘中心、年齢は中学生くらい すずかオリジナル設定あり "ユーノの、何処がいいのか分からない――" 自分の迂闊な一言を呪っても、もうすでに遅かった。 なるほど、地雷っていうものは何処に仕掛けられてるか、分からないから地雷なのね… ~~~~アリサ・バニングスの場合?~~~~ 放課後から約二時間、帰り道から寄ったファーストフード店まで、延々となのはの『ユーノくんのイイところ』 つまるところ惚気話を聞かされたあたしは、その砂糖吐くような甘ったるさに、すでにシナモンケーキの味も 分からなくなってしまうくらいのダメージを受けていた。 釈然としないのは、同じ話を聞かされてるはずのすずかで、こっちはあたしのようにダメージを受けた様子も なくにこにこと嬉しそうに聞き、時に合いの手までいれて、益々なのはを調子に乗らせてることだった。 (何で、二人してユーノの話題で盛り上がってるのよ…) 自分の不用意な一言が原因とはいえ、ここまで自分一人ダメージを背負わされるのは流石に納得はいかず、 あたしはささやかながらも反撃を試みることにする。 「ユーノがそれだけ素敵な人なら、なのはがボヤボヤしてる間に、他の誰かが言いよってくるかもね~」 「はうっ!?」 なのはのうろたえた態度に、幾分か溜飲を下げる。 これだけあからさまな態度を取っておきながら、この子はいまだにユーノとの関係を「オトモダチ」どまりに 留めているのだ。 そこであたしは、さらに追い打ちをかけようと―― 「ひょっとしたら、なのはの知らないうちに、向こうで彼女とかいたりしてね~」 「そ、そそそそ…そんなこと無いよ、ユーノくんに限って…ユーノくんに限って…あう…あううううぅ…」 「アリサちゃんってば…」 「ま、でも『オトモダチ』のなのはには関係ないことだけど――」 ここであたしは迂闊にも、自分が2発目の地雷を踏み抜いてしまったことに、気付いていなかった。 この後、なのはから惚気話に弱音と泣き事を交えた最高にウザい愚痴を聞かされることになるとも知らずに… なるほど…確かに、地雷は何処に仕掛けられてるか分からないから地雷だと―― ・ ・ ・ 「はあ…エライ目に遭ったわ…」 「フェイトちゃんに感謝だね」 あの後、さらに数時間の耐久レースを覚悟したあたし達を救ったのは、なのはに入ったフェイトからの呼び出 しの通信で、流石に仕事がらみのときは、惚気話で緩みきった顔も引き締まり、フェイトの迎えと共にようやく、 解放されたのだった。 「まったく、いい迷惑だわ」 「そうかなぁ、私は楽しかったよ、なのはちゃんのユーノ君の話」 確かにすずかはあたしと違って、なのはの話を嬉しそうに聞いていたけど、正直なところ愛想半分、付き合い半分と思っていただけに、それは少々意外とも言える答えだった。 「え゛え゛ぇ~~…そうなの?」 「うん、私は結構好きだよなのはちゃんの話も――ユーノ君のことも…」 「ちょ、ちょっと~やめてよね、すずかまで…」 「私は好きだよ。ユーノ君のこと」 「ちょっと、すずかぁ」 「なのはちゃんに『その気』がないのなら、今すぐ彼女に立候補してもいくらいにね…」 「それって…」 あたしの知ってる月村すずかという少女は、こういうことを冗談で言うタイプじゃないことはわかっている。 それでも、内容が内容だけに流石に、そこまで言い切ってしまえることに違和感を覚えないわけではないし、 なによりすずかが、そこまでユーノに入れ込む理由が分からない…そんなあたしの心の内を読み取ったのか、 すずかはそのまま話を続ける 「――私ね…ちょっと前まで、ある『体質』で悩んでたの」 「すずか…?」 それまでとは違うすずかの口調に、あたしは思わず彼女の顔を覗き込む。普段の穏やかな笑みを絶やさない 表情はそのままだったが、雰囲気はさっきまでとは明らかに違っていて、あたしはそんな彼女を茶化そうとは せず、こちらもすこし気を引き締めて、真剣に話を聞くことにする。 「『私』が『私』でなくなっちゃうような…そんな『体質』。薬もお医者さんも意味がなかったの…藁にもすがる 気持ちで、はやてちゃんに相談したら、ユーノ君に『体質』のことを調べてもらえばいいって紹介して貰ったの」 「そんな――…そう、だったんだ…」 ショックだった。すずかの話の内容もそうだったが、それ以上にすずかが、そんな深刻な状態に陥っていたこ とに、そしてその事に微塵も気付くことの出来なかったことに… 「アリサちゃんが気にする事じゃないよ。それに私、この事はなのはちゃんにだって話してないんだし」 「それは、分かってるけど…」 そしてまた、すずかに気を遣わせてしまう自分に嫌悪。もちろん知ってたところで、自分に何が出来たわけで ないことも十分わかってるつもりではあるけど… あたしはすずかに対して、幼少の頃の過ちもあって、どうにも必要以上に気を遣ってしまう悪い癖がある。 そして情けない事に、すずかにそのことを気付かれてしまっているのが現状だが、この娘はそれを踏まえた上 で、特にあたしとの接し方を変えようとはしない。 つまるところ、あたしはすずかに対して、頭が上がらないのだ。 「…でね、はやてちゃんに私のことを頼まれたユーノ君なんだけど、無限書庫ってところで私の『体質』について お仕事の合間を縫って、睡眠時間まで削って調べ上げてくれて――それだけじゃなく、私の『体質』を抑える術 式を組み込んだ『デバイス』っていう物まで作ってくれて…おかげで、自分でも信じられないくらいに症状が治 まって――今はもう、本当に嘘みたいに平気になったの。ちょっとばかり、運動能力とかは落ちちゃったけどね」 そう話ながらすずかは、意識してかどうかわからないが、胸元に掛けられた円と星を組み合わせたような模様 のペンダント――多分、ユーノがくれたという『デバイス』とやら――を、指先で愛しげになぞっていた。 「術式が体になじんで、私が大人になる頃には『体質』も改善されて、もうこれをつけなくても大丈夫なんだって」 「そう、良かったじゃない…」 その仕草と表情を見れば、さすがのあたしでも、すずかがユーノの事を本気で想ってることくらい理解できる し、不本意ながらそれに対して冷やかしたり、茶々を入れる気持には、とてもなれないほどの雰囲気だった。 「…それでね、その話にはまだ続きがあって、ユーノ君が私にしてくれた事って、本当は犯罪になるんだって」 「ちょ…ちょっとっ、それってどういう事なのよ!?」 「うん、はやてちゃんから聞いたんだけど、私たちの住んでる世界――向こうだと『管理外世界』って呼んでる らしいんだけど、その世界の人間にユーノ君の世界の知識や技術を教えたり、使ったりするのはダメって事らしいの」 「あっ…」 確かに、言われてみれば分からない事ではない。たとえば剣で戦争してる国に、いきなりミサイルを持ち込ん だらどうなるか――その答えは簡単すぎる… しかし、あのユーノがねぇ…正直、なのはに振り回され、困り顔でオロオロしてるイメージしかないあたしに してみれば、すずかが教えてくれたユーノの行動は、ちょっぴり意外だ。 「その辺ははやてちゃんが、上手く誤魔化してくれたみたいなんだけど、ユーノ君ってばそんな事、ひと言も教 えてくれなくて…はやてちゃんに言わせると、ユーノ君ってそういう男の子だって、ことらしいんだけどね―― それで、その事をお母さんやお姉ちゃんに話したら、『ユーノ君をすずかのお婿さんにする!』とか言い出して、 もう大変だったんだよ~」 クスクスと、嬉しそうにユーノの話をするすずかは、本当に幸せそうで…ある意味、なのは以上に本気で、 ユーノの事を―― 「――これが、私の知ってる…なのはちゃんも知らない、ユーノ君の『いいところ』だよ」 「…ねえ、すずか。すずかって…やっぱり、もしかしなくても本気で、その…ユーノのこと…」 「さっきも言ったけど、本気だよ。でもね…そうしてユーノ君のこと『そういう目』で見てると、ユーノ君の好 きな相手が誰なのか、分かっちゃうのが、ね…」 そう言いながらすずかは、少しばかり困ったような表情で苦笑いを浮かべる。 「聞くまでもないと思うけど…なのはのこと?」 「――ホント、なのはちゃんってば、鈍いんだから…」 そこには、なのはに対する負の感情は感じられない。それどころか、まるでなのはとユーノの仲を応援してる ようにすら聞こえる口調で… 「正直、ワケわかなんないわ…」 だからあたしは、素直にその感想をすずかに述べる。 「ふふふ、そうだよね~私もそう思う。でも、ユーノ君のことが好きなのは間違いないけど、やっぱり、なのは ちゃんのことも同じくらい好きだから、二人の仲が上手くいって欲しいって言うのも、正直なところだよ」 「まあ、すずかがそれでいいのなら、私はどうでもいいけど…」 実際、十年来の親友同士が男を取り合って、修羅場を演じるところなど、誰もすき好んで見たいワケじゃない ので、そんなすずかの気持ちは、あたしにとってはありがたいところだ。でも―― 「でも、なのはには話してないのよね?ユーノに助けてもらったこと…」 「なのはちゃんは、私の知らないユーノ君のことを、いっぱい知ってるから…なのはちゃんとユーノ君の仲を どうこうしようとかは、本当に考えてないのだけど、このデバイスと、ユーノ君が助けてくれた記憶だけは、 なのはちゃんにも話さずに、私だけのものにしておきたいの…」 それはすずかにとって、例え将来の友情に禍根を残す種であったとしても譲れない『女の意地』といった ところか。 もとより、勝ちの目の薄い想いだけに、あたしとしても、そんなすずかの意地に文句をつけるつもりも、その 資格もないのだけど… 「けど、今時はやんないわよ、そんなの…」 「なのはちゃんがもっとイヤな子だったら、良かったんだけど…本当、困っちゃうよね~」 「…っていうかあたし、正直なところ、全然ついていけないんだけど」 ホント、ユーノの何処がそんなにいいのか、あたしにはわからないわよ… ・ ・ ・ ――で、とことんツイてない日って、本当にあるのね―― 朝起きたら寝癖が酷くて、シャワーを浴びようと思ったらボディソープが切れてて、先日の雨でお気に入りの ハイソックスが乾かなくて、出かける時に履けなくってて、気晴らしに、なのは達を誘って遊びに出ようと思っ たら、なのはには『用事があるから』と断られ、すずかからも、急な用事でドタキャンのメールが届いて駅前で 待ち呆け…挙句に、今時流行んない、頭の軽そうな男にしつこく言い寄られる始末―― "ねえ、キミ。さっきから暇そうにしてるでしょ?だったらさぁ――" 「あいにくだけど、先約があるの。悪いけど他、あたって頂戴」 "うそうそwさっきから見てたけど、どう見ても待ちぼうけじゃない。だったら、その先約さんが着くまで相手 してよ~" 正直、ウザイ…殴ってもいいレベルだと思う――が、さすがに中学生ともなるとそうも簡単にはいかないし、 迂闊に手を上げて、ややこしいことになるのも面倒くさい…そう思案に暮れるあたしに、聞き覚えのある声が かかる。 「あれ、アリサ。どうしたの――」 何というグッドタイミング、まさに天恵――"ソイツ"の声を聞いた瞬間、このうっとうしい事態を打開する、 ナイスなアイデアが閃き、そして閃いたと同時に、即座に行動に移す。 「――っ、どうしたのじゃないわよっ!何分待ったと思ってるのよ、このバカ・ユーノ!!!」 「…へっ?―――っぷぉぁ!!」 さっきまでの溜まりに溜まったイライラを、そのまんまぶつけるように、何故かこの場に現れたユーノの顔面 を平手で張り倒す。 普段なのはにあてられている鬱屈もあって、必要以上の威力を発揮したような気もするけどとりあえずは気に しないことにする。 なにしろ、ウザ男が呆気にとられてるいま、ユーノに迂闊なセリフを吐かれて、せっかくのチャンスを無駄に するわけにはいかない。 「このあたしをさんざん待たせたんだから、その代償はしっかり払ってもらうわよ!」 「え、えっ?ちょ、ちょっと…アリサ、何?どうなってるの?」 間髪入れずに、事態を把握していないユーノ腕に自分の腕を絡ませて、そのまま強引にエスコート、って いうかエスケープ強行。 「い・い・か・ら、行くわよ!ホラッ!!」 「ええぇえぇぇぇ~~~~~~~っ!!??」 あまりの事態に、呆気にとられるウザ男とギャラリーを他所に、とりあえずあたしは、ユーノと腕を組んだ まま、その場を離れることに成功――のはずだったのだが… "ねえ、見てみて。あのカップル" "外人の子?でも日本語上手よね…" "二人とも本物のブロンドよね~ハーフかな?" "撮影か何かじゃないの?二人とも可愛いらしいし" "ホント、レベル高いよね~" ・・・・・・ …しまった… ここはニューヨークでもロンドンでもない、日本のいち地方の駅前繁華街だ。 いくら染めてる人間が増えているとはいえ、天然モノの金髪・翠眼はただでさえ目立つうえに、自慢ではない が、自分の容姿もそれなりに目立つ方だと自覚もある。そして余り認めたくはないが、ユーノの容姿もまあ、一 般的に美少年と言っても過言ではないレベルだ。そんな男女が騒ぎを起こせば、イヤでも目立って、注目を浴び ることになってしまう事に今更ながら気付く。 だからといって、ここで引き下がるわけにもいかない。周りの好奇の視線と困惑するユーノをあえて無視して、 そのまま彼の腕を引っ張りながら、ファミレスに飛び込む。とりあえずボックス席に入れば無駄な注目も浴びず に済むだろうと思って… ・ ・ ・ 「――で、当・然・理由は説明して貰えるんだよ、ねっ?」 「う…悪かったわよ。でも、こっちにもいろいろと事情もあるのよ、いろいろと…」 「悪いと思ったのなら、まず言うべき言葉があると思うんだけど…アリサの世界じゃ、いきなり人の頬を張り 飛ばしても、事情があれば許されるんだね」 「く、…――」 頬に季節外れの紅葉のような手形をくっきりと残したユーノが、憮然とした表情で、イヤミったらしく理由を 聞いてくる。 確かに、どうみても悪いのはあたしだ。それはわかってる、が、モノには言いようってものがあって、ユーノ のやたら棘のある言いまわしに、少しばかりカチンとくるものを覚えてしまう。 もちろん悪いとは思ってる。いきなり頬を張られ、訳の分からないうちに強引にファミレスに連れ込まれたら 普通は誰だって不機嫌になるのは確かだし、もし性別が逆だったら犯罪モノだろう。 それにしたってユーノの態度はないと思う。っていうか、なのはやすずかに比べて、随分とあたしに対する 態度に差別があるんじゃないかと…そんな、沸々とわき起こってきた不条理感に、ついあたしは―― 「う、うるさいわねっ、男だったらそれくらい、笑って受け流しなさいよ!」 しまった…と思うのも後の祭り、私の一言に一瞬唖然としたものの、すぐさま引きつった表情でユーノがやり 返してきた。 「…前から思ってたけど、アリサって結構大雑把だね」 「――なっ!?あ、アンタこそ、いちいち細かいこと気にし過ぎなのよ。だいたいアンタ、なのはやすずかに対 するときと態度が全然違うじゃない。アンタがそんな性格悪いなんて、聞いてないわよっ!」 「…まあ、状況から察するに、しつこく言い寄ってきた男を手っ取り早く追い払うために、僕を利用してひと 芝居うった、てとこかな?」 「~~~~~~~~~~っ!!!」 あたしの頭が沸点に差し掛かったのを、まるで見計らったように、さっきまでの不貞腐れた表情から一変して、 人の悪い笑顔を見せるユーノに、とある疑問が浮かび上がる。 「…もしかして、見てたの?」 「まあ、ね」 「もしかして、あたしが『あーゆう』行動をとることを分かってて近づいた?」 「一応そんなとこ、かな」 「もしかして、驚いてたのも、慌ててたのも、さっきまで不貞腐れてたのも、全部演技だったとか…」 「さあ…」 「…もしかして今、あたし、からかわれてる?」 「ゴソウゾウニオマカセシマス」 1問ごとにぴくぴくとこめかみの辺りが痙攣し、顔が引きつっていくのを実感する。 そして、ユーノが満面の笑みを浮かべた瞬間、あたしは再びその顔に平手打ちを見舞っていた。 今度は、本気で―― …やっぱり、あたしにはユーノの何処がいいのか、さっぱりわからないわ… ・ ・ ・ ―― 幕間 ―― 「あれは…」 「どうかしましたか、主はやて」 「買いモンは中止や、シグナム」 「何か…事件ですか?」 「事件…?そや、事件や。場合によったら、管理局を揺るがすほどの大事件や」 「では、急ぎヴィータ達と連絡を――」 「あー、構へん、構へん。とりあえず、あの二人の後付けるで、シグナム」 「…はい?」 あたしはこの時、背後で出歯亀していたタヌキ女の存在に気付けなかったことに、後日、死ぬほど後悔する 事になるのだった… アリサ ユノアリ ユーノ
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/5551.html
世界を滅ぼす大災害を阻止するべく動いていた私たちは最悪の敵と出くわしてしまった。 「ぐああああぁああああぁあああ!!!」 「神樹!!」 OVERや戸愚呂兄、複数のクローンヤクザを一撃で粉砕してきたあの神樹が、鮮血のように大量の樹液を吹き出しながら崩折れる。 幸いにもまだ絶命に至るほどのダメージではなかったが虫の息だ…… いや、虫の息なのは彼だけじゃない。 私も、ユーノ君も、ハス太君も桑原さんもレオリオさんもエリカさんも、みんな生きてはいるものの重症を負っていた。 そんな満身創痍の私たち相手に“敵”は容赦なくトドメを刺そうとしてくる。 敵が何者なのかは視界がボヤけてわからない、一人か集団なのかもわからない。 わかるのは敵は神樹よりも遥かに強大な力を持ち、まともに動けないほどのダメージがある以上、誰ひとり“敵”からは逃れられないのだ。 万事休す……私たちの誰もが生存を諦めかけていた。 だけど、倒れ伏していた私たちの中でただ一人だけ、立ち上がる者がいた。 「ユーノ君……?」 金髪の長い髪を持った眼鏡の青年……見間違えるはずもない、ユーノ君その人であった。 でも彼の様子はどこかおかしかった。 その瞳は思わず後ずさりしたくなるほどの、ギラギラした何か恐ろしいをはらんでいた…… 私の知るユーノ君はこんな怖い顔ができる人じゃなかったハズだ。 そして。 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!」 ユーノ君はまるで野獣のように叫んだ。 その咆哮と同時に彼の体に変化が現れる。 金色の毛皮を全身を覆い、加えて胴が細長くなり長い尻尾が長くなった。 シルエットだけは彼がよく変身するフェレットの姿に似ている。 しかし、全体的なサイズは大柄な桑原さんレオリオさんの何倍もあり、牙も爪も一目で危険とわかるくらい鋭く、目は赤い複眼の恐ろしい姿だった。 ユーノ君はフェレットによく似た謎の怪物になってしまった…… こうなった理由? 私にわかるハズがない。 突然、怪物に変身した彼に他のみんなは混乱にしている。 “敵”も一時は驚くも、すぐに私たちに攻撃を加えようとしていた。 神樹を倒した一撃が、私たちに襲いかかる。 しかし、その一撃が私たちに届く前にユーノ君は私たちの前に躍り出て、怪物の姿のまま防御結界を張った。 するとどうだろうか。 強力な攻撃は結界によっていとも容易く弾かれ、ユーノ君も彼の後ろにいた私たちも無傷だった。 彼は元々結界魔法に関して天才的な技術を持っていたけど、それでもあの一撃を防ぐのは不可能だったハズだ。 きっと怪物の姿になったことで魔力が大きく増大したのかもしれない。 「グラアアアアアアアアッ!!!」 攻撃を凌いだユーノ君が反撃に出る。 口からシュートバレット……らしき光弾が放たれた。 その光弾の威力も速度も、これまた私が知っている彼の技とは桁違いであり、私のスターライトブレイカーが花火に見えるくらいであった。 光弾で“敵”は粉砕し、この世から跡形もなく消滅した。 神樹すら勝てなかった相手を、ユーノ君はたった一撃で仕留めたのだ。 「やりましたね、ユーノさん!」 「こいつめ、こんな隠し玉あるんなら最初から使えよ」 敵を倒したユーノ君を私たちは賞賛し、褒め讃えた。 だけど、私たちは気づくべきだった…… 今のユーノ君は敵味方の区別がつかない“怪物”になってしまったということに。 「え?」 ユーノ君と最も近くにいた誰かの首根っこが、彼にガブリと噛み付かれ、鋭い牙によって体と頭を切断させた。 体が外れてしまった頭が地面に落ちてコロコロと私の足元まで転がってきた。 ……その首の持ち主は確か―― 「いやあああああああああああああああああああああ!!!」 ――のは! なのは! ☆ 「なのは!」 「はっ」 ユーノの呼びかけになのはは覚醒した。 彼女が目覚めた先にいたのはユーノ……恐ろしい怪物となったユーノではなく、心配そうに彼女の名前を呼ぶ心優しき青年のユーノであった。 「ゆ、ユーノ君?」 「酷くうなされていたよ。 怖い夢でも見たの?」 「夢……そうだ、私は……」 頭が徐々にハッキリしていく中、なのはは状況を整理する。 彼女とユーノがいるのは首相官邸地下の、ハス太たちがいる情報室とは別の個室。 一行はその個室で、なのはとユーノ・ハス太とエリカ・桑原とレオリオの順番に三時間ずつの交代で休憩する手筈だ。 そして娘の死に多大なショックを受けた彼女は、部屋のベッドの上で泣きつかれて寝てしまったのである。 その際にあの悪夢を見たようだ。 「夢……? あれはただの夢だったのね……良かっ、た……?」 おびただしい量の汗を流しながらも安堵したなのはだったが、片手に何かヒンヤリしたものが触れていることに気づく。 接触していたのはデイパックから漏れていた千年タクウ――未来を予知するアイテムだった。 睡眠時の寝返りの際に手に触れてしまったと推測できる。 そして千年タクウに触れるということは、未来を垣間見ることができるということ、すなわち―― (嘘……あれが現実に……ユーノ君が怪物になるっていうの?) 千年タクウが見せた血塗られた未来になのはの額から再び冷や汗が流れてくる。 しかし、その不安はすぐに彼女自身で払拭した。 (……いや、ホテルの時の仮面ライダーに殺される未来をユーノ君が変えてくれた。 第一、みんなの支給品にも人を怪物に変える物はなかったし、いくらなんでもユーノ君がいきなり怪物になるのは脈絡がなさすぎるの。 千年タクウの予知も完璧じゃないのかもしれない……) 彼女は千年タクウが見せた未来を信じないことにした。 普通に考えれば、ユーノが怪物になる展開自体ありえないのだから。 そう、“普通”ならば考えられないのだ…… ★ それからなのはは、ただベッドに腰掛けてジッとしていた。 眠りたくとも先に千年タクウが見せた悪夢のせいで眠れないのだ。 されど、起きていたところで愛娘や親友が死んだ現実だけが彼女に暗い影を落とし、無力感と罪悪感に苛ませ、うなだれるさせるだけであった。 そんな中、ユーノが飲み物が入った二つのマグカップを持って部屋に戻ってきた。 飲み物は地下官邸のキッチン冷蔵庫から持ち出したものだ。 「……」 「なのは、ホットミルクを作っておいたよ。 千葉のホテルを出て以来、まともな食事もとってなかったしね。 これで君の気分が少しでも落ち着けばと思ったけど……どうかな?」 「……」 彼なりに気を使ったつもりだったが、なのはからの返答はなかった。 ユーノは二つのマグカップを適当なテーブルの上に乗せる。 「ごめん、今は食事なんて取れる気分じゃないよね……」 「……ねえ、ユーノ君」 「ん?」 彼女からの言葉は遅れてやってきた。 ただし、ホットミルクに対する返答が無いようだ。 「もし良ければ、私の話をちょっと聞いてくれる? ユーノ君にしか話せない話なの……」 「僕にしか話せない話?」 「そう、誰よりも信頼してる……あなたにしか話せないこと」 なのはの表情は神妙であった。 そんな彼女からは冗談を言う雰囲気など微塵も感じられない。 本当にユーノにしか話せない事のようだ。 「わかった、聞こう。 それで話っていうのはどんなことなんだい?」 「それはね、未来の話……いや、“起こりえた未来”の話なの……」 ☆ ★ なのはの語った千年タクウによってもたらされた未来の話。 それは近い将来では闇の書事件が待っていて、プレシアとの戦いよりも遥かに過酷な激戦を経験するも、事件解決の後に八神はやてやヴォルケンリッターたちと親交を持つことになる。 11歳の時に待ち受ける戦いでは、それまでの無茶が祟って復帰までに半年かかる重症を負うこと。 エースオブエースとうたわれるようになった19歳の折にはストライカーズ結成とJS事件という大きな戦いが待っている。 JS事件を乗り越えた後にヴィヴィオという愛すべき娘ができる。 その後も様々な出会いや戦いが彼女を待っているとユーノは彼女に伝えられる。 ちなみにユーノとなのはの関係は、先に語れれた11の時になのはが重症を負う事件をきっかけにユーノは負い目を感じ、彼女と距離を置くようになってしまったそうだ。 娘の授業参観になのはと一緒に付き合うなど、親交は厚くとも恋人関係にはならないらしい。 ほとんどを訓練か仕事をするか戦ってばかりの人生であるが、その分の見返りは十分であり、沢山の友人や後輩たちに恵まれ、若年でありながらエースオブエースという管理局でも誉れ高い名誉を持ち、血の繋がりはないとはいえ愛娘もできる。 英雄を志す者ならば憧れる未来であろう……恋愛ができない側面を除けば。 なのはは未来の明るい部分より、暗い部分に目が行ってしまったのだ。 年不相応にしっかりしているとはいえ、所詮は視野の狭い9歳児。 視点を変えれば仕事や戦いに明け暮れ、喪女や行き遅れや魔法少女(笑)だの陰口を叩かれ、育児や仕事でやつれていく中で支えてくれる伴侶もいない、そんな未来の悪い側面にばかり目がいってしまったのだ。 そしてカオスロワ開始直後に、この未来を知ってしまった彼女は暴走してユーノを逆レイプしたのであった。 「そして私は未来を都合の良い方向に変えようとユーノ君との子供を作ろうとした」 「そうだったのか……」 「でも、変えなきゃよかった。 変えようとしなきゃよかった……」 ロワが始まってから何度目かの涙をなのはは流す。 自分が淫行にさえ走りさえしなければ、ヴィヴィオが同行して今でも生きていたかもしれないのだから。 戦いづくめで喪女な未来の中でも、娘はなのはにとっても大きな希望であった。 その希望を自分で壊してしまったと、なのはは思っているのだ。 「フェイトちゃんだってカオスロワが始まってからすぐに探しに行けば助けられたかもしれない。 はやてちゃんはまだ生きてるけど、シャマルとザフィーラが死んでしまった以上、闇の書事件と同じ出会い方をできるかわからない……」 「それはなのはのせいじゃない、フェイトたちに至ってはどこにいたかもわからないんだ。 自分を責めるのは止すべきだ」 「それでも! 私の未来には大切な友達も娘もいなくなったちゃった事実は変わりないよ! 例え殺し合いを終わらせても、大災害からこの世界を救ったとしても二人はもう帰ってこない……」 彼女らの喪失により二人がいた部分が空白になり、その空白部分がなのはの中で絶望に染まる。 なのはにとって二人は人生でも紛れもなく大きな存在だったが、彼女らはなのはの未来像から消えてしまった。 絶望しないために動いていたつもりが、最悪の方向に未来の天秤は傾いた。 こんなハズじゃなかったのに、そう悔いた所で失った希望を取り戻せるわけではない。 それでもなのはは、19歳の姿をした幼い少女は、己の行いを恥じて感情のままに嘆くことしかできないのであった。 二人の死に比べれば、喪女になる自分の未来への不安などくだらないもの、そう思えば尚更である。 「これは未来を変えようとした私への罰なの? だとしたらあんまり過ぎる……私じゃなくて、どうして二人が犠牲にならなきゃいけないの?」 「気負い過ぎだ、なのは!」 「ごめんねユーノ君、こんな話に付き合ってくれて…… どれだけ悔いても嘆いても何も変わりはしない、わかっていても、あなたには話さなきゃいけない気がしたの。 同じ私でも“未来”の私と違って“ここにいる”私はこんなにも弱い女だということを。 ……馬鹿だよね、私一人が未来を受け止められるくらい強くあれば良かったのに」 彼女の言う“弱い”とは戦闘力ではなく、心の強さの話であった。 なのはの中ではヴィヴィオの死は、未来を受け入れられなかった自分の弱さが原因であると思っているようだ。 そして、その弱さを曝け出せるのは特に信頼しているユーノだけであった。 「ユーノ君も…私の勝手な都合であなたの初めてを奪ってごめんなさい…… 無理やり抱かされるのはとても迷惑だったよね……本当に酷い女で、ごめんなさい」 嫌がるユーノを強引に操を奪わせた件をなのはは涙と共に謝罪する。 しかし、そんな彼女をユーノは力強く抱きしめた。 「ユーノ…君?」 「謝る必要なんかないよ、なのは」 そして彼女の耳元で優しい言葉を囁くのだった。 「なのはの気持ちはよくわかった。 君がヴィヴィオやフェイトの死に責任を感じてることも、二人のいない未来に不安を感じていることもね」 「……」 瞳から涙を零し続けるなのはと目を合わせながらユーノは告げる。 「でも言わせてくれ。 まず第一にヴィヴィオたちの死はやっぱりなのはのせいじゃない。 悪いのは彼女たちを殺したマーダーや、この殺し合いを開いた野田総理やダース・ベイダーだ!」 「でも私がホテルで変な事をしなければ……」 「君は千年タクウで過酷な未来を見て、取り乱してしまっただけだ。 極論になるけど、例えば“自動車に轢かれる”という未来を知って自分から道路に近づきたいと思う人はいないでしょ? そんな風に君はただ危険が待つ未来に対して安全策を取ろうとしただけだ……方法はちょっとアレだったけど。 未来をより良い方向にしようとするのは誰だって一緒さ。それを弱さというのも違う気がする。 それから、君が千年タクウで未来を見てくれなければ、このままだと大災害で世界が滅ぶ一大事を知ることができた。 君が教えてくれなければ、桑原たちと勘違いで戦闘になってたかもしれないし、エリカさんだってついてこなかったかもしれない。 今、僕ら6人が一つの目的を胸にまとまって行動できているのは君のおかげなんだよ」 「でも……でも……」 ユーノはなのはの行動を責めず、優しく諭す。 しかし、彼の訴えでなのはにできた心の闇を溶かすにはひと押し足りなかった。 そこでユーノは―― 「第二に、僕が君に貞操を奪われて全然嬉しくなかったと思うのかい?」 「……え?」 ――顔を赤くしながら告白するのであった。 「ああ、うん、最初は戸惑ったし、こんな緊急時に何をするんだとか、なのはの豹変を怖く思ってた事もあった。 だけど、今思うと結構気持ちよかったというか、男として嬉しかったというか……その、うん。 なのはの事は嫌いじゃなかったし、女の子として意識してたし、むしろ、えっと…… ……うわあ、だんだん自分でも何言ってるかわからなくなってきたよ!」 赤くなった顔を更に赤くし、半ば勢い混じりだったため、理知的な彼にしては酷く歯切れの悪く台詞を連ねる。 一旦なのはから視線を逸らし、咳こみと深呼吸で恥じらいを振り払い、再び自分の想いの丈を述べるのであった。 「一つ聞いて良いかな? 僕以外の人でも君は喪女を卒業するために純潔を捨てられたかい?」 「え? それは……」 「お願いだ、怒らないから素直に答えて。僕を選んだ理由を教えて欲しいんだ」 「……それは無いと思う。 “今”においても、“未来”でも一番信頼していた男の人はユーノ君だったから……」 喪女を捨てたいだけなら、そこら辺にいる誰かでも良かったハズだ。 異性の知り合いならフェイトの義理の兄であるクロノもいる。 しかし、彼女はあくまで数多くいる男の中から、一番信頼できる男を選んだのだ。 思考は暴走していたとはいえ理性の全ては失っておらず、自分の夫になるかもしれない男には最も信頼できる男――ユーノに純潔を捧げたのだ。 「それからホテルというシチュエーションもあって、チャンスはここしかないと思って……気持ちを抑えられずにあなたを襲ってしまったの」 「そうか……形がどうあれ、僕としてもはじめての相手がなのはで良かったよ」 「ユーノ君……」 なのはに穏やかな笑顔を向けるユーノ。 「不謹慎な言い方かもしれないけど、このロワのおかげで君の事をもっとよく知ることができたと思う。 君は魔法の才能があるし、ある程度のことはなんでもできる……今まではそう思ってたけど、誰かが守ってあげないといけないか弱くて脆い部分もあると悟ったよ」 「……」 「だけど、弱い部分があってもいいんだ、脆い部分があってもいいんだ。 その欠点を支えあって助け合うのが人間ってものだと思う。 それに君が困った時には僕が助けにいくよ」 「ユーノ君が助けてくれるの?」 「ああ、なのはの話を聞いて思ったんだけど、未来の僕が君の伴侶にならなかったのは、11歳の時に君が負う重症の件で責任を感じている件に加えて、大親友であるフェイトと愛娘のヴィヴィオがいたから僕から支える必要が無いと判断したんだと思う」 本来の未来ならば心身共に支えてくれたフェイトとヴィヴィオの存在があったからこそ、なのはには伴侶が必要なかった。 なのはの未来についてユーノはそう結論づける。 だが、その二人は無常にも死んでしまい、未来は二人を欠いたものに変わったのだ。 それでもユーノは、なのはに希望を与えようとする。 「これからは亡くなったヴィヴィオたちの分も僕がなのはを支えるよ。 二人の代わりが務まるかはわからないけど、君の未来が明るくなるように努力する。 君が僕に純潔を奪わせたことを間違いだったと思わせないように頑張る。 だから――僕を信頼して欲しい」 ユーノはただひたすらに熱く、力強く、なのはに訴えかけた。 しかし、なのはからの答えはすぐに返ってこず、なのはの顔は俯いていた。 「ごめんね、僕が君にとって大切だった人たちの代わりになろうなんて、おこがましいこと言っちゃって迷惑だったかな……」 「……いいえ、ユーノ君」 ふと、俯いていたなのはの顔がユーノと向き合う。 彼女の表情に闇は感じられず、ただ恍惚と尊敬の視線でユーノと目を合わせる。 そして、ゆっくりと顔を近づけ、そっと唇を合わせた。 これがユーノに対するなのはの答えであった。 「なのは……!」 「私もユーノ君の事を見ていたよ。 元々あなたのことを信頼はしていた、だけどこのカオスロワで見せたあなたの姿は今まで見たことないくらい頼もしかった」 ある時はなのはを守るために強大な力を持つ仮面ライダーに一人で立ち向かう勇敢さ。 ある時は七人の仲間をまとめるリーダーシップ。 ある時はマーダー出現の不自然さから主催の介入を考察できる聡明さ。 ある時は逆レイプを受けても、弱みを見せても、相手を許し受け入れる懐の広さ。 非常時こそ、その者の本性が顕になるというが、ユーノは良い意味で内に秘めていた人間性をさらけ出したのだ。 いつしか男としてなのはは彼に心惹かれていたのかもしれない。 「千年タクウの映す未来でも見れなかったあなたの強さと優しさ。 普通の未来ではきっと気付けなかったあなたの良さを知ることができたの。 ヴィヴィオもフェイトちゃんがいない未来でも、あなたがいれば何も怖くない……そんな気にさせてくれるの」 「なのは……」 「ユーノ……」 この過酷な殺し合いを経てユーノとなのはは、互いが必要な存在になったのだ。 その感情は緊急時における不安からの依存や吊り橋効果によるものかもしれない。 それど、二人の間にカオスロワ以前よりも深い絆が生まれたのは確かであった。 その絆を人は愛と呼ぶ。 「絶対に、絶対に君を守ると誓うよ」 「愛してる、ユーノ君」 二人は見つめ合い、二度目のキスを交わす。 今度は舌を絡ませ合うほどであり、相手と深く繋がりたい故の接吻であった。 「んん……」 「んはぁ……」 両者とも艶かしい声を上げながら、ユーノはゆっくりとなのはをベッドに押し倒す。 そして、これからする行為の邪魔になる服やズボンについているボタンやベルトを外そうとする。 なのはとしては、自分の淫行で招いた悲しい出来事を忘れたわけではない。 だが、今の内に相手と繋がらなければ離れてしまうような、後悔を生むような錯覚を覚えている。 ユーノもその気持ちは同じであり、彼女の心の傷を癒すために交じり合う必要があるとも思っていた。 とにかく今は愛を確めあいたい、その感情が二人を支配している。 仲間たちは情報室にいて、この部屋には監視カメラがないのも確認済み、神樹の存在によりマーダーはおそらく地下官邸に入ってこれない、つまり止める者は誰もいない、ベッドの上に二人だけの楽園が築かれていた。 ベッドを背に、お互いの手と手とを重ね合う。 繰り返す接吻で唾液を交換しあい、キスの味を覚える。 行為は次第にエスカレートし…… 『マスター、水を差すようで恐縮ですが三時になりました。交代のお時間です』 「「!!」」 レイジングハートが時刻を通知した。 部屋の時計を見ると彼女の言うとおりに時刻は午前三時を回っており、休憩交代の時間である。 これによって二人の性交は未遂で終わったのだ。 我に返った二人は直前までの自分たちが勢いのままに淫らになっていたことと、レイジングハートの存在を忘れていたこと……告白や交じり合いかけるところを見られたことに羞恥心が蘇り、顔を真っ赤にしていた。 「は、ハス太たちと交代だね、戻ろうかなのは」 「そ、そうだね、ユーノ君。 あ、レイジングハート、私とユーノ君が……していたことはみんなには秘密にしておいてね」 『イエスサー、ご心配なさらずともプライベートの件は口外しません』 しどろもどろになりながらも、急いで外れかけた服のボタンやベルトを直す。 直し終わった頃になのははユーノに微笑みかけていった。 「ありがとう、ユーノ君。 あなたのおかげで気分が楽になったよ」 「なのは……」 次には強い意思を持って彼女は宣誓した。 「あなたがいれば、未来にどんなことがあっても乗り越えられる気がするの。 あなたがいればこそ私は生きていける、戦っていける! だからこそ、必ずこの殺し合いを終わらせて、大災害から世界を救って、生き延びよう。 そうすることが死んでしまったヴィヴィオたちのためにもなるとも私は思うから……」 「……ああ! 殺し合いの破壊も世界の滅亡阻止も成し遂げよう! そして僕たちは亡くなった人たちの分も生きるんだ」 ユーノの訴えはなのはを悲しみからふっきらせ、心に巣食っていた闇を払ったのだ。 こうして、高町なのはは魔法少女として再起した。 「よし、そろそろ行こうか、なのは。 ハス太たちが官邸の調査で何かわかったかもしれない」 「うん」 支度が整ったところで恋人たちは部屋を後にするのであった。 ☆★ 情報室に向かうまでの廊下を、ユーノの後をついていくようになのはは歩いていた。 (そういえば、さっきの千年タクウが見せた未来……) 千年タクウが見せたユーノが怪物になる出来事、それについてはまだユーノに話してはいない。 話すには内容があまりにも荒唐無稽で滅茶苦茶過ぎると判断したからだ。 (いや、あれはひょっとすると私の不安が形になった夢を、千年タクウが見せた未来と思い込んでいただけかもしれない。 ユーノ君が怪物になるなんてありえないしね) なのはから見て、ユーノの背中は実際の身長以上に大きく見えた。 彼女には、その背中を持つ男が恐ろしい怪物になるとはとても思えなかった。 一方、なのはがユーノの事を考えているように、彼女の前を歩いていたユーノもなのはの事を考えていた。 ただし、視点が少々、彼女と異なっていた。 (なのはが立ち直ってくれて良かった…… だけど、僕の愛しい人を悲しませた主催たちは許せない) ユーノの脳裏にはカオスロワを開くことで、なのはにとって大切な人たちを死なせた元凶である主催の者たち――放送で姿を見せたダース・ベイダーやバーダック、既に故人となった総理のシルエットが映っている。 その者たちに対してユーノにしては珍しく強い憎しみを抱いている。 強い憎しみは、言い換えれば殺意だ。 (なのはをこれ以上悲しませないためにも、殺し合いを終わらせるためにも。 必ず報いを受けさせてやる……奴らをこの手で引き裂いてやる) なのはを傷つけた者を絶対に許さない――怒りの感情がピークに達した瞬間、ユーノの片目が複眼に変化した。 奇しくもそれは千年タクウがなのはに見せた、ユーノが変身する怪物の複眼と全く同じであった。 しかし、次にユーノの脳裏に現れたのはなのはの笑顔が映る。 (……いけない、なのはを守るためにも怒りに因われずに冷静でいなきゃ。 彼女のためにも怒りは沈めて、いかにこの殺し合いを打破するかを考えなくては……この官邸の調査で殺し合いを打破できる何かが見つかればいいけど) 彼女の表情が頭に浮かんだ瞬間、複眼は元の瞳の形に戻ったのであった。 複眼への変化は一瞬であり、後ろにいるなのは気づかず、レイジングハートも感知できず、監視カメラは死角で映らず、本人すら気づいていない。 本人を含めた誰もが変異に気づくことはなかったのだ。 ――ユーノの身に何が起きているのか? 答えは、テラカオス化の進行による肉体の変化である。 カオスロワという過酷な環境下によるストレスで、テラカオス化が進行したのである。 もっとも、風鳴翼やフレミングのような積極的に殺し合いをしているマーダーに比べれば、進行度は極めて遅いものである。 しかし、その進行は僅かながらもユーノの精神と肉体に影響を及ぼし始めている。 一例になのはを確実に守るためとはいえ、仮面ライダーディエンド・海東を説得や無力化で済まさずに惨殺したのも、穏やかな彼の性格からは考えづらい行動であろう。 千葉のホテルに滞在していた時点で、進行は既に始まっていたのかもしれない。 彼の進行度は遅い部類であると述べたが、何かの弾みで進行を早める可能性は十分にあり、多くの勢力がひしめき強大なマーダーが多数存在する激戦区東京にいる限りは、その可能性が格段に上がるのは想像に苦しくない。 そして千年タクウがなのはに見せた未来。 過去にユーノがなのは諸とも仮面ライダーに殺される未来を変えたように、カオスロワ下における千年タクウが見せる未来が確実に訪れる保証はどこにもない。 だが、その未来が変わる保証もどこにもないのだ。 もし千年タクウが示した未来が回避できなかった場合、近い将来、なのは組に試練の時が訪れるであろう…… 【二日目・3時00分/首相官邸地下の廊下】 【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】 【状態】健康、19歳の身体 【装備】レイジングハート@魔法少女リリカルなのは、千年タウク@遊戯王 【道具】基本支給品一式、タイムふろしき@ドラえもん 【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ 0:ハス太君、エリカさんと休憩を交代する 1:死んでしまったヴィヴィオたちのためにもこの殺し合いを終わらせる 2:ユーノ君がいれば何も怖くない! 3:それにしても怖い夢を見たの…… ※千年タウクの効果によって、高町ヴィヴィオの存在と日本に世界を襲った大災害が起こる未来を知っています。 ※タイムふろしきを使ったので、19歳の肉体に成長しました。 ※未来の自分が使っていた技の一部が使用可能です。 【ユーノ・スクライア@魔法少女リリカルなのは】 【状態】健康、19歳の身体、僅かにテラカオス化進行 【装備】なし 【道具】基本支給品一式 【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ 0:ハス太君、エリカさんと休憩を交代する 1:なのはを絶対に護る! 2:大災害の情報を集める 3:野田総理の死の原因を探りたい 4:なのはを悲しませた主催者たちは絶対に許さない ※タイムふろしきを使ったので、19歳の肉体に成長しました。 ※PSP版の技が使えます。 ※本人の知らない内にテラカオス化が進行しています。 ※千年タクウによると将来的に“強大な敵”に襲撃され、その際のピンチに伴ってテラカオス化の進行が早まり、膨大な戦闘力を持った怪物に変身するようです。また、仲間の内の誰かを殺してしまう可能性があります。 実際にそうなるか、強大な敵は誰なのか、死ぬ仲間は誰なのかは次の書き手氏にお任せします。
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/153.html
こんなクリスマス~スバティアルート~ 作者:ID 6YOTgyd8 家族水入らずに邪魔するのも悪いかな、と考えたが行く宛てもなかったので適当にクラナガンをぶらついていた。 偶然にも、ミッドチルダでもその日は冬至で、聖王教会によって慎ましやかに祝われていたが、それでも第97管轄外世界での喧騒は、ここにはない。 我ながら情けない現実逃避だと思いながら、なんともなく人通りの少ない道を一人歩いていると、むしろ一層の惜寂感が沸きあがってる。 その蟠りを吐き出すように十数回目の溜息をついていると、後ろから騒がしい足音がこちらに近づいてくるのに気付いた。 「ちょ……バル……待てったらあ!」 「ユ……せ……ぇえええええええ!」 すわ引ったくりか、ミッドチルダも祝日なのに存外物騒だなあと思いながら振り向くと、身構える前に青い物体が常軌を逸した勢いで飛び込んできた。 肺から重い空気が抉り出されるのをどこか他人事のように感じながら、激突されたユーノは吹っ飛ばされ、冷たく硬いアスファルトに背中から着陸した。 「ああっ、先生大丈夫ですか!?」 「ぐ、スバル……。ふ、ああ、駄目だ。力が入らない。どうやら僕はもう、ここまでみたいだ。スバル、どうか、なのはたちを頼む……ガクッ」 「せんせぇー!!」 がっくりと力が抜けて事切れたユーノを前に、スバルは金色の目を悲しみに染めて慟哭した。 「はあっ、はあっ、んもう、なに馬鹿なことしてるのよ!」 後から息も絶え絶えに走ってきたティアナやってくる。ユーノ先生も恥ずかしいからやめてくださいと叫ぶと、ユーノはのっそりと起き上がった。 「やだなあほんのお茶目な冗談じゃないか、ティアナ。それに僕が事切れそうなのは本当のことだよ。なのはの親友的な意味でね。フフフフフフフフ」 虚ろな目で半開きの口から虚ろな笑いを響かせるユーノにスバルは空気を読まずに真顔で首をかしげる。ティアナが止めようとするがもう遅い。 「そういえばなのはさんたちはどうしたんですか?」 今日はなのはさんの故郷でも冬至の複合祭があるんですよねと活き活きと訊ねてくるスバルの純粋な笑顔がユーノの眉間を鋭角に抉る。 ティアナはあちゃーと顔を抑えているが、心のそこではユーノのこの奇怪な状況に興味を持っているようで、来るべき返答に耳を欹てていた。 「君までそれを聞くのか……スバル。フフフフフ、その通り、なのはたちは故郷の冬至の行事に参加しているよ。 ミッドチルダの冬至祭と大きく違う所は、家族ではなく主に恋人と共に過ごすという風習がまかり通っていることでね、 僕みたいに誰も親しい人がいない独り者にとっては、歩いているだけで道行く人からも嘲られ憐れまれさげずまれるという残酷な行事なんだよ……」 「せんせぇ……可哀想に……!」 「そしてそんな状況に耐えかねてミッドチルダに避難してみたらこっちも冬至祭。 ここで寮に帰ったら負けな気がしてこうしてうろついてたんだけど、フフフフ、寒風が骨髄にしみるよ……」 珍しく自暴自棄な風のユーノを最初に目の前にしたとき、ティアナはなんとも呆れた様子だったのだが、 その話を聞くと、しょうがないなあといった様子で腕を組みながら鼻から短い溜息を抜かして、 目じりを緩め、赤い唇を僅かに吊り上げて暖かい微笑みをユーノに零した。 「なら、私たちと一緒に来ませんか?」 「え?」 一杯の不安と一抹の期待に揺れる小動物の様な黒目がちの目に見上げられ、内心狼狽しながらティアナは続ける。 「う、あー、といっても私の独断では決めらないんですが」 ナカジマ家で会食がありまして、私も誘われているんですよとティアナは少し照れながら話す。 「せんせぇも家にくるの!?それならきっとお父さんもギン姉も喜ぶよ!」 「まったく、一番喜んでるのはあんたでしょうが」 スバルが期待に満ちた爛々と輝く目をユーノに向け、ティアナはそっぽを向きながらも満更でもない様子で促す。 しかし、突然差し伸べられた救いの手を前に、ユーノはついうろたえてしまう。 「う、いや、でも、一家団欒に水を差すのは……」 僕の我侭で教え子たちやその家族に迷惑をかけるのは、とユーノは躊躇い、 いよいよティアナはそんな様子に痺れを切らした。 「ああ、もう、まどろっこしいですね。スバル!」 「りょーかい!」 「え、うわっ」 スバルはその逞しい筋力でユーノを持ち上げて横抱きにし、それを見届けてすたすたと歩き出したティアナに従った。 「ちょっ、スバル!は、恥ずかしいって!」 「いやーせんせぇは軽いですねー。ちゃんと食べてます?駄目ですよー忙しいからって三食食べなきゃ」 「ぷぷぷ、その格好よく嵌ってますよ。ユーノ先生、仕事でお体が辛いようならこのままスバルに運ばせましょうか」 「僕の話を聞いてー!」 すっかりと元気といつもの調子を取り戻したユーノに二人は顔を見合わせて笑った。 「全然迷惑なんかじゃありませんから、どうぞ安心してください」 「一家団欒に水を差すなんて、そんなことないんですよ」 どうしても気になるのならあたしと結婚すれば家族の一員になれて解決です、何言ってんのよ馬鹿スバル、と騒がしい声が響く。 二人の笑顔は硬質な街灯に代わって、優しい光をユーノに投げかけていた。 「いいから下ろしてー!」 (小さくなる二人と一人の背中を見送って、フェードアウト) 15スレ SS スバル ティアナ ユノスバティア ユーノ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/350.html
「アストラル生命体! なのはから離れなさい!」 『何だ? お前等オレが今体として使ってる女の仲間か!? アッハッハッハッハッ!! だとしたらますますコイツからは離れられねぇなぁ! ま、元々コイツにはすげぇ力があるから どっちにせよしばらくは離れるつもりは無いけどなぁ!』 「く…外道め…。」 『ハッハッハッ! 残念だったなぁ! そいつはオレにとっちゃぁ褒め言葉だぜ! なんてたってオレァデビルだからなぁ! グヒャヒャヒャヒャヒャ!!』 「こらぁ! なのはの姿でそんな下品な笑い方するな!」 デビルの所業にユーノとフェイトは共に怒った。そしてユーノがディレイドバインドを行い、 魔法陣から現れた鎖がデビルなのはを雁字搦めにする。 『ん!?』 「なのはごめん…ちょっと痛いと思うけど…。」 ディレイドバインドによって身動きの取れなくなったデビルなのはに対し、 今度はフェイトがバルディッシュザンバーを振り上げて飛び上がった。 「おお! ビームサーベルだビームサーベルだ!」 「鈴木の奴が見たら喜びそうだな!」 フェイトのバルディッシュザンバーから伸びる魔剣に対し、クロとミーくんは それぞれその様な感想を述べていたが、そんなちょっとギャグっぽい所があるのもつかの間、 デビルなのははディレイドバインドを強引に突破し、それどころか バルディッシュザンバーの刀身さえも片手で受け止めていたでは無いか。 「何!?」 『お前…そんなにまでして取り戻したいのか? オレが体として使ってるこの女を 返して欲しいのか? 絶対返さねぇよ!! バーカ!! バーカ!!』 デビルなのははフェイトをあざ笑い、愕然とするフェイトに対し、 至近距離からデビルディバインバスターを発射した。 「キャァァ!!」 とっさに防御魔法を行ったとは言え、そのダメージは凄まじい。 フェイトは忽ち剛同様に遠くに吹っ飛んで行ってしまった。 「あー! フェイトがー!! くそっ! なのは…君は本当に悪魔に 身も心も乗っ取られてしまったと言うのか!?」 『そんな事言ったって無駄だぜボーヤ! コイツの体は完全にオレの支配下にある! コイツには何も出来ねぇよバーカ!! グヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』 「だからなのはの姿でそんな下品な笑い方するなって!」 しかし、ユーノには何も出来なかった。ただでさえ強いなのはがデビルに身体を乗っ取られて しまったのだ。完全にデビルの支配下に置かれた今のなのはは躊躇無く人を撃つ事が出来るだろう。 現にデビルなのはは笑いながらもデビルレイジングハートの先端をユーノに向けていた。 『さぁて…そんじゃぁ地獄を見てもらうぜぇ!』 「くっ!」 ユーノは防御魔法を展開しようとした。だが、それより先にクロとミーくんの ガトリングガンの弾丸がデビルなのはの防御魔法に着弾していた。 「何か良くわかんねぇが…デビル!! お前の相手はオイラ達だろうが!!」 『ああそうだったねぇクロちゃん? だから一緒にまとめて相手してあげるよ!! デビルアクセルシューター!!』 デビルなのはのデビルレイジングハートから弾丸状の魔砲が多数発射された。 ホーミング性を持ったそれは逃げるクロとミーくんを確実に追尾していた。 「くそっ! 奴が乗り移ってる女の技のレパートリーは底なしか!?」 「まったく恐ろしい奴だな!」 『さあさあ逃げろ逃げろ! グヒャヒャヒャヒャヒャ!!』 「やめろ! なのはぁぁ!!」 ユーノの叫びも空しく、クロとミーくんもまた魔弾の餌食となってしまった。 「ああ! 猫がー!! くそ! 何故こんな事をするんだ!?」 『あいつ等にはオレ個人的な恨みがあってねぇ…ま…そんな事はお前にゃ関係無い! どっちにせよお前も一緒にあの世に行ってもらうからなぁ!』 デビルレイジングハートがユーノへ向けられた。 『地獄の責め苦が待ってるぜ!! デビルエクセリオンバスター!!』 デビルなのはが躊躇無く発射したデビルエクセリオンバスターは忽ちユーノを飲み込んだ。 『これで終わったな!! グヒャヒャヒャヒャヒャ!!』 炎の海と貸した粗大ゴミ投棄場を目にし、デビルなのはの笑いが響き渡る。 しかし… 『グヒャ!?』 炎の中にかすかに人影が見える。そして炎の中から何事も無かったかのように ユーノが一歩一歩近寄って来た。 『何!? アレに耐えたのか!?』 確かに防御に定評のあるユーノ=スクライアであるが、いくらなんでも デビルなのはの攻撃に耐えられるとは思えない…はずなのだが…なんと耐えていたのである。 そしてユーノは一歩一歩デビルなのはに歩み寄って来た。 『な…何をする気だ!?』 この意外な行動にデビルなのはは一瞬戸惑った。何か構えているワケでも無く、 攻撃の為に急接近するワケでもない。ユーノはただただ一歩一歩デビルなのはに 歩み寄るのみ。冷静に考えれば隙だらけなはずなのだが…この意外な行動が 逆にデビルなのはを戸惑わせていた。 『な…何だ!? 何が狙いだ!?』 デビルなのはは不可解な行動を取るユーノを脅かそうとデビルレイジングハートを 振り上げるがユーノは臆せず、あっという間にすぐ正面にまで近付いていた。そして… 次の瞬間、甲高い音が周囲に響き渡った。 『な…。』 デビルなのはは一体何が起こったのか分からなかった。 ユーノの平手打ち。それがデビルなのはの頬を叩いていた。 「なのは…君はその程度だったのかい? ワケの分からない物に身体を乗っ取られて なすがままにされるなんて…なのは…君はそれで良いのかい?」 ユーノの目からは涙が滝の様に流れていた。 『ワケの分からない物じゃねぇ! 俺はデビルだ! ってうっ!!』 次の瞬間またもユーノの平手打ちがデビルなのはの頬を叩いた。それも反対側の頬を… 『な…何を!?』 「まだ目が覚めないのかい? なのは…。」 またユーノの平手打ちがなのはの頬を叩いた。 『だから貴様何をする!! って!!』 またまたユーノの平手打ちがなのはの頬に叩き付けられる。 「なのは…まだ目を覚まさないのかい? なら僕は何度でも僕は叩くよ。 なのはが目を覚ますまで何度でも叩くよ…僕は…。」 そう言ってユーノは再び手を振り上げるが… 『いい加減にしやがれこのガキ!! 手ぇ食いちぎっぞ!!』 デビルなのはの口が大きく開き、鋭い牙がユーノの平手に襲い掛からんとしたその時であった。 「おいおいデビル! お前の相手はオイラ達だろ!?」 『!?』 そこにはミーくんの頭部が胴体部分になっているクロの姿があった。 ミーくんの体内には「悪魔のチップ」と呼ばれる特殊なコンピューターチップが搭載されている。 このチップの力によってミーくんはありとあらゆる機械を取り込む力を持っている。 これによってミーくんは既に破壊された機械の残骸や、その辺を走ってる車から 強引に部品を奪ったり等して新たなメカを作り出す事が出来た。 そして今、悪魔のチップの機能の応用によってクロ自身と合体していたのである。 「そこをどきやがれ妖怪イタチ男!!」 「誰が妖怪だよ!!」 フェレットもどきとは言われても流石に妖怪呼ばわりはユーノも初めてでカチンと来ていたが、 悪魔のチップの力によってそこら辺のスクラップから作り出した 重火器を両腕に備えた合体クロミーはデビルなのはに対し撃ちまくった。 「わー!!」 悲しいかな、あれだけデビルなのはに平手打ち何発も入れときながら ユーノは爆風に巻き込まれてどっか飛んで行ってしまった。 しかしそれでも合体クロミーは砲撃を続ける。どうせ並大抵の攻撃は防御魔法によって 防がれてしまうのだ。ならばその防御力以上の攻撃を叩き込むしかない。 「オラオラオラオラオラオラオラ!!」 なおも合体クロミーの砲撃は続く。周囲に爆発音が連続で響き渡り、大量の爆煙が上がる。 そして爆煙をかきわけながら全周囲防御魔法で身を守ったデビルなのはが現れる。 どうやら連続重火砲撃は全て防がれてしまった様子である。だが、合体クロミーの攻撃は終わらない。 「まだまだぁ!!」 長剣を振り上げてデビルなのはに飛びかかる。しかしその斬撃もデビルレイジングハートに よって受け止められてしまった。 『接近戦なら勝てると思ったか!? グヒャ!!』 今度はデビルなのはがデビルレイジングハートを振り上げて襲い掛かり、 合体クロミーが長剣で受け止める。だがデビルなのはの猛攻は終わらない。 「くそ! 合体したオイラ達が押し負けるなんて!」 『どうしたどうしたクロちゃ~ん!?』 デビルなのはは恐ろしいパワーで合体クロミーを押し退けて行く。が、その時一瞬デビルなのはの動きが鈍った。 「やめろなのは! もうこれ以上は…。」 『ん!? さっきの小僧か!?』 何かいつの間にか戻って来ていたユーノが背後からディレイドバインドで デビルなのはを雁字搦めにしていた。しかしパワーの差が絶対的なのか、動きを完全に止めるに至らない。 『そうれ! そんな物でオレを止められるかよ!』 「うわぁ!」 デビルなのははディレイドバインドによって雁字搦めにされたまま、逆にユーノを振り回し、 その挙句に合体クロミーと鉢合わせにしてしまった。 「アイタタタタ…。このイタチ野郎め! 脚を引っ張りやがって…。」 「ごめん…。」 合体クロミーはサイボーグ故に頑丈であるし、ユーノもとっさに防御魔法で 自身の身を守って致命傷にはならなかったが、双方が一塊になったこの状況は デビルなのはにとって一網打尽に出来るチャンスだった。 『さぁて…そろそろ終わりにしようか?』 「うわぁ! やっべぇ!」 デビルレイジングハートがどす黒く発光し、その先端が合体クロミーと ユーノに向けられていた。 『地獄永遠の旅ご招待!! デビルエクセリオンバスター!!』 「ヒイイイイ!!」 合体クロミーもユーノも自身の最期を覚悟した。なのはの魔砲はその破壊力とは裏腹に 人体に対しての殺傷能力は無いと言う不思議な特性があるが、デビル化した今の なのはの魔砲にもその効果があるとは思えない。もはやこれで終わりか… そう思われたその時、突然デビルレイジングハートの先端がデビルなのは本人に向けられた。 『え!? グギャァァ!!』 デビルエクセリオンバスターがデビルなのはの顔面に着弾し、忽ち吹っ飛ぶ。 それには合体クロミーもユーノも呆然としていた。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/306.html
遊乃堂奇譚九話特別編?「迷宮のユーノ」今はその1かな OAspSFDe ここは海鳴町の片隅にある古びた佇まいの古書店『遊乃堂』―― いつも静かな古書店の入り口に今日は一枚の張り紙が貼られていた。 『急な用事により暫くお休みを頂きます。 遊乃堂』 「なんなのよ! これは~!!」 彼らが住居にしている二階にも人がいる気配がなさそうだ。 その張り紙を目の前にアリサ・バニングスは誰もいない店の中に向かって怒りの声をあげていた。 「アタシに断りもなしにどこへいってるのよ、あの馬鹿フェレットと愉快な仲間達は~!」 当のユーノはその時、“愉快な仲間達”にフェイトを加えたメンバーで、とある世界の山奥の遺跡の中にいた。 「ごめんね、ユーノ。私の仕事でこんなところまで付き合わせちゃって」 先頭を歩くユーノの背中にフェイトが如何にも申し訳なさそうに謝っていた。 「いや、スクライア一族はこういうの得意だから別にかまわないよ。この雰囲気、なんか懐かしいんだよね」 彼は明らかに最近手を加えられたように見える石造りの洞窟、というよりも迷宮の中を先頭に立ち、注意深げに だが軽々とトラップを潰し、またはひょいひょいとよけ、トラップにマークをつけながらその中を歩いていく。 ユーノはそんな風に迷路を歩きながらすぐ後ろを歩くフェイトに声をかけた。 「でもいいのかい、フェイト? もし君が持ってきた話が事実で、ここでその証拠が見つかったら君は管理局を告発する気なんだろう? そしたらおそらく今までみたいにはいられなくなる。 もしかしたら管理局にいられなくなる可能性だって……」 「ユーノの時みたいに? でも大丈夫。ユーノが検索した結果を信頼しているから。 ……だからここでじゃなくてもいつか見つかったら、 執務官としての職務を果たして告発しようって思ってるよ」 「……それって大丈夫っていわないだろう? それに僕の時とは全然違うよ。僕は別に何も……、あそこにいたくなくなったから辞めただけさ」 「じゃあ、ユーノはあそこを辞めたことを全然後悔してないの?」 「ああ」 「だったら同じだよ」 ――ユーノは優しすぎるよ、優しい大嘘つきだ。 後悔してないんなら何故あそこに無限書庫って名前つけてるの? フェイトは想い人の優しい嘘にため息を着いた。 ――そんな優しいとこも大好きだよ。 ここにいる3人の女性は同じ想いだったろう。 「でも、もし管理局をクビになったら、ユーノの本屋で私を雇ってくれるかな?」 「フェイトなら民間魔導師としてもどこでも引く手あまたじゃないかな? だけど、もし行くところがなければ歓迎するよ。給料はあまり出せないけどね」 「ありがとう」 「私も賛成です。フェイトのような美人の店員がいてくださればもう少しお客様が増えるかも知れません」 既にご近所では“美人店員”二人がいる評判の店ではあるのだが、特に売上には影響がないようだ……。 「……ちょっと恥ずかしいかも」 フェイトはアインスと同じメイド服を着た自分を想像して少し顔をほてらせた。 それよりも遙かに布地が薄く思えるバリアジャケットは別に恥ずかしくもなんともないというのに…… 「フェイト、なんかいったかい?」 「ううん、なんでもない……」 フェイトはぶんぶんと首を左右に振って頭に浮かんだ自分のメイド服姿を振り払い、 ユーノの言葉に答えを返した。 「その話、あたしはちょっと待った方がいいと思うね」 「アルフ、君、そんな……」 「アルフ……」 『私がいると邪魔なのかな』とちょっと涙目になるフェイト。 「……入る、入らないはもうちょいお給料の交渉くらいしてからにおしよ、フェイト。 うちの店長はバカ甘なんだから少し交渉すればちょいとはいいお給料出ると思うよ。 だからすぐにOK出しちゃダメだよ」 「そっちかい!」 ユーノはアルフの言葉を聞いてこけそうになった。 「第一、君達の給料ってあの店の売上から出てるんだよ」 眉間にしわを寄せるユーノ。怒りシワがよっているようにも見える。 「あ、そうだっけ……じゃあ少なくとも来月からユーノの給料はゼロだね」 「初めて知りました……来月から私の分のご飯は少しなら減らして戴いて結構です」 「あそこの売上でもお給料出るんだ。……でもお願いするの遠慮したほうがいいのかな」 「……君達ねぇ」 従業員と従業員候補の心ない言葉に 大きな落胆と微かな怒りを催した売れない古本屋の店長は深いため息をついた。 34スレ SS アインス アリサ・バニングス アルフ フェイト フェイト・テスタロッサ・ハラオウン ユーノ・スクライア リインフォース・アインス
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/100.html
司書長が自分探しの旅に出たようです 日々忙殺され、意識しないと自宅だと感じられない程、使っていない自宅。夕方、普段に比べ数段早く仕事をあがり、疲れた体を引きずって、何とか帰り着き、ほっと一息ついた。 燃料補給を訴える腹を黙らせるために、何か無いかと冷蔵庫を開けた。常に飲み物か固形栄養食品しか入れていない冷蔵庫は、見事に空っぽだった。 ――――何か音がする。どこかで聞いたことのあるような、懐かしい音した。 仕方ないと、財布を手に取り再び外へ出た。何も食べずに寝てしまおうかと思ったが、何か胃に入れなければ眠れそうになかった。 適当に買った携帯食料片手に、自宅に向かう。帰る、とは考えられなかった。感じられなかった。 そろそろ自宅に着くな、そんな風に思っていると、一陣の強い風が吹いた。 何とはなしに、顔を上げた。 綺麗な夕日が、空を紅く染め、ビルの合間の地平線に沈んでいった。 ――――何か、音が聞こえる。いつか、どこかで聞いた音だった。 食事を済ませ、寝床に入る。もう一刻も早く寝てしまいたかった、はずなのに、眠れない。 4日前、緊急で資料を請求してきたどこぞの馬の骨提督の資料を、三日三晩寝ずに仕上げ、送りつけた。体は確かに休息を求めているはずなのに、意識は沈むことはない。 ――――また、音がした。どこか寂しさを感じさせる音だった。 何なのだろう、このさっきから聞こえる音は。耳をふさいでも聞こえてくる、この音は。 どこかで聞いたことがあると、記憶が叫ぶ。ならばと記憶を遡っていくと、その正体に辿り着いた。 身体が跳ね起きた。聞こえてくる音が何なのか理解した瞬間、もう、寝るという意志は消え失せていた。 「ああ、そうか」 音が聞こえる。 「これって」 音が聞こえる。 ――――――――僕が空っぽだから聞こえる音なんだ。 「また、聞こえるようになっちゃったな…」 聞き覚えがあるはずだった。かつていくらでも耳にしていた音だったから。 スクライアのみんなといたときから聞こえていた。なのはたちと出会って、ともに過ごすうちに聞こえなくなった。なのはたちから離れ、独り別な道を進んでから、また耳にするようになった。最近、ヴィヴィオを通じてなのはたちと触れあうようになって、また聞こえなくなった。 「そっか。僕、今、空っぽなんだ」 どうして? 何故? 今僕は充実しているんじゃないのか? いくつもいくつも問いかける。そして理解した。 ――――答は今のユーノ・スクライアの中には無かった。 ********** アルフはユーノの自宅を訪れていた。 ユーノが始業時間になっても無限書庫に現れなかったためだ。 これまで、アルフが無限書庫に顔を出すようになる以前から、ユーノが無断欠勤したなどという話は聞いたことがない。 責任感が人一倍強く、他者に迷惑をかけることを人一倍忌避するような男だ。だからこそおかしかった。 まさか自宅で倒れているのでは――――古参の司書とアルフは同時に思い当たった。 すわ一大事と最古参にして主席司書に一時業務指揮を任せ、昨日ユーノが帰宅しているはずのユーノの自宅を訪れたのだった。 ――――その結果目にしたものは、人の体温が微塵も感じられない、殺風景な部屋だった。 昨日食べたと思われる栄養食品の空箱、食卓に起きっぱなしの使用済みのマグカップが、唯一生活の足跡を残していた。 そして。その部屋にユーノ・スクライアはいなかった。 ********** ――――ユーノ・スクライア無限書庫司書長、失踪す―――― この報は、瞬く間に管理局全体を駆け巡った。 すぐさまユーノに近しかった者は出頭を命じられ、簡単な事情聴取を受けた。これには、ユーノが誘拐されたのではないか、という懸念があったためである。 本局には秘密裏に捜索本部が設置され、管理局は上に下にの大騒動に陥った。 そして、取り調べを受けたユーノと親交が深かったものが、少しでも情報を共有しようと集まった。 「現状、ユーノが居なくても動くようにはなっているんだ、無限書庫も。ただ、ユーノが欠けちまうと無限書庫は良くて八割程度しか機能しない」 「ユーノ君…どこ行っちゃったのかな…」 「一応今はクロノ君やリンディさんが手ぇ回してくれはったお蔭でユーノ君は有給消化を兼ねた遺跡発掘に出かけたっちゅうことになっとる」 「ユーノ…やっぱりクロノの鬼のような資料請求に嫌気がさして…」 「一応捜索は続いているが…まだ誘拐の線では何も浮かばないな。ユーノに何かあったのでは、というのが捜索当局の見解だ」 「ユーノの財布は部屋になかった。多分財布の中にキャッシュカードとかも入ってるとは思うんだがねぇ」 「そっちはどうなの、クロノ君」 「引き落とされた形跡なし、だな」 「ユーノ君、まさかどっかで野垂れ死んだとかじゃ…」 「はやて!!」 そんな心配をよそに、ユーノは世界を渡り歩いていた。 「何、やってるんだろ、僕」 一通のメールが、事態をより加速させる。 『生きてます。旅に出ています。ユーノ・スクライア』 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 そのメールを見たときの各人の反応を以下に記す。 「…何が生きてますだあんのおとぼけフェレットオオオオオっ!!」 「そんなことよりちゃんと理由を説明しろオオオオオッ!!」 「よかった…ユーノ君、ぶじなんだ…本当に…良かった…」 「うん…ユーノ…無事みたいだ…」 「はは…なんや気い抜けてまうな、こないなメール見せられると…」 「「「でも、理由は?」」」 何となく理由を察した人たち。 「レティ…私、なんとなくだけどユーノ君がふらっといなくなった理由、分かった気がするわ…」 「リンディ。私も何となくだけど察したの。察しちゃったんだけど、その、ね…」 「ねぇ父さん。スクライア先生、どちらへ行かれてしまわれたんでしょうか…」 「ああん。なんでまた…あー。先生と仲が良かった八神やらは気落ちしちまってるんだったな」 「ええ。見てて気の毒なくらいで…」 「放っとけ放っとけ。その内ヒョロっと戻ってくらぁな」 「何でわかるんですか」 「あ?そんなの簡単だっつーの。まだ先生だって20かそこらだ。道に惑い、迷うこともあらぁな」 「???」 ヴィヴィオが純粋無垢な目で、最古参司書に問う。 「ししょさんししょさん、ユーノさんいつ帰ってくるの?」 「…んー…多分、自分を見つけたら帰ってくるんじゃないかな」 「じぶんー?」 「そう、自分…言ってて背中が痒くなってきた…」 自分探しの旅にてユーノが出会った老人が、彼を答へと導く。 「お若いの。あなたは何か探しておるようですのう」 「はは、未だ手がかりすら掴めませんよ」 「でしたら時には神秘に頼ってみるのもよろしかろうて、着いてきなされ」 「この洞窟は…」 「この洞窟は反省の道と呼ばれておる」 ********** 反省の道と呼ばれる明かり一つない暗闇の中を、ユーノは独り歩く。歩いていく内に、不思議と今まで自分が歩んできた人生が脳裏に浮かぶ。 ――――スクライアのみんなと過ごした。家族との一時。 ――――ジュエルシードから始まった出会いと事件の連続。友との一時。 ――――親しい人たちとさらに親しくなりながら、新たな縁を紡いでいく。仲間との一時。 ――――常に誰かと共にあった。例え遠く離れていても、絆でつながっていた。 ――――僕は(君は)独りなんかじゃないよ。 その声が聞こえた瞬間。うるさいほど聞こえていた空っぽな音は、消えていた。 帰ろう、大切な人達が待つ場所へ。 「ご老体、ありがとうございました」 「ほっほっほっ。良い顔になりましたのう。見つけましたか、あなたの探し物を」 「はい!」 「若かろうが、年を重ねようが、人は迷い、惑いましょう。大いに迷いなさい。幾らでも惑いなさい。その迷いも惑いも、あなたの人生を彩っていくでしょう…ほほっ、少々説教臭くなりましたな」 「いいえ。ご教授、ありがとうございます」 かくして青年は舞い戻る。まだまだこの先、迷うことも、惑うことも多々あるだろう。ただ、迷うことも惑うことも必要なのだと理解した青年の往く道には、きっと幸あることだろう。 「ほっほっほ。久々に良い青年とあえたのう…これだから人間は面白い。精一杯日々を生き、精一杯悩みたまえ、青年」 青年を見守った老人は、反省の道の闇の中へと消えていった。後に青年は、反省の道を再度見ようと訪れるが、そのようなものは見つからなかったと言う。 お・ま・け 「まったく…なんで僕がフェレットの巣の管理なんか…」 「仕方ないだろう?なのはやフェイト、はやてに任せようとしたらユーノが帰ってくるまで部屋にいるとか言いだしたんだから…クロノ、どうしたんだい」 「…アルフ、鍵が開いてる。空き巣かもしれん、準備を」 「…OK」 強く開け放たれる扉、デュランダルとS2Uを構えて突入したクロノとアルフが見たものは。 「はぁっ!?クロノ!?アルフまで!?何勝手に入って来てんのさ!?」 「……」 「……」 「今着替えちゃうからちょっと出てってよ!ってか扉閉めろよな!」 そこにいたのはシャワーを浴びたばかりの、半裸の家主だった。 「……アルフ」 「……OK」 「へ?いや、どしたのクロノ、アルフー?なんでそんな満面の笑みなの、なんで拳握ってるの、なんでデバイス機動状態のままなの、なんでにじり寄ってくるの!?ねぇ!?」 提督と使い魔は、満面の笑みを張り付けたまま息を吸い込み、叫んだ。 『帰ってきたんなら挨拶ぐらいしろーっ!!このど阿呆!!』 ――――後に、あのコンビネーションはそうそう見れるものではない、と、青年は語ったという。 お・ま・け そのに 「ユーノ君はほっとくと勝手に悩んじゃって勝手に苦しむの」 「あんな部屋じゃ、ユーノが独りだと思いこんじゃうのも当然だよ」 「せやから、うちらがユーノ君の部屋を、帰るべき暖かいもんを作ったる」 「え、いや…僕の帰る場所は、無限書庫だと…おも…う…のですょ?」 「「「何か言った?」」」 「あ、いえ、何でもないです、はい」 「やっぱり私とフェイトちゃんで…」 「うん。ヴィヴィオも喜ぶよ、きっと」 「ほんなら2人がちょっと都合着かんときはうちに招くっちゅーんでええよね」 「…世界はこんなはずじゃなかったことばっかりだよ…」 「わーい、ユーノさんといっしょー♪」 終われ