約 83,008 件
https://w.atwiki.jp/gods/pages/37209.html
ワキンヤンタンカ(ワキンヤン・タンカ) 北アメリカのスー族の神話に登場する偉大なサンダーバード。 別名: ワキンヤン
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1751.html
506 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2010/07/25(日) 10 08 25 ID 6XlpIfwN ***** 何回、あの二人の間に割り込んでやろうと思ったのか、自分でもわからないわ。 どういうことなのよ。 あの人と、あの人の妹が二人きりでデートに出かけるだなんて。 彼の行方は弟君に教えて貰った。 弟君は、妹と買い物に出掛けただけ、なんて言っていたけど、それは間違いだわ。 弟君の台詞が嘘なんじゃない。買い物に出掛けた、っていうのが間違った認識なのよ。 あの人と妹さんが、二人で買い物に行く。 相手が誰だろうと、女と一緒にどこかへ行く時点で、それはデートよ。 それに、妹さんが彼と二人きりで歩くっていうのがおかしいわ。 妹さんは、弟君のことが好きだったはず。 この間、彼の家の中で妹さんが弟君を押し倒していたんだから、間違いない。 いいえ――正しくは、あの時は間違いなくそうだった、ね。 あれから彼と妹さんの間に、何かが起こったんだわ。 好意の行き先が、弟君から彼の方向へ一気に切り替わるような事件が。 あの女。妹という立場を利用して一体どんな策を使ったのかしら。 私がいくら誘っても落ちなかった彼をデートに誘うだなんて、そうとう上手いことをしたに違いない。 物で釣った? お金を払った? 脅した? それとも、誘惑した? どれを実行したにしても許せないけど、どれも成功しそうにないわね。 なおさら気になってきたわ。今後のためにも、彼を誘える手段を覚えておかないと。 最初に彼と妹さんを見たのは、デパート内のパン屋の中。 二人一緒に、テーブルで向かい合って昼食をとっていた。 気付かれないよう、窓ガラスの向こうから覗き見する。 うーん……何を喋っているのか聞き取りづらい。 とは言っても、中に入るわけにも。 あら、妹さんが彼のパンをじっと見てる。 彼に向かって何か言ってるわね…………あああああ! あああ、あのちび女! 彼のカレーパンにかぶりつきやがったわ! 美味しい物食べて幸せだって顔してるんじゃないわよ! 上品そうに口元を隠すなあ! ああ、しかも彼ったらその食べかけカレーパンに口をつけた! それ、それ間接的な、き、キスじゃない! しかも歯と歯、舌と舌が絡み合って、混じり合って……なんてディープなことを! なに、なんなのこの悪夢は。 どうして妹さんは、あそこまで彼に対して積極的なの? どうして彼は、妹の食べかけを平然として口に運んでるの? いいえ、落ち着きなさい。 妹さんは彼のパンを奪いたかっただけ。 彼は妹のやることだからって目を瞑ってるだけ。 そう考えれば、さっきのだってなんでもない兄妹間のやりとりに見えるはずよ。 心を落ち着けて二人の様子を観察する。 彼が妹さんの紅茶を一気飲みした。妹さんも彼のコーヒーを一気飲みした。 いつの間にか私は歯ぎしりをしていたらしい。歯の擦れ合う音が止まらない。 体の震えが止まらない。頭の後ろがメキメキと音を立てそう。 もはや心を落ち着けられる心境じゃないわ。 あんたたち……兄妹だっていうんならストローぐらい使って飲み比べしなさいよ! どう見たって、完璧に、恋人同士じゃないのよ! 507 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2010/07/25(日) 10 09 32 ID 6XlpIfwN その後、二人のところに入りこまなかったのは、幸いにも二人が本屋に入ったからだろう。 妹さんはファッション誌のコーナーへ、彼はホビー誌のコーナーへ。 全くの別行動をとっていたから、私の気が大人しくなった。 今の二人だったら、ただの兄妹というふうに見えるんだけど。 さっきから、妹さんの考えが読めない。 一緒に食事したり、間接キスしたりしていたくせに、今は彼とは別行動をしている。 私だったら、彼とデートする時はたとえ本屋の中であっても一緒に行動する。 そして、人がほとんどやってこない棚の前に行って、二人きりでアレコレする。 でも、妹さんは全然そういうことをしようとしない。 そもそも、デートで本屋に行くのってアリなのかしら。 待ち合わせ時間までの暇を潰すにはいいけど、デート中にやるのはおかしくない? もしかして、本当に買い物が目的で、二人ともそのつもりだとか? これはまだまだ見極める時間が必要ね。 午後二時になるちょっと前、二人に高橋君が合流した。 高橋君は普段何をしているのかわからないけど、私の目にはよく映る。 高橋君と彼は仲がいいから、そのせいでしょう。二人が仲良く話す姿はクラスでは多く目にする。 彼と、妹さんと、高橋君。 この三人が一緒ってことは、本当にただの買い物だったのね。 ああ、よかった。 それから、ほっとなで下ろした胸の裡がざわつきを取り戻すまで、そう時間は掛からなかった。 時計のお店で、彼が、妹さんに時計をプレゼントしてた。 妹さんがどれにするか選びかねていたところで、彼が一つの時計を選んだ。 そして妹さんは、彼が選んだ時計を購入することに決めたみたいだった。 上手いものね。どれにするか悩んでみせて、困った振りをして、彼に時計を選んでもらうなんて。 それ、プレゼントと同じじゃない。 あんなに悩んで選んだんだから、本物のプレゼントよ。 私なんか、私なんか……まだ彼から何かを贈って貰ったことなんて、一度もない。 どうして? どうしてあなたは、私じゃなくて、妹さんにプレゼントするの? どうして妹さんは、彼からプレゼントを貰えるの? どうして私は、彼にプレゼントを贈って貰えないの? 508 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2010/07/25(日) 10 11 56 ID 6XlpIfwN 時計店から離れて、一人きりになれる場所まで行って、通路に置いてある手近な椅子に腰掛ける。 途端に周りの情報が鮮明に感じられるようになった。 遠くから聞こえる人の声、店内の音楽、壁を塗り尽くすベージュ。 私、こんなところで何してるんだろう。 彼に会いたくてしょうがなくなって、弟君に行き先を聞いた。 いざ行ってみると、彼は妹さんと仲良くしてて、一緒に食事して、プレゼントまで贈っていた。 私は一人きり。 人がいっぱい居る店内に居るのに、周りには誰も居ない。 彼はもちろん居ない。居るわけがない。 迷子になったみたいだった。 昔、まだお母さんが生きている頃も、私は迷子になったら、お母さんを求めてた。 お母さんは私を探しに来てくれた。 家族だったから。お母さんはお母さんで、私は娘だったから。 だけど、お母さんと違って、彼は探しに来てくれない。 妹さんと一緒に、時計を買うことに夢中になってる。 私がここにいることなんか、知りもしない。探してもくれない。 もしも、私があなたの娘だったら――家族だったら、あなたは私を捜してくれるのかしら? あ、そっか。わかった。 どうしてプレゼントを貰えないのか。彼が捜しに来てくれないのか。 彼の隣に居ないからいけないのよ。 当たり前よね。見つからないように隠れてたら、プレゼントを貰えるはずがないわ。 私が近くにいるってことを知らないから、捜しに来てくれないのよ。 私を家族だって勘違いするぐらい一緒に居れば、きっと大事にしてくれる。 じゃあ、さっそく偶然を装って彼の所へ行こうかしら。 ケータイで話している最中に顔を合わせれば、偶然会ったふうに見えるはず。 あら、彼のケータイにかけても繋がらないわ。 彼ったら、こんな時に限って誰かさんと仲良く話してるのね。 彼と話できないなら、こんな道具は要らないわ。 あなたもきっと、私と同じ事を考えて、そう言ってくれるわよね? 困った人。私が会いたいと思った時に限って、いつも誰かと一緒に居るの。 今日だけは、いえ、今日からはそんなのダメ。 私と一緒に居てもらう。これからは離れないって、言ってもらう。 プレゼントは要らない。誓いの言葉が欲しい。 これ以上言うこと聞いてくれないと、私、きっと崩して、壊しちゃうわ。 あなたも、あなたの家族も、友達も、私自身さえも、何もかも。 509 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2010/07/25(日) 10 13 19 ID 6XlpIfwN ***** 高橋や妹の言うとおり、俺はカカシなのかもしれない。 突然現れた葉月さんが、その手に持っていた携帯電話をへし折ったところで、危険を察知して逃げるのが賢い人間の対応だ。 なのに俺は何もせず、高橋との通話を切ることもなく、呆然と立ち尽くしていた。 結果、俺は葉月さんに携帯電話を奪われ、彼女の手によって携帯電話を破壊された。 「はい。これ、返すわね」 葉月さんが俺から奪った携帯電話を返した。 もはやそれは、携帯電話としての体を成していない。 ヒンジの部分で二つに別れた機械を繋げるのは、細くて頼りないコードだけ。 どのボタンを押しても画面はブラックアウトしたままだ。 完全に死んでしまっている。 葉月さんの足下に転がっているのは、葉月さんが使っていた携帯電話だ。 俺の携帯電話と同じ型、同じ色のもの。 そっちも俺の物とほぼ同じ有様だった。 違うところは、二つの残骸が未練を残さずおさらばしているところだろう。 俺の携帯電話ももう少しであれとおそろいである。さっぱり笑えん。ちっとも嬉しくない。 データが消えていないことを望んでから、ポケットに携帯電話の残骸をしまう。 さて、どうしようかな。逃げようかな。 でもここで逃げたら今の葉月さんの機嫌を損ねてしまいそう。 いまだ固定したままの右腕がハンディキャップになってるから、走って逃げてもすぐに追いつかれるだろうし。 人の携帯電話を破壊しておいて、まったく葉月さんは悪びれる様子がない。 せめて謝ってほしい。微笑みを浮かべて俺を見つめないで欲しい。 携帯電話を壊されたことについて怒りそうになっている俺の方が、おかしいみたいじゃないか。 「あの……」 「なあに?」 口を開いたものの、何を言えばいいのかわからない。 いや、どういう順番で言いたいことを言えばいいのかわからない。 なんで葉月さんはここにいるの? なんで携帯電話を壊したりなんかした? 俺が何か怒らせるようなことした? どの問いを一番に持ってきても、間違っているような気がして、何も言えない。 ああ、そうか。 こういうことで悩んで、何も言わないところも、傍からはカカシっぽく見えているわけか。 俺が何を考えていようと、他人はそんなことは知らない。 俺に何らかの評価を下すのは、いつだって他人である。 たとえ世界崩壊を食い止めるための方策を脳内で考えているとしても、他人からはぼうっとしているようにしか見えない。 世の中、そんなもんである。 俺の思考を完全に悟れる人間なんて、いるはずがないのだ。 510 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2010/07/25(日) 10 15 50 ID 6XlpIfwN 葉月さんが左手を、俺に向けて差し出した。 手のひらが天井を向いていないということは、金を催促しているというわけではなさそう。 むしろ携帯電話を壊されたのだから、こっちが催促したいぐらいである。 では、一体どういうつもりでその手を動かしたのか。 「一緒に行きましょ。せっかく会ったんだから、遊びに行きましょうよ」 「いや……ちょっと待って。考えさせてくれ」 「どうして? 私と歩くの嫌?」 「嫌とかじゃなくて、それよりも先にすることがある」 「妹さんのお買い物の続き? 私のことなんて、後回しなの?」 「いや、妹のこととは別だ……って、どうして妹がここにいることを知ってるんだよ?」 「だって、ずっと見ていたんだもの」 葉月さんは、その言葉がどれだけの衝撃を俺に与えるか知らず、そう言った。 見ていた? 妹と居るところも、高橋と居るところも? もしや、ここにやってきたのは俺と会うためだったとか? 「見ていたなら、どうして声をかけなかったのさ」 「あなたと妹さんが、なんで二人きりで買い物に来たか、わからなかったからよ。 だって、昔は妹さんとそんなに仲良くなかったでしょう。 それなのに、今日は二人きりで買い物に来てる。一体どういうこと?」 「二人きりじゃなかった。高橋も居た」 「知ってるわよ。話を逸らさないで。 どうして妹さんとそこまで仲良くなったの? いつから? どうして仲良くなろうと思ったの?」 「あの、妹と仲が良いのって、そんなにおかしいことじゃないと思うんだけど」 そりゃまあ、たしかにほんの二ヶ月前ぐらいまでは仲が悪かった。 仲が悪い状態でバランスがとれているような感じだった。 でも、その間に色々な事件が起こったせいで、そのバランスが崩壊した。 バレンタインデイから数日は、弟誘拐事件に奔走させられた。 治療のため入った病院では、伯母に再会した。 弟誘拐事件、伯母と出会ったこと。 この二つの出来事のおかげで、俺と妹は昔のことを思い出した。 俺と妹の仲が悪かったのは、過去の出来事を思い出せなかったせいで、誤解が生じていたからだろう。 誤解が解けてからは、妹とはそれなりに仲良くなった。 妹に好きと言われるとは思わなかった、さすがに。 だけどなにもおかしいところはない。特別な関係になったわけじゃない。 高橋を前にした今日の妹の態度なんか、懐かしさを覚えるぐらいに尖ってた。 ちょっと口論する程度には仲が良くなった。そんな感じである、俺と妹の仲は。 「おかしいことじゃないって? 私から見れば十分におかしいわ。 そもそも――」 「別に何もおかしくないわよ。っていうか、変な風に疑うの、やめてくれない?」 葉月さんが振り向く。 肩越しに、憮然とした顔をつくっている妹が立っているのが見えた。 妹の左手首には、時計が巻かれている。右手にはさっきの時計店の紙袋。 どうやら、トイレに入っていると見せかけて、時計を身につけていたらしい。 鏡を前にして、入学祝いに貰った時計を身につけ、はしゃぐ妹。 トイレの中だという設定がなければ、ちょっとはイイと思える。 511 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2010/07/25(日) 10 19 19 ID 6XlpIfwN 「あら、妹さん。ごきげんよう」 「ええ、最高にご機嫌よ。私は」 「……どうして?」 「さあ? 今日がいい天気だからじゃないかしら」 今日の天気は快晴だった。 邪魔になる厚着をする必要もない、外出しやすい気候だった。 もし妹へのプレゼントを買いに行く用事がなければ、外でエアブラシを存分に活用していたことだろう。 本日は、俺にとっても望ましい天気である。 そういえば以前、妹は小雨の降る天気の方が好きだって言ってなかったっけ。 でも、今日は快晴の天気なのにご機嫌だと言う。 二番目ぐらいには好きなのかな、青い空と白い雲のある日。 「葉月、あんたケイタイ落としてるわよ。はい」 妹が、床に放置されていた葉月さんの携帯電話の残骸を拾い、持ち主の手に渡した。 「あんたのケイタイ、変わってるのね。 二つで一つのケイタイなんて、見たこと無いわ。どこのメーカーの最新型?」 「知ってても内緒にするわ。あなたには」 「あっそう。まあ別に私も知りたいわけじゃなかったから、どうでもいいわ。 さて、用事も済んだから帰りましょ。お兄さん」 妹が俺の手を掴もうと手を伸ばした。 他人の指先の熱を皮膚で感じた――ところで、その小さな感覚は消え失せた。 葉月さんの手が割り込み、妹の手を払っていた。 「妹さん。そんなこと言わないで、しばらくご一緒してくれないかしら?」 「ええー……面倒だから断りたいんだけど。こんな暴力的な女とは一緒にいたくないわ」 「そんなこと言わないで、ねえ? 彼だって、私と一緒したいみたいよ?」 ……は? え、俺? 「そうなの? お兄さん」 「待て。何を言っているんだ、二人とも」 落ち着け。混乱してるぞ、俺。状況整理だ。 まず、妹が俺の手を引いて帰ろうとしたところで、葉月さんが止めた。 葉月さんが妹を誘ってみたが、妹の反応はかんばしくない。 葉月さんは食い下がる。俺が葉月さんと一緒に居たがっている、と言って。 妹はその言葉に乗り、俺に判断を委ねた。 うん、よくわかった。 よくわからないなりゆきで選択肢を与えられた、ということがわかった。 二人で話をつけていたんじゃないのかよ。 携帯電話を壊されるわ、突然選択を迫られるわ。 慣れ親しんだ錯覚までするぞ、この理不尽な展開。 512 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2010/07/25(日) 10 21 02 ID 6XlpIfwN 「久しぶりに会ったんだから、付き合ってくれないかしら。たまにはいいでしょう?」 人の携帯電話を壊しておいて、よくこんな台詞が口から出るものだ。感心してしまいそうだ。 「お兄さん、疲れたから私、帰って休みたいんだけど」 妹、俺はこの場から逃げ出したいよ。別に携帯電話を弁償してもらわなくてもいいから。 さっきの電話で異常を察知した高橋が戻ってきてくれないかなあ、なんて思ってしまう。 大抵の場合、そう都合良くいかないものだってわかってるんだけど。 「妹さん、わがまま言わないで。彼の気持ちを無視しちゃ行けないわ」 「無視してるのはあんたじゃない、葉月」 「どうしてそう思うの?」 「見てたらわかるわよ。ちょっとあんた、強引すぎる。 他人に言うことを聞かせるために暴力振るったり、いきなりお兄さんに話を振ったりね。 わかりやすく、卑怯って言い換えてもいいわ」 「ふうん。あっさり心変わりするような子がよく言えたものね、そんなこと」 「……あんたにだけは言われたくなかったわ、そんなこと」 「私は一度も心変わりしたことないけど?」 「むかつく。喧嘩売ってるの、あんた」 「きっと、高すぎてあなたには買えないわよ。むしろ噛みついてきてるの、あなたの方じゃない」 「なんですって……」 「なんでもないわよ。ただ思ったことを口にしてるだけ」 まずい。ここが人がひっきりなしに行き交うデパートの通路だと言うことを、二人とも忘れてる。 ほとんどの人は無視して通り過ぎるけど、数人が遠巻きに成り行きを見てる。 「あのさ、二人とも、ここじゃまずいからどこか別の場所で話さないか?」 努めて優しく提案してみる。 しかし、二人は揃って俺を睨み付けて、口論をやめようとしない。 「お兄さんは黙ってて!」 「ちょっとだけ口を出さないで。大事な話をしてるのよ」 ふうむ――そろそろ、腹が立ってきたな。 こいつら、俺を使って喧嘩したいだけじゃないのか。 便利な道具とか、ゲームのパワーアップアイテムとしてしか俺を見てないんじゃないのか。 ちょっとは仲良くしろってんだ。 なんで、一番ろくな目に会ってない俺が蚊帳の外なんだ。 最近は携帯電話も安くないんだぞ、くそったれ。 「……妹、ちょっとだけでいいから、俺と葉月さんに付き合え」 「はあ? お兄さん、それってこの女の言うことに従うってこと?」 「どうとでも受け取れ。移動するぞ」 「何いきなり怒ってるのよ。わけわかんない」 「わけわかんない、って言いたいのはこっちだ。それに俺は、まだ、怒ってない」 まだ、を強調して言った。 妹は俺の苛立ちを察したのか、言い足りない風の不満顔ではあったが、それ以上は何も言わなかった。 「葉月さんも、それでいいよな?」 「え、ええ」 じゃあ行こうか、と言い残して歩き出す。 後ろから二人分の足音が聞こえてくる。 俺の歩調に会わせて歩いているのを感じ取ってから、二人に向けて言う。 「二人は仲が悪すぎるんだよ。一緒にお茶でもして、親睦を深めろ」 流れ出してくる感情を抑えず、勢いで発言した。 一緒にお茶を飲んだぐらいで仲直りするとは思えなかったが、もしかしたらということもある。 そんな風に楽観的に考えてしまいたい時だってあるのだ。 今みたいに苛立っている時は、特に。
https://w.atwiki.jp/kizumon/pages/282.html
見た目 ステータス スキル 特性 進化 ヤングロシナンテ 属性 レア コスト 種族 性格 無 R 34 (??) 馬 ケチ ※コストの()は絆度MAX値 ステータス 初期値 未MAX 覚MAX HP 77 176 ?? AP 51 71 ?? 攻撃力 24 55 ?? 防御力 29 66 ?? 賢さ 24 55 ?? ガッツ 16 37 ?? すばやさ 31 71 ?? 移動力 普通 取得可能スキル 使用部位 牙 - 体当たり ○ 雄叫び ○ 爪 - 絞め技 - 仙術 - 角 - 息 ○ 魔術 ○ 蹴り ○ 眼力 ○ 機械 - しっぽ ○ 羽ばたき - その他 ○ スキル キック キック 属性 射程 種類 貫通 威力 対象 AP 無 近 物理 - 115 敵単 0(0) 詳細 命中率 少し低い 使用部位:蹴り ※APの()内は同属性時の消費量 LvUP情報 威力+5.00% 肥料 生産肥料数 10 入手場所 所持するモンスター ちび赤兎 ちびペガサス ちびユニコーン ちびロシナンテ ヤング赤兎 ヤングペガサス ヤングユニコーン ヤングロシナンテ ちびピクシー 赤兎 ケルピー ペガサス ペガサス★ ユニコーン ロシナンテ 八獣王・アムドゥシアスSR ピクシー バリオス シーホース 天馬 真・天馬 あつゆ バイコーン プーカ ヒポグリフォ ハイピクシー ガミギン アンヴァル 麒麟 セイレーン メデューサ ホーヴヴァルプニル 望天吼 アスタロト だいだらぼっち アテナ イシュタル ヘカーテ 備考 Last Update 2018-01-19 18 53 42 (Fri) ローキック ローキック 属性 射程 種類 貫通 威力 対象 AP 無 近 物理 - 100 敵単 7(7) 詳細 素早さ↓(小)化 期間 4付与 35% 使用部位:蹴り ※APの()内は同属性時の消費量 LvUP情報 威力+5.00% 肥料 生産肥料数 15 入手場所 所持するモンスター ちびロシナンテ ヤングロシナンテ ロシナンテ フロスト・ゴーレム 備考 Last Update 2017-06-05 21 36 03 (Mon) しっぽを振る しっぽを振る 属性 射程 種類 貫通 威力 対象 AP 無 - - - - 敵全 11(11) 詳細 攻撃↓(小)化 期間:3素早さ↓(小)化 期間:4付与率:いずれも70% 使用部位:しっぽ ※APの()内は同属性時の消費量 LvUP情報 攻撃↓付与率+5.00% 素早さ↓付与率+5.00% 肥料 生産肥料数 20 入手場所 所持するモンスター ヤングロシナンテ ハチ ロシナンテ ポチ 備考 Last Update 2017-05-09 23 44 43 (Tue) 特性 隠密行動・草原★ 隠密行動・草原 詳細 草原クエストを探索時敵との遭遇率33%↓リーダー時のみ有効 LvUP情報 遭遇率1.65%↓ 肥料情報 生産肥料数 10 入手場所 所持するモンスター ヤングロシナンテ 備考 Last Update 2017-04-13 19 43 42 (Thu) ※★はロックされている特性 モンスター進化 ロシナンテ ロシナンテ 進化素材 進化のレリック×20 スーパーレアのルーン×1 馬の像×22 戦いのエレメンタル×23 必要ゴールド 10,000 G ロシナンテの詳細 進化ツリー N R SR L SL UL 入手方法 ちびロシナンテを進化 Last Update 2017-04-13 19 44 18 (Thu) 見た目 ステータス スキル 特性 進化
https://w.atwiki.jp/gods/pages/36062.html
ウヘルアヤングブ(ウヘル・ア・ヤングブ) ウヘルアヤングヅの別名。
https://w.atwiki.jp/wiki8_unknown/pages/129.html
その独特の機体形状を気に入り、クルト曹長が導入を熱望していた トロー社の『デスマッツ』の亜種。 製造メーカー等は一切不明で、ある日突然格納庫に搬入された。 搬入当初から異常が相次ぎ、カノ大佐によるWAP暴走事件後、更に 顕著となる。 事態を重く見たJM氏により、最下層への投棄が決行されたが失敗。 戻って来ないJM氏を救出に向かった者、数名までもが行方不明となる 事態に発展。 最終的にキャセルでの強行突入によって事なきを得た。 その後、デスマツヤンは消息不明。 恐らく、今だ最下層を彷徨っていると思われる。
https://w.atwiki.jp/nitendo/pages/1585.html
スプーヤン とは、【怪盗ワリオ・ザ・セブン】のキャラクター。 プロフィール 作品別 元ネタ推測 関連キャラクター コメント プロフィール スプーヤン 他言語 種族 スプーン 初登場 【怪盗ワリオ・ザ・セブン】 テーブルから落ちた後、拾われずに放置されていたスプーンが恨みを持ってオバケになったもの。 作品別 【怪盗ワリオ・ザ・セブン】 第2話に登場。【フォーキン】、【ナイフン】と同じく突然現れて突進してくる。他の障害物に当たると消滅する。その場合は倒した扱いにはならず図鑑にも登録されないので注意。 元ネタ推測 スプーン 関連キャラクター 【フォーキン】 【ナイフン】 コメント 名前 全てのコメントを見る?
https://w.atwiki.jp/wbc2013/pages/56.html
ヤンミン・リー 読み ヤンミン・リー 氏名 Yong Min John Lee 国籍 ニュージーランド 出身地 韓国・ソウル 生年月日 1988年2月23日 身長 189cm 体重 99kg 投打 右投右打 守備位置 一塁手・投手 所属 ホウィック・パクランガ 名前を見ての通り、韓国系の選手。高校はニュージーランドの学校を出ているが、留学や移住なのか、出生地が韓国で生まれ育ったのはニュージーランドというニュージーランド系韓国人なのかは分からない。 韓国の選手らしく大きな体格が特徴的で、パワーを生かしたバッティングは代表でも主砲として期待される。守備位置は主にファースト。U23ニュージーランド代表
https://w.atwiki.jp/yandere_mozyo/pages/24.html
図書館で一冊の本を拾ったことがきっかけで主人公が怪異に巻き込まれてしまうというストーリー。 本は短編形式でヤンデレを主題とした様々なストーリーが収録されている。 全ての話を読むか、途中でやめてしまうか、または読まずに本を閉じてしまうか…。 選択肢によりエンドが変化するADVゲーム。 プロローグ :69様 各話シナリオ案 テンプレ :nanashi ◆txYew36vNQ様 プロローグ試験版(Nスク) :102様 プロローグ背景変更版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 仕様案・ゲーム試験版(Yuuki!Novel) :163様 テスト版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 テスト版新バージョンpart1,2(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 テスト版新バージョンpart1,2 文字色変更版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 テスト版「わんこヤンデレシナリオ組み込みバージョン」(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 テスト版新バージョンpart1,2 背景変更版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 三話収録別仕様バージョン「百物語別仕様テスト」(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 百物語個別表題テスト(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 「お皿の上」シナリオ確認用動作(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 「お皿の上」シナリオ確認用動作・加筆修正版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様 「お皿の上」シナリオ確認用・演出追加版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様new! 「お皿の上」演出追加版2(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様new! 「夢の中」立ち絵追加版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様new! 立ち絵表示テスト版(吉里吉里) :nanashi ◆txYew36vNQ様new! クイックセーブ&クイックロードテスト版「百物語テストQS120618」 :nanashi ◆txYew36vNQ様new!
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/1952.html
【元ネタ】Fate/Grand Order 【CLASS】アサシン 【マスター】 【真名】光のコヤンスカヤ 【性別】女性 【身長・体重】168cm・55kg 【属性】秩序・悪 【ステータス】筋力D 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運A 宝具A 【クラス別スキル】 騎乗:B 時代・流行に乗る女としてそれなりにイケてる。 単独行動:EX 驚くべき事に、そして恐るべき事に、光のコヤンスカヤはマスターを必要としない。 マスターの命令に従う理由はただ一点。『人間とは違い、約束(契約)は破らない』というプライドだけである。 単独顕現:C SPYとしての証。ドリフター能力。 ビースト属性を持つコヤンスカヤはいかなる異世界・異常識であろうとお邪魔できる。 ビースト幼体だったコヤンスカヤはこのスキルでロストベルトだろうと白紙化地球だろうと気軽に転移できたが、現在は大きくランクダウンした為、前ほどお気軽に転移はできないようだ。 変化:A 本来は防御力をあげるものだが、コヤンスカヤはSPY活動の為にこれを愛用する。 女神変生(銃):B 【固有スキル】 NFFスペシャル:A イノベイター・バニー:A 繁栄の為に編み出されたシステムをよりよく使い、人類のみを苦しめる(酷使させる)循環を創り上げる権能……とドヤ顔で語るが、ただの趣味、才能である。 殺戮技巧(人):A 数学の祖のひとり、アルキメデスが保有しているスキルの亜種。 アルキメデスは本人が望まぬまま『その時代の技術水準以上の殺戮兵器』を創り出してしまったが、コヤンスカヤは望んでこのスキルを手に入れた。 その時代にある人類の兵器を自在に使い、威力は『人類が使う場合より数倍のものになる』というスキルで、自然の因果応報のサイクル(本来はゆるやかな、数百年かけて行われるもの)を瞬間的に行使したもの。 元ビースト幼体のスキルに相応しく、理論上、『その時代の人類では太刀打ちできない』事を示している。 とはいえ所詮は人類にマウントとる為のスキルなので、サーヴァントやモンスター相手ではそこまで絶対性のあるスキルではない。 【宝具】 『霊裳重光・79式擲禍大社(イズトゥーラ・セブンドライブ)』 ランク:C 種別:対界宝具 レンジ:1~9999 最大捕捉:一都市 漢字の読みは『れいしょうじゅうこう・ななじゅうきゅうしきてきかたいしゃ』。 NFF傘下の企業・タマモ重工が誇る優秀兵器、NF-79式制圧戦術車両を召喚し、敵を殲滅する。 NF-79式は車両でもあり、同時にコヤンスカヤを奉る社でもある。 放たれる膨大なミサイルは『擲果満車』の故事に倣ってのもの、と本人は語っている。 畏れ多くも大社の名を持ってはいるものの、これはコヤンスカヤ本人の神徳を示す為ではなく、神徳を損なう、あるいは神聖なる者の敵対者である事を示している。 【解説】
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1772.html
193 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 02 35 ID JFImW/Mk ***** 俺は、今まさに食べられそうになっている。 抽象的にではなく、具体的に。 具体的すぎて、捕食対象となっている俺に戦慄が走っている。 背後から、よく分からない何かが、床にへばりついて移動してくる。俺の後ろをついてくる。 走りながら肩越しに目をやると、そいつは俺の影と同化しているようで、真っ黒だった。 しかし、そいつの大きさはとてもじゃないが俺の影とは比べものにならない。 でかすぎる。 床から剥がして、ヘリコプターに結びつけて上に引っ張れば、高校の体育館ぐらいは覆い隠すんじゃないだろうか。 その巨体のあらゆる所に目がくっついている。 その全てが俺と目を合わせようとしてくるんだから、たまったものではない。 もっとも、一番に俺の心を恐慌状態にさせるのは、びっしりと生えそろった犬歯を見せびらかす、そいつの口である。 上顎にも下顎にも、犬歯が何重にもなって生えている。 三重、いや四重ぐらいか? それ以上ははっきり認識できない。 もしここで足を滑らせてしまえば、あの犬歯によって骨ごと砕かれ、すり潰されてしまうのは間違いない。 そうならないために、俺は必死になって逃げているのだ。 まあ、夢の中の話なんだが。 いつまで走ってもどこにも辿り着かないし、力を抜いても入れても足が止まらない。 勝手に腿が持ち上がり、脚が地面を蹴ってくれる。 全自動で走っている状態とでも言おうか。 車とかバイクとかで移動してる時って、こんな感じなのだろうか。 夢の中だけでなく、現実世界でもこれぐらい移動が楽だったらいいのに、と場違いなことを考えてしまう。 前を見る。 この悪夢の中では一度も見たことのない、しっかりと服を着ている人間が目に入った。 歴史の教科書に載っていそうな、礼装をした紳士だった。 両手には白い手袋。左手に握ったステッキが地面に立っている。 目深に被ったシルクハットと、うつむき加減な姿勢のせいで、紳士の顔は見えない。 ちと怪しいが、きっとこの紳士は悪夢から脱出するための鍵となる人物に違いない。 ああ、助かった。これで朝を迎えられる。 そう、終わらない悪夢などないのである。 194 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 05 23 ID JFImW/Mk 紳士がステッキを持ち上げ、俺の方へと放り投げる。 ステッキは俺の左肩を通り過ぎ、背後へ。 軽い、乾いた音がした。ステッキが地面に落ちたようだ。 振り返ると、なにも無かった。 追いかけてくる黒い影も、不気味な無数の瞳も、犬歯だらけの口も。 まるで掃除機に吸い込まれたか、落とし穴に落っこちたみたいに、気味の悪い化物は居なくなっていた。 安堵して、紳士と向き合う。 ありがとう、助かったよ。 と感謝の言葉を述べる。 すると紳士はシルクハットを少し持ち上げた。締まった顎と、口、鼻が見えるようになった。 「お礼をいただいてもよろしいかな?」 くぐもった小さな声だった。 俺は反射的に応えた。もちろんです。 「それでは私はその柔らかそうなお口をいただこう」 紳士がシルクハットを外した。 途端、紳士の頭上から黒い影が、一直線に吹き出した。 黒い影というより、そういう毛並みをした生物のように見て取れた。 逃げようと思っても、もう遅い。 逃げるより先に、黒い毛並みの生物の先端が、俺の顔――いや口目掛けて伸びてきた。 生物の先端には口だけがあった。 紅い唇、黄色くなった無数の犬歯、ぎょろぎょろした小さな目をいくつも表面に生やしている舌。 指でぷちっと潰せてしまいそうなぐらい小さい、たくさんの目玉たち。 きょろきょろと黒い瞳を動かし、俺と目を合わせて、嬉しそうにぐにゃりと曲がる。 それらが網膜に焼き付き、肌が粟立つ。 口に生物が突っ込んだ。ついでに鼻まで一緒に覆い隠された。黒い煙のようなものが視界を侵していく。 黒い生物は、熱湯のような液体を口移ししてきた。 口内が熱さに負けて、ただれていく。舌はしおれていき、歯はボロボロになっていく。 その時点で俺は膝をついた。痛さと、気持ち悪さで立っていられなかった。 視界が暗転。口内から体の奥へ、何かが侵入してくる音が、骨を伝って脳を刺激する。 ごきり、ずるり。ぴちぷち、ぶち。ごりぐりごり。 生物の体は胃まで到達していた。体のライフラインをふさがれてしまい、もはや息はできない。 頭の中が真っ白になり、一気に身体が軽くなる。 ああ、また俺は死んでしまったのか。 もはや何度目になるか分からない夢の中での死を認め、俺は全てを諦めた。 195 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 07 34 ID JFImW/Mk ***** 瞼を薄く開けてみる。 朝の陽光が隙間から入り込んできた。目を閉じる。 いまだ続くまどろみの中、なんとなく悟った。 悪夢から覚めて、俺は現実世界に戻ってきたのだ、と。 顔にかかる陽光、まぶしい。 部屋中に漂う塗料のうっすらした匂い、心地良い。 三月下旬の時期、部屋の中で過ごすのはまだ辛いから、暖房器具が欲しい。 あおむけの状態から寝返りを打つと、揺らされた脳が面倒くさがって起きるのを拒否する。 俺の体温を宿した布団が身体全体を包んでいる。 いい感じだ。まだ眠気が持続している。意識が身体の中をゆらゆらと漂って、留まらない。 このまま誰にも邪魔されなければ、もう一度睡眠状態に移行できる。 重たい頭を枕に沈め、呼吸する。 「お兄さん、起きて」 もう後は何もせず眠るだけ、というところで邪魔をする声が耳に入った。 妹の声。 その声の調子は相変わらずで…………あれ? おかしい。なんで妹が俺を起こそうとしているんだ。 今日は妹と何か約束していたか? いいや。入学祝いを買いに行く約束は済ませた。 何か他の約束していたっけ? 「ほら、早く起きて。朝ご飯用意してるんだから、手間かけさせないで」 朝ご飯。妹が俺の朝ご飯の用意をして待っている。 罠か何かかと疑ってしまうのは、今までこんなことをされたことがないせいだ、きっと。 上体を起こして、薄目のまま、妹の姿を探す。 左側にいた。妹が穿いているデニムパンツがそこにあった。 さらに上へと視線を移す。 妹の顔があった。腕組みをして、半眼で見下ろしている。 右手にフライパン、左手にお玉でも持って、腰に手を当てていれば個人的にポイントが高かったのだが、そこまでは望むまい。 「……おはよう」 「おはよ。二度寝するんならご飯食べてからにしてね。 せっかく作ったんだから、捨てるのがもったいないわ」 「ああ、悪い。ちょっと待ってくれないか」 きびすを返して部屋から出ようとする妹を引き止める。 「なに?」 「これは現実か? 俺はもうすでに夢の中にいるのか?」 まだ俺は目の前に居るのが妹だとは確信していない。 朝ご飯を作ってくれる優しい妹の存在を望んだこともある。ただしそれは中学二年の時までだ。 もうあれから三年経っている。叶うには遅すぎるし、なにより唐突過ぎる。 ここが悪夢の続きだと言うことも考えられる。 このまま妹の後をついていって、朝ご飯を食べてみたら、実は朝食の材料が寝ている間に取り出された俺の内臓だったりするかもしれない。 そして、「昨日私をたった一人で家に帰らせた罰よ」とか言われて、俺の視界がブラックアウトして、目が冷める、と。 二回連続で悪夢を見るなんて御免だ。 悪夢の後はすっきりするから、たまに見るのは構わない。だが連続はいかん。 というわけで、俺はまだここから動かない。 たとえ妹が何を言おうと。 196 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 10 00 ID JFImW/Mk 「……夢かどうかわかんないんなら、叩かれてみる? 痛ければ現実よ。痛くなければお兄さんは変態になってるわ」 「いや、そこまではしなくていい」 夢の中に居ても痛みを感じるということはよくある。俺にその手の基準は適用されない。 「よし、お前がリアルな妹だという証拠を見せてみろ」 「どうやって?」 「お兄さん大好き、と言ってみろ。いつもの声よりキーを上げて、可愛くな」 「わかったわ」 妹が距離を詰めてきて、目の前で床に正座した。 妹の手によって、頬を左右から包まれる。 ひんやりしていて気持ちいい。もしも今が夏だったら、快適に思える冷えっぷりである。 視界いっぱいに妹の顔が映り込む。 妹との距離は、拳二つ分ほど。 妹の強気な瞳が、俺を真っ直ぐに見つめていた。 さらに目を吊り上げ、睨んでくる。頬が紅潮している。まるで恥ずかしがっているよう。 目を逸らされた。俯いているせいで前髪が垂れ、表情が確認できない。 唯一確認できるのは口の動き。これだけ近くに居ても聞こえないほどの、小さな声で呟いている。 妹が一度頷いた。 再度目を合わせ、ゆっくりとしゃべり出した。俺の言ったとおり、少しだけ高い声で。 「お兄さん……大好き。 私、ずっとお兄さんにこうしたいと思ってた。 いつまで経っても、お兄さんがこんな近くに来てくれなかったからできなかった。 何度も近くに行こうと思ったわ。できなかったのは、勇気が無かったからなの。 でも、今日ならできる。こんなことしちゃいけないんだって、本当は分かってるわ。 寝起きのお兄さんに、こんなことするなんて……どうしても駄目なの。気持ちを抑えられない。 ごめんね、お兄さん。駄目なあなたの妹を、許してちょうだい」 妹の顔が近づいてくる。 おい、どうして目を瞑っている。どうして手をそんなに揺らしている。 どうしてお前は、俺にキスをしようとしている? ここでキスをしたら、葉月さんに浮気だと言われるのか? いや、バレなければどうということは。しかしそんなのは不誠実極まりない。 寝ぼけていたということにすればいいんじゃないか? いや、駄目だ駄目だ! たとえ夢の中であっても、寝ぼけていたとしても、妹とキスしてはならん! 「駄目だ妹! 俺たちは兄妹なんだから! そういうのは小学校で卒業して――」 最後まで言い切るより早く、頬をぶたれた。一発目は右、二発目は左。 とどめの一発は額へ向けたフルスイングのビンタだった。 ビンタを受けた勢いで、後頭部が枕に沈んだ。しかし、もはや眠気など沸き起こらない。 「……と言うとでも思った? このねぼすけ長男。 さっさと布団から出なさいよ。朝食の皿が片付かないでしょ。 だいたい、声のキーをあげろって、なに? 地声なんか聞くに堪えないとでも言いたいの? 可愛くないって言いたいの? 二度と布団から出られないような体にされたいのかしら、お兄さんは」 「ごめんなさい。すぐに起きることにします」 この反応、間違いなく現実の妹。 辛く当たってきて、なにかのきっかけで優しくなる。逆のパターンもある。 バリエーション豊かな反応は、感情が豊かな証拠。 兄として諸手を挙げて喜ぶべきことだ。 身内に虐待された過去があっても、内向的にならず、良く喋る女の子になった。 なんとなく嬉しくなり、天井を見上げながら、小さな声で笑った。 このまま明るい社交的な女の子になってくれたら嬉しいな、でもいつか俺の手の届かないところへ離れていくんだろうな。 なんてことを考えてから、立ち上がって伸びをする。 さあ、今日は何をして過ごしましょうかね。 197 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 12 51 ID JFImW/Mk 妹お手製のブレックファーストを食べ終え、皿を流し台に持って行く。 コーヒーメーカーに残っていた、ちょっとのコーヒーをカップに注ぎ、ダイニングテーブル席につく。 ガラス戸の向こうには元気いっぱいの太陽と、それに照らされた庭の植物があった。言うまでもなく、晴天である。 聞こえるのはテレビの音声のみ。 リビングには暖房が効いていて、身震いすることはない。 快適そのもの。もっともリビングから出てしまえば快適ではなくなるんだが。 なんだか、面白みというか、変化がないな。いつも通り過ぎる。 昨日から葉月さんと付き合い始めたというのに、何も心境に変化がない。 もうちょっとワクワクというかソワソワというか、意識に変化があってもよさそうなものなのに。 中学時代に女の子と初めて付き合った時には、もっとテンションが高かったはずだ。 だから今回もそうなって然るべき。 ――いや、もしかしたら。 中学時代のその経験があったから、葉月さんと付き合いだしても何も思わないのか? だって、今回で女性と付き合うの、二回目だし。 実は最初に付き合った女は、俺を踏み台にして弟にアプローチするような奴だった。 しかし当時の俺が彼女に夢中になっていたのも事実。 浮かれて弟に自慢とかしてたし。妹はその頃俺と話そうとしなかったから、何も言っていない。 葉月さんは男と付き合ったことがあるんだろうか。 葉月さんぐらい良い意味で目立つ人なら、男と付き合った経験があってもおかしくない。 まあ、経験がない方が嬉しい、という願望は確かにある。 だけどそれは心の中で望むものである。俺の一方的な感情だ。 葉月さんに押しつけようとは思わない。 交際経験があっても俺は何も思わない。幻滅などするはずがない。 むしろ、これから俺が幻滅されるかもしれないな。 好きとは言っても、友達以上恋人未満というか、友達の壁を乗り越えて先に進む気が弱いというか、中途半端な感情なんだ。 惚れた弱みにつけ込んだって感じだ。自分で自分に幻滅する。自己嫌悪。 いかんいかん、しっかりしなければ。 葉月さんにだらしないところは見せられない。 「――――市では本日、今年三月中の最高気温を記録する見通しです。なお、周辺の各県では……」 弟の奴は、ソファーを独占して、今日の朝のニュースを見ているようだった。 局を変え、興味あるニュースを見て、また局を変える。その繰り返し。 こいつが同じ番組を熱心に見続けてることって、特撮番組の放映される日曜日の朝ぐらいだ。 他に趣味とか無いのかな。もしくは毎日やり続けてることとか、興味のあることとか。 一緒に遊ばなくなって久しいから、弟のことがわからない。 わかっているのは、特撮好きということと、成績不良、運動は得意、とにかく女にモテる、ということぐらいか。 それと、幼なじみの葵紋花火が好き。 そうなんだよ、こいつの一番わからないところは、花火に対する感情だ。 一番好きな女性を聞かれれば、花火だとはっきり口にするような男だ。 なのに、花火と付き合っているような素振りは見せない。 もちろん、ただ黙っているだけとも考えられる。弟だからって、俺に事実を報告する義務はない。 でも、聞いたら答えてくれるかもしれない。 よし、やってみようか。 198 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 15 08 ID JFImW/Mk 「なあ、弟」 「ん? どうかしたの、兄さん?」 首だけで振り向き、次に身体の向きを変え、弟は俺と向かい合った。 真剣な話でもないんだから、そんなに構えなくてもいいんだが。 「お前さ……花火の奴と付き合ってるのか?」 数秒間の間。 弟は二回まばたきをしてから、口を開いた。 「付き合ってはいないよ。よく遊びには出掛けてるし、連絡も取り合ってるけど」 「ああ、なんだ。そうだったのか」 「……花火に何か言いたいことでもあるの?」 「そうじゃない。お前らが上手くいってるのか、ちょっと気になっただけだ。 仲良くやってるなら言うことは無い。幸せになれよ、応援してやるから」 「ありがとう、兄さん」 話を終わらせるため、カップの中身をあおり、飲み下してから席を立つ。 流し台で洗い物をする妹のところへ行き、カップを置く。 弟の方を見る。あいつはまた、テレビにリモコンを向け、番組を変える作業に没頭していた。 ふうむ。やはり付き合ってはいないか。 しかし、聞く限りだと、ほとんど付き合っているのと変わりなさそうだ。 よく遊びに出掛ける、連絡を取り合っている。俺が思いつく恋人同士の行いだ。 弟はそれより先に進んでいない、ということなんだろうか。 キス――昨日の葉月さんみたいなのではなく、もっと穏やかなもの。 そういうのはまだやっていないのかもしれない。 そう。そこもわからないところなのだ。 付き合おうと思えば恋人になれるというのに、関係を深めようとしない。 なんでだろう。俺に気を遣っているとか、俺よりも先に恋人を作ることはできない、とか? ありえる。伯母に虐待された頃から、弟は俺に遠慮するようになって、喧嘩はもちろん、反論することすらほとんどなくなった。 兄に反抗しない教育を施されたみたいな徹底ぶり。 もしも俺が一生独身で居たら、こいつまで独身で居るんだろうか。 それはそれでぞっとしないな。なんて可哀想な兄弟なんだ、って世間に思われるぞ。 弟が俺に彼女ができるのを待っているんだとしたら、葉月さんと付き合いだしたということを教えてやらないと。 たぶん、弟も花火もお互い付き合いたくて仕方ないはず。 好き合っているのなら、早く付き合うべきだ。 俺みたいに、思い詰めるまで相手を好きになっていないのに付き合い始めた奴とは、違うんだ。 199 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 17 51 ID JFImW/Mk 「おーい、おと――」 「お兄さん、悪いんだけどちょっと手伝って」 弟を呼び出そうとしたところで、妹が声をかけてきた。 ちょうど洗い物を終わらせたらしく、濡れた手をタオルで拭っていた。 「なんだよ、大した用事でもないんならお断りするぞ」 「それなりに大事な用よ。私がこれまで、どうでもいい用件でお兄さんを呼んだことがある?」 「……ないと言えば、ない」 だが、この言い方には誤りが含まれている。 妹。そもそもお前が俺に頼み事をしてくるようになったのは最近になってからだろうが。 やりとりが面白くならない。ツッコむ余地を与えてくれ。 もうちょっと色々な用事で俺を呼んでみせろ。話はそれからだ。 「で、何を手伝って欲しいんだ」 「新学期の準備」 「あれ、それはもう終わったろ?」 「違うわよ。その、なんていうか……制服がおかしくないかとか、チェックして欲しいなって」 「サイズはちゃんと合ってるだろ? それとも……」 「それとも?」 「いや、なんでもない」 それとも太ってサイズが変わったのか、などと口にして寿命を縮めるはずがない。 伊達に危機にさらされてきたわけではない。これでも学習能力は高いのだ。自分ではそう思っている。 「変なお兄さん。だいたいいつも通りだけど」 「お前はお前で、俺に遠慮しなさ過ぎだな」 「なんで私がお兄さんに遠慮しなきゃいけないのよ。 そんなことするぐらいなら、あの暴力女に喧嘩売ってきた方がだいぶ建設的だわ」 この妹には、葉月さんと仲直りして俺のストレスを解消しようという建設的な考え方ができないのか。 葉月さんと喧嘩してお前のストレスは減っても、俺のストレスは増すばかりだ。 昨日なんか顎の骨がピンチだったんだぞ。 このストレッサーめ。どこまで俺を危うい目に合わせるつもりだ。 「じゃ、私の部屋に来て頂戴」 「待て。そういうことなら弟の奴も読んだ方がいいだろ」 「お兄ちゃん? お兄ちゃんならさっき出て行ったわよ。ほら」 弟の座っていたソファーには、今は誰も座っていなかった。 テレビの電源も切れている。リビングには俺と妹の二人きりだった。 というか、両親が居ない今は、この家で二人きりなのだが。 「あいつどこに行ったんだ? 何か聞いてるか?」 「気がついたら居なかったわ。花火ちゃんのところにでも行ったんじゃないの?」 妹が加勢を求めてくることを予測して逃げたんじゃないだろうな、あの野郎。 お前なんかあと二年ぐらい花火とお友達のままで居ればいいんだ。 悶々としたまま高校生活を送り続けるがいい。 「仕方ないな。弟が居ないなら、俺が手伝ってやるしかないか」 「何よ、仕方ないって。私だって、本当はお兄ちゃんに手伝って欲しかったんだからね!」 「はいはい。どうせ俺は嫌われ者ですとも。ほれ、さっさとやって終わらしちまおうぜ」 弟と妹の部屋に向けて歩き出す。 妹は小声で文句を言いながらついてくる。 葉月さんと付き合いだしたこと、妹にも言ってやらないとな。 不機嫌になったら困るから、今はまだ黙っておこう。 とりあえず、妹の手伝いが終わるまで。 200 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 23 04 ID JFImW/Mk ***** 家を出て、あてもなく歩き出す。 すると、どうしても足が花火の家への進路を選んで、歩き出す。 僕には居場所が少ない。 自分の家、お祖母ちゃんの家、花火の家、通っている高校。 僕という人間を知っている人たちは、そこにしかいない。 たまには他の場所に行くこともあるけれど、それは買い物をするためとか、やむない事情があってのこと。 必要がなければ行くことはない。暇を持てあましていても、足を運ぼうという気にならない。 男友達は何人か居る。話しかけてくる女の子はたくさん居る。遊びに誘ってくる相手は男女問わずいる。 下心や好意をあそこまでむき出しにされて、気付かないわけがない。 彼ら彼女らの誰かと関係を結ぼうとすれば、いずれ固い信頼関係もできることだろう。 「……でも、それは」 努力すればの話だ、と空に向けて呟く。 僕には知らない人との関係を開拓していこうという気がない。 今仲の良い人間との関係を保っていられれば、それでいい。それ以上は望まない。 いいや。たった一人、例外がいた。 花火だ。幼なじみの、葵紋花火。 昔から仲が良くて、今までずっと変わらず好きな、気の強い女の子。 花火の彼氏になりたい。花火に僕の彼女になって欲しい。 初恋だった。 花火に恋をし続け、成就させないまま、僕はこの年齢まで育ってきた。 なぜ幼なじみの関係から、恋人の関係にシフトしないのか。兄さんもきっと気になっているだろう。 でも、それを兄さんに言われたくなかったな。 自分こそ葉月先輩といい雰囲気なのに、いつまでも付き合わないくせして。 それに僕が花火と付き合わないのは、兄さんのせいだ。いや、僕のせいでもあるけれど。 兄さんに彼女ができないと、僕は花火と付き合う決心をつけられない。 こんな自分になった原因はわかってる。僕の心の弱さとトラウマが原因だ。 伯母さんに暴力を振るわれていた時からだった。 僕は兄さんに感謝するようになった。同時に、申し訳ないと思うようになった。 僕と妹を守ってくれてありがとう。 妹を守ってあげられなくて、代わりに兄さんに辛い思いをさせてごめん。 こんな僕が兄さんより先にいい思いをするわけにはいかない。 そう思うと、僕には花火と付き合う決心を固められなかったんだ。 兄さんはきっと、俺に遠慮するなと言う。 これでも弟をやってきて長いから、兄さんの考えぐらいは読める。 でも、もはや兄さんの言葉だけでは、僕の考えは変わらない。 ――僕は、変わることができるんだろうか。 弱さを乗り越えて、兄さんのような強さを得ることが。 どうして兄さんはあんなに強いんだろう。どこであんな強さを得たんだろう。 僕にはわからないよ、兄さん。 201 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/08/08(日) 10 27 34 ID JFImW/Mk ふと、ポケットの中で携帯電話が振動していることに気付いた。 表示されていたのは、葉月先輩の番号だった。 どうして僕にかけてくるのかがわからないけど、だからって無視するわけにもいかない。 通話ボタンを押して、久しぶりに葉月先輩と話をする。 「もしもし、葉月先輩ですか?」 「ええ、そうよ。弟君、今どこにいるの、家?」 「違いますけど、どうかしましたか? 兄さんなら家にいますけど」 「まだ家に居るの? どうして会いに来ないのよ。ケイタイ古いのと交換してまで、連絡待ってるのに! 九時になっても連絡してこないなんておかしいわ!」 「……はあ」 久しぶりに話すけど、ここまで落ち着きがない人だったっけ。 もしかして、また兄さんが葉月先輩絡みでやらかしたのかな? たとえば、昨日妹と買い物に行っている時に、アクシデントで妹に抱きついたところを、葉月先輩に見られたとか。 そういう事実があったって聞いたわけじゃないけど、あっさり想像できてしまう。それが兄さんの面白いところ。 「兄さんと遊ぶ約束をしてたんですか? そういうことなら、今から兄さんに連絡しますけど」 「約束はしてないけど……普通会いに来るものでしょ! あんなにはっきり言ったくせに、待たせるなんて! あれを聞いて勝手な勘違いだって言われても、私は絶対に認めないわ! 認めさせてやるんだから!」 葉月先輩も面白いなあ。 後輩から、きりっとした美人に見えるところがいいって慕われてるのに、実際は兄さんが絡むとすぐ落ち着きを無くすんだもん。 「もういいわ。こうなったらこっちから会いに行ってやるんだから! ごめんね弟君! また今度会いましょ!」 「ええ、はい。また今度」 通話が切れた後、携帯電話をしまう。 葉月先輩と兄さんの間に何が起こったのか、昨日の二人の様子と、電話での発言の端から辿って、想像してみる。 兄さんは、葉月先輩に送られて、帰宅した。 妹は先に帰ってきていた。二人の間に何が起こったのか、何も知らない。 兄さんの携帯電話は壊れていた。今はSIMカードを古い端末に入れて使っている。 葉月先輩は、さっき携帯電話を交換したと言っていた。葉月先輩の携帯電話も壊れた、のかも。 「連絡を待ってる……それに、あんなにはっきり言ったくせに、勘違いだって言われても認めない、か」 兄さんが葉月先輩に向けて言ったのは、なんて台詞だろう。 二人きりで、はっきり言うこと。さらに、葉月先輩が勘違いと認めたくない、中身のある台詞。 それってもしかしたら、付き合おうって、言ったんじゃないか? それも、兄さんの方から。 まさか兄さんが、いやでも、あり得ないとは。 完全な否定はできない。 いくつか情報が足りなくて不確定だけど、可能性が高い。 兄さんと葉月先輩が付き合いだした可能性が、ある。 もしもそうだとしたら。 嬉しいことに、連鎖して僕も動き出せる。言いたくても言えなかったことをはっきり伝えられる。 僕は花火のことが好きだ。ずっと一緒に生きていきたいんだ――って。 これまで何年も我慢してきた台詞を、ようやく花火に伝えられる。 ようやく、花火を取られるかもしれないって不安から解放される。 これからは、花火を僕だけの女性にできるんだ。