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第2話「再会は唐突になの」 「平行世界……ですか?」 「ええ、間違いないでしょうね。 あなたのいうGUYSという組織は、私達の知る地球にはありません。 それに、怪獣は兎も角、ウルトラマンについては聞いた事がないですし……」 それから、しばらく経った後。 フェイトは用事で席を外した為、ミライはリンディと一対一で話をしていた。 ちなみに話の最中に「誰がフェレットもどきだ」という怒鳴り声が別の部屋から聞こえてきたが、 リンディが「なんでもない」というので、二人とも気にしないことにした。 ミライは、自分の状況について――自分がウルトラマンであるという事実は隠して――全てを説明した。 そしてリンディは、自分達――時空管理局について、一切合財の説明をミライへとし終えた。 時空管理局とは、時空に存在する幾多もの並行世界を管理する事を目的としている組織。 次元の間を渡り歩き、それぞれの平行世界が干渉しあうような危険事態を避ける為に彼等は活動している組織である。 当然のことながら、ミライはただただ驚くしかなかった。 そんな組織が存在していたなどと、考えた事も無かったからだ。 だが、リンディが嘘を言っているようには見えない。 それに……自分が置かれていた状況を考えれば、寧ろ十分にありえる事である。 自分はあの時、兄達と共に異次元に生きる悪魔との激闘を繰り広げていた。 そして、その悪魔が倒れたことにより異次元は崩壊したが…… 異次元の崩壊に巻き込まれ、そしてどこか別の次元に出てきてしまった。 こう考えると、全ての辻褄が合う。 「分かりました……リンディさん、ありがとうございます。」 「……」 「……どうかしました?」 「いえ、やけにあっさりとこちらの話を受け入れてくれたものですから。 もうちょっと『信じられない』とか、そういう反応をするかと思ってましたので……」 「リンディさんが、嘘を言っているようには思えませんでしたから。 こうやって僕の事も助けてくれた、良い人ですしね。」 「あらあら……」 ミライが、こうもあっさりと自分達を信用してくれた事に、流石にリンディも驚かされていた。 普通は疑われてもおかしくない状況なだけに、ミライの反応が予想外だったからだ。 しかし、自分達を信じてもらえないよりかは断然良いに決まっている。 素直……いや、純粋と言うべきだろうか。 彼には、そんな感じの雰囲気があった……優しい人であると、直感的に感じさせる雰囲気があった。 「それでミライさん、これからの事なんですけど…… ミライさんがいた世界が見つかるまで、時空管理局であなたを保護したいと思います。」 「え……いいんですか?」 「山ほどある次元世界の中から、ミライさんの世界を見つけ出すのには時間がかかるでしょうから。 それまでの間、どうぞゆっくりしていってください。」 「リンディさん……ありがとうございます!!」 「ああ、そんなに頭を下げないで。 これも私達の仕事なんですし……」 深く頭を下げるミライを見て、リンディは少しばかり苦笑する。 この人は、本当に純粋で優しい人なのだと。 その後リンディは、ミライが寝泊りする部屋を用意しなければと、医務室を発とうとする。 ミライもその後に続こうとするが、リンディに「大事を取って楽にしておいたほうがいい」と 言われたので、体も少しばかり重たいし、ここはその言葉に甘える事にした。 その後、ミライは横になると、あっという間に眠りについた。 「艦長……ちょっといいですか?」 「あら、先生にエイミィ。 一体、どうしたんです?」 一方、医務室を出たリンディはというと。 医務室に戻ってきた船医と、この艦の管制官であるエイミィと、出てすぐの廊下で出くわした。 見たところ、二人とも表情が険しい……何かがあったのは、容易に推測できる。 リンディはそれを察し、黙って首を縦に振った。 それを見て、船医は自分の持っていたカルテ……先ほど書いた、ミライのカルテを彼女へと手渡す。 その内容を見て、リンディも彼等同様に表情を変え、言葉を失った。 カルテに記されていたのは……通常では、絶対にありえない内容だったからだ。 「これ……どういうことなんですか?」 「それは私の台詞ですよ。 普通の人間じゃ、こんな数値が出るなんてありえません。 何とか治療こそ出来たからいいですけど、こんなの……今までに前例がないです」 「……ミライさんは、人間じゃないかもしれないってこと? 確かに話してる限りじゃ、どこか普通の人とは違う感じがしてたけど……」 カルテに記された、ミライの体調に関する数値。 体温・脈拍・血圧……その全てが、通常の人間ではありえない数値を示していたのだ。 もしもこんな数値を常人が記録しようものなら、確実に死んでいる。 つまり、早い話がミライは人間じゃない可能性があるという事なのだ。 しかし……使い魔の類ではなさそうだし、ましてや傀儡兵などの筈がない。 一体、彼は何もなのだろうか。 リンディは、ミライの正体について考え込むが……その謎に関して、ここでエイミィが口を開いた。 「艦長、その事なんですが……これ、見てもらってもいいですか?」 「エイミィ、これは?」 「さっき先生に頼まれて、彼……ミライ君が眠っている間に、こっそり調べてみたんですが…… ミライ君の体内から、ロストロギアらしきものの反応が検出されたんです。」 「ロストロギアが……!?」 エイミィが手渡したのは、ミライから検出された謎の反応――ロストロギアらしき反応について、纏めた物であった。 船医は診断中、ミライの体から妙なエネルギーを感知した為、エイミィにそれについての調査を依頼していた。 その結果……ミライの体内――その『左腕』から、ロストロギアらしき何かの反応が検出されたのだ。 持ち主と一体化する事で力を発揮するロストロギアは、確かにある事はある。 使い手こそ少ないものの、ユニゾンデバイスがその良い例である。 となれば、ミライの数値が異常なのは、このロストロギアが原因なのだろうか。 ……いや、検出されたのは、あくまでロストロギア『らしき』反応。 異世界には、まだまだ自分達の知らない技術が山ほどある……ロストロギアと断定するには、少し材料が足りない。 結局のところ、分からない事だらけである。 確かめるには、ミライ本人に聞くしかない……彼の目が覚めるまで、待つしかないか。 軽いため息を退いた後、三人は少しばかりの不安を胸にして、そのまま自分達の職場へと戻っていった。 ヴィーン、ヴィーン…… 「う~ん……なんだ、この音……?」 いきなり耳に響いてきた大音量に、ミライは目を覚まさせられた。 大きな欠伸をした後、眠気眼をこすりながらベッドから起き上がる。 一体、どれくらい寝てただろうか……ボーっとする頭で、周囲を見渡す。 そして、しばらくして眠気が覚めてきた時。 ようやくミライは、鳴り響いている音の正体に気づくことが出来た。 GUYS本部で何度も聞いた、聞き覚えのある嫌な音…… 「これって……警報!?」 鳴り響いているのは、警報音だった。 理解すると同時に、一気にミライの目が覚める。 この艦に、何かが起こっている……危険が迫っているのかもしれない。 すぐにミライはベッドから降り、ブリッジへと向かう事にした。 自分とて、クルーGUYSの一員として働いてきた経験がある。 世話になってばかりにもいられないし、何か手伝いをしたい。 そう思ったが故の行動でもあった。 そして、少し道に迷いながらも、ミライはアースラのブリッジへと辿り着いた。 そこでは……かなりの混乱が起こっていた。 「駄目です、海鳴市の映像出せません!!」 「結界が張られている……ミッドチルダ式じゃないのか……!?」 「なのはさんとの連絡は?」 「駄目です、繋がりません!!」 アースラに混乱を齎した、未曾有の事態。 それは、ある次元世界で結界魔術が発動され、魔術が発動されている地域――海鳴市の様子が、一切把握できなくなった事であった。 クルーは解析を急いでいるが、思うように作業が捗らない。 その原因は、使われている魔術の術式にあった。 自分達が使っているミッドチルダ式とは、全く異なる術式で結界が張られているのだ。 その為、術式の正体を探し当てるのに、相当の時間を取られてしまっている。 この海鳴市には、自分達の関係者である魔道師―――高町なのはがいる。 彼女と連絡が取れさえすれば、内部の状況が把握できるのだが……通信が繋がらない。 「艦長、ハラオウン執務官やフェイトちゃん達は?」 「まだ裁判中……出られる状況じゃないわ。 戻ってきたらすぐにでも向かってもらうけど、それまでは……応援、すぐに本局に要請して。 時間は少しかかってしまうけど、向こうから武装局員を回してもらうしか手はないわ。」 今このアースラには、戦闘要員が一人もいない。 殆どの者達が出払ってしまっているために、現地へと派遣できる者が一人もいないのだ。 非戦闘要員を送り込むという手もあるにはあるが、それは余りにも危険すぎる。 結界魔法を展開されているという事は、すなわちそこで戦闘行為が行われているということなのだ。 ましてや相手は、未知の術式使い……無謀も無謀である。 リンディは艦の指揮があるから、現地に出るわけにはいかない。 本局の者達に頼る以外、打つ手はない……誰もが歯がゆい思いをしていた。 すると……そんな最中で、ミライは口を開いた。 「僕に行かせてください!!」 「ミライさん!?」 「いつのまにブリッジに……てか、今の発言……」 クルー全員の視線が、ミライに集中させられる。 彼等はようやく、ミライがブリッジに入ってきていた事に気がついた。 作業に集中していたために、誰もその存在に気づけていなかったのだ。 だが、何より驚かされたのは彼の発言である。 確かに現状、誰かが現地に赴いてくれればありがたいのだが…… 「気持ちは嬉しいんだけど……ミライ君は、民間人だからね。 悪いけど、危険な目には……」 「僕はクルーGUYSの一員です!! 確かに、皆さんとは立場は少し違いますけど……困っている人を守るのが、僕の仕事です!! 戦闘の経験もありますから、多少の事なら問題はありません……お願いします!!」 「ミライさん……」 リンディ達への恩返しをしたいという気持ちは、勿論ある。 しかしそれ以上に……困っている人を見逃すわけにはいかない。 そんな強い正義感が、ミライを突き動かしていた。 ここでリンディは、少し考え込む。 確かにミライは、今は民間人という立場上にあるが……彼は、地球防衛チームGUYSの一員だという。 その言葉を信じるならば、彼には戦う力があるという事になる。 現状、戦力が欲しいのは紛れもない事実。 ならば……ここで下手に躊躇って、取り返しのつかない事態にするぐらいならば……!! 「エイミィ、ゲートを開いて!!」 「わっかりました、すぐにいけますよ!!」 「ミライ君、頼んだよ。」 「皆さん……ありがとうございます!!」 ミライを転送させるべく、一斉にクルー達が動き出した。 その姿を見て、ミライは笑顔で礼をする。 必ず、彼等の期待に答えよう。 そう心に誓い……ミライは、海鳴市へと転送された。 「よし……皆、解析急ぐよ!!」 「了解!!」 ミライを無事送り込めたのを確認し、皆が作業を急ぐ。 彼がこうして名乗り出てきてくれたのだから、自分達も頑張らなければならない。 より一層、クルー全員が気を引き締める。 すると……その時であった。 「艦長、一体何があったんですか!!」 「アースラ中、警報鳴りっぱなしじゃないの!! なのはとの連絡も取れないし、何がどうなって……」 数人の男女が、慌ててブリッジへと駆け込んできた。 彼女等――先のプレシア事件の裁判を終えたフェイト達へと、皆の視線が釘付けになる。 一方のフェイト達はというと、ブリッジの様子を見てすぐに事態を把握した。 大切な友人であるなのはとの連絡が取れなくなったその矢先に、この騒動。 彼女に、何かがあったのだと……そう、容易に推測する事が出来た。 「皆、最高のタイミング……すぐにゲート出せるよ!!」 「ラケーテン……ハンマアアァァァァァァッ!!!」 「きゃああぁっ!!??」 結界に閉ざされた街――海鳴市。 その内部では、リンディ達の予想通り戦闘が行われていた。 白いバリアジャケットに身を包んだ少女――高町なのはは、相手の攻撃を受けて大きく吹っ飛ばされた。 そのまま、後方にあるビルの窓ガラスをぶち抜き、ビルの中に転がり込む。 そこへ追い討ちを仕掛けるべく、相手の赤いバリアジャケットに身を包んだ少女――ヴィータが迫る。 「うあぁぁぁぁぁぁっ!!」 「っ!!」 『Protection』 なのはの手に握られていたレイジングハートが、とっさに防壁を展開する。 ギリギリのところで、ヴィータの破壊槌――グラーフアイゼンの一撃を、受け止める事に成功した。 だが……受け止める事は出来ても、防ぐ事は叶わなかった。 「ぶちぬけぇぇぇぇっ!!」 ヴィータは己の全力を込め……グラーフアイゼンを振りぬいた。 そして……音を立て、なのはの防壁が砕け散った。 鉄槌はなのはのバリアジャケットの一部を、そのまま粉砕する。 なのははその衝撃で、その場に尻餅をついてしまった。 「そん……な……」 「……」 ダメージの影響だろうか、なのはの視界はぼやけていた。 震える手で、レイジングハートを構える。 しかし、幾ら戦う意思があろうと……こんな状況で、勝てる筈などない。 言葉を発する事もなく、ヴィータはグラーフアイゼンを振り上げる。 (こんなので……終わり? 嫌だ……ユーノ君……クロノ君……フェイトちゃん……!!) 目を閉じ、友達の名を呼ぶ。 このまま皆と会えずに終わるなんて、そんな結末は望んでいない。 そんなのは嫌だ……皆に会いたい。 そう、強く願った……その時だった。 ガキィンッ!! 「え……!?」 なのはの願いは、天に届いた。 再会を強く望んだ、漆黒のバリアジャケットに身を包む一人の少女が、彼女の前に現れたのだ。 その少女――フェイトは、己のデバイスであるバルディッシュで、ヴィータの一撃からなのはを守っていた。 「フェイトちゃん……?」 「ごめんなのは、遅くなった。」 「ユーノ君も……?」 なのはの傍には、魔道師の少年――ユーノ=スクライアがいた。 彼はなのはのダメージを回復すべく、術を発動させようとする。 さらにその直後……一発の光弾が、グラーフアイゼン目掛けて放たれた。 光弾を放ったのは、三人から少しばかり離れた位置にいた彼。 他でもない、先に転送されたミライだった。 彼は転送後すぐに、フェイト達と合流して、彼女等と共に動く事にしたのだ。 その左手には、先程までは見られなかった装備――ロストロギアらしき反応を検出された、その原因。 ミライの戦闘における要である、メビウスブレスが装着されていた。 「フェイトちゃん、今だ!!」 「はい!!」 ヴィータは光弾命中の衝撃で、僅かばかりだが体制を崩す……その隙を、フェイトは見逃さなかった。 すばやくバルディッシュを振り、彼女を押し返す。 ヴィータはよろけながらも、何とか持ち直し、グラーフアイゼンを構えなおした。 魔道師が三人……内二人は、明らかに戦闘向けのデバイスを装備している。 戦力差では、圧倒的に不利…… 「仲間か……!!」 『Scythe form』 バルディッシュがその姿を変える。 矛先から、金色に輝く雷電の刃が出現した。 サイズフォームの名が示すとおりの、大鎌形態――近接戦用形態。 その刃をヴィータに向け、フェイトは静かに、しかし力強く答えた。 「友達だ……!!」 戻る 目次へ 次へ
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ミッキーマウスのワンダフル・サマー 原題:The Wonderful Summer of Mickey Mouse 配信:2022年7月8日 ストーリー 毎年花火大会の場所取りに失敗しているミッキーマウス、ミニーマウス、ドナルドダック、デイジーダック、グーフィー。ミッキーは今年こそ良い場所を確保しようとするが寝坊し、彼が花火大会の会場に突入したタイミングで会場はめちゃくちゃになってしまう。激怒した市長はミッキーたちの言い分を順番に聞いていくが…。 概要 Disney+のオリジナルシリーズ『ミッキーマウスのワンダフルワールド』のシーズン・スペシャル第3作。前2作はオムニバス形式だったが、本作は夏をテーマにした1話から構成されている。 キャスト ミッキーマウス クリス・ディアマントポロス 星野貴紀 ミニーマウス ケイトリン・ロブロック 遠藤綾 ドナルドダック トニー・アンセルモ 山寺宏一 デイジーダック トレス・マクニール 土井美加 グーフィー ビル・ファーマー 宮本崇弘 プルート ビル・ファーマー - スクルージ・マクダック ジョン・カシール 小形満 市長 ビル・ファーマー 玉野井直樹 タクシー運転手 鈴木琢磨 ボート運転手 東條達也 カタツムリ 上田ゆう子 犬 露木徳幸 キリン 魚谷としお 運転手 江田拓寛 観客 佐治和也 ラジオ 髙瀨友 チャビー* -(カメオ出演) - エルマー -(カメオ出演) - ティリー -(カメオ出演) - その他 フレッド・タタショアポール・ルーディッシュ*コーリー・バートン 吹替版:2022年7月8日配信。翻訳:末武明日香*、演出:向山宏志* 関連作品 ミッキーマウスのワンダフル・ウィンター ミッキーマウスのワンダフル・スプリング ミッキーマウスのワンダフル・オータム
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ピザハウスの絶品海老グラタン 2009年5月1日 (金) 私はこれが大好物。 ピザに明太子とイカのスパゲティ、サラダ、ミネストローネに海老グラタンを注文。 おいしい出来事 かなえキッチン : ごはん日記 2009年05月
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――なんだ?この感情は。 解せぬ……我が?下賤な人間などに? あのような、小僧に……? 解せぬ…… 有り得ぬ……一時の気の迷いだとしても…… 神聖竜ベルディラウスは竜の姿で、天界に広がる無限の空を飛びながら、そんな事を考えていた。 『お前にもいつかは良き伴侶が見つかるだろう』 というのはベルディラウスの父の言葉だが、その「伴侶」とは勿論、同じ神聖竜を指す訳であって。 異種族――それも人間など――を伴侶にした神聖竜など、見た事も聞いた事もない。 ややあって、ベルディラウスは空に浮かぶ一つの小島に着陸した。 ベルディラウスの登場に、その場にいた、彼女の数倍の体躯を持つ紅竜や蒼竜が慌てて頭を垂れ、小島の森の奥から出てきた数人の天使が次々と彼女の前で跪いた。 ベルディラウスは、それらの行為を全く意に介する事なく、界の鏡に用がある、出せ――と、そう言い放った。 天使が慌てて、ベルディラウス様ともあろう方が下界に何の御用でしょうか、と聞くと、彼女は大変不機嫌な様子で、我に一天使が意見するというのか、面白い、と言った。 天使達は更に慌てて、最初に発言した天使の口を塞いで森の奥に引っ張って行くと、残った天使が彼女を界の鏡の元へと案内した。 界の鏡の元に辿り着いたベルディラウスは、その白銀の爪で鏡の縁に触れた。 途端、鏡の表面に波紋が沸き立ち――下界の、彼女にも何処か分からない、ある場所が映し出された。 鏡の中では、血色の髪を持った少年が、その自室らしき場所で、単独で召喚の準備を整えつつあった。 ベルディラウスは性質の悪い笑みを浮かべ―― 天使達が止める間もなく、界の鏡の中にその身を投げ入れた。 かくして――少年は、今度は失敗がないよう三日掛けて再構築した召喚式を再び失敗させ、神聖竜ベルディラウスは、己の気の迷いを正す為に下界へと下った。 解せぬ……我が?下賤な人間などに? あのような、小僧に……? 解せぬ…… 有り得ぬ……一時の気の迷いだとしても…… なんという事はない。 これは、人間という下賤な異種族の一人の少年に一目惚れをした、やんごとない高貴な神聖竜の物語―― 「うーん……」 そんな声を上げながら、血色の髪を持った少年は、眼前の塔を見上げた。 「ベル、やっぱり止めておかない?」 「何をふざけた事を。シルス、お前は命を弄ぶ輩を生かしておいていいと思っているのか?」 少年にベルと呼ばれた、銀の髪を持った少女は、その法衣の裾から伸びる竜尾を鞭のようにしならせながら憤慨して、自身がシルスと呼んだ少年の問いに答えた。 「うーん……でも、なんだか不安なんだよね」 「戯言を言っていないで、早く行くぞ」 言うが早いが、ベルは重厚な鉄扉に手を掛け―― 「ぐっ!」 ――瞬間、ベルと扉の間に猛烈な火花が散った。 「ベル!」 「くっ、小賢しい真似を……下がっていろ、シルス!」 ベルは数歩下がると、小手に包まれた右手を真っ直ぐ扉に突き出した。 不意に、彼女の銀髪から生えている二つの角の周囲が瞬き―― 「――うわっ!」 突如発生した大爆発に、シルスの髪の毛が逆立った。 同時、火花が散る音と共に、こちらに向かって次々と飛来する瓦礫が片っ端から迎撃される。 爆煙が晴れた時には、塔の鉄扉は跡形も無くなっていた。 「……なんだ?」 私は足元に緩やかな振動を感じ、まどろみから目覚めた。 「こんなのは普段はなかったね。何かな?」 私の胸元で眠りについていた彼も目を覚まし、黒い羽を器用に使って外套から外に這い出る。 彼は一度羽ばたいて窓枠に乗り、外を覗き込んだ。 ややあって、こちらを振り返る。 「乱暴なお客さんだ。君のご主人様が危ない」 「そうか……」 私はゆっくりと立ち上がって、部屋の扉に手を掛けた。 「ねぇ」 「なんだ?」 彼の視線を感じて振り返ると、黒真珠の瞳が真っ直ぐにこちらを見つめていた。 「何で人間になりたいのか、覚えてるかい?」 「……なりたいから、なりたいんだ。特に理由などない」 「そうか。覚えているならいいんだ」 私は視線を戻し、扉を潜った。 背後で彼の陽気な声が聞こえる。 「行っておいで、彼の為に。そして、他ならぬ君自身の為に――」 「――はっ!ふっ、だあっ!」 痛快な打撃音と共に、次々とスライムが四散し、ゴーレムが爆散していく。 先頭に立って、ひたすらに無双の限りを尽くすベルは、未だかすり傷一つたりとも負ってはいなかった。 それは彼女の後ろを着いて行くだけのシルスも同様で、彼もまたかすり傷一つも負っていない。 最初の扉以外には大した罠もなく、二人は早々に三階への階段を登ろうとしていた。 「ふむ……妙だな」 「うん、おかしいね……」 聞いた話では、強力な合成獣の製造技術を擁する術師だった筈だ。 だというのに、これまでに二人の前に立ち塞がってきた面子は、各種スライムやゴーレム――即ち、人工無機兵器だ。 合成獣どころか、有機生命体の一体たりとも出ていない。 「最後の切札としているのか、はたまた別の何かか……何にせよ、敵はお前を狙ってくる可能性が高い。注意しろ」 「分かった……」 慎重に、それでも早々に足を進め、二人は三階へと登り、最初の部屋の扉を開けた。 「む……?」 その部屋は、今までに通ったどの部屋よりも広かった。 高い天井にぶら下がるシャンデリア以外に物は何一つなく、左右の壁に小さな窓、そして丁度反対側の壁に扉が一つだけある。 そんな、一つの階を丸ごと使った部屋の中央に「それ」はいた。 ベルの倍はあろうかという巨躯。全身を覆う銀の体毛に、シルスの腕ほどもある指から生えた長大な爪。 間違いなく、人間と狼の合成獣だ。 「ようやくお出ましか……邪なる命よ、在るべき輪廻の輪に還してやろう!」 ベルが毅然と宣言し、相手を睨み付ける。 喋る事も出来るだろうに、相手は何一つ喋る事なく、確かな知性の感じられる動作で戦闘体勢を整えた。 一拍、そして―― 「Gruaaaa!」 部屋が振動する程の雄叫びを相手が上げ、それに呼応するようにベルが地を蹴った。 五歩で相手の眼前まで到達したベルは、その勢いを殺さずに右の手甲を叩き込んだ。 命中したのは左腕。 即座に防御に割り込んだその丸太のような腕が、今までに受け止められた事のないベルの一撃を防いでいた。 「――はっ!だっ!く……はあッ!」 間髪入れずに叩き込まれる連撃。最後の一撃と同時に、ベルは宙を舞って距離を取った。 瞬間、白の巨体が動く。 「――っ!」 半瞬で、着地したばかりのベルにの眼前に到達し、目にも止まらぬ速度で右の爪が叩き込まれた。 これをベルは一瞬遅れて防御。辛うじて一撃を防ぎ―― ――瞬間、ベルの脇越しに伸びた竜尾が、正確に相手の胸――心臓のある場所――を撃ち抜いた。 鮮血が飛び散り、ベルの法衣に僅かに降り掛かる。 竜尾を引き抜き、ベルが踵を返すと同時、相手は崩れ落ちた。 「ベル、大丈夫!?」 シルスが駆け寄ると、ベルは手を腰に当て、胸を逸らしながら、 「あの程度の事、どうという事はない。心配など無用だ」 そう言って、シルスに歩み寄り―― 「……ッ!ベル!」 後ろ――! そうシルスが言う前に、長大な爪がベルの背後から振るわれた。 命中の寸前で、いち早く反応した竜尾がその一撃を受け止める。僅かに鮮血が散って、金色の鱗の破片が宙を飛んだ。 「く……!馬鹿な……」 銀の狼は、以前と変わらぬ姿でそこに立っていた。 胸の貫通痕は跡形も無く、ダメージを受けた様子すらない。 「小癪な……!」 再び、竜尾が跳ねる。稲妻もかくやと思われる速度で相手に向けて直進し、瞬時に喉、胸、脇腹を貫いた。 防御する様子すら見せなかった相手は、僅かにたたらを踏んだ程度で、竜尾が引き抜かれる端から凄まじい速度で再生している。 「なんと面妖な……こうなったら一撃で木っ端微塵にしてくれる!」 ベルは手を突き出し、力を込めて―― 「――はい、そこまで」 そんな冷静な声が部屋に響いた。 声の主はベルの背後。即ち―― 「……っ!シルス!」 ベルが振り向くと、先程の声の主と思しき長身の男――その前にシルスはいた。 ぱっと見て傷はないが、その代わりに二人の女――猫と人の合成獣がシルスの両脇を固め、その首に鋭い爪を押し当てていた。 「う……ごめん……」 「この……阿呆!」 ベルは取り敢えずシルスを罵ると、ゆっくりと長身の男に向き直った。 「月並みな台詞ですが……彼の命が大切なら、寝転がって手を後ろに回して頂けませんか。物騒な尻尾も」 「……無駄だぞ。その男は我の単なる下僕に過ぎん」 「下僕かどうかはさておき、無駄という事はないと思うんですが……試してみましょうか」 男の合図で、猫人の片方がゆっくりとシルスの首に掛けた指先に力を込める。 ややあって、その爪先から血の珠が浮き出し―― 「――止めろッ!」 たまらず叫んだのはベルだった。 怒りを抑え切れぬ表情で、男を睨み付ける。 「では、言う通りにお願い出来ますか?」 「……っ」 だが、ベルは動かない。 それを見て、男は少し思案し、 「では……これではどうでしょう?二人とも。やってしまいなさい」 「――え?」 そんな声はシルスの物。 二人の猫人は、男の合図でシルスの外套を剥ぎ取った。 そして―― 「わ、ちょ、ちょっと!」 片方の猫人が、シルスの前に回り、その頬を舐めくすぐった。 「――っ!」 ベルの怒りが目で見ても分かる程に跳ね上がり、しかし抑えた声色でベルは告げた。 「……その程度がどうしたというのだ」 「いえ、まだまだこれからですが。……続けなさい」 男は涼しげな顔でベルの視線を受け流し、猫人に続きを促した。 猫人の行為は更にエスカレートし、シルスの服と肌着を脱がせ、色素の薄い胸板に頬擦りしたり、シルスの手を掴んで自分の豊満な乳房に導いてみたり。 そして遂に、その手がシルスの下半身に伸びた。 「ふふっ……いいのかな~?」 そこで、シルスの身体を弄っていた猫人が、初めてその口を開いた。 ここ最近、恐らくはシルス本人とベル以外は触れた事のないシルスのズボンの縁を手に、猫人はベルに向かって扇情的な声色で挑発する。 しかし、ベルはまだ動かない。 その反応に更に気をよくした猫人は、シルスのズボンを下着ごと一息に引き下ろした。 「わわ、う、うぅ……!」 「わあ、おっきい~!」 半勃ちでも十分な長さと太さを持つシルスのモノに、猫人が歓声を上げる。 猫人は一度、ベルを一瞥して笑い、 「……じゃ、頂きま~す」 そう言って、手にシルスの肉棒を持ち、口を―― 「――それ以上シルスに触ってみろ!貴様、八ツ裂きにしてやるぞッ!」 ――遂にベルが吼えた。 猫人は肉棒に唇を着ける寸前で止め、ベルを見た。 男が小さく笑いながら、言う。 「ですから、床に」 「っっ、下衆どもがっ!」 ベルは再び最大限の声量で吼え、ゆっくりと床に伏せた。 手を背中に回し、竜尾を垂れさせると、猫人のもう片方がやって来て、即座に拘束した。 「……さて、肝が冷えましたよ」 男はそう言うと、シルスを見遣って、 「神聖竜ですか。それに貴方を大変好いているようだ。幸せですね、シルス」 「いえ、そんな……」 「誇ってもよい事ですよ。何しろ前例のない事です。――ああ、もういいですよ」 男がそう言うと、猫人の二人は即座にシルスに一礼して、乱した衣服を元に戻していく。 「――貴様ら、まさか……」 ベルが額に青筋を立てつつ問うと、男は、ああ、とわざとらしく呟きながら―― 「申し遅れました神聖竜様。私はヘイル。シルス君とは旧知の間柄です。シルス君が大変お世話になっております」 ――などと挨拶した。
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