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唯「ごうかん!」がおー 紬「どーんと来いです…///」テレリ… 直「今日,私の家でお泊り会ね」 戻る
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前ページゼロのMASTER 「…本当に魔法って凄いものだね」 少年に治癒魔法を当てているカトレアを眺めるキートンが言葉を漏らす。自分達の世界ならば、負傷した人間には大なり小なり医療を施すのであろうが、この世界には"魔法"というものがある。 まったくもって、魔法の力に舌を巻く。 「…ふう」 「大丈夫?ちい姉さま」 「わたしは大丈夫。この人も、外傷はほとんど無いから心配ないわ。たぶん、疲労が祟ったのね」 キートンは少年の身なりを観察していた。薄汚れているとはいえ、この少年が着ているのは、現代の衣服…。アジア系の子供だ。"自分"と同じ世界の人間であることに、驚きを隠せない。 「キートン。この人、知ってるの?」 「面識はないよ。だけど…、間違いなく、僕の世界の人間だ」 少年の手を取り、それをじっと眺めているキートンにルイズは話しかける。袖裏のラベルに目を通すと、確かにmade in japanと記してある。だが、キートンが気になったのは、その隣に記してある文字だった。 (2004年…?) 年代が進みすぎている。これが正しければ、この少年はキートンよりも先の時代から、この世界へと連れてこられたことになる。 召還される側は否応無く、この世界に呼び込まれるというのは、あながち間違ってはいないらしい。過去か、或いは未来に存在する生物も巻き込まれているということか。 「あ、気がついたみたい」 「う、うう…?」 「大丈夫かい?」 キートンが少年の顔を覗き込むのと、その少年が叫び声を上げながらキートンの顔面にぶつかって来るのとは、ほぼ同時だった。 鼻を押さえながら、苦悶する二人の姿を呆気に取られた顔で見るルイズとカトレア。 「来るなぁ!離せよ、ちくしょう!」 半泣きになりながらも、枕をキートンの方へと放り投げる。 「落ち着いてくれ、君は日本人か?僕と同じ世界の人間なんだね?」 「え…?あ、そ、その服…」 少年は一瞬、驚いたような表情でキートンを見つめると、今度は本当に大泣きをしながら、しがみ付いた。 嗚咽を漏らし続けていたが、やや落ち着いたのか、キートンの側から離れると、少年は自分から話し始める。 「日本人なんですか?本当に日本人なんですか?」 「僕の父が日本人なんだ…。母は英国人だけどね。心配はいらない。ここには、君を脅かす人間はいないからね」 ティーカップに注がれた紅茶を啜りながら、互いに自己紹介をする。少年の名は平賀才人。同じく平賀姓であるキートンの名を聞いたとき、才人もキートンも大いに驚いていた。 「キートンさんも、その…。この人たちの言葉がわかるんですか?」 「ん?ああ。何故だかわからないけど、会話が出来ている。英語だけじゃなくて、フランス語、ドイツ語、日本語も試してはみたんだが、どれも一様に通じているんだ。漫画みたいだけどね」 「俺も、普通に日本語で話してるし…。どう見ても日本人じゃないですよね、ここの人達って。すごい髪の色だし」 キートンには前々から引っかかっていたことがあった。なぜ、自分達はこの世界の人間と普通に会話などが出来ているのか。自分が"召喚"されたとき、ルイズ始め周りの生徒達の言葉もはっきりと理解が出来た。 (…ま、魔法なんてものがあるぐらいだから、それぐらいどうってことは無いのかもしれないけど) ルイズは才人と名乗った目前の少年を見ていた。"ヒラガ"という語を聞いたとき、キートンの身内かと思ったものだが、どうやら違うらしい。 しかし、キートンと同じく黒髪、変わった衣服に肌の色だ。もしかしたら、この少年も何か凄い技能を持っているのかもしれない。そう考えると、少しだけ興味が沸いてくる。 「しかし、どうして君がここに?」 「いや、それが俺にも何が何やらで…。電気屋でノートパソコンの修理をしてもらったあと、帰る途中で変な鏡が目の前に出てきて」 「…変な鏡?」 キートンは表情を一瞬曇らせると、ポケットから万年筆を取り出す。そして、側に置いてあった紙きれに絵を描き始めた。描き終わると、それを才人に見せる。 「ひょっとして、こんな形をした鏡じゃないか?」 「あ、ああ!それです、それ!その鏡に触ったら、いきなり引っ張られて、気が遠くなって…」 「ちょっと、どういうことなのよ」 ルイズが口を挟んだ。まさかとは思うが、自分は、この二人を…。 「才人君、いつ頃にこの世界に来たのかわかるかい?」 「この世界って、やっぱり日本じゃないんスか…。ええと、たしか、22日ぐらい経ってたような」 「…22日前は僕がこの世界に来た日だな。まさかとは、思うけど…」 「あ、あんた、なんでこっちを見てんのよ!違うわよ!だいたい、人間を二人も召喚なんて…」 確かに、人間を同時に二人も召喚するなど有り得る話なのだろうか。キートンは才人の手の甲を見る。ルイズに付けられたルーン文字…。"ガンダールヴ"と刻まれたもの。 才人の手の甲にはそれが見当たらない。 (まさか、間違えたってことはないよな) 「だけど、よくここまでたどり着けたね」 「実は、変な奴らに一度襲われたことがあったんです。俺、死ぬかと思ったんですけど」 「けど?」 「ええと、青髪で…。背の小さな女の子が助けてくれたんです。ああ、そうだ!ドラゴンですよ、ドラゴンに乗ってた!信じられないでしょうけど」 青髪の小さな女の子。キートンの脳裏に一瞬、似たような外見の誰かが浮かんだものの、すぐに思い直した。才人の話によると、その少女は食料や水、それに路銀も少々だが分けてくれたらしい。そして、『大きな館があるから、その方角に行け』と言われたのだとか。 「でも、俺…。これからどうしたらいいんスか。平賀さん、帰る方法とか無いんですか?」 「キートンでいいよ。残念だけど、私の方でも元の世界へ戻る手がかりはさっぱりでね…。だが、心配はいらないよ。君を放っておくつもりは…」 「ちょ、ちょっと待ってよ。まさか、あんた。この人を連れて行く気なんじゃ…」 ルイズは動揺する。キートンだけでも学園の同級生や家族から奇異の目で見られっぱなしだというのに、この上、このサイトとかいう男を連れまわしたりなどしたら、どうなるのかわかったものではない。 認めるわけにいかない!それだけは!ぐっと拳を握り締め、キートンを大喝しようとしたが、姉の一言であっさりと打ち砕かれてしまった。 「あら、いいじゃない。一緒に連れていってあげなさいな」 「…へ?で、でも!父様や姉様達が…」 カトレアの微笑みながらの一言にますます動揺する。彼女によると、エレオノールが既に両親に対し、この少年のことを伝えたらしい。なんでも、ルイズの『従者』だそうだ。 自分の婚約が迫っているのもある為、これ以上、両親を心配させたくはないのだろう。結局、姉達の言には逆らえず、渋々ながらも才人の同行を認めることとなった。 ルイズの頭の中は不安でいっぱいである。キュルケ、ギーシュ、マリコルヌ、他の生徒達…。考えただけで気が重くなった。 「とりあえず、今日はゆっくりと休もう。なに、すぐに慣れるさ」 「あんたって…。もう、いいわよ。いいわよ…」 次の日――― 早朝、急使がヴァリエール家の中に飛び込んできた。公爵が使いから書簡を受け取り、それを眺める。もともと険しい顔がさらに険しくなり、深いため息をつくと、宙を仰いだ。 心配になったルイズが父に話しかける。 「父様、何か…」 「ルイズ。姫殿下がお前を呼んでいるようだ」 「姫さまが?」 トリステイン王国王女、アンリエッタの手紙であった。公爵は内心、この手紙については訝しく考えていた。何故、今頃になって自分の娘を呼ぶのか?第一、会いたい理由が何一つ記されてはいないのだ。 まさか、自分の娘に危険なことでもさせようとしているのではないか――― 「父様、わたしは学院に戻ります。姫さまが呼んでいる以上、断る訳にはいきませんもの」 「だがな、目的がはっきりとわからない以上は…」 「行きます!わたし、自分がやれることを精一杯やってみたい!」 今までに無い娘の剣幕にやや気圧され、仕方なく公爵は願いを聞き届けた。様々な荷物が馬車に詰め込まれる。その中には妙に大きな袋もあった。短時間の内に積み込みが終わり、家族の見送りを受けながら、公爵邸を去っていく。 遠ざかっていく馬車を見つめながら、公爵は一人考えていた。娘が物事にあれだけの執心を見せたのは、初めてのことだ (まさか、これもあの男の影響ではないだろうな) それが良いことか、悪いことなのかはわからない。各国の緊張が激化している昨今、このトリステインもどうなるかは不透明だ。 せめて、自分の子供達が騒乱に巻き込まれないように祈りたい。公爵は、既に小さくなった馬車の姿をいつまでもいつまでも見つめていた。 「才人君、もういいよ」 馬車の手綱を握ったキートンが後ろに声をかけると、才人が大袋から首を出した。こっそりと屋敷から連れ出してきたのだ。 立場上はルイズの従者ということになってはいるが、やはり家族に余計な混乱を与えたくないというルイズの要望で仕方なく袋に詰め込んだという訳である。 しかし、やはり息苦しかったようで疲弊した顔でルイズを睨んだ。 「あ、あんたね…。やるにしても、もう少しマシな手段ってもんがあるでしょーが。人権とかどうなのよ…」 「文句言うんじゃないの。父様に見つかったら、延々とお説教をされる所なんだから。キートンだって、呼び出されたのに」 座席と荷台の間越しに二人が口論を始める。会って間もないというのに、妙な上下関係が出来ているようだ。 才人の方は異性に突っかかられるのに慣れていないのか、時々顔を赤くしている。見たところ、歳もほぼ同じのようだし、案外気があうのかも知れない。 「だけど、王女様…だっけ?君は交友関係が広いんだな」 「勿論!姫さまとは昔、ご一緒に遊んだことがあるんだから」 「自慢かよ…」 ルイズが荷台から聞こえてきた声の方向に荷物を放り投げると、続けて悲鳴が上がった。すると、お返しとばかりに小包がルイズの方向に投げ返され、それが彼女の顔面に命中する。 たちまち、雪合戦よろしく投射の応酬が馬車内で始まった。 「君達、せめて学院に到着してから喧嘩をしてくれ…」 一方、その頃。 トリステインに向けて進む船が一隻あった。貿易で得た鉱物資源を満載するトゥーロン号は、沿岸部の森林地帯に沿って航行していた。 なぜ、ここまで接近するのかと言うと、船員達の間で妙な噂が囁かれていたからである。『悪魔が船を沈めていく』と。せめて、沈められても助かる様に船長に懇願した結果であった。 しかし、あまりにも距離が近すぎるため、座礁の危険もある。 「まったく、どいつもこいつも腰抜けどもが。ここまで来て、臆病風に吹かれるとは!」 「しかし、船長。他の船舶も沈没していますから…。彼らが怯えるのも無理はないでしょう」 副官が船長をたしなめる。彼は、悪魔云々などは信じてはいない。だが、事故でもないのに、いきなり船が真っ二つになったとか、バラバラになったとか様々な噂話を聞いている。 そのような例がここ最近になって急激に増加している為、副官自身も言いえぬ不安を抱えていた。 そのように考えていると、轟音と共に船の近くに水柱が幾つも上がった。何事かと船員達は戦々恐々し、それぞれが慌てて持ち場から離れ始める。 そんな彼らの姿を見た船長が怒鳴るのと、トゥーロン号の船体が真っ二つに吹き飛ぶのとは、ほぼ同時だった。 海に放り出される僅かに生き残った船員達。悲鳴を上げながら、岸にたどり着こうともがき始める。 「素晴らしい。先生の指導のおかげですな。今月だけで、もう9隻…。おっと、今の奴をいれると10でしたな」 そんな凄惨な光景を眺めていた壮年の男が、傍らにいる黒縁眼鏡の男に話しかける。ローブこそ着込んでいるものの、眼鏡だけは妙に"現代"のような感じを受ける奇妙な男であった。 男は眼鏡を直すと、薄笑いを浮かべる。 「いやいや…。あんた達には命を助けてもらった礼もあるからな。御恩返しとしては、まだ足りないがね」 そう言うと、手の甲をさする。そこには大きな傷の痕がある。まるで、鋭いものに貫かれたような痕だ。壮年の男はそんな傷を見て、気になったのか話しかける。 「ああ、これかね。昔、ちょっと馬鹿騒ぎをしてね」 「なるほど…。おっと、死にぞこない共がこちらに向かってきますが、どうしたものですかな」 「聞くまでもないな。俺は先に閣下の所へ戻るから、砲はいつもの場所に隠しておいてくれ」 眼鏡の男は足早にそこから立ち去っていく。そんな姿を興味と畏怖心が入り混じった目で見つめていた男だったが、やがて茂みの方へと振り向く。 何かの合図のように、手を素早く振り上げると、けたたましい連射音と共に鉛弾の雨が哀れな船員達に降り注いだ。 キートン一行がようやく学院に到着した頃、オスマンとコルベールの二人が出迎えに来ていた。不満を持つ教員らを説得し終えたらしく、学園も落ち着きを取り戻しつつあるようだ。 馬車から降りてきた"3人"の姿を確認したオスマンらは目を丸くする。行く前にはいなかった人間がいるのだから、無理もなかろうが。 「キートンさん、あの爺さんと…。えーと、ハ…。あ、いや、眼鏡をかけた人は誰スか?」 「僕がお世話になっている人達だよ。君はルイズと一緒に先に部屋に戻っていてくれ。色々と説明をしなければいけないから」 そう言うと、キートンはオスマンらを連れて歩いていく。早速、二人から質問攻めにされているようだ。恐らく、自分のことについて、さんざ言われているのだろう。 才人が目の前を見上げると、巨大な建造物が聳え立っている。いかにも、RPGか何かに出てきそうな雰囲気を持った建物だ。 「すげー…、ファンタジーじゃん。って、あたた!」 独り言を呟いていると、突然耳を引っ張られた。慌てて振り向くと、そこにはピンク髪の少女…ルイズが立っており、自分を睨んでいる。そりゃもう、怖い顔である。歴史の授業で習った仁王様みたいな顔である。 「あにすんだよ!」 ルイズは黙って、馬車の荷台を指さす。どうやら、荷物を運べということらしい。 冗談ではない。なぜ自分がこんなこんな、かわいいけどかわいくない奴の荷物など運ばなければならないのか。キートンさんだって、自分の荷物は自分で運んでいたのに。 「あんた、わたしの従者でしょ。荷物を運ばないと、夕食なんかあげないわよ。それと、さっきみたいに主人に対して、ららら、乱暴なことをしし、したら躾もするから、覚えておきなさい!!」 それだけ言うと、肩を怒らせながら、のっしのっしと学院の中に入って行った。残された才人は荷台を恨めしげに見つめる。 「可愛いけど、可愛くねえ…。キートンさん、俺達、生きて地球に戻れるんスか…」 すっかり外も暗くなり、静けさが学院を包み込む夜…。ようやくオスマンらとの話を終え、キートンはルイズの部屋へと急いでいた。 そのとき、廊下の曲がり角から一人の少女が姿を現す。美しい青髪と小柄の体躯を持つ少女、タバサであった。 タバサはキートンに一礼すると、そのまま横を通り過ぎようとする。 「ああ、タバサ。ちょっと聞きたいんだけど…」 「なに?」 タバサは振り向くと、そのままキートンをじっと見る。この少女は、何か秘密を持っている―――。 この少女だけ、他の子供達とは明らかに雰囲気が違うからだ。 「いや…。大したことじゃないんだけど、今日、新しい友達がこの学院に入ってきたからね。君にも、明日紹介するよ」 「…そう」 タバサはさして興味が無いように一言だけ発すると、そのまま自分の部屋へと戻っていった。 「…………」 ルイズの部屋の前へと辿り着き、ドアノブを回す。仲良くやってくれていれば良いのだが…。 ドアを開けた瞬間、いきなり枕が飛んできて、顔面に命中した。何事かと思い、鼻を押さえながら前を見ると、息を荒くしたルイズと才人の二人が睨み合っている。 どうやら、喧嘩の最中だったらしい。想像以上にお互いを嫌っているようだ。 「あたた…。二人とも、喧嘩ばかりしてないで、もう少し仲良くしたらどうだ」 「だって、キートンさん!こいつったら、酷いんですよ!俺に首輪を付けようとするんだから!」 成る程、ルイズの手中には漫画に出てきそうなトゲの付いた首輪がある。御丁寧にも鎖付きだ。キートンは、ルイズが自分にも首輪を付けようと提案してきたのを思い出し、少し身震いをした。 だが、そんなルイズの方にも言いたいことがあるらしい。 「見てよ、わたしの下着!こんなに無茶苦茶にして…!この馬鹿犬ッ!!」 指差した方向には無残な姿となった下着が転がっている。どうやら、才人が破ったらしい。ルイズの主張によると、目を離したらこれなので首輪を付けなければならないということだ。 余程に興奮しているのか、棚の方に走り寄ると中から細い棒のようなものを取り出した。乗馬用の頑丈な鞭だ。あんなもので叩かれたら、さぞ痛かろう。 自分がこれからどうなるのか、予想が付いた才人が青ざめた。 「そのあたりで許してあげなさい。乱暴は良くないよ」 「だって…!」 「一度ぐらいの理不尽は許してあげるもんだ。人間関係は一旦ヒビが入ると、それを直すのに大変な苦労をするものなんだよ。君だって、彼のことを見捨てては置けなかったじゃないか」 ルイズは渋々鞭を棚に戻した。才人の方もキートンに言われ、ルイズに謝る。仲直りはひとまず終わったものの、両者の間には以前、険悪なムードというものが漂っているようだ。 そんな二人を置いてキートンは一人、作業をし始めた。部屋の中に木の棒と布を持って入ってきたのを思い出し、才人が質問する。 「君の分のベッドを作らないといけないからね。手伝うかい?」 「え、でも、それだけで作れるもんなんですか?」 「キートンはあんたと違って、な~んでも出来るのよ」 ふふん、と胸を張るルイズに対し、才人がまた何か言おうとするのを苦笑しながらなだめ、二人で簡易ベッドを作り始める。そこに騒ぎを聞きつけたのか、派手な下着を身に着けたキュルケが入ってきた。 才人にとっては余程に衝撃的だったらしい。鼻の下を伸ばしながら、彼女を見ている。キュルケも初対面の少年に興味が沸いたのか、色々とルイズに質問をし始めた。 にぎやかな夜が過ぎていく。しかし、ここでの平穏な生活も、トリステイン王国の平和にも影が差そうとしていた。 前ページゼロのMASTER
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前ページ次ページゼロのMASTER 真っ暗闇の部屋に蝋燭が灯された。幾分明るくなったとは言え、それでもまだ暗い。 大男はそれも構わず、テーブルの上に置かれた袋に手を伸ばすと中身の金貨を数え始める。 「おぉ、おぉ。相も変わらず、旦那は金払いがいいねえ。 最近は旦那ほど太っ腹な人間がいないからな。あんたもそう思うだろ?姉ちゃん」 男が下卑た笑みを浮かべながら、フーケの方を見る。初対面であるにも関わらず、この馴れ馴れしさ。この下品さ。嫌悪感に満ちた表情をしながらフーケは答えた。 「あんたのやり口は聞いてるわよ。火薬使いですって? 要人を何十人も吹き飛ばしたって、悪名高いドレさんじゃない」 嫌味たっぷりに言うフーケ。だが、ドレと呼ばれた男は相も変わらず薄笑いを浮かべている。 「連中を腐るほど殺した所で、拍手されこそすれ、非難はされねえよ。 "そういったこと"を望んでいる奴らなんざ、掃いて捨てるほどいるからな。 あの旦那もそうなんじゃねえのかい。え、『土くれ』のフーケさんよ」 「気安く呼ばないで。あんただって…」 「俺が?なんだい?予め言っとくが、"ドレ"は…そうだな。 あだ名みてえなもんだ。出来る奴ってのは、隠し事が多いからな。 だから、あんたも旦那も俺と同じってえことさ」 ドレはそう言うと、さも満足したようにワインを飲む。言っていることは、あながち間違いとも言えない。 実際、表ざたにはなることは少ないが、貴族と平民の対立は根深いものがある。 フーケもそこの所は理解してはいるものの、ドレの言い方にイラついていた。 一々、癇に障る物言いをする奴だ。 それでも「あの男」が依頼するからには仕方が無い。自分には、そうするしかないのだから。 「…で、俺が狙う奴って、どんな野郎だい。貴族か?貴族なら、ドカーンと派手にやるがね」 「トリステイン魔法学院って知ってる?」 「知ってるも何も、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが学んでる所じゃねえか」 「そこにヴァリエール家の娘がいる。その娘の"使い魔"をヤれってことよ」 「使い魔だぁ?」 ドレは怪訝な顔をした。貴族でもなければ、平民でもない。 使い魔だと?魔物の類でも殺せと言うことか。 「俺はハンターじゃねえが」 「聞きなさい。その使い魔は人間よ。私達にとって邪魔な人間。それで充分じゃない」 ほ、とドレが笑う。 「使い魔が人間たあ珍妙だね。その嬢ちゃんはよほどの天才か、それとも馬鹿かのどっちかだな」 そう言いながらも、内心、ドレは気になっていた。 普通に考えて、メイジが人間を召喚するなどまずありえないはず。 ヴァリエール家については仕事柄、よく耳にしたが。そんなドレを見ながらフーケが口を開く。 「甘く見ないことね。あんたの標的は"ガンダールヴ"よ」 「なに?」 その言葉を聴いたとき、ドレは思わず吹き出してしまった。ガンダールヴだと。 よりにもよって、えらいモノを出してくるものだ。 「ガンダールヴか!こいつはいい!はっは!いやいや、旦那も人が悪いな、まったく!」 「信じないなら、信じないでそれも結構。ただし、油断はしないことね」 「しねぇよ。それよりも、あんた。なんでそいつがガンダールヴだと知ってるんだ? そいつがあんたを追い詰めたのは、俺も承知してはいるが、別に特別な力を使った訳じゃねえんだろう」 フーケもそのことについては気にはしていた。あの男……キートンは荒っぽい真似が得意そうには見えない。 ガンダールヴの逸話は、それこそ「化け物」と呼ぶにふさわしいものであったが。 もう一つ、依頼についてドレに話さなければならないことを思い出し、フーケは話しかける。 「貴方が気を付けなければならないことが一つ。ヴァリエールの娘には被害を出さないこと」 「なんだって?」 ドレは怪訝な顔でフーケを睨む。 自分の仕事柄、多人数を巻き込むのは充分理解しているはずだろう。 にも拘らず、ヴァリエールの娘だけ標的から外せと言うのは難しいものだ。 「てっきり、嬢ちゃんも巻き込むものだと思っていたがね」 「とにかく、あんたの依頼主からの命令よ。これだけは厳守しなさい」 「わかったよ。それよりも、あんた。嬢ちゃんは外すとして、他のガキ共は大勢巻き込むと思うがね。 偽装とは言え、あの学院で働いていたんだろ。心は痛まねぇのかい?」 「今更…」 「まあ、俺は仕事をするだけだがね。このワインは美味かったよ。じゃあな」 そう言うと、ドレは素早く部屋から出て、夜道を走っていく。 後に残されたフーケは、静かに、ぽつりと呟いた。 「そうよ、今更…。私、は…」 ラーグの曜日。 いつも通りの晴天となった今日、トリステイン魔法学院の生徒達はエマール遺跡の見学授業を行っていた。 主である教員も参加し、かなりの大規模な授業である。 遺跡自体は大きくないものの、太古の建造物や壁画などがあり、生徒達の興味も尽きない。 生徒はグループに分けられることになり、それぞれ教員が引率するというものである。 「それでは皆さん、キートンさんを困らせないように勉強しましょうねー」 ミセス・シュヴルーズが大きな声で言う。一方、隣のキートンの顔はげんなりとしていた。 キートンが引率するのは、ルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュ、マリコルヌの五名。 「押し付けられたかな…これは」 そう呟くキートンを余所に、さっそく三人が一人をからかい、もう一人は静かに本を読み始める。 引率に先立って、キートンは他の教員と共に、遺跡について調査をした。だが、特に目を引くものは見当たらなかった。 この遺跡自体、発見されてからは長く、検証自体も度々行われてきたため、別段珍しいものでもなかったのである。 元の世界に戻るための手がかりが見つけられなかったことは残念だが、引率の仕事はきちんと行わなければならない。 「だから、召喚出来なかったから、そこら辺の傭兵かなんか連れて来たんだろ!」 「キートンは傭兵なんかじゃないわよ!」 「マリコルヌ、君は少し静かにしていたまえ。話がややこしくなって仕方が無い。いいかい、彼は…」 「あーらら、揉めに揉めちゃって。この隙に…」 「キュルケ!!」 ルイズが怒鳴ると、キュルケはぱっとキートンの腕から離れる。 その間にキートンは草を摘み、何かをしていた。草を自分の口にあて、息を吹く。 すると、音色が出てきた。 「草笛だよ。子供の頃に、よく吹いたけど・・・」 マリコルヌが自分にも作ってくれとせがむ。 ギーシュはと言えば、馬鹿馬鹿しいと言いつつも、興味深そうに見ている。 キートンは、草で出来た玩具を次々と作り上げていき、5人に渡すと、いつの間にか、言い争いをしていたのが大人しくなっていった。 草笛で遊んでいると、ルイズが森の方を見ている。かなり深い森の様だが…。 「あの森は?」 「エバンの森よ。危険な動物はいないって話だけど」 そう話していると、マリコルヌが騒ぎ始めた。 「なあ、キートン。森の方にも言ってみようぜ!もっと面白いもの作ってくれよ」 そう言いながら、森の方を指差している。だが、さすがに森まで行くのは不味いだろう。 引率している立場からすると、止めなければならないのが、今のキートンだ。 「森に行くのは止めた方がいいな。迷ってもいけないし、何より行動範囲から出てしまう」 「大丈夫だって!いざって時は、タバサのシルフィードがいるじゃん。なァ、行こうぜ。なぁったら」 「僕も行きたくはないな。虫に刺されるのは御免だ」 「なんだよ、ギーシュ。気取っちゃって!俺は行くからな!」 そう言うが早いか、マリコルヌは森の方へと走り始めた。 遺跡の見学よりも、遊ぶ方に興味を抱くのは歳相応ゆえに仕方の無いことなのだろうが。 ルイズらが止めるのも聞かずに、マリコルヌはさっさと森の中に入っていってしまった。 「仕方が無いな…。皆、彼を探しに行こう。怪我でもしたらいけない」 「僕は遠慮しておくよ」 「あーら、ギーシュ。恐いの?」 そう言われると、ギーシュは顔を真っ赤にして否定する。 とは言え、自分だけ取り残されるのはやはり辛いのか、渋々了承した。 キートンらは森の中へと足を踏み入れる。思った以上に深い森だ。 ルイズが言ったように、危険な動物はいないというのが幸いか。 「マリコルヌー!どこー!?」 「本当にどこ行ったのかしら。まさか、沼にでも落っこちたんじゃないでしょうね…。 あら、キートン。何してるの?」 キュルケがキートンの方を見る。当のキートンは、地面に一々印を付けていた。 見ると、来た方角に向けて、逐一印を付けている。 どうやら、帰るための目印らしい。ルイズも見慣れたものなのか、特に何も言わないが。 「用心深いのね」 キュルケが苦笑しながらそう言うと、キートンは癖の様なものだからと答える。 (どんな癖なのかしら?) そう思っていると、ギーシュが叫んだ。 「おい!あれ、向こうから走ってくるのってマリコルヌじゃないか?」 「何か、叫んでる」 タバサが呟く。確かに、向こうから走ってくるのはマリコルヌだが、相当に慌てている。 何か凄いものを見た、そんな顔だ。 「み、水…。とりあえず、水をくれよ!」 「あ、こら!それは僕の水筒…。ああぁ、全部飲んだのか、まったく!」 ギーシュの抗議の声を無視して、マリコルヌはキートンの袖を引っ張った。 「キートン!凄いの見つけたんだって!来てくれよ、ほら、早く!!」 「わ、わかったよ。わかったから、そんなに引っ張らないでくれ。破れたら困るから」 ぐいぐいとキートンを引っ張るマリコルヌ。あっという間に茂みの中へと連れて行ってしまった。 「何を見たのかしら?あいつったら、あんなに慌てちゃって」 「さあ?」 そう言いつつ、ルイズ達も追いかける。 この森は、調査があまり進んでいないものの、危険はほとんど無いと言われていたはずなのだが。 とは言え、マリコルヌの慌てぶりが気になって仕方が無い。 もともとそそっかしい奴ではあるが、今回は特に慌てているのだから。 「ほら、あれだよ!」 興奮した様子で指差すマリコルヌ。そして、次に驚くのはキートンの番だった。 「これは……!」 茂みに隠されていた一つの物体。それは戦車であった。 だが、錆びに錆びている上に、戦車自体の損傷も大きい。 さすがにこれでは動かすのも、戦うのも不可能だろう。 攻撃を受けたものなのか、砲塔まわりの損傷部分が特に大きい。 驚いている内に、残りの4人も到着した。彼らも初めて見るものに驚愕しているようだ。 「キートン…。これ、なに?」 「戦車だよ。僕の世界の兵器だ」 「せんしゃ?」 キートンは戦車の上に乗り、車長用キューポラを開く。 「う…!」 中は悲惨の極みだった。白骨化した遺体が車内に転がっている。 ルイズ達に中を見ないように言おうとしたのだが、既にルイズがキートンと同じようにキューポラ付近までよじ登って来ていた。 「ルイズ!見ては駄目だ!!」 「ひっ…!!」 キューポラを覗き込んだルイズが悲鳴を上げる。 しゃれこうべを間近で見てしまったのだから無理も無い。 慌てて、ルイズを戦車から降ろすと、キートンは彼女を落ち着かせる。 「あの中…。何だったの?」 「乗員の遺体があった…。彼女に見せられたものじゃなかったのに、迂闊だったよ」 そう言うとキートンは首を振る。ルイズも俯いてはいるが、ようやく落ち着いたようだ。 遺体と戦車の状態から、相当の年月が経過しているのだろう。 彼らも、自分と同じように、この世界へと呼ばれてきたのだろうか? だが、それならば『召喚したもの』が存在するはずだ。自分を呼び込んだ、ルイズのように。 「すまないが、彼女を見ていてくれ。僕は戦車の中をもう一度調べてくる」 キュルケ達にそう言い、再びキートンは戦車の上に登っていった。 それぞれのキューポラを開け、中をよく見る。 確認できる乗員の数は約1名。外見、内装から見るに、恐らく戦後世代の戦車だろう。 この類の戦車の操縦には3,4名必要なはずだが、残りの乗員は何処に行ったのだろうか? 見ると、底に袋が落ちている。手にとってみると、中に何やら入っているようだ。 「手帳…?」 袋の中身は手帳だった。状態は意外によく、記述内容もはっきりと見て取れる。 手帳の外装はなかなかで、高価なものなのだろう。 「キートン!何かあった?」 キュルケの声が外から聞こえる。そちらに行くと言い、戦車から出る。 この手帳が、何かの手がかりになるのは間違いないだろう。 「何か見つけたの?」 「手帳を見つけた…。待ってくれ、今、読んでみるから」 そう言い、ページをめくる。丁寧な文字が書き綴ってあった。 これを持っていたのは、戦車長なのだろうか? 「アラビア語だな…、これ」 「アラビア語?」 「僕の世界の言語の一つだよ。ええと…」 ――我々の戦車師団に命令が下った。目標は敵イラン石油施設の襲撃、及び破壊だ。だが、今回の作戦は、はっきり言って乗り気じゃあない。 石油施設の破壊自体は、我が軍の戦車にかかれば容易いものだ。問題は、その前だ。 施設の前にはトーチカ郡、そのトーチカの前には湿地帯があるのだ。T-72戦車であの湿地を越えるのは、不可能だ。その重みでまるごと車体が沈んでしまう。 少将が何を考えていらっしゃるのかわからないが、我々は任務をこなすだけだ。サイードとハキムの二人は若いからか、楽天的に見ている。せめて、敵弾が我々の方に来ないことを祈りたい―― ――何が起きたのかはわからない。だが、ここが戦場ではないことは確かなようだ。敵の攻撃を受けた際に、ハキムは即死。 サイードは重傷を負っていたが、先程死亡した。私も負傷しており、恐らく長くは無いだろう。 見慣れない土地で、自分達が誰にも知られないまま死んでいくことが何よりも無念だ。バクダードに戻りたい―― 手帳の記述はここで途切れている。あとは、血の跡が紙にこびり付いていてよく見えない。 読み終えて、5人の表情を見てみると、一様に暗い顔をしていた。 特に、遺体を間近で見てしまったルイズは黙りこくっている。 「キートン」 そんな中、タバサが声を上げる。 見ると、一点を指差している。その先には茂みが見えるだけだが。 「来て」 そう言うと、彼女は茂みの中へと入っていく。 キートンらも同じように入って行った先には、土を盛った墓の様なものがあった。 そして、その前には恐らく乗員だろう白骨化した遺体も散乱していた。 「たぶん、この兵器に乗ってた人が…、作ってあげたお墓じゃないかな。一人を埋めてあげた後に、自分も…」 キートンが静かに呟く。この人達は、どのような思いで死んでいったのだろうか? 見慣れない土地で、誰の助けも得られずに死んでいったのだろうか? そう思うと、子供達は悲しくなった。 そんな中、ルイズが顔を上げて答える。 「ねえ。残りの人のお墓も作ってあげましょうよ」 黙って頷く4人。キートンもまた、深く頷いた。 乗員の埋葬を終え、キートン達は森を出た。他の生徒達の見学もちょうど終わったらしく、集合し始めている。ルイズらもそれぞれ整列地点に戻っていった。 その様子を見ていると、コルベールが近付いて来る。 「どうでしたか、キートンさん。あの子達の引率は、うまくいきましたか?」 笑顔でそう言うコルベールを前に、キートンは微笑むと答える。 「ええ。私が考えていたよりもずっと、彼らは結束力がありましたよ」 帰ってから、改めて、ルイズと話しあう必要がありそうだな―― キートンは夕焼けを眺めながら、そう思った。 前ページ次ページゼロのMASTER
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「桃にはね、全部見て欲しいの」 そういって、毅然とした様子を装って服に手をかけた私の手が微かに震えていることを、あの子は気付いているかな。白い電灯が照らしている中、髪を解いて、ワンピースのボタンを外す。リボンを緩めればするりと落ちて、足元にぱさり、と軽い音をたてて落ちた。 震えの止まらない手を隠してそのまま一糸纏わない姿になれば、ひゅっと微かに桃が息をのむ音が聞こえる。それもそうだろう、だって平和な世界に生きてきた彼女には見慣れないカラダの筈だから。 傷だらけのこの体躯を見た桃がどんな表情をしているか見たくなくて、それから見せたいものがあって、彼女に背を向ける。背中を覆っていた髪を寄せて前に持ってくる。晒した背中にあるのは、未だに私を縛り付けている足枷だ。無機質な単なる番号の羅列。ただの数字の並びの意味を彼女はきっと分からない。分かるのは一部の人間だけ。彼女に分かって欲しいとは思わない。けれど、知ってほしかった。受け入れて、欲しかった。 「これはね、番号なの。愛里が愛里になる前の。ただの人形だったときの。まだとれない――、足枷」 「……愛里ちゃん」 手を伸ばせば届く距離にいた桃の気配がぐっと近付く。そっとその数字に彼女が触れた。ただ触れているだけなのに、どうしてだろう。優しさが伝わってくる、柔らかい指先。 「だいじょうぶだよ、だいじょうぶ。――ありがとう、愛里ちゃん。私に隠さずにいてくれて」 柔らかい温もりが全身を包み込む。いや、体格は私と同じくらいだから包み込むっていう表現は違うかもしれないけど、温かく抱きとめてくれていた。 背中の傷跡を一つ、彼女が撫でる。思わずびくりと反応してしまって、それに驚いたのか桃は手を引いてしまった。 「あ、ごめんね……」 「ううん、いいの。大丈夫。あの、もっと――、触って……?」 彼女の指先が名残惜しい。一度付いた傷跡はもう消えないけれど、背中の烙印も消えないけれど、桃に触れて貰えば全部全部綺麗になれる気がして。恥ずかしくて、俯いたままにぽそりと零した私の言葉に、柔らかく笑ってくれている様な雰囲気を感じた。 輪郭をなぞるように、するり、温もりが背中で踊るのを感じる。最初は爪先、指で、手のひらで。優しく優しく、一つ一つ傷跡に滑らせていく。段々と熱を帯びていく背中に堪えきれず、思わず吐息が漏れる。 「んっ……、は、…ぁ……っ」 きゅ、と胸が掴まれるような感覚。沸き上がってくる感情の波にのまれないように下唇を噛んで、俯いて堪える。そんな私の肩を桃が優しく引き寄せる。そのまま引き寄せられるみたいに唇が合わさった。 最初は柔らかく重なるだけ。どんどん触れ合う時間が長くなって、深くなって。合わせた唇から彼女の優しさが伝わってくるみたいで、離れられない。もっと欲しいと心が訴えてくる、乾いてくる。じんわりと涙が滲んだ目を薄っすら開ければ、琥珀の瞳がこちらを掴む。やんわりと目元を緩めるその瞳が何とも言えず、また私の心臓を締め付けた。 「余裕っぽいの、ずるい。私の方が年上なのに――」 「余裕なんて、ないよ。ドキドキしてる」 そういって胸に手を運ばれると、伝わってくる鼓動は私と同じくらい駆け足で、はにかむように頬を染めて笑う彼女に堪らなくなってしまう。 また惹かれるように寄せ合った唇に吐息が混ざる。指先を絡ませて、そのまま導かれるように、柔らかくベッドに体を横たえられた。 「愛里ちゃんの全部、もっと見せて……?」 乞うように潤ませる琥珀の瞳に、私はただ頬を染めることしかできないのが悔しくて、“勝手にすれば”なんてそっぽを向くのに、桃は嬉しそうに頷くのだ。 ――― ゆるゆると、熱を持った手が私の体を撫でる。ただ触られてるだけなのに、とても熱い。好きな人に、大事だと思ってる人の手のひらはなんて気持ちがいいのだろう――。触れているだけだった手のひらが、今度は意志を持って柔らかく胸を掴む。下から持ち上げられるように、感触を確かめるように、やわやわと。まるで壊れ物を扱うみたいなその手つきに噛みしめた唇から吐息が漏れる。 「――っん、ふ、……ぅ」 「やだ、愛里ちゃん。口切れちゃうよ」 そう言って、柔らかい舌で唇を開かれる。逃げる舌もあっという間に絡めとられて、蕩ける様なそのキスにただそれだけなのに、もうなんにもわかんなくなっちゃって、私はただ桃の首にしがみついて声を零すしかできなくなってしまった。 高く主張する胸の突起を掠めるように手が触れて、ワントーン高い声が漏れる。指先で撫でて、手のひらで転がして、左右を弄んで。薄目に見えた表情が、慈しむみたいな目線が胸を締め付けて、私だけこんなになってるのが悔しくて、思わず桃の服の胸元に縋りつく。 「ぁ、ん…っ、ゃ、やだぁ……!ん、ももばっか、ずる、い……!」 「あ、ふふ。うん、ごめんね?でも今日は全部私がするの。だから、だーめ」 縋りついていた両手は、彼女の片手に優しく絡めとられて、握り込まれる。いつもだったら簡単に振りほどけるはずなのに、もう力が入らない。そんな私をよそに、首筋に、鎖骨に、胸元に唇が降る。 切なくなって擦り合わせた膝を彼女の手のひらが優しく割る。太ももを滑るように上ってきた手のひらは、躊躇うことなくその奥の秘部を撫でた。二人しかいない静かな部屋に水音が響く。 「わ、すごいね……?」 「んんっ、ゃ、ばかぁ…ぁ、ん……っ、あうっ…ん……ひゃんっ!」 なぞっているだけだった指先を、濡れそぼった私のそこはすんなりと迎え入れてしまう。嬉しそうに目を細める桃に、抗議しようと上げた声は全部嬌声に変わってしまって、意味をなさない。淀みなく動く指先は的確に私が反応する場所を探し当てていく。桃の指先が私の中で踊れば踊るほど、私の頭はなんにも考えられなくなってしまって、桃の肩口にしがみついて襲ってくる快感の波に、ただぎゅっと目を閉じて耐えるしかできない。 「やだ、ゃ、んん、ぁ、ぁ…もも、ももぉ……!も、ゃん、だめ、だめ、ん、んっ……!むり、も、やめ、んんッ…」 「いいよ愛里ちゃん、――だぁいすき」 「ひっ、――ぁあッ……ん……!」 甘く耳朶を打つ桃の甘い言葉に、電流が走ったみたいに頭は真っ白になって、飛ぶような浮遊感の中、私を抱きとめる腕の温もりだけを感じていた。 ――― 「絶対絶対ぜーーーーったい、おかしい!!あり得ないんだから!!」 「え、なにが?」 向かい合ったベッドのなか、きょとんとする桃に私はふくれっ面のまま声を上げる。だってだって、私の方が年上なのに、初めてこういうことをするときは私がリードするつもりだったのに、――桃は絶対初めてだと思ってたのに。あんななれた風なの、絶対に初めてじゃないじゃん。 悔しかったのとヤキモチ妬いちゃったのと、どっちもが悔しくてそれ以上は何も言わずにただぷいっと顔を背けて背を向けた。 「も、もしかして何か下手だった……?私、失敗しないように初めてのためにいっぱい勉強してみたんだけど……」 「――へ?」 思わず振り返れば、眉を情けなく垂らした桃がこちらを見つめている。 「あの、私初めて、だし。でも、愛里ちゃんによろこんで欲しかったし、だから孝一おじさんに色々聞いてて……、その……」 「――なぁんだ」 拍子抜け、とでもいえばいいのか。桃に触れてもらえる一番になれたことに安堵して、でもやっぱり悔しいのは変わらないから、ふくれっ面はしぼまないけれど。 こつんと額を合わせて視線を交わらせる。 「その……良かったけどっ!今度は一緒に、だからねっ!」 「――うん!」 そういって満面の笑みを浮かべる彼女を見るだけで幸せだから。私たちはまたそれを噛みしめる為に、また唇を合わせるのだ。 桃愛初夜もどき 相も変わらず深夜テンションの一発書き http //www.pixiv.net/novel/show.php?id=7842214
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バーチャルリアリティとはバーチャルリアリティとその三要素 道具としてのバーチャルリアリティ VRの要素と構成 ヒトと感覚 バーチャルリアリティ・インタフェイスバーチャルリアリティ・インタフェイスの体系 バーチャル世界の構成手法 リアルとバーチャルの融合 - 複合現実感 テレイグジスタンスと臨場感コミュニケーション VRコンテンツ VRと社会 本内容は日本バーチャルリアリティ学会著作のバーチャルリアリティ学を参照し要点のみを記述している。 バーチャルリアリティとは バーチャルリアリティとは、人工的に現実感を発生させる技術である。 バーチャルリアリティとその三要素 バーチャルリアリティがバーチャルリアリティとして満たすべきもっとも特徴的な要点とは、 コンピュータの生成する環境が次の3つの特性を持っていることである。 A 3次元の空間性 人間にとって自然な3次元空間を構成している B 実時間の相互作用性 人間がそのなかで、環境との実時間の相互作用をしながら自由に行動できる C 自己投射性 その環境と使用している人間とシームレスになっていて環境に入り込んだ状態が作られている 実例 A B C 3次元の映画 X 家庭用コンピュータゲーム X 道具としてのバーチャルリアリティ VRは3C/3Eのための道具である。 3C Creation 創造 設計や造形など種々の創造活動や創作活動のための道具 Control 制御 ロボットや機器の制御のための道具 Communication 通信 電話やテレビ電話の次にくるコミュニケーションのための道具 3E Elucidation 解明 人間の認知や行動の機能を解明したり、シミュレーション結果を模型実験のように表現したりする解明のための道具 Education 教育 体験型シミュレータなど、経験を深める教育のための道具 Entertainment 娯楽 体験型ゲームやバーチャル旅行などの娯楽のための道具 VRの要素と構成 ヒトと感覚 バーチャルリアリティ・インタフェイス バーチャルリアリティ・インタフェイスの体系 バーチャルリアリティ・インタフェイスの基本構造 ハードウェア ソフトウェア 入力インタフェイス センサ 認識エンジン 出力インタフェイス ディスプレイ ディスプレイドライバ 入力インタフェイスの体系 検出するもの 検出方式 認識エンジン 物理的状態 位置姿勢 人体モデル(モーションキャプチャ) 関節角 顔の表情、視線 感性計測 生理的状態 生理指標 状態推定の各種手法(含、情緒反応) 生体電気信号 脳活動計測 心理的状態 脳センサ BMIの各種手法 EEG,fMRI,NIRSなど 出力インタフェイスの体系 感覚モダリティ 提示手法 ディスプレイドライバ 視覚 立体視 2眼式(眼鏡、HMD、HMP) 左右の映像の分離、ビューボリュームの設定など 2眼式(裸眼) 体積走査型 没入ディスプレイ 平面・多面体スクリーン 曲面スクリーン 聴覚 両耳型(ヘッドホン、スピーカーなど) HRTF、トランスオーラル系 空間型(スピーカーウォールなど) キルヒホッフの積分方程式 前庭感覚 モーションプラットフォーム ウォッシュアウト、ウォッシュバックなど 味覚 味物質の滴下手法 味物質の調合手法、五基本味 嗅覚 匂い物質の気化手法 匂い物質の調合手法 体性感覚 皮膚感覚(震動子、空気圧、電気刺激など) テクスチャの提示アルゴリズム 深部感覚 装着型(外骨格を含む) 把持型 硬さの提示アルゴリズム 対象型 接地と非接地 他の感覚との複合(運動視、歩行、口内感覚) 神経系への直接刺激(人口内耳、機能的電気刺激など) バーチャル世界の構成手法 リアルとバーチャルの融合 - 複合現実感 テレイグジスタンスと臨場感コミュニケーション VRコンテンツ VRと社会
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VRE VRE 正式名 Vancomycin-resistant Enterococcusバンコマイシン・レジスタント・エンテロコッカス 通俗名 バンコマイシン耐性腸球菌 腸球菌の一種。 バンコマイシン(MRSAの治療に用いられる抗生物質)に対する薬剤耐性を獲得した腸球菌。 健康な人は問題ないが、病気で免疫力が低下している人には深刻な感染症を引き起こします。 人間に病原性を持つ腸球菌であるE.フェカリスとE.フェシウムの両方に、VREが確認されてます。 Charactor History 初登場 - 第7話 オリエンテーション (1巻)初登場は病院で、食中毒で入院した沢木に集っていました。 Link ウィキペディア バンコマイシン耐性腸球菌 (外部リンク) WIKIPEDIA Vancomycin-resistant enterococcus (外部リンク/英語)
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前ページ次ページゼロのMASTER 虫の音が聴こえる静かな夜、学院の部屋でルイズとキートンは話し合っていた。 今日見たことは、ルイズはじめ、他の4人も忘れることは出来ないだろう。自分達が今までに体験してきたものとは全く違う、「経験」をしたのだから。 そして、それはキートンも同じであった。現代に戻るための「手がかり」―― それを見つける代わりに、思わぬ遭遇をしたのだから。 「キートン…。あの人達、戦いに行ったのよね」 「ああ…」 「やっぱり、帰りたかった…よね。元の世界に。貴方と同じ世界に」 ルイズが静かに言う。戦車長の手帳には帰還出来ない無念が綴られていた。 そして、今現在、その立場に置かれているのは、他でもないキートンだ。今まで自分はキートンに助けられてばかりだった。 だが、そんな自分は目前の男の幸せを奪ってしまったのではないか? ルイズは複雑な感情に苛まされていたのである。 「ルイズ…。僕のことなら、気にしなくてもいい。元の世界に戻るのは諦めていないから。それに…」 「それに?」 「君は危なっかしいから、見ておかないと」 そう言うと、キートンは笑う。ルイズの方は顔を真っ赤にして、枕を投げつけた。それを受け止めた後、深刻な顔をするキートンに気付く。 「どうしたの?」 「いや…。どうも、気になることがあってね」 「気になること?」 キートンは頷く。 「彼らの装備品が見当たらなかったんだ。戦車の中を調べてみたが、あったものといえば、あの手帳ぐらいのものだった。携行銃器類は兎も角、衣類までなかったからね」 「誰かが持っていったとか…?」 「まさかとは思うが…。仮に持って行ったとしたら、大変なことになる。個人ならまだいいが、軍事機関か何かが研究でもしたら…」 話を聞くルイズであったが、心配はあまりしてはいなかった。銃と言っても、せいぜい弾が出てくるぐらいにしか考えていないため、所詮はメイジの敵ではない。 キートンも、補給の問題を考えてはいるが、もしも分解でもして内部構造を知ったら一大事である。それこそ、軍事革命でも起こりかねない。 「でも、あの…センシャって兵器。年月が経ってて錆びていたじゃない。杞憂じゃないの?」 「…それなんだよなあ」 件のT-72 戦車は錆びているし、相当の時間が経過しているのは確実だ。にもかかわらず、この世界の武器は剣や槍などの白兵戦用武器が主力だ。 持ち去ったのは良いが、解明出来なかったのかも知れない。先ほども考えたように、補給の問題もある。ルイズの言うとおり、杞憂なのだろうか? それとも、何処かの国家が厳重に保管でもしているのだろうか? 一番気になるのは、T-72以外にも召喚された兵器があるのではないか、ということだが。 「それにしても、またT-72を見るなんて、思わなかったなあ」 「何かやったんでしょ、その…てぃーななにってのに」 「…以前、追い掛け回されたことがあるからね。あの時は、本当に危なかったから」 そう言うと、キートンは溜め息をつく。 「ルイズ。彼らを召喚した人間もいるのかな?」 ルイズは首を振りながら、 「知らないわよ。私だって、人間を召喚したのは初めてだもん。普通は、メイジが人間を召喚するなんてありえないはずなんだから」 「そのありえないことが、今起きているんだよな…」 ぼそっと呟くキートンに向かって、何か言ったとルイズが睨む。夜も更け、そろそろ就寝の時間だ。 二人はそれぞれのベッドに潜り込み、明日に備えることにした。 「ねえ、キートン」 「ん?」 ルイズのベッドから声のみが静かな部屋に響く。 「キートンも、戦争に行ったこと。あるの?人を…その、殺した…ことは」 しばらく静かな時が部屋に流れる。ルイズは、この質問をしたいと思っていたが、なかなか決心は付かなかった。 一度、キュルケのことでキートンに言い聞かせたとき、一族の先祖代々争い、殺し合いをしてきたのだと言ったことがある。 だが、自分が召喚したキートンは、退役したとはいえ、軍人だ。軍人であった以上は、そういった経験があるかもしれないのだから。 …自分は何気なく酷い事を言ったのではないか?質問をした後で気付き、後悔する。 ルイズ自身は殺し合いなんて見たことないし、そもそもそんなものを見るなど真っ平御免だ。 しかし、自分はそういった質問をキートンにしてしまったのだから。 「――予備役でだけど、戦争に行ったな。待機命令を受けていたから、殺し合いはしなかったけど…」 「けど?」 「その戦争で、たくさんの人が傷ついた。敵も、味方も、たくさんの人が死んでいったよ」 「ごめんなさい、キートン。おやすみなさい」 「おやすみ、ルイズ」 ルイズは、誰にも知られないように、少しだけ涙を流した。 キートンからの返答は顔こそ見えないものの、声には…声には、寂しさが感じられた。怒りなどではない、ただ寂しさが。 それを感じたルイズは、余計に悲しくなったのだった。 「さて、行くかね」 大男が革の袋に何かを詰め、狭苦しい部屋から出て行く。 夜の闇に紛れ、走り去っていった。 「今日、私は行かなきゃいけない所があるから、ちゃんと留守番しててよね」 「出かけるのかい?」 実家よ、とルイズが言う。いつぞやの誘拐事件の詳細を親に話さなくてはならないらしい。 曲がりなりにも、誘拐事件である以上、両親も心配しているだろうし、至極当然であろう。 授業は特別に休むことになり、2日間程度向こうに泊り込むとか。自分も行かなくて良いのかとルイズに尋ねたところ、 「…あんた、私の家の物をいじったら、お父様に殺されるわよ。」 慌てて、ルイズを見送るキートンであった。 「ふう…。」 シエスタは料理の材料が詰まった袋を抱えながら、学院への帰路を急いでいる。 本来、こういった力仕事は他の者がするのであろうが、今日は特に忙しかったため、コック長マルトーは代役として彼女に頼んだのである。 幸い、軽いものばかりであった為、力が強いほうではないシエスタでもこうやって持ち運ぶことが出来た。 (はやく帰らなくっちゃ。親方達を待たせたらいけないわ) そう思いながら走っていると… 「きゃ!」 前から来た人物にぶつかってしまった。荷物で姿がよく見えなかったのである。幸い、材料がこぼれることは避けられた。 「す、すみません!前、よく見てなくて…」 「気になさらず」 シエスタとぶつかったのは女性だった。顔がフードで隠されているため、よく見えないものの、声からしてかなりの美人なのだろう。 「貴女は学院の人ですよね」 「え?そ、そうですけど…」 シエスタは戸惑う。ぶつかって怒られるのかと思いきや、意外な質問が続いたからである。 「キートンという男性を知っていますか?」 キートン…そう聞かれたシエスタの脳裏に、あの男性が思い浮かぶ。優しそうな雰囲気を持つ、大人の男性。 ヒラガ・キートンという方ですかと答えるシエスタに、女性は深く頷く。 「ならば、その人にこの手紙を渡してください」 そう言うと、女性はすっと一枚の手紙をシエスタに渡した。 「え、あの…!え、え…?」 シエスタは手紙を受け取った後に顔を上げる。 ――女性の姿は、既に目前から消えうせていた。 学院の図書室…キートンは本の整理を任されていた。 簡単な作業ではあるが、こういったものに従事していたロングビル(フーケ)が抜けてしまった為、急遽、暫定的にキートンが選ばれたのである。 他の教師もその功績を認めていたので目立った反対意見は無かった。 ただ、メイジにとっては簡単な作業でも、キートンにとっては意外に苦労しっぱなしであった。 特に、魔法を使わなければ高い所にある本の整理は出来ない。 なので、オスマンは特別に専用の大きな脚立を用意したのだった。 「…けっこう、疲れるな」 一通りの作業を終え、昼食へと向かう。 廊下を曲がると、キュルケ、タバサ、モンモランシーの三人と目が合ってしまい、慌てて逃げようとしたのだが、あっさりとキュルケに捕まってしまった。 毎度の如く、ルイズよりも自分の方が~などの自慢話が始まる。特に、今日はルイズが留守なのを良いことにいつも以上に迫っているようだ。 結局、三人と昼食を共にすることになり、食堂へ向おうとした所… 「キートンさーん!!」 シエスタが走ってきた。 「どうかしたかい?」 「これ、手紙なんですけど…。キートンさんにって、知らない人が」 「貴女、相手の名前を聞かなかったの?」 モンモランシーが言う。だが、手紙を渡した肝心の本人は、シエスタが名前を聞く前に姿を消してしまったのだから、仕方が無い。 それよりも、キートンは疑問に思っていた。自分に手紙を出すような外部の人間は、いないはずだが。 ――見たところ、手紙に異常は見当たらない。 「ひょっとして、ラブレターかなんかじゃないの?ね、見せてよ!」 キュルケが叫び、キートンの手から手紙を取る。あ、と言うのも無視し、手紙を開けて、文章を読み始めた。 ――――庭園32番テーブル後方のベンチ下に爆発物あり。急がれたし。 「何よ、それ」 モンモランシーが呟く。悪戯ではないのか?それにしては、あまりにも悪質すぎる。 なにせ、庭園の32番テーブルと言えば、昼の休憩時にルイズとキートンの二人がいつも休む場所だ。 「あ、あの…。私」 シエスタなどは明らかに動揺している。キュルケとタバサは念の為に調べるべきと決心し、キートンの方へと振り向いたが、 「キートン…?」 廊下を走り去っていく影が見えた。 「あった…!」 庭園の32番テーブル裏のベンチ下、見えにくい場所にソレはあった。 革製の中型のバッグ。発見が比較的早かったのもあり、周りに生徒達はあまりいないようだ。 キートンは、他のテーブルの上に置かれていた鋭利なナイフを掴み、バッグの横を切り開く。 切り開いた場所から中を見ると、確かに爆弾があった。懐中時計がコチコチと時を刻んでいる。 そこから線が伸び、装置や爆弾であろう固形物に繋がっていた。それ以前に気になったのは、この仕掛け…。 一度、見たことがある、な―――― キートンが内心驚いていると、キュルケ達も走ってきた。 「ホントに爆弾なの?」 「ああ。シエスタさん、すまないがハサミのようなものはあるかな?」 「裁縫用のなら、ありますけど…」 十分だとキートンが言うと、周りの生徒達を静かに非難させるようにキュルケらに指示する。 「キートンは、どうするの?」 「解除してみる」 「無茶よ!それに、爆弾なら、タバサのシルフィードで遠くに捨てれば…」 モンモランシーが叫ぶ。だが、キートンは首を振ると 「駄目だ。爆弾が生きている以上、手荒な扱いは絶対に出来ない。途中で炸裂でもしたら、その分犠牲者が出る。それに、君の使い魔も危ないからね」 タバサの表情が一瞬赤くなった。 「このぐらいなら、一人でも十分に解除出来る。僕は大丈夫だから、早く他の皆を避難させてくれ。ただし、慌てないように」 この顔…いつぞやの、誘拐犯達を相手にしたときのキートンと同じ顔だとキュルケは気付く。 確かに、自分達が出来ることといえば、他の生徒を避難させることぐらいだ。 無茶しないようにキートンに言うと、4人は素早く生徒達を誘導し始めた。 「あ」 ルイズが声を出す。その拍子に持っていたグラスを落としてしまった。 すぐに給仕が来ると、割れたグラスを片付ける。 「どうした?ルイズ。何か、問題でもあったかな」 ヴァリエール公爵が心配したように言うと、ルイズは笑顔で問題ないと答えた。 (気のせいよね、きっと…) この時限爆弾は遠隔操作などの装置までは取り付けられていない。つまり、子供達を避難させても犯人にはどうすることも出来ない。 目前の時限爆弾の時を刻んでいる懐中時計には長針が無い。 代わりに短針が時を刻んでいる訳だが、その短針が十二時間後…つまり、0時に差し掛かった所で電流が爆弾に届き、大爆発を起こす。 恐らく、犯人は以前から自分達の様子を見て、周到にここに設置したのだろう。 しかし、この装置を作った人間は、電流というものを知っていることになる。 何よりも、ここまで精巧な時限爆弾を操れる人間が、存在していることは、この世界にとって恐るべきことだろう。 …あの時と違うのは、この爆弾は大量に殺傷するのを目的としているということだが。 幸か不幸か、見たことがある手前、落ち着いて解除作業にかかった。 それを遠くで固唾を飲みながら見守るキュルケ達。 「……ふぅ」 時計の刻む音が止まった。続けて雷管を取り出す。 コレさえ抜いてしまえば、爆弾は死んだも同然だ。 キートンはその場で大の字になる。爆弾の解体作業をこの世界でやるとは思わなかっただけに、いざ終えると、どっと疲労が出てきた。 そんな様子を見て、避難していた生徒達が走り寄ってくる。 これの処分は、どうするかな―― 薄曇りだった空は、いつの間にか青空に変わっていた。 「なんで爆発しねえ…!」 離れた家屋の屋根に人影が一つ。望遠鏡で爆弾の様子を覗いていたドレが驚きの声を上げる。 爆弾が気付かれたことも驚きだが、何よりも、あんな若造が解除するとは! 動揺するドレの前に、もう一つの影が現れた。 「こ、これは旦那。みっともねえ所を…」 「任務はどうした?」 仮面を被っているだけに、表情は見えない。それだけに、余計に恐怖感がある。 「待ってくれ、旦那!アレが失敗するはずはねえんだ!"教本"で見た通り、"工芸品"を使った一品なんだぞ、高価な時計を使ってまでだ!アレが、頼む!もう一度だけ…」 弁解をし始めるが、目前の男は何も言わない。代わりに、杖を取り出すと、ドレの方へと向け、何かを呟く。 恐怖に染まった顔でドレが呻く。だが、それも一瞬のこと。次の瞬間、杖から眩い光が飛び出し、ドレの胸を貫いた。 悲鳴を上げることもなく、屋根から転落していくドレを見届けると、男はまた何かを呟き、姿を消した。 その日、学院は大騒ぎとなり、キートンはオスマンに呼ばれ聴取を受けた。 解除された爆弾は、コルベールの手によって、安全な場所で粉々に破壊された。 雷管などは厳重に保管されることとなり、オスマン秘蔵の貯蔵庫に収められた。 そして、シルフィードに乗ったタバサらの急報を受けたルイズがキートンのもとに怒鳴り込んでくるのは、その晩のことである。 前ページ次ページゼロのMASTER
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前ページ次ページゼロのMASTER ヴァリエールの屋敷に入る二人であったが、屋敷の内装もまた美しいものだった。整列していた使用人達が一斉に迎える。 「…予想以上に凄いね」 当然でしょ、と胸を張るルイズ。ふと、キートンが前を見ると、階段の踊り場に金髪の女性が立っている。 凛とした感じの女性である。ルイズの身内であろうか? それならば、これから暖かく彼女を迎えるのだろう……と思ったのであるが、どうやらそういったものではないらしい。 正確には、"仁王立ち"と言っても良い感じである。何故ならば、その女性は腕組みをしたまま、キートンらを睨んでいるのだから。 「あー、ああ、うん。…お姉さん?」 ルイズの耳元で囁くと、俯いたまま無言で頷く。先ほどの元気に胸を張っていた時とは打って変わり、完全に意気消沈といったところか。 恐らく、これから自分に降りかかるであろう災難を予想しているのだろう。 ──そのとき、キートンは己の背後から迫る人の気配を覚る。貴族の屋敷の中であるにもかかわらず、襲い掛かってくるつもりらしい。 すかさず、キートンは自分に向かって来た気配の主の腕を取り、地面に引き倒した。 腕を極めたのもあり、その気配の主は悲鳴を上げたのだが……。 「あ、あだだだだ!馬鹿者、何をする!放さんか!」 「父さま!」 「お父さま!!」 ルイズと金髪の女性が同時に叫ぶ。…どうやら、自分はとんでもないことをしでかしたらしい。 組み敷かれている男はずうっとキートンを睨んでおり、使用人達といえば、殺気満ちた表情で自分をぐるりと囲んでいる。 はたして、僕は生きて帰れるのだろうか…。 組み敷いたまま、キートンは俯いた。 「まあ、今回の所は特別に不問ということにしておこう。特別にな」 やや白が混じったブロンドの髪、立派な髭、豪華な衣装に身を包んだ、ルイズの父──ラ・ヴァリエール公爵が威厳に満ちた表情をしながら語る。 食堂の間にて夕食を摂っているのはラ・ヴァリエール公爵、ルイズの母であるカリーヌ・デジレ、長女エレオノール、次女カトレア、そしてルイズとキートンであった。 先ほどの一件もあり、非常に気まずい。 ルイズに向かって、「挨拶の接吻をしてくれ」などと言っているときは多少の笑顔こそ見せてはいたが、それぐらいのものである。 食事の量も、キートンの分だけあからさまに少ないのがわかる。 先ほどは、娘に声をかけようと思い、忍び寄っただけだ―― 公爵自身はそう説明するが、 (その割には、妙に殺気立っていたような気が…) 「何か言ったか?」 「いえ!」 公爵はごほん、と咳払いをする。 「大体の話は娘から聞いておる。使い魔としてそれなりに主の為に貢献してはいるようだな」 「ありがとうございます」 とりあえず、キートンは相槌を打つ。 というよりも、この場合、相手に合わせなければどうなるのかは目に見えている。 そういった場の流れを変えようとしてか、ルイズが口を挟んだ。 「あの、父さま。領内は落ち着いていますか?」 「うん?なんだ、ルイズ。前に帰ってきたときも、同じことを尋ねたではないか。…まあ、今の所は平穏だな。国境の向こうの連中もちょっかいは仕掛けて来ん。ただ…」 「ただ?」 「あの忌々しいアルビオンの方が気がかりといえば気がかりか。陛下も気にしておられるようだし、五月蝿い枢機卿も軍の再編成について口出しをして来ておる」 ヴァリエール家の当主であるヴァリエール公爵は既に軍務から退いている身ではあるが、領内の豊かな物資、兵員の動員などを目当てに軍への再復帰を願う声が宮廷内には多い。 しかし、当の公爵自身は軍への復帰は勿論のこと、娘達を戦に参加させる気は毛頭無い。 「食事中ぐらい、そういった話は後にして下さい」 カリーヌがそう言うと、公爵は黙り込む。再び、気まずい空気が流れる。ルイズにとっては場の雰囲気を変えるつもりが、藪蛇だったようだ。 (父さまったら、以前にも増してお悩みみたい。それにしても…) 『陛下』という言葉を聞き、ルイズは考え込む。トリステイン王国王女である、アンリエッタ・ド・トリステインはルイズの幼馴染ということもあり、彼女が大いに悩んでいるであろうことは容易に想像できる。 アルビオンが不穏な動きをしているというのも、その悩みの種の一つであろう。 夕食が終わり、それぞれの部屋に戻る…と、思いきや、なぜかキートンだけが公爵の私室へと呼ばれることとなった。 どうやら、二人だけで話したいことがあるらしい。 「なんだろうなぁ…」 公爵の私室の椅子に座らされたキートンが一人呟く。肝心の公爵自身はいまだに現れず、キートンのみが部屋で待機している状況だ。 ジェロームという名の執事に連れてこられたのは良いが、なんとも言えない緊迫感が漂う。 外はすっかり暗くなっており、ランプの灯がゆらゆらと揺れている。 「待たせたな」 そう思っていると、公爵が入ってきた。慌てて立ち上がろうとするキートンに対し、公爵は、そのままで良いと一言告げた。 公爵は黙ったまま椅子に座ると机からパイプを取り出し、マッチを擦る。 辺りに独特の香りが漂う。紙巻煙草とはまた違った懐かしい感じである。 「本当は、あまり吸わんのだ。妻に言われていてな」 「あの…、どのようなご用件でしょうか」 公爵はパイプを持ったまま、静かに語り始めた。 「娘だ」 (ルイズのことか…) 組み伏せたことについての説教では無いことに、キートンは内心ホッとする。 しかし、娘のこととなると…、やはり、"使い魔"ということになっている自分に聞くのが良いと公爵も思ったのだろう。 使い魔ゆえに、主人の内心も知っているだろうと考えたのである。 「知っているとは思うが、あの子は…。ルイズは、系統魔法がまだ目覚めておらぬ。ゆえに、学院で孤立していないか、気がかりでな」 「私はこちらに来てから、まだ日が浅いのですが…。彼女は、友人達ともうまくやっていると思いますが」 「思いますが、ではない!」 公爵がくわっと目を剥いて怒鳴る。あまりの剣幕にキートンは椅子から倒れそうになった。 ふうっ、と煙を吐き出すと公爵は窓辺に向かい、夜空を見上げる。 「しかし、人間の使い魔とは古今聞いたことが無いがな。よもや、娘に手を出したりなどは…」 「してませんよ!!」 キートンが慌てて反論すると、公爵は急に笑顔になった。どうやら、キートンを少しからかっていただけのようらしい。 「冗談だ。思えば、あの子の表情が以前よりも明るくなったような気がするからな。聞けば、お主も妻子がいるのだろう?」 どうやら、キートンが思っているよりも、ルイズは家族に色々と話しているようだ。 (…妻とは別れました、とは言わない方が良さそうだな) そう考えていると、公爵がキートンの方を向き、話を続ける。 「わしはな、あの子に婿をとらせようと思っておる」 「はぁ…」 「先ほどは娘達の手前、ああは言ったが…、ここ最近、国外の情勢は不安定の一途を辿っておる。我が国向けの輸送船が度々、何者かに沈められておるからな」 公爵は、また夜空を見上げると、溜め息をついた。 「仮に戦乱を始まったとしても、わしはあの子達を戦争に参加させたくはないのだ。そういったものに触れずに、生涯を送ってほしい。喜び勇んで、向かわせる親もいるが…。大抵は、陰で泣いておるのだからな」 厳しそうな人だけど、やはり根は優しいのだろう。 しかし、"婿をとる"など、あのルイズが了承するであろうか。いや、天地がひっくり返っても無いであろう。 キートンが一人考えていると、公爵は『ルイズに見合う男を既に見つけてある』と自身ありげに胸を張った。 どうやら、公爵の話からその人物は相当立派な男性らしい。 「やれやれ…」 ようやく、公爵から解放されたキートンはルイズの私室へと向かう。 部屋の指定などは、特に受けていないので、同室で寝ろということなのだろう。 しかし…、婿の件は、ルイズに話してよいものだろうか?部屋へと繋がる通路を腕組みしたまま、キートンは考える。 そもそも、こういった話は、本人の意思が重要なのだが…。 公爵の態度から、恐らく有無をいわさずに婚約させる気なのだろう。 (…ルイズが納得するかどうか) そう思いつつ、ルイズの部屋のドアをノックする。 「ルイズ、いいかい?」 返事は無い。その代わり、変な声が聞こえる。泣き声の様な、或いは呻き声の様な、そんな感じの声だ。 「ルイ…」 部屋に入ったキートンは、その有様に一瞬呆気に取られた。 食卓でも一緒だったルイズの姉であるエレオノールが、そこにいた。いたのだが…。 別に、妹と談笑している訳ではない。見れば、ルイズの頬を抓っている。漫画の様に頬を引っ張られたルイズが泣きながら姉に許しを請うており、もう一人の姉であるカトレアがそれをなだめている。 どうやら、またもや大変なときに顔を出してしまったらしい。 「あ、あの…、とりあえず乱暴は…」 「ら・ん・ぼ・う?」 エレオノールの目が光る。いや、どちらかといえば、眼鏡がキラリと光ったというべきであろうか。 迂闊だった── 仕事柄、こういった発言は非常に不味いのはよく承知しているのだが、この世界に連れて来られてから、どうにも油断していたらしい。 「平民がわたしのやることに口出ししようなんて、い~い度胸じゃないの、んんん!?これは乱暴じゃなくて、お仕置き!」 そう言いつつ、ますますルイズの頬を抓る。お仕置き…ではない、どう見ても。 凄むエレオノールの迫力はなかなかのもので、さながら女傑といったところか。公爵の話によると、エレオノールの婚約が間近らしい。それもあってか、ピリピリしているのだろう。 公爵曰く"今度こそ"だとか。 「まったく!わたしの婚約も近いというのに、おちびったら未だに魔法が碌に使えないなんて!こんなのじゃ、バーガンディ伯爵に紹介出来ないわよ!」 「はぁ…。その、素晴らしい方だそうで」 キートンが相槌を打つと、一転、エレオノールは嬉しそうに目をキラキラと光らせながら喋り始めた。 余程の激情家なのだろうか。 「そうよ、愛しのバーガンディ伯爵様…!ようやく、めぐり合えた人!今度こそ…」 聊か、ルイズから注意が離れたらしい。それを見計らってか、カトレアが泣きじゃくるルイズを連れて、部屋から出て行った。 すかさずキートンもそれに続き、部屋から去る。 「…だから、あなたもしっかりしなきゃいけないでしょ、おち…」 話しつかれたのか、エレオノールが部屋を見渡す。 静かな部屋の中で一人、残されていた。 「どうもすみません、助けて頂いて」 キートンが一礼すると、カトレアはくすくすと笑いながら答えた。 「慣れたものですから。それよりも、大丈夫?ルイズ」 カトレアがハンカチでルイズの涙を拭う。エレオノールには頭が上がらないのだろうが、このカトレアには懐いているらしい。 見た目通り、包容力のある優しい人といった感じであるカトレアは、ルイズにとっては憧れなのだろう。 (…だけど、どことなく病弱みたいな気もするな) 元気そうに振舞ってはいるが、時々咳き込むカトレアを見て、キートンは思う。 持病でも患っているのだろうか? ルイズも落ち着いたようで、カトレアと話し始めた。 今日は、カトレアの部屋で一緒に寝るらしい。 「僕はどこで寝たらいいのかな」 「納戸」 「…本気?」 ルイズはこくりと頷く。曰く、使い魔ならばそこで寝るべし。曰く、父と母に大目玉を食らっても良いのか。曰く、屋敷の使用人が殺気立っているので、刺激をしない方が良いと。 がっくりとうな垂れたキートンが部屋から出て行くと、カトレアはルイズの方を向き、またくすくすと笑い始めた。 「無理をしないで、自分の部屋で一緒に寝てあげたらいいのに」 そう言う姉に対して、ルイズは真っ赤になる。 「だって…、父さまや母さまに余計な誤解を与えたくないもの。それに…」 「それに?」 「キー…、あの人の立場が悪くなったら、嫌だから」 優しいのね、というカトレア。 「キートンさんって、わたし達とは違う世界から来たのよね?」 「うん…」 ルイズはキートンから聞いたことを話し始める。 遠く離れた人と会話したり、はるか遠方の国でも短時間で行けたり…。 "ジドウシャ"と呼ばれるもので移動したり、様々な国や、遺跡があったり…。 「凄いのね…。でも、一番驚きなのはルイズね」 「え?」 「以前と比べて、表情が明るくなったって。お父さまも言ってたから」 カトレアによると、父がそのことで喜んでいたらしい。子供の笑顔が増えることは、親にとっては何よりも喜ばしいことだろう。 だが、そんな父が娘の為に良かれと思って進めている事案をカトレアは知っていた。 「ルイズ、お父さまはね、あなたに―――」 翌朝、納戸から起きてきたキートンは、「ルイズがいなくなった」とカトレアから告げられた。 昨晩は一緒に寝たのだそうだが、起きてみると既に姿が消えていたという。 「失敗だったわ…。やっぱり、言わない方が良かったのかしら」 「何か、彼女に言ったんですか?」 カトレアが焦燥を浮かべながら話す。 「昨日、あの子に…。お父さまが婿を取らせようとしていると言ったんです。傷付けるつもりはなかったのに…。迂闊だったわ」 唇を噛むカトレア。 良かれと思って言ったつもりが、予想以上にルイズを追い詰めてしまったのではないか。 困惑するカトレアにキートンは笑顔で返した。 「私が探しに行きます。大丈夫ですよ。彼女は強い子ですから、心配は要りません」 ルイズは中庭の池を一人眺めていた。ここは、自分が『秘密の場所』と呼んでいる所…。 悲しいときには、いつもこの場所で池を見る。澄んだ色をした池は、悲しい気持ちにある自分をいつも落ち着かせてくれる。 昨晩、姉が自分に対して伝えた言葉…。 父は、自分の為にと思い、婿を取らせようと思っているのだろう。しかし、自分はまだ結婚する気など微塵もない。 まだ四系統魔法のどれかにも目覚めていないのだ。成長しないまま、誰からも認められないまま、結婚して人生を送るなど真っ平御免だ。 「ここにいたんだね」 不意に声がしたので、後ろを振り向く。そこには、バスケットケースを持ったキートンがいた。 「…本当に、あんたからは逃げられないわね」 「足跡があったんでね。朝御飯食べてないみたいだし、一緒に食べようか」 そう言いながら、ルイズの横にキートンが座る。 言われてみれば、ルイズは空腹だった。朝食も摂らずに飛び出したのだから、無理もない。 キートンから差し出されたサンドイッチを受け取り、頬張る。 「綺麗なところだね。故郷を思い出すよ」 「故郷?」 懐かしそうな目で池を眺めるキートンをルイズは見つめる。 興味が湧いたルイズは、故郷について尋ねてみることにした。 「あんたの故郷って、どんな処だったの?」 「うん…」 キートンはサンドイッチを齧りながら、遠くを見やる。 「なんというか、二つあってね。一つは母がいた国の故郷、もう一つは父がいた国の故郷。その…、僕が五歳の頃に、両親が別れてね」 「…ごめんなさい」 「いや、気にしなくてもいいよ。昔のことなんだから」 キートンの家庭は、ルイズが思っていたよりも複雑なものらしい。キートンが妻と別れたのは聞いてはいたものの、その両親まで別れたとは、さすがに予想しなかった。 「両親が別れた後、僕は母に連れられて、母方の故郷に帰った…。父は、そのまま残って事業のやり直しをすることになった」 「故郷に戻ったとき、寂しかった?」 「うーん、寂しくなかったといえば嘘になるかな。慣れない土地だし、同世代の子達ともなかなか合わなくってね」 そう言いながら、キートンは苦笑する。子供の頃から気丈で、なんでもこなす人――― 少なくとも、ルイズ自身はキートンのことをそう思っていた。 自分を悪漢の手から助けてくれたこともそうであったし、何よりも元軍人だということから、はじめから強い人物だと、そう考えていた。 だが、今の話を聴いているうちに、その考えも変わってきていた。 「卒論でDマイナーを付けられたこともあったからね」 「それって悪いの?」 「…落第点だよ」 なにそれ、と悪戯っぽく笑うルイズに対し、キートンもまた笑いながら返した。 「でも…。あの人のおかげで、僕は立ち直れた訳だから」 「あの人って誰?」 「前に言った僕の恩師。ユーリー・スコット先生だ。先生は教員用の書庫を貸して下さったんだ」 「で、成績を持ち直したんだ?」 キートンは頷く。 「思えば、あのときが一番楽しかった…。学ぶということがあれほど素晴らしく感じられたのは、あのときが初めてだった」 ルイズはキートンの言を頭に思い浮かべる。学ぶということ。"学ぶこと"が楽しいと考えたことは今までになかった。 キートンが来るまでは、ゼロゼロと嘲られ、魔法の実験では失敗ばかり。正直、学院での生活は…楽しかったのだろうか? 自信を持っては言えない。 「立派になる為に勉強するのは間違いなのかしら」 「うーん、間違いだとは言えないと思うよ。でも、それだけじゃ、なんか寂しいしね」 キートンは少し黙ると、隣にあった花を摘み、眺めながら言う。 「僕は勉強したけど、いまだに中途半端なままさ…。それでも、まだまだやりたいことがあるからね」 「文明の起源…だっけ。それの証明を目指してるのよね」 「ああ…」 「父さまから聞いたんでしょ。わたしに婿を取らせるって」 ルイズは小石を握ると、池に向かって放り投げる。ぴちょん、という音と共に石が水の中に沈み、波紋を作り上げていく。 「君のお父さんは、いい人を見つけているって言ってたけど」 「相手はわかっているわ」 溜め息をつくルイズ。 「ワルドって人よ。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」 昔を思い出す。かつて、自分はワルドと共に遊び、共に過ごした。親同士の話がトントンと進み、"けっこん"という言葉を何回も聴いたのを覚えている。 そのときはまだよく理解できなかったが、今になって突然、結婚話が持ち上がってきたのだ。 勿論、自分だって何時かは誰かと婚約をすることになるのだろう。だが、いざそう言った話が出てくると、動揺してしまう。 10年前に別れて以来、ワルドとはほとんど会っていない。勿論、好きか嫌いかで言えば、今でも好きだ。 とは言え、結婚して将来付き合っていく上での"好き"なのかと言うと、はっきりとは断言出来なかった。 「わたし、どうしたらいいのかしら」 再び、池に小石を投げる。 「残念だけど…。僕の方からは何も言えないな」 「…もう少し、気の利いたこと言いなさいよ」 こういった方面は不得意らしい。 そう思っていると、キートンが石を投げた。 石は綺麗に池の上を跳ねていく…。水切り遊びではあるが、自分はまだ一度もうまくいったことがない。 とはいえ、キートンに『教えて』というのもルイズにとっては何か癪であった。 「教えるよ。やってごらん」 そんなルイズの心を見透かしてか、キートンが笑いながら言ってきた。 少し顔を赤くしたが、言われた通りに体勢を直し、狙いを付けて石を投げてみる。 「あ」 すると、先ほどと比べ、僅かだが水面を跳ねるようになった。 (…ほんと、遊びが上手いのよね。キートンって) 自分と共に水切り遊びに興じるキートンを見ると、幾分気持ちが軽くなった。 「そろそろ戻ろうか。親御さんも心配しているだろうし」 頷くと、屋敷の方に向かおうとしたのだが――― がさっ、という音と共に茂みが揺れた。動物でも迷い込んだのだろうか? ルイズが走り寄っていくと… 「きゃ……!」 そこには少年が倒れていた。少年と言っても、見慣れない服装に身を包んでいる。 だが、ルイズよりもっと驚いているのはキートンの方だった。 少年は気絶しているようであり、キートンは彼を背負うとルイズに叫ぶ。 「部屋に連れて行く。君は薬か何かを持ってきてくれ」 そう言うと、走り去って行ってしまった。後に残されたルイズも慌てて付いていく。 少年を背中に背負いながら、キートンは一つのことを考えていた。 自分だけではなかったのだ、と。 前ページ次ページゼロのMASTER
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前ページ次ページゼロのMASTER 薄暗い森の中。深夜と言うこともあり、不気味な雰囲気が漂っている。 そこに二つの人影があった。一人は息も荒々しく、疲れているようである。 もう一人の方はと言うと、疲労している片割れを黙ったまま見つめていた。 「…なんでわたしを助けたの?あんたは誰?」 『土くれのフーケ』こと怪盗フーケは、自分を助けた謎の人物を睨む。お尋ね者である自分を助けるぐらいだ。 何らかの考えを持っていることは間違いないだろう。 「お前の力が必要だからだ。『土くれ』。――いや、マチルダとでも言った方がいいのかな」 黒マントの主が発言すると同時にフーケの眉が動く。マチルダ…マチルダ・オブ・サウスゴーダ。とっくに捨てた自分の本当の名前。 それを知っているこの男、一体何者なのか。 「答えを聞こう、『土くれ』よ。我々と共に行動するか、それとも――」 「ここで死ぬかって?」 フーケは男を睨み続ける。何をするのかは知らないが、自分には関係の無い話だ。 第一、もう貴族なんかに未練は無い。普段のフーケなら、そう叫んでいただろう。 だが… 「やるわよ」 男の口元が微かに動く。笑みを浮かべているようだ。フーケがここまで素直に反応するのが、少々意外だったのか。 「目的も何も聞かずに参加するのか、『土くれ』。お前の望みはなんだ?」 ざわざわと木立が風に揺れる。フーケは男を睨んだまま、静かに、低い声で言った。 「借りを返したい奴がいるのよ」 晴天。 学院を震撼させた事件も一応は終息し、生徒たちもいつも通りの生活を送っていた。 キートンはと言うと…オスマンに茶会の相手を申し込まれていた。 離れにあるお気に入りの場所で共に話そう、というのがオスマンからの伝言である。 伝えたのはコルベール。話によると、コルベールもまた呼ばれているらしい。 何か、あるんだろうな・・・ キートンはそう思いながらも、コルベールと共に茶会の場所へと急ぐ。 ルイズも当然のことながら、その場に居合わせていたため、キートンに対して強く注意をした。 曰く、「ヴァリエールの使い魔として失礼な行為は慎むべし」とのことだった。 どうやら、キートンの手癖の悪さにいい加減気付いてきたらしい。 「ところで、なんで私が呼ばれたんでしょう?」 キートンはコルベールに尋ねる。オスマンからは茶でも一緒に、と前に言われたことがあったが、予想よりも早く招待されたため、少し驚いていた。 「さあ…。例のフーケの話かもしれませんが。大丈夫ですよ、オールド・オスマンはお優しい方ですから、そんなに緊張なさることはありません」 コルベールはそう返しつつ、キートンと世間話をしながら歩いていった。 「おお、ここじゃ、ここじゃ」 オスマンお気に入りの庭園は見事なものだった。色とりどりの美しい花が咲き、庭園を彩っていた。 コルベールとキートンが椅子にかけると、給仕が茶を持って来た。 「まずは二人とも、招待に応じてくれてすまんな。こうやって、ゆっくりと話す機会がなかなか無いものだからのう」 オスマンは茶を飲むと、キートンの方を見る。単なる世間話をするために呼んだ…という訳でも無いようだ。 「私もいろいろとお聞きしたいことがありまして。この…手の、刻印のこととか」 オスマンは一瞬、鋭い目つきをしたが、すぐに柔和な顔に戻る。やはり、これは何かあるんだろうな…。 キートンは手の甲を見ながら思った。 のどかな風景の中、ざわざわと心地よい風が流れる。 「…以前、ルイズと話したときに、一つの国のことが気になりまして。ゲルマニアという国なんですが」 キートンが茶を飲みながら話す。オスマンとコルベールは静かにそれを聞いている。 「ゲルマニア…という言葉は、私の世界にもありまして」 「どういうことかね」 オスマンが怪訝そうに口を開く。冗談だと思った。キートンという男は、この世界の住民ではないことはわかっている。 だが、ゲルマニアという言葉がキートンの世界にもあるというのは、さすがにすぐには信じられなかった。 「正確には、ある歴史家が書いた書物の通称なのですが…。この世界の国々は他にどんなものがあるのですか?」 「アルビオン、ガリアなどがあるが…」 キートンの顔色が変わる。この世界に来てから、何かがおかしいと思っていた。ルイズという名の少女。身分の違い。ゲルマニアという国。 そして、今しがた出てきたアルビオン、ガリア。 この世界はやはり、現代との何らかの関係があるのか? 「説明してもらえるかね、キートン君」 オスマンが口を開く。このキートンという男、やはり何かを知っている。自分達が知らないことを―― キートンは重々しく語りだした。 「アルビオンは…私の世界にある国の古名です。ガリアは旧地名の一つですが」 そこまで言うと、溜め息をつく。 「正直、こうまでなると、パラレル・ワールドか何かだと思ってしまいますよ」 オスマンとコルベールは顔を見合わせる。キートンの発言は彼らからすると、理解の域を超えているものだった。奇妙な共通点。 偶然の一言で片付けるには、あまりにも出来すぎているというものだろう。 「キートンさん。そのパラ…とは、一体何ですか?」 コルベールは不思議そうにキートンに尋ねる。…心なしか、目が輝いている。 未知なるものに興味を抱いているのだろうが、コルベールが思っている以上に事態は複雑である。 まして、電気が通り、自動車が走り、近代兵器を用いて戦争を遂行する。そのような常識など、異世界ハルケギニアの人間には理解できないだろうから。 「わかりやすく言えば、一本の線が通っているとします。ですが、その線はよく見ると途中で枝分かれしていたり、複雑にからみあっています。枝分かれしているものを個々の世界…、別世界に例えれば」 「しかし、それではまるで御伽噺のようじゃが」 「……私のいた世界では、魔法は存在しませんでした。何よりも、機械が存在していましたから」 「きかい???」 キートンは、自分が知っている限りのことを二人に話した。自分の職業、家族、過去。 オスマンとコルベールは始終難しい顔をしていたが、キートンの真剣な話しぶりから、半信半疑ながらも信用することにしたのである。 怪盗フーケを追い詰めた手並みの良さから、平民とは違うことは既に理解していたが…。 「ところで、キートン君」 オスマンは咳払いをすると、キートンに話しかける。 「ミス・ツェルプストーが学園の方々に言いふらしているようなんじゃが…。君は、軍に所属していたのかね?」 「はぁ…。もう退役していますが」 「うむ。成る程、成る程。通りで、フーケの時に落ち着いておると思ったわい。一兵士とは思えんが、それなりの役に就いていたのじゃろう。先日、誘拐されたミス・ヴァリエールを君が救出したことは、わしの耳にも入っておるからの」 オスマンはそこまで言うとティーカップに手を伸ばし、茶を飲む。一息つくと、コルベールに向かって、頷いた。 コルベールもまた頷くと口を開く。 「キートンさん。実は、今週のラーグの曜日に生徒達を連れて、2リーグ先にあるエマール遺跡へと見学に行くことになっているんです。そこで、貴方は教師達の補佐に就いてもらいたいんです」 「ちょ、ちょっと待ってください」 キートンが驚いたように声をあげる。 「いきなりそう言われましても…。遺跡には興味がありますが、私はこっちの世界では資格も何もありませんし…」 「まあま、落ち着け。キートン君。実はのう…」 オスマンは溜め息をつくと、話を続ける。困った顔をしており、どうやら悩み事を抱えているらしい。 「ミス・ツェルプストーが君の事を言いふらしたのは、さっきも言った通りじゃ。それに加えて、例のフーケの大捕り物で君の名前と顔が学園中に広まっておる。生徒達の興味が君の方に向いておるんじゃよ」 「私の授業の際にも、私語が増えている有様でして…」 「うむ。興味が広まっておる以上、隠し通せるもんじゃない。そこで、今回の遺跡見学で生徒達との対話を受け持ってもらいたいのだ。そうすれば、少しは落ち着くじゃろうしな。なに、心配することは無い。報酬も払うからの」 これは、さすがに断れないか… キートンは決心する。遺跡を調べれば、元の世界に戻る方法も見つかるかも知れない。 この世界と現代とでは妙な関連性がある。そう信じずにはいられなかった。 「わかりました。やらせて頂きます」 茶会からしばらくの時間が経過した。エマール遺跡に行くことになったキートンだが、まだ質問していないことがある。 それは左手の甲にあるルーン文字だ。ルイズに召喚された際に付けられた使い魔の証…なのだそうだが、先ほど二人に話したところ、明らかに表情が変わった。 これはきっと何かがある、そう感じたキートンであったが―――。 「このルーン文字…、ガンダールヴと刻まれているようですが」 「…君は、その文字が読めるのかね?」 「一応は。先ほども言った通り、考古学を教えていましたから」 オスマンとコルベールが顔を見合わせる。二人はキートンがガンダールヴの刻印を解読出来るとは思っていなかった。 ガンダールヴが歩んだ歴史までは知らないにしても、見かけによらず博学なキートンに驚いていたのである。 「元軍人であったり、学者でもあったり。君は何者なのかね?」 オスマンは溜息混じりに言う。隣のコルベールはコルベールで興味深そうに聴いていたが。 「まぁ、よかろう。ここまで来た以上、一々隠しておっても仕方が無かろうしな。君には知る権利があるだろう」 そこまで言うと、オスマンは静かに語り始める。 ガンダールヴとは過去に現れた偉大な英雄。始祖と呼ばれる存在が用いたといわれる伝説の使い魔。 その実力は千人の敵をも軽く殲滅したと言われるもの。 「冗談でしょう」 キートンが声をあげる。いくらなんでも、そんな化け物みたいなものがいる訳が無い。 少なくとも、現代にはそんな人間の規格外のモノがいるはずが無いのだ。 まして、そのガンダールヴに刻まれていたというルーン文字が、自分に刻まれたなど。ガンダールヴという存在は、北欧神話の中だけのはずだ。 「我々も君が本物のガンダールヴだとはさすがに思ってはおらんよ。本物が目の前にいたら、それだけで震えが来るじゃろうしな。だが、万が一ということが…」 「ルイズを誘拐犯から救出したのも、フーケの時も軍隊時代の経験ですよ。英雄の再来だなんて」 「まあまあ、落ち着け落ち着け。ガンダールヴがどうとかと言って、別に君の待遇を変える積もりは無いし、他の連中に言いふらすという訳では無い。それに、君は元の世界に帰りたいのだろ?」 オスマンがそこまで言うと、キートンは下を向く。 「…私には家族がいるんです。父と母がいますし、娘も…。大切な友人も、向こうに、私の世界にいるんです。ただ―――」 「ただ?」 「あの子を…ルイズを、放っておけないと言いますか。そういったのもあるんです。彼女は意地っ張りで、強気で、それに少し、恐いところがありますが…」 キートンが顔を上げる。 「本当は、とても優しい子です。誘拐犯にさらわれた時でも、私の身の心配をしてくれましたから」 オスマンとコルベールは、やはり、自分達の目が間違っていなかったことを確信した。 ガンダールヴ云々以前に、この人物に任せても、問題は無いだろう。 「では、今日はここまでにしておこうか。二人とも、長々と話をしてすまなかったな。キートン君、では、遺跡の件は宜しく頼むよ」 オスマンはそう言うと、席から立ち上がり、さっさと帰ってしまった。コルベールもまた、残っている仕事があるらしく、キートンに一礼すると、去って行った。 「遺跡か……」 後に残されたキートンは一人呟く。自分が元の世界に戻る為の手がかりが少しでも見つかれば良いのだが―――。 今は、それに賭けるしかない。 「何の話だったの?」 昼食を終えたルイズがキートンに話しかける。どんな理由でキートンが呼ばれたのか、知りたいらしい。 「エマール遺跡って知ってるかい?」 「ここから少し離れた所にある小さな遺跡じゃない。なんで、あんたが知ってるの?」 「今度、その遺跡に皆が行くことになったらしい。僕には、引率みたいな事をしてくれって、学院長に依頼されてね」 ルイズが驚く。この声を例のキュルケ、タバサの二人が聞きつけたらしく、すぐに近付いてきた。 キュルケはすかさず、キートンの腕にまとわりつく。 「な・ん・の・は・な・ししてるの?お二人さん」 「ちょっと!誰の許可得て、人の使い魔にくっついてんのよ!」 「別にいいじゃない。減るもんじゃなし。それよりも、何の話よ」 「あ、ああ。実は、今度…」 キートン、とルイズが叫ぶ。どうやら、キュルケがキートンとくっつくのが余程に気に入らないらしい。 キュルケもそのことを当然自覚している為、わざとくっつくのである。 二人がいがみ合うのを見て、遺跡の見学が予想以上に大変になりそうなのは、火を見るよりも明らかだろう。 キートンは、少し気が重くなった。タバサはそんなキートンを察してか、一言。 「頑張って」 慌てて振り向いて、彼女の顔を見る。心なしか、笑っているように見えた。 「お呼びですかい」 真っ暗闇の小部屋の中に一人の大男が入ってくる。一目見ただけで、凶悪な性格なのだろうと思えるその顔。 首筋には巨大な傷の跡があり、片目は潰れているのか、眼帯を付けている。 大男はどっかと椅子に座ると、ワインをぐっと飲み干して、目の前にいる黒マントの男に話しかける。 「別に世間話がしたくて呼んだ訳じゃないんでしょう、旦那。今度の仕事はなんで?」 「お前は優秀な殺し屋だそうだな?」 大男は、大口を開けて笑うと、目の前の男を見る。 「当たり前でしょう。仕事してからは、長いんでね。このドレは頼まれたら、何だってやりますよ」 「ならば、一人の男を始末してこい、ドレ。詳細はそこの女に聞け」 そう言うと、黒マントの男はテーブルに金貨の詰まった袋を置き、さっさと部屋から出て行った。 前ページ次ページゼロのMASTER
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リング(指輪) 名前 AC 安全圏 能力 ブラックオパール リング 0 0 MR+3 ハデス リング -2 0 HPR-2 MPR-2 怨恨の指輪 0 0 STR+2 INT+1 HP-75 MP-50 MPR-10 フォースエレメンタル リング 0 0 全属性+10 マジックサファイア リング 0 0 HPR+3 MPR+3 MR+10 石化+5 スケアクロウ リング 0 0 STR+1 DEX+1 INT+1 CHA+1 ダンテ リング -5 0 HP+50 MP+50 全属性+10