約 139,844 件
https://w.atwiki.jp/game_rowa/pages/101.html
「ねえシルビア。アナタ、元の世界のナカマを探すって言ってたわよね。」 ハテノ村の工務店の長、サクラダは傍らの男に問いかける。 「ええ、そうよ。」 対するシルビアは最初の会場で見た仲間、カミュの姿を想起していた。 ウルノーガの目的を想像する限りでは、呼ばれているのがカミュと自分だけであるはずがない。 シルビアのすぐ近くにはイシの村があったため、おそらく仲間の誰もが目指すであろうその場所を目的地として設定することはシルビアにとって自然なことであった。 「どうして北に迷わず向かっているのか、理由があれば教えてくれるかしら?」 しかし当然、サクラダにとってはそうではない。 サクラダに行きたい場所があるわけではないので、異論があるわけでもないのだが、ここは行く方向ひとつで命の危険に晒されるかどうかが変わりかねない舞台でもある。 理由があれば聞いておきたい程度の理由だ。 「北にはイシの村ってとこがあるでしょ?そこ、アタシの知ってる村なのよ。」 「アラ、それは幸運ね。」 シルビアの答えは、ある意味ではサクラダの期待以上だった。 ここでのサクラダの期待とは、殺し合いの場で隠れられる場所や敵の潜みそうな場所を把握出来るということは圧倒的なアドバンテージとなる……などということではない。 「建物は悪趣味なのかしら?」 サクラダにとって重要なのは、そこで大工としての腕を振るえるかどうかだけである。 これから建物を見に行くのに、あらかじめ改装の余地があるのかどうかをシルビアに聞けること、それを指して幸運と言ったのだった。 「そうねぇ……その村、前に悪いヤツらに滅ぼされちゃったのを復興したばかりなのよね。もしかしたら間に合わせの補修しかしてないかもしれないわね。」 シルビアの言葉を聞き、サクラダは腕を鳴らす。 自らの手で村ひとつを復興させるとなれば、サクラダ工務店創業以来の大仕事だ。 イチカラ村の復興に向かったエノキダも、正直羨ましいとさえ思っていたほどだ。ハテノ村での仕事が溜まっていなかったとしたら、サクラダは喜んでイチカラ村に飛んで行っただろう。 期待に胸を膨らませ、早く行きましょとシルビアの背中を押す。 「ちょっと、押さないでよお。」 「いいからいいから♪」 シルビアから見てもサクラダは大工という仕事を心から楽しんでいることが分かる。いわゆる『天職』というものだろう。 (天職……ね……) 自分で思い浮かべた言葉ながら、シルビアは微妙な表情を浮かべる。 シルビアとしては、旅芸人という道は自分の天職であったと思っている。 だがそこには間違いなく、騎士としての道を勧める父への反論としての意味合いが少なからず含まれているのだ。 彼と和解した今となってもなお、それは変わらない。かつて大喧嘩した父への反抗心は心の底にずっと燻り続けている。 (と、らしくないわね。旅芸人は皆を笑顔にするのが生業なのに、アタシがこんなカオしてちゃあダメよね。) 「シルビア、どうしたのかしら?」 浮かない様子のシルビアを見て、サクラダが語りかける。 「ううん、なんでもないわ。」 そう言うとそのまま、2人はイシの村へと進み始める。 この世界でも皆を笑顔にする、それがシルビアの志す旅芸人としての方針だ。 そのためにも、サクラダのような者は必要なのだとシルビアは思う。建物を綺麗にして環境を整えることでこの殺し合いの雰囲気を打破する。魔物の脅威に晒され、暗い雰囲気に包まれる中で敢えて明るいパレードを開くことで笑顔を取り戻そうとした自分の行いとも重なる行いだ。 是非ともイシの村の再建に着手し、殺し合いの雰囲気さえ壊せるような環境を作ってほしい。 一方サクラダも、彼なりの決意がある。 サクラダのバックパックの中にある1本のハンマー。自らもよく知る、エノキダのハンマーだ。 こんな殺し合いに巻き込まれたことで彼と二度と会えないかもしれなくなったことは不本意だが、せめて彼のタマシイを胸に持とう。 少なくともこの時はまだ、そう思っていた。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 魔王は、オトモの同行に対してどうするか考えを巡らせていた。 まずは認めよう。自分はオトモが猫であるという理由だけで殺すのを躊躇している。 自分がどこへ行こうとも寄ってくるその姿から、昔から可愛がっていた愛猫アラファトを想起させられるからだ。 だが目的がゲームの優勝である以上、どこかでオトモを殺す必要はある。それもまた事実として認めなくてはならない。 次に、これもまた認めよう。 これは危険な兆候であると。 相手が猫であるという理由だけで、自分は他者に情けをかけた『実績』が出来てしまった。 一度心に生じた迷いを次は覆せるという保証は無い。 次に出会う人物が、オトモと同じように戦意が無かった場合は尚更だ。 そして、これも認めなくてはならない。 自分は既に、グレン(カエル)との一騎打ちの地点で奴らに情けをかけた『実績』があるのだと。 『──今ここでやるか……?』 あの時自分は、死者であるクロノ、さらには彼の友人であるサイラスをも貶してグレンの怒りを煽った。 その効果は絶大だったらしく、質問の形をした簡単な挑発にもグレンは乗ってきた。 しかしあの質問に対してグレンが首を横に振っていた場合、自分はどう振る舞っていただろうか。 やもすれば、彼らの仲間として共にラヴォスと──── (──どの口が言うのだろうな、まったく) 有り得ない未来を振り払うように、魔王は首を横に振る。 つまり、だ。 圧倒的な魔力を持つ魔王として中世を恐怖で支配していたあの頃の自分は次第に薄れていっているのだ。 事実、あの決闘の場でグレンを殺すという発想は湧かなかった上に、ここでも問題の先送りと分かっていながらもオトモを殺せずにいる。 だとしたら、自分を変えたのは過去を改変し続けてきた彼らにほかならない。 自分が古代の時代で討たれたことも相まって、面白い皮肉だとすら思う。 話を戻そう。 とりあえずオトモを殺せないのはまだ良い。 積極的に戦闘をしないオトモは生かしておいても毒にはならなさそうだ。 だがオトモの旦那様とやらを探すとなると話は別だ。 その者がオトモと同じく対主催のスタンスを取るのなら、オトモを殺す時も"旦那様"を殺す時も面倒なことになる。それどころか、オトモと"旦那様"を中心に対主催集団が形成されてもおかしくはない。そうなると最終的に優勝を狙う際に面倒なことになる。 また、仮に"旦那様"がステルスマーダーのスタンスであれば、オトモと仲間のフリをすることは容易なのだから、簡単に自分たちに紛れ込めるということだ。 つまり結論はひとつ。 遅くとも"旦那様"と出会う前にはオトモを殺し──── (──ん?) ここでひとつ、魔王の脳裏に引っかかったことがある。 「オトモ、お前は言ったな。旦那様がこの殺し合いに巻き込まれているかもしれないと。」 「うん……最初の会場にそれらしい後ろ姿を見たのニャ。」 「最初の会場……」 魔王は最初の会場では、自分が生きていることに戸惑っており、周りの様子を深く観察してはいなかったため、知り合いの姿を見つけることは無かった。 (つまりこの殺し合いの参加者は、無作為に選ばれたのではなくある程度の関係者が呼ばれていることもあるということか……?) そんなことを考えている時だった。オトモがいつの間にか装備している"それ"を目にしたのは。 「ちょっと待て、オトモ……。その胸に付けているそれは………」 「おっ気付いたかニャ?さっき魔王の旦那から隠れている時に不覚にも落としてしまったバッジニャ。今度は落とさないようにしっかり────」 「貸せッ!」 「ああっ!何するニャ!」 オトモが喋り終わる前にその「バッジ」を奪い取る。 (間違いない、これは────) そこにあったのは、魔王もよく知るアイテムであった。 『勇者バッジ』 勇者に送られる、聖剣グランドリオンの性能を上げるバッジだ。 かつては自分が殺した男、サイラスが身につけていたものであるが、色々とあってサイラスの死後は聖剣と共にグレンが引き継いでいるはず。 何故これがこんなところに……? その理由は想像出来る。 勇者バッジはグランドリオンとセットで初めて効果を発揮する。勇者バッジがあるのであればグランドリオンもどこかにあるのだろう。 そしてグランドリオンと勇者バッジを扱えるのは、少なくとも魔王が知る限り1人しかいない。 「アイツも………否、もしかしたらアイツらも………この世界に居るというのか………?」 魔王の脳内に過ぎった最悪の仮説。 自分だけではなく、グレンやその仲間たちも招かれているのではないか。 もしもこの仮説が正しいのだとしたら、優勝狙いという魔王のスタンスは危険だ。 彼らからクロノが欠けているからこそ自分は優勝してクロノを蘇らせようとしていた。 だがその優勝の条件にクロノの仲間たち全員を殺すのであれば本末転倒だ。 クロノには彼らをまとめあげられるだけのリーダーシップがある。決して、彼の強さは彼のみで成り立つものでは無いのだから。 また、グレンの装備が支給されているということは自分の装備品も誰かに支給されていてもおかしくはない。命よりも大切な、姉のくれた御守り。あれも他の誰かに支給されているかもしれないのだ。 誰が身につけているかも知らないサラのお守りを魔法で攻撃して破壊してしまったとしたら……… 魔王はため息をつく。 この殺し合い、どうやらただ殺せばいいというものでもないらしい。 そして目の前のオトモに目を配った。 悔しいが、オトモの存在はためになったと言わざるを得ない。 自分以外の全員が敵であるはずの世界で、他者との情報交換によって得られるものがあるとは思っていなかった。 (何にせよ、情報が足りなさ過ぎる。まだ動くには危険、か……。) マナは定時放送があると説明していた。 死者の名前を発表するとのことだったが、それはこの催しの参加者を知る手がかりとなる。 (せめて放送のときを待つか……。グレン、よもや貴様がすぐに死ぬとは思わんが、知る者の名が呼ばれる可能性はある……。) 「魔王の旦那ぁー、返してニャー!」 気が付くと足元で、勇者バッジを取り返そうとオトモがぴょんぴょん飛び跳ねている。 そんなオトモに対し、魔王は勇者バッジをオトモに届かないようにひょいと持ち上げる。 「ああっひどい、ひどいニャ魔王の旦那ァ!」 涙目になりながら魔王に対して文句を言うオトモ。 そんな彼を見下ろしながら、魔王は言う。 「まあ聞け、これは単体では役に立たん。用途を知っている私が持つ方が良いだろう。」 「えーと、それなら、確かに……?」 オトモはどこか不安な様子を隠せない。 魔王の理屈には納得していても、殺し合いの世界で貴重な支給品を失うことは不安なようだ。 「……これを使え。」 ため息と共に、魔王はバックパックの中から自分に支給された武器をオトモに渡す。 『七宝のナイフ』と言うらしいその武器は名前の通り短剣の形をしており、オトモの体のサイズでも充分扱える武器である。 「ま、魔王の旦那ァ……!」 「まあ、そのリーチの武器は私は苦手だからな。それに──」 「……それに、何にゃ?」 「いや、何でもない。」 それに、オトモには有力な情報を貰った。そう口にするのは癪だったため、その先は言わなかった。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 奇妙な光景──魔王が次に見た光景を言い表すのなら、その一言に尽きるものであった。 真っ先に魔王は思う。立ち去りたい、と。 魔王の眼前では、大人の男2人があたかも子供の『電車ごっこ』を想起させるような振る舞いで早歩きしていたのだった。 (た、立ち去りたい……!) 心から、本当に心からそう思う。 だが当然そうもいかない。 オトモとの情報交換が思わず役に立ったのと同様に、有力な情報を誰が握っているのか分かったものではない。 また、サラのお守りをこの2人のどちらかが所持している可能性も捨てきれない。 深い溜め息と共に、魔王は2人の男の眼前に立ち塞がる。 「「あら。」」 魔王は未だ迷っていた。 オトモの持っていた勇者バッジからグレンがこの殺し合いに参加している可能性を見出した。それが真実か偽りかによって、この殺し合いに乗るべきかどうかに関わってくる。 まだ魔王のスタンスは完全には確定していないのである。 「……私の名前はジャキ。かつて魔王と呼ばれた男だ。」 仮にこの世界に魔王のことを知る者が呼ばれているのであれば、その者が生きていようが死んでいようが、安易に皆殺しのスタンスを貫くわけにはいかなくなる。 つまり対主催の立場に転じる場合は、自分の過去の行いを知る者がこの世界にいるということだ。 よって、魔王の2つ名も晒すことに決めた。 魔王の悪名は他人と協力関係を築く時に大きな障害となることは承知の上だが、グレン達と共にこの世界の脱出を目指す場合に悪名を隠していたことが発覚するのは困る。 自分の悪行を知る者が誰も呼ばれていないと分かった時というのは、つまり皆殺しを始める時なのだから悪名を知られていようがいまいが関係ない。せいぜい不意打ちがしにくくなる程度だ。 「魔王とはまた大層な名前が出てきたじゃない。アタシはシルビア。こっちはサクラダちゃんよ。それで、私たちとの接触の目的は何かしら?」 それを聞いた2人の内の1人、シルビアが気にするのは当然、魔王の名。かのウルノーガも名乗っていた称号であり第一印象は決して良くはない。 「情報が欲しいのだ。この殺し合いの舞台に知り合いが巻き込まれていることを危惧している。」 「ボクの旦那様を探してくれてるのニャ!」 オトモは魔王の真意も知らず、旦那様ことハンターを探してもらっていると勘違いしている。 だが猫(に見えなくもない生物)と行動を共にしており、知り合い探しに協力的になっているところを見るに、根っからの悪ではないのだろうとシルビアもサクラダも推察する。 「とりあえず、ここに来る前の話も含めて全員で情報交換しない?きっと有意義になると思うのだけど。」 そう提案したのはサクラダだ。 彼はシルビアや魔王、さらにはオトモアイルーやニャンターとして大型モンスターの狩猟を行っているオトモとも違って戦いとは完全に無縁な日々を送っていた。 殺し合いの世界に送り込まれたことによる精神的な疲弊は他の2人と1匹よりも大きい。 そして彼は大工の頭領として一般成人男性以上の体力は兼ね備えているものの、つい先程家一軒を建て直すという肉体労働を終えたばかり。 普段であれば、仕事が終わればすぐ火の傍に座り込んで休息をとるが、この世界ではロクに休息も取っていない。 早い話が、サクラダは少し休む時間が欲しかったのである。冒険を経験していないサクラダは元の世界について語る量も少ないため、基本的に聞き手に回り続けることもできる。 「さ、さ、みんな座って座って。話は腰を下ろしてからよ。」 「……良いだろう。」 「それなら最初にジャキちゃん、喋ってもらえるかしら?」 唐突に、シルビアが提案する。 どの道全員が喋ることになるのなら順番など大した問題ではないはず。話の流れを作るため自分の最初を申し出ることは時にあるが、他人に──ましてや初対面の相手に押し付ける狙いは何なのか。サクラダもオトモも疑問符を浮かべているが、特に反対はしない。 (嘘を考える暇を与えない、か……。この男、食えん奴だ。) 一方、魔王だけはその目的を察する。シルビアは自分を相応に警戒しており、それを隠すつもりも無いようだ。 魔王の頭の回転の速さであれば特に考える時間は無くとも整合性の取れた嘘八百を考え付くことは出来るし、シルビアもその点について魔王を過小評価はしていない。 要するにシルビアの発言は、魔王のみに自分の警戒心を伝えるためのサインに過ぎないのである。 「いいだろう、話してやろう。偽り無く、な。」 シルビアの発言の意図を汲み取ったことを暗示しながらも、魔王は喋り始めた。 古代におけるラヴォスとの因縁。 流れ着いた中世での魔王としての悪行。 再び流れ着いた古代でグレンと決闘し、敗れて死んだこと。 ここまでの流れに嘘偽りはひとつも無い。 ただしクロノの死だけは黙っておいた。クロノの蘇生のために殺し合いに乗ろうとしていることを想像できる余地を残したくなかったためだ。 「私は既に死んだ身だ。ラヴォスの討伐や姉の救出は奴らに託した。今更生き返ろうとは思わないし、こんな催しに乗る気は無い。」 これも、ほとんどが真実である。 自身でラヴォスを討伐することに執着は無く、姉の救出も含めて彼らに任せられると思っている。ただしそれはクロノが生きていればの話だ。 つまりクロノの死という情報を提示しない限り、動機面から魔王の嘘を暴くことはできないのである。 「なるほど、面白い情報を聞いたわ。じゃあ次はアタシが話すわね。」 魔王に最初に喋らせたこともあって、シルビアが2番目に喋り始める。 シルビアの話の中で全員を驚かせたのは、この殺し合いの主催者と元の世界からの関わりがあったということだった。 しかし魔王にとって重要な情報はそれだけではなかった。 「ところで最初の会場でマナに最初に反抗した子、いたでしょ?あの子、アタシの知り合いなの。」 「なっ……!」 オトモの旦那様とやらがいる可能性は既に示唆されていたが、それはまだ確定情報では無かった。 だがシルビアによって、この世界には元の世界の関係者も招かれ得るという事実がハッキリしたのだ。 (これは……本格的にグレン達と脱出のために動くことも考えなくてはならんな……。) その後、サクラダが自分の世界について話した。 主にひとつの村しか行動範囲に無かったようなので情報の幅自体が狭かったのだが、この世界の地図にある『ハイラル城』がサクラダの世界にあったはずの場所であるという情報は心に留めておいた。 オトモの話も、旦那様の武勇伝を語られただけで特に新しい発見は見当たらない。 全員が話し終えたことで、ようやく魔王が動く。 「さて、ここでお前たちの支給品を見せてはもらえないだろうか?」 「いいケド……一応理由は聞くわ。」 「私の持っているこのバッジ。先ほど話したグレンという男の所有物だ。私は彼もこの殺し合いに参加しているのではないかと思っている。」 「えっ……ってことは……」 魔王の発言にサクラダが口を挟む。彼のバックパックには彼の弟子、エノキダのハンマーが入っていたからだ。 「エノキダもここに連れてこられているっていうの!?」 「……そういえば、その可能性は高いわね。」 その反応を見て、知り合いの持ち物が支給されていたのだろうと魔王は察する。 「それならハイラル城を目指すのはどうかしら。知っている場所がそこしか無いなら、もしかしたらエノキダちゃんもそこを目指すかもしれないわ。」 「それは嬉しいけど……イシの村は目指さなくていいの?」 「アタシの仲間は全員強いから急いで合流しなくても大丈夫よ。……ところで、支給品を見せるって話だったわね。」 シルビアは支給品は全て装備していたため、それらを魔王に見せる。サクラダはバックパックの中から支給品を取り出して見せた。 ただしその中に、魔王の知るものはひとつもなかった。 「感謝する。それでは。」 「待ちなさい、アナタも来るのよ。」 立ち去ろうとする魔王を引き止め、シルビアが言う。 「……何故私がお前たちの仲間探しに付き合わねばならん?」 「アナタが何か隠しているかもしれないから……かしら?」 殺し合いに乗ろうとしていることがバレているのか、と魔王は案ずる。だがクロノの死を伝えていない以上、核心に迫ることは無いはずだ。 「馬鹿馬鹿しい。何なら力づくで我が道を決めてもいいのだぞ?」 「ええ、その場合も受けて立つわ。」 魔力を溜めて武力行使をチラつかせてもシルビアは引かない。 ピリピリとした雰囲気に、サクラダとオトモは後ずさりを始める。 「アタシ達はね、アンタ以上の"魔王"に一度騙されているの。その代償に失ったものは決して小さくなかったわ。」 シルビアは聖地ラムダで"再会"したベロニカのことを思い出す。 パーティー全員の心に深い傷を残し、みんなの笑顔に深い闇を落としたあの出来事を、二度と繰り返してはいけないとその時シルビアは思った。 魔王の話の中から決定的な嘘は見つからなかったが、魔王の話し方や様子から伺えるラヴォスと姉のサラに対する執着は決して小さくはなかった。 魔王を見逃した場合、誰かが犠牲になるかもしれない。 そして現在イシの村の近くにいることから、魔王はイシの村を目指しているであろう仲間と接触する可能性が高い。 「だからアナタはアタシが監視する。アナタは相当強そうだけども……アタシだって刺し違えるくらいの力はあるわ。黙ってついてくるのとここで戦うの、どっちが有益か考えてご覧なさい?」 暫しの間、空気が凍りついた。 確かに魔王としても、グレン達の居場所にアテがあるわけではない。強いて言うなら地図に書いてある『北の廃墟』が自分の世界の由来の地である可能性はあるが、固有名詞ではないため断定は出来ないし、ハイラル城を目指すのなら方角は同じである。 ここで戦うのとどちらが得か……そんなもの、考えるまでもなかった。 「……仕方ない、か。」 ため息と共に魔力を引っ込める。 過去の悪行を話した時からある程度の警戒を受ける覚悟は出来ていたが、ここまで自分の行動を遮るとは思っていなかった。 「魔王の旦那ー!何事も無く収まって良かったニャー!」 オトモが泣きながら魔王の足にしがみつく。どうやら、魔王の憂鬱はもう少し続きそうである。 「シルビアちゃん……押しが強いのね、アタシ、関心しちゃった。」 「……イイコト教えてあげるわ。旅芸人ってのはね、脇役なの。主役は笑顔になる人々なのよ。彼らの笑顔を守るためなら、アタシは何でもするわ。」 ウルノーガとの戦いでも、シルビアは脇役に徹していた。 16年前にユグノア王国を巡るウルノーガとの戦いが始まっていたイレブン、マルティナ、ロウ。 家族や友人が大なり小なり危害を受けたカミュ、セーニャ、グレイグ。 彼らと比べ、自分とウルノーガに直接的な宿命は無い。 ただ人々を笑顔にするという自分の心情と衝突するからウルノーガと対立しているに過ぎない。 だからこそ、シルビアはムードメーカーになれたのだ。 自分の宿命が軽いからこそ、感情的になることなくパーティーを支えられる。 そしてそれはここでも同じだ。 主役の座など彼らに譲ろう。 自分はただ、主役への危険因子を人知れず遠ざけるだけの脇役で構わない。 それが、旅芸人シルビアの生き方なのだから。 【B-1/一日目 黎明】 【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】 [状態]:健康 [装備]:青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7 [道具]:基本支給品、 基本行動方針:ハイラル城を目指す 1.サクラダを守る 2.ウルノーガを撃破する。 3.魔王を監視する ※魔王ウルノーガ撃破後、聖地ラムダで仲間と集まる前の参戦です。 【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】 [状態]:健康 [装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド [道具]:基本支給品 チェーンソー@FF7 余った薪の束×3 [思考・状況] 基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。 1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。 ※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。 【魔王@クロノ・トリガー】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー [思考・状況] 基本行動方針:優勝し、クロノを生き返らせる……つもりなのだが…… 1.グレン(カエル)も参加しているのか……? 2.シルビア……食えない男だ。 ※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。 ※クロノ・トリガーの他キャラの参戦を把握していません。クロノは元の世界で死んだままであるかもしれないと思っています。 【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】 [状態]:健康 [装備]: 七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み) [思考・状況] 基本行動方針:魔王に着いていく。 1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ? 2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。 ※人の話を聞かないタイプ 【支給品紹介】 【勇者バッジ@クロノ・トリガー】 グランドリオンのクリティカル率を上げるアクセサリー。元の世界でのカエルと魔王の一騎打ちの時も、カエルが装備していた。 【七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】 英傑ウルボザの使っていたナイフ。生前のウルボザはこのナイフと七宝の盾を用いて、まるで踊るように戦っていたと言われている。 Back← 048 →Next 046 Day of the future 時系列順 052 ささやかなふれあい 047 優しいだけじゃな守れないものがある 投下順 049 金と銀のカギ 019 幸せを呼ぶナカマ サクラダ 063 魔力と科学の真価 シルビア 020 魔王決戦、その果てに 魔王 オトモ
https://w.atwiki.jp/yakotan/
ここはヤコの新しいブログですw 以前のブログは消しちゃいました(●´ω`●)ゞ 今度からはここのブログで∩( ´∀`)∩ドウゾ (っ´∀`)っ))ヨロシク
https://w.atwiki.jp/llnj_ss/pages/245.html
元スレURL あなた「栞子ちゃんの葛藤」 概要 虹ヶ咲の練習に合流した栞子の内面は… タグ ^三船栞子 ^あなた ^虹ヶ咲 ^短編 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/churuyakofu/pages/245.html
前の話へ 【彼女の葛藤】後日談 霖之助とめでたく結ばれて以来、紫は香霖堂に生活の場を移すことになった。 これから記すのは、2人の幸せな日常の一幕である。 朝、霖之助はいつもどおりの時間に起床した。その傍らでは紫が霖之助の腕を抱きしめ、安らかな寝息を立てている。 紫と暮らすようになって以来、布団は2人用の大きなものを購入し、毎晩こうして仲良く寄り添って眠っている。 霖之助は紫を起こさぬようそっと腕を抜き取ると、艶やかな金髪に手を滑らせ、額に軽く口付けた。 振られたり立ち直ったり一芝居打ったりする間にどうも感覚がずれたらしく、今ではこういうことも恥ずかしげもなくできるようになってしまった。 着替えて顔を洗った霖之助は朝食の支度を始める。 そろそろ完成という頃合になって寝室に戻ると、まだ半分眠っている紫は目を閉じたまま、 「ん~……」 と切なそうな声を上げ、霖之助が眠っていたあたりを手で擦ったり叩いたりしている。 起きた瞬間霖之助がそばにいないのが寂しかったようだ。 そんな紫の様子に苦笑しつつ、もぞもぞしている紫の体に手をかけて上半身を起こす。 それでもぼや~っとしている紫の顔を真っ直ぐ見つめ、朝の挨拶を告げた。 「おはよう、紫」 紫はしばらく眠い目を瞬いていたかと思えば、もそもそと霖之助の首に手を回して抱きついてきた。 そんな紫の背中をさすりつつ、朝食が出来たことを伝える。 「紫、朝ごはんが出来たから起きてくれないか」 「いやぁ~、もっとこうしてるぅ~」 寝起きだからかやたらと甘えてくる紫が微笑ましいが、折角作った朝食を冷ますのも勿体無い。 「ちょっと失礼……よっと」 しがみついて離れない紫の背中と膝の裏に手を回し、いわゆるお姫様抱っこで居間へと運ぶ。 座布団の上に降ろそうとするものの、紫はいまだに離れようとしない。 「紫、御飯が冷めてしまうよ」 「……まだ離れたくないんだもん」 「やれやれ、全く仕方ないな」 ちっとも仕方なさそうに見えない霖之助は、そのまま胡坐をかいて紫を横向きに抱く格好を取った。 紫は霖之助の腕と胸に支えられ、何とか座っている状態だ。 「ん」 目を閉じて口を開ける紫。迷いがないところを見ると、こんなことを割りと頻繁にやっているらしい。 霖之助はさながら小鳥に餌をやる親鳥のように、朝食を紫の口に運んでやった。 最初の一口で紫の目はほぼ完全に覚めているのだが、二人ともやめる気配は微塵もない。 紫は満面の笑みを浮かべて愛する人の手料理を食べさせてもらい続けた。 朝食を全て食べさせてもらうと、今度は紫が箸を取って霖之助の口に料理を運ぶ。もちろん霖之助の上に座ったまま。 「「ご馳走様でした」」 「それじゃあ、僕は食器を片付けてくるよ」 「ええ、よろしくね霖之助さん」 チュッと軽いキスを交わし、霖之助は食器の片付けに台所へ、紫は着替えや洗顔などの身繕いを済ませに別れた。 霖之助は片づけが終わると開店準備を始め、紫はエプロンをきて掃除に取り掛かる。 朝の様子とは打って変わり、今度は紫が霖之助の世話を焼いていた。 掃除が終わったかと思えばお茶と茶菓子をそっと置き、霖之助の目が疲れる頃を見計らっておしぼりを渡す(目に当てると非常に効きます。念のため)。 さらには洗濯ものなどを干しつつ、1時間に一度は霖之助のそばに来て肩をもんだりお茶を入れ替える。 そして大体午前11時頃になると、紫は包みを1つ拵えて霖之助に渡した。 「それじゃあ、結界の点検に行ってくるわね。はい、お弁当。 夕方には帰るけど、晩御飯は何か食べたいものはある?」 「別になんだって構わないよ」 そっけない言葉に困ったような笑みを浮かべ、紫は霖之助に近づく。 その頬を両手で掴み、おでことおでこをコツッとぶつけた。 「もう、そういうのが一番困るっていつも言ってるじゃない」 「僕もいつも言っているが、君の作る料理に優劣なんか付けられないよ。どれも最高さ」 鼻がつくほどの近さにある紫の顔を見つめて言い返すと、霖之助は本を置いて紫の背中に手を回し、その体をグッと引き寄せた。 「んんっ」 霖之助の舌に口内を蹂躙され、紫はわずかに悲鳴を上げたが、がっちりと霖之助に掴まれているので逃れられない。 もちろん逃れる気などないが。 たっぷり数分間そうした後、やっと霖之助は紫を解放した。紫の頬は薄っすら上気し、目は潤んでいる。 「いきなりなんて随分ひどいんじゃない?」 「夕方まで君にあえないんだ。こうでもしておかないと寂しくて死んでしまうよ」 「それは大変ね。じゃあもっとしておこうかしら」 今度は紫のほうが霖之助を抱き寄せる。 結局、紫が香霖堂から出て行ったのはさらに十数分が経過してからのことだった。 夕刻。 霖之助がちょうど本を読み終わり、ぐうっと伸びをした瞬間、目の前にスキマが開いて紫が膝の上に降りてきた。 「ただいま霖之助さん。今日も疲れちゃった~」 紫は霖之助の首に手を回し、霖之助は体を傾け、紫が自分にもたれやすい姿勢をとる。 「お疲れ様。夕飯にはまだ少し早いし、ゆっくり休むといい」 「うん」 紫が夕食を作り始めるまで30分強、2人はただ互いの体温を感じていた。 そして、夕食。 この日の献立はうなぎ、にらたま、ニンニクの蜂蜜漬け、レバ刺しなどなど。 「……いくらなんでも露骨過ぎないか?」 「あら、霖之助さんはお嫌?」 「まさか。むしろ望むところさ。今晩は覚悟しておくといい」 その後見事に完食してみせた霖之助と紫。 この日香霖堂のそばを通った者は、なぜか皆顔を真っ赤にして帰ってきたそうな。 終われ 前の話へ
https://w.atwiki.jp/abobo/pages/175.html
18話 フェイの葛藤、VSスペイン
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/385.html
「この格好のまま出歩くのはまずいな、誤解されてしまう」 先生は自分の服を見ながら呟く。 チラリと眼を横に動かすと、自分の支給品のメイド服。 「防弾とはいえ、これを着るのもなぁ」 更に眼を横に動かすと、自分が倒した少女の姿。 「この娘を放置しておくのも、かといって起きるまで待つのも連れて行くのもまずい」 その途端、先生に明暗が浮かび上がった。 「そうだ、この防弾のメイド服をこの少女に着せて隠して置けばこの少女は安全だ! それにこの少女の服はメイド服より幾分マシそうだ、そうと決まれば」 先生は局部が破れた服装のまま、いそいそと少女の服を脱がし始めた。 【一日目 0時50分】 【H-3 図書館】 【先生@ドラえもん】 [状態] 健康 やや破廉恥な服装 [装備] 音夢の服一式(パンツ含む) [道具] 支給品一式 [思考] 1 早く生徒達のもとへ・・・・・・ 行き先を商店街にするか学校にするか迷っています 【朝倉音夢@D.C】 [状態] 失神 [装備] 硫酸入りのビン三本、メイド服型防弾スーツ [道具] 支給品一式 [思考] 不明 先生の服は図書館に放置されています。
https://w.atwiki.jp/moedra/pages/142.html
決して人間の立ち入らぬ深い深い山奥にある、ドラゴン達の暮らす里。 そこには無造作に掘られた数多の洞窟が建ち並び、土の上には子を育てるための藁や枯れ木を踏み拉いて作った寝床が敷かれている。 彼らは争うこともなく人間以上にお互いを助け合って暮らしていたものの、代々里を取り仕切ってきた黒いドラゴンの一族にだけは、ある変わった仕来りがあった。 里の長を踏襲するドラゴンが受けなくてはならない1つの試練。 それは人間達の文化を里に取り入れるために、命の契約を結んだ人間と3年間生活を共にすること・・・ ついにこの日がやってきてしまった。 正直言って、私は里の長とやらに興味はない。 だが私がこんな馬鹿げた試練を受けなければならないのは、母の腹から卵が4つも産まれてきてしまった時からすでに決まっていたようだ。 本当なら里の長になることを希望している3匹の兄弟達だけが試練を受ければいいだけのはずなのに、何時の間にか唯一の雌である私までが試練を受ける羽目になっていたとは・・・ 第一、私は人間の言葉を理解することはできても話すことができないのだ。 里に住む仲間達の中には人間の言葉を読んだり話したりできる者が何匹かいるが、日常的にその言葉を使う人間達ですら正しい言葉の習得には十数年の歳月を要すというのに、たかだか産まれて5年の私がそんな異種族の言語を話せるようになどなるはずがない。 そんな得体の知れない者達と3年もの間生活を共にしなければならないとは・・・ 私は勢いよく里を飛び出していった兄弟達に少し遅れて、暗い面持ちのまま翼を羽ばたいた。 まずは契約の相手となる人間を探すところから始めなくてはならない。 しかも、その上人間達の生活の中へと溶け込まなくてはならないのだ。 ちょっと考えただけでも、それが極めて難しいことであるのは容易に想像がつく。 「仕方ない・・・とりあえず、なるべく人間の少ないところから当たってみよう・・・」 冷たい風を切り裂いていた翼に力を入れ、砂漠とオアシスが点在する亜熱帯の地方を目指す。 そこでならば、長期に渡って少数で暮らしている人間を見つけることができるかもしれない。 やはりドラゴンが人間の生活に入り込んでいくには、極力他人の目に触れない方が得策なのだ。 急激に温度を増した巨大な太陽に背を焼かれながら、私は眼下に広がった砂の海に人影を探して飛び続けた。 暑い・・・ 真っ赤に燃え上がった太陽がジリジリと砂の地面を焦がし、ユラユラと立ち昇る陽炎が辺り一面を覆い尽くしている。 僕は腰に下げた水筒を逆さに振って中身が空になったのを確認すると、顔中から汗を噴き出しながらがっくりとうな垂れた。 「ふう・・・水が飲みたいな・・・」 だがこのまま干からびてしまうのではないかという不安に心が挫けそうになったとき、遠い砂丘の先に小さなオアシスが顔を出しているのが目に入る。 地獄に仏とは正にこのことだ。 僕は顔を滝のように流れ落ちる汗を拭うと、乗っていたラクダに声をかけた。 「おい、あそこで一休みしよう!」 ラクダは別にどこか弱っているというわけではなかったが、痩せこけたその華奢な体が側対歩で揺れる度に、ドサリと砂の上に倒れてしまうのではないかと思ってしまう。 ゆっくりとこちらに首を振り向けたラクダの顔に、僕は微かな安堵の色が浮かんだような気がした。 茹だるような熱さに負けて、私は人間探しを中断して日差しの凌げる場所を探し始めた。 白に似た黄色一色の砂の世界に、1箇所だけ鮮やかな緑の映える泉が目に入る。 丁度いい。日除けのついでに、冷たい水で喉を潤すとしよう。 私はバサッと乾いた風を叩いて翼を翻すと、木々に囲まれた小さなオアシスに向けて雲1つない快晴の空の下を滑空していった。 「ふぅ・・・ふぅ・・・やっと着いた・・・」 ようやく地下からコンコンと湧き出る冷たい泉のほとりに辿りつくと、僕はラクダから降りてしゃがみ込んだ。 両手で水を掬い、まずはバシャッと顔にかけてみる。 じっとりと顔に絡み付いていた汗が洗い流され、冷水が火照った皮膚を冷やしていく。 そして無我夢中で泉に口をつけると、僕はゴクゴクと透き通った水を飲み下した。 「はぁ~生き返った~・・・」 暑い最中にたっぷりと冷たい水を飲み、幸福感にドサッとその場に座り込む。 もう少し、木の陰で休んでから出発するとしよう。 僕は立ち上がるのも面倒になって、そばにあった大きめの木の根元まで這っていくとゴツゴツとした固い幹にそっと背を預けた。 ラクダの方も、しばらく振りの休憩に地面に蹲ったまま気持ちよさように目を閉じている。 バサァッ、バサァッ・・・ 「メ、メェェ~~~~!」 だがその時、突然どこからともなく大きな翼を羽ばたくような音が聞こえてきた。 と同時に、大きな影が頭上を過ぎる。 それに驚いて、ラクダはあたふたと立ち上がると僕をその場に残したまま砂漠の方へと走って行ってしまった。 「あぁ!ま、待て、待てったら!」 だが逃げていくラクダの後を追おうと慌てて立ち上がった瞬間、ドオォンという音とともに巨大な黒い塊が僕の眼前に着地した。 「わ!な、何だ!?」 激しく巻き上がった砂煙が収まると、そこには真っ黒な鱗に覆われた1匹のドラゴンが翼を畳んで蹲っていた。 「ド・・・ドラゴン・・・?」 僕の声に反応したのか、ドラゴンがゆっくりと顔を上げる。 そして何かを考えているような表情を浮かべた後、ドラゴンは僕に向かってゆっくりと近づいてきた。 「わわっ・・・・・・」 ドラゴンの無言の接近に驚いて後ずさったものの、すぐに今まで寄りかかっていた大きな木が退路を塞ぐ。 「あ・・・ま、待って・・・」 木の幹にピッタリと背を押し当てて仰け反りながら、僕は迫り来るドラゴンから目が離せないでいた。 私は偶然にもオアシスにいた少年を見つけると、なるべく彼を怯えさせないようにゆっくりと近づいた。 「うあぁ・・・」 だがそれが逆に彼の恐怖を煽ってしまったようで、少年が大きな木に体を押しつけたままこちらを見つめている。 私はなおもそっと少年の間近にまで近づくと、襲われると勘違いしたのか目に薄っすらと涙を溜めながら震えていた彼の顔をグイッと覗き込んだ。 「ひ・・・ひっ・・・」 恐怖と涙に顔をクシャクシャにしながら、時折少年が薄目を開けて私の様子を窺っている。 言葉も全く通じぬというのに、どうやってこの誤解を解いてやればよいというのだろう? ロクに声も出せずただただ怯える少年を前にして、私は早くも試練の先行きを憂えていた。 「はぁ・・・は・・・あ・・・」 すでに抵抗する気力も勇気も失った少年が、恐怖に息を詰まらせ始めている。 彼を安心させてやるには少し距離を置けばいいだけなのだが、問題はもう1つあった。 互いに命を共有するという命の契約。その儀式のためには、契約者の血が必要になるのだ。 だがこの場で突然私が彼に噛み付いたら、とてもその後の共生など望めないだろう。 だとすれば、少々手荒な方法を取るしかない。 私は更に少年との距離を詰めると、じっと彼の顔を眺め回した。 そして両足で立ち上がり、少年の両肩をガッチリと木の幹に押さえつける。 「う・・・ぁ・・・」 ゴツゴツした鱗が体に触れた拍子に、少年が声にならない悲鳴を漏らした。 ベロッ・・・ そのまま涙に濡れた少年の顔を思い切り舐め上げると、私は大きく口を開けて咆哮を発した。 「ゴオアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 「わ、わああああぁぁぁ・・・」 次の瞬間、私の手の中で少年がガクリと気を失った。 限界を超えた恐怖のためか、顔に憔悴の色がありありと浮かんでいる。 「ふう、少しかわいそうなことをしてしまったが・・・今の内に・・・」 私はグッタリと弛緩した少年の体をそっと木陰の地面の上へと横たえると、彼の腕にプツリと尖った爪の先を少しだけ突き刺した。 そして傷口からじわりと真っ赤な血が滲み出したのを確認し、急いでその血を舐め取っていく。 ペロッ・・・ペロッ・・・ 5分程舐め続けていると、やがて爪を突き刺した傷口はほとんど見えないほどにまで小さくなっていた。 よし・・・後は、彼が起きるのを待つとしよう・・・ 私は少年の横に身を沈めると、小さく上下する彼の胸の上に頭を乗せてしばしの間眠りに落ちた。 「う・・・ん・・・」 暗闇の中で意識を取り戻し、僕はしばらく目を開けずに自分の身に起こった事を思い出していた。 僕は確か・・・大きな黒いドラゴンに襲われて・・・あれ・・・?まだ生きてる・・・のか? 砂の上に寝ているようだけど・・・胸の上に何か重いものが乗ってるような・・・ 考えるのが面倒になり、僕は思い切って目を開けてみた。 だがその途端、僕の胸の上に顎を乗せて眠っていたドラゴンの姿が目に飛び込んでくる。 「う、うわああ!」 その悲鳴に驚いたのか、ドラゴンがパチリと閉じていた眼を開いた。 そして、地面から首だけを起こした体勢の僕と目が合う。 「う・・・ぅ・・・」 だがドラゴンはそのままスッと首を持ち上げると、僕から少し離れたところに静かに蹲った。 「ぼ・・・僕を殺さないの・・・?」 きっと言葉などわからないのだろうけれど、僕は不可解なドラゴンの行動についそう聞かずにはいられなかった。 しかし意外なことに、ドラゴンが僕の問に大きく頷く。 「僕の言葉・・・わかるの?」 もう1度、ドラゴンが頷く。 でもだめだ、頷くだけじゃ言葉を理解している証拠にはならない。何かを否定させてみる必要がある。 「・・・本当は僕を食べるつもりなんでしょ?」 だが、今度はドラゴンが顎を横に振った。 あくまでゆっくりと、だが力強く、ドラゴンが僕の質問を否定する。 それを見て、僕はようやく安堵の溜息とともに体を地面に横たえた。 「ああ・・・僕のラクダ・・・どこかに行っちゃったな・・・」 気を失っていた時と同じように仰向けで寝そべったまま、突然少年がポツリと漏らす。 その言葉に、私はここに降りてくる前に1頭のラクダがどこかへ逃げていくのが見えたのを思い出した。 恐らく、この少年が砂漠の移動に使っていたのだろう。 そのラクダに逃げられてしまい、彼はもはや灼熱の砂漠の真っ只中に放り出された無力な存在でしかなかった。 だが命の契約を結んだ以上、彼にこんなところで野垂れ死にされるわけにはいかない。 何しろ、少年の死はこの私の死をも意味するからだ。 ラクダの代わりに、私がこの少年を運んでやるより他にないだろう。 私は仕方なく、少年にクルリと背を向けると身を低くして屈み込んだ。 「グルル・・・」 「え・・・?」 ドラゴンの漏らした唸り声に驚いて、僕は顔を上げた。 見れば、ドラゴンが僕に背を向けて蹲りながら首だけをこちらに振り向けている。 「の・・・乗っていいの?」 僕がそう聞くと、ドラゴンがコクンと小さく頷いた。 さっきのような分かりやすい肯定でなかったのは、人間を背に乗せることに抵抗があるからなのだろう。 黒鱗で覆われたドラゴンの顔に輝く2つの蒼い瞳が、複雑な心境を映し出している。 それでも僕はゆっくりと立ち上がると、恐る恐るドラゴンに向かって近づいていった。 間近で見るドラゴンの背中は、大きめの黒い艶々した鱗で一面覆われていた。 背中の左右からはこの巨体を宙に浮かべる大きな翼が生えているが、今は小さく畳まれて背の横へと垂れている。 微かに左右に振れる太い尻尾を踏まないように気を付けながら、僕はそっとドラゴンの背中に手を触れてみた。 長い間ジリジリと焼けつく太陽に熱せられているというのに、鱗はほとんど熱を持っていない。 しかも鱗の繋ぎ目がとても滑らかで、目を瞑って触ればまるで1枚の平たい鉄板を触っているような感触だった。 一通りその不思議な感触を味わった後、いよいよドラゴンの広い背中に攀じ登り始める。 そして苦労しながらドラゴンの首にまで到達すると、僕はドラゴンの首の周りに腕を回して掴まった。 全く・・・この私が人間などを背に乗せねばならぬとは・・・ いや、たった3年の間だけだ・・・これからの数百年という長い生涯を考えれば、3年間など物の数ではない。 私は少年が完全に背に跨ったのを確認すると、少年を振り落とさぬように静かに立ち上がった。 ところで、乗せたはいいがどこへ行けばいいのだ? 目的地を尋ねるように、私は再び小さく唸り声を上げてみた。 「グル・・・」 「あ、ごめん・・・西の方に行きたいんだ。小さな村があるはずなんだけど・・・」 唸り声だけでよく私の意図を察するものだ。この様子では、意志の疎通に言葉など必要ないのかもしれぬな。 私は少しだけ人間を見直すと、なおも照りつける熱い日差しの中を西へ向かって歩き始めた。 もうどのくらい歩いたのだろうか・・・? 雲1つなかった空はすでに朱に染まり始め、緩やかな地平線の遥か彼方まで私の足跡が続いている。 少年は安心したのかそれとも疲れてしまったのか、私の背の上でスースーと寝息を立てていた。 時折丸まった背中から少年がずり落ちそうになるのを翼や尻尾で支えながら、地平線から半分だけ顔を出した太陽へと目を向ける。 空を飛べれば楽なのだろうが、生憎私は少年を背に乗せたまま飛ぶことができるほど器用ではなかった。 それに、万が一少年を取り落とせば私まで死んでしまうかもしれないのだ。 徐々に沈んでいく夕日を睨みつけながら、私はひたすらに足を前に出し続けた。 さらにしばらく歩き続けると、やがて朱に染まっていた空も星の瞬きを映す漆黒の闇に覆われてしまった。 砂漠の夜・・・熱を溜め込む力のない砂の地面は太陽が沈むと同時に放熱を始め、深夜になれば昼間とは打って変わって気温が氷点下にまで落ち込むことがある。 私も寒さにはあまり強い方ではなかったものの、本当に心配すべきは少年の体の方だろう。 これまでは吹き荒ぶ風や寒さを凌ぐために何らかの道具を持っていたのだろうが、荷物は全て逃げたラクダに括りつけてあったせいで、少年は今完全に手ぶらの状態だった。 「まずいな・・・どこか休める場所はないものか・・・」 視界の中には、ゴツゴツと大きな岩がいくつか姿を見せ始めている。 オアシスも見つからない以上、今夜はどこかの岩陰で夜風を凌ぐ他ないだろう。 私は見える中でも1番大きな岩の連なりに目を止めると、砂に取られていた足を再び前に出した。 ようやく風に当たらない岩陰に到着すると、私は少年を起こさないようにそっと砂の上へと降ろした。 今まで熱を含んでいた乾いた風が、身に沁みるほど冷たくなってきている。 日射病を避けるためか少年は日光を遮るためにそれなりの厚着はしていたものの、 それらはすでに大量に流れ出した汗でグショグショに濡れていた。 まずは、服を脱がせなくてはならぬのか・・・ 私は地面に寝かせた少年の体をくまなく眺め回すと、ようやく服の端を見つけ出した。 そして薄布を破かぬように、そっと服を剥ぎ取っていく。 一体、なぜ私はこんなことをしているのだろう? 自分では何もせずただ眠っているだけの少年に、なぜ私がこれほどまでに気を遣わなくてはならぬのだ? 試練だということはわかっているが、考えれば考えるほど私はこの少年が憎らしくてたまらなくなってきた。 命の契約さえ結んでいなければ、今すぐその体へ牙を突き立てて新たな契約の相手を探しにいきたいところだ。 ブツブツと文句を呟きながら少年の服を全て脱がせてやると、汗に濡れた皮膚が露わになった。 そのじっとりと湿った少年の腕や足を、ペロペロと舐めてやる。 だがその途中で、私は少年の股間から生えた小さな肉棒に気がついた。 雄のドラゴンなどとは比べ物にならない、皮を被ったままの卑小な性器。 私はその情けない人間のモノに蔑みを感じながらも、少しだけ舌の先で舐め上げてみた。 ショリッ・・・ 「う・・・」 快感に反応したのか、少年が小さく呻く。 と同時に、萎んでいたはずのペニスがムクムクと膨らんできた。 垂れ下がっていたはずの性器が固さを増し、まるでそれ自身が意思を持っているかのように立ち上がる・・・ その不思議な光景に、私は思わずじっと見入ってしまっていた。 な、何を馬鹿なことを考えているのだ私は・・・相手は人間・・・それも、まだ年端も行かぬ小僧なのだぞ? 突如胸の内に湧き上がってきた屈辱的な欲望に、私はグッと牙を食い縛って耐えようと試みた。 だが私を嘲笑うかのように少年の肉棒が左右へと揺れ、その度に雌としての本能がドラゴンとしてのプライドを打ちのめしていく。 「う・・・く・・・」 ついに耐えきれなくなり、私はパクッという音とともに少年の小さな肉棒を口に含んでいた。 そのまま、ジュルジュルと水音を響かせながら舌を巻きつけた肉棒を激しく吸い上げる。 そして膨張した肉棒の根元を牙を立てぬように軽く噛むと、私は少しだけ口を引いて少年の弱所を扱き上げた。 「うあ・・・あっ・・・!」 眠っているところに流し込まれた強烈な快感に、僕はガバッと飛び起きた。 見れば、ドラゴンが僕のペニスを咥えて一心不乱に吸い立てている。 「な、何を・・・あっ・・・やめ・・・ああんっ・・・!」 抵抗しようにも、絶え間なく与えられる刺激が僕の四肢から力を奪い去っていく。 初めは何とか体を起こそうともがいていたものの、やがて僕は快楽にまかせてグッタリと地面に倒れ込んでいた。 ジュルッ・・・ショリショリ・・・レロ・・・レロレロ・・・ 「ああっ・・・も、もう我慢できないよ・・・やめてぇ・・・」 ビュビュ~~・・・ 産まれて初めて味わう激しい責めに、僕は成す術もなくドラゴンの口の中へ精を放った。 しかも熱い精が尿道を迸っているというのに、ドラゴンがなおもペニスを吸い立ててくる。 「あぅ・・・ぅ・・・き、気持ちいい・・・よぉ・・・」 どうしようもない快感にギュッと拳を握って耐えていると、ようやくドラゴンが僕の股間から口を離した。 「うぅ・・・う・・・」 「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」 僕は半分涙目になって快感に震えていたが、ドラゴンの方は荒い息をつきながらまだ僕のペニスを凝視していた。 自分のしてしまったことが信じられないという放心にも似た奇妙な表情が、ドラゴンの顔に浮かんでいる。 今度は何をされるのだろうと思って、僕は声も出せずにただただドラゴンの様子を窺っていた。 ポタ・・・ポタタ・・・ 不意に聞こえた水滴の滴るような低い音。 その音に気付いて、私は反射的に己の股間へと目を向けていた。 パックリと開いた秘裂から欲情の証である桃色がかった愛液が溢れ出し、乾いた砂の上へと滴り落ちている。 こんな・・・人間などに・・・私は・・・私は・・・ 雌としての本能に屈服してしまった屈辱に、私はゆっくりと顔を上げた。 呆然とした表情でこちらを見つめている少年の視線が、私の股間へと注がれている。 人間ごときに見られてはならぬ秘所を暴かれて、私はこの上もない羞恥と、それ以上の昂ぶりを感じていた。 もはや我が火所を見られようとも構わぬ。私は・・・もうこの疼きを抑えてはおれぬのだ! 「グオアアアッ!」 私は大きく一声咆哮を上げると、完全に力を失って横たわっていた少年へと躍りかかっていた。 ドサッ 「う、うわっ・・・何するの・・・?」 突然巨大なドラゴンに飛びかかられ、僕は震えながらそう尋ねた。 まさか殺されはしないだろうが、ドラゴンの眼がどこか正気を失っているようにも見える。 そしてそのまま両肩をズッシリとした体重で地面へと押しつけられると、僕はパニックになって叫んでいた。 「ああっ・・・お、重いよ・・・やめて・・・」 体を動かそうともがいてみるが、僕の体を押し潰さんばかりに預けられた体重の前に成す術などあるはずがない。 「グルルル・・・」 「うぅ・・・」 僕の顔を覗き込みながら低く唸るドラゴンに、僕はただただ身を固めて震えているしかなかった。 ジュプッ・・・ 本能の赴くままに少年の体を砂の上に組み敷くと、私は依然としてそそり立っていた少年の肉棒を自らの膣へと呑み込んだ。 「はああっ・・・あ・・・あぅ・・・」 高圧電流のように体を駆け巡った尋常ならざる快感に、少年が身悶える。 だがそんなことにもお構いなしに、私は少年の肉棒を咥え込んだ腰を激しく前後へと揺り動かした。 ズシュッヌチュッグチュッグリュッ・・・ 「あ、ああっ・・・はあああんっ・・・!」 激し過ぎる初体験に、少年が思い切り体を仰け反らせた。 その力強さに、この私の体までが一瞬少年に持ち上げられる。 自我も理性も捨てて人間の少年を無理矢理犯しているという事実に、膣壁に肉棒が擦りつけられる度に感じる快感が数十倍にも膨れ上がっていた。 「だ、だめだよぉ・・・お、お願い・・・止めてぇぇぇ・・・」 「グル・・・グ・・・ゥ・・・グルオォ・・・」 少年がそうであるように、私の方も限界が近かった。 背徳の先にある絶頂が、すぐそこまで迫ってきている。 「はぁぅ・・・ま・・・また・・・う、うわああ~~~~!!」 「グゥ・・・グオオオオオーーーーー!」 悲鳴にも似た嬌声と咆哮が重なり合って、ドラゴンと少年は同時に果てていた。 ガクガクと射精の快楽に痙攣する少年のペニスに、収縮した膣壁と溢れ出した大量の愛液が襲いかかっていく。 グシュッズブシュッグギュッ・・・ 「あ・・・が・・・ぁ・・・」 もはや自分の意思とは無関係に腰を振り続けるドラゴンの責めを味わい、やがて少年は到底御し難い快楽の奔流に小さな呻き声を残してクッと意識を失ってしまった。 「・・・はっ!?私は一体何を・・・?」 しばらくして、私はグッタリと動かなくなった少年を体ごと揺すっていた腰の動きをピタリと止めた。 「ああ・・・私は命の契約を交わした者になんということを・・・」 慌てて、私は少年の顔に自らの鼻先を近づけた。まだ息はある。 もっとも少年が死んでしまえば私もともに死んでしまうのだから、生きているのはわかっている。 だが火照った体にかいた汗が冷たい気温によって冷やされ、今や少年の体はひどく冷たくなっていた。 このままでは、遅かれ早かれ凍死してしまう可能性もある。 私はバッと大きく翼を広げて少年を岩の隙間に吹き込んでくる風から守ると、灰色の毛皮に覆われた腹をその小さな体に密着させた。 朝まで・・・いや、少なくともこの少年が目覚めるまで、私が温めてやらなくてはならない。 熱を生むようにスリスリと柔らかい腹を擦りつけながら、私はひたすらに少年の顔をペロペロと舐め上げていた。 つづく
https://w.atwiki.jp/moedra/pages/143.html
ペロッ・・・ペロッ・・・ 「う・・・ん・・・」 瞼越しに突き刺さる陽光の眩しさとザラザラした湿った物に顔を擦り上げられる感触に、僕は手放していた意識の糸を探り当てていた。 とても暖かい・・・まるで極上の羽布団に包まっているかのようだ。 ペロッペロッ・・・ 再び顔を擦り上げられ、僕はゆっくりと目を開けてみた。 目の前に巨大なドラゴンの顔が見え、大きな舌が僕の頬を駆け上がっていく。 「ん・・・な、何してるの・・・?」 僕が起きたのに気がついたのか、ドラゴンは舐めるのをやめると少しだけ僕から顔を離した。 その眼に、とても心配そうな輝きが宿っている。 下を見ればドラゴンの柔らかくて暖かい腹が僕の体に絶え間なく擦りつけられていて、僕は氷点下の砂漠の夜を裸で過ごしたというのに全く寒さを感じずに済んでいた。 「僕を・・・心配してくれたの・・・?」 少年から投げかけられた率直な疑問に、私は素直にコクリと頷くしかなかった。 「グルル・・・」 初めは自分の命が心配で少年を助けようとしていただけのはずだったのに、私はいつのまにか本当にこの少年の身を案じるようになっていたのだ。 それはこの少年が、私にとっても初めての交尾の相手だったからなのかも知れない。 人間などに・・・そんな考えは、もう捨てることにしよう。 「ありがとう・・・昨日のあれ・・・とっても気持ちよかったよ」 その少年の一言に、私は思わず耳を疑った。 昨日あれだけの目に遭って、彼は私のことを恐れたり恨んだりはしていないのだろうか? 「もしよかったら・・・これからもドラゴンさんに僕と一緒に暮らしてほしいな・・・だめかい?」 さらに予想を覆すことを言われ、私は一瞬戸惑った後に激しく顎を横に振った。 「よかった・・・それじゃあ、村へ行こうよ。この岩地からだったら、今日中には着けるはずだよ」 少年はそう言いながら起き上がって乾いた服を着ると、どうしてよいかわからず呆然としていた私の背中へと登り始めた。 そして何とか背の上へと辿り着き、私の首へ愛しげに抱きついてくる。 「村へ着いたら、美味しいものをいっぱい食べさせてあげるからね・・・」 まるで寝言か何かのようにそっと呟いて、少年は私の背中で再び眠ってしまった。 「ふう・・・まるで体よく使われているような気がするが・・・それも案外悪くはないな・・・」 少年が落ちないように尻尾で固定すると、私は高く昇った太陽に背を向けた。 目を凝らせば西の地平線の彼方に、まるで豆粒のように人間達の居住地が見える。 容赦なく照りつける灼熱の太陽が恨めしかったが、ようやく目的地が見えてきたことに私は黙って歩き始めた。 足の沈む砂丘を乗り越え砂を叩きつける熱風に耐えながら、私はようやく少年のいう村の近くまでやってきた。 空を見上げれば、相変わらず盛んに燃える太陽がすでに西に傾きかけている。 少年はすでに目を覚ましていて、私の上に跨りながら徐々に近づいてくる村の様子を感慨深げに見つめていた。 「グ・・・グル・・・」 それにしても疲れた・・・ 少年と出遭ってからというもの、昼の間は休まず砂漠を歩き続けた疲労が私の手足を蝕み始めている。 彼の前で弱った姿など見せたくはなかったが、私はつい荒い息とともに小さな唸り声を漏らしてしまった。 「大丈夫?僕、降りた方がいい?」 情けないことだ。今度は私の方が少年に心配される番だというのか。 私はまだ折れずに残っていた気力で首を横に振ると、後少し、後少しと足を前に出し続けた。 「わあ、着いたぞ」 疎らに建てられた人間達の居住区を前にして、少年が大声で叫んだ。 村の中央には大きな井戸が掘られていて、そこからコンコンと澄んだ水が湧き出している。 村をグルリと囲むように樹木もいくつか生えていて、そこはまるで人工のオアシスのようだった。 「おーい!」 少年の呼びかけに、井戸の周りで水を汲んでいた数人の人間達がこちらを振り向く。 彼らは私の姿を見て一瞬恐れの表情を浮かべたものの、背中に乗っている少年の姿を見て警戒を緩めた。 「おお、帰ってきたのか!・・・荷物はどうしたんだ?それに、そのドラゴンは・・・」 「僕のラクダが逃げちゃってさ・・・困ってたところを、このドラゴンさんに助けてもらったんだよ」 違う・・・少年のラクダを逃がしてしまったのはこの私だ。 それに少なからず恐ろしい目にも遭ったというのに、それをおくびにも出さないとは・・・ 「そうか・・・それで、この後どうするんだ?」 「僕と一緒に暮らしてくれることになったんだ。とってもおとなしい性格だし、いいでしょ?」 「あ、ああ・・・そりゃ構わないが・・・」 そう言ってもらえるととても助かる。 大勢の人間達の興味深げな視線にさらされて、私は少しだけ頭を低めた。 夜になって、私は少年の家の中で蹲っていた。 彼の両親はすでに他界し、少年は時折村で採れる作物や香辛料を隣の国へ売りに行って生計を立てているらしい。 その荷物や諸々の持ち物をラクダとともに失ってしまったのは、少年にとっては相当な損失だったことだろう。 だが彼は私を責めるどころか、ともに暮らしてほしいとまで言ってくれたのだ。 しかも村人達のお陰で、私は数日振りに満腹になるまで羊の肉を食べさせてもらった。 「ドラゴンさん・・・もう寝てる?」 人間に対する感謝でむにゃむにゃと睡魔を咀嚼していた時、私は少年に呼びかけられて首をもたげた。 見れば、少年が大きなベッドの上で横になりながら私の方へと顔を向けている。 だがその体には何も服を身に着けておらず、普段は上からかけるであろう寝具の類いも全てベッドの脇へと押しやられていた。 「グル・・・?」 家の中にいるとはいえ、室温を上げるような熱源は何も見当たらない。 寒くはないのかと首を傾げていると、少年が私に向かって手招きをしている。 「一緒に寝ようよ。ドラゴンさんも、寒いでしょ?」 それはとても裸で言う言葉ではないはずなのだが、私はそれで少年の意図を察していた。 のそりと起き上がり、少年の横たわるベッドヘそろそろと近づいていく。 そしてそっとベッドの上へと攀じ登ると、私は少年の体をフサフサした腹の毛皮で包み込んだ。 「ああ・・・」 心底気持ちよさそうに、少年が息を漏らす。 初めは遠慮がちだったが、体の中にほんのりとした熱が篭り始めると、私はガバッと少年の体に抱きついていた。 柔らかなベッドの上でドラゴンの巨体にのしかかられ、僕は肺の中の息を全て吐き出した。 だが、別に苦しくはない。 温もりを纏った布と毛皮に挟みつけられる感触が、少しずつ快感へと変換されていく。 「お、お願い・・・ぐりぐりしてぇ・・・」 あまりの気持ちよさに恍惚の表情を浮かべながらドラゴンにお願いすると、ドラゴンは言われるままに体を左右に揺すり始めた。 グリ・・・グリグリグリ・・・ 適度な体重と肌触りのよい体毛で覆われた腹にすり潰され、硬い鱗に覆われたドラゴンの脇の辺りを両手でギュッと抱き締める。 そしてどちらからともなく、僕達はお互いにお互いを求め合った。 ジュル・・・ 僕の皮膚とドラゴンの体毛とが擦れ合う乾いた音の中に、不意に飛び込んできた粘着質な水音。 固く屹立した僕のペニスと愛液に潤ったドラゴンの秘所は、半ば必然的に再度の結合を果たしていた。 だがまたあの快感を味わえると身を縮めた僕の顔を、ドラゴンが心配そうに覗き込む。 「大丈夫・・・僕は大丈夫だよ・・・」 ドラゴンを安心させるようにそう呟くと、僕はドラゴンの蒼い瞳に優しげな光が宿ったのが見て取れた。 チュプッ・・・ヌチュ・・・ 私は前のように理性を失わないよう己を抑えながらも、膣に咥え込んだ少年の肉棒をゆっくりと締め上げた。 「はぁぁ・・・」 幸せの中で感じる快感に、少年が喘ぎを漏らす。 「グゥ・・・」 私の秘所も先程の快楽の記憶を蘇らせたのか、喜びに満ちた戦慄きで少年を歓迎していた。 チュルル・・・ズチュッ・・・グチュ・・・ 腰を動かす度に、少年が身動ぎする度に、そしてお互いが呼吸をする度に、肉棒と膣壁が愛液を纏って擦れ合う。 目の前の無力な少年を一方的に責めているという感覚が、私の中で高揚感となって弾けようとしていた。 「い、いいよぉ・・・も、もう僕・・・限界・・・」 ブシュッという音とともに、少年が先に果ててしまう。 だが膣の中に放たれた彼の熱い滾りが刺激となって、私も一気に絶頂の手前まで押し上げられた。 「ウグ・・・オォ・・・グルォォォォ!!」 射精後の余韻に少年の肉棒がビクンと跳ね、それが私へのとどめとなった。 爪を立てぬように気遣いながらも少年の体を力強く掻き抱き、体中に飛散する快楽の波動にブルブルと震える。 「ああっ・・・は・・・ぁ・・・」 深夜の閨に、少年の弱々しい声が響き渡った。 熱く燃え上がったお互いの体は寝具などなくても寒さを感じぬほどに火照り、素晴らしい伴侶を手に入れたという多幸感が背筋を焚きつけていく。 静かだが激しい少年との行為が終わると、私達は結合したまま抱き合って朝まで眠った。 「起きて、ドラゴンさん・・・」 翌朝、私はユサユサと体を揺すられる感覚と少年の声に目を覚ました。 目を開けると、少年が私の重い体をどけようと必死になっている。 私が慌てて体を浮かせると、少年はのそのそとベッドから這い出していった。 服を着た少年の後について外に出てみると、澄み渡った空に赤い太陽が顔を出している。 そして眩しげに空を見上げた私に向かって、少年が言いにくそうにおずおずと口を開いた。 「ドラゴンさん、昨日の今日で悪いんだけど・・・隣の国まで僕を運んでくれないかな・・・?」 確かに、少年のラクダを奪ってしまったのは私だ。 だからその代わりに私が少年を運ぶのは構わない。 だがあのオアシスに辿りつくまでにも、最低でも2日はかかるのだ。 その後どのくらい歩かなければならないのかは分からないが、少なくとも往復で1週間以上はかかってしまうことだろう。 私は昨夜の幸福を噛み締めると、少年に向かってコクンと大きく頷いた。 「ありがとう!」 パッと顔を輝かせて、少年が商売に使う作物を採りに畑の方へと走っていく。 その間、私は静かにその場に蹲って少年の準備が整うのを待っていた。 しばらくすると、少年は大きな麻袋をいくつか手に持って戻ってきた。 そしてそれを抱えたまま、私の背中へと登っていく。 「じゃあ、行こうか」 丸みを帯びた背中の上にちょこんと跨り、少年が元気よく声を上げる。 その声に後押しされ、私は意を決すると長い尻尾で少年の体をグルリと絡め取った。 「あ・・・何するの?」 突然のことに少年が不安げな声を漏らすが、そのまま畳んでいた翼を大きく広げる。 空を飛ぶことがわかり、少年が荷物を離さぬように自らの体に括り付けて私の首へと抱きついた。 バサァッ! 大きな羽ばたきとともに、ドラゴンの体が宙に浮いた。 僕を乗せているせいなのか初めは少しフラフラとしていたが、それにもすぐに慣れた様子で晴れ渡った空へ真っ黒なドラゴンの体が舞い上がる。 「うわあ・・・」 見る見る内に村が小さくなり、美しい曲線を描く砂丘の稜線が眼下に広がった。 「グオオオオオオオオオン!」 そしてまるで喜びを表現するかのように大きく咆哮を上げると、ドラゴンが東へ向かって翼を羽ばたく。 バサッバサッバサッ・・・ 速い・・・まるで風のようだ。 目まぐるしく流れていく眼下の景色に、僕は空を飛んでいるという実感とともに胸を躍らせた。 ほんの1時間程飛んだだけで、初めてこのドラゴンと出遭ったあのオアシスを飛び越えてしまう。 「すごい!すごいよドラゴンさん!」 嬉しそうにはしゃぐ少年の声に、私は胸を張って飛び続けた。 心の通った者とともに空を飛ぶことがこれほどまでに清々しいことだとは・・・ 更に1時間程飛び続けると、やがて大きな町が見えてきた。 石造りの建物、砂で覆われた道路、黄みがかった布で身を包んだ大勢の人間達。 どこを見ても淡い黄色で覆い尽くされた世界ではあったが、少年にとっては重要な生活拠点の1つなのだろう。 私は人目につかぬように町から少し離れた所にある岩陰に少年を降ろすと、小さく唸り声を上げた。 「グルル・・・」 「うん、ドラゴンさんはここで待ってて。夕方頃には戻ってくるから」 そう言うと、少年は両手一杯に商売道具を抱えて町へと駆け出していった。 あの小さな村から約150キロ・・・ ラクダに揺られて歩き続けたとしても、砂漠では4、5日はかかる距離だろう。 少年は生きるために、いつもこんな所まで厳しい砂漠を乗り越えてやってきていたのだろうか。 そう考えると、私は少年の身の上がとても気の毒に思えた。 岩陰から少しだけ首を突き出して町の様子を窺うと、大勢の人々が行き交う通りの中に風呂敷を広げて品物を売る少年の姿が見える。 「あんな少年が・・・逞しいものだな・・・」 私は疲れた翼を休めるためにそっと日陰に蹲ると、静かに少年の帰りを待つことにした。 「ただいま・・・ドラゴンさん?」 「グ・・・グル?」 少年の呼びかけに、私はハッと目を覚まして辺りを見回した。 空はすでに真っ赤な夕焼けに染まっており、少年が両手に金貨の詰まった袋を持って私の前に立っている。 どうやら、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。 背に乗りやすいように身を低くしてやると、少年が嬉しげに私の背中を攀じ登ってくる。 そして朝と同じようにその小さな体を尻尾で固定してやると、私は西に向かって飛び立った。 上空で吹く風は地上の砂嵐にも似た烈風とは違い、なんとも涼く感じられた。 いや、もしかしたらこの胸の内に湧き上がる幸福感がそう感じさせているのかもしれない。 少しずつ地平線の向こうに沈んでいく太陽を追いかけるように飛んでいると、村に着くまでの2時間近い時間などあっという間に過ぎ去ってしまった。 村人達を驚かせぬように少年の家の前に静かに着地すると、少年が慣れた様子で私の背から滑り降りていく。 やれやれ・・・すっかり乗りこなされてしまったものだな・・・ 苦笑にも似た鼻息を噴き出すと、私は少年に続いて家の中に入っていった。 それからというもの、少年は毎日のように町へ出稼ぎに行くようになった。 今までは10日に1度程度しか家の中で夜を過ごすことはできなかったが、ドラゴンのお陰で町から日帰りすることができるようになったからだ。 そして夜になると、彼らはどちらからともなくその身を暖め合い、忘我の楽しみに身を委ねるのだ。 だが・・・蜜月の時が長くは続かないように、当のドラゴンすらもが忘れ去っていた命の契約の期限が訪れようとしていた。 初めて少年と出遭ってから数年後、私はいつものように彼を町へと送り届けると、すっかり私の昼寝の場と化した岩陰で至福の一時に浸っていた。 「う・・・?」 だが昼を過ぎてしばらく経った時、私は胸に妙な違和感を感じていた。 一瞬ポッと胸の内が暖かくなったような感触があり、ほんのりと淡い光が輝いてすぐに消えていく。 「これは・・・そうか・・・もうあれから3年も経つというのか・・・」 命の契約の終了・・・それは、長く心を1つにしてきた少年と決別しなければならないということを意味していた。 すっかり薄暗くなった砂漠の空を村へ帰る途中、少年が私に話しかけてきた。 「ねえドラゴンさん、今日さ、ちょっと不思議なことがあったんだ」 「グル・・・?」 それが何なのか私にはすでにわかっていたものの、私はあえてとぼけた振りをして少年の言葉を待った。 「お昼頃に、何か急に胸の辺りが暖かくなったんだ。それに、淡い光みたいなのも見えた気がしたんだ」 そう・・・この少年は何も知らないのだ。 命の契約すらも、少年が気絶している間に私が勝手に結んだのだから。 私は胸がギュッと締めつけられるような感覚を味わいながら、少年の村へと急いだ。 夜になって、僕はドラゴンをベッドに誘うために声をかけた。 だが深い眠りに入ってしまっているのか、僕の呼びかけにも全く反応する様子がない。 仕方ない・・・毎日毎日砂漠の空を飛び回って、ドラゴンも流石に疲れてしまったのだろう。 僕は潔く諦めると、いそいそと服を着て数年振りにかけるであろう布団に包まった。 いつもと違う夜の過ごし方に僕はなかなか寝つけなかったものの、それでもやがて睡魔に打ち負かされてしまう。 「ふわぁ・・・」 そして大きな欠伸とともに、僕は夢の世界へと落ちていった。 少年が完全に寝静まったのを確認すると、私はそっと体を起こした。 試練が終わった以上、私は里へ帰らなくてはならない。 だが足音を立てないように静かに入り口へと向かいながらも、何度も少年の方を振り返ってしまう。 朝になって突然私が消えていたら、少年は何と思うことだろう。 今の私のように、身が引き裂かれるような深い悲しみに暮れてしまうのだろうか・・・? 「許してくれ・・・」 ボソリとそう呟くと、私は家の扉をキィッと押し開けた。 そして誰もいない真っ暗な村の中をしばらくとぼとぼと歩き回った後、躊躇いがちに翼を広げる。 バサァッ、バサァッ・・・ 聞き慣れた翼の音が耳に入り、僕はゆっくりと目を開けた。 開いた扉の隙間から、淡い月明かりが入り込んできている。 そして、さっきまで床で寝ていたドラゴンの姿が忽然と消えていた。 「まさか・・・」 僕は嫌な予感がしてベッドから這い出すと、寝巻き姿のままで冷たい風の吹く家の外へと飛び出していた。 反射的に空を見上げると、大きな満月の中に空を飛ぶドラゴンの影が重なっている。 「そんな・・・待って!待ってよ、ドラゴンさん!」 あのドラゴンが僕を置いてどこかへ行ってしまう。 突然のことに、僕は大声で叫びながらドラゴンの後を追って走り出していた。 「お願い、待って・・・うあっ!」 柔らかい砂に足を取られて転び、僕は四つん這いになって飛び去っていくドラゴンの後ろ姿を見つめながら泣きじゃくった。 「どうして・・・僕のことが嫌いになったの?戻ってきてよぉ・・・うわああああああああん・・・」 背後から微かに聞こえる少年の悲痛な声に、私は目から涙が零れ落ちるのを感じていた。 済まない、許してくれと、何度も何度も心の中で少年に詫びる。 だがやがて愛する者と別れる悲しみに耐え切れなくなって、私は初めて少年を介抱したあの大きな岩場の陰へと着地した。 「う・・・うぅ・・・済まぬ少年よ・・・私は・・・帰らねばならぬのだ・・・」 だがどうしても、私は再び飛び上がろうという力が湧いてはこなかった。 私は彼の人生をただ滅茶苦茶に掻き回してしまっただけではないのだろうか? 私だって、本当はあの少年と離れ離れになどなりたくはないのだ。 「一体、私はどうすればよいのだ・・・うう・・・」 里に帰らなければという思いと少年と離れたくないという思いが葛藤し、私は頭を抱えて蹲ったまま泣いていた。 「う・・・ぬ・・・ここは?」 砂粒を含んだ風が体に叩き付けられる感触に、私は目を覚ました。 どうやら、私は結局ここを離れることができずにあのまま眠ってしまっていたらしい。 あの少年は一体どうなったのだろうか? 私は力強く空へと飛び上がると、少年の様子を見るために村へと引き返した。 「ん・・・どうしたというのだ?」 徐々に近づいてきた村へと目を向けると、村の真ん中で人々が集まっているのが見える。 その人々の輪の中央に、あの少年が倒れているのが目に入った。 「ま、まさか・・・!」 私は村人達が驚くのも構わずドオンという音とともに勢いよく着地すると、私を避けた人ごみの間を縫って少年へと近づいた。 まだ生きてはいるようだが、小さな体が寒さにブルブルと震えている。 私のせいで、寝巻き姿のまま一晩中外に出ていたというのか? 「グルオオオオ!」 私は大きく声を上げて周りにいた村人達を退かせると、すっかり冷え切ってしまった少年の体を尻尾で絡め取って少年の家の中へと飛び込んだ。 そしてまるで破り取るように寝巻きを脱がせ、ベッドの上へと少年を横たえる。 「済まぬ・・・私のせいでお前をこのような目に遭わせてしまって・・・」 そう呟きながら少年の上にガバッと覆い被さり、私は懸命に体を揺すった。 毛皮と厚い皮膚越しにも、少年の体の冷たさが伝わってくるようだ。 「う・・・ぅ・・・」 全身をグッタリと弛緩させた少年の口から、呻き声が漏れてくる。 家の入り口から大勢の村人達が覗いている中、私はただひたすらに少年を暖め続けた。 「あ・・・ド、ドラゴンさん・・・?」 昼過ぎ頃になって、少年はようやく目を開けた。 どうやら、凍死の危機は脱することができたらしい。 「ひどいよドラゴンさん・・・いきなりいなくなっちゃうんだもの・・・」 まだ目に涙の跡を残したままそう言った少年の顔を、思い切り舐め上げてやる。 何度も、何度も、私は少年の頬に残った塩辛い悲しみの結晶を舐め続けていた。 もう里へ戻るつもりなどない。一生、ここで暮らそう。 少年の成長を見守りながら、人間達の中でともに生きよう。 そう固く心に決め、私は少しだけ体を浮かせた。 そして入り口の方をギッと睨みつけ、中の様子を窺っていた村人達を追い返す。 「ありがとう・・・昨日の夜の分、まだだったね・・・」 そう言った少年の小さな肉棒が、喜びにそそり立っている。 私はそれを快く受け入れると、少年の胸にスリスリと顎を擦りつけてこの上もない幸福感に浸っていた。 完 感想 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/971.html
うぅ~最近ずっと寝不足続き… これも全部キョンのせいだ。 キョンがわたしを惑わすから 彼の何気ないところで見せる優しさとか、その純粋でこっちまで嬉しくなるような笑顔とか そうゆうもの全てがわたしの心を滅茶苦茶にしていくからだ。 キョンの表情とか声とか、全部目に、耳に残ってる 刻まれちゃってる。 気付けばいつもキョンの事ばっかり考えてる自分がいるの。 ねぇ、もっとわたしを見てよ! 本当のわたしを見つけてよ! キョンが、悪いんだから‥ こんな切ない気持ちになるのも全部キョンのせいなんだから! 最近自分が寝不足だと気付いてなんとなく思いついた 「佐々木さんの葛藤」 佐々木さんならこんな感じもありかなと思った
https://w.atwiki.jp/dqff1st/pages/758.html
祠の手前の島の、朽ち果てた橋の手前。 そこに雪原から顔を出した岩に腰をかけて向こう岸を見つめている一人の男がいた。 その服の胸の部分は大量の血で汚れてはいたが、魔法で治療したのか、 その裂け目から見える皮膚には傷跡は残ってはいなかった。 「橋が落ちてしまっていたとはな…。迂回している時間は残ってはおらんな。 一応手は打っておいたが、もし来なければコレをかぶるしかないだろうな…」 その男は手に持った覆面をしげしげと眺めながらつぶやいた。 「…とりあえずもう一度やっておくか」 男はそう言うと、意を決して覆面を鼻に当てると、その香りを肺一杯吸い込んだ。 甘く酸っぱいすえた香り。常人には悪臭にしか感じないそれは、 オルテガの脳内の奥深くを刺激し、やがて脳はヤバイ物質を分泌し始めた。 まるで極上の阿片を吸ったかのように、オルテガの目は官能と快楽によって虚ろに染まった。 心臓はその鼓動を急速に加速させ、全身に溶岩のように熱い血液を全身へと巡らせる。 指は鼻の部分を強く押さえながらも頭から覆面を被せようと動き始め…… 「…くっ、ううっ。ガアッッッ!!!」 オルテガは息を荒げながらも、強力な自制心によって覆面を顔から引き剥がした。 そして朦朧とする意識の中から自分の必要としている『情報』を見つけると、 鉛のように重たい腕を動かしてソレを実行した。 ―――澄んだ口笛の音色が雪に白く彩られた森と湖に響き渡った。 覆面にこめられた荒くれ達の記憶。そしてその能力の一つ、口笛。 「クエーーーー♪」 「…遅かったな」 さほど遠くない場所から聞こえた返事にオルテガはか細く呟いた。 オルテガは気力を振り絞って立ち上がると、荷物を背負い、 氷上をこちらへ向かって走ってくるチョコボに向かって歩き出した。 【オルテガ(チョコボ) 所持品:危ない水着 覆面 グレートソード 壊れた水鉄砲 ビーナスゴスペル&マテリア(回復)天罰の杖 第一行動方針:祠の旅の扉から次の世界へ 第二行動方針:アルスを探す 最終行動方針:未定】 【現在位置:祠の湖、西の島】 ←PREV INDEX NEXT→ ←PREV オルテガ NEXT→