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それが気になったのは、いつ頃からだろうか。 ―――――――――――――――――――― 弾丸論破 ナエギリSS 『女の子・1』 ―――――――――――――――――――― 「えっと…親子丼」 「ハンバーグプレート、ポテトサラダとライスを大盛りで。あとコーンスープ」 …念のため言っておくと、前者が僕の注文だ。 いや、これでも食欲旺盛な男子高校生。 今日はたまたま、懐の経済事情が厳しいので、量の割に安い丼ものを頼んだというだけ。 仮に僕が、値段やカロリーを気にせずに後者の注文をしたとて、誰が咎めるだろうか。 そう、問題点はそこである。 僕が頼めば、なんの違和感もない、そのハンバーグプレート大盛り。 注文したのは、僕の隣で凛と佇む、細身の少女なのだ。 隣に並んでいる男子が、マジかよと言わんばかりにこちらを見ている。 マジである。 此方におわします『超高校級の探偵』霧切響子さん。 彼女は、大の男が食べるような量のご飯を、涼しい顔をしてペロリと平らげてしまうのである。 ――――― 『隣、いいかしら』 『あ、うん。喜んで』 そう言って、彼女と昼食を共にしたのはいつが最初だっただろうか。 最初はなぜか、気にならなかったのだ。 モリモリと食事を口に運んでいく彼女の姿が、やけに自然というか、絵になっているというか。 しかし、他の女の子の昼食や、周囲の反応を見て、少しずつ僕も違和感を感じるようになっていった。 大食い、という言い方では品が無い。 霧切さんは、すごい…こう、すごい食べる人だ。 自分のボキャブラリの無さは、考え出すと悲しさが溢れだすから、まあ目をつぶるとして。 当然ながら混雑している昼食時の食堂は、相席を余儀なくされる。 それなら、誰とも知らない相手と気まずいランチタイムを過ごすより、顔見知りのクラスメイトの方がマシだ、と。 そんな理由で、食堂で顔を合わせれば、僕達はどちらからともなく互いに隣り合うようになった。 クラスと寮が同じと言うだけの、僕と彼女の接点なんて、その程度だ。 そもそも住んでいた世界が違うんだし。 ――――― 「いただきます」 「いただきます」 互いに手を合わせ、自分の昼食に手を伸ばす。 「…」 「…」 双方無言。 ただ黙々と行儀よく、食器の鳴る音だけが二人の間に響く。 僕と彼女のランチタイムはこんなものだ。 会話が弾む時もあれば、互いに一言も発せずに終わる時もある。 霧切さんが話題を切り出すことも時々あるし、僕から何か尋ねれば、例外なく彼女は反応を返してくれる。 最初の頃は沈黙が痛くて、必死に会話を繋げようとどうでもいい話を繋げて繋げて。 けれど最近は、この沈黙にも慣れてきた。 慣れては来たのだけど。 「…」 やっぱり、せっかく一緒に食事を取っているんだし、話はしたい。 それは、彼女が持つ『探偵』という性質のせいなのだろうか。 一度霧切さんが沈黙すると、こちらから話題を切りだすのに酷く緊張させられるのだ。 直接拒まれたことはないけれど、霧切響子と言う人間に踏み込むのは憚られる。 それは、砕いていうなら、絡みにくいとかそういう言葉になるのだろう。 つまるところ、僕はまだ彼女のメールアドレスすら知らずにいるのだ。 そして、例えば他の友人たちのように、一緒に帰ったり、どこかに出かけたりという所までは望まなくとも。 もう少し彼女とも親密になりたいな、なんて思っていたりするのだ。 「…、と」 何か切り出すきっかけを探して、僕はまた彼女が食べる様に目を向けた。 希望ヶ峰学園の学生食堂は、かなりレベルが高い。 購買もあるのに昼食時に混雑するのは、それが理由だったりする。 彼女が食べているハンバーグプレート一つにつけてもそうだ。 その重厚感たるや、思わず『ファミレス!?』と突っ込んでしまいそうな質とボリューム。 それにコーン、ポテト、ブロッコリーに人参のグラッセと、付け合わせも豊富。 本格的にも、熱した鉄板に乗せられてくる。 まあ、普通の女子高校生が昼から頼むような料理じゃない、と思う。 そして、そんな肉々しさたっぷりのハンバーグプレートを、 ひょい、ひょい、と、かなりのハイペースで、霧切さんは口の中に押し込んでいく。 不思議と粗野な感じはしない。 驚くほど丁寧な所作で、肉を切り分け、フォークの背にライスを乗せて、口に運んでいく。 あくまでテーブルマナーに乗っ取ったその食事は、むしろ上品なものに感じてしまう。 「…苗木君」 と、彼女に名前を呼ばれて、ふと僕は我に帰る。 霧切さんはいつの間にか手を止めて、ジト目で僕のことを見ていた。 「そんなに見られていると、食べにくいわ」 「あ…そうだよね、ゴメン」 「謝る必要はないけれど。私の顔に何か付いていたの?」 「――いや、よく食べるな、と思って」 「…」 二階級特進。 そんな不穏な単語が、頭をよぎった。 「…あ、いや、その…」 馬鹿か。よりにもよって、女の子に面と向かってそんなこと。 せめて、もう少しオブラートに包んだ言い方だってあるだろうに。 どうしてこういう時に気が利かないんだ、僕って男は。 と、及ばざるがごとしながらも、謝罪の言葉を口にしようとして、顔を上げると。 「…そうかしら。まあ、苗木君と比べれば健啖な方だけど」 言われた本人は、当惑するでも顔を赤く染めるでも、ましてやデリカシーの無い僕に愛想を尽かすわけでもなく。 淡々とそう返して、また食事に戻るのだった。 「…」 うん、まあ。彼女の言っていることはおおむね間違ってはいないんだけど。 確かに、霧切さんが食べている量は、規格外かと問われればそうでもない。 僕にしたって、それほど大食いと言えるわけじゃないし。 あくまで比較して、彼女の方が量が多いという、それだけの話なんだけど。 なんだかなあ、と頭を掻いて、僕も自分の食事に戻っていった。 そもそも、今の発言を気にするなら、最初からあんな量を頼んではいないか。 ――――― 以前舞園さんと昼食を共にした時のことだ。 霧切さんの量に慣れている僕は、彼女の昼食に目を丸くしたのを覚えている。 『苗木君…これ、半分食べてくれませんか?』 言って彼女が差し出したのは、まだ手の付いていない、主菜の肉野菜炒め。 お腹が膨れて残すのならともかく、なぜ食べる前からくれるのだろう、と僕が顔を傾げると、 『や、さすがに一度箸をつけたものを渡すわけには…いかないじゃないですか』 と、照れ半分困り半分で笑う舞園さんの顔があった。 いわく、最初から半分しか食べない予定で注文したらしい。 ライスも小盛りで、サラダとみそ汁でお腹を膨らませる作戦なのだとか。 『油断するとすぐに増えるんです…!乙女の敵です!』 なんて、厳しい目をして語っていたっけ。 いくらアイドルとはいえ痩せているんだし、もう少しくらいゆとりのある食生活でも罰は当たらないだろうに。 どうも昨今は、淑女たるもの小食たれ、という風潮に囚われてしまっているみたいだ。 慎ましやかは結構な事だと思うけれど、なんだかなあ、と思ってしまう。 テーブルマナーや淑女のたしなみも結構な事だと思うけれど。 やっぱり、残さず美味しく好きなだけ食べることが、料理に対しての一番の礼儀だと思う。 なので、肉野菜炒めは一口だけもらって、後は丁重にお断りして、 お返しに、えび天重のえびを一匹丸々、半ば無理やりに食べてもらったっけ。 『うう…恨みます、苗木君…』 そう言いながらもえび天を頬張る舞園さんは幸せそうで、思わず頬が緩んだのだった。 ――――― さて、それから見ればもう一方。 こちとら何の躊躇いも無く、『男子の前で』『豪快な肉料理を』『大盛りで』頼める女傑である。 この学園で同じことができるのは、後は水泳少女くらいじゃないだろうか。 誤解のないように付け加えると、当然僕はそれを否定しているわけじゃない。 むしろ、彼女がそうやって食べている様子は、見ていて気持ちがいいほどだ。 一緒に食事をしていれば、思わず釣られてこちらの食も進むほど。 前述の通り、希望ヶ峰学園の学食はレベルが高い。 その中でも、とりわけ根強い人気を誇るのが、この親子丼である。 「ん…」 一掬いして、口に。 卵の半熟具合はもちろんのこと、塩ベースのタネに出汁の風味が効いている。 炭火で焼いて旨みを閉じ込めた大ぶりの鶏肉と長ネギに、口の中で広がるしめじの香りのアクセント。 うん、やっぱり美味い。自然と顔が綻ぶ。 これでワンコインなんだから、もう何も言い残すことはありません。 これは真似しようと思ってもなかなか真似できないクオリティ。 黄金比ともいえるタネの配合なんか、特に。 これを食べられるというだけでも、希望ヶ峰学園に入学した甲斐が、…… ふ、と視線を感じて、目を上げる。 さっきとは逆に、今度は霧切さんが食事の手を止めて、僕をじっと見ていた。 「…あの、どうかした?」 「いえ、別に」 いやいや、さっき自分で、食べている人を凝視するなと抗議しておいて、それはないでしょう。 と、抗議の視線を送ってみれば、 「…苗木君、もしかして食にはかなりうるさい方なのか、と思って」 そんな、突拍子もない答えが返ってきた。 「へ?」 「やっぱり、自分では気付いていないのね。あなたの目、すごく輝いているわよ」 親子丼を食べている時や、私のハンバーグを見ている時も、と、彼女が付け足す。 「――っ…」 途端に、顔が熱くなった。 「ちなみに、探偵は関係ないわよ。あなた、顔に出やすいもの」 それは、子供のように食べ物で一喜一憂する、食い意地の張った自分を恥じてか、 それとも、すぐ隣で微笑んでいる彼女の顔が、反則級だったからか。 「否定しないということは、図星?」 どちらにせよ、と。 照れ隠しに、僕は切り返す。 「霧切さんこそ、結構食べるけど…こういうのは好きなんじゃないの?」 「私?」 尋ねれば、面喰ったように目を見開いて、それから伏せる。 「…どうかしら。娯楽としての食生活は悪くないとは思うけれど…あまりしてこなかったわ」 「どうして?」 「必要性を感じなかった、という言葉では、味気ないかしら」 それは、うん、確かに。 味気ないというか、もったいないというか。 と、自分のことを語るのは思う所じゃないのだろう。 居心地悪そうに口籠り、それから彼女は話題を戻した。 「…私のことはいいのよ。それより、あなたの話を聞かせて」 「え、僕?」 「そうよ。食事の話題を切り出したのは、あなたの方でしょう?」 おかしなルールもあったものだ。 まあ、確かにきっかけは僕に違いないんだけど、あれは口が滑ったというか、そんなつもりじゃなかったというか。 「それに…あなた、あまり自分のことは話さないでしょう」 「そう?それを言うなら、霧切さんだって話したがらないよね」 「私はそんなことないわ。隠しているわけじゃないもの」 「それなら僕だって。隠してるわけじゃないし」 「あら、隠してるわけじゃないなら、聞いてもいいのよね?」 詭弁だなぁ、と思いつつ。 ふふふ、と不敵に笑う霧切さん。 目がきらきらと輝いているのは、多分本人も無意識の所なんだろう。 「『超高校級の幸運』の謎を解き明かす、絶好の機会ね。覚悟しなさい苗木君、丸裸にしてあげるわ」 そもそも探偵業、知らないことを知る、というその行為がもう趣味の領域なんだろう。 でも、せっかく目を付けてもらって悪いんだけど。 「…本当に、人に話せるような面白い話はないよ」 僕も、あんまり気が乗らない。 霧切さんを満足させられるような話があるとも思えないし。 「僕は、霧切さんの話を聞きたいんだけどな。外国にいた頃のこととか」 「私の話こそつまらないわ。人に話せるような面白い話はない」 「いや、だから僕も、」 「あなたの話がつまらないかどうかは、私が聞いて決めるからいいのよ」 「でも、それなら霧切さんの話だって、」 「そういえば調理実習の時も、苗木君の班だけやたらに盛り上がっていたわね」 ああもう、なんなのこの人。 自分のことは棚に上げて、すごいぐいぐい来る。 こっちの言い分は、聞く耳すら持ってくれないのに。 僕の押しが弱いせいもあるんだろうけど、どうも探り合いじゃ分が悪いようだ。 こういう、少し強引に情報を聞きだす技術も、探偵には必要なんだろう。 彼女の追及から逃れる術も思いつかないし、仕方なしに覚悟を決めた僕の目の前に、 つ、と、一切れのハンバーグが差し出された。 何事かと思って顔をあげれば、霧切さんがフォークで器用にそれを僕の器の中に入れている。 そして、『これで満足か』と言わんばかりのドヤ顔。 意訳、ハンバーグあげるからこっちの話に付き合いなさい。 いや、あの。 仮にも女の子がですね、そういう食事中のマナーというか、 一度口を付けた食器で、男子に料理を渡すという行為は、 「…苗木君?」 そういうの、意識しちゃうじゃないか。 「は、はい…」 霧切さんは、ハンバーグを茫然と見ている僕を訝しげに見て、首をかしげた。 その仕種が少しだけ子供っぽくて、いつもの大人びた霧切さんとのギャップに、さらにドキッとさせられる。 「食べないの?ハンバーグは嫌いだった?」 「いや、そんなこと…うん」 いやいや、待て僕。 首をかしげた、ということは、霧切さんは気づいていないか――それともなんとも思っていないのか。 どちらにせよ彼女が気付いていないのなら、それを僕が意識するのは彼女にも失礼じゃないか。 そう思い、いざ一口に放り込んだハンバーグは、 「あふっ!」 先ほどまで鉄板の上にあったためか、思っていたよりもかなり熱く、 霧切さんに、子供の戯れを見るような眼で笑われてしまうのだった。 ――――― 「――じゃあ、ご両親が出張の際は、部活で帰りの遅い妹さんのために料理を作っていたのね」 「まあ、そうなるかな。うち、共働きだったし」 焼けた石のように熱かったハンバーグも、のど元過ぎれば何とやら。 急いで飲みこんでしまったのが惜しくなるほど、口の中には肉汁の風味が残っている。 僕が飲み込むや否や、矢継ぎ早に霧切さんに質問責めにされて、十分弱。 ホントにこんなつまらない男子の話の何が楽しいのか。 へえ、とか、ふーん、とか言いながら、霧切さんは相変わらず目を輝かせている。 「今も料理はしているの?」 「まあ…暇なときとか、小腹がすいたときとかに、ちょっと」 「得意な料理は?」 「うーん…どうだろ、意識したことないかな。レシピと材料があれば、大抵のものは作れる…と思う」 「そう。煮ものとか、そういう地味…家庭的な料理が似合いそうだから、そっちかな、とも思ったんだけど」 くす、と誤魔化すように笑う霧切さんを、僕はねめつけた。 「…今、なんか攻撃的な単語が聞こえたんだけど」 「気のせいじゃないかしら?」 悪びれた様子も無く、彼女は僕をからかって楽しんでる。 その笑みにあまりにも邪気が無くて、それ以上追及する気がそがれた。 けど、と。 「…煮ものは地味じゃないと思う」 反撃にもならないけど、ぼそりと言い返す。 確かに時間との勝負のような料理だけれど、だからって手が抜けるわけじゃない。 素材や作る量によって、調味料と相談が必要だ。火加減にも気を抜けないし、灰汁取りも面倒。 味のしみ込み方や、食べる相手の年齢も考えて、具材の切り方にすら気を配る必要がある。 そういう手間がかかるという意味では、ある意味僕の苦手な料理と言えるかもしれない。 「――だから、煮ものは地味どころか、すごく奥が深い料理なんだよ」 と、言葉とともに、ビシッと霧切さんばりに人差し指を立ててキメて、 「…」 「…」 その行為の恥ずかしさに耐えきれず、そろそろと腕を机の下に戻した。 向かいの席に座っていた生徒が、何事か、と僕の方をじろじろ見ている。 ああ、また調子に乗っちゃった、恥ずかしい。 「…だから、話したくなかったんだ」 「あら、どうして?料理の話をしている苗木君は、すごく活き活きしているわ」 だから、だ。 まるでいつもの自分のテンションじゃないみたいになってしまう。それは、すごくみっともないし、それに、 「…可笑しいでしょ。男が料理好きなんて」 以前の調理実習で、僕の班が盛り上がっていた原因の半分はそれだ。 みんなの包丁捌きの危なっかしさや、料理知識の不足さを見かねて、僕があまりにも出張ってしまった。 『うおお、千切り早えええww』 『苗木すげえ、女子よりすげえww』 『お前もう専業主夫だなww』 彼らはたぶん、称賛してくれたんだろう。 けれど男子にとって、称賛と冷やかしは紙一重。 他の班からも湧いてきたギャラリー、その好奇の目に、僕は実習中延々と晒されることになってしまった。 …あの時の恥ずかしさは、ちょっとトラウマ。 「それは偏見よ」 と、意趣返しか、霧切さんが僕の鼻先に人差し指を突きつけた。 やっぱりこのポーズは、彼女がやらなけりゃ様にならない。 「…念のため言っておくけれど、地味だなんて冗談よ。気を悪くさせたのなら、謝るわ」 「あ…ううん、気にしないで」 急に霧切さんが真面目な顔になったので、面喰らってしまう。 感情の機微に敏いのか、こういう会話の中で彼女は時々、すごく律義というか真面目になってしまうのだ。 それは彼女の、隠れお人好しな人柄から来るんだろう。でも、今だけは少し居心地の悪さを感じる。 「――まあ、得意かどうかは分からないけれど、中華はよく作るかも」 少し強引に軌道修正。 料理の話題に戻すと、再び霧切さんは目を輝かせた。 「へえ…少し、意外だわ」 「そう?適当に作っても味は整うし、逆に極めようとすればどこまでも行けるから、作ってて楽しいんだ。 小腹が空いた時にササっと出来るし、一品小物を加える時も冷蔵庫の残り物で出来ることも多いから、重宝してた。 あと、調味料が多いのも特徴で、自分なりにアレンジが加えられるのが…って、語れるほど上手いわけじゃないんだけど」 照れ隠しに頬を掻いて見せる。 と、霧切さんは身を乗り出して、 「…ねえ、今度御馳走してくれない?」 そんなことを言いだした。 「うええ!?いや、ホント人に出せる腕じゃないんだってば!」 「そんなに驚かなくてもいいでしょ。というか、味云々よりも、料理をする苗木君が見てみたいわ」 「や、やめてよ…」 本気で恥ずかしい。 何が恥ずかしいって、霧切さんが冗談じゃなく本気で言っている所だ。 彼女は本気で僕に料理を作らせて、その過程を眺めて楽しもうとしている。 「ねえ、良いでしょう?材料費は全部負担するし、雑用くらいなら手伝うから」 「そ、んな、別にいいって…いや、よくないけど…っていうか、もう僕の話は良いでしょ!」 今度はやや強引に、はっきりと話を打ち切る。 む、と眉をひそめられたが、さんざん聞いて満足したのか、今度は大人しく食い下がってくれた。 はあ、ようやくターンエンドだ。 このままずっと霧切さんのターンかと思ったけれど、まだ昼休みには余裕がある。 「じゃあ、今度は霧切さんの番だよ」 「…私?」 讃えていた微笑がふっと消えて、霧切さんが真顔になる。 う、やっぱり迫力というか、無言無表情の威圧感というか。 でも、僕ばかり質問されたなんて不公平だし。 「私の方こそ、人に話せるような面白い話はないわ」 「霧切さんの話がつまらないかどうかは、僕が聞いてから決めるよ」 と、意趣返し。 僕だって、やられっぱなしは好きじゃない。 挙げ足とられたのが気に食わないのか、霧切さんはますます眉をひそめる。 けれど、反論はしない。 好きに質問してくれ、ということだろう。 「じゃ、向こうにはどんな料理があったとか、こっちと比べてどっちが好きだとか、」 「――待って」 掌をかざして制止される。 「…苗木君。私はあなたから話を聞く時に、ハンバーグを一切れ差し出しました。わかるわね?」 「……、あ、うん。そうだよね」 こういう所で、変にきっちりしている。 意訳、話して欲しければなんか寄こしなさい。 まあ、そこまで乱暴な口ぶりでもないし、せせこましい人でもない。 たぶん彼女自身、同級生とこうやって昼食を交換したりするのを楽しんでいるんだろう。 僕だって、さっきは意識しすぎたけれど、こういうお弁当の交換みたいなのは好きだ。 さて、僕が口を付けてしまった親子丼を渡すわけにもいかないし。 飲み物でも買ってこようか、と、僕がポケットの小銭に手を伸ばしたのと、 何のためらいも無く霧切さんが親子丼の器に手を伸ばしたのは、ほぼ同時だった。 「え」 当然のように、さっきまで僕が使っていたレンゲを手に取り、親子丼を一掬い口に運ぶ。 ぱく。 もぐ、もぐもぐ…もぐ。 ごくん。 飲み下す音が、やけにリアルに耳に届いてきた。 「…む。丼ものは味が単一で大雑把な料理だと思っていたけれど…これは侮れないわね」 口端に付いた米粒を、ペロリと舌を出して舐め取る。 小さな舌、柔らかそうな唇。 レンゲと丼を返して、彼女はまた首をかしげる。 「…それで、何を話せばいいのかしら?」 親子丼がお気に召したのか、少しだけ上機嫌な霧切さん。 それに対して僕は、 「あ、あ…ぅ」 返ってきた器と霧切さんを交互に見比べて、まともに言葉を紡げない唇をひたすらに動かすのだった。 いくらなんでも、無防備すぎる。 年頃の女の子が、男子を相手に、そういうことを躊躇なくするなんて。 そう、注意しようとしたいのに。 僕の頭はまともに働かず、親子丼、だの、僕の、だの、意味を成さない単語を呟いてばかり。 それをどう勘違いしてしまったのか、 「…そんなに親子丼が惜しかったの?」 しょうがないわね、と、お姉さんのような口ぶりで、ハンバーグをもう一切れ、丼の中に入れられる。 そうじゃないのに。 いや、何もそれが悪いって言っているわけじゃなくて、嫌なんかじゃなくてむしろ――って、何考えてんだ。 霧切さんは、嫌じゃないんだろうか。 僕がそのまま、彼女の口を付けた食器を使っても。 彼女はさっきから全く意識していないみたいだけど、僕だって一応健全な男子高校生だ。 そういうの、意識しちゃうし。 どうしたの?と再三に首をかしげて――ああもう、反則だ、その仕種。 そういう表情をされると、こう悶々としていること自体がすごくいやらしいように思えてくる。 今からでも食器を変えてきた方がいいのか。 それでも、霧切さんは意識していないんだから、こだわる方が失礼かもしれない。 いや、でも、その、 「…苗木君。そのままボーっとしているのも私は構わないけれど、そろそろ昼休みが終わるわ」 「あぅ、……、…っと、うん…」 結論。 食堂が閉まる十分前で、彼女に諭されるまで悶々としていた僕は、 結局彼女に質問することも敵わず、次はちゃんと味わおうと心に決めていたハンバーグもろとも、 よく味の分からなくなった親子丼を、木製のレンゲで口に流し込むのだった。 ――――― 「…まあ、三流の恋愛ジュブナイルじゃあるまいし…神聖な学び舎でそんな喜劇、繰り広げないで貰いたいですわね」 「それなんてギャルゲ?ってやつですな。で、苗木誠殿…そのレンゲ、いやさ宝具は、今はどちらに保管を?」 翌日、食堂。 霧切さんとは入る時間がずれたため、今日は山田君とセレスさんの向かいに座っている。 別に昨日あんなことがあったから、意識して食堂に行くのを遅らせたとか、そんなことはない。 「…レンゲなら普通に返却したよ。食堂のものなんだから」 昨日のアレは、一般的に見てどうなのか、と。 第三者の意見を求めて、たまたま彼らが良い所にいたから尋ねてみただけ。 そう、それだけなんだ。僕に罪はない。 「か、返したですとぉ!?理解できん、自ら宝具を放棄して、どうやって聖杯戦争に勝ち残るつもりかぁ!! こ、これが勝者の余裕…ふぉおおリア充爆発くぁwせdrftgyふじこlp;@」 「うるさいですわ」 「ぶぎゅうっ…!!せ、セレス殿ぉおお…ピンヒールはさすがに痛いですぎゃああ…ぎゃああああああ…!!」 僕に罪はない。 罪はないが、今度から『一般的な意見』を求める時は、ちゃんと『一般人』に尋ねるようにしよう。 「…とにかく」 紅茶を啜りながら、セレスさんが話題を戻す。 優雅な所作だ。 隣で真っ青な顔で悲鳴を上げる山田君と、テーブルの下からの肉を抉るような音がなければ、尚いいんだけど。 「殿方の器から遠慮なしに料理を、しかも同じ食器を使い持っていくとは…女子にあるまじき、浅ましき行いですわね」 「…うん、隣にギョーザ定食がなければ、その女子力発言の説得力も五割増しなんだけどね」 「何か言い 黙れビチグソ ましたか?」 「いえ、別に」 セレスさんの副音声から耳を反らし、僕もお茶を飲み干す。 「んー…しかし、やはり苗木殿の考えすぎな気もしますな」 と、ピンヒールから解放されたのか、山田君が会話に戻ってくる。 「ギャルゲではフラグビンビンなイベントですが…特に気にする必要もないかと」 「あら、女子の食事中のマナーに目を配るのは、殿方として当たり前では?」 「む、それはそうかもですが…苗木殿が言っているのはマナー云々ではなく、その、間接キス的なことでしょう」 話展開がまずい方に及びそうだったので、それじゃ、と、僕は二人に礼を言い、早々に食堂を後にした。 とりあえず二つ分かったことは、僕がいちいち気にしすぎだということと、 一般人とは呼びがたい彼らの目から見ても、彼女の昨日のアレは、やっぱりちょっとおかしいということ。 「でも、うーん…なんか、気にせずにはいられないんだよね」 そう独りごちて、僕は午後の授業のため、教室へふらふら戻るのだった。 【続く】
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狛枝「やぁ、僕は狛枝凪斗!希望の象徴である超高校級の皆を絶望に叩き落して這い上がらせるのが趣味なんだ!」 狛枝「っと、噂をすれば七海さんだね。よし、今日は彼女にしようかな、七海さん」 七海「狛枝君?」 狛枝(確か七海さんは日向君と仲が良かったんだよね、よし、じゃあそこを突いて絶望させよう!) 狛枝「ねぇ、七海さん、あまり日向君と一緒に過ごさない方がいいんじゃないかな?」 七海「…どうして?」 狛枝「だって、日向君が困るでしょ?」 七海「え?」 狛枝「日向君ね、君と居るとしんどいんだって」 七海「……日向君が?」 狛枝「うん、すぐに寝るし、何かあるとゲームの例えが飛び出してきて付き合いにくいんだってさ」 七海「………………」 狛枝「ああ、そうそう。この前は君とゲームをいっぱいしたんだっけ?」 七海「……そう、だけど…」 狛枝「日向君、頭痛いって言ってたよ。ゲームをやり過ぎた…いや、やらされ過ぎたからだね、きっと」 七海「………………」 狛枝「僕は君のゲーマーとしての才能は愛してるよ。でも…それで他の皆を潰されるのは見るに耐えないよ」 七海「……私のせいで、日向君が?」 狛枝「うん、じゃあ僕はこれで。ごめんね、僕みたいなのに時間を使わせちゃって。でも一応伝えておいた方がいいと思ってさ」 七海「……………」 狛枝(ああ、すごい顔をしてるね、七海さん…きっと今、すごい絶望してるんだろうなぁ…) 狛枝(でも負けないでね、七海さん!そして僕に見せてくれ!そんな絶望を乗り越えた君の希望を!) ーホテル・入り口- 日向「あれは七海?あんなところに立ってなにやって・・・・?」 七海「うっう・・・グスッ・・・!」 日向(な!?七海が泣いてる!!?なんで?・・・って考えてる場合か!) 日向「おい!七海、どうしたんだ?大丈夫か!?」 七海「・・・スンッ、スンッ、・・・ひ、ひなたクン・・?」 日向「何かあったのか?話してみろよ?」 俺はハンカチを取り出し七海の涙を拭こうとしたが、拭いている途中七海が下を向いた。 日向「七海?」 七海「ひなたクンって・・・ホントやさしいよね・・・・。」 日向「な、何だよ急に?そんなこと・・・。」 七海「・・・だからいつも、私が、気がつかすに、めいわくかけちゃうんだね・・・。」 日向「・・・は?」 七海「・・いつも、すぐに寝ちゃうし・・・。」 七海「・・いつも話すことはげーむのことばっかりだし・・・・・。」 七海「・・この前もゲームやりすぎて、めーわくかけたばっかりなのに・・・・・。」 日向「な、七海?」 七海「こんな私といても・・・『絶対につまらないよね』・・・・。」 言弾「七海に借りたゲーム」 日向「それは違うぞ!!!!」 七海「っ!?」 日向「七海、今日はお前にコレを返しに来たんだ。」 七海「!それって・・・私の。」 日向「これ結構面白かったぞ。ストーリーもよかったけど戦い方の方も俺は好きだったぞ。」 日向「お前のおすすめのゲームだったからここまで楽しめたんだ。」 七海「・・・・・・・・。」 日向「・・・・七海、何があったかは聞かないけど。コレだけは分かっててくれ。」 七海「・・・・・?」(泣き目で首かしげ若干の上目遣い) 日向「俺は、お前と一緒にいてつまらないなんて思ったことも迷惑だって思ったこともない!!」 七海「・・・っ!!!」 日向「すぐに寝るなら何度でも起こしてやるし、それでもダメならコテージまで送って寝かせてやる!」 日向「話すことがゲームのことばっかりでも、それはそれで楽しかったし。」 日向「この前のゲームだって、少しやりすぎて疲れたのは事実だけど迷惑なんて掛かってなんかない!!」 七海「・・・・日向くん。」 日向「それに俺は、その・・・・・。」 七海「・・・?どう、したの。」 日向「~~~~ッ!俺は。俺はお前と一緒に居たいんだ!」 七海「っ!!・・・・これから、またゲームに誘ってもいいの?」 日向「ああ。」 七海「眠くなったら、また寝ちゃうかもよ?」 日向「その時は、眠くならなくなるまで一緒にいてやるしコテージまでだって運んでやる。」 七海「話すこともっ・・・!ゲームのこと以外、ないかもしれないよ!?」 日向「それでもいいし、それ以外が知りたいなら俺が教えてやる!」 日向「それでも俺は・・・!お前と一緒にいたいんだ・・・!」 七海「・・・・・・・・は、ははは、・・・。」 少し笑ったと思ったら七海はその場に座り込んでしまった。 日向「七海!?」 七海「ごめんね、安心したら・・いっきに気がぬけちゃった・・・・。」 七海「あれ。あれあれ?おかしいな?なみだまで・・・またでてきて・・・・グスッ。」 日向「七海・・・お前本当にだいじょうb」 ガチャ! 小泉「・・・・・・・・・・・?」 澪田「・・・・・・・・・・・???」 日向「・・・・・・・は?」 七海「グスッ、グスッ・・・・ウウッ・・・。」 ・・・・・・・・・・・・よし、とりあえず状況を整理だ。 -ロジカルダイブ・開始ー Q1,今俺は何をしている? A,七海を慰めている Q2,だが実際はどう見えてしまっている? A,俺が七海を泣かしている Q3,七海風に言うなら今はどんな状況? A,死亡フラグ 日向「推理は繋がった!!!」 -終了ー って考えてる場合か俺は!!? 小泉「な、ななな、何やってんのアンタ!!?」 澪田「は、創ちゃんが女の子泣かしてるっす!これは事件以上に事件っす!」 日向「ちっちがう!誤解だ!」 小泉「何が誤解なのよ!女の子泣かしといてこの人でなし!!」 日向「は、はぁ!?だから違うって!」 澪田「コレは危機っす!バンドメンバー存続の危機にかかわる問題っす!!」 日向「だからなんでそうなってんだ!?違うって誤解だって言ってんだr」 小泉「いいから黙って正座しなさい!!!」 日向「は、はいいい!!」 -ホテル正面入り口ー 狛枝「はは、ははは!ははははははははは!!!」 狛枝「すごいすごいすごいよ!!やっと七海さんの絶望がなくなって現れるかと思った日の間が、 今度は日向くんの絶望によってまた消えちゃうなんて・・・・。」 狛枝「しかも今からもうすぐお昼時だ・・・早く誤解を解いておかないと、さらに人が増えて 誤解の連鎖が止まらなくなっちゃうよ・・・。」 狛枝「ははははは!僕は今最っ高についてるよ。七海さんの希望が絶望に打ち勝った瞬間に 立ち会えただけじゃなく、今度は日向くんの希望の輝きまで目の当たりにできるかも しれないなんて!!!」 狛枝「さぁて、日向くん。君の希望は、いったいどんな輝きを見せてくれるのかな?」 左右田「な、なぁ・・・アイツ。玄関の前で何やってんだ?」 田中「捨て置け・・・・関われば己の身を滅ぼす愚考へと繋がるぞ・・・。」
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― ― ― ― ― 「はい、えーと、ただ今担当の者に繋ぐので…」 「苗木、それ終わったら昼休憩、行こ?」 朝日奈さんに了解のサインを送り、内線を繋いで受話器を置く。 ちょうど区切ったかのように、コール音がひっきりなしに響いていた部署内に、ようやく平穏が訪れる。 朝日奈さんに頭を下げられ、僕は現在彼女の部署に助っ人として臨時配属されていた。 食糧配給の輸送でトラブルがあったらしく、今週の分の食料がまるまる届かない地域が出てしまったらしい。 誤情報の発見が早かったため、今日の午後には無事届くことになっている。 それでも午前のほとんどは、ひっきりなしにかかってくる苦情の電話の対応に追われてしまった。 思いっきり伸びをすると、背骨が景気よくポキポキと鳴る。 ずっと電話口に頭を下げ続けていたせいで、上半身が悲鳴を上げていた。 「いやー、お腹減ったなぁ。今日の日替わりランチはー、っと…」 僕を尻拭いに巻きこんだ張本人の朝日奈さんは、そんな僕を他所に、快活な笑みを浮かべている。 「こんな大変な事になってたなら、前以て教えておいてくれても…」 「まーまーいいじゃん! それよりご飯だよ、ご飯! あ、お金借りてもいい?」 「…僕、今日は非番だったはずなんだけど」 彼女の眼は、日替わりの焼き肉定食に釘付けになっていた。 最近厚さの心許ない財布を取り出す。 給料日は今週の末。 彼女に貸すのであれば、今日も僕の昼食は素うどん一杯になりそうだ。 はあ、と、彼女に聞こえないように溜息を零す。 いや、そりゃあ断ったって良かった件だし、恩を着せるつもりもないんだけれど。 もう少し罰が悪そうにしてくれても、罰は当たらないと思う。罰は当たらないと思うんだ…! 「ほら、困った時はお互い様でしょ」 「それ、こっちが言う台詞じゃないかな…っていうか、朝日奈さんがこっち手伝ってくれたこと、あったっけ」 「あ、あはは…」 乾いた笑いを浮かべて、朝日奈さんは目を泳がせる。 「そこは、ホラ…霧切ちゃんとデートさせてあげたってことで、ちょっとオマケしといて、ね?」 心臓が嫌な跳ね方をした。 つい先日、喧嘩別れしてしまったばかりの相手の名前だった。 霧切さんは、あの絶望の学園を乗り越えてきた仲間の中でも、僕にとっては特に大きな存在となっている。 幾度も裁判で助けられ、仲違いもして、お互いの心の傷をさらけ出した、そんな相手だ。 自惚れかも知れないけど、彼女にとっての僕も、けっして小さな存在ではないと思っている。 そんな霧切さんが、誰かを誘って遊びに行く―――気になってしまったのは、野次馬根性の好奇心のせいだけじゃない。 そうして必要以上に詮索を入れてしまった結果、その機嫌を損ねてしまったのだ。 いつか怒らせてしまったように、完全に無視されるということはなかった。 ただ、例えば目が合ってもすぐに視線を逸らされ、話しかけてもそっけない返事ばかり返される。 会話の続けようがない分、ある意味無視されるよりも虚しさを感じてしまった。 そういえばあのチケットは、朝日奈さんから貰ったと言っていたっけ。 だとしても、霧切さんが誘った相手は僕では無い。 チケットの予約日は、いずれかの日曜になっていたはずだ。 霧切さんは他の誰かを誘って、デートしていたということになる。 「…苗木?」 ふと我に返る。思索に耽って、ぼーっとしてしまっていたようだ。 見れば、朝日奈さんが心配そうな目で、顔を覗き込んでいた。 ちょっと、いや、かなりその距離は近い。 健康的なその肢体が、なんというか、無防備な位置に。 ふわり、と鼻に石鹸の香りが届いて、思わず身じろいでしまう。 「考え事? …なんか、難しい顔してたけど」 「いや、何でもないんだ…ゴメン。えっと、千円札でいいかな」 そう誤魔化して、ポケットから財布を取り出そうとしたところで、 「……」 無言の圧に気が付いて、咄嗟に振りかえった。 僕に続いて、朝日奈さんも振り返る。 般若の如く顔をしかめた、スーツ姿の霧切さんが、そこに立っていた。 「あ、霧切ちゃん! 一緒にお昼食べない?」 モノクマ顔負けの殺気に気が付いていないのか、朝日奈さんは朗らかに提案する。 清涼剤の如き彼女に、霧切さんは背筋も寒くなるような作り笑顔を向けた。 「…申し訳ないけれど、朝日奈さん。苗木君を借りていいかしら」 悔いの残る人生だった。 「え? い、いいけど…あ、待って、やっぱりダメ! 苗木に焼肉定食のお金を…!」 この時ばかりは、彼女の食い意地にも感謝する。 けれども霧切さんは朝日奈さんの制止を意に介さず、コートの内に手を入れる。 「…これで足りるわね。返さなくていいから」 数枚の紙幣を、彼女の胸元に迷いなく押し付けた。 僕も朝日奈さんも、言葉を失う。 「え、あの、霧切ちゃん…」 「そういうことだから、借りていくわよ」 問答無用、といった感じで、彼女は僕の袖を力強く引っ張る。 どうやら僕本人の意思は尊重されないようだ。 かといって、今の霧切さんに逆らうことも出来ず、僕は半ば引きずられるように食堂から遠ざかる。 思い切りの良さは彼女の魅力の一つだけれど、今はただそれが恐ろしかった。 「…霧切ちゃん、男前だなぁ…」 ― ― ― ― ― 使われていない簡易会議室に僕を押し込めると、霧切さんは後ろ手にその鍵を閉めた。 扉を背に立たれたことで、僕は逃げ場を失う。 霧切さんは明らかに苛立っている。 苦々しげに眉をひそめ、服の裾を握りしめて、忙しなくどこかを睨み据えているのである。 きっと先日の、僕が彼女のプライベートを嗅ぎまわるようにしてしまった件を怒っているに違いない。 「霧切さん、その…ごめn」 「―――随分と、朝日奈さんに鼻の下を伸ばしていたわね」 先手必勝、とばかりに繰り出した謝罪は、その前に想像だにしていなかった言葉で遮られる。 何を、と顔を上げると、霧切さんはふいと目を逸らした。 「苗木君って、女の子だったら誰でもいいのかしら…?」 「…あの、霧切さん?」 何のことか、と尋ねようとした僕の意図をくみ取ったのか、キッと眉を吊り上げる。 「…詳しく解説して欲しいの? 貴方はさっき、近づいてきた朝日奈さんの胸部を…」 「うわぁああ! い、い、いらないです! 詳しい解説、止めて!」 学級裁判中は幾度もお世話になった、探偵の観察眼というやつだった。 慌てて遮る。 鍵を閉めてはいるけれども、朝日奈さん本人に聞かれたら漏れなくビンタをお見舞いされるだろう。 違うんだ。違くはないけれど、違うんだ。 アレはいわゆる男の本能という奴で、近くに大きなものがあればそれを見てしまう心理というか。 とにかく、邪な気持ちで朝日奈さんを見ていたワケじゃ、けっしてないんだ…! 「もしも、次にあんなセクハラ紛いの行いを見かけたら…」 「み、見かけたら?」 「……、…もれなく、課の女性全員にバラすから」 考え得る限りで、最も恐ろしい罰だった。 つまり氷の女王は、僕のセクハラを糾弾しに来たということらしい。 用事というのは、それだったのか。 久しぶりに彼女と話すことができて、その内容がこれか、と、僕は二重に落ち込んだ。 それでも少なくとも、今回は見逃してもらえるらしい。 その温情だけでも良しと捉えよう。 どんな時でも前向きであることは、僕の数少ない長所なんだから。 「…でも、苗木君」 「…なんでしょうか」 「……女の子なら誰でもいいというのなら、…私でも、いいのかしら」 突拍子もない質問だった。 いや、別に女の子なら誰でもいい、だなんて思ったことはないんだけれど、そんな突っ込みどころは置いといて。 軽蔑の視線か侮蔑の言葉か、とにかく追い打ちを覚悟していた僕は、言葉の意味が分からず顔を上げる。 霧切さんは相変わらず、僕から視線を逸らしていた。 ただ、僕はそこでようやく気付いた。 顔を背けて、僅かに露わになった彼女の耳元が、熱でもあるかのように真っ赤だったことに。 「…答えなさい」 「…その、質問の意味がよく分からないんだけど」 じとり、と睨まれる。こちらの非を追求するような視線。 いや、そんな目で睨まれても、分からないものは分からないのだ。 しばらく視線が交差して、先に根負けしたのは霧切さんだった。 軽く息を吐いて、彼女は髪をふわりと散らす。 「……そうね。貴方相手に、変化球は悪手だったわ」 「いや、あの…?」 「そもそも私の方も、回りくどいのは苦手だったのに……、苗木君」 意を決したかのように、改めて僕を呼んだ。 彼女に名前を呼ばれると、どうも背筋に緊張が走ってしまう。 それは例え彼女がじと目で僕を睨んでいても、耳が真っ赤になっていようとも、同じことだ。 困惑しながら緊張する、という器用な真似をしている僕の眼前に、 霧切さんは、見覚えのある二枚のチケットを突きつけた。 「…次の日曜日、私と一緒に、…ここに行ってくれないかしら」 緊張は解ける。代わりに、困惑は深まるばかり。 チケットは、確かに彼女が朝日奈さんから貰ったと言っていたものだった。 彼女が日曜にデートをしていたのなら、これはもう使用済みのはずじゃないのか。 それ以前に、この状況。 セクハラを糾弾されたかと思ったら、いつの間にか遊びに誘われていた。 何を言っているのか分からないと思う。僕にもよく分からない。 「…えっと」 「言っておくけど、拒否権は無いわよ。朝日奈さんへのセクハラをバラされたくなければ…」 「いや、断るつもりはなくって」 口早に詰める彼女に、その意図が無いことを伝える。 それよりも先ず、僕と彼女の間に在る情報の齟齬を確認しなければ。 「その…僕でいいの? せっかくのペアチケットなのに」 もっと良い人と行っても、と続けようとしたのだが、霧切さんはそれを柔らかい拒絶と受け取ったらしい。 目に少しだけ、悔しそうな色を浮かべた。 「じゃあ、どうすればいいの…?」 「え?」 小さな声で、ぼそりと漏らす。 「だから、その…」 耳だけじゃなく、霧切さんは頬まで真っ赤になった。 心なしか、目も潤んでいるように見える。 ずっとスーツの裾を握っている手は、苛立ちではなく不安の表れなのだと、その表情が語っていた。 しばらく言葉を探すように逡巡していたけれど、上手く見つけられなかったようで。 半ばやけっぱちになったかのように、霧切さんは赤い顔のまま、囁くような小さい声で、 「…苗木君と仲直りするには……私は、どうすればいいのかしら…」 そんなことを、言ったのだ。 今度は僕が赤面する番だった。 普段の、というか先程までの冷たい表情とのギャップもあって、それは凄まじい破壊力だった。 ようやく理解する。 彼女が顔を赤らめていたのは、怒りや熱ではなかった。恥ずかしがっていたのだ。 だってこれは、あの学園生活から通して初めての、彼女からの仲直りとデートの誘いだったのだから。 「…お、怒ってないの?」 「私が何を怒るというの?」 「いや、だって、…僕が霧切さんのプライベートを漁るような真似をしたから」 頬を染めたまま、む、と霧切さんが顔をしかめる。 「…それは、私の稼業への皮肉と捉えていいの…?」 「ああ、ゴメン、そうじゃなくって…!」 だとするなら、と僕は推理する。 もしかして、彼女は最初から僕を誘おうとしてくれていたんじゃないだろうか。 最初から怒っていたわけではなくて、僕を誘うタイミングを逃して、それでずっと不機嫌だったのか。 それならば、朝日奈さんのあの発言も頷けた。 朝日奈さんが送ったペアチケットは、最初から僕と霧切さんに宛てられたものだったのだ。 そんな僕の納得を他所に、霧切さんは俯く。 「…喧嘩するほどの仲になった相手なんて、あまりいなかったから」 勝手が分からないのよ、と、霧切さんは微かな声で続ける。 ペアチケットを差し出した手が、微かに震えている。 怖いのだろうか。 初めての仲直りだ、だとすれば、もし僕が許さなかったらという怖さがそこに在るはずだ。 いや、そもそも僕は怒っているわけじゃないから、許す許さないの選択肢なんてないのだけれど。 そう考えると、その震える手が可愛く思えてしまう。 恐怖を感じないわけではなく、それを表に出さないのが上手いだけ。 いつか彼女がそう言っていたのを思い出した。 表に出さないのが上手いんじゃなくて、表に出すのが下手なんじゃないだろうか。 等身大の少女の一面を見て、不意に温かい気持ちになった。 「じゃあ、その…お願いします」 「ええ…こちらこそ」 差し出されたチケットを手に取る。 そこでようやく安心したのか、霧切さんは小さく息を吐いた。 こうして、僕と霧切さんの何度目かの仲違いは、彼女の初めての仲直りとともに幕を下ろした。 「……けどさ」 一つだけ、疑問というほどには小さすぎる違和感が残っている。 朝日奈さんへのセクハラ事件のくだりは、すなわち僕に仲直りを切りだすためのクッションだったということになる。 ともすれば、あの時の霧切さんの般若の如き殺気は何だったのか。 けっして、僕の行為だけに向けられる怒りには収まっていなかった気がする。 「…別に、何でもないわ」 僕が追及すると、霧切さんは気まずそうに俯いた。 「……ただ」 「ただ、何?」 「…少し、柄にもなく焦っただけよ…朝日奈さんと…」 「焦ったって、何が…?」 ごにょごにょと口籠り、要領を得ない彼女の問いに、更に僕は詰め寄って、それからすぐ後悔した。 結果的に誤解だったとはいえ、こうやって詮索する癖のせいで、僕も彼女も嫌な思いをしたはずなのに。 そんな僕の内心を知ってか知らずか、霧切さんは再三のじと目。 「……苗木君のクセに、ナマイキよ」 「え?」 「…集合は現地、朝の十時。繰り返すけれど、拒否権は無いわ。…用は、これだけだから」 断ち切るように口早に、霧切さんは言い捨て、顔を隠すように背を向けた。 そうして扉を開け、廊下に出ると、まだ僕が残っているというのに外側から鍵を掛けてしまった。 取り残された会議室で、それが彼女なりの照れ隠しだったのか、惚気た頭で僕はしばし考えていた。
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昔々あるところに、霧切さんと苗木君がいました。 霧切さんは山へ散策に、苗木君は川へ洗濯に向かいました。 苗木君が川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこ、と桃が流れてきました。 「うわあ、これは大きな桃だ。持ち帰って、霧切さんと一緒に食べよう」 苗木君が家に桃を持ち帰ると、霧切さんはたいそう驚いて、こう言いました。 「ところで苗木君。桃は中国では仙人の食べる果物だそうよ」 「へ、へえ。じゃ、さっそく割って中を…」 「食べることによって、若返りや不老長寿の力を手に入れることができたとされているわ」 「…ちょっと、ちゃんと台本通りにセリフ言ってよ」 「桃太郎の有名な話の流れでは、桃を割って中から赤ん坊が生まれた、ということになっているけれど」 「うわぁメタ発言」 「一説によると、桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんの間に生まれた子供が桃太郎…というらしいのよね」 「……、…」 「……さ、桃を割りましょうか」 「や、ごめん、僕、実は桃食べられないんだよね」 「とにかく、桃を切り分けないと話が進まないでしょう」 「あ、あれー桃の中から子供が出てこないなー」 「何を言っているの? 桃の中から子供、なんてありえないわ」モグモグ 「桃を食べて若返る方も、なかなかありえないと思う…」モグモグ 「ふぅ…おいしかったわね、苗木君」 「そ、そうですね…」 「あら、緊張しているの?ふふ…大丈夫よ、優しくするから」 「ちょっ、あの、まだ心の準備が……アッ――!!」 大神「……桃太郎は、まだ鬼退治に来ぬのか」
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「ふぅ…今日も疲れたなぁ…そうだ、霧切さん、何か飲む?」 「そうね…じゃあ、いつも通りでお願いするわ」 ジャバウォック島での事件の後処理に追われた日の終わり、霧切さんとボクはそんな会話を繰り広げていた。 「はぁ…酷い目に遭った…。まさか本部の人たちがあんなにしつこく聞いてくるなんて…」 「あのね、苗木君…そのしつこい本部の人たちを振り切れたのは誰のおかげだと思ってるの?」 「うん、それは感謝してるって…ありがとう、霧切さん」 「まったく…あなた1人だと心配だったから付いて行ってあげたけど…案の定、だったわね。そのせいで寝不足気味だわ…。少し、仮眠を取らせて…」 そう言うが早いか、霧切さんはソファの上で寝息を立て始めた。 (ホントにありがとう…霧切さん…) いつもなら見られない彼女の無防備な寝顔を覗きこみ、コーヒーの準備を始めた。が、 「あっ、インスタントしか無いや…」 どうやらドリップは在庫切れのようだ。インスタントで済ますしか無い…本格派の霧切さん的には不満かもしれないけど、まぁ、そこは我慢してもらおう。 ヤカンを火にかけて、暫くは暇になる。 (はぁ…暇だ。何か時間つぶしになるモノないかな…) そう思い、部屋をグルっと見回す。そして、最終的にボクが目をつけたのは… 「霧切さんって…いつもは頼り甲斐のある人だけど…やっぱり、こうやって見てみると同い年の女の子、って感じだなぁ…」 霧切さん、だった。 そもそも、動機なら前からちょっとはあったはずだ。 今日だって、ボクが1人で未来機関の上層部の人たちと会談をしに行くのを『心配だ』とか言って付いてきたし……まぁ、それでボクが何とか助かったのも事実なんだけど。 兎も角、霧切さんは多分、ボクを『頼れる男として』信用してくれてないんだ。 だから、いつかどうにかして霧切さんにボクだってやれば出来る子なんだって、思い知らせてやりたかった。 けど…霧切さんの寝顔を見てたら、何て言うか…背徳心的なものが心のなかに芽生えて…えっと…それで、ボクは今、彼女にこんなことを―イタズラを―している。 イタズラって言っても、そんな大それたことはしていない。中学生とかがよくやる、瞼のとこに眼を書く、いわば『寝てるのに起きてる人』状態の落書きをしてるだけだ。 (…これって、更にボクって頼りない―しかも、なかなかにクズな―男になってる…?…いや、ここまで来たらやり通そう!希望は前に進むんだ!大丈夫、洗えば落ちる!) 持ち前の前向きで自分を鼓舞して、いざ!一筆入魂…ッ! 「………ぅ…うぅ…ん…」 ペンを瞼の上に置いた瞬間に霧切さんがそんな声を出すもんだから、ボクは異常に焦った。 しかし、それは杞憂だったみたいだ。起きる気配も、ボクに気づいている気配も無い。 「…やれやれ、だ…」 そのまま慎重に眼を書き進めていき、右眼は完全に書き終わった。 「予想以上に面白く出来ちゃったな…」 思わず漏らしてしまったその言葉の通り、寝てるのに起きてる人状態の霧切さんの顔は、いつものキリッとした表情とは似ても似つかない、実に滑稽な仕上がりになった。 (写真とっとこ…) ケータイを探すため、霧切さんに背中を向ける。その直後、背後で何かが動く気配がした。 (……!!) 恐怖のあまり、ボクの脳は『硬直する』以外の選択肢を全て捨ててしまった。 が、いつまでたっても彼女はそれ以上のRe アクション…もとい、リアクションを示してこない。 それどころか、微かに寝息まで聞こえてくる始末だ。 (よかった…寝相か、寝返りかだったんだな…) 安心して振り返る。すると、バッチリ霧切さんと目があった。 「………………アポ…?」 不意にそんな言葉を発してしまうくらい、ボクは状況を理解できなかった。 (あれ?さっきまで寝息立ててたのに…!?) そこに発想が至った時点で、ボクはまだ霧切さんが寝息を立て続けていることに気がついた。 「…もしかして…寝てる…?!」 そう、霧切さんは眼を開けたままで寝ていた。しかも微妙に寝相が悪いのか、ソファから身体が半分ほどずり落ちた状態で。 「アイタタタ…霧切さん…。でも、やっぱここはちゃんとソファに寝かせてあげたほうがいいよなぁ…」 さっきあんなことをしといて言うのもアレだけど、疲れてる彼女を今のうちだけでも労ってあげようとは思ったので 「仕方ないな…」口ではそんなことを言いつつ、しっかり彼女を元の体勢に戻してあげる事にしたのだが… 「…眼が開いてるから起きてるのか寝てるのか分かんないなぁ…」 ただでさえ霧切さんを起こさないように慎重に動かさいないといけないのに、寝てるのか起きてるのかの判断材料が殆ど無いわけだから、滅茶苦茶神経がすり減った。 ミスったら即死だな―。そう思いながら、少し力を入れて霧切さんの身体をソファの上に引き上げる。だがその瞬間、うっかり手を滑らせてしまった。 「あッ……!!」 彼女の身体が床に落ちないよう、慌ててカバーする。そのカバーには成功したけど… …今の一瞬に何が起きたのか、ボクの身体には霧切さんの身体が覆いかぶさっていて、ボクの手は…彼女の胸を触っていた。 (…………!?ちょっと待て!これはいつからエロゲーにジョブチェンジしたんだ…!確かにCEROはDだったけど!でもDとZの間にはどうやっても超えられない壁がある筈じゃ…! ってボクは何を考えてるんだ?冷静になれ…こんな場面、誰かに見られたら一巻の終わりだぞ…!?) 「オイ、愚民ども…今何時だと思っているんだ!?良い子はもう寝る時間…」 「あ」 イカン、十神クンに見られた。てか何でドア開けっ放しにしといちゃったんだろう… 「イヤ、十神クン…これには深い訳があってね…」 「……………キャアアァァァァァァ!ごめんなさい!!俺何も見てないから!!全然何も見てないから!!ウワアアァァァァァン!!!」 世にも奇妙な悲鳴を上げ、十神クンは去っていった。……というかホントに十神クンか、あれ…? 「…ねぇ、苗木君…出来ればあなたのその手を退けてくれるとありがたいんだけど」 「ぅえ?」 不意に聞こえた声に、ボクはそんな間の抜けた返事しか返せなかった。 「…もう一度言いましょうか、苗木君。あなたの手を私の胸から退けてくれるとありがたい、と言ったのよ」 「き、霧切…さん…!起きてたの…?」 慌てて手を胸から離す。しかしゆっくりと立ち上がった霧切さんは、まるで養豚場の豚を見るような目でボクを見てくる。 「えぇ…さっきの珍妙な悲鳴でね…」 「あ、そう…」(よかった…落書きはバレてないみたいだ…) 「そんなことより苗木君、そろそろお湯が沸騰してる頃じゃないかしら?」 「あ、そうだね…待ってて!注いでくるから!」 「そう…じゃあお願い」 こうして、ボクは霧切さんと何とも気まずいティータイムを過ごすこととなった。 (うぅ…霧切さん、絶対怒ってるよ…なんて謝ろう…) 「ところで、苗木君」 「な、何?霧切さん…」 「あなた、どうしてこんなことをしたの?」 「こ、こんなことって…?」 「惚けないで…この落書きのことよ…」 霧切さんが自分の右瞼を指さしながら問い詰める。 「あっ…そ、それには色々とワケが…」 ……ん?苦し紛れの言い訳を言いかけたところでふと気付く。 「ね、ねぇ…霧切さん」 「何かしら?言っておくけど、言い訳なら聞き入れるつもりはないわよ…」 そう言い放つ彼女は、なんだか某多恵子さんを彷彿とさせる女王様オーラを纏っていた。 「いや、そうじゃなくてさ!…なんで霧切さん、自分の瞼に落書きされてるって気付いたのかな~と思って…」 「…あ」 「だって、瞼に書いてあるから見れないし…鏡使ったにしても洗面所にしか鏡はないし、でも霧切さんは起きてからずっとこの部屋にいたし…何で分かったのかな~なんて…」 「……エ、エスパーだからよ…」 「えっ?」 「エスパーだからよ!」 「え…?えっ…!?」 「…何でもないわ!!」 「で、でも…」 「ナン・デモ・ナイのよ!!じゃあ、私は寝るから…書類の整理は任せたわよ…!」 ものすごいスピードでそれだけまくしたてると、やたらと顔を赤く染めた霧切さんはあっという間に寝室に入っていってしまった。 「…何だったんだろう…今の……って、え!?書類の整理は任せたって…!ちょっと、あと何枚あると思ってるの!?霧切さ~ん!!」 いくら呼んでも霧切さんからの返答は来そうにないし、書類の量も尋常じゃなかったので、結局ボクは徹夜で1人で書類整理をすることになった… しかも、その日に限って霧切さんの寝相が荒ぶったのか、妙に寝室からジタバタと音がした。 そのせいでボクはあんまり書類整理に集中できず、結果的に殆どの仕事を翌日まで持ち越してしまい、ボクは皆から大顰蹙を買った…… 【完】
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「そういえば霧切さんの髪って、結構手間かかってるよね、朝とか大変じゃない?」 ふと、前から見るたびに思ってたことを口に出す。 特に三つ編みのとことか、素人目でも手がかかってるのが分かるし。 「…そうね、慣れるまでは大変だったわね…」 やっぱり、そうなのか。それでも朝からやるというのだから女の人ってすごいな。 「そういう苗木君こそ、時間をかけてるんじゃないの?」 「そんなことないよ。僕のはせいぜい寝癖を直すぐらいだね。」 「……まあ貴方がそう言うなら別にいいわ(…アンテナに触れてはいけないのかしら)」 なんだろう、何か変なことを言ったのだろうか?霧切さんが黙ってしまった。 …ここは話題を振った手前、もう少し会話を続ける努力をすべきだろう。 「そ、そうだ!朝誰かに手伝ってもらうとかしないの?」 幸い女子もこのクラスには多い。特に江ノ島さんとかセレスさんは、セットとか得意そうだ。 寮暮らしである僕らなら、お互いに朝の準備をすることなんかもできる。 「……だれかに手伝ってもらう?……そうね、悪くない提案かもしれないわね……」 お、珍しく好反応だな。いつもならもう少しそっけないけど、やっぱり朝面倒なのかな。 「じゃあだれか女子に声で「それじゃお願いできる?苗木君」 「…………ええ!僕が!?」 「あら、苗木君が提案したのだから、貴方がやるのが筋じゃないかしら?」 「け、けど僕、男だよ!」 「髪を結うだけよ?……それとも苗木君は、朝から私に何かするつもりなのかしら?」 うわー、いつものドS顔だ。幻聴で「ここまで言えばわかるわね?」とセットの台詞も聞こえてきそうだ こうなったら従うしか無いのは過去に何度も経験している。 「それじゃ、明日からお願いね苗木君…」 「わ、わかったよ」 そんなわけで霧切さんに、とんでもないことを約束されてしまった。 翌朝、霧切さんの寝間着姿や寝ぼけ姿を見て、色々と悶々としたのは決して誰にも言えない事だ。
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「お待たせ!アイスティーしかなかったけど、いいかな?」 「良くないだろ、色々と!」 今日の探索作業を終えた俺は、花村と食事を取っていた。 森で取れた植物をふんだんに使った野菜炒めが今日のメニューだ。 「う、うまい…!」 「僕を誰だと思ってるんだい? 『超高校級のシェフ』花村輝々だよ?」 こんな有り合わせのもので作った野菜炒めが、 箸を持つ手が止まらないくらいの至高の味になる。 まさに『超高校級の料理人』の実力だ…! 「お代は、君の身体で結構だよ?」 …これで性癖がアレじゃなければな。 そんな事を考えていると。 「あれ?罪木?」 「ひ、日向さん?どうしてここに…?」 牧場の探索に向かったはずの罪木が現れた。 「えっと、その…道に迷ってしまって…」 「道に迷って森まで来るのか…」 ドジっ子の本領発揮…というやつか。 「森で遭難し、雨に打たれた3人。 暖を取るために、互いの身体を寄せ合って…」 「花村、トンカツの作り方ってどうすんだっけ」 「冗談だから日向くん! 全く、彼女の事になると本気になるんだから…」 何か言い返そうと思ったけど、罪木が嬉しそうに笑っているので止めた。 可愛いは正義!というのは真理だよな。 「あの…それは…?」 「ん?ああ、花村の作った野菜炒めだけど」 皿に盛られた料理を、じっと見つめる。 ヨダレ垂れてるよ罪木。 「…食べる?」 「えっ?で、でもぉ…!」 「大丈夫だよ。俺はもう食べたし。それに…」 「それに、超高校級のシェフである僕にかかれば、 この程度の料理ならすぐに作れるからね!遠慮する必要はないよ?」 「そ、そうですか…それじゃあ、ちょっとだけ…」 そう言うと、罪木は俺の箸を取って、ぱくりと料理を口に運んだ。 「お、おいしいれすぅぅ!! と、とっても、おいしいですぅぅ!!」 罪木は満面の笑顔になった。 それを見るだけで、俺達も笑顔が零れる。 …やっぱり、可愛いって正義だよな。 大事なことだから2回言っちゃったけど。 「お代は結構だよ? あ、でもその箸は洗わないで渡してくれるかな?」 「花村、ここの火山でトンカツってできるのかな」 「ひ、日向くん…さっきから冗談が怖いよ…?」 罪木は、せっせと料理を口に運んでいる。 「しかし、冗談抜きでさ」 「ん?」 「こんなに美味しそうに食べてくれたらさ、 料理人として、こんなに嬉しい事もないね」 「…確かに。少し解る気がするよ。それ」 こんなに美味しそうに食べてくれるなら。 …こっちだって嬉しくもなるよな。 罪木があんまりにも美味しそうに料理を頬張るから。 つい俺は。 「ははっ、あんまり食べ過ぎて、太らないようにな?」 その言葉を口にした。 その瞬間。 目の前が真っ暗になって、意識を失った。 「ははっ、あんまり食べ過ぎて、太らないようにな?」 日向くんがそう言った、その瞬間。 僕は見た。 罪木さんが神速で懐から注射器を取り出し、日向の首筋にブスリ。 同時に、逆の手でハンカチを取り出し、日向くんの口を塞ぐ。 この間、僅か2秒!! …チャプター3での犯行も納得の早業で、日向くんは意識を失った。 「あれ?あれあれあれぇ? 困ったなー。日向さんが寝ちゃいました」 「……」 言葉が出ない。 つ、罪木さんは…正直、攻略難度は低めだと思ってたけど…。 前言撤回。選択肢を間違えたら、どうなるか解らないね…。 「で、でも…」 「は?」 「い、いや、その、何でいきなり、 日向くんは寝ちゃったのかなー、なんて…」 「さぁ?何ででしょうねー?」 一体、あの発言のどこに地雷が…。 「あ」 ひょっとして。 『ははっ、あんまり食べ過ぎて、太らないようにな?』 まさか、罪木さんは、ちょっとポッチャリしてる事を、気にしてたり…。 「私、とんかつって、すごく美味しいと思うんですよぉ」 「い、いやいやいや!何も考えてませんよ! そうだ!採集行かないと!あ、罪木ちゃんは日向くんが 起きるまで傍にいてあげてね!そ、それじゃあ!!」 僕は猛ダッシュでこの場から逃走した。 しかし、何と言うか…。 「……大変だね、日向くん」 そんな事を呟きつつ、僕は一目散に駆けていった。 おわれ。
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三枚目:桜に幕 「…お花見?」 「近所の公園、満開だったよ。これ、お土産」 苗木君の手には、一本の桜の木の枝。 まだ開く前の蕾が、なんとなく愛くるしさを感じさせる。 木を手折るなんて無粋な真似はしない人だ、落ちているのを探して拾ってきたのだろう。 受け取って、花瓶代わりのコップに挿すと、これで中々趣がある。 「いつもどっちかの家で飲むばかりだからさ」 「居酒屋やバーで飲むよりも経済的だし、料理も美味しいもの」 「はは…作ってるの僕だけどね。でも、花見にしてもお弁当は僕が作るし」 「そう、ね…」 「今週末あたりに、みんなも誘って…どうかな」 予想通り。 相変わらずの苗木節に、思わず吐きそうになったため息を飲み込む。 私がその手の宴会に行き渋る理由を、彼は未だに理解してくれない。 彼の言う『みんな』とは、高校時代の友人のことだ。 卒業して社会人となった今でも、親交は深い。 あの学び舎で築いた交友は、ある意味では血よりも濃い。 特に苗木君が声を掛ければ、例え国外でもスケジュールを調整して会いに来る人も。 ひとえに彼の人望がなせる業だ、それはいいとして。 「…苗木君。『桜』は『咲く羅』の話、知っているかしら?」 「う、うん…桜の花は、死んだ人間の血を吸うから赤くなる、って噂だよね」 「噂の審議は分からないけれど…あの辺り、昔は墓地だったそうよ」 「……」 口から出まかせだけど、分かりやすいくらいに苗木君は顔を青くする。 ホラー映画は平気なくせに、どうしてノンフィクションにはこうも弱いのか。 「それにこの時期は虫も出るわね。木の下に幕を張れば、ボトボト落ちてくるわ」 「うぇえ…」 「私は虫は平気だけど、あなたは苦手でしょう。両方とも」 「う、うーん…」 一度、珍しくも彼の方から家に呼び出されたことがある。 何かと思えば、台所にゴキブリが出たから退治して欲しい、という依頼だった。 虫だの鼠だのに怯んでいられない探偵職、確かにゴキブリは平気だけれど。 頼りにされるのは嬉しい半面、そんなところで頼りにされる女というのもどうなんだろうか。 「どうせ夏には、また集まるんでしょう?」 「一応花火大会の日に招集はかけるけど…」 「再会の楽しみは、それまで取っておきなさい」 二人分のコップを取り出し、ビールを注ぐ。 苗木君が作ってくれた惣菜も、皿に盛り付けて食卓へ。 真ん中に桜の枝を飾れば、これも花見でいいじゃないか。 桜に盃、宴で一杯。 「私の家で、桜の枝を肴に…大人しく『二人で』飲みましょう?」 「…うん、そうする」 「ふふ…乾杯」 【続く】
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…学級裁判に負けた…この私が… …何かに負けたのは最初のギャンブル以来だ… 最初のギャンブル…それは私のお気に入りの近所の映画館で行われました… 相手は映画館の支配人…そのギャンブルの内容は映画の内容の一部を 当てると言う物でした… 報酬は一度だけ映画をただで見せると言うもの… 私が負けたらその映画の宣伝をするというものでした… そして当てるべき映画の内容は映画に出てくるギロチンにかけられた死刑囚が 本当にギロチンで処刑されるかと言うもの… 私は先入観だけでギロチンで処刑されると言った しかしそれは間違いだった…死刑囚はいきなり飛んできたカラスの群れに 押し倒され頭を打って死んだ… 唖然としている私に支配人はある言葉を言った… 今もその言葉は私の胸に響いている… 処刑前にモノクマからあるギャンブルを持ちかけられた モノクマ「…ところで…君のお仕置きは火あぶりにかけられると言うものだけど… 本当に火あぶりだけですむと思う?」 セレス「…どういうことですの?」 モノクマ「ギャンブルだよギャンブル。 学級裁判で負けたまま死ぬのもいやでしょ? だから最後のギャンブルで勝って死んだ方が本望じゃない?」 セレス「…それもそうですわね…」 モノクマ「…僕が負けたときは僕が残念な思いをする… …君が負けたときは君は負け続けて死んだと言う不名誉を背負って死ぬ… …そんなギャンブルだよ。 …もちろんイカサマは無しだよ。」 セレス「…うけましょう。」 モノクマ「では、火あぶりだけですむと思う? すむと思わない?」 …私は少し悩んでこう答えました セレス「思わない。」 モノクマ「…それでいいんだね。」 セレス「ええ…」 そして私は処刑台に立たされた… …私の足元に火がつけられる… その火は燃え広がり私の足を照らし出す… 私は顔を汗だらけにする…足元が熱いからでも怖いからでもない… 「…このギャンブルに勝てるかどうか…」 それを心配して汗をかいている… …そして結果は… …私の勝ち…」 あろう事か火あぶりにされている私に消防車が突撃してきたのです このような中世の雰囲気にそぐわない消防車が… それを見て私はにやりと笑う…処刑を見ている方々はなぜ笑っているのか 輪からに様子でしたけど… その方々に私は高らかに言ったのです…あの映画館の支配人の言葉を… 「人生には予測できない事を予測する事が美徳と言う事もあるのです…」
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