約 440,009 件
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/86.html
第五話 最強の存在 前ページ次ページゼロの影 凍れる時の秘法を唱えたルイズが倒れるのをこらえていると、天空から光が降り注いだ。 「余の力を分け与えてやろう。見せてみるがよい、力を」 身体に力が湧きあがる。これならもう一つ魔法を唱えることができそうだ。 さらに『始祖の祈祷書』をめくると新たな文字が浮かび上がっている。その色は他のものと違っていた。 異質な力が流れ込んだことによって存在しないはずの文字が見えている――そんな感覚だ。 『異なる世界をつなぐ魔法をここに記す。光り輝くその扉の名は――旅の扉(ワールド・ドア)』 彼女は詠唱を始めた。彼を元の世界に戻すために。 力を取り戻したミストバーンはデルフリンガーを地面に突き立てた。 「そこで見ているがいい……」 「へっ、よーやく相棒から呼びかけてくれたのな。……遅ぇよ」 もはや武器を媒介とせずともガンダールヴの力を最大限に発揮できるということだ。左手のルーンは太陽のように全てを照らす閃光を放っている。 大魔王最強の武器は、己の肉体。彼は在るべき姿を取り戻し、存在そのものが武器となった。 彼の心は晴れやかだった。まるで雲間から差し込める太陽のように。 その姿が白い光と化し、迫るアルビオン軍を切り裂いていく。 ただの拳撃が神の鉄槌となって兵士達を吹き飛ばした。 無数の魔法が放たれるが防ごうとすらせずに飛び込み、突破する。白皙の美貌には傷一つついておらず、あれほど刻みこんだ傷は完璧に癒えている。 驚異の連続にアルビオン軍の兵達は思考停止寸前だったが、恐怖に動かされ襲いかかった。 しかし、無造作な手刀一発で空気が割れ、衝撃波が災厄の壁となって彼らを飲みこんだ。木の葉のように人間の体が軽々と宙を舞い、地面に叩きつけられる。 今の彼はワルドを追った時と同じ――否、遥かに超える力を持つ。 地面を力任せに殴りつけると巨大な亀裂が生じ、兵達の密集している所で火山の噴火のように爆発した。 素手とは思えぬ破壊力に情報が錯綜し、兵達が逃げ惑う。 ――あれは人型の兵器だ。 ――あれは伝説のメイジだ。 ――あれはエルフ最強の戦士だ。 ――あれは神の遣わした調停者だ。 無茶な内容の情報が飛び交うのも無理のないことだった。 一瞬後には全く別の場所に現れ、死と破壊をまき散らして消える。まさに神出鬼没で、悪夢が具現化したような存在だった。 炎球があらゆる方向から迫るのを、不死鳥の羽ばたきを思わせる掌撃が尽く弾き返し、術者を焼き尽くした。 槍の穂先や剣の切っ先がたまに突き立てられるが1サントも通らず、刃こぼれするか折れるかのどちらかだ。 ある者は鎧ごと手刀で切り裂かれ、ある者は武器ごと拳で打ち砕かれた。ある者は枯れ葉のように引き千切られ絶命し、ある者は血塗れの最期を迎えた。 「信じられんな」 将軍のホーキンスはぼそりと呟いた。 たった一人の若者に七万の大軍が怖れおののき、叩き潰されようとしている。その武器は両の拳だけだというのに。 その一撃で天地が叫び唸る。魔の時代の到来を予感させる力に抵抗も忘れ、ただ見ていることしか許されない。 伝説の力を見られるだけで、歴史の証人になれるだけで満足してしまうような青年の姿だった。 「勇者か――魔王か――」 どこか安らかな諦めの気持ちがホーキンスを包んでいた。 彼は将軍ではなく英雄に憧れていた。一人で不利な戦況をも覆す存在に。しかし、ミストバーンの戦う様を見ていると英雄という言葉すら虚しくなってしまう。 どうすべきか必死の形相で訊いてくる副官に簡潔に答える。 「退却するぞ」 「バカな、相手はたった一人ですよ!?」 「その一人に滅ぼされようとしているではないか。……見事だ。今の彼の強さ、この世のものとは思えん」 たとえ十倍の兵力があろうとも彼を殺せぬことをホーキンスはすでに悟っていた。 今すべきことは敗北の決まっている戦いに兵力を投入することではなく、被害を出来るだけ抑えることだ。 この光景を自分は決して忘れぬだろう――ホーキンスはそう呟き、大声で退却を指示した。 アルビオン軍が退却を始めると、ミストバーンは主からの指示で追おうとはせず丘の上まで戻った。 光の扉が現れ金の粒子をまき散らしている。その傍らには精神力を使いきったルイズが座り込んでいた。 ミストバーンはちらりと視線を向けたものの、彼を救った相手に何の言葉もかけず扉に歩いて行く。 そこへ大魔王の言葉が響いた。 「どうやらお前はその人間としばらく行動を共にしていたようだな。……そして、顔だけでなく力も見られた」 今にも扉に触れんばかりに近づいていた彼の動きがピタリと止まり、少女を振り返る。 大魔王の秘密に近づいた者は誰であろうと殺さねばならない。たとえ認め合った相手であっても。 それを悟ったルイズは震えながら尋ねた。 「わたしを……殺すの?」 ミストバーンはほんの少し俯いた。目元が髪に隠れて見えなくなる。 「あんたにとってわたしは帰るための手がかり……ただの駒にすぎなかったの?」 彼女の心を静かな絶望が支配していく。彼を召喚してから、ずっと認められようと努力してきた。 それも全て徒労に終わったのか。確かに通じるものを感じたのも偽りだったのか。結局元の地点から進んでおらず、ゼロのままだったのか。 そんなはずはないと心のどこかで声がするが、ミストバーンの返事は―― 「……ルイズ。その質問に対する私の答えは常に一つだ」 顔を上げ、誇りとともに答える。 「大魔王さまのお言葉は全てに優先する……!」 ルイズががくりと首を垂れた。疲れたような表情で、体を震わせながら俯く。 「そう……それがあんたの答えなのね」 言いながら彼女は理解していた。彼にとって大魔王への忠誠こそが最上であり譲れぬものなのだ。 それでこそ彼なのだと知っている。彼が彼であるために、どんな相手でも殺そうとするだろう。 彼の左手の輝きが薄れ、ルーンは完全に消滅した。 (わたしはここで――) 膝に力を込め、最後の力を振り絞って立ち上がる。 フーケのゴーレムを力を合わせて倒し、ワルドに殺されそうになったのを救われた。 『虚無』の力に目覚め、誰かから必要とされた。絶対に見られぬ光景を目にすることもできた。 全ては彼を召喚したことから始まった。だから、最期まで彼を真っ直ぐ見つめているつもりだった。 (ああ――言わなくちゃ) ずっと言おうと思って言い出せなかったこと。 「ありがとう……!」 命を救ってくれた。共に戦ってくれた。力になってくれた。何より――認めてくれた。 目的が何であれ、救われたことに違いは無い。疎ましく思うこともあったが今では感謝している。 率直な感謝の言葉にミストバーンは息を呑み沈黙した。その内心を窺い知ることはできない。 彼女は杖を下し、残された力を振り絞って立ち続ける。 もう爆発一つ起こすことができない。今にも倒れそうなのを気力で無理矢理こらえている状態だ。 それでも、彼がトリステインの者達を殺すことだけは止めるつもりだった。召喚した者の責任として。 彼女は杖を捨てて殴りかかった。全てが始まったあの時と同じように。 彼は避けようとはせず突っ立ったままだった。拳が頬に吸い込まれ、爽快な音が響いたというのに彼女の拳の方が悲鳴を上げた。 凍れる時の秘法がかかっているためいかなる攻撃も受け付けない状態にあることを忘れていた。 解除しようにもある程度時間を置かないと不可能だ。彼に勝てる可能性は万に一つも無い。 一撃をくらわせることができたのは指導成果の確認か、余裕の表れか。おそらくその両方だろう。 「……フム、見事だルイズ。威力、速度、ともに上昇している」 「ほ、褒められたって嬉しくないんだから!」 そう言いながらもルイズは笑っていた。 彼女は反撃の拳が迫るのを恐怖も感じぬまま見つめていた。 こうなることも覚悟の上で、彼の元まで来たのだから。 彼女にミストバーンの攻撃が届く刹那、動きが止まった。 制したのは彼の主。 「待て」 言葉を待つ二人へ楽しむような声が降り注ぐ。 「凍れる時の秘法を使い、異世界をつなぐ扉を作り出せる者などそうおらん。その気概も気に入った……余の部下にならんか?」 話の流れについていけずルイズは呆然としたが、勧誘されていると知って目を瞬かせた。 一度部下に引きこめば何らかの手を打ち、秘密を洩らされぬ自信があるのだろう。 (断れば殺される……わよね) しかし、大魔王に従うことは異世界での人間達との戦いを意味する。 ハルケギニアには大切な者達がおり、トリステインのためにこの力を使いたい。だから彼女は首を振り、きっぱりと告げた。 「わたし、行けないわ」 断られて怒るかと思いきや、大魔王は面白いというように笑っている。 「ふふ……まあよかろう。今ここでそなたを殺しては扉が消えるかもしれんし、他の目撃者を殺す時間もない」 声や力を送ることはできても自在に扉を形成するには至らない。可能だとしても遥か先のこととなるだろう。 一刻も早く全盛期の肉体と最高の部下を取り戻すべきだと判断したのだ。 緊張の反動で意識がもうろうとするルイズの前で、青年は扉を潜ろうとしている。 「わたしはあんたの――」 気づけば言葉が口から転がり落ちた。 ミストバーンがわずかに振り返り、囁く。その口元に浮かんでいるのは、ルイズが初めて見る――。 「お前は私の――」 その時光が彼を包みこんだ。太陽のような金色の光に飲み込まれ消えゆく背に、見たことなどないはずの大魔王の真の姿が重なった。 音の消えた空間で、瞼を閉ざし、静かに別れを告げる。 立場こそ違えど共感を覚えた相手へ。 ――さよなら……ミストバーン。 彼が消えた後に残されたキメラの翼を投げ上げると、今度はかき消されることなく彼女をトリステインへと運んでいった。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8128.html
前ページ次ページゼロの怪盗 目の前に広がる光景は今まで彼が巡って来たあらゆる世界とも異なっていた。 世界を旅する彼にとって、見知らぬ世界へ行くことは日常茶飯事である。 だが、そういう時は必ず事前にその世界のことを調べてから行く為、 予備知識無しで世界を行き来することは、実はあまりない。 その為、何も情報の無い今の状況は彼にとってはあまり望ましくないものだった。 そもそも、この世界へは自分の意志で来たわけではない。 (誰かに呼ばれた…ってところかな?) 海東はすぐにその考えに至った。 となれば、最も優先すべきなのは出来るだけ素早く必要な情報を手に入れることである。 今海東にすぐ出来ることは、取りあえずは自らの目で周囲の状況を確認することだった。 「……信じられない」 ふと目の前を見ると、桃色の長い髪の少女が海東を見つめていた。 その顔には失望と絶望の色が浮かんでいる。 ぶつぶつと何かを呟いているようだが、海東は特に興味がなかったのでわざわざ聞こうとはしなかった。 その彼女をはやし立てるような声が次々と上がる。 「おいおい、ルイズのやつ平民なんか呼び出してるぜ!」 「さすが『ゼロ』のルイズだな!」 「キャハハハハ!」 「あーオホン!」 頭部の禿げ上がった中年の男は軽く咳をして周囲の嘲笑を黙らせると桃色の髪の少女へ向き直った。 「さ、ミス・ヴァリエール、『コントラクト・サーヴァント』を」 すると少女は首を振って、男へと詰め寄る。 「ミ、ミスタ・コルベール! やり直しを! もう一度、もう一度召喚させて下さい!」 「……残念ですが、ミス・ヴァリエール。 召喚されたものを一生の使い魔とする、例外は認められません 例え召喚されたものが人間であっても……です 」 少女は、なおも首を振って拒否の意思を示す。 しかし、男も首を振り、少女の懇願を却下する。 暫くすると覚悟を決めたのか、少女は表情をキッと引き締めた。 そして海東の方へ向き直る。 「アンタ、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、本当は一生無いんだから」 高圧的な態度でそう言い放つと、すぐに目を閉じる。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」 少女は契約の呪文を唱えると、海東へと顔を近付ける。 次の瞬間、ルイズと名乗った少女の唇と海東の唇が重なっていた。 「…………」 海東は突然の接吻にも、全く表情を変えなかった。 それよりも、現在自分が置かれている状況の把握、そしてこれからどうするかを優先的に考えていたからだ。 唇に柔らかい感触が押し当てられている間も、その目はこの世界を観察していた。 (さて、どうしようかな?) 取りあえずはこの世界の『お宝』を探そう。 そんなことを考えている内に少女の唇が海東から離れる。 すると、海東は左手に熱を帯びた激しい痛みを感じた。 海東は思わず左手を見る。 左手には何か文字のような印が刻まれていた。 (これは……?) 左手に現れた印を興味深そうに見つめる海東を見て、男が口を開いた。 「ほぉ、これは珍しいルーンですね。ちょっとスケッチさせて……」 男が言い終わらない内に海東は立ち上がった。 急に立ち上がったので、思わずルイズはびっくりして尻餅をつく。 ルイズはすぐに姿勢を正すと、海東を睨み付けた。 「ちょっと!何御主人様をびっくりさせてんのよ!!」 「……『御主人様?』」 海東が聞き返すと、ルイズは得意気な顔になった。 「そうよ。アンタはさっき私の使い魔になったの。つまり私はアンタの御主人様ってわけ」 「ふ~ん」 特に感情も込めずに海東は言った。 その態度にカチンと来ながらも平静を装ってルイズは続けた。 「……だからアンタは私の言うことには絶対服従なの。分かる?」 「嫌だね」 海東は即答した。 「僕に命令出来るのは、僕だけさ」 そう言うと、海東は指で鉄砲を作り、ルイズへ向けて撃つポーズをした。 そして、素早くその場から走り去って行く。 目の前の一瞬の出来事にルイズは思わず固まり、去って行く海東の後姿を見ていることしか出来なかった。 前ページ次ページゼロの怪盗
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8198.html
前ページ次ページゼロの賢王 翌日の朝、ポロンの目が覚めると何時の間にか体に毛布が掛かっていることに気が付いた。 どうやらポロンが寝ている間にルイズが掛けてくれたものらしい。 (ったく、本当に素直じゃねえんだからよ) 心の中ではそう言いながらもポロンの顔は自然とはにかんでいた。 ポロンはよっこらせと身を起こすと、ベッドの上のルイズの顔を覗き込んでみた。 ルイズはまだくーかーと眠っている。 (幸せそうな顔して寝ていやがるぜ・・・ん?) ふと床の方を見ると積まれた洗濯物が目に入った。 (そういやあ、洗濯しといてくれって頼まれてたっけなあ。やれやれ・・・) ポロンは洗濯物を籠の中に入れると、それを抱えてなるべく音を立てない様に部屋を出た。 そのまま暫く歩いたところで、自分が洗い場の場所を知らないことに気が付いて立ち止まる。 (・・・とと、そういや何処に何があるか知らなかったな。ドジったね、俺としたことが。昨日の内にルイズに聞いときゃ良かったぜ) かと言って、今から部屋へ戻ってルイズに聞くのも躊躇われる。 あれだけ気持ち良さそうに寝ているのだ。 こんなことで起こせば、昨日の癇癪玉が再び爆発しかねない。 (さて、どうしたものか) その時、ポロンの体に誰かがぶつかって来た。 「きゃあ!」 「おっと!」 気が付くと、メイド姿の少女が倒れていた。 辺りに散乱した洗濯物を見る限り、どうやら大量の洗濯物を抱えていて前が見えなかったらしい。 ポロンはルイズの洗濯物が入った籠を床に置くと、少女を助け起こす。 「すまねえ、大丈夫か?」 「あ、は、ハイ!」 少女はポロンの姿を見るなり、急に畏まって頭を下げた。 「も、も、申し訳ございません!私が注意していなかったばかりにこんな・・・」 「んあ?いや、俺が道の真ん中でボーっと突っ立ってたのが悪かったんだ。俺こそすまねえな」 「い、いえ!悪いのは私なんです!わ、私ったら貴族の方に何てことを!!」 「ん、貴族?誰が?」 「え?いや、え~と・・・え?」 少女は困った様な顔をしている。 ポロンはそんな彼女の表情を見て、ピーンと来た。 (・・・ははあ、この子は俺のことを貴族と勘違いしてビビっているんだな) それならば誤解を解いておこうと思い、ポロンは辺りに散乱した洗濯物を拾い始めた。 少女はポロンの突然の行動に思わず慌てる。 「あ、そんな!貴族の方のお手を煩わせるなんて・・・」 「いいっていいって」 ポロンはそう言うと、テキパキと洗濯物を拾い集めている。 最後の一枚を拾い終えると、それらをまとめて少女に渡した。 「ほら、悪かったな。」 「本当に申し訳ございませんでした・・・。まさか貴族の方にこんな・・・」 「何か勘違いしているようだから言っておくけど、俺は貴族じゃ無い。だからそんな頭下げなくて大丈夫だぞ」 「ええ!?そうなんですか!?」 少女は思わず目を丸くする。 「格好や雰囲気から、てっきりこの学院に新しく来られた先生かと思っていました」 ポロンは今、聖なる衣を着ている。 とは言え、長旅の影響で聖なる衣はボロボロになっており、見た目的にはみすぼらしく見えてしまう。 しかし、目の前の平民と思われる少女にとっては、そんなポロンの格好も他の貴族と変わらなく見えたのであった。 無論、年季を重ねたポロンの賢王としての風格の様なものがそう見せていたという部分も多少はあるのだろうが。 (そういや、服なんか着替える暇無かったもんなあ・・・。ま、この先着替えられるかも分からんがね) 「あ、もしかして!」 「ん?」 少女は何かを思い出したかの様にポンと手を叩いた。 「あの・・・間違えていたら大変申し訳ないのですが、貴方様はその、ミス・ヴァリエールの・・・?」 「おお、よく分かったな」 「やっぱり!学院中の噂でしたもの!『ミス・ヴァリエールが平民を使い魔にした』と。・・・あ!も、申し訳ございません!」 「あー、いいって別に。まあ、事実だしな」 (学院中の噂、か。まあ十中八九いい噂では無いんだろうが・・・な) ポロンは昨日のことを思い出す。 ルイズに呼び出されて使い魔の契約を交わしたあの時、 ルイズの学友と思われる少年少女たちは口々に彼女を『ゼロのルイズ』と揶揄し、罵倒していた。 言われた本人は目に涙を溜め、その拳を微かに震わせながらも必死に耐え、気丈に振舞っていた。 ポロンは内心舌打ちする。 こういったことは、どの世界でも変わらない。 ふと、ポロンは先程のルイズの幸せそうな寝顔を思い出した。 とても昨日、あれだけのことを言われた風には見えない。 (『ゼロのルイズ』・・・か) 「ところで、こんな道の真ん中で何をしていらしたんですか?」 ポロンが思案に暮れていると、少女が訊ねてきた。 「ん?ああ、うちのご主人様に洗濯を頼まれてな。でも洗い場の場所が分からなくて困ってたんだよ」 「まあ、そうでしたか。では私がご案内いたします。え~と」 「ああ、俺はポロンって言うんだ」 「ポロン様、ですか。私はこの学院で下働きをしておりますシエスタと申します。今後ともよろしくお願いいたします」 シエスタはそう言うと丁寧に頭を下げた。 「そうか。じゃあシエスタ、洗い場まで案内頼むわ」 「はい、分かりました」 ポロンはシエスタに連れられて洗い場へ到着した。 洗い場へ着くなり、ポロンは慣れた手付きで洗濯を開始する。 その様子を見て、思わずシエスタはポロンに声を掛けた。 「ポロン様はお洗濯がお上手なんですね」 「ん?ああ、たまにサクヤの代わりにやってたからなー」 「奥様ですか?」 「ああ、最高の女房だな」 「ポロン様がそこまでおっしゃるならば、きっと素晴らしい方なんでしょうね」 「・・・何かそうやってポロン様ポロン様って言われると、昔のサクヤを思い出すなあ」 (あいつも最初の頃は俺のことをポロン様、ポロン様って言ってたっけか) ポロンは初めてサクヤと出逢った時のことを思い出した。 ふと、シエスタの顔を見る。 (シエスタ・・・だっけ?何となくサクヤに似ている気がするな。髪や瞳の色も同じだし) ポロンはシエスタの純朴そうな雰囲気や黒曜石の様な髪と瞳を見て、サクヤを連想していた。 シエスタはポロンの視線に気が付くと、頬を赤く染め、思わず顔を背けてしまう。 「あ、すまねえ。こんなオッサンに見つめられたら、あまりいい気分はしねえよな」 「い、いえ!決して嫌なワケじゃ・・・!!」 ポロンがそう言うと、シエスタは慌てて否定する。 「は、早くお洗濯を済ませましょう!」 「あ、ああ、そうだな」 その後、無言で2人は洗濯を終わらせた。 「ふう、終わった。いやあ、すまなかったな」 「いえ、困った時はお互い様ですもの」 「じゃあ、俺はこれで」 「ハイ、ポロン様」 洗った洗濯物を干し終え、ポロンは洗い場を後にした。 遠目に洗濯をしているシエスタを見る。 大量の洗濯物をテキパキと洗い、干していく様もサクヤに似ている様な気がした。 (・・・とと、俺としたことが。軽いホームシックにでもなってんのか?) ポロンは自嘲気味に笑うと、来た道を戻りルイズの部屋へと向かった。 部屋へ戻ると、まだルイズはくーかーと眠っている。 そのあまりに幸せそうな表情にこのまま寝かせておきたいところだったが、 残念ながら昨晩の内に「朝になったら起こせ」と言われている。 ポロンはルイズの体を揺すった。 「おい、起きろ」 「むにゃむにゃ・・・」 「起きろって!」 「むにゃむにゃ・・・ちい姉さま大好き・・・」 「こいつぁ手強いな・・・」 ザメハでも使えたら楽なんだが、とポロンは思ったが、取り敢えず布団を引っぺがす。 するとルイズが「う~ん」と唸った後、ゆっくりと身を起こし始めた。 「ん~・・・何よぉ・・・」 「お目覚めですか、ご主人様?」 「・・・キャッ!だ、誰!?」 「寝惚けてやがるな・・・」 「ん・・・?ああ・・・ポロンじゃないの」 ルイズは「ふぁ~」と大あくびした後、ベッドから起き上がった。 「ん!」 「ん!って何だよ?」 「着替え」 「ああ?着替えだあ?お前、いくら何でも1人で着替えられない様なガ・・・年齢じゃないだろ?」 「貴族は自分で着替えなんてしないものよ」 「へーへー、そうですか。ったく・・・」 ポロンは不満を言いながらもルイズの寝巻きを脱がしに掛かる。 こういうことは自分の子供たちが小さい時にはよくやっていた為、ポロンは意外と手馴れていた。 流石に下着はルイズ自身に脱着させたが、その後ブラウスとスカートを着させて着替えは完了した。 ポロンの一連の作業を見てルイズはフン、と鼻を鳴らす。 「まずまずね。取り敢えず合格点はあげとくわ」 「それはどうも、お褒めに与り光栄です」 「フン、じゃあ食堂へ行くわよ」 そう言ってルイズがドアを開けると、そこには1人の少女が立っていた。 その少女は浅黒い肌に赤い髪、そして思わず見てしまいそうになるボディスタイルが特徴的であった。 顔も体のプロポーションに負けず整っており、可愛いというより美しいという印象を与える。 少女はニヤリと笑ってルイズに話掛けた。 「おはようルイズ」 「・・・何か用?」 ルイズは目の前の少女を見るなり、急に不機嫌になる。 そんなルイズの様子を楽しげに見ながら少女は会話を続けた。 「あら、つれないお返事ね」 「アンタと交わす言葉なんてないわ。行くわよ、ポロン!」 少女はポロンの顔をチラっと見る。 「あなたの使い魔って、それ?」 女性はポロンを指差して、まるで馬鹿にしたかの様な口調でルイズに問い掛けた。 「・・・そうよ」 「アッハッハッハ!本当に人間なのね!凄いじゃない!『サモン・サーヴァント』で平民を召喚しちゃうなんて・・・、本当にあなたらしいわ。 流石は『ゼロのルイズ』ね!アッハッハッハ」 ルイズは目の前の少女をキッと睨み付ける。 ポロンもあまりいい気分では無かったが、取り敢えず平静を装っていた。 少女は一通り笑い終えると、再びポロンの顔を見た。 「アタシも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発で成功したの。 どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。ねえ、フレイム?」 少女がそう声を掛けると、少女の後ろから大きな赤いトカゲの様な生き物が現れた。 尻尾の先に火を灯らせている。 「この子は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?好事家に見せたら値段なんかつかないわ」 「うるさ・・・」 「そっかー、そんなこと言ってたのかー。へー、見かけによらないんだなー」 何時の間にかポロンがフレイムと呼ばれたサラマンダーの頭を撫でていた。 フレイムも気持ち良さそうにポロンへ頭を摺り寄せる。 少女はその様子を見て、首を傾げた。 「あら?この子が私以外に懐くなんて・・・」 「ちょっとポロン!何してんのよ!?」 「何って、こいつから話を聞いてたんだよ」 「話、ですって~?」 ルイズが訝しげにポロンを睨め付ける。 「ああ、俺はモンスター・・・いや、こういう生き物と心を通わせることが出来るんだ」 「何よそれ、嘘臭いわね!」 「いや、こいつの話によると、この子は昨日の夜からお前のことがしんぱ・・・」 「あー!!あー!!あー!!」 少女は突如大声を上げてポロンの言葉を遮ると、大急ぎでフレイムを連れてそそくさとその場を去って行った。 その様子をポカンとした顔でルイズは見ていた。 「何なの・・・?」 「さてね」 ポロンはニヤニヤしながら去って行く少女の背中を見つめた。 暫くした後、ルイズは再び不機嫌な面持ちで先程の少女のことを話し始めた。 少女の名は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプストー。 彼女の家柄とルイズの家柄には浅からぬ因縁があり、当人同士もお互いを敵視しているとルイズはポロンに語った。 その話を聞き、ポロンはかつてアルスに聞いた話を思い出していた。 勇者アルスと剣王キラは今でこそ仲間であり、無二の親友であるが、 彼らが幼い頃はお互い口喧嘩の絶えることが無かったという。 だが、いざという時は助け合い、そして認め合い、友情を育んで来て今に繋がっているんだ。 と、アルスはポロンに語ってくれた。 さっきのルイズとキュルケはあの2人の関係に似ているな、とポロンは1人微笑んでいた。 フレイムから聞いた話では、キュルケはルイズが今回のことで落ち込んでいないかとても心配だったという。 (あの子・・・キュルケも悪い奴じゃないんだな。ただ不器用っつーか、その、素直じゃねーんだ) ルイズの周りにも、ルイズをちゃんと思ってくれる人がいるんだ。ということがポロンを安心させた。 「ほら、ポロン。早く行かないと朝食抜くわよ?」 「おっと、それは勘弁してくれよな」 2人は食堂へと向かって行った。 前ページ次ページゼロの賢王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8189.html
前ページ次ページゼロの賢王 船のデッキに1人の中年の男が佇んでいた。 金色の長い髪が風にそよいでいる。 男の名はポロンと言った。 その日ポロンは長旅を終え、久し振りに我が家へ帰ろうとしていた。 ポロンは妻サクヤとの間に子供が出来ない後ろめたさから世界を放浪するようになっていた。 最初は逃避したいという気持ちもあったが、ランシールへ行った際に赤ん坊であったレーベンを拾ったことで吹っ切れ、 今では自ら進んで世界を旅しては孤児を拾い、自分たちの家族としていた。 また、旅の目的はそれだけに止まらず、世界の情勢やモンスターの分布などの調査も行っていた。 今回もそれらが目的で旅をしていたのだった。 なお、今回の旅では孤児と出会うことは無かった。 「ま、今回は縁が無かったってこったな」 ポロンは残念そうに言うと、帰りの船へと乗り込んだ。 このまま2日ほど波に揺られていれば、家に着くだろう。 ポロンは船室へ入ると、すぐに横になり目を閉じた。 暫くした後、急に目が覚めたポロンは気分転換に船室から出た。 その日の夜は不気味なほど静かであった。 ポロンは星一つ無い不吉な夜空を見上げていた。 ふと、思い出したかのように右手をかざした。 「あれからもう3年・・・か」 そう呟くと、自分の右手をじっと見つめる。 『失われし日』 その日を境に全世界から呪文が消失した。 ある者は嘆き、ある者は絶望した。 そしてそれは、ポロンも例外ではなかった。 ポロンは右手を漆黒の空へと向けた。 「メラ!」 しかし、何も起こらない。 ただ不意に吹いた風がポロンの頬を撫でただけであった。 「・・・ハァ、分かっちゃいるんだが、やっぱり落ち込むねえ」 ポロンは苦笑する。 今でこそ呪文は使えないが、在りし日の彼は賢王と呼ばれ、どんな呪文も使いこなせる使い手であった。 だが『失われし日』により彼もまた、ただの人となった。 ポロンとて、最初から呪文を使いこなせていたわけでは無かったのだが、 やはり力を失うということはとてつもない喪失感をもたらしてしまうものである。 かつて、勇者アルスとともに命を懸けて異魔神と戦ったあの賢王ポロンはもういないのだ。 「賢王ポロン様ももう廃業だな・・・。今更遊び人って歳でも無いし、 そうだな、次は海賊王にでもなるか!」 ハハハと笑う。 すると、突如ポロンの目の前に鏡が現れた。 「ん?何だこりゃ?悪魔のカガミか?」 鏡にはポロンの訝しげな顔が映し出されている。 ポロンは恐る恐る鏡に手を触れてみた。 すると次の瞬間、鏡から白い光が放たれた。 ポロンの姿が光に包まれる。 「うわあああああああ」 突き刺すような光が弱まっていくと、今までそこにあった鏡は消えていた。 そして、ポロンの姿もまたその場から消えていた。 前ページ次ページゼロの賢王
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3920.html
「トリックスター0 ―ラブ―」(MMORPG)より、魔法型ドラゴン ゼロのTrickster-01 chapter1 回廊 ゼロのTrickster-02 chapter2 異世界 ゼロのTrickster-03 chapter3 契約 ゼロのTrickster-04 chapter4 ゼロ ゼロのTrickster-解説
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3679.html
前ページ次ページゼロの魔獣 「まったく ただの使い魔じゃないとは思っていたが これ程のものとはねぇ・・・」 ガチャリ、と銃を構える音がする。 男は不機嫌そうな表情をして、ゆっくりと茂みの方を振り返る。 『破壊の杖』を携え、茂みの中から現れたのは、ミス・ロングビル・・・。 「まさか 魔獣に化ける能力を持つ使い魔だったなんてね しかもその正体が こんなにも逞しい兄さんだったとは思わなかったわ」 ルイズは驚き、男の顔をまじまじと見つめる。 へっ、と男が鼻をこする。 「化けていたのはお互い様だろ ミス・ロングビル 『土くれ』のフーケさんよぉ」 男の言葉に、フーケは満足そうに笑みを浮かべる。 「・・・こんな三文芝居に突き合わせたのは、その銃が原因って事か」 「―ご名答 フフ 盗んだ道具の使い方が分からないなんて マヌケな話よね 正直 こんなにもうまくいくとは思わなかったわ ・・・自慢のゴーレムが殴り倒されたのには いたくプライドが傷ついたけどね・・・ さ お互い自己紹介も終わったところで お別れの時間とまいりましょうか?」 フーケが一個師団にも匹敵するであろう武器を掲げ、投降を促す。 三人は観念して杖を捨てる。 ククッ、と男が笑う。 フーケの眉がピクリと吊り上る。 「弱ぇヤツほどまどろっこしい講釈をしたがるもんさ・・・ なぁ 『土くれ』 最後にひとつだけ教えてやるよ 茂みの中から俺たちを狙い撃っておけば テメェの勝ちだったぜ!」 「・・・アンタはこの『破壊の杖』 以上の男だとでも言うのかい?」 男は答えず、ただ、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。 一瞬の静寂が流れた。 男が真横に跳ねる。 その場にとどまれば、流れ弾で三人の少女が骸と化す。 選択の余地は無かった。 「読めてんだよォッ!! 『優しい真理阿』ちゃん!!」 フーケは悠々と狙いを合わせ、引き金に手をかける。 凄まじい反動が腹に響き、初弾は大きく外れる。 怯むことなく、男は一直線に地を駆ける。 互いの距離が詰まり、銃口のブレが徐々に小さくなる。 弾丸の精度が増し、こめかみをかすめ、脇腹をえぐり、左腕を吹き飛ばす。 それでも男は止まらない。 「出番だぜぇッ!! ゴールドオオオッ!!!」 男が叫び、肘から先が失われた左腕を突き出す。 その断面から、まず巨大な牙が、ついで、黄金の鬣を生やした獅子の頭部が飛び出し ガトリングガンの銃口に齧り付く。 一時的に力が釣り合い、砲身の回転が止まり、 そして・・・!! 「回れ」 「ぎ ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !」 とても女とは思えない絶叫が、周囲に響き渡る。 咥え込まれた砲身を支点に、風車の如くフーケが逆回転する。 引き金から指を離せば回転は止まるのだが、こんな攻撃は想定外である。 秒間10回転する脳みそに判断できるハズが無かった。 「どうしたあ? 怪盗フーケ!! 大物らしく根性あるとこ見せやがれぇ!! カハッ ハハハハッ ハハハハハハハァッ!!」 腕一本でフーケを頭上に持ち上げらながら、男が爆笑する。 ―勿論、フーケが回転している間、銃口から弾は出続けている。 左腕、特に獅子の頭部はエライ事になっているのだが、そんな事はどこ吹く風だ。 ひとしきりフーケの絶叫を楽しんだ後、男は銃を思い切り叩き付けた。 学院の宝物は無惨にも折れ曲がり、フーケはゴムまりの如く跳ね飛ばされて気絶した。 「おう ちゃっちゃと確保しねえか 喰っちまうぞ?」 ボロ雑巾のようなったフーケのマントを引き裂き、その身に纏いながら男が言う。 キュルケとタバサが弾かれたように走り出す。 ルイズはおずおずと男に近づき、恐る恐る尋ねた。 「・・・マリ・・・ア・・・な の・・・?」 「・・・あらためて 自己紹介させてもらうぜ」 男が答えた。 「俺は慎一 来留間 慎一だ! 真理阿が世話になったな! ご主人さんよぉ!」 前ページ次ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5072.html
前ページ次ページゼロの視線 第三話 「な、何考えてるのよ! これはアタシの決闘なんだから、アンタに関係無いのよ」 「わたしは君の使い魔だそうだ。 ならば君の戦いをわたしがかわりにやっても構うまい?」 「ま、まあそうね。 ただし!戦う以上は勝ちなさい!絶対に!」 「了解した」 ルイズを下ろすと、ワルキューレに相対する幻之介。 「ではこの国の術とやら、どれほどのものか見せてもらおうか」 「くっ くそぉ!」 顔面を腫らしたギーシュが、七体のワルキューレを操って幻之介に攻撃をかけるが、かすりもしない。 むしろ時折拾った小石を投げつけられて結構ボロボロだ。 「それ、隙ありだぞ少年」 「ぶぎゃっ」 その軽快な身のこなしは、まるで 「あれが噂に聞く東方の舞踊、『カグラ』なのかしら」 ポツリと呟くモンモランシー。 控えめにいって、ギーシュ・ド・グラモンは幻之介の引き立て役でしかなかった。 「それにしてもゲンノスケって、腰の剣を使おうとしないわね」 「使うまでも無い。彼は勝とうと思えば小石をギーシュの急所に当てれば終わる。それをしないのは」 「多分ギーシュの、というかわたしたちの魔法を見極めようとしてるのね」 「あら、ヴァリエールがあたしに話し掛けてくるとは思わなかったわ」 「あたしのゲンノスケを褒め称えてるんでしょ?ならツェルプストーであっても話し掛けるのはやぶさかじゃないわ」 「言っとくけどゲンノスケが凄いんであってアンタがスゴい訳じゃないんだからね? かろうじてゼロじゃなくなった、って程度よ」 「でも、ゲンノスケはあたしの下僕なんだからね、うらやましいかしら?」 「・・・・・・ちょっとだけ・・・・・・」 などとやっていた時、ワルキューレの一体の拳が幻之介の腹部を捕らえる。 大きく高く飛ばされる幻之介。 「「ゲンノスケ!」」 真っ青になり、声を揃えるルイズとキュルケ。だがしかし 「大丈夫」 「「大丈夫って何が?」」 「彼は殴らられてなどいない。 あえて言うならわざとこぶしを受けた」 「何でそんな事わかるのよ」 「見た。彼は殴られたのではなく、拳に乗ってジャンプした」 その言葉に皆が -ギーシュすらー 注目する中、幻之介はひらりと空中で一回転して華麗に着地する。 「ふむ、土を青銅と変えくぐつと操る術、か。なかなかに面白い。が」 ここで幻之介の眼光が一気にきついものとなる。 「この程度か?」 それは侮辱でも侮蔑でもなく、ただ事実を口にしただけ。 おまえは弱いと宣言された、ただそれだけの事。 「だ、黙れぇ!」 七体のゴーレムが一斉に踊りかかろうとして、そのまま崩れ落ちる。 ? 一同が見ると、何も無かった。 ギーシュの手中に、杖代わりである薔薇の造花が無かった。 恐る恐る振り向いたギーシュの目に映ったのは、見た事も無い形状のナイフに貫かれて壁に張り付いている自分の杖。 「杖が無ければ魔法が使えないのなら、杖を手放させてしまえばいい」 そんな幻之介の言葉に、今更ながら真っ青になるギーシュ。 もし最初からゲンノスケが「殺す」つもりだったら開始五秒で自分の眉間はあの投げナイフ (後でゲンノスケに『クナイ』というのだと教わった) に貫かれてたのだという事を嫌でも悟らされる。 「僕の 負けだ」 「結局ギーシュ、というかドット程度じゃゲンノスケの剣の腕前、披露するまでも無かったってコトね」 「力量差がありすぎたってコトよね」 「そういえばタバサ、あなたの知る「伝説の剣士」ってどんな技だったの?」 「誰も彼が剣を抜く所を見ていない」 「何よそれ」 「彼は剣を鞘にしまったまま敵に近づき、見えない速さで鞘から剣を抜くと同時に敵を切り、即座に鞘にしまった」 「見えない速さで?」 「肯定 その剣は魔法を切り岩を断ち火や水すらも両断したという」 「あら、火まで?」 「ある騎士は彼が剣をしまう音を聞き、自分の断面を見て初めて自分が斬られた事に気づいたと伝えられる。 イアイという技なのだとか」 「自分が真っ二つに切られた事すら気づかない・・・・・・」 「神速の剣技・・・・・・・」 「あはははー」 「テファねーちゃん、ただいまー」 「おかえりなさい、彼女は?」 「もうすぐかえってくるよー」 「でもあいつどんくさいなー」 「どんくさいよねー」 「心底どんくさいー」 「でも食べられるキノコとか詳しいから、ほらこんなに一杯取ってきたよー」 「じゃあ今夜はご馳走ですね」 「わーい」「やったー」 「ただいま戻りました」 「おかえりなさい、オボロ」 前ページ次ページゼロの視線
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2974.html
前ページ次ページゼロの夢幻竜 「大丈夫。次こそきっと上手くいく。」 今トリステイン魔法学校では、今年の春に晴れて二年生になった者達の「使い魔召喚の儀」が行われている。 午後から一人ずつ執り行われている非常に重要なその儀式は遂に残すところあと一人の女生徒だけとなった。 しかし彼女がそれに取り掛かってからすっかり15分近くかかろうとしていた。 他の者なら1分とかからないこの儀式に何故そこまで時間がかかっているのか? 理由は簡単。その女生徒ことルイズが悉く召喚を失敗させるからである。 彼女が呪文を唱えて杖を振ると、儀式を終えた者達から叫び声と野次がとぶほどの爆発が起きる。 ついでにその者達に召喚された使い魔達も爆発の度に大騒ぎする。 教師も今しがた、今日はやめにして明日また改めて行ったらどうか、といってくる始末だ。 その提案をルイズはもう一回やらせてください!と頼み込んで蹴った。 あと一回という事になったが、回りからは少々疲れ気味の罵倒が止む事は無い。 「いい加減にしろよ!次で何度目かこっちだって数えるの面倒なんだぞ!」 「ちょっと!使い魔宥めなきゃならないこっちの身にもなってよね!!」 いちいち相手にしていたらキリが無い。 大体あんなもの、この学園に入った時からそうだったのだから。 意識を集中させ、杖を高く掲げて声を上げる。 「宇宙の何処かにいる私の下僕(しもべ)よッ!!」 そのいきなりの口上に野次は止むが、同時にきょとんとした雰囲気も作り出す。 だがそんな空気は気にもせずにルイズは続ける。 「強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 口では格好の良い事を言っていても正直そんな事はどうでもよかった。 どんな物でも良い。 召喚されて私の感情を十分満足させてくれる生き物であるならば猫でも鼬でも歓迎するわ。 今度爆発だけで何も起こらなかったらここにいる事さえ危うくなってしまう。 失敗は許されない。もうさっき言った様なやつでも良いから何か来て!!! 次の瞬間目も眩むような白銀の閃光が生まれ、次に今までには無い強烈な爆発が起きる。 その為周囲は大量の土煙のせいで完全に視界が利かなくなってしまった。 やがて大分薄くなったそれを一陣の風が遠くへ運ぼうとした時、ルイズにははっきりと見えた。 爆発の中心地に何かが確かにいる事を。 「おい!あそこになんかいるぞ!!」 そして生徒の一人もやや興奮気味にルイズの見ている方向と同じ方向に指を指す。 一瞬それは皆の目には竜の様に映った。 しかし煙が晴れて直ぐにそれは自分達の世界で知られているどの竜とも違うという事に気付かされる。 大きさにして1メイルから2メイルの中間くらい。 色は赤と白を基調としており、草原の中にいれば一目で分かる程はっきりとしている。 体は卵の様な丸みを帯びており長い首がついていた。 そして翼は一般的な竜とは違い、中折れに相当する箇所が無く体から真っ直ぐ伸びている。 「嘘だろ……ゼロのルイズが成功しやがった!」 「でも……何なのよ、あれ?!!」 確かに見た事の無い生き物のためにあれとしか表現しようの無い生き物。 そしてそれは今、目を閉じている。 気絶しているのだろうか?それともどこかで昼寝でもしているところを召喚されたからだろうか? だがそれを呼び出したルイズにとってそんな事は瑣末な問題の一つにしか過ぎない。 魔法の成功確率ゼロ故に‘ゼロのルイズ’と言われ続けた自分が、やっと成功する事が出来たのだから。 砂漠を歩き続けた旅人が水辺を見つけた時の様に、ルイズはふらふらとその生き物の所へ足を進める。 「や、やったわ……やったわ!!」 正に感激の極みといったところだ。 周囲が動揺していようが何を言おうが最早彼女の耳には何も聞こえてきはしない。 鼠でも鼬でもと考えていたせいか、立派な使い魔を召喚出来たのだから文句の一つも出なかった。 近づいてみると、離れていたときは分からなかったが全身の細かな体毛がガラスの破片の様にキラキラと輝いている。 体が一定間隔で上下している所を見ると、どこかで休んでいる所を召喚されたのだろう。 何より安らかそうなその顔は見ていて愛らしいところもある。 「これは、見た事の無い生き物ですね……詳しい事は図鑑で調べるか専門の研究機関に訊くかしなければ分かりませんが、 兎に角、サモン・サーヴァント成功です。おめでとう、ミス・ヴァリエール。さ、儀式の続きを。」 「あ、有り難う御座います!コルベール先生!」 儀式を監督していたコルベールが興味深げな視線をそれに送りつつ賞賛の声を向ける。 教師に褒められた事が魔法関係ではそうそう無かった彼女は感無量となる。 そして未だ周りの喧騒に微々として気付く事も無く、すやすやと眠り続けているその生き物の顔に自分の顔を近づけて言う。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」 言葉と共に杖を振り、口ととれる頭部の下にある切れ込みに自らの唇を重ねる。 と、その時何かの音がルイズの心の中に響いてくる。 それは霧の彼方から聞こえて来る様な感触だった。 やがてそれははっきりと言葉になっていき、幼くも透明感のある声となる。 「あなた……だあれ?」 前ページ次ページゼロの夢幻竜
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3043.html
前ページゼロのドリル ――これはまだ、自らの運命に気づかぬ、一人の女の物語。 トリスティン魔法学院の中庭にて行われた春の召喚儀式。生徒達は抜けるような青空の下、各々が召喚したすばらしい使い魔達と親睦を深めていた。 その傍らで、両手両膝を大地につけてガックリ項垂れる少女が一人。名をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという。 ふわふわした桃色の髪がトレードマークの小柄な女の子だ。 他の生徒達が召喚したモグラやサラマンダーなどの使い魔と戯れている中で、彼女だけは何も相手にせず、ただ一人でうつむいていた。 そんなルイズを心配げに見下ろしながらそばに歩み寄る一人の男性。年若い生徒達の中で、彼だけは歳経た深いしわを顔にこさえている。 「ミス・ヴァリエール。元気を出せと言うのも無茶かもしれないけれど、そろそろ顔を上げなさい。“それ”がなんであれ、君はサモン・サーヴァントに成功したんだ」 「……コルベール……先生」 自分の小さな肩にそっと乗せられた手の感触に気づいて、ルイズはコルベールに顔を向けた。瞳に溜まった涙のせいで、視界はぐにゃぐにゃに歪んで見えた。 まるで氾濫を起こす寸前の河のようだ。それでも涙をこぼさないのがヴァリエールらしいと思いながら、コルベールはその場にしゃがみこんでルイズの側に落ちていた"それ”を拾い上げると、そっと彼女の手に握らせる。 「変わった金属で出来た物だ。もしかしたら何かのマジックアイテムかもしれない」 マジックアイテムと聞いて、ちょっとだけルイズの瞳に光が戻った。 「とにかく、"それ”が君の元に召喚されたのはきっと意味のあることなんだ。大事に持っていなさい」 ルイズは手の中にある“それ”をじっと見つめた。 綺麗だと思う。それは宝石で出来たわけでもなければ趣向を凝らしたデザインをしているわけでもない。 けれど、その螺旋を描いた形はなぜかルイズの目をつかんで離さなかった。 ゼロのドリル 前編 私を一体誰だと思っているの! 召喚した"それ”に契約の儀式を行う。金属の塊にキスをするルイズを見た他の生徒達はそろって爆笑して彼女を罵った。 普段なら意趣晴らしで罵り返す所だが、今のルイズにはそれをするだけの気力は無い。悔しくてかみ切りそうなほど唇を噛みしめる。 自分以外の生徒達の傍らについて彼等に従う使い魔達。それを見ていると、自分の隣りに何も居ないのがたまらなく恥ずかしかったのだ。 悔しくて"それ”を握りしめる。ルイズを見て笑う者と、誰にも目線を合わせずに悔しがるルイズ。 どちらも目をやらない中で、“それ”がうっすらと緑色に発光していたことに気づいた者はいなかった。 ルイズが召喚した金属の塊は、名前をドリルと言う。 契約の儀式が終わった後、刻まれたルーンについて調べていたコルベールからルイズはそう聞かされた。 「挿絵を見つけたんだよ! かつて始祖ブリミナルが召喚した使い魔の一人、ガンダルーヴが愛用していた槍とそっくりだ。いや、これは凄い発見だ!」 これ槍ッスかこれ!? とルイズが驚いているのにも気づかずに、コルベールは一人ではしゃいでいた。 たしかに棒の先端に付ければ槍として使えなくもない気がするけれど……どうせならガンダルーヴの方が来れば良かったのに。 ヒモを通して首からぶら下げているドリルを指先で弄びながら、そんな事を愚痴るルイズ。 召喚の儀式から数週間後、土くれのフーケと名乗る盗賊がトリステイン魔法学院の宝物庫を襲撃して「カオガミ様の象」を奪うという事件が起こる。 学院長であるオールド・オスマンはカオガミ様の象が持ち去られたことに激しく狼狽した。 オスマンの話によると、カオガミ様の象とは一見すると単なる鉄で出来た人形だが、その正体は始祖ブリミナルの時代から存在する最強のゴーレムの一つであるという。 ブリミナルが作ったとされるそれは歴史的価値ならば始祖の祈祷書なみだ。かつて多くの者がこのゴーレムを動かそうとしたけれど、今まで誰一人として動かすことが出来なかったという。 けれど、フーケほどのゴーレム使いならば、あるいはカオガミ様の動かし方について何か心当たりがあるのかもしれない。 それを危惧した学院長オールド・オスマンは至急の追撃部隊を編成しようとするが教師は誰も参加しようとしなかった。 そんな中、たまたまフーケが宝物庫を遅う場面に居合わせたルイズと、ルイズの仇敵・キュルケ。そして無口なメガネ少女、タバサ。 この三人が追撃部隊に立候補した。 やる気のない奴よりやる気のある連中。……ということで、オスマンは危険を承知でこの三人をフーケ追撃のメンバーに選ぶ。 情報を入手してきたオスマンの秘書、ミス・ロングビルとともにフーケを追うことを彼女たちに命じた。 ミス・ロングビルの情報を元にたどり着いたのは森の中にたたずむ一軒の小屋だった。どうやらここが、フーケの隠れ家らしい。 中を見ると灰色の小さなゴーレムの顔が一つ、小屋の中央に鎮座しているだけだった。一目で分かった。これがカオガミ様の象であると。 顔から直接小さな手足が生えた姿を見ていると、とても学院長が恐れるほどの強力なゴーレムとは思えない。 辺りにフーケの姿も見えないことから「拍子抜けね」とキュルケが気を抜いた瞬間、ドシンと地響きが小屋を襲った。 驚いてキュルケとタバサが小屋の外に出てみると、そこには身の丈三十メイルを超える、巨大なゴーレムが出現していた。 「出たわね土くれ!」 叫んで、キュルケはゴーレムに向かってファイアーボールを唱える。しかし分厚いゴーレムの身体は炎で貫くことができない。 巨大な手足を振りまわして、ゴーレムはキュルケを狙う。相手は恐ろしく巨大で、踏みつぶされただけで終わりだ。 地上戦は不利と判断したタバサは自らの使い魔である風竜、シルフィードの背にキュルケと一緒に飛び乗ると天高く舞い上がった。 いちいちゴーレムなんか相手にしてられない。術者であるフーケを直接叩くことにしたのだ……と、舞い上がった所でキュルケは先ほどからルイズの姿が見えないことに気づいた。 「小屋の中」 めんどくさそうにルイズを探すキュルケに、タバサは小屋の方を指し示す。 なんだ、小屋の中に隠れてたのか……キュルケは無意識に息をついていた。 キュルケとタバサが小屋の外に出て行ったとき。 うっすらと、カオガミ様のゴーレムの両目が光っていることにルイズは気づいた。共鳴するように、自分のドリルも緑色に光っていた。 それから後のことを、ルイズは良く覚えていない。二人が小屋を飛び出したことにも、巨大なゴーレムが起こす地震にも、キュルケのファイアーボールにも気づかなかった。 何かにひかれるようにカオガミ様の顔に触れて、するとおでこより上の部分がいきなり開いて、中から操縦席のような物が現れた。 乗り込んで、両壁から突き出た操縦桿を握ってみる。妙に手になじむ。 目線を前にやると、小さくて丸い穴があった。穴の奥からは、ルイズのドリルと同じ、緑色の光が輝いている。 なぜかそれを見て、ルイズは分かった。胸元にぶら下げたドリルは、こう使う物だと。 ルイズは自分のドリルをカオガミ様の穴にねじ込んだ。 緑色の極光がカオガミ様から放たれて、灰色の顔が深紅と白のカラーリングに入れ替わる。 ルイズは操縦桿を強く握りしめる。 ――――行ける!! カオガミ様は緑色の流星となって小屋から飛び出すと、鋭い弧を描いて一直線にフーケのゴーレムに突っ込んだ。 カオガミ様の顔より下からはルイズのドリルより遙かに巨大なドリルが出現している。 ちょうどゴーレムの顔があった部分に刺さると、ルイズは操縦桿を力一杯握りしめた。ルイズの小さな身体から緑色の光があふれ出て、操縦席の目の前にあるドリルに螺旋を描きながら吸い込まれてゆく。 光を吸収したカオガミ様はその光を自分のドリルの先端から放出し、フーケのゴーレムの中に出した。 「あんな凄い量を中に出すなんて」 「溢れそう」 すさまじい光の量に驚くキュルケとタバサ。 フーケのゴーレムは緑色の光に包まれると、ずんぐりむっくりした姿からスマートな人の形へと変貌する。 それを、その様子を見ていたミス・ロングビルは唖然としていた。 岩で出来ているせいでゴツゴツしていた表面も、まるで大理石のようにツルツルになり、ゴーレムというより芸術家が作った彫刻のような姿に変わった。 美しい女性の姿を象ったようなゴーレムが、そこに誕生した。 ルイズの願望か、胸には撓わに実った果実が二つ。一流の彫刻家だってこんな美しい女性の象は彫れないだろう。見ただけでそう思わせる姿であった。 「だ、大丈夫ですか? ミス・ヴァリエール!」 操縦席の中から外の景色を眺めていたルイズにそんな声が届く。三十メイル以上のゴーレムの足下を見下ろすと、キュルケとタバサ。そしてミス・ロングビルがいた。 降りようと思って自分はフライもレビテーションも使えない事に気づく。そして今、自分が居るのは巨大なゴーレムの頭の中だ。 どうやって降りようか悩んでいると、なにやら下から騒がしい声が聞こえ始めた。 何事かと目を向けると、キュルケがミス・ロングビルに向かってファイアーボールを唱えている所だった。 驚いてキュルケを静止させようとゴーレムの手を動かすと、すかさずタバサが操縦席のすぐ側まで風龍に乗ってやって来て、ロングビルの正体がフーケであることを伝えてきた。 うっそーと驚いてロングビルを見ると、彼女は今まで学院の中では見せたことのない、妖艶な笑みを浮かべてすぐさまもう一体、巨大なゴーレムを作り出した。そのゴーレムに乗ってルイズ達から距離を取ると、続けて土の呪文を唱え巨大な岩で出来たドームを作り上げる。 ドームはルイズのゴーレムごと三人を完全に覆って真っ暗闇の中に三人を閉じこめた。タバサの風も、キュルケの炎も、ゴーレムの拳も、そのドームの壁を破ることが出来なかった。 三連続で大がかりな呪文を唱えたフーケは心身ともに疲労困憊であったが、なんとか三人を閉じこめたことに一息ついていた。あとはカオガミ様を奪う方法を考えるだけだ。 閉じこめられたキュルケとタバサは持てる全ての呪文を使ってみたが壁を壊すには至らなかった。 肩で息をつくキュルケとタバサ。 その傍らで、ルイズは今も執拗にゴーレムを操って、その拳を壁にぶつけ続けている。 しかし何度も打ち続けたせいで、逆にゴーレムの腕が砕け始めていた。よく見れば、ゴーレムの身体から出ていた緑色の光も消えかけている。 「無理よルイズ。力押しじゃこの壁は壊せそうもないわ」 「固定化に似た魔法がかけられている。物理的な方法で破壊するのは至難」 それでもルイズは、砕けた腕をさらに壁にぶつける。 「うっさいツェルプストー! 私を! 私をぉ!! 一体、誰だと思ってるの!!!」 魔法を使えなかった。 貴族の家に生まれながら、ヴァリエールに生まれながら、ルイズは魔法を使うことが出来なかった。 それでもあきらめずにここまで来た。 相変わらず魔法は使えないけれど、似たような真似は出来た。今、自分はゴーレムを動かしている。 なら、あきらめなればきっと――いつか本当の魔法を――――。 だから! こんな所で!! 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはこんな所でっ! 行く道引いてらんないのよ、バカーーーー!!!」 ルイズの叫びに呼応するように、操縦席の前面に螺旋状のメーターが出現。メーターは一気にMAXまで高まると、同時にゴーレムも再び緑色の極光に包まれる。 砕け散ったはずの両腕が再生。さらに腕の先端からドリルが飛び出す。 空気を切り裂きながら高速で回転するドリル。ルイズはそれを目の前の壁に思いっきりぶち込んだ! あれほど硬かった壁がまるで砂糖菓子のように、粉々に吹き飛ぶ。 壊れた壁から光が差し込む。抜けるように青い青い空が、壁を壊したルイズの目の前に広がっていた。 壁が破壊されたことに気づいたフーケは一目散にその場から逃げ出した。もう、自分には連中を相手にする魔力が残っていないからだ。 「たかが学生にここまで……。この借りは必ず返すわよ、お嬢ちゃん達」 森の陰から闇へ、フーケはその姿を消して行った。 次回 中編 あばよ、デル公! 近日公開…………するかどうかはわからない 前ページゼロのドリル
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2207.html
バスタード!よりダイ・アモン伯爵を召喚 美的センスゼロの使い魔-1 美的センスゼロの使い魔-2