約 1,875,314 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1249.html
「ムゥ~~ッ!! フゴムゴォ! ングゥ~ッ!」 部屋に響くのはギーシュのくぐもった声であった。 言い訳や状況説明をする暇なくルイズによって簀巻きにされ、 DIOに足首を掴まれて逆さ吊りにされているのだった。 口には猿ぐつわがしてあり、何を言っているのか明瞭ではない。 ルイズはギーシュの足を持っているDIOの上着をまさぐり、 ナイフを一本取り出した。 そして、逆さ吊りで視界が反転しているギーシュに視線を合わせるため、 ヤンキー座りになった。 豚でも見るかのような冷たい目で、 ルイズはギーシュの横っ面をナイフでペチンペチンと叩いた。 ナイフに嫌な思い出があるのか、 それを目にした途端ギーシュは激しく身を捩った。 「これどうします、姫様? なますにしてラグドリアン湖にバラまきますか?」 「フ、フガッ…!?」 まさかの死刑宣告である。 かろうじて自由な目をせわしなく動かして、ギーシュが呻いた。 アンリエッタは事の展開のあまりの早さに、 頭がまだ追い付いていなかった。 いきなり生死の審判を委ねてくるルイズが、 純粋に怖かった。 今ルイズがギーシュに向けている目に、 見覚えがあったからであった。 まだ二人が幼かった頃だった。 ルイズは侍従のラ・ポルトに、 時折りあんな目を向けていた。 ラ・ポルトは魔法の使えないルイズを『ゼロ』『ゼロ』と 散々陰で馬鹿にしていたのだった。 ……そういえばラ・ポルトは宮中を去った後、 プッツリと消息を絶ってしまっている。 元気にやっているであろうかと、アンリエッタは少し気になった。 しかし今重要なのは、目の前で逆さ吊りになっているメイジを どうするかということである。 死の恐怖にガタガタと震ている姿は、 痛ましくて見るに耐えない。 その光景が、部屋を訪れたときの自分と重なり、 アンリエッタはギーシュに同情せざるを得なかった。 「あ、あのルイズ。 もうそのあたりで許してあげては……」 ルイズはギロリとアンリエッタの方に振り返った。 腰が抜けてしまいそうなほどの威圧感だったが、 なけなしの勇気を振り絞って、アンリエッタはルイズを見返した。 数瞬の沈黙の後、ルイズはつまらなさそうに DIOに目配せをした。 「ブギャッ!!」 DIOがパッと手を離し、ギーシュの頭が床に墜落したのだった。 そしてルイズは無造作に、手にしたナイフをギーシュに向けて投擲した。 ギーシュに突き刺さるかと思われたナイフはしかし、 紙一重でギーシュを避け、彼を拘束していたロープを切断した。 こうしてようやっと束縛を解かれたギーシュは、 覗き見をしたことを必死で謝罪した。 『薔薇のように見目麗しい姫様のお姿に心奪われ、 ついつい後をつけ、覗き見をしてしまった』 要約するとこんな感じである。 ……つまり、アンリエッタの変装がチャチだったのが原因だった。 しかし、まさかギーシュ如きに一発で見抜かれてしまうほどだとは。 ルイズは頭が痛くなってきた。 これではもうどうしようもない、こいつも連れていくしかない。 もしギーシュを学院に残したら、口の軽いこいつのことだ、 ペラペラと話してしまうに違いない。 はぁ、御荷物が増えた…… とルイズは胃がキリキリする思いだった。 しかし、アンリエッタに巻き込まれる犠牲者が また一人増えただけなのだと考え直すことにした。 ルイズは健気で前向きな少女だった。 「姫様、致し方ありません。 この者も同行させます。 名はギーシュ・ド・グラモン、『土』のドットメイジにございます」 「グラモン? あの、グラモン元帥の?」 ギーシュは慌てて立ち上がり、一礼した。 「ありがとう。 お父様も立派で勇敢な貴族ですが、 あなたもその血を受け継いでいるのですね。 では、お願いします。 この不幸な姫をお助け下さい、ギーシュさん」 「姫殿下が僕の名前を呼んで下さった! 姫殿下が! トリステインの可憐な華、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んで下さった!」 ギーシュは顔を真っ赤に赤らめて、 感動のあまり後ろに仰け反って失神した。 やれやれこいつアンリエッタに惚れたのか、 とルイズは推察した。 しかし、こいつはちょっと前に浮気騒ぎを起こしたばかりの、 札付きの信用無しである。 その被害を被った女生徒の一人……モンモンだったか、確かそんな名前だった…… は、最近になってようやく立ち直ったとか。 いっそ去勢でもした方が学院の、引いては人類の平和に繋がるんじゃないかと思って、 ルイズはチラッとギーシュの切ない部分に目をやった。 もちろんわからないようにしたつもりだが、 薄ら寒いものを感じたのか、ギーシュの肩が若干震えた。 ルイズは気を取り直してアンリエッタに向き直り、 話を進めることにした。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」 「了解いたしました。 以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、 地理には明るいかと存じます」 「旅は危険に満ちています。 あなた方の目的を知ったら、アルビオンの貴族達は ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」 アンリエッタは真剣な眼差しをDIOに向けた。 「頼もしい使い魔さん。 よければお名前を教えて下さい」 声を掛けられDIOはしかし、アンリエッタを一瞥しただけで、 彼女の言葉を無視した。 意外な反応に、アンリエッタは怪訝な反応をした。 気まずい沈黙が場を支配し始め、ルイズは慌てた。 「こ、こら、姫様の御言葉よ! ちゃんと名乗りなさい!」 ルイズの命令を受けて、DIOは小さな声で名乗った。 「……DIOだ。 そこのルイズの執事の真似事をやっている」 声を聞いて、ルイズはDIOの機嫌がよろしくないことを悟った。 ルイズにしか分からないくらいの変化だったが、 確かに、DIOの声は不機嫌そうだった。 何故だろうとルイズは疑問に思った。 しかし、アンリエッタはそれに気付かず微笑んだ。 「わたくしの大事なお友達を、これからもよろしくお願いしますね」 民衆に見せる営業スマイルでにっこりと笑ったアンリエッタは、 そのままルイズの椅子に座った。 そして、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、 さらさらと手紙をしたためた。 アンリエッタは、自分が書いた手紙をじっと見つめた。 やがて決心したように頷き、末尾に一行付け加えた。 密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情を、 ルイズは怪訝に思った。 しかし自分がとやかく言う領分ではないので、 ルイズはだんまりを決め込んだ。 巻いた手紙に封蝋をなし、花押を押して、 アンリエッタは手紙をルイズに手渡した。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。 すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」 それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜き、 これもルイズに手渡した。 「母君から頂いた『水のルビー』です。 せめてもの御守りにこれを。 路銀が心配なら、売り払って旅の資金にあてて下さい」 無自覚トラブルメーカーであるアンリエッタの私物を頂戴したとあって、 ルイズはこっそり嫌そうな顔をした。 厄介事を招き寄せる呪いでも掛かっていそうだ。 彼女の言う通り直ぐに売っ払ってしまおうかと、 ルイズは思った。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風を、 幻影のように鎮めて下さいますように」 アンリエッタは静かな祈りを捧げた。 ―――――――――― 朝靄の中、ルイズ一行は馬に鞍をつけていた。 いつもの制服姿だが、長時間の移動に備えて乗馬用のブーツを履いているルイズ。 密命に燃え、気合いの入ったセンス最悪の衣装に身を包んだギーシュ。 デルフリンガーを背に、ハートの飾りが頭に光るDIO。 そして…………いつものメイド服姿で、 当たり前のようにDIOの代わりに雑務をこなしているシエスタ。 ついてくる気満々である。 ルイズは乗馬用の鞭を片手に、 腰に手を当ててシエスタを睨みつけた。 「なんであんたがここにいるわけ? 今回ばかりは引っ込んでなさい、事情が違うわ」 苛立ちも露わに言い放つルイズだが、シエスタは涼しい顔で一礼した。 これ見よがしに胸が揺れる。 ルイズの顔面の青筋が増えた。 「旅の間、DIO様の御世話をさせていただきます。 光栄なことに、DIO様より直々の指名をたまわりました」 何とDIOの命令らしい。 ルイズは即座に、その怒りの矛先をDIOに向けた。 しかし、ルイズが怒り出すのは承知の上なのか、 ルイズが口を開く前にDIOが理由を説明した。 「ルイズ。見誤っているようだから言っておくが、 私はまだ万全ではないのだ。 降りかかる火の粉を払うのに、余計な労力を消費するわけにはいかん」 ぐっ……とルイズは言葉に詰まった。 確かに、付き合いが浅いので正確には知らないが、シエスタは有能だ。 匂いで分かる。 少なくともギーシュの百倍は役に立つだろう。 しかし、ルイズにはシエスタのあの澄ました態度が 癪に障って仕方がないのだ。 頭では納得できても、割り切ることは出来ないものがある。 そしてシエスタもまた、ルイズの内心を悟っているかのように、 鋭くルイズを射抜いた。 「……失礼ですが、ミス・ヴァリエール。 私は、例え仮初めといえども貴女がDIO様の主人であるなどと、 認めてはおりません」 それっきりシエスタはルイズに背を向けて、自分の仕事に戻った。 一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとした顔をしたルイズだったが、 見る見るうちにその顔に黒い怒気が浮かんだ。 「……あぁ? 今、なんつったの?」 肩を掴んで、シエスタを無理やり自分の方に向かせるルイズ。 しかし、ドスの利いた声でシエスタに詰め寄っても、 顔面がぶつかるくらいに近寄ってメンチをきっても、 シエスタは眉一つ動かさない。 「貴女には主人としての資格などありませんと、 申し上げたのです」 使い魔の主人である資格が無いなどと言われることは、 貴族の沽券に関わる問題である。 決して聞き逃すことの出来ない侮辱であった。 ルイズは片手でシエスタの胸倉を掴み上げた。 片手であるにも関わらず、 シエスタの足は地面を離れた。 だが、それに怯むことなく、シエスタもルイズに牙を剥く。 「URYYYY……!!」 「KUA ッ!!!」 一触即発の状態で、二人はバチバチと火花を散らした。 事の成り行きを見ていたギーシュには、まさか口出しなんて出来るはずもない。 彼は必死で目を合わせないようにした。 あんな連中に、自分の使い魔を連れていってもいいか などと聞けるはずもない。 ギーシュは自分の使い魔を連れていくことを渋々諦めた。 しかしこの修羅場な空気を断ち切る存在が現れた。 ルイズの横の地面がモコモコと盛り上がり、 茶色の大きな生き物が顔を出したのだ。 血で血を洗う肉弾戦に突入しそうな勢いだった二人は、 突如現れたその生き物に目を向けた。 その茶色い生き物は、ギーシュの使い魔のヴェルダンデであった。 「ヴェルダンデ! ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」 自分が溺愛する使い魔の登場に、ギーシュは感極まった声を上げた。 それとは対照的に、ヴェルダンデを見る二人はどこまでも無言だった。 その激しい温度差に、ギーシュは気づかない。 「あんたの使い魔って、ジャイアントモールだったの?」 場の流れを無理やり変えられて、ルイズが不機嫌そうに聞いた。 主人のもとに駆け寄ったヴェルダンデを抱きしめながら、 ギーシュは目を輝かせた。 「そうさ、僕の可愛い使い魔のヴェルダンデだ! ああ、ヴェルダンデ! 君はいつみても可愛いね!!」 暫く主人の熱い抱擁を受けていたヴェルダンデだったが、 やがて鼻をひくつかせた。 くんかくんかと匂いを探るヴェルダンデは、何故かルイズ…… 正確には、ルイズの右手の薬指に光る指輪……に狙いを定めた。 ヴェルダンデは宝石が大好きなのだった。 だからこそ、『土』系統であるギーシュにとっては最上の協力者であった。 つぶらな瞳を輝かせて、ヴェルダンデはルイズに突撃した。 ルイズは自分めがけて走ってくるモグラを無感情に見下ろした。 「それ以上近づいたら蹴るわよ?」 モグラ相手にバカみたいだが、ルイズは一応警告した。 しかし、やはりモグラがその突進を止めることはなかった。 「あはは、噛みつきやしないさ。 とっても賢いやつなんだ!」 気さくな笑みを浮かべるギーシュ。 やがて距離が縮まり、一直線に駆けたヴェルダンデは、 そのままの勢いでルイズの胸に飛びつこうとした。 ―――が 「フンッ!!」 "ボギャア!"という鈍い音と共に、ルイズの膝蹴りが ヴェルダンデのアゴに炸裂した。 勢いがついていた分、ダメージは相当のものだった。 ヴェルダンデはもんどり打って倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。 愛する使い魔に対するあんまりな仕打ちに、 ギーシュはプッツンした。 「な、なにをするだァーーーッッ! 許さんッ!」 懐から、杖として使っている薔薇の造花を取り出して、 ギーシュは鼻息荒く目を血走らせた。 この場で決闘でも始めかねない剣幕だ。 「警告したでしょうが。 殺さなかっただけ感謝しなさいよ」 だが、ルイズはそんなギーシュを宥めるどころか、 逆に挑発したのだった。ルイズはシエスタとの一件で、まだ気が立っていた。 そんなルイズに対する怒りで身を震わせるギーシュは、 何の躊躇もなく薔薇を振った。 薔薇の花弁が二枚宙を舞い、たちまちそれは青銅で出来たゴーレム、 『ワルキューレ』に姿を変えた。 ギーシュの十八番、錬金であった。 「け、け、けっけっけっ決闘だァ! このビチグソがぁあああッッ!!」 錯乱状態のギーシュが薔薇を振るうと同時に、二体のワルキューレがルイズに踊り掛かった。 to be continued…… 52へ 戻る 54へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/821.html
第1章 前編 「あんた誰?」 値踏みするように、自分を覗き込む少女が問いかける。 …君こそ誰だ? ここはどこだ? 体を起こし、質問に質問で返そうとしたが……身体が応答しない。 目を開き、首を少し動かして、視野を確保するのが精一杯であった。 (身体が…重い…… 今敵に襲われたら… 楽に…逝けるな……) 何よりも男落胆させたのは、大切な相棒…”友”が自分の隣にいないことであった。 何の返答も無い。 (もしかして私… ”死体”を召喚しちゃった!? …でも、目は開いてるし…首もすこし動いてる? …ケガでもしてるのかしら?…) 少女は自分が召喚した生き物の安否を確かめるため、”それ”のそばに近寄り、まじまじと観察してみた。 どうやら初見通り、人間の男性らしい。 「黒地に、細い白い縞模様(ピンストライプ)」の変な服を着ている。肩には、鎧の肩当ようなモノを着けている。 (傭兵か兵士? まぁ、貴族ではなさそうね…) 呼吸に合わせ、身体が上下している。 (良かった… 生きてる… …ケガらしいケガも見当たらない…) (”死体”なんか召喚した日には、「”使い魔のライフポイントがゼロ”のルイズ」って呼ばれかねないもんね…) 自嘲気味に、安堵の気持ちを心の中で呟いた後、今度は首から上を改めて見てみる。 髪をいくつかに束ねて、植物の房のような髪型。額には、黒いバンダナを巻いている。顔立ちはなかなかの男前…だと思う。 男は一生懸命、目をぐるぐると動かしている。意識はあるようだ。 (…平民が使い魔だなんて気に入らないけど… 出てきたものはしょうがないわ・・・) 少女は人生で(まだ十数年ではあるが、それでも)トップ3に入るほどの譲歩と妥協をしてのけた。 (…やっぱり何事も最初が肝心よね? 御主人様としての威厳を見せ付けないと…!!) (ここはどこだ?) 自由の利く目を最大限使い、少しではあるが首も動かし、辺りを確認してみる。 …どうやらヴェネツィアの広場ではないらしい。なにやら少女以外にも、沢山の人の気配がする。 (…確かにオレは…・・・ヴェネツィアで死んだはず……だよな) 何故ティッツァが隣にいないのか。何故生きているのか。何故ヴェネツィアから移動しているのか。何故…。 疑問はたくさん有るが、それよりも、今現在何をするべきかを考えなくては……。 先ほど自分に声をかけてきた少女が、近くに寄ってきていた。 ……オレを観察してるらしい。 (まさか、コイツが”新手のスタンド使い”ってことは……) 最初に目に飛び込んできたのは、桃色がかったブロンドの、綺麗な長い髪である。 大地に仰向け状態のまま、動けぬ自分から見上げると、背景の青空のせいで、より桃色が映えて見えた。 顔だって整っている。美人というか、美少女というか。とりあえず、十分”有り”である。……色気は感じられないが。 (あと何年かすりゃもっと”化ける”な……って、そんな場合じゃねーな) 微妙に緊張感が無くなっている。いや、集中力と思考力が下がってきている。 (このまま目をつむったら楽になりそうだ……) 緩やかに、穏やかに”生”を終えるときは、こんなカンジなのだろうか……。 男の顔前に可愛い小さな顔が移動してきた。 「…もう一度聞くわ。 あなた誰? 名前は?」 落ちついた調子で、問いかける。 (…多分……スタンド使いとは違うな……答えても問題なさそうだ・・・) 少女の考えた”余裕のある威厳”を感じたからか、男が沈黙を破った。 「………スクアーロ…」 消え入りそうな声。スクアーロの全身全霊を込めた主張であった。 「そう、”すくあーろ”ね? どこの平m「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民呼び出してどうするの?」 誰かが、少女の威厳ある対応を横から完全にぶったぎる。それを受け、少女以外の人間が笑う。 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 少女は怒鳴るが、周りの人間は気にしていない。それどころが、さらに追い討ちをかける。 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「ルイズの失敗率は世界一ィィィッ!!」 「さすがはゼロのルイズだ!」 誰かがそう言うと、人垣がどっと爆笑した。 少女の名前はルイズというらしい。 (やっぱり平民の使い魔なんて嫌!) …ルイズは先ほどの譲歩と妥協をあっさり撤回した。 「ミスタ・コルベール!」 ルイズはスクアーロに背を向け、怒鳴った。 すると、中年の男が前にでてきた。……生え際は完全に後ろへ下がっていた。むしろ無い? ルイズはミスタ・コルベールに怒鳴りながら、コルベールはミス・ヴァリエールを諭しながら、会話をしている。 「もう一度……!!」 「それは……」 …なにやら、召喚だの儀式だの、果ては使い魔なんて単語が出てきた。 「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 ルイズがそう言うと、再び周りがどっと笑う。ルイズは人垣を睨みつけるが、笑いは収まらない。 「…たとえ彼が平民でも、君の使い魔になってもらわなくてはな」 「そんな……」 ルイズはがっくりと肩を落とした。 「さあ、儀式の続きを…」 「えー、彼と?」 ルイズとコルベールは、まだ話し合っていたが、ルイズの勢いは完全になくなっていた。 (……平民てオレのことか? …使い魔になる?オレが?) 聞こえてくる会話と自分の状況を何とかすり合わせ、導き出した答えは納得できないものであった。 というか、理解できない代物であった。 (そもそも使い魔ってなんだ? 契約?書類でも書くのか?) スクアーロが、脳内で謎と疑問軍団と戦っていたとき、ルイズがスクアーロの方に向き直った。 「ねえ… あんた…聞こえてる?」 「……何とかな」 そう。と一言いうと、ルイズはスクアーロの左手真横に、立て膝の状態で構える。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 貴族?またとんでもない単語が出てきたな…。 ルイズは諦めたように目をつむる。 手に持った、小さな杖をスクアーロの目の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々と、呪文らしき言葉を唱え始めた。 すっと、杖をスクアーロの額に置いた。 そして、横たわったままのスクアーロの唇を奪う。 ズキュウーーーz___ン それはまるで、王子様が眠れるお姫様へのキスするかのように。…配役は逆だが…。 「終わりました」 スクアーロから唇を離し、ミスタ・コルベールに告げる。 ルイズは顔を真っ赤にしている。どうやら照れているらしい。 …まさか初めてのキスじゃねぇよな? スクアーロの予想は的中していたが、それを確認するほど野暮ではなかったし……。 「誰にでも、初めてはある」ということだ。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」 コルベールが嬉しそうに言った。 「相手がただの平民だから、『契約』できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」 すかさず野次が飛び、ルイズがそれに噛み付くように反撃してゆく。 …よくやる……。 ルイズと巻き毛の子をコルベールが宥めていた。そのとき、スクアーロの体が妙に熱くなった。 「うぐァァ! ぐうううう!」 仰向けの体勢から、体を丸め、何とかこらえようとする。だが……。 熱い!これはまるでッ!……そうッ!あの時のッ!ナランチャにッ!エアロスミスで撃ち込まれた時と同じッ!全身に機銃をブチ込まれた感覚と同じだッ!! スクアーロが何かをこらえている様子を見て、語りかける。 「すぐ終わるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 余りにも事も無げに告げるルイズを睨みつける。 「あのね」 「なんだッ!」 「さっきからあんた……。平民が貴族にそんな口利いていいと思ってんの?」 うるせぇ!と怒鳴りつけてやろうとした瞬間、熱さが消え、体は平静を取り戻した。 「ふぅ……。」 熱さが引くと、今まで言うことを聴かなかった身体が素直になった。むしろ絶好調といっても良い。 最高に「ハイ!」ってやつかアアアア? コルベールが近寄り、スクアーロの左手を確かめる。 「珍しいルーンだな。…なかなか興味深い」 そんなに興味深いなら、テメーのその光るデコに、オレがじっくり刻んでやろうか!? さっきまでの諦観的・悲観的な気持ちから一転、強気なセリフを思いつくほど”息を吹き返した”。 「…それでは皆、教室に戻りましょう」 少しだけ名残惜しそうにしながら、スクアーロの左手から視線を外し、二・三歩歩くと宙に浮いた。 飛んだ…のか……? …ッ! スタンドかッ! さっと身構える。しかし……。 (水がッ…!? 水がねぇッ!) 慌てて周りを見渡すが、水溜りすらない。さらに他の生徒と思わしき連中も一斉に宙に浮く。 (全員スタンド使いかッ!? いや、いくら何でもそれはありえねぇッ!?) 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』どころか『レビテーション』さえもともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」 口々にそう言って笑いながら飛び去っていく。 自分への攻撃でなく、純粋に移動手段であることに安心するとともに、思いもしない光景にかなりの衝撃を受けた。 警戒を解き、飛んでゆく人間?を見送ることしかできなかった 二人きりになって、ルイズは大きなため息をつきながら、大声で怒鳴った。 「あんた、何なのよ!」 それからはただただ一方的にルイズがまくし立てた。 なんで、私の使い魔が平民なの?グリフォンとかドラゴンがよかったのに!どっからきたの?何その格好?その変な髪型は意味有るの? …質問というか、今までの鬱憤を晴らすかのごとく、身振り手振りで「疑問と要望」をぶつけてくる。 そんなルイズに何の反応もしないスクアーロ。何か考え事でもしているようだ。 返答しない使い魔のそっけない態度に、さらに燃えつきるほどヒート!!…アップしようとするルイズ。 そんな御主人様を、使い魔はいきなり抱きしめた。 「ちょ、ちょっと1? な、なにするd 「色々言いたいことはあると思うが、オレたちが最初にすべき事は…」 「互いの理解を深めること。 それには”コレ”が一番早い……」 スクアーロは目を閉じ、ルイズにキスをしようとしたが……。 次の瞬間、スクアーロの大事な部分は無言で蹴り上げられた。 薄れ行く意識の中で、スクアーロは友に「反省と考察?」を述べた。 …やっぱり慣れないことはするもんじゃないな……。 ティッツァーノ… ここがどこだかわからねぇが……。 かなりヤバイところってことと……。 ここの女の子は可愛いが…気が強くて…攻撃的ってことは確実だぜ……! うずくまり、微笑を浮かべながら気を失う使い魔と、赤面しつつ、怒りに体を震わせながら使い魔を見下ろす御主人様。 …なんとも空の『青』に『赤い顔と桃色の髪』が映え、大地の『緑』に『黒い服』が良く馴染んでいた……・ 第1章 オレは使い魔 前編終了 To Be Continued......
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/285.html
わたしは、自分の部屋で今までの事を振り返っていた わたし達は、フーケを捕まえ無事に破壊の杖を取り戻した 破壊の杖は、どうやらプロシュートの世界から来た物らしい その事から解った事といえば、プロシュートが召喚された以前にも 誰かが異世界から召喚されてしまった事ぐらいで、むこうの世界に帰る 手がかりにはならなかった しかし、何故わたしが異世界からプロシュートを召喚してしまったのだろう? わたしが真面目に考えてる隣では 「ダーリン、今日も素敵よ」 キュルケがプロシュートに迫っていた わたしはキュルケに対し、怒りよりも心配が先に出てしまう 「キュルケ・・・その、彼が怖くないの?」 キュルケをプロシュートから引き離し、耳打ちする 「確かに彼、敵には容赦ないわね、でも『そこにシビれる憧れるぅ』ってやつよ」 何それ? 「彼、敵にはそんなんだけど仲間想いの熱い男に違いないわ、コレ女の勘ね」 なに夢見てんのよ、彼の怖さは・・・わたしは夢を思い出していた 仲間が殺された時の彼の怒りを 仲間の強さを疑わない彼の信頼を 仲間の成長を願い叱る彼の姿を 殺しのイメージが強いが、別に彼は殺人鬼でも快楽殺人者でもない 人を殺す事が出来る『覚悟』を持った人間なんだ わたしは彼のそんな所にばかり気をとられ、今まで気が付かなかった それを、よりにもよってキュルケに指摘されるなんて 「ちょっとルイズ聞いてる?」 いけない、また考え込んでしまった 「聞いてるわ」 「あなた、彼を召喚して悩んでる様だけど、結構似たもの同士だと思うのよね」 「どっ、どこがっ?」 わたしと彼、一体どこが似ているというのかしら? 「自分の理想の姿を貫こうとする所ね。そこん所は私、あなたを認めているのよ」 自分でも顔が熱くなるのが判ってしまった 「今日の所はこれ位にしておいてあげる、じゃあねー」 キュルケが部屋から出て行った・・・まったく、言ってくれるわ・・・ でも・・・わたしの心には、もう迷いが無くなった この使い魔と、これから上手くやっていける わたしの心に爽やかな風が吹き込んだ 偉大なる使い魔 完
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9181.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十話「疑心の雪山(前編)」 氷超獣アイスロン 登場 空飛ぶ大陸に存在する国家、アルビオン。『白の国』の異名を持つこの地は、冬の季節、 一年の始まりである始祖ブリミルの降臨祭を間近に迎えようとしている時節であった。 そのアルビオン大陸に連なる山脈に白い冠を被せる吹雪の中を、ハルケギニアの文明には 存在しないはずの複葉機が飛んでいた。これは才人がシエスタの一家から譲り受け、 コルベールに修復してもらったゼロ戦である。 「……ちょっとサイト、指定の場所への進路から、少し左にずれてるみたいよ。修正して」 ゼロ戦のコックピット内で、ルイズが地図と計器を見比べて指示した。ゼロ戦は本来単座だが、 コルベールの改造によってルイズが収まる後部座席を加えてもらっている。 しかし、操縦席で桿を握る才人はボーっとしていて、聞こえていないようだった。 「サイト! 聞いてるの!? 右に軌道修正してって言ってるの!」 ルイズが強く呼びかけて、ようやく才人は我に返った。 「あ、ああ、ごめん……風が強くてさ……」 「言い訳しないで! しっかりしてよね! これからわたしたちは、とても重要で名誉な 任務を遂行するのよ。あんたのせいで失敗なんかしたら、承知しないわよ!」 謝った才人だが、ルイズの強い語調のなじりでムッと顔をしかめた。 「おい、そんなに言わなくたっていいだろうが!」 「口を動かしてないで、操縦に集中してなさい! それがあんたの仕事でしょう! 使い魔なら 使い魔らしく、役目に集中なさい!」 言い返すも、ルイズは更に語気を強めた。取りつく島もない態度に、才人は不承不承に顔を前に戻す。 「へいへい、分かりましたよ、ご主人さま。……ったく……」 不機嫌に舌打ちする才人に、ルイズもまた苦虫を噛み締めた表情になった。 トリステイン・ゲルマニア連合軍は二週間前、遂にアルビオン大陸への進撃を開始した。 連合軍はまず上陸を行うために、空軍基地ロサイスを占領した。もちろん敵軍の重要拠点だったので、 容易なことではなかった。しかし連合軍は、女王直属の極秘エージェントという立場になったルイズの 『虚無』の魔法により、第一次攻防戦に快勝した。『イリュージョン』で作った幻の艦隊を別の ダータルネス港に近づかせ、敵空軍を陽動したことで、空戦力に劣る連合軍は大勝を飾ることが出来た。 その後連合軍は、ロサイスに陣地を構えてアルビオン軍の反撃に備えた。しかし予想に反して、 アルビオンの攻勢は全くなかった。アルビオン軍主力は、首都ロンディニウムに立てこもったままだったのだ。 連合軍に具体的な損害は発生しなかったものの、無駄な陣地構築によって兵糧を無駄にしてしまった。 財政がギリギリのトリステイン・ゲルマニア両国にとっては、兵糧の浪費はかなりの痛手だ。連合軍は迅速な 進軍を求められた。しかし、途中の敵拠点を無視して一気にロンディニウムまで進撃するのは危険が大きい。 そこで、シティオブサウスゴータという古都を占領する作戦が立てられた。サウスゴータは アルビオンきっての大都市であり、街道の集結点である。ここを取れれば、他の拠点を見張りながら ロンディニウムまで進軍可能だし、持久戦もやりやすい。現状では最良の手と言えるだろう。 しかしそれだけの重要地点、当然敵の守備が厚いことが予想される。なるべく安全にサウスゴータを 奪取するために、またルイズに白羽の矢が立った。主力に先行してサウスゴータに赴き、『虚無』の力で 敵に大打撃を与える。ルイズと才人は、その作戦の真っ最中であった。 幸い、トリステイン側の士気は非常に高い。それは、女王アンリエッタがこの戦地に赴き、 自ら兵士たちを鼓舞しているからだ。先の上陸戦の勝利の勢いもある。これならば、ルイズの攻撃が あまり効果を発揮しなくとも、占領自体は失敗しないだろう。そう考えれば、気が楽になるかもしれない。 だが、しかし……才人の心持ちは、意気揚々としている兵士たちとは逆に暗かった。 (みんな、どうしてそんなに活気があるんだよ。命の奪い合いをするんだぞ……!?) 才人はアルビオンへ発つ前に、コルベールの死を目撃した。人の“死”に慣れるなという、 彼の想いを知った。そのために、いつもよりも人の生死に過敏になっていた。 また、上陸作戦の際にも、人の死に直面した。『イリュージョン』の効果を最大にするために、 自分たちが直接ダータルネスに乗り込んだのだが、その際に護衛の名も知らぬ少年竜騎士たちが、 敵の攻撃からの盾となって次々と撃墜されていった。彼らの、死を目前とした者のみが出来る 諦めの境地の笑顔が、才人の脳裏から離れない。 もっとも、彼ら自体はどういう訳か、一週間も経ってからひょっこり帰ってきたのだが……。 どうやって助かったのか、一週間どこに隠れていたのか、彼ら自身が何も覚えていないという、 何とも摩訶不思議な事態であった。その謎は、今も解き明かされていないままだ。 ともかく、こういったことで才人は人の命を奪うことに強い疑問を抱き、戦争に荷担している 現状にも消極的な気分でいるのだった。侵略者を撃退するのとは、訳が違うのだ。 (俺は、どうしてこんなところにいるんだろう? そりゃあ、ヤプールと宇宙人に支配されてる アルビオンを放っとくことは出来ないってことは分かる。でも……他に方法はなかったんだろうか。 人が人を殺す以外の解決手段が……) 才人が塞ぎ込みがちなので、ルイズがきつく言って命令を言い聞かせるありさまなのだった。 しかし、ルイズが才人に厳しく当たるのは、それだけが理由ではないのだった。ルイズも本当は そんなことはしたくない、根を詰めている彼に優しくしてあげたいとは思っているのだが……。 (サイトは、直にこの世界からいなくなるのよ……。優しくしたって、しょうがないじゃない……) ルイズは、先日のことを回想する……。 グレンが傭兵として連合軍に参加していると耳に挟んだルイズは先日、彼に挨拶をしようと 足を運んでいた。しかしその時はちょうどグレンとミラーナイトが会話をしているところであり、 ルイズは意図せずして二人の話を盗み聞きしてしまったのだ。 その内容が、才人のことだったから。 『ところでよぉ、いつになったらサイトの命は再生するんだろうな? ランの時は、割とすぐに 再生したのに』 『サイトは命の損傷が非常に大きかったそうですからね。その分、時間が掛かるのでしょう。 あなたが助けたウェールズさんと同じですよ』 グレンと鏡の中のミラーナイトは、そう話し合っていた。 『ゼロに聞いたところ、二人の分離は今年中には間に合いそうにないとのことです』 『そうか……。ってことは、ヤプールとの決戦でも二人は合体したままってことになるだろうな。 決戦までサイトを巻き込むってのは、気が引けるが……』 ヤプールとの決戦は、連合軍がロンディニウムに乗り込む降臨祭の前後までに起こるだろうとの 予測が立てられた。わざわざ国一つを乗っ取っておいて、奪還されるのを指をくわえて見ている だけとは到底思えない。その時点に、何らかのアクションを起こすはずだ。 敵の攻勢は、こちらの攻勢のチャンスでもある。ウルティメイトフォースゼロは、これ以上 ヤプールの魔手にハルケギニアを侵させないためにも、無理矢理にでもその際に決着をつける 腹積もりでいるのだった。 『ですね……。しかし、こればかりは仕方ないことです。それに、決戦を無事に乗り越えさえ すれば、ようやくゼロとサイトは分離できるでしょう。ヤプールさえ倒せば、ゼロが一旦この宇宙を 離れるのにも問題はないはずです。その時こそ、やっとサイトをチキュウに帰してあげられますね』 『ようやくかぁ。サイトの奴も、故郷が恋しいことだろうな。あいつが無事に帰れるように、 俺たちがしっかりとサポートしてやんなきゃな!』 それを聞いて……ルイズは、あまりにも大きなショックを受けた。 (サイトが……帰る!?) その時のことを思い返して、ルイズは悶々とした。 (サイトが故郷へ帰る……それは当然の権利じゃない。そもそもが、不当にこの世界に連れて こられたようなものなんだもの。私に、それを止めることなんて出来ない。むしろ、進んで 送り出してあげなきゃ。……でも……) 才人がいつまでもこの世界にいる訳ではないこと、いずれはいなくなる存在であること。 分かっていたつもりであった。しかし、いざ意識してみると……胸の辺りが、いやにもやもやと する。それを認めたくない気分になる。けれど、その気持ちを肯定する訳にはいかない。 押し殺さなければ……。その気持ちの矛盾がルイズの心をかき乱し、つい才人に厳しい態度を 取らせてしまうのだ。 それぞれ複雑な心情を抱えた二人を乗せたゼロ戦だが、とうとう目的地が近づいてきた。 吹雪を抜けた先に、山間の広大な盆地に築かれた白い街並みが見える。あれがシティオブサウスゴータだ。 「ルイズ、見えたぞ! でも、『虚無』の魔法、上手く使えるのか?」 ここに至って、才人は心配になった。『虚無』は威力が絶大な分、消費する精神力も大きい。 実際にルイズは何度か、精神力切れを起こしている。特に最近は、『虚無』を使用することが多かった。 今のルイズに、敵陣を壊滅させるだけの『爆発』を起こせるのだろうか。 「任せて! ……思ったよりもずっと、敵影が少ないわ。これなら何とかなるはず……!」 眼下に見えるサウスゴータの街に在中している敵兵は、ほとんどがオーク鬼やトロル鬼といった 大柄の亜人で、それを指揮するメイジが何人かという謎の構成。兵隊の姿は異様に少ないし、 亜人だってわんさかといる訳ではない。大都市の守衛としては、いやに手薄な陣営だ。 実に奇妙だが、隠れている訳でもなさそうだ。それに、敵が少ないならそれに越したことはない。 ルイズは風防を開いて、呪文の詠唱を開始する。 だが、完成する前に一騎、ゼロ戦に急接近してくる竜騎士の影が見えた。騎士の跨る火竜が、 炎のブレスを吐こうとしている。 「待った、ルイズ! 敵が近づいてる! そっちを振り切るのが先だ! 一旦風防を閉じろ!」 才人はルイズをコックピットに戻し、ゼロ戦を駆る。右にそれたゼロ戦は、ギリギリのところで 炎のブレスを回避した。あれが当たっていたら、機動力の犠牲に装甲を薄くしたゼロ戦のこと、 エンジンをやられていたことだろう。 竜騎士から逃れようとするゼロ戦は、サウスゴータの上空からそれて雪山の方へと移っていく。 「街から離れちゃ駄目じゃない! 引き返して!」 「けど、敵が!」 「倒せばいいでしょ!?」 確かにルイズの言うことの方が確実だ。撃ち落とした敵は、もう追撃してこない。 しかし……自分にゼロ戦の機銃を、人に向けることが出来るのか? 撃てば……相手は 死ぬ可能性が高いのだ。 逡巡する才人だが、決断を下す時間の余裕はなかった。山間の吹雪の中に……巨大な怪物の 影が見えたのだ。 「!? あれは!?」 「キョォォオオオオオオ!」 吹雪のカーテンを潜って、青いトゲトゲとした氷像のような巨大怪物が姿を見せた。顔面には、 真っ赤な三つ目が荒天の中で爛々と輝いている。 「きゃあッ!? 怪獣よ!」 「いや、あいつは……超獣だ!」 才人の叫んだ通り、怪物の正体は氷超獣アイスロン。ということは、ヤプールの放った 刺客に違いあるまい。自分たちの命を狙っているのか。 「キョォォオオオオオオ!」 アイスロンは口から、猛吹雪をも上回る猛烈な冷凍ガスを噴射する。狙う先は、当然ゼロ戦。 「危ないッ!」 あんな冷凍ガスを食らってはひとたまりもない。才人は操縦桿を操り、ゼロ戦を動かして アイスロンから逃げる。ゼロ戦の飛行速度ならば、不可能なことではない。 だが、才人たちを追い回していた竜騎士が代わりに冷凍ガスに襲われた。火竜の翼が凍りつき、 飛べなくなって山中へ向けて落下していく。 「あぁッ! あの騎士が!」 「サイト! よそ見してるんじゃないわよぉ!」 才人がそれに気を取られたことで、反応が遅れた。 「キョォォオオオオオオ!」 アイスロンが吐いた冷凍ガスを、今度は避け切れなかった。ゼロ戦は機体が凍り、バランスを 崩してしまう。 「う、うわあぁぁぁッ! しまった!!」 「馬鹿ぁッ!」 慌てて操縦桿を握り直す才人だが、もう遅い。機体を立て直すのは不可能だ。かと言って、 ゼロアイを取り出して変身している暇もない。少しでも手を離したら、その途端にゼロ戦は 真っ逆さまである。 「しょうがない……! 不時着するぞ!」 才人は必死に桿を操って、山間部へとゼロ戦を降下させていく。その機体が、吹雪の中に 紛れて見えなくなった。 「キョォォオオオオオオ!」 アイスロンは消えていくゼロ戦を追いかけて、山の間に引き返していった。 その後、ルイズと才人は奇跡的に助かった。アイスロンに発見されなかったのだ。ゼロ戦を煽っていた 吹雪が逆に幸いとなり、不時着の地点をアイスロンの目から隠してくれたようだ。 しかし、雪山に滑走路はない。着陸してしまったゼロ戦は、もう飛ばせなくなってしまった。 そのためルイズと才人はゼロ戦を捨て置き、徒歩でアイスロンから逃れることとなった。 「もう……サイト、あんたがよそ見をするから、作戦は失敗しちゃったじゃない。姫さまに何と 申し上げれば良いか……」 かまくらで一夜を過ごし、吹雪がやんだ雪山の中を移動する中で、ルイズが苦言を呈した。 それに才人は顔をしかめる。 「だって、あの竜騎士が俺たちの巻き添えになったんだぞ。無視するなんてこと、出来るかよ」 との発言に、ルイズは次のように言い聞かせる。 「相手は敵だったじゃない。襲われたからと言って、放っておけばよかったのよ」 それを聞いて才人は、険しい表情でルイズを見返す。 「な、何よ……」 「それ、本気で言ってるのか? 敵とはいえ、本気で人を見殺しにしろって命令したいのか? お前、そんな冷たい奴だったのかよ」 と言い返すと、ルイズはバツが悪そうに目を泳がせた。 「わ、わたしだって、本当はこんなこと言いたくないわ。でも……今は戦時中なのよ。冷酷に ならなければいけない時だってあるのよ……。戦う相手にいちいち温情を掛けてたら、自分どころか 味方も危険に晒すかもしれないのよ」 「……」 ルイズの言葉を受けた才人は、無言のまま目を伏して前に向き直り、再び歩き出した。 ルイズの言うことは、もっともかもしれない。戦争は一言で言えば、命のやり取りだ。 ちょっとのミスが、死という取り返しのつかない結果に直結しかねない。自分の、味方の 命を守るためには、情けを心から消さなければいけないのかもしれない。 しかし……才人はそれが嫌であった。もっと言えば、そんなことを唱えるルイズを見るのが たまらなく嫌だ。ルイズは高慢なところもあるが、心優しい少女だったはずだ。だから才人は、 彼女の側にいるのが嫌にならない。そうだったのに……今の非情なルイズを見ていると、 悲しい気分になってくる。人が変わってしまったみたいだ。 人が変わったといえば……アニエスを思い出す。立派な騎士であったはずの彼女が、仇のコルベールを 前にした時は、完全な復讐の鬼と化していた。恨みとは、それほどまでに人を醜く恐ろしいものに変えてしまうものなのか。 その恨みを生み出す「殺し合い」に参加している現状は、どうなのか……。本当にこれで 良かったのか……。その思いが、ずっと才人の心の底に渦巻いている……。 「……サイト、あれ見て! 何だか変よ」 陰鬱な気分になっていると、ルイズの呼びかけで意識が現実に戻った。 二人の進行先に、雪の山が出来ている。その下から、何やら赤いものが覗いているのだ。 あれは何だろうか。 「ルイズ、下がってろ。確かめる」 才人はデルフリンガーを抜き、正体を確認しようと恐る恐る近づいていく。近くから見て、 火竜が雪に埋もれているのだということが分かった。 「火竜……? ってことは、昨晩の……」 「だあああぁぁぁぁぁぁッ!」 つぶやいた瞬間、火竜の羽が持ち上がり、下から鎧を纏った青年が飛びかかってきた! 「おわッ!?」 才人は体当たりを食らい吹っ飛ばされるが、どうにか受け身を取った。 「サイト!?」 「くッ……お前は……!」 才人は相手の顔を見て、昨晩に自分たちを追いかけてきた竜騎士だと確信した。一瞬だけ見えた、 相手の顔つきとほぼ同じだ。 「貴様ぁッ!」 青年竜騎士は杖となるレイピアを抜き、才人に風の魔法の攻撃を放ってきた。才人は咄嗟に デルフリンガーで吸収して反撃に出ようとしたが、 「うッ……!」 それきり騎士は攻撃をせずに、グラリとその場に倒れ込んだ。 「ん? 気を失ったのか……?」 用心しながら騎士に近寄る才人とルイズ。ルイズは騎士の右足に注目した。 「足を怪我してるみたいね……」 それを知ったルイズは、才人に指示する。 「サイト、彼を背負って」 「え?」 「このままじゃ凍え死んじゃうでしょ? いいから早く!」 デルフリンガーと騎士のレイピアをルイズに預け、才人は言われるままに騎士を背負いながら、 ルイズに問いかける。 「お前、さっきは敵は放っておけって言わなかったか?」 「でも、今は戦闘行為中じゃないわ。わたしだって、出来ることなら見殺しになんてしたくはないわよ。 彼も助けましょう」 その言で、才人はルイズに優しさがなくなった訳ではないと思ってほっとした。……しかし、 同時に複雑な気持ちとなる。 (戦いでは殺さなきゃいけない相手を助けようだなんて、矛盾してるじゃないか……) ここでこの騎士を助けても、次の戦場では彼を手に掛けねばいけないかもしれない。そうでなくても、 助けた騎士が味方の命を奪うことは十分にあり得るのだ。戦場では、人助けも正しい行為にならないかも しれないことを、才人は知ってしまった。 (くそッ……人として正しいことをしてるはずなのに、何でこんなことを考えなくちゃいけないんだ……) また才人が憂鬱になっていると、背負っている騎士がかすかに動いた。目覚めたのか。 「死んでも、名誉は守る……!」 「え? うわぁぁぁッ!?」 才人は背負っている相手から、首を締めつけられる! 「くッ! この野郎!」 当然才人は抵抗して、取っ組み合いとなる。その際の勢いで、騎士の懐からロケットが 飛び出してルイズの足元に落下した。 「あッ……」 「何しやがるんだぁッ!」 才人は騎士に頭突きを食らわせて、弾き飛ばした。 「ぐぅッ!!」 騎士は足の負傷もあり、立ち上がることが出来ない。その間に才人はルイズよりデルフリンガーを 受け取り、騎士に突きつけた。 勝負は決したが、騎士は才人に要求する。 「殺せ……! 敵に情けを受けるくらいなら、死んだ方がマシだ……!」 「……断る」 だが才人は、切っ先を下ろした。それに騎士は憤りを見せた。 「僕が怪我をしてるからか? これくらい、怪我の内に入らん……!」 騎士は無理に立ち上がろうとするが、すぐに崩れ落ちた。才人は彼の胸倉を掴むと、怒鳴りつける。 「俺は人殺しなんてしたくねぇ! ただ、ルイズを守り、無事に帰りたいだけだ! どうしても 暴れたいのなら、ふもとに着いてから、別の奴を相手にしろ!」 そう言って突き飛ばすと、騎士は毒気を抜かれて、大人しくなった。才人はデルフリンガーを ルイズに返し、騎士を再び背負う。 と、その時、山の向こうからアイスロンの咆哮が聞こえた。 「キョォォオオオオオオ!」 「! 昨日の奴の鳴き声だ……。俺たちを探してやがるのか?」 どうやら、アイスロンの気配はこちらに近づきつつあるようだった。危険を感じた才人は、 すぐにその場から離れようとする。 「森に紛れて、身を隠しながら逃げよう。お前も、もう暴れるんじゃないぞ。お前だって、 超獣の餌になって死ぬのは嫌だろ?」 「あ、ああ……」 騎士を背負った才人とルイズは、逃げる寸前に騎士に覆い被さっていた火竜を見やった。 「あの竜は、お前を助けてくれたのか?」 「ああ……かけがえのない相棒だった。僕が凍死しなかったのは、あいつが温めてくれていたお陰だ。 ……だが、もう……」 騎士の言葉で、才人たちは火竜の息が既にないことを知った。 「……行こう」 今の自分たちでは、火竜の遺体までは連れていけない。罪悪感は覚えるが、超獣が闊歩する 雪山の中に置き去りにすることを選択する。 「ウィンザー……ありがとう」 騎士は才人に背負われながら、最後に火竜にそう告げた。才人とルイズも黙祷してから、 森の中へ逃げ込む。 ふもとの連合軍の陣地までは、まだ大分距離がある。雪山の逃走劇は、まだ先が流そうだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/889.html
使い魔は灰かぶり-1 使い魔は灰かぶり-2
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/465.html
T-1000召喚の短編、バッドエンドで人死に有りです。 ルイズが「それ」を召喚した時、私達は皆が皆吹き出し、嘲笑した。 よく解からない素材で出来た、黒い服に身を包んだ唯の平民。 取り乱しもせずに周囲を見回す彼の姿に内心、豪胆な男だと感心したものだ。 ルイズはミスタ・コルベールに抗議をしていたが、それが無駄と知るや彼に歩み寄り、契約の儀式を行った。 ルーンが刻まれる瞬間、痛みに呻くだろうとの予想とは裏腹に、彼は声を上げる事も無くジッと手の甲を見詰めていた。 その時僅かに、彼の手の甲が揺らめいたように見えたのは気のせいだったのだろうか。 ともかく、私達は好き好きに侮蔑と嘲りの入り混じった野次を残し、ルイズとその使い魔を置いて学園へと飛び去った。 その時既に私の脳裏では、先程の光景は目の錯覚という事で片付けられていた為、気楽にも親友と互いの使い魔についての雑談をしながら帰途に着いたのだった。 思えばこの時、得体の知れないあの使い魔を少しでも怪しんでおくべきだったのかもしれない。 それで何かが変わるとは思えないが、こんな事にはならなかったのでは、と考えてしまうのだ。 最初の事件は、翌日の昼に起こった。 モンモランシーの香水を拾ったメイドを虐げるギーシュに対し、ルイズが貴族らしからぬ行為と批判。 売り言葉に買い言葉でギーシュと決闘をする流れになり、使い魔の事で挑発されたルイズが後先考えずに、使い魔にギーシュとの決闘を執り行う事を命令したのだ。 その瞬間、食堂中に失笑が起こった。 平民を貴族との決闘に向かわせるなんて。 「ゼロ」は頭の中身も「ゼロ」だな。 でも死んじゃえば次のが呼べるんじゃない? 無理だろ。「ゼロ」だぜ、「ゼロ」。 認めよう。 私達は彼がギーシュに殺されるものと確信し、暇潰しにその瞬間を観てやろうと考えていた。 そんな命令を下したルイズに些か失望しながらも、私ですらその考えが無かったとは言い切れない。 無言で佇む彼からは、何を考えているのかは窺い知れなかった。 果して、結果は予想通りのものだった。 ワルキューレに殴り飛ばされ、青銅の剣で刻まれ、それでも呻きひとつ上げない彼に逆上したギーシュによって、彼は7体のワルキューレにより突き殺された。 広場に歓声が溢れ、ギャラリーに向かい得意気に手を振るギーシュ。 対照に、その場に膝を着き、呆然とそれを眺めるルイズ。 こんなものだろうと納得し、哀れみの視線をルイズに落とし立ち去ろうとしたその背後で。 ギャラリーが静まり返り、次いで悲鳴が上がった。 振り返って目に入ったものは、ギーシュの胸から生えた、鈍色の剣。 いや、剣のような「腕」だった。 そしてその腕の持ち主は、在ろう事かギーシュの背後に控えた1体のワルキューレだった。 無数の悲鳴を無視するかのように、無造作に腕を引き抜くワルキューレ。 その姿が突如揺らめき、銀の膜のような物に覆われる。 そして、唖然とする一同の目の前で膜の中から現れた者は、あのルイズの使い魔、唯の平民だった筈の男だった。 その腕は肘から先が鋭利な剣と化しており、それすらも私達の目の前で何の変哲も無い腕へと形を変える。 驚愕と共に死体の転がっていた場所に目を移せば、原形を留めぬまでに破壊されたワルキューレの残骸が在った。 此処で漸く気付く。 ワルキューレの攻撃を受けていた際、彼は唯の一滴も血を零さなかった。 それどころか、傷を負った様子さえ見せなかったではないか! その後の事は語るまでもないだろう。 一瞬にしてヴェストリの広場はパニックに陥り、学園は一時的にその機能を喪失した。 ギーシュは水系統のメイジによる集中治療で一命こそ取り留めたものの、未だに意識を取り戻してはいない。 そして貴族の面子を保つ為、この決闘自体が無かった事とされた。 ギーシュの身柄はグラモン家に引き渡され、ルイズとその使い魔は他言無用との条件下で不問とされたようだ。 こうしてルイズの使い魔、名前すら不明の男は、学園中のメイジに恐れられる存在となった。 次の事件は、土くれのフーケ。 「破壊の杖」盗難の現場に出くわした私達は、フーケ討伐に名乗りを上げた。 オールド・オスマンの秘書を御者に、馬車に乗り込み潜伏先へと向かう。 しかしゴーレムが姿を現すや否や、私達は危機的状況へと追い込まれた。 瞬時に再生する巨大なゴーレムを前に、私達に成す術など無い。 これまでか、と覚悟を決めたその時、轟音と共にゴーレムは跡形も無く吹き飛んだ。 ルイズの使い魔が、微かに煙の立つ破壊の杖を構え、30メイルほど離れた地点に膝を着いていた。 そしてやおら破壊の杖を放り出すと、近くの茂みに向かって人間離れした速度で走り出す。 その一角に向かって腕を振り被り、突いた。 慌てて駆け寄った私達の目に入ったのは、剣と化した腕に胸を貫かれ息絶えた、黒いローブの人物。 それを捲って出てきたのは、あろう事か息絶えたミス・ロングビルの姿だった。 咄嗟に杖を構え、詰問する私達に彼は一言。 「彼女がフーケだ」 それだけだった。 アルビオンでの任務については、詳しい事は知らない。 唯、戻ってきたのはルイズと彼の2人だけ。 ワルド子爵についてはレコン・キスタの回し者だった事、そしてルイズの使い魔が「処分」したとの事しか聞き出せなかった。 それ以降、何故か彼は学園を抜け出し、破壊の杖のように曰く在り気なマジックアイテムを探し始めた。 その探索についてはミスタ・コルベールが全面的に援助を行っていたらしいが、何があったのかは知る由も無い。 授業であの良く解からないカラクリを披露した直後にコンタクトをとった事は知っているが、何か関係が有るのだろうか。 そして彼は、タルブ村に奉られていた「竜の羽衣」とかいう鉄の塊を回収し、その血液の精製をミスタ・コルベールに依頼した。 他にも幾つもの良く解からないガラクタを回収してきたようだが、その用途までは解からなかった。 神聖アルビオン共和国がトリステインに攻め入った時、彼は血液を満たした竜の羽衣に乗り込み、降下地点であるタルブ村へと向かった。 勝手に戦場へと向かった使い魔を連れ戻すというルイズの頼みを聞き、親友タバサの使い魔であるシルフィードに乗って戦場へと向かった私達は、又も現実離れした光景を見る事となった。 魔法ではない何かで竜を引き裂き、凄まじい速さで敵中を飛び抜ける竜の羽衣。 乗り込んだ場所を覆うガラスを開けて、銀色の何かを地上へと落とす使い魔。 暫くして起こる、絶望的なまでの巨大な爆発。 何もかもが、私達の理解を超えていた。 しかし、更に異常な光景が目前で繰り広げられる。 突如、竜の羽衣が向きを変え、神聖アルビオンの旗艦へと突入してゆく。 誰もが呆けたように見守る中、竜の羽衣は減速すらせずに巨艦へと「突っ込んだ」。 その後、神聖アルビオン艦隊旗艦「レキシントン号」の内部で何があったのかは解からない。 一切の攻撃を中断し、徐々に高度を下げ始めた旗艦の様子に混乱したアルビオン艦隊は、ルイズの放った虚無の魔法により文字通り消し飛ばされた。 何時の間にか接地していたレキシントン号から悠然と歩み出た使い魔は、怪我をした素振りすら見せなかった。 彼は一体何なのだろう。 ルイズは新種のゴーレムではないかと言うが、そんな私達の理解の範疇に収まる物ではない気がする。 ルイズの命令には服従するものの、あれは忠誠とは程遠いものだ。 彼には何か目的が在って、その実現に必要だからこそルイズに付き従っているといった感じだ。 その目的が何なのか、それがはっきりしない。 そして何にも増して気になるのは、彼が各地で見つけてきた鈍色に輝く鋼鉄の鳥達だ。 巨大な胴体の両端に樽のような機構を持ち、強力な光を点すランプを2つ備えたそれらは、彼の意思一つで自在に動いた。 血液はミスタ・コルベールと土のメイジ達が精製し、供給する。 彼等は竜の羽衣を越えるマジックアイテムに興奮していたが、私は耳障りな音を起てて飛翔するそれらが、どうしても好きになれなかった。 何故かそれらが、私達を排除するべく造られた物であるように感じたからだ。 その推測が間違いでないと気付いた時には、全てが遅かった。 学園に戻り暫くした頃、アルビオンへの進撃が決まった。 ルイズ達が従軍の為に学園を空けている間に、強襲してきたメイジ達を迎撃した際の戦闘でミスタ・コルベールが負傷。 彼をゲルマニアの実家へと匿った私は、彼の思想に同調し探検船「オストラント号」の建造を支援した。 ロバ・アル・カリイエへの進出を目的としたその艦は、竜の羽衣他、無数の革新的技術を盛り込んだ新鋭艦となった。 そして私は興奮し、彼に問い掛けたのだ。 「是非、私も乗せて下さいな」、と。 直後、彼から返された言葉に、私は凍り付いた。 「勿論。ミス・ヴァリエールの使い魔殿も、快く了承してくれるでしょう」 全てが狂い始めた。 あの使い魔は事も無げにアルビオンの将軍を暗殺し、鋼鉄の鳥達を用いてアルビオン軍を蹴散らし、ルイズと共に帰還した。 自分とその使い魔の活躍に有頂天となっているルイズは気付かないのだろうか。 己の使い魔の不審な行動に。 彼は学園に戻ったミスタ・コルベールの研究室へと足繁く通い、其処で何かを作っている。 次々と生み出される奇妙な道具、そして兵器に、ミスタ・コルベールにそんな財力が在ったのかと訝しんだが、数ヶ月前に何者かによって暗殺されたジュール・ド・モット伯と消えたその財産の事を思い出し、納得した。 間違い無く、あの使い魔の仕業だ。 ミスタ・コルベールは次々と齎される新技術に夢中で、あの男の危険性に気付かない様子だ。 新技術を満載したオストラント号で、あの使い魔と共にロバ・アル・カリイエへと調査に赴くのだと、誇らしげに語っている。 そんな中、あの使い魔はまたもマジックアイテムの探索を再開し、各地で奇妙な物を発見してきた。 巨大過ぎて学園に持ち帰る事は無かったが、小山のように大きい鉄の塊であるとの事だった。 高さ15メイル、幅10メイル、長さ20メイルの異形。 恐らく、あの鋼鉄の鳥の同類。 その話を聞いた時、私は頭がおかしくなりそうだった。 間違い無い。 あの使い魔は私達に仇成す存在だ。 今思えば、余りに短絡的だったと思う。 気に入らないと言うだけで、そんな風に考えるなど。 しかし、実際にその考えは的を射ていた。 私の考えに賛同する者は相当数居た。 あの使い魔の得体の知れない力と知識を危険視し、その正体を探ると共に排除しようと考える者達。 私達は、彼の周辺に探りを入れ始めた。 会合を行う度、人数が減ってゆく。 学園中の何処を探しても、彼等が発見される事は無かった。 彼等がどうなったかなんて決まっている。 始末されたのだ。 あの使い魔に。 そんな中、主人たるルイズが私の元を訪れた。 如何やら彼女も漸く、使い魔の異常性に気が付いたようだ。 彼女の話では、使い魔はやけにロバ・アル・カリイエに執着しているらしい。 其処に何が在るのかは解からないが、彼を其処へと向かわせる事だけは阻止しなくてはならない。 その2日後、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、私達の前から永遠に姿を消した。 もう我慢ならない。 今夜、あの使い魔を始末する。 タバサやモンモランシー、ミスタ・ギトーやミセス・シュヴルーズ、シュヴァリエ・アニエス、果てはルイズの姉や父親までもがこの件に関わっている。 皆、あの使い魔を危険視する者達だ。 特に、ルイズの親族達は殺気立っている。 もう少し行動に移すのが早ければ、ルイズは死なずに済んだのかもしれないからだ。 支度を終え、いざ部屋を出ると其処にタバサが居た。 杖を携え、頷く。 そして一緒に集合場所へ急ごうと、タバサに近寄る。 胸の中心に、灼熱の感覚が走った。 「タ・・・バ・・・・・・サ?」 呆然と、伸ばされたタバサの腕を見る。 その腕は半ばから鋼の硬質な光を放ち、先端は私の胸を貫いていた。 嗚呼、そんな。 全て、察知されていたのだ。 そして彼がタバサの姿を模しているという事は。 私の親友は、もう。 「ご めん ね ルイ ズ かた き とれな か た 」 視界が、プツリと途絶えた。 一週間後、探検船オストラント号は風石と燃料を満載し、ロバ・アル・カリイエへと向けて出航した。 大勢の貴族・平民達の歓声に見送られ、未だ見ぬ東方への希望を載せて。 その甲板には奇妙な黒い服を着た一人の平民が立ち、艦の周囲には鋼鉄の鳥達が纏わり付く。 彼等は知らない。 数年後、エルフ達を駆逐し、東方より攻め入る鈍色の軍勢の存在を。 嘗て異世界で「スカイネット」と名付けられ、人類との絶滅戦争を繰り広げた、呪われた機械の怨念を。 ゼロの使い魔の正体が、人類の指導者暗殺の為だけに開発された、殺人機械であった事を。 敗北した筈のスカイネット本体に刻まれた、歴史から抹消された4つ目の虚無の使い魔のルーン、その存在を。 審判の日は、近い。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1525.html
「……な……なによあの……船は……」 「オレが知るか」 大きさとしてはレキシントンより一、二回り大きい程度だが、ハルケギニアの船のように側舷砲を持たず船首に長大な砲を構えた鉄の船がそこにあった。 「まぁ、見た感じこっちのモンじゃあねぇ事は確かだろうぜ」 「……あれ、あんたの世界の船なの?」 「オレんとこの船は飛びはしねーよ……だが……形はそうだな」 船がどうあれグレイトフル・デッドの射程内に納まる大きさだ。 そう思い、ゼロ戦を船に近づけようとした時、船から何かが連続で飛んでくるのを察知した。 普通なら、スタープラチナ並みの精密さでも無ければ見えない速さだったが、印効果で何かが飛んでくる事には反応できる。 だが、操縦者は反応できても機体はそうはいかない。アムロの反応速度にガンダムが追いつけなくなったアレと同じだ。 数発が機体をかすめ、回避先に一発操縦席目掛け飛んできている。 「……チッ!」 回避不能、狭い操縦席内では避ける事もできないし、元よりベルトで固定している。 回避ができないと判断するやグレイトフル・デッドを全面に展開させ腕でガードする。 衝撃はあるだろうがモロに食らうよりはマシだ。 風防に穴が空き、それを受けるが、グレイトフル・デッドの腕に綺麗な穴が開いた。 「うぐぁ!……バカなッ!」 「え……なんで腕から血が!?」 スタンドに穴が開いたという事は当然、本体にもダメージがフィードバックされ服こそ破れてはいないが腕から血が吹き出た。 それを見たルイズが右往左往……狭いからできないのであたふたとテンパっている。 スタンドにダメージを与えられるという事から導き出される答えは一つ。 「スタンド攻撃かッ!!」 ミスタのピストルズを思い出したが、弾が誘導される気配は無かったし、なによりピストルズの射程ではない。 (船からの攻撃……遠距離型か……?ピストルズみてーに誘導されてるわけでもねーが……弾幕が邪魔で射程に入れやしねぇ) こちらも20ミリ機銃で撃ち返すが、装甲を僅かに貫いただけで効いた様子は無い。 「兄貴、あの親玉ありえねーぐらいカテーぞ!」 元々機銃弾は空戦用装備であり、対艦を目的としたわけではない。 木造船ならどうにかなっただろうが、あの艦を砕くにはパワー不足もいいとこだ。 「デルフ、オメーなんか気付いた事はねーか。ささいな事でいいんだ。何か本体が撃ってきてる気配とか感じなかったか?人影とかよ」 「わかんねぇ……船員も沢山居るだろうしよ」 ただの対空機銃なら吃水船の下に入れば飛んでこない。だが、この弾幕はその下にいても襲い掛かってくる。 急速上昇、そのまま反転し背面飛行している機体をロールさせ戻し距離を取る。 座席に体を固定させているプロシュートはいいが、そうではないルイズは後ろで色々と転がりながら悲鳴をあげている。 「も、もっと丁寧に操りなさいよぉ!」 「直撃食らうよりマシだろーが!」 旗艦の弾幕ですら厄介なのに、他の船からの援護砲撃が襲ってきた。 当然、通常の砲弾なら当たるはずもないが、小さな鉛弾をショットガンのように詰め撃ち込んで来ている。 「クソッ!親玉の弾幕だけでも厄介だってのに…仕方ねぇ!トコトンやるぜッ!」 散弾を回避しつつ上昇し援護砲撃をしてくる船の真上につけスタンドエネルギーをフルパワーで老化に回し沈黙させていく。 風石によって今すぐ沈む事はないが、援護砲撃は止まる。 だが、未だに本命の射程圏内には踏み込めない。 決め手を欠いたまま弾幕を避けていると、『ストレングス』が船首を少し傾けた。 船首の向きはようやく建て直しが始まっているトリステイン軍だ。 瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き船首砲から砲弾が放たれた。 その砲弾を迎撃すべくトリステインのメイジが総出で風の防壁を作り防ごうとするが、それを突き抜け血と肉片が辺りに飛び散り悲鳴があがった。 砲の口径、弾速、その全てがハルケギニアのものより圧倒的に上だ。 もちろん、それを知らないトリステン軍はレキシントン落しの効果もあって壊走寸前と化している。 恐らく、次に砲撃が行われれば、もうそれは止めることはできないであろう事はギーシュが決闘したら負けるぐらい確実ッ! 「ど、どうしよう…!あそこには姫様が…!」 そうは言うが、今の自分にはどうする事もできない。 必死になって自分にできる事を探そうとするが、失敗魔法しかできない以上全く無い。 無意識にポケットの中の水のルビーを指に嵌め指を握り締める。 「どうか姫様をお守りください…」 やれる事が無いのなら、せめてアンリエッタの無事を祈ろうと思った。 「兄貴!左と正面から弾幕だ!」 「分かってる!」 言われるまでも無く右側面に機体を90°傾けさせ、そのまま右下に滑るように回避。 「キリがねー……このままじゃあ燃料が持ちゃあしねぇ」 燃費がいい方だとはいえ、急速反転や上昇を繰り返している。 航続距離2000キロを誇るゼロ戦でも、そんな無茶な機動を繰り返していては、そう長く持ちはしない。 また転がったルイズが泣きそうになりながら地に落ち開いた始祖の祈祷書を拾い上げる。 持ってくるつもりは無かったが、あそこで置いてくるなどと言えば、自分が置いていかれる恐れがあったのでそのまま持ってきたのだ。 そうして開いた祈祷書に触れた瞬間、水のルビーと祈祷書が光った。 「兄貴、座席の下に何か落ちてるぜ?」 弾幕の射程圏外に出つつスタンドでそれを器用に掴み取る 「……ボルトじゃねーか。何でこんなもんがあんだよ」 それを掴んだまま、弾幕の射程圏外に出ると、そのボルトが溶けるかのようにして無くなった。 「おでれーた、溶けたぜ」 「ボルトが溶けた……?しかも弾幕の射程外に出たとたんに…溶けた以上、あのボルトは物質じゃねぇ……」 何か分かりかけてきた。ゼロ戦のものではないボルト。それが弾幕の射程外に出た瞬間溶けた事。 そして風防に空いたさっきのボルトと同じ程度の大きさの穴。 「……弾幕の正体はこのボルトか!だが、なぜボルトなんだ……?」 リゾットのメタリカのように磁力のようなものを操り飛ばしてきているという 事も考えたが、それならばボルトなどという形を取る必要は全く無い。 「兄貴…ボルトって何に使うんだ?」 「あ?こっちにはボルトねーのか?ネジのデカイヤツで金属板とかをこいつで固定すんだよ」 「じゃあ、あの鉄の親玉にも使われてんだな」 スタンドのボルト、金属装甲の船、360°繰り出される弾幕。これで何かが繋がった。 「……でかしたぞデルフ!『どこから』『どんな方法で』攻撃しているのか、お前のおかげで全て理解したぞデルフ!」 「……悪りぃ、さっぱり分かんねー」 「射程外に出たら溶けたって事は、あのボルトはスタンドって事だ! そして、あの船『から』撃ってきてるんじゃあねぇ……!あの船『が』ボルトを撃ってきている…つまり、あの船そのものが…スタンドってこったァ!!」 「な、なんだってーーー!あんなデカイやつもスタンドってやつなのかよ!」 「何でもアリってのがスタンドだからな……だが、あんだけデカイスタンドを操るとなると……本体もかなりの化けモンだな」 「スタンドはスタンド使いには見えなかったんじゃあねぇのか?溶けたって事は物質と一体化してるわけじゃねぇしよ」 「……スタンドエネルギーがデカすぎるって事ぐらいしかねーな、あんなタイプのスタンドなんざ組織の情報網にも引っかかった事ねーよ」 だが、船の正体が分かったところで、あの弾幕をどうにかしない事には詰みだ。 スタンドパワーの枯渇を待つ。Noだ。持続力A以上は間違い無いだろうし、まずこちらの燃料が持たない上に時間も無い。 弾切れを誘う。これもNo。スタンドである以上、スタンドパワーが尽きない限り弾幕は途切れない。 射程外からの機銃弾による攻撃。問題外だ。スタンドエネルギーが実体化してるという事はダメージはあるかもしれないが あの大きさに20ミリの穴を開けたとしても大してダメージにはならない上に、修復されかねない。 250キロ爆弾でも積んでれば話は変わってくるのだろうが、そんな装備はこのゼロ戦には付いていない。 ハッキリ言えば打つ手無しだった。 「なにこれ……古代ルーン文字?」 今まで魔法が使えなかったぶん、それに反比例するかのように勉強に勤しんでいたルイズである。 古代ルーン文字を読むことができたのは当然といえた。 「序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す」 呟くような声で読み上げるが、前で必死こいて回避運動を行っている一人と一振りには聞こえてない。 「チッ!せめて弾幕の軌道と間隔さえ読めりゃあ接近できるんだがな」 「でもよぉ兄貴、近付いたら近付いたで、回避しようがねぇよ」 確かにそうだ、広域老化では効果が出るのに多少時間がかかる。 至近距離では弾幕を回避する事はできず直撃を受ければ良くて機関停止、悪くてその場で爆散だ。 「神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん」 「こっちの位置をどうやって把握してるかだな……エアロ・スミスみてーに特定のものを探知しているか……視認で撃ってきてるかだが」 レーダーなどで確認しているのなら打つ手はないが、視認で補足してきているのなら、まだ一つ打つ手はあったが、確証が無い。 「これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。 『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。 『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。 時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。 たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 #center{ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ} 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。初歩の初歩の初歩の呪文。第一の爆発『エクスプロージョン』」 その後に、呪文が続いたがルイズは呆然としている。 「始祖っていうわりに頭脳がマヌケじゃない……?指輪がなくちゃ祈祷書が読めないんじゃ、誰がその注意書きを読むのよ」 だが、祈祷書が読めるという事は…… 「わたしが『虚無』の使い手って事なの?」 『エクスプロージョン』と自分の失敗で起こる爆発。 効果としては同じだ。なら今まで失敗と思っていた魔法が『虚無』だったとしたらどうか。 思えば誰もあの爆発を失敗と呼び笑っていた。 ただ一人、その爆発も使い方次第でどうにでも変わる『自信を持て』と言ってくれたのはプロシュートだ。 なら、祈祷書が読める以上、自分を信じて、それに頼るしかない。 そう思った時スデに行動していた。 「このクソ忙しい時に何やってんだッ!」 座席の隙間からルイズが身を出し、操縦席にやってきて座り込んだ。 「……もしかしたら、何とかなるかもしれない……うまく言えないんだけど選ばれちゃったかもしれないのよ」 「何にだ?」 よもやスタンド能力に目覚めたのではないかと思ったが、どうやらそうではないらしい。 「いいから、合図したら、ひこうきをあの戦艦に近づけてちょうだい!」 「……自信はあんのか?」 「……ぁ……る」 「聞こえねー……!自信を持ってんなら、自信を持って答えろ!」 「……あるわよ!あるから言ってるんじゃない!!」 そう答えるルイズを見て、口の端を上げ笑った。 「やれんのは一回限りだ。しくじったら次はねー。それに、こいつは賭けだぜ? もしかしたら墜とされっかもしれねーが」 「いいから近付けなさいッ!使い魔は黙ってご主人様の言う事に従うのッ!」 「了解、『ご主人様』」 急速上昇、敵旗艦の遥か上空まで駆け上がった。 「子爵、どうやら敵の竜騎士はどこかに逃げたようだが」 「ガンダールヴの能力の射程にさえ入れなければいいわけですからな… しかし、あの男がそう簡単に退くとも思えますまい、念のために艦の上空に遍在を二つ配置していますよ」 「ウキャアアアアア」 猿―フォーエバーがそう叫びを上げると壁の中にめり込み消えていく。 今までは遍在のワルドが、ゼロ戦の位置を捕捉し使い魔としての能力を使いフォーエバーに指示していたが、自らが捕捉し、攻撃を行う気になったようだ。 ストレングス上空約3千メートル、眼下に映る巨艦ですら点のような大きさだ。 もちろん酸素濃度は結構低い。そんな状態で風防を開けて、スタンドでガッシリと掴まれたルイズが風防から顔を出しているのだからスゴイ事になっている。 「ぜぜぜ、絶対に離さないでよねぇ~~~!」 さっきまでの、自信はどこにブッ飛んだのか、半泣きに近い状態でそう叫ぶ。 まぁスタンドが見えないため、何に固定されているのか分からない状態なのだが。 「どうする?止めんのなら今だぞ」 そうは言ったが、答えはスデに分かっている。 さっき見せた目には明確な覚悟が宿っていたからだ。 「ばばば、馬鹿言うんじゃないの!わわ、わたしがやらないと姫様が危ないんだから!!」 その言葉と同時に機首を巨漢に向けスロットルを限界まで絞る。レシプロ機の特性上プロペラがすぐに止まる事は無いが時間の問題だ。 巨大戦艦に向けての垂直降下。さらにすれ違い様にルイズが、『エクスプロージョン』を放つ。 言うなれば、米軍機が得意としていた戦法の一つ、急降下爆撃だ。 音で感知されないようにエンジンは止めておかねばならないが、水面に浮かぶ船とは違い、下にも空間は十分にある。 フルスロットルにし最加速するまでは十分な高度が。 これが水上艦ならバンザーーーーイと叫びながらの特攻だが、宙に浮いている事が幸いした。 もちろん、懸念はある。 エアロ・スミスのようにレーダーで特定のものを探知するようなタイプであれば早々に迎撃される。 探知か視認か、このどちらかによって、結果は違う。 賭けだった。それはもう、どこぞのギャンブラーが見たら迷わず『グッド!』と指を向け叫んだぐらいに。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ その詠唱と共にゼロ戦が自由落下を始めた。 垂直に落下しているので風防から身を乗り出しているルイズは当然、下を思いっきり見る事になる。 掴まれているとはいえ、この高度からの急速降下である、絶叫マシーンなぞ比較にならないぐらいアレなのだが詠唱そのものは途切れる気配は無い。 「……ゲームにハマってるメローネと……同等の集中力だな」 「それってスゲーのか?」 「言いたくねーが、そういう時のメローネを邪魔できんのはブチキレたギアッチョぐらいしかいねーよ」 「あー……そりゃあスゲーな」 ギアッチョの事は聞かされていたので、そのスゴさが一発で理解できたようだ。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 呪文の詠唱を始めて、すぐに降下に対する恐怖心など無くなった。 なによりどこか懐かしいようなリズムが、それを許さなかったからだ。 体の中で何かが生まれ、行き先を求めてそれが回転するかのような感覚だ。 コルベールエンジンを爆破した日、自分で言っていた事が今まさに『言葉』でなく『心』で理解できていたッ! ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ 重力によりさらに加速、敵艦との距離が凄まじい勢いで詰まる。 「……風が乱れた?」 ストレングス上空で風竜に乗り哨戒中の遍在ワルドx2だが周辺の風が乱れた事に気付いた。 周りに船が多数浮いている中よく気付いたのだが、微かに乱れただけで詳しい場所も分からない。 まぁ、この状況でそれに気付いたのは、風のスクウェアだけの事はある。 それに、反応してフォーエバーも壁から出てきたが、ストレングスの船内に居る相手なら手に取るように把握できるが、船外ならそうはいかないのでワルドに任せている。 本来ならただで人間に従う機など毛頭無かったが、学ランの男にボコボコにされ辛うじて生きてはいたが色んな所が再起不能になって暮らしていたところ この男がそれを治してくれた(正確に言えば水のメイジ)というのもあるが、何故かDIO様のように仕えなくてはならないという気になっていた。 「来るか……?ガンダールヴ!」 下方、側面を見渡すが、何も無い。となれば上しかないが、あるのは陽光眩しい太陽だけだ。 だが、その太陽に影が差すと、その場所が特定できた。 「日の中か……!やってくれる!」 少し光が薄らいだ太陽の中から降下してくるのは緑の機体だった。 「……あのハゲ!日食は今日じゃあねーかよ!」 太陽を背にし、その光に紛れてギリギリまで接近するつもりだったが、日食のおかげで予定より早く探知された。 「逃げねーとモロに食らっちまうぜ兄貴!」 ここで回避する事はできるが、そうなればこの策は二度と通用しない。 つまり、アレを沈める事ができなるなる。 「いいや、ここは突っ切るしかねぇ!」 フルスロットル、最大加速しながら降下する。重力と推進力によって一気に限界速度に達し突っ込んだ。 ジュラ……イサ・ウンジュー…… その風圧に思わず詠唱が途切れそうになるが、急にそれが弱まった 「グレイトフル・デッドを前に出しといてやったから、ちったぁ……マシになんだろ」 背負わされている形になっているのだが当然見えないルイズには分かった事ではない。とにかく風圧が弱まった事だけは事実だ。 操縦している方も喋っている場合ではないのだが、同じようにスタンドの体で風圧を弱めているため何とかなった。 「ホキョァァアアア」 「止まれぇぇぇぇぇガンダールヴッ!!」 ストレングスから弾幕が放たれるが、限界速度で高速移動している飛行物体に当てるのは至難の業だ。 水平飛行している状態なら数に物を言わせ当てることもできたが、この場合は違う。 減速する気配が微塵も無い上に、むしろ加速しながら突っ込んできている。 ただ、機動飛行を行っているわけではないので、少しづつだが、弾幕がゼロ戦をかすめ始めた。 バキィ!と嫌な音をたて開け放った風防が脱落し、周りをボルトの弾幕がかすめる。 「チッ!あのハゲ……!戻れなかったら老化で全滅させてやっからな!」 「その前に生きてりゃあな……」 スデに弾幕の射程内。ストレングスまで400メートルといったところだ。 この速度なら、一瞬。だが、その分直撃は貰いやすくなる。 ハガル・ベオークン・イル…… 詠唱が終わるが、その瞬間この呪文の威力を理解した。 周辺空域全てを巻き込むであろう、その威力を。 選択肢は二つ。殺すか。殺さぬか。 破壊すべきは何か。 一瞬、迷いが生じたが直ぐにそれを断ち切る。 (『詠唱する』と心の中で思ったなら……その時スデに行動は終わっているのよね……) 翼に穴が開くが、速度は落さない。むしろ落したりでもしれば、それこそ蜂の巣だ。 風竜に乗った遍在ワルドと目が合った気がしたが、構っている暇など一切無い。 そのまま、ストレングスとすれ違うように降下し、胴体部に直撃を果たすボルトの弾幕が見えた瞬間、光の玉が辺りを包んだ。 ようやく到着した二人と一匹だが、艦隊が光の玉に包まれていく光景を見た。 「なによ……あの光は……」 「分からない……」 「でも、あれなら、トリステインが勝ったって事じゃない?」 ラ・ロシェール付近に展開し壊走寸前だったトリステイン軍からも歓声が聞こえている。 「……まだ!」 タバサがそう叫ぶと光が晴れる。殆どの艦は炎上し、甲板とマストを燃やし墜落していたが、唯一本命の巨大戦艦だけは、炎上しながらも健在な威容を見せていた。 スタンドの船という事が災いした。 本体、つまり、フォーエバーには直接ダメージは入ってないのだ。 核。ストレングスがベースとしている艦が炎上していれば墜落していただろうが、巨大なスタンド像に阻まれ、こちらは損傷には至っていない。 もちろん、船に与えたダメージの分は本体にもフィードバックされているが致命傷というわけではない。 「フフ……ハハハハハハハ!」 船の中でワルドが笑う。ただひたすら笑う。 あの光を見た瞬間、それを虚無だと確信したのだが、その伝説の虚無すらものともしない艦を手に入れた事に笑った。 「ギャオオオォォォォ」 だが、その笑いをも打ち消す獣の叫びが辺りに響き渡る。 その声の主はフォーエバーだ。 船体を焼かれているのだから、当然ある程度本体も焼かれている事になる。 こうなれば、ワルドに対しての忠誠など一切無い。使い魔になって日が浅いというのも災いした。 敵を倒すという本能のみが頭を支配する。 スタンドに目覚めているだけあって、普通の猿とは違う高度な頭脳を持っているのだ。 通常なら制御できていたが、焼かれた事でベイビィ・フェイスの息子もびっくりな暴走っぷりを始めている。 主砲はスタンドではなく実弾なので、それを込める乗員などその他多数乗船していたが、一人の例外も無く船の中に飲み込まれようとしている。 「こ、これは……馬鹿な……!」 ワルドとて例外ではない。スデに半身を底なし沼にハマった旅人のように船体に埋めている。 必死に、フォーエバーと連絡を取ろうとするが、怒り一色のフォーエバーにはそんなもの聞こえてすらいない。 「アレでまた墜ちねーのか……」 「もー無理だ、逆立ちしても無理だね」 機首を翻し、光の起こった方向を見たが、炎上しながらも依然として健在な戦艦が上空にあった。 弾幕の射程に入らないようにしていると、見慣れた竜が戦艦に近付くのを見た。 「あの馬鹿が……ッ!死ぬぞ!」 タバサ&キュルケinシルフィードなのだが、どうやら戦艦上空に向かおうとしているらしい。 へばっているルイズを後ろに押し込むと、再び高度を上げるが、シルフィードに向け弾幕が放たれた様子は無い。 「やはり、視認で撃ってきたってわけか……?なら本体はどこだ?」 甲板を見渡しても本体らしき者は居ない。中に本体が居ると判断し広域老化を仕掛けるべく甲板上空に付けるが、それより先にシルフィードがそこに居た。 「オメーら邪魔だ!」 そう叫ぶが、距離もある上に、ゼロ戦自身の爆音で聞こえていない。 船自身がスタンド。迂闊に接近するのは自殺行為だ。グレイトフル・デッドの 長大な射程があればこそ、ギリギリまで接近したのだが、シルフィードは近付きすぎている。 「ここまで近付いても攻撃してこないなんて……何があったのか知らないけど先手必勝ね!」 普通の船なら、近付くまでに船員なりが攻撃を仕掛けてくる。旗艦なら当然メイジも居るはずだ。 だが、現在フォーエバー暴走中につき船から反撃が行われる事は無い。 それで、二人して乗り込もうと思ったのだが、この船自身がスタンドなどとは微塵も思っていない。 そして、シルフィードが最も接近した時、二人と一匹に船体からパイプなどの部品が絡みついた。 「なな、何よこれ!」 「……引っ張られる!」 (こ、こいつおねーさまに何をーー!……はッ!まさか、その触手っぽいモノでおねーさまに、あんな事やこんな事を!……少し見てみたい気も!) ちょっとアレな想像をして悶えているシルフィードだが、相手はあの家出少女(14)に手ぇ出そうとした猿。 何が言いたいかというと……正解である。 獣の叫びを上げながら、壁から巨大な猿……オラウータンことフォーエバーがにじり出てくる。 怒りで顔を通常の三倍の如く赤く染め上げ、絡め取られている二人+一匹に近付いていく。 タバサが辛うじて握っていた杖で『ウィンディ・アイシクル』を唱えたが、フォーエバーに当たる直前に 床の壁がフォーエバーをガードするかのように盛り上がり氷柱を阻んだ。 「……錬金!?……違う……まさかスタンド!?」 改めてフォーエバーを見据えるが、刺さった氷柱を抜き、火傷に押し当てたり、かじりつつタバサを見ている。 「猿のくせに……気に入らない顔してるわね…!」 そっち方面の事に関しては百戦錬磨のキュルケさんにとってはその猿の顔は今まで見飽きたような顔だ。 「なに?この微熱のキュルケを無視してタバサに?……いい度胸してるじゃない!」 もちろん、そんな露骨な表情で迫ってきた男達は火葬される事になっているのだが、それが、自分にではなくタバサに向けられている事が気に入らなかった。 Fuck you……ブチ殺すぞエテ公 そんな危ない呟きが聞こえたのは多分幻聴だ。 そして、『フレイム・ボール』が放たれるが、フォーエバーの遥か手前で壁に阻まれ炎上している。 魔法―ストレングスから見ればスタンド能力だと思っているのだが、それを見て、邪魔だと言わんばかりにキュルケとシルフィードを船体に半身を沈めさせる。 「ヤッバイ……逃げなさいタバサ!」 「……無理」 人間の五倍近くの力を有するオラウータンだ。並の人間でも太刀打ちできないのに、普通より小柄なタバサが拘束から逃れるのは不可能といえた。 「ウホ、グフホホホ」 氷をかじりながらモット伯もドン引くような笑みを浮かべゆっくりと近付く。 (ああ!おねーさまの初めてが、あんな猿に!?……でも大丈夫なの!後でシルフィが慰めてあげるのね!) フォーエバーとは別の方向でなんか興奮しているシルフィードを見て、これを乗り切ったらどんなお仕置きをしようかと思ったのだが、それどころではない。 だが、フォーエバーとタバサの距離が3メートルに達したところで、フォーエバーが止まり右手を横にかざした。 瞬間、その横に『ウィンディ・アイシクル』を止めたものより厚い壁が盛り上がり、そこに機銃弾が撃ち込まれた。 「チッ!」 それと同時に、上空をゼロ戦が通り過ぎ、その場に風が流れる。 「最悪、巻き込もうかと思ったが……氷食ってやがんな」 忌々しげに眼下のフォーエバーを見るが、ガリガリと氷を貪り余裕とアレが混じったムカつく笑みを浮かべている。 本来ならオラウータンと人間の寿命差でフォーエバーが先にくたばるのだが、タバサが魔法を使ったのが仇になった。 こうなれば、広域老化は役に立たない。 直触りは問題外だ。ゼロ戦を捨てたとしても船上はフォーエバーのホーム・グラウンド。 例えるなら、虎の球団のファンが大勢乗った電車の中で一人オレンジ色のマークの球団の帽子を被り、それに乗るようなものだ。 機銃弾も通じない以上、残った手段は、キュルケの炎でフォーエバーの体温を上げさせる事だったが肝心の魔法がフォーエバーの遥か手前で止められているから期待できそうにない。 もう一度反転し、機銃を撃ち込むが、さっきと同じように壁に阻まれフォーエバーに届いていない。 「エテ公が……ここで、撃ってくれば墜とせるってのに、やらねーって事は…ナメきってやがんなッ!」 「こいつじゃ、あの壁を貫通できねーしな。どうするね兄貴」 連続して同じ場所に撃ち込めば貫通できるだろうが、ゼロ戦自体が高速で動いている以上それはできない。 ガンダールヴ印の効果で精密射撃自体は可能になっているが、あの壁を貫通できるぐらい同じ場所に連続射撃をするというのは無理だ。 遠すぎれば弾はバラけるし、近ければ、その速度故に貫通するだけの量の弾を撃ち込めない。 「ホワイト・アルバムを相手にしてる気分だぜ……クソッ!」 あの堅牢な装甲も、同じ箇所に立て続けに攻撃を食らったり、一点集中の強大な負荷をかければ破れるのだが、それをやるのがディ・モールト難しいのだ。 つまりまぁ……目の前の猿がギアッチョと被り、ムカついてきた。 「速すぎるなら速度落せばいいんじゃないか?」 「これで限界だ、これ以上落すとこいつが墜ちるからな……」 もう少し落せない事も無いが、水平飛行をギリギリ維持できる速度だ。上昇や旋回などは当然できない。 まして、照準の調整などしようものなら即、失速して墜落だ。 「いっその事、こいつを空中で止めちまうってのはどうだ?」 「馬鹿かオメーは?プロペラが回って前へ進んでるからこいつが飛んでんだろーが」 「いや、魔法でさ」 悪くは無いが、誰がやるかが問題だ。 タバサは、もうスデにがっつりと絡め取られ、ルイズはヘバっているし、爆発を起こしかねない。 となると残っているのは、半身を埋めているキュルケだが、フォーエバーに気付かれずに伝える手段が無い。 スタンド使い同士なら、意思疎通も可能だが、そうではない。もっともフォーエバーにも聞こえてしまうが。 直接伝えるのがベストだが、そんな真似ができる人間はここには――― 「……オメー確か丈夫な方だったよな?」 「ああ、そりゃあ伝説だしな」 「それじゃあ、今から言う事をしっかり覚えとけ」 「んー?どうするんだね?」 説明し終えると、デルフリンガーの柄を握り、キュルケの方を見る。 半身を埋めているものの、杖を持った方の手は出ている。良好だ。 「イタリアに戻れたら言えねーから、先に言っといてやる。世話になったな『相棒』」 「兄貴……俺の事を初めてそう言ってくれたな……!もう泣きそぉぉぉぉぉぉぉぉ」 言い終える前に、デルフリンガーをキュルケの方に向けブン投げる。 見下ろすと、見事にキュルケの近くに刺さったデルフリンガーとキュルケが何やら言い合っているが問題は無いと判断し再び上昇する。 スデに、日は半分欠けている。一発勝負だ。 「あたしに刺さってたらどうしてくれんのよ、この剣は」 「俺に言うな。投げたのは兄貴だぜ…で、大丈夫なんだな?」 「任せときなさいな。あのエテ公に一泡吹かせられるんなら何だってやるわよ。……タバサも色々と危ないみたいだし」 猿を睨むが、腕をタバサに向け動かしている。 タバサの方も見るが、フォーエバーが腕を動かす動きに合わせパイプがグネグネと動いている。 正直言って、触手そのものと言ってもいい。 ジュルリ そんな音がしたが、デルフリンガーは幻聴だと思った。というかそう思わせてください。 「そ、そろそろ、くるぜ」 キュルケの方は見ないでそう答える。見れば今までの価値観が崩れてしまいそうな気がする。 今までタバサの方に向けていた腕を上に向けるとフォーエバーを覆うように壁ができた。 それと同時に、直上方向から機銃弾が浴びせられるが、さっきと同じで貫通はしない。 20ミリ機銃でも突破できない厚さの上にスタンドだ。 普通のものより強化されている。 特攻という事も考えたが、この船は俺のものだ。壁を介して何時でも逃げられる。 何より、この近さでは、この少女も巻き込むはずだ。 上は放っておいても問題無い。となれば、何かしてきそうなのは捕獲している一人と一匹かと判断し視線をメンドクさそうにそっちに向けると 赤髪の女が杖を振っている事に気付いた。 それを見るや、手を掴むように握りこむ。 「がッ……レディにこんな事するなんて……礼儀を知らないわね……エテ公が……うぐぁぁ……!」 (痛い痛い痛い痛い痛い痛いのーーーーー!) 人間の5倍近いオラウータンの握力とスタンドパワーによる締め付け、下手すれば埋もれている部分から切断される。 フォーエバー自身、キュルケにもアレでナニな事をするつもりでいたが、ド真ん中ストライクゾーンなのはタバサだったため、放置していたが害になるのなら始末する。 そう判断し、そちらに集中を向けたため、それが一手遅れる事になった。 直上方向から壁を穿つ音が聞こえていたが、その音が長すぎる。 機首を翻していなければ機体を船にぶつけているはずだが、それも無い。 思わず上を見上げるが、見た物は同じ箇所に銃弾を受け、脆くなった壁を突き破り己の額に向かってくる20ミリ機銃だった。 「資料で見ただけだが…ナランチャがトドメを刺す時はこう言っているようだな……」 機体を90°傾けさせ機首をフォーエバーに向けた機体の中でスタンド使いにのみ聞こえる会話をフォーエバーに向ける。 「ブゴォォォ!ウグアボゴォォォォ!!」 勢いが殺されている弾とはいえ、生物を貫く事ぐらいはできる。 だが、勢いが殺されているだけあって、一発で致命傷に至らなかった事が、この猿の不幸か。 「ボラーレ・ヴィーア(飛んでいきな)…だったか?」 トリガーを押しっぱなしにし銃身が焼きつかんばかりに弾切れまで撃ち尽くした。 「はぁ……ものすごい締め付けだったわね……千切れるかと思ったじゃない」 ちょっと言葉がアレだが気にしない。 猿とタバサの方を見るが、どうやらギリギリ一歩手前で無事なようで一先ず安堵した。 (死ぬかと思ったのね……でもこれから、泣き崩れるおねーさまをシルフィが優しく抱いて……) (なにやってるの?) (はッ!おねーさま、何もされなくてよかったのね……) 現実に引き戻され、ちょっと残念そうに答えるシルフィード。自重しろ。 (……お仕置き) (へ?な、何を!?ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサヤッダッバァァァァ) 解放されたタバサが恐ろしく素早い動きで、シルフィードの口に捻じ込んだのは、ご存知『草』が入ったアレだ。 韻竜も一発で昏倒させるその威力に引いたが、船体が溶け始めた事にはビビッた! 「兄貴がこの船スタンドって言ってたから、あのエテ公がスタンド使いって事だな」 「……それって、あの猿を倒したからこの船が消えてるって考えていいの?」 「そういう事だな」 落ちる。そう思った瞬間、垂直に空中で浮いているゼロ戦を水平に戻した。 タバサは気絶したシルフィードで手一杯だ。 直上方向から垂直に降下し『レビテーション』で浮遊させ装甲を貫通できるまで機銃弾を叩き込む。 推力を落としているため、前に進むこともなく墜落もしない。 水平方向なら惰性で照準がズレるため、降下しながらの作戦だ。 水平になった瞬間、再稼動。『レビテーション』が切れる前に飛行可能速度に達するべく、勢いよくプロペラが回転し、その場を離れる。 「どーやら任務完了ってわけだが……間に合うか?」 上空を見上げると日は2/3といったところか。 このまま行けば間に合うだろうが……後ろでヘバっているルイズを見た。 船があった場所を見ると、スタンドが溶けながら核となる船が炎上しながら落ちていっている。 スタンドは溶けたが炎はそうではないため燃え移ったようだ。 タバサとキュルケはスタンドの中に飲み込まれていた船員をそっちに移している。 ストレングスにはメイジも居たため、まぁ何とかなるだろう。 ワルドっぽいヤツも居たような気がしたが、早々に逃げたようだ。 「あっちも手一杯ってわけか……仕方ねーな」 言いつつ機首を下げようとすると、後ろから声がかかった 「なに……やってんのよ?……帰るんじゃなかったの?」 「オメーみてーなの連れていったら、オレが色々困るんだよ」 ルイズが付いてきて、なおかつチームの連中が生きて万が一にでも見られた日には、ハイウェイ・トゥ・ヘルもんである。 そうでなくても、ボスを暗殺せねばならないのだ。暗殺チームの戦いにルイズを巻き込む気は無い。 そう言うが、左手のルーンがさっきよりも少し強く光っている事には気付いていない。 「……わたしが邪魔ならハッキリそう言いなさいよ。いいわ、今日であんたクビね!」 「あ?イカレたのか?この状況で」 「好きにしていいって事よ……元の世界にでもイタリアってとこにでも勝手に帰りなさい」 「だからオメーを連れて行く気は……な……!……てめー何やってる!外は時速350キロだぞ!!」 後ろに居たルイズが、また隙間から前に出てきて、外に身を乗り出そうとしている。 この高さから落ちれば、速度の関係無しに紫外線の直撃を受けたコルベールの毛髪が抜け落ちるぐらい確実に死ぬ。 「わたしを誰だと思ってるの……!虚無の使い手『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』よ?」 「……スタンド使いも能力の目覚めたてが一番危なっかしいんだよ。……本気か?」 「虚無の使い手のわたしが、使い魔如きに心配される覚えなんてないんだからね!でも一つだけ命令よ」 「クビなんじゃあなかったのか?」 「う、うるさい!一々揚げ足取るんじゃないの!……その組織ってとこを相手にしても死なない事」 「オメーに言われるまでもねーよ。オレ『達』は簡単には死ななねぇ」 「な、ならいいわ!……あんたも少しはわたしを信頼してよ……」 「……マジってわけか……止めはしねーが後ろに気をつけろ。後で見たらオメーの肉片が付いてましたとかじゃあ洒落にもならねぇ」 「い、嫌な事いわない!……皆に伝えて欲しい事は無いの?」 「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)。こいつだけで十分だが、しばらく時間が経ってから言えよ」 「なんで?」 「……オメーがそれ言った後に帰れずに戻ってきた時の気まずさを考えてみろ」 「あー……それ、なんかすっごく分かるわ」 別れの挨拶をしてから、後でその本人が現れる。B級映画でもやらない、洒落にもならない行為だ。 「それじゃあね……今だから言うけど結構楽しかったわよ」 「餞別だ、グレイトフル・デッドで運んでやる。あと、デルフの鞘も持っていけ」 言うと同時に、ルイズを持ち上げる。 「死んでも責任取らねーからな」 「く、クビにした使い魔に責任取ってもらう必要なんて、無いわよ」 「言ってろ」 フルパワー。尾翼に当たらないように放り上げるようにルイズを投げた。 投げると共にフルスロットル、太陽に向け急速上昇。 少し気にはなったが、後ろは振り向かない。 一端の覚悟を持って望んだのだ。信頼してやるのが礼儀というものだろう。 さて、こちらは重力に従って降下しているルイズだ。 確信があったわけではないが、自分の系統を見つけた事により、それも使えるであろうという奇妙な感覚があった。 「落ち着くのよ…ルイズ・フランソワーズ……落ち着いてやればできるわ……あいつも言ってたじゃない」 風圧で手に持つ杖が飛ばされそうになるが、しっかりと握り締める。 これを飛ばされたら、パール・ジャム決定だ。 呪文を詠唱し風圧に逆らいながら杖を振ると降下の速度が落ちる。 「『レビテーション』……やっと成功ってとこね」 地面に着陸すると同時にガクッと意識が遠くなる。今ので最後の最後まで精神力を使い果たしたらしい。 完全に意識を失う瞬間、キュルケとタバサが近付いてくるのが見えた。 そして、翌日。学院で目が覚めたルイズだったが…使い魔がどこにも居ない事に……泣いた ←To be continue...? 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9199.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十五話「銀河に散った二つの星」 異次元超人巨大ヤプール 究極超獣ゼロキラーザウルス カプセル怪獣ウインダム カプセル怪獣ミクラス カプセル怪獣アギラ 登場 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 ジャンボキングの亡骸を核として、数え切れないほどの侵略者、超獣の怨念と、ヤプールの象徴たる 血のような赤い雨、そして巨大ヤプールの精神そのものが混ざり合うことで完成した大怪物、その名は ゼロキラーザウルス! ウルトラ戦士抹殺用に作り上げた超獣Uキラーザウルスの生体情報に、ゼロたちへ 向けられる怨念を組み込んだことで変異を起こし、対ウルティメイトフォースゼロ用超獣として新たに生誕した、 「最強」を超越する「究極」の超獣だ! かつてヤプールがアナザースペースでウルティメイトフォースゼロを攻撃した際にも、 とっておきの切り札として投入された怪獣兵器である。そのおぞましい威容を目の当たりにした、 シティオブサウスゴータの外へと避難した人々は一様に恐れおののいた。 「な、何だ、あの怪獣は……。でかい……でかすぎるぞ!」 「巨人のゼロたちが、まるで子供みたいじゃないか!」 その言葉の通り、ゼロキラーザウルスはあまりに大きかった。その背の丈は、ゼロたちの倍近くもある。 ハルケギニアの人々は、ここまで巨大な生物は噂にも聞いたことがなかった。 通常の怪獣でも、恐ろしいほどの破壊を振りまくことはもう知っている。それならば、あれほどの 巨体からは如何なる威力が発揮されることか……。最早計り知れない。 この世のおしまいかと思われた、超獣大軍団を蹴散らしてからの、まさかのそれらをも上回る 大超獣の出現……。多くの人は、到底受け入れられない現実に心が折れかかっていた。 しかしその時、ギーシュが叫んだ。 「皆の衆、心配はいらない! ゼロたちは必ず勝つさ! 彼らはこれまで、如何なる絶望も打ち砕いた! 大きいだけの怪獣など、粉砕してくれるとも!」 ギーシュの絶対の信頼を置いた言葉は、人々の心に強く響いた。 「そうだ……ウルティメイトフォースは、どんなに恐ろしい敵にも負けなかった! 今回だって 勝ってくれるに決まってる!」 「彼らは絶対に、俺たちの未来を導いてくれるぜ!」 人々は思い出す。ウルティメイトフォースゼロの勇姿を。彼らの飾ってきた勝利を。 大円盤も、宇宙人連合の軍団も、ナックル星人の大部隊も、電脳魔神も、ヒッポリト星人と大怪獣たちも、 サイボーグ超人も、最後には打ち破って人類の明日を見せてくれた。今目の前にそびえ立つ邪悪も払ってくれるに違いない! 「がんばれー! ゼロー!」 「ウルティメイトフォースゼロ! 負けるなー!」 人々は勇者たちの勝利を信じ、精いっぱいの応援を送る。その声は、確かにウルティメイトフォースゼロに届いている。 『行くぜ、みんなッ!』 『はい!』『うむ!』『おうッ!』 見よ! ウルティメイトフォースゼロはこの状況にも少しもひるまずに、大超獣に一直線に 挑んでいくではないか! 人々は、彼らの熱い奮闘を信じて疑わなかった。 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 しかしゼロキラーザウルスが刃つきの触手をひと振りすると――。 『うわあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!』 勇者四人は、一瞬にして蹴散らされた。 「えッ……!?」 衝撃的に過ぎる光景に、人々の応援の叫びは思わず停止してしまった。 しかもそれだけではない! 触手のひと振りは四人を紙屑か何かのように吹き飛ばすだけに 飽きたらず、ザンンッ!! とサウスゴータの大地を深々と切り裂いた! あまりの出来事に、一斉に絶句する人々。大いなる古都の土地は、半ばから真っ二つになっていた。 とても信じられないが、幻覚ではない。 地割れでも起きたのか……? いや、地割れではあんなに綺麗に割れる訳がない。しかし…… 実際にその目で見ても、人々は信じたくなかった。 まがりなりにも一個の生物が、大地を両断するなどという事実を……! 『くっ……! まだまだぁッ!』 弾き飛ばされた四人の内、グレンファイヤーがいち早く立ち上がって再びゼロキラーザウルスに 突っ込んでいく。胸のファイヤーコアと全身に炎をたぎらせた、彼の最大出力の状態だ。 が、ゼロキラーザウルスは扇状の腕を振るい、手の甲でグレンファイヤーを払いのける。 『ぐわあぁぁぁぁぁぁッ!』 ベチンッ、と軽く叩いただけで、グレンファイヤーは大きく吹っ飛んで地面に真っ逆さまになった。 パワーとタフネスなら誰にも負けない炎の戦士が……羽虫か何かのようだ……! 『グレンファイヤー! おのれ、よくもぉ!』 『はぁぁぁぁぁッ!』 ジャンボットとミラーナイトが地を蹴って、ジャンミサイルとシルバークロスを放った。 しかし刃つきの触手が伸び、ミサイルと光刃を一瞬で粉々に砕いた上に、ジャンボットたちも空中から叩き落とす。 『がっはぁッ!!』 触手はそれに飽きたらず、二人を真っ二つにしようと狙っている! 『させるかぁぁぁぁッ! おおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!』 それを食い止めようと飛び出したのがウルトラマンゼロ! カラータイマーはとっくに点滅しているが、 ゼロツインソードDSを固く握り締め、消耗をものともしない勢いで触手の刃を受け止める。 ガガガガガッ! と激しく火花を散らしていたが……ゼロまでもが弾き飛ばされ、大地に沈んだ。 『うおあぁぁぁッ!!』 ゼロと才人、そしてデルフリンガーの絆の象徴の武器も……呆気なく破られてしまった……! 『愚か者どもめぇッ! この究極超獣の前には、貴様らの力など塵芥に等しいわぁッ!』 ゼロキラーザウルスの中からヤプールが傲然と豪語する。そしてゼロキラーザウルスが ゼロたち四人にとどめを刺そうとする……! 「グワアアアアアアア!」 「グアアアアアアアア!」 「キギョ――――――ウ!」 それを阻止しようとカプセル怪獣たちが立ち向かっていく。超巨大超獣と比べて幼獣のような彼らだが、勇気は満点だ。 『よ、よせ! 駄目だ、戻れぇッ!』 だがゼロは慌てて制止をかける。それも間に合わなかった。 『雑魚どもがッ! 目障りなんだよぉぉッ!』 ゼロキラーザウルスの触手が、カプセル怪獣たちも石ころか何かのように弾き飛ばした! たった一瞬の出来事だった。 「グワアアアアアアア!!」 「グアアアアアアアアッ!!」 「キギョ――――――ウ……!」 蹴散らされた三体は、あまりのダメージの深さに立ち上がることも出来ず、自動でカプセルに戻っていった……。 『ゼロキラーザウルス、やれぇいッ! 連中を消し飛ばせぇぇぇぇぇッ!』 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 ヤプールの命令により、ゼロキラーザウルスの頭部から莫大な歪んだ光がほとばしる! 超絶破壊光線、ゼロキラービームが放たれた! 着弾したビームは、ゴガアアアァァァァァァァァンッ!! と耳をつんざく轟音とともに、 ハルケギニアの誰もが目にしたことのないきのこ雲を巻き起こす! 『うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――!!』 壮絶な大爆発に呑まれるウルティメイトフォースゼロ! そしてきのこ雲が晴れると……人々は完全に言葉を失った。 シティオブサウスゴータの街が、土地が……そのままの意味で、半分消えてなくなっていた! 残ったのは、ぽっかりと開いたクレーターだけだ! こんな光景、誰一人として想像したことすらない! 『ぐッ……うぅぅ……!』 それでもゼロたち四人は健在……。 いや、果たしてこれが健在と呼べるのであろうか……? 四人ともが等しく身体に無事なところがなく、 立つどころか身を起こすだけで精一杯であった……。 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 対してゼロキラーザウルスは全くの無傷! わずかでも消耗した様子すらない! その上で、無情にも 死にかけているゼロたちの息の根を完全に止めようとしている! 「――やらせない! ゼロたちを……才人をやらせなんてしないわ!」 そこに立ち上がったのは、ルイズだ! 一人、避難民の中から脱け出し、杖を握り締めて半壊した街の側に立つ。 ここまで彼女は、自身の『虚無』の魔力を温存していた。ヤプールは恐ろしい相手だ。 万が一の時のために……と、戦闘中は使用をこらえて、ひたすら感情を高めて魔力を蓄えていた。 そしてそれは正解であったようだ。 「私の一番の武器で……ゼロたちを、トリステインを、ハルケギニアを救ってみせるッ!」 世界を救う使命に強く燃えるルイズの魔力は、最高潮に達していた。その魔力量は、タルブの時と同等であるほどだ! 朗々と呪文を唱え上げて――最も得意とする、究極の攻撃呪文を発動する! 「『爆発』!!」 カッ――! 再び、大地に太陽の輝きが生じる! その輝きは完全にゼロキラーザウルスの巨体を覆い、 壮絶な爆発の中に閉じ込める。 その爆発は、まさしくタルブの時の再来であった。 「あれは、タルブの時の奇跡の光!」 「我らの勝利の光だぁッ!」 トリステインの人々は、『虚無』の爆発がタルブ戦で勝利をもたらした輝きだと理解し、歓喜に打ち震えた。 あの輝きは今一度、人間の勝利を授けてくれると、固く信じている。 「ルイズ……!」 アンリエッタはルイズの働きに感動し、感謝の念を胸に抱いた。 『効かぁぁぁんッ! 効かんわぁぁぁぁぁぁッ!!』 ――光が収まり、再び姿を現したゼロキラーザウルスは、依然として全くの無傷であった。 ルイズは、杖を取り落とした。 「う、嘘……」 誰しもが、これは夢を見ているのではないか、と錯覚した。 不完全でもアントラーに致命傷を負わせ、キングジョーとブラックキングの大軍団をも一撃で滅した 『爆発』ですら……ゼロキラーザウルスには微塵も通用していなかったのだ! 『馬鹿な人間どもがぁッ! 貴様らの明日など、最早どこにもありはしないのだぁぁぁ――――――ッ!』 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 ゼロキラーザウルスの無数のトゲが発射され、ゼロたちに迫る。トゲミサイルだ。 『ぐぅッ……!』 ゼロとミラーナイトがウルトラゼロディフェンサーとディフェンスミラーを重ね合わせた ディフェンスミラーゼロを展開。ジャンボットとグレンファイヤーも支えて防御を固めたが…… トゲミサイルは協力バリアを易々と粉砕した。 『ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 四人が爆発の嵐にもてあそばれ、転げ回る。 惨劇! 最早そうとしか言いようがない……。これはもう戦いとは呼べない。一方的な蹂躙…… 処刑の有り様であった! 「もう、もうやめてくれぇッ!」 誰かが現実を直視できずに目を背け、叫んでいた。その気持ちは、全員が同じであった。 先ほどまでは確かに存在していた、ゼロたちが、才人が灯した希望は……もうひとかけらも残っていなかった。 彼らの心の支えすら、ゼロキラーザウルスの圧倒的な暴力は蹂躙してしまったのだ。 人々の心が……闇に囚われようとしている。 「どうして!? どうしてなのッ!? 何でこんなことになってしまったの!? わたしたちが何をしたというの!?」 誰かが忍び寄る闇に耐え切れず、泣き崩れた。誰しもがそうしたいところであった。 人々の努力を、奮闘を軽く叩き潰す、絶望的なまでの理不尽。人々はゼロキラーザウルスから その理不尽を感じている。 しかしヤプールは、そんな人間たちの心情も嘲笑する。 『どこまでも愚かな生き物どもよ。この究極超獣を生み出したのは、我ら闇の化身の怨念だけではない。 貴様らの心からも生じたのだッ!』 人々は、その意味が理解できなかった。自分たちの心が、あんな化け物を作り出した? そんな馬鹿な! しかしそれは、紛れもない真実なのである。 『我らヤプールは、貴様らの争いを求める心、目先の欲に走る心、薄っぺらな虚栄を得ようとする心、 全ての醜い心から発生するマイナスエネルギーによって生きる。我らが作り出す超獣もまた、貴様らの 醜さを食って強くなった。名誉などという言葉だけの空虚な幻影を欲し、同胞同士でひたすらに殺し合う 貴様らが、終末を招く無敵の超獣の親なのだぁぁッ!!』 ヤプール人は負の心の具現化。人間の醜さの象徴だ。延々と繰り広げられた貴族と平民の確執、 目先の富と欲に溺れる姿勢、命の奪い合いの意味をろくに考えないで争いをやめない暴力性が、 巡り巡ってゼロキラーザウルスという終わりを作り出すものを産んだ。 また、人間たちの心の暗闇こそが、世界を終わらせる。世界の守り神であり、人間を信じた ウルティメイトフォースゼロという希望を、人間自身が殺す。そういう意味での『ゼロキラー』でもあるのだ……。 「そ、そんな……」 「他ならぬ俺たちが、破滅の原因だったなんて……」 ヤプールの突きつけた残酷な真実に、人間たちは今度こそ打ちのめされた。皆がもう希望を 見出すことが出来ない。いや、知らず知らずの内に、自分たちで壊してしまっていたのだ……。 「わ、わたくし……わたくしは……」 こんな時にこそ心の支えとなるべきアンリエッタまでも……絶望に呑まれていた。何を隠そう、 アルビオンへの侵攻を推し進めたのが彼女だ。自分があんなことを言い出さなければ…… まさかこんなことになってしまうなんて……。今の彼女の心にあるのは、後悔の念だけだ。 「あ……あぁ……」 ルイズも、絶対の絶望に沈んでいた。彼女が輝かしいと信じた「貴族の名誉」は…… 真逆の暗闇だった……。ルイズの光も、暗闇に覆い隠されてしまった……。 『ウルティメイトフォースゼロッ! 貴様らは貴様らの愛した人間の暴力によって死ぬッ! 恨むなら、醜い人間どもを信じた己らを恨むんだなぁッ! グハハハハハハハッ! グハハハハハハハハハハハハ―――――――――ッ!!』 いよいよゼロキラーザウルスがゼロたちの命を終わらせる……! その次は人間、そして世界そのものだ……! 今日が、世界の終わりだ……。 『――そいつは違うぜ……』 その終わりに、この状況に至っても、ノーを突きつける者が一人。 ウルトラマンゼロだ。満身創痍、全身がボロボロになってもなお立ち上がる。 だがひたすらに諦めないゼロを、ヤプールは嗤うばかり。 『まだ立ち上がるというのか? 全て無駄なのだよッ! 今の貴様のどこに、逆転の芽がある!? そんなものは全て摘み取ってやったわぁッ!』 かつて出現したゼロキラーザウルス。それもゼロたちの攻撃をことごとくはね返し、彼らをギリギリまで追い詰めた。 それは、ゼロキラーザウルスがゼロたちに向けられた怨念の結晶だからだ。ゼロたちがどんな攻撃をしようとも、 底なしの恨みから無尽蔵に生じる負のエネルギーが必ず攻撃の威力を上回ったので、ゼロキラーザウルスは ゼロたちに対して無敵だったのだ。 だがウルティメイトフォースゼロは勝った。それは、四人の絆、心の光を一つに合わせ、相乗効果で 一層強めた光を纏った体当たりで、底なしの怨念を打ち砕いて浄化したからである。負の闇で生まれた怪物は、 心の光で照らすことが出来る。 が、しかし……今の四人は、先の超獣軍団を倒すために、体力を消耗し切っていた。もうあの時と同じ、 四人の合体攻撃はとても出来ない。ゼロたちは、ヤプールの罠に完璧に嵌まっていたのだ。 ――それでも、ゼロにはたった一つだけ、究極の闇を消す手段があった! 『見せてやるぜ、ヤプール……! 俺の光はぁッ! テメェなんかにッ! 絶対に消されないってことをなぁッ!!』 気合い一閃。ゼロはまっすぐ上に飛び立ち、ウルティメイトブレスレットを展開して本来の銀色の鎧の形にした。 その鎧、ウルティメイトイージスを装着したゼロの姿は――人々の目に、神々しい輝きを焼きつけた。 「あ、あの姿は……」 降臨、ウルティメイトゼロ。 それはアナザースペースの人たちの心の光が生み出した、まさしく希望の光。宇宙のどこからでも駆けつけ、 闇を追い払う力を持った、究極の光輝だ。 しかしゼロキラーザウルスという闇は、その光すらも呑み込んでしまいそうだ。 『何かと思えば、貴様も底抜けの愚か者だなぁ、ゼロッ! その威力もゼロキラーザウルスには 通用せんこと、忘れたのかッ!』 そう、ウルティメイトゼロの力までもが、ゼロキラーザウルスには届かなかった。その怨念は、 一人の力では祓いがたいほどに大きくなっているのだ。 だが、ゼロが行うことは――攻撃ではないのだ。 『これからすること、俺はちっとも恐れてなんかいない。だが、才人……お前まで巻き込んで しまわなければならないこと、それだけが心残りだ』 ゼロはヤプールの嘲りには構わず、己の中の才人に呼びかけていた。 それに才人は、達観したような声音で応える。 『大丈夫だよ、ゼロ。怖くない訳じゃないけど……嫌って訳じゃない。むしろ嬉しい気持ちさ』 『本当か?』 『ああ。ただの高校生だった俺が、この絶望をひっくり返して世界を救うんだぜ? こんなにすごいことはないよ』 それからひと言、こう語った。 『ルイズが言った、守るための名誉。今なら分かる気がする』 『そうだな。――行くぜッ!』 ゼロは飛び出す。右腕の剣を前に突き出し、一直線に――ゼロキラーザウルスへ目掛けて! 『何ッ!?』 まっすぐ突っ込んでくるとは思っていなかったヤプールは、反応が遅れた。その一瞬が勝負を決する! 『おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあぁッ!!』 銀色の鋭い弾丸と化したゼロは、ゼロキラーザウルスの体表を突き破って体内に潜り込んだ! そしてカラータイマーより、自身の光の「全て」を解放する! 『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 『な、何をする!? まさか……やめろぉぉぉ―――――――――!!』 焦るヤプール。しかしもう遅い。ゼロキラーザウルスの肉体から、溢れるように光が漏れていく。 何が起こっているのか? 『ま、まさか……!』 『ゼロ、やめて下さい! そんなことをしたら、あなたがッ!』 『ゼロぉぉぉぉ――――――――――!!』 ジャンボット、ミラーナイト、グレンファイヤーが気づいて叫んだが、ゼロは止まらない。 ウルトラゼロレクター。怨念の闇をかき消す浄化技だ。しかしゼロキラーザウルスのそれは あまりに莫大すぎて、普通にやってはまるで通用しない。 そのためゼロはウルティメイトイージスを展開し、その上で最大出力を超えた、限界突破の光を 相手の体内から解き放って、この絶大なる邪悪を消し去ろうとしているのだ。 ……自身の「命」までも光に変換して。 『ぐッ、がぁッ! ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』 「キヤアアアアアァァァァァァァァッ!!」 二つの邪悪が断末魔を残し――。 二つの星の輝きが、闇を破裂させた。 その時、人々も直感で理解した。ゼロは……命と引き換えに、自分たちを救ってくれたのだということを。 『おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! ウルトラマンがああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』 光によって破裂したゼロキラーザウルスの残骸から、巨大ヤプールの怨霊が立ち上って怨嗟の声を上げた。 その怨嗟も、直に光によって消されるであろう。 それまでの間に、ヤプールはミラーナイトたちへ向けて言い放った。 『こ、これで勝ったつもりか!? 馬鹿めがッ! この星には俺の他にも、邪悪がまだ潜んでいるというのにッ!』 『何ッ!?』 驚愕するミラーナイトたち。彼らは、M78ワールドからハルケギニアに侵入した巨悪が ヤプールのことだと信じて疑っていなかった。 『俺はその悪の波動に導かれて、この星を発見しただけだ! 貴様らが遠からず、姿の見えない邪悪に 滅ぼされるのが見えるようだわ! クハハハハハハハッ!』 負け惜しみを込めた呪いの言葉を、ヤプールは遺す。 『破滅の未来で待っているッ!!』 そして、光がヤプールの怨霊を消滅させていく。 二つの星の輝きも――ヤプールを消し去ったすぐ後に……消え失せた。 『なッ……あッ……ゼロ……』 『ぜ、ゼロ……』 『うあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――! ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――!!』 三人の仲間が名を呼んだが……それに応じるべき者は、いなくなっていた。 「……はい。ヤプールの敗北、この目でしかと確認しました」 シティオブサウスゴータを一望する山の頂上で、一人の女性が人形に向かって話しかけていた。 クロムウェルの秘書であったシェフィールドだ。 こんなところで、一人で何をやっているのか? 『そうか。余のミューズ、これまでご苦労だった。褒美をとらそう』 人形からは人の声がする。人形に見せかけた、通信機の役割を果たす魔法の道具なのだ。 「もったいなきお言葉です、陛下……」 そしてその声を聞いたシェフィールドは、うっとりと陶酔しているようだった。 シェフィールドは、本当にクロムウェルの秘書だった訳ではない。実はクロムウェルは元々、 今の彼女の話し相手に祭り上げられたお飾りの皇帝で、人形の声の主がシェフィールドを通して アルビオンを操っていた。アルビオンがヤプールたちの巣窟とされてからは、人形の声の主は 彼らの存在にいたく興味を示し、その動向をシェフィールド越しに観察し楽しんでいたのだ。 『外世界からの侵略者たちも、手を変え品を変えウルトラマンという巨人たちを苦しめ、 なかなかに楽しかった。しかしそれももうおしまいか』 残念そうな口ぶりだが、実際には惜しむ色は全くなかった。玩具が壊れたので違うのを買おう、 そんな感じのひと言であった。 あろうことかヤプールの行いを間近から観察し、彼らを玩具同然に見なすこの者は、一体何者なのだ? どんな力を有しているというのか? 『これからは余自身でゲームの盤を動かすとしよう。余のミューズ、お前にはもっと働いてもらわねばならなくなる。心してくれ』 「元よりそのつもりでございます、我が陛下!」 ヤプールという巨悪を打ち倒したばかりだというのに……新たな暗雲は、遠くないところまで来ているようであった。 激戦の影響により、更地同然となってしまったサウスゴータ。その中を、ルイズが一人ヨロヨロと歩いていた。 「ぜ、ゼロ……どこへ行っちゃったの? 敵を倒したのなら、いつものように、私たちの前に姿を見せてよ……」 ルイズは真っ青な表情で、一人ブツブツとつぶやいていた。誰にも問いかけは届いていないが、 現実を受け止められない気持ちが問いかけという形で表れているのだ。 「ゼロ……サイトをどこへ連れていっちゃったの? こんな時に、冗談はやめてよ……。 どこかに隠れてるだけなんでしょ? 私が意地悪なことばっかり言ってたから……からかってるだけなんでしょ……?」 そんな訳がないということ、ルイズは理解していた。しかし感情が認めていなかった。 ゼロが戻ってこないということ、それはつまり、一心同体の才人も……。 「サイト……サイト……。 サイトぉぉぉぉぉ――――――――――――――――――――!!」 ルイズの呼び声は――朝焼けに染まりつつある、何もない焦土に虚しく響くだけだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/378.html
地面に放ったエメラルド・スプラッシュの威力を見て、こちらへ近づこうとしていた鎧の男は足を止めた。 先ほどまでこちらに敵意を向けていた奴らも、目を丸くしている。 ともかくこの行動で、スタンド使いが今、ここにいないのは確認できた。 才人を引っ張る時も、今、エメラルド・スプラッシュを撃った時も、誰も反応しなかったからだ。 ならば結論は一つ。 僕をここに送り込んだ奴は、別にいるッ! そうと決まれば、急いで本体を探さなくてはならない。 しかし…… 「なんだよっ、変な所につれてこられたと思ったら、いきなり宙に浮いたりっ! 訳わかんねぇよ!」 あまりにも非常識な光景に、才人が思いっきり愚痴をたれた。 才人は僕と違い、スタンド使い、いや一般人に襲われても、それをのける術が無い。 多少危険だが、真っ先に逃がすしかない。 僕はハイエロファントの触手を、城壁に引っかけ、もう片方の触手を才人に巻き付けた。 そしてそのまま、定滑車の要領で城壁まで才人を持ち上げる。 「うおっ! なんだよ、これは!」 「黙ってろ! 舌を噛むッ!」 全力で才人を城壁の通路まで押し上げる。あまり力の強くないハイエロファント・グリーンにとっては、殆どパワーに余裕がない。 今、攻撃されれば、僕に身を守る手段はないッ! しばしの間。 誰もこちらに攻撃してくる気配はない。それどころかほぼ皆が、僕の方には見向きもせず、才人の方を向いて驚いたような顔をしている。 「『フライ』ッ! しかも速い!」 「何で平民が魔法を使えるんだ!?」 「いや、その前に…… 誰か、あいつが杖を抜く所を見たか!?」 其奴等は、人が浮くということとは別の次元で驚いているようだった。 まさかスタンドの代わりに、違う概念があるとでもいうのだろうか? ともかく、今はここから離れるのが先決だ。 友好的にすまそうにも、僕らはここの奴らに、敵意をもたれすぎている! そのまま、才人を引き上げたハイエロファント・グリーンに捕まり、自分も城壁へと登る。 「この、火のラインメイジである僕が…… この僕が! 」 地面から立ち上がったマントをつけた奴らの一人が、こちらをにらむ。手には長めの棒ッきれらしきものが握られていた。 其奴は何かをブツブツとつぶやく。すると、杖の先に50cmはあろうかという火球が現れた。 「『フライ』中なら、さっきの妙な技もつかえまいッ! 平民風情がっ、思い知れ! 『フレイムボール』!!」 こちらに向かって火球が飛んできた。 僕は確信する。ここにはスタンドと違う、けれども似たような概念が存在するのだと。 速度は中々に速い。このままではかわしきれないだろう。 だが、このサイズなら…… 「かき消せるッ! 『エメラルド・スプラッシュ』ッ!」 僕の捕まっていた触手から、エメラルドの力のビジョンが放たれる。 そのビジョンは、僕を追ってくる火球をうち消し、そのままマントの男に襲いかかった。 「何で『フライ』中に呪文が使えるんだッ!」 マントの男はそういって、僕のエメラルドスプラッシュを全身に浴びる。男の身体は木の葉のように宙に舞い、地面へとたたきつけられた。 下の広場が、一気に騒がしくなった。今ならここから逃げ切れる! 「なぁ、お前、今のどうやったんだ?」 「後で教えます。兎に角、いまは早く……」 下を見る。周りは平らな土地であるが、所々に点在する木々に隠れながらいけば、何とか巻けるかも知れない。 そのとき、後ろから小柄な少女特有の、高い声が聞こえてきた。 「まちなさいっ!」 僕らは、とっさに振り向いて、声の主を確認する。 その声の主は、こちらへ着た時、才人の一番近くにいた、桃色がかったブロンド髪の少女だった。 しかし、僕の視線はすぐにその少女の周りへと向けられた。 マントをつけた奴らが、さっきの奴と同じように、こちらに杖を構えていたからだ。 「ちょっとあんた達、あたしの『使い魔』に何するのよッ!」 「うるさいッ! まだ『契約』もしてないだろうが! 第一、『メイジ』だろうが『使い魔』だろうが、平民風情に貴族が遅れを取るなんて、恥さらしも良い所だッ!」 マントをつけた奴らのリーダー格らしき男と、先ほどの少女がなにやら言い争っている。 耳を傾けてみると、使い魔やら、契約やら、メイジやら、全く聞いたことのない単語が、連呼されているのが聞こえた。 良く解らないが、とりあえず、只で返してくれるつもりは無いらしい。 僕はハイエロファントをもう一度ほどき、触手状態にする。そしてそれを城壁の一カ所、一カ所に引っかけ、蜘蛛の巣のように張り巡らした。 再び下を見る。いつの間にか少女の姿は消え、マントをつけた奴らが杖の先を光らせていた。人数こそ10人ほどいるが、さっきの奴より大分、光が小さい。 無駄だと悟りつつ、僕は一応の警告を入れた。 「既にこちらには、そちらを攻撃する用意が出来ているッ! 何もしなければ、こちらも手を出すつもりはないッ」 「今更ァ、後に引けるかァァァァアアアッ!」 杖の光が石、氷、風、火… 兎に角、様々なものに変化し、僕らめがけて飛んでくる。 相手に引く意思は全くないようだ。ならッ! 「伏せてろ、才人! 『エメラルド・スプラッシュ』 INッ! 『法王の結界』ッ!」 僕も全力で応じよう。 人型の時なら裁ききれない量だが、この状態なら問題ではないッ! 先ほどの何倍もの量で発射されるエメラルドの破壊のビジョンは、石も、氷も、風も、火も全てを巻き込んで、奴らに襲いかかる。 相手を殺さない程度に加減はしたが、それでもこの量、もし、まともに食らえば二週間はベットから立ち上がれまい。 土くれはめくれあがり、ものはピンボールのように跳ね、砕け散る。 ほぼ瞬時に、下の奴らは恐慌状態へと陥った。 「ハァ~…… ハァ、ハァ、ハァ…… 」 「お…… おい、大丈夫かよ?」 「心配入りません。少し、疲れただけです」 しかし、僕の精神力も限界に達している。 あと一回、『エメラルド・スプラッシュ』を撃てるかどうか…… 今、逃げ損なったら、次は無いッ! 「走ります。才人、ついてこれますか」 「ああ、何とか」 そのまま城壁の上部を駆け抜け、登った時と同じ要領で、城壁の外へと降り立った。 少し離れた位置に森があったのは、実に運がいい。 ひとまずここに身を隠して、それから本体を探し出して、叩く。 そうすれば…… 「やっぱり、こっちの方にきたわね」 「!?」 いつの間にかいなくなっていた桃色ブロンドの髪の少女が、僕らの目の前に立っていた。 「よくもさんざん逃げてくれたわね……」 そういって、少女は杖を取り出した。どうやらあの力を使うには、こういう棒が必要らしい。 距離は10m程。今はスタンドパワーが惜しい。なら、近づいて取り押さえるッ! 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔となせ」 杖を取ろうと手を伸ばす。 しかしその手は空を切った。少女の方から、こちらに近づいてきた所為だ。 僕の顔の近くに、少女の顔が寄る。甘いにおいがした。 「あんた、感謝しなさいよね」 少女はさらに顔を寄せてくる。 何を感謝しろというんだ! と心の中で毒づきながら、僕は少女から逃れるように、思いっきり上体をそらした。 ……少しそらしすぎた。体勢を崩した僕は、そのまま少女に巴投げをかけるようにしてこける。 「「え?」」 僕の後ろにいた才人は、そのまま少女と頭突きとも取れるような、盛大なキスをして、仲良く地面へと倒れ伏したのだった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9096.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十九話「宇宙人連合の罠」 三面怪人ダダ 三面異次元人ギギ 登場 「んんー……ふああーあ」 倒れている春奈を発見し、魔法学院へ連れ帰った翌朝。才人は目を覚まして、ワラの寝床から 身を起こした。 「朝か……。久しぶりのワラの布団は、どうも体が痛いなぁ……」 起床した才人が肩をゴキゴキ鳴らす。最近はルイズのベッドに同伴させてもらっていたが、 春奈をかくまうことにした以上、そうは行かなくなった。急遽ルイズの部屋にもう一つベッドを 入れたのだが、具合の悪い春奈が一つ占領した上、他の女性のいる中でルイズと一緒に寝るのが 忍びなかったので、自主的にワラの寝床に戻ったのだった。 「言ってても仕方ないか……。おーい、ルイズ、春奈。朝だぞー」 立ち上がった才人は、ベッドの上のルイズと春奈に声を掛ける。だが、春奈の方の様子が おかしいのに気づいて、顔を覗き込んだ。 「はぁ……はぁ……」 「春奈!? どうしたんだ!」 春奈の顔色が悪く、息を切らしていた。額に触れると、熱く感じた。 「風邪か!?」 「うッ……お水……」 「あ、ああ、分かった……」 コップに水を注いで飲ませてあげる才人。その間に、ルイズが目を覚まして身体を起こした。 「何? ハルナ、どうしたの?」 「どうも、具合がもっと悪くなってるみたいなんだ。まさか、ルイズの爆発が素人には良くなかったんじゃ……」 「ちょっと! わたしのせいだって言いたいの!?」 一瞬激昂したルイズだが、我に返ると指示を出す。 「とにかく、シエスタを呼んできて。彼女に看護をお願いしましょう」 「あ、あぁ」 才人がすぐにシエスタを呼んでくると、春奈は三人に謝罪する。 「……平賀くん……。ルイズさん、シエスタさん……。ごめんなさい」 「ちょ、ちょっと何謝ってるのよ! しっかりしなさいよ」 「なんだか体がだるくて、力が入らなくって……」 「分かったから、もう話すな」 才人たちが話している間に、ゼロが春奈の容態を診断した。 『どうも、まだ環境の変化に馴染めなくて熱を出したみたいだな。しばらく安静にしてたら 良くなるだろ』 春奈の世話はシエスタに任せることにして、才人とルイズはゼロを密かに話し合う。 『それより問題は、春奈がこんな状態の時に、宇宙人連合の刺客が来ないかってことだ』 「えッ!? 宇宙人が学院に乗り込んでくるかもしれないってこと!?」 『その可能性は十分考えられる。俺たちが春奈をこの場所にかくまってるってことは簡単に 予測がつくだろうし、侵略者ってのはあれくらいで諦める連中じゃない。今日にも、春奈を 奪いに乗り込んでくる恐れがある』 外宇宙からの敵が、学院に侵入する……。それを想像して、才人もルイズも固唾を呑んだ。 『しばらくは学院の中にいても、油断せずに過ごすべきだろう。いいな?』 「あ、あぁ……」 「分かったわ……」 ゼロの警告にうなずく才人とルイズ。と、ルイズが時刻を確認して声を上げた。 「いけない、そろそろ授業に行かないといけない時間だわ」 朝からドタバタしていたので、未だ寝巻き姿である自分に気づいて、急いで支度をする。 着替え終わって、才人とともに本塔に向かう頃には、ギリギリな時間になってしまった。 ルイズと才人が授業へ向かい出した時より少し前の時間帯。魔法学院の本塔には、多くの生徒が 集まっていた。 「おお、モンモランシー! 麗しのモンモランシー! 待っておくれよ!」 ギーシュもその中の一人。今はツカツカと廊下を早足で進むモンモランシーの背中に懸命に 追いすがっている。 「もう知らないッ! ホント馬鹿ッ!」 モンモランシーはギーシュに対しておかんむりで、立ち止まって振り返ろうともせずに歩き続ける。 実はギーシュが下級生を口説いている場面に偶然鉢合わせて、それで嫉妬を爆発させたのだ。といっても、 ルイズじゃないんだから現実に爆発は起こしていない。 「君は誤解をしているんだよ、モンモランシー! ぼくの心の中の一番は君だけなんだよ!」 「わたしがどう誤解してるっていうのよ! ちゃんと聞いたんだからね、口説き文句! それに一番はわたしでも、どうせ二番や三番がいるんでしょう!」 「えッ、えぇっと、それはだね……」 肝心なところで言いよどむので、モンモランシーは呆れ果ててギーシュを置いて行こうとする。 「ま、待ってくれ! 本当に君を愛してるんだ、モンモランシー! 愛してる! 愛してる! ああ、愛してるとも!」 ひたすら「愛してる」を繰り返し唱えるギーシュ。語彙が少ないからだが、モンモランシーは 何度も言われると、悪い気にはならなくなってくる。ギーシュも単純だが、モンモランシーも 案外単純だった。 「……そうね。先日はこっちもやりすぎちゃったし、本当に反省するというんなら、許して あげないことも……」 惚れ薬の一件を省みて、少しは寛大さも見せておこうかとギーシュへ振り返るモンモランシー。 だが、その視線はギーシュではなく、もっと後ろへ引きつけられた。 廊下の奥で、白黒の縞模様の体色をした、能面のような顔つきの怪人がくねくねと怪しい踊りを 踊っているのだ。 「!?」 「モンモランシー? どうかしたのかい?」 目をゴシゴシとこすって見直すと、怪人の姿は忽然と消えていた。幻覚だったのかしら、 疲れてるのかしら……? と自身を疑うモンモランシー。 「ああ、ごめんなさい。何でもないわ。それより何の話だったかしら……」 ギーシュに向き直ると、今度はギーシュの目が自分の背後に釘づけになっていた。それで 後ろを振り向くと、先ほどの怪人が、今度は自分の後方で踊っていた。 「!?」 二人で目をこすると、怪人の姿はまたなくなっていた。 「……す、すまないね。何だかぼく、疲れてるみたいだよ……。一瞬幻覚が見えたんだ……」 「あ、あら、奇遇ね。わたしも何だかおかしなものが見えた気がするわ……」 「君もかい、モンモランシー? それはいけないね。今日は大事を取って、二人で授業を 休むことにするかい?」 渇いた笑い声を上げる二人。そこに、横からモノクロの怪人がぬっと顔を出した。 「ダ―――ダ―――――!」 「……きゃあああああああああああああああッ!?」 途端に絶叫する二人。それでもギーシュは咄嗟にモンモランシーをかばって、杖を抜く。 「ば、化け物! モンモランシーには指一本触れさせないぞ! このギーシュ・ド・グラモンが 相手だ――!」 「ダ―――ダ―――――」 怪人は両手持ちの大型光線銃をどこからともなく取り出すと、ギーシュが呪文を唱える前に 光線を浴びせた。それにより、ギーシュの姿が忽然と消えてしまう。 「ギーシュ!? いやああああああ!」 恐怖に駆られたモンモランシーが走って逃げ出し、階段へ向かう。だが角を曲がった時、 前方から顔の違う白黒の怪人が音もなく現れた。 「ダ―――ダ―――――」 「きゃあああッ!?」 階段を下りるのをやめ、廊下の奥へと逃げていく。だがその先からも、極端に目の小さい、 また違う顔の怪人が現れる。 「ダ―――ダ―――――!」 「いやあああああッ!!」 急停止したモンモランシーに、怪人がギーシュにやったように光線を浴びせた。それで モンモランシーも消え失せてしまった。 「あ……あ……!」 「も、モンモランシーが……!」 その様子を、ちょうど階段を上がってきたモンモランシーたちの同級生のマリコルヌと レイナールが目撃していた。怪人がそちらへ振り向くと、二人は悲鳴を上げて階段を引き返していく。 「うわああああああ! 化け物がモンモランシーを消しちゃったぁ!」 「早く逃げるぞマリコルヌッ!」 怪人とは距離が離れていたので、二人は怪人に追いつかれない。 「ギギギギギギギ!」 だが階段を駆け下りる途中で、進行方向に同じ白黒の縞模様だが、身体つきの異なる別の 怪人が立ちはだかった。青いバツ字型の一つ目をしている。 「うぎゃああああああ! こっちにも!?」 慌てて振り返ると、背後にも、同じ種類で黄色の二つ目と、赤い逆三角形の一つ目の怪人が、 目にも留まらぬ高速の動きで回り込んでマリコルヌたちを囲い込んだ。 「うわああああッ! に、逃げられないッ!」 「ギギッ!」 パニックに陥ったマリコルヌとレイナールに、青い目の怪人が片手持ちの小型光線銃を向け、 レーザーを放った。それを浴びたマリコルヌたちも消え去る。 「ギーッギッギッギッギッギッ!」 三人の怪人は肩を上下に揺らして笑うと、滑るような移動で階段から消え去った。 「ダ―――ダ―――――……!」 追いついてきた最初の顔の怪人も、それを目にして、姿が少しずつ薄れていき、完全に 消えていなくなった。 「……おや? 今日は随分と出席率が悪いですね」 先生のコルベールが教室に入った時には、ルイズと才人も入れて、半数未満の生徒しか 席に着いていなかった。コルベールはすぐにそのことを訝しむ。 「私の授業があまり人気がないのは自覚してますが、ここまで集まりが悪いとは。風邪でも 流行ってるのでしょうか? ミス・ヴァリエール」 「いえ、みんな昨日まで元気にしてたはずですが……」 「何か、朝から学院内が閑散としてましたよ。移動中に、ここで働いてる人も見かけませんでしたし……」 コルベールの質問に、ルイズと才人が答えた。部屋を出てから教室に着くまで、生徒はおろか、 メイドや使用人の平民も全く見かけなかった。それで二人とも、不気味なものを感じていた。 「それは妙ですね……。仕方ありません。授業は中止して、私は校舎を見てきます……」 表情を険しくしたコルベールが踵を返そうとした時、キュルケとタバサの二人が息を切らしながら 教室に飛び込んできた。 「ミスタ・コルベール! 大変です! 学院に侵入者です!」 「な、何ですと!?」 キュルケの報告に、コルベール以下全員が驚愕した。 「見たことのない亜人……恐らく、ウチュウ人が学院の人間を消して回ってるんです! 確かにこの目で見ました!」 「わたしたちは、どうにか逃げてきた……」 と言ったタバサが、目の色を変えてコルベールへ叫んだ。 「危ないッ!」 「ダ―――ダ―――――!」 いつの間にか、教室内に白黒の怪人が忍び込んでいた。タバサの警告のお陰で、コルベールは 横に倒れ込むことで光線をかわすことが出来た。 『あいつは、怪人ダダ!』 一気に教室中が大狂乱になる中、才人の中のゼロが叫んだ。 「うわあああああああ! 逃げろぉー!」 「ギーギギギギギ!」 ほとんどの生徒はキュルケたちのいる側と反対の扉から逃げていこうとしたが、その行く手に 三人の怪人が出現し、レーザーで皆消し去ってしまった。 『異次元人ギギまで! 宇宙人連合の刺客が、もう来やがったか!』 「み、みんなぁッ! おのれ!」 温厚なコルベールが憤怒の表情を見せて杖を取り出したが、そこに怪人ダダが光線銃を向け直す。 「先生、危なーいッ!」 叫ぶ才人。コルベールが向き直った時には、ダダは引き金を引いていた。 ……と、思いきや、その姿勢のままスウッと消えていった。それに合わせて、ギギの三人も 一瞬でいなくなる。 「……あれ? どうしたのかしら?」 「助かった……のかしら?」 怪人たちの不可解な行動に首を傾げるルイズたちだが、すぐに気を取り直して、消された 生徒たちの身を案ずる。 「みんなは! 私の生徒たちはどこへ行ってしまったんだ!?」 「どこにも行ってない。よく見て」 コルベールが血相を抱えると、タバサが生徒たちの消えた箇所にしゃがんで、床を指し示した。 「えッ? どういうこと?」 コルベールやルイズたちが集まって注目すると……とんでもないものを目にした。 「うッ、うわぁー!? 何だこれぇ!」 「ルイズたちがでかい! ……いや、俺たちが小さくなってるのか!?」 「コルベール先生! 助けてー!」 「なッ、何これ!? みんながちっさくなってるわ!?」 生徒たちは全員、豆粒ほどの大きさになって狼狽していた。ルイズたちも目を見張る。 その中で才人は、通信端末からダダとギギの情報を引き出す。 「さっきの光線は、物を小さくする効果があるんだ。さっきの奴ら、学院の人間を小さくして 捕まえてるんだろう」 「状況からして、既に学院のほとんどが捕虜になってる。無事なのは、多分わたしたちくらい」 「むむむ……何ということだ! 早く皆を助けなければ!」 コルベールが使命感に燃えていると、キュルケが一つ問題点を挙げる。 「しかしミスタ・コルベール。どうやって小さくされた人間を元に戻すおつもりですか? そんな魔法、アタシは聞いたこともありませんよ」 「むう……確かにそこが問題だ。何かしらの解除薬が効くとも思えん……」 ハルケギニアの魔法は様々な効果を発揮するが、先住魔法を含めても、物を縮小する魔法なんてものは 存在しない。しかも、ダダとギギの光線銃は魔法ですらないのだ。コルベールたちだけでは、 小さくされてしまった者たちを元に戻すのは無理だろう。ルイズの『ディスペル』も効かないはずだ。 そこでルイズが意見する。 「とにかく、あの宇宙人たちをどうにかして倒すのが最善だと思います。あれほど容易く 人間を小さくできるのなら、万が一の時のために元に戻す方法を用意してるはずですし、 それを吐かせてみるのは如何でしょう」 「あら、たまにはいいこと言うじゃない、ルイズ」 「ひと言余計よ、キュルケ」 キュルケをじっと睨み返したルイズ。コルベールはルイズの意見に賛同する。 「うむ、それしか方法がないな。よし、敵はまだ学院のどこかに潜んでるはずだ。私が探して 皆を元に戻させるから、君たちは避難したまえ。オールド・オスマンは無事かもしれないから、 彼の下へ向かうのがいいだろう」 ルイズたちを逃がそうとするコルベールだが、キュルケは反対した。 「あら、学院に土足で踏み込んだ敵を前に、コソコソしてるだなんて貴族の矜持に反しますわ。 アタシたちも戦いますとも」 「そ、それはいかん……。生徒を危険に晒す訳には……」 「今の状況だと、安全な場所なんてない。むしろ、ひとかたまりになって警戒し合う方が安全」 タバサに言いくるめられて、コルベールはそれ以上言い返せなかった。 「……仕方ない。それでは、みんなで敵を探すとしよう。ただし、くれぐれも無茶はしないこと。 いいね?」 「約束しますわ」 キュルケが非常に気のない返事をした。その一方で、ルイズと才人はゼロと密かに話し合う。 「ゼロ、あの宇宙人たちは、やっぱり……」 『春奈を奪いに放たれた刺客だろうな。直接乗り込んでくるとは、大胆不敵な連中だぜ』 人間を縮小する能力は、捕獲に最適。ダダとギギの目的は、春奈に違いない。彼女が今 無事でいるかは分からないが、早くダダたちを倒した方がいいだろう。 「何の目的があるかは知らないが、執拗に春奈を狙うなんて、許せねえぜ。宇宙人連合なんて、 俺たちでとっちめてやろうぜ、ゼロ」 怒りを浮かべて戦意を燃やす才人の横顔を一瞥して、ルイズは一瞬だけむっとなった。 それからルイズたち生き残りの五人は、物音を立てないように慎重に行動しながら、学院内の 捜索を始めた。タバサの言った通り、既にほとんどの人間がダダたちの餌食になったようで、 どこへ行っても塔内は不気味な静寂に包まれており、人影は存在しなかった。 だが捜索を続けていると、ようやく空き教室の一つから、物音と何者かの気配がした。 コルベールの誘導で、廊下から教室内をそっと覗き込む。 教室の中には果たして、探し求めたダダとギギ三人の姿があった。ダダが自前の光線銃を 机の上に置いて必死にいじっているのを、ギギたちが呆れた様子でながめている。 青い目のギギが、胸に取りつけた小型翻訳機を通してダダに告げる。 『全く、貴様のせいで時間を無駄にした。我らギギ軍人の論理的で完璧な作戦行動の邪魔をした 罪は重いぞ』 するとダダが振り返って、苛立ちまぎれに言い返した。 『さっきからゴチャゴチャとうるさいダダ! しゃべってる暇があるんなら、修理を手伝うダダ! 今回はダダ本部の後援がないから、ミクロ化機はこれ一丁しかないんダダ!』 しかしギギはその訴えを無視して、ぐちぐちとダダをなじる。 『大体、そんな大雑把で不完全な機械を使っているから故障など起こすのだ。これだから 文明の遅れた種族は困る。頭を下げて頼めば、我らの精密で完璧なミクロ化機を 貸してやってもいいのだぞ』 『ダダの星の科学力を愚弄するダダ!? そっちの使ってるのこそ、どうせちょっとしたことで 壊れる欠陥品に決まってるダダ!』 『何! 我らギギの傑作をけなすことは誰であろうと許さんぞ!』 話の内容を聞く限り、先ほどはダダの光線銃が途中で故障したから、やむなく退散したようだ。 ギャアギャア口論するダダとギギをながめて、ルイズが呆れ返る。 「何あれ。あんな連中に学院はやられちゃったの?」 「侵略者なんて、あんなもんだろ。利害関係だけの協力体制だから、仲は悪いんだ」 ダダとギギから目を離すと、彼らの近くの机の上に、水槽のような半透明のケースが置いてあることに 気づいた。そしてその中に、ギーシュやモンモランシーを始め、シュヴルーズら教師に、マルトーら平民らが、 貴賎関係なく閉じ込められていた。どうにかして脱出しようとしていたり、絶望してうなだれていたりする 姿が見える。 「あそこにみんなが! 確かに、もう学院のほとんどが捕まっちゃってるみたい」 「ううむ、許せん! どうにか隙を見て奪い返せないものか……」 キュルケとコルベールが話している脇で、才人はその中に春奈の姿がないかやきもきする。 それを察して、ルイズはますます眉間に皺を寄せた。 ルイズたちが隙を窺っていると、ダダとギギの傍らにある、持ち込んだのであろう小型テレビのような 装置の画面に明かりが点いて、マグマ星人の顔が映った。 「サイト、あいつ、この間の……!」 「やっぱり、宇宙人連合の差し金か……!」 ダダとギギたちがモニターに振り返ると、マグマ星人が口を開く。 『何を遊んでやがる。ダダ274号にギギXY07、並びに08、09。早く任務を遂行しろ』 と命令されると、ダダはこう返答する。 『もう施設内のほとんどの人間は小さくして捕まえてやったダダ。任務完了まで後少しダダ』 『だが肝心の標的を捕まえれてないだろうが。どれだけ人間を捕まえようと、肝心の標的を 捕らえられなかったら意味がねぇんだぞ。お前らがそうしてる間に、逃げられたらどうする』 『それは……』 言いよどむダダを、ギギが鼻で笑う。 『無計画に作戦を進めるからだ。やはり我らギギの頭脳を活かして、施設を余すところなく調べ上げ、 緻密で完璧な計画を立ててから行動するべきだったのだ』 『そんな悠長なことしてたら、日が暮れるダダ! 作戦はダダ時間222以内に完了するべきダダ!』 『ええい! だからお前らで争ってんじゃねぇ!』 すぐに口論になるダダとギギに怒鳴るマグマ星人。だがここで、教室の扉の方へ目をやって 警告を飛ばす。 『むッ! 外に誰かいるぞ! 警戒しろ!』 「まずい、気づかれたわ!」 慌てて退却しようとするルイズたちだったが、既にギギが動いていた。 『貴様はここで捕虜を見張っていろ。我々が一網打尽にする。行くぞ!』 「ギギッ!」 ギギ三人がテレポートして、廊下のルイズたちの前後に出現、取り囲んだ。 「しまった! 囲まれてしまった!」 「だったら、強行突破しかないわね!」 キュルケが好戦的に言うと、五人は銘々の獲物を取り出し、光線銃を向けてくるギギたちを睨み返した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔