約 1,875,315 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2032.html
さて、日の出前の一見平穏そうな学院を眺める二つの視線。 当然、元暗殺者とそれに半分脅されている現役盗賊である。 一見静かそうに見えるが、よく見ると死体が転がっていたりもする。 遠目だが、あの装備は銃士隊の物だ。 つーまーり、隊長であるアニエスが居る可能性が高い。 まぁ、居たからっつっても特に関係無いのだが。 戦争がおっ始まったこの時期になれば、後はどんだけ早くアルビオンに向かいクロムウェルを始末するかなので 見知った顔にバレても特に問題ないのである。 問題は、どうするかだ。 どうするにしろ、いきなり広域老化ブチ込んで学院側に余計な死者が出たら交渉にもならんだろうというぐらいは分かる。 関係なけりゃあ纏めて老化させるとこだが。 少なくとも、まずは探りを入れ接触する必要があるのだが、そういう事に向く能力ではない。 そういうわけで、横のフーケに話を振る。 「よぉ…オメー、ゴーレムとか出せよ」 「あんなバカデカイもん出したら一発でバレるよ」 「じゃあ派手に魔法ブッ放せ」 「わたし一人であれだけの人数相手にできるはずないじゃないか。あんたがやりな」 「ちッ…使えねーな」 プッツン ―き…切れた…わたしの中の決定的な何かが…! 必要最小限のモーションで杖を取り出しゴーレムを瞬時に練成ッ! 「あんたが無理矢理手伝えって言ってるから付き合ってるんだ…」 背後に練成させたゴーレムの親指を目の中に突っ込んで殴りぬけるッ! 「それを、よくも!このクソがッ!このフーケ様を『使えない』などと抜かしたなァああっ----ッ!」 今のフーケに美貌というものは一切存在しないッ!今のこいつの心はドス黒い真っ黒な闇のクレパスだッ! 「この…ド畜生がァーーーーーーーーーーーーーッ!!」 その叫びと共にゴーレムがプロシュートに無数の蹴りを放つッ! 「ゴーレムで踏み潰すのは一瞬だッ!それではわたしの怒りがおさまらんッ!」 鉄のゴーレムがッ!プロシュートの全身を満遍なく蹴り付けるッ! 「お前が悪いんだ!お前がッ!わたしを怒らせたのはお前だッ!お前が悪いんだ!」 その形相たるや鬼か悪魔か、まさにオーガの如し。 今ならば奇声をあげながら飛び蹴りを放っても全く違和感がございません。 フーケ改め、サウスゴータ海王お得意のゴーレム練成による渾身の打岩にございます。 「思い知れッ!どうだッ!思い知れッ!どうだッ!どうだッ!」 黒曜石も砕けよといわんばかりの音がその場に流れ続けていた。 遂に、本体であるサウスゴータ海王も蹴り始めました。 もう誰も止めようがないのであります。 一頻り蹴り終えると、大きく息を吸い込み虚空に向け思いっきりシャウト。 それと共に、WRYYYYYYYY!という叫びが最も似合うサウスゴータ海王渾身のポージングにございます。 「勝った!ゼロの兄貴完!!」 ………………ってやれたらいいのになぁ。 軽く現実から逃避していたが、どんなに辛くても現実から目を背けていられないので戻ってきた。 一人なら酒瓶に塗れて、酒と目から流れ出る水分の混合物に長い髪を濡らしている所である。 魔法を使うには呪文が必要であり、唱える際に時間が掛かる。 コモンマジックならともかく、ゴーレムなんぞを作るとなると、それなりの呪文が必要だ。 対してスタンドは即時発動可能である。 装填済みの銃相手に未装填の大砲で相手にするようなもので、この場合分が非常に悪い。 おまけに、相手の銃の射程はとんでもなく長い上に効果も最悪ときたもんだ。 こいつとエンカウントしてから、妙な幻覚に悩まされるのも頭が痛くなる種の一つだ。 妙なフード被った、目の色が妙な男と何か良い感じになっている自分という幻覚を何回か見た。 そんな幻覚を見た事自体がアレでナニでシャウトしたい気分にさせてくれたが、現実はかーなーりーシビアである。 ああ、それにしても、こいつに捕まえられてから不幸続きだ。脱獄させて貰ったとはいえワルドに脅され、そしてこいつに脅される。 ひょっとして、わたしの人生これから常に誰かに脅され続けられるのか。それなんてイジメ? いくら貴族から盗みをしてきたとはいえ、あんまりじゃないですか始祖ブリミル。誰でもいいから誰かたーすーけーてー。 ぶっちゃけまだ現実世界に戻りきれていない。逃げれるものなら逃げているのだが、逃げれない。 「ま…オメーを頼りにしてんだからよ。何考えてるのか知らないがしっかり頼むぜ」 そんな思いをよそに横からかかる兄貴のお声。 「嬉しくて涙が出るよ」 本当に涙が出そうだ。 左手で肩を掴んで右手で木の幹を触って、木だけを恐ろしい程の速度で枯らしてさえいなければ。 言葉で言わなくても分かる。 目がマジだ。 明らかに裏切ったら、『なにがあろうと、例えどんな障害があろうと必ず排除してオメーをババァにする』 そう言っている目だ。 不言実行。そう思った時、スデに行動は終わっているッ!って感じの! アルビオン軍全てを敵に回しても、こいつはヤる。 直感だがそう感じた。 ボスを斃すという目的のためにパッショーネを離反したという暗殺チームの意地の片鱗を確かに感じ取っているッ! なるべく目を合わさないように空を見上げると、懐かしい顔が笑顔で手を振っている姿を幻視した。 思わず目から冷たいものが流れ出る。 ―畜生、汗が冷たいや。…………泣いてなんかいないやい。泣いてたまるか、絶対に泣くもんか。 もう一人の自分にそう言い聞かせるが、精神的に大分参っている。 今、DISCがINすれば、確実にハイウェウイ・トゥ・ヘルが発現するだろう。 ぶっちゃけこいつ連れて行きたくないが、生きてアルビオンに着いたら一度孤児院に戻ろう。 戻ってあの笑顔で癒されよう。そう堅く決意する。 「なに呆けてやがる」 「…なんでもないよ」 またしても現実に引き戻されたが、ここで死ぬわけにもいかないし、老化して孤児院を養老院にするつもりもない。 なんというか、後者の方が嫌だ。 あの子達からフーケおばあちゃんなどと言われる所を想像したら寒気がした。 おばちゃんを通り越して一気におばあちゃんというのはキツイ。いやまぁ、おばちゃんも嫌だけど。 つまり、前進するしか無いわけだ。後退すれば最悪な結果が待っている。 後退するより前に出た方が良い結果が出るという、ある特定世界の法則もある。 しかしながら、死者を蘇えさせる事のできる虚無の使い手(とフーケは思っている)と もんのスゴイ勢いで老化させる訳の分からん能力を持つプロシュートのどちらを相手にした方がマシかとまだ大分悩んではいるのだが。 虚無と言えば、伝説のアレであり、えげつない魔法を使うので相手にしたくないのだが グレイトフル・デッドもアレな能力なので相手にしたくない。 ぶっちゃけストレスで胃が痛い。よくこんなのを使い魔にできたなとルイズの事を思わんでもない。 (火薬樽の近くで火遊びするようなもんだよ、まったく…) 使い方次第では強力な武器になるが、一歩間違えば自爆する。 暗殺チームとしては抱く感想としては間違った感想ではない。 「そういや、クロムウェルの系統は何だ?」 唐突にそう訊かれたフーケだが、思わずコケそうになった。 こいつ知らないで暗殺しようとしてたんかい!と突っ込みそうになったが、ギリギリ耐える。だってまだ老化したくない。 「虚無だよ、虚無。わたしの前で死人を生き返らせたんだ」 「?ありゃあアンドバリだったか、その指輪の効果じゃねーのか?」 「わたしには分からないよ。本人は虚無は生命を操る系統だった言ってるけど」 顔に手を当てて少し考えたが、答えはすぐに出た。 「成程…大したタマだな」 「どういう事さ」 フーケは訝しそうにしていたが、実際に虚無を見ている側としては違う事が分かる。 まだあるだろうが、確認した『エクスプロージョン』と『ディスペル』は生命を操る魔法ではない。 中にはそういうのもあるかもしれないが、それだけで『生命を操る系統』などとは言いはしない。 「ま…死人生き返らせたってのは指輪で間違いないだろ。…オレの直を食らっても動こうとしてたヤツなんざ死人以外の何モンでもねー」 ただ、虚無ではないにしろ、指輪の効果がまだ他にあるかもしれないので迂闊には接近できない。 死人といえど自在に操っていたからには、洗脳という効果も考慮に入れておいた方がいいと判断した。 「要は国を巻き込んだペテンだ。皇帝より盗賊のが向いてんぜ。そいつはよ」 「ふーん、そうか…そういう事か」 フーケ自身、レコンキスタに特に興味が無かったし、誰が皇帝になろうが知ったこっちゃあないが ただ一つ、守る物がある。 死人を生き返らせた事から、クロムウェルにビビッっていたが、それが虚無ではないと知ると途端にムカついてきた。 別段、騙されたからという事ではない。 クロムウェル自身が言っていた事だが『忌まわしきエルフから聖地を取り戻す』などとほざいていたのである。 そうなると万が一だが、あの娘の身が危ない。 あの人一倍世間知らずで、自分が唯一守るべき者が。 平時ならともかく、戦争となればあの場所に敗残兵などが雪崩れ込む可能性すらあるのだ。 トリステインであれ、アルビオンであれ、軍となればどちらであろうとそれは拙い。 なら、このエルフなんぞどうでもよさそうで、ある意味『全ての生命を終わらせる』という クロムウェルに相反する力を持つこの男に乗ってみるのも悪くない。 「気が変わった。しばらくだけど、あんたに付き合わせてもらうよ。ただし、わたしと、その周りに危害を加えない事。これが条件」 「ふん。まぁいいだろ。頼んだぜフーケよ」 前と同じ『頼む』という言葉だが、意味は異なる。 さっきのは、グレイトフル・デッドで半分脅しながらだったが、今回は違う。 マジに、言葉のままだ。 何故に変わったかというと、フーケが変わったからである。 グレイトフル・デッドで脅していただけあって、それで従っているような感じだったが、今は違う。 こちらに条件を要求してくるあたり、フーケ自身がそう自分で判断した結果だ。 無論、完全に信用したわけではないが、無理矢理従わせた10人より、自分自身でそう行動すると決めた一人の方が余程信用するに足りるのである。 なにより、余計な気やスタンドパワーを回さずに済むので楽で良い。 「それじゃあ行くか。マンモーニどもはついでだがな」 「…メンヌヴィルは任せたからね」 フーケとプロシュートが二手に別れる。 まだフーケが、こちらに付いたという事は知られていないので単独行動させた方がいいと判断しての事だ。 フーケは、手筈どうりなら人質が集められているであろう食堂に。 プロシュートはしばらく状況を探るために人の居なさそうな場所へと身を隠すために。 互いに身の心配などはしていない。その辺りは両者ともプロである。 混乱の学院にグレイトフル・デッドという『悪魔』を従える暗殺者が舞い戻った。 プロシュート兄貴―マジに殺る気の兄貴がヤバイ『学院』にINッ! はぐれ犯罪者コンビ―改めて結成 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1587.html
所変わってこちらはルイズの部屋。 貴族相手の『女神の杵』亭でも、上等な部類に入る部屋(最上級の部屋は何故か先約を取られていた)を取ったワルドは、 テーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つあるグラスにそれぞれ注いだ。 「君も一杯やるといい」 テーブルについたルイズは、差し出されたグラスをチラリと見たが、片手でそれを押しやった。 ワルドはすこぶる寂しそうな顔をして、グラスを飲み干した。 「使い魔君のグラスは取るのに、僕のグラスは受け取ってもらえないんだね」 「やめてよ、子供みたいなこと……。 私は貴方のことを信頼しているわ。それで十分じゃないの?」 「まさか……十分とは言えないよ」 ワルドはルイズの小さな顎をくいと持ち上げた。 視線が絡まる。 「君を振り向かせてみせる。そう約束したじゃないか」 ワルドの瞳を真っ向から見返し、ルイズは静かにワルドから離れた。 「私は、大事な話があるっていうからここにいるのだけれど……?」 あくまでつれない態度を崩さないルイズのセリフに、ワルドは途端に真面目な顔つきになり、ルイズから数歩離れた。 「君の使い魔……彼はただものじゃあない。僕には分かる」 またDIOの話かと、ルイズは思った。 この頃は、どいつもこいつも口を開けばDIOの事ばかり話しているように思え、ルイズは複雑だった。 実際にはそんなに会話には上ってはいないのだが、朝のモンモランシーの様子が強烈な印象となって脳裏に焼き付けられていたせいもあり、ルイズは過敏になっていた。 それを表に出すのは……貴族らしくないことは重々承知してはいたが。 「そんなこと、嫌ってほど分かってるわ。 アイツ人間じゃないもの」 ついつい返答がぶっきらぼうなものになってしまわずにはいられなかった。 内心後悔しているルイズに、ワルドは首を横に振って見せた。 「違う、そういう意味じゃない。彼の左手に刻まれているルーンだ。 まだよく見ていないから断言は出来ないが……あれはひょっとすると、『ガンダールヴ』のルーンかもしれないんだ」 「ガン…ダールヴ……?」 「そう、『ガンダールヴ』。 かつて始祖ブリミルが使役したと伝えられる使い魔さ」 突然の話に、ルイズは間の抜けた返事をすることしかできなかった。 しかし、呆気にとられたルイズとは対照的に、ワルドは何故か興奮した様子で語る。 そんなワルドの瞳は、鋭いナイフにも似た危険な光を放っていた。 「使い魔は主人と似た性質を持った者が現れる、というのが通説だ。 ……もし彼がそうだとしたら、君はそれだけの力を秘めたメイジということになるんだ」 真面目な顔をして伝説の話をするワルドに、ルイズは段々ついていけなくなった。 ブリミルが使役したとワルドは言うが、例え事実であっても、それは六千年も前の話なのだ。 遡ること六十世紀である。 そんなものが現代に甦りましたと言われてすぐに信じ込むほど、ルイズは信心深くはなかった。 あるいはガリアの神官だったら、泣いて喜ぶくらいのことはしたかもしれなかったが。 「眉唾物ね。 はいそうですかと鵜呑みにできない話なのは、あなたもわかってると思うけど」 「僕は至って真面目だ。以前王立図書館の文献で見たんだ。 」 間断無く断言してきたワルドに、ルイズは言葉に窮する形となった。 気圧された、と言ってもよいだろう。 それくらい、今のワルドは野心に満ちた目をしていた。 「昔の君も、どこか他のメイジ達とは違う空気を纏っていたが、今の君はそれ以上だ。 底知れないオーラが放たれ始めている……。凄まじい力の迸りだ」 「僕とて並みのメイジではない。だからそれがわかる」 興奮を隠しもせずにまくし立てワルドは再びルイズに迫った。 「た、確かにあいつが凄いのは認めるわ。 でも、それはただ単にあいつが凄いのであって、あいつが『ガンダールヴ』だから、ってわけじゃあないんじゃないの?」 焦ったルイズは、方々に視線を彷徨わせながら、その場しのぎをすることしか出来なかった。 だが、そのルイズの言葉に、ワルドは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。 「そうかい? なら、僕はそれを確かめたい。この目でね」 ―――――――――――― 翌日、まだ日がようやく登ったばかりという時に、ワルドは一人廊下を歩いていた。 何事かを秘めたその瞳は深く鋭い色を放ち、道を行く足取りは、目的地に近づいてゆくにつれ重くなっていくばかりだった。 しかし、彼は彼の望むものを手に入れるためにも、その足を止めるわけにはいかなかった。 やがて、一つの部屋の前でワルドは歩を止めた。 それは、『女神の杵』亭で最も上等な部屋であり、昨晩ワルドが借りようとしたが、既に先約を取られていた部屋であった。 その部屋に泊まっている人物の名前をロビーで聞いたとき、ワルドは我が耳を疑うと同時に、やり場のない怒りを感じたものだった。 しかし、幸いにもその怒りが、部屋の中から放たれてくる異様な空気に耐える力をワルドに与えていた。 ワルドは決心するように深呼吸をすると、扉をノックした。 幾ばくかの沈黙の後、やけにゆっくりと扉が開かれ、いつものメイド服に身を包んだ少女が姿を現した。 その少女の姿を見るや、ワルドは心持ち体を仰け反らせてしまう。 昨晩、顔色一つ変えずに盗賊を何人も惨殺した人物……シエスタに、ワルドは苦手意識を感じていたのだ。 「どのようなご用件でしょうか、ミスタ・ワルド」 まさかこんな朝早くからメイドが出てくるとは露とも思っておらず、出鼻を挫かれた形となったワルドだったが、すぐに気持ちを立て直すと、率直に用件を伝えることにした。 「あぁ、朝早くからすまないとは思うが、君の主人に会わせてはもらえないか? まだお休みであるというなら、時間を改めてからまた来るが……」 貴族と平民という関係であるにも関わらず変に下手な口調なのは、自分に自信を持っている証拠か、それとも苦手意識の表れか。 いずれにせよ、貴族特有の傲慢な態度を出さなかったことが功を湊したのか、案外すんなりと取り次いでもらえることが出来た。 入室を許可され、シエスタに続いて部屋に入ったワルドだったが、一歩部屋に足を踏み入れた途端、彼は自分の背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じて硬直した。 部屋に入る前から、その異様な雰囲気に鳥肌を立てていたが、扉の中と外ではその雰囲気の濃さは段違いだった。 重苦しく、絶望的で、息が詰まりそうな圧迫感が全身を包んだ。 思わずそのまま回れ右をして立ち去りたい衝動に駆られるが、雀の涙ほどのプライドで何とか持ちこたえる。 改めて一歩一歩ゆっくりと奥へと進むその足取りは、断頭台への階段を上る囚人のように沈痛だった。 やがて部屋の最奥に至ったワルドを、部屋の主であるDIOが薄い微笑みを顔に浮かべて迎えた。 「これはこれは、子爵。小鳥も目覚めぬ早朝に、一体何のようかな?」 急な訪問に対して、嫌な顔をするどころか、まるで待ちかねていたような口振りである。 「いや、こんな朝でしか話せないこともあるのだよ、使い魔君」 敢えてDIOを単なる使い魔としか認識していない振りをするワルド。 ワルドよりも頭一・五個分は背の高いDIOの視線が、自然と見下ろしたような形であり、 それが段々ワルドの自尊心を刺激し始めたからだった。 再びこの息の詰まるような部屋の空気に飲まれてしまう前に、ワルドは勢いに乗せて話を進めることにした。 「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのだろう?」 「…………?」 単純明快なワルドの問いかけだったが、しかし、DIOは心当たりがないと言わんばかりに眉をひそめただけである。 それらしい反応を返してこないことに、ワルドは焦ったような素振りを見せた。 「『ガンダールヴ』! 君の左手に刻まれているルーンのことだ! 学院長のオスマン氏などから聞かされていないのか?」 あのオスマンなら十分ありうるという事実に、ワルドは言い切ってから気がついた。 本当に知らないのかもしれないと、不安になったワルドだったが、 オスマンの名前を聞いて、DIOはようやく何かを思い出したような顔をした。 「あぁ、『ガンダールヴ』か。 確かにオスマンとやらがそんな単語を口走っていたな。忘れていたよ」 ホッとするとともに、ワルドは少し落胆した。 ルイズも、この使い魔も、伝説の『ガンダールヴ』に対して全く興味を示していないからだった。 自分一人だけが舞い上がっているような錯覚に陥り、非常に気まずい。 「う、うむ。思い出してくれて何よりだ。 ……とにかく君はその腕前を以て、あの『土くれ』のフーケを撃退した。 これは事実だ」 「撃退ときたか、フフフフフ………いや失礼、ハハハ……」 『撃退』という部分を聞いた途端、DIOは何とも面白そうに笑い出した。 その理由が分からないワルドは、おかしそうに笑うDIOに首をかしげるだけだった。 DIOのひとしきりの笑いに区切りを見た後、ワルドは咳払いをした。 「……ゴホンッ。 そこでだ。あの『土くれ』を追い払ったほどの君の腕前に興味が出てね。 実力を知りたいのだ。手合わせ願いたい」 その一言で、笑みを浮かべていたDIOの顔が、見る見るうちに冷たくなっていった。 同時に、ともすればこの場で即座に襲いかかってきそうなほどの敵意が、背後からワルドに突き刺さった。 確認するまでもない、シエスタだろう。 反射で背後を向いてしまわぬように、ワルドは全力を傾けた。 前門のDIO、後門のシエスタである。逃げ場など無い。 「何かと思えば決闘の真似事か……このDIOに対して」 「……その、通り」 血のように赤く、液体窒素のように冷たい瞳がワルドを射抜く。 いつのまにか固く握りしめていた拳が、汗でじっとりと濡れていくのを感じつつ、ワルドはDIOを見返した。 DIOは暫くワルドを睨んでいたが、ふと何かを思いついたような顔をして考え込み始めた。 ワルドにとっては胃に悪い沈黙が続いたが、やがてDIOは顔を上げ、了承の意をワルドに示したのだった。 「うむ、いいだろう。 この決闘は、お互いを深く知る良い機会になるだろうからな」 その時のDIOは、先程の渋い顔とは打って変わった、清々しいものであり、かえって不気味ですらあった。 しかし、何か嫌な予感を感じても、これは自分が選んだ事である。 そうそう容易く裏をかかれるような事態には陥らないだろうと踏んでいた。 DIOの了承を受けて、ワルドは決闘の段取りを伝えた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦でもあったんだ。 中庭に練兵場がある。私はそこで待っているから、準備が整い次第、いつでも来たまえ」 そう言い残して、ワルドはDIOの部屋を後にした。 シエスタの刺すような視線のせいで、部屋を出るまでのわずかな距離がやけに長く感じられた。 やっとの思いで部屋を出て扉を閉めた後、ワルドは知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。 DIOの部屋の中での圧迫感のせいで締め出されていた酸素を、 必死で取り戻すかのようでもあった。 ワルドは呼吸を落ち着かせた後、ひとまずは自分の思い通りに事が運んだことを喜んだ。 DIOと立ち合い、『ガンダールヴ』の力を引き出し、その上でDIOの力の限界をルイズに見せつけるという筋書きである。 だが、彼の画策した決闘劇が、思いも寄らぬ方向へ逸れていくことになるとは、思いも寄らなかった。 二十分後、約束の場所である『女神の杵』亭中庭の練兵場。 そこでワルドの前に立ち塞がることになったのは、メイド服に身を包み、無表情ながらも焦げ付くような闘志を身に纏う、シエスタという少女であった。 「これは……一体どういうつもりだ?」 to be continued……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9457.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十九話「破滅降臨」 破滅魔虫ドビシ 破滅魔虫カイザードビシ 登場 ガリア王国の首都リュティスは、聖戦の開始以来ずっと、大混乱の坩堝に陥っていた。 街には南部諸侯の離反によって、その土地から逃げてきた現王派の貴族や難民が溢れ返り、 それがなくとも国民はロマリア宗教庁より“聖敵”にされてしまったことで震え上がり、 連日寺院に救いを求める始末であった。華の都と呼ばれたリュティスは、たったの一週間で 終末がひと足先に訪れたかのようになってしまったのだ。 王軍もまた、反乱を起こした東薔薇騎士団の壊滅から来るジョゼフへの恐怖心と外国軍への 嫌悪感からほとんどがジョゼフに従っていたが、その士気は最低であった。しかも本日未明に もたらされた、カルカソンヌに展開していた最前線の部隊が怪獣に操られ、その末に全員が 捕虜となって文字通り全滅したという報せによって、これ以上下がらないと思われていた士気が どん底になっていた。――ジョゼフは何も言わないが、怪獣が彼の仕業なのはどう見ても明らか。 つまり、かの王は自分たちですら捨て駒としか思っていないのだ。彼らが今もガリア王軍であり 続けるのは、最早何をしても自分たちの破滅は変わらないのだから、せめて最後まで王家への 忠義と誇りは捨てなかったという体裁は保ちたいという絶望的な願いだけが理由であった。 常識家でただの善人だった宮廷貴族だけは、祖国をどうにか立て直そうと躍起になって いたのだが、そんな彼らでも、東薔薇騎士団の反乱の際に崩壊したヴェルサルテイル宮殿の 一角……美しかった青い壁が今やただの瓦礫の山であるグラン・トロワの無惨な姿を見る度に、 自分たちの仕事が無駄になることを認識していた。 ハルケギニア一の大国、ガリア王国をほんの一週間でこれほどの惨状に変えた張本人である ジョゼフは、仮の宿舎とした迎賓館――語頭に「元」がつくのも遠い未来ではないだろう――で、 運び込んだベッドの上から古ぼけたチェストを見つめていた。それは中が見た目より広くされて いるマジックアイテムであり、幼き頃にはシャルルとかくれんぼに興じていた懐かしい思い出の 品である。 当時のことを思い返しながら、ジョゼフは独りごちる。 「一度でいいから、お前の悔しそうな顔が見たかったよ。そうすれば、こんな馬鹿騒ぎに ならずに済んだのになぁ。見ろ、お前の愛したグラン・トロワはもう、なくなってしまった。 お前が好きだったリュティスは、今や地獄の釜のようだ。まぁ、おれがやったんだけどな。 それでも、おれの感情は震えぬのだ。あっけなく国の半分が裏切ってくれたし、残った奴らも 事実上捨ててやったが、何の感慨も持てん。実際『どうでもいい』以外の感情が持てぬのだよ」 ジョゼフはため息を吐いた。 「何だか面倒になってしまったよ。街を一つずつ、国を一つずつ潰していけば、その内に 泣けるだろうと思っていたが……まだるっこしいから、纏めて灰にしてやろうと思う。 もちろん、このガリアを含めてな。だからあの世で王国を築いてくれ。シャルル……」 そこまでつぶやいた時、ドアが弾かれるようにして開かれた。 「父上!」 顔面蒼白で、大股でつかつかと歩いてきたのは、娘であり、王女であるイザベラだった。 王族ゆかりの長い青髪をなびかせながら、父王に向かって問うた。 「一体、何があったというのですか? ロマリアといきなり戦争になったと聞いて、旅行先の アルビオンから飛んで帰ってきてみれば、市内は大騒ぎ! おまけに国の半分が寝返ったという 話ではありませぬか!」 「それがどうした?」 ジョゼフはうるさそうに、たったひと言で返した。 「……“それがどうした”ですって? わたしには、父上のお考えが理解できませぬ! ハルケギニア中を敵に回しているのですよ!? 王国がなくなるのですよ!?」」 「だから、“それがどうした”と言っているのだ。おれにとっては、誰が敵に回ろうと、何が なくなろうとも、どうでもよいことなのだ」 冷たく突き放したジョゼフに、イザベラはわなわな小刻みに震えた。父に、恐怖を感じているのだ。 ジョゼフはそんなイザベラに、冷めた視線を返していた。ジョゼフは己の娘でさえ、愛した ことは一度もなかったのだ。それどころか、魔法の才に恵まれない彼女に昔の自分の面影を見て、 嫌悪感すら抱いていた。彼女が何かわがままを言う度にそれを叶えてきたが、それは鬱陶しい イザベラの声をさっさと黙らせたいからだけでしかなかった。成長してからもイザベラはその辺の 愚昧な人間と変わりなく、彼女に対して何の評価もしていなかった。 だがしかし、次の瞬間、イザベラは彼の抱いている人物像に反する行動に打って出た。 「父上……どうかお考え直し下さいッ!」 彼女は恐怖心を振り切り、必死な声音でジョゼフに改心を求めてきたのだ。 「何?」 「もう遅すぎるのかもしれませんが……何か変えられるものがあるやもしれませぬ! せめて、 この国の民の命だけは助かるよう便宜を図って下さい! 彼らには何の罪もないではありませぬか!」 その声音には、保身や計算の色はなかった。王になってから散々聞いてきたので、それくらいは 分かる。だからこそジョゼフには信じられなかった。あのわがまま娘が、このようなことを口走るとは。 「……意外な言葉だな。誰からの受け売りだ?」 「ある者より教わりました。間違いは、生きていれば正せると。……わたしは、己というものを 省みたことがありませんでした。そのこと自体、どうとも思っていませんでした。ですが…… その者より教わって以来、そんな自分を変えたいと思うようになったのです」 胸の辺りをギュッと握り締めるイザベラ。その懐には、アスカが置いていったエンブレムの パッチがあった。 「そして父上にも、どうか過ちを正していただきたいのです! このままではどう考えても、 誰もが破滅する結末しか待っていません。それが正しいことのはずがありませぬ! どうかッ! どうか父上、お考え直しを……!」 イザベラの強い訴えを一身に受け……ジョゼフは声を張りながら大笑いした。 「ワッハッハッハッ! ワッハッハッハッハッ!」 「ち、父上?」 「いやはや、おれは本当に人を見る目がないな。お前がそんなに立派な台詞を言う人間に なっていたとは。今の今まで、全く知らなかった。実に驚かされたよ」 ジョゼフの言葉に、イザベラは一瞬表情が輝いた。 「父上、では……!」 だが、ジョゼフから向けられたのは杖の先端だった。 「え……?」 「だが、それもやはりどうでもよいことだ。おれは何も変えるつもりはない。お前が『正しい』と 思うことをしたいのなら、今すぐにここから出ていくことだな。さもなければ、出来ない身体に なるかもしれんぞ」 イザベラは再び、ガチガチと震え出した。先ほどよりも深い恐怖を、ジョゼフに感じている。 「とっとと去れ。身内を殺めるのはもうやった。同じことを二度やるのは下らんことだ。 だから見逃してやる。従わないのなら……いい加減鬱陶しいので、黙らさなければならんな」 ジョゼフが自分を見逃す理由は、その言葉以外にないのは明白だった。結局、彼は自分の ことをこれっぽっちも愛してはくれなかったのだ。 イザベラはそれがとても苦しく、悔しく、そして悲しかった。感情とともに溢れ出た涙と ともに、この寝室から飛び出していった。 次いで現れたのは、ミョズニトニルン。彼女は集めた情報をジョゼフに報告する。 「死体の見つからなかったカステルモールの件ですが……。どうやら生きているようです。 カルカソンヌで捕虜となった王軍に紛れているとのこと」 「そうか」 「シャルロットさまと接触するやもしれませぬ。何らかの手を打たれた方が……」 「それには及ばぬ」 ジョゼフは首を振った。 「どうしてですか?」 「希望の中でこそ、絶望はより深く輝く。奴らは『おれを倒せるかもしれぬ』という希望を 抱いたまま、ただの塵に還るのだ。そんな深い絶望など、そうそう味わえるものではない。 羨ましいことだ」 最後のひと言は、紛れもないジョゼフの本音であった。 昨晩の事件によって、ロマリア軍はリネン川を渡り、がら空きとなった対岸へと歩を進めた。 しかしそこで進軍は一旦ストップとなった。捕虜の人数把握や整理などの処理に時間が必要 だったからだ。街の半分に陣を張っていた軍団を纏めて捕虜にするなど異例のこと。そのため ロマリア軍も忙殺されているのだ。 しかし進軍の停滞も、持って一日というところだろう。明日にはリュティスへ向けて進撃を 再開してしまうはずだ。リュティスはカルカソンヌの比ではない数の兵が守っているので、 さすがにすぐ激突とはならないだろうが……それでも本格的な戦闘はもう秒読み寸前という ところまで迫っている。それまでにアンリエッタが間に合わなかったらアウトだ。 そんな風にやきもきしているルイズは……才人がラン=ゼロに何か怪しげな特訓をつけられて いるのを目撃した。 「まだだ! まだお前には集中力が足りねぇ! 極限まで精神を研ぎ澄ませッ!」 「おうッ!」 傍から見たら昨日と同じ剣の稽古なのだが……才人の方は何と目隠しをしているのだ。 視界をふさいだ状態で剣を振るうなど、奇行としか言いようがない。 「サイト……あんた何やってんの?」 「その声、ルイズか?」 才人たちは一旦手を止め、才人は目隠しを取ってルイズに向き直った。 「特訓さ」 「それは見たら分かるけど、あんた何で目隠しなんかしてるのよ。いくら何でもそれは危ないでしょ」 「いや、それが必要なんだよ」 とゼロは証言する。 「目隠しが必要?」 「ジョゼフを討ち取るためにな。特に、今はこんな状況になっちまっただろ? だから最悪 今日中にこの特訓を完成させなきゃならねぇんだ。悪いが邪魔してくれるなよ」 「まぁそれはいいけど……昨日は目隠しなんかしてなかったじゃないの。どうしてまたそんな ことを……。昨晩に何かあったの?」 と聞かれて、才人たちはギクリとした。昨夜はタバサと密談していた。そこでカステルモール からの手紙からジョゼフが正体不明の魔法を扱うことを知り、その対策をゼロと話し合ったのだが……。 喧嘩をすることもあるが、才人は仲間であるルイズを信頼している。しかし、ロマリアの 手の者がどこでどうやって盗み聞きしているか分かったものではない。ガリアの者からタバサに 王として名乗り出てほしいと言われているなんて内容、ロマリアは諸手を挙げて喜ぶだろう。 そんなことはさせられない。 だから才人たちは内心ルイズに謝りながら、ごまかすことにした。 「その、何て言うか……これはとっておきの秘策なんだ。決まればジョゼフの野郎はおったまげる こと間違いなしの」 「ああそうだ。念には念を入れてな」 「そうなんだ……」 ルイズは訝しみながらも、才人たちの引きつった顔から何かを察してくれたのだろう。 それ以上追及はしなかった。 「それだったらいいわ。特訓頑張ってね。じゃあわたしはこれで」 当たり障りのないことを言ってルイズはこの場から離れていった。後に残された二人は ふぅと息をつく。 「……それにしても、本当に俺がジョゼフを倒さなくちゃいけないって状況になってきてるな。 姫さまは明日には来てくれるかな……」 「信じるしかねぇな。この心配が杞憂になってくれるのが、一番いいんだけどな……」 と言い合う才人とゼロ。もしアンリエッタが間に合わなかったら、才人がジョゼフの元に 乗り込んで召し捕らなくてはならない。ジョゼフさえ倒せば、ガリア軍に抗戦の意志はあるまい。 戦争を止めるには、とにもかくにもジョゼフ打倒が必要なのだ。 その日の夜……才人から王への即位を止められていたタバサだったが、シルフィードと ハネジローが寝静まった頃に、才人がこっそりと部屋にやってきたのであった。 タバサは驚くとともに、こんな夜更けに才人が一人で自分の元を訪れたという事実に少し 緊張を覚えながら、彼を中に招き入れた。 才人は一番に、こう言った。 「昨日の夜の話……俺、真面目に考えたんだ」 「……え?」 「ほら、タバサが王さまになるって奴」 「それが?」 「やっぱり、正当な王位継承者として、タバサは即位を宣言すべきだ」 昨日とは正反対の言葉に、タバサは顔を曇らせた。 「ロマリアに説得されたの?」 「違う。自分で考えたんだ。どうすれば、この戦は早く終わるのかなって。やっぱり…… これが一番だと思う」 そう才人は語る。 「ロマリア軍が遂に川を渡っちまっただろう? それで、ガリア軍の総攻撃も始まるらしいんだ。 そうなったら、ほんとに地獄のような戦になっちまう。姫さまの帰りを待っている暇はもうないんだ。 だからタバサ……どうか頼む。みんなを救うために」 と説得する才人に、タバサは……。 「……誰?」 「え?」 「あなたは、誰?」 疑問で答えた。手を伸ばし、杖を手に取る。 「な、何言ってるんだよ。俺が誰かなんて……どうしてそんな変なこと聞くんだ?」 顔が引きつりながらも聞き返す才人に、タバサは言い放った。 「あの人だったなら……仲間のことを信じない選択は取らない」 アンリエッタも才人の大事な仲間だ。彼女が待っていてほしい、と言ったならば、才人は ギリギリまで待ち続ける。仲間を信頼しているから、絶対にそうするはずだ。 それが、ゼロたち仲間とともに戦い、成長してきた才人という人物だと、彼を熱く見守って いたタバサには分かるのだ。 「そ、それは、俺にも事情が……」 もごもごと言い訳する『才人』に、タバサは決定打となるひと言を投げかけた。 「ゼロの声を聞かせて」 その途端、『才人』は身を翻して逃げ出そうとした。タバサはその背中にディテクト・ マジックを掛けた。やはり魔法の反応があったので、氷の矢を背に放った。 みるみる内に『才人』の身体はしぼんで小さくなっていき……いつかの任務で自分も 使ったことのあるスキルニルの正体を晒した。血を吸わせた対象の姿に成り切る魔法人形だ。 ロマリアの手の者が、密かに才人の血液を手に入れ、自分を利用するために差し向けて きたのだ……と分析したタバサは、拾い上げた人形を握り潰した。その瞳には、強い怒りが 燃えていた。 「しまったなぁ……。失敗してしまったか」 才人に化けさせたスキルニルがいつまで経っても戻ってこないことで、事の次第を把握した ジュリオはやれやれと頭を振っていた。 「恋は盲目と言うから、あの聡い彼女も騙せると踏んだんだが……ぼくとしたことが読み 違えてしまったな。聖下に何と申し開きをしたらいいか……」 うーん、と腕を組んでうなるジュリオだったが、すぐにその腕を解いた。 「でもまぁ、最終的に彼女が王位に就けばそれでいいんだ。そうすれば後は何とかなる。 幸い軍は渡河に成功してるし、後はどんな形でも、ジョゼフ王を王座からどかすだけだな……」 と算段を立てるジュリオ。聖地奪還のためにあらゆる手を投げ打つ彼らは、一度のミスで その陰謀に歯止めを掛けるようなことはしないのだ。 翌日、タバサはロマリアに聞かれることを承知で、昨夜のことを才人とルイズに知らせた。 どうせこれを仕組んだのもロマリアなのだから、聞かれたところで構いやしない。 「何だって!? 俺の偽者を、あいつらが……!?」 スキルニルの仕組みを聞いた才人は、ジュリオのフクロウが自分の頬をかすめたことを 思い出した。 「あの時だな……! くっそ! 分かっちゃいたが、あいつらほんとに手段を問わねぇな……! 油断も隙もねぇ……!」 「ほんとなのね!」 「パムー!」 才人も憤慨していたが、シルフィードとハネジローはそれ以上にカンカンであった。 「おねえさまにこんな汚い手を使って! 絶対に許せないのね!」 「確かに、ロマリアのやり口は本当に卑劣極まりないものだけど……」 ルイズも怒りを覚えながら、タバサのことをじっとにらんだ。 「どうしてロマリアは、才人の姿ならあんたが言うことを聞くと思ったのかしら」 タバサはサッと顔をそらした。ルイズが追及するより早く、タバサは話題をそらした。 「今は、このことはもういい。それより、これからどうするか」 「それだったら、遂に朗報が来たんだよ!」 才人がウキウキしながら言った。 「今朝方に、姫さまがガリアに到着したって報せが届いたんだ。なぁルイズ?」 「ええ。きっと今頃はジョゼフのところに面通りをしてるでしょうね。後は姫さまの交渉が 上手く行くのを祈るばかり……」 とルイズが言った矢先に、窓から差し込んでくる日差しが急に途切れ、部屋の中がやおら 暗くなった。 「ん? 急に暗くなったな。もう夜か?」 そんなまさかな、と才人が自分に突っ込みながら窓の外を覗き込んで、すぐに顔をしかめた。 「何だ、この空模様……。こんな曇り空、見たことないぞ……」 見渡す限りの空が、厚い雲に閉ざされているのだ。急に夜が来たかのように暗くなったのも そのせいだ。しかしあの曇り空は、何かが変だ……。 ルイズたちも奇妙に空を見上げていると、ゼロが叫んだ。 『あれは雲じゃねぇッ!』 「え?」 『あれは……怪獣の群れだッ!』 「!?」 ギョッとする才人たち。才人がゼロの力を借りて遠視すると……雲に見えたものが、体長 六十サントほどもある虫型の怪獣の集まりであることが分かった。 「ほ、本当だ! けどあの量……一体何万、いや何億匹いるんだよ!?」 才人は戦慄していた。普通の虫よりもずっと大きいとはいえ、一匹一匹は一メイルにも 満たないサイズ。それが、広大な空を埋め尽くしているのだ! しかも虫の群れの各部が変形して、虫の塊がいくつも地上へと降ってくる。その塊は形を 変えていき……一つ目の異形の巨大怪獣となってカルカソンヌの中に侵入してきた! 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 虫型怪獣の名前はドビシ。それらが融合して巨大怪獣と化したものは、カイザードビシという! カイザードビシの群れの光景に、才人たちはアンリエッタの交渉がどのような結果になったのかを 自ずと察した。 「ジョゼフの野郎……とうとうやりやがったなッ!」 ゼロが懸念した通りに、才人がジョゼフを討ち取らなくてはならない状況となってしまったのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9156.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十話「白炎の超獣地獄」 ミサイル超獣ベロクロン 一角超獣バキシム 蛾超獣ドラゴリー 登場 年末のウィンの月の第一週、マンの曜日に、アルビオン大陸がもっともハルケギニア大陸と接近する。 その日に、トリステイン・ゲルマニア連合軍がいよいよアルビオンへ向けて出撃をするのだ。 既に魔法学院の男子生徒は軒並みトリステイン軍に従軍し、学院にいるのは一部教師と女子生徒、 ルイズの使い魔の才人という状態。 その才人とルイズもまた、連合軍出撃の日に学院から出立する予定だ。タルブ村から持ち帰り、 コルベールに修復してもらったゼロ戦で艦隊と合流することになっている。 が、しかし……その寸前となったところで、またしても彼らに侵略者の魔の手が襲い掛かる。 「アニエス……食堂の状況はどうなってるの?」 現在本塔を、魔法学院に駐留している十人ばかりの銃士隊が取り囲んでいる。本塔の食堂の入り口前では、 ルイズがアニエスに内部の状況を尋ねかけた。 先ほどまで寝静まっていた魔法学院の静寂は、突如として破られた。どこからともなく現れた メイジの一団が侵入し、学院を襲ったのだ。間違いなく、アルビオンからの刺客。彼ら侵入者は 瞬く間に残っている女子生徒たちや教師を捕らえ、食堂に集めて立てこもってしまった。 アニエスたち銃士隊と難を逃れたルイズ、才人はたった今、人質を奪い返そうとしているところである。 「学院の人間は、ここにいる我々と平民を除き全員人質として囚われてしまったようだ。 今のところ、賊は危害を加えていないようだが、それもいつまで続くものか分からん。 早急に手を打たねばならんな。……まずは賊と交渉を行う」 「アニエス、頼んだぜ」 学院の仲間の命の危機に、ルイズも才人も彼らの身を案じていた。二人に託されて、アニエスは 閉じた入り口から大声で中へ呼びかける。 「聞け! 賊ども! 我らは陛下の銃士隊だ! 我らは一個中隊で貴様らを包囲している! 人質を解放して投降しろ!」 はったりをかまして脅すが、食堂に立てこもる賊には通用しなかった。 「投降? 今から楽しい交渉の時間ではないか。さて、ここにアンリエッタを呼んでもらおうか」 「陛下を?」 「そうだ。とりあえず、アルビオンから兵をひくことを約束してもらおう」 賊の要求について、才人がルイズに小声で尋ねる。 「兵をひくって……今更できるのか?」 「普通なら、ないわ。でも、今は貴族の子女が何十人も人質にされてる。さすがに無視することは出来ないでしょうね」 アニエスが返答につまっていると、賊は怒鳴って急かす。 「五分で決めろ。アンリエッタを呼ぶのか、呼ばぬのか。五分たっても返事がない場合、一分ごとに一人殺す」 現在、賊に圧倒的有利な状況だ。時間もない。アニエスは判断に迷って、唇を噛み締める。 その時、誰かがアニエスを呼んだ。 「アニエスくん」 アニエスたちが振り返ると、コルベールが呆然とした様子で食堂をながめていた。 「先生! 捕まらなかったんですか」 「わたしの研究室は、本塔から離れているからね」 才人に、食堂をにらみつけながら答えるコルベール。更に、この場に二人の人間が追加される。 「はぁい、みんなそろって。大変なことになっちゃったわね」 キュルケとタバサだ。 「あんたたちも無事だったのね」 「タバサが異常にいち早く気づいてくれたお陰でね」 ルイズに返すと、キュルケはアニエスに申し出る。 「ねえ、銃士さん。あたしたちにいい計画があるんだけど……」 「計画?」 キュルケとタバサは、皆にその計画というものを伝えた。聞き終えたアニエスは、にやっと笑う。 「面白そうだな」 「でしょ? これしかないと思うのよね」 「確かに、いい計画ね。時間もないし、早速取り掛かりましょう」 ルイズたちは賛同するが、ただ一人だけ、コルベールは反対した。 「危険すぎる。相手はプロだ。そんな小技が通用するとは思えん」 「やらないよりはマシでしょ。先生」 キュルケが軽蔑を隠さずに切り捨てた。アニエスなどは、コルベールをはっきり無視している。 「あいつらはあたしたちメイジが他にいることを知らないわ。奇襲のカギはそこよ」 キュルケたちがコルベールを置いて、計画に取り掛かる。才人は若干コルベールに引け目を感じたが、 それでもルイズの後に続いていった。 食堂の内部では、中央に人質の生徒や教師、オスマンたちが後ろ手を縛られた状態で集められていた。 その周囲を賊が取り囲む。 その内、恐怖に耐え切れなくなったか、女子生徒の一人が泣き出した。その途端に、賊のボス、 “白炎”の二つ名を持つメンヌヴィルがギロリと濁った白眼をそちらへ向ける。 「静かにしろ」 と命ずるが、生徒は泣き止まない。そのためメンヌヴィルは近づき、杖を突きつけた。 「消し炭になりたいか?」 メンヌヴィルが本気だということが伝わり、女子生徒はひきつけを起こしたように泣き止んだ。 すると見かねたかのように、オスマンが口を開く。 「あー、きみたち。か弱い乙女に乱暴を働くものではないよ。交渉のカードが欲しいのならば、 このおいぼれだけにして、他の皆は解放してくれんかね」 と呼びかけると、メンヌヴィルは明らかに馬鹿にしたように笑い飛ばした。 「馬鹿を言え。じじい一人のために、アンリエッタが動くか。自分の価値を考えろ」 更に、こんなことまで言い出す。 「それに、人質は一人たりとも欠かす訳にはいかんのだ。オレのためにな」 「何? それはどういうことかね?」 賊の一人がメンヌヴィルを諌めようとする。 「隊長、それを今言うのは……」 だがメンヌヴィルは耳を貸さない。 「何、構わんだろう。遅かれ早かれ、こいつらは焼け死ぬのだからな」 そのひと言で、食堂内の人質は一気に騒然となった。メンヌヴィルは部下に脅しを掛けさせ、黙らせる。 「……どういうことかね? わしたちを人質に、兵をひかせるのではないのかね。殺してしまったら、 逆効果になることが分からんのかね?」 メンヌヴィルの真意を図りかねて問うオスマン。それに、メンヌヴィルは嘲笑を浮かべながら答えた。 「それはアンリエッタを呼び出すための方便さ。今回のオレの雇い主は最高なお方でね、 オレに魔法学院を中心に、好きな人間を好きなだけ焼いて構わないとおっしゃってくれたのだ。 せっかくの機会、ここのガキどもでは飽き足らん。一度国家元首を焼き殺してみたいと思っていたのだ」 さぞ楽しいことであるかのように、愉悦の笑みを満面に浮かべるメンヌヴィル。それを見て、 オスマンは彼の精神の正常を疑った。 「……きみは、そんなに人殺しが好きなのかな?」 メンヌヴィルは、自身に一切の疑問を挟むことなく肯定する。 「ああ、そうだ。あの肉の焼ける音と、人間が発する断末魔こそが、オレの心を何より癒してくれる。 オレにとっては何よりの享楽なのだ。早く、お前たちの死に際の鳴き声を聞いてみたい。二十年前のあの村以来、 久しく聞いていない絶叫の合唱をな」 何人かの女子が、メンヌヴィルの狂気に当てられて気を失った。だがメンヌヴィルは自分の世界に すっかり没頭し、一人語りを続ける。 「一番焼いてみたいのは、あの時の隊長どのなのだがなあ。所在が全然掴めんせいで、呼び出すことも出来ん。 隊長どのは今どこで何をしてるのやら。まだ生きているといいのだがな」 オスマンはもう、メンヌヴィルの言葉を聞いていない。アルビオン、ひいては裏にいる侵略者の意図を考えている。 メンヌヴィルが異常者であることはもう分かった。しかし、侵略者は何故こいつを送り込んで、 好きに殺戮を行わせようとしているのだ? 人質を取って連合軍の出撃を止めさせるのならば分かる。 しかし、殺してしまったら貴族たちの怒りを買い、ますます戦意を向上させてしまうのではないか。 戦争を煽るのが目的なのか? 仮にそうとしても、どうしてこんな回りくどいことをする。 戦争を起こしたいのならば、そちらから攻める方がずっと手っ取り早いはず。何故こちらの進軍を待っているのだ。 もしや……何としても連合軍をアルビオンに誘き出すのが目的か? だが、それにどのような 意図を抱いているのだ? 「五分たったぞ」 時計の針が動き、最初の要求から五分が経過したことを知らせた。メンヌヴィルは本当に、 人質を殺すために立ち上がる。生徒たちが震え上がる。 「わしにしなさい」 オスマンが言うが、メンヌヴィルは拒否する。 「あんたは交渉のカギとして必要だ。おい、誰がいい? お前らで選べ」 人質の間で犠牲者を選ばせる、あまりに残酷な質問。唖然として、誰も答えられない。 「わかった。じゃあオレが選ぶ。恨むなよ」 とメンヌヴィルが言った瞬間に、食堂に小さな紙風船が飛んできた。場違いな物体に、賊の視線が集まる。 その瞬間に紙風船は爆発。激しい音と光を放つ。中にはたっぷりと黄燐が仕込まれていたのだ。 これがタバサとキュルケの考えた作戦。紙風船で視線を集め、その瞬間に閃光で賊の目を 潰してしまおうという魂胆だ。 果たして作戦は成功し、賊のメイジが顔を押さえてうずくまった。 「うおおおおおッ!」 そして窓と扉を破り、才人やキュルケ、タバサ、アニエス、銃士らが飛び込む……そうしようとした。 しかしその瞬間に、才人たち全員に炎の弾が何発も飛んできた! 炎の弾は油断していた 才人たちの寸前で炸裂し、その際の衝撃で返り討ちにした。 「がはッ!?」 「サイト!」 直接の魔法攻撃ではないので、才人もデルフリンガーで吸い込めずに弾き返される。ルイズが声を荒げた。 「くッ……」 扉から飛び込もうとしたキュルケは、外に弾き出された際の衝撃で立ち上がることが出来なかった。 タバサは近くで、頭を打って失神している。 硝煙の中からメンヌヴィルが現れ、キュルケの前にそびえ立った。キュルケは落とした杖を 拾おうと手を伸ばすも、メンヌヴィルに踏みつけられてしまった。 「おしかったな……。光の弾を爆発させて視力を奪うまではよかったが……」 「どうして……」 どうしてメンヌヴィルだけ平然としているのか。その答えはすぐに分かった。メンヌヴィルの眼球には、 生ものの質感がない。作り物の飾りであった。 「オレは昔、目を焼かれていてな。光がわからんのだよ」 「じゃあ、どうして……」 目が見えないのならば、メンヌヴィルの正確な魔法攻撃はどういうことか。音の方向で 判断したにしては精密すぎる。 それについて、メンヌヴィルはこう説明した。 「蛇は、温度で獲物を見つけるそうだ。オレは炎を使ううちに、随分と温度に敏感になってね。 距離、位置、どんな高い温度でも、低い温度でも数値を正確に当てられる。温度で人の見分けさえつくのさ」 戦慄するキュルケ。火のメイジは数いれど、そんな人間がいるなんて話は聞いたことさえない! 「お前、恐いな? 恐がってるな?」 メンヌヴィルはキュルケの恐怖の感情を読み取って、愉悦に顔を歪めた。 「感情が乱れると、温度も乱れる。なまじ見えるより温度の変化はいろんなことを教えてくれる」 絶望的な状況下のキュルケに、メンヌヴィルはおもむろにメイスを兼ねた杖を向けた。 「嗅ぎたい。お前の焼ける香りが、嗅ぎたい」 杖から炎が噴出する。キュルケに打つ手は全くなく、覚悟して目をつむった。絶対的強者の 立場にあるメンヌヴィルの炎を、もう止めることは出来ない。 そう思われたが、メンヌヴィルの炎を、別の炎が押し戻した。それを肌で感じて、恐る恐る 目を開けるキュルケ。彼女が見たものは、 「……ミスタ?」 「わたしの教え子から、離れろ」 杖を構えて、自分の横に立つコルベールの姿であった。 その瞬間に、メンヌヴィルの様子が一変する。興奮し出したのだ。 「おお、お前は……。お前は! お前は! お前は!」 その時に、塔の外壁を回り込んで、アニエスとルイズに肩を貸してもらっている才人が ほうほうの体でやってきた。どちらも、メンヌヴィルの様子を訝しむ。 「何あいつ? 急にどうしたのかしら?」 「先生を向いてるようだけど……」 メンヌヴィルはルイズたちが来たことにも構わず、コルベールにのみ意識を向けていた。 「捜し求めた温度ではないか! お前は! お前はコルベール! 懐かしい! コルベールの声ではないか! まさかこんなところにいようとは!」 コルベールは固い表情のまま、メンヌヴィルをにらんでいる。 「オレだ! 忘れたか? メンヌヴィルだよ隊長どの! おお! 久しぶりだ!」 「貴様……」 「何年ぶりだ? なあ! 隊長殿! 二十年だ! そうだ!」 隊長殿? 誰もがコルベールとメンヌヴィルの関係を掴めない。あの温厚なコルベールと、 狂人メンヌヴィルとの接点を誰が想像できるだろうか。 「先生、どういうこと……」 才人のひと言を聞き止めて、メンヌヴィルは大笑いする。 「なんだ? 隊長殿! 今は教師なのか! 貴様が教師とな! いったい何を教えるのだ? “炎蛇”と呼ばれた貴様が……、は、はは! はははははははははははッ!」 散々笑った後、メンヌヴィルは場の全員に聞こえるように語った。 「説明してやろう。この男はな、かつて“炎蛇”と呼ばれた炎の使い手だ。特殊な任務を行う隊の 隊長を務めていてな……、二十年前は、ダングルテールという地方で女子供構わずに焼き尽くしたものよ。 そしてオレから両の目を……光を奪った!」 アニエスに、ルイズたちに衝撃が走った。 「う、嘘でしょう!? じゃあ先生が、アニエスが追ってた仇……!」 「先生が、まさかそんな……!」 現在のコルベールの姿と、アニエスが語ったような無慈悲にダングルテールを焼き払った 男のイメージは全く一致しない。 しかし……才人たちはすぐに、今のコルベールの纏う空気で、それが真実であることを理解させられた。 今のコルベールは、誰の目からも分かるほどの濃厚な殺気が、全身から発せられているのだ。 戦いを知らない者では絶対に出すことの出来ない殺気。 コルベールが突き出した杖の先端から、華奢な体格とは正反対の巨大な炎の蛇が躍り出た。 蛇は復活したメンヌヴィルの部下の杖を一瞬で灰に変えた。 呆然と自身を見上げるキュルケに、コルベールが尋ねる。 「なあミス・ツェルプストー。『火』系統の特徴をこのわたしに開帳してくれないかね?」 「……情熱と破壊が、火の本領ですわ」 「情熱はともかく『火』が司るものが破壊だけでは寂しい。二十年間、そう思ってきた」 コルベールは、いつもの声でつぶやいた。 「だが、きみの言う通りだ」 そう言った時に、コルベールとメンヌヴィルの決闘が始まった。 メンヌヴィルの発した炎と、コルベールの発した炎が相殺されて激しく爆発を起こす。 その瞬間にキュルケはタバサを抱えて走り出すが、食堂に潜むメイジが氷の矢で追撃する。 「させるかッ!」 そこに飛び込む才人。デルフリンガーで氷の矢を全て消し去る。そしてルイズとアニエスとの連携で、 メンヌヴィルの部下をたちまち殲滅した。ガンダールヴの力の前では、一端のメイジがたかだか十数人程度、物の数にならない。 しかし、そんなガンダールヴでもコルベールとメンヌヴィルの決闘には立ち入ることが出来なかった。 他の誰もが、二人を仇とするアニエスでさえ同じだ。それほどに激しい戦いであった。 火と火がぶつかり、二人のメイジが夜の闇に舞う。この苛烈な決闘と比べたら、かつての 才人とギーシュの決闘など子供のままごとに等しいだろう。 「隊長殿! 二十年前、あんたの炎に惚れ込んだオレはあんたを焼こうとして、負けた! オレの炎は負けた! しかし、今は違うぞ! 今のオレの炎は、昔とは比べものにならないものと なったのだ! 今度は、オレがあんたの肉を焼く番だ!!」 豪語するメンヌヴィル。実際、メンヌヴィルの炎はコルベールに劣らぬほどで、かつ状況はメンヌヴィルに 有利であった。夜の闇はコルベールの視界を制限するのに対し、温度でものを見るメンヌヴィルに そのハンデは存在しない。少しずつ、コルベールが押されていく。 「どうした! どうした隊長殿! 逃げ回るばかりではないか! うわはははははは!」 メンヌヴィルはその利点を活用して、闇の中を動き回る。コルベールはなかなか手出しできずに駆け回る。 その内に、身を隠すものが何もない野原まで誘き出された。 「最高の舞台を用意してやったよ、隊長どの。もう逃げられない。身を隠せる場所もない。観念するんだな」 コルベールから、闇の中のメンヌヴィルの姿は見えない。メンヌヴィルはコルベールの姿がはっきり見える。 絶体絶命の状況下で、コルベールは口を開く。 「なあメンヌヴィルくん。お願いがある」 「なんだ? 苦しまずに焼いてほしいのか? なに、あんたは昔馴染みだ。お望みどおりの場所から焼いてやるよ」 落ち着き払った声で、コルベールは言った。 「降参してほしい。わたしはもう、魔法で人は殺さぬと決めたのだ」 「おいおいボケたか? 今のこの状況が理解できんのか? 貴様のどこに勝ち目があるってんだ」 「それでも曲げてお願い申し上げる。このとおりだ」 コルベールは膝をついて頭を下げた。メンヌヴィルは軽蔑しきった声を上げる。 「オレは……、オレは貴様のような腑抜けを二十年以上も追ってきたのか……、貴様のような、能なしを……、 許せぬ……、自分が許せぬ。じわじわと炙りやいてやる。生まれてきたことを後悔するぐらいの時間をかけて、指先からローストしてやる」 「これほどお願いしてもダメかね」 「しつこいヤツだな」 メンヌヴィルは呪文を唱える。対してコルベールは哀しそうに首を振り、杖を振って小さな火炎の球を打ち上げた。 「なんだ? 照明のつもりか? あいにくとその程度の炎では、辺りを照らし出すことなど適わぬわ」 メンヌヴィルの言う通りであったが、火炎の球は照明などでは断じてなかった。 メンヌヴィルを確実に殺す兵器であった。 火が二つに、土が一つ。『錬金』により空気中の水蒸気を気化した燃料油に変え、空気と撹拌する。 そこに点火して、火球を一気に膨れさせる。巨大化した火球はあたりの酸素を燃やし尽くし、範囲内の生き物を窒息死させる。 それが『爆炎』と呼ばれる、必殺の攻撃魔法だ。 「がッ……!」 呪文を詠唱するため口をひらいていたメンヌヴィルは、灰の中の空気を全て奪われて、窒息した。 背後に倒れ、全く動かなくなった。 口を押さえて身を伏せていたコルベールは身体を起こした。 「蛇になりきれなかったな。副長」 「先生ー!」 『爆炎』が収まると、才人とルイズ、キュルケが駆け寄ってくる。あらかじめ、唇の動きで絶対に近づかないように 指示しておいたのだ。目が見えないメンヌヴィルは、微細な動きまでは気づくことが出来なかった。 「良かった、勝てたんですね」 才人は興奮しているが、コルベールは反対に沈んでいた。 「良くはない。結局、わたしは自身に掛けた禁を破ってしまった」 「……仕方ないですよ、相手が相手だったんです。それより、問題はアニエスのこと……」 ルイズが言及しようとした、その時、 「ははははははははははッ!」 突然、窒息死したはずのメンヌヴィルから笑い声が発せられた。コルベールはギョッと驚き、ルイズたちをかばう。 「さすがだ、隊長殿! ものの見事に出し抜かれた! 腑抜けといったのは取り消そう! あんたはオレよりずっと優秀な蛇だ!」 メンヌヴィルはゆっくりと身体を起こす。確実に生きている。 「馬鹿な! 確かに窒息した。今ので、人間が生きていられるはずが……!」 「『人間』はな! だが残念なことがある。さっき言っただろう。オレの『炎』は! 『昔』とは 『比べものにならないもの』になったのだと!」 メンヌヴィルが言外に語ることを察して、コルベールはまさか、と思った。 「人間の戦いは、残念ながらオレの負けだ。だが、これからが本番なのだ! 次は絶対に負けんぞッ! さぁ、来るがいい! 依頼主から授かった、究極の『炎』よ! この地を全て焼き尽くそうではないか!」 「グロオオオオオオオオ!」 メンヌヴィルが豪語すると、不意に獣の凄まじい鳴き声が響いた。ルイズたちはその方向を見上げ、驚愕する。 「か、怪獣が! いつの間に、こんなに近くに!?」 何と、魔法学院のすぐ側、一同のすぐ近くに、濃紺の巨体と後頭部、肩、背面にビッシリと 突起を無数に生やした巨大生物がそびえ立っていた。ルイズは怪獣と呼んだが、それを才人が否定する。 「ち、違う! あいつはヤプール人の生み出した怪獣兵器、怪獣を超えた怪獣……超獣だ! 超獣ベロクロン!」 ベロクロンにだけ驚いてはいられなかった。唐突に、夜空の一部がバリ―――ン! と 音を立てて粉々に『割れた』のだ。 「は、はぁッ!? 空が……割れた!? どういう現象!?」 魔法世界のハルケギニアといえども、『空を割る』ことは絶対に不可能。ルイズたちメイジは訳が分からなくなる。 「ギギャアアアアアアアア!」 そして割れた空の向こうに見える真っ赤な空間には、一本角を生やしたオレンジと青の体色が 派手な超獣が存在し、割れた空から地上へ降り立った。 「あいつは……超獣バキシム!」 「ギギャアアアアアアアア!」 相当の重量級なのか、バキシムが歩いた部分は地面が足の形に陥没した。 「ギョロロロロロロロロ!」 またも空が割れ、蛾と肉食獣とロケットを足したような巨大生物が出現する。これで三体目だ。 「超獣ドラゴリー! 何てこった……!」 戦慄する才人。魔法学院は一瞬の内に、三体もの超獣に囲まれてしまった! 『行けぇッ! 超獣たちよ! 人間どもを焼き払えぇッ!』 異次元空間では、メンヌヴィルの要請でハルケギニアに解き放たれた超獣たちに、ヤプール人が指令を飛ばしていた。 『クックックッ、人間どもめ、我らヤプールの誇る生体兵器、超獣に腰を抜かしているようだな。 しかし、これで終わりではないのだぞ』 ほくそ笑むヤプール。その後方には、巨大な人型の何かが直立していた。 『ウルトラマンゼロよ、早く出てくるといい。その時にこいつを送り出してくれる。貴様と我らの傑作、 異次元超人とどちらが強いか、確かめさせてもらうぞッ!』 ヤプールの背後の、戦国武将の兜の如き頭部と左腕に巨大なハサミを持った巨大超人が、緑色の両眼に光を灯した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1850.html
「散々、とはいかないまでも、あまり良い出来ではなかったね」 ため息をつきながら、桃色の少女がけだるげに二人の男に話しかけていた。 ここはトリステイン学院の女子寮。ルイズの部屋である。 時刻はすでに夜半を過ぎている。このとき、ルイズとその使い魔たちは先ほど行われた『使い魔の品評会』の反省会をしていた。 結果から言おう。ルイズの品評会はあまり好評を得られなかった。 結局、ルイズたちの演目は、ブチャラティが舞台会場に出て、挨拶をするという、至極単純なものであった。 そのときブチャラティはトランプを使った簡単な手品を披露したが、はっきり言って地味であった。 しかも、その次に出演した使い魔がタバサの巨大な風竜であった から、会場の雰囲気は完全にタバサとられてしまった。ちなみに、今回の品評会の優勝はタバサとその使い魔、シルフィードであった。 「でもいろいろな幻獣が見れた僕としては、メチャ有意義だったぞ」 露伴が今日スケッチした奇怪な動植物の群れを眺めながら言った。この男は、心底上機嫌である。 品評会のときは衛兵の邪魔もなく、思う存分使い魔達の取材ができたようであった。 「特に恥はかかなかったけれど、ヴァリエール家としては失格ね。エレオノール姉さまが会場にいなくて本当によかったわ。でも、なんか引っかかるのよね…… 何か忘れてるような……」 ルイズは腕を組みながら、部屋中を歩き回っていた。 「嬢ちゃん、自分の使い魔が『人間の平民』だってことが皆に大公開されちまったわけだが、 嬢ちゃんの言いてーことはそーいうことか?」 「そうよ! そうだわ! よりによって姫様に……」 ルイズの顔が一転して蒼白になる。 彼女の顔から尋常ではない汗が流れ始めている。彼女の目元は暗く、低い声で発せられる独り言は何かの高等な呪文のようにも聞こえた。 「もうダメよ姫様に嫌われてしまうもう合わせる顔がないわそれにヴァリエールの家にも使い魔のことが知られてしまうわエレオノールの姉さまや母様達にどんなことを言われるか最悪学院を退学させられるかもうんきっとそう……」 「でも、使い魔といってもあまりすげぇのはいなかったよな! ブチャラティ!」 「えぇ? あ、ああ。逆にモグラとかフクロウとか微妙なものが多かったな! なあ、デルフリンガー」 ルイズの呪詛がぴたりとやむ。彼女はゆっくりと使い魔たちに振り返った。 その顔はなぜか幽鬼のように青白い。 「……そう?」 「そうだぜ! それとオレのことはデルフって呼んでくれ! ブチャラティもな!」 「……そう。ありがとう、デルフ。 それに所詮使い魔なんてどれも似たり寄ったりね! その中に人間がいたってちっとも不思議じゃないんだから! ……多分」 「今度は一人で笑い始めたぞ……どーすんだ? ブチャラティ」 「露伴、お前も何か言ってくれ……ってこんなとき位スケッチはやめろ……」 十分程経過しただろうか? 彼女はそのような一人わらいを続けた後、大きく深呼吸を始めた。 「済んでしまったことはいまさら後悔しても始まらないわね。 今夜はとりあえず寝て、明日これからのことを考えましょう。 着替えて寝るからみんな外に出て」 「ああ、おやすみ」 ブチャラティは安堵の表情を隠せない様子で返答した。 「じゃ、明日な」 露伴は満足げにスケッチブックを閉じると、デルフをつかんで立ち上がった。 「そーいうことで、しっかりとイイ夢見なよ嬢ちゃん」 彼らが退室すると共に、ブチャラティの手でルイズの部屋のドアが閉じられる。 「今日はものすごく充実したいい日だったな! いい取材日和だった」 「俺は最後にすごく疲れたよ……」 「ロハン、オメー……ある意味すげー尊敬できるぜ」 二人が女子寮の入り口の前でまさに別れようとするとき、物陰から女性の声が発せられた。 「もし……そこにいらっしゃるのはルイズの使い魔殿ではないですか?」 上品だが、声の芯がか細い。それにどこかで聞いたことがある。 「何者だッ?」 ブチャラティは声を低くしてそれに答える。それと同時に、彼は声の主がいると思われる物影から、ルイズの部屋のドアを守りやすいような位置に移動した。 「わたくし、アンリエッタ・ド・トリステインと申します」 物陰から姿を現したのは、はたして、紛れもないトリステイン王女その人であった。 「『ブチャラティさん』でしたわね? このような場です。 身分など気にせず楽にしてください」 「ちょっと待て、ひとつ聞くことがある。なぜ、一国の王女がこんな所にいる?」 露伴の詰問はしかし、王女の次の言葉でとぎられることとなった。 「まあ! あなたはキシベ=ロハン殿ですか? マンガ家の! わたくし、あなたが毎週描かれる『ピンクダークの少年』だけが王宮での唯一の楽しみなのですわ!」 「そ、そうかい。そいつはよかったな……」 王女は露伴に駆け寄り、彼の両手を覆うようにつかみ、畳み込むように話しかけた。 狂信者の目つきで訴える王女の剣幕に、さすがの露伴もたじろいでいる。 その様子さえ気づかず、アンリエッタ王女は握手をするように露伴の両手を上下させ叫ぶように話を続ける。 「ええ! あなたのマンガはとてもすばらしいですわ! 『ブルーライトの少女』もすばらしかったですけれども、やはり『ピンクダークの少年』にかなう娯楽はハルケギニア中、いいえ、エルフの世界を探しても見つかりっこないでしょう!」 「そうか。あ、ありがとう……」 「そんなことより、だ。王女様はなぜこんなところにいる?」 ブチャラティの言葉に我に返ったアンリエッタは、返答より先に自身の杖を振り、『ディテクトマジック』の魔法を唱えた。光の粉が、周囲十メイル程に降り注ぐ。 「……どうやら『監視』は無い様ですね」 王女はホッとため息をつき、初めてまともな笑顔を彼ら二人に向けた。 「どこに目が光っているかわかりませんものね」 「そう…………『監視』…………無いのね」(ニヤリ) 『ヘブンズ・ドアー』!! 次の瞬間、王女は意識を失った。 そのまま地面に倒れかかるが、岸部露伴に体を支えられる。 彼はそのまま王女の『本』を興味深そうに眺めている。 露伴の傍らにいるブチャラティが周囲を警戒をしつつ、相方に尋ねた。 「どうだ、露伴。彼女はルイズにとって安全な存在か?」 「大丈夫だ。こいつに悪意はないらしい。何かに操られているということもない。 ルイズとは気の置けない旧友のようで、今回はルイズに友人として会いにきたようだ。どうやら頼み事があるらしい」 「そうか」 ブチャラティはホッと息をついて警戒を解いた。いいかげんこの学院の雰囲気にもなれないといけないな、と思いながら…… 「なになに……彼氏はいない。 スリーサイズはB84/W59/H85……」 「おい…」 (『キング・クリムゾン』!) 「それ以上は…」 (『キング・クリムゾン』!) 「ちょっと待て…」 (『キング・クリムゾン』!) 「ロハン!」 (『キング・クリムゾン』!)「……それに初めてキスをした時舌を入れられてるぞ」 「 い い 加減 に しろッ!! ロハン!!」 「わかったよ(面白くないやつだな)……『今のことはすべて忘れる』と……」 「聞こえてるぞ…」 その後、意識を取り戻した王女は、先ほど起こった事態にはまったく気づかずに、ブチャラティにささやくように話しかけた。 「ルイズはいますか?」 「ああ、いま寝るために自分の部屋で着替えているところだ」 「では、ブチャラティさん。その部屋まで案内してくださいませんこと? それと、大変申し訳ないのですが…… 今回はルイズと会うために参りました。ミスタ・ロハンは、今回は部外者です。 これ以上はミスタ・ロハンといえども足を踏み入れてほしくないのです」 「わかってる。気にすんなよ、実は僕もルイズの使い魔だ。ここにブチャラティと同じルーンが刻まれてあるだろう?」 そういいつつ、露伴は自分の手の甲に刻まれたルーンを見せ付けた。 ついでに、ブチャラティの腕を引っ張り、同じ紋章をアンリエッタに見せている。 その紋章を見たアンリエッタは目を丸くしている。 「まあ、使い魔が二人も……ルイズは子供のころから一味違う人でしたけれども、彼女はすごい人ですわね」 王女は心底感嘆したような声を発した。そこにはルイズを蔑視するような意思は、まったく見受けられない。むしろ羨望を感じる声の響きだ。 「そのようなことであれば、御二方、ルイズの部屋までご案内くださいまし」 ルイズの部屋に、アンリエッタを連れたブチャラティたちが進入していた。 「すっかり寝てしまっているな……」 ブチャラティは嘆息した。彼がいくらルイズの部屋をノックしてもまったく返事が なかったので、一行はルイズに無断で彼女のの部屋に入っていた。ちなみに、鍵は アンリエッタの『アンロック』の魔法で解除している。 「ルイズは熟睡しちまってるぜ」露伴はめんどくさそうに応じた。 彼女が寝てしまったら、なかなかおきないんですよ。 たたき起こせば起きますがね、僕はやりたくない。 露伴の傍若無人な態度に気にした様子もなく、アンリエッタはなぜか自信たっぷり に応じた。 「ええ、とてもよく知っていますわ」 王女がベッドで寝ているルイズにそっと近づき、耳元でルーン・マジックをそっと囁 いた。 「↑↑↓↓←→←→BA」 「ふにゃ……ヨガファイア……ハッ」 ルイズが突然目覚めた。それも寝ぼけずに、完璧に。 「あれ……姫さま?」 あわててベッドから起き上がるルイズに向かって、感極まったようにアンリエッタが 抱きつく。 「ああ! 私のルイズ! 私の数少ない、心の許せるお友達! 今までどんなに会いたかったでしょう! 今までどんなにお話したかったことでしょう!」 「ひ、姫様、もったいないお言葉にございます」 ルイズは急に抱きつかれたためか、はたまた寝起き姿のまま王女に遭遇したためか、 完全に舞い上がって身体を硬直させてしまっている。 アンリエッタはルイズの首に抱きしめた腕を放さずに感極まったように叫んだ。 「まあルイズ! そのような堅苦しい言葉遣いはおやめになって! わたくしたち、幼いころは人形をとりあって取っ組み合いをした中ではありません の」 「ええ、そうですね。あの時、私は姫様の覇王翔吼拳をおなかに受けて気絶してしま いました」 「それから二人してラ・ポルトの爺にしかられたわね」 ようやくルイズを抱擁から開放したアンリエッタは、それでもルイズの両手を握り締 めながら、慈しみのあふれた眼差しをルイズに向け、微笑んだ。 その笑顔は、先ほど行われた品評会の会場で見せていた笑顔とは似ても似つかぬ、温 かみのあるものであった。ルイズはその表情の中に、安らぎの感情をを感じていた。 ルイズはようやく落ち着きを取り戻し、アンリエッタを王女としてではなく、旧友と して向かいあった。 二人ははにかんだように、在りし日の美しい思い出を振り返っていた。 (王宮の中庭にて……) (「うおおッ! 『人形』はわが手にッ!」) (「ルイズがラ・ポルトから『人形』をGetする方法を見つけたというのなら…… それはそれで利用すべきだわ……」) To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1950.html
11話 校庭に突然現れた巨大ゴーレム。 全長30メイルはあろうかというその巨体の肩には、一人の女が立っている。 この女――フーケは、ほんの数秒前まで校庭の物陰に隠れて盗みの算段を立てていた。 なのにその物陰から出てきたのは、予想もしなかった好機がフーケに訪れたからに他ならない。 その好機とは、宝物庫の外壁に突然出来た無数の亀裂。 ホワイトスネイクの手によって逃れようの無い死に追いやられたラング・ラングラーの死に際の攻撃 ――ジャンピン・ジャック・フラッシュの鉄クズの砲撃によるものだ。 自分では傷一つ付けられないだろうと見積もっていた宝物庫の外壁。 それを突然現れた男が、恐らくは狙ってやったことではないのだろうが、容易く損傷させてしまったのだ。 勿論フーケは驚いた。 だが名うての盗賊として養った判断力が、これが逃さざるべきチャンスであるとすぐに知らせた。 そしてすぐにルーンを唱え、魔法を完成させ、ゴーレムを作り出したのだった。 「・・・・・・何ダ、アレハ?」 ラングラーとの戦いで満身創痍になったホワイトスネイクが呟く。 スタンド使いとの戦歴20年にも及ぶホワイトスネイクにとって、未知なる敵と戦う事は日常茶飯事である。 しかしこれほどまでに巨大で、そして圧倒的なパワーを感じさせる敵と遭遇したのは、これが初めてであった。 「あれは・・・ゴーレムよ」 ホワイトスネイクの呟きに、その近くにいたモンモランシーが答える。 「ゴーレム?」 「土のメイジが作る人形みたいなものよ」 「人形・・・トナルト、ギーシュガ作ッテイタ『ワルキューレ』トヤラと同列ノモノカ?」 「ええ」 「ダガアマリニモ大キ過ギルゾ」 「分かってるわよ、そんなこと! あのサイズ・・・わたしは土のメイジじゃないからよく分かんないけど、ドットやラインじゃきっと無理よ。 少なく見積もっても20、30メイルはあるんだから・・・」 「最低デモ、『トライアングル』ダト?」 「そういうことになるわ。どっちみちわたしたちじゃ無理ね・・・あんたもボロボロだし。 どこかに隠れてる方がよさそうね」 そう言ってモンモランシーは怯えた目でゴーレムを見上げる。 「肩ニ人ガ乗ッテルゾ。アレガ操作シテイルノカ?」 ゴーレムの肩の上に立つ人影を目ざとく見つけたホワイトスネイク。 「乗ってるの? わたしには見えないわよ」 「人間ノ視力デハ無理カ」 「しょうがないじゃない。あんたみたいな化け物じゃないんだもの」 「『化け物』ジャアナイ。『スタンド』ダ」 「どっちにしたって一緒よ。わたしみたいな人間からすれば、あんたは化け物に変わり無いわ」 「『感情的な人間』カラスレバ、カ」 「何ですって!?」 唐突に二人の間の空気が悪くなる。 そのとき―― 「ばばぶばびべぶべ! びびば! びびばぶばぶ!」 未だに水から出してもらえずにいたギーシュが激しく喚きだした。 「あ・・・・・・」 「オ嬢サンガ黙ラセタママデ放ッタラカシニシテオクカラ、今ニモ息ガ止マリソウダナ」 「う、うるさいわよ! あとお嬢さんとか呼ばないで!」 ホワイトスネイクに文句を言いながら、モンモランシーがギーシュに使った水の魔法を解除する。 その途端にギーシュを包んでいた水の塊が、ざばぁっと音を立てて落ちた。 「ゲ、ゲホッゲホ、ッ・・・た、助かったよ、モンモランシー」 「お礼なんていいから! さっさと逃げるわよ、ギーシュ!」 「そ、そうだね・・・ドットの僕じゃあ、あんな馬鹿でかいゴーレムはどうしようもないし・・・」 「そうよ! だから早く隠れるなり何なり――」 「だが断る」 「・・・はぁ?」 ギーシュが言い出したことの意味が分からず、唖然とするモンモランシー。 「このギーシュ・ド・グラモンが最も好むことの一つは、悪党から逃げるという提案に対してNO! と言ってやることだ・・・」 そう言っておもむろにバラの造花、もとい自身の杖を取り出すギーシュ。 そしてルーンを唱えようとしたところで―― ドシュン! どこからともなく飛んできたDISKがギーシュの額に刺さった。 そして差し込まれたDISKは、ギーシュが自分に何が起きているかを理解するよりも早く彼を昏倒させる。 「『命令』スル。1時間寝テイロ」 言うまでも無く、DISKを投げたのはホワイトスネイクである。 「ちょ、ちょっとあんた、ギーシュに一体何したのよ!」 「今カラ1時間寝ルダケダカラ気ニシナクテイイ。ソレヨリ・・・声ヲ出スナ。物音ヲ立テルナ」 そう言ってホワイトスネイクは自分の残り少ないスタンドパワーを、体の底から引きずり出す。 「ソシテ・・・コノ場カラ動クナ」 引き出したスタンドパワーを自分の周囲、半径10数メイルに集中。 そして「能力」を発動する。 まるでそこに誰もいないかのように、風が何者にも遮られずに吹き抜けているかのように。 偽装し、欺き、隠蔽する。 これがホワイトスネイクの能力、その3つ目の「幻覚」だ。 幻覚の対象を見た者の脳そのものに干渉し、 見たもの、嗅いだもの、聞いたもの・・・あらゆるものがホワイトスネイクが望んだものになる。 使いようによっては、記憶を奪い去ることよりも凶悪な能力だ。 ゴーレムの足が、ホワイトスネイクたちがいる場所から20メイルの位置に踏み込む。 ズシン、と地響きが立つ。 人影が立っている場所からなら、すぐにでもホワイトスネイクたちを発見できる状況だ。 人間のモンモランシーでさえ、ゴーレムの肩の上で、月明かりが人型に切り取られているのが分かるのだから。 モンモランシーがごくり、と唾を飲む。 どうか見つかりませんように。 そう願った瞬間、人影が頭をこちらに向けた。 思わず悲鳴を上げそうになるモンモランシー。 その口をホワイトスネイクの、ボロボロの手が塞ぐ。 「モ・・・モガ・・・」 「声ヲ出スナ・・・今ノ私ノパワーデハ・・・声マデモ誤魔化スコトハデキナイ」 塞がれた口でもごもご言いながらモンモランシーが抗議する。 人影はまだこちらに頭を向けている。 だが次の瞬間、人影は何も見なかったかのようにこちらから目をそらした。 それに従うようにゴーレムもまた一歩、地響きを立てながら踏み込んだ。 「見つから・・・なかったの? 思いっきりこっちを見てたのに・・・」 「ソウナルヨウニ私ガシタカラダ」 驚きを隠さないモンモランシーに対し、ホワイトスネイクは淡々と答える。 そうこうしている間にゴーレムは学院の校舎へと辿り着いた。 そしてその太い腕を振り上げると、宝物庫の外壁の、幾つものひびが入った部分に振り下ろす。 ドゴオオオォン! 学院中に響き渡る大きな音と振動を伴って、宝物庫の壁に大穴が開いた。 そして壁をぶち破ったゴーレムの腕の上を人影が素早く走り抜け、校舎に侵入する。 (ナルホド・・・アアシテ盗ミヲヤルノカ。 巨大ナゴーレムハ周囲ノ人間ヲ恐レサセ、ソノ場カラ退避サセル。 ツマリ現場ハガラ空キニナル。 ソコヲ狙ウ・・・トイウワケカ。 随分大胆ナ手口ダ。 ソノ場ニゴーレムヲ恐レナイヨウナ気骨アル者ガイレバ、自分モ危険ニナルノニナ・・・) その光景を見ながら、ホワイトスネイクが思考を巡らす。 やがて、人影が校舎に開いた大穴から出てきた。 その手には大きな黒い箱が抱えられている。 そして人影がゴーレムの掌の上に乗ると、ゴーレムはゆっくりとその巨体を動かし、 ズシン、ズシン、と地響きを立てながら去っていった。 ゴーレムも、人影も、最後までホワイトスネイクたちがそこにいたことには気づかなかった 「っはぁ~~、助かった・・・。」 それを見送って、モンモランシーが声を上げる。 ホワイトスネイクはゴーレムが十分に離れたのを見計らって、地面に横たわっているルイズを揺り動かす。 「マスター、起キロ」 「う、うん・・・・・・ッ! ほ、ホワイトスネイク! キュルケと青髪の子は!?」 意識を取り戻したルイズは、すぐにキュルケたちのことを口にする。 「重傷ヲ負ッテハイルガ、命ニ別状ハ無イ。ラング・ラングラーモ始末シタ」 「そう・・・よかった・・・・・・って、あの不届き者、殺したの!?」 「ソウダ。ソコニ奴ノ死体ガ転ガッテイル」 「・・・そう」 自分の使い魔が人間を殺したという事実を受け止めるルイズ。 そして自分の使い魔がした事を確かめるために、ホワイトスネイクが指し示した方向を見る。 「ッ!!」 凄惨な光景だった。 全身の血を一滴残らず周囲に撒き散らし、さらに全身が押しつぶされたかのようにベコベコになっているラングラーの死体。 そんなホラー映画顔負けのショッキング映像に加え、 ラングラーの血が自分にも降りかかっているのが分かった時には吐き気がこみ上げたが、 幸いにも消化しかけの物をゲロすることはなかった。 この一週間、ホワイトスネイクとのイザコザのために食欲が無かったのが功を奏したらしい。 「・・・あんた、一体何やったのよ?」 やっとのことで、喉から一言搾り出したルイズ。 「『ラングラーの体内気圧を限界まで低下させた』・・・トイウノガ私ノシタコトダガ、 ソレデハ分カラナイダロウカラ気ニシナクテイイ」 「気にするわよ。 ご主人様には使い魔がした事を知る権利があるわ」 「説明シタッテ分カルモンジャアナイシ、ソレニスル時間ナド無イ」 「何よそれ!」 むぅ~~、と唸るルイズ。 それを見て、これはまた険悪になるかな、と思ったホワイトスネイクは、 「起コスカ?」 キュルケとタバサを指し示してそう言った。 「バカ言わないでよ。重傷負ってるんなら起こしちゃダメに決まってるじゃない」 「分カッタ」 ホワイトスネイクは淡白に答える。 そしてそう言って周囲を見回したルイズは―― 「ちょっ、モンモランシー! あんた、何でここにいるのよ!?」 「それはこっちにセリフよ、ルイズ! ギーシュと二人っきりで歩いてたらいきなり変な奴と一緒に壁を突き破って出てきて、それにそれだけじゃないわ! あんたの使い魔、さっき言った奴と殺し合いまでしたんだから! わたし、心臓が飛び出るかと思ったわよ! ギーシュもギーシュであんたの使い魔のことを『あれは騎士だ!』とか訳分かんないこと言って興奮してたし・・・」 「え、ちょっとまって。ギーシュもいるの? あんた浮気されたから絶交だとか何とか言ってたじゃないの」 「一週間も経ったんだから許してあげてもいいかなーって思ったのよ! 別にいいじゃないの! わたしとギーシュの問題なんだから!」 「まあ、それはそうだけど・・・」 少々ヤケクソ気味のモンモランシーの剣幕に押されるルイズ。 ちなみに会話の当事者であるギーシュはまだおねんねの最中だ。 と、そうこうしてるうちに、ルイズはホワイトスネイクに、ものの見事に話をすり替えられたことに気づいた。 「ホワイトスネイク! あんたまだわたしが聞いたことに答えてないわよ!」 「ダカラサッキモ言ッタロウ。私ニハソレヲ説明スル時間ナドナイ」 「何でよ!」 「ラングラートノ戦イノ前ニ言ッタハズダ。 例エ生キ延ビタトシテモ、ソノ後自分デ自分ニ決着ヲ付ケルト」 それを聞いて、ルイズが固まった。 「何・・・ですって?」 「聞コエナカッタノカ? ツマリ私ハコウ言ッテイルノダ。『今から自決する』・・・トナ」 さも当然のように言うホワイトスネイク。 それを見て、ルイズは全部思い出した。 自分を主人と呼びながらも、自分がそれに足らない存在だと見なすかのような態度。 自分よりも優れた判断が出来るとでも言わんばかりの態度。 自分を、主人だと認めていない態度。 忘れていた怒りが、マグマのようにグツグツ煮えたぎった。 そして―― 「・・・の・・・・・・」 「・・・何ダ?」 「・・・・・・この・・・・・・」 プッツンした。 「このバカ蛇ぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」 そう叫ぶが速いが杖を振り上げ、一切の迷い無くホワイトスネイクに向けて振り下ろすッ! ドゴォォォォォン! 「ハグッ!」 至近距離でのルイズの失敗魔法の爆発が、ホワイトスネイクを吹っ飛ばすッ! ルイズ自身も今の爆発で後ろに吹っ飛ばされたが、すぐに起き上がってホワイトスネイクの方へ走る。 「そこをおおおおおお!! 動くなあああああああああ!!」 「何ダトォーーーーーーーーーーーッ!?」 突然ブチ切れた主人の暴挙に激しく混乱しながらホワイトスネイクが悲鳴を上げる。 そしてッ! メメタァッ!! 「ブゲアッ!!」 ルイズの100点満点の飛び蹴りがホワイトスネイクの顔面に炸裂したッ! さらにその蹴りの勢いでホワイトスネイクは3回半ほど後ろ回りをした挙句、校舎の外壁にごつんと後頭部を打ち付けた。 「グオォォッ・・・」 激痛でしゃがみこむホワイトスネイク。 ラングラーとの激戦、さらには限界状態での幻覚の使用。 それら能力と体力の酷使とご主人様の乱行とでホワイトスネイクはヘトヘトに弱りきっていた だがそんな彼に対しても、桃色髪の阿修羅は容赦しなかった。 当然モンモランシーもその光景を見ていたが、ルイズのあまりの凄まじさに何も言えなかった。 阿修羅――もといルイズは、そんな満身創痍を軽く通り越した状態のホワイトスネイクにおもむろに近づくと―― ドグシャアッ! 「ア・・・足ノ・・・小指・・・ヲ!」 口をぱくぱくさせながらホワイトスネイクが頭から崩れ落ちた。 足の小指を全力で、しかも革靴履いた足のかかとで踏みつけられたのだ。 痛いとかどうとかのレベルを超越している。 「この・・・この大バカッ!」 地面に突っ伏して呻いているホワイトスネイクにルイズが罵声を浴びせる。 「そもそも何なのよあんたは! サモン・サーヴァントで出てきてからご主人様差し置いて好き放題じゃないの! 決闘じゃギーシュを殺しかけるし! 自分がスタンドだからとか何とか言って訳分かんないこと言うし! それに、それに自分から死ぬなんて言うし!! あの不届き者と戦ってる時、だって、凄く心配してたのに! わたしがバカみたいじゃないの!! わたしが、わたしがどんだけ、あんたの事を心配したのか分かってるの!?」 ホワイトスネイクは倒れたままの状態でルイズの言葉を聞く。 ホワイトスネイクの今の体勢からではルイズの顔は見えなかったが、ちゃんと分かった。 言葉が途中から切れ切れになり、声が涙混じりになったのも、ホワイトスネイクには分かった。 そしてそれらの言葉の中の一つの単語が、ホワイトスネイクの胸中に響いた。 心配。 スタンド本体の力そのものであるスタンドたるホワイトスネイクにとって、それは全く縁の無い言葉だった。 とはいえ、言葉の意味を知らないわけではない。 しかし、その言葉が自分に対して矢印を向けていると言う事実に、ホワイトスネイクは驚いていた。 「マスター」 「・・・なによ」 ぐすっと鼻水をすすってルイズが答える。 「マスターハ・・・私ヲ心配シタノカ?」 そうホワイトスネイクが言うや否や―― ドグシャアッ!! 「フベッ!」 ホワイトスネイクの無防備な後頭部をルイズが容赦なく踏みつけた。 「当たり前じゃないのこのバカ蛇!! さっきから! さっきから何回もそう言ってるじゃないの!!」 後頭部の痛みを痛烈に感じ、そしてルイズの言葉を聞きながら、ホワイトスネイクは思った。 何てこった、と。 ここでは自分はスタンドとしては扱われないらしい。 自分が全存在を懸けて返済しようとした命令無視のツケの領収書を、この小娘はあっさりと突き返した。 さも当然、と言わんばかりに。 しかもそればかりじゃあない。 自分の力そのものであるスタンド――本体とまさしく一心同体であるものとは、まるで違う存在であるかのように、 あたかも他人に対するかのように心配などしてきたのだ。 自分をスタンドとして扱う気など、毛頭無いらしい。 今までの20年で積んで来たスタンドとしての立ち振る舞いの、その大半が一瞬で無用の長物になったように思えた。 何てこった。 こんなバカな話があるものか。 せっかく本体とのダメージ共有も無い分、よりスタンドらしく振舞えるものと思っていたのに。 何てこった。 これでは―― ――これでは、今はまだ死ねないではないか。 ホワイトスネイクはおもむろに起き上がった。 そして、ルイズと向き合う。 自分を一方的にボコボコにしたご主人様は、目に涙を溜めていた。 それを見て、改めてホワイトスネイクは思う。 やっぱり、まだ自分は死ねない。 こんな前途多難なスタンド本体――もとい、ご主人様を守ることなど、自分以外では難しすぎる。 他の者には到底任せられない。 そして、口を開く。 「・・・トリアエズ、謝罪ハシテオク」 「・・・とりあえず、って何よ」 尖った口調でルイズが返す。 「言イ訳ハ趣味ジャアナイガ、謝ルヨリ先ニスルコトガアルノダ」 「・・・何よ」 「コッチノ世界ニ、対応スルコトダ」 「・・・は?」 ホワイトスネイクの言ったことの意味が分からず、聞き返すルイズ。 「私ハコレデモ20年生キテイルガ、ソノ20年分ノ経験デハコノ世界ニハ到底対応デキナイ。 ツマリ・・・コッチノ世界ニ合ワセタ立チ振ル舞イヲ早急ニスル必要ガアル」 「だからどういうことよ!」 「ソウダナ、マズハ自分ニ自分デ決着ヲツケル・・・トイウノヲ撤回スルカ」 「・・・・・・本当に?」 疑いの強い目つきでルイズがホワイトスネイクを睨む。 「・・・本当ダ」 それを真っ直ぐに見返して、ホワイトスネイクが返す。 「本当に本当ね?」 「・・・本当ニ、本当ダ」 「だったら3つ約束して」 「何故ダ?」 「あんたがウソ言って無いんだったら、今からわたしが3つ言うことに約束して。いいわね?」 「・・・マアイイガ、何ヲダ?」 怪訝な顔をして聞くホワイトスネイクに、ルイズは真剣な顔で答える。 「1つ! わたしの言う事は最大限聞くこと! 2つ! わたしの身を守るのは、ほんとうにどうしようもない時だけ! 3つ! ・・・」 「・・・3ツ目ハ何ダ?」 「・・・わたしのことはルイズ、って呼びなさい」 「・・・マスター、ジャダメナノカ?」 「ダメ」 「何故ダ?」 「なんでもいいから! わたしにはルイズって立派な名前があるの! だからあんたもそれで呼びなさいってことよ!」 「マア・・・ソウイウコトニシテオクカ」 「何よその言い方! 文句あんの?」 「イヤ無イ。無イカラ、無イカラ私ヲ踏ンヅケヨウトスルンジャアナイッ!」 「いーや、踏んづけるわ。何だかよく分かんないけどまた腹立ってきたもの。覚悟しなさい」 「タカガ一週間ポッチノコトダローガッ! 私ハ体力的ニソロソロ危ウインダ! コレ以上ダメージハ受ケレンッ! ダカラヤメロト言ッテ・・・」 メメタァッ! 「ギャアァッ!」 結局ホワイトスネイクは踏まれた。 さっきと同じ足の小指を、さっきよりも強く。 そして、恐るべきジャンピン・ジャック・フラッシュと死闘を演じた強力なスタンドには不似合いな、情け無い悲鳴を上げたのであった。 しかし、この悲鳴・・・ひょっとしたら、産声なのかもしれない。 ルイズとホワイトスネイクの、「スタンド本体」と「スタンド」の関係ならぬ、「ご主人様」と「使い魔」の関係の。 ギーシュ:駆けつけた教師たちによって医務室に運ばれるが、 ケガ一つして無い上にすぐに目を覚ましたので自室へ戻った。 モンモランシー:ギーシュに付き添って医務室へ。 やはり何の問題もなかったギーシュにちょっぴり涙ぐみながら自室に戻る。 キュルケ:重傷。駆けつけた教師達によって医務室に運ばれる。 タバサ:重傷。駆けつけた教師達によって医務室に運ばれる。 オールド・オスマン:ルイズの部屋にラング・ラングラーが侵入した事件、そしてフーケ事件の処理で突如多忙になる。 こんな時に限ってミス・ロングビルがいないことを恨めしく思った。 ミス・ロングビル:現在地不明。魔法学院にはいないようだ。 ルイズ:軽症。医務室で水魔法の治療を受けてから自室に戻った。 ホワイトスネイク:重傷。発現状態を保つのもキツくなったので、ルイズの中に戻った。 ・ ・ ・ そして・・・ (ソーイエバ、ラングラーカラ記憶ト『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』ノスタンドヲ抜イテオイタノヲ ルイズニ言ッテイナイ気ガスルガ・・・マア、イイカ) 何日後か、何週間後かは分からないが、ルイズから一発蹴りを貰うことが決定したホワイトスネイクであった。 ラング・ラングラー:死亡。スタンドと記憶はホワイトスネイクの手に。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1014.html
第2章 中編 「……50Mプールぐらいあんじゃねぇか?ここ。」 トリステイン魔法学院の食堂は(ry …とにかく広くて豪華です。 この学院では、マントで学年分けしてるみたいだ……。 一年生は ”marrone”(伊:茶色の) 二年生は ”nero” (伊:黒い) 三年生は ”viola”(伊:紫色の) 一年生より、三年生の方が凄い魔法とか使えるのか? 食堂には生徒以外にも教師が朝食をとりに来ていた。 (教師か…。 それこそ”凄いヤツ”がいてもおかしくないな) キョロキョロと辺りを見渡していると、ルイズが講釈し始めた。 「どう? 凄いでしょ。」 「あぁ。とても豪華だし、人もいっぱいいるな。」 得意げにふふんと鼻を鳴らし、話を続けるルイズ。 「トリステイン魔法学院が教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 「魔法だけじゃない?」 「メイジはほぼ貴族なの。貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ」 食事も”貴族らしく”ってことらしい。 マナーは勿論、質と量も。 ほんとは、この食堂へは『平民』は一生入れないらしい。 それはそれは。とあいまいな返事を返しつつ、ルイズのため椅子を引く。 桃色がかったブロンド娘は気品良く、椅子に腰掛ける。 「隣に座っても?」 こちらもマナーとして一応御主人様にお伺いを立てる。 「残念でした。 あんたは…」 そこまで言って、ルイズは固まってしまった。 どうした? スタンド攻撃でもされたか? オラオラですか? 無駄無駄ですか? 「……」 「もしかして…」 「……」 「オレの分、準備していない?」 「…Yes!Yes!Yes!……(OH MY GOD!)……」 「………(ドジこいたーッ! 昨日厨房に言い忘れてた! とっておきの作戦があったのに!こいつはいかーん! チクショー!!)」 「……それはねぇよ。 ルイズ…」 「き、貴族でも、極々稀にミスはするものよ!」 「………」 今度は使い魔が黙る。何か訴えるかのような目つきでルイズを見つめる。 「……な、何よ?」 「―――ミスより」 「は?」 「ミスよりキスがいいな……」 「…なッ!!」 今度はルイズが赤くなる。それにして感情の起伏が激しい娘だ。 「御主人様より、『ごめんねのキス』を頂ければ幸いです…」 仰々しくお辞儀をして、ゆっくりと頭を上げる。 …ヤバイ。 肩を小刻みに震わせている。 キレるな。これ。 調子に乗るんじゃあない!とテーブルにあったフルーツを投げつけられる。 貴族のマナーは一体何処へ……。 「『食べ物を粗末にしちゃいけません!』って、危ないっ!」 至近距離である。いくら少女の力でも痛い。 特に落とさないように、掌で受けるから痺れる痺れる。 数個投げると、ルイズは椅子に座りなおし、そっぽをむいたまま告げる。 「……そ、それでも食べてなさい!」 「……キスは?」 今度は燭台を投げようとするルイズを見て諦めた。 …朝は『濃い目のエスプレッソに、砂糖をたっぷり入れたヤツ』って決めてんだがなぁ……。 怒るルイズから逃げるため、食堂の壁際まで逃げてきていた。 でもエスプレッソどころか、コーヒー自体あるかどうか……。 パスタやピッツァは? そもそもトマトはあんのか? …すげー不安だ。 朝食は軽めに済ませる性質(たち)のスクアーロは、フルーツと思わしきものに噛り付く。 リンゴだよな?… こっちは…どう見てもオレンジ……。 元の世界とほとんど似ているが、なんとなく違う気がするフルーツを味わう。 味は悪くない。というか美味い。……良かった。これで食事は期待できる。 この味が”美味い”という感覚ならば、料理も高水準だろう。 しかし、これはあくまでも貴族用だ。 使い魔でしかも平民(とされている)の自分の食事はどうだろう? 朝はともかく、昼食や夕食が貧しいものであったら……。 「かなりヤバイな…(自制が利くかどうか… きっと暴れるね…)」 交渉なり、実力行使なりで、どうにかしなくては……。 ルイズと交渉するか…? だめだろうな… きっと…。 窃盗・恐喝でもするか…? …それじゃ、ただのチンピラだ。 …最終手段だな…。 もっと、楽で確実で。できれば美味いものを…。 一年生の女子生徒が数人、こちらを”ちらちら”見ているのに気づく。 笑顔で手を振る。 あ… 貴族様だから、怒るか無視する? (あれ… 笑ってる… というか、喜んでる?) 以外にも邪険にするでもなく、キャッ!キャッ!とはしゃぎながら食堂を出て行った。 少しだけ気分が和んだ。 なるほど。どこの世界でも”乙女は乙女”なのか。 ついで(…といっては失礼だが)に、料理を運ぶメイド達にも手を振る。 一人一人、目が合った順に手を振る。 流石に仕事中であるし、目の前で貴族様の給仕をしているからか、表情や仕草に変化は無い。 そりゃそうだ。と割り切ろうと思った時、一人の黒髪のメイドが横を通る。 (この子には、最初の方で手を振ったな… 黒髪か… うん!”ディ・モールト”可愛い!) 通り過ぎると思った時、目の前で立ち止まり、感謝の意を述べきた。 「御心遣い、ありがとうございます。 貴方様も、お仕事頑張ってくださいね」 …マジで? この世界の女性は優しいなー。 …たとえ社交辞令だとしても。 コチラコソ、アリガトウ。キミモガンバテネ。 ……何故かカタコトでお礼を返す。 メイドは微笑を湛えたまま、礼をして厨房の方に下がっていく。 なるほど、貴族相手(オレは違うが)には笑顔と礼儀が基本てか? 感心しながら、メイドが下がっていった厨房の方をぼーっと見る。……厨房? ―――厨房関係者を味方につける? 余った食材なら、少しぐらい分けてくれるだろうし、さらに料理できるやつなら申し分ない。 良し。決定。後で厨房に行こう。 とりあえず、行けば何とかなるだろう! 気づくと、昨日は何も食べていなかったせいか、果物を残さず全て食べていた。 遠くにいる御主人様も、どうやら食事を終えたようだ。 さあ、御主人様の元へ馳せ参じますか―――。 「…意外と順応してるなぁ。オレ。」 自分の適応能力の異様な高さを感心しながら、うんと背伸びをした。 なんだかんだで、朝飯抜きにせず、 ちゃんと自分に果物を(投げつけて)与えたくれた (すこ~しだけ)優しい御主人様に (すこ~しだけ)感謝しながら ルイズの元へ歩き出す―――。 「…あんた、一年生とかメイドに『手』振ってたでしょ? 笑顔で。」 「え? あ、あれは…。 挨拶です。挨拶。」 「今日から三日間、ご飯抜き。」 「……飛びてー」 前言撤回! 全然優しくない! …早く食料事情を何とかしなければ……。 ―――今晩当たり襲いかかろうか? ……なんとも不穏当なことを考える鮫であった。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 中編終了 To Be Continued ==
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2171.html
…朝目覚めて最初に目にするもの、それは枕、布団、ベッドの天蓋部屋の壁だったはずだ。 しかし最近はそれに一つ余計なモノが追加された、それは男子生徒が欲して止まないツェルプストーの寝顔だった。 「はあああああ~……」 「朝からため息なんてついてたら、幸せが逃げちゃうわよ」 ベッドから下りて服を着替え始めた私に、ネグリジェ姿のキュルケがしなだれかかる。 私はひょいと横に移動してそれを避けると、ハーミット・パープルでぐるぐる巻きにして廊下に放り出した。 「ああんもう、乱暴なんだから」 と言ってこちらを見るキュルケの瞳はどこか楽しそうに、そして愉しそうに潤んでいる。 私は開いたままの扉に手を伸ばし、はぁ~~~と長い長いため息をつきながら扉を閉じた。 * 着替えを終えたルイズが寮塔の階段を下りていく、塔の出口に差し掛かったところで、同級生の一人がこちらを見て驚いた顔をしていた。 ルイズの姿を見て、逃げるように本塔へと向かっていく生徒はそれだけではない、同級生の女子生徒のほとんどが、ルイズを見て逃げ出していく。 「まあ、ヴァリエールよ!孕まされるわ!」 誰かのそんな呟きが聞こえてきたので、ルイズはムキになって言い返した。 「誰が孕ますってのよ誰がぁ!」 顔を怒りに赤く染め、肩で息をするルイズの姿は、ある人は怒りに燃えていると判断し、ある者はキュルケに次ぐ獲物を探す獣の目だと評した。 「フーッ、フーッ!もう!なんで私ばっかりこんな目に遭うのよー!」 そんな叫びが朝の魔法学院に轟いた頃、気だるそうに起きてきたキュルケがタバサと挨拶を交わしていた。 「はぁい、タバサ、おはよ」 「……」 タバサと呼ばれた少女は、頷くだけであったが、それで十分な意思疎通が叶っていた。 キュルケはタバサの肩に軽くタッチすると二人並んで本塔の食堂へと向かっていった。 * 「あらルイズったら今日も特等席じゃない」 「………」 ルイズは不機嫌そうな表情を誤魔化すことなくキュルケを見た。 キュルケはそれに動じず、ルイズの隣の席に座ると、給仕に「料理をここに」と告げた。 朝食時、キュルケに特等席と揶揄されるルイズの席は、特に決まった場所ではない、周囲に誰も座らないから特等席と言われるだけだ。 キュルケにマッサージ(とルイズは言い張っている)をしたあの日から、キュルケはルイズにつきまとい、ついにはボーイフレンドを全員振ってしまった。 そのせいでルイズはキュルケを手籠めにしたとか、お姉様とかヘタレ責めとか言われるようになってしまった。 何度それは誤解だ、事故だと弁解しても、特定の男になびかないキュルケを落としたという事実はことのほか強い印象を植え付けたらしく、最近では放課後に人気のない食堂に呼び出され女子生徒から告白されそうにもなった。 ふとルイズが顔を上げると、向かい側の席に青い髪の少女が座った。 確かキュルケの友達で、名はタバサ。火のトライアングルであるキュルケとは対照的な、水と風のトライアングル、学院生徒の中でもかなり実力がある…らしい。 「…教えて」 「え?」 タバサは普段無口で、本ばかりを読んでいる。 喋る所など見たことのないルイズは、目の前の少女が珍しく口を開いた事実に驚いて、間抜けな声を上げてしまった。 「キュルケに…何をしたの?」 「えーと…」 純粋な疑問だった。ツェルプストー家とヴァリエール家は国境を挟んで隣同士、おかげで戦争が起こると両家はかならず激突している。 何百年にもわたる因縁を持った二家が仲良くなることなど、とても考えられないかったし、問題になりそうなキュルケの男遊びを、どんな形であれ止めてくれたことに感謝していた。 しかしタバサは普段から口数が少なく、口べたである。 彼女の身体に染みついた口調は、事務的な受け答えか、戦いで鍛えられた威圧的なしゃべり方のどちらかに限られていた。 「……何をしたの?」 「あのー、事故というか、その…」 威圧的なタバサの言葉と、困り顔のルイズを見た周囲は 「痴話喧嘩だ」とか「ルイズとタバサが女を取り合ってる」 などとささやき始めた。 キュルケは嬉しそうに、胸の前で腕を交差させて自分の身体を抱きしめ、うふふと笑みを浮かべる。 そろそろ二つ名が『ゼロ』から『工口』に突入しそうな勢いであった。 * 魔法学院の夜は早い、夜更かしする者はそれなりに周囲に気を配って夜更かしをするので、魔法学院の夜は比較的早く訪れる。 この日は、学院の外に一人の少女が出歩いていた。 「えーい!」 まるで空を飛ぶような跳躍を見せ、魔法学院の外壁を飛び越えたルイズは、ハーミット・パープルを壁面にめり込ませて勢いを殺し、ヴェストリの広場に着地した。 「ふーっ、凄いわ、凄いわ」 ルイズが両拳を握りしめて、自分の身体の変化を喜ぶと、背中に背負われたデルフリンガーから話しかけられた。 『どうだい、それが『使い手』の力よ。でもあんまり使いすぎるなよ、その分早く疲れちまう』 「うん。解ってるわよ」 ルイズは短く答えると、デルフリンガーに伸ばしていたハーミット・パープルを消した。 すると、羽のように軽かったからだが重く感じられ、足にも疲労感が襲いかかってきたが、高揚感がそれを打ち消してくれた。 ルイズは早馬と同じかそれ以上の早さで外周を駆け抜け、外壁を飛び越えたのだ。 ルイズの夢は『自力で空を飛ぶ』ことだった。それはメイジの持つ夢ではなく平民が抱く夢だと言われてきた。 デルフリンガーにハーミット・パープルを巻き付けることで得られる不可思議な力で、塀を跳び越えただけなのだが、形は違えども『自力で空を飛ぶ』メイジに一歩近づけた気がした。 「でも、やっぱり普通の魔法も使いたいな」 『そりゃー贅沢ってもんだぜ、何でもかんでもすぐに使えると思ったら大間違いさ』 「なによ、私だって……私だって頑張ってるんだから」 頬を膨らませてデルフに言い返すと、ルイズは懐から杖を取り出した。 そして左手からハーミット・パープルを出現させてデルフリンガーの柄に巻き付ける。 「もう一回、今日は魔法の練習もするわよ」 『あいよー』 ルイズの左手に浮かんだルーンが輝くと、ルイズは地面を蹴って、塀の上に飛び乗った。 「はあ…」 『どうした?』 「ううん、なんでもない」 塀の上から見る、月明かりの草原は、寮塔の窓から見た景色と違いはない。 マンティコアの背に乗って、もっと高いところから地面を見下ろしたこともある、けれども自分で空を飛び、草原を見下ろすことなど今までに一度も無かった。 満面の笑みを浮かべ、ルイズは右手に持った杖を高く掲げる。 「なんでもないわ!じゃあ行くわよ。”イル・フル・デラ・ソル・ウインデ”!」 高揚感と共にフライの呪文を詠唱し、杖を持つ手に力を込めたルイズの期待は、真後ろからの爆発音で裏切られた。 どぉぉん、という音が鳴り響いたのは魔法学院本塔の中央部分であった、そのあたりには宝物庫があり、特に強固に作られている。 「……やっちゃった」 『……やっちまったな』 外壁の上で呆然としていたルイズは、月明かりに照らされた本塔の壁を見て仰天した、影ができているのだ、本塔の壁に模様などありはしない。 つまりそれは、亀裂のような形をした影ではなく、亀裂そのものであった。 「どっ、どうしよう?」 『どうしようって…言い逃れできねーだろ、こんな派手にやっちゃ』 「でもっ、でも……(……)……え?」 不意に、ルイズの脳裏に言葉が浮かんだ。それは根本的な解決にはならないが、今のルイズに洗濯できる唯一の行動でもあった。 『嬢ちゃん?』 急に黙ったルイズを心配してか、デルフリンガーが声をかける。 「デルフ、いい案があるわ。ヴァリエール家に伝わる伝統的な方法…それは!」 『それは?』 「逃げるのよーーーーーーーーーっ!」 るいずは にげだした! * 「って何であたしが逃げるなんて真似しなきゃいけないのよ!貴族は背中を見せちゃいけないのよ!」 数分前まで、学院から離れようと一目散に草原を駆け抜ていたルイズは、自分の行いに後悔しつつ魔法学院へと戻っていった。 早馬よりも速く逃げたルイズは、これまた早馬よりも速く戻ってきたのだ。 「ああもうどうしよう弁償かなお母様に怒られるかな…」 走りながら、絶望的な未来を想像するという、器用な真似をしているルイズは、魔法学院の壁を乗り越えた巨大なゴーレムの姿に気が付かなかった。 『前!嬢ちゃん!前!前!』 「え? うきゃあああああー!?」 ずしん!という振動が足に伝わる。 ルイズの目前に、高さ30メイルはあろうかという巨大ゴーレムの足が踏み降ろされた。 急には止まれないのか、そのまま足に体当たりしそうなルイズは、あられもない叫び声を上げながら、その場でジャンプした。 「きゃあ!きゃああ!」 『ちゃんと前見ろって!』 ゴーレムの腰あたりに足をつけたルイズは、独りでに動き出したハーミット・パープルによってゴーレムの肩にまで持ち上げられてしった。 ルイズは咄嗟に、この場から距離を取るつもりでゴーレムの肩を蹴り、更に高く跳躍した。 右手から伸びるハーミット・パープルがデルフリンガーを抜き、ゴーレムの肩を豪快に切り裂いた、それによってゴーレムの片腕がズドンと音を立てて地面に落ちる。 「ひゃあああああああああああぁぁぁぁ!!?」 しかし当の本人は何が起こったのか解らない、地面に落ちると思いこんで、叫び声を上げたまま何かにぶら下がっていた。 「きゃあああああ…あぁぁぁ…あれ?」 『嬢ちゃん、上、上』 「上?」 ルイズの身体は宙に浮いていた、もしかして『レビテーション』か『フライ』が咄嗟に発動したのかも!と思ったが、魔法を使った覚えはないのでその可能性は低い。 デルフリンガーの言うとおり上を見ると、そこには風竜に乗ったタバサとキュルケがいた。 「ルイズったらやるじゃない!見てたわよ、今の一撃」 「きゅ、きゅるけ?どうして?」 「ルイズがまた爆発を起こしたと思って外を見たら、ゴーレムが宝物庫を殴りつけてたのが見えたの。驚いて外に出たら、丁度タバサも出てくるところだったから、シルフィードに乗せて貰ったの」 「そうなの…」 ルイズが宙に浮いているのは、キュルケのレビテーションのおかげらしく、ルイズはそのままゆっくりとシルフィードの背に引き上げられていった。 「…土くれのフーケ」 タバサの呟きに、ルイズが驚く。 「あれが?今のが土くれのフーケ?」 「たぶん」 三人が空からゴーレムを見ると、ゴーレムは既に土くれに戻っていた。 宝物庫を見ると、そこにはルイズが開けた穴ではなく、土くれのフーケによって拡張された穴が空いていた。 「魔法学院から堂々と盗むなんて、大胆不敵ね。それともトリステインがだらしないのかしら」 「宝物庫は鋼鉄の壁に、スクウェアの固定化が施されてる。魔法だけで穴を開けたならフーケはスクウェアかもしれない」 「………そ、そうね。フーケはスクウェアかもしれないわね!大胆不敵な希代の大盗賊よ!」 ルイズは穴を開けたのが自分だと気付かれぬためにも、必死でタバサの言葉を肯定した。 しばらくしてから教師陣が様子を見に来ると、ルイズ達は目撃者として事情を聞かれ、翌朝早くオールド・オスマンの元に集められることになった。 * 昨晩、秘宝の『破壊の杖』が、土くれのフーケによって盗まれた、魔法学院は針の巣を突っついたような大騒ぎになり、事態の把握に努めようとした。 だが大なゴーレムが壁を破壊するという、大胆極まりない犯行のため、皆壁に空いた穴を見てあんぐりと口を開けていた。 宝物庫の壁には『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と刻まれており、事態の把握はいつの間にか責任のなすりつけあいになっていた。 当直の教師であるミセス・シュヴルーズが門の詰め所におらず、自室で眠っていたせいだと糾弾された。 しかし、オールド・オスマンが『まともに当直をした教師が何人いるか』と問いただしたところ、皆恥ずかしそうに黙ってしまった。 結局の所皆、さぼりに身に覚えがあるらしい。 「それで目撃したというのは誰かね」 「この三名です」 オールド・オスマンが呟くと、コルベールがキュルケ、ルイズ、タバサを指さす。 学院長室の壁際に立たされた三人に視線が集中した。 「ふむ、君たちか。詳しく説明したまえ」 ルイズが進み出て、緊張した面持ちで答える。 「えっと…夜に魔法の練習をしていたんです。疲れたのでそろそろ終わりにしようと思って、学院に戻ろうとしたところで大きなゴーレムを目撃しました。ゴーレムは魔法学院の壁をまたいで出ようとするところで……危うく踏みつぶされるところでした」 「あら、30メイルはありそうなゴーレムの肩を切り裂いてたじゃない」 「ぐ、偶然よ」 キュルケがルイズを褒めようとするが、それは困る、正直なとろ偶然に過ぎないからだ。 「それで、盗み出した瞬間は目撃できなかったんですけど、その時は既に魔法学院の本塔に大きな穴が空いていました。キュルケはゴーレムの肩に、黒いローブを着たメイジを見たそうなんですけど」 そこまで言ってルイズはキュルケを見た、キュルケはウインクをすると一歩前に出て、自分の見たことを話した。 タバサからも、キュルケとほぼ同じ説明がなされると、説明を静かに聞いていた教師達はにわかにざわめきだした。 「ふーむ。後を遣おうにも、手がかりは無しか……ところでコルベールくん、ミス・ロングビルはどうしたのかね」 「それがその……、朝から姿が見えませんで」 「この非常時に、どこに行ったのじゃ」 「どこなんでしょう?」 と、噂をしていると、学院長室の扉がノックされ、ミス・ロングビルが入室した。 「ミス・ロングビル! この大変な時にどこに行っていたのですか!」 多少興奮した調子のコルベールに、申し訳ありませんと呟くと、こほんと咳をしてオスマンに向き直った。 「申し訳ありません。今朝方の騒ぎで土くれのフーケが宝物を盗んだと聞きまして、何か手がかりはないかと探しておりましたの」 「調査か、うむ。仕事が早いのぅ。ミス・ロングビル」 「それで私は、近隣の農民に聞き込んでみたのですが、朝早く、近くの森に黒いローブを着た男が入っていくのを目撃したというのです、おそらくそれがフーケではないかと思いまして…」 「な、なんですと!」 コルベールが驚くと、周囲の教師達も顔を見合わせて驚いたように何かを呟いていた。 キュルケも記憶と照らし合わせたが、なにぶん暗闇なので情報量が少ない。 「黒づくめのローブ…確かに特徴は似てるけど、タバサ、どう思う?」 「ゴーレムの肩に乗っていたのは確かにローブを着ていた。けど…」 まだ何か言いたげなタバサの台詞を遮って、キュルケが拳を握りしめた。 「…ルイズの玉の肌に傷をつけようとした罰よ…焼き尽くしてやるわ」 ギョッとした顔で教師達がルイズを見る、ルイズは恥ずかしさと緊張で萎縮し、肩を縮こまらせた。 まさかこんな所でキュルケを殴り飛ばすわけにもいかないので、無視することにしたが、誤解はますます広がるばかりであった。 だがオスマン氏は一人、目を鋭くしてミス・ロングビルに尋ねた。 「その場所を調査するか。これは魔法学院全体の責任じゃ。我々の手で事件を解決せねばならん。ミス・ロングビル、その森はどこかね?」 「はい。火の塔から西に徒歩で半日。馬で四時間の場所にあるといったところでしょうか。森の奥には使われていない廃屋と、獣道がいくつかあるそうですが…」 「しかし、我々で行くのは危険です。すぐに王室に報告しましょう、王室の衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」 「ならん!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうじゃろう、その上身にかかる火の粉も払えんで何が貴族じゃ、これは魔法学院の問題。我らで解決するのが当然じゃ」 コルベールの言葉を聞いたオスマンが、怒鳴り声でその意見を払いのけると、ミス・ロングビルはその時確かに微笑んだ。 ルイズはその微笑みを見て、何かが変だという気がした、そしてもう一つ…今まで思考の隅に追いやっていた、ある考えが頭に浮かんできた。 オスマンが咳払いをし、有志を募るため皆の顔を見渡す。 「では捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」 しかし、誰も杖を掲げないどころか、教師達は困ったように顔を見合わしている。 そしてルイズも違う意味で困っていた。 「フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」 オールド・オスマンの声が響く、それまで俯いていたルイズが杖を抜くと、すっと顔の前に掲げた。 「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか。ここ教師に任せ…」 シュヴルーズがルイズを見て驚きの声を上げたが、キュルケがそれを制した。 「お言葉ですがミセス・シュヴルーズ。勇敢なる教師の方々は誰も杖を掲げておりませんわ」 そう言って自身も杖を掲げる。 「ルイズが行くなら、私も行くわよ」 そして更にもう一人、タバサ一言呟いて杖を掲げた。 「心配」 三人が杖を掲げたのを見て、コルベールが驚き声を上げる。 「君たちは生徒じゃないか! ……オールド・オスマン、ここは私が…」 「ほっほっほ!そうか、そうか。では三人に頼むとしようか」 生徒だけでは危険だと主張するはずだったコルベールは、オールド・オスマンの発言に心底驚いていた。 「三名ともよく聞いてくれたまえ。魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 三人は、真顔になって姿勢を正し、「杖にかけて!」と唱和した。 キュルケはルイズのために。 タバサはキュルケのために。 そしてルイズは、『フーケに爆発の瞬間を見られているかもしれない』と思い、フーケの口を封じるため杖を掲げた。 * さて、三人と、案内役のミス・ロングビルは、準備された馬車に乗って森の中を駆けていた。 馬車は幌の取り払われた、荷車のような馬車で、申し訳程度の座席が設置されている。 襲われた時すぐ飛び出せるようにと、わざわざこの馬車を選んで貰ったのだ。 ルイズは念のためにデルフリンガーを背負ってきている。 案内役のミス・ロングビルが御者を買って出ると、キュルケがそれを不思議に思ったらしく、手綱を引くロングビルに話しかけた。 「ミス・ロングビル。手綱なんて、付き人にやらせればいいじゃないですか」 ロングビルは、にっこりと笑って答える。 「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」 その答えに驚いたのか、キュルケは御者席に身を傾け、話を続けた。 「でも、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」 「オスマン氏は、貴族や平民だということに、あまりこだわらないお方ですから」 更にずい、と身を乗り出し、顔をロングビルに近づけたキュルケは、好奇心を隠さない口調で呟いた。 「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」 ミス・ロングビルは優しい微笑みを浮かべた、遠回しな拒絶の表れであったが、ルイズはその様子に別のものを感じていた。 「キュルケ、やめなさいよ。そんなこと聞くものじゃないわ」 「もう。いいじゃないの。でもルイズに言われたらしょうがないわね」 「ええと…昔のことは根掘り葉掘り聞くものじゃないわ。誰だって言いたくないことぐらい、あるわよ」 ルイズは、以前覗き見したタバサの過去を思い出していた。 それに比べて自分は、宝物庫の壁を破壊したのが自分だとバレたくないがために、フーケの捜索隊に志願している。 自分の矮小さが情けなくなり、ため息をついた。 しかし一つ、気になることがある。 なぜ捜索隊が組まれることになった時、ロングビルが笑ったのか、それがどうしても頭に引っかかる。 ルイズがハーミット・パープルをデルフリンガーに這わすと、デルフリンガーに思考が流れ、デルフリンガーの思考はルイズに流れる、いわゆる『念話』である。 『ねえ…ロングビルって、どう思う?』 『怪しい、怪しいぜ。そもそも朝方偶然フーケを発見したってのが怪しいぜ。あと俺の見立てじゃ、男は女に変身できねえ。女は簡単に男に偽装できる』 『!』 「……まさか」 ルイズは小声で呟くと、頭の中で響いた声に従うように、ハーミット・パープルをロングビルの頭に這わせた。 『まったく土くれのフーケともあろうものが、魔法学院の秘書だなんて、我ながら笑ってしまうねえ』 「おブッ!」 尋常でない咳き込み方をしたルイズ。 それを見て、向かい側に座っていたキュルケが、ルイズの肩を抱きしめた。 「ルイズッ!ちょっと、気持ちが悪くなったの?……まさか、昨日、身体を打ち付けていたんじゃ…だとしたら大変よ!」 「だ、大丈夫、ごほっ、そんなんじゃないから、ちょっと咳き込んだだけ」 「でも…ルイズ、貴方に何かあったら私…私…」 とても以前のキュルケからは考えられない、キュルケはうっすらと目に涙すら浮かべている。 そんなに自分を心配してくれるのかー、あー流されちゃってもいいかなーと考えそうになる頭を振って、キュルケを手を振りほどいた。 「大丈夫よ、大丈夫。緊張してるのよ、わたし」 「本当に?」 「ええ」 ルイズはキュルケを席に着かせると、再度ハーミット・パープルをロングビルの頭に這わせた。 『まったく度胸のない嬢ちゃんだねえ。これじゃ『破壊の杖』の使い方も知らないんじゃ…まあその時は別の生徒を連れ込んで、使い方を聞けばいいさ』 『教師でもいいかねえ、あの頼りなさそうなコルベールとか…でも危険な気もするんだよね。とにかく『破壊の杖』を売る前に使い方ぐらいは知っておかないと……』 ルイズは別の意味で驚いた。 もし、頭に流れ込んでくるロングビルの思考が本物なら、彼女こそが土くれのフーケであり、マジックアイテム『破壊の杖』の使い方を知るためだけに、自分たちを誘い込み、そして殺そうとしているのだ。 『ああ、それにしても……何で壁に穴なんて開いてたんだろうね、私を誘い出す罠?いや、そんなはずは無いさ、魔法学院の教師は無能揃いだし…』 今度は逆に、ほっと胸をなで下ろした。 自分があの穴を開けたのだとバレていない、しかし命の危険が迫っていることに違いはなかった。 ルイズは何とか情報を集めるべく、更にロングビルの思考を読み続けた。 『ティファニア…あんたが私のしていることを知ったら、軽蔑するんだろうね。人間の私が人を殺して金を奪って…ティファニアはハーフエルフなのに誰かが傷つくのを嫌って……』 『孤児院には金が必要なんだ、貴族の粛正で家を失った元貴族や、口減らしで捨てられた子供を育てるには金が必要なんだ』 『だから私は横暴な貴族どもから金を奪ってやるんだ。魔法学院の教師どもはどいつもこいつも屑ばかり、宝物なんて本当に宝の持ち腐れさ!』 「なによ。ルイズ、やっぱり調子悪いんじゃないの」 いつの間にか顔を青くしていたルイズの隣に、キュルケが座る。 「あ…大丈夫。大丈夫よ。平気だから」 かろうじて絞り出した言葉は、いつになく弱々しかった。 ルイズは迷っていた、見たくもない現実を知ってしまった、自分が家族を思うように、タバサが家族を思うように、フーケ…いや、マチルダ・オブ・サウスゴータも家族を思っている。 貴族としてやるべきことは決まっている、フーケを捕らえ、衛兵に引き渡せば良いのだ。 でも、それをしていいのか解らない、なぜ自分が迷っているのかすらわからない。 「どうすればいいの」 ルイズの呟きに、左手の甲に浮かんだルーンが反応した。 『…なるほど、その手があったか』 ルーンが明滅を繰り返した後、唐突にデルフリンガーの思考が流れ込んできた、まるで誰かと会話しているようだった。『デルフ、どうしたの?』 『ああ、ちょっと一芝居思いついたんだ』 『一芝居って、何よ、インテリジェンスソードのくせに』 『まあそう言うなって、嬢ちゃんには悪くない選択肢だぜ。まあ聞いてくれよ。…で嬢ちゃん、悪役になってくれねぇか?』 『は?』 * その後、結局の所四人は無事に『破壊の杖』を取り戻し、魔法学院に帰ってくることができた。 その上『破壊の杖』が使い捨てであるという事実をオマケにして戻ってきたが、オールド・オスマンにとって思い出の品であることに違いはないので、オスマンは満足したらしい。 フーケを倒すことはできなかったが、四人はトリステイン国家が認める勲章が授与されるよう、オールド・オスマンの推薦付きで申請が出されることになったが、一同はそれを辞退。 その代わり、報償を貰うことで話が付いた。 四人は英雄のような扱いを受け、今夜開かれるフリッグの舞踏会で主役になるであろうと言われたが、ルイズは披露を理由に出席を辞退。 キュルケもルイズを看病するという名目で、舞踏会を辞退した。 タバサは主役の一人であるが、ハシバミ草と格闘中のためダンスには誘われない。 ロングビルは、舞踏会が始まる前に何処かへ行ってしまった。 結局、主役不在のまま行われた舞踏会であったが、生徒達は思い思いに踊りを楽しみ、一夜の夢を味わったようだ。 * 「ふぅ」 魔法学院の大浴場で、ため息をついたのはミス・ロングビル。 彼女は昼間の出来事を思い返して、何度目か解らぬため息をついていた。 複数存在する隠れ家のうち、魔法学院に最も近い隠れ家に『破壊の杖』を隠し、生徒達を連れて行くところまで成功した。 しかし、馬車を降り、フーケの隠れ家を遠目で確認した後から記憶がない。 三人の生徒が隠れ家の中を確認している間に、自分は別行動を取り、ゴーレムを作り出して襲うつもりだった。 しかし、突然何者かに首を絞められ、あっけなく気を失ってしまったのだ。 ……そして目が覚めた時、ロングビルは馬車に寝かされていた。 傍らには、ガラクタになった『破壊の杖』が置かれていた。 魔法学院に到着するまでの間、自分が気絶している間に何が起こったのかを聞いた。 小屋の中に突入した三人は、あっけなく破壊の杖を発見。 そして小屋の外に出たところで、ローブ姿の男を発見し、ルイズが『破壊の杖』を向けたところ…ぽん!という音と共に何かが飛び出た。 後は大爆発、破壊の杖に相応しい破壊力だったようだが、それ以降ウンともスンとも言わない、よく見ると半分は詰まっていた中身が、綺麗になくなっており、『杖』は『筒』になっていた。 それから数時間フーケを捜索していると、倒れているロングビルを発見、捜索を切り上げて魔法学院に帰った… ということらしい。 「あー…いまいましいねえ」 報償としてかなりの大金を貰ったが、どこか釈然としない。 また宝物庫を漁る機会ができたと思えば、ラッキーかもしれないが、二度も三度も同じ手が通じるとは思えない。 「頃合いを見計らって、辞めようかねえ…」 魔法学院の本塔を偶然破壊できたことで、セクハラオスマンの鼻をあかせた分、ロングビルの気分は晴れていた。 そして、故郷に残してきた血の繋がらない妹…ティファニアへの仕送りも、恩賞でめどが立った。 「ほんと、忌々しいよ…」 ロングビルの顔は、少しだけ笑っていた。 「ミス・ロングビル?一人ですか?」 浴場の扉が開かれ、中に入ってきたのはルイズだった。 「ミス・ヴァリエール。もうお体の調子はよろしいんですか?」 ロングビルは、先ほどまで殺そうとしていた相手に対し、すぐに猫を被れる自分が恨めしいと思った。 「ええ、もう大丈夫です。それよりもミス・ロングビルに話したいことが…」 「え?」 「その、気絶している間。『ティファニア、ごめんなさい』って…」 「……それは、皆さん、聞いていたんですか」 「いえ、私がミス・ロングビルを見つけた時、そんな寝言を言っていたんです」 「私、他にも何か寝言を言っていませんでしたか?」 そう言いながらロングビルは、浴槽腰掛けたルイズに近寄った、今この浴場は二人きり、他の人は居ない…必要ならこの場でルイズを殺すつもりで近寄った。 「ええと、他には、その……」 昼間、ルイズはデルフリンガーの提示した作戦を実行した。 ロングビルの思考を読んだルイズは、破壊の杖の置き場所から、ロングビルの行動まですべて解っていた。 身を隠そうとしたロングビルを左手のハーミット・パープルで気絶させ、廃屋に侵入し破壊の杖を見つける。 そこにはフーケが使ったローブがあると解っていたので、ハーミット・パープルを使ってさりげなくそれを隠した。 外に出たと同時に、ハーミット・パープルを森の中に這わせて、ローブを揺らす。まるでそこに人がいるかのように… そこでルイズがいつものように魔法を失敗させ、爆発を起こす手はずだったが、なんとルイズには破壊の杖の使い方が解ってしまった。 デルフリンガーが言うには、それが『使い手』の力らしい、ハーミット・パープルの力なのかルーンの力なのか解らないが、面白そうなので破壊の杖を使ってみることにした。 想像を絶する爆発の後、フーケのローブが落ちてきた。 血はどこにも付着していないので、フーケは咄嗟に逃げたと判断して捜索し、頃合いを見亜計らってロングビルを発見する。 後はロングビルを連れ帰り、ティファニア、孤児院などの情報を元に、脅しをかけるつもりだった。 デルフリンガーの言った『悪役』とはこの事だったのだが…… ルイズは怖がっていた。 「それで。私…何か言ってませんでしたか?」 「そのー、えーと…あうー…」 ルイズに、脅迫などできるはずがなかった。 このままだと怪しまれて、ここで殺されてしまうかも知れない、そんなことを考え不安になっていたルイズの脳裏に、ある言葉が浮かんできた。 (………) 「あ!その、『愛していた、寂しい』…って言ってましたわ」 脳裏に浮かんだ言葉の通りに喋ると、ロングビルの態度は一変した。 「……そうですか、私、そんなことを…」 ロングビルの脳裏に、子供の頃から遊んでいた友達や、初恋の人、そして家族の姿が思い浮かぶ。 『なんてこった、あたしは寂しがってたのかい…ごめんねティファニア。私、ずっとあんたを裏切ってるわ。他人を傷つけちゃいけない、そんなことを言っておきながら、私は、私は…』 「ミス・ロングビル…」 そのばで涙を流し崩れ落ちたロングビルを、ルイズはそっと抱きしめた。 「あの、私にはよく分かりませんけど…あの…」 ルイズはこの後「元気になって下さい」とか「頑張ってください」と言うつもりだったが、ルイズが口を開くよりも早くルーンが輝き、ルイズの思考に何かが混ざった。 「あの… 涙なんて流したら美人が台無しよ」 「へ?」 口調が強くなったルイズを、ロングビルが呆れたような顔で見上げる。 「ロングビル…貴方の太もも!うなじ! もうグンパツじゃない!」 「あの、ミス・ヴァリエール?」 「ねえ、ロングビル。ヴァリエール家は悲しい時、代々伝わる方法で慰めるのが常なの………それは」 「それは?」 呆れていたロングビルの身体に、何かが絡みつく。 「!」 不可視の触手に驚いたロングビルは、そのまま体中をがんじがらめにされて湯船に放り込まれた。 「身体で解らせてあげるわーッ!」 「ちょ、やああああああーッ!? あっ」 * 翌日、妙にやつれたルイズが、キュルケを右手に、ロングビルを左手にして食事の席に座っていた。 ルイズの二つ名に『ゼロ』だけでなく『女殺し』が加えられた記念すべき日であった。 「もういやああああああ!」 尚、本人は納得してない。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1525.html
「……な……なによあの……船は……」 「オレが知るか」 大きさとしてはレキシントンより一、二回り大きい程度だが、ハルケギニアの船のように側舷砲を持たず船首に長大な砲を構えた鉄の船がそこにあった。 「まぁ、見た感じこっちのモンじゃあねぇ事は確かだろうぜ」 「……あれ、あんたの世界の船なの?」 「オレんとこの船は飛びはしねーよ……だが……形はそうだな」 船がどうあれグレイトフル・デッドの射程内に納まる大きさだ。 そう思い、ゼロ戦を船に近づけようとした時、船から何かが連続で飛んでくるのを察知した。 普通なら、スタープラチナ並みの精密さでも無ければ見えない速さだったが、印効果で何かが飛んでくる事には反応できる。 だが、操縦者は反応できても機体はそうはいかない。アムロの反応速度にガンダムが追いつけなくなったアレと同じだ。 数発が機体をかすめ、回避先に一発操縦席目掛け飛んできている。 「……チッ!」 回避不能、狭い操縦席内では避ける事もできないし、元よりベルトで固定している。 回避ができないと判断するやグレイトフル・デッドを全面に展開させ腕でガードする。 衝撃はあるだろうがモロに食らうよりはマシだ。 風防に穴が空き、それを受けるが、グレイトフル・デッドの腕に綺麗な穴が開いた。 「うぐぁ!……バカなッ!」 「え……なんで腕から血が!?」 スタンドに穴が開いたという事は当然、本体にもダメージがフィードバックされ服こそ破れてはいないが腕から血が吹き出た。 それを見たルイズが右往左往……狭いからできないのであたふたとテンパっている。 スタンドにダメージを与えられるという事から導き出される答えは一つ。 「スタンド攻撃かッ!!」 ミスタのピストルズを思い出したが、弾が誘導される気配は無かったし、なによりピストルズの射程ではない。 (船からの攻撃……遠距離型か……?ピストルズみてーに誘導されてるわけでもねーが……弾幕が邪魔で射程に入れやしねぇ) こちらも20ミリ機銃で撃ち返すが、装甲を僅かに貫いただけで効いた様子は無い。 「兄貴、あの親玉ありえねーぐらいカテーぞ!」 元々機銃弾は空戦用装備であり、対艦を目的としたわけではない。 木造船ならどうにかなっただろうが、あの艦を砕くにはパワー不足もいいとこだ。 「デルフ、オメーなんか気付いた事はねーか。ささいな事でいいんだ。何か本体が撃ってきてる気配とか感じなかったか?人影とかよ」 「わかんねぇ……船員も沢山居るだろうしよ」 ただの対空機銃なら吃水船の下に入れば飛んでこない。だが、この弾幕はその下にいても襲い掛かってくる。 急速上昇、そのまま反転し背面飛行している機体をロールさせ戻し距離を取る。 座席に体を固定させているプロシュートはいいが、そうではないルイズは後ろで色々と転がりながら悲鳴をあげている。 「も、もっと丁寧に操りなさいよぉ!」 「直撃食らうよりマシだろーが!」 旗艦の弾幕ですら厄介なのに、他の船からの援護砲撃が襲ってきた。 当然、通常の砲弾なら当たるはずもないが、小さな鉛弾をショットガンのように詰め撃ち込んで来ている。 「クソッ!親玉の弾幕だけでも厄介だってのに…仕方ねぇ!トコトンやるぜッ!」 散弾を回避しつつ上昇し援護砲撃をしてくる船の真上につけスタンドエネルギーをフルパワーで老化に回し沈黙させていく。 風石によって今すぐ沈む事はないが、援護砲撃は止まる。 だが、未だに本命の射程圏内には踏み込めない。 決め手を欠いたまま弾幕を避けていると、『ストレングス』が船首を少し傾けた。 船首の向きはようやく建て直しが始まっているトリステイン軍だ。 瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き船首砲から砲弾が放たれた。 その砲弾を迎撃すべくトリステインのメイジが総出で風の防壁を作り防ごうとするが、それを突き抜け血と肉片が辺りに飛び散り悲鳴があがった。 砲の口径、弾速、その全てがハルケギニアのものより圧倒的に上だ。 もちろん、それを知らないトリステン軍はレキシントン落しの効果もあって壊走寸前と化している。 恐らく、次に砲撃が行われれば、もうそれは止めることはできないであろう事はギーシュが決闘したら負けるぐらい確実ッ! 「ど、どうしよう…!あそこには姫様が…!」 そうは言うが、今の自分にはどうする事もできない。 必死になって自分にできる事を探そうとするが、失敗魔法しかできない以上全く無い。 無意識にポケットの中の水のルビーを指に嵌め指を握り締める。 「どうか姫様をお守りください…」 やれる事が無いのなら、せめてアンリエッタの無事を祈ろうと思った。 「兄貴!左と正面から弾幕だ!」 「分かってる!」 言われるまでも無く右側面に機体を90°傾けさせ、そのまま右下に滑るように回避。 「キリがねー……このままじゃあ燃料が持ちゃあしねぇ」 燃費がいい方だとはいえ、急速反転や上昇を繰り返している。 航続距離2000キロを誇るゼロ戦でも、そんな無茶な機動を繰り返していては、そう長く持ちはしない。 また転がったルイズが泣きそうになりながら地に落ち開いた始祖の祈祷書を拾い上げる。 持ってくるつもりは無かったが、あそこで置いてくるなどと言えば、自分が置いていかれる恐れがあったのでそのまま持ってきたのだ。 そうして開いた祈祷書に触れた瞬間、水のルビーと祈祷書が光った。 「兄貴、座席の下に何か落ちてるぜ?」 弾幕の射程圏外に出つつスタンドでそれを器用に掴み取る 「……ボルトじゃねーか。何でこんなもんがあんだよ」 それを掴んだまま、弾幕の射程圏外に出ると、そのボルトが溶けるかのようにして無くなった。 「おでれーた、溶けたぜ」 「ボルトが溶けた……?しかも弾幕の射程外に出たとたんに…溶けた以上、あのボルトは物質じゃねぇ……」 何か分かりかけてきた。ゼロ戦のものではないボルト。それが弾幕の射程外に出た瞬間溶けた事。 そして風防に空いたさっきのボルトと同じ程度の大きさの穴。 「……弾幕の正体はこのボルトか!だが、なぜボルトなんだ……?」 リゾットのメタリカのように磁力のようなものを操り飛ばしてきているという 事も考えたが、それならばボルトなどという形を取る必要は全く無い。 「兄貴…ボルトって何に使うんだ?」 「あ?こっちにはボルトねーのか?ネジのデカイヤツで金属板とかをこいつで固定すんだよ」 「じゃあ、あの鉄の親玉にも使われてんだな」 スタンドのボルト、金属装甲の船、360°繰り出される弾幕。これで何かが繋がった。 「……でかしたぞデルフ!『どこから』『どんな方法で』攻撃しているのか、お前のおかげで全て理解したぞデルフ!」 「……悪りぃ、さっぱり分かんねー」 「射程外に出たら溶けたって事は、あのボルトはスタンドって事だ! そして、あの船『から』撃ってきてるんじゃあねぇ……!あの船『が』ボルトを撃ってきている…つまり、あの船そのものが…スタンドってこったァ!!」 「な、なんだってーーー!あんなデカイやつもスタンドってやつなのかよ!」 「何でもアリってのがスタンドだからな……だが、あんだけデカイスタンドを操るとなると……本体もかなりの化けモンだな」 「スタンドはスタンド使いには見えなかったんじゃあねぇのか?溶けたって事は物質と一体化してるわけじゃねぇしよ」 「……スタンドエネルギーがデカすぎるって事ぐらいしかねーな、あんなタイプのスタンドなんざ組織の情報網にも引っかかった事ねーよ」 だが、船の正体が分かったところで、あの弾幕をどうにかしない事には詰みだ。 スタンドパワーの枯渇を待つ。Noだ。持続力A以上は間違い無いだろうし、まずこちらの燃料が持たない上に時間も無い。 弾切れを誘う。これもNo。スタンドである以上、スタンドパワーが尽きない限り弾幕は途切れない。 射程外からの機銃弾による攻撃。問題外だ。スタンドエネルギーが実体化してるという事はダメージはあるかもしれないが あの大きさに20ミリの穴を開けたとしても大してダメージにはならない上に、修復されかねない。 250キロ爆弾でも積んでれば話は変わってくるのだろうが、そんな装備はこのゼロ戦には付いていない。 ハッキリ言えば打つ手無しだった。 「なにこれ……古代ルーン文字?」 今まで魔法が使えなかったぶん、それに反比例するかのように勉強に勤しんでいたルイズである。 古代ルーン文字を読むことができたのは当然といえた。 「序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す」 呟くような声で読み上げるが、前で必死こいて回避運動を行っている一人と一振りには聞こえてない。 「チッ!せめて弾幕の軌道と間隔さえ読めりゃあ接近できるんだがな」 「でもよぉ兄貴、近付いたら近付いたで、回避しようがねぇよ」 確かにそうだ、広域老化では効果が出るのに多少時間がかかる。 至近距離では弾幕を回避する事はできず直撃を受ければ良くて機関停止、悪くてその場で爆散だ。 「神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん」 「こっちの位置をどうやって把握してるかだな……エアロ・スミスみてーに特定のものを探知しているか……視認で撃ってきてるかだが」 レーダーなどで確認しているのなら打つ手はないが、視認で補足してきているのなら、まだ一つ打つ手はあったが、確証が無い。 「これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。 『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。 『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。 時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。 たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 #center{ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ} 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。初歩の初歩の初歩の呪文。第一の爆発『エクスプロージョン』」 その後に、呪文が続いたがルイズは呆然としている。 「始祖っていうわりに頭脳がマヌケじゃない……?指輪がなくちゃ祈祷書が読めないんじゃ、誰がその注意書きを読むのよ」 だが、祈祷書が読めるという事は…… 「わたしが『虚無』の使い手って事なの?」 『エクスプロージョン』と自分の失敗で起こる爆発。 効果としては同じだ。なら今まで失敗と思っていた魔法が『虚無』だったとしたらどうか。 思えば誰もあの爆発を失敗と呼び笑っていた。 ただ一人、その爆発も使い方次第でどうにでも変わる『自信を持て』と言ってくれたのはプロシュートだ。 なら、祈祷書が読める以上、自分を信じて、それに頼るしかない。 そう思った時スデに行動していた。 「このクソ忙しい時に何やってんだッ!」 座席の隙間からルイズが身を出し、操縦席にやってきて座り込んだ。 「……もしかしたら、何とかなるかもしれない……うまく言えないんだけど選ばれちゃったかもしれないのよ」 「何にだ?」 よもやスタンド能力に目覚めたのではないかと思ったが、どうやらそうではないらしい。 「いいから、合図したら、ひこうきをあの戦艦に近づけてちょうだい!」 「……自信はあんのか?」 「……ぁ……る」 「聞こえねー……!自信を持ってんなら、自信を持って答えろ!」 「……あるわよ!あるから言ってるんじゃない!!」 そう答えるルイズを見て、口の端を上げ笑った。 「やれんのは一回限りだ。しくじったら次はねー。それに、こいつは賭けだぜ? もしかしたら墜とされっかもしれねーが」 「いいから近付けなさいッ!使い魔は黙ってご主人様の言う事に従うのッ!」 「了解、『ご主人様』」 急速上昇、敵旗艦の遥か上空まで駆け上がった。 「子爵、どうやら敵の竜騎士はどこかに逃げたようだが」 「ガンダールヴの能力の射程にさえ入れなければいいわけですからな… しかし、あの男がそう簡単に退くとも思えますまい、念のために艦の上空に遍在を二つ配置していますよ」 「ウキャアアアアア」 猿―フォーエバーがそう叫びを上げると壁の中にめり込み消えていく。 今までは遍在のワルドが、ゼロ戦の位置を捕捉し使い魔としての能力を使いフォーエバーに指示していたが、自らが捕捉し、攻撃を行う気になったようだ。 ストレングス上空約3千メートル、眼下に映る巨艦ですら点のような大きさだ。 もちろん酸素濃度は結構低い。そんな状態で風防を開けて、スタンドでガッシリと掴まれたルイズが風防から顔を出しているのだからスゴイ事になっている。 「ぜぜぜ、絶対に離さないでよねぇ~~~!」 さっきまでの、自信はどこにブッ飛んだのか、半泣きに近い状態でそう叫ぶ。 まぁスタンドが見えないため、何に固定されているのか分からない状態なのだが。 「どうする?止めんのなら今だぞ」 そうは言ったが、答えはスデに分かっている。 さっき見せた目には明確な覚悟が宿っていたからだ。 「ばばば、馬鹿言うんじゃないの!わわ、わたしがやらないと姫様が危ないんだから!!」 その言葉と同時に機首を巨漢に向けスロットルを限界まで絞る。レシプロ機の特性上プロペラがすぐに止まる事は無いが時間の問題だ。 巨大戦艦に向けての垂直降下。さらにすれ違い様にルイズが、『エクスプロージョン』を放つ。 言うなれば、米軍機が得意としていた戦法の一つ、急降下爆撃だ。 音で感知されないようにエンジンは止めておかねばならないが、水面に浮かぶ船とは違い、下にも空間は十分にある。 フルスロットルにし最加速するまでは十分な高度が。 これが水上艦ならバンザーーーーイと叫びながらの特攻だが、宙に浮いている事が幸いした。 もちろん、懸念はある。 エアロ・スミスのようにレーダーで特定のものを探知するようなタイプであれば早々に迎撃される。 探知か視認か、このどちらかによって、結果は違う。 賭けだった。それはもう、どこぞのギャンブラーが見たら迷わず『グッド!』と指を向け叫んだぐらいに。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ その詠唱と共にゼロ戦が自由落下を始めた。 垂直に落下しているので風防から身を乗り出しているルイズは当然、下を思いっきり見る事になる。 掴まれているとはいえ、この高度からの急速降下である、絶叫マシーンなぞ比較にならないぐらいアレなのだが詠唱そのものは途切れる気配は無い。 「……ゲームにハマってるメローネと……同等の集中力だな」 「それってスゲーのか?」 「言いたくねーが、そういう時のメローネを邪魔できんのはブチキレたギアッチョぐらいしかいねーよ」 「あー……そりゃあスゲーな」 ギアッチョの事は聞かされていたので、そのスゴさが一発で理解できたようだ。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 呪文の詠唱を始めて、すぐに降下に対する恐怖心など無くなった。 なによりどこか懐かしいようなリズムが、それを許さなかったからだ。 体の中で何かが生まれ、行き先を求めてそれが回転するかのような感覚だ。 コルベールエンジンを爆破した日、自分で言っていた事が今まさに『言葉』でなく『心』で理解できていたッ! ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ 重力によりさらに加速、敵艦との距離が凄まじい勢いで詰まる。 「……風が乱れた?」 ストレングス上空で風竜に乗り哨戒中の遍在ワルドx2だが周辺の風が乱れた事に気付いた。 周りに船が多数浮いている中よく気付いたのだが、微かに乱れただけで詳しい場所も分からない。 まぁ、この状況でそれに気付いたのは、風のスクウェアだけの事はある。 それに、反応してフォーエバーも壁から出てきたが、ストレングスの船内に居る相手なら手に取るように把握できるが、船外ならそうはいかないのでワルドに任せている。 本来ならただで人間に従う機など毛頭無かったが、学ランの男にボコボコにされ辛うじて生きてはいたが色んな所が再起不能になって暮らしていたところ この男がそれを治してくれた(正確に言えば水のメイジ)というのもあるが、何故かDIO様のように仕えなくてはならないという気になっていた。 「来るか……?ガンダールヴ!」 下方、側面を見渡すが、何も無い。となれば上しかないが、あるのは陽光眩しい太陽だけだ。 だが、その太陽に影が差すと、その場所が特定できた。 「日の中か……!やってくれる!」 少し光が薄らいだ太陽の中から降下してくるのは緑の機体だった。 「……あのハゲ!日食は今日じゃあねーかよ!」 太陽を背にし、その光に紛れてギリギリまで接近するつもりだったが、日食のおかげで予定より早く探知された。 「逃げねーとモロに食らっちまうぜ兄貴!」 ここで回避する事はできるが、そうなればこの策は二度と通用しない。 つまり、アレを沈める事ができなるなる。 「いいや、ここは突っ切るしかねぇ!」 フルスロットル、最大加速しながら降下する。重力と推進力によって一気に限界速度に達し突っ込んだ。 ジュラ……イサ・ウンジュー…… その風圧に思わず詠唱が途切れそうになるが、急にそれが弱まった 「グレイトフル・デッドを前に出しといてやったから、ちったぁ……マシになんだろ」 背負わされている形になっているのだが当然見えないルイズには分かった事ではない。とにかく風圧が弱まった事だけは事実だ。 操縦している方も喋っている場合ではないのだが、同じようにスタンドの体で風圧を弱めているため何とかなった。 「ホキョァァアアア」 「止まれぇぇぇぇぇガンダールヴッ!!」 ストレングスから弾幕が放たれるが、限界速度で高速移動している飛行物体に当てるのは至難の業だ。 水平飛行している状態なら数に物を言わせ当てることもできたが、この場合は違う。 減速する気配が微塵も無い上に、むしろ加速しながら突っ込んできている。 ただ、機動飛行を行っているわけではないので、少しづつだが、弾幕がゼロ戦をかすめ始めた。 バキィ!と嫌な音をたて開け放った風防が脱落し、周りをボルトの弾幕がかすめる。 「チッ!あのハゲ……!戻れなかったら老化で全滅させてやっからな!」 「その前に生きてりゃあな……」 スデに弾幕の射程内。ストレングスまで400メートルといったところだ。 この速度なら、一瞬。だが、その分直撃は貰いやすくなる。 ハガル・ベオークン・イル…… 詠唱が終わるが、その瞬間この呪文の威力を理解した。 周辺空域全てを巻き込むであろう、その威力を。 選択肢は二つ。殺すか。殺さぬか。 破壊すべきは何か。 一瞬、迷いが生じたが直ぐにそれを断ち切る。 (『詠唱する』と心の中で思ったなら……その時スデに行動は終わっているのよね……) 翼に穴が開くが、速度は落さない。むしろ落したりでもしれば、それこそ蜂の巣だ。 風竜に乗った遍在ワルドと目が合った気がしたが、構っている暇など一切無い。 そのまま、ストレングスとすれ違うように降下し、胴体部に直撃を果たすボルトの弾幕が見えた瞬間、光の玉が辺りを包んだ。 ようやく到着した二人と一匹だが、艦隊が光の玉に包まれていく光景を見た。 「なによ……あの光は……」 「分からない……」 「でも、あれなら、トリステインが勝ったって事じゃない?」 ラ・ロシェール付近に展開し壊走寸前だったトリステイン軍からも歓声が聞こえている。 「……まだ!」 タバサがそう叫ぶと光が晴れる。殆どの艦は炎上し、甲板とマストを燃やし墜落していたが、唯一本命の巨大戦艦だけは、炎上しながらも健在な威容を見せていた。 スタンドの船という事が災いした。 本体、つまり、フォーエバーには直接ダメージは入ってないのだ。 核。ストレングスがベースとしている艦が炎上していれば墜落していただろうが、巨大なスタンド像に阻まれ、こちらは損傷には至っていない。 もちろん、船に与えたダメージの分は本体にもフィードバックされているが致命傷というわけではない。 「フフ……ハハハハハハハ!」 船の中でワルドが笑う。ただひたすら笑う。 あの光を見た瞬間、それを虚無だと確信したのだが、その伝説の虚無すらものともしない艦を手に入れた事に笑った。 「ギャオオオォォォォ」 だが、その笑いをも打ち消す獣の叫びが辺りに響き渡る。 その声の主はフォーエバーだ。 船体を焼かれているのだから、当然ある程度本体も焼かれている事になる。 こうなれば、ワルドに対しての忠誠など一切無い。使い魔になって日が浅いというのも災いした。 敵を倒すという本能のみが頭を支配する。 スタンドに目覚めているだけあって、普通の猿とは違う高度な頭脳を持っているのだ。 通常なら制御できていたが、焼かれた事でベイビィ・フェイスの息子もびっくりな暴走っぷりを始めている。 主砲はスタンドではなく実弾なので、それを込める乗員などその他多数乗船していたが、一人の例外も無く船の中に飲み込まれようとしている。 「こ、これは……馬鹿な……!」 ワルドとて例外ではない。スデに半身を底なし沼にハマった旅人のように船体に埋めている。 必死に、フォーエバーと連絡を取ろうとするが、怒り一色のフォーエバーにはそんなもの聞こえてすらいない。 「アレでまた墜ちねーのか……」 「もー無理だ、逆立ちしても無理だね」 機首を翻し、光の起こった方向を見たが、炎上しながらも依然として健在な戦艦が上空にあった。 弾幕の射程に入らないようにしていると、見慣れた竜が戦艦に近付くのを見た。 「あの馬鹿が……ッ!死ぬぞ!」 タバサ&キュルケinシルフィードなのだが、どうやら戦艦上空に向かおうとしているらしい。 へばっているルイズを後ろに押し込むと、再び高度を上げるが、シルフィードに向け弾幕が放たれた様子は無い。 「やはり、視認で撃ってきたってわけか……?なら本体はどこだ?」 甲板を見渡しても本体らしき者は居ない。中に本体が居ると判断し広域老化を仕掛けるべく甲板上空に付けるが、それより先にシルフィードがそこに居た。 「オメーら邪魔だ!」 そう叫ぶが、距離もある上に、ゼロ戦自身の爆音で聞こえていない。 船自身がスタンド。迂闊に接近するのは自殺行為だ。グレイトフル・デッドの 長大な射程があればこそ、ギリギリまで接近したのだが、シルフィードは近付きすぎている。 「ここまで近付いても攻撃してこないなんて……何があったのか知らないけど先手必勝ね!」 普通の船なら、近付くまでに船員なりが攻撃を仕掛けてくる。旗艦なら当然メイジも居るはずだ。 だが、現在フォーエバー暴走中につき船から反撃が行われる事は無い。 それで、二人して乗り込もうと思ったのだが、この船自身がスタンドなどとは微塵も思っていない。 そして、シルフィードが最も接近した時、二人と一匹に船体からパイプなどの部品が絡みついた。 「なな、何よこれ!」 「……引っ張られる!」 (こ、こいつおねーさまに何をーー!……はッ!まさか、その触手っぽいモノでおねーさまに、あんな事やこんな事を!……少し見てみたい気も!) ちょっとアレな想像をして悶えているシルフィードだが、相手はあの家出少女(14)に手ぇ出そうとした猿。 何が言いたいかというと……正解である。 獣の叫びを上げながら、壁から巨大な猿……オラウータンことフォーエバーがにじり出てくる。 怒りで顔を通常の三倍の如く赤く染め上げ、絡め取られている二人+一匹に近付いていく。 タバサが辛うじて握っていた杖で『ウィンディ・アイシクル』を唱えたが、フォーエバーに当たる直前に 床の壁がフォーエバーをガードするかのように盛り上がり氷柱を阻んだ。 「……錬金!?……違う……まさかスタンド!?」 改めてフォーエバーを見据えるが、刺さった氷柱を抜き、火傷に押し当てたり、かじりつつタバサを見ている。 「猿のくせに……気に入らない顔してるわね…!」 そっち方面の事に関しては百戦錬磨のキュルケさんにとってはその猿の顔は今まで見飽きたような顔だ。 「なに?この微熱のキュルケを無視してタバサに?……いい度胸してるじゃない!」 もちろん、そんな露骨な表情で迫ってきた男達は火葬される事になっているのだが、それが、自分にではなくタバサに向けられている事が気に入らなかった。 Fuck you……ブチ殺すぞエテ公 そんな危ない呟きが聞こえたのは多分幻聴だ。 そして、『フレイム・ボール』が放たれるが、フォーエバーの遥か手前で壁に阻まれ炎上している。 魔法―ストレングスから見ればスタンド能力だと思っているのだが、それを見て、邪魔だと言わんばかりにキュルケとシルフィードを船体に半身を沈めさせる。 「ヤッバイ……逃げなさいタバサ!」 「……無理」 人間の五倍近くの力を有するオラウータンだ。並の人間でも太刀打ちできないのに、普通より小柄なタバサが拘束から逃れるのは不可能といえた。 「ウホ、グフホホホ」 氷をかじりながらモット伯もドン引くような笑みを浮かべゆっくりと近付く。 (ああ!おねーさまの初めてが、あんな猿に!?……でも大丈夫なの!後でシルフィが慰めてあげるのね!) フォーエバーとは別の方向でなんか興奮しているシルフィードを見て、これを乗り切ったらどんなお仕置きをしようかと思ったのだが、それどころではない。 だが、フォーエバーとタバサの距離が3メートルに達したところで、フォーエバーが止まり右手を横にかざした。 瞬間、その横に『ウィンディ・アイシクル』を止めたものより厚い壁が盛り上がり、そこに機銃弾が撃ち込まれた。 「チッ!」 それと同時に、上空をゼロ戦が通り過ぎ、その場に風が流れる。 「最悪、巻き込もうかと思ったが……氷食ってやがんな」 忌々しげに眼下のフォーエバーを見るが、ガリガリと氷を貪り余裕とアレが混じったムカつく笑みを浮かべている。 本来ならオラウータンと人間の寿命差でフォーエバーが先にくたばるのだが、タバサが魔法を使ったのが仇になった。 こうなれば、広域老化は役に立たない。 直触りは問題外だ。ゼロ戦を捨てたとしても船上はフォーエバーのホーム・グラウンド。 例えるなら、虎の球団のファンが大勢乗った電車の中で一人オレンジ色のマークの球団の帽子を被り、それに乗るようなものだ。 機銃弾も通じない以上、残った手段は、キュルケの炎でフォーエバーの体温を上げさせる事だったが肝心の魔法がフォーエバーの遥か手前で止められているから期待できそうにない。 もう一度反転し、機銃を撃ち込むが、さっきと同じように壁に阻まれフォーエバーに届いていない。 「エテ公が……ここで、撃ってくれば墜とせるってのに、やらねーって事は…ナメきってやがんなッ!」 「こいつじゃ、あの壁を貫通できねーしな。どうするね兄貴」 連続して同じ場所に撃ち込めば貫通できるだろうが、ゼロ戦自体が高速で動いている以上それはできない。 ガンダールヴ印の効果で精密射撃自体は可能になっているが、あの壁を貫通できるぐらい同じ場所に連続射撃をするというのは無理だ。 遠すぎれば弾はバラけるし、近ければ、その速度故に貫通するだけの量の弾を撃ち込めない。 「ホワイト・アルバムを相手にしてる気分だぜ……クソッ!」 あの堅牢な装甲も、同じ箇所に立て続けに攻撃を食らったり、一点集中の強大な負荷をかければ破れるのだが、それをやるのがディ・モールト難しいのだ。 つまりまぁ……目の前の猿がギアッチョと被り、ムカついてきた。 「速すぎるなら速度落せばいいんじゃないか?」 「これで限界だ、これ以上落すとこいつが墜ちるからな……」 もう少し落せない事も無いが、水平飛行をギリギリ維持できる速度だ。上昇や旋回などは当然できない。 まして、照準の調整などしようものなら即、失速して墜落だ。 「いっその事、こいつを空中で止めちまうってのはどうだ?」 「馬鹿かオメーは?プロペラが回って前へ進んでるからこいつが飛んでんだろーが」 「いや、魔法でさ」 悪くは無いが、誰がやるかが問題だ。 タバサは、もうスデにがっつりと絡め取られ、ルイズはヘバっているし、爆発を起こしかねない。 となると残っているのは、半身を埋めているキュルケだが、フォーエバーに気付かれずに伝える手段が無い。 スタンド使い同士なら、意思疎通も可能だが、そうではない。もっともフォーエバーにも聞こえてしまうが。 直接伝えるのがベストだが、そんな真似ができる人間はここには――― 「……オメー確か丈夫な方だったよな?」 「ああ、そりゃあ伝説だしな」 「それじゃあ、今から言う事をしっかり覚えとけ」 「んー?どうするんだね?」 説明し終えると、デルフリンガーの柄を握り、キュルケの方を見る。 半身を埋めているものの、杖を持った方の手は出ている。良好だ。 「イタリアに戻れたら言えねーから、先に言っといてやる。世話になったな『相棒』」 「兄貴……俺の事を初めてそう言ってくれたな……!もう泣きそぉぉぉぉぉぉぉぉ」 言い終える前に、デルフリンガーをキュルケの方に向けブン投げる。 見下ろすと、見事にキュルケの近くに刺さったデルフリンガーとキュルケが何やら言い合っているが問題は無いと判断し再び上昇する。 スデに、日は半分欠けている。一発勝負だ。 「あたしに刺さってたらどうしてくれんのよ、この剣は」 「俺に言うな。投げたのは兄貴だぜ…で、大丈夫なんだな?」 「任せときなさいな。あのエテ公に一泡吹かせられるんなら何だってやるわよ。……タバサも色々と危ないみたいだし」 猿を睨むが、腕をタバサに向け動かしている。 タバサの方も見るが、フォーエバーが腕を動かす動きに合わせパイプがグネグネと動いている。 正直言って、触手そのものと言ってもいい。 ジュルリ そんな音がしたが、デルフリンガーは幻聴だと思った。というかそう思わせてください。 「そ、そろそろ、くるぜ」 キュルケの方は見ないでそう答える。見れば今までの価値観が崩れてしまいそうな気がする。 今までタバサの方に向けていた腕を上に向けるとフォーエバーを覆うように壁ができた。 それと同時に、直上方向から機銃弾が浴びせられるが、さっきと同じで貫通はしない。 20ミリ機銃でも突破できない厚さの上にスタンドだ。 普通のものより強化されている。 特攻という事も考えたが、この船は俺のものだ。壁を介して何時でも逃げられる。 何より、この近さでは、この少女も巻き込むはずだ。 上は放っておいても問題無い。となれば、何かしてきそうなのは捕獲している一人と一匹かと判断し視線をメンドクさそうにそっちに向けると 赤髪の女が杖を振っている事に気付いた。 それを見るや、手を掴むように握りこむ。 「がッ……レディにこんな事するなんて……礼儀を知らないわね……エテ公が……うぐぁぁ……!」 (痛い痛い痛い痛い痛い痛いのーーーーー!) 人間の5倍近いオラウータンの握力とスタンドパワーによる締め付け、下手すれば埋もれている部分から切断される。 フォーエバー自身、キュルケにもアレでナニな事をするつもりでいたが、ド真ん中ストライクゾーンなのはタバサだったため、放置していたが害になるのなら始末する。 そう判断し、そちらに集中を向けたため、それが一手遅れる事になった。 直上方向から壁を穿つ音が聞こえていたが、その音が長すぎる。 機首を翻していなければ機体を船にぶつけているはずだが、それも無い。 思わず上を見上げるが、見た物は同じ箇所に銃弾を受け、脆くなった壁を突き破り己の額に向かってくる20ミリ機銃だった。 「資料で見ただけだが…ナランチャがトドメを刺す時はこう言っているようだな……」 機体を90°傾けさせ機首をフォーエバーに向けた機体の中でスタンド使いにのみ聞こえる会話をフォーエバーに向ける。 「ブゴォォォ!ウグアボゴォォォォ!!」 勢いが殺されている弾とはいえ、生物を貫く事ぐらいはできる。 だが、勢いが殺されているだけあって、一発で致命傷に至らなかった事が、この猿の不幸か。 「ボラーレ・ヴィーア(飛んでいきな)…だったか?」 トリガーを押しっぱなしにし銃身が焼きつかんばかりに弾切れまで撃ち尽くした。 「はぁ……ものすごい締め付けだったわね……千切れるかと思ったじゃない」 ちょっと言葉がアレだが気にしない。 猿とタバサの方を見るが、どうやらギリギリ一歩手前で無事なようで一先ず安堵した。 (死ぬかと思ったのね……でもこれから、泣き崩れるおねーさまをシルフィが優しく抱いて……) (なにやってるの?) (はッ!おねーさま、何もされなくてよかったのね……) 現実に引き戻され、ちょっと残念そうに答えるシルフィード。自重しろ。 (……お仕置き) (へ?な、何を!?ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサヤッダッバァァァァ) 解放されたタバサが恐ろしく素早い動きで、シルフィードの口に捻じ込んだのは、ご存知『草』が入ったアレだ。 韻竜も一発で昏倒させるその威力に引いたが、船体が溶け始めた事にはビビッた! 「兄貴がこの船スタンドって言ってたから、あのエテ公がスタンド使いって事だな」 「……それって、あの猿を倒したからこの船が消えてるって考えていいの?」 「そういう事だな」 落ちる。そう思った瞬間、垂直に空中で浮いているゼロ戦を水平に戻した。 タバサは気絶したシルフィードで手一杯だ。 直上方向から垂直に降下し『レビテーション』で浮遊させ装甲を貫通できるまで機銃弾を叩き込む。 推力を落としているため、前に進むこともなく墜落もしない。 水平方向なら惰性で照準がズレるため、降下しながらの作戦だ。 水平になった瞬間、再稼動。『レビテーション』が切れる前に飛行可能速度に達するべく、勢いよくプロペラが回転し、その場を離れる。 「どーやら任務完了ってわけだが……間に合うか?」 上空を見上げると日は2/3といったところか。 このまま行けば間に合うだろうが……後ろでヘバっているルイズを見た。 船があった場所を見ると、スタンドが溶けながら核となる船が炎上しながら落ちていっている。 スタンドは溶けたが炎はそうではないため燃え移ったようだ。 タバサとキュルケはスタンドの中に飲み込まれていた船員をそっちに移している。 ストレングスにはメイジも居たため、まぁ何とかなるだろう。 ワルドっぽいヤツも居たような気がしたが、早々に逃げたようだ。 「あっちも手一杯ってわけか……仕方ねーな」 言いつつ機首を下げようとすると、後ろから声がかかった 「なに……やってんのよ?……帰るんじゃなかったの?」 「オメーみてーなの連れていったら、オレが色々困るんだよ」 ルイズが付いてきて、なおかつチームの連中が生きて万が一にでも見られた日には、ハイウェイ・トゥ・ヘルもんである。 そうでなくても、ボスを暗殺せねばならないのだ。暗殺チームの戦いにルイズを巻き込む気は無い。 そう言うが、左手のルーンがさっきよりも少し強く光っている事には気付いていない。 「……わたしが邪魔ならハッキリそう言いなさいよ。いいわ、今日であんたクビね!」 「あ?イカレたのか?この状況で」 「好きにしていいって事よ……元の世界にでもイタリアってとこにでも勝手に帰りなさい」 「だからオメーを連れて行く気は……な……!……てめー何やってる!外は時速350キロだぞ!!」 後ろに居たルイズが、また隙間から前に出てきて、外に身を乗り出そうとしている。 この高さから落ちれば、速度の関係無しに紫外線の直撃を受けたコルベールの毛髪が抜け落ちるぐらい確実に死ぬ。 「わたしを誰だと思ってるの……!虚無の使い手『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』よ?」 「……スタンド使いも能力の目覚めたてが一番危なっかしいんだよ。……本気か?」 「虚無の使い手のわたしが、使い魔如きに心配される覚えなんてないんだからね!でも一つだけ命令よ」 「クビなんじゃあなかったのか?」 「う、うるさい!一々揚げ足取るんじゃないの!……その組織ってとこを相手にしても死なない事」 「オメーに言われるまでもねーよ。オレ『達』は簡単には死ななねぇ」 「な、ならいいわ!……あんたも少しはわたしを信頼してよ……」 「……マジってわけか……止めはしねーが後ろに気をつけろ。後で見たらオメーの肉片が付いてましたとかじゃあ洒落にもならねぇ」 「い、嫌な事いわない!……皆に伝えて欲しい事は無いの?」 「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)。こいつだけで十分だが、しばらく時間が経ってから言えよ」 「なんで?」 「……オメーがそれ言った後に帰れずに戻ってきた時の気まずさを考えてみろ」 「あー……それ、なんかすっごく分かるわ」 別れの挨拶をしてから、後でその本人が現れる。B級映画でもやらない、洒落にもならない行為だ。 「それじゃあね……今だから言うけど結構楽しかったわよ」 「餞別だ、グレイトフル・デッドで運んでやる。あと、デルフの鞘も持っていけ」 言うと同時に、ルイズを持ち上げる。 「死んでも責任取らねーからな」 「く、クビにした使い魔に責任取ってもらう必要なんて、無いわよ」 「言ってろ」 フルパワー。尾翼に当たらないように放り上げるようにルイズを投げた。 投げると共にフルスロットル、太陽に向け急速上昇。 少し気にはなったが、後ろは振り向かない。 一端の覚悟を持って望んだのだ。信頼してやるのが礼儀というものだろう。 さて、こちらは重力に従って降下しているルイズだ。 確信があったわけではないが、自分の系統を見つけた事により、それも使えるであろうという奇妙な感覚があった。 「落ち着くのよ…ルイズ・フランソワーズ……落ち着いてやればできるわ……あいつも言ってたじゃない」 風圧で手に持つ杖が飛ばされそうになるが、しっかりと握り締める。 これを飛ばされたら、パール・ジャム決定だ。 呪文を詠唱し風圧に逆らいながら杖を振ると降下の速度が落ちる。 「『レビテーション』……やっと成功ってとこね」 地面に着陸すると同時にガクッと意識が遠くなる。今ので最後の最後まで精神力を使い果たしたらしい。 完全に意識を失う瞬間、キュルケとタバサが近付いてくるのが見えた。 そして、翌日。学院で目が覚めたルイズだったが…使い魔がどこにも居ない事に……泣いた ←To be continue...? 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6196.html
前ページ次ページゼロの使い魔様は根腐れしてやがる!! 「ご・・・誤解なんだ!!二人とも!!」 いきなりの大声で自分の無実を力説するのは ミスターかませ とか、ヤム○ャの系譜とか 色々と言われる男、ギーシュ・ド・グラモン 彼が何故こんなにあせっているのかと言うと、話はちょっと前に遡る アルヴィースの大食堂、ここでギーシュと友人たちが年頃特有の恋話に華を咲かせていた時の事だった ふいにギーシュのポケットから香水の瓶が落ちた それをたまたまシエスタが拾い、持ち主に返そうとした。 だがギーシュはそれを受け取らなかった、いや受け取れなかったのだ この場では、 理由は彼が香水をプレゼントされたモンモランシーの他に1年生のケティと言う女の子に浮気をし、 あまつさえ、その二人がすぐそばにいると言う状態 なんとかして最悪の事態は避けたい その時!! 「えー もみ消し、もみ消しぃ~もみ消し屋はいらんかねぇ」 食堂内なのに何故か船でやってくる謎の海賊と謎の怪僧のコンビ 「あなたの人生をけつまずかせる物事をーあなたになりかわってもみ消しー」 「君、君」 「へい らっしゃい」 「まるで今の僕の状況のためにあるようなステキなお仕事だねぇ」 「おそれいりやす」 そしてギーシュはシエスタの手の中の香水瓶を指差し、 「こいつのもみ消しをお願いしたいのだが」 「へい 浮気の証拠隠滅 一丁」 「「それでは」」 男たちが仕事人の顔になり・・・そして 謎の怪僧がニギニギと香水瓶を握りつぶした そして海に帰っていった(食堂だったはずなのだが) 「で、ギーシュ・・・浮気してたんだって(怒)」 「酷いです・・・ギーシュ様(泣)」 ギ・ギ・ギとギーシュが後ろを振り向くとそこにはモンモランシーとケティが・・・ そして話は冒頭の 「ご・・・誤解なんだ!!二人とも!!」に戻る 「「あれだけ大声で浮気、浮気言っておいて誤解も何もあるかぁ!!」」 「ぎゃああああ!!」 モンモランシーの水魔法が津波となってギーシュを襲う、 フライの魔法で飛翔したケティが全身に炎を纏いギーシュ目掛けて突撃する 「ぎゃああああ!!」 ついでにギーシュのもてぶりに嫉妬したマルコリヌが風魔法で自らを弾丸に突進してきた 「このやろお 羨ましいだろうが 破局道!!」 「てめぇ!!マルコメ!!破局の文字がちがああ!!」 こうして一つの悪は滅びた だが人は同じ過ちを繰り返す 「ぐううう、このギーシュが死すとも 必ずや第2、第3のギーシュが貴様らの目の前に・・・」 それはそれとして・・・ 人の悩みに答えまSHOW!! 「はい、今日もショウタイムの時間となりました お馴染み司会は私、ベンジャミン軸盆」 「・・・アシスタント・・・ミス・ハシバミ」 スポットライトを浴びて登場する一振りの剣 「今回の悩みもちかけ人はこちら 煩すぎて武器として殆ど使われないインテリジェンスソード デルフリンガー君」 「え、ええ?俺っちなんでこんな所に?」 「彼がマトモに使われるにはどうしたらいいか 三人のスペシャリストがアンサー!!」 さらにその奥に三人の影にスポットライトが当たる 「そして、こちらがお答え頂く三人でーす」 左から、ルイズ、助手B、謎の怪僧 まずはルイズ嬢の答え 「んー、とりあえず喋らなければいいんじゃない?」 「それじゃあインテリジェンスソードじゃねぇだろ」 ドカーーーン 次に助手Bの答え 「今、使い手にめぐり合えない不幸はねぇ とりあえず印鑑かえればいいよ」 「いやいや、俺、武器だって・・・どうやって印鑑もつんだよ?」 最後、謎の怪僧の答え 「草花を愛でるのです」 「だから・・・俺・・・武器・・・」 「・・・」 「・・・」 ニギニギ 「はい!!また次回!!」 「・・・番組ではお悩みもちこみ人・・・募集中」 「ちょ、待って、もしかして俺様の出番ってこれだけかぁ!!待ってーー!!」 続く 前ページ次ページゼロの使い魔様は根腐れしてやがる!!