約 845,524 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/848.html
パピヨンが召喚されてからもう数日がたった。 その数日の間にギーシュが彼をぱk・・・リスペクトしたスーツを着るようになったり、 タバサが「女王様なのにロリっ子!このミスマッチ感がたまらんですたい!」という集団にストーキングされるようになったり、 ルイズとパピヨンの戦闘演習に巻き込まれて多数の被害者が出たりと数々の事件が起こった。 そんなどたばたした日々と共に徐々にパピヨンのいる風景が当たり前のものとなっていく。 しかしそれを受け入れられない人間も少数ながら存在するのだ。 「決闘だ、コンチクショー!お前の正体を暴いて学園から放り出してやる!!」 パピヨンに杖をつきつけながらそう宣言したのはマリコルヌだった。 ゼロの蝶々 ~決闘(実験)編~ マリコルヌがパピヨンに決闘を挑んだ理由は彼が落とした香水の小瓶をパピヨンが拾ったから、では勿論ない。 彼はパピヨンを見た時、彼を変態だと認識した。 しかし他の殆どの貴族はパピヨンを蝶々の妖精さんだと断じ、マリコルヌを糾弾した。 その後も事あるごとにマリコルヌはパピヨンは変態だと主張したが、その度ごとに彼はマジ泣きするはめになった。 普通ならばそこまでくれば諦めて内心はどうあれパピヨンを蝶々の妖精さんだと認めるだろう。 しかし彼は諦めなかった。 何度も、何度でも彼はパピヨンは変態だといい続けた。 その姿は某戦士長が見れば 「そうか、アイツは諦めが悪かったか。最後まで強き意志で戦い抜いたか!ブラボーだ!!」 と褒め称えること間違いなしであった。 そしてマリコルヌはついに実力行使に出たのだ。 もしパピヨンが本当に蝶々の妖精さんなら先住魔法の使い手、ドットの自分など相手にもならない筈、 つまり決闘して彼を叩き伏せれば学院のみんなの目を覚ますことが出来る、と考えたのだ。 そしてパピヨンはその挑戦をあっさりと受けた。 決闘場のヴェストリ広場はちょっとしたお祭り騒ぎだった。 生徒だけでなく教師、はてはメイドまで見物にきている。 そんな中、ルイズは人垣を抜けてパピヨンの側に駆け寄る。 「ちょっとパピヨン!何勝手に決闘なんて受けてるのよ!」 「そろそろご主人様の爆発以外の魔法を体験してみたいと思ってね。 文献からの知識も大事だがやはり実験は重要だ」 「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないわ。 あんたを殺すのはわたし自らの手でと決めているから教えてあげる。 いい?平民はメイジには絶対に勝てないの。このままじゃあんたマリコルヌに殺されるわよ?」 「平民?俺は超人・パピヨンだ」 ルイズは額に青筋を浮かべてパピヨンの顔を見つめたあと深いため息をつき言った。 「もう勝手にしなさい、マリコルヌに譲るのは癪だけどもういいわ。 ご主人様としての最後の命令よ。降参は許さない、死ぬまで続けなさい」 「ふむ、了解した。ご主人様。最後の命令くらいは素直に聞いてやろう」 やっぱり妙にくねくねした動きで広場の中央に向かうパピヨン。 そこには既にマリコルヌが待っていた。 「逃げずによく来たな、変態」 「いや、実は来るかどうか少々迷っていた。 向かってくるものは叩き潰すに限るが弱いものいじめは趣味じゃないんでね。 でも折角こうして観客が集まったんだ、その期待を裏切るのも悪い」 『おおおおぉぉ!』という歓声の後、怒涛の「パピヨン」コール。 それに対しパピヨンは何時ものように、 「パピ(はあと)!ヨン(はあと)!もっと愛を込めて!!」 と叫んで応えた。 「どこまでもふざけた奴だ、今化けの皮をはいでやるぞ!」 杖を構えると同時にエアハンマーの呪文を唱え始める。 マリコルヌの実力ではたいした威力はないがそれでも平民を一人殺傷するには十分な魔法である。 対するパピヨンは何処か楽しそうな笑顔を浮かべたまま動こうともしない。 「くらえ!エアハンマー!!」 それは今まで聞いたことのない奇妙な音だった。 巨大な風船が弾けたような音でありながら鉄がひしゃげた音のような、そんな不思議な音だった。 「・・・あれ?」 「ふむ、やはり精神力が力の源だけあって似たような性質を持つようだな。 普通の傷より治りが遅い。流石に死ぬかどうかは試せないが気をつけるにこしたことはないな。 しかし同時にこの身体は魔法に対する干渉能力が高いという推論も正しかったのだからプラマイゼロか」 唖然とするマリコルヌ、そして自分の少し血が滲む指先を見ながら独り言を呟くパピヨン。 「ん?どうした?まだ実験を始めたばかりだ。 遠慮せずにもっと色々な魔法を俺に見せろ」 「う、うああああぁぁあぁぁ!!!?」 半分パニックに陥りながら自分に唱えられる攻撃魔法を連続で唱え続けるマリコルヌ。 だがパピヨンが腕を振るうと同時に先ほどの奇妙な音が辺りに響くだけだった。 マリコルヌは理解したくなかった、しかしここまで来ればもう認めるしかない。 目の前にいるパピヨンは魔法を弾いて散らせている、それも・・・素手で! マリコルヌはもう完全にパニック状態だ。 (先住魔法?エルフ?蝶々の妖精さん?本物の?) しかも、だ。パピヨンは徐々にマリコルヌに歩み寄っている。 マリコルヌが魔法を唱えるごとに一歩ずつ。 ついにマリコルヌとパピヨンの距離が1メイルを切った。 「次の一歩で腕が届く距離になるな。 さあどうする?魔法を使うか?後ろを向いて逃げ出すか?それとも降参するか?」 「ま、参った!降参だ!!」 「賢明な判断だな・・・だがNON!!」 「え・・・ええええええぇeeeeeee!!?」 「ご主人様からの命令でね、お前が死ぬまで決闘はやめられない」 広場は一瞬の静寂の後、大騒ぎになった。 「な、なんだってー!!」 「それが人間のすることか貴様ぁ!」 「ちょwwwwwおまwwwww」 「まさに外道!」 「ルイズ・・・恐ろしい子!」 ルイズは周囲の鬼を見るような視線に曝されながらパピヨンに向かって叫ぶ。 「わたしが何時そんなことを命じたのよ!勝手に変なことを言わないで!!」 「何を言う、ご主人様。確かにあんたは言ったぞ。 『(マリコルヌの)降参は許さない、(マリコルヌが)死ぬまで続けなさい』ってね。 流石の俺もそこまで残虐な真似はどうかと思うがご主人様の厳命ならば従わざるを得ないからな」 ルイズの半径10メイル内に居た人間が一斉に退く。 「あああああ、あんた分かってて言ってるでしょ!?ぜぜぜ絶対にそうでしょ!! とにかく止めなさい!マリコルヌの降参で決闘は終わりよ! それと魔法を弾いてたの何!?わたしにも出来る!?出来るなら教えて、っていうか教えろ今すぐ」 「『最後の命令』をしたばかりなのにまた命令か?それも複数とは。 全く、我侭かつ忘れっぽいご主人様だな」 「流石は『蝶々の妖精さん』じゃな」 所変わってここは学院長室。 オールド・オスマンとコルベールが決闘の様子を遠見の鏡で見ていたのだ。 「ええ、見事なものです。彼もドットの割には健闘しましたが、やはり勝負は見えていましたな」 「これでマルコメヌは勿論、一部の今まで認めていなかったものどももパピヨンが『蝶々の妖精さん』だと認めるじゃろう。 これで今後のいらぬトラブルは減りそうじゃな。今はとにかく様子を見るべき時期じゃ」 「そうですな、オールド・オスマン。所であの生徒の名はマリコルヌです」 「ミスタ・メリーベルは細かいのぉ」 「メリーベルは明らかに女性の名前でしょうが!」 「おお!それもそうじゃな、ミセス・メリーベル」 「直すのそっちかよ!」 そんな漫才をしている二人をよそに、 遠見の鏡に映る『蝶々の妖精さん』とその主人の口論(といってもパピヨンがからかい、ルイズが激昂しているだけだが)は 何時もの『戦闘演習』に発展し、最近の学院の名物となりつつある光景が繰り広げられているのだった。 ちなみに無傷で決闘を終えられたと思っていたマリコルヌは ルイズの失敗魔法の爆発に巻き込まれて結局医務室送りになった。 「そこまでしてマリコルヌを始末したかったとは本当に恐ろしい奴だな、ご主人様は」 「うるさいうるさいうるさい!!」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5919.html
前ページ次ページゼロの黒魔道士 …食事って「みんなを笑顔にする魔法でもあるアルヨ!」っておじいちゃんが言ってたこともあったなぁ… 「本来なら、使い魔はこの食堂にすら入ることを許されないんだからね!」 …目の前には豪華な食事が(狩猟祭の後みたいだ)… 「あんたは私の特別なはからいで入れたのよ?感謝しなさいっ!」 …周りの学生さんたちがクスクスこっちを見て笑ってる… 「えーと…ボクの食事って…」 「そこにあるでしょ?」 …足下にはスープとパンだけ… 「あ、う、うん…ありがとう…」 …とりあえず、お礼を言う…うーん… …使い魔って、やっぱり大変なのかもしれないなぁ… ―ゼロの黒魔道士― ~第三幕~笑顔の魔法 前半 …あわただしい朝食前の支度が終わって(女の人の服って複雑なんだなぁ…) アルヴィーズの食堂ってところに来たんだ… 「おっきぃなぁ…」 頭をぐぅ~っとそらして天井を見上げる(ちょっとだけよろけちゃった) お金持ちって、こんなおっきなところでご飯食べるんだ… 「貴族として、これぐらい当然よっ!」 …ルイズおねえちゃんが胸をはってそう言う …このおっきさなら、自慢したくのは分かるけど…みんな、こっち見てるよ? しかもクスクス笑ってるし… 「あ、ほら、さっさとイスをひくっ!気が利かないわねっ!」 …笑われてるのに気づいたのか、ルイズおねえちゃんは慌ててボクに指示を出す 「う、うn…はい!」 …返事は『はい』、返事は『はい』…『うん』と『はい』ってそんなに違うのかなぁ…? 「ごちそうさまでした…」 …スープもパンもすっごく美味しかった うん、これはやっぱり「笑顔にする魔法」なんだろうなぁ…もうちょっと量があったらうれしいけど… …ルイズおねえちゃんはまだまだ食事の最中だった …こういうときって、どうすればいいんだろ…立って待ってればいいのかなぁ… 「あ、あの、ルイズおねえちゃん…ボク、どうすればいいの…?」 …こういうときは、ちゃんと聞くのが多分正解だよね? 「何?あんたもう食べ終わっちゃったの?」 「う、うん…」 …ルイズおねえちゃんが鳥肉をフォークとナイフできれいに切りながらこっちに顔を向ける… …おいしそうだなぁとちょっと唾を飲み込んだのはナイショだ 「しょうがないわねぇ…そこにいても給仕の邪魔になるし、中庭にでも出ていなさい。終わったら私も行くから」 「うn…はい!」 …うーん、やっぱり返事は『はい』って慣れないや… 「…わぁ、モンスターでいっぱいだぁ…」 中庭に出ると、そこはモンスターのでいっぱいだったんだ おっきいのから、ちっちゃいの、かっこいいのや、なんだかよく分からないのまで… …これ、全部使い魔なんだ… みんな大人しくエサを食べたり、日向ぼっこしてたりしてた …平和な世界って、やっぱりいいなぁって思ったんだ… 「あ、フレイムだ…昨日はゴメンね?」 …キュルケおねえちゃんの使い魔のフレイムは、木陰のところでおっきな骨をくわえてしゃぶっているところだった… …ちゃんとしたごはんを食べてるみたいで、ちょっとだけうらやましかった… 「ブフォッ」 フレイムは炎を小さく吐いて「気にするな」って言ってくれたみたいだ …いつか、ルイズおねえちゃんに本当のことは言わないとなぁ…機嫌のいいときに… …火を吐くと、トカゲでもあったかくなるんだなぁ…って考えながらフレイムをなでていたんだ しばらくたって…フレイムがお腹いっぱいになって眠くなっちゃったのか「ボフッ」と煙のあくびを出したころ 「きゅいきゅい?」 おっきな影が、とんがり帽子に模様を作ったんだ…ゆっくりそっちを見上げると… 「わわっ、ど、ドラゴン!? …あ…きみも…使い魔なの…?」 思わず「ブリザド」を唱えようとしたけど…よく考えたら、ここにいるのって使い魔ばっかりなんだよね… 「きゅいきゅい♪」 コクコクッてドラゴンが首をふる…よく見るととってもきれいな子だった… 青と白のコントラスト…青空によく溶け込みそうな子だった…水…いや、風属性かなぁ…? 「えっと…ビビって言うんだ、よろしくね?」 …ググッと手を伸ばして触る…きれいな鱗だなぁ… 「きゅい、きゅいっ♪」 あ、頭を下げてくれた… かわいいなぁ…ドラゴンをかわいいと思うなんて思わなかった… 「なーにやってんのよ、あんた…」 ルイズおねえちゃんはいつの間にか後ろに立っていた …ドラゴンに夢中できづかなかったや… 「あ、うん…きれいなドラゴンだなって…」 「ふぅん?う…ツェルプストーのマント燃やし魔までいるじゃないっ!!気分悪いわっ!!授業行くからついてらっしゃい!」 「え、あ、は、はいっ!」 帽子をきゅっとかぶりなおす 「じゃ、みんな、またね!」 使い魔のみんなに手を振る…みんながそれに応えてくれる… こういう平和っていいなぁ… ボクらは…きっとこんな平和のために、戦ってきたんだよね… …こんな平和も、「笑顔にする魔法」なのかなぁ…? 「こらぁ!さっさとするぅっ!!」 「え、あ、ちょ、ルイズおねえちゃん首は苦しいかr」ズルズル …うーん、でも首根っこひっつかまれて引きずられるのって「平和」なのかなぁ…? ピコン ~おまけ~ ATE ―あの子の正体は?― 青い龍は上機嫌だった。サモン・サーヴァントのときから気になっていたあの子と仲良くなれたのだ。 「きゅるきゅるきゅる~♪」 「…随分、仲良し」 メガネの少女が龍にに歩み寄る 「あ、お姉さまー!きゅるきゅる!シルフィたち仲良しなのねー!」 ゴスッと鈍い音とともに杖が振り下ろされる 「…声が大きい」 「うぐっ…ゴメンなのね…でも精霊さんと仲良しになれるってうれしいのねー♪」 「…精霊?」 「そう、あの子は精霊さんなのね!しかも、特定の属性の、じゃなくて色々混ざった言わばスーパー精霊さんなのね!」 「…スーパー?」 「スーパーもスーパーなのね!お姉さまぐらいスーパーなのね!あ、そういえばそんなスーパーなお姉さまを称える歌がまた一曲できたのね!」 「…興味深い…」 「きゅいきゅいきゅいっ!じゃ歌うのね!『お姉さま~はすっごいぞ~♪』」 「…あの子…何者…?」 青髪の少女は、とりあえず杖をふりおろしながらメガネを光らせた。 前ページ次ページゼロの黒魔道士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4129.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「はは……まあ、魔法なんて物がある時点でわかってた事だけどな……」 空に浮かぶ巨大な双子の月を見上げて、耕一はどこか乾いた声を搾り出した。 なんというか……動かぬ証拠、とでもいうか。 ああ、ここは『違うところ』なんだなあ、と、昼間に『フライ』の魔法を見た時とはまた違う実感が、耕一の心に去来していた。 「月なんて見上げて、どうしたの?」 「いやあ……こっちの世界じゃ、月は一つでね。改めて、ここが違う世界なんだと実感してたトコ」 「月が一つ、ねえ……やっぱり、聞いた事ないわ」 同じく窓の方を見ながら、ルイズはため息をついた。 「そろそろ夕食の時間ね。あんた、食べ物は何を食べるの?」 「……穀物とか、野菜とか、肉とか魚とか。別に変わらないと思うぞ」 むしろ元人間です。と、エルクゥの素性を隠すに当たって言うに言えない耕一は、そんな風に言葉を濁すしかなかった。 「そう。じゃあ、ついてきなさい。食堂に行くわよ」 ベッドから立ち上がるルイズに首肯して、耕一も席を立った。 本塔の1階にある食堂は、夕食時の賑やかな喧騒に包まれていた。 ぴかぴかと光を放つ壁に床に天井。広く、高く、大きな空間に、装飾過多にしか思えない内装、壁を囲むように配置された、精緻な人形の数々。 そこでは、故郷の都会にある特殊な喫茶店で見るような外面だけの服ではない、使い込まれた本物の給仕の服を来た沢山の小間使い達が、ルイズと同じマントを羽織った少年少女の食事の世話をあくせくと行っている。 現代日本の人間に、これがおとぎ話のお城の広間です、と目の前に差し出したら信じてしまいそうな、そんな場所だった。 「驚いてるみたいね。ここがアルヴィーズの食堂。トリステイン魔法学院に住んでいる人達の食事は、すべてここでまかなわれるの。……ほら、椅子を引きなさい。気が付かない使い魔ね」 ルイズは、食堂に並んだ異様に長い3つのテーブルのうち、真ん中にあるテーブルに付いた。 周囲を見ると、生徒たちはそれぞれ、着けているマントの色が違う事に気付いた。 ルイズが着けている黒と、紫と、茶色。 黒いマントは真ん中のテーブル、紫のマントが食堂の正面に向かってその左、茶色のマントが右に集まっているように見える。 そういやさっき、1年生から3年生まで居るような事を言ってたな……と、故郷の学校のジャージや上履きの色分けを思い出した。 「『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』。学院では、魔法だけでなく、貴族としての、貴族たるべき教育も存分に行われるわ。その食事を預かる食卓も、それにふさわしいものでなければならないのよ」 見るも鮮やかな料理を優雅な手付きで口に運び、上品に歓談し、華麗に席を立つ。 少年少女しかいないそれは多少の緩やかさを持ってはいたが、周囲で展開される光景はまさに、『貴族』という言葉のイメージ通りの光景だった。 「……で、俺はどうすればいいんだ? 適当に座れば良いのか?」 「主人と同じテーブルにつく使い魔がどこに居るのよ。今話をするから待ってなさい。ちょっと、そこのメイド」 「はい。どうかなされましたか?」 ルイズがちょうど通りがかった給仕の女の子を呼びつける。 まるで絵に描いたような欧州風の外見をした人ばかりのこの場では珍しい、黒髪の女の子だ。 肩で切りそろえられたそれが、自らの恋人を思わせた。 「これに食事を用意してあげてちょうだい。私の使い魔よ。給仕の賄いみたいなものでいいわ」 「つ、使い魔、ですか? あっ、し、失礼致しました! はい、すぐにご用意致します!」 黒髪のメイドは、困惑したように眉をひそめた後、耕一の左手のあたりに目をやり、弾かれるように厨房へと駆け出していった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今夜もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝致します」 『いただきます』にしては随分と装飾過多な言葉を口にして、手を握り合わせるルイズ。 並べられていくフランス料理のフルコースのような皿の数々。豪奢に飾り付けられたテーブルの上の花瓶や燭台。籠に山と盛られたフルーツの彩り。 「……どこが『ささやか』なんだか」 「貴族の食事としては普通よ」 耕一の呟きに篭められた意味は理解しているのか、前掛けを付けながらそんな答えを返すと、料理を口に運び始める。 その後ろで手持ちぶさたになってしまった耕一に、先程の黒髪のメイドが走り寄ってきた。 「お待たせしました。あの、賄いはご用意できるんですけど、食卓に並べるわけには参りませんので、厨房まで来てほしい、との事です」 「構わないわ。行ってらっしゃい、コーイチ。終わったら向こうの入り口で待っていればいいから」 「わかったよ。じゃあ、行ってくる」 「こちらです。どうぞ」 黒髪のメイドに、食堂の裏手にある厨房へと案内される。 「……あの、あなたが使い魔って、ホントなんですか?」 「みたいだ。不本意ながらね」 行きがてら、おそるおそるといった感じでされた質問に、苦笑しつつ左手を上げてプラプラさせると、メイドは慌てて頭を下げた。 「す、すいません。その、召喚の魔法で人を呼んだなんて、初めて聞くものですから……」 「気にしなくていいよ。えっと……君の名前は?」 「あ、私、シエスタと申します」 「シエスタちゃん、ね。俺は柏木耕一。耕一、でいいよ」 耕一の自己紹介を聞いて、黒髪のメイド、シエスタは驚いたような表情を浮かべた。 「コーイチさん……不思議なお名前ですね。どこか遠いところから?」 「ああ。この国がどこにあるのかわからないぐらいに遠くから、かな」 全てを説明してもしょうがないと、耕一はそう誤魔化す。 「そうですか……」 「……どうかした?」 「い、いえ、何も」 言葉とは裏腹に、厨房らしき場所に到着しても、シエスタはどこか考え込むような表情をしたままだった。 「シエスタちゃん?」 「あ、ご、ごめんなさい。こちらです、どうぞ」 一声かけると、慌てたように厨房の中へと入っていく。 耕一もそれに続くと、食堂の中とは異質の喧騒が耕一を包んだ。 油が爆ぜる音。 肉が焼ける音。 水が沸き立つ音。 食器の触れ合う音。 人の怒鳴る声。 せわしない足音。 前に鶴来屋の厨房を覗いた時もこんな感じだった事を思い出す。それは外の絢爛さとは似ても似つかぬ、紛れもない労働の場だった。 「おう、お前が貴族どもの使い魔にされちまったっつー平民か。災難だったなあ」 被っている縦長の白い帽子と服装からしてコックさんであろう、体格のいい男が近寄ってきて、バンバンと耕一の肩を叩いた。 「ど、どうも。あなたは?」 「ここの料理長をやってる、マルトーってんだ。よろしくな」 「柏木耕一と言います。すいません、突然押しかけて」 「なぁに、メシぐらいだったら幾らでも出してやるさ。味もわからねえ貴族のおぼっちゃん様方の貧しい舌に乗せられるぐらいなら、お前さんに食べてもらったほうが食材も幸せってもんだ。だっはっは!」 人好きのする豪快な笑いをあげて、マルトーは力コブを作ってみせた。 「はは……ありがとうございます」 「いいってことよ。遠慮はいらねえから、ゆっくりしていきな」 マルトーはひとしきり笑い、厨房の忙しさの中に戻っていった。 「じゃあコーイチさん、ここで待っていてくださいね。今お持ちします」 片隅に置かれた粗末なテーブルと椅子に腰を下ろすと、すぐに温かそうなシチューとサラダ、パンが並べられる。 食堂で見たきらびやかな料理とはまったく違うものだったが、耕一にとっては馴染みのある、素朴な装いだった。 「ありがとう、シエスタちゃん。じゃあ、いただきます」 「はい、どうぞ。では、私はお仕事に戻りますね。食べ終わった食器は、あちらの洗い場の人に渡してください」 「ああ、行ってらっしゃい。悪かったね」 いえいえ、とシエスタは笑顔を浮かべ、食堂の方に戻っていった。 「……あ、うまい」 料理は、特に前の世界と違う味がするでもなく、むしろかなりおいしかった。 唯一、サラダに含まれていた濃緑色の細い葉っぱだけは、千鶴さんの料理を彷彿とさせるようなとんでもない味がしたが、舌にエルクゥの力を込めると美味しくなったので些細な問題だった。 食べ物がおいしい事は、とにもかくにも人の生活に活力を与える。 平静であろうとしても、どこか不安に沈んでいた心が、少しだけ洗われた気がした。 「……今日は疲れたわ。私は寝るから、明日の朝は起こしてね」 部屋に戻るなり、お風呂上がりの火照った頬で、ルイズはベッドに転がった。 「起こしてねって……何時ぐらいに起こせばいいんだ?」 「そうね……2時でお願い」 学院内の5つの広場の一つ、ユミルの広場には、大きな日時計が設置されている。 日の出である0時から日の入である12時まで。夏の間は15時ぐらいまで伸びるし、冬なら10時で日が沈む。春の今なら、2時とは、日本で言う朝の7時ごろに当たるだろうか。 機械時計はないものの、時刻という概念はハルケギニアにも浸透しているようだった。 「あと、私を起こす前に、これとこれ、洗濯しておいてね」 「ちょ、うわっ! お、おい!」 「干すところはメイドに聞けばわかると思うわ」 クローゼットから薄手のネグリジェを取り出し、制服と下着をおもむろに脱ぎ出して平然としているルイズに、耕一はさすがに焦った。 「ていうか、いきなり脱ぐなっ! お、俺は男だぞ!? はしたない!」 「使い魔のオスを気にするメイジがどこにいるのよ」 「っ……はぁ。やれやれ」 取り付く島も無いと諦めた耕一は、着替えるルイズを極力見ないようにしながら、脱ぎ散らかされたそれらを拾い集めた。 向こうがどう思っていようと、耕一は健康かつ健全な男だから気にするものだ。いくらその体型が、年相応より発育の遅めな少女のものであるといっても、直視できるようなものではない。 ……まあ、恋人が似たような体型なのが一つの理由であるというのは、彼の名誉の為に黙っておくべき事柄だろう。 「俺はロリコンじゃないぞ。誓って楓ちゃんだけだ。ホントだって。信じて。信じろコラ」 「どこに向かって何を言ってんのよ……」 虚空に向かってブツブツ言い出した耕一を、アレな視線で眺めるルイズ。 「亜人だからしょうがないのかもしれないけど、恥をかくのは私なんだから、人前で変な行動は取らないでよね。じゃ、お休み」 「ん、お休み。ルイズちゃん」 ルイズが布団を被って、ぱちん、と指を鳴らすと、テーブルの上や枕元に灯っていたランプが、ふっとかききえた。 「灯りも魔法か……便利なもんだな」 ぎしり、と椅子をきしませて腕を組み、耕一は窓の外に目をやった。 蒼紅の双月が、煌々と夜を照らしている。部屋の中には、微かな風の音とルイズの寝息だけが響いている。 情緒はたっぷりだったが、先程言いつけられたお役目を思い出した耕一は、一つ嘆息して椅子に背を預け、目を閉じた。 ルイズが起きる前に洗濯をしなければならないのなら、それより早く起きなければならないという事だ。1時間は見ておかなくてはならない。 地上最強の生物、エルクゥであると同時に、必須科目以外の講義は極力1限に入れないようなぐーたら大学生であるところの耕一には、早起きなどというものは、三文の得でしかなかった。二束で。 ……中世ファンタジー世界に来てまで、情緒を楽しむより時間に追われるとはなあ、などと埒も無い事を考えている内に、意識は眠りに吸い込まれていった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6310.html
前ページ次ページゼロの騎士団 今とは違う時代 どこかにあるというスダ・ドアカワールド・・・ 人間族とモビルスーツ族が平和に暮らしていた時代は、魔王サタンガンダムの出現によって長い戦乱の時代が幕を開ける。 サタンガンダムと魔王の先兵たるジオン族は、その恐るべき力によりラクロア地方を瞬く間に恐怖と混乱に陥れた。 人々は自分達を救ってくれる勇者の存在を求めた。 そして、流星が地に落ちる頃、その勇者は出現した。 かつて存在した伝説の勇者の名を冠する者の名、その名をガンダムと言った。 ラクロア国王レビル王はガンダムにナイトの称号を授け、サタンガンダムの討伐を命じた。 ナイトガンダムは仲間達と共に魔王サタンガンダムの討伐に向けて出発した。幾多の強敵を打ち倒し、新たな仲間を得ながら遂にナイトガンダムは、魔王サタンガンダムの城で、サタンガンダムの討伐に成功する。 だが、サタンガンダムは正体であるブラックドラゴンになりナイトガンダム達に襲い掛かった。 対峙したブラックドラゴンの力は絶大な物であった。ナイトガンダム達は、次第に追い詰められていったが、その時、ナイトガンダムが持つ石板が突如として光だした。 石板は伝説の勇者が持つことではじめて力を発揮するものであった。石板はナイトガンダムが持つ三種の神器に本来の力を与え、ナイトガンダムはその力を受けて、見事ブラックドラゴンを討伐に成功したのである。 ナイトガンダムと共に戦った、ナイトアムロは己の未熟さを感じ修行の旅に出る。 長い旅の果てに、アムロはノア地方アルガス王国を訪れる。 ラクロアでのジオンの脅威は去ったが、ジオンは次の標的をここノア地方に定めていた。 ジオンはムンゾ帝国王コンスコンを乗っ取り宣戦を布告、アルガス王国に戦いを挑んでいった。 ナイトアムロはアルガス城を訪問する。そして、そこでナイトガンダムに似た三人のガンダムに出会う。 剣士ゼータ、戦士ダブルゼータ、法術士ニューの三人である。 ノア地方アルガス王国は古くからガンダム族発祥の地と呼ばれ、彼らは伝説の勇者ガンダムの末裔であり、彼らの団長でもあるナイトアレックスもガンダム族の末裔であった。 今、一つ長きにわたる戦いが終結の兆しを見せていた。 団長のアレックスは徐々に押されている戦況を一気に打開しようと単身ムンゾ城に潜入した。しかし、キュベレイにカミーユ王子を人質に取られ逆に捕虜となってしまう。 団長を失った事で騎士団の中は崩壊となり、それぞれ独自に行動を開始する。 見かねたアルガス国王であるブレックスはジオンとの戦闘経験があるナイトアムロを臨時の騎士団団長に抜擢した。三人の隊長はそれに反発しナイトアムロを認めなかった。 アムロにしてみても、彼らをナイトガンダムのように認めることはできなかった。 そんなある日、アムロがいつものように偵察していると森の妖精キャトルウッドに出会う。 アムロはそこで、力には技を、技には魔法を、魔法には力の教えを受ける。 さらに、ジオン三魔団が持つ梟の杖、龍の盾、獅子の斧の三つの獣を集めること伝えた。 キャトルウッドの教えを受けてアムロは、バウにはニューを、ドライセンにはゼータを、キュベレイにはダブルゼータを中心とする戦略で見事三魔団を打倒した。 これぞ正気とばかりにアムロは騎士団を引き連れムンゾ城に攻め入る。しかし、業を煮やしたジーク・ジオンがコンスコンをジオダンテに変え騎士団を襲う。騎士団の連携と三つの獣の力により、見事、ジオダンテを打ち倒し、団長のアレックスを救出した。だが、アムロ達はジーク・ジオンの脅威を改めて痛感したのだった。 アレックスと騎士団を引き連れアムロはラクロアに戻った。そこには、バーサルの称号を受けた、バーサルナイトガンダムとなったナイトガンダムがいた。 五人のガンダムたちがそろった時、アレックスが持ってきたガンダム族の宝である導きのハープが、突如弾きもせずに鳴り出した。 フラウ姫は何かに支配されるようにハープを弾き出す。そして演奏が始まると、突如としてガンダム達が光り始めたのだった。 ナイトガンダムとアレックス、アルガス騎士団、そして、シャアの力によりアムロの六人がジーク・ジオンの住まうムーア界に導かれる。 ムーア界 ジーク・ジオンの住むティターンの塔 後に、伝説の勇者ナイト・ガンダムとジーク・ジオンの決戦の場として語られる事となる。 ナイトガンダムは宿敵ブラックドラゴン、そして、ジーク・ジオンを討つべくナイトアムロ、アルガス騎士団と共に乗り込んでいった。 そして塔の頂上でパワーアップしたネオ・ブラックドラゴンと相まみえることとなる。 ネオ・ブラックドラゴンの力は圧倒的でありナイトガンダムをもってしても歯が立たなかった。 ネオ・ブラックドラゴンがとどめを押さそうとしたその時、突如二人を閃光が包んだ。 二人はもとは一つであり、その正体であるスペリオルドラゴンであったのだ。 業を煮やしたジーク・ジオンはスペリオルドラゴンを倒すべくついにその恐るべき正体を現した。 スペリオルドラゴン、アムロ、アルガス騎士団はジーク・ジオンに最後の戦いを挑んだ。 それは、死闘と呼べるものであり、一人、また一人と戦列を離れ最後にはスペリオルとナイトアムロだけになっていた。 「ナイトガンダム殿・・我々の力を!!」 アムロはアレックスの声を聞いた。 「この世界に平和を!!」 ゼータの声と共に竜の盾がスペリオルの体を守るように 「我々の力を!!」 獅子の斧がスペリオルの左手に握られた時、アムロはダブルゼータの叫びを聞いた。 「今こそ、ジーク・ジオンにとどめを!!」 ニューの願いとなって、梟の杖がスペリオルの体を包む。 「くらえっ!ジーク・ジオン!閃光斬!」 スペリオルが黄金の閃光とともにジーク・ジオンを二つに切り裂いた。 二つに裂かれ光となるジーク・ジオンの間にいる。スペリオルガンダムの背を見たのが、アムロがムーア界で見た最後の光景だった。 アムロが目を開けた時、そこにはフラウ姫の顔があった。 「・・ガンダムたちは?」 朦朧とした意識で一番聞きたい事を聞く 「わかりません・・大きな閃光と共に気が付いたら、あなただけがここに倒れていました。」 「ガンダムたちは・・ジーク・ジオンを倒し・・いったいどこに?・・なぜ自分だけが?・・」「アムロ、あなたは選ばれたのでしょう。このスダ・ドアカワールドを守っていくために・・」 夜、あたりを包まれた闇の中一筋の光が昇っていく。 (あの光はガンダムだろう、彼は帰って行くんだ・・) 安堵から、薄れゆく意識の中でアムロはあの光がガンダムだと思った。そして、一つの疑問が生まれた。 (あれがガンダムとするならば・・ほかの騎士たちはいったいどこに?・・) アムロはそこで意識を手放した。 「ほかの騎士たちは一体どこに?・・」 新たなる始まり 彼らはどこに行ったのか? PROLOGUE 前ページ次ページゼロの騎士団
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3890.html
前ページ次ページゼロの魔獣 唸りを上げる弾丸が、慎一の左肩の肉を半ば以上削ぎ飛ばす。 その一撃を受け、慎一は直ちに冷静さを取り戻す。 体を丸め、デルフリンガーを盾に機関砲の直撃を避ける。 「ダダダダダダダ!! 無理だッ! シンイチィ!! 折れちまう!?」 「なんだと!! テメエ! それでも伝説かッ!!」 だが無理もない。彼の役割はあくまで対魔法戦を想定した武具である。 近代兵器の弾除けではない。しかも慎一は、デルフの力を活かせる『使い手』ではなかった。 弾丸の隙間を縫って、距離を取ろうと翼を広げる。 その眼前に、サイボーグ風竜の巨大な顔が現れる。 (クッ!!) 思ったときにはもう遅かった。 鋼鉄の壁越しですら深刻なダメージをもたらした振動波が、至近距離で炸裂する。 不快な金属音と空気が破裂する音が全身に鳴り響き、慎一の体を細胞単位で震わせる。 衝撃は数瞬であったが、慎一は全身の自由を奪われ、緩やかに落下していく。 無防備になった標的に、ワルドが左手の照準を合わせる。 「・・・イチ シンイ・・・」 朦朧とした意識の中、慎一は痺れる両翼をバタつかせ、声のする方へと必死で体を伸ばす。 「シンイチイイイーッ!! どいてええええ!?」 因果応報であろうか。 真横から滅茶苦茶なスピードで飛んできたイーグル号のボンネットに跳ねられ、コクピットの防弾ガラスに磔になる。 慎一は歯を食いしばって機体にしがみつき、そのまま横一直線に流されていく。 直後、ワルド銃弾が空を切る。 「殺す気かァッ!? 俺じゃなきゃ死んでたぞ!!」 「文句は後ろを見てからいいなさいよおおお!!」 確かに痴話ゲンカをしている場合ではなかった。 後方から追いすがるバドが、ミサイルの発射体制に入っていた。 「・・・二人がかりでかわすぞ! タイミングを合わせろ ルイズ!」 言いながら、慎一が機体の天井に張り付く。 「そんな事・・・」 できるわけがない、と言おうとして、ルイズが頭を振るう。 どの道ルイズにミサイルを避ける操縦時術は無い。 慎一を信じるしかない。 メイジは使い魔と五感をリンクさせる事ができる。 できる。 できる。 できるハズだ。 ルイズは大きく深呼吸すると、頭上にいるであろう慎一に意識を集中させる。 エンジン音、空気を切る音、バドの咆哮、ミサイルの飛来音・・・ 雑音が徐々に消えていき、聞こえるのは、魔獣の心音と息使いのみとなる・・・。 ミサイルが後部スレスレまで接近してくる。 「今だあアアアッ!!」 魔獣の意識が精から動へと変わる一瞬を捉え、ルイズが思い切り操縦桿を引く。 同時に慎一が全力で羽ばたき、機体を上空へと持ち上げる。 イーグル号が鮮やかなトンボ返りを決め、目標を失ったミサイルが前方へと消えていく・・・。 「なっ!?」 ワルドに驚いている暇は無かった。 眼前から忽然と消えたイーグル号が、頭上から太陽をバックに迫ってくる。 「ワアアァルドオオオォォォ!!!」 叫びながら、ルイズがしっちゃかめっちゃかにバルカンを浴びせる。 弾丸の一発がバドの左翼を貫通し、ドラゴンが恐慌をきたす。 ワルドは暴れるバドを抑えながら、かろうじてイーグル号の体当たりをかわす。 咄嗟に反撃しようと銃口を構え、気付く。 魔獣が乗っていない。 「ここだぜええ!!」 頭上から急降下してきた魔獣が、ワルドの体に取り付いた。 獅子の俊敏さと、熊のパワーを併せ持ち、あらゆる部位から相手を『喰う』事ができる魔獣。 慎一が普通の状態であらば、接近戦に持ち込まれた時点で決着であろう。 だが、被弾によるダメージと、二度に渡る振動波の直撃で、慎一はまともに体を動かせる状態ではない。 ワルドが機械化した左手でギリリと押し返し、銃口を額に擦り付ける。 「決着だな 魔獣 言い残す事はあるか?」 「バカヤロウ! テメエとの決着はとっくの昔についてるんだよおお!!」 瞬間、二人の足元がガクンと沈み、弾丸が慎一のこめかみを掠め、彼方へと飛び去る。 咄嗟にワルドが足元を見る。 バドの様子がおかしい。 何者かが首に巻きついている・・・。 それは、大猿のような尻尾であった。 臀部から伸ばした慎一の尾、その先端に巻き付いたデルフリンガーが 鋼で覆われた翼竜の首の隙間に、深々と突き刺さっている。 「ムンッ!!」 慎一が尻に力を入れ、大猿の尾を一回転させる。 空中でデルフが踊り、次いで鮮血の大輪が咲く、 首を半ば以上切断された半鉄の竜が、機械音を挙げながら落下していく。 「くうっ!」 自由落下に入ったワルドが詠唱を唱える。 たちまち落下が緩やかになり、その身が宙に浮く。 ― 慎一は、既に眼前にいない・・・。 「おらあああ!!」 背後から慎一に体を押さえつけられる。 空中戦で、人間が鷹に抗えるはずも無い。 長い尾がワルドの全身を絡め取り、猛禽の鉤爪が左肩を締め上げていく。 「グオオオオオオオオオ!!!!」 「往生際が悪いんだよオオオッ!!」 拘束から逃れようと、ワルドが左の機関砲を乱射する。 慎一が暴れる左腕をがっちりと極め、喰いこませた右足を思い切り蹴り上げる。 銃口のついた肘先ごと、ワルドの左手が肩から千切り取られる。 激痛で精神が乱れ、ワルドが再び落下する。 不屈の精神で、尚、体勢を立て直そうとするワルド、その右手を慎一が捕らえる。 「答えろッ!! ワルド! テメエの左手にこいつを付けやがったのは どこのどいつだッ!!」 「・・・・・・・・・」 ワルドは答えず、小声で詠唱を完成させる。 至近距離で発生した真空の刃が、掴まれた自身の手首を切断する。 「・・・ッ!! ワルドオオオ!!!」 ワルドは答えない、ただ、慎一の大嫌いな笑顔を浮かべて落下していった・・・。 ― 慎一は追わなかった。 今の彼には、やらねばならぬ事が残っていた。 それに―。 慎一が『箱舟』を見下ろす。 全ての答えは、そこにあるはずだった。 「なっ!? なんだァ!!」 再び戦場へと戻った慎一が、驚愕の声を上げる。 イーグル号が、戦えている・・・。 相変わらず猛スピード且つ変則的な飛行と、滅茶苦茶なバルカン掃射であるが 恐慌をきたした竜騎士隊の中央へと突撃し、着実に撃破していく。 「うおっとォ!!」 流れ弾を避けつつ、慎一はかろうじて機体に張り付き内部へと戻る。 「随分とやんちゃしてるじゃねえか お嬢様?」 「な な なんとか上下左右の打ち分けは覚えたわ・・・ けど・・・ もう弾がない・・・」 「お前はよくやったさ! 後は姫様のところへ行ってな」 言いながら、慎一がデルフを降ろす。 「お前は留守番だ ルイズを守ってやれ」 「無茶言うな シンイチ 俺は使い手がいねえと・・・」 「ウダウダ言ってんじゃあねえ」 「シンイチ」 再び外に出ようとする慎一を、ルイズが引き止める。 「シンイチ 無茶だけはしないでよ」 「・・・行ってくる」 再び上空へと飛び上がった慎一が、箱舟の甲板目掛け、一直線に降下する。 迎撃しようと機銃を向ける敵兵に、慎一が、千切れかけていた自らの左腕を投げつける。 「久々に暴れてやれや!! ゴールド!!」 投げ込まれた左腕が空中で獅子へと変化し、敵兵の顔面を引き裂く。 そのまま甲板を飛び回りながら、敵兵の混乱を煽る。 慎一が甲板へと緩やかに着地し、ワルドの左腕を、自らの左肩へとあてがう。 直ちに傷口から現れた熊の大顎が左手を縫いつけ、徐々に神経が繋がりだす・・・。 「新たな魔獣を紹介するぜえ!! 『コブラ』だ!!」 くだらない台詞を吐きながら、慎一がジャキリと銃口を構える。 使いようによってはメイジの一個師団にも匹敵するであろう兵器が、最高の舞台で牙を剥く。 直ちに鉛玉の嵐が船上を襲い、眼前の兵士たちがハードなダンスを踊る。 近づく敵を切り裂き、遠くの群れを撃ち殺しながら、凶暴な魔獣が駆け抜ける。 目指すは箱舟の内部・・・。 ―と、 突如慎一の眼前で火球が生じ、混乱をきたした兵士たちが消し飛ばされる。 一箇所だけではない、船上のあちこちで、ドワオズワオと核熱が巻き起こり、恐慌を起こす兵士を吹き飛ばしていく。 ―いかに混乱し、用をなさなくなったとは言え、たった一人の敵のために、味方を焼き払う者がいるだろうか・・・? ましてや、船上にはアルビオンの貴族も多数いたハズである。 慎一は確信する。 これをやったのは、こちらの世界の人間ではない・・・。 「フフ 躾のなっていない部下たちで失礼したね ここまでのもてなしは楽しんで貰えたかな? 慎一君・・・?」 慎一の眼前に、聞き覚えのある声を響かせ、一人の男が現れる・・・。 ガッチリとした体躯の恰幅の良いスーツ姿。その上からさらに白衣。 褐色の肌に白髪、分厚い唇に特徴的なサングラス・・・。 「こんなところで再開できるとはな・・・ 嬉しすぎて涙が出そうだぜ テメエが黒幕だったかァッ! シャフトオオォ!!」 ― かつての十三使徒のひとり。 来留間源三の右腕にして気象兵器のスペシャリスト。 そして、慎一の母親に直接手を下した男・・・シャフト。 遙かな異世界にあって、慎一は憎むべき仇との再会を果たした・・・。 前ページ次ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5100.html
前ページ次ページゼロの女帝 「最も優れた者、ですか? 道化が?」 「その通りだ、使者殿。 道化とはいわばおどけて周りのものに侮辱されるのが仕事だ。 しかし一方で王や貴族を、許容される範囲内で侮辱する権利を持っている。 ならばその『侮辱』は的を射たものでなければならない。 的をはずした物や単に場の空気を読まず、ただ悪口を言っただけ、では道化とは言えない。 そして相手が我慢できる容量を見切って、限界ぎりぎりを見極めなければいけないのだ。 そして、使者殿のように大抵の者が道化を軽く見ているからその前では口が軽くなる。 密談を聞かれても道化なら気にしない、というのも多いのだ。 わかるかい、道化とは城で最も自由で何にも縛られず、最も情報を持ち 最も賢明でなければ生きていけない存在なのだ」 「そしてジョゼフ王は『無能王』として周囲に軽視されながら策略を練っている」 「そこまで言い切る理由は?」 キュルケの質問に、肺の空気すべてを吐き出すようなため息をついて答えるウェールズ。 「ここまで追い詰められてから、ようやく情報というものの価値を理解出来るようになってね 周辺国家の反応や様々な出来事を調べるようになったんだよ。 結果ね、数年前『無能王』ジョゼフが『サモン・サーヴァント』を行った事(結果は不明) その直後腹心の如く彼の周りでちらりほらりと姿を見せるようになった謎の女性、 そしてその女性と同一と思われる人物がレコン・キスタ首領、オリヴァー・クロムウェルの傍で見かけた との情報がある。 たったこれだけの情報を得るのにどれだけの犠牲を払ったことか・・・・・・ まあいい、とりあえず今夜は城で宴だ。 我がアルビオン最後の宴、使者殿ご一行も参加してくれるね」 「それは命を捨てて戦う決意の宴ではないのですね」 「誇りを捨ててでも戦い続ける、という決意の宴さ では後ほど」 一行が出て行こうとした時、ワルドが話し掛ける。 「恐れながら殿下、お願いがございまして・・・・・・」 パーティーは、城のホールで行われた。簡易の玉座が置かれ、 玉座にはアルビオンの王、年老いたジェームズ一世が腰掛け、集まった臣下たちを目を細めて見守っている。 これが最後とやけくそのように、ずいぶんと華やかなパーティーであった。 王党派の貴族たちはまるで園遊会のように着飾り、テーブルの上には様々なご馳走が並んでいる。 キュルケは幾人もの殿方を老若関わらず侍らせ、タバサはテーブルを一人で掃除せんとするが如く食べ漁り (にもかかわらず下品さが感じられないのは一体どういうわけなのだろう) ギーシュは何人もの女性に声をかけていた。 「むむっ」 「どうしたの、モンモランシー」 「今、何処かでギーシュが浮気をしてるような気配がしたわ」 「ここ数日授業サボって出かけてるわね、そういえば」 「まったく……見下げ果てたわ」 「と言いつつ講義のノート、きっちり取ってあげてるのね」 「こ、これは、べべべべべべつにギーシュの為に取ってる訳じゃないのよ」 「でもそれにしちゃあなたが選択してない授業の分まで取ってるようだけど?」 「・・・・・・・・・放っといて!」 ヴェルダンデは蜂蜜をぺちゃぺちゃと舐め、フレイムはシルフィードと共にお肉を沢山パクついてご機嫌である。 「セトは・・・・・・なにやってんのかしら」 なにやらテーブルを渡り歩いてごそごそしている。 そんな情景を見ながら、 ぼんやりと先ほどの光景を思い出す。 「血痕 けっこん ケッコン kekkon・・・・・・・結婚かぁ」 ワルドは嫌いではない、むしろ好きといっていいだろう。 だがそれは本当に男女の愛なのだろうか。 そもそも自分はワルドを愛しているのか そしてワルドは自分を愛しているのだろうか 何かが引っかかる。 そして、先ほど自分を見つめたワルドの目。 女性に愛を語る目というのはあんなものなのか シエスタと一緒に読んだ○○○本では、殿方はもっとロマンチックに見つめ、かつステキに囁きかけていた。 それに・・・・・・・・・ そんなルイズを横目で見た瀬戸はにっこりと(他者から、特に彼女をよく知る者からすればにんまりと)微笑んだ。 「悩みなさい、ルイズちゃん。 悩んで悩んで悩みぬいて、自分で考えるというのはどんな結果になっても無駄ではないのだから」 朝。ルイズとワルドは、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で皇太子の到着を待っていた。 ルイズはワルドとの結婚を受け入れていいのか、いまだ結論を出せぬまま。 ワルドはそんなルイズの頭に、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をのせる。 そんな様を、式に出席している新婦の友人一同が眺めていた。 (どう思う、キュルケ) (ワルドさまも、いい男の割に女の扱いがなってないわね。まだルイズは迷ってるわ。 その迷いを包み込んで一時的にしろ忘れさせるのが殿方の器量だってのに) そんな一同を、瀬戸はにっこり(にんまり)見守っていた。 扉が開き、皇太子が姿を見せる。 今にも先端が開かれんとするハヴィランド宮殿において、一種奇妙な結婚式が始まろうとしていた。 「では、式を始める」 (私は何を迷ってるの?) 「新婦?」 ウェールズの言葉に意識を現実へと戻す。ルイズは慌てて顔を上げた。 どうやら式はクライマックスのようだ。新婦が夫に永遠の愛を誓う場面。 「緊張しているのかい? 仕方がない。初めてのときはどんなことでも緊張するものだからね」 ウェールズはにっこりと笑って、ルイズを落ち着かせようとした。 「ごめんなさい、ワルドさま。 わたし、あなたと結婚出来ません」 「え?」 「・・・・・・新婦はこの結婚を望まぬか?」 「はい、そうでございます。大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかない」 「何故だ!」 ワルドは、今にもルイズに掴み掛からんばかりに血相を変えてルイズに詰め寄る。 「何故君は僕との結婚を受け入れないんだ!」 「ごめんなさい、ワルドさま。でも駄目なの。 わたしはまだあなたの妻となる程の人間じゃない。 学業でも魔法でも、それ以外でもあまりに未熟なの」 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためにきみが必要なんだ!」 豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。 「……わたし、世界なんかいらないもの」 ワルドは両手を広げると、ルイズに詰め寄った。 「僕にはきみが必要なんだ! きみの魔法が! きみの力が!」 「わ、わたしにはそんな能力も力もないわ」 ワルドの剣幕に、ルイズは恐れをなした。優しかったワルドが怖い。ルイズは思わず後ずさった。 「ルイズ! きみの才能が僕には必要なんだ!」 「だから、わたしはそんな才能あるメイジじゃない。系統魔法ところかコモンすら碌に使えないのよ」 「何度言えばわかるんだ! 自分で気付いていないだけなんだよルイズ!」 ルイズの頭がワルドから離れろと命じてくる。 が、ワルドの手を振りほどこうとしても、物凄い力で握られているために、振りほどくことができない。 「そんな結婚、死んでもいやよ。あなたはわたしをちっとも愛してないじゃない。わかったわ、あなが愛しているのは、 あなたがわたしにあるという、在りもしない魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱ないわ!」 「子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 時が流れるのを拒絶したかと思われた永劫の数秒間の後、ワルドはルイズから離れた。 「……どうやら目的の一つは諦めなければならないようだ」 悲しげな表情を浮かべてワルドは天を仰いだ。 ルイズは首を傾げる。 「目的?」 ワルドは唇の端をつりあげると、その端正な顔ににやりと不快感すら催す笑みを浮かべる。 「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」 「達成? 二つ? どういうこと?」 ワルドは右手を掲げると、人差し指を立てて見せた。 「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」 「真っ平ごめんだわ!」 「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ。そして三つ目……」 身の危険を感じたウェールズがとっさに杖を構えて呪文の詠唱を始める。 しかし、ワルドはそれを上回る速さで杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させるとウェールズの胸に突き立てる。 「そして、これが三つ目だ!」 「き、貴様……まさか……『レコン・キスタ』……」 前ページ次ページゼロの女帝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6763.html
前ページゼロの伝説 ギーシュが更に薔薇の杖を振り、七体ものワルキューレが現れ、俺を取り囲んだ。 流石にこれは厄介だ。 これら青銅騎士がただのからくり人形だとすれば、学習機能が無いので、先程と同じように飛びかかってくるのをハンマーの振り回しで粉砕出来る。 しかし今回の場合、指揮しているのは人間。操作の精度は判らないが、身を低くして斬り込ませるくらいのことは出来るだろう。 頭上で振り回せば低い攻撃、回転しながら振り回せば飛びかかられる。 剣では斬れる気がしない。相手の動きが結構速いから爆弾は当てられないだろう。どうしたものか。 「ふっ、迂闊に攻撃出来ないみたいだな」 「ちっ……」 「来ないのならこちらから行くぞ!」 ギーシュが薔薇を振り、七体の内の剣を持った前方の三体が身を低くして斬りかかり、残る空手の後方の四体が飛びかかってきた。 囲まれている為、逃げられない! 斬りかかる剣は盾で防いだ。しかし、後ろのワルキューレまでは防げない。背中を幾度も殴られ、ダメージが蓄積する。何度目かに、蹴り飛ばされた。 蹴り飛ばされて倒れ込んだ俺の周りをワルキューレ達が再度包囲する。 「どうした、もう終わりかな?」 「まだだ……っ!」 気合いで立ち上がる。体の節々に痛みが走る。これ以上は、この決闘後も体に支障を来すだろう。 あの技が……効くかは判らないが……試してみる価値はある。 背負っていた剣――あの退魔剣は時の神殿跡地に安置したため、これはただの鋼の剣だ――を抜き、横に構え、精神を集中させ、息を整える。四方八方より来る者全てを薙ぎ払う剣技! 「ワルキューレ、一気にやってしまえ」 ギーシュが杖を振ると共に、ワルキューレ達が一斉に、その手に持つ剣で突いてくる。そして、それらが手に持つ剣で刺し貫かれる数瞬前! 「てやああああっ!!」 “回転斬り”! 剣を伸ばし切ったまま回転し、外側に向かう剣の遠心力を利用し、敵を斬りつけると言うよりも弾き飛ばす剣技。 この剣が鋼だったためか、ワルキューレ達は大きく弾き飛ばされ……漏れなく星々になってしまった。 この時、金属疲労によってか、剣は折れてしまった。 しかし、青銅で出来たワルキューレが、鋼の剣で、回転斬りとは言えあそこまで吹っ飛ぶだろうか。 「……何故、俺は右手で剣を持ってるんだ」 右利きの人間は、左手の方こそ力があると聞く。左利きの俺の場合は逆なのだろう。そのおかげで数倍もの威力が生まれたようだ。 ワルキューレを空の彼方まで飛ばされたギーシュは、ただただ唖然としていたが、次の瞬間に余裕そうな顔に戻った。 「ふ……ふっ。平民にしてはやるようだな。だが!」 ギーシュは新たな薔薇の造花を懐から取り出し、花びらを散らせた。それらが地に着くと、再びワルキューレ達が姿を現した。代わりにギーシュの顔色は少し悪くなった。 「この杖がある限り、ワルキューレは無尽蔵に創り出せる!」 しかし、それが虚勢に見える。「無尽蔵」の辺りが疑わしい。 ん、待てよ。杖がある限り……? 「杖が無かったらどうなるんだ」 「創り出せないどころか、操ることも出来ないが、そこからは奪い取れるというのかね!」 「ならば、奪い取ってみせよう」 巾着袋から取り出した物で、ギーシュの薔薇の杖を狙い、投擲した。 あ、ありのまま、今起こったことを話すわ! 『私の使い魔が腰に提げた袋から何かを取り出したと思ったら、彼の左手から竜巻が飛び出してギーシュの杖をかすめ取り、使い魔の手に戻った』 な……何を言っているのか解らないかも知れないけれど、私にも解らなかった。 頭がどうにかなりそうだった……。 マジックアイテムだとか、四次元巾着袋だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない! もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。 「な、なななな……」 謎の竜巻に杖を奪い取られたギーシュは、ワルキューレを操作することも出来ず、ただただ驚愕するばかりだった。 「……ただの薔薇の造花のようにしか見えないな。本当に杖か、これ?」 私の使い魔はと言うと、奪い取った薔薇の造花をあちこちから眺めている。 「そんな……魔法が使えないというのは嘘だったのかい!?」 「? 何を言ってるんだ。俺はただ……」 ギーシュや、私含む観衆の疑問に答えようとした使い魔は、何かを思い付いたような顔をすると、言い直した。 「そうだな、嘘だと言うことになる。今、俺が使って見せたのは、竜巻を自在に操る魔法だ」 観衆が騒ぎ出す。ギーシュは信じられないと言った顔をし、次に浮かんだのは恐怖だった。 「先程の質問にも答えよう。あの鉄球を何処から取り出したかと訊いたな? 鉄球に限らず、あらゆる物を別の場所に仕舞っておけるし、いつでも取り出すことが出来る。俺はそういう魔法を使っている」 そんな魔法だったなんて! て言うか、あいつ、魔法使えたんじゃないの! 「そ、そんな魔法、聞いたことないぞ!」 「そうだろう、俺にしか使えないからな。……さて、先刻はよくも痛めつけてくれたな?」 使い魔が一歩出ると、ギーシュはハッとし、一歩後退り、喚いた。 「ま、待て、待て待て! 君の勝ちだ! 決闘では杖を取られたり落とされたりしたら負けなんだ!」 「む……」 彼が私を見る。私は「その通りだ」と言う意味で頷いた。 「ならば、勝者である俺の言うことを聞いてくれないか」 ギーシュはビクッと肩を震わせたが、潔く肯いた。 「何でも聞こう」 満足そうな顔で、使い魔は言った。 「お前に名誉を傷付けられた女性二人に謝って来い」 その後、ケティとモンモランシーの容赦ない暴行を受けているギーシュを見届け、私と使い魔は食堂に戻った。 あのメイドに、彼の無事を報せる為だ。 「良かった……本当に良かった……」 泣きじゃくるなんて大袈裟ね。いや、貴族の怒りを怖れる平民からすれば嬉し泣きも当たり前かも知れない。 「私……えーと……あれ?」 「どうしたの?」 「あのう、今更な気がするのですが……彼のお名前って」 「!」 ……えーと。 「…… もういい。どうせ俺の名前なんて二度しかタイトルにならなかったよ! 空気王の遠縁だよ! 夢を見る島だって、ゼルダが一回名前しか出ただけなのに何が『ゼルダの伝説』だちくしょおおおおお!!!」 「あ、ちょっと! 待ちなさい!」 泣きながら走り出す本名不詳の使い魔を私達は追った。彼よりもシエスタの方が圧倒的に速かったため、彼の逃走劇は五秒弱で幕を閉じた。 「取り乱して済まなかった」 取り押さえられてひとまず落ち着いた彼は、とりあえず詫びた。 シエスタは自分が彼――リンクを心配していたことを告げ、仕事が残っているからと厨房へ戻っていった。 「名前について不遇を受けていたことがあったのでな。つい気にしすぎてしまった」 「……許しといてあげるわ。それじゃ、リンク……でいいのよね?」 「ああ」 頷く彼に、私は右手を差し出した。 「これからも、よろしくね。あんな凄い魔法が使えるんだもの。頼りにしてるわよ」 リンクは、あー、などと言いながら何かを考えたようだが、まあいいか、と呟き、手を差し出した。 「よろしくな」 私達は固く握手を交わした。 「……勝ってしまいましたね」 「勝ってしまったのう」 ギーシュがリンクに降参を宣言した頃、トリステイン魔法学院長室。 そこでは、春の使い魔召喚の儀式の監督を務めていたミスタ・コルベール教諭と、学院長であるオールド・オスマンが、鏡のようなものに映し出されたギーシュとリンクの決闘の様子を見ていた。 「詠唱も無しに、竜巻を生み出すとはのう」 「ええ、それにしても、あの剣の回転で銅像が見えなくなるまで吹き飛ばせるとは思えません。やはりあの青年は、伝説のガンダールヴに間違いありませんよ! 早速アカデミーに、」 「まあ、待ちなさい、ミスタ・コルベール。仮に彼が本当にガンダールヴだとしてもじゃ、アカデミーには報告しない方が良かろう。解剖されるなどという噂も強ち嘘ではなさそうじゃからの」 「(そ、それもそうですね。流石はオールド・オスマンでいらっしゃる。)ここに来た時にミス・ロングビルの尻を撫で回していた方とは思えませんが」 「聞こえとるぞ!」 前ページゼロの伝説
https://w.atwiki.jp/animeoped/pages/51.html
ゼロの使い魔~双月の騎士~ ぜろのつかいま~ふたつきのきし~ 監督:紅優 シリーズ構成・脚本:河原ゆうじ キャラクター原案:兎塚エイジ キャラクターデザイン・総作画監督:藤井昌宏 音楽:光宗信吉 アニメーション制作:J.C.STAFF オープニング テーマ曲:「I SAY YES」作詞:森由里子 作曲:坂部剛 編曲:新井理生 歌:ICHIKO エンディング テーマ曲:「スキ? キライ!? スキ!!!」作詞:森由里子 作曲・編曲:新井理生 歌:ルイズ(声:釘宮理恵) TVアニメ「ゼロの使い魔~双月の騎士~」サウンドトラック I SAY YES [Maxi] スキ?キライ!?スキ!!! [Maxi] 2007年 作品名:せ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4508.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「―――かふっ」 口が勝手に、鉄の味がする液体と一緒に、湿った空気を吐き出した。 ルイズは、ぼおっと熱くなっていく体が、急速に自らの制御から離れていくのを感じ取っていた。 「―――くっ!」 ルイズの腹部を貫いた『エア・ブレイド』はそこで止まり、ターゲットであるウェールズには届いていない。 一つ舌打ちして、ルイズの体から『ブレイド』を抜く。噴出す血糊に、ワルドの心が小さな、ほんの小さな衝撃を覚える。 ワルドはすぐにそれを揉み消し、ようやく驚きの表情を浮かべたウェールズに閃光の突きを放とうと腕を振りかぶった。 しかし、その一瞬の躊躇が―――エルクゥには十分な時間だった。 「ぐぅっ!!」 ばしゅっ、と水の詰まった風船が弾け飛ぶような音がして、ワルドが吹き飛んだ。 空中に投げ出されたワルドは、くるりと回転して危なげなく地面に降り立つ。 同時に、力を失ったルイズの体が床に倒れ伏した。 「ぐ……ふふ、ははははは! それが貴様の本気か!! ガンダールヴ!!!」 ワルドは右肩を押さえながら、目を爛々と輝かせて哄笑する。 押さえた右肩から先の腕は、丸々なくなっていた。 「…………」 ルイズとウェールズを背に庇うように立った耕一。その右手の手首から先が、大きく肥大していた。 その手の肌は、黒曜石のような硬質な輝きを放っている。禍々しい光が見る者全てを畏怖させる、鬼の腕。 それが、怒りに力の制御を忘れた耕一の神速の飛び込みと共に、ワルドの右腕を吹き飛ばしたのだ。 「……ワルドさん、あんた」 「くく、まさかルイズがウェールズを庇うとはね。全く計算していなかったよ。おかげで、当初の目的は一つしか達成できそうにない」 「ワルド子爵! 貴様、『レコン・キスタ』かっ!」 ウェールズが吠え、杖を構える。 「いかにも。未熟な大使殿の護衛としてウェールズ殿下に近付き、その命を頂戴するお役目を受けていたのだがね。今しがたしくじったところだ」 「なんと大胆な……だが、最早逃げられると思うな!」 周囲のアルビオン貴族は、既に一人残らず杖を抜き放ち、ワルドに向けている。 「スクウェア・メイジと言えども、その負傷でこの数を振り切る事など出来はしまい! 覚悟せよ!」 「くく、確かに。このままでは、私は逃げる事すら叶わぬだろう」 そう嘯くワルドの顔から、笑みは消えていない。 はっと、ウェールズが何かに気付いた。その視線は、そこから先が吹き飛んでしまったワルドの右肩で止まっている。 「気をつけよ! 腕から血が流れておらぬ! 『偏在』だ! 本体がどこかにいるぞ!」 ウェールズの一喝にアルビオン貴族が反応する前に、どごーん! という爆発音と共に練兵場が大きく揺れた。 天井の一部が大きく破壊され、ガラガラと建材が落ちてきた。真下にいた貴族が慌てて回避する。 「くくく」 その混乱と土煙の中、片腕を失ったワルドが、ひゅうんと開けられた穴まで飛んでいく。見咎めた貴族達から散発的に火の玉や氷の矢が放たれるが、ヒラヒラとそれをかわし、ワルドは穴の縁に立つ。 そして、右肩を押さえていた左手をひらひらと振った。その手には、一枚の便箋らしき紙がある。 「アンリエッタの恋文、確かに頂いた。これでトリステインはゲルマニアとの同盟結ぶ事叶わぬ。貴様の命は貰い損ねたが、なに、すぐに押し寄せる『レコン・キスタ』の軍勢によって始祖の御許に行けるであろうさ!」 その横に、なんとワルドがもう一人現れる。 もう一人の五体満足なワルドが手紙を受け取ると、片腕のワルドは、まるで空気に溶けるようにして消滅してしまった。 「……分身?」 「風の『偏在』という魔法だ。風の吹くところどこでも、実体とそれぞれ独立の意思を持つ分け身を作り出す事が出来る」 ウェールズが唇を食みながら、飛び去っていくワルドを見上げる。 「その通りさ、ウェールズ。ではな、ガンダールヴ! せいぜいお役目通り、主人を守ってあげたまえ! もしかしたら、守る前に死んでしまうかもしれないがね!」 ワルドがマントを翻すと、姿は見えなくなった。 「ミス・ヴァリエール!」 ワルドの言葉にウェールズがしゃがみ込み、倒れ伏すルイズを抱き起こす。 その胸元に耳を当て、キッと表情を引き締めると、杖を振った。 青く優しい光が、ルイズの体を覆う。 「まだ息はある! 今居る水のメイジは全力でヴァリエール嬢の治療を! 僕では気休めにしかならない!」 「は、はっ!」 「城中から秘薬と水のメイジをかき集めよ!! 後の戦に残そうなどと思うな! 我ら王軍が最後にもてなした大使を死なせたとあっては、歴史の恥ぞ!!」 ウェールズの檄の下、アルビオン貴族達は迅速に行動を開始した。緊急事態に心を切り替えられない者は、ここまでついてくる事も出来なかったのだ。 「…………」 「う、うおっ、な、なんだこの心の震え! あ、相棒っ!」 耕一は、じっと、ワルドが飛び去ったその穴を見つめている。 ドクン、ドクン、と。その黒曜石の腕が大きく拍動しているのに気付いた者は、その逆の手に握られた物言う剣のみであった。 「ミスタ。どうか安心してくれ。ヴァリエール嬢の命は、アルビオンの名に掛けて必ず救い上げてみせる」 「……ウェールズ王子、少し、お願いがあるんですが」 「……どうか、したのかね?」 「王子の……ここにいる貴族達の名誉ある敗北に泥を塗る事を、お許しいただきたい」 「どういう、事だね?」 そのただならぬ様子に、ウェールズが息を呑む。 膨れ上がる鬼氣。自らの意志により、荒れ狂う激情により……エルクゥの遺伝子が発現し、体がそれに沿うように作り変えられていく。 「名誉あるあなた方の敵を、鬼の晩餐と貶める事、お許しいただきたい」 足が膨れ上がる。履いていたズボンが無残に破け散り、黒曜石の輝きを持つ筋骨隆々とした二本の足が、大地を踏みしめる。 腕が膨れ上がる。服が同じように破れ、右手の先から侵蝕されるように、黒く、大きく膨れていく。 体が膨れ上がる。その体躯全てが、二回り大きなそれへと変化していく。瞬時に伸びたたてがみが逆立ち、突き出た牙が唸り、伸びた爪が空を凪ぐ。 「ミスタ、君は……!」 同盟など、どうでもいい。 亡命など、どうでもいい。 全ての元凶を潰してしまえば、煩わしい事など考えなくていい。 麗しき王女が別れに苦しんでいるのも、優しき王子が諦めに苦しんでいるのも……勇敢な主人が、今死の床に苦しんでいるのも、全て。 ―――元凶である『レコン・キスタ』とやらを悉く鏖にすれば、何も考えなくていい事ではないか。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」 今ここに生誕した『エルクゥ』が、大きく産声を上げた。 § 「……あ……」 全身を暖かな光に照らされているような心地で、ルイズはふと目を覚ました。 滲む目をゆっくりと開ける。そこには、真っ黒なシルエットがあった。 巨大な背中だった。トロール鬼をもっと筋肉質にしてスリムにしたような、どう見ても恐ろしげな化け物のようであるそれは―――少女の目には、どこまでも優しく、頼もしく思えた。 「エル……クゥ……」 そう、あれこそがエルクゥ。 鬼。化け物。狩猟者。そして……それを飼い慣らした、人間。 あれの主人たる自分には、何の説明もなくともそうだと理解できる。それが酷く心地よかった。 「ミス・ヴァリエール!」 王子が整った顔を歪めて、必死に自分に呼びかけている。 ああ、無事だったのですね。よかった。これで姫さまが悲しまないで済みます。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」 咆哮。生きとし生ける者全てを畏怖させる鬼神の声は、とても心地よい子守唄のようで。 黒き鬼神が天井に開いた穴から外へ飛び出していくのを見送ったルイズは、ゆっくりとその瞳を閉じた。 § 「宣戦布告で時間を指定して、それより前に奇襲か。さすが生臭坊主、お偉い騎士様にゃ立てられん作戦だな」 「ま、矢面に立たされる俺らにとっちゃ、ありがたい事だよ。馬鹿正直に正々堂々やって平民傭兵がメイジに勝てるかっての」 「まったくだ。こんな地形、そうじゃなきゃ入り込みたくもねぇや」 進軍する『レコン・キスタ』の先陣を務める傭兵達は、細い岬の先端に立つニューカッスル城を眺め、ため息をついた。 真正面から相対しては、細く平坦な地面の上を歩く歩兵など、城壁からの魔法で一蹴されてしまう。 城に篭るメイジ達の精神力が尽きるまでそれを繰り返させ、美味しい所だけ貴族連中が持っていく。攻略戦に当たってそんな光景がありありと想像されて、逃げ出す算段までしていた傭兵達だったが、現在の士気は高かった。 彼らの目にニューカッスルの城壁が見えてきた頃。どずん……と軽い地響きが響き渡った。 「なんだぁ? もう大砲でも撃ち込んでんのかぁ?」 傭兵の一人がそんな風に笑い、周囲もそれに倣った。 彼らの所属する貴族派と眼前の城に篭る王党派には、あまりに圧倒的な戦力差がある。そんな楽観的な考えの方が、むしろ当然の判断であると言えた。 しかし、その地響きは、自軍からの援護射撃などではなかった。 「おい、なんだあれ?」 どれ大砲をどこに撃っているんだと前方に目を凝らしていた兵の一人が、訝しげな声を上げた。 その視線の先には、城壁の前に立つ黒い影。 距離があるからか随分と小さく見えるが、幾多の戦場を渡り歩き、遠目での距離感に慣れた傭兵の目には、その巨体ぶりが理解できた。 優に人間の1.5倍はある。もしかしたら、2倍に届くかもしれない。 「オーク鬼? 一体だけか?」 「王党派の偉そうな連中が亜人兵なんか使うか?」 「真っ黒いオーク鬼なんかいるかよ」 「じゃあなんだってんだよ。トロール鬼だって黒くなんてねぇぞ」 動揺、とまではいかない、軽い戸惑いのような空気が広がっていく。 黒い影は彼らの方を向き、発見したとばかりに身をよじると、その丸太のような腕を大きく横に開き、天を仰いだ。 さあ、今この時より、この場は名誉の掛かった戦場などではない。 人を狩る鬼、呪われし狩猟者により、命の炎が歌い踊る―――神楽の舞台。 「■■……■■■…………■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」 エルクゥは、大きく牙の光る口を開いて鬨の声を上げると、『レコン・キスタ』陸戦部隊五万の命をことごとく散らさんがため、竜族の飛翔など遥かに凌駕する速度で疾駆を開始した。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1712.html
前ページ次ページゼロの大魔道士 「で、ですが!」 「そうはいいますが、ミス・ヴァリエール。ゲートから出てきたと思われる以上…」 現在、ルイズは非常に狼狽していた。 召喚に成功したと思えば、当の召喚獣――竜(マザードラゴン)が契約前に逃げ出してしまったのだ。 これは前代未聞の出来事であり、同時に大恥であることは間違いない。 いや、それだけですめばまだいいほうだ。 実家に伝わればヴァリエール家の恥として放逐されてもおかしくはない。 だが、絶望に沈もうとしていたルイズを拾い上げたのは何故か頬を赤らめたコルベールだった。 時間は数分前に遡る。 気色悪い呆け顔で「ぱふぱふ…」とか呟いていた彼コルベールが、ルイズの下に敷かれている人間に気がついたのである。 コルベールの指摘でようやくそのことに気がついたルイズは慌てて跳ね起きた。 生徒の誰かを尻に敷いていたまま放置していたのならばそれは十分に失礼な行為だからだ。 だが、見下ろした顔に見覚えはなかった。 それどころではない、気絶して寝転がっている少年は見たこともない服装をしているではないか。 「…なんで平民がここに?」 ルイズはぽつりと呟いた。 ここトリステイン王国には、決定的な身分差が存在している。 すなわち、貴族と平民だ。 その判別方法は至って簡単で、魔法を使えるものが貴族、そうでないものが平民というもの。 中には例外(貴族から没落したメイジ)などもいるが、この概念はトリステインに住む者ほぼ全てに適用される。 然るに、ルイズの目の前にいる少年はマントこそ着用しているものの、見たことのないデザインの服を身につけている。 そして杖は持っていない。 つまりは、この少年は平民であると判断されるわけである。 「ふむ、どうやらこの少年もサモン・サーヴァントによって現れたようですな」 「え?」 「ミス・ヴァリエール、この少年とコントラクト・サーヴァントを」 「へ、え? えええええ!?」 ルイズは驚いた。 このハゲ教師はいきなり何を言い出すのか。 そもそも、自分が召喚したのはあの神々しい竜である。 間違ってもマヌケ面を晒して気絶している平民ではないはずだ。 「召喚した生物とコントラクト・サーヴァントを行うのが今日の目的です。であるからして」 「ちょ、ちょっと待ってください! 私が召喚したのはあの竜で…!」 「ですが、逃げられてしまったでしょう?」 「う…」 容赦のないコルベールの一言にルイズはグウの音も出ない。 だが、コルベールとしてはこの場における一番の打開策を出したつもりだった。 確かに竜は逃げ出してしまったが、少年も召喚によって現れたことは間違いない。 となると、少年もルイズと契約を交わす資格を持っていることになる。 複数召喚などこれまた前代未聞の出来事だが、始祖ブリミルは四体の使い魔を所有していたという。 これはルイズが規格外の存在であることを示しているわけであり、少年もなんらかの特殊さを持っている可能性は高い。 ならば、この場を取り繕うという意味もあるが、とりあえずコントラクト・サーヴァントを行うのが一番良いはずなのだ。 「あはは、流石はゼロのルイズ!」 「召喚した使い魔に逃げられたと思ったら、平民と契約か!」 確かに…と納得しかけたルイズに周囲の生徒から野次が飛ぶ。 コルベールほど洞察に優れない彼らは単純な事実『竜が逃げた』『残ったのは平民』という二点を認識していたのだ。 「ううっ…」 ルイズはぎゅっと唇を噛んだ。 竜を使い魔に出来ると思っていたのにそれが平民にランクダウンしたのだから無理もない。 だが背に腹はかえられない。 使い魔に逃げられるという失態を犯した以上、もはやコントラクト・サーヴァントを嫌がるという選択肢は取り様がないのだ。 「し、仕方ないわね! アンタで我慢してあげるわ!」 そして時間は現在に戻る。 どうにか心の折り合いをつけたルイズは少年を抱き起こすと顔を近づけ、詠唱を始めた。 と、その時。 「う…あ…?」 少年が目覚めた。 意識はまだハッキリしていないのか、目がキョロキョロと動き回る。 だが、ルイズはそれに構わずに更に顔を近づける。 詠唱が終わり、少年――ポップの視界いっぱいにルイズの顔が映り、そして 「ん…」 契約のキスが交わされた。 「うっぐ…な、なんだ…!?」 ポップは急な痛みに意識を覚醒させた。 周囲の状況を確認するよりも先に痛みが体を駆け巡る。 その痛み、熱といいかえてもよいそれは左手へと集中していく。 そして数秒後、ポップの左手には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。 「な、なんだこれ!? 呪いか!?」 「失礼ね! これはルーン。アンタが私の使い魔になった証よ」 「は? ルーン? 使い魔? 一体何を言って…」 「ああ、ごちゃごちゃうるさい! いい、私は今非常に気が立っているの! ああもうなんでこんな平民と…」 「落ち着きなさいミス・ヴァリエール」 癇癪を起こしかけていたルイズに近づいてきたのはコルベールだった。 (おいおい、冗談じゃないぜ…) ルイズをなだめすかしているコルベールを常識人と見たポップは状況を把握するべく彼に話を聞き、空を仰いだ。 サモン・サーヴァント、トリステイン、ハルケギニア… そのどれもが聞き覚えのない単語ばかりだった。 しかも、話をまとめると自分は目の前のピンクの髪の少女――ルイズというらしい、の使い魔になってしまったのだという。 (本人の承諾なしにそんなこと勝手に決めんなよ…) 既に自分を使い魔扱いしているルイズにポップは溜息をつく。 気になることは二点。 まず、ダイはどうなったのかという点だ。 話を聞いた限り、マザードラゴンはどこかへ飛び立っていったという。 彼女の性質上、人の目に付くような場所に降り立つとは思えないので発見は困難だろう。 (ようやく見つけたっていうのに…) 話を聞く限り、すべての原因は目の前の少女にある。 如何に女の子に甘いポップといえどもそういう事情となればルイズに好印象を抱くのは無理があった。 「何よその目は」 「いんや別に」 「言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」 一方、ルイズはルイズで目の前の少年に憤っていた。 彼女本来の目的からすればコントラクト・サーヴァントが成功しただけでも十分満足できるはずだったのだが なんせ竜→平民という格差である。 怒りを覚えるのも無理はない。 かくして、ルイズとポップという少年少女の邂逅はお互い共に悪印象から始まるのだった。 ついて来いとせかすルイズとそんな少女を心配気に見守るコルベール。 そんな二人を見ながらポップはもう一つの懸案事項――これからどうするか、を考える。 とりあえず、ここは見ず知らずの土地であることは間違いない。 目の前の人物たちが精霊や魔族に見えない以上天界ないしは魔界という線はない。 発見されていない大陸、というのも流石に考えづらい。 となると考え付くのは―― (異世界とか? まあ天界や魔界があるんだから可能性はあるんだが…あ、そうだ) ポップはこっそりとある呪文を呟いた。 その呪文の名は瞬間移動呪文ルーラ。 一度訪れた場所に一瞬にして移動できるという高等呪文の一つである。 (…発動しない? いや、発動後にキャンセルされた?) ルーラの発動自体は確かに起こった。 だが、ポップの体はその場から一歩も動かない。 そう、まるで『行ったことがない場所に向けてルーラを唱えた』かのように。 (おれは今確かに昨日のキャンプ場所を想像したはず…おいおい、マジで異世界の可能性が高くなってきたぞ…) バーンパレスのように空にバリアが展開されているわけでもない。 というかそうだとしてもある程度までは移動が行われるはず。 にもかかわらずルーラはポップの体を運ばない。 これが指し示すことはつまり、ルーラの効果が及びようがない場所に自分はいるということになる。 (勘弁してくれよ…) 大魔王と戦うなんていう非常識をこなしてきたポップからしても異世界に飛ばされたという事態は想定外にもほどがあった。 ダイはどこかへ行ってしまった、帰る方法はわからない。 生命の心配こそとりあえずなさそうではあるが、状況は最悪だといってもよかった。 (とりあえず、情報を集めねえと) ダイを探すにしろ、元の場所に戻るにしろ、右も左もわからない場所にいる以上情報は必須である。 長い間旅を続けてきたポップは情報の大切さをよくわかっていた。 そして、情報源として期待できるのは目の前にいる二人の人間であるということも。 (しっかし、契約ねぇ…呪いみたいなもんじゃねえか) 自分をおいてサッサと行こうとするルイズを半眼で睨みつつポップはどうしたものかと頭をひねらせる。 少なくとも自分は同意した覚えがないのに勝手に使い魔にされたのだ。 情報を集めるという目的上、主人だというルイズに友好を示すことはやぶさかではない、可愛いし。 しかし、使い魔というのは御免被る。 いくら可愛い女の子とはいえ、下僕にされるのは嫌だし、自分にはダイを探すという目的があるのだ。 そのためにはフリーな立場に戻らなければならない。 いっそこの場からトベルーラで逃げ出すか? そんな不穏なことを考える。 (待てよ、ひょっとしたら…) ポップの頭に閃きが走った。 現在、自分をルイズの使い魔たらんと示しているのは左手のルーンである。 つまり、逆をいえばルーンさえなければ使い魔契約は撤廃できるということになる。 だが、聞いた話では使い魔の契約が切れるのは使い魔、つまり自分が死んだ時だけだという。 当然、死ぬ気などサラサラないポップ。 (あの呪文なら…) この時、彼が思いついた方法は思わぬ事態を引き起こすこととなる。 だが、神ならぬポップは物は試しとばかりにその呪文を唱えた。 「シャナク!」 前ページ次ページゼロの大魔道士