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1 シン「……はやて隊長」 はやて「ん?なんやシン」 シン「俺、確か仕事中に貧血で倒れたんでしたよね」 はやて「そうや。ビックリしたで」 シン「で、わざわざ俺を医務室に運んでくれた、と。本当にありがとうございます」 はやて「ええよお礼なんか」 シン「……それはそれとして」はやて「?」 シン「なんで俺、はやて隊長に腕枕されてるんですか?」 はやて「医務室の枕が『なぜか』全部洗濯中だったんよ」 シン「……まぁそれはいいとして」 はやて「ふんふん」 シン「なんで俺達下着姿なんですか?」 はやて「シンを医務室に運ぶ途中で『偶然』ホースの水にぶち当たってなぁ」 シン「それで?」 はやて「ここ全年齢板やし全裸もどうかと思ってな」 シン「……まぁ百歩譲ってそれもいいとして」 はやて「ふんふん」 シン「なんで足を絡めてるんですか?」 はやて「濡れて寒いだろうと思ってな」 シン「……まぁそれもいいとして」 はやて「ふんふん」 シン「……なんで反対側にフェイト隊長がいるんですか?」 フェイト「え?便j…」 シン「すいません、やっぱいいです」 2 ヴィヴィオ「パパー! はい、これあげる!」 シン「これは……」 【かたたたきけん】と書かれた三枚の折り紙 ヴィヴィオ「パパお仕事で疲れてるから……いつでも使ってね!」 シン「あ、ありがとうなヴィヴィオ(かわいいなぁ……財布に入れて御守りにしよっと)」 ヴィヴィオ「じ~~~」 シン「♪~(テレビを見ている)」 ヴィヴィオ「じ~~~」ソワソワ シン「…………」 ヴィヴィオ「じ~~~」ウズウズ シン「……一枚使おうかな」 ヴィヴィオ「は~~い!!」 はやて「成程……こういう手もアリやな」 ~後日~ はやて「シン、これ受け取ってくれへんか」 シン「ん?なんです?」 【プロポーズ券】×10 シン「( ゚д゚)……」 はやて「な、なるべく早めに使ってや///」モジモジ シン(……エリオにでもやるか……) フェイト「はいシン!」 【便乗券】×50 フェイト「便乗してほしいときに……」 シン「必要ないだろ」 3 シン「・・・・・」 なのは「う、あ・・・・・」 フェイト「姉さん・・・・?母さん・・・・?そこに・・・」 スバル「・・・・・うぇぇ」 ティアナ「あれ?皆何倒れてるの?ん、パスタ?」 シン「やめ・・・、・・・アナ、それは・・・・(ガク)」 ティアナ「こ れ 喰 っ て い い か な ?(笑顔)」 ティアナ「ワタシノ・・・カラダハ・・・・ボロボロだ・・・・」 カチャーンとフォークが落ちる音が響き食堂から光が消えていった・・・ 4 強襲のはやて はやて「ふ……ふはははは……」 シン「何がおかしいんだ、アンタって人は!?」 はやて「私の勝ちやな、シン。今ざっと計算してみたけど、世界の半分は女難に染まるで。スレ住人の頑張りすぎや!」 シン「なめるな!」 はやて「シン、何をする気や!?」 シン「たかが女難ひとつ、パルマで押し返してやる!」 はやて「なんやて!? 正気かいな、シン!?」 シン「アンタほど急ぎすぎもしなければ、女性に絶望もしちゃいない!」 はやて「女難は始まっているんやで!」 シン「パルマ・フィオキーナは伊達じゃない!」 シン「なんだ? やめてくれ、こんなことに突き合う必要はない!」 レイ「お前だけに辛い思いはさせん!」 シン「しかし、その補正じゃ! キョンにイスラまで、無理だよ、皆下がれ!」 ルルーシュ「世界がダメになるかならないかなのだ、やってみる価値はある!」 シン「ダメだ! 女性陣からフルボッコにされるだけだぞ! 女装している大河やカズヤまである!」 ディアッカ「うわぁぁぁっ!」 イザーク「ディアッカァ!」 はやて「結局、遅かれ早かれこんな女難だけが広がって世界を圧し潰すんや。ならアンタは、自分の手で私の婿になって贖罪せなあかん。 シン、なんでこれが分からんのや?」 シン「離れろ! パルマの力は!」 はやて「こ、これは……パルマの共振? 男の意志が集中しすぎてオーバーロードしとるんか!? なのに、恐怖は感じへん。 むしろ熱く、欲望を感じるなんて」 シン「何もできないで!」 タクト「光の向こう、男性陣が弾き飛ばされている!」 議長「もっとよく観測しろ! 何が起こっているんだ!?」 はやて「そか……せやけどこの熱さを持った女性達がアンタを欲しがるんや。それを分かるんや、シン!」 シン「分かっているよ! だから世界に、男の意地を見せなきゃならないんだろ!」 はやて「はん! そういう男の割にはユーノに冷たかったやないか!」 シン「俺はマシーンじゃない! 高町隊長をユーノに振り向かせることなんてできない!……だからか! アンタは高町隊長を邪魔者のように扱って!」 はやて「そうか、ユーノはなのはちゃんを求めてたんか。私はそれに気付かずに、なのはちゃんの当て馬にすることも考えつかなかったんやな」 シン「アンタほどの人が、なんて器量の小さい!」 はやて「シンは私のダーリンになってくれたかもしれない男や! なのに振り向かないあんたに言えたことかいな!」 シン「ダーリン? 俺が!? うわぁっ!」 なのは「……はやてちゃんが」 アティ「高町さん、どうしたんですか!?」 ラミア「女難が世界から離れていくでございますことですことよ」 ことり「そんな!?」 ラクス「女難の浸食率変化、完全に世界から………………………………離れませんわね」 女性陣「やっぱりね」 -25へ戻る -27へ進む 一覧へ
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1 ディケイドでアギトの世界の場合 シン「なぜなら人は愚かだから・・か。」 アンノウン「そう!人は我々が守る・・力など必要ない!」 シン「ああ、確かに愚かだよ。死んだ奴の面影を追って全てを捨てようとしてみたり、大切な人を守るために逃げ続けたり・・な。」 なのは(inG3-X)「友達のために体を張ってみたり・・ね。」 シン「愚かだから転んでけがをしてみないとわからない・・。ときには道に迷い、間違たとしても・・それでも旅をしている・・お前に道案内してもらう必要はない!」 エリオの腰にアギトのベルトであるオルタリングが現れる。 アンノウン「アギト!?」 シン「エリオ・・これがお前の本当の力だ。」 アンノウン「貴様!何者だ!?」 シン「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!変身!」 {KAMEN RIDE! DECADE!} エリオ「変身!」 カチッ!ブーン! ディケイドとアギトに変身。 その様子をG3ユニットにいるキャロは見ていた。 なのは「守って見せる・・私も!」 ティアナ「確かにあれはお宝だけど・・あれは持って帰れないわね・・」 そう言いディエンドは退散する。 廃工場内に戦いの場を移す。 もう一体アンノウンが現れ激しい猛攻を受ける。 G3-Xがディケイドをかばいフェイスアーマーが半壊。 アギトのライダーキックをアンノウンを爆散させる。 アンノウン「おのれ~!」 プラズマ弾を放ち回避のため外に出る。 ディケイドはカードを装填する。 シン「ちょっとくすぐったいぞ。」 {FINAL FORM RIDE! A・A・A・AGITO!} エリオ「え、僕に何を!?」 ディケイドがアギトの背中を扉を開けるように触れる。 背中から装甲が現れ、空中でアギトのファイナルフォームライドであるアギトトルネイダーに変形。 なのは「変わった・・?」 ディケイドは飛び乗りアンノウンに向かっていくが手前で引き返しG3-Xに向かっていく。 なのは「え、ち、ちょっとシンこっち来ないで!ねえ!」 ディケイドはG3-Xの手を引きアギトトルネイダーに載せる。 シン「行くぞ、なのは。」 なのは「うん!」 アンノウンが放つプラズマ弾をアクロバティックに回避しGX-05を叩き込む。 なのは「今だよ!シン!エリオ!」 シン「ああ。」 {FINAL ATTACK RIDE! A・A・A・AGITO!} なのは「いっけー!」 前面にアギトの紋章が展開しスピードの乗ったソードモードをくらわせる。 必殺技・ディケイドトルネードがさく裂しアンノウンは爆散する。 ディケイドは飛び降りに成功するがG3-Xは転倒する。 なのは「いた!戻るなら言ってよ。もう~」 エリオ「僕がバイクに変形するんですか?」 シン「夢の中でだけどな。夢の中でもキャロは大切な人になっていたぞ。」 エリオ「そうですか。しっかり守っていきたいですね。」 シン「その前に三角関係に決着をつけような。」 エリオ「う・・。がんばります。」 次へ進む 一覧へ
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暗闇を裂く朝の日差しの中、シン・アスカはジェフティのコックピットで目を覚ました。 (あれ? なんで俺、こんな所で寝てるんだ?) 首を傾げ、昨夜の事を思い出してみる。 ふと辺りを見渡すと、ボロボロになった毛布に包まれた抱き枕が一つ。 それをみて昨夜の記憶が、シンの脳裏に蘇った 残業(始末書)が終わり自室に帰る俺(デス子はすでに就寝済み) 疲れて眠ろうとシーツをめくると、そこには便乗ことフェイト隊長が! 「ウオーーーーーイ!」 思わず叫ぶ俺。 「どうしたの! シン! 」 ジャンジャジャーン! 「げぇ! 冥王!」 隣の部屋の壁をぶち抜いて、なのは隊長登場。 「冥王? シンあた……」 「いい加減にせい! あんた達、今何時やと思ってるんや!」 以前の凸乱入の騒ぎでショックを受け、まともに戻った(なった)八神部隊長の砲撃魔法が! 機転を利かし、デス子にシン・アスカ変装セット(黒い男性用カツラ、赤いカラコン、つり上がった付け眉毛)を付け 身代わりにして、ボロボロになった毛布片手に華麗なる脱出。 誰もいなくて静かな場所……即ち格納庫へGO! …………寒いからコックピットで寝よう。 デス子がいないとデスティニーは暖房きかないからジェフティで寝よう! 「エイダ。 悪いけど今日はコックピットで寝かせてくれ。 ……答えは聞いてない!」 「別に構いませんが、こんな所で寝たら風邪をひきますよ?」 「大丈夫。 俺コーディネーターだから。 んじゃお休み」 「あっシン。 いくらコーディネーターでも寒いのには変わりないでしょうに。 ……こうなったら仕方ありません」 (ああ、そうだった) 「……でも暖かいな、エイダ暖房入れてくれたのか? エイダ?」 コンソールを指で叩くが、反応がない。 (いやな予感がする。 それに待てよ、さっきの話、おかしくないか?) (俺は部屋から毛布しか持ってきてないのに、何で抱き枕があるんだ? ……そもそも俺は抱き枕なんて持ってないし) もぞもぞと毛布にくるまった何かが蠢いた。 (待てよ。 もしかしたら動物かもしれない。 昔から俺には、何処からか動物を拾って来る癖が……) 「……うーん」 明らかに女の子の喘ぎ声。 ( 無かったな。……じゃあ、中に入ってるのは誰なんだ? ) 勇気を振り絞り、毛布をゆっくり捲っていく。 そこにいたのは、肩くらいまで髪を伸ばした黒髪が印象的な、見かけはシンと同じ位の年齢の少女だった。 「あっ…」 あんたは一体誰何だァァアアアア!! と叫びそうになる自分を何とか押さえ、冷静に考えてみる。 1 あんたは一体、誰なんだぁぁぁぁぁぁ!と叫ぶ。 ↓ 騒ぎを聞きつけ、人が集まる。 ↓ コックピットに二人きり、しかも女の子はシンの膝の上。 ↓ 冥王「……頭冷やそうか?」 (´д`)マズー 2 冷静沈着、クールかつ、紳士的に相手を起こし、事情を聞いた後脱出。 ↓ 誰にも見つからない。 ↓ 頭を冷やさずにすむ。 ( ゚Д゚)ウマー 2だ! 2しかない! 毎回、毎回頭冷やしてて、このままじゃ頭冷やし殺されちまう! 第一頭冷やせば良いってモンでもないだろう、少しくらい熱くなっていた方がいい事だって…… いかん、愚痴っぽくなってしまった。 早速、紳士的に彼女を起こそうと毛布を捲り顔を見た瞬間、シンの頭に電撃が走った。 (……この子の何処かで会ったことがある!) 何処だったが頭を抱えているうちに、少女の目がゆっくりと開いた。 「あっ、シンおはようございます。 起床行動を開始します」 口を開くと同時に、少女のアホ毛がピョコンと立った。 シンはその声と口調に、聞き覚えがあった。 「君、もしかしてエイダか!?」 「そうですが、何か問題が?」 目の前の少女は眠そうな目をこすり、首を傾げながら言った。 「いや、あるだろ!」 すばやい突っ込み。 「そのーなんだ。 くっ、突っ込み所が多すぎてどうにも……」 頭を抱えてしまうシン。 そんな様子をエイダは不思議そうな顔で、頭頂部のアホ毛をピョコピョコと動かしながら見ていた。 「そのシン。 まずは目に付きやすい所で「そのアホ毛はなんだぁァァ」辺りから始めてはどうでしょう」 見るに見かねたのか、頭を抱えているシンに提案した。 「いや、アホ毛自体はルナマリアで見慣れてるし……はっ」 「そうか! 分かったぞエイダ! 君は実はファ」 「ティマじゃないですよ」 「……じゃあいったい?」 「(相当錯乱していますね……)今説明しますから、落ち着いて聞いて下さい」 「うああ、わかった」 「この体は(どうせシンに詳しい説明しても分からないでしょうから)簡単に言えばですね、 メタトロン技術のほんのちょっとした応用で作った、人体の機能を極限まで模した義体なんです」 真面目な顔でエイダは言った (何だろう? わかりやすく説明されただけなのに、馬鹿にされた気がする) 「それよりも君の顔に見覚えがあるんだが何でだ?」 「あ、それなら簡単です。」 今度は笑みを浮かべ、嬉しそうにエイダは説明を始めた。 「義体を作る際、参考にしたデータの中に機動6課隊員を含む、あなたの知り合いの女性のデータがあったためです」 「簡単に言えばモンタージュ写真みたいなもんだからって事か?」 僅かに首を傾げ、シンは口を開く。 「そういうことです、もっと具体的に言えば……」 「ああ、それは分かったんだが、なんで俺の上で寝てたんだ?」 「暖かくしてくれと言われましたので。 寒い人を暖めるには人肌が一番だと聞き実行してみました」 なぜか残念そうな顔をし、エイダは答えた。 (フェイト隊長の便乗みたいに、説明するのが好きなのか?) 「……何か問題がありましたか?」 上目遣いで怒られた子供のような目で、エイダはシンを見つめた。 「そうか、有難なエイダ」 シンは微笑みを浮かべると、エイダの流れるような黒髪をそっと撫でた。 「……いえ、独立型戦闘支援システムとして当然の事です」 その透き通るような白い頬を朱色に染め、エイダは答えた。 その時である。 突如としてジェフティのコックピットカバーが開かれ、人影がコックピットに飛び込んだ。 「マスター! 昨夜は酷いじゃないですか! 身代わりにされた私は、 八神部隊長に小一時間お説教されるし、高町隊長には頭冷やし殺されかけるし……」 シンの顔をみるや、マシンガンのような勢いで金髪の小柄な少女、デスティニーことデス子は叫び、違和感に気づいた。 マスターの膝の上に、人がいます。 ↓ 美人な人です。 ↓ 女の人は顔を真っ赤にしています。 ↓ マスターは女の人の髪を撫でています。 ↓ どう考えても終わった後です(何が?)本当にありがとうございました。 「マ、マスターのバカァァァァァアアああ!!!!」 デス子の右手が光って唸る。 これこそ、ザフト技術陣の野心作、開放式ビームジェネレーター。 またの名を元祖パルマフィオキーナ。 (嗚呼、今回はそういうオチか) どこか達観した表情でシンはデス子の光る右手を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。 「ゼロシフト、マミー」 その瞬間、シンの耳にエイダの声が聞こえた。 気が付くとシンの体は宙に浮いていた。 見えない力に引っ張られるように、コックピットから飛び出したのだ。 体勢を崩しながらも、何とか床に着地する。 コックピットを見上げると、エイダが巨大な盾を持ちデス子と相対していた。 「デスティニー、いきなり何事ですか? 説明を願います」 巨大な盾を背にもっていくと、吸い込まれるように消えた。 (あれがエイダの言っていたベクタートラップって奴か) 「その声、エイダちゃん!? ああ、マスター。 ついにAIにまで手を出して……」 目の前の少女がエイダであることに気付くと、デス子は頭を抱え始めた。 「? 何を言っているのですか。 それよりコックピットの中で暴れられては困ります」 「それに私のランナーであるシンに手を出して、一体どういうつもりですか?」 エイダにしては珍しく感情、怒気をはらんだ様子でデス子に問いかける。 「わ、私の旦那!? エイダちゃんこそどういうつもりですか! マスターはみんなの物です!」 「俺は物扱いか!」 怒鳴るシン。 「ランナーです。」 そんなシンを尻目を冷静に突っ込むエイダ。 「ランナーでも、旦那でもいいです! 単純なマスターをたぶらかして、許せません!」 「単純なのは否定しませんが、シンは望んで私の(コックピットの)中に入ってきたのです。 貴方に何か言われる筋合いはありません」 「否定しろよ! 何で俺の機体は毒吐きばかりなんだ!?」 頭を抱えるシン。 「わ、私の中に入って……!? マスター、エイダを片付けたらマスターをお仕置きです!」 何かを勘違いしているデス子。 既にデスティニーに似たアーマーを纏い、戦闘態勢をとっている。 「お、お前の(コックピットの)中にだってよく入っているだろ?」 何を言っているんだと叫ぶシン。 「インパルス姉さんと間違えてるんですね? もう許せません!」 そう言うとデス子はアロンダイトを抜き、シンを睨む。 (嗚呼、こいつなんか勘違いしてやがるな) シンは、そんなデス子の勘違いに気付き、溜息をついた。 自分も人の事はいえない。 というか思い込んだら一直線な所はそっくりなのだが、気付いていなかった。 「こんんの泥棒猫がアアァ!」 耐えかねたのかデス子から仕掛けた。 アロンダイト(人間サイズ)を展開し、エイダへと切りかかった。 「仕方ありません、これより迎撃行動を開始します」 何時ものように、冷静にそう告げるとジェフティに似たアーマー、頭部を模した帽子、スケート靴のような足鎧を身につけた。 右腕を瞬時にブレードに変化させ、デス子を迎え撃つ。 アロンダイトとブレードがぶつかり合う。 幾度もぶつかり合い、どちらからともなく格納庫の天井を突き破り、外へと飛び出した。 「やばい、俺も後を追わないと!」 呆然としていたシンは我を取り戻し格納庫の扉へと駆け出した。 一体どれほどの時が過ぎたことだろう。 二人は機動6課隊舎から数分ほど歩いた場所で対峙していた。 ビームライフルだのミサイルだのを乱射したせいで、辺りは草木一本生えていない死の荒野と化していた。 ちなみに周囲には機動6課隊員達が野次馬に駆けつけ、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。 「やりますね(以前確認したデータと比べて武装も能力も違う、まさか?)」 沈黙を破りエイダが口を開く。 「フフフ、私を今までのデスティニーと一緒にしてもらっては困ります!」 不敵な笑みを浮かべ人差し指をエイダへと突きつけた。 「やはりパワーアップを……」 人形のような顔を歪ませ、エイダは呟く。 「その通りです! 某赤い一撃なCE最高のジャンク屋、クライン派のターミナル、サハク家のアメノミハシラ」 「更に、管理局技術陣、Drスカリエティの協力を得て、完成したこの体!」 叫ぶと同時に光に包まれるデス子の体。 「究極の万能型をコンセプトに、遠距離最強のフリーダム、近距離最強のジャスティスの長所を取り入れ!」 その腰にはフリーダムのレールガンが、足にはビームサーベルが装備されていた。 「攻勢防御障壁スクリーミングニンバス、単位相光波防御帯アルミューレリュミエール、推進機関には火星製ヴォワチューレリュミエールを装備!」 そういうデス子の肩や下腕、胸部には以前はなかった追加装備があった。 「さらに、エネルギー不足を補うため、外部装着型GNドライブ(複製品)装備!」 背中には巻貝状の何かを背負っていた。 「そう! 今の私は、文字通り、CE最強のモビルスーツ! スーパーデスティニーは無敵です!」 大見得を切るデス子。その姿に野次馬に混じり事の成り行きを見ていたシンは思わず頭を抱えた。 (た、ただでさえ劣悪な整備性が最悪に……ってかGNドライブなんて何処で手に入れたんだ!?) 答え:スカリエティの所。 「私とて最強OFの意地があります、負ける訳にはいきません!」 今度は両腕をブレードに変化させるとデス子へと飛び掛るエイダ。 「受けて立ちます!」 デス子もまたアロンダイトを構え、エイダへと飛び掛る。 「まずい! やめるんだ二人とも!」 危険を感じたシンは二人の激突する間へと飛び込む。 「マスター!」 デス子は叫ぶ、アロンダイトはすでに振りかぶっている。 「シン!」 エイダも叫ぶ、斬りかかる寸前だ。 「「と、止められない!!」」」 (大丈夫だ、攻撃のベクトルを反対にずらして、投げ飛ばしてやれば……) シンが幾多の次元世界を渡っていた内、ある世界で師匠と呼べるある男に教わった技。 3人がぶつかり合うその瞬間。 「ぱ」エイダが。 「る」デス子が 「ま」シンが。 「「「パルマーーーー!?」」」 シンの両手はしっかりと、確実に、やさしくデス子とエイダ、二人の胸を鷲掴みにしていたのだった。 「だ、ダブルパルマ!」 その光景に持っていたビール缶を握りつぶし、ヴァイスが叫ぶ。 一応仕事中なのに、昼間ッから飲んでいる事について突っ込んではいけない。 「知っているんですか!? ヴァイスさん!」 その叫びを聞いたエリオはヴァイスへと振り向く。 「知らん! ただ、同時に二人の女の子の胸を揉むとは……流石らき☆すけ! 羨ましいぜ、シンの奴」 周りが白い目を向けているにもかかわらず叫び続けるヴァイス。 どうやら明日から彼の渾名は『エロ軍曹』に決まったようだ。 「そのシン、私に性的欲求をぶつけるのは構いませんが、私、赤ちゃん出来ませんよ?///////」 「…………(油断しました、まさか私にパルマをしてくるとは)///////」 一方パルマを喰らった二人は顔を真っ赤にして、その場に座り込んでいた。 「えっ、とその二人とも大丈夫、か?」 両手を離したシンは、戸惑いながら二人に近づこうとし、後ろから迫る黒いオーラに気付き、振り向いた。 「シン。 ……またそんなことして、頭冷やそうか?」 管理局のエース・オブ・エース、高町なのは。 またの名を二代目冥王。 既にレイジングハートは起動している。 リミッターも解除されていると考えた方がいいだろう。 「…………自由への逃走!」 その顔を見た瞬間、シンは逃げ出していた。 瞬間的には音速を超えていたかもしれない。 無駄かもしれない、でも生きる希望は捨ててはいけないのだ。 そうだよな。 トダカさん、マユ、レイ、ステラetc…… 「スタァアア、ラァイイトォイィオォ、ブゥレェイィィィカァァァァアアアア!!!!」 光がシンに迫る、必死で走るも逃げ切れるはずもなく。 「アーーーーーーーーーーーーーーー」 こうしてシンは一週間の入院、大量の始末書という羽目になったそうな。 ちなみにエイダとデス子は、シンが入院しているうちに誤解が解け、今まで以上に仲良くしているそうだ。 めでたく無し、めでたくも無し クリスマスへ ARMORED CORE 小ネタその5へ 目次へ
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「ありゃ、シンじゃないか。どうしたんだこんなとこで」 魔理沙はいつものように森の中で魔法の実験のためのキノコを探しているとシンとばったりと会った。 シンが幻想郷に来てからもう一ヵ月になる。 幻想郷に来た当時は出歩くのにも自分や霊夢、アリスがついていたものだが今となっては一人で人里や博麗神社に行けるようになったとアリスから聞いていたが。 「珍しいじゃないか、ここで会うとは思わなかったぜ?」 そう、ここにいるとは思ってもみなかった。確かにシンはアリスの家、つまり魔法の森に住んではいるがそれでもこんな奥地も奥地、自分ぐらいしか知らないようなところまで来ているとは思わなかった。 シンはそう言われると一瞬困った顔を浮かべ、次の瞬間には何事もないかのように頭をかきながら笑う。 「ああ、最近この辺りを探索してるんだよ。ほら、色々見識を深めるのはいいことだろ?」 「ふむふむ」 「いやー、しかし来ては見たけど見事に何もないなー。やー参った参った。でもまあ、ほらあれだ。こういうのも探索の醍醐味っていうのか? うん、そんな感じだよなあ」 はっはっは、とわざとらしい笑い声をシンはあげ続ける。………魔理沙だって嘘はうまい方じゃない。だから嘘をついた後はばれない内に即行で逃げるわけだし。 しかし、いくらなんでもこれは。 「嘘だろ」 流石に呆れるしかない。というかこれで誰か騙せると思っているのだろうかこの男は。もし思っているんなら全詐欺師の皆さんに謝るべきだろう。 シンも無理があると思っているらしく魔理沙の一言で笑い声を止めてもう一度頭をかく。今度は恥ずかしそうだった。 「ああと、その。べ、別に嘘ってわけじゃ」 「いやいや、誰がどう聞いても嘘だろそりゃあ。別に構わんぜ、怒りゃせんから大人しく魔理沙さんにゲロっちまいな?」 「…………うう。別に嘘ってわけじゃないんだけどな」 いい加減観念したらしく地べたにドカッと腰を下ろす。 「その。アリスから逃げてたんだよ、そうしたらここに出てな」 「アリスから? お前、今度は何したんだよ。というか二、三日に一辺はアリスから逃げてないか?」 とかくシンとアリスは相性が悪い。正確に言えばアリスが一方的にシンを嫌っているのだが、シンの今一つ素直になり切れない性格と相まって小さな喧嘩はほぼ毎日起こっていた。 だとすると今度は何をしてアリスを怒らせたのか。 「うん、食事は俺が作ってるんだけど朝を和食にしたらなぜか知らんが怒ってな。優雅な朝をなんだと思ってるとかなんとか……まったく」 (朝食での喧嘩程度で逃げるとは………なんかこいつがとんだヘタレに見えてきた気がするな) 「包丁なんて持ち出すなよな」 待て。 「ちょっと待て!? 今何か物騒な単語が聞こえたぞ!?」 「ん、ああ包丁のことか。いや、あいつ怒ると割と頻繁に包丁持って俺を刺そうとしてくるぞ。とはいえこれぐらいで包丁持ち出されてもなぁ」 シンは平然とはしている。この様子だとそう珍しくもなさそうだ。とんでもない事実に気付き魔理沙は背筋に冷や汗が伝うのを感じる。 「うぅ、確かに。それじゃあまるでヒスかなんかじゃ」 「まったく朝が和食で怒るのこれで7度目だぞ?」 「7度も繰り返すお前もお前だ!!」 こいつは命が惜しくないというのか。 「やー、最近なんかこう意地になってきてなぁ。なんとしてでも認めさせてやる」 「私としては止めてほしいなぁ、友人から犯罪者出したくないから」 なにがシンをここまで駆り立てるというのか魔理沙にはさっぱりわからない。今となってはシンにも分かってないだろう。 「しかしどうするかなぁ、ここもいつ嗅ぎあてられるか分かったもんじゃないし。どうしたもんか……」 うーん、と唸りながらシンはそのまま地べたに寝そべる。朝から逃げっぱなしだったらしく欠伸を噛み殺していた。もう日も高く昼時だ、小腹も空いているらしい。 「ふぅん……なら家に来るか?」 「え、そりゃありがたいけど。いいのか?」 「おう、問題なんてないだろう。ご飯作ってくれればもっと問題無し、だぜ」 その魔理沙の言葉に、だがシンは難しげな顔を浮かべる。 不思議そうに見返す魔理沙にため息交じりに口を開く。 「いや、問題大有りだろう。俺男だぞ?」 「……見ればわかるぜ。返事になってないぞ」 そう言い返すとシンはますます深いため息をつく。魔理沙にはその行動の意味が分からずに段々不機嫌になっていく。 「ちゃんと答えろよ、人の厚意は無下にするもんだとでも習ってるのかお前は?」 「あのなぁ……年頃の女の子がホイホイ男を家に上げるな! しかも二人っきりなんて状況で!」 「? 別に構わないだろう、減るものでもないし」 「そう言う問題じゃないだろうが! いいか、どんなに人畜無害そうな顔をしていても男ってのはいつ何時オオカミになるかなんて分かったもんじゃあないんだ、 いやむしろそういう無害そうな顔してる奴ほど心の中じゃとんでもないこと考えてるものなんだ! そんな男をうっかり信じて家に上げてみろ、たちまち悪のオオカミに変身して美味しく食べられてしまうんだぞいろんな意味で!! 食べられるだけじゃあない、いいように騙されて好きなようにされて最後にはポイされてしまうんだからな、だから絶対に男を簡単に家に上げるなんてことしては なんだその呆れた様な顔は!?」 「なんで香霖と一言一句違えず同じ事をいうのかねお前は。だいたいそれじゃあお前が危険人物だって言ってるようなものじゃないか」 「その通りだッッッ」 「いやおかしい、その理論はおかしい! というかその反応まで香霖と同じだとは思わなかったぞ!?」 「霖之助さんも同じ事を言ったのか………なのに何でお前は男を家に上げようとする!?」 額に手を当てる。香霖堂店主、森近霖之助といいどうして自分の周りの男共はこうも変なのしかいないのか。 心配してくれるのは分かるがここまでずれていると頭を抱えるしかない。 「ええとさ。お前はさっきから男は危険だ男は危険だって言うけど。だったらお前は私に襲いかかる気なのか?」 「そんなわけないだろう!?」 「だったら問題ないだろうに。ほらとっとこ行くぞー」 「待てって、俺が言ってるのはお前の男に対する警戒心の無さで」 「おやあんなところにアリスが」 「ッ!?(バッ)」 一瞬で伏せる。近くにあった草を千切って体の上にかけると遠目からはそこにシンがいるとは分からないだろう。 「まあ嘘だけど」 「性質の悪い嘘は止めろよな!? まだ大して時間がたってないのに奴に見つかったら……包丁が」 「それ以上は聞きたくない! ………まあなんにしても。命の危険は回避するべきだろうよ。いいから家に行くぞ」 「うう、またなんか俺の意見が無視された気が………」 肩を落とすシンとは対照的に魔理沙は悪戯っぽくにんまりと笑う。 「まあいいじゃないか、別に襲わないんだろ?」 ため息一つ。 「………よろしく頼むよ」 「ん、よし。じゃあレッツゴー、だぜ♪」 魔理沙に聞こえないように、ぽつりと呟く。 「……しっかり気を持っておかなきゃな」 シンは箒に乗ってぷかぷかと浮かぶ魔理沙の後を歩く。 「そう言やあ、最近どうなんだ?」 「どうっていうと………まあボチボチってとこだな、最近里の方で友達もできたし。いやー、巫女ってホントに腋を出してるモンなんだな、霊夢の趣味かと思ってたけどやっとそう認識できた」 「お前にそんな認識を持たせた友人とやらが少し気になるんだがまあそれは置いとくとして。まだ霊夢のとこに通ってるんだろ?」 ああ、そういうことかと軽く頷く。 幻想郷に来て以降、シンはほぼ毎日のように博麗神社に通っていた。一つは霊夢から幻想郷の事を学ぶため、もう一つはデスティニーの様子を確認するために。 まあ、デスティニーと話すとそれだけで最低10回はツッコまなければならないから少々疲れるのだけれど。 「まあそっちもボチボチってところかなぁ。とりあえずスペルカードは使えるようになったけど」 スペルカードに興味を惹かれたらしく魔理沙の目が輝く。 「へぇ、やっとか。で、どんな感じの弾幕なんだ? 魔理沙さんに見せてみな」 その言葉にシンは頭をかく。期待はずれにさせるのが少し申し訳なかった。 「……あー、言っとくけど「弾幕」とは違うぞ?」 「ん、違うって言うと? ………ああ、もしかして符みたいなもんか?」 「そんな感じかな。まあ弾幕の方も作ってはいるけどな……どうにも俺にはあわなくて」 別に自分が軍人だから、と言うわけではない。軍人だってMSのコンペの時には派手なパフォーマンスを行う事だってあるのだから別段見た目を重視するスペルカードに拒否感は無い。 無いのだが、生憎とシンはそういった方面、つまり美的センスは今一つと言わざるを得ない。 どうにも実用性第一で考えてしまうので作り出した弾幕は霊夢からは散々な評価をもらってしまっていた。 曰く。華がない。見ててつまらない。そもそも避けられない。ワンパターンすぎ。むしろ嫌がらせ。etcetcetc。 かろうじてデスティニーのモーションパターンに流用して組み込めたのが唯一の救いだろうか。 ともかく、未だ弾幕の方は勉強中だ、見せられる代物ではない。 「でもまあ、妖怪に対する備えは必要だろ? だから念のために、な」 そう。あくまでも念のための備えだ。別に妖怪から逃げ切ればいいのだ、それだけなら弾幕じゃなくてもただの符だけで雑魚妖怪には事足りる。 倒す必要はないのだ、それなら「今の」自分でもこの符を駆使すれば逃げ切れるはずだ。 「ふーん。ちょっとつまらないなぁ。んで、その符の方はどんなんなんだよ、見せてくれ」 分かった、と答えるとシンはごそごそと懐から10枚のスペルカードを取り出す。 「10枚? 符にしちゃずいぶん多いじゃないか」 「だから言ったろ、「そんな感じ」だって。デスティニーの機能と兵装と、後まあ色々をスペルカードに落とし込んでみたんだよ、そうするとどうしても多くなってな」 シンの言った言葉に魔理沙は一瞬首をかしげるが、すぐに納得したように手を打ち合わせる。 「ああ、そういえばあれロボットの付喪神なんだったな。あんなんだからつい忘れてた」 「俺も時々忘れそうになるな。あんな性格だったとは………いや、ある意味見た目通りだったのか?」 人をからかいおちょくり弄り倒す、そんな悪魔のような性格の彼女を思い出しシンは軽くため息をつく。 確かにデスティニーは悪魔じみた外見だったが、性格だけとはいえそこは反映して欲しくなかった。 大体自分と容姿が瓜二つだというのもよろしくない、あれじゃあまるで女装した自分を見ている気分になる。 「ま、まあなんにしてもスペルカードはそういうことだよ。後は飛ぶことなんだけど」 「お、できるのか?」 かりかりと頭をかき、ゆっくりと目を閉じる。精神を集中させる。その雰囲気に当てられたのか魔理沙も止まって固唾をのんで見守っている。 やがて、ふわりと音を立てずにシンの身体が浮き上がる。そんな光景を見ながら魔理沙はぼんやりと自分が初めて飛んだ時のことを思い出す。あの時の自分もシンと同じように真剣だった。 今では飛んでいてどうということを思うわけではないが、それでもあの時の感慨は鮮明に思い出せる。 ぼんやりと魔理沙がそんな感慨に耽っていると完全に足が地面から離れ、少しずつ上昇していき、魔理沙と同じ高さまで至り、 そのままバランスを崩し後頭部から地面に激突した。 「☆●♪◎▽◆〇(ゴロゴロゴロゴロ)」 「う、うわぁ」 地面をのたうち回る。魔理沙も気の毒そうに見ている。あまりの痛みに言語がおかしなことになっていた。 「こりゃまた痛そうな………大丈夫か、おい?」 「な、なんと、か………おおおおぉおぉぉぉぉああぁ」 うめき声交じりだったがなんとか返事はできた。痛みでちょっと涙が出そうになるが我慢する、シン・アスカは男の子。 「飛べないんなら飛べないって言えよ、あーあーあー………」 「いや、一応飛べないわけじゃあないんだ。ただ、まだ疲れる飛び方しかできないだけで。疲れない跳び方は練習中だ、ぬあ、まだ痛い」 「そりゃ痛いよ……」 と言うか、後頭部を強打して痛くないんだとしたらそちらの方がよっぽど問題だろう。 そんな事をぐだぐだとしている内に。 「ああ、着いたぜ。ここが私の家だ」 「うう、ごめんなさい霖之助さんとまだ顔も知らぬ魔理沙の親御さん。今俺はあなた達の妹分と娘さんの家に上がりこもうとしています」 「お前はまだそんな事を………ほら、さっさと上がった上がった」 「待て、まずは霖之助さんに対する懺悔をだな、って、あ、ちょ、こら、押すな、押すなってー!?」 強引に魔理沙に押されとうとうシンは魔理沙の家に上がりこんでしまう。その第一声は。 「汚っ!?」 「随分な言い草だなオイ!?」 だがシンの反応の方が正常だろう。なにしろ、玄関にまで本が散乱しているのだ、廊下や部屋の惨状は推して知るべしだ。 ガラリと靴棚を開ける。当然のように本がある、靴なんか一足も入っていない。だとすると今足元に散らばっている靴を全部出してまで本を入れたのだろう。 その割には微塵も整理されていなかったが。 「………魔理沙」 「断る」 「片付けるぞ―――ってまだ何も言ってないぞ」 「いやあ、私も片付けたいのは山々なんだがな? ほら、この本たちがこう言っているのが聞こえないか? 「僕らはこのままの方がいいよぅ」とか「片付けるなんてとんでもない」って 言ってるじゃあないか、それじゃあ私が片付けるわけにはいかないぜ。いやぁー残念残念、残念無念」 「片付けるぞ」 「いやいや、私もそうしたいんだけどな。この本たちが片付けられたくないと言って」 「片付けるぞ」 「いや、だからな」 「片付けるぞ」 「人の話を」 「片付けるぞ」 「………い、いやだー! この量はめんどくさすぎるー!」 「片付けるぞ」 「………う、うふふ! 片付けたくないなー、魔理沙さんからのお願い、聞いてく「片付けるぞ」れるってうわぁん!? お前はこの美少女からのお願いを無下にするというのかこの人でなs」 「片 付 け る ぞ」 「ふう、どうだサッパリ綺麗になったじゃないか」 「ううう、私はどこに何があるか把握してたのに………お前のせいで分からなくなったじゃないかー!」 全ての本が本棚に奇麗にしまわれ、部屋の隅まで箒をかけられ、ついでに全ての家具を磨き上げられ、もはやNEW魔理沙邸と呼んでも差し支えないほどだ。 所要時間はわずかに一時間。これぞ主夫のみが成し得る奇跡なり。 「ほーう。なら靴箱の右から6番目の本のタイトルは?」 「よく分かる魔法・初級編だ」 「堂々と大嘘をつくなっ。正解は森の茸料理、ちなみによく分かる魔法シリーズはお前の部屋の窓際の本棚三段目の右から4冊目にシリーズごとに並べてある」 「なんで私より詳しくなってるんだよ!? くそう、お前のあだ名をこれから主婦にしてやるー!」 「それは悪口じゃないな。ところで性別が間違ってるのは気のせいか?」 魔理沙は答えない。まあシンも大して気にしていないが。 「……にしても、よくこんなに本をもってるな。相当な額になるだろうに」 「ああ、それに関しちゃ問題無しだ」 「問題なし? そりゃまたどういう」 「全部図書館からちょっぱって「よし、返しに行くぞ」きたって言わなきゃよかったよ!?」 霧雨魔理沙。学習しない女。 「いや、ちょっとまってくれ! 別に返さないわけじゃないぞ、ただ一生借りてるだけ「今すぐ返しに行くぞ」ってまた墓穴ッ……ああっ、やめろ、風呂敷を探さないでくれ!」 「―――ま、とりあえずはこんなもんか」 「うううう、私のコレクションが……お前は鬼か?」 「そう言うことは利用規則を守ってから言うんだな。ほら、お前はさっき作ったサンドイッチ持っててくれ」 肩をすくめながらそう言い、シンは本が大量に詰まった風呂敷を担ぎあげ、 そのまま潰れた。 「――――ぐえ」 「そりゃそうなるよなあ、なんせ150冊だもんなあ」 そう、150冊。とりあえずで返却することに決めただけでこれだけの冊数に達する。実際にはまだ氷山の一角だ。 「と言う訳で、返すのは無しだな」 「そんな、わけにっ、いく、かっ」 どうやらどうあっても意見を変える気はないということを魔理沙も悟る。だとしたらさっさと終わらせるためにも。 「分かった分かった、返すから。ほら、風呂敷よこせ」 「断、るっ」 断る意味と理由が分からない。まさか今更逃げることを心配してるのか。 「別に逃げやせんよ、腹くくった。ちゃんと返すから、風呂敷渡せって」 「だ、め、だ」 渡すのが駄目なのか自分の体力が駄目なのかどっちだろう。そんな事を魔理沙が疑問に思っているとシンは息も絶え絶えになりながらも続ける。 「こんな、重い、ものっ、お前に持たす、わけにはっ、いか、ない」 「いやだからなんでだって。理由がさっぱりわからん」 「そんなの」 足がもつれまた潰れる。 「そんなの―――お前が女の子だからに、決まってるだろ」 「――――」 魔理沙は答えない。シンは気にするでもなく立ち上がろうともがき続ける。 少女が帽子を深くかぶりなおしたことにも気付かずに。 「―――別に。別に、重さとかは、魔法で、なんとかできる、から。だから、自分で、持つ」 「気に、するな、俺は、気にっ、しない」 「持つ、からっ!」 強引に奪い取り、箒の先端に括りつける。そのまま浮かび上がり、ゆっくりと前進する。本当に魔法で軽くなっているのだろう、ふらつく様子は微塵もない。 そんな魔理沙をシンは不満げに見つめる。 「なんだよ、やっぱり重いんじゃないか。あんなに」 「耳が赤いんだから」 前へ 次へ 一覧へ
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<コーヒー一杯の時間> シン 「エメラルドマウンテン……缶コーヒーでしか知らないぞこんなブレンド。とにかく淹れてみるか」 ――ガチャリ。 千早 「ふぅ……あらシン、お疲れ様」 シン 「ん、そっちもおつかれ。自主レッスンだって?」 千早 「えぇ。まだまだ技術を積まなきゃいけないから」 シン 「ってことはダンス? それともビジュアr」 千早 「…………」 シン 「……いや、なんでもない」 千早 「そう、ならいいわ」 シン 「あ、コーヒー淹れるけど飲むか?」 千早 「ええ、お願い……って、それは今日の?」 シン 「あぁ、早速飲んでみようかと思って」 千早 「だったら私の分はいいわ。シンの分が減るでしょう?」 シン 「いや、そんなに気にしなくていいだろ」 千早 「でも……」 シン 「はぁ、わかった。これは俺が貰ったものだから俺が好きに使う。だから千早の分も入れる。これでいいか?」 千早 「……ふふっ、強引ね」 シン 「強情よりはマシさ。じゃあ淹れてくる」 シン 「うわ、苦味もあるけど甘みもあるな。缶コーヒーのとはえらい違いだ」 千早 「私としては缶コーヒーの方が信じられない味だと思うのだけど」 シン 「あの甘ったるいのもいいんだけどな……まぁ淹れたてのコーヒーほどじゃないけどさ」 千早 「こうしてコーヒーを飲んでると、なんだか結局今日もいつも通りな気もするわね」 シン 「いっつも騒いでるとこだしなぁ。まぁ誕生日なんてこんなもんだろ?」 千早 「――そうかも、しれないわね」 シン 「っ!? (しまった!)」 千早 「いいのよ、私もここ最近で思い出したわ。誰かを祝って、誰かに祝ってもらって……でも、そんな 時間も夜になればいつものように落ち着いて」 シン 「……あぁ、そうだな」 千早 「いずれ、こんな時間も過ごせないくらいに忙しくなるかもしれないわね」 シン 「かもしれないな。でも、コーヒー一杯飲むくらいの時間は欲しいよな」 千早 「今みたいな時間を?」 シン 「ああ、でないと押し潰されそうだ」 千早 「……そうね。こういう時間も、たまには」 シン 「さて、と。千早、送ってくよ。もう遅いし」 千早 「ありがとう。でも、近くに引っ越したからそんなに遠い場所じゃないわ」 シン 「あれ、そうなのか? どこに?」 千早 「近くのアパートなんだけど……」 そして、シンに衝撃が走った。 シン 「……そこ、俺が住んでるアパート」 千早 「えっ?」 ――結局、シンと千早は一緒に帰ることになった。 別れ際――といってもお互いの部屋に入る直前だが――、千早はシンの方を向いて微笑を浮かべ、 改まった口調で告げた。 「――シン、誕生日おめでとう、これからもよろしく」 そして、シンは近くに千早が住んでいるということを知ってしばらく落ち着かない日々が続いたそうな。 Happy Birthday~シン編~へ 目次へ
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警戒していたのが馬鹿らしくなるほど、計画はすんなりと成功した。 シン・アスカが不老不死になれば、必然的に同じ不老不死が多くいる永遠亭との繋がりが強くなるはず。 そうなれば、幻想郷の中心に“蓬莱山輝夜”の名を掲げることも夢ではなくなるだろう。 そう、欲しいのはシン・アスカの全て。 本人は気付いていないが、彼が幻想郷で築いた人脈、影響力は既に無視できないレベルに達している。 守矢の神々の加護を受け、妖怪、人間双方から信頼されているだけではない。 八雲家、人里の人間達はもちろんだが、紅魔館、冥界、天界、地獄、命連寺などにも相当に太いパイプを持っているのだ。 神々やそれに匹敵する存在に事欠かない幻想郷において、人脈というのは時に個々の戦闘力差を覆す要因となる。 たかが友達ごっこと侮ることは出来ない。 加えて、幻想郷でも途出した戦闘力を持つ機械人形である『デスティニー』が、彼にしか操れないというのも大きい。 その破壊力は、彼が関わった沢山の事件で各陣営に並々ならぬ影響を与えた。 力と人脈だけを見るなら、候補者は他にもいる。 だが、彼は中立の立場を取る“博麗霊夢”や自分の都合を優先する“霧雨魔理沙”ほど自らの立ち位置を確定していない。 守矢神社に保護され、彼女たちと信頼関係を築いてはいるが、束縛されてはいないし、 本人も神を信仰しているわけではない。 あくまでもシン・アスカのポジションは“外来人”であり、元の世界に帰るかもしれない“居候”なのだ。 そこに、永遠亭の付け入る隙がある。 いや、我々だけではない。 表に出さないだけで、すでに他の陣営も自分たちがシンを獲得しようと動き出しているはずだ。 どの勢力にも属さない彼の存在は、幻想郷のミリタリーバランスを担っている巫女と魔法使いに次ぐ、『第三の男』となっているのだから。 幻想忘戦録 外典 『うつろい』 永琳のいう事は正しいと思った。 デュランダル議長もレイも、世界の仕組みを変えることは出来なかった。 入念に準備して、人々に信頼されようと努力して、それでもオーブの連中に敗北した。 あんなに知識と人々を惹きつけるカリスマに満ち溢れていたデュランダル議長でも駄目だったんだ。 戦うことしか出来ない俺には、きっと生涯、人々を導くなんて出来ないだろう。 それでも世界を変えたいのなら、人の生涯を越えるしかない。 今の俺にその才能がないとしても、人の一生を越えるほどの時間をかければ、指導者としての器を身につけられるかもしれない。 人間のままじゃできないのなら、人を超えなければ世の中を変えられないのなら。 俺は、不老不死になってでもあの世界を戦争のない世界にしてみせる。 たとえそれで、守れなかった人達のところに永久に逝けなくなるとしても。 「俺は・・・蓬莱の薬を飲みます」 「そう、あなたも不老不死になるのね」 黙ってうなずく俺に永琳は少しだけ微笑むと、さっき返した蓬莱の薬を残っていたお茶の中に混ぜた。 「覚悟が決まったのなら、これを飲みなさい」 覚悟なら、もう決まっている。 家族が死んだあの日からずっと、俺はずっと戦争のない世界を夢見て生きてきたんだから。 ためらうことなく俺は薬に手を伸ばして――― ―――何かが、ぱさりと懐から落ちた。 「あら、意外ね。あなたがそんなにたくさんスペルカードを持っていたなんて」 それは、神奈子さんに貰ったスペルカードだった。 魔力のない俺にも使えるように改良された特別製で、カード自体に弾幕が封じてある。 量が多いのは、込める神力の調節が難しいらしくて、今でも試行錯誤を続けているからだ。 大半はまだ試作品で、まともに弾が飛んでいくかも怪しい代物だが。 「別に使えるカードばかりじゃないですけどね。でも、武器のない俺が戦うにはこれしかないですから」 こぼれたそれらを拾い集めるうちに、守矢神社のみんなのことが頭に浮かんできた。 俺が不老不死になったら、守矢の神様たちはどうするだろう。 受け入れてくれるだろうか、それとも出て行けと罵倒されるだろうか。 (出て行け、か。そういえば、前にも神奈子さんと喧嘩したことがあったな) あれは確か、出来たばかりのスペルカードを神奈子さんから受け取った時だった。 自衛の手段だと説明されていたはずだったのに、俺は能天気に力が手に入ったと喜んでいたっけ。 そうだ、俺はあの時も・・・。 回想 守矢神社の居間 『それが、俺のスペルカード』 『試作段階だからこれからも調節が必要だけれど、おおむね注文どおりに出来ているはずよ』 『いえ、十分です。これでようやくデスティニーに頼らずに戦えるんですから』 神奈子さんに呼ばれた俺は、彼女が懐から取り出したスペルカードを見て眼を輝かせていた。 ちょうど、デスティニーを議長から貰ったときのように。 だけど、神奈子さんはそんな俺の危うさに、きっと気付いていたんだ。 『・・・シン。これを渡す前に、約束して欲しい事がある』 『約束? 何でも言ってください、俺に出来る事なら・・・』 『これからは、闇雲に“力”を求めるのはやめなさい』 『っ! それは・・・!』 それだけは、出来なかった。 全てを失った日から今日まで、力が欲しいという執念があったから生きてこれた。 それをいまさら否定するなんて、そんなこと俺にできるわけがない。 なにより、力を否定してしまったら、仲間も、家族も、理想も失った俺には、 あの世界で得た物が何も残らなくなるような気がしていた。 『その条件が飲めないというのなら、スペルカードを渡すわけにはいかない』 『どうして、どうしてそんなこというんです! 俺が力が欲しい理由は知ってるじゃないですか!』 『それは・・・あなたがいつまでも同じ過ちを繰り返そうとしているからよ』 『過ち? “戦争のない世界”のために“力”を求める事が過ちだって言うんですか!』 『一方的に力を振るえば、確かに畏怖と恐怖で戦いを鎮められる。しかし、その先にある拒絶と嫌悪は、 次の争いの火種にしかならない。もう気づいているはずだ』 ああ気づいているさ。前の戦争が終わって数年で次の戦争が始まったときから、とっくに。 それでも止まれなかったんだ。 平和を目指すために力を振るうことしか知らない俺は。 プランがあるから、俺は戦うことを許された。 プランがなければ、俺は絶望から立ち直れなかった。 プランが間違いだというのなら、俺はあの戦争で死んだ人達にどう償えばいい。 プランを否定して、どうやって戦争のない世界を作れっていうんだ。 『人の心に望みがある限り、感情を管理することなどできはしない。人が人であることを止められぬ限り、 次はプランを肯定する者と否定する者の戦争が始まるだろう』 『だったら、どうすればいいっていうんです! あの世界は、そんな甘いものじゃない! どの道、戦争から抜け出せないのなら、いっそプランに従った方がみんな幸せになれるんだ!』 そうだ、俺にもっと力があれば。 デスティニープランに逆らう気すらおこさせないだけの力があれば・・・。 畏怖と恐怖の眼で見られようと、人々からどれだけ蔑まれようと、 力で抑えつけることでしか平和が手に入らないなら、俺は・・・。 『おごるなシン!! 支配して欲しいのは世界ではなく己の心ではないのか!!』 『・・・な、に!?』 『誰かを正しいと信じるはよし。だが、妄信に足を取られた者に未来を選ぶ資格なし。 それとも、眼を塞ぎ、意思を閉ざして楽になるのがお前の望みか』 『ち、違います! 俺は、ただ・・・』 ただ・・・どうしたかったんだ。 戦争をやめさせるために、戦争をするのか。 プランを成し遂げれば、それで本当に戦争の無い世界になるのか。 『道しるべがあればさぞ楽な人生であろう。しかし、それを皆が望むと思うのは、お前の傲慢に過ぎん。 “戦争のない世界”と、“戦争が起こらない世界”は似ているようで全く違うのだ』 『っ! 神奈子さんまであいつらの肩を持つんですか!』 『悪は、自らを否定した者か。それとも、耳を貸さぬ自分か。 相手を拒絶し、ただ憎み続ける悪鬼が、お前の求めた“平和”を求める戦士の姿か』 『・・・お、俺は』 俺達ザフトはオーブの連中とは違う。 私情で戦ってるんじゃない。戦争のない世界を実現するって言う大義を背負って戦ってるんだ。 そう叫びたかった。 けど、言葉が出てこない。 『世界の真の敵、ロゴスこそを滅ぼさんと戦うことを私はここに宣言します!』 『我等を討ったとて、ただ奴らが取って代わるだけじゃわ』 『わたくしはデュランダル議長の言葉と行動を支持しておりません』 地位と名誉で人を信じさせ、 『ブルーコスモスが薬やその他の様々な手段を使って作り上げている生きた兵器。戦うためだけの人間』 『もしもお前が力を欲する日来たれば、その希求に応えて私はこれを贈ろう』 『平和のためにとその軍服を纏った誇りがまだその身にあるのなら、道を空けなさい!』 資金と権力で力を振るい、 『ふふふふはははははは!どうです?圧倒的じゃないですか、デストロイは』 『さあ奏でてやろうデュランダル。お前達のレクイエムを!』 『発射口の敵を掃討後、オーブを討ってこの戦闘を終わらせる。全軍に通達!』 圧倒的な力で邪魔ものを蹴散らす。 なにも、否定できなかった。 あいつらとは違う、俺達が正しいんだ。 そう言いながら相手を拒絶し暴力を振るっていたのなら、俺の・・・ザフトのしていた事はあいつらと何も変わらない。 結局、悲しみを広げながら平和を遠ざけていただけだ。 なら、俺はどうすればよかったんだ。 戦争が全てを奪って、同じように奪われた人達を見て、俺は世界を変えたいと思った。 でも、そのための手段が戦争なら、俺のしていたことは・・・。 『思い出せシン。お前を育てた家族は、お前と出会った仲間は、お前が守りたかった人達は、 望む未来を縛られなければならないほど救いようのない人間だったのか。 お前が知る全ての人は、遺伝子に支配されることでしか幸せになれぬ弱い人間だったのか』 違う、そんなことない。オーブにいた頃は、遺伝子なんて考えもしなかった。 豊かだったわけじゃないけど、家族みんなで幸せに暮らしていた。 そんな普通に暮らしていく人々を守りたいって願いが、いつからデスティニープランを守るために戦い続ける事に変わったんだ。 戦争のない世界を作る道が、プランの導く方法だけとは限らないのに。 けど・・・! 俺はそれでも戦うしかなかったんだ! 戦争のない世界の夢を見るには勝ち続けるしかなかったんだ! たとえ目の前に立ちはだかったのが、ステラと同じ戦争の被害者だったとしても。 『その身に起きた悲劇は運否天賦だけで片付けていいものではないだろう。 だが、自らの不幸に甘え、本当の望みから眼を背け続けるは愚行!』 『神奈子さんはあの場にいなかったからそんな事が言えるんだ! 殺したくなんてなかった!死なせたくなんてなかった! けど、そうしなきゃ―――プランを肯定しなきゃ誰も救えないと思ったから、俺は・・・俺はぁっ!」 『・・・そうね。その場にいれば、道を示す事は出来なくとも支えてあげることくらいはできたでしょうに』 『―――あ』 神奈子さんはどうしようもなくなった俺を抱きしめてくれた。 家族に抱かれたみたいに暖かかった 泣き叫びたいほどに、苦しかった。 『―――う、く・・・うわあああああああああああああああぁぁぁっ!!』 ひとしきり泣いた後、俺は神奈子さんに撫でられながら膝枕されていた。 いつの間にかそうなっていただけで、そうしたかったわけじゃない。 思い出すだけで顔から火が出るほど恥ずかしいけれど、そのときは本当に、思い出すのも難しいくらい久しぶりに心が安らいでいた。 そのことだけは、今でもはっきりと思い出せる。 『シン、何故スペルカードル―ルに死がないかわかるかい?』 『・・・どういう、意味ですか』 『言い方が悪かったか。つまり、実力主義を否定するスペルカードルールに人妖問わず夢中になったのはどうしてかってこと』 『・・・・・・わからないですよそんなの。俺は妖怪でも神様でもないし』 『正解は、スペルカードルールは心の強さを競う戦いだから」 『心の、強さ?」 『心って言うのは不思議なものでね。恐る恐る触れあうより、思いっきりぶつかってみたほうが早く理解しあえるものなのよ』 『全力でぶつかって、能力の全てを使って、相手を打ち負かそうとする。勝ったら嬉しい、負けたら悲しい』 『でも、被弾しても次がある。負けたら再戦すればいい。どちらかの心が折れた時が本当の終わり。心が強い者が最後には勝つ』 『・・・生きているから、明日がある」 それは、ステラが夢で俺に言い残した言葉だ。 『敗者が勝者を称え、勝者が敗者を慈しむ。それってお互いが本気で向き合っているから生まれる感情でしょう。 半端な慣れ合いじゃないむき出しの魂の競い合い。そこには人も妖怪も神も仏もない。 ただ純粋に、相手と向き合う心があるだけ』 『相手と向き合う、心・・・』 『無知は疑心へ、疑心は殺意へ、殺意は争いの種へと変わる。 ならば、相手を知る事が争いを解決する手段になったところでおかしくはない』 『理屈はわかりますけど・・・』 『・・・シン、これは貴方が一番学ぶべき事なのよ』 『え?』 そういって、神奈子さんは、俺にスペルカードを渡してくれた。 『焦らず、急がず、ゆっくりと自分を見つめ直しなさい。忘れている物を思い出せば、きっとあなたの本当の望みが見えてくる』 『本当の望み、アスランに言われたのと同じ俺の・・・。でも、まだ俺には・・・」 『焦らずに考えなさい。幸か不幸か、この世界はあなたを迎え入れた。あなたの本当に欲しかった物が、幻想郷(ここ)で見つかるといいわね』 現在 永遠亭の客間 「・・・俺は、俺が欲しかったのは・・・」 「どうしたの? 」 これが、俺の本当の望みなのか? 不老不死になることが、世界を操る力を手に入れることのが俺の本当に欲しかったもの? 家族が死んだ時、力が欲しいと願った。 それは、守るための力か? 救うための力か? 失わないための力か? 繰り返さないための力か? ―――違う。 俺は力が欲しかったんじゃない。俺はただ、奪われたくなかったんだ。 誰にも奪わせたくなかったんだ。 力を手に入れれば、奪おうとする奴らから何も知らない人々を守れると思っていた。 俺のような子供が増えないですむと思っていた。 けど、力を手に入れたって変わったのは立場だけだった。 『力を手にした時から、今度は自分が誰かを泣かす者になる』 奪われる側から、奪う側へ。世界は、何も変わっちゃくれなかった。 デスティニープランも同じだ。 個人が望む将来を奪い、遺伝子で決められた運命を押し付ける。 「いつの間にかやっていたんだ。自分が一番嫌ってたことを、この手で」 そして、俺は撃墜されて、世界の未来を奪い合う戦いにプラントは敗北した。 あいつらが正しかったから俺達が負けたんだとは思っていない。 でも、ザフトが勝っても同じだっただろう。 また誰かから何かを奪う日々が始まるだけ。 そして、討って討たれて奪い取った物は、もう二度と戻ってこない。 「だとしたら、力を振るって、脅して、脅えさせて、そんなことで平和なんて来るはずがない」 「・・・?」 「デスティニープランは繰り返すだけなんだ。勝ったとしても、またいつか自由を求める人たちとの戦争が始まる。 俺の欲しかったものは、そんな世界じゃない」 蓬莱の薬が混ざったお茶を置いて、永琳を真っ直ぐに見詰める。 不思議そうに見つめ返す彼女の眼に、たぶん俺の姿は映っていない。 なぜだか、そう感じた。 「帰ります。夜分遅くまで失礼しました」 「・・・そう、でも本当にそれでいいの」 一瞬で全てを理解したであろう永琳の声が心に刺さり、立ちあがりかけていた足が止まる。 彼女はたぶん分かっている。 自分の計略が失敗しかかっている事を、そして俺の決心がまだ固まり切っていない事を。 「デスティニープランは確かに様々な矛盾をはらんでいる。けど、あれは現実を鑑みて作られたシステムよ。 あなたの行こうとしている道とは違う。プランを施行すれば、今を生きる多くの人を救えるわ」 「けど、未来は救えない。そして、未来を決めていいのは過去じゃない」 デスティニープランの実現は、確かに戦争をなくせる一番の近道だ。 それを捨てると言う事は、プランなしで人類を変革させることを意味する。 それは、そのまま今この瞬間にも戦争の犠牲になっている人たちを見捨てると言う事になる。 この先流れる多くの血に眼をそらして選んだ理想で、本当に現実を生きる人々を救えるのか。 永琳は暗にそう告げていた。 「本当にならなくていいのね。不老不死に」 「・・・はい」 「それで、あなたは世界をどう変えるというのかしら」 「わかりませんよ、そんなの。わからなくて当然なんだ」 「俺は神様でも妖怪でもない。誰かの幸せを願うだけのただの人間です。 目の前に人が居たら助ける、助けを求める声があれば駆けつける。 けど、その人が幸せになれるかどうかは俺が責任をとっていい事じゃない。 俺が、誰かが決め付けていいことじゃなかったんだ」 俺は、それに気付かなかった。 戦争に勝てば人々を平和にできると思っていた。 それだけが人類にとって何よりも幸せな世界だと、決めつけていた。 自分がしていることが正しいと・・・信じたかった。 「誰かが誰かの夢や未来を決めつけて、戦争のない世界なんてできるわけがなかったんだ。 自分の過去に決着を付けないまま、誰かに正しい事を決められるような世界じゃ駄目なんです」 「理想を捨てるの?」 「できませんよ。元の世界に帰ったって俺は戦争のない世界のために戦います。 ただ、血を流すだけのやり方じゃ駄目だって気付けたから、デスティニーで戦うかはわかりませんけど」 「そう、そういうこと」 俺は戦争を起こさないために戦い、戦争の無い世界を目指して生きていくと言い切った。 たぶん、ナチュラルとコーディネイターが争い続けた過去に決着を付けるという、途方も無く長い道のりになるはずだ。 人々を助けながら、人々と共に歩んでいく。 あくまでも、人として だから、支配者となるための永遠なんて俺にはもう何の価値も無い。 「デスティニープランを肯定してくれて、ありがとうございました。嘘でも、嬉しかったです。 あの頃の自分や“あの人達”を受け入れて貰えた気がして」 「はいはい、用が済んだなら帰りなさい」 今度こそ、永琳は自分の計略が完璧に破綻したことを悟ったらしい。 あれほど熱心に勧誘したにもかかわらず、その気が消えたと見るや至極あっさりと俺に帰るよう促した。 興味を失った、という風にも見えるが・・・たぶん次の機会を狙うつもりなんだろう。 その証拠に、彼女は一度だって俺には謝らなかった。 そして、今も心根を見せないよう表情をがっちりと固めている。まるで、次の手がばれるのを防いでいるかのように。 「・・・・・どうして貴方がこんな面倒な手を使ったのか、教えてくれますか」 俺の疑問に、永琳の顔が真剣さを取り戻した。 「・・・そうね、当たり前のことだけど、表立ってあなたを不老不死にすれば、守矢の神々と対立する事になるわ。 恐らく、幻想郷全体を巻き込む大戦争になるでしょうね。自分たちが保護している人間を勝手に蓬莱人にされたのでは神の面子が丸潰れだもの」 「だから、俺をここへ呼び出したすために妹紅を利用したっていうんですか」 「ええ、彼女ならどこにも属してないし、人里の信用も得ている。何より、“裏がない”わ」 「ほとんど賭けじゃないですか。真相を知って、もし俺が神奈子さん達に相談していたら・・・」 「それはないわね。あなたに限って幻想郷を割るような選択はしないでしょうから」 「・・・そういう信頼のされ方は嫌いです」 永遠亭の襲撃を決意した時、真っ先に考えた事をまんまと見抜かれている。 信仰の加護と医療、両方とも人里には必要だ。 だから、どれだけ思惑が絡んでいようと、失敗して殺されたときのことを考えて、 この戦いは俺自身の個人的な復讐劇で済ませなければならなかった。 これで話すべきことは話しきった。 「妹紅への謝罪と輝夜の件、よろしくお願いします」 見送りに来た永琳に釘をさして、俺は永遠亭の庭に出た。 竹林からは、風の音と、自分が草を踏む音しか聞こえてこない。 「月の形だけは、コズミック・イラも幻想郷も変わらないんだな」 「ずいぶんセンチメンタルな台詞ね」 「おかしいですか」 「ええ、似合ってないわ」 レイや議長が眠っているのはあの月じゃないけれど、不思議と懐かしい気持ちが込み上げて来た。 風に銀の髪を揺らせながら、永琳が俺を見る。 「・・・戦争を手段にせず、プランにも頼らずに、本気で戦争の無い世界を目指すつもりなの。それは、幻を追っているようなものなのよ」 「ようやく、神奈子さんの言った言葉の意味が、分かった気がします」 「ありますよ。だってここは人々が忘れ去った幻想が集う、幻想郷なんですから」 そう、とだけ答えて、彼女は俺に背を向けた。 永遠亭に帰って、診療の準備をするのだろうか。思えば、俺は彼女のことを何も知らない。 利用されそうになった怒りもいつしか消えていた。 それどころか恩すら感じているのは、答えを見つけるきっかけを貰ったからだろうか。 「ああ、言い忘れてた」 「まだ何か?」 「伝えて置いて貰えますか。今度は“誰も巻き込むな”って」 「・・・・・・いつから」 「妙に俺の事情に詳しいし、やり方がいちいち黒いし。なにより、俺を“信頼しすぎて”いるからです」 永琳の驚いた顔を見るのは、これが最初で最後かもしれない。 俺は、そのまま彼女を振り返ることなくデスティニーに乗り込み、帰路に着いた。 もう夜が明ける。 早苗さんたちはもう起きているだろうか。それとも、まだ布団の中だろうか。 急に彼女たちの顔が見たくなって、デスティニーの速度を上げる。 体は疲れているはずなのに、俺の心は不思議とすっきりしていた。 デスティニープランを否定するといっても、代替案があるわけじゃない。 戦争をなくせる方法なんて、本当は無いのかもしれない。 それでも、俺は戦争の無い世界を作る方法を探し続ける。 ・・・・どんなに救いが無いように見えても、生きているかぎり、明日はやってくるのだから。 永遠亭(?) 「・・・これで満足かしら、守矢神様。いえ、“洩矢”神様」 シンが飛び去って少し経ったころ、薄暗い永遠亭の庭で、永琳は彼女に語りかけた。 「本当は幻想郷(ここ)に残る決心をしてくれたら万々歳だったんだけど・・・まぁ、順当だね」 「怖い御方、身内をここまで追い詰めて失敗でもしたら取り返しがつかないでしょうに」 「この計画に失敗なんてないよ。万が一、彼が蓬莱の薬を飲んだとしたら、神々の一角として私たちの神社に迎える。 飲まなかったとしても、彼の精神は壁を乗り越えて一回り大きく成長する」 「私はだらけきった姫へのお仕置きと余っていた薬の処分が出来ればそれでよかった」 「両者の思惑が一致した一挙両得の作戦。取り敢えずは、成功・・・と言っていいんじゃないかな」 失敗したときのことも、始めから計算のうちだったのだ。 仮に永遠亭にシンが下ったとて結果は変わらなかった。 むしろ、幻想郷に必要不可欠な“医療”の分野に関わることで守矢神社の立ち位置は人里で盤石なものになる。 (彼を永遠亭に引き込むには、少々搦め手が甘かったか。でも、次はどうかしらね) (甘いねぇ。永琳は未だに彼を凡百の人間から派生した変わり種としか思っていない) (幾らでもチャンスはあるわ。こちらには“永遠”に等しい時間が味方しているのだから) (当たり前の人間だと思って接している限り、彼を手に入れることは不可能だよ。それこそ、“永遠”にね) 八意永琳と洩矢 諏訪子の思惑が複雑に絡み合った今回の事件は、すでに幕を迎えている。 シンにばれかけた以上、今後、同じようなことが起こることは無いだろう。 同じでない事件は起こるかもしれないが、両者が組むことは恐らくこれっきりだ。 「では早々に解散を。ばれては元も子もありませんから。もっとも、彼はうすうす気付いていたようですけど」 「そこがシンの油断なら無いところでね。また何かあったら頼みに来るよ」 「永遠亭との繋がりを強化することも、目的の一角ですものね」 「さてね。そこはそれ。神のみぞ知るって奴だ」 土着神はにやりと笑う。 永琳の背に走ったわずかばかりの悪寒は気のせいではないだろう。 はたして、八坂の神が洩矢の神に攻め入って土地を奪ったとき、八坂神奈子が彼女に協同統治を頼んだのは偶然だったのだろうか。 力では適わない相手を丸め込み、支配者として頂点に立ち続けるにはどうすればいいのか。 それをこの小さな土着神は、数千年も前から知っていたのではないか。 地を司る祟り神の策謀がどこまで大地に張り巡らされていたのか。 完成したシンの器が試されるのは、元の世界なのか、それともこの幻想郷なのか。 永琳の頭脳をもってしても、その全貌を知ることは出来なかった。 知れば知るほど絡めとられるような気がしたからだ、まるで蜘蛛の巣の中にいるように。 守矢神社 境内 東風谷早苗の朝は、日も出ていない早朝から境内の掃除をすることで始まる。 さすがに冬は寒く、わきの出るような服も自重しマフラーも巻いているが、寒い事には変わりない。 彼女がひょっこりと帰って来た神様と出くわしたのは、自分の吐く息で手を温めていた時だった。 「あ、諏訪子様。おはようございます。今朝はどちらにいらっしゃってたんですか?」 「ん、おはよう。ちょっと、シンを探すついでにお散歩にね」 「遅いですよね、シンさん。永遠亭で何かあったんでしょうか」 「朝帰りだったりしてね」 「え、そんな・・・って、からかわないでください!」 「あはは、浮気は男の甲斐性だよ。大丈夫、シンが帰ってくる場所は守矢神社(ここ)なんだから」 噂をすればなんとやら。独特の飛行音を耳にして、早苗は顔を見る間に明るくする。 ころころと変わる乙女の顔を目にして、私の時よりいい笑顔だなぁ、と小声で愚痴りながら、諏訪子は早苗と空を見上げた。 (彼の心はひどく純粋な根を持つために、相手の心を簡単に写してしまう。悪意には悪意を、善意には善意を。 永琳のように、欲望を持って接した所で彼はすぐに気付いてしまう。 言葉巧みに洗脳しようとも、彼は本質的な心根の部分でそれを拒絶する。 利用されたくないという無意識が芽生えているのか。元々そういう性格だったのか) 日の出と共に、雲の切れ目からデスティニーが姿を現し、明日が今日へと変わっていく。 成長していくシンの行く先に何があるのか、それはまだ誰にも分からない。 「愛しの彼のお帰りだね」 「もう! 諏訪子様!」 (まぁ、いいか。妄信に食われる様な男なら最初から要らなかったし) (なんにせよ、これで彼はまた一つ成長した。戦争の傷が癒えるのも、そう遠い未来じゃない) (情が移った神奈子が彼を導き、好意を抱く早苗が隣で支え、私が裏から適度な試練を与える) (さて、次はどんな手段で癒してあげようかな) 幻想忘戦録 外典 永遠亭編 完
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前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ ……常闇の中、二つの影が浮かび上がっていた。 ひとつはダークダガーL。暗闇に溶け込めそうなほどの黒でありながらその雰囲気は不相応に感じ るほど明るく彩られている。 ひとつはシャドウ。周囲の闇よりもさらに昏い闇を纏い、気だるげに手の中の知恵の輪を動かしていた。 「以上が今日、街で起こった騒動の一部始終でありんす」 「……テメェはちったァ口調を統一させたほうがいいんじゃねェのか?」 むー? と小首を傾げるダークダガーから視線を外し、シャドウは知恵の輪を見つめる。 特に複雑に絡み合っているわけでもない二つの輪、しかしこれらが解き放たれるには一つの方法 しかない。輪自体に手を加えない限り、それは避けることのできない宿命のようなものだった。 「それで、どうしますかね黒い旦那? フリーダムの件を差っ引いてもこれはイレギュラーなことじゃ?」 「フン……元々アイツとは手を組んでるワケじゃねェ。互いに互いを利用し合ってるだけだ。俺らが口 を挟むのは筋違いってモンだろ? っていうか、テメェだって元はアイツ側だったんじゃねェのか?」 「いや~、どうにもあの人は苦手なもので……」 気恥ずかしそうに頭を掻くダークダガーをシャドウは胡散臭いものを見るかのような目で見つめる。 「……テメェに苦手なモンがあったのか」 「基本的にツッコミがなければ5秒で死にます。あ、旦那の脱力系無気力ツッコミはまぁ個人的には ギリ満足なラインなので無問題ッス!」 グッジョーブ!Σd(>ヮ<)と親指を立てるダークダガーに二度と突っ込みをしないと誓いつつ、シャドウ はさっさと次の話題に移ることにした。 「で? 図書館の方はどうなってンだ?」 「あ~……もちっと時間がほしいとこです。ちっとばかし守りがキツイんで」 ガキリ、と知恵の輪を軋ませて、シャドウはマスク越しにダークダガーを睨みつけた。 「手、抜いてンじゃねェだろうな?」 「それはありません、天地神明とプチ行方不明なおししょーの名前に誓って」 グッ、と胸の前で拳を握り締めるダークダガーの瞳には、いつになく真剣な輝きがあった。 「……俺が全快になるまでにはキチっと済ませとけよ」 「あいさー!」 ズバッ! と敬礼をして、ダークダガーは暗闇からスッと気配を消していた。 「……フリーダム、か。そりゃアイツなら動くわな」 クックッ、とくぐもった笑いが木霊する。 「さァて、これから先どうなるか、なっ!」 カキンッ! と知恵の輪が二つに分かれる。 「あ、ヤベ」 力任せに引き抜かれた輪は、歪に広がっていた。 「納得のいく説明をしてもらおうか」 さくら亭の一席にて、ブラストインパルスは目の前に座るシン・アスカに尋問さながらの口調で問い 詰めていた。 「納得のいくって……あんな街中でビームとか撃ちまくってりゃそりゃ止めるだろ」 「その点については反省している。だが、私が聞きたいのはもう一点のことだ」 分かるだろう? という視線を受け、シンはうんざりしたように声を漏らした。 「……そんなにフリーダムを助けたのが気に食わないのか?」 「違う、と言えば間違いなく嘘になる。だがそれ以上に解せないという理由が大きい」 ブラストの疑念ももっともだろう。何せ問答無用に命を狙ってきた相手なのだ。直接的に関係がある とは言えないが、コズミック・イラでは幾度となく煮え湯を飲まされた相手でもある。 だというのに、二度もシンはフリーダムを救うために自らの身を危険に晒した。これらの情報を踏まえ ているなら十人中十人がシンの行動に疑問を抱くことだろう。 「今では私もそれなりの感情を持っている。あれに対しては取り分け特別なものを、な。元マスターの 意思は出来得る限り尊重したい。しかし、今回の件は相応の理由を示してほしいところだ」 「…………」 シンは眉根を寄せて考え込む。ブラストの主張は嫌味なほどに真っ当なものである。彼女自身が 納得できないという旨の追求ではあるが、つまるところこれは今後のインパルスたちの行動も左右 しかねない問題でもある。口調の端々に棘が含まれているのもそのことが関係しているのだろう。 やや間を置き、シンは口を開いた。 「……あいつは、なんか似てるんだ」 「似てる?」 詳細を促すブラストの声をシンはあえて無視した。言葉にしたはいいが上手く説明ができないのだ。 「だから、一度面と向かって話をしたいんだ」 「聞く耳を持っているとは思えないな。今度こそ死ぬ可能性も充分に有り得る」 「それでも!」 シンの強い口調にブラストはわずかに目を見開く。それを見て、シンは声のトーンを落とした。 「……それでも、話をしたいんだ」 わずかな間とはいえ、シンはフリーダムと言葉を交わした。会話とも呼べない敵意を剥き出しにした 言葉のぶつけ合いだったが、シンはずっとそれが気になっていた。 それはきっと、 ――貴様が……私を殺したからだ! ――あんたがステラを殺した! ……確証などない。しかし、あのフリーダムもまたシンのイメージから生まれ出でたものであるのなら そうでないと言い切ることも出来ないのだ。 だからこそ、シンはフリーダムとの対話を望んでいるのだ。 「……少し変わったな、元マスター」 「変わった?」 「牙が抜けたのではなく、牙を剥く場を弁えるようになったのだと願いたいものだ」 ブラストの口調から険しさが抜け落ちた。納得した、と言うよりも呆れたというような口ぶりではあった が、それでもブラストには何かしら得るものがあったようだった。 「今回のところはこれでよしとしよう。とはいえ、またフリーダムが襲ってきたなら我々は手段を選ばず 奴を撃ち倒すからそのつもりでな」 「まぁそのときはそのときだけど……一区切りついたところで俺も話がある」 ん? と聞き返すブラストだったが、その表情が一瞬にして強張った。 外見上はそれほど変化がなかったが、シンの全身から怒りのオーラが滲み出ていた。 「も、元マスター……?」 「フォースとソードから聞いた。民間人を盾にしたって?」 うっ、とブラストは呻く。 三身一体であるインパルスらではあるが、それぞれの意識は独立している。擬似的なものであると はいえ生活スタイルに差がある以上、例えばブラストが寝入っている時にフォースやソードが活動す るということもほぼ日常的に見られる光景なのだ。 ちなみに、ブラストはついぞ一時間ほど前に仮眠を取っていた。 「……フォース、ソード」 「い、いやな! アタシらは聞かれたことを答えただけで! な、フォース!?」 「う、うん」 地の底から這い出てくるかのような声音のブラストから追求される前にあっさりと二人は白状する。先 の戦いの最中、壁をよじ登っている途中でシンはブラストが無防備にフリーダムの射線上に現れたの を見ていたのだ。当然なぜ撃たれなかったのかが気にかかり、フォースたちに直接尋ねたのだ。ブラ ストにとって不幸なことにそのときが仮眠時と重なっていたのだった。 もっとも、ブラストも特に口止めしていたわけでもなかったのでこのことで二人を責めるのは酷である とも言えた。 「確かに、向こうのあいつは相手のコクピットを絶対に狙わないような奴だった。こっちでもそれが同じ だっていうんならそれで動きをある程度封じられる手段としては文句なしに良い手だとは思う」 「……その通りだ。だから私は、」 「だけど、」 突きつけられるような鋭い口調にブラストは言葉を飲み込んだ。 「――だけど、無関係な人たちを巻き込むやり方なんて俺は認めない。」 ……彼女も分かっていたはずだった。彼がそんなことを許せない人間であることは。 量りにかけるのが自分の命だけならここまでの怒りをシンは見せなかっただろう。だが、ブラストは ただその場にいただけの人間を巻き込みかねない方法を取った。 万物に絶対など存在しない。仮とはいえ生物であるなら尚更のことだ。 9割方確実であったとはいえ、流れ弾が飛んでくる可能性もなかったとは言い切れない。それでも あの方法を取った理由のひとつは、フリーダムに精神的な追い込みをかけるためだった。 もちろんそんなことを正直に語れるはずもない。結果としては何も問題がなかったとはいえ、一時の 激情に流された軽率な行動と責められても仕方のないことだ。 「あれは、その……」 なんとか弁明しなければ、と口を開くもブラストは上手く言葉を紡ぐことが出来なかった。結果、視線 を逸らし俯き気味の姿勢になってしまう。 昼時を少し回った頃だからか、店内がやや騒がしくなる。そんな中で、ブラストはポツリと呟いた。 「――ごめん、なさい」 わずかだが、ブラストの目尻に涙が浮かんでいた。 彼女なりに考え、シンの身の安全を優先した結果選んだ方法。そのことについて咎められようとも なんら後悔はない……はずだった。 しかし、この現状にブラストの心中はかき乱されていた。 不安、恐怖、そういったネガティブな感情がないまぜになり、いつしか仮面を剥がされたように弱さ を顔に出していたのだ。 その様子を見てシンは戸惑った表情を浮かべたが、すぐにそれを引っ込め、手を伸ばした。 ビクリとブラストは身体を震わせ、思わず目を閉じる。 しかし、優しく頭を撫でられる感覚にすぐに目を見開いた。 「あ……」 「……言い忘れてた。ありがとな、助けてくれて」 取り繕ったような言葉ではない、不器用だが確かな感謝がその言葉には込められていた。 頭から手が離れる。そっぽを向いたシンの顔に朱が差していた。それを見たブラストも同じように 頬を赤く染めて視線を外す。傍から見ればとても不思議な光景だろうが、二人にそれを気にする余裕 はなかった。 「と、当然だ。私は私の役目を果たしただけで……」 「ぷっ……ぶわはははははは! 怒ったり泣いたり照れたりって今日はずいぶん表情豊かじゃねぇか ブラスト!」 それまで成り行きを見守っていたソードが耐え切れず吹き出した。その声に何か言いかけたブラスト は中途で言葉を飲み込み、怒りを湛えた声で自身の内側へと声を向ける。 「……ソード、いつも少し突かれただけで慌てふためく貴様が言えたことか?」 「いっ、いつもの凄みがねぇぞ? そんなに元マスターに嫌われたくなかったのか?」 げらげらと腹を抱えて――るような印象を感じさせる――さらに追求するソードにブラストは反撃を 試みるものの、いつもの調子が出ずに延々と言葉の応酬を繰り返していた。 「あ、あははははは……なんかその、賑やかですね」 「まぁ……なかなか見れない光景だな」 いつもとは攻守が逆転したブラストとソードが引っ込み、苦笑いを浮かべたフォースが現れた。止め られないのか止める気がないのかは分からないが、どうやら放置するつもりらしい。 「あ、そうだ。ちょっと待っててください」 そう言ってフォースはパタパタと厨房の奥に消え、手に皿を持って戻ってきた。 「これは……パウンドケーキ?」 「はい! 最近ちょっと練習してるんです。よかったら食べてみてください」 顔を綻ばせるフォースに、シンは笑みを返しながら「それじゃ遠慮なく」とフォークで一口サイズに 切り分け口に放り込んだ。 『あ』 それに気付いたブラストとソードが声を上げた。ニコニコと期待の笑顔を浮かべるフォースと、フォー クを咥えたまま固まるシン。 痛々しいほどの静寂、そして…… 「――あ」 「あ?」 「あンまァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァい!!」 顔の穴という穴からチェレンコフ光を放ちながら、シンの意識は大宇宙の彼方へと飛んでいった。 満天の星空の下、手足を引きずるようにフリーダムは街道を歩いていた。 身体の至る所から光の血が流れ、点々と道に落ちていく。それはエンフィールドの市街から延々と 続いていた。 (少し、多いな……) 大破とまではいかずとも、蓄積したダメージの量は相当なものだった。 例のドラグーンの攻撃、それがほとんどではあったがデスティニーやインパルスとの戦いで内側へ の負担が積み重なっていたことも災いしていたのだ。 「くっ……!」 地面を睨みながら歯噛みする。数の不利もあった、予測不能の襲撃もあった、しかしそれ以前に 自分の甘さが今の惨めな現状を生んでしまったことにフリーダムは憤りを覚えていた。 (私は何故、あんなことを聞こうとした……?) 不可解だった。命を狙っているはずの自分を助けようとしたシン・アスカも、その好機を逃しその 真意を問おうとした自分も。 撃てばよかったのだ。そうすればすべて終わっていた。 自分もこんなところで生き恥を晒すことなく目的を果たし、光となって消えていただろうに…… 何故? 何故? 何故……? 意識が薄れ、考えがまとまらない。傷は一日で治るほどのものではなく、しかしどこかで身を休ませ ることもできない。何者かに狙われている以上、安全なところでもない限り寝入ることもできない。 何処へ行けばいいのか? このままこの道を進んだところで何か得るものがあるのだろうか? 疲弊しきった肉体と精神が弱音を上げ、視線が地面から離せなくなっていた。 いっそこのまま……思考が危険な領域に踏み込んだところで頭を振る。いつしか足は止まっていた。 どうすればいいのか、答えの出せない問いがずっと頭の中で渦巻いていた。 「――なんか落し物でもしたのかい?」 「っ!?」 不意に降ってきた声に背筋が凍りつく。 まったく気付かなかった……いや、そもそも声をかけられるまで気配を感じなかった。 「でなけりゃなーんでずっと下向いてんだ? こんな美人さんがいるってのに空を見上げないなんて 損にもほどがあるってもんだろ」 空? と声に導かれるように顔が上がる。先ほどまで縫い付けられたように留まっていた視線がコバ ルトブルーの景色を映し出した。 (――月) 見事なまでの満月。心を奪われるという逸話も納得してしまうほどの、美しい深艶の月。 ……その傍らに、青い翼の少女が宙で胡坐をかきながら月に目を向けていた。手に徳利と盃を持って。 朧だった意識が覚醒する。自分と瓜二つの顔立ち、差異はあるが似通った容姿。 初めて出会うというのに、その相手のことをよく知っていた。 「お前は……!?」 その声に反応したのか、少女はこちらを向いてクッと盃の中身を飲み干した。 「――よう、はじめましてだな『姉さん』?」 呆然と見上げる自分を見下ろしながら、少女――ストライクフリーダムは口角を吊り上げた。 前ページ次ページ悠久幻想曲ネタ
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オーディションは何度か経験していて、決して初めてというわけではなかった。 ――なのに、 「…………なんだ、この数?」 衝撃だった。圧倒だった。 それ以外の言葉が出てこないほどに意識が吹っ飛ばされていた。 『秋の大感謝祭スペシャル』オーディション会場は、無数の人でごった返しになっていた。 「う~ん、俺も見学がてら来たことはあったけど……今回は特に活気があるなぁ」 「やっぱり秋スペだからですか?」 「それもある。まぁ他に挙げるとするなら、彼らが全般的にブームを煽り立ててるっていうのもあるかな」 そう言ってプロデューサーは目立たないように人差し指をある人物に向けた。指先の延長を視線で辿ると、 会場全体をざっと見回しながらメモ帳にペンを走らせている男がいた。 「芸能記者だね、他にも何人かいる。さしずめ今の段階から見所がありそうなアイドルをチェックしてるってところ かな」 ……言われてみれば、あきらかにアイドルやプロダクション関係者ではない人間が混ざっていた。これほど 大規模なイベントとなれば自ずと注目度も高くなるということか。 「ま、これだけいろんなアイドルが集まれば当然だろうけどね。ほらあそこの四人、AoA sを出したところの新人だよ」 「あ、知ってます。確かStrikerSって名前でしたよね」 「よく勉強してるじゃないか。で、あっちの女の子たちはShuffle!!、あっちはOGガールズ、どれも最近知名度を 上げてきているユニットだ」 どの名前もどこかで聞いたことがあるものばかりだった。つまりはそれだけ競争率が跳ね上がる、ということだ。 最近よく話題になっているとはいえ、千早と美希のデュオがどれだけ通用するのか…… ――いや、信じろ。信じるんだ。 これまでの日々を思い出す。一ヶ月にも満たない間だったが、いろんなことがあった。 なかなか上手く進まないレッスン、危うく大惨事になりなねなかった事故、事情はよくは分からないが そして今、この秋スペに臨む二人のアイドルがいた。 「……大丈夫ですよね」 「当然だ」 自信たっぷりにそう言い切るプロデューサーの表情にも、わずかながら緊張が見えていた。 「――それでは参加者の方はステージの方へ移動してください」 場内のアナウンスを受けて、アイドル達はそれぞれに割り振られた番号のステージへと移動を始めた。その中 に青いと黄緑のジャージを着た千早と美希の姿を見つける。 ――頑張ってくれ、二人とも。 既に万事手は尽くし、自分に残された役目はこのこの軌跡を見届けることだけとなった。 オーディションが始まる直前の緊張からか、背中に嫌な汗が浮かんできました。 レッスンの時にも使っている着慣れたはずのジャージにすら妙な違和感があります。 周りを見渡せば他の事務所のアイドルばかり、プロデューサーとマネージャーも今は傍にいません。隣には 美希もいるのに、なぜか孤立しているような気分になってます。 ――こんな状態で、上手く歌うことができるの? 自分にそう問いかけても答えは返ってきません。それどころか、あれだけレッスンを積んだダンスをここで失敗し てしまったら、歌とダンスのどちらも満足に表現できずにオーディションが終わってしまったら、途中で審査員の 人が飽きて帰ってしまったら、自分の失敗で美希に迷惑をかけてしまったら…… そんな不安ばかりが自分の中でどんどん大きくなっていきました。 「……千早さん」 よくない考えが頭の中で渦巻いていると、美希が私の手を握ってきました。 「美希?」 励ましてくれているのかしら? そんな考えが浮かんですぐにそれが違うことに気付きました。 小さくではあるけれど、確かに美希の手は震えていた。そっと顔を窺ってみると、少しだけ額に汗が浮かんで いました。 ――あの美希が、緊張している。 それが分かった瞬間私の心に小波が立ち、そしてすぐさま収まりました。 不安になっている場合じゃない。二人揃ってこんなことで躓いている場合じゃない。 ここは確かに大舞台、だけどけっして到達点じゃない。 私たち765プロのアイドルの、プロデューサーたちと目指しているトップアイドルの道の通過点なのだから。 ……瞳を閉じ小さく深呼吸をして、今回の話を受けた頃まで記憶を遡らせます。 少し不安そうな顔をしながらも今回の話を持ってきて、今日まで真剣にレッスンに取り組んでくれたプロデュー サーがいました。 最初はやる気がまるで見えなかったけど、あの事故を境に驚くほど実力を伸ばした美希がいました。こうして 振り返ってみると総合的なレッスンの量は美希のほうが私よりもずっと上で、私が沈んでいるときには励まされるこ とも多かったように思います。 あずささんや真、私たちを気遣い支えてくれた仲間たちがいました。レッスンでは歌とダンスをよりよくするため に一緒に意見を出し合ったりもしました。 そしてプロデューサーと一緒に支えてくれて、私の歌を好きだと言ってくれた人がいました。 ……私たちは、多くの人に支えられてここまでやってこれた。 今までやってきたレッスンを思い起こして、私は美希の手を強く握りました。 「あ……」 不安に揺れていた美希の目に少しだけ安堵の色が広がりました。 ――大丈夫、私たちならやれる。 言葉は必要なく、目と目が逢うだけで私の考えは伝わったようです。美希の瞳にいつもの輝きが戻っていました。 「――えー、大変お待たせいたしました。これより審査の方にに移ります」 審査員の一人がマイクを片手にそう告げた瞬間、会場全体に緊張が走りました。私たちの、そしてここに集まっ たすべてのアイドルたちの運命が決まる時が来たのです。 「と、その前に……72番のペア、みんなを代表して何か一言お願いします」 72番、それは私たちの番号。突然のことで一瞬悩みましたが、美希ともう一度目を合わせてお互いに頷いた後、 声高に宣言しました。 「絶対に合格してみせます!」 「絶対に合格してみせるの!」 私と美希の声が重なりました。しばらくの間会場は静寂に包まれて、どこからか小さく笑う声が聞こえてきました。 「……なるほど、自信と気力は十分なようですね。本番を楽しみにしています」 そう言って、審査員の人は小さく微笑みました。 自信はある、気力もある。 今までの日々が糧となって私の内側に溢れてきました。 合格しないはずがない、そんなことまで胸を張って思えるほどに。 「それじゃあ1分後に審査を始めます。皆さん頑張ってください」 ――いよいよ、始まる。 「いくわよ、美希」 「うん、千早さんもね」 1分という時間もかからずに、私達は心身ともにコンディションを整えました。 「……まったく、少しだけ焦ったじゃないか」 隣でプロデューサーが大きく息を吐いた。どうやら想定してなかったことらしい。 「まぁ二人ともよく答えてくれたよ。テンションもいい感じに上がってる」 ステージ上で待機している二人を見る。すでに準備ができているのか、周りから浮いているほどに落ち着いた 表情で待機していた。 その姿を見て思う。 ――みんな……強いんだな。 千早も、美希も、プロデューサーも、 自分にはない強さを持っていることに、わずかな羨望も込めて。 ……会場に曲が流れ始める。 その一挙一動を見逃さないために、他の一切から意識を絶った。 こうして9月某日、 765プロダクションは、『秋の大感謝祭スペシャル』の出演枠を手に入れた。 <アホ毛> ――うたた寝から目覚めてみると、自分の頭に些細な変化が起こったことに気が付いた。 シン「……なんなんだこれ。ナ○キのロゴを上下反転させたみたいな寝癖ができてる」 シン「くそ、手だけじゃ直らないな……仕方ない」 シン「すいません、小鳥さん。少し外します」 小鳥「はーい……あら? 可愛い寝癖ね。まるでナ○キのロゴを上下反転させたみたい」 シン「すぐに戻りますん、でっ!?」 ――ゴガンッ! 小鳥「し、シン君!? なんで急に右に倒れるの?」 シン「く、ぉぉぉぉぉぉぉ」 小鳥「大丈夫なの? 凄い音がしたけど」 シン「な、なんとか……ってふぉっ!?」 ――ゴン! シン「なんだっていうん、だっ!?」 ――ガン! シン「いい加減にしろよっ!?」 ――バガンッ! シン「うおぁぁぁぁぁぁ! 奮い立て俺の三半規かぁんっ!?」 ――ゴシカァン!! この一人コントのようなシンの奇行は、実に三分間も続いたのだった…… シン「あ~、なんかい~感じで脳みそがシェイクされて変な気分に」 小鳥「絶対に動いちゃ駄目よ、傍から見るとこれ以上やったら死ぬかもって顔になってるから」 シン「分かってます……でもいったいなんでこんなことに」 小鳥「……ねぇ、ひょっとしてその髪がはねてる方向にバランスが傾いているんじゃないかしら?」 シン「え? あぁ、そういえばこのアホ毛右にはねてるような」 小鳥「それにその癖毛、どこかで見たような……」 ――ガチャリ 美希「お、おはようございますなの……」 シン「美希? ってなんでそんなにボロボロなんだ!?」 美希「分からないの……なんかまっすぐ歩けなくてひゃあっ!!」 小鳥「あぁっ、美希ちゃんが左にくるくる回って壁に激突してる!?」 シン「左って……俺と逆の方にバランスが傾いてるのか?」 小鳥「見てシン君! 美希ちゃんの頭にいつもの癖毛がないわ!」 シン「はぁ!? ひょっとしてこのアホ毛バランサー!? なんで俺の頭に!? っていうかこれどうやって収拾 つければいいんだよ、あぁもうワケが分からないーーー!!」 小鳥「……うん、なかなかにシュールね」 シン「小鳥さん、妄想が日本国内で収まってるうちにこっちの会計チェックお願いします」 小鳥「あら、シン君。でももう少し待って、今どうやってオチをつけるか考えるから」 シン「駄目です。というか、ここ数日ずっと隣で妄想を聞かされている俺の身にもなってください。何故か俺が メインだし」 小鳥「……ぴよ~ん」 シン「無害な瞳で訴えてきても駄目です」 -02 一覧へ
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<女王と少年、時々ラーメン~フラワーガール~> 一度目だけなら偶然だが、二度以上起こったならそれは必然である。 そんな話を聞いたことがある。 まぁ世の中には二度あることは三度ある、なんて言葉も残っているわけだから先人の言葉というのも数撃ちゃ 当たるくらいのものなのではないかとも思うが。 ただ、今ならその言葉を信じられそうだった。 陽も暮れ、空に数え切れないほどの星と心奪われるような満月が浮かぶ夜。 そういった日には、必ずと言っていいほど彼女がそこにいた。 「――貴音」 「っ、何奴!」 そして声をかける度にこんな反応が返ってくるのも恒例のこととなっていた。 「あ……あなた様は」 「あー、とりあえずこれをどうにかしてくれ」 目の前に突き出された手のひらをつっつくように指さすと、慌てて貴音は腕を引っ込めた。 「も、申し訳ありません。またこのようなお恥ずかしいところを……」 「いいって、そんなに気にしなくて」 正直もう慣れたし……というのは心の奥に仕舞っておくことにした。 「また月を見てたのか?」 「はい。やはり満月の夜は、心安らぎます」 そう言って上がった視線を辿ると、頭上に淡く輝く月の姿があった。 自分もよく月を見上げている方だと思うが、貴音は決まって満月のときにこの場所に佇んでいるようだった。 初めて会ったときと同じく。 「こんな風に声かける度に怒鳴られるのも、もう4回目だっけ?」 「そ、それは……」 自分と同じくらいの背丈の少女が縮こまっている。いつも毅然とした態度を崩さない『銀色の女王』が。 そのことがどこかおかしくて、つい頬が緩んでしまう。 「わ、笑わないでください! あなた様は……いけずです」 「悪い悪い。でも変わったよな貴音も」 「え?」 「前より、少しだけ明るくなった」 月を見上げると思い出す。初めて出逢ったとき、思いつめた表情で月を見上げ語りかけていた目の前の少女。 しかし765プロでも仕事をするようになってから、その憂いを帯びた瞳には別の輝きが宿るようになっていた。 もっとも、彼女自身と彼女たちを送り込んだ黒井社長がそのことに気付いているのかは分からないが。 「そう、でしょうか?」 「あぁ」 それっきり彼女は俯いて黙り込んでしまった。顔に複雑な色が見え隠れしているのを目の当たりにして、自分 が失言してしまったのではという不安に駆られる。 「何か、悪いこと言ったか俺?」 「いえ、あなた様は何も。ただ……己の使命を忘れてしまったわけではないにしろ、安らぎに我が身を置いてい た自分が情けなくなっただけです」 「使命?」 「私は、民たちに……」 ――くぅ。 言葉を遮るように何かが暗闇の中で響いた。 何かあったかと辺りを見渡してみるが、近くには誰も、そして何もない。 貴音にも聞いてみようと視線を彼女に戻すと、月明かりに照らされた顔には朱が差し、いつもは凛々しい双眸 もどこへ向けていいのか分からないように右へ左へと彷徨っていた。 「……あぁ」 時刻は8時を過ぎた頃。 仕事を終えてからずっとここで月を眺めていたというのなら腹の音も鳴るというものだろう。 かく言う自分も昼以降何も食べていない。つられてこちらの腹の虫まで騒ぎだしそうだった。 「どっかで何か食べてくか?」 「え? あ、いえ、それは……」 「一応言っておくけど、俺の懐に二人分食費の余裕があるのはかなり珍しいと思う」 その言葉に呆気にとられていた貴音だったが、やがて小さく笑みを浮かべて頷いた。 「それでは、馳走になります」 「よし! それじゃあどこで……」 と考えようとしたところで、視界に端に屋台が飛び込んできた。のれんにはでかでかと『ラーメン』と書かれている。 屋台のラーメンとは不思議な魔力が込められている。醤油の香りが鼻腔の奥をくすぐり、空腹と相まって一層 食欲が沸いてくる。 ――まてまて、一人ならともかく今日は貴音がいるんだぞ。 なんとか駆け寄りたくなる気持ちを押し止め、改めて貴音に声をかけようとして…… 「――らあめん」 何やらとてもうっとりとした眼差しで、先ほどまで自分が見ていた屋台を見つめる『銀髪の女王』がいた。 ・ ・ ・ ――夢の中で また包んで…… テレビから聞こえてくる貴音の歌声を聞きながら、次のオーディションに参加するための資料をまとめる。 本来ならじっくり聞きたいところなのだが、今は誰の場合でも仕事中に番組を見ることが多くなった。もちろ ん彼女たちが出ている時に限るのだが。 そしてまるで自分の代わりとでも言うように、雪歩が真剣な表情でテレビに映る貴音の姿に注目していた。 ――あなたが来た! 待ち伏せするの ――でもやっぱりサッパリ 目合わない ――ドキドキした ハートがしぼむ ――もう シュン ねぇ bad bad you! 「……四条さん、少し雰囲気が変わりましたよね?」 「ん? あぁ、そうだな」 世間からの評価もそんなものだった。765プロとのコラボによって歌う楽曲の幅が広がったことが主な要因で はないかと言われているが、なんとなくそれだけではないように思えた。 ――雲の陰から 応援してる ――早く見つけてよ王子様 ――そのときをまってる ちらりと見ただけでも、その歌う姿から発せられるもの……オーラとでも呼べばいいのだろうか? ともかくそれが以前まで感じられていた険のようなものが抜け落ちていたように思える。 昨夜と似たような感覚。だが彼女はそれをただ良しとは思っていなかったようだが。 ――ねぇ いいかな もっと笑顔送ってみて ――そうよ 指の先まで 真っ赤になるわ ――あなたが好き! だが、少なくとも自分は今の貴音の方が好きになれそうな気がした。 物腰穏やかに礼儀正しく、どこか少し変わっていて可愛げのある今の貴音の方が。 「……何考えてるんだか」 「え? 何か言いましたか?」 「いや、なんでもない」 ――胸の奥が苦しくって ええ もう! ――花になりたーい もっと ――鮮やかなカラー ……歌い終わると共に拍手が沸き上がり、司会が貴音に語りかける。先ほどまでの歌とはがらりと印象が変わ り、いつもの古風で上品さを感じさせる貴音に戻っていた。 「はぁ……やっぱりすごいなぁ四条さん。私も、あんな風に凛々しくてかっこいい人になれるかなぁ」 その言葉に、作業していた手が止まった。 「え? な、なんでシンさん笑ってるんですか?」 「い、いや! なんでもない」 脳裏に浮かんだのは、昨夜幸せそうにラーメンを食べる貴音の姿だった。 ――今までも似たようなことがあったけど、この仕事ってみんなのいろんな顔が見れるよな。 ならば、いつかは彼女の言う『使命』というものを知ることができるのだろうか? そんなことを考えながら、また満月の夜にはあの場所へ行こうと心に決めていた。 「うぅ、やっぱり私なんかが四条さんみたいになれるわけないですよね……穴に埋まって反省してますぅ」 「え? あ、違うって! 笑ったのはそういうことじゃな……雪歩!? 出て来い雪歩ーーー!!」 ……一度目だけなら偶然だが、二度以上起こったならそれは必然である。 その原因が『彼』にしろ『彼女』にしろ、 また次の満月の夜に二人は出会うのだろう。 きっとまた、出会うのだろう。 オマケ P 「ユカタメイド……それは浴衣とメイド服を組み合わせた、まったく新し衣装!」 小鳥「すごい! どちらか片方だけの2倍、いや10倍の破壊力があるわ!」 二人「「萌え的な意味で!」」 シン「馬鹿やってないで二人とも雪歩引き上げるの手伝ってください!」
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「ミッドにも梅雨ってあるんかなぁ」 窓をパタパタと音を立てて叩く雨を眺めながら、山ほど重なった案件から少しだけ気を逸す様に、八神はやては呟いた。 事務仕事をする時、掛けているとはかどる気がするからという理由でしている伊達眼鏡をはずし、眉間を少し揉みながら 故郷の日本を瞼に写す。 紫陽花の花言葉は心変わりだったか? ここ数日間、休みを忘れたかの様に降り続く雨は今も止む気配は無い。 六課解散後、皆がそれぞれの道を力強く歩き出してからどれほど経っただろうか? 相も変わらず自分は忙しく走り回っている。 「偉くなるってのも考えモンやな」 彼女の小さな体に纏わり付くしがらみは、登れば登るほどに増えていった。 気の赴くままに何処かへと行ってしまいたくなる事がある。 ふと何処かここでは無い何処かへと胸を焦がす。 だがそんなことなど出来るはずも無い。 いや、やってしまう事は出来るが、はやてはそんな事が出来る様な人間では無いと言うべきか。 かつて六課の集まった元部下達は皆優秀であり、その活躍は誰と無く耳に入れてくれる。 それを聞くたびにはやては嬉しくなり、そして自分もやらねばいけないといった気持ちで焦げ付きそうになる心は鳴りを潜めるのだ。 副官を務めたグリフィスは本局次元航行部隊に転属し、バリバリの事務屋として鳴らしている。 災害救助に執務官、保護区に赴いた部下もいればお母さんになった親友もいる。 そしてもう一人。 六課解散後、正直な所あまり行く場所の無かった彼は今もなお、部下として付いている。 魔法の魔の字も出ない彼は、なし崩しの様に六課に捻りこみ、在任時は完全な生身の格闘教官を務めながら副官補佐として勉強を重ねていた。 元々が努力家なのだろう。 真綿が水を吸うように知識を吸収し、その豊富すぎる戦場の経験もあってか、メキメキと指揮官としての才を見せ始めた。 少ない情報から確実に現場の状況を理解し、組み立てる様は正直な所憧れすら持って眺めていたものだ。 あれは一つの才能だろう。 豪胆な心臓と繊細な感情は奇跡のように両立し、自らの経験も相まって戦場の指揮官としては理想的な人物だった。 だが本当は自分も戦場の最中へと飛び出していく性格なのだ。 それを必死で押さえ込み、血が滲んで震える拳はCICの中に居る人間の心を捕らえて離さない。 事実として、J・S事件の中盤以降は彼の立案した作戦に私が判を押すという形態が常で有り、私を含めた すべての人間がそれを受け入れていた事実がそれを物語る。 可愛い部下や家族に親友達に、行って戦って来いと告げるのが本当は辛かった 自分の官僚としての才能をおこがましくも感じてはいたが、指揮官としての才能をほとんど感じなかった。 皆を信頼してはいたが、やはり行けと命じ、モニターを見つめるのは堪えた。 情けない自分とは裏腹に、しっかりとした声色で行けと命じ指示を飛ばす彼を越権行為だと騒ぐ気持ちには一切なれず、それどころか依存してしまった。 しかし彼は戦場のに生きる軍人としては最高ではあったが、政治家ではまったくと言っていいほどに無かった。 事務仕事はそこそこに出来るが、如何せん彼は世渡りが下手だった。 真っ直ぐ過ぎる心は美徳以外の何物でもないが、気高い精神だけでは上へと昇ってはいけない。 寝技や政治的な搦め手を使えるほど器用でもない。 過去に積み上げた実績も無ければ強力な後ろ盾も持たない。 早い話、ポッと出の風来坊なのだ。 そして蛇蝎の如く忌み嫌われる質量兵器の使い手であったという過去。 それだけならばまだマシだったが、元エースという称号は ミッドにおいては栄光のそれで無く、大量殺戮者のレッテルでしかない。 聖王協会やハラオウン家の威光は私の時で大分目減りしている。 これ以上の干渉は管理局での彼らの立場が危うくなる。 借りを作りすぎるのは毒でしかない。 何よりも彼自身がそれを望まなかった。 本心を言えば、はやては部下として彼の下に付きたかった。 彼が出来ない政治家を自分がやればそれでいい。 機動六課を強引に作り上げた自分の政治力には自信がある。 官僚としてグリフィスを迎え入れ、直属の部隊としてヴォルケンリッターの騎士を組み込み、エースオブエースと金の雷光を両腕に従えて 彼は現場で思う存分に戦い、指揮し、輝かしい道を歩む。 本気そう思っていた。 あの時の六課に関わったほぼ総ての人間がそれを夢想した。 そんな夢を描かせるほどに彼は真摯で、有能で、志高く、気高かった。 「ホンマに嫌な雨やなぁ…… 纏わり付くようや」 「そうですねぇ」 傍らのリィンにぼやいてみても、何も変わりはしない。 元部下や親友達について考えていたはずなのに、気が付けば頭は彼の事だけを考えていた。 解散後、それぞれが自分の希望の部署へとすんなりと行けたのは六課在籍という手柄があったからだ。 はやての指揮官としての功績など無いに等しかったが、それでも名目上の指揮官は彼女だった。 真偽のはっきりとしない情報、矢継ぎ早に起きる不測の事態、錯綜する戦場。 後手後手に回る状況で自分が思いついたのは下策だけだった。 事件後、彼の功績は目に見える形では残っておらず、加えて私を含む隊長陣のネームバリューが仇となった。 幼少時より管理局で名を上げた広告塔のような私達と、ポッと出の元殺戮者。 管理局と大衆が望むのは前者だった。 苦悩する私達を見て彼は自分から手柄など要らない、守れたという事実があればそれでいいと答え、少し悲しそうな顔をした後退席した。 今考えてもあの悲しみがなんだったのか、はやては理解出来ないでいる。 他の部隊からの招聘を断り、捜査官とし戻る際に貰った土産が彼だった。 このまま埋もれさせてしまうには惜し過ぎる才だったし、はやて 自身の感情もあった。 それは彼の持つ気高い精神と苛烈な生き様に対する憧れ、自身が想像した兄の様な優しさに対する思慕。 時折見せるどこか破れた様な悲しい笑顔と澄んだ紅い瞳。 かと思えば幼さの残る弾ける様な笑顔。 憧憬とやすらぎと保護欲はやがて混ざり合い、初恋は形を変えて愛へ成長した。 恋とは激しく燃え上がるようなものなのだろうと、ぼんやりと考えていたはやてだが、自身のそれは燠火だと思っていた。 ジリジリを肌を焼いたり、優しく暖めてくれたり、思い出したかの様に燃え上がる。 自分の下で実績を積ませ、いつか自分を追い越して高みへと登らせたいと思いながらもこのまま自分の下から出て行って欲しくないとも思う。 結局自分がどちらを望んでいるのか分からなくなり、口に出たのは 「たぶん…… どっちもなんやろなぁ、はぁ…… わからんモンやな」 「なにがですか? はやてちゃん?」 「ん~、なんでも無いわ。 仕事しよか」 「はいです!」 分からないという結論と仕事の再開を告げる宣言だけだった。 コンソールと流れるように滑らせ、先に解決した事件の報告書を手早く打ち込み始め、やがて作業に没頭し1時間ほど経った頃に、 無遠慮にドアがプシュッっと小気味よく開いた。 ほとんど終わった文書の作成画面から目を離すと、見えたのは濡れ鴉みたいな艶のある黒髪を少しオールバックに後ろへと流している。 親友であるフェイトの様な綺麗なルビーレッドとは違って、見つめていれば引きづり込まれそうになる血の様な紅。 「はやて一人か? まだ終わってないのかよ」 「一人じゃ無いです! リィンもいるです!」 「はは、悪い。 見えなかったよ、小さくて」 「きぃぃぃぃっ! リィンは小さくなんてないです!! あえて小さいだけです!!!」 「結局小さいじゃん」 ドアと同じ様に無遠慮な挨拶をした愛しい人は、軽い漫才をした後むきぃぃぃとむくれるリィンを軽くなだめると、何時の頃からか 彼女の指定席となった頭頂部に座らせて、手に持った二本の缶コーヒーの内一本を差し出しながら口を開いた。 「飲むか?」 「ん…… 貰うわ、もうほとんど終わりや」 「了解、んじゃ待つよ。 メシでも食ってくか?」 「十分で終わらすわ」 再度了解と告げ、申し訳程度に置いてある来客用ソファーに腰掛けるシン・アスカを見て、はやてはじんわりと幸せになった。 「なんで笑ってるんだ?」 知らんわ、と答えを返すとはやては少し温くなった缶コーヒーを啜って、聞こえないように呟く。 「ホンマにもう…… 知らんわ…… 人の気も知らんと好き勝手言うんやから」 デスクに立てかけてある写真立てには、駐車場でバイクと一緒に笑う彼と、明らかの通りがかりのはやてがわずかに写っている。 そっと気づかれない様に、自然な仕草で写真立てを見えないように倒したとき、写りこんだ自身の頬は嬉しそうに笑っていた。 メサイヤ戦後、選んだのは犬の道だった。 仮初でもいい、戦争が無くなり、理不尽に泣く人が出ないようになるのならば 蝙蝠野郎と罵られてでも、亡き親友の仇でも尻尾を垂れて戦うことを選んだ。 勝手な妄想だが彼ならお前らしいと言ってくれる気がした。 大規模戦争の代わりに訪れたのは各地で大量発生した地域紛争と暴動。 持つものと持たざるものの対立構造は同じナチュラル同士、 コーディネイター同士でも適応され、その度に彼はカタパルトから重たい腰を叩かれた。 やがて何年かすると、赤い髪の彼女は自身から去っていった。 彼女を引き止めることも、ましてや責める事も出来やしなかった。 戦場に出るたびに悲しそうになる眼で見つめられるのが怖かった。 逃げるように戦場へと赴き帰ってくる度に彼女の肌の温もりに甘えた。 汗ばんだ肌を重ねて、その胸に抱かれながら眠り戦う日々。 どれほどの不安と重みを背負わせたのだろう? 最後にごめんなさい、と謝りながら出て行く後姿にごめんを言いづけ、その日の夕食はすべて吐いた。 いつしかシンは部下を持つようになり、コックピットに座る時間は減っていったのを対象に、人の上に立つということと、命を預かり送り出すということに 頭を悩ませるようになった。 CICのモニターを見ながら忙しく脳みそを働かせて、無事を祈るのがこれ程辛いものだったのかと実感して初めて 彼女の痛みの欠片を知った。 あぁ、これは……なんて痛いのだろうか その日がいつもり暑かったのを彼は覚えている。 砂漠は人に容赦が無い。 MSの数は大幅な軍縮でいつも足りなかったし、常に最前線に出される アスカ隊のMSは現地改修という名の継ぎはぎだらけ。 それでもなんとか凌いできた。 しかし無理に無理を重ねた部隊は疲弊し、熱砂の地獄で殺しあう毎日は成長したかつてのひよっこ達の神経はすっかりと磨耗させていた。 ここに至るまでにいったいどれだけの雛が死んだのだろうか? もう遺族への手紙など書くのはゴメンだった。 本部からの情報にあった通り、敵は驚く程の数のMSで武装されていたし、軍人崩れが数多く連度が高かった。 戦後民生品として武器の一切を取り外れ、払い下げられた復興用のMSは、銃弾がパンより安い御時勢であればかつての役割をすぐに取り戻す。 どうにならず、久方ぶりの相棒のシートに座ったその日、少し頼りない副長に誰かの面影を見ながらシンは激を飛ばす。 「大丈夫だよ、俺が出るんだぜ? 運命の刃を信じろ」 血走った眼をするMS隊の部下に声をかけた。 [そんなに怖い顔するなよ、安心して後ろで眺めてればいいさ。 帰ってシャワーを浴びたらキンキンに冷えたビールでも飲やろうぜ」 安心した笑顔をみせる部下達に死なせるものかと決意し、出撃。 大丈夫だ、もうすぐ後詰の部隊が到着する。 そうすればこの一面砂だらけの世界とはさようならして、少し休もう。 平和の為に殺しあう懊悩はそれからでもいい。 独り言は砂漠の風に掻き消えて、罰は背中から打ちつけられた。 「気にするなよ、こんな終わり方でも仕方ない人生だったんだから」 「なんで、なんであんたはそんなに純粋なんだよ! だから…… だから俺はぁ!」 「うるせぇよ、最後ぐらい悪人らしくさせろ、俺を憎めよ? お前ら。 お前達には俺を憎む理由が有って俺を撃つ権利が有る、 だから俺を憎めよ、それで終わりにしろ。 お前ら全員だ」 「どうしてあんたは」 「うるせぇって言ってんだろ? 黙れよガキ共、最後まで聞くぐらいしろよ。 んで最後の命令だ。 これだけは絶対守ってもらうぞ。 いいか、花は大切にしろよ? いくら大切にしても人は吹き飛ばす。 それでも植え直せば良いかもしれないけどな、お前達は吹き飛んだ 花を悼んでやれ、憎しみで引金を引くな。 そんな事はこれで最後にしろ、お前達のそれは俺が持っていく、だから……」 アスカ隊は全員、過去に俺が蹂躙した場所から集められた部下達だった。 不自然なまでに最前線に出せれ続けたのは、友軍誤射を期待した上層部だろう。 多分、本当に多分だけど、アスランは泣くんだろうなと シンは少し笑って、あの時からの九年を振り返りながら堕ちた。 仕事を手早く片付ける彼女をぼんやりと横目に眺めながら、シン・アスカはつまらない事を考えていた。 この世界に墜とされた時、自分を見つけ、保護してくれたのが彼女、八神はやてだ。 人懐っこい笑顔を浮かべてにっこりと笑いながら、眼ぇ覚めた? 物凄い大怪我やったんやで? と顔を覗き込まれたのを良く覚えている。 綺麗と可愛いが同居していて、酷く眩しかった。 キリッとしまった顔をしたり、優しく笑ったり可愛く甘えたりする彼女が好きだ。 けれども、触れられない。 無様に生き残ったと後悔した。 死ぬべきだった。 振り返ってみれば本当にろくでも無い人生だ。 無様に死ぬのがお似合いなのに、不恰好に生き残ってしまった 後悔しかない。 なんで死ねないのだと眼に見えない何かに怒りもした。 魔法だとか次元世界だとかは正直な話、彼にはどうでも良かったのだ。 そして母のように労わりながら生きていることを喜ぶはやてが苦手になり、マユの様に人懐っこく笑いながら話すはやてを好きになった。 親友だったレイの、違う可能性のようなフェイト。 厳しくて優しかったなのは。 それでもシンが好きになったのは、痛かったやろ? もう大丈夫や、私の胸で泣いたらえぇと泣かせてくれた。 料理は出来るんやねぇ、手伝わせてぇなと甘える彼女だった。 戦うことしか出来ないから、ジェイル・スカリエッティを追うのを手伝った。 なによりも守られるべき子供が戦うのが我慢ならないのだ。 一回りも年下の子供達がせめて生き残れるようにと、得意の殺し為に技術を教える日々。 やりあえば魔法などという便利なものを持たない彼は非力だが、魔力が切れればただのお互いにただの人間なのだ。 平和の為に力を振るう懊悩は非殺傷設定の偽善が誤魔化してくれる。 部下を戦場に送り出すことに慣れないはやての為に、変わりに行って来いと命じた。 酷い自己矛盾だと自分を笑った。 だけども、それでも…… どんな命でも生きれるのならば、生かしたい とりあえずでも総てが終わって、どこかでひっそりと生きて行こうかと考えていたが、あっちだこっちだ付いて来ぃやと引っ張りまわされた。 面倒だと考えたりもしたが、今も書類と睨めっこしている横顔を見つめていると、それも良いかと思えてくるから不思議だ。 そんな益体も無いことをつらつら考えていると、いつからかそこを指定席にしているリィンが少し尖った声色で話しかけてきた。 何度も叩き落としたり頭を振って落としても、意地になってそこに座り続ける小さな彼女に根負けしたのはいつだったろうか? もうそこはお前の指定席で良いよと言った時、勝ったですぅ~と人の頭の上ではしゃいでいた。 負けづ嫌い性分が少しだけ刺激されたので、 つまづいた振りをして落っことしてやったのは流石に自分でも子供みたいだと思う。 「誰をジロジロ見てるんですか? はっ! まさかはやてちゃんに劣情を感じて手篭めにしてやろうかと!」 「ん? そう言われるとやけにはやてが色っぽく見えてきたな」 ギャーギャー騒ぎ始めながらも頭の上から退こうとしない小さなリィンを、迷惑かけたらあかんよとはやてが優しく