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前ページ次ページラスボスだった使い魔 「ぐっ、あ、がぁぁぁああ……!!」 決闘直後の気絶より目覚めたユーゼス・ゴッツォは、苦痛に責め苛まれていた。 ……それは、彼のような人間が戦いに身を投じることによって生じる、宿命のようなモノ。 回避しようと思って回避が出来るモノではなく、また、これを経験しない人間はほぼいない、と断言が出来るだろう。 「っ、迂闊だった……!」 この可能性を考慮していなかったとは、自分らしくないミスである。 恨めしいのは、自分はこの苦痛を味わっていても、同じく対戦者であるギーシュ・ド・グラモンはまず間違いなく苦痛など味わっていない、という点だ。 「ぬぅぅううう……!」 何十年か振りに味わう痛み。 身体中が、軋みを上げる。 その痛みとは、すなわち――― ガチャッ 「筋肉痛は治ったの、ユーゼス?」 「……一時間やそこらで治るわけがないだろう、御主人様」 ―――運動不足から来る、筋肉痛である。 「ったく、アンタどんだけ体力ないのよ。魔法を使う貴族だってね、イザという時のために最低限は身体を鍛えてるわよ?」 「……私は魔法が使えない平民だ」 「なら、なおさら鍛えてるべきでしょ」 「鍛える必要がなかったからな」 今までのユーゼスの人生は、ひたすら研究に打ち込むものだったため、肉体を行使する必要が皆無だったのである。 「……筋肉痛を治す秘薬を手に入れる、という話はどうなった?」 「よくよく考えたら、筋肉痛って自然に治るんだから必要ないんじゃないかしら」 「……………」 確かにその通りなのだが、何となく納得のいかないユーゼスだった。 翌日の早朝。 痛む身体に鞭を打って、とにかく本日の仕事の手始めである洗濯に取りかかる。 ギギギギギ、と錆びたブリキの人形のような動きで洗い場に到着。 グググググ、とスローな動きで洗濯を開始。 洗濯の内容そのものよりも自分の身体の動かし方で四苦八苦していると、 「……おはようございます、使い魔さん」 「ああ」 昨日の黒髪のメイドが、やはり大量の洗濯物を抱えてやって来た。 メイドは洗濯物を置くと、少し落ち込んだように目を伏せる。 「あの……すいませんでした」 「何の話だ」 「昨日のミスタ・グラモンとのことです。あの時、逃げ出してしまって」 ユーゼスは、ああ、と呟くと、メイドの方を見ずに口から言葉だけを放つ。 「あれが『普通の反応』なのだろう? 謝ることでもあるまい」 「……ほんとに、貴族は怖いんです。私みたいな、魔法を使えないただの平民にとっては……」 そして昨日と同じように、黒髪メイドは自分の横で洗濯を始める。 ……昨日との違いと言えば、少し沈んだ様子であるということくらいだろうか。 「でも、使い魔さんを見てて思いました。平民でも、貴族に立ち向かっていけるんだって。 ……マルトーさんも―――あ、厨房のコック長の方なんですけど―――、『ひ弱そうな感じだが、なかなか骨のある兄ちゃんだ』なんて言ってましたし」 あはは、と笑うメイド。その笑い声にも、やはりどこか力が無かった。 (………?) 違和感は感じる―――が、このメイドの個人的事情がどうだろうと、ハッキリ言って自分には関係がない。 何か困ったことでもあるのか、と少々気にはなるし、洗濯を教えてもらった恩もあるが、だからと言って深入りする筋合いはない。 と言うより、このメイドとの関係は、深入りするほど長くも濃密でも強くもないのである。 若干の違和感を残しつつも洗濯を終え、ルイズを起こして身支度を整え、朝食の席(と言っても床だが)に着く。 と、そこでまた違和感を発見した。 「……御主人様、私の食事に野菜と肉が付いているが」 「え? ……あら、ホントだわ。手違いかしら?」 最初は僅かでも待遇が改善されたのか、とも思ったが、この主人に限ってそれはないらしい。 はてな、と主人と使い魔が揃って首をかしげ、ふと周りを見回してみると、 またギーシュ・ド・グラモンと目が合った。 「……………」 「―――――」 パチ、と軽く片目をつぶるギーシュ。 ―――どうやら、察するに『平民とは言え、仮にも自分と引き分けた男がうんぬん』という所だろうか。 (……妙な所で律儀と言うか、プライドの張り所を間違えているような気もするが) 「―――どうやら、奇特な貴族が差し入れてくれたらしい」 「? ふーん、ホントに奇特なヤツがいるのね」 「全くだ」 まあ、せっかくなので、ありがたく頂いておくが。 そして、時間は更に少々流れ、ギーシュとの決闘より4日目。 筋肉痛もようやく完治した朝。 洗い場に到着すると、いつもの黒髪のメイドではなく、金髪のローラというメイドがいた。 そして、黒髪のメイド―――ユーゼスは彼女が『シエスタ』という名前であることを今、知った―――が、魔法学院からモット伯という貴族の屋敷へ奉公先を変えた(実際は強引な引き抜きに近いそうだが)、という話を聞いたのだった。 (そういうこともあるか) 人身売買まがいの人材の引き抜きなど、別に珍しくもない。 世界が違えば、多少の習慣や常識の違いなどはあって当たり前だ。 何より、周囲の人間が渋々ながらも納得しているということは、一応の正当性はある、ということである。 異邦人で平民の自分が口を出す問題でも、口を出してどうにかなる問題でもないのだ。 『銀の方舟』とやらの情報は少し惜しいが、別になければ困るという程でもない。 (そんなことより、目の前の洗濯だな) そうして、主人から渡された洗濯物を洗い始める。 ユーゼス・ゴッツォ。この男は、かつて――― 「て、てめえ! 何様のつもりだ!! 人間を何だと思っていやがる!!」 「単なる道具……という答えでは不服か?」 ―――このように言い切った男でもあった。 人間、多少環境が変わった程度では、根本は変わらないのである。 その日の昼前。 ルイズが授業を受けている横で、ユーゼスはカリカリとペンを羊皮紙に走らせていた。 「……何やってるの、アンタ?」 「レポートの作成だ」 「れぽーと?」 主からの問いに素っ気なく答えると、黒板に書かれた文字へと目を移し、それを更に別の羊皮紙に書き記す。 「『れぽーと』って、何よ?」 「報告書、研究成果の簡易的なまとめ、小論文―――呼び方は様々だがな。自分なりの『魔法』の考察、というところだ」 ルイズは、ふーん、と興味なさげに頷くと、次の瞬間には何かに気付いて顔をしかめる。 「……アンタ、まさかそれをアカデミーに持っていくつもりじゃないでしょうね?」 この使い魔を召喚したその日の晩、ルイズは『アカデミーに連絡を取ってみる』と約束していた。 ……実際、長姉への手紙という形でアカデミーへ連絡を取り、今はその返事を待っているのだが。 「それこそまさかだ。……平民の素人のレポートだぞ? メイジの専門家に見せられるようなレベルには、とても達していない。 あくまで『現時点でのまとめと考察』だからな、もっと知識や実地、研究、推敲が必要だ。 ……どちらかと言うと、『字の練習』の方がウェイトが多いと言える」 「それもそっか」 当たり前よね、と再び興味なさげに頷き、ルイズもまた授業へと意識を移した。 教師の声と、黒板に書くチョークの音、生徒がペンを走らせる音、そしてわずかな雑談の声が、魔法学院の教室に響く。 「……………」 ふと、ユーゼスが顔を上げた。 そのまま何事か考える素振りを見せると、 「……御主人様、外出する許可をもらいたい」 無表情に、ルイズへ外出を申請する。 「? どこ行くのよ?」 「少し『そこまで』だ」 そう言って、窓の外を指差すユーゼス。 ルイズはそれを見て『森の中に何かあるのかしら?』と呟いた後、 「ま、いいけど。……昼食までには戻って来るのよ、いいわね?」 決して快く、とは言えないが承諾した。 「感謝する」 短く礼を告げ、ユーゼスは速やかに教室から出る。 そして周囲に誰もいない場所まで移動すると、脳内のクロスゲート・パラダイム・システムを起動させ、自身の周囲に虹色がかった立方体のエネルギーフィールドを展開させた。 「……………」 時空間移動の、転移先を設定する。 目的地は、先程ルイズに申告した『そこ』―――魔法学院の周囲にある森を越えた先だった。 場所は変わって、魔法学院より少々……と言うには遠すぎるほど離れた地点の上空。 北花壇騎士七号こと『雪風』のタバサは、ガリア王女の裸踊りという珍妙な見世物を後にして、取りあえずの住居である魔法学院に戻るところであった。 「あー、それにしてもケッサクだったのね、あの王女の踊り! お姉さまも『趣味が悪い』なんて言わずに、後々からかうために見ておけばよかったのに! きゅい!」 青い鱗の竜は、その背に主人であるタバサを乗せながらウキウキと話す。 この竜はその名をシルフィードと言い、ルイズにとってのユーゼスと同じく、タバサの使い魔である。 ただし、いくら使い魔だからと言っても、契約して間もなく易々と人語は操れない。 風の古代竜、『風韻竜』と呼ばれる伝説の幻獣であるシルフィードだからこそ可能なことだった。 なお、『伝説の幻獣』であることが発覚すると、かなりややこしい事態になることが予想されるので、シルフィードは自分以外の人間がいるときは一切喋らせず、『ただの風竜』で通している。 このあたり、クロスゲート・パラダイム・システムを隠しているユーゼスと共通点があるかもしれない。 「それにしても、最近になってお城に現れた、あのお爺さん! ……えーと、名前はなんだっけ? ぶ、ブルブル卿?」 「ブレイン卿」 「そうそう、それそれ! いっつも黒いローブばっかり着て、なんだか怪しいことこの上ないのね! あの王女やお姉さまを見て、『よいよい、その調子でな』とか言うし!」 「どうでもいい」 そう、タバサにとって、『自分の目的』を果たすためならば、周囲の人間など直接的に関与しない限りはどうでもいいのである。 「……あのね、お姉さま?」 使い魔の呼びかけに、主人は答えない。 「召喚されて契約したときから思ってたけど、お姉さまは愛想がなさすぎなのね! もっと、こう、シルフィと少しは会話を楽しむのね! ペラペラ喋りまくるお姉さまもそれはそれで違和感あるけど、だからと言って今のままでもダメだと思うのね! ……そうだ、自分一人でダメなら、気のきいた会話が出来るようなお友達をお作りになるがいいのね! きゅい!」 「友達ならいる」 「あのキュルキュルとかいう享楽主義者のあばずれの不真面目者は、シルフィ、好きじゃありません。 じゃあ、友達がダメとなると……恋人! そう、恋人を作るべきよ! そうすればお姉さまももっと愛想がよくなって、わたしも楽しい! 一石二鳥なのね!」 「……………」 一人で勝手に盛り上がるシルフィードだったが、タバサはローテンションであった。 「好きな男の子、いないの?」 「いない」 「だったら作るの。 ……ええと、お姉さまの恋人となると……魔法学院の魔法使いたちは、みんな気取ってるからシルフィ好きじゃないし……う~ん……」 シルフィードは空を飛びながら、うんうん唸る。 「ああ! あの人なんかどう? あのギーシュさまと引き分けた、平民の男の人! お姉さまが初めてお付き合いするにはぴったりじゃない? はじめは人間の使い魔なんてみっともないって思ったけど、なんか物静かで、理屈っぽくて、それでいて変にガンコなところなんて、お姉さまに似てるような気がするし! ちょっと年が離れすぎてる気もするけど、恋愛入門者のお姉さまは年上にリードしてもらえばいいのね!」 まくし立てる使い魔の言葉を聞き流しながら、タバサは本に目を移す。 「じゃあ今度、デートに誘いなさい。いや、お姉さまが誘ったのでは、はしたないから――― ―――――!!!??」 ビクン、と突然シルフィードの身体が硬直する。 「!?」 空中でいきなり停止したため、ガクンとシルフィードの巨体が揺れ、自然とタバサの小さな身体も大きく揺れる。 タバサは慌てて本から目を離し、自分の使い魔に呼びかけた。 「どうしたの?」 「あ、ああ……」 「しっかりして」 「で、出て来るのね……!」 「……?」 怯えた様子のシルフィードをなだめながら、何があったのかを尋ねるタバサ。 そして次の瞬間、 ヴンッ!! 赤い光と共に、『それ』が出現した。 ―――『それ』は、一言で言い表すと、『骨』。 黄色い角と爪を持った、巨大な―――20メイル弱ほどの、骨の怪物であった。 「い、いやなのね……!」 その姿を見たシルフィードが、よりいっそう怯えの色を濃くする。 「アレを知っているの?」 「お、お姉さま……あれは……いけない……。う、うまく、説明は出来ないけど……あれは……出て来ちゃいけないものなのね……!」 「……しっかりして!」 シルフィードを叱咤しながら、タバサはとにかく落ち着けるように彼女を着地させる。 おっかなびっくりシルフィードは地面に降り、タバサはその頭を撫でながら『骨』の様子を見る。 『……グォオオオオオオ……!』 『骨』が低い唸り声を上げると、腹部にある赤い光球が輝き、その輝きが左腕の爪に移る。 次の瞬間、左腕の爪は『骨』自身の体長並に巨大化し、 ドシャァアアアアアアアアアンンン!!! 近くにあった屋敷が、薙ぎ払われた。 そこから多くの衛兵や使用人たちが吹き飛ばされるのを見て、タバサは即座に決断する。 「……………」 「お、お姉さま、どこ行くのね! きゅい!」 「……アレを止める」 「ダ、ダメなのね! シルフィの感覚が言ってるの、アレは関わらない方がいいって! それにお姉さまなら、アレが簡単に勝てる相手かどうかくらいは分かるはずでしょ!? シルフィと一緒に逃げるのね、お姉さま!!」 「見過ごせない。……待ってて」 使い魔が発する最大限の警告を押し留めて、一歩を踏み出すタバサ。 ……シルフィードは、恐怖に震えながらその背中を見送ることしか出来なかった。 タバサは『フライ』の低空飛行を使い、高速で『骨』に接近する。 無論、一直線に向かうような愚は犯さない。 左右はもちろん、時には後ろに下がり、直線と曲線を織り交ぜながら、接近と同時に撹乱を仕掛けているのである。 『……グォオオオオオオ……!』 巨大な爪が振るわれる。 「………」 それなりの余裕を持って回避したつもりのタバサだったが、しかし、 ドガァアアアアアアンンン!!! 「…………っ!」 『骨』の爪が地面に激突した衝撃、その余波だけでタバサの小さな身体がぐらついた。 タバサは若干慌てて体勢を立て直し、更に接近―――懐に飛び込む。 「………」 その無機質な赤い眼球に違和感を覚える。 こんな幻獣は見たことも聞いたこともない。ゴーレムにしては材質が未知の物質すぎるし、かと言ってガーゴイルにしては生物的すぎる。 ……その正体はハッキリ言って気になるが、今はそんなことを考えている場合ではない。 懐の死角に入り、呼吸を落ち着けて詠唱を開始する。 「ラグーズ・ウォータル―――」 ……しかし、この『呪文の詠唱』には、全ての系統魔法に共通した欠点がある。 一つは、使い手であるメイジが変わろうと、その詠唱の内容は寸分違わぬ物になってしまうこと。 つまり『詠唱の内容』さえ把握してしまえば、どのような魔法が繰り出されるのか簡単に判明してしまうのだ。 とは言え、それは魔法を使う側のメイジも百も承知であり、特に実戦派のメイジは詠唱を最小限の声量で行ったり、唇などの動きから悟られないように極力口を動かさないようにする訓練を行うことに余念がない。 加えて、もう一つ。魔法の詠唱の長さは、威力に比例している。 『詠唱の内容は寸分違わぬ物』である以上、これはいくら訓練してもどうしようもないことである。 ……対応策としては、可能な限り早口で詠唱するしかないが、それにも限界はある。 すなわち、メイジが魔法を発動する際には、最低でも一瞬程度の隙が生じてしまうことになるのだ。 『……グォオオオオオオ……!』 低い唸り声と共に、『骨』の腹部の光球が鈍く輝き、その光は今度は左腕ではなく、両肩の角のような器官に移動した。 そしてその角は、爪と同じように巨大化し、『骨』の足下にいるタバサを、 「イス・イーサ―――、っ!!」 ドガッッ!! 刺し貫かれる、と詠唱中のタバサが思った次の瞬間、『骨』の巨体が大きくブレる。 その結果、自分に向かって伸びていた角はその狙いを大きく外し、地面を穿つに留まった。 一体何が、と思って『骨』の本体を見ると、 「きゅ、きゅい……。コイツは嫌だけど……、恐いのは嫌だけど……、でも、お姉さまが傷付いたりするのはもっと嫌なのね……!」 シルフィードが『骨』の背中に体当たりをしていた。 (……ありがとう) 詠唱を中断するわけにはいかないので、心の中で礼を言う。 学院に帰ったら、あの子の好きなお肉を多めにあげよう―――そう思いつつ、しかし使い魔の行為に報いるためにも、今は敵への攻撃に集中する。 「―――ウィンデ!」 ヒュゴッ!! タバサの得意とするトライアングルスペル、『ウィンディ・アイシクル』。 『風』2つと『水』1つの要素により、空気中の水蒸気を凝縮させて水のカタマリを形成、集めた水を数十個もの氷の矢に凍結、そしてそれを発射する―――というプロセスの魔法である。 その威力はかなりのものではあるが、あの爪の威力からこの『骨』の体表の硬度を推察すると、この巨体を『傷付ける』のがせいぜい……倒すことは出来ないだろう。 ならば、狙うのはあの『あからさまな部分』しかない。 ドガガガガガガガガガガガッッ!!! これ見よがしに露出している、腹部の赤い光球。それにいくつもの氷の矢が突き刺さった。 ……この『骨』が攻撃する際には、必ずこの光球が輝いている。 ならば、そこを攻撃すればあるいは―――と、なかば博打のような試みだったのだが。 『グ、ォオォオ、グォォォオォォ…………!』 『骨』の動きが止まり、身体がパラパラと灰に変わっていく。 どうやら自分の博打は成功したようだ、とタバサはホッと息をついた。 「お姉さま!」 自分の元へと降りてくるシルフィード。 タバサはほんの少しだけ、目の前にいる使い魔のシルフィードか、唯一の友人と言えるキュルケくらいにしか判別できないほど微かに微笑むと、その頭を優しく撫でてやる。 「きゅいきゅい。……それにしても、コレ、何だったのかしら」 少しずつ灰となっていく『骨』を眺めつつ、更に念のために距離を取りながら、シルフィードは疑問の声を上げる。 「分からないの?」 「シルフィに分かるのは、これが『いけないモノ』だってことだけなのね。何て言うか、こう―――お姉さまたちみたいな『普通』なのとも、シルフィたちみたいな『古代種』とも違う、全然別なモノって感じなのね」 「……………」 シルフィードがそこまで言うのだから、よほど異質な存在なのだろう。 『ディテクト・マジック』でも試しにかけてみようか、とも思うが、下手に手を出せばヤブを突いてヘビを出す結果にもなりかねない。 ここはひとまず、この『骨』が完全に灰になるのを見届けて、その後で残った灰を持ち帰るなり何なりすればいいか。 と、タバサが結論づけた、その時。 ヴゥゥウウウウウンン!!! 「!?」「きゅい!!?」 突如、『骨』の背後の空間に、赤い穴が開いた。 「……!?」 次から次に起こる事態に、さすがのタバサも訳が分からなくなってくる。 それでも彼女の冷静な部分は、発生した『赤い穴』は『サモン・サーヴァント』を使用した際に発生するゲートに似ている―――と、分析を続けていた。 そして『赤い穴』は急速な勢いで拡大していき――― 「きゅいぃ!!」 「っ、逃げて!」 ヴゥォオオオオンン!!! ―――タバサとシルフィードに離脱する暇さえ与えず、彼女たちごと『骨』を飲み込んだ後、その口を閉じたのだった。 その一部始終を、離れた地点からつぶさに観察していた人間がいた。 「……………」 虹色のエネルギーフィールドによって空中に浮遊する、ユーゼス・ゴッツォである。 通常のゲートとは若干異なる転移反応を検知したので、ここまで見に来たのだが……。 「アレは……並行世界を覗いていた時に見た覚えがあるな……」 確かアインストクノッヘン、とかいう名前だったはずだ。 「……それが何故ここに存在している? この世界に『監視者』がいるのか?」 あるいは、群れからはぐれた個体が、何かのはずみで転移してきたか。 いずれにせよ、少々厄介な事態になりつつある。 「……まさか、アレに対処するために私が呼び寄せられたのではあるまいな」 アインストが出現したから自分が呼び寄せられたのか、それとも自分が出現したからアインストが呼び寄せられたのか。 ……タマゴが先か鳥が先か、というループに陥りそうである。 「そう言えば、アインストと戦っていたあの少女……」 名前は知らないが、見覚えのあるような気がする顔だった。 魔法学院のマントを羽織っていたし、おそらくは学院の生徒なのだろう。 「……戦闘能力は高いようだし、崩壊寸前のアインストになど遅れは取らないだろうが……」 しかし、彼女とその使い魔である青い竜が飲み込まれた空間が、マクー空間や幻夢界、不思議時空のようなものだとするなら……。 「……見過ごすのも後味が悪いか」 仕方がない、と呟いて、ユーゼスは脳内にナノチップとして埋め込んであるクロスゲート・パラダイム・システムを最大限に起動させる。 ナノチップサイズでは、その機能にかなりの制限がある。 故に、『それ以上の機能』を発揮するためには『召喚』を行う必要があった。 カァァァァアアアアアアアアア……!! ユーゼスの背後に、巨大な物体が出現した。 金属で形成された、人型の赤い上半身。 巨大な人間の頭部を思わせる、球形に近い下半身。 ―――デビルガンダムと呼ばれるその物体に、ユーゼスは己の肉体を同化させる。 瞬時にデビルガンダムは黒い液状に変化し、新たな別のカタチを形成し始めた。 そして青い光の結晶―――カラータイマーが虚空より現れ、人型に近いカタチの『それ』の胸部のあたりに収まる。 バチバチバチバチ……!! 銀色の身体に黒いラインが入った巨人が、誕生する。 バサッ!! 巨人が胸にあるカラータイマーを光らせると、その背中に悪魔を連想させる黒い翼が出現した。 『………ふむ、問題はないようだな』 光の巨人、ウルトラマンの力を満たした『容器』であるデビルガンダムに、自分自身がパイロット―――生体ユニットとなることで得られる力。 これぞクロスゲート・パラダイム・システムと、光の巨人の力を融合させた新たなる神の姿。 自己再生・自己進化・自己修復の機能を備え、時の流れや因果律をも操る。 神をも超えた存在―――超神形態ゼストである。 ……もっとも、実際にはこの力を以ってしても、ガイアセイバーズに破れてしまったのだが。 『さて……』 ヴゥォオン!! 空間に穴が開く。 ユーゼスが持つナノチップサイズのクロスゲート・パラダイム・システムでは、単体で時空間を超えることは出来ない。 よって、空間を超えるためにはより大規模で強力なクロスゲート・パラダイム・システムを内蔵しているデビルガンダムを使う必要があるのだ。 ゼストは先程発生した赤いゲートの痕跡を発見し、その後を追っていく。 「……!?」 赤い空がある場所。そうとしか表現の仕様がなかった。 タバサとシルフィードが『赤い穴』に飲み込まれ、思わず目をつぶって、次に目を開けたら、ここにいた。 地面はある。 だが、周囲には何もない。 木も、草も、雲も、壊された屋敷の残骸も。 あるのは赤い空と、荒涼とした地面だけだ。 「きゅ、きゅい……! し、静かなのね……」 「静か?」 「せ、精霊の声が、なんにも聞こえてこないのね。静かすぎて気持ち悪いのね……。安らぎを感じるくらいに静かだけど、それが逆に不気味と言うか……」 どうやら、本格的に『自分のいた場所』とは違う場所のようだ。 どうやって脱出すればいいのか、と考えようとするタバサだったが、そこで重大なことに気がついた。 あの『赤い穴』に飲み込まれたのは、自分と、シルフィードと、そして灰として崩れかけた『骨』。 自分とシルフィードは、ここにいる。 ならば、『骨』は―――? 「きゅい!」 タバサが周囲を見回すよりも速く、彼女のマントがシルフィードが咥えられ、持ち上げられる。 ……驚きはするが、それで使い魔を咎めたりはしない。 なぜなら、咥えられながら大急ぎでこの場から離れていく視点から、急速な勢いでその身体と赤い光球を再生させていく『骨』が見えたからである。 「………!!」 出現した時に見た赤い光と、ここに広がる赤い空から考えるに、どうやらここは『骨』のテリトリーらしい。 (勝てるの……?) 戦いになれば、この『骨』はおそらく本領を発揮するだろう。つまり先程よりも強力になっている。 しかも、首尾よく倒せたとして、『この場所』から『元の場所』に戻る方法も、その手掛かりすら分からない。 (こんな所で……!) ギリ、と奥歯を噛むタバサ。 生きる目的も果たせず、こんな……どことも知れぬわけの分からない場所で、自分は終わるのか。 自分自身に課せられた運命を本格的に呪い始めたタバサだったが、その思いは十秒もしない内に掻き消える。 驚くことばかりだった、この一連の事件。 その最大の驚愕が、目の前に現れたのだから。 カッッ!! 赤い空間に、超神ゼストが現れる。 ゆっくりと周りを見ると、すぐ近くには再生を終えたばかりのアインストクノッヘン。少し離れた地点には、青い髪の少女とその使い魔である青い竜。 『………』 ゼストはクノッヘンの方に向き直ると、無造作に歩みを進めていく。 『……グォオオオオオオ……!』 唸りを上げるアインストクノッヘン。 タバサに対して何度かそうしたように、左腕の爪を巨大化させて自身の『敵』へと振るう。 それに対してゼストは、右腕を使ってその爪を弾き、 ドガァァアアアンッ!! 『!』 『!?』 勢いあまって、弾くどころか左腕を丸ごと吹き飛ばしてしまった。 しかしクノッヘンはまるで痛覚など持ち合わせていないかのように、今度は肩にある角を伸ばしてくる。 ヒュッ! ―――その攻撃を回避しながら、ゼストは……ユーゼスは自身の力について考えていた。 (……強力すぎる……!) 先程の爪を弾いた一連の動作は、本当に『弾くだけ』のつもりだった。 今の回避にしても、これほどスムーズに回避できるのはおかしい。 考えられる線としては――― (……ルーンか。おそらくデビルガンダムを『兵器』として認識しているな) 元々デビルガンダムは正式名称をアルティメットガンダムと言い、ライゾウ・カッシュ博士が望んだ『地球環境を再生する機能』と、自分が望んだ『時空間を移動する機能』をあわせ持つ機体だった。 決して最初から『兵器』として開発したわけではないのだが、やはりその性質上『兵器』というカテゴリーに分類されるようだ。 そして、ルーンの効果による身体機能の上昇。 『デビルガンダムの生体ユニットは強靭な肉体を持つ者でなければならない』という東方不敗マスターアジアの理論は、あながち的外れでもない。 自分の肉体をパーツとするのだから、強靭であればあるほど良いに決まっている。 その上で更に女性であれば、三大機能である自己再生・自己進化・自己修復もより強力になるのだが―――まあ、それはこの際どうでもいい。 とにかく結論としては、今の超神ゼストはガイアセイバーズとの戦闘時より強力になっている、ということである。 (……手早く終わらせるか) バリィ……ッ!! 右手にエネルギーを集中させ、腰のあたりに構える。 見ると、クノッヘンは吹き飛ばされた左腕を、その断面から徐々に再生させているところだった。 (……まるでDG細胞だな) そのような感想を抱くが、アインストの肉体構成などに興味はあまりない。 今、自分の目の前にいるのは、ただの目障りな『敵』である。 シュドッ!! ドガァァアアアアアアアアンン!!! 逡巡などは全くなく、ゼストは右手の光球を『敵』にぶつけてその身体を爆散させたのだった。 おかしい。 自分は確か、昨日づけで魔法学院のメイドを辞めて、今日からモット伯の屋敷で働く(どのような『扱い』を受けるのかは、大体察していた)はずだったのに。 気が重いけど給金は今までの3倍だし、故郷のタルブの村では弟や妹たちが、お腹を空かせたヒナ鳥のごとく自分の仕送りを待っている。 8人兄弟の長女ともなると、こういう時に責任が圧しかかってくるのである。 だと言うのに。 「……………」 シエスタは混乱していた。 さあとうとうモット伯のお屋敷が見えてきた、という時に、いきなり骨のバケモノが現れてそのお屋敷を木っ端微塵に壊してしまった。 遠くからだったのでよく分からないが、誰かメイジが現れて骨のバケモノと戦い、バケモノの動きを止めた。 そうかと思ったら、いきなり空に赤い穴が開いて、メイジとその援護していた青い竜、そして骨のバケモノを消してしまった。 そのまましばらく呆然としていると、また空に穴が開いて、中から銀色の巨人と、さっき消えてしまったメイジと青い竜が現れた(角度の問題から、シエスタは超神ゼストがハルケギニアにおいて最初に出現するシーンを目撃していない)。 (……わけが分からないわ……。けど……) あの銀色の巨人。 メイジと竜が着地するのを見ると、全身を発光させて消えてしまったが、あの存在にシエスタは心当たりがあった。 自分が生まれる前に死んでしまった曽祖父から伝え聞いたとされる、おとぎ話。 人々が持てる力の全てを出し尽くし、それでもどうにもならない程の強力な敵が現れたときにやって来る、光の巨人。 「……ウルトラ……マン……?」 シエスタは襟元に留めてある流星のマークを軽く握りながら、銀色の巨人へと思いを馳せる。 「……ふむ、やはり巨大なものでは小回りが利きませんね……」 ロマリア教皇ヴィットーリオは、召喚した自身の使い魔―――ヴァールシャイン・リヒカイトを通じて、青い髪のメイジと、ヴァールシャインより生み出した『骨のような幻獣』の戦いを見ていた。 使い魔とメイジの感覚は、繋がっている。 よって、その繋がりをコントロールすれば、ヴァールシャインを中継点として『骨のような幻獣』の視点を見ることも可能なのである。 「それにあまり大きすぎるものですと、ヴァールシャインも消耗するようですし……」 召喚された際にボロボロだったヴァールシャインは、いまだ完治していない。 それどころか新たな個体を生み出すと、より損傷が酷くなっていく。 『ヴァールシャインの空間』の展開も、あまり良い影響は与えないようだ。 「焦りは禁物、ということですか。しかしあまり悠長にやっていてもいけません。……そうですね、ここは巨大なものではなく、小さな―――人間ほどのサイズの個体を、複数生み出してみましょうか」 それに、出現させた地点もまずかった。 ロマリアとしては大して重要でもないゲルマニアや、国王が今のジョゼフⅠ世に変わってから妙にキナ臭くなったガリアあたりならともかく、トリステインというのは良くない。 あの国は後々、役に立ってもらわなければならないのだから。 「出現地点にある程度のコントロールは利きそうですが……ふむ……」 ならば、次はどこに出現させるべきか。 出現させても大して問題はなく、むしろ出現させた方が良く、出現させた個体の能力も測れる地点。 「……アルビオンあたりにでも出してみますか」 ちょうど内乱の真っ最中であるし、戦いには事欠くまい。 『レコン・キスタ』という集団も、エルフを倒して聖地を取り返そうという理念自体には理解も共感もするが、そのやり方に問題がありすぎる。 エルフを倒すためには『虚無』が必要不可欠であるのに、『虚無』の担い手である可能性を持つ、王家の血を引く者を殺してどうしようというのか―――まあ、これは知りようのない情報ではあるが。 それを差し引いても、今までのアルビオン王国、ひいてはハルケギニアの歴史や伝統を真っ向から否定するような連中である。 百害と一利が同時に存在するような集団だが、百害を除くことと一利を得ることを天秤にかけるとするなら、前者を取るのは当然だ。 「今更、『彼ら』を投入したところで、大勢に変化があるとは思えませんが……」 何しろ、敵は5万の兵。 ちょっとやそっと数を減らしたところで、どうにもなるまい。 何とかしてやりたいとも思うが、あまり数を出しすぎるとヴァールシャインが本当に『崩壊』してしまいかねない。 「まあ、しばらくは『実験』に徹するとしましょう」 そうして、ヴィットーリオはヴァールシャインからどのような個体が生成可能なのか情報を引き出すため、彼が安置されている部屋へと向かう。 「……修正する……世界を……静寂……の……」 自分の思考に、僅かずつではあるが雑音のようなものが混ざりつつある、とは気付かないままで。 「……『始まりの地』に、未だ人間が存在していなかった時、『思念体』が命の種子を飛ばした」 「………」 「その種子は銀河を超え、次元の壁を超え―――多くの世界へと散っていった」 「………」 「数多くの世界に存在する『人間』の姿形が同一なのは、その大元が同一だからじゃろうな」 「……ということは、このハルケギニアにもその『種子』とやらが飛んできたのか?」 「可能性はある。 ……そして、その種子から生まれた生命体たちを監視することを目的とするのが、奴らじゃ」 「ほう……」 テーブルを挟み、椅子に座りながら会話するガリア王ジョゼフと黒いローブに身を包んだ―――ダークブレインの仮の姿である―――老人。 老人は今、ブレイン卿と名乗ってグラン・トロワに住み着いていた。 「あの『監視者』たちは、育った生命体が宇宙に『不適切』であると判断した場合、その生命体を排除するように仕組まれておる」 「では、ハルケギニアの人間たちは『不適切』だと? ……まあ、言われてみれば思い当たる節がないでもないがな」 ジョゼフがハルケギニアの貴族たちの振る舞いを思い返していると、ブレイン卿から訂正が加えられた。 「いや、アレはどちらかと言うと、その『監視者』のはぐれ者―――というところじゃな」 「はぐれ者?」 「そう。大方、何かの手違いかトラブルで、次元の狭間にでも押しやられた個体が、偶然この世界に転移してきたとワシは予測するが」 髭を撫でつつ、自分の考えを述べるブレイン卿。 「アレもワシらと同じく、古(イニシエ)の……」 小さく漏らした声だったが、それをジョゼフは聞き逃さない。 「…ほう、ほうほう。聞いたぞ、今のセリフ。―――ふむ、薄々ではあるが、お前の正体が読めてきた」 「……なかなか耳ざとい男じゃな、お前は」 ブレイン卿はそんなジョゼフに感心するが、当のジョゼフはそんなことには構わずにブレイン卿の―――ダークブレインの能力について話してきた。 「しかし、それにしても凄いな、お前の『暗邪眼』とやらは! ガリアからトリステインまでの距離をものともせず、その目に遠く離れた景色を映すのだから!」 「……単純な距離程度なら、大して問題でもないわい。しかも同じ大陸の中じゃしな」 「ははは、そうか、大したことがないか! ……いや、お前にとっては大したことはなくても、俺にとっては『大したこと』でな。お前の視界に俺の視覚を繋げてもらうことで、俺もまた世界を看破できる。これは感動ものだぞ! ……いや、お前を召喚してから、俺は感動し通しだがな!」 興奮するジョゼフを冷静に見ながら、ブレイン卿は淡々と返答していく。 「―――ワシが本当に『世界を看破』すれば、お前の脳なんぞ一瞬でパンクするわい」 そんなブレイン卿の言葉にも、ジョゼフは『そうか、そうか』と愉快げに応えるだけである。 (……この男……) なかなか尺度が測りにくい、と『ブレイン卿』ではなく『ダークブレイン』として考察する。 「それはそうと、お前の『敵』とやらに受けた傷はどの程度まで回復したのだ?」 「……そうそう簡単に治るものではなくての。今のところ、回復度合は―――3割、と言ったところか」 それを聞いたジョゼフは、うーむ、と唸る。 「3割か……。……ふむ、まあ、そう焦ることでもないな。何事も、一気にやってしまっては面白味に欠けてしまうからな」 まるで玩具や歌劇を楽しみに待つ子供のようである。 「おお、そうだ、あの赤い世界に現れた銀色の巨人! あれも気になるな! 教えてくれ、ダークブレイン!」 「……アレについては、ワシも推測が多くなってしまうんじゃが」 どうも自分が戦ってきた『光の巨人』とは、タイプが違うようである。それに妙な能力も付随している。 しかし、当面の『協力者』に問われたからには答えなければならないので、ブレイン卿はとりあえず自分の知っている『光の巨人』についての情報をジョゼフに話すのだった。 アインストと戦闘を行った、翌日の朝。 今日も早朝から洗濯を行うため、ユーゼスは洗い場にやって来た。 水が冷たいな、などと思いつつ、ジャブジャブと主人の下着を洗っていると、 「おはようございます、使い魔さん」 もう聞こえないはずの声が、横から響いてくる。 見ると、そこには黒髪のメイド―――シエスタが、相変わらず大量の洗濯物を抱えて立っていた。 「……勤め先が変わった、と聞いたが」 「あ、はい、そうなんですけど、そのお屋敷がバラバラに壊されちゃったんで……」 仕方がないので学院に戻ったら、 『じゃあ今まで通りにここで働きなさい。……それと、君が見たという“骨のバケモノ”については、なるべく他言しないように。無用な混乱を招きかねんからな』 と、学院長であるオールド・オスマンに言われてしまったのである。 「別のお勤め先も見当たらないので、お言葉に甘えることにしました」 「そうか」 意外とアバウトな組織だな、とユーゼスは思った。……が、たかがメイド一人が辞めようが雇われようが、自分には大して関係もない。 無言で洗濯を続けるユーゼスの横で、シエスタもまた黙々と洗濯をこなしていく。 魔法学院の、新たな一日の始まりである。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
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「るーるるーるーるるー♪」 グラン・トロワに響く微妙な音程の歌声。 その巨体には似合わぬ少女じみた声。 空の色を映したような青い鱗が陽光を反射し輝く。 今日のように天気が良い日は決まって、 シルフィードは嬉しそうに歌を歌う。 最初は物珍しさから人が集まっていたのだが、それも毎日続けば飽きるのも当然。 彼女の歌声は王宮で奏でられる音楽には遠く及ばない。 どちらかといえば酒場に入り浸る酔っ払いの鼻歌に近いものがある。 これを苦痛に感じる侍女や召使の間で、 “誰がシャルロット様に嘆願に行くか?”を相談中らしい。 彼女がいる中庭から王宮を覗けば、窓の向こうで本を読み耽る一人の少女。 気ままに歌うシルフィードを気にも留めず、白い指先がページを捲る。 晴天の下、青い主従はそれぞれ思い思いに自分の時間を過ごしていた。 読書に没頭する彼女の姿を見ながらベルスランは深い溜息をついた。 シャルロットの自由時間のほとんどは読書に割り当てられている。 元々、内向的な性格だった事に加え、王女という立場から気軽に外出もできず、 ましてや国政に忙しくオルレアン王も親子の時間を作れなかった。 もう少し子供らしく外で遊びまわっても良いだろうにと思っても詮無き事。 この王宮の中、彼女には共に遊ぶ友人もいないのだ。 厨房にはドナルドの息子トーマスもいるが彼との遊びも室内に限られる。 それに次代のコック長を担うに相応しい実力を身に付けようと、 父親の下で料理の猛特訓を受けているらしく忙しいという話だ。 たまに出掛ける事があっても自身の使い魔に乗って遊覧するだけ。 それもシルフィードにせっつかれて仕方なくだ。 ふと同年代で彼女の身近にいる少女を思い浮かべて、 ベルスランは大きく首を横に振るった。 “あの方だけはダメだ”と。 シャルロット様同様、他に遊び相手がいなかったからか、 よくイザベラ様はシャルロット様を連れて遊びに出かけていた。 それだけなら微笑ましい光景だろう。 だが彼女の提案するものは遊びというには度が過ぎていた。 ある時には騎士団の目を盗んで竜を奪い遊覧飛行を楽しんだり、 またある時には、寝ているオルレアン王の髭を前衛芸術の如くカットしたり、 怪物退治だと領内に出没するミノタウロスを倒しに行った事もあった。 幸い、ジョゼフ様の先見性とカステルモールをはじめとする騎士団の活躍もあって 事なきを得たが、一歩間違えれば命の危険さえあるものばかり。 戻ってきたお二人、特にイザベラ様は徹底的に叱られていた。 だが、その時に声を張り上げていたのは夫人ばかりで、 私は一度としてジョゼフ様が怒っているのを見た事が無かった。 あるいは、父親に心配されたくて怒られたくて、 そのような振る舞いをしているのではと思ったほどだ。 しばらくして互いの立場が明確になるにつれて二人は疎遠になった。 今では住まいどころか国さえも違う。 イザベラ様は遠く離れたトリステインの魔法学院にいる。 出来ることならシャルロット様も通わせて友人を作って欲しい。 しかし一国の王女にはそんな自由も許されないのだ。 それでも少しは気を紛らわせてもらおうと、 ジョゼフ様の計らいでトリステイン魔法学院の『使い魔品評会』への出席が決まった。 無論、イザベラ様が召喚した使い魔を発表するという理由でだ。 これにはトリステイン王国のアンリエッタ姫殿下も参加されるという事で、 二国の王女が集まる大規模な催しになるだろう。 コンコンとノックする音が聞こえ、ベルスランが扉を開けた。 手紙を携えた侍女が恭しく頭を下げてそれを差し出す。 シャルロット宛ではなく自分宛だと確かめた後、手紙を開く。 そこに書かれた字はジョゼフの物で要件だけが綴られている。 途端にベルスランの顔が苦みばしったものへと変貌した。 「どうかしたのね?」 彼の変化に気付いたシルフィードが声を掛ける。 シャルロットも声には出さないまで視線を向け様子を窺っている。 それに慌てたようにベルスランは手紙を握り潰して説明する。 「い、いえ、大した事ではないのですが。 例の『使い魔品評会』を延期をしたいという、 トリステイン側の申し入れがありまして……」 「ええー、どうして!? せっかく楽しみにしてたのに!」 もしかしたら召喚された使い魔の友達が出来るかも、 と期待していたシルフィードから驚きと不満の入り混じった声が上がる。 シャルロットの表情にも微妙に落胆の色が見える。 手にしたハンカチで冷や汗を拭いながらベルスランは理由を告げた。 「それが……生徒の一人が使い魔の召喚に失敗しまして、 その生徒が召喚を終えるまで、しばらく待って欲しいとの事です」 返ってきた答えに、ぽかんとシルフィードは口を開ける。 シャルロットもその答えは予想していなかったのか、驚きの表情を浮かべた。 そして訪れた沈黙を打ち破り、シルフィの爆笑が響き渡った。 「きゅいきゅい! 召喚に失敗するメイジなんて初めて聞いたのね!」 「はあ……」 項垂れるように肩を落とすベルスランからシャルロットは本へと視線を戻す。 たかが生徒一人が失敗したぐらいで王家が集まる行事を延期するとは思えない。 考えられる可能性は一つ、その生徒が重要人物だという事だ。 使い魔が召喚できなずに品評会に臨めば一国の面目が潰れる、そんな人物。 そして、その条件に当て嵌まるのは彼女の知る限りでは唯一人。 それを察して彼女は戸惑うベルスランから目を逸らした。 そんな彼女の配慮にも気付かずシルフィードは笑い続ける。 「どんななのか一度顔を見てみたいのね!」 「だから、わたしは使い魔を召喚したって言ってるだろ!」 ドンと机に拳を叩きつけながら力の限り吼える。 わたしの目の前には白い視線を向ける教師数名。 あの後、必死に探し回ったけど使い魔の影も形も見当たらなかった。 無能な連中は私が失敗したと信じているが、わたしはこの目で確かに見た。 勝負に負けたくないから嘘をついていると奴等は決め付けているのだ。 その証拠に、続けて何度も召喚を行なったが使い魔は出てこなかった。 当然だ。使い魔は一人につき一体、それ以上は召喚できない。 なのに連中は召喚が成功しないのは、わたしの未熟だと言い張る。 議論はいつまで経っても平行線のまま。 「ああもう! もうアンタらと話す言葉はないね!」 それだけ言ってわたしは自室に引き篭もった。 周りから授業初日から不登校になったと騒がれたが気にしない。 そもそも使い魔が見つからない限り進級できないのだから一緒だ。 さすがに教師達もこれはマズイと思ったのか説得を試みる。 この時からイザベラの戦いは始まりを告げた。 最初に部屋を訪れたのは熱心な教師と知られるミスタ・コルベール。 「何事も最初から全てが上手くいくとは限りません。 挫折した時に、どうやって立ち直るかが大切なのです。 それは学問に及ばず人生においても……」 「うるさいハゲ。未練がましく生えてる残りの毛を毟るぞ」 そうまで言われては、さしもの彼も引き下がらざるを得ません。 第一、説教を聞き慣れている彼女にとっては今更です。 優しい言葉や激しい叱咤など効果はありません。 次に訪れたのはオスマン学院長の秘書ミス・ロングビル 「貴女が目にした“使い魔らしきもの”はどれぐらいの大きさでした?」 「そうだね。竜よりは遥かに小さかったけど、猫や犬よりは大きかったね」 「そうですか。何か不審な動きは見せていましたか? 敵対的な行動とか」 「さあ? それこそあっという間だったからね。 もし向こうにその気があったら仕掛けてきたと思うよ」 色々とイザベラが目にしたものについて聞いてきました。 同じ事を何度も聞いて嘘を言っていないかを確かめます。 それで気が済んだのか、彼女は何も言わずに部屋を立ち去ります。 視界から消えていく黒髪を眺めながらイザベラはその背に手を振り、 「……何しに来たんだい、アンタは」 率直な感想を口にしました。 遂に教師達は彼女の熱意に負け、イザベラの言葉を信じる事にしました。 そして彼女の部屋に三人目の人物が訪れました。 「ええと、日頃から幻覚とか幻聴はありますか? また幼少期に、仮想の友達を作って遊んだ経験は?」 「帰れ」 入室するなりそんな事を言い出す精神科の水メイジの顔に投げつけられる枕。 退室最短記録を引っ下げて部屋を後にした彼の声が扉越しに聞こえます。 「やはり慣れない環境でストレスが溜まっているようです。 幻覚の他に、暴力的な言動が目立ち……」 「いや、ガリアでの彼女の行動を聞く限りではいつも通りじゃろう」 「そうですか。そんな前から心が病んでいたのですね」 ああ、うるさいな。 いいかげん放っておいてくれ。 そんな暇があるなら、さっさとわたしの使い魔を探して来い。 しかし彼女の願いも虚しく次々と人が訪れます。 「イザベラ様。貴女が見たのは亡霊です。 私めがお払いしてあげましょう。……はい、もう大丈夫です」 「出てけ」 「光の屈折によって砂漠などではありもしない街が見える現象が…」 「黙れ」 「では、こうしましょう。 品評会には適当な使い魔をでっち上げて、 貴女様の面目を保てるように致しますので」 「殺すぞ」 もはやイザベラは完全な面会謝絶を決め込み、 ほとほと困り果てた教師達を目にした赤毛の女生徒が声を上げた。 「いいかげん放っておけば良いじゃないですか? 本人にやる気がないなら退学させれば済む話でしょう」 「そうもいかん。既に『使い魔品評会』の通達を出しておる。 今更、中断するなどワシの一存では決定できん。 とはいえ、このままでは延期もやむなしか」 オスマンの言葉にキュルケの眉が顰められる。 せっかくの自分の晴れ舞台が延期されるなど彼女には我慢ならない。 杖を振り上げ、首根っこ引っ掴んででも引きずり出そうとする彼女を教師達が必死に抑える。 ようやく怒りの収まったキュルケが教師達に訊ねる。 「大体、食事はどうしているの? 食堂には姿を見せないのに」 「それなら大丈夫です。 夜中に彼女が部屋から出てきて厨房に向かうのを何度か生徒が目撃しています。 恐らく、そうやって飢えを凌いでいるんでしょう」 ぴくりとコルベールの返答にイザベラは反応を示した。 夜中に厨房に盗みに入るなどというこそ泥のような真似はしない。 昼間、皆が授業を受けている間に堂々と厨房に入ってるのだ。 つまり、この部屋からわたしじゃない誰かが出て行った? わたしが寝ている間に? わたし以外に誰もいない部屋から? 雷に打たれたかのように彼女は跳ね起きた。 そいつだ! そいつがわたしの使い魔だ! 閃きは確信へと変わり、彼女は自分の部屋をくまなく調べた。 床を這いずり回り、天井を杖で叩き、壁の反響音を聞き比べる。 その努力の結果、彼女は部屋に細工がない事を完全に証明した。 「……こうなったら向こうから出てくるのを待つか」 ぜえぜえと息を切らせながらイザベラが呟く。 夕食前の僅かな間、部屋を出た彼女は大量の毛布を持って戻ってきた。 そこら中の生徒の部屋から盗……拝借してきた物だ。 まずはベッドの上に毛布を丸めて膨らみを作る。 そこに毛布を被せてあたかも人が寝ているかのように見せかけた。 残った毛布は丸めて床に敷き詰め、壁の端に簡易のベッドを作る。 そこに腰掛けて彼女は時間が経つのを待った。 いつもならば寝ている時間。 しかし彼女は目蓋を擦り必死に睡魔と戦う。 もし、この部屋に誰かが潜んでいれば眠ったと勘違いして出てくる。 その決定的な瞬間を取り押さえる算段だった。 彼女の大きなあくびが部屋中に響き渡る。 ついに眠気に屈したのか、彼女はベッドに戻り偽装の毛布を弾き飛ばした。 そして寝るスペースを作ると、その場に横たわって寝息を立て始めた。 それは次第にいびきへと変わって熟睡している事を周囲に伝える。 隣室の生徒達と、そしてこの部屋に潜む何者かに。 窓際の壁に亀裂が走る。 その壁の向こう側に部屋などない。 少なくとも人が入れるような厚みではない。 それにもし壁が裂けたなら、その痕跡は必ず残る。 目を凝らせば裂けていたのは壁ではなく空間だった。 そこから辺りを窺うように向こう側から目が動いていた。 イザベラが完全に寝入っているのを確認すると、 空間の裂け目から足が、続いて手が出てきた。 暗くなった室内ではハッキリとした姿は分からないが、 あるいはイザベラよりも小柄かもしれない。 足音を殺してゆっくりと扉へと向かう影。 その直後、壁際で折り重なった毛布が崩れ落ちた。 「え?」 驚きの声を上げた瞬間、飛び出した腕にがっちりと掴まれていた。 それは崩れ落ちた毛布の中から伸びていた。 被さった毛布を払い落としながら、ゆっくりと少女は姿を現した。 透き通るような青い髪、相手を睨みつける風貌。 それはベッドで寝ているはずのこの部屋の主だった。 咄嗟に少年はベッドの上に視線を移した。 そこには少女の姿はなく、ただ小さな人形が転がるのみ。 「ようやく捕まえたよ!」 「ひっ!」 イザベラの叫びに脅えた少年が裂け目に逃げ込もうとする。 腕を引こうとする相手の動き、それに合わせてイザベラは相手を突き飛ばした。 二人の身体が重なりながら空間の裂け目へと転がり落ちる。 急に部屋の明るさが増し、イザベラの視界は白に染まった。 ようやく目が慣れ始め、周囲を見渡す彼女は驚愕に固まる。 部屋には大きな暖炉とライカ欅製の立派なテーブル。 その上に並べられているのは、どれも王宮にあるような高級酒ばかり。 暖炉と共に部屋を明るく照らすのは幾つものガラス細工のランプ。 本棚には隙間もないほど様々な本で埋め尽くされている。 決して壁の隙間に作れるような部屋ではない。 部屋の端で強く背中を打ちつけたのか、 奇妙な格好の少年が苦悶の声を上げていた。 縞の入った服装がどことなく囚人の物を思わせる。 帽子も服も統一感がありすぎて尚更その印象を強める。 しかし楽に組み伏せられる相手だと見て、彼女は何ら警戒する事なく少年と近付く。 そして襟首を掴んで彼の身体を引き起こした。 「ご、ごめんなさい……」 少年の謝罪などイザベラは聞く耳を持たない。 そんなものは聞きたくない。 他に聞きたい事はいくらでもある。 まずお前は何者なのか? この部屋は何なのか? どうやって作ったのか? だけど、それよりも先に言うべき事がある。 イザベラは大きく息を吸い込み、そして止めた。 恐怖と緊張で固まる少年の目が彼女へと向けられる。 そして。 「なんで使い魔のくせに、わたしより良い部屋に住んでるんだい!」 があーと吼える少女に、少年……エンポリオは目を丸くするしかなかった。
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ジークフリート 生息地 空白の跡地 外見 ステータス HP 753 MP 591 攻撃力 829 守り 567 魔防 645 素早さ 843 武器 [風]風の書Lv.5 所持金 1036G 技 シルフィード 守りの風 天使の羽 夢幻双乱舞 鳴き声 勝利「悪ィ、手加減したつもりだったのになぁ…」 敗北「参った!完敗だよ。」 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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Ver. 1.4EX2 カードNo. 1-4-204 種類 ユニット レアリティ UC 名称 シルフの空士 属性 赤 種族 天使 CP 2 BP 6000/7000/8000 アビリティ ■ジェネレイト<ウィルス・炎>このユニットがフィールドに出た時、あなたのフィールドにいる【ウィルス】ユニットを除外する。その後、あなたのフィールドにユニットが4体以下の場合、あなたのフィールドに<ウィルス・炎>を1体【特殊召喚】する。そうした場合、このユニットに【無我の境地】を与える。 Ver.1.4EX2のジェネレイトサイクルの赤。 効果耐性を持つ小型の戦闘要員を召喚できるが、そのためには自陣に<ウィルス・炎>を召喚しなければならない。 この【ウィルス】によるダメージが相手からの除去を助けてしまう恐れもあるため、 なるべくは被害を抑えられる先行初手や、ユニット破壊のコストがある暴走する魔剣などと合わせたい。 【天使】のため天空のアイテールとシナジーが組める。 その際、アイテールの素のBPが低いことも考慮しておきたい。 フレーバーテキスト 空戦に特化したシルフの女空士。とある任務中、破壊と創造の渦に巻き込まれ、新たな力を手に入れた代わりに、大きな代償を払うことになった。 ユニットボイス タイミング ノーマル フォイル ■ジェネレイト もっと速く 熱き風よ! アタック 征くぞ! 貫く! 関連項目 共通モデル・モーションシルフの戦士 シルフの騎士 ジェネレイトサイクル Ver 1.4EX2で追加されたユニット群。 全てがコスト2で、召喚時に自分のフィールドに【ウィルス】を【特殊召喚】し、 これに成功した時にキーワード能力付与などの効果が発動する。 属性 カード名 特殊召喚するウィルス 効果 赤 シルフの空士 ウィルス・炎 【無我の境地】 黄 エンシェントドラゴン ウィルス・費 【加護】 青 ONI総長 ウィルス・黙 捨札のインターセプト回収 緑 ストレンジ・アイ ウィルス・力 【不屈】
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前ページ次ページゼロと聖石 ワルドの杖に篭るエアニードルと、タバサの杖を媒体にしたアイスブランドがぶつかり合う。 交差する瞬間に起こる剣戟。 距離が離れた瞬間に、私はブラストガンを連射。 しかし、そこは流石元魔法衛士隊体長。 風竜の手綱を握り、見えない弾丸を回避。 当たりそうな弾は円錐状に張った障壁でしのぐ。 洗練された動きだ。 「キュルケ」 「ええ、風竜との連携がうまくいっていない。付け入る隙はあるわ」 「じゃあ、よろしく」 え、と思う間も無くジャンプするタバサ。 思考が真っ白になるが、意図に気が付いてブレイズガンを構える。 その間に、シルフィードがものすごい勢いでワルドの風竜に体当たり。 お互いの速度がゼロになった瞬間、私はブレイズガンをワルドの杖に連射。 エアニードルに阻まれて破壊は出来なかったが、杖を持つ手を弾く。 同時に風を切る音。 アイスブランドをワルドの風竜に突き立てるように落ちる。 風と風と風の三乗スペル。 氷の刃が突き立った瞬間に、内側から風の刃が内部を蹂躙する。 それを見届けたタバサが、即座にシルフィードへと舞い戻る。 「エアスパイク、シルフィードとの連携だからツインスパイク」 「きゅいきゅい(頭コブできたのね)」 「というか、ためらいも無くその連携が出来るあんた達が怖いわ」 眼下には絶命し、墜落する風竜。 同属が落ちていく姿を見て、シルフィードは呟いた。 「きゅいきゅいきゅい(勝てるかどうかはランナーしだいだったのね)」 タバサはシルフィードを杖で叩く。 何を言っているか解らない私は、その光景に首を傾げるのだった。 レキシントン号の周囲にいた戦艦約五隻。 今現在こちらに向かって進行してくる。 村の内部では一丸となって炊き出しが行われている。 最初は手伝おうと思ったのだが、休んでなさいと止められた。 シチューを啜り、心を落ち着ける。 「あ、いたいた! シエスタ!」 声のした方向に顔を向ける。 そこには、ギーシュ様が立っていた。 「ギーシュ様、なぜここに!?」 「本来なら君を守りに、と言いたい所なのだが…残念ながら今の僕はメッセンジャーだ」 確かに。 魔法というスキル自体は心強いが、数が勝負のワルキューレでは話にならない。 自分でも解るひどい評価を下しつつメッセージを聞くことにする。 「私とタバサはルイズの援護に行く。シエスタはとにかく時間を稼いで―――キュルケより」 それだけで、この戦いの光明となった。 やはり、ルイズ様は来てくれた。 私はその到着を完全な体勢で迎えなければ。 「張り切ってるな、相棒」 「こんなところで死ぬわけにはいきません。ルイズ様を迎えなくてはならないのですから」 デルフを振り、構える。 トウホウフハイがクェ、と鳴いた。 さあ、お迎えしよう。 ルイズ様を迎えるための準備をしよう。 笑いながら皆を迎えるために。 しつこく飛んでくる砲弾をかいくぐりながら詠唱。 目標はレキシントン号。 こいつを潰して、早いとこタルブ村に行こう。 私の所にキュルケとタバサが来たということは、シエスタの所にもギーシュが行っているという事だ。 とりあえず、目の前の敵に集中。 砲撃をかわしながら紡ぐは、古に失われた虚無の系統。 今まで使い手のいなかった失われし系統。 詠唱の大半が終わり、放とうとした瞬間に気が付く。 レキシントン号の護衛艦の内、五隻ほどがタルブ村の方向へ向かっている。 それでも魔法は止まらない。 「エクスプロージョン!!」 放たれた光は、レキシントン号と周囲の戦艦を巻き込んだ。 光によってマストや風石が破壊され、墜落していく。 地上のアンリエッタ様はその光景に驚きながらも、軍を突撃させた。 精神力をエクスプロージョンによって根こそぎ持ってかれた。 少しでも気を抜くと、意識は闇の中に閉ざされてしまう。 それは駄目だ、私はシエスタの元に行かなくちゃいけない。 かすかに薄れる視界の中、私はミメットをタルブ村に向けて飛ばした。 降り注ぐ砲撃、鳴り止まない爆音。 襲い掛かるレコンキスタの兵を一刀両断にする。 タルブ村事態にも砲撃を受けているが、被害はそう大きくない。 ラ・ロシェール周辺の空が急に明るくなる。 そちらを見ると、巨大な光の玉が戦艦を焼いていた。 ルイズ様が巻き起こしたものだ。 確証はないが、その直感を信じながら剣を振るう。 横ではギーシュ様がワルキューレで懸命に戦っている。 シルキスが岩石を落としてメイジを蹂躙する。 背後では刀に宿る怨霊が、周囲の敵をなぎ払う。 槍に矢が飛び交う。 あちこちで響き渡る怒号。 私は、ルイズ様の到着を待ち続けた。 かすむ視界の中、私はタルブまでたどり着く。 残された精神力はわずか。 それでも、私は全力を振り絞る。 詠唱が短く、威力の有る最高峰の魔法を放とうとする。 「震えろ…」 誰がこの行動を褒め称える? 後世の歴史家は「最低で、最悪の行動」と評価するかもしれない。 そんなボロボロの意識で何が出来る? 心の問いかけに、私は声に出してこう言った。 「そんなことは関係ない。私が、私の魂が自分のしたいことをしろと、そう告げている」 だから、私はこの選択を後悔しない。 たとえ、死ぬことになろうとも。 生きて、彼女達の元にたどり着けるのなら。 それが、希望のない絶望の道だとしても。 「命つなぎ止める光……」 ああ、わかる。 体が変化を始めている。 髪の毛が銀に染まり、背中に違和感を感じる。 「力の塔となれ………」 背中が弾け、翼が飛び出す。 頭から、小さな翼が生える。 完全な異形/聖天使と化してでも。 それでも。 ――― わたしは、みんなの所にいくよ。 だからみんな、必ず待っててね ――― 「完全アルテマ!」 私は見た、ルイズ様が来てくれたのを。 私は見た、ルイズ様がふらふらになりながら魔法を使おうとしているところを。 私は、見てしまった。 ―――ルイズ様が、聖天使になってしまった瞬間を。 そして、聞いてしまった。 ルイズ様の、心の声を。 ――― わたしは、みんなの所にいくよ。 だからみんな、必ず待っててね ――― 「ルイズ様ぁーーーーーーー!!!」 戦艦五隻が、アルテマの光に包まれる。 膨大なまでに荒れ狂う魔力が、全てを包み込む。 そして、ミメットから落ちてゆくルイズ様。 生涯でも最速のスピードで戦場を駆け、落下地点に回りこむ。 落ちてくるルイズ様に合わせて飛び上がり、受け止める。 受け止めたルイズ様は、眠っていた。 体を調べても、翼は消えていた。 安堵の息をつきたかったが、つけなかった。 普段から聖石に触れている私は悟ってしまった。 ―――もう既に、人間という種族から外れてしまったのですね。 今まで、一房だけ銀に染まっていた髪の毛が、全体に広がっていた。 ルイズという貴族を象徴していたピンク色の髪の毛が、一房だけになっていた。 「サジタリウス、ルイズ様は」 その問いに対して、サジタリウスはかすかな光を放つだけ。 とりあえず、生命に別状はないみたいだ。 周りを見ると、アルテマの光で敵は混乱。 こちら側も呆然としているが、この程度ならたきつければ何とかなる。 「全員、畳み掛けなさい! ルイズ様が作ってくれたチャンス、無駄にするなぁぁ!!」 私は絶叫し、ルイズ様を運びながら後退。 爆音の響かない戦場を、怒号に包まれた戦場をただひたすら後退した。 前ページ次ページゼロと聖石
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同盟成立 凪様 モカ・コールテン様 交通手段 ウォンカーベル・デュラナ様 ビショップ・アウル・ガンタート様 相互、非常時の協力、扶助 リイ様 アレクシ様 世界を作り変える 同盟破棄 アダマス・セシュ・ワスエノマ様 シルディ・ザルド様 協力援助 CP成立 ティアスプラート・ルナ・セラフィード様 柘植羅国様 リフィト様 ベギ様 フェデリコ・オプチミスト様 玖琅様 エルン様 イザラ様 ラグノア様 ヒユリ様 マリン・シルフィード様 フリューゲル・シェムック様 ヴィリトリス・ウエステンフルス様 ダリル様 鶻鵃様 フィリップ様 アレクシ様 セリーヌ様 シアン・オスクリダ様 シリル・オスクリダ様 オズ様 ビショップ・アウル・ガンタート様 歴戦以前からの設定 アダマス・セシュ・ワスエノマ様 シーラ様 ♪
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>>back >>next スクライド・零 17 「おいでなすったな」 ゴーレムを目に入れたカズマが凶悪な笑い顔でアルターを発動させた。 まず最初に仕掛けたのはタバサだ。自らの身長より大きな杖を構えルーンを唱えると 巨大な竜巻が発生しゴーレムにぶち当たる。 続けてキュルケが胸元から杖を引き抜きルーンを唱える。杖から伸びた火焔は 狙い違わずゴーレムを捉えた、が。 「効いてない!?」 「前より頑丈」 「上等ぉ!」 二人を飛び越えシェルブリットの一撃。 さすがにこいつはゴーレムも腕でかばう。しかしまたも崩れるのはその部分だけで その腕もやはり瞬く間に修復されてしまう。 「相変わらずかよ」 忌々しげにつぶやくカズマ。 「術者を倒さないとどうにもならないわよ~」 魔法の炎を振りまきながらキュルケがのんきに声を上げると、タバサの指笛が響き渡った。 「杖は取り返した。退却」 それに異をとなえる者がいた。 「ダメよ、ミス・ロングビルが無事かもわからないのに」 ルイズである。彼女も魔法を唱えてゴーレムに攻撃している。もちろん不本意ながらの失敗魔法なのだが、 その爆発は修復こそされるモノのキュルケの炎などと違い確実に表面をはじき飛ばしている。 「大丈夫」 タバサが言う。 「もしフーケに捕まっているなら、私たちが抵抗しないように人質として連れてくるはず。 だからきっと大丈夫」 納得していない表情のルイズにカズマが叫ぶ。 「そんなに気になるなら自分で探してこい。こいつはオレがぶちのめす!」 「ダメよ、そんなの。使い魔を見捨てるようなことができるわけないじゃない」 この間にもゴーレムの攻撃は続いている。 全力で破壊してしまってはまたその隙に反対の腕が襲ってくるため、 カズマのシェルブリットは速い回転でゴーレムをいなすようにさばいていたが、 それを真っ正面から受け止めて振り返る。 「そんなん知るか!じゃあテメーはどうしたいんだ」 そうこうしているうちに上空に影がよぎる。タバサの使い魔である風竜のシルフィードが 呼びかけに応じて現れたのだ。そして滑空に遷り超低空でタバサをかっさらうと、 さらに返す刀でキュルケもすくい上げた。 「ちょっとタバサ、あの二人も助けないと」 「無理、ゴーレムに近すぎる」 そんな、とつぶやくとキュルケはシルフィードの背で怒鳴る。 「ルイズ! カズマ! 援護するから離れて」 カズマは相変わらずルイズと向き合っていた。 ゴーレムが強引に腕を引き抜き反対側で殴りかかるのを、見もせず受け止めルイズを見つめ続ける。 「え、どうすんだ、ルイズよぉ」 ゴーレムの腕は縫いつけられたように、つかんだまま握りこんだカズマの拳から離れることができない。 反対側の腕で手首あたりを殴りつけ、自ら破壊して脱出する。 修復するまで使えない腕の代わりにその足をおろす、それもルイズに向かって! そう、30メイルものサイズの歩幅からするとカズマを踏みつぶすのもルイズを狙うのも なんら変わらないのだ。しかもカズマだとその足をつぶされる可能性の方が高い。 「なにぃ!」 「ルイズ、手を!」 キュルケの声。 シルフィードが舞い降りること三度目。間一髪ルイズはゴーレムの足の下を逃れ キュルケの腕に抱きかかえられて空へ。 「余計な色気出してんじゃねぇぞ、コラ」 その踏み込んだ足はカズマの一撃で粉々に砕かれ、結果自分で殴り壊した腕の修復が 完了していなかったゴーレムは、長さの食い違う手をついたせいで転倒する。 「今だわ」 ルイズはキュルケの腕を振り払うと、破壊の杖をひっつかんでシルフィードの背から飛び降りる。 「ちょっとルイズ、何やってるのよ!」 「レビテーション」 タバサの魔法により、からくもルイズと地面の激突は避けられた。 「お前、何しに来た」 「決まってるでしょう。あのゴーレムをやっつけるのよ、この【破壊の杖】で」 決意に満ちたルイズの目。すでに先ほどカズマに『どうしたい?』と問われたことは 頭から消し飛んでいる。 だがそれを聞いて腰が砕けたカズマ。 「ルイズ、それ使い方わかってんのか?」 若干呆れが声に潜んでいる。 「わかんないけど、でも、それでも私は貴族なの。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ」 カズマはその声を聞いている。 「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」 そう言って【破壊の杖】を振るった。 「なんで、なんでよ?」 どんなに魔法を使う要領で【破壊の杖】を振り回しても何も起きない。 私では使えないのか、やはり自分は『ゼロ』なのか? そこへカズマが声をかけた。 「ルイズ、お前の『弱い考え』はなんだ」 「なによそれ。そんなことが今なんだって言うのよ」 ゴーレムの手足の修復はもう終わる。 「答えろ!」 「わかんない! そんなの!」 「いいから答えろ!」 ルイズは思う、こんなじれったいことしていられないのに! だがカズマの目はそらすことを許さない。 「それは、ここで負けてみんなやられちゃうこと」 なんとか言葉をひねり出す。が、 「違う! オメーにはもっと『弱い考え』があんだろうが」 一言の元に否定される。しかし冷静に考えれば惨(むご)いセリフではある。 「違うとは言わせねぇ。テメーにはあるはずだ。お前はもうそれに『反逆』してるはずだ!」 もうゴーレムは起きあがった。だがやはりカズマはルイズから目を離さない。 「認めろ、ルイズ」 「お前は」 「『ゼロ』と呼ばれ続けることに」 「とっくに反逆してる」 >>back >>next
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青嵐学院大学(せいらんがくいんだいがく)は、福岡県の私立大学。 概要 福岡県福岡市に本部を置く私立大学。福岡県各地、また県外にも複数キャンパスを持つ。 特徴 女子野球部は中堅クラス。投手の育成には定評があり、細かい継投で守り勝つ野球が特色。 卒業生 白縫賢美(現・熊本シルフィード)
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前ページ次ページゼロのロリカード トリステイン艦隊、『オストラント』号。 ツェルプストー家の財力を使い、コルベールが作り上げた渾身の蒸気船。 飛行機と船を折衷させたような、周囲の艦とは明らかに一線を画した特異なデザイン。 風石をふんだんに使用し、石炭燃焼による蒸気機関を搭載。 そして何よりも特筆すべきは、コルベール謹製のジェットエンジンを積んでいた。 アーカードから教わった知識と、それを体現できるコルベールの技術力。 SR-71『ブラックバード』の特殊な燃料を不完全ながらも錬金した、卓抜したメイジとしての実力。 タルブ戦後も研究をし続け、爆発力は落ちるもののSR-71のそれよりも遥かに扱いやすい燃料を開発。 それらが噛み合い実現させた、世界で唯一にして最速の船。それが『オストラント』号であった。 コルベールは設計から建造まで全てを手掛け、遂にはこのガリアとの一戦の前に完成させたのだった。 アニエスも納得ずくで、戦争の早期終結の為に、コルベール自身不本意ながらもその集大成を使うことになった。 本来は探検船としての用途であり、各種最新技術を詰め込んであるものの、武装は最低限の物しか積んでいない。 しかしてハルケギニアの枠を遥かに超え、オーバーテクノロジーの粋を集約した船。 単純な巡航速度は言うに及ばず、旋回性能も非常に高い。 一度ジェットエンジンによる推進力を得れば、直線距離に於いては風竜ですら追いつけない。 特定の艦を狙った奇襲作戦に於いて、これほど有用な船は他にないのであった。 ルイズとタバサはオストラント号の上から、ジョゼフの乗る艦を万感の想いで見つめていた。 旗艦の周囲にある、一隻のフリゲート艦。 そこにジョゼフがいる。そしてジョゼフを倒せば、この戦は終結するだろう。 所詮は王の権力と、暗殺による恐怖で縛り付けたガリア軍。 その意志を継ぐ者さえいなければ、あっという間に現体制は崩壊する。 既にトリステイン艦隊は、『幻影』の艦隊から離れて進みつつある。 それに呼応するように、ガリア艦隊も動いていた。 暫くすればアーカードによる、支援砲撃がある。それが開戦の号砲。 戦争開始まで秒読み段階に入ったその間、ルイズは少し前のやり取りを思い出していた。 ◆ 「あぁ、こうなったら背に腹は変えられない。そっちから言ってきたんだし、『あれは嘘だ』とか無しだよ」 「無論だ」 どことなく嬉しそうなウォルターは、立ち上がって体中についた汚れを払う。 そして「また僕は裏切るわけか・・・・・・」と少しバツが悪そうに言った。 そんなウォルターをアーカードは腕を組んで「今更だろう」と笑う。 二人の会話が聞こえず何が起こってるのか疑問に思っていると、ウォルターが一所を指差した。 「あれだ、あの旗艦右後方のフリゲート艦にジョゼフがいる」 「・・・・・・どういうこと?」 タバサがウォルターの言葉を疑う。突如そんなことを言い出したことも解せない。 その内容にしても、敵方の将だ、あっさりと信用出来るわけがない。 はいそうですか、とそこに突っ込むわけにはいかない。 同じようにルイズもウォルターに聞く。 「裏切るの?」 居場所を教えてもらうのはありがたいが、それはつまりウォルターは背信したということ。 タバサの猜疑心とルイズの問いにアーカードが答える。 「懐柔した」 一言、ただそれだけ。ウォルターに裏切らせてこちらへと引き込んだということ。 単純にアーカード自身の目的の為に、最も合理的な方法を選んだに過ぎない。 「・・・・・・わかった、あなたは信用しないけどアーカードを信じる」 タバサは毅然とした目で冷ややかにウォルターを射抜く。 ウォルターは初見の時の、悪い印象が拭い切れない。 そもジョゼフに協力していた時点で、信用するに値しない。 「やれやれ、嫌われたもんだ」とウォルターは肩を竦める。 「私は・・・・・・個人的な感情だけれど、あなたを少しだけ信頼してるから」 一方でルイズは些少ながらフォローしてやった。 ルイズの言葉に、ウォルターはただ黙って不思議な微笑みを浮かべる。 ウォルターにとっては、自分の目的の為だったのだろう。 それでも、攫われてからアーハンブラ城で救出されるまでの扱いには感謝していた。 はっきり言って、初見でジョゼフに勝てるとは思えない。今現在戦っても勝てそうもない。 ウォルターが誤魔化したからこそ、今自分はこうして生きているとも言えた。 「では、私は地上から88mmで砲撃しつつ支援しよう」 敵艦の死角から、一撃で中枢を破壊する方が効率が良い。 正面から撃てば、敵の魔法や竜騎兵によって多少なりと阻まれる可能性もある。 「お前達は例によってコルベールの船で、一直線にフリゲート艦を狙うといい」 当初の予定目標は敵旗艦であったが、もし違っていた場合の損耗をアーカードは考えた。 よってヨルムンガント一掃のついでにウォルターを懐柔し、正確な位置を知ることにしたのだった。 「当然こやつも付き合わせる」 そう言ってアーカードは、有無を言わさず命令するようにウォルターを見る。 「あぁ、わかってる。・・・・・・だけど、僕らが直接乗り込んだ方が早くないか?」 アーカードと自分がまとめて乗り込んだ方が、手早く、楽に、片が着く筈だ。 「それは我々の仕事ではない、・・・・・・な?」 アーカードはタバサへと視線をやる。タバサは無言で頷いた。 「ルイズも露払いをしてやれ」 「わかってるってば」 どの艦に乗っているかはわかったものの、易々とは乗り込ませてはくれないだろう。 いずれにせよ『エクスプロージョン』など、虚無で援護する必要がある。 そしてタバサがジョゼフに負けるようなことがあれば、速やかにタバサを連れて離脱。 その際に・・・・・・自分がジョゼフと一戦交える必要が、あるやも知れない。 勿論確実に勝つのであれば、アーカード達が邪魔な敵艦隊を全滅させるまで待つ。 然るべき後に、全員で乗り込めば良い。それが最も安全と言えるだろう。 だが、そこまでアーカードにおんぶにだっこというのは憚られた。 これは戦争だ。経緯や目的はどうあれ、国と国の戦。 なれば一人にだけ押し付けるのは、道理にそぐわないというものである。 それに、敵軍の被害も最小限に抑えたいと考えていた。 アーカード一人に任せたら、敵軍は殲滅に追いやられてしまうだろう。 こと戦争とはかくあるべきである、というアーカードは正真正銘の化物であり、情などは埒外。 目的達成の至上命令に於ける、単なる障害物。闘う意志で立つ者に例外は無い。 何も知らずただ命令に従って戦争に駆り出される軍人だろうと、アーカードは容赦無く殺す。 微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く、鏖殺する。 鉄火を以て闘争を始める者に人間も非人間もなく。 殺し、打ち倒し、朽ち果てさせる為に。殺されに、打ち倒されに、朽ち果たされる為に。 それが全て。それを違える事は、神だろうと悪魔だろうと誰にも出来ない唯一ツの理。 主人であるルイズの命令でも、それを侵すことは出来ない。 「アーカード、程々にね」 だからせめて『命令』ではなく、『お願い』としてルイズは言ってみた。 「なるべくな」 そしてアーカードは酷く化物らしい笑みを浮かべる。正直あまり期待は出来なかった。 「・・・・・・復讐かぁ」 ウォルターはタバサの境遇を思い返し、その答えに当たる。 しかも極上の復讐相手。動機も、強さも、因縁も、あらゆる要素が高水準で揃っている。 そりゃ自分達に、獲物を横取りされたくはないに決まっている。 そも横取りされる気分というもの・・・・・・ウォルター自身、嫌と言うほど身にしみている。 「あぁそうそう、ビダーシャルもいるから気をつけて」 ウォルターは言い忘れてたかと、気付いて言った。ビダーシャル、エルフの名を。 「えっ?だけどエルフは確か・・・・・・」 ルイズは記憶違いに疑問符を浮かべる。姫さまから聞いた話では、エルフは殺されたと。 そのおかげで聖戦発動が回避されたと、さらに規模の大きい戦にならずに済んだと姫さまは安堵していた。 ロマリアの密偵が掴んだ情報らしかったが・・・・・・。実は生きていて、しかも未だに協力している・・・・・・? 「あぁそれブラフ。ビダーシャルが聖戦発動をやめろってんで、嘘の情報を流したんだ」 「であれば・・・・・・少し厄介か」 タバサとルイズでは手に余る。 アーカードは「手助けはいるか?」といった視線を投げ掛けた。 「いいえ、そこまで手は煩わせないわ。エルフは私が受け持つ」 虚無の担い手だけが、強力なエルフに対抗できる。 ガンダールヴを得て、ヨルムンガントを粉砕したアーカードもゴリ押し出来るだろう。 だが、ここは自分が行くべきだ。それにエルフがいるなら・・・・・・少し考えもある。 エルフの強さは間近に見ていたし、恐ろしいとも確かに思う。が、アーカードに比べればまだマシだ。 (それに・・・・・・少し自分の力を試してみたいしね・・・・・・) 己の強さを存分に発揮出来る相手。 アーカードの戦闘狂な部分が、少し伝染してしまったのかも知れない。 ルイズは大きく強く頷く。 アーカードもルイズを信頼している。召喚されたばかり頃の、かよわい少女ではない。 アーカードの認める相応しき主人へと変貌を遂げた。今や何の憂いもない。 「まぁビダーシャルはそんなに乗り気じゃないし、既にジョゼフには辟易している筈だ。 多分闘わなくても済むと思うけど、ジョゼフの遁走に手を貸すくらいはするかも知れないな」 ウォルターは楽観的に私見を述べる。 自分が敗北したことで、もはやジョゼフの勝ちの目は0なのだ。 もはやジョゼフに付き合い続ける義理はない。 「さぁ行くがいい、征って終わらせてこい」 アーカードは言い切った。信頼に対して信頼で応える。 これ以上求められない主人と従僕の関係。メイジと使い魔の絆。 「ええ、征ってくる」 ルイズは自信と誇りを含んだ笑みで、アーカードに応えた。 ルイズとタバサはシルフィードに乗って飛び、アーカードとウォルターが残される。 「いい主人だね・・・・・・」 感慨に耽るようにウォルターはしみじみ呟く。 「ははっ、そうだろうとも。いい女達だ」 「インテグラとどっちが?」などと、イジワルな質問でもしてやろうと思ったが。 比べるものではないのだろうなと、ウォルターはどこかで感じ入る。 そんな次元の低いものではないのだ。何物よりも強固な絶対の信頼関係に、優劣などは存在しない。 (インテグラは・・・・・・) 自分のことをどう思っていてくれたんだろうか。 人生、主君、信義、忠義、あらゆるもの。己の全てのものを賭け、納得して反逆した。 そう、「納得した」と言い聞かせるように。そしてアーカードと闘った・・・・・・。 (もしも裏切らない道を選んでいたなら・・・・・・) 今更思っても詮無いことだと、苦笑する。 (まっいいさ。幸運なことに、これ以上ない好機を得られるわけだしね) ◆ 艦隊と艦隊の相対距離が、少しずつ、そして確実に詰まっていく。 ルイズはアンリエッタから預かった風のルビーを見つめた。 始祖の祈祷書は未だ新たなページを見せてはくれない。 テファのこともある、エルフとの戦は出来得る限り避けたい。 ――――――その為に、自分に出来ること。 「いよいよね」 掛けられた声に気付いて、ルイズは振り向く。 「本来なら気楽にいけって言うとこだけど、今くらいは気張っていきましょ」 炎色の髪をたなびかせ、キュルケが言った。 「そうね、今くらいは気合を入れないとね」 ルイズはキュルケの笑みに同じように返す。 かつては仇敵であったツェルプストー家の、キュルケともこうして理解し合えたのだ。 (そうよ、エルフとだって・・・・・・) ルイズは大きく何度も深呼吸をして、逸る心を落ち着ける。 手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に。 魔力を高めるのに、感情の起伏は必要だ。昂ぶりが力になる。 しかして感情に身を委ね、振り回されてはいけない。 それでは不安定な力として、己や周囲をも危険に晒してしまう。 支配する、制御する、管理する、操作する、己の意志で必要な分だけを引き出す。 人の身では持て余しかねない虚無の力を、最も理想的な形で使いこなす。 ついぞ『無想』を会得することは叶わなかったが、それでもやらねばならない。 オストラント号の砲台は私。 虚無の『爆発』で以て、的確に進むべき道を切り拓かねばならない。 タバサは後方でシルフィードに乗り、場合によってはすぐに自分を拾って飛び立てるようにしている。 タバサは魔力を温存する為に然るべき時まで戦えない。それまではタバサの分までフォローする必要がある。 (・・・・・・絶対に勝つ、勝って笑う) ルイズはゆっくりと目を瞑る。 そしていつでも『エクスプロージョン』を放てるよう、詠唱し始めた。 † 北花壇騎士として、いくつの任務を請け負ってきただろう。 どれだけの死線を越えてきただろう。 キメラドラゴン、地下水、ミノタウロスのラルカス、火竜、コボルド・シャーマン、アーカード。 どれもが難敵、それでもどうにか生き延びてきた。 騎士としての任務外でも多く戦った。 アーカードが終わらせてしまったが、フーケは強かった。 ウォルターには、まるで勝てるビジョンが浮かばない。 そのウォルターが駆るヨルムンガント相手には、逃げるのが精一杯だった。 盲目の炎術師メンヌヴィルに負けた。憎き虚無の担い手ジョゼフに負けた。 そして・・・・・・アーカードに負けた。 一つ歯車が狂っただけで死にかねなかったことも多かった。 実際に死んだも同然の状態にも陥った。 「・・・・・・お姉さま、本当にやるのね?」 ふと、シルフィードが小声で話し掛けてくる。 「もう無理に復讐をする必要はないと思うのね」 タバサはただ黙ってシルフィードの言葉を聞く。 シルフィードの言いたいことはわかる。母さまは心は戻らないまでも帰ってきた。 これ以上己が身を晒し、その命を懸けて復讐をする意義はあるのか。そういうことだろう。 だがジョゼフを放置するわけにはいかない。 復讐を抜きにしても、ジョゼフは殺さねばならない。 同じ王族としての責任とは言わない。が、いずれにせよ暴走を止めねば国家が破壊される。 大勢の人間が不幸になってしまう。世界の正義の為に、ジョゼフは必ず討たねばならない。 あの男を説き伏せるという選択肢は存在しない。狂人に常人の理屈は通じない。 「お姉さまが死にそうになった時に、どれだけシルフィが心配したことか・・・・・・。 あの胸が大っきいハーフエルフがいなかったら絶対死んでたのね。もうあんな思いはごめんなのね」 タバサは目を瞑る。自分が死んでしまえば、悲しむ者がいる。 ただ制裁を加えたいと言うのなら、アーカードに任せればいい。 間違いなく、嬉々として殺してくれるに違いない。 「それでも・・・・・・私がやらなくちゃいけない」 誓いであり、義務と言っても良い。 自分の中で渦巻く行き場の無い感情に決着をつけ、前に進む為にも・・・・・・。 アニエスのように、復讐相手を赦すことは出来ないし、それほど達観してもいない。 コルベールのように、ジョゼフは贖罪の為に生きているわけでもない。 あの男は・・・・・・この手で殺さねばならない。 「お姉さまが頑固なのは、シルフィよ~くご存知なのね。それでも言うのね」 「・・・・・・大丈夫、勝算はある」 「本当?絶対に勝てるのね?絶対に死なないのね?」 「戦いに・・・・・・絶対はない」 シルフィードは「それじゃ駄目なのね」とぶうたれる。 今までも任務などで勝算の薄い戦いは多かったが、ここまで食い下がるのは初めてだった。 一度ジョゼフ相手に死に掛けてるだけあり、いざ決闘の時が近付いてシルフィードも気が気じゃないのだろう。 「信じて」 「うぅ・・・・・・」 使い魔としては、主人にそう言われたら黙るしかなかった。 改めて言われて、「信じることが出来ない」なんて言える筈もない。 「お姉さまはいじわるなのね。シルフィがいないと作戦も成り立たないっていうのにね」 「ありがとう、感謝している」 「はぁ・・・・・・もうしょうがないのね。お姉さまにはシルフィがついてなくっちゃ駄目なのね」 シルフィードを説得したタバサは、ゆっくりと確認するように頷く。 (もう・・・・・・負けない) 復讐前だというのに、自分でも驚くほど落ち着いている。 激情に駆られて今までのような無茶はしない。場合によっては退く決断も要る。 二度と無様な醜態は晒さない。ルイズに尻拭いなどさせない。 全てを完遂して未来をその手で掴み取る。自分は・・・・・・もう孤独ではないのだ。 ◇ ウォルターが軽やかな足で戻って来る。 「とりあえず地上軍は止めてきた」 トリステインの地上軍はいないものの、対空攻撃でもされたら邪魔臭いことこの上ない。 事と次第によっては地上軍とも同時に戦わねばとアーカードは考えていたが、それは杞憂に終わった。 ジョゼフ直属であることと、ヨルムンガントを率いていたことから、実質的な地上軍の最高権限はウォルターにあった。 よって進軍・攻撃中止の命令は呆気なく伝わり、余計な手間を掛ける必要もなくなった。 これで空中艦隊にのみ専念出来る。準備は整った。 「尤も僕が止める以前にヨルムンガントが全部破壊されちゃったから、士気はガタ落ちだったけど」 ウォルターは内心嬉しさを隠し切れなかった。 もう二度と、アーカードと共闘することなんて考えていなかった。 ワルシャワのあの日が・・・・・・思い起こされる。 また肩を並べて闘えることが、素直に嬉しかった。 空を見上げ、トリステイン艦隊とガリア艦隊の距離を測る。 「・・・・・・そろそろか」 アーカードは88mmを持ち上げる。残砲弾の数では到底全ては落とし切れない。 オストラント号が進む道筋の敵艦を、的確に選んで支援する必要がある。 いざ飛び立とうとした瞬間、ウォルターが声を上げた。 「あっ・・・・・・」 「なんだ?」 「いやぁ~・・・・・・」 ウォルターは思わず言葉を濁す。アーカードは眉を顰めた。 「歯切れが悪いな」 「ヤッバイなぁ・・・・・・、元素の兄弟を忘れてた」 「誰だ?」 「こっちにいる数少ない手練れの連中さ」 アーカードは「ふむ・・・・・・」と考える。 こっちにいる手練れと言えばルイズの母親、烈風カリンを思い出した。 彼女ほどの強さは、恐らくハルケギニアでも早々いるものではないと思われる。 が、ウォルターが言うくらいだ。相当な使い手なのは確かだろう。 「その連中がジョゼフの命令で、ちょっと任務請け負ってんだよね」 ウォルターは言いにくそうに続ける。 「標的は虚無の担い手。ティファニア、ヴィットーリオ。一応は攫って来いって命令」 「それならば問題なかろう」 ティファニアにはアンデルセンが、ヴィットーリオには大尉がそれぞれついている。 最低でも烈風カリンと同等以上の実力者でなければ、まず負けることはない。 「そして、トリステインのアンリエッタ女王」 「なんだと?」 「元素の兄弟は四人。んで当然余るから、国のトップを狙う命令もついでにね。 水魔法で傀儡にするって話だった。だけど教皇ヴィットーリオと女王アンリエッタ。 この二人に限っては、最悪殺してしまっても構わないって命令だ。 トップが死んで国が荒れ、より一層の混沌が見られるならばそれも良しってね」 「いずれにせよ遅かろう。戻っても間に合うとは限らんし、既に終わっている可能性もある」 「まっ、確かにそうなんだけど」 アンリエッタにはアニエスがついている。念話での交信は出来なかった。 未だに血は飲んでいない半人前だが、腐っても吸血鬼。そこらのメイジには遅れをとるまい。 感覚を集中させると、アニエスがまだ滅していないということだけはわかった。 だがそれがイコール、アンリエッタの無事に繋がっているかはまた別である。 これから襲われる可能性。アンリエッタのみが殺されている可能性。 (昼間に襲われた場合が厄介か・・・・・・いや、無用に心配しても詮無いな) 今はアニエスを信じよう、我が血族の強さを。 前ページ次ページゼロのロリカード
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プリア(火) ランク ★1 ★2 ★3 ★4 ★5 ★6 スキル1 吹き散る東風(強化後) 最大Lv - - - - 35 スキル2 火炎旋風 体力 - - - - 6300 スキル3 ファイアカッター 攻撃力 - - - - 565 Lスキル あり 防御力 - - - - 468 タイプ サポート系 編集 攻撃速度 - - - - 103 覚醒前 シルフィード(火)