約 3,786,159 件
https://w.atwiki.jp/4173gogo/pages/40.html
深夜。とある研究機関。一人の男が液体に満たされたカプセルの前に立っている。 男は慈しむようにガラスを撫でて、その中で眠っている少女を見つめた。 「10年…か。長かった。…しかしついにこの日が」 「来た、というわけですね」 「だ、誰だっ!?」 この場所には許可無く男以外は入れない。しかし聞こえた女の声に、男は振り向く。 するとそこには美しい銀髪を携え燃えるような赤い目をした女がいた。 「お久しぶりです、旦那様。そして」 「お前は!?」 「さようなら」 一瞬だった。男が反応するよりも遥かに早く、女の蹴りが腹部に突き刺さった。 男の身体は吹っ飛び受け身もろくに取れず近くの壁に当たる。 「さてと……これが」 男が動かなくなったのを横目で確認した銀髪の女は先程まで男が眺めていたカプセルの前に立つ。 そして男がしたように、あるいはそれ以上にその中の少女を慈しむように見つめた。 会長と潤との睨み合いから一週間ほど経ち、クラスは約一ヶ月後にある修学旅行の話で持ち切りだった。 東桜高校は一般的な高校よりも修学旅行の時期が遅い。この地区ならば普通は10月の半ば、つまりちょうど今頃の時期に修学旅行がある。 どうやら他の学校と被らないようにしているらしい。個人的には他の学校との交流も疎かにしない方が良いのではと思うがまあ学校の方針なので仕方ない。 「それではさっきの時間で班を作ってもらったと思うので、それを班長が提出してください」 教壇にいる修学旅行実行委員が指示を出している。こんな期間限定の行事にまで委員会を作るとは、余程自主性を重んじているに違いない。 普段は騒ぐと怒る黒川先生も、今日はクラスの片隅で椅子に座って読書をしていた。 …勿論少しでも変な行動をしようとすれば即座に制裁されるのはこのクラスの面子ならば了解済みだが。 「勝手に英の名前書いちゃったけど良いよな」 「ああ、どうせいつもの3人だし」 手元にあるプリントには『修学旅行班名簿』と書いてあり班長には俺の名前が、班員には亮介と今日…というか一週間ほど休んでいる英の名前が書いてある。 「…どうしたんだろうな、英の奴」 「まあ要っちが心配しなくても良いと思うぜ?メールには"諸事情で休む、理由は後ほど"ってあったんだしさ」 「…まあな」 諸事情って一体何だ?とか思うが亮介の言う通り、今はあまり追及しない方が良いのかもしれない。 それよりもこのプリント、早く出さないとな。 「待って」 急に腕を掴まれる。 誰かと思うと瑠璃色の髪をポニーテールにした女の子が俺の腕、正確に言えばプリントを持っている手を掴んでいた。 「えっと…」 「…こ、こんにちは」 「えっ?こ、こんにちは」 いきなり挨拶をされたので思わず俺も挨拶する。 …クラスメイトの名前をあまり真剣に覚えなかったことを俺は今更後悔していた。亮介は俺達のやり取りを見守っている。 「そ、その…良いプリントね!」 「…はい?」 「いや!そ、そうじゃなくて…そう!良い腕ね!」 何故か腕を褒められてしまった。良く見ると女の子の頬が紅潮している。 「大丈夫?顔赤いけど…」 「それは大丈夫!ってそうじゃなくて!」 机を叩く女の子。自分に突っ込む気持ちは少し分かる。気が付けばクラス中が俺達に視線を向けていた。 女の子の後ろには女子のグループがおり「撫子(ナデシコ)負けるな!」とか小声で囁いている。 「よしっ」 思い切り深呼吸する女の子。可愛らしいというか何というか。 黒川先生は相変わらず読書中である。…これは止めないんですか。 「修学旅行の班員って4人なんだよ!」 「そ、そうだっけ?」 いきなり声を張る女の子に思わず後ずさる。プリントを見ると確かに『班員は原則4名とします』と書いてあった。 「そうなの!…で、その…白川君達は…今3人なんだよね」 「ああ、良く分かったね」 「そりゃあいつも見て…あ!」 「いつも見て…?」 女の子がしまったみたいな顔をする。後ろの女子グループからは「バカ!それは言うな!」みたいな囁きが聞こえた。 「い、今のは忘れて!実はあたし余っちゃって!も、もし良かったら白川君…達の班に入れてもらえない…かな」 顔を真っ赤にして俯きながら言う瑠璃色ポニテの女の子。つまり俺達の班に入りたいということか。 「えっと…」 「良いじゃんか要っち」 亮介が楽しそうに言う。…まあ亮介は基本楽しかったら何でも良いみたいなところがあるからな。 「まあ君が良いなら俺達は…」 「本当にっ!?ありがとう!」 手を力いっぱい握られる。後ろの女子グループは皆でガッツポーズをしていた。 「い、いや…そんなに感謝される覚えは…。あ、名前書いてもらえる?」 「う、うん!ゴメンね、あたし手汗凄くて!」 プリントとシャーペンを渡すと女の子は震えた手で自分の名前を書いていた。小声で「白川君の…」とか何とか言っている。 「はい、出来たよ!」 「あ、ありがとう。…あのさ」 「な、何かな!?」 「…シャーペン」 「あ、ゴメンね!つい…」 「…つい?」 「あ、あははは!何でもないの、何でも!」 女の子は顔を真っ赤にして横に振る。つられて瑠璃色のポニーテールが宙を舞っていた。 プリントには藤川英の下に少しいびつな字で『大和撫子』と書いてあった。 …やまとなでしこ?…偽名…な訳無いよな。 「よろしくな大和(ヤマト)さん」 「よろしくね如月君」 「…よろしく、撫子(ナデシコ)さん?」 「よろ…な、名前で…!」 どうやらやはり読みは大和撫子(ヤマトナデシコ)だったようだ。試しておいて正解だったな。 「…?大和さん、どうかした?」 「えっ…名前…」 何故かいきなりしょんぼりしてしまった大和さん。何かあったのだろうか。 後ろの女子達が信じられないといった様子で俺を凝視している。 「…なあ亮介」 他の人には聞こえないよう亮介に近付いて話す。 「なんだ?モテキング」 「モテキング?…いや、それよりも向こうにいる女子が俺を睨んでいるんだが」 「それがどうした」 「いや、何でだ?俺、大和さんに…何かしたか?」 「……信じられない。これが…主人公」 何故か亮介は地面に膝をついてしまった。大和さんは下を向いたまま「名前…」とか呟いているし、女子からは睨まれたまま。 こういう時にフォローしてくれる英がいかに貴重な存在か分かる。 「英…助けてくれ」 ぽつりと呟いた。 放課後。校舎に隣接する体育館では女子バレー部が部活の準備をしていた。 「へぇ、じゃあ上手くいったんじゃん!良かったね!」 「でも白川君って想像以上に鈍感なんだよ」 「そうそう!本当に信じられない!ね、撫子」 ポールやネットを運ぶ女子の後ろでポニーテールを揺らしながらボールをカゴから出していた撫子が振り向く。 「まあ仕方ないよ。わたしは一緒の班になれただけで十分だから」 穏やかな笑みを浮かべる撫子。思わずその場にいた全員がその笑みに見とれていた。 「…白川君、幸せ者だね」 「本当…。私が男だったらこの場で襲ってるわ」 「はいはい。わたしちょっとトイレ行ってくるね」 そういうと撫子は小走りで体育館から出て行った。 「…………」 体育館から少し離れた女子トイレ。中には鏡の前に立っている撫子以外は誰もいなかった。 「………ありえない」 何かを呟く撫子。顔は濡れており水で洗っていたようだ。 「ありえない」 鏡に向かって呟き続ける。まるで誰かに話し掛けているような口調で。 「ありえないっ!」 いきなり叫び目の前の鏡を叩き割る。右手からは血が溢れ出るが構わず割り続ける。 「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない」 目の前の鏡が砕け散り右手が血だらけになっていた。それでも彼女は気にも留めない。 「ありえない。……何で、何で白川君の話を楽しそうにするの?」 焦点の定まらない目で鏡があった場所を見つめる。 「何で…白川君の悪口を言うの?」 血だらけの右手を顔の前まで持って来てゆっくり傷口を舐める。まるで何かを労るように優しくゆっくりと。 「…落ち着かなきゃ。白川君の"好きな女の子"に成り切らなきゃ」 全ては彼のため。 元々臆病で人見知りだった性格も彼が好きだって言っていた"奥ゆかしい女の子"に変えた。 "明るい方が良い"って言うから嫌だけど頑張ってクラスの明るい女子グループに入って、女子バレー部にも入った。 彼が"ポニーテールが良い"って言うからこの髪型にした。 そう全ては彼に、白川君に気に入られるため。 「やっと…やっと掴んだんだ…」 彼はいつも部活や要組とかいうふざけた集まりで忙しそうだった。 でも修学旅行なら話は別だ。同じ班になれば確実にチャンスはやって来る。だから焦ってはいけない。 嫉妬の炎は今はいらない。今必要な物は氷のように凍てついた冷静さ。 「わたしは大和撫子。奥ゆかしくて、でも明るくてポニーテールが似合う女の子」 目をつぶる。イメージする。いつものわたしを。 白川君にだけじゃなく、誰に見られても良いように、いつも通りの"大和撫子"に戻る。 「…手、怪我しちゃったな。もう!割れたままの鏡を放置するなんて最悪だよ…」 まるで壊したのが自分ではない別の誰かのように撫子は振る舞った。 放課後。いつものように生徒会室に行く。 テスト週間が近付いて部活が休みになったため、俺達は生徒会で集まって勉強したりくつろいだりしていた。 「…嘘みたいだな」 …そう。嘘みたいなんだ。 先週の会長と潤の睨み合いが嘘のように2人は仲が良い。まるであんなことなかったみたいに…。 「…訳が分からない」 一体2人は何を考えているんだ。あの冷たい目と凍てついた空気。 何かが思い出せそうな…雨の……冷たい…夜の……。 「入らないのかい?」 「あ、悪い……えっ?」 俺の後ろに立っていたのは間違いなく減らず口だが憎めない金髪天然パーマの…。 「久しぶりだね、要」 「…英」 藤川英だった。 「本当に心配したぞ。ろくに連絡も寄越さず…。大体英はな」 「まあまあ、会長。英も悪気があった訳じゃないですから」 「本当に良かった…」 「お帰り…心配した」 「あはは、遥にまで心配かけちゃうとは思わなかったな。…皆ゴメンね」 夕焼けが差し込む生徒会室。 実に一週間ぶりに英が帰って来たということで、皆勉強どころではなくなっていた。 「ったく心配かけやがって…。つーかその腕…」 「うん、実は皆に相談…いや、"依頼"があるんだ」 英の言葉で空気が変わった。右腕はギブスで固定されており骨折していた。 この一週間で何か事件に巻き込まれたのは明らかだった。…嫌な胸騒ぎがするのは俺だけなのだろうか。 一週間前。ちょうど会長と潤が衝突した日の夜中、事件は起こった。 英の父親で藤川コーポレーションの社長でもある藤川栄作が何者かに襲われ重傷を負ったらしい。 彼は一週間経った今も意識を取り戻していない。襲われた現場が厳重な警備下にあったことから犯人は相当の"やり手"だということが分かった。 「…目的は分からない。でも僕には犯人の目星がついたからね。学校を休んで探したんだよ」 英は何処か遠くを見つめていた。さっきから皆が黙って英の話を聞いている。 「随分かかったけど…ようやく3日前に探し出してね。でも…返り討ちにあってこの様さ」 英はおどけるように骨折している右腕を見せる。…笑えないぞ。 「しかしそんな大ニュースやってたか?俺は全然知らなかったんだが。要っちは?」 「…多分むやみに報道しないようにしてるんじゃないか?」 「流石要。まあウチは大企業だからさ。真相が分かるまでは…ね」 どうやらこの一週間で俺達が気が付かない内にとんでもない事件が起こっていたようだ。 「で、英。依頼って言うのは…」 「…うん。何となく話の流れで想像がつくと思うけど…」 「犯人確保」 遥が英が言いにくそうにしていることをさらりと言った。 「…まだ公には出来ないから警察には届けられないんだ。でも僕はどうしても捕まえたい」 珍しく英が強い決意を示していた。 よっぽど父親が好き…な訳ないのは何となく分かる。じゃあ一体…。 「そういえば英、犯人の目星がついてるって言ってたよね?」 潤が英に尋ねる。確かにさっきそいつに腕を折られたとか言っていたな。 「…とりあえず今彼女が何処にいるか、皆に探して欲しいんだ」 そういうと英は一枚の写真を取り出した。 そこには黒髪の大学生くらいの女性と銀髪に燃えるような赤い目のメイドさんが写っていた。 「このメイドは…!?」 会長が写真を見て動揺していた。 …いや会長だけでなく俺以外は写真の中に写るメイドに見覚えがあるようだ。 「犯人は恐らく…彼女だよ。要には今説明するから皆には早速情報を集めて欲しいんだ」 「分かった。では亮介は…」 会長が割り振りをして皆生徒会室を出ていった。 残されたのは俺と英の二人だけ。俺は写真をもう一度見る。 微笑んでいる黒髪の女性は整った顔立ちをしていた。どことなく英に似ている。 そして銀髪のメイドさんは人形のような無表情をこちらに向けていた。 「…要は記憶喪失だから覚えてないと思うけど、僕には姉さんがいたんだ」 「…"いた"?」 「……半年くらい前にビルの爆発事故で行方不明になってさ。そこに写っているメイドと一緒にね」 「…爆発…事故」 初耳だった。 半年前にそんな事件が起きていたことも、そもそも英に姉がいたことも。 「別の事件の調査で僕たち要組が偶然その現場に居合わせてさ。だから皆メイドに見覚えがあったんだ」 「…そう、か」 「ゴメンね。別に隠すつもりじゃなかったんだけど…生存は絶望的だったからさ」 「…気にしてないよ」 家族が事故に巻き込まれたんだ。言いたくない気持ちも分かる。 「黒髪の女性が僕の姉、藤川里奈(フジカワリナ)。そして銀髪のメイドが桃花(トウカ)」 桃花…。 何だろう、つい最近何処かで見たような…。この燃えるような赤い目…。何処かで…。 「なぜ桃花がお父様を狙ったのかは分からない。でも…桃花が生きていたなら」 「英のお姉さんも…」 「…だからどうしても桃花の居場所が知りたいんだ」 折れた右腕を見つめる英。一体お姉さんとの間に何があったのかは分からない。 でも英の決意はひしひしと伝わってきた。 「…分かった。俺も協力するよ」 「ありがとう要。…それからもう一つ良いかい?」 「ああ」 「桃花は武道の達人だ。あの警備を破れるのは桃花ぐらいだと思う」 「…だから犯人はこのメイドさんなのか」 戦うメイド…もしかして師匠が言っていたのは…。 「うん。だから捕まえようとしてもまず返り討ちにあう。…僕みたいにね」 「…笑えねぇって。じゃあどうする?仲間に連絡か?」 「皆にはそうしてもらうつもりだよ。でも要には…戦って欲しい」 「………マジ?」 遠回しに死ねって言ってないか、それ。 「とりあえず今から海有塾に行ってくれ。手配はしておくから」 「…俺に出来るのか?」 相手は日本有数の大企業の警備を一人で破るような奴だ。果たして俺なんかが敵うのだろうか。 「大丈夫。要ならやってくれるよ。僕たちのリーダーだしね」 ウインクをする英。…いや、それ何の根拠にもならないと思うんですけど。 10月にもなると日が暮れるのも早くなる。 生徒会室を出て海有塾の門まで来た時には、すでに辺りは真っ暗になっていた。 「お、来たか要君」 道場の入り口には師匠の源治さんが立っていた。どうやら俺を待っていてくれたようだ。 「師匠!すいませんいきなり。英…えっと藤川君からここに行けって言われたんですけど」 「聞いておるよ。さあこっちに」 師匠に案内されいつもの道場…を通り抜ける。 「あれ?ここじゃないんですか」 「ああ、今回はちょいと特例じゃからな」 道場の奥には扉があり中に入ると地下へと続く階段があった。 「さ、ここからは君だけで行きなさい」 「師匠は?」 「わしはここで見張っておる。…しっかりな」 師匠に促されて地下への階段を下りる。しばらく下りると扉が一つ現れた。 その扉を開けると目の前には上にあるのと変わらない道場が広がっていた。 唯一違うのはここが地下だということか。 「お待ちしておりました」 「うおっ!?」 急に声がしたのでその方向を向くとそこには金髪で赤い目をしたメイドさんがいた。 「…えっと君は確か…」 「はい。優お嬢様の専属メイドをさせていただいている、桜花です」 そう。一週間前に会長のメイドと名乗った桜花さんだ。同時に気が付く。 彼女の風貌はさっき写真で見たあのメイドに瓜二つだと言うことに。 「あの…桜花さんって…双子だったりしますか?」 「?…ああ、そういうことですか」 何がそういうことなのか全く分からないが桜花さんは納得したようだ。 「…いや、どういうことですか」 「つまり要様は私の外見に見覚えがあるのですね。それはそうです。私は桃花をモデルに作られていますから」 「作られて…?ってちょ!?」 いきなり脱ぎだす桜花さん。慌てて止めようとするが桜花さんの透き通るような白い肌が見え豊かな胸が弾力を見せ付ける。 「…どうかされましたか? こちらを見て欲しいのですが」 「な、何言ってるんですか!? つーかいきなり脱がないでくださいよ!」 「……仕方ありません。実力行使です」 「実力…? うわっ!?」 足払いをされ仰向けに倒れる。そこへ桜花さんがのしかかって来た。 無論服など着ているはずもなく二つの膨らみが俺を刺激する。 「触って頂きます」 「わっ!ちょ!?えっ!?なにっ!?」 突然の事態に混乱する俺を余所に桜花さんは俺の右手を掴み自分の背中へ導く。 「んっ…」 「わぁ!?……あれ?」 顔を赤らめる桜花さん。でも背中を触ったはずの俺の右手には冷たい感触があった。 「お分かり…頂けましたか」 立ち上がり背中を見せる桜花さん。 引き締まった身体とお尻に一瞬目が行ったが、背中が大きく開いており中にはコアのような青い水晶が収まっていた。 「背中が…」 「私は人間ではありません。桃花を元にして造られたアンドロイド、"桜花"です」 「……嘘だろ」 思わず腰を抜かしてしまった俺は情けない奴なんだろうか。 海有塾の地下道場。俺はアンドロイドである桜花の話を聞いていた。 藤川家と美空家は昔から交流があったらしい。 桜花は10年ほど前に当時すでに相当の実力者だった桃花の能力を元に、「10年後の桃花」をイメージして造られたそうだ。 「上手く行けば戦力として大量生産予定でしたがコストがかかりすぎた関係で私が最初で最後のアンドロイドとなりました」 「さっきの青い水晶みたいなのは…」 「あれは私のコアです。記憶や制御など様々な管理、そして機能を果たしています。言うなれば心臓ですかね」 目の前に座っている桜花は誰がどう見ても人間にしか見えない。 でも彼女は確かにアンドロイドなのだ。 「10年前なのに今の桃花とそっくりなんだな」 「はい。そこは奇跡としか言いようがありません。ちなみに外観はしっかりしています。女性器もちゃんとありますが…」 「分かったからまた脱ごうとするな!」 メイド服を脱ごうとする桜花さんを慌てて止める。このアンドロイドはやたらと脱ごうとするから困る。 「会長や英は桜花さんのこと…」 「勿論お二人ともご存知ですよ。だからこそこうして私がここにいる訳ですから」 桜花さんが立ち上がり俺と距離を取る。…凄く嫌な予感がした。 「桜花…さん?」 「要様、構えて下さい」 「…やっぱりかよ」 英は言っていた。俺には桃花と戦って欲しいと。 そしてそのためにここにいて、目の前にはその桃花のアンドロイドである桜花さんがいる。 どう考えてもこれは…。 「それでは今から"対桃花実戦プログラム"を開始します」 平たく言えば"桃花"を倒すための特訓だ。 「やるしかないか…」 「行きます」 「っ!?」 それが合図だった。 目にも留まらぬ超高速の動きで桜花さんが間を詰める。そして次の瞬間には 「はっ!」 「ぐっ!?」 同じく超高速の蹴りが鳩尾を狙って放たれていた。 反応…というよりほぼ防衛本能による反射で何とかそれを左腕で防ぐが堪えきれず吹っ飛ばされる。 「終わりません」 「…ちっ!」 壁への激突を受け身で何とか和らげるがその隙にまた間合いを詰められてしまう。 そして超高速の右足からの蹴りを 「っ!喰らうかよ!」 姿勢を低くして間一髪で避けた。俺だって師匠の元で鍛えているんだ。 一度見た技なら避けられる。そのまま右腕に力を込める。 「おらぁ!」 「甘いですね」 俺の右腕が桜花さんの腹部を捉える直前、彼女は身体を回転させた。 まるでダンスのように俺の右腕を避けて 「はぁ!」 「ぐはっ!?」 右足からの回し蹴りが俺の鳩尾を貫いた。 まさか最初の蹴りは回し蹴りの為のフェイク…か。俺はその勢いを殺せず壁にぶち当たった。 「…実戦プログラムを終了します」 「ごほっ!がはっ!」 鳩尾をもろに受けた為、息が出来なかった。そして強烈な嘔吐感を何とか堪える。 …ただ速かった。完敗だ。 「大丈夫ですか?」 気が付くと目の前に桜花さんがいた。手には救急箱を持っている。 「…はぁはぁ。いや、大丈夫…だ」 「無理をしないで下さい。腹部に痣を確認しました。処理します」 「…っ」 目にも留まらぬ速さで傷の治療をする桜花さん。近くで見ると本当に人形の様で何だがそわそわしてしまう。 …さっきの裸、綺麗だったな…いや、考えるな。考えちゃいけない。 「完了しました」 「あ、ありがとう桜花さん」 これ以上の接近は毒だ。桜花さんと距離を取る。 「いえ。…それから桜花さんは止めて下さい。桜花、とお呼び下さいませんか?」 「いや、でもさ…」 「………」 桜花さんにじっと見つめられる。…何か断りづらいな。 「…分かった。これからは桜花って呼ぶよ」 「ありがとうございます」 「その代わり俺も様付けは止めてくれない?何か慣れなくってさ。呼び捨てで良いから」 「分かりました。…要」 「おしっ!じゃあ改めてよろしくな桜花」 「こちらこそよろしくお願いします、要」 握手をする。彼女の手はとても冷たかったけれど何故か悪い気はしなかった。 「さあ、プログラム再開です」 「……ですよね」 とりあえず桃花と戦うまで身体が持つか心配だ。
https://w.atwiki.jp/parecharge/pages/1018.html
型紙 カラー パターン[pT]・プリント[pR]・パーツ[pA] 費用 評価(レア/ジャンル) 備考 ロングストール 01 桃 04 [pT]ノイズA 01、花柄D 01、ドットリボンA 01、ドットリボンA 01、ドットリボンA 01 960 4280(1000/3280) 1003 リボンマフラー 01 桃 04 [pT]ドット柄A 01、ノイズA 01、ドットリボンA 01[pA]ハートバックルベルト 02×3 2210 4680(1400/3280) 1003 羽衣 01 桃 04 [pT]花柄C 03、モダン柄A 02[pA]ハートバックルベルト 01×4 2860 4980(1700/3280) キュート/ストールを編集する
https://w.atwiki.jp/uniteofrubik/pages/63.html
ルービックキューブの歴史 ルービックキューブ それは1978年にエルノー・ルービック教授により、 つくられた立体パズルである。 「空間における自由な可能性」をテーマにつくられ、 このパズルは、26個のサブキューブを上下左右と 自由に回転させることができる。 組み合わせ配置は 43,252,003,274,489,856,000通りであり、 何も見ないで解ければ、 推定IQ130といわれています。 日本でも1980年ごろ大流行し一家に一個はあったとされています。 今年で25周年を迎えるルービックキューブは今までマニアックな趣味でしたが今、全国大会、世界大会など 大規模でメジャーな競技、スピードキューブとして復活しました。 当時のメーカー、ツクダオリジナル(現メガハウス)は1980年に2度全国大会を行い第1回では40秒台 第2回では20秒台前半のタイムで世界大会でも日本の代表選手は5位に入賞し健闘しました。 しかし、それを最後にルービックキューブの流行は去りました。 そして今日、ルービックキューブの売り上げが伸び、メーカーがついに動き出し25年ぶりの大会が2005年7月10日 京都で開催されました。優勝者の平均タイムは16秒と信じがたいタイムをたたきだしたのです。 ルービックキューブは最近ではテレビでも数多く取り上げられ9月3日には日本大会が行われ、18歳のHさんが優勝しました。しかし、ルービックキューブをやる人は当時のことを知る大人たちが比較的に多いようです。 しかし、世界記録保持者は外国に住む日本人の(現高校1年)少年なのです。 なんとその時の記録が 12.11 そして、数は少ないが、確実にキュービストが増えていったのであった…
https://w.atwiki.jp/irarchive/pages/2515.html
サイト ホームページ(ガリバー) IRサイト(ガリバー) CSRサイト(ガリバー) 各種ツール 事業報告書(ガリバー) アニュアルレポート(ガリバー) CSRレポート(ガリバー) 総会通知(ガリバー) 有価証券報告書(ガリバー) 決算短信(ガリバー) 中期経営計画(ガリバー) その他資料(ガリバー) 戻る
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/31367.html
リバース・クロウラー SR 水 (8) クリーチャー:アースイーター 1000+ ■このクリーチャーが召喚された時に支払ったマナゾーンのカードを全て、自身の手札に加える(召喚以外でバトルゾーンに出た時、自分のマナゾーンからカードを8枚選び、自身の手札に加える)。 ■このクリーチャーのパワーは、自分の手札1枚につき+2000される。 ■パワード・ブレイカー ■このクリーチャーが攻撃する時、自分の手札を1枚捨ててもよい。そうしたら、相手のバトルゾーンにあるカードを1枚選び、持ち主の手札に戻す。 ■このクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、かわりに自分の手札を2枚捨ててもよい。 作者:シザー・ガイ 参考カードは恐らく《混沌魚》、《紅神龍オグリストヴァル》、《絡繰の悪魔龍 ウツセミヘンゲ》。 テーマは「アースイーターらしくアースをイートしろ」。 結果青い《紅神龍オグリストヴァル》に。私にしては珍しく効果モリモリモ◯ンフェン。ですが全て即興のアドリブ(《偽りの名 iFormula X》がやばそうとは思いましたが)。多分ヤバイ点がありそうな気がしなくもないので、ご指摘いただければ幸いであります。 フレーバーテキスト 今こうして我々が踏みしめている大地。ヤツにとってはごちそうさまのフルコース。つまり我々トッピング。一日三食ディザスター。誰でもいいからヘルプミー。---恐怖のあまり、おかしくなったとある行商人 評価 モリン○ェン?!モリ○フェンが何故ここに?逃げたのか?自力で脱出を…? -- メイカ (2021-01-24 07 22 36) すり替えておいたのさ! -- シザー・ガイ (2021-01-24 07 53 47) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/31278.html
プログラム・リバース R 水文明 (4) 呪文 S・トリガー クリーチャーを1体破壊する。 自分のクリーチャーを破壊したなら、進化ではないクリーチャーが出るまで、相手は自分の手札を見ないで選び、自分はそれを見せる。選んだクリーチャーをバトルゾーンに出す。 相手のクリーチャーを破壊したなら、進化ではないクリーチャーが出るまで、自分は相手の手札を見ないで選び、相手はそれを見せる。選んだクリーチャーをバトルゾーンに出す。 DMIF-01《超獣降臨》で登場した水の呪文。 作者 しぇる 評価、コメントなど 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/4173gogo/pages/48.html
修学旅行の翌日。 二年生は昨日まで修学旅行だったということで、今日は休校日になっていた。 「じゃあ行ってくるね、里奈、兄さん!」 「おう、いってらっしゃい」 「いってらっしゃい!」 学校へ行く潤を玄関で見送る。隣にいる里奈は元気良く手を振っていた。 「さ、もう一眠りするかな」 「じゃああたしもカナメと一緒に寝る!」 俺の左腕を掴む里奈。 どうやら修学旅行で俺が家にいなかった間、潤と里奈は仲良くなったようだ。 今も里奈が潤を見送りに来ていたし、今朝の朝飯を作っていた潤を自ら手伝っている里奈を見ると二人はまるで仲の良い姉妹のようだった。 「この家には慣れたか?」 「うん!カナメは好きだし、ジュンも最初は怖かったけど今は優しいもん!」 嬉しそうに言う里奈。確かに最初里奈を連れて来た時の潤の反応は異常だった。 しかし今はこうして里奈にも好かれている。きっと何かが潤に心境の変化をもたらしたのだろう。 もしかしたらあの雨の日、潤が倒れた日に何かがあったのかもしれない。 とにかく潤は変わろうとしている。それはとても喜ばしいことだった。 「カナメのベットに一番乗り!」 里奈は俺の部屋に入って一目散にベットに飛び込む。 「おいおい、俺のベットだろ」 苦笑しながらもこんな一日も悪くないな、と思う。今日は久しぶりにゆっくり出来そうだ。 ふと視界に点滅した光を放つ携帯が入る。 「メールか。一体誰だろう?」 「カナメ~、早く来てよ~」 「分かったからちょっと待っててくれ」 里奈に急かされながら携帯を開く。やはり受信メールが一件あった。差出人は―― 「…………っ!」 「カナメ?どうしたの?」 「…い、いや何でもない。さ、もう一眠りだ」 「……うん」 なるべく動揺を悟られないように携帯を閉じる。里奈を連れてそのままベットに潜り混んだ。 送信者:大和撫子 件名:無題 本文:今日の正午、桜ヶ崎駅東口で待ってます。 あたし達、恋人だもんね。来なかったら……分かるよね? 桜ヶ崎駅東口。寝ている里奈を起こさないようにして家を出た。 「ここか……」 以前にも呼び出されてここに来た。前回は会長、そして今回は―― 「時間ピッタリだね。合格だよ、要君」 「……撫子」 "恋人"の大和撫子だ。彼女は瑠璃色のポニーテールを揺らして駅前の柱に寄り掛かっていた。 「本当は5分前行動がベストなんだけど……許してあげる」 俺の左腕を取り自分の腕に絡める。撫子からは仄かに甘い香りがした。 「お、おい」 「さあ行きましょ。今日は一杯歩くんだから。覚悟しておいてよね」 嬉しそうに腕を組む撫子を見ているとつい忘れそうになる。彼女がどれほど恐ろしい存在か、ということを。 「あ、ああ……」 でも忘れてはいけない。この"恋人"がいる限り、俺に安らぎは訪れないのだから。 海上娯楽施設"アクアマリン"。桜ヶ崎駅からモノレールで20分程の所にある、海を題材としている巨大テーマパークだ。 休日になると家族連れやカップルで賑わう、我が県のイチ押しといっても過言ではない場所である。 「うわぁ!綺麗……」 「……確かに」 海底をイメージしたエントランスは撫子の言う通りとても綺麗で幻想的だった。 色とりどりの貝殻が周囲を飾り、正面ゲートには本物のアクアマリンがこれでもかという程たっぷりと散りばめられている。 「これ、藤川君のお父さんが作ったんだよね……」 「まあ正確には会社が、だけどな」 このアクアマリンは英の父親である藤川栄作が経営する、藤川コーポレーションが建設したテーマパークだ。 これは東桜では殆どの生徒が知っていることだし、俺も英から直接教えてもらった。 「あたしアクアマリン来たことなかったんだ。よぉし、今日はとことん遊ぶぞぉ!」 「ちょ!?おい、引っ張るなって!」 腕を組みながら俺をぐいぐい引っ張ってゲートに行く撫子。今日は平日だから別に混んではいないし、そんなに焦る必要もないのだが。 それでも目を輝かせながらゲートを通る撫子を見ていると、何だかこっちまで楽しい気分になってくる。 「アクアマリンにようこそ!」 海をイメージした青色を基調とした制服を着るスタッフに出迎えられ、俺達はゲートを潜って行った。 「ジェットコースターだって!あたしジェットコースター大好きなんだ!乗ろっ!」 中に入って早々走らされてジェットコースター乗り場へ。 別に平日の真昼間なんだから焦る必要なんてないと思うんだが、撫子が楽しそうなのでそれで良いかな。 「何々…"海へ突き出たレールがここでしか味わえない興奮を貴方に"…か」 入る時に貰ったパンフレットに書いてある説明を見る限り、かなり本格的なジェットコースターのようだった。撫子は隣でそわそわしている。 「海へ突き出す!?絶対楽しいに決まってるよ!」 「よくジェットコースターでそんなにテンション上げられるな……」 隣で無邪気にはしゃぐ撫子はまるで子供のようだ。どうやら余程ジェットコースターが好きらしい。 「よし、絶対にジェットコースター系は制覇するからね!」 「おいおい……」 乗り場へとスキップしながら登って行く撫子を見ていると、何だか俺までワクワクして来てしまった。恐るべしポニーテール。 「来るよ来るよ!」 「あ、ああ……」 日本の技術力は凄いと思う。 "海へ突き出たレールがここでしか味わえない興奮を貴方に" 確かにその通りだ。一体どうやって支えているのかは分からないが海面スレスレにレールがあり、まるで海へダイブするような感覚になる。 ただ一つ、"ここでしか味わえない興奮"が人によっては恐怖になる場合を除いてだが。 「さん、にぃ、いち……!」 「う、うわぁぁぁぁあ!?」 最初に一気に急降下して海面スレスレまで行った後は、激しいアップダウンを繰り返して一回転する。そしてカーブしながらまた海へ飛び出すのだ。 「さいっこぉぉぉお!」 「あぁぁぁぁあ……」 隣でテンションが最高潮まで上がっている撫子とは正反対な俺。しかしそれは当たり前のことなのだ。 いくらジェットコースターが好きだと言っても普通2、3回乗れば飽きるもしくは体力的に辛くなるものだ。 しかし隣にいる大和撫子という人間には限界がないらしい。 「きゃぁぁぁぁあ!!」 「…………」 既にこの本格的なジェットコースターに乗ること7回目。 さすがに係員にも顔を覚えられ始めた。後何回乗れば隣のスピード狂は満足するのだろうか。 「いやぁ、楽しかったね!マリンコースターもアクアジェットも良かったけどやっぱり一番はジ・オーシャンだったよ!」 「……気持ち悪い」 結局"海へ突き出たレールがここでしか味わえない興奮を貴方に"が売りのジェットコースター、ジ・オーシャンには12回乗った。 その後も休憩を全く挟まずにアクアマリン内にある絶叫アトラクションを全て最低3回ずつ乗り回ったのだった。 「情けないなぁ。しっかりしてよ要君」 「いや、俺は頑張った方だと思うんですが……」 空には既に月が出ている。まさか一日中ジェットコースターに乗らされるとは思わなかった。 これが撫子の言う"デート"ならこれからはデートするのは考えた方が良さそうだ。 「こんなのまだ序の口だよ?……あ」 「うん?」 急に立ち止まる撫子につられて立ち止まる。目の前には工事中のビルが立っていた。 「アクアポート、もうすぐ完成するんだ。半年前に駄目になったばっかりなのに」 「アクアポート?」 俺の質問に撫子は驚いたように目を見開く。 「要君、まさか知らないの!?」 「えっと……何が?」 撫子は信じられないといった様子だが俺にもよく分からない。 この工事中のアクアなんちゃらとかいうビルを知らないことが、そんなにも問題なのだろうか。 「はぁ……。ニュースくらいちゃんと……って要君、記憶喪失だったんだね」 「あ、ああ……」 「このビルはね、半年前、完成間近に事故で爆発しちゃったんだ。当時のニュースで大々的に扱ってたから知らない人はいないと思う」 「爆発……事故……」 何かが引っ掛かる。確かつい最近、そんな話をどこかで聞いたような気が―― 『……半年くらい前にビルの爆発事故で行方不明になってさ。そこに写っているメイドと一緒にね』 「っ!?」 急に頭痛がする。頭が割れそうだ。何かを、忘れてはいけない何かを忘れてしまった気がする。 「だから半年しか経ってないのにまた完成間近……要君!?」 「ぐっ!?」 何なんだ、この感じ。最近頻繁に起きる発作的な頭痛とこの感じ。忘れてはいけないことが思い出せそうで思い出せない。 「やはりここにいたか要」 「……えっ?」 聞き覚えのある声。顔を上げるとそこには会長が立っていた。 しかし何故だろう。いつもの要組の時の会長とは打って変わってその碧眼は冷たく撫子を射抜いている。 そして彼女の紅い髪も燃え盛る業火の如く揺らめいていた。 「……生徒会長さんが何の用?」 「要、体調が悪そうだな。外に車を用意してある。家まで送って行こう」 撫子を完全に無視して会長がこちらへ近付いて来る。途端に理解する。彼女は怒っているのだ。それも尋常でない程に。 「ちょっと待って。要君はあたしの彼氏よ。勝手なことしないで」 近付く会長の目の前に立ちはだかる撫子の声は氷のように冷たかった。撫子もまた怒っているが会長とは正反対に静かな怒りだった。 「……君は一体誰だ?」 「あたしは大和撫子。後ろにいる白川要君の彼女よ。人に名前を聞く時はまず自分からじゃないの、会長さん?」 撫子の挑発とも取れる自己紹介に会長は眉をひそめる。しかし5秒程の沈黙の後、会長が話し始めた。 「私は美空優。そこにいる白川要の婚約者だ。要はもう私の両親への挨拶も済ませている。そうだろ、要?」 「馬鹿言わないで。要君はあたしと付き合ってるの。もう愛し合った仲なのよ。ね、要君?」 会長と撫子がこちらを睨んでくる。何なんだこの修羅場。撫子の言っていることに間違いはない。 でも会長の言っていることも"婚約者"以外は間違ってはいないのだ。 いや、それよりも問題なのは今までこの危うさに気が付けなかった俺自身なのだろうか。 「愛し合った?君は単なる要の性処理道具、つまりオナホだ。要が君なんかに欲情するわけないだろう」 「面白いこと言いますね。ただ乳がでかいだけの年増の何処に要君が欲情するんですか」 二人は睨み合い場の雰囲気が凍り付いているのが分かった。 少し前にも会長と潤の睨み合いがあったが、それとは比べものにならない程空気が張り詰めている。 「分からないのか、君は要には似合わない。どうせこの関係も君が押し付けたものだろうな」 まるで知っているかのように切り捨てる会長。 恐らくあてずっぽうだが、あながち間違ってはいない。撫子はゆっくり息を吐いてから反撃する。 「適当なこと言わないで貰えますか。貴女、偉そうで大嫌いです」 「奇遇だな。私も君が大嫌いだ」 ゆっくりと歩み寄る二人。お互いの射程距離を計っているようだ。緊張は極限まで膨らんでいた。後は何かきっかけがあれば―― 「優お嬢様。そろそろお時間です」 そんな時、会長の執事であろう初老の紳士がやって来た。 「……そうか。それでは今日は引き上げよう。君、夜道には気をつけた方が良い」 「……そちらこそ」 「要、また学校で会おう。修学旅行のお土産、期待してるからな」 「あ、はい……」 そのまま会長は紳士を連れ去って行った。 「今日、楽しかったな」 「うん……」 「えっと……撫子はジェットコースター乗りすぎなんだよ」 「そうだね……」 アクアマリンからの帰り道。会長と対峙してから撫子はずっと俯いて何かを呟いていた。 こうして帰り道を歩いていても生返事しかしない。やはり会長に言われたことが堪えているのだろうか。 「えっとさ……」 「……要君」 突然撫子が立ち止まり俺を見つめてくる。彼女の目は一切の光を写してはいなかった。生気のない、暗闇しか写さない目。 「要君は逃げないよね?裏切らないよね?側に……いてくれるよね?」 覗き込んでくる撫子。その目の暗闇に吸い込まれそうになる。 一切の光がない暗闇が目の前に広がっているようだった。無意識に後退りする自分がいた。 「俺……帰らないと……」 怖かった。とにかく怖かった。昼間一緒にいた彼女とはあまりにも違いすぎて。 一刻も早くこの場所から立ち去りたい。ただそれだけを考えてしまう。 「……そう。分かった」 「あ、撫子……」 声をかけるが撫子はそのまま背を向けて去って行った。 「……くそっ」 彼女は俺を脅していたんだ。それならばこれで良かったはずなのに、何だろうこの胸に広がる罪悪感は。 ただ一つ分かるのは俺がどうしようもなく情けないということだった。 「…………」 家に帰ると里奈に何処へ行っていたのかしつこく聞かれたが、謝ってごまかした。 潤も聞きたそうな様子だったが俺を気遣ってくれたのか、直接何も聞こうとはしなかった。 そんなこんなで気まずい夕飯を終えてベットに飛び込む。 「……会長……撫子……」 一体俺はどうするべきだったのだろうか。根拠はないが俺は何かをすべきだったのではないか。 少なくともあのまま撫子を帰してはいけなかったような気がしてならない。 「……わかんねぇ」 考えていても仕方ない。ふと時計を見ると午後10時ちょうどだった。何か面白い番組、やっていたかな―― 『少し時間をあげる。明後日の午前0時、要の家の近くにある公園で待ってる。その時に答えを聞かせて』 「っ!?」 急に蘇る記憶。いや、これは修学旅行の時の記憶だ。鮎樫らいむに言われた言葉を思い出す。 そう、確かに彼女は言った。明後日、つまり今日の午前0時に公園に来いと。そしてそこで答えを聞かせて欲しいと。 「……本当に意味わかんねぇ」 行って何になるというのだろうか。あいつは鮎樫らいむじゃない。 それは亙さんのおかげで分かった。だったらわざわざ会う必要はないのではないか。 「……馬鹿馬鹿しい」 俺は布団を被り直した。行ってたまるか。 ただでさえ混乱しているのに、自分から面倒を増やす必要はない。それでも彼女の言葉は耳から離れなかった。 午前0時。俺は公園のベンチに向かっていた。 「……寒っ」 結局鮎樫らいむの言葉が忘れず、のこのこと近所の公園まで来てしまっていた。 自分でも馬鹿だとは思うが仕方ない。何故か彼女の言葉を無視出来なかったのだ。 「こんばんは」 「……こんばんは」 鮎樫らいむは前回と同じようにベンチに座っていた。相変わらず真っ赤なワンピース一枚でこの寒空の中、何ともない様子で座っている。 「やっはりワンピースか。……ほら」 そんな鮎樫らいむに自分が着ていたジャケットを手渡す。ちょっと照れ臭いので目は合わせない。 「……ありがとう。座ったら?」 鮎樫は微笑みながらそれを受けとった。そして自分の隣を指差す。別に逆らう理由もないので彼女の隣に座った。 「綺麗な星空でしょ。確かあれは……オリオン座だっけ?」 「いや、あれはオリオン座じゃないだろ」 確かに見上げた空には星が輝いておりとても綺麗だった。 「あれ?二人でプラネタリウムに行った時に教えて貰ったんだけど……。じゃああれは北極星!?」 「……違うと思うぞ」 明らかに飛行機の赤く点滅ライトを北極星と言う鮎樫に思わずため息をつく。つーか俺達プラネタリウム行ったのかよ。 「うーん……。もう忘れちゃったな」 「まあ人間は忘れる生き物だからな。また思い出せば良いんじゃないか?」 俺の言葉に鮎樫は「そうだね」と呟いた。 深夜ということもあって辺りは静まり返り、このベンチだけが別世界へと切り離されたような感覚に陥る。 「……答え、聞かせて?」 「……ああ」 鮎樫が静寂を破った。 俺を真剣な眼差しで見つめる。俺は"答え"をゆっくりと口にする。 「……色々考えたけど、やっぱり知りたいんだ。一体俺が今まで何をしてきて、どんな奴だったのか」 「……うん」 俺も鮎樫の目を見つめて話をする。 「確かに思い出したくはないこともあるかもしれない。でも……それも全て含めて"俺"だから」 鮎樫や潤、英や亮介、会長や遥、桃花や桜花や里奈、撫子、亙さんとライムさん。他にも色々な人達との出会いがあった。 そしてそれら全てが今の俺を形作っている。たった4ヶ月でこんなにも多くの人達との思い出がある。 だったら過去を忘れたままなんて出来ない。だってそれらも全て含めて俺、白川要という人間なのだから。 「…………そっか」 鮎樫はゆっくりと立ち上がり俺の目の前に来る。微笑む彼女は何処か寂しそうだった。 「分かった。要が決めたなら、それが一番だもんね。立って、要」 鮎樫に言われた通り立つ。すると彼女は俺の両手を握ってそのまま前に出した。まるで二人で円を作っているようだ。 「私の本当の名前を言って。それで貴方はきっと全てを思い出せる」 「……分かった」 何故名前を言えば記憶が蘇るのか。その理由は分からない。でも何となくそうなると思っている自分がいた。 結局俺は最初から彼女を、鮎樫らいむを信じたかっただけなのかもしれない。 「最後に一つだけ。……要、たとえ離れても私はずっと貴方を見ているからね」 「ああ……」 「……じゃあ……お願い」 鮎樫は目を閉じる。俺に全てを任せるようだ。ゆっくりと深呼吸をする。心臓が破裂するくらい鼓動しているのが分かる。覚悟を決めろ。 「お前の本当の名前は……」 「………」 「海有朔夜(ウミアリサクヤ)」 その瞬間、視界が歪んだ。今まで体験したことのない激しい頭痛が俺を襲う。 気が付けば手を離し地面に這いつくばっていた。耳鳴りがし、目が開けられなくなってきた。 「――――――――――!!」 あまりの痛みに叫ぶが何を言っているのか聞こえない。意識が朦朧としてくる。そんな中確かに俺は聞いた。鮎樫、いや海有朔夜の声を。 「さようなら、要」 「……んっ」 空には満天の星空が広がっていた。どうやら気絶していたらしい。 「…痛っ」 地面に倒れていたので起き上がる。頭の痛みはまだ引いていなかった。 「いねぇ……」 周囲を見回すが海有朔夜はおらず彼女に渡したジャケットがベンチに置いてあった。 「……とりあえず帰るか」 記憶が戻った実感もなければ昔のことを覚えているわけでもない。だからといっていつまでもここにいるわけにもいかないので家に帰ることにした。 これが平穏の終わり、そして惨劇の始まり。
https://w.atwiki.jp/talesofdic/pages/13786.html
リバースクルセイダー(りばーすくるせいだー) 概要 登場作品 +目次 グレイセス関連リンク 関連項目 グレイセス 装備可能者 リチャード 備考 - 攻撃 術攻 命中 CC 性質 買値 売値 特殊効果 - 入手方法 落 エッケ?(f:3%) ▲ 関連リンク 関連項目
https://w.atwiki.jp/4173gogo/pages/42.html
桜ヶ崎にある廃ビルに俺と桜花の姿はあった。 会長によると桃花らしきメイドの目撃情報はいくつかあるらしく、俺達はその一つである廃ビルに来ている。 廃ビルの中は暗くあまりよく見えないが桜花の暗視能力で何とか最上階まで来れた。 「……ここで鉢合わせたら最悪だな」 まあこういう時に限って現れたりするものだ。 「大丈夫です。私が全力でサポートしますから」 桜花は俺の真横にぴったりと寄り添っている。確かに暗視能力は助かるのだが。 「…桜花」 「なんでしょう?」 「……ちょっと近すぎじゃないか」 距離が全く無い上に腕を組まれているので否応なしに弾力がこちらに伝わってくる。 ……いくらアンドロイドって言っても意識しない方が難しい。 「この状態の方がより正確にサポート出来ますから」 「そうなんだけど…だけどさ」 桜花に正しい暗闇での男女の距離の取り方を教えようとした瞬間 「…っ!?静かに!……誰かこちらに来ます…!」 桜花が前方の何かに気付いた。 「……何処だ…?」 前に広がる闇を見つめる。 時間が経ってきたので暗闇には慣れてきたが人影は近くには見えない。 「気配を…殺しています。それともう…!?」 「わっ!?」 桜花がいきなり俺に飛び掛かって来たので反応出来ず地面に倒れる。 そしてそのすぐ上を何かが通過していった。 その何かは向こうの壁にぶち当たり轟音が廃ビル内に響く。 「くっ…!間一髪…です」 「………あ、ありがとな。よく分からないけど助かった…」 「……なるほど。貴女でしたか」 氷のように冷たい声がした方向、つまり何かが猛スピードで飛んできた方を見るといつの間にかそこには人影があった。 「……まさかコイツが…」 「……はい。どうやらたどり着いたようですね、彼女に」 闇夜でも輝きを放つ銀髪に燃えるような紅い目。 正に写真で見た桃花というメイドそのものだった。 「本当に久しぶりですね、桜花。10年ぶりですか」 「…はい。よく覚えていましたね」 そして見れば見るほど桃花とそのアンドロイドである桜花はそっくりだった。 唯一違うのは桃花が金髪で桜花は銀髪だというところだ。 「自分を基にしたアンドロイドですよ?忘れる訳がありません」 桃花はゆっくりとこちらに近付いて来た。 漂っている雰囲気だけでも相当な重圧を感じる。 「さっきのは…」 「…ああ、あれは近くにあった空き缶を蹴っただけです。ほんの小手調べですかね」 あの轟音が空き缶…。やはりコイツは普通じゃない。 果たしてこんな化け物みたいな奴に勝てるのだろうか。 「…要、行きますよ」 ……勝てるとかじゃない。勝たないといけないんだ。英の右腕の分もきっちりと償ってもらわなければ。 「……よし、いつでも良いぜ」 桜花と二人で桃花と対峙する。冷たい目が俺を捉えていた。 「……一般人…ではなさそうですね」 「………お前が桃花か」 俺達と桃花の距離は20m程。ここならまだ射程外と判断して探りを入れる。 「そうですが……ああ、あの時の英様のご友人ですか」 「あの時…?」 一体あの時っていつだ。そういえば会長が半年前に俺達が桃花と遭遇したって…。 「要っ!!」 「……えっ?」 一瞬だった。 意識がほんの少し逸れた瞬間に桃花は20mもあったはずの俺達との距離を一瞬で詰めていた。 つまり気が付けば俺の懐には桃花がいたのだ。 「さようなら」 そして次の瞬間には桜花をも上回る高速を遥かに越えた、言うなれば光速の蹴りが既に繰り出されていた。 「っ!!?」 桜花と鍛えていたおかげで咄嗟に右腕で防御したが激痛と共に思い切り蹴り飛ばされた。 そのままもろに壁に激突する。空き缶の時と同じような轟音がフロア全体に響いた。 「要っ!?」 決して華奢ではない彼の身体はまるで空き缶のように蹴り飛ばされた。 「まずは一人」 そして彼を空き缶のように軽く蹴飛ばした張本人が目の前にいる。 「くっ!?」 瞬時に距離を取り分析をする。やはり圧倒的な強さだった。 いくら私が彼女のコピーだと言っても敵わない。アンドロイドには限界があるのだ。 すぐに逃走手順を展開しようとする。 「…………」 今は一時撤退が最善策だということは分かっている。分かっているが身体が動かない。 彼、白川要の存在が私のプログラムにバグを与えているのだろうか。 「…逃げないのですか?今ならば見逃してあげますが」 「……たとえ勝てなくてもここで逃げる訳にはいかないんです」 桃花を見つめる。私と同じ顔立ちに燃えるような紅い目。 唯一違うのは髪の色でそれ以外は見分けがつかない。 でも桃花から感じられる身体的、精神的な強さ私とは比べものにならない。 だから所詮私では桃花に勝つどころか傷一つすらつけられないかもしれない。 「…アンドロイドの貴女らしくないですね。そんなにあの少年が気になるのですか」 「要は私が守ります。これ以上、桃花の好きにさせる訳にはいきません」 「私に敵わないとしても、ですか」 それでも戦わなければならない。戦闘用アンドロイドだからじゃない。 要が私のことを必要としてくれたから。だから私は戦うんだ。 「要と一緒にいるために私は戦います。…かつて桃花が里奈様の傍にいることを誓ったように」 私は知っている。桃花がこれ程にも強い訳を。 英様の姉である里奈様の専属メイドだった彼女には里奈様が全てだったから。 だから桃花は里奈様を守るために強くなった。 今の私も桃花と同じなんだ。戦闘体制に切り替える。 もう逃げない、迷わない。私はただ前を向き続けるんだ。 「…では容赦はしません。排除します」 桃花が急加速して私の懐に入る。さっきの要と同じパターン。 でもここは避けない。決めるなら一発だ。 この戦い、長引けば長引くほどこちらの勝率は下がる一方だ。ならば一撃で沈める。 わざと隙を作ってそこに打たせて逆にカウンターを喰らわす。 「っ!!?」 そう、これは要との特訓で身につけた技。確か『肉を切らせて骨を断つ』とか言っていた気がする。 この二週間で私は要に教えてもらった。人は強い意志さえあればどこまでも成長出来るということを。 特訓と称していたけれどいつの間にか私の方が要に色々教わっていた。 アンドロイドの私でも好きな人を守って良いんだ。 ……そうか、私は要のことが好きなのか。だから私は負ける訳にはいかない。 もう一度彼と、今度は誰かの命令じゃなくて私自身の意志で一緒にいるために。 「くっ!!」 「なっ!?」 自ら後ろに飛び桃花の右ストレートの衝撃を少しでも緩和する。 破損は激しいが距離は取られなかった。そして同時にこちらも渾身の一撃を叩き込む。 「っぁぁぁぁぁあ!!!」 「っ!!?」 桃花はほぼ零距離でそれをまともに受けて弾き飛んだ。 「……うっ…」 膝をつく。 腹部は桃花の攻撃で損傷が激しく、また無茶なカウンターのためにフル稼動したので著しくバッテリーを消耗していた。 今の一撃は確かな手応えがあったがもし仕留めきれないようなら打つ手がない。 「…はぁはぁ……」 桃花を弾き飛ばした方向を見つめる。暗くてよく見えないがまだ人影は捉えることが出来ない。 このまま桃花が起き上がって来なければ……。 「……流石、と言ったところですか」 「………くっ…」 ……やはり一撃では倒せなかったようだ。 頭から血が真っ白な頬に垂れており多少のダメージは与えたが、むしろ桃花はそれを喜んでいるようだった。 こちらを見つめながら微笑む桃花の姿は何処か神秘的なものを感じた。 「血を流したのは久しぶりです。私のコピーだけあって中々のようですね」 「………コピーじゃない」 今にも機能停止しそうな身体を動かし立ち上がる。 どうやら立ち上がるのが精一杯のようだ。それでも私は桃花を見つめる。 「私は……桜花…です」 「見事です。ですが私の里奈様への気持ちには敵いません」 桃花が私の目の前に立ちゆっくりと右手を後ろへ引く。私はただそれを見ていることしか出来ない。 「……か……なめ……」 「さようなら」 フロア内に何かが砕け散る音が聞こえた。 激痛で目が覚める。真っ暗闇だ。一体ここは何処で俺は何をしていたんだ? 「…………っ!」 不意に思い出す。 そうだ、俺は桃花に吹き飛ばされて壁にぶち当たったんだ。目の前にあるのは瓦礫か。 「いってぇ……」 瓦礫を退けて立ち上がろうとすると右腕に先程の激痛がまた走った。 どうやら桃花の攻撃を咄嗟に防いだ時に右腕を折られてしまったようだ。 ……一回防いだだけで折られるとは…やはり尋常じゃない。 とりあえず今、桜花が桃花と戦っているはずだ。一刻も早く戻らなければ。 「…………うっ…」 瓦礫を退けると人影が見えた。右腕は使い物にならないがいないよりマシか。 人影の方向へ走る。どうせ気付かれるなら出来るだけ早く桜花の元へ行った方が良い。 「桜花!?………………え?」 確かにそこには桜花と桃花がいた。でも立っているのは桃花だけで足元には"何か"の部品が散らばっている。 ……何かじゃなくてあれは…いや、考えるな…でも桜花は一体何処に…あれは…あれは………。 「……生きていましたか。右腕で咄嗟に防ぐとは…でも遅かったようですね」 「……………桜花は…」 「そこに散らばっているパーツがそう"だった"物ですが?」 ゆっくりと"それらに"近付いてゆく。 パーツはそこら辺に散らばっており暗くてよく見えなかったがそれでも足や手だと思われる破片を見付けてかき集めた。 …何故こんなことをやっているんだろう?俺は桜花を探しているんじゃなかったっけ? 「……か……な……」 「桜花っ!?」 声のする方へ駆け寄るとそこには下半身と右腕を失い、至る所の外装が剥がれ機械が剥き出しになっている桜花がいた。 顔も左側は所々外装が剥がれている。 「…すい…ませ…ん…私……やっぱ……り…」 「桜花!大丈夫か!?」 桜花を抱き上げる。半分しかない桜花の身体はとても軽かった。 俺が隙を作ったせいで桜花が…。何が特訓だ。結局俺には桃花を倒すどころか女の子一人も守れないのか。 「……でも……最期に……良かっ…た……」 俺を見つめる桜花。言葉はたどたどしくいつ事切れてもおかしくなかった。 「最期とか言うな!待ってろすぐに………桜花?」 返事はなく桜花は目を閉じていた。 「桜花?…おい、桜花!?しっかりしろよ!?」 「もう使い物にはなりませんね」 いつの間にか真後ろには桃花がいた。 …そういえばコイツを倒すのが目的だったんだっけ。でも今はそんなことどうでもよくなっていた。 「……桜花は」 「はい?」 そっと桜花を床に下ろす。コイツだけは許す訳にはいかない。 「桜花は物じゃねぇ!」 「……意味が分かりません。どうみても彼女は人間ではありませんが」 桜花を物扱いしやがったコイツだけは、簡単にバラバラにして辱めたコイツだけは許せない。 「ふざけんなっ!!」 「っ!?これはっ!?」 無意識に折れている右腕を真後ろにいる桃花に向かって振る。激痛が走ったが怒りからかあまり気にならない。 桃花はバックステップでそれを軽く避けたが何故か吹き飛ばされた。 「うおぉぉぉぉお!!」 桃花を追いかけながらもう一度右腕を思い切り振る。 すると振った方向に衝撃波が発生した。桃花はそれを防ぐことが出来ずにさらに吹き飛ばされる。 「くっ!?衝撃波!?腕は折れているはず……!」 風の流れを感じる。どうすれば衝撃波が生まれるのか、自然と頭の中に浮かんでくる。 もしかしたらこれが以前に師匠が言っていた俺の力なんだろうか。 桃花に対する怒りに満ち溢れている一方で、どこか冷静な自分もいた。 「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!」 「ぐぅ!?」 衝撃波を防ぐのでやっとという感じの桃花に走って近付き、その勢いのまま桃花の脇腹を蹴り飛ばす。 桃花の苦痛に歪む顔を初めて見た。 右腕が折れているため蹴りしか出来ないが、それでも無防備だった桃花にはかなり効果があったようだ。 脇腹を押さえながら燃えるような瞳でこちらを睨みつけている。 衝撃波をもろに喰らったのかメイド服はボロボロだった。 「はぁはぁ…。まさか衝撃波を生み出せるとは……あの女そっくりですね」 「…あの女?」 俺以外にもこんな芸当が出来る奴がいるのか。気が付けば桃花はこちらに構え直していた。 「ですか私は負ける訳にはいきません。こんな所で負けてしまっては里奈様が……」 「……英の姉さんもこのビルにいるのか?」 桃花は少し動揺している。つい口を滑らせたのだろうか。 いずれにしろ英の姉さん、里奈さんもこのビルにいるらしい。 そしてここが最上階なのを考えるとおそらくこの先の屋上にいるに違いない。 「…会わせて貰うぞ。英の姉さんに」 「させません。私は里奈様の専属メイド、桃花。里奈様を汚す者は何人たりとも通しません」 そう言い終えた瞬間桃花が突っ込んで来た。不意を突いて一瞬で終わらせる気か。 だが俺だってこの二週間ひたすら桜花と特訓してきたんだ。 見ていてくれ桜花、お前が居てくれた意味を俺が示すから。 「おらぁぁぁぁぁあ!!」 「ぐうっ!?」 桃花の光速の連撃を間一髪で避け右腕を思い切り振り抜く。 そしてそのまま衝撃波に捕まっている桃花の懐に飛び込んだ。 「なっ!?」 右腕が折れているから足技しか来ないと思っていた桃花は完全に意表を突かれていた。反応が一瞬遅れる。 「はぁぁぁぁぁぁあ!!」 桜花が言っていた。要の右腕の一発は凄まじいから最後の決め手にするべきだ、と。 だから打つ。折れていようと関係ない。これが俺と、そして桃花がコピー扱いした 「桜花の力だぁぁぁぁあ!!!」 「っ!!?」 右アッパーが綺麗に桃花に入り彼女は宙に浮く。そして受け身も取らず背中から床に落ちていった。 「はぁはぁ……くっ…!」 右腕はもう感覚すらなかった。慣れていない衝撃波の使いすぎだ。果たしてちゃんと治るのだろうか。 桃花に近付くと死んではいないが気絶しているようだった。 「……勝った…のか…」 でもこれで終わりじゃない。屋上に行って確かめなければならない。 英の姉さんである里奈さん……半年前の事故で行方不明になったらしいが果たしてこの先にいるんだろうか。 もしいたとしたら何故半年間も身を潜めていたのか。 そして桃花は何故英の父親を襲ったのか。 全ての答えがこの先にあるはずだ。 「桜花、もう少し…待っててくれ」 俺は一人屋上へと向かった。
https://w.atwiki.jp/gensousyusyu/pages/454.html
ロートス/Lotus →ロティス