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東方キャラが壊れてます。特に衣玖さん好きは要注意。 あとゆっくりが苦しまないのでそれも注意。 永江衣玖は急いでいた。 地震を伝えるためではない。 それは誰でもなく自分のため。 自分の心を満たすために家路を急いでいた。 それは昼下がりのことであった。 「おや、最近よくみるねぇ」と、昼間から酒を飲んでご機嫌な萃香。 「貴方も長いですね。宴会好きな貴方に天界は退屈でしょう」と衣玖。 「んー、そうでもないよ。ところで衣玖はどしたの? 天子なら神社だよ」 「またですか…」 普段は竜の世界と人間界の狭間に住んでいる衣玖だったが、先の神社倒壊事件以降天界にもよく顔を見せていた。 仕事が減って時間が余っているし、何よりもこの天界に住む比那名居天子(ひなない てんし)に会うためだ。 それまでは話す機会も少なかったが、前の事件をきっかけによく話すようになった。 性格のまるで違う二人であったが、不思議と馬が合った。 もっと仲良くなりたいと思っていた衣玖だったが残念なことに天子は博麗の巫女に熱心だ。 まあそれも仕方ないこと。自分から修羅場を作る訳にもいかない。 空気の読める衣玖は自分の心を隠していた。 「ゆっくりしていってね!!」 突然の声に衣玖の回想は遮られた。 「? それはゆっくりですか?」 「そ、ゆっくりだよ」 ゆっくりは知っている。最近幻想郷に出現した生き物で、幻想郷の有名人に似た顔をしていることで有名だった。 しかしなぜ天界にいるのだろうか。 いや、原因は目の前にいる子鬼しかいないだろう。 「暇つぶしだよ。こいつらで遊ぶと面白いんだよねぇ」 「だからといってここに住まわせなくても良いのでは。総領娘様もきっと許しませんよ?」 「あー、だいじょぶだいじょぶ。霊夢型のゆっくりあげたら納得してくれたから」 「ああ――なんてことを」 頭を抱える衣玖。何も嫉妬したわけではない。 総領娘様が許したことで食欲旺盛なゆっくりがこのまま天界で繁殖したらきっと大変なことになる。 美しい花畑も、桃の木も根こそぎ食べられてしまうだろう。 あの我が侭な総領娘様はそんな害まで考えてるのだろうか。困ったものだ。そう、決して嫉妬から否定したわけじゃないんです。 「衣玖も一匹欲しい? たぶん気に入ると思うけど」 「間違いなく要りません。そんな奇妙な生物など」 「きみょうじゃないよ!! ゆっくりはゆっくりだよ!!」 その場にいたゆっくりが何か言っているが無視する。 「そうかなぁ。虐めると反応が面白いんだけどねぇ」 「虐める…ですか。弱い者いじめとは貴方らしくありませんね」 「自分でもそう思うんだけどねぇ。まぁ衣玖もやってみなよ。ほら」 萃香は自分の背中から一匹のゆっくりを出す。 「ですからいりませ…って総領娘様??」 「うん、てんこ型のゆっくり。ここでゆっくりを交配させてみたら一匹だけ生まれたレアものだよ」 確かにそれは天子の顔にそっくりだった。顔はゆっくりのそれだが、桃のついた帽子や髪型は天子のそれであった。 「ゆっくりしていってね!!」 「でも言うことは変わらないのですね」 「まぁ結局ゆっくりだからね。それじゃあこのゆっくりも要らない? なら私が使うけど」 「…待ってください―――」 こうして衣玖は家路を急いでいた。 雷雲を普段とは比べほどにならないほど猛スピードで抜けていく。 「すごい! おそらをとんでるよ!!」 腕に抱えたゆっくりてんこが興奮してしゃべってる。 「でももっとゆっくり飛んでね!!」 さらに注文をつけてきた。 「だまりなさい」 要求を一蹴とするとゆっくりてんこはビクンッと一瞬震えたようだった。結局黙らなかったが。 そうして衣玖は自分の部屋へと着いた。 衣玖の部屋は竜宮の使い達の住む集合住宅の最上階。 竜宮の使い達によるダンスパーティーに優勝した暁に手に入れた素晴らしい部屋だった。 中に入るとゆっくりてんこは我が侭を言い始めた。 「お腹がすいたよ! ごはんよういしてね!!」 それだけではない。 「今日からここがわたしのおうちだね!」 なるほど萃香の言っていたようにかなりの傍若無人ぷりである。 「くすっ」 しかし衣玖は微笑んだ。やはり総領娘様のような我が侭で無ければいけない。 なぜ衣玖が微笑んだのかゆっくりてんこには理解できない。それよりも美味しい料理が欲しかった。 「ゆっ? ゆっくりはやくよういしてね!!」 「はいはい、待っていてくださいね」 「ゆっくりまってるね!!」 衣玖は台所へと向かわず玄関へ向かっていった。 鍵をかける。チェーンもしっかりだ。さらに窓にもカーテンをかけて中が見えないようにする。 これで準備は出来た。これで私がこの家でこれから何をするのか誰にも分からない。 「ゆっくりまってたよ! ごはんは!!」 部屋へ戻るとゆっくりてんこがぴょんぴょんと無防備に近寄ってくる。 顔だけなのに器用なものだ。そう思いながら衣玖は、近寄ってくるゆっくりてんこを、殴りつけた。 ごにゅっと妙な感触が殴った手に伝わる。 次の瞬間にゆっくりてんこは壁にたたきつけられていた。 「ゆ”っ!!?」 「総領娘様と同じ顔を殴ってしまいました。でもこれは挨拶代りですからね?」 衣玖は笑みを浮かべながら床にうつ伏せになっているゆっくりてんこへと近づいていく。 ゆっくりは痛くて泣いているのだろうか。それとも苦しんでいるのだろうか。 衣玖はゆっくりてんこを両手で抱えると、どんな顔をしているのかとゆっくりの顔を自分へと向ける。 しかしゆっくりの顔は衣玖の想像とは違った。 「ゆ、ゆっくりぃ」 泣いてもいないし苦しんでもいない。 ゆっくりてんこの顔は紅潮していて、口元からは涎が垂れていた。さっきのパンチで狂った? それとも――感じてる? 「も、もっと!! もっとゆっくりおしおきしてね!!」 「え、ええ??」 「いじめてね!! ゆっくりいじめてね!!」 ゆっくりてんこは衣玖に殴られて感じていたのだ。しかもさらに攻撃しろと言ってくるのだ。 「と、とんでもないマゾですね。さすがはあの総領娘様にそっくりなゆっくりですね」 衣玖は聞いたことのないゆっくりの反応に少し戸惑ったがすぐにどうでもよくなった。 本当は本物の天子を苛めたいのだが、立場上それはできない。 悶々とした気持ちを日々抱えていた。 しかし今日、総領娘様そっくりのゆっくりてんこを子鬼に譲ってもらえたのだが、 それが姿だけでなく性格も天子と同じように我が侭でマゾだったとは! 衣玖の心はフィーバーした。 こうなると普段は隠しているサドっ気を抑えきれなかった。 「そんなにいじめて欲しいならたっぷりといじめてあげますよ」 そう言うとゆっくりを抱える両手に電気を流した。 「あ”ばばばばばば!!」 大量の電気をその身に受け、白眼を向いて体中に走る激痛を受けるゆっくりてんこ。 苦しそうで痛そうだった。 「ぎぎぎもぢい”い”い”!!!」 しかしそれが気持ちいいらしい。 「そんなに涎を垂らして、だらしない顔ですよ。なんて気持ち悪いんでしょう!」 気持ち悪い、そう言われるとゆっくりてんこは悦しそうな表情を見せる。 「も”、もっどい”っでえ”え”え”!!」 「もっと言ってほしい? なんでそんな事をしないといけないのです?」 衣玖はそう言って床へゆっくりてんこを投げつける。 「ゆ”ゆ”ゆ…ゆ? も、もっとやって!!いじめて!!!」 さっきまで電流を流し続けたというのにすぐにケロッとしてお仕置きをねだってくる。 マゾなゆっくりはタフだった。 「おねがい!! ゆっくりいじめて!! ゆっくりしていって!!」 「だまりなさい。ゆっくりしたいのならそこでぼーっとしていればいいのです」 「ゆゆ~っ!?」 ゆっくりてんこは虐めてくれた相手が突然虐めてくれなくなったのでどうすれあいいのか分からなくなった。 もっと虐めて欲しい。汚い饅頭だと罵ってほしい。自分の心を満たしてほしかった。 そのためにはどうすれば―― (必死におねだりまでして浅ましいですね。総領娘様もそんな感じなのでしょうか?) そうやっておねだりする総領娘様を想像して、衣玖は嫌な気分になった。 と、その時だ。 ガシャーン!! 突然部屋の壺が割れた。いや、ゆっくりてんこが床に落として割ったらしい。 続けて花瓶も床に落とす。さらに床に落ちた花を汚く食す。 「なにを…」 言いかけたところでゆっくりてんこは言う。 「おねえさん! いたずらしてつぼをわっちゃったし、きちゃなくおはなもたべちゃったよ!!!」 「だからわるいゆっくりにおしおきしてね!!!」 なんということだろう。このゆっくりはお仕置きしてもらうためにワザとこんな事をしたのだった。 なんという我が侭なマゾ。 それはまさに成敗されるために博麗神社を倒壊させた自己中心的な天子そのものだった。 「そういうことですか。ならもっと虐めてさしあげましょう」 衣玖は最大級の笑顔でゆっくりを蹴り飛ばした。 「い”だい”よ”!! ぎもぢい”い”よ”!!」 愉悦の表情で蹴飛ばされるゆっくりてんこ。とても幸せそうだ。 壁にぶつかって床に落ちるゆっくりを衣玖は休む間もなく攻め立てる。 「もっと欲しいんでしょう? だったらもっといい声をあげてくださいね」 上向きに倒れるゆっくりてんこを足で踏みつける。 「ゆ”ぐっ!」 苦しそうで嬉しそうな声をあげる。 天子似の顔を踏みつけることで衣玖の心は更に満たされる。 「ふふっ、踏むだけじゃないですよ」 衣玖は左手を腰に、人差し指を立てた右手を天に向ける。 雷符「エレキテルの龍宮-弱-」 ゆっくりを踏みつけた衣玖周囲に雷のバリアが発生する。バリアといっても衣玖以外はダメージを負うが。 本来は大妖怪相手でもダメージが期待できる程のスペルだが、ゆっくり相手なので威力を落としてる。 「あ”あ”あ”~~!!ゆ”っぐりい”い”よ”お”お”!!」 全身を駆け巡る激痛にすっかりヘブン状態のゆっくりてんこだったが、 スペルを発動している衣玖はヘブン状態どころか完全にサタデーナイトフィーバーだった。 「ああ…これです。これをやってみたかったんです! 総領娘様に、天子様にこれを!!」 衣玖は感極まってさらに電圧を上げる。 「あ”っ~、ゆ”っぐりい”っぢゃうよ”!!」 「何を勝手にイこうとしてるんですかこの不細工饅頭」 ぎゅっとゆっくりを踏む足に力を込める。 「い”っぢゃう!!」 ゆっくりてんこは全身から粘性のある液を噴き出した。 「すっきrんぐうっ!?」 オーガズムに達してすっきりしたゆっくりてんこをつま先でぐりぐりと潰す衣玖。 彼女はまだ満足していない。天子相手にしたかったこと、そのすべてをやろうとしていた。 「あら勝手にイって満足しないでくださいね。夜はまだまだこれからなんですから」 「ゆ”っ…っぐりーー!!」 衣玖の激しい攻めにまたも悦びの声をあげるゆっくりてんこ。 この一人と一匹は本当に相性が良かった。 結局衣玖の霊力が尽きるまでこのハードSMは続いた。 「はぁはぁ…少し、フィーバーしすぎましたね」 あまりの激しい衣玖の攻めにゆっくりてんこは絶頂のアヘ顔で絶命してしまっていた。 しかしその頭から蔓がのび、その先にゆっくりてんこが二匹実っていた。 どういう原理かはわからない。ただ虐めに虐め抜くとてんこは子を宿すようだった。 衣玖としては虐める対象が一匹から二匹に増えただけ。それで充分だった。 (この二匹が目を覚ましたらまた虐めるとしましょうか。一匹は透明な箱にでも入れて放置プレイもいいですね) 天界に住み着いた子鬼に譲ってもらったゆっくりてんこは衣玖の隠れた性癖を満たす最高の玩具になった。 そのゆっくりてんこは死んだが虐めてくれる最高のご主人様に出会えて幸せだった。 目を覚ました二匹のゆっくりてんこに衣玖は笑顔で語りかける。 「おはようございます。貴方達はゆっくりしたい? それとも虐めて欲しいですか?」 「ゆっくりしたい! ゆっくりいじめてね!!」 衣玖は妖しく微笑む。 こうして衣玖もまたゆっくり虐め(てんこ限定)に熱中してしまうのでした。 続く 合意の上ならいじめても仕方ないよね! 俺の中のキャラ設定 衣玖さん : 隠れサド。天子をいじめたいと常に思っているが立場上出来ないので悶々している。 天子 : 真正マゾ。お仕置きされたいがために神社を潰した。今日もお仕置きされるために神社の賽銭箱をプチ要石で潰した。 ゆっくりてんこ : オリジナルの性格を受け継いているので真正マゾで構ってちゃん。 この設定で続き書くなら一匹だけ虐めてもう一匹を透明な狭い箱に入れて放置プレイで苦しませてやりたい。 構ってもらえないうえに、動けないんで気を引けなくて発狂するゆっくりてんこ。 そして虐めてもらえないまま…みたいな。
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幻想郷も夏となれば暑い。 そして、私の家は涼を得るための道具が風鈴しかない。 だから、私はその日、家の窓を全て全開にしておいた。 少々の虫は寄るだろうが、別に気にする事もない。 どうせ家は古ぼけているし、この辺りには妖怪も猛獣もいないのだ。多少虫に刺された程度ならば何でもない。 全ての窓を開け放った後、一番涼しくなる場所まで移動して、そのまま寝転がった。 こういう時の畳の心地良さは、言葉にできないものがある。 少しだけ休もう。そう考えつつ、そのままうとうととしてしまった。 『ゆっくりしないでね!』 どうやら完全に寝入っていたらしい。 日はかなり傾いており、何やら物寂しい気分にさせる光景が広がっていた。 何となくため息を一つついてから、食事でも摂ろうと台所に向かっている最中、ガシャンガシャンとやかましい音が聞こえてきた。 泥棒でも入り込んだかと寝ぼけ頭で考えつつ台所に入った私は、それを見て呆然と立ち尽くした。 放射状に割れている陶製食器、食い荒らされた食料、土まみれの床板。 「ゆっくりしていってね!」 そして、その真ん中で異様に得意げにしている饅頭。 幻想郷最弱にして一部の人からはウザいと言われて死ぬまでいたぶられ、一部の人は保護し尊重しているという良く分からない生物、ゆっくりだ。 「ゆっくりしてね! おにいさんはゆっぐ!?」 何か言っているのを無視して、捕まえたゆっくりをガラス製の水槽に放り込み、そのままフタを閉める。 その後、何やら騒がしいゆっくりを尻目に、そのまま部屋を片付けた。 片付けが一通り終了した。 陶製の食器は思ったよりも割れておらず、食料も見た目より減ってはいない。というより、食べた量より食べかすの方が多い。 やけに少ない被害に首を傾げるが、考えてみれば幻想郷最弱のゆっくりなのだ。重いものやすぐに食べられないものは狙わなかったのだろう。 子供のいたずら……にしては性質が悪いが、この程度ならば軽くお仕置きをしてから開放してやっても良いかな。 そんな事を考えつつ水槽に近づいてみると、ゆっくりはボロボロと涙をこぼしていた。 何度も出ようと試みたのだろう、顔の至る所が食紅でも使ったかの様に赤くなっている。 これなら飛び出す心配もないだろうと思い、水槽のフタを開けてみた。 「っぐ……いだいよ、いだいよ……ゆっ! おにいさんここからだして! おうちかえる!」 フタを開けた瞬間、ゆっくりは水槽をごとごとと揺らして泣き叫び出した。 家を荒らされた私の方が悪者の様で若干不愉快だが、そこはぐっと堪える。 危険な生物が近くにいないという事で、警戒心がなくなっていたのは私の方なのだ。 むしろこの程度の被害で済んだ私は、運が良いのだろう……と、考えていてゆっくりの事を忘れていた。 うっかりしていたと思いながら見てみると、当のゆっくりは白目をむいてがたがたと震えていた。 「おねがい! あやまるからおうちかえして! へんなことしないでゆっくりさせてよ!」 そのまま、何度もへこへこと奇妙な屈伸運動をしつつ、ごめんなさいごめんなさいと繰り返す。 どうやら、謝っているつもりなのだろうが、何故ここまで怯えているのだろうか。 不思議に思いつつ水槽を覗き込むと、ゆっくりはカッと目を見開いて、凄まじい悲鳴を上げた。 「ゆあああああぁぁぁ! ぞんなにはやぐうごがないでぇぇぇ! ゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!」 早く動かないで? ゆっくりできない? 意味の分からない事を言うゆっくりを落ち着かせるためにも、話しかけてみる。 「何を言っているんだ? ゆっくりも何も、私は動いていないが」 「おててがぁぁぁ!!! ひらひらひらひらおててがゆっぐりじでないよぉぉぉぉぉ!!!」 泣き叫ぶゆっくりだが、その内容はいまいち良く分からない。 『おてて』と呼ぶ物は恐らく手の事だろうが、手がどうしたと言うんだ? 不思議に思いつつも何気なく左手を見ると、そこそこの速度で左右に揺れている。 「はやぐ! はやぐどめでぇぇぇ!!! なんでもずるがらゆるじでぇぇぇぇぇ!!!」 口の端から黒い泡を吹き出して絶叫するゆっくり。 その様子を見て、ようやくこの手の動き(考え事をする時のクセである)が恐怖の対象なのだと分かった私は、すっと動きを止めて後ろ手を組んだ。 「ほら、もうゆっくり出来るだろう?」 「あ……ありがどおおおおぉぉぉ」 心底安堵した声を上げるゆっくりを眺めていると、イタズラ心が湧いてきた。 「ゆっくり出来たんだから、ここから出す必要はないな。じゃあ、しばらくそこでゆっくりしていてね」 「ゆぎゅ!? まっで! おうぢがえりだいよぉぉぉ!!!」 安堵の顔から一転して、また白目をむいて泣き叫ぶゆっくり。正直面白い。 その情けない有様を眺めていると、一つの『お仕置き』を思いついた。 私は、出来るだけ優しそうに見える笑顔を浮かべて、ゆっくりに話しかけた。 「よし、それならおうちに帰してあげよう」 「ゆっ、ほんとう!? おうちかえしてくれるの!?」 泣き顔からまた一転して笑顔へと変わるゆっくり。 「ゆっくりかえれるよ!」「おうちでゆっくりするね!」などと、もう帰った後の事を考えて嬉しそうに飛び跳ねだした。 だが、そう簡単には帰してはやらないぞ。 「まてまて、帰す前にする事があるだろう」 「することってなに? まりさはすごくゆっくりしてるよ!」 不満そうに口を尖らせるゆっくり。こいつはどうやら、まりさと言うらしいな。 ゆっくりのまりさだから、ゆっくりまりさか。今後はゆっくりまりさとでも呼ぼうかな。 「ゆあああぁぁぁ! おででがゆっぐりじでないよぉぉぉ!!!」 おっと、クセが出てしまった様だ。 慌てて後ろ手を組むと、ゆっくりまりさはぷくっと膨らんで「ぷんぷん!」などと言い出した。どうやら怒っているらしい。 「ゆっ! おにいさんはゆっくりできないひとだね! はやくまりさをおうちにかえしてよ!」 いや、だからその前にする事があるんだって。 何秒か前に言われた事すら覚えていない頭の悪さに内心苦笑しながらも、笑顔を崩さずに語りかける。 「ダメだよ、ゆっくりまりさは悪い事をしたんだから、お仕置きをしなきゃいけない」 「ゆぎゅ!? まりさなんにもわるいことしてないよ! おしおきはなしにして、おうちかえして!」 「ダメだ、私の家をメチャクチャにしたじゃないか。それは悪い事だろう?」 「なんでぇぇぇ!? まりざおにいざんのおうぢめぢゃぐぢゃになんがじでないよぉぉぉ!? おじおぎなんでざれだらゆっぐりでぎないぃぃぃ!!!」 甲高い声で泣き叫ぶゆっくりまりさ。 自分が何をやったのかを理解していないのか、本気で悪い事は何もしていないと思っているのか……恐らく後者だろう。 ※ 一から理解させてやらなければならないのだろうか……ため息をついて、やや怖い顔を作る。 「じゃあ、私がお前のおうちにある食べ物を食べたり、おもちゃを壊しちゃっても良いんだな?」 「だめだよ! そんなことされたらゆっくりできな……」 中途半端な所で言葉を止めたゆっくりまりさは、ハッと驚く様な顔になって、そのままぶるぶると震え始めた。 勝手に家の食べ物を食べられ、おもちゃを壊される……それは、先ほど自分がやった事だとようやく気付いたらしい。 そのまま考え込む様に目を閉じて「ゆぅ~」とうなり声を上げた。覚悟を決めているらしい。 少し経って目を開いたゆっくりまりさは、饅頭だと言うのにやけに凛々しい表情を浮かべていた。 「……わかったよ、まりさがわるいことしたからおしおきされる! でもあんまりいたくしないでね! いたくしたらゆっくりできないよ!」 ゆっくりおねがいね! などと飛び跳ねるゆっくりまりさ。 勝手な事を言っているのにどこか憎めない態度に、思わず苦笑いが浮かんでしまう。 子供がわがままを言っている様に感じてしまうからだろう。 「よし、覚悟が出来ているならお仕置きをするぞ」 「ゆっ! おねがいします!」 屈伸運動をするゆっくりまりさ。お辞儀のつもりだろう。 お仕置きをするだけなのに、稽古中の師匠と弟子の様で面白いが、ゆっくりまりさは真剣な眼差しでこちらを見つめている。 「じゃあ、始めるぞ」 「ゆっくりいつでもどうぞ!」 よほど怖いのだろう、良く見るとふるふると震えている。 すぐに終らせてやるからな。心の中でそう誓いつつ、ゆっくりまりさの目の前に手を持って行く。 「しばらくこの手を見ている事がお仕置きだ、分かったか?」 「……ゆ? ゆっくりおててみているよ!」 不思議そうな顔をした後で、嬉しそうに飛び跳ねるゆっくりまりさ。 お仕置きと言われて緊張していたら、手を見るだけなどという半ば遊んでいる様な程度で済んだのだ。その気持ちも分からなくはない。 だが、そこまで甘くはないぞ。 「これはお仕置きなんだからゆっくりされては困るな。これからが本番だ」 にこにこと笑うゆっくりまりさの目の前で、手をゆらゆらと動かし始める。 ゆっくりまりさは「ゆっ!?」などと驚いた声をあげつつ、先ほどよりずっと遅い速度で揺れ続けるそれを目で追いかけた。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……」 珍妙な掛け声で噴出しそうになるのを堪えつつ、ゆっくりと手を動かし続ける。 右、左、右、左……ゆらゆらと動く手を追いかけ続けるゆっくりまりさは、べちゃんと転んでしまった。 「ゆぎゅっ……ゆっくりできないよ!」 そのままぷくっと膨らもうとするが、起き上がった時点でまたゆらゆらと動く手を見て、すぐに目で追いかける。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……」 珍妙な声を上げつつ、ゆっくりと動く手を眺め続けるゆっくりまりさ。 その極めて難しい事に挑む挑戦者の様な表情を眺めつつ、私はゆらゆらと手を動かし続けた。 「はい、お疲れさん」 「やっどゆっぐりでぎるよー!!!」 私の声を聞いた瞬間、疲れ果てたとばかりにぷにょんと平べったくなるゆっくりまりさ。 「ゆぅぅぅ……おめめがいたいよ!」 数分間ふらふらと手を追っていたのがよほど堪えたのだろう。 ゆっくりはぱちぱちとまばたきを繰り返している。 「ゆっ……おめめがゆっくりできたよ!」 しばらくそうしてから、ゆっくりまりさは嬉しそうに叫んだ。良く見ると、目がつやつやと輝いている。 ゆっくりもドライアイになるんだな……おっと、考えていたらまた手が動いてしまうから考えない様にしなきゃな。 それに、お仕置きは終ったのだから、家に戻してやらなければならない。少し残念に思いながら、水槽から出してやった。 「おにいさんありがとう! それとごめんなさい! おうちでゆっくりはんせいするね!」 水槽の外に出た途端、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていくゆっくりまりさに声をかけた。 「ああ、もう家を荒らすんじゃないぞ」 「ゆっくりわかったよ! ばいばいおにいさん、ゆっくりしていってね!」 その場で飛び跳ねてから、かなりのスローペースでどこかへと去っていくゆっくりまりさを、微笑ましく眺める。 あのゆっくりまりさは、二度と同じ事を繰り返しはしないだろう。 そう考えると、心を鬼にしてやった甲斐があったというものだ。 穏やかな気分になりながらも、足りなくなった食器や食材を買いに行く事にした。無論、戸締りはしっかりとしてからだ。 お仕置きしている最中に降り出した雨の中、急ぎ足で買い物へと出かけた。 近頃流行りのぬるいぢめと32スレ 811の言った○○すれば~~してやる系統の話でふと思い立ったものを一つ即興で上げようとしたけど長くなりました。 ちょっとぬるすぎると思った方のために、先に思いついたドギツイ虐待も置いておきます。 ※から下がそれなので、良かったら見て下さい。 by319 ※ それにしても、うるさい事この上ないな。ゆっくりがウザいと言う人の事が少し理解できた気がする。 「分かった、まりさは悪い事はしていないと言うんだな。なら、家には帰せない。そこでしばらく反省しなさい」 「わるいごどじでないのにぃぃぃ! おうぢがえじでよぉぉぉ!!!」 いかにも自分は被害者だという叫びを上げるゆっくりを無視して、フタを閉める。 水槽を覗き込むと、ゆっくりの方も気付いたのか、激しく跳ね回りながら泣き出した。 音が聞こえないために何を言っているかは分からないが、何と言いたいかは分かる。 家に帰りたい、助けて、ごめんなさい。まりさは何もしてないよ、許して。 最初は、子供のいたずらに近いものがあるし入ったのがゆっくり程度で良かったと思っていた。 だからこそ、先ほど考えていたお仕置きも簡単なもので済ますつもりだった。 だが、こいつは全く反省していないどころか、自分は被害者で、冤罪だとほざいている。 これまで優しく接していた自分が愚か者だと突きつけられた様な錯覚に陥る。 苛立ちをそのまま饅頭に叩きつけたくなるが、そんな事をしたら今度こそ自身の間違いを肯定する様なものだ。それは気に入らない。 では、どうするか……決めた。 さっき思いついた『お仕置き』を少々キツめにやってやろう。 これなら暴力は振るわないで心の底からの反省を促す事が出来る。 「おうぢがえじでぇぇぇ……ゆっ? おにいざん、なにじでるの!?」 まず、ゆっくりの目の前に手を持ってくる。 「おはなじぎいでよ! ゆっぐりでぎないよ!」 そのまま、ひらひらと左右に手を振る。 「ゆっ!? ゆ、ゆ、ゆ……」 何かと思って追いかけるゆっくりの前で、どんどん手を早く振っていく。 「ゆっ、ゆっ……ゆゆゆ、ゆっぐりでぎないよ! もっどゆっぐりじでよ!」 だが断る。更に手を早く振り、ゆっくりできなくしてやる。 「ゆぎゅあぁぁぁぁあぁあぁぁぁあ!!! ゆっぐりじでよ! ゆっぐりじでよ!」 泣きじゃくるゆっくり。 この期に及んでまだ被害者ぶるその態度が勘に触った私は、風を切る音が聞こえるほどに素早く手を振り続けた。 「やべでぇぇぇぇぇゆっぐりざぜでぇぇぇぇぇ!!!」 皮がふやけるほどの勢いで涙を流すゆっくり。 小賢しい。腹の底から怒りが沸き上がってくる。 泣きじゃくるゆっくりの前で、私は手を小刻みに振り続けた。 「ゆるじでぐだざいぃぃぃぃ;あkhy:@ばdgは:!!!」 ゆっくりは、あまりにゆっくりできない現状に絶望したのか、意味不明な叫びと共に黒い何かを吐き出し始めた。 だが、私は怒りのために疲れは全く感じない。 こうなれば、持久戦だ。 私が疲れて手を振る事をやめるか、ゆっくりが被害者ぶるのをやめて、自分が悪かったと反省するか。 そんな事を考えながら延々と手を振ってゆっくりさせない事に専念していたせいで、ゆっくりが段々と目の輝きを失っていった事には気が付けなかった。 どれだけの時間手を振り続けていただろうか。 流石に疲れた私は、手を振る事をやめた。 「……どうだ、これだけやったら反省しただろう」 「………………」 ゆっくりは無言でうつむいている。 流石に反省したと思うのだが、こちらの被害も甚大だ。手がぶるぶると震えている。 こんな事で腱鞘炎にでもなったらバカらしいが、それもこれも、ゆっくりに反省してもらうためにやった事だ。 「分かったか? 自分がやった事を棚に上げて、被害者ぶるなんて許されない事なんだぞ」 「………………」 うつむいたまま動かないゆっくり。 ひょっとしたら、叫び疲れて寝ているのかもしれない。 だとしたら、途中からは何のためにやっていたのか分からないが……若干の冷や汗を背中に流しつつ、ゆっくりが寝ていないかどうか確認してみる事にした。 「おい、聞いているのか? お前は……」 ぱさりと帽子が落ちたその中の饅頭を見て、私は絶句した。 私の家は、勝手に誰かが入り込んでくる様な立派な家でもないし、妖怪もこの辺りにはいない。 だから、私が油断していたと言わざるを得ない。 理性では分かっている。だが、感情では分からない。 だから、私はこんな事をしたのだろう。 「ゆ……ゆ……ゆ……」 目の前には、白目をむいて震えているゆっくりが一匹。 外傷はないが、精神に負った傷はもう二度と治る事はないだろう。 哀れな饅頭の前で、詫びる様にゆっくりと手を振った。 このSSに感想を付ける
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ゆっくりいぢり ゆっくりをからかう ゆっくりれいむがいたので、最近思いついたいたずらをしてみようと思う。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆゆ!? おにーさんゆっくりできるひとなの!? ゆっくりしていってね!!!」 実にゆっくりらしい反応だ。こうでないと今回のいたずらは面白くない。 手に取りたるはタイヤキ、中身はクリームではなく餡子だ。 「ところでれいむ、コレがなんだか知ってるか?」 と、タイヤキを持ってれいむに見せてやる。 「しってるよ!!! とってもあまくてゆっくりできるものだよ!!!」 「じゃあ、コレの中身が何なのかも知ってるな?」 「しってるよ!!! あんこだよ!!!」 「ということはお前の仲間だな? お前は仲間も食べるのか?」 「こんなのれいむのなかまじゃないよ!!!」 「お前の中身は餡子だろう? 仲間じゃないか」 「ゆゆっ!!! じゃあ、タイヤキってれいむのなかまなの!?」 「ああそうだ。お前は仲間を食べてたんだよ。 タイヤキはしゃべれないから痛くてもやめてって言えなかったんだな。 しゃべれないのをいいことにいじめるなんて……おお、こわいこわい」 「ゆゆゆ……だいやぎざん、ごべんな゛ざい゛…… ゆっぐ……ゆっぐ……うわーん!!!」 さて、本格的に泣いたところでネタ晴らしだ。 「うっそぴょーん!!! タイヤキはタイヤキ職人さんが作るお菓子なの!!! はじめっから生き物じゃないんだよ!!!」 「ゆゆ!? おにーさん、れいむのことだましたね!!! ぷんぷん!!!」 「ほら、コレをやるから機嫌直せよ」 といってさっきまで持ってたタイヤキをれいむの目の前においてやる。 「ゆ!! いただきまーす!!! むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!!」 「ハハハ……こんなんで幸せって、ずいぶん安いもんなんだな」 「ゆゆ!!! れいむやすくないよ!!! ゆるしてほしかったらもっとたいやきちょうだいね!!!」 結局、俺はこの日れいむにタイヤキを5個も食べさせる羽目になったのであった。 このSSに感想を付ける
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それはかすかな音だった。 だが俺は農夫として長くこの畑で働き続け、『やつら』と長い間付き合ってきたため、 その音を聞き漏らすことはなく、その発生源をすぐさま特定できた。 気配を殺し、音のした方をそっと探る。 青葉のカーテンを掻き分けると、そこには数匹のゆっくりがいた。 「いい、ちびちゃんたち? 音を立てちゃだめだからね。ゆっくり、ゆっくり動いてね。 跳ねたりしちゃだめだよ? ゆっくり理解してね? そろーり、そろーり」 「おきゃーしゃんゆっくちわかっちゃよ……。しょろーり、しょろーり」 ゆっくりどもは囁くような声を交わしている。 ゆっくりにしては真剣な表情をして、用心深くしている。 ゆっくりどもの内訳は親れいむに赤れいむ二匹、赤まりさ二匹。計五匹の一家だった。 普通、狩り(畑荒らしを狩りとは認めたくないが)をするのはつがいのまりさであることが多い。 子連れで現れたことと併せて考えると、こいつはしんぐるまざーなのかもしれない。 しんぐるまざーはゲス率の高いことで知られている。親がゲスならその子供たちも当然ゲスだろう。 これは手ごわいかもしれない……。 「やあ! ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていっちぇね!」 相変わらずの愚かぶりに思わず苦笑が漏れてしまう。 元気よく返事してしまったゆっくり一家は俺の方を見上げて硬直している。 「に、人間さん! あ、あのね! 違うんだよ! れいむたちは!」 「問答無用!」 ゆっくりと会話することなど無駄以外の何物でもない。 どうせすぐばれる嘘かくだらない言い訳を延々と並べ立てられるだけだ。 俺は仕事道具の鎌を素早く親と思われるれいむの脳天に突き刺した。 「ゆぎっ! ゆぎぃぃぃぃぃ!!」 親れいむは白目剥いて口から泡を吹き出して悶絶した。 「おきゃーしゃんがぁぁぁ!」 「おきゃーしゃんゆっくちしちぇね! ゆっくちしちぇね!」 まず叩く。まず人間の優位性を蠢く饅頭どもに知らしめる。 そうして初めて会話が可能になるのだ。 もちろん、足止めも兼ねている。 「さあて。こいつらを教育してやるか」 俺はゆっくりの教育をしていた。 ただ駆除するのではキリがない。やつらはいくら潰しても際限なく増えやがる。 だから教育をすることにした。 畑に侵入すること、野菜を盗むこと、人間に敵対することがいかに割に合わないことなのかを、 いかに人間がゆっくりより強いのかを教え込む。 この世の掟を餡子脳に刻み込んでやる。 教え込んで森に放す。解放されたゆっくりは仲間たちにこの世の道理を教え諭すだろう。その変わり果てた姿は言葉以上に雄弁だろう。 これはゆっくりどものためでもある。 やつらも人間や畑というものについて認識を改めれば、無駄に儚い命を散らすこともないのだ。 俺は虐殺や虐待が好きなわけではない。 話のわかる善良なゆっくりならいたぶったりはしない。 酷い目にあわせるのはゲスだけだ。それも教育のためにしかたなく、だ。 制裁を兼ねた教育なのだ。 ……実際にはなかなかうまくいかない。 やつらゆっくりに、農業の概念、土地の概念を教え込むのは難しい。 やつらにも縄張りの概念はあるのだが、広大な畑すべてが人間一人のものという状態が納得いかないらしい。 やつらにとっては畑とそうでない土地との境界線もよくわからないらしい。 そして、野菜は勝手に生えてくるものと信じて疑わない。 畑に現れるゲスゆっくりは一向に減る気配がない。 そういうわけで、ゆっくりたちにゆっくり理解してもらうにはかなり手荒な方法を使わなければならない。 「おきゃーしゃん! おきゃーしゃん!」 「お返事しちぇね! 元気になっちぇね! ゆっくちしちぇね!」 「びゅ……びゅ……びゅ……」 赤ゆたちは必死に親れいむを舐めたり励ましたりしている。 逃げたりはせず親から離れない。 涙ぐましい家族愛……に見えるかもしれないが、無力な赤ゆにとって親ゆは生命線だ。 もっと端的に言えば食糧供給源だ。 逃げないのは親から離れては生きていけないからだ。別にかばっているわけではない。 ゆえに、俺のような経験者から見ればこういった態度だけでゲスか善良かを判断するのは極めて危険と言える。 俺はいつも腰に下げているズタ袋を広げると、赤ゆっくりを一匹ずつ摘み上げて放り込んでいった。 「やめちぇね! ゆっくちさせちぇね!」 「おきゃーしゃんに酷いことしゅるにゃあぁぁぁ! ぷきゅうぅぅぅぅぅぅ!」 赤ゆどもは必死に膨れて抵抗するが、もちろん何の効果もない。 ゆっくりの威嚇ほど無意味なものはない。 ゆっくりが出現した当初は野生動物たちにある程度通用したらしいが、今では慣れられてしまったのか誰にも効果がない。 押しも押されぬ最底辺動物の地位を獲得したわけだ。おめでとう。 俺はすべての赤ゆを収容すると、空いてるほうの手で親れいむを無造作に掴み上げ、家へと運んでいった。 「さあて歓迎するぞ、カスゆっくりたち。俺とおまえたちの植物相に関する考えの違いを腹を割って話し合おうじゃあないか。 それとも脳天を割ってやろうかね?」 俺はゆっくりどもをぶら下げたまま台所へと入っていった。 錬金術は台所で生まれたらしいが、拷問術もそうかもしれないな。 まあ、調理道具以外のものもいろいろ転がってるんだけどな。 ここにはゆっくりを虐待もとい教育するために便利な道具が揃っている。 とりあえずゆぎゃーゆぎゃーうるさい赤ゆどもを水槽の中に放り込む。 鍋でもよかったが、外の様子を見せられる方が何かと都合がいいし、うっかり調理してしまうかもしれないし。 こいつらを殺すつもりはない。生きて森に帰ってもらう必要がある。 こいつらこそ人間のおうち恐怖伝説の生き証人だからだ。 「びゅ……びゅ……びゅ……」 だが、親れいむの様子がおかしかった。ただ痛がってるのではないようだった。 どうやら、言語を司る部分の餡を破壊してしまったようだった。 ゆっくりは餡の配置に関しては個体ごとに差が激しいため、こういうアクシデントもしばしば起こる。 しかし困ったものだ。これではこの親れいむの口から反省の言葉を吐かせることはできないだろう。 手当てしてやっても一生言語機能は回復しないだろう。 仕方がない。こいつには死んでもらうとしよう。 なに、代わりに赤ゆたちは生き残るための知恵を得るのだ。親としても本望だろう。 俺はコンロに火をつけ、その上に親れいむをかざした。 「びゅううう! びゅううううう! ぶびゅびゅぶうぶうううううう!」 「おきゃーしゃん! おきゃーしゃん!」 「おきゃーしゃんをはなしぇぇぇぇ!」 「やめちぇね! やめちぇね!」 「どぼじでごんなごどずりゅのぉぉぉぉぉぉ!」 親れいむは灼熱地獄から逃れようと身をよじるがまったく効果は無い。 赤ゆっくりたちは一斉にゆんゆんと泣き喚いてる。 やがて、親れいむのあんよ(底部)は真っ黒に炭化し、完全に焼き潰された。 逃げられる心配はなくなったので机の上に放り出す。 「ぶびゅ……びゅびゅ……びゅ……」 「さあて、おまえたちにひとつ質問だが、おまえたち何でこんな目に合ってるのかわかってるか? 自分たちが悪いことをしてしまったのがわかるか?」 「ぷきゅうううう! れーみゅ強いんだよ! 本気でおこっちぇるんだよ!」 「ゆっくちできにゃい人間はしゃっしゃっとおきゃーしゃんを離しちぇね!」 こりゃ駄目だ。まだ力の差がわかっていないらしい。 こいつら相当なゲスだな。親れいむの言語機能がいかれたのはある意味幸運だったかもしれない。 しんぐるまざーがどうだの、れいむはかわいそうだの、人間は奉仕すべきだのとほざかれたらうっかり潰してしまいかねない。 そんな楽な死を与えてやるつもりはない。罪の重さにまったく釣りあわない。 「そうかそうか……。それじゃあ教えてやろう。おまえたちの罪状は畑荒らし。 俺が端正込めて育てた大切なお野菜さんを食い散らかしたことだ。どれどれ」 俺は親れいむを数回平手で打ち、無抵抗にさせてから無理やり口を開かせた。 開かせた口には歯医者が使うような金具をあてがい勝手に閉じられないようにする。 「きたねー歯だな。歯磨きしてないのか? ふうむ……野菜カスらしきものは見当たらないな。 まだ食われる前だったか。不幸中の幸いというべきか。 だが領域侵犯の罪は許しがたいことだ。そして未遂とは言え俺の野菜を食うつもりだったことは明らかだな。 ならば……未来永劫お野菜を食べてしまう心配が無いようにしよう! これは農家として当然の自衛行為だな!」 俺はごっついペンチを取り出すと、親れいむの歯をそれで掴み、一方親れいむの頭を抑えつつ……一気に引き抜いた。 「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~~~~~!」 「おぎゃあじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 俺は次々に歯を抜いていく。上の歯も下の歯もだ。 抜いてやった歯を赤ゆっくりに命中するように、水槽の中に投げ落してやる。 「ゆべっ!」 「いちゃい!」 「おきゃーしゃんの歯しゃんが……」 「ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~~ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~~~~~!」 「もう喋れなくなったのだからいらないだろう。ついでに食う必要もなくなったわけだ。 さてと、あとわずかな命だが念のために化膿止めをつけてやろう。俺って優しいね」 俺は冷蔵庫から練りわさびを取り出すと、たっぷりと取り出し、親れいむの歯茎に塗りつけてやった。 「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~~ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~~~ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~~~~~~~!」 あんよが潰されてなかったら、そこら中を跳ね回っていたことだろう。 親れいむは微動だにできないため身をぐねぐねとよじることしかでない。 こいつの痛みを想像すると寒気がするぜ。 「ゆえーんえんえん! ゆええーんえんえん! ゆええええええーーーーーーーん!」 赤ゆっくりたちはひたすら泣き喚いている。餌運びマシーンがお釈迦になって悲しがっているのだろう。 次はこいつらに教育を施す番だな。親ゆっくりを廃ゆにして見せたことで力の差はわかったことだろう。 「これで人間のお野菜さんを食べるとどうなるかがわかっただろう。 次はゆっくり二大罪悪の残りのひとつ、おうち宣言に関する授業だ」 赤ゆたちは俺のありがたい講釈には耳を貸さず、泣き喚いたり、水槽の隅で震えたり、膨れて威嚇したりと様々だが、 未だに謙虚な気持ちになってないことでは同様のようだった。 「おまえたちおうち宣言は好きか? どうだ俺のおうちは? 欲しいか? 食糧食い散らかしたいか? うんうんしたいか? 『ここはれいむのおうちだよ! ゆっくりできない人間はゆっくりしないでさっさと消えてね!』だっけ? おまえら我侭に振舞えばなんでも通ると思ってんのか? ああ!?」 赤ゆたちは何も答えない。 「まったくおまえたちの認識の甘さには呆れさせられる。ゆっくりなど最低の下の下の下等動物にすぎないというのに、 どうして霊類の長である人間に勝てると思うんだ? どうしてその住居を奪えるなんて勘違いをするんだ? おまえらのおきゃーしゃんをガラクタにしてやったんだぞ? 親より小さいおまえらがどうやって俺と戦うってんだ? 答えてみろよ? ゆっくり答えてみろよ?」 赤ゆたちは何も答えない。 涙をためて膨れるばかりだ。 どうやらまったく反省してないらしい。 「仕方がない。それじゃあおうち宣言をさせてやろう。気の済むまでさせてやろう。嫌になるほどさせてやろう!」 「やめりょおおお!」 「はなしぇぇぇぇぇ!」 俺は赤ゆっくりどもを水槽からつまみ出すと、特性の『おうち』に招待してやった。 特性の『おうち』も水槽だがちょっとした仕掛けがある。 「いぢゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」 「いぢゃい! いぢゃいよおぉぉぉぉぉぉ!」 水槽の底にはマットが敷かれていた。 それは針の植わった特製のマットだった。 「だじぢぇぇぇぇぇぇ!」 「ここからだじぢぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「おぎゃーしゃぁぁぁぁん! おぎゃーしゃぁぁぁぁぁぁん!」 「ゆああああああああ! だずげぢぇぇぇぇぇぇ!」 かなり気に入ってくれたようだ。 「どうだい? とてもゆっくりできるおうちだろう? そこでなら好きなだけおうち宣言していいぞ。 おうち宣言しなくていいのか? そこはまりしゃのおうちだよ? ゆっくりしていかないの? あまあまを持ってきてやろうか? おもちゃを入れてやろうか?」 赤ゆたちは痛みに跳ね回った。なんとか針のない場所を探そうとしてるのもいるが、そんな場所はないし、動き回ればそれだけ針も刺さっていく。 ずぶりずぶりと赤ゆたちを容赦なく責め立てる。 「だじぢぇ……」 「もういやぁぁぁぁぁ」 「ゆっぐぢできにゃいぃぃぃぃ……」 このおうちはたっぷり堪能したようなので、次のおうちに入れてやる。 「ゆふぅ……ゆふぅ……」 「ゆひぃ……ゆひぃ……」 ゆっくりたちは針地獄から逃れられてようやく一息つけたようだ。 二番目のおうちは針が生えていたりはしなかった。ゆっくりを傷つけるものは無いように見えた。 おかしなところは何もなかった。 なぜか緑色に染まっていることを除いて。 「ゆひ?」 「ゆひぃ? ゆひゃぁぁぁぁぁぁ!」 「ゆびゃぁぁぁぁぁ! あじゅいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 「いじゃい! いじゃい! だじゅげぢぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 四匹の赤ゆたちは次々に悲鳴を上げて跳びはね始めた。 そう、この水槽は一面わさびを塗ってあるのだ。 傷口から染み込んでそれはもうさぞや……。 「どうだ緑色で綺麗なおうちだろう? 森さんに帰ってきたみたいでゆっくり落ち着けよな? あまり嬉しくて跳びはねてしまうか! そりゃよかった!」 人間でも傷口にわさびなんから塗られたら悶絶するほど痛いだろうが、甘味生命体であるゆっくりにとって辛味は毒といってもいい存在だ。 うっかり唐辛子を食べたせいでショック死することもあるという。 こんなわさび空間に入れられたら傷口がなくとも相当な苦痛だろう。 赤ゆどもをしばらくダンスさせてから、俺は赤ゆたちを最後のおうちに運んだ。 最後のおうちは他のよりも変わっていた。三つの四角い箱を角同士でくっつけたような形をしていた。 ゆっくりたちがいるのは中心に開いた三角形の空間だ。 他四つの四角い空間は外面が黒く塗りつぶされていた外を見ることが出来ない。 針もない、毒もない。 暗いことを除けばゆっくりできる空間に思えたことだろう。 「さあて、赤ちゃんゆっくりたちのために素敵なショーを始めるとしよう!」 俺は三角の空間の壁のひとつを取り外した。 「ゆ! ゆゆ? ゆんやああああああああああああああ!」 赤ゆたちは壁の向こうに現れたものに驚愕した。 それはれみりゃであった。 「うー! たべちゃうぞー!」 「れみりゃはいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「きょっちきょないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 れみりゃとは言うまでもなく捕食種だ。ゆっくりを食って生きる変わった生物だ。 ゆっくりにとってこの上ない恐怖の対象なのだ。 「はっはっは。お友達にあえて嬉しそうだな」 当然のことながら、ゆっくりたちはれみりゃから出来る限り遠ざかろうとした。 つまり反対側の角っこにきたわけだ。 「二匹目のお友達にも登場してもらおうか!」 俺は壁のひとつを取り外した。 そこの向こうにはふてぶてしいツラがあった。 「おお、ゆっくりゆっくり。 おお、うるさいうるさい。 おお、うざいうざい」 「ゆっぐぢできにゃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 次に現れたのはなんときめぇ丸であった。 きめぇ丸は捕食種ではないが大抵のゆっくりが苦手とする種だ。 ある意味捕食種以上に恐れられているという。 きめぇ丸に出会うとゆっくりできなくなってしまうそうだ。 ゆっくりたちは指図されるまでもなくこの二大恐怖から等間隔に距離をとった。 四匹固まってこの上ない挟み撃ちの恐怖に震え上がっている。 「いよいよ最後のお友達の登場だ!」 俺は最後の壁を取り外した。 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 一際高い恐怖の絶叫が響き渡った。 「こーぼーねー」 そこにいたのはなんとなんと、ゆっくりゆゆこだった。 ゆゆことは最大級の捕食種だ。恐ろしい大喰らいで、ゆっくりを群れ単位で壊滅させるらしい。 ゆっくり最悪の天敵といってもいい。 「ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ゆあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 恐怖三つ巴の中でゆっくりたちはもう叫び続けることしかできない。人間だったら顎の骨が外れそうだな。 「どうだ? おうちは気に入ったかい? どれでも好きなのに住まわせてやるぞ。それとも、三つのおうちを交互に行き来するかい? それはまた豪勢だな! はははははははははははははは!」 「ゆぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 タネを明かすと、この三体の捕食種+αたちは本物ではない。 ゆっくりなんてくだらないものを飼うのは都会もんだけだ。そもそも、ゆゆこは超レアなのでいくら金を積んでも個人で手に入るものではない。 研究機関が抱え込んでいるのだ。 こいつらの正体は人形だ。隠されたスイッチを押すと本物そっくりの鳴き声を出すことも出来る。 本来は、ある種の『カカシ』として使われていたのだが、狡猾なゆっくりどもはじきに見破るようになってしまった。 とはいえ、それは成体に関してのこと。物の道理のわからぬ赤ゆっくりには充分通用する。 「ん?」 俺はちょっと変わったことに気がついた。 別にたいしたことではないのだが、赤ゆっくりたちはこの三つの恐怖のうち、れみりゃばかりに気を取られてるように見えた。 位置を見れば一目瞭然だ。初見ではゆゆこに一番驚いたように見えたが、今はむしろゆゆこ側にかなり近づいている。 れみりゃよりも、きめぇ丸やゆゆこの方が恐れられていると思っていたのだが……。 まあ、れみりゃは希少種ではない身近な恐怖だからかもしれない。どのみちどうでもいいことだ。 重要なのは赤ゆどもが恐怖しているということだ。 とりあえずこの教育はここまでとしよう。 俺は、叫び疲れて荒い息をついてガクガク震えている赤ゆたちを元の水槽へと返した。 「ゆふぅ……ゆふぅ……」 「ゆひぃ……ゆひぃ……」 「きょわいよ……きょわいよ……たしゅけちぇ……」 「で、おまえたち。ゆっくり理解したか? 人間さんの強さがわかったか? 罪を犯したことを認めるか?」 「ゆぅぅぅぅぅ……ゆぅぅぅぅぅぅぅ……」 「ゆぅぅぅ……ゆぅぅぅぅぅぅぅ……ゆぅぅぅぅぅ……」 ゆっくりたちは威嚇こそしなくなったものの、嗚咽を漏らすばかりでまったく俺の話しを聞いていないようだった。 姉妹お互いに寄り添いあい、水槽の隅っこに固まって震えるばかりだ。 普段ならこの辺りで絶対者たる人間に許しを乞うところなのだが……。 こいつらはもしかすると噂の完全ゲスだろうか? 完全ゲスには何を言ってもいっさい聞かないという。絶対にまともな答えを返さないという。 あまりに知能が低すぎて自分が悪いとは夢にも思わないのだ。 そうだとするとこいつらを教育するのは相当難しいかもしれない。 これは完全な仕置きが必要のようだな。 強烈なショックを与えてゲス性を払拭させるしかない。 俺は放置していた親れいむの様子を確かめた。 「ん゛……ん゛ん゛……ん゛……」 激痛の中で意識が混濁してるらしい。放っておいても衰弱死するかもしれない。 だが、ここは派手に死んでもらうことにしよう。 「さて、今日最後の授業だ。 おまえたちには畑荒らしとおうち宣言という二つの罪悪があるが、それらに必ず伴うものがある。 そう、威嚇だ。ぷくーって膨れる奴だ。 もちろんそんなもの強く賢い人間にはまったく通用しない。ちっとも怖くない。 ……だが! それは人間を見下しているという、人間の強さを認めていないという明白な証拠だ! そこでおまえたちにはそのぷくーを二度と出来ないようにしてやろう」 といっても、頬に穴を開けるとかそんな横着な方法ではない。 強烈なショックだ。 俺は親れいむにタイヤに空気を入れるためのガスボンベを咥えさせた。 ガムテープで口を塞ぎ、ボンベの先を固定する。 ついでに目もガムテープで塞いでおく。 その状態で水槽の中に入れてやる。 「おきゃーしゃん! おきゃーしゃん!」 「おきゃーしゃぁぁぁぁん!」 「ゆっくちしちぇね! おきゃーしゃんゆっくちしちぇいっちぇね!」 赤ゆたちは変わり果てた姿の親れいむの側に集まり、頬擦りしたり声をかけたりしている。 まさに今生の別れだな。 俺はガスボンベを起動させた。 たちまち親れいむが膨れていく! 膨れていく! その膨らみようはあの下衆な威嚇のときとは比較にならない。風船みたいに浮き上がりそうなほどだ。 「おきゃーしゃん! もうぷきゅーしにゃいでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「ゆっきゅちしちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「おちょーしゃんおきゃーしゃんを助けにきちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 こいつら片親じゃないのかね。それならば後でおちょーしゃんとやらにも保護者面談をせねばな。 「おきゃーしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 「お゛ぎゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛じゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」 パン! とても心地の良い音が響き渡った。 そして、水槽の中は黒く染まった。 衝撃に跳ね飛ばされた赤ゆたちも全身黒く染まっている。 それはまさに散華だった。 ゆっくりにはもったないほど美しい死に様といえよう。 蓋を閉めてなかったので、親れいむだった餡は外にもいくらか飛び散った。 俺の頬にも少し付着した。 舐めてみた。……とても甘かった。 ゆっくりを苦しめると餡が甘くなるという。 加工所の連中はそれだけのためにゆっくりを悪魔的所業によって苦しめるらしいが、俺はそこまでイカれてはいない。 あくまで畑のため。あくまで教育のため。 俺が痛めつけるのは救いようのないゲスだけだ。 救いようのないゲスを救ってやるために。 「おちびちゃんたちわかったかなぁ? あんまりぷくーするとこんなになっちゃうんだぞぉ?」 赤ゆっくりたちは押し黙っていた。 ためしに摘み上げてみたがなんの反応もしない。 餡を落してやってもまったく微動だにしない。その目はあらぬ虚空を見据えている。 親れいむの散華は相当なショックだったらしい。 このショックが善良なゆっくりに変わる糸口になればいいのだが。 少なくとも威嚇癖は治るはずだ。 とりあえずは切り上げてこいつらを休ませるとするか。死んでもらっては困るからな。 念のためにゆっくりの傷に効くというオレンジジュースを塗っておく。 さて、俺も休憩しよう。 俺の畑は先祖代々受け継がれてきたものだ。 俺は自分の土地に誇りを持っている。農業という仕事に誇りを持っている。 農業とは自然と調和し、一体化することだと思っている。 農業で成功するには野菜の気持ちを知り、天地の呼吸を感じ取れなければならない……というのは亡き祖父の弁だ。 大げさではあるが、大地を慈しむ気持ちは大切だと思う。 だからこそ、俺はゆっくりが嫌いだ。嫌いというより憤りを感じているといったほうがいいかもしれない。 突如どこからともなく現れたあいつら。 少ないが知性を持ち、人間の言語を話しさえするのに、言葉の通じないあいつら。 そう、ゆっくりとは話にならない。 あいつらには人間の常識がわからないのだ。人間を舐め腐り、嘲笑っているのだ。 そして大地からの贈り物を汚く食い散らかす。あいつらは感謝の念を持たない。 だから教えてやらねばならない。 人間の強さを。自然に生きる者の掟というものを。 ゆっくりは新参者なのだ。先輩が教えてやらねばならない。ときには厳しい態度で臨むことも必要だ。 それがあいつらのためにもなる。 力の差を教える。やってはいけないことを教える。人間の常識と礼儀を教え込む。 それがうまくいったら……農業を教えてやるのだ。 農作業を教えて、手伝わせるのだ。 別に俺がさぼりたいわけじゃない。何の価値も無いゆっくりたちに価値を与えてやるためだ。 闖入者のあいつらを自然と調和させてやるのだ。 あいつらとていつまでもクズゲスのままじゃいやだろ? 能率は悪くてもいい。もちろん正当な報酬を払う。 ゆっくりを奴隷にしている農場もあると噂で聞いたが、俺はそんな汚いまねは絶対にしない。 俺の畑は先祖代々受け継がれてきた神聖な土地だからだ。そういった行為は土地を汚すことになる。 あの赤ゆたちとはしばらくの間ともに生活するつもりだ。 これからが楽しみだな。くっくっくっ。 by餡ブロシア (続く) このSSに感想をつける
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「ゆっくり、ふゆごもりするからお布団にはいってね!」 部屋には、成体まりさとれいむ 子まりさと子れいむが2匹づつ、それに赤れいむと赤まりさが3匹づついる。 暖房が一切効いていないプレハブ小屋に近いこの部屋は寒く、凍え死なないまでも ゆっくりにとっても耐え難いものなようだ。 このゆっくり一家にとって、夜はお兄さんのお布団に入ることが”冬篭り”なのである。 「お前ら布団で小便しやがったらゆっくりできなくしてやるからな!」 お兄さんにとってもこの季節はゆっくりが唯一の暖房器具 いわば共存共栄の関係が築かれている。 木の床にひいた簡素な布団に毛布と大き目の掛け布団が一枚。 親れいむは、まず赤ちゃんや子ゆっくりから布団に入れていく。 自分が入ってしまっては真っ暗なお布団の中、赤ちゃんたちが寒いお部屋に取り残されていないか わからなくなってしまうからだ。 「ゆっくちおふちょんにはいりゅよ!」 「しょろーり!しょろーり!」 赤れいむと赤まりさが男の脇の下へ潜り込む。 暖かい場所にひかれるのはゆっくりも同じなのだ。 後から入った赤れいむ赤まりさ4匹は固まってお腹の上あたりにいる。 それから子れいむと子まりさが2匹、親が入れるように気を利かせて男の足のほうへと、もぞもぞ入る。 「もーぞ、もーぞ!」 「おかーさんたちと離れて寝るのはさびしいけど、れいむたちはゆっくりしてるよ!」 成体れいむとまりさはさすがに大きいので男の体の隙間や上に乗って寝るわけにはいかない 枕の開いてる部分に寝そべって、足のほうだけ布団の中に入る。 その足にお腹の上で固まっていた赤れいむと赤まりさが寄ってきて「すーりすーり」とすり寄って寝るのだ。 これはぬくい。 部屋の中を暖めるストーブよりも、布団が直接暖かくなるというのは画期的な暖房だ。 「おい、子ゆっくりども、俺の右足が寒いぞ!」 そう言うと、1匹の赤まりさが布団の隙間をお帽子で塞いで外気が布団に入り込まないようにしてくれる。 「ゆっくりふさいだよ!」 さて部屋の電気を消すか。 紐を引っ張れば電灯は消え、部屋は豆電球の頼りない光にぼんやりとだけ照らされる。 布団の中のゆっくりにとっては真っ暗闇だろう。 zzz・・・ 「ゆえ〜ん!ゆえ〜ん!」 深夜に急に赤ゆっくりが泣き出した。 脇の下に入っていた赤れいむが、赤まりさに引っ張り出されて暖かい場所をとられてしまったのだ。 「まりしゃは、ゆっくちあっちゃかいところでねりゅよ・・・zzz」 「れいみゅのゆっくちぷれいちゅがゆえ〜ん!ゆえ〜ん!」 幸い布団の中で泣いているので、男はまだ騒音で目を覚まさない。 しかし、もしも安眠の邪魔をしようものなら男は怒り出してゆっくりさせなくしてしまうだろう。 そこで、いち早く異変に気づいた親れいむが赤れいむをなだめるために布団の奥へと潜り込んだ。 「おちびちゃん、ゆっくり泣き止んでね!お兄さんがうるさくて起きちゃうよ!」 「ゆえ〜ん、ゆっくゆっく」 成体ゆっくりの重量はそれなりにあるため、お兄さんは寝苦しそうだ。 胸の辺りに圧し掛かって、一生懸命脇の傍にいる赤れいむをなだめている。 「ゆっくりできるお歌を歌ってあげるから泣き止んでね! ゆっ♪ゆっ♪ゆっ〜♪」 赤れいむはそのお歌に機嫌を良くして一緒になって歌いだす。 「ゆ♪」 他の寝ていたお腹の上の赤れいむ2匹と足元の子れいむ2匹も目が覚めて、釣られて大合唱。 「「「「ゆっゆっゆっ〜♪ゆっくり〜♪していってよね〜♪」」」」 「うるせぇ!!」 男はあまりの騒音と胸の上の重量感で目を覚まし、親れいむの髪をひっ捕まえると 布団から引っ張り出して、壁めがけてぶん投げた。 ぶぎゅ! 口から餡子を少量吐き出しているが命に別状はない。 足元の子れいむも蹴って布団の外に追い出したが、見えなかったので熟睡していた子まりさが転がって壁にぶつかって潰れた。 「zzz・・・ゆぎっ!」 ようやく静かになる。 「ゆ・・・ゆゆ」 親れいむは布団に戻ろうとしたが、薄目を開けていた男が裏拳一閃で再び壁に激突し気を失った。 ボフッ 男が屁をこいた。 布団の中は異臭を放つメタンガスで充満されていく。 「ゆぎゃー!」 「くちゃいよ〜!」「ゆっくちできにゃい!」 「こうやって布団の温度をたもってるんだよ・・・むにゃむにゃ」 男はまったく悪びれず寝言で答える。 足元の子まりさは外の空気を吸って耐える。 「すーはーすーはー、ここはゆっくりできるよ!」 子れいむ2匹が 「まりさ、そこを代わって!」 「交代交代で息をすうんだよ!」 と言っているがまりさは「ゆっ!ここはまりさのゆっくりスポットだよ!」と言ってまったくどこうとしない。 男は少し意識があったので、布団を足元のほうへたぐりよせて そのまりさの外気を完全に遮断してやった。 ついでに、もう一発屁をこく。 大股に開いて音がしないように、なるべくまりさにヒットするように慎重に・・・ ぷすぅ〜ッ 空気が抜けるような音が男の尻からすると、足元の子まりさは息継ぎの空気口を完全に失い 「ゆぶべべべべ・・・!」と目を大きく見開いて暴れ狂う。 すーはーすーはーと呼吸をしていた、”すー”にタイミングがあって屁が直撃したのだ。 まりさは布団の外へと非難しようとしたが、多めに布団を足元にたぐりよせておいて しかも足で布団の端を丸めて押さえつけたから完全な密室がここに誕生した。 「だしてねぇー!まりさをお外にだしてねー!くしゃいー!」 ちなみに子れいむのほうは2匹とも泡を吹いて気絶している。 余計な事で意識が戻ってしまったため小腹がすいてしまった。 とりあえず、脇にはさまってる饅頭でも食べるか。 「すーや、すーや、ここはまりちゃのゆっくちぷれ・・・」 ひょい、パクッ 口から上を食べて残ったのは布団の中に捨てる。 普通は布団が汚れるからそんな事は出来ないが、このゆっくり餡に限っては ゆっくり同士が綺麗にあとかたもなく始末してくれるからだ。 甘い匂いが布団の中に広がって、半分になった赤まりさに他の赤ゆっくりが寝ぼけながら 「むーしゃ、むーしゃ」とパクつく 赤まりさを平らげると、赤れいむが他の赤れいむに噛み付かれて「ゆぎっ」と悲鳴を漏らしたが すぐに餡子の匂いをさせて全部食べられてしまった。 布団の中は地獄絵図だというのに、親まりさは相変わらずのんきに寝息を立てている。 「すーり、すーり、まりさそんなにたべれないよ・・・ぐへへ」 なんとなくジャイアンパンチを顔面にお見舞いしておいた。 顔面が陥没するあれだ。 むぎゅー! 「ゆゆゆ・・・ゆっ?ゆゆ?」 親まりさは何が起こったかわからず、目をぱちくりとしている。 男は寝たフリをしてスルー。 朝、赤ゆっくりが男の寝返りで全滅していて、子れいむと子まりさも1匹づつ死んでいたが 「冬越えとはこういうもんだ」 の男の一言で親ゆっくり達は納得した。 餡子の遺伝にも冬越えは大変なことだという情報が受け継がれているからだ。 言いながら朝食に、生き残っていた赤れいむを食べてるわけだが 飾りを髪ごと引き抜いてるからわからないらしい。 「やめちぇね!ゆっくちたちゅけてね!みゃみゃー・・もっとゆっくちしちゃ・・・」 「夜までに赤ゆっくりを作っておけよ!」 そういい残して、半透明のポリ製ケースに親ゆっくりと子ゆっくりを生ゴミを放り込んで蓋を閉じる。 過去の作品 ゆっくりいじめ系1222 ゆっくり繁殖させるよ! ゆっくりいじめ系1254 赤ちゃんを育てさせる ゆっくりいじめ系1261 水上まりさのゆでだこ風味 ゆっくりいじめ系1297 ゆっくり贅沢三昧・前編 ゆっくりいじめ系1466 ゆっくり贅沢三昧・後編 ゆっくりいじめ系1467 まりさの皮を被ったアリス ゆっくりいじめ系1468 肥料用まりさの一生 ゆっくりいじめ小ネタ222 ゆっくっきんぐ ドナーツ編 ゆっくりいじめ系1532 可愛そうな赤ちゃんにゆっくり恵んでね ゆっくりいじめ系1580 ゆっくりしなかった魔理沙と愛のないアリス ゆっくりいじめ系1673 ゆっくりクアリウム ゆっくりいじめ系1715 ゆっくりトイレ ゆっくりいじめ系1735 ゆっくりれいむと白いお部屋 ゆっくりいじめ系1743 プラチナまりさとフリーすっきり権 ゆっくりいじめ系1761 ちょっとしたイタズラ 作者:まりさ大好きあき
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前 「では、術式を開始します」 私の宣言に、周りにいるゆっくりたちが頷く。群れの中でも選りすぐりの手術チームだ。 辺りは先ほどの喧噪が嘘のように静まりかえっている。離れた梢で鳴く小鳥の声までが耳に届く。 用心のために着剣隊が他の隊員と共に周りにおり、上空にはレミレイ隊の影も見受けられるが、注視すべきドスたちは麻沸散により全身麻酔を受けているので、よほどのことが無い限りお互いに沈黙を保つだろう。 軍のさらに遠巻きにして見物している野次馬たちも、その数を先よりも倍増していながら、やはり静かである。もっとも、この場の緊張感を打ち破ろうとする物好きな天の邪鬼もいないだろう。群れ全体から敢えて見学者を募った某黒いゆっくりは例外だが。 「名手術を期待するよ。俺はブラック・ジャックにはなれないからな」 などとワケのわからないことを言う。 「白い巨塔を造らなければ構いません」 と適当に返しておいて、私は横にいるヨウム種に切除部分を指定する。ドスの底部に近いところにある成体。 「埋められたゆっくりの形に添って、切り取って。ドスに関してはえぐれていて構わない」 初めての手術に臆することなく、ヨウムは頷いた。彼女は執刀医としては一番場数を踏んでいる。特にくり抜く作業に関してはかなりの腕があった。 元は農作業用の鎌を、研ぎに研いで薄氷の刃に仕立てたものを口にくわえ、ヨウムは最初のメスを入れようとする。が、刃がドスの体表に触れる直前、凍り付いたように動きが止まってしまった。 慎重になるのは当然だ。どれだけ皮の厚さがあり、どれだけ餡の堅さがあるか、全くの未知数だ。刃を入れ切り進めて行く中で瞬時に判断し的確な処置を行う、そんな頭脳と精神力が必要になってくる。しかも、始めの第一刀に他の執刀医が続くのだ。その重さを理解すれば、易々と刃は入れられないだろう。 しかし、私も精緻なメスさばきだけで彼女を切り込み隊長に選んだわけでない。できると評価しているからこその人選だ。 ――だが、私は気づいてしまった。 ほんのわずか。気づくか気づかないかのそれ。震え、だ。 彼女の半身たる魂がその横で常に揺らめいているために、目に止まりにくいのであるが、確かに震えていた。 無理もないかもしれない。眼球や底部でなく、ゆっくりそのものを切り出すのは群れの誰にとっても初めてのことだ。どれだけの緊張が彼女にのしかかっているだろう。 しかし、彼女のまぶたが静かに閉じ、少しの間を置いて、ゆっくりと再び開いた時には、その瞳にはくわえる刃と同じ光が宿っていた。 吸い込まれるように銀の先端がドスの身体に入る。無音で一瞬。だが多くの者の心にはさざ波以上の波紋が起こったに違いない。それは夜空を駆けて消える流星を思わせた。 刃は、動き出す。埋め込まれたゆっくりのラインに沿って。緩慢に、だが、明瞭に。何の躊躇も感じさせることはなく、軌跡はついに円の形に元の場所へと戻った。 ヨウムが離れる。入れ替わりに二匹のゆっくりが、切られた箇所を支える。ポロッと一体のゆっくりがドスからこぼれるように外れた。黒々とした餡が上向きに、曇り空の鈍光を跳ね返している。肝心の形状は、ゆっくりの下半身そのものだ。 (お見事)と私は心の中で褒めつつ、視線は塗布班の動向へシフトする。 指示しておいた通りに、塗布班は動いていた。彼女らにとっても初めての作業だ。けれど、先のヨウムに比べ、格段に気は楽だろう。献餡した餡を補う必要はなく、軽く形を整えた後にドングリ粉を塗るだけでいいのだから。 餡の質が固く形状維持が楽であり、免疫力も含めた体力が残っているから他の処置をせずに済むこともあるが、無論ヨウムの腕がそれだけ素晴らしかったということだ。ドスにできた窪みについても処置は容易だろう。 合図を送ると、他の執刀医たちがヨウムの後に続く。ヨウム種の他にも、アリス種、レミリア種、レイム種など、種は様々だ。皆一様に口に刃物をくわえている。空を飛びながら、あるいは補助班の支える台やハシゴに乗りながら、作業を開始する。 彼女らに戦闘経験はない。初等教育を終えた後はずっと医療班として、刃物の使い方を覚えてきた。たとえば野犬に襲われれば、くわえた刃物は何の意味もなさず、無抵抗に殺されていくだろう。それだけ一つのことに専念させ、錬磨させてきた。 だからこそ、普段は軽い怪我の治療程度しかしていないというのに、今はこうして問題なく執刀を行えている。若干動きがぎこちない者も見受けられるが……これは仕方ないだろう。一度でもメスを振るった経験のあるものをこの場に立たせているのだから。そうでなければ、総数四一匹のゆっくりを短時間でくり抜くことは不可能だ。 いや、正確に言えば、エイリン種なら単独で執刀しきるかもしれない。噂ではユユコ種の全身の皮を一瞬で剥ぎ、他のゆっくりたちに移植したとか。別の噂では、発情したアリス種の中身を瞬く間に入れ替え、正常に戻したとか。ここまで来るともう神話の域だ。 しかし、もしこれらが本当のことであったなら、エイリン種は今我々が大勢でしている手術を単独で行うことが可能になる。執刀医八、塗布班一二、その他三四、さらに全体を管理・統括する私を含めて合計五五匹のチーム――もはや一個小隊だが、エイリン種は一匹でそれと同等の力を有するわけだ。いや、このチームでもエイリン神話をなぞることはできない。医療技術の隔たりは千里以上に感じられる。 こういった類の伝聞には誇張が入るので話半分で聞いておく必要があろうが、相応の腕がなければ英雄譚も作られない。だから、ゆっくりの可能性を追求する長が、彼女を群れに引き込むことに躍起になるのも頷けはする。千里の道を一歩ずつ進んでいくのも大事だが、「先達はあらまほしきことなり」だ。既に達している者の薬石の言があれば、秀吉のように一夜で築くのは無理にせよ、半世紀も掛けずにローマを成立させることができるかもしれない。 「門前の小僧」の喩えもあるし、医療班だけでなく、群れ全体に良い影響を与えることも考えられる。長がたくさんの見物人にこうして手術を披露しているのも、見聞を広め、刺激をもたらすためだろう。 (エイリン種なら全ての術式を野外でできるかもしれないしね)などと考えていると、ふと横に長が来ているのに気づいた。 「順調に進行してるな」 「回復も早いでしょうね、患者の体力を考慮すると」 「あれだけ声を上げられるようなら、体力はあるだろうな。まあ、基本移動してきたのはドスであって、他はせいぜい喉と精神の疲弊のみだしな。実際、ドングリ粉の乗りもいい。ああ、もちろん手術の腕前あってこその成果だぞ」 「ありがとうございます」 「これだけの技術があれば、脂肪吸引手術も楽々できるんじゃないか? 良かったな」 「長は自分を知りたいとおっしゃってましたよね。中身を見るため切開してさしあげますよ、即刻」 「必要ないな。いつも接する時に腹を割ってるじゃないか」 「いいえ? その腹黒さしか認識できていませんが」 「おいおい、こんなに潔白な長を捕まえて、それはないだろう。今度から白ゆっくりと名乗ろうかと思っているくらいだ」 「白々しいだけです」 「白いついでに話すが、白い粉の量は足りたかな?」 麻沸散のことを言っているのだ。実際は全く白くはないのだが、外の世界では麻薬と言えば白い粉らしい。 「兵器用として貯蔵しておいたものを流用しましたから」 本来は絞り汁を加工したものを塗りつけて全身麻酔を行うのだが、暴れるドスに近づくのはとても危険だった。弾き飛ばされたり、踏みつぶされたり、ましてや麻沸散を自分で被るはめになったりしたら笑い話にもならない。 なので、まずは乾燥大麻をドスの周りで燃やし、煙で包んで大人しくなってもらった。風が無いのでいろいろと大変だった。火とゆっくりを前にパタパタと四方八方から扇いでいる様子は、新製品の焼き饅頭を作っているかのような錯覚に陥った。無風であることで群れの居住域に影響が無かったのは良かったのだが、かなりの量の備蓄を費やしてしまった。 その上でのドスに対する麻沸散であるから、今の群れに麻の葉はほとんど無い。麻沸散は非常に多くの麻を使うのだ。 「やっぱり多めに栽培しておいてよかったわけだな。増産するのも悪くないんじゃないか?」 「それは会議してから決めてください。ただ、いずれにせよ、もう私の前では吸わないでくださいね。あと言い忘れてましたが、ホームズが嗜んでいたのはコカインやモルヒネですよ。大麻じゃありません」 「おや。それではコカノキやケシの栽培にも着手してみるか。原初のコカ・コーラを愛飲するのも悪くないな」 「あのですね……」 半ば呆れつつ、後の半分は諦めつつ、私は答える。この人はこういう人だ。 「絶対ダメとは言いませんけど……もう既に中毒なんじゃないですか」 「まさか。メイリン種じゃあるまいし」 「中国じゃないです」 ため息をつく。 「それより長、そろそろ出番ですよ」 「ん、そのつもりだ」 あらかじめ治療を施したゆっくりを五匹ずつにまとめて配置してある。始めのグループがいる場所を示すと、長はそちらへ向かおうとして、つとこちらを振り向いた。 「おだてて木に登らせるつもりはないんだが、医療班の手際が格段に良くなっているのは、やはりお前さんの功績だよ。本格的に医療担当になったらどうだ? 感謝されるぞ。麻沸散を開発した人間も『神医』として崇められているそうだ」 「そうですか。で、どんな最期を遂げたんですか」 長は、ああ、うん、などと誤魔化してその場を離れたが、私はそれが『王に逆らって獄中死』だということを知っている。……まったく。リラックスさせるつもりなのか、精神状態を測っているのかわからないが、年中悪ふざけを画策しているような態度は改めてほしい。子ゆっくりへの感化について真剣に討議する時が来たのかもしれない。 (それとも身体だけでなく中身も子供レベルなのかしら)などと本気でなくとも、そう思いたくなる。 そんな私の悩みなどつゆとも知らず、長は始めの五匹と向かい合い、言葉を掛けていた。 暗示を施しているのだ。 ゆっくりは足が傷つくと、たとえば火傷などを負うと、二度と移動することができないなどと一般には言われている。これは正しくもあるし、間違ってもいる。 ゆっくりの性質を分析してみよう。 なぜ、赤ゆっくりやちびゆっくりは強姦されると死んでしまうのだろうか。黒ずみ、朽ち果ててしまうのだろうか。 妊娠するに耐えうる身体ではないからだ、というふうに言われている。しかし、それで説明になっているのだろうか。納得しうる答えだろうか。 そもそも妊娠に耐えられないという前に、妊娠できないのが普通ではないだろうか。未成熟な身体で孕んで死ぬという生物は、この世に存在しない。たとえば人間の少女を、初潮が来る前に膣内射精で犯しても、妊娠はしないのだ。 ゆっくりは生物ではない? たしかにお化けや妖怪の類だろう。しかし、それらの化生は人間の影であり、ゆっくりが生物の形を取っている以上、生物の特徴を持つのは必然だ。 では、性的暴行を受けた子ゆっくりが、死に至る受精をするのはなぜか。 ここに「想像妊娠」という仮説が立てられる。 想像妊娠とは、妊娠したと心が認識することで肉体に影響が現れる症状だ。現実には妊娠していなくとも、腹部が膨れたり、母乳が出たり、生理が止まったりする。これは人間以外の哺乳類にも起こりえる。当然ゆっくりも例外でないわけだ。 強姦された子ゆっくりは「仮の赤ん坊」に栄養を分配し、自己の生存に最低限必要なエネルギーまでも受け渡してしまう。つまり、想像妊娠により死亡する。 前提として「性交したら受精する。子ゆっくりなら死ぬ」という知識が備わっている必要があるが、ゆっくりの知識は本能とは別に親から受け継がれるのが一般的だ。知識の受け継ぎには個体差があり、量と精度は姉妹間でも変化してくるが、「子供が犯されれば死ぬ」という事項についてはほとんど定説になっているから、どれだけ大勢の餡子脳に刻まれているかは想像に難くない。 好奇心は猫を殺し、思い込みがゆっくりを殺す。そういうことだ。 ここまでは実は長の仮説だ。仮説だった。遅ればせながら、冬の事件で実証されたのだ。思い込みが無くなれば、強姦されても子ゆっくりは死なない。 そして、ここからが私の立てた仮説になる。 ゆっくりにおいて、精神が肉体に対し死に至るほどの影響を与えるということは、その逆の影響を与えることも可能なのではないか。死ねるほどの影響力をプラスに転じたら、どれだけのことができるだろうか。そう考えたのだ。 足が傷つき歩けないゆっくりがいる。しかし、それは本当に歩けない? 通常ならば歩けない。傷が癒えても痛みを感じなくなっても、歩くことはできない。一生歩けない。しかし、本当に? 歩けないと思い込んでいるだけなのかもしれない。あるいは、歩けると思い込めば歩けるかもしれない。荒唐無稽に聞こえるかも知れないが、道理には適っている。死ぬことができるのだ、歩くことなど容易だろう。 それ以上のことも期待できる。失明したゆっくりに「視力は回復する」と認識させれば、見えるようになるだろうし、眼球そのものを欠損してしまっても、「再生する」と認識させればその通りになるはずだ。 そして、この仮説も長に先んじて実証されている。現に私の両目は健在だ。 私が立てたこの仮説を、自らが被験者となって実証したことにより、群れの医療技術は飛躍的に発達した。無論それまでのと比較しての話であり、エイリン種が有する技術に比すれば児戯に等しいのかもしれないが。 ともかく、その功績が認められて、私は医療部のトップの肩書きを持つことになったのだが、成果を上げて評価されたことはともかく、肩書きについてはあまり欲しくない褒章だった。既に行っている研究や群れの運営に、新たな項目が名前を付加されて負荷されただけなのだから。 長にしてみれば、「早くシステムを確立して後進に譲れ」という意味で与えた肩書きなのだろうが、それがどれだけ大変かわかっているのだろうか。ただでさえ他のいくつもの部署でそれをやろうとしているのに。抱えきれない案件を、危なっかしいお手玉で何とかしのいでいるというのに。……まあ、できると思っているからこそ任せているのだろうが、時々自分が「ゆっくり」であることを忘れてしまいそうになる。 辺りを一巡して、ほぼ手術は終わりになったのを確認し、ドスの正面にいる長の所へ行った。長も一段落ついたようだった。 「移植は成功しましたか」 「ああ、盲目を相手にするのは久しぶりだから不安だったがな」 見ると、ドスの大きさには不釣り合いに小さな眼球が右目側に埋め込まれている。群れの成体ゆっくりから提供された眼球だ。補われた餡の上にドングリ粉を塗布された中央、そこにちょこんと載っているだけのようだが、虚ろに開かれた目が時々かすかに瞬きをしているのが注意するとわかる。 「機能しているようですね」 「そうだな。順調にいけば左目も再生するだろう。まあ案ずるより産むが易しだった」 「ドスの体力・精神力が強いんでしょうか」 以前はもっと時間が掛かっていたはずだ。長の能力は視線を媒介とする。それを無しで行うのは、純粋に催眠療法士としての素養が問われる。実のところ、私はもっと多くの時間が掛かると思い、新たな麻酔の準備をさせてもいた。 「確かに移植無しで両目が再生できるだけの素質はあったな。だが、俺だって流石に何度もやっていればノウハウはつかめるさ。あとはやはり麻沸散の効果かな」 長はそこまで言って、ふうとため息をついた。 おや、と思った。ため息をつくのはいつも私の役なのに。 「麻酔の効果はあとどれくらい持つ?」 「このままならあと三十から五十分といったところですね。どうしました」 「ドスにもう一度掛けてやってくれ。軽くでいい」 長はそうして、ドスから分離されたゆっくりの置かれた場所へ再び戻っていった。 (……あ) そう言えば、忘れていた。 施術の終わったゆっくりがなぜか巣へ移動させなかったので、どうしたのかと看護班に聞いてみたら、長の指示だと答えが返ってきた。 どういう意図があったのか、聞いておくべきだった。 五日後。 太陽が一番高いところに登り、春の陽気を思う存分地上に振りまいていた。あつかましいまでの陽光に気圧されたかのように、そよとも風は吹いていない。立ち上る緑の香気が流されることなく辺りに満ちている。 長と私の後ろからは、大勢のゆっくりが大なり小なりの声を交わし合っている。梅雨時の蛙や、夏の蝉時雨に匹敵する騒がしさだ。通信班などの警護班を除いた、群れのゆっくりのほぼ全てが集まっているのだ。E‐5区はお祭り並の密集状態だった。 私たちの前には、先日治療したドス他四一匹のゆっくりが相対している。巨木と巨岩を背景にしていた。 巨岩にはしめ縄が張られている。アリス種がイネ科植物や麻を加工して作った縄を、群れの力自慢たちがより合わせたものだ。シデも無ければ、宗教的な意味合いも無い。しかし、群れの結束のシンボルとなっていた。「一本の茎は千切れやすいが、多くが合わされば決して千切れることはない」という、使い古されてはいるが、その分わかりやすい象徴だった。 長が合図をすると、喧噪が嘘のように鳴りを潜めた。 「以前に我が群れに訪れた彼らが、是非伝えたいことがあるとのことで、こうして皆に集まってもらった。心して拝聴するように」 長が向き直ると、ドスマリサが前に出る。皆の視線が上向いた。パニックになっていた時を感じさせないほどに堂々としているその姿は、大きさは変わらないのに一回り成長したような印象を与えた。種の上では普通のマリサ種と同種であるはずだが、なぜドスの呼称が冠されるのかわかる気がした。 移植した右目は肥大化し本来のサイズに近づいていて、左目部分も萌芽のような小さな兆候が現れていた。頭部も金髪のショートカットが生えそろっている。 他のゆっくりたちも全治とはいかないまでも復調していた。まだ以前のように動き回れはしないだろうが、少なくとも気持ちの上では全快しているだろう。 「ゆっ、今日はみんなにお礼を言いにきたんだぜ!」 よく響く声だ。群れの一番後ろにまで問題なく届いているに違いない。 「まずマリサたちを治してくれてありがとうなんだぜ!」 この言葉に医療班はどういう表情を浮かべているだろうか。今回の最大の功績者は彼女らだ。本当に、自分がドングリ粉になるかというくらい、身を粉にして働いてくれた。 「食べさせてもらった物もとてもうまかったんだぜ。かわいくてけんしんてきなゆっくりたちがたくさんいて、気分よく食っちゃ寝できたんだぜ」 群れの一員ならそれぞれ割り当てられた役割を果たしてもらうが、彼らは客人として扱われている。ずっと専用の巣で安静にしてもらったのだ。看護班は何度かセクハラを受けたらしいが、本当によく耐え、頑張ってくれたものだ。 「この群れは本当にいい群れなんだぜ! だから……」 ドスの片目が濁る。声までが瘴気を帯びて変色する。 「だからこの群れはみんなマリサたちがもらってやるんだぜ! こんないい群れをマリサたちの物にできるなんて本当にありがとうだぜ!!」 そうして大口を開けて笑声を散らした。ドス側のゆっくりたちも一斉に笑い声を上げる。誰一人言葉を発することなく立ちつくす私たちの間に、それらは響き続けた。 「話の腰を折って悪いんだが」 「ゆ?」 目の前の小さな黒いゆっくりの言葉に、ドスたちの笑いが止まる。 「理解が追いつかないので説明してもらいたい。どうやって群れをもらうつもりなのかな。長の座を譲るつもりは今のところないのでね」 「ゆふン、バカなおチビさんだね! そんなの力づくで乗っ取るに決まってるんだぜ!」 胸を反らして、より一層上から見下ろして、見下して、強奪を宣言する巨大なゆっくり。 「そうだよ、ドスはつよいんだよ!」 「ゆっくりむれをちょうだいね!」 「よわいゆっくりはみんなわたしたちにかしずくのよ!」 腰巾着たちがめいめい太鼓を持つ。またも音声が盛り上がろうとした時、 「しかし」 長が水を注す。またも静かになる場。 「そうなると理屈に合わないな」 考えを巡らす大仰なアクションを取りながら、黒い言葉が紡がれる。 「お前さんたちは人間に完膚無きまでに敗北したんだろう? だから、あんな醜悪な姿をさらしながらあちこち練り歩くはめになったんだ。本当はものすごく弱いのじゃないか? 弱虫に乗っ取りは無理なのじゃないか?」 「ゆぎッ」 ドスが目を剥き、奥歯を食いしめる。長はお尻に触るようなセクハラはしないが、気に障るような嫌がらせは手慣れたものだ。見事に神経を逆撫でた。それとも触れたのは逆鱗か。 「ドス! こんなやつやっつけちゃえ!」 「ドススパークでいっぱつだよ!」 「ころしちゃえっ!」 口々に煽るドスの一派。興奮して大岩の上やその周りに群がって飛び跳ねている者もいる。 ドススパークというのはドスマリサの特殊能力の一つだ。高エネルギー波を口から放出し、攻撃する。 「ドススパーク? 珍妙な名前だな。何にせよ、人間に負ける程度の弱い技では話にならないね。それとも弱いのは、あぁ、頭かな?」 「ゆっぎぃいいいい!! ゆっくり死ねぇえええええッ!!」 ドスの開かれた口腔に白光が生じる。そのまぶしさにまぶたが閉じかけたが、一瞬だった。 ドスは長から顔を逸らすと、大岩に向けてドススパークを発射した。 閃光は爆裂と化し、大岩を大音響と共に粉々に破砕した。しめ縄と多くのゆっくりたちを巻き込んで。 呆気にとられたいくつもの顔が網膜に焼き付いている。なぜドスが自分たちを撃ったのかわからなければ、自分たちがなぜ大岩に群がっていたのかも理解できていなかったろう。 「なかなかの威力だ、だがその程度では倒れてやるわけにはいかんなあ、わはは」 挑発が棒読みになる。しかし、ドスは激高した。長の方は全く見ずに。 再び大きな口が開かれ、光が生じる。視線と口腔の先には残ったゆっくりたちがいる。彼らが律儀に列をなして、声援を送りながら死を迎え入れる様は、シュールな構図だった。 そして、第二射。 ドススパークは自分の仲間約三十を紙のように貫き、森の深くで轟音を立てた。向こうにはちょっとした崖が岩の壁面を作っている。どの程度えぐれたかで、威力を測ることができるだろう。 「同じ技が通用すると思ったかー、今なら土下座すれば許してやらんでもないぞぉ」 「ゆぎぃ! ドスは強いんだよ! うるさいだけのチビ黒さんはつぶれて死んでねッ!」 もうたった一体しか残っていないドスマリサは、長の大根役者並の台詞に乗せられて、体当たりを仕掛けていった。今度は巨木が敵となっていた。ドスン、ドスンと全体重を乗せた攻撃を仕掛けるたび、巨岩以上の直径を持つ幹は揺れ、木の葉が驟雨と降り注ぐ。群れの皆は、黙ってその一人芝居を注視している。 「体力が完全でもやはり三度連続は無理か。しかし、聞いていた以上の威力だったな、眼福眼福」 長もそちらを観劇しながら、話しかけてくる。 「なら、なおさら群れに取り込みたかったんじゃないですか?」 無理とはわかりつつ、聞いてみる。あれだけ無知で傲岸なままで成長しきり、かつ集団をなしていたら、思想・性格をこちらの群れに合わせるのはまず不可能だ。これまで同様、無思慮にゆっくりの群れや人間の村に強奪を仕掛け続け、やがては災禍を招くだろう。しかしそれでも、教育や脅迫でなく、たとえば催眠を掛けることで性格を上書きするとか…… 「俺の能力では無理だな」 こちらの思考を読んだように、長が答える。 「相手のベクトルを少し逸らせてやる程度しかできない。直角を真っ直ぐにするなんて、とてもじゃないが」 と、首を振る。真実か、謙遜か、脆弱の誇張かはわからなかった。 「四二体も暗示を掛けられるのにですか」 「それだって麻薬で酩酊してなければできない芸当さ。それに能力を酷使すると腰に来るんだ。今も腰痛が痛い」 「腰なんて無いでしょう。虚しい虚言ですね」 「しかし残念。至極無念。参謀の言う通りだよ。ドスが一体入れば、この群れは大きな可能性を手に入れられたはずだ」 やれやれ、と軽く息を吐いた。 ドスが群れに接触するのは二度目だが、いずれも群れには引き込めなかったわけだ。群れに害を為す存在である以上、厳格に対処せざるをえない。手心を加えることができるほど、私たちは愚鈍でも強靭でもないのだ。けれど、仕方のないこととはいえ、やはり落胆はするだろう。 巨岩のあった辺りに目を遣ると、岩の破片の隙間に黄褐色の切れ端が覗いていた。 「しめ縄、切れちゃいましたね」 「また作ればいいさ。何度でも作ろう」 「そうですね、もっと大きなものを作りましょう」 ゆげっ、という声に振り向くと、巨木の生々しく折れた太枝の先端に、ドスの巨体が貫かれていた。生命の残滓を漏らすように痙攣している。 合図を送ると控えていた調理班が前に出てきた。絶命を確認後、すぐに解体作業に入るだろう。 「メスで切ったものを包丁でまた切るのは、何だか複雑ですね」 「まあ、手術の腕は上がったろう? ドススパークと同じく、いい経験になったのは確かさ。またあんな感じの改造ゆっくりが来てくれないかな。たくさん来てくれれば千客万来なんだが」 「私にとっては、もうたくさんですし、今後も万難を排したいです」 今度こそ私はため息をついた。全く、不吉なことを言わないでもらいたいものだ。 そんな私の思いが天に通じたかはともかく。 私がドスを最初に目にしたその日が、私が大きな手術をした最後の日になった。 黒ゆっくり3 次 過去作 fuku2894.txt黒ゆっくり1 fuku3225.txt黒ゆっくり2 このSSに感想を付ける
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セリフ一覧 ゆっくりのセリフは上記の記事に既に記載されています。
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ある所に、とてもみじめなゆっくりまりさがいました。 ごはんをたくさん食べて、寝て……まだ小さいので子供はいませんし、家族ともずっと昔に別れてしまいましたが、普通のゆっくりとほとんど変わらないゆっくりライフを営んでいました。 周りのゆっくりとほとんど変わらない生活をすごしているのに、なぜこのゆっくりまりさはみじめなのでしょうか? それは、帽子をなくしてしまったからです。 ゆっくりは、生まれた時から帽子やリボンなど、何らかの飾りを身に付けています。 れいむなら赤いリボン、ちぇんならキャベツ……もとい帽子、みょんならキクラゲ……いや黒いリボン、ゆかりならドアノブ……違う。帽子、そして、まりさならとんがり帽子。 種族によって違いはありますが、必ず何かを付けています。 極めて稀な例で、とんがり帽子をかぶったれいむ等といった奇形も誕生しますが、それにしても飾りを身に付けているのには変わりありません。 ですが、みじめなゆっくりまりさにはリボンや別種の帽子すらありませんでした。 飾りは、ゆっくりが生きていくのに必要な器官ではありませんが、だからと言って必要ないものでもありません。 飾りを身に付けている事で、ゆっくりはゆっくりとして、ゆっくりできるのです。 もちろん、みじめなゆっくりまりさは、本当の意味でゆっくりする事はできませんでした。 そのため、飾りをなくしたゆっくりは、代わりの飾りを探します。 ――飾りさえ持っていれば、もうこんなみじめな思いをしなくて良い。ゆっくりできる。 その思いから、ゆっくりなりに必死になります。 探した結果、自分の飾りが見つかれば良いですが、どうしてもない時は別のゆっくりの飾りを奪ってでも手に入れようとします。 ですが、奪われた方のゆっくりにとっては、たまったものではありません。次にみじめな思いをするのは、奪われたゆっくりなのですから。 奪おうとするゆっくりと、奪われまいと警戒するゆっくり。 本来ならば一緒にゆっくりできる仲間と、そんなゆっくりできない関係になってしまうため、飾りのないゆっくりはみじめなゆっくりなのです。 みじめなゆっくりは、他のゆっくりよりもほんの少しだけ早く起きます。 近くに寝ているゆっくりがいたら、その飾りを奪うためです。 みじめなゆっくりが、洞窟に入っていきました。 どうやら、まだ寝ているゆっくりを見つけたのでしょう。ゆっくりとは思えないほど慎重に、音を立てない様に注意して入っていきます。 「ゆっ……! ゆっ、ゆー!!!」 「ゆっくりしね!!!」「しね!!!」「ゆっくりでていけ!!!」 どうやら見つかったみたいですね。 激怒したゆっくりれいむ一家に追い立てられて、ほうほうの体で逃げていきました。 母ゆっくりは限界までふくらんで、威嚇しています。石を口にくわえて投げつける子ゆっくりもいます。 目の前で子供を殺された時ですら、ここまでの攻撃はしないでしょう。 ゆっくりの飾りを盗むという事が、どれほど重大な問題なのかをうかがわせる光景です。 みじめなゆっくりは、他のゆっくりよりもほんの少しだけ早く食事を終えます。 近くに飾りが落ちてないかどうか探すためです。 先ほど追いかけられたみじめなゆっくりは、へとへとになりつつも食事を探しだしました。 この辺りは、捕食種であるゆっくりれみりゃもゆっくりフランもおらず、エサの量が多いため、みじめなゆっくりでもたらふく食べる事ができます。 「うめっ! めっさうめぇこれ!」 普通のゆっくりまりさと変わらない下品な言葉を発しつつ、たくさんの草や虫を食べていきます。 あらかた食べ終わったみじめなゆっくりは、それほど休まずに動き出しました。 食後の散歩でしょうか? 違います。どこかに飾りが落ちていないか、探しているのです。 みじめなゆっくりは、なめるように周囲を探していきます。 時には、遠出をしてでも見つけ出そうとします。とはいえ、ゆっくりなのでそれほどの距離を移動する事はできません。 みじめなゆっくりが、ゆっくりと戻ってきました。 どうやら飾りは見つからなかったらしいですね。寂しそうにうつむいています。 そんな、落ち込んでいるゆっくりの耳(あるのかは不明ですが)に、別のゆっくりたちの声が飛び込んできました。 ゆっくりまりさとれいむの集団です。このゆっくりたちは、全員帽子とリボンを付けています。 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくり……していってね!!!」」」 嬉しそうにあいさつするみじめなゆっくりに対し、姿が見えた瞬間、少し距離を置いてあいさつを返すゆっくりたち。 あいさつをした相手と遊んだ上、そのまま家におじゃまして一緒に寝る事もあるほどに種族仲の良いゆっくりにしては、珍しい光景です。 それもこれも、みじめなゆっくりが飾りを身に付けていないからです。 「ゆっくりあそぶよ!」 「なにしてゆっくりあそぶ?」 「ちょうちょさんとおっかけっこしよう!」 「「「ゆっくりあそぼうね!!!」」」 楽しそうに遊ぶ内容を話し合い、近くに来たちょうちょを追いかけて遊んでいます。 みじめなゆっくりと、普通のゆっくり。 一見仲良く遊んでいますが、実はお互いに非常に警戒し合っています。 「ゆ”っ!?」 「まりさ!」 「……ゆっくりころんだ!」 「だいじょうぶ? ゆっくりおきあがってね!」 「ゆっくり……ゆぎゅぅぅぅ!」 「……ゆっくりおきあがるのてつだうよ!」 「ゆっぐ、いらないから……ゆっぐり、はなれてね!!!」 起き上がるのを手伝おうとしたみじめなゆっくりを、全力で振り払おうとするゆっくりまりさ。 当然です。みじめなゆっくりは、助ける事にかこつけてまりさの帽子を奪おうとしていたのですから。 ちなみに、この時他のゆっくり達はただ眺めているだけです。 どちらのゆっくりが帽子を被るかによって相手への対応が変わるため、うかつに動く様な事はできないのです。 元々のみじめなゆっくりが弾き飛ばされ、木にぶつかって止まったのを見届けてから、また皆で一緒に遊びます。 心配して近づくゆっくりはいません。近づいたら最後、飾りが奪われる可能性があるからです。 ゆっくり達は、遠くから声をかけます。 「ゆっくりだいじょうぶ?」 「ゆっくりこっちにきてね!」 「いたかったら、そこでゆっくりやすんでね!」 「……ありがとう、でもだいじょうぶだからいっしょにゆっくりあそぼうね」 みじめなゆっくりは、優しく問いかける仲間に対してにこやかに返事をしつつ、元気に飛び跳ねながら仲間達の元に行きました。 「ゆっ! おひさまがかくれちゃうよ!」 「たいへん! ゆっくりかえらなきゃ!」 「みんなでゆっくりかえろうね!」 西日が傾いてくると、ゆっくり達は帰宅します。 夜になると、ゆっくりれみりゃやゆっくりフランといった、捕食種が現れるからです。 「ま、まって! もっとゆっくりあそぼうよ!!!」 そんな中、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら皆を引き止めるみじめなゆっくり。 遊んでいる最中はスキを見つけられなかったらしく、飾りはありません。 「ごめんね! でもゆっくりかえらないとれいむがおかあさんにおこられるの!」 「まりさもおこられるから、みんなでゆっくりかえろうね!」 ねー、と声をかけ合うゆっくり達。 みじめなゆっくりが何と言おうとも、普通のゆっくり達は聞き入れず、仲良く帰っていってしまいました。 「まっでー! もっどゆっぐりじようよー!!!」 最後には泣き叫びながら引き留めようとするみじめなゆっくりですが、皆でがっちりと固まって帰ってしまいました。 これでは、帰ろうとするゆっくりの背後から奪い取る事もできません。 結局、みじめなゆっくりは飾りを奪う事はできませんでした。 みじめなゆっくりは、他のゆっくりよりもほんの少しだけ遅く眠ります。 近くにゆっくりが寝ていたら、その飾りを奪うためです。 皆が帰るのを眺めていたみじめなゆっくりも、気を取り直して巣に戻りました。 いつまでもゆっくりしていると、捕食種の餌食になるからです。 ゆっくりと巣に戻り、巣に戻ったらゆっくりして、そのまま眠りに付きます。 「ゆぅ……ゆ……ふぅ……ゆー……ゆっ!」 完全に眠ったと思った瞬間、飛び起きてゆっくり外へと出て行きました。 みじめなゆっくりは、そのまま朝とは別の洞窟に入っていき、何も被らずに出てきました。 自分に合う飾りがなかった様です。 自分と同じサイズのものでなければ、周りから飾りとして認められません。 それでは、奪い取っても意味がありません。 とぼとぼと、みじめなゆっくりが自分の巣に帰ろうとしている最中、話し声が聞こえてきました。 「……よ、ほんとうに……」 「……ね、ゆっくり……」 何事かと恐る恐る覗いてみると、先ほどまで遊んでいたゆっくり達のうち、2匹が楽しそうに談笑していました。 どうやら巣が近くにあった様です。体をくっつけて「ゆぅ~♪ゆっ♪」と歌ったりもしています。 みじめなゆっくりが声をかけようと近づくと、話の内容が聞こえてきました。 「ぼうしないこ、ずっとれいむたちのりぼんみてたよね」 「まりさのぼうしをとろうとしてたよ」 「ぼうしなくてかわいそうだとおもったからゆっくりしてあげたのに、だめなこだよね」 「だめなこだよね、ゆっくりできないこなんだよ、あのこ」 「いやだよね、ぼうしないこはゆっくりしてなくて」 「ほんと、ぼうしないとゆっくりできなくなるんだね」 「きっと、ちかづいたら『ぼうしとるぞー!』っておいかけてくるよ」 「おお、こわいこわい」 みじめなゆっくりは、そのまま動けなくなってしまいました。 昼間に遊んだゆっくり達が、同情のみで遊んでいた事を知ってしまったからです。 その日以来、みじめなゆっくりを見る事はありませんでした。 ――いかがだったでしょうか。 帽子やリボンがないだけで、ゆっくりはこれほど惨めな思いをする事になるのです。 何としても飾りが欲しいと思うゆっくりの思いを理解していただけたでしょうか。 ただ、ここまで見てきて疑問に思われた事があるでしょう。 生きているのじゃなくて、死体から帽子なりリボンを奪えば良いんじゃないか? という疑問が。 確かにその通りです。 ですが、ゆっくりは、どれだけ惨めな思いをしても仲間の死体から飾りを奪う事は決してしません。 それをしてしまえば、皆に殺されてしまうからです。 バレない様にこっそり奪えば良いという意見もあるかもしれませんが、死体の飾りには死臭が付いているため、どれだけこっそりしていても絶対にバレてしまいます。 頭の良いゆっくりが、死臭を消すために肥溜めに落としたりした事がありましたが、そこまでしても死臭を消す事はできませんでした。 ちなみに、そのゆっくりは制裁として肥溜めに落とされ、フタをした上に重石を乗せられました。 ゆっくりにとって、飾りはそこまで重要なものなのです。 だから、ゆっくりにどれだけ腹を立て、殺したいほど憎くても、また、殺したとしても、決して飾りだけは取ってはいけません。 飾りを取った人間に対し、ゆっくりがどれほどの憎しみを抱くか……考えただけで恐ろしくなります。 ゆっくりだから大した事はないと思ってはいけません。 奴らは、飾りを取られた恨みを決して忘れず、どこまでも追いかけてくるからです。 ……なぜ私がここまで怯えるのか、不思議だったり情けなく思ったりする方がいるでしょう。 ですが、これは全て事実なのです。 奴らは、普段は鈍重でボンクラで一匹位いなくなっても気にしない間抜けどもの癖に、飾りを壊した奴の事は決して忘れません。 何が出来る訳じゃない、ただただ攻撃を仕掛けてきて殺されるだけなのに、死体の山を築き上げたとしても諦めずにずっと付いてくるのです。 私は、恐ろしい。 ……あんた、笑ったか? 出来の悪いホラーを見るような態度で笑っただろう。 いや、笑うのも分かるさ。私だって、ゆっくり程度に怯える奴がいたら、笑うさ。 でも、この音を聞いてみろよ。後ろからずっと、返せ返せって呟きながら、べちゃべちゃとついてくる饅頭どもの音をさぁ! 殺すのは簡単だよ、こんな奴ら。無抵抗に近いんだからな。ぶつかってきても痛くも何ともない。 ナイフとかのこぎりとか物騒な器具がなくても、ただぶん殴れば終わるさ。 でも、ずっとついてくるんだよ。返せ、べちゃ、返せ、べちゃ、返せ、べちゃって、ついてくるんだよぉ! 職場でも家でも風呂でもトイレでも、ずっとついてくるんだよぉ!!! ……ほら、今も聞こえるだろう? 奴らの声が。足音が! べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ べちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せべちゃ返せ ――ゆっくりを虐待している皆さん。 ――くれぐれも、奴らの飾りだけは盗られないよう、お気をつけ下さい。 ――さもなくば、彼のようになりますよ。 この話の骨子は、 316のレスを見て思いつきました。多謝。 でもなんで、こんな話になったんでしょうか……自分でも分からないです。 ところで、 863……本当に、怖くないですか?
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前 (@BGM 『熱情の律動』) 『盛り上がってまいりました! 開始早々決勝進出に王手をかけたF大付属。丁寧な仕事で反抗の意志を奪い、 一網打尽かと思われましたが、時間をかけた仕上げがアダとなり西日暮里高校の介入を許しました!』 『西日暮里高校の機体、テイクイットEZ8。無骨な鉄の塊を思わせるデザイン、低重心で肩幅広く、 鉄機やマトリックスのザイオン防衛メカを連想させます。 西日暮里が準決勝のメインアームに選んだのはサブマシンガン。命中率よりも戦場により多くのBB弾をばらまく ことに重点を置いたチョイス。左手にはもうおなじみとなったドリル。鈍色の塗装がストイックな外観と相まって、 森とゆっくりのメルヘンチックなフィールドで一際異彩を放っております!』 『そしてなによりもおどろきなのは、西日暮里、機体にゆっくりれいむを搭乗させております』 『ただいま入りました情報によりますと、この子ゆっくりれいむ、西日暮里高校の操縦担当・大沢君が 個人的に飼育している飼いゆっくりのようです!!』 『なんということでしょう・・・・・・。戦場にもちこんでしまったゆっくりはたとえ滅失しても文句は言えません。 不退転の決意のあらわれか西日暮里高校・大沢!!』 『れいむの、まりさのあかじゃんをだすげでねええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!』 『おねがいねえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!』 子ゆっくり達を背に、メカゆゆこと対峙するEZ8。その操縦席で不敵な微笑みを浮かべるれいむ。 逆さま状態から復帰したメカゆゆこは、半開きの口から触手をチラつかせて威嚇する。警告音。サイドワインダー。 その音響にゆっくりたちは震え上がる。だがEZ8に搭乗するれいむは違った。不敵な微笑はそのままに、勇ましい目つきを崩さない。 『にらみ合いが続いております』 『両者の体格差は一目瞭然ですね。メカゆゆこがバランスボールだとすると、EZ8はせいぜいXBOX360程度。 力比べでは太刀打ちのしようがありません。ここはローラーダッシュでかく乱しつつ刻んでいきたいところ』 『しかしサブマシンガンではメカゆゆこの外皮を貫くことは困難でしょうし、押し付けなくては効果が発揮されない ドリルは球体のメカゆゆこを相手取るには不適格と思われます』 『準々決勝で見せた狙撃銃や、切り札と公言していたパイルバンカーであれば対抗できたかも知れませんが……。 天秤はいまだF大付属に傾いている!』 そのとき、両者が動いた。 EZ8は後背に位置するゆっくり達をかばう様、直進しつつサブマシンガンを連射。 メカゆゆこは触手を勢いよく地面に突き立てると、 その反動を利用して大きく後ろに跳び、茂みの中へと消えた。 EZ8が急停止する。 茂みの向こう、メカゆゆこが立てる物音が急速に遠ざかっていく……。 (@BGM 停止) 『おっと……? これは意外な展開です。メカゆゆこが撤退しました。有利とおもわれていたF大付属、 ゆっくりの群れを前にして逃げてしまいました……?』 『向かう先に他の群れがいるようです。相手ロボとの戦闘よりも、ゆっくり回収力で勝負しようという作戦ですね』 『なるほど! メカゆゆこはゆっくりを体内に溜め込むことができますが、EZ8はそうはいきません。 自軍拠点にゆっくりたちを連れて行き、回収口まで誘導する必要があるのです』 脅威が去った。テイクイットEZ8はゆっくり達に向き直り、しゃがみこんだ。 「ゆ! だいじょうぶだったかい!?」 その言葉に、ゆっくり達の目に涙が溢れた。 「「「ありがどうううぅぅぅぅ」」」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 「「「おやさいあげるね!」」」 「ざんねんだけどまだゆっくりはできないね! やつはまだゆっくりをねらっているよ! れいむはほかのゆっくりもたすけなくちゃいけないんだよ!!」 「「「おいでがないでええええぇぇ!!」」」 「だいじょうぶだよ! れいむがあんぜんなところまでつれていくよ! みんなはそこから だっしゅつしてね! そとはもうゆっくりプレイスだよ! だからゆっくりしないでついてきて!!」 EZ8が立ち上がる。ゆっくりの一団はそれぞれやさいのかけらをくわえ、EZ8の先導に従って森に入っていく。 『ご覧ください! 感動的な光景です。救世主ゆっくりに導かれ、ゆっくりの生き残り達が救助されようとしています』 『ゆっくりいそいでかえってきてね!』 『どこのれいむかしらないけどありがとうね!』 ほろほろと感謝の涙を流す親ゆっくり。すでにケースの下には涙がたまって水位を上げつつある。 また、酷くいらだたしい微笑みを浮かべて解説者二人をちらちらと横目でみやる。まるで勝ち誇っているかのようだ。 解説者は笑っていた。 『さあ、ベースに戻ってまいりました西日暮里高校。助けられたゆっくりたちが列を成して回収口に 入っていきます。おお? お礼の野菜をEZ8に差し出しました。しゃがみこんでドリルで受け取るEZ8。紳士です』 『ここで避難口の様子を見てみましょう』 暗く狭い通路。ベルトコンベアになっているそこを、助けられたゆっくり達が流れていく。 救出の喜びを分かち合い、助けられなかった同胞を嘆き、憎いメカゆゆこに復讐を誓う。 悲喜こもごもを乗せて、ベルトコンベアは進み、暗幕の向こうへ。 そこには水平にすえられた刃があった。 流れていくゆっくり達は、暗幕を潜って直ぐのところにある刃で滑らかに、何も知らないうちに分割された。 顔のある方は刃の上のコンベアに、餡子の過半数を有する下膨れ部分は下の廃棄溝に。 餡子のほとんどと切り離されたゆっくりは偽りの救出に顔をほころばせたまま、動かなくなった。 頭部だけを乗せてベルトは流れてゆく。 『・・・・・・・・・・・・』 『・・・・・・・・・?』 解説席の親ゆっくりは急激な状況の変化についていけなかった。 感激の涙を流しながら、ベルトコンベアで運ばれてゆくもの言わぬ顔だけになった子供達を目で追っていた。 さっきまで動いていた子供達。助けてくれたロボに感謝していた子供達。 いまは一様に、中空を見据えたまま動かない。 その様子に疑問を抱いたのか、少しずつ表情が曇っていく。 『はい。動かないように処理したゆっくりは、手作業で飾りを回収します』 『12個? 12個ですね。西日暮里高校、一挙12得点です! 決勝進出確定にはあと4個の飾りを回収する 必要があるため油断は出来ませんが、F大付属に大きく水をあけたと言っていいでしょう』 画面下にテロップが表示される。"ゆっくりの死骸はこの後ミキサーにかけ、肥料にいたします" 『しかし西日暮里高校・大沢。無垢な飼いゆっくりれいむを餌にしてゆっくりたちを騙し切りました。 友釣りの要領です。これまで手練手管を使い、人型ロボの汎用性・応用性を最大限に生かして、性能的 に上位の相手をことごとく下してきました。』 『そら恐ろしくさえありますね。大会的にはロボットの製作技術で白黒つけてもらいたいところではあるのですが』 『奇しくもゆっくり型対人型の対決となりました。知恵を使って自分達より強い獣を倒して繁栄してきた のがわれわれ人間ですから、どうも西日暮里のEZ8を応援したくなりますね。 ゲストの親ゆっくりさんはどうでしょう。どちらが勝つと思われますか?』 両サイドからマイクを向けられ、うろたえる親ゆっくり。 うつろに、取り繕うように微笑みながら、解説者達の顔を見回し、助かったはずの子供達の様子がおかしいことについて尋ねた。 『ゆっくりのこどもたちは……?』 解説者がマイクを自分に向ける。 『それは上半分ですか? 下半分ですか?』 『じねえええええええええええええええぇぇぇっぇぇぇぇっぇ!!!』 箱の中で親まりさが咆えた。親れいむは微笑みのまま白く燃え尽きていた。 『ごろじでやる! おばえらなんかゆっぐりじゃない!! にどどゆっぐりでぎないようにぢでや』 両サイドの解説者が同時にボタンをおした。箱の中の親ゆっくりは同時に机の中へと落ちていき、空の透明箱が残された。 『ここでお邪魔ゆっくりを2体投入します。親ゆっくりの飾りは得点になりませんので注意してください』 場面変わって森の中、球体が茂みを縫って移動している。 『F大付属、新たな群れを発見したようですね。おっとしかし……?』 メカゆゆこの進行方向に、6匹ほどの子ゆっくりがいた。 ゆっくりたちはすでにメカゆゆこの迫る方向に視線を向けていて、慌てた様子で四方に跳ねていく。 『先んじて逃げられました。これはどういうことでしょう。物音に警戒したというのでしょうか』 『これは死臭でしょう。むせかえるような餡子と黒蜜の匂いが危険を知らせてしまった……。 雲行きがあやしくなったF大付属。そつなく2匹を平らげたものの、ようやく6点。西日暮里の半分です』 『対する西日暮里は……。すでに次の群れに取り入っている! その数2体、いや、3体です!』 膝を付いたロボから話しかける飼いれいむに、3体の子ゆっくりれいむはめろめろになっている。 やがてうごきだしたEZ8に導かれて避難口へと向かう。 『勝利確定には届きませんが、限りなく勝利に近づくことのできる点数です』 『ご覧ください。自分達を処刑台に連れて行く執行者に、嬉々としてついていくゆっくりたち。その晴れやかな表情……』 『TVをご覧のお子さんにとって、極めて優秀な反面教師になると思います。知らないおじさんについていっては、だめですよー』 『では遠足気分のかわいいゆっくりたちをしばしご覧ください』 ロボットとゆっくりの一団は森を抜け、見晴らしのいい草原へ。西日暮里側の拠点、死境内へのエスカレーターが見えてきた。 「みんな、もうすぐそこだよ! ほかのゆっくりたちもまってるからね!」 「ゆ! おねえちゃんたちにあいたいよ!」 「ゆ! もうすぐゆっくりできるね!」 導かれる子ゆっくりたちは荒い息を押してゴールへと跳ねていく。 「そこまでだぜ!!」 勇ましい声と共にEZ8の上に影が落ちた。 操縦席のれいむが頭上に視線をやると同時、激しい衝撃が機体を襲った。 「ゆ"う"ううううううううううううううう!?!」 EZ8が吹き飛び、転倒する。 驚愕する子ゆっくりたちの前にぼってりと着地したのは、親ゆっくりまりさだった。 「りょうてのぶきをあたまのうえにあげるんだぜ! ゆっくりとね!!」 「おとーさん!?」 「どうしていぢわるするの!? あのれいむはみかただよ!!」 「ちがうの! あいつはにんげんのなかまだよ! いまおかあさんもくるからうごいちゃだめだよ! おまえたちのことはおとうさんがまもりぬくからね!! いまはただしんじてね!!」 親まりさの剣幕に子ゆっくり達は言葉を失う。ただ不安そうな顔で身を寄せ合った。 起き上がるEZ8。その動きに反応した親まりさが、子供達を背に隠す。 パイロットの飼いれいむは泣きながら地団太を踏む。 「どうじでじゃまするの! れいむはただ、みんなをたすけようとしただけだよ! あやまってね!」 「ふざけないでね! やくたたずのうらぎりものはまりさがたおすよ! ゆっくりじぶんのしたことをこうかいしてしんでね!」 EZれいむと親まりさの間で、敵愾心が膨れ上がっていく。 雷ばしるような緊張感のなか、先に動いた親まりさが、背後の子供達に告げた。 「・・・おとうさんのせなかを、よくおぼえておいてね……!!」 「ゆっ……」 「おとさん……」 か細い呼びかけを振り切るように親まりさは飛び出した。 視線の先には鉄の四肢をもつ裏切りれいむ。 敵うはずもない強大な敵に敢然と立ち向かう。 後ろに残した子供達、今なおどこかで逃げながらえている子供達、そして無残に殺されていった子供達のために――。 「ゆうううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ!!!」 気合の叫びと共に突貫をかける親まりさ。ひらひらと舞い降りる赤い蝶。頬をかすめた蝶には目もくれず、一直線に相手の下へ――。 「ゆうううううううう……う……?」 その突進が、ゆっくりと減速して、止まった。 「…………」 親まりさは、振り返った。 子供達が心配そうに見ている。それはいい。親まりさの歩みを止めたのはそれではない。 すれ違った赤い蝶。その違和感だった。 蝶は草の上に落ちていた。 紅白の蝶。 ゆっくりれいむのリボン。 それも子どもサイズではない、親ゆっくりのサイズ。 親ゆっくりれいむのリボン。 それは、いつのまにか姿を現していた。 子ゆっくりたちの背後、死刑台に続くエスカレーターの入り口、その上に。 満月のように、メカゆゆこが鎮座していた。 『なんたることでしょう!! 西日暮里のゆっくり投入口の上にメカゆゆこが陣取っています!!』 『ゆっくりたちが脅えています。これではポイント還元が出来ません。 EZ8には格納機能がありませんから、ポイントを得るには投入口に入れないと……』 『こ、これはーーーーーー!!!?』 投入口前のメカゆゆこが、若干空を仰ぐように視線を上に。 するといままで隠れていた部位があらわになった。 メカゆゆこの口の真下にある小さなすぼまり。 地獄の門のようにゆっくりと開いた。 『これは! 間違いない!! 間違いないです!!』 『これは間違いないですねー! とんでもない隠し玉を持ってきましたF大付属!』 『解説も憚られるような光景が繰り広げられています! 悪趣味ここに極まった! いま西日暮里高校の投入口、唯一のポイント源であるゆっくり投入口が、あんこのトグロで埋め立てられてゆくーーー!!』 『も、最悪でしょう・・・…』 『実際のゆっくりにこのような生理現象はありませんのでご注意ください。 ともあれ、もうこの投入口をゆっくりがくぐることはないでしょう。西日暮里は追加点のチャンスを永遠に失ったことになります。』 親まりさは、ひりだされる餡子と黒蜜の混合物を見ていた。 明らかに餡子の量が多かった。子ゆっくり10匹でも足りないほどに。 そしてごみのように捨て置かれたれいむのリボン。 ゆっくり袋の緒が切れた。 「よぐもれいむおおおおおおおああああああああああああああああああああ!!!」 中身を吐く様な叫びと共に親まりさが飛び出した。 その動きを受けてEZ8、ローラーダッシュを用いて親まりさに追従する。 『西日暮里高校、先行した親ゆっくりを盾に、近づこうとしています』 1匹と1機の接近に際し、メカゆゆこは動かない。まったく余裕の笑みを浮かべたまま迎え撃つ構えだ。 「ぢね! おまえがいるがらゆっぐりでぎないんだああぁぁぁぁ!!」 親まりさの渾身の体当たり。そしてその影から飛び出したEZ8が銃口をメカゆゆこに向けた。 だが電光石火の触手舌が親まりさの体を下から上へ容赦なく貫く。 「ゆべぇ!?」 その隙を狙って放たれたEZ8の射撃だが、メカゆゆこはゆっくりを盾にし全てのBB弾を受け止める。 「いべべべべべいだいやめでいだいぃぃぃぃぃぃ!!!」 『おーっと、後頭部にBB弾の雨あられ。生地にめり込んでいます!』 『蓮コラみたいできもいですね。それか転んだあとの膝小僧に砂が食い込んでる感じ』 『あぁ~、あれキモイよねー。子供の頃ショックだったわ~』 EZ8は旋回し、盾の向こうの標的を狙う。 メカゆゆこもまた回り込むように移動、盾を十二分に生かし一向に被弾しない。 ぐるぐると旋回する2機。その中央にいる親まりさは広がる傷口から黒蜜を迸らせて号泣している。 「おろじでえええぇぇぇ! もうおうちかえるうううううううう!!」 『でましたゆっくりのおうち帰るコール。さっそく限界のようです! 饅頭は骨がない!』 『それにひきかえ骨太の攻防を繰り広げる両者。予断を許しません!』 こう着状態に陥ったかと思われた矢先、EZ8の銃が玉切れを起こした。 距離をとるためのバックダッシュを行いつつ手動でのマガジン交換を敢行する。 その隙をメカゆゆこは見逃さない。 大きな体を波打たせ、次の瞬間はるか上空へと跳躍した。 『これは高い! ゆゆこの跳躍、ボディプレスかーーー!!』 「ごわいおろじでえええええええええ」 メカゆゆこの影が、地表のEZ8を覆う。 装填を終え、空を仰いだEZ8の飼いれいむめがけ、ハンマーの如く振り下ろされる親まりさ。 間一髪、EZ8は回避に成功し、親まりさは地面に叩きつけられた。 「おとーさ」 「ゆ!?」 ぷち。 ぷち。 ぷち。 ZUNという衝撃音と共に固い土に叩きつけられた親まりさ。 砂塵が巻き上がり、そしてゆっくりと散ってゆく。 重体だった。 後頭部が破裂して中身の黒蜜が放射状に飛び散っていた。その飛び散り半径の広さを見れば、いかに強く叩きつけられたのかが解るだろう。 だが親まりさは悲鳴をあげなかった。 あげられなかったわけではない。 小さな音が悲鳴を飲み込んでしまっただけだ。 小さな感触が全身打撲の痛みを超えただけだ。 ぱぱー。 ぱぱー。 きょうもゆっくりしようねー。 晴れ渡った草原、記憶の中の風景。 元気に飛び跳ねるわが子ゆっくりの姿。 瑞々しい蛇苺を、口づけるようにくわえた横顔。 雨宿りの木の虚で、小さな体を摺り寄せてきた、そのぬくもり。 その感触が、たった今、自分の下で弾けた。 ・・・ オ ト ウ サ ン ノ セ ナ カ ヲ 、ヨ ク オ ボ エ テ オ イ テ ネ ――――――。 「い゛や゛ぁべでぇええええぇぇぇぇえええええええええぇぇぇ!!!!!」 瀕死の体で親まりさは絶叫した。声も涙も黒蜜も、出せるものは全て出しつくしての咆哮。 あらん限りの力で暴れ狂う。それでも、乗り上げた体勢のメカゆゆこをどかす事はできない。 それどころか、メカゆゆこは全ての体重をかけてのしかかった。 ぷち。ぷしゃ。 「どいでねえええ!!! ゆっぐりじないでおりでねええぇぇぇぇ!!」 あまつさえ、独楽のように回転をし始める。地面におしつけられた親まりさも一緒に回転することになる。 べろ。べろべろ。 「ぃいやあああああああああああああめでねぇえええええええええええええええええ!!!!!!!」 黒蜜の泡を飛ばしながら親まりさは絶叫した。 『おっとぉ? どうしたことでしょう』 『親まりさが自分の子供を潰してしまったようですね。これは不幸。人間社会にこのような不幸が訪れないことを祈るばかりです』 親まりさはかろうじて生きていた。 般若の形相で硬直しながら涙を流して痙攣している。 自らの流した黒蜜に塗れ、今なお口から吐血のように流れ出す命の源。 落下の怪我による中身の流出が酷いが、晴天のゆっくり治癒力ならばあるいは、という瀬戸際の怪我だった。 メカゆゆこはまりさから降り、触手に絡みつくつぶれ饅頭を放り捨てた。 その下から出てきた子ゆっくりの圧殺死体から帽子をふんだくり口の中に放りこむ。 『3点獲得で9点でしょうか? 我々はF大付属が親ゆっくりれいむを捕食した瞬間を確認していません。 もしそのときまでに3匹以上の子ゆっくりを獲得していれば、この時点で同点・逆転ということになります』 『時間的にも残りの子ゆっくりを探す余裕はありませんし、唯一の得点方法を失った西日暮里高校は、 敵ロボットの撃破を狙っていくしかないでしょう』 振り返るメカゆゆこ。 ゆっくりと歩行して近づくEZ8。 EZ8のむき出しの操縦席でれいむが頬を膨らませている。 「とってもわるいやつだね! いぢわるなおばさんまりさはともかく、こどもゆっくりにまでてをだすなんて!」 のしのしと接近しつつそんな悠長な台詞を言い放つ。 メカゆゆこは応じず、横方向に回転移動し始める。EZ8を中心にした円の軌道だ。 『始まりました。ロボ同士の肉弾戦です。単純な性能ではメカゆゆこが有利。試合序盤にも見せた旋回移動で相手を牽制します』 『EZ8は持ち前の機動力と自由度を武器に立ち向かわなければなりません。 もし此処で逃げられて回収力勝負になるともう勝ち目はありません。 その点、F大付属が真っ向勝負を選んでくれた事はチャンスでもあります』 『残り時間は3分を切りました! どちらが先に仕掛けるのか!』 回転半径を狭めつつ速度を上げるメカゆゆこ。EZ8は背後をとられることを警戒している。 「ゆ! ゆっくりいきのねをとめるね!」 EZ8は前方へと走行、左手のドリルを回転させつつ振りかぶる。 旋回のメカゆゆこが迫るタイミングを見切り、高速ドリルを突きこんだ。 しかし表皮をわずかに削りはしたが、衝撃によってメカゆゆこは弾かれ、距離が開いてしまう。 すかさずサブマシンガンのめくら撃ちを放り込む。吸い込まれるように全弾命中するも、メカゆゆこの動きはいささかも衰えない。 『懸念された通り、EZ8の攻撃がメカゆゆこに届きません!』 『万事休すか西日暮里高校大沢!』 攻撃方法を失ったEZ8にメカゆゆこの巨体が容赦なく襲い掛かる。 高速で突き出される触手が右肩の付け根をえぐり、右腕が吹き飛んだ。 「ゆっ!? まずいよ! おにいさんしっかりよけてね!」 パイロットれいむが悲鳴をあげる。当然のことながら、ロボットの操縦は人間が遠隔操作で行っている。 バランスを崩して尻餅をついたEZ8。その脚を潰すようにメカゆゆこがのしかかる。 『あー! マウントをとりました』 メカゆゆこはにんまりと笑うと、触手による乱れ突きを繰り出した。 それはコクピット付近の装甲をえぐり、金属片を撒き散らした。 しきりに身をよじりEZ8はコクピットへの直撃を避けようともがく。 「いやあああああああ! やべでぇ! あぶないがらあああああああ!!」 『大沢君の飼いれいむが鳴いております! いやいやをするように顔を振っています! 泣き叫びながら飼い主に助けを求めております! なんとか助けることが出来るのか大沢!?』 『これはむごい展開もあるかもしれませんよ!』 触手の狙いは正確ではなかったし、EZ8も最大限回避に努めた。 だがそれでも、延々と繰り返される攻撃を最後まで避け続けることはできなかった。 そのうちの一撃が、むき出しのコクピットを襲った。 「やべでええええ――ぐぃげぇえええええええええええええ!」 飼いれいむの顔面を貫く銀の舌。 狭い棺おけの中、れいむは激痛に打ち震え、けいれんを繰り返した。 『決まったーーーーーーーーー!! 残酷なディープキス! 深く深く差し込まれた楔が飼い主との絆を断ち切ったーーーーーーーーーーー!!』 『ズキュウウンですね! わかります!』 「おっ、おべっ、おべ……」 だんだんと白目をむきだす飼いれいむ。勝ち誇ったように笑うメカゆゆこ。 しかし、勝負はまだ決してはいない。 EZ8のコクピットが閉じた。 上下から現れた鋼鉄の歯が、一瞬のうちに噛み合わされたのだ。 それは死に始めの飼いれいむと共に、メカゆゆこの触手を万力のように締め付けた。 『おおおおおおおおおおっ!これはああああ!?』 『トラップです! これ見よがしの飼いれいむは、ゆっくり誘導のためばかりでなく、 メカゆゆこに対するブービートラップだったのか!? コクピットの圧殺機能がメカ ゆゆこの触手を封じました! 懸命にさがろうとするメカゆゆこ、動けません! 逆にその動きがEZ8を助け起こしてしまったーーーー!!』 立ち上がったEZ8。 左手のドリルを振りかぶり、再びメカゆゆこへと繰り出した。 激しい金属音と共に装甲がえぐれ、メカゆゆこが吹き飛ぶ。 ――だが捉えられた触手が伸びきり、それ以上の後退を許さない。 『EZ8、逃がしません! 触手を捉えたまま旋回し、メカゆゆこを振り回します! そのまま樹にぶつけてきた!』 『さらに天高く放り上げました! 時間後僅か逆転なるか!』 高々と飛ばされたメカゆゆこが重力によって地面に叩きつけられ、運悪く下敷きになった親まりさは物も言わずに死んだ。 仰向けに地面にめり込み、動けないでいるメカゆゆこ。 その上に、逆襲とばかりに踊りかかったEZ8がドリルを突き立てた。 固定された相手に対し、ドリルは最大の効果を発揮する。 激しい火花が2機を覆い尽くした。 『ドリル決まったああああああああああ!! これは逃げられない! 削りきるのか西日暮里! 逃げ切るかF大付属!』 『もう時間がありません! 5・4・3・2・1……タイムアッーーーーープ!』 ブザーが鳴り響いた。 メカゆゆこの損傷は、大破には至らないと判断された。 2機はそれぞれ、互いの本拠地へと戻り、回収された。 『現在、獲得アクセサリー数を計算しております。得点計算には少々お時間がかかりますので、その間、フィールドのクリアリングを行います』 『クリアリングを行いますのは、品種改良された対ゆっくり用ゆっくり・きめありすです。芸術とも言われるその妙技をご覧ください』 アナウンスと共に会場に優雅なクラシック音楽が流れ出した。 フィールドの地面の数箇所がせりあがり、そこから成体ありすの群れが飛び出す。 あきらかに発情中と解る移動速度。しかし、一切の声を発さない。 つりあがった目をギラギラと輝かせ、獲物を探して視線を縦横に走らせる。 湧き上がり続ける涎を溢すまいと唇を引き結びながらも、まだ見ぬ生贄を思うがあまり口の端はつり上がり笑みを形作る。 口の中いっぱいに蓄えられた唾液は跳ねるたびに勢いよくこぼれだしている。 フィールドをくまなく走査するきめありすは、ついに逃げ延びていた子ゆっくりを発見する。 それは地面に叩きつけられたようにつぶれている親まりさにすがりつく子まりさだった。 泣き喚き、あたりに何が起きたのかも解らぬまま肉親の死に打ちのめされている。 その子まりさの背後からすべるように近づいたきめありすは電光石火の早業で子まりさをひっくり返し、 そのつるりとした下面に覆いかぶさるように乗り上げるやいなやもはや肉眼では捉えられない速度で 滑らかに円運動、自身の底部をこすり付けだした。いわずと知れたゆっくりの性交渉である。 下敷きにされた子まりさはまず状況の変化に戸惑い、次いで自らの感覚を犯すなにかに怖気をふるい、あまりにも強引なやり方に泣き叫んだ。 きめありすは一方的に達すると、潰れかかっている子まりさを捕食した。 うっとりとした表情で口腔の子まりさを舐め転がし、口蓋に押し付けて潰した。 捕食による一体化を究極の愛と定義するのがきめありすの特徴だった。 きめありすは地面で広がっている親まりさの死骸に対してもゆっくり性交渉を行い、たいらげた。 一時も休むことなく次の獲物を探し始める。 それがフィールド全体で繰り広げられ、逃げ延びていた子ゆっくり達は処理された。 BGMのクラシックが終わると、きめありすはありすらしい優雅さを取り戻し、そそとした所作で退場していった。この間、約5分。 『はい、掃除が完了いたしました。集計もおわりましたので見てみましょう』 『得点は……西日暮里高校! 12点! 対するF大付属……12点!! 同点です!』 『これは珍しい……。引き分け再試合、サドンデスということになるのでしょうか?』 『え? ……ちょっとまってください。はい、はい……』 『えー、ただいまの試合、12対12の引き分けと発表されましたが』 『F大付属の獲得アクセサリの中に、大会側の用意したものではないれいむのリボンが含まれておりましたため、』 『11点と訂正させていただきます』 『12対11! 買ったのは西日暮里高校です! 凶獣メカゆゆこを下し、テイクイットEZ8決勝進出ーーーー!!』 『代表者の大沢君に話を窺いましょう。今のお気持ちはどうですか!?』 『はい! とても、厳しい、その、戦いでした勝ててよかったです。』 『飼いゆっくりが潰されてしまいましたが?』 『優勝したとき、皆さんの前で潰してやる予定でしたでもこの準決勝でだめになってそれがあんな形で 役に立つとは思わなかったです役に立ってよかったです』 『ハイ! ありがとうございました!』 『古豪、西日暮里高校が決勝に駒を進めました。CMの後は準決勝第二試合です――――』 ゆっくりロボコン 終 このSSに感想を付ける
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ゆっくりと共同生活 ソファにもたれてテレビを見る俺の周りで、ゆっくり一家がくつろいでいる。 「ゆゆぅ……ゆぅ……」 鼻息を漏らして寝ている、拳ぐらいの子まりさもいれば、 「ゆー……ゆっくち! ゆっくち!」 「ゆんゆん! ゆきゅっ♪」 にらめっこをして、にこにこ笑っている、ピンポン玉ぐらいの赤れいむもいる。 そしてあぐらをかいた俺の膝の上には、母れいむと母まりさが居座る。 「ゆぅ……すーりすーり! ……ゆぅ」 呼吸に合わせておだやかにふくらみ、ときどき頬ずりしている。 その様子は、幸せそのもの。 「れいむ、とってもゆっくりしてるね……」 「ゆー、まりさもだね……」 「赤ちゃんたちも、ゆっくりしてるね……」 「ゆっくち!」 ゆーゆーという相槌が上がる。あふれんばかりの団欒っぷり、ラブラブっぷりだ。 二匹の母親は、ほっぺたをもちっと押し合いながら、俺を見上げる。 「おにーさん、ありがとうね……」 「こんなにゆっくりできるお兄さんのおうちにいられて、れいむしあわせだよ!」 「「ゆっくりしていってね!」」 「そうだね」 俺は左右のゆっくりを交互に撫でる。 饅頭たちがぽよぽよと嬉しそうに揺れる。 「ちょっと降りてな。飲み物、持ってくるから」 「ゆうっ!」 二匹は、ぼよんと跳ねて、だぷっとカーペットに降りる。 バスケットボールぐらいある成ゆっくりだから、かなりの存在感だ。 「おかーしゃんだ!」 「まりさとゆっくちちてね!」 「だめだよ、れーむとゆっくちちゅるの! ゆっくち!」 集まってきた子供たちが、ゆっくちゆっくち、と声を上げる。 「ゆー、みんなでゆっくりするよ! おちびちゃんたち!」 「ゆーん!」 「おかーしゃん、ありがちょう!」 「ゆっくちちゅるー!」 母れいむもご満悦だ。すりすり、すりすりと頬をこすり付けあう。 ゆっくりにとって、「ゆっくり」は命のことば。 ゆっくりするのが大好きだし、それを言うだけでも幸せになれるのだ。 これからの人生で、ずうっと使うことば「ゆっくり」。 だから、なんでもないときでも、どんどん口にしてしまう。 ゆっくりを飼っていると、一日に千回ぐらいゆっくりを聞くことになる。 もちろん飼い主の俺も、その言葉が大好きだ。 そうでなければ、ゆっくりなんか飼ってられない。 「おかーしゃん!」「まりちゃも、まりちゃもー!」 机の陰や棚の下からも、ぞろぞろ、ころころと赤ちゃんたちが出てきた。 母れいむだけではすりすりが追いつかず、母まりさも出動する。 「みんな、まりさもゆっくりしてあげるんだぜ!」 「わーい!」「まりさおかーしゃん、だいちゅき!」「すーりすーり♪」 盛大なゆっくり大会になった。 そこらじゅうが小さな丸いころころで一杯。まるでスーパーのトマト棚だ。 それもそのはず、うちには30匹以上の子ゆっくりたちがいるのだ。 これだけ多いと、親たちも数を把握していない。 俺は立ち上がりながら、三匹ほどの赤れいむと赤まりさを摘み上げた。 広げた手のひらに乗せて、なるべく周りが見えるように運んでやる。 「ゆゆっ? ゆっくりのぼっていくよ!」 「おちょら、おちょら!」 「すーいすーい!」 喜ぶ赤ちゃんたちを連れて、にぎやかなゆっくり大会から離れ、キッチンに入る。 引き戸を閉めて、流しへ向かった。 手鍋をコンロに置き、ころころんと三匹を入れる。 「ゆっくちころがるよ!」「まぁるいおへやだよ!」 「はーい、おちょこだよー」 キャッキャと喜ぶ赤ちゃんたちの真ん中に、お猪口をひとつ、逆さまにして置いた。 「おちょこ、おちょこ!」「れいむたちみたいだね!」 形が気に入ったのか、赤ちゃんたちはさらに喜ぶ。 俺はカチンとコンロの火をつけて、食器棚へ向かった。 「ゆっ? ぽかぽかだよ!」 「あっちゃかくなってきたよ!」 グラスを選び、冷蔵庫から氷を取り出して、入れる。 スコッチの蓋を開けて、注ぐ。 トクトクと溜まる琥珀色の液体を、適当なところで止めて、蛍光灯にかざした。 いい色だ。そんなに高い酒じゃないが。 「ゆっ、ゆっ、あちゅい、あちゅいよ!」 「ゆっくちできない、ゆっくちできないよ!」 「つまみはー、っと」 水割りにしてから、菓子箱を漁った。いいものがない。 食べかけのスナック菓子があったが、開けたらしけっていた。 「あぢゅいい! あぢゅいよぉぉ!」 「たしゅけて、おにーしゃん! かぢだよぉぉぉ!」 「ちんぢゃう、まりちゃ、ちんぢゃうう!」 ぴょむ、ぴょむ、と小さな音の聞こえる鍋の横を通って、冷蔵庫の前に戻った。 その上のかごを下ろして調べると、チキンラーメンが見つかった。 ちょっと塩分とカロリーが高すぎだが、まあ仕方ない。 俺はチキラーを割って、皿に盛った。 饅頭側の焼ける香ばしい匂いが漂い始めている。 「どいて、どいでねっ!」 「れいむの! れいむのゆっくりぷれいちゅだよ!」 「ゆーっ、まりちゃのだよ! どかないとまりちゃがちんぢゃうよ!」 ぽにょん、ころん、びちょっ、ぷにょっ、びぢょん ぢゅうぅぅぅぅぅっ……。 「ゆぎゃぁぁぁぁ!」 「おかあぢゃぁぁぁん!」 最後はもちろん、ゆっくりたち用の飲み物だ。 俺はれいむやまりさたちの喜ぶ顔が見たくて、二日に一度はオレンジジュースをやる。 もちろん無果汁の激安品だが、これほどゆっくりを可愛がっている飼い主はそういまい。 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆぢっ、ぢゅっ」 「もっちょ、ゆっくちちたかっ……ばぢゅっ」 ゆっくりは便利だ。セリフで焼け具合がわかる。 広い皿にオレンジジュースを満たして準備を終えると、ちょうど赤れいむたちの断末魔が聞こえてきた。 俺は火を止め、手鍋を覗いた。 赤れいむと赤まりさが一匹ずつ、焼きあがっていた。 全身ほどよく焦げ目がつき、ほこほこと湯気を立てている。 開いたままカリカリに焦げた口の中からは、沸騰した餡子がミチミチと漏れていた。 お猪口の上という、一箇所だけの安全地帯を巡って、壮絶に体当たりしあったのだろう。 そのゆっくりプレイスには、生き残ったまりさが一匹。 五分前まですりすりしあっていた姉妹たちの、凄絶な死にざまに、恐怖の顔で固まっている。 最愛の姉妹たちとの醜悪な争いは、無垢な心に、一生残る傷をつけたことだろう。 もっともその一生とは、あと一分もないのだが。 「ゆっ?」 わなわな震えていたまりさが、ふと俺の顔に気づいた。 その顔がくしゃくしゃと崩れ、愛くるしい泣き顔になる。 「ゆっ……ぇぇぇん! ゆえぇぇぇぇん! ゆえぇぇぇぇん!」 「おうおう、まりさ」 俺は手を伸ばしてまりさを救ってやる。ぴょんと飛び乗った赤まりさが、手のひらにすりすりする。 「れいむもまりさも、ちんぢゃったよお! バチバチってはねて、ちんぢゃったよお!」 「よしよし、こわかったな……」 「おにーしゃん、おしょかったよぉぉぉ! もっとはやくたちゅけてよぉぉ!」 生き残ったまりさの、涙に濡れた頬。 そのプニプニした感触を、指でつついて楽しみながら、俺は声をかける。 「ごめんな……俺、おまえたちのことが大好きなんだわ」 「ゆぇぇぇぇん! ゆぇぇぇぇぇん! ……ゆっ?」 まりさが不意に、ぴたりと泣き止む。 その目が、口が、恐怖に見開かれる。 つぶらな二つの目に映るのは、大きく開かれた俺の口腔。 白く硬い歯並び。 はむっ。 <なにちゅるのっ? ゆっくちやめちぇね!> 閉じた口の中で、もたもたと小さな球が跳ね回る。耳骨に叫びが伝わってくる。 <ちゅぶれりゅ! まりちゃ、ちゅぶれりゅよ! だちてね! ゆっくちだちてね!> ぱくっ、と口を開けてやった。「ゆっ!」と赤まりさが飛び出してくる。 すかさず俺はそれを手のひらで受け止める。 ぺちゃん、と着地したまりさが、振り向いてほっぺたをふくらませた。 「ぷくぅううう! おにーしゃん、ゆっくちあやまってね!」 「はっはっは、ごめんごめん」 「まりちゃ、こわかっちゃよ! おにーしゃんのばか! ばか!」 「そっか、こわかった?」 「ちゅっごくこわかったよ! おかーしゃんにちかってもらうからね!」 「ほんとごめんな。もうしないからな」 指先でころころとくすぐってやると、黒帽子のちいちゃな金髪まりさは、 「ゆふっ、わかればいーよ♪」 と微笑んだ。 「ありがとな」 俺はそう言うと、そのまりさをもう一度口に入れて、前歯でプチンと五分の一ほど齧り取った。 そして、凄まじい悲鳴を上げて舌の上でピクンピクンと跳ね回る感触を楽しんだ。 焼けまりさと焼けれいむをつまみ、口に入れてもぐもぐと咀嚼しながら、酒とつまみとオレンジジュースのトレイを手に取った。 それから、引き戸を足で開けてリビングへ戻った。 遊んでいた親ゆっくりたちが振り向く。 「ゆっくりよういしてくれた?」 「まりさたちも、のどがかわいたんだぜ!」 その声が聞こえたのかどうか、口の中の生まりさが、ビクンと強く跳ねた。 俺はそれをよく噛んでこね回し、とても甘い餡を味わった。 ごくんと飲み込む。 「おう、お待たせ。いつも通り五匹ずつね」 そう言って、床にトレイを置いた。 「みんな、ゆっくりのもうね!」 「「「ゆ~~~!」」」 母れいむの指示通り、赤ゆっくりと子ゆっくりたちが広い皿の周りについて、行儀よくぺーろぺーろと舐めだした。 甘いジュースに喜んで、ぱあっと感動の顔になる。 「「「「ちあわちぇー♪」」」」 涙を流し、ぷるぷる震える。母れいむが俺にすりすりする。 「こんなにおいしいじゅーすをのめて、れいむたちほんとにしあわせだよ!」 俺はいやいやいやと手を振って聞き返す。 「俺の幸せはおまえたちのゆっくりだよ。どう、子供たちはみんなゆっくりできてる?」 子供たちを振り向いたれいむが、力強くうなずく。 「ゆっくり! ゆっくりしているよ!」 「いっぱいいるけど、みんな大丈夫?」 「だいじょうぶだよ! このおうちは、こどもがいっぱいふえてもゆっくりできる、ふしぎなゆっくりプレイスだよ!」 「そうかあ、よかったなあ」 俺はにっこり笑って、腰を下ろす。 「これからも、どんどんすっきりして子供産んでいいからな」 「ゆっ、ありがとう!」 「ありがとうだぜ!」 「「「ありがちょうね!」」」 子供たちもいっせいに声を上げる。 俺は水割りを口にして、残っていた甘味を飲み込んだ。 fin. ============================================================================= 何かこう自然体のホラーを書きたかった。 YT このSSに感想を付ける