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2020年7月25日 出題者:影法師Z タイトル:「グロテスク特定法」 【問題】 男は犬が猫を食べているのを見て、場所を特定した。 一体どういうこと? 【解説】 + ... 「問題です。俺は今どこにいるでしょう?」 友人からメッセージと共に送られてきた画像には、ご当地キティちゃんが映り込んでいた。 どうやらキティちゃんは土佐犬のかぶり物をしている。 あたかも、土佐犬に丸呑みにされているように見える。 「高知!」「正解!」 《知識》 配信日に戻る 前の問題 次の問題
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「イリヤさん。美柑さん。すみませんでした。不甲斐ない姿を見せてしまって」 ダークネス・ヤミの襲撃から一時間ほどあと。 H-8のマンションの一角まで、イリヤら一行は避難していた。 端部分の地区だけあって戦闘痕は見られず、この一時間余り敵襲は無かった。 誰も彼も疲弊しきっていた状況で、幸運だったと言えるだろう。 20分程ケルベロスを除く全員が倒れ込み、口さえきけない有様だったのだから。 一時間を数えて漸く行動できる程回復し、起き上がった悟飯の口から出たのは先ず謝罪の言葉だった。 「い、いいよ……悟飯君が謝る事なんて何もないし」 「うん、私だって…雪華綺晶ちゃんがいなければ、ヤミさんを止められなかったし。 悟飯君は頑張ってくれたと思う」 「………うん、私もそう思う」 深く深く頭を下げる悟飯に、負い目を感じさせる表情で美柑と服を着なおしたイリヤは返答を返す。 襲撃してきたダークネス・ヤミに対して何もできなかったのは自分達も同じだ。 イリヤは加えて悟飯君は良くやってくれたと、労いの言葉をかける。 美柑もやや間を開けて、その言葉に同意した。 (もし……悟飯君が元気だったら) 言葉にはしなくとも。 悟飯の敗北は、美柑にとってほんの僅かにだが安堵する要素があった。 だって、あの強い悟飯が。敵に一切の容赦がない悟飯が。 もし、万全の状態で自身の友人であるヤミと相対していたらどうなっていただろうか? 彼は───リーゼロッテに行った様な暴力を、ヤミにも振るうのか。 その時に訪れる結末を想像して、体を流れる血の温度が三度は下がった様な錯覚を覚える。 (────っ!最低だ、私………) と、その瞬間の事だった。 美柑は気づいた、安堵してしまっている自分に。 悟飯がヤミを手にかけるような事が無くて良かったのは確かだ。 これについてはどんなに冷血だと罵られようとも、曲げるつもりは無い。 でも、ヤミが死ななかった代わりに命を落とした者がいる。 雪華綺晶は、凶行を及ぶヤミを止めようとして命を落としたのだから。 美柑が知り合ってから過去の事になっていたはずの禁忌を、ヤミは犯してしまったのだ。 安堵できる様な状況では一切ない。 それにヤミがもう一度殺そうとしてきたら、その時悟飯が十全に力を発揮できる状況だったなら。 不安と、自己嫌悪が再び頭をもたげてくる。 「美柑さん………大丈夫?」 「友達があんなんなっとったのはショックやろな…」 だが、そんな美柑の表情を読み取り、案じる者が今は隣にいた。 イリヤとケロベロスが心の底から心配した様子で、美柑の顔を覗き込んでいた。 彼女だって、少し前に友人を失ったばかりだというのに。 それでも何とか俯くことも蹲る事もせず、顔を上げている。 美柑にとって彼女の存在は少し眩しく思えた。 「うん……大丈夫、ありがと」 「気ぃ落としたらアカンで。 あのヤミって子を止められるとしたら、美柑以外におらんのやから」 「……そうだね。ヤミさんの事、次は絶対に止めてあげたいから」 ケロベロスの言葉は今の美柑にとって厳しくもあり、同時に活力も与えた。 ぎこちなく、空元気そのものでも、笑みを作る。 闘えない美柑にできる事は、せめてイリヤや悟飯に負担をかけない事だ。 何の役にも立たないなら、せめて足を引っ張らない様にしなければ。 それに、今の美柑には果たさなければならない仕事ができた。 またヤミと会ったら今度こそ止める。そして、彼女と共に帰る。 ここに結城リトはいない。止められるとしたら美柑だけだ。 どれだけえっちぃ事をされても、結城美柑と金色の闇は友達だから。 何もせず、後ろで悟飯にヤミを傷つける未来を怯えて待つわけにはいかない。 「……何ていうか、一緒だね、私達」 「え?」 そんな美柑を気遣う様に、同時に何処か皮肉気にイリヤが笑いかける。 「私も…ルビーをシャルティアから助けてあげないといけないし、クロも…… 殺し合いに乗ってるなら、絶対に止めてあげないと」 美柑よりも気丈にふるまうイリヤも、実の所ギリギリの所で踏ん張っていた。 親友の美遊が命を落とし、たった一人の姉妹であるクロエは殺し合いに乗っている。 依然の彼女なら抱えきれず、逃げ出していたかもしれない程状況はすこぶる悪い。 でも、今の彼女は毅然としていた。 「それが、雪華綺晶ちゃんとの約束だから………」 共に過ごした時間は瞬きの様な短い時間だったけれど。 それでも心を通わせた彼女は、掛け替えのない戦友だった。 その彼女が祈り、イリヤは託された。投げ出すわけにはいかない、友との誓いだった。 「…イリヤさん、ありがとう」 自分と近しく、自分よりも悲惨な状況の中、それでも折れる事無く立つイリヤの姿勢。 それを見ていると美柑も勇気づけられる思いだった。 悟飯とケロベロスだけなら、ここまで持ち直すことは不可能だっただろう。 もう何もかも嫌だと蹲っていた可能性だって0ではない。 この人がいてくれてよかった。心の底から、そう思えた。 この子がいてくれたら、これからも。こんな酷い世界でも、諦めずにいられる気がした。 「まー!まー!皆色々大変なもん抱え取るけど、今は兎に角休憩や休憩! ここにはヤバいのが大勢おるし、無理は禁物やで!!」 ギャラリーそっちのけで、イリヤと美柑が二人の世界に入りかけている事を察知したのはケロベロスだった。 ぽむぽむと前足で柏手を打つように叩き合わせて、休憩を取るように促す。 「悟飯も今までよーやってくれたわ!色々厳しい事も言ったがお疲れさんやで! 取り合えず此処でもう暫く休んでいこか!汗流して、仮眠の一つでも取ったらええ!」 「…え、でも」 「でももカモも無いで!またいつ襲われるかも分からんのやから、とれる時に休憩しとくもんや!」 表面上ケロベロスも朗らかに言うモノの、彼も必死だった。 悟飯の様子は時折明らかにおかしい。 おかしい…のだが、それが殺し合いという異常な状況から来るストレスに依る物なのか、 それとも外部に原因があるのか彼には分からなかった。 少なくとも、魔術や魔法に纏わる異変なら直ぐに分かるのだが…… 兎に角、原因が分からない以上は現実的な対処をするしかない。 元々全員が疲弊している。件のシャルティアやヤミがまた襲ってきたら保たない。 無理やりにでも休息を取らせる必要があった。 何なら、次の放送まで休憩しても良いとさえ彼は考えていた。 だから表面上は穏やかに、けれどその実有無を言わさぬ語気の強さで休息を促した。 「わ…分かりました、休憩…します。 ………そうだ、確か僕の支給品に…」 ケロベロス必死の説得に悟飯も折れ、休憩を決める。 その最中に、休憩の二文字から自分に支給されていたある支給品のことを思い出す。 思い至ってすぐに自分のランドセルをゴソゴソと漁り、一枚のカードを取り出した。 それは蒼い肌の女性が描かれた、紫色のカードだった。 何でもこのカードには使用者を回復させる効果があるらしい。 「ホーリーエルフの祝福を発動……これでいいのかな。って、うわっ!?」 カードを掲げて、恐る恐る発動を宣言する。 すると数秒後、カードに描かれていた青肌の美しい女性が姿を現した。 それに伴い、イリヤ達を暖かな光が包む。 「凄い、これ…っ!?」 「……っ!少し、体が楽になった?」 特に効果が覿面だったのはイリヤと悟飯だった。 両者とも連戦で疲労が色濃いだけに、体が癒されていくのを肌で感じる事ができた。 美柑も疲労が抜けていき、のび太もリップに付けられた肩の傷が消えていく。 カードの文面によると、その場にいる人数によって効果が上乗せされるらしいが、この恩恵は嬉しい誤算だったと言えるだろう。 「ありがとう、悟飯君!」 『私からも御礼申し上げます。悟飯様』 イリヤと、その傍らにふよふよと浮かぶ魔法のステッキ、サファイアが御礼を述べる。 愉快型礼装の全性能を発揮しイリヤの体組織の治癒促進を行っていたが、ここまで回復できるとは思えなかった。 紛れもなく悟飯と、悟飯に与えられていた支給品の功績だった。 「い、いや……別に僕の力という訳じゃないし…当然の事をしたまでですよ」 少し照れたような顔を浮かべて悟飯は困った様に笑った。 身体に纏わりついていた疲労が抜けて、彼にも幾分か余裕ができたのだ。 とは言え、精神的な疲労まで緩和された訳ではない。 休憩をとる決定は依然変わらなかった。 「えっと、じゃあこれから僕とイリヤさんの交代で見張りをしますから… 皆さんはその間仮眠を取ったり食事をしたり、休みましょうか」 休憩をとると言っても、一度に全員という訳にはいかない。 また奇襲を受ける恐れがあるからだ。 となると、誰か戦えるものが他のメンバーの休憩時に見張りをしなければならない。 必然的に、悟飯とイリヤが交代で見張りをするという流れになるのだが……… それに異を唱える者がいた。 「ぼッ、僕も!!」 声を上げたのは、眼鏡の少年だった。 失態続きで、銃も失い、それでも役に立とうと───のび太は声を上げた。 「僕も……見張りするよ。その方が、悟飯君やイリヤも休めるだろうから……」 一言で言って、無駄な提案であった。 見張り役は最低限戦えるものでなくてはいけないのだ。 出会い頭に殺されてしまうような手合いでは意味がない。 それはのび太にも漠然と理解できていたけど、それでも役に立ちたい一心だった。 それくらいしか、辛そうなメンバーに貢献できることが思いつかなかった事にも起因する。 「のび太くん。気持ちは有難いんだけど、その───」 イリヤの言葉に嘘はなかった。 のび太の申し出は嬉しい。でも、彼では不適合だ。 シャルティアに襲われる前に1秒かからず眠れる事が特技だと豪語していた彼では…… 最悪、見張り中に眠ってしまうかもしれない……そこまでは考えないものの、 やんわりとのび太の申し出を断ろうとする。 「でもっ!僕だって見張り位……」 だが、のび太は食い下がった。 そこには純粋にみんなの役に立ちたい思いもあった。 しかしそれ以上に彼の心を占めていたのは…… 「もとはと言えば、僕がヤミさんを連れてきたからああなったんだし…… 少しでも役に立たないと、雪華綺晶に申し訳が……」 深い深い、自責の念だった。 悟飯がイリヤと美柑に謝罪した際口を挟めなかったのも、申し訳なさからだった。 勿論これで失敗が帳消しになるとは思っていない。 それでも犯してしまった罪に対して、何か自発的な埋め合わせがどうしてもしたかった。 自分がヤミを連れてこなければ、あぁはならなかったのだから。 「のび太さん……」 イリヤと美柑は顔を見合わせて、困った様な表情を浮かべる。 だが、ここまで真摯に頼まれれば、無下にする訳にもいかないだろう。 数秒ほど見つめ合った後、やがて何方ともなく決心したように頷き合った。 見張り役とまではいかずとも、彼の自責の念が少しでも和らぐような。 そんな案を、一緒に考えようと告げるつもりだった。 「─────なんだって?」 だが、悪意と言う物は、いつだって。 水面下で、想像よりもずっと早く。 憐れな生贄たちの背後まで、忍び寄っている物なのだった。 ■ ■ ■ ヤミという女が襲ってきたのは僕がいないタイミングだった。 だから、野比のび太は偶然その時に居合わせただけだと思っていた。 でも、あの女を連れてきたのは野比のび太自身だという。 はは、と乾いた笑いが漏れた。 それじゃあつまり───またこいつのせいで死人が出たって事じゃないか。 「どういう事だ」 まるで油を染みこませた紙に火をつけたように。 僕の中で、怒りの炎が燃え上がった。 こいつが、のこのこあの女を連れてきたせいで美柑さん達は襲われた。 こいつが何も考えずに行動したせいで、雪華綺晶さんは死んでしまった。 偶然なのか故意なのかは知らない。でも、故意の方がまだましだとすら思える。 悪気はなかったという言葉で済むのは誰も犠牲が出ていない時だけだ。 二人も死なせておいて、わざとじゃなかった何て物言いが通じる筈がない。 カッとお腹の奥が熱くなって、僕は野比のび太の襟元を掴み上げていた。 「ぐ、ぇ……苦し……な、なん、で………」 突然掴みあげられて、睨みつけられた野比のび太が理解できないという目で僕を見る。 それが無性に苛立った。自分が何故こんな目に遭っているかも考えられないのか? きっとこいつは、何も考えずに僕の前に飛び出してニンフさんを死なせて。 そしてヤミという女を連れてきた時も何も考えていなかったのだろう。 騙されていたなら兎も角、事前に異常な事をされていたとも野比のび太は喋った。 呆れてものも言えない。そんな明らかに異常者の女を、みすみす引き合わせたのか? 「何を考えてるんだ、お前は……!」 「そん、な。僕゛、はァ………」 襟首を掴んだまま吊し上げ、睨みつけるとたちまち野比のび太はべそをかいた。 表情は言葉にしなくても何が言いたいのか分かる物だった。 そんなつもりじゃなかった。きっとそう言いたいのだろう。 そんなつもりじゃなくて僕の邪魔をしてニンフさんを殺し。 そんなつもりじゃなくてヤミを呼び寄せ雪華綺晶さんを殺した。 きっとこいつはまた同じような事があったら、こういうのだろう。 そんなつもりじゃなかったって。 そう言ってまた何食わぬ顔で一緒に行動しようとするのだろう。 想像するだけで、苛立ちで頭がどうにかなりそうだった。 「やめろや、悟飯!!」 慌てた様子でケロベロスさんが割って入って来る。 入って来ると言っても、僕の腕を前足で掴んで引き離そうとするのが精一杯みたいだけど。 「のび太に悪気はなかったんや!落ち着け!!」 「ダメだよケルベロスさん、きっとこいつはまた同じ失敗をする」 見張りを買って出たのが良い証拠だ。 戦えるとか戦えないとかはこの際置いておくとして、それ以前に。 本当に申し訳ないと考えているなら、今しがた騙されて死人を出した人が、見張り役何て買って出ない。 つまりこの人は、今も何も考えてはいないのだ。 この人に任せていたら、マーダーが殺し合いに乗っていないって近づいて来てもあっさり信じそうだ。 それでまた死人が出たらきっとこういうのだろう。 そんなつもりじゃなかったって。 その時死んでいるのは美柑さんか、イリヤさんか、ひょっとしたら僕かもしれない。 そんなの、認められるはずがなかった。 「君に見張りなんて任せられない」 彼の胸ぐらをつかんで、僕はハッキリと宣言した。 僕だって彼の事をとやかく言えるほど褒められた働きができた訳じゃない。 それでも、この人に任せていたら命がいくつあっても足りない。 それなのに目の前のこいつは、ショックを受けた様な顔で此方を見ている。 まるで僕が酷い奴だって、そう言いたそうな視線だった。 「やめてよ、二人ともっ!!」 「そうや、ホンマこういうのはアカンで悟飯!!」 美柑さんとケロベロスさんが必死になって止めに入る。 二人とも必死だった。美柑さんはまた泣きそうな顔をしていた。 それを見ると、胸の中に在った自信がどんどん目減りしていくような気持ちになる。 でも、どうすればそれが元に戻るのか、僕には分からなかった。 「………二人は」 分からなかった。 何で二人が、野比のび太の肩を持つのか。 僕は、何か間違ったことを言ったのか? いいや、そんな筈はない。 事実野比のび太に見張りを任せるなんて二人も無理だと思っている筈だ。 なのに。それなのに。 「僕が間違ってるって言うんですか」 「ちゃう!そうやない!!でも今の悟飯はやりすぎって言うとるんや!!」 「そうだよ、こんなのおかしいよ!!」 やりすぎ? やりすぎと言っても、僕は胸ぐらを掴んでいるだけだ。 それ以外に暴力を振るったりはしていない。 と言うより、この人は少し痛い目の一つでも見ないと分からないんじゃないか。 そんな風にも思うが、美柑さんたちを怯えさせたいわけじゃない。 僕は無言で、野比のび太の胸ぐらから手を離した。 「ごほっ!ごはっ……はぁ……はぁ………」 野比のび太は目を白黒させて、尻もちをつく。 そして、僕を化け物を見る様な目で見上げてきた。 だけど、不思議と野比のび太に限っては、そう見られても腹立たしさはあったが、悲しくはなかった。 冷静に、淡々と、僕は言うべきことを告げた。 「……貴方は何もしないで下さい」 邪魔ですから。と言う言葉は飲み込んだ。 出来る限り、責める様な態度で言うのはやめて、ちゃんとこの人にも伝わる様に告げた。 でも、そう言われた野比のび太は少しの間言葉を失って。 その後に頭に血が上ったのか顔を赤くして。 「…そうやって、またリップとニンフの時のような事を繰り返すの?」 低い声でそういった。 言われた瞬間、瞬間的に拳を握りこんだ。 それを、よりによってお前が言うのか!?お前が!! 「ニンフの事だけじゃない。リップだって……きっと生きたいってそう思ってたよ」 歯を食いしばって、拳を岩みたいに硬く硬く握りしめる。 イリヤさんには言われても仕方ない。だけど、お前にだけは言われたくない。 誰のせいで、ニンフさんと雪華綺晶さんは死んだと思ってるんだ! お腹の中を衝く様な燃え滾る怒りの中、もう一度僕はのび太に掴みかかろうとした。 その一瞬前の事だった。 「やめてぇッ!悟飯君、お願いだから!!」 「そうや悟飯、ちょっとおかしいでお前!頭冷やしてこい!」 まただ。 また二人は、野比のび太の方の肩を持った。 迷惑ばかりかける野比のび太の方を。 僕だって、決して褒められるような戦いは出来ていないと思う。 でも、それでもシャルティアが襲ってきた時は僕がいないとみんな助からなかった! ヤミと戦った時だって、一番危なくて、痛い思いをして戦っていたのは僕の筈だ。 なのに、何で分かってくれないんだ。 なんで、こんな奴の肩を持つんだ………!! 「やめてよ」 その時、美柑さんとも違う、ケロベロスさんとも違う声を僕は聞いた。 悲し気なその声は、イリヤさんの物だった。 この人も、野比のび太の肩を持つのか。そう思ったけれど。 続く彼女の言葉は僕の側でも、野比のび太の側でもないモノだった。 「こんな喧嘩をさせる為に……雪華綺晶ちゃんは命を賭けた訳じゃない」 イリヤさんのその言葉は、僕達のために犠牲になった雪華綺晶さんへと向けた物だった。 悲し気に顔を伏せる彼女を見て、すっと怒りが抜けていく。 何をやっているんだ、と自分に対して思わずにはいられなかった。 続いてやって来るのは、どうしようもない虚しさだった。 「……ご、ごめんなさい。イリヤさん ………………す、少し……頭を冷やしてきます」 そう言って、僕は部屋を出る。 誰も、引き留める人はいなかった。 鉛の様に重たいドアノブを数秒かけてゆっくりと回して、部屋を出る。 自分は一体何をしているんだろうという思いで頭がぼうっとしていた。 そうだ、シャワーでも浴びてさっぱりしよう、そう思って、浴室と思わしき部屋へ向かう。 浴室に向かう廊下は暗く、寒々しくて……酷く、孤独だった。 ■ ■ ■ 「のび太、悪いけど悟飯の言う事は間違ってない。のび太に見張り役は任せられへん」 悟飯が部屋から出てから十分以上にも渡って。 誰も、何も言えなかった。 沈黙だけが、部屋の中を支配していた。 腕を組み、短く溜息を吐いて、そう切り出したのは、ケロベロスだった。 悟飯の主張は物言いこそ正しくない物だったものの、的を射ていた。 尤も、これまで彼が犯した失敗の視点からの言葉では無かったが。 のび太が見張っていても、ヤミやシャルティアの様な超人に等しい相手だった場合見張りの意味を成さない。 そう考えての判断だった。 「………」 その言葉を告げられたのび太は、無言で部屋を見回した。 イリヤも、美柑も俯いたままで、何も言ってはくれなかった。 ケロベロスの言葉を肯定しないまでも、否定する事もできなかった。 全員が全員、ギリギリの所でいたのだから。慰める余裕はその時なかった。 「……………うん」 やがてのび太は小さな声で肯定の意志を示した。 これ以上食い下がった所で自分の我儘で、余計迷惑が掛かると思ったからだ。 少なくとも悟飯は自分よりもずっと強くて。みんなの為に戦える。 その悟飯の不興を、これ以上買うべきではない。 自分が不興を買うだけならいい。 でも、イリヤ達まで彼に嫌われる様な事があったら大変だ。 だから、ここで引き下がるのは僕であるべきなんだ。そう思って。 「……ごめん。でも、僕はどうしても嫌だった………」 悟飯は味方には優しい。でも、マーダーは容赦なく殺そうとしている。 それが、のび太には認められなかった。 彼に殺されたリップだって、言葉を尽くせば考え直してくれたのかもしれない。 地球を侵略しに来た鉄人兵団の尖兵だったリルルが、最後に味方してくれたように。 悟飯の主張は、そんな和解の可能性を摘み取ってしまうものだ。 「嫌な奴は殺して解決って言うのは……例え正しくても、僕は嫌だった」 悟飯の言葉の殆どはのび太には否定できなかったし、するべきでないとも思ったけど。 でも、全てを肯定する事も出来なかった、 その感情が、最後に悟飯への批判のような形で口から出てしまったのだ。 それでイリヤ達に庇われて、のび太の胸は情けなさで一杯だった。 でも、そんな彼の言葉を。 「………のび太さんは正しいことを言ったと思うよ」 「私も……そう思う、かな」 イリヤと美柑は、肯定した。 悟飯のスタンスを突き詰めると、彼女らの友人と最後に殺し合う事になってしまうから。 イリヤはクロ、美柑はヤミ。それぞれ大切な人がこのゲームに乗っている。 それぞれを止めたいと考える彼女等にとって、のび太の言う事は心に染み入る様だった。 応援したいと、その想いを捨てないで欲しいと、心の底からそう思った。 でもそれは、勿論悟飯のスタンスを否定するわけではない。 「悟飯君が落ち着いたら……もう一回、皆で話し合いたいね」 「うん、悟飯君も、ちゃんと話し合えば……きっと分かってくれるよ」 「そう、だね…うん、僕も、悟飯君とはちゃんと話し合いたい」 三人にとって悟飯は、普段は優しくて礼儀正しい少年であるが。 時折すごく恐ろしくなる。そんな少年だった。 裏を返せば、優しくて礼儀正しい普段の時に話せば分かってくれる可能性がある。 だって、彼は此処までずっと、誰かの為に拳を振るっていたのもまた事実なのだから。 「せやなー、幾ら強いゆーても繊細な所もあるみたいやし。 これからはケロちゃんも悟飯の事、もうちょい気遣ってやらんと」 『悟飯様は……悪い方ではないと思います。のび太様との和解の余地はあると私も思います』 空中を漂いながら、守護獣と魔術礼装も賛同する。 様々な負い目や確執はあれど、この場に悟飯を敵視したり嫌う者はいなかった。 今すぐに、と言うのは難しくても。 頃合いを見計らって、休憩後にこの部屋を後にする前でも、もう一度話し合うのも視野に入れてもいいかもしれない。 その時既に、悟飯を除いた、部屋にいる者全てがそう考えていたのだった。 ……もしも、この場に、雪華綺晶がいたなら。 孫悟飯の異変にも気づけたのかもしれない。 人の心に寄り添うという力では、薔薇乙女の能力はこの殺し合いに招かれた参加者達の中でも有数のものだからだ。 だけど、彼女は既にこの島を去っている。それが現実で。 事態は彼女等の想像よりも深刻に進行している事を、まだ誰も気づけなかった。 ■ ■ ■ シャアアアアと流れていく泡を、無感情に僕は見つめていた。 シャワーを浴びて汗や血を流して、体はさっぱりしているのに。 胸の中を占めるのは、どうしようもない孤独感と虚しさだけだった。 「僕は一体……何をやってるんだろう………」 誰に問う訳でもない問いが、泡と一緒に流れていく。 きゅっと蛇口を絞って、手早く外にかけてあったバスタオルで体を拭う。 その間も頭の中に浮かぶのは、美柑さん達の僕を見る目だった。 分かってる。ここまで僕が上手くやれていない事ぐらい。 でも、そんな目で見ないで欲しかった。 まるで、獣を見るような目で、僕を見ないで欲しかった。 「僕だって、好きでやってる訳じゃないのに……っ」 誰かに暴力を振るう事は、元々好きじゃない。 でも、そうしないと僕は皆を守れない。 お父さんみたいに、上手くできないから、嫌々やっているのに。 殺すことが、皆の安全を一番確保できると思ったからやっているのに。 それなのに皆は、僕が暴力を振るいたくてやっているような目で見る。 事あるごとに、それが浮き彫りになる。 「今……皆は、何話してるんだろ………」 僕のいない部屋で、イリヤさん達は何を話しているのだろうか。 ふっと笑みが出た。そんなの、決まっているのに。 僕が怖いって、おかしいって、そう言っているのだろう。 だって、ケロベロスさんもあの時そう言っていた。 考えながら、服に袖を通していく。 ────悟飯、頑張ったな。凄かったぞ! 辛くなった時に思い浮かぶのは、お父さんの顔。 お父さんは、お父さんなら今もきっと、誰かを助けているだろう。 皆が助かる道をきっと進んでいるはずだ。 ここには僕だけじゃない。お父さんがいてくれている。 どんなに辛くても、それだけでこんなに心強いことは無かった。 どんなに辛くても、独りでも、分かってもらえなくても、頑張れる気がした。 それに、お父さんだけじゃなく、沙都子さんもいる。 僕に優しく接して、美柑さんを励ましてくれた。 彼女の様な人が他にもいてくれたら、その人を守るためなら嫌な暴力を振るう事だって我慢できる。 「今僕が投げ出したら……沙都子さんや、お父さんにも迷惑がかかっちゃうよな……」 すっと、静かにドアを開けて、浴室を出る。 そうだ、今ここで分かってもらえないとへそを曲げて、全部を投げ出したら。 何よりお父さんにも迷惑が掛かる。 お父さんの名前に、泥をかけてしまうかもしれない。 それだけは、やってはいけない事だ。間違いない。 僕は、強いから。皆を守らないと。 お父さんにも言われた。僕は、本当は誰よりも強いんだって。 だから、ブレるな。強い人としての役目を果たせ。 そう自分を励まして、寒くて暗い廊下を進んでいく。 ────なんだか、貴方って……とっても弱い。 ……本当は、分かっている。 野比のび太も、あの人なりに精一杯やろうとしていることは。 でも、あの人を見ていると、自分の失敗を突き付けられている様だった。 あの人の顔を見るたびに、僕が死なせてしまったニンフさんや雪華綺晶さんの顔が浮かぶ。 それなのに、あの人は、のうのうと皆に馴染んで、庇われて。 それがどうしても許せなかった。 ───悟飯君が………… ───うん、悟飯君も…… ───そう、だね…うん、僕も、悟飯君は………… 部屋から漏れ聞こえる、皆の声。 それを聞いていると、爪はじきにされている様でどうしようもなく心が軋んだ。 美柑さんでも軽く回せるはずのドアノブが、どうしようもなく、重い。 「先ずはイリヤさんに休んでもらって…僕も休んで……早く万全にならなきゃ……」 ぽつり、と。 呟きが漏れる。 同時に、その呟きに対してある疑問が生まれた。何のために? 体力を回復させて。その回復した体力を、何に使うの? 僕は、その頭の中に浮かんだ疑問に、答えを出すことができなかった。 【一日目/朝/H-8】 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]:全身にダメージ(小)、疲労(中)、精神疲労(大) [装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美柑の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1 [思考・状況] 基本方針:殺し合いから脱出して─── 0:雪華綺晶ちゃん……。 1:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ…… 2:殺し合いを止める。 3:サファイアを守る。 4:みんなと協力する [備考] ※ドライ!!!四巻以降から参戦です。 ※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。 ※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。 のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました 【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】 [状態]:疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群L3、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、のび太への嫌悪感(大) [装備]:無し [道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0~1(確認済み、「火」「地」のカードなし) [思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。 0:今は兎に角、体力の回復に努める。 1:野比のび太は……… 2:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。 3:お父さんを探したい。出会えたら、美柑さんを任せてそれから……。 4:美柑さんを守る。 5:スネ夫、ユーインの知り合いが居れば探す。ルサルカも探すが、少し警戒。 6:シュライバーは次に会ったら、殺す。 7:雪華綺晶さん……ごめんなさい。 [備考] ※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。 ※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。 ※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可 ※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。 ※雛見沢症候群を発症しました。現在発症レベルはステージ3です。 ※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。 ※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。 【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】 [状態]:疲労(中)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大) [装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済み、「火」「地」のカードなし) [思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。 0:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。 1:ヤミさんや知り合いを探す。 2:沙都子さん、大丈夫かな…… 3:悟飯さん、一体どうしたの………? 4:リト……。 5:ヤミさんを止めたい。 6:雪華綺晶ちゃん…… [備考] ※本編終了以降から参戦です。 ※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。 【野比のび太@ドラえもん 】 [状態]:強い精神的ショック、悟飯への反感(緩和気味)、疲労(中) [装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、シミ付きブリーフ [道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス- [思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る 0:悟飯さんの言う事は、もっともだ……。 1:ニンフ達の死について、ちゃんと向き合う。 2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる? 3:みんなには死んでほしくない 4:魔法がちょっとパワーアップした、やった! [備考] ※いくつかの劇場版を経験しています。 ※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。 「やったぜ!!」BYドラえもん ※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています ※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました ※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)。 【ホーリーエルフの祝福@遊戯王デュエルモンスターズ】 孫悟飯に支給。 自分のライフをフィールドのモンスターの数だけ回復する効果を持つトラップカード。 本ロワでは同行者の数によって回復量が左右される。 単独で使用しても回復量は微々たるものだが、四人以上付近にいる場合で使用すればダメージや疲労の段階を一段階引き下げられる。 また、その回復効果はその場にいる全員に及ぶ。敵味方の区別なく、その場にいる者全ての人数によって回復量が決定し、またその場にいる全員が回復の恩恵を受けられる。 ホーリーエルフは、微笑む相手を選ばない。 ただし、制限により致命傷を負ったと見なされる参加者は判定対象外となり、回復の効果も受ける事ができない。 081 悪鬼羅刹も手を叩く 投下順に読む 083 坊や、よい子だねんねしな 時系列順に読む 078 聖少女領域 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 100 不規則性エントロピー 孫悟飯 結城美柑 野比のび太
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元スレURL 真姫(22)「最近グロテスクなものに興奮するのよね」海未(23)「…は?」 概要 夢見る海未(23) 今日も夢か現か幻体験 関連作 前作:海未(23)「…またこの夢ですか」 タグ ^園田海未 ^西木野真姫 名前 コメント
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Q: 711 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 10 46 11 ID aj0Mh+E5 マカライト鉱石並の硬さを誇るバサルバッシュの溜め3スタンプで モスを攻撃しても、ブギャーというだけで原型をとどめたまま死ぬのが理不尽です 実際は肉も骨も脳みそも全部潰れて見るも無残なグロテスク死体となると思うのですが・・・ A: 712 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 11 11 51 ID tm1LtTQg 711 よく考えてみましょう。 ハンターはそもそも何のために獲物を狩るっているのでしょうか? そう、彼らから生活に必要な糧を得るためです。 あなたの言うように原型もとどめないほど破壊してしまうと、 肝心の剥ぎ取りができません。 意味のない虐殺はハンターギルドで固く禁じられています。 つまりいくら溜め3スタンプとはいっても、 無意識のうちに獲物が原型をとどめるよう力をセーブしているのです。 ちなみに虫系のランゴスタ、カンタロスに関しては 力をいくらセーブしても当り具合で破壊されてしまうので 毒などの手段が別途必要になります。 715 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 12 21 12 ID aj0Mh+E5 712 力をセーブしても地面までまっすぐ振り下ろせば、ハンマーの重さで潰れてしまうと思うのですが。 またアタリハンテイとかいうそれ自体が理不尽な法則なんでしょうかね 716 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 12 53 31 ID +maGm7tu 715 モスが死ぬ場面を思い出してみましょう。 派手に吹っ飛んでいますね? 潰すとなると滅多にこの現象は発生しません。 このことから、貴方はモスの真ん中を叩いているつもりでも、実際はそうではないことが分かります。 では、どこを叩いているのでしょうか? それは私には分からな(ry 717 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 12 53 53 ID vFFAf+bs 715 生命に与える衝撃をコントロールするッ! 要するに波紋の類です。一流のハンターたるもの常にそれぐらい出来てこそと言う訳ですね。 718 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 12 57 43 ID WwrK8hhP 717 それはメメタァ力学といって別の世界の法則です。 719 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 12 58 46 ID kPu2YMCZ 717 波紋法を習得したはずなのに、スタンドを出せないのが理不… とか書いていたら、変な髪型をした高校生に絡まれました。 今時、あの髪型はねーよな…と思ってしまうのが理不尽どころか、スレ違いでスマンです。 720 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 13 00 51 ID WwrK8hhP 715 アタリハンテイ力学を持ち出すと無理矢理どうとでもなってしまうので 確かに理不尽ですが、それ以外に納得の行くレスがつかない場合は 質問自体が理不尽だったと思ってあきらめるしか無いようです。 722 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/08/27(月) 13 31 29 ID aj0Mh+E5 まぁ波紋の話も出てきたのでハンマーを振り下ろす時に出来る衝撃波で吹っ飛ぶと理解しておきますね アタリハンテイ力学 ハンマー モス
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ロッテンガールグロテスクロマンス ろつてんかあるくろてすくろまんす【登録タグ:VOCALOID マチゲリータP 初音ミク 曲 曲ろ 曲ろつ】 曲情報 作詞:マチゲリータP 作曲:マチゲリータP 編曲:マチゲリータP 唄:初音ミク ジャンル・作品:VOCALOID カラオケ動画情報 オフボーカルワイプあり コメント 名前 コメント
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ご注意:後編となっておりますが、前編とはストーリー及び文体において繋がりがほとんどありません。 前編の生き残りに対する、その後が描かれているのみです。 前編における群れの物語はすでに完結し、後編におけるれいむ一家の物語はそれとはほぼ独立しています。 よって前編のあらすじと致しましては、ゆっくりれいむ五匹が人間に捕まったとの情報のみにて充分かと思われます。 劈頭から恐縮だが、ソヴィエト社会主義共和国連邦、という国があった。 諸所の理由により、新世紀を待たずしてご臨終あそばされてしまったものの、その国力は疑うべくもなかった。 とくに、科学技術においては、分野によっては西の超大国をも凌駕した。 この国を嫌った人々は、まことしやかに囁きあった。 「好き勝手に人体実験できるから、科学が発展するのも当然さ」 真実のほどは、分からない。単なるアネクドートとする説もある。 しかし、道徳が科学を阻害するというのは、真実である。 と、少なくとも、その男は確信していた。 男は、科学者を自認していた。 自認しているだけである。大学や研究所には属していない。本業は、大手電機メーカーの経理職だ。 ただ、趣味として科学を愉しんでいる。 もっとも、愉しみ方はいささかベクトルを違えていると言ってよかった。 なぜならば、かれの書架には『ネクロノミコン』『悪魔の飽食』『アリエナイ理科の教科書』など、怪しげな書籍が連なっているのだから。 もうすこし例示してみると、『ドグラ・マグラ』『隣の家の少女』『銀河ヒッチハイク・ガイド』などもある。 このような書物を漁っているうちに、男は思うようになった。 人体実験がやりたい、と。 獲得したい結果など、ない。 やりたいだけである。 手段と目標が入れ替わっていることなど、男は重々承知していた。確信犯だったから始末に負えない。 幸いにして、それは犯罪であるという節度が、男のなかにはあった。 やがて男は思い立った。 「とりあえず……。ゆっくりで遊んでみるか」 頑丈なゆっくりで色々遊んでみて、その反応を愉しみ、来たるべき「本番」への予行練習にしよう、と。 この男には、行動力があった。 閃いたとき、すでに夜の帳が降りていた。外出するような時間ではない。 が、まるで気にかけることなく、 まずは、ネットにて「ゆっくりの中ではれいむ種が最も丈夫。そのうえウザい。良心の呵責なんて感じません! おすすめ!」という情報を仕入れ、 日曜草野球で使用している、手に馴染んだバットを持ちだして外出し、 ホームセンターにおもむいて「ゆっくり飼育用ガラスケース 防音・防臭加工済み 素敵なゆぎゃくタイムをあなたに……」を購入し、 自転車を器用に操って野山に向かい、 みちみち、祝日と有給を組み合わせて分捕った九連休を、ゆっくり虐待のために使おうと、心を決めたのだった。 ==================================================================== 男は山に向かうと、プリントアウトしたゆっくり生態情報にしたがって、群れを探した。 すぐに見つけた。立派なけやきの樹の下に、饅頭どもが集まっているのを発見した。 「なんだ……こりゃ?」 樹の足もとには、男の腰の高さほどもある、蟻塚のようなものがあった。 そのような建築はゆっくりの常識から外れていたから、男が知らなくても無理はなかった。 男はまず、人間を見るや襲いかかってきたゆっくりたちを蹴散らしにかかった。 「れいむがいないな」 そう呟きながら、バットを振り下ろし、またたくまに八匹のゆっくりを撃ち殺した。 一匹だけ、この惨状に気づかず、凝然と蟻塚の入口を見つめているゆっくり――ぱちゅりーがいた。 この種は体がいささか脆弱で、あまり遊び向きではないらしい。 男はなんら躊躇いもなく、ぱちゅりー種の脳天に、金属の棒を振り下ろした。 かれはバットの扱いには馴れていた。体もふだんから鍛えている。一発で、饅頭は物言わなくなった。 「ふん。ここには、れいむはいないのかな?」 と、呟いたとき、 「しゅっきりー!」 そんな声が聞こえてきた。目を落とすと、赤子とおぼしき小さなれいむが、草むらを這っている。 手を伸ばしても、抵抗する様子さえ見せなかった。これをガラスケースに落とした。 その場を立ち去ろうとした。しかし、どこからか声が、くぐもった怒鳴り声が聞こえてきた。 音源はすぐに知れた。塚の中だ。それが分かると、塚に、バットを振りかざし、殴りつけた。 直後、土の盛り上がりのなかから、ゆっくりれいむが飛び出してきた。 連続して、三匹も出てきた。すべてれいむ種だった。これだけいれば、充分だ。すべて回収した。 男は山を降りて、ガラスケースは後輪の上の荷台にしばりつけて、帰路についた。 帰宅途中、荷台上のれいむたちはひどくうるさかった。 ガラスケースを密閉状態にして、声を遮っておかなければ近所迷惑になっていただろう。 「ゆゆーん! れいむは速いよ!」 と、成体れいむは騒いでいた。その得意げな表情といったら、頭上に音符が出てきそうだった。 「れいみゅは かぜに にゃっているよ! まっは だよ! れいみゅ、まっは だよ!」 二番目に大きなれいむも、まるで翼を得たかのような光景に、得意になっていた。 「すーぱー! びゅんびゅん! たいむ!」 子供ゆっくりと思わしきれいむの顔つきなどは、ドッグファイトを仕掛けようかとほくそえむ戦闘機乗りのそれである。 「ごめんにぇ~、れいみゅ、はやきゅって、ごめんにぇ~」 まだ子供を脱しきれていない、ハンドボール大のれいむに到っては、その速さが自分のものと信じて疑わない。 「むーちゃむーちゃはぁぁァ!? むーちゃむーちゃは、どきょ~ッ!?」 赤ゆだけは、相変わらず食欲だけが全てであった。 男は自転車を漕ぎつづけているうちに、荷台に乗せているガラスケースを見るのが怖くなっていった。 声さえも聞こえない「密閉」の状態にしてあるから、音は漏れない。 しかし、なんだ。 なんなんだ! この不快感――背中から、鞭打つようにビシビシと伝わってくる、この不快感。胃のムカツキ。これは、なんだ! これは、見てはいけない。見てしまったら、見てしまったら、断言できる、路上で色々やってしまう! そして男は、納得した。 嗚呼。 なるほど、これが「れいむ」か、と。 同時に、男は決心した。 気に入った。こいつら全員、泣いたり笑ったりできなくしてやる、と。 気持ちはすでに、マッドサイエンティストではなく、アメリカ海兵隊の新兵訓練教官のそれになっていた。 やがて、自転車は男の下宿に到着した。 ==================================================================== 男の住まいは、駅から徒歩十五分ほどのところにある、ワンルームのアパートだ。風呂と便所は別である。 この部屋を、男はすこぶる気に入っていた。 家賃は手ごろだし、自転車を使えば駅に行くにも苦にならず、徒歩一分のところにコンビニがあるし、車の通りも比較的少ない。 が、それらを差し置いて、防音が素晴らしい。 昼間だったら、「太古の達人」をやっていてもさして迷惑にはならないのだ。 男は、我が城へと帰還した。 部屋に入り、蛍光灯をともし、ガラスケースを床に置き、その蓋を開けた。 ケースには高さがあって、成体といえども脱出はむずかしい。しかし、男は万全を期して、上部に網をも張った。 さて、饅頭ども。 その騒ぎっぷりといったら、もはやこいつらは神さまが人間の精神力を鍛えるために創ったのではないだろうかと思えるほどだった。 あるいは、平和を望む生物学者が、人間の忍耐力を鍛え上げる目的で開発したのではないかと疑えるほどだった。 男は、核ボタンの発射コードを知っている人間が、ゆっくりれいむに出会わないことを、切に願った。 視点を、ガラスケースに移す。 「くそじじぃッ! さっさと、あまあまもってきてね! はやくしてね! れいむをゆっくりさせてね! もう待てないよ! 我慢の限界だよ! 制裁されたくなかったら、さっさともってきてね! ぜんぶでいいよ! こっち見ないでね! 見ていないであまあまもってきてね! はやく、はやく、はやくッ!」 「おい! どりぇい! あまあま たべちゃい! きこえにゃいの? れいみゅは あまあま たべちゃいの! なんで だまっちぇるの? ばか! ぷりちー れいみゅに ほれちぇいる ばあいじゃにゃいよ! ゆるせにゃいよ! ぷきゅぅするよ! いっくよ~……ぷっきゅぅぅぅぅぅッ!」 「使用人! はやくしてね、はやくあまあまを献上してね! れいむの『ひっさつわざ』を受けたくなかったらね! おなかすいたよ! しーしーもしたいよ! うんうんもしたいよ! すーぱーむーちゃむーちゃたいむだよ! なにこっち見てるの? ゆゆん、わかったよ! あれだね! あれをみたいんだね! かわいくって……」 「ふとどきもの! くずにくー! ちねー! れいみゅに あまあまをたべさせにゃい くずは ちねー! なんども ゆーよ。ちねー! あまあまさんも だせない むのーは ちねー! はやく! あまあま! すぐに あまあま たべにゃいと れいみゅ ちんじゃうよ! はやく! はやくね! いそいでね! ちね!」 「むーちゃむーちゃァァァッッ! むーちゃむーちゃァァァッッ! むーちゃむーちゃしちゃいぃぃぃぃッッッ!! むーちゃむー……ゆゆん!? ゆ……ゆ……ゆ……しゅっきりー!」 「ご~め~ん~ね~ッッ! ……決まったよ……ッッ!」 「くちゃいぃぃぃぃぃぃッッ! きちゃないぃぃぃぃぃ! なんでぇぇぇ! うんうんがありゅぅぅぅッッ!」 「ばきゃー! ばきゃれいみゅ! おい、はげ! さっさと うんうんさんを かたづけてね! ゆっくりできにゃいよ! ぷんぷん!」 「ぷッッッ……きゅぅぅぅぅぅぅ……げほっ、げほっ……れ……れいみゅの かりすまな おのどぎゃぁぁぁァァァッッ!」 机の上には、甘食が置かれていた。知る人ぞ知るUFO型の菓子パンである。 もうひとつ、羊羹をパンで挟んだ食いもの、シベリアが置かれていた。 ネーミングの由来が不明な、そのくせ戦前から存在している、由緒正しき菓子パンである。 この二つを、男は放り投げるといった感じで、いや実際にガラスケースに放り投げた。 ゆっくりれいむ五匹が、これに群がった。 目が血走っている。涎をぶちまけ、親兄弟で奪いあいながら甘味を食するその姿、まるで地獄の光景だ。 食っている隙に、男はガラスケースに蓋をした。シャワーを浴びて、就寝の準備をする。 部屋に戻ってくると、ガラスケースの中でれいむたちが何か叫んでいる。が、何も聞こえなかった。 板に顔面を押しつけている五匹のれいむ。その光景は、赤ちゃんが見たら泣くかもしれない。 ケースの蓋がしっかりと嵌めこまれていることを確認して、これを風呂場に隔離した。 ベッドの中で、男は身悶えした。 そう、たとえて言うならば、便器に座って、解放準備万端であり、ほどよく腹がうなっている状態とでも言おうか。 要するに、期待に心躍らせているのである。 ==================================================================== 翌日。男は昨夜に訪れたホームセンターで、餌やら何やらを買い入れた。 その後、部屋に戻って、作業に勤しんだ。 男は器用だった。 またたく間に、あるものをこしらえてしまった。 それは、ゆっくり飼育用のケースを、二つ連結したようなものである。 だが、ケースの中ほどにはスリットが刻まれていて、ここに板を嵌めこむことで、ケースを左右に分断できる。 板を操作すれば、色々なことができるだろう。 さあ。 ゆっくり行動学の始りだ。 男は、試作品のスリットに、アクリル板をはめ込んだ。 作業を終えると、男は風呂場に向かった。 そこには、五匹のゆっくりれいむを監禁してある、飼育用ガラスケースが置かれている。 一晩中ほったらかしにしていたから、饅頭どもは蜂起しそうなほど騒いでいた。 男は、ゆっくりの移し替え作業をはじめた。 片側に五匹のゆっくりれいむを集中させるが、もう片方の空間へは空っぽであり、仕切りで遮られているため移動もできない。 「じじい! 許せないよ! あまあまもってこいって……れいむはお空を飛んでいるよ!」 「ぷんぷん! れいみゅおこっちぇりゅん……おしょりゃとんでりゅ~♪」 「奴隷のくせに、どーしてあまあまを……おそらとんでるっ!」 「れいみゅ、おこりゅとちゅよいん……おそらをとんでるみたい!」 「むーちゃむー……おしょりゃちょんでりゅ~♪ ゆゆ~ん♪ ゆっきゅり~♪」 貴様らの頭脳の中にはテンプレートが存在しているのかと、問い詰めたくなった。 ともかく、移動は完了した。 捕獲用に使ったケースは、部屋の一隅にのけておく。 さて、仕切りの入ったケースの片側に集中するゆっくりども、相変わらずあまあま寄越せの大合唱である。 男は机の上に置かれていた紙袋を引き寄せた。 「待たせた。あまあま、いっぱいあるぞ~」 紙袋の中から、チョコレート掛けドーナツを手に取る。 パブロフも仰天するような反応といえた。 高々とかかげられて不動の姿勢をとっていたもみあげが、一瞬のうちに、期待のために上下に揺れはじめた。 口もとからは滝のような涎。そのうえ、「うれしーしー」まで漏らす始末。 なんて度しがたい連中だろうか。 男は手にしたドーナツを、すっとケースの中に置いた。 ただし、仕切りで区切られている反対側に、である。 「あみゃあみゃしゃぁぁぁぁぁんッッ! まっちぇっちぇにぇェェェぇぇぇ……ゆべぇ!」 「あまあま~、あまあま~、ゆんっ! ……ゆゆ? ぶったよ? れいみゅ、ぶちゃれたよ!?」 れいむ一家は、甲高い声で突撃した。 だが、透明な仕切りにぶつかって、あえなく跳ね返されていた。 何が起こったのかまるで分かっておらず、れいむ一家はアクリル板への無謀な闘いに再挑戦した。 「ゆむぅ~~……ゆんっ! ゆんっ!」 三女れいむは、なんども壁に体当たりをくりかえし、その都度跳ね返されて、ころんころんと転がった。 「むぐぉォォォ……うごォォォ……あがァァぁぁァ……」 母れいむは凄まじい。仕切りに顔を押しつけて、唸り声を上げている。このうえなく不細工な面を晒していた。 五匹とも、あまあまが目のまえにありながら、これを食せないことに、身が引き裂かれそうなもどかしさを覚えていた。 やがて、その怒りは家主へと向けられた。 「じじい! たべられないよ! ゆっくりどうにかしてね! さぼってないでどうにかしてね!」 母れいむはもみあげを突き上げながら怒っている。長女れいむはアクリル板を押している。 跳ねまわって悔しさを表明しているのは次女れいむで、三女れいむは歯を食いしばりつつもしーしーを漏らしていた。 末っ子れいむは、 「むーちゃむーちゃあ! むーちゃむーちゃぁああっ!」 と、天井にむかってひたすら慟哭していた。 男はかすかに口もとをゆがめると、二本の指で仕切りの上部をつまんだ。 「そんなことはないだろ、ほらよ」 仕切りが、持ちあがった。下部にわずかな隙間ができる。 すると、どうだろう。 「むォォォォ……うぉぉぉお……ッッ! ……ゆん! やっぱり通れないよ! じじい! まじめにやってね」 じじいと呼ばれた男は、無言でケースを指差した。その先には、末っ子れいむの姿がある。 「ゆんやぁぁァァぁぁ……ゆんやァァぁぁァぁ……」 仕切りの高さは、ピンポン玉大の末っ子れいむならば、なんとか通れた。 頭の部分が引っかかっているが、着実に仕切りの向こう側に侵入しつつある。 「ゆんっやぁ……ゆんやぁ!」 ぽんっ、と音を立てそうな小気味良さだった。 末っ子れいむは侵入を完了した。 抜けた瞬間、溜まっていた力が解放されて前転運動してしまったが、すぐに体を起こした。 全身が照っているのは、うれしーしーまみれになっているためだろうか。 「あみゃあみゃ~~♪」 末っ子れいむがドーナツに突進した。 至福を全身であらわす赤ゆを見て、ほかの四匹も望みを得た。 「ゆゆ~~~!」 全身を真っ赤にして、歯を食いしばり、あるいは目を剥き、仕切りの下部にその身を押しこめようとしている。 しかし、隙間の高さは、成体はもちろんのこと、子ゆっくりでも、到底入りこめない程度でしかなかった。 それでも、れいむ一家はあまあま欲しさに奮戦している。 が、仕切りの向こう側から聞こえてきた声が、家族をうちのめした。 「むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ!」 みな、刮目した。 食っている。 末っ子れいむが、黒い光沢をはなつチョコレートソースをたっぷりと掛けられた、至高のあまあまを食している。 四匹はまるで親の仇でも見つけたかのような形相で、末っ子れいむの横顔を睨みつけていた。 すると、末っ子れいむの動きが止まった。 「ちあわちぇ~~♪」 その声は、家族に深い衝撃をもたらした。 「いもーちょがぁぁぁァァ! れいみゅのあまあまをとっちゃっだぁぁァァアッッ!」 長女れいむの慟哭がはじまった。 「あ、ああ……なんで……れいむの……あまあまさん……うそ……おちびちゃん、たべちゃだめだよ! それはおかーさんのあまあまさんだよ! ……おい、じじい! もっとだよ! もっと……ゆっくりなんとかしてね!」 母れいむは鬼気迫る勢いで命じてきた。 ここで、男は知恵を吹きこみにかかった。 「おちびちゃんに、あまあまを運んでもらえば?」 「ゆん?」 同時に、一斉に、れいむ一家は妹に向きなおった。そして、娘あるいは妹に向けて吼え散らかしはじめた。 「おちびちゃぁぁァん! あまあまさん! おかーさんのところまでもっでぎでェェェッ!」 「あまあまー! あまあまをよごぜぇぇぇェェ! もっでごぃぃッッ!」 「げすぅぅぅッッ! げずぅゥゥぅッ! ぢねぇぇ! もっでごい! もっでごいッ!」 雄叫びに晒された末っ子の反応は、 「むーちゃ! むーちゃ!」 馬耳東風の一言につきた。 「あみゃあみゃしゃん! あみゃみゃしゃん! はやきゅ! はやきゅ! たべちゃい! たべちゃい!」 長女れいむはせっぱつまっていた。 もみあげを板に叩きつけるその姿は、さながら家族との面会を許された受刑者か。 末っ子れいむの幸福はとまらない。 「むーちゃ! むーちゃ! ……ち、ち……ちあわちぇぇェェェッッ♪」 恐らく、それがあてつけになっているとは、微塵も思っていないにちがいない。 「なにやっでんのぉぉぉォォォ! あまあまもっでごいっで、いっでんでじょぉぉォォォ!」 三女れいむは唾をまきちらしながら怒鳴り声を張っていた。 「ゆ!」 突然、末っ子の動きが止まった。 家族全員、それにあわせて全運動を停止せしめ、固唾を呑んでその行動を見守った。 「れいみゅ たべしゅぎちゃったよ!」 大絶叫がケースからほとばしった。 「うんうんすりゅよ!」 赤ゆは仰向けになり、あにゃるを家族に見せつけた。 「はぁぁァァァ!? ンなことやってる場合じゃないでじょぉぉォォォ!」 もはや、母れいむの遠吠えなど、あまあまを護るためには鼻くそほどの役にも立っていなかった。 末っ子はきゅっと目を閉じて、全身を来たるべき快楽への期待にうち震わせた。 むりむりと、黒い何かが顔を出す。 「しゅーぴゃー! うんうん! ちゃいむ!」 珍しく、宣言の方が遅かった。 「ぢねぇぇェェェ! あまあまをぐわぜないげすは、ぢねぇぇェェッッ!」 「しゅっきりー!」 「あ……あぁ……れいむの……あまあまが……うんうんに……」 この時、家族は、とくに母れいむは戦慄していた。 末っ子れいむの悪魔的食欲を知っていたからだ。 その戦慄を証明するかのように。 末っ子れいむは、ドーナツに向きなおった。そして、死刑執行を宣告した。 「れいみゅの! みゅーちゃみゅーちゃ! ちゃいむ! まだまだちゅぢゅきゅよ~~♪」 「続くなァァァァァァッッ! つぅゥゥづぅぅぅゥぐぅぅゥぅなァァぁぁっっ!」 「むーちゃ……」 「いやぁぁァアぁァぁぁッッ! ぎぎだぐなぃぃぃィィィぃっっ!」 家族の耳をつんざくような絶叫もむなしく、さして時間を経ることなく、ドーナツは全てうんうんに変換された。 この末っ子はどうしようもねぇなあ。 と呆れつつ、男の実験は第二段階に突入しようとした。 そのまえに、割り箸でうんうんを排除した。成分としては餡子だが、手づかみは、尊厳にかかわってくる気がした。 また、ケースを初期化する。 仕切りを落として隙間を閉じて、末っ子れいむは、家族のもとにではなく、捕獲用に使ったケースに容れた。 殺気立つ家族の待つところへと戻すには、まだはやい。 男は紙袋のなかから、ホワイトチョコレートを取りだした。 それをゆっくりたちの頭上で躍らせ、あまあまであることを認識させる。 「あみゃあみゃしゃ~ん……」 瞳を輝かせ、舌を突きだしながら、あまあまを見上げるその姿。蜘蛛の糸とでもおもっているのだろうか。 そこから後の手順は、おおむね同じだった。 男は板チョコをこまかく砕き、仕切りの向こう側にばらまいた。 そして、仕切りを少し上げた。 「ゆがぁぁァァァぁぁッッ! あァァァまぁァぁあァァぁまァぁァぁぁっッ!」 先陣を切った三女れいむが、そのまま潜り抜けることに成功する。 が、ほかのれいむ三匹は、またしてもお預けを食らうのだった。 都合のよいことに、五匹は五匹とも成長段階がかなり違っている。隙間の調整は簡単だった。 さて、母れいむが三女れいむの背中にむかって声を張っている。 「おちびちゃん! はやぐ! はやぐあまあまもっでぎでぇぇぇェ! ばやぐじろぉぉぉぉォォ! ぎゃわいいれいむにぃぃィィィ! あまあまを! よォォォごぉォぉぜぇぇェッ!」 三女れいむが、仕切りにへばりつく家族に振りむいた。 「ゆっふ~」 勝ち誇った表情を見せつける。 男は、何が起こるのかほどんど予想がついてしまった。 「もってきてほしい?」 言わずもがなのことを質問する。 「もっでごいぃぃぃぃィィィッ! ばやぐ! ぐわぜろォォォぉぉッ!」 次女れいむの甲高い怒号も、威力において母れいむに負けていない。 しかし、三女れいむは毅然とした態度を崩さず、 「ゆん! それぎゃ れいみゅに ものをたのむ たいどにゃの? ぷんぷん!」 と、ぷくーの姿勢をとって怒りを表明した。 「……ゆ! お……おかーさんに、なんて言い方なんだね!」 「れいみゅ! いもーちょにゃのに にゃまえきだよ!」 「ゆっくりあやまっちぇね!」 家族たちの火を噴くような非難も、三女れいむにはいささかの打撃もあたえられなかった。 「あ、そう!」 三女は背を向けて、これみよがしに声を張る。 「れいむの! すーぱー! むーちゃむーちゃたいむ!」 それは、死神の宣告にも等しかった。 「ゆぅぅぅぅぅゥゥゥッッ! ごべんなざい! あやばりまず! あまあまを! あまあまをもっでぎでぐだざい!」 真っ先にひれ伏したのは母れいむだった。 もはや尊厳も何もあったものではない。いや、ゆっくりにそれを求めるのは高望みに過ぎるのか。 どうやら無いものねだりだったらしい。ほとんど連続して、姉たちも一斉に、三女れいむにひれ伏して、あまあまを懇願したからだ。 三女れいむは、ぽつりと、言った。 「……ほしい?」 「ぼじぃぃぃぃッッ! ほじぃぃぃぃッッ! ぼじぃぃぃぃッッ! ほじぃぃぃぃッッ!」 四匹が合唱を送りだす。 「……せいいが たりにゃいよ! ぷんぷん! ……えいっ!」 三女れいむは、仕切りの下部に向けて、放屁した。 「ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃ!」 家族らは、打楽器のように三跪九叩頭を繰りかえしてやまない。 なんたる敗北主義か。 その屈辱的行為を嘲笑うかのように、 「ふんっ!」 三女れいむが、背中を向けた。 「れいむの! すーぱー! むーちゃむーちゃたいむ! はっじまり~♪」 と、愉快な声が轟いた。ホワイトチョコレートにぽよんぽよんと跳ねてゆく。 「むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ! むーちゃ!」 三女れいむの「むーちゃむーちゃたいむ」が展開された。 見事な悪意だ。と、観察者は感じた。 しばらく至福を味わったのち、三女れいむは顔を上げて、家族のもとへと走り戻ってきた。 何をするのかと思っていたら、 「……ち……ち……、ちあわちぇ~~♪」 と言って、また戻っていった。太陽みたいな笑顔だった。 次女れいむは、唖然とした。 「ぶごぉぉォォォぉォォッ!」 すぐに、吼えた。 「あまあま寄越せっつってんでじょぉぉぉがぁぁぁ!」 「むーちゃ! むーちゃ!」 「げすがぁぁァアァッ!」 三女れいむがまたも顔を上げた。 やはり走り戻ってきた。 そして、 「れいみゅ、あまあまさん! たべしゅぎちゃった! れいみゅはうんうんしゅりゅよ!」 三女れいむのあにゃるから、にゅるにゅると、餡子がこぼれおちてゆく。 「……しゅっきりー!」 息を吹きかけられそうな眼前で挑発されて、次女れいむはいよいよ狂おしい。 「ぬごぉぉォォォ! ひげぇェェェ! ぬぉぉぉォォォッッ!」 このとき、家族は、とくに三女れいむは気づいていなかった。 男の手が、仕切りに向かっていることに。 すっと、仕切りが持ちあげられた。 「ゆぎゃァぁぁァァぁぁァッッ!」 次女れいむが、仕切りの突破に成功する。 そして、彼女の眼前には、三女れいむが仰向けに寝転がっていたのだった。 「ゆんべ!」 進路上に寝転がっていた三女れいむは、あえなく足蹴にされた。 「むぎゅっ!」 コロコロと転がってゆき、壁にぶつかってようやく停止した。 一方、次女れいむはホワイトチョコレートへと脇目もふらず驀進した。 大口を開けて、むしゃぶりつく。 「むぅぅぅぅぅちゃぁぁァァぁぁぁァッ! むぅぅぅぅぅぅちゃァァァァァァぁッッ!」 それは食っている擬音として正しいのかと、男は思う。 しかし、見れば次女れいむは確かに食っている。耳がおかしくなりそうだった。 吹っ飛ばされた三女れいむは、姉があまあまを食いはじめた様子を見、うち震えるほどの激怒をおぼえた。 「おねーちゃん! それはれいみゅのあまあまだよ! とらにゃいでね! ぷんぷん!」 姉は聞く耳さえ持っていない。 「むぅぅぅぅぅちゃぁぁァァぁぁぁァッ! むぅぅぅぅぅぅちゃァァァァァァぁッッ!」 一心不乱にホワイトチョコレートを食っている。 「やめてね! もうやめちぇね! あまあまさん、いちゃがってるよ! ぷきゅー!」 「むぅぅぅぅぅちゃぁァァ……」 次女れいむが凍りつく。 三女れいむは、話が通じたと推察し、諫言を重ねようと口を開いた。 ところが、それを次女れいむの野獣のような雄叫びが遮った。 「つぅぅぃぃぃぃぃあぁぁぁぁァァァうわぁァァァぁすぇェェぇぇぇッッッ!」 幸せ。と、言っている。 三女れいむは、キレた。 「ゆんっ!」 なんの予備動作もなく、次女れいむに飛びかかった。 「ゆぶべ!」 あえなく吹き飛ばされた。さすがに、食っている場合ではないと思ったか、妹と対峙した。 「なにずんのぉぉぉ! れいむの! ずーばーむーぢゃむーぢゃぢゃいむをじゃまずんなぁぁぁぁ!」 「うりゅしゃいよ! しょれは、れいむのあまあまさんだよ! ゆっきゅりりきゃいしちぇね!」 「うるざいよ! れいむのだよ! いもーちょは黙っててねェッ! いっそ死んでねぇ!」 「ちがうもん! れいむのだもん! おねーちゃんこそ、さっさとちんでね、くたばっちぇね!」 「ちぬのは……お前だぁァァ!」 妹に飛びかかる次女! 応戦する三女! たちまち展開される姉と妹の仁義なき戦い! その隙にあまあまを取り除いてみる人間! 「ちね、ちね」 「ちね、ちね」 姉妹はぽよんぽよんと体当たりを応酬しつづけている。 男はあまあまをせっせと取り除くと、 「あ、あまあまが無いぞぉ!」 公の場では絶対に発しないような、露骨に演技がかった声を出した。 「ゆッ!?」 「ゆゆんッ!?」 姉妹は本能的に休戦条約を締結し、あたりをうかがった。 なるほど、ない。どこにもない。散らばっていたホワイトチョコレートはみごとにない。 「なんでぇぇぇぇェェ! どぼじでぇぇェェぇぇ! あまあまがぁぁァァァッッ! いじわりゅじないでぇぇぇぇぇ!」 「ぴぎゃぁぁぁぁ! あまあまざん! にげっぢゃっだぁぁぁぁァァァ! れいみゅぐやじぃぃぃぃぃぃぃ!」 狂ったように泣き出した。 男は、思った。まずい。スイッチが入ってしまいそうだ。 ==================================================================== 色々と試してみることにした。 男はふと、蛍光灯から垂れ下がっている紐を見た。絶対に見せられないことだが、この男は蛍光灯のスイッチ紐を延長させている。 それはともかく。 この蛍光灯の紐をねじり、手を離してみると、当然だが、紐はぐるぐる回る。 これを試してみようとおもった。 男が用意したのは、差し渡し三十センチほどの棒と、糸、クリップだ。 手順一。棒の端に紐をくくりつける。その紐の先にはクリップが結われている。不格好の釣り竿のようだ。 手順二。釣り竿を机に固定する。机から棒が突き出たような形になり、自然、クリップが垂れる。 手順三。このクリップに横回転を与える。当然、紐がねじれる。ねじれを保ったまま、左手でクリップを掴んで固定。 手順四。ゆっくりを準備。 お相手は三女れいむだった。 右手をケースへと伸ばし、三女れいむを摘まんでみる。 「おしょりゃとんでりゅみちゃい~~♪」 何だろう。励ましてくれているのだろうか。 三女れいむのお飾りを、クリップで挟む。 「ゆんっ!」 無意味に唇を引き締める三女れいむ。 誘っているのだろうか。上等だ。受けて立とう。 「ゆゆんっ!」 真正面の中空を見つめる、三女れいむ。 こうして、三女れいむは捻じられた糸に吊るされた。 男はパッと、三女れいむを固定している指を離した。 蓄えられた力が、解放される。 吊るされたゆっくりは――壮絶な横回転をはじめた。 「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」 男は落胆した。 「くりゅくりゅ~♪」 とか言ってくれるのかと思ったら、これである。 まあ、目にもとまらぬ速さで回転しまくっているから、無理もない。 「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」 三女れいむの奇声はとどまるところをしらない。 やがて回転は止まった――かと思ったら、逆回転となった。 「ゆごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごッッッ!」 「わっ、きたねぇ!」 男は思わず声を上げた。 しーしーを撒き散らしはじめたのだ。さながらスプリンクラーだ。 回転が緩やかになってきたところで確かめてみたら、口から餡子が漏らしていた。 オレンジジュースをかけたらあっさり蘇生した。何たる適当さか。 ゆっくりの認識能力にも挑戦してみることにした。 男はネットにて、とある動画を落としていた。 ゆっくりれいむを撮影したものである。 小奇麗な肌。手入れの行き届いた髪、そしてお飾りに光る、ゆっくりの最高位の証明、金バッジ。 最高峰のゆっくりがカメラ目線にて、 「れいむでしこっていいのよ!」 と、艶めかしい目つきを送ってきたり、 「ゆっくりりかいしてね!」 と、愉快そうにもみあげをピコピコさせたり、 「ばかなの? しぬの?」 と、露骨に嘲ってきたり、 とにかく、そういった類の言葉を、延々と吐きつづけているという、作者の精神状態が危惧される動画である。 その動画が上がったときのコメントの荒れ具合といったら、戦争でも起こすつもりかと思われるほどだった。 しかし時が経つにつれて、 「オラ、なんだかワクワクしてきたぞ!」 「まずい……もう二十回以上ループしてる……」 「なんだろう。神々しさを感じてる俺がいるんだけど……」 といったコメントがアップされるようになった。悟りを啓いてしまった人々がいるらしい。 ちなみにそのコメントに対しては、 「撤退せよ! いますぐにだ!」 「思い出せ! お前の両親の顔を思いだすんだ!」 「……こいつが、全員麻薬中毒者か?」 等々、温かいコメントが寄せられた。 そして先日、動画の注意書きに、 「十八歳未満の方、心臓の弱い方は、ご覧にならないでください」 と、記されるようになった。 これを、母れいむに対してガラス越しに見せつけてやることにした。無論、ループ状態である。 成体れいむは、ボケ老人のようになっていた。 「れいむのことみないでね、えっちぃ!」 動画のれいむが、もみあげを回転させながら嬉しそうに叱り飛ばす。 「うるざいよぉぉぉォォォッッ! あんだごぞ みでんじゃないよぉぉぉッッ!」 母れいむはあんよに青筋を浮かべながら怒鳴り返す。 「なにいらついてるの? ばかなの? しぬの?」 まるで見えているかのような切り返し。動画作者は悪意と断じられる。 「いらづいでないぃぃぃぃッッ! わがっだようにいうなぁぁぁァァァ!」 母れいむの眼前で、くるっと一回転。 「かわいくってごめんね!」 ちゃりーん。 と、間の抜けた効果音が響いた。 「れいぶのほうががわいいぃぃぃぃッッ! ぶざいぐづらやめろぉぉぉォォ!」 言うまでもなく、とんでもない不細工面を晒し上げているのは、母れいむの方である。 「ごらんのありさまだよ!」 「ちがうだろぉぉぉォォォッッ!」 男はマウスを操って、動画を切り替えてみた。 といっても、似たようなものである。 さきほどと同じゆっくりれいむが、至福の表情であまあまを食べ続けるという、単純ながらも破壊力に富んだ、ピリリと辛い逸品である。 効果は抜群だった。 「むーちゃ! むーちゃ!」 固形物を食っているのに、うどんをすすっているかのような音がする。 「ぐわぜろぉぉぉッッ!」 母れいむはもみあげでガラス板を叩きはじめた。 「むーちゃ! むーちゃ!」 「でいぶのあまあまだぞぉぉぉぉぉッッ!」 男はゆっくりの思考方法がまるで分からない。 「むーちゃ! むーちゃ!」 「でいぶ……でいぶ……ぁ……あぁ……」 急に、母れいむが大人しくなってきた。潤んだ目つきで動画を睨みつけている。 「むーちゃ! むーちゃ!」 そのまま、後ろに倒れて仰向けになった。 「ぁ……ぁ……れいみゅ……れいみゅ……ぴぎゃぁぁァァ! おぎゃぁぁァじゃぁぁぁァんッ!」 どうやら何もかも諦めてしまったらしく、母れいむのすることと言えば、恥も外聞も無く泣きわめくことだけだった。 「むーちゃ! むーちゃ!」 「おなきゃちゅいちゃぁぁぁ! れいみゅ おにゃきゃちゅいちゃぁぁぁァァァッッ!」 男は、放置を決めた。 細かい装置も作ってみた。 土台となるのは玩具のような小型ランニングマシンだ。 ゆっくりの運動不足を解消するためにつくられたものである。 これをすっぽりと納まる箱に容れて、いわば床全体を動く歩道にしてしまう。 だが、両端は残しておく。 そして、隙間の片岸にはアポロチョコを置く。 その対岸には、末っ子れいむを配置した。 矢印をランニングマシンの流れる方向だとすれば、次のように図示できるだろう。 「(末っ子れいむ)←←←←←←←←←←←←←←(アポロチョコ)」 これで、準備完了だ。 末っ子れいむは得意の嗅覚を活かし、さっそくベルトコンベアの対岸にあるあまあまを発見する。 「あみゃあみゃ~♪」 勢いよく、ランニングマシンに飛び乗った。 左右と後ろを壁で仕切られているから、ほかに道はない。 また、あったとしても末っ子れいむの知能では、選びようもない。 さて、ベルト上に乗りかかると、重量を感知してランニングマシンが作動する。 「ゆゆん?」 妙な感覚を覚え、少々疑問に思ったようだ。 が、結局は進みはじめる。 「あみゃあみゃ~♪ まっちぇ~♪ にげにゃいで~♪」 末っ子からしてみれば、まるであまあまが逃げているように見えるのだろう。 さて、逆流速度は相当に遅くしてある。 そのため、かたつむりのように遅々とした動きではあったが、着実にあまあまとの距離をつめていった。 「あみゃあみゃ~、あみゃあみゃ~」 ところが、この装置には仕掛けが施されてあった。 対岸の手前、それこそもう一息であまあまに到着できるというところに、赤外センサーが備えつけられていたのだ。 そこに到ったとき、センサーが反応して、スピーカーが稼働した。 『ゆっくりしていってね!』 末っ子まりさは、本能に動かされるままに声を張るしかない。 「ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ~~♪」 あんよが止まった。 すーっと、末っ子れいむがあまあまから遠ざかってゆく。 「ゆん?」 気がつけば、岸まで押し戻されているのだった。 「ゆゆん?」 末っ子れいむから見てみれば、よく分からないうちにあまあまが遠ざかってしまったのと同じだった。 さすがに疑念を覚えたらしい。 「あみゃあみゃしゃん……あみゃあみゃしゃ~~ん♪」 だが、結局は知能を駆使しての打開策創出よりも、欲望の赴くままに突撃するのを選ぶのだった。 動作感知ではなく、音声感知器を利用した装置もつくってみた。 目をつけたのは、次女れいむだ。この一家のなかでは、知能が高いように思われたからだ。 男は、末っ子れいむが純粋無垢に機械の一部と化していることに、満足と不満を覚えていた。 予想が的中するのは嬉しいものだが、やはりゆっくりどもは泣き喚いてこそ価値がある。 まず、直方体の木材を用意した。 この上部に、電動式の糸巻機をつける。原理的には、エレベーターを昇降させる滑車とおなじものだ。 その機械からは、糸が垂れ下がっていた。 糸は次女れいむのお飾りにくくりつけられている。 最後に、土台となっている木材の上部から、あまあまを吊るした。 チョコパイである。 「あまあま! あまあま!」 次女れいむの皮膚には、三女れいむとの死闘で獲得した傷が刻まれていた。 「いいか。れいむ。あまあまをくれてやるぞ」 と、男は言った。 「当たり前だよ! れいむのだもん!」 頬をふくらまして威嚇するれいむ。 「……いいか。黙っていれば、お前はあまあまのところにまで行けるぞ」 「お話すると?」 男は少々、ゆっくりを見直した。そんなのおかしいよ! とか言われると思ったのだ。まあ、おかしな実験をやっているのには違いない。 「紐がおりはじめて、スタート地点に戻っちゃうぞ!」 と、愉快げに宣言した。 「わかったよ! れいむ、しゃべらないよ!」 自信満々に、次女れいむは答えた。 「よし。始めるぞ」 元気よく男が言って、電動機のスイッチを入れた。ついでに、音声探知機のスイッチも入れた。 滑車が動きだして、次女れいむがするすると天へと登ってゆく。 口を切り結び、眉を逆ハの字にして、将軍さながらの威厳を保ったまま、吊るされてゆく。 だが、ある高さに来たとき、 「おそらとんでる~~♪」 ぴっこぴこともみあげを動かして、次女れいむは叫んだ。 すると、その音声をセンサーが拾って、滑車に信号を送り、逆回転を命じた。 「ゆゆ!」 次女れいむは、何が起こったのか分かったようだ。 「だ、だめだよ! さがらないでね! れいむを上にあげてね! あまあまをたべさせてね! いじわるしないでね!」 叫びは虚しく、次女れいむは床に落ちた。滑車の逆回転は一定時間の経過により終了することになっている。 それが終わると、また順回転を再開した。 次女れいむは随分と悲壮な目つきをしていた。 それでも、ある高さを得たとき、 「……お、おそらとんでるー!」 幸せそうに叫び上げた。 「ゆゆん! ゆゆゆん!」 否応なしに地獄へと叩きつけられた。 いよいよ、次女れいむの決意は痛々しさを増してゆく。 三度目の昇天が始った。 「……お、お、おそらを……」 必死にくちびるを噛みしめているその様は、痛みに満ちたものだったが、どうしようもなく醜かった。 「おそらとんでるッッ!」 本能には抗いがたかった。 四度目のチャレンジに際して、 「ゆぅ……ゆぅぅぅぅッッ!」 と、叫んで唇をひきしめた。 次女れいむが昇ってゆく。 そして、その距離に到達する。 「……お……お……お……」 彼女は、よく我慢していた。 「お……ぉ……おそっ、おそっ、おしょっ、おそっ」 だんだんと早口になっていった。 これでは不味いと思ったか、目をかっと見開き、滝のような汗を流し、全身全霊を声の封じ込めにあてた。 「……」 次女れいむのあんよが震えだしている。 ぷしっと音を立てて、しーしーも漏れた。 「……も、もう――れいむ、もう我慢できない! れいむ! おそらとんでるぅぅぅぅぅッッッ!」 我慢していたのは声だけではないらしく、しーしー、うんうん、もみあげ、後ろ髪、表情、全てを注ぎこんで浮遊感を叫び散らすのだった。 スタート地点に戻されたとき、次女れいむは悔しさに涙した。 「ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ! ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ! ゆんやぁァァァぁぁァぁぁッッ!」 彼女の叫びを意に介さぬ機械が、次女れいむを無情にも空へと引き上げてゆく。 資本主義とは、まこと空恐ろしいものだ。 あきらかに需要が疑わしい商品が、日々産まれては消えてゆく。 「お徳用・ゆっくりのまむまむ 一パック十二個入り」 それが、机の上に鎮座している商品の名前だった。同じものが、三つも積み重なっている。 これは、比喩でもなんでもない。 培養したゆっくりから、まむまむの部分だけを、切り取ったものであるらしい。 餡子には特殊な加工がされていて、もちぬしの記憶は証拠されている。 だから、移植をしても拒絶反応はない。 さて。 オペが始まろうとしていた。 患者は、長女れいむである。まな板の上で嗚咽をもらしていた。 「ひぐっ……、うぐっ……、えぐ、えぐっ……」 と、くちびるを噛みしめながら泣いている。まったく、努力したかのように不細工だ。 「あまあま……」 その一言は耳にしたとき、男はすべての躊躇をかなぐりすてた。 男は左手で長女れいむを固定し、ピンセットを長女れいむの眼下に押し込んだ。 「ゆべばばばばばばばばばばばばばッッッ!」 壊れたような叫び声だ。 長女れいむの眼球が抉りとられる。おなじ措置を片目にもほどこし、できた穴に餡子を詰めて、小麦粉を塗りこめた。 「いぎっ……、あぎっ……ゆぎぃ……」 男はピンセットをカッターに持ちかえた。その切っ先を、さくりと口のまわりに差しこんだ。 「ぶごぉぉ……おごぅ……」 そのまま口だけを切り落として、オレンジジュースをひたしたシャーレに一時保存する。顔面の大穴は、目とおなじように塞いだ。 のっぺらぼうのゆっくりれいむが出来上がった。痙攣している。 男はカッターを、脳天に差しこんだ。 「……ッッ!?」 頭頂部を円形に開き、そこに口を移植した。 こんな妖怪いたなぁ、と男は思った。 「ぁ……あぁ……ひぐっ、あぐっ……。うぁ……」 脳天に生える口から涎が流れ落ち、長女れいむの黒髪を汚していた。 「さて、と」 まだオペレーションは終わっていない。 男は、長女れいむの側面に、小さいが奥行きのある穴を開けた。そこに徳用まむまむを埋めこんでゆく。 合計三十六個の切り売りまむまむが、均等に埋めこまれた。 こうして、長女れいむの体面には、本来のもちものとあわせて、三十七個のまむまむが発生した。 「最後に……」 ゆっくりショップで購入した「ゆっくり精液(動物型受胎用)」をシャーレにあけた。 スポイトでこれを吸い取り、まむまむに突っ込んだ。 「どべぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼッッッ!」 長女れいむは溺れたような悲鳴を発した。スポイトから、まむまむに精液が流れこんでゆく。 「あとは……あまあまかぁ」 「あみゃあみゃ!」 鋭い反応をしめしてくれた。 「ああ。あまあまだ」 と、言いながら男が手に取ったのは、白い錠剤だった。 砂糖の数百倍の甘さを誇る人工甘味料、アスパルテームの塊である。 「……!」 これを、ありったけ長女れいむの脳天の口に流しいれた。濃厚オレンジジュースも、漏斗を突っ込んで無理やり呑ませた。 このふたつが、促成妊娠を可能にした。 長女れいむの体内で、みるみる赤ゆが生成されてゆく。 机の上で出産されても困るので、ケースに移し替えた。 五分も経たずに、出産のときが来た。蠅も驚くスピードだ。 「うご……うぐ……あ……ああ……」 長女れいむが苦悶の吐息を漏らした。 そして、れいむの体面から、三十七匹のゆっくりの笑顔が、ムリッと、せりあがってきた。 「きも……」 男は後悔した。 この手術は、こんなことをしたら多分キモいだろうなあ、などと思いながらやったことだ。 実際キモかった。 それだけだった。 つぎつぎと、まむまむから赤ゆが飛び出してくる。 『ゆっきゅりしちぇいっちぇねー』 などと挨拶をしてくるが、数十匹の赤ゆを養えるような精神的及び経済的余裕など、男にはなかった。 鍋で煮詰めて、殺してしまった。 長女れいむでの遊びは続行された。 とりあえず、キモかったのでまむまむは全て埋めた。 小麦粉を溶いた水を垂らしこめば、すぐに干拓されてしまう。ドライヤーも使えば時間はさらに節約できる。 頭上にくっついている口も、何かとわめきたてるので埋め立ててしまった。 十円ハゲの、のっぺらぼうが出来上がる。小刻みに振動しているのが、なんとも気味が悪い。 男は、ピンを手にした。 「……」 それを、長女れいむの肌に刺し入れてみた。 「……ッ!」 竹ぼうきのようなもみあげの先端が、ぶわっと、花開いた。 おもしろい。 ピンを引き抜くと、花びらは閉じた。 「えいっ」 「……ッッ!」 もうすこし深く差しこんでみた。また花開く。 「えいっ、えいっ」 刺しては抜き、抜いては刺し、長女れいむのもみあげは、律儀に開閉を繰りかえした。 「あれ。元気なくなったな」 蜂の巣にしたころには、もみあげが下がっていた。震えも心なしか小さくなっていた。 「口が無いからなぁ……あまあまをぶっかけてやるか……」 と、男が言った瞬間、のっぺらぼうのもみあげが、わさわさと躍動した。この動きだけでも有無を言わせず苛立たせてくれる。見事である。 なお、ゆっくりには肌にも味覚があるらしい。 男が用意したのは、巨大注射だった。 象にでも打ち込む気かと問いたくなるような凶悪さだ。 これに、たっぷりとアイスココアを含ませてゆく。 「れいみゅ! あまあまだぞ~♪」 わざとらしく宣言すると、もみあげを振り回してさっさとやれと急かしてきた。何ら疑問を感じていないのだろう。 「えぇぃッ♪」 ぶっすりと。 針の根もとまで。 刺した。 「……ッッ!」 長女れいむは、のけぞった。横から見れば逆U字型になったほどだった。 男はのり巻をつくりだした。 ただ、のりにあたるのは饅頭皮であり、酢飯と具にあたるのは餡子だった。 丁寧な手つきでのり巻きをこしらえると、つぎに、次女れいむの額に穴を明けた。 「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」 末っ子れいむは、依然としてベルトコンベアを逆走しては押し戻されている。 男は、末っ子れいむに手を伸ばした。 「ゆゆん! おしょりゃをとんでりゅみちゃい~~♪」 これを、手術台に置く。 左手で末っ子れいむを抑えこんだ。 「ゆゆ~♪ くしゅぐっちゃい~~」 右手にはカッターが握られている。 刃物は、末っ子れいむのあんよを、なんの苦もなく斬り落とすのだった。 「……ゆゆんッッ!?」 さすがの末っ子れいむの笑い顔も、凍りついた。 「……ゅ……ゅ……ゆぅッ!」 やがて、 「ゆぴゃぁぁぁァァァっ!? ゆびぃぃィィやぁぁァァッ! ゆぎゃぁァァぁぁァァッ! いぢゃぃぃぃィィィぃぃッッ!」 泣きわめく。 男は、斬りおとされたあんよに、作っておいたのり巻きの端を連結した。ジュースと小麦粉が溶接剤となる。 さらに、のり巻きの逆端は、長女れいむの額の穴と接合させた。 長女れいむは、もみあげをぴんと張ったり、振りかざしたり、自分の側面部を叩きまくっていたり、なかなかやかましい。 額から伸びる白い触手は、だらりと垂れ下がったままだ。 末っ子れいむは泣いている。 「失敗かな?」 と、思ったとき、唐突に末っ子れいむが泣きやんだ。 「ゆゆ!? ゆゆ~♪ ゆぐ~♪」 キャッキャと笑いだして、いたくにゃくにゃったよ! などと叫んでいる。 すると、白い触手が持ちあがり、宙を泳ぎはじめた。 「おしょりゃとんでりゅ~♪ おしょりゃ~、おしょりゃ~」 波に揺られるかのように、不規則な遊泳を開始した。 「うきゅ?」 末っ子れいむの瞳に、疑問符が浮かんだ。なにやら困惑の表情を浮かべる。その一方で、長女れいむは小さく震えはじめている。 「ゆゆ~!」 末っ子れいむは歯を食いしばりはじめた。何かに抵抗するかのように。 「うぎょきぇー! うぎょきぇー!」 末っ子も長女も、力を入れているように見えた。 おそらくは、触手の主導権をめぐって争っているのだろう。 男はおもむろに、ピンを長女の腹に刺してみた。もみあげの先端が花開く。しかし、末っ子れいむは特に痛がっているように見えなかった。 次に、触手の腹に差してみた。 「ぴきぃ!」 末っ子れいむが唸った。どうやら、共同使用しているのは触手の部分だけらしかった。 男はチョコレートの欠片を用意して、それを長女れいむの足もとに置いた。 「ゆゆ~♪」 象が鼻を伸ばすように、末っ子れいむがこれに向かった。途中、また主導権争いが起こりそうだったので、ピンを刺して長女を諌めた。 「むーちゃ! むーちゃ!」 あいかわらず、よい食いっぷりだった。しばし食わせつづけていると、末っ子れいむの目が輝いた。 「たべしゅぎちゃっきゃら れいみゅ うんうんしゅりゅよ!」 長女れいむはぐったりとしている。 が、末っ子れいむが踏ん張りだすと、長女れいむはそれと同調するかのように、もみあげを暴れさせはじめた。 「しゅっきりー!」 と、末っ子れいむが叫んだ瞬間、もみあげは水平にぴんと伸ばされた。 「ゆん?」 突然、触手が天井に振りかざされた。末っ子れいむはまだ笑っていた。 「ゆごっ!」 男もいささか驚いた。振りかざされた触手が、地面に叩きつけられたのだ。当然、その先端から生えている末っ子れいむも打撃を受ける。 何度も、何度も。末っ子れいむは空に持ちあげられては、地面――まないたの上に叩きつけられた。 「あ、いかん」 その動きの荒々しさについ見惚れてしまったが、このままだと末っ子れいむは殺される。 男は机の引き出しから鋏を手に取ると、 「えいやっ♪」 触手をちょん切った。 その瞬間、長女れいむのもみあげを結んでいた巻紙が、吹っ飛んだ。 孔雀のように髪を広げ、しばらく震えを繰りかえした後、ばたりと倒れた。 「……ッ……っ……! ……ッ! ……! …っ……ッ!」 痙攣を繰りかえしているところを見ると、息はある。 触手のかたわれ、末っ子れいむは怪鳥のような声を発していた。 「ぴきぃぃぃぃぃぃィィィィィィィッッッ! ゆぎぃぃぃィィィィぃぃぃッッ! むぎゅぅぅぅぅべぇぇぇぇェェッ!」 触手を振り回されたら厄介だとも思っていたが、そんなことはなかった。泣いているだけである。 男は新たな作業に取り掛かった。 まず、予備のアクリルケースを持ちだした。 この底面に薄く餡子を敷きつめる。さらにオレンジジュースを沁みこませた。 その上に、ゆっくり専門店にて購入した饅頭皮を置く。 饅頭皮の中央には、円形に穴を開けた。 ここに末っ子れいむの、触手の断面を接合した。 すると、目論みどおり、チューブワームのように、地面からゆっくりれいむが生えているような様になった。 「ゆゆ~♪ れいみゅ、ちゃきゃい! おしょりゃとんでりゅみちゃい! ゆっくりの~、ゆ~♪ ゆ~の、ゆっくり~♪」 どうやら満足してくれたようだ。 「……?」 男は、ケースの下部に敷きつめている饅頭皮に目をやった。その饅頭皮が、波打っている。 下部の饅頭皮に、ピンを刺してみた。 「びゅぉぉぉォォォォぎゅぃぃぃぃぃィィッッ!」 結論は明らかだった。どうやら、ケースの下部の饅頭皮も含めて、末っ子れいむの所有物になってしまったらしい。 それにしても何たる悲鳴か。 男は、熱したオレンジジュースを、ケースに注ぎこんだ。 「いひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」 熱湯だから痛いに決まっている。しかも、皮膚の面積が拡大しているので、痛覚が何百倍にもふえている。 しかしながら、オレンジジュースだ。皮膚が甘味を直接摂取して、火傷をまたたくまに快復させてしまうだろう。 男はケースに蓋をした。 さらに、ケースごと毛布でぐるぐる巻きにした。断熱材のつもりである。 お次は、母れいむだ。 依然としてモニター画面に向かって吼え散らかしているところを、お飾りを取っ手にして持ちあげた。 「ゆゆ~ん♪ これじゃあまるでお空を飛んでいるよ~~♪」 怒りから一転して、ニコニコしだすから気味が悪い。 おまけに、持ちあげるたびに微妙に定型句を変えているのも、無駄に知恵を使っているようで腹が立つ。 「ゆゆ……ゆ!?」 右もみあげで母れいむを持った。 「ゆ! 離してね! れいむのパーフェクトでキュートでクールなもみあげに触れないでね……ゆが!」 言われたとおり、離した。 当然の帰結として、床に叩きつけられた。 もういちど、もみあげを握って宙に引き上げる。 「かわいいれいむがお空を飛ぼうとしているかもしれないとは言えないとは言えないよ!」 いささか混乱しはじめているのかもしれない。 「二重否定なんか使いやがって……許せん!」 「ゆゆ! やめてね! いだいのはやめでね!」 風呂場に移動し、これを浴槽にぶんなげた。 「ゆぶべぇぇッ!?」 打ちどころが悪かったのか、強く放りすぎたのか、潰れたような悲鳴を発した。 「じじぃ! れいむを優しくあつかってね! れいむは『しんぐるまざ~』なんだからね!」 「シングルマザーって響きが妙に甘ったるいな。むかついたぜ」 男が準備したものは、これまたゆっくりショップでの購入品だ。 商品面は、「うー風船」。ちなみに商品札には、「うー☆ふーせん」と、書かれてあった。 「ゆん?」 それを浴槽の中に投げいれた。 その品は、ゆっくりを捕食するゆっくり、れみりゃそっくりの風船である。 大きさとしては、ピンポン玉サイズでしかない。 一方、成体れいむはバスケットボールほどの背丈がある。体積にしてみたら数十倍の違いがある。 が、成体れいむは歯を噛みならし、凝然とれみりゃを見つめ、その震えっぷりは同情さえ惹起されそうになる。 「れ、れみ……れ……あ、あれ……? 小さい……?」 十分以上も恐怖して、ようやく気付いたらしい。 すると、さすがの成体れいむも笑い声を上げるのだった。 「お、おちびちゃんなんだね! 怖くないね! ぜんっぜんっ、怖くないね!」 その背中は、浴槽の壁に密着していた。 「怖くないね! 怖くないもんね! れみりゃ! あやまってもおそいよ!」 母れいむの哄笑まじりの声は、 「うー」 という、れみりゃの鳴声によって阻止された。 風船が声を出している。種を明かせば、なんのことはない、風船の中に入っている、小型スピーカーの音である。 そしてその音は、男が遠隔操作しているのだった。 「うー。あまあまだどー」 母れいむは、 「イヒッ」 と、震えあがり、しーしーがあにゃるから噴射された。 「ごべんなざいぃぃぃぃぃィィィィぃぃっっっ! ……い、い……ち、違うよ! いまの無しだよ!」 れみりゃ故の恐怖と、赤ゆ故の安堵が拮抗しているらしい。 「ゆ? くさいよ? なんだかくさいよ? ゆゆ? だれかな? しーしー漏らしたのはだれなの!」 答えても無駄なので、作業を進めることにした。 風船からはチューブが伸びている。その管を伝ってゆくと、男が手に持っている電動式空気ポンプに辿りつく。 膨らまなくて、なにが風船か。 男が、ポンプのスイッチを押した。 風船が急速に膨らみはじめた。 「ゆゆ?」 みるみる大きくなってゆくれみりゃに、母れいむは驚愕にうち震えた。 「うー、うー、あまあまだどー」 電動音が風呂場を充たしているが、そんなもの、ゆっくりれいむにとっては何の手がかりにもなりはしない。 「こ、こっちごないでね! ごっぢごないでね! ごっぢごないでぇぇぇェェェ!」 「うー、うー、あまあまだどー」 大きくなっているから、接近しているように錯覚しているらしかった。 「おっぎぐならないでぇェェ! ぎょわいよぉぉォォォッッ! ゆっぐりざぜでぇぇぇッッ!」 「うー、うー? うー」 ますます、れみりゃは巨大になってゆく。まもなく、母れいむの体積を越えた。 「おぎゃァァァぁぁあぁァじゃぁァァァぁぁんっっ! だじゅげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!」 母れいむは、またも幼児退行を起こした。 れみりゃの巨大化はとどまるところをしらない。まず、バスタブの側面に風船が触れた。 そのころには、母れいむの数倍の巨大さになっている。 「うう~♪」 母れいむは、むやみやたらに「おそろしーしー」を振りまくばかりで、逃げようともしなければ、動こうともしていない。 ただただ泣き散らして、命乞いを繰りかえすばかりである。 「う~、あまあまだど~、たべるんだど~」 「ひっ……!」 母れいむは、息を止めた。無言のまま口を開閉させる。 「れ、れ、れ……」 (泣きだすかな? 抵抗するかな?) 男は固唾を呑んで、母れいむの行く末を見守った。 結論は、どちらでもなかった。 れいむは絶叫した。 「れいみゅたいむ! すたーとぉォォォォッッッ!」 「な、なんだぁ?」 鋭い声を放ったかと思ったら、じつに愉しそうに歌いだした。 「れいみゅのれ~、ゆっくりのれ~、まったりのれ~、れいみゅのま~、おちびちゃんのゆ~、ゆっくりのま~」 音程も歌詞もずれまくっている。 体を揺り動かしながら、さかんに歌い上げている。 かと思ったら、 「おもいだちた! ゆっくりしちぇいっちぇね!」 と、叫んだ。 「そうだ! れいみゅは かわいいの! あいどるなの!」 まるで前後の繋がりがない。 「あいどるは うんちしないの!」 混乱しているようだ。 その証拠に「うんうん」ではなく「うんち」になっている。 「でも れいみゅは しゅるの! だきゃら うんうん しゅりゅの! いまは でにゃいの! でもしゅっきり!」 あんよを振りかざし、ぺちぺちとバスタブに叩きつけ、 「きょきょきょきょきょきょきょきょきょきょ」 笑いだした。 「てけり・り!」 と、叫んだのはおそらく偶然かとおもわれた。 「あ! おちびちゃん!」 虚空に向かって叫んだ。 しかしその表情は真に迫っており、声だけ聞いたら本当にいると思うだろう。 「おかーしゃんと しゅっきりしようね!」 満面の笑みで、語りかけた。 「すーぴゃー! きんっしんっそうっかんっ! ちゃいむ!」 幼児言葉で宣告する。 そして、母れいむは虚空にむかって、猛然と腰をふりまくるのだった。 「いっくよ~…すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」 母れいむの腹のあたりから、突起のようなものがせり上がってくる。 「すごいよ! おちびちゃんの まむまむは しこうの いっぴんだよ!」 それは、精神が肉体を支配した瞬間だった。 「……すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」 間違いない。 「すごいよ! おちびちゃんの しめつけは まんりきの ようだよ!」 ぺにぺにだった。 「……すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……」 雷撃を受けたように、母れいむが目を見開く。 「しゅっきり~♪」 その目。 その涎。 その涙。 その震え。 その顔つき。 恍惚としている。 そして、母れいむのぺにぺにの先端から、びゅっと、なにやら透明な液体がほとばしった。 「うー」 風船が唸った。 母れいむの天に昇るような表情が、一瞬にして地獄に叩きつけられたかのような絶望の色に染まった。 「れみりゃだぁぁァァァぁぁァァぁァッッ! ぺにぺにをぐらえぇぇぇぇェェェッッ!」 母れいむが、風船に己のぺにぺにを突き出した。 「あっ……」 咄嗟に、男は耳をふさいだ。 風船に、ぺにぺにが刺さった。 炸裂音。 男は、おそるおそる目をあけた。 「……ゅ……ゅ……ゅ……ゅ……」 バスタブの中で、母れいむは気絶していた。口と眼下から餡子を吐いている。うんうんも垂れ流している。 ぺにぺには見事に切断されていた。 男はしばし思案した。 風呂場から出た。次に戻ってきたときには、両手には二本の瓶と餌袋が持たれていた。 瓶については、かたや、繁殖用高濃度栄養剤。かたや、植物型にんっしん用精液。 まるごと母れいむにぶちまけた。魔法のように、母れいむの頭上から茎が伸び、ゆっくりの実が成った。 袋をやぶり、乾燥餌をばらまいた。 風呂場を出た。 迫力が足りない。 と、それを見上げて、男は思った。 机の上で、何かが回っている。 「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」 それは、卓状扇風機を改造してこしらえたものだった。 網は外され、羽も外され、回転体が剥き出しになっている。 「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」 そのモーターには、紐付き三女れいむがくくりつけられている。 風力「強」で稼働している。 「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」 三女れいむは、回転していた。 以前には、紐で吊るして、ゆっくりれいむそのものに横回転を与えた。 「ゆびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅッッッ!」 しかし今度は、モーターを中心とした円運動を展開している。 男はスイッチを切った。 電動音が止み、 「ゆべぇ……」 三女れいむはぶらんと垂れ下がった。 「ゅげぇ……」 餡子も吐いた。 「れいむぅ、起きてよ~♪」 などと言いながら、男は三女れいむのあにゃるにピンを刺す。 「ゆぎゅいぃぃぃッ!」 跳ねるように起きてくれた。 「じ……じじぃ……だずげで……おねぎゃぃ……」 「うるさいっ♪」 有無をいわせず、今度はあんよを貫通させた。 「ぴぃぃぃィィィィィィッッ! いぢゃぃぃぃぃぃッッ! ぬいぢぇぇぇぇッッ! ぴぃぃぃぃぃッッッ!」 「うるせぇっての」 ピンの頭を、指ではじいた。振動が餡子に広がる。内部から発生する痛みはまた格別だったらしい。 「ゆげぇ……」 また気絶してしまった。どうも、三女れいむは意識が弱いらしい。すぐ失神してしまう。面白くない。 ふたたびピンの頭を揺らした。 「ぴぎぎぎぎっっっっ!」 蘇生した。 なるほど、痛みを与えつづければ意識も持続するのか。 机の上でへばっていた長女れいむをケースにぶちこみ、死なないようにオレンジジュースをぶちまける。 男はあたらしい作業にとりかかった。 作ったものは、餡子と皮でできたジオラマのようなものだった。 まず、皮をはりあわせて箱をつくった。 ゆっくりショップでは、棒状、板状など、さまざまなサイズや形の材料が売られており、 痒いところに手が届く品揃えを実現しているのだった。 さて、饅頭箱の外側は、アクリル板をはりあわせて補強した。 内部は自然が再現されていた。 ところどころに刺さっている棒は、樹木をイメージしてある。 箱の中央にはいびつな円錐形の盛り上がりがあって、これは山の見立てだ。 その山の頂上から、チューブが伸びている。 このチューブは山の深いところから伸びており、ただ植わっているのではない。多少山が崩れたぐらいでは倒れない。 見れば、チューブのなかには餡子が詰まっていた。 男は三女れいむを手に取る。 「おしょら……あまあま……」 ゾンビのようなせりふを吐いていた。 男は、チューブの口を三女れいむの後頭部に刺した。 「ふぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!」 舌を突き出して痛みを訴えてくる。 さらに、ライターであんよを炙った。言うまでもなく、動けなくするためだった。 「あぢゅぃっぃぃっぃぃぃっぃぃぃぃっっっ!」 しーしーが床にこぼれおちた。 「いぢゃぃよぉ……なんで……いぢゃぃ……れいみゅ……かわいいれいみゅ……かわいそう……ゆべぇぇぇぇッッ!」 「うっせーよ。炙られたくなかったら黙りな」 「ひぐっ……う……」 三女れいむは、強気に男を睨みつけた。男はまるで頓着せず、机の上に設けた高台に、三女れいむを置いた。 そこからだと、ジオラマの中が一望できる。 「おい」 男が、三女れいむにピンの切っ先を見せつけた。 「……れいみゅに……いちゃいこと……しゅりゅの……? なんで……しっとしてるの……?」 男はわずかに目を細めた。 そして、ジオラマの地面に、針を刺した。 「ぴぎゃぁぁあぁぁあぁぁあああぁぁっっ!」 三女れいむは豚のような悲鳴をあげた。ジオラマと三女れいむとは、チューブの餡子を通じて一体化しており、感覚も共有している。 男は、ほんの少し前まで関東地方においてのみ売られていた甘ったるい缶コーヒーをジオラマにぶちまけ、その場をあとにした。 浴槽には、カオスが溢れていた。 れいむ、れいむ、れいむ、れいむ、れいむ。 れいむだらけだ。 一本分の精液はいかんなくその効力を発揮しており、高濃度栄養剤の効果も相まって、 母れいむは、百をも越えるような膨大な赤ゆを産み落としていたのだった。 秩序など、生まれる方が不思議であろう。 「ゆ~は、ゆっきゅりの~、ゆ~♪」 「おちびちゃんたち! うるさいよ! 静かにしてね! わめかないでね! 無理やり生ませられた子なんだから、自重してね! お母さんは『しんぐるまざー』なんだから優しく扱ってね!」 「れいっぽぅッ! みょーいちど! れいっぽぅ!」 「ひだり~、れいみゅ~、みぎ~、れいみゅ~」 「ちゅーちゅーしゅりゅよ! ちゅー! ちゅー! ……にぎゃいぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」 「ぴぎゃぁぁぁぁぁ! おきゃーしゃんが れいみゅの あまあまをだべぢゃっだぁぁぁッ!」 「うるさいよ! 茎さんはおちびちゃんたちのものじゃないよ! 勝手なこといわないでね!」 「おきゃーしゃんの みょのでも にゃいよ!」 「しゅっきりー!」 「ゆゆ~♪ あまあまがありゅよ~~♪」 「おしょりゃとんでりゅ~♪ ……ゆんっ! れいみゅ、もーいっきゃい! もーいっきゃい!」 「れいみゅは ぷきゅぅぅ! れいみゅの ぷきゅぅぅぅ!」 「きゃわいくってごみぇんにぇ!」 「いぢゃぃぃぃぃぃぃっっ! れいみゅ たべぢゃだみぇぇぇぇぇ!」 「しゅっきり~♪」 「れいみゅの おきゃじゃり……」 「しゅーりしゅーり……ゆゆ!? にゃんだきゃ へんにゃ きもちに にゃってきちゃよ!」 「むーちゃ! むーちゃ! むー……しゅーやしゅーやしゅるよ!」 「すこすこすこすこ…………すこすこすこすこ………すこすこ……すこすこ……すこ……すこ――――――――――ゆんッッ!?」 「しゅーぴゃー! うんうん! ちゃいみゅ! みんにゃー! れいみゅのしゅーぴゃーうんうんちゃいむだよ~~」 「あしょんで~、おきゃーしゃ~ん! にぇーにぇー、あちょんでー」 「もっちょ……ゆっきゅり……しちゃきゃっちゃ…………」 「れいみゅの ぺにぺにが ぐんぐにる!」 「……ゅ……ゅぅ……」 「おねぇぇぇぇじゃぁぁぁぁんっ! どきょにいりゅのぉぉぉぉぉ! いじわりゅしにゃいでねぇぇぇぇッッ!」 「かたしてね! うんうんが臭いよ! さっさとうんうんかたしてね! 全然ゆっくりできないよ!」 「おしょをとんで、ゆべ! ……ふきゃぁぁぁぁぁっっ! ぴぎぃみゃぁぁぁァァぁぁ!」 「しゅっきりー!」 「……くちゃいぃぃぃぃぃッッ! きちゃにゃいぃぃぃぃぃっっっ! れいみゅの おぐぢに うんうんぎゃぁぁぁぁ!」 「おちびちゃんたち! さっさとあまあまを持ってきてね! ぜんぶでいいよ!」 「れいみゅの ますちゃー すぴゃーく! …………しゅっきりー!」 「れいみゅの おきゃじゃりに うんうん きゃけちゃだみぇぇぇぇぇっっ!」 「まちぇー、まちぇー」 「ゆわーん」 「ぐりゃいぃぃぃぃぃぃっっ! いぢゃいぃぃぃぃぃぃっっ!」 「れいみゅの まむまむが あらぶっちぇりゅよ!」 「しゅっきりー!」 「はふっ、あむっ、はふっ、うへっ……ぱにぇ~~♪ きょれ、ぱにぇ~♪」 「ゆゆ? ゆっきゅりできにゃい ゆっきゅりがいりゅよ? ゆっきゅり できにゃい! しぇいっしゃい しゅりゅよ!」 「ゆ~は~、ゆっきゅりにょ~、ゆ~」 「下手なおうたは止めてね! 餡子が腐るよ!」 「ゆぎ!? こりぇ……こりぇ……こりぇ うんうんだぁぁぁァァァぁぁぁぁ! うんうんちゃべちゃったぁぁぁぁぁぁぁッッ!」 「ゆっくりしていってね!」 混乱を鎮めたのは、男の一喝だった。 正直なところ、これほどのざわめきに対して有効かどうか疑わしかった。 だが、男の声に赤ゆたちは一斉に静まり返り、男を見上げると、 「ゆっきゅりしちぇいっちぇねぇ!」 と、寸分違わぬタイミングで答えたのだった。 (カクテルパーティー効果みたいなもんかな……?) などと思いながら、男は手にしていたケースのなかに、手当たりしだいに赤ゆを入れはじめた。 二十匹ほど回収し、立ち去ろうとしたとき、母れいむが声を張った。 「くそじじい! あまあまもってこい!」 赤ゆの群れが、それに続く。 「うるせえ!」 大喝してやると、鎮まった。 男は母れいむに一瞥をくれて、立ち去った。 男が去ったあとの風呂場では、赤ゆたちが発狂したかのように泣きはじめた。 男は三女れいむのところへと戻った。 ジオラマと接続された赤ゆっくりである。 積みあげられた辞書の上にたたずんでいる。あんよを焦がされており、動くことさえままならない。 「よし、お前ら」 と、男はケースの中のゆっくりに声をかけた。 赤ゆどもは、総じて震えていた。 「あまあまを食わせてやるぞ」 単純なものである。 「ゆぴ!」 と反応し、液晶に電流を流したように、赤ゆれいむ二十匹のもみあげが、ぴんと跳ねあがった。 「れいみゅにも、れいみゅにも、あまあまぁ!」 三女れいむも反応していたが、こちらは無視された。 「さあ、召し上がれっ」 男がケースにいたゆっくりたちを、ジオラマの中に放った。 「おしょりゃちょんでりゅ~♪」 「ゆゆ~ とりさんみちゃい~♪」 ぺちぺちぺちと、ジオラマにゆっくりどもが放たれた。 「あみゃあみゃどきょ~?」 さっそくあたりを見渡しはじめる赤ゆだったが、それらしきものは見えない。見えるのは、白っぽい、ぶよぶよしたものだけだ。 「はっはっは。その地面があまあまだよ」 「ゆゆん!」 鋭く反応したのは、高台の三女れいむである。 すでに三女れいむの感覚はジオラマにまで連結してしまっている。 「ゆゆぅ!」 今度は、ジオラマの二十匹が驚く番だった。地面が波打ったのだ。 これは、三女れいむの意志によるものだ。抵抗しているつもりなのだろうが、せいぜいジオラマを微かに揺らすのが限界だ。 「おっと。それ以上は何もないぞ。危険はない。安心しろ」 男は断言し、赤ゆを安堵させた。 「とにかく、食ってみろ」 「おちびちゃんたち! れいみゅをたべにゃいでね!」 三女れいむが声を張る。 「ほら。食ってみろ」 男が勧めてくる。 ゆっくりたちは逡巡した。 が、やがて二十匹の中の一匹が、おずおずと、地面から生えている棒を食んだ。 「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」 三女れいむが目をむいた。 「むーちゃ! むーちゃ!」 先陣を切った赤ゆは、ひきちぎった饅頭皮を咀嚼し、呑み下した。 みな一様にその反応を待つ。 その赤ゆは、ほかの赤ゆたちにとっては天使の囁きのような、そして三女れいむにとっては地獄行きの宣告のような一言を発したのだった。 「ちあわちぇ~~~~~♪」 赤ゆどもの顔が、一斉にほころんだ。 「ゆわーい!」 「むーちゃむーちゃちゃいむぢゃ~~~」 「やべでぇぇぇぇぇェェェェぇぇぇぇっっっっ!」 三女れいむの絶叫も、あまあまの誘惑の前には、なんら役にもたたないのだった。 二十匹の赤ゆは、三女れいむの絶叫をBGMにしながら、至福のむーちゃむーちゃたいむを味わいはじめた。 それは、三女れいむにとっては、二十匹の赤ゆたちに、際限なく体をむしばまれるのと、まったく同じだった。 「みゅーちゃ!」 「ぴぎゃぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁッッッ!」 「みゅーちゃ! みゅーちゃ!」 「ひゅごぉぉぉぉぉォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉッッッ!」 「みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ!」 「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!」 「みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ! みゅーちゃ!」 「……! ……ッ! ………ッ………ッッッ!!! ……ッ! ……! …ッッッ………ッッ…!! ………ッッッ…! ……ッッ……!!」 死ぬことは許されなかった。 ゆっくりの生命力は、餡子の総量に等しい。 そして地面の下部には、成体れいむのそれを遥かに超える量の餡子が蓄えられていた。 その様子を観察しているうちに。 男は、ひらめいた。 ==================================================================== 前衛芸術品。 と、言えないこともない。 本体とよぶべきものは、高さ二メートルを越える円筒だ。 表面はゆっくりの皮で覆われており、内部には濃厚な餡子がたっぷりと詰まっている。 この円筒の側面に、二百匹を越えるゆっくりれいむが埋めこまれている。 見上げ、見下ろし、睨みつけ。 舌を出し、もみあげを動かし、目をぎょろつかせ。 涙をこぼし、涎をたらし、汗を流し。 泣き喚き、助けを乞い、不明瞭な言語を述べたて。 ひとつとして、おなじ行動を取っているゆっくりはいなかった。 側面の一角には、ひときわ大きなゆっくりれいむが嵌めこまれている。 唯一の成体れいむだ。 その眼窩、口の中、頬、額にもゆっくりれいむが発生している。 土台もまた、饅頭の皮と、餡子によって支えられており、円筒と連結している。 この饅頭円筒はガラスケースの中に納められており、その台座はL字金具で固定されていた。 見れば、円筒は小刻みに振動し、あるいはゆらめき、うごめき、まるで生きているかのようだ。 いや、実際に生きている。 この円筒は、二百匹を越えるゆっくりれいむの共有物だ。 すべてのゆっくりが、すべてのゆっくりに対して、肉体の所有権をめぐって相争っている。 しかし、ケースの中の全てのゆっくりが、円筒に埋まっているわけではなかった。 「ちあわちぇ~~♪」 「むーちゃ! むーちゃ!」 「れいみゅはうんうんしゅりゅよ!」 「すーぱー! しーしー! たいむ!」 「れいみゅ たべしゅぎちゃったよ!」 「すーぱー! むーちゃむーちゃ! たいむ!」 「むーちゃ! むーちゃ!」 円筒のふもとでは、赤ゆたちが躍動していた。 赤ゆは、台座の饅頭皮を漁っている。漁ってはうんうんを漏らし、しーしーを放ち、睡眠を得、また食欲を満たしていた。 食うたびに、円筒に連結されているゆっくりたちに激痛が走った。 どこかで、だれかが食っている。 だから、痛みがない時間帯など、ただの一瞬もなかった。 ただし、円筒の下部と麓はアクリル板にて覆われていて、これに手を出すことはできなかった。 このアクリル板は、赤ゆの侵食によって円筒が倒壊するのをみごとに防いでいた。 観察を続ければ、すべてのゆっくりが躍動しているのではないと分かる。 何匹かのゆっくりは、虫の息であった。赤ゆはそれに近づかない。放置されていた。 永遠にゆっくりしてしまったゆっくりもいる。 こうしたゆっくりの足もとに、亀裂が走った。それは、口だった。食欲を充たす器官だった。 口は死んだゆっくりを食らい、台座の下でマグマのようにうごめいている餡子にとりこみ、消化する。 この口は、円筒そのものの本能のようなものだ。 死に行くものがいる一方で、生まれるものがいる。 円筒の一角にて、円筒に埋まっているゆっくりが、ぽろりと落ちた。 「ゆべっ」 大地に打ちつけられるも、柔らかい饅頭皮に助けられ、さしたる衝撃はなかった。 この赤ゆっくりは、 「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」 と、幸福に打ち震えるのだった。 空いた穴からは、むりむりと、新たなゆっくりの顔がせりあがってきた。 この円筒のほとんどの穴は、特殊なまむまむだった。 遅行性まむまむである。 普通のまむまむは、ゆっくりの顔がせり上がったら、ほどなく飛び出てくる。 しかしこの円筒のまむまむは、ふんだんに時間を消費して、産み落とす。 そのため、ゆっくりたちは生まれるまでの間、間断なき激痛を味わいつづけなければいけない。 だからこそ、産み落とされた赤子らは、幸福に感激する。 もう、痛みに悩まされることはないから。 そして、報復を決意する。 痛んだぶんだけ、痛めようと。 だから、一心不乱に食うのだった。 円筒の内部には、無数のぺにぺにも埋まっている。 これらも特殊なぺにぺにで、独立性ぺにぺにだった。 本体から切り離されてもその機能を喪わず、餡子のなかで精液噴射を繰りかえし、子種を供給しつづけている。 子種は餡子を得てゆっくりになる。 ゆっくりは遅行性まむまむに送り込まれて激痛に苛む。 やがて産まれて喰いつづける生涯を歩む。 そして死んでは餡子に還る。 この餡子は、生態系の維持につかわれる。 ガラスケースの中では、生態系が循環していた。 唯一。 永遠に産まれない、円筒の呪縛から放たれることがゆるされていないゆっくりが、五匹いた。 これらが産まれない理由はただひとつ、そのれいむは遅行性まむまむに埋まっているのではなく、直接円筒と接続しているからだ。 このれいむたちだけは例外的に、このガラスケースそのものが壊されるその日まで、激痛に耐え続けなくてはいけない。 男は満足していた。 自分は一個の宇宙を誕生させてしまったのだと思っていた。 今日もガラスケースのゆっくり地獄を観察する。 このケースは完全防音だ。声が外に漏れることはない。 男は時々、探してみる。 母親はすぐに分かるが、長女は、次女は、三女は、末っ子は、はたしてどこに埋まっていたものか、忘れてしまうのだ。 やがて見つけて、 「ああ、いたいた……。今日も元気そうだ」 彼女たちの口は一様に、ある一言を発していた。 「殺して……かな?」 読唇術は苦手である。ゆっくりならば尚更だ。 殺すわけにはいかない。奇跡の循環がいつまで続くのか、見届けなければならないのだから。 (終わり) 投稿作品: anko1599 グロテスクなれいむ(後) anko1577 トランクス現象 anko1568 突然変異種まりさ anko1567 お口を開けると anko1565 れいむの義務
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第43話「魔神 月に咆える?」に登場。 別名:発砲怪人 身長:1.6~ 45m 体重:120kg~20000t 出身地:グロテス星 出現地:蓮根湖畔 弱点:ウルトラスパーク 演:加地健太郎(人間体) 地球侵略のために、伊吹隊長とその家族を狙った宇宙人。 伊吹の妻・葉子の郷里である信州・蓮根湖畔の農村に、農民の姿で潜伏していた。 葉子と美奈子を人質に取り、MATの解散とMAT海底基地?の破壊を要求してきた。 さらに、村にあったご神体を巨大化させたコダイゴンを操り、村を攻撃した。 地上から速射砲でコダイゴンを援護していたが、人質を奪還されて形勢不利になると巨大化し、コダイゴンと協力してウルトラマンと対戦した。最後は、ウルトラスパークで身体を真っ二つにされて絶命した。 言葉遣いは地球に順応していて、人間くさい日本語の悪態を語るのが特徴。 彼を人々が「星人」と呼んで以降、ウルトラシリーズでは宇宙からの侵略者を星人と呼ぶことが定着した。
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弱者は、時に強者となる。 「私は、差別されてきたんです!」 「息子は二歳になったばかりなのに、夫に先立たれてしまい……」 そんなことを言われると、大抵の人は思ってしまう。 助けてあげたい、と。 そして往々にして、その心の間隙には、悪魔の囁きが吹きこまれるものだ。 弱者を助けるのが恵まれた人々の義務じゃないか、と。 だが。 善意の援助が、弱者の自立を促すとは限らない。 それは時として、弱者に援助の存在を自明のものとし、増長させ、自立を阻害してしまう。 むろん、事実として、そうでないケース――自助を重んじ、やむなき援助を受けることに心苦しさを覚える善人――のほうが圧倒的に多い。 が、後者よりも、前者の方が目立ってしまうのも、また事実なのであった。 ========================================================================= そのゆっくりの群れでは、かつて差別が横行していた。 いまは、ない。 が、かつてはあった。 「でいむ差別」 とでも、呼ぶべきものである。 その群れの中では、れいむは生まれながらにして低い地位を強要されてきた。 その原因は、れいむ種の特性にあった。 ゆっくりできないゆっくりは、 「げす」 と、呼称される。 げすの処理は、比較的簡単だ。 追放あるいは駆除してしまえばそれで済む。見分けるのも簡単だ。 実のところ、ゲス化ゆっくりが群れに与える被害というものは、考えているよりも、大きくならなかったりする。 被害が拡大してしまうまえに、ゲスの烙印を押されて、被害の根源が断ち切られてしまうからだ。 が、「でいぶ」は違う。 でいぶに共通した特徴としては、我儘、傲慢、自信過剰、依存精神、自己犠牲の欠如などが挙げられる。 付きあってはじめのうちは、通常のれいむ種とほとんど判別つかない。 そもそも、れいむ種はおおむね我儘であり、それをもってでいぶの判定を付けるのは、至難の業だ。 そして都合の悪いことに、でいぶは信仰的ともいえる自信をもっている。 泣き喚きは真に迫り、被害の訴えは心揺さぶる。 ゆえに、 (ほんとうに、こまっているんじゃないのか) という疑念を、つねに、ほかのゆっくりに与えてしまう。 結果、でいぶを増長させるだけの援助が積みかさなり、でいぶは驕り、他のゆっくりたちは腐るようにして飢えてゆく。 こうむる被害は、ゲスの比ではない。 「だったら……れいむ種を、すべて迫害してしまえばいいじゃないか」 と、だれかが言ったらしい。 その群れは、この考えを受け入れた。 れいむ種にとっては、受難の歴史のはじまりを意味していた。 では、なぜ群れは差別を棄てたのか。 理由は単純だった。 善良なゆっくりが殖えすぎたのだ。 れいむ種区別により、でいぶの被害は激減し、群れは安泰した。平和を貪った。 泰平はゆっくりたちに、 「この世には、悪人がいる」 という、至極まっとうな摂理を忘れさせた。 あるときから、ゆっくりたちが言いはじめた。 「れいむ……かわいそう」 貧者への同情は、いつしか組織への激怒となった。 組織への激怒は、やがて社会への行動となった。 社会への行動は、ついに差別撤廃をもたらした。 れいむ種は、ほかのゆっくりと、まったく同等の存在になった。 ところが。 れいむ種以外のゆっくりたちの心には、れいむ種に対する後ろめたさが醸成されていた。 「悪いことをしてきた」 と、思ってきた。 だから、 「埋め合わせを、しないと」 と、無意識のうちに決意した。 その無意識もまた、人間界では差別感情と呼ばれていることを、ゆっくりたちが知る由もない。 ゆっくりたちは、世代を重ねた。 れいむは、埋め合わせを要求しつづけた。 ほかのゆっくりは、それに応じた。 もはやどのような差別があったものか実感できなくなるほどの世代が重ねられ。 グロテスクな群れが、完成した。 暴君となった弱者と、反乱の概念さえも忘却した奴隷たちしか存在しない、死に至る病に冒された群れが。 ========================================================================= れいむは、差し出された食糧を一瞥すると、平伏するゆっくりまりさに蔑視を投げつけた。 「これだけぇ? 言ったよね? れいむ言ったよね? 草さんに載せきれないくらいのあまあまを集めろって言ったよねぇ?」 れいむは、巣の中で横になっている。 ねめつけられたまりさは、その黒い帽子の先端が水平になるほど平伏し、恐縮しきっていた。 そこは、れいむの居宅だった。 ゆっくりの巣穴としてはたいへんに珍しく、横穴を掘り進めた造りではない。蟻塚のように、土を盛りあげてこしらえた代物だった。 その家は、ゆっくりの手によるものとは信じがたい。 立地はケヤキの樹の根もとにあり、樹冠が雨をさえぎってくれる。 土と泥をこねあわせた建材は、保温効果に優れ、冬の寒きを遮断する。 その大きさといい、建築の知恵といい、ゆっくり建造の常識をはずれている。 家具もすばらしい。 れいむが横になっているベッドは、鳥の羽による最上級品だ。土のテーブルは、外から拾ってきた白いクロスがかけられている。 土の壁には、ゆっくりが「たからもの」と呼んで蒐集に走る、ビー玉、ビーズ、ガラス玉、硬貨などが整然と嵌めこまれていた。 さらに、れいむの両脇を、二匹ずつ合計四匹の屈強なゆっくりが固めている。 護衛であった。 そのような豪邸にあっては、まりさの姿は異物でしかなかった。 帽子のつばには切れ込みが入り、肌は薄汚れているうえに無数の傷が見え、髪の金色は沈んでいる。 「ご、ごめんなさい、なんだぜ……。 必死に集めたんだぜ……。 でも、それが、限界で……」 れいむの足もとには、食べものを積載した葉っぱが差し出されていた。 ゆっくりがときおり使用する、運搬用の葉っぱだ。 そこに、野苺、サクランボ、山葡萄、蜂蜜などが積みこまれている。 みな、ゆっくりに生まれついたならば一度は口にしなければ死んでも死にきれない、極上の甘味だ。 とくに蜂蜜などは、その採集に多大なリスクがつきまとうため、滅多に手に入るものではない。 ところが、これらの戦果でさえ、れいむの欲望を満たすにはまるで及ばなかった。 れいむは、鬼の形相をうかべた。 「ひっし? いま 必死って いった? なんて心ない言葉なの? 必死で……。こんなにあまあまが少ないはずないよ!」 膨大な甘味も、残念ながられいむの基準を充たすものではなかった。 れいむの要求したのは、「草さんに載せきれないほどのあまあま」だ。 葉っぱの積載量をはるかに超過するほどの、浴びれるほど、泳げるほどの甘味を欲していたのだ。 叱責はとまらない。 「必死の意味も知らないの? れいむに尽くすってことでしょうがぁッ! そんなことも知らないの? 馬鹿なの? あ……ごめんね! まりさは馬鹿だったんだね! そんなこと分かり切ってたね! 分かり切ったことを訊いちゃって、れいむったら……はずかちぃー!」 爆笑が発生した。身をよじり、涙をこぼし、恥も外聞もなく、れいむは笑い転げた。 まりさの表情は平伏しているためにうかがえない。ただ、帽子の先端は小刻みに揺れている。 ひとくさり笑い終えると、突然真顔になって、寝転がったまま声を投げつけた。 「……まりさ? なにしてるのよ? わらいなさいよ。 笑いなさい。命令してるでしょ? 聞こえないの? わらいなさいよ」 まりさは、顔を上げた。目は充血し、下唇が切れていた。 何かを決心したような顔つきで、まりさは口もとをゆがませた。 は、は、は。 と、乾燥しきった笑い声があがった。 その声を耳にして、れいむは蛆虫を見るかのような顔をした。 「まりさ! れいむは、『笑え』って言ったのよ! だれが! すーぱーぶっさいくたいむをやれって言ったのよ! やめてね! 見ているだけで吐き気がするよ! れいむのダイヤモンドアイズを穢さないでね! まったく! その汚らしい身なりでれいむの前に来るだけでも冒涜! それなのに! すーぱーぶっさいくたいむまでやるの? 恥ずかしいね! まりさはイカレポンチだね! の~たりんだね!」 まりさの笑い声がぴたりと止まった。 一方、れいむは眼下のあまあまをあらためて検分し、盛大に溜息をもらした。 「はぁ……今日のあまあまさんは これだけかぁ……。 ……全然ッ足りないよ! この群れの無能力と無気力には呆れるばかりだね! ……まりさ!」 「は、はい! なのぜ!」 「差別するなァッ!」 この雄叫びをあげると、この群れのゆっくりたちは、一様にその身を拘束されてしまう。 ほとんど――本能になっていた。 「恥ずかしくないの!? れいむは『しんぐるまざー』なんだよ! それだけじゃない、差別されてきたんだよ! ずっとだよ! だからまりさたちは『うめあわせ』しなきゃならないんだよ! でも、目のまえにあるあまあまさんは……全ッ然、足りない! これはもう、まりさたちが、れいむを見下している証拠だね! 差別してるんだね! 違うと言うなら、明日はもっともっと、もォっと、あまあまを持ってくるんだね!」 まりさは縮こまっていた。だが、心中胸をなで下ろしていた。明日の話が出たということは、もうじき罵倒も終わるだろう。 「こんなものしか献上できないまりさは……制裁するよ!」 制裁。その単語を受けて、まりさは絶叫せざるをえなかった。 「それだけは! ご勘弁なのぜぇ!」 悲鳴が轟く。 れいむの左右をかためる護衛は、微動だにしていない。 しかし、この悲鳴は演技だった。実のところは、ほとんど動揺していなかった。 れいむの眼前に進み出ると、かならず制裁される。重箱の隅を突くような理由でもって、制裁をされる。 「どうせ、制裁されるんだぜ」 という覚悟があるから、不快こそあれ恐怖はしなかった。 むしろ、制裁とは解放が近いとの証左であり、安堵すらもたらす。 ただ、恐怖を前面に押し出さないと、れいむが不愉快になり、制裁時間が長引いてしまう。 そのため群れのゆっくりたちは、いつでも本気の恐怖を演じられるという、ずいぶんと奇怪な能力を身につけてしまっていた。 「ふふんっ!」 れいむはふんぞり返った。嗜虐色に染まった目をまりさに向ける。まりさは弁論を尽くして温情を懇願する。 しかし、哀訴は左から右に流れていってしまっていた。勝ち誇った笑みを向けて、壇上から宣言した。 「その必死さを、どうしてあまあま集めにむけられないの? やっぱりまりさは、全力を尽くしていなかったんだね! 気合いが足りなかったんだね! 根性も乏しかったんだね! そんなまりさには、制裁するしかないよ!」 まりさは涙を流しながら――これも演技だ――懇願するものの、やがて諦めて黙った。正確には諦めたふりをした。 まず、献上品のあまあまを隅によかした。 そして、ゆっくりにとって生命の次に重要な帽子をみずから脱ぐと、中身がれいむに見えるように突き出した。 「よっこらせ……」 れいむは上体を起こし、仰向けになった。帽子にあんよを向けている。れいむの目が閉じられて、頬が上気した。 「れいむの! すーぱー! せいっすいたいむ! はずかちぃー!」 れいむは頬を赤らめた。瞳がきゅっと閉じられ、眉毛は垂れさがり、口は阿呆のようになる。 聖水タイム。それは通常の排泄行為ではない。制裁をするときにのみ、その言葉が使われる。 れいむのあにゃるから、砂糖水が噴射された。 砂糖水は、放物線を描いて、みごとにまりさの帽子の中に注がれてゆく。 その精度には、寸分のずれもなかった。 なにごとにも乱雑なれいむ種としては、おどろくほどの正確さだ。 やがて、放尿がやんだ。 「すっきり! ……さあ、かぶってね。れいむのしーしー、いっぱい浴びてね! まりさは、れいむのしーしーを浴せて幸せだね! ゆん? これじゃ制裁にならないね! まーいーや! すっきりしたし!」 誇らしげとさえ言える完璧な笑みを浮かべているのだった。 まりさは、トンガリ帽子を回収すると、中身のしーしーを逃さぬように、すばやく被った。 あたりまえの現象として、帽子の隙間から水が垂れてくる。 「ゆゆ~」 その時、巣穴のさらに奥から、子供のゆっくりれいむが登場した。すでに赤子とは呼べない大きさにまで育っている。 いや、さして時を経ることなく、成体とはいわずとも、独り立ちすべき時がやってくるだろう。 しかし、口もとからはだらしなく涎が垂れ、いっぽうで眉はきりりとつり上がっていた。目は食欲に輝いている。それは自立寸前のゆっくりのそれではない。 その子れいむを見た瞬間を、君主の瞳が滝のように垂れ下がった。 「おちびちゃん。どうしたのかな~」 その子れいむは、専制君主の子供だった。れいむには四匹の子供がいて、この子れいむは長女にあたる。 長女れいむは、さながら犬のように鼻を利かせた。 「あみゃあみゃしゃんの においが しゅりゅよ! あみゃあみゃしゃ~ん、どきょ~? れいみゅ、おなきゃちゅいた!」 眼光を鋭くして甘味を探る。探るまでもなく即座に見つけた。 「ゆぅぅ! こんにゃ ときょりょに あみゃあみゃしゃんが ありゅよ!」 奇声にも近い甲高い声をあげて、長女れいむは甘味に向かった。 「ゆっふ~。れいみゅ! むーしゃむーしゃ しちゃうよ!」 「待ってね! おちびちゃん、待ってね!」 あまあまに飛びかかろうとする長女れいむだったが、すかさず、それを母れいむが押しとどめた。 長女れいむは、あまあまを目前にしてお預けを食わされるころが信じられず、母れいむに不満の目を向けた。 「れいみゅ、おなきゃが すいちぇるんぢゃよ! ぷきゅー、ぷきゅー」 不満を露骨に口にして、母れいむは悩ましげに言い訳した。 「がまんしてね! 妹にも分けてあげるんだからね!」 長女れいむには、三人の妹がいる。長女たるもの、甘味を妹に優先させるのは当然のことともいえる。 しかし長女れいむは転がりまわってだだをこねた。 「やじゃッ! れいみゅが ひとりじみぇ しゅるんだもん! ぷきゅー」 「妹のことも考えてあげてね! じゃないとゆっくりできないよ!」 「ちゃべちゃいー!」 「仕方ないよ! まりさがいっぱい採ってこなかったんだから! 文句はまりさに言ってね!」 「ぷきゅっ!」 母れいむの言葉によって、長女れいむの怒りの矛先は、みごとにまりさへと転じた。 長女れいむはのたうちまわるのを止めると、まりさの眼前に跳ねてゆく。 しかし、真っ先に長女れいむの口から発せられた言葉は、激情ではなく疑念だった。 「ゆゆ? まりちゃは どーちて しーしーをかぶっちぇるの?」 答えたのは母れいむだ。 「まりさの趣味なんだよ!」 「きちゃにゃい!」 長女れいむは、もみあげを勇躍させた。たしかに、汚物を頭から垂れ流しているゆっくりは、汚いとしか言いようがなかった。 「まりちゃ! ふじゃけるのも いいきゃげんに しちぇね! れいみゅは おにゃきゃが すいちぇるんだよ! きゃわいそう にゃんだよ! にゃんで いっぴゃい とってこないの? やるき にゃいの? むのー にゃの?」 まりさは喉元にこみあげてくる叫びを封じ込めるために、口もとに全神経を集めていた。 「れいみゅは しゃべつ されちぇ きちゃんだよ!」 と、長女れいむは言う。その瞳には涙が溜まり、差別という、えてしてどこか浮ついた言葉を補強する。 「だきゃらね いっぴゃい あみゃあみゃさんを たべる けんりが ありゅの! きょれはね しんり にゃんだよ! おきゃーしゃんが いっちぇちゃもん! ぷきゅー!」 やれやれ。といった風に母れいむはかぶりを振ると、身を起こして長女れいむを諭しにかかる。 「おちびちゃん! そこまでにしてあげてね。無能に無能って言っちゃ、かわいそうでしょ!」 「ちがうもん! れいみゅを ゆっきゅりさせない まりちゃにゃんて かわいそーじゃ にゃいんだもん!」 どう足掻いてもあまあまを摂取したいらしい。長女れいむの叫びは続く。 「まりちゃ。 れいみゅはね……あまあまが たべちゃいだけにゃの! かんちゃんでちょ? できるでしょ? にゃんで、しにゃいの? れいみゅのこと きりゃいにゃの? どーちて れいみゅを……ゆっきゅり させにゃいの?」 まりさは、長女れいむを蹴り飛ばしたくなった。 あまあまさんを採集する苦労が、まるで分かっていない。雑草摘みと似たようなものだろうと考えている節がある。 甘いものは天然にはほとんどない。そのうえ、ほかの生きものとの競合を勝ち抜かねばならない。 野苺を蛇に先んじて獲得するのに、どれだけの知恵が要るか。 さくらんぼを、鳥についばまれるまえに拾うのに、どれだけの緊張を強いられるか。 ミツバチの大群をかいくぐり、その巣から蜜を蒐集するのに、いかほどの危険を冒さなければならないのか。 長女れいむは、まるで理解していない。 だからこそ、「かんたんでしょ?」「なんでしないの?」と言える。 しかし。 (それを教えていないのは、おれたちなんだぜ……) と、ついつい、まりさは思ってしまう。 「まりさ! 何とか言いなさい」 母れいむに急かされて、まりさは言葉を絞り出した。 「その……草さんだったら、いっぱい」 草、茸、虫だったら、連日にわたり帽子に満載できるほど獲得できるだろう。その自信も実績もあった。 ところが、この答えは長女れいむの、不満どころではない激怒を買った。 「くさしゃん!? あんにゃ まじゅいもの たべりゃれにゃいよ! ほんきで いっちぇるの? くさしゃんは、まじゅいんだよ! ペッペー にゃんだよ! ゆっきゅり りきゃい しちぇね!」 長女れいむの目がますます潤みだしている。馬鹿にされた、と思っていた。母れいむもまた、まりさの言葉を侮蔑と受け取った。 「まりさ。あなた、なんてこと言うの? おちびちゃんたちに、草さんなんて食べさせられるはずないでしょうがぁ! おちびちゃんたちの舌はね、まりさとは違って肥えていんだよ! 上品なんだよ! 尊いんだよ! 言葉を選んでね!」 まりさとしては、これほどの侮辱と激怒が返ってくるとは、夢にも思っていなかった。 腹いっぱい食べられる。それだけでなぜ満足できないのか。 「ご……ごめんなさい、なのぜ……」 謝罪するしかない。言い訳したら殴られる。 「誠意が感じられないね! 誠意を見せてね!」 母れいむが怒鳴ると、長女れいむは嬉しそうに追随した。 「しぇーいを みせちぇね! ぷきゅー」 長女れいむが、まりさの足もとで、すこし動けば踏みつぶせそうなところで、あんよを振り回して愉しそうに怒っていた。 「わ、分かったんだぜ……」 なるべく感情をあらわさず、冷淡な声でまりさは答えた。そして、あまあま蒐集を理由にしてその場を立ち去ろうとした。 「ああ、まりさ」 ところが、背を向けようとするまりさを、母れいむは押しとどめた。 まりさが顔を上げた。 母れいむは、見軒に谷間をつくり、しかし口元には嗤いを浮かべ、至極嬉しそうに口を開いた。 「れいむのところで……れいぱーを飼っているの、知ってる?」 知らぬものなど、いなかった。 豪邸の離れに、牢屋がつくられている。そこでは、れいぱー化を罹患したありすを飼いならしている。 夜な夜な響いてくる、「ゆほォッ!」「しゅっぎりざぜろォッ!」というキチガイじみた声は、ゆっくりたちの安眠を阻害している。 「知ってるんだぜ」 静かに、まりさは答えた。背中に冷たい汗が、一筋流れた。 母れいむは、 「まりさのツガイは、ありすだったわね」 とも、言った。 確かに、まりさのツガイはありすだ。まりさは底冷えするような声で反問した。 「なにが、いいたいんだぜ」 「明日はもっともっと、あまあまをもってきてね! たべきれないくらいにね! そうじゃないと、れいぱー部屋にありすを放りこむよ!」 長女れいむが追従する。 「れいっぽぅ!」 特に意味はない言葉だ。まりさは無視した。 「……それは、脅しなんだぜ……」 「脅し? 何言っているの? 脅しなんて野蛮な方法、れいむがするはずないでしょう! いい? よく聞きなさいね。 れいむは、かわいそうなの。『しんぐるまざー』で、『ひさべつかいきゅう』なの」 「ひしゃべちゅかいきゅ~」 長女れいむが躍っている。被差別階級の語義を知っているかは、甚だ怪しい。母れいむが続けた。 「まりさたちはね、差別したぶんだけ、れいむに援助しなきゃいけないの! れいむを満足させられるだけ、援助しなきゃならないの! だから、あまあまが足りないぶんは、娯楽で埋め合わせしろって言ってるの! れいぱー劇場は、ゆっくりできるからね!」 「ゆっきゅりー」 まりさは、凝然と母れいむを見上げた。 目には悲痛、口には自信。 自分は差別されつづけてきたとする悲劇と、だからこそ自分は正しいとする確信とが、そこには見て取れた。 「わ……分かったんだぜ」 と、言うしかなかった。 立ち去る時、 「せいぜい、気張ってね!」 挨拶代わりに、背中に嘲りを浴びせられた。 「きばっちぇにぇ~」 赤子の魂の入った成人間近のゆっくりの声が、それに続いた。 粛々と豪邸を後にする。 豪邸の入口には、これまた屈強なゆっくりが配されていた。 まりさは、理不尽を呪った。 (仕方ないんだぜ……まりさたちは、れいむを差別してきたんだぜ……) 心の底から、まりさだけではない、群れのゆっくりは全員そう思っている。 (でも……) と、いつもその後におなじ疑念が続くのだった。 (差別が止んだのは……もう……まりさのお婆ちゃんの時だったんだぜ……) 少なくとも、れいむだから差別する、ということはなくなった。 だから。 あの豪邸に住んでいるれいむ一族が、差別を受けたと訴える証拠は、どこにもない。 (いつまで『うめあわせ』すれば、いいんだぜ……) その疑問に答えるゆっくりは、いなかった。 ========================================================================= 豪邸の敷地から出た。 群れの本拠地は、れいむの豪邸とは離れている。 れいむの、 「ほかのゆっくりと一緒の空気は吸いたくないよ! 餡子さんが腐るよ!」 という鶴の一声により、群れの大多数は、豪邸から隔離されていた。 ちなみに、豪邸が別の場所にしりぞいたのではない。れいむ一家が群れのあった土地を占有し、他のゆっくりが他所へ移ったのである。 野道を進み、巣穴が完全に見えなくなったところで、まりさは帽子を脱いだ。 帽子のなかには、まだしーしーが残っていた。 「ふぅ……すーぱーごーくごーくたいむ、なんだぜ……」 そう言って、躊躇なく呑みはじめた。 魔法のような短い時間で、処分を完了した。 まりさはあたりを見渡した。 だれもいない。 しかし、まりさは不安でならなかった。 以前、似たような制裁をされたあと、だれもみていないところで、帽子の中身を棄ててしまったゆっくりがいた。 そのゆっくりは、 「ふけーざい」 という罪により、壮絶な拷問によって果てた。 証言を合せてみると、どうやら密偵がいるらしいことが分かった。 まりさは、挙動不審を気を付けながら、群れへと戻った。 巣穴に戻ると、ありすが待っていた。まりさのツガイだ。 「まりさ。おかえりなさい」 その目は身の安全を確認してきている。 カチューシャの朱は色褪せて、金髪は日に日に細くなってゆく。 一瞬。 このありすが、れいぱーに凌辱されている光景が頭に浮かんだ。 「ああ。ただいま、だぜ」 まりさも目で無事であったと答えた。 密偵だけではない、密告も奨励されている。だから、下手なことは言えない。 ありすが告発するとは思わないが、どこでだれが聞いているのか分からないから、いっときたりとも、気が抜けない。 「まりさ。いまから、みょんのお葬式よ。でれる?」 「お葬式……。ああ、でるんだぜ」 もし、ゆっくり研究者が――ほぼ変人と同義であり、半分ゆ虐趣味者と同義である――耳にしたら仰け反るような光景だった。 弔う。 という精神的行為、宗教的行為をするゆっくりなど、珍しいどころの騒ぎではない。ゆっくり保護団体が活気づくごと受けあいだ。 「わかった。そろそろはじまるわ。いきましょう」 弔う相手は、群れの若手のみょんだった。このみょんは狩猟と戦闘の才能があり、まりさにもよく懐いていた。 そのみょんは先日、献上品のあまあまを蒐集するときに、死に絶えた。 蜂蜜を集めるときに、ミツバチ数十匹にかこまれて殺された。 命と引き換えに集められたあまあまは、今日のうちにでも、れいむ一家によって蕩尽してしまうだろう。 そのとき、近くにはまりさがいた。 みょんの断末魔は依然として鮮度がたかく、耳にこびりついて離れなかった。 「いくんだぜ」 二匹は、巣穴を後にした。 葬式が執り行われる墓場は、居住区とはすこし離れている。とはいえ、さして時間もかからず到着するだろう。 「そういえば」 と、まりさは野道を往きながら、ありすに問いかけた。 「今日の、『おとまりかい』は、どこなんだぜ?」 「……ちぇん、よ」 それ以上、会話は続かなかった。 ありすの声は沈んでいる。その理由を、まりさは痛いほど分かっていた。 ちぇんは、ありすの友人だ。 親友とさえいえる。 ありすがつがい生活に不慣れなときは、ちぇんがありすを支えていたし、 ちぇんがその身に赤子を宿したまま未亡人になってからは、ありすがこれを支援していた。 「なにも起こらなければいいけど……」 やがて、二人は式場へと到着した。 ========================================================================= 広場の一隅に掘られた直方体の穴に、みょんの遺体がおさめられる。 全身の到るところに、刺し傷と、腫れものができあがっていて、とてもではないが、ゆっくりにはみえなかった。 ただ、汚れを洗い流された漆黒の髪飾りだけが、それがかつて、みょんと呼ばれていたゆっくりであることを認識させてくれる。 刀は佩いていなかった。 れいむの命令による刀狩りの産物だ。 「武器なんか持たせたら、反乱が起こるからね! れいむの可愛さに嫉妬したげすたちが、反乱しちゃうからね!」 理由といえば、それが理由だった。 ただ、鞘は残された。 これとて鈍器にはなりうる。わざわざ鞘だけを許可した理由は、次のようなものだった。 「かわいそうすぎるから、鞘だけは許してあげるよ!」 と、本人は言った。 が、だれも信じていなかった。 真の理由は、 「刀のない鞘をみて、せいぜい悲しんでね!」 というぐらいのものだった。 ぱちゅりーが、故人を惜しむ言葉を並べている。このぱちゅりーは、みょんのツガイだった。 まりさは、ぱちゅりーの横顔を見やった。 涙ひとつ浮かべていない。 ツガイを喪ったというのに。 その姿は、痛々しいまでに強かった。 次に、喪主の足もとにたたずんでいる、小さなみょんを見た。 二匹の子供だ。 父みょんの変わり果てた姿を凝然と見下ろし、唇を真一文字に切り結び、その姿は美しかった。 空は、鉛を溶かしこんだような、重たい雲で覆われていた。 その場に参集しているゆっくりたちは、一様に穿たれた穴を見下ろしているが、その顔には一筋の光明さえも宿っていなかった。 葬式が終わりにさしかかろうとしている。 ぱちゅりーが、別れの言葉を発した。 「……ゆっくりしていってね……」 周囲のゆっくりたちが唱和する。 『ゆっくりしていってね……』 ぱちゅりーが、遺体から視線を切り、参集しているゆっくりたちを見渡した。 「それでは……さいごに」 弔問ゆっくりたちが動きだす。 葬式の手法は簡単だ。言葉を送り、土葬に付す。それだけだった。 ゆっくりたちは、あたりに準備されていた土を遺体のみょんにかけていった。 やがて土葬は終わり、土饅頭が盛られ、今年で十二本目となる木の棒が突き刺さった。 ぱちゅりーは仲間たちの参集に感謝の言葉を述べると、閉式を宣言した。 その時だった。 「ゆゆ! なにやってるの~~♪」 明朗快活な声が、その場のゆっくりたちを氷漬けにしたように束縛した。 二十七匹のゆっくりたちが、声の主へと向きなおる。 跳び跳ねながらやってきたのは、子供のれいむだ。 豪邸住まいのれいむの、次女にあたり、成長段階は子ども真っ盛りといったところか。 「なにやってるの?」 子ゆっくりれいむに答えるゆっくりは、いなかった。みな、事故を恐れて近づこうとしない。 ところが喪主のぱちゅりーが、音もなく進み出た。 「お葬式よ」 「おしょーしき?」 子れいむが、首を傾げた。 「それ、な~に?」 「永遠にゆっくりしてしまったゆっくりを、おくりだすの」 ぱちゅりーは諭すように言う。 「どこへ?」 次女れいむの問いかけに、ぱちゅりーはかぶりを振った。 「分からないわ。でも、どこかにゆくのよ。ここではないどこか……こちらがわではない、あちらがわへ。 だからね、みんなで教えてあげるのよ。あちらがわでも ゆっくりしていってねって」 「ゆっくりしていってにぇッッ」 次女れいむが吼えた。少なからぬゆっくりが、その朗らかな言葉遣いに顔をしかめた。 「そう……。それがお葬式よ」 「わっからない!」 突然、子供れいむは甲高い声で怒鳴り上げた。ぱちゅりーはその豹変ぶりに唖然とする 「……え?」 「意味不明! そんなことして何になるの? おなかがふくれるの? ばかなの? しぬの? そんな馬鹿なことして恥ずかしくないの? きゃー! はずかちぃ~~~♪」 意味不明。そんなことして、何になるの。 お腹が膨れるの? 馬鹿なの? 死ぬの? そんな馬鹿なことして恥ずかしくないの? きゃー。 恥ずかしい。 それが、亭主を弔ったばかりの、ぱちゅりーに向けられた子れいむの言葉だった。 「うるさいみょん!」 反応があったのは、ぱちゅりーの足もとにいた、子供みょんだった。 「ゆ……」 途端に、次女れいむは怖気づいた。 「おちびちゃん! やめなさい!」 しかし、子みょんを制したのは、親たるぱちゅりーだった。鬼気迫る声で、何も言うなと命じる。子みょんはそれに従うしかなかった。 次女れいむは、失点を取りもどそうと、ひときわ明るい声で続けた。 「ふん! 馬鹿なみょん! 命拾いしたね! とにかく! お葬式! そんな非生産的なことしてるから、あまあまが集まらないんだよ! ゆっくり理解してね! ……あ。それとも、あれかな。 これって、あれかな。 あまあま集めが大変だから、みんなでさぼってるんだよね! にゃーるほど! あったまいい~♪」 ぱちゅりーは呆けたように口を開けた。。 その茫然ぶりを見て、次女れいむはピコピコともみあげを律動させた。 「わ~い。ぱちゅりー、論破! 論破しちゃった! 強くってごめんね~♪」 ピコピコが止まらない。 ピコ、ピコ。 ピコ、ぴこ。 ぴこっ、ぴこッ。ぴこぴこッ! 次女れいむの勢いは留まるところを知らない。ついに謳いだした。 「ばっかがいる~。 ばっかがいる~~。 救いがたい、ばかがいる~。 その~名前は~……はい! ぱちゅりーでしたー!」 唐突に子れいむが怒声を発した。 「どーして、みんな歌わないの! れいむは歌ってるんだよ! 歌え返すのが、礼儀でしょ! ぷくー!」 周囲のゆっくりたちは顔を見合わせた。やがて歌が始った。まず、子れいむが音頭を取る。 「ばっかがいる~。 ばっかがいる~~。 救いがたい、ばかがいる~。 その~名前は~……はい! ぱちゅりーでしたー!」 斉唱が追随した。 「ばっかが、いるぅ……。 ばっかが、いるぅ……。 すくいがたい、ばかがいるぅ……。 その……なまえは……はい……ぱちゅりーでしたー……」 ただ一匹、ぱちゅりーと、その子供のみょんだけは、堅く口を閉ざしていた。その歌を口ずさむのは、自殺であると言わんばかりに。 その様子を見て、次女れいむはいきり立つ。 「ふふん! 生意気なゆっくりがいるよ! せいっさいしちゃうよ!」 次女れいむが体当たりを始めた。 ぽよんぽよんと体当たりをくらわした。 ぱちゅりーは無言だった。子れいむともなると、それなりの重量がある。 しかし、成体ゆっくりに対してはさしたる打撃にはならなかった。 やがて面白くないと思いなおしたか、次女れいむは戦術を転じた。 「くだらない! お葬式なんて、くだらない! くだらないことは……このれいむが許さないよ! もうお葬式なんて禁止だね! 禁止~。 はい、これ命令ね! お墓を掘り起こしてね! ぜんぶでいいよ!」 最後の命令に、さすがのゆっくりたちも色をなした。 その雰囲気を敏感に感じ取った子れいむが、続けて恫喝した。 「ふ~ん。なにかな? そのふんいき。 まさか従わないの? いいの~? 密告しちゃうよ~。 おかーさんに密告しちゃうよ~。 いいのかな~?」 密告。それは、ゆっくりたちを動かしめるのに充分な力を持っていた。 それでも逡巡していたゆっくりたちだったが、一匹、また一匹と働きだした。 墓を、暴きに。 ただ、ぱちゅりーだけは動かなかった。 墓を睨みつけて、夫のゆっくりが暴かれる様を見つめるばかりだった。 「ゆゆん!」 そんなぱちゅりーの前に、墓暴きを命じた次女れいむが踊り出た。 「……」 ぱちゅりーは無言で押し通そうとする。 次女れいむは、舌をだらりと下げて、ぱちゅりーの眼下でダンスを繰り広げた。 もみあげを真横に伸ばし、跳ね躍る。 「ねえ、ねえ、どんなきもち? いま、どんなきもち? つがいの墓をあばかれたのって、どんなきもち? おちえちぇ~~。 れいみゅ、わきゃんにゃい~~」 戯れるように肌をすりあわせる、次女れいむ。ぱちゅりーの視線は掘り起こされつつあるみょんの墓に固定されていた。 「ゆべ!」 突然、ぱちゅりーの腹に顔をうずめていた次女れいむが、後ろへと飛び退いた。しかめっ面で叫び散らしはじめる。 「くさ! ぱちゅりーのまむまむ! くちゃい! くさってる! このまむまむ腐ってるよ! みんな~! 号外! ご~がい~! ぱちゅりーのまむまむは、腐ってま~す!」 次女れいむは、血相を浮かべている子供みょんのところに飛び、鼻を利かせた。 「くさ! こっちも、くちゃい! このみょん、クサレまむまむの匂いがするよ! こっちも、腐ってま~す!」 無言を貫き通す一家に対し、次女れいむが言葉を重ねた。 「ふふ! お葬式なんて、まえから知ってたよ! なに得意げになって話してたの? え? あちらがわ? おくりだす? もしかして本気でいってたの? あんな恥ずかしいこと本気で思ってたの? うける! うっける~。 ぱちゅりー! あなた道化の才能があるね!」 次女れいむは笑い転げた。 うけけけけ。 そんな声だ。 黙々と、墓あばきは続けられている。 しかしほとんどのゆっくりは土に還っていた。饅頭が放っておかれたら、土に還るしかない。 黒帽子。ピンクの飾り。カチューシャ。鞘。緑帽。 そうした象徴の破片だけが、わずかにサルベージされた。 ぱちゅりーには、主を喪った鞘が、渡された。 次女れいむがそれを見て、心底愉快げな表情をもって、言い放った。 「ふっふー。 ぱちゅりー、みぼーじんになっちゃったね! これからはその鞘で、いっしょうけんめい、おなっにぃ! してね! くっさいまむまむに、好きなだけ突っ込んでね! れいみゅ、やっしゃし~~♪」 可愛らしい声が、穴だらけの、広場の一隅に響き渡った。 ========================================================================= ちぇんは、まったくゆっくりできないでいた。 その理由は知れている。 巣穴にやってきた、三女れいむのためだ。 「きょうは、ここにしゅるよ!」 と、指定したところが、この日はちぇんの住まいだった。 三女れいむは、四匹いるれいむの子供の中で、唯一、豪邸に定住していない。 その代わり、別のゆっくりの棲家を渡り歩いている。 この習慣は、 「ろーてーしょん」 とも、 「おとまりかい」 とも、称されていた。 この夜の棲家の主は、ちぇんである。 「おとまりっかい、すりゅよ! かんっげい、しちぇね! ねつっれつにね!」 舌足らずの言葉で、三女れいむは熱烈歓迎を命じた。ちぇんは唯々諾々とこれを受け入れるしかない。 曇天は日が暮れるとともに切れ、夜の帳が落ちるとともに、野山は冷たい銀光に浸かることになった。 「ゆぅ……わかったよ~」 ちぇんの返答には熱意がない。 と、三女れいむは感じた。実際、そのとおりだった。 三女れいむが眉を吊り上げて、ぷくーをした。 「ぷきゅー! まじめに やっちぇね! やりにゃおし!」 「ゆー! わかるよー!」 ちぇんの絶叫が闇夜を切りさく。三女れいむは、きゃっきゃと笑いだした。 「ちぇん! ごはん! ぜんぶしか ゆるさにゃいよ!」 ちぇんは走った。即座に、その日集めた草やら茸やらを持ちだした。言われた通り、全部差し出した。 ちなみに三女れいむは、他のれいむ一家とは違って、植物も食す。 「ふふ! いっぱい ありゅね! でも、れいみゅ おにゃかが すいてにゃいんだよ!」 逐一、三女れいむは愉しげだ。 「だからね! おにゃかを すかせりゅんだよ!」 どうやって? ちぇんの総身に戦慄が走った。 「れいみゅの! すーぱー! うんうん! ちゃいむ! はずかちー!」 目も止まるような早業だった。三女れいむは仰向けになると、献上品の上にあんよを突き出し、その上にむりっと一発かました。 「しゅっきり!」 茫然自失のちぇんに、三女れいむが瞼をきゅっと閉じたまま、独白のような口調で、しかし明らかに聞かせる目的をもって、大声で言った。 「ゆゆ? おにゃかが すかにゃいよ!? にゃんでかな~。 ぴこんっ! しょーだった! れいみゅ おかーしゃんのときょろで おにゃかいっぱい あまあまを たべてきちゃんだった~。 おにゃかが すかにゃくて とーぜん! てへっ! れいみゅ いっぽん とりゃれちゃった!」 左斜め四十五度の中空に向けて、きらりとウィンクしてみせるのだった。 そして上体を起こして、燦然たる笑顔でちぇんに命じる。 「さあ、ちぇん! めしあがれ!」 「……ゆ? ……わからないよぉ……」 「もったいにゃい! たべにゃいと、もったいにゃい!」 全身を震わせて怒りを表現しつつ、三女れいむは、うんうんドレッシング掛けのサラダを食せと命じている。 「でも……うんうんが……」 「れいみゅのうんうん! おいちーよ? たべたことは にゃいけどね!」 沈黙が降りた。三女れいむは、にやけながら事の成り行きを見守ってゆく。 ちぇんは一息吸い込んで、呼吸を止め、一心不乱に食べはじめた。 哄笑が聞こえる。 何かが視界の端で愉しそうに跳ねている。 やがてちぇんは、壮絶な吐き気との死闘を制した。 「ぅ……たべきった、よ」 と、ちぇんは肩で息をしながら、完食を告げた。同時に、三女れいむの声が響いた。 「しゅっきりー!」 勝者への報酬は、お代り命令だった。 三女れいむの目は訴えている。「食え」と。 ちぇんはこれに従うしかなかった。 このちぇんは、強靱無比の神経をしていた。一度も嘔吐しなかったのはその証拠だった。 三女れいむの無理難題は続く。 「まけにゃいよ! つぎは しーしーだよ!」 「あ……おといれは、外だよ!」 ちぇんは悲鳴を上げそうになる。 「ふふん! れいみゅは おといれ つかったこと にゃいよ!」 これは真実だった。 「でもね! ちぇんがいうにゃら、おといれで しゅるよ!」 胸をなで下ろさざるを得ない。次にちゅちゅーせよなどと言われたら、精神が壊れてしまうかもしれない。 しかしその安堵は、次の瞬間、三女の言葉によって完膚なきまでに打ち砕かれることになる。 「ありぇだね! ありぇが おといれ だね!」 と、三女れいむが見据える先には、帽子があった。二つの尖がりが横に並んだような、不思議な帽子だ。 それは、らん種の象徴だった。 しかし、巣穴の中にはどこを見渡しても、らんの姿はなかった。 「それはだめだよー! わからないよー!」 慟哭は三女れいむを悦ばせるだけだ。あの帽子を持ってこい、いますぐ持ってこい、さもなくばお母さんに密告する。 そんなことを言って、三女れいむは藍帽子を持って来させた。 その帽子を傾けると、 「すーぱー! しーしー! たいむ! みにゃいでね~!」 帽子の中に注がれる砂糖水。三女れいむは頬を染め上げており、まったく極楽の境地に達していた。 「しゅっきり!」 ちぇんは震えていた。 その帽子だけは、誰にも傷つけさせてはならないと誓っていた。 では、なぜ隠しておかなかったのか? 理由はふたつある。 ひとつは、なんらかの隠し場所を有する巣穴を禁じられていること。 もうひとつは、なにかを隠していると判明したとき、ほぼ間違いなく制裁が待っているからだ。 「ゆゆ? ちぇん、にゃに ふるえてりゅの? この おぼーち いらにゃいんでしょ?」 真っ赤に充血した目を向けた。 「これは……ちぇんの、つがいの、お帽子だよ……」 「つがい……いにゃいよ?」 この巣穴に住んでいるのは、ちぇんだけだ。 「永遠に、ゆっくりしちゃったから……」 と、ちぇんは推測されて当然の事実を伝えた。 「にゃんで?」 三女れいむは朗らかな表情を崩さない。 「猪さんに、激突されて……あまあまを採りに行っているときに……」 「あまあましゃん!」 もみあげが鋭く跳ねあがった。 「ちぇん! そのあまあましゃん! ここにもってきちぇね! ぜんぶで いいよ!」 茫然としながらも、ちぇんは言葉を絞り出す。 「もう、ないよ……わからないよ……」 ちぇんの答えは、三女れいむを絶望させるとともに憤激させた。 「ふん! そこが かんじんにゃのに! つかえにゃい ちぇん! ゆるせにゃいよ! せいっさい すりゅよ!」 三女れいむが、ちぇんに猪さながらに突進した。腹部に激突し、ぽよんと跳ねかえされた。 ところが、転倒から起きあがったとき、その顔には驚喜の色が浮かんでいた。 「ゆゆ! ちぇんの おなきゃが にゃにか いったよ!」 無論、腹に口はついていない。 ちぇんはほんの少しだけ口もとに優しげな笑みを浮かべるのだった。 「にんっしん、してるんだよ……。らんしゃまの、子供だよ……」 ちぇんを生きながらえさせている原動力は、全て受胎している子供にあると言ってよかった。 三女れいむが、もみあげを振り回している。 「みちゃい!」 と、言った。 「え……。見たい?」 「みちゃい! ゆっくりあかちゃん、みちゃい!」 「まだ産まれないよ……」 「かんけい にゃいよ!」 三女れいむがちぇんの前に足を運んだ。 「ちぇん! うごかにゃいでね! うごいたら おかーさんに みっこく、するかりゃね!」 何が始るのか、ちぇんには想像もつかない。しかし、腹は据えた。 ちぇんの覚悟など露知らず、三女れいむは、この日一等の明るい笑顔で宣告した。 「れいみゅの! まむまむ! ちぇっく!」 ちぇんが眼球を飛びださせた。 三女れいむが、ちぇんのまむまむに頭を埋めたのだった。そのまま、しばらく動きを止める。 まむまむから三女れいむの下半身だけが飛び出しているという、前衛的な光景が呈されたのだった。 ちぇんは生き地獄を味わうしかなかった。 「ゆゆ! あかちゃんが いりゅよ! ゆっくりしていってね!」 ちぇんの口もとから、一筋の餡子が垂れた。 目には涙が浮かんでいる。尻尾は小刻みに震えていた。 「おいで~、おいで~」 ちぇんはこの時、超人的な力を発揮していた。 まむまむを閉じないようにしていたのだ。 力を籠めたら、三女れいむが潰れてしまうかもしれない。そうでなくても、挟まったまま身動きが取れなくなる公算は高い。 だが、その行動はとりもなおさず、産出時期でないにも関らず、赤子を産もうとしているようなものだった。 「ゆん!」 すぽんっ。 と、三女れいむの顔が抜けた。 助かった。と、ちぇんは思った。しかし、直後にちぇんの顔が驚愕と激痛と恐怖に塗り込められた。 「お……おちびちゃん! まだ出ちゃだめだよー! わからないよー!」 まむまむをこじ開けられてしまったので、ちぇんの肉体が勘違いしたのだ。 既に子供を産むときである、と。 実際、まむまむは収縮するどころか見る間に拡大していっている。 そして、赤子がせり上がってくるのだった。 「ゆ~、おいで~、おいで~」 三女れいむは、実にゆっくりしていた。その視線はちぇんのまむまむに注がれている。 「ゆゆ! おちびちゃんの かおが みえりゅよ!」 「だめ……まだ……だよ……」 「ゆゆ! おちびちゃん わりゃってりゅよ!」 「もどっで……」 「ゆゆ! おちびちゃん いたがっちぇるよ!」 ちぇんの理性が緩んだ。その瞬間、母性本能が理性を打ち負かした。 勢いよく、ちぇんの腹から赤ゆが発射された。 濡れそぼった赤子らんは、潰れるような音とともに、地面に落下した。 「ゆ~」 即座に駆け寄る三女れいむ。 「ゆっくりしていっちぇね!」 本来ならば親がかけるべき台詞を、なんの躊躇いもなく、三女れいむが横取りするのだった。 「……ゅ……ゅ……」 産まれた子供は、髪がなかった。尻尾もない。帽子はあるが、色が乏しい。 呼びかけても、口を打ちあげられた魚のようにせわしなく開閉させるばかりで、言葉らしい言葉を紡がないうちに、動かなくなった。 あんよから餡子が垂れてゆく。 皮膚が未完成だったために、落下の衝撃に耐えきれなかったのだろう。 「ゆう! つまんにゃい! できそこにゃいだよ! ちぇん! つぎ! つぎだしちぇ!」 ちぇんはまだ苦しんでいた。 だが、一度開いてしまったまむまむは、もはや完全に今こそ産み落とすべきと錯覚しており、 もはや精神力の及ぶところではなかった。 二匹目が発射される。 「ゆん!」 発射の軌道を、れいむは愉しそうに見送った。 今度は、一匹目よりも水気をふんだんにふくんだ音を立てて、落下と同時に潰れてしまった。 種別さえも判らなかった。 「ちぇん! つぎ! はやきゅ!」 さしたる反応を見せることもなく動かなくなる赤ゆは、三女れいむの興味を満たせる存在ではなかった。 三匹目、胎に残っていた最後のゆっくりが射出された。 そのゆっくりは、空を舞い、地に落ちて、立った。 そして聞こえる声。 「ゆっきゅり……しちぇいっちぇにぇ!」 ちぇんは、幻聴かと思った。 だが、確かに、聞こえた。 可愛らしい、らん種の赤子の声が耳に届けられた。 三女れいむのそれではない、別のおちびちゃんの声が。 ちぇんは、泥のように拡散しつつある意識をかき集めて、静かに目を開いた。 と同時に、三女れいむの声が聞こえてきた。 「むーちゃ! むーちゃ!」 三女れいむが、奇跡の仔を、食っていた。 ちぇんは、気絶した。意識が泥沼に落ちる瞬間、 「それなりー」 と、だれかが、言った。 ========================================================================= まりさは、ありすの悲鳴じみた声によって目を醒ました。 「どうしたんだぜ?」 跳ね起きてツガイの様子を訝しがる。ありすが血相を変えていた。まりさに言った。 「ちぇんが、ちぇんが!」 親友の名を口走ると、ありすは巣穴から逃げるように出ていった。 何がなんだか分からないまま、まりさはその背中を追った。 広場は騒然となっていた。 豪邸から繰り出したれいむ一家が、群れの広場に踊り出ている。 その周りを固めるのは、合計八匹の傭兵たちだ。一家総出である。 「わからないよー! わからないよー!」 ちぇんの悲鳴が朝焼けを切り裂いていた。 広場の中央には、ちぇんが磔にされていた。尻尾の根もとを釘で縫いとめられている。 錆びた釘は、外部から拾ってきたものだ。この手の武装が、豪邸のなかには山積みにされている。 泣きわめくちぇんの後ろでは、れいむ一家がほくそ笑んでいた。 朝が明けきらないうちに、群れじゅうのゆっくりで、ちぇんの眼前に垣根をつくられた。 その光景は、間違えることなどあるはずない、処刑のそれだった。 だが、ちぇんがいかなる罪状を犯したのか、誰も知らなかったし、知ろうとも思わなかった。 ただ、全てのゆっくりは、三女れいむがちぇんのところで寝泊まりしていたのと知っていたから、 そこで何か失態を犯したに違いない、と思っていた。 母れいむが口火を切る。 「密告があったよ!」 観衆にざわつきが広がった。 「しずかにしてね!」 母れいむの一喝で、その場は粛然となった。 「密告したのは……れいむの、おちびちゃんよ!」 母れいむの隣で、三女れいむは胸を張って誇らしげな笑みを浮かべていた。 「このちぇんは……こう言ったの。『れいむなんか、くたばれ!』……」 群れがざわついた。誰もかれも、ちぇんの性格を思い浮かべ、そのような暴言を吐くはずがない、と思った。 ちぇんには、赤子がいた。どうして、そのような危険を敢えて冒す必要があるだろう。 「いってない! 言ってないよー! わからないよー!」 涙ながらも訴えなど、事ここに到っては、なんの武器にもならない。 「ふん。密告を受けたゆっくりは、みんな同じことを言うんだよ! ――おちびちゃん!」 「ゆ!」 三女れいむが勢いよく返事した。彼女は群れの反乱分子の発見に貢献できたことが、嬉しくてたまらないらしい。 「いっちゃもん! ちぇん いっちゃもんっ! れいみゅ なんか くちゃばれってね!」 「言ってないー!」 「いっちゃもん! なんで ひてい すりゅの? ぷきゅー!」 「言ってないー!」 「うそちゅき!」 言った言わない論争に当座の終止符を打ったのは、三女れいむの実力行使だった。 嘘つき呼ばわりすると、ちぇんの背中に駆け寄った。ちぇんを繋ぎとめている釘を、蹴り飛ばす。 ちぇんの眼球はせり上がり、舌は発射されるかと思われるほどに飛びだして、その喉からは化け物のような悲鳴がほとばしった。 「うそちゅき! うそちゅき! うそちゅき!」 連呼とともに、連打する。三女れいむは、つかみかけた栄光を取りこぼすまいと必死だった。 釘を動かされるたびに、ちぇんは聞くに堪えない悲鳴を上げた。 やがて、一つの言葉がひりだされた。 「ごべんなざいぃッ!」 三女れいむの動きが止まる。こめかみから流れ落ちる汗はなんとも爽やかだった。 「ふん! はじめから じびゅんのつみを みとめりぇば よかっちゃんだよ!」 「おちびちゃん。そこまだよ。裁判は続いていんだよ!」 母のかたわらに戻ると、れいむは裁判を続行した。 「もう一度、きくよ! おちびちゃん! このちぇんは、『れいむなんて、くたばれ』って、言ったんだね!」 「いっちゃよ!」 ふんぞりかえる三女。 「でも、ちぇんは否定しているよ!」 「いっちゃもん!」 不機嫌をあらわにする三女。 「いつ、言ったの?」 「ねちぇるときぃ!」 三女れいむの両もみあげが、ぴんっと、空を突いた。 ゆっくりたちに動揺が広がってゆく。 当然かもしれない。 三女れいむの密告とは、寝言をもとにしたものだったのだから。 「うるさいよ!」 母れいむが群集のざわつきを留めようとした。護衛ゆっくりたちは、口に加えている釘を打ち鳴らして騒ぎを鎮めた。 「れいむを、差別するなぁッ!」 母れいむが大喝すると、一気に、群れの騒ぎは収まった。母れいむはその結果に胸を張る。 『さべちゅしゅりゅな~!』 子れいむたちが嬉しそうに合唱した。 「おちびちゃんが証言しているんだよ! 証言は絶対だよ! 寝言とか、でまかせとか、どうでもいーんだよ! だからこのちぇんには処刑が必要だよ!」 ちぇんは死んだように静かだった。心の梁が折れてしまったのかもしれない。 れいむ一家が、成体も子供も関係なくもみあげを揺らしながら、声を揃えて対空砲のような声を張った。 「すーぱー! いしっうちっ! たいむ!」 すーぱー石打ちタイム。 執行宣言は、ちぇんそのものよりも、見守っていた雑多なゆっくりたちにこそ、衝撃をもたらした。 護衛ゆっくりたちが動きだした。三日月型に垣根をつくる群集の前に、小石の山をばらまいた。 「さあ、さあ! いしっうちだよ!」 母れいむが叫んだ。 「いしゅうち~、いしゅうち~」 長女れいむは涎を垂らしながら躍っていた。 「石打ち! 石打ち!」 次女れいむは目を爛々と輝かして急かしている。 「すーぱー! いしうち! ちゃいむ!」 三女れいむのもみあげの動きの盛んなこと、振り落とさんとしているかのようだった。 とあるゆっくりみょんが、ばらまかれた石を一つ、口に挟んだ。 その石を、ちぇんに投げつけた。目標は動かないし距離も近い、外れることは考えられない。 石はちぇんの脳天に直撃した。 そのみょんは、石がぶつかったことを確認すると、背後へと退いた。 やがて、一匹、また一匹と動きだし、口に小石を持っては、これをちぇんに投げては背後に退いた。 小石ではさしたる打撃にならない。 しかし、数十匹のゆっくりたちが次々に石を打てば、その打撃は蓄積し、やがては死にいたる。 だが、刃物で刺し抜くような致命傷を負わせることは難しく、すぐには死ねない。 痛みの持続する処刑方法だった。 「みんな! もっと、もっと強くだよ! さっさとちぇんを処刑してね! 石を投げないと、そのゆっくりも、制裁しちゃうよ!」 石を投げたあとに背後に退くのは、石を投げようとしないゆっくりを炙りだすための方法だった。 だんだんと、ちぇんの眼前の群がりよりも、その後ろに出来た群がりのほうが、濃度が高くなっていった。 「ありす……」 まだ石を打たないゆっくりの集団に、そのツガイの姿があった。 まりさと、ありすだ。 「……ちぇんに、石打つんだぜ。そうしないと、おれたちがいじめられるんだぜ!」 ありすは静かに反駁した。 「いじめられたくないから、いじめるの……?」 「し……仕方ないんだぜ!」 まりさは口に小石を加えて、ちぇんに投げつけた。その石はちぇんの帽子にぶつかって、これを落とした。 れいむ一家が歓声を上げた。 ありすは動かなかった。 背後に退いたまりさは、一向に石打とうとしないありすの後ろ姿を見て、焦りを覚えた。 (まずったんだぜ……?) 率先して石打てば、ありすも追随してくると思ったのだ。 しかし、まりさの目論みは外れつつある。 次々と、前方集団からゆっくりたちがいなくなってゆく。 最後に残ったのは、まりさのツガイのありすだった。 静寂が降りた。 その沈黙を打ち破ったのは、母れいむの声だった。 「ありす! さっさと投げてね! ちぇんに小石を投げてね!」 「なげちぇね~!」 「さっさとあなたが投げないと……ほかのゆっくりたちも、制裁しちゃうよ!?」 母れいむとしては、ほとんど思いつきで言ったに過ぎなかった。 ありすは振り返った。 背後のゆっくりたちを見て――ありすは、恐怖した。 全てのゆっくりが、自分の夫までも、ありすを睨みつけていた。 早く投げろ。 何をしている。 俺たちまで制裁されるのか。 怨嗟の声は、口には出さずとも伝わってくるのだった。 その怨念は、ありすの頭上を飛び越えて、れいむ一家にまで伝わってきた。 恐怖のあまり、長女れいむが泣きだしてしまった。 「ぎょわぃッ! ぎょわいよぉッ! ゆっぐりざぜでぇ!」 「ゆ……」 母れいむは戸惑いの表情を浮かべた。なぜあのゆっくりたちが、ありすを恨んでいるのか、まるで理解できなかった。 「あ……ありす! 三つ数えるよ、それまでに投げるんだよ!」 金切り声の命令を下した。ありすに反応は無く、母れいむは原因不明の焦りを覚えた。 「い……いっこォッ!」 ありすは動かない。 「に……にこォッ!」 母れいむの声は裏返っていた。長女れいむは号泣している。次女れいむは、にやついている。三女れいむは期待に胸ふくらませている。 そしてありすの背中を見守るゆっくりたちの頭上から、怨念と怨恨がとぐろをまいて昇天しつつあった。 「さ……」 母れいむが口を開いた瞬間。 ありすは鬼が哭いたような声を発しながら、ちぇんに石を投げつけた。 結局、その石がちぇんの露命を断ち切った。 れいむ一家は奇声を、歓声を、絶叫を上げた。 護衛たちも武装を打ち鳴らして、ありすの石打ちを讃え、反乱分子の消滅と、三女れいむの功績をことほぐのだった。 ========================================================================= れいむ一家には、四女れいむがいる。 ただ、赤子であるために、あまり家からは出さなかった。 この赤ゆ――末っ子れいむは、大抵、大奥に籠りきって日を消してゆく。 何をしているのかは、声を聞くだけでほぼ正確に把握できる。 「むーちゃ! むーちゃ! しゅっきりー!」 そればかりが聞こえてくるのだ。もっとも、食って排泄して寝る……というサイクルは、赤子であるならば常態とさえいえる。 が、奥には喰いきれないほどの食糧があるので、ただ食うのではなく、食いつづけている。 「むーちゃ! むーちゃ! しゅっきりー!」 「むーちゃ! むーちゃ! しゅっきりー!」 「むーちゃ! むーちゃ! しゅっきりー!」 「むーちゃ! むーちゃ! しゅっきりー!」 正確な三拍子は途切れることを知らない。 機械のように続けているので、護衛も家族も、ほとんど放置状態だった。 だからこそ。 ちぇんの処刑のために、家族も護衛も総出となったのだった。 もっとも、母れいむは出かける際に声をかけている。 そのときの会話は、 「おちびちゃん」「むーちゃ! むーちゃ!」 「少しだけ、家を明けるね」「しゅっきりー!」 「おちびちゃん、お留守番できるね!」「むーちゃ! むーちゃ!」 「すぐに帰ってくるからね!」「しゅっきりー!」 「お家から出ちゃだめよ!」「むーちゃ! むーちゃ!」 「絶対に、駄目だからね!」「しゅっきりー!」 「特に、れいぱーの所には行っちゃだめだからね!」「むーちゃ! むーちゃ!」 「お天道様が昇ってくる方角にある、洞窟のところには、行っちゃだめだからね!」「しゅっきりー!」 「そこの鍵を、開けちゃ駄目だからね!」「むーちゃ! むーちゃ!」 「絶対に、駄目だからね!」「しゅっきりー!」 というものだった。 さて、一家が外出してしばらくは、末っ子れいむは食っては出して食っては出しての、変換作業を繰りかえしていた。 ある意味、凄いことだ。 食物繊維を数秒のうちに餡子に変換するなど、人間が死に物狂いで積みあげてきた近代科学文明を愚弄すること甚だしい。 が、ある瞬間、その動きも声もぴたりとやんだ。 「おしょとに でたくにゃっちゃったよ!」 何の脈絡もない宣言だった。空腹が満たされたわけでもないし、部屋がうんうんで満たされたのでもない。 ちなみに末っ子れいむは、自分のうんうんであろうが気にせず食いまくる。 敢えて言うなら、赤子特有の想定不可能の動きの産物、といったところか。 「おしょとに でりゅよ!」 ほぼ一分後、豪邸の中庭に、 「おしょとに でちゃったよ!」 という声が響いた。 そのまま、末っ子れいむは旅を始めた。 すぐに終わった。 豪邸から少し離れたところにある洞窟の前に来ていた。内部には暗黒が垂れ込めている。 「へんなのが ありゅよ!」 変なの。 というのが、末っ子れいむの認識能力と語彙力の限界だった。 具体的には、天然にできた垂直の崖に、板がぴたりと張られている。 さらに、その板の上部からは、出っ張りが突き出されていて、屋根の役割を果たしている。 また、板の前には丸い岩が置かれていて、塞がれているとしか思えない。 板の向こう側から、「むほぉッ!」「ここからだせェッ!」「すっきりさせろォ!」などという声が聞こえてくる。 「おみじゅが ありゅよ!」 末っ子れいむの行動は、全くもって、フリーダムだ。 水たまりを見つけて、これを呑みはじめた。 「ごーきゅ! ごーきゅ!」 ある程度水を呑むと、輝かしい笑顔を振りまいた。 「おみじゅ のみしゅぎちゃったよ!」 板の近くに向かった。 「しーしーすりゅよ!」 宣言通り、水が振りまかれた。 ただ、板に対してではなく、板の周りの土にむけて放たれたのだった。 指向性のついた水の流れは、土を確実に削り取った。 この時、末っ子れいむの脳裏には、 例えばこの板の奥には洞窟が広がっていて、そこにれいぱーが繋がれているとか、 板の上部から突き出されている屋根は、雨をよけるためのものだとか、 なぜ雨をよけるのかと言えば、土が削れてれいぱーが外に出てしまうことを恐れているからだとか、 そんなことは、思っていなかった。 何も、考えなどなく、板のまわりの土を削り、すくなくとも柔らかくしていた。 「しゅっきりー!」 末っ子れいむは解放感に頬を赤らめた。 そして、また末っ子れいむは水を呑む。また出す。削れる。 「ごーきゅ! ごーきゅ!」 「おみじゅ のみしゅぎちゃったよ!」 「しーしーすりゅよ!」 「しゅっきりー!」 しばらく繰りかえしていると、やがて呑むべき水が無くなった。 「かえりゅよ!」 さして残念がらず、末っ子れいむは言った。 その場を立ち去り、豪邸へと帰還した。 何事も無かったかのように、 「むーちゃ! むーちゃ! しゅっきりー!」 と、三連三拍子が再会された。 しだいに。 れいぱーを監禁していた洞窟の周りには、砂糖水に惹かれて虫どもが集まってきていた。 その虫に惹かれて、動物たちもやってくる。 動物は、虫をなめとる時、いくばくか土も削った。 昼過ぎになって。 『むふぉふぉふぉッ』 奇怪な哄笑が、あたりに満ちた。 遂に、れいぱーは朽ちかけた封鎖を打ち破ることに成功した。板を打ち破るのではなく、その周囲の、崩された土の隙間から這い出たのだ。 ちなみに。 なぜ、このれいぱー管理用のゆっくりがいないのかと言えば、母れいむが公開処刑のために狩りだしてしまったためだった。 母れいむの考えとしては、 「おちびちゃんの『はじめてのみっこく』だよ! これは、みんなで祝わなくっちゃね! 集められるだけ、集めるよ!」 くらいのものでしかなかった。 なお。 処刑が終わったあとも、管理者が返ってこなかった理由は、母れいむが宴会用に狩りだしてしまったためだった。 その理由は、言うまでもない。 ========================================================================= 公開処刑は解散が命じられた。 ちぇんの遺体は放置された。 これは命令だった。 巣穴に戻ったありすは憔悴しきっており、魂が抜けてしまったかのように惚けていた。 「ゆ……ありす」 たまらず、まりさが声をかけた。 「まりさ。ちぇんは……なにもしていないわ。なにもしていないのに……」 殺された。虫けらのように。 ぽつりと、ありすは続けた。 「……お葬式、してあげないと」 まりさは慌ててこれをとめにかかった。 次女れいむの言葉、葬式禁止令はまだ生きている。墓あばきの光景が鮮烈に残っていた。 「待つんだぜ。お葬式なんかしたら、制裁されるんだぜ」 ありすは、まりさの方へと向きなおり、魚のような目を向けた。 「まりさは……ちぇんのお葬式なんか要らないって言うの?」 「そういう問題じゃないんだぜ……。いまは、埋葬できないんだぜ……」 「ちぇんが可哀そうだって、おもわないの?」 「可哀そうなんだぜ」 「だったら、埋葬してあげないと……お葬式をしないと……」 「時期の問題なんだぜ、今は駄目なんだぜ!」 つい、まりさは声を張り上げてしまい、直後に後悔と、壮烈な自己嫌悪に襲われた。 「いつだったら、いいのよ」 「……葬式が、許されたら」 それがいつになるのかは、見当もつかなかった。いや、葬式禁止令のことなど忘れてしまい、そのまま放置されつづけることだってありうる。 ありすは、吐き捨てるように言った。 「許されるはず……ないわ。あんな……でいぶが」 「ありす!」 まりさは辺りを見渡した。薄暗い巣穴の中にいるゆっくりは、まりさとありすの二人だけだ。 「……気をつけるんだぜ」 密告でもされたら、れいむ一家は喜び勇んでこのツガイを処刑するだろう。 ありすは、ふらふらと、巣穴の出口へと向かって行った。 「……お葬式、しないと」 まりさは困惑した。 今日だけは、なるべく巣の外には出てもらいたくなかった。しかし、ありすがじっとしていられるとも思えなかった。 「あ、ありす。お葬式には、準備が要るんだぜ。木の枝とか、花さんとか、集めないと駄目なんだぜ」 だからこの場を誤魔化そう、取り繕おうと思った。ありすが顔を上げる。 「まずは、道具を集めるところから始めたらいいんだぜ! まりさも手伝うんだぜ!」 精一杯、空元気ではあったが、とにかく威勢よく提言した。 ありすはじっと、まりさを見つめた。 やがて微笑した。 「まりさは、狩りに行って。あまあまさんを……差し出さないといけないんでしょう?」 心配だった。 「ゆ……でも」 「大丈夫。心配しないで……。ちょっと、取り乱しちゃっただけだから……大丈夫。私は、問題、無いわ」 抑揚は無かったが、しっかりとした口調で答えた。 「ゆぅ……分かったんだぜ」 結局、まりさはそう答えた。 ========================================================================= 太陽が南中高度に達したあたりで、まりさは一息吐いた。 この日の戦果は上々だった。 野苺七つ。山葡萄二房。恐らく人間が落としたものと思われるチョコレートが一かけら。 「まだ、足らないんだぜ……」 まりさは、前日に言われた母れいむからの命令を、糞真面目に実行するつもりでいた。 野道に出て、ふと空を見上げた。 触れれば染まりそうな青空が、そこにはあった。 その時。 「ンッほおォッ!」 奇天烈な叫び声が轟いてきて、まりさは否応なく緊張を強いられた。 恐怖を来たさないところが、歴戦の狩人たる証明だった。 「んホッ! むほっ、むっふぉッ!」 叫び声はしだいに近くなってくる。 (なんの――声なのぜ) と、思ったが推測はつく。 だが、そんなことはありえないという希望的観測が、まりさの中にはある。 あれは、厳重に管理されているはずだ。外に出るはずがない。そんなことをしたら――れいむ一家だって、無事では済まない。 まりさは、胸中で苦笑した。 (おれは……まだれいむ一家を『まとも』だと思ってるんだぜ……) そう思った瞬間。 それが、まりさの視界に侵入してきた。 「むっふぉォォ!」 希望はうち砕かれた。 野道の奥から、青空のもたらしてくれる清涼な空気に挑むかのような、きわどい異物――れいぱーが、走ってくる。 全身から得体の知れない汁を垂らし、跳ねるたびに、その汁が撒き散らされている。 「……え」 まりさは、反応できなかった。 れいぱーが加速した。いや、爆発と呼ぶにふさわしい、尋常ならざる推進力が、れいぱーに加わった。 距離は一気につめられ、 「ゆげっ」 吹っ飛ばされた。その折に、とんがり帽子が宙に舞った。 まりさ本体は、茂みに飛ばされ、失神した。 「ゆほぉッ?」 れいぱーが、止まった。 しきりに、周囲に視線を配った。 そうしているうちに、とんがり黒帽子が落ちてきて、れいぱーの頭上に納まった。 「ゆホ!」 しばしあたりに目くばせしていたが、やがてれいぱーが走り出した。 このれいぱーは、長らく暗やみに息づいていた。光も無く、音も無く、そして何より、すっきりするべき相手がいない。 そのような環境が、れいぱーを魔獣に仕立て上げていた。 ただでさえ、通常のゆっくりでは、れいぱー相手は分が悪い。 その機動力と膂力は、正常ありすの比ではなく、一度捕獲されたらまず逃れられない。 しかし、この群れは社会性を有している。団結してれいぱーにあたれば、犠牲は出るが、全滅は免れる可能性が高い。 ところが、その社会性が、このときは逆機能を起こしていた。 狩りの効率を上げるために、各ゆっくりに「担当地域」を割り振っていたのだ。 自然、ゆっくりは単独行動が多くなり、はからずもれいぱーに各個撃破の与えてしまう結果となった。 むろん、担当地域制を導入するとき、こんな意見は聞かれた。 「単独で行動しつづけるのは、危険だ。ツーマンセルにしよう」 しかし、この意見は採用されなかった。 「効率最優先だ。安全を棄ててでも」 それが、答えだった。 そこまでして効率を優先する理由は、言うまでもなく、れいむの下す無理難題の数々にあった。 ゆっくりたちにしてみれば、 得られる食べものを減らしてでも安全を優先し、もって個人の生存確率を上昇させるリターンよりも、 安全第一のために獲得する食物が減り、それゆえにれいむ一家に凄惨な仕打ちをされるリスクの方が、 遥かに、 巨大だった。 こうして、連絡は遅れ、ゆっくりたちは悲鳴を上げるまえに「れいっぽぅ」され、事態は確実に、かつ速やかに、破滅へと驀進していった。 その子まりさは、上々の首尾に気を良くしていた。 「いっぱい とれたんだぜ! これなら おかーさんも よろこぶんだぜ!」 このところ、子まりさは調子を上げていた。どこに虫が棲んでいるのか、どこに美味しい草が生えているのか、 そのコツを体得しつつあった。 初めのころは辛かっただけの労働も、ちかごろでは喜びに転じつつあった。 「ゆ……きのこさん、はっけん、なんだぜ!」 樹木の根もとに自生している茸を見つけて、子まりさはすっ飛んで行った。 ちょうど、茸を口でくわえて、これを引き抜いた時だった。 「むっほぉ!」 樹木の影から、血相を浮かべたゆっくりが登場した。 「ゆゆ~! まりちゃ~! どーしたんだぜ?」 ゆっくりの頭上には、黒帽子が載せられている。一見しただけでは、ゆっくりはそれを「まりさ種」と認定してしまう。 子まりさは、同族の出現に驚きつつも喜び、 「みるんだぜ! きのこさん なんだぜ!」 戦果を見せびらかした。 次の瞬間、れいぱーは子まりさに馬乗りになっていた。悲鳴を上げる暇さえなかった。 強烈な腰振りが展開される。残像が見えるほどの高速度だ。かつ、その力強い打ちつけは、一発一発が、打撃に等しい。 子まりさの脳天から、髪の毛をかきわけて、するすると緑の触手が生えてゆく。 まだ歳若い子まりさに、れいぱーの暴力的子種を容れられるだけの器があるはずない。 体内餡子の養分と糖分は、強制的に植物肩にんっしんっへと転じられ、またたくまに子まりさは餓死した。 「むほォ……! じゅぎり……」 久方ぶりの生殖行為に、れいぱーの目はますます血気盛んになった。 だが、まだ足りない。子まりさ一匹を昇天させて程度で満足できるほど、れいぱーの精力は、やわではなかった。 次なる獲物を求めて、その場をあとにする。 ――その前に。 れいぱーは、子まりさの死骸にむしゃぶりついた。 腹も、空いていた。 飼われていたときは、腐った木の葉などしか与えられていなかった。 初めて食す餡子の味に、れいぱーは感動し、これを精力の排出につぐ、あらたなる欲望と定めた。 そのちぇんは、種族特有の俊敏さでもって、れいぱーから無我夢中で逃げつづけた。 「わがらないよぉっ!」 ちぇんは混乱の極みにあった。 「どーじで、ばりざが襲ってぐるのぉっ!」 帽子を被っているために、ちぇんはれいぱーをまりさだと認識せざるをえなかった。 それでも、ただならぬ気配を感じ、ちぇんは逃亡を選んだのだった。 当然、追われた。 れいぱーはちぇん種に匹敵する俊敏性をも体得しており、距離は全く縮まらなかった。 ちぇんは、素早く倒木の下に入った。 あとは、れいぱーが過ぎ去るのを待つのみだ。 「むぼぉ……どごォ……」 鼻息を荒くして、れいぱーがやってくる。ちぇんは震えた。 「……!」 恐怖のあまり声を出しそうになった。れいぱーが、倒木の上に載っている。 「みえないぃ……むほぉ」 どうやら、倒木を高台代わりにして、周囲をうかがっているらしい。その限りにおいて、ちぇんが見つかる可能性は低い。 ちぇんは念じ、祈り、目を閉じた。 がさりっ。 と、ちぇんの目のまえで音がした。 しかし、その後には、荒い鼻息も、壊れた楽器のような、涎をすする音も聞こえなかった。 恐る恐る、ちぇんは瞼を開けた。 そして、自分の死を悟った。 「みづげだぁぁァ……」 目と鼻の先に、れいぱーの顔があった。 やがて、れいぱーは群れの集落へと目を向けた。 はじめは、まりさが帰ってきたとしか思えず、だれも気にも留めなかった。 しかし、そのまりさが化け物に変身してしまっていると知れ渡るのに、さしたる時間はかからなかった。 集落は混迷を極めた。 泣き叫ぶもの。 逃げだすもの。 腰が抜けたもの。 恐怖のあまり失禁するもの。 自暴自棄になって腐葉土を喰らいはじめるもの。 特攻を仕掛けて玉砕するもの。 共食いをはじめるもの。 体力や知力のあるゆっくりは、大抵は狩りに出てしまっている、それが混乱に拍車をかけた。 あるゆっくりは、木の枝で巣の前にバリケードをつくり、れいぱーの侵入を阻んだ。 「むっほぉ!」 ぺにぺにの一閃により、バリケードは呆気なく崩壊した。 直後、巣穴の中から絶叫が轟いた。 さらに別のゆっくりは、子供を逃がすためにれいぱーに歯向かった。 しかし、武器らしいものといえば、木の枝しかない。 だが、その勇者は英雄的行動を選んだ。 木の枝を口に挟み、飛びかかったのだ。 「おちびちゃんに、手を出すんじゃないんだぜ!」 れいぱーは叫んだ。 「うぇるがむ!」 れいぱーは飛びかかってきたゆっくりを回避しようともせず、受け止め、ぺにぺにを差し入れて、凌辱を開始した。 壮絶な悲鳴は、野山を揺らした。 あるゆっくりは、目にぺにぺにを突っ込まれて果てた。 あるゆっくりは、生きながら食われたあとに、死にながら犯された。 あるゆっくりは、餡子を吐き出してこれを囮にしたが、皮を切らせる戦略も虚しく一顧だれにされず、塵を蹴散らすように殺された。 逃げだしたゆっくりたちも、多かった。 だが、れいぱーの行動力と運動量はもはやゆっくりの手に及ぶところにはなく、一匹ずつ、その命を刈り取られていった。 ========================================================================= 集落に戻ってきたありすは、摘んできた花や枝を、まるごと落とすしかなかった。 朝、まりさと少し喧嘩した。 直後に、とりあえず仲直りして、まりさの言に従って花摘みを開始した。 みょんの葬式を執り行うためだ。 そして昼下がりに群れに戻ってきたら、そこにあったのは、 恐らくはゆっくりの死骸と思しき、餡子と皮がこねあわされた何かがぶちまかれた、死屍累々たる光景だった。 むせ返るような死臭が集落を支配している。 「なにが……あったの……」 答えるゆっくりは、いない。心なしか、鳥たちも息をひそめている。 「だれか、いないの!」 叫んでみても無駄だった。ありすの孤独を嘲笑うかのような沈黙だけが、返答だった。 「ぱちゅりー!」 夫を喪ったばかりの、尊敬するゆっくりを呼んだ。呼び声は重力にしたがって大地に降りて沁みこんだ。 「……ま……まりさ!」 つがいの名を呼ぶ。しかし、呼びかけはあえなく虚空に呑まれてゆく。 「だれか……」 ありすはようやく、視界の端で蠢いている黒い影に気づいた。凄惨な様相を見せつけられたために、注意力が鈍っていたのかもしれない。 その蠢動する何かを見たとき、ありすは安堵に胸をなで下ろした。 まりさが、いる。 あの黒帽子だけは見間違えない。 「まりさ。いたのね。心配したわ」 ありすは、そのゆっくりに近づいてゆく。が、ふと足を止めた。 まりさは、何かを啜っている。肉をこねるような汚い音を立てて、何かを食っている。 それに、後ろ姿がどこか――おかしい。 「まりさ……?」 まりさの動きが止まった。食事を止めてありすへと振り返った。 「まりさ……。まりさを……あなた、まりさをどうしたの!?」 誰だ。このゆっくりは、一体、誰だ。 見たことのない種だ。 眼球は焦点が定まらず、全身から不快な臭気を発し、正体不明の体液を噴出させている。 なんて忌々しくて、禍々しくて、醜い生きもの。 吐き気がする。 いや。 そんなことは、どうでもよかった。 「どうして、どうしてまりさの帽子を被っているの!」 今や、ありすは眼前のゆっくりが、つがいのまりさではないと確信している。まりさの帽子を被った何かだ。 れいぱーの口からは、しゅうしゅうと音を立てて吐息が漏れていた。 「む……ほォ……ッ、ほぉ、ほぉ……ほ……むほォッ!」 ありすの言葉などはれいぱーに意味などなく、れいぱーの掛声はありすに意味などもたなかった。 ただ、事実として。 れいぱーは爆発するような跳躍をしてありすに飛びかかり、ありすは抵抗する間もなく押したおされ、連結された。 れいぱーの叩きつけが始った。 ありすは、諦めなかった。暴れ、悶え、のたうちまわり、れいぱーの魔の手から逃げようとした。 しかし、勝負はすでに決まっていた。 「あ――あぁ!」 茎が、伸びてゆく。それだけ体力が奪われる。何本と。何十本と。何百本と。蔦が、枝が、生殖装置が、発生する。 遂に頭上に茎が伸びるべきスペースが枯渇した。 本能は手段を選ばなかった。 ありすの目、口の中、あんよ、まむまむの中から、緑の茎が伸びてゆくのだった。 彼女は、最期の瞬間に何を想うか。 まりさとの再会か? 否。 群れの幸せか? 否。 仲間への弔意か? 否。 ありすは、死に間際に、 ――報復してやる。 と、願った。 望みは、叶えられた。 露命の最後の一滴がこぼれおちようとした、その時。 ありすは――れいぱー化した。 「むほォォッッ!」 茎だらけのありすが、奇怪な声を上げた。 自分を犯しつくしたれいぱーに、大口を開いる。 れいぱーは油断していた。 ありすが、れいぱーに噛みついた。 上半身が、引きちぎられる。 れいぱーは、即死した。 ありすには、口にふくんだ餡子を栄養化する余力すら残っていなかった。後を追うように、息を引き取った。 ========================================================================= まりさは、日が傾きかけた頃合いになって、ようやく覚醒した。 「ゆ……ゆん? ……うう……あたまが、いたいんだぜ……」 身を起こすと、自分が茂みの中に寝ていたことに気づく。 「ゆゆ! お帽子さんが、無いんだぜ!」 黒帽子は、ゆっくりにとって体の延長のようなものだ。その不在はすぐに気付く。 だが、なぜ黒帽子が無いのか、その理由を探ったときには、喪失感は吹き飛んでしまっていた。 れいぱーだ。 れいぱーに突撃されたのだ。 「あのときは、たしか……」 昼だった。ゆっくりに正確な時間感覚は存在しないが、正午過ぎだった。 「いまは……」 太陽が、刻一刻と西に傾いてゆく。樹木の影が濃い。ひぐらしの声が、蝉と拮抗しはじめていた。 もうじき世界は血を流しはじめるだろう。 これだけの時間、れいぱーを放置しておいたら、どうなるか。 まりさは慄然とした。 「と、とりあえず、群れに、もどるんだぜ……」 茂みから野道へと戻ると、まりさは歩き出した。すぐに、走り出した。 まりさは、群れの破滅と終焉を悟った。 集落は死んでいた。 「ゆ……ゆぅ……」 集落の一隅に、まりさの黒帽子が落ちていた。それを回収し、頭上に載せた。すると、声がかかった。 「ああ……。あなたが、まりさだったのね」 まりさは静かに振り返った。ぱちゅりーがいた。 「ぱちゅりー……。これは、なんなのぜ?」 「れいぱーよ。れいむが飼っていたれいぱーが、逃げだしたの」 「どうして?」 「どうして? そんなこと……知る必要があるかしら」 まりさは押し黙るしかなかった。死骸の数を見るに、群れは群れとして生存する最低限の量を喪っている。 もはや、質問すべきは過去ではない。 「れいぱーは、どうしたんだぜ」 「死んでるわ」 まりさは胸をなで下ろす。が、直後、不安で胸が張り裂けそうになった。 「……その……ありすは……」 一瞬、ぱちゅりーが震えた。 「知らない方がいいわ」 「……充分なんだぜ」 まりさは話題を転じた。 「ぱちゅりーは、よく、無事だったんだぜ」 「私の担当区域は、ちょっと遠いし、目立ちにくいからね。れいぱーも、やってこなかったわ。 それより、あなたこと、よく無事だったわね」 「おれの場合は、見逃されたようなものなんだぜ。でも、帽子を渡さなければ、もうすこしは……」 「やめましょう。悔やんで解決することではないわ。ありすも――おちびちゃんも、戻ってこない」 ぱちゅりーは冷厳に言い放った。 「そうだな。他に生き残っているゆっくりは?」 「れいむたちは、無事よ。一応、確認だけはしてきたわ。護衛に門前払いをされたけどね。 もう一度、行ってみるつもりよ。 まりさ。 あなたは、どうするの? れいむに、何か言いに行く?」 まりさは逡巡した。 惨劇を招いた一端は、いや主因は、間違いなくれいむ一家にある。 娯楽用にれいぱーを飼っていたから、こんなことになったのだ。 「やめておくんだぜ」 それがまりさの答えだった。 「言うべきことなんて、何も無いんだぜ」 「そう。どこかに、お引っ越しするの?」 「生きていく理由なんて、どこにもないんだぜ」 ぱちゅりーは動揺しなかった。 「ぱちゅりーは、れいむに、何を言いにいくんだぜ?」 「永遠に、ゆっくりさせてやるわ」 まりさは、噴き出した。 「何が、おかしいのかしらね?」 「いや、ごめんなさい、なんだぜ。立派なんだぜ」 「まりさ。 あなたは何とも思わないの? あのれいむの所業に何も思わなかったの? 彼女は自分が正しくて仕方がない。周りのゆっくりは全て自分のためにあると思っている。 そんなれいむに、世界の真実を、教えてあげようとは思わないの? どうして私たちは、おじいさんやおばあさんの代に終わった差別の償いをしなくちゃならないの? れいむが、差別されていないくせに、差別されているって言い張っていること、間違っているとは、思わないの? 私は思うわ。 この群れの在り方は間違っている。 いいえ。間違っていたわ。 その間違いを今更糺したところで、ゆっくりたちは戻ってこないのは分かっている。 でも、だからといって黙して立ち去れるほど、私は運命に隷属していないわ。 私はこれから、れいむの間違いを暴き、そして、自分の間違いを暴いてやるつもりよ。 そのために、れいむを討滅するわ」 まりさはぱちゅりーの長広舌を黙って聞いていた。 やがて話しはじめる。 「ぱちゅりー。 かつては……。おれも思ってたんだぜ。 この群れは間違っている、誰もかれも、贖罪したいあまりに暴走しているって。 れいむも含めて、狂ってるんだぜ。 だから、何とかして、れいむ優遇でもれいむ差別でもない、そんな群れを作りたいって、思ってたんだぜ。 だけど。 仲間ができて、つがいができて、若手を指導するようになって。 少しずつ、鎖がまりさを締めあげていったんだぜ。 いつころかな。 生きてさえいれば、それでいい。 そう思ってしまうようになったんだぜ」 「それは、逃げよ」 ぱちゅりーは鋭く断言した。まりさは声に出さず苦笑した。 「そうなんだぜ。ぱちゅりー。逃げたんだぜ」 「私は逃げないわよ」 まりさは、僅かに目を細めた。 「……お前は、強すぎるんだぜ」 それが、ぱちゅりーの耳にした、まりさの最後の言葉だった。 もはや、まりさには生きてゆく理由が無かった。 額が、裂ける。 亀裂は次第に大きくなり、まりさを縦断し、その隙間から、とめどなく餡子が流れ落ちていった。 まりさの死にざまを見届けて。 ぱちゅりーは、れいむの根城へと向かった。 広場を出るとき、ちぇんの死骸が目に付いた。 それでさえ、凌辱のあとが見て取れた。 ちぇんの死骸に、釘が刺さっている。 処刑される際に、ちぇんを地面に縫いとめていた釘だ。 ぱちゅりーは、その釘を引き抜いた。 ちぇんの死骸が、ずるりと崩れた。 死臭の沁みついた釘を、ぱちゅりーは帽子の中に隠して、あらためて魔城へと向かう。 ========================================================================= 一度、ぱちゅりーは門前払いを食らった。 そのときは、れいむ一家の無事や、その助力を乞うことよりも、 他のゆっくりの安否と、自助努力を優先したので、すごすごと退散した。 だが、今は違った。 れいむを殺しに――最悪でも刺し違える覚悟で、れいむの城にやってきたのだ。 その覚悟は機械もどきの護衛たちにも伝わったらしい。 伝令が豪邸に行き、れいむ一家がやってきた。 かくして、ぱちゅりーとれいむ一家は、れいむ城の前に横たわる広場にて対峙した。 夜空に穿たれた大穴のごとき満月が、草木を冷たく照らしつけている。 「ぱちゅりー! この世間知らず! 頭でっかち! こんな夜更けにやってくるなんて、常識はずれにもほどがあるよ!」 まず、母れいむが口火を切った。 すぐさま、子供たちが追従にかかる。 「ゆんゆん! ありゅよ~、ありゅよ~!」 自立間近の年齢にさしかかっている長女れいむが、幼児言葉で母に続いた。 このゆっくりは、これから愉しいことが起こると信じて疑わないのだった。 「ぱちゅりー! おなっにぃ! してるかな?」 葬式を荒らした次女れいむは、嘲りを隠そうともしていない。 奴隷が玩具を背負ってやってきた、ぐらいの認識でしかなかった。 「ゆ~ん、おつきさんが、おっきぃよ~」 三女れいむは、ちぇんを葬った戦果を忘れきれず、依然として酔っていた。 それとなく頬を赤らめながら、夜空に穿たれた銀色の大穴をみて、陶酔している。 「れいみゅは れいみゅ にゃんだよ! だきゃら うんうんしゅりゅよ! しゅっきりー!」 末っ子れいむのあにゃるから、むりむりと黒い物体が垂れ流された。 それが終わると、あしもとに横たわっている草を食みだした。安定性においては、末っ子れいむにかなう存在はないかもしれない。 「さて、何しに来たの? さっさと話してね!」 母れいむがふんぞり返って問答をしかけた。 「あなたを、永遠にゆっくりさせるために来たわ」 ぱちゅりーは瞳に冷然たる殺意を灯して、そう言った。 「……」 れいむ一家は、粛然となった。 が、それも一瞬のこと。 すぐさま、ぱちゅりーの覚悟に爆笑をもって応えた。 身をよじって笑い転げ、涙をこぼして火を噴くような笑い声を発した。哄笑が夜空を染め上げてゆく。 「ぱちゅりー! 笑えない冗談だね!」 母れいむは舌を突き出して挑発した。 「だね~」 末っ子れいむ以外の娘たちが、一斉に母の真似をする。が、それは母れいむの不快を呼んだ。 「おちびちゃんたち! 黙っててね。ぱちゅりーは、れいむの獲物だよ!」 その叱責を受けて、ぱちゅりーに飛びかかろうとしていた『おちびちゃんたち』は動きを止め、口をつぐんだ。 ただ末っ子だけは、 「れいみゅ うんうん しちゃよ! だきゃら おにゃかが すいちゃよ! れいみゅの! むーちゃむーちゃ! たいむ! すぺしゃる!」 と、抜群の安定感を示し、その場にいた全員に捨ておかれた。 「どうして、れいむを永遠にゆっくりさせるの! ゆっくり説明してね!」 一陣の夜風が吹き抜けて、けやきの葉がざわつき、末っ子れいむを転倒させた。 ぱちゅりーが、口を開く。 「その前に。れいぱーを解放したのは、誰?」 「れいぱー?」 母れいむは、首をひねった。 「ええ。あなたのところで飼育していたれいぱーが、群れを全滅に追い込んだわ。生き残りは、私だけ」 と、言ったとき、れいむ一家の背後と両脇に侍していた護衛は、戦慄した。 しかし、母れいむの反応は、言い放った。 「ふんっ。れいぱーの一匹や二匹、どうでもいーよ!」 一瞬、ぱちゅりーの目が見開かれた。 母れいむは眉を吊り上げて怒りを表明している。 ぱちゅりーは、しばし凝然と母れいむを観察したのち、冷然と言った。 「そうね。どうでもいいわ。問題は、群れのゆっくりが死に絶えたってことよ」 母れいむの目には、侮蔑の色が、泥沼から這い上がってくる虫どものように、湧きあがってきていた。 「へえ。それが何?」 ぱちゅりーは、いささか震えだしている。 「何って。群れが全滅したのよ?」 「してないよ!」 と、母れいむは叫んだ。 「れいむたちがいるよ! 護衛さんたちもいるよ! わけのわかんないこと、言わないでね!」 「何が、わけのわかんないこと、よ! ゆっくりが殺されたのよ! あなたの、れいぱーに!」 金切り声を上げても、母れいむはまるでひるむ様子を見せず、その態度だけを見れば、正義はゆっくりれいむにあり、とも思えてくる。 「あんなれいぱー、要らないよ! れいむの物じゃないよ!」 「れいぱーを育てたのはあなたでしょう! そのれいぱーが、みんなを、永遠にゆっくりさせたのよ! あなたが永遠にゆっくりさせたようなものなのよ! この罪は……。あなたの命だけで購えるものじゃないわ!」 「だから何なの? れいぱーを育てて、ゆっくりが永遠にゆっくりしてして……それが何? ふんっ! れいむを差別した報いだよ! いい気味だよ! 当然の天罰だよ! せいせいしたよ!」 二匹の言い争いは、悲劇ではなく喜劇と呼べた。 ぱちゅりーは黙りこんだ。 母れいむは、いや母のみならず娘たちは、その沈黙をぱちゅりーの敗北の兆候と捉えた。 「そうね……。これで、あなたたちは二度と差別されなくて済むものね……」 と、ぱちゅりーは告げた。 子供たちは、その言葉を聞いて、きょとんとしていた。 長女れいむが口を開く。 「ゆゆ~? どーゆーこと~? さべちゅ されにゃいって、なに~? どーゆーこと?」 「おちびちゃん! 黙っててね!」 母れいむの頬に、一筋の汗が垂れた。 「ゆゆ! ……そ、そうだよ! もう、れいむは差別されないよ! やったね!」 と、喜び勇んでみるものの、娘たちは無反応だった。 「聞きたいんだけど、れいむ、あなたは今まで、どんな差別を受けて来たのかしら?」 母れいむは、りきんだ。 「ゆ! 聞き捨てならないよ! 知らないとは言わせないよ! まず……えっと……。……そうだ! あまあまさん、いっつも足りなかった! 全然ゆっくりできないよ! そ……それにね! 制裁のときの叫び声も小さすぎる! ゆっくりできないよ! あと……知らないとは言わせないよ! みんな、れいむの陰口を叩いていたんだよ! れ、れいむの悪口を言っていたんだよ! れいむの知らないところでね! 卑怯だよ! もっと、もっとあるよ! 密告が少なすぎるよ! れいむへの誠意がみられないよ! まだあるよ! まだあるよ! まだあるよ! みんな身なりが汚すぎる! れいむの目を穢そうとしてるんだね! それから、それから……。それから……。 ……どう!? これでも、れいむは差別されていないって、言いきれるかな?」 一つ一つ思い出しては、声高に悲劇を訴えつづけるのだった。 話しているうちに自信が出てきたのか、最後の文句が出たころには、母れいむは傲然と腹を突き出し、毅然としていた。 娘たちは、頬を膨らませてぱちゅりーを威嚇している。 ぱちゅりーは、露骨に溜息をついた。 「もういいわ。安心したわ。 それじゃあ、それだけ凄惨な差別を受けて来たのなら、確かに、ゆっくりの死滅には大いにゆっくりできるわね。 何しろ、もう二度と……差別されないんだから」 「そうだよ! 同じことを言わせないでね! ぷんぷん! れいむは『しんぐるまざー』なんだよ! だから、変なこと訊かないでね、もっと優しくしてね!」 ゆっくりれいむたちは、ぷくーをし、わさわさし、ぴこぴこし、ぷんぷんしていた。 「は……。『しんぐるまざー』? だから優しくしろ? それが……。 それが……、自分のつがいを殺したゆっくりの言葉か!」 「……ゆう!」 母れいむは、のけぞった。 長女れいむは、驚きのあまり、あにゃるから「ぷしゅっ」と、しーしを噴射した。 次女れいむは、身を震わせた。 三女れいむは、目に涙を溜めている。 末っ子れいむは、なめくじのように、のそのそとその辺りを這いずりまわっては積極果敢に草を食んでいた。 ぱちゅりーの怒気が、一家を追い撃つ。 「知っているわよ。あなた、つがいのまりさを、殺したんでしょう? それだけじゃない。自分に似ていない子供まで殺した! 三匹も!」 母れいむは愕然とするしかなかった。 「どうして、それを……」 「どうして? 死体の処理をやったのは私たちよ。そのとき、あなたは言ったわ。 『さっさとやってね』。 『汚いね』。 知らないはずないでしょう?」 「そ、それは……勝手に死んだんだよ!」 母れいむの弁明は、一蹴される運命にあった。 「あなたは、私の目のまえで、ツガイに釘を刺したのよ! 笑いながら!」 「し……証言だけなら、何とでも言えるもんね!」 「いえりゅ もんね~♪」 と、続いたのは三女れいむだった。彼女は、図に乗った。 「な~に? ぱちゅりー、しらにゃかったの? きゃわいい れいむが おしえてあげるね! しょーげんは うそも ありえるでしょ? だからね、しょーげんだけじゃ むいみ にゃんだよ! ゆっくり りかい してね!」 正直なところ、ぱちゅりーの偏頭痛を起こしつつあった。 幸いにして、母れいむも三女れいむの言葉を無視したので、話が脇道に逸れることはなかった。 「それにね! 動機はなんなの! どーきは! なんで、れいむがツガイを永遠にゆっくりさせなきゃいけないの!」 「決まっているわ。それは、『しんぐるまざー』の地位が欲しかったからよ! 差別されたいがためにね! 『かわいそうなれいむ』を演じるためにね! あなたは、怖かったのよ! ゆっくりたちに、ツガイがいるならツガイに頼めって言われるのが、怖くてたまらなかっただけよ!」 母れいむは――吐き気がするほどの怒りに、身悶えした。 同時に、なぜ自分がこれほどまでの怒りを覚えるのか、まるで理解できないでいた。 ただ、眼前のぱちゅりーが、今や不倶戴天の敵となっていることだけは、分かった。 「あ……あのまりさは、れいむを差別したんだよ! だから、永遠にゆっくりして当然なんだよ! ゆっくり理解してね!」 無論、理解するつもりなど毛頭ない。 「別れれば済むことじゃない……」 「さ、差別されたんだよ!」 「私たちのおばーちゃんは、れいむたちを差別したと言っても、殺しはしなかったわ」 「ぱ……ぱちゅりー! すーぱーじぇらしーたいむは、そこまでだよ! ゆっくりしているれいむが、羨ましくってたまらないからって、攻撃はやめてね!」 「羨ましくなんか、ないわよ」 「そうだよね! ぱちゅりーたちは、れいむたちより、ずっとゆっくりしつづけてきたもんね! だから、ゆっくりできないれいむに恵むのは当然の義務なんだよ!」 ただ、その恵みをもたらしてくれるゆっくりは、もはやいない。 「れいむは、これからも、ずっとずっと、ずぅっと、ゆっくりしつづけるもんね!」 ぱちゅりーが、即答した。 「無理よ」 「ゆぅ?」 斬り落とすような断言は、母れいむに困惑をもたらした。 「不可能よ」 「ゆゆんッ!」 重ねられた言葉は、母れいむに反感を植えた。 「生活能力のかけらもないあなたちが、私たちの手助け無しに……ゆっくりしつづける? 悪質な冗談にもならないわね。自分でえさも採れないような無能の極みが、ゆっくりできるはずないでしょう!」 「……そんなことない!」 ぱちゅりーは先んじた。 「言っておくけど、あまあまは勝手には生えてこないわよ」 「ゆぅ!」 悲鳴にも近い。 「柔らかい茸を見つけるには、臭くてじめじめした場所に分け入る必要があるわ。そこはおおむね、蛇の領域よ。 栄養たっぷりの芋虫は、あまり地面にはいないわね。高い所にいる。あなたたちに、登れるかしら? 鹿さんや、兎さんとの競争に勝ち抜いて、柔らかい新芽を食べられる才能が、あなたたちに、あるかしら? いい? この世は危険に満ちているの。 私たちを食べようとする動物たち――鳥さん、蛇さん、兎さん、犬さん、猫さん。 いつ来るとも分からない災害――雨、風、台風、日照り、旱魃。 そうした危険をかいくぐって、家を維持し、食べものを集めて、ゆっくりする……あなたたちに、ほんとうに、できるの?」 母れいむの否定は、またしてもぱちゅりーの先制攻撃によって叩きのめされた。 「できるもん! ……なんて言わないでね。口だけなら、なんとでも言えるもの」 頭に浮かんだ反論を逐一摘み取られていって、母れいむの怒りは頂点に達した。もみあげを、ほとんど垂直に立てて、威嚇した。 「ゆ……ゆぅぅぅ! ぱちゅりー! 差別するな!」 「差別されたがりに、言われたくないわ」 「差別するなって、言ってんでしょォッ!」 子れいむも声をあわせて、差別するな、さべちゅするなの大合唱だ。 ところがぱちゅりーは平然としている。 れいむ一家は化け物を見る思いがした。 これまで、この一言は万能だった。ただ差別するなと言えば、あらゆるゆっくりはひれ伏し、ひざまずき、恵んできた。 だが、今や言葉はたんなる空気の響きと化し、ぱちゅりーは巌のように悠然としている。 「安心しなさい。あなたを差別し、献上品を差し出しつづけてきたゆっくりは、もうどこにもいないから」 「ふん。ぱちゅりーがいるよ!」 「お断りよ」 当たり前のように、ぱちゅりーはれいむの命令を一刀両断に伏した。 「護衛さんたちがいるもんね!」 母れいむは、しぶとかった。 「彼らは護衛しかできないわ。あなた、この護衛たちが食べものを採ってきたのを見たことがあるかしら?」 「れ……れいむを、差別するな!」 「差別ってのが、あなたのような安楽な身分を意味しているなら、私は是非差別されたいわ。 日々の食糧集め、家の維持、群れへの協力が、どれだけ大変なものか、あなたは知らないでしょう?」 「ぱちゅりーは、いつものれいむたちを見ていないから、そんなこと言えるんだよ!」 わずかに、攻め手が緩んだ。 ぱちゅりーは目を細める。 「そうかもしれないわ。いい機会ね。あなたがどれだけ忙しいのか、どれだけ必死に生きているのか、聞かせて頂戴」 母れいむは、口を閉じた。 眉間の皺が解消され、眼球は喜びに歪み出している。ぱちゅりーに対する覇権を取りもどしたことが、嬉しくて仕方がない。 「……ぱちゅりー。謝るなら、今だよ?」 数秒後にはきっと、ぱちゅりーは泣き喚いて赦しを乞うているに違いない。 そして、自分はそんなぱちゅりーを足蹴にして、拷問を仕掛け、悦に浸っているだろう。 母れいむの妄想はとめどもなく広がっていった。 その妄想をさえぎったのは、 「早くして」 との、ぱちゅりーの冷たい一言だった。 母れいむは吼えた。 「……いい? れいむたちはねェッ! むーしゃむーしゃしたりッ! しーしーをしたりッ! うんうんをしたりッ! 子育てをしたりッ! 差別されたりッ! そしてなによりも……ゆっくりするのに、忙しいんだよおォッ!」 護衛たちが、いっせいに、視線を地面に落とした。 一方、れいむ一家はふんぞりかえっていた。 言った。 言ってやった。 そんな声が聞こえてきそうだ。 「……れいむ。言いたくないけど、言うわ」 「ゆ?」 どうして? どうして、ぱちゅりーは平気なの? れいむたちが必死で生きているって分かったのに、平気なの? ばかなの? 死ぬの? 「まずね、食べものを摂ったり、排泄したりするのは、全てのゆっくりにとって必要だし、ゆっくりごとにそんなに変わらないわ。 平等に与えられた労苦をもって悲劇を演じないでね」 「ふん! 知らないよ! 他のゆっくりなんて知らないよ! れいむたちがむーしゃむーしゃで忙しいのは事実なんだからね!」 反論はあっさりと無視された。 「……子育てに忙しい? 子育てっていうのは……子供を独立させること! 甘えることでも、甘えさせることでもない!」 ぱちゅりーは長女れいむを見やった。 「長女れいむを、見なさい! もうじき、そのれいむは自立すべき段階に登るわ。 どうして、赤ゆ言葉が抜けきらないのかしら?」 次に、次女れいむに視線が行った。 「次女れいむは、お葬式を知っているくせに、知らないと言ってきた。 子育てっていうのは、嘘を吐かせることなのかしら? そうね。生きるためには嘘を吐く必要もあるでしょう。 でも、次女れいむは明らかに愉しんでいる。手段としてではなく、目的として、嘘をついている。 まともじゃないわよ」 三女れいむもまた、ぱちゅりーの弾劾から逃れられなかった。 「三女れいむは、ちぇんの子供を殺したわ。無理やり産ませてね。 ただただ、赤ちゃんゆっくりが見たいから、それだけで! 覚えておいたほうがいいわよ。好奇心は、ゆっくりを殺すわ」 最後に、末っ子れいむに照準が向いた。 「末っ子は……」 肝心の末っ子れいむは、少し離れたところで、 「れいみゅ たべしゅぎちゃったよ! うんうんしゅりゅよ!」 と、やたらと誇らしげだった。 「そうね。ほったらかしにしておいたから、あんな風になっちゃったのね……」 憐れみの目線を送るのだった。これだけ怒鳴り散らしているのに、どうして自由に振舞えるのか。 「ふんっ。偏見っ、だね! 長女は、可愛いんだよ! 赤ゆ言葉を使っている可愛さに、嫉妬しないでね! 次女は、頭がいいんだよ! ぱちゅりー! 悔しいだろうけど、我慢してね! 三女は、自由なんだよ! 好奇心旺盛なのはいいことだよ! 末っ子は……」 誇り高く、また甲高い叫びが聞こえてきた。 「しゅっきりー!」 母れいむが向きなおる。 「これから変わるよ!」 「よく言うわ。子供の誰一人として、独り立ちさせる勇気がないくせに」 「独り立ちなんてさせなくっていいんだよ! れいむがずっと護るから!」 この発言は、子供受けがよかった。 「おきゃーしゃん! きゃっこいい~!」 長女れいむが、地面をもみあげで叩いて、母の勇気を称賛している。 「あなたが、永遠にゆっくりしてしまったら、どうなるの?」 当然の質問も、母れいむは一蹴した。 「ふんっ。関係ないね。ぱちゅりーたちが、餌を貢いでくれるからいいんだよ」 「その貢いでくれるゆっくりたちは、もういないんだけど?」 「ぱ、ぱちゅりーがいるよ! ぱちゅりーが持ってきてくれるよ!」 「お断りよ」 「護衛さんたちが、持ってきてくれるよ」 「産まれたときから戦うことしか知らない護衛に、何ができるっていうの? 美味しい草さんがどこに生えているか、茸さんをどうやって見つけられるか、答えられるゆっくりが、この中にいるのかしら? 「ぱちゅりー! 差別はやめてねぇ!」 その切れ味はもはや、なまくらよりも劣っていた。 「差別、差別、差別……それさえ言えば、すべてが許されるとでも思っているの?」 ゆっくりれいむは、目を剥いた。 「……違うの?」 そろそろ、ぱちゅりーは問答を諦めつつあった。 自分がどれだけ恵まれた存在なのか分からせるつもりでいたが、確信に到りつつある、どうやら無駄らしい。 「……違わないかもね。ただ、問題は、何度でも言うわ、差別って言えば許してくれたゆっくりたちが、もういないってことよ」 「ぱちゅりーがいるよ!」 循環する議論。 「どうして、あなたは、頼ることしか知らないの……」 今まで泰然とたちつくしていたぱちゅりーは、この時はじめて、一歩、れいむに向かって足を踏みだした。 「私は、許さないわ。絶対に……絶対に、あなたを許さない」 「ね、ねえ、もしかして……。ぱちゅりー、本気なの?」 今更何を言っているのかと、群れの生き残りはあきれ果てた。 「どうして? ゆっくり説明してね!」 「あなたが、全ての元凶よ。あなたさえいなければ、群れのみんなは……」 「わからない! ゆっくり説明してね!」 「……あなた、言ったわね。ゆっくりすることに、忙しいって……! みんな、ゆっくりしたいのよ! でもね、ゆっくりしていたら、ご飯さんが食べられないの。 だから、努力して、苦労して、危険を冒して、ご飯さんを得ているの。 それでも満足行く量が手に入るとは限らないわ。 いえ……むしろ、私たちゆっくりは、常に飢餓と隣り合わせに生きている。 そうした危険を乗り越えて、幸運を得て、家族をつくって。 ひとつひとつ、課題を消していって。 その先に、ほんの少しだけの、ひとつまみほどの、「ゆっくり」ができるの。 ゆっくりすることに、忙しい? 馬鹿! ゆっくりするのは、全てのゆっくりの憧れよ! いくらあっても足らないわ! あなたはね、全てのゆっくりが憧れる地位にいたのよ!」 月が、暗雲に隠された。 しかし、すぐに出現した。 母れいむは、悩ましげな、しかしつぶらな瞳で、 「ゆ……どーゆーことぉ?」 と、問い返した。 「私たちは、辛かったってことよ」 端的にぱちゅりーは返した。母れいむはさらに反問をくわえた。 「ねえ、なんで辛いって言わなかったの? ばかなの? 死ぬの?」 「じゃあ聞くけど。群れのゆっくりがあなたのところに来て……辛いんです、大変なんです、助けてください。そんなことを言ってきたら、あなたはどうする?」 母れいむは反射的に、こう答えた。 「ふんっ! 処刑だね! 嘘つきは処刑だね! 豊かなくせに、甘えてんじゃないってね!」 自信に満ちたその顔つき。笑い声。子供たちの声も重なった。思い思いに、やりたい刑罰を口に出してゆく。 「いしうち~」 「あまぎり~」 「れいっぽぅ!」 「しゅっきりー!」 「……もう。どうしようもないわね」 ぱちゅりーはれいむ一家から視線を切って、護衛に言った。 「護衛さんたち。よく聞きなさい。私の邪魔をしなかったら……あなたたちに、食べものを集める方法を教えてあげる」 母れいむは、ぱちゅりーの頭の悪いさを罵りだす。 「ふふん! ばかだね! 護衛さんたち! よく聞いてね! このぱちゅりーをやっつけたゆっくりには、あまあまをあげるよ! よく考えてね! ぱちゅりーから食べものを採る手段を教えてもらって、たいへんな思いをしながら生きていくのがいいのか、 それとも、れいむのところで、おなかいっぱい、あまあまさんを食べながら生きていくのがいいのか、 よーく、よーく考えてね!」 結論からいえば、護衛らは、雇い主の言葉に従った。 よく考えて、判断を決めた。 その結果、 「どうしたの? なんで動かないの? ばかなの? しぬの?」 護衛たちは、れいむ一家から離れていった。中庭の隅へと寄ってゆく。一様に瞳を地面に落して、れいむ一家とは目を合せようともしなかった。 母れいむは、ぱちゅりーに向きなおった。 「ゆん! 護衛なんて使えないんだよ! ぱちゅりーなんて、れいむ直々に制裁するよ!」 ゆんっ! と、胸を張る。 ぱちゅりーは足を止めて、帽子の中から、釘を取り出した。れいむは、恐怖した。 「ぱ、ぱちゅりー! その釘さんを捨ててね! はやく捨ててね! ずるいよ! 対等じゃないよ! 卑怯だよ!」 れいむの視線は魔剣の切っ先に注がれている。 「ぱ……ぱちゅりー! その怖い目を、やめてね!」 ぱちゅりーが足を前へと進めた。 「い、家のなかに、あまあまさんが、あるよ! 食べたいよね! 食べていいよ! 少しでいいよ!」 無言をもって返答した。 「ぱちゅりー! 差別はやめてね!」 殺意に気づいているゆっくりは、母れいむだけだった。 長女れいむなどは、母れいむの腰が抜けてしまって動けないでいるのを、むしろ余裕の証拠と受け取り、騒いでいた。 「ふんっ! ぱちゅりー! しゃっしゃと あやまっちぇね! おきゃーしゃん ちゅよいんだよ! ないちぇも あやまっちぇも おしょいんだきゃらね! おきゃーしゃん! やっちゃってね!」 母れいむはそれどころではない。 「ぱちゅりー! れいむは『しんぐるまざー』なんだよ! 痛いことはしないでね!」 「ぱちゅりー! ぱちゅりーには、れいむをゆっくりさせる義務があるんだよ!」 「ぱちゅりー! いまなら、れいむの奴隷にしてあげるよ! やったね、ぱちゅりー!」 「ぱちゅりー! かわいくって、ごめんね!」 見る間に両者の距離は狭まってくる。母れいむの目には涙が溜まりつつあった。 「ぱ……ぱちゅりー! ご……ごべんなざい! あやまります! 痛いことは、痛いことだげば、やべでぐだざいっ!」 汗と涙と糞混じりの声は、はなはだしく聞き苦しかった。 「何が悪いのか分かっていないくせに、命乞いなんてしないで!」 鮮烈な響きが夜空に舞い、れいむ一家を圧倒し、子供たちもようやくのことでぱちゅりーの敵意に気づいた。 ふと、ぱちゅりーは足を止めた。 そして舌打ちした。 母れいむは失禁していた。 「……れ、れいむ、なんで、なにも、わるいこと、していない、のに……」 「ぱちゅりー! おきゃーしゃんに いじわりゅしゅりゅな!」 長女れいむはそう叫ぶと、母れいむの――背後にまわった。末っ子以外の子供たちもそれに倣う。 「ぷきゅーしゅりゅよ! ぷきゅぅぅぅッ!」 まず、長女れいむが威嚇に走った。無意味だった。 「ふふ~。いいのかな~。ぱちゅりー、おかーさんを永遠にゆっくりさせたら、おかーさんに密告しちゃうよ~、いいのかな~」 次女れいむは得意の恫喝でぱちゅりーを斥けにかかるが、当然のごとく、無視された。 「ぱちゅりー。まむまむちぇっく! ぱちゅりー あたま おかしい! だから ぱちゅりーには、まむまむちぇっくが、ひつよう!」 三女れいむが走ってきて「まむまむちぇっく」しようとしたが、あしらわれた。 「すーぱー! うんうん! たいむ! ……しゅっきりー!」 末っ子れいむはいつも通りだ。ぱちゅりーの意識の端にも登らなかった。 遂に、ぱちゅりーの釘の射程内に入った。 釘の先端が、月光に濡れて、妖しく光った。 その輝きを見たとき、 「ふぎょぉぉぉッッッ!」 母れいむは、振り向き、子供たちを蹴りとばして、豪邸の中へと駆けこんでいった。 茫然としたのは、子れいむたちだった。 彼女たちはゆるゆると起きあがると、 「みゃみゃー!」 まず、長女れいむが涙とともに続き、豪邸に逃げこんだ。 「おきゃーしゃん、待っでぇぇぇッッッ!」 次女れいむも避難に走る。 「みゃーみゃーッッ!」 三女れいむも負けてはいない。脱兎のごとく巣穴の口へと駆け込み、次女れいむと入口で押し合いながら、闇の中へと溶けこんでいった。 ぱちゅりーは、末っ子れいむを見据えた。 「しゅっきりー!」 この子が、一番幸福なのかもね。 と、思った時だった。 ぱちゅりーの脳天に、金属バッドが振り下ろされた。 ========================================================================= 豪邸の中は、阿鼻叫喚の地獄となっていた。 煮え滾るような怒鳴り合いが展開されている。 「お……おちびちゃんたち! ぱちゅりーをやっつけてね! おかーさんを、助けてね! 分かってるよね! ぱちゅりーが怒ってるのは、おちびちゃんのせいなんだからね! さっさと死んでね!」 「ぷきゅぅぅ! れいみゅ、わるくにゃいもん! わるいのは、いもーちょだもん!」 「はぁァッ!? 何言ってんの? どう考えても、悪いのは、おねーちゃんだよ! ゆっくり理解してね!」 「くちゃいぃぃぃ! うんうんしちゃのだれぇぇぇ!」 「こ……こうなったら、おちびちゃん! みんなで、ぷくーするよ! ぱちゅりーに、みんなでぷくーするよ!」 「やじゃぁッ! ぷきゅぅぅは ごわいぃィッ! ゆっぐりでぎにゃいぃぃぃ!」 「ゆゆ! あまあま はっきぇん! れいみゅの! すーぱー……」 「だめだよ! そのあまあまさんはおかーさんの物だよ! 返してね!」 「ちがうもん! れいみゅのだもん!」 小田原評定を止めたのは、轟音と衝撃だった。 突如として、豪邸そのものが揺れ、大地が割れるかというほどの音がしたのだ。 れいむ一家は、一斉に、もらした。 その泣き顔の不細工さ、醜さ、気持ち悪さは、筆舌に尽くしがたいものがあった。 ところで、元来ゆっくりとは長期的思考などできない。 たとえば、もしその危険から逃れることによってさらに強度の高い危険に遭遇すると分かっていても、 この生物は、眼前の危険からの逃亡を最優先するのだった。 「おきゃぁァァァしゃぁぁぁん!」 母れいむは、猛然と巣穴から脱走した。 まったくおなじ台詞をのたまって、子ゆっくりがその背中を追った。 ========================================================================= 巣穴から飛び出すと、そこにあるはずのない棒にぶつかって、跳ねかえされて、母れいむは転倒した。 あとに続いた子れいむたちは、転倒した母親に玉つき衝突した。 ゆっくりたちは起きあがった。母れいむは、空を見上げて驚いた。見たこともない、大きな生きものが、そこに立っていた。 「に、人間さん……?」 母れいむは、人間を見たことがあった。 だが、子れいむたちは、はじめてみる巨大生物に驚き恐れ、泣き喚いて垂れ流しながら助命を懇願した。 人間は、地球上に存在する生物たちのなかでも、かなり巨大な部類に入る。その威圧感は、子れいむたちに失神寸前の恐怖をあたえていた。 人間はれいむ一家を見下ろした。母れいむは震えている。その右手にはバッドが握られていた。 鉄の棒を、人間は壊れかけた巣に突き刺した。 「むーちゃむーちゃ! むーちゃむーちゃ! むーちゃむーちゃァァ! むーちゃむーちゃァァッッ!」 末っ子れいむの声が聞こえてきた。 人間の足もとには、ガラスケースが置かれていた。その中に、末っ子れいむが納まっている。 末っ子は、ガラス越しに見える草を食べようと躍起になっているが、底面に唾液を塗りつけるのに終始していた。 「ひい、ふう、みい……四匹か。充分だな」 人間の声は、ゆっくりたちの餡子脳には届かない。 「あれ? ぱ、ぱちゅりー!?」 母れいむが叫ぶと、スイッチを切り替えたかのように、子れいむたちは泣きやんだ。 広場の中心には、脳天からクリームを垂れ流しているぱちゅりーの姿があった。調べるまでもなく、息絶えていることが見て取れた。 ぱちゅりーだけではなく、護衛たちもことごとく死に絶えていたのだが、意識どころか視界にさえ入らなかった。 「ん……ああ。俺が潰しちまった」 と、人間が言った瞬間、れいむたちの顔が輝きだした。 そして、猛然とぱちゅりーの死骸に群がってゆく。 「ゆん! みた、ぱちゅりーッ? 正義は勝つんだよ! ゆっへん!」 「ぱちゅりー! じゃんにぇーん!」 「この! この!」 「れいみゅ、つよっきゅって ごめんにぇ!」 勝ち誇り、嘲り、体当たりを見舞い、偉ぶり、概ねゆっくりたちは死体に鞭打っていた。 「何だァ?」 人間は、仲間を喪って悲しむかと思っていたが、真逆の反応を見せつけられてしまい、いささか面食らっていた。 「人間さん! よくやってくれたよ!」 と、足もとから声がする。大きさからみて、こいつらの母親か。と、正確に推測した。 「人間さんには、ご褒美を上げるよ! そうだね! れいむの奴隷にしてあげるよ! 拒まなくっていいよ! 寛大なれいむは、人間さんに、れいむにひざまずく権利を与えちゃうよ! 感謝してね! 土下座してね! 人間さんは、いまかられいむの奴隷だよ! 言いふらしていいよ! 自慢していいよ! 命令するよ! あまあまをいっぱいもってきてね! しんぐるまざーは、あままさんが必要なんだよ! それから、ゆっくりプレイスを造りなおしてね! 豪邸でいいよ! れいむったら、謙虚! 家具も新調してね! 羽さんベッドでいいよ! せいぜい頑張ってね! あまあまをいっぱいもってきてね! おちびちゃんたちの、うんうんとしーしーを、片づけてね! 毎日だよ! れいむの毛づくろいも、欠かさないでね! 毎日だよ! 手を抜かないでね! あまあまをいっぱいもってきてね! それからね! もっともっと、れいむの奴隷にするゆっくりを連れて来てね! れいむに、ゆっくりさせてね! ずっとでいいよ! ゆゆ!? れいむはまるでお空を飛んでいるみたいだよ!」 人間はその手で母れいむの頭をわしづかみにすると、持ちあげ、ガラスケースの中へと納めた。 「これが『でいぶ』って奴か……」 と、囁いていた。 「みゃみゃー! くちょにんぎぇんー! みゃみゃをはなちぇー!」 長女れいむは人間の仕打ちに激怒した。 「おきょっちゃよ! れいみゅ! ぷきゅーしゅりゅよ! ぷきゅぅぅぅ……おしょりゃとんでりゅ~~♪」 あまりにも素早い表情の移り変わりだった。つり上がったまゆは垂れさがり、荒ぶるもみあげは上下に躍動するのだった。 「いちいち言わねーと気が済まねえのかよ……」 次に参戦したのは、次女れいむだ。 「人間さん! 許せないよ! れいむの! すーぱー! あたっく! は~じま~るよ~! ゆっくり説明するよ! れいむの『すーぱーあたっく』は、れいむの考案した『すーぱーひっさつわざ』なのでしたー! れいむの『すーぱーぶれいん』が生んだ『すーぱーおうぎ』! ゆっへん! もっと説明してあげるね! れいむはお空を飛んでいるよ!」 かくして、ガラスケースの中では、母、長女、次女、末っ子がここから出せと泣き喚くことになった。最後に残った三女れいむは、 「きゃわいくっつぇ、ぎょめんにぇぇぇッ……きゃわいいれいむはお空を飛んでいるよ!」 パフォーマンスで魅了しようとしていたが、人間の手から逃れるのに糞ほどの役も立たなかった。 「さてと」 れいむ一家を捕獲すると、男はガラスケースに蓋をして、立ち上がり、その場を後にした。 ケースの中のゆっくりたちはうるさいことこの上ない。 「に……人間さん! れいむたちを放してね、れいむたちをどうするの!」 と、最も大きなゆっくりれいむの、くぐもった声が漏れてきた。騒がれるのも面倒なので、適当に答えることにした。 「そうだなぁ……飼いゆっくりにしてやるよ」 天然に生きるゆっくりには、聞き慣れない言葉だった。 「なにそれ? あまあま?」 母れいむが無邪気に問う。 「てめーらの脳の中じゃ、世のなか全て、あまあまとそれ以外か」 「違うの?」 人間はため息を吐いて、返事しなかった。それは、れいむたちにとって肯定を意味したらしい。 「人間さん! はやくあまあまを持ってきてね!」 「ああ、ああ。食いきれねえぐらい食わせてやるよ。黙ってな。警察に見つかったら厄介だ」 別に、野性のゆっくりをいくら捕縛しようが、逮捕はされない。職務質問されたところで問題もない。 この男は、それなりにしっかりした職業についている。 しかし、面倒なことは確かである。 「人間さん、れいむたちをどーするの!?」 「ん? そうだな、敢えて言うなら……人体実験だな」 平然と、男は言った。長女れいむが質問してくる。 「じんたいじっけん? それっちぇ、あまあま~?」 「そうだ」 言うだけ言ってみた。 「ゆわーい!」 信じてくれた。れいむたちはお祭り騒ぎだ。 「人体実験! 早く人体実験、頂戴ね! いっぱいでいいよ! 食べきれないほど、ちょうだいね! 待ちきれないよ!」 母れいむの口から、よだれがしたたる。 「れいみゅも~♪ ゆゆ~ん。 れいみゅは とっても ゆっきゅり しちぇいりゅよ~」 ぱちぱちと、長女れいむがもみあげでガラスケースの壁を叩いている。 「ふふんっ! 人間さん、よかったね。寛大なれいむは、人間さんに、れいむに人体実験をあげる権利を得たよ! さっさと行使してね!」 勝ち誇ったゆっくりれいむの表情は、なんというか、そそるものがある。と、人間は思う。 「れいむの! すーぱー! じんったいっじっけんっ! たいむ!」 三女れいむも、嬉しそうだ。 「むーちゃむーちゃ! むぅーちゃむぅーちゃ! みゅーちゃみゅーちゃァァァ!」 末っ子れいむは、ケースの底部をいつまでも舐めていた。 無性に。 男は、ガラスケースを両手で持ち、バーテンダーよろしくシェイクしたくなった。 それも、全力で。 が、そんなことをしたら、近郊の野山に分け入ってまで野性れいむをとっ捕まえた意味が無くなる。 あるいは。 自分が何を考えているのか、何をしたがっているのかを、開陳したくなった。 が、そんあことをしたら、れいむたちの顔が絶望に歪む瞬間を拝めなくなるかもしれない。 だから。 男は、ぐっと、こらえた。 (後編に続く) 投稿作品: anko1577 トランクス現象 anko1568 突然変異種まりさ anko1567 お口を開けると anko1565 れいむの義務
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薔薇色の世界/ネオグロテスク/夕闇スーサイド 発売日 2003年6月18日 発売元 ユニバーサルJ UPCH-5182 PIERROT are Vo. キリト G. アイジ G. 潤 Ba. KOHTA Dr. TAKEO ■ 01. 薔薇色の世界 ・ words キリト music アイジ arrange PIERROT / 佐久間正英 ■ 02. ネオグロテスク・ words キリト music アイジ arrange PIERROT / 亀田誠治 ■ 03. 夕闇スーサイド・ words / music キリト arrange PIERROT / 亀田誠治 戻る
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原語 (grotesque) 和訳 その他の品詞 えぐい、惨い、 生生 (なまなま)しい、惨たらしい、痛ましい、猟奇的、残酷、悲惨、残忍、残虐的、無情、強烈、凄まじい、刺戟的、衝撃的 気持ち悪い、えぐい、きつい、生生しい、不気味な、気色悪い、血みどろ、汚い、汚らわしい、不愉快な、えずらし、けやけし 慣用句・諺・四字熟語・未分類 目も当てられない 虫唾が走る、目も当てられない、反吐が出る、吐き気がする、目に障る 漢字一字 惨、酷、残、虐、烈、凄 奇、汚、穢 やまとことば むくつけし、おどろおどろし、むくむくし、けがらはし(汚)、しけし、しこめし(醜)、みにくし(醜)、おぞまし(悍)、いとはし(厭) けがらはし(汚) 備考欄 辞書 説明 廣辭林新訂版 (グロ:(名) 「グロテスク」の略。(グロテスク:(名) 奇怪なること。異形なること。)) 新訂大言海 (無記載) 角川国語辞典新版 (グロ:名 グロテスクの略。(グロテスク:形動 怪奇。異様。変態的。グロ。)) グロテスクに同じ。 同義等式 カタカナ語単位 グロい=えぐい 附箋:G ク フランス語 英語