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「ちぃーッス。久しぶりだなぁ姐さん、御招待に預かってやって来やしたぜ」 その男と再会の約束を交わしてから三日後。 左の手首を失い、唯一無事で残っている右手で小さな鞄を持って、我がヴァリエール公爵家の 邸宅に姿を現したジョセフ・ジョースターは、屋敷の入口で待っていた私の姿を確認すると共に 開口一番に軽い調子でそう挨拶して来た。 「ごきげんよう。本日は我がヴァリエール公爵家へようこそ、ジョセフ・ジョースター先生」 私は必要以上にたっぷりと優雅な仕草を作りつつ、来訪者である医師に向けて歓迎の言葉を 述べてやる。 本来ならば、貴族であるこの私に対して、単なる平民風情が今みたいな口を聞こうものならば、 それだけで何かしらの罰が下されて然るべきなのだが、ごく自然に、全く物怖じした様子も無く 振舞うジョセフの姿を見ていると、最早そんなことでいちいち神経を磨り減らす方が馬鹿みたいに 思えてくるから不思議なものだ。 そもそも、初めてこの男と出会った時に、既に散々な目に遭わされたおかげで、今更口の利き方が なっていない程度では怒る気にもなれない。 そう、思い返せば実に散々な目に遭わされたものだ。 三日前の初対面の際に、私は不覚にもこの男に対してとんでもないことを許してしまった。 だからこそ彼のにやけた顔を見ているだけで、何とも腹立たしい気分になって来るのも また確かだった。 そのおかげで、こちらはどんな顔をして彼に会えば良いのか、まともに相手の顔を見ることが 出来るのかどうか、彼がこの屋敷にやって来るまでの間ずっと悩み続けたと言うのに。 恐らく私は生涯、その記憶を忘れることは無いであろう。 ヴァリエール公爵家の娘であるこの私が、このような平民の男に唇を奪われてしまった、あの瞬間を。 今でも思い出す度に、あの時の感覚が蘇って来るかのようだ。 それは私にとって、男性に激しく口付けを求められた、数少ない経験のひとつだったのだ―― 「どーした?ボォーっとしちまって」 「ぁわぅッ!?」 いつの間にやら至近距離まで近付いて来ていたジョセフの顔が目の前に広がり、私は思わず 動揺の声を上げてしまう。 確かに、こうして改めて見ると、この男が端整な顔立ちをしているのは間違い無い。 一言で言えば美形だとさえ思う。 だが、それをこんなに近くで見せられると、否が応でもあの時の記憶がまざまざと呼び起こされてしまう。 私の胸は緊張で高鳴り、心拍数と共に体温が急激に上昇して行く。 ああ、やはり恐れていた事態が起こってしまった。 敗北感にも似た苦い感情に襲われて、私は何かが完膚無きまで打ちのめされたような気分に陥る。 この男に唇を奪われてしまったのは、確かに私の人生において致命的な汚点の一つだ。 だが、彼と顔を会わせる度にそんなことをいちいち思い出していたら、こちらの身が持たない。 この三日間悩みに悩み抜いた挙句、私はようやく一つの決断を下した。 即ち、あの忌まわしい記憶は全て無かったことにして、彼に対しても単なる一人の医者として扱い、 こちらもあくまで客として、毅然とした態度で応対してやろうということだった。 だからこそ、先程も平民相手でありながらも、不必要なまでに礼儀正しく挨拶してやったつもりだ。 しかしそうした私のささやかな目論見も、今まさに脆くも崩れ去ってしまった。 おかげで余計にあの時のことを意識してしまい、私は彼の顔を直視することが出来なくなる。 一方、当のジョセフはそんな私の胸中など全く意に介した様子も無く、うろたえる私の姿を見て首を傾げ、訝しげな表情を浮かべる。 「何だよ、もしかしてあんたまで風邪か何かにでも罹っちまったのか? オイオイ、そりゃいけねーぜ。 そんなコトじゃあ、逆にあんたの方が問題の妹さんとやらに心配されちまうだろ」 「よ、余計なお世話よっ」 「……まあ、とにかく妹の為にここまで来て下さったことには感謝するわ、ジョースター先生」 「おう。あんたの妹さんが病気だっつー話は、どうもマジな話っぽいからな」 頷いて、普段から調子の良い笑みが張り付いているその顔に、彼は少しだけ神妙な表情を作ってみせた。 「妹さんを治すのに俺の『波紋』が役に立つって言うんなら、喜んで力を貸してやるぜ。 折角の美人のお嬢様がお屋敷の中で飼い殺し、っつーのは幾らなんでもアンマリだもんな」 「………そうね」 そう、彼の言う通りだ。しかし飼い殺しとは上手いことを言ってくれる。 家族としてそんな言い方をされるのは腹立たしいが、彼の言葉を否定する術を私は持たない。 今日この男に診察して貰うべき私の妹カトレアは、生まれた頃から病弱で、満足に屋敷の外を 歩くことが出来ないくらいに体の弱い子だ。 私達メイジが用いる魔法の技術では、あの子の体を治してやることは出来なかった。 もう私には、カトレアを救う為には彼が持つ不思議な『力』に縋るしか無いのだ。 このハルケギニアに存在する魔法とは全く異質な『力』――『波紋』と、彼は言ったのだろうか。 その力で以って、本当にカトレアの体をどうにかしてやれるのかどうかは、これからわかる。 私は期待と不安に押し潰されそうになりながらも、精一杯に毅然とした態度を取り繕って言葉を続ける。 「ともあれ、こんな所で無駄話をしていても始まらないわね。妹には自分の部屋で待ってるように 言ってあるわ。これからあの子の部屋まで案内するから、付いて来なさい」 「オッケー。まあ、やるだけやってみるさね」 頷いて答える彼に私はそれ以上は何も言わず、側にずっと立っていた使用人の一人に視線を送る。 その召使いは私の意図を瞬時に読み取って、静かに屋敷の中へと通じる扉を開いた。 私はそのままジョセフを促して、彼と共に屋敷の中へと足を踏み入れる。 客人として呼び寄せた物の、彼に対して挨拶する必要は無いとあらかじめ釘を刺しておいた為に その場で待機していた使用人達は、屋敷の中へと入って来た私達の姿を確認しても無言のまま。 屋敷の主の一人である私に向けて深く頭を下げた後は、ただ胡散臭げな視線をジョセフに向けて 送るだけだ。私はそんな使用人達の態度は気にせず、ジョセフに彼の持って来た鞄を 誰かに代わりに持たせようかとも提案したのだが、彼は自分で持つと言って断って来たので 結局私達はそのまま二人で、カトレアの部屋へと向かって行く。 「ほーお。いやしかし、バカでっかいお屋敷だとは思っていたけど、中も大したモンだね。 スピードワゴンのじいさん家よりもスゲエかもしれねーな。貴族の屋敷ってのは皆こんなモンなのかね」 無遠慮に屋敷の中を見回しながら、感心を通り越して呆れが来たとでも言いたげにジョセフが呟く。 一体、彼のこの余裕は何処から来ると言うのだろう。 単なる平民風情をこうしてヴァリエール公爵家の客人として招待すること自体が 異例中の異例だと言うのに、当のジョセフは畏まった様子一つ見せずに、無駄口を叩きながらも 堂々とした態度で私の後を追って来ている。 本当に、ここまで貴族を恐れない平民がいるとは思わなかった。 そして、それと共に私は、そんな彼の態度に少しだけ違和感を覚える時がある。 貴族と平民を区別する決定的な要因は、魔法の力を行使出来るか否かだ。 このハルケギニアにおいて、平民は貴族に対して畏敬の念を抱くべしとされているのは、 貴族は自らの持ち得ない魔法の力を自在に操ることが出来る為というこの一点に尽きるだろう。 中には魔法の力を全く制御出来ない私の末の妹ルイズみたいな例外もあるが、ともあれ平民にとって 自分達を遥かに超える魔法という超常の力の持ち主である貴族――メイジは恐怖の対象であり、 だからこそ先日このジョセフの手伝いをしていた平民の娘も、必要以上に貴族である私に対して 怯えたような態度を取っていたのだろう。 そしてあの時に彼女が見せたような仕草こそ、正常な平民の姿であると今でも私は思う。 あの娘に比べて、このジョセフという男の態度や物腰などはあまりにも違う。違い過ぎる。 彼が患者の治療に用いている『波紋』とか言う能力といい、これではまるで―― 「……まさか、ね」 「ン?マサクゥル?何を言い出すかと思えば、そりゃ『皆殺し』って意味じゃねーか。 相変わらず物騒な姐さんだな、一体誰を皆殺しにするっつーんだ?あんたをフった男共か?」 「何ですってぇ……?」 聞き逃すことの出来ない言葉を耳にして、私はピタリとその場で足を止めて彼の方へと向き直る。 私につられて律儀にその場に立ち止まったジョセフの方を振り返り、普段から持ち歩いている 愛用の鞭をこの手に握り締める。 「誰が誰に振られたと言うの!この無礼者め、そんな口を聞くのはこの口か!この口かぁーッ!!」 つい先日、相手方に婚約解消を言い渡された時の怒りが蘇り、それはそっくりそのまま不用意な 発言で私の心の傷に触れたジョセフへと転嫁される。そして私は自らの思いのままに、彼に向けて 容赦無く鞭の連撃を見舞ってやる。 小気味の良い音を立てて、彼の顔面に私の鞭が直撃していく。 「HOLY SHIT!!あんた一体どっからそんなモン出したんだよ!? っつーか、そんなこったから男にも逃げられるんじゃねーのか? 怒ってばっかだと老けるのも早いぜ?」 「きぃぃぃぃぃッ!うるさい!うるさい!うるさぁぁぁーーーいッ!!」 「オーノーッ!リサリサ先生だのスージーQだのジェシカだのこの姐さんだの! 気の強い女も嫌いじゃねーが、こーゆー女ばっかだとタマにゃあ 優しくておしとやかなお嬢様にも会いたいぜェーッ!」 最早我慢の限界だった。私は一切の容赦を捨てて、気の済むまでただひたすらに全力で鞭を振るう。 ジョセフがわけのわからない悲鳴を口走っている気もするが、完全に頭の血が上った私には 何も聞こえない。 そのおかげで、先程ふと思い付いた考えも、今や私の頭の中から完全に消え去っていた。 ――まるで、このジョセフ・ジョースターは何処か別の世界からやって来たようでは無いか。 それはあまりにも突飛で、馬鹿馬鹿しい考えだった。 だから私は、自分がそんな考えを思い付いたことなど、それから長い間ずっと忘れ去ってしまっていた。 「ここよ。少し待っていなさい」 途中、意味の無い紆余曲折があった物の、ようやくカトレアの自室の前まで辿り着いた私は 全身を痣だらけにしたジョセフをその場に一旦待たせておく。 「イテテテ……なんか俺の方が医者を呼んで欲しいカンジ」 不満有り気な呻き声を上げる彼のことは無視して、私はドアを軽く叩いて中にいるであろう妹を呼ぶ。 「カトレア、私よ。前に話した新しいお医者様をお連れしたわ。入ってもいいかしら?」 「はい、エレオノールお姉様。どうぞお入りください」 ドアの奥から妹の声が聞こえて来る。それを聞いて、私は鍵や『ロック』の魔法が掛けられていない ドアを無造作に開いて、待たせておいたジョセフと共に妹の部屋へと入る。 私達の気配に反応して、カトレアがどこからか拾って来て、そのまま部屋の中で飼っている動物達が 一斉に面を上げてこちらを見つめて来る。 普段ならばこの私に対してもあまり警戒した態度を見せない動物達だったが、やはり初対面である ジョセフのことが気になるのか、どことなく緊張した面持ちでじっとこちらの様子を窺っている。 そうした動物達に囲まれながら、カトレアはベッドの脇に立って礼儀正しくこちらに向けて一礼をする。 「はじめまして、ジョセフ・ジョースター先生……でしたかしら? カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌと申します」 「おおッ。こりゃ御丁寧にどーも、ジョセフ・ジョースターっス」 カトレアの姿を眺めながら、ジョセフはいつもの調子の良い笑みを浮かべて会釈する。 「本日はお忙しい中、わざわざお越し頂いて本当にありがとうございます」 「いやあ、病気の患者と聞けば放っちゃおけませんでね。お呼びとあらばどこまでもってヤツでさァ。 しっかし話にゃあ聞いていたが、こりゃマジで別嬪さんだぜ! スタイルもグンバツ!物腰穏やか!ついでにいいトコのお嬢様と来た! 完璧だぜ、いる所にはいるモンだ……これぞまさしく究極の生命体ってヤツだァーッ!」 「うふふ……ありがとうございます。そんなことを仰られると、何だか照れてしまいますね」 「……カトレア。立ったままでは体に障るわ、ベッドにお掛けなさい」 二人の会話を遮って、私はカトレアにそう命令する。それは本当にこの子の体が心配だというのも あったし、またジョセフに妹のことをあれこれと言われるのも気に食わなかった。 「エレオノール姉様」 「いいから座っていなさい。それと椅子を一つ借りるけれど、構わないわね?」 「……はい、わかりました。ジョースター先生、失礼致します」 申し訳無さそうな表情を浮かべて、カトレアは私の言われるままに静かにベッドに腰を下ろした。 そして私は魔法の杖を手に取って、化粧台の前に置かれていた椅子を魔法で浮かべる。 そのままゆっくりと動かしてベッドに座るカトレアの前へと降ろす。 「ほォ……確かにこりゃ魔法だわ。今まで信じちゃいなかったが、実際この目で見ると便利なモンだな」 「お掛けになって頂いて構わないわ。ジョースター先生、妹のことをどうか宜しくお願いするわ」 「ああ、任せてくれ」 ジョセフは頷いて、私が動かした椅子へと近付いて、それに遠慮無く腰を掛ける。 大柄な彼の体重を受けて、カトレアの為に作られたその椅子はギシリと小さな音を立てる。 ジョセフには少しサイズが小さそうだが、それは我慢してもらうしか無いだろう。 そして右手に持っていた鞄を膝の上に乗せた辺りで、ふと気付いたようにジョセフは椅子に座ったまま 私の方へと顔を向けて来る。 「どうかしたの?早く診察を始めなさい」 「ああ、いや……やっぱ姐さんも同席すんのねって思ってな」 「当たり前でしょう。貴方をここまで連れて来たのはこの私よ。 私には貴方がどういう診察をするか見届ける義務があるわ。この子の姉としても、ね」 「ウーム、そりゃそーだよなァ。だが、ちっとばかし残念だぜ……」 当然の話ではないか。一体何を言っているのだ、この男は。 腰を下ろす二人の側に立って、私は妹達を見下ろすような形で口を開く。 しかしジョセフは、あからさまに残念そうに肩を落として、深く嘆息して言って来る。 「折角おしとやかで美人のお嬢様と一対一でハッピーな診察時間を過ごそーかと思ったんだが 世の中そこまでウマい話があるわけねーのな」 「フフフフ……それじゃあもう一つ理由を教えてあげましょうか?」 私は先程したたかに彼の体を打ち付けたばかりの鞭を再び握り締めて、虚空に向けて一閃。 まだまだ血が足りない、とばかりに私の相棒は吼える。 次またこの一撃を振るえば、再びいい音を立ててこの男の体に食い込むことだろう。 「それは貴方が、私の目の前でそーゆーことを臆面も無く言える男だからよ!」 「オーノー!ギブギブ、そのムチは勘弁!これ以上そいつを食らったら、俺の方が病院送りだぜ!」 「いっそのこと、その方が良いのかもしれないわね!妹におかしなことをしたら只じゃあおかないわ!」 妹を好色な目で見られるのは、自分自身に対する侮辱よりも腹立たしい。 片手で必死に防御の姿勢を取ろうとするジョセフに、私は再び手にした鞭を突き付ける。 「……くすっ。お二人とも、仲がお宜しいんですのね」 穏やかに微笑みながら口を挟んで来たカトレアの言葉に、思わず私達はお互いの動きを止める。 この子が今言ったことの内容を理解するまで、暫しの時間を要する。 そして、ようやくその意味を把握した私は、それを大慌てで否定する。 「なッ…何を馬鹿なこと言っているの!私がこんな平民如きと仲が良いですってぇ!? そ、そ、そんなことある訳が……」 「ウーム。確かにこの姐さんは美人だとは思うが、お近づきになりたいかっつーとまた別だよなァ。 ペチャパイなのはともかくとしても、所構わずスゲーキレまくるし、付き合ってて身が持たねーっつーか、 寧ろぼいんぼいんで且つ優しそーな妹さんの方がタイプっつーか」 「貴方と言う男はぁぁぁッ!何処まで減らず口を叩けば気が済むのかしらぁッ!?」 「ほら、やっぱり仲がいい。姉様がこんなに気さくに殿方とお話しされるなんて、とても珍しいことですもの」 カトレアの言葉に再び毒気を抜かれて、私はつい鞭を握り締める手の力を緩めてしまう。 長年、家族としてこの子と付き合ってはいるが、妹のこういう所には敵わないといつも思う。 私は深く嘆息した後、ジョセフの口走った暴言は一旦忘れてやることに決めた。 だが、それでもやはり私とこの男の仲が良いなどと思われるのは心外だ。 この件についてだけは、後できちんとカトレアにも良く言い含めておかねばならないだろう。 「……これ以上鞭で打たれたくなかったら、早く妹のことを診てやって頂戴」 その一言が、私に出来る最大限の譲歩だった。 ジョセフも今度こそ黙って頷いて、椅子に座りながら改めてカトレアの方へと向き直る。 私もその場に立ったまま、鞭や魔法の杖をしまいつつ二人の様子を見守ることにする。 そしてようやく目の前のジョセフは真剣な表情を浮かべて、カトレアに対して色々な質問を始めた。 カトレアの体の弱さが生まれ付きの物であることや、この子の体力の限界点、古くからの ヴァリエール公爵家の係り付けの先生に処方して頂いている薬の種類など、ジョセフの問い掛けは 至って真面目な診察に関わる質問であった。 彼の質問にしっかりした口調で答えて行くカトレアと、途中途中で頷きながらも次々に質問を続ける ジョセフの様子を、私は口を挟まずに黙って眺めていた。 やがて最後の質問を終えた後、ジョセフは考え込む仕草を浮かべながら、ふうと息を吐いた。 「フム……やっぱり妹さんの体の弱さは体質的な物らしいな。そして医者の先生から貰ってる薬も 一時的な発作を止める為の対症療法的な代物に過ぎねぇってワケか。 なるほど、こいつは厄介な話だぜ」 「ジョースター先生。この子の体……治せそうかしら?」 少しだけ身を突き出して、私は難しい表情を浮かべるジョセフに向けて尋ねる。 気の早い質問であることはわかっている。それでも私は、早く彼の口から答えを聞きたかった。 無論、不安はある。 彼の持つ『波紋』という能力を以ってしても妹を救うことが出来なければ、今度こそ打つ手は無いのだ。 このまま一生、この子を屋敷に閉じ込めておかなければならないなど、あまりにも残酷過ぎる。 そんな仕打ちを家族として、カトレアの姉として、許すことなど出来よう筈も無い。 祈りにも似た想いで、私はジョセフの回答を待つ。 まるで一秒にも満たない時間が、果てしなく長いもののように感じる。 やがてジョセフは、私の抱いている不安感を知って知らずか、真剣な表情を崩さぬまま口を開いた。 「そうだな……結論から先に言わせて貰えりゃあ、不可能じゃねえとは思うぜ。 だが、ちっとばかし手間が掛かる上に、時間も要るだろうな。 悪ぃとは思うんだが、確実に治せるかどうかはちょいとばかり断言出来ねーな」 珍しく歯切れの悪い口調で、ジョセフはそう答えた。 「………そう」 彼の語った内容は、決して希望に溢れた内容では無かったが、私にとってはそれでも充分だった。 今まではどんな方法を試みても駄目だったのだ。少しでも可能性があるならば、それに賭けてみたい。 本当にカトレアが元気になるならば、どんな方法だっていい。 カトレアに、この子の思うがままに外の世界を自由に歩けるようにしてやりたい。 それは私だけでは無い、このヴァリエールの家で暮らす者、全員の望みでもあるのだ。 「それでも、方法が無いわけでは無いのね?」 「ああ。正直、一度や二度くらい『波紋』を流した程度じゃあ、生まれ付きの体質を変えるのは難しいぜ。 だが何度も定期的に『波紋』を流し続けた上で、更にこの妹さんの体に合った薬とかを使っていけば 何とかなるかもしれねぇ。そうだな、ちょっと試してみるか」 そう言って、ジョセフは膝に乗せた鞄を片手で器用に開いて、中から小さな小瓶を取り出した。 「こいつは安物の強壮剤で、効果もあまり強くはねーんだが… 俺の『波紋』を使えばその効果を高めることも出来る。 正確に言やぁ、飲んだ人間の体が最大限にその薬の効果を吸収出来るように 『波紋』で調整するってカンジだな。 それで普段も患者に飲ませてる薬代を安く上げてるってワケなんだが…… まあ論より証拠とも申しますことですし、妹さんにはちびっとだけこいつを飲んで頂きますかね」 何か薬を注ぐ為のグラスはあるかと言われて、私はこの部屋に常備されている薬箱の側から、 まさにカトレアが薬を飲む際に使われているグラスを一つ取って来る。 そのままジョセフに渡そうと思ったが、彼が左腕を失っていることを思い出して、逆に私の方が 彼から薬瓶を受け取って、中の薬をグラスに注ぐことにする。 「マジでちびっとでいいんだぜ。あまり沢山飲ませて妹さんの体に合わなかったりしたらマズいしな」 彼の言う通りに行動するのは少し癪だったが、これもカトレアの為だと思えば苦にはならない。 それに彼の言葉も尤もだった。 こんなことでカトレアの体調を崩してしまっては、それこそ本末転倒と言うものだ。 「はい、カトレア」 「ありがとうございます、姉様」 私からグラスを受け取ったカトレアは、そのままゆっくりとグラスを口元へと近付けて行く。 「んっ」 そのまま小さな声を上げて中の薬を飲み干すのを見届けた後、私はカトレアに手を差し出して 空になったグラスを受け取る。 「これでよし。それじゃあ、いよいよ俺の『波紋』をお見せする時が来ましたかねェ」 右手の指をポキポキと慣らしつつ、ジョセフはカトレアの顔を見ながら不敵な笑みを浮かべる。 「んじゃ妹さん……あーっと、確かカトレアさんだったな。大変失礼ながら、御手をば拝借」 「あ、はい」 差し出されたカトレアの手を、ジョセフが岩をも連想するような大きな右手で握り締める。 目の前で妹の手を若い男が掴んでいるという光景に、私は眉根を顰める。 だがこれも全てはカトレアの治療の為だ。 彼の能力は直接相手に触れなければ効果が無いようなので、この程度のことは致し方無い。 私が多少我慢の気持ちを抑えながらも黙ってその様子を見つめていると、ジョセフは軽く カトレアの手を揉みしだきながら、感心したように声を上げる。 「ウーム、真っ白で柔らけーぜ。やっぱり女の子の手ってのは野郎のモンとは全然違うよなァ。 あまりおかしな趣味にイッちまうのもアレだが、それでも触っててキモチイイのは間違いねーぜ」 「……ジョースター先生?貴方は何をしてらっしゃるのかしら?」 「うげッ」 静かな怒りを孕ませながら、私はにやけた表情を浮かべて妹の手を取るジョセフのことを睨み付ける。 「おいおい、ちょっと待ってくれよ姐さん、そこまで怒るこたぁねーじゃねぇか。 これはホレ、アレだぜ。ちょっとした患者とのコミュニケーションってヤツぅ?」 「うるさいわね!やるならさっさと始めなさい!このエロ医者!バカ医者!」 「うへーい。ったく、妹さんはこんなに優しいのに、どーして姉貴はこうもおっかねーのかね……」 私の怒鳴り声に首を竦めながら、ジョセフは何やら不満そうにぶつぶつと言っている。 少しでもこの男を信じた私が馬鹿だった。やはりこんな平民如きに甘い顔をしてはならなかったのだ。 それと共に、やはり自分もこの場に同席していて良かったと心の底から思う。 カトレアを守るのはこの私だ。この男を含めて、今後は誰であろうと妹には指一本触れさせるものか。 「ふふっ」 そして当のカトレアは何が嬉しいのか、普段通りの穏やかな笑みに、少しだけ意地の悪さを 含ませながら、私とジョセフのやり取りをじっと見つめている。 きっと今のこの子の頭の中には、私にとって何か非常に不愉快な考えが渦巻いているに違いない。 先程の件も含めて、それが大変な誤解であることを後できちんと説明しなくてはならないだろう。 「……んでは、今度こそマジでやらせて頂きますか」 そう言って、やおら真剣な表情を浮かべたジョセフは、そのまま深く息を吸い込み始める。 数日前、初めて彼と出会った時にも見ることになった独特のリズムによる呼吸法だ。 私がジョセフ・ジョースターをこの場に呼び寄せたもう一つの理由。 それは、彼が操る『波紋』と言う不思議な力の正体を見極め、研究の一環とすることだった。 コォォォォ…と不思議な音を立てながら息を吸い込み続ける彼の姿を、私は瞬きする暇すらも 惜しんでじっと凝視する。 「波紋疾走(オーバードライブ)!!」 やがて限界まで息を吸い込んだ彼が鋭く一喝すると共に、その右手から眩い光が放たれた。 まるで太陽の光を思わせるようなその光は、彼の右手が握り締めているカトレアの手を伝わって そのまま妹の体全体へと伸びて行く。 「っ………あっ!?」 光が全身を駆け巡る感覚に違和感を感じているのか、カトレアが小さな悲鳴のような声を出す。 そしてそのまま、カトレアの体に広がる光は次第に見えなくなって行き、そのまま完全に消滅する。 「……ふうッ。どうだい妹さん、体の具合は?」 そう尋ねるジョセフの前で、カトレアは驚いたように目を瞬きさせて、自分の体を見つめている。 「不思議です……苦しくありません。それどころか、急に体が楽になったような気がします」 「そいつが『波紋』の効果さ。『波紋』で作り出した生命エネルギーを、あんたの体に送り込んだんだ。 そんでもって、さっきちびっとだけ飲んでもらった薬の効果も、今は最大限に効いてるってワケだ。 まあ、妹さんの場合は元々の体力が弱いから、あまり長い時間は持たないだろうが…… それでも『波紋』の効果が切れるまでは、ちょっとはマシになる筈だぜ」 「すごい。何だか自分の体では無いみたいです」 いつも落ち着いているこの子にしては珍しく、どこか興奮した様子でカトレアはその場で立ち上がる。 確かに、普段だったらただ歩いているだけでも、何時倒れ込むかわかららないくらいに頼りない 足取りになってしまう筈なのだが、今のカトレアからはそうした危なっかしさは殆ど感じられない。 こんなに元気そうな妹の姿を見るのは初めてだった。 それだけでも、このジョセフ・ジョースターをここまで呼び寄せた甲斐があったとさえ思える。 『波紋』とは生命エネルギーそのものを生み出す能力である。 ジョセフが今言った言葉は、どうやら真実であるらしい。 「無理をしてはいけないわ、カトレア。ジョースター先生も仰っていたけれど、それはあくまで 一時的なものでしか無いのよ。ここではしゃぎ過ぎて後で体を悪くしてしまっては、元も子も無いでしょう?」 「あ……は、はい。ごめんなさい、エレオノール姉様」 そう私が嗜めると、恥ずかしそうな表情を浮かべてカトレアは再びベッドに腰を下ろした。 素直に言うことを聞いてはくれたものの、妹は肩の力を落として明らかに残念そうにしている。 折角、元気になったと思ったのに。そんなカトレアの無念が今にも聞こえて来るかのようだ。 そしてそれは、この子を今まで見守って来た私自身の想いでもある。 この男が持つ『波紋』の能力を詳しく知りたい。 そして、その力をもっと妹の為に使ってやって欲しい。 病弱な妹の身を案じる姉としての私、トリステイン王国が誇るアカデミーに所属する研究員としての私。 その二つの立場から、私はどうしてもこのジョセフ・ジョースターという男を繋ぎ止めておきたくて たまらなかった。それは結局、どんなに綺麗事を並べたとしても、結局はカトレアの体調を口実に 己自身の探究心を満たしたいだけだという、薄汚れた私のエゴに過ぎないのかもしれない。 だけど、それでも目の前で無念の表情を浮かべるカトレアの姿を見せられてしまえば、 私はその言葉を口にせずにはいられなかったのだ。 「……ジョースター先生、少し宜しいかしら?」 「ン?なんだい姐さん、まだ何かあるのかよ」 「ええ。ちょっと、二人きりでお話ししたいことがあるの」 「話ィ?まあそりゃあ構わねーが、突然改まったりして一体どーゆー風の吹き回しだ? あ、もしかして俺への愛の告白ってヤツぅ?ナハハ、そりゃ参ったネ。モテる男は辛いぜ!」 「とにかく。大事な話なのよ」 「……どうやらマジな話らしいな。いいだろう。その話、聞いてやろうじゃねーか」 自分の冗談にも全く動じない私の態度にただならぬ物を感じたらしく、真剣な表情でジョセフが頷く。 私はそのまま彼に対して先に部屋の外に出るよう促した後、カトレアの方を振り向いて、言う。 「貴女はここで待っていなさい。あまり時間は掛からないと思うから。いいわね?」 「はい、わかりました。……うふふ」 私の言葉に頷きながらも、カトレアは私の姿を見て何故か嬉しそうな笑顔を浮かべていた。 「……何よ、その笑い方は」 「いいえ、何でもありません。私はお邪魔にならないよう、ここでお待ちしていますから」 「カトレア」 「何でしょうか、姉様」 「言っておくけれど、貴女の今考えていることは大きな誤解よ。勘違いしないで頂戴」 「あら……エレオノール姉様には、何か私が誤解するようなことがおありなのでしょうか?」 「……とにかく、少しでも変わったことがあったら、すぐに私達を呼ぶのよ」 「はぁい」 一応、釘を刺してはみたつもりだったが、やはり無駄だったようだ。 私の言葉にも全く動じた様子を見せずに、カトレアはまるで悪戯っ子のような表情で微笑む。 まったく、気性の激しい者ばかりのヴァリエールの家の中にあって、一体この子の性格は 誰に似たと言うのだろう。 あの泣き虫で甘えん坊な末の妹のルイズですら、中々に意地っ張りで気の強い所もあったと言うのに。 そういえばルイズがまだ実家にいた頃は、私や両親が厳しく接していた反動か、家族の中で一人だけ あの子に優しかったカトレアに随分と懐いていたものだ。このちびルイズへの態度一つ取ってみても、 少なくとも性格面においては、私とカトレアは呆れるくらいに似ていない気がする。 別に私とて、ルイズが可愛くない訳では断じて無い。 だが、あの子もまたヴァリエール公爵家の一員として生まれた以上、学ばねばならぬこと、 果たさねばならぬことが、それこそ山のようにある。 例え満足に魔法を制御出来なくとも、いいえ、上手く魔法を使うことが出来ないからこそ、 それらは尚更ルイズの人生にとって絶対に必要となるものなのだ。 私はそう信じてあの子に様々なことを教えてきたつもりだし、それが間違っていたとも思わない。 その為にあの子には辛く当たったことも随分あったし、ルイズにとってはそれが耐えられないと 感じる時も一度や二度では無かっただろう。 ルイズが一人前の貴族として、自分自身に誇りを持てる子になってくれればいい。 その為ならば、私は少しぐらいあの子に恨まれたって構わない。 カトレアとは違う形ではあるが、私もルイズに対して自分の愛情を精一杯に注いで来たつもりだ。 あの子もまた、私の可愛い妹なのだから。 体の弱いカトレアと、満足に魔法の使えないルイズ。この子達を守るのは姉である私の役目だ。 妹達を脅かす存在があるならば、私はそれに全力で立ち向かってやる。 そして今、ようやくカトレアの体を蝕む病魔を取り除く為の手掛かりを見つけることが出来た。 その鍵を握っているのは、『波紋』と言う不思議な力を持つこの男、ジョセフ・ジョースターなのだ。 「それで?話っつーのは一体何なんだ?」 彼に遅れてカトレアの部屋の前の廊下に出た私に向けて、ジョセフはそう尋ねて来る。 こうして改めて見ると、如何に彼が長身なのかが良くわかる。 私は彼を下から見上げるような形で、はっきりと彼の目を見据えながら告げる。 「単刀直入に言うわ。貴方に、カトレア係り付けのお医者様になって頂きたいの」 「………なぬぅ?」 思わず目を丸くしてこちらを見やるジョセフに構わず、私は訥々と話を続ける。 「勿論、相応の礼金はお支払いするわ。必要な薬などがあればこちらでも用意しましょう。それから…」 「オ、オイオイ!ちょっと待ってくれよ!」 慌てた様子で、私が話している途中にも関わらずジョセフが口を挟んで来た。 「大事な話があるからって聞いてみりゃ、こりゃまた随分と大袈裟な話になって来たな。 一体どーゆーつもりなのか、ハッキリ聞かせて貰いたいモンだぜ」 確かに、彼にとっては唐突な話になってしまったかもしれない。 こちらに対して胡乱な視線を送って来るジョセフに、私はふうと一旦嘆息してから答える。 「言葉通りの意味よ。貴方の『波紋』で、カトレアを助けてあげて欲しい。ただそれだけよ」 「………フム?」 私のその言葉に、ジョセフは考え込むように声を漏らした。 嘘では無い。カトレアの体を健康にしてやりたいというのは、私の心からの望みだ。 だが、それが全ての理由と言う訳でも無かった。 一人のメイジとして間近で『波紋』を観察し、それを研究したいという欲求もやはり捨て切れない。 カトレアの体に関わる問題にも関わらず、自分がそんな背反する気持ちを抱いている事実に、 時折私は自分自身を許せなくなる時がある。偉そうな御題目を掲げながらも、結局は自分の 欲望の為に妹やこの男を利用しようとしているだけでは無いのかと、そう思えてしまうからだ。 胸の底からじりじりと湧き上がる自己嫌悪に、私は必死になって耐えながらジョセフの回答を待つ。 「ま、いいだろ」 そして、答えるジョセフの言葉は、あまりにもあっさりした物だった。 「わかったよ姐さん。あんたの言う通りにしてやってもいいぜ」 ジョセフ・ジョースターはいとも簡単に、首を縦に振って来た。 それは彼に断られた時のことを考え、身構えていた私の方が拍子抜けしてしまう程だった。 一瞬、彼の言った言葉の内容を理解出来ず、私は思わず呆けたような表情を浮かべてしまう。 「……姐さん?」 「え、あ……ああ、そ、それでは引き受けて下さるのね、ジョースター先生」 「だからそうだって言ってるだろ。まあ多少面倒な条件は付けさせて貰うだろーけどな。 しっかし、いきなりボケーッとしちまって一体どうしたんだ? やっぱ風邪でもひいてんのか?それとも俺があまりにイイ男過ぎて見惚れちまったのかい?」 「そ、そんな訳無いでしょうっ」 私は寧ろ胸に秘めたままの手前勝手な葛藤を悟られたくなくて、慌てて彼の言葉を否定する。 しかしまあ、このジョセフ・ジョースターという男が美形なのは否定するつもりは無い。 それに長身で引き締まった肉体と言い、彼が女性にもてるらしいという話も比較的容易に信じられる。 こうして間近で彼の姿を観察していると、尚更それが良くわかる。 そして、ジョセフの顔を間近で見ていると、どうしても私はあの出来事を思い出してしまう。 初めて彼と出会った時の、とても強引で激しかった、あのキスの記憶を―― いや、駄目だ。思い出してはいけない。 私は再び脳裏に蘇って来たあの忌まわしい事件の記憶を封印するべく必死の抵抗を試みるが、 下手に意識してしまったせいで、逆に余計にあの時の感触がまざまざと呼び覚まされてしまう。 思わず顔が紅潮し、息が詰まる。満足にジョセフの顔を見ることが出来なくなって来る。 いいえ落ち着きなさい、落ち着くのよエレオノール。 あれはただの不幸な事故に過ぎないのよ。冷静になって頭をクールに保つのよ。 そうすれば、例えこの男が何をしでかそうと、恐れるものは何も無い―― 「……なんか顔が赤いな。オイオイ、こりゃマジで風邪なんじゃねーのか?」 「ぁうわぁぅッ!?」 気が付けば、お互いの息が触れる程の距離からジョセフが私の顔を覗き込んで来ていた。 全く心の準備が出来ていない状態にも関わらず、彼の顔を間近で見せられてしまったせいで、 私は思わず驚愕の声を上げて後ずさり、力の限り廊下の壁へと自分の背中を貼り付けてしまう。 「ぜー、はー、ぜー、はー……」 驚きと緊張のあまり、思わず息まで上がって来た。 自分の心拍数が急激に上昇しているのが、自分でもはっきりと理解出来る。 そんな私の心の内など知る由も無いだろう当のジョセフは、呆れたように私の姿を見ながら言って来る。 「なあ、一つ聞いていいか?」 「な、な、何よ!?」 「さっきから一体、あんたは何をやってるんだ?」 「う……うるさいわね!何でもないのよ!何でもないから黙ってて頂戴!」 「そうは言うがな姐さん、正直ンなこと言われてもウソくせーってレベルじゃねーぞ?」 「ええいお黙りィッ!平民風情が貴族の言葉に口を挟むで無いわ!」 その平民風情に振り回され、自分一人で勝手に動揺しているのだから世話は無い。 だが完全に頭に血が上っている今の私には、その程度のことすらも省みる余裕は無かったのだった。 そして、暫くしてようやく彼とまともに話せるぐらいに落ち着きを取り戻した頃、私はふと先程の彼の言葉を思い出して、言う。 「……そういえば貴方、さっき条件があると言っていたわね」 「まあな。っつーか姐さんよォ、あんたマジで大丈夫なのか? もし風邪だっつーなら、俺がいっちょ『波紋』でも流してやるぜ?単なる風邪程度ならそれで一発だぜ」 「その話はもういいわ!とにかく、あなたの言うその条件とやらを聞かせて御覧なさい」 「へいへい」 それ以上はジョセフも余計なことは口に出さず、その条件とやらについて話し始める。 「まずそーだな、俺にこの家に引っ越して来いだとか、そーゆーのは実は無理なんだわ。 この間あんたがワルドの旦那と一緒に来たあの病院、実は結構ややこしいシガラミってヤツがあってな。 ハイそうですかと言って、ホイホイと引き払うってワケにはいかねーのよ」 そう言ってジョセフは、自分があの病院で医者を営んでいる経緯を事細かに説明しだした。 かつて、酷い怪我を負いながらもトリスタニアにやって来たジョセフは、とある酒場のオーナーに 拾われて、そこで手当てを受けたのだと言う。そして暫くの間その酒場で居候をしていた彼が、 ふとしたきっかけで従業員達に『波紋』の能力を披露したことで、彼の能力にいたく感銘を覚えた その酒場のオーナーが出資して、ジョセフが医者を開業する為のお膳立てを整えたのだと言う。 つまりジョセフは現在、そのオーナーとやらに借金をしている形になるらしい。 我がヴァリエール公爵家で彼を雇う以上、多少の金額ならばこちらが肩代わりしても良かったのだが ジョセフ曰く「借りたモンは自分で返すのが礼儀。敬意を払え」とのことで、自分の手で稼いで 借金を完済するまでは、あの病院から出るつもりは無いのだと言う。 なお、先日ジョセフの病院を手伝っていたジェシカとか言う娘はオーナーの娘であり、また基本的には 夜半にその酒場が営業を開始する為、比較的時間の空いている昼間は、酒場に勤める従業員達が 善意でジョセフの手伝いをしているのだとか。 だが彼が何故そんな怪我を負ったのか、そもそも何処からトリスタニアまでやって来たのかまでは 適当にはぐらかすだけで教えてはくれなかったが。 「それに、あそこにゃあ俺を頼りにしてくれてる患者も結構いるしな。 悪ぃんだけどよ、そーゆーワケで俺にあそこを離れろって言うのは流石にカンベンしてくれや。 まー俺に出来るのは、週に一日、二日の割合でこのお屋敷まで妹さんに会いに来るぐれーだな。 それでもいいってんなら、喜んで毎週カトレアお嬢様に会わせて頂くぜ。 あの美人の妹さんをこのままほっぽっといたまんまにすんのも、正直寝覚めがワリーしな」 軽く頭を掻きながら、どこか申し訳無さそうな口調でジョセフが私に対しての説明を終える。 普通に考えるならば、貴族の依頼に対して平民がここまで条件を出すのは異例の事態と言えるだろう。 そもそも、貴族と平民が対等な交渉の場に立つこと自体、まず有り得ないことだ。 だがこのジョセフ・ジョースターは、お互いの身分の違いなど全く気にも留めない男だった。 そんな彼の態度を疎ましく思う時もある。人格的にも素直に受け入れるには難しい相手だ。 しかし、それでもカトレアの身を案じて、自らの出来る範囲で、あの子の為に力を貸してくれようと してくれている彼に対して、私は今、深い感謝の気持ちを覚えていた。 だから私も、その気持ちを素直に口に出して彼の言葉に答える。 「……ありがとう、ジョースター先生。妹のこと、どうか宜しくお願いしますわ」 そう言って私は、彼に対して心から頭を下げる。 平民である彼にそのような行為を取ることも、今の私は屈辱などとは感じなかった。 「オーケー、任されたぜ。……フム、となると、まずは妹さんに飲ませにゃなんねー薬を用意しねーとな」 鷹揚に頷いた後、おもむろに考え込む仕草を作りながら、ジョセフはそんなことを言って来る。 「俺の貧乏病院じゃあ、あんま高けーヤツは買えないしな…… かと言ってあの妹さんに適当なモンを飲ませる訳にもいかねーし。さてさてどーすっかな」 「それならば私が何とかするわ。我が家が昔からお世話になっている係り付けのお医者様とも 相談するつもりだし、それにいざとなれば、私の職場の知人に手を回して貰うという方法もある。 とにかく、薬に関する問題は貴方が心配しなくても大丈夫。この私に任せて頂戴」 そう口に出しながら、私は早速頭の中で今言った内容を実践する為の予定を組み上げ始める。 折角、彼がカトレアの為に力を貸すことを約束してくれたのだ。 私も出来る限りのことを、精一杯にやって行かなくてはならない。 自らの知識欲を満たす為に、妹やこの男を利用してしまうことへの罪悪感は、これからカトレアを 救う為の道程の中で贖っていくことにしよう。 それもまた結局は私自身の下らない自己満足の為に過ぎないのかもしれないが、今の私には この方法以外に今のジョセフの言葉に報いる方法を思い付かない。 そして待っていて、カトレア。この私が、絶対に貴女のことを自由にしてあげるから。 「ヘェー。さっすがは貴族、色々な人脈があるモンだ。色んな意味で有り難い話だぜ」 そして、ジョセフは私の言葉に感心したように目を丸くして、こちらの方を見やって来る。 それは確かに無遠慮な態度であった だが私は今、そんな彼の存在そのものが、少しだけ心地良くなって来ていた。 一緒にいると胸が軽くなると言うか、何か救われたような気分になるとでも言えば良いのだろうか。 軽口ばかり叩いて、いつも明るく笑うこの男には、自然と人を惹き付ける魅力があるらしい。 そして医者としての腕も確かだ。だからこそ大勢の患者から慕われているのだろう。 この男に出会って、そして妹のことを頼むことが出来て良かったと、私は素直な気持ちで思った。 そして私はすぐに、その考えがただの間違いに過ぎなかったことを思い知らされることになる。 「しかし職場たぁね。姐さんがどっかで働いてるなんざ、こりゃちょっと意外だったな。 貴族のお嬢様だっつーから、お屋敷の中に構えて花嫁修業でもしてるのかと思ってたぜ。 ああ、だけど姐さんぐらいの歳ならもうとっくに結婚してるのか。 仕事と家事の両立ってヤツぅ?ウーム、こうして言ってみると中々格好イイじゃねーか」 ぷつん。 私の中で、今はっきりと、何かが切れる音がする。 今再び、ジョセフ・ジョースターは触れてはならない禁忌に触れてしまったのだ。 それは果たして、彼にとっては不幸な偶然だったのかもしれない。 だが、この世には如何なる理由があろうとも、決して贖うことすら許されない罪と言う物が存在する。 そして今、この男が口走った言葉は、私にとってどうしようもない程に許し難い一言だった。 「……先に説明してあげるわ。私の所属するアカデミー……トリステイン王国が誇る王立魔法研究所は 文字通り魔法技術の発展に寄与する為、一流のメイジ達が集まって日々研究を続けている場所よ。 無論、その中には『水』系統の魔法を用いた医薬品に関する研究を行っている部署もあるから そこに所属している知人に話を通して、必要な薬を処方して貰ったり、 あるいは薬を作る為の原料そのものを分けて貰うことも出来るということよ」 「ああ……そうなのか。丁寧な説明は感謝の至りだ」 どうやら、きちんと私の言ったことを理解してくれたらしい。 それならばこちらも、わかりやすく説明した甲斐があると言うものだ。 私はジョセフのその答えに満足すると共に、これまでにも幾度と無く彼の体を痛め付けて来た 鞭をもう一度取り出し、それを力の限りに強く握り締めながら、ゆっくりと彼に向けて一歩を踏み出す。 「だが姐さん、どーしてあんたはそーゆーおっかねー声で喋ってるんだ? それに手に持ったお馴染みのムチと言い、今の姐さんからものスゲー迫力を感じるんだが。 やっぱり女の子はにっこり笑った方が可愛らしくてディ・モールト(とても)イイと思うんですがね?」 「ウフフフフ……わからないのかしら?」 例え相手が聖人であろうと、その言葉を口にした者は決して許すわけにはいかない。 愚かにもこのジョセフ・ジョースターは、再び触れ得ざる禁忌の扉を開いてしまった。 罪人には裁きを与えるべし。それが世の理だ。 そして私は、今までゆっくりと、静かに燃え上がらせた怒りを、今、思い切り爆発させる。 「私にはわかるわぁ……あなたが次に『オーノー』と叫んで逃げ惑う姿がねぇぇぇぇッ!!」 既に、先程カトレアの往診を承諾して貰った時の感謝の気持ちは極限まで薄まっていた。 代わりに今の私を支配している怒りと憎しみに任せて、全力で以って振るわれた鞭が 再び小気味良い音を立てて、ジョセフの体に直撃する。 「オーッ!ノォーッ!いきなり何てコトしやがるんだこのアマァァァーーーーーッ!!?」 「お黙りィィィッ!自分の胸に手を当ててよぉーくお考えなさい! それまでに貴方の命があればの話ですけれどねぇぇぇ!!」 「HOLY SHIT(やっばァーい)!しかも俺のセリフが取られるなんてチョー最悪ーッ!!」 悲鳴を上げて逃げ回るジョセフに、追い掛ける私は容赦なく鞭の第二撃、第三撃を振るって行く。 そうこうする内に、やがてこの騒ぎを聞き付けたカトレアが部屋の中からひょっこりと顔を出して来る。 「……姉様?先生?何だか騒がしいですけれど、一体どうされたのでしょうか?」 「おお!妹さん、ナイスタイミング!最高の天の助けってヤツだァーッ」 その姿を見て顔を輝かせたジョセフは、そのまま大慌てでカトレアの後ろへと回り込む。 「妹さん、あんたの姉さんがいきなり暴れ出して手が付けられねー!すまねーが何とかしてくれ!」 「え?あの…エレオノール姉様?」 まるでジョセフに盾にされるような形となったカトレアは、状況が掴めずに目を白黒させている。 「どきなさい、カトレア。幾ら貴方の為とは言え、そんな男を呼び付けた私が間違っていたわ……。 そいつは殺すわ。ええ、どうしても殺さなくてはならないの。今、この場で、この私の手で!」 「は、はい?……あの、ジョースター先生?もしかして、姉様のお気に触るような何かを…… 例えば、その、姉様の御婚約についてのお話とかをされてしまったのでしょうか」 まさにその通りだ。相変わらず、このカトレアの勘の鋭さにはいつも驚かされる。 そしてそれはジョセフの方も同感だったらしく、彼は目を大きく見開いてカトレアの方を見ながら答える。 「うは。妹さん、スッゲェーイイ勘だぜ。実はそーなんだよ、姐さんってばもう結婚してるのか? みたいなコトを聞いたんだが、そしたら突然プッツンしちまってな…… どーやらその言い方だと、聞かれたくないよーなマズいコトでもあったんだな」 「や、やはりそのお話をされてしまったのですね……しかもエレオノール姉様御本人に……」 ジョセフのその言葉に、どこか絶望の表情すら滲ませながらカトレアが呻く。 「そーいや、さっきも男にフラれてどーこーとかの話をしたら、ムッチャ怒り出してたな。 妹さん、今婚約とか何とか言ってたみてーだが、ひょっとしてヤッパリ、アレか?婚約解消?」 「ええ……実は先日、先方からそのお話が届きまして……何でも『もう限界』とのことでして」 「カトレアァァァ!何か言いたいことがあるならハッキリとお言いィッ!! そもそも、貴女には部屋で待っていなさいと言った筈よねぇ!? それなのにノコノコと出てきて、挙句にこの男を庇うなんて! お姉様の言うことが聞けないと言うの!?この子は!この子はぁッ!!」 これまた思い出したくない記憶の一つを目の前で穿り返され、今や私は完全に逆上していた。 そして、私はその一端を担ったカトレアの前に立ち、そのまま妹の頬を掴んでぐいっと捻り上げる。 「ね、姉様。痛いです」 「うるさいわね!貴女という子は余計なことをペラペラと!ええそうよ、私の婚約は解消よ! 解消って言ったら解消よ!それがそんなに面白いことだと言うのかしらァァァッ!?」 「そ、そんなことはありませんから……」 幾ら頭に血が上っているとは言え、相手は体の弱いカトレアである。 私はあまり力を込めずに、掴んだこの子の頬の肉が最低限に動く程度に止めておく。 だが、もし相手がルイズだったら迷うことなく全力で抓り上げていただろう。 例え相手が可愛い妹であろうとも、決して許しておく訳にはいかないこともあるのだ。 「オーノー、なんつーおっとろしい女だ……あの姐さん、マジでキレてやがる……。 エシディシみたいに何がなんでも冷静さを忘れねぇヤローこそ恐ろしい敵だが、怒りに任せて 形振り構わず突っ込んで来る相手ってのも、これはこれで厄介なモンだぜ」 カトレアの陰で、ジョセフが何やらぶつぶつ呟いているようだが、今の私には彼の言葉の中身などは 耳に入らない。しかし、私がカトレアにお仕置きをしている隙に乗じて、こっそりとこの場から 離れようとしているのだけは、断じて見過ごす訳にはいかなかった。 「お待ちなさい、ジョセフ・ジョースター……一体どこへ行こうと言うの?」 カトレアの頬を抓り上げる手を一旦離して、再び私はいつでも鞭を振るえる体勢を取りつつ 彼の側へと移動する。 どうやら人は怒りや憎しみが頂点に達すると、逆にその感情を冷徹な意志へと変えることが 出来るらしい。私は自分でも驚く程に静かな声で、まるで処刑宣告を行う処刑人のような心持ちで ジョセフに向けて言葉を告げる。 「……エレオノールの姐さんよォ。実は俺も結構あちこち色んな国を廻ったことがあるんだわ」 だが生憎と、当のジョセフはまだ素直に諦めたりするつもりは無いらしい。 どこか凛とした表情さえ浮かべながら、粛々と何かを語り始めている。 「その旅の中で、そりゃーもう色んな化け物を見て来たモンさ。 吸血鬼だのそいつらに操られた屍生人だの全身機械のサイボーグだの、果ては不死身の究極生物だの。 そんな連中と戦う中で、俺は一つの戦い方を身に付けたんだ…… 後世に残る伝統の戦い方ってヤツだな」 言いながら、ジョセフは私の姿を見据えながらも、足を一歩だけ後ろへと回す。 「どーしようもねぇピンチになった時の必勝法!それは……『逃げる』ッ!!」 そして、急速に体を反転させたジョセフは、そのまま全速力で廊下の奥へと姿を消して行く。 「おぉのぉれぇぇぇぇッ!逃がすものですかぁぁぁぁッ!!」 逃げるですって?誰がそんなことを許すと言うのかしら。 積もりに積もったこの怒りをあの男にぶつけなければ、私の気は決して晴れることは無いのだ。 私は、さっき初めて私の名を呼んだジョセフ・ジョースターを追って、ひたすらに走り続けた。 「……喧嘩ばかりしているように見えるけど、あのお二人、やっぱり仲がいいかもしれないわね。 だって、姉様があんなに生き生きとされている姿なんて、最近あまり見かけなかったもの。 姉様ったら、ルイズが魔法学院に入学した時も随分と寂しそうにされていたし」 姉と姉が連れて来た医者の姿が見えなくなるのを見届けてから、カトレアは部屋の中からこちらを 見つめていた動物達の頭をそっと撫でながら、優しく、しかしどこか寂しげな表情を浮かべて、 愛する家族達に向かって口を開く。 「それに、時々姉様が思い詰めたような顔をされているのは、 もしかしたら、いつまで経っても私の体が弱いせいもあるのかもしれないわね。 ふふ……私ってば本当に、姉様や皆に心配を掛けてばかりいる駄目な子ね」 そしてカトレアは、ふと今日出会ったばかりのあの男性のことを思い出す。 目の前で魔法とは違う不思議な力を操って見せた、ジョセフ・ジョースターというあの人。 あれほど明るく振舞っているのに、どこか寂しげに見えたのは何故だろうとカトレアは思う。 どこかに大切な物を置き去りにしてしまい、それを必死に探そうとしているように見えて。 だけど、本当はそれを探すこと自体に、焦りと戸惑いを抱いているようでいて。 どこか決定的な部分で、普通の人とは違う雰囲気を纏っている男だとその時のカトレアは思った。 カトレアや、そして彼女の姉エレオノールらがその本当の意味を知るのは、もう暫く後の話となる。 その時には既に、ジョセフの背負う眠れる『運命』が、再び目を覚ました後のことであった。
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バッティングセンター ピッチャーが相手打線に見るも無残なほど打ち込まれた状態。 もともとイーグルスは、他チームと比べて弱い打線と守備を投手力でカバーしているチームである。そのため、エース級が投げるとき以外は一方的な展開になりやすい。 先発がKOされ、中継ぎも勢いを止められず次々燃え上がるとき、実況スレは悲嘆の声で埋め尽くされる。 そんなときはこの言葉を乾いた笑みを浮かべつつ投稿しよう。 最も分かりやすい例は2005年3月27日のうわ何をするやm(ry 類義語 【山火事】
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ケンティセフネチェル(ケンティ・セフ・ネチェル) アヌビスの別名。 「神聖なる小屋の第一のもの」の意。
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ギャン鬼 中⇐中編から 『因幡てゐ』 【数十分前:午前】D-4 香霖堂前 「うぅ……とうとうここまで来ちゃったぞコノヤロー……!」 誰に語るでもなく、私はそんな独り言を呟いた。 あの八雲藍が待ち構えているらしい香霖堂を目前数十メートルまで見据えて、木の陰から様子を窺う。 ジョセフたちも既に到着してるはずだけど、外から見た感じではお店は特に異常は無い。 橙はあの化け狐を説得したがっていたけど、談合は穏便に終わったのかな。 もしかしたらどっちかが屍になってるのかも。最悪、ジョセフたちが。 どうしよう……私も店の中に入るべきなのかな……? それともいっそトンズラこくか。命あっての物種ってね。 ……いやっ! いやいやそれじゃ私は何のために勇気を出したんだ! あのスットコ店主ですらドヤ顔で第一陣を切ったんだぞ。それに中にはジョセフや軍人のオッサンもいる。 案外、もう全て終わってるのかもしれないし……。 「…………わかった行くってば行けばいーんでしょー!」 えーいヤケクソだ! 火中の栗を拾うなんて私には全ッ然似合わないけど、もうどうにでもなれだ! およそ半分腰が引けたまま、私は意を決して足を進めた。目指すは香霖堂の玄関。 突入の号令は「ごめんくださーい」とかでいいかな。いや、それじゃ普通に買い物に来たみたいだろ。 「たのもー!」みたいに勢いつけて入るか。いやいや、いつの時代のヤツだよ。 そうこうしてる内にドアの前まで来てしまった。 中の様子は窺えない。ていうか本当に居るんだろうなアイツら? 自分の壮大なひとり相撲になっていないか心配しながらも、私はドアにピタリと耳をくっつけた。 これでも長年妖怪兎として生きてきたんだ、聴力には大いに自信がある。 ま……まずは様子見さっ! 何事も心の準備が大切ってね! 「ウッソォーーッ! こいつはいきなりバカづきだァ~~~ッ! まるで! まるで! 俺がイカサマしたみてぇーだなこりゃ~!」 そして耳に飛び込んできた第一声は私が予想だにしなかった内容の、お調子者の叫び。 ……何やってんだ、コイツら? ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽ 命を賭した『チンチロリン』のゲーム開始から、実に一時間以上の時間が経った。 四巡目を終え、五巡目を終え、ゲームは終盤―――九巡目に突入。 序盤はまだ余裕の笑みを見せていたジョセフも、額を伝う汗は止まらなくなっている。 シュトロハイムも、霖之助も、橙も、誰一人言葉を発する気力さえ見せない。 唯一……この場で藍だけは薄ら笑う余裕を見せ付ける。 「さて……そろそろこの茶番も終盤だな。私が親での『第九巡目』……そろそろお開きといきたいものだ」 賽子を握り、宣告する。 シュトロハイムは思わず舌打ちを鳴らし。 霖之助は深く項垂れ。 ジョセフは現状の打破を思考する。 思考する。 思考する。 思考する。 (………駄目、だ! この女……付け入る隙がまるでねえッ! つ、『強い』……ッ!) ギャンブルには自信があった。 慣れないゲームだろうが、勝てると思った。 だがそれでも、現状の打開策が思いつかない。 遊戯開始第九巡目。親番・八雲藍。 敵の懐を突くならここしかない。 だが……返しの刃は、あまりにも致命的に成りかねない。 現在の状況は。 九巡目における、戦場の状況は――― 【現在の各チップ所持数】 ジョセフ 16枚 シュトロハイム 5枚 森近霖之助 7枚 八雲藍 52枚 ―――大敗。 八雲藍ひとりに、手も足も出ないという惨状。 途切れなく焼かれ続ける業火に、抗うことも叶わず。刻一刻とその時は迫る。 一人でも生き残り、藍のチップを奪えば勝利。 三人全員チップを失えば、首輪の毒が蝕み、全滅必至に繋がる。 ジョセフもシュトロハイムも霖之助も、命を賭けて勝負の台に着いたはずだった。 それでも気付けば、絞首台の階段を一歩一歩昇っている。 もはや首に架ける縄に身を委ねる寸前という崖際。 特にシュトロハイムの持つチップは『5枚』。賭けるチップ数次第では瞬殺される射程内に身を置いている。身が千切れる思いなのは間違いない。 それでも彼は戦意を失わない。地雷原を渡り切るようなその勇猛が、いつだって彼の軍に勝利をもたらせてきた。 このゲーム、所持チップが5枚以下となれば格段に危うい立場となる。 そのプレイヤーを確実に殺す牙を、目の前の妖獣は剥けて来るからだ。 八雲藍は不利な立場にいる相手をすかさず仕留めるように、躊躇無く『5枚賭け』で殺そうとしてくる。 少なくとも6枚以上はチップを維持していないと、そこは安全圏ではなくなるのだ。 万が一、相手が二倍付けのシゴロや三倍付けのゾロ目を出したとなれば、10枚以上チップを所持していても全て奪われる可能性だってある。 そしてそんな射程距離に置かれた仲間を救うため、序盤はチップ数で優位に立てていたジョセフも見る見るうちにライフを失ってきた。 三巡目で危機に陥ったシュトロハイムを、ジョセフが『敢えて椀から賽を零す』という作戦で自身のチップを合理的に渡したように。 危険と判断した仲間に、ジョセフは絶えず“敢えて負けて”そのチップを減らしてきた。 恐ろしいのは藍の先見と、場の状況を操る優れた手腕。彼女は場から動くチップの動きを完全に掌握していた。 ジョセフが仲間を救うためわざと負けることすらも知略に加え、ゲームを翻弄し、蹂躙。 今や彼ら三人の動きをいいように支配している。 (あ、甘かった……! 僕の見通しが完全に甘かった……! 八雲藍……この女、ギャンブルゲームの類でも相当な切れ者だ! 数の利なんて、奴に取っちゃあってないようなハンデだ!) 霖之助は、己の当初の考えが誤っていたことに悔いた。 こちらが三人だからといって、必ずしもゲームが有利に傾くとは限らない。 ひとりが落ちそうになれば、誰かが命綱を差し出してくれる。握ってくれる。 しかしそれは、互いが互いの足を引っ張るような戦況とも言い換えられる。この女はそこを狙ってくるのだ。 全くもって狡猾。狐を飛び越えて、狼のような女だった。 「さあ、皆チップを張ってくれ。私の親なんだ、殺すならまたと無いチャンスだぞ?」 白々しい、と霖之助は思う。 チンチロは期待値で考えるなら、親が僅かに有利というゲーム。 その特性を除いても、ジョセフ以外の霖之助とシュトロハイムは大きく張りにいけないチップの数。 迂闊に仕掛ければ、化け狐の腹を余計に肥やすだけとなる。 「み……みんな……っ!」 心配の声を出す橙の心境も、いよいよまともではいられなくなってきた。 本来は彼女の主人である八雲藍の優しい笑みが、民衆の善を喰らう悪鬼のそれにも見えてくるほどに。 「橙……お前は心配なんてしなくていい。心配するのは……お前の大好きなご主人様が首輪の毒でポックリ逝っちまわないか、それだけだぜ」 そう言いながらジョセフは賭ける。 己の命と、その代替ともいえるチップ―――その数『5枚』。 「やはり、お前は勝負に賭けてきたかジョセフ。どう見ても劣勢はお前たち。……この窮した惨状を抜け出したいと思うのは当然だからな」 さも「そう来るのは予想してましたよ」とでも言いたげな藍の言い草。 半ばジョセフを煽るような挑発だが、ジョセフからしてみればここはちまちまチップを増やしても仕方ない場面。 今を逃せば藍の親番はまた四巡後。恐らく、ゲームはそこに行くまでに終わるだろう。 とても守りに入っていられる状況ではない。畳み掛けるなら、今なのだ。 「……俺は『2枚』賭ける」 それだけを言って、シュトロハイムの張りは終えた。 シュトロハイムは現在5枚。こちらは強くいけないチップの残数だ。 『4枚賭け』も危ない。1枚残したところで、次のジョセフの親でその最後の1枚を賭けなければならなくなる。 結果、3枚残しの2枚賭け。万が一を考えると、これがシュトロハイムの出せる最も安牌かつ強い手だった。 「安全策に出たか? 全チップ賭けるくらいの意気込みは見せてくれるのかと思っていたが」 「俺を揺さぶって心理的優位に立とうという腹積もりか? 生憎だが、俺はジョジョと違って自分の言葉は曲げん」 「てめっ、どういう意味だコノヤロ」 この期に及んで皮肉を掛け合うことの出来る二人の精神力は、それまでの経験から培われた故の結果か。 そんな彼らを見ながら、霖之助は思う。半妖としてそれなりに永きを生きたが、その人生において修羅にまみれた時間などこの二人の足元にも及ばないだろうと。 つくづく自分の生きた時間は平穏に守られた薄っぺらなモノだったのだと、自虐めいた感情まで生まれる。 このゲーム――チンチロ遊戯ではなく、このバトルロワイヤル――を生還できるなど、己には不可能だと理解している。 ……いや、殺し合いどころか、やはりこのチンチロ遊戯にすら生き残れないのかもしれない。 (本当に、僕はなんて弱いんだろう。今まで育んできた知識など、暴力の前では等しく無駄だったのかもしれないな) それでもこんなちっぽけな自分に出来ることはある。 賭けるんだ。賭けて、懸けることが、僕に残された宿命。 僕が懸けるべき相手は、僕が生きた人生全てを賭けるに値する“光”は。 誰なのか。 「…………僕は……『1枚』だけ、賭けるとしよう」 卓に差し出された命のチップ……その数、1枚。 「……ほう? たった1枚でいいのか? シュトロハイムと違ってお前は現在7枚ある。 私からしこたまチップを奪う格好のチャンスであるこのターンを、チップ1枚賭けなどという『逃げ』に出るのか?」 「あまり揺さぶらないで欲しいな八雲藍。君と心理を読み合うなんて馬鹿な真似はなるべくお断りしたいからね。 でも、僕もジョセフを見習ってみようかと思ってさ。セオリーガン無視の、奇策珍策ってやつをね」 「せっかく回ってきた集中攻撃のターンを、安全策に費やすというのがお前の言う奇策か? だと考えているのなら実に見上げた口巧者だ。結局は保身にかまけ、口八丁で煙に巻いてやり過ごす行為をさも巧手の如く喋くるとは」 「……八雲藍。既に宣言した。賭けるのは『1枚』。僕はこの手に賭ける」 レンズの奥に光るその眼差しを、藍は睨む。 所詮、平和ボケした古道具屋の悪あがき。 爪にも牙にも成り得ない、半端な浅慮。 ともあれ、これで勝負の準備は整った。後は、賽を振り落とすだけ――― 「―――待てよ。やっぱりよォ~、なーんか全然納得できねえのよね~、ボクちん。 だっておかしいでしょ、三人がかりで勝てないって。ここまできたら普通、何か“仕込み”を考えちゃうでしょ」 ピクリと、藍の眉が僅かに吊る。 握られた拳の賽は振られることなく、藍はジョセフの『言いがかり』へと反論した。 「……心外だが、お前は私が何か『イカサマ』の類を行っていると、そう言いたいわけだ」 「いや、だって実際やったじゃんアンタ。最初の一巡目で。 ま、確かにあれは俺が先にやったわけだし、そのイカサマを追求しなかったのも俺だし、今更どうこう言うつもりもねーけど。 でもそれはそれとして、お前がさっきから『何か』やってるかもしれねー……人としてそう考えてしまうのは果たしておかしいことでしょーか?」 明らかに人を食ったようなジョセフの言いがかり。 一巡目のあのやり取りを未だ根に持っているのか、あろうことか藍の『イカサマ』をジョセフは疑っている。 あからさまな物言い。その態度が藍の癪に障ったのか。 「……細工でも疑っているというのなら好きに調べろ。徒労に終わるだろうがな」 「勿論好きに調べさせてもらうぜ。……流石に四五六賽なんていう古典的なモンは使ってないよね?」 冷静に見えているようで、彼女はジョセフの軽薄な態度に苛立ちが溜まってきている。 藍とて本来の性格は真面目で誠実。ジョセフのようなふざけた男はもっとも嫌いとしているタイプだ。 その苛立ちが勝負の円滑な進行を妨げるお調子者の的外れな疑いにより、輪をかけて募っていく。 「調べるならさっさと調べてくれ」……その言質を手に入れたジョセフは心の中で笑った。 藍のような計算高いタイプは、怒らせて隙を作るに限る。 とにかく何でもいい。藍をイラつかせることで、何か隙を突く機を生むことがジョセフの目的……その『半分』だった。 これが通用しない相手は、自ら泣き叫ぶことで心を落ち着かせるあの酔狂人・エシディシのようなタイプくらいのものだ。 椀に入った賽を受け取り、凝視するジョセフ。流石に一目見て分かるようなイカサマなど、藍はやっていない。 そもそも藍は本当にイカサマなどやっているのか。そこが全く判別できない。 各チップの数だけ見れば藍の圧勝ではある。だがそれは決して彼女ひとりの『バカヅキ』を意味しない。 藍とて小さな勝負にはそこそこ負けたりもしていたし、引き分けの場面も何度かあった。 ジョセフがわざと負けてチップを仲間に流す、そんな展開が彼女に味方したりもしている。 彼女のスタイルの強み――それは『大きく勝ち、小さく負ける』の繰り返し。勝負の推移で見れば、博奕の理想的な勝ち方と言える。 すなわち、八雲藍は『勝負を分かつタイミング』を完全に把握できているのだ。それを見極め、大きく勝ってチップを稼ぐ。 イカサマがどうとかいう問題ではなく、彼女は単純に『恐ろしくゲームへの順応が早く、強い』ということだった。 だが、だからと言って藍が『不正』を行っていないということにはならない。 「そんなに穴の開くほど見つめても、賽子には元々21個も穴が空いてるんだ。これ以上空ける気か?」 「……風穴が開くのは、果たしてどっちの腹だろうな。賽子にも特に怪しい所はねえみてえだ。―――いいぜ……勝負、しようじゃねえか」 突き返すように椀ごと返されたその賽を、藍は静かに手に取った。 ジョセフの顔を、ひと睨みして。 『九巡目・一番手(親) 八雲藍』 現所持チップ51枚 このターン。親、八雲藍。 形としては、“藍vsジョセフ・シュトロハイム・霖之助”の三対一。 まず藍が親として目を作り、その目にジョセフ達がチップを張って勝負する。 肝心要の、その第一投。 これで彼女が強い目を出してしまえば、勝率は限りなく薄くなる。 そんな運否天賦の、天命に祈る一投。息を呑んで見守り、祈るしか出来ない。 こればかりは、誰にも知ることの出来ない“運命”の領域。 そんな女神の足音が――― カラァン! カラ… カラ… ―――止まる。 カチャーン! 『止まった』賽子の目は。 1と。 1と。 ―――そして、1。 役は、ピンゾロ。 三倍付けの、最強の役。 「―――勝負を、焦ったな。……妖怪のおキツネ様?」 「――――――ッ」 ただし、賽子が三つとも椀の中に『収まっていたら』……だ。 「こ……っ」 「零したッ! 賽をひとつ、椀から零したぞッ! 目は『無し』! 藍の負けだッ!」 霖之助とシュトロハイムが、目の前の光景に同時に叫ぶ。 椀の中には、『1』の目を出した賽が二つ。 椀の外には、『1』の目を出した賽が一つ。 「俺のナメた態度に苛々が溜まりに溜まって、思わず腕に力が込もっちゃったかなァ~~藍ねえちゃぁ~ん? コレ……何だっけ? 確か『ションベン』っつーんだよね? 椀から零すと即負け。 俺がさっきからやってるの見て、自分も真似したくなっちゃった……ってところかなァ? ギヒヒヒヒ……!」 椀から賽をひとつでも零した時点で、負け。目は当然無し。 この瞬間、藍は少なくともジョセフに5枚。シュトロハイムに3枚。霖之助に1枚の配当を配ることがほぼ確定した。 合計9枚のチップが藍から失われる。あまりにも、手痛いミス。 「ニッヒッヒ~~! まっ! 勝負にハプニングは付きものってこったぜ! 気の毒だがションベンは無条件で負け。さっ、俺にチップ5枚今すぐよこしやがりな」 邪悪な笑みを隠そうともせず、ジョセフはおどけながら椀に手を伸ばす。 ―――その伸ばした腕を、藍がガッと掴んだ。女とは思えぬほどの力で。 「……なに、藍ねえちゃん? ひょっとして本当のこと言われてプッツン寸前ってヤツ? ちょっと~アンタが賽子こぼしたのは俺のせいじゃねーでしょうが~」 「……“これ”を狙っていたのか? お前が今まで散々人を食ったような態度を振舞っていたのは、このためか? 私を苛立たせ、肝心な場面でこんな初歩的ミスを誘うように、敢えて道化を演じていたというわけか」 「だとしたら何だってのよ。ひょっとしてコレが反則だとでも言うんじゃあねーだろうな? ミスっちまったのはあくまでお前さんだぜ」 「いや、反則なのは“このこと”ではない。……ただ、別の所にお前の隠された『意図』が見え隠れしてならない、そう思ってな」 「……何が言いたい? まさか俺がその賽子に何か細工したとでも言うつもりか?」 「いや、細工はおそらくしてないだろう。……『この賽子には』、な」 賽子の部分を強調して言う藍の視線には、椀が置いてあった。 中の二つの賽を放り出し、その椀をゆっくりと手に取って言う。 「お前は面白い男だな。一巡目の時、お前の開幕イカサマという荒技に対し私が『警告』してやったというのに、『再び』やってくるとは。 大した心臓だ。普通ならそれに懲り、ペナルティーを恐れて二度とイカサマなどやってこないだろうに」 「イカサマァ~? 俺たちが強い目を出したとかならともかく、お前が勝手に賽を零したのが俺のイカサマのせいにされちゃうワケ?」 「『勝手に賽を零した』……? それは違うな。お前が私に『零させた』んだ。サギ師同然の悪質な手口でな。 お前は最初に『くっつく波紋』という技術で、自分が振った賽を意図的に6、6、6の『オーメン』にした。 今、お前がやったのはそれと真逆だ。お前はさっき、私のイカサマを疑って賽子と椀を調べただろう? その時に流したんだ。くっつく波紋とは逆……『弾く波紋』を、この『椀』の内面にな」 ジョセフの心臓が、ほんの僅かに揺れた。 この女は、何者だ。 その漆黒の瞳は、一体どこまで見通しているんだ。 「一巡目のイカサマと同様、目に見えぬほどに微弱な波紋。こうして私が触っていても、既に何も感じないくらいに。 だが私が振った時、確かに流れていただろう波紋は、椀に吸い込まれた三つの賽のひとつを微かに弾き飛ばした。 ちょっぴりだけ賽の回転が不自然だった。まるで何かに弾かれたみたいに、賽が椀の外まで転がり落ちていったんだ。 そのとき初めて気付いたよ。『手癖の悪い目の前の男がまた何かやった』、とね。 なるほど、まさか賽の方ではなく『椀』のほうに仕掛けるとは、どこまでも抜け目ないヤツだなお前は」 「……俺は知らねえぜ。弾く波紋だって? そんなモンを使ったなんて証拠がどこにあるっつーの?」 藍の指摘したジョセフのイカサマ。 それは―――ズバリ当たっている。 気味の悪いくらいにピタリと正解していた。しかし、この場は知らぬ存ぜぬを貫き通さなければならない。 波紋使いでもない藍が、波紋について何から何まで知っているわけがない。 彼女はあたかも波紋を理解しているかのように説明しているが、それらは人伝による推測を話しているに過ぎない。 くっつく波紋だの弾く波紋だの、そんなものは全て彼女の仮定……あくまで『予想』だ。 実際には見事的中した完璧な推理ではあるが、正解だからこそジョセフはそれを感付かれてはならない。 証拠など無い。藍にはジョセフのイカサマを証明する手立てなど持ち合わせていないのだ。 「……知っているかジョセフ。サイコロというのは人間の歴史と共にある道具だ。 最初は動物や人間の骨、少し呪術的なところで言えば妖怪の骨なんかで作った物もあるそうだ。 外界のある地域では、もし『チンチロ』でイカサマした者を見つければそいつの『目玉の中』にサイコロ二個を埋め込んで川に流したという……。 チンチロはサイコロ三個を使うゲームだが、じゃあ残りの『一個』はどうしたと思う?」 「な、なんだよ突然妙なウンチク語り始めちゃって……。怖い話と痛い話はニガテだから勘弁して欲しいな~なんて……」 「そいつを死体にする前に全身に『21』の風穴を空けたのさ。 サイコロは1から6まで足すと合計21だからな。残りの一個というわけだ」 「…………そりゃ夏とかは涼しそうね」 「……風穴が空くのが腹だけだといいがな。もちろん私の腹でなくお前の、だが」 藍の目つきが一層鋭く豹変する。 気圧されるな、敵は精神を揺さぶっているだけだ。証拠は無い。こっちのイカサマは絶対バレない。 この女は確かに恐ろしい観察眼と推理力、そして知識を兼ね揃えている。 だがジョセフとて今まであらゆる困難を乗り越えてきた精神力を持っている。 この一線を譲っては負ける。イカサマのペナルティーはチップ10枚。今これを喰らったら決定的な傷になりかねない。 この勝負の場面でイカサマを仕掛けたのも、ジョセフからしたら苦渋の選択だった。 藍からは既に最初、波紋のイカサマを初見で見破られ、無言の警告を喰らっている。 八雲藍は簡単に騙し通せるほどヤワな女ではない。それが分かっているからこそ、なるべくイカサマなど使わずに勝ちたかった。 だがそうも言ってられない窮地。認めたくないが藍は自分よりも頭が回り、ゲームも上手い。 そう思ったからこそ、ジョセフは波紋のイカサマを使用せざるを得なかったのだ。 ―――いや、まさか藍はジョセフが再びイカサマを使わざるを得ない状況を意図して作りあげたのか。 だから彼女は、一巡目の最初にジョセフのイカサマを見破ったのにも関わらず、ペナルティーを与えなかったのか。 だから彼女は、イカサマは実質一回まで許されるような軽いルールを提案してきたのか。 だとしたら……ここまでのゲーム、全てが八雲藍の計算どおりに進んでいる。 ここでイカサマを認める真似は出来ない。この状況でチップ10枚の損失は、あまりに痛い。 ジョセフは唾を飲んだ。喉元には狐の皮を被った毒蛇の牙が突きつけられている。 「ふむ、これではゲームが終わらないな。私としてはジョセフにペナルティーを課したいところだが、証拠が無いのも事実。 橙、お前はどうしたらいいと思う? 中立の立場で意見が欲しいんだ」 突然自分の判断を仰がれ、橙は肩を震わせた。 橙からすればジョセフがイカサマを行ったかなど知る由もない。 わからない。どう答えるのが正解なのかがわからない。だから、ここは橙なりに正直な意見を答えた。 「え、と……藍様がもう一回振りなおす、とかじゃ駄目ですか……?」 「それではジョセフのイカサマを見逃すようなものだろう……。だが埒が明かないのも事実。そこでジョセフ、こういうのはどうだ? お前は否定するだろうが、私はお前がイカサマを行ったことを確信している。それを再び見逃してやろう。 その代わり、今の振りは『無効』とさせてもらう。橙の言う通り、もう一度私に振らせろ。それもキッチリ『三回』だ。 どんな目が出ようとも、とりあえず三回まで振る。その三回の内、出た目が最も高いものを私の『役』として確定する。どうだ?」 藍の提案する考えは、ジョセフにとって必ずしも有利に傾くとは限らない案だった。 ペナルティーのチップ10枚は何とか避けたい事態だが、この難敵相手に三度ものチャンスを渡すというのはかなりの博打。 しかし事実としてジョセフはイカサマをやっており、看破されかけている。そのことに目を瞑ってもらう利はおいしい。 (クッソ~やらなきゃ良かったぜイカサマなんてよォ……! 結構自信あった仕掛けなんだがこんな簡単に見破られるなんて参ったぜ……) 後悔虚しく、結局ジョセフはまたも藍にしてやられた。 自分のイカサマで自らの首を絞める結果になったのも、ひとえに彼らがギリギリまで追い詰められているからに他ならない。 「だ…駄目だ……! ただ無効にするならともかく、良い目が出るまで三回も振らせられるか!」 「……『二回』だ。二回ならばどうだ? これが呑めないというのなら、お話にならないな」 二回。藍は提案した回数を三回から二回に下げてきた。 たった二回。これならどうだ……? 「…………ああクソ! わーったよ二回だ! 二回振って高い方の目を役にする! 好きにしやがれ! ケッ!」 結果、折れたのはジョセフ。 彼の得意とするネゴシエーション、つまりは上手いことを言ってその場を誤魔化す交渉ごとも、この藍相手には通じる気がしない。 何もかもが一枚上手。ますます滾る敗北感がジョセフの精神を追い詰めていく。 そっぽを向くジョセフの視界の端で、藍は白い歯を見せ、笑った。 『九巡目・一番手(親) 八雲藍』 仕切りなおし 全く他愛もない。 あっさりと提案を呑んだジョセフに対し、藍が感じた手応えはそんな素っ気ないものだった。 二回。それだけ振れれば可能性はある。 藍は最初から二回だけ振れれば充分だと見越していた。 だが初めに『三回』という少し高めのハードルを提起し、それでジョセフがごねれば『二回』に取り下げる。 このような『落としどころ』を作っておけば、相手もそれで納得しやすくなるという心理的交渉を藍は行ったのだ。 サギ師のようなこの男相手には、同じサギ師の常套手段で臨む状況に持っていく。 全てが藍の掌の上だった。 (さて、後はこの振りで良い目が出せるかだが……恐らく『そろそろ』出る頃のはずだ) 藍は賽を手に取り、目を閉じて深い思考を開始する。 賽子を一回投げた時、目が出る確率――― ゾロ目が出る確率:各種0.46%、1~6合わせて計2.78% シゴロが出る確率:2.78% 1~6の目が出る確率:各種6.94%、合わせて計41.64% ヒフミが出る確率:2.78% 目なしの確率:50% この確率の収束を踏まえ、次に出る目のパターンの予測。 第一巡目からこの第九巡目までに振られた全回数、59投。転がった賽子の数は三倍の177個。 その賽の数、役を藍はここまで全て記憶している。四人全員が出した目の組み合わせも、全部。 出た目のパターンをひとつひとつ暗記し、次手の役を予想。 各々の確率を頭に入れ、出た目のパターンと傾向を把握し、それをひとつの指針とする。 常人であればとても記憶することなど不可能な、膨大な組み合わせの数。 八雲藍の持つ桁外れな頭脳なら、その全てを見落としなく記憶に刻むことが出来た。 藍だからこそ出来るギャンブルスタイル。彼女がチンチロで積み重ねてきた勝利の秘密がそこにあった。 確率という概念には規則性がある。その規則という荒波が生む波紋を、藍は完璧に掌握することが出来ていたのだ。 そしてそのパターンは、次なる賽が出し得る目をある程度絞り込めていた。 残り二投。あと二回のチャンスで強い目――すなわちヒフミ以上の役が出る確率はかなり高いと藍は踏んだ。だからこその、先の交渉。 ジョセフのイカサマなどでふいにするわけにはいかないまたと無いチャンスを、藍は残り二回の順番の中に感じ取った。 ―――八雲藍は思考する。 (第四巡25投目――私の出した目は1、5、6の『目なし』) (第四巡30投目、シュトロハイム――3、2、3の出目『3』) (第五巡37投目、霖之助――1、2、3の『ヒフミ』) (第六巡39投目、ジョセフ――4、6、6の出目『4』) (第六巡46投目、私――1、1、4の出目『4』) (第七巡48投目、シュトロハイム――5、6、2の『目なし』) (第七巡51投目、霖之助――1、5、1の出目『5』) ―――八雲藍は思考する。 前回、53投目から始まっての第八巡目、親・霖之助。 53投目:1、3、5。目なし。 54投目:2、5、6。目なし。 55投目:4、1、1。出目4。 56投目:5、3、3。出目5。 57投目:ジョセフ、賽零しの策。出目なし。 58投目:3、6、2。目なし。 59投目:3、2、3。出目2。 前回八巡目で振られた7投21個の賽の組み合わせ。 これまでの全ての目の組み合わせから検証し、導き出した次手への予測。 それは確かに藍の勝利が約束される、負けの考えにくい一手。 運命の女神の気まぐれでも起こらない限り、次かその次あたりには強い目が来る。そんな傾向。 所詮は確率。本来なら当てにするべきではない。100%の時も失敗するし0%の時だって成功することもある。 だが勝負の場には必ず『空気』が存在し、空気には『流れ』がある。 博奕の場に必ず流れる特有の『呼吸』。藍は幾多もの勝負の流れでその呼吸を掴み、未来を見た。 ―――勝てる。この勝負、勝てる。 藍の心にそんな強い確信が生まれ、ゆっくりと瞳を開き――そして、賽は投げられた。 カラァン! カラ… カラ… 目は―――2と、4と、5。 役は、なし。 「へ……へっへっへ……! 目なし、だぜ……藍サマよォ。あと一回、せめて何か出さなきゃマズイんじゃねーの?」 ジョセフの茶化しも、今の藍には揺さぶりにもならない。 目が現れなかったことにも微動だにせず、藍は冷静に賽を拾って、また振った。 カラァン! 賽が、回る。 カラ… この時ばかりは誰もが固唾を呑んで見守ることしかできない、神の時間。 カラ… 何十秒にも感じられたその聖にして静なる時間は、賽の回転が終わると同時に動き始める。 最初に声を発したのは、藍だった。 「4、5、6……シゴロ、だ。私の目は、シゴロ。……さて、次はお前の番だなジョセフ」 当然のように語る藍はそう言って、優しい手つきで賽の入った椀をジョセフに渡す。 ほぼ負けを知らない役『シゴロ』。これに負ければジョセフのチップは――― ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽ 結論から言うなら。 藍の親番で彼女が叩きだした『シゴロ』の役に、ジョセフ達は成す術が無かった。 この土壇場の状況で奇跡の役を出し、形勢逆転。そんなご都合主義の脚本が通るほど、博奕の世界は甘くない。 ジョセフも、シュトロハイムも、霖之助も、全員が藍の出した役以上の目を出すことは出来なかった。 当然敗北。そのうえ、シゴロは倍付けの高配当。 ―――結果、九巡目を終えたそれぞれのチップ数の状況は……! 【現在の各チップ所持数】 ジョセフ 6枚(-10) シュトロハイム 1枚(-4) 森近霖之助 5枚(-2) 八雲藍 68枚(+16) 絶望的。 藍の親番という、三人がかりで畳み掛けられる絶好の攻撃チャンスも空回りどころか返り討ち。 もはや絶壁の突端に立たされたこの致命的状況を覆す機会も失われた。 首元に巻きつけられた黒き輪が、冷たい輝きと共に光る。 負ければ、死ぬ。 藍は問答無用で、自分たち三人の命を握りつぶしてくるに違いない。 特に、今一番敗北に近いシュトロハイムの心は平然ではなかった。 負けたからといってその場ですぐ死ぬというわけではない。 藍曰く、神経毒が身体を蝕み、動けなくなって少しずつ死んでゆくという。 ならば誰か一人でも生き残り、藍相手に勝利を収めることが出来れば解毒薬が手に入る。生還の道はあるということだ。 だが逆に全滅すれば、藍は毒が身体に回りこむのを待つまでもなく、すぐさまトドメを刺してくるだろう。この女はそれをしてくる奴だ。 シュトロハイムは本能で悟った。 このゲームで最初に堕ちる者は、恐らくこの俺だろう、と。 なにしろ彼の持つチップは即死必至の『1枚』。どう足掻いても、絶望。 後を託すべくはジョセフしかいない。ならばシュトロハイムに今出来ることは何か? (化け猫の物の怪……橙、とか言ったな。コイツ、本気で『押せる』のか……?) 首輪のリモコンを持つ橙は、この場全員の命を握っているとも言える存在。 シュトロハイムは彼女の事を詳しくは知らない。見た感じジョセフに懐いているようだ、くらいの認識でしかない。 『いざとなったら』橙はリモコンを押せるのか。そこがシュトロハイムには疑問でしかなかった。 半ば強制的に中立の立場を押し付けられたような彼女だが、どう見てもそんな役目を全う出来るようには見えない。 ならば、隙を見て彼女からリモコンを奪取することは可能ではないのか。 このゲームを進める中、シュトロハイムはずっとそう考えていた。 そもそも自分たちがこのようなゲームに興じているのは、この首輪のせいだ。 これさえ無力化できれば、実力行使で藍を鎮圧することの方が今となってはまだ現実的である。 しかし藍もそんな事態を考えない馬鹿ではない。そうさせないように何か手は打っていると見ていいだろう。 万が一の場合も考え、実際に行動を起こすことは躊躇ってきたが……。 (もし俺のチップが『ゼロ』になった時……やってみるしかないか。橙の持つリモコンの『奪取』を……!) 内に秘めた決心を悟られまいと心を落ち着かせ、深く息を吐いて隣のジョセフを見やった。 次なる親は彼だ。何はともあれ、次の一振りで全てが決まる。 『十巡目・一番手(親) ジョセフ・ジョースター』 現所持チップ6枚 マズイ。 この状況、本当にマズイ。 まさか藍は計算してこの絵図を狙っていたとでもいうのか。 ジョセフを親番として、現在ジョセフ6枚、シュトロハイム1枚、霖之助5枚、藍68枚。 この全体図、もはやほぼ敗北しか残されていない。 なにせシュトロハイムが残り1枚。 このターンで彼がジョセフの出した目に勝たなければ、敗北確定。皮肉にもシュトロハイムは仲間の出した目に喰われて堕ちることになる。 仮にシュトロハイムがジョセフに勝てて生き残っても、結果ジョセフは残り5枚。そこを狙って藍は確実に5枚、ジョセフの息の根を止めるために動いてくる。 更に間には霖之助との勝負も挟まっているのだ。そうなれば本当の運任せの勝負が始まる。 ならばジョセフがやってきたように、敢えて負けることでシュトロハイムを確実に生かす作戦はどうか? いや、今は状況が違う。それをやれば藍からも確実に5枚取られることが確定するのだから。そうなれば死ぬ順番がジョセフとシュトロハイムで入れ替わるだけだ。 この巡で全員が生き残るには、まずジョセフがシュトロハイムの目に負け、尚且つ藍の目には勝たなければならないという極めて難しい状況を生まなければならない。 「さあ、どうするジョセフ? 先のようにわざと負けてシュトロハイムを生かすか? そうすれば少なくとも仲間の延命は可能だ。 だが言うまでもなく、私は『5枚』賭けてお前を確実に殺る。お前が死ぬかシュトロハイムが死ぬか、『王手飛車角』だ。好きに選べ」 邪悪な微笑みで藍はチップ5枚を迷わず卓に積んできた。 この抜き差しならない状況を、藍は計算して運んだ。突けば一気に崩壊する戦況を、彼女は緻密な権謀術数を張り巡らせ作りあげたのだ。 最強の妖獣。最強の頭脳。こんな化け物相手に頭脳戦を受けたのが、そもそも間違いだったのか。 いかなジョセフといえども、現況の打開策は全く見付からない。 どうする……! こいつ相手にここから勝つにはどうすればいい……! 藍は王手飛車角と言ったが、ジョセフは決して『王』などではない。 チームの柱であることは自覚もしているが、たとえ自分が堕ちてもゲームは終わらない。 誰かひとり。たったひとりの『兵』が生き残れば逆転の目は出てくるのだ。 敵の数もひとり。討ち取る兵は誰だっていい。 ジョセフか、シュトロハイムか、霖之助か、はたまた――― 「俺が出すべきモノはこれしかない。残りのチップ『1枚』……これに全て賭けよう」 シュトロハイム、最後の命を卓にそっと置く。 彼にトドメを刺すのは、せめて自分ではないことをジョセフは祈った。 「じゃあ……僕は、これだ。チップ『5枚』……これに賭けることにするよ」 霖之助が物静かに残りの『5枚』全て、最大の賭け金で宣言した。 「………って、5枚だとォォーーッ!? り、霖之助テメエ何考えてやがる! これでもしお前が勝ったら俺がやべえじゃねーかッ!!」 思考の外にいた霖之助が、誰しもが予想しなかった行動に出た。 普通ならこの状況、霖之助が賭けるべきチップは1枚であるべきなのだ。 どちらが勝ってもメリットは無し。どころか敗北の決め手になりかねない悪手中の悪手。 定石を無視しての5枚賭け。トチ狂ったとしか思えない行為だった。 「キミが勝てばいいだけの話だろう? 勘違いしないで貰いたいのだが僕は決して敵に寝返ったとか、頭がおかしくなったとかではないよ。 僕は信じることにした。キミの幸運と、僕の幸運。これから僕が出す目に、キミは必ず勝てるという未来をね」 「お、俺に負けることでチップを託す……そう言いてえのかよ……! アンタ分かってんだろうな? 例えそれが成功しても堕ちるのはお前だ。……いいのかよ!?」 「僕たちは『ギャンブル』をしてるんだよ? 覚悟を決めた男が賭けるチップは、いつだって命よりも重い。 ならば僕は敢えてジョセフに全てを賭けてみたいと思う。主人公は僕じゃない。勝手言ってるのは自分でも分かってるつもりだけどね」 覚悟のうえ。霖之助はそんな弁を困ったような笑顔で言いのけた。 理屈にも合ってない、出鱈目で滅茶苦茶な発想と作戦。だからこそ霖之助は常識外れの行動で一杯吹かせる行動に賭けたのだ。 この八雲藍を倒すには、もはや通常の策では駄目だ。 セオリーの外。彼女でも思いのつかない奇天烈な発想で攻めなければ勝ち得ないと悟った。 「…………わかった。いいぜ。アンタの決意ってヤツを受けてやらあ」 霖之助の目は真剣で、そして優しく、強かった。 託されることには……もう慣れている。 負けなければいいだけの話。 ジョセフの掌から、賽は振られた。 出た目は―――6。 5、5、6の『6』の目。 正真正銘、イカサマ無しで出した渾身の目。 『十巡目・二番手 ルドル・フォン・シュトロハイム』 現所持チップ1枚:賭け数1枚 何もかもが中途半端だった。 人類の敵、柱の男たちの殲滅。 謎の主催者への打倒。 そして祖国への帰還。 永琳から解析を受けた蓬莱薬は今もなお、その役目を待つかのように彼の荷の中で息を潜めている。 (……この天命、俺では力不足だったということか) シュトロハイムは柄にもなく、ただ淡々と目の前の結果を受け入れた。 何の皮肉なのか、シュトロハイムの最後のチップを奪ってしまったのは戦友とも言うべきジョセフだった。 (戦友……“戦友”、か。……そうだな。俺にとってジョジョは、確かに戦友かもしれん) 最初に彼と共に戦ったのはナチスの実験施設でのこと。 目覚めたサンタナをもう一度殺すため、図らずもその場に居合わせたジョセフと経緯はどうあれ、共闘する形で敵と対峙した。 あの時も打倒・柱の男という宿命を彼に伝え、自爆した。この男に託すのはこれで二度目だ。 シュトロハイムにも戦場での戦友とも言えるべき相手は何人も居た。 今ではその殆どがこの世には居ない。皆、戦場で散っていった。 「ジョジョ。お前は……生き残れよ。いや―――勝て。勝つんだジョジョ。 仕掛けて。賭けて。駆けて。懸けて。何ひとつ欠くことなく、確実に敵の核を、掻いて。俺を糧にしてでも、勝て」 まるで辞世の句。 馬鹿馬鹿しいと笑いつつも、どこか心はスッキリとしていた。 後は、自分にやれるだけをやる。 「―――ああ。勝つとも」 ジョセフは短い言葉で、戦友の想いを受け取った。 託されたその言葉は、勝利への細い糸を掴むためへの糧となる。 シュトロハイムが最後に振った賽の目は『5』。 ジョセフの『6』に一歩届かない目。 この瞬間、シュトロハイムの最後のチップがジョセフへと渡ることを意味する。 「シュトロハイムおじさんのチップ……0枚、です。首輪を……発動、します……っ」 小さく呟かれた橙の宣言は、首輪発動へのスイッチ。 震える彼女の手には、リモコンが握られている。 「―――『人間の偉大さは恐怖に耐える誇り高き姿にある』……ギリシアの史家、プルタルコスの言葉だ。 東洋の妖怪、八雲藍よ。キサマには今の俺の姿がどう映っている? 妖怪に敗北した人間の、恐怖に屈した姿か?」 不敵に笑むシュトロハイムは大胆に立ち上がる。 視線の先には八雲藍の金色の瞳。 二人の視線が、絡んだ。 「――――――橙。“押せ”」 シュトロハイムの宣誓を意にも介さず、藍はそれだけを発した。 その言葉を皮切りに、場の空気が爆動する。 「させるかァァアアアアアアッ!! そのリモコンを捨てろぉォォオオオオオオオオーーーーーーーーッ!!!」 橙の持つリモコンを奪取しようと、シュトロハイムが飛び出した。 破れかぶれの、悪あがき。藍はそう評し、目の前の光景にひとつの溜息を零すのみ。 シュトロハイムの伸ばした腕がリモコンに触れる刹那、聞いたのは橙の一言。 「――――――ごめん、なさい」 首元に電撃が走ったような感覚を覚えたのは、彼女の謝罪の言葉と同時だった。 首輪の針から流された神経毒は一瞬にしてシュトロハイムの体の自由を奪い、次の瞬間、彼の大柄な体躯を床に転がした。 「シュトロハイムッ!!!」 ジョセフの叫びを遮るように、立ち上がりかけた彼を制止する藍の言葉が“ゲームの続き”を促す。 「脱落者・シュトロハイム。この男はもう二度と立つことは出来ない。意識はあるが、身体を蝕む麻痺毒は指一本動かすことすら難儀だろう。 ……さて、次は『どちら』だ? どっちが『こうなりたい』? ……賽子を振れ、店主。お前の番だ」 卓に肘をついたまま、藍は冷酷に突きつけた。 ゲームの敗者は、容赦なく首輪が襲うと。 スイッチを押した橙の頬に雫が一滴、伝った。 『十巡目・三番手 森近霖之助』 現所持チップ5枚:賭け数5枚 例えば。 そう、例えば霊夢なら。 こんなサイコロ遊戯、ものともせずに圧勝して見せるんだろうね。 彼女とこの手のゲームで勝負して勝てる相手など存在しない。 霊夢が次の出目を『6』と予想すれば、彼女が振る賽はおのずと6になるからだ。 霊夢はそれを何でもない事のように「勘よ」などと宣うが、それは彼女の勘に世界の事象がついてきた結果に過ぎない。 この辺りのメカニズムは長くなるので省くが、生憎と僕には霊夢のような特別な能力は無かった。 そう、僕は霊夢と違って極めて『普通』。そんなモブ同然の僕が、端からこの大妖に敵うはずもなく。 どころか結局は仲間の足を引っ張っていただけに終始していた。 全く、なんてちっぽけなんだろう、僕は。 目の前の賽子の目を見て、僕はそんな感想を述べた。 僕の出した目は――――――『1』。 役つきの目の中では最弱。もとよりジョセフに勝とうなどとは思っていなかったけれど。 ただ、これが僕の出した結果だ。 こうして僕のチップの5枚全ては、ジョセフの糧になっていく。 結果、僕はそこのシュトロハイムと仲良く床に寝転がることになるだろう。 でもこれでいいんだと思う。 最後に勝つのが『僕たち』であれば、それでいい。 「負け、か。たかだかゲームだが、ここでひとまず僕は舞台から降りるとしよう」 すんなり喉を通って出た言葉は、思いのほか清清しいもので。 僕は素直にこの結果を受け入れた。運命の女神は僕ではなく、ジョセフ・ジョースターに息吹いたということだ。 「じゃあこの5枚のチップは、僕からジョセフへ。そして―――」 そして僕はチップを握った手で、ジョセフの手を握った。お役御免の僕にはこれくらいしか出来ないだろう。 「僕の持つ幸運も全部、君へと譲るよ。 悪戯兎印の確かな幸運だ。君の持つ幸運には敵うべくもないけどね」 「霖之助……おめえ……」 幸運という物は気まぐれで気移り。人から人を伝って渡り歩いていくらしい。 ならばせめてもの願掛けとして、僕の持つ幸運が彼の手助けとなるように。 「……すまねえ」 「いや、構わないさ。それに君にとっては一対一の方がやりやすいだろう? だったら僕がいない方がまだ君の利にもなりそうだ。なに、ほんの少し寝てるだけさ」 思えば、勝手に人に託して、自分は勝手に堕ちるなんてジョセフからすればいい迷惑かもしれない。 ただ、僕は思う。 彼は光だ。この殺し合いを止める為に、絶やしてはならない光。 僕がこのゲームで出会った者はそう多くないけども、彼の瞳に希望を見た。 チルノを救おうとし、こいしを救おうとし、橙を救おうとし。 そのうえ僕やシュトロハイムの望みも託されて、彼がその双肩に背負うものは少しばかり多すぎて、重すぎる。 だというのにジョセフは、弱音ひとつ吐かず戦おうとする。 その気高い精神に、僕は惹かれたのかもしれない。 気がかりなのは魔理沙や霊夢のこと。 彼女たちは今頃どこに居るんだろう。無事だろうか。 その安否を確認するためにもジョセフには勝ってほしい。絶対に。 勝ってこの仕えるべき主を見失い暴走する、哀しい妖狐も救いだして欲しい。 そうだ、気がかりといえば。 「てゐ……彼女は何処でどうしているかな」 「……さあ? 案外その辺で聞き耳たててるかもな」 ジョセフは惚けるようにドアの方向を見て言った。 何故かな。僕も彼女がどこか近くにいるような気がする。 何だかんだでてゐは良い子だ。歳は向こうの方が圧倒的に上だし、そんなことを言えば彼女は怒るだろうけど。 そういえば、彼女とジョセフはどこか似ているかもしれない。 悪戯が成功した子供のように意地悪く笑うその笑顔。抜け目ないそのイヤらしい性格。 土壇場で僕は、こんな至極どうでもいいことを考えていた。 「君は―――てゐとは良い『相棒』になれるんじゃないかな。うん、そんな気がするよ」 「…………は?」 思わず口をついて出た言葉がジョセフに変な反応をさせてしまった。 突拍子もないし、これは僕の何の根拠もない予想だが――― 「幸運の『詐欺コンビ』……うん、相性はバッチリじゃないか」 「まてまて。何がどーしてそうなるんだ」 「いや、僕は本当に君たちが良いコンビになってくれるんじゃないかと思っているんだよ。 もしかしたら『希望の星』はジョセフだけでなく君とてゐの二人、なんじゃないかってね」 最初に僕と彼女がジョセフを治療し、その命を救った。 全ての因果はここから始まったのかもしれない。 勿論こんなのは僕の勘だ。霊夢と違って当たらない勘だけど。 もしもてゐが僕たちの決意にあてられ、彼女の内にあるかどうかも分からない、眠れる『正義』に火を点けて。 彼女をほんの少しでも『やる気』にさせて。 そして彼女がこの近くにまで来て、まさか僕が今喋っているこの台詞なんかを盗み聞きしたりなんかしていて。 彼女が僕らと共に闘おうなんて決意を燃やしてくれたのなら。 それはもはや『奇跡』なのだろう。 彼女の性格上考えにくいことだが、だからこそその価値は計り知れない結果を生むかもしれない。 そんな1%以下かもしれないようなちっぽけな可能性に、僕は――― 「―――賭けてみよう。ジョセフと、てゐの二人に。僕の命“チップ”全てを」 てゐが僕たちの後を追わず、あのまま家で待っているようならこの賭けは僕の負け。 てゐが少しでも臆し、迫る災厄から逃げ回るというのなら僕の負け。 てゐが他人を信じられず、困難や暴力に屈するようなら僕の負け。 そして、てゐがほんの少しでも『立ち向かう』ことにやる気を出してくれるのなら…… このギャンブルは僕の勝ちだ。 「あんなチビうさぎに何でそこまで期待してるのかね」 「てゐと君の『二人』にさ。人と妖怪が手を組むってのも中々新鮮で面白いと思うよ。 もっとも半妖の僕が言っても説得力があるのかないのか、って感じだけどね」 僕から見たてゐは、どこか悩んでいるようだった。 自身の在り方に。進むべき運命の道標に。 そろそろ……彼女なりの答えを出した頃だろう。物事は必然だ。成るように成るさ。 他人がどうこう言おうと結局は彼女の意思や信念こそが重要であり、その生き方に初めて意味が生まれる。 その運命こそを信じれば自ずと道も見えてくるだろう。そこから見えた世界が彼女にとって、正しいモノとして色が生まれる。 モノクロの動かない世界から、色彩と音とが動き始める真に澄んだ世界へと。 そうして出来た世界がどうか彼女にとって……そして正義の心を持つ全ての人と妖にとって『幻想』で終わらない、正しい世界でありますように。 ケ・セラ・セラ。 「お喋りはその辺でいいかな、男子諸君」 世界の破滅を予感させるほどに冷たい声が心臓を震わせた。 わかっているさ。何を言おうと僕は今、とても恐れているってことが。 口先ではどんなに大層な勇気を語ってようと、その喉元に突きつけられた牙が否応にも現実を見せつける。 僕は立ち上がったままゆっくりと藍を振り向いた。相変わらず鉄仮面のような表情だ。 冥府へと通じているかのように歪みきった彼女の瞳に、もはや正気など皆無。 狂気という濃霧に紛れすっかり消失してしまった光は、彼女の再生を絶望的とまでに感じる。 何があった八雲藍。何が君を、そうまで壊してしまったんだ。 もはや手遅れかもしれない藍の心に怯え、恐怖した僕は敗者なのだろう。 藍が橙を一瞥し、催促させた。『罰』の執行を。 橙……今の君だって、正気ではない。 主人に命令されてるとはいえ、あそこまでジョセフに懐いていた橙がこうも僕たちを追い詰めるなんて。 恐怖とは『感染』する。ジワジワと性質の悪いウイルスのように、藍から橙へと。 橙はそのウイルスに屈してしまったのだろうか。涙を呑みながらも、震える手でリモコンに手を掛け僕の首輪を発動させ、よう…と…… …………いや、待…てよ。確か……藍は、 「――――――あ」 そんな間抜けな一言が、崩れ落ちる前の僕の最後の台詞になった。橙が、とうとう僕の首輪のスイッチを押したのだ。 首の後ろから小さな電気がピリッと走って。続いてすぐに身体の重心が支えきれなくなった。 くたりと膝を曲げ、途端に瞼が重くなる。なるほどこれが神経毒ってやつ、か……! くそ……! し、まった……なんて、ことだ……! 最後の最後、今更になって……僕は『気付いて』しまった。八雲藍の『ある行い』に。 この事実を、早くジョセフに……伝えなくて、は………… ――――――声を捻り出すことも叶わず、僕の身体はそのまま床に崩れ落ちてしまった。 ――― ― ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽ 『十巡目・四番手 八雲藍』 現所持チップ68枚:賭け数5枚 今、この瞬間。 ジョセフの表情にいつもの余裕は完全に失せている。 状況は一騎打ち。だが、テーブル上のチップの偏りは今や藍に大きく傾いていた。 この場を支配しているのは誰がどう見ても『八雲藍』。ツキの流れはジョセフには吹かない。 (ど……どうすりゃいい? まともにやれば負けるぞコレ……!) 考えろ、考えろ、考えろ……! 己の命とも言えるチップは既に12枚。一方、藍は68枚。圧倒的大差。 この女、まるで隙を見せない。たかだかテーブルゲームだが、自分の命は目の前の妖獣に握られていた。完璧に。 ジョセフは考える。今まで行ってきたように。柱の男との戦いで苦難を乗り越えてきた時のように。 だが、今回に限ってはそれらの戦いと決定的に違う部分があるのだ。 『ルール』がある。チンチロリンという、人々が娯楽のために作り上げてきた歴としたルールが。 元々ジョセフはそういった人の認識外から攻める戦法を十八番としている。 今回のような、事前にルールという枠がキッチリ設定された戦いはむしろ不得手だ。 無論ギャンブルゲームの経験は大いにあるし、得意のイカサマでムカついた対戦相手の身ぐるみを剥いできた回数は覚えきれない。 だがそれらは所詮『遊び』の域を脱していなかった。命のやり取りに『ゲーム』という盤上を選択したのは今回が初めてなのだ。 今までの戦いとは全く別次元でモノを考えなくては、敗北する。 (クソッ! この女……この、クソ女~~~ッ! 俺をその辺の野ウサギでも見るように見下しやがって……!) 藍は卓に肘をつき、侮蔑を交えた瞳でジッとジョセフを睨みつけている。 いや、違う。『観察』されているのだ。ジョセフの一挙一動を、抜かりなく。 ジョセフは焦りながらも思考を止めない。いつだって彼は常に考えながら戦いに勝利してきた。 チンチロに思考は必要ない。『運』があるかないか、勝負の全てはそこに収縮される。 だがそれでも思考を遮ってはならない。もはやこの勝負、運だけでは乗り越えられない事態になってきている。 『イカサマ』しかない。根は単純なジョセフが考えた結果は、結局のところ『ルール外からの攻撃』。イカサマに頼るしかないのだ。 しかしそれを敵も熟知している。ジョセフに残された道はイカサマのみという事実に、藍は気付いているのだ。 だからこその『観察』。さっきから言葉を何も発さず、視ることのみに努めた藍は備えることを怠らない。 実際、ここまで行ったジョセフの全ての策は藍に攻略されている。 それどころか逆に策を利用され、手痛い返し刃を受けてきた。この抜け目ない女の目をどう掻い潜ればいいのか。 藍に勝利するための選択肢は、まずひとつ。先述の通りイカサマの行使。 ハッキリ言って自信は無いが、運のみで勝利を収めるのはもはや厳しい崖際にまで追い込まれた。 そしてもうひとつの選択肢。このチンチロ勝負そのものの『脱退』だ。 いつもの『逃げるんだよォォ~~~!』ではない。流石のジョセフも仲間を残したまま逃げるほど薄情ではない。 ジョセフらがこのチンチロ勝負を行う理由はひとえに『首輪を外すため』だ。 橙の命を握られ、半ばなし崩し的にゲームに乗ってしまった。自分を縛る首輪を外すためにはこのゲームに勝利する必要がある……わけでは決してない。 リモコンを持つのは橙。ひとまず波紋で橙を気絶させればこの首輪の効力は実質、無効化も同然だ。 つまりは、ゲームの勝敗に関係なく今ここで橙または藍を瞬時に無力化させれば話は終結する。 しかし言うまでもなくそれはリスクの高いギャンブルだ。現にシュトロハイムが先程それをやろうとして失敗した。 (クッソォ……! 『イカサマ』か『強行手段』か、どっちにしろこの女を出し抜かなきゃ勝てねえ……!) 故にジョセフは考える。どちらの手段を取ろうとも『穴』は塞がなければならない。見落としがあれば藍は必ず容赦なく切り込んでくるのだから。 「ジョセフ」 深い思考に大穴でも空ける様な、そんな鋭い威力を孕んだ声。 「そろそろその手に握った賽子を渡してくれないか? 次は私が振る番だ」 藍に手のひらを差し向けられ、ジョセフは自分が賽子を握ったままなのに気付いた。霖之助が振った後、思わず手に取ってしまったのだ。 そして、今が選択の最後のチャンスだという事を悟った。 もしイカサマをして窮地を脱するのなら、賽子が手の内にある今が好機。 だが頭をもたげるのは、一巡目の失態。軽率に波紋のイカサマを行ったが故にあっさりと藍に見破られた記憶が頭から離れない。 決めるのは今だ……! 今度は“バレない”ようにイカサマで押し勝つか、ゲーム破綻必至の特攻を仕掛けるか。 「ジョセフ……今すぐ賽子を渡せ。それともまた“よからぬコト”でも考えているか?」 「ジョセフお兄さん……」 二人の視線が賽子を握る拳に集中する。 どうする。イカサマ。波紋。特攻。首輪。逃亡。交渉。諦め。正々堂々。考えろ。どうする。 ―――パリ…… 誰の耳にも届かないほどの小さな……小さな波紋の流れる音が伝う。 どちらにしても『波紋』……この技術を応用しなければ、打開は不可能。 生温い雫が額を伝い、震える腕で賽子を藍に渡した―――その時。 「―――待って。……ちょっと、待ってよ。その勝負」 いつの間にか開かれた玄関の扉に立っていたのは、永遠亭の悪戯兎――― 『因幡てゐ』……人里に置いてきたはずの、彼女だった。 【D-4 香霖堂/午前】 【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】 [状態]:胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)、DIOとプッチと八雲藍に激しい怒り、てゐの幸運 [装備]:アリスの魔法人形@東方妖々夢、金属バット@現実、神経毒の首輪@現実 [道具]:基本支給品、毛糸玉@現地調達、綿@現地調達、植物油@現地調達果物ナイフ@現地調達(人形に装備)、小麦粉@現地調達、三つ葉のクローバー@現地調達 [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。 1:何とかしねえと負けるぞコレ……! 2:こいし、チルノの心を救い出したい。そのためにDIOとプッチもブッ飛ばすッ! 3:シーザーの仇も取りたい。そいつもブッ飛ばすッ! 4:てゐ……? [備考] ※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。この他にもまだ色々くすねているかもしれません。 ※因幡てゐから最大限の祝福を受けました。 ※ポケットに入っている三つ葉のクローバーには気付いていません。 【因幡てゐ@東方永夜抄】 [状態]:健康 [装備]:閃光手榴弾×1@現実、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」@ジョジョ第6部 [道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量) [思考・状況] 基本行動方針:死にたくないので、異変を解決しよう。 1:私は…………。 2:こーりんがムカつくから、ギャフンと言わせる。 3:お師匠様には後で電話しよう。 4:暇が出来たら、コロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。 [備考] ※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。 【橙@東方妖々夢】 [状態]:精神疲労(大)、藍への恐怖と少しの反抗心、ジョセフへの依存心と罪悪感、指先にあかぎれ [装備]:焼夷手榴弾×3@現実、マジックペン@現地調達 [道具]:基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:ジョセフを信頼してついていく。 1:藍様を元の優しい主に戻したい。 [備考] ※参戦時期は後続の書き手の方に任せます。 ※八雲藍に絶対的な恐怖を覚えていますが、何とかして優しかった頃の八雲藍に戻したいとも考えています。 ※ジョセフの波紋を魔法か妖術か何かと思っています。 ※ジョセフに対して信頼の心が芽生え始めています。 ※マジックペンを怪我を治す為の道具だと思っています。 【ルドル・フォン・シュトロハイム@第2部 戦闘潮流】 [状態]:永琳への畏怖(小)、麻痺毒 [装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りである肉体、神経毒の首輪@現実 [道具]:蓬莱の薬、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:ドイツ軍人の誇りにかけて主催者を打倒する。 1:勝てよジョジョ! 2:リサリサの捜索と合流。次に蓬莱山輝夜、藤原妹紅の捜索。その他主催に立ち向かう意思を持つ勇敢な参加者を集める。 3:殺し合いに乗っている者に一切の容赦はしない。特に柱の男及び吸血鬼は最優先で始末する。 4:蓬莱の薬は祖国へ持って帰る。出来ればサンプルだけでも。 5:ディアボロ及びスタンド使いは警戒する。 6:ガンマン風の男(ホル・ホース)、姫海棠はたてという女を捜す。とはいえ優先順位は低い。 [備考] ※参戦時期はスイスでの赤石奪取後、山小屋でカーズに襲撃される直前です。 ※ジョースターやツェペリの名を持つ者が複数名いることに気付いていますが、あまり気にしていないようです。 ※輝夜、鈴仙、てゐ、妹紅、ディアボロについての情報と、弾幕についての知識をある程度得ました。 ※蓬莱の薬の器には永琳が引いた目盛りあり。 ※また4人全員が参加者間の『時間のズレ』の可能性に気付きました。 【森近霖之助@東方香霖堂】 [状態]:麻痺毒、主催者へのほんの少しの反抗心、お腹いっぱい 、幸運?? [装備]:賽子×3@現実、神経毒の首輪@現実 [道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:対主催者を増やす。 1:あとはキミ“たち”に任せるよ。 2:魔理沙、霊夢を捜す。 [備考] ※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。 ※ジョセフの戦いを見て、彼に少しの『希望』を感じました。 ※てゐとの協力関係は、彼女の能力を利用した博打と考えています。 【八雲藍@東方妖々夢】 [状態]:左足に裂傷、右腕に銃創(処置済み)、頬を打撲、霊力消費(小)、疲労(小) [装備]:割烹着@現地調達、神経毒の首輪@現実 [道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品、芳香の首 、秦こころの薙刀@東方心綺楼 [思考・状況] 基本行動方針:紫様を生き残らせる 1:このままジョセフを叩き潰す。 2:やるべきことは変わらない。皆殺し。 [備考] ※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。 ※放送内容は全て頭に入っています。 ※ケガや血は割烹着で上手く隠れています。 ○支給品説明 <神経毒の首輪@現実> 八雲藍に支給。 主催者が『気を利かせて』数人分用意した、鉄製の首輪。 同セット内のリモコンスイッチが発動すれば、首輪の内側から神経毒が仕込まれた針が突き出る。 毒を受けた者は意識を僅かに保たれたまま身体の自由がほとんど効かなくなり、数時間で死に至るだろう。 首輪の鍵と解毒薬も同じ数支給されている。 <植物油@現地調達> 八雲藍が香霖堂から調達してきた日用品シリーズ。 カロリーを気にする女性にも優しく波紋使いにも優しいが、逆に利用されかねない。 131:花果子念報第4誌 -博麗霊夢・空条承太郎再起不能か!?- 投下順 133:刹那にて永遠の果てを知れ 131:花果子念報第4誌 -博麗霊夢・空条承太郎再起不能か!?- 時系列順 134:奇禍居くべし 114:燃えよ白兎の夢 ジョセフ・ジョースター 136:白兎巧師よ潮流に躍れ ――『絆』は『相棒』―― 114:燃えよ白兎の夢 因幡てゐ 136:白兎巧師よ潮流に躍れ ――『絆』は『相棒』―― 114:燃えよ白兎の夢 橙 136:白兎巧師よ潮流に躍れ ――『絆』は『相棒』―― 114:燃えよ白兎の夢 ルドル・フォン・シュトロハイム 136:白兎巧師よ潮流に躍れ ――『絆』は『相棒』―― 111:リンノスケ・ザ・ギャンブラー 森近霖之助 136:白兎巧師よ潮流に躍れ ――『絆』は『相棒』―― 111:リンノスケ・ザ・ギャンブラー 八雲藍 136:白兎巧師よ潮流に躍れ ――『絆』は『相棒』――
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クラブ名:FC Dynamo Kiev 本拠地:キエフ スタジアム:オリンピスキ・スタジアム(100,169人) オフィシャルサイト:http //www.fcdynamo.kiev.ua/ Ps 08 08-09 09 名前 CF 16 16 16 - シャツキフ →ロコモティフ・アスタナ(KAZ) ST 10 10 10 - イズマエル バングラ →スタード・レンヌFC(FRA) ST 18 - ファルカシュ →ディナモ・キエフⅡ→ヴィデオトンFCフェヘールヴァール(HUN) CF 22 22 22 22 クラヴェツ CF 25 25 25 10 ミレフスキー CF + 33 33 -- エマヌエル オコドゥワ ←ゲルミナル・ベールショット(BEL) →クバン・クラスノダル(RUS) ※未収録 ST + 49 49 49 ゾズリヤ ←昇格 ※未収録 CF + 70 70 70 ヤルモレンコ ←昇格 ※未収録 ST + 77 -- ギリェルメ ←クルゼイロ(BRA) →CSKAモスクワ(RUS) ※未収録 ST + 7 シェフチェンコ ←ミラン(ITA)←チェルシー(ENG) DMF 4 4 4 4 ギオアネ DMF 36 36 36 36 ニンコビッチ CMF 7 7 7 - コレーア →アトレチコ・ミネイロ(BRA) SMF 20 20 20 20 グセフ DMF 37 37 37 25 ユースフ WB 11 -- -- -- ミシャエウ →←サントス(BRA)→ボタフォゴ(BRA) SMF 8 8 8 8 アリイェフ SMF 17 17 17 17 ミハリク DMF + 5 5 5 ヴコイェヴィッチ ←NKインテル・ザプレシッチ(CRO)←NKディナモ・ザグレブ(CRO) CMF + 9 9 -- モロジュク ←ドニエプル・ドニエプロペトロフスク(UKR) →FCオボロニ・キエフ(UKR) ※未収録 OMF -+ 11 11 11 ロマン エレメンコ ←ウディネーゼ(ITA) CMF -+ 19 19 - チェルナト ←→ハイデュク・スプリト(CRO) ※未収録 OMF + 18 14 クラフチェンコ ←ヴォルスクラ・ポルタヴァ(UKR) ※未収録 OMF + 38 - ヂオゴ リンコン ←コリンチャンス(BRA) →AOカヴァラ(GRE) ※未収録 CB 3 15 15 15 ディアカテ CB 27 - バシュチュク →FCリヴィウ(UKR)→チェルノモレツ・オデッサ(UKR) SB 81 - マルヤン マルコヴィッチ →FCレッドスター・ベオグラード(SER)→NKイストラ(CRO) SB 30 30 30 30 エル カドゥーリ CB 2 2 2 -- ドピルカ →クリフバス・クリヴィー・リフ(UKR) SB 26 26 26 26 ネスマチニー SB 29 -- 29 29 マンジューク →←アルセナル・キエフ(UKR) SB 24 -- -- -- フェドロフ →アムカル・ペルミ(RUS) SB + 3 3 3 ベトン ←サントス(BRA) ※未収録 CB + 6 6 6 サブリッチ ←ハイデュク・スプリト(CRO) ※未収録 SB + 23 23 -- ロマンチュク ←昇格 →アルセナル・キエフ(UKR) ※未収録 CB -+ 32 32 - アサティアーニ ←→ロコモティフ・モスクワ(RUS) ※未収録 CB + 34 ハチェリディ ←昇格 ※未収録 CB + 44 レアンドロ アウメイダ ←アトレチコ・ミネイロ(BRA) ※未収録 GK 1 1 1 1 ショフコフスキー GK 21 21 21 - ルツェンコ →引退 GK 55 55 55 55 リブカ GK + 31 31 31 ボグシュ ←メタルルフ・ザポロジエ(UKR) ※未収録 フォーメーション
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開催期間 公式、モバゲー、GREE:2016年7月22日~2016年8月4日 entag!、BLobby、mixi:2016年7月21日~2016年8月3日 早期クリア ステージステージ1 area#Station ステージ2 area#DownTown ステージ3 area#Street ステージ4 area#Park ステージ5 area#School ステージ6 area#Tower ランキング 個人目標 イベント景品リスト 基本情報 ガチャ連動通常ガチャ第70弾【Face Fashion】 コメントフォーム 早期クリア イベントページにログインしてから24時間以内にステージ4をクリアすると アバターが貰える。 アイテム 宇宙軍隊司令官 画像 部位 衣装 連動効果:なし ▲▼ ステージ ステージ1 area#Station ステージ1 area#Station 体力-1×35歩(35) 基本Ep1 +取得可能アバター(6) 取得可能アバター(6) ・あなたはもしかして…! ここはどこですか? 100K, 宇宙軍隊服 type1 どちら様ですか? ラブナッツ, サイバースーツ type1 迷子になりました 営業スマイル5, サイバーポリス type1 ・私も知らぬ間にここに辿り着いていたのです。 いつくらいに? ラブナッツ, Vivid Pank type1 一緒だね 爽快クールガム5, Galaxy Jacket type1 帰らないの? 100K, サイバードクターtype1 ステージ2 area#DownTown ステージ2 area#DownTown 体力-2×35歩(70) 基本Ep2 +取得可能アバター(7) 取得可能アバター(7) ・あなたたちがよければ、この電脳の街を案内しますよ。 お願いします! 営業スマイル5, サイバーインフォ type1 迷惑じゃない? ラブナッツ, サイバーベッド type1 間に合ってます 宇宙軍隊帽 type1, ブラストエフェクト type1 ・ここに来るヒトには、迷いこむ理由があると思ってるんです。 なんでだろう? 引換券, プラグテール type1 あなたは? 100K, プラネットエフェクト type1 他のヒトはどこ? 爽快クールガム5, 電波受信帽 type1 ステージ3 area#Street ステージ3 area#Street 体力-2×40歩(80) 基本Ep2 +取得可能アバター(6) 取得可能アバター(6) ・帰っても私には居場所がないですから…。 どうして? 爽快クールガム5, 宇宙軍隊服 type2 そうなんだ… 5JIN, サイバースーツ type2 一緒に帰ろう ラブナッツ, サイバードクター type2 ・あまり、治安の良い場所ではないので気を付けてください。 気をつけます! 100K, サイバーポリス type2 治安? 営業スマイル5, Vivid Pank type2 なんだか不気味 100K, Galaxy Jacket type2 ステージ4 area#Park ステージ4 area#Park 体力-2×45歩(90) 基本Ep3 +取得可能アバター(7) 取得可能アバター(7) ・その……あなたは、なかなかズバッと聞いてきますね。 ごめんなさい ラブナッツ, 宇宙軍隊帽 type2 気になったから 営業スマイル5, プラネットエフェクト type2 放っておけない 5JIN, サイバーベッド type2 ・……ここでは、毎日誰かがライブやパフォーマンスを披露しているんです。 賑やかだね 爽快クールガム5, ブラストエフェクト type2 お客さんがいっぱい 100K, 電波受信帽 type2 みんな楽しそう プラグテール type2, サイバーインフォ type2 ステージ5 area#School ステージ5 area#School 体力-3×50歩(150) 基本Ep4 +取得可能アバター(6) 取得可能アバター(6) ・もう少し、何か手がかりがあれば良いんですけど~ 思いつかない 100K, サイバースーツ type3 そういえば… 引換券, サイバーポリス type3 なんだろう? 5JIN, Vivid Pank type3 ・この世界の居心地がよくて、ずっと居たいと思ってしまうんです。 どういうところ? 営業スマイル5, Galaxy Jacket type3 帰った方が良いよ 100K, 宇宙軍隊服 type3 好きにしたらいい ラブナッツ, サイバードクター type3 ステージ6 area#Tower ステージ6 area#Tower 体力-3×55歩(165) 基本Ep4 +取得可能アバター(7) 取得可能アバター(7) ・向こうの世界に居た頃は、毎日引きこもっていました。 何してたの? 100K, サイバーインフォ type3 どうして外に出ないの? 電波受信帽 type3, プラネットエフェクト type3 それって楽しいの? 営業スマイル5, 宇宙軍隊帽 type3 ・ここから見る景色はとても綺麗で、すべてを忘れることができます。 綺麗だけど… ラブナッツ, プラグテール type3 忘れるなんて寂しい 5JIN, サイバーベッド type3 やっぱり戻ろう 爽快クールガム5, ブラストエフェクト type3 ▲▼ ランキング 順位は公式のものです 順位 1位~200位 201位~1000位 1001位~5000位 5001位~10000位 アイテム Space guidance ワープエフェクト サイバープログラム 無料ミニガチャ券 画像 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (widht=48) 部位 衣装 体装飾 体装飾 - ▲▼ 個人目標 Ep アイテム 4000 宇宙を手にする者 衣装 3500 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (widht=48) 無料ガチャチケット 3000 Universe 背景 2000 イベント君jr×3 1000 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (widht=48) 無料ミニガチャチケット 500 ちっちゃな宇宙飛行士 体装飾 100 イベント君jr×1 ▲▼ イベント景品リスト +種類順 種類順 確率 画像 アイテム 部位 ステージa 低b サイバードクター type1 衣装 1 Station type2 3 Street type3 5 School サイバーベッド type1 背中装飾 2 Down Town type2 4 Park type3 6 Tower 宇宙軍隊服 type1 衣装 1 Station type2 3 Street type3 5 School サイバースーツ type1 衣装 1 Station type2 3 Street type3 5 School サイバーポリス type1 衣装 1 Station type2 3 Street type3 5 School Vivid Pank type1 衣装 1 Station type2 3 Street type3 5 School Galaxy Jacket type1 衣装 1 Station type2 3 Street type3 5 School 宇宙軍隊帽 type1 頭装飾 2 Down Town type2 4 Park type3 6 Tower プラネットエフェクト type1 体装飾 2 Down Town type2 4 Park type3 6 Tower 電波受信帽 type1 頭装飾 2 Down Town type2 4 Park type3 6 Tower サイバーインフォ type1 体装飾 2 Down Town type2 4 Park type3 6 Tower プラグテール type1 背中装飾 2 Down Town type2 4 Park type3 6 Tower ブラストエフェクト type1 体装飾 2 Down Town type2 4 Park type3 6 Tower a.area# 省略 b.確認画面で『低確率でドロップ』 ▲▼ 基本情報 初期体力30、最大体力300(ステージクリアで+45) 体力は5分で1回復。イベント君で全回復、イベント君Jrで100回復 取得Ep…自生徒の独り言と選択肢会話で等倍、他生徒とのすれ違い会話で2倍 イベントスケジュールあり(キャンペーン開始時刻12時、終了11時59分) ▲▼ ガチャ連動 通常ガチャ第70弾【Face Fashion】 ハイレアアバター取得1個につきEp×2、効果は3個まで重複し最大×8 アイテム名 連動効果 ジェネラルサディスト Ep×2 イングリッシュガーデン type1 Ep×2 イングリッシュガーデン type2 Ep×2 ▲▼ コメントフォーム 情報を募集しています。雑談は情報が分かりにくくなるためおやめ下さい。 ステージ5追加しました -- (名無しさん) 2016-07-25 15 33 18 ステージ6ドロップ確認した分追加しました -- (名無しさん) 2016-07-29 12 45 20 名前 コメント すべてのコメントを見る ▲
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グランドセフトオートIV チート プレイヤーチート 体力、アーマー回復、武器1 4825550100 体力、アーマー回復 3625550100 武器1(バット、ピストル、ショットガン、MP5、M4、スナイパーライフル、RPG7、手榴弾) 4865550100 武器2(ナイフ、ピストル、スパスショットガン、ウージー、AK47、スナイパーライフル、RPG7、火炎瓶) 4865550150 手配レベル削除 2675550100 手配レベル一つ追加 2675550150 車出現チート Cognoscenti 2275550142 Comet 2275550175 FBI Buffalo 2275550100 SuparGT 2275550168 Turismo 2275550147 バイク出現チート NRG-900 6255550100 Sanchez 6255550150 その他出現チート Annihlator Policehelicputer(ヘリコプター) 3595550100 Jetmax(ボート) 9385550100 その他チート 天気を変更 4685550100 チート入力後は携帯のメニューで下から2番目、ミッション中は1番下のChertsって所を押して好きなチートを選んで×ボタンでチートが効きますよ。 日本版はチートってとこで効きます。 多分合ってると思いますが…違ったらスイマセン(T_T) 体力回復 4825550100 防弾チョッキ 3625550100 武器セット 1 4865550100 武器セット 2 4865550150 手配レベルダウン 2675550100 手配レベル1アップ 2675550150 天候、ゲームの明るさ変更 3595550100 スーパーカー 1 2275550147 スーパーカー 2 2275550168 ギャングカー 2275550142 オープンカー 2275550175 ロードバイク 6255550100 ダートバイク 6255550150 ボート 9385550100 FBIの車 2275550100 戦闘ヘリ 3595550100 チートコード2 Spawn Annihilator(Annihilator(ヘリ)出現) 3595550100 Spawn Jetmax(Jetmax(ボート)が出現) 9385550100 Spawn NRG-900(NRG-900(ロードバイク)が出現) 6255550100 Spawn Sanchez(Sanchez(ダートバイク)が出現) 6255550150 Spawn FIB Buffalo(FIB Buffalo(クルマ)が出現) 2275550100 Spawn Comet(Comet(オープンカー)が出現) 2275550175 Spawn Turismo(Turismo(スーパーカー)が出現) 2275550147 Spawn Cognoscenti(Cognoscenti(ギャングカー)が出現) 2275550142 Spawn SuperGT(SuperGT(スーパーカー)が出現) 2275550168
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戦闘潮流 ◆3OcZUGDYUo 『――それでは、バトルロワイアルを続行する!!』 二回目の定時放送が終わり、再び禁じられた行い……バトルロワイアルを続行させる宣言が参加者に告げられる。 そしてその宣言に対して表情を全く変えずにクルーザーを走らせる男が一人。 このバトルロワイアルを演出した秘密結社、BADAN大首領の器となるべく その身を99%機械の身体に改造されたパーフェクトサイボーグ……村雨良が居た。 「禁止エリアか…………」 ボソッと特に興味がなさそうに村雨は呟く。 要はそのエリアに入らなければいい話であって、既に村雨は地図を数分前に一度見ただけで完全に記憶しており、 先程の放送の内容も一文字も書き留める事もせずに記憶した。 パーフェクトサイボーグである事による思わぬ利点である。 だがそんな事は村雨は気にも留めずに別の事を考える。 「平賀才人……桐山和雄…………」 双剣を携え、自分を打ち負かした葉隠散に一歩も引く事無く己の意思を最後まで貫き通し、 劉鳳という男を助けるために命を落とすことになった平賀才人。 どことなく自分と同質なものを感じさせ、あの散の技を半端ながらも盗み、 こちらも最後まで散に対して一歩も引く事無く命を落とした桐山和雄。 彼らの名を放送で聞き、ZXはどこか複雑な感情になる。 別に彼らの死を悲しむ感情はZXにはない。 彼らは自分の仲間、散が憎むべき対象である人間。 たとえ道端で死のうとも自分には関係がない……そのはずだった。 だが、今の村雨には悲しみとは別の感情……そう、彼はどこか彼らの死が勿体ないと感じていた。 「……奴らと闘ってみたかったのだがな……」 彼らの死を間近で見てきた事により、何か記憶の糸口を掴んだような錯覚に囚われた村雨だが、 直接彼らと闘った経験は彼にはなかった。 特に自分と似た何かを感じ取った桐山の死亡は村雨にとって残念な事だったがいつまでもそんな事を考えていられない。 未だ見ぬ強敵を求めて更にクルーザーの速度を上げ、村雨はまた別の事を考える。 「どんな望みでも叶う権利…………か」 放送で発表された褒美の事についてZXは淡い希望を抱く。 もし自分の記憶を手に入れる事さえも出来るなら……こんなに良い話はない。 ならば自分が取る道は―― 「なんだって……やってやるさ。俺に記憶をくれるのならばな」 勿論このバトルロワイアルという殺し合いに乗る事。 BADANの兵として、 世界中の軍隊と闘うため出撃を行おうとする時に仲間であるヤマアラシロイド、 ニードルに言った台詞を意識したわけではないが再び村雨は呟く。 クルーザーをまるで疾風のように走らせながら。 そして風を切る感覚をその身で感じながら村雨はふと思い出したかのように考える。 (確か以前俺は……こんな風に何処かを…………) このクルーザーというものには……いや、どちらかに言うと説明書に記入された バイクというものに村雨は前々からなにか懐かしいものを感じていた。 BADANの兵としてヘルダイバーという戦闘バイクに乗っていた時よりずっと前から自分は知っていたような感覚を……。 そこまで村雨は考え、やがて考えるのをやめた。 何故なら村雨の前方でドス黒い煙が空に浮かび……クルーザーの速度は更に上昇したから。 ◇ ◆ ◇ 田園地帯で一人の少年が呆然とした表情で立ち竦んでいた。 数分前は放送で衝撃的な内容を告げられても全く動じず、 冷静にこの状況を打開しようと思考を練っていた第三の男、三村信史である。 今の三村は食料などが入っているデイパックは焼かれ、持ち物は彼の頭に入っている クレイジー・ダイヤモンドのDISCとポケットに入れておいたトランプ銃、 そしてエニグマの紙に入れられたギターだけという有様である。 こんなあまりにも頼りない装備であるが今の彼にはそんな事よりも、 たった今自分たちに起こった事について考えるのに必死だった。 (まさか柊がいきなりあんな事をするとは……ちっ!俺とした事が……)。 かがみの服に付いていた血からわかるように恐らく自分たちと出会う前に何かとんでもない事に巻き込まれていたのだろう。 だが三村は今でも自分の言った事には間違いはなかったと信じていた。 こんなクソッタレのプログラムでは甘い夢は見ずに、辛い現実でも目を向け、 その現実に対し最適な行動をとる事が何より求められていると三村は思っていたからだ。 だが……現実は三村にとってあまりにも過酷な結果を齎した。 (ジョジョ……てめえ何で俺なんかのために……) このプログラムで初めて出会い、仲間となったジョセフ・ジョースター。 自分とあまり歳が変わらないのに妻を持っているらしく、筋肉隆々な身体を持っているくせに 時々人を馬鹿にしたようなオカマ口調になるお調子者ジョセフ。 何処か憎めない奴だったが決して悪い奴ではなく、正真証明の仲間だった男が 好きな音楽すら知らない一人の少女によって殺されたという事実が三村に重く圧し掛かる。 (落ち着け……あの爆発だ。あんな爆発じゃあジョジョはもう……) ――死んだ 何故かその言葉を三村は口に出す事が出来ない。 この異常とも言えるプログラムを潰すためには一刻も早く、現実を受け入れ行動を起こすべきだという事は三村もわかっている。 だが三村は未だ最善の行動を取ることが出来ない。 それほどまでにもジョセフの死は衝撃的であったため三村の思考は纏まりを見せていなかった。 (恐らくあの鳥人間みたいなのは俺のクレイジーダイヤモンドと同じスタンドってやつだ。 だが向こうには奇妙な槍もあるし、あの鳥人間の炎は強力すぎる……) 一瞬で自分達が乗っていた自動車を炎上できる程の火力をかがみが保持している事が三村を惑わせていた。 (正面から向かったら間違いなく丸焦げか……どうする?) 今、自分が行うべき最適の行動を三村はその頭脳で模索する。 どうにも考えが纏まらない……そんな時彼の視界にまさに疾風の速さで飛び込んでくるものがあった。 白、赤、黒の三色で彩られたバイク、クルーザーに乗った村雨良の姿が。 ◇ ◆ ◇ 爆炎が立ち昇るエリアD-7で柱の男達を打ち破った波紋使い、ジョセフ・ジョースターが目標に向かって走っている。 常人ではとても考えられない速度で走っているジョセフだが、全く息が切れている様子は無い。 既に一流の波紋使い、リサリサの下で修行を積み、波紋をマスターしたジョセフにとってこんな事はお茶の子さいさいだ。 「何度思い出してもヒヤヒヤするぜ!ぼくちゃんもうビックリしてハートが止まりそう!」 おどけた調子で、だがそれでいて表情は真剣なものを崩さずにジョセフは走る。 彼の両の眼に映っている一糸纏わぬ少女、柊かがみの下に辿り着き、彼女の歩を止めるために。 「しかしあんな鳥公を出せるとはかがみもなかなか芸達者な奴だな……そのうちサーカスにでもスカウトされるぜ!」 だが、突如かがみの傍に現れた鳥と人間を掛け合わせたようなもの、 マジシャンズレッドの存在はスタンドを知らないジョセフにとって全く未知数の存在である事が不安のしこりを残している。 柱の男達とはまた違った闘気を放つ存在に対してジョセフの思考は思わず『一目散に逃げる』と、 彼の十八番を表す行動を行おうとしたが、彼はそれを拒否した。 柱の男達との闘いとは違い、今ジョセフが行おうとしている事は別に自分の命が掛かっているわけでもないので、 逃げようと思えば楽に逃げられるような事である。 しかしジョセフはかがみを助ける事を決めた。 ジョセフはかの誇り高きジョースターの血統を継ぐ者。 基本的にジョセフは仲間を見捨てるような者ではなく、それに彼にとってかがみはもう立派な仲間なのだ。 これ以上理由を求めるのは無意味な事。 そして遂に彼はお目当ての少女の後方約数メートルの地点に到達する事に成功する。 虚ろな表情を浮かべたかがみの後方に。 ◇ ◆ ◇ 『貴様も私と同じ化け物か』 いつかあのアーカードっていう化け物が私に向かって嬉しそうに言った言葉。 その言葉を受けた時はあいつを倒す事に夢中であまり気に留めなかった。 でも……支給された核鉄のお陰と言えど何度も破壊されても、直ぐに治った私の頭や体。 こんな事はSF映画やこなたが読むような漫画の世界でしかあり得ない。 ましてや普通の高校に通う普通の女子高生である私が……。 ――私は化け物じゃない!―― 今まで私は何度もそう思ってきた。 でも思えばみゆきも灰原さんも桂さんも死んでしまった……。 嗚呼、そういう事なんだ……。 きっと私に近づいたから……私が化け物だから……私がこの世界に存在しているからみんな死んじゃったんだ。 こんな私がつかさやこなたに出会ってしまったらきっとみゆき達のようになる……そんなの嫌だ。 だから私は決めたの……誰も来る事は出来ない場所に行く事に。 エリアH-7、其処がこの私を天国に連れて行ってくれる場所……いや、化け物の私が天国に行けるなんてうまい話はないわよね。 そう、訂正すると地獄に行ける場所……私は其処に行くために真っ直ぐ歩き続ける。 これでもう誰にも迷惑を掛ける事はないわ……なのにどうして? どうして私に向かってくるの?……今の私にはこのマジシャンズ・レッドはうまく扱えないから危ないのよ? ……だから今度こそ……早く逃げてよぉ……ジョジョ。 ◇ ◆ ◇ 「おっとと!危ねぇ危ねぇ!」 大地を蹴り、勢いよく跳躍する事でかがみの前に回り込もうとしたジョセフだったが、 かがみのマジシャンズ・レッドが吐き出した高温の炎によりそれは叶わなかった。 辛うじて炎を避わす事に成功するが、間髪入れずに第二、第三の炎がジョセフに向かって 吐き出された事により彼はかがみの元に辿り着く事は出来ずにいた。 「全くあの鳥公は何食ったらこんな物騒なもの出せるんだぁ? だが!こんなチンケな炎に燃やされるジョセフ・ジョースターじゃねぇぜ!」 軽口を叩きながらジョセフは軽快な動きで今もなおマジシャンズ・レッドが吐き出し続ける炎を避わし続ける。 波紋の修行、そして柱の男達との激闘を既に体感したジョセフにとってマジシャンズ・レッドの炎を避わし続ける事は造作も無い事だが、 あまりにも激しく連続的に襲ってくる炎がジョセフの進行を防いでいた。 「おーい!かがみ~ん。そろそろその鳥公をどうにかしてくれねぇかぁ?」 ジョセフは知る由も無いが今のマジシャンズ・レッドはかがみに完全に操れるものではなく、 かがみが彼女自身に抱く負の感情は計り知れないものとなっていた。 そしてスタンド使いの精神の力で映し出される魂のビジョン、スタンドであるマジシャンズ・レッドは そのかがみの負の感情によりいわば暴走状態になっていた。 また本来ホワイト・スネイクの能力によって取り出されるスタンドDISCは いくらスタンドのパワーが強くても、DISCを使用する者に資質がなければ使いこなす事は 出来ずにDISCは頭部から弾き飛ばされてしまうものだった。 だがこのバトルロワイアル用にBADANが加えた改造によりその問題は解決されたが、 同時にスタンドパワーの安定さに不安が生じてしまっていた事も今回の暴走に関係していた。 そう、第一回放送直後に制限を打ち破り、キング・クリムゾンの本来の能力に近づいた力を発揮した 鷲巣厳がやってみせた事もこの事に関係していたというわけだ。 暴走状態のスタンドはスタンド使いのコントロールを離れるが、基本的にはスタンド使いを守るように動く。 そのため『一人になりたい』というかがみの意思を受け取り、マジシャンズ・レッドは怒涛の攻撃でジョセフを攻めたてていた。 「なぁ!かがみ~ん。また俺とかがみとシンジの三人で面白おかしく話でもしようぜぇ?」 ヒョイヒョイとマジシャンズ・レッドの炎を掻い潜りながらジョセフは叫ぶ。 そしてそのジョセフの言葉に今まで彼に対して背を向け、歩き続けていたかがみの身体がビクンと立ち止まる。 全身を小刻みに揺らしながらかがみはゆっくりとジョセフの方へ振り向く。 「…………どうしてよ?」 「あぁ?悪りぃかがみ。もう少し声を張り上げてくれねぇか?」 かがみが言葉を発している時も依然マジシャンズ・レッドの攻撃は続いており、 攻撃の時に響き渡るマジシャンズ・レッドの咆哮がかがみの小さな声を掻き消したので ジョセフはかがみの声をうまく拾う事は出来なかった。 そのジョセフの態度がどこかかがみの心を掻き乱す。 「どうしてそんな事を言うのよ!?私と関わった人…… みゆきも灰原さんも桂さんもあんたが気休めに言った三村も……みんな死んじゃったのよ!? 私と……私と関わったから……私なんかがいたから!!!」 「お!おいかがみん!未だシンジは生きて……おわぁ!危ねぇ!!!」 声を震わせながら、ありったけの声で叫ぶかがみの言葉にジョセフは疑問を思わず覚えるが、 休む事なく続くマジシャンズ・レッドの攻撃で疑問を口にする事が出来ない。 だが、三村が死んだという誤解がこの暴走を招いた要因の一つになっている事に気付いたジョセフは その誤解を解くために再び言葉を発しようとする。 「いいかぁかがみ!シンジはなぁ……ん?何だ?」 だが、今まで自分達が乗っていた乗用車が発していたエンジンの唸り声と同質の音が 後方から迫っている事にジョセフは気付き、途中で言葉を止める。 そしてその音のする方向を振り向くと……一台のバイクがこちらに向かってきていた。 ◇ ◆ ◇ ジョジョが生きていたのは本当に嬉しかった……。 もうジョジョを危険な目に遭わせるわけにはいかない……けどもうマジシャンズ・レッドは私の言う事を殆ど聞いてくれないの。 それならこの激戦を手放し、舌を噛み千切ってやろうとも考えたけど身体が石のように固まってしまった……。 マジシャンズ・レッドが私を生かすために邪魔したのかな……それとも未だ私は死にたくないのかも……化け物なのに。 そんな事を考えているとジョジョの後ろから変なバイクに乗った人が私の方に向かってきた。 これ以上私に関わらないで!……そう願うとマジシャンズ・レッドはその人に向かって炎を吐き出してしまった…… そんなつもりはなかったのに。 そして炎に包まれたバイクから……赤い影が飛び出し、何か銀色に光るものが私の方に凄い速さで飛んできて…… 血を撒き散らしながら私の左腕を持っていってしまった。 ――私やっと死ねるのかな―― そう思ったけど直ぐに激戦の力で私の左腕は元通りに治ってしまう……なんでよ…… 私もう嫌なのよ……もう誰にも迷惑は掛けたくない……。 だから…………はやく……殺して……。 ◇ ◆ ◇ (何っ!?) マジシャンズ・レッドの炎が迫る瞬間に変身を完了し、炎に包まれたクルーザーから飛び降り、 肘に装備された十字手裏剣をかがみに放ったZXは彼女の予想外のタフネスに驚く。 生身の人間が自分と同じように瞬時に自分の身体を再生する事が出来るとは思ってもみなかったからだ。 (やはり先程の少年の話は本当だったか……) 三村から聞いた情報は正しかったとZXは考えながら地面に着地する。 そして間を置かずに大地を蹴り飛ばし、目標に向かって一直線に突撃を開始する。 そう、あの平賀才人が使っていたような人の形をした物体。 マジシャンズ・レッドに向かって。 「オオオオォォォ!」 たとえ千切られようとも殴る事を止める事はないその両腕を使い、 ZXはマジシャンズ・レッドに向かって拳を揮う。 だがマジシャンズ・レッドは近距離パワー型のスタンド。 ZXの打撃をその筋肉で構築された両腕で受け流し、ZXからのダメージを防いでいく。 そしてマジシャンズ・レッドがZXの顔面に向かって反撃の左腕を繰り出すが ZXが頭部を左腕に逸らした事でマジシャンズ・レッドの拳は虚しく空を切ってしまう。 左腕を伸ばしきった事により、マジシャンズ・レッドの左脇腹ががら空きとなり、 そこにZXの右足が勢いよく飛び込む。 「ッ!?」 だが驚きの声を上げたのはZXの方だった。 確かにZXの右足は完全にマジシャンズ・レッドの脇腹に入り、仰け反らせる事に成功したが 同時にかがみも苦痛の表情を浮かべていたからだ。 ZXは知らない事だったがスタンドへの攻撃は同じように本体であるスタンド使いに伝達される。 激戦は身体の欠損を認識する事で復元を開始するので、打撃によるダメージに対して耐性はない。 パーフェクトサイボーグであるZXの強烈な右足はかがみに大きな苦痛を確実に与えていた。 「くっ!……ウオオオオオォォォ!」 自分の敵であるかがみが苦痛な表情を浮かべている事に何故か思わずZXの動きは止まるが、 直ぐにその停止を振り切り、ZXは追撃と言わんばかりにマジシャンズ・レッドに向かって右腕を渾身の力で繰り出す。 そう、然程遠くない本来の世界の未来で誰に名付けられたわけではなく、 自らの名を借りて名付けた拳……ZXパンチを。 当たれば到底無傷では済むわけがないその拳がマジシャンズ・レッドに向かう……が。 「――ッ!?」 何故かZXの拳はマジシャンズ・レッドの顔面の前で停止してしまう。 そしてそれを好機と感じ取ったマジシャンズ・レッドの口がZXに向かって大きく開き……紅蓮の炎がZXを襲う。 自分の不可解な行動に動揺したZXにそれを回避する手段は無かった。 「ヒュー!おい赤ムシ野郎!大丈夫かぁ?」 ZXに炎が完全に直撃する瞬間、ジョセフはZXとマジシャンズ・レッドが闘っている間に素早く用意した 二つのハイパーヨーヨーの糸をZXの足に絡ませ、力一杯引き寄せる事でZXへの攻撃を空振りにさせる事に成功していた。 (しかしこのスカタンはかがみの腕を切りやがったふてぇ野郎なんだが……なんで助けちまったんだろうなぁ?) 咄嗟にあまり考えないで行動に出たジョセフは自分の行動を少し不思議に思う。 だが直ぐに「まぁいいか」とジョセフは思い、素早くマジシャンズ・レッドの方へ向き直る。 しかしたった今自分が見たようにどうやら目の前の鳥公へのダメージはそのままかがみへのダメージとなるようだ。 それならば取り合えずこのヨーヨーでかがみの歩みを止めようと思い、ジョセフは構える。 「おい!赤ムシ野郎!聞いてぇんのかぁ?」 自分の直ぐ横に居る、完全には炎を避わしきれなかったZXに向かって叫びながら。 ◇ ◆ ◇ (何故だ……何故俺は動きを止めた……?) 自分が先程立て続けに起こした不可解な行動にZXの頭脳は悲鳴を上げる。 完全に相手の顔面を捉えた筈の右拳によるZXパンチ。 自分の右足がマジシャンズ・レッドに直撃した際かがみが見せた苦痛の表情を見た事による一瞬の停止。 これらの行動を起こした自分に対して。 (まさか俺は……あの女とあの少女を重ね合わせているのか……馬鹿な) 何も服は着ずに一糸纏わぬ裸体を晒し、腰の高さまで届く長い髪を生やし、 まるで全てに絶望しているかのような悲しみに満ちた両の眼。 そして命の象徴である女性という性。 背丈や顔は違えど言えども今、再びZX達に背を向け歩き出しているかがみは どことなくいつも村雨に悲しい目を向けていた女性……村雨静に似ていた。 そのためZXは無意識的に……そう、第一撃に放った十字手裏剣も実際は頭部を狙ったものではあったが 無意識的に左腕に逸らしてしまっていた。 ――あの少女を破壊してしまったらあの女に二度と会えないかもしれない―― (馬鹿な!そんな事が……あるハズはない……) あまりにも理屈的ではない考えを真っ向から否定しようにもどこか完全には否定できない 自分に対してZXはもどかしく感じてしまう。 「おい!赤ムシ野郎!聞いてぇんのかぁ?」 だが、そんな時自分を助けたジョセフの声を受け取り、一先ず考えを中断しZXはかがみを倒す事に集中する。 (この男はあと回しだ……今は……あの少女を殺す) 自分が感じた奇妙な感情についての答えを探し出すために。 一流の波紋使いであるジョセフ。 BADAN大首領、JUDOの器と成るべく改造されたZX。 この二人の戦闘力は参加者の中でもかなり上位の位置にあるだろう。 だが、その事実に反して二人は未だかがみを倒すどころか足を止める事も出来ずにいた。 暴走状態により破壊力と持続力、射程距離が飛躍的に上昇したマジシャンズ・レッドが彼らの前に立ちはだかっていたからだ。 しかしマジシャンズ・レッドが居るとはいえども彼らの力があれば、かがみの動きを止める事は難しい事ではなく、むしろ容易な事だった。 だがジョセフは只、かがみの動きを止めるために動き、ZXはかがみを倒そうとは思えども致命傷を与えられる肝心な時に 動きが止まってしまい、何より二人の間には「チームワーク」という文字が存在していなかった事が決定的な要因になっていた。 「ぐっ!そろそろやべぇぜ……」 先程までの余裕さが嘘のようにジョセフは珍しく弱気な声を発する。 ついさっきヨーヨーで今は自分達の方を虚ろな目で見つめるかがみをひとまず沈黙させようしたジョセフだったが、 またしてもマジシャンズ・レッドの妨害を受け、逆に屈強な拳で顔面に一撃貰ってしまっていた。 しかし、そんなダメージは今まで柱の男達との闘いで何度も受けているのであまり気にしている様子はジョセフにはない。 それよりもマジシャンズ・レッドの吐き出した炎で今、ジョセフ達が居る田園地帯に生えた田んぼに火が移り、 煙が昇っている事が気がかりだった。 「この煙を見て、いかれた野郎がやって来たらマズイぜ……おい!赤ムシ野郎!」 いつ危険人物がこの場にやって来るかわからないこの状況を打開するべく、ジョセフはZXに声を掛ける。 「……何だ?」 ジョセフが拳を貰ったようにZXはマジシャンズ・レッドの炎を受けており、全身に焦げ後が残っていた。 まぁ自己修復機能が手伝っている事もあり、ZX本人は然程気にしている様子はないが。 「てめぇ、俺に手を貸せ!」 「……断る。俺は一人で闘う……それが俺の存在理由だ」 「はぁ!?てめぇ何言って……どわぁ!」 二人が立つ位置にまたも炎が吐き出され、ジョセフの言葉は中断を余儀なくされる。 (何だぁこいつは?もしかしてアレか?あのワムウみたいに強い奴と闘いてぇー!っていう 戦闘狂かぁ?なら……やりようはあるぜ!) ZXの拒否を示す言葉を聞き、ジョセフは即座にZXの性格を推測し、妙案を思いつきジョセフの表情はみるみると明るくなる。 今まで自分の窮地を何度も救ってきた自分の話術……そう、嘘を付く事でこの状況を打開しようとジョセフは考え、彼は行動に移す。 「赤ムシ野郎!てめぇも俺もかがみも超ハッピーになれるアイディアを聞きたくねぇかぁ!?」 「…………」 「て、てめぇ……無視するとは流石に温厚な俺でもプッツンいくかもしれんぜぇ!?」 ジョセフの提案には全く反応せず、ZXはマジシャンズ・レッドに再び飛び掛り、肉弾戦を展開し始め、その事に対してジョセフは憤慨する。 やがて一撃、マジシャンズ・レッドの左肩に拳による打撃を加え、ZXは後方に向かって跳躍。 一旦、マジシャンズ・レッドとの距離を取り、再びジョセフの傍に立ち、口を開く。 「……言ってみろ」 実際、ZXの方も今の状況は芳しくなかった。 未だ自分の不自然な行動についての答えは出ずに、尚且つ肝心な時に動きが止まる自分に対しての苛立ちは募っているZX。 この状況を打開出来る策があればZXにとっても知りたいものだった。 「へっ!テメェ、アレだな。意地を張って素直になれなくてつい辛く当たるっていう○ンデレっていう奴だな! 良いかぁ?耳の穴かっぽじってよく聞けよぉ!」 ◇ ◆ ◇ 何で……?何であんた達は逃げてくれないの……? 私のマジシャンズ・レッドはあんた達を完全に敵だと思ってるのよ……。 だから私が禁止エリアに入って、死んじゃえばみんなが傷つく事はない……みんなが幸せになれるのに。 そうよ……それしか……私が死ぬしか方法はない……そう思っているのに。 『赤ムシ野郎!てめぇも俺もかがみんも超ハッピーになれるアイディアを聞きたくねぇかぁ!?』 そんなのあるわけないわよ……。 もうそんな夢見たいな事言わないで……目が眩みそうになるくらいの笑顔を見せないで……。 ジョジョ、あんたが私を元気付けようとそんな事を言ってくれるのは嬉しいわ……でもあまりにも現実的じゃない……。 私はもう……白馬の王子様を信じるような年じゃないの……。 だから…………もういいの。 はやく……………………逃げ…………て。 ◇ ◆ ◇ 「……さっきの話は本当だろうな?」 「Oh!このジョセフ・ジョースターは逃げも隠れもするが嘘はつかねぇぜ!だからそっちもさっき俺が言ったようにしろよ?」 「……わかった」 あまり信用して無さそうな口調で訊ねるZXにジョセフは自信満々に嘘で塗り固められた言葉で応え、ZXはとりあえず了解の意を示す。 流石はジョセフと言ったところか。 全く表情を変化させず、嘘を言ってのける彼はきっと最新の嘘探知機にも反応を示さないだろう。 「心配すんな!後でかがみより強ぇーこの俺がてめぇと闘ってやるって!」 つまりジョセフがZXに提案した事をかいつまんで言うとこうだ。 『自分に協力してかがみを止める事を出来たら、かがみより強い自分がお前と闘ってやる』 ZXにとって、強き者……散、劉鳳のような人物との闘いは最大の望みであり、かがみとの闘いは既に充分体感し、 どうにも彼が求めているものとは違ったように感じていた。 そんなZXにとってジョセフの提案はそれほど悪いものではなく、 『ジョセフがかがみより強い』という事は彼にとって魅力的なことでもあり同時に納得出来るものであった。 なぜならジョセフは別にかがみとやりあうつもりはないので今までの彼の動きは手加減をしているものとZXは思っており、 だからこそジョセフの強さは確かなものであると納得したのは決して不思議な事ではないからだ。 「……わかっている……やるぞ……」 そういってZXは膝に装備された衝撃集中爆弾を手に取り、瞬時にマジシャンズ・レッドに向けて投げつける。 「すまねぇかがみ!ちょーっと我慢してくれ!」 出来るだけかがみにダメージがいかないように、マジシャンズ・レッドの足元を狙って。 「……うっ!」 喘ぎ声をかがみは苦しそうに上げる。 そして彼女の後ろに発現していたマジシャンズ・レッドは爆風によるダメージで今にも消えかかっていた。 マジシャンズ・レッドは炎を自在に操る能力を持つが、既にジョセフ、ZXの二人を相手に全力のスタンドパワーを 発揮した闘いを数十分以上続けており、いくら暴走状態でスタンドの持続力が上がっていると言えどもその能力を使う力は残されていなかった。 「赤ムシ野郎!あの鳥公に糸みたいなものでも絡ませて動きを止めろ!」 「……任せろ」 そのジョセフの言葉にZXは素直に応え、このバトルロワイアルに連れてこられてから未だ使用していない両腕に内蔵された武器、 マイクロチェーンを使用するために両腕を伸ばし、マイクロチェーンをマジシャンズ・レッドに向けて射出する。 二振りの鋼鉄の鎖がマジシャンズ・レッドの身体に絡みつき、同時にかがみの動きを止める事に成功する。 「ひゅー!こいつはグレートだぜ!やれば出来るじゃねぇか!こんどは俺がやる番だな!」 そしてジョセフも間髪入れずに行動を起こす。 勿論、かがみを倒すのではなく、暴走しているマジシャンズ・レッドに取り合えず消えてもらうためにZXの目の前に立ち、 ZXの両腕から伸びているマイクロチェーンに両腕を添える。 「何で……何でそこまで私のために頑張るの……?」 その時、かがみがぼそりと呟いたのを聞き、思わずジョセフの動きは止まる。 かがみの言葉に対して心底不思議そうな表情を浮かべて。 「なーに言ってんだかがみ?俺達仲間だろ?それだけで充分じゃねぇか」 「私が……私がうまくやらなかったからみゆき達は死んだのよ……私のせいでみんなは……だから私が死んじゃえば……」 今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、かがみは俯きながら言葉を紡ぐ。 自分に対してあまりに大きい自己嫌悪に押し潰されるのを必死でこらえるように口を動かして。 だがそんなかがみの悲痛に塗れた言葉を受けてジョセフは……笑っていた。 下品な笑い方ではなく、どこか穏やかに。 「あのなぁかがみ……失敗なんて誰にだってあるもんだぜ? 勿論、この俺だって何度も手痛い失敗を繰り返してきたしよー。 それに何でかがみんのせいになるんだよ?なんかおかしくねーかそれ?」 「そ、それは私があの化けものを倒す事が出来なかったから……だからきっとみんな私の事を恨んでるから……うっ…うっ……」 ジョセフの穏やかな言葉にかがみは少し言葉が詰まりながらも応えるが、今まで流していた涙の量が更に増え、 除々に今にも消えそうな声となってしまう。 そんなかがみをジョセフは呆れた様子で見ている。 「全くかがみは俺とは違ってバカみてーに責任感がつえー奴だな……だがな!どうしても気に入らねぇ事があるぜ!」 右の人差し指をかがみに向けてジョセフは言い放つ 先程とはうってかわって怒りを表しながら言葉を更に紡ぐジョセフを見てかがみは呆気に取られていた。 ◇ ◆ ◇ 責任感が強い……そんな事は無いわよ……。 だって私は何も出来なかった……みんなを死なせた……どうしようもない無責任な奴よ……。 だからあんたが私の事を気に入らないのはわかるわ……だったらもういいでしょ……? いい加減私を放っておいて……これ以上私に優しい言葉を掛けないで……。 『どうやらおめーは自分のせいで仲間は死んだ。だからその仲間は自分の事を恨んでるだろうからこんなヤケになってるってわけだな?』 さっきからそう言ってるでしょ……? 何度も言わせないでよ……。 『生憎そんな考えはどうしようもねぇースカタンがする事だとこのジョセフ・ジョースターが断言するぜ! 実は俺にはシーザーっていうキザでムカつく仲間が居てな……』 なんでそんな風に自信を持てるのよ! それにシーザーっていう人が私に何の関係が……。 『こいつは俺と共に柱の男って言うかなり危険な奴らと闘い、俺が居ねぇ時に奴らと闘って死んじまった…… 死ぬ寸前に俺に力を与えてな。このことはかがみ、おめーの今の状況に通じる所があると俺は思うぜ』 何よ……さっき吸血鬼をどうしたとか話してた時はあんなに明るい顔をしてたじゃない! てっきり私はあんたが嘘を言ってるかと思ってたのに……もしかしてあの車の中で話してた事は全部事実なの……? だったらなんであんたは仲間が自分のせいで死んでしまったのにそんな……笑顔でいられるの? 『だが俺はかがみみてーに自分から死ぬような真似はぜってーにしねぇぜ!』 何で!?何で!?だって私達のせいで人が死んだのよ!? なんでそこまで言い切れるの!? 『そんな事をしたらあの世でシーザーにもう一度ブチ殺されるだろうからな! 俺はそんなつまらねぇー事をするてめぇのために闘って、波紋を残したわけじゃねぇ!とか言ってな! かがみ!きっとおめーの仲間も同じような事を言うと思うぜ!』 みゆきが……灰原さんが……桂さんが私にそんな事を……? そんな事は……。 『仲間の死ってやつは確かにものすげー寂しいもんだ。 だが俺達はいつまでもその事でクヨクヨしているわけにはいかねぇ…… そんなヒマがあるならあいつらの思いを無駄にしないために一歩でも先に進むべきだぜ! きっとシーザーもかがみの仲間達もそう願ってるハズだ!だからよー……』 みゆき達が私のために願ってる……本当に……? だったら私はどうすれば……どうすればいいの……? 『自殺なんてバカげた事はやめて……生きるべきだぜ! 生きる事って良い事だぜかがみ!おめーとその鳥公に見せてやる……生命の力で溢れた!波紋の力を!』 そう言ってジョジョは赤い体をした人の腕から伸びている鎖のようなものに手を添えた…… 再び私のマジシャンズ・レッドが暴れだそうとしたから……。 ◇ ◆ ◇ 「……何をするつもりだ?」 今までジョセフとかがみの対話に終始無言を貫き、マジシャンズ・レッドの動きをマイクロチェーンで抑えていたZXが彼に問う。 ジョセフがここから何を行うかはZXに知らされていなかったからだ。 「へっ……てめぇも少し我慢してくれよ」 「……波紋というやつか?」 「そのとーり!……いくぜ!」 そう言ってジョセフは独特な呼吸を行い、ZXのマイクロチェーンに添えた腕に力を込める。 そしてジョセフは叫ぶ……彼の持つ大いなる力、波紋を練りこむために。 「食らえ!太陽のエネルギー、波紋!!!」 両腕からマイクロチェーンに掛けて、マジシャンズ・レッドの体に太陽の力、波紋をジョセフは流し込む。 電気と類似した性質を持つ波紋を伝導性に優れたマイクロチェーンを媒体として流し込む事により、 マジシャンズ・レッドの体は更に薄いものとなっていく。 (痛い……ううん、なんだか……暖かい) だがかがみは恐怖は感じていなかった。 それもその筈、波紋は太陽の、生命のエネルギー。 一人の悲しき少女を殺すようには出来ていない。 「これが波紋だ……かがみ。 俺はこの力で必ずあのミツナリっていうジジイをぶちのめすぜ……そこで俺がおめーに言ってやる! おめーがこれからどうすれば良いかをな!」 更に波紋を練りこみ、ジョセフはかがみに向かって叫ぶ。 彼女が忘れかけた、人間なら誰もが目指さなければならない目的を。 「ゴミ箱でコソコソやってるゴキブリみてぇに落ちぶれても、どんなにカッチョ悪くてもいい……とにかく生きて寿命を全うしろ! おめーが死んで喜ぶ奴なんてこの世にもあの世にも居るハズがねぇ! だから……かがみ!おめーは生きていい!今も!この先も!どんな時も!」 そして更にジョセフはごり押しの力を加える。 彼のお決まりの台詞と共に。 「刻むぜ!波紋のビート!!!」 更に強くなった波紋を受け、遂にマジシャンズ・レッドの姿は完全に消えていった。 ◇ ◆ ◇ エリアF-7でジョセフが歩いている。 気を失ったかがみをおぶり、右肩にはデイパックを一つ掛けながら。 「うっ…………ジョジョ?」 マジシャンズ・レッドを長時間使い続けた事により疲れ果てた声でかがみはジョセフに声を掛ける。 どちらかというと自分と同年代の男の子とは比べ物にならない程大きな背中に向かって。 「Yes!I am!気が付いたか、かがみ~ん?」 かがみとは対照的に明るい口調でジョセフは答える。 自分の紛れも無い仲間に向かって。 「ごめんねジョジョ……私あんな事になっちゃって……三村も私のせいで……」 「へっ!シンジは生きてるぜかがみ!」 「えっ!?」 「けど何故かシンジの野郎はどっかに行ったらしいなぁ……そんでどういうわけか燃えたと思ったこの袋が残ってたわけでよー…… お!おい!そんなしみったれた顔するなよかがみ~ん」 ジョセフの話を聞き、自分の責任を感じ、俯いてしまったかがみをジョセフは宥める。 もう先程のようにかがみが悲しみの末、自分を見失う事をさせないために。 「でも良かった……本当に良かった……私、私三村を殺してないんだよね……?」 「ったりめーよ!とにかくシンジは先にボウリング場とやらに行ったのかもしれねぇし、俺達も行こうぜ!」 そう言ってジョセフは更に歩を進める。 地図には書かれていないマップの端を確認するために、そしてかがみの仲間達を待つ事にしようとしていたボウリング場を目指して。 「わかったわ……それであの赤い色の体をした人はどうしたの?まさか……」 「Oh!俺があんなあぶねー奴と闘っても得になる事なんてないぜ! 適当に理由付けてお帰りしてもらったわけってことだ。どうやら西の方へ行ったみてぇだな。」 まさかジョセフと自分のマジシャンズ・レッドをあそこまで痛みつける事が出来たZXが闘ってしまったのかと 心配になったかがみの疑問にジョセフは正直に応える。 またジョセフがZXとの闘いを回避出来た要因には言うまでもなく、彼が得意とする嘘が一枚噛んでいた。 「まぁボウリング場とやらでまともな服があればいいなかがみ! いつまでもそんな格好じゃ、いたいけな青少年諸君が目のやり場に困っちまうぜ!」 「え?服って……」 そんな時、ジョセフが突然服の事について話し始めた事をかがみは不思議に思う。 そして何気なくかがみは視線を自分の体に向けて落とし…… 「えっ!こっ!これって!…………なっ!何よこの格好はぁぁぁぁぁ!!!!!」 絶叫した。 「おわぁ!こ!こら!暴れるなってかがみ!」 「なっ!何でこんな黒いタイツしか穿いてないのよ私!」 「しかたねーだろ。俺そのタイツしか持ってなかったし、いつまでも素っ裸ってわけにもいかねーだろ? それに俺がおぶってるから他の奴らには見えねーって」 そう、今のかがみの服装は今まで来ていた制服はマジシャンズ・レッドによって燃やされていたため、 ジョセフに支給された江頭2 50のタイツだけを穿いており、上半身は裸という状況だったからだ。 一応、流石に年頃の少女なので可哀想に思いジョセフは自分が着ている服を着せようとしたがあまりにも体格が違いすぎ断念していた。 「そ!そんな問題じゃないわよ!というか素っ裸ってまさか……」 「あぁ~?何言ってんだかがみ?そんなのあの鳥公を出した時から飽きる程見たぜ?」 「!!!!!」 「ん?どうしたかがみ~ん?」 今となってどれだけ自分が恥ずかしい事になっていた事に気付いたかがみは俯く。 更にかがみの顔は瞬く間に赤く染まり、言葉に詰まってしまう。 当然おぶっているためジョセフはかがみの表情をみる事が出来なかったため不思議そう声を上げる。 そしてかがみは急に顔を上げて叫ぶ。 依然顔は真っ赤に染めながら。 「う!うるさいわね!だったら速くボウリング場に急ぎなさいよ!急がないとこうよ!」 「イテテ!暴力は反対だぜかがみ~ん」 ジョセフの背中をポコポコと叩きながらかがみはジョセフを急かし、ジョセフはそれに軽い口調で応えながら走る。 一直線にボウリング場へ向かって。 そしてジョセフにおぶられ、揺られながらかがみは心の中でみゆき、灰原、桂の事を思い浮かべる。 (みゆき、灰原さん、桂さん。私……生きてて良いんだよね? そうよきっと私がそっちにいってもやかましくなるだけだし……だから……私頑張るから……見守っててね…………) ◇ ◆ ◇ 後半
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区名 結社 人口 治安 衛生 結界 管理区 【皇宿の下知】 少 良 良 良 管理区は悪徳の街の中心部であり、金の集まる場所。 政府施設や情報処理施設、巨大なビルにそこに務めるサラリーマン達が今日もせわしなく過ごしている。 その労働者達を足蹴にしている金持ち達は、今日も眼下の蟻を嘲笑うのだろう。 概要 詳細人口:少 治安:良 衛生:良 結界:良 主な施設役所 アクロポリス(摩天楼) エデン大使館 ダイソン社(清掃員詰め所) 概要 政府結社【皇宿の下知】の施設や企業の高層ビルが林立する支配区は、いわば悪徳の街の心臓部だ。 道行く人々の身なりもよく、あらゆる設備にふんだんに金がかかっている。 しかし、一皮剥けばそこには隠し切れない腐敗が現れる。 他人を食い物にして築かれた富と、富める者のための平和。 嘘の上に塗り重ねられた嘘と、偽りの安寧を繋ぎ止めるための制度。 それらを持ってこの都市をわが物顔で闊歩するのは金を持った悪人達だ。 詳細 人口:少 管理区に住み着いてる者は少ない。 権力・財力・実力・コネの何れか若しくは複数を持っている者が住むことを許されるからだ。 また、人口が少ないからと言って侮ってはいけない。 【皇宿の下知】の本部があり【大楽軍】 が警備しているこの管理区は、正しく実力者の巣窟だからである。 治安:良 管理区の治安は表向き良い。 【皇宿の下知】が雇った街の自警団【大楽軍】が巡回しているからだ。 力を持った悪人同士、管理区ではいざこざを起こしたくないという暗黙の了解もある。 だが、清くとも悪徳の街。路地裏や室内では陰謀や暴力が渦巻いていることだろう。 衛生:良 管理区の衛生も良い。 実力者達が己の生活を良くするため、己の住むところの設備投資は惜しんでいないからだ。 その為にダイソン社社員などの清掃のプロフェッショナルが雇われて清掃が行われている。 結界:良 衛生と同じく、管理区において結界は張られていない場所がないほどに多い。 己の安住のためには【漂流】が雪崩込むことなどあってはならないことだからだ。 多くのところでは専任の結界師を雇い、結界を張らせている。 主な施設 役所 皇宿の下知の本部、管理区の中では低い方に分類されるビル。 主に政府関係者や、公的機関の中小結社が出入りしている。 国に提出する書類もここなので、婚姻届けなんかを出す際は訪れることになるだろう。 アクロポリス(摩天楼) 管理区にそびえる全面ガラスの超高層建築物。 一フロアごと富豪達が買い取り、別荘等として利用している。 持たざる者が歩を進められるのは一階の共有ホールまで。 高価な服装には笑顔が、貧しい服装には冷めた視線が向けられるだろう。 エデン大使館 エデン世界の要人が駐在している綺羅びやかな館。 平行世界の知識や技術を囲い込むため、悪徳の街側が用意した。 館の中からは羽根ペンが動く音と、エデン神族の力をありがたがる者のおべっかが聞こえてくる。 ダイソン社(清掃員詰め所) 管理区を綺麗に保っている清掃員たちの詰め所 マキナ人や身ぎれいな幻想種など、種族を問わず清掃のプロフェッショナルが集められている。 外の街ではトップクラスの清掃員であっても、このダイソン社では下っ端以下なんてことも 清掃力の変わらない、ただ一つの企業。