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登録日:2012/01/04(水) 11 01 41 更新日:2023/08/28 Mon 18 40 48NEW! 所要時間:約 5 分で読めます ▽タグ一覧 AVPシリーズ アメリカ エイリアン エイリアン VS プレデター コロラド州 ザ・クリーナー ストラウス兄弟 バトル物というよりパニック物 プレデター プレデターシリーズ プレデリアン 映画 暗い 2007年に公開されたアメリカ映画。2004年に公開されたエイリアンVSプレデターの続編である。 監督は『スカイライン』シリーズのストラウス兄弟。 前作がどちらかと言えばアクション重視の内容だったのに対し、本作はホラータッチな内容になっている。監督曰く「ALIENシリーズに近づけた」とのこと。 ちなみに原題は「AVPR ALIENS VS PREDATOR REQUIEM」。 ◇あらすじ 成人の儀式が終了したことで、プレデター達の宇宙船は地球から去っていった。その中の一部のクルーは、新しい儀式の場を設置するために小型宇宙船で地球へと引き返した。しかし、小型宇宙船には前作のラストで誕生した、エイリアンとプレデターの血を受け継ぐ新種プレデリアンが侵入していた。プレデリアンはクルーを殺戮し、コントロールを失った小型宇宙船は、アメリカはコロラド州の田舎町ガニソンの森に墜落する。 プレデリアン、そして内部の標本用のフェイスハガーが外界へと解き放たれ、そして追い討ちをかけるかのように、エイリアン駆逐を生業とするプレデター・ザ・クリーナーが派遣される。 ○主な登場キャラクター ○人間サイド ◇ダラス・ハワード(スティーブン・パスカル) CV 咲野俊介 刑期(おそらく傷害罪)を終えて帰ってきた主人公その1。成り行きでリーダーポジションに。 エイリアン1にもダラスという名前の人物がいるが、無関係。 ◇ケリー・オブライエン(レイコ・エイルスワース) CV 湯屋敦子 女性兵士で二年ぶりにガニソンに帰還した主人公その2。 参謀兼リプリーポジション。 ◇エディ・モラレス(ジョン・オーティス) CV 小山力也 ガニソンの保安官。小太り。 中の人がある米国ドラマで死亡フラグを演じているが… ◇リッキー・ハワード(ジョニー・ルイス) CV 野島健児 ダラスの弟。ピザ屋でアルバイトをしている。 序盤からとにかくついてない。 ◇モリー・オブライエン(アリエル・ゲイド) CV 松久保いほ ケリーの娘で七歳の幼女。 エイリアン2でいうニュートポジションだと思われるが、彼女とは異なり終盤はやや空気気味。 ◇ジェシー・サリンジャー(クリステン・ヘイガー) CV 園崎未恵 リッキーが思いを寄せる同級生。しかし彼女はデイルという人物と付き合っている。 流れレイザー・ディスク注意。 ○プレデターサイド ∴執務クルー ∴プレデター・ザ・クリーナー ○エイリアンサイド ▲フェイスハガー ▲チェストバスター ▲ヌーヴェル・ウォリアー ▲プレデリアン 詳細はそれぞれの項目で。 SF映画の人気二大クリーチャーの対決、その続編であることから期待を集めたが、日本ではあまり話題にはならず、やや微妙に終わってしまった。 以下、主な理由。 ◆見づらい 最大の問題点。とにかく画面が暗い。後半になればなるほど何も見えなくなり、誰が何をやっているかわからなくなる。 おそらくホラー色の強い「ALIENシリーズに近づけた」と言うあの兄弟が恐怖を醸し出すためにやったことだろうが、完全に逆効果だった。 それぞれの1作目なら「見えにくい」もどんな敵が襲ってくるか分からない恐怖の演出になっているが、今作の観客はエイリアンとプレデターのガチバトルを目的で見に来ている人がほとんどなので、ニーズに応えているとも言い難い。そのため地上波放送版は特別編集して見えやすいものとなっているバージョンもある。 ◆ザ・クリーナーの矛盾 ザ・クリーナーはエイリアン及びそれが関わったもの全ての痕跡を消すのが仕事であるが、エイリアンや自分を目撃した人物を殺さなかったり地下からコンクリートをアッパーで殴り付け道路を破壊し下水道から脱出する、発電所でプラズマ砲ぶっぱなすなど、隠密する気があるのかと疑いたくなる行動を取る。 (フォロー入れればクリーナーの仕事は地球に逃げた数匹のエイリアンの始末程度だったが、プレデリアンや、エイリアンの異常繁殖によって完全にクリーナーの想定外の事態になっていた。当初は比較的隠密行動をとっていたが、状況が悪化するにつれクリーナーは事態を密かに収拾することを諦め、完全になりふり構っていられない状態に追い込まれていた。端的に言えば、ブチ切れていた) まぁ「結局は爆弾で処理するつもりだった」と言ってしまえばそれまでだが。 ◆強酸の血の扱い エイリアンの血液は鉄さえも溶かす酸性を持つが、本作ではなんと雨で中和される。ザ・クリーナーに至っては室内で思いっきり返り血浴びてるのにまったく溶けない。反対に冒頭に登場した民間人は、フェイスハガーの血を腕に浴び腕が溶け落ちている。 人間やプレデターの遺伝子がエイリアンの血液に何らかの作用をもたらした……と考察してみる(擁護すると、エイリアン4でエイリアンと一緒にクローンとして復活したリプリーは酸の血液を持つものの、それほど溶けた描写がない。ニューボーンも同様)。 ◆プレデリアンの繁殖方法 その方法とは、妊婦に口移しで自身の生殖器官を挿入、卵(あるいは幼体)を流し込み、胎児を複数のチェストバスターへと変移させる、というなんともえげつないもの。妊婦はその後プレデリアンの分泌液によって身体を拘束され、胎内に宿した子供が得体のしれない化け物に変えられる(あるいは食い荒らされる)のを知覚し続けた挙げ句、産まれるチェストバスターに腹部を食い破られ絶望と苦痛のままに死亡する。 これに関しては「それでこそエイリアン」、「さすがにやりすぎ」と本国ですら賛否両論。 この生態のためにプレデリアンは産卵をする必要が無く、ヌーヴェル・ウォリアーも寄生ホストを捕獲する必要が無い。 上記のプレデリアンの繁殖方法以外にも、本作ではエイリアンが プレデリアンが殺したプレデターの生皮剥いで逆さ釣りにする(カットされました)。 フェイスハガーが子供を襲う(実は映画の描写としては今まで無かった) 死体をいたぶる(捕食?) など、より残忍な性格にされており、本作は前作以上に規制が厳しい作品になった。 地上波での放送は難しいと思われていたが、2012年に日曜洋画劇場で前作と本作をくっつけ再編集したものが放送された。 アニヲタはもう、逃げられない。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 暗いちゃあ、暗いけど、少しはいい作品だと思う。悪いところいっぱいあるけど。 -- 名無し (2013-07-10 22 11 41) ラストの大佐と湯谷さんの会話が気になった てゆーか湯谷財閥は何百年続いたんだ! -- 松永さん (2013-07-10 22 20 45) まあ、プレデリアンはよかった。 -- きくち (2013-07-11 03 45 50) ちなみにジェシーと付き合っているヤツは、デイル・コリンズ(デヴィッド・パートコー)。 不良のリーダーで、CVはなんと日野聡! マークとニックという二人の取り巻きがいる。 -- 名無しさん (2013-07-23 12 49 05) さらに、「知ってんのか? リッキー。 このアマにセックスを仕込んだのは俺だぜ?」というプレデターシリーズのような名言を発言している。 おそらくこれは吹替翻訳が、コマンドーで有名な平田勝茂が原因と思われる。 -- 名無しさん (2013-07-23 12 57 25) プレデター→AVP→エイリアンって繋げるより、エイリアンをプロメテウスに変えれば何となく自分は満足できるな -- 名無しさん (2013-07-24 04 03 36) 小説版読むとクリーナーが結構苦労してるのがわかる -- 名無しさん (2013-07-24 04 10 44) 糞映画だったな。中盤わくわくしたってのに何ともありきたりな・・・ 前作は面白かったのにね。 -- 名無しさん (2013-07-24 06 12 11) 小説版はプレデターの後の世界だとよくわかる。考えてみるとあの落ちはプレデリアンが街中にいる時点であれしかないわ -- 名無しさん (2013-08-10 20 14 05) 妊婦に産みつけるのはキモいと思いながらも興奮する自分がいた -- 名無し (2013-08-10 20 22 46) うん。 -- 名無しさん (2014-01-15 22 22 01) ユタニでてきて、終わるのは伏線だったのかな -- 名無しさん (2014-04-04 16 51 47) 妊婦殺しほどキツい表現はない。プレデリアンは好きだけどやたら地上波にならないで大いに結構。 -- 名無しさん (2014-08-14 01 23 55) 監督は俺は人間よりもエイリアンとプレデターの戦いを撮りたかったんだよと愚痴ってたそうです -- 名無しさん (2014-11-21 00 42 59) プレデリアンの口移しシーン、あれ卵を産みつけてるんだと思ったが、胎児を直接弄ってたのか -- 名無しさん (2015-04-18 06 08 09) ↑5 激しく同意。 異種姦に通ずるものがある。 -- 名無しさん (2015-04-18 10 51 40) 言うほど酷い映画でも無かったし普通に楽しめたけどなあ。ただまあ酷評されるのも分かる気もするエイリアン2の後に3、ターミネーター2の後に3、それに近い感覚がAVPの後にAVP2を見るってのにあるというか。 -- 名無しさん (2015-09-22 09 45 40) 最後まで暗いから正直終始ずっとイライラしていた。想像力で驚かすジョーズを真似した結果失敗しちゃった感じ。これじゃあカラーじゃないアメコミと同じじゃない -- 名無しさん (2015-11-08 22 27 17) プレデリアンのシルエットがプレデターそっくりで、画面の暗さと相性最悪だったな。 -- 名無しさん (2015-11-28 11 51 39) サダカヤ「出番マダー?」 -- 名無しさん (2016-07-16 19 42 33) 妊婦と子供を殺すってホラーでもタブー扱いなのに1作でやったのは凄いと思う。他にそんな作品思いつかないし -- 名無しさん (2017-06-14 17 57 53) 画面も内容も暗い -- 名無しさん (2018-01-21 20 07 48) 想像を上回る数にクリーナーもキレるしかないわな -- 名無しさん (2018-12-01 23 06 17) 雨で中和て -- 名無しさん (2019-04-14 00 08 57) SFを無理矢理ホラーにした感じで、つまらないと言うよりこれをAVPでやる必要あるのか?って思った。 -- 名無しさん (2019-06-29 00 45 42) クリーナーのカッコよさとプレデリアンの残忍さだけみれば面白い。最悪、エイリアンとプレデターばっか登場させて画面明るくすれば良いと思ったわ。人間側の話抜きにして -- 名無しさん (2020-03-05 13 49 55) 内容自体はそんなに悪くないが、とにかく暗すぎて普通は面白いならいいかで済ませられる要素が、全てがマイナスの感情になる。 -- 名無しさん (2020-10-18 18 38 59) 設定では『最年少で成人の儀式を完遂した猛者中の猛者』たるクリーナーさん。序盤は丁寧?に後始末してたのにエイリアンの繁殖規模が想定以上とわかるとランチャーブッパしたり溶解液をエイリアンの口に突っ込んだりヤケクソになり、最後はもう完全に開き直ってプレデリアンとの一騎打ちに挑む -- 名無しさん (2021-07-19 14 20 11) 名前 コメント
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手を引かれるままに辿り着いたのは、旧館の一角にあるトイレだった。 渡り廊下まで来ていたのだからてっきり校舎の方へ行くのかと思ったのだが、 ただ考えなしに歩いていただけのようだ、ちょっとは物を考えてから行動しようぜ。 しかし、このトイレ、存在は知っていたが利用した事は一度もない、 扉の前に立つだけで刺激臭が鼻をかすめるんだ、誰がこんなトイレを利用しようと思うのか。 「とりあえず、この中で待っててくれ、ここなら誰も来ないだろ 部活が終わったら迎えに来る、あんまり長い間席を外しているとハルヒも心配するからな」 期待してなかった期待も虚しく、早口でこんな事を言いやがった。 ハルヒがちょっと席を外したくらいでそんな心配をするとは到底思えないぞ。 バカ女は、じゃあな、とでも言いたげに片手を上げると、逃げるように踵を返し、走り去った。 「待て、これは何の罰ゲームだ」 思わず呟く、なんだこれは。 あのバカ女を信用して着いて来た、そこまでは良い。 だが、何故俺はこんなレベルの高い罰ゲームを受けなければならないんだ? 部活の時間が終わるまでの数時間、こんな場所に居続けていたら服に臭いが染み付いてしまうではないか。 嫌がらせとしか思えん、あの女、後でとっちめてやろうか。 知らない人についていっちゃいけません、いつかお袋に言われた言葉を思い出さざるを得ないね。 妹にも、兄としてしっかりと教え込んでやらなければ。 バカ正直にこんな臭いトイレの中で何時間も待っていられる程、俺は出来た人間ではない。 ないので、校内を適当にうろついて時間を潰すことにする。 あいつは俺の事を誰かに見られるとまずい風な事を言って俺をトイレに監禁しようとしたが、 制服もちゃんと着ているし、俺が北高の生徒である事を疑う奴なんか居るわけがない。 まあ、要するにあのトイレは待ち合わせ場所なんだ。 部活が終わる頃を見計らってあのトイレに戻れば、誰にも文句は言われないだろう。 校舎をぶらつく、今のところ、この世界は俺の居た世界と全く何にも変わってなかった。 ハルヒだって朝比奈さんだって文芸部室に居たし、長門は眼鏡をかけていなかった、古泉は知らん。 今まで発見できたのは、見知らぬ女が俺の役を演じている、というただ一点のみだ。 こんな事態になっても、長門の顔を思い出すだけで、俺は精神の安定を保てるのは何故だろう。 神様、仏様、長門様。 長門大明神の無表情を思い出すと、なんとなく図書館に行きたくなる。 まぁ、暇つぶしにもなるだろうと、俺は図書館へと赴いた。 長門? あっ、おい、椅子を回すな 「……、…ん、夢か」 やばい、寝ちまってたか。 図書館というのはどうしてこう、俺を眠りへと誘うのだろうね、この世の不思議だ。 半ば脊髄反射的に時計を見やると、ちょうど部活終了時刻丁度だった。 俺の体内時計にもついに目覚ましアラームが設置されたのだろうか、 これで早朝どこからともなく飛んでくる妹に悩む事もないだろう、と一瞬思うものの、 校舎に鳴り響くチャイムの音に気付き、俺の腹時計に設置されたかもしれない目覚ましアラームの存在を否定せざるを得なくなった。 急いでトイレに戻らないと、あのサド女に今度はどんな嫌がらせをされるか解かったもんじゃないので、 8ページほど読んだだけの本を棚に戻すのもそこそこに、俺は例のトイレへと向かった。 旧館へ続く渡り廊下を歩いていると前方にハルヒの姿が見えた。 ああ、盲点だった。 長門の部活ならぬ団活終了の合図の後、いの一番に部室を出て行くのは誰だ、ハルヒだ。 もしかしてあのサド女はこの可能性を危惧していたからこそ、俺にあのトイレでの待機を命じたのだろうか、流石にそれは考えすぎか? いやしかしだ、天上天下唯我独尊を地で行く変人が、少しだけ顔を合わせただけの俺に気付くだろうか? 否、そんなわけがない。 という訳で、何食わぬ顔でスルーする事にした。 しかし、思惑という物は往々にして外されるために存在しているといっても過言ではなく、 そんなわけで、俺の思惑も虚しい結果に終わる事になるのだった。 「アンタ、キョンとどういう関係なの?」 ハルヒはすれ違い様にこんな言葉を吐いた。 質問の意図がわからん、まったくもって意味不明だ。 関係ってのはどういう意味だ? まさか俺とあのバカサド女が恋仲だとでも言うのか? 冗談にしたって笑えない、何でまたハルヒはこんな事を言い出すのか。 こいつは前に、恋愛感情を一種の気の迷いだとか精神病の一種だとか言ってたのは記憶にあるし、 まさかハルヒがそんな青春的な意味で言ったわけじゃないだろうと思った俺は振り返り 「関係ってのはどういう意味だ」 ああ、この時適当に友達だなんだと言ってお茶を濁しておけば良かったんだ。 そうすりゃさっさと開放されて万々歳だ、人間とはかくも愚かな生物だね、まったく。 ハルヒはいつの間にか、こちらを睨みつけている。 さっき部室で睨まれた時よりは20%ほど柔らかくなった睨みだ。 柔らかい睨みってのがどんなもんなのかは知らん。 「そのままの意味に決まってるじゃないの。 まあいいわ、聞きなおしてあげる」 一拍置いてから、少し睨みを強くして 「アンタとキョンは付き合ってるの?」 待て待て、恋愛は一種の精神病じゃなかったのか? 気の迷いじゃなかったのか? まさかハルヒがこんな事を言い出すとはな、この世界はどうなってんだ。 いやいや違う、このハルヒと俺のハルヒを重ねて見ちゃいけない、 長門にも朝比奈さんにもだ、いつのまにか俺の知っているこいつらと重ねて見てしまっていた。 そもそも、この世界が俺の世界と似すぎているのがいけないんだよ、 長門は眼鏡をかけてないし、朝比奈さんはメイド服を着こなしているし、ハルヒの髪は短いし、もう! 落ち着け俺、俺はこんな不可解な質疑応答はさっさと切り抜けてトイレへ向かい、 あの女と善後策を協議して、元の世界に戻らなければならんのに。 「あいつとはただの知り合いだし、お前がそんな事を聞く意味もわからん」 ハルヒは、「ふーん…」と何か考えるように呟き 「なんでかはわからないんだけどね、あんたとキョンってただの知り合いって感じがしないのよ」 毎度の事ながら、ハルヒの勘の良さには辟易するね。 「期待に応えられなくてすまんが、あいつとは本当にただの知り合いなんだ」 俺はあくまでも白を切り通す。 というか、白も何もあったもんじゃない、 あいつと俺の関係は、顔見知りでも知り合いでも友達でもましてや恋人でもなんでもない何かだ。 「あっ、そう」 ハルヒはそう言うと、さっさと居なくなってしまった。 あのバカ女にしろ、このハルヒにしろ、一体何がしたいんだ。 女ってのはよくわからん。 ハルヒがここに来たという事は、SOS団本日の活動は終了しているのか、 こんなところで突っ立ってったら、また誰かと遭遇するかもしれない。 残るは朝比奈さんと古泉と長門か、 この3人が見知らぬ男子生徒に何らかのアクションをかけてくるとは思えないが、 何が起きるか予想もつかん時、常に最悪の事態を想定して動くのは当たり前だ。 そうと決まれば、SOS団の面子が帰り支度をする前にトイレへと向かわなければならない。 考える時間も惜しいので、とりあえず走る。 廊下を走っちゃいけません、なんて野暮な事言うバカ野朗は居ないだろ。 居たとしても知らん、俺はこの学校の生徒じゃねえ。 トイレの前には、長身の優男、ちんちくりん、ポニテ女が3人集合していた。 古泉と長門の姿が有るのは気になるが、どうせあの女が連れてきたんだろう、 何か策があるのかもな。 女に頼りきりになってるからって情けないとかは言ってくれるなよ、 俺だってそう思うし、できるもんなら一人でなんとかしたいさ。 だがな、こんな状況で俺に何ができる? たった数時間前まで久しぶりの平和な日常を過ごしていたにも関わらず、 なんの因果か、こうしてわけもわからず異世界に来ちまった。 こんな状況で、こうして正気を保っている俺はまだマシな方なんじゃないかと思うね。 それに、有無を言わさず俺を拉致し、トイレに監禁しようとしたあのバカサドポニテ女にも 多少の責任はある、だろ? 「よう」 少し息を整えて声をかけると、その三人は三者三様の表情に振り向いた。 古泉はニヤケ面、長門は無表情、バカ女は文句有り気な顰め面だ。 「なんで、この中で待ってなかったんだ?」 この女は俺がバカ正直にこのくっさいトイレの中で待っている物と思っていたらしい。 随分とゴキゲンな思考回路をお持ちのようだ。 まるでハルヒだぜ。 「じゃあ逆に聞かせてもらうがな、お前は、このくっせえトイレの中で何時間も待つ事ができるか?」 掃除するのも躊躇われるほどの刺激臭、まさに魔の無限ループを具現化したかの様なトイレだぞ。 少々の怒気を込めて言ったのが効いたのか、バカ女は顰め面をレベルアップさせて俺を睨みつけてきやがった。 まるで「お前は文句を言う立場じゃない」とでも言いたげな表情だ、さっきから何なんだろうね、この女は。 腹が立つ。 立ったので、こいつが次にどんな文句を言ってくるのか予想し、傾向と対策を練っていると、 今まで事態を傍観していた古泉が――そういやこいつも居たんだったな――笑い出した。 気色悪い。 「失礼、あなたが二人居る、と言う事実を今更ながらに実感しましてね。なんだかおかしくて、つい」 柔和な微笑を浮かべた古泉は 「まず、落ち着いて話のできる場所に移動しませんか? こんなところで立ち話というのも何ですし」 それはいいんだが、なんだかちょっと臭うぞ、お前。 「ん、ああ、そうだな、そうするか」 バカ女はそう言い、やれやれと言った風情で溜息を吐くと、古泉と並んで歩き出した。 おいおい、俺の事は置いてけぼりかよ。 なんだか馬鹿らしくなったので、俺もさっさと着いていく事にする。
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AVP2 エイリアンズVS.プレデター ■概要 2007年12月に公開されたアメリカ映画。 エイリアンVSプレデターの続編。 監督はコリン グレッグ・ストラウス兄弟。 アクション要素の強かったエイリアン4やプレデター2、前作AVPなどと比べて、ホラー色が強い。 日本でのレイティングは PG-12(= 12歳未満{小学生以下}の鑑賞には成人保護者の同伴が適当)指定。 話的には前作からの直後の話になるらしい。 ■関連項目 エイリアン エイリアン2 エイリアン3 エイリアン4 エイリアンVSプレデター ■リンク 公式サイト エイリアン・フェスティバル
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扉を開けると、そこは異世界であった。 小説冒頭に使われる常套句ではあると思うのだが、 今、俺が遭遇したこのけったいな、本当にけったいな状況を一言で表すなら、 これが最も的確だろう、トンネルではなく扉を開けたら、そこは雪国ではなく異世界だったんだからな。 その日は、これと言って特に何もない、普通の日だった。 強いて言えば、ハルヒが俺と古泉主催のホワイトデーを待ちきれない様子で俺の背中に喜色のオーラを浴びせていたくらいか。 その様子からは、こんな突拍子も無い騒動を起こすような気配は感じられなかった筈、なのだが、 だったら何故俺はこんな事態に見舞われているのだろう、 ここしばらくはハルヒも変態的パワーを発動させてなかったから安心していたんだがな。 オート飛行のジェット機さながら部室へと足を運んだ俺は、知らずのうちにその扉を開けてしまっていた、らしい。 こうして、意図せずに事件の当事者となった俺は、今まさに厄介な事態に直面していると言うわけだ。 朝比奈さんは見知らぬ男子生徒に親しみを込めた挨拶をされて困惑なさっている風だし、 ハルヒはスープに混入した虫を見るような目で俺を見ている。 こんな目を俺に向けるハルヒと朝比奈さんを見たのは、年末年始の騒がしい足音が近いづいてくるあの冬の日以来だ。 俺はこんな状況を知っている、知っているもなにも、二人から向けられるこの視線はあの時のまんまだ。 そう、あの冬の日に、長門が暴走し作り出した改変世界と酷似している。 今までに宇宙人、未来人、超能力者とお出ましになってくれたのだから、 異世界人が俺の前に登場しないという道理はなく、俺もまた、来るなら来てみやがれこんちくしょうと鼻息を荒くしていた。 いたのだが、まさか俺自信が異世界人になろうとは、誰が想像できようか。 この事態を予知し、それでいてこの状況を打破できる策を持っている奴が居たら俺に連絡してきてくれ。 飯くらいは奢ってやる、物足りないというならデザートもつけよう、おかわりは自由だ。 だがまあ、そんな事を考えはするものの、そんな人間は居ないと言う事はとっくに確信しているのだ、 何せ、長門ですら俺を困惑色の瞳で見つめているこの状況だ、 有機ヒューマノイドインターフェイスですら理解不能な状況を一介の人間が解決できるとは思えないし、思いたくない。 なぜなら、凡人が解決できる問題なら、俺が走り回って事態を解決に導かなければならない事を想像するのは容易く、 苦労を背負い込む本人にしてみれば、狂気のナイフ女と再会したり、あの夏の日の喫茶店にて忘れたい記憶を心に刻み込んでしまったり、 思い出すと虚しくなる程の重大な使命を敢行したりするのは御免被りたいのだ、 もうそろそろ春休みで、俺の身体は休息モードに移行しようしている、こんな時期くらい平穏無事に過ごしたいと思うのは俺だけじゃないと信じたい。 ただでさえホワイトデーという名の懸案事項を抱え、ここ毎日あの爽やかニヤケスマイル野朗と顔を付き合わせねばならんのに、だ。 しかも今回は長門の力を借りる事ができないかもしれない上に、 古泉はあの胸糞悪い灰色空間でなければ超人的な能力を発揮できない。 そして、このフツーの顔をした割にはやけにポニーテールが似合っている女は誰だ。 気持ち長めのポニーテールを揺らして歩くその女は、よく見ると俺の手首を掴んでおり、 周囲を見渡せば、ここは文芸部室ではなく、旧館と校舎を繋ぐ渡り廊下だった。 「お前は誰だ? なんだこれは?」 意を決して話しかける、わけがわからん。 女は、「へっ」と自嘲めいた風に笑い、唇に指を当てて数秒思考すると、 ニヤリと口元を歪めて言った、それはまるで俺を驚かそうとしているかのように。 そして俺はというと、その思惑にまんまと嵌り、これ以上ないほど驚愕する事になったわけだ。 「俺も、キョンだ」 何で女なのに一人称が俺なのかなんて事はどうでもいいし、 こいつが妙に楽しそうなのも今はどうでもいい。 このバカポニーテール、バカかどうかはわからんが、いきなりこんな事を言い出す奴はバカに違いない。 バカは「俺も」と言った、そう言うからには、このバカは俺の正体を知っている筈で、 それにその後、こいつは何とほざいたのか、これを聞き間違いであって欲しいと祈るのは不思議な事じゃないと思うがね。 「すまん、良く聞こえなかった、もう一度言ってくれ」 バカは笑いを堪えている様子だ、腹立たしい。 今にも吹き出しそうである、何がそんなに面白いのかねこのバカは、 他人の不幸を笑うこのバカがどういう教育を受けてきたのか、ご両親に伺いたいところだ。 全く、忌々しい。 「だから、俺『も』キョンだ、って言ったんだよ、キョン君」 女は、『も』の発音を強調して言った。 ややこしい事この上ないな、俺もキョンでお前もキョンか、 こんなけったいなあだ名を思いついてしまうネーミングセンスを持っている人間が、この世に何人も居るなんて事を信じたくはないのだが。 キョン、なんてのは所詮あだ名だ、あだ名であって名前ではない。 だからこいつは俺のあだ名がキョンだって事を知っていて、自分もキョンというあだ名で呼ばれていた事から、 こんな事を言い出したんじゃなかろうか、いやきっとそうに違いない、そうでなければ。 さて、俺はなぜこんな言い訳をモノローグしているんだろうね、 知ってる奴が居たら教えてくれ、飯くらいなら奢ってやるが、デザート代は払わんぞ。 こんなもん、落ち着いて考えればわかるだろう。 この世界が俺の居るべき世界じゃないというのはさっき感じた通り、きっと間違いはない。 だとすればこの世界にも俺が居るはずで、そいつが女でないという確証はないんだ、そうだろ? 先ほどの部室での光景を思い出す。 俺の定位置に座っていたのはこいつだったし、 ハルヒのストッパー係としてもそれなりに機能はしているようだった。 まだ少し腑に落ちない事はあるが、まあいい。 しかし、こいつは何故俺の正体がわかったのだろうか、 案外、こちらの世界の俺には超能力でも備わっているのかもな 古泉曰く「わかってしまうのだから仕方がない」と言うような。 「それは、わかった。 だが何故俺の正体を知っているんだ」 「何故? それはだな、お前が俺に似すぎているからだよ、 なんとなくわかるんだ、立場が逆ならきっとお前が気付く筈だぜ」 バカ女は、子供が新しい遊びを開拓した時に浮かべそうな笑顔を圧縮したかのような微笑を浮かべて言った。 少しだけ饒舌になった女の声は、こんな口調は似つかわしくない程に澄んだ声だった。 それにしても、あれだけの時間でこんな突拍子もない発想をし、 それを確信するまでに持っていけるというのは恐れ入る。 もう一人の自分とはいえ少し誇らしい気分だ、俺だって本気を出せばこんなものさ。 成績は下の中でもな。 「そう、か…」 古泉なら、爽やかスマイルと共に長ったらしい名前の著者が書いた本の一節でも引用する所なのだろうが、 あいにく俺の記憶メモリに本の引用などどこを探しても見当たらないので、こんな台詞しか吐けない、許せ。 次に何を質問しようかと考えあぐねていると、 微笑をどこかへと隠し、ぼんやりと俺を見上げるバカ女のマヌケ面が目に入る。 中肉中背よりやや細めの体つき、ハルヒより少し細い感じだ、 顔はまぁ、クラスに一人は居そうな感じだな。 考える事がなくなった途端、もしこのモノローグを読んでいる奴が居たのなら、そいつに変態と呼ばれても文句は言えないような事を考えてしまうのは、 俺がムッツリスケベだからなのか、本能的には谷口のタコ野朗と同類だからなのかのどっちだろうね、両方なのかも知れないが。 頭の中に谷口の顔が浮かぶ、どんな凶器でぶん殴ってやろうか。 俺が木製バットとバールのような物のどちらを選ぶべきか悩んでいると、 先程とは打って変わって真面目な表情をしたバカ女が真面目な声を出した。 「それで、これからどうするんだ」 これにはさすがに冷静にならざるを得ない、 谷口をどんな凶器で殴るかなんてのは瑣末も瑣末、 北高の校長の名前よりもどうでもいい事だったんだ。 今俺が置かれている状況は、あの長門暴走事件よりももっと深刻かもしれない。 ここにもう一人の俺が居ると言う事は、ここに俺を知る人間は一人も居ない、そう、家族でさえも。 俺は何としても元の世界に戻らなければならん、今回ばかりは悩む必要もない、即答だ。 だがどうやって戻ればいいんだ、一番頼りになりそうな長門ですら俺の事を知らないこの状況で。 この冴えないポニテ女しか俺が俺である事を知らないこの状況で。 「わからん」 何も思い浮かばん、先程まで落ち着いていた思考は混乱状態をぶり返している、 帰る家も、頼る人もなく、俺が俺であるという事実すら危ういこの世界で、 俺はどのように事態を解決に導けばいいんだ。 ああもう、朝倉でも生徒会長でも森さんでも荒川さんでもコンピ研部長氏でもいいから誰かなんとかしてくれ。 俺が思考の迷宮へと足を踏み込ませようとしていると、まるで引き止めるかのように、 ハルヒのバカ力と比べる事すらおこがましいが、いつかの日の長門のそれよりは力強く、 バカポニテ女は掴んでいた手に力を込めて 「とりあえず、場所を変えよう」 顔を背けながら、そう言った。 一瞬だけ見えた横顔に、ほんの少しだけ朱が差していたと感じたのは、きっと気のせいだろう。 まあいつまでも渡り廊下のど真ん中に二人して立ち尽くす事もない。 今頼れるのは異世界の俺であるらしいこいつだけだ、異世界にしろなんにしろ俺って所に少し不安を覚えるが、 ここは言うとおりに従っておこう、もしかしたら早々に元の世界に帰してくれるかも知れんしな。 「悪いが聞かせてくれ」 一呼吸置いて 「お前は何度、殺されかけた」 目的地も告げずに歩き出したバカ女は、 唐突に、俺のトラウマを巨大な工業用ドリルでほじくりかえして来やがった。 夕焼けに染まる朝倉の姿が脳裏に浮かぶ。 いくら忘れようとしても脳内HDDから一向に消去されないナイフ女。 このバカポニテは何がしたいんだ、俺の精神的外傷を突っついて楽しいか? この野朗。 朝倉やナイフについて考えるのももううんざりなので、返事を返してやる。 ええと一回目は5月下旬に1-5の教室で、2回目は世界を元に戻すべく、シャイな文学少女になってしまった長門と対峙していた時か。 3回目は、今のところ無いが、もしかしたらまたそんな事になるのかもな。 どうしたもんだろうね 「2回だ」 バカポニテ女は、小さく「そうか」と呟くと、それきり黙ってしまった。 何がしたいんだ、ちょっとは説明しろ。 古泉みたいになれとは言わないが、もう少し言葉を多くしても罰は当らんぞ。 考えたくはないが、まさか俺を虐めて楽しんでいるのかね、こいつは。 まあ、この会話の意味を考えれば、このバカ女がもう一人の俺である事については確信を持って良いだろう。 なにせ思春期真っ只中のこんな青春時代に、二度も殺されかける高校生なんてのは、 俺と、もう一人の俺以外に居るわけがない。 んん?、いや待て、この世界に朝倉は居ないんだろうな 「安心しろ、とっくの昔にカナダに行ったよ」
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キョンの手を引いてやってきた場所は旧館の男子トイレ前の廊下、 まだ中に入ってすらいないのに鼻を刺激する臭いを感じる、今は気にしないでおこう。 ここに閉じ込められるのは俺じゃない、キョンだ。 災難だとは思うが、これはそう、罰だ。 こいつは何も悪い事はしていないし、何に対する罰なのかもわからんが、罰だ。 ここに人が入っていく所を見たことはないし、こいつにも色々と考える事があるだろうし、 まあ、おあつらえ向きだろう。 「とりあえずこの中で待っててくれ、ここなら誰も来ないだろ、部活が終わったら迎えに来る」 あんまり長い間席を外しているとハルヒも心配するからな。 と付け加え、俺はこの刺激臭から逃げるように部室へとダッシュした。 去り際にキョンが何か喋っていたが、聞こえないフリだ。 部室へと戻ると、先程の一騒動などまるで無かったかのように、静かな日常が俺を待っていた。 古泉相手になら、飛車と角を適当に動かしてれば勝てるんじゃないかと思い、 適当に飛車と角を動かしてみると、拍子抜けする程あっさり古泉の陣形が崩壊した。 これじゃ小学生にも勝てないぞ、と古泉の弱さが心配になって来た所で、長門が本を閉じる音がした。 「じゃ、お先に帰るわ、また明日会いましょう!」 今日はPCの前でニヤニヤしていただけで終始大人しかったハルヒは、真っ先に席を立ち上がると、さっさと帰ってしまった。 こんな調子の時は決まって何か企んでいるのだが、その内容は知らないし、知りたくもなく、 できれば事態が収束に向かうまで大人しくしていてくれ、と願わずにはいられない。 あの間抜け面を思い出すたびになんだか今後の展開が心配になり 借りれるもんなら猫の手でも借りたい心境の俺は、せっせと将棋の駒と盤を片付けている古泉に小さく声をかけた。 「ちょっと着いて来てくれ」 今回ばかりは、こいつも役に立つかもしれない。 俺より先に奴の正体に気付いた風な事も言ってたし。 何より、あのマヌケ面に色々と説明するのはお前の役割だ。 古泉は、一瞬で俺の思惑を理解し――いや、こいつの事だから既に予見していたのかもな――頷いた。 「じゃあ俺らもお先に失礼しますね、朝比奈さん」 「はい、また明日会いましょう」 朝比奈さんはにこやかに手を振ってくれた。 終わらない夏の時や孤島で見せた怯えた表情も、いつか部室で見たアンニュイな表情もそれはそれでいいのだが、 やっぱりこの人は笑ってる顔が一番似合うと断言できる。 こんな人が生まれる時代だ、未来ってのも案外捨てたもんじゃないかもしれない。 可愛らしい声に見送られ、俺たちは部室を後にした。 「彼の事は興味深いです、少し気になっている事もありますしね」 それはともかく、解説役はお前に任せるからな。 俺がそう言うと、なんだか控えめに笑う声が横から聞こえた気がするが、気のせいだ。 というか、あのマヌケはちゃんとあのトイレで待ってるんだろうな。 適当にうろつかれた挙句行方不明になんてなられたら後味が悪い。 夕焼けに染まる校舎というのは中々に風情があっていいのだが、 旧館は何十年もの年月を経た建物であり、そんな旧館には、なんだかそういった趣があるわけだ。 要するに、不気味だ、正直に言えば、怖い。 旧館は木造なので、十歩に一回くらい、ギシと床が軋む。 この一年、気にした事はなかったのだが。一度気になってしまうともう止まらない。 いっそ古泉の腕にでも縋り付いてしまってもいいのだが。 ふと、背後に何かの気配を感じて立ち止まる。 こんな感じがする時、背後に誰かが居た試しはなく、 今回もそうであって欲しいという祈りも天には届かなかったようで、 振り返って見ると、そこには人間以外の「何か」が居た。 「うお、長門」 そこには長門が幽霊みたいにぽつんと突っ立っていた。 うん、例え人間以外の何かでも、こんだけ可愛けりゃ大歓迎だね。 「ついて来てたのか?」 「私はあの人間に興味がある」 長門はそう言うと、それきり押し黙る。 今回ばかりは長門の力が役に立つかはわからん、だがこいつなら邪魔にはならんだろう。 長門と古泉を連れて再び例のトイレの前に来た俺は、次にどうするべきか考えていた。 トイレの中にいくら呼びかけても返事は無く、ならもうこの中には居ないのだろうと結論を出してしまってもいいのだが、 あのマヌケ面は、どこでも爆睡できるタイプのマヌケ面だったし、実際、俺だって寝るだけなら―常識的な範囲でだが―どこでもできる。 しかしこの刺激臭の中で寝る事のできる人類が居るとは思えないし、きっとどこか違う場所で爆睡でもなんでもしてるんじゃないか? 色々と考えてても仕方がないので、とりあえず行動を起こしてみる事にする。 「古泉、中に入ってあいつが居るか確かめてきてくれ」 「え、いや、…それはちょっと遠慮したいのですが」 古泉め、使えない男だ。 根性を鍛えなおしてやる必要があると感じた俺は 「男の子なんだから頑張って行って来いっ」 言いながら、古泉をトイレに無理やり押し込み、 途中でギブアップしないように、すかさず扉に背を預けて閉じ込めたが、 何が悲しくて男子トイレのドアを身体張って塞がなければならんのかと悲しくなったので、すぐ退いた。 30秒程経過した頃、 トイレのドアからハンカチで口元を押さえた古泉がのっそりと出てきた。 「ちゃんと個室も調べたか?」 「ええ、調べました。 中にあったのは流されずに放置されていた汚物だけでしたが」 なんだそのプチ情報は、無理矢理閉じ込めた俺への復讐のつもりか? 「どうでしょうか?」 古泉はお得意の両掌を真上に向ける妙にアメリカンな仕草をしながら言う。 それはいいがな古泉、お前なんか臭うぞ。 「…」 古泉はなんとも言えない表情になり、鼻で溜息を吐きながらまたもアメリカンな仕草をした。 もう、お前はあちらさんのホームコメディにでも出演してろ。 「よう」 声をかけられ振り向くと、そこにはキョンが立っていた。 走って向かってきたのか、少しだけ息を切らしている。 この野朗。ここで待ってろって言った筈なのに、どこに行ってやがったんだ? 見ろ、お前の所為で古泉がちょっと臭う男になっちまったじゃないか。 「なんで、この中で待ってなかったんだ?」 俺がそう言うと、キョンはピクッと眉根を寄せ、まるで無理難題を押し付けてくるハルヒに言い聞かせる俺の様な口調で言い放った。 「じゃあ逆に聞かせてもらうがな、お前は、このくっせえトイレで何時間も待つ事ができるか?」 まあ、こんな異臭騒ぎの起きそうなトイレの中でバカ正直待っているような奴なんか居ないだろうし。 こんな事を大真面目に命令するような奴はハルヒくらいだ、他に居るとは思いたくない。 でも、だ。 今の今まで一つの文句も言わずにノロノロ着いて来てた奴が、こんな事を言うのはちょっとおかしいんじゃないか? 俺がこいつに対する次の文句を繋ごうとした時、今まで傍観していた古泉が、くつくつと笑い出した。 「失礼、あなたが二人居る、と言う事実を今更ながらに実感しましてね。なんだかおかしくて、つい」 古泉は、笑いを堪えているかのような微笑みを顔に浮かべて 「まず、落ち着いて話のできる場所に移動しませんか? こんなところで立ち話というのも何ですし」 「ん、ああ、そうだな、そうするか」 すっか気勢を殺がれてしまったので、古泉の提案にホイホイと同調する事にした。 俺に対して怒気の篭った目を向けていたキョンも、同じく気勢を殺がれたのか、 意外にホイホイ着いて来た。 長門はまぁ、言わずもがな。何も言わずにホイホイだ。 さて、どこに行ったもんかと考えていると、 「待て、これから何処へ行こうってんだ?」 俺と古泉が並んで歩いているその後ろから、長門と並んで歩くキョンが問いかけてきた。 まさにそれを今考えていたのだが。 「いつもの喫茶店でいいでしょうか?」 すかさず古泉が応える。 いつもの喫茶店と言えば、市内不思議探索の休憩ポイントになってるあそこしかない、 毎度毎度奢らされ続けていると言うのに、何故こいつは自ら死地へと赴くのだろうか。 「それでいいか?」 長門は無反応、キョンはそっぽを向きながら、おう、と応えた。 まさかミヨキチと行った小洒落た喫茶店ではあるまい、そのエピソードはまだ誰にも語った事はないはずだ。 生徒玄関にて靴を履いていると、キョンが俺の下駄箱の蓋をパカパカ開けたり閉めたりしているのが目に入った。 何やってるんだお前。 「靴がねえ」 ああ、良く考えりゃ当たり前だ。 靴がないなら古泉のでも借りとけ。 「上履きでよければ、いくらでもどうぞ」 「いらん」 キョンと古泉の心温まる男の友情エピソードを経て、 校舎を出ると、太陽はすっかり沈んでおり、肌寒い空気と薄暗い世界が俺たちを出迎えてくれた。 SOS団臨時アジトとして認定されてしまっているであろう哀れな喫茶店は駅前にある、 そう遠くは無いが、着く頃にはもう夜になりそうな塩梅である。 「彼の境遇について、どこまで理解できたのですか?」 あいつが聞いてたら気分を悪くするぞ、と一瞬思ったが、 そのあいつは俺たちの後方5メートル程の所を長門と歩いており、 この距離ならまぁ聞こえないだろう、別に聞かれても問題はないのだが。 「あいつは間違いなく俺だ、それは確信を持てた。 それに、この世界とあいつの世界の一年間も、俺たちとほぼ同じだと考えてもいいかもしれん」 「性別以外は、ですね」 蛇足だろう、それは。 「すいません、ですが」 古泉は言葉を中断した、俺が遮ったからだ。 「今はそのおしゃべりな口は閉じてろ、喫茶店に着いたら存分に披露させてやる」 「それもそうですね、今から喋りすぎで疲れていてはお話にもなりません」 古泉が手を広げる気配が伝わる。声色から察するにこいつは楽しんでいるようだった。 途中、背後から素っ頓狂な叫び声が聞こえたが、いちいち反応するのも面倒なのでスルーだ。 喫茶店に着く頃には予想通り、空はもう夜と言ってしまっても誰からも反論はされないであろう程に黒く染まっていた。 適当に飲み物を注文し、俺たちはこれからどうするかを話し合う運びとなった。 「今の所、善後策を協議できる程の確定情報がありません。 なので、これからあなたに色々と質問させて頂きますが、宜しいですか?」 「ああ」 古泉もキョンも真剣な面持ちである。 「まず、あなたがどのようにしてこの世界に来たか、です。 心当たりはありますか?」 「いいや、無い」 何かを思い出すかのように数秒の沈黙 「いつものように文芸部室の扉を開けたら、お前らが居た。それだけだ」 「なるほど、何の前触れもなかった、と言う事ですか」 「そうだ。 ハルヒと朝比奈さんの様子がおかしいと思って、 何か知っているんじゃないかと長門を見れば、長門の様子もおかしかった」 そして、俺に一瞥をくれると 「部室に変な女も紛れ込んでいたしな」 それで、またけったいな騒動に巻き込まれんたじゃないかと思ったわけさ。 キョンはそう付け加えながら、背もたれに身体を預けた。 だがな、流石に変な女などと言われて黙ってるわけにはいかんよ。 「変な女とは心外だな。 あの時助けてやったのは誰だ? こっちから見りゃ、巻き込まれたのは俺たちの方だし、お前の方こそ変な男だ」 つい喧嘩腰になってしまう俺を諌めるように 「まあまあ、落ち着いてください。 そんなに喧嘩腰では進む話も進みませんよ」 微笑と苦笑を合体させた器用な顔しながら、 どうか今は僕の顔に免じて。 と言って、ウインクをした。 しょうがない、ここは古泉の爽やかスマイルに免じて許してやるか。 だがな、また変な事言い出したら承知しねえからな。 「話を元に戻しましょう」 俺たちに考えさせる時間を作るためなのか、コーヒーを一口啜る。 「あなたは何の前触れも無く、何の自覚もなくこの世界に降り立った。そう解釈していいですね?」 古泉は、表情から苦笑だけを取り除いて確認した。 器用な奴だ。 「ああ、構わん」 「では、何故彼がこの世界に来たのか考えてみましょう」 何故ってそりゃ、ハルヒが望んだからに決まってるだろう。 「ええ、ですが涼宮さんがそんな事を望むでしょうか? 彼を異世界へと飛ばしたい。そう思われるほどに」 「あなたは嫌われていたのですか?」 唇を引き絞って真面目な表情をしながら、キョンを見つめた。 「…嫌われているかどうかは知らん。あいつの気持ちなんて解りようがないし、解りたくもねえ。 だがな、ハルヒが嫌いな奴を自分の作った団に置いとくとは思えない」 「ごもっともです。 ですが、大事な事を忘れていますよ。 あなたは今まさに、団を追放されたと言っても過言ではない状況にあるのですから」 言われてみりゃ確かにそうだ。 しかしな、いくら嫌いな奴だからって異世界にぶっ飛ばすなんて荒業、ハルヒがやるとは思えんぞ。 「涼宮さんは、あなたが自分の世界から消えてなくなってしまえばいいと思ったのです。 まだ息があるのは、涼宮さんの心の常識的な部分が、間接的にしろ人を殺すことを躊躇ったからではないですか?」 キョンは目に見えて焦っている。額には汗が伝い、顔はすっかり青ざめてしまっていた。 古泉、ちょっとやりすぎなんじゃねえか? 「ま…て、待ってくれ。 …ハルヒがそんな事望むわけないだろ? 孤島の時だって結局古泉の仕込みだったしそれに、ここ、最近のあいつはホワイトデーを今にも待ちきれない様子だったんだぞ?」 キョンは早口で抗議した、目に涙を溜めていたとしても違和感がないくらい悲痛な表情で。 正直、見ていて居た堪れない、助け舟を出してやるか。 「ああ、どの世界のハルヒにしろ、あいつがそんな阿呆な事を考えるとは到底思えん」 古泉は申し訳なさそうな微笑へとモードチェンジし 「ええ、そう思う気持ちはわかります。 ですが、そうでなければ何故、彼が今こうしてこの世界に居るのでしょうか?」 ええい、まだ言うのかこいつは。 もう我慢ならん 「古泉! いい加減にしろ!」 古泉が二の句を繋ごうとするのを遮るように言い放つ。 いい加減悪ノリしすぎだ、馬鹿野郎。 「………申し訳ありません。 反省します」 だったら最初から言うな、と言いたい。 少し心配になったのでキョンの様子を見てみると、額をテーブルに当てて頭を抱え込んでしまっていた。 「おい」 「……」 呼びかけるが、返答はない。 古泉も困った様子で微苦笑している。 その表情はまるで、こんな時にどんな表情をすればいいのか解らない自分を、笑っているかのようだった。 っというか、キョンをこんなんにしたのはお前なんだからお前がなんとかしろよ、このこんじょなし 「このバカの言葉なんか、あんまり気にするなよ。 ハルヒが本気でそんな事思うわけないだろ? ちょっとは信用してやれ、我らの団長様をよ」 しばしの沈黙が場を支配する 「……それも、そうだな」 本調子とは言えない――こいつの本調子がさっきの憮然とした態度だと仮定して、だが―― まあ話せるくらいには復活してくれた。 というか、してくれないと困る。
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涼宮ハルヒが常に凡人たる俺などには理解の及びもつかない事を考え、行動しているのかと問われれば、そうではないと確信を持って言える。 いくら奇人変人コンテストで優勝を飾りそうな女と言えども、常時トップギアでは身が持たない。 何せ、その近くに居る俺ですら溜息と共に幸せとストレスと大切な何かを放出し、 それでもなお身心の疲弊は免れない状況である事を鑑みれば、涼宮ハルヒという人間がどんな燃料を積んでいたとしても 人間である以上、それは当たり前の事なのである。 だが、そんな俺の思惑も虚しく、日々の大部分を全開フルスロットルで過ごすハルヒは、 宇宙人、未来人、超能力者ですら想像の及びもつかない事件をまるで太陽が東から西へと傾くかの如く当然のように、 無自覚なまま起こしてくれちゃったりするわけだ。 本当、このポジティブバカは一体いつ休んでいるんだろうね。 古泉風に言えば、まさに「神のみぞ知る」というところなんだろうか。 さて、今回の事件は。 などと言おうものなら、事件はもう既に日常の中に組み込まれている様な感じがして誠に遺憾ではある、が SOS団発足のあの日から本当にあれやこれやとやってきた思い出を振り返れば、こんな事件などは将来 ああ、そんな事もあったよね、などと笑い飛ばせるレベルなのかもしれないのだが、 毎度毎度頭を悩ませ、また身体を疲弊させている俺としては、 どの様にカテゴライズすればいいのかは不明だが、間違いなくコメディではないと言える。 何故ホワイトなのかわからないホワイトデーも、 何故ホワイトなのかと聞けば小一時間うんちくを披露してくれそうな古泉一人が奔走する結果となって無事終わり 久しぶりに平穏無事なイベントを満喫した俺は、いつものようにSOS団アジト兼文芸部室にて朝比奈さんのお茶を啜っていた。 古泉は誰も見てないのに爽やかスマイルで詰め将棋をやっているし、朝比奈さんは今日も完璧な萌えメイドだし 長門はいつかの日より幾分柔らかくなった瞳で読書をしているし、ハルヒは何やらニヤニヤしながらパソコンを弄っている。 SOS団ただ一人の良心を自負している俺としては、ハルヒがニヤニヤしているのが気にかかるが、 先日ホワイトデーを終えたばかりだし、そのホワイトデー効果もまだ持続していると信じたい、古泉もあんなに頑張った事だしな。 あらためて部室を見回す、束の間の静かな時間である。 こんな事を思うと決まってハルヒという名の巨大台風が猛威を振るうのだが、 予想に反し、今回の台風の目はハルヒではなく、突然現れた一人の男子生徒だったのである。 俺が当てのない思考の旅へ旅立とうとするのを引き止めるように、 この一年、何度ハルヒのキックを受け止めたかわからず、 そろそろ蝶番が外れるんじゃないかと危惧していた文芸部室の扉をノックする音がした。 この扉がノックされる時、面倒事にならなかった事は数数えるほどしかない気がするのは気のせいではないだろう。 長門の仲間疑惑の濃厚な喜緑さんに、復讐に燃える隣人、古泉の仕込みの生徒会長、 そのどいつもこいつもが、ハルヒにイベントを提供するためにわざわざこの扉をノックしてくださったわけだ。 さあ今回は誰が来るんだろうね、できれば鶴屋さんがいい、あの人の持ち込むイベントならこちらも楽しめそうだ。 椅子に座りぼんやりしていた朝比奈さんは俺たちを見回すと、数秒思考してから客人を出迎えに行った。 だが、朝比奈さんが返事をする前にその扉は開かれ、見知らぬ男子生徒が妙に慣れた様子で部室に入って来た。 「え、あ」 「うぃ…ああ、朝比奈さん、こんにちは」 その男子生徒は朝比奈さんの知り合いなのか、親しげな目を向けて挨拶した後、 俺へと目線を移し、誰だこいつ?、とでも言いたげな目を向けてきた。 お前こそ誰だよ 「ええと、あの、どちらさまでしょうか…?」 朝比奈さんがオロオロしながらその男子生徒に問いかけた 待て、彼女の知り合いでなければ誰だ? 知り合いでなければ彼が彼女に向けた親しげな目はなんだ? この状況はなんだ、またハルヒの変態パワーで世界がエキセントリックな事になっているのか? 真っ先にこんな事を危惧する俺も、傍から見れば大分エキセントリックに見えるかもしれない。 「冗談きついですよ朝比奈さん、またハルヒにけったいな命令でもされたんですか?」 なんだか冴えない顔をした男子生徒は苦笑しながら言い、こちらへと歩いてくる、 やはりその顔には、「お前誰だよ」というような訝しげな目が俺に向けられている。 お前こそ誰だ 「誰よアンタ、いやに馴れ馴れしいわね、こんな冴えない顔の男と知り合った覚えはないんだけど、 しかも、神聖不可侵の象徴たるSOS団団長の私をいきなり呼び捨てなんて、サンタさんにだって許した覚えはないわよ!」 今の今まで我関せずだったハルヒは、自分の名前を呼び捨てにされた事に即座に反応し、早口で男子生徒をまくしたてた。 サンタにはさん付けなんだな、だったらサンタもお前の事を呼び捨てにしちゃいけないだろうよ、と思う俺はハルヒに毒されているんだろうか。 しかし、その男子生徒のハルヒを呼ぶ声は、何年間も顔を付き合わせてきた悪友を呼ぶときのような親しみが込められている。 何故だろうか、彼の事を子供の頃から知っているような気がするのは。 「今度はなんだ、また妙な思い付きでもしたのか? あとこの人は誰だ?」 俺の方を指差して言う、人を指差しちゃいけませんって親に習わなかったのかこいつは。 それにお前こそ誰だ 「まるでキョンみたいな口の聞き方ね、さっきも言ったけど、私はアンタの事なんか知らないわ 悪いけど、何も用がないならさっさと出てってちょうだい、私達も暇じゃないの」 ハルヒは一年前とちっとも変わっていない――少しは丸くなったかと思っていたが――口調で言ってから、男子生徒を睨みつける。 まあノックはしたものの、事実上勝手に入って来た見知らぬ男子生徒にいきなり呼び捨てにされれば当然の反応とも言えるんだが。 未体験の人間なら少しくらいは威圧されるであろうハルヒの睨みを、その男子生徒はにべもなく無視すると、 長門を見つめて、やれやれと言わんばかりに溜息をついてから、眉根をこれでもかという程寄せ、こめかみに手を当てた。 何か考え込んでいる様子だ。 俺は拭いきれない違和感を感じていた、こいつは朝比奈さんとハルヒを知っている。 朝比奈さんには親しみを感じさせる視線を送っていたし、ハルヒには諦念を滲ませた視線を送っていた。 それに気にかかるのは、ノックをしたにも関わらず、こいつは返事を待たずに入ってきた。 ノックという行為は、中に居る人間に自分が来た事を知らせる為にするわけで。 普通なら、誰かが出てくるまで待つだろう、部外者としてノックをする人間は大概そうだ。 ハルヒはノックなんて殊勝な真似はしない、朝比奈さんと長門と俺はする必要がない。 古泉はSOS団の一員だし、部室の中から誰の返事もなければ勝手に入るだろう。 そう、この冴えない野朗の行動は古泉と同じだ、ノックをして、数秒たって誰の返事もないから勝手に入った。 そして、朝比奈さんとハルヒに向けられたあの目。 そうだ、考えればわかる、ハルヒの巻き起こす事件にいつもあの様に頭を悩ませていたのは誰だったかを。 ハルヒを止める事を早々に諦め、開き直って楽しんでいたのは誰だったか、朝比奈さんの完璧なドジっ娘っぷりに頬を緩ませていたのは誰だったか。 このアホの巻き起こす騒動の中心でわけもわからず右往左往するのは誰の役割だったか。 ふと、古泉を見ると、あの孤島の時のようなスマイルを俺に向けていた。 「僕はとっくに気付いていましたよ、もっとも、長門さんはまだ気付いていないようですが」 古泉は俺に小声で話しかけると、男子生徒、ここは言い換えておくべきだろう 「もう一人の俺」にひとさじの困惑の色を混ぜた瞳を向けている長門を流し見た。 このスマイル野朗に解って長門が解らないってのもおかしな話だな。 もう一人の俺は、俺の近くに突っ立ったまま、思考の旅から帰ってきていない。 ハルヒは険しい表情をして考え込むもう一人の俺を睨みつけている。 朝比奈さんはハルヒから立ち上るオーラを感じ取って小さくなってしまっている。 この状況を打破するにはどうしたらいい、このなんだか冴えない顔をしたもう一人の俺が 「キョンは俺だ」などと口走ってしまえば、きっとまた厄介な事になるのだろう、今の状況でさえこれ以上無いほどに厄介だと言うのに。 古泉は助け舟を出してくれないのかと目線を送ってみるが、爽やかスマイルから「最悪の事態になるまで動かない」という意思が読み取れた。 俺はいつのまにか長門表情一級鑑定士の他に爽やかスマイル一級鑑定士の称号まで獲得しているのかもしれない。 案外、このニヤケ野朗は俺が毎回走り回るのを横目で見て楽しんでいるんじゃなかろうか、くそ、腹が立つ。 古泉が役に立たないとすればここは俺一人で乗り切るしかない、また東奔西走するハメになるのだろうか。 いや、今回は俺がもう一人居るんだ、二人でやれば苦労も二分の一だ、きっと。 「あー、ハルヒ、こいつは俺の知り合いなんだ、そう、俺の知り合いで、悪ふざけが好きな奴なんだよ」 「そうなの? まあそんな事はどうでもいいわ、私は用がないならさっさと出てけって言いたいだけだから」 ハルヒはこの男にはまるで興味がないらしい、部室に混入した異物をさっさと取り去りたいと考えているようだ。 もう一人の俺が悪ふざけが好きなのかどうかは知らないが、まあいいだろう。 こいつを部室の外に連れ出すのが今の俺に課せられた最重要課題だ。 「ほら、さっさと来い」 もう一人の俺、いや、そろそろややこしくなって来たので、便宜的に「キョン」と呼ぶことにする。 俺は思考の海へ旅に出たきり帰らないキョンの手首を掴み、強引に部屋の外へと連れ出した。 こいつが居た世界では雑用係にでもされているのだろうか、微妙に荒れた手だった。 「お前は誰だ? なんだこれは?」 歩きながらこいつをどこに連れて行こうか思案していると、 いつのまに帰還を果たしたのか、キョンが真面目な声で俺に問いかけてきた。 俺に解説役は向いてないんだ、後で古泉あたりに聞いてくれ。 あいつならうんざりするくらい回りくどい説明をしてくれるだろうよ。 だがまあ、俺の正体くらいは明かしてやってもいいだろう。 こいつにとっては、去年の12月末に長門が暴走した時と同じような状況だろうからな。 なんの前触れもなかったのかどうかは定かではないが、 自分の知らない世界に迷い込んでしまった時の気持ちは、よく解っているつもりだ。 こいつを安心させてやろうと、いや、本心ではこいつを驚かせてやろうと思っていたんだろう。 俺は言った。 「俺も、キョンだ」 気付けば口元が歪んでいた。 俺は楽しんでいるのか? 異世界、異次元、異空間、そのどれかは解りようも無いが、 そのどれかの世界から突然姿を現した自分自身と対峙しているこの状況を。 俺の言葉を受けて、キョンはマヌケ面を擬人化したらこうなるんじゃないかと思ってしまうくらいのマヌケ面を晒している。 このマヌケ面は俺の知らない世界でどんな日常を送っているんだろう。 案外、向こうの世界でこいつはハルヒと付き合っているのかもしれない。 いや、もしかしたら長門とそういう関係になっているのかもしれないな、こいつが俺と同じような体験をしていると仮定すれば、 長門に恋愛感情を抱いていたとしてちっとも不思議じゃあない。 だってそうだろう? 何度も命を助けられた事もあるし、俺にしかわからない表情の変化ってのもポイントは高い、 改変世界で見せた儚い微笑みなんて卒倒モンだ。 こんだけ材料があるんだ、こいつが長門と付き合っていてもおかしくない。 いや待て、ハルヒと一緒に閉じ込められた灰色世界で俺は何をした? ハルヒは夢だと記憶しているようだが、その後のSOS団団員との会話で判明したが、あれは紛れも無い現実だ、 俺にとっては思い出したくない過去ベスト3には確実に名を連ねる出来事なのだが、 こいつにとってはどうなんだろうか、棚ボタ的なラッキーかと思っているかもしれない それも考慮すればこいつがハルヒと付き合ってる付き合ってないに関わらず、意識はしている、これは間違いないな。 朝比奈さん? 考察するまでもないだろう、あの萌えメイドにときめかない男など日本のどこを探してもいない。 うん、こいつからは色々と面白い話が聞けそうだな。 脳内でこんな事を考えてしまうくらいの時間が経っただろうか、俺の勝手な思考を打ち切るかのように、 マヌケ面で呆けていたキョンが溜息と共に言葉を吐いた。 「すまん、良く聞こえなかった、もう一度言ってくれ」 あんな至近距離で、それもごく短い言葉が聞き取れなかったとでも言うのか。 いいや、こいつは信じたくないだけなのさ、目の前にもう一人の、しかも女の自分が立っているんだからな。 こいつの思考が手に取るように解ってしまい、思わず吹き出しそうになる。 事件の当事者ではない俺が、当事者の心境をこれでもかという程解ってしまうんだ、 楽しんでいるのかと問われたら、そうだと即答できるだろう。 当事者にとって、こんな迷惑な協力者もいないんだろうがな。 「だから、俺『も』キョンだ、って言ったんだよ、キョン君」 気持ち『も』の発音を強めにしてやった。 聞き間違いかもしれないという一点に望みを賭けていたんだろう。 悪いが、それはきっと間違いだ。 確信はまだ持てないが、なんとなくわかるんだ。 古泉風に言うなら、わかってしまうのだから仕方が無い、と言うような。 一縷の望みを打ち砕かれたキョンは、もうわけわがわからんと言った風情でまた考え込んでしまっている。 必死で否定意見を考えているんだろうか、それともそろそろ理解してくれるのだろうか、 こっちはもう一人の自分として少し不甲斐ない気分でもあるんだぜ。 いやまあ、無理もないかもな、いつぞやの世界改変の折に、 長門のヒントを発見するまで解決策を考えるのを放棄していたのは誰あろう、俺だ。 「それは、わかった。だが何故俺の正体を知っているんだ」 キョンは諦めと疑念の色を混ぜた口調で言った。 何故? それはお前があまりにも俺に似ていたからさ SOS団内に巻き起こる騒動にいつも頭を悩ませていたのは誰だ? ハルヒと朝比奈にあんな言葉をかけるのは誰だったか? なんとなくわかるんだ、きっと立場が逆だったらお前がその事に気付いたんだろうよ。 「そう、か…」 キョンは溜息を吐きながら言う。 こいつは何度溜息を吐けば気が済むんだろうね、 幸せが逃げすぎてマイナスにまで食い込んじまうぞ。 そして何を思ったのか、俺のつま先から頭までを、何かを確認するように眺めた。 思わず背筋に悪寒が走る、何のつもりだこいつは。 言っとくがな、俺はハルヒや長門や朝比奈さんのようなスペックは持ち合わせていないぞ、 普通で平凡で一般的で普遍的で中庸的な女子高生だ、性格も外見もな。 俺の身体を見てぼーっと呆けていたキョンは、今度は何を思ったのか苦虫を噛み潰したような顔をした。 考えている事が顔に出る奴らしい、見ていて飽きない、長門風に言えばユニークだ。 さて、こいつが異世界からこちらに来た、そこまではいい、どうせハルヒか誰かが超人的なパワーでも使って呼び出したんだろう。 いや、もしかしたら向こうの世界の俺は超能力者なのかもしれない。 古泉の能力は何の前触れもなく発現したという話は聞いた、 そしてこいつがそうではないという反論は誰にもできない、 異世界を移動できるとかそういう感じの能力が発現したという事に無自覚なまま扉を開け、この世界に迷い込んだ。 というのもあり得ない話じゃ無いと思うのだが、こんな事を考えたからと言ってどうなるわけでもない。 正直、異世界の俺といえども、そんな能力がいきなり芽生えるとは思いたくないしな。 まず考えるべきは、こいつが誰と付き合っているかではなく、これから俺たちはどうするか、である。 こいつの百面相がユニークです、なんて言っている場合でないのだ。 「それで、これからどうするんだ」 俺の言葉にキョンはハッとなり、眉根を寄せてしかめっ面に逆戻りしてしまった。 まさかこいつは、今の今まで考える事を放棄していたんじゃないだろうな、全く、情けない事この上ない。 こんなけったくそ悪い状況も二度目なんだし、そろそろ学習しても良い頃じゃないか? と思うものの、これは事件の当事者ではないという余裕から来る思考なのかもしれず、 もし立場が逆だったら、こいつの様に思考を放棄してしまうのかもな。 「わからん」 キョンの声からは余裕の色が微塵も感じられなかった、気持ちは解らないでもない。 やれやれ、二人でやればまあなんとかなるかもなと思っていたのだが。 とりあえずこんな往来で二人して悩む事もないだろう。 こいつをどっかに隠しておいて、部活ならぬ団活が終わってからまた迎えに来ればいい。 長い間席を外しているとハルヒや朝比奈さんにどう思われるか解ったもんじゃないからな。 「とりあえず場所を変えよう」 俺はこいつの手を取り適当な場所へと歩き出そうとする、が、 俺の手は既にしっかりとキョンの手首を掴んでいた、 要するに、さっきからずっとこいつの手首を握りっぱなしだったわけだ。 握りっぱなりで少し手汗をかいてしまっている、なんだか気恥ずかしい。 こいつはもう一人の俺と言えども、外見はまったく見たこともない男子生徒であり、 冴えない顔ながらも、コミカルに変わる表情は大変ユニークでもあり、 ああ、なんだろうねこの状況は。 解る奴が居たら出て来い、そして説明しろ。 飯は奢らん。 「悪いが聞かせてくれ。 お前は、何度殺されかけた」 歩きながら、俺はそんな質問を投げかけた。 もしかしたらこいつのトラウマを掘り起こしているのかもしれないが、確認しなければならない、 この一年、こいつが俺と同じような体験をしてきたのかどうかを、確信にしなければならない 「…、2回だ」 しばしの沈黙の後、俺の意図を理解したのか、意外にあっさりとその応えは返って来た。 これで確信が持てる。 こいつは間違いなく、俺と同じ一年を経験している。 一年たらずの内に2回も殺されかける高校生なんざ、俺以外に誰が居るものか。 「この世界に朝倉は居ないんだろうな」 安心しろ、とっくの昔にカナダに行ったよ。
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