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その他のアクティブスキル ミクシャウト スプラッシュエール フルボリューム ソニックウェーブ 全てのフィギュアのボルテージ×○○ 発動時間 60秒 (↑WARMのテヌート最大LV時 150秒) クールダウンタイム 20秒 (エクスパンションのインターバルカット最大LV時 8秒) (↑ WARMのテヌート最大LV時3.896秒迄短縮) フィギュアビルド ペットビルド タップビルドでメインに使うアクティブスキル フィギュアボルテージがタップ ペットボルテージより頭1つ抜けている為、どのビルドでも使うであろうアクティブスキル 簡単な目安 アンサンブルLV1→LV30 +e6 アンサンブルLV5毎に+e1ずつ増えるイメージ LV毎の数値 アンサンブル0LV→1LVの数値の増加量は割愛 また、エクスパンションのコーラスエフェクターのLVによってアンサンブル使用時のフィギュアボルテージが異なる為、各LV毎のアンサンブル使用時のフィギュアボルテージは未記載 (LVの変動による+eの値は記載) エクスパンションのエナジーカット最大LV時の消費EPを記載 LV LVUPに必要なエール 発動に必要なEP(カット後) ボルテージ増加量 1 67.00M 20 ? 2 2.32e16 21 +4.95e 3 8.44e29 23 +7.60e 4 2.56e44 26 +1.18e1 5 7.85e59 29 +1.82e1 6 2.92e78 32 +2.81e1 7 8.04e98 35 +4.33e1 8 2.23e118 38 +6.70e1 9 6.80e142 41 +1.04e2 10 6.85e168 44 +1.60e2 11 8.63e193 47 +2.48e2 12 5.72e218 51 +3.78e2 13 5.11e246 55 +5.90e2 14 5.83e276 60 +9.20e2 15 9.68e306 64 +1.41e3 16 1.35e336 68 +2.18e3 17 6.45e370 72 +3.36e3 18 3.36e405 76 +5.16e3 19 1.98e440 80 +8.10e3 20 6.76e479 84 +1.24e4 21 4.11e519 88 +1.92e4 22 4.10e559 93 +2.96e4 23 6.50e599 98 +4.60e4 24 3.93e643 103 +7.10e4 25 1.80e688 108 +1.09e5 26 9.26e733 114 +1.69e5 27 2.02e778 118 +2.60e5 28 5.12e827 124 +4.01e5 29 8.14e878 141 +6.30e5 30 3.21e928 148 +9.60e5
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アンサンブル No.1721 アンサンブル イベントカード 使用:戦闘 条件:プリズムリバー 呪力2 フェイズ終了時まで、自分のスペル1枚は「命中+2」を得る。 自分のリーダーに『楽器』が3枚以上配置されている場合、更に「攻撃+1」「迎撃+1」を得る。 イラスト:だいん 考察 考察の入力。必須ではない。
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名前 イメージ 攻撃力(最大) 防御力(最大) 兵士数(最大) 進化段階 コスト スキル:ステータス増減 聖女 アンサンブル 4050~(6480) 3950~(6320) 3850~(?) ☆ 47 --ソウルフルビート--その響きは魂までも揺さぶる!全体の攻撃力を200%アップ/15% 聖女 アンサンブルHSR 4455~(?) 4345~(?) 4235~() ★ 56 --ソウルフルビート--その響きは魂までも揺さぶる!全体の攻撃力を200%アップ/15%
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ペット ―――運営からの回し者 マビノギに数あるペット達、寝九村の資金源のひとつ たまに期間限定でペットを販売するなど非常に憎たらしい商売をする ペット多すぎて何買っていいかわかんねぇよってやつのためのページ 詳しい情報はこちらへどうぞ +目次 ペット ―――運営からの回し者新規ちゃんにオススメのアンサンブルペットちゃん!黒フェレット 430円 白フェレット 430円 黒ハリネズミ 410円 白ハリネズミ 410円 サンダースパニエルダップル 650円 サンダースパニエルホワイト 650円 新規ちゃんにオススメのアンサンブルペットちゃん! 黒フェレット 430円 白と黒が両方そなわり最強に見える でもそなわったことがない -- 名無しさん (2009-04-24 20 57 45) 福袋で出たので相方とペアにしたらステボーナスすごすぎて吹いた。 -- 名無しさん (2010-01-31 18 12 18) レスありがとう。詳細はこれです(´-ω-)$ http //m-s.e29.mobi/ -- 私だ (2012-01-06 00 59 37) 名前 コメント 白フェレット 430円 足速いからPVの時のミサイルに便利 -- 名無しさん (2009-01-20 11 16 55) 名前 コメント 黒ハリネズミ 410円 スマッシュ時の回し蹴りが可愛い。 -- 名無しさん (2008-06-11 14 44 21) こいつかわいいほんとかわいい -- 名無しさん (2008-11-25 11 10 23) おはぎ -- 名無しさん (2009-01-23 06 02 23) 名前 コメント 白ハリネズミ 410円 ハリネズミの白い方 -- ミッキーマヌス (2008-01-04 06 57 08) 青もくれよ -- 名無しさん (2010-03-29 13 42 18) 名前 コメント サンダースパニエルダップル 650円 サンダーが使える サンダーは人間と同じくマナが+されるので、生産系ペットの下地に使うと(゚д゚)ウマー ペットメディエーションを持っていて、回復が早いので、ヒーリング係にできる。 耳で飛べる マジオススメ。 -- 名無しさん (2008-01-23 20 05 28) 何やってもきめぇのはご愛嬌 -- 名無しさん (2008-01-27 05 41 11) 騎乗系・青酸系以外にもう一匹買えといわれたら、ミニクマかこいつだな。 インベもそこそこある -- 名無しさん (2008-02-02 21 42 54) 未転生+ランクB程度のサンダーでもキア上ぐらいまでなら 5チャージですべて解決 そしてきもい -- 名無しさん (2008-12-13 08 57 20) ある程度育ててサンダーランクCにすると キア上のスイッチ部屋で楽な思いができます。 そのせいか主人の累積Lvが20でもキア上2をクリアできてしまうほど強い。なんて奴だ。 -- 名無しさん (2009-02-03 11 43 13) タダでさえ強いのに、アンサンブルでマナ+100とか他にも キチガイ並の強さになる。 -- 名無しさん (2010-03-29 13 43 01) しかも足がはやい -- 名無しさん (2010-04-14 03 06 46) つれながら走ると後ろでぴょこぴょこはねる -- 名無しさん (2010-04-14 03 08 20) 名前 コメント サンダースパニエルホワイト 650円 サンダースパニエルダップルの色違い。真白なのでキモさ倍増! 主人のスペックが低い場合はサンダーがなかなか頼りになる。一発うったら多タゲ貰って死んでるけど。 -- 名無しさん (2008-03-07 12 30 07) キモさ倍増に笑った ひでぇw -- 名無しさん (2008-12-29 16 12 36) 名前 コメント
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ペット ―――運営からの回し者 マビノギに数あるペット達、寝九村の資金源のひとつ たまに期間限定でペットを販売するなど非常に憎たらしい商売をする ペット多すぎて何買っていいかわかんねぇよってやつのためのページ 詳しい情報はこちらへどうぞ +目次 ペット ―――運営からの回し者新規ちゃんにオススメのアンサンブルペットちゃん!黒フェレット 430円 白フェレット 430円 黒ハリネズミ 410円 白ハリネズミ 410円 サンダースパニエルダップル 650円 サンダースパニエルホワイト 650円 新規ちゃんにオススメのアンサンブルペットちゃん! 黒フェレット 430円 白と黒が両方そなわり最強に見える でもそなわったことがない -- 名無しさん (2009-04-24 20 57 45) 福袋で出たので相方とペアにしたらステボーナスすごすぎて吹いた。 -- 名無しさん (2010-01-31 18 12 18) 名前 コメント 白フェレット 430円 足速いからPVの時のミサイルに便利 -- 名無しさん (2009-01-20 11 16 55) 名前 コメント 黒ハリネズミ 410円 スマッシュ時の回し蹴りが可愛い。 -- 名無しさん (2008-06-11 14 44 21) こいつかわいいほんとかわいい -- 名無しさん (2008-11-25 11 10 23) おはぎ -- 名無しさん (2009-01-23 06 02 23) 名前 コメント 白ハリネズミ 410円 ハリネズミの白い方 -- ミッキーマヌス (2008-01-04 06 57 08) 青もくれよ -- 名無しさん (2010-03-29 13 42 18) 名前 コメント サンダースパニエルダップル 650円 サンダーが使える サンダーは人間と同じくマナが+されるので、生産系ペットの下地に使うと(゚д゚)ウマー ペットメディエーションを持っていて、回復が早いので、ヒーリング係にできる。 耳で飛べる マジオススメ。 -- 名無しさん (2008-01-23 20 05 28) 何やってもきめぇのはご愛嬌 -- 名無しさん (2008-01-27 05 41 11) 騎乗系・青酸系以外にもう一匹買えといわれたら、ミニクマかこいつだな。 インベもそこそこある -- 名無しさん (2008-02-02 21 42 54) 未転生+ランクB程度のサンダーでもキア上ぐらいまでなら 5チャージですべて解決 そしてきもい -- 名無しさん (2008-12-13 08 57 20) ある程度育ててサンダーランクCにすると キア上のスイッチ部屋で楽な思いができます。 そのせいか主人の累積Lvが20でもキア上2をクリアできてしまうほど強い。なんて奴だ。 -- 名無しさん (2009-02-03 11 43 13) タダでさえ強いのに、アンサンブルでマナ+100とか他にも キチガイ並の強さになる。 -- 名無しさん (2010-03-29 13 43 01) しかも足がはやい -- 名無しさん (2010-04-14 03 06 46) つれながら走ると後ろでぴょこぴょこはねる -- 名無しさん (2010-04-14 03 08 20) 名前 コメント サンダースパニエルホワイト 650円 サンダースパニエルダップルの色違い。真白なのでキモさ倍増! 主人のスペックが低い場合はサンダーがなかなか頼りになる。一発うったら多タゲ貰って死んでるけど。 -- 名無しさん (2008-03-07 12 30 07) キモさ倍増に笑った ひでぇw -- 名無しさん (2008-12-29 16 12 36) 名前 コメント
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ヨンサングン エンザンクンの別名。
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659 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 07 43 ID N323y57t そこは、どこにでもある小さな町の酒場だった。 夕暮れ時だというのに、酒場の中には数人の客しかいなかった。 決して小さな店ではないが、客足は店の大きさに反して悪いようだ。 ―――― カラン、カラン……。 扉につけられた鈴が鳴り、新しく客が入って来たことを告げた。 「いらっしゃいませ……」 マスターが、店に入って来た青年の方を一瞬だけ向いて言った。 客には興味がないのか、それとも単にあれはあれで忙しいだけなのか。 青年がカウンターに座った後も、マスターは手にしたグラスを磨いているだけだった。 「あの……」 持っていた鞄を足元に置き、青年がマスターに言った。 癖のある金髪と、眼鏡の奥にある緑色の瞳。 貴族ではないようだったが、誠実そうな整った目鼻立ちをしていた。 「この店、初めてなんだけど……。 何か、お勧めはある?」 歳の割に、幼さの残る声だった。 それにも関わらず青年が大人びて見えるのは、すらりと伸びた背丈のせいだ。 血気盛んなだけの若者とは違う、どこか儚げな空気をまとっていることも一因である。 「お客さん、旅の人ですか?」 「えっ……? まあ、そんなところだね。 もっとも、何か目的があって旅をしているわけじゃないから、あまり誉められたものじゃないけど……」 「それは珍しいことですな。 こんな寒い季節に、目的もなく一人旅とは。 旅費を稼ぐのも、簡単ではないでしょうに……」 「一応、仕事の当てはあるよ。 こう見えても、僕は医者だからね。 ハライタに薬を飲ませるだけでも、その日に食べる分のパンを買うくらいにはなる」 「なるほど、お医者様でしたか。 旅をしながら病に伏せる方々を救うなど、なかなか殊勝なお考えですな」 青年の前に置かれたグラスに、マスターがボトルから酒を注ぎ込む。 グラスを受け取った青年は軽く会釈をすると、ゆっくりと味わうようにして最初の一杯を口にした。 660 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 09 01 ID N323y57t (酷い味だな、こりゃ……) 一瞬、顔を曇らせながら、青年は思わず心の中で呟いた。 旅先で、色々と質の悪い食べ物をつかまされたこともあったが、この酒は特に酷い。 香りはついているものの、消毒用のアルコールを薄めたような、口の中に後味の悪い苦みの残る味だ。 店の中を改めて見回すと、青年の他には数人の客しかいなかった。 どの客も、貧しい身なりをした中年の職人か老人である。 金がなく、酒に飢えている人間ならば、こんな酒場の酒でも酔えるのだろう。 (安いだけで、味は最低の店か……。 こいつは失敗したな……) グラスの中に半分ほど残された酒をにらみながら、青年はまたも心の中で言った。 こんな味では、店に客が数人しかいないのも頷ける。 わざわざ金を払ってまで、何度も通うような店ではない。 まだ、半分ほど酒は残っていたが、青年はグラスをカウンターに置いて立ち上がった。 コートのポケットから金をつかみ出すと、それをマスターに渡してそそくさと店を出る。 店の外に出た途端、冬の冷たい風が青年の肌を打った。 「……っ!!」 コートの襟を押さえ、身体を前屈みにして風を受け流す。 まずい酒を一口飲んだだけでは、身体は外の寒さに抗う程にまで温まっていなかった。 「くそっ……。 酒はまずいし、風は馬鹿みたいに冷たいし。 ちょっと気まぐれで帰ってきたら、これだもんな……」 誰に言うともなく、青年は街中を吹き抜ける風に向かって悪態をついた。 この街は、青年が生まれた場所でもある。 旅の間に随分と景観が変わったが、それでも街の空気までは変わらない。 冬になると街外れの丘から降りて来る、肌を刺すような冷たい風もそのままだ。 今日はもう、宿を見つけて休んだ方がいいかもしれない。 食事もまだだったが、質の悪い酒と意地悪な北風に毒されて、食欲などすっかり無くなってしまった。 噴水のある中央広場を抜けて、青年は商店街へと続く横道に入った。 昼間はバザーで賑わっているが、夜は閑散として人の影も見えない。 時折、餌を探す野良犬が、物欲しそうな目でこちらを見つめてくるだけである。 通りの外れまで歩いたところで、青年はふと賑やかな声が聞こえてくるのに気がついた。 こんな夜更けに、しかも商店街の外れで、いったい何事だろうか。 気になって声のする方に向かってみると、青年はその理由を直ぐに理解した。 661 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 10 32 ID N323y57t 声のしていた場所は、どこにでもあるような小さな宿場だった。 しかし、ただの宿場ではない。 一階が酒場になっているらしく、小さいながらも賑わっているようだった。 窓から零れる部屋の明かりと共に、時折、豪快な男達の笑い声が聞こえてくる。 「なるほどね。 さっきの店が流行らなかったのは、こっちにもっと良い店があったからか……」 こんなことなら、もう少し粘ってまともな酒場を探せばよかった。 そんなことも考えたが、どちらにせよ後の祭りである。 店の中から響く楽しげな声につられ、青年は無言のまま扉を開けた。 これ以上、外の風に当たりたくはなかったし、このまま宿なしで一晩を過ごすのもごめんだった。 「いらっしゃい!!」 扉を開くなり、店主の力強い声が青年を迎えた。 先ほどの店とは違い、活気があって好感が持てる。 「お兄さん、旅の人かい?」 まだ何も言っていないのに、店主の方から尋ねてきた。 青年は黙って頷くと、そのままカウンターに近づいて店主に問う。 「見たところ、ここの二階は宿場みたいですが……。 まだ、空いている部屋ってありますか?」 「空いている部屋ねぇ……。 悪いが、そいつは俺にはわかんねえな。 受付は二階にあるから、まずはそっちに行って聞いてくれよ」 「すいません。 初めて来たんで、勝手がよくわからなくて……」 「なあに、気にすんな。 そんなことより、お兄さんはいつまで泊まるんだい? 二、三日こっちにいるんなら、一度くらいは俺の店でも飲んで行ってくれよ」 「ええ。 それじゃあ、明日にでも寄らせていただきます。 部屋が、空いていればの話ですけどね」 青年が、店主に軽く会釈して言った。 そのまま店の奥に進んで行くと、二階へ通じる階段はすぐに見つかった。 ぎし、ぎし、という木の軋む音がして、青年の足が階段を上がって行く。 決して粗末な作りではないようだが、随分と年季の入った建物のようだった。 二階に上がると、そこは直ぐに受付のカウンターになっていた。 が、自分の他に誰もいないことが分かり、青年は訝しげに思いながらも声を上げる。 662 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 11 18 ID N323y57t 「あの……誰かいませんか?」 「はーい! 今、行きます!!」 受付の奥から女性の声がした。 宿の女将のものにしては、随分と若い。 ここで働いている女中のものだろうか。 「す、すいません! お待たせしました……」 部屋の奥から、エプロン姿の女性が息を切らしながら現れた。 胸元まで伸びた赤い髪を三つ編みにまとめ、仕事の邪魔にならないようにしている。 「あれ……」 受付に現れた女性を見た途端、青年の表情が驚いた時のそれに変化した。 それは女性の方も同様で、青年と目が合った瞬間、口元に手を当てて言葉を飲み込む。 「リディ……。 君なのか……?」 「えっ……。 も、もしかして……ジャン!?」 「ああ、そうだよ。 僕はジャンだ。 君の家の向かいに住んでいた、ジャン・ジャック・ジェラールだよ!!」 「嘘……どうして……」 「帰って来たんだよ。 ほんの、気まぐれみたいなものだけどね」 「ううん、嬉しいよ。 お帰りなさい、ジャン……」 受付に立つ女性の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。 だが、決して悲しかったからではない。 目の前で涙する女性に、青年は「大げさだなぁ……」と言って笑った。 互いに再開を喜ぶ二人だったが、心の奥底に抱いている感情までは、寸分違わず同じとは言い難かった。 663 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 13 04 ID N323y57t ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 部屋の中央に置かれた暖炉の火を眺めながら、ジャン・ジャック・ジェラールは旅の疲れを癒していた。 彼の目の前には、温かいシチューの入った皿がある。 スプーンですくって口に入れると、それだけで身体の芯から暖まる気がした。 外の冷たい風に当てられた身としては、とても嬉しいもてなしである。 「ごめんね、ジャン。 夕食っていっても、こんな物しかなくって……」 シチューの入った鍋を持ったまま、先ほど受付で合った女性がジャンに言った。 「いや、そんなことないよ。 相変わらず、この街は冬になると寒くてやってられないからね。 外の風に当てられたから、下手な酒なんかよりもよっぽど身体があったまる」 「そう言ってくれると嬉しいな。 でも、実はこれ、単なる賄い料理なんだけどね。 本当は、もっとちゃんとしたお料理を出したあげたかったんだけど……」 「賄いでこの味なのか? だったら、今度は是非、他のお客さんにも出している料理を食べさせてもらいたいかな」 「ええ、言われなくても喜んで」 シチューの入った鍋をテーブルに置き、その女性も自分の皿にシチューを入れて席に着いた。 夕食の時間は既に終わっていた。 そのため、今は二人で賄い料理のシチューを食べることしかできない。 もう少しマシな物を出したいというのが女性の本心だったが、ジャンは満足しているようだった。 「ところで……」 シチューを口に運ぶ手を休め、ジャンが目の前に座っている女性に尋ねた。 「リディは、どうしてこんな場所で宿を?」 「ああ、それね。 実は、ジャンが旅に出た後、お母さんが亡くなっちゃってね。 お父さんは飲んだくれで話にならないし、前の家を売っちゃったのよ。 大したお金にはならなかったけど、貯金もあったからね。 全財産を叩いて、このお店を買ったってわけ」 「全財産って……。 それ、随分な冒険だと思うけど……」 「どっちにしろ、あのまま飲んだくれ親父と一緒にいても仕方ないしね。 お店を買った後、お父さんも身体を壊して死んじゃったけど……あれは自業自得よ。 それに、一人で生きていかなきゃならなかったし、後のことなんて考えていられなかったわ」 「なるほどね。 でも、まさかリディが、宿屋の女将になってるなんて思っていなかったよ。 それも、女中も置かずに一人で経営しているなんて……昔からすれば、想像できない」 664 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 14 27 ID N323y57t 「そんな大したことじゃないわよ。 女将って呼ばれる程に貫録もないし、小さなボロ宿をなんとか切り盛りしているだけだから。 一階を酒場にして貸し出さなかったら、正直、暮らしていけないもの」 皮肉めいた笑いを浮かべて女性が言ったが、それは本心だった。 そんな彼女の気持ちを悟ったのか、ジャンもそれ以上は何も言わなかった。 リディ・ラングレー。 それが、ジャンの目の前にいる女性の名前である。 ジャンの幼馴染であり、この宿屋を経営している若女将だ。 ジャンがリディと別れたのは、もう十年以上前の話だった。 父親が仕事の関係で街を離れるに至り、ジャンもそれに同行する形で街を出た。 それ以来、ジャンは生まれ故郷の街に戻ってはいない。 今日、ここへ戻ってくるまでは、一度も故郷の土を踏んだことがなかった。 ジャンが故郷へ戻らなかったのは、一重に父親の存在が大きかった。 彼の父は優秀な医者だったが、同時に科学者としての飽くなき探求心も併せ持っていた。 どうすれば、患者をより楽に助けてやることができるのか。 不治の病と呼ばれる病気を、治す方法はないものか。 不老不死というものは、本当にこの世に存在するのか。 年を経るにつれ、ジャンの父親の探究心は異常な方向へと向かって行った。 最後は患者もそっちのけで、妙な研究に没頭するような日々が続いた。 終いには、魔術や錬金術といった妖しげな本まで持ち出して、人体実験紛いのことにまで手を出し始めたのである。 そんなことを続けていれば、当然のことながら生活は苦しくなる。 妻には早々に離縁を告げられ、さらには街の人間からも排斥された。 こと、妖しげな研究をしているという点をつかれ、教会の司祭を中心にジャンの父を煙たく思う人間が増えていった。 結局、ジャンと彼の父親は、街を離れざるを得なくなった。 放浪の旅を続けながら、医師としての知識を生かして旅先で病人を診察する。 そんな生活が、十年近くも続いた。 「ねえ、ジャン……」 自分もシチューを口に運びながらも、今度はリディがジャンに尋ねた。 「ジャンこそ、どうして急に帰って来たの? 今まで、連絡一つくれなかったのに……」 「それは……こいつのせいかな」 鞄の中から、ジャンが革袋を取り出した。 お世辞にも綺麗とは言えない袋で、ジャンが持ち上げると中から乾いた音がした。 「それ、何なの?」 「父さんの骨だよ。 こんなもの、食事中に見せて悪いと思うけど……父さん、旅先で死んじゃったからね。 街の人達からは嫌われていたけど、やっぱり生まれ故郷の土に帰してあげるのが正しいんじゃないかって思ってさ」 665 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 15 51 ID N323y57t 「そっか……。 ジャンのお父さんも、死んじゃったんだね……」 「別に、気を使ってもらわなくても構わないよ。 父さん、あれからも妙な研究を続けていてさ。 最後は自分を実験台に、不老不死の研究を始めたんだ。 それで、変な薬をたくさん飲んで、結局は中毒を起こして死んじゃった」 「はぁ……。 私の親父も馬鹿だったけど、ジャンも苦労したんだね……」 「まあね。 でも、父さんが持っていた医学書は、僕が有効に使わせてもらったよ。 後は、昔の父さんが診た患者の記録なんかを読んで……気がついたら、自分も父さんと同じ医者になってた」 最後の言葉は、乾いた笑みを浮かべて苦笑しながら言った。 ジャンにとって、父は尊敬の対象などではなかった。 自分の探究心を優先させたばかりに家庭を壊し、最後は医師としての務めも忘れて奇妙な実験に没頭していた。 はっきり言って、父は変人だったとジャンは思う。 これで世紀の大発見でもしていれば話は別だが、残念ながらジャンの父はその器ではなかった。 自分の欲望のために生活を、家族を犠牲にし、最後は患者までも犠牲にした。 そんな父に代わり、真っ当な医師であろうとすること。 ジャンが唾棄すべき父親と同じような医学の道を目指したのは、ある意味で必然だったのかもしれない。 父の骨を故郷に埋めようと思ったのも、息子として最低限の義務を果たそうとの考えからだった。 それ以外に、特に意味はない。 自分達を追放した街へ戻るのは気が引けたが、父の骨と一刻も早く別れたいと思うと、故郷の土を踏むのに躊躇いはなかった。 「ところで、リディ。 今日はもう、空いている部屋なんてないのかな。 実は、まだ今日の宿も見つかっていなくってさ……」 「なんだ、そうだったの? それじゃあ、今すぐ空いている部屋を案内するわ」 「そうしてくれると助かるよ。 とりあえず、寝床があればいい。 ベッドさえ用意してくれれば、後は自分で適当にやるさ」 「そういうわけにもいかないわよ。 夜はまだまだ冷え込むみたいだし、ちゃんと毛布を用意しないと風邪ひくわよ」 医者の不養生。 そんな言葉を言いたげに、リディは少々強めの口調でジャンに向かって言った。 666 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 16 34 ID N323y57t 「それとも……」 あくまで気を使わせまいとするジャンに対し、リディが意地悪そうな笑みを浮かべる。 「なんだったら、私がジャンのことを暖めてあげようか?」 「なっ……!?」 ジャンの顔が、途端に赤くなった。 子どもの頃ならいざ知らず、大人となった今ではリディの言葉に男としての反応を隠しきれない。 そんなジャンの姿を見たリディは、笑いを堪え切れずに肩を震わせながら口元を押さえた。 「あはは、冗談よ。 ちょっと、からかってみたくなっただけ」 「勘弁してくれよ……。 君、そんな冗談言う人だったっけ……」 「なによ、それ。 でも、相手がジャンだったら、私は嫌じゃないけどね。 これは嘘でも冗談でもなくて、本当だよ」 「えっ……?」 呆気にとられた様子で、ジャンがリディのことを見た。 だが、リディはそれ以上何も言わずにシチューを平らげると、そのままジャンの部屋を用意するために食堂を離れて行った。
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ペット ―――運営からの回し者 マビノギに数あるペット達、寝九村の資金源のひとつ たまに期間限定でペットを販売するなど非常に憎たらしい商売をする ペット多すぎて何買っていいかわかんねぇよってやつのためのページ 詳しい情報はこちらへどうぞ +目次 ペット ―――運営からの回し者新規ちゃんにオススメのアンサンブルペットちゃん!黒フェレット 430円 白フェレット 430円 黒ハリネズミ 410円 白ハリネズミ 410円 サンダースパニエルダップル 650円 サンダースパニエルホワイト 650円 新規ちゃんにオススメのアンサンブルペットちゃん! 黒フェレット 430円 白と黒が両方そなわり最強に見える でもそなわったことがない -- 名無しさん (2009-04-24 20 57 45) 名前 コメント 白フェレット 430円 足速いからPVの時のミサイルに便利 -- 名無しさん (2009-01-20 11 16 55) 名前 コメント 黒ハリネズミ 410円 スマッシュ時の回し蹴りが可愛い。 -- 名無しさん (2008-06-11 14 44 21) こいつかわいいほんとかわいい -- 名無しさん (2008-11-25 11 10 23) おはぎ -- 名無しさん (2009-01-23 06 02 23) 名前 コメント 白ハリネズミ 410円 ハリネズミの白い方 -- ミッキーマヌス (2008-01-04 06 57 08) 名前 コメント サンダースパニエルダップル 650円 サンダーが使える サンダーは人間と同じくマナが+されるので、生産系ペットの下地に使うと(゚д゚)ウマー ペットメディエーションを持っていて、回復が早いので、ヒーリング係にできる。 耳で飛べる マジオススメ。 -- 名無しさん (2008-01-23 20 05 28) 何やってもきめぇのはご愛嬌 -- 名無しさん (2008-01-27 05 41 11) 騎乗系・青酸系以外にもう一匹買えといわれたら、ミニクマかこいつだな。 インベもそこそこある -- 名無しさん (2008-02-02 21 42 54) 未転生+ランクB程度のサンダーでもキア上ぐらいまでなら 5チャージですべて解決 そしてきもい -- 名無しさん (2008-12-13 08 57 20) ある程度育ててサンダーランクCにすると キア上のスイッチ部屋で楽な思いができます。 そのせいか主人の累積Lvが20でもキア上2をクリアできてしまうほど強い。なんて奴だ。 -- 名無しさん (2009-02-03 11 43 13) 名前 コメント サンダースパニエルホワイト 650円 サンダースパニエルダップルの色違い。真白なのでキモさ倍増! 主人のスペックが低い場合はサンダーがなかなか頼りになる。一発うったら多タゲ貰って死んでるけど。 -- 名無しさん (2008-03-07 12 30 07) キモさ倍増に笑った ひでぇw -- 名無しさん (2008-12-29 16 12 36) 名前 コメント
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659 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 07 43 ID N323y57t そこは、どこにでもある小さな町の酒場だった。 夕暮れ時だというのに、酒場の中には数人の客しかいなかった。 決して小さな店ではないが、客足は店の大きさに反して悪いようだ。 ―――― カラン、カラン……。 扉につけられた鈴が鳴り、新しく客が入って来たことを告げた。 「いらっしゃいませ……」 マスターが、店に入って来た青年の方を一瞬だけ向いて言った。 客には興味がないのか、それとも単にあれはあれで忙しいだけなのか。 青年がカウンターに座った後も、マスターは手にしたグラスを磨いているだけだった。 「あの……」 持っていた鞄を足元に置き、青年がマスターに言った。 癖のある金髪と、眼鏡の奥にある緑色の瞳。 貴族ではないようだったが、誠実そうな整った目鼻立ちをしていた。 「この店、初めてなんだけど……。 何か、お勧めはある?」 歳の割に、幼さの残る声だった。 それにも関わらず青年が大人びて見えるのは、すらりと伸びた背丈のせいだ。 血気盛んなだけの若者とは違う、どこか儚げな空気をまとっていることも一因である。 「お客さん、旅の人ですか?」 「えっ……? まあ、そんなところだね。 もっとも、何か目的があって旅をしているわけじゃないから、あまり誉められたものじゃないけど……」 「それは珍しいことですな。 こんな寒い季節に、目的もなく一人旅とは。 旅費を稼ぐのも、簡単ではないでしょうに……」 「一応、仕事の当てはあるよ。 こう見えても、僕は医者だからね。 ハライタに薬を飲ませるだけでも、その日に食べる分のパンを買うくらいにはなる」 「なるほど、お医者様でしたか。 旅をしながら病に伏せる方々を救うなど、なかなか殊勝なお考えですな」 青年の前に置かれたグラスに、マスターがボトルから酒を注ぎ込む。 グラスを受け取った青年は軽く会釈をすると、ゆっくりと味わうようにして最初の一杯を口にした。 660 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 09 01 ID N323y57t (酷い味だな、こりゃ……) 一瞬、顔を曇らせながら、青年は思わず心の中で呟いた。 旅先で、色々と質の悪い食べ物をつかまされたこともあったが、この酒は特に酷い。 香りはついているものの、消毒用のアルコールを薄めたような、口の中に後味の悪い苦みの残る味だ。 店の中を改めて見回すと、青年の他には数人の客しかいなかった。 どの客も、貧しい身なりをした中年の職人か老人である。 金がなく、酒に飢えている人間ならば、こんな酒場の酒でも酔えるのだろう。 (安いだけで、味は最低の店か……。 こいつは失敗したな……) グラスの中に半分ほど残された酒をにらみながら、青年はまたも心の中で言った。 こんな味では、店に客が数人しかいないのも頷ける。 わざわざ金を払ってまで、何度も通うような店ではない。 まだ、半分ほど酒は残っていたが、青年はグラスをカウンターに置いて立ち上がった。 コートのポケットから金をつかみ出すと、それをマスターに渡してそそくさと店を出る。 店の外に出た途端、冬の冷たい風が青年の肌を打った。 「……っ!!」 コートの襟を押さえ、身体を前屈みにして風を受け流す。 まずい酒を一口飲んだだけでは、身体は外の寒さに抗う程にまで温まっていなかった。 「くそっ……。 酒はまずいし、風は馬鹿みたいに冷たいし。 ちょっと気まぐれで帰ってきたら、これだもんな……」 誰に言うともなく、青年は街中を吹き抜ける風に向かって悪態をついた。 この街は、青年が生まれた場所でもある。 旅の間に随分と景観が変わったが、それでも街の空気までは変わらない。 冬になると街外れの丘から降りて来る、肌を刺すような冷たい風もそのままだ。 今日はもう、宿を見つけて休んだ方がいいかもしれない。 食事もまだだったが、質の悪い酒と意地悪な北風に毒されて、食欲などすっかり無くなってしまった。 噴水のある中央広場を抜けて、青年は商店街へと続く横道に入った。 昼間はバザーで賑わっているが、夜は閑散として人の影も見えない。 時折、餌を探す野良犬が、物欲しそうな目でこちらを見つめてくるだけである。 通りの外れまで歩いたところで、青年はふと賑やかな声が聞こえてくるのに気がついた。 こんな夜更けに、しかも商店街の外れで、いったい何事だろうか。 気になって声のする方に向かってみると、青年はその理由を直ぐに理解した。 661 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 10 32 ID N323y57t 声のしていた場所は、どこにでもあるような小さな宿場だった。 しかし、ただの宿場ではない。 一階が酒場になっているらしく、小さいながらも賑わっているようだった。 窓から零れる部屋の明かりと共に、時折、豪快な男達の笑い声が聞こえてくる。 「なるほどね。 さっきの店が流行らなかったのは、こっちにもっと良い店があったからか……」 こんなことなら、もう少し粘ってまともな酒場を探せばよかった。 そんなことも考えたが、どちらにせよ後の祭りである。 店の中から響く楽しげな声につられ、青年は無言のまま扉を開けた。 これ以上、外の風に当たりたくはなかったし、このまま宿なしで一晩を過ごすのもごめんだった。 「いらっしゃい!!」 扉を開くなり、店主の力強い声が青年を迎えた。 先ほどの店とは違い、活気があって好感が持てる。 「お兄さん、旅の人かい?」 まだ何も言っていないのに、店主の方から尋ねてきた。 青年は黙って頷くと、そのままカウンターに近づいて店主に問う。 「見たところ、ここの二階は宿場みたいですが……。 まだ、空いている部屋ってありますか?」 「空いている部屋ねぇ……。 悪いが、そいつは俺にはわかんねえな。 受付は二階にあるから、まずはそっちに行って聞いてくれよ」 「すいません。 初めて来たんで、勝手がよくわからなくて……」 「なあに、気にすんな。 そんなことより、お兄さんはいつまで泊まるんだい? 二、三日こっちにいるんなら、一度くらいは俺の店でも飲んで行ってくれよ」 「ええ。 それじゃあ、明日にでも寄らせていただきます。 部屋が、空いていればの話ですけどね」 青年が、店主に軽く会釈して言った。 そのまま店の奥に進んで行くと、二階へ通じる階段はすぐに見つかった。 ぎし、ぎし、という木の軋む音がして、青年の足が階段を上がって行く。 決して粗末な作りではないようだが、随分と年季の入った建物のようだった。 二階に上がると、そこは直ぐに受付のカウンターになっていた。 が、自分の他に誰もいないことが分かり、青年は訝しげに思いながらも声を上げる。 662 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 11 18 ID N323y57t 「あの……誰かいませんか?」 「はーい! 今、行きます!!」 受付の奥から女性の声がした。 宿の女将のものにしては、随分と若い。 ここで働いている女中のものだろうか。 「す、すいません! お待たせしました……」 部屋の奥から、エプロン姿の女性が息を切らしながら現れた。 胸元まで伸びた赤い髪を三つ編みにまとめ、仕事の邪魔にならないようにしている。 「あれ……」 受付に現れた女性を見た途端、青年の表情が驚いた時のそれに変化した。 それは女性の方も同様で、青年と目が合った瞬間、口元に手を当てて言葉を飲み込む。 「リディ……。 君なのか……?」 「えっ……。 も、もしかして……ジャン!?」 「ああ、そうだよ。 僕はジャンだ。 君の家の向かいに住んでいた、ジャン・ジャック・ジェラールだよ!!」 「嘘……どうして……」 「帰って来たんだよ。 ほんの、気まぐれみたいなものだけどね」 「ううん、嬉しいよ。 お帰りなさい、ジャン……」 受付に立つ女性の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。 だが、決して悲しかったからではない。 目の前で涙する女性に、青年は「大げさだなぁ……」と言って笑った。 互いに再開を喜ぶ二人だったが、心の奥底に抱いている感情までは、寸分違わず同じとは言い難かった。 663 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 13 04 ID N323y57t ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 部屋の中央に置かれた暖炉の火を眺めながら、ジャン・ジャック・ジェラールは旅の疲れを癒していた。 彼の目の前には、温かいシチューの入った皿がある。 スプーンですくって口に入れると、それだけで身体の芯から暖まる気がした。 外の冷たい風に当てられた身としては、とても嬉しいもてなしである。 「ごめんね、ジャン。 夕食っていっても、こんな物しかなくって……」 シチューの入った鍋を持ったまま、先ほど受付で合った女性がジャンに言った。 「いや、そんなことないよ。 相変わらず、この街は冬になると寒くてやってられないからね。 外の風に当てられたから、下手な酒なんかよりもよっぽど身体があったまる」 「そう言ってくれると嬉しいな。 でも、実はこれ、単なる賄い料理なんだけどね。 本当は、もっとちゃんとしたお料理を出したあげたかったんだけど……」 「賄いでこの味なのか? だったら、今度は是非、他のお客さんにも出している料理を食べさせてもらいたいかな」 「ええ、言われなくても喜んで」 シチューの入った鍋をテーブルに置き、その女性も自分の皿にシチューを入れて席に着いた。 夕食の時間は既に終わっていた。 そのため、今は二人で賄い料理のシチューを食べることしかできない。 もう少しマシな物を出したいというのが女性の本心だったが、ジャンは満足しているようだった。 「ところで……」 シチューを口に運ぶ手を休め、ジャンが目の前に座っている女性に尋ねた。 「リディは、どうしてこんな場所で宿を?」 「ああ、それね。 実は、ジャンが旅に出た後、お母さんが亡くなっちゃってね。 お父さんは飲んだくれで話にならないし、前の家を売っちゃったのよ。 大したお金にはならなかったけど、貯金もあったからね。 全財産を叩いて、このお店を買ったってわけ」 「全財産って……。 それ、随分な冒険だと思うけど……」 「どっちにしろ、あのまま飲んだくれ親父と一緒にいても仕方ないしね。 お店を買った後、お父さんも身体を壊して死んじゃったけど……あれは自業自得よ。 それに、一人で生きていかなきゃならなかったし、後のことなんて考えていられなかったわ」 「なるほどね。 でも、まさかリディが、宿屋の女将になってるなんて思っていなかったよ。 それも、女中も置かずに一人で経営しているなんて……昔からすれば、想像できない」 664 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 14 27 ID N323y57t 「そんな大したことじゃないわよ。 女将って呼ばれる程に貫録もないし、小さなボロ宿をなんとか切り盛りしているだけだから。 一階を酒場にして貸し出さなかったら、正直、暮らしていけないもの」 皮肉めいた笑いを浮かべて女性が言ったが、それは本心だった。 そんな彼女の気持ちを悟ったのか、ジャンもそれ以上は何も言わなかった。 リディ・ラングレー。 それが、ジャンの目の前にいる女性の名前である。 ジャンの幼馴染であり、この宿屋を経営している若女将だ。 ジャンがリディと別れたのは、もう十年以上前の話だった。 父親が仕事の関係で街を離れるに至り、ジャンもそれに同行する形で街を出た。 それ以来、ジャンは生まれ故郷の街に戻ってはいない。 今日、ここへ戻ってくるまでは、一度も故郷の土を踏んだことがなかった。 ジャンが故郷へ戻らなかったのは、一重に父親の存在が大きかった。 彼の父は優秀な医者だったが、同時に科学者としての飽くなき探求心も併せ持っていた。 どうすれば、患者をより楽に助けてやることができるのか。 不治の病と呼ばれる病気を、治す方法はないものか。 不老不死というものは、本当にこの世に存在するのか。 年を経るにつれ、ジャンの父親の探究心は異常な方向へと向かって行った。 最後は患者もそっちのけで、妙な研究に没頭するような日々が続いた。 終いには、魔術や錬金術といった妖しげな本まで持ち出して、人体実験紛いのことにまで手を出し始めたのである。 そんなことを続けていれば、当然のことながら生活は苦しくなる。 妻には早々に離縁を告げられ、さらには街の人間からも排斥された。 こと、妖しげな研究をしているという点をつかれ、教会の司祭を中心にジャンの父を煙たく思う人間が増えていった。 結局、ジャンと彼の父親は、街を離れざるを得なくなった。 放浪の旅を続けながら、医師としての知識を生かして旅先で病人を診察する。 そんな生活が、十年近くも続いた。 「ねえ、ジャン……」 自分もシチューを口に運びながらも、今度はリディがジャンに尋ねた。 「ジャンこそ、どうして急に帰って来たの? 今まで、連絡一つくれなかったのに……」 「それは……こいつのせいかな」 鞄の中から、ジャンが革袋を取り出した。 お世辞にも綺麗とは言えない袋で、ジャンが持ち上げると中から乾いた音がした。 「それ、何なの?」 「父さんの骨だよ。 こんなもの、食事中に見せて悪いと思うけど……父さん、旅先で死んじゃったからね。 街の人達からは嫌われていたけど、やっぱり生まれ故郷の土に帰してあげるのが正しいんじゃないかって思ってさ」 665 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 15 51 ID N323y57t 「そっか……。 ジャンのお父さんも、死んじゃったんだね……」 「別に、気を使ってもらわなくても構わないよ。 父さん、あれからも妙な研究を続けていてさ。 最後は自分を実験台に、不老不死の研究を始めたんだ。 それで、変な薬をたくさん飲んで、結局は中毒を起こして死んじゃった」 「はぁ……。 私の親父も馬鹿だったけど、ジャンも苦労したんだね……」 「まあね。 でも、父さんが持っていた医学書は、僕が有効に使わせてもらったよ。 後は、昔の父さんが診た患者の記録なんかを読んで……気がついたら、自分も父さんと同じ医者になってた」 最後の言葉は、乾いた笑みを浮かべて苦笑しながら言った。 ジャンにとって、父は尊敬の対象などではなかった。 自分の探究心を優先させたばかりに家庭を壊し、最後は医師としての務めも忘れて奇妙な実験に没頭していた。 はっきり言って、父は変人だったとジャンは思う。 これで世紀の大発見でもしていれば話は別だが、残念ながらジャンの父はその器ではなかった。 自分の欲望のために生活を、家族を犠牲にし、最後は患者までも犠牲にした。 そんな父に代わり、真っ当な医師であろうとすること。 ジャンが唾棄すべき父親と同じような医学の道を目指したのは、ある意味で必然だったのかもしれない。 父の骨を故郷に埋めようと思ったのも、息子として最低限の義務を果たそうとの考えからだった。 それ以外に、特に意味はない。 自分達を追放した街へ戻るのは気が引けたが、父の骨と一刻も早く別れたいと思うと、故郷の土を踏むのに躊躇いはなかった。 「ところで、リディ。 今日はもう、空いている部屋なんてないのかな。 実は、まだ今日の宿も見つかっていなくってさ……」 「なんだ、そうだったの? それじゃあ、今すぐ空いている部屋を案内するわ」 「そうしてくれると助かるよ。 とりあえず、寝床があればいい。 ベッドさえ用意してくれれば、後は自分で適当にやるさ」 「そういうわけにもいかないわよ。 夜はまだまだ冷え込むみたいだし、ちゃんと毛布を用意しないと風邪ひくわよ」 医者の不養生。 そんな言葉を言いたげに、リディは少々強めの口調でジャンに向かって言った。 666 :ラ・フェ・アンサングラント 【第一話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/06(土) 00 16 34 ID N323y57t 「それとも……」 あくまで気を使わせまいとするジャンに対し、リディが意地悪そうな笑みを浮かべる。 「なんだったら、私がジャンのことを暖めてあげようか?」 「なっ……!?」 ジャンの顔が、途端に赤くなった。 子どもの頃ならいざ知らず、大人となった今ではリディの言葉に男としての反応を隠しきれない。 そんなジャンの姿を見たリディは、笑いを堪え切れずに肩を震わせながら口元を押さえた。 「あはは、冗談よ。 ちょっと、からかってみたくなっただけ」 「勘弁してくれよ……。 君、そんな冗談言う人だったっけ……」 「なによ、それ。 でも、相手がジャンだったら、私は嫌じゃないけどね。 これは嘘でも冗談でもなくて、本当だよ」 「えっ……?」 呆気にとられた様子で、ジャンがリディのことを見た。 だが、リディはそれ以上何も言わずにシチューを平らげると、そのままジャンの部屋を用意するために食堂を離れて行った。
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73 : ラ・フェ・アンサングランテ 【第二話】 ◆AJg91T1vXs : 気がつくと、既に太陽は東の空から顔を見せていた。 朝の陽ざしに照らされながら、ジャンは大きく伸びをして立ち上がる。 「っと……。 ちょっと寝過ぎたかな?」 枕元に置いた眼鏡をかけて、ジャンは時間を確かめる。 部屋にある時計を見ると、既に八時を回っていた。 慌てて着替えを済ませ、足早に食堂へ向かった。 髪に寝癖が残っていたが、そもそもジャンの髪は癖っ毛である。 多少、金髪がうねっていたところで、そこまで変な髪型にはならないだろう。 食堂の戸を開けると、既に宿の客の何人かは席に着いて食事を始めていた。 空いている椅子とテーブルを見つけ、ジャンもそこへ腰かける。 食堂に入って来たことに気づいたのか、すぐにリディがジャンの下へとやってきて尋ねた。 「おはよう、ジャン。 昨日はよく眠れた?」 「ああ。 久しぶりに、上質なベッドで寝た気がするよ。 この前の街で泊まった宿は、シーツにダニが湧いてて最悪だった」 「この季節にダニって……。 ジャン……あなた、少しは泊まる宿を選びなさいよ」 「部屋の空いていた宿が、そこしかなかったんだから仕方ないさ。 まあ、その分、昨日はリディの用意してくれたベッドの有難味がわかったけどね」 冗談交じりに感謝の言葉を述べたものの、ジャンの頭は冴えなかった。 確かに、リディの用意してくれた部屋は、ジャンが今まで泊まって来た宿の中でも上質な方だった。 部屋は古いが手入れは行き届いており、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。 今朝、珍しく寝坊をしてしまったのも、ベッドに敷かれた布団があまりにも気持ちよかったからだ。 ところが、そんな安眠を経たにも関わらず、起きたばかりのジャンの頭には芯に響くような頭痛が残っていた。 昨日、噴水のある広場の近くで立ち寄った酒場の酒。 消毒液を薄めたような味のする質の悪いそれが、昨晩の間にジャンの身体に回ったのだろう。 たった一口しか飲んでいないのに二日酔いを引き起こすとは、よほど酷い作りの酒だったに違いない。 昨晩の内に、身体の中で毒に変わったのではないかと勘ぐってしまうほどだ。 「ねえ、ジャン。 朝ごはん、パンとミルク粥のどっちがいい?」 既に食事を終えた客の席の皿を片手に、リディがジャンに聞いてきた。 頭が痛く、朝から重たいものを食べる気にもなれなかったため、ここは素直にミルク粥を注文しておく。 米を牛乳で粥状になるまで炊いただけのものだが、本格的に活動を始めていない胃には調度良かった。 874 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第二話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/11(木) 00 40 22 ID pTHhFeTR 「ところで……こっちには、いつまでいるつもりなの?」 コーヒーを運んできたリディが、再びジャンに尋ねた。 「今日、父さんの骨を埋めたら、明日にでも発つつもりだよ。 あまり長居していると、街の人に何を言われるかわからないしね」 「そうなんだ……。 でも、ジャンのお父さんが街を追い出されたのって、もう十年近くも前のことでしょ。 たぶん、みんな忘れているんじゃないかなぁ……」 「そうは言っても、リディみたいに覚えている人がいるかもしれないだろ。 僕が父さんの息子だって知ったら……きっと、嫌な顔をする人だっていると思うよ」 少量の砂糖を入れただけのコーヒーを口にしながら、ジャンはどこか寂しげな口調で答えた。 この街の人間が、自分のことをどう思っているか。 父の所業を考えれば、それを予想するのは造作もないことだった。 人体実験紛いの研究を続け、最後には街を追放された藪医者の息子。 妖しげな本を買い漁り、悪魔に魂を売ったとまで言われた父親の業は、息子である自分もまた背負わざるを得ないのだろう 自分と父は関係ない。 そう思い込もうとしても、街の人間は別だ。 こと、昔の父を知る者たちにとっては、ジャン自身もまた異端者に過ぎないのだから。 自分の身体に流れる血が憎らしかった。 旅先で、父親がおかしな研究に没頭するようになればなるほど、その血を引く自分もまた、汚らわしい存在のように思えて仕方がなかった ジャンが父と同じ医学の道を志した理由。 それは、せめて自分が真っ当な医者になることで、自分に課せられた父の業を払おうとしたからに他ならない。 困っている人を助けるなど、詭弁に過ぎない。 自分は自分のために、そして父の積んだ咎を清算するために、医者をやっているに過ぎない。 憎まれこそするが、間違っても感謝されるような人間ではないのだ。 ジャンが同じ地に留まることを嫌うのも、その地に住まう人々に、自分の本性を見透かされはしまいかと心配だったからだ。 死してなお、父はジャンのことを奇妙な枷で縛り付ける。 過去の呪縛から逃れるためにも、一刻も早く父の遺骨を処分したいという気持ちでいっぱいだった。 875 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第二話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/11(木) 00 41 14 ID pTHhFeTR 「ごちそうさま……」 ミルク粥を一通り平らげ、出されたコーヒーも飲み干すと、ジャンは食器を食堂のカウンターに戻した。 リディは放っておけば良いと言っていたが、幼馴染に後片付けを押しつけるのも気が引けた。 「それじゃあ、僕は父さんの骨を埋めに行くよ。 夕方までには戻るから、悪いけど、今日もあの部屋に泊めてくれないかな?」 「ええ、いいわよ。 ジャンがよければ、それこそ、三日でも四日でも……」 「残念だけど、それはできないよ。 僕は、いつまでも同じ場所に留まるのは好きじゃないんだ」 「そっか……」 リディは肩を落として残念そうにしていたが、ジャンはそんな彼女の様子に気づくこともなかった。 足元に置いた鞄を手に、ジャンは食堂を抜けて階段を下りる。 一階の酒場は、まだ準備中のようだ。 仕込みをしている店主に簡単な挨拶を済ませ、ジャンは朝の陽ざしの降り注ぐ通りへと出た。 「今日は天気がいいなぁ……。 昨日の寒さが嘘みたいだよ」 誰に言うともなく、そんなことを呟いて腕を伸ばすジャン。 リディの宿場は商店街の通りに面しているため、朝からとても賑やかだ。 通りでは既に朝市が開かれており、チーズやハム、それに野菜を売る商人達が、忙しなく働いている姿が目に入った。 荷車を引いて商品を運ぶ者。 道行く人に、今日のお勧めの品を売り込もうと声を張り上げている者。 様々な店の商品を抜け目なく比べ、一番安く味の良い品を手に入れようとはりきっている主婦連。 街から街へ一人で旅をしていると、時にこうした人々の喧騒が懐かしくなるときがある。 だが、いつまでもノスタルジックな気分に浸っているわけにもいかない。 父の遺骨を埋めるため、ジャンは街の奥に続く道とは反対の道を選んで歩きだした。 向かうのは、街外れにある合同墓所。 異端者として街を追放された父は、教会の墓地に埋葬される権利さえ持っていない。 大通りから離れて行くにつれ、朝市を賑わしている人々の声もまた遠くなっていった。 街の出口である大門を抜けると、早くも丘からの冷たい吹き下ろしが、ジャンの足元をすり抜けた。 876 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第二話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/11(木) 00 42 15 ID pTHhFeTR ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 宿場という場所は、昼時になると途端に静かになる。 人で賑わうのは朝か夕方と決まっており、昼間の間は利用する客も殆どいない。 もっとも、その間に夕食の仕込みや部屋の片づけ、掃除などを済ませておかねばならないため、決して暇というわけではないのだが。 街で買ってきた鶏肉を、リディは手慣れた様子で裁いてゆく。 今日の夕食は、チキンのハチミツソースでも出すか。 そんなことを考えながら、鶏肉の皮を器用に剥がす。 「それにしても……」 剥がした皮を鍋に放り込み、リディは呟いた。 「ジャンったら、あの時の約束を忘れちゃったのかな……」 骨のついたままの鶏肉を並べ、今度は野菜を取り出して包丁を入れてゆく。 いつもなら軽快なリズムに合わせて手が勝手に動いてゆくが、昨晩、ジャンが言っていたことを思い出すと、どうにも気分が乗ってこない。 ジャンは、この街で生まれ育ったリディの幼馴染だ。 軍隊の真似ごとをして棒きれを振り回すような同年代の少年とは違い、どちらかと言えば、内気で読書が好きな方だった。 そんなジャンでも、やはり一人の男の子だったのだろうか。 家が貧しく、時に他の子どもたちから馬鹿にされることの多かったリディを、最後まで庇ってくれていた。 決して腕っ節が強いわけでもないのに、年上の少年相手に飛びかかって、酷い怪我をさせられたこともあった。 どんなに喧嘩が弱くても、どんなに周りから馬鹿にされようとも、リディにとってジャンはナイトだった。 ジャンはリディに言った。 君を虐めるやつは、みんな僕がやっつけてやる、と。 リディもジャンに言った。 だったら、守ってくれたお礼に、私がジャンのお嫁さんになってあげる、と。 二人とも、まだ十歳を少し過ぎたばかりの頃の話だ。 そんな二人を引き裂いたのが、ジャンの父親がこの街を離れることになった一件だった。 877 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第二話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/11(木) 00 43 02 ID pTHhFeTR まだ子どもだったリディには、ジャンの父親が何をしたのかまでは分からなかった。 ただ、何かとんでもなく悪い事をして、そのとばっちりでジャンも街を出て行かねばならないのだと思った。 正直、ジャンと別れるのは辛かった。 自分を守ってくれる存在がいなくなることが怖くて、言い様のない不安に駆られたことを覚えている。 せめて、見送りぐらいはさせて欲しい。 そう思ったリディだったが、そんなささやかな願いさえ、彼女の両親は叶えてはくれなかった。 月の明かりさえない新月の晩、ジャンと彼の父親は、逃げるようにして街を出た。 リディがそれを知ったのは、彼らが街からさった翌朝のことだった。 これからは、自分の力だけで生きて行かねばならない。 母は決して身体の強い方ではなかったし、父は飲んだくれで役に立たない。 ジャンがいなくなってからというもの、リディは人が変わったように働いた。 それこそ、母の手伝いをする傍ら、自分も街の工場に出かけて仕事をするようになった。 ジャンと別れたリディを支えていたもの。 それは、幼き日に彼と交わした約束だった。 ジャンが自分を守ってくれた代わりに、自分がジャンのお嫁さんになる。 他愛もない、冗談半分の約束としか思われていないかもしれないが、リディにとっては本気だった。 それだけジャンの存在が、彼女の中で支えとなっていたのだ。 ジャンは街を出て行ったが、もしかしたら戻ってくるかもしれない。 自分との約束を覚えていて、いつの日か、ふらりと目の前に現れるかもしれない。 そんなことを夢見ながら、小さな宿場を経営して早数年。 気がつけば、ジャンと別れてから十年以上の歳月が流れていた。 さすがに、ここまでの月日が経ってしまえば、ジャンも帰っては来ないだろう。 そう思っていた矢先、彼はリディの前に戻って来た。 出来過ぎた物語のような展開に、彼女自身、目の前で起きていることが信じられなかった。 「はぁ……。 でもなぁ……。 ジャンは別に、私に会いに来たってわけじゃないんだよね……」 気がつくと、野菜を切る手は完全に止まっていた。 ジャンがこの街に帰って来た理由。 それは一重に父の遺骨を墓に埋めるためだ。 彼は決して、望郷の想いに駆られて戻って来たのではない。 父の形見を生まれ故郷に帰すため、必要悪として帰って来ただけだ。 それに、ジャンはこの街のことを、あまり快く思っていないようだった。 まあ、無理もないだろう。 彼にしてみれば、父親の巻き添えを受けて街を追い出され、本人の意思とは関係なしに白い目で見られるようになったのだから。 878 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第二話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/11(木) 00 44 02 ID pTHhFeTR ジャンにとって、この街には辛い思い出が多すぎる。 それはリディも分かっていた。 だが、ジャンがこの街を嫌っていることは、リディにとっても辛かった。 この街を嫌っているのであれば、自分もまたジャンに嫌われているのではないか。 そんな感じがしたからだ。 「いけない。 さっさと準備済ませないと、夕食の時間に間に合わなくなっちゃうわ」 いつの間にか仕事の手を休めて考え込んでいた自分に気づき、リディは再び野菜を切り始めた。 と、そこへ、今度は受付の方から来客を知らせる鐘の音が聞こえて来る。 こんな時間に、いったい誰だろう。 まったく、間の悪いことこの上ない。 そう思ってはみたものの、来客は来客である。 宿泊客ならば、このまま無視するわけにいくはずもない。 水で軽く洗った手をタオルで拭きながら、リディは早足で受付に出た。 旅の人間が早くに街へ着いたのかと思ったが、そこにいた者の姿を見て、すぐに違うと悟ることができた。 「あの……。 お泊りでしょうか……?」 受付の向こう側にいたのは、細身で鋭い目つきをした一人の男だった。 まだ若いが、格式のある黒い正装に身を包んでいる。 帯剣していないところを見ると、貴族ではなく使用人なのだろうか。 執事長にしては若すぎる気もしたが、下っ端の使い走りとも思えない。 「お忙しい時間に申し訳ありません。 ですが、私は宿泊するためにこちらを訪れたのではありません」 指先一つ、目元さえも動かさずに、男が言った。 その言葉に、リディは訝しげな顔をして男を見つめる。 「お泊りになられないんですか? だったら、どのような御用件で……」 「これは失礼。 私は、人を探していましてね。 昨晩、隣町に向かわせていた遣いの者から、この街に私が探している人間が向かったとの報を受けました」 「そうだったんですか。 だったら、お客様の中に、あなたがお探しの人がいるかもしれませんね。 よろしければ、帳簿をお見せしましょうか?」 「いえ、結構です。 そこまでしていただかなくとも、私が今から言う者の名前を知っているかどうか……。 それだけで構いません」 879 :ラ・フェ・アンサングランテ 【第二話】 ◆AJg91T1vXs :2010/11/11(木) 00 44 59 ID pTHhFeTR 先ほどから、男は表情一つ変えずに話していた。 口調は丁寧なのだが、それが返って不自然なまでに無機的な印象を与えている。 気品に満ち、整った顔立ちをしていたが、その瞳には感情らしいものがまったく感じられない。 青く澄んだ二つの瞳は空の色と言うには程遠く、その視線は、全てを射抜くような氷の矢を思わせる。 「ジャン・ジャック・ジェラール。 この名前に、聞き覚えはありませんか?」 帳簿を出そうとしたリディの手が、男の言葉の前に動きを止めた。 この男は、ジャンを探しているのか。 だとしたら、なぜ。 どうやら高貴な人物に仕える者のようだが、そんな男がどうしてジャンを探しているのか。 男の言葉に、しばし驚いた顔をして固まるリディだったが、当の男は気にも止めなかった。 ただ、ジャンがこの場にいるのかどうかだけをリディに尋ね、彼が出かけていることを告げると、そこで初めて残念そうな表情を浮かべた。 「すいません。 夕方までには戻ると言っていましたけど……」 別に謝る必要などなかったのに、リディは男に頭を下げた。 「あなたが謝る必要などありませんよ。 彼がここにいないというのであれば、しばらく待たせてもらうだけです」 男の顔からは、既に先ほどの残念そうな表情は消えていた。 そのまま受付の側に置いてある木製の椅子に腰かけると、男は無言のまま、人形のように固まって動かなくなった。 一瞬、男が本物の人形になってしまったのではないかと思ったリディだったが、直ぐに夕食の準備が途中だったことを思い出した。 彼女が慌てて厨房へと戻って行く間にも、男は何も言わずに正面の壁を見つめているだけだった。