約 1,390,164 件
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/28.html
ラッド。 ガフガリオンの同僚すなわち傭兵であり、ガフガリオンほどではないが性格悪し。 突出した戦闘力は無いが小器用に何でもこなすため、 戦況によって様々なジョブやアビリティを使い分け結構活躍している。 それはいい。 不満点があるとすれば、彼の性格と、星座である。 アグリアス・オークスは巨蟹宮。そしてラムザは磨羯宮。相性は最高だ。 で、ラッド。彼もまた磨羯宮なのである。 戦闘になれば、アグリアスはたいていラッドとチームを組む。 理由は、部隊をいくつかの班に分けて行動するさいの部隊長をできる人材にある。 リーダーのラムザ、サブリーダーのアグリアス、この二人が班を率いるのは自然な事。 アグリアスは主にラッド、アリシア、ラヴィアンを率いて前衛となる。 聖剣技や高い回避率を考えればアグリアスが前衛なのは当然、 アリシアとラヴィアンは騎士だから魔法より肉弾戦が得意だ。 ラッドは、アグリアスを補佐するために色々やってる。 相性がいいからチャクラでお互い回復し合ったりするのも珍しくない。 で、ラムザ。やはり将たる者が前に出るのは危険という事で、前衛引退しちゃった。 銃を使うムスタディオ、真言を使うラファ、アイテムを投げるマラークと共に、 後方支援に徹して地烈斬とか時魔法とか召喚魔法とか使ってる。 実に理にかなった布陣である。けれども、こういうスタイルに落ち着く前は、 ラムザが異端者認定されて本格的に集中砲火を浴びたりする前は、 アグリアスは相性の理由もあってラムザと行動を共にする事が多かったのですよ。 「……さみしい」 とアグリアスはベッドの中でひっそりと呟いた。 夜中だった。もうみんな眠ってるだろうと思って呟いた。 だがしかし同室のラファちゃん、何だか寝つけなくて起きてました。 まだ仲間になって日が浅いとはいえ、 アグリアスの視線がいつも誰を追っているのかは知っていた。 なぜなら自分の同じ人に視線を向けていたから。 とはいえここは恩人のため一肌脱ぐべきだろうとラファは思う。 明日の予定はモンスターの中でも弱いチョコボが多くいる河を渡るだけである。 それならちょっとくらいアレしても問題ない。うん、問題ない。 ルカヴィや北or南天騎士団のようなマジで戦わないといけない奴が相手じゃない。 だからちょっとくらい大丈夫大丈夫。うん、問題ない。きっと。 暗殺者としての訓練を受けたラファは翌日の朝、 ラッドの朝食に無味無臭の毒物を混入させた。 といっても頭痛やめまいが一日ほど続くだけの弱いものだ、死に至る事はない。 結果体調不良を訴えたラッドは馬車で休む事になった。 そしてラヴィアンとアリシアも同様に体調不良を訴えてきた。 前衛チームはアグリアス以外全滅した。 もちろんラファの仕業だ。 ラッド一人を潰したとて、アグリアスがラムザと組めねば意味がない。 だがこれならラムザ、ムスタ、マラーク、ラファの四人のチームに入るしかない! こうしてアグリアスはその日、久々にラムザとコンビを組んで戦場に立った。 チャクラでお互いのHPを回復し合うというラブラブ戦法もバッチリだ! どれくらいバッチリかというと毎ターン延々とチャクラオンリーなくらいバッチリだ! 「チャクラ! チャクラッ! チャクラァッ!」 「チャクラ! チャクラー! チャクラァー!」 チャクラの合間にチョコメテオとチョコボールが乱舞する。 渡る予定だった河、フィナス河で遭遇したのは、黄黒赤のチョコボの群れだった。 たかがチョコボと甘く見たら、赤と黒の攻撃は高威力+回避困難で、 何とか反撃をしてもすぐ黄チョコボがチョコケアルで回復してしまう。 マラークはアイテム係なので、チャクラでフォローし切れない他の仲間の回復を。 ムスタディオは普通に銃撃したり腕を狙ったりとがんばってるが、 一人でどうこうできる数ではなく焼け石に水状態だった。 ラファはというと、何とか無力化しようと真言で状態異常を狙っているが、 チャージ中に攻撃を受けては倒れ、マラークにフェニックスの尾を使ってもらっている。 「くっ……せめて前衛チームが無事なら!」 嘆きながらアグリアスはチャクラを放った。 相性バッチリなので頭からダラダラ血を流すラムザもすぐ元気になった。 「まずいです、このままではジリ貧……全滅はまぬがれません」 「どうするラムザ!?」 「北斗骨砕打の一撃必殺に賭ける……成功率は低いですが、もうそれしか」 「し、しかしチャクラを休んでは……」 「大丈夫、僕が全力でチャクラをします。アグリアスさんを死なせはしない。 だから僕を信頼して、戦ってください。お願いします」 「ラムザ……貴公の命、預かった! でぇぇい! 北斗骨砕打!」 赤チョコボに命中! デス、不発! 黄チョコボがチョコケアル! 赤チョコボ回復! 赤チョコボの反撃。チョコメテオ。アグリアスの金髪が赤く濡れた。 「あぐっ……!」 「チャクラ! アグリアスさんしっかり!」 「ぬぅぅ……負けるものか、北斗骨砕打ァー!」 死闘を繰り広げる中、ついに一匹の赤チョコボを仕留める事に成功するアグリアス。 これで敵の攻撃力を削ぐ事ができた、ホッと一息ついた刹那――。 「うわぁー!」 相性効果で回復量が上がっていたアグリアスと違い、 通常の回復量しか得られなかったラムザはついに倒れてしまった。 「し、しまったぁー! マラーク、フェニックスの尾を!」 「駄目だ! さっきラファに使った分が最後だ!」 絶体絶命。戦闘不能に陥った者は早急に手当てせねば死んでしまう。 ラムザの命が尽きるのが先か、まだ大勢残る敵を全滅させるのが先か、 考えるまでもない……しかしあきらめる訳にはいかない。 「アグリアスさん、みんな、ごめんなさい私のせいで……」 ラファは戦意を失いその場に泣き崩れた、そこに迫るチョコボール。 「危ないラファー!」 間に割って入ったマラークの身にチョコボールが炸裂……しようとした瞬間、 大地がめくりかえって壁となった。 「こ、これは! タイタン!?」 驚愕するマラークとラファ。なぜ、誰が詠唱を!? その時、河の対岸から現れる三つの影。 「ラッド!」 「アリシア!」 「ラヴィアン!」 『戦線復帰!』 タイタンを受け挟み撃ちにされて驚き戸惑っているチョコボの群れに、 ラッド達は苛烈な攻撃を加えていく。 「ええーい! 地烈斬!」 「でやあー! 阿修羅!」 「よぉし今度はラムウの詠唱に入るとするか! とっとと片づけるぜ!」 前衛三人組の範囲攻撃の波状攻撃に成すすべもなくチョコボの群れは次々に倒れ、 ついには逃げ出してしまった。 「大丈夫かアグリアス」 「ら、ラッド。助かった、礼を言う」 「フッ……これに懲りたら俺を邪魔者だなんて思わないこった」 「じゃ、邪魔者などと……それよりお前達、頭痛とめまいはどうした?」 「あー、薬を調合して治した。あれくらいのなら簡単にな」 と、ニヤリ笑ってラファを見るラッド。どう見てもラファが何をしたのか見抜いてます。 ラファはしょんぼりと肩を落とした。 エスナでも治せない毒だったのに、まさかああも簡単に解毒されるとは。 とはいえ自分の軽率な行いのため全滅しかけてしまったので、感謝せねばならない。 「さて、ラムザの顔がいい感じに青くなってるな。早く蘇生してやれよ」 「それがフェニックスの尾が無くて……」 「お前、拳術の蘇生使えたろ?」 「ハイトが……その……」 見れば、ラムザの周囲には同一ハイトの場所が無い。これでは蘇生は不可能だ。 「やれやれ、仕方ねーな。俺のレイズで何とかしてやらぁ」 「おお! さすがラッド、こうもお前が頼もしいとは……」 アグリアスは全力でラッドを見直した。 性格は気に食わないが、これからはうまくやっていけそうだ。 そんなアグリアスの心変わりを感じながら、ラッドは自信満々といった風に詠唱した。 「レイズ!」 ミス! ラムザは生き返らなかった。 「…………」 「…………」 男同士、磨羯宮同士、相性は普通。とてつもなく普通。 だから、まあ、失敗しても珍しくないネ! 「ラッドォォォッ! 時間が、時間が無い! 早くもう一度レイズを!」 「待てもうMPが無い、お前等チャクラやれ早く」 「ちょっ、そこも微妙にハイトが合わない。というかこの辺一帯ハイトが合わん!」 ああ! 何という事だろう。チャクラ合戦のために同一ハイトに陣取っていた二人だが、 アグリアスが北斗骨砕打のために死に物狂いで移動したため、 チャクラが届かないハイトズレした場所に来てしまっていたのだ! 「落ち着けラッド! そこにクリスタルがある、それを取ってMP回復だ!」 「解った! ていっ、アビリティ継承? いるかボケ! 今はHP・MP回復だ!」 ラッドのHP・MPが回復した! 「よしレイズをラムザにターゲットして……あっ」 その時、ラッドは気づいた。自分の立っている場所こそラムザが倒れていた場所だと。 つまり、今取ったクリスタルは……。 「ら、らむ……きゅ~っ」 アグリアスはその場で目を回して河の中にぶっ倒れた。 「ああっ! アグリアス様がー!」 「溺れる! 早く引っ張り上げて!」 アリシアとラヴィアンが大慌てでアグリアスを引っ張り上げる光景を見ながら、 ラファは辞表ってどう書けばいいんだろうと涙を流していた。 GAME OVER……? 「本ッッッ当ォ~~~~にごめんなさい!」 土下座してダラダラと涙と鼻水を垂らして謝るラファを前に、 アグリアスもラッドも渋い顔をしていた。 ラッドから、前衛チームの頭痛の原因は聞かされているし、 アグリアスはラファがなぜそうしたのか理由を察している。 一番悪いのはラファだが、これは本質的に事故であるし、責任はアグリアスにもある。 どうしたものかと困っていると、どんどんラファの謝罪はエスカレート。 「本当にごめんなさい私が軽率な行いをしたばっかりにどう謝ったらいいのか いえ謝って許される問題ではありません私は殺人犯です所詮暗殺者なんです 未来永劫地獄の釜でグツグツとされるのが相応しい大馬鹿者です最低最悪の ああそんな私がいくら詫びたところでラムザさんは帰ってこないというのに ラムザさんラムザさんラムザさんラムザさんラムザさ~~~~~~~んッ!」 その時奇跡が起こった! かつて死したマラークを生き返らせたように! ラファの偽らざる心が! 聖石から力を引き出し! ラムザの魂を天から舞い戻す! 「おおっ……これは……」 アグリアスは、天から降りてきたラムザの魂をじっと見つめた。 魂のラムザはニッコリと微笑んで、ラッドの体内への入っていった。 「……え?」 ラッド、ラムザのクリスタルを吸収した男。 ラムザの肉体が無い以上、ラムザの肉体が帰る場所は必然的にそこだった。 「ら、ラッド……ラムザ?」 「俺はもうラッドでもラムザでもない……名前を忘れてしまった磨羯宮の男だ」 こうしてラムドと改名した彼はルカヴィとの戦いに身を投じる。 ターゲットは磨羯宮の男 完!
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/118.html
※ラファ、アルマ、メリアドール、アグリアス、レイプ物ss ダーク系ssのため苦手な方はご注意を 「ワタシノ… 復活ヲ… サマタゲル… ツモリ… カ…… ソウハ…… サセヌ…… イデヨ…… ワガ… シモベ… ドモヨ…… ワタシノ… 復活ヲ… サマタゲル者ハ… 何人タリトモ… 許シテハ… オカナイ! 行クゾ…… 非力ナル者ドモヨ……!」 死都ミュロンド、飛空挺の墓場。古に伝わる暗黒の地で、ラムザ一行と聖天使アルテマとの最終決戦が始まった。 「デーモンは引き受けたッ! 貴公は妹君をッ!」 聖騎士アグリアスが弾かれた様に跳んだ。聖剣エクスカリバーに加速された肉体が、神速の速さで以ってアルテマデーモンに肉薄する。 「大気満たす力震え、我が腕をして、 閃光とならん! 無双稲妻突き!」 聖気を纏った雷撃の連続突きが、アルテマデーモンの身体を滅多刺しにする。確かな手ごたえをアグリアスは感じたが、瞬間、ぞわぞわとした殺気を感じて、エスカッションをぐるりと前方にかざした。 ガキィィン! 耳障りな金属音と共に、正面のアルテマデーモンの腕とエスカッションが激突した。その激烈な衝撃に、アグリアスは「くぅ…」と苦悶の声を漏らした。 「…流石はデーモン、一撃では倒せぬか…」 油断無く周りを見渡すと、聖天使アルテマによって召還されたアルテマデーモンが、次々と受肉を始めている。 (まずいッ 孤立してしまう!) アグリアスが慌てて後退しようとすると、それを読んでいたかのようにアルテマデーモンが前進し、大きく腕を振りかぶった。 「チィ、しまっ…!」 「地獄の鬼の首折る刃の空に舞う 無間地獄の百万由旬… 冥界恐叫打!」 突如、振りかぶったアルテマデーモンの腕が、爆発するように千切れ飛んだ。ホッとしたアグリアスが横を見ると、しなやかなフォームで巨大な騎士剣を逆袈裟に振り上げた神殿騎士メリアドールが、怒ったような表情でアグリアスを見た。 「先走りすぎよッ 加速(ヘイスト)の加護は慢心の根ではないでしょう!」 「すまないッ メリアドール!」 体勢を立て直したアグリアスは、間髪入れずにアルテマデーモンの首を横薙ぎに刎ねた。頭部を失ったアルテマデーモンは数回力無く腕を振り回した後、どぉんと地面に倒れ伏した。 「油断大敵、この戦いは負けられないわ。慎重に行きましょう…!」 「ああ、背中は任せる!」 緑青の女性騎士は、互いに背中を預け合うと、じりじりとにじり寄るアルテマデーモンを睥睨した。 「アルマッ!」 2人の女性騎士アルテマデーモンを引き付けたため、倒れ伏すアルマへの道が開けた。ラムザはこの機を逃すまいと、急いでアルマの側に駆けつけた。 「アルマ、しっかりしろ!」 妹を助け起こすと、青ざめた顔付きではあるが、アルマはしっかりとした目付きで兄を見た。 「私は大丈夫… 早く、アルテマを…!」 衰弱した妹を見てラムザは即座に「ラファ!」と叫んだ。 「任せてッ!」 白魔道を極めし天道士ラファが高速詠唱で呪文を紡ぐ。 「空の下なる我が手に、祝福の風の 恵みあらん! ケアルガ!」 ラファが高らかに詠唱を終えると、柔らかな光がアルマに降り注ぎ、アルマの表情に生気が戻った。 「アルマは下がっているんだッ!」 「私だって魔法の援護ぐらいは…ッ」 食い下がろうとする妹を突き飛ばすようにラファに預け、ラムザは神剣ラグナロクをスラリと鞘から抜き放った。 相対するは聖天使アルテマ。長き眠りから目覚めた血塗られた聖天使は、無機質な双眸をラムザに向けた。 「愚カナ… 人間ノ分際デ私ニ逆ラウトハ…」 「愚かなのは貴様だッ! 人の生を弄び、イヴァリースに混沌をもたらした悪魔めッ! 今、ここで討ち果たすッ!」 そう言うと、ラムザはラグナロクを正眼に構えた。 (ここで決着を付ける…ッ!) 心中で覚悟を決めると、ラムザは大きく息を吸い込んで口を開いた。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 腹の底から全身を鼓舞する雄叫びを上げる。立ち昇る闘気が不可視の守りとなってラムザを包み、ラグナロクを持つ手に力が篭もる。負けるはずが無いという自信がラムザの背筋を一直線に貫いた。 「でやぁぁぁぁ!!」 裂迫の気合と共にラムザはラグナロクを打ち込んだ。目で捉えることができぬほどの鋭い斬戟だったが、アルテマの身体が一瞬ブレると、次の瞬間には硬質な刃と化した腕がラムザの斬戟を受け止めていた。 「くッ!」 「フン… 脆弱ナニンゲンガ…」 アルテマは軽く笑うと、もう一方の手を刃に変えてラムザに無造作に振り下ろした。ラムザは素早くラグナロクを切り返すと、受け流すようにアルテマの刃を弾いた。 「ナニッ!」 「……ッ!」 受け流されバランスを崩したアルテマの背に、ラムザは強かにラグナロクを打ちつけた。驚くほど固い手応えを感じながらも、一気に騎士剣を振りぬく。さらに畳み掛けるように袈裟切りに切り下ろすが、アルテマは瞬時にテレポを果たし後方へ逃れていた。 油断無くラグナロクを構えるラムザの前で、アルテマは憎しみに歪んだ声を発した。 「矮小ナニンゲンノ風情デ、神タル私ヲ傷付ケルカ… 身ノホドヲ知レッ!!」 「何が神かッ! どこまで慢心するか、悪魔の化身めッ! 貴様はただの血に飢えた怪物だッ!」 大音声と共に断ずると、ラムザは両足に力を込めて一足に跳んだ。数mの距離を一気に詰めると、そのまま体を預けるようにしてラグナロクをアルテマに突き込んだ。 ガードする刃の腕を潜り抜けて、ラグナロクがアルテマの胸に突き刺さる。 「グァァァ!!」 「まだだッ!」 ラムザは足をアルテマの身体にかけて素早くラグナロクを引き抜くと、突き、逆袈裟、袈裟切りの三連撃を、恐ろしいスピードでアルテマに叩き込んだ。 「ギャアアアアア!!!!」 魂消るような悲鳴を上げてアルテマが地面に崩れ落ちる。好機と見取ったラムザは、ラグナロクを水平に大きく振りかぶった。 「とどめぇぇーーー!!」 全身をバネとして放った一撃は、狙い違わずアルテマの首へと吸い込まれ、見事、一刀両断に切って捨てた。 「やった!!」 後方でアルマを守っていたラファが喝采を上げた。ラムザが油断なくアルテマの身体を蹴ると、主を失った身体はばったりと地面に倒れた。 「倒した… 倒したぞ…!!」 勝利を確信してラムザは右手を高々と振り上げた。その時、ちょうどアグリアスとメリアドールも最後のデーモンを倒してラムザへと駆け寄って来た。 「流石だ、ラムザッ!」 「こんな化物を1人で… 凄いわ!」 未だ周囲を警戒しながらも、アグリアスとメリアドールは口々にラムザを称えた。 激闘の緊張をようやく緩ませながら、ラムザは軽く笑って答えた。 「いえ、御2人がデーモンを引き付けてくれたからです。僕だけの手柄ではありません。ラファも…」 戦闘が終わったと感じたラファは、ふらつくアルマを支えながらゆっくりとラムザの側まで歩み寄った。そして、ラファに促されるようにラムザの正面に立ったアルマは、感に耐えかねたようにラムザに抱きついた。 「ありがとう、兄さん!! 凄く、凄く怖かった…」 「もう大丈夫だよ、アルマ…」 兄妹は、しばらくお互いの無事を確かめ合うように抱擁を続けた。周囲の3人の女性は、決して軽くは無い嫉妬の視線をチラチラと送りながら、それでも仕方ないという風に肩を竦めあった。 「でも、本当に凄いわ… 聖天使を打ち倒すなんて、驚いた…」 相変わらず抱擁を続けるアルマがポツリと呟いた。 「うん…?」 ラムザが聞き取れずに聞き返すと、アルマは伏せていた双眸を兄に向けた。 「本当、前回に受肉した抜け殻とはいえ、よくも倒せたですこと」 ニヤリと笑うその笑顔に不吉なものを感じ、ラムザは慌てて身体を引き離そうとした。しかし、 (なんだ… 身体に力が入らない…!) 先刻まで精気に満ちていた身体に、まるで力が入らない。しかも、声も出す事が出来ない。 「転生したばかりで力もないので、時間稼ぎに抜け殻を残しましたけど、正解だったみたいですね…」 アルマは兄の耳に囁きかけた。妹に在らざる雰囲気を察して、ラムザは何とか身体を動かそうとしたが、その意思に反して、身体はピクリとも動かなかった。 「アルマ殿、そろそろ兄上を解放して差し上げたらいかがですか?」 助け舟を出すつもりで、アグリアスがそう言葉を掛けた。しかし、アルマはそれには答えず、右手をスッと天に上げた。 「えっ…?」 「お馬鹿さんたちには醜い現実を… 天空の時の手を掲げ 星の裁き… グランドクロス!」 アルマが凶々しく詠唱を終えると、天上に輝く北斗七星から妖しい輝きが飛空挺に降り注いだ。瞬間、3人の女性たちの身体が崩れ落ちて、真っ黒いオーラが彼女らを包み込んだ。 「これ、は…」 「なん、なの…」 「あぁ…」 壮絶な脱力感と倦怠感が3人を襲った。身体を動かそうとしても、壊れた人形のように動かない。そのくせ、意識はいやにハッキリしていて、アルマがしなだれかかる様にラムザの身体を押し倒すのが見えた。 「なんの、つもりだ…! アルマ殿…ッ!」 アグリアスが気力を振り絞って叫ぶと、アルマは可笑しそうに哄笑した。 「アルマ? この肉体の名は確かにそうね、でも今は…」 アルマの身体を黒いオーラが包み込むと、次の瞬間には異形の怪物がそこには存在していた。 顔や全体的な体型はアルマそのものだったが、その姿はまさに聖天使アルテマの姿だった。 「私は聖天使アルテマ。この地に破壊と殺戮をもたらす天使。ずいぶんと頑張ったようだが、無駄なあがきだったな」 聖天使アルテマは、己の存在を誇示するかのように白い翼を勢い良く広げた。轟然と輝くその姿からは、先ほどの化身とは全く違う強烈な威圧感があった。 「これ、が、アルテマ…」 ラファが呆然とした声で呟いた。元々臆病な彼女には、その存在感は強烈すぎた。完全に戦意を失っている。 「ラファ、諦めるな! クソッ! 身体さえ動けばッ!」 「そうよ! こんな異形の怪物に屈してはいけないわ!」 2人の女性騎士は、それでも戦意を失わず気を吐いた、しかし、アルテマはさも馬鹿にしたような笑みを漏らすと、軽く腕を上げた。 「虫けらが良く吠える。では、その心がどこまで折れないか試してやろう…」 不意に、飛空挺のいたるところに気配を感じて、3人は必死に首を巡らした。その視線の先には、様々な異形の姿をしたデーモンが受肉を始めていた。 「いやぁぁぁぁ!!」 はっきりとした恐怖を感じて、ラファが甲高い悲鳴を上げた。アグリアスとメリアドールも、声こそ上げないものの内心の恐怖を抑えつけるのに必死だった。 「さて、お前たちには我が眷属の慰み者になってもらう。良い声で啼いてくれ」 ヒュン、とアルテマが腕を振ると、完全に受肉を果たしたデーモンが、一斉に3人に襲い掛かった…! ぐちゃ、ぐちゅ、ぐちゅ… 先ほどまでは剣戟の音が響いていた飛空挺の墓場で、今度は淫らな水音が響いていた。 「もう、いやぁ… 許して、許してぇ…」 白い装束を全て剥ぎ取られたラファが、四つん這いの格好で背後からアルテマデーモンに犯されていた。 既に何度も射精を受けているヴァギナはデーモンの精液で溢れかえっており、激しく突かれる度にびちゃびちゃと間欠泉の様に噴き出ていた。 恐ろしい事に、アルテマデーモンの性器は幾度の射精でも萎える事無く、それどころかさらに体積を増してラファの体内を蹂躙したいた。 「やめてぇ… もう出さないで、お願いだから… ああ!! 出てる、出てるぅぅ!!」 まるで放尿するかのような激しい奔流が、ラファの子宮口にぶち当たった。直接体奥に精液が染み込む感触にラファは慄いた。また、それだけではない。射精される度に身体中をすさまじい快感が貫くのだ。 「どうして… 嫌、嫌…」 もちろん、これはアルテマが仕掛けた淫靡な罠だった。グランドクルスによって支配した、ラファの精神と感覚を操っているのだ。 しかし、そんな事は知らないラファは、己の肉体をただただ嫌悪するばかりだった。そして脳裏に蘇るのは幼少の頃より散々犯されたリオファネス城の夜。戦争孤児として自分を引き取ったバリンテン公は、当たり前のようにまだ幼いラファの身体を犯し抜いた。 毎夜繰り返される、あまりに幼い身体に課せられた調教の数々。胸の奥底に封印していたはずなのに、デーモンの精液はその記憶すらも否応無く引き出していた。 「ああ!! おじ様もう出さないでッ!! もうおなか一杯なんですッ!」 半狂乱で叫ぶラファに、それまで無言で行為を行っていたアルテマデーモンが低く唸る声を発した。 「グググ… サア、ワガ子ヲ孕メ…」 その言葉に、ラファは卒倒しそうなほどの衝撃を与えた。そういえば、怪物の中には人間の腹を借りて子を成すモノも居る。このデーモンはそこらのゴブリン等とは比較にもならない高位のモンスターだ。まさか、そんな… 「嫌ッ!! 怪物の子供など孕みたくないッ!! お願いします! それだけは許してくださいッ!!」 ラファは大粒の涙を流して懇願した。しかし、デーモンは「グググッ」と笑うとさらに大量の精液を放出し始めた。 「嫌ーーーーーッ!!」 戦場にラファの悲鳴が木霊した。 「あらあら、魔導師はすぐに音を上げたみたいね。我が眷属の一員になれるというのに、贅沢な娘」 聖天使アルテマは倒れたラムザの鎧をゆっくりと解きながら嘲るように笑った。 「クソッ… アルマ、目を覚ませ、アルマ…!」 身体の自由は奪われたままだが、なぜか声が出せるようになったラムザが必死に叫んだ。 アルテマは呆れたような表情を表したあと、ラムザの頬を愛しそうに撫ぜた。 「お馬鹿な兄さん、転生を何だと思っているの? 私はアルマよ。ほんの少しカタチは変わってしまったけど、貴方の愛したアルマ・ベオルブよ」 そう言って妖艶に微笑むアルテマの表情に、確かに妹の面影を感じてしまって、ラムザは慌ててその思いを打ち消した。 「違う! お前はアルマなんかじゃないッ!」 「ふん… まあ、良いですけど。段々とわかって来る事ですから… おや?」 露出したラムザの肌を淫靡に愛撫しながら、アルテマは視線を横にやった。 「ふふふ、神殿騎士もだいぶ限界のようね。さあ、一緒に見物しましょう、兄さん…」 「異形の怪物などに、屈してたまるもんですかッ!」 緑色のローブを引き裂かれて、半裸の姿を晒しながらもメリアドールは気丈に言い放った。 遠目にはラファが陵辱され、哀願する姿が見える。情けないとは思わなかった。ただ、神官騎士たる自分は絶対に異形の悪魔には屈するわけにはいかなかった。 「さあ、犯すなら犯しなさい化物。あなたたちがいくら私の身体を汚そうと、私の信仰までも汚す事は出来ないわ!」 毅然としてメリアドールは宣言した。神殿騎士としての矜持がメラメラと燃え上がっていた。 「グググッ、威勢ノ良イコトダ…」 しかし、デーモンはそんなメリアドールの意地すら可笑しそうに笑うと「オマエヲ犯スノハ、我々デハナイ…」と不気味に言った。 「何ッ!」 いぶかしむメリアドールを、まるで幼女が用を足す時のように背後から抱え上げて、アルテマデーモンは短く何かの呪文を呟いた。 その瞬間、メリアドールの目前に淡い光と共に、1人の騎士が出現した。その姿を認めた途端、メリアドールは驚愕と共に叫んだ。 「イズルートッ!」 それはまさしく、リオファネス城でルガヴィに殺された、実弟イズルートの姿だった。しかし、様子がおかしい。眼光は光を失い、艶の無い肌からは死臭が漂っていた。 「まさか、まさか…ッ」 メリアドールの脳裏に恐ろしい推理が過ぎる。その姿は、聖ミュロンド寺院で遭遇した、アンデットと化したラムザの実兄ザルバックと全く同じモノだった。 「何てこと、何てことを…!」 メリアドールは滂沱の涙を流した。イズルートは「おお…」と呻き声を出すと、たどたどしい足取りでゆっくりとメリアドールに近寄った。 「イズルートぉ!! しっかりして! 私よ! 姉さんよ!!」 「姉、さん…」 イズルートの口から、何年もかけて錆付いたような声が漏れ出た。その声に感情の欠片も感じる事が出来ず、メリアドールは深い絶望を味わった。 「姉、さん… 怖い、寒い… 何もわからない…」 「イズルートッ!!」 「ぬくもりが、ほしい…」 イズルートは一瞬動きを止めてメリアドールの姿を見ると、邪まに歪んだ笑いを漏らした。 「姉さんの、ぬくもりが、ほしい…」 「ヒィッ!!」 それまでの鈍重さが嘘のように機敏にメリアドールに接近したイズルートは、服が破けて露出したメリアドールの乳房を両手で揉みしだいた。 「あ、あ…」 肌に触れたイズルートの手があまりにも冷たくて、メリアドールの全身が総毛立った。イズルートの瞳は何も写さないのに、その表情だけは醜く歪んでいた。 「あたたかいよ… 姉さん…」 「やめて、やめて…」 メリアドールが弱々しく首を振った。突き飛ばそうと思っても、身体に力が入ってくれない。 「姉さんの、…が欲しい」 「え?」 ぼそりと呟いたイズルートの言葉を聞き逃し、メリアドールは思わず聞き返した。 「姉さんの、血が、欲しい…!」 今度はハッキリと聞こえた。メリアドールが制止する間もなく、イズルートは口を大きく開けた。その中には、通常ありえないほどに発達した犬歯がヌラヌラと光っていた。 「ま、待って… きゃッ!!」 姉の言葉などお構い無しに、イズルートは牙をメリアドールの乳房に突き立てた。途端に溢れ出た鮮血をイズルートは音を立てて啜った。 「ああ…」 メリアドールの口から掠れるような喘ぎ声が漏れ出た。乳房の痛みや行為への嫌悪感だけで出たのは無い。牙が肌を食い破った瞬間、恐ろしいまでの快楽がメリアドールの脳髄を直撃したのだ。 (どうして… なぜ…?) もちろんアルテマの精神操作のせいではあるが、混乱したメリアドールにはただただ恐ろしさを加速させるだけであった。 「じゅるじゅる… はぁはぁ… あたたかい、姉さんの血はあたたかい… もっとだ、もっと僕をあたためて…!」 イズルートは己の腰帯を引きちぎるように破り捨てた。その中から雄雄しく起立した男性器を見て、メリアドールの顔が恐怖に歪んだ。 「ッ! 駄目よ、イズルートッ! 私たちは姉弟なのよッ! 駄目よ! 駄目ぇぇぇ!!」 声を枯らしてメリアドールが叫ぶが、イズルートは止まらない。メリアドールの股布を破り捨てると、ピッタリと閉じた姉のヴァギナに己のペニスをあてがった。 「駄目ェェェェェーーーーーーッ!!!!」 メリアドールは大絶叫を上げた、しかし、それが皮肉にも合図となって、イズルートは強引にペニスをヴァギナに根元まで突き刺した…! 「ああああぁぁぁぁ!!」 その瞬間、メリアドールはおとがいを反らして絶叫を発した。尋常でない激痛がメリアドールに襲い掛かる。さらに2人の結合部から、数条の血がたらたらと流れ落ちた。 「そんな、弟に… 非道い…」 メリアドールは呆然と涙を流した。敬虔なグレバドス教の信者であるメリアドールは処女であった。その処女を、よりにもよって血を分けた弟に散らされたのだ。深い絶望と諦観の念がメリアドールを支配した。 「あたたかい… もっと分けて… 姉さん…」 姉のショックなどお構い無しで、イズルートは腰を強引に振り始めた。異常に冷たく巨大なペニスに処女地を蹂躙され、メリアドールは再び起こる激痛に顔を歪めた。 「痛い… うぅ、許して…」 「あたたかい… 出すよ、姉さん…」 イズルートが呟いた瞬間、ペニスから氷水のような冷たさの精液が迸った。体奥を冷水で叩かれる感覚に、メリアドールの中で何かがポキリと音を立てて折れた。 「あ、は… 出てる… イズルートの精が私の膣内に… あはは、出ちゃってる…」 メリアドールの瞳が焦点を失った。冷たい精液を散々に注ぎ込まれて、メリアドールの心は完全に凍りついた… 「神殿騎士もあっけないわね。グレバドスなどという、居もしない神に縋って滑稽だわ。ねぇ、兄さんもそう思うでしょ?」 完全にラムザを裸にしてアルテマは嘲る様に笑った。ラムザは血走った憤怒の表情でアルテマを睨み、唯一自由に動く口は、唇を噛み切ってだらだらと血を流していた。 「…もうやめろ。僕たちを殺すならばさっさと殺せ。これ以上人の尊厳を辱めるな…!」 ラムザが軋むような声でアルテマに言った。 「尊厳?」 アルテマはそう言うと、可笑しそうに「クスクスクス」と笑った。 「何が可笑しい!」 「いーえ、兄さんらしいと思いまして。潔癖症で理想主義者、そんなんだから、妹の気持ちに気付かないんですね」 「何だと…!?」 誰何するラムザに構わず、アルテマはまだ小さいままのラムザのペニスをつまみあげた。 「やめろ!」 「い、や」 短く答えて、アルテマはラムザのペニスを咥え込んだ。そのまま軽く刺激を与えながら精神を操作する。強制的に発情させられたラムザのペニスは、あっという間にはちきれんばかりの太さに勃起した。 「わあ、すごい。これで妹の処女を貫いてください… でも、その前にお口に精を頂こうかしら…?」 アルテマは妖艶に微笑むと、明らかに喉奥まで届くラムザのペニスを、易々と根元まで咥え込んだ。 (なんだ、これはッ…!) ねっとりと絡みつくアルテマの口腔が、凄まじい快感をラムザに与える。脳髄と感覚が直結したかのような快感に、ラムザはあっと言う間に登りつめて、アルテマの咥内に精液を噴出した。 アルテマは突然出された精液にも戸惑う事無く、見せ付けるように音を立ててそれを飲み干すと、ラムザと目を合わせてニタリと笑った。 「ごちそうさま。兄さんの精液はおいしかったですよ。尊厳のある人間が、妹の口に射精してどんな気分ですか?」 「貴様…ッ」 「ふふふ… そうそう、尊厳と言えば、いかにもそれを大事にしてそうな女性が居ましたね。あちらはどうなっているのかしら?」 アルテマがそう言って、強引にラムザの首を曲げて視線を変えた。変えた視線の先には、聖騎士アグリアスが散々にデーモンに犯されている姿があった。 「んー、1本縄では堕ちてくれそうにないですね。では責め方を変えてみましょう」 妖艶に微笑んだアルテマが軽く手を振った。ラムザはアグリアスの無事を祈る事しか出来なかった。 (耐えてみせる、絶対に耐えてみせる…ッ!) アグリアスの責めは単純に苛烈だった。経験の浅いヴァギナに強引に挿入され、未開発のアヌス、口と散々に精を注ぎ込まれた。だが、瞳の光は失っていない。 「ふん、そんなものか、化物め…ッ!」 股間の激痛に苛まれながらも、アグリアスは気丈にそう嘯いた。彼女を犯してたデーモンが、忌々しげに「グゥゥ…」と唸った。 (耐えていれば、いつかはチャンスが巡って来る…) その希望を糧に耐えていたアグリアスだったが、とある瞬間、突然デーモンが動きを止めてアグリアスから離れた。 (なんだ、終わったのか…?) 微かな希望を抱いて、アグリアスは力の抜けた身体に活を入れて立ち上がろうとした。今のうちに、ラファかメリアドールを助けねばならない! しかし、そんな覚悟のアグリアスの前に、闇の中から染み出るように新たなデーモンが現れた。 「モル、ボル…?」 新しく現れたデーモンは、確かにモルボルに似ていた。ただ、モルボルと違うのは触手が異常に長い事と、触手に産毛のような繊毛が生えている事だった。 「い、いやぁぁ!!」 生理的な嫌悪感からアグリアスは悲鳴を上げ、逃げようとした。しかし、デーモンは素早く触手を伸ばすと、アグリアスの四肢を捕らえて、彼女の身体を中空に大の字に固定してしまった。 「や、やめろ! 何をする気… ぐぼぉ!!」 叫び声を上げるアグリアスの口に、一際形の違う触手が突っ込まれた。 「おごぉ!! おぉ!!」 噛み千切ろうとするが、喉奥まで突っ込まれて上手く顎が動かない。そうこうしている内に、触手は咥内で痙攣して先端からまるで射精するかのようの白い粘液を噴出させた。 「ごぼッ! ぐふッ…」 喉奥に粘液が直撃して、アグリアスは激しく咽せた。そのままだと息が出来ないので、仕方なしに嚥下する。意外なことにその粘液は、飲み込むとするするとアグリアスの喉を滑り落ちて行った。 「ごほッ! 貴様、何をのま、せ… んあっ!!」 言葉の途中で、アグリアスはあられもない嬌声を発した。アグリアスの乳首に近付いた触手が、その繊毛で優しく乳首の頭を撫ぜたのだ。 「何の、つもり… ひゃあん!」 今度はお尻を撫ぜられた。くすぐったいような刺激がアグリアスを貫いて、思わず鼻にかかった声を出してしまう。決して認めたくは無いが、それは心地よい感触だった。 「貴様、もしや媚薬の類を… んんッ!!」 もう一度乳首を撫ぜられてアグリアスは確信した。体中が恐ろしいほどに敏感になっている。今ならば吹く風にすら感じてしまいそうだ。 「や、やめろ! 触るなッ!! …うぁ!!」 クリトリスを軽く弾かれて、アグリアスは軽くイッた。半開きになった口から、唾液がだらだらと落ちる。 「はーッ、はーッ… ヒッ!」 荒く息をつくアグリアスの目の前で、数え切れないほどの触手がうねるように現れた。そのまま触手はアグリアスを囲むと、渦巻くようにじりじりとアグリアスに近付いてきた。 「そ、そんな… 一斉に来られたら…」 一箇所であの快楽なのだ。同時に複数箇所を責められたら、どんな快楽に襲われるかわからない。アグリアスは大の字になった身体を震わせて執行の瞬間を待った。 ところが、触手はアグリアスの身体に触れるか触れないかのところで、ピタッ、と止まると、逆回転に渦巻くように離れていった。 「なん、だ…?」 覚悟が外れて、アグリアスは呆然と呟いた。しかし、次の瞬間にはまた触手が渦を巻いてアグリアスに迫った。 「くッ!」 アグリアスは身を固くしたが、またもや触手はアグリアスの身体に触れずもとの位置へと戻った。 「ふ、ふん…! 焦らしているつもりかッ! だが、残念だな! そんな化物の挑発に乗るほど私は愚かでは、…はぁん!!」 毅然とした表情を取り戻したアグリアスだったが、背面の死角から近付いていた触手に背中全体を撫ぜ回され、またの言葉の途中で嬌声を上げるハメになってしまった。 「馬鹿に、して…ッ!」 アグリアスは悔しげに歯を噛み締めた。触手がまたもアグリアスに接近する。アグリアスはどうせ触れる事は無いとタカを括った。しかし… 「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 触手は止まる事無くアグリアスの身体中に巻きつき、繊毛で肌を擦るように激しく蠢いた。 永遠にも感じる快楽の数瞬後、触手はまたもアグリアスの身体を離れた。 激烈な快楽を突然叩き込まれたアグリアスは、連続する絶頂に全身を震わせて白眼を剥いた。 しゃああああああ… あまりの快楽にアグリアスの身体が弛緩して尿が零れた。その感覚でアグリアスは正気に戻ると、焦点の合わない瞳で触手を見た。 「駄目… 駄目… 駄目… 耐え、られない… こんなの、耐えられるはずが、ない…」 しかし、無常にも触手はまたアグリアスに近付いてきた。イヤイヤとアグリアスは首を振ったが、触手は再びアグリアスの身体中に巻き付くと、同じ様に擦りながら離れた。 「いやあぁぁぁーーーー!!」 限界まで背を弓のように反らしてアグリアスはイッた。股間からは、今度は愛液がぷしゅと音を立てて噴き出した。 「はぁはぁはぁはぁ…」 荒い息をつきながら、しかし、アグリアスは二度目の絶頂である確信を得た。 (大丈夫だ、このまま快楽漬けにされていても、意識は保っていられる… 心をしっかり持て、アグリアス。私はまだ頑張れるッ) 心の呟きと共に、アグリアスの瞳に理性の光が宿った。快楽は確かに凄まじい。だが、それは媚薬によって無理やり引き出されたものだ。心まで犯されたわけではない。 そう、アグリアスは心中に活を入れた。そうして、次の触手の責めを待ったが、触手はなかなか動こうとしなかった。 「どうし、た…?」 いぶかしげに呟くアグリアスの目の前で、ゆらゆらと近付いた1本の触手が、まるでやる気を見せない動きでアグリアスのおなかを、ツン、と突付いた。 「んッ! 何のつもりだ…?」 触手の意図が掴めずアグリアスは呟いた。しかし、触手は不定期に、しかも敏感でない部分を、ツン、と突付くだけだ。 突付かれるだけでも刺激は刺激だ。アグリアスは浮かんではすぐに消えてしまう官能の刺激を、甘んじて享受しなければならなかった。 (まさか、これを続けるつもりなのか…?) アグリアスは、絶望の味を知った。 「はぁぁぁぁぁ… はぁぁぁぁぁぁ…」 深く、長い息をアグリアスは吐き続けた。 軽く1刻は時間が過ぎた。そして、その間中アグリアスは触手に突付かれ続けていた。 「うっ、うっ、うっ…」 刺激と言うにはあまりにも頼りないその感触に、アグリアスは涙を流して耐えていた。 (イカせて欲しい… もっと刺激が欲しい…) それが、偽らざる彼女の本音だった。もちろん、アグリアスは自覚した瞬間から、強い克己心でその本音を抑えつけていた。これは悪魔の誘惑なのだと、きつく唇を噛んで快楽を欲する身体を抑えていた。 そんなアグリアスの心中を知ってから知らずか、それまでずっと突付いていただけの触手が、出し抜けに動きを変えてアグリアスの股間にもぐりこんだ。そして、だらだらと愛液を流し続けるヴァギナを、ちょん、と突付いた。 「…え?」 アグリアスが気の抜けたような声を出した。触手はなおもヴァギナをちょん、ちょん、と突付いている。その様は、まるで挿入を懇願しているかのようだった。 「入りたい、のか?」 アグリアスが呟いた瞬間、まるでその言葉を肯定するかのように触手がヴァギナをちょんちょん、と突付いた。 「嬲りたいのなら、勝手に嬲って蹂躙すれば良いだろう!」 アグリアスは毅然と言い放った。しかし、触手はその言葉に力を失うと、あっさりとヴァギナからその身を引いてしまった。 「あ…」 アグリアスは思わず残念な声を漏らしてしまった。そして、ようやく快楽が与えられると期待していた自分を自覚し、情けなくて死んでしまいたくなった。 触手はまたアグリアスを突っつく作業へと戻った。アグリアスはもはや涙を堪えようともせず、ひたすらにその瞬間を待ち望んでいた。 そして、また1刻ほど時間が過ぎた。アグリアスは既に涙も涸れ果て、小さく「はっ、はっ…」と呼吸するのみだった。 再び、触手が異なる動きをしてアグリアスのヴァギナへと伸びた。窺うように、またちょんちょんとヴァギナをノックすると、アグリアスは完全に脱力した身体をビクリと動かした。 「あ… あ…」 固まった唇が震えて言葉を出す。アグリアスは視線を天上に向けて、涸れた筈の涙を一筋流した。 「すまない…」 唇が震える。 「すまない、ラムザ… 申し訳ありません、オヴェリア様… 許してくれ、みんな…」 悔恨の涙をさめざめと流してアグリアスはぶつぶつと呟くと、濁った光を宿した視線を触手に向けた。 「入れて、くれ… 入れて、動かして、気持ちよくして、くれ…」 言い終えたアグリアスがそっと目を閉じると、待ってましたと言わんばかりに触手がアグリアスのヴァギナを貫いた。 「………………ッ!!」 もはや声にならない。圧倒的な快楽に見も心も支配され、何も考えられなくなる。 責めはヴァギナだけでは留まらなかった。アヌスにも細い触手が侵入して直腸を蹂躙し、口腔にも最初の触手が侵入して、またも粘液を噴出させた。 全身の穴という穴。全ての性感帯を同時に刺激されて、アグリアスの意識はぷっつりと途切れた。 「だーいぶ掛かったわね、さすがは聖騎士殿。良い根性をしているわ」 アルテマがラムザのペニスを手に握ったまま、楽しそうに言った。 既に最初の射精から2刻と少し。その間にラムザは数え切れないほどの射精を繰り返していた。 聖天使の邪悪な守護を受けたラムザの身体は、射精する毎に精気を取り戻し怒張が萎えることは無かったが、それでもラムザの肉体そのものは度重なる射精で疲労困憊していた。 「これでようやくみんな堕ちてもらえた。あとは兄さんだけよ」 アルテマは妖艶に微笑むと、いよいよとばかりに天を向くラムザのペニスに跨り、ヴァギナと軽く触れ合わせた。 「兄さん、私の処女を捧げます。兄さんを堕とすのは時間がかかりそうだから、それはゆっくりやる事とするわね。今は、妹の処女を心ゆくまで楽しんで…」 「アル、マ… よせ…」 ラムザがようやくそれだけ絞り出すと、アルテマはニヤリと笑って腰をゆっくりと降ろした。濡れてもいない処女穴に、ラムザの怒張がメリメリと音を立てて沈んでいく。 途中、引っかかるような感触に一息つくと、アルテマは淫靡な笑みで「はい、どうぞ」と呟くと、一気にラムザの怒張を根元まで飲み込んだ。 「ウァァァ!!」 結合部から破瓜の血液が流れると共に、ラムザはアルテマの体奥で精液を噴出させた。 「あは! 兄さんったらもう出してる! 良いわよ、どんどん出して!」 アルテマは狭い膣道を縦横無尽に蠢かせて、大きくグラインドする様に腰を振った。再び、ラムザの怒張が精を吐き出す。 (アルマ、アルマ…) 薄れいく意識の中で、ラムザは愛する妹の名を叫び続けた。そして、自分の上で狂乱して腰を振る異形がその妹なのだと理解すると、ラムザの意識は絶望の中に深く沈んで行った…
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/112.html
アグリアスとエルヴェシウスは東の空が白み始めた未明のウォージリスを歩いていた。 ムスタディオ達には先に帰らせ、山賊達に襲われた商人夫婦と使用人の亡骸に鳥車の積荷、そして生き残った娘を、商人が取引しようとしていた相手に送り届けてきたのだ。 相手の商人はこの面倒事を、それも火急の事とはいえ深夜に訪ねたにも関わらず、いやな顔一つせず応対し、適切な処置を行うことを約束してくれた。 アグリアスは迷惑料にいくらか包んだが、それも丁重に断られたのだった。 「中々の人物でしたね。あの方なら悪いようにはしないでしょう。一先ず安心しました」 「そうだな。商人ギルドも責任持って対処するといって居るしまず大丈夫だろう」 アグリアスとエルヴェシウスはウォージリスの商人の義侠心に感服していた。 「しかし、驚きました。まさか先生にこうして再び出会えるとは」 アグリアスは未だ興奮冷めやらぬ様子で横を歩くエルヴェシウスを見ながら言う。その言葉にエルヴェシウスは前を見たままニヤリと笑うと、 「未熟者」 と、言った。 「な、どうしてです!?」 意外な言葉にアグリアスは少し鼻白んでしまった。 エルヴェシウスは目だけで動かしてアグリアスを見、再び前を見て言う。 「未熟ゆえ未熟よ。お前も剣を志す者であるなら腹に『虫』を飼っておけ」 (『虫』?) そう言われてアグリアスはちょっと考え込み、己の腹に虫が居るのを想像し、ゾッとしてしまった。 エルヴェシウスはアグリアスの顔が青白くなったのを目の端で見て、 「はっはっはっは!」 と哄笑した。 「腹に『虫』を飼えと言うのは何も真に腹で虫を飼うわけではないぞ。腹に『虫』を飼うとは即ち、第六感を養うことだ。剣を志す者は何時いかなる時も油断は出来ん。しかし四六時中気を張っていては、如何な猛者とはいえ精神が擦り切れてしまう。然るに一流の剣人は腹に『虫』を飼い、気を張ることも無く事前に己の危機を知る。そうして敵を迎え撃つ心構えをするのだ」 エルヴェシウスは其処まで言ってアグリアスの顔を見る。 昔はこういった神秘的ともいえる事象にはあまり興味を見せなかった彼女であったが、今は真剣に聞き入っているようだった。 (変わったな) 彼女の師としてエルヴェシウスは弟子の成長を喜ばしく思いながら、言葉を紡ぐ。 「更に達人ともなれば己の危機だけではない。天地の異変すら予見し、千里先の人の死すらも見通す。また危機だけではない。そう言った者にとって、知己との再会を予見するなど朝飯前も同然よ」 師の言葉をアグリアスはしばらくの間、心中で咀嚼し、ゆっくりと悟った。 ああ、なるほど、剣を志すとはただ剣を振うだけのものではなく、剣を振う身を支配する精神をも鍛えるものなのだな、と。 「先生は分かっていたのですね?今夜私と出会うことを」 アグリアスは半ば答えを確信しながら目を輝かせて言う。 「儂か?」 弟子の期待の目を受けて、師は哄笑して言った。 「まさか!お前に会って心底驚いたものよ!はっはっはっは!」 アグリアスはポカンと口をあけて呆然とし、からかわれた事を悟ると顔を紅潮させ、しかしすぐに平静に戻り苦笑する。 そうだ、昔からこういう人だったのだ、と。 「儂もお前もまだまだ未熟、そういうことよ。はっはっはっは」 あきれる弟子を見てエルヴェシウスは更に笑い続けた。その快活な笑いはウォージリスの住民の安眠を妨げたが、そんなことに気を使うような男ではない。 夜明け前のウォージリスはしばし豪放な笑い声に包まれたのであった。 「そういえば初めてお前に出会ったのも、今日のような日であったな」 エルヴェシウスは白んできた空を見上げ、少し過去を懐かしむような目で言った。 「ああ、そうでした。懐かしいですね」 師の言葉に、アグリアスもまた過去に思いを馳せた。 「もう十年にもなるか・・・。光陰矢の如しとはよく言ったものだ」 この豪傑にも似合わぬしみじみとした口調に、アグリアスはちょっと笑った。 「あの時も先生は賊相手に剣を振っていましたね」 「ああ、そうであったな。あれはどこであったかな・・・」 二人はしばし過ぎ去った日々を思い巡らせた。 その日はひどく寒い日だった。 人々の心を映したかのように空には暗雲が立ち込め、日の光の差し込む余地はほとんど無い。 道を行く人は多くはあるが、皆一様に生気が薄く、全体に活気が無い。 五十年戦争の膠着による内政の悪化著しい当時、どこの街でも同じような景色が見られ、それは王都ルザリアといえど例外ではなかった。 騎士達の多くが戦争に赴き、敵の屍を築く最中に、イヴァリースは内政の悪化に拍車が掛かり治安は大いに乱れていた。 各地で農民一揆や反乱が相次ぎ、その合間を盗賊が蔓延る、そのような状況だったのだ。 アグリアス・オークス、当時十三歳の彼女は、二年前に父親を戦場に取られた騎士の子供の一人だった。 家族や使用人は表向きこそ気丈に振舞っていたが、内心では決して当主の戦場行きに賛成していたわけではない。 オークス卿は優秀な軍人であったが生来肺を病んでおり、それ故に本国にて策を練るのがそれまでの常であった。 しかし戦況の泥沼化に伴い指揮官が不足し、病弱な者といえど優秀であればと乞われ、やむなくオークス卿は戦場に赴いた。 五ヶ月の後、オークス卿は死んだ。 戦場の汚れた空気が原因である。 家族、使用人は深く悲しみ、オークス家は沈んだ空気を纏った。しかし、幼いアグリアスは家を覆う空気を撥ね退けるように一芸に勤しんだ。 それが剣である。 父の訃報を聞き、幼いながら彼女は父の死を悲しむと同時に決意をしたのだ。 自分が守ると、父の代わりに自分が家族を守ると。 幼い胸に固い決意を誓ったのだった。 アグリアスは、父が体の調子が良い時に教わった僅かばかりの指南を頼りに、研鑽を積んた。それは幼い身には過酷に過ぎる物で、効率も悪く、また努力の割には内容に欠けるものであり、二年余りこれを続けた彼女はようやく、未熟ながら、今のままではダメだと感じていたのだった。 アグリアスは気分を変える為に、相変わらず寂れた王都ルザリアの街を歩きながら、如何にすれば良いかを考えていた。 強くなりたい。 アグリアスの心中を常に占めるのはそれであった。 と。 突然、南の方でわっ、という歓声が聞こえてき、アグリアスはぎょっとした。 もうここ数年余り活気も何も無いこの王都では、盗賊がやってきた程度では騒ぐものもいないという、実に病んだ状態であった。誰もが自分のことに手一杯で、隣の家が襲われたら自分達はその隙に金目の物を持って逃げる、それが当然の淀んだ世界である。 それが今突然、歓喜に満ちた大歓声が巻き起こっていたのだ。 この街の状態を知るものなら誰しも驚く。 実際アグリアスの周囲の人間も、何事かと声のほうを睨んでいる。彼らには向かってみるほどの気力も無い様であったが、アグリアスは違う。 未だ折れてはいない強い心と、子供の好奇心が故に、彼女は歓声の上がった南へと走った。 まず飛び込んできたのは、日が無いにも拘らず白く輝く長刀。 そして地面に広がる血の赤。 情緒も何もあったものではない下品な格好をした、おそらく盗賊が六人、その上に真っ赤に染まって倒れ伏している。 それを成したであろう長刀を手に下げ、黒皮のコートを身に纏い、妙な帽子、編み笠を被るその男は、しかし返り血一つ浴びず、残る八人に囲まれながら、悠然として対峙しているのである。 未だ人数で勝り、相手を囲んでいるにも拘らず、むしろ盗賊たちの方が追い詰められた顔をしている。 格が違う。 それは多少なりとも剣を嗜むアグリアスならずとも、その場にいる誰もが理解していた。 エルヴェシウス、それがこの男の名前である。 「どうした?」 渋い、良く通る声でエルヴェシウスは言った。その声には相手を挑発する明るさこそあれ、恐怖に怯える色は無い。 盗賊たちは互いに顔を見合わせながら、エルヴェシウスを怯えた目で睨む。 彼らを遠巻きに眺める人々は、治安隊すら駆けつけぬ街に現れたこの剣士に、日頃の鬱憤を晴らしてくれといわんばかりに、身を乗り出して見入っている。 「来ないのか?」 エルヴェシウスは体を捻って背後に向かって言う。編み笠に隠れて見えないが、間違いなくその顔は不敵に笑っている。 盗賊は挑発され顔に怒りを滲ませながらも踏み込むことが出来ずにいた。 エルヴェシウスは正面に向き直り、一つ深呼吸をすると、 「来ぬか!」 右足で地面をドン、と踏み鳴らして大喝した。 その一喝で均衡は破られた。 まず向かって行ったのは正面の男、奇声を上げながらの満身の力を込めた袈裟斬りがエルヴェシウスを襲う。 しかし彼は既に其処にはいない。 正面の男が踏み出した瞬間、エルヴェシウスは左足を大きく引いてクルリと反転すると、背後の男に踊りかかったのだ。 突然襲い掛かられた背後の男は成すすべなく彼に頸根を割られ、そしてその刃の勢いを殺さずにさらに反転に利用し、先ほど斬り掛かり剣で地面を叩いた正面の男の無防備な頚動脈を切断する。 更に一人目を殺した時点で斬りかかって来た、その両隣に立つ二人のうち、右側の男の腹を剣を掬い上げるようにして斬り上げ、その屍を片手で掴み、背後から襲う形になった左側の男の正面に投げつける。男は仲間に止めを刺すことになり、その間にもうエルヴェシウスはその切っ先の届く場所には居なくなっている。 気が付けば彼の背後まで接近していた男が彼に斬り掛かったが、エルヴェシウスは体を回転させて袈裟懸けに両断、バネ仕掛けの玩具の如く右前方に跳躍し、其方から袈裟懸けに斬り掛かって来ていた男の刃を、身を深く踏み込み頭上でやり過ごすと、逆薙ぎに男の腹を斬り裂いた。 その背後から体当たりの如くに突進してきた男の突きを、剣の鍔で受け止めると、刃を剣の上に滑らせるようにして踏み込み、男がはっと剣を引いた瞬間にその鉾先で正確に心臓を貫く。 先ほど仲間に止めを刺してしまった男が彼の右側から襲い掛かるも、右足を開いて更に踏み込み、屍から抜いた勢いそのままに剣を掴む両手首を斬り飛ばし、絶叫する男を尻目に一人取り残された八人目に踊りかかって真っ向唐竹割に両断したのである。 恐るべき早業。 全ての動作に無駄なく、八人全てを一連の流れで仕留めたそれは、当に剣舞というに相応しかった。 そしてアグリアスにとっては驚愕のことでもあったのだ。 ああ、真の剣技とは斯くも美しいものか、と。 手首を斬り飛ばされた男が倒れるまでに、そう時間は掛からなかった。 エルヴェシウスが懐から懐紙を取り出し、剣を拭って刀を鞘に納めると、観衆からわっ、と歓声が沸き、エルヴェシウスを取り囲む。 その中でアグリアスは一人、遠くからエルヴェシウスに見入っていた。 民衆に取り囲まれたエルヴェシウスは、彼らには特に反応を見せず、そのまま彼らを引き連れ歩き出す。 アグリアスの方へと。 意外な事にアグリアスはちょっと驚き、もしかして自分を? という考えが一瞬頭をよぎったが、まさか、と打ち消して改めてエルヴェシウスを見る。 ところがどう見ても彼女の方へ向かってきているとしか思えない。彼女のいる場所は垣根の中央であり、後ろに道があるわけではないのだ。 やがてエルヴェシウスは取り巻く人々を掻き分け、アグリアスの目の前に現れた。 突然のことに彼女は呆然として、彼を見上げた。 存外背が高いせいで下から見上げる形のアグリアスには、編み笠の下から彼の顔を見ることが出来た。 深い色の黒い瞳、全てを見通すようなその目にアグリアスは目が離せなくなった。 「儂に何か用か?」 エルヴェシウスは周囲の取り巻きが奏でる雑音を貫くような、腹に響く低い声で言った。表情は変わらなかったが、その声音は優しく、目は微笑んでいた。 だからアグリアスは言えたのだ。 「私に、剣を教えてください!!」 と。 「そうであった、そうであった。お前はあの後、強引に儂の手を引いて家まで連れて行ったのだったな。あの度胸には流石の儂も驚いたぞ」 エルヴェシウスは言いながら、カンラカンラと笑った。 「あの時は必死だったのです! 周りに人が大勢いたし、私自身切羽詰っていましたし。大体、先生が急に私の元に来たのが悪いんです! あの状況では誰でも動揺します!」 アグリアスの怒声をエルヴェシウスは相変わらずカンラカンラと笑った。 放浪者であったエルヴェシウスがアグリアスに連れられ、オークス家の屋敷へ行ってみると、治安が悪かったその当時、男手が居ないのは無用心であったために話はとんとん拍子に進み、エルヴェシウスはオークス家に客分として逗留し、アグリアスに剣を教えることになった。 独学で学んだアグリアスの剣は、最初のうちこそ酷いものであったが、筋自体は良かった為、エルヴェシウスとしても教える楽しみがあった。 彼との修行はアグリアスが王立士官アカデミーを卒業するまでの五年に渡って行われた。そして、アグリアスのアカデミー卒業の日、エルヴェシウスは放浪の旅に戻る旨を伝え、オークス家を後にしたのだった。 「世話になったな、アグリアス」 「本当に行かれるのですか、先生」 黄昏の王都ルザリアの西門、仕官服に身を包んだアグリアスは旅支度を整えたエルヴェシウスを見送りに来たが、しかし、それでも引き止めずには居られなかった。 「先生、どうか御再考を。先生にはまだまだ教えていただきたいことが山ほどあるのです」 アグリアスは頭を垂れて懇願する。 「確かに、お前はまだまだ未熟だな」 エルヴェシウスはいつものように不敵な笑みを浮かべ、憎まれ口を叩く。 「だがな、儂も少々長く居すぎた。あの屋敷は儂には居心地が良すぎる。戦場もそうだが、平穏も儂には似合わぬ。放浪の身こそ儂に相応しい」 固い意志を見せる師の言葉に、弟子は最早何も言うことが出来なかった。 ただ泣き顔を見せぬよう、歯を食いしばって耐えるのが精一杯であった。 「案ずるな。いずれ再び合間見えることもあろう。それまで息災でな」 エルヴェシウスはすっかり背の大きくなったアグリアスの頭に手を伸ばし、くしゃくしゃと撫でると、手に持った編み笠を被り、顎紐を結ぶ。 アグリアスは黙ってその様子を見ていた。その目には涙が薄っすら浮かんでいる。 エルヴェシウスは編み笠を手で持ち上げ、アグリアスに笑顔を見せると、 「また会おうぞ。我が愛弟子よ」 そう言って歩き始めた。 アグリアスは夕焼けに消えて行く師の背中が見えなくなるまで、ずっと黙礼をしていたのだった。 「あの時、本当は泣いていたんですよ。まったく酷い師匠です」 「はっはっはっは、それは悪かったな。だが言った通りであったろう?」 エルヴェシウスの言葉にアグリアスはフッと笑う。 「そうですね。こうしてまた会えました。今はそれだけで満足です」 アグリアスはエルヴェシウスの隣を歩きながら安らぎを感じていた。 隊の仲間とはまた違う、自分を守ってくれる絶対的な安心。 それは父親を亡くした後、自分が家を守るのだと背伸びをしていた時期に、突然現れた頼れる師であり、同時に父親代わりであったからだろう。 「しかし先生は今まで一体何処にいらしたのですか?」 「なに、いろいろよ。今日のお前達のように賊狩りや用心棒を生業にしてな」 「なるほど。先生なら仕事には困らなかったでしょうね。しかし先生はどちらかに味方はなされなかったのですか?前にどちらかの騎士団に所属していたのでしょう?」 「はっはっは。昔も言っただろう。儂には戦争は性に合わんのだ」 エルヴェシウスはそれだけ言うと、一寸黙り込む。 「先生?」 アグリアスが心配して彼の顔を覗き見ると、 「そう言えば風の噂では異端者と行動を共にしているそうだな?頑固で生真面目な人間だと思ったが儂の見込み違いであったかな?」 そんな今更のことを尋ねた。 「私が彼と行動を共にしているのは己の正義ゆえです」 「ほほう、悪に味方するのが正義か?」 「違います!彼は悪などではない!悪は別に居る!その存在と戦うが故に彼は異端者の烙印押されているのです!だから私は己の信念に従い彼と行動を共にしているのです!」 アグリアスは知らず声を荒げていた。 自分でもこれほどの義憤を抱えているとはと彼女自身驚いていた。 「では異端者の仲間と呼ばれる覚悟はあるのだな?それが身内を犠牲にするとしても」 エルヴェシウスはアグリアスの目を真っ直ぐ見て聞く。 「覚悟はとうに出来ています。墓前で父上と母上に謝る覚悟も」 アグリアスは表情を固くし、しかし決して目を逸らさず答えた。 「それを聞いて安心した」 エルヴェシウスはフッと、満足げに微笑んだ。 「お前に覚悟が出来ているのならそれでよい。私は最早何も聞かん。己の信じる道を行くがいいさ」 アグリアスは彼の言葉に一寸呆然としたが、すぐに彼の意図が分かって嬉しくなった。彼は自分を心配し、そして自分の決意がどれ程かを知りたかったのだ。 そして自分の決意が固いことを知り、認めてくれた。 それがアグリアスには嬉しかった。 彼は自分のことを自分以上に知っている、そんな気さえした。 しかし、実を言えばアグリアスのほうは、エルヴェシウスのことをほとんど知らない。エルヴェシウスはその口から出す言葉こそ多いが、自分を語ることはほとんど無い。修行時代も幾度と無く彼の過去を尋ねたが、いつものらりくらりと避けられたもので、アグリアスが知っていることなどほとんど皆無である。 他者を受け入れながら決して入り込ませない、高い壁を心中に持っているのだろう。 彼が何故放浪をするのか、その理由をアグリアスは知りたいと思う。しかし、彼は決して答えることは無いだろう。 アグリアスはそれだけは確信できた。 それが一抹の寂しさでもあった。 「あそこか?」 「ええ、そうです。あの宿です。少し遅くなってしまいましたね。皆が心配していなければいいのですが」 「それは心配しているだろう。お前のような頼りない奴が遅くまで帰ってこなければな」 エルヴェシウスは相変わらず憎まれ口を叩く。 全く変わってないな、とアグリアスは思う。 「何時までも子供扱いしないで下さい。私は隊内では副隊長を任される身です」 アグリアスは頬を膨らまして拗ねてみせる。エルヴェシウスの前だからこそ見せる表情だ。 「それは失礼」 知ってか知らずか、エルヴェシウスは可笑しそうに笑った。 「ご無事で何よりです、アグリアスさん」 宿に入った二人を最初に出迎えたのは、ロビーのソファーに座っていた、少女のような顔立ちの、栗毛色の髪に一房だけ飛び出した触角を持つ少年であった。 「遅くなってすまないな、ラムザ。心配を掛けさせてしまったな」 アグリアスが頭を下げると、ラムザと呼ばれた少年は手を振って、 「いえいえ、アグリアスさんの事は皆信頼してますよ」 と、笑顔で返した。 「そのように言って貰えると助かる」 アグリアスが慇懃に言うと、 (儂とは随分態度が違うものだな) エルヴェシウスが小声でアグリアスに言う。 言われたアグリアスはちょっと顔を紅潮させぐっと歯を食いしばった。 アグリアスの後ろで意地悪げにニヤニヤしているエルヴェシウスに気付いたラムザは、其方に向き直り頭を下げる。 「仲間からお話は聞かせて頂きました。この度はご協力、本当にありがとうございました」 エルヴェシウスはラムザの挨拶に微笑みで応じる。 「おお、これはこれは。どうもご丁寧に、可愛らしいお嬢さん」 「え?」 ラムザの顔が一瞬固まる。アグリアスもまた慌てた色を顔に浮かべた。 エルヴェシウスは二人の様子に気付かぬまま言葉を続ける。 「儂はバダム・エルヴェシウスと申す者。いや驚いた。まさか貴方のような可憐な方まで・・・」 「せ、先生。違います、彼は男、それも我々の隊長です」 ようやくアグリアスはエルヴェシウスに間違いを指摘した。 「な、に・・・」 今度はエルヴェシウスが言葉を失う番であった。まさか、といわんばかりの顔である。このように驚いた師の顔をアグリアスは初めて見たものである。 「ラムザ・ベオルブです。アグリアスさん達を率いさせて頂いています」 ラムザが苦笑しながら改めて自己紹介した。 エルヴェシウスは心底驚いたような顔で、音に聞く異端者の顔をまじまじと見つめる。 「すまんラムザ! 師の非礼、深く詫びる!」 「いえいえ。たまに間違われますから、気にしませんよ。エルヴェシウスさんもどうか気になさらず」 アグリアスの謝罪をラムザは困った顔で受けて言う。 が。 「たわけ!!」 収まらなかったのは以外にもエルヴェシウス。突如大喝すると同時にラムザの胸倉をむんずと掴む。あまりに予想外の出来事にラムザは為すすべなく捕まってしまった。 「一軍の長たる者がそのような軟弱な容姿でどうする! 将は隊の鑑! 貴様が舐められ れば其れ即ち、隊全体が舐められる事になるのだぞ! まして女子のような容姿と言われ 慣れておるだと! ええい小僧! 儂が鍛え直してくれるわ!」 そう言うとラムザを背中に担ぐようにして歩き始めたのである。 「えええええ!」 「せ、先生!?」 「問答無用!!」 訳が分からぬラムザ。 慌てるアグリアス。 そしてラムザを担いでのしのしと外へ出てゆくエルヴェシウス。 「ちょっと先生! センセー!!」 「アグリアスさーん!! 助けてー!!」 「馬鹿者! 女に助けを求めるなど男児として有るまじきこと! 恥を知れい!!」 「ラムザー!!」 ウォージリスの宿は騒がしいうちに朝を迎えるのであった。 余談であるが階段の影からこっそり覗いていた連中が居た。 「ご、豪快なおっさんだな。ラムザ、連れてかれちゃったぜ・・・」 古参の一人、ラッドは驚きを目の前で起こった出来事に驚きを隠せないでいた。 「あのアグ姐が手も足も出んとは・・・恐ろしい人物を招き入れてしまったな・・・」 それを受けるラムザの悪友ムスタディオは、新たな豪傑の登場に打ち震えていた。 「ちょっと!あのおっさん、ラムザをどうする気よ!恋敵とは聞いてたけど、ラムザに害を与えるなんて聞いてないわよ!」 二人とは論点を異とし、金切り声を上げているのが最年少でラムザを慕う少女、ラファである。 「おろおろするアグ姐もいいな・・・」 そう言うのは最古参ではあるが、どうも変態気質著しいローゼンクランツ。 「・・・なかなか渋い小父様ね」 「おいおいレーゼ。君はまさかあの人に気があるのかい?」 「まさか~。あの小父様も渋いけど、私には貴方の方が百倍素敵よ♪」 「おお、愛してるよレーゼ(はあと)」 「ベイオウーフ・・・(はあと)」 「他所でやれバカップル」 バカップルぶりを見せ付けるベイオウーフとレーゼ。 それを一刀両断したのは同じく最古参にして、堅物の名をほしいままにする、ギルデンスターンである。 「まあ、あの様子じゃ三角関係も何もあったもんじゃなさそうだな。退屈はしそうもないけど」 そう言うのは万年二軍でそろそろ負け犬気質が染み付いてきたラファの兄、マラーク。 「いやいや~、まだまだわかりませんよ~。乙女心はフ・ク・ザ・ツ。きゃ~!!」 最近天然に拍車の掛かって来たアリシアが一人盛り上がる。 「言い方はともかく、その通りよ。この先全く目が離せません」 冷静にそう返しながら誰よりも熱心に見ているのが密かにアグリアスに思いを寄せる隠れレズ、ラヴィアンである。 「何やってんのかしら、あの連中」 隊内切っての良識派で、それ故に気苦労の耐えぬメリアドールは額を手で押さえ、ため息一つ吐いて珍客の暴走を止めるべく外に向かったのだった。 閑話休題。 その3へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/61.html
アグリアスが今まさに牙を突き立てようとした刹那――― 後頭部にガラス瓶のようなものが直撃した。 それは衝撃で粉砕し、中身がアグリアスの全身にぶちまけられた。 「あ゛あ゛……!!?」 至福の瞬間を滅茶苦茶にされ、怒りが瞬間的に頂点に達した アグリアスは後ろを見やる。 見れば、 「やったー命中命中!」 などと声を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねているルナと、 明らかに今しがた、ガラス瓶のようなものをアグリアスに向けて投げつけたと 思われるオルランドゥが、投擲ポーズを保ったままそこに居た。 怒り心頭のアグリアスは、メリアドールから奪った剣を片手に 二人にずかずかと歩み寄り、 「貴様ら生きてここから帰れると…お、もう…な……よ……?」 と言い残し、二人に剣が届く前にぱたりと倒れた。 アグリアスの全身からもくもくと黒い煙のようなものが立ち上り、 それと同時に、アグリアスの病的に白かった肌は少しずつ人間のそれに 戻っていった。 動かなくなったアグリアスの体をくつのつま先でツンツンと小突き、 安全を確認したルナは簡単な触診をする。 脈拍、呼吸、共に正常。肌はまだ白く、体温も低いがこれらも回復しつつある。 彼女は吸血鬼から人間へと生還を果たしたのだ。 「やれやれ…危機一髪だったな」 慣れない投擲で腰を少々痛めたオルランドゥは、腰の痛みをほぐしながら ぽかんとした顔で座り込んでいるラムザに声を掛けた。 「あの…アグリアスさんは元に戻れたんですか…?」 「ああ。ルナ君が治療方法を見つけたのでな。 急いで帰ってくればこの有様だ。参ったよ」 周囲を見渡せば、死屍累々といったふぜいの気絶者の群れ。 百戦錬磨のオルランドゥが参ってしまうのも分かる気がするし、 自分も実際もう駄目だと思った。 「吸血鬼化は想定の範囲内でしたが、 ここまで怪物じみた力を身につけるとは予想外でしたね。 鉄鎖による拘束も意味がありませんでした。 失敗失敗。私のおばかさん」 こつんと自ら頭を叩くルナをオルランドゥと二人、無言で見つめた後、 ラムザはルナに事の真相を尋ねた。 「あのガラスの瓶のようなものは何だったんですか? 中に液体みたいなものが入っていましたが… どうして遠くから投げつける必要が?」 「順を追って説明しますと、まず液体の容器は ガラス瓶ではありません。メスフラスコという試薬調製に 使う実験器具です。手で掴める棒状の部分が長いので、 投擲に適していると判断し、採択しました。 中身の液体を保持したまま投げられるのなら、 それこそガラス瓶でも酒瓶でも何でもいいのですが、 あまりガラスの厚い容器だと、頭に激突した瞬間、アグリアスさんの 頭蓋骨の方がカチ割れる危険が大きかったので」 「その実験器具…メスフラスコといったか? いかにもガラスが薄そうで、割れやすそうだったよ」 「なるほど。投げやすく、割れやすいガラス器具を 使ったのですか…。遠くからメスフラスコを投げつけた理由は?」 「近寄るのは危険と私が判断したからです。 吸血鬼が、吸血以外にも何らかの攻撃手段を持っていないとも限らない。 加えてあの異常な身体能力。正攻法は愚の骨頂です。 オルランドゥさんがいかにお強いといっても、年が年ですしね」 ぴく、とオルランドゥの顔が引きつるのを見て取り、ラムザはいたたまれない気持ちになった。 「本人に気づかれないように、後ろからそっと投げつけるのがベストだと判断しました」 「正しかったと思います。吸血鬼になったアグリアスさんの力は異常でした。 本来ならば僕達全員が皆殺しになってもおかしくなかったほどです」 ん、んんっ!オルランドゥの声にならない心の叫びが、咳払いとしてこだました。 「…オルランドゥさんならば対等に戦えたと思いますよ。多分…」 とってつけたようなラムザのフォローは、より一層孤高の剣聖の心をむなしくした。 「で、メスフラスコの中身は? ものすごい効能を備えた、秘伝の薬だったりするわけですか?」 「いえ。ただの聖水です。どこにでも売っている、一本2000ギルの」 「はあ…?」 「血を吸われた人間が同様に吸血鬼になり、吸血を繰り返すことで 仲間を増やしていく。医学会でも魔術学界でも報告されたことの無い、 未知の症例です。それだけ吸血鬼と呼ばれる存在の絶対数が少ないのでしょう。 あらゆる種類の魔術書と古文書をひっくりかえし、 似たような症例と治療方法を数人がかりで調べ続けました。 しかし見つけられませんでした。手詰まりになった私は、 それまで考えまい、考えまいとしていた最悪の場合を 考慮せざるを得なくなりました。 悪魔憑きの治療にとっての基本中の基本、無学なガキでも 知っている、伝統的で最もメジャーな手段…。 神の祝福を受け、心霊的に清められた水、聖水による 悪魔祓いです。それも、聖水を頭からただぶっかけるだけという そこらのおじさんおばさんでもできるような原始的治療方法です。 他に類を見ない、ユニーク極まりない吸血鬼化という 疾病の治療方法が、そんな下らない聖水治療などで あるわけがない。いや、あってはならない!と頑なに治療上の有効性を否定していたのですが、 私の元々の知識と大図書館で新たに得た情報から組み立てた、 聖水による治療も含めた、効果が“ありそうな”治療法約50種類を アグリアスさんの診察結果と照らし合わせて消去法で削っていくと、 最後に残るのが聖水治療による一択という悲しい結果にたどり着きました。 現実って無情ですよね」 ふぅとため息をつき、一人たそがれるルナに、二人は完全においてけぼり にされていた。若く、新鮮な脳みそをもつラムザはともかくとして、 オルランドゥに至っては数学の教科書を手渡された原始人のような顔をしている。 「まあそんなこんなで泣く泣く聖水治療に目星をつけた私は、 街の道具屋さんで聖水を購入し、オルランドゥさんの協力の元、 強引に隊長の唇を奪い、吸血鬼よりも劣等な淫魔に成り下がった アグリアスさんをめでたく治療することができたのでした」 ルナって…いつか口の悪さが禍して誰かに刺されるんじゃないか? そんなことを漠然と思いつつ、はしゃいだ様子のルナを二人はただ 黙って見守るしかない。この常軌を逸した、狂気の天才少女を。 「吸血による感染だけでも驚きなのに、その上身体能力の増強? 単純な呪術的疾患って仮説は誤りだった?だってそうよね。 物理的影響が肉体に表れているんだから…。 代謝経路の加速化?筋肉と骨格の再構築?転生の一種って線も…。 レーゼさんから聞いた、怪我を瞬間的に回復させるってのは どういう理屈?代謝が超加速しているとしか考えられないけど、 そもそもそんなこと、外界からの栄養が継続して投与されなければ 成り立たないし…もしかして…新しいエネルギー獲得メカニズムの 発現が原因?より低コストでよりハイなパフォーマンスを生み出す エネルギー機関が吸血鬼には備わっている? ああ~~っ!!聖水で人間に戻しちゃう前に腕の一本でも サンプルとして採取しておくべきだったわ!オルランドゥさんに頼んで! 人間に戻っちゃったら後の祭りじゃない!!」 ぶつぶつと訳の分からないことを呟き続けるルナをよそに、 ラムザとオルランドゥはアグリアス、そしてアグリアスによって生み出された 怪我人の介抱に向かった。 幸いにして、死人は0、重傷者もおらず、誰もが一晩二晩寝ていれば すっかり良くなるような軽傷者がほとんどだった。 吸血鬼になってもアグリアスはアグリアスだった。意識の根底では 仲間を気遣い、怪我も必要最低限に留めてくれたらしい。 散々アグリアスに痛めつけられたレーゼも元々が丈夫なため、 足首の捻挫以外は軽度の打撲が少々というから恐ろしい。 だが…本当の問題は目の前に横たわる怪我人たちではない。 真に頭が痛い問題は、すやすやと眠っているアグリアスの心に関するものだ。 思い出してみよう!アグリアスがたった一晩で生み出した、数々の致命的落ち度を…。 メリアドール、レーゼといった彼女の友人を始め、隊員のほぼ全員を 殴り倒してしまった。 力を込めすぎたせいで、メリアドールの宝物の騎士剣は刃がボロボロに。 (この時ラムザが所持していた貴重な騎士剣も同時に破壊された) 今まで隠していた、ラムザへの恋愛感情を自分から隊員のほぼ 全員に暴露した。 ラムザ本人に対し、聞いてるこちらが恥ずかしくなるような愛の告白を延々と…。 ラムザと強引にキスをする。 己の欲望のままにラムザを吸血鬼化させようとした。 全隊員(ルナは除く)から尊敬されている、雷神シドを貴様呼ばわり。 やられ方は、背後からルナ(15歳)の指示で聖水入りメスフラスコを 後頭部にぶつけられての気絶。 ……。 …………。 ………………。 酷い。酷すぎる。 ――もしも仮にラムザがアグリアスの立場だとして、事件後これら全てを鮮明に 覚えていたとして……果たしてその時自分は何を思うだろうか。 死にたい…というよりも、自分がこの世に生を受けたことを 神に取り消してもらいたくなるだろう。 ラムザなんて人間は、始めからこの世界には存在しなかったことにしてもらいたい。 ましてやあの気位の高いアグリアスが、全てを覚えていたとしたら… どうなってしまうのかは想像に難くない。 自殺…精神崩壊…廃人化…剣士引退…除隊…発狂… うつ病…引きこもり…ルナへの安楽死の相談…。 そのどれもが普通に有り得ることだった。 もちろん何もかもを忘れているという可能性も捨てきれないが、 それではただの神頼み。全てを覚えていて破滅に向かう可能性の方が 圧倒的に大きい。 ラムザは悩みぬいた末、最後の手段をとることを決断した。 震える足で向かう。銀髪の悪魔の根城へ…ルナ診察所へ。 「アグリアスさんの記憶を消してあげたい?本気ですか?」 「はい…。ルナならば可能だと思い…お願いに来たんです」 「そんなとんでもないことをしでかしたんですか彼女は? キスだけに止まらず、隊長を逆強姦でもしたんですか?」 「………」 ラムザはただうつむいてため息を漏らす。 これが本当に15歳の少女の発言だろうか? 今回の事件の鮮やかな解決といい、医者としての手腕は ずば抜けていることは確かではあるが…噂以上にこのルナは 人間として壊れているらしい。 「そんなことはやっていません。 …まあ…彼女はあの夜に色々な意味で“やってしまった”感が あるので…。アグリアスさんの性格から考えて、もしもあれらを 覚えていたら迷わず死を選ぶでしょう。そうでなくても、 心に大きな傷を残すことは確実です」 「具体的にどんなことをしでかしたのか教えてもらわないことには 記憶を消す・消さないの決定は下せませんねぇ。素人判断が一番危険です。 アグリアスさんは実際何をどうしたんですか?詳しく教えてくださいよ」 口調は真面目を装っているが、ルナの目は完全に笑っている。 それがルナの娯楽のためだと知りつつも、ラムザは言われたとおりに 詳細を伝えるしかなかった。 床をバンバンと叩きながらひとしきり爆笑したあと、ルナは 目じりの涙をぬぐってようやく平静に戻った。 「いや~久しぶりに笑わせてもらいましたよ。 確かにそれは死にたくもなるでしょう。私が彼女の立場だったら そんな自分の痴態を目撃した人間達全員を神経ガスか何かで まとめて葬った後、安楽死するに違いないと思います」 「………」 「隊長の、アグリアスさんの昨晩の記憶をそっくり消すという配慮も 分からないではありません。 しかし…世界の運命を背負ったラムザ隊の隊長が直々に 記録の改ざんと、個人隊員の意思を無視した裏取引の依頼ですか。 医療業界も政治界も宗教界隈もラムザ隊も、どこもやってることは かわりませんね」 あどけない笑顔で毒を吐くルナに、ラムザは返す言葉も無い。 「いいですよ。記憶の後始末は薬物療法とルナ式スペシャル催眠療法で どうにでもできます。明日には吸血鬼になったことなどすっかり忘れて 普段どおりに振舞うアグリアスさんに会えますよ」 「そ、そうですか…!良かったぁ…」 「無論ただでは請け負いませんけどね!」 「ええっ!?」 「今回の事件…責任の所在は、大本をたどれば 全ての采配を振るっていた隊長、あなたにあると考えるのが常識的です。 末端の者が引き起こした事件の責任をとって、上の人間が首を差し出すことで 事態を丸く収める。政治界・法人の世界ではざらにある話でしょう? 加えて、本人の意思を確認しないで勝手に記憶をいじくろうという 違法的医療行為の依頼。その隠蔽工作の口止め料も含めて… そうですね、私にあてがわれる研究助成金額の15%アップで手を打ちましょう」 「じゅ、15%…!?それはいくらなんでもぼったくりすぎですよ!」 「嫌なら別にいいんですよ?この話はここまでということで。 あのお高く留まったアグリアスさんがこれから辿っていくであろう、 転落人生の一部始終を観察できるというのも、私にとっては 十分魅力的な話ですから」 「せ、せめて11…いや12%にしてくれませんか?ただでさえ予算は火の車…」 「本日はルナ診察所にお越しくださいましてありがとうございました。 またのご利用を心よりお待ち申し上げております」 ルナはぺこりと頭を下げ、ラムザとの会話を強引に打ち切ろうとする。 「うう…15%で手を打ちますよ!この悪魔!」 「交渉成立ですね♪」 アグリアスは吸血鬼騒動の夜から眠り続け、 目を覚まして自殺に至る前に、ルナによる記憶の改ざん手術を施され、 何事もなかったように普段通りの様子に戻っていた。 「患者というのはとかく怖がりなんですよね。 採血でさえも怯えて渋る。珍しい病原体に侵された 臓器の細胞サンプルや生体データの提供、 新薬の臨床実験台などにはまず応じてくれない。 医者の側からしたら困り者です。適当に患者の記憶を操作しないと とてもじゃありませんがやりくりできません」 記憶操作法の熟知の理由についてラムザが質問したところ、 返ってきたルナの答えがそれだった。 ルナが記憶を操作する術を会得する必要があった理由、 そしてその記憶改ざん術の使い道を聞いて、 ラムザは聞かなければ良かったと後悔した。 アグリアスがある夏の夜に吸血鬼と化し、やりたい放題をやった挙句、 一人で隊を壊滅寸前まで追い込んだ 未曾有の大事件については、隠蔽に隠蔽が重ねられ、闇へと葬られた。 当然ラムザはメリアドールやレーゼ、オルランドゥ他大勢に 幾度となく頭を下げ、何とか事件をなかったことにしてもらえるよう 頼みまわった。アグリアス本人に吸血鬼事件を思い出させるような言動は 最大レベルの禁忌・タブーとして、厳禁とされた。 アグリアスがラムザを慕っているという事実は公然の秘密になって しまったわけだが、それについてもアグリアスを刺激するような ちょっかい・話題は禁止にされた。 吸血鬼事件はアグリアス以外の誰もが知る、一晩限りの悪夢として扱われ、 機密レベル4の極秘事項として処理された。 (機密レベルは1から5まで設定されており、最終レベル5の機密事項は 聖石の隠し場所や隊の幹部クラスしか知らないその使い方、 出すところに出せば世の中を大混乱に陥れることの出来る ゲルモニーク聖典の内容などについてである) 吸血鬼事件の隠蔽工作に奔走していた忙しい時も ようやくひと段落つき、ラムザは自室で一息ついていた。 アグリアスにはザルバックによる吸血から、手足を拘束して ルナの帰還を待っていた時までの記憶は残っているが、 吸血鬼として暴れまわった夜の記憶だけは存在しない。 ルナの改ざん手術によってその夜の記憶が消去されているからだ。 その空白の時間は、アグリアスの意識が混濁し、とても何かを 記憶したりしゃべったりできる状態ではなかったから、記憶が欠落しているのは 当然、というシナリオで演技するように、隊の皆にあらかじめ言い含めておいた。 その日の夜にルナ達が帰ってきて治療を施し、 アグリアスが次に目を覚ましたときにはすっかり体調は回復していた、 ということを本人に伝えた。少し嘘は混じっているが、大筋は 真実と大差ない。 忙しさが過ぎ去ると心に余裕ができ、気持ちを整理することができるようになる。 あの夜…吸血鬼になったアグリアスから明かされた、彼女の本当の気持ち。 吸血鬼になったから突然生まれ出でた偽りの感情、などではないと思う。 胸の内で燃え上がる、情熱の思い…その熱さを思わせるような 紅い瞳に宿った感情は、あまりにまっすぐで、純粋なものだった。 彼女と交わした、ほんの一瞬の淡い口付け。 あの思考が融解するような感覚と彼女の言葉が頭に焼きついて離れなかった。 騎士の鏡ともいえるような彼女が胸の中で暖め続けた、自分に対する恋慕の情。 まるで気がつかなかった。と、いうよりも、彼女が人並みに恋をするとは そもそも思っていなかったのだが…。 彼女の存在、声、言葉…その全てを思考の中で反芻する。 ラムザもアグリアスを剣士として、人間として尊敬していた。 ただし、女性として愛しいと思ったことはなかった。 他の人間を寄せ付けない、清楚で高貴なアグリアスの印象が、 彼女をどこか神聖にして不可侵の存在に思わせ、恋の対象から除外させていた。 あの夜に見せた、彼女の無邪気で朗らかな笑顔。 彼女は、不可侵の聖人などではなかった。 自分の気持ちを伝えるのに不器用な、一人の女性でしかなかったのだ。 そんなアグリアスの無垢な笑顔を…もう一度見てみたいと思った。 アグリアスは独り、川辺で白痴のように呆然と水の流れを眺めていた。 空には白い入道雲が立ち並び、美しい夏の空が広がっている。 アグリアスは釈然としない思いに困惑していた。 何かがおかしい。結果的には元の状態に戻って良かったのだが、 その後が変だ。なぜか皆自分に対してよそよそしい。 妙に笑顔をつくろっているように思えるし、まるで腫れ物扱いされている気分だ。 メリアドールはなぜかキレているし、レーゼも妙に不機嫌だ。 私はあの夜の記憶がない。確かに意識は朦朧としていたし、 それが原因で何も覚えていなくとも不思議はないが、 それでも言葉にならない違和感を感じる。何かがかみ合わない。 記憶を失っている間、私は何かを言ったりやったりしていたのではないだろうか? 何も覚えていない割りに、正体不明の爽快感が残っているのだ。 普段我慢していた気持ちや鬱憤を爆発させたような、そんな謎の清々しさが…。 ルナにこの違和感の正体を尋ねてみたが、何も教えてくれなかった。 「気にしないほうがいいですよ。というか気にしないで下さい。 世の中、知らないほうがいいこともたくさんあるんですから」 そんなことを言って、ルナは医学書や実験器具、魔法の儀式用の 道具の買い物リストを楽しげに作成していた。 何でも、ラムザからの臨時ボーナスのようなものが支給されたらしい。 好きなことを好きなだけやって、それで金がもらえるのだから羨ましい身分だ。 「(嗚呼…こんな時にラムザが支えてくれたりすればなあ…)」 自分から彼に声をかけることもできないくせに、そんな都合の良い夢だけは 抱いてしまう。自分の隣にラムザがいて…ふたりでなんでもない会話をする。 それが叶ったらどんなに幸せなことか…。 夏の強い日差しは、有害な紫外線をもたっぷりと含んで、 独り身のアグリアスを容赦なくじりじりと照りつける。 「(ああ~すっきりしない。何もすることがない。恋人もいない。 何なんだこの負け組みのような気持ちは…)」 「こんなところにいらしたんですか。アグリアスさん」 突然の声に振り返ると、ラムザがそこに立っていた。 「ら、ラムザ…?な、何でこんなところに…」 「少し、お話でもいかがかな、と思いまして」 「話…?話って…何の話だ? 今後の進軍予定の確認か何かか…?」 「あはは。違いますよ。単にお話したいと思ったんですよ。 アグリアスさんとね」 「なっ…!?」 アグリアスは顔を真っ赤に染め、傍から見ても明らかに慌てふためいている。 「隣、座っても構いませんか?」 顔から火がでるような思いで、アグリアスは懸命に 「ど、どうぞ……」 と、か細い声で答えた。 赤い顔でうつむいたまま、ラムザの一方的な話に 「ああ」とか「うん」とか「そうか」といった 相づちをポツリポツリと返すだけで精一杯だった。 そんな時間が1時間ほど続き、さしものラムザも会話のネタが 尽きて、しばらく沈黙が続いた。アグリアスが相づちしか打たないので、 どうにも会話の継続に困るのだ。 「…すまない…」 悲しそうな顔で、アグリアスは呟いた。 「私は…こういう時……何を話せばいいのか分からないんだ。 …つまらない…だろう…?」 消え入りそうな彼女の声に、ラムザは微笑んだ。 「アグリアスさんはどうですか?こういうとりとめもない お話はお嫌いですか?」 「…き、嫌いじゃない」 「僕も嫌いじゃありませんよ。こういうなんて事の無い話」 「…そうか。なら良かった…」 二人の頬を夏の暑い風がなでる。草木は揺れ、同じ青い空の下で、二人は同じ風を感じていた。 「またこんなくだらない話…付き合ってもらってもいいですか?」 「お、お前が話したいんだったら仕方が無いな。付き合って…やってもいいぞ」 あまりお目にかかれない、はにかんだようなアグリアスの笑顔を見ることが出来た。 fin
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/85.html
ムスタ 「昔々、あるところに竹取のガフという男が住んでいました」 ガフ 「おお? 竹の中から赤ン坊がでてきたぜ」 ムスタ 「ガフはアグリアスを大事に育て、アグリアスは三ヶ月で年頃の娘に育ちました」 ガフ 「ぬおっ! 早いンだな!」 ムスタ 「美しさは都でも評判になり、求婚者が後を絶ちませんでした」 オヴェ 「ぜひとも」 アリ 「われわれのいずれかの」 ラヴィ 「妻になっていただきたく」 ムスタ 「しかし、言を左右にしてアグリアスは断りました。日々愁いを帯びていくアグリアスは、それを心配したガフに言いました」 アグ 「私は月に帰らなければなりません……」 ムスタ 「ガフやアグリアスに求婚した若者たちは悲しみ、そして憤りました」 ガフ 「俺の娘をワケわからン連中に取られてたまるか!」 オヴェ 「そのとおりよ!」 アリ 「我々の力で!」 ラヴィ 「追い返しましょう!」 ムスタ 「しかし、月からの使者は強烈な光を放ちガフたちの戦意を喪失させました」 アルガス 「無駄だ地球人ども!」 ガフ 「ぬぉっ! 目が見えネエ! 目薬だ目薬!」 アリ 「か、体が動かない」 ラヴィ 「くっそー……」 オヴェ 「か、神様……」 アルガス 「ふっふっふ……家畜に神などいないのだ!」 ムスタ 「月からの使者がガフたちに止めを刺そうと舞い降りてきた時、立ちはだかったのが……」 アグ 「ラムザ!」 ムスタ 「求婚者の一人で、アグリアスも内心憎からず思っていたラムザ・ベオルブその人でありました」 アルガス 「無駄な事だ!」 ムスタ 「ラムザは月の使者と数度剣で渡り合うと癖を見抜き、誘いをかけて大振りさせ、そのスキを狙って一太刀でアルガスを倒しました」 アルガス 「ぐわあああああ!」 ラム 「アグリアス、君が月に帰るならば、僕も一緒に行く。二人で月の王になろう」 アグ 「ラムザ……」 ムスタ 「手に手を取り合って月からの船に乗った二人は、仲良く天空の高みへと登っていくのでありました……お後がよろしいようで」 ムスタ 「以上が、新しくみつかったサウンドノベルです」 アルガス 「ちぇっ、相変らずの嫌われ役かよ」 ガフ 「なンで俺が爺役なんだ?」 アリ 「ついでに、私達は女……」 オヴェ 「しかし、女の身でありながら、妻を娶らばアグリアスと思った事は一度ならずありますわ」 ラヴィ 「……!?」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/140.html
「ねぇ、ラヴィアン。最近、私達って……ちょっとヤバいわよね」 「そうね……しかも、ちょっと、って感じじゃないわよね、アリシア……」 ふたりは顔を見合わせて、大きくため息をついた。 この前立ち寄った街でのことである。 長い行軍から解放され、皆がそれぞれに羽を広げられる。 とりわけ、女性陣の楽しみのひとつが、入浴である。 行軍中はなかなかそんな機会はないので、街の宿屋での入浴は大きな楽しみなのである。 宿の浴室はそれなりに広いので、たいてい数人で一緒に入ることになる。 その日は、アグリアス、アリシア、ラヴィアンの3人で入浴することになっていた。 「では、先に入っているぞ」 そう言って、アグリアスは浴室へ入る。 普段は厚い騎士服に隠れてあまり目立たないが、アグリアスは素晴らしいスタイルをしているのである。 女性らしい豊かな胸と、日々の厳しい鍛錬できりりと引き締められた体は、女性から見てもため息が出るほど美しい。 もっとも、本人にその自覚が全くないので、ある意味宝の持ち腐れでもある。 その後姿を見てから、アリシアとラヴィアンは自分の体を見た。 胸の大きさは敵うべくもないが、問題はそのたるんでしまった体であった。 お腹回りはたるんでぷよぷよ。足も太くなってしまった。 それと言うのも、最近アリシアもラヴィアンも、戦闘へ出撃する機会がめっきり少なくなってしまったのだ。 そのせいか鍛錬も最近はさぼり気味である。 決してこの2人の力が劣っているわけではないのだが、アグリアス、メリアドールの女騎士コンビ、銃使いのムスタディオ、 ドラゴン使いのレーゼに元聖騎士ベイオウーフ、さらには剣聖オルランドゥの参戦と、 実力十分の人材が揃っているこの隊にあっては、どうしても見劣りしてしまう。 そのため後方支援や偵察、儲け話への派遣といった任務が主となっていたのだが、やはり前線で戦うのとは訳が違う。 隊の人材が十分でないうちは、アグリアスと共に戦場を駆け回っていたものだ。 あの頃は、やはりそれなりに締まった体だったのであるが、今やこの有様である。 「ハァ……」 2人はため息をついて、アグリアスの後に付いて浴室へ入っていった。 「私、この隊に参加した頃の軽装衣が着れなくなってたわ」 「私も……。足も太くなったから、ブーツが最近キツイのよね」 「……ラヴィアン、このままじゃまずいわ!痩せるのよ!」 「そうね!やりましょ!アリシア!」 「目標は、アグリアス様よ!強くて綺麗な女になるのよ!」 「え~。ちょっと目標が高くない?」 「何言ってるの!目標は高いほどいいってアグリアス様もおっしゃってたわ」 「でも、どうやって痩せようか?」 「うーん、そうね。……アグリアス様の鍛錬に付き合う、っていうのはどうかしら」 「え~……あれに付き合うの~」 「あのくらいやらないとダメよ!頑張りましょ!」 「……そうね。頑張らないと!」 翌朝。 日が昇らないうちから、アグリアスは起き出して、朝稽古の準備をしていた。 これが彼女の毎朝の日課である。 昔はアリシアとラヴィアンも叩き起こして連れて行ったものだが、 別働隊として行動することも多くなってしまった今は、アグリアスひとりであった。 支度を済ませて、アグリアスが宿から出ると、アリシアとラヴィアンが宿の前で待っていた。 「おはようございますアグリアス様!」 にこやかに挨拶する2人を見て、アグリアスは訝しげに聞いた。 「何だ。アリシアにラヴィアンか。どうしたこんなに朝早くに」 「朝稽古にお付き合いさせて頂けないでしょうか!」 「どういった風の吹き回しだ。前はあんなに嫌がっていたじゃないか」 「最近鍛錬が足りないと思いまして……。ここはひとつ、アグリアス様に付いて鍛えて頂こうと」 「うむ。心意気はよし。最近は稽古も付けてやれなかったからな。よし、付いて来い。ただし、容赦はせんぞ」 アグリアスは笑顔になって言った。久々に部下が付いて来るのが嬉しいのだろう。 アグリアスの朝稽古は相当のものである。 街外れまで駆け足。準備運動の後、鎧を付けて剣の素振りを200回。盾の取り回しを200回。 刃のない模造剣で乱取り。そしてまた街まで駆け足、また戻ってきて素振り―― 「ほらどうしたアリシア!もう腕が上がっていないではないか!」 昇り始めた朝日の中、アグリアスの大声が響く。 「うひ~。もう無理です~」 アリシアが剣を放り出してへたり込む。 剣、といってもアグリアスの訓練用模造騎士剣で、普通の剣の倍ほどの重量があるものだ。 アグリアスはこれを軽々と振り回す。今のアリシアには素振り100回が限界であった。 「ラヴィアン!もう1往復だ!」 アグリアスが街から走って帰ってきたラヴィアンの方へ向かって叫ぶ。 もうすでに、歩いて半刻の道程を全力疾走で5往復はしたはずだ。 「ひぃ~。もう勘弁して下さい~」 ぜいぜいと息を切らしてラヴィアンが倒れ込む。 「全く……。普段怠けているからだ。だらしないぞ2人とも」 あきれた顔でアグリアスは言う。 そういう彼女はもう素振りを1000回はこなし、街まで10往復を走ってきたのである。 ふらふらになって宿に戻ると、2人はそのままベッドへ直行である。 「ね、ねぇ……アリシア……。これを……毎日……やるの……?」 息も絶え絶えに、ラヴィアンが聞く。 「が、頑張るのよ……頑張れ……私……」 アリシアはうわごとの様につぶやくのだった。 「あれ、今日は飲みに行かないのか?」 宿の廊下でムスタディオがラヴィアンに聞いた。 ムスタディオにしろラヴィアンにしろ、酒量はなかなかのものであり、 街へ着くと酒場へ繰り出すのが毎度のことになっていたのだが―― 「う、うん。今日はやめとく」 「珍しいな。ラヴィアンが行かないなんて」 「うん、ちょっと、ね。ほらほら、私はいいから、さっさと行きなさいよ」 ラヴィアンはムスタディオを追い払うと、部屋に入ってドアを閉めた。 (もう!私だってっ……飲みに行きたいわよっ!) 部屋の壁には、ラヴィアンの字で大きく「禁酒」と書かれた紙が貼ってあった。 その横には、アリシアの字で「甘いもの禁止」と書かれた紙も貼ってある。 「え~。アリシアは行かないの?」 宿の食堂で、ラファがアリシアに聞いた。 「うん、ごめんねラファ。ちょっと用事があるのよ」 「用事は後にできないのか?この前砂海亭のケーキが食べたいと言っていたじゃないか」 ラファを連れたメリアドールが聞く。 「そうだよ~。美味しいって評判なのに」 「う、うん。ごめん。今日はちょっと、ね。2人で行って来て」 「そうか。では行こうかラファ」 「は~い!」 2人は食堂を出て行く。この2人は相当の甘いもの好きで、よく連れ立ってケーキや菓子を食べに行くのである。 普段はアリシアも一緒なのだが―― (う~!私だって、食べに行きたいわよっ!砂海亭のケーキ……) 宿での夕食は、だいたいどの街の宿屋でも、食堂で好きなものを注文して食べる仕組みとなっている。 外で済ませてくる者もいるため、食事の時間はまちまちである。 アリシアとラヴィアンが早めの夕食を食べていると、アグリアスが食堂にやってきた。 「……なんだ2人とも。それだけしか食べないのか?」 アリシアの夕食を見たアグリアスが聞く。アリシアの夕食は、パン2切れに小皿のサラダにスープ。 隣で食べているラヴィアンの食事も同じものだ。 かたやアグリアスの食事は、パン4切れにチーズ2個、スープ、焼いた鶏肉に付け合せの馬鈴薯、サラダ1皿。 「あ、ええ……。最近ちょっと食べ過ぎてますから」 ラヴィアンが答えた。 「そうか。食べすぎは良くないが、食べないのも良くないぞ。いざという時に力が出ないのでは困るからな」 そう言って、アグリアスはテーブルに着いて食べ始めた。 (アグリアス様って、ホントによく食べるわよね) (でも、太ったりしないのよね) 2人は顔を見合わせた。 翌日も、2人はアグリアスと共に朝稽古である。 今日は街を発つ日である。へとへとになって宿に帰ると、休む間もなく出立の支度に追われる。 食料や水を荷車に載せたり、各人の荷物や武具をチョコボ車に積んだりと、結構な重労働なのだ。 「それはそっちの車に乗せるんだ。……そっちはまだ乗るのか?」 食料の入った重い木箱を抱えたまま、アグリアスはてきぱきと指示を出して荷をまとめる。 (あの稽古を軽々とこなして、まだ余裕があるなんて……アグリアス様ってやっぱりすごいわよね) 重たい木箱や樽に悪戦苦闘しながら、改めてアグリアスの力に驚くラヴィアンであった。 「あ、レーゼさん。重いものは俺持ちますよ」 鉄鎧を運んでいたレーゼにムスタディオが言うが、 「大丈夫よこのくらい。あまり楽するとアグリアスに怒られちゃうわ」 涼しい顔でそう言って、レーゼは荷車に鎧を積み上げていく。 横で剣を車に積んでいたアリシアは驚いていた。 アリシアもナイトであるから、鉄鎧の重さは身にしみて知っている。それをレーゼは、いくつも軽々と運ぶのである。 (美人でスタイルいいだけじゃダメよね。レーゼみたいに、強くて綺麗な女になりたいわ) アリシアは改めて心に誓うのであった。 行軍中でも、アグリアスの稽古は変わらない。さすがに戦闘があった日は休んでいるが、それ以外は毎日だ。 「鍛錬できるときにやれるだけやれ。実戦で鍛錬不足を後悔しても遅い」 それが、彼女の座右の銘である。 厳しい稽古に音を上げながら、アリシアとラヴィアンの鍛錬は続く。 だが、毎日少しずつではあるが、2人はアグリアスの稽古についていけるようになっていた。 そして数日後。 「よし、今日はここまでにしよう!」 アグリアスの声で、今日の稽古は終了となった。 「うへ~。もう動けない~!」 「やっと終わった~!」 2人は倒れこんで大の字になる。その2人を覗き込んで、 「最近やっと私に付いて来れるようになったな。上出来だ」 アグリアスは笑顔でそう言って褒めた。 「えへへ……ありがとうございますアグリアス様~」 「頑張ります~」 この2人にとっても、稽古についていけるようになったのは成長している証だ。 もともとはアグリアスに付いて戦っていた2人である。最近はさぼり気味、とはいえ、 きちんとやれば、まだまだ十分に付いて行けるのである。 何より、普段あまり褒めたりしないアグリアスに褒められたのは、素直に嬉しかった。 「だが、まだまだ、だ。これからはもっと厳しく行くぞ」 「え~!勘弁して下さい~!」 「これ以上やるの~?」 「ははは。この程度ではつまらんだろうからな」 そんな3人の笑い声はいつまでもやまなかった。 「ラムザ、頼みがある」 部隊の作戦本部でもあるラムザの天幕で、アグリアスはラムザに言った。 ラムザの横ではオルランドゥとベイオウーフが、進行先について議論をしていた。 「何ですか?」 手に持った書類から顔を上げてラムザが聞く。 「アリシアとラヴィアンを、前線での戦闘に参加させて欲しい」 「え?」 ラムザが驚いた顔をする。 たった今、オルランドゥとベイオウーフが検討していたのも、次の進行先の前線へ誰を参加させるか、ということであった。 前線は、敵へ真正面に対峙する、最も危険な戦場である。それなりに実力のある者でないと務まらない。 これまでベイオウーフ、アグリアス、メリアドール、オルランドゥ、そしてラムザが前線での主力として戦ってきた。 皆、一騎当千の強者ばかりだ。 アリシアとラヴィアンは、果たしてこの面々と対等の実力があるのだろうか。 ラムザは総隊長である。部隊を預かる身として、感情に流されることなく、それらを冷静に判断する必要がある。 「毎回、とは言わない。1回だけでもいい。責任はすべて私が持つ。頼む」 そう言って、アグリアスは頭を下げた。 「ちょ、ちょっと……頭を上げてください」 ラムザが慌ててアグリアスを制する。彼女にとって、この行動は決して安いものではない。 それでもアグリアスは、部下のために頭を下げたのだった。 「大丈夫なのかい?彼女らはずいぶん実戦からは遠ざかっていたようだけど」 ベイオウーフが聞く。 「うむ。前線の崩壊は部隊の死活を決めかねん。人選は慎重に行う必要がある」 オルランドゥも意見を述べる。 「あの2人は、以前は私と共に戦場で戦っていたのだ。今でこそ出撃の機会は減ってしまったが、 十分に戦えるだけの実力はまだまだあるはず。 それに、ここ数週間の鍛錬で、彼女らは見違えるように逞しくなった。私はその努力を買いたい。 しかし客観的に見れば、他の面々に劣るのは致し方ないところ。 だが私が出来うる限り2人の補佐をしよう。万が一2人が参加したことで前線が崩壊したならば、 その責任を私がすべて引き受けよう。……あの2人の力なら、やれると私は確信している」 アグリアスには自信があった。アリシアとラヴィアンを1番よく知るのは私だ。必ずやれる。 「……分かりました。希望に添えるかどうかは分かりませんが、明日の出撃から、検討してみます」 ラムザが答えた。 「よろしく頼む。では失礼する」 「確かに、アリシアもラヴィアンも最近鍛錬はよくやっているね。アグリアスに付いて鍛えているようだ」 ベイオウーフが言う。飄々としているが、実は部隊一の事情通である。 「少々不安はあるけれど、大きな戦いでなければ、十分通用するだろう。実戦の勘を取り戻せれば、だけどね」 「鍛錬で培った実力を量るには実戦が一番であろう。もっとも、過信は禁物であるが。 2人がアグリアス嬢と共に戦うならば、さして大きな問題にはなるまい」 これはオルランドゥ伯の意見。どちらの意見もだいたい好印象のようだった。 「……次の出撃先は?」 ラムザが聞いた。 「えーと……スウィージの森あたりか。進軍先に敵の小部隊がいたっていう報告がある。 偵察隊からの報告では10部隊ほど、だそうだ」 地図を見ながらベイオウーフが答えた。 「まずまず、戦えそうだね。ここならば、実力を見るにはうってつけじゃないだろうか」 「よし、ではそこでの戦闘要員を決めよう。まずは……」 我ながら、らしくないな。 だが、またお前達と戦場へ行くことができるなら、安いものだ。 アリシア、ラヴィアン。また、共に戦おう。 そう思いながら、アグリアスは自分の天幕へ戻って行った。 強く美しく。そんな2人の思いは、予期しない方向へ進み始めたようであった。 翌日。 「では、今日の出撃要員を発表する。呼ばれた者は速やかに出撃準備にかかるように」 ラムザは主だった者を天幕に集めて、その日の出撃要員や作戦の発表をする。 行軍中の朝の定例行事だ。 「今日の出撃要員は、ベイオウーフ、メリアドール、アグリアス、アリシア、ラヴィアン。以上だ。奮闘を期待する」 名前を呼ばれたアリシアとラヴィアンはぽかんとしていた。 (え?え?私が?出撃要員?) (出撃って……前線への出撃って……ことよね?) 命令を受けて、天幕から全員が出ていく中、まだ状況が飲み込めず、 呆然と立っていた2人に、アグリアスが声をかけた。 「遠慮はいらん。思い切り戦えばいい」 「え、いえ……アグリアス様……その」 「さっさと支度をしろ。半刻後には出撃だ。集合場所は軍門前だぞ。場所は確認しておけ」 そう言い残して、アグリアスは天幕を出て行った。 2人は顔を見合わせた。 「ど、どうしよう……」 「ど、どうしよう、って……どうしよう」 戦闘なんて久々だ。しかも最前線での戦いとなる。 そもそも、なぜ自分達が選ばれたのかが分からない。もっと強い人なんてたくさんいる。 普段は偵察とかが精々なのに……。 「やあ君たち。準備は早めに済ませてくれよ」 そう言いながら天幕に入ってきたのはベイオウーフであった。 「あ、ベイオウーフさん……」 「どうしたんだい?」 「いえ……どうして私達が戦闘要員に選ばれたのかな、って……」 「アグリアスから聞いてないのかい?君たちを推薦したんだよ。戦闘に参加させて欲しい、ってね」 「あ……」 2人はここで自分達の置かれた状況を理解した。 自分達の力を試すため、周囲の人にその実力を示すため、アグリアスは自分達を指名したのだ。 「今回は敵の数も多くはないし、そう激しい戦闘にはならないはずだ。 2人とも本格的な戦闘は久々だろうし、感覚を取り戻すつもりでやればいい。大丈夫だよ」 「はい。頑張ります!」 「及ばずながら、精一杯やります!」 2人は答えた。 「うん、お互いに頑張ろう。それじゃ、集合は軍門前だよ。遅れないように」 そう言ってベイオウーフも天幕を出て行った。 最前線での戦闘など最近では滅多にないことである。 予想していないことではあったものの、アリシアもラヴィアンも、 戦闘、という実感が湧いてくると身が引き締まる思いがした。 この感触、緊張感も久々であった。ともかく、やるしかない。 「……行きましょ、ラヴィアン」 普段は温和なアリシアの表情が、険しいものになる。 「ええ。やりましょ、アリシア」 ラヴィアンの眼光が鋭くなる。 2人は拳を打ちつけあってから、戦闘準備をするため、天幕を出て行った。 戦闘は前線部隊が敵と接触して始まった。敵の数は偵察隊の報告どおり10部隊。 しかしこの中の1部隊が曲者で、モンスターを引き連れた部隊が参加していたのだ。 偵察部隊の報告にはなかった部隊である。 モンスターには凶悪なミノタウロスやクアール、ジュラエイビスなどがおり、侮れない戦力であった。 ラムザ隊は本隊を中心とし、右翼にメリアドール、左翼にベイオウーフが布陣した。 アグリアスは先鋒、敵部隊の突破を目標とした。 「ラヴィアン!アリシア!私に続け、遅れるなッ!!」 「はいッ!」 「了解ッ!」 アグリアスが剣を構えて突撃する、その後ろをアリシアとラヴィアンが追走する。 3人が揃って戦うのも久々であった。 オヴェリアの護衛をしていた騎士団時代や、ラムザと出会った頃は、まだこうして戦っていたのだ。 始めこそ3人の呼吸が合わず、苦戦する場面もあったのだが、徐々に息が合い、連携も取れるようになってきた。 (こんな風に戦うのは久々ね。思いっきりやるわよ!) (この感じよね!アグリアス様!) 2人は先頭を走るアグリアスの後ろを護り、お互いに背中を預けあって戦う。 (やはり頼もしい。私の判断は正しかった。私の背中を真に護れるのは、お前達のほかにいない!) アグリアスも後方へ気を配ることなく、全力で正面の敵に当たることが出来るのである。 「素晴らしい」 戦況を見つめているオルランドゥが呟いた。 日の光を受けて白く輝く鎧を身に着けた3人が、美しい三角形を描いて敵陣に突撃していく―― (ひとりひとりは小さく弱くとも、信じあい、心を通わすことで、人は強くなれる――か) 他の方面の部隊も敵陣を次々と突破してゆく。もともとが小部隊の敵は各個撃破され敗走した。 だが、厄介なのは、敵が連れているモンスターである。 野生種を戦闘用に調教したモンスターだ。戦闘力は野生種をはるかに上回る。 敵陣を突破するアグリアス達3人の前に、最後に立ちはだかったのは、怒りに狂う猛獣ミノタウロスだった。 見上げるほどの巨大な体を怒りに震わせ、人間ほどの大きさもある巨大な石斧を振り回してくる。 受け止めよう、などと考えようものなら、一瞬で叩き潰されてしまう。 さすがの3人もかわすのが精一杯だ。 「これでは埒が明かん!アリシアは左へ!ラヴィアンは右へ!」 足元に炸裂する大斧をかわし、アグリアスが叫ぶ。 「正面は私が引き受ける!左右後方から挟撃しろ!」 「はいッ!」 「ご無事で!」 瞬時にアリシアとラヴィアンは左右へ走る。 瞬間、ミノタウロスの振り抜いた大斧をぎりぎりでアグリアスはかわした。 大斧の風圧で、顔の皮膚がわずかに切れた。さっと血が流れるのが分かる。 「さぁ来い!お前の相手はこの私だッ!!」 流れる血を指で拭い、体勢を立て直して剣を構え、アグリアスはミノタウロスに対峙した。 アリシアとラヴィアンは木立の間をすり抜けるようにして走ってゆく。 後方へ回り込むには、ミノタウロスの視界と大斧の有効範囲から離れ、森の中を大きく迂回しなければならない。 途中、行く手を遮る蔦や枝を剣で切り払い、倒木を盾で払いながら進む。 (ふん、こんなの何よ!) (ふん、こんなの何さ!) 2人は藪に足を取られ、立ち木の枝で傷つきながらも走った。 (*1) 「大気満たす力震え、我が腕をして、閃光とならん! 無双稲妻突き!」 アグリアスの放つ光り輝く気の柱がミノタウロスを貫く。 だが怯むことなく、ミノタウロスは突進しつつ斧を振り回してくる。 「くっ!」 斧が兜をかすめてガチリと鳴る。後ろへ飛び退いてかわしたが、このままではいずれ追い詰められてしまう。 (あと一歩、あと一歩踏み込めればッ!) あと一歩踏み込めれば、致命傷を与えることもできる。 しかしミノタウロスの突進と大斧の圧力は凄まじく、その隙はなかなか生まれない。 (まだかッ、アリシア、ラヴィアン!) そしてほぼ同時に、アリシアとラヴィアンは森を抜け、ミノタウロスの側面やや後方へ出ることに成功した。 「行くわよアリシア!」 「ええ!ラヴィアン!」 2人は同時に、雄たけびを上げてミノタウロスへ突撃する。ミノタウロスが後ろへ気を取られ、大きな隙が生まれた。 (今だッ!!) 「せやぁぁぁーーーッ!!」 アグリアスはミノタウロスの懐に飛び込み、その喉笛に剣を突き立てる。 同時に左右からアリシアとラヴィアンの剣がミノタウロスの体に突き立てられた。 「グワオォォォ!!!!」 壮絶な断末魔の声を上げて、ミノタウロスは倒れた。 「やった……!」 へなへなと座り込むアリシアとラヴィアン。疲労がどっと押し寄せて、立ち上がることすらできない。 「よくやった……!よくやったぞ!2人とも」 息を弾ませて、アグリアスが2人の元へ歩み寄り、手を差し伸べる。 手を握ると、ぐい、と引っ張り上げられた。 「さあ、しっかり立て。戦果の報告をしに行こう」 「え、ええ……でも……腰が抜けて……」 「わ、私も……」 「仕方のない奴らだ。私につかまれ」 アリシアとラヴィアンを両肩で支えて、アグリアスは陣へと戻ってゆく。 「私だけでは、あれに勝つことは難しかっただろう。お前達がいたからこそ勝てた。 この勝利は、たゆまず努力を続けた、お前達の勝利だ」 アグリアスはそう言って、2人を祝福した。 (そんなことないと思う、けど嬉しい!頑張ったかいがあったわ!) (そう言って貰えると凄く嬉しい!また一緒に戦いましょう、アグリアス様!) 2人は改めて、アグリアスの部下であることを誇りに思ったのだった。 本陣へ帰ると、3人を待っていたのは皆の祝福だった。 「おめでとう!すごいわ!」 「やったな!おめでとう!」 その賞賛と祝福の向こうに、ラムザとオルランドゥが待っていた。 「アグリアス、只今帰陣いたしました」 アグリアスは2人を肩から下ろし、普段どおりに膝を付いて帰陣の報告をする。息すら切れていない。 「アリシア……き、帰陣いたしました」 「ラ……ラヴィアン……帰陣いたしました」 アリシアとラヴィアンは、まだ息を切らしてへとへとの状態だった。 「3人とも、本当によくやってくれました。特にアリシアとラヴィアン。 久々の実戦にも関わらず、ぴったりと息の合った連携は見事でした」 ラムザが褒める。 「素晴らしい戦いぶりであった。これも日々の鍛錬の賜物であろう。以後も精進せよ」 オルランドゥからもお褒めの言葉を頂いた。 「あ、ありがとう……ございます……」 2人はそれだけ言うのがやっとである。 (早く横になりたいっ!) (水が飲みたいよ~っ!) 「今、帰還した」 男の声が、アグリアスの天幕の外から聞こえてきた。 「ああ、ご苦労」 外の人影に向かって、天幕の中のアグリアスが声をかけた。 「あまりにも見事な戦いぶりだったんで退屈だったぜ」 「ははは、すまんな。これで、あの2人もまた成長するだろう。前線での活躍も期待できる」 「……万が一の時に備えて伏兵まで用意しておくとはね」 「責任を取るとは言ったが、それは私が斬り死にすれば済むということではないからな。 ともかく、伏兵を使うような事態にならなくて良かった。お前には退屈させてしまったようだがな」 「ふん、たまにはこんな仕事もいいさ」 アグリアスは天幕の入り口まで行き、そこにうずくまる影に言った。 「急な任務だったが、よくやってくれた。感謝するぞ、マラーク」 「お安い御用さ」 「日々の鍛錬、か……。確かに強い女にはなれたわよね」 「綺麗な女にはなったのかな?」 「どうだろうね」 「でも……確かに痩せたわよね、私達!」 「よし、今日はここまで!」 アグリアスの号令で、今日の朝稽古は終了である。 「んーっ!いい汗かいた~」 「あ~お腹すいた~!」 すっかり朝稽古が板に付いたアリシアとラヴィアンがいた。 アグリアスとほぼ同じだけの稽古をこなして、まだ余裕がある。2人は鍛錬を楽しむほどにまで成長したのだった。 2人の出撃の機会はやはり少ないものの、欠員が出たときの補充要員として重要な戦力となっていた。 いざ戦闘となれば、アグリアスとの3人での連携攻撃は凄まじく、敵から恐れられた。 朝稽古が終わって宿に戻り、汗を流しに3人で入浴した。 「では先に入っているぞ」 アグリアスは先に浴室へ入る。アリシアとラヴィアンは、自分の体を姿見に映してみた。 たるんでいたお腹回りや足はキュッと引き締まり、適度に筋肉のついた均整の取れた体がそこにある。 減量は見事に成功した。と言うより、日々の鍛錬が身に付いたおかげで、余計なものが体から取れてしまった、 というのが正しいだろう。 「うーん、我ながら、よくここまでやったと思うわ」 ラヴィアンが姿見の前でポーズをとる。アグリアスほどではないが、なかなかのスタイルである。 「もう少し、胸が大きいといいんだけどなぁ……」 アグリアスやレーゼの大きな胸を思い浮かべて、アリシアはちょっと残念そうに自分の胸を見た。 ちなみに、胸のサイズはラヴィアンのほうがちょっとだけ上だったりするとか。 稽古の後のもうひとつの楽しみが食事だ。朝稽古の後の朝食の味は格別である。 痩せるために食事量を抑えていた2人だが、今や普通の男性並みの食事量となっていた。 それだけ食べないと体の維持ができない。アグリアスがよく食べる理由が分かった2人だった。 (アグリアス様が太らないのって、食べた分運動してるからよね) (あれだけ稽古してれば、お腹減るの当たり前よね) (もちろん私達だって同じよね!) 「ごちそうさま~!」 今日も朝食をぺろりと食べてしまった2人。 「ねーねーアリシア。今日はリジェールのケーキ食べに行くんでしょ?」 ラファがアリシアのところへやってくる。この街で美味しいと評判のケーキ屋へ行く約束をしているのだ。 「うん!どんなお店か楽しみよね~」 「レーゼとメリアドールも行きたいって言ってたから、あとで誘ってみるね」 「そうね。みんなで行きましょ。ラヴィアンも行くでしょ~?」 「うん、行く行く!」 「あれだけ食ってまだ食うのかよ、アリシア」 食堂で朝食を取っていたムスタディオがあきれたように言った。 「甘いものは別腹なのよん」 アリシアは涼しい顔をして食堂を出て行った。 「凄いな……」 隣にいるラッドもあきれ顔である。 「でも、アリシアって最近綺麗になったよな」 ラッドがそんなことを言い出す。 「うん、確かに。ラヴィアンも痩せたし、美人になったよな~」 ムスタディオも同意する。そして、ニヤリと笑ってラッドの方を向いた。 「ラッド~。お前、もしかしてアリシアを~?」 「い、いや違うよ、そういう意味じゃなくて!」 ラッドが真っ赤になって否定する。 「照れるなよ。今度、飲みに誘っといてやるからさ」 「……頼むよ」 その日の夕方。 「ムスタディオ!今日は飲みに行くわよ!」 ラヴィアンが、宿で暇そうに本を読んでいたムスタディオの背中をばしっと叩いて言った。 「おお、ラヴィアンか。いいぜ。どこに行くんだ?」 「ベヒーモスのステーキが食べられるお店があるんだって!今日はそこへ行きましょ!」 「そいつはいいな。行こう行こう!」 「アグリアス様も誘っておいたから、楽しみにしててね~」 「な!……ば、馬鹿!アグ姐は関係ねぇだろ!」 赤面して慌てるムスタディオを見て、ラヴィアンは笑った。 こうして、アリシアとラヴィアンは「強くて綺麗な女」になることができたのであった。 後日。 その日は、レーゼ、アグリアス、アリシア、ラヴィアンの4人で入浴する日だった。 「それじゃ、お先に」 レーゼは、むっちりした体をタオルで覆って浴室へ入ってゆく。 アグリアスのすらりとした体とは対照的な、女性らしい魅力に溢れている。 「……うむむ」 見ると、アグリアスが難しい顔をして、自分の体を姿見に映していた。 「どうかしましたか?」 アリシアが尋ねた。 「いや……。私の体は、どうにも筋肉が目立ってしまっていかん。 ……どうやったら、レーゼのように女らしい体つきになれるのだろう、と思ってな」 (……人の悩みって) (……それぞれなのよね) 2人は顔を見合わせて笑ったのだった。 END
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/46.html
双魚の月 14日 今日は機工都市ゴーグに到着し、ムスタディオの家に泊まりました。 ベッドの数が足りないので、男の人達はみんな床に毛布です。申し訳ない。 でもベスロディオさんはお歳なので、自室のベッドを使っています。 私はムスタディオのベッドを使っています。ラヴィアンも一緒です。 ラヴィアンって寝相が悪いから、一緒に寝るのはちょっと不満。 こうして日記を書いている今も、ベッドで大の字になって眠ってる。 いっそラヴィアンの腕枕で寝ちゃうというのもいいかも? そんな訳でベッドがいっぱいになってしまったため、アグリアス様も床で毛布です。 「気にするな」と言っていたけど、やっぱり申し訳なくて、気にしちゃ 今、アグリアス様がトイレに行きました。 日記は見つかりませんでした。よかった。 こんな夜更けに何をしているのかと訝しがられましたが、適当に誤魔化しました。 それにしてもアグリアス様のトイレ、随分と長いです。どうしたんでしょう? ちょっと見てきます。 ええと、何から書けばいいか。 アグリアス様はトイレにいませんでした。 妙に思い探してみると、リビングの窓際で眠っていました。 どうやら寝惚けていたようです。 そうでなくては、ラムザさんの隣で、肩に頭を乗せて寝ちゃうだなんて真似、 アグリアス様ができる訳ありませんもの。 これは起こしてはいけないと、私は抜き足差し足忍び足で部屋に戻りました。 幸せそうなアグリアス様の寝顔を見たら、起こすなんてできません。 でも明日は早めに起きてアグリアス様を起こします。見つかったら大変です。 でもこんな時間まで日記を書いていて、朝早く起きられる自信がありません。 男性側で、一番に目を覚ますのがラムザさんならいいけれど、 ラッドやムスタディオが一番に目を覚ましたら、どうなる事やら。 朝がちょっぴり楽しみです。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/82.html
イヴァリース国とオルダリーア国の国境近くには、小さな温泉宿がある。 イヴァリースでは珍しい、極東のスタイルを取り入れた旅籠で、一般的な地図には記載されていない。 そもそもイヴァリースでは帯や浴衣など東国の文化は未だ浸透しておらず、侍などごく限られた技術を持つ者が 着用するもの、という認識があるせいか、この宿の建築様式をはじめとして、寝具、食事からこの宿の名物と されている露天風呂も一般的ではなく、存在自体が広まっていない。経営者が教会嫌いということもあって、 異端者一行には数少ない癒しの場として重宝がられていた。 「アグリアスさんの背中、私が流しますね!」 「ん? ああ、気を遣わなくていいのよ?」 一糸纏わぬ姿のラファが、湯船に浸るアグリアスの腕を取る。アグリアスも緊張が解けているのか、 女言葉に戻っている。 「いいんです! 次はアグリアスさんって決めてたんですから」 「何を遠慮してるのよアグリアス。せっかくなんだもの、お言葉に甘えたら?」 ぐいとラファが腕を引く様を見てか、同じく湯船に浸るメリアドールが笑っている。 「私もこの前流してもらったのよ、のぼせる前にしてもらうといいわ」 「いつも一言多いわねメリアドールは…まあ、確かにこんな機会もあまりないし」 ちゃぷ、と水面を揺らしてラファの手をとりアグリアスが立ち上がる。 小さな木のいすに座るアグリアスの後ろで、ラファが嬉しそうにアグリアスの背を擦っている。 「考えてみれば、こういう触れ合いってなかったわね」 しみじみとアグリアスが言う。 「こうやってのんびりお風呂に入って疲れを取るなんて、少し前は考えられなかったわ」 戦火は収まりつつあるが、ラムザ一行を狙う者は未だ数多く潜んでいる。こういった隠れ家的な場所でなければ 彼らに安息の地は皆無に等しい。 「あまりのんびりしていられないのも事実だけど、せめてこういう楽しみがあっても、ばちは当たらないわよね」 メリアドールがそう言って夜空を見上げる。 「それって神殿騎士が言う台詞かしら?」 「神っていうか、それに近しいものに手を上げてる時点で、私の肩書きはもう飾りだと思うわ」 アグリアスの一言にメリアドールが苦笑する。 「でも、そうよね…神殿騎士じゃなくなって…廃業したら、私はどうしようかしら。ねえ、アグリアスは この戦いが終わったらどうするの? 何かしたいことってある?」 「え? …う、うーん…そうね…?」 突然の質問に今度はアグリアスが苦笑する。 「じゃあ、またここへ来ましょうよ! みんな一緒に!」 困っているアグリアスの背を風呂桶の湯で流しながら、ラファが笑う。 「…そうね」 「そのときまでに考えましょ」 つられてメリアドールもアグリアスも笑うのだった。 が、この後のラファの一言で事態は急転する。 「ありがとう、ラファ。気持ちよかったわ」 3人がそろって湯船に浸っているそのときである。 「練習しましたから! この前はラムザさんの背中を流したんですよ」 「「は?」」 「お二人の背中も素敵でしたけど、やっぱり男の人の背中って違いますよねぇ…大きいっていうか、広いって いうか」 ほぅ、とうっとりしながらラファが顔を赤らめる。 「「………」」 その一言に、アグリアスとメリアドールは顔を真っ赤にしながら顔を見合わせる。 「ちょっと待って」 「それラムザと一緒にお風呂入ったってこと?」 「ラムザがラファの手を引いて男湯に?」 「それとも何気なくラムザが女湯に?」 「それじゃラムザは堂々と女湯に侵入する変態ってこと?」 「じゃなきゃラムザはラファを男湯に放り込む外道ってこと?」 「「………」」 アグリアスとメリアドールが沈黙の後、吼えた。 「「ラムザーーーッ!」」 「ほら、いつもお世話になってますし、一人用の小さいお風呂で、あ、もちろん私は服を着たままだったん ですけど…って、あ、あれー?」 こうして湯船からすっ飛んでいった二人に遅れること暫くして、ラファは呆然としながら二人の姿を探していた。 さても怖いのはこの後であった。ほこほこと湯気を昇らせる浴衣姿のラムザに襲い掛かる、乱れた浴衣姿の 女人二人。こう書けばさぞ艶やかに思われそうだが、彼女たちの形相はさながら鬼のようである。 「「ラムザーーーッ!」」 そんなラムザの浴衣の右の襟を、メリアドールが左からぐいと引き、 「あなた何を考えてるの!? ラファにいったい何をさせてるの!?」 左の襟はアグリアスが右からぐいと引き、 「貴様は年端も行かぬ娘に何を吹き込んだのだ! 恥を知れ恥を!」 ものの見事にラムザの首を絞め上げている。差し詰め二人がかりでの襟締めといったところか。 「あっ、アグ…さっ…メ、リ…ー…ぎゅう」 弁解する間もタップする間もなくラムザの顔は赤くなったり青くなったり、目も白くなったり黒くなったり。 「あのっ、アグリアスさん!? メリアドールさんっ! 何があったんですか!?」 ラファはただただおろおろするばかり。そんなラファをかばうように、ラッドが3人との間に割って入って… 「はいはい、ラファちゃん危ないから下がっててねー…おお、綺麗なおみ足が薄い浴衣に張り付いて…うお、 胸元がはだけて、おほぉお…!」 …なにやってんだお前。 というわけで、茹だった二人が落ち着いたのは、レーゼのアイスブレスの後だったのだった。 当然ラッドもがっちり氷付け。オトナのレーゼは見逃さないのである。くわばらくわばら。 ちなみにこの後。 「ラムザはいいなあ、妹もいるし。なあラファちゃん、今度俺の背中も流してくれない?」 「はい、いいですよー」 という何気ないムスタディオとラファのやり取りに、またもアグリアスとメリアドール、ついでにマラークが 血相を変えてムスタディオを締めにかかったのは言うまでもない。 おしまい
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/108.html
1- セッ! ハッ! フッ! ヤァー!! まだ辺りに霧が立ち込めているなか、アグリアスは早朝から剣の鍛錬をしている。 毎日の朝起きたら素振りをする。 誰に言われたわけでもない。 自分のためだ。 特に最近は鍛錬をより厳しくした。 ――まだ、足りない ――――もっと強くならなければ だというのに、なぜだろう…? 最近、剣を持つ手が重いのだ…。 ある国(またはそれに準ずる地域)と別の国(同)との間で行なわれる商品の売買のことを貿易いう―― このイヴァリースにもいくつか貿易都市があるが、その一つにドーターと呼ばれる街がある。 陸路による貿易の中継地として発展した都市で、様々な人々が行き来する活気にあふれた町だ。 町人、商人、貴族、従者、護衛、農民など様々な身分の者達が行き来するが、当然その中には身分を明かせない者もいる。 闇商人や盗賊など・・・。それは好ましい状況ではないが、だからこそ彼らも街に入ることもできる。 「気分転換に儲け話でも行きましょうよ」 そう言ったのは元部下のアリシアだ。 「…無理に決まってる。私が儲け話に行ったら隊の守りが薄くなる」 誘いを断るのは元上司のアグリアス。 「え~、良いじゃないですか。アグリアス隊長が抜けったって大丈夫ですって。オルランドゥ伯もいらっしゃいますし…」 ――痛いところをついてくる。 シド=オルランドゥが仲間になってから、アグリアスはあっさりNo1アタッカーの座を奪われた。 そのためアグリアスはさらに剣の鍛錬を厳しくしている。 「それに依頼って意外と良い訓練になるんですよ?ほら、以前の儲け話の時には――」 確かに話に聞けば、ゴーレムだのキマイラだの普段の戦闘では相手に出来ないような敵が居る。 「そうだな。確かに己を鍛えなおすいい機会かも知れん」 「ホントですか!?やったー!!」 「だが、ラムザに許可を取ってからだ。許可がでなければ――」 「なんの許可ですか?」 突然背後から声をかけるラムザ。 「な!…ラムザ、居たのか」 「居たのか?なんて酷いなぁ」 笑いながらアグリアスの隣に座るラムザ。 「で、何の話だったんですか?」 「あぁ、実は――」 依頼についての話をするアグリアス。 己を見つめ直すため、再び更なる高みを目指すため、依頼に行く事を許可してもらうよう話した。 ラムザは話を聞き、すこし考える。 やはり無理なのだろうか。 確かにアグリアスはシドよりは劣る。だが、いまだ主力メンバーの一人だ。 そう簡単に許可が出るわけが―― 「良いですよ。許可します」 「ありがとーラムザ隊長~☆」 「い、良いのか?私の居ない間隊の守りは大丈夫か?」 喜ぶアリシアを余所に、意外にあっさり許可された事に動揺をするアグリアス。 「はい。どのみち4日間程度休養をしようと思っていましたし」 確かにここ最近は移動ずくめで皆つかれてい居るだろう。 だが、4日とは異例だ。今まで最長で2日だったものを大きく上回る。 きっと私の心情を読み取っての決断だろう。 「そうか。ありがとうラムザ。4日で終わるよう全力で頑張るよ」 心の中でもラムザに感謝をする。 「はい、頑張りましょうアグリアスさん」 ―――は? 「僕も行きます。アリシアと3人で行けば何とかなるでしょう」 「ラムザも来るのか!?」 「はい、一度依頼に行ってみようと思ってたんですよ」 2- チョコボ車に揺られドーター~ゴルランド間の交易路を移動するアグリアス。 ラムザも一緒に依頼に出るという、異例の事態となった。 ドーターに残してきたメンバーが気になるが…まぁ、大丈夫だろう。 隊を離れてはや3日―― 早く終わると思っていた依頼も意外に時間がかかっている。 話を受け、依頼者のもとに行ってみればそこはバッカス酒造。 囮のために襲われた時と同じ荷物を貸してもらい、ドーターへと向かっている最中だ。 ゴルランドは雨季乾季に関わらず雪が降る土地なので、現在荷台の布を締めきっている。 そのため景色も見れないので、なんとなく依頼書に目を走らせる。 依頼名:交易路に現われる山賊団を撃退 内容 :最近、ドーター~ゴルランド間の交易路に山賊が現れるようになりました。 しかも、狙われるのは我が社のチョコボ車だけなのです。これ以上被害の出ない内に山賊を退治してください。 ―――バッカス酒造 締め切っているおかげでチョコボ車の荷台には甘いアルコールの香りが立ち込めている。 出発した時はそうでもなかったが、時間がたち香りが強くなってきた。 初日は真剣な顔をしていたアリシアは積み荷の香りに機嫌を良くし、酒の詰まっている樽に凭れかかっている。 聞こえるのは地面をはしる車輪の音と、ゴルランドの寒風が荷台の帆を叩く音…それと寝息? 「アリシア、寝てるのか?」 一応確認をするアグリアス。 「ぇ……そんな事無ぃですょぅ……?」 スースーと寝息を立てるアリシア。 寝る前に酒を飲むと良く寝れると言うが、香りといえども油断できないものだ。 酒造からずっと御者をしているラムザに声をかけるべく外に出た。 外の空気は少し冷たく、いまだゴルランドの寒風が肌をさす。 雪は降っていないが、長時間外で御者をしているラムザは辛いだろう。 「ラムザ、そろそろ替わるぞ」 「大丈夫ですよ、アグリアスさん。防寒用のマントを3枚も羽織ってるんです。意外に温かいですよ?」 「そうか。だが、3枚も羽織っていたらだいぶ動きずらそうだな」 「そうですね。こんなところをモンスターに襲われたらちょっと危ないですね」 「ははは。確かに」 「アリシアはどうしてます?」 「アリシアは寝てるよ。中は酒の香りで充満してるからな」 「あはは。それじゃあ酒好きのアリシアは良い夢見てるでしょうね」 そんな他愛無い話を交わす。 そういえば、このところ教会やルカヴィ達との戦闘であまりゆっくり話している時間が無かった。 といっても今もあまり気を抜く事は出来ないが…。 少し沈黙が流れた後、アグリアスが言を発する。 「ラムザ」 「何ですか?」 「その…私のために無理に隊を休ませたのだろう?」 「ははは。やっぱりバレてました?」 笑みをこぼすラムザ。 「ありがとう、ラムザ」 「お礼を言われる事ではないですよ。それに、今までがちょっと急ぎ過ぎたかなて思ってたんです」 確かに気の休まる事のない長い旅だ。だが、ゆっくりもしていられないのも事実だ。 まだオヴェリア様のお傍に戻る事も出来ないし、アルマ殿もルカヴィ達に攫われたままだ。 きっとラムザは急く心を必死に抑えているのだろう。 「でも、依頼に行きたい言っいったのも事実ですよ?」 「…お前は強いな」 「いえ、そんな事は―」 「いや、お前は強いよ。常に自分以外の事にも目を向け、気を配り、戦ってきた」 ―だと言うのに私はどんどんと弱くなっている。 あまりの自分の不甲斐なさに涙が出そうになる。 「すまん。愚痴を言ってしまったな」 やはり少し酒に当てられたのかもしれない。 「もう直ぐクルス山にさしかかる。クルス山の入り口で夜まで待つだろ?」 「はい、そのつもりです」 「では私は後ろに戻るよ。交代したくなったらいつでも声をかけてくれ」 「アグリアスさん」 「何だ?」 「僕はいろんな人に支えられてここまでやってこれたんです。ラッドやアリシアやラヴィアン…。 でも一番支えられたのはアグリアスさん、貴女に支えられました」 「私にか?」 「はい、ゴルゴラルダ処刑場でアグリアスさんが僕を信じてくれたから…」 ゴルゴラルダ処刑場でアグリアスが言った言葉。 あの時は必至だったが、今思い出すと少し恥ずかしい。 「あ、あの…アグリアスさ――」 ガゴン! ラムザの言葉を遮るようにチャコボ車が少し揺れた。 どうやら小石の上に乗り上げたようだ。 と、同時に荷台からゴッ!と音が鳴る。 『ぃった~ぃ。……あれ、アグリアス隊長は?』 荷台から場違いな声が聞こえてきた。 「どうやらアリシアが起きたようだな」 「…の、ようですね」 真剣な顔からいつもの笑顔に戻るラムザ。 「で、何だ?」 「は?」 「何か言い掛けていたではないか」 「い、いえ、何でもないんです!何でも…」 「?」 「まだ、寒いですから荷台に入ってください」 「あぁ、そうさせてもらうよ」 先ほどまでの真剣な顔はいったい何だったのだろう。 気にしながら荷台に戻るアグリアス。 ラムザと話をして少しすっきりした。 到着まで少し寝よう。 地面を走る車輪の音と、ゴルランドの寒風が布を叩く音が聞こえる。 こころなしかさっきよりチョコボ車のスピードが上がったようだ。 3- クルス山の麓にはすでに商用チョコボ車が何台か停まっていた。 ドーターの北に広がるゼクラス砂漠。昼間は摂氏50度にもなるかと思えば夜間は一気に氷点下まで下がる『死の砂漠』。 そのため、商人たちは商品の傷まないように日の入り~日の出の間に移動する。 ラムザ達は他のチョコボ車をまきこまないように少し時間を置いてから出発する事にした。 盗賊と戦闘するため、チョコボ車の布を全部空ける。 運のいい事に風も弱まり、空も晴れた。 ラムザ達の乗るチョコボ車を後ろから照らすように月も出た。 おかげで月の光が道を照らしてくれるので、戦闘になってもある程度は動けそうだ。 「しかし、意外に強い物だな」 「―え?何ですか?」 酒の香りで少し呆けていたアリシアが聞き返す。 「いや、香りがな。布を上げておいてもまだ香る」 「まぁ、天下のバッカスシードですから」 「バッカスシード?」 アグリアスは聞いた事のない言葉に興味を持った。 「はい。バッカス酒造の主力商品でバッカスリキュールと言う物があるのですが、そのリキュールに使われる果実がバッカスシードです。 バッカスシードは決まった土地でしか採れないうえに、その香りは豊潤にして強烈な甘匂を発するんです」 「ほぅ、ではこの香りもバッカスリキュールから香っているのか」 「いえ、この香りはバッカスリキュールと言うか…きっとコレだと思います」 そういうとアリシアは背にしている木箱を叩いた。 「これはバッカスの酒と呼ばれる幻のワインなんですよ」 バッカスの酒…聞いた事がある。 たしか上級貴族ですら飲めることも稀だと聞く。 ―だとすると、このチョコボ車が狙われるのはそこにあるのかもしれない アグリアスが盗賊の傾向について思案していると、急にチョコボ車が止まった。 「アリシア、アグリアスさん」 御者をしていたラムザが言を発する。 「前方にミノタウロスと…ゴブリンが3体だな」 「盗賊の姿が見えませんね」 アリシアが辺りをキョロキョロを見回す。 「暗闇に紛れている可能性が高い。アリシアはチョコボ車を護衛しろ。私が前方の敵を倒してくる!」 「僕はアグリアスさんの援護ついでに、召喚獣を呼び出して盗賊を威嚇します」 「よし、では行くぞ!」 チョコボ車から飛び降りるラムザとアグリアス。 ラムザが召喚獣を呼ぶならばゴブリンは無視しても構わないだろう。 アグリアスは目標をミノタウロスに定め、夜の山を疾走した。 「風、光の波動の静寂に消える時 我が力とならん… シヴァ! 」 シヴァの放つ氷河の結晶がゴブリンとミノタウロスを凍らせていく。 『ゴブー!!!』 『モ゛!』 モンスター達は堪らず悲鳴を上げる。 ゴブリンはこれで倒せただろうが、ミノタウロスはまだ動けるだろう。 その体躯は見せかけではなく、繰り出される攻撃、攻撃に耐えうる体力量は脅威に値する。 実際この下位種である牛鬼と戦ったときも、初めはその体力量に軽い恐怖を覚えたくらいだ。 だが、それも簡単には倒れないと判っていれば、それに合わせて戦えばいいだけのこと。 アグリアスの予想道理、氷を砕きミノタウロスが動き始めた。 夜間の戦闘は普通ならば避けた方が良い。 何故なれば視界が悪いため、敵との距離を把握し辛いからだ。 だから、ナイトやモンクのように近距離から攻撃をするジョブには夜間はきつい。 また、周りの状況も判らないため自分の置かれている状況もわからない。 そういう意味ではアグリアス達は幸運だった。 月明かりが周りを照らし、昼までとは行かずともある程度、周りの状況を把握できるからだ。 そしてアグリアスは近距離からの攻撃をしなくとも相手を討つ事が出来る。 「命脈は無常にして惜しむるべからず… 葬る! アグリアスの不動無明剣が敵を討つ。 『ブモ゛ー…』 一声を上げ、地面に倒れるミノタウロス。 同時に背後からアリシアの悲鳴が聞こえてくる。 「きゃー!」 ―新手!?…いや本命の盗賊か! 踵をかえしてチョコボ車に向かおうとするアグリアス。 それを待っていたかのようにミノタウロスが立ちあがる。 さすがにしぶとい。 アグリアスは再び聖剣技を繰り出すために体制を整える。 ふいにミノタウロスの体が大きくなった―そんな感覚がした。 ――まずいッ!! アグリアスは咄嗟に盾を構える。と、同時にミノタウロスがツルハシを振り回し始めた。 ギンッ!ガガガッ! ミノタウロスの全力を持って振り回されるツルハシは嵐のように、その範囲に居る者を薙いで行く。 ギリギリ範囲内に居たアグリアスは何とか盾で防ぐ。 これがもう少し近ければ暗い森の中に飛ばされていただろう。 またギリギリ範囲内にいると言っても少しも後退する事は出来ない。 アグリアスの全力を持って盾を支えなければ今にも飛ばされそうだからだ。 ガガガッ――!!ガッ! こうなっては攻撃が止むまで耐えるしかない。 盾が削り取られているような不安を覚える。 昔、嵐が過ぎるまで怯えていた自分を思い出す。 ガッ!ガッ!ガッ!―ガッ! 少しずつ嵐が弱くなった。 ラムザの攻撃に、不動無明剣を受けているのだ。 残りの体力も少ないだろう。 それなのにこれほどまでの力を繰り出すとは、流石と言わざるを得ない。 この好機を逃すアグリアスではない。 防御から攻撃に転ずるため盾に伝わる音と衝撃に神経を集中させる。 ガガッ!―ガッ!―ガッ!――ガッ! 確実に遅くなってきた事を確認し、次の攻撃に備え剣を握る手に力を入れる。 ―――ガッ! ツルハシが盾に当たった瞬間、攻撃と同じ回転方向に体を翻す。 その反動を持って側面から攻撃をするアグリアス。 勢いを持った剣はミノタウロスの体に深々と沈む。 『グモゥ…』 アグリアスを横目に力尽きるミノタウロス。 ある意味モンスターだからこそ使えた手である。 人間が相手なら相手がタイミングを図っているのも判っていただろうし、またそれに合わせフェイントを繰り出してくる可能性もある。 ミノタウロスから剣を引き抜き、チョコボ車へと向かった。 4- (ちょっとラムザ視点です) チョコボ車に駆け寄ると、馬車の近くで座り込んでいるアリシアがいた。 盗賊が近くに居ないか気を張り、アリシアに声をかける。 「アリシア、大丈夫!?」 「エヘヘ、ケーキかったらモルボル味でしたよ~?」 ――は? 戦闘中に何を言ってるんだろう?っていうかモルボル味って?? もしかすると盗賊に襲われて軽い混乱状態なのかもしれない。 正気に戻すため、とりあえず揺すってみる。 「しっかりしてよ、アリシア!」 「いやん、ラムザ隊長ご~いん♪私はイイですけど、皆が見てますから――」 ……駄目だ。完全に混乱してる。 ムスタディオやラッド相手なら殴ってるところだけど、相手はアリシア。 正気に戻すためとはいえ、殴ればあとで何を言われる(or 要求)されるか判らない。 ラムザは少し手間をかけてエスナを唱える事にした。 詠唱中にアリシアが騒いだり、殴ってきたりとなかなか詠唱が終わらない。 「―そを与えたまえ!エスナ!」 やっとの事で完成したエスナがアリシアを包み込む。 「この間、夜中にアグリアス様が一人で――アレ?」 正気に戻り、状況が判らないとばかりに目をパチパチさせるアリシア。 アリシアの話の続きが気になったが、今はその時ではない。 「ラムザ、賊は!?」 遅れてやってきたアグリアスが、盗賊の居場所を聞いてきた。 "―ゴトッ! バキッ!!" 荷台から物音が聞こえた。 アグリアスは荷台に乗りこみ、酒を飲んでいる人影に向かって斬りつけた。 「盗賊め、覚悟しろ!!」 が、剣は空を斬り、影は跳躍し荷台の屋根を突き破る。 影を追い表に出ると、月を背に酒をラッパ飲みしている女。 「キャっ」 「な、ななな…!!!」 「うわッ」 思わず声を上げる一同。 それもそのはず。その女はほぼ裸。胸と腰だけを隠す布を付け、手と足は黒く闇に融けている。 豊満な胸を隠す布も隠し切れているとは言えない状態で、下乳が見えている。 なにより一同を驚かせた事はその女の背中には黒い羽が生えていた。 「あーッ!私のお酒ぇ――ーッ!!!」 目の前で消えていく幻の酒に悲鳴を上げるアリシア。 いや、アリシアのじゃないし。 「ゴメンね。もう全部飲んじゃった☆」 空になった瓶をアリシアの前に投げる。 とうのアリシアは目の前で酒が消えた事に衝撃を受けて動けなくなった。 アグリアスも目の前に現れた女に動揺を隠せない。 「き、貴様!は、恥ずかしくないのか!?」 「ん~?何が恥ずかしいの?」 酒を飲んでいた女は首をかしげる。 「その格好だ!」 「あぁ、コレ!」 そういうと、完全に胸を隠し切れていない布を引っ張る。 「わ、ば、馬鹿者!そんな事したら…」 「私はこんな布いらないんだけど、こっちの方が燃えるらしいのよね。なんて言うの…チラリズム?」 「破廉恥な!女なら慎みというものを―」 「アグリアスさん、落ち着いてください。アレは人じゃないですよ」 「人だろうが、モンスターだろうが、慎みは必要だろう!!」 その考えだと、チョコボやウッドマンも服を着ろと言う事なのだろうか? 「とにかく落ち着いてください。アレは多分リリスですよ」 「リリス?―あの妖魔リリスか!?」 アカデミー在学中に読んだ文献によればそれは生命の母とも、最初の悪魔とも云われ、男性に対して害をなす存在だとか。 「あら、意外に物知りね。それに――」 フッと目の前から消えた。 「可愛いだけじゃない。…イイ男☆」 ラムザの側面に現れたかと思うと、突然抱きついた。 「き、きき、貴様ッ―!!ラムザに抱きつくとは命が惜しくないようだな、色魔め!!」 「私の名前はサロメ。そこら辺に居るサキュバス達と一緒にしないで」 「リリスってサキュバスと違うんですか?」 「そんな事も知らないの?失礼ね。…食べちゃうわよ?」 「何を平然と会話をしているのだ、ラムザ!」 「いぇ、そんなつもりは…」 「言い訳は良いから早く振りほどかんかッ!!!」 「は、はい!――あ、アレ?腕が」 リリスはただ抱きついただけでなく、左腕と剣を握っている右手を抑えていた。 「ダ~メ~。貴方の事気に入っちゃった☆」 それでもどうにか振りほどこうとするラムザ。 しかし流石は悪魔種。抑え込む力はとてつもなく、ビクともしない。 せいぜい動かせるのは肘くらいだが、しっかりくっつかれているため肘打ちもほとんど意味がなく、さっきから豊満な胸にポヨポヨと当たるのみ。 「あん☆私のおっぱい好きなの?直に触ってみる?気持ちイイよ~☆それとももっと気持ちイイことする?」 「な―!」 ラムザが驚愕の声を上げる。 当然、リリスの誘いを断ろうとするラムザ。 だが、その言葉が発するよりも早リリスがある言葉を紡ぐ。 「青き海に意識薄れ、沈み行く闇 深き静寂に意識閉ざす… 」 ―これは夢邪睡符!? 気付いた時にはもう遅く、ラムザの意識は遠のいていった。 その2へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/120.html
※アグリアス×ラムザss 男の子がイジめられますので、苦手な方はご注意を 『アグリアスさん』が「わたしは針仕事は苦手なんだぞ」とブツブツいいながらラムザのズボンひったくって尻部分の裂けを補修してる。 で、何故か残っていた針がラムザの尻に刺さって、『アグリアスさん』が慌てて薬を塗ってるうちに 勃起し始めて『アグリアスさん』がカァーっとなってラムザの尻を叩く するとますます勃起するのでムラムラした『アグリアスさん』傷口をペロリと舐める 「はぅ」と艶かしい声を上げるラムザに辛抱たまらん『アグリアスさん』が素手(グローブ)の指一本で聖剣技をかける 聖光爆裂破でアヌスを沈黙状態にほぐしてから、 「心配するな。男は初めてだが、数多くのアナル処女を奪ってきた指だ。 ラヴィアンもアリシアもわたしが初めてを担当した。あやつらと棒姉妹になれて、嬉しいか?」 「そんな。や、やめてください」 期待に震えつつも抵抗の意を示すラムザ。 「それはヤってくれという声色だぞ、ラムザ…。くっ、貴公とこのような仲になるとは……ラムザ!」 思いのたけと鍛えた技を中指にこめて無双稲妻突きで突きまくる麗しの女騎士。 「あああ!ああ!」 間髪なく、何かに吸い込まれるように鳴くラムザ。 女騎士、冷静沈着な面影はどこへやら、はぁはぁと息を切らして頬を紅潮させ、すぐにも汗くさいフェロモンを撒き散らすだけのメスに変わった。 だがその「あられもない」表情を、責められっぱなしの当の美青年(少年にも等しい体躯と風貌)が見ることはできない。 恥ずかしさと未知の快感、いや、そのくすぐったいような痛みを快感の始まりと認めるには青年ラムザは、うぶだ。 『アグリアスさん』がすでにモンクをもマスターしていたことを思い出し、秘孔を突かれてこのまま死んでしまうのではと思うばかり。 「あ、あふ、あ、やめ、てくださ、アグリア、スさ、ん、ん」 「すぐに、好くなるから…」 育ちのいい貴族出身の青年は、こんな異常事態でも相手に呼びかける言葉を丁寧につむぎだそうとする。 しかし喘ぎ混じりのそれは女騎士の眼の中の炎に油をそそぐ。 そして更に”穿つ”作業に没頭させていくのだった…。 そして2時間ほど後。 魔道士系ばかりを極めてきたか弱い青年”騎士”ラムザは、力で劣る女騎士に完全に篭絡されていた。 体力がなくとも長時間を耐えているのは、ひとえに青年の性的欲求の、生まれたばかりの若々しさからか。 「感じるか」 「あっ、、あっ、、あっ、、はっあっ……」 乱暴ではないがスムーズなピストン運動が青年のケツ穴を貫き続けている。 「早いな。貴公は可愛い。いや、いやらしい」 「あっそんあっ、、んあっ、、あっ、、」 舌が回っておらず否定になっていない。 いや、否定ではない。否定する癖で『アグリアスさん』をその気にさせているだけなのだ。 女騎士はその反応に大いに満足した。 「そうか。今、貴公は女のわたしに何をされているのか分かっているのか?ラムザ隊長どの」 『アグリアスさん』は指を挿したまま動きを止めた。 ラムザは息を切らしながら、次第に冷めていく熱気を、 股間や背中、はいつくばった両手の甲、そして自らの汗したたる頬に感じていた。 それとともに言いようのない屈辱感が押し寄せてくる。 今さら動いて、この背後のサディスト女騎士から逃れる気にもなれない。 しかしこのままの姿勢でいると、刺さったまま動かない指の感触が気になって…。 そして気付かないうちにグローブを外して指を挿入されていることをすべすべの感触で知ったのだった。 アグリアスさんの生の指が…。 そしてラムザは中途半端に勃起したまま射精もしていない童貞チンポを前に突き出すように腰を振り、往復する動きで自分から『アグリアスさん』を飲み込んでいった。 「あ、ああ」 自分で腰を振ることは、快楽に消耗した今のラムザには一動作で激しい運動だったが、それはこれまでにないよさを味わわせた。 もう一度、もう一度、そうして四つんばいで獣のように体を前後にそらすたびに、 何かの家畜のようにケツを突き出すたびに、相手がいつも自分の命令通りに動いてくれる、『アグリアスさん』だということを忘れていった。 「みっともないラムザ。貴公は本当に私を助けてくれた、」 「あ、、あぅ、あぅ、あ、」 そして『アグリアスさん』は笑いの息を止めた。この上なく冷たい声でささやく…。 「勇ましくわたしに語りかけた、あのラムザなのか?貴族が、まるで、豚ではないか…」 とたんに惨めさが吹き上がってきた。今すぐやめようとか、そういう考えは微塵もなく、ただ惨めさが。 「あうっ、、ご、ごめん、なさ、さ、さあ、、あっ」 「しかし、貴公はどんなになっても、可愛いな」 おわり