約 1,390,177 件
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/121.html
街に着き宿へ。情報収集と物資調達のため三日ほどは逗留、担当以外は今日も明日も全員フリーだ。 嬉々として買い物へ赴くもの、酒場へ繰り出すものを見送って、さて僕はどうしようかと夕日の差すベッドに腰掛けたとき。 剣の柄に、小さなカードが差してあるのに気がついた。 「えーと…あれかな?」 書いてあった住所は街の繁華街からちょっと離れたところ。果し合いと勘違いしそうなシンプルな内容だが、逆に書いた人が誰か一発で分かるというものだ。 その店の前には人だかりができていた。…どうも、誰かがケンカしてるみたいだな。 「どうした酔っ払い。私に酌をさせるんじゃなかったのか?三人掛かりで情けないことだ」 美しい流れるような金髪にシックな髪留め、鎧を脱いだ平服姿。見た目は完全に貴族の令嬢と見まごうばかり。……ごつい男の胸ぐらを、片手でつかみ上げていなければ。 「ん、ラムザか。ちょっと待ってろ、すぐ片付ける」 哀れな酔っ払いを苛めているその令嬢は当然、われらが元・近衛騎士隊長。 アグリアスさんである。 淡いランプが照らす店内は落ち着いた雰囲気だった。気の毒な男たちを見送った後、二人で仲良くカウンターに腰掛け、互いに一杯目と決めている酒を注文する。 「お呼び出しとは珍しいですね」 「今日はお前と飲みたかった。たまにはいいだろう。迷惑がるな」 「迷惑なんてとんでもない。もちろん、いつでもお相手しますよ」 隊の運用、資金の運用、今後の見通し。そんなどうでもいい(よくないけど)話をしながら、多少回って来たかな、というあたりでアグリアスさんが口を開いた。 「……驚いたか」 「えぇ。予想外でしたね」 先刻の店先でのケンカの話だ。少なすぎる言葉ではあるが、必ず来るだろうと思ってたから即答できた。 が、彼女は僕の即答に、若干機嫌を損ねたようだ。 「それだ。皆、私を誤解している」 「誤解?」 「『おカタい騎士団のマジメな女隊長様』、お前も私をそんな風に思っているだろう?」 じとっとした目で僕を睨む。お酒にちょっと頬を染めて、ちょっと乱れた金髪はいつもの大人びた雰囲気ではなく、拗ねた女の子みたいでなんだかとてもかわいい。 さて、なんと答えたものだろう。 「違うんですか?」 「違う。私は由緒ある家に生まれながら令嬢でいられず、騎士になった後も意に沿わぬ隊長を殴り倒して何度か営倉入りしたバカな暴力女だ」 あのくらいのケンカなど日常茶飯事だったぞ。ぐっと残った酒を一息に煽り、次をバーテンに注がせる。言葉の真偽はともかく、飲みっぷりは実に男らしい。 「それは間違いなく、相手が悪いんですよ。アグリアスさんを知ってる人なら、詳しい話を聞かなくてもみんな分かります」 「…………」 「こんな時代なのに、場の空気とか軍規じゃなく、自分自身の規範にとても真剣なんでしょう?誰より真面目でしっかりしてるってことじゃないですか。 それなら僕の思ってるとおりのアグリアスさんだし、僕はそんなアグリアスさんが好きですよ」 「ぶ」 あ、むせた。ちょっと不意打ちすぎたかな。 でもあまりこの人には自分を批判したり疑問を持ったりはして欲しくないから、ばっさり言い切ってみた。まぁ、僕のわがままだけど。 「大丈夫ですか?」 「……聞かせろ」 「は?」 「次はラムザ、お前の番だ。お前の素の姿を、私に語って聞かせろ。嫌だとは、言わせないぞ」 恥かしがってるような、拗ねてるような表情で僕を見る。…あるいは、本当はこの言葉が言いたかったのかな。 うん、やっぱりこの人はかわいい。凛々しいけど、とてもかわいい。 「…それで、僕が助けようとやっと木に登ったと思ったら、アルマは先にさっさと飛び降りちゃって」 「で?」 「僕はしばらくそこから動けなくって、兄さんに助けてもらいました」 他愛の無いいくつかの話に、彼女は何度も声を上げて笑った。魅力的な碧眼の端には涙さえ浮かべている。 「ふぅ。…すまなかった。あんなことを言って、私もお前を誤解していたようだな。文武に長けたベオルブの家系、完全無欠の貴公子かと思っていた」 「完全無欠な人間なんていませんよ。思うままに動いて、たまには汚れて、それを笑って語れるから人は人を好きになれるんだと思います」 「そうか。…そうだな、お前の言う通りだ。私も、お前のことが……」 アグリアスさんは潤んだ瞳で、じっと僕を見つめる。と、不意に身体を密着させて―― 「ここは二階に部屋が取れる。少し休まないか、ラムザ」 耳元で囁いた。と、…こういう場合のリアクションは……。 「……」 とりあえずスツールを降りて彼女の腰に手を回し、抱き寄せた。 ちょっと自分でもぎこちなかったけど、降りたアグリアスさんの表情を見る限り、気持ちは伝わったみたいだった。 「…ん…」 部屋の扉を閉めた途端、互いの背を掻き抱き、むさぼるような甘いキス。 自分の心と身体の熱を示すように、相手の舌を絡めとる。 「もっとお前が知りたい、ラムザ」 「僕もです、アグリアスさん……」 アグリアスさんの声。味。におい。体温。やわらかさ。リードをするとかされるとかの余裕も無く、ただ勢いのままにベッドに押し倒し、服を脱がせた。 「……」 「あ、…すみません、…痛かったですか?」 ちょっとだけ躊躇うような表情を見て、なんだかよく分からないが謝ってしまった。 「いいぞ。お前の好きにしていい……私を女にしてくれ、ラムザ」 裸体をちょっと恥かしげに隠しながら、微笑みながら頬を染める。 うん。これで落ちない男は、いないと思うんだ。 乳房を剥き出して、軽く手を触れる。ほのかに温かくて弾力のある柔らかい感触を、ゆっくりと揉みしだく。 「結構胸、大きいんですね」 「…馬鹿」 首筋にキスをすると、軽く呻く。そのまま舌を這わせ、絶妙な甘い肌と声とをじっくりと味わう。 同時に親指と人差し指とで、胸の先のまわりをゆっくりと円を描くようになぞる。抗議しようとした口は、口付けで押さえ込んだ。 目の前にはアグリアスさんのとろんとした瞳。陥落寸前。まぁ、僕はもうとっくに陥落しているわけだけど。 ころあいを見てかわいい乳首を指でつまむ。こりこりとした感触を楽しんでいると、彼女の身体が切なげに震えた。 「気持ちいいですか?」 「ん、…うん…それ、きもちい…あッ」 可愛い。可愛すぎる。死ぬ。 左は指で弄びつつ、右は舌と唇で攻めてみる。首筋よりも甘い味わい。相当感じてくれているらしく、吐息が熱い。 「ラムザ、ラムザ……もう、胸ばっかり……」 「ほかにご希望があるんですか。こことか?」 言いながら、不意をついて綺麗な脇の下を舐めあげる。ひゃうん、と変な声を出して、軽く僕を睨みつけた。 「そ、そんなところはいい!お前の、お前のが…その、そろそろ…」 「僕の何ですか?ちゃんと言わなきゃ、わかりませんよ」 言いながら、下へと手を伸ばす。柔らかな両の内腿を撫でさすりつつ、湿った気配のそこを焦らすように触ってみる。 つぷ、と入り口に浅く指を挿れ、すぐに抜く。もうすっかりとろとろに出来上がっているが、そんな簡単にしてあげては面白くない。 入り口を誘い、離れる。またちょっとだけ指を入れて、すぐに抜く。ひくひくと震える柔肉を無視して、両足の付け根をさする。 「ラムザぁ…やめて、もう…欲しい、欲しいよぉ…全部、奥まで、ちゃん…と…ッ!」 そんなことを何度か繰り返しているとアグリアスさんはすっかり涙目。その表情が愛おしすぎて、僕は更に苛めたくなる。 「僕、まだ何もしてもらってませんよ?」 言うが早いか、逆に一瞬で押し倒された。さすがの体捌きというべきか、しかしこんなとこでそんな本気にならなくても。 「出せ。自分で」 裸のアグリアスさんに押し倒されて迫力と興奮にどきどきしながら、ごそごそと臨戦態勢の自身をさらけ出す。 「下手でも文句言うなよ…」 ためらうことなく、彼女はそれにしなやかな舌を這わせはじめた。 白い指に擦り上げられる感触。唇に含まれ、しごきあげられる感覚。舌が裏筋を這い回り、絡みつき舐め上げる快感。ゆれる乳房と金髪。 一生懸命さがものすごく伝わってきて、正直すごく気持ちいい。 「イイか?…ラムザ…」 発する吐息、蕩け切った視線さえも心地いい。 「ええ、すごく…このままイッていいですか?」 「ダメだ。許さん」 互いに困ったような表情で、笑う。 彼女は仰向けに寝転がり、足を開いた。 僕は遠慮なく覆い被さり、ぬるぬるに脈打つ熱い膣中へと勃ちあがった器官を挿し入れた。 二人の嬌声が、部屋に満ちた。 互いの熱い肉体を貪るように求めあい、卑猥な音を立てて接合部をこすりつけあい、湧き上がる快楽に身を震わせる。 互いの名を呼び、くねる腰を打ちつけながら、両手を重ね、唇を重ねる。声、熱、汗、五感のすべてで、互いを感じあう。 「ラムザ…あッ、ラムザッ…」 「アグリアスさん…僕、もう…!」 気持ちいい。もう何も考えられない。 お互いに貪欲に快楽を貪る素の自分を見せ付けあい、自分から腰を動かす。 精神的にも、肉体的にも、互いに溶け合い混じりあう陶酔感の中で、僕は彼女の内で快楽の頂点に達した。 何度も、何度も。彼女の身体を固く抱き、身をうち震わせてその胎内に精気を吐き出した。 「…中で、出したな」 「はい。出しました」 「できたら、責任を取ってくれるんだろうな?」 困る僕の姿を楽しもうというのか、裸のまま悪戯っぽく微笑むその姿が可愛くて、僕はついついカウンターを返す。 「もちろん。貴族の奥方として、一生ドレスと宝石と社交界の花形としての立場が、貴女を待ってますよ。望むならね」 「…望まないな」 つまらなそうに口を尖らせる。あはは。そりゃそうだ。 「じゃ、二人で放浪の剣士にでもなりましょうか。世界中を回りつつ、子供を育てて」 「あぁ、それは望ましいな。しがらみのない、私たちらしい………私たちという人間らしい、素敵な夢だ」 朝日の差すベッドの上で、再度の口付けを交わす。互いの欲求が、再びごそりと動いたのを感じ合う。 チェックアウトまで、もうちょっと時間がありそうだった。 (FIN.)
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/134.html
髪を切ろう。 そう思ったのは今朝の事だった。 いつものように早朝の日課である鍛錬を終た後、水浴びに行く途中で暑い風が吹いてきたのだ。 じわっと汗が噴き出る。 雨季から乾季に変わる時の季節風だ。 たまに夏と思わせるような風が吹いてくる。 頭が暑い。 風で噴き出た汗に加え、鍛錬で掻いた汗で首周りがべとつく。 いっその事切ってしまおうか。 うん。そうだ。そうしよう。 髪は女にとって特別だと言うが、私はそうは思わない。 別段綺麗な髪でもないし、今さら乙女のように容姿に気を掛ける必要もない。 この道を選んだ時から女としての道は捨てて来たのだから。 そう。だから別に髪を長くしている理由もないのだ。 「実はラムザ。髪を切ろうと思うんだが――」 「えっ!!」 驚愕の表情と共に椅子を蹴って立ち上がるラムザ。 「ぼぼぼぼ、僕何か悪い事しましたか!?それともFaith95!??」 「Faith? 何を言ってるんだ??」 「ま、ままま、待ってて下さい。今、信疑仰祷を――って算術も陰陽術も付けてない!??」 信疑仰祷?算術?? なぜプライベートな話から戦術論へ??? 「そ、そうだ。解法すれば」 「…良く判らんが、落ち付けラムザ」 「いい、いいですかアグリアスさん。い、居ない居ない居ないんです。家畜にかm―――」 「熱き正義の燃えたぎる! 赤き血潮の拳がうなる! 連続拳!」 「グワバッ!!」 ――――――。 「落ち着いたか?」 「は、はぃ…。 お手数お掛け致しました」 「何をそんなに慌ててたんだ?」 「僕たちと旅をするのが嫌になって修道院にはいるのかと…」 「早合点したわけだな?」 「はい…すみません。 でも、何で髪を?」 「長くなって来たからな。そろそろ切ろうと思ったんだ」 「…切っちゃうんですか?」 「うむ。戦いに髪の長さは関係ないからな。寧ろ動きやすくなるやもしれん」 「…」 会心のギャグを決めた積りだが、ラムザは無言か…。 ラヴィアンの言うスキンシップは難しいな。 「コホン。 そ、それに、直に乾季がやってくる。そうなれば涼しさを求めるのは当然だろ?」 「…」 「でだ。ラムザはどんな髪型が良いのかと………どうしたラムザ?」 「いえ、アグリアスさんがそれで良いのなら良いんですけど…」 「ふむ?」 「僕は髪が長いアグリアスさんの方が好きだなぁって」 「!」 「それに、髪解いた時、月明かりに照らされて…髪がキラキラ光ってて。 まるで教会の女神画のようでした!」 ラムザは子供のような満面の笑みでサラッと言ってのける。 め、女神?私を???女としての自分は捨てて来たのと言うのにそんなな私を女神と言うのかか? せ、せせせ世辞だ。そうだ世辞に決ってるラムザは優しい人間だからなこんな女にも気を使ってくれているのだろうというか落ち付け!無駄に心拍数をあげるんじゃない!!!! ま、まま、落ち付け落ち付けどんな時も冷静に対処すれば百戦危うからずさぁ落ち付け落ちち付け落ち付けけけ――― 「っと、すいません。勝手なこと言って。アグリアスさんの思うようにしてください。髪が短くなったら短くなったで、違うアグリアスさんが見れて僕は嬉しいですし」 「そ、そそそ、そうか。―――ん?」 「おい、ラムザ」 「はい?」 「さっき髪を解いた時って言ったな?」 「えぇ。今でも思い出せます。綺麗な満月の晩、女神さまになったような――」 「あのな、ラムザ」 「はい」 「私は普段三つ編みを解かない。解くのは寝る時と沐浴中だ」 「あ―――」 「さて…覚悟は良いな?」 サァっと風が髪を薙いでいく。 髪を短く切るのは止める事にした。 まだこんな私を女と見てくれる人のために暫くはこの髪型でいようと思う。 長くなった分をラヴィアンに短くしてもらっただけ。 予定では髪バッサリ短くする予定だったから逆に暇になってしまった。 さて、今日は何を――― 「お、今日もアグ姐ぇはエビフライだね。うははははっ」 ――よし。今日の仕事はムスタディオの墓造りだな。 今日は日射しも暑い。 夏の到来を知らせる風が悲鳴と酸鼻をさらっていった。 おしまい
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/43.html
私の名はラヴィアン。 愛と勇気と希望と平和と情熱と恋と浪漫と夢と金と酒のために闘う、 ラブリーでプリティーでチャーミングでビューテホーでエレガンツな近衛騎士である。 得意技はブレイク。武器だろーが鎧だろーがブレイクします。 今日も今日とてブレイク日和。 ほーらご覧の通り、アグリアス様が大切にしてる手鏡がパリーンとな! 名づけてミラーブレイク!! おおっ、何だかとってもかっくいー響き! …………。やばい。メガやばい。ギガやばい。テラやばい。ペタやばい。 ウルトラやばい。グレイトやばい。スーパーやばい。ハイパーやばい。ビッグやばい。 だってこれ、アグリアス様の手鏡、誕生日プレゼントだもの。ラムザさんからの。 毎日欠かさずこの手鏡で身だしなみを整えるくらい重要アイテム。 で、なぜこうなったかというと、谷よりも海よりも深い訳がある。 時は夕刻、宿の部屋の片付けしてて手が滑った。 ああ、ダメ、納得してくれない絶対に。 お仕置きは聖剣技全部ぶち込みですか? それとも一ヶ月くらい禁酒させられますか? 幸運なのは、今、この部屋にいるのは、私だけという事実。隠蔽は可能なのだ。 私と同室しているのは、アグリアス様と、アリシア。 隣部屋にはラファとメリアドールとレーゼが泊まっている。 さてアグリアス様はというと、今は、ボコに朝の餌をやりに行っている。 すぐ戻ってくるだろう事は間違いない。 ではどうするか。アリシアのせいにして逃亡するか。 ……私は……何を……馬鹿な事を……考えてしまったんだろう……! アリシアのせいにして、逃亡する? 仲間を、親友を売り払ってまで助かりたいというのか! 裏切り者になってまで助かったとして、私は何を得る? 生涯拭えぬ後悔だけだ。 ああ! ごめんなさいアリシア、マイ、ベストフレンド。マイ、ベストパートナー。 少しでも貴女を犠牲にしようとしたラヴィアンを許しておくれ! 「ラヴィアン、アリシアの鞄など開けていったい何をしておるのだ?」 「うっひゃはぁ~んいっ!? ああああああ、アグリリ様、オカエリナサト」 振り向けば部屋の扉を開けた所に我等が敬愛するアグリアス様がいるじゃないですか。 「どうした、そんなに慌てて」 「慌てる!? そんな馬鹿な! 万事において知的でクールなこの私が!? うろたえるな小僧ー! 白羊宮はうろたえない! 青銅四人を吹っ飛ばせ!」 「えーと、万能薬はどこだったか。いや、エスナでいいかな」 「別に混乱なんてしてませんから落ち着いてくださいアルトリア様。はい、深呼吸」 「アルトリアって誰だ。……本当に大丈夫か? 病院なら近くにあるが」 「それより私は急用があるのでスタコラサッサとつかまつる。シー ユー アゲイン!」 「あっ……そろそろ食事に誘いに来たのだが。やれやれ」 こうして、私は逃げ出した。 アリシアの鞄に割れた手鏡を隠して。 すまぬぅぅぅ! すまぬ、アリシアー! もし貴女の身に何かが起こった暁には! お詫びとして100ギル上げるから! マジ、堪忍! ねっ? さて部屋から逃げ出した私が真っ先に向かったのはラムザさんの部屋だ。 ラッドとムスタディオも一緒のはずだけど今はどうでもええ。 到着するやノック無用で開け放つ私。 「頼もぉー!」 上半身裸のラッドがいた。 パンツ一丁のムスタディオがいた。 黒い下着姿のアリシアがいた。 特に何も脱いでいないレーゼがいた。 ラヴィアンは問う。 「何してんのー」 ラッドが答える。 「脱衣マージャン」 アリシアも答える。 「男側を素っ裸にできたらHのバッグを買ってもらう約束なの」 ムスタディオも言う。 「レーゼの姉御が手強すぎて……このままじゃ俺がバッグを買うハメに」 レーゼは余裕の態度。 「とりあえずムスタ君を脱がしてバッグゲットね。その次はラッド君よ」 「ケッ、上等。その余裕の表情を引ん剥いてやらぁ」 一通り説明を終えた四人は、再び麻雀卓に向かって牌を掻き混ぜる。 こんな面白そうな事やるんなら自分も混ぜて欲しかったと思いつつ、 ここを訪ねた本来の目的を思い出したラヴィアンは再度問う。 「あのー、ラムザさんはいないんですか?」 「ラムザなら武器屋だ。要らなくなったアイテムを整理して売りに行った」 「そ、サンキュ! アリシア、今度は私も誘いなさいよ!」 宿を飛び出たラヴィアンは、一直線に武器屋へ向かう。 竜騎士のアビリティ、高低差無視を駆使して文字通り一直線に。 「見えた! あれが、あれが、あれが武器屋だ!」 武器屋の屋根にたどり着いたラヴィアンは、さっそく入口に回ろうとして、落ちた。 Q.どこに? A.煙突に! 「グ……パァー!!」 どこぞの四天王最弱のアンデットのような悲鳴を上げて、ラヴィアン煙突大落下。 そして武器屋の中の暖炉へ、爆発したかのようにすすを撒き散らして尻餅だ。 入店早々大迷惑をかけたラヴィアン、咳き込みながら爽やかスマイル。 「こんちやーっす。サンタクロース見習いの者ですが、アホ毛の人いませんか?」 いました。 「ラヴィアン、そんな所からなぜ……?」 「あ、ラムザ様。会えてよかったー。ちょっとお訊ねしたい事が」 すすまみれのまま歩み寄るラヴィアン。その奇妙な迫力にラムザはたじたじ。 「な、何だい?」 「この前アグリアス様に贈った誕生日プレゼントの手鏡、どこで買ったんですか?」 「え、あれは、この街の広場にある、あの大きなお店だよ」 「あー、あー。あの店っすね。了解、ありがとさんでございやした」 用は済んだとばかりにラヴィアンは、すすまみれのまま店を飛び出て広場へ向かう。 はてさて一人残されましたラムザさん、すすまみれの店主が怒髪天、 已む無しにと武器屋の掃除をやるはめになりましたとさそろそろ晩ご飯の時間なのに。 すすまみれのまま入店してきたラヴィアンに、店員達は露骨に嫌な顔で迎えた。 それでも構わずラヴィアンは、ラムザが買った手鏡を見つけるや、 即座にそれをレジへと運びました。 そう! これこそがラヴィアンの計画!! 同じ手鏡を秘密裏に購入し、アグリアスが気づかぬうちに、壊れた鏡と入れ替える! まさに、そう、まさに! これこそ世紀の完全犯罪! ラヴィアンによるラヴィアンのための完全計画(パーフェクトプラン)なのだ!! 「5000ギルになります」 「あ、財布忘れた」 店から追い出されたラヴィアンは、こうなったら手っ取り早くお金を稼ごうと、 路地裏へ……治安の悪い夕闇の中へと……姿を消した……。 そして少々の聞き込みの後……ラヴィアンが訪れたのは……。 この街を裏から牛耳る悪の組織、その名も素敵、ゴルベーザ四天王! さっそくゴルベーザの居城に押し入るラヴィアンさん。 それを待ち構えるは、ゴルベーザ四天王の一人。 土のスカルミリョーネは言いました。 「一人で我等が居城に乗り込んでくるとは愚かな奴! 屍にしてくれるわ!」 「フェニックスの尾」 勝利ッ!! 解説――FFT世界では、アンデットは蘇生すると一撃で戦闘不能になるゾ。 続いてお出まし水のカイナッツォ。 「スカルミリョーネは四天王になれたのが不思議なくらいの雑魚なのだ!」 「らいじんのたま」 勝利ッ!! 解説――魔法と違い即座に攻撃できる『投げる』は強力なアビリティだゾ。 さらに奥に控えるは、四天王が紅一点。風のバルバリシア。 「この風のバリアに身を護られている限り貴様の攻撃は通じぬ!」 「ジャンプ」 勝利ッ!! 解説――バルバリシアの風のバリアは、竜騎士のジャンプで敗れるゾ。 いよいよ登場四天王最強の男、火のルビカンテ。 「よくぞここまで来た、全力でかかってくるがいい。さあ、回復してやろう!」 「右手にアイスブランド、左手にフレイムシールド」 勝利ッ!! 解説――氷属性の武器ならマントを閉じられても大ダメージ! 火燕流は盾で吸収! そして最後にお出ましするは、一部で大人気の暗黒騎士ゴルベーザ。 「よく一人でここまで来たものだ。いったい何が目的だ?」 「悪者退治をするついでに、あんた等が悪さして稼いだ金を頂くのよ。 最低でも5000ギルはもらうわ、覚悟しなさい」 「ふむ。なら5000ギルやるから帰ってくれ」 「いいですとも!」 こうして、悪は滅びなかった! しかし5000ギルを手に入れたラヴィアンは、見事手鏡を買えましたとさ。 宿に戻ったラヴィアン。そそくさと部屋に忍び込み、アリシアの鞄を開ける。 「よしよし、後はこの手鏡を処分して、新しく買ってきた手鏡を置いておけば」 こうしてラヴィアンは人生最大の危機を乗り越えましたとさ。 ――と思いきや。 「むっ? これは、私の手鏡ではない! ほら、ここに私の名前が書いてない!」 「その歳になっていちいち私物に名前書いてんですかー!?」 「その反応……ラヴィアン、貴様の仕業か」 「はぅ!? し、しまった口が滑ったどうしよう」 「言え! 私の手鏡をどこにやった!」 「もうだめだーもうだめだー、アグリアス様にー殺されるー殺されるー」 勝利条件 騎士アグリアスの攻撃に耐えろ!! 「こここ、壊しただと!? こ、この……アンポンターン!!」 「ゴフッ。ギブギブ、首絞めないで」 「怒りと悲しみを胸に刻んで心頭爆発! 聖光爆裂破!!」 「グホッ! な、何かセリフ違くないですか?」 「燃え上がれ、私の小宇宙よ! 積尸気鬼蒼焔!!」 「アチチチチッ! 死ぬ、死んでしまいますって!」 「リミットブレイク! 超究武神覇斬FF7Ver!!」 「ちょ、その攻撃回数はFFT世界では反則……ぎゃああ!!」 「連続剣! エンド・オブ・ハート!!」 「ちょ、その攻撃回数は(ry ぎゃあああああ!!」 悪は滅びた。 しかし――重大な問題が残っていた。 この問題を無視してこの物語を終わる訳にはゆかぬ。 それほどまでに重要な、その問題。 アグリアスさんの出番が少ない件。 「す、すまぬ……ラムザ……」 武器屋の掃除を終えて帰ってきたラムザを、宿の前で待っていたアグリアス。 いきなり土下座をして許しを請てきた。 何事かと大慌てのラムザだが、手鏡が割れてしまった事を聞かされ事態を把握。 「形ある物はいつか壊れます、今回はそれがちょっと早かっただけです。 でも、あの手鏡を受け取った時に喜んでくれた貴女の思い出までは消えません」 「ラムザ……許してくれるのか?」 「許すも何も、僕は最初から怒ってなんか………………そうだ。 許して欲しかったら、僕の言う事をひとつだけ聞いてくれますか?」 「な、何でも言ってくれ」 「明日、一緒に出かけませんか? ご飯を食べたり、買い物をしたり、劇を見たり」 「そ、それはつまり、逢引……」 顔を真っ赤にして硬直するアグリアス。 ラムザもまた、頬を染めてぎこちない笑みを浮かべている。 少しして、アグリアスは小さくうなずいて見せるのだった。 明日はスカートを履こう、だなんて考えながら。 後日――訳あって笑顔で怒っているアリシアがラッドと手を組み、 脱衣麻雀でラヴィアンを集中攻撃し素っ裸に引ん剥いてしまったそうな。 「私に罪を着せようとした報いに、着ている服を剥く、なんてね」 「ふ、服を脱いで寒い時にわざと寒いダジャレを言う……あんたは鬼や」 「あっ、しまったアイスブランドが鞘から抜けちゃったぁー」 「さささ、寒ッ! ゴメンってアリシア! マジ勘弁! ねっ!?」 THE END
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/101.html
獅子の月 夏真っ盛りのある日― 「アリシア、今日も稽古を付けてやるぞ」 「あ、今日は無理で~す。私、食事作らないといけないので」 「む、そうか。そう言えば、今日はラヴィアンも洗濯当番だったな」 仕方ない、一人で鍛練に励むか。 ハッ ホッ ウリャッ ふぅ・・・少し休憩するか。休憩のついでに服を着替えよう ヌギヌギ ふ~。夏ともなれば午前中といえども暑いな。ん―あれはラヴィアンではないか 「ん、ラヴィアン。洗濯物は終わったのか?」 「え?あ・・・洗濯物でしたら現在、洗濯中ですよ?」 「ついでですまないが、この服も洗ってくれ。今日は暑いから午前中の鍛錬だけでもうビショビショだ」 「はい、了解です」 ハッ フッ グゥッ むぅ・・・流石に昼になると鍛錬もキツイな。体調を崩してしまっては意味がない。続きは夕方にするか。 お、ラムザではないか。何をしているのだろう? 「な、な、な・・・・!」 「え?・・・どうしたんですか、アグリアスさん」 「き、貴公、な、な、何をしているの、だ?」 「洗濯ですよ?今日の洗濯当番(男)は僕なんです」 「し、しかし、それはわ、わ、私の―」 「あぁ。実は朝、ラヴィアンが来て―――」 『ラムザ~。ちょっといい?』 『はい、良いですよ』 『最近熱いわよね』 『夏ですからね。でも、今日は洗濯当番(男)だったから冷が取れて良かったかも』 『でも、夏の日差しって乙女の軟肌にはキツイのよ。―でさ、相談なんだけど。』 『何ですか?』 『さっき洗濯物が追加になったのよ。一緒に私たちの洗濯物も洗ってくれないかなぁ?』 「―という事がありまして」 「ラーヴィーアーン!!ドコダーーー!!!!!」 「ラーヴィーアーン!!ドコダーーー!!!!!」 「・・・―ァーヴィーアーン!!」 「え?・・・どうしたんですかーー?」 「イタ!ラヴィアーン、ココニ居タノカァー!!」 「うゎ!隊長どうしたんですか?」 「どうしたじゃない!何故、ラムザに洗濯物を洗わせているんだ!!」 「あぁ、ラムザ様に気軽に相談してみたら、『良いですよ~』って交代してくれたんで」 「洗濯を気軽に交代するんじゃない!ラムザがわ、私のショーツを洗っていたじゃないか!!」 「良いじゃないですか、下着ぐらい。盗られるわけじゃないですし」 「良くない!そういったところから隊の風紀が乱れていくんだ!それに盗られるとかの話ではない!」 「あぁ、匂いですか?仕方ないですよ。人間汗かきますし。それにラムザ様が某スレ住人達みたいに 『ハァhァ、アグタンノダ …クンカクンカ』 なんてすると思いますか?」 「アグタンって言うな!!それに、ラムザに限ってそんな事あるはずがあるまい!」 「えーっ!!ラムザ隊長ってそう言う性癖があるんですか!!」 「わっ!アリシア、聞いていたのか?」 「アリシアお帰りー。買い出しは終わったの?」 「えぇ、丁度今帰ってきたところでーってそんなこと良いんですよ。さっきの話マジですか?」 「いや、絶対にありえん事だ」 「えぇ~、そうかな?ラムザ隊長だって男なんだし。そういった性癖があってもおかしくないと思いますよ?」 「いや、100%あり得ん!」 「う~ん、私もアグリアス様の意見に賛成かな。じゃないとラムザ様のイメージが減滅」 「うむ、ラヴィアンの言う通りだ。ラッドやムスタディオとは違うのだぞ?」 「じゃあラムザ隊長の行動を監視してみましょうよ」 「良いだろう。真実を見せてやる」 「おー・・・ラムザ。暑いのに洗濯御苦労さん」 「ムスタディオか。どうしたの?」 「昨日ラッドと酒盛りしてさ。『明日は休みだから今日は飲むぜー!』って飛ばしたら具合が悪くてさ・・・・」 「大丈夫?横になっていた方がいいんじゃないの?」 「それが吐きそうなんだけど寝てると吐けないんだよ。何か引っかかってる感があってさ。だから具合が悪いながらも歩いてるんだ・・・。ラムザは洗濯か?」 「そうだよ」 「この日差しの下、洗濯に励むとは。大変だな」 「ははは、大丈夫だよ。定期的に日陰に入るようにしているし、ブリザドで空気冷やしているから」 「そうか。―ん?ラムザ、えらく変わった物を洗濯しているな。フリルなんかついて・・・ハンカチか?」 「いや、アンダードレスだよ」 「アンダードレス?―お、お前、まさかそんな趣味がっ!!」 「え?―違う、違うよ!これはアグリアスさんのだよ」 「なにーーー! グッ・・・・オボェ(自主規制 「うわー、ムスタディオこんな所で吐くなよ!!」 「ゴホッ・・・すまん。だけどスッキリしたよ」 「スッキリしたのはいいけど、アグリアスさんのアンダードレスが○○だらけになったぞ!!」 「あー・・・まずいな。すまん、ラムザ。今、アグ姉にシメられたらフェニ尾でも復活する自信がない。貸しにしといてくれ」 「もー、仕方無いな!!」 「わりぃ」 「もう直ぐ真実が明らかになるぞアリシア」 「せっかくですからなにか賭けませんか?」 「良いだろう。ラムザに下着の匂いを嗅ぐ性癖がなかったら、お前の根性含めて明日は猛特訓だ」 「じゃあ、ラムザ隊長にその性癖があったら下着姿をラムザ隊長に披露してもらいますよ!」 「よかろう」 「良いんですか、隊長!?」 「かまわん、そんな事あるはずが無いからな」 ふ・・・明日が楽しみだ。お、ラムザ発見――― 「はぁ・・・臭い、どうかなー?」 クンカクンカ 「あ―」 「そ―」 「や―」 「そんな・・・」 「やったぁー☆私の勝ちですよ!!」 「あれ?3人で、どうしたんですか?」 ラムザが・・・あのラムザにそんな性癖が・・・ 「どうですか、アグリアス隊長!真実は―」 「ラ、ラムザ。貴公いったい何をしているんだ?」 「洗濯です。綺麗になったんですが、不慮の事故で再度洗濯をしてます」 「何故、に、匂いを・・・」 「あ・・・う・・・これは・・・・・・その・・・・・・」 「――った」 「え?」 「見損なったぞ、ラムザ!貴公がそのような男だとは思わなかった!!」 「え?え?ま、待って下さ―」 「信じてたのに!!」 シャキ 「わ、わ、わ!アグリアスさん、話を聞いて―」 「問答無用だ!! 命脈は無常にして惜しむるべからず・・・ 葬る! 不動無明剣!!」 「ウワー!!」 コキーン 「そのままトドメを刺してやる! 大気満たす力震え、我が腕をして 閃光と―」 「待って下さい、アグリアス隊長!!」 「邪魔をするなラヴィアン!このような変態、我が隊には要らん!!」 「このアンダードレス―――見て下さい」 「なんだこんな時に!!」 「ここに少しシミがあります」 「だからなんだ!」 「それに大気に薫るこの臭い―すこし酒の匂いがしますね」 「酒?酒だと!?こんな時になんの――」 「誰かが二日酔いで吐いたんじゃないですか?」 「何!?」 「昨日、ラッドとムスタディオが酒盛りしてましたからそのどちらかと―」 「ラッドは今日、買い物に付き合ってもらったけど元気だったよ~?」 「では、ムスタディオの仕業か!?」 「でしょうね。きっとラムザ様が、二日酔いで苦しんでいるときにアグリアス様にバレたら殺されるって思ってかばってたんじゃないですか?」 「あー、ラムザ隊長可哀そぅ」 「うわー、ラムザ!しっかりしろ!!」 「う・・・うぅ・・・アグリアスさん」 「すまん!すまないラムザ!私の早合点したばかりに!!すべてはムスタディオの仕業だったのだな!」 「だ、大丈夫です。・・・どうか、ム、ムスタディオには寛大な・・・・・ガク」 「ラ、ラムザー!!!!」 「気絶しましたね」 「・・・」 「隊長、ラムザ隊長に聖剣技喰らわせるの初めてじゃないんですから。大丈夫ですよ」 「―ラヴィアン、ラムザを部屋に連れて行ってくれ。」 「は、はい!」 「アリシア、明日の猛特訓はナシにするから代わりに洗濯の続きを頼む」 「り、了解です」 「私は少し用ができた。二人とも頼んだぞ」 「ぁ、あの、隊長ぉ?」 「心配するな、ちゃんとラムザの意思を汲む」 「ふぅ・・・だいぶ調子が良くなってきたな。やっぱりさっき吐いたのが効いてるぜ」 ミシ… 「でも、アグリアスの服に吐いちまったからな。しばらく顔を合わせないようにしないと・・・」 ミシ… 「何だ?さっきから何か音がするな。ヤバいんじゃないかこの宿」 ―? ――。 「ん、誰か廊下で話してるのか?」 ――。 ―――け! ―――――!!! ―わーー! ズドン! 「何だ、何だ!?」 コンコン 「ムスタディオ、居ルナ?」 「ゲ、アグリアス!?―イナイデスヨ?」 「入ルゾ」 キィと音をたてて開く扉からルカヴィと対峙しているような悪気が入ってくる― そして、扉の向こうには――― 「ヨイショっと。やっぱしラムザも男よね。結構重いわ。でも、気絶してるとは言え、綺麗な寝顔ね。・・・ちょっと悪戯しちゃおうかな?」 ドンッ ドカッ ビカッ 「―もぅ、隣うるさいわね!ムスタディオだっけ?元気になったなら文句言ってやらなきゃ」 ドンドン 「こら、ムスタディオ、うるさいよ!アンタさ――」 ガチャ―― ラヴィアンが開けた扉の向こうに何があったのか? 狂気か―。 または、惨劇の跡か―。 分かっていることは、財宝であるエクスカリパーを誰かが使用したこと、ラッドが何故かストップしていたこと、それとムスタディオが瀕死の状態でベットに放置されていた事だけ 獅子の月、末日。 真相を知る者は少なく、口にする者は誰もいない―。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/32.html
機工都市ゴーグは異端者たちをその懐に迎える 機械の町、工業の町というイメージが強いゴーグは、海が近いということを案外知られていない。 ブナンザ親子をはじめ住民たちの多くは潮風にやられた色あいの髪をもっている。 ねんがら年中地下坑道にこもっているはずの機工士たちが日に焼けていることを疑問に思ったよそ者は、 町を散策するうち偶然に海を見つけ、時にはそこで珍妙な機械を操って遊ぶ機工士たちと遭遇し、はじめて合点がいく。 海側の窓を開ければ潮のかおりが入り込んでくる家も多い。屋上がある家のテラスともなれば尚更だ。 今晩彼らが、寒いのにわざわざテラスで飲み食いするのには理由があった。 ゴーグ職人の遊び心の結晶ともいえる、火薬と金属粉を混合した玉を打ち上げる花火が夜を派手に飾る。 ブナンザ親子の恩人であるラムザたちが死地から全員無事で帰ってこれたことを祝う花火だった。 ムスタディオは手伝いに駆り出されている。 異端者として指名手配されたラムザは目立つ事を嫌っていたが、新しい花火の品評会だとでも言えばどうにでもなると、 要はお祭り好きな気性の機工士たちに押し切られてしまった。 ブナンザ親子や住み込みの徒弟たちも不在のなか、 どおんどおんと耳をつんざく轟音と光以上にテラスはうるさく盛り上がっている。 「ぎゃはははは!!全員生還めでてえなあ、オイ!」 ラッドは笑い上戸だ。鼻につまみの豆を詰めてスポンスポンと飛ばし始めた。たまに出なくなって大騒ぎする。 いつもある程度の冷静さを失わないラヴィアンに泣きつくこともある。 ほどよく酒のおかげで人格が壊れるまでの酒量は多いから酒豪の部類といってもいい。 いい塩梅に壊れて大騒ぎの大暴れをした挙句、翌朝はすっきりさわやかな笑顔で朝の挨拶を率先して励行する。 要は、記憶が残っていない。本人いわく楽しかったことだけは覚えているからまあいいやとばかりにまた酒を呑む。 他人に絡む酔いかたではないので皆も放っている。たまに裸に靴下だけになって上機嫌で踊りだす。 「ひゃはははは!!おら、酒じゃ酒じゃあ!」 マラークも笑い上戸だ。こちらも裸に靴下だけがお気に入りである。 畏国人とは人種の違う彼らの故郷では下戸という言葉に相当する表現がない。 一族総じて酒豪だったらしく故郷の酒はみんな火がつくものばかりだったという。 調子にのって強い酒で火吹きショーを敢行して大事な髪を燃やしてしまったこともある。 どんなことをしたにしろ、翌日に激しく落ち込んで部屋の隅でいじけている。 要は、記憶にしっかり残っている。それでもどういう理屈かまた酒を呑む。たまに泣く。妹に絡む。 「ラファ~、兄ちゃんは悲しいぞぉ~」 「もう、何がよ、兄さん!」 「はいはい、兄妹愛もほどほどにね」 「お前が突っ込むな~」 メリアドールは隅で遠慮がちにちびちびやっていたが、見るに見かねて妹から酒臭い兄を引っぺがしてやる。 ベイオウーフとレーゼは、こうなることを予感していたのかさっさとどこかに消えている。 「さんばん!マティアス・フンケです!名も無き唄を全員集合おめでたアレンジで謡います!!」 普段は口数が少ないくせ、酔うとやたら元気になって芸をはじめたがる人間もいる。 テーブルの上に勢いよく飛び乗った仲間を見るや否や、彼と付き合いの長いラムザとリリベットは素早く目配せを交わす。 「ボエ~……!オッレ~ハ・・・・・・・・・・・・・・・!ガ!キ!だ…」 ラムザの足払いとリリベットの顔面めり込みスペシャル連続拳が的確にヒットする。 素面では無口な美青年だった酔っ払いはすごい顔の無口な人に成り果てる。 「はいさ、チャクラ!」 無残な顔面はたちどころに修復され、ラムザが担ぎ上げて部屋に連れて行く。 翌朝の記憶は、当然のごとくない。 ラッド同様本人は、まあ楽しかったみたいだしいいやと思ってまた酒に手を出す。 呑む分にはいいが何かの拍子に歌を謡われるといけない。 本人を中心とした半径数里の円内に効果を発動する彼の唄が、、 敵味方問わず生きとし生けるものならびに建造物に壊滅的なダメージを与える事実は士官学校時代から発覚していた。 間違っても、魔法が得意なこの男を吟遊詩人にだけはしてはいけないと、 彼の級友達のあいだでは一年生のうちから暗黙の了解が出来上がっていた。 「ぎゃはははは!バカでえ!!」 ラッドとマラークがひっくり返って大喜びする。 理由をよく知らずにとまどうオルランドゥやメリアドールに、実際に被害に遭った者たちが半泣きで解説している。 テラスの中央はさらに騒がしさを増す.。 アグリアスのところまで逃げてきたラファは、年齢が年齢だけに舐める程度で済ませている。 「あれ、アグリアスさんはお酒いらないんですか?」 アグリアスは酒を断っている。正確には、断っていた。 「ん…。しばらく呑まないほうが普通になっていたから。呑まないほうが習慣になっているんだわ」 「願掛け、ですよね。オヴェリア様と…その、再会できるまでって…」 長い睫毛が伏目がちなその瞳の悲しげな色を覆い隠す。 信仰を棄てたアグリアスはオヴェリアのもとへは戻らない決断を下した。 彼女自身は元老院からは死んだものとみなされ、騎士アグリアスが異端者の烙印をおされることもなかった。 ライオネルでオヴェリアを逃し、単身異変に立ち向かって命を落とした。 「忠臣アグリアス」の噂は彼女自身の耳にも届いた。 ディリータの口利きさえあればどうにでもなったに違いないし、 暗に勧められもしたがその道は断った。 修道院で信仰に全てを捧げる以外の生き方を赦されなかったあるじの魂は、 グレバドスの教えが大きな支え、核となっているといっても過言ではない。 「申し出には感謝する。だが、残念ながら辞退させていただきたい。 私はもう神に祈ることはできない身だ。 信仰に生きていらっしゃるあの方をお側で支えることもできないだろう」 彼女はそう言い切り、ディリータの前を去った。 テラスの中央でバカ騒ぎを繰り広げる連中を尻目に、黙りこくったまま縁にもたれかかる。 潮風を頬に受ける。 きりりと編み込みにまとめられていない部分の髪がそよぎ、ますますアグリアスの表情を隠す。 無言の彼女たちの頬や額が、花火の色で赤に緑に青に染まる。 「流石にああいうこと堂々とされるとなんだか呑む気なくなっちゃわない? メリアドール特製ブレンドのハーブ茶はいかが?」 立ち入った事情を聞きだすのは遠慮していたメリアドールが、 湯気とすがすがしい香気の立ち上るカップを差し出す。 彼女とて弟を亡くし、ルカヴィに乗っ取られてしまったとはいっても最後の肉親となった父とは永遠に決別したうえ、 もとは人一倍信心深い聖職者だった。 ランベリーの攻防で信仰と父を同時に失った。弟の死の真相に近づいた。二度弟を失ったといってもいい。 いまはつとめて明るく振舞っているが、どこか無理をしているような陰りもアグリアスは感じている。 自分とて。 オヴェリアの無事な様子を自分で確かめたい気持ちも強いが、 敬虔な心優しい修道女以外のなにものにもなれないように育てられたかつてのあるじに、 神を信じなくなったことを隠して何事もない顔でまた仕官できるのか。 そんな器用な真似は決してやってのけられない。 アグリアス自身が知っている。 「あはははは!まだ暴れ足りないもんね!次は誰だっ」 遅れて酒が回り、脳味噌が変色しだしたリリベットが今度は無差別に関節技の餌食を求めだす。 後衛の魔法ジョブにつくことが多くなってからもその悪癖はおさまらない。 柔軟な足首から生まれる変幻自在のフットワークにかく乱されたマラークが、 あっという間にヒザを固められ、ひっくり返された挙句にキャメルクラッチを極められ、 カエルの潰される声を上げる。 体が柔らかくて関節技をかけられても痛くもかゆくもない人間は、 体の硬い人間相手に楽しんで関節をかける傾向があるらしい。 パーティで最も体の硬いムスタディオが犠牲になってくれるときは犠牲者が最小で済むが、残念ながら今晩は不在だ。 「そろそろ頃合だな」 今まで黙々と呑んでいたオルランドゥの手刀が首筋に炸裂、アリシアによってやはり部屋まで連行される。 当然のごとく翌朝記憶は残っていない。 ただし実に自分に都合よく、理性が勝っていたときまでの記憶のみがしっかり残っている。 あとは忘却の彼方という最も幸せな忘れ方といってもいい。 以前アグリアスに酒を呑ませてしまったラムザとムスタディオは、 アグリアスの忘れ方は彼女と近いものだったとふんでいる。 「ぎゃはは、撃沈撃沈!!」 解放されたマラークが脱ぎだす。ラッドもつられる。 「オヴェリア様から会いたいって言ってくれたそうだし、そろそろいいんじゃないですか? って、兄さん!」 ラファなりに気遣っての発言は男どものせいで台無しになる。 (みんながアホみたいに騒ぐからゆっくりできないじゃない、特に兄さん!) いつの間にやら今度はアリシアがラムザにからみだす。 さっきまではキャアキャアと甲高かった声が一転してドスの効いた重低音と化す。 「おうラの字、いささか昔の話となるが、 アリシアたちが不在であった期間について少々問い糺したいことがあるッ!」 「ハハハハハイッ、アリシアサンッ。ナンノ ゴヨウデショウカッ」 「きさま、ライオネルから脱出してゴーグにいた時期、アリシアのアグリアスおねえさまに何をしたッ!?」 「ナナナナナニモイタシテオリマセヌッ。ミニオボエノナイコトデ ゴザイマスッ」 「ん?ん?あの潜伏期間は相当だったが、果たして何もしなかったといえるのかッ? おねえさまが聖剣技をおつかいになると素性がはっきりしてしまうからいかんだ何だ申して、 アリシアたちと儲け話に行くのをしつこく妨害しておったな、ラの字は」 いつの間にやらアサシンダガーがその手に握られ、ラムザの首筋をピタピタ叩く。 「ねーねーラヴィアンちゃ~ん、ケードーミャクってここですか~?」 いきなりアリシアの声がいつもの高さに戻るが誰もそれには突っ込みをいれない。 自分のペースで呑んでいるラヴィアンはいつでも比較的冷静さを保っている。 本日二度目でラッドの鼻づまりを治してやった彼女がラムザに同情的な目をしている。 「最初は!アリシアたちがサルベージツアーから戻ってきたときのことじゃ!!」 「ワワワワワ、ハイ、ライオネルカラ ダッシュツシテ フタツキクライ アトノコトデスネッ! エエト、イマカラ イチネント スコシクライ マエ デスネッ!」 カタカタ震えっぱなしのラムザだが「その時点に限っていえば」全く身に覚えは「なかった」。 「アリシアたちが帰ってきたらおねえさまが急にお綺麗になっていたとラッドが指摘したのじゃ! 残念ながらアリシアはのちのちまで気付かなかったが、よもやあのときからおねえさまに手を出していたのか?!」 外食に連れ出したまではラムザの意志だが、彼女が酒を口にしたのは偶然なのでラムザとしても何もいえない。 「アアアアア、アリシアサンッ。ボウリョク、ハンターイ! アリシアサンフクメ、ジョセイハ スコシミナケレバ キレイニナルモノデハ ナイデスカッ」 「抜かせケダモノが」 アリシアの刃が峰側からラムザの頬をペチンとひっぱたく。もはや冷や汗すら乾ききっている。 「しかしアリシアとて鬼悪魔のたぐいではない……。いまのも峰打ちじゃ。 きさまはいずれおねえさまの夫となる男、実に不愉快だがアリシアもすでにそう認めてしまった。 正直に話せば赦してやらんこともないぞ」 普段はおよそ騎士とは思えない軽くてのんきな雰囲気のアリシアなりに、 野営のときや教会権力の強い町で宿をとる晩は絶対に酒を口にしない。 たいがいはすぐ眠ってしまう彼女にとって今晩はいつもの適量を大幅に超えている。 これも一種の抑圧の解放なのかもしれない。 「おねえさまはあまりお酒をたしなまれないが、慣れぬ酒で酔わせたところを押し倒して (ピーッ)だの(ピピピピピーッ)だのと不埒なことをしてはいまいな? あの潜伏期間はとっぷり三月もあったのう、ラの字」 蒼白な顔のかわいそうな異端者はどうにか首を振ろうとしてみる。 「それでは…」 ニタリ、と舌なめずりしたアリシアの尋問は続く。 「きさまとおねえさまが結ばれた時期として真っ先に挙げられるのは、リオファネス城攻略直後だとアリシアは推測している…。 そも、きさま一人が気負って四連戦などするからいかんのじゃ。 普段のきさまの技量ならせんで済む怪我までしおって。 アリシアも疲れたからずっと横になっていてあの時は知らなんだが、 おねえさまに看病させた挙句いい雰囲気になったところ云々と聞き及ぶが…。 あれとて、おねえさまの意識がはっきりしている時でなおかつ おねえさまご自身の同意があった時らとしんりれもよいのらなッ」 凶悪な光を宿した明るい緑の瞳がだんだん眠たげにまばたきを繰り返す。 ころあいを見計らったラヴィアンが注意をそらし、苦笑しながらオルランドゥがラムザを解放してやる。 「はいはい信じるしんじる私がかわりに信じときます。 それにアグリアス様はラムザ隊長を信じてるんですよー。 アリシアもいい加減それしまいましょうねー」 「ラムザも大変だな…。アリシア、きみが悪い子でいるとアグリアスが悲しむぞ」 「は!御意に、伯」 溜飲を下げたのか満足したのか、アリシアは獲物を放り出して自分にあてがわれた部屋に引っ込んでいく。 翌朝彼女が何を思ったか知るものはない。 アホな年長者たちの大騒ぎに大きくため息をついたラファは 兄のせいで花火のハイライトを見逃したことに盛大なため息ひとつ。 素面のアグリアスと最後まで冷静だったメリアドール、ラヴィアンがテラスを簡単に片付けた。 愚かな酔っ払いたちはラムザとオルランドゥが脇に抱えて各自の部屋に搬送する。 心配げについてくるラファに向かい、ラムザが穏やかな口調で言葉をかける。 「あしたまで花火はあるってムスタディオが言ってたからそう残念がらないで」 兄の愚行で眉間にしわが寄りっぱなしだったラファはようやく表情を和らげる。 「まだ片付けが済んでないかもしれないから僕はテラスに戻るよ」 「私も行くわ」 長身でおまけに早足の彼なりに、一緒に歩くときは何度も振り返ってはラファを待ってくれる。 たいがいの場合は。 テラスへの戸口を開け放ったラムザは少しの間立ちつくし、 それから後ろを振り向かずにテラスへ出て行く。 理由はわざわざ聞くまでもない。 彼は自分と出会ったときにはとっくに彼女と心を通わせていた。 パーティの面々を紹介したあとラムザがこそりと耳打ちしてきた言葉が忘れられない。 「アグリアスさん、凄く綺麗なひとだろう?僕の恋人なんだ。 もうほとんど皆にもバレちゃってるんだけど、 彼女はまだ秘密にしてるつもりでいるから気付かないふりをしてくれる?」 異端者と呼ばれた男と彼に剣を捧げた女を、年上なのになんだか可愛い、そう感じた。 邪魔しては悪いと思いながらもラファの足はひとりでに動き出す。少し呑んで火照っていたラファの体を潮風が冷やす。 花火の狂騒もおさまった静かな夜、ここからは見えない海の波音だけが響く。 アグリアスはひとり静かに祈りの姿勢をとったまま動かない。 音もなく近づいたラムザも彼女に寄り添い、目を閉じて祈る。 初めてこの光景に出くわした夜、ラファにとってそれはたいそう奇異な光景に思えた。 ラファが同行するより前に彼らはかのゲルモニーク聖典を手にいれている。 それ以前にも幾多の裏切りにルカヴィの顕現と、信仰を失うには充分な経験を経ている。 にもかかわらず彼らが魔法の類を使いこなせるのは、人の知識で説明のつかない広義の信仰心に拠る。 他ならぬ人智を超えたルカヴィと対峙したゆえでしかないだろう。 そのような積み重ねの上でグレバドスの教えに隠されたものを知り、信仰を棄てている。 それでいて彼らは何を思い、何のために祈るのか。その祈りは誰に捧げているのか。 もとから違う信仰をもっていたラファには知る由もなかったが、ゼルテニアの一件でようやく謎は解けた。 道を分かった友のため、主君のために彼らは祈るのだ。 正体を隠しその身を危険に晒してまでゼルテニアに赴いた理由のひとつでもあろう。 今やまみえることも叶わないあるじのために、道を分かった友のためただ彼らは祈る。 「ラファ、もう遅いからきみも休みなさい」 いつの間にか後ろにいたオルランドゥが彼女の肩にそっと手を添える。 この人もきっと、義理の息子の無事を願い、グレバドスの祈りのかたちをかりて祈るのだろう。 ラファはこくりとうなずき、音を立てないように気をつけながら扉を閉める。 自分も兄も、あの人たちのように神へ捧げるためではなくただ、誰かのために祈る日が来るだろうと思うと、 なんだかとても暖かい気持ちになる。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/54.html
(この娘の狙いは 何か?) 椅子に腰掛ける話術士♀の回りを私は一周した。 彼女の言う『彼』とは間違いなくラムザを指している。 しかしその名を口に出すことはしない。 (まるで私が確認するのを待っているように) 話術士♀はテーブルを指でトントンと叩く。 ─早く座れ─ 「…フッ」 私は席に付いた。 「あれは野蛮だが悪い男ではない」 「は? 野蛮…何を言っているんですか?」 私が切り出した言葉に話術士♀は困惑した。 「死んだ男に師事を続ける姿は良いな …気には触るが」 「…!! ラッドじゃありません!」 話術士♀は怒りで肩を震わせた。 「逃げるんですか! 私が怖いんですね?」 (…これはラムザを賭けた勝負なのか) 彼女には私がラムザの名を口に出すことが必要なのだろう。 勝負の前の儀式として。 私も彼女から逃げるつもりは無い。 (しかし…誰を選ぶのかはラムザだ) 「一つ 確認したい」 どうぞと話術士♀は頷く。 「告白されたというのは 部屋に入る口実… 嘘だな?」 「本当です」 (いや…嘘だな あのラムザが告白など) 「最近のことではありませんが」 話術士♀は澱みなくキッパリ言い張った。 「…彼が忘れているだけなんです」 そして隣の部屋に向かって彼女は呟いた。 ラッドは葛藤するラムザの姿に成長を見た。 ラムザの硬直時間は長かった。 「…アグリアスさんと …誰が話しているの?」 小さな声でラムザが聞いてきた。 (これは… 黒ラムザ優勢か?) 「気になるなら自分で聞け」 笑いを堪え、ラッドは素っ気なく答えた。 ラムザが壁に近付く。 「…… だ 駄目だ やっぱり盗み聞きなんて良くない」 (あ あ~あ…) ギリギリで白ラムザが勝利を収めた。 ラムザがラッドの肩を掴む。 (これじゃあ命懸けの話術士♀が可哀想だな) 「なあラムザ …告白したってマジ?」 ラムザの目が点になった。 「た 誰が… 誰に!?」 「…… 話術士♀が お前にされたってさ」 ブンブンとラムザは首を振った。 「してないよ! ア アイツ アグリアスさんに何を…」 ムッとした顔のラムザだったが、 「……」 再び硬直していた。 「あ!!」 「あ!?」 慌てて部屋を出ようとしたラムザをラッドが押さえ込んだ。 「待て待て! まさか心当たりあンのか!?」 「離せよラッド! 話を止めなきゃ! 離して!!」 ジタバタもがくラムザは必死だった。 ラッドも全力である。 (まさかこれが狙い!? …ラムザを部屋から出したら負けか!?) 「離せー! 離せ離せ離せ!!!」 「ああもう! いいから落ち着け!!!」 廊下に人気が無いのを確認して三人は部屋を出る。 「アグリアスは 何歳だったかな?」 算術士♂が忍者♀に聞いた。 「…え 確か私達の四つ上じゃない?」 「22 か」 うーん、と算術士♂は唸った。 (歳では駄目だな) 「…何の話だ?」 「アグリアス以外はみんな18 でも22は算術に使えないのよ」 首を傾げるシーフ♂に忍者♀が教える。 (アグリアスだけを算術対象に出来ないものか) 「みんなって ラッドも18歳か?」 「同い年だって私は聞いたけど …あ」 何か思い出した忍者♀が算術士♂の袖を引っ張った。 「あの子はまだ17よ?」 (話術士♀は早生まれだったな) 「17は素数で使えるが それがどうかしたのか?」 「あの子にフレアを使って部屋ごとアグリアスを仕留めるのよ」 「!?」 「お お前は鬼か!」 「な… 馬鹿ね冗談よ」 忍者♀は慌てて弁明した。 (しかし… 最悪の場合はそれも考えて置かねば な) いざとなった時に手が無ければ 自分達は聖剣技の前に成す術無く葬られることだろう。 ラムザの部屋のドアをノックしようとした算術士♂は躊躇った。 (何だ?) 部屋の中からラムザとラッドの叫び声が聞こえた。 尋常ではない声だった。 何事かと、 他の部屋から傭兵上がりの仲間達が顔を出して来た。 気絶した竜騎士♂をモンク♀は床に寝かせた。 「さあ 決着をつけましょうラヴィアン」 拳を突き出して構えるモンク♀。 「だからケンカなんか止めろって」 「退きなさいムスタ」 ムスタを押し退けてラヴィアンが前に出た。 倒れかけたムスタをアリシアが支える。 「似たもの同士は仲が悪いって言うけどね」 「ラッドも罪な奴… でもマジで寝取った訳?」 「ラヴィアンは一途なのよ? 略奪愛もなんのその!」 (やめてアリシア… 調子が狂うから…) しかもモンク♀の怒りを逆撫でしてしまっている。 ラヴィアンは本当に頭痛を感じた。 「…くっ なんで…貴様みたいな女に…ラッドは!」 「私はただ世話をやいているだけよ 誤解しないで!」 「誤解な モノか!!」 「ッ!?」 モンク♀が踏み込む。 ラヴィアンは同じ速さで後退し距離を保った。 「よせ! 勝っても負けても隊に居られなくなるわよ!?」 「心配しなくとも明日には!」 「明日…!?」 モンク♀の猛攻が始まった。 モンク♀と竜騎士♂はなぜ屋上に来たのか? 初めからずっとアリシアは考えていた。 ポーカーフェイスの下には策士の顔をアリシアは持っている。 「ムスタディオは高い所 平気よね」 「ん?」 「そこにある非常用のロープを腰に結んでちょうだい」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/95.html
最近、隊のみんなが日記をつけているらしい。 理由は人それぞれ。 いつ死んでしまうか分からないから、という者もいれば、 戦後に、これをネタに小説を書く、と逞しい考えの人もいる。 あと、ラヴィアンとアリシアはどうも他人の日記を盗み読みしているようだ。 士官候補生時代を思い出す。 同室のディリータが、毎晩欠かさず日記を書いていた。妹に送るのだと言っていた。 感心して、僕も始めたが、三日で終わってしまった。 正月に家族で集まった時に、アルマにそのことをからかわれた。 「私もディリータさんみたいなお兄さんが欲しかったわ」だなんて。 あれ以来何度か挑戦してみたけれど、日記が三日以上続いたことがなかった。 いい機会かもしれない。僕は久方ぶりに日記を書き始めることにした。 アルマに会ったら、見せてやろう。 一日目 夜。何を日記に書こうかと考えていると、アグリアスさんが部屋にやって来た。 手に分厚い書類の束を抱えていた。 薄手の夜着姿が若干目に毒だ。 努めて目を背けると、アグリアスさんは隊の今後について話し合いたいと言い出した。 大体のところ、こんなことを言っていた。 「私、アグリアス=オークスは、いつも考えている。 いかにして、この戦乱を乗り切るか。そして、我らに課せられた使命を全うするそのた めに、一体何をすべきなのかを。 そうだ、我々は大きな使命を背負っている。それは人の脆い背にはあまりに重い仕事。 それでも必ずやり遂げなくてはならない。たとえその存在を誰に知られずとも。異端者と 蔑まれようとも。我らが救うべきその人々から憎まれようとも。なぜならば、我々は知っ ているからだ。それが我々にしか出来ない事だと。 私も、かつては知らない人間の一人だった。私の世界は狭く、そこにある小さな平和に 必死でしがみついていた。心の中で沸き上がる、数知れない疑念に目を背けながら。けれ ど私は自分の道を信じていたのだ。それが虚偽というどす汚れた土で敷かれたものだとも 知らずに。 だが、今は違う。私の全身を、私個人の意志を越えた大きな大義が取り巻き、そうして 私の中で力強く息づいているのだ。 彼らが気づかせてくれた。今やかけがえの無い存在となった、私の仲間たちが。ゆえに 私は考える。人々を守り、何より我が仲間たちを守るためには、どうすればよいのかを。 そして、考えついたのだ」 「結論から言おう。それは、健康管理に他ならない」 「意外に、というよりは滑稽に思うかもしれない。しかしこれは決して巫山戯た考えでは ないのだ。そのことを、順を追って説明していきたいと思う。 まず、戦闘において個々の生死を最も大きく左右するのは何か? これはやはり、何を おいてもその者の持つ技量が挙げられるだろう。技量は戦いの根底であり、構成物質だ。 いかなる策や細工を用いても、結局最後には技の比べ合いになるものだ」 「これに関して、我々はかなり優れた部隊であると認識している。ルカヴィを始めとする 強大な異形の者たちを相手にする戦い。そのために隊員たちは日々鍛錬を欠かさず、指導 役には将としての経験豊かなオルランドゥ伯やベイオウーフ殿が就いてくださっている。 また少人数の部隊である我々は、必然的に数に不利のある状況を余儀なくされ、その結果 として、皆が仲間との連携を得意とするところとなった。戦場を共にするたびに、私はそ の顔ぶれに心強い想いを抱くばかりである」 「私自身も彼らを見ながら、まだまだ自身に研鑽すべきところを見い出す毎日だ。然るに 技量に関しては、私が隊に補うような点は無いと考えている」 「しかしながら、その技量が必ずしも発揮されるとは限らない。時には病を患っていたり 疲弊を溜め込んでいたり。人間の肉体というのは、一日として同じ状態であることのない 常ならぬものなのだ。 この体調さえ万全ならば、身体は十二分の能力を発揮するであろうし、心の平静が保た れていれば、油断や雑念による失敗も防げるだろう。さあ、そこで健康管理と言う仕事が 重要視を帯びてくるわけだ。その中でも睡眠という行為に関して、私はより深い理解が必 要だと考えた。 具体的には……(中略)……つまり、人が快眠を得るための温度とは、やはり人肌に他 ならないということだ」 頭が混乱して来たのでお引き取り願った。 「馬鹿者!」 と、怒鳴られた。 二日目 寝ようと思った矢先、またアグリアスさんが現れた。 手には昨日よりも大量の書類が抱えられていた。 まさか今日一日であれを書き上げたのだろうか? アグリアスさんはまず昨夜の暴言を詫びるとともに、次のように述べた。 「昨晩は私の言葉足らずでご理解を得られなかったが、 今日こそは必ずや納得していただくべく、改めてご説明させていただきたい」 そう言うアグリアスさんはいつも通りの凛とした彼女だったが、 気のせいかどこか熱がこもった様子だった。 正直眠いから勘弁して欲しかったが、そうもいかないそうなのでお話を聞いた。 「昨夜も申し上げたが、このところ私は隊員たちの健康を深く案じている。 そして健康の二大要素といえば、食事と睡眠。この二つではなかろうか? 他にもある だろうが、やはりここに準ずるものが大きいと私は考える。 ところが残念なことに、どうにも私は食事を任せられる機会が少ない。私自身は調理が嫌いではないし、むしろ得意とする分野の一つなのだが、私が料理に参加しようとする度 部下の二人から、「隊長にそんなことはさせられません」と突っぱねられてしまうのだ。 ラムザの隊に加わったときから上下関係は捨てろと何度も言っているのに、やはり騎士の 精神を忘れられないらしい。 仲間の働きを信頼するのもまた重要なことである。したがって、私は睡眠に関してのみ 焦点を絞り……(中略)……すなわち、人の二の腕こそが最も枕に適しているのだ」 昨夜以上に意味が分からず、眠くなって来たのでその旨を伝えた。 「薄情者!!」 と、怒鳴られた。 三日目 珍しくお酒を飲んだ。 僕だって酔いたくなるときくらいあるのだ。 そもそも今日は面白くなかった。 ここ最近の寝不足で調子が悪いわ、 なぜかラヴィアンとアリシアに睨まれるわ。 なぜこんな目に遭うんだ。日記を書くとろくなことがない。 ワインが空になった頃に、アグリアスさんがやってきた。 両手に今までで一番大量の書類を抱えている。 「ラムザ、今日話したいのは……」 いい加減にしろ。 忍耐って物がある。 訳の分からないことに付き合うのも、これまでだ。 僕は無言でアグリアスさんに歩み寄ると、ひょいと抱き上げた。 彼女は何か言おうとしていたが、酔いに任せて無視してやった。 そのまま彼女を寝床に押し込むと、僕も一緒に布団を被った。 テーブルの上のランプを吹き消し、さっさと眠りにかかった。 誰がなんと言おうと僕は寝るんだ。 その日は何も言われなかった。 眠りに落ちる直前になって気づいたけど、 彼女が持ってきていたのは書類ではなく枕だった。 ・四日目 きのうとおなじ。 終
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/110.html
『その他』となっております。 主に過去スレ、現行スレにて下記のような面白いトピックを掲載させていきたいと思います。見つけた方は、至急コメントまでどうぞ。 よくわかるアグスレ職人名鑑(Part30スレより) アグスレクロニクル(Part40スレより) 第2回アグスレ名鑑(Part50スレより) よくわかるアグスレ職人名鑑(Part30スレより) 異端者(Part1~) この板のFFT系スレすべての中興の祖。このスレへの作品投稿はないが、最萌え トーナメントの際硬派なアグSSを一本書いた。「高嶺の花なアグ」が好きで、 甘々主流の流れの中に隙を見つけてはハードな萌えをねじ込んでくる古強者。 従者(Part1~) 絵師にしてSS職人。スレ最初のSSはこの人による。絵柄に癖があるが、 りぼんアグ・こげアグなどリクを受けた名作も多い。「千古の都」の続きはまだか。 ふたば絵師でもある。代表作「flower of mine」「こげアグ」他 顔無し黒魔道師(Part2~3、5) 初代神。独特の世界観を持つ連作をものし、現在まで続く良SSスレの基調を作った。 ラファが明るくけなげなのが特徴。Part5で再登場したが今一つ不評で、以後書き込みが 無かったがPart20で久々に姿を見せた。代表作「ティンカー・リップ」「夜光虫の夢(仮)」他 hc(変チュ)(Part2~) 主にネタ師。甘々な小ネタを数多く発表。可愛い系アグたん最右翼の一人。 代表作「ちょっとありえたかもしれない話(仮)」他 れっどふぉーど(Part2~) 主にネタ師。クセのない親しみやすい甘々短編や掛け合いを多く書いた。Part4 スレを最後に姿を消していたが、Part20あたりで復活してわりに硬派なSSを 多数手がけた。代表作「悪夢」「変異」「戯曲「黒」」他 白魔導師(Part2) Part2スレにてその後のラムザ達を描いた一連のSSを投稿。 チャペルナイト(Part2) Part2スレに初々しいラムアグ短編を投稿して好評を博した。当時高校生だった らしい。 ダークラムザ(Part4) Part4スレにてライオネル城脱出行のSSを書きかけたが、未完。 昼寝士(Part4~) 二代目神。行く人氏が現れるまではスレ最多作職人だった。初めてエロに手を 染めた職人でもある。スレがラムアグ一辺倒なのを気にしているらしい。代表作 「小姓ほど素敵な商売はない」「ザーギドスの長い夜」「ラムや」他 おーらん?(Part4) Part4スレにてラムアグ短編を一本書いたが、以後現れず。 とびねずみ(Part5~) 独特のまったりした雰囲気のSSを得意とする。サイト持ちでDQ系スレでも活動中。 オンリーイベント「FFT+A」ではこのスレの主力職人を集めて本を作った。代表作 「あなたの鼓動に」「ペールブルーの空に」「トーナメントの行方」他 ギュスタヴ(Part5) Part5のSS閑期にリクを受けて執筆。期待の新人と呼ばれたが、一本書いた ところで新作執筆中の告知をしたまま姿を消してしまった。代表作「ありがとうと 言いたかった(仮)」 甘々士(Part6~) 絵師。名の通り甘々ラムアグを好み、画力は神クラスだが現在は引退中。 商業漫画家でもあり、「FFT+A」ではラムアグ本を刊行。代表作「ときめき アグリアス」他 カエル(Part6) Part6スレに現れ、スレの半分近くにまたがるラムアグ大長編を著し、「オヴェリアの アグいじり」という萌えジャンルを定着させた。それ以降姿が見えない。 もみもみ士(Part6~) 三代目神。ラムアグ、オヴェアグ、単体アグ、ギャグ小ネタから本格長編まで 守備範囲が広く、独特の「お姉さんアグ」にはファンも多い。なおハンドルは 「おっぱいもみもみ士」の意。代表作「秘密の夜」「世界を滅ぼす者」他 はちまるいち(Part6~) ラムアグかつラムメリ。三角関係のSSを多く書くが、ラムアグよりもアグメリの 掛け合いの方が楽しかったりする。最近はSS投下もなく、サイトは開店休業中。 代表作「誰と名コンビ!?」他 ばるばろ(Part7) Part7スレに突如現れ、ラムアグ恋愛長編を投稿して去った。軍事板住人らしいが、 今も見ているのだろうか。代表作「恋の囁き」 通行人R(Part8) コメディ・シリアス双方の良SSを一本ずつ投下。「初恋の人と再会するアグ」という 微妙なネタを扱って叩かれもしなかったのは筆力か。代表作「アグリアスに首ったけ」 「メモリー」 199(Part11) ラムザのことを何とも思っていないアグと、一方的に妄想する空回りラムザという 斬新な配置で半ネタ・半SSのような文章を多数投稿。 ◆awRuXUefoY(Part12) Part12スレにて悲恋SS「ルカヴィの贈り物」を投下するが、未完。 ふみんしょ(Part12~) 四代目神。もみもみ士以降久々に登場した長文・多作系パワー職人。甘々 ラムアグの旗手。萌えキャラ・エレーヌを創造した。不眠症は結局治ったの だろうか。代表作「アグリアスさんのデート指導」「海水浴」他 ギルロゼ珍道中(Part12~) ふみんしょ氏と双璧をなす甘々ラムアグ職人。代表作「あなたがいれば」「ルザリア 道中膝栗毛」「孤剣の死」他 チョコボヘッド(Part13) ムスタディオ視点でのラムアグのその後、ラッド視点のキャンプ話など、一歩引いた 視点でのラムアグ話を多く作る。代表作「ある女性ホーリーナイトと剣聖」「異端者の 恋の始まり」他 ヨネヤ(Part13) 絵師。シャープな今風の線でアグを描く。ラムアグというよりラムザ萌え? 629(Part13) 考察ネタの他、ヘヴィな戦場系アグSSを一本投下。凛々しいアグ好きでハードな 考察が得意だが、書き込みは以後ない。 行く人(Part13~) 五代目神。丸一スレ以上にわたる妄想系暴走系ストロングアグ長編「アグリアスが 行く!」でデビュー。ナンセンスからシリアスまで書き分ける懐の広さと圧倒的な 執筆速度を持つ、超多作かつ息の長い職人。代表作「アグリアスが行く!」他 145(Part14) 甘々な流れの中でハードでシビアなアグ像を描いた「人殺しの夢」を投下し、 高い評価を受けた。 (Part14) 獅子戦争後のラムアグの再会を書いた長編「桜花の約束」を投下するも未完。 続きが待たれる。ギルロゼ珍道中氏も一度このハンドルを使ったことがあったが のちに別人と確認。 愚物(Part14) おじいちゃんシドが大変なことになるSS「老人の嘆息」を投下。 見習い審問官(Part15) 日記仕立ての短編「アグリアスの観察日記」を投下。 744(Part15) オーボンヌへ派遣されるまでのアグリアスを独自の解釈と考察で描いた 「オークス家の令嬢」を投下したが、未完。 モトベ(Part16~) 戦闘描写を得意とする職人。蘊蓄は異様に豊富だが実践はさっぱりな侍モトベが 持ちキャラ。代表作「黒い聖騎士」「カティロア記」「奪う女」他 牛鬼(Part16) Part16スレにて季節ネタSS「クリスマス戦線」を投下。 橋乃根本(Part16~) Part16スレにて短編「悩み、想う(仮題)」を投下。Part28スレにて エロパロスレ経由で復活したが、未だアグスレへのSS投下はない。 コウモリ(Part17) Part17スレにて珍しいクラアグSS「特効薬」を投下。 さきまし(Part18~) Fateネタでデビューし月厨扱いされたものの、以後良質のSSを投下して認められる。 看病編の続きはまだか。代表作「アグリアスさんのケーキ事情」「看病黙示録」他 ◆xZ3z4MfPQE(Part19~) ザルアグ長編を書くも、ラムアグ急進派の叩きに遭って擱筆してしまった。続きが 待たれる。代表作「恋の始まり」「戸惑い」 超絶勇者ゴラグロス(Part19~) 絵師。スレンダーでむっちりで目つきの厳しいアグを描く。スレにはPart19が初投下 だが、画像あぷろだの方では昔からいた。 ◆Elk5NtY7Pw(Part19) Part19スレにて夜営SS「夜風」を投下。 寒椿(Part20) 汎用忍者ソウテツの視点からラムアグを描いた長編「風、薫る」を投下。内容は 評価されるが、携帯からの打ち込みなので間遠な連続投稿になったことが 顰蹙を買った。 ◆C2xaDmwbR(Part21) Part21スレにて野営SS「見張りの夜に」を投下。 まとめの人(Part22~) 停滞中の千一夜に代わりアグスレSSまとめサイトを作ってくれた人。千一夜更新 再開に伴い活動を停止したが、肝心の千一夜がまた止まってしまった。 ふぅ(Part22、23) Part22スレにてオリキャラ・シャレーヌが活躍するSS「或る女戦士」を投下。代表作 「或る女戦士」「Feeling Hearts」「東方文化~天国と地獄」 是路零士(ゼロレイジ)(Part23) アグリアスに告って玉砕する汎用を通してラムアグを描いた中編「決戦前日」 を投下。キツめの感想をもらうのが好きらしい。サイト持ち。 カテナツィオ(Part24~) 夫婦ラムアグによる後日談連作のほか、評伝風アグ、ショタラムザなど正統派 ガチ萌えSSを多数書く。代表作「丘の上の風」「異国傑物伝」「女騎士と幼子」他 太便士(Part25~) 久々の多作職人。絵師でもあり、自作の挿絵つきSSは評価が高い。元は「多弁」 というハンドルだったがネタで改名した。排泄好き。代表作「私立イヴァリース学園」 積木屋(Part25) Part25スレにてラムザの家族に目通りするアグを描いた短編を投下。半年 ROMっていたらしい。 rightbrain(Part26) ゲームブック仕立ての短編を核にした連作長編を投下。SS自体の評価は低く なかったが、叩かれるのに慣れていなかったようでずいぶん後まで粘着していた。 代表作「Love is」 妄想(Part27) Part27スレにてアグが性に目覚めるSSを書いたが、18禁相当ということで途中から エロパロ板に移動した。代表作「雨の降る夜に」 ぬこ(Part27) Part27スレにてChapter1と2の間の荒んだラムザのSSを書いたが、アグスレに 書く話ではないということで恋する小説スレに移動した。 67(Part28) Part28スレにて、ED後捕縛された異端者ラムザが枢機卿の暗殺者として働く 暗く切ないSSを投下。 339(Part28) Part28スレにて忠臣蔵をパロった長編台本風SS「仮名手本十二宮戦士」を投下。 387(Part28) Part28スレにて夜営中のアグを描いた短編を投下。Part28スレはSSタイトルもトリップも ないまったくの名無し職人が多く、何人かは同一人物かもしれない。 823(Part29) Part29スレにてシドが活躍するラムアグSS「愛とはかくも素晴らしきかな」を投下。 屋根裏散歩士(Part29) 久々の「士」がつくコテハン。ラムザも誰もみんなアグたんに首ったけ、という アグ萌えの本道を行くコンセプトでSSを書く。代表作「聖女」「リィヌ・ホランドゥの 瞳」他 902(Part29) Part29スレにて小柄好きのラムザに独占欲を燃やすアグのSS「ここでキスしろ」を投下。 ラトーム(番外) 更新が止まりっぱなしの千一夜管理人。かつてこのスレの職人だったらしいが、 誰なのか不明である。 アグスレクロニクル(Part40スレより) Part1~Part10 黎明期 初代スレが立ったのは2001年10月11日。前半はネタ中心だったが、それでもPart1スレ 終盤にはすでにSSが見られ、後半にはSSスレとしての空気が確立している。Part3スレは FFDQ板最萌えトーナメントと重なり一月で完走。昼寝士、もみもみ士、とびねずみ、 甘々士等、今でも名前の挙がる職人のかなりの部分がこの時期に登場している。ほか 主な職人は顔無し黒魔道師、れっどふぉーど、変チュなど。ラムアグ派とそれ以外の 軋轢はこの時期からすでにあったが、どちらかというと「ラムアグ派少しは自重しろ」という、 非ラムアグ派が声を上げるものだった。 Part11~Part20 発展期 ふみんしょ、ギルロゼ珍道中、行く人、モトベ各氏登場。古参職人も精力的に活動し、 長編執筆者が増えて活況を呈した。スレの文章量が一番多かった時期で、特に 行く人氏は圧倒的な執筆頻度でスレを自分色に染める。ムスアグ、クラアグ、ザルアグ など、ラムアグ以外のSSも散見されるようになった(ただしザルアグSSはラムアグ派 極右のバッシングに遭って擱筆している)。 Part21~Part30 円熟期 すでに定着した職人が散発的にSSを投下する一方、新しいコテ職人も多数登場。しかし、 多くは1~2スレで姿を消し、この時期新たに定着した職人は多弁士、屋根裏散歩士のみ。 また、コテをつけずに単発で投下する者も増えてきた。千一夜が機能停止して久しく、 Part22スレ572氏がまとめサイトを立ち上げる。Part23スレは圧縮に遭い、初めて完走 できずに潰れた。 Part31~Part40 動乱期 PSP移植版発売。ムスアグ公式ともとれる追加イベントにスレが大荒れに荒れ、Part33、 34スレはほとんど罵声だけで完走した。この騒動を機にスレの住人層が変化したとされ、 反動的ラムアグ派が勃興。「ラムアグ以外は自粛すべき」といった発言すら見られるように なったが、30台後半ではやや沈静化した。SSの投下は減り、コテを名乗らない作者の割合が 増える。地味にPart34スレではれっどふぉーど氏が復帰、過去SSの続編を投下した。 Part41~ そして伝説へ… 第2回アグスレ名鑑(Part50スレより) Part38 [全1000レス](2007/07/16~2007/08/23) 特に特筆すべきことが無い萌えるスレ。 ※雨にも風にも負けない彼女は最高です。 名無し作家の作品。アグリアスが酒場の女将をやるSS。好評価を得る。 18 バー “アグリアス” 名無し作家の作品。 582 痴話喧嘩 ◆wvLsfSMekA 376 パピルスプレイト 屋根裏散歩士◆0MKMjdfW.M 225 ヴァルプルギスの悪戯 行く人 ◆WVAHnGXcls 550 堅ゆで卵で行く! 812 ターゲットは磨羯宮の男 Part 39[全1000レス](2007/08/20~2007/10/03) また前スレと始めの言葉が同じスレ。突然FFTに関係ないエロSSが投稿されたりするちょっと変わったスレでもある。 ※雨にも風にも負けない彼女は最高です。 ◆nruEThIrsc 名無し作家の作品。アグスレSS保管wikiでは「幸せな夢」の名前で保管されている。 101 ◆pUbtwpLOBY 名無し作家の作品。決戦後のSSで好評価を得る。 594 私的エンド ◆vRT4gG3lws 名無し作家の作品。アグスレSS保管wikiでは「踊り子アグリアス」の名前で保管されている。 965 ダンス 行く人 ◆WVAHnGXcls 275 大きいの小さいの モトベ ◆AYF418a.SQ 635 夏の夜に咲く、血色の花 屋根裏散歩士◆0MKMjdfW.M 879 (「機工都市ゴーグは案外と海に近い」の続編) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ Part40 [全1000レス](2007/10/03~2007/12/15) 記念すべき40スレ目。 始めは40スレを称えるレスとアグリアス40歳ネタが繁茂する。中にはアグリアス180歳というのもある。 スレ中盤頃からラムザ×アルマが出てきて、アグリアスが報われないor苛められるネタが多い。 また、荒しの襲来などもあって「スレの雰囲気変わった」や「もう少し愛に溢れていた気がしたんだが 」などのレスも見られる。 ※40を迎えてもなお現役女神の彼女は最高です。 ◆kZ8t0obToM → ◆d2jCTeYv9w 名無し作者。232の初SSは無題だが、アグスレSS保管wikiでは「調教END」の名前で保管されている。 232 241 それぞれの朝 ◆mvTcu.Q18w 名無し作者。「おめかし」をはじめに数々のSSを投稿。好評価を得る。 326 おめかし 340 賭け事 416 見てはいけない物 474 混浴 とびねずみ◆Y2NezmymcE 8 惑わぬ日々へ Part41 [全1000レス](2007/12/07~2008/02/17) ※世間のクリスマスモードにも惑わされず独り剣を振る彼女は最高です れっどふぉーど ◆EyREdFoqVQ 454 無題 行く人 ◆WVAHnGXcls 541 アグリアス会談 588 ラヴィアンの頑張り物語 915 バレンタインの憂鬱 Part42 [全981レス](2008/02/14~2008/04/19) アグスレ名鑑とも言うべき「アグスレクロニクル」があるスレ。 ※世間のバレンタインモードにも惑わされず独り剣を振る彼女は最高です。 洗脳竜騎士 ◆Hsv5NIUj7o 363 415 夢と言う名前の世界 ◆5Mb/EgkS.c 879 :戦慄の王女 行く人◆WVAHnGXcls→◆AfmW.MY95A 6 バレンタインの罠 349 アリシアの日記 449 ミルクパニック モトベ ◆AYF418a.SQ 26 ある日常の攻防 カテナツィオ ◆l4zufnK/uM 378 ローリア Part43 [全1000レス](2008/04/18~2008/07/03) ※散り終えた桜を優しく見つめる彼女は最高です sage 706 859 Part44 [全レス](2008/07/02~2008/09/16) SSが豊作なスレ。 ※これなんてアグリアス?と話題になるほど今なお愛されている彼女は最高です 名無し ◆dcFX3kCQuM 初SS 147 さくらんぼ ◆pn4TDSOMPM 295 ※初SS。 アグスレSS保管wikiにて「昔話を少し…」の名前で保管 392 ※アグスレSS保管wikiにて「人柱」の名前で保管 598 女の悩み 754 貴公じゃイヤ! れっどふぉーど ◆EyREdFoqVQ 9 竜は一寸にして 323 様付けその 413 誓いと呪い 699 温泉暴走曲 カテナツィオ ◆l4zufnK/uM 54 O・NE・SYO 行く人 ◆AfmW.MY95A 95 七夕地獄変 234 夏の浜辺を血に染めて 248 ゴンザレスは何度でも蘇るさ! 267 闇の奥底 628 :ラッドの空、UFOの夏 sage 180 Part45 [全1000レス](2008/09/14~2008/12/13) FFTの世界設定について語り合うレスが多く見られるスレ。 ※残暑に負けず厚手の騎士服でがんばる彼女は最高です 108 ※「竹取改変物語」の名前で保管されている。 153 オーランとバルラマウラの苦労 314 ある異端者の入院生活 326 続・ある異端者の入院生活 351 シスコンの真実? れっどふぉーど ◆EyREdFoqVQ 382 にゃんこ! Part46 [全989レス](2008/12/13~2009/03/19) 久々に落ちたスレ。また、始めの言葉が前スレと同じというスレ。 アグリアスが処女か処女でないかなどの通称 処女厨の書き込みが多くみられる。 ※残暑に負けず厚手の騎士服でがんばる彼女は最高です 行く人 ◆AfmW.MY95A 5 哀・騎士 1P劇場 453 賭けチェス 646 Part47 [全982レス](2009/03/21~2009/07/05) 全スレに続いて1000レスまで行かなかったスレ。ザリガニ・海老フライのネタが多い。 ※スレが落ちても彼女は最高です 11 ※アグスレSS保管wikiにて「手紙~拝啓 二十一の君へ~」で保管 昼寝士 ◆BIdtzyaiEw 811 辛いはうまい Part48 [全1000レス](2009/07/03~2009/10/21) ※梅雨も振り払う勢いで駆ける彼女は最高です 残月◆7J/IbzSWxU 242 クールビズ? 423 moon 206 ニコ厨乙! Part49 [全1000レス](2009/10/21~2010/03/05) ※秋晴れの朝、爽やかに目覚めた彼女は最高です 32 新スレ乙! 870 ※アグスレSS保管wikiにて「残念!ここには変態しかいない!」で保管 残月◆7J/IbzSWxU 770 豆まき
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/53.html
10日 夜になり、宿の屋上の風が強くなった。 髪を結んで来るべきだったと見張りに立った彼女らは思った。 「あ~退屈ぅ~!」 アリシアが背伸びしながら言った。 ラヴィアンは生真面目に街頭に視線を走らせていたが 不真面目な相方の姿に溜め息をついた。 「最近…変わったわねアリシア」 「俗世に馴染んだのよ 私は努力家だもの」 アリシアは誇らしげに言う。 「間違っている…とは思わない?」 「なにが?」 「…」 ラヴィアンは痛くもない頭を抱えた。 ガチャと屋上のドアが開いた。 傷心のムスタだった。 「当たって砕けたわね」 「…何に」 (良からぬ入れ知恵でもされたのかしら…) 後年、ラヴィアンが記した人物評にはこうある。 『ムスタはアリシアの玩具であった』 『然る後 みんなの玩具となった』 と。 「…駄目だったよ」 「そんなに落ち込まないで」 ムスタに優しく寄り添うアリシアの図。 (うーん…) ラヴィアンには愚かな下僕と悪女の図に見えた。 本分の見張りを忘れそうになった頃、屋上のドアが再び開いた。 「チッ…ムスタもいやがる 銃はともかく銃声は厄介だぞ」 「撃つ前に私が一撃で沈めるわよ」 出てきたのは竜騎士♂とモンク♀であった。 (あの面子で厄介なのは…やはり算術士♂か) ラッドは寝台に横になり考えを巡らせていた。 (アイツだけは現役で隊の花方だ 下手したら隊最強…) 不意を突けば隊を全滅させることも可能な力が算術にはある。 しかしラッドに緊張感は無かった。 (マジで殺り合う訳がないからな) 若干一名、 アグリアスに殺意を向けていた♀がいたのをラッドは思い出した。 (まあ… でも相手が悪い) ゲーム感覚でラッドはこの状況を楽しんだ。 しかも自分の行動によってはラムザを… (これが裏切りの快感なんですかね師匠) 相変わらずラムザは読書を楽しんでいる。 「…お姫様は呑気なこった」 「オヴェリア様が呑気でいるものかよ!」 「あ… 違う違う!!」 からかいの言葉をラムザが誤解した。 「そんな不謹慎な男じゃないからな俺!?」 「… 僕は呑気なんかじゃないぞ」 (分かってンじゃねーかよ!!) 舌打ちしてラッドは立ち上がった。 (…シーフ♂やら忍者♀なら窓から侵入して来るかもな) 窓の鍵を確認しカーテンを閉めた。 「…ン?」 隣の部屋の微かな話声が耳に入った。 (アグリアスの部屋からだな) 壁に耳を当てた。 「ラッド 盗み聞きなんかよせ!」 (この声… まさかもう始まってンのか!?) ラッドは焦った。 ラッドの蛮行にラムザは怒りを見せた。 「壁から離れろラッド!」 (アグリアスに話術士♀をぶつけるとは…) ラッドは壁に張り付いたまま動かなかった。 「……」 (しかもこの話は… 死ぬ気なのか話術士♀は?) ラムザは剣を掴んで、飛んだ。 「お お お!?」 激怒したラムザには流石にラッドも恐怖を覚えた。 「ま 待て なんか恋の話をしてンぞ!」 「…ッ!?」 鞘の付いたままの剣を振り上げたラムザの動きが止まった。 部屋のテーブルで私達は話をしていた。 「…場所を変えないか この宿の壁は薄いようだ」 「そうみたいですね」 ラムザのいる隣の部屋が騒がしくなって アグリアスは落ち着かなくなった。 (この女を部屋から連れ出してラムザから遠ざけるのが私の任務) 「彼が盗み聞きしていたりして」 「……」 アグリアスはテーブルから立った。 「宿の側に酒場があったな そこに行こう」 でも私は動かなかった。 「彼に聞いてもらう為に 私はこの部屋に来たんです」 「なん だと…?」 「壁越しでしか伝わらない言葉もありますから」 アグリアスの目つきが急変した。 この台詞で疑念は確信に変わっただろう。 彼女の鋭い視線を私は笑顔で見返した。 (ゴメンネみんな 私はどうしても…この女を許せないのよ) 「出てこないぞ…」 半開きのドアからシーフ♂は廊下の様子を伺った。 「そもそも何故アイツは部屋に入ったのだ」 算術士♂は落ち着かずに部屋を往復した。 「あの子…我慢出来なかったんだわ」 忍者♀は虚空に呟いた。 (計画の変更が必要だ) 算術士♂は爪をかむ。 話術士♀がアグリアスを遠ざける。 シーフ♂がラムザの部屋を訪問。 不意にラムザとラッドの武器を盗んで無力化。 その後は忍者♀も部屋に突入 ラッドを縛り倒してラムザを連れ去る算段だった。 「屋上の方も大丈夫なのかよ…」 (もう二人は仕掛けている筈だな) 見張り番を倒しておけば安心してラムザを連れ去れる。 明日の朝まで追手の心配も無くなる。 「今夜の番はアリラヴィよねぇ… あの子も心配」 「ラッドも一緒に連れ去る気でいたからな」 「…ナイトごときにに遅れをとる二人ではあるまい」 (女は目先に走る …これ以上計画を狂わせてくれるなよ) 不毛な時間は過ぎていった。 「どうする?」 「仕方ない アグリアスが部屋から出ないならラムザを連れ出す」 「誰かに見られた面倒なことになるわよ」 (既になっていそうだがな) 屋上の二人が戻って来ない。 算術士♂は算術に使えそうな数字を考え始めていた。 「見張りご苦労さん」 やあやあ、と竜騎士♂は挨拶をする。 「差し入れかしら?」 「…そうは見えないけど」 (何か おかしい) ラヴィアンは近づく二人を警戒した。 モンク♀はラヴィアンを強烈に睨んでいた。 それに関しては心当たりがあったが 竜騎士♂が武装しているのは気になった。 「見張り中にイチャイチャと遊んでいるのかお前達は!」 モンク♀は辛辣に言い放つ。 ラヴィアンが肘でアリシアをつついた。 アリシアはムスタをつついた。 ムスタは仕方なく頭を下げた。 「……」 「…… これでは王女を守れなくて当然というもの」 「なんだと!」 モンク♀の挑発にラヴィアンは応えた。 「この二人…仲悪いのか?」 「いわゆるネトラレ? ラヴィアンやっちゃったの」 「ええ!?」 「やってない!」 アリシアは状況の分からないムスタを曲解させた。 「まだ…抑えろよ?」 「…ぐ…うぅ…」 竜騎士♂に掴まれてモンク♀は沸き上がる怒りを必死に堪えた。 「話があるなら聞くけど… 無礼な口は謹んでもらいたいわ」 「…口を謹むのは君の方じゃないのか?」 竜騎士♂がラヴィアンに言い返す。 「ラムザの出奔さえなければ今頃俺達は君を指示する立場にいたんだ」 竜騎士♂も明確な敵意を表に出した。 「…なんか 見損なったな」 ムスタが口を挟む。 「機工士風情に俺達の苦悩が分かるものか」 竜騎士♂の声には苛立ちが感じられた。 「ラムザが主従の情を忘れさえしなければ…」 「ラムザ様が何を忘れたっていうの?」 今度はアリシアが口を挟む。 「忘れている! 新参の貴様等に惑わされて使われて!」 「俺達がラムザを利用しているって言うのか!!」 ムスタが竜騎士♂に詰め寄った。 「結果はいつもそうだろ! …ラムザは人が良すぎるんだ」 「それがラムザ様じゃない」 アリシアの言葉に、そうそうとムスタは頷いた。 「…だ …黙れ!」 竜騎士♂は武器を構えたが、表情には動揺が見えた。 「…不満があるなら話せよ 俺で良ければ聞いてやる」 ムスタは怯まなかった。 「……俺は ラムザの隣なんだよ …2なんだ」 「…?」 「あの女騎士が入る前に除名されかけたんだよ俺!!」 時に激しく、時に涙を流しながら、竜騎士♂は不遇を伝えた。 ムスタはラムザの為に、それに熱く答えた。 そこには男の友情があった。 「やっぱり俺 今のラムザを信じてみるよ」 清々しい笑顔で竜騎士♂は振り返った。 「ルザリアに着いたら俺達もザルバッグ様に掛けあってみないか?」 モンク♀は竜騎士♂の首筋に無言で手刀を落とした。 その3へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/75.html
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」 私は走っている、暗闇の中を。 己の足音と、己の呼吸と、己の心音がこだまする。 「ハァッ……ハァッ……ハッ……ぐぅっ……」 息苦しさにあえぎ、汗に濡れた服がベッタリと身体に貼りついてくる。 真っ暗な石の廊下を、ただ真っ直ぐに、私は逃げる。 「ハッ……ハッ、ハッ……!」 のどがからからに渇き、犬のように舌を出したい気分になった。 水は、二つの瞳から頬を伝い落ちている。 「ハッ……!」 足がもつれて私は転んでしまった。 地面に手をつく事すらできず、何とか肩から倒れ込むと水しぶきが上がる。 「はぁっ……はぁっ……」 水? 先ほどまで、確かに石の廊下を走っていたのに、水? 「あっ、ああ……!」 転んだ拍子に唇にかかった水を、私は本能的に舐め取った。 そのあまりの濃厚さにむせ返る。 「ゲェッ……ゴホッ、な、なんだ……これは」 暗くて見えない。これは、水なのか? 汚水? あるいは、もっと違う何か? 唇の中にべったりと残る感触のおぞましさに吐き気をもよおしてしまう。 「うっ、うぅ……」 両手をついて、よろよろと立ち上がろうとした時、足首を掴まれた。 「え」 恐怖を感じるよりも早く、それは私の足を水中へと引きずりこむ。 「あ、や、やめ……」 底なし沼にでもはまったように、私の足が、足が、引きずりこまれて、 膝まで沈むと膝を掴まれ、太ももまで沈むと太ももを撫でられ、 腰まで沈むと腰に抱きつかれ、腹まで沈むと腹を押さえつけられ、 胸まで沈むと胸を揉みしだかれ、首まで沈むと首を絞められ、 唇まで沈むと唇に指が割り込んできて歯茎や舌を愛撫し、 目まで沈むと目をふさがれて、頭のてっぺんまで沈むと、耳元でささやかれた。 「アグリアスさん、アグリアスさん」 声に目を覚ませば、そこはどこかの宿のベッドの上だった。 「大丈夫ですか? 僕が誰か解りになりますか?」 「あ、あ……」 ランプに照らされたラムザの顔が、心配そうに覗き込んでいる。 「お水です、どうぞ。慌てないでゆっくり飲んでください」 水差しが唇に当てられる。やけにぬるい水だったが、私は夢中になって水を飲んだ。 「ずいぶんとうなされていましたね」 「あ、ああ……」 「覚えていますか? アグリアスさんはドラクロワ枢機卿の、 邪悪な怪物へと変化したあの枢機卿の奇怪な魔術を浴びて、 今までずっと眠り続けていたんですよ」 言われて、ぼんやりとアグリアスの脳裏にその情景が浮かび上がった。 ああ、そうだ、ドラクロワ枢機卿だ。 白く、丸々と太った、おぞましい怪物に変化した、ドラクロワ枢機卿。 「や、奴は?」 「……もう……大丈夫です……アグリアスさんは……休んでいてください……」 酷く落ち着いた声でラムザは言う。 疲れているのは確かだったので、私は「ああ」とうなずいた。 それから部屋の中を見回し、一人部屋だと解ると、 アリシアとラヴィアンがどこにいるのかと私は訊ねた。 隣の部屋で寝てますよと言われると、そうかと安心して、息を吐く。 それからようやく、寝巻きが汗でべったりと肌に貼りついているのに気づく。 「水とタオルと新しい寝巻きです。アリシアとラヴィアンは酷く疲れているので、 申し訳ありませんが……自分で汗を拭いて着替えてください……」 「ああ、ありがとう」 「では、僕はこれで」 そう言ってラムザは微笑み、部屋から出て行った。 私はのそのそとした仕草で服を脱ぐと、タオルを水で濡らした。 やはりというか、この水も酷くぬるく、あまり心地よいものではなかった。 贅沢を言ってられないので、仕方なしにまず最初に顔を拭いて、 上から下へと順々に汗を拭っていく。 「はぁっ……はぁっ……」 タオルを下腹部にあてがった時、奇妙な息遣いが聞こえ、私は手を止めた。 気のせいだろうかと思いながら、ドアの方へと目を向けると、 ラムザが確かに閉めたはずの戸がほんのわずかに開き、 隙間から血走った瞳がこちらを見つめていた。 「誰だ!」 怒鳴った瞬間、ドアは乱暴に閉められて、ドタドタと廊下を走る音が続いて聞こえた。 私は部屋を見回し、隅にあった自分の剣を手に取ると、 ベッドのシーツで身体を隠して、戸をギィと開けた。 窓から射し込む月明かりを頼りに用心深く廊下の左右を見渡したが、人影は無い。 ゴクリとのどを鳴らして、私は戸を閉め、錠をかけた。 確かに見られていた。あの眼はいったい誰だろう。 肌を見られたという羞恥と屈辱で頬に朱が差し、 芋虫が這うような悪寒がぞわぞわと背筋を駆け上り、再び汗が吹き出してしまった。 何度か深呼吸をして精神を落ち着けると、私はベッドに駆け戻り、 新しい寝巻きを着込んですぐ部屋を飛び出す。 「どうかしたのか」 直後、横合いから声がしたので、思わず剣を向けた。 後ずさって驚いた顔をした男はラッドで、なぜ剣を向けられるのか解っていないようだった。 「物騒だな、何かあったのか?」 「ラッド……いつからここにいた?」 「トイレに行って、部屋に戻る途中だ。いきなりお前が飛び出してきた」 覗いていたのはラッドだろうか? すっとぼけているならたいした役者だ。 「廊下で誰か見なかったか?」 「誰もいなかったぜ。あんな化物と戦った後だ、神経質になってんじゃないか?」 いいや、そんなはずはない。私は確かに、息遣いを聞き、あの血走った眼を見たのだ。 共に行動をするようになって日が浅いとはいえ、ラムザとラッド、ムスタディオが、 覗きなどという下卑た真似を、しかもこんなタイミングでするとは思えない。 「誰かが私の部屋を覗いていたんだ。気のせいなんかじゃない」 「まさか。この宿は、俺達以外誰もいないぜ? 宿屋の主人なら俺と酒をかっくらって、あの調子じゃ明日の朝までぐっすりだ」 「しかし、確かに誰かいたのだ」 「解った、解った。ラムザに伝えておくよ。お前は寝てろ。 この暗がりでも、酷い顔色してるってよく解るぞ」 「ああ……頼む」 私は突きつけたままだった剣をようやく下ろし、きびすを返したところで、ふと思った。 「アリシアとラヴィアンは、隣の部屋だったな」 「ああ。向こうの部屋だ。俺とラムザは、もうひとつ向こう」 「ムスタディオは? 彼も、お前達と同じ部屋か?」 「そうか、覚えてないんだな」 「何がだ?」 「ムスタディオなら死んだよ。あのデカブツに押しつぶされて、 身体の半分がひき肉になっちまってな。あんな酷い死に方、初めて見たよ」 あまりにも淡々と申し上げるので、私はしばらく、言葉の意味を解せなかった。 死んだ? 最初は酷く無礼だったが、けれどしばらく一緒にいてみれば気のいい奴で、 私の前では妙にかしこまってしまう、あのムスタディオが? 「何だ、ラムザから聞いてなかったのか」 「……ああ……」 「まあ、あまり気にするな。あいつとは短いつき合いだったし、 ドラクロワやバート商会と蹴りがついた今、いなきゃ困る奴でもないしな」 冷淡な物言いに腹が立ったが、それを態度に出すほどの気力はなく、 私は無言で部屋に戻ってドアを閉め、やはり鍵をしっかりとかけ、 ベッドに剣を抜き身のまま立てかけて、シーツをかぶってベッドに寝転んだ。 もうろうとする。今は、何も考えたくなかった。 「はぁっ……はぁっ……」 蒸れる暑さと重苦しさに私はあえぐ。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 妙に身体が重く、ねっとりとしたものが身体に絡みついてくるような錯覚があった。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 それにしても、うるさい。荒い息遣いのわずらわしさにうんざりする。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 荒い息は、私の耳元で聞こえた。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 私の呼吸ではないと解った瞬間、身体にのしかかる人の重さをはっきりと認識する。 ハッと目を見開いて跳ね起きると、荒い息遣いもどっしりとした人の重さも、 まるで幻であったかのようにふっと消えてしまった。 早鐘のように脈打つ胸に己の手を当て、呼吸を整える。 ……幻であったかのように……? 本当に夢か幻だったのだろうか。 しかし胸に当てた手に伝わる感触が、寝巻きではなく素肌のようで、 恐る恐る見下ろして見ると、寝巻きの前がはだけていて、 ランプの灯りを受けた白い肌の上には球のような汗が浮かんでいた。 まさか……あれは……本物……。 いや、だが何もいない。部屋の中は私一人だ。 ありえるはずがない……誰もいない……私は一人だ……誰もいるはずがない! 恐らく寝苦しさから自分で寝巻きをはだけてしまったのだ。 そうに違いない……絶対にそうだ……。 だがまるで誰かが隠れているかのように、部屋の隅でコトリと音がした。 即座に私はベッドに立てかけてあった剣を取り、部屋の隅を睨む。 そこには小さな暗闇があるだけで、人影はおろか、ネズミ一匹いなかった。 しかし、なぜだろうか、隅の暗がりがやけに気にかかり、視線を動かせない。 何かがいるような気がする。私はベッドのかたわらにあったランプを取って、 恐る恐る、ゆっくりとした仕草で、部屋の隅まで行き照らしてみた。 もちろん何かあろうはずがなく、私はふぅーっと息を吐いた。 かといって安心した訳ではない。この気味の悪い部屋に一時もいたくなくて、 隣のアリシアとラヴィアンの部屋にお邪魔しようと思い至る。 錠を開け、戸を開け、廊下に出、ランプで注意深く照らし、剣を手に警戒し、 足音を立てないよう、抜き足差し足で廊下を歩き、隣室へと向かう。 アリシアとラヴィアンは酷く疲れているそうなので、今も眠っているだろう。 起こすのは申し訳なかったが、一人でいる心細さに、もう耐え切れそうにない。 ノックをしようか少し迷い、隣室の戸に手をかける。 鍵は、かかっていない。 どうせ中も暗いだろうし、ドア側のベッドで寝ている方だけを起こし、 申し訳ないが同じベッドにもぐり込ませてもらおうと私は決めた。 アリシアか、ラヴィアンか、どちらかと一緒に寝て夜を明かすのだ。 朝になったら、きっとこの得体の知れない恐怖も晴れるだろう。 朝日を見て、澄んだ空気で深呼吸をすれば、すべて解決するさ。 戸を、音を立てないよう注意しながら、ゆっくりと開けた。 「はぁっ……はぁっ……」 ほんのわずか、指が一本か二本入るかというだけ開けたところで、 あの息遣いが戸の内側から聞こえた。 さらにギシッギシッというベッドの軋みも。 私も騎士であると同時に淑女であり、その手の知識は持ち合わせていたのだが、 なぜこの部屋からこんな音が聞こえるのか見当がつかなかった。 私はわずかな隙間から室内を覗き込む。 どうやらカーテンを閉め忘れたらしく、 窓からの月光でものの輪郭はかろうじて解る程度の暗さの中、 ベッドの上の人影が、ゆうに二人分はある事が見て取れた。 そして、上に乗っかっている側の人影は、盛んに身体をゆすっている。 息遣いは明らかに男のもので、何かをしゃぶるような音まで聞こえてきた。 さらに、小さくだが、嫌がってる風の苦悶のあえぎがした。 まるで口をふさがれて、無理矢理つらい行為をしいられているような。 アリシアかラヴィアンかは解らぬが、尋常ではない事態なのは確かなようで、 私はドアを乱暴に引っ張って開け放ち、左手に持ったランプを突き出して怒鳴る。 「何をしている!」 ベッドの上の、二つの顔が同時に振り向く。 下になっているのはアリシアで、布で猿ぐつわをされて、涙を流していた。 上に乗っているのは……ああ! 何という事だろう、信じたくない。 しかしこの暗がりでも見間違えるはずがなく、 ついこの間何があろうと信じると心に誓ったはずの相手であった。 「ラムザ! アリシアから離れろ!」 剣を握りしめて踏み込むと、ラムザはニタリと笑って私に飛びかかってきた。 まるで獣のような身のこなしに驚き、私は恐らく悲鳴を上げたのだろう。 そして、咄嗟に振るった剣がラムザの胸に突き刺さってしまった。 剣を手放すと、ラムザはその場に倒れ込み、床一面を赤く濡らした。 「ハァッ……ハァッ……!」 ああ、何て事だろう……まさかラムザが、 寝入っている婦女子にこのような真似をする男だったとは。 裏切られた悲しみと怒りが胸に込み上げ、ボロボロと涙がこぼれてしまった。 恐らくこのままいつまでも立ち尽くしていただろう私を正気に戻したのは、 アリシアの助けを求める猿ぐつわ越しの声ならぬ声だった。 「あ、アリシア……」 慌ててアリシアに駆け寄ろうとした瞬間、アリシアの眼がギョッと見開いた。 「ウゥーッ! ウゥーッ!」 布ごしに何事かを叫び、恐怖に彩られた眼差しを向けてくる。 まさか、ラムザを殺害してしまった私に怯えているのだろうか? しかし私はアリシアを助けたのだ。怖がられるはずがない。 「アリ……シア……?」 何とかなだめようと一歩踏み出し、爪先に何かがあたる。 見下ろすと、当然というか、死体があった。 胸に深々と剣を突き刺した"ラッドの死体"が。 「……え……?」 「ウゥーッ!!」 アリシアが一際大きな声を上げた直後、後頭部にガツンという衝撃が落ち、 私はラッドの死体に重なるようにして倒れ、意識を失った。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 荒い息遣いと、人ののしかかる重さに、私は目を覚ました。 「うっ……?」 おぼろげな視界の中、人影が踊っている。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 ベッドの脇にあるランプのわずかな灯りが、嫌というほど現状を教えてくれた。 私はベッドの上に大の字で寝かされ、両手両足をベッドの柱にきつく縛りつけられ、 さらに全裸に剥かれて、白い腹を舐め回されているのだ。 「うぐっ! むうぅっ!」 悲鳴の代わりにくぐもった声が漏れ、口の中に濡れた布があると気づく。 「よく……眠れましたか……?」 腹を舐めながら、酷く落ち着いた声が訊ねてくる。 私は必死に首を傾け、声の主を確かめようとした。 ランプの灯りを浴び金色に輝く髪が見えたが、 私の腹に顔をうずめていているため何者かなのかまでは解らない。 何か他に手がかりは、あるいは脱出する手段はと思い、首を右に向ける。 部屋の戸があって、その前に剣の刺さったラッドの痛いが転がっていた。 なぜラッドが死んでいるのだろう。私は確かに"ラムザを刺し殺した"はずなのに! では、まさか今、私の身体にのしかかっているのは、ラムザなのか。 「ぐうっ、むぐぐっ」 布が邪魔でまともに話せない。 しかし呼びかけているのだと通じたのか、彼は顔を上げた。 三日月のように裂けた唇で笑顔を見せてきた彼は、まさしくラムザだった。 「ふふふ……いけませんねアグリアス。聖なる行いに逆らうのは……」 低く野太い声はラムザのものではなく、けれど聞き覚えのあるものだった。 いったいどこで聞いた……のか……ああ……まさか……まさか……! ラムザから美しい金の髪が抜け落ち、肌はふくれ上がり不気味な白い肉へと変貌していく。 私の身体の上で、おぞましい変化を遂げた怪異はまさしくドラクロワ枢機卿の怪物姿。 「むぐぅぅぅっ!!」 あまりのおぞましさに、私は顔をそむけ――隣のベッドに気づき――見てしまった。 アリシアが眼を見開いて天井を見つめたまま、微動だにせず、 眠って、いや、息絶えている。 服は着ておらず、私同様全裸で、しかし、女の象徴とも言える乳房などは無かった。 獣に食われたかのように、アリシアの胸から腹にかけて、ぽっかりと穴が空いている。 赤黒い内側には、食い散らかされた内臓を材料にした血のスープがあった。 あまりの凄惨な光景に息が止まる。 そして、その血のスープに、天井から何かがしたたり落ちている。 見てはいけない……見たら後悔する……絶対にダメだ……見るな……見るな……! そう確信しながらも、私の首と目は導かれるように天井へと視線を向けた。 ラヴィアンが……上下逆さまに……吊るされている……。 口から鋭い刃を吐き出して、そこから血がしたたっているのだ。 その刃はラヴィアンの肉体を縦に貫通しているのだろう、 股間からは槍の柄らしき物陰が突き出して見えた。 「罰です……天罰……これは……天の裁き……!」 地獄から響くような声で、ドラクロワの化物がささやく。 私はもう指一本動かせず、恐怖に呑み込まれてガタガタと震える、無力な羊だった。 「さあ……不浄を受け取りなさい!」 化物が叫ぶと同時に、熱い何かに下腹部を貫かれた。 身体を左右に引き裂かれたかのような激痛が、股間から頭のてっぺんまで突き抜ける。 あふれた涙で歪んだ視界を、化物の大きく開いた口が埋め尽くし、 死臭を漂わせる鋭い牙が、唾液をしたたらせながら、私の顔を――。 「アグリアスさん、アグリアスさん」 声に目を覚ませば、そこはどこかの宿のベッドの上だった。 悲鳴を上げる気力すら無く、身体は震え、息は上がっている。 全身汗でぐっしょりしており、寝巻きが肌に貼りついていた。 「大丈夫ですか? 僕が誰か解りになりますか?」 「あ、あ……」 ランプに照らされたラムザの顔が、心配そうに覗き込んでいる。 「お水です、どうぞ。慌てないでゆっくり飲んでください」 水差しが唇に当てられる。よく冷えた水で、 あまりのおいしさに私は夢中になって水を飲んだ。 一息ついてから、私は恐らく滑稽なほど怯えた表情で、ラムザを見た。 すると、不安そうな表情でラムザは私の額を優しく撫でる。 「ずいぶんとうなされていましたね」 「あ、ああ……」 「覚えていますか? アグリアスさんはドラクロワ枢機卿の、 邪悪な怪物へと変化したあの枢機卿の奇怪な魔術を浴びて、 今までずっと眠り続けていたんですよ」 「そ、そう……だったのか……?」 では、先ほどまでの出来事はすべて夢、だったという事か。 私は安堵の息を吐き、静かに目を閉じた。 色々と聞きたい事はあるが、今はただ、ゆっくりと休みたい。 「ラムザ……すまないが、しばらく休ませてくれ……」 「ええ、解りました」 ベッドのかたわらにあった椅子から立ち上がったラムザは、 ゆったりとした足取りで戸の方に向かっていく。 その背中を見て、急に不安になった私は思わず口を開いた。 「あ……みんなは、無事か?」 ドアの前で立ち止まるラムザ。 「ええ……アリシアとラヴィアンは……酷く疲れていて……隣の部屋で眠ってます」 「……ラッドは……?」 「宿の主人と一緒にお酒を飲んで……今頃眠ってるんじゃないかと……」 「……ムスタディオ……は……?」 「覚えてないんですか?」 錠をかける音がした。 一人の心細さから、誰かに側にいて欲しいと思ってはいたが、 なぜ、鍵をかけるのだろうと私は不安になった。 それに、ムスタディオが……どうかした……のだろうか……。 「ムスタディオは死にました。あの化物に押しつぶされて、 身体の半分がひき肉のようになってしまって……。 とはいえ、彼とは短いつき合いでしたし……ドラクロワ枢機卿や、 バート商会との決着がついた今……いなくても困りませんしね……」 冷淡な口調で言って、ラムザは振り向いた。 三日月のように裂けた唇で、寒気のする笑顔で。 「ら、ラムザ……?」 無言でベッドに近づいてくるラムザ。 言いようのない恐怖に、私は半身を起こし、胸元に手を当てた。 素肌の感触。 ハッと身体を見下ろせば、寝巻きの前ははだけており、 球のような汗が浮かんだ白い肌があらわになっていた。 「アグリアスさん」 耳元で声がしてギョッと顔を上げると、 いつの間にかベッドの上にラムザが四つん這いになって、私を押し倒そうとしていた。 「な、何を……」 ラムザの顔が、私の胸元に押しつけられる。 「や、やめ……」 生温かい舌で舐められた後、冷たい歯が肉に食い込んできた。 「はぁっ……はぁっ……」 あの、夢の中で何度も聞いたあの息遣いが聞こえる……。 ……ラムザの口元から……私の胸元から……あの……息遣いが……! ――アグリアス様がお亡くなりになったのは、ライオネル城での戦いから三日後の事でした。 あの不浄な化物との戦いで、アグリアス様は魔性に取り憑かれてしまったのです。 『闇の奥底、死の恐怖たゆとう闇の衣……悪夢!』 あの化物はそのような詠唱をしていたはずです。 そしてその言葉通り、あの化物を倒した後もアグリアス様は悪夢にうなされ、 一度として目覚める事無く……ベッドの中で息絶えてしまったのです。 アグリアス様の死は悲しいけれど、もう苦しむ事はないのだろうと思うと、 これでよかったのかもしれない……と、ほんの少しだけ思います。 だって、三日三晩悪夢にうなされるアグリアス様のご様子といったら、 筆舌にしがたいものがありましたから。 『はぁっ……はぁっ……』と常に呼吸を荒くし、時折意味の解らぬ悲鳴を上げていました。 私とラヴィアンは交代でアグリアス様につきっきりで看病し、 男の方々も換えの水やタオルを用意してくれたりと手伝ってくれました。 ラムザさんは差し入れにホットミルクを入れてくださりましたし、 ラッドとムスタディオはライオネル城からの追っ手が来やしないかと、 私とアリシア同様、交代で宿の周りを見張っていてくれました。 そんな苦労も……今日、終わったのです。 アグリアス様は悪夢から解放され、永久の眠りにつきました。 亡骸はオークス家に還して差し上げたいけれど、今の私達では難しいかもしれません。 けれど今はそういった事に頭を悩ますよりも、ただ眠りたいです。 ラヴィアンは私と交代して眠っていて、まだアグリアス様の死を知りません。 ムスタディオも今は眠っていて、見張りはラッドがしているはずです。 私は、ラムザさんの肩を借りて自室に戻ってきたところです。 「アリシア。後の事は僕に任せて、今はゆっくり休んで」 「ありがとうございます……ラムザさん」 紳士的で、どこまでもお優しいラムザさんの心遣いに感謝しながら、 看護疲れと……死別の悲しみを癒すため……私はベッドに横になりました。 すると、心にゆとりが生まれたせいあk、涙があふれてきました。 ラムザさんは、ハンカチで私の目元を拭って慰めてくれます。 「君が落ち着くまで……ここにいようか?」 「ええ……お願いします」 ラムザさんの優しさに、私は素直に甘える事にしました。 そうしなければ、心が壊れてしまいそうで……。 「……アグリアス様が不憫でなりません……」 「……そうだね。まだ若かったのに」 「騎士として、戦って死ぬのは覚悟の上だったはずです。 けれど、あんな亡くなり方をするだなんて……! 悪夢に呑み込まれて……現実に帰ってこれず、死んでしまって……。 どれほど苦しい思いをしたか……私には解りません」 「……そうだね」 「どんな悪夢を見ていたのかさえも……」 ラムザさんの手が、私の頬をそっと撫でてくれて、 そのぬくもりがもっと欲しくて、私はその手を握りしめました。 すると。 「ねえ、アリシア」 ラムザさんは酷く落ち着いた口調で言います。 「アグリアスさんが……どんな悪夢を見ていたか……知りたいかい……?」 Fin