約 1,390,173 件
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/126.html
「闇にありし怨恨の魂よ、 此処に集結せよ・・・ 虎鉄!」 バシュバシュバシュ ウォーン 「"引き出す"は使えるな!」 「ええ。魔法AT依存ですが、武器さえ変えればサポートもできますし」 「でもアグリアス様。私、以前から疑問に思っていた事があるんです」 「ん…何だ?」 「刀って全部にハズレなく魂が込められてますよね」 「あぁ・・・そうだな」 「しかも店売りもしてる量産品。それに魂込めてる人ってどんな方なんですかね?」 「―――」 「―――」 この世界には不思議な事が沢山ある。 今、それらを暴こうと異端者一行が動き出す! ------------------------------------- 世界の謎にせまろうよっ!~刀編~ ------------------------------------- 「――で、ここはどこですか?」 「良い質問だラムザ。これが何だか判るか?」 「村正ですね。それより質問に答えてください」 「まぁそう急かすな。ここはイヴァリース中で使われている村正―その刀鍛冶が住む村だ」 「へー。さすがアグリアスさん博識ですね」 「はっはっはっ。照れるじゃないかラムザ」 (本当は武器屋の店主を脅して聞いたんですけどね) (えぇ。あの時のアグリアス様は…目が本気でした) 「ラヴィアン・アリシア。何か言ったカ?」 チャキ 「い、いえ、何も!」 「そ、そうですよ!暴力反対!!」 「ったく」 「で、その刀鍛冶はどこに居るんですか?」 「む…流石にそれは判らん。まぁ聞いてみれば判るだろ」 「なら村長に聞いた方が早そうですね」 「あ、村人発見!いってきまーす」 「アリシアだけだと心配なので私も聞いてきますね」 「ああ。頼む」 「アリシアって時々、子供みたいですよね」 「騎士団の時はああじゃなかったんだがな…」 「まぁ、あれはあれで可愛いですよ?」 「なに?」 チャキ 「お願いですから刀から手を離してください。危ないです」 「ただいま戻りましたー」 「村長はあの少し大きめの家にいるようですよ」 「早かったな」 「そりゃ私とラヴィアンが一緒ですもん!男なんてイチコロですよ」 「それで靡かない奴はこう…サクッっと――」 「こら、ラヴィアン。不穏当な行動は慎めよ」 「は!」 ビシッ 「…」 「とうとう刀のヒミツとご対面ですか」 「ワクワクしますね~♪」 「ん―この気配は――」 「どうしました、アグリアスさん?」 コンコン 「失礼しま――」 ドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコ 『キェーーーーーイッッ!』 「うわっ!何あの爺サマ!!」 『ムッ!何奴!!』 「あの…ここって村長さんのお家では――」 『寄ルナ!寄ラバ切ルゥゥゥーーーッッ!!』 「うわ・・・完全にイッちゃってるよ」 「というか人間!?あの黒いオーラはいったい―」 「やはりルカヴィか!」 「ルカヴィ!?そんな―」 『ぶるぁぁぁぁぁッッ!』 バシュー 刀身に黒いオーラが集まっていく 「ふぅ…これで今月の出荷分は終了じゃな。―何じゃ、お主ら?」 「失礼した。旅のお嬢さん方。今月の出荷分に手間取っての」 「あの、ここって村長さんのお家ですよね」 「いかにも」 「え…じゃ、貴方が村長…さん?」 「うむ」 「村長殿が刀に魂を込めていらっしゃるのか」 「うむ。儂がこの村の村長にして、刀鍛冶をまとめる刀匠じゃぁ!」 クワッ 「どっちかっていうと村長より戦士って感じですね。筋肉ムキムキだし」 「はっはっはっ。刀匠としての嗜みでの」 ムキッ 「あんっ…イイ男」 (アグリアスさん。ラヴィアンのタイプなんですか?) (判らん。だが、ラムザも見習ってアレくらい筋骨隆々の体を作らないとな) (――無理です。僕は人間なので) 「で、何用かの?」 「あ…刀に魂を込める所を見たくて」 「おぉ、そうであったか!」 「刀匠殿。先ほどのが魂を込める――?」 「さよう。我が一族に伝わる入魂法じゃ」 「刀って作るの大変なんだな」 (あれが…ルカヴィが乗り移ったかと思った) 「久々の来客じゃ。なんなら一本入魂をしてみようかの」 「お!見せてくれるんですか?」 「うむ。ちょっと待っておれ」 トコトコトコ 「大丈夫かアリシア?危険じゃないか?」 「ダイジョーブですよアグリアス様。ここで入魂法さえ覚えちゃえば武器の強化にもなります」 「まぁ、それもそうだが」 「そんなに簡単に覚えられるものなのかな…」 「私を甘く見ないでくださいラムザ隊長。今まで隠してましたが、実は盗み見・盗み聞きは得意分野!」 「―うん。わりと知ってる」 「この間だって夜中にアグリアス様が」 「刀に宿りし幾千の亡霊の呼びて いざ抜か」 「美しい寝息を立てていらして…ドウシマシタ、アグリアス様?」 「フフフ――余計な事を言うと命が無くなルゾ?」 「まず、入魂前の刀を持つ」 「フムフム」 「次にこう構える」 「ホゥホゥ」 「こぅ…自分の内にある貪瞋痴を呼びだすのじゃ」 「貪瞋痴?」 「その全てを呼び出し――グヴァーー!!』 ドンドコドンドコドンドコ 「きゃー!また出たっ!ルカヴィ!!」 『ソシテ、三毒ヲ スベテテ刀ニ 集中サセルッ!!』 バシュー 「…」 「これで完成じゃ」 「―――アリシア…判ったか?」 「申し訳ありません…判りませんでした……」 「やれやれ」 「ムッ…じゃあ、アグリアス様は判ったんですか!」 「判らん」 「同じじゃないですか」 「こういうのは見て覚えるよりやって覚えるものだ」 「お主。やってみるか?」 「できれば」 「ならばこれを着るがよい」 バサッ 「…白装束?」 「うむ。刀匠見習いはみなそれを着る」 ――おぃ、刀匠! 「何じゃ?」 ――これを着ないと駄目なのか!? 「精神を集中させるため、見習いはそれを着る」 「でも、刀匠は着てないですね」 「むしろ裸……あぁん、イイ男」 「ラヴィアン」 「ハッ…失礼しました」 ゴシゴシ ――本当にこれを着ないと駄目なのか!? 「駄目じゃ」 ――ほ、本当に、本当にか? 「ええぃ!つべこべ言わずさっさと着てこんかー!!」 ――くっ ガチャ 「…着て来たぞ」 「まぁ!」 「きゃ」 「うわっ」 「こ、こっち見るな!特にラムザっ!」 「ちょっと小さい見たいですね」 「えぇい、さっさと終わらせるぞ。刀匠!」 「うむ。では刀を持って、構えるのじゃ」 「ハッ!」 キリッ 「全精神を集中させイヴァリース中に蠢く貪瞋痴を呼び出せ」 「―貪瞋痴って何だ?」 「簡単にいえば人間の暗黒面みたいなモンじゃ。特に怒り!村正では怒りを重視せよ!!」 「怒りか。よしっ!!」 キリリッ ~10分後~ 「くっ…やはり無理なのか」 「そうそう簡単に出来るもじゃないですよ」 「そうですよ。アグリアス様、あまり無理はなさらないでください」 「っ…なんだかクラクラするな」 「ただの力み過ぎじゃ。見習いはよくなる」 バッシャーン 「!」 「な、何してんですか!!」 「クラクラした時は水を掛けて頭を冷やす。これが刀匠の育て方じゃよ」 「…確かに眩暈は治ったが、私は刀匠になる訳じゃないぞ」 「む…そうであった。失敬失敬」 「あ、ああ――」 「ん?どうしたラムザ」 「あ、アグリアスさん――」 「きゃ!隊長、大胆!!」 「これは眼福。眼福」 「?」 あえて説明はしないが、白装束に水を掛ければどうなるか判るだろう! 「!!!!!!!」 「ウッ…」 ポタポタ 「ラムザ隊、長大丈夫ですか?」 「さ、アグリアス様も早く着替えて――ってアグリアス様?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「こ、これは伝説の塵地螺鈿飾剣の入魂法!?」 『赤き五月雨地を染めろ 火喰い刀!』 ズシャズシャズシャ!!! 「肌にピッタリと張り付いてて…」 ウォーン 「むぅぅぅ!!まさに鬼神…」 ウォーン 「きゃー、助け…」 ウォーン 「うわぁ、落ち着いて…」 ウォーン それからしばらくの間、 イヴァリース全土の武器屋で村正が品薄状態になったとかならないとか おわり
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/34.html
「しかし伯、年齢を重ねることによって見極めを知ることもあるでしょうし、 つまりその、なんといいましょうか、熟慮できるようになるのでは」 「それは否定できぬな。が、その分、忘れっぽくなることも確かなのだよ」 「そのような………」 アグリアスとオルランドゥは、時折とりとめのない話をしながら剣の手入れを する。 いつから始めた習慣だったか、すでにふたりとも覚えてはいない。が、二人が 並んで手入れを始めると、他の用事を入れぬようにする程度に、周囲も気遣うよ うになっていた。このふたりが結論の出ない話題をだらだらと話す余裕など、普 段の生活には無いからである。 今日の話題は、年齢と技とのバランスだった。 「では、いくつくらいの年齢が一番良いとお考えですか」 「経験と判断力が共に最も充実する年齢か?」 「はい。自分の技に迷いなく、自信と実力のバランスがとれる年齢、です。今までの お話を総合してお考えいただければ、と」 オルランドゥは、しばし手を止めた。 戦いに明け暮れて来た人生の中で、もっとも充実していた日々。それは、隣に 戦友バルバネスが居た時代のような気がする。しかし、あの長き戦いがこの国に 何をもらたしたかを思うと、ただ懐かしんでもいられないが。それでも、老騎士 という名を自分でも受け入れられるようになってきた昨今、懐かしむことも許さ れようか、とも思う。 だが、果たしてそれを当時の年齢に換算して答えることがこの場合求められて いることだろうか? 迷っている自分を見つめるアグリアスの顔の真剣さに、オルランドゥは、最近 の彼女が何か悩んでいるように見えたことを思い出した。 そもそもこのような話題を持ち出してきたのも、自分の加入によって、彼女の 存在価値が薄れたのではないかといったような、焦りがあったからではないだろ うか。彼女がこの隊で担っている役割は、剣だけに納まらないのだが。 自分のことは自分ではわからない。だから人は他人を求めるのかもしれない…… などと思いながら、オルランドゥはアグリアスに伝える言葉を探していた。 「そうさなあ………。四十(しじゅう)、か。」 「四十ですか」 アグリアスの表情を見て、オルランドゥは笑った。思っていたよりも高齢だっ たのだということが、読み取れたからだ。 アグリアスはまっすぐな気性だし、それに好感も持っている。けれど、それが 表情や仕草に出がちなところに、若さゆえの隙があると常々思っていた。しかし、 それを言葉に出して指摘しても意味は無いと、彼は誰よりもよく知ってもいた。 自分の欠点とその克服法を知るためには、年月が必要なのだ。 「そう考えると、貴殿はまだまだひよっこということになるな。精進あるのみ」 「はい!」 アグリアスがオルランドゥに見せた微笑みは輝いていた。ちょうど磨き上がっ た剣のように。 四十を迎えても彼女の微笑みの輝きが変わらずにいてくれることを願いながら、 オルランドゥも微笑みを返した。 おしまい
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/100.html
乾季と雨季が交互に来るイヴァーリスの季節模様。 夏真っ盛りの天秤の月。そんなある日――― 「アグリアスさん大丈夫ですか?」 「すまない。迷惑をかけた、ラムザ」 「最近、戦闘での動きが変ですよ?どこか怪我をしているんですか?」 「立ち眩みだろ?このクソ暑いのにそんなにガッチリ着てるから鈍くなるんだよ」 「ムスタディオ、うるさいぞ。いつ敵に襲われるか分からんのだぞ?それに暑さで動きが鈍くなっているのではない」 「ラヴィアン、アリシア。少し良いか?」 「アグリアス様、どうしたんですか?」 「最近、胸に汗疹ができるんだ。それが戦闘中に痛んでな」 「あー、最近熱いですからねぇ」 「特に隊長の胸は大きいですから・・・」 「別に好きで大きくなったのではない。お前たちだって、小さくはないだろう」 「私は大きくなく、小さくなくって感じですからねぇ。私よりアリシアの方が大きいですよ?」 「そうなのか?アリアシア」 「若干ですよ」 「ふーん、私もアリシア達くらいの大きさが良かったな。戦う時に不便だし、夏は汗疹になるし」 「毎年なっているんですか?」 「あぁ。この時期の戦闘では特に汗をかくからな。戦闘後にひどく傷む時がある。ケアルをかければ治るんだが、鎧を脱がないと治せないのが難点だ。」 「でも、隊長はいつも暑そうな服着てますよね~」 「そうね。もっと通気性の良い格好に変えた方がいいですよ。鎧の下に着る服を変えるだけでもだいぶ違います」 「そんな事で汗疹を防げるのか?」 「生地にって吸水性が違いますからね」 「さっそく買いに行きましょう」 「で、隊長。どんな生地にします?」 「実はなラヴィアン。私は服に関しては全くの素人だ」 「いつもはどんな基準で選んでいるんですか?」 「そうだな・・・丈夫な服とか」 「丈夫さだけですか・・・肌触りとかは気にしないんですか?」 「気にした事がないな」 「まぁ、今回買うのは戦闘用の服じゃないですから、肌触りも考えていきましょう」 「アグリアスさん、今日は元気ですね!」 「あぁ、実はラヴィアン達に服を選んでもらってな。おかげでだいぶ暑さが和らいだのだ」 「へー。どんな服にしたんだ?」 「ムスタディオには分からんかも知れんが、シルクを使った服だ。待っていろ、今見せてやる」 「シルクくらい知ってるわ!」 「え・・・でもシルクって摩擦に弱かったような・・・・・・」 「どうだ!」 胸を張ってラムザとムスタディオに服を見せるアグリアスだったが――― 「おおおぉぉぉ!!!」 「な、なんだ?そんなに凄いか?」 「すげぇ・・・ってか、俺幸せ。アグリアス、最高だよ!!!」 「? 大げさな奴だな。ラムザ、どうしたのだ?鼻をおさえて」 「ご、ごめんなさい。鼻血が・・・」 「暑さにやられたのか?ラムザも私と同じようにシルクにすれば―」 とアグリアスが服に視線を落とすと、そこには擦り切れたシルク製のシャツとその隙間から見える乳が―――― 「―――――――――――――――!!!!!!!!!」 「ん?アリシア、何か言った?」 「え?何も言ってないよ?」 「そう。でも、昨日アグリアス様に買った服ってシルクじゃないの?」 「違うよ~?アセテートと言う糸を使ったロマンダ製の服だよ」 「じゃあ、シルクと違って強度はあるんだ」 「いや~、吸湿性と乾きの早さ、それに軽さを重視した服だからシルクより弱いんじゃないかな」 「え。じゃあ、そんな服着て戦闘なんかしたら・・・」 「まぁ、今日の戦闘みたいに激しく動くとダメかな~」
https://w.atwiki.jp/sengoku-aeon/pages/118.html
/ fl / |l /|| ! \\ ハ | |l / |l / |リ \\ }} | | / /| | ヽミVl} l |l/ /^| 「 ̄¨¨"'' ''¨}lリ V / / | | 「|「「` リ「 ∧V 人_.,」 | じ ゛{ _{ {ミ`─---| | | 来たか……かかってくるがいい! { \\___| ハ ハ こ\ \ 〔77| ', ‐ ,イ ! =─‐==ニニミ〕/∧ ∧r‐rr-イ ! | ヽ¨ヽ, V》》 | l | } } ∨{, | | | | l Vミx| |l l | |l、 V、 | | l | ノ∧ V,| |l | |///,∧. Vl | l  ̄¨'''¬=‐- //////A Vl |l | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 【雫石斯波アグリアス(雫石詮貞)】 雫石詮貞 (アグリアス -FFT-) 奥州斯波家臣。詮高の次男。父が雫石地方を攻略した際に、雫石城主となり、雫石御所を称した。 雫石城は、斯波家滅亡の際に南部信直によって攻略された。 統 武 知 政 信長の野望天道ステータス:70 54 69 54
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/57.html
再度、ヤードー 回復魔法とチャクラで目に付くような傷はふさいだものの、 ひとりで四連戦を切り抜けたラムザの消耗は激しかった。 「ラムザ、水は飲む?」 濡らしたタオルの下からラムザが上目遣いで「ほしい」と目で言う。 アグリアスは助け起こしながら口元に水を近づけて飲ませる。 「起きられるなら少し食べましょうか?」 亜麻色の頭がゆっくり縦に揺れる。 ほうほうの体でリオファネス城を脱出した一行はライオネルにルカヴィが顕現したとき同様、 「リオファネス城の怪異」がおさまるまでの間ヤードー滞在を余儀なくされた。 一度は死んだはずのマラークが案外と元気で、 侘びの意味も込めてかいがいしく一行の面倒を見て回っていた。 重傷をおったラムザには回復魔法やチャクラの相性がよいアグリアスがつききりとなり、 たまにムスタディオが汗だくの身体を拭いたり着替えを手伝う。 さいわいなことに食欲はあった。 食事の世話くらいさせてくれとのマラークの申し出はラムザが断った。 アグリアスが粥を食べさせようとしたところ、むっつりとして口を開こうとしない。 「アグリアスさんは僕を無謀だとよく言いますが」 グローグの丘での傷はいまやあとかたもないが、更なる傷が上書きされたその手がアグリアスの短くなった髪に触れる。 「貴女のほうこそ、自分がどれだけ危うい目にあっているのかも気にしないでいる」 レディと呼ばれた人外のものは確かにナイフのような刃物を手にしていたが、 音もなく断ち切られた髪の先端はふわりと柔らかく頼りない感触だった。 「せっかく長くて綺麗な髪の毛だったのに」 ラムザの指先がそれをもてあそぶ。 「僕はあいつに嫉妬しているんです。堂々とねだったら髪の毛をもらえたし。 あとはもう誰にもやりたくない」 アグリアスは髪からのろのろとカチューシャをはずす。 裏に小さく、「わたしの可愛いセリアのために」と刻まれている。 あの人外のものたちはどこか、ヤードーのセリア姉妹の面影が、あったかもしれない。なかったかもしれない。 異様な事態から生き残るだけで精一杯だったアグリアスは、彼女達の髪や瞳の色など思い出すことも叶わなかった。 カチューシャを外して肩までの長さになってしまった髪を下ろせば照れて火照った顔が隠せて丁度良かった。 「ラファから聞いたんだけど、セリアちゃん、だったっけ。 まだ居るかもしれないし折角だから会いに行ってはどうですか」 まだいくらか遠慮ののこるマラークが、先程からアグリアスとの間にぎこちない空気が漂うラムザの世話を申し出てきた。 肩までの髪を揺らしながら歩く。 夕暮れ時、アグリアスの透き通る金髪があかがね色に染まる。 つたの絡まる食堂の裏手、濃密な香りを漂わせる花々を押しのけて小さな木戸を探す。 ない。 再度、スイカズラのなかに埋もれながら手で外壁をたどる。 どこまでもなめらかな漆喰の壁が続く。あの木戸はどこにもなかった。壁の色合いはつい最近塗り込められたものではなかった。 表の食堂にまわり扉をあければそこは、一仕事終えた職人達が大声で呑み、歌い、活気にあふれている。 「へい、らっしゃい!お嬢さんひとりかい?!」 ひょろりと背丈ばかりがありあまる、顔の部品で耳が妙に大きい中年の男が景気良くジョッキを配って回る。 これまたひょろりとして耳が大きい娘と青年が、酔客に負けじと元気な声で注文を復唱し、父親の仕事を手伝っている。 店の壁には見覚えのある時計がかけられ、時を告げてからくりが動き出す。 古い流行歌にあわせて、赤ら顔で固太りのアコーディオン弾きとぽっちゃりした女房、 しっぽの先がくにゃりと曲がった白いネコ、金色の瞳のネコの人形がくるりくるりと回る。 褐色の肌の少女がそのちいさな手にのせた人形ではないかたちで、どこかで見たことのある面々が。 辻占いのたぐいなど山師も同様、いつもならば気にも留めないはずだったがその日、 ふらふらと吸い寄せられるように卓についていた。 以前入ったときよりもずいぶん広く感じる食堂、奥まった場所に女の占い師がおさまっていた。 ところどころ歯が抜け落ちた口でニィ、と笑ってアグリアスを手招きする。50絡みの痩せぎすな女だった。 毒々しい真っ赤な色に髪を染めている。 耳が飛び出したように大きい親子と職人達の喧騒をさして気にせず、 骨ばった指は手際よくカードを切りまぜ、並べていく。 何を占ってほしいのかもいわないまま座り込んだ客が勝手に話し出すのを待ち、カードを読み解く糸口が現れるのを淡々と待つ。 「ここの店は、いつからこの御主人なんですか」 「そうさね、アタシはこの店だとアンタくらいの娘のころからの馴染みさ。 おふくろさんが隠居した後はあいつが倅と娘連れて戻ってきてやってるから、かれこれ14、5年くらいかね」 「ここの裏口から入れる部屋を誰かに貸していたりはしませんでしたか」 「裏口?ああ、裏口ね」 ありもしない裏口を話題にしたアグリアスを、おかしな娘だと決めてかかるような聞き返し方ではなかった。 「裏口はふさいで表の店の部分を広げたからもうないわな。 ほれ、ここ、このあたりは丁度、その裏口から入れた部分だった。何年か前に総ざらいしちまって壁ぶちぬいたからね」 いつから切っていないのかもわからないくらい長いツメが卓をつつく。 「あんときゃアタシもおこぼれにあずかってさ、面白いものを沢山貰ったよ。 インチキ臭い錬金術の本やら古代の失われた魔法書やらがわんさか出てきたさ。 なんでも、魔力で動く機械仕掛けの人間だとか、魔のものの力を借りて死人を再生するだとか。 ウソっぱちだとわかってても面白かったね」 シューシューと歯の隙間から酒臭い息を吐きながら赤く染めた魔女の指がカードを並べてゆく。 「ああ、お嬢さんの恋愛運は申し分ないね。いい人がもういるんじゃないかね。それと、尋ね人はもう少ししたら会えるかもしらん」 思ったようなかたちでの再会ではないかもしらんがね、と、魔女はツメの先でカードをひっくり返す。 その4へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/44.html
バレンタイン・デイは憂鬱だ。 何故か? そこには悲愴なドラマがあったのだ。 「へーい、マイハニー! 明日は何の日か知ってるかい?」 「もちろんよマイダーリン! 明日は宝瓶の月26日(太陽暦2月14日)じゃない!」 「だったら僕の言いたい事は解るよね!」 「とびっきりなのを用意しちゃうから覚悟して待っててね!」 しかしその日、獅子戦争が始まった。 そして彼女のいた街は戦果に飲まれ……約束の日、約束の場所に、彼女は来なかった。 その理由を想像して、彼は夜が明けるまで泣き続けた。 いつしか彼は、恋人を奪った戦場に身を置くようになった。 この戦争を一刻も早く終わらせるために、彼は剣を手に取ったのだ。 幾つかの戦場を渡り歩き、異端者と呼ばれる者達と遭遇し、剣を交え、 当事話術士だったラムザに勧誘され、戦争を裏で操る巨悪の存在を知り、 共に戦う事を誓って今、ここにいる。 戦争を終わらせ、愛しい彼女の魂に安らぎを与えるために。 「というエピソードがありましてね」 と、バレンタイン(汎用ユニット)は語った。 それを聞いた面々の反応は様々。 ラムザはつらそうな表情をして押し黙り、ムスタディオは号泣。 ラッドはどうでもいいとばかりにタバコを咥えたが上下逆さまだった。 マラークはどう反応すればいいのか解らずおろおろしている。 「という訳で、僕はバレンタインになると憂鬱なんです。 ですから明日のバレンタインは中止という事でお願いします」 「OK解ったぜブラザー! 明日のバレンタインは中止だ! チョコレートを受け取った奴は処刑だ! チョコレートを受け取った奴は処刑だ!」 確かに悲愴なお話だったけど、そこに同意するのはどうだろうと男性陣は思ったが、 生まれてこの方チョコレートをもらった事がないムスタ君は諸手を挙げて賛成した。 こうしてラムザ達男性陣の間に、チョコレート禁止令が敷かれたのだった。 バレンタイン・デイは憂鬱だ。 何故か? そこには悲愴なドラマがあったのだ。 「ちちうえー」 「何だい我が愛しいアグリアスよ」 「ちちうえ、ばれんたいんおめでとうございます!」 「おお、これはチョコレート! しかしこのいびつな形は……」 「りょーりちょーにおねがいしてキッチンをかしてもらいました!」 「手作り! これはもうパパ感動だね今日死んでもいいくらい」 「たべてー! わたしのチョコレートたべてー!」 「ははは! じゃーパパ食べちゃうぞー! 愛娘のチョコレート食べちゃうぞー! パク、モグモグ、ゲフッ、ゴフッ、ガハッ、グゴゴゴゴ……ウボァー」 「ちちうえ? ちちうえぇぇぇっ!!」 「という事があってな。バレンタインになると憂鬱なのだ……」 語り終えるアグリアス。つらい思い出のためか、その瞳にはうっすらと涙が。 しかし聞き手の反応は、全員腹を抱えたり口元を押さえたりして震えていた。 こらえているのだ笑うのを。 最初に我慢できなくなったのはラヴィアンだった。 「アグリアス様、いったいどんな殺人チョコを作ったんですか」 「庭に生えてたおいしそうなキノコを入れて……後でモスフングスだと知った」 「モスフングスとか。モスフングスとかー! これは笑うしかないでしょう」 大爆笑するラヴィアンを無双稲妻突きで沈黙にして黙らせるアグリアス。 アリシアもラファも笑う訳にはいかぬと必死に耐えた。 だがいい加減何か言わねば気まずい雰囲気。意を決してアリシアが問う。 「ではアグリアス様、ラムザさんにチョコレートは贈らないのですか?」 「贈る」 ついに、ついに、ついに訪れたその日の名は、バレンタイン・デイと呼ばれる日。 宝瓶の月26日当日は、世界の過半数の男の子を絶望に陥れる魔の一日。 しかし、だがしかし、一部の男の子はスーパーハッピー・デイとなる。 けれども、ああ、けれども、バレンタインのせいでチョコレートは禁止されている。 どうする!? 男性諸君!! 「という訳でケーキでも食いに行こうぜ」 とラッドは言いました。 「チョコレートケーキも駄目?」 「駄目だ。バレンタインの奴、血走った眼で黒い鎧を着込んで街を駆け巡ってるから」 「見つかったら……という訳ね。まあいいわ、バレンタインって元々、 男女関係無く贈り物をする日なんだし。イチゴの乗ったケーキを食べよう」 「そうだな」 と、ラッドはアリシアを連れて街へと消えた。 否、消えようとした。 「この世にバレンタインを楽しもうという不届き者が在る限り。 我は必ず降臨する」 屋根の上から黒い影が飛び降り、ラッドとアリシアの前に立ちふさがる。 何者か!? それは! 「天哭星ハーピーのバレンタイン! 243年振りに冥衣装着!! 喰らえ、グリード・ザ・ライブ!!」 グリード・ザ・ライブ――両手を頭上に掲げ小宇宙を放ちダメージを与える。 残念! ラッドのバレンタイン・デイはここで終わってしまった! 一方――アグリアス。 「完璧だ」 その手に掲げるは勝利のチケット、本命チョコ。 殺人チョコを作り続けたアグリアスの、究極の本気の結晶である。 「――という訳で店員、このチョコレートを買うぞ」 「合計2000ギルになります。ありがとうございましたー」 そう、既製品を金で買う。完璧である。 「そして! 本命チョコの他に義理チョコも用意しておいた! 隊の邪魔者に絡まれても、これをやれば容易に追い払えよう! 用意をしただけに容易にな! ファファファファファ!!」 テンションのおかしいアグリアスは、 早速チョコレートを持って宿屋に戻りました。 ラムザは部屋にいるだろうか? 一人でいてくれたら、チャンスだ。 そんな淡い期待を胸にラムザの部屋に突入ー! 「わっ、急に開けるなよ」 「何だムスタディオだけか」 そう、いたのはムスタディオ唯一人。 しかもこの男、バレンタイン・デイだというのに、一人さみしく銃を磨いている。 ――哀れ。哀れである。 「何だとは何だ」 「ラムザがどこにいるか知らんか?」 「あぁ、えーと、確か広場にある雑貨屋に行っつってた」 「そうか。解った、ありがとう、これはその礼だ」 と、アグリアスは義理チョコをひとつ、ムスタディオ目掛けて放った。 「こ、これは……チヨコレイトウ!!」 初めて女の子からチョコをもらったムスタディオ。 そりゃあ発音も変になりますとも! 「では邪魔したな」 アグリアスが出て行くと、ムスタディオは感涙しながらチョコを掲げた。 「苦節××年……ついに、ようやく、俺もチヨコレイトウを!!」 この瞬間――彼は忘れていた。 先日、友と果たした約束を。 ――OK解ったぜブラザー! 明日のバレンタインは中止だ! ――チョコレートを受け取った奴は処刑だ! チョコレートを受け取った奴は処刑だ! 「そう、処刑と言い出したのはお前だムスタディオ」 窓の外から、声。 振り返る、ムスタディオ。 刹那、窓ガラスを割って放たれた拳がムスタディオのチヨコレイトウを砕く。 「チヨコレイトウー!! な、何をするだァー! 許さん!」 怒りに銃が火を吹いたが、弾丸は窓からの侵入者が着ている鎧に弾かれる。 「な、何ぃ!?」 「裏切り者のムスタディオ……死という制裁をくれてやろう」 「お前はバレンタイン! た、たかが義理チョコで仲間を討つというのか!」 「愚問! 氷地獄へ堕ちるがよい! グリード・ザ・ライブ!」 残念! ムスタディオのバレンタイン・デイはここで終わってしまった! 雑貨屋に向かうアグリアスは浮き足立っていた。 今年こそ、まともなバレンタイン・デイをすごせるに違いないと。 今まで懲りずに手作りチョコを作り続け、その数だけ悲劇があった。 明らかな失敗作を食べてくれた父上。 外見だけ成功したとは知らずに食べてくれた近衛騎士団長。 娘がお世話になりますと挨拶に来たラヴィアンとアリシアの父親達。 オーボンヌ修道院でお世話になったシモン先生。 皆――バレンタイン・デイという悲劇を送った人々である。 「だが今年は、今年こそは! 私もまともなバレンタイン・デイを送るのだ! この既製品のチョコレートによって! そう、私はプライドを捨てた。挫折という嘆きの壁に屈したのだ。 敗北を認めた。 だが、それは前進である! 敗北を認めた時! 人は成長する! そして、私は気づいたのだ! 大事なのは手作りかどうかではない……。 大切なのはそう、気持ち! そして共に幸福なバレンタイン・デイをすごす事! 例え既製品のチョコレートであろうとも、私の愛は本物だ。 だから愛を込めて贈れば、例え既製品でも、手作りに勝る。勝るのだ!! ああ、私は何をムキになって手作りに拘っていたのだろう! 手作りに拘ったとて、結果、相手を病院送りにして何がバレンタイン・デイか! 今日! 今日という日は記念日となる。愛の勝利者という栄光を得る! そしてすごすのだ! 長年の夢! 愛しい殿方との! 愛しい殿方……つまりは! ラムザとの、甘く、切なく、とろけるような……バレンタイン・デイ」 天下の往来で妄想を高らかに演説するアグリアス・オークス。 行きかう人々は目を合わせないよう早足に立ち去っている。 が、立ち止まっている人物が一人。 「あんた……ド恥ずかしい事をこんなところで」 我々はこの男を知っている! この男のチョコレートのような肌を知っている! 「あぐっ!? ま、マラーク! なぜここに」 「バレンタイン・デイ禁止令が出てるから、暇潰しに散歩してんだけど……」 「バレ……禁止令? そんなもの誰が出した」 「えーと、ムスタとバレ……」 「ムスタディオだと? せっかく義理チョコをくれてやったというのに」 「え、あちゃー……あいつにバレたらどうなるやら」 「まったく、禁止令などとたわけた事をやっている暇があったら、 ラファをどこかに連れてってやるとか色々あるだろ。これ、コレやるから」 「あ」 「ではな」 こうしてアグリアスはマラークにも義理チョコを渡し、雑貨屋へと急いだ。 マラークはというと、禁止令なんて本当は嫌だったので、 バレンタインにバレないうちに食べちゃえばいいやとか考えて、 路地裏という非常にデンジャラスイベントが置きやすい場所へ隠れた。 「ったく、バレンタインの野郎……何が禁止令だ、俺を巻き込むなっての」 「ブルータス、お前もか」 「え」 ブルータスと呼ばれたマラークは、声のした方角、頭上を見た。 そこにはハートを背負う人影が落下中。何事? 直後、マラークの眼前に立つ天哭星ハーピーの男。 「ブルータスって誰!?」 「裏切り者の代名詞ッ! 喰らえグリード・ザ・ライブ!」 残念! マラークのバレンタイン・デイはここで終わってしまった! 「フォォオ……冥闘士として覚醒した俺に敵はいない。 そしてどうしても禁止令の誓いを破るというのなら……ラムザをも倒す!」 男性はターゲットにしても女性はターゲットにしない男、バレンタイン! そこには優しさではなく下心があるとかないとか! 雑貨屋ではラムザが黄色く透けるくしを手に取っていた。 「これは……すごいな、綺麗だ。何でできているんだろう? 鉱石? え~と、鼈甲? 値段はちょっと高いけど、う~ん……いいなぁ……」 それを棚の陰から見つめるは、バレンタイン・デイという聖戦に挑む勇者アグリアス。 「あ、あれは……もしや……」 アグリアスは確信した。 私がラムザにバレンタイン・チョコを渡す訳だ。 そうするとラムザはお礼にあのくしをプレゼントしてくれる訳だ。 そしてあのくしで私の髪を梳いてくれる訳だ。 優しく丁寧に愛でながら。 「完璧だッ!!」 「あれ? その声はアグリアスさん、どうしてこんな所に」 見つかってしまったアグリアス。大声なんか出すからである。 ラムザはとっくに買い物をすませていて、小さな買い物袋をぶら下げている。 勝負の舞台は、整った。 (チャンスだ! 適当にラムザを誘って、いい雰囲気になったところでチョコを――!) (見える! 僕にも死亡フラグが見える! バレンタイン・デイ禁止令を破ったら……!) 「ら、ラムザ。ここで会ったのも何かの縁、ちょっと一緒に街を見て回らないか?」 「い、いえ今日はちょっと疲れているので一日中寝てようかなーなんて思ってます」 (一日中……ベッド・イン! 求めているのか!? チョコだけでなく、私の操を!) (部屋に戻ればラッドやムスタ、この際マラークだけでも、邪魔者さえいれば護身完了!) 「そ、そうか。では宿に戻ろうか」 「え、ええそうしましょう。速やかに戻って、ああ早く休みたい」 (ハッ!? そ、そういえば宿で致すという事は、ラドムスマラに邪魔されるのでは!?) (ハッ!? しかし宿に着けば皆がいる事は彼女も承知している。帰り道で渡される!?) 雑貨屋を出て、宿へと歩く二人。 肩が触れ合いそうで触れない距離を左右に保ちながら、思考が激しく渦巻く。 (ならば! 今、この場でチョコレートを渡したほうがいいやもしれぬ) (ならば! さり気なく『チョコは要りません』と言って予防線を引けば) (いやしかしここはまだ人気が多い。他人とはいえ人に見られるのは、やはり……) (しかしいったいどう言えばいいんだ。甘党の僕が今更チョコを要らないなど説得力が……) (いや! ラドムスマラやラヴィアリラファに見られるよりは……いざッ!!) (いや! 何としても断らねば、背後から尾行する黒い影に……殺られるッ!!) その時、一陣の風。 合図ではなかった、だがそれがきっかけだった、故に同時に。 「ラムザ! 私の愛のこもった本命チョコレートを受け取ってくれ!」 「アグリアスさん! 実は僕急性発疹チョコレートアレルギー症候群に感染してしまって!」 ラムザは拒否の意を示すために手のひらを突き出した。 が、丁度そこにアグリアスの差し出したチョコがピンポイント直撃。 反射的に、それを掴んでしまって。 「天哭星ハーピーのバレンタイン! 燃え上がれ、俺の小宇宙! 一時的にとはいえ究極にまで高まった俺の小宇宙は、拳を光速の域に到達させた!!」 一筋の閃光が、アグリアスのチョコレートをぶち抜いた。 両の目から炎をメラメラと燃やしながら、アグリアスは振り向く。 漆黒の冥衣を着たバレンタインが、こちらに向けて拳を向けていた。 「貴様……よくも、よくも私の……私の……!!」 その時、アグリアスから金色のオーラが立ち上る。 「おおっ! こ、この究極にまで高まった小宇宙はまさしく小宇宙の真髄! 第七感…… セ ン ブ セ ン シ ズ !!」 下から風に吹き上げられているかのように金の髪がなびかせながら、 アグリアスは天空を指差して叫んだ。 「ここへ来て私の身体を覆え! 我が聖衣よ!」 ビュン、と音を立てて飛んできた黄金の矢がアグリアスの足元に突き刺さった。 しかも文が結ばれている。何事か? アグリアスは早速矢文を読んだ。 『現在蟹座の黄金聖衣は別の方が着用されています。 もうしばらくお待ちの上、改めて呼び出してください』 「そんな馬鹿なッ!!」 「命運尽きたなッ! バレンタイン・デイに終止符を打つ!」 バレンタイン必殺の拳がラムザに向けて放たれようとした、その瞬間。 それは現れた。 「バレンタイン!」 「な、何ィ!? そ、その声は……」 驚愕し振り向くバレンタイン。その先には一人の女性の姿が! 「マイハニー、エヴァ! 馬鹿な、君は一年前のバレンタイン・デイの日、死んだはず……」 「違うのよマイダーリン、バレンタイン! 私は去年のあの日からずっと、待ち合わせの場所を探していたの。 でも、行けなかった、たどり着けなかった。なぜなら……」 「なぜなら何だい?」 「私、方向音痴なの……」 「そ、そうか……それで……」 「でも今年のバレンタイン・デイで再会すべく、私は有名な占星術士に占ってもらったの。 蟹座の黄金聖衣を着た占星術士様は私が迷わぬようにと、 あなたがバレンタイン・デイの日に訪れるこの街まで案内してくださった。 さあ受け取ってバレンタイン! 私からのチョコレートを!」 「いいですとも!」 こうしてバレンタインは恋人と再会し、甘く切ないバレンタイン・デイを送った。 ――とは問屋が卸さない。 エヴァと仲睦まじくすごそうとするバレンタインの前に現れる黄金の影が三つ! 「山羊座の黄金聖闘士ラッド!」 「天秤座の黄金聖闘士ムスタディオ!」 「双子座の黄金聖闘士マラーク!」 『アジョラエクスクラメーション!』 こうしてバレンタインもろとも街は崩壊した。 「で、こうして瓦礫の山の上で途方に暮れている訳だが」 アグリアスとラムザは、瓦礫の頂上に腰掛けながら夕焼けを見ていた。 二人とも酷く疲れた様子で、周囲にはアグリアス達に救出された人々が倒れている。 「ああ、お腹空きましたねぇ」 ラムザがぼやくと、アグリアスは鼻っぱしらを赤くしながら、 懐から小さな包みを取り出した。 「まあ、何だ。チョコでもどうだ」 「え、まだあったんですか?」 「一応人数分買ってあったからな。 これはラッドへの義理チョコだったので、申し訳ないのだが……」 クスクスとラムザは笑う。 「じゃあ、僕に渡そうとしたあの大きなチョコは、やっぱり」 「さ、早く食べよう。開けるぞ。さあ、食せ」 「うん。とろけるような甘さが最高です、アグリアスさん」 後日談 「ラムザがあの櫛をプレゼントしてくれない。何故だか知らんか? ラッド」 「あの櫛は自分用だとさ。アホ毛の手入れに使うって言ってたぜ」 後日談2 「貿易都市にしか売ってないアイテムがあるよ」 「……バレンタイン。貿易都市が瓦礫の山と化した後、なぜそんな話を?」 「いや、オンラインヘルプのメッセージなんだけど、言うタイミングを逃して……」 「なるほど、それで今回の舞台は貿易都市だったのか」 「貿易歳らしさを見せるため鼈甲の櫛を買ったラムザ隊長に乾杯」 「あの櫛、5万ギルもすんのに経費で買いやがって。 俺も経費で何か買ってやる! 買ってやるぞー!!」 「ところで、その後エヴァって彼女とはどうなったんだ?」 「それがね、聞いてくれよムスタディオ。 ホワイトデーには30倍返しが基本なんだって! だから俺と協力してホワイトデーぶち壊し計画を実行しよう!」 「懲りない奴」 後日談3 「ラムザです。そしてこちらはエヴァ。 バレンタインの恋人で、今日からみんなの仲間になります」 「エヴァです、よろしくお願いします。 得意なジョブはアサシンとアルテマデーモンです」 「セリアとレディのネタバレしちゃったぁぁぁッ!?」 後日談4 「さて、突然ですが僕の首にかかった賞金が五倍になりました。 理由は貿易都市壊滅が僕の責任になったからです。 よってラッド、ムスタディオ、マラーク、バレンタイン。 この四名には今後半年、お小遣い抜きを命じます!」 「そ、それではどうホワイトデーを乗り越えろと言うのだ! 俺はアリシアにシルクのスカーフを買ってやると約束したんだ!」 「ラッド、君なら簡単に解決させる方法を知っているだろう? 盗んできなさいそのスカーフ」 「いかん、このラムザ俺よりずっと腹黒だ」 「ムスタとマラークもアグリアスさんに何かお返しするように。 ただし小遣いは出しませんし自腹です。資金は各自で用意! そしてバレンタインは僕への本命チョコを砕いてくれたお礼に、 一人でディープダンジョンのレアアイテム全部集めてきて」 「マジ堪忍」 後日談5 「ら、ラムザ! その鼈甲の櫛で、髪の梳きっこをさせてくれ!」 「……は? 梳きっこ、ですか?」 「ラムザの髪はふわふわで気持ちいいなぁ」 「アグリアスさんの髪もふわふわで……ふわぁっ」 「あくび? 眠いのか?」 「いえ、そんな事は…………すや、すや」 「やれやれ、可愛い寝顔だ。こんな可愛い寝顔にはほっぺにちゅーしてもバチは当たらないな」 「実は寝たフリでしたー。さあアグリアスさん、ほっぺに一発お願いします」 「あぐっ……………………………………ちゅっ……」 THE END
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/70.html
七夕=短冊=願い事 「――という訳で今日は短冊に願い事を書いてもらいます」 とラムザは言いました。 「七夕とは何だ?」 説明するラムザ。実は彼もつい先日七夕という風習を知ったばかりである。 受け売りの知識を軽やかに語るラムザ。 願い事が本当にかなうかどうか疑わしいが、 殺伐とした異端者生活に潤いをもたらすためにはいいものかもしれない。 そんな訳で、みんな特に疑問もなく願い事を書きました。 酒池肉林――ラッド もっと強い銃が欲しい――ムスタディオ モルボルグレイトの蜂蜜漬けが食べたい――アリシア もっと酒を――ラヴィアン みんなが健康でありますように――ラファ 幸せになりたい――マラーク ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うが=なぐる ふたぐん――オルランドゥ 打倒父上――メリアドール オヴェリア様がご無事でありますように――アグリアス 「ちっがぁぁぁぁぁぁうッ!!」 怒鳴った。みんなの願い事をチェックしたラムザが怒鳴り散らした。 「な、何か作法を間違えてしまったか?」 みんなを代表してアグリアスが問うと、ラムザは拳を掲げて熱弁した。 「正直さが足りない! みんな、これが、本当に、一番の願い事ですか!? ええ、確かに嘘はついていないかもしれませんでも! 真実でもない! もっと正直に! 欲望をさらけ出して! 願い事を書かねばなりません! 何ですかこの『他の人に見られてもいい当たり障りの無い願い事』は!!」 ラッド挙手。 「俺は本気だ」 「うん、ラッドは解る。合格」 アリシアも挙手。 「私も今一番食べたい物は短冊に書いた通りですよ?」 「うん、アリシアも合格。実に欲望に忠実でよろしい、明日は湿原です」 ラファが挙手。 「わ、私も正直に……」 「はい、嘘。遠慮とかしないで心を全裸にする勢いで願い事を書いてね」 オルランドゥが挙手。 「私も本気だ」 「以上の合格者以外は書き直しを命令します! どーしても他人に見られるのが恥ずかしいというなら、 自分の部屋でもいいから短冊を飾りなさい! 笹を折って持っていっていいから! ちゃんと天地神明に誓って真の願い事を書いてもらいます!」 アグリアスが怒鳴る。 「待て! オルランドゥ伯は合格なのか不合格なのか!?」 「いいですかアグリアスさん、オヴェリア様の無事を願うのもいいでしょう! その気持ちに偽りはないと信じています! しかし! 七夕の短冊に書く願いは『人に見せられないような願い』を書くと決まっています! それは……太古の昔より……はるかなる未来まで! 平和なる時も……混乱の世にも! あらゆる場所! あらゆる時代に!! 人間が存在する限りとして永遠に続く『絶対不変の掟』なのです……!!」 そんな大袈裟なものであるはずがない、とアグリアス達は思った。 でもラムザのテンションがおかしい。逆らうのは得策ではなさそうだ。 「……解った。後でちゃんと別の願い事を書くから、静まれラムザ」 「はぁーっ、はぁーっ……解っていただけましたか」 こうして不合格となった皆々は、笹と短冊を持って各々の部屋に戻りましたとさ。 そして深夜。 「どうもラムザです。忍びの衣で透明になってます。 さらにテレポをセットして扉の鍵なんきゃへいちゃらさ!」 そう、ラムザの真の目的は、仲間が心から思っている事を知りたかったのだ。 もし短冊に自分の悪口や隊の悪口が書いてあったらお仕置きだ! 「ふっふっふっ、ではさっそくムスタディオの部屋にテレポ!」 軍資金5万ギルの使い込みがバレませんよーに――ムスタディオ スヤスヤと眠るムスタディオの横で、三日月のような笑みを浮かべるラムザ。 「軍資金……何か足りないなーと思ったら、ムスタ君のせいだったんですねぇ。 むむっ! これはティンカーリップ! こんな高い買い物をお小遣いだけでできるはずが……ハッ! これが横領してまで買った品か!! スルメと入れ替えておこう」 ラムザはティンカーリップを手に入れた! 「次はラヴィアンの部屋です、とう!」 私もみんなと星座の相性がよくなりたい――ラヴィアン 「これは悲しい。確かにアグリアスさんと相性悪いしなぁ。 僕とラッドとメリアとも相性悪いし、」 ラムザはついホロリと涙してしまいました。 「そんな彼女には唯一パーティー内で相性最高の、 天秤座ムスタディオの写真と、ムスタディオ愛用の縦笛をプレゼント」 ※ベイオも天秤座だが現時点では仲間になっておらず。 「幸せにおなり……ラヴィアン」 「う~ん……うぅ~ん……」 なぜか物凄い勢いでうなされだしたけど気にしない! 次行ってみよう! 男の人達が持ってるエッチな本が撲滅されますように――ラファ 「やあやあ、これがかなっては困ってしまう。ファイア」 残念! ラファの短冊は灰になってしまった! 「じゃ、次はマラークね」 アグリアスのおっぱいに顔を沈めてグリングリンしたい――マラーク 「バリカンでー、マラークの髪ー、丸坊主ー。 ツンツルテンでー、ざまあさんさん。 さて次だ」 ラムザと結ばれたい――メリアドール 「脱衣完了! ふぅ~……メリアがまさかそういう気持ちだったとは。 気づかなくてゴメンよ! いざ! 尋常に! 勝負!!」 壁がぶち破られた。 「な、何事!?」 飛び起きたメリアドールはセイブザクィーンを握りしめる。 そして、ぶち破られた壁の向こうには、ディフェンダーを握った夜叉の姿。 「ラムザ~……そんな大声を出して気づかれないとでもおもったか」 返事が無い。 全裸で壁の破片を喰らったラムザは、ケツ丸出しでぶっ倒れていた。 一方メリアドールはというと。 「せっかくのチャンスを、よくも!」 「何がチャンスだ! 勝負下着なんぞで寝たフリなどしおって! それでも神に仕える神殿騎士か!」 「それはそれ、これはこれよ! アグリアスこそこんな時間まで何で起きてるのよ! やけに可愛らしいパジャマなんか着ちゃって!」 「ううう、うるさい! 今日は七夕というロマンチックな日だから、 彦星と織姫の無事を祈って、ちょっとオシャレしただけだ!」 「あんたもラムザが短冊を見に忍び込んでくるって踏んでたんでしょ! 今更カマトトぶってんじゃないわよ、このむっつりスケベ!」 「抜かしたなメリア! おのれこの剣の錆にしてくれる!!」 こうしてアグリアスの放った無双稲妻突きの影響で空は曇り出し、 彦星と織姫が会えるのは来年となってしまいましたとさ。 ラムザのアホ毛を撫で撫でして、ラムザにも私の髪を撫でてもらいたい――アグリアス Fin 追記、オルランドゥ伯が行方不明になりました。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/71.html
「人の夢と書いて儚(はかない)…何かもの悲しいわね…」 1人呟くように口にした彼女の女言葉を初めて聞いた時、ラムザは少しドキッとした。 それまでは堅い印象の騎士口調しか耳にしていなかったし、彼女自身の印象もそう。 お堅くて気丈な女丈夫、それがラムザの目に映るアグリアスだった。 しかし彼女が正式に仲間として加入して程無く、時折女性らしい一面を垣間見せるようになった。 どうやらプライベートでは普通に女言葉で話すようだと知った。 「アグ姐が女言葉使ってらー、違和感ありまくりだな。もしかして頭でも打ったのか?」 そう言ったのはムスタディオ。アグリアスと元部下2人の会話に目を円くして。 直後アリシアとラヴィアンに脇を固められ、何処かへ連行される彼をラムザは敢えて放置した。 彼女の反応が気になったからだが、当の本人は話し相手が2人とも消えてしまった為に 少し所在無さ気だったくらいで、ムスタディオの発言は悪意の無い冗談だと受け流したらしかった。 何故職務中の女言葉を封印したのか? 王女の護衛隊長として、その責務を果たさんとする気負いがそうさせたのだろうか。 オリナスの誕生で立場が不安定になったとは言え、 王女としてのオヴェリアは元老院にとって重要な手駒の一つだ。 政治の裏側を知らなくとも、一国の王女の護衛隊長を勤めるに当たっては重責があっただろう。 そしてもう一つ。 近衛騎士として王女の身近で仕えること、万一の場合に影武者として囮になれること、 そして僅かながらイメージ戦略としての理由も含め、護衛隊には容姿に優れた若年女性という条件がある。 「若年」で「女性」であれば当然舐められ易い。 彼女の話し方には、威厳を示し邪な感情を抱かせまいとする思惑があったのかも知れない。 それはさて置き、人身掌握、こと恋愛に於いてギャップは時に強烈な武器になり得る。 彼女の女性らしさその物も魅力的だが、それを知った途端に普段の気丈さが危うい物に感じられ、 王女を守る使命に燃える彼女自身を守ってあげたいという気持ちがラムザの中に芽生えた。 初めはその想いにラムザ自身気付かずにいたが、長く行動を共にする内に何時しか自覚されるようになっていった。 「ねえ、ラムザ。偶には一緒に飲まない?少しなら平気でしょ?」 ここは貿易都市ウォージリスの酒場。ディープダンジョン探索が一区切りつき、しばしの休息となった。 僕は疲れもあって皆と少し離れ、一人ミルクを飲んでいた。 これを飲みきったらお先に部屋で休もうかな、と考えていたら想い人が綺麗な声で僕に話し掛けて来た。 「このワイン、結構気に入っているの。試しに飲んでみて。その…無理強いはしないけど」 はにかむアグリアスさんの頬は少し朱に染まっている。 ああ、可愛いなと思う。 さっきまで彼女と一緒に飲んでいたラヴィアンとアリシアは 今はラッドとムスタディオ、マラークのグループに嬉々として絡んでいる。 面白いネタでも見付かったのか。 「じゃあ、頂きます。……あ、本当だ。美味しいですね、コレ」 アグリアスさんの瞳が少し輝く。 「そうでしょ?良かった、お口に合ったみたいで」 貴女が勧めてくれるお酒ならなんだって美味しいです。 「さくらんぼで造ったワインなの。珍しいわよね」 さ、さくらんぼ……。普段気丈に振舞ってるアグリアスさんとのギャップが…… あれ?僕もしかして酔った?でもこんなに早く回らないよな。量もまだ少しだし。 だ、駄目だこの調子じゃ。折角アグリアスさんが一緒に飲もうって言ってくれたのに。 「あ、あの……どうかしたんですか?」 質問の仕方をちょっと失敗した。 アグリアスさんがきょとんとした顔になる。 「え…どうって…?」 「あ、いや。2人で飲もうって言うのは…何か相談事でもあるのかなって」 そう聞き直すと、アグリアスさんは自分のワイングラスに視線を逸らした。 「ん…その、相談事というか……。えっと…」 心なしかさっきまでより頬が赤くなった気がする。変な期待感を持ってしまい心臓が早鐘を打つ。 違うって。何を期待してるんだ僕は。やっぱり酔ってるのか? 「ラムザ…は、私のことをどう思ってる?」 「え……?!」 心臓が爆発したかと思った。 「そ、それってどういう…」 「あ、あの、御免なさい。聞き方が悪かったわね。 ほら、オルランドゥ伯やベイオウーフ殿の剣技って凄いじゃない。 特に伯は私の聖剣技に加えてメリアドールの剛剣、ガフガリオンが使っていた暗黒剣まで使いこなせるわ。 技のキレや破壊力も私より数段上だと思う。 私は今でもちゃんとラムザの力になれているのかな…って少し不安になってしまって」 そういうことか。落胆したのを彼女に気付かれないように振舞いつつ、『はげます』言葉を考える。 「こんなこと考えるだけ無駄だって解っているんだけど。 酔っちゃった所為かな。変なこと言って本当に御免なさい」 「いいえ、変なことなんてそんな。僕に話せることなら何でも話して下さい。 人に聞いて貰うだけで気が楽になることもありますし、僕にできることは何でもしますから。 それに、アグリアスさんは充分過ぎる位良くやってくれています。 負傷した時、貴女の白魔法には僕だけじゃなく皆が救われていますから。 貴女はこの隊……いえ、僕にとって必要な存在なんです」 最後の一言はちょっとやり過ぎたかな。言葉が口から出た直後、妙な汗を掻いた。 顔が赤くなっているのが自分でなんとなく解る。 「あ…」 アグリアスさんもかなり顔が赤い。僕より赤くなってるんじゃ…? やや俯き加減で、視線は泳いでいる。 やばい。何かフォローを入れておいた方がいいかも知れない。 でも何時かは伝える心算なんだし、いっそ今でも…… 「…その…」 やや俯いたまま、上目遣いで僕の目を見詰める。 「あ、ありがとう、ラムザ…」 「……」 「ほ…本当は、ね、そこまで真剣に悩んでるとかじゃなくて… ラムザの言葉が欲しかったって言うか… どのくらい私のことを気に掛けてくれてるんだろう、って…… ラヴィアンが変なこと言うから…。というか、私のことをっていう質問は本当は……」 「……」 「と、とにかくありがとう、ラムザ。私はもう休むわ。 相当酔ってるのかも知れないし。 貴方も疲れてるでしょ?今日は早目に休んだ方がいいかも知れないわね」 「…はい」 「じゃあお休みなさい。……き、機会があったらまた…2人で飲んでくれる?」 「も、勿論!喜んで」 「……ありがとう。お休み」 夢見心地ってこういうのを言うんだなあ。ぼんやりとそんなことを考えたりした。 アグリアスさんも僕のことを……。 いやいや勘違いじゃないか? いやいやいや今のは絶対大丈夫だ。 いやいやいやいや調子に乗るな僕。痛い目を見るぞ。 いやいやいやいやいやどう考えてもさっきのは確実に僕に惚れてるだろう! いやいやいやいやいやいや……ん? 視線を感じるぞ……? 三馬鹿がニヤニヤしながらこっちを見ている。 ラヴィアンとアリシアは手を取り合ってはしゃぎながらチラチラとこっちを見ている。 ベイオウーフとレーゼは何やら満足気にこっちを見ている。 オルランドゥ伯は御満悦といった表情で酒を飲んでいる。 クラウドは我関せず。 メリアドールとラファは……どこへ行った? 少し離れているとは言え、同じ酒場内にいる仲間達の存在を一時忘れていた。 「何てことだ…」 僕は頭を抱えた。 END
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/84.html
アルマ「アグリアスさん!」 アグリアス「…どうしてこんな時間にラムザの部屋から!?」 アルマ「驚いた? ウフフ…驚くに決まってるわね あんなことがあったのだから」 アグリアス「なんだと…」 アルマ「私、ゆうべラムザ兄さんと寝たの 兄さんもとっても喜んでくれたわ 見て! キスの跡もこんなに!」 アグリアス「そんな…そんなことが」 アルマ「今度こそ胸を張って言えるわ 私はアルマ、ラムザ・ベオルブの最愛の妹 よろしくねアグリアスさん♪」 アグリアス「嘘だ、ラムザが君を抱くだなんて…そんなこと」 アルマ「どうして?」 アグリアス「だって君はラムザの妹じゃないか… 腹違いとはいえ正真正銘の妹… 私の知るラムザは近親相姦の罪を犯すような男ではない、彼は…私たちの光なんだ」 アルマ「…やっぱりそうなの 兄さんのこと、ずっと愛していたんでしょう いつか自分を抱きしめて、愛してくれたらいいのにって」 アグリアス「それは…」 アルマ「命がけで戦っているのも 戦場でいつも兄さんの隣に立つのも 兄さんが好きだっただけ 昨夜も自分で自分を慰めていたんでしょう」 アグリアス「違う…」 アルマ「自分も女だと…自分も兄さんに愛される資格はあるはずだと 根拠のない思い込みで独りひそかにずっと夢をみていたんでしょう」 アグリアス「それは違うわ… 違う… 私は…」 アルマ「うるさい! …嫌な女。あなたなんて、少しばかり戦いで役に立つだけなのに たまたま他の家に生まれただけなのに… 私の存在なんて、あなたにとっては最初から視界のうちにも入っていなかった」 アグリアス「違うわ! 私はせめて、ラムザのもとでオヴェリア様を取り戻せるようにと思って…」 アルマ「それが私を馬鹿にしていると言っているのよ! 兄さんは最初、私が戦場に出ることを認めてくれてなかった!」 アグリアス「…だってあなたは!」 アルマ「あなたみたいな堅物が 兄さんに選ばれるわけがない! 兄さんの妻になるのは…私 誰よりも兄さんを愛しているこの私… 毎晩愛し合って兄さんに抱きしめてもらうの… 私を見つめてもらうの…」 (アルマ、アグリアスを突き飛ばしてバレッタを奪う) アグリアス「? …あっ!」 アルマ「あなただけが兄さんに信頼された?」 アグリアス「返して!」 アルマ「信頼され 背中を預けられ 兄さんに愛されてる? そんな幻想…打ち砕いてあげる! 兄さんが愛してるのは…」 (アルマ、バレッタを力いっぱい踏みつける) アグリアス「やめて!!」 アルマ「本当に愛してるのは… 私よ!!」 (バレッタが木っ端微塵に砕け散る) アグリアス「ああぁ! ああぁぁぁぁぁ!! ラムザがくれたものなのに… ラムザの思いが詰まっていたのに… ああぁぁ…」 アルマ「ウフフフフフ アハハハハハハハ!」 アグリアス「どうして…どうして……… 役立たずのくせに…」 アルマ「……なんですって?」 アグリアス「守ってもらうだけの… 役立たずのくせに」 アルマ「!」 アグリアス「役立たず!!」 アルマ「!!うおおおお!!! アグリアスぅ!!」 という悪夢に夜毎うなされるアグリアスさま
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/49.html
それは一瞬の出来事だった・・・ 偶然とはいえ南天騎士団の大部隊と遭遇してしまい、乱戦となってまった戦闘がようやくこちらに傾きかけた・・・そんな最中に起こった本当に一瞬の出来事だった・・・ 「ラ、ラムザ!・・・イ、イヤァァァァァァ~~~~ッ!!」 誰かが叫んでる・・・ 一本の細い矢が愛しい人の背中に突き刺さっている・・・ 心のどこかにいるもう一人の私が他人事のように「ああ、あれは致死傷だ・・・何をしても無駄ね・・・」と語りかけてくる そこでようやく叫んでいるのが私だと理解する 必死に私を押しとどめようとする敵を切り捨てながら駆け寄ろうとするが中々縮められない自分の足がもどかしく思える ひたすら愛する人の元に駆け寄ろうと目の前に塞がる敵兵と言う障害を排除する 視界がぐにゃりと歪んだ・・・ ああ、きっと涙で歪んでいるんだろう・・・ そうもう一人の私が静かに分析する・・・ 間に合わない・・・、手遅れだ・・・、もう遅い・・・、お前は護れなかった・・・ もう一人の私は冷酷で、残忍で、・・・そして・・・絶望的な事実を私に叩きつけてくる・・・ 戦闘は私がラムザの下についたと同時に終わった・・・ 敵は撃退できたがこちらの敗北だった・・・ 私以外の主要メンバーが死んでいた・・・ 戦闘が終わり、辺りを静けさが包む・・・ 生き残った仲間たちが戦闘の後始末をする間もアグリアスはラムザの遺骸を抱き、泣いていた。 それから数日して主要メンバーが抜けた一行は櫛の歯が落ちるように一人、また一人と離れていった・・・ 本来、副隊長たるアグリアスがラムザが抜けた穴を埋めるべく活動をしなければならなかったが、彼を失ってからの彼女はまるで壊れた操り人形のようだった・・・。 自然解散したラムザ一行だったが当然ながら残っていた軍資金はそれぞれの功績に合わせて分配されることになっていた 当然、隊の主力であり副隊長だったアグリアスにはそれこそ一つの家族が7年は遊んで暮らせるだけの資金が渡された それらの資金で戦闘が行われた裾野の近くに小さな農園を作り、簡素ながら小さな祠を建て、仲間の遺灰を収めた。 3軒ある納屋のうち1軒の地下には仲間が忌み嫌い誰も引き取らなかった聖石を埋めた。 農園の手入れをする以外、ただ何をするでもなくボーっと風に揺れる草原を眺めて過ごす・・・そんな日々が続いた。 そんなある夜、アグリアスは夢を見た・・・ 目の前にラムザの形をした何かがいる・・・ 彼女が大好きだった笑顔を浮かべ、目の前に立っている・・・ だが、その笑顔を見ていると何故か安堵よりも嫌悪感が湧き上がってくる・・・ 「お前は何者だ・・・なぜ、私の夢にその格好で出て来る・・・」 『・・・・』 「・・・私を笑いにきたのか?かつては戦女神などと呼ばれ、敵には恐れられ、味方には頼もしく思われた者が今では無力な女になったことを・・・」 『・・・・・』 「それともたった一人、愛する男を護れなかった愚かな女を慰めにでも来たのか?」 『・・・・・』 「何とか言ったらどうだ!」 しばらくして、その何かは語りかけてきた・・・ 『汝、力なき乙女・・・汝は力を欲するか?』 「・・・・誰だ・・・」 『我はキャンサー・・・汝の願いを言え・・・我には其を叶える力がある・・・』 「ふっ・・・、そうやって私をルカヴィにするつもりか・・・」 『・・・否、我は汝の一人の男への愛に応じただけ・・・』 「・・・愛・・・愛・・・か。・・・幼き頃は「愛する人さえ無事であれば他には何も要らない」という侍女たちの会話を耳に入れるたびに不思議に思ったものだ・・・」 『・・・・・』 「だが、いまはどうだ?・・・この人を・・・、ラムザを失っただけで私は絶望し、この世の全てを憎もうとしている・・・」 『・・・汝は復讐を求め、我と契約するか? ・・・我にはこの世界の全てを敵に回してもその復讐を遂げる力もある・・・』 「・・・今更、今更復讐をなしたところで・・・ラムザは蘇ってこない・・・。いや、彼が愛したこの世界を否定することなど・・・私には出来ない・・・」 『では・・・汝は、その男を蘇らせる為に我と契約するか? ・・・我にはこの男を蘇生し、再び汝と同じ時を過ごさせる力もある・・・』 「・・・魅力的だな・・・だが、それは私の都合だ・・・ラムザは・・・ここで死すべき運命だったのかもしれない・・・。 今となってはそれを曲げるつもりなどない・・・」 『・・・では、汝は何を求め、我と契約するか?』 「・・・私は・・・私は・・・もう一度あの時をやり直したい・・・あの日、私がラムザとそして仲間を失ったあの日から・・・」 答えを伝えた途端、暴力的なまでの量の光がアグリアスの視界を塞ぎ・・・次に気がついた時、彼女はあの日、行軍していた道に立っていた・・・ 「どうしたんですか、アグリアス様?」 「ボーっとしちゃって・・・あ~、またラムザ隊長との逢瀬を思い出されていたんですか?」 心配そうなアリシアと何故かニヤニヤするラヴィアンがこちらを覗き込んでくる 「あら?どうしたの?三人とも?急に立ち止まっちゃって・・・」 「アグリアス、そんな所で立ち止まるのも良いけど・・・急がないと明後日までにドーターにつけないわよ?」 レーゼやメリアドールがそう言いながらこちらに近づいてくる 「お~い、姐さん~。野イチゴが一杯熟してるとこ、見つけたぜ~!」 「そうそう、皆の分をとって来るから軽く休憩しねえか~?」 お調子者のムスタディオも、隊を裏から支えるラッドもいる・・・ 「おや?戦女神様もお疲れになる時があるのか・・・」 「兄さん、そういうのはよくないよ・・・大丈夫?アグリアス、どこか具合が悪いの?」 マラークがこちらをからかい、それを嗜めながらラファが心配そうに顔色を覗き込んでくる 「いや・・・なんでもない・・・少し考え事をしていただけだ・・・」 なんでもないと口では言いながらも周りの状況がつかめず混乱する頭を必死に落ち着けようとする 「ほらほら、さっさと野イチゴとって来い、ラムザとアグリアスのほうは俺が何とかしておくよ」 「はっはっはっ、ベイオウーフ殿もレーゼ殿とご一緒に摘みに行かれてみてはいかがかな?」 年長者組はのんびりと会話している・・・ あともう数刻もすればこの仲間たちは・・・・ラムザは・・・・ 「・・・あれ?アグリアス、どうかしたのかい?」 ・・・懐かしい・・・二度と聞こえなくなった声が耳に響く・・・ 「ああ、ラムザ・・・か・・・なんでもない・・・」 「そうですか・・・ラッドたちが戻ってくるまで各自休憩しましょう。町に足が生えて逃げるわけじゃないですから焦ることは無いでしょうし」 「そうだな・・・」 「今日はもう少し進んだら休みましょう・・・先行した偵察隊の報告では綺麗な泉と野営できる十分なスペースがあったそうですし・・・」 「・・・そうだな・・・」 (そこで我々は敵と遭遇してしまった・・・どうすれば・・・どうすればあの惨劇を起こさないで済むのだろうか・・・) 「ところでどうですか、その首飾り・・・気に入ってもらえましたか?」 いわれて始めて自分が首飾りをしていることに気がついた・・・キャンサーの聖石をした首飾りを・・・ 「あ、ああ・・・」 「よかった・・・本当はあぶないかもしれませんが・・・でもやっぱり好きな人には綺麗でいてほしいですし・・・アグリアスにとても似合うと思ったから・・・」 「ふふ・・・ありがとう・・・」 こんな幸せの時間が長く続かない事を知りながらも私は・・・私はこの幸せがいつまでも続くことを願わずには居られなかった・・・ どこか違う次元の狭間だろうか・・・ 漆黒の闇の中・・・大きな水晶に手をかざしながら、中に浮かぶアグリアスの横顔を眺める女性がいる・・・ 真っ黒なフードを被り、女は優しい笑みを浮かべる女性・・・だがその笑みにはどこか狂気が渦巻いて見える・・・ 「可愛い私のアグリアス・・・沢山夢を見なさい・・・貴女が望む世界・・・私が作ってあげるわ・・・うふふ・・・」 「沢山の幸せを知り、沢山の絶望と悲しみを知りなさい・・・」 そう言いながら闇に浮かぶ水晶を覗き込みながらフードを被った女は微笑むのだった・・・ 「貴女が本当の幸せを掴めたとき・・・私の役目は終わるのだから・・・」 どこからとも無く吹いた一陣の風が女性を覆っていたフードを揺らす・・・ フードからは亜麻色の髪がさらりと姿を見せた・・・