約 1,390,173 件
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/56.html
ヤードー、数日のち アグリアスの献身もあってほどなく両の手の傷跡までが消えてきたラムザは、 ムスタディオとつきっきりで剣を握れるようになるまでの、手指の機能を回復させる訓練を続けている。 ラムザが単調な作業を黙々とこなすおかげでその回復は目覚しかった。 ラファの心身の疲れや塞ぎの虫もいくらか良くなり、リオファネス城の見取り図を描くと申し出てそれを仕上げている。 ただ、大量に回復薬を消費したこと、大怪我をしたラムザを受け入れてくれた宿への口止め料、 破損した装備品の新調などで彼らの懐具合は少々心もとない状況だった。 教会に名前を公表されていないラッド、アリシア、ラヴィアン達が儲け話から戻るまでの間をつなげるかどうか、 流れ者の暮らしに相応な金銭感覚に恵まれないアグリアスですら危機意識を抱きかけていた。 ラムザには適当に休みを入れることを約束させ、いまだに慣れない庶民相手の酒場まで恐る恐るひとり足を運ぶ。 武家の娘でもなり手が限られる女騎士の服装はどうあっても目立ってしまうので、 地味ながらも清楚なブラウスとスカートを日頃から用意してある。 「あのなー、アグねえ。はじめに言っとくけどあんたに向いてる仕事なんてないと思うぜ?」 ムスタディオはわざわざ例を挙げてもみせた。 モンスター退治や護衛などの剣をふるっていればいいようなものでも、使い手の特定される聖剣技を使えばそれだけで足がつく。 かといって秘境探検やサルベージのような一種独特のカンが求められるものには向き不向きもある。 こういったことにやたらと鼻のきくラッドなど、 食うに困らぬ貴族の出のうえ質実剛健な武家育ちのラムザやアグリアスには一生克服できない性質のものとまで断言している。 傭兵くずれや何でも屋風情を想定して頼まれるお使いの類では、貴族としては申し分ない品のある立ち居振る舞いが邪魔になる。 どうあっても高貴な佇まいが隠しきれない女騎士は、日没を待たずにふざけて脱ぎだす酔客らのどんちゃん騒ぎにすっかりあてられてしまった。 酒には手をつけず、料理をいくつか腹に収めるのがせいいっぱいだった。 これまでの旅路、ラムザ達がそれとなく自分の苦手とするような空気から遠ざけていてくれたことに今さらながら気付く。 頭痛をこらえながらふらりと酒場をあとにしてもまだ、夕暮れ時だった。 アグリアスの白い頬や透き通る金髪すらすべて朱に染めるような。 ふと、酒場のはす向かいに鬘屋を見つける。 ショーウィンドウにはいくつもの大仰な見本のかつらが並べられている。 どんな時代でも金をもてあまし、くだらない虚飾を好む輩はいる。 自分の髪は腰までとおあつらえむきな長さがある。金髪はとりわけかつらに好まれる。売り物になるかもしれない。 アグリアスは鬘屋の戸をたたこうとした。 「ねえ、切っちゃうの?髪」 幼い声に振り向けば子供がふたりいた。 ひとりは十歳前後の女の子で、もうひとりはその妹らしい5歳になるやならずやの更に小さな子供だった。 ツン、とした唇のかたちや目元がよく似ている。 「ねえお姉ちゃん。そこって、髪の毛を売ったり買ったりするお店でしょ。知ってるもん。 お姉ちゃんは髪の毛、切っちゃうの?」 茜さす時刻、全てが真っ赤に染められた世界でもなお、子供達の髪はもとからして相当に赤みがかった色あいのようだった。 確かに鬘屋に髪を売るということはそういうことになる。 「切っちゃうの?ねえ、せっかく綺麗な髪の毛なのにもったいないよね」 アグリアスは子供の目線に合わせてしゃがみ、声をかけてきた姉のほうの金色の瞳を見つめ、柔らかく微笑んだ。 「そうね。かつらにする為に髪の毛を売るから、そういうことになるわね」 「もったいないよ。だってこんなに綺麗な色でさらさらで」 「仕方がないわ。お金に困っているのよ」 「じゃあセリアがお金あげるよ」 はい、とポケットを探った子供は自分のこぶし大の塊をアグリアスの手のひらに載せた。 「これは・・・純金?」 「おばあちゃんが言ったの。これをお店で出してご飯たべてきなさいって」 いくらなんでも子供ふたりの食事に金塊などありえない。 子供達の着ているものは色あせ、ほつれやほころびも多い古着で、裕福な家の子供ではないどころか 親か祖母にちゃんと面倒を見てもらっているとさえ言いがたい格好だった。 「ね、ね、お姉ちゃん教えて。サカバ、ってこういうお店のことを言うのよね?」 道の反対側からでさえ賑わいが伝わる酒場の方向を、まだぷっくりとした丸みが残る指が指し示す。 「おばあちゃんがね、さかばでご飯食べて、それから、お仕事をしたい人をつれてらっしゃいって言ったわ」 「おねえちゃん、あたしおなかへった」 妹の方が無邪気な仕草でおなかをさする。 「じゃあオムレツ食べようよ。サカバにもオムレツあるかな」 「おねえちゃんおねえちゃん、とろとろのタマゴのがいいな」 「金色がきれーいな、とろとろのタマゴのがいいね」 姉妹はぎゅっとかたくお互いの手を握りあい、そのまま意気揚々と酒場へ向かう。、 「待って、セリア、待って。そこは大人しか入っちゃいけないのよ」 アグリアスが姉のほうを呼び止めると、素直に立ち止まってこちらを振り返る。 「どうして?」 子供が大人に、空は何で青いの、と聞くのと同じ調子だった。 「おばあちゃんがサカバでご飯を食べて、もうけばなしのぼしゅうをしてらっしゃいって言ったもん」 アグリアスは頭を抱える。 「セリア、一つ聞いてもいいかしら」 「なあに?いいよ」 「あなたのおばあさまは今どこかしら」 ついいつもの動きやすい騎士装束のならいが出てしまい、ずかずかと大股で暮れなずむ町をつっきってゆく。 姉妹の両親はなく、祖母は学者として研究に必要な知識をもとめ、姉妹を伴い旅から旅の生活をしている途上だという。 幼いセリアの話を総合すると、この近くの食堂の、勝手口から入れる部屋に三人で間借りしているらしい。 それにしても学者という生き物はまったくもって不可解だ。 仕官学校時代色々な意味で世話になった、退屈すぎる話を延々と続けて本人以外の全員を眠らせた伝説も持つ名物教授を思い出す。 セリアたち姉妹の面倒をろくに見ないどころかなんと、セリアの妹には未だに名前がないのだという。 「この子はねえ、セリアの妹よ。3さい。セリアは10さいよ。名前?しらなーい。 おばあちゃんはいつも、私のかわいい赤ちゃんって呼ぶよ」 まわりの大人たちの意見が一致しないせいで、首がすわる頃まで名前が決まらなかった赤子もいないことはない。 だが、セリアの連れ歩く妹は、姉のセリアが言うように少なくとも3、4歳にはなっている。 赤の他人ではあるが、幼い子供達をこれだけほったらかしにしておく保護者には一言言ってやらねばなるまいと、 アグリアスは両の手に姉妹のまるっこい手を引き、祖母と孫たちの下宿先へと向かう。 一階建ての白い漆喰の外壁を、屋上の露台に植えられたスイカズラが覆いかぶさるように咲き誇る。 食堂からは和やかな談笑が漏れ聞こえる。子供の食事に手が回らないのならこちらで食べさせれば良いものを。 たしかに、人手がほしいときに呼びかけるのであれば酒場のほうがふさわしいかもしれないが、 それはそれ、大人だけで募集をかけにゆけば済む。 酒場に比べればはるかに穏やかな空気が外まで伝わってくる。 甘く、人を惑わせる初夏の香りにくらりときながら裏手へ回った。 スイカズラのつたが絡みつくのを押し分け、セリアと妹はほとんど隠れたような具合の小さな木戸を探り当てる。 カギのかかっていないその扉をセリアが開け、さっさと入ってゆく。 「こっちよ」 灯もない部屋から手招きする姉妹に続き、アグリアスは腰をかがめながらその身をすべりこませた。 つん、と刺激の強い薬品くさいにおいが満ちている。 「おばあちゃんいないみたーい」 「みたーい」 孫達を放っておいてどういうつもりなのか問いただす気でいたアグリアスは拍子抜けしてしまう。 「セリアのおうちはねえ、いつも食べるものはなーんにもないのー。セリアがもっとちいちゃい頃からそうなのー」 「おなか減ったようおねえちゃん。ご飯たべたいよう」 セリアの妹がぐずり始め、やむなくアグリアスは二人の手を引いて表側の食堂に戻る。 ぽっちゃりした女将がせわしなくテーブルを行き来しては料理が増えていく。 居合わせた客の注文をすべて片付けた赤ら顔の亭主がやおらアコーディオンを持ち出し、 固太りの腹をゆすりながら古い流行歌をなかなかの美声で歌い上げる。 しっぽの先がくにゃりと不思議な格好に曲がった白いネコが亭主の足元に摺り寄り、金色の目を閉じて甘える。 「オバチャンおかわり!」 「セリアも!」 セリアと妹は瞬く間にいくつもの皿を空にしていく。 アグリアスはその旺盛な食欲にあっけにとられた。 確かに成長期というものはよく食べるものなのだと、 自他の経験を思いだしてどうにか納得しようとするが、それにしても姉妹の食欲はとどまるところを知らなかった。 まだまだ逞しくなりつづける年齢のうえよく動くラムザ、ムスタディオ、ラッドの食べる量をしのぎかねない。 財布の中身で果たして足りるかどうか。 セリアから渡された金塊は返そうとしても子供特有の頑固さで突っ返されてしまった。 やむなく手巾でくるんだまま財布といっしょに手提げバスケットにしまいこんである。 おまけにセリアの言い分をそのまま信じるとすると、 不可解な事に「おうちにはこういうのがいっぱいある」のだそうだ。 この手の貴金属類は山賊盗賊の類を撃退したときやサルベージのおりに手に入れることもある。 職人のはしくれとしてギルドへの出入りに慣れているムスタディオに一括して任せているので、 津々浦々の宝飾商人や職人のギルドに売って軍資金にするのはたやすい。 この場は自分が払ってやるよりなかろうと腹を決めたところ、あどけない声がふたたびおかわりをねだる。 「あっ、おかえりなさい、えと、アグリアス、さん」 「アグリアスさん、お帰りなさい」 「アグねえおかえりー。・・・・・・ちょっと待っててな。ラファちゃん、これ、付け直すまでなくさないように持っていてくれるかい?」 「何だいそれ、人形?」 宿にもどると、ラムザの部屋にいる面々は、昼間までの空気がうそのように和気藹々としていた。 なんでも、ムスタディオも仕事を探してヤードーをうろうろしたあいまに面白い機械の修理を請け負ったらしい。 「キカイ仕掛けのおもちゃみたいなものらしいですよ。ゴーグからここまではるばる売られてきたんでしょうね」 「カラクリ時計っていうんだ。ネジをまいておいて、決められた時刻がきたら人形が動いたり音楽が聴ける仕掛けなんだ。面白いぜ」 ムスタディオとラムザ、ラファが機械のつめられた木箱を覗いている。 ラファの手のひらには小さな白いネコの人形がのっていた。 「わあ、このネコちゃんかわいいですね。しっぽが面白いかたち!これが動くんだあ」 「こいつの絵の具塗りなおすの、やってみるかい?」 「うん!」 年相応の少女らしい笑顔を見せるラファに安堵したアグリアスは、 少なくとも出かける前の気がかりはなくなったことに安堵し、 そのまま放心して椅子に座り込んだ。 「で、どうだったのさ、仕事」 「・・・・・・見つかったわ・・・」 「ウソだろ!!絶対にウソだ!!」 「・・・・・本当ですか」 「私に丁度いい内容で、ね」 その割には嬉しそうでもないアグリアスを逆にラファが気遣う。 「あのう、随分お疲れみたいだけど、どんな仕事だったんですか?」 「イヴァリース古語で書かれた本を、蔵書目録と照らし合わせて整理と箱詰め。来週の引越しまで毎日」 端的に聞かれたことしか応えないその声音は疲労感にみちていた。 「ああ、それならアグリアスさんにぴったりですね。 確かお父上も趣味の範囲を超えて古典文学の研究をなさってましたよね」 無言で肯くアグリアスの体がふらりとゆらぎ、持っていた手提げバスケットからごろりごろりと大きな金塊が次々こぼれてくる。 「うわあ何だコレ、純金か!?」 背景に異様なものを感じ取った三人に、頭痛をこらえながらアグリアスはことの顛末を途切れがちに語った。 「はあ、学者さんねえ。そんなに沢山本を抱えて旅ガラスなんてまたすげえ生活だな。 こんだけゴロゴロ金塊持ってるっつうのもまた」 アグリアスから渡された金塊をじっくり鑑定していたムスタディオは、全てほんものの純金だと判断した。 「で、その子達のおばあさんは結局最初から家にいたんですか」 話す気力もなくなってしまったアグリアスがだるそうにまたうなずく。 ひどいなあ、そんな小さな孫をほったらかしだなんて、と、本来のお人よしな面をのぞかせたラムザも、 このおかしな家庭環境を初めて知ったときのアグリアス同様に腹をたてる。 この、年齢に不相応な修羅場を幾多もくぐり抜けた異端者もあの老婆にはかなうまいて。 老婆のらんらんと光る金の両目を思い出し、アグリアスは本日何度目なのかもわからないため息をついた。 くさい。 ただしそれは、例えば何日も歯を磨いていないだとかにおいのきつい食べ物を食べた直後というたぐいではなく、 およそ生き物らしい要素とはかけはなれた薬のそれ、薬品くさいという表現がぴったりだった。 目も耳も悪くなってきた老人なら仕方ないかもしれないが、 アグリアスの眼の前まで顔を近づけ、薬くさい息を吹きかけながら腹のそこから轟わたる大声で問いただす。 「あんたぁ!セリアが連れてきたってことは仕事をしに来た人かね!」 おくれ毛のひとつもなくきちんとまとめられたあかがね色の髪にはいく筋かの白髪が混じる。 染み一つ見当たらない白いローブ、口が動いていなければ一見理知的で品性すら感じる顔立ちと、 少女達の祖母は何から何まで容姿とその中身がかみあっていなかった。 明かりもない薄暗い室内でも猫の目のように輝く金色の両目、あかがね色の髪が、 かろうじてセリアたちとの血のつながりを示した。 「ああ!うちぃ!来週には引っ越すからね!これ!目録!あんたぁ!古代畏国語は読めるかね! 人ぉ!探すなら酒場だけど!酒場はどうにも文盲も多いからね!」 貴族の一般教養としてたしかに古代語はある程度なら読みこなせる。 がっしりと両の二の腕をつかまれたアグリアスはつい老婆の勢いにのみこまれ、首を縦にふってしまった。 「そこ!となりの部屋!全部の本頼むね!」 蔵書目録を押し付けられ、そのまま背中を押されてしまったついでに、ふたたたび金塊を握らされた。 「報酬は!一日あたり!これ一つ!いいね!」 また、その場の勢いで首を縦に振ってしまう。 「契約成立だね!」 くるりくるりと人形がまわる。 昔はやった歌が流れるや、扉からネコと夫婦の人形が出てきてダンスを披露する。 「よっし、直った!」 ラファが興味しんしんに人形を見つめる。 「凄いね。ムスタディオの手は魔法の手なのね」 ラファはすっかり一行の妹分として溶け込み、初対面のときの険しい表情もなりを潜めた。 それに安堵して微笑むラムザの両の手もまた、 アグリアスとムスタディオの尽力ですっかりもとの動きを取り戻した。 「さ、これを届けてきたらオレの仕事はおしまいっ。 ラッドたちも今日中には帰ってくるよな」 ラムザはムスタディオと目をあわせ、うん、と肯定する。 「アグリアスさんも今日あたりで仕事がおわりますよね」 行こう、リオファネスへ。 久方ぶりに剣を手に取り、素早く抜刀したラムザがそれで空を斬る。 「うん、大丈夫。すっかり元通りだ」 アグリアスは、セリアにもう一度別れを告げることを思うと胸が痛んだ。 「僕も、できるだけこの戦いに早く決着をつけます。 貴女がセリアちゃん達との約束を守れるように。 もちろん、オヴェリア様の元に無事に戻るためにも」 「ありがとう、ラムザ」 「つき合わせているのは僕のほうじゃないですか。ありがとう、アグリアスさん」 ねえ、お姉ちゃん。セリアの妹、名前がついたのよ。 レディ、っていうの。ね、ステキでしょ。セリアがつけたのよ。 アグリアスお姉ちゃんみたいな立派なレディになれますようにって。 その3へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/36.html
『『 起 床 ~ ~ !』』 その部屋全体を震わすほどの大音声で届けられたそのメッセージは今まで眠っていた者達を一気に覚醒へと導いた。 「あ、アリシア・・・もうちょっと、こうおしとやかに起こせないのか?」 「はいはい、ムスタディオ君。とっととおきなさ~い。さもないとフルブレイク決めるわよ?」 「えー、んじゃアリシアさんのお目覚めのキッスを頂いたら置きます」 「ふ~ん、あっそ、そんなに私の剣とキッスがしたいならさせてあげるわよ?」 「じ、冗談だよ!あぁ、なんて天気の悪い朝だ!こんな日はのんびり馬車で八号のメンテをしたいなぁ!」 「・・・・・思いっきり快晴よ、今日は。やっぱ寝惚けてるわね」 っと半ば夫婦漫才をこなす輩もいれば、 「ラッド~♪朝よ~、起きなさ~い♪」 「ん~、あと四分の一刻だけ寝させてくれ~・・・」 「もぅ、ラッド!起きてったらぁ!アグリアス様に怒られるわよ!」 「んー、昨日はムスタディオと遅くまで酒飲んでたから眠いんだよ~。」 「ほらぁ、起きてよ~」 「んぅ~・・・キスしてくれたら起きる~」 「・・・わかったわ、本当に起きるのね?チュ」 などとイチャイチャぶりを振りまく輩もいれば、 そんな朝・・・ 「さ~て、いよいよラムザ隊長とアグリアス様ね」 「んじゃ、まずはアグリアス様のお部屋に行きましょっか」 「そうね。この間ラムザ隊長を起こしに行って寝顔見てたら『それは私だけのものだぁ!!』って激しく怒られたものね」 というわけでアグリアスの寝室前にやってきたアリシアとラヴィアン。 早速扉をノックしてみるが中からの反応がない。 トントン・・・っと数回やってみるが反応はない。 「失礼しま~す。アグリアス様、朝ですよ~♪」 「今日も一日頑張ってラムザ隊長のハートをさらにラブラブゲッチュ~しちゃいましょ~♪ってあれ?」 「いないわね」 「はっは~~ん、これはもしや・・・・」 「「ラムザ隊長の部屋ね!!」」 元々スキャンダルとかそういう話題が大好きなこの二人、阿吽の呼吸で装備変更して臨戦態勢に! そうしてラムザ隊長の部屋の前に到着。 こっそり鍵穴から中を覗くがよく見えない。(当然と言えば当然である 仕方ないので二人は部屋の屋根裏に回り、あらかじめ用意しておいた覗き穴から中の様子を覗き込んだ。 「「(ええええええええええええええええええぇぇぇ!?)」」 なんと真っ先に目に付いたのはスヤスヤと眠るラムザとアグリアス。 だが二人の目を引いたのは彼らが何も纏っていないと言う事だった。 やがて眠っていたアグリアスが小さく体を震わせたかと思うと目を覚まし、隣でまだ寝ている恋人を確認し、その頬にキスをした。 それで目を覚ましたラムザからの返礼を唇で受け、そのまま朝の一戦へと突入していった。 流石にそれ以上は見る気にならないのでアリシアとラヴィアンはさっさと上司二人の愛の戦場から逃げたのだった。 「ふん、いつものイタズラの返礼に見せ付けてやろうと思ったが・・・逃げられてしまったようだな」 「あはは♪じゃあ、起きて朝ごはんを食べに行きましょうか」 「ば、バカ。その気にさせておいて・・・その、お預けは酷いぞ・・・」 「解ってますって」 「ふふふ・・・たまにはこういう自堕落な朝も悪くはないものだな・・・」 「そうですね」 こうして今日も平和な朝がイヴァリースには訪れるのであった。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/136.html
今日は機織り祭の日だ。 勇敢な戦士である男神、北斗星と、機織りの上手な女神、南斗星が1年に1度、 星の海を越えて出会うとされる日である。 また、この日に、男性は北斗星、女性は南斗星に願いをかけると叶うとされている。 女性が家事や機織りの上達を願って南斗星を祭ったのが起源とされ、 イヴァリースの祭りの中でも規模の大きなものである。 ラムザの一隊も、お祭りの日は隊務が休みだ。 都合よく大きな街に駐留中でもある。空はよく晴れており、北斗星も南斗星もよく見えるだろう。 街には出店が所狭しと並び、隊の面々も今日ばかりは、と喜び勇んで街へ繰り出す者が大半だった。 こんな日ではあるが、アグリアスは静かな宿の食堂でひとり本を読んでいた。 人込みが苦手なのである。 お祭りそのものは好きなのだが、それにかこつけた騒がしさというのがどうも好きになれないというのもあった。 アリシアとラヴィアンはずいぶんおめかしして出かけていった。 ラムザはラッドとムスタディオに連れ出されてしまった。 レーゼはベイオウーフと出かけたな。あのふたりは多分朝まで帰ってこない。 メリアドールはラファを連れていった。ラファはまた食べ過ぎなければいいが。 シド様もおひとりで出かけられたが、意外とお祭り騒ぎがお好きなのだろうか。 クラウドくらいしか残っておるまい。奴は何にでも興味がないからな。 アグリアスの前のテーブルの上に、読み終わった本が数冊積みあがっていった。 隊の者も、ぽつぽつ帰って来ていた。さっき入り口で騒いでたのはラヴィアンだろうか。 また飲みすぎたのだろう。 (さて……) アグリアスは本を閉じると、読み終わった本を脇に抱えて、自分の部屋に戻っていった。 街は祭りも終わり、独特の寂しさと静けさに包まれていた。 アグリアスは、街外れの小高い丘の上にいた。星空を遮るものは何もない、文字通り満天の星空だ。 アグリアスは丘の上に座り、星空をずっと眺めていた。 南の空に、ひときわ大きく輝く星。あれが、南斗星。 小さい頃、両親とこうして星空を眺めて、星や星座の名前を教えてもらうのが好きだった。 オヴェリア様とご一緒に星を眺めて、星や星座のお話をしてさしあげた。 「アグリアスは、星のことにも詳しいのね」 そう褒めてくださった。 南斗星よ。 私は、機織りもできないし、煮炊きも繕いもできない。そんな私の願い事でも、叶えてくれるだろうか。 私の願いは―― 願い事は、言葉に出すと叶わない、そう言い伝えられている。 END
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/119.html
組み伏せているのはとても力強い腕。 そう、こういう事は幾度かあった。 その度に死を覚悟し、仲間に助けられ、そうして涙し、より強くなった。 でも、でも… 仲間の、しかも女性に組み伏せられた時、僕は何を思えばいいんだろうか? 思い返せば、その日は朝からおかしかった。 皆、妙に僕に余所余所しく、ムスタディオなんか、顔も見たくないという風に、僕を避けた。 流石におかしいと思い、一人一人に聞いてみても要領を得ない答え。 一体、僕が何をしたって言うんだ!! 昨日何かあったかと、思い出してみる。 昨日はアラグアイの森を通過して、その時に戦闘があって… モルボルとの戦闘で粘液喰らったんだったな、あれは臭い落としが大変だった… って、まさかそれ!? くんくん…うん、装備に残る臭いとは違うな、僕は臭くない。 って、装備もちゃんと臭いをおとさないとなぁ… じゃなくて… … で、ドーターに着いて… …うーん、思い浮かばない。 あ、もしかして僕の誕生b…なわけないな。 分からない、皆に避けられる理由が。 昼、気分転換にと町に出ると、何だか皆僕の方を振り返る。 まさか、変装がばれてる?? いや、それなら、さっきの兵士達が… 奇妙な視線を一身に浴びるのは居心地が悪い。 ってな訳で、こんな昼間からなんだけど、酒場に入って身を隠すことにした。 何…この熱視線…… え、何、この酒場の客層はアーリマンなわけ? そこでも居心地の悪くなった僕は、すぐさま宿屋に戻ることにした。 一体、僕が何をしたって言うんだ!!!(本日二回目) 夜、 『そういえば、今日はアグリアスさんの顔を見てない』と思い出し、 『アグリアスさんならば!』と考え 僕はアグリアスさんの部屋を訪れた。 そして今に至る。 「あ、あの…あぐりあs『ムグッ!!」 いきなり口を塞がれる僕。 何コレ…すごく柔らかいです……。 ん、何か、口の中に割り込んでくるな、ニュルニュr 「ブハッ!!!!! な、何をしてるんですか、アグリアスさん!!」 いきなり唇を重ねられると、ああも頓珍漢な思考が出来るんだな、戦闘中は気をつけなくちゃ、 と、これまた頓珍漢な思考をしている僕に、アグリアスさんは答えた。 「貴殿が…ラムザが…悪いのだからな…」 んん? えーと僕何かs「ムグゥッ!!」 ブチュウッ!というか、ニチャァア…というか、そんな擬態音が合うような、口付け。 ああ、舌を絡ませてるから、ニチャニチャでもありかな。 アグリアスさんがまた、僕に口付けてきた。 結構長い時間舌を絡ませていると、ボーっとしてくるのが分かる。 酸欠かな?なんて、事を思い浮かべていると、口付けとは別の水音が…。 ああ、そうですか、手淫ですか、オナニーですか。 もう、何してても驚きませんよ、ええ。 あら?ん?な~んで僕の陰茎が出てるのかしら…!? 「ちょ、ちょっと待ってください!!」 渾身の力を込めて、覆いかぶさっている引き締まって美しい裸体…何時の間に脱いだんですか… を引き剥がす僕。 「ここまで来て、お預けとは良い趣味だなラムザ…」 なんですか、その男だったら誰でも堕とせそうな、淫猥な貌わ! こうなったら、容赦しませんよ! ほら受け入れて、僕のえk「おかしいですよ!いきなり!!」 「ラムザ…」 幾分か落ち着きを取戻したかのような表情。 美しき聖剣士は、ポツリポツリといい始めた。 「貴殿の匂いが…」 訂正、ポツリと言って…。 ガバッ!! 「うわっ!」 あれ?今度は息苦しくない? ん、なんだこの気持ちよさ…は…!?!? 「ムグ…ジュ…二チュ……」 うぁぁあああ、あぐりあすさん、そんなところをくちにふくんじゃだめですよぉ… もしかして、アグリアスさんは経験があるんだろうか? 冷静に考えると、それはちょっとショックだ、うん、出る。 「う、く、あっ!」 なんだか、凄い量が出た気がする、アグリアスさんのお口に。 ビュクビュクと。 わ、しかも飲んでる。 おわわわわ…吸わないでくださいって、あ、また出、る、、! はぁはぁと息切れしてるアグリアスさん。 そりゃ、あんなに勢いよくしゃぶれば、疲れるよね。 「ま、満足されましたか、アグリアスさん…?」 もう何が何だか分からないけど、とりあえず、流れに身を任せちゃおう…そうしよう… 「ふふ…」 ああ、またそんな淫魔の女王みたいな貌を… 僕の股間を直立させて何をなさるおつもりですか… 「次は…ここに…胤を」 くぱぁですか、綺麗ですね、そうですね。 あ、また口づけですか? まあ、自分の精液だし… アグリアスさんは耳元に顔を寄せた 「孕ませて」 ぞくぅっとする様な淫靡な囁き。 直後、僕は童貞でなくなっていた。 「あっ、あっ♥あっ♥んああっ♥」 水音とともに、聞こえる嬌声は今までのどの行為よりも、僕を刺激する。 異常な事態に混乱していた僕の脳は異様に醒めていて、 でも、彼女への情欲と愛情が溢れていて、 ただ、夢中に彼女に腰を打ち付けていた。 「ら、ラム♥キス、キスぅ♥」 普段の彼女からは絶対に予測できないであろう、言動。 淫靡で、美しくて、愛おしくて。 口付け、舌を絡ませるとすぐさま離し、首筋にむしゃぶりつく。 片手は腰に、片手は乳房に。 首筋に走った快感の為か、彼女は強く締め付けた。 刹那、射精する。 僕の腰を脚で押さえつける彼女。 でも、 こんなのじゃ足りない もっともっと! 彼女を孕ませるのは僕だ 彼女は僕のだ 「ひぃッ♥」 出しながら腰を大きく動かす。 いきなりの衝撃に彼女は悲鳴を上げ、絶頂へと。 彼女も幾度か絶頂を迎えると、悲鳴すら上げなくなり、 今はうめき声が聞こえるのみ。 小刻みに身体は震えている。 一突きするたびに絶頂が押し寄せてるんだとか。 僕も限界のようだ。 最後に大きくイきたい。 そう思い、腰を今まで以上に速く、激しく動かす。 「ら、む、 こわ゙れ゙ル♥ い、ぎずぎでじぬ、ぅぅう♥」 あはははははははは!!! 出るよ!孕ませてあげるね♥ 出る! 出る!! 出ル゙!!!! 「落ち着きましたか、アグリアスさん」 ベッドの中。 まさか、僕がこんなことをしようとは…! 「す、済まない…」 やっぱり落ち込むよね、何だか知らないうちに、男に犯されてるなんて…。 ううううぅぅう… 「実はな、昨日のな」 「? 昨日がどうかしたんですか?」 「…昨日の戦闘でラムザ、貴殿はモルボルに粘液をかけられたな」 「ええ、それが何か?」 「その後、洗い落としても臭いと言うことで、セッティエムソンを確か振りかけてたな…」 「はあ」 「実はな、その時から、貴殿の身体から…なんと言うか、その…」 ああ、そういうことなのね 「そ、そうだったんですか、それならば、そうと言ってくれれ「わかってないな、らむざ」 ん?誰だ、今の声は? 「ラムザ…お前の匂いは魅力的過ぎるんだよ…」 む、ムスタディオ、覗いて…たのは許すから、ズボンを穿け、下着に手をかけるな って言うか近寄るんじゃあない! って、後ろになんで、メリアドールやらラファやら、オルランドゥ伯までいらっしゃいますか! ああそうですか、僕に選択の余地は無 激臭 じゃなくて、劇終
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/38.html
「全員回ったな・・・では手札をあけるとしよう」 「私はフォーカードだったわ」 「ふふ~ん、フルハウス」 「むぅ・・・、レーゼさんとメリアドールさんは手ごわいなぁ・・・スリーペアでした」 「弱いわね、ラヴィアン!フラッシュです♪」 「アリシアのカード運が強いだけでしょ~~!」 「まぁまぁ、まだアグリアスの手番が明らかじゃないからビリじゃないわよ」 「さて、初めてのポーカーなアグリアス様は何かしら~?」 「私か?私はこれだったぞ」 「どれどれ・・・・え?」 「ちょっと待って下さい!イカサマしてませんよね?」 「ね、ねぇ、アグリアス・・・貴方本当に初めてなの?」 「何をそんなに驚いているんだ?そんなに凄いのか、このカードの集まりは?」 「・・・メリアドール、アリシア、ラヴィアン・・・アグリアスはとんでもなく強いの忘れてるわよ・・・」 「そ、そうでしたね・・・」 「今回は景品が景品でしたし・・・・」 「な!?お、お前達それはなんだ!私がラムザ絡みの賭け事に対して滅法強いといいたいのか?」 「実際そうじゃないですか」 「そうよね、今回の景品はラムザ隊長を描いたデッサンでしたっけ?」 「そうそう、前回のラムザ隊長と二人きり外出権を賭けたゲームでもダントツでトップでしたしね~♪」 「そういえば、以前、海でラムザが優秀な成績を残した人の言うことを一個聞くって言った時も凄い圧勝だったわね」 「あら、そうだったの?なるほどねぇ、頭が理解できなくても身体は正直ということかしら♪」 「う、うるさ~~~~~~~~~~~い!!」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/31.html
ようやく長かった戦いの日々が終わりました。 最後の戦いの後、光に飲み込まれ、気がつけばドーバーの郊外にラヴィアンとアグリアス隊長と一緒に倒れていました。 それから気がついたらラムザ隊長がいないことに大慌てな隊長を宥めすかしてからあらかじめ出されていた「無事戻ったらゴーグのムスタディオの家に集合!!」という指示に従い、ゴーグへ向かいました。 そのおかげで皆と無事再会できました。 驚いたのはまずアルマさんとムスタディオが恋人関係まで進んでいた事。 ムスタディオの奴、いつの間にハートを射抜いたのかしら? それとベイオウーフさんとレーゼさんの間に子供が出来たそうです。 ラヴィアンも最近、ジョイナス君と良い仲みたいだし・・・そろそろ私もラッドと・・・って思っていた矢先、それは起こりました。 いつものように朝の実戦形式の訓練を終え、タオルで汗を拭きながら朝食のメニューを考えているとアグリアス様が声をかけてきました。 「あー・・・アリシア、ラヴィアン・・・。その~・・・・あー・・・・なんだ・・・・うん。」 が、なんかとんでもなく歯切れが悪いです。 「その・・・・あー・・・ら、来月の20日・・・予定を空けておいてくれ・・・。」 「「・・・・はぁ、了解しました。」」 「(小声で)ねぇラヴィアン、20日に何かあったっけ?誰かの誕生日かしら?」 「(同じく小声で)誕生日だったらあそこまで歯切れ悪くならないでしょ。んー、でも確か聖名祝日だったわね・・・。誰だったかしら・・・。」 「(さらに小声で)・・・聖名祝日?・・・ああ、結婚と幸せを司る「聖バリアスの日」だったわね・・・。」 「(同じく小声で)ということは隊長が誰かと結婚?」 「(もう一度小声で)だとすると歯切れが悪いのも解るわ。お相手はやっぱりあの方よね・・・。」 「(同じく小声で)でしょうね。それ以外に隊長に男がいるって私達ですら掴めてないもの。」 などと相談している私達を怪訝そうに伺うアグリアス隊長の背後からラムザ様がいらっしゃいました。 「あ・・・アグリアスさん、ここにいましたか。」 「ら、ラムザ!あ、ああ・・・今いつもの朝の訓練が終わったんだ。」 「なるほど・・・ああ、アリシア、ラヴィアン。お疲れ様でした。ちょっとアグリアスさんと打ち合わせがしたいのでお借りしますよ。」 「はい、どうぞ~。私達はこれから朝食の仕込をしなきゃいけませんので。」 「料理は当然ながら腕を振るって美味しいのにしておきますのでご安心して二人きりでごゆっくりしてください。」 抜け駆けされた腹いせにからかいの言葉を言ってくすくす笑いながら台所に向かって走り出しました。 ・・・背後で顔をリンゴより赤く染めながらなにやら大慌てなアグリアス隊長とラムザ隊長。 やっぱりお似合いです、お二人とも。 結婚式でもやっぱりギクシャクしながらでもどこか幸せ一杯そうなお二人の未来に幸あれ・・・。 「・・・綺麗に閉めようと思ったら夫婦の営みのノウハウを私に聞きに来ないでください!!」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/102.html
アリシア「隊長、大変です!」 アグ「どうした騒々しい。」 ラヴィ「どうせたいしたことじゃないんでしょ」 アリ「たいしたことある! ついに、ついにFF13の発売日が決定したんですよおっ!」 アグ「そうか。いよいよ本家の13代目が世に出るというわけだな。たしかにおめでたい話であるが、私達が騒ぐことではないだろう」 アリ「なんということを……わたしたちFFT全体に関わってくる問題ですよ?」 アグ「なんだというのだ」 アリ「そうですね……それでは質問です。光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士ことFF13のダブル主人公の一人ライトニングと、アグリアス隊長との意外な共通点とは?」 アグ「ライトニング殿と私との間に共通点があるのか。ふむ、なんだろうか」 ラヴィ「どちらも女騎士、っていうこと?」 アリ「ヒントは、最初の文字が、お」 ラヴィ「だから女騎士?」 アリ「最後の文字が、し」 ラヴィ「女騎士じゃないの?」 アグ「まだライトニング殿のことをあまり知らないのでな。ちょっとわからない」 アリ「最後のヒント! 性別に関わる文字がはいります!」 ラヴィ「だから女騎士って言ってるでしょ! 聞きなさいよ!」 アグ「……どちらも同じ女騎士、ということか?」 アリ「正解です」 ラヴィ「なんなのよ、もう……」 アグ「意外でもなんでもない。そのままではないか」 アリ「今までFFの女騎士といえばアグリアス隊長オンリーだったわけですよ。ずっと独占禁止法状態だったわけですよ。その構図がFF13の発売と同時に崩れようとしているのです」 アグ「待て。私だけが独占していたわけではないだろう。例えば6代目のセリス殿とか」 アリ「あの人はガストラ帝国の女将軍だったので『女将軍』です」 ラヴィ「となれば、9代目のあの方も女騎士ではなく女将軍ということになりますね」 アリ「他にもいろいろいるかもしれませんが、FFの女騎士といえば? と聞かれたら、まあアグリアスかなー、っていうのがなくなってしまうのです。 あんな小娘がうちの隊長に取って代わるなんてと思うと、私はなんとかしてFF13の発売が無期延期になる方法がないものかと夜も眠らずに思案する毎日なのです」 ラヴィ「夜も眠らずって、ついさっき知ったのでしょう? 勢いだけでしゃべっていない?」 アグ「発売延期などとぶっそうなことを言うものではない。そもそもあちらが本家本流。わたしたちはそれなりの評価を得ているとはいえ分家傍流にすぎないのだ。FFの女騎士の代名詞がライトニング殿になったとしても恨むいわれはあるまい」 アリ「ううっ、わたしは隊長とみんなのことを考えて言ってるのに……」 アグ「ライトニング殿に人気が集まれば私達FFTが忘れられてしまうとでも?」 アリ「なんといってもFFTの半分はアグリアス隊長で出来てますからね」 アグ「それはさすがに言いすぎだろう! 気持はありがたいが」 アリ「かっこよさでも強さでもかなわないなら、発売日を無期延期にしてもらうしかないんですよ! もう!」 ラヴィ「してもらうって、誰にしてもらうつもりなの?」 アリ「さっきからうるさいメガネ女だな……」 ラヴィ「なによそれ! メガネかけてないし!」 アグ「かっこよさでも強さでもかなわない、だと? 聞き捨てならんな。格好の良し悪しはともかく、私の聖剣技、なまなかな相手に負かされるつもりはないぞ」 アリ「……隊長はFF13の体験版見ましたか?」 アグ「いや。まだだ」 アリ 「こんなことは言いたくないんですけど、はっきりいってライトニングは強くてかっこいいです。最初はわたしも、光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる 女騎士(笑)、ぷ、ダサ、とか思ってたんですけど、あの体験版を見たら認めないわけにはいきませんでした……」 アグ「ふむ。どのような強さなのだ」 アリ「まさに『光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士』って感じです」 アグ「まさに『光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士』という感じか……うーむ」 アリ「『光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士』だけのことはあると思いましたね、じっさい」 アグ「『光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士』の名は伊達ではない、ということか」 ラヴィ「ちょ、ちょっとふたりともなんだかバカにしてません? やめましょうよ、そういうの!」 アグ「なにを言う。バカになどしていないぞ。異名をいっただけだろう」 アリ「わたしだって」 ラヴィ「……最近はディシディアFFやいただきストリートなどがあるんです。いつゲスト出演の話があるかもわからないのに。発言には注意していただかないと」 アグ「そ、そうだな。うん、バカになどしていなかったが、発言には気をつけよう」 アリ「ライトニングってかっこいいいだけじゃなくてかわいいよね!」 ラヴィ「いや、アリシアにはどう転んでも出演依頼とか絶対にないから」 アリ「わたしはFFTシリーズのビックス&ウェッジ目指してるから」 ラヴィ「あっそう……どうぞご勝手に……って、それってわたしも!?」 アリ「ギャラ配分はアリシア7:3ラヴィアンでいいんだよね?」 ラヴィ「そういう生々しい妄想はひとりでやってくれる!?」 アグ「それはそれとして、わたしもその体験版というものを見たくなってきたな」 ムスタ「アグリアスいるか! 大変なんだ!」 アグ「どうした騒々しい。」 アリ「どうせたいしたことじゃないんでしょ」 ムスタ「たいしたことありすぎるんだって! ついにFF13の発売日が決定しちまった!」 アグ「それなら今聞いたところだ。」 ムスタ「そんな悠長に構えててるばあいじゃあないんだよ!」 アグ「なんだというのだ」 ムスタ「そうだな……じゃあ質問をするからよく聞いてくれよ? 光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士ことライトニングと、アグリアスとの意外な共通点とは?」 アグ「どちらも同じ女騎士なんだろう?」 ムスタ「ヒントその1、最初の文字が……って、なんだ知ってたのか」 アグ「13代目の体験版を見てきたのだな」 ムスタ「ライトニングがすごすぎる。あれでツンデレだったら俺たちもう終わりかもしれん」 アグ「おまえは一体なにを言ってるんだ」 ムスタ「ちくしょう、FFTの半分はアグリアスで出来てるっていうのに……」 アグ「それは言いすぎだ! 気持はありがたいが」 ラムザ「アグリアスさん! 大変です!」 アグ「どうしたラムザ。なにがあったか知らんが、一軍の将たるもの簡単に取り乱してはだめだ。まずはこの水を飲んで落ち着いてから話せ」 ラムザ「そうですね……すいません。ありがとう。ごくごく」 アリ「なんか対応がちがう……」 ムスタ「ひいきだ。ひいき」 アグ「うっうるさい! 貴様らは黙っていろ!」 ラムザ「ついにFF13の発売日が決定してしまいました」 アグ「それなら今聞いたところだ。」 ムスタ「これは大変なことです」 アグ「なんだというのだ」 ムスタ「そうですね……じゃあ今から質問をします。光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女騎士ことライトニングさんと、アグリアスさんとの意外な共通点とは?」 ラムザ以外「女騎士!」 ラムザ「ヒントはいらなかったようですね。FFTの半分はアグリアスさんで出来てるっていうのに……」 アグ「べっ、べつにおまえの為にやっているわけではないのだがな」 ムスタ「おっとツンデレ」 アリ「やっぱりこれがないとねっ」 ラヴィ「あのー、そろそろ話をすすめませんか……」 ラムザ「というわけで、アグリアスさんに言われたとおり、みんなをムスタディオの家に集めましたけど……これでよかったのかな……」 アグ「体験版を見るたびに一人ずつわたしの所に駆け込んで来られては面倒だからな。皆で一緒に見ればいいのだ」 ラム「いえ、僕が言いたいのはアグリアスさんがショックを受けるんじゃないかと」 アグ「ライトニング殿の強さを目の当たりにしてか? わたしより強い騎士などこのイヴァリースにもいくらでもいるのだ。簡単に負けるつもりはないが、負けたときは潔く敗北を認める。それが騎士というものだ」 ムスタ「オヤジ、これでいいのか?」 ベスロディオ「どれ……うむ。これで大型スクリーンで投射されるはずだ」 ムスタ「あとは転送機からのコードを労八の背中の……労八、この穴でいいんだよな?」 労八「端子ノ向キヲマチガワズニ挿シコンデクダサイ」 ラヴィ「クラウドの出てきた機械と労働八号をつないで異世界の情報をのぞき見る〈労八ネット〉。機工士ギルドのひとたちもすごいことを考えるものね」 ムスタ「んじゃテストな。検索モード 『ムスタディオ』『かっこいい』」 労八「サーチスタート サーチエンド キーワードニ464件ヒット サーチタイム0.251セコンド」 「おおー」 「けっこうある!」 「つーかなんだよそのキーワード!」 「『ラファ』『かわいい』で検索してくれッ!」 「もう! やめてよ兄さん!」 「ハハハハハ」 ベス「それではみなさん、暗幕を引きますぞ」 ざわ……ざわ…… シーン アリ(隊長、ほんとうに大丈夫ですか?) アグ(くどいぞアリシア。ライトニング殿の力量、どちらにせよ見てみなければ判断はつかない) ムスタ「んじゃいくぞ。オホン。 検索モードから次いでオープン 『FF13』『体験版』『動画』」 労八「サーチスタート サーチエンド キーワードニ88900件ヒット サーチタイム0.255セコンド 候補最上位ヲ自動的ニオープンシマス」 http //www.nicovideo.jp/watch/sm6760763 ラムザ「ふう。やっぱり何度見てもすごいや。どうでしたか、アグリアスさん……って、ほんとにどうしたんですか、アグリアスさん!? 魂の抜けきったような表情をして!」 アグ「マ、負ケタ……完全ニマケタ……勝テッコナイ……」 ラム「労八みたいなしゃべりかたになってますよ!? アグリアスさん!? アグリアスさあああああああああんッッッッ!」 アグ「FFTノ半分ハワタシ……ワタシガ負ケタラFFTハ終ワリ……」 ラヴィ「アリシアたちのせいよ! 何度もプレッシャーかけるようなことを言うから!」 ムスタ「いや、負けたら負けだでちゃんと認めるとか言ってたし……」 アリ「気にしていることほど逆の態度をとるのがツンデレでしょ!? まったく、それぐらいのこともわからないなんてね!」 ムスタ「さりげなくラヴィアン側につこうとするなっ! おまえはこっち!」 アリ「わ、わかってるって。 うーん、見直してみるとライトニングも大したことないですね。あの指パッチンですよ。指パッチンがなんか使えなくなったら全然だったじゃないですか。聖剣技の敵じゃありませんよ!」 ムスタ「そうだぜ、アグリアス。そもそも相手はPS3なんだ。PS3はおれたちをダウンロードだってできちゃうんだぜ? そんな相手に負けても負けじゃないって!」 ラムザ「そうですよアグリアスさん! それに今はリメイクの僕たちだってあります。10年後にリメイクされるタイトルなんて他にいくつありますか? 僕た ちは誇っていいんです。胸を張っていいんです。だからアグリアスさん、いつものアグリアスさんに戻ってくださいッ!」 アグ「ウウウ……PSP版ハ モッサリメイク……」 ラヴィ「だめ……どうすればいいの」 ベスロディオ「少なくともひとつ、アグリアス殿がライトニング殿と比べて優っているところがありますな」 ムスタ「オヤジ?」 ベス「萌えです」 ラムザ「えっ!?」 ベス「私はライトニング殿には萌えませんな」 アリ&ラヴィ「えっ!?」 ムスタ「オヤジ、そう決めるのは気が早過ぎやしないか。とんでもないツンデレである可能性は否定できない。あれでデレたらかなりの萌え強度になるぞ」 アリ&ラヴィ「萌え強度て」「そんな言葉初めて聞いたわ……」 ベス「そういう問題ではない。まだわからんのか」 ムスタ「どういうことだ……なにか見落としていたとでもいうのか……?」 ベス「まだ未熟か。ポリゴンとドットの違いだ」 ムスタ「ううっ!」 ベス「ポリゴン特有の非現実的に整った顔立ちでは萌えの介在する余地はない! ドット絵に対しての優位点、動き萌え、仕草萌えもライトニング殿には期待できるところはなかった。 ならば無理にポリゴンに萌えることはない。素直にドット絵に萌えればいいだけのこと。この子供でもわかる理屈を貴様は見落としたのだ!」 ムスタ「くそっ、気がつかなかった……ツンデレやヤンデレなど流行りの要素に気を取られて基本的なことがおろそかに……」 アリ&ラヴィ「なにこの親子対決」「ベスロディオさんってこういう人だったんだ……」 ラムザ「でも、わかるような気がしませんか。ライトニングさんは確かに美人だけれど……」 アリラヴィ「うん、萌えるっていうのはないかも」「わたしはよくわからないけれど、少し冷たい感じはするわよね」 「そうそう。PSPではムービーもあったし。あのアグリアスさんすごくよかったと思う!」 「いや、あれも確かポリゴンなんだが」 「そうなの? べつになんでもいいじゃん」 ベス「あれは萌えるポリゴンです。わたしは認めます」 「おおっ! ベスロディオさんの認可が下りたぞ!」 「てゆうかこの人、何様のつもり?」 「この際、細かいことはいいじゃないか。アグリアスは萌える、その事実だけで充分さ」 「そうだそうだ!」 「アグ!」 「萌え!」 「アグ!」 「萌え!」 「アーグ!」「萌ーえ!」「アーグ!」「萌ーえ!」「アーグ!」「萌ーえ!」「アーグ!」「萌ーえ!」 アグ「ふっ」 「おおー!」「復活した!」 アグ「まだ完全に負けたわけではない。そうだな?」 アリ「ここからが本当の男坂です!」 アグ「むしろ萌えの勝負では我が方に分がある。そういうことなのだな?」 ラヴィ「そうだと思います! 多分!」 アグ「ライトニング恐れるに足らずッ!」 ラムザ「アグリアスさん!」 「やっぱりアグリアスはこうじゃないとな!」 「よっ、女騎士!」 アリ「さあ、みんないくよー!」 一同「おー!」 「アーグ!」「萌ーえ!」「アーグ!」「萌ーえ!」「アーグ!」「萌ーえ!」「アーグ!」「萌ーえ!」「アーグ!」「萌ーえ!」 アグ萌えコールにかき消されて、労働八号のオペレーション通知に気づくものはいなかった。 労八「サーチスタート サーチエンド キーワードニ33100件ヒット サーチタイム0.315セコンド 候補最上位ヲ自動的ニオープンシマス」 ただ一人、ふと目をやった見習い戦士だけがなにごとかに気がついた。 「あれ? 労八の画面が変わってる? なんだこりゃ?」 http //schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1256052210/ 終 あとがき:FF13を貶める意図はないのであしからず
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/144.html
「僕は……まだ生きているのか………」 何もない空間をラムザ・ベオルブは漂っていた。 イヴァリースの命運をかけた戦いがあった。 死都ミュロンドに飛ばされたラムザ達は、飛行船の墓場で統制者ハシュマムと聖大天使アルテマを倒し、ルカヴィの野望を見事阻止した。 ラムザがアルテマに止めを刺し、そのアルテマから放出された光に飲み込まれ、気がつけばこの空間へと飛ばされたのだ。 天も地もない空間。頬を撫でる風もなく、降り注ぐ光もない。 普通の人間なら「ここはどこなのか?」「どうすれば脱出できるのだろう」と考えるところだ。 あの爆発の中心に居て命があっただけでも僥倖だというのに、ラムザにはその考えはなかった。 むしろ、絶望していた。 自分の短慮によって起きてしまった様々な出来事。 みんなを巻き込んでしまった不甲斐なさ。 アルマを助けられなかった情けなさ。 そして 何よりも、誰もよりも生きていてほしかったアグリアスの死。 ラムザはそっと目を閉じる。 そして思い浮かぶあの衝撃。 アルマに迫るルカヴィの爪 その爪を庇い受けるアグリアス 倒れ込み、地に広がる血だまり それは一瞬の事だが、とても長い時間に感じられた。 ――突然、耳鳴りの様な音が聞こえ出した。 『…何を望む』 耳鳴りの次は幻聴か しかし、それは懐かしい…。 昔、どこかで聞いた事のある声に似ていた。 …やり直したい もし、昔に戻れたら、もうこんな結末は迎えないのに だけど、もう、どうでも…いい…… やり直す事なんて出来はしないのだ ラムザはゆっくりと闇に意識をおとしていった。 突如、悲鳴が聞こえてきた。 「離しなさいッ!」 「しまった!!」 その声で意識を覚醒させるラムザ。 目を開けると、建物に走って行く金色の髪。 ――え? それはもう二度と聞く事の出来ない声。 美しく、愛おしい人の姿。 「ア…アグリ…アス…さん?」 驚きで上手く言葉が出ない。 また、急ぐ身には届かなかったのか、アグリアスは止まる事もなく建物に入って行った。 周りには薄暗い森 降り注ぐ雨 地に響く雷鳴 そして目の前にあるはオーボンヌ修道院 ――夢?…走馬燈というやつか?? よたよたと歩きだすラムザ。 地を踏む感触。 頬に伝う雨の冷たさ。 その感覚一つ一つがラムザに現実だと訴えているようだ。 「ま、待てッ!!」 声のする方に目を向けると、逃走する一頭のチョコボ。 その上に乗っている男と一瞬目が合う。 だが、何も言わず、何も言えないまま走り去る。 それを追いかけアグリアスが走るが、追いつく事叶わず断念する。 「…なんてことだ」 悔しげに膝を折るアグリアスを後目にチョコボが去って行った方向を見つめるラムザ。 「……ディリータ?? 僕は……戻って…来たのか? じゃあ、あの声は…聖石…… でも、僕は強く願っていたわけじゃない。 むしろ望みすら捨てていたのに… どうして…?」 その問いに答えるものは誰もなく、声は雨音にかき消される。 そして、ラムザの疑問と比例するように雨足が強くなってきた。 何故戻ってこれたのだろう…? 聖石のきまぐれか、それとも別の力なのか… しかし、それは考えても意味のない事だ 事実、僕は戻ってきた ならば、やる事は一つだ 幸い僕にはこれから起きる事が判る 獅子戦争と教会の陰謀、ディリータの思惑 そして、裏で暗躍するルカヴィ達 この記憶を持ってすれば――きっと変えられるはず――― 王都ルザリアに一番近い貿易都市ドーター。 北にルザリア、西にガリランド、東に行けばザランダと陸路の交差点。 そのため夜でも活気にあふれ、眠らない街として有名である。 そんなドーバーにある、とある宿のでは―― 「…結構食うんだな」 「ぅえ? そう?」 「何杯目だよ、それ…3杯目?」 「おしい! 4杯目♪」 「oh…」 食堂に入るとラッドとアリシアがそんなやり取りをしていた。 「おお、ラムザ。 先に食ってるぜ」 「もぅ、"食ってる"なんて言わないでよ。 "食べてる"って言いなさいよ」 「どっちも同じじゃん」 「ニュアンスが違うの! "食ってる"なんて下品な言い方じゃ、彼女は出来ないわね」 この二人は出会ったときから仲が良かったんだな。 そう思い苦笑いをするラムザ。 「あれ…ほかの人達は??」 「ん…ガフガリオンなら出て行ったぜ。 「ここじゃ眠れないンでな。 ちゃんと朝には帰ってくさ」 だってさ」 「いい加減な男よね。 どこいったのよ」 「しらねーよ」 そんな会話をしていると食堂の出入り口からラヴィアンが入って来た。 「明日の準備終わったよー」 「ありがと、ラヴィアン。 ここの夕食、結構おいしいよ」 「何食べてるの?」 「クリームシチューとドーバーフィッシュのムニエル。 ここら辺でしか採れない魚だって」 「へー、美味しそうね。 …ねぇ、そこのアホ毛。 アンタは食べたの?」 アホ毛?…誰の事だろう? 困惑していたが、ラヴィアンの目はラムザを捉えていた。 「へ? 僕?」 「そうよ。 だって頭からアホ毛でてるじゃん」 「あぁ、これ」 そういって頭のはね毛にさわる。 昔から直そうとしても治らないんだよね、コレ。 でも、アホ毛だなんて言われたのは初めてだな。 「それに、まだ名前聞いてないもん」 「だって、名前聞いてないもん」 「あぁ、ゴメン。 僕はラムザって言うんだ」 「そ。 私はラヴィアン、あっちはアリシアよ」 しかし、なんだか照れくさい。 さっきの"アホ毛"と呼ばれた事もそうだが、まったく記憶にない。 初めてだが初めてじゃない。 付き合いの長い仲間と自己紹介をするというのは、ちょっと不思議な感覚だ。 ラヴィアンの話によるとアグリアスは教会に行ったらしい。 そういえば出会ったころ、比較的余裕がある時は教会に足を運んでいたのを思い出す。 ラムザも結構教会に行った人間ではあるが、まさか異端者が行くわけにもいかず入れなくなったのだ。 夜の教会は外から見ても判る。 どの教会も建物の中央にある丸窓の格子がグレバドス教のシンボルを象っているからだ。 取り分けドーターは裕福な部類にはいる街なので寄付金も多く、貧しい村の教会に比べれば豪勢だ。 その割に建物が小さいのは流民や商人が多く、信仰者が少なめなのだからだろう。 そんな教会を眺めながら、ラムザは扉を開ける。 中にはいると外の喧騒が嘘のように静かになる。 蝋燭の明かりで照らされた聖堂は幻想的で、空気は静謐に満ちている。 「―――どうか神々の御力によりオヴェリア様が無事でありますよう…」 その聖堂の中央。 司祭が立つ壇上の一段下で、アグリアスは片膝を折り祈っていた。 その姿は美しく、蝋燭の明かりがより幻想的に魅せる。 だからだろう。 アグリアスが声をかけるまでその光景に魅せられていた。 「…何か用か?」 「え あ、ゴメンなさい。 お祈りの邪魔しちゃったみたいで」 「いや…構わない。もう終わった」 アグリアスは立ち上がるとラムザに向かって歩いてきた。 近くまでくると判るが、この当時はラムザの方が小さい。 記憶の中のアグリアスはラムザと同じくらいだ。 なんだか懐かしいような、悲しいような、複雑な気持ちになる。 「貴公…確か、名はラムザといったか」 「はい。ラムザ・――ルグリアです」 「そうか…。 今日は助かった。我らだけでは負ける事は無くとも苦戦は強いられていただろう。感謝する」 「いえ、僕は…」 「それにオーボンヌでの戦いぶりでは少し頼りないところが見受けられたが、この街での戦闘は目をみはるものがあったぞ。 どうやらオーボンヌの時は私の目が曇っていたようだ。非礼を詫びよう」 「そんな事ないです。 たまたま上手く動けただけですって」 謝ってきたアグリアスを慌てて止める。 上手く動けたのは戻ってくる前の経験があったからこそだ。 この当時の僕はもっともたついていただろう。 「…それに引き換え、ラヴィアンとアリシアは情けないな。 2人の連携は大したものだが、1人になると荒が目立つ。 もっと訓練を厳しくするべきか…」 ああ――変わらないな。 訓練が足りん、もっと鍛錬に励めとラヴィアンとアリシアに言ってたっけ。 もちろん他の仲間にも厳しく注意してたけど…。 「ま、まぁ、今はオヴェリア様に全力を尽くしましょう」 「それはもちろん」 強い眼差しで返事をする。 しかし返事をした後、アグリアスの顔が少し曇った。 「…オヴェリア様、ご無事でいらっしゃるだろうか」 やっぱりオヴェリア様の事が心配なのだ。 だが、その心配はない。 明後日にはオヴェリア様は無事助けられる。…また、離れ離れになってしまうが。 だが、それを知ってるのはラムザだけ。 愛しい人が苦しむ姿を見ていたくは無い。 その心配を和らげるためラムザはアグリアスに会いに来たのだ。 「連れ去ったからには殺してはならない意味があるんだと思います。 だからまだ生きてらっしゃいますよ。大丈夫」 「だが、助け出せなくては意味がない。 やはり直ぐにでも出発するべきだったか…」 「心配なのは判りますが、夜のアラグアイの森を超えるのは危険が大きいですから…。 明日の朝に発てばきっと明後日にはゼイレキレの滝で追いつくと思いますよ?」 「ゼイレキレの滝? …何故そう思う?」 「まず、誘拐犯も徒歩で移動していると思うからです。 確かにチョコボには2人で乗れますが、それは大人しく乗っていればの話。 暴れられてはチョコボから落ちてしまいますから…」 「……ふむ……なるほどな。」 しばらくラムザの話を咀嚼するように考え、そう言った。 「いくらゴルターナ軍と言えども人目は避けたい…となればドーターの街から離れた所を走る。 そうすればチョコボに乗っているとはいえ、気絶したオヴェリア様を載せての移動だ。 強行な疾走などできない…と言う事だな?」 「はい。 それにアラグアイの森はモンスターも多く済む広大な森です。 一般の交易路を通るのが時間的にも短く済み、且つ安全です。 だから、離れていても半日か…長くて一日差でしょう」 「…ありがとう。少し気が楽になった」 そう言い微笑む。 納得したように表情から陰りが消えていく。 よかった。 やはりアグリアスさんは笑っている顔が一番素敵だ。 「いえ、僕はべつに…」 「ふふ…貴公は謙遜してばかりだな」 「あ、僕の事はラムザと呼んでください」 ラヴィアンとの会話が役に立った。 アグリアスにまだ貴公と呼ばれている事に気が付き、今度は自分から名乗る。 「判った。では、私の事はアグリアスと―― そういえば、私の自己紹介がまだだったな 私はアグリアス・オークス。 一緒にオヴェリア様を救出してくれ」 何故だろう…。 久々の会話だったからか。 アグリアスの言葉に、アグリアスの名を呼ぶ事に…心が震える。 「はい…もちろんです。 これからよろしくお願いします……アグリアスさん」 ええ…助けて見せます… 絶対に…
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/83.html
酒場。 昼間は雇われ仕事を求めて戦士達の集うこの場所も、夜になれば本来の職分を取り戻す。 喧噪の店内。 壁際の席を3人の女が占めている。 ルザリア聖近衛騎士団の俊英アグリアス・オークスとその部下二人である。オヴェリア王女の護衛を任じられ、現在は故あって流浪のラムザ軍団と行動を共にしている。 やんごとなき人材に付き従う護衛隊員は、当然選考基準に容姿の優劣も含まれている。そのため3人とも相応の美女であり、特にアグリアスは清澄な意志を宿す瞳が印象的な、ぬきんでた美貌の女騎士であった。 さぞ人目を引いたことだろう。普段であれば。 アグリアスはすでに相当きこしめしていて、据わった目つきと赤らんだ顔色とで、酔客のなかにすっかり溶け込んでしまっていた。 「隊長、ちょっと飲み過ぎなんじゃないですか?」 ラヴィアンがおずおずと声をかけるが、アグリアスは横柄に頬杖をついて黙りこんだままである。 不機嫌な女騎士の図、とでも名付けられそうなアグリアスと同席している彼女のもうひとりの部下、マイペースなアリシアは東洋風スパゲッチをすすることに夢中で、上官の顔色を気にしている余裕はない様子だった。 今夜のアグリアスはおかしかった。やたらと杯を空け、政治の腐敗や戦略の効率化など軍人にとって一般的な話題をひとりでしゃべりまくり、そして酔いがまわると今のように黙りこんでしまったのである。 そもそも、めったに酒に酔うことなどないアグリアスである。 何か言いたくて言えないことがあるのだな、と部下二人は勘づいている。 「……おまえたちに相談があるのだ」 アグリアスがようやく重い口を開いた。 「なんですか?」 ラヴィアンは忠実そうに尋ね、アリシアは麺をすすっていたので目だけを上に向けて促す。 「おまえたちはラムザのことをなんと呼んでいるのだ」 「……なんと呼んでいるか、ですか。ちょっと質問の意味を計りかねますが、ラムザに呼びかける言葉はラムザしかない、ということではないんですよね?」 「おまえたちはラムザをなんと呼んでいるのだ。普通に考えて、普通に答えてくれ」 「わたしは、ラムザ、って呼んでますけど」 「わたしもそうですね」 当たり前の答えに、アグリアスは不満そうである。 「名前を呼ぶだけでは言葉足らずなこともあるだろう。代名詞でどう呼んでいるのかを知りたいのだ」 「代名詞。二人称代名詞ならわたしは、あなた、ですね。あんまりそう呼んだことはありませんけど」 「あなた……」 アグリアスのむっつりとした表情が一瞬崩れたようにも見えた。 「アリシアはどうだ」 「わたしは、そうですねえ」 言葉というものは普段あまり意識せずに使っているものである。アリシアは頭の中でラムザに話しかける場面を想像し、 「ねーねーラムザ、あんたさあ……って。あんた、ですね。あんたなにしてんの、とか言ってます」 「聖近衛騎士としては、少々恥ずべき言葉遣いだな」 「たはは……でもみんなそんなかんじなんで、自分だけ固苦しくしても空気読んでないってゆうか」 「そうだな。我が軍の大半はラムザの元学友だ。皆を率いる立場とはいえ、急に敬った言葉遣いをしろとは無理な話だろう」 そう言ってアグリアスは額に手をやり、再び思索の海に沈み込むようであった。 アリシアがそれをつなぎ止める。 「そういえば隊長はなんて呼んでましたっけ。ラムザのこと」 「わたしか……」 アグリアスは言いにくそうに答えた。 「貴公だ」 苦悩をにじませた表情だった。それで二人の部下は、隊長の悩んでいたのはこのことだったのか、と合点がいった。 「なるほど。隊長としてはその、貴公、ってゆうのを変えたいわけなんですね」 「べ、べつにそれほど悩んでいるわけではないのだがな。ただ、なんというか、いつまでもしゃちほこばった呼び方でいるのもいかがなものかと思うのだ。同じ釜の飯を食う同士として、いや、親しき仲にも礼儀ありと言うが……」 「隊長のおっしゃってること、わかります。呼び方って、その人との関係性をもっとも象徴するものですから」 「なるほど、なるほどぉ。ラムザのことをもっとステディな呼び方で呼んで、もっとお近づきになって、もっともっと二人の距離を縮めたいってことなんですね。くっくっく」 「にやにや笑うんじゃないッ!」 「みぎゃー! 目がああ! 目がああああああああああああ!」 鳥の軟骨フライについてきたレモンを目の前でしぼられ、アリシアは顔面をおさえてもんどりうった。 アグリアスは、べっべつにラムザと仲良くなりたいとかじゃなくて、一人だけ浮いてるみたいなのがイヤなだけなんだからねっ、といった前置きをしてから、 「なにか適当な言葉はないものか。いい案を出してくれたらここの代金をもってやってもいい」 と宣言した。 「それは素晴らしいですね」 飲み代をちらつかされて、アリシアは俄然やる気になったようである。 ラヴィアンもそれに加わる。 「隊長としてはあまり馴れ馴れしいかんじも避けたいのではありませんか?」 「うん。それは困る」 「これはなかなか難しいですね……」 「うーん。貴公、きこう……貴兄、貴君、貴台、貴下、貴殿……貴様じゃ偉そうだもんなあ。けっこう難しいね、これ」 「ラムザはぜんぜん偉ぶらない人柄だから。だから余計に難しいのよ」 「だね。普通の指揮官なら『あんた』なんて呼んだら懲罰もんだよ」 「だが、それがいい……いや、なんでもない。続けてくれ」 「隊長、たまにですけど、おまえって呼ぶことがありますよね。ラムザのことを。それじゃだめなんですか?」 「ああ、『今さら疑うものかッ! わたしはおまえを信じるッ!』って言ってました。あれは名台詞でしたねー。ああっ! ごめんなさい! レモン汁は勘弁してください!」 「やむなく使うこともあるが、指揮官に対しておまえ呼ばわりは本来わたしの信条に反する」 親しすぎるのはイヤだが、かといって形式張った呼び方でも呼びたくない。人間関係の微妙な距離を調整する、確かにこれは難問であった。 「あ、卿っていうのはどうですか? オルランドゥ伯がたまに使ってる」 アリシアが再び提案する。 「用法として間違いじゃないけれど、爵位持ちの貴族に対しても使う言葉だから混乱のもとかも」 「汝は?」 「それは目下のひとに使う言葉」 「じゃあ、そなた。それか、こなた」 「さすがに普通につかう言葉じゃないわよねえ。ちなみに此方は場所や時を指すときもあるし、人代名詞としては一人称二人称三人称のすべてでつかうことができる便利な言葉なのよ」 「なにさ。うんちくばっかり言って。ラヴィアンもなにかアイデアだしなよ」 「うっ、確かに…………あなた、じゃダメでしょうか?」 「自分のと一緒じゃん」 「いいでしょっ! オーソドックスが一番なの!」 「あなた……」 アグリアスの顔が、酔いのせいだけではなく、ぽっと赤くなった。 「あの?」 「隊長?」 「そっ、そんな新婚さんが呼び合うような言葉など使えるかっ!」 言葉とは不思議なものである。口にする個性によっても、場の空気によっても、言葉は微妙に形を変え、しかも受け手側にも様々な解釈のちがいがある。言葉は意味ではなく、もっとも近い 言 葉 で表現すれば「ニュアンスを伝えるもの」と捉えた方が適切なのかも知れない。 ラヴィアンは「あなた」は多くの女性が他意なく使用している一般的な言葉であると一応主張してみたが、アグリアスにとっての「あなた」は特別な意味をもっているようで、首を縦にふることはなかった。 その後いくつかの提案も、ことごとくアグリアスのお気に召さない。 「そんなのはイヤだ! もっと他のを考えてくれ!」 わがままな隊長である。 アリシアはぐったりと疲れ果て、 「あーもー、わっかんない。もういっそ、はっちゃけて『おう、ラム公』とか『てめーよう』とかでいいんじゃないですか?」 などと無茶苦茶なことを言う。 「ふん。検討にもあたいせんな。わたしは山賊の親分ではないのだぞ」 いきなりアリシアが立ち上がった。 酔っているとはいえあんまりな横暴に、ついに怒りだしたのかとラヴィアンは慌てたが、そういうわけではなかった。 「それですよ、山賊の親分ですよ!」 「なにを言ってる?」 興奮気味のアリシアは席に戻ることも忘れて熱弁する。 「わたしたち、ずっと前に山賊退治に参加したことがあったじゃないですか。他愛ない犯罪者の集団だったわけですけど、わたしひとつだけ感心したことがあったんです。あの人達って団結力がすごく強いんですよね」 「ああ、確かにああいう人たちって仲間との絆を大切にするみたいね。杯を交わして義兄弟、とか言ったりして」 「そうそう。隊長もあの人たちに倣うんです。ラム公ぐらいは当たり前。てめー、とか、おめーはよー、などもいいですね。小振りのひょうたんを腰に引っさげて昼間から酒をかっくらってください」 「ください、と言われてもな。品のない言葉は使いたくない」 「ラムザだってそんなの嫌がるわよ」 アリシアは、ちっちっち、と指を振る。 「そういう思い込みが間違いのもと。遠慮会釈ない言葉のぶつかり合いこそが集団を、ひいては世間に出たばかりの初な少年の心を引きつけるのですよ! あなたたち、ラムザと仲良しになりたいっていう初心を忘れてるんじゃないですか!?」 アリシアは酔っている。自分のしょーもない思いつきと自分のしょーもない演説とにすっかり自己陶酔してしまっている。だいたい、そんなあからさまなことを言ってしまえば、またアグリアスのレモンの汁攻撃を受けるに決まっている、はずだった。 「むう。いい考えかもしれん」 「うそぉ!?」 ラヴィアンが素早く視線を走らせると、アグリアスの前に並んだ杯が倍程度に増えているではないか。 もちろん全て空である。 ぐだぐだ話し込んでいる間にずいぶん飲んだものである。 「でしょう? わたしだってたまにはいいこと言うんです」 「そうだな。アリシアもたまにはいいことを言う」 「やったー! ほめられたぞー!」 幾多の修羅場をくぐり抜けてきたアグリアスの鋭い眼差しはとろんとなり、少女のような面影さえ漂わせていた。頭の働きは少女より低下しているだろう。アリシアの頭のほうはもとからそんな感じである。 そんな二人に囲まれて、これはわたしがしっかりしなければ、とラヴィアンは気持を引き締めた。 「イメージは山賊の親分の愛人で。私たちに指示するときも 『アリシア、ラヴィアン、行くぞ!』 ではなく、 『行くよ、あんた達! 遅れるんじゃないよ!』 でいきましょう。こういう言葉を重ねていくことによってですね……うーん、なんかまだるっこしいなあ。ものしり博士のラヴィアンくん? こういう乱暴な言葉は学会ではなんと呼ばれているのかね」 「なんか腹立つわね……でもなんて言うのかしら。伝法、任侠、鉄火肌、勇み肌、姐御肌、姐御、姐さん……姐(あね)さん言葉、とでもいえるかもね」 「ラヴィアン君! きみはいいことを言った!」 なにが気に入ったのか、アリシアはラヴィアンの頭をわしわし撫でる。 「ちょっ、ちょっと、やめなさいよ!」 「隊長、姉ですよ、姉。あねさん言葉、すなわち姉弟」 「姉弟か」 「あねさん言葉を使っていれば自然と『あねさん』とか『ねえさん』と呼ばれるようになるわけですが、隊長はラムザに『アグリアス姉さん』と呼ばれたくありませんか?」 「悪くないな」 「姉弟喧嘩なんかしたら最高ですよお。『なんで姉さんは僕のことをわかってくれないんだよ!』」 「おお! そ、それはいい」 「この世で唯一の肉親である弟を姉は激しく愛し、それゆえに戦乱を逃れてどこかで二人で静かに暮らそうとか言いだすんです。でも生意気で青臭い弟は 『姉さんは自分のことしか考えてないんだね』『戦争で苦しんでいる人たちを見捨てろって言うのかい?』 なんて言って愛の逃避行を拒否。裏切られたと感じた姉は決別の言葉を残して弟の元を去り、故郷に帰ってひとり寂しく海を眺める目にはうっすらと涙が浮かんでいます」 「ごくり……それで、それでその姉弟はどうなってしまうのだ!? わたしとラムザはどうなってしまうのだ!?」 「愛と憎しみはコインの裏表。手に入らないならばいっそ殺してしまおうか。孤独の内に憎しみを募らせて、ああ、なんということか。姉弟はついに敵同士となって相まみえ、そんであーなってこーなって、最終的には 『僕は姉さんを愛してるッ!』 で、ぶちゅーべろべろべろあんっそこはだめ……と、なるわけです」 「わあ」 パチパチパチ。無邪気に拍手して喜ぶアグリアス。今のひとり寸劇のどこに拍手するような要素があったのか、第三者にはまったくもって不明である。 「よくやったアリシア! これでいくぞ! わたしは今からあねさん言葉だ!」 「あのー、それでここのお代の方は……」 「いくらでも飲め! 食え! 騎士に、いや姉に二言はないッ!」 「いやっっほぉぉぉう! 店員さんこっち! とりあえず地酒とビールと、あとたこ焼きとポテトサラダと焼き鳥パーティーセットと季節のサラダおまかせと……隊長。メニューのこっちからこっちの端まで一列全部頼むっていうのは……」 「言ったはずだ。姉に二言は」 「ないんですね! さすがアグリアス姉さん! 店員さん! こっちからこっちまでぜーんぶよろしくっ!」 店員はアリシアのテンションの高さに目を白黒させて注文をとった。 「なにをしている。貴様もなにか頼め」 もう完全に酔っぱらいの目になっているアグリアスが、ラヴィアンを杯で指して言う。 「隊長。それはちがいますよ」 アリシアが注意した。 「おっと。……あんたなにひとりで気取ってんだい? 飲みが足りないんだよ……といったところか」 アリシアはニヤリとして親指を立てる。 アグリアスもそれにニヤリとして返答し、ラヴィアンはアリシアを殴りたくてたまらなかった。 「ほら。あんたもなにか注文しなよ。あたしゃ貧乏くさいことは言わないよ。ここの飲み代をあたしがもつって言ったら、あんたには一銭も払わせはしないんだからねっ」 すっかり莫連なアグリアスである。まだ慣れないのか、少々妙な口調も混じっている。 「うう、こんな隊長見たくないです…………でも、わかりました! 店員さん、お酒どんどんもってきてください!」 ラヴィアンは、この際どんどん酒を飲ませようと思った。前後不覚になるぐらい酔っぱらってもらって、今夜のことは悪い夢として酩酊の闇に葬り去る作戦である。 まさか本当に明日からラムザを「ラム公」呼ばわりする隊長ではないと信じたいところであるが、常に手段を尽くしてことにあたれとは、他ならぬアグリアスの言葉であった。 次々と料理と酒が運ばれてくる。 「隊長、どうぞお酌を」 「……」 無視。 「アグリアス姉さん! ささ、どーぞどーぞ」 「ああ。悪いね」 「くっ……アリシア、後で覚えてなさいよ……アグリアス姉さん! どうぞもっと飲んでください!」 「おうともよ!」 もう無茶苦茶である。 この後、地元の客が 「ねえさん達、楽しそうだねえ」 と、ちょっかいを出してきて、 「おう。わたしがアグリアス姉さんだ!」 と、わけのわからない応答をして、それでなんだか意気投合して店中の客にアグリアスが酒を奢ることになり、 「よっ! お大尽!」「アグリアス姉さん最高!」 と、もてはやされて酒場の夜はいつにもまして大賑わいの大繁盛。 未曾有の売り上げに感激した店主のお礼の言葉を浴びながら、ラヴィアンは酔いつぶれた二人を抱えて、宿屋への道をくたくたになって踏破したのだった。 次の日。 「というわけで……昨夜はとっても大変だった……ので、飲酒をいけないというわけじゃ……ですけど、もう少し自重……ううっ、頭痛い……」 「それは手間をかけたな。ごくろうだった、ラヴィアン」 「ラヴィアン、お疲れさん」 「なんでアリシアまで偉そうなのよっ! ああっ、自分の声が頭に響く……」 朝の食堂である。 ラムザ一行の面々が爽やかに朝の挨拶を交わすなか、ラヴィアンだけは元気がない。2日酔いだった。 「そのパン、もらっていい?」 「食べる気しない……いいよ」 「わたしは牛乳をもらっていいか」 「どうぞ……」 「うまいね。こいつは焼きたてだね」 「朝一番の牛乳は活力のもとだな」 「二人ともわたしよりずっと飲んでたのに……。なんでこんなに元気なの……?」 「久しぶりの痛飲だった。確かにいくらか過ごしすぎたようだな。どうも記憶が曖昧でいかん」 「わたしもあんまり覚えてないなー」 いいながら、自分とラヴィアンの分の朝食をばくばく食べていく二人。ラヴィアンが特に酒に弱いということでもないので、体の出来が元からちがうようだった。 「そういえばあの姉弟の話。今朝思い出したのだが、オウガバトルの話だろう?」 「そうですそうです」 「あの主人公はなんという名前だったか。ラヴィアン?」 「……オウガバトルサーガ七章の主人公デニムと、その姉カチュアの物語ですね」 「そうだった。昔はよく読んで、悲しくも勇壮な物語に感銘を受けたものだ」 「あ。遅れちゃいましたけど、昨日はごちそうさまでした。お金大丈夫でしたか?」 「あれしきの店。どうということはない」 「さすが、財布の紐が固いですね」 「まあな」 「うう……慣用句の誤用……でも突っこむ気力が出ない……てゆうか結構覚えてるじゃないですか……」 「おはようございます」 朝の挨拶。 ラムザだった。 「ああ。おはよう」 「おはよー」 「おはよ……」 「ラヴィアンさん、今朝はどうかしましたか?」 若年ながら一軍を率いるだけのことはある。ラヴィアンの不調にすぐ気がついて、あれこれと気遣うやさしいラムザだった。 アグリアスはその点ドライというか、むしろスパルタ主義でさえあるので、ラヴィアンは複雑な気持ちで自分の上官を見やった。 「なんだラヴィアン? 言いたいことでもあるのか」 ラヴィアンがぼそりとつぶやいた。 「姐さん……」 「……………」 ラムザだけがなんのことやらわからない。 「え? なんのことですか?」 「姐さん言葉……」 「……………オホン。おう、ラム公。今朝の調子はどうなんだい?」 「えっ!? アグリアスさん!?」 「い、いや。なんでもないのだ、忘れてくれ。きっ貴様ら、にやにや笑うんじゃないッ!」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/39.html
「あ、アグリアスさん、しゅいまひぇん・・・・(ばたんきゅー)」 「むぅ、ラムラァ~・・・ひあいがたららいぞ~(同じくばたんきゅー)」 「うふふ・・・酔い潰し成功~♪」 「レーゼしゃんもべいおうーひゅしゃんも、ザルなんれすねぇ~」 「アリシアよりも飲めちゃうなんて凄いです!」 「まぁまぁ、それじゃ早速計画を実行しましょっか♪」 「「あ(は)~い」」 「じゃあ、アリシアとラヴィアンはアグリアスの着替えをお願いね♪」 「お任せ下さい!」 「へいおうーひゅすやんとれーぜしゃんはらむひゃらいひょうをひんひふにおはこひくじゃはい」 「アリシア、あんたもう寝なよ・・・ドンドン酔いが回ってるじゃない」 「らいひょうふらいひょうふ~♪」 翌日、静かな朝を迎えるはずだったラムザ一行だが、 「な、何があったんだ、これわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 という突然のアグリアスの絶叫を耳にすることになった。 慌てて全員が彼女の寝室に集まろうとする中、真っ先に内心ニヤニヤしながら彼女の寝室に駆け込んだアリシアとラヴィアンは自分達の想像を超えた光景に鼻血を噴出しながら卒倒した。 「な、何事だ!?」 そう慌てて駆けつけたムスタディオは余りの光景に硬直した。 「なんだなんだなんだぁ?」 そう憂鬱そうに二日酔いの頭を必死に抑えながら来たマラークとラッドはその光景を目の当たりにして呆然とした。 その後も次々に駆けつける仲間たちだったが中の光景を見た瞬間、ある者は鼻血を噴出しながら卒倒し、ある者は呆然とし、ある者は硬直した。 「ど、どうしたんですか!皆何があったんですか!?」 「あらあら、賑やかな事ねぇ~、若さからくるのかしら♪」 「ははは、私達もまだまだ若いぞ、レーゼ♪」 「あん、ベイオったら♪」 「あー!もーー!いちゃついてないでレーゼさんとベイオウーフさんは部屋の外の人たちの手当てを!」 「はぁ~い♪じゃあ、ベイオは男性陣をお願いね~♪」 「わかった」 「アグリアスさん!!」 「ら、ラムザか!!たすか・・・はっ!み、見るなぁぁぁ、馬鹿者ぉぉぉぉぉっ!!」 「どうしましt・・・うわぁぁぁ!」 果たして彼らが見たアグリアスとは一体どうなっていたのだろうか・・・。 唯一直撃を耐えれたラムザと当の本人、そして真相を知る者達は口を硬く閉ざしてしまい今となってはわからない。 ただ、直撃に耐えられなかったものたちにそのことを尋ねると彼らは一様に「ス、スリット・・・ス、スカート・・・あぁぁぁぁぁ!!」と喚き出したと言う。 全ての真相は闇の中・・・・。