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「おにいさん!れいむたちのおしごとのおてつだいをさせてね!」 「・・・・・・は?」 ある初夏の晴れた日のこと。 俺はいつも通り田吾作さんの畑のわりと近くにある自分の畑で仕事をしていた。 すると、人里のゆっくり対策の進んだ最近では珍しい山から下りてきたゆっくりの一家がやって来て、そんな事を言いやがった。 他所の地域では虫取りや他の害獣を追い払うのに役立てることもあるらしいが、ここではそんな習慣はない。 そもそも、人間の役に立とうという殊勝なゆっくり自体が極めてまれな存在だ。 「・・・農作業の手伝いって、お前らに何が出来るんだ?」 「れいむたちはむしさんやはっぱさんをむーしゃむーしゃできるよ!」 「野菜と雑草の区別はつくのか?」 「あたりまえなんだぜ!」 そう言って、ゆっくり一家の両親はゆへんと偉そうに胸(下あご?)を張った。 両親はれいむ種とまりさ種で子どもは親と同じ種族の赤ん坊サイズのものが2匹ずつ。 いわゆるオーソドックスファミリーだ。 「子どもが勝手に食ったりしないだろうな?」 「「「「しょんなことちなにゃいよ、ぴゅんぴゅん!」」」」 俺の言葉に反応した子ども達は反論の後、一斉に頬を膨らませた。 さて、どうしたものか・・・。 さっきの応答や言動・態度を見る限りにおいて、ゲスっぽい気配は無い。 それどころか家族揃ってゆっくりにしてはかなり聡明なようだ。 「ん~・・・」 「おにーさぁん・・・おねがいだよ!」 「・・・で、何が目当てなんだ?」 「ゆゆっ!・・・すごいぜ、れいむ!まりさたちのもくてきはばればれだぜ!」 「ほんとうだね!さすがにんげんさんだね!」 「「「「ゆっきゅちしゅごいよ!」」」」 珍しく殊勝な奴らだと思えばやっぱり見返り目当てだったが、それでも勝手に畑の野菜を食い漁るよりはずっと賢明だろう。 物珍しさにも後押しされ、俺は大根4本と交換で一家の申し出を受け入れることにしてみた。 野菜と雑草の区別が出来ていることを確認してから、柵の中に招き入れ、一家のためにそこそこの大きさの小屋と水飲み場を設置してやる。 こうして、俺とゆっくり一家の共同作業が始まった。 結論から言えばこの一家はいつも俺の予想をいい方向に裏切ってくれた。 ちゃんと雑草と野菜を区別して雑草だけを抜き取ってくれるし、虫の駆除もほぼ完璧。 流石にそれ以上のことは殆ど出来なかったが、虫害をどうにかしてくれるだけでも本当に助かる。 一度だけ子まりさが野菜に口をつけようとした事もあったが、その時には自分の子どもをちゃんと叱りつけていた。 なるほど、これだけ出来のよい個体であればゆっくりであってもそれなりに役に立つ。 それに・・・・・・ 「「ゆゆっ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」」 「「「「ゆっくちちていってね!」」」」 「仕事があるからゆっくり出来ないっつーの」 「「じゃあゆっくりおしごとがんばってね!」」 「「「「ゆっくちがんばってね!」」」」 何より、間違ってもおうち宣言のようなこっちの神経を逆なでするようなことは言わなかった。 それどころか、仕事の合間の休憩時間の話し相手としても活躍してくれた。 柵では対処しきれない鳥類が作物を荒らそうとしたときには大声で俺を呼んだ。 とにかく、ゆっくり一家は十分すぎるほどに役に立ってくれた。 「れいむぅ・・・とってもゆっくりしてるね~」 「そうだね、まりさ」 「つぎのおにさんはれいむだよ!」 「「「ゆっくちにげるよ!」」」 また、柵と小屋に守られた畑で安全に食料を確保できるこの状況は一家にとって、とてもゆっくりできる環境だったらしい。 子ども達は赤ゆっくりから子ゆっくりへと成長し、餌を食べ終えた後に畑の周辺でよく鬼ごっこをしていた。 好奇心旺盛で俺に人間のことをあれこれ聞いてきたりもした。 「おにーしゃん!どうちでにんげんさんはむしさんをたべないの?」 「いや、食べられることは食べられるし、食べることもあるぞ」 「でも、おにーしゃんはたべないね!」 「虫はなぁ・・・人間には小さすぎるんだよ。あと、見た目がグロい」 「どうちて?おいちいのに?」 「人間の好みじゃないんだよ。さて、仕事に戻るからもう話しかけんなよ?」 「「「「ゆっくちりかいちたよ!」」」」 と、まあ、こんな具合に鬱陶しくも愛嬌のある奴らだった。 たまに引っ掴んで持ち上げてやるだけで「おしょらをとんでりゅみたーい!」と大喜びするので、散歩いらずな分犬よりも手間がかからない。 「おにーしゃん!いもうとたちにもおしょらちてあげてね!」 「「れーみゅもおしょらとびちゃいよ!」」 「「まりしゃもぶれいじんぐしゅたーちちゃいよ!」」 そうそう、そういえば相当ゆっくり出来たせいか、夏の間に家族が4匹ほど増えていたりする。 れいむ種とまりさ種が2匹ずつ。まだ生まれて間もない赤ん坊だが、にんっしんっで産まれたので結構大きい。 1回のにんっしんっで産まれたのは2匹で両種が1匹ずつ。 まずはれいむが産み、その次にまりさが産んだ。 そんなわけでいつの間にかこの一家は両親2匹に子ども8匹と言うかなりの大家族になっていた。 勿論、新しく出来た家族も親や俺の言うことをきちんと守って、虫や雑草を駆除してくれた。 おかげさまで、今年はいつもよりもずっと収穫が多かった。 そして収穫を終えた日の夜。 翌朝には一家に約束の大根を渡し、野に返してやらねばならない。 俺は前々から読者にも伏線すら提示せずに考えていたある計画を実行に移した。 そろーりそろーりと連中の小屋に忍び込むと、夏に生まれた子どもを各種族1匹ずつ捕まえ、いったん自分の部屋へ戻った。 それから、今までは常時開放されていた小屋の出入り口に扉を取り付け、しっかりと施錠も出来るようにした。 仕上げに、残った家族をこいつらの本能に刻み込まれた言葉で叩き起こした。 「ゆっくりしていってね!」 「「ゆゆっ!ゆっくりしていってね!」」 「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」 いとも容易く目を覚ました一家はしばらくのん気に「おにーさん、どうしたの?」などと言っていた。 が、やがて家族が減っていることに気づくと顔を真っ青にして右往左往し始めた。 「おにーさん!れいむのおちびちゃんがいないよおおおおお!?」 「そりゃそうだ。俺が預かったんだからな」 「どうしてそんなことするんだぜ!?」 「それはね!お前達との取引を無効にしたいからだよ!」 「「「「「「「「ゆゆっ!?」」」」」」」」 俺の突然の宣言に「びっくりー!」とでも言わんばかりに目を見開いて驚くゆっくり一家。 今までそれなりに仲良くしてきただけに、その信頼の全てを根底から覆す言葉が信じられないのだろう。 その証拠に、しばらく唖然していたれいむは我にかえるや否や、頬を膨らませてこう言った。 「おにーさん、じょうだんはやめてね!ゆっくりできないよ、ぷんぷん!」 初めて俺に出会った日から数えると、なんと100日以上もの付き合いがあるのだ。 流石に俺がそんなことをするとは思えない、或いは思いたくないらしい。 しかし、残念ながら全て事実であり、目をそらしても変わることの無い真実。 そのことをれいむ達に理解してもらうために、俺は近くにいた、親に連れられてここに来た1匹の子まりさを踏み潰してやった。 「「「「「・・・・・・ゆゆっ!?」」」」」 「これで分かっただろ?俺は本気だよ」 「ゆああああああああああああああああああああ!?」 「でいぶのおぢびぢゃんがあああああああああああああ!?」 「「「「「ばりぢゃあああああああああああああ!?」」」」」 家族が1匹踏み潰されたことでようやく事態の深刻さを認識した一家は恐怖と絶望に顔を歪め、彼女らの双眸からは涙が溢れ出している。 が、泣き止むまで待つのも億劫なので「ゆっくりしていってね!」を利用して半ば強引に泣き止ませると、即座に用件を伝えた。 「さっき言ったとおり大根はやらん。嫌なら全員殺す・・・理解したか?」 「「ゆぐっ・・・・・・ゆっくりりかいしたよ!」」 「「「ゆえーん!」」」 「おにーしゃんひどいよ!やくそくをやぶりゅなんてゆっくちしてないよ!」 「しょーだよ!ゆっくちできないよ!」 残り7匹のうち、5匹は自分の立場をしっかりと弁えてくれたようだが、2匹だけそうでないものがいた。 1匹は両親に連れられてきた子まりさで、もう一匹は夏に生まれた子まりさだった。 彼女らは「ゆっくりさせてね!」などとのたまいながら、成体一歩手前の体を思いっきり跳躍させて俺に体当たりを仕掛けてくる。 が、悲しいほどに痛くもかゆくもないのでしばらく黙ってその攻撃を喰らってやる。 最初はいい気になって「ゆっくりこうさんしてね!」などと言っていたが、やがて息が上がり、冷静になった頃には己の無力を理解した。 「「どほぢでじぇんじぇんぎがにゃいのおおおおおお!?」」 泣き叫ぶ2匹の呼吸は荒く、また体当たりを繰り返したせいでところどころ青あざが出来ていた。 ぼろぼろになりながら、己の無力をかみ締める姿は可哀想でどこか哀れみを誘うものがあるが、容赦することなくお仕置きを加えてやった。 「うりゃ!」 「―――――――――――――ッ!!?」 サミング、いわゆる目潰しを食らわして子まりさの目玉を両方とも抉り出すと、悲鳴にもならない金切り声が子多重に響き渡った。 両親はガタガタと震えながらも「やめてあげてね!いたがってるよ!」と俺に許しを請う。 その傍では素直に言う事を聞いた殊勝な子ども達が両親にへばりついて泣きながら、歯をガチガチと鳴らして震えている。 そして、当の子まりさは目のあった場所から餡子を漏らしながら床を転げまわっていた。 「ゆっくりにげりゅよ!そろーりそろーり・・・」 「ハイ残念、もう見つかった!」 「ゆゆっ!?やめてね!こっちこないでね!?」 子まりさの惨状を目の当たりにした子れいむもまた涙で頬をぬらしながら、必死に逃げ回っていた。 しかし、普段は開けっ放しの出入り口は閉まっており、この小屋には隠れられるような場所も無く、逃げ場所なんて何処にもなかった。 それでも子れいむは俺から逃げ続けた。俺がわざと泳がせていることにも気づかずに一心不乱に逃げ続けた。 そして、疲労が限界に達し、一歩も動くことが出来なくなった瞬間に彼女は俺によって光を奪われた。 俺は一家に食料の代わりに安全に越冬できる巣、以前から使用していたあの小屋を貸してやることにした。 ただし、扉はしっかりと施錠されているし、他の場所から外に出ることもできない。 勿論、食料をやるつもりは微塵も無いので、このままでは何も食べることは出来ず、飢え死にするのを待つだけである。 「そこで、赤ゆっくりのできる蔦やそれに成っている赤ゆっくりと大根を交換してやろうと思う。嫌なら飢えて死ね!」 「ゆゆっ!・・・お、おにーさんはあがぢゃんをあづめでどうずるの・・・?」 「いい質問だ。俺の家に連れて行ったお前らの子どもに食べさせる。ちなみにそれ以外の餌は与えない」 「「「そ、そんなひどいことちないでよ!?ゆっくちできないよ!」」」 自分たちの立場を理解しているとは言え、流石にこの提案ばかりは呑めないらしい。 必死の形相で抗議し、何とか俺から妥協を得ようと一生懸命媚びへつらったり、泣き落とそうとしたりしている。 が、やっぱり何の意味も無い。 「お仕置きされたいか?」 「「ゆゆっ!おしおきはやだよ!ゆっくりできないよ!?」」 「「「おしおきごわいよぉ~!」」」 「「ゆぎぃ!?お、おぢごぎいやあああああああああああああああああ!?」」 どんなに頑張ってもたった一言ですべてが消し飛んでしまう。 両親は子をかばい、子は両親にすがりつき、既にお仕置きを受けたものは気が狂ったかのように喚いていた。 そんなどうしようもなく無力な一家に向かって更に話を続ける。 「ちなみに家のほうの子どもの食事は君たちと交換した蔦や赤ちゃんだけだからね。ゆっくり理解しろよ?」 「「ゆぐっ・・・ゆ、ゆっくりりかいしたよ・・・」」 それから交換レートについても話し合い、蔦1本=大根の葉っぱ10g,赤ゆ1匹=大根の葉っぱ3gという相場に決定した。 ちなみに、うちで取れる大根1本の重さが1000gの可食部分が900g程度であるから蔦1本に赤ゆが5匹なると仮定して1本=25gである。 つまり、40本の蔦を手渡してようやく1kgの食料を得られるのだ。 一家はその分量を示されたときに少なすぎるとゴネたが、手近な成体間近の子れいむにお仕置きをしてやったら快く同意してくれた。 植物型であっても自分が生きたまま子どもを産めるだけの大きさに達しているのは両親と最初からいた4匹の計6匹。 ただし、子どものほうは蔦を3本も生やせば命に関わるだろうし、連続出産なんてとてもじゃないが出来ない。 勿論、いくら十分成熟している両親と言えど5本以上蔦を生やすと流石に危ないのは言うまでもない。 現在生き残っているゆっくりは7匹。 両親のれいむとまりさ、成体間近の子れいむが2匹と子まりさが1匹。 子ども達に関しては1匹のれいむを除いて全員お仕置きによって目を失ってしまっている。 そして、夏に生まれた子れいむと子まりさが1匹ずつ。 こちらは子まりさの方だけがお仕置きによって目を失ってしまっていた。 「ゆっぐ・・・ほどぢでごんなごどになっだのぉ・・・」 「ゆっぐぢでぎないよぉ~・・・」 「「ゆっぐちちだいよ~・・・」」 「くらいよ~・・・ゆっくちでいないよぉ・・・」 そんな絶望的な境遇の中で苦しみにあえぐ一家を眺めながら俺は小屋の出入り口へと向かっていく。 そして、たった一つだけ希望を与えて小屋を後にした。 「俺の部屋の子ども達は来年の農作業用だから餌以外は最高の環境でゆっくりしているぞ」 れいむとまりさは本当に賢い個体だった。 男の言葉を聞いて、意味するところを、男の意図をきわめて正確に把握していた。 また、ゆっくり特有の希望的観測をせずに自分たちの末路を理解した。 「れいむ・・・ごべんね。まりさがにんげんさんのおでつだいしようなんていったせいで・・・」 「ちがうよ、まりさ!れいむもさんせいしたんだよ!」 「「「ゆっくりできないよぉ~」」」 「もうやだ、おうちかえる!」 「おちびちゃんたち、ゆっくりがまんしてね!はるになったらおうちにかえれるよ!」 勿論、嘘だ。男は「部屋の子ども達は来年の農作業用」だと言っていた。 つまり、来年には子ども達がこの小屋で寝泊りをして虫や雑草の駆除に従事することになる。 その時、自分たちが生きていると余計なことを吹き込んでしまう恐れがある。 「きょうはゆっくりやすもうね!」 「あしたになったらきっとおにーさんもゆっくりできるようになってるよ!」 「「「「「ゆっくりりかいしたよ・・・」」」」」 しかし、その事実を伝えるのはあまりに酷だと判断した両親は何も言わず、ゆっくりすることを提案した。 両親の言うことを聞いて痛みや恐怖を堪えながら、そしてそれらから逃げるように子ども達は眠りについた。 彼女達はそれがこの世界で最後のゆっくりになることを知るはずがなかった。 「そろーりそろーり・・・れいむ、ゆっせーので、でいくよ?」 「ゆっくりりかいしたよ。ゆっせのーで」 あっという間に眠りについた子ども達を起こさないように静かに傍まで這いずって行った両親は掛け声と同時に子れいむに噛み付いた。 その子れいむは夏に生まれたばかりの子どもで、まだ小さく成体2匹にいきなり噛みつかれてはひとたまりも無い。 一瞬にして大量の餡子を失った子れいむは断末魔を残して終らないゆっくりへと旅立って行った。 「・・・もっと、ゆっくちちたかったよ・・・」 「「む~しゃむ~しゃ・・・ごべんねぇ・・・」」 そうして子れいむの亡骸を食べ終えた両親は次に両目を失った子まりさを食い殺した。 言うまでも無いことだが、出来ればこんなことはしたくないのだろう。 悲しみの色に染まった双眸からは涙が溢れ出し、水に弱い頬をふやけさせてしまっている。 夏に生まれた子まりさも同じように殺すと、その亡骸を両目を失った成体間近の子まりさ2匹の口にねじ込んだ。 舌を使って器用に口の奥へと運び、何とかこぼれ落ちないようにする。 その後、両親は我が子に頬をこすりつけていわゆるゆっくりにとっての交尾“すっきりー”をした。 途中で子どもが目を覚まし、「ゆっくりできないよー!」と泣いていたが、それでも無理矢理最後までやり遂げた。 「ごべんねぇ・・・」 「「も、もっと、ゆっくちしたかったよぉ・・・」」 「おぢびぢゃんだち・・・ごべんねぇ」 翌朝、唯一生き残った成体間近の子れいむが目を覚ましたとき、部屋には3本の蔦を頭に生やした両親しかいなかった。 それ以外のものは見慣れた壁と床と、わずかばかりの黒いかたまり、そして、10本の蔦を生やしている黒ずんだ大きな塊だけ。 朝早くにやってきた男は、以前のようにゆっくりしていることは無く、その蔦を全部引っこ抜くと足早に小屋を後にした。 「ねぇ、おかーさん・・・いもうとたちは?」 「れいむ、ゆっくりきいてね!」 「ゆっ・・・ゆっくりきくよ!」 神妙な面持ちの親れいむのただならぬ気配を察知した子れいむも真剣な表情になる。 「れいむのいもうとたちはね・・・・・・おかーさんたちがころしたんだよ!」 「ゆゆっ!?う、うそいわないでね!おこるよ、ぷんぷん!」 「ほんとうなんだぜ。いっぱいいてもごはんがへるだけだからころしたんだぜ!」 「ど、どほぢでぞんなごどずるのおおおおおおおおおお!?」 その残酷な言葉を聞かされた子れいむは泣きじゃくり、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら両親に怒りをぶつける。 が、両親は「しかたなかったんだぜ!」とか「れいむのためだよ!」などと言うばかりで、何一つ納得のいく言葉を口にしてくれない。 やがて我慢の限界に達した子れいむは親れいむに飛び掛るがあっさりと弾き飛ばされ、まりさに取り押さえられてしまった。 「おがーざんのばがああああああああ!?」 「しかたないんだよ!こうしないとゆっくりできなくなっちゃうんだよ!」 「ぞんなのぢらないよ゛!ゆっぐぢでぎないおがあざんなんでゆっぐぢぢね!!」 厳しい自然の中で仲間を失った経験の無いこの子れいむにとって、生存のためでも仲間を切り捨てるなんてことは考えられない。 だから、親の気持ちも知らずに泣きつかれて眠るまでただひたすら呪詛を吐き続けた。 「ゆっくりしね・・・だって」 「おお、こわいこわい」 本来ならふてぶてしい表情で言うはずのこの言葉を、今ばかりは悲しみに満ちた表情で口走る。 ここにいてもいつか殺されるだけなら、いつか脱走を試みなければならない。 そして、そのためにはまず生き延びなくてはならないし、脱走の際に足手まといにしかならないものを生かしても仕方が無い。 そんな個体はよしんば逃げ延びても冬の野原や森で生き残ることなどまず不可能なのだから。 ならばさっさと間引いて一番逃げ延びる可能性のあるれいむだけでも救いたい。 また、きちんと蔦を提供することで、男の部屋の子ども達も何とか生き延びることができるかもしれない。 それが子どもが決して知ることの無い両親の想いだった。 頬を涙でぬらしながらも安らかな表情で眠る我が子の傍で2匹は再び6度に渡ってすっきりを繰り返した。 それが終わるとタイミング良く男がやって来て、さっきの分の餌(大根の葉っぱ650g)を床に置き、再び蔦を引き抜いていった。 結論から言えば両親は、餌には一切手をつけずに命を削って20本近い蔦を提供したが、子どもを逃がす機会を手にすることは出来なかった。 子れいむは両親の本心を理解しせず、度重なるすっきりで疲弊しているところを彼女に襲われたのが両親の死因となった。 小屋に残されたのは世間知らずで、両親ほど賢くもなかった1匹の成体間近の子れいむとおよそ1000g分の大根。 3ヶ月ばかり続く長い冬の間、最初の数日は両親の教えに反発するように適量以上を食べ続け、その後数日は妙な臭いを発する両親の死体で飢えをしのいだ。 が、やがてそれも尽き、2,3週間かけて子れいむはゆっくりゆっくりと飢えて、やせ衰えて、死んでいった。 「もっと・・・ゆっくり、したかったよ・・・」 おわり 善良なゆっくりは心理的な抵抗とは別の次元でも虐待しにくい気がする。 ちなみに、男の部屋の子ゆっくりは男が餌を管理してくれたおかげで無事生き延びました。 で、畑仕事を手伝いながら、10匹の子ゆっくりを授かり、冬には(以下略 このSSに感想を付ける
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小腹の空いた俺は昼食を取ろうとファストフード店に立寄り Mサイズのコーラとハンバーガーを注文、 2Fへの階段を上って窓際の列の端に座った。 窓から見下ろせるものは交差点、横断する人、向かいの果物屋、その左隣の眼鏡屋。 ガラス窓の外の声は聞こえない。 聞こえるのは2つ離れた席でお喋りをする、奥樣方2名の楽しそうな会話だけだ。 俺はただただボーッっとハンバーガーの包みをカサカサと開きながら、窓の外に目をやった。 交差点の向こう、果物屋の左隣、眼鏡屋の前の歩道に居るものへ目をやった。 (ゆっくりしていってね!) ガラス窓の向こうで恐らくその様な事を言っているのであろう。 眼鏡屋の前に居るあの丸っこいのは"ゆっくり"という生き物。 黒い髪に紅いリボンを巻き、まん丸な輪郭を持つ、 まるで人間の顔をデフォルメしたかの様な生き物。 所謂"れいむ"だ。黒髪のゆっくりは大抵そう呼ばれる。 大きさはバスケットボールくらいだろう。 何処から来たのか知らないが、何処でもいい。どうせその内誰かが処分する。 期待外れなゆっくり達 作者:古緑 (ゆっくりしていってね!) ガラス窓の外の、ふてぶてしい笑顔を浮かべたゆっくりはきっとそう言いながら 果物屋に向かうのであろうエプロン姿の太ったオバさんに近づいて行った。 眼鏡屋の前の歩道は狭い。 だからオバさんは寄って来るゆっくりを避ける為に少し車道に出て、 迂回する様にしてゆっくりを振り切っていった。 (…ゆっくり?ゆっくりしていってね!) その背中に向かって不思議そうに叫ぶゆっくり。オバさんは振り返らない。 少なくともこの辺でのゆっくりに対する対応なんてあんなモノだ。 例え俺があのオバさんでも同じルートを取ってゆっくりを避ける。 どんなに暇だったとしてもゆっくりと一緒にゆっくりなんてしない。 (ゆっくりしていってね! れいむと一緒にゆっくりしていってね!) オバさんに無視された事で生来の自信に満ちた表情にも陰りが見える。 それでも健気に周りの人間に呼びかけるゆっくり。 次にゆっくりが向かっていったのはだらしない格好をした中年男性。 無論彼も通り過ぎて行くだけ。パチンコにでも行くんだろう。 (…ゆっくり…… …ゆっ!ゆっくりしていってね!) 寂しそうに男性を見送った後、また次の通行人に話しかけるゆっくり。 次は杖をつくお爺さんだったが 彼は避ける事もせずに真正面からゆっくりとゆっくりを突破して行った。 本気で気付いていなかったのかもしれない。 その背中を見送るゆっくりの、斜め45°に引かれていた眉はハの時に変わっていた。 ゆっくり。 彼等は俺がまだ子供だった頃、20年以上前だ。 彼等は突然どこからか現れ、世の話題を攫った。 或る人は宇宙人と、或る人は妖精と、悪魔と呼んだ者さえ居た。 なんせあの様にワケの分からない生き物だ。 餡子の詰まった饅頭なのに何故か動けて、人の言葉(日本語)を解し、更に喜怒哀楽の感情を持つ。 話題にならないわけが無い。 あの頃はテレビ、新聞、雑誌、様々なメディアを通して彼等の姿を見る事が出来た。 だがそれも現れてから数年間の間だけ。 俺が成人を迎える頃、世間はとっくにゆっくりに対する興味を失っていた。 研究員だの科学者だの、その辺の人にとっては興味の尽きない存在に違い無いだろう。 しかし俺みたいな好奇心の薄い人間にとって ゆっくりは次第に『ただ言葉を解し、中身が餡子の生き物』それだけの存在になっていった。 あれだけ不思議生物と騒がれていたのに何の事は無い。 超能力を使えるわけでもない。その体に何か重大な秘密を秘めているわけでもない。 ただ跳ねて叫ぶだけ。ゆっくりしていってね、と。 馬鹿にしてるとしか思えない。 テレビなんかはゆっくりの番組をしつこく流し続けていたが いい加減飽きられて姿を消すのに大して時間は掛からなかった。 横でお喋りしてる奥様方も、ゆっくりに対する興味なんてもう持ってないと思う。 ガラス窓の下の不思議生物よりも旦那のムカつくところを話してるんだから。 (ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!れいむと一緒にゆっくりしていってね!) 窓の下ではゆっくりが叫ぶ様に人々に呼びかけている。 俺のところにまで声が届くくらいに大きな声で呼びかけている。 その声を聞きつけ、眼鏡屋の中からカジュアルな格好をした店員が出て来た。 ここに居て聞こえるくらいなんだから、下でのあの声は営業の邪魔でしか無い。 (ゆっ!おじさん!れいむとゆっくりーー ーーーーーゆぶっ!) 店員はゆっくりのリボンを摘んで持ち上げ、反対側の歩道に放り投げた。 反対側の歩道には何の店も無く、工事中なのでスチール製の真っ白い壁がそびえ立っている。 気絶したのか、れいむはピクリとも動かない。顔から落ちたんだから無理も無いだろう。 ゆっくりは痛い目に遭ったら何処かに消え失せるのが通常だ。 だからあのれいむも起きたらきっと何処かへ行く。 そしてその先で何時か死ぬ。 別にここが駅前だから、ゆっくりの事が嫌いだからという理由から 人はあの様な冷たい態度を取るわけではない。 さっきも言った事だが、もう誰もゆっくりに対する特別な興味を持っていないのだ。 少し前は違った。 喋るペット、元気なペット、モチモチと柔らかい体をした、可愛いペット、 そんな魅力的な特徴に皆が惹かれ、ゆっくりがペットとして大流行した時代も有った。 しかし今じゃペットゆっくりの人気もガタ落ち。かつての大人気っぷりは見る影も無い。 その理由は"喋れる"ゆっくりに対して人々が期待を持ち過ぎた事に有った様に思える。 自分の言う事を理解してくれるから手が掛からない。暇な時は楽しくお喋り出来る。 初めゆっくりを飼った人はそんな風に都合良く考えていた者が多かったのだろう。 しかし逆だったのだ。 何故ならゆっくりは人間にとって都合のいい事ばかりを喋るぬいぐるみではなく、 人間と同じ様に聞き、感じ、思考して喋る生き物だったから。 しかも人間並みに、或いは人間以上に喜怒哀楽の激しい正直な生き物だったからだ。 そんな生き物と上の様な期待を抱いていた人間が一緒に暮らして食い違いが起こらない筈も無い。 飼えばゆっくりは無条件で自分に懐き、何の文句も言わないなんて事も有り得ない。 そして多くの飼い主を落胆させたのは 言葉が通じるのに中々ゆっくりが言う事を聞いてくれないだけでなく、 不平不満、そして要求している事を自分に分かる言葉で持ちかけてくる事。 これは飼い主にとって面倒臭い事この上無く、"時と場合"に応じて非常に不快なものにすらなる。 手がかからないと期待してた人達からすれば尚更の事だ。 手の掛かり具合は腕白盛りな人間の幼児と遜色無いものなのかもしれない。 そんな本当は手のかかるゆっくりを上手に躾けられた飼い主がどれだけ居たか。 それは現状が物語っている。 そして肝心のゆっくりとのお喋りも、多くの人が『思っていたより』楽しくないと言う。 理由は人とゆっくりの知能の程度には一定の開きが有る為、会話がし難い事。 そしてその知能の差故に各々が持つ関心も異なるからだ。 ゆっくりは美味しいご飯が好き、楽しい玩具が好き、『ゆっくり』の話が好きだ。 だが人間側のちょっと難しい話になるとあまり興味を示さず、嫌がってしまう。 よく分からないからだ。愚痴なんかは当然嫌い。 しかし多くの人が望んだのは後者の様な会話だったんじゃないだろうかと思う。 また当然の事ながら知識や語彙も少ない為、出来る会話の幅も広くない。 大抵の場合ペットゆっくりは家の中でお留守番だから知識も語彙も碌に増えないだろう。 飼い初めの頃はまだ良いだろうが、そのうち話す事も尽きて会話をしなくなるかもしれないな。 『ゆっくり』の話がしたくて飼ったワケでは無いのだろうから。 兎に角、人語を解するから飼ったという人は拍子抜け。 勝手な事だが人は喋るゆっくりの事を『期待外れ』と感じたのだ。 小さくて可愛いと考えてた人の期待も外れる。 人の元では平均寿命8年と長生き。最終的に体高だけで60cmを超えるのも珍しくない。 デカくなったゆっくりは俺から見てもあんまり可愛くない。というか怖い。 ちなみに食う量も増えてゴールデンレトリバー並に食費がかさむ。 デカくなったのは更に重くノロくなる為、家の中での様々な面において邪魔になる。 かと言って庭なんかで飼うと寂しがり、大きな体をしてゆんゆん泣く。 それでも外に放って置くと知らないうちに死んでたり いつの間にか恋仲になった他のゆっくりと子を成していたりもする。 これが悪夢ってヤツだろう。とてもじゃないが笑えない。 手が掛からないとの期待はこんなところでも裏切られる。 人々の勝手に抱いていたゆっくりへの多大な期待はことごとく裏切られ、 ペットとしてのゆっくりへ関心も次第に薄れていった。 その結果かなりの数のゆっくりが無責任にも街に捨てられ、未だに問題になっている。 捨てる主な理由は仲違いしたから。反抗されたから。二匹飼いしたら自分と話さなくなったから。 妊娠したから。意外とつまらなかったから。どれも最高に無責任なものだ。 今ではもう、そんな面倒なゆっくりを飼う人間は ゆっくりの事が本当に好きな僅かな人達だけになった。 そして俺はゆっくりが何の為に人間の前に現れたのかを心の底から理解出来ていない。 ゴチャゴチャ考えてるうちにハンバーガーはもう食い終わった。 あとは尽きるまでコカコーラをズルズルやるだけ。 兎に角ゆっくりはもうペットとしてさえ人の関心を惹かない。そもそもあまり向いてなかったのだ。 久しぶりに見たから気になったが、そろそろどうでもいい存在になってきた。 保健所の人間が来ないうちにとっとと消え失せる事をお勧めしておく。 (ゆっく…り…ゆっぐり”ぃ…) 永らくガラス窓の下でダウンしていたゆっくりだが ようやく起きたようで、泣きながら体を起こした。 泣いてるのはゆっくりしていって貰えないのが辛い為だろう。 (ゆっぐり”じでいっでね”!ゆっぐじじでいっでね”ぇ!!) 涙混じりのガラガラ声で叫び出すゆっくり。周りには誰も居ないのに。 あれだけ痛い目に遭わされたのに消え失せないとは。 何がそんなにあのゆっくりを駆り立てるのか? どうして人をゆっくりさせたがるのだろうか? 俺は彼等と"ゆっくり"した事が一度だけ有るが、それも未だ謎だ。 ゆっくりの『ゆっくり』と言えば俺は俺で期待を裏切られた事が有る。 随分前に駅前のベンチで本を読みながら友人を待ってたら ゆっくりが近寄って来た事が有ったのだ。 『ゆっくりしていってね!』とお決まりの言葉を言いながら。 俺はちょっと困ったが、当時はまだゆっくりに興味が残っていたので 読んでいた本をカバンに仕舞ってゆっくりと『ゆっくり』する事にした。 『ゆっくり』と名乗るくらいなんだからとんでもなくゆっくりしている筈だ、 もしかしたら他人をリラックスさせる力を秘めているのかもしれない、と期待しながら。 しかしなんの事は無い。ゆっくりは空いたベンチに乗って日向ぼっこをしてるだけ。 普通にゆっくりするだけだったのだ。 勝手に期待しておいてこんな事を言うのもなんだが、ガッカリした。 ゆっくりの『ゆっくり』なんてゆっくりじゃなくても出来るし 別に俺が居なくても出来る、ごく普通の事だったのだ。 期待外れもいいところだった。 その日を境にゆっくりは俺にとって完全に無価値な存在に変わった。 (お、おにいさん…れいむと、れいむと一緒にゆっくり…) 窓の下では汚れたれいむを避ける様に、また一人通り過ぎて行く。 彼はipodらしき物を弄りながら歩き去って行った。 どうでもいいのだ。ゆっくりとの『ゆっくり』なんて。 それこそ何十回も聞いていい加減飽き気味のポップス以上にどうでもいいのだろう。 「あれ、○○さん、あそこに居るのゆっくりじゃない?」 「あらホント、いまどき珍しいねぇ。 そう言えばね、この前○○さんが電話で話したことなんだけどーーー」 隣の奥様方が今更ゆっくりに気付いたように話題に上げる。 ずっと俺と同じ方向見ながら話していたのに(ガラス窓に反射して丸わかりだった) 会話のクッション程度のものにゆっくりを使ったのだ。 そんなモンだ。例えゆっくりが少しくらい泣いてたとしてもな。 (ゆっぐり”ぃ…… ゆ”っぐ りぃ” ぃ”い”ぃ”!!) コーラを飲み干して立ち上がると、 俯いて本格的に泣き崩れるゆっくりの姿が見えた。 あそこで泣いてる分にはまだ良いが、果物屋の店員がボソボソ何か喋っている。 もしも交差点を超えてアッチ側にいったら 動けなくなるくらい強く蹴られるかもしれないな。 俺等人間の中でも、彼等にとってゆっくりは特に邪魔なんだから。 もう休み時間は終わりだ。 俺は紙コップの底にヘバりつく氷を4、5個口に放ってガリガリ噛み砕きながら、 トレイの上のモノをゴミ箱に捨てて店を出た。 生暖かい風が頬を撫でる。近所に予備校があって高校生が良く通る所為だろうか この歩道は黒ずんだガムやらツバやらがこびり付いてて汚い。 こんな小汚い歩道でゆっくりとゆっくりするくらいなら 今みたいな店の中で一人でゆっくりしてた方がずっと良い。誰だってそう思う。 「ゆっ、ゆっくり!ゆっぐりしていっでね!」 交差点で信号を待つ間、左から嬉しそうな声が聞こえて来た。 左方向に視線をやるとあのゆっくりが居た。 頬を涙でベショベショに濡らしているが笑顔満面。嬉しそうだ。 立ち止まっている俺を見て勘違いしたのかもしれないな。 "ようやくゆっくりしていってくれる"って。 「ゆっくりしていってね!」 ビデオ屋に寄って帰ろう。 最近ずっと行ってなかったから新作テープの取れたのが沢山有る筈だ。 そんな事を考えながら、信号が青になったのと同時に俺は歩き出した。 口の中の氷はもう無くなっていた。 ーENDー
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※これはfuku1783 ゆっくり腹話術(前)の続きになります 子れいむと親れいむを失い、残り四匹となったゆっくり一家の後を追う。 親れいむが人間に連れ去られたショックはあるものの、ゆっくり一家にあるのは悲壮感ばかりではなかった。 残ったものが死んでいったものたちの分までゆっくりしよう、という思いなのだろう。 「ゆぅ、おにゃかちゅいたね…………」 ポツリ、と子れいむが呟いた。 「「ゆぅ……」」 その言葉に賛同するように声を漏らす二匹の子まりさ達。 このゆっくり一家は食べ物を求めて人里にやってきたが、狙った食べ物にはことごとくありつけなかった上に死ぬかもしれない思いまでしている。 空腹は既にかなりのものになっていることだろう。 腹を空かせる我が子の姿を直視できないのか、なんでもいいから食べ物を探そうとしたのか、親まりさは視線をキョロキョロと辺りに飛ばす。 すると、 「お~い、ノブナガ~。メシだぞ~」 近くの民家から一人の老人が皿を持って外へ出てきた。 どうやら飼っている犬にエサを与えに来たようだ。 老人が犬小屋の前にエサを盛った皿を置くと、バネ仕掛けのおもちゃのように勢いよく一匹の柴犬が犬小屋から飛び出してきた。 ガツガツと勢いよく食べる飼い犬の姿を満足そうに眺めた後、老人は家の中へと戻っていった。 「「「……………」」」 視線をゆっくり達へ戻すと、案の定というか子ゆっくり達は羨ましそうに犬のエサを見つめ、口の端からはだら~、とよだれまで出ていた。 親まりさも私と同じくその姿を見たのか、 「ゆっ、まりさにまかせてね。いぬさんからごはんをもらってくるよ!」 そう子ゆっくり達に言い残してすぐさまその場を駆け(跳ね)だした。 本来は人里の美味しい食べ物を狙いにきたのだろうが、犬のエサまで狙うとは。 余程腹を空かせていたのだろう。 「ゆっ、おとうしゃんがんばっちぇね!」 「むのうなおかあしゃんとはちがうもんね!」 「いぬしゃんなんかぶったおちちゃえ!」 親まりさの背後からは子れいむや子まりさの声援。 その声援を受け親まりさは犬のもとへ向かう速度を更に加速させると、そのままの勢いで食事中の犬のどてっぱらに体当たりを仕掛けた。 「ゆぉぉぉぉぉぉ!!」 「キャウンッ!?」 突然のことに思わずよろめき、その場から退く犬。 それを自分の勝利と思ったのか、親まりさは子ゆっくり達に「みんな~、おいで~。ごはんだよ~」と呼びかけていた。 「やっちゃー、さすがおとうしゃん!」 「おなかちゅいたよ~」 すぐさま親まりさの元へ結集する子ゆっくり達。 そしてゆっくり一家は犬のエサが盛られた皿に一斉に殺到した。 「「「む~しゃむ~しゃ、ちあわせ~」」」 犬のエサといえど野生のゆっくりの常の食事に比べれば豪勢だ。 子ゆっくり達の幸せそうな顔を、子の幸せは我が子の幸せだという顔で見つめる親まりさだったが、自分も腹を満たさねばと皿のエサを食べようとするが 「バウッ!!」 犬の鳴き声に驚き飛び上がった。 「ゆっ、ゆっ!? び、びっくりさせないでね! これはまりさたちのごはんなんだからいぬさんはさっさと────い゛だい゛いいい!!!!」 親まりさは抗議の声をあげたが、犬に言葉が通じるわけもなく、頭の一部を噛み千切られていた。 噛み千切られ失った左半分の頭部からは餡子が漏れ出ている。 「ゆっ、おとうしゃん!?」 「おとうしゃんににゃにするのぉぉ!!」 「だめぇぇぇぇ!! にげてぇぇぇぇ!!」 親の仇だ、と犬に突進しようする子まりさ達を諌める親まりさの声に、この犬も人間同様敵わぬ相手と悟ったのか、すぐさま逃亡を図る子ゆっくり達。 親まりさも噛み付かれたが頭部は千切られていたため、すぐにその場を離れることができた。 だが、子れいむが一匹、逃げ遅れていた。 犬から一番遠い位置に居て、犬に突っかかろうともせずに逃走の体勢に入っていた子れいむ。 本来ならば真っ先に逃げられていたであろうが、子まりさが子れいむを踏みつけていったため逃げ遅れていたのだ。 「ゆっ~、まっちぇぇ!」 背後からは犬が外敵を排除せんと追ってきている。逃げ遅れている自分。 恐らく子れいむは最初に死んだ自分の姉妹のことを思い出していたことだろう。 しかし、ここで子れいむを殺してしまっては私の計画が狂ってしまう。 私は子れいむを踏みつけていった子まりさに狙いを定めると、『腹話術』を使用した。 「ゆっ!? 〝ガメラが飛ぶ時の回転数すごすぎぃぃぃぃぃ!!!〟」 『腹話術』をかけられた相手はその間気を失う。 つまり、気を失った子まりさの足は止まるということだ。 足の止まった子まりさを追い抜いていく子れいむ。 理由は分からないだろうが助かったので特に気にすることはないだろう。 「…………ゆっ!? なんでれいむがまえにいりゅ────ゆ゛ーーーーー!!!!!」 子まりさが気が付いた次の瞬間には、子まりさは犬に咥えられていた。 「いだいよ゛ぉぉぉぉ!!! おどうじゃんだずげでよ゛ぉぉぉ!!」 噛まれ、宙に浮く子まりさは泣き叫び親に助けを乞う。 しかし親まりさは無力である。ゆっくりが自分より体の大きいものに敵うはずもない。 「ゆっ、ゆっ……!」 犬は鎖に繋がれているため鎖の長さ以上の距離を逃げている親まりさ達は襲われることはない。 だが犬の行動範囲内に飛び込もうものなら今度こそ問答無用に殺されてしまうだろう。 子まりさを助けることは最早不可能だった。 「ゆ゛っ、ごべんね、ごべんねぇぇぇぇ!!」 親まりさは涙を流しながら子まりさを見捨てた。 残った子まりさと子れいむを連れて全速力でその場を逃げ出したのだ。 「ゆっ、おとうしゃん、まりさのいもうちょがぁぁぁぁ!!!」 「だめだよぉぉぉ!! みんなしんじゃうよぉぉぉ!!」 親まりさに咥えられた子まりさは犬に咥えられた子まりさを助けるよう求めるが、それは叶わぬ願い。 子れいむも子まりさを助けようとしたのかいくらか逡巡していたが、やがてどうやっても助けられぬと分かったのか去り行く父親達の後を追っていった。 「どぼぢでぇぇぇぇ!!! なんでまりしゃを……ゆがべぺ……ゆ゛っ!!」 助けられなかった子まりさは、身の程を弁えぬ所業と身内を蹴落とすという外道な行いの報いを受ける。 子まりさは少しずつ咀嚼されるという苦しみの中息絶えていった。 その死に顔は私の胸がすっ、とするほどの絶望と苦しみに彩られていた。 「…………くふっ」 思わず笑いが漏れる。 遂に半分にまで数の減ったゆっくりの一家はその歩を人里の中心に向けていた。 だが当人達は気づいてないだろう。ただ襲い来る脅威から逃げていただけにすぎない。 やつらは気づいていない。自分達から危険に近づいていることに。 「……ゆっ? おとうしゃん、いいにおいがするよっ!」 それまで俯いてしょこしょこと小さく跳ねていた子まりさがその場で嬉しさを表現するように跳びはねた。 言われ親まりさと子れいむもその場で立ち止まり鼻(?)をひくひくさせて臭いを嗅ぎ取ろうとする。 「ゆっ、ほんちょだ! おいちしょうなにおいがしゅるよ、おとうしゃん!」 「ゆゆっ、ほんとうだね! こっちからするよ! ゆっくりできるよ!」 それまで沈んでいた家族の間に笑顔が戻ってきた。 ゆっくり一家はその笑顔のまま臭いのする方へとぴょこぴょこと進んでいった。 だがゆっくり一家がその先で「しあわせ~」になることはないだろう。 ゆっくり達の向かった先、「いいにおい」の出所は、焼き鳥屋だった。 私もよく行く馴染みの店だ。 夜になると人間や妖怪達が一緒に酒を飲み騒いでいる。 今日も店の中からは様々な笑い声や上手そうな焼き鳥の匂いが漏れ出ている。 中の者だけではなく近くを通りかかった外の者まで陽気にさせる、私の好きないつもの雰囲気だった。 「ゆっ、ここからおいしそうなにおいがするよ」 「ゆっ♪ ゆっ♪ これでゆっくりできるね~♪」 パンドラの箱に残った希望を見つけた人間のような表情をしながら焼き鳥屋の方へと跳ねていくゆっくり一家。 焼き鳥屋の入り口は引き戸なのでゆっくりには開けられないかと思ったが、誰かが閉め忘れたのか若干開いており、そこに親まりさが自分の頬を突っ込んでむりやり戸をこじ開け入っていった。 私は店に入るか入るまいか若干迷ったが結局入ることにした。 「ゆ~♪ おいちちょ~♪」 中に入ると子ゆっくりが歓喜の声をあげていた。 店の者達は入ってきたゆっくりを気にもとめず(というか気づいていない)皆好き勝手に飲み騒いでいた。 まだ日が沈んでから一刻も経っていないというのに気の早い連中だ。 ぴょこぴょこと跳ねながらゆっくり一家はカウンター席の方へと向かっている。 私もゆっくりの後に続いてカウンター席へと向かう。 普通に歩いてはゆっくりを追い抜いてしまうから牛歩戦術だ。 ゆっくり一家はカウンター席の下まで辿り着くと、親まりさが空いている席の椅子へとジャンプした。 そして椅子からカウンターへと再びジャンプ。カウンターの上に乗った親まりさはカウンターの向こう側で焼き鳥を焼いている店主(私達は敬意と親しみを込めて〝マスター〟と呼んでいる)に向かってこう要求した。 「ゆ~、おじさん! まりさたちにもごはんちょうだいね!」 どうやらマスターが客に注文された酒や焼き鳥を渡すのを見て、マスターが食べ物をくれる人だと勘違いしたようだ。 「おぉう? なんだ、ゆっくりじゃねぇか」 親まりさにマスターよりも先にすぐ隣の席で酒を飲んでいた客が気づいた。 って、誰かと思えば飲み癖と悪食とロリコン趣味で有名なタケさんじゃないか。 流石に稗田家の当主はやめておいた方がいい、と今日こそ言うべきか? 「なんだ? 誰がゆっくり入れたのは」 タケさんが親戚のわんぱく坊主でも見るかのような反応を示したのに対し、マスターは明らかに不機嫌そうだった。無理もないか。 「いや、店の戸が半開きだったんですよ」 タケさんの隣の席に座り、誰かに濡れ衣が着せられる前に私がフォローに入った。 「おぉう、なんだ、お前がゆっくりを連れてきたのか? ……ゥィック」 「違いますよ」 やんわりと否定しておく。どっちかっていうとゆっくりが私を連れてきたようなものだ。 というかタケさんもう酔ってるんかい。 「ゆっ! ゆっくりむししないでね! さっさとまりさとまりさのこどもたちのためにごはんをよういしてね!」 見ると親まりさがその体を膨らませて怒っていることをアピールしていた。 それを見てタケさんがゲラゲラと笑い、マスターが更に不機嫌そうな顔になり、私の虐待エナジーが高まる。 「ちょうだちょうだ! さっさとまりしゃたちにごはんをよういしてね!」 カウンター席の下、タケさんの足元で子まりさも親に続き抗議の声をあげる。 タケさんがその声で子ゆっくりが居ることに気づき視線を下に向け 「おぉう、ちみっこもいるのか~」 と陽気に笑った。 …………決めた。 親まりさ、貴様を潰すのは後だ。 ここでは子まりさを潰す。 私は『腹話術』を、今度はゆっくりではなく、タケさんに向けて発動させた。 「〝おぉう、マスター! ちょいとこの子ゆっくり焼いてくれや!〟」 「「ゆっ!?」」 親まりさと子まりさが跳ね上がる。 私は『腹話術』をかけられ自分が注文したことを知らないタケさんに代わり、床にいる子ゆっくりを拾い上げた。 「ゆっ!? まりしゃをどうちゅるの! ゆっくりはなちてね!」 「はなちぇ~!!」 掴まれた子まりさがジタジタと身をよじり、側にいた子れいむがピタンと体当たりをしかけるが効果は無し。 なんの障害もなく子まりさは私からマスターへと手渡された。 「まったく、タケさんの悪食っぷりは相変わらずだねぇ」 マスターはそうぼやくだけで特に疑問ももたず子まりさの調理にかかった。マスターも馴れたものだ。 「まりさのごどもがえせぇぇぇぇぇ!!!」と私が子まりさを掴んだあたりから親まりさが騒いでいたが、タケさんが面白がって押さえつけていたので何もできていない。 マスターは子まりさを軽く水あらいして「ゆぐがぼべっ!!」、さっと振って水気を飛ばすと「ゆゆゆっ!?」、焼き鳥を焼く金網の上に子まりさを乗せた。 「あ゛ぁぁぁつ゛つづっっいいいぃいぃよおおぉぉ!!!」 ボロボロと涙を流す金網の上の子まりさ。零れ落ちた涙はすぐにジュッと蒸発する。 なんとか金網の上から逃れようとするもマスターが上から菜箸で押さえつけているため動けない。 「ゆぎゃ"ぁ"ぁぁ"!!!ま゛り゛ざのごどもがぁぁぁ!!いぎゃ"ぁ"ぁ"!! タケさんに押さえつけられている親まりさがカウンターで泣き叫ぶ。 ガハハハハハと笑いながらタケさんに押さえつけられている無力な親まりさは素晴らしい程に滑稽だった。 「ぶわっはっはっはっは」 とついつい私も笑ってしまう。 私のことを知らない他人が見ればどこの大根役者だと思うことだろうが。 「おどうじゃん、だずげでよぉぉぉ!!! いぎゃ"ぁ"ぁ"!! まりじゃのあぢがぁぁぁぁ!!」 金網の上で泣き喚く子まりさを、マスターは無慈悲に菜箸で転がす。 今度は顔面が金網のつく形になった。 「ゆ゙ーーっ゙!!! も゛う゛や゛め゛でえ゛えええ!!」 ハッキリ言って煩いが顔面を焼かれているためすぐに大人しくなるだろう。 もう一つのうるさい親まりさはと言うと 「グワッハッハッハ、なんだお前、頭ないじゃんぶわっはっはっは」 と欠けた頭部からタケさんに箸を突っ込まれ頭の中の餡子をグチャグチャにされていた。 「ゆ゛! ゆ゛! ゆ゛! ゆ゛…!」 なんだか白目を向いて痙攣していた。はっきり言って気持ち悪い。キモイじゃなくて気持ち悪い。 「へい、焼きゆっくり一丁!」 やがて子まりさが焼き上がり小皿に乗せられタケさんの前に置かれた。 「ま"り"ざのごどもがぢんじゃっだぁ"ぁ"ぁ"!!どぼじでごんなごとずるのぉ"ぉ"!!」 「あれ? 俺焼きゆっくりなんて頼んだっけ?」 「なんだい酔っ払いすぎだよタケさん」 「そうだよタケさん、酔いすぎだよ」 焼きゆっくりの注文は私が『腹話術』で頼んだためタケさんは覚えているはずがないのだが、マスターの言葉尻に乗って酔ったせいにしておく。 「んあ~、そう言われれば頼んだ気も…………でもいらねぇや」 タケさんはそう言って子まりさを掴むと床に叩きつけて草履の踵部分でグリグリとすり潰した。 その光景を子れいむは間近で見ることになったことに、私は気づいていた。 「あぁ、もう。やめてくれやタケさん、掃除するの俺なんだから」 「おっと、わりぃなマスター。代わりにもう一杯くれや」 「何が代わりなんだか」 「ゆぐ……ぐずっ……なんでごんなごどするのぉ……まりざのごどもがぁ……」 「なんだ、まだいたのかこのゆっくり」 「あ、私が外に出しておきますよ」 マスターの不機嫌が本気でヤバい段階にいきそうだったのでマスターに潰される前に私は親まりさを抱えて外に向かっていく。 もちろん子れいむも忘れずに足で外へと蹴飛ばしながらだ。 「飲みにきたんじゃないのか?」 「焼き鳥を家で食おうかな、と思っただけです。後でまたとりにきますから焼いといてください」 「あいよ」 成り行きで今晩の飯が決まった。 だが飯の前に、最後の仕上げだ。 ふっふっふっ、最後は私自ら手を下そうぞ。 どこのラスボスだよ。 私は親まりさを抱え子れいむを蹴りながら焼き鳥屋と隣の酒屋の間の狭い路地に入った。 その間親まりさを子れいむも子供のようにボロボロと涙を流し続けていた。 「さて、と」 子れいむを蹴飛ばすのをやめ、子れいむの脇に親まりさを置いた。 ゆっくりと視線を合わせようと、その場にしゃがみこむ。それでも私の方が視線が上だが。 「おいゆっくり。なんでこんなことになっているかわかるか?」 「ゆっ、ゆぐっ……まりざのごどもがぁぁぁ……」 「質問に答えろよクズ饅頭」 親まりさの口に拳を突っ込む。喉までだ。 そして体の奥底の餡子を一握り掴むと勢いよく引っ張り出した。 「ゆべぇぇぇぇぇ!!!」 叫び、咽る親まりさ。 その顔に親まりさの体から抜き出した餡子を叩き付け、もう一度問う。 「なんで、こんな、ことに、なって、いるか、わかるか?」 脳の足りないゆっくりにも分かりやすいように一語一語区切りながら。 それで流石に理解したのか親まりさは泣きながら答えた。 「ゆぶっ、にんげんだぢがまりざだぢのじゃまずるがらだよぉぉぉ!!」 「残念、不正解だ」 罰として今度は親まりさの歯を引っこ抜いてやる。 もちろん道具など使わない。素手だ。 左手で上顎を掴み、右手で前歯の一本(歯は飴だった)を情け容赦なく引っこ抜いてやった。 「ゆぼぉぉぉ!?」 「ゆゆっ、おとうしゃん!!」 それまで親まりさの後ろでガタガタ震えていただけの子れいむも恐怖を忘れて親まりさを心配する。 だが子れいむ。貴様は今は後回しだ。 「正解を教えてやるよ」 私はそう囁きかけながら引っこ抜いた歯を親まりさの右目にぐりぐりとおしつけてやる。 「ゆがっ、べぽ……ぜいがいっでな゛に゛ぃぃぃぃぃ!!!」 「お前らが身の程も弁えず人間の里に来たこと。それと家族を見捨てたことだ」 親まりさはその言葉でカッと目を見開く。何故知っているのかという顔だ。 だが今はそこを言及する場合ではないと分かっているのか、口にしたのは弁解だった。 「ゆっ、だっで、だっで、ごはんがもうないんだよっ! にんげんのごはんをもらわないといぎでいげないんだよっ!」 「それはお前等の怠慢だ」 罰として頬をちぎってやる。 「ゆ゙ーーっ゙!!! …………ぞ、ぞれに、みずでだわげじゃないんだよっ! あぁじないど、みんなゆっぐりでぎないがら、じがだがなかったんだよっ!」 「ほぉ、つまりお前は多数を助けるために少数を尊い犠牲としたと?」 「ゆ゛っ! そうだよ! まりさはかぞくをたすけるためにしかたなく────!」 私は親まりさの行動を思い返す。 確かに、親れいむほど悲しみに打ち震えていなかったが、子まりさほど死んだ者を罵倒してもいなかった。 子れいむの足を引っ張って死なせたのも子まりさだ。親まりさじゃない。 親のほうのまりさは、割といい親だったのかもしれない。 こいつの言い分を鵜呑みにするならば、必要以上に悲しみに暮れなかったのも、一家の大黒柱の責任故だったのかもしれない。 でもそんなの関係ねえ。 「でもな、まりさ?」 「ゆっ?」 「そのまりさが助けたようとした家族、子れいむ以外みーんな死んじゃってるけど?」 「ゆっ!? ゆゆゆゆっ……!」 私の言葉にガタガタを震える親まりさ。 気づいたのだ。多数を助けるために少数を犠牲と成すやり方で、助かったのは少数なのだと。 「で、でもっ! れいむはいぎで────」 「こんなクズな親のもとにいたられいむゆっくりできないから、この子は私がもらっていくね?」 「「ゆっ!?」」 それまで黙っていた子れいむまで驚愕する。 そんなゆっくりには構わず私は子れいむを掴むと着ていた服の懐に入れた。 くぐもった「ゆ゛っーーー!!」とした声がわずかに聞こえてくるが無視しておく。 「ゆ゛ぅぅぅぅ!! ゆっぐりやめてね!!! まりざのごどもがえじでね!!」 子供を取り返そうと飛び掛ってくる親まりさの顔面を掴んでやると私は立ち上がり、そのまま表まで歩いていった。 手の中で「ゆがぁぁぁぁ!! はなぜぇぇぇぇ!!」と親まりさが喚いている。 吐息が気持ち悪かった。 私は人里の中を親まりさを掴んだまましばらく歩く。 道行く人、妖怪が親まりさの叫びに気づいてこちらを見やるが、私がゆっくりを掴んで歩いているのを見ると「なんだ、ただの虐待お兄さんか」と視線を外した。 そして私は人里の中で、二つの通りが交差する場所まで来ると、親まりさを地面へと落とした。 「ゆべっ!?」 ずでん、と転がる親まりさを一回蹴った後、私は懐からさっきの子れいむを取り出した。 「ゆっ! れいみゅをかえちてくれりゅの?」 無視。 「さてまりさ。選ばせてやる」 「ゆっ、ゆっ、まりざのごどもをがえ────」 「黙れクズ饅頭。喋っているのは私だ」 まともに会話できそうにないので口元を踏みつけて黙らせた。 しばらく「ゆ゛ーーー!! ゆ゛ーーー!!」と身を捩じらせていたが私が足をどけないと分かると少し静かになった。 「さて、お前に選ばせてやる」 そういいながら手の中の子れいむを眼前に突き出してやる。 子れいむも煩いので指を口に突っ込ませて黙らせている。 「お前があくまでこいつを返して欲しい、と私に戦いを挑むのであれば、こいつは死ぬ」 「「────っ!?」」 ゆっくりの目が見開かれる。 「だが、お前がこいつの命を助けて欲しいと願うのであれば、私はこいつをゆっくりさせてやるし、お前も逃がしてやろう」 私はそこで足をどけてやる。 「ゆっ! おじさんほんと!?」 「おにいさんだクズ饅頭」 口に蹴りをぶち込み歯を二、三本折ってやる。 「あぎゃぁッああ!! …………ゆ゛っ、おにいさん、ほんどう? そのごゆっぐりざぜでぐれる?」 「ああ、もちろんだとも」 「このまままりざががえれば、そのごゆっぐりでぎるの?」 「その通りだ」 このやり取りの間、子れいむはずっと声も出せず泣いていた。 目の前で親が見るも無惨にやられている。 悔しいのか、悲しいのか。 私にとってはどちらでもどうでもいい。 ただ指にたれてきた涙の生暖かさが、こいつは〝私流〟にゆっくりさせてやろうと決意させただけだ。 私は親まりさの頭をつかむと後ろを向かせてやった。 「道が二つある。どちらでも好きな方へ行って帰れ」 そう言ってやると、親まりさはしばらくその場で悩んだ。 だが、答えはもう決まっているだろう。 「ゆ゛っ、わがっだよ。まりざはおうぢがえるよ。だから、まりざのごどもゆっぐりざぜてね?」 「ああ、約束だ」 「じゃあね…………バイバイ……」 そう呟く親まりさの語尾は尻すぼみに消えていった。 やがてとぼとぼと左右のうちの右の道から里の外へと向かっていく親まりさ。 私は子れいむの口を塞いでいる指を抜いてやった。 「ゆぐっ……! おとうしゃぁぁぁぁぁん!!」 親を呼ぶ子の声。 今生の分かれとなる親子の、最後の会話。 親まりさは子れいむの声に振り返ると、くしゃり、とその顔を涙で崩すと、精一杯の声で叫んだ。 「ゆっくりしていってね!!!」 それで最後。 親まりさは子れいむの反応も見ずに全力で駆け出した。我が家へと。 親まりさの選択は正しかった。 命あってのものだねだ。 最後は二匹になってしまったが、全滅はしていない。 あの親まりさも私が見逃してやったことによって、やがてまた新しい所帯を持つことだろう。 この悲劇を教訓に、次こそゆっくりとした生涯を送るであろう。 次こそ、そう次こそ────。 「見逃してあげても、よかったんだけどねぇ」 君が悪いんだよ、まりさ。 私は選ばせてやった。〝どちらの道で帰るか〟を。 なのに君はそっちを選んだ。 あぁあ、なんてこったいまりさ。 君が逆の道を選んでいれば、幸せになれたかもしれないのに。 君が、いけないんだよ。 君がそっちの道を選ぶから 「君は、彼女へのプレゼントだ」 親まりさが選んだ道。 そこにはある伝統の家系の家がある。 幻想郷を見続けてきた、幻想郷縁起を編纂してきた名家。 稗田家が、ある。 全力で駆けるまりさが、稗田家の前に来た瞬間、私はまりさに『腹話術』をかけた。 「〝あっきゅうちゃ~~~ん。あっそびましょ~~~う〟」 おわり 子ゆっくりの運命は…… ───────── あとがきのようなもの コミックス版「魔王」最新刊五巻を読み終わった勢いで書いてしまいました。 そのため文体が安定していないかもしれません、申し訳ありません。 他に書いたもの:ゆっくり合戦、ゆッカー、ゆっくり求聞史紀、ゆっくり腹話術(前) このSSに感想を付ける
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注意書き 舞台について特に決めてはいませんがたぶん幻想郷の外だと思います。 人間に飼われるゆっくりがいます。 虐待描写は温めです。 前半は特にいじめとか言った描写はありません。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ん?なんだ、ゆっくりか…」 俺が大学のレポートを作成していると窓からゆっくりれいむが入ってきた。 まあ、特にゆっくりが嫌いというわけでもないし、汚れているというわけでもない、荒らしたり自分の邪魔をしないのであればそのまま放っておこうと思った。 「えーと…財務管理財務管理…」 教科書をめくり索引から項目を探す。 「おにいさん!!ここはおにいさんのおうちなの?」 「そうだよ」 無視して自分の家宣言されても困るので適当に答えておこう、あ、財務管理、5ページか。 「ゆ…あまりひろくないけどとてもゆっくりしたおうちだね!!」 「そりゃどーも、でもおまえの家よりは広いぞ?」 「そーだね!!!」 なんだ、理解はしていたのか、じゃあいいや、レポートを書こう。 しばらくれいむは黙って俺の方を見ていたがしばらくして俺に声をかけてきた。 「おにーさん!ゆっくりしてる!?」 何度も教科書とレポート用紙を見比べ、ペンを走らせる俺がゆっくりしてないように思えたのだろう、事実俺は今ゆっくりしていない。 「いや、あまりゆっくりしてないな」 「どおして!?ゆっくりしよう!!ゆっくりしていってよ!!」 そんなこと言ってもレポート書かないわけにはいかないし、でも急いで書くものでもなかったので、休憩がてらこいつと少し話してもいいかなと思った。 「じゃあどうすればゆっくりできるんだい?少し教えてほしいな」 「ゆゆ、そうだね…」 れいむは顔をしかめながら、しばらく考えた後答えた。 「おひるねをするとゆっくりできるよ!!」 「パスだ、俺に昼寝の習慣はない」 夜眠れなくなって授業中に寝てしまい、先生に怒られるのは嫌だからね。 「ごはんをたべるとゆっくりできるよ!!」 「却下、さっき昼飯を食ったばかりだからこれ以上は食べれない」 「ゆゆゆ…おにいさん、てごわいね…」 何が手ごわいんだよ、何が。 「そうだ!すっきりすればゆっくりできるよ!!」 「!?!?!?」 「ゆふふふ、すっきりすることにきづいたれいむはさすがゆっくりしてるね!!」 「俺には…」 「ゆ?どうしたの、おにいさん?」 「俺には…すっきりする相手がいないんだよぉ…」 お兄さんは泣いてしまいました。 「そう、おにいさんにはすっきりするあいてがいないんだね…」 「うぅ…」 ちくしょー、今まで親戚以外の女性に振れたこともない、俺の心の傷を掘り返しやがって… 「でもれいむにはすっきりするあいてがいるよ!!まいにちまりさとちゅっちゅしてすっきりするよ!!それもれいむもまりさもまだわかいからにんっしんしないすっきりだよ!!」 なんだよ、その「まだ社会人じゃないので避妊しています」みたいな言い方は!?それに毎日やってるのかよ!? ああ、なんだろう、たかが饅頭の癖になんだか怒りが込み上げてきたぞ…? 「ちゃんとにんっしんしないれいむはとてもゆっくりしてるでしょう!!じゃあれいむはもうかえるね!!かえってまりさときょうもすっき…」 「饅頭が調子に乗ってんじゃねえぇー!!」 俺はれいむの顔面をがしりと掴むと全力で窓の外に放り投げた。 5秒ほどそのままの体勢で固まってた俺は、レポートを書くために椅子に座った。 「……ふぅ、すっきり、さて、レポートレポート…」 俺ったら学生の鏡だねぇ、さて、財務管理は… 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!!!や゛め゛て゛え゛ぇぇぇ!!!」 「な、なんだぁ!?」 急に窓の外から悲鳴が聞こえてきた、俺はあわてて窓の外、悲鳴をした方向を見る。 「い゛や゛だぁぁぁ!!す゛っき゛り゛し゛た゛く゛な゛い゛い゛ぃぃ!!!」 「はぁはぁ、しょたいめんのありすにいきなりちゅっちゅしてくるれいむかわいいいぃぃ!!すっきりしよぉねえぇぇ!!」 なんと、さっき投げたれいむをありすが襲っていた、どうやら俺が投げたれいむがありすに命中、ちょうど口と口がぶつかる形になってありすが発情したのだろう。 まったく、この饅頭はどうしてこう俺の目の前ですっきりの話をしたがるんだろうか、すっきりしたがるんだろうか? というか白昼堂々、何の遮蔽物もないアスファルト上で交尾するっておかしいだろ? 「んほぉぉお!!いいよぉ!!れいむ!!れいむぅう!!」 「い゛や゛だあ゛ぁぁぁ!!すっきりしたら…しんじゃう゛う゛よ゛ぉお゛ぉお゛!!!!」 最初は放り投げただけで許してやろうと思ったのに…目の前で交尾なんかされては俺の怒りは有頂天だ。 交尾に夢中で周りを見る余裕がない二匹に近づいた俺は金属バットで二匹まとめて叩き潰した。これでゆっくりレポートが書ける… そう思ってレポート用紙を見るとおかしなところに気づいた、途中から文章が同じことの繰り返しを延々と描いているだけになっている… きっと、れいむの話に適当に答えている時にレポートに対する注意がそがれたのだろう… 「やっぱり最初から追い出しとくべきだった!!あの饅頭がぁ!!」 結局、レポートは書き直す羽目になった。 あとがき 普通な虐待ものを書こうと思ったのですが… 虐待描写って難しいですね。 9月4日 1724 セイン このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/745.html
比較的街に近い、さほど高くもない山の中、一人の男が息を潜めて標的のゆっくりに近づいてゆく。 彼の視線の先にいるゆっくりはごく平凡なゆっくりれいむの子どもで、陽気に中てられたのか無防備な寝顔を晒していた。 「ゆぅ~・・・ゆぅ~・・・」 安らかな寝息を立てる子れいむと男の距離は10m程度。 彼はゆったりとした動作で手にした筒を口元に持って行き、思いきり息を吹きかけた。 瞬間、筒の中に収まっていた小さな矢が子れいむめがけて飛んでいき、下あごの辺りに刺さった。 「ゆびゅ!?」 痛みで目を覚ました子れいむだが、ゆっくりの体の構造上自力で深々と刺さった矢を抜くことは出来ない。 それでも、体を捩ったり、近くの石に矢をぶつけたりと試行錯誤するが、やはり徒労に終わってしまう。 それどころか体内で矢の先端が動き、餡子を引っ掻き回したために余計な痛みを味わう羽目になった。 「ゆぐ・・・いぢゃいぃ、いぢゃいよぉ・・・」 しかし、泣き声がゆっくりにしては妙に小さい。 本来なら小さな体を目いっぱい使って信じられない大声で泣きじゃくるはずなのに。 子れいむはすすり泣く、といった表現が相応しい控えめな声で泣いている。 「ゆえーん、ゆえー・・・ゆぎっ」 どうやら、泣くだけでも餡子や矢が動いてしまい激痛が走るらしい。 痛みを耐え切れずぽろぽろと涙を流すその表情が時々苦痛によって歪んでいた。 「ゆっぐ・・・もうやだ、おうちかえる」 しばらく泣きじゃくっていた子れいむはそう叫びながら巣に戻るために飛び跳ねた。 そして、着地した瞬間に衝撃で矢が動き、また苦痛に顔を歪めた。 もちろん、矢は刺さった後に飛び出す特殊な返しのおかげで抜けることなく刺さったまま。 「ゆ゛っ・・・ゆっぐちしたいよー・・・」 結局、子れいむは跳ねて移動することを諦め、ゆっくりと地べたを這いずって巣へと戻っていった。 「おかーしゃあん・・・いぢゃ、いぢゃいよぉ!」 「おちびちゃん!ゆっくりだよ、ゆっくりしてね!?」 「ゆっぎぢできないよぉ!とって!はやくとってー!」 数時間後、幸いにも日が暮れる前に巣に戻った子れいむは母れいむに矢を取ってもらおうとしていた。 しかし、母れいむが矢を少し動かすだけで激痛が走ってしまい、彼女は大泣きしてしまう。 そのせいで子どもに甘い母れいむは娘が痛がるのに無理に引き抜くことが出来ず、右往左往。 「おがーぢゃん!どっぢぇ!はやぎゅどっぢぇー!?」 「ゆぅ・・・おにぇーちゃん!ゆっくち、ゆっくちだよ!」 「ゆっくち!ゆっきゅちちていっちぇね!」 「ゆっくりぢでいっでね、ゆぎぃ!?」 泣きじゃくる子れいむの周りで母れいむと一緒に右往左往しているのは妹のれいむとまりさ。 当然、彼女達に何かが出来るはずもなく、子れいむにつられて泣き出してしまった。 「ゆぅ・・・わがらないよぉ!れいぶ、ゆっぐぢでぎないよおぉぉ!?」 そればかりか、とうとう母れいむまで泣き出してしまった。 慰めるものもおらず、ただひたすら泣きじゃくるれいむ一家。 一家の大黒柱のまりさが帰ってきたとき、彼女達はようやく泣き止んだ。 「ゆゆっ!ゆっくりりかいしたよ!まりさがぬいてあげるね!」 事情を聞いたまりさの動作は素早かった。 すぐさま子れいむに刺さった矢の露出している息を受ける部分を咥えると思いっきり引っ張った。 「ゆぎゅぅぅぅうぅううぅぅう・・・!?」 当然、返しに阻まれて簡単には抜けず、子れいむは尋常でない痛みのせいで悲鳴をあげることすら出来ない。 ただ歯を食いしばりながら大量の涙で水溜りを作るばかり。 しかし、そんな地獄の苦しみも永遠に続くはずがなく、数十秒後には解放された。 「ゆっ!」 「ゆ゛ぐぅ!?」 まりさが引き抜いた矢には返しが4つ、ちょうど十字に見えるように付いている。 それはつまり、それが子れいむの体から引き抜かれたことを意味していた。 「ゆ゛っ・・・!ゆ゛っゆ゛っ・・・!?」 大きな口を両断され、底部をべろんとめくられた子れいむはまるで口が3つあるように見える。 その傷はあまりに大きく、そしてあまりに深かった。成体ならまだしも、子どもにとっては確実に致命傷。 現に傷口から餡子を撒き散らした子れいむは白目を剥いて、割れた口から危険信号といわれる「ゆ゛っ」という嗚咽を漏らしていた。 「ゆゆっ!おちびぢゃん!ゆっぐぢ、ゆっぐぢぃー!」 「おにぇーちゃああん、ゆっきゅちー!ゆっきゅちー!」 「まりさのおぢびぢゃん!ゆっぐぢぢぢゃだべだよおおおお!ゆっぐぢー! 「もっぢょ・・・ゆっくちちたかったよ・・・」 異常に気付いた両親は必死に子れいむを励まして、傷口を舐めたが何の意味もなさず、子れいむは息絶えた。 「れ、れいぶのおぢびぢゃんがああああああああああ!?」 「ゆえええええん!おぢびぢゃあああああああああん!?」 悲嘆に暮れるれいむとまりさ。 しかし、彼女達にはゆっくり絶望する暇すら与えられない。 「ゆき゛ゅ!?」「い゛っ!?」 短く悲鳴を上げたのは姉を失い、母親同様に悲しんでいた赤れいむと赤まりさ。 赤れいむののこめかみと赤まりさの後頭部には先ほど子れいむの命を奪ったあの矢が突き刺さっていた。 ---あとがき--- ありそうであんまりなかった矢ゆっくり。 文字通り矢が刺さったままになっているゆっくりです。 動くと激痛、抜くと死ぬ、放っておくと狩りなんてまず出来ない。 こんな有様の赤ゆっくり2匹を抱えて生きていくこの一家の行く末は・・・ たいちょさんが書いてくれるらしいです( byゆっくりボールマン
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前 さて。 小一時間ほど休憩したところで、俺はゆっくり魔理沙へのお仕置きを再開することにした。 残る赤ちゃんゆっくり霊夢は四匹。 赤ちゃんゆっくりアリスを喰らって空腹感を満足させた姉妹たちは、家族が殺されたにも関わらずに箱の真ん中でのんびりと昼寝をしていた。 やれやれ、自分たちの立場が分かっているのかね? ゆっくり魔理沙は相変わらず大きさに合わない小さな箱に圧縮されて息苦しそうにしながら、殺された姉妹のことを思い出しているのか、現在の状況を振り返っているのか、ゆぐゆぐと嗚咽を洩らしていた。 その表情、たまらん。 俺の愛するゆっくり霊夢は猿轡を噛まされながら沈んでいる様子だった。 もうちょっとだけ我慢してほしい。 すぐ終わるからさ。 「おーい、起きろー」 俺は姉妹の箱を両手で持ち、がたがた揺らした。 赤ちゃんゆっくり霊夢たちは驚いて跳ね起き、混乱した頭で四方八方に飛び回る。 「ゆっ、じしんだよ!?」 「ゆゆゆ、すごいゆれてるよ!」 「ゆっくりできないよぉぉぉぉぉぉ!!!」 「ゆっくりさせてえええええぇぇぇ!!!」 ああっいい! いいよその表情! 悲鳴! ゾクゾクする! 俺は悦に浸りながら振動を止め、ゆーゆー泣き出した姉妹たちににっこりと笑いかけた。 「やぁ、起きたかい?」 「ゆっ、おにいさん!?」 「いまのはおにいさんがやったの!?」 「れいむたちのおひるねのじゃましないでね!」 「おにいさんとはゆっくりできないよ!」 相変わらず自分たちの立場を理解していない上から目線。 こいつらにもう少し知能があれば、第二のペットにしてやるのに…… とりあえず怒りの矛先が俺に向けられるのは何となく申し訳ない気分になってしまうので、責任を転嫁させてもらうことにしよう。 「悪いね。君たちのお母さんに、君たちをゆっくりさせるなと頼まれたんでね」 「ゆっ!?」 姉妹たちが母親を見る。 ゆっくり魔理沙は寝耳に水の衝撃発言に呆気に取られて反応が遅れる。 そりゃそうだろう。いきなり自分の名を出され、しかも事実無根の罪を被せられたのだから。 いやまぁ、事実無根の罪を被せるのは今に始まったことではないけど。 当然のように、ゆっくり魔理沙は否定の言葉を口にしようとする。 「うそだよ! まりさはそんなこと言わないよ!」 「って、言ってるけど、信じる?」 普通のゆっくり家族なら、母親を信じ、俺をなじる。 だが、この家族は既に普通の家族ではない。 俺がそうした。 「うそいってるのはおかあさんのほうだよ!」 「れいむたちをゆっくりさせないなんてひどいおやだね!」 「もうおやじゃないよ! おねえちゃんたちをころしたわるいゆっくりだよ!」 「わるいゆっくりはゆっくりしね!」 「「「ゆっくりしね!! ゆっくりしね!!!」」」 もう何度目になるか分からない、ゆっくりしねコール。 憤怒と憎悪が込められたそれは、本来決して母親に向けられるべきものではない。 しかしこの赤ちゃんゆっくりたちにとって、目の前のゆっくり魔理沙が既に母親でもなんでもなかった。 姉妹を見殺し。 食事を独り占め。 昼寝すら邪魔をする。 果たして、こんな自分たちをゆっくりさせないゆっくりが存在していいのだろうか。 否。 母と呼んだ存在はもう記憶の彼方に抹消した。 目の前にいるのは『敵』だ。 自分たちのゆっくりを脅かす敵なのだ。 ――なんと素晴らしい、明後日の方向に捻じ曲がってしまった的外れの怒りか! 俺は感動の涙と笑いが同時に来てしまい、思わず顔を背けてしまった。 こいつら面白すぎる。 「ゆっくりしね!」 「ゆっくりせずにしね!」 「おにいさん、あのまりさをころしてよ!」 「そうだよ! れいむたちがゆっくりできるようにまりさをころして!!!」 おおぅ、とうとう俺にまでお願いし始めた。 いかなる手段を用いても、目の前に鎮座して姉妹たちをいじめては喜んでいる(そう赤ちゃんゆっくりたちには見えている)ゆっくり魔理沙を排除したいのだろう。 で。 その対象、極めて冤罪(いや罪はあるか)を多くかけられているゆっくり魔理沙はというと、 「な゛んでぞんな゛ごどい゛う゛の゛おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 やっぱり咽び泣いていた。 休憩を挟んだおかげで、体力や気力は少し持ち直したらしい。廃人……いや廃ゆっくりにはまだならずに済みそうだ。 いいねいいねー。 泣くゆっくりはやっぱり可愛いな! 涙を流して必死な表情のゆっくりだけを集めた家に住めたら俺死んでもいい。 管理が大変なんで自分ではやらないけどさ。 これでも現実は見ているつもりである。 「では、準備があるので少々お待ちを」 俺は牙を剥いて(比喩)ゆっくり魔理沙を威嚇している姉妹たちを置いて一旦外に出た。 太陽はまだ昇ったばかりで、気温はまだまだ涼しいとは言い難いが、それでも日中の熱気に比べれば大分緩やかだ。 なんか濃密な時間を過ごしたせいで、もう昼間になってた気がしていたんだが……まだ八時といったところか。 俺は加工所で購入した二つの箱のうち、赤ちゃんゆっくりアリスが入っていたほうではないもう一つの大きな箱を手に取った。 大きいといってもサッカーボールが収納出来る程度の大きさである。 木造の箱は中身が暴れているせいか、ごとごと揺れていた。 活きがいいな、これなら期待出来そうだ。 俺は箱を持って家に戻ると、わざと音を立てて床に箱を置いた。 予想通り、好奇心旺盛な赤ちゃんゆっくり霊夢たちが先程までの怒りをすぐに消し、興味津々に眺めだす。 「ゆっ、なにそれ?」 「ゆっくりできるの?」 「ゆっくりしていってね!」 うむ、ではご期待に添えようじゃないか。 俺は全員の注目が集まっていることを確認すると、勢いよく箱の蓋を開いた。 途端、 「うー!」 中からゆっくりれみりゃが飛び出し、家の中を羽ばたきだした。 赤ちゃんだったゆっくりアリスとは違い、こちらはちゃんと成人(成ゆっくり?)したサイズである。 無論、赤ちゃんゆっくり霊夢など一口で食い殺してしまうだろう。 突然の捕食種の登場に、赤ちゃんゆっくりたちは目に見えて怯えだし、固まってぶるぶる震えだした。 「ゆ、ゆーっ!!?」 「れ、れみりゃだ、こわいよー!」 「ゆっくりできないよ、たすけてーっ!!!」 「れいむたちはおいしくないよぉぉぉ!!?」 ゆーゆー泣き出す姉妹たち。 くはっ、萌え狂う! っと、鼻血を出している場合ではない。 「れ、れみりゃはあっち行ってね! まりさたちに近付かないでね!」 ゆっくり魔理沙は身動き出来ないながらも、必死にれみりゃを追っ払おうと睨みつけている。 ゆっくりれみりゃを怖がるのは何も赤ちゃんだけではないからな。 俺のマイスウィートラブリーエンジェル・ゆっくり霊夢も怯えて固まってしまった。 ああごめんよ、我慢してね。 俺はゆっくりれみりゃが入っていた箱の底からスプレー型の小瓶を取り出すと、ゆっくり霊夢の箱に小瓶の中身をしゅっと吹きかけた。 「う、うぁー!?」 卑しくもこの中で一番丸々太っていて美味しそうなゆっくり霊夢の周囲を旋回していたゆっくりれみりゃは、霧状の粉末がゆっくり霊夢の箱に飛び散るのと同時に慌てて離れだした。 あぅ、泣き顔のれみりゃもかわええのぉ。 でも胴体付きは駄目だ。流石の俺もあれだけは可愛がれねぇ。 紅魔館の周囲にはあの豚どもがうようよ生息してるのか……あまり想像したくない光景だな。 そういえば咲夜さんも駆除が追いつかないって俺に愚痴を洩らしていたな……って、今はそんなことどうでもいいか。 「えー、注目。このスプレーはゆっくりれみりゃが嫌がる香りを吹き付ける優れものです。これがあればゆっくりれみりゃには襲われません」 「ゆっ!? じゃあはやくれいむたちにちょうだい!」 「ゆっくりしないでいそいでかけてね!」 スプレーの説明をすると案の定、助かりたい一心の赤ちゃんゆっくりたちが騒ぎ出す。 俺はそれを無視して、ゆっくり魔理沙を入れた箱にスプレーを吹きかけた。 「あ、あかちゃんたちも助けてあげてね!」 ゆっくり魔理沙は子供に責められてボロボロになりながらも、それでも子供たちを助けてやってくれと哀願してくる。 うーん、ゆっくり魔理沙にしているのが勿体無いくらい家族思いのやつだ。 二週間前、仲間が殺されたのをケロっと忘れたゆっくりと同一人物とは思えんぞ。 まぁ、箱の中にいる限りスプレーがあろうとなかろうと助かるって分かってない辺りが、ゆっくりのゆっくりたる所以なのかもしれないが。 ああでも香りが付けばゆっくりれみりゃが近寄らなくなるので、その分心労は減るかもな。 「さて、最後はこれだな」 俺は姉妹たちの箱にスプレーを吹きかけた。 途端、安心したようで赤ちゃんゆっくり霊夢たちは大はしゃぎする。 「ゆー♪ これでもうあんしんだね!」 「れみりゃをこわがらなくてすむね!」 「やーいやーい、れみりゃのばーか!」 中にはゆっくりれみりゃを小馬鹿にした顔で貶すゆっくりまで出る始末。 ゆっくりれみりゃは悔しそうに、だけど近づけないのでうーうー遠くから唸っていた。 このうーうーってやつ可愛い。 「とりあえず、これで箱は全て安全地帯となったわけですが」 自分自身にもスプレーを吹きかけ、俺は姉妹たちの箱の前に立つ。 「でも、君たちにスプレーが直接かかったわけじゃないから、箱の外に出ると安全ではなくなるわけです」 「……ゆ?」 「そ・こ・で」 俺は邪悪……もとい天使の微笑みを浮かべて、 「君たちのうち、三匹をそこから出してあげます」 「ゆ、ゆーっ!?」 赤ちゃんゆっくりたちはにわかに騒ぎ出した。 「や、やめてね! れいむたちをここからださないでね!」 「え、なんで? あれだけ出たいって言ってたじゃないか、良かったね!」 「よ、よくないよーっ!?」 「そとにでたられみりゃにたべられちゃうよ!」 「おにいさん、れいむたちをそとにだすまえにれみりゃをゆっくりなんとかしてね!」 「ごめんね! お兄さんじゃゆっくりれみりゃには勝てないんだよ!」 激嘘。 「でも大丈夫! 君たちにはチャンスがあるよ!」 「な、なに!?」 「ゆっくりしないでいってね!」 「今からゆっくり魔理沙に問題を出します。君たちがゆっくりれみりゃに捕まる前に回答することが出来たら、君たちを解放してあげるよ!」 つまりは今までと同じである。 当然、 「ゆっ、それはだめだよ!」 「おかあさんはれいむたちをころそうとしてるもん!」 「おかあさんじゃゆっくりできないよ!」 「おかあさんはころしていいかられいむたちをたすけてね!」 反発が起こる。 今まで助ける機会がありながらも問題に答えず、姉妹たちを見殺しにしてきた母。 今更そんなゆっくりを信用出来るはずがない。 「ぞん゛な゛ごどな゛い゛よ゛ぉぉぉぉぉ!!! ま゛り゛ざはぢゃんどれ゛い゛むだぢを゛だずげる゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 そして、こちらは信頼を裏切り続けるゆっくり魔理沙。 答えられるはずもない無理難題を押し付けられ、逆恨みを買いまくっているあまりにもゆっくり出来ない哀れな存在。 激しく嗜虐心をそそります、はい。 ぶっちゃけ、そろそろ子供たちを見捨ててもいいと思うんだ。 愛しているのに、その愛が全然、まったく、これっぽっちも伝わらない悲しさ。 同情を買う? いいえ、滑稽です。 「残念ながらルールの変更は認められません。精々、ゆっくり魔理沙が回答に辿り着けることを祈っていてください」 「そんなのしんじられないよ!」 「どうせおかあさんじゃこたえられないよ!」 赤ちゃんゆっくり霊夢たちが発言するたびにゆっくり魔理沙の心がザクザク傷付けられていく。 最っ高! 「何を言っても駄目でーす。それではゲーム、スタート!」 「「「「ゆ、ゆっくりしていってよー!?」」」 「お、おねえちゃーん!!!」 俺は四匹のうち、末っ子だけを残して、三匹を外に出した。 するとすぐに、空腹でイライラと部屋中を飛び回っていたゆっくりれみりゃが、歓喜の表情で突撃してきた。 「ぎゃおー! たーべちゃうぞー♪」 「や、やだぁー!!!」 「ゆっくりやめてね!!!」 「ゆ゛っぐりでぎな゛い゛よ゛お゛お゛おぉぉぉぉぉ!!!」 赤ちゃんゆっくりたちは涙目ながらも生存本能からか高速で散開。勢いを止められず、ゆっくりれみりゃは先程まで三匹がいた床に激突する。 「う、うわぁー!!!」 泣き出すゆっくりれみりゃ。 か、かわえぇ! っと、見とれている場合ではない。 このままでは不公平だしな。 俺はゆっくり魔理沙に向き直った。 「では問題です」 「は、はやく出してね!」 「いやいや、遠慮すんな。いつも通りゆっくり答えろよ」 「ゆっくりできないよ!!! はやくもんだい出してね!!!」 俺の後ろでゆっくりれみりゃに捕獲されないよう、必死に逃げ惑う子供たちの姿が見えているのだろう、ゆっくり魔理沙が俺を急かす。 やれやれ、仕方無いな。 「では問題です。『れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!』これを千回言ったら子供たちを助けてあげるよ」 あ、『問題』じゃねーやこれ。 まぁいいか。 ゆっくり魔理沙は驚いて目を見開いていた。 「そ、そんなこと言えないよ!」 「じゃあ、赤ちゃんをゆっくりれみりゃに食われるのを黙って見てるんだな」 「そ、それはだめだよ!」 「じゃあ言うんだ。途中でつっかえたりしたら、もう一度初めからやり直しだからな」 「ゆっ……」 諦めたように瞼を閉じ、ゆっくり魔理沙は息を吐き出した。 言いたくない台詞を言わなくてはいけない葛藤。 だが、それでも親の愛が勝るのだろう。 ゆっくり魔理沙は大声を上げた。 「れ……れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」 「おーいお前ら、お母さんがこんなこと言ってるぞー!」 「ゆっ!?」 突然赤ちゃんたちに話を振る俺に驚くゆっくり魔理沙。 ブランコや滑り台などの遊具を使って必死に逃げ惑っている赤ちゃんゆっくり霊夢たちは、突然の母の暴言にまたも怒りを曝け出す。 「な゛ん゛でぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!?」 「やっばり゛おがあ゛ざん゛じゃゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!!」 「ゆ゛っぐり゛じね゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ!!!」 「ち、ちがうよ! おかあさんはれいむたちをたすけようと」 「はいアウトー! 規定の台詞以外の言葉をしゃべったのでもう一度最初からね!」 「ゆっくり!?」 そう、これはどれだけなじられようともゆっくりれみりゃに自分の子供を差し出す台詞を言い続けなければならない拷問。 今頃それに気付いたのか、ゆっくり魔理沙の瞳から涙が止め処なく溢れ出した。 「ひ、ひどいよぉぉぉぉぉぉ!!! ま゛りざだぢがな゛に゛をじだのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 「シチュー落っことしたじゃねーか」 もう忘れたのかよ。 「ほら、早く言わないと千回言い終わる前に子供たちが全員食べられちまうぞ?」 「ゆ……」 再びの葛藤。 だがやらないと子供は助からない。 ゆっくり魔理沙は泣き顔で、もう一度言葉を繰り返し始めた。 「れ、れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」 「ゆっぐりじねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「れ゛み゛りゃはまりざのあがぢゃんをゆっぐりだべでいっでね! れ゛み゛り゛ゃはま゛り゛ざの゛あがぢゃん゛をゆ゛っぐり゛だべでい゛っでね゛っ゛!!」 糾弾され、涙声になっても、今度は言葉を止めずに言い続けるゆっくり魔理沙。 この全てに絶望したような顔、素晴らしい! これだからゆっくりいぢりは止められないのだ。 さて、ではそろそろ赤ちゃんゆっくり霊夢たちのほうに視線を移してみよう。 「うー! うー!!」 「こっちにこないでねぇぇぇ!!?」 「れいむっ、こっちだよ、はやく!」 「ゆっ、ありがとうおねえちゃん!」 成体のゆっくりれみりゃじゃ潜り抜けられないようなブランコや滑り台の小さな隙間を使い、上手く攻撃をかわしている。 なかなかやるなぁ。もしかしたらペット用ゆっくりになれる素質の持ち主かも。 対するゆっくりれみりゃはかなりご機嫌斜めのようだった。 自分より格下の存在であるゆっくり霊夢、しかも赤ん坊をなかなか捕食出来ないのだから当然だろう。 しかも加工所からここまで、何も食べていないのだ。空腹も怒りに拍車をかけている。 考えなしに広い場所へ行かず、真っ先にこの場所へ陣取った姉妹たちの作戦勝ちといったところかな。 ……まぁ、実はゆっくりれみりゃが嫌がる香りを浴びた箱にぴったりくっついていれば、このゲーム楽に勝てたりするんだけどね。 そこに気付かない辺りは、やはりゆっくりといったところだろう。 「れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね……れみりゃは……」 呪詛のようにぶつぶつ呟き続けるゆっくり魔理沙。 その声は、ここにいる全てのゆっくりに聞こえている。 逃げ惑うゆっくり姉妹たちはゆっくりれみりゃの攻撃を避けながら、ずっとその言葉を聞き続けていた。 母でありながら自分たちの死を願う、その言葉を。 何度も、何度も。 そして。 ついに一匹の赤ちゃんゆっくり霊夢が、キレた。 「ゆ゛っぎぃ゛ぃ゛ぃぃぃ!!! う゛る゛ざぐでゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 リボンの番号を見るに三女か、赤ちゃんゆっくり霊夢3が怒りに頬を膨らませてゆっくり魔理沙の元へ走り出した。 どうにかしてゆっくり出来ない声を止めようと考えたのだろう。 しかしそれは、なんという自殺行為。 「うー♪」 「おね゛え゛ぢゃん、に゛げでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「……ゆっ!?」 周囲に障害物はない。 身を隠す場所は、何も無い。 ゆっくりれみりゃはこの上なく無邪気な笑顔を浮かべ、何も遮るもののない赤ちゃんゆっくり霊夢3までの距離を、高速で飛翔し零とした。 妹の悲鳴に赤ちゃんゆっくり霊夢3が振り向けば、そこには眼前にドアップで迫るゆっくりれみりゃの姿。 「うー!」 「ゆゆゆ、ゆっくりまっ……ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 頭上へと昇ったゆっくりれみりゃは、その身体を急降下させて赤ちゃんゆっくり霊夢3を押し潰した。 飛び散る餡子。 平べったくなった饅頭の肉体。 「れ゛い゛む゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 「ゆ゛……ゆ゛べっ……」 姉の悲痛な悲鳴。 それに身体を弱々しく震えさせながら、反応する赤ちゃんゆっくり霊夢3。 大量の餡子を吐き出しながら、それでも赤ちゃんゆっくり霊夢3は生きていた。苦しそうに呻きながら、必死に現在の状況から逃げ出そうともがいている。 無論、それを見逃すほど、ゆっくりれみりゃは捕食種としてお人好しではない。 「うっうー♪ たべちゃうぞー♪」 「ゆびゅぅ!? れ、れ゛い゛む゛のがら゛だをだべな゛い゛でねっ!?」 赤ちゃんゆっくり霊夢3の頬に齧りつくゆっくりれみりゃ。そのまま少しずつ、ゆっくりと味わうように咀嚼していく。 皮が千切れ、餡子が溢れ出る都度、赤ちゃんゆっくり霊夢3は絹を裂くような悲鳴を上げる。 「や゛め゛でぇぇぇぇぇぇぇ!!! ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 「うー♪」 しかしその悲鳴も、ゆっくりれみりゃにとっては食事を彩る調味料としかならない。 いや、それとも、ゆっくりの悲鳴など鼻から耳に届いていないのか。 兎にも角にもゆっくりれみりゃは上機嫌で、赤ちゃんゆっくり霊夢3の身体を全て完食してしまったのだった。 「ま゛、ま゛り゛ざのあがぢゃぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん゛!!!」 ゆっくり魔理沙は耐え切れず、慟哭の涙を流した。 自分の言葉のせいで、子供が死んでしまった。 その嘆きは如何ほどのものなのだろうか。 ……まぁ、それはそれとして。 「はいアウトー。指定された言葉以外の発言をしたからもっかい最初からねー」 「ゆっぐ!?」 ゆっくり魔理沙はしまった、といった風に目を見開いた。 そう、これは子供が食べられてしまっても、自制しなければならない罠でもあるのだ。 ゆっくり魔理沙は少し先のことも考えずに本能のまま行動してしまった結果、ただでさえ少ない救出の確率を更に下げてしまったのだ。 慌てて再び「れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」と言うが、もう遅い。 先程までの70回くらいは全てパーだ。 「うっうー♪」 ゆっくりれみりゃは口の周りに餡子を付けながら、上機嫌に羽根を広げて舞い上がる。 そして先程残してきた姉妹、残り二匹の元へと向かった。 「お゛ね゛えぢゃんがぁぁぁ……」 「ゆっ!? ゆっくりしてたらたべられちゃうよ! ここからはなれようね!」 ゆっくりれみりゃの接近に気付いた赤ちゃんゆっくり霊夢1は姉の死にぐずぐず泣き崩れる妹のリボンを加えて、滑り台の下へと引っ張る。 間一髪。ゆっくりれみりゃの牙は赤ちゃんゆっくり霊夢5を傷付けることなく、逆に超スピード(といってもあくまでもゆっくり基準なのだが)のまま滑り台に激突し、顔面の激痛で大粒の涙を零した。 「う、うぁー! うぁー!!」 顔を真っ赤にして泣き叫ぶゆっくりれみりゃ。頬ずりしたい。 姉妹はその様子を確認すると、今度はブランコの方に移動を開始した。 気付いたゆっくりれみりゃも、ふらふらと後を追う。 「ゆっ、おいかけてきたよ!」 「だいじょうぶだよ! ゆっくりまかせてね!」 心配そうな妹の声に力強く頷き、赤ちゃんゆっくり霊夢1は前方にぶら下がったブランコを口に加えてずりずりと後退し、限界まで引っ張ると口を離した。 勢いよく吹き飛んだブランコは、無防備に近付いてきたゆっくりれみりゃへと一直線に激突する。 ばしん、という思わず目を背けてしまう光景と音。 「うぁーーー!!!」 余程痛かったのだろう、弾き飛ばされたゆっくりれみりゃは、地面にへばりついてわんわんと泣き出してしまった。 萌ゑる。 一方、捕食種への反撃が見事に決まった姉妹たちは、大喜びで飛び跳ねていた。 「ゆっゆっゆー♪ おねえちゃん、すごーい!」 「ゆゆーん♪ ゆっくりできないれみりゃはゆっくりしんでいってね!」 二匹して勝利のダンス。箱に取り残されている末っ子ゆっくりも遠目に見える姉妹の活躍にはしゃいでいた。 しかし、勝利の美酒に酔いしれる三匹の餡子脳は、まだ死神が遠のいていないことに気付いていなかった。 突如。 頬をすり合わせて喜びを表現していた姉妹の片方、赤ちゃんゆっくり霊夢3が、赤ちゃんゆっくり霊夢1の眼前から一瞬で消失した。 「…………ゆ?」 赤ちゃんゆっくり霊夢1は何が起こったのか、一瞬では理解出来ない。 妹は何処へ行った。 と。 視界の端に、引っかかるものがあった。 黒い、点々とした影。 それが、何処かへと続いている。 赤ちゃんゆっくり霊夢1は無意識に、その黒い影の先へ視線を移した。 そして。 妹は、そこにいた。 「……」 物言わぬ亡骸となって。 大量の餡子を撒き散らしながら。 「ど、どお゛じでぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」 泣きながら妹に駆け寄ろうとする赤ちゃんゆっくり霊夢1。 刹那、 ごぅん! 一迅の風が舞う。 赤ちゃんゆっくり霊夢1の頬をかすめ、ブランコが眼前を通り過ぎ、また戻っていった。 餡子を少量、付着させて。 ――つまり、なんだ。 妹は、ブランコとぶつかって、死んだ。 ブランコを動かしたのは自分。 だから。 妹を殺したのは。 「あ……ああぁ……あ゛あ゛あああ゛ああ゛あ゛あああ゛あああ゛あ゛あぁぁ゛ぁ゛あ゛ぁあ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁぁ゛あぁ゛ぁぁぁ゛ぁあ゛ああ゛あ゛!!!」 赤ちゃんゆっくり霊夢1はこれでもかというくらいの大声量で悲鳴を上げた。 生まれてからずっと一緒にゆっくりしてきた妹。 それが、死んだ。 自分が殺してしまった。 ゆっくり出来なくしてしまった! 赤ちゃんゆっくり霊夢1は半狂乱になり、しっちゃかめっちゃかに周囲を飛び跳ね、奇声を上げながら床に自分の身体をぶつけ始める。 身体の痛みで、心の痛みを少しでも和らげようとしているのだろうか。 だけど、そんな余裕でいいのかな? 「うー!!!」 ようやく泣き止んだゆっくりれみりゃが、逆襲のために赤ちゃんゆっくり霊夢1の下へと向かう。 悲嘆に暮れて自傷を繰り返す赤ちゃんゆっくり霊夢1は、それに気付かない。 箱の赤ちゃんゆっくり霊夢7は立て続けに姉を失い、泣き叫んでいたため反応が遅れる。 ゆっくり魔理沙は目を瞑って同じ言葉を繰り返す機械のようになってしまっているため、既に見えていない。 「あ゛ぁあ゛あぁ゛ぁ゛ぁあ゛ああ゛あ゛ああ゛……ゆ゛っぐり゛ぃ!?」 「うっうー!!!」 ゆっくりれみりゃは飛び跳ねる赤ちゃんゆっくり霊夢1の頭を見事にキャッチすると、加速を付けたまま壁に投げつける。 思ってもみなかった突然の激痛に、赤ちゃんゆっくり霊夢1は正気を取り戻して悲鳴を上げた。 「い、い゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!!」 口から餡子を吐き出しながら苦しみ悶える。 ゆっくりれみりゃはそんな赤ちゃんゆっくり霊夢1の頭上に陣取り、赤ちゃんと比較して三倍以上もある大きさの身体でプレス攻撃を仕掛けた。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 絶叫。 ゆっくりれみりゃはその声に満足した様子で、またプレス攻撃をする。 何度も、何度も。 「や゛めでぇぇぇぇぇ!!! ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛お゛お゛おお゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!!」 明らかに殺すことが目的ではない手加減した攻撃。 食べるためではなく、苦しめるためだけの攻撃に、赤ちゃんゆっくり霊夢1はただひたすら泣き叫ぶ。 苦しい。 痛い。 助けて。 そういった感情が、見ている俺のほうにも伝わってくるようだ。 だけど、ゆっくりれみりゃは攻撃の手を休めない。 もうそろそろ死ぬ、といったところでプレス攻撃を止め、赤ちゃんゆっくり霊夢1の頭に齧り付き、中の餡子を吸い上げ始める。 「ゆ゛っぎぃ゛ぃ゛ぃぃぃぃぃぃ!!! や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇ!!! れ゛いむ゛のあ゛ん゛ごずわな゛いでぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 身体の中身がどんどん失われていく感覚。 段々と、赤ちゃんゆっくり霊夢1の顔から生気が抜け落ちていく。 しかし後ちょっと、というところで、ゆっくりれみりゃはまた動きを止めた。 今度は赤ちゃんゆっくり霊夢1の身体に自分の身体を押し付け、直にそのまま押し潰そうとする。 先刻のプレス攻撃と比べて、一瞬の激痛が何度も往復するのとは違う、永劫に感じられる苦しみが続く拷問。 激しい圧迫感、赤ちゃんゆっくり霊夢1は瀕死で朦朧としているが、痛みにびくんびくんと身体を震わせる。 もう悲鳴を上げる元気もないのだろう。 ただ、掠れた呻き声を上げながら、苦痛の涙でぐしょぐしょになった顔を激痛で更に歪ませるだけ。 やがて赤ちゃんゆっくり霊夢1は耐えられる限界を超え、身体のあちこちから餡子を撒き散らせながらぷちっと潰れ、絶命した。 「うっうー♪」 ゆっくりれみりゃは大勝利、とばかりに軽快に飛び回る。 復讐を完遂させて満足なのだろう。 幸せそうな笑顔で、飛び散ったゆっくりの死体をぱくぱくと食べ始めた。 「うー♪ うまうまー♪」 「お゛ね゛ぇぢゃん゛だぢがぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁあ゛あ゛ぁぁ!!!」 その光景を見て、滂沱の涙を流すのは箱に閉じ込められ、唯一死亡を免れた姉妹の末っ子。 その泣き顔にクるものを感じながら、俺は未だに「れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」と言い続けているゆっくり魔理沙の箱を蹴り、言ってやった。 「おい、もういいぞ」 「……ゆっ?」 「もう全員死んだ。良かったな、お前の言ったとおり食べて貰えて」 「……う゛わ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁぁあ゛あ゛ぁぁ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛あぁぁぁ!!!」 ああ、いい。 何度聞いても、ゆっくりの絶望の悲鳴というものはいいものだ。 その後、俺はゆっくりれみりゃを捕まえ、元々入っていた箱に再び閉じ込めた。 こいつにはまだ用がある。後でまた出してやるからな。 で。 七匹もいた赤ちゃんゆっくりたちも、ついに残すところ一匹だけとなってしまった。 可哀想なのでこいつだけ森に返してやろう……なんて気はない。 だが、そろそろゆっくり魔理沙も精神が限界に来ている。 さっきから「燃え尽きたぜ……真っ白によ……」みたいな感じでボケーっとしている姿は、誰が見ても廃人一歩手前だ。 壊れると、楽しみがなくなってしまうからな。 なので、いい加減子供と再会させてあげることにした。 ゆっくり魔理沙と赤ちゃんゆっくり霊夢7を箱から出してやる。 感動の親子の再会だ(いや、ずっと顔は見えていたが)。 「れ……れいむ……れいむぅぅぅ!!!」 子供の姿が手に届く場所にあると認識したゆっくり魔理沙は、もう離さないとばかりに赤ちゃんゆっくり霊夢7に駆け寄った。 色々辛いこともあったが、これからは二人仲良くゆっくりしていこう! そんな感じで喜色満面の笑顔を浮かべている。 だが。 「ゆっぐりじねぇぇぇぇぇぇ!!!」 「ゆっぐりぃぃぃぃ!!?」 突然、娘に腹の部分(?)を噛み付かれ、悲鳴を上げた。 「な、な゛にずるの゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!?」 所詮プチトマト程度である大きさの赤ちゃんゆっくりに噛み付かれた程度、成長してバレーボール程度になった成人ゆっくりにとって箪笥の角に小指をぶつけたくたいの痛みでしかない。 だが、相手が自分の娘というのなら話は別だ。 身体の痛みより、心の痛みのほうが何倍も自分を傷付けることだろう。 「う゛る”ざい゛! ゆっぐりじねぇぇぇぇぇ!!!」 「ゆぎゃぁぁぁぁ!!! や、やめてねっ!!! お母さんのからだを食べないでねっ!!!」 「お゛まえな゛んが、お゛があざんじゃな゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃぃぃ!!!」 痛みにぶんぶん身体を捩じらせ、振りほどこうとするゆっくり魔理沙。 だが怒りに濡れる瞳の赤ちゃんゆっくり霊夢7は、死んでも離さないとばかりに噛み付くのを止めない。 そこにいるのはゆっくりすることなどもはや眼中にない、憎悪の塊。 自分の姉妹全員を悉く皆殺しにして悦に浸っている母を抹殺しようとする怒りの権化。 俺が誘導したとはいえ、なんという勘違い。なんという思い込み! 感動しすぎてちょっと涙が出てきた。 「ぢがう゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉ!!! お゛があざんはれ゛い゛むだぢを゛だずげよ゛う゛どじだよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!?」 「う゛ぞづぎま゛りざはゆ゛っぐり゛じな゛いでじねぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!!」 「い゛だぁ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁぁっ!!? い、い゛……い゛い゛がげんに゛゛じでよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」 「ゆ゛べぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!?」 お、ついに堪忍袋の尾が切れたのか、ゆっくり魔理沙が怒声を上げた。 力強く跳躍して自分の皮ごと強引に娘を吹き飛ばすと、今までの鬱憤を晴らすかのごとく、赤ちゃんゆっくり霊夢7に体当たりを仕掛ける。 「ま、ま、まりざがどれだけくろうしたのか、分かってるのぉぉぉ!!?」 「ゆぎぃぃぃぃぃ!!?」 「それなのに、み、みんなでゆっくりしねって……そんなのひどすぎるよぉぉぉぉぉぉ!!!」 「やめでぇぇぇぇ!!! れ゛いむのあん゛ごはみでぢゃうよ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」 「まりざ、もっどゆっぐりじだがっっだのにぃぃぃぃ!!! れいむだぢがぁぁぁぁぁ!!!」 「いだいよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!! ごめ゛んなざい゛ずる゛がらゆ゛る゛じでぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!!」 何度も何度も体当たりされて吹き飛ばされる赤ちゃんゆっくり霊夢7は、もう自力で動けないくらい重傷だ。 だが、涙で視界がぼやけ、更に怒りでいっぱいいっぱいのゆっくり魔理沙は、そのことに気付かない。 「おがあざんはおがあざんなんだよぉぉぉ!!! ちゃんどわがっでるのぉぉぉぉぉぉ!!?」 「わ、わがっ……ゆぴっ……も、もう……ぴげぇっ」 「だいへんなのはれ゛いむ゛だぢだけじゃないんだよぉぉぉ!!? ま゛りざだっでゆ゛っぐりでぎながっだんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 「ゆっ……じだ……だよ……」 「う゛わ゛ぁ゛ぁぁぁ゛あ゛あぁあ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁあ゛あ゛ああ゛ぁあ゛ぁ゛ぁあ゛ぁっ!!!」 「……」 「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あぁ゛ぁ゛ぁぁあ゛あぁ゛ぁぁ゛ぁああ゛ぁあぁ゛ぁぁあ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!」 「ストップ、そこまでだ」 事の成り行きを見守っていた俺は、事態が終わったことに気付いてゆっくり魔理沙の身体を持ち上げた。 未だ興奮冷めやらず、といった様子でふーふー荒い息をついているゆっくり魔理沙は、逃れようとじたばたもがく。 「は、はなしてねっ! まりさはまだ……」 「下をよく見ろ」 「……ゆっ?」 言われて、はっと気付いたようにゆっくり魔理沙は視線を下に移す。 そこには、 「……」 物言わぬ亡骸と化した潰れ饅頭が転がっていた。 「ゆ゛、ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」 「いやー、すごい殺しっぷりだったな! 自分が気に入らないなら子供だって簡単に殺す! 酷いゆっくりだな、お前は!」 「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇ!!! ま゛りざはぢがう゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」 「えー、どう違うんだよ。今さっき自分で殺したんじゃないか。自分の子供を。助けてって言ってたのに!」 「う……う、う゛る゛ざぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁい゛!!! も゛どはお゛兄ざん゛がゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛ひとだがら゛い゛げな゛い゛ん゛でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 「はぁ? 何言ってるんだ、俺はちゃんとお前にも答えられる問題を出してやったぞ。それをゆっくりしすぎて答えられなかったんだから、お前が悪いに決まってるだろ」 勿論生死に関わる状況に追い込んだのは俺だから俺が悪い。 だけど子供を殺したばかりの罪悪感の塊であるゆっくり魔理沙は、俺の言葉を鵜呑みにしてしまう。 元々、悪いことをしたという負い目はあったのだ。 箱に詰められたときに、それに気付いていた。 そのまま全員殺されていてもおかしくはなかった。 でも、生き延びることを許された。 そして、助かるチャンスはいくらでもあった。 どれもこれも、無理難題――例えば変形してみせろとか、大空を舞ってみろとか、赤ちゃんを全員食えとか――ではなかった。 ゆっくりせずにちゃんと考えれば、答えられていたはずなのだ。 だけど、答えられなかった。 何故? それは。 自分が、ゆっくりしていた、から。 赤ちゃんを助けるために、真に全力ではなかった、から。 それに気付いた時、ゆっくり魔理沙の瞳から涙がぽろりと零れた。 今までのように騒いだりしない。 ただ、何かを悟ったような、そんな憑き物が落ちたような顔だった。 「……ころして」 「なに?」 「まりさをころしてね……赤ちゃんたちがいないなら、もうゆっくりできないよ……」 俺は驚いた。 まさかゆっくりが自分の殺害を依頼するなんて。 それ程までに、自分の子供が大切だったのだろう。 仲間のことはすぐ忘れたというのに。 過去に何かあったのだろうか。 ……まぁ、興味ないけど。 「殺して欲しいのか?」 「うん……ゆっくりせずにころしてね……」 「だが断る」 「……ゆっ!?」 ゆっくり魔理沙が驚愕の表情で俺を見上げる。 俺はニコリと、天使のような慈愛の表情を浮かべた。 「俺は自分の手で何者かの命を奪うのは大嫌いなんだ。だから、お前は殺さない」 だって、殺すと反応がなくなってつまらないから。 「もっと苦しんでもらうよ、ゆっくり魔理沙」 続く。 このSSに感想を付ける
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ゆっくり罵倒 うちに帰るとゆっくりが強盗に来ていた。 「ゆっ! ゆっくりにげるよ!」 キッチンでジャガイモをくわえていたまりさが、ぴょんと飛び上がって、もそもそ走っていく。 バカヤロ誰が逃がすか。俺はダッシュしてまりさを飛び越え、縁側に先回りした。 割られていたガラスの代わりにガラガラッと雨戸を閉める。 あーあちくしょう、これ実害じゃねえか。侵入だけなら許してやらんでもないと思ったのに。 実刑判決だな。執行猶予なし。 「ゆうっ! しめられちゃったよ! しかたがないね、ゆっくりあやまるよ!」 またピョンと跳ねたまりさが、俺を見てニコニコと笑いかけた。 「おにいさんごめんね! まりさははんせいしてるよ、ゆっくりゆるしてね!」 ピキキッ。 いかん、温厚なつもりが。 これはけっこう……クるわぁ。 「あぁ? なんだこのお調子もんが、それで許されると思ってんのかバカアホ短足ふくれ饅頭」 「ゆゆっ!? ゆるしてくれないの?」 「ったりめぇだ誰が許すかトンチンカンのアンポンタン! 藪にらみのへっぴり虫のインチキお化けのぶちゃむくれーのスットンキョーのデブ饅頭!」 「でぶっ!? まっまりさでぶじゃないよ! ゆっくりおこるよ!?」 またピョンと跳ねると、まりさは涙を浮かべてぷぅーっと膨れ上がる。 ゆっくり怒りのポーズだ。すかさず俺は怒鳴る。 「うるせえバーカ何がデブじゃないだこれだけボヨボヨならデブ以外の何もんでもねえだろうが!」 「ゆうっ? ゆゆゆゆ」 「デーブデブデブ脂肪の子! 太った中身はあんこっこ! 三段腹の怪生物!」 「ゆぐあああ、まりさでぶじゃない、でぶじゃないいい!」 ぷひゅるるる、と潰れてから、のてんばたん、のてんばたんとまりさはもだえる。 その鼻面に顔を突きつけてさらに怒鳴る。 「デブだしトンマだしノロマだド畜生! 田舎くさい土饅頭がダサボロい古帽子かぶって似合うと思ってんのかエセ生首の低脳団子!」 「だだだだだっ、ださくないいいぃぃぃぃ!!! まりさのおぼうしはさいこうのおぼうしなのぉぉ!!」 お、真っ赤になってわめきだした。そうだそうだ、ここがツボだった。 「お帽子お帽子素敵なお帽子真っ黒お帽子なんの色? あ・ヘドロ色♪ あ・ゴミの色♪ あ・葬式の・服の色♪」 ぺしぺしぺしぺし。帽子をはたいて歌ってやると、狂ったようにゴロゴロころがった。 「うだうな゛あぁぁぁぁぁぁ!!! おぼうしのへんなうだうだうなああぁぁぁ!!!」 「お帽子お帽子素敵なお帽子真っ黒お帽子なんの色? あ・燃えちゃった♪ あ・おコゲ色♪ あ・臭くて汚いうんうん色♪」 「やめろ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!!? ぞんなうだ、なじなじなじなじぃぃぃぃぃぃ!!!」 「真っ黒まりさのお帽子は 昔々のお婆ちゃん しわしわばばあのお帽子だ かぶるとばばあだ、ババまりさ」 「ばばばばばばば、ばりざばば゛あじゃないよ゛ぉぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!?」 半狂乱で喚き立て、跳ね狂い、唾を飛ばす。 俺はにんやり笑って、正面から言う。 「ばば・まりさ☆」 「ばばあじゃないぃ!」 「ばばあ。おばばまりさ。しわしわクシャクシャ口臭い」 「くざぐ゛ないいぃぃぃ!!」 「鼻がない。耳もない。ないない尽くしない尽くし。ゴロゴロ転がるボールまりさ」 「なぐな゛いっ! なぐないのぉぉぉぉ!!!」 ぐっ、と腰を据えたかと思うと、猛烈に激怒した風情でぶるぶるぶるぶる震えながら怒鳴った。 「服も着てないパンツもはかない、エプロンもなければ箒もない。貧乏まりさ、ないないまりさ」 「ふっ、ふぐっ? ふぐってなに?」 目を白黒させるまりさを、すかさず嘲笑。 「服って何って? 服を知らないんだ。やぁーいやぁーい、バカまりさアホまりさ何にも知らないオタンチンまりさ! 服ってのはなぁーこれだよこれ!(バフバフ)見りゃわかんだろなんでわかんないんだっとにゆっくりはバカで愚かで無知でスカタンでアンポコリンでオッチョコチョイでメンチボーでアンガラモンガラでブッポーソーだなアッチョンブリケ!」 「あんがらっ! ぶりっ! ぎゅあああああああああ!!!!」 鬼のように目を吊り上げて、口をグワッと全開にして、とにかく何か言い返そうとした途端―― ぶっちーん、とまりさのこめかみが弾けた。途端に、ぶりゅーっと餡が噴出する。 「ゆ゛う゛っ!?」「うおっ!?」 まりさ本人だけでなく俺も驚いた。まりさの横顔から噴水のように餡が吹き出ていく。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、だめっあんこざんっでちゃだめっ!」 餡子を止めようと思ったのか、そわそわっ、とまりさはせわしなく左右を向いた。 しかしそれで遠心力がついてしまって、かえってビュッビュッと餡が勢いを増した。 「ゆ゛を゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? とめてとめでどめで! おに゛いざんあんこどめでぇぇ!」 びょびょっ、と俺に近づいて、まりさは哀願した。しかし悪いが、俺はまったく逆のことを考えた。 「あーんこあんこ、あんこはうんこ、うんこがぴゅー! まりさがぴゅー! うんこまりさがぴゅっぴゅっぴゅー!」 「ゆがあああああ!!! ばりざはうんごまりざじゃない゛いぃ゛い゛ぃ゛!!」 びゅびゅー。 「や゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! おに゛いざんや゛めろ゛お゛お゛、あんごでぢゃうでじょおおおお!!?」 「うーんこまりさは真っ黒まりさー、中身も帽子もうんこっこー」 「う゛んごじゃなあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い!!!」 それがまりさの遺言だった。 激怒とともにブシャアアアアと餡子が噴いた後は、急にまりさは空ろな顔になって、ヘタヘタと崩れてしまった。 帽子の下で、くぼんだ眼窩の中の目玉を左右別々の方向に向けたまま、「う゛ う゛ん う゛ ゆ」とつぶやいている。 どうやら、激怒により餡圧が高まりすぎて破裂した挙句、餡子欠乏に陥ったらしかった。 俺は、畳一面の餡子とガラスの破片を避けながら、雨戸をカラカラと開け、マイルドセブンエクストライトに火をつけた。 「ふぅ……」 そして、次から外で罵倒しようと心に決めた。 =============================================================================== 罵倒マジで難しいです。すぐ子供言葉になってしまう。 「機関銃のように罵声を浴びせる」ことのできる人がうらやましい。 YT 過去作品 その他 エレベーターガール そ その他 変身 そ ゆっくりいじめ系27 幻想鉄道の動物対策 虐 機 霊夢×ゆっくり系2 博麗神社の酒造り 虐 料 その他 諸君私はゆっくりが好きだ そ 美鈴×ゆっくり系2 ほんめーりん×ゆっちゅりー甘甘水責め 虐 そ その他 FireYukkuri そ ゆっくりいじめ系187 終端速度 虐 家 無 永琳×ゆっくり系11 八意永琳のアルティメット・サイエンス 虐 そ ゆっくりいじめ系264 幻想郷のみにくい生き物 虐 ゆっくりいじめ系281 冬眠ゆっくりの子守唄 そ 環 性 家 ゆっくりいじめ系312 乙女よ、森はまだ早い 虐 性 無 ゆっくりいじめ系345 ゆっくり塊魂 虐 ゆっくりいじめ系1044 ゆっくりと共同生活 虐 家 ゆっくりいじめ系1052 ゆっくりとガチバトル そ 魔理沙×ゆっくり系4 ゆっくりの身の程 ゆっくりいじめ系1285 ゆっくり夢幻 驚異のマイクロゆっくり このSSに感想を付ける
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『野良ゆっくり根絶計画』 舞台は今より百年程先の未来。ゆっくりは愛でられ食べられ虐待され捕まえられ殺され……と色々な事があったが徐々に数を増やしていった。 出鱈目な生態に生き物とは思えない成長の早さ、そして後先考えずに交尾をするのがその原因である。ゆっくりが出現した当初はペットにされることもあった。 だがゆっくりによる被害…特に畑荒らしや器物損害などが横行したため段々と人々から疎まれるようになった。メカドスやメカゆっくり、メカうーぱっく などのロボットを作り共存と監視を試みたがコストの高さやゆっくりの学習能力の無さ、そして何よりもゆっくりの個体数の把握ができていなかったことにより ロボットによるゆっくり対策は打ち切られてしまった。徐々にゆっくりを絶滅させるべきであるとの意見が多くの人間や妖怪から寄せられるようになった。 それでもゆっくりは根絶されなかった。なぜならばゆっくりの"出鱈目さ"に研究者が目をつけていたからである。特に体の構造は魅力であった。 生ごみや腐った食べ物、果ては限度はあるが食べ物ではないものまで消化し餡子やカスタードに変えてしまうのだ。 このような体の構造に目をつけた研究者は多かった。加工所もこれに目をつけ研究者に多大な資金援助を行い解明を急がせた。 多くの研究者が取り組み長い年月をかけ、ついに謎を解明することに成功した。 ゆっくりの体にある消化酵素を特定しこれを作り出すことに成功したのだ。これにより生ごみから餡子やカスタード、チョコクリームなどを精製することが可能となった。 もはやゆっくりは……不要。山でひっそりと暮らし人里に降りて破壊活動をしなかったら…ちゃんとした知能を持ち人間や妖怪と共存できていたら…… ゆっくりは抹殺されることは無かったであろう。しかし今更ゆっくりを教育することはできない。そもそも3分もすれば全てを忘れる餡子脳では教育も意味が無い。 冬になり加工所、妖怪、人間によるゆっくり根絶が行われることとなった。駆除対象はれいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種である。 ゆっくりにはまだ多数の種族が存在するがこれらの種による被害がゆっくり被害の8割を占めている。よってまずはこれらの種がターゲットとなる。 また全てのゆっくりを消滅させるわけではない。ゆっくりをペットにしたいという者もいれば虐待に使いたいと言う者もいる。 既にペットとしてパートナーとして人間と共存できている殊勝なゆっくりもいる。そこで野良ゆっくりを駆除することとなった。ペット用、虐待用などのゆっくりは以後 人工的に繁殖させ教育することで賄うこととした。野良でも見込みのあるゆっくりが繁殖用として駆除を免れることになっている…いやむしろ駆除されたほうがいいのかもしれない。 ちなみに駆除の費用は全てゆっくりを利用した胡散臭い団体の財産から賄われている。ゆっくりんピースをはじめとする環境団体…いつの時代にも偽善団体は存在する。 その実はゆっくりを保護することをアピールし少々お頭の弱い金持ちから寄付を受ける一方で裏では好き勝手やっていただけの連中である。 ゆっくりを利用した宗教団体というのも存在した。詐欺団体も存在した。こうした胡散臭い団体に一斉に捜査が入り財産は全て没収され駆除費用に充てられることとなった。 これからお送りするお話はゆっくり駆除の様子をまとめたものである。都市部編、農村部編、山間部編の3編をお楽しみください。 -都市部- 都市部では農村部や山間部ほどゆっくりは見当たらない。都市部にいるゆっくりといえばペットとして生きているゆっくりがほとんどだ。 しかしペットブームが下火になった今飼いゆっくりが捨てられ野良化しているゆっくりも多い。こうした元飼いゆっくりにはペットであることを証明するバッチが 付いたままであることがあるため駆除にあたり飼いゆっくりの判別が一新された。バッチ無し&旧バッチを付けたゆっくりが駆除の対象となるわけである。 誤解を免れるため飼いゆっくりは当分の間外に出ることが禁じられた。都市部でのゆっくり被害の多くはゴミ荒らし、家屋侵入、飼いゆっくり襲撃&レイプである。 最近では元飼いゆっくりが乞食をするようになってきた。歌を歌ってカンパを募る種も現れたが聞けたものではない。騒音といっていい。 都市部に住むゆっくりはどこに住んでいるのだろうか?一番多いのはゴミ箱の中である。外に比べれば暖かく食料の確保ができるからだ。 前々からゆっくり対策が取られてきていたがそれでもゴミ箱に住むゆっくりはいる。まずは都市部のゴミ箱が全て撤去された。コンビニや駅などからゴミ箱が消えた。 「おかしいよ…きょうはごみばこさんがどこにもなかったよ…。えささんがとれなかったよ…」 「おきゃーさん…さみゅいよ…」 このゆっくりは元飼いゆっくりの親れいむと赤まりさである。いつものように巣(ゴミ箱)から近くにあるコンビニのゴミ箱へ餌を取りに行ったがゴミ箱が無く その後も餌を求めてゴミ箱を探したのだがどこにも見当たらず巣に戻ってきたところだ。 「ごめんねえ…きょうはえささんがとれなくて…ゆううう…」 「まりしゃおにゃかへったよおおおお。さみゅいよおおお」 「おうちでゆっくりしようね…ゆ?ゆゆゆゆゆ!!!!!」 残念ながらもうおうちは無い。 「ない!ない!どうして?どぼじでおうぢがないのおおおおおお」 「さみゅいよおおおおお。うわあああああん」 その後この家族は巡回中の加工所職員によって袋に詰められ回収されていった。 「ここはあったかいね!」 「うん。ここならふゆさんをこせるね。」 「あかいおうちさんとってもとかいはだわああ」 このゆっくりは農村部から流れてきた親まりさ、子まりさ、子ありす家族である。都心部で二番目にゆっくりが住処とするところは自動販売機である。 特に自販機の裏は人気プレイスであった。なぜならとても暖かく住みやすかったからである。小型のゆっくりなら自販機の裏側に納まることができる。 裏だけではなく缶の取り出し口を寝床とするゆっくりも多かった。 都心から自販機を全て撤去する…これはいくらなんでも無理があった。そこで地道に自販機を調べゆっくりを捕獲するということになった。 「そろそろえささんをさがしにいこうね!」 「まださむいよ~。もうちょっとゆっくりした~い」 ポイッ 「ゆ!おちびちゃんあぶないからおくにかくれてね。なにかおちてきたよ」 投げられたのは煙幕である。ただの煙幕ではない。唐辛子やタマネギのエキスが混ざったものである。投げたのは駆除にやってきた加工所の職員だ。 「おがあしゃん!めがいたいよ!!」 「げほっ!げほっ!」 「げほっ!おぢびしゃんはやくごごがらででね…めがしみるよおおおお」 ゆっくり達が自販機から出てきた。 「おじざんなにずるのおお!!ここはまりざのゆっぐりぷれいすだよお!!」 「こんなごどするなんでとかいはじゃないわ!!!いしゃr…」 職員は何も答えずに黙々とゆっくりを袋に詰めていく。 「なにするの!!まりさのおちびちゃんをかえしてね!!!ゆっくりできないじじいはしね!」 親まりさが職員に体当たりをする。彼はやれやれといった顔をする。今日はこれで10回目。いい加減ストレスも溜まってくる。 「しね!しね!ゆっくりしないでしね!」 「死ぬのはてめえだ」 彼は思いっきり親まりさを蹴飛ばした。このまりさでストレスの発散をするつもりだろう。 「いたい!いだい!!やべでええええええ!!!!!!」 彼は何度も何度も親まりさを殴り続けた。餡子が口から漏れ出している。 「おでがいじまずうううう!!!!ばりざの…ばりざはどうなっでもいいでずがらおちびぢゃんだけはあ!!!!」 まりさ種に珍しく母性の強いゆっくりである。彼が今日相手したまりさ種は皆子供や姉妹をだしに逃げ出そうとしてたのに。 「ゆぎゃああああ!!!!!!」 職員はまりさを破き袋の中に入れた。だが自販機から追い出してもゆっくりはまた自販機を住処とする。いたちごっこであるがゆっくりが根絶するまでやるしかない。 「ゆゆ!からだがうごかないよ!!!どうじで!!だれがだずげでえええええ!!!」 各家庭や至る所でゴキブリホイホイならぬゆっくりホイホイが設置された。数日ごとに加工所職員が回収し新しいのを設置していった。 「ちょっとくさいけどここならあめさんにぬれないね!」 排水溝に住み着くゆっくりもいる。当然水に濡れればゆっくりは溶けてしまうが水量の少なかったり水が全く流れていない排水溝に住み着くのだ。 特に都市開発によって使われなくなった排水溝がそのまま残っているところでは多くのゆっくりが見付かった。勿論全て回収された。 念のために下水道や地下鉄の線路まで調べられた。そういったところにもゆっくりは住み着く。そこでずっとゆっくりできると信じて…。 しかし全て回収されてしまった。 「庭に穴が開いてるんですけど…ゆっくりの巣穴かしら?」 「すぐに駆除に向かいます」 「家の軒下から変な声がします」 「多分ゆっくりでしょう。駆除に向かいます」 「倉庫の中が怖くて開けられないのですが」 「至急向かいます。整理の手伝いもいたします」 戸建やマンションにもゆっくりはいる。庭や軒下、物置、車庫etc…。あるゆっくりは唐辛子入り煙幕で巣を追い出されたところを捕獲された。 あるゆっくりは巣穴にお湯をぶち込まれ巣穴から脱出する前に汁粉になった。あるゆっくりは巣穴に油を注がれたあと火を点けられ焼饅頭と化した。 「あじゅいよおおおおお!!!!おかあああさあああんん!!!!」 「だじでえええええ!!!!ごごからだじでくだざあいいいい!!!」 「ゆっぐりじだいよおおおおおお!!!!!!」 住宅街にゆっくりの叫び声が響いた。誰も助けてはくれない。駆除を始めて4日は叫び声が絶えなかった。その後はゆっくりの声を聞くことはできなくなった。 「いやだああ!!!!たすけてえええ!!!!!」 「こっちにこないでね!あっちいってね!!」 「まりさはにげるんだぜ!!!!れいむがかわりににんげんさんにつかまるといいんだぜ」 「どぼじでぞういうごどいうのおおお!!!」 「うるさいんだぜ。まりさはもtt…」 毎日毎日ゆっくりは捕獲されていった。休日ともなればボランティアも参加した。公園、川原、駅高架下…至る所で袋を持った人間がいた。 「やべでええええ!!!!れいむはゆっぐりじだいだけだよおおおお!!!!」 「あじずはわるいごどじでなああいいいい!!!!とかいはにいぎでるだけだよおおおお!!!」 原則ゆっくりは捕獲である。餡子を撒き散らされては掃除に手間がかかるからである。だが時には殺していく人もいる。 誰も何も喋ってくれなかった。たいしたことは言ってない、喋るだけ無駄。ゆっくりが何か言ったらムカムカするだけだ。その前に駆除してしまえ。 都市部に住むゆっくりは段々以前に増してゆっくりできないことに気付いていった。餡子脳でも自分達が何者かに狙われていることに気付いたのだ。 真昼間に行動するゆっくりは減っていった。駅前で下手の歌を歌ったり物乞いをするゆっくりは消えていった。 早朝、都市部のある産廃場に多くの職員と妖怪、さらに巨大な加工所特製の透明な箱を積んだ大型車が集まった。都市部で最も大掛かりな駆除は産廃場であった。 廃車にタイヤに冷蔵庫、TV…野良ゆっくりにとっては住処として充分であった。時々ゴミが崩れ落ち何組かの家族が死んでしまうこともあったが。 「ゆっくりおきるよ…きょうこそえささんをみつけるよ…」 元飼いゆっくりのれいむである。最近このれいむをはじめゆっくりは餌を見つけることが出来ない。ゴミ箱が撤収されゴミ回収が徹底されたからである。 人間に見付かれば有無を言わさず袋の中に入れられた。「ゆっくりしていってね!」と挨拶をする前に潰されるゆっくりもいた。 れいむは思う。何で最近こんなに怖くなったんだろう?何でご飯が食べられなくなったんだろう?もう5日もご飯を食べていない。何かに狙われてる気がする。 そういえば飼いゆっくりすら見なくなった。隣に住んでいたありす一家や冷蔵庫の中で暮らしていたちぇん一家が帰ってこないがきっともうゆっくりできなくなってしまったんだろう…。 「おなかすいたよ…むーしゃむーしゃしたいよ…」 れいむの足取りは重い。れいむだけではない。この産廃場にいるゆっくりはみな早朝から出かけ餌を探しに行く。しかしどのゆっくりも餌を見つけることは出来なかった。 「おなかすいたよお…」 「ぜんぜんゆっくりできないよ…ゆああああんん!!!」 産廃場からは悲しげな泣き声がする。 「ゆぅ…ゆぅ…ゆ!」 れいむは急に止まり近くにあったタイヤの中に隠れた。 「にんげんさんがいっぱいいるよ…」 この産廃場に人間がやって来るのは数年ぶりだった。れいむは思い出す…。人間さん…れいむのご主人様はお姉さんだった。 ペットショップでちゃんと躾けてもらったのにお姉さんが怒らないのをいいことに我侭ばかり言ってた。散々文句言ったっけ。 ご飯が不味いだのふかふかのベットで寝たいだの……。ある日起きたら臭い所にいた。周りはゴミだらけだった。それから散々な目に遭った。 リボンはもうボロボロだしご飯はなかなか食べられないし…こんなことになって初めて自分が間違っていたことに気付いた。 「おねえさん…れいむが…わるかったよ…」 れいむは泣いていた。 さて集まった人達はみな作業服だった。彼らはここのゴミとともにゆっくりを回収しに来たのだ。 「ゆっくりを見つけたらこちらの箱に入れてください」 「粗大ゴミはこっちのトラックに積んでください。小さ目なのはこっちのトラックです」 「ではよろしくお願いします」 彼らは作業に取り掛かった。 「ゆゆ!にんげんさん!!!ゆっくりs」 ヒョイッ 「おでがいじまずうううう。なにがたべるぼのぐd」 ヒョイッ 「にんげんさん!!あまあまty」 ヒョイッ 「はやくれいむにあまあまさんもってきてね!!ゆっくりしないではやくしてね!」 「ゆ!まりさのおちびぢゃんになにするの!!!」 「むきゅ、ばかなにんげんさんね。ぱちぇのいうことがわからないの?」 そんな声を無視し彼らは黙々と作業する。ある者はゆっくりを捕獲しある者は粗大ゴミを片付けた。 「むじじないでえええええ!!!!」 「それはちぇんのおうちだよおおおお!!!!!!わがらないよー!!!!」 「ばりざのおぢびぢゃんをがえぜええええ!!!!!!」 誰も何も喋ってくれない。数分後ようやく自分達がターゲットにされていることに気付いた。 「ゆっくりしないでここからにげるよ!!」 「りぇいみゅのおうぢがああ!」 「おうちはまたちがうところでみつけようね!!みんなおくちのなかにはいってね!」 「わからないよーわからないよー!!」 「れいむをもっていくといいんだぜ!まりさはにげるんだぜ!」 「ゆっくりしないでにげるよ!おちびちゃんのぶんまでゆっくりするよ!」 「むきゅ…ぱちぇをおいてがないでええ」 「ばりざあああ!!!!たすげでえええ!!!」 辺りはパニックになった。必死にみな逃げた。しかし産廃場の周りには網が仕掛けられており外に逃げることは出来なかった。 「だじでええええ!!!!!ごごがらだじでええ!!!」 「あじずはなんにもわるいごどじでないよおおおお!!」 「はごのながはいやああああああ!!!!!」 産廃場はゆっくりの悲鳴でいっぱいだった。中には既に諦めているゆっくりもいた。 「ゆっくりしないでころしてね…」 「いなくなっちゃったまりさのところにいかせてね…」 「おねえさん…ごめんなさい…」 あのれいむもその中の1匹であった。 数時間後産廃場は綺麗になった。ゴミも無い、ゆっくりもいない。ただの空き地になった。 袋に詰められたゆっくりは各地からゴミ焼却場に集められた。何にも利用されることは無い。焼却処分するだけである。 ゆっくりを確実に殺すことができ尚且つあまり手を汚さない方法だからだ。 「あじゅいよおおおおおおお!!!!!」 「でいぶなにもわるいごどじでないよおおおおお!!!」 「ゆっぐりできるおうだうだうがらゆるじでええええええ!!!!」 「ばりざのばがあああああ!!!!どがいにいげばだべぼのがいっばいあるっでいっだのにいいいいい!!!!!」 「らんじゃまあああ!!!!!!!」 「おにいいざあんんんん!!!!!たずげでえええ!!!!!」 「ぼうわがばばいばないがらごごがらだじでよおおおお!!!!」 焼却炉にはゆっくりの断末魔が響く。この様子を多くの人が眺めていた。 「こ…こわいよおおお」 「まりさ、ちゃんと目を開けて見るんだよ」 「でいぶ…じにだくなあいいい…」 「れいむはああはならないよ。ちゃんとしていればね」 「悪いことをしたらああなるんだよ。わかったね」 「わかりましたあああ!!!!」 「ぼうずぎぎらいじまぜん!!」 ある人は飼いゆっくりを連れ野良ゆっくりが焼かれるところを見せつけていた。 「とってもいい音色だなあ」 「録音とかしてないんすかね?」 「しかしこれで虐待が出来なくなると寂しいですね」 「ちょっとの間だけだよ。野良潰したってあの生態だ、養殖モノもすぐに発売されるさ」 「半年以内にまた虐待できるって聞いたぜ」 彼らは虐待鬼意山と呼ばれる人たちだ。ゆっくりの断末魔が延々と聞けると聞いてやって来たのだ。 焼いても焼いてもまたゆっくりが投下される。全てのゆっくりを焼却し終わるのに1週間かかった。焼却処分が終了したあと焼却場には 餡子の匂いが充満していた。とても重苦しい匂いだった。まるでゆっくりの怨念が漂っているかのように。 都市部の野良ゆっくりはほぼいなくなった。ほんの一部のゆっくりは危険を察知し農村へ逃げ出した。農村に逃げられたのはその中の一部だけだった。 だが農村でもゆっくり駆除が始まっていた。そのお話はまた次の機会に。 その後も加工所の職員やボランティアによって毎日見回りが行われ生き残ったゆっくりを回収していった。1日10匹も見付からない。 ある日突然加工所は野良ゆっくり1匹につき10万円で引き取ると発表した。人々はその高値に驚いた。しかし行動は早かった。 子供からお年寄りまで周辺を探し始めた。休日ともなるとほとんどの人がトレジャーハンターと化した。どこか探していないところは無いか? どこか穴は無いか?どこかに隙間はないか?運良く見つけたゆっくりを巡って喧嘩が起きることもあった。 ある者は空き家を見つけそこで10匹以上のゆっくりを捕獲することに成功し大儲けをした。なんだ、まだいるじゃないか。 飼いゆっくりはそんな状況をTVや噂で聞き更に人間に従順になった。捨てられたら人間に見付かった瞬間加工所行きだ。 もしかしたら飼い主がお金欲しさに自分を売ってしまうのではないか?いい子にしてなかったら加工所行きなのでは?文句を言ったら加工所行き? 朝起きたら加工所にいるのではないか?いや、もう朝が来ないのかもしれない……。 ストレスで死ぬ飼いゆっくりも現れた。飼いゆっくりはもう"ゆっくり"ではなかった。ただの喋るペットになった。 もはやゆっくりに居場所は無い。 農村部編へ続く by 虐待おにいちゃん あとがきやら加筆修正 皆様はじめまして。様々な意見や感想を頂きました。 ありがとうございます。 さて私のSSは全て同じ世界観を有しているつもりです。当初では幻想郷を舞台としてましたがその後のSSの内容や色々と矛盾が発生したことから幻想郷という設定を外しました。 といって現代社会でもありません。 ……現代社会でもなく幻想郷でもない…また別の世界です。 物凄く出鱈目で強引な設定ですがゆっくり自体が出鱈目な 生き物なので…これで許してください。 今後ともよろしくお願いします。
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※舞台は何故かゆっくりが当然のように存在している外界です。 ※オリ設定満載です。 数年前に突如現れ、急速に社会に浸透していった(ような気のする)ゆっくりと呼ばれる謎の生物。 人間の生首が膨張したような容姿のそいつらは饅頭のクセに生きていたり、どこから来たのは全く不明だったりとあまりに謎が多すぎるゆっくり達。 が、目新しいものや珍しいものを好む人々はその「ゆっくりしていってね!」とか「ゆーっ!」などと珍妙な鳴き声をあげる未知の存在をあっさりと受け入れた。 そして俺はそんな不思議に満ちた生命体の研究や飼育用の商品の開発に携わっている“ゆっくりカンパニー”のしがない一社員だ。 今日はある町の住民の知らせを受けて町の近くの山に分け入って、野生のゆっくりの駆除に向かった。 もっとも、厳密に言うと駆除というよりも間引きに近いのかもしれないが。 装備は標準的な登山グッズとゆっくりに取り付ける発信機兼集音マイクが5つ。 加えてゆっくりを眠らせるための睡眠薬入りの飴玉が50個ほど。それとちょいと大きめの饅頭がゴミ袋の中に入れられている。 「先ぱぁい、なんでこんなクソ暑い中、野生のゆっくり探しなんて・・・「仕事だからだ!」 「あと、男が「ぱぁい」とか使うな、気持ち悪い!それが許されるのは可愛らしい女の子と我らが紫社長だけだ」 不勉強な後輩の研修も兼ねて、男2人でゆっくりが住んでいると言われる山を登っていく。 もっとも、ゆっくり学はまだ始まったばかりの学問で認知度は低いし、ゆっくりカンパニーの社員の8割は美人社長目当てなので野生種の保護の必要性が理解できなくても仕方ない。 だから不勉強を咎めるつもりはないが、近隣住民から集めた目撃情報をもとにゆっくり達の出没箇所をマークした地図と睨めっこしながら俺はため息をついた。 咎めるつもりはなくてもいちいち説明するのを煩わしいと思ってしまうのはどうしようもない。 「はあ、仕方ない・・・ゆっくりはな一定数以上になると何故か突然増長するんだよ。で、人間の町に下りて来る」 「で、ゆっくりによる被害がでるんですね?」 「そうだ、ゆっくりの死体が転がって町が汚れる。だからこういう知らせを受けたときにはゆっくりを保護するんだよ」 「保護?ゆっくりンピースにでも預けるんですか?」 「馬鹿言え。餡子が新鮮な赤ゆっくりは持ち帰る。にんっしんゆっくりも研究用に持ち帰る。特殊な個体は持ち帰る。他の連中は必要なら速殺す」 「速殺す?」 「・・・お前、ちょっとは自分で勉強しろよな。・・・・・・っと、ゆっくり発見」 その言葉を合図に、俺と後輩は身を低くして草むらの中に隠れた。 俺達の前を通り過ぎるゆっくりの一団の数は4匹。内訳はまりさ、れいむ、ありす、ぱちゅりーとなっている。 全員が比較的多量の食料を咥えており、またみんな満面の笑みを浮かべていた。 「ねえ、まりさ!むれもだいぶおおきくなったね!」 「むきゅ!これもまりさのかりすまのおかげよ!」 「ゆ!あたりまえだぜ!」 「でも、そろそろあのおうちじゃせまくなってきたわよ!もっととかいはなおうちをみつけないと!」 赤ん坊はピンポン玉、子どもは野球のボール、成体はバレーボールサイズが一般的だ。この4匹は全員バレーボールサイズ、つまり成体である。 その一団が目の前を通り過ぎていったのを確認すると、木陰に隠れながら追跡を開始した。 「追うぞ」 「りょーかい。しかしあの饅頭鈍くさいっすねぇ・・・」 「まあ、時速900mだからな・・・」 大抵の生き物の歩行は一歩目のエネルギーの何割かを二歩目に利用するが、ゆっくりの場合一部の種を除いてそれを一切しない。 そのせいで恐ろしく無駄と負担が多いのだ。余談だが、這って移動する場合は時速200mというカタツムリ級の鈍足だ。いや、体の大きさを考えるとそれ以下か。 が、そんなことを愚痴っても仕方がないので、それ以上は何も言わずに淡々と4匹を追いかけていった。 その4匹を追いかけていった先にはゆっくりの集落があった。 さっきの4匹を除くと、目に付く限りでは赤ん坊が9匹、子どもが10匹、成体が11匹の計30匹。 そして、成体のうち4匹が植物型のにんっしんをしていた。 植物型出産はにんっしんから僅か3日で出産を向かえ、生まれる子どもの数は1回につき大体10匹前後。 あれら全てが生まれればこの群れの人口は50匹を軽く超える。そうなれば変な自信をつけて人里に下りてくる可能性が十分にあった。 「先輩、あいつら集まって何してるんですかね?」 「聞いてりゃ分かる。少し静かにしてろ」 出来の悪い後輩を睨みながらも、俺はゆっくり達の言葉に耳を傾ける。 群れの中心にいるのはさっきの4匹。その中でもリーダーはまりさのようだ。 「むきゅ、みんなゆっくりはなしをきいてね!」 4匹を取り囲んで、がやがやと騒がしくしていた群れのメンバーがぱちゅりーの鶴の一声で静まり返った。 そして、その静寂の中、まりさが(ゆっくりにしては)重々しく口を開く。 「みんな!いまにんっしんしているこがうまれたらここではたべものをあつめきれなくなっちゃうよ!」 いまいちことの深刻さを理解できていない赤ゆっくりは「ゆぅ?」と首をかしげているが、他のゆっくりたちは固唾を呑んでまりさを見つめる。 「だから、あかちゃんたちがうまれたらにんげんのまちをゆっくりぷれいすにするよ!」 「「「みんなふあんかもしれないけど、これだけのなかまがいればだいじょうぶだよ!」」」 「「「「「「「にんげんのまちならもっとゆっくりできるね!!!」」」」」」 恐るべき集団心理。もしくは無知の幸福とでも言うべきか? まりさの宣言を聞いたゆっくりたちはにわかに活気付き、口々に人間の町を手に入れた後のことを話し始めた。 「あんな事言ってますよ?」 「仕方ないさ。野生のゆっくりには人間もいちいち干渉しないし、不味いから他の生き物に食われることも少ない」 「ああ、要するに怖いもの知らずなんですね」 まりさたちの言葉に苦笑する俺と後輩。しかし、この群れが人里に出ようと考える規模になっているならさっさと用事を済ませなければならない。 俺は段取りを考えてから、リュックに入れておいた睡眠薬入りの飴玉を取り出し、後輩にも目配せで自分に続くように促した。 「そういうことだ。それよりも・・・さっさと済ませるぞ」 「りょーかい」 指示と同時に、円陣を組んでいる群れの中に50個の飴玉を景気良くいっぺんに放り投げた。 「ゆ!なにこれ!?」 「いだい!いだいよ!」 「ゆっきゅりーーー!!」 「いったいなんなんだぜ!?」 「むきゅうーーー!!」 突然の飴の雨に群れは瞬く間に混乱に陥った。 ゆっくりの脆い体にとって飴は相当の硬さを誇るもの。 それらが50個もいっせいに降り注げば当たって怪我するものだっているし、考えなしに飛び跳ねて踏んで転ぶものもいるだろう。 が、群れの中に1匹だけ飴を知っているものが居たらしい。 「ゆゆっ!これはあめだわ!あまくておいしいとかいはなものよ!」 その一言で場の混乱が恐怖から食欲によるものにすり替わった。 「あまいのはぜんぶまりさのものだぜ!」 「ゆー!ゆー!」 「でいぶもあばいのほぢいよおおお!!」 「むきゅー!あまいものはかしこいぱちゅりーのものよ!」 全員の頭数より飴のほうが多いにもかかわらず群れは言い争いを始めてしまった。 さっきまでの結束力は一体なんだったんだか。 「ゆ!ゆっくりしていってね!!!!」 「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!」」」」」」」」」」」 そんな混乱のさなかに響き渡ったのはリーダーまりさの怒声。 本能に刷り込まれたその言葉は一瞬ながらも間違いなく全員の興奮と熱狂を鎮めた。 「みんな!いまはけんかしてるばあいじゃないでしょ!」 「「「そうだよ!まりさのいうとおりだよ!」」」 まりさと、それに続く参謀格のゆっくり達の叱責。 実は混乱の火付け役になったのは参謀格のありすだったりするのだが、そんな事は誰も気にしていない。 「みんな、あめはひとりひとつずつだよ!わかったね!」 有無を言わさぬリーダーまりさの剣幕によって、ゆっくりたちは完全に冷静さを取り戻した。 ・・・しかし、誰も飴が降ってきたことに疑問を持たないのはさすが餡子脳と言ったところ。 「む~しゃむ~しゃ、しあわ・・・ゆぅ・・・ゆぅ・・・」 「早っ!?」 「突っ込むな。起きたらどうするんだよ?」 睡眠薬入りの飴を食べたゆっくりたちはあっという間に眠りについた。 しかも、まりさが音頭をとっていっせいに食べたためものの見事に全員が一斉に。 「で、先輩。結局何を回収するんですか?」 「ゆっくりの頭の茎とにんっしんゆっくり。それと・・・リーダーまりさもだ。それが済んだら参謀3匹と適当な大人に発信機をつける」 「りょーかい」 後輩はポケットからナイフを取り出すと、茎を生やしている1匹のれいむに近づき、少しだけ茎の根元の皮を抉った。 茎にはようやく種族の区別がつくようになってきた赤ちゃんが12匹ほど成っている。どうやらパートナーはぱちゅりーだったらしい。 まだ成体になり立てと思しき若い母は幸せそうに「あかちゃ~ん」などと寝言で呟いている。 その言葉にしかめっ面をしながらも後輩は茎をきれいに引き抜くと、ゴミ袋の中の饅頭にそれを突っ込んだ。 「あんまり気分の良い仕事じゃないっすね・・・」 「仕方ないさ。本当はもっと頭数を減らしたいところなんだが、それをしないのが俺たちが出来る最大限の譲歩だろ?」 そう言いながら、俺はゆっくり達も気付いていない初期段階にんっしんのゆっくりを3匹ほどゴミ袋の中に放り込んだ。 「ん~、先輩って案外ドライなんですね」 「仕事だからな」 後輩の無駄話に付き合いながらもリーダーまりさを回収する。って、こいつも何気ににんっしんしてるじゃないか。 「ふ~ん・・・でも、先輩ゆっくり飼ってませんでしたっけ?」 「こいつらは俺のペットじゃないし、そもそもそれとこれとは話が別だろ?」 それから、参謀格の3匹と、比較的大きな成体の頭の飾りに発信機を装着した。 「よし、作業完了。ちょっと様子を見てからずらかるぞ」 「・・・ずらかるって、なんか悪党みたいっすよ?」 律儀に突っ込んできた後輩にローキックを入れつつ、ゴミ袋に放り込んだゆっくりの口に散乱していた飴を放り込んでから再びさっきの木陰に隠れた。 「ゆ!みんな、おはよう!ゆっくりしていってね!」 一番最初に目を覚ましたのは参謀格のれいむ。 「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!!」」」」」」」 その言葉に反応して他のゆっくり達もいっせいに目を覚ました。 「「ゆゆっ!まりさがいないよ!」」 「「「ゆっきゅち~・・・!」」」 「ゆぅうううう~・・・おか~しゃん、どこ~?!」 「おねーちゃん!あかちゃんたちが!?」 「ゆ?ゆゆゆっ!?でいぶのあがぢゃんがあああああああああ!!」 目を覚ましたゆっくり達を待ち受けていたのはリーダーや仲間と可愛い赤ちゃん達の失踪だった。 そして、その場にいる全員が好き勝手に各々の大事なものを探し始める。 全くの無秩序。ぱちゅりーが必死に「むきゅ!みんな、まずはだれがいないかかくにんよ!」と真っ当なことを言っているが、誰の耳にも届いていない。 しかも、他の参謀格2匹さえも他のゆっくりに混ざって必死にまりさを探している始末だ。 「まりさああああ!どごなのおおおお!」 「おがーぢゃあああああああああん!」 「「「「ゆっきゅち~!」」」」 「まりざのあがっぢゃんがあああああああああああ!!」 群れが混乱しきっている様子を見届けると、俺たちは足早にその場を後にした。 上司に報告を済ませた俺はさっさと自分の担当する実験に取り掛かる。 今回の実験は植物型と胎生型の出産に関するもので、ゆっくりにとって有害なものを検証するために行われるそうだ。 実験方法は至って簡単。茎を挿した饅頭に無駄に強力な農薬を大量に混入したり、栄養が届きにくいように茎を傷つけたり、水分や糖分を異様に多くしたりする。 もしくは母体に定期的に肉体的または精神的苦痛を与えてストレスを加えたり、毒も同然のものを食べさせたり、栄養を過剰摂取させたりする。 今回の実験に使用するゆっくりは先ほど回収した茎4本とにんっしんゆっくり4匹だ。それぞれにA~Dのアルファベットをつける。 茎Aは非常に整った環境で、非常にバランスの良い栄養配分の饅頭に挿した。 そして、この茎からは当然のように非常に健康的な赤ちゃんが生まれた。 れいむ種6匹とぱちゅりー種5匹。不運にもぱちゅりー種が1匹だけ死産してしまったが、それ以外はみんな非常に元気な、ゆっくり風に言うならばゆっくりした赤ちゃんだ。 俺がその赤ちゃんの入っているケージの蓋を開いて様子を伺うと、その気配に気付いた1匹のれいむが満面の笑みを浮かべた。 「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」 「「「「「「「「「「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」」」」」」」」」」 「ああ、ゆっくりしていくよ」 そんな赤ん坊達のケージの中にゆっくりカンパニー製ベビー用ゆっくりフードを入れてから蓋を閉じた。 「11匹か。それだけいりゃ次の実験の経費が節約できるな」 俺の傍らで、同僚がそんなことを呟くのが聞こえたが、無視して、中の赤ん坊達の様子を伺う。 「ゆ~・・・」 「ゆゆゆ~」 「ゆぅ!」 体の弱いぱちゅりーはみんな大人しくしていた。 ひとりお昼寝をするものもいれば、仲間同士で話しをするものもいた。 「「ゆっきゅちー!」」 「ゆっ!ゆっ!」 一方のれいむ達は元気に跳ね回りあるものは仲間とじゃれあい、あるものは仲良く歌を歌っている。 仲間と一緒にいることが当然になる前に別のケージに移すのが実験用ゆっくりの扱いのセオリーだ。 しかし、孤独にどう向き合うかを研究するのなら、こいつらはもう少しだけみんなで一緒に居させても良いんじゃないだろうか? 茎Bは一部を抉ってから包帯で固定して再生しないようにした状態で饅頭に挿した。 この茎からは意外なことに面白い結果が出た。 健康な個体は3匹で、その内訳はまりさ2匹にありすが1匹。未熟児が4匹は双方が2匹ずつ。そして個体識別不可能なものが2匹。 ここまでは予想通りの結果だった。全員の栄養が不足するのか、栄養が一部の個体に偏るのか・・・予想されていた結果通りのものだったといえる。 未熟児は殆ど喋らないし動かない。個体識別不能なものはすぐに死んだ。しかし、面白いのは健康な個体の行動だ。 ケージの蓋を開けて餌をばら撒いてやると、未熟児として産まれたもののために餌を噛み千切って口移しで与えてやっていた。 「ゆ、ゆっきゅちー!」 「ゅぅ・・・ゅぅ・・・」 未熟児サイズのゆっくりは非常に小さくビー玉ほどの大きさしかないため、ベビー用のゆっくりフードでさえ食べられないのだ。 しかし、生まれたてのゆっくりに自分より弱い個体を助けるなんて概念があるとは思わなかった。 とは言え、餌を与える側も所詮は赤ん坊。しかも、未熟児よりも頭数が少ないのだ。 やがてまりさ種の1匹が未熟児のために餌を千切ってあげるのを放棄し、もう1匹のまりさもそれに追従した。 「ゆ!ゆぅぅ~・・・」 「「ゅぅ・・・」」 「「ゅ・・・ゅゅ・・・」」 それでもしばらくはありす種が1匹で世話を続けていたが、やがて弱っている個体を切り捨て、最後にはありすも未熟児の世話を放棄した。 茎Cは大量の農薬を混入した饅頭に挿した。 子供が産まれたその日、ケージの中は魔境と化していた。そこに居たのは9匹の異形。 あるれいむは足が半透明のゲル上になってしまっていた。これでは歩くこともままならない。 あるまりさは目が顔の中心に1つしかなかった。そして、その目は何も映さなかった。 あるまりさは口がなかった。成長を見守るためにチューブをつないで生きながらえさせたが、野生ならばすでに死んでいただろう。 あるまりさは「ゆっくり」と言うことができなかった。口を開けば「qs、dんぢmgy、、wddg」と聞き取ることの出来ない訳の分からない音声を発するだけだった。 あるれいむは目が顔の横についていた。正面から見ればのっぺらぼうのその子は正面を視野に納めることが出来ないのでまっすぐ歩くことが出来なかった。 あるれいむは背中にも顔がついていた。だからと言って何があるわけでもないが実に不気味だった。 あるまりさは体が柔らか過ぎて大福としての形を保てなかった。まるで子供のころに作ったスライムのようだ。 あるれいむは体が異様に硬かった。そのせいで歩くことはおろか体を上下させることもままならず、口も殆ど動かなかった。 あるれいむは口が異常に大きかった。そして口以外のものがなかった。口だけの饅頭が狂ったように「ゆっくり」を連呼していた。 目の見えるものは他の姉妹の姿に怯えていた。でも、自分も似たようなものだと言うことには気付こうとしない。 「ゆ!ゆっきゅちー!ゆー!」 「ゆっきゅり!ゆっきゅり!ゆっきゅり!ゆっきゅり!」 顔2つの赤れいむが狂ったように口だけのれいむに体当たりをしている。 きっと、その化け物を追い払おうとしているのだろう。でも、傍目にはどっちも化け物だった。 どれもまともに育つ可能性があるとは思えないが、奇形の生存可能性を検証するのも研究になるだろうか、と思った。 茎Dは塩分を過剰に投入した饅頭に挿した。 産まれた子どもの大半は形はまともだった。そして、死産したのは4匹だけ。 10匹中6匹が何とか誕生したというこの結果には俺以外の研究員も驚きを隠せなかった。 もっとも、まともだったのは形だけだが。 まずゆっくりの形をした6つの饅頭は言語中枢が完全に狂ってしまっていたいた。 口を開けば聞こえてくるのは薄気味悪いノイズ。 「「「、。jsbん。、fdghrdmじdsんmdms」」」 「xcんm、。zx、smyんfjwめ、」 「「えgkdtcjrcldtr、いcvf」」 そして、1匹たりともゆっくりらしい心を持ったものが居なかった。 あるありすは生まれたてであるにも関わらず日長一日壁に体をこすり付けて自慰行為にふけっていた。 あるぱちゅりーは眠ることをせず、食事の時さえもずっと言葉にならない何かを発し続けていた。 あるありすはいつも何かに怯えてがたがたと震えていた。そして、近づいた姉妹を片っ端から攻撃していた。 あるぱちゅりーは何かにつけて姉妹を食べようと後ろから襲い掛かっては追い払われて、「むきゅ!」と悲鳴を上げていた。 あるありすは突然泣いたり、怒ったように頬を膨らましたり、酷く情緒不安定だった。 あるありすは自分のことをぱちゅりーだと信じ込んでいた。こんな狂った家族の中では誰も間違いを指摘してくれなかった。 俺は今度は糖分や水分だとどういう結果が得られのかも検証する必要があるな、と酷く覚めた目でその様子を眺めていた。 母体Aは広い部屋の中で普通の餌を食べながら生活してもらった。 産まれた3匹の子どもはどれもちゃんと子供サイズ近くまで大きくなっていて、みんな非常に元気だった。 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりちていってね!」」」 俺がケージを覗くと、母れいむは満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。 「ねえ!みてよ、おにーさん!れいむのあかちゃんだよ!とってもゆっくりしたこだよ!」 「ああ、そうだな。ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりちていってね!」」」 あの日、回収したゆっくり達は「野犬に襲われているのを助けた。見つけたときには君だけだった」と言ったらそれを簡単に信じて、俺になついた。 「よし、それじゃあ、赤ちゃんたちにお兄さんから美味しいお菓子をあげよう!」 「ゆ!ほんとうに!」 「ああ、本当だよ。でも、ここじゃ食べられないから、ちょっとケージから出てもらうよ」 「「「ゆ~!ゆっくちたべるよ!」」」 そういって俺が赤ちゃんを連れて行くのを、母れいむはニコニコと微笑みながら見守っていた。 そして、このれいむが赤ちゃんと会うことは二度となかった。 母体Bは口の部分だけ開いている透明な箱の中で普通の餌を食べながら生活してもらった。 この母ぱちゅりーの子どもは1匹しか生まれなかったが2匹生まれたとも言える状態だった。 いわゆるシャム双生児のようなものだろうか。その赤ちゃんは体と口の横幅が異様に大きく、目が3つあった。 そして、髪の毛は真ん中の目を境に右側がまりさ種のもので左側がぱちゅりー種のものになっていた。 「「ゆっくりしていってね!」」 2つの種の声が同時に聞こえてくる。声帯も少しおかしなことになっているのだろう。 それは、箱によって圧迫され、赤ちゃんがそれ以上大きくなる余地が残されていなかったために起きたものだった。 「やあ、ぱちゅりー。赤ちゃんはどうしたんだい?」 出産時には箱から出さねばならないので、当然俺は出産に立ち会っている。 「むきゅ、おにーさん!ぱちぇのあかちゃんはまだぽんぽんのなかよ!」 そして、中にこれ以上赤ちゃんが居ないこともしっかり確認している。 しかし、ぱちゅりーは中にまだ赤ちゃんが居ると思っている。 それは体も心も弱いぱちゅりーにとって独りっきりになってしまった上に普通の赤ちゃんを産めなかった絶望から身を守るための手段だった。 そう、この奇形の赤ん坊は母親に見捨てられてしまったのだ。 ケージを閉じたところで、後輩が「そいつ、最近箱から出せって言いませんね?」と尋ねてきた。 「箱から出たら気味の悪い赤ちゃんに触られるかもしれないからだろ?」 とりあえず、苦笑交じりにそう返しておいた。 母体Cは遠隔発火のライターを内蔵し、定期的に痛い目にあってもらった。 唐突の訪れる痛みにいつも怯え続けて眠ることもままならなかった元リーダーまりさも子どもは、全員異様に小さかった。 「「「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」」」 「ゆっくりしていってね!」 茎から生まれるタイプと大差ない大きさながら元気いっぱいに鳴く赤ちゃんたちに疲れきった表情で微笑むまりさ。 とは言え、全員これと言った異常もなく出産できたことを考えるとゆっくりはストレスに強いと見てよさそうだ。 多分、餡子脳だからだろう。 「ゆ~!」 「ゆっ!ゆっ!」 「ゆ~ゆ~ゆ~♪」 ケージの蓋を開けて、子どもたちが遊んでいる姿を眺めているまりさに話しかける。 「やあ、まりさ」 「ゆ!おにーさん!」 「とってもゆっくりした子だね!」 俺のその言葉を聞くと、まりさは少しだけ踏ん反りかえって、嬉しそうに笑う。 「まりさ、がんばったよ!」 「そうか。お疲れ様」 「おにーさん、ありがとう!」 その言葉に少し良心が痛んだが、すぐに思考を仕事優先に切り替える。 「まりさの子どもに美味しいお菓子をあげたいんだけど、ここじゃ食べられないんだ。だから少しだけ連れて行って良いかな?」 「ゆ!おにーさんならいいよ!でも、すぐにつれてかえってきてね!」 「分かってるよ。さ、おちびちゃんたち?おにーさんと一緒にゆっくりお菓子を食べに行こうか」 母親同様に俺のことを信頼しきっている赤ん坊たちは、何の疑いもなく手の上に乗ってきた。 「悪いけどまりさの分はないから、ここでゆっくり待っててくれ?」 「ゆゆっ!わかったよ!ゆっくりまってるよ!」 そうして、この元リーダーまりさは永遠にゆっくりと赤ちゃんの帰還を待ち続けた。 母体Dは廃油や産廃同然のものを餌にして生活してもらった。 しかし、茎Cと全く変わらない結果にうんざりさせられるだけだった。 予想通りの上に、頭数が少なく新鮮味もないこの結果を記録する気にもなれなかった。 ---あとがき--- スレに書き込めねえよ、ちくせう。 奇形を産ませておいてつまらない結果にうんざりってのは虐待お兄さん以上にアレだと思う。 普段は基本的に優しくても仕事のときは一片の慈悲もなし。まさに、冷徹お兄さんですよ。 そんなこんなで、現代ゆっくりシリーズの3作目です。 野良ゆっくりとその末路の一部を書いたつもりですが・・・あー、文章力が欲しいorz byゆっくりボールマン このSSに感想を付ける
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「うー♪うー♪うま♪うま♪」 「ゆ゛っぐい゛、ざぜでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」 「お゛があ゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!」 今まさにゆっくり親子が、ゆっくり食種であるゆっくりれみりゃに食べられていた。 頭に食らいつき、口の周りを汚し周囲を散らかしながらそれは下品に貪り食われていた。 「おいちー♪」 「ゆ゛っ……ゆ゛っ……」 「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!おがあ゛ざんをがえじでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」 食われて意識を失っていく母ゆっくりを、逃げる事すら考えられずにただ眺め続ける子ゆっくり。 そんな食物連鎖の場に、新たな闖入者が現れた。 食物連鎖のピラミッドにおいて、ゆっくりれみりゃの更に上に位置するゆっくり。 ゆっくりフランである。 「ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」 上空2メートルから急降下して、ゆっくりれみりゃに気付かれる間もなく、 ゆっくりれみりゃの手から食いかけの母ゆっくりれいむを手ごと奪い取り、近くの木に叩き付ける。 「う゛あ゛ー!い゛だい゛よ゛ー!!ざぐや゛ー!!ざぐや゛ー!!」 「ぎゃはははははははははははは!!ゆっくりしね♪ゆっくりしね♪」 手と食事を闖入者に奪われて、地面に足を投げ出して号泣するゆっくりれみりゃ。 ちなみに「ざぐや゛」とはゆっくりれみりゃが何か都合の悪い出来事に遭遇した際に上げる鳴き声である。 何かしら意味があると考える者も居るが、特に何の意味も無いとする意見が大半を占める。 先程までただ母親が食われる様子を眺めるだけだった子ゆっくりは、 「おかあさーん!!おねえちゃんたすけてくれてありがとう!!」 と、母親にトドメを刺した者に対して暢気に礼を言っていた。これにはゆっくりフランも苦笑い。 子ゆっくりれいむを優しく抱き上げ、目の前に掲げる。 「ゆっゆっ!だっこだっこー!!たかいよたかいよ!!ゆっくりできるよ!!」 もう既に母親は助かったものとして忘れているらしい。ゆっくりの中でも稀に見る愚鈍さである。 そんな愚鈍をとりあえず泣き喚くゆっくりれみりゃに向けて投げつけるゆっくりフラン。 「びゅっ!!」 「い゛だい゛よ゛ー!う゛ー!い゛じめ゛る゛ど、ざぐや゛に゛い゛い゛づげぢゃう゛ぞー!!」 べそをかきながらもたもた立ち上がって威嚇するゆっくりれみりゃ。 涙と涎で顔と胴体がべしゃべしゃなので、迫力は全く無い。一方子ゆっくりれいむは地面で泣き喚いていた。 「どお゛ぢでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛ね゛え゛ざん!!ゆ゛っぐい゛ざぜでぐえ゛る゛んでじょお゛お゛お゛お゛!!!」 どうやら子ゆっくりれいむのブレインは、ゆっくりフランは自分にとって都合のいい存在であると結論付けているらしい。 そんな子ゆっくりれいむを拾い上げ、再び大きく振りかぶって…… 「ゆっくりとんでけ!!」 ゆっくりれみりゃに向けて全力投ゆっくり。顔面にめり込ませた。 「ん゛ー!!ん゛ー!!」 「ゆっくりさせてええええええよおおおおおおおお!!!ここからだしでよおおおおおおおお!!!」 「ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 偶々顔が外向きになった子ゆっくりれいむは物凄い声で泣き叫ぶ。 ゆっくりフランはそんな間抜けな二匹を見て腹を抱えて笑い転げている。 「ゆっくりしね♪!!」 いたぶるのも気が済んだのか、めり込んだ子ゆっくりごとゆっくりれみりゃの顔に噛り付くゆっくりフラン。 食われ所が悪かったのか、二匹とも声も出せずに絶命した。 後は特に何も起こらない。ただ時々笑い声を上げながら残骸を食らい尽くすゆっくりフランが居るだけだった。 ゆっくりれみりゃを食べつくして満腹になったゆっくりフランの元に、一人の少女が現れた。 どうやら夜の散歩の途中だったようだ。 「あら、これはゆっくりフラン…珍しいなぁこんな所にいるなんて」 少女に気付くいたゆっくりフランは、あろう事か牙をむき出しにして飛び掛った。狙いは少女の首! 「ゆっくりしねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「ほっ」 一直線に首に向かって飛び掛ってきたゆっくりフランを事も無く叩き落す少女。 ゆっくりフランは地面にめり込んで伸びている。 「へぇ…ゆっくりフランってゆっくり以外にも襲い掛かるんだ。やっぱり根本的におバカなんだなぁ」 そんな感想を吐きながらゆっくりフランの羽を持って自宅へ持ち帰る少女。 「丁度先代のコキンが死んじゃった所だし……これを29代目コキンにしようっと」 チャイナ服の裾を靡かせて颯爽と紅魔館の宿舎に帰る門番・紅美鈴。 ちらりと見える生脚が月光を浴びて美しく輝き、世の男達の煩悩をこれでもかと刺激しまくっていた。 「ぐう…?ゆ、ゆっぐり!!?」 「ああ起きた?おはようコキン29世。よく眠れた?」 ゆっくりフランことコキン=トウ29世ことコキンが目を覚ましたのは、美鈴がコキンを自室に持ち帰ってすぐだった。 「ゆ、ゆっくりしね!!」 起きてすぐ美鈴に飛び掛るコキン。だが美鈴にゆっくりフランに過ぎないコキンが敵う筈も無く、 「えい」 あっさりと蹴り飛ばされた。蹴られる瞬間コキンは一瞬この世の至宝を視界に捉えたが、コキンにとってはどうでもいいものだった。 「ぐぐぐぐぐ……」 壁に打ち付けた後頭部を押さえて悶絶するコキン。よく見れば後頭部が平らになっているのが分かる。 「大丈夫よ。あんたたちゆっくりフランはその程度じゃ死にやしないから。すぐ直るよ」 「ぐー?」 美鈴を涙目のまま見上げて首を傾げるコキン。何故、自分を殺さないのか。そんな事を言いたげだ。 そんな涙目コキンにギュンギュンきている美鈴だったが、そんな事は顔の血色以外には表わす事も無く、 「あんたは私のペットになったのよ。あんたの名前は今日からコキン=トウ29世。通称コキン」 「ぐおー!!ゆっくりしね!!」 どうや某共和国国家主席から戴いた名は全くお気に召さなかったようである。 物凄い形相で美鈴に飛び掛った。今なら顔だけでどんな愚鈍なゆっくりでもショック死させられる。 「そうそうもっと刃向かってね」 言いながらコキンの両目に指を突き立てる美鈴。指が根元まで刺さってしまっている。 「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!め゛!!めがあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 指にぶら下がったままで狂ったように暴れまわすコキン。動けば動く程痛いという事にパニックで気付いていない。 「ほーれほれ。ここかーここがええのんかーなんちゃって」 「ぎい゛ぃい゛い゛ぃぃぃっぃい゛ぃぃぃぃっ!!!ごああぁあぁぁあぁあっぁぁあぁぁぁ!!!」 美鈴が指を曲げ伸ばしする度に、顔の中身を掻き回されて大暴れするコキン。 見えないままで美鈴の手を掴み、顔を引き抜こうとする。だが、 「あぁ駄目よ抜いちゃあ。まだまだお楽しみはこれからでしょう?」 ブツッ 「っっっっいぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 美鈴の手を掴んだ両手をむしり取られたコキン。 その間も美鈴の指はかのゴールドフィンガーばりに中を掻き回し、この世の物とは思えない絶叫を上げる。 「ふふふふ、元気で何より。あぁたまらん。どうせ見えてないし、今日はこのまましちゃおうかなっ」 「ぐっ!ぼぉえ゛っ!!ぉえ゛っ!!え゛っえ゛っ!!ごはっ!!」 あまりの苦痛に吐き気を催したのか、激しくえずくゆっくりフランを恍惚とした顔で眺めながら、 美鈴は左手をそっと動かし、 【これ以上は色々危険なので美鈴の描写はあえて行わない。想像力を逞しくすれば必ず見える筈である。】 刺している指を今度は左右交互にゆっくりと出し入れされるコキン。 指が抜けたスペース分はすぐさま回復し、再び指で抉られるという苦痛のループに耐え切れず失神してしまう。 が、気を操る美鈴にかかれば失神した者を起こす事など朝飯前である。 頭の中に直に電流を流されたかのような痛みに全身を痙攣させて起きる。 「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「そうそう。そうやっていい声でもっと私を愉しませてねっ……」 何としてもこの地獄から抜け出そうと、羽で全身のバランスをとって美鈴の右手を掴んで脱出を試みる。 が、だめっ……! 両脚を薬指と小指と親指で器用に掴まれ圧搾される。中の肉がうじゅうじゅと動く感触に身震いする美鈴。 「ッがあああああああああのおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!」 再生してきた両手で懸命に両脚の拘束を解こうとするコキン。 その生えたてほやほやの両手は美鈴の足の指でがっちりホールドされ、今度は肩から引きちぎられた。 「~~~~~~ッッッ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 傷口からぶしゅぶしゅと肉汁と餡をこぼしながら全身を激しく揺さぶるコキン。 その拍子に両脚も膝からちぎれてしまった。 「う゛ぇお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 ぼたぼたと床に染みが広がり、部屋中にすえた香りと肉の芳醇な香りが漂う。 残った膝までの脚と羽をこれでもかと暴れさせて苦しみ、もがき、泣き、叫ぶコキンの狂乱は、 見る者をこの上ない高みへと連れて行った。 「全くあんなに汚しちゃって。悪い子だね今度のコキンは」 「い゛っっっぎい゛ぃぃ!!」 部屋を掃除し終えてからぼやきつつコキンの両羽を根元からもぎ取る美鈴。 その、ゆっくりにしてはかなり硬質な羽を無造作にコキンの両手の平に突き刺す。 「がっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!はっ!!はな゛ぜっえ゛っえ゛っえ゛え゛え゛!!」 直った両目にこの上ない憎悪を漲らせて美鈴を睨みつけるコキンを、 壁にかけられたコルクボードに串刺しにする。 無数にある餡や肉汁を拭き取った跡がコキンを恐怖させる。 磔刑にされたコキンは、両手を何とか引き剥がそうとするが、手が羽の軸をスライドしただけだった。 やがて背中の羽が再生し、再びそれを根元からもぎ、今度はそれを両脚の甲に刺して串刺す。 「ゆぐあ゛っ!!お゛、お゛ろ゛ぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」 「駄目よコキン。そこがコキンのお家なんだから。我が家に帰ってきたんだから、ゆっくりできるでしょう?」 どんな男も一撃で失明させられる程眩しい笑顔で言い放つ美鈴。 その言葉で、コキンの顔は完全に色を失った。それでも痛みは感じるらしく。 頬を千切って食べられた時には全身を激しく揺さぶってもがき叫んだ。真下の床には早くも大きな肉汁の染みができている。 「じゃ、私は明日も仕事があるから寝るわよ。ほら、今日の夕食。これ食べてあんたも寝なさい」 「や゛め゛でや゛め゛でや゛め゛で!!たべな゛い゛でよ゛お゛お゛お゛お゛!!!」 頬に開けられた穴からゆっくりまりさの子供が押し込められる。どうやら部屋で飼育しているものらしい。 痛みをこらえながらゆっくりと咀嚼するコキンの姿は、常の凶暴さを微塵も感じさせなかった。 しばらくの間部屋に食われる餌の絶叫だけが響く。 「ごちそうさまは?」 「ご、ごぢぞう……さま゛」 「よくできました。じゃおやすみなさいコキン」 「はい゛……おやずびなざい゛」 翌朝 美鈴が目を覚まして壁に目をやると、コルクボードに大きな肉汁の染みが広がっていた。 何事かと思い近付いて確認すると、コキンの首から上が完全に潰れており、既に絶命していた。 よく見ると両手と両足が羽軸の中ほどにまで移動している。 どうやら、痛みをこらえてここまで体を壁から離し、全力でコルクボードに頭突きして自害したものと思われる。 何度も何度も試したのか、コルクボードには百以上の窪みがある。 「そうかぁ……ゆっくりも自殺する事なんて、あるんだぁ……ふふ、ふふふふ」 美鈴はそれらの事実に気付くと、顔に満面の笑みを浮かべた。 「そっかそっか。私の攻めはそこまで良かったのかぁ……ふ、ふふふっ」 全身を笑いで揺すりながらコキンの死体を持って餌用ゆっくりの檻に放り込む。 ゆっくり達が普段以上に怯えた様子で美鈴を見ている。 「それにしても、まさか自殺するなんて……ゆっくりフランは初めてだったけど、まさかこんな事をするとは…… これは面白い事実ね。最も凶暴な捕食種が一晩いたぶられたら自殺。ふふっ何この皮肉。面白すぎるわ。ふふふふ」 檻の中のゆっくり達が美鈴の様子を伺いながら恐る恐る食事している間中、部屋に不気味な笑い声は響き続けた。 「んーっ、さてと!じゃあ今日もお仕事頑張りますか!」 掃除を終えて着替え終わる頃にはいつもの門番さんが出来上がっていた。 その豹変ぶりもまた、檻の中のゆっくり達の恐怖を煽っていた。 部屋を出る間際、おやつ用のゆっくりを無造作に胸元にしまい込む。 世の男性からすれば羨ましいが、そのゆっくりにしてみれば今日食われる事が確定した事になる。 「ゆ゛っぐい゛じだい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」 「黙りなさい」 軽く胸を寄せ上げて中のゆっくりを圧迫しながら脅す。一言で黙るゆっくり。 と、そこに美鈴の上司が通りかかった。 「おはよう美鈴。何そのポーズは。新しい朝の挨拶かしら?」 「わわ!咲夜さん!お、おはようございます!!これは別にその、ちょっとした体操ですよ!」 「ふぅん?てっきり私に対する宣戦布告かと思ったけど」 「ちちちち違いますよそんな!咲夜さんに宣戦布告だなんてその……は、恥ずかしいです!!」 「……?貴女大丈夫?今日は別の者に仕事を代わって貰った方がいいんじゃない?」 「そんな事はありません、私はいつも元気です!!健康です!!」 「そう。ならいいわ。さっさと食事を済ませなさい。早くしないと……」 「わ、分かってます!分かってますからナイフはしまってくださーい!」 慌てて食堂に向かう美鈴。咲夜はどこか満足げに見送って、今日の仕事に取り掛かる。 今日も何事も無く紅魔館の一日が始まった。 SUICIDE END... 作:ミコスリ=ハン