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サンタのオモチャ工房 原題:Santa s Workshop 公開:1932年12月10日 シリー・シンフォニー:No.33 ストーリー サンタクロース*は良い子悪い子リストを読んで、エルフと協力してクリスマスプレゼントを作り、配りに出発する。 概要 続編に『サンタのプレゼント』(1933年)がある。 キャスト サンタクロース* アラン・ワトソン* サンタの秘書 ピント・コルヴィグ エルフ ウォルト・ディズニー 収録ソフト タイトル 収録ソフト メディア 音源 サンタのオモチャ工房 ウォルトのクリスマスのお気に入り* VHS 新吹替版 サンタのオモチャ工房 シリー・シンフォニー Vol.2 限定保存版 DVD 新吹替版 Santa s Workshop ★Walt Disney Animation Collection Classic Short Films Volume 7 Mickey s Christmas Carol DVD 英語版
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「みくるちゃぁ~ん! 今日はこんな服着てみない?」 そう言いながら、涼宮さんが際どい衣装をわたしに着せようとした。 「ひ~ん、やめてください~」 その余りの際どさに、わたしは抵抗した。 「あら、そう。じゃ、いいわ」 ……へ? あれ、おかしいな。いつもなら、 「四の五の言わずに、さっさと着る!」 とか何とか言われて、強制的に服を脱がされ着替えさせられるのに。 「みくるちゃ~ん! 今日はこんな服着てみない?」 そう言いながら、翌日、涼宮さんがまた際どい衣装をわたしに着せようとした。 「え、遠慮します~」 その余りの際どさに、やっぱりわたしは抵抗した。 「そう……じゃ、いいわ」 ……あれ? その日もやっぱり涼宮さんは、あっさり引き下がった。 そんなやり取りが一週間繰り返された。 「みくるちゃん…… 今日は、こんな服…… 着てみない……?」 そう言いながら、涼宮さんが恐る恐る、際どい衣装をわたしに着せようとした。 「お断りします」 わたしはきっぱりはっきり拒否した。 「そ、そう…… じゃあ…… いいわ……」 涼宮さんは、未練たらたら、といった風情で引き下がった。 ………… おかしい。この一週間ずっと繰り広げられた光景だけど、何かがおかしい。 初日は、いつもの軽い感じだった。わたしはいつもどおり断った。涼宮さんはあっさり引き下がった。 翌日は、少し真面目な感じがした。わたしは少し真面目に断った。涼宮さんは少し残念そうに引き下がった。 今日は、恐る恐るという感じだった。わたしはきっぱりと断った。涼宮さんは名残惜しそうに引き下がった。 何というか、彼女の様子がいつもの調子じゃない。団員をグイグイ引っ張っていく、リーダーシップ溢れる団長じゃない。しかも今日は、縋るような目付きというおまけ付きだった。 ……そんな目で見られたら、何だか断ってるわたしが悪いみたいじゃないですか。 「あの……着てみましょうか?」 ああ、言っちゃった。折角引き下がってくれてるのに。 「え……ほんと? ほんとに着てくれるの!?」 『ぱあっ』という擬態語がぴったりな明るい表情で問い直された。笑顔が眩しい…… 「この部室内だけでなら……」 これがギリギリの妥協点。他人の視線がないのなら、こんな格好してみるのも良いかな、なんて、最近は思っているから。何だか、すっかり涼宮さんに染められちゃったな。 喜色満面の涼宮さんから着方の指示を受けて、わたしは着替えることにした。 「あの、涼宮さん?」 「何?」 物凄く視線を感じる。 「何でそんなに、じっと見詰めてるんですか?」 「え……あたし、そんなにじっと見てた?」 穴が明くほどじっと見てました。 「あー、あはは…… いや、ほら、みくるちゃん、スタイル良いからさ」 そんなものなんだろうか。 何となく釈然としない思いで、取りあえず着替え終わった。姿見がないので分からないけれど、相当すごい格好なんだろうな。 「やっぱり思ったとおり、みくるちゃんにはよく似合うわね! ん?」 わたしの周りを一周してチェックしていた涼宮さんは、背中側に廻った時に、何かに気付いたようだった。 「あら、ジッパーが上がりきってないわよ」 「そこは、手が届かないんです」 「ならあたしが上げてあげるわよ。……あれ? 結構硬いわね……」 涼宮さんは、わたしの背中の辺りで何やらカチャカチャやっている。引っ掛かっているのか、ジッパーが上がらないらしい。 「おかしいわね……よっ、ほっ、はっ」 「あの、涼宮さん」 「よっ……ん? 何?」 「あの、手が……ずっと、その……お尻に当たってるんですけど……」 当たっている、というよりは、掴んでいる、と言ったほうが正確かもしれない。 「ちょうど手を置くのに良い場所だからよ。んん、ジッパーが上がらない……こら、みくるちゃん、暴れるんじゃないの! っとっと……」 お尻のくすぐったさに思わず身をよじったら、はずみで涼宮さんの手が滑って服が脱がされ、わたしの胸が露になってしまった。 「きゃぁー」 わたしは思わず声を上げて、胸を抱えてへたり込んだ。 「何よ、女同士なんだし、そんなに恥ずかしがることないじゃない」 涼宮さんは、口をアヒルのように尖らせて言った。 「それは……」 この際、言ってみるか? わたしは、何故かこの時、強気にそんなことを考えていた。 「涼宮さんの、視線が、いやらしいからですっ!」 わたしの、かつてないほどの明確な指摘に、涼宮さんは目を丸くした後、一転、不敵な笑みを浮かべた。 「へえ……それは面白い意見ね。あたしの視線の、どこが、いつから、いやらしいって言うの?」 何故か強気のわたしは、ここぞとばかりに指摘した。 「全部、最初から、です!」 初めて出会った時。涼宮さんの目はわたしの胸に釘付けだった。無理やり着替えさせられたのはしょっちゅうだった。胸を揉まれた事もあった。その時の彼女の目は……好奇とそれ以外の何かが入り混じっていた。 「なるほど。それで? みくるちゃんは、どうしたいわけ?」 「どう、って言われても……」 いやらしい目で見るのをやめてください。 この一言が、どうしても言えなかった。 「みくるちゃんが言うように、あたしの視線がいやらしいとして。みくるちゃんはそれをどうしたいの? 言ってみなさいよ」 涼宮さんは不敵な笑顔で、わたしを試すように言ってきた。わたしは、どうしたいのだろう? 「さあ、どうしたいのかな~? んん? どうしたいの?」 わたしは……わたしは…… 「……でください」 「え? 何? 聞こえない」 わたしは意を決して言った。 「意地悪しないでください!」 わたしは声を張り上げていた。いけない。これはわたしのキャラクターではない。だけど……取り繕うことができなかった。 「いつもいつもいつも! わたしに恥ずかしい格好させて! どうせわたしのことは、便利な着せ替え人形としか思ってないんでしょう!? 涼宮さんなんか……」 だめ。これ以上言ったら、関係が壊れてしまう。なのに、わたしの口は止まらない。このままじゃ禁則事項に…… 「大っ嫌い!!」 発言できてしまった!? そんなばかな! これが『禁則事項』じゃないなんて!! 動揺したせいなのか、言えた事に気を良くしたのか。わたしはこれまで蓄積した思いをぶちまけていた。 「ビラ配りの時も、野球の時も! わたしはあんな格好で表に出たくなかった! それなのに無理やり着替えさせて! あんな格好……」 「…………」 「涼宮さんだけにしか見せたくなかったのに!!」 「!?」 ……あれ? ちょっと待って。わたしは何を口走っているんだろう!? わたしはとんでもないことを発言してしまったことに気付き、慌てて口を押さえた。でも、もう遅い。涼宮さんも固まってしまっている。 「あ、あの、えと、これは、その……あうあうあう!」 早く発言を取り消さないと! (今のは寝言というか、血迷ったというか……とにかくその! 忘れてください!!) ぱくぱくぱく。 わたしは発言できなかった。……これが、『禁則事項』だというの!? ありえない! 「……みくるちゃんのこと、好きだから。 ……って答えじゃ、だめかな?」 ……はい? 涼宮さんが、何かとんでもないことを言い出した。口元を手で押さえながら、わたしからは視線を逸らして。 「みくるちゃんが凄いことぶっちゃけたから、あたしもぶっちゃけるわ。だから、その前に……」 涼宮さんは、少し頬を赤らめて、 「その胸、仕舞ってくれるかしら。目のやり場に困るから……さ」 言われて気が付く。わたしは胸を隠すことも忘れて、とんでもないことを口走っていた! 「あわわわわわわ……」 わたしは慌てて服を着直す。……背中のジッパーは上がってないけど。 「……恥ずかしいから一回しか言わないわよ。だからよく聞いてね」 涼宮さんは、わたしが服を着直したことを確認すると、わたしの目を見つめて言った。 「あたしは、好きな人には可愛い格好をして欲しいと思ってる。それで、周囲に見せびらかして自慢したいと思ってる」 涼宮さんは真剣だった。 「でも、みくるちゃんはそういうのが嫌なんだったら、もうやめる」 涼宮さんは目を伏せた。 「あたしの好きな娘はこんなに可愛い娘なんだって、自慢したかった。好きだから、ついつい視線も向いてしまった。でも、それももう終わり。みくるちゃんに嫌われるくらいなら、我慢する。残念だけど……」 やっぱりおかしい。涼宮さんがしおらしい。こんなの、わたしの涼宮さんじゃない…… 「今まで悪かったわね、嫌な思いさせて。でも、決して意地悪してたわけじゃないわ。そこだけは分かって欲しいかな」 涼宮さんは力なく笑った。 ……だめだ。わたしは、こんな涼宮さんの顔は見たくない。 「……だけなら」 こんなことを言ってしまうわたしは、どうかしているのかもしれない。 「涼宮さんにだけなら、どんな格好させられても、いいです」 涼宮さんの目が光った、ように見えた。 「涼宮さんの前でだけなら、どんな格好でも、わたし、恥ずかしくありません!」 涼宮さんは、わなわなと全身を震わせて、 「……よく言ったわ、みくるちゃん! その言葉に二言はないわね!?」 今までの神妙な面持ちから一転して、太陽のように眩しい笑顔になった。 「やっぱりみくるちゃんなら、そう言ってくれると思ってたわ! 好きよ、みくるちゃん、大好き! 愛してる!!」 そう言うと涼宮さんはわたしに抱き付いてきた。 はめられた。 これまでの一週間も、今日の神妙な面持ちも、全部、涼宮さんの演技。わたしに『どんな格好でもする』と言わせるための演技。 「これからは、もっと過激な衣装にも挑戦するわよ~! ああ、どんなのを着せてあげようかしら!」 でも、わたしは、そんなことはもうどうでも良かった。自分の気持ちに気付いてしまったから。わたしは、抱き付いている涼宮さんの頭を抱き締めた。 「うわあ、みくるちゃんの胸、柔らかい……っぷ! ちょ、ちょっと、みくるちゃん! 苦しい……!」 しっかりと抱き締めたものの、涼宮さんに凄い力で引き剥がされた。さすがに腕力では敵わないな。 「はあ、はあ……どうしちゃったのよ、一体……」 「わたし、言いましたよね? 涼宮さんの前でだけなら、どんな格好でも、恥ずかしくない、って」 「? みくるちゃん?」 わたしは黙って服を脱いだ。涼宮さんの大きな目が、更に大きく見開かれる。 「どんな格好でも、というのは、つまり、そういうことなんです」 わたしは下着を一気に引き下ろした。涼宮さんの顔が、見る間に真っ赤に染まった。 「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょぉっと、みくるちゃん! ままま、まずはおちけつ!」 落ち着くのはあなたの方です、涼宮さん。 さすがにこんな事態は想定していなかったのか、思いっきり焦る涼宮さん。うふ、可愛いな。 「……わたし、自分の気持ちに気付いちゃいました」 ずいっ、とわたし(全裸)が一歩前に出るたびに、じりっ、と涼宮さんが一歩下がる。 「わたし、涼宮さんのこと……」 わたしが更に一歩踏み出すと、涼宮さんは後ずさって壁にぶつかり、そのままへたり込んだ。 「好きです。大好きです」 わたしは涼宮さんの前に跪くと、最後の言葉を言った。 「……愛してます」 そう言うと、わたしはへたり込んだ涼宮さんを抱き締めた。もう離さない。 「あああ、あの、あの、みくるちゃん! その、好きになってくれるのは嬉しいけど!」 涼宮さんは、わたしを引き剥がすことも忘れて、上ずった声を上げた。 「ととと、取りあえず、服を着てくれないかな? かな?」 動転して、呂律が怪しくなってる。ああ、本当に可愛いな。 「こういうのは、その、やっぱり良くないと、そう、思うわけなのであってね?」 「……それは、わたしも涼宮さんも女の子だから、ですか?」 余りに根本的な質問に、再び涼宮さんは固まった。 「『愛してる』って言ってくれたのに。あの言葉は、嘘、だったんですか?」 「あああ、あれは、その、何ていうか、言葉の綾?」 「……やっぱり、嘘だったんだ……」 「ち、違う! そうじゃなくて!」 「…………」 涙目になっている涼宮さんをたっぷり見つめた後、わたしは、 「な~んちゃって☆」 と、満面の笑顔を涼宮さんに向けた。 「……はへっ!?」 案の定、呆気にとられた顔をしている。 「うふふ、どうでした? わたしの演技。かなり迫真の演技だったと思うんですけど」 「!? !? !?」 「でも、涼宮さんも、いきなり全裸で迫られると、やっぱり驚くんですね」 「あ、あー、あ? ああ。つまり、これは、ええと? あたしは、みくるちゃんの演技にすっかり騙されたってこと??」 わたしはウィンクを一つ。 「さっきの涼宮さん、とっても可愛かったですよ。うふふ」 涼宮さんはまだ混乱しているようだったけど、何とか自分を納得させようとしていた。 「そ、そうよね。みくるちゃんが、いきなりそんな、ありえないわよね。うんうん、違いない……」 あのまま迫ると涼宮さんが壊れてしまいかねなかったので、わたしは助け舟を出したのだ。憔悴しきった涼宮さんは、ヨロヨロと机にしがみつきながら、やっとの思いで立ち上がった。 わたしはメイド服に着替えながら、 「今度はどんな格好させてくれるんですか? 楽しみにしてますね☆」 「え、あ、ああ、任せなさい! みくるちゃんに似合うような、飛びっきり可愛いの着せてあげるから!」 わたしは笑顔を湛えたまま、すっと低い声で、 「……涼宮さんの前でだけなら、どんな格好でもしますから」 と、涼宮さんの耳元で囁いた。 焦る必要はないんだ。これからいくらでも、二人きりになる機会が訪れる。そうやって少しずつ距離を近付けていけばいいんだ。そう考えると、今後どんな衣装が用意されるのだろうかと、少し楽しみになってきた。 彼女に捧げるための、ファッションショー。 それはそのまま、わたしが涼宮さんを誘惑する、目くるめく舞台となるんだ。 「ほんとうに、楽しみですね」 再び床にへたり込んだ涼宮さんを後目に、わたしは水を汲みに出掛けた。
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「ハルヒ、別れてくれ」 有希が帰った後の文芸部の部室で、夕日に赤く染まったキョンは突然別れを切り出した。 「嘘でしょ?」 この時一瞬にして頭の中が真っ白になった。いつもの席に座ったキョンは申し訳なさそうに目を泳がせている。 あたしは高校二年のクリスマスにキョンに告白をされた。 ツリーやモールが放置された二人以外誰もいない部室で、キョンは何かを搾り出すように告白したことは今でも覚えている。 あたしはその時大泣きした。やっとあたしに近い人が見つかって、その人に女として認められた。それだけで嬉しかった。 それ以来あたし達は校内で誰もが知ってるカップルとなり、キョンとはいつも一緒にいた。そのせいかSOS団の活動も次第に疎遠になり、気づけばみんな結団する前の生活に戻っていた。みくるちゃんは卒業して、有希も文芸部の活動を再開させた。古泉くんは同じクラスの女の子とつき合い始めたらしい気づけば、あたしはキョンとしか繋がりを保てなくなっていた。そして、いつしかあたしは人のぬくもりをキョンに渇愛していた。 「あたしのこと、嫌いになったの?」 もう何が何だかわからなくなっていた。あたしは混乱したまま自分の机を叩いて怒鳴った。 「何でなのよ! あんたはいつもあたしのこと好きって言ってくれたじゃない!」 キョンは俯くばっかりで、一向にあたしの目を見ようとはしない。 「どうして……あたしが何かしたぁ!? ねえ、答えてよ!」 キョンはようやく顔を上げると、唇をわずかに動かしてこう答えた。 「お前は何もしていない。ただ、俺がお前に押しつぶされそうなんだ」 意味が分からなかった。続けてキョンが言葉を発する。 「ハルヒ、お前は何でもできる。勉強もスポーツもできる。音楽だってできる。しかもスタイルも顔いい。お前はこんな俺と付き合っちゃいけない。お前にはもっと似合う奴がいるはず。……そんな気がするんだ」 「あんた、何言ってるの?」 キョンはまた俯いて、「ごめん」とだけ言った。 確かにあたしは色々なことができた。テストなんかくだらない授業を聞かなくても自習で十分点は取れるし、陸上部から入部を懇願されたこともある。ギターは有希ほどじゃないけど、それなりに弾くことだって出来る。でもそれが何だっていうの? 「あんた、あたしが怖いの?」 キョンは何も言わず、ただ災難が過ぎるのを待ってるかのようにじっとしている。 「答えろっ!」 腹の底から怒鳴った。声が校舎中に響きそうだわ。 「お前のことは誰よりも好きだと思ってる。でも、俺はお前には似合わない」 キョンは首を上げて自嘲しだした。 あたしは椅子から立ち上がって、キョンの襟を掴んで問い詰めた。 「今の言葉、あんたの本音なのね?」 キョンは諦めた顔をして笑った。そしてこう言った。 「ああ」 瞬間、あたしはキョンの左頬に張り手をかました。 「見損なったわ。あんたがそこまで普通の人間みたいなことを考えてたなんて」 キョンは何も言わず、左頬をさすっている。 「あんただけは他の人と違うって思ってたのに」 あたしは徐々に涙声になっていった。涙で前がよく見えない。 突然、キョンのポケットから振動音が聞こえた。ポケットから携帯を取り出すと、古泉と表示されている文字盤を見つめてから話し始めた。キョンは終始「ああ」と「わかってる」しか言わないで通話を切った。一度だけ古泉くんの怒号が聞こえた気がする。 「あんた、古泉くんに何かしたの?」 「なんでもない」 そう言うと、キョンはまた俯いた。 「あたしはあんたがいないと生きられない。あんたといつも一緒じゃないと、……寂しい」 自分の目から涙が流れているのがありありとわかった。こんなに泣くのはキョンに告白されて以来だ。 「ごめん」 キョンには何も言わないでほしかった。キョンが「ごめん」と呟くたびに、あたしの心はどんどん壊れていく。 もう何も言わせない。別れようなんていわせない。あたしは自分の唇で無理やりキョンの唇を塞いだ。 何度かキョンと繋がったことはあるけど、今日ほど痛いセックスはなかった。 あたしがどんなにキョンに触れても、キョンはあたしを抱こうとはしない。本来ならあるはずの快感すらも苦痛に感じた。勝手にヤって勝手にイって、すればするほどキョンが離れていく。果てたあたしの頬をキョンは一度撫で、「ごめん」と呟いた。何もかも嫌になって、消えてしまいたかった。 結局処理をした後、あたし達は別々に帰った。下校途中泣くのを精一杯我慢して、あたしは家に着いた。 家には誰もいなくて、テーブルの上に出かけてることを示すメモとラップがかかった夕食が置かれていた。夕食は中途半端に冷えて不味かった。 何もすることもなく自分の部屋に戻ると、ベッドの上で堰を切ったようにあたしは泣き出した。涙が枯れそうなぐらい泣いた。 結局あたしの三年間は無駄だったのかな? 考えれば考えるたびに無常と悔しさが溢れて、まくらをぐっしょりと濡らした。急速に吐き気を催して、夕食を吐いた。吐きながら泣いた。泣いたら咳きこんで、また吐いた。 ベッドに戻って、このままどこかに消えちゃえばいいのにと考えながら寝た。 目覚めると、外はまだ真っ暗だった。おかしいなと思いつつ、時計を見てみると午前二時三十八分十四秒から秒針が動いていない。不思議に思ったあたしは携帯を覗いたが、携帯も画面が真っ暗になっている。いくら電源を入れようとしても画面が点かない。 リビングに行ってみるとまだ誰も帰ってきていない様子だった。ここでも時計を見てみるが、こっちも同じ時間で時計が止まってる。 一瞬あたしの脳内には嫌な夢がよみがえった。一年の時に味わった夢。街の全ての電気が消えて学校の中にとじこめられた夢。 青白く光る巨人が学校を破壊していた夢。そして、まだそんなに気に思っていなかったキョンとキスした夢。 あたしは急いで家の外に出た。予想は当たっており、空は仄暗く街は死んだように電気が消えている。 「これって夢よね」 あたしは自分に言い聞かせるようにして、学校を目指して走り出した。やけに感覚がリアルだから、多分あの時と同じような夢を見ているに違いない。いつも電車で通っているからあまりわからなかったけど、学校へはかなり長い道のりだった。電車に沿って走ったからかもしれない。 校内に入って、あたしは中庭を目指した。あの夢の時、確かキョンは中庭でのびていたはず。だったら、今回もきっとそうに違いない。勝手にあたしは妄想していた。でも、実際は違った。中庭には誰もいない。次にあたしは文芸部の部室へと向かった。だけど、そこにも誰もいなかった。結局学校中探し回ったが、誰一人としていなかった。 あぁ、あたしは本当にどこかに消えちゃったのかな。 あたしが夢を見始めてから数日間、人の気配を一切感じなかった。文芸部を根城にあたしは暗闇と廃墟の中一人で過ごしていた。不思議なことにライフラインは生きていて、またある程度の食料は学校にはあったので、あたしは腹を空かせることはなかったけど。 相変わらず外は暗いままで、太陽を拝んでやろうかしらとずっと起きていたけど光は射さなかった。気づきたくはなかったが、これは夢じゃなくて現実なんじゃないかと薄々感じ始めていた。だってここまでリアルな感覚で、寝たということがはっきりわかる夢なんてありえないじゃない。 どうしよう、このまま一人で死んじゃうのかな。誰か助けに来てくれないのかな。有希とか古泉くんとか。みくるちゃんは無理だわ。あとは……。 突然、廊下から物音が聞こえた。何も音がしない世界で生きていたあたしに、心臓を握りつぶされたような衝撃が走った。 「ってぇ……」 声まで聞こえる。忘れかけた声。忘れてしまいたかったけど忘れたくなかった声。あたしは一目散に部室を出た。廊下では頭を押さえたキョンが制服姿で座っている。 突然すぎたので、あたしは声を出すこともできなかった。ただ、涙と嗚咽が込み上げるだけで精一杯だった。 「ハルヒ……?」 キョンはきょとんとした目であたしを眺めている。あたしは突進するようにキョンに抱きついた。 「いぉん……いぉん、おおいっえあおお」 久々に声を出すので発音が狂っている。 キョンは何も言わず頭を撫で、抱きしめてくれた。そうだ、これはあたしが求めていたキョンなんだ。文句は言うけれどあたしを絶対に捨てない人。 あたしはキョンの腕の中で泣き、何時間もその体勢でいた。やっと見つけた温もり。絶対に放したくない。 「辛かったんだな、ハルヒ」 「うん……うん、うん!」 キョンの胸に顔をうずめながら、いつまでもこの時間が続けばいいと思った。 結局この世に永遠なんてものはなく、食料も底を尽いて水だけの生活になっていた。キョンは一向に顔色一つ悪くさせないのが変だったけど、あたしは栄養失調気味でもう動けなくなっていた。 「キョン……あたしもう、寝ていいかなぁ?」 ぼやけた目でキョンを見ると、キョンはにっこりと笑ってくれた。 「あぁ、おやすみ」 あたしは静かに目を閉じ……
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「ハルヒ、別れてくれ」 有希が帰った後の文芸部の部室で、夕日に赤く染まったキョンは突然別れを切り出した。 「嘘でしょ?」 この時一瞬にして頭の中が真っ白になった。いつもの席に座ったキョンは申し訳なさそうに目を泳がせている。 あたしは高校二年のクリスマスにキョンに告白をされた。 ツリーやモールが放置された二人以外誰もいない部室で、キョンは何かを搾り出すように告白したことは今でも覚えている。 あたしはその時大泣きした。やっとあたしに近い人が見つかって、その人に女として認められた。それだけで嬉しかった。 それ以来あたし達は校内で誰もが知ってるカップルとなり、キョンとはいつも一緒にいた。そのせいかSOS団の活動も次第に疎遠になり、気づけばみんな結団する前の生活に戻っていた。みくるちゃんは卒業して、有希も文芸部の活動を再開させた。古泉くんは同じクラスの女の子とつき合い始めたらしい気づけば、あたしはキョンとしか繋がりを保てなくなっていた。そして、いつしかあたしは人のぬくもりをキョンに渇愛していた。 「あたしのこと、嫌いになったの?」 もう何が何だかわからなくなっていた。あたしは混乱したまま自分の机を叩いて怒鳴った。 「何でなのよ! あんたはいつもあたしのこと好きって言ってくれたじゃない!」 キョンは俯くばっかりで、一向にあたしの目を見ようとはしない。 「どうして……あたしが何かしたぁ!? ねえ、答えてよ!」 キョンはようやく顔を上げると、唇をわずかに動かしてこう答えた。 「お前は何もしていない。ただ、俺がお前に押しつぶされそうなんだ」 意味が分からなかった。続けてキョンが言葉を発する。 「ハルヒ、お前は何でもできる。勉強もスポーツもできる。音楽だってできる。しかもスタイルも顔いい。お前はこんな俺と付き合っちゃいけない。お前にはもっと似合う奴がいるはず。……そんな気がするんだ」 「あんた、何言ってるの?」 キョンはまた俯いて、「ごめん」とだけ言った。 確かにあたしは色々なことができた。テストなんかくだらない授業を聞かなくても自習で十分点は取れるし、陸上部から入部を懇願されたこともある。ギターは有希ほどじゃないけど、それなりに弾くことだって出来る。でもそれが何だっていうの? 「あんた、あたしが怖いの?」 キョンは何も言わず、ただ災難が過ぎるのを待ってるかのようにじっとしている。 「答えろっ!」 腹の底から怒鳴った。声が校舎中に響きそうだわ。 「お前のことは誰よりも好きだと思ってる。でも、俺はお前には似合わない」 キョンは首を上げて自嘲しだした。 あたしは椅子から立ち上がって、キョンの襟を掴んで問い詰めた。 「今の言葉、あんたの本音なのね?」 キョンは諦めた顔をして笑った。そしてこう言った。 「ああ」 瞬間、あたしはキョンの左頬に張り手をかました。 「見損なったわ。あんたがそこまで普通の人間みたいなことを考えてたなんて」 キョンは何も言わず、左頬をさすっている。 「あんただけは他の人と違うって思ってたのに」 あたしは徐々に涙声になっていった。涙で前がよく見えない。 突然、キョンのポケットから振動音が聞こえた。ポケットから携帯を取り出すと、古泉と表示されている文字盤を見つめてから話し始めた。キョンは終始「ああ」と「わかってる」しか言わないで通話を切った。一度だけ古泉くんの怒号が聞こえた気がする。 「あんた、古泉くんに何かしたの?」 「なんでもない」 そう言うと、キョンはまた俯いた。 「あたしはあんたがいないと生きられない。あんたといつも一緒じゃないと、……寂しい」 自分の目から涙が流れているのがありありとわかった。こんなに泣くのはキョンに告白されて以来だ。 「ごめん」 キョンには何も言わないでほしかった。キョンが「ごめん」と呟くたびに、あたしの心はどんどん壊れていく。 もう何も言わせない。別れようなんていわせない。あたしは自分の唇で無理やりキョンの唇を塞いだ。 何度かキョンと繋がったことはあるけど、今日ほど痛いセックスはなかった。 あたしがどんなにキョンに触れても、キョンはあたしを抱こうとはしない。本来ならあるはずの快感すらも苦痛に感じた。勝手にヤって勝手にイって、すればするほどキョンが離れていく。果てたあたしの頬をキョンは一度撫で、「ごめん」と呟いた。何もかも嫌になって、消えてしまいたかった。 結局処理をした後、あたし達は別々に帰った。下校途中泣くのを精一杯我慢して、あたしは家に着いた。 家には誰もいなくて、テーブルの上に出かけてることを示すメモとラップがかかった夕食が置かれていた。夕食は中途半端に冷えて不味かった。 何もすることもなく自分の部屋に戻ると、ベッドの上で堰を切ったようにあたしは泣き出した。涙が枯れそうなぐらい泣いた。 結局あたしの三年間は無駄だったのかな? 考えれば考えるたびに無常と悔しさが溢れて、まくらをぐっしょりと濡らした。急速に吐き気を催して、夕食を吐いた。吐きながら泣いた。泣いたら咳きこんで、また吐いた。 ベッドに戻って、このままどこかに消えちゃえばいいのにと考えながら寝た。 目覚めると、外はまだ真っ暗だった。おかしいなと思いつつ、時計を見てみると午前二時三十八分十四秒から秒針が動いていない。不思議に思ったあたしは携帯を覗いたが、携帯も画面が真っ暗になっている。いくら電源を入れようとしても画面が点かない。 リビングに行ってみるとまだ誰も帰ってきていない様子だった。ここでも時計を見てみるが、こっちも同じ時間で時計が止まってる。 一瞬あたしの脳内には嫌な夢がよみがえった。一年の時に味わった夢。街の全ての電気が消えて学校の中にとじこめられた夢。 青白く光る巨人が学校を破壊していた夢。そして、まだそんなに気に思っていなかったキョンとキスした夢。 あたしは急いで家の外に出た。予想は当たっており、空は仄暗く街は死んだように電気が消えている。 「これって夢よね」 あたしは自分に言い聞かせるようにして、学校を目指して走り出した。やけに感覚がリアルだから、多分あの時と同じような夢を見ているに違いない。いつも電車で通っているからあまりわからなかったけど、学校へはかなり長い道のりだった。電車に沿って走ったからかもしれない。 校内に入って、あたしは中庭を目指した。あの夢の時、確かキョンは中庭でのびていたはず。だったら、今回もきっとそうに違いない。勝手にあたしは妄想していた。でも、実際は違った。中庭には誰もいない。次にあたしは文芸部の部室へと向かった。だけど、そこにも誰もいなかった。結局学校中探し回ったが、誰一人としていなかった。 あぁ、あたしは本当にどこかに消えちゃったのかな。 あたしが夢を見始めてから数日間、人の気配を一切感じなかった。文芸部を根城にあたしは暗闇と廃墟の中一人で過ごしていた。不思議なことにライフラインは生きていて、またある程度の食料は学校にはあったので、あたしは腹を空かせることはなかったけど。 相変わらず外は暗いままで、太陽を拝んでやろうかしらとずっと起きていたけど光は射さなかった。気づきたくはなかったが、これは夢じゃなくて現実なんじゃないかと薄々感じ始めていた。だってここまでリアルな感覚で、寝たということがはっきりわかる夢なんてありえないじゃない。 どうしよう、このまま一人で死んじゃうのかな。誰か助けに来てくれないのかな。有希とか古泉くんとか。みくるちゃんは無理だわ。あとは……。 突然、廊下から物音が聞こえた。何も音がしない世界で生きていたあたしに、心臓を握りつぶされたような衝撃が走った。 「ってぇ……」 声まで聞こえる。忘れかけた声。忘れてしまいたかったけど忘れたくなかった声。あたしは一目散に部室を出た。廊下では頭を押さえたキョンが制服姿で座っている。 突然すぎたので、あたしは声を出すこともできなかった。ただ、涙と嗚咽が込み上げるだけで精一杯だった。 「ハルヒ……?」 キョンはきょとんとした目であたしを眺めている。あたしは突進するようにキョンに抱きついた。 「いぉん……いぉん、おおいっえあおお」 久々に声を出すので発音が狂っている。 キョンは何も言わず頭を撫で、抱きしめてくれた。そうだ、これはあたしが求めていたキョンなんだ。文句は言うけれどあたしを絶対に捨てない人。 あたしはキョンの腕の中で泣き、何時間もその体勢でいた。やっと見つけた温もり。絶対に放したくない。 「辛かったんだな、ハルヒ」 「うん……うん、うん!」 キョンの胸に顔をうずめながら、いつまでもこの時間が続けばいいと思った。 結局この世に永遠なんてものはなく、食料も底を尽いて水だけの生活になっていた。キョンは一向に顔色一つ悪くさせないのが変だったけど、あたしは栄養失調気味でもう動けなくなっていた。 「キョン……あたしもう、寝ていいかなぁ?」 ぼやけた目でキョンを見ると、キョンはにっこりと笑ってくれた。 「あぁ、おやすみ」 あたしは静かに目を閉じ……
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This page was created at 2008.09.28 This page was modified at 2009.02.23 TAGにTIP埋め 【朝比奈みくるの秘密】 (避難所投下時のタイトルは「星に願いを」でしたが、同名のページが存在したため改題しました) 「張り切って観測するわよ! 流星群のピークは明け方近くだから、それまでは新星発見に重点を置きなさい」 「新星発見ともなればSOS団の名は世界中に知れ渡るわ。 世界にSOS団の名を轟かせるのよ!」 「さあ、みくるちゃん! がんばって新星を発見するのよ!」 「はぃぃぃぃ、がんばりますぅ」 新星発見の任を言い渡された朝比奈さんは、望遠鏡のハンドルをくりくりと回して星を探している。 SOS団の名をこれ以上広めたいとは思わないが、新発見の栄誉なら悪名で無いだけましだろうか。 「涼宮さんがあのようにおっしゃっていると、本当に発見するかもしれませんね」 「まさかだろう。 世界中のアマチュア天文家が夜な夜な筒を覗いてるんだ。 未発見の天体なんてそうそうありゃしないさ」 「本当にそう思いますか?確率論が当てはまる方ではないと思いますが」 「あのぅ…… このぼんやり見えるのって星でしょうか?」 マジかよ。 ちょっとご都合主義が過ぎやしないか? 「ホントに見つけたの!? でかしたわみくるちゃん! 名誉一日団長にしてあげる!」 一日団長ねぇ。 おおかた、『目立たなきゃダメよ!』とか言ってバニーコスプレさせたあげく、校門前でビラ配りだな。 なんだ、いつもと同じじゃないか。 朝比奈さんにも予想が付くのか、ひえぇぇぇぇとかわいい悲鳴を上げていらっしゃる。 「まぁまぁ、そう慌てずに。 ちょっと見せて」 天文部 部長氏がやってきて筒を覗きこむと、つづいて部員Aが筒の脇に座り、なにやら数字を読み上げた。 すると部員Bがこれまたなにやら興奮した声で、該当無しです。 と報告した。 「観測を続けてみないと新星か小惑星か彗星なのかわからないけど、新発見の天体には違いないと思うよ」 古泉のやつにひそひそと耳打ちされた。 「さて、これは果たして偶然なんでしょうか?」 俺が知るか。 「発見者には命名権があるけど、どうする? 結構自由に付けられるよ。 『タコヤキ』なんて名前の小惑星もあるくらいだから」 「なら、『朝比奈みくる』でもいいのね。 おめでとう、みくるちゃん! 名前が歴史に刻まれたわよ!」 「ふえぇぇ? れ 歴史にですかぁ? そんなの困りますぅ……」 未来人が過去の時代において名を残す。 というのはどうなんだろう。 甚だしく禁則事項に該当するような気もするが、本気で困ることになるなら朝比奈さん(大)あたりが事前に何か言って来ただろうし、ここは素直に喜んでもいいんだよな。 「いいじゃないですか。 鶴屋さんあたりが知ったら、『みくるはお星様になってしまったにょろ?』くらいのジョークを飛ばしてくれますよ。 きっと」 「あのぅ、本当に、私が決めちゃってもいいんでしょうか?」 部長氏がフォローを入れた。 「まだ第一発見者の確認は取れてないけど、ここにいる人の中では朝比奈さんに命名権があるね」 「そうだ、みくるちゃんの好きな人の名前を付けちゃいましょう! さぁ、みくるちゃん? 正直に吐きなさい! 一人や二人いるでしょう?」 そういってハルヒは、朝比奈さんを後ろから抱きかかえた。 「えっ? やっ! やだっ! 涼宮さん、そこだめえぇっ!」 「ほらほら正直に言わないと、もぉっと凄いことしちゃうわよ?」 「アッーーーー!」 いいかげんにせいっ! ハルヒの脳天にチョップを入れる。 「いったいじゃない! なにすんのよ、キョン!」 「何度も言ってるだろ、朝比奈さんをおもちゃにするんじゃありません!」 「ふーんだ、アンタだって興味あるくせに」 いつものアヒル口でぶーたれるハルヒ。 ふむ。 朝比奈さんの思い人か。 確かに、興味があると言えば無い訳じゃないが…… 考え込んでしまった俺を、ハルヒが興味深そうに見ているのに気づいた。 なんだ? 「べっつにっ」 なんだ? 妙に嬉しそうだが。 「天文台の確認が取れたよ。 やっぱり朝比奈さんが第一発見者だって」 今の騒ぎの中で冷静に電話していたのか。 天文部 部長氏、ひょっとしたら大物かもしれん。 「みくるちゃん、おめでと」 天文部員からも賛辞と拍手が贈られた。 「ありがとうございます、涼宮さん。 みんさんもありがとうございます」 「それじゃあ、その、お言葉に甘えちゃいます」 「名前、決まった?」 「はいっ!」 大きくうなずいて、元気よく応える朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。 「名前は……」 みんな、言葉の続きを待っている。 「 ですっ!」 聞こえなかった。 得意そうに叫んだはずの名前は、聞こえなかった。 ただ、口だけが動いていた。 あれは―― 声にならなかった。 そのことに気づいた朝比奈さんはしおれたようにうつむいて 「……あれぇ…… どうしてだろ…… あっそうかぁ…… そうですよね…… ちょっと考えれば…… 馬鹿だぁ……」 不思議そうな、みんなの顔が自分に向いているのに気づいて、慌てて場を取り繕い始めた。 「あはっ! 冗談ですよ、みなさん。 ごめんなさい、見事にすべっちゃいましたね」 いかにも失敗しちゃいましたぁ、と言うように、舌を出してみせる朝比奈さんは、あまりに痛々しかった。 冗談なんかでないことは全員がわかっていた。 けれど、誰も追求しようとはしなかった。 ハルヒは今までに見たこともないほど厳しい顔で、朝比奈さんを見つめていた。 ※※※※※※※※※※※※※※※※ 「まったく、一体どういうことなのよ」 あのあと朝比奈さんは逃げるように帰ってしまい、新発見の興奮も冷め切った観測会を終えて、俺とハルヒは帰り道を歩いている。 ハルヒは追いかけようとしたが、俺が止めた。 おかげでその後はピリピリし通しだったし、古泉には急なバイトが入った。 「あれは洗脳とか、強力な暗示とか、とにかくそういう類の何かだったわ。 声に出せないよう、強制的にストップがかかったのよ」 「みくるちゃんを洗脳するなんて、誰の仕業よ、絶対に許せない。 見つけ出してギッタンギッタンにしてやるわ」 おまえ、よくあの場で噛みつかなかったな。 「天文部の連中がいたからね」 「なぁハルヒ、この件、見なかったことにできないか?」 ハルヒが目を剥いて怒鳴った。 「そんなことできるわけ無いでしょう!? 洗脳だの暗示だの、人格に対する冒涜よ!」 俺は足を止め、ハルヒの肩を掴んで向き合った。 「朝比奈さん自身が受け入れていたら? その上で話せないんだとしたら? 逆に朝比奈さんを苦しめるぞ」 「俺はSOS団の外にいる朝比奈さんのことを何も知らない。 家族のことも、何もだ。 お前はどうだ?」 バツが悪そうに横を向き、不本意そうにつぶやく。 「……あたしも…… 知らないわ……」 「きっと話せない事情があるんだ。 とはいえ、お前もこのまま何もしないってんじゃいられないだろう?」 「そうね。 だって許せないもの。 腹が立つのよ」 はっきりと俺の目をにらんで言い切った、意思にあふれたハルヒの顔。 だが俺はハルヒの意思を挫かないといけない。 「だからな、一度だけ確かめろ。 それで、話せませんごめんなさいされたら、今は諦めろ。 話してくれるまで待つんだ」 ハルヒは無言で横を向いた。 口が見事にアヒルになっている。 やがて向きを変えて歩き出す。 俺もハルヒの肩から手を放し、後をついて歩き始めた。 別れ際、ハルヒは 「いいわ。 なんだか丸め込まれたような気もするけど、キョンの言うとおりにしてあげる」 怒りのオーラを漂わせながら、立ち止まらずに言い残して去っていった。 あのぶんじゃ、古泉に苦労かけそうだな。 ※※※※※※※※※※※※※※※※ 「さぁ、みくるちゃん。 たのしいお着替えの時間ですよ?」 「ひえええぇぇ」 「とっとと脱いだ 脱いだ!!」 「すっ涼宮さっ! 待っ! 自分でっ 自分で脱ぎますからっ! アッーーーーー!」 靴下に至るまで全部剥いて、隅々まで丹念になであげる。 それにしてもきれいな肌してるわね。 それにいつみてもおっきなおっぱい。 ん~~~~~~~~ えいっ! あ~~ やっぱきもちいいわ。 「だめぇっ! もまないでぇっ!」 「ふえぇぇぇぇん」 ひとしきり柔らかい感触を楽しんでから手を止めて、みくるちゃんの耳元でささやく。 「ねぇ、みくるちゃん」 「ふぇ?」 「あたしたちに隠してること、ない?」 「ないですぅ 全部見られちゃってますぅ」 そうじゃなくて 「キョン君に見られるのはいやですぅ」 なんでキョンだけ名指しでだめなのよ。 ってそうじゃなくて! 「洗脳とか、暗示とか、そういうことをされた心当たりはない?」 「えっ?」 みくるちゃんの体がぎくりぎくりと硬く震えた。 あぁ、みくるちゃんは自覚してるんだ。 「どうしてですか? 変です。 いきなりそんな話。 あるはずないじゃないですか、そんなこと」 「とぼけなくていいわ。 あたしが知りたいのは、それがみくるちゃんを不幸にしてないか、どうなのかってことだけ」 驚いて、少しおびえているみくるちゃんの目があたしを見つめている。 「裸じゃ落ち着かないわね。 いいわよ、服着て。 注射針の痕とかもないようだし」 「はい……」 ※※※※※※※※※※※※※※※※ 「星の名前を言おうとして言えなかったでしょ。 あのときのみくるちゃんはすごく悲しそうだった」 「すぐ近くにあたしたちがいるのに、世界にたった一人取り残されたみたいに淋しそうだった」 「あたしはあんなの二度と見たくない。 けど……」 キョンと約束したから 「教えて。 みくるちゃんはそれを解きたいのか、そうじゃないのか」 「みくるちゃんが自由になりたいと思っているなら、あたしは解く方法を絶体に見つけてみせる」 「そうじゃないなら、あたしは今回のことを全部見なかったことにして忘れる。 いつか、みくるちゃんが自分から話してくれる、その時まで」 メイド服を着直したみくるちゃんは、あたしと正面から向き合った。 いつものみくるちゃんとは違う、あどけなさの消えた真剣なまなざしにあたしも緊張する。 「これは、今の私にとって必要なんです。 だから、ごめんなさい」 「そう……」 淋しい。 隠し事をされるのが淋しい。 誰にだって秘密の一つや二つある。 それが当たり前。 わかっているのに、わかっていてもやっぱり淋しい。 はぁ、今の顔は誰にも見せられないわね。 背中を向けると、みくるちゃんにそっと抱きしめられた。 「心配してくれたんですね。 ありがとうございます。 話せなくてごめんなさい」 「さあ? 何のことだかわからないわね。 全部見なかったことにして忘れたばっかりだから」 背中に柔らかい笑みが伝わってくる。 「ひとつ、甘えてもいいですか」 あたしは床に毛布を敷いて、みくるちゃんに膝枕をしている。 みくるちゃんは抱きつくようにあたしの腰に手を回して、あたまを押しつけてくる。 ちょっとくすぐったい。 「とってもあったかいです。 とっても優しくて、愛情が深くて、それを押しつけない強さもあります」 「涼宮さんはきっと、いいお母さんになります。 だから今だけ、ちょっとだけ甘えさせてください」 お母さんだって。 あたしはそんな物になるつもりはないんだけど、それでも照れるわね。 「キョン君は幸せ者ですね」 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!??」 「どうしてそこでキョンの名前が出てくるのよ!」 「だって。 ううん、秘密です。 ふふっ」 みくるちゃんはあたしを強く抱きしめてから、勢いよく起き上がった。 「さ、みなさんのお茶を淹れなくちゃ。 二人とも廊下に追い出されて、きっと寒がってます」 みくるちゃんが扉を開けると、キョンと古泉くんが入ってきた。 「ずいぶん長い着替えでしたね。 ってメイド服のままなんですか?」 「私がどんな格好してると期待してましたか?」 「いや、どんなって言われましても」 「よぅハルヒ」 いきなり話しかけられて、あたしは逃げるように団長席のパソコンモニターに顔を隠した。 今はキョンと顔を合わせたく、ない。 みくるちゃんはそんなあたしを見て、くすくすと笑っている。 キョンはそんなあたしたちを見て、安心したようなため息をついていつもの席に落ち着いた。 古泉くんはボードゲームを取り出し、有希は最初からずっと本を読んでいる。 いつもの風景。 いつまでも続いて欲しい、でも必ず終わる、だからこそ大切にしたい。 みくるちゃんとはいつか、大きな別れが来るのかもしれない。 ううん、みくるちゃんだけじゃなく、古泉くんとも、有希とも。 あたしは沈みそうになる心に鞭を入れ、大きく息を吸って立ち上がった。 未来は未来! 今は今! 未来なんて成るようになるわ! 「さあ! みくるちゃんはさっさと星の名前を決める! 決まったら天文部へ遠征よ!」 今をせいいっぱい楽しまなきゃ! fin.
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登録日:2012/01/12(木) 00 33 39 更新日:2022/05/15 Sun 07 23 02NEW! 所要時間:約 2 分で読めます ▽タグ一覧 BL アッー! ウホッ ゲイ ホモ 公式 大人のオモチャ男子。 広告 有料 芒其之一 電子コミック 電子書籍 ムリムリ!! 俺ホモじゃないし!! 大人のおもちゃ男子。は、携帯電話用公式サイトで販売されている電子コミック。 作者は芒其之一。 この作品もあらゆる場所に現れるエロコミック広告の1つ。相変わらず自重という言葉を知らない。 ただまさおよりはマシだろう。 大手メーカーから系列会社に移動となった若手エリート社員♂と後輩♂の濡れ場を描いた作品。 ♂ストーリー♂ 大手おもちゃメーカーの営業部で働く若手エリート社員、岩美円はアダルトグッズ(大人のおもちゃ)を製作する系列会社に移動となった。 ある日自社商品で人生初めてのオ〇ホ体験をしているところを後輩の川村に目撃され、写メを撮られてしまう。 自分の先輩が自慰に耽っているところを見て欲情した川村は岩美に迫る。 ♂登場人物♂ ♂岩美円(いわみ まどか) 大手おもちゃメーカーで営業をしていたエリート社員だったが系列会社に移動となる。 ある時、歓迎会で渡された自社製オ〇ホを使っているところを後輩の川村に見られてしまう。 童貞。 「ムリムリ!! 俺ホモじゃないし!! 「い……ってぇ!! バカ! 抜け!!」 ♂川村光太郎 岩美の後輩で金髪イケメン。明るい性格で人なつっこい。 ある日、オ〇ニー中の岩美を目撃。 マジメで可愛いエリート会社員が自慰に耽る様子を見て欲情。岩美に迫る。 「先輩スッゲー可愛い……」 ♂部長 会社でエロ本を読む男(会社がアダルトグッズ開発なのでおかしくはない)。 ムリムリ!! 俺wiki篭りじゃないし!! い……ってぇ!! バカ! 追記しろ!! △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 何故項目作ったwww -- 名無しさん (2014-05-04 02 04 12) 名前 コメント
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1 ある朝起きると、あたしは猫になっていた。 なんで?なんで?何があたしに起きたの?良く思い出して! そうだ…、あたし殺されたんだ…。部屋に独りでいる時に誰か入って来て…刺されたんだっけ。相手の顔は…思い出せない…。 でも、それがどうしてこんな事に? そうだ!ママに連絡しなきゃ!あたし生きてるって。助けてって。 電話…あ、あった!ママ、心配してるだろうなぁ…。えっと…実家の番号は…うん、大丈夫。覚えてる! って、だめじゃん…。肉球じゃボタン押せないよ…。そうだ!爪で押せば良いのよね。爪を出して…っと…よし! プルルルル…プルルルル… お願い!出て、ママ! カチャッ…「もしもし」 やった!ママだ!あたしだって告げなきゃ!助けてって言わなきゃ! 「にゃあ」 何言ってるんだ、あたしは。いやいや、そうじゃない。ちゃんと言わなきゃ! 「にゃあ」 …そりゃそうだよね。猫だもん。にゃあ…としか言えないよね。あ、ママ待って!切らないで!…切られちゃった…。 何か他の方法考えなきゃ。とりあえず、ここはどこなんだろ…。男の子の部屋みたいだけど…。 あ、誰か帰って来た。 2 部屋に入ってきたのは男の子だ…。年齢はあたしと同じ位。大学生かな? あれ?でも…何か見た事ある気がする…。どこで見たんだろ…。 「ただいま。ミーコ。大人しくしてたか?」 ちょ、ちょっと!触らないでよ!えっち!まだ誰にも触らせた事ないんだからね!あんたなんかに触らせてあげないんだから!そんな困った顔してもだめですよーだ! …何か表情に陰りあるね…どうしたの?や、やだ!心配してる訳じゃないんだからね!ほ、ほら!あたしの事、何か知ってるかもしれないし…。 「今日は機嫌悪いなぁ…どうしたんだ?まぁ良いや。邪魔されたくないしな…」 邪魔?あたしが何を邪魔するっていうのよ!失礼なヤツ!後ろから引っ掻いてやる…。 あ、新聞…。あたしの事件の記事だ。これも、あれもだ!あたしの記事ばかり集めてる…。なんで?あたしの事知ってるの? もしかして…そうだ…この人があたしを殺したのかも…、だからあたしはこの人の猫に入っちゃったんだ…。きっとそうだ。よーし!証拠見つけてやるからね! 「ミーコ。俺、またちょっと出てくけど、お利口さんにしとくんだよ」 ふん!良く言うよ、人殺しのくせに! 3 あいつのいない間に証拠見つけなきゃ!何かないか探してやる! えっと…まずは服だね。きっと血のついた服とかあるはずだよね。洗濯物は…あ、こっちか。 あったあった、脱衣籠。うわぁ、きったないなぁ…。これだから男って…。くさいけど我慢して…あ、これなんて怪しい…くっ…引っ掛かってる… きゃあーーーっっ!こ、これパンツじゃないっ!やだっ!きたないっっ! 服を探すのは後にしよ…。くすん…。 他は…そうよね。凶器探さなきゃ。テレビなんかでも凶器が見つかって犯人逮捕!ってやってるもんね。隠すとしたら…ベッドの下が怪しいよね。 狭いけど、こんな時猫って便利!スイスイ入っていけちゃう!ん?何?この袋…怪しい…調べるべきね。よいしょ…。 ぅわ…これ全部えっちな物だ…。まぁ男の子だもんね。んと、本やDVDに…何?この浮輪みたいなの?? ・・・・・・ちょっと見ちゃおかな。 やっぱり男の子って胸大きい人が良いのかなぁ…。巨乳の女の人ばっかりだぁ…。あたしだって人間だった時は、結構それなりだったんだよ? 胸だって…Cはあったもん。時にはBの場合もあったけどさ…。 ってこんな事してる場合じゃないっ! 4 他に隠すような場所ってどこがあるかなぁ…。ん?机の上のあれは何? スクラップブックにアルバムだ…。あたしの記事、こんなに集めてる…。それに、たくさんのあたしの写真。小さい頃のまである…。 あれ?この写真…見覚えがある…。どこで撮ったんだっけ…。 そうだ。思い出した!あいつ…幼馴染みのケン君だ。ケン君があたしを殺したの?なんで? あ…ちょっと待って…。まだ何か思い出しそう…。 「ミーコ!やった!犯人見つかったって!彩を刺した犯人が捕まったんだ!」 突然帰って来てなによ!騒がしいわね!大声出さないでよ!触らないでったら! ・・・・・ぇ?今、何って言った?犯人捕まった?あんたが犯人じゃなかったの? 「しかし、ミーコ…やってくれたなぁ…。部屋の中めちゃくちゃじゃないか。」 「うわっ!こんな物まで引っ張りだして!こらっ!」 そうだ。思い出した。 あの日、ケン君が来るのを部屋で待ってたんだ。そしたら宅配便が来て、ドアを開けたら変な男の人で…。声出したら、刺されちゃったんだ…。 ごめんね、ケン君…。疑っちゃった…。何年ぶりかなのに、笑顔じゃなくて。 死んじゃってごめんね…。 5 あたしが死んだ後、ケン君はあたしの実家へ通い、何度も謝っていたそうだ。 もう少し早く着いていたら、あたしは死なずに済んだのに…って自分を責めているみたい。 警察へも何度も足を運び、手掛かりを探し歩いたりもしていたらしい。 そんな話をミーコになっちゃったあたしに涙ながらに話してくれた。 あたしはケン君の膝の上で丸くなりながら、じっと聞いてた。聞く事しか出来なかった…。 小さい頃にした『おとなになったら、けっこんしよう』って約束。まだ覚えててくれたんだね…。 あたし本当はね、そんな約束忘れてた。でも、心のどこかで覚えてたのかもしれない。だから誰とも付き合ってこなかったのかも…なんて今は思ったりするよ。 今、こうやってケン君の膝の上に抱かれて頭や背中を撫でられていると、本当に幸せだよ。 結婚は出来ないけど…ずっと一緒にいようね。これからは、あたしはケン君の側にずっといるから。 それと…浮気は許さないからね!えっちな本もだめ!見つけたら爪立てて破いてやるんだから!
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「正味の話、あたしのことどう思ってるの?」 ある日の活動のこと。ハルヒはキョンに問いかけた。 「何だ、藪から棒に。同級生で、年がら年中変なことを考えてる変な団長、とかか?」 キョンはお茶をすすりながら、さもやる気なさげに答えた。 「何よ、つまんない反応ね。ま、あんたに聞いたあたしが間違ってたわ」 「お前が自らの非を認めるのも珍しいな」 「古泉くんは?」 ハルヒはキョンのコメントを無視して古泉に問いかけた。 「そうですね、ぼ……」 「あんたは、『僕にとって、涼宮さんはとても素敵な女性だと思いますね』と言うっ!」 ハルヒは古泉の発言に被せて叫んだ。 「これはこれは。内容を読まれてしまいましたか」 「ふふん、伊達に団長は名乗ってないわ。それぐらいは楽勝よ! たまにはあたしの意表をついてくる副団長も見てみたいわね」 「精進します。」 「さて……みくるちゃん!」 「ひゃうっ!?」 水を汲みに行くことを装って部室からの逃走を図っていたみくるが、正にドアノブに手をかけた瞬間、ハルヒに呼び止められた。 「みくるちゃんは、あたしのことどう思ってるのかなー?」 つかつかと、実に良い笑顔でみくるに歩み寄ったハルヒは、ギギギという音が聞こえそうなほどぎこちなく振り返ったみくるの顔を両手で挟んで詰め寄った。 「え、えっと、えっと~……」 目を逸らしながら返答に窮するみくるは、しかし顔をしっかりとハルヒの両手に固定されているため、ハルヒの視線から逃れられない。 「な・に・か・な~?」 「あうあう、あの、えと……」 「おい、朝比奈さんが怯えてるじゃないか。大体、何で急にそんなことを聞いてるんだよ」 「黙ってて。ここ、大事なところだから。」 ハルヒは、キョンに元気を注入したときのような顔になっていた。 「それは……き、禁則事項です!」 みくるは怯えながらも、ハルヒの熱烈視線に真っ向から対峙した。涙目で。 「……みくるちゃんは、回答保留、ということね」 ハルヒから開放され、へなへなとその場にへたり込むみくる。 「さて……あたしも実は一番気になるんだけど……有希!」 ハルヒは、我関せずとばかりに窓辺で本を読み続ける長門に歩み寄り、その両肩に手を置いた。 「あんたは、あたしのことどう思ってるの?」 無垢な小動物のように澄み切った黒い瞳を覗き込みながら、ハルヒは静かに問いかけた。 「…………」 期待と不安で当人比5割増に輝いているハルヒの瞳を見つめながら、長門は無言を継続している。ハルヒもまた、長門の回答をいつまででも待ち続ける雰囲気を醸し出している。 二人のにらめっこが続いた。 やがて、長門の瞳が、長く付き合った人間にしか分からない程度に、微かに揺れた。 「あなたは……」 「あたしは?」 「…………」 再び沈黙。しかしその裏で、長門の周囲には、人間には信じられないほどの高密度な情報の流れが発生していた。 情報統合思念体との通信により、長門が今まで知り得た、涼宮ハルヒに関する観測情報を全て吟味し、最適の回答を検討する。不用意な回答は、世界の破滅をも招きかねない。 涼宮ハルヒは、長門有希にとって、観測と保護の対象。しかし、その事実は観測対象である本人に伝えるわけにはいかない。観測に支障を来す。 事実を隠蔽するのは簡単。だが、ハルヒはその強力な洞察力で、事実を覆い隠す虚偽の存在を敏感に検知してしまう。事実と大きく乖離した回答も危険。 真実は言及せず、虚偽は申告せず。真実ではないが嘘は言っていない、そのような絶妙な回答を用意しなければならない。 「わたしの……」 「有希の……何?」 ハルヒの瞳が、期待と不安で当人比30倍に輝く。 『観測』の対象にして、『保護』の対象。これを人間の言葉に置き換えると。 ハルヒの瞳を真っ直ぐ見つめる長門。長門が用意した回答はこうだった。 「……特別な人。大切な人」 ハルヒはひどく赤面した。
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この仕事で最初に貰ったテキストに書いてあったこと 「時空管理者が恋をした場合の選択肢は、記憶を失うか心を殺すことである」 高校卒業の後、元の時間にもどったわたしはがむしゃらに努力してそれ相応の権限を手に入れました。 そしてあの時代に干渉した結果、規定事項はすべて遵守、今の未来も確定してわたしの仕事は終わりました。 わたしに残ったのは、過去の記憶と現在の管理局トップとしての地位。 ここは広大な敷地にある図書館の館長室。 「機関の提案に対して、情報統合思念体は同調することにした。あなた達の結論を聞きたい」 「わたしたちも賛同します。今回の提案は、こちらにも利あるものですから」 話し相手は長門さん。アカシックレコードとすら評されるこの図書館の館長をしている彼女の正体を知るひとは少なく、知る人にとってはこの建物の二つ名は皮肉ですらあります。 配属前の研修生として一度だけお会いしたときには、その後文芸部室で再会するなんて考えてもいませんでした。 今は、私の交渉相手であり今でも苦手だけれども親友のひとりです。 「あなたは・・・・・・、朝比奈局長は後悔しない?」 彼女はわたしの顔色を伺うようにして問いかけてきました。だから、あたしは表情を変えることなく 「今回の件は、規定事項・禁則事項双方にも該当しませんのでわたしが後悔する理由はありません」 と答えることにしました。そして 「そう」 それは感情のこもった返事でした。 帰宅途中、わたしと彼女は入れ替わってしまったのかもしれないとふと感じました。 昨日からキョン君の、いえ長門さん以外のみんなの様子がおかしい気がします。 涼宮さんはやたら古泉くんを持ち上げるし、普段なら言い返す場面でもキョン君はそっけない態度です。 古泉くんもやけにキョン君に絡んでいる気がします。 「キョン君、どうぞ」 「ありがとうございます、朝比奈さん」 いつもと変わらない受け答えだけれども、キョン君の表情はなにか硬くて心配です。 「なにか困ったことがあるなら、あたしでよければ力になりますよ」 「いえ、何でもないですよ」 どうみてもいつものキョン君じゃないけど、あたしじゃやっぱり力になれないのかなぁ。 「みくるちゃん、おかわり」 「は、はい」 「みくるちゃん、キョンを甘やかしたらだめよ」 「で、でも・・・・・・」 涼宮さんの態度は普段と変わらない、でもやっぱりなにか違和感を感じました。 3人が帰った後、長門さんに聞いてみることにしました。そして聞いたのは予想しなかった事実。 「つまり、涼宮さんはキョン君に嫉妬させるために古泉くんと付き合っているふりをしているということですか」 「そう」 「なんでそんなにキョン君に冷たくあたるのでしょうか」 「涼宮ハルヒは、古泉一樹と付き合う事により彼の意識を向けさそうとしている」 「だが。彼は行動を起こさずにいる」 「涼宮ハルヒは、本心では彼に関係を否定してもらいたいから」 「・・・・・・」 「だから今、わたしは二人の監視を続けている」 長門さんは読んでいた本から目を離し、あたしをじっと見て言った。 「あなたは事実を知ったとして、なにができるの」 あたしはなにができるのだろうか。 次の日の放課後。 「おまたせ!」「ハルヒ、ドアがそのうち壊れるぞ」「いちいちうるさい!」 最後に涼宮さんとキョン君がきました。あたしもさっき着たばかりでまだ着替えていません。 「あれ?みくるちゃん、まだ着替えてないの?じゃあ、キョンと古泉くんはそとでまっていなさい」 昨日の長門さんの話をきいたので、涼宮さんを直視できないです。二人の問題であたしが干渉することじゃないんだけど。 長門さんが本を閉じ、先に帰ってしまいました。みんなも帰宅準備をしているときに古泉くんが涼宮さんに話しかけます。 「涼宮さん、このあと少しお時間いただけますでしょうか」 「どうしたの、古泉くん」 「いえ、お話ししていたお店で夕食をご一緒にいかがかと」 涼宮さんはキョン君をちらりと見ました。やっぱり止めて欲しいんだろうなぁ。 「ん?どうしたんだ、ハルヒ」 キョン君は鈍感です。視線をはずし 「そうね、じゃあ古泉くん。お願いするわ」 そう答える涼宮さんの声は、あたしには嬉しそうには聞こえないなぁ。 「涼宮さんと古泉くんどうしてますかね?」 二人がいなくなった後、ちらっと呟いてみました。 「あの二人だから・・・・・・うまくやってるんじゃないですか?」 「キョン君はそれでもいいの?」 彼があたしをじっと見て言葉をつなぐ。 「朝比奈さん。あいつがそれでいいなら俺は何も言わないです」 「じゃあ・・・・・・、なんでそんなに悲しそうな顔をしているの」 「・・・・・・」 「朝比奈さん、それがあいつの望みなら俺は何も言えないですよ。」 あたしにできることって。 「キョン君。あたし、今までキョン君に迷惑をかけたりしました・・・・・・」 「朝比奈さん?」 「あたしじゃ力になれないかもしれませんが、あたしキョン君の事が心配なんですぅ」 彼はあたしの言葉を聞いて少し寂しそうにした。その後、彼は決心を固めたのかあたしを見つめて・・・・・・ 「俺、朝比奈さんを頼ってもいいですか」 「はい。よろしくお願いします」 そのときからあたし達は付き合い始めました。最初は支えあうというほうが適切だったかもしれないけど。 あれから一夜過ぎて。朝、定期通信の内容を確認しています。 「1」 「システム更新のために通信が数日間不通になります。その間は各管理者の判断で対応してください」 「先に連絡していたとおり、各自転居をお願いします。住居確定後、速やかに連絡ください」 ああそうか、昨日通信しても返答がなかったのはそういう理由だったのかぁ。でも『1』ってなんだろう。 転居かぁ・・・・・・今住んでいる所が契約更新の時期だからちょうどよかったかも。そういえばこのまえ鶴屋さんに相談したときに 「それなら、あたしにまかせるさ~」と言われたけどそのあとどうなったのかなぁ。今朝にでも確認してみるかなぁ。 うん、できれば・・・・・・キョン君と一緒に帰れる範囲が良いなぁ。 あたしには、何より気になる一文があって、「現状維持で観察を続けてください」とのこと。 禁則事項だと聞いてはいなかったけど本当に良いのかなぁ、とつい首を傾げてしまうのでした。 「鶴屋さん、おはようございます」 「みくる、おはよう。きょうもかわいいねぇ~」 ハイキングコース(キョン君命名)の入り口付近で、鶴屋さんと鉢合わせです。やっぱり朝から明るいオーラがあふれています。 昨日のことはお昼に話そうかなと思っていたら、鶴屋さんから話を切り出してきました。 「そうだ、みくる。この前の話、転居のことだけど、どうせだからあたしんちに住むというのはどうだいっ。」 鶴屋さんのご自宅はすごく広い屋敷で以前(みちるとして)お世話になってたこともあります。 「以前泊まってた、あれちがったか、うちの離れだったらみくるが住むには十分だと思うさっ。食事はせっかくなんでみんなで一緒に食べよう」 「じゃあ、お願いしようかなぁ・・・・・・」 使用人の方々も一緒に住んでいた彼女の屋敷ですが、そういえば食事はみんなで集まって頂いていました。「ごはんはやっぱりみんなで一緒に食べたほうがおいしいから」という理由だと当時聞いたような気もします。 「それならさっそく明日にでも引越ししようか。うちまでキョン君なら自転車で来れる距離だから」 鶴屋さんの勘のよさにすこし驚いたり。まだ何も話していないのにキョン君の名前が出るのだから。 「どうせだし、全部あたしにまかせるにょろ。みくるの悪いようにはしないさぁ~」 「お、お願いします」 ま、まああたしは自覚したくないけどみんなからどじっ子と言われているのでやはり任せたほうが安全ですね・・・・・・書いてて悲しくなってきた、しくしく・・・・・・。 お昼休み。重要な話なので他のお友達のお誘いは辞退して、鶴屋さんと中庭でお弁当を突きながら話すことにしました。 たまには二人だけでお弁当もいいと思いませんか。「デートのお誘いかいっ(by 鶴屋さん)」 「へっ?ハルにゃんじゃなくてみくるがキョン君と交際?しかもみくるから告白???」 昨日の話をしているのですが、鶴屋さんが話を聞いている間ずっと呆然としてるのはなんででしょうか。 「え、う、うん・・・・・・」 まるで探偵が被疑者を問い詰めるようにして確認してきます。 「キョン君は確かにああ見えて結構ポイント高いと思うし、みくるに好意があったのは知ってるけど・・・・・・まじかい、お嬢さん?」 「う、うん」 そう聞かれるとうなずくしかできないです。 「ところで、ハルにゃんはそれ知ってるのかなぁ?」 「放課後に話そうと思っているのですが、どう切り出そうかなぁと」 そう、それが放課後の一番の心配事なんです。不思議探しで二人きりになった時ですら、あれだけ騒ぐあの涼宮さんがあっさり納得してくれるとは思えない。 鶴屋さんはお嬢様で立場上いろいろと会話技術もあるだろうし、なにかアドバイスをもらえたらいいなぁと。 「いいかい、その話は絶対にみくるからするんだ。キョン君にさせては駄目だよ」 鶴屋さんはさっきまでおちゃらけな雰囲気をがらりと変えて真剣な表情で言いました。 「は、はい」 たしかに、キョン君が話したら以前のように閉鎖空間で二人きりとか。そんなのはいやだ。 「強気で話す、そうしないとハルにゃんにはぐらかされてしまうからねぇ」 「はい」 「じゃあ、放課後はキョン君をあたしが引き止めるからがんばるにょろ」 話は終わりとばかりに弁当からを片付けながら、態度をさっきのおちゃらけな雰囲気に変える彼女。同じ年齢のはずだけどあたしにはまねできないです。 「そうだ、これからはキョン君の家で夕飯食べてうちに送ってもらいなよ~」 「そ、そうですね」 からからと笑う彼女をみるとなんだかうまくいく気がしてきました。 「自転車に二人乗りかぁ。青春だな、すこし妬けるねぇ。あはははは」 その光景を思い浮かべたあたしを指差して笑う彼女。顔が真っ赤になってるのかなぁ。 悩んでいたあたしに元気と勇気をくれる鶴屋さんは、大切な親友です。 <その4> 放課後。SOS団の部室に入ると、キョン君以外みんながそろってました。 「キョンは鶴屋さんが用事があるって連れて行ったわ」 パソコンの画面を眺めながら不機嫌そうなオーラを出しつつ涼宮さんはそういいました。 「えっと、涼宮さん。話があるのですが」 ここに来る前に考えてたとおりに話を切り出します。 「どうしたの、みくるちゃん。そんなまじめな顔をして」 「あたしの彼氏が見つかったら、涼宮さんが面談するって言ってたので報告します」 面白いことを見つけたとばかりに満面の笑みを浮かべて、涼宮さんが席から立ち上がってあたしに抱きついてきました。 「みくるちゃん、いい人がみつかったの?ねぇ、だれ?だれ?」 どうみてもおもちゃをねだる子供みたいだなぁと一瞬思いました。あたしはこの子供をおもちゃから引き剥がすのに。 「キョン君です」 予想はしていたけど、涼宮さんはぴたっと硬直し部室の空気が凍りました。 「へ?キョン?何の冗談?」 涼宮さんは少し離れてあたしの顔をじっと見つめています。 最初は冗談と思ってたのかきょとんという雰囲気が、にらみつける感じに変わり、かわいそうな人を見る目で話し始めました。 「みくるちゃん、そういうのは冷静にならなきゃだめよ」 その後に続くのは普段のキョン君への愚痴を並べたような内容。 「キョンのどこが良いわけ?気が利かないし、使えないし、ぱっとしないし、いろいろ鈍い。容姿も悪くはないけど普通だわ。優柔不断なところもあるし、キョンにみくるちゃんはもったいなさ過ぎるわ。それに・・・・・・」 今までは涼宮さんとキョン君の口げんかと半分流していた内容、でも今は聞いてて不快にしかならない。 そもそも、涼宮さん自身そうは感じていないのになんで素直にならなかったのだろうか。 「やめてください!」 気が付けば、叫んでいました。 「好きなんです。キョン君がOKしてくれたんです。あたしの彼を悪く言わないでください」 鶴屋さんは強気でと言ったけど、あたしは自分の感情を泣かずに言うのが精一杯。この程度で泣いたらキョン君の力になれない。 「そ、そう。ま、まあみくるちゃんがそういうなら・・・・・・。あたしとしても交際を応援するわ」 続いた沈黙のあと、涼宮さんはしばらくして声を搾り出すようにして、そうつぶやきました。 きまずい空気が悪いまま長門さんが本のページをめくる音だけが聞こえてきます。 「きょうは調子が悪いから帰るわ。最後の人は鍵よろしくね」 涼宮さんは空気に耐えられないのか逃げるようにドアを飛び出して、その直後キョン君と鉢合わせたみたいで 「遅れてすまん、鶴屋さんに雑用を頼まれて・・・・・・ってハルヒどうした?泣いているのか?」 (ドンッ)←なにか壁に当たる音 「いってえ。なんで突き飛ばされないといけないんだ。わけがわからん」 入れ替わりキョン君が入ってきました。 「いったいどうしたんだ?なにかあったのか?」 キョン君の問いにいつものスマイルで古泉君が答えました。 「別に。朝比奈さんがあなたとの交際のことを涼宮さんに伝えただけですよ」 「・・・・・・そうかい」 憮然とするキョン君。 「詳しいお話は明日にでも聞かせてください。僕はこれからバイトですから」 閉鎖空間の発生。今回は間違いなくあたしが原因。 「ごめんなさい、古泉くん」 「気にしないで下さい、朝比奈さん。涼宮さんはあなたのことを嫌いにはならないでしょうから」 そうだったらいいのだけど。あたしとしてもSOS団は居心地のいい場所、涼宮さんは納得してくれるだろうか。 キョン君と一緒に帰っているとき今日の出来事を伝えました。 「だから鶴屋さんはそういう理由で俺を呼んだのですか。朝比奈さんありがとうございます。ハルヒには俺から本来伝えるべきだったけど、放課後まで切り出すことができなくて」 せっかく一緒なのになんか空気が悪いので、引越しの話あたりで話題を変えよう。 「明日、鶴屋さんの家に引っ越すんですよ。前お世話になった離れを使っても良いって」 キョン君は2月のことを思い出しているのかすこしぼんやり考えて 「あそこならうちから散歩できる距離ですから、帰りに送って行くこともできます」 「じゃあ、引越ししたらお願いしようかなぁ~」 よかったぁ~、いつもの感じに戻った。内心ほっとしながら微笑むあたし。 それから、これからの事を話していると駅に着いてしまいました。 もう少しキョン君とお話したかったなぁ~・・・・・・そう思っていると 「明日からはもっと一緒に居れますよ」とキョン君が言ってくれました。 あたしも、明日を楽しみにしながらキョン君と別れて改札に入りました。 昨晩はキョン君と長電話してたので、鶴屋さんからメールが来ていたのに気が付かなかったのです。言い訳ですけどね。 だから今朝インターフォンがなったので、来客を確認すると、 「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇ」 え、えっと鶴屋さんが一人堂々とドアの前に立ち、その後ろに整列した集団。皆さん真ん中に『つ』と書いた作業服を着ています。 ドラマで見る家宅捜索の現場みたいですけど、あ、あたしは何もわるいことしてませんよ。 「おはよう~みくる~。メールしたとおり、引越しはじめるにょろ」 とりあえずドアを開けないと・・・・・・ロックがあかない。 「えっ、えっと何事ですか」 「メールみてないのかい?」 うんみてない、そう答えると簡単に説明してくれました。 「部屋の中身を全部移動させて学校に行くときにそのまま部屋を引き払えるようにするって書いたんだけどさ」 あたしですか?朝食食べながらTVを見ていましたよ。まだ7時ちょっと過ぎですから。当然顔は洗ってますが準備はしてません。 仕方ないので業者さんは一度車にもどってもらって、鶴屋さんにはあがってもらいます。 部屋の中をさっと見て、話を続けます。 「んじゃ、鍵をあずけていてもらえるかいっ?部屋のものをそのまま移しておくから今夜から離れに住めるようにしておくさ」 「ところで、今朝はイチゴジャムを食べてたのかなっ、ほっぺたについているよっ」 「うぅ・・・・・・」 一緒に家をでるときに鍵を業者の方に預けました。さようなら、今朝まで過ごしたあたしのおうち。 「どうしただい、みくる」 「長く住んでたお家を離れるので少し寂しく思っちゃって・・・」 そうだね、そういって鶴屋さんは進みます。あたしは後ろを振り返って 「いままでありがとう」 とだけ。 そうそう。夕方、これからお世話になる鶴屋さん宅の離れに行ったあたしが、朝の状態をそのまま移動させた部屋を見て驚きで腰を抜かしたことはみんなには黙っててくださいね、鶴屋さん。 メイド服に着替えて最初の仕事はみなさんにおいしいお茶を飲んでもらうことです。 昨日キョンくんと一緒に出かけた際、お店で薦められたのは「青柳」というお茶。キョンくんにも受けがよかったので、今日はこれに一緒に買ってきたあられをお茶請けに出しましょうか。 長門さん、古泉くんとキョンくんは熱いままで、涼宮さんはぬるめに。 これは長門さんの湯のみ、古泉くんとキョンくんのはこっちにおいて、と。 「お茶です、どうぞぉ~」 「あ、どうも」 古泉くんとゲーム中だったキョンくんは(あたしの両手がふさがっていたため)手を休めて、お盆からお茶とあられを取ってくれました。お茶をかるく冷まして一口飲んだ彼は、あたしを穏やかな表情で見つめて 「ありがとうございます。おいしいですよ」 とお礼を言ってくれます。このやさしい表情があたしは大好きだなぁ。 「いえいえ」と答えつつ笑顔で微笑み 「キョン君に喜んで貰えるのであたしも・・・・・・」と心の中で呟いてます。 「はい、どうぞ~」 「ありがとうございます、朝比奈さん」 古泉くんは、普段の微笑みの表情でお盆から取ってくれます。 長門さんは読書中なので手元にそっとお茶とお菓子を置いておきます。 「涼宮さん、どうぞ~」 「・・・・・・」 お盆を置いて、いつもの場所に湯飲みとお茶請けを置きます。PC画面に注視しているのか、涼宮さんはあたしに気がついていないようです。涼宮さんはお茶を一気に飲むため、すぐ湯飲みが空になります。あとで確認しないといけないなぁ。 「みくるちゃん、ちょっとこっちにきて」 涼宮さんが席から呼んでいます。「は~い」と返事して向かってPCを覗き込むと 「はにゃぁ!!!!!!!」 どうみてもコスプレ衣装の購入サイトです。 「このパンダの気ぐるみもいいわね。チャイナ服は以前着たがってたっけ?あ、あとうちセーラー服だからブレザーもいいわ」 「・・・・・・」 声には出していないけど18歳未満お断りなものもあります。 「おい、ハルヒ。朝比奈さんが嫌がってるだろ。ほどほどにしとけ」 がんばって、キョンくん! 「みくるちゃんはあんたの彼女である前にSOS団の団員よ。かわいい萌えキャラにかわいい衣装を着せるのは正義なのよ」 「え・・・え・・・。正義なんですかぁ~?」とハルヒの言葉に戸惑うあたし。 「まあ、それが正義なのは全く同意するところであるが」 負けちゃだめ、がんばって! 「ふん、この部屋でデレデレするのは団長であるあたしが許さないわ。でも、みくるちゃんはメイド服が本当に似合ってるわねぇ」 そういうと涼宮さんは席を立ち、抱きついてきました。 「こんなにかわいいし、いろいろな服を着せて楽しみたいって思うのは人として当然なのよ」 「だめですぅ。やめてくだしゃーい」 まともに返事できないけど、やめてくださーい。 「大丈夫ですか、朝比奈さん」 数分後。はぁ・・・・・・疲れました。キョンくんが割ってはいって止めてくれたけど、涼宮さんはやはり怖いですぅ。 ところで、さっきの会話でちょっと気になったことがあるので聞いてみよう。 「キョン君、これからあたしを『朝比奈さん』ではなくて『みくるちゃん』と呼んで貰えませんか?」 「どうしたんですか、急に」 「涼宮さんを名前で呼んでいるのに、あたしを苗字で呼ぶのはなにかおかしいんじゃないかなぁ」 言ったあと、『これは嫉妬なのかぁ』と思ったけどこの程度のわがままは当然の権利ですよねぇ。 「そうね、たしかにみくるちゃんのいうとおりだわ。キョン、そうしなさい」 涼宮さんの援護射撃もあり、キョンくんは 「みくるちゃん、みくるちゃん・・・・・・」 と呟き始めて、意を決してあたしの顔を見て 「え、えっと、みくるちゃん」 「はい!」 ・・・・・・キョンくんは硬直して顔が赤くなっていき 「朝比奈さん、ごめんなさい、無理です。せめて呼び捨てで良いでしょうか」 「もちろん、それでも大丈夫ですよ」 「じゃあ、み、みくる」 「はい、キョンくん」 そのまま二人はっずっと見つめあい、そしてほぼ同時に噴出しました。だって、キョンくんが面白いんだもの。 そのあと、耳元でこっそり 「じゃあ、二人きりのときにみくるちゃんって呼んでくださいね」 と冗談を言ってみたんだけど。自分で照れてキョンくんの顔を見れなくなってしまいました。 「涼宮さん、僕達も名前で呼び合いませんか」 「あたしは別に気にしないわ、『古泉くん』」 「そうですか」 古泉くんのいつものスマイルがすこし悲しそうに見えましたが。気のせいですね。 「涼宮も古泉のわがまま聞いてやればいいじゃないか」 「へ?」 キョンくんの提案に、涼宮さんはぽかーんとしていますが。あれ?どうしたんでしょうか。 「どうした?俺なにかへんなこと言ったか?」 「なんで苗字で呼ぶの・・・」 涼宮さんはぽかーんとした表情のまま答えています。 「さすがに彼氏もちの女性を名前で呼んだら、変に疑われるだろ。俺なりに気を使わないといけないと思っただけだ」 「僕は気にしませんよ」 「周りが気にするんだよ」 キョンくんが古泉くんを軽くにらんで話している時に、一瞬悲しげに曇った表情になったことにあたしは気づいてしまいました。 その2につづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5509.html
この仕事で最初に貰ったテキストに書いてあったこと 「時空管理者が恋をした場合の選択肢は、記憶を失うか心を殺すことである」 高校卒業の後、元の時間にもどったわたしはがむしゃらに努力してそれ相応の権限を手に入れました。 そしてあの時代に干渉した結果、規定事項はすべて遵守、今の未来も確定してわたしの仕事は終わりました。 わたしに残ったのは、過去の記憶と現在の管理局トップとしての地位。 ここは広大な敷地にある図書館の館長室。 「機関の提案に対して、情報統合思念体は同調することにした。あなた達の結論を聞きたい」 「わたしたちも賛同します。今回の提案は、こちらにも利あるものですから」 話し相手は長門さん。アカシックレコードとすら評されるこの図書館の館長をしている彼女の正体を知るひとは少なく、知る人にとってはこの建物の二つ名は皮肉ですらあります。 配属前の研修生として一度だけお会いしたときには、その後文芸部室で再会するなんて考えてもいませんでした。 今は、私の交渉相手であり今でも苦手だけれども親友のひとりです。 「あなたは・・・・・・、朝比奈局長は後悔しない?」 彼女はわたしの顔色を伺うようにして問いかけてきました。だから、あたしは表情を変えることなく 「今回の件は、規定事項・禁則事項双方にも該当しませんのでわたしが後悔する理由はありません」 と答えることにしました。そして 「そう」 それは感情のこもった返事でした。 帰宅途中、わたしと彼女は入れ替わってしまったのかもしれないとふと感じました。 昨日からキョン君の、いえ長門さん以外のみんなの様子がおかしい気がします。 涼宮さんはやたら古泉くんを持ち上げるし、普段なら言い返す場面でもキョン君はそっけない態度です。 古泉くんもやけにキョン君に絡んでいる気がします。 「キョン君、どうぞ」 「ありがとうございます、朝比奈さん」 いつもと変わらない受け答えだけれども、キョン君の表情はなにか硬くて心配です。 「なにか困ったことがあるなら、あたしでよければ力になりますよ」 「いえ、何でもないですよ」 どうみてもいつものキョン君じゃないけど、あたしじゃやっぱり力になれないのかなぁ。 「みくるちゃん、おかわり」 「は、はい」 「みくるちゃん、キョンを甘やかしたらだめよ」 「で、でも・・・・・・」 涼宮さんの態度は普段と変わらない、でもやっぱりなにか違和感を感じました。 3人が帰った後、長門さんに聞いてみることにしました。そして聞いたのは予想しなかった事実。 「つまり、涼宮さんはキョン君に嫉妬させるために古泉くんと付き合っているふりをしているということですか」 「そう」 「なんでそんなにキョン君に冷たくあたるのでしょうか」 「涼宮ハルヒは、古泉一樹と付き合う事により彼の意識を向けさそうとしている」 「だが。彼は行動を起こさずにいる」 「涼宮ハルヒは、本心では彼に関係を否定してもらいたいから」 「・・・・・・」 「だから今、わたしは二人の監視を続けている」 長門さんは読んでいた本から目を離し、あたしをじっと見て言った。 「あなたは事実を知ったとして、なにができるの」 あたしはなにができるのだろうか。 次の日の放課後。 「おまたせ!」「ハルヒ、ドアがそのうち壊れるぞ」「いちいちうるさい!」 最後に涼宮さんとキョン君がきました。あたしもさっき着たばかりでまだ着替えていません。 「あれ?みくるちゃん、まだ着替えてないの?じゃあ、キョンと古泉くんはそとでまっていなさい」 昨日の長門さんの話をきいたので、涼宮さんを直視できないです。二人の問題であたしが干渉することじゃないんだけど。 長門さんが本を閉じ、先に帰ってしまいました。みんなも帰宅準備をしているときに古泉くんが涼宮さんに話しかけます。 「涼宮さん、このあと少しお時間いただけますでしょうか」 「どうしたの、古泉くん」 「いえ、お話ししていたお店で夕食をご一緒にいかがかと」 涼宮さんはキョン君をちらりと見ました。やっぱり止めて欲しいんだろうなぁ。 「ん?どうしたんだ、ハルヒ」 キョン君は鈍感です。視線をはずし 「そうね、じゃあ古泉くん。お願いするわ」 そう答える涼宮さんの声は、あたしには嬉しそうには聞こえないなぁ。 「涼宮さんと古泉くんどうしてますかね?」 二人がいなくなった後、ちらっと呟いてみました。 「あの二人だから・・・・・・うまくやってるんじゃないですか?」 「キョン君はそれでもいいの?」 彼があたしをじっと見て言葉をつなぐ。 「朝比奈さん。あいつがそれでいいなら俺は何も言わないです」 「じゃあ・・・・・・、なんでそんなに悲しそうな顔をしているの」 「・・・・・・」 「朝比奈さん、それがあいつの望みなら俺は何も言えないですよ。」 あたしにできることって。 「キョン君。あたし、今までキョン君に迷惑をかけたりしました・・・・・・」 「朝比奈さん?」 「あたしじゃ力になれないかもしれませんが、あたしキョン君の事が心配なんですぅ」 彼はあたしの言葉を聞いて少し寂しそうにした。その後、彼は決心を固めたのかあたしを見つめて・・・・・・ 「俺、朝比奈さんを頼ってもいいですか」 「はい。よろしくお願いします」 そのときからあたし達は付き合い始めました。最初は支えあうというほうが適切だったかもしれないけど。 あれから一夜過ぎて。朝、定期通信の内容を確認しています。 「1」 「システム更新のために通信が数日間不通になります。その間は各管理者の判断で対応してください」 「先に連絡していたとおり、各自転居をお願いします。住居確定後、速やかに連絡ください」 ああそうか、昨日通信しても返答がなかったのはそういう理由だったのかぁ。でも『1』ってなんだろう。 転居かぁ・・・・・・今住んでいる所が契約更新の時期だからちょうどよかったかも。そういえばこのまえ鶴屋さんに相談したときに 「それなら、あたしにまかせるさ~」と言われたけどそのあとどうなったのかなぁ。今朝にでも確認してみるかなぁ。 うん、できれば・・・・・・キョン君と一緒に帰れる範囲が良いなぁ。 あたしには、何より気になる一文があって、「現状維持で観察を続けてください」とのこと。 禁則事項だと聞いてはいなかったけど本当に良いのかなぁ、とつい首を傾げてしまうのでした。 「鶴屋さん、おはようございます」 「みくる、おはよう。きょうもかわいいねぇ~」 ハイキングコース(キョン君命名)の入り口付近で、鶴屋さんと鉢合わせです。やっぱり朝から明るいオーラがあふれています。 昨日のことはお昼に話そうかなと思っていたら、鶴屋さんから話を切り出してきました。 「そうだ、みくる。この前の話、転居のことだけど、どうせだからあたしんちに住むというのはどうだいっ。」 鶴屋さんのご自宅はすごく広い屋敷で以前(みちるとして)お世話になってたこともあります。 「以前泊まってた、あれちがったか、うちの離れだったらみくるが住むには十分だと思うさっ。食事はせっかくなんでみんなで一緒に食べよう」 「じゃあ、お願いしようかなぁ・・・・・・」 使用人の方々も一緒に住んでいた彼女の屋敷ですが、そういえば食事はみんなで集まって頂いていました。「ごはんはやっぱりみんなで一緒に食べたほうがおいしいから」という理由だと当時聞いたような気もします。 「それならさっそく明日にでも引越ししようか。うちまでキョン君なら自転車で来れる距離だから」 鶴屋さんの勘のよさにすこし驚いたり。まだ何も話していないのにキョン君の名前が出るのだから。 「どうせだし、全部あたしにまかせるにょろ。みくるの悪いようにはしないさぁ~」 「お、お願いします」 ま、まああたしは自覚したくないけどみんなからどじっ子と言われているのでやはり任せたほうが安全ですね・・・・・・書いてて悲しくなってきた、しくしく・・・・・・。 お昼休み。重要な話なので他のお友達のお誘いは辞退して、鶴屋さんと中庭でお弁当を突きながら話すことにしました。 たまには二人だけでお弁当もいいと思いませんか。「デートのお誘いかいっ(by 鶴屋さん)」 「へっ?ハルにゃんじゃなくてみくるがキョン君と交際?しかもみくるから告白???」 昨日の話をしているのですが、鶴屋さんが話を聞いている間ずっと呆然としてるのはなんででしょうか。 「え、う、うん・・・・・・」 まるで探偵が被疑者を問い詰めるようにして確認してきます。 「キョン君は確かにああ見えて結構ポイント高いと思うし、みくるに好意があったのは知ってるけど・・・・・・まじかい、お嬢さん?」 「う、うん」 そう聞かれるとうなずくしかできないです。 「ところで、ハルにゃんはそれ知ってるのかなぁ?」 「放課後に話そうと思っているのですが、どう切り出そうかなぁと」 そう、それが放課後の一番の心配事なんです。不思議探しで二人きりになった時ですら、あれだけ騒ぐあの涼宮さんがあっさり納得してくれるとは思えない。 鶴屋さんはお嬢様で立場上いろいろと会話技術もあるだろうし、なにかアドバイスをもらえたらいいなぁと。 「いいかい、その話は絶対にみくるからするんだ。キョン君にさせては駄目だよ」 鶴屋さんはさっきまでおちゃらけな雰囲気をがらりと変えて真剣な表情で言いました。 「は、はい」 たしかに、キョン君が話したら以前のように閉鎖空間で二人きりとか。そんなのはいやだ。 「強気で話す、そうしないとハルにゃんにはぐらかされてしまうからねぇ」 「はい」 「じゃあ、放課後はキョン君をあたしが引き止めるからがんばるにょろ」 話は終わりとばかりに弁当からを片付けながら、態度をさっきのおちゃらけな雰囲気に変える彼女。同じ年齢のはずだけどあたしにはまねできないです。 「そうだ、これからはキョン君の家で夕飯食べてうちに送ってもらいなよ~」 「そ、そうですね」 からからと笑う彼女をみるとなんだかうまくいく気がしてきました。 「自転車に二人乗りかぁ。青春だな、すこし妬けるねぇ。あはははは」 その光景を思い浮かべたあたしを指差して笑う彼女。顔が真っ赤になってるのかなぁ。 悩んでいたあたしに元気と勇気をくれる鶴屋さんは、大切な親友です。 <その4> 放課後。SOS団の部室に入ると、キョン君以外みんながそろってました。 「キョンは鶴屋さんが用事があるって連れて行ったわ」 パソコンの画面を眺めながら不機嫌そうなオーラを出しつつ涼宮さんはそういいました。 「えっと、涼宮さん。話があるのですが」 ここに来る前に考えてたとおりに話を切り出します。 「どうしたの、みくるちゃん。そんなまじめな顔をして」 「あたしの彼氏が見つかったら、涼宮さんが面談するって言ってたので報告します」 面白いことを見つけたとばかりに満面の笑みを浮かべて、涼宮さんが席から立ち上がってあたしに抱きついてきました。 「みくるちゃん、いい人がみつかったの?ねぇ、だれ?だれ?」 どうみてもおもちゃをねだる子供みたいだなぁと一瞬思いました。あたしはこの子供をおもちゃから引き剥がすのに。 「キョン君です」 予想はしていたけど、涼宮さんはぴたっと硬直し部室の空気が凍りました。 「へ?キョン?何の冗談?」 涼宮さんは少し離れてあたしの顔をじっと見つめています。 最初は冗談と思ってたのかきょとんという雰囲気が、にらみつける感じに変わり、かわいそうな人を見る目で話し始めました。 「みくるちゃん、そういうのは冷静にならなきゃだめよ」 その後に続くのは普段のキョン君への愚痴を並べたような内容。 「キョンのどこが良いわけ?気が利かないし、使えないし、ぱっとしないし、いろいろ鈍い。容姿も悪くはないけど普通だわ。優柔不断なところもあるし、キョンにみくるちゃんはもったいなさ過ぎるわ。それに・・・・・・」 今までは涼宮さんとキョン君の口げんかと半分流していた内容、でも今は聞いてて不快にしかならない。 そもそも、涼宮さん自身そうは感じていないのになんで素直にならなかったのだろうか。 「やめてください!」 気が付けば、叫んでいました。 「好きなんです。キョン君がOKしてくれたんです。あたしの彼を悪く言わないでください」 鶴屋さんは強気でと言ったけど、あたしは自分の感情を泣かずに言うのが精一杯。この程度で泣いたらキョン君の力になれない。 「そ、そう。ま、まあみくるちゃんがそういうなら・・・・・・。あたしとしても交際を応援するわ」 続いた沈黙のあと、涼宮さんはしばらくして声を搾り出すようにして、そうつぶやきました。 きまずい空気が悪いまま長門さんが本のページをめくる音だけが聞こえてきます。 「きょうは調子が悪いから帰るわ。最後の人は鍵よろしくね」 涼宮さんは空気に耐えられないのか逃げるようにドアを飛び出して、その直後キョン君と鉢合わせたみたいで 「遅れてすまん、鶴屋さんに雑用を頼まれて・・・・・・ってハルヒどうした?泣いているのか?」 (ドンッ)←なにか壁に当たる音 「いってえ。なんで突き飛ばされないといけないんだ。わけがわからん」 入れ替わりキョン君が入ってきました。 「いったいどうしたんだ?なにかあったのか?」 キョン君の問いにいつものスマイルで古泉君が答えました。 「別に。朝比奈さんがあなたとの交際のことを涼宮さんに伝えただけですよ」 「・・・・・・そうかい」 憮然とするキョン君。 「詳しいお話は明日にでも聞かせてください。僕はこれからバイトですから」 閉鎖空間の発生。今回は間違いなくあたしが原因。 「ごめんなさい、古泉くん」 「気にしないで下さい、朝比奈さん。涼宮さんはあなたのことを嫌いにはならないでしょうから」 そうだったらいいのだけど。あたしとしてもSOS団は居心地のいい場所、涼宮さんは納得してくれるだろうか。 キョン君と一緒に帰っているとき今日の出来事を伝えました。 「だから鶴屋さんはそういう理由で俺を呼んだのですか。朝比奈さんありがとうございます。ハルヒには俺から本来伝えるべきだったけど、放課後まで切り出すことができなくて」 せっかく一緒なのになんか空気が悪いので、引越しの話あたりで話題を変えよう。 「明日、鶴屋さんの家に引っ越すんですよ。前お世話になった離れを使っても良いって」 キョン君は2月のことを思い出しているのかすこしぼんやり考えて 「あそこならうちから散歩できる距離ですから、帰りに送って行くこともできます」 「じゃあ、引越ししたらお願いしようかなぁ~」 よかったぁ~、いつもの感じに戻った。内心ほっとしながら微笑むあたし。 それから、これからの事を話していると駅に着いてしまいました。 もう少しキョン君とお話したかったなぁ~・・・・・・そう思っていると 「明日からはもっと一緒に居れますよ」とキョン君が言ってくれました。 あたしも、明日を楽しみにしながらキョン君と別れて改札に入りました。 昨晩はキョン君と長電話してたので、鶴屋さんからメールが来ていたのに気が付かなかったのです。言い訳ですけどね。 だから今朝インターフォンがなったので、来客を確認すると、 「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇ」 え、えっと鶴屋さんが一人堂々とドアの前に立ち、その後ろに整列した集団。皆さん真ん中に『つ』と書いた作業服を着ています。 ドラマで見る家宅捜索の現場みたいですけど、あ、あたしは何もわるいことしてませんよ。 「おはよう~みくる~。メールしたとおり、引越しはじめるにょろ」 とりあえずドアを開けないと・・・・・・ロックがあかない。 「えっ、えっと何事ですか」 「メールみてないのかい?」 うんみてない、そう答えると簡単に説明してくれました。 「部屋の中身を全部移動させて学校に行くときにそのまま部屋を引き払えるようにするって書いたんだけどさ」 あたしですか?朝食食べながらTVを見ていましたよ。まだ7時ちょっと過ぎですから。当然顔は洗ってますが準備はしてません。 仕方ないので業者さんは一度車にもどってもらって、鶴屋さんにはあがってもらいます。 部屋の中をさっと見て、話を続けます。 「んじゃ、鍵をあずけていてもらえるかいっ?部屋のものをそのまま移しておくから今夜から離れに住めるようにしておくさ」 「ところで、今朝はイチゴジャムを食べてたのかなっ、ほっぺたについているよっ」 「うぅ・・・・・・」 一緒に家をでるときに鍵を業者の方に預けました。さようなら、今朝まで過ごしたあたしのおうち。 「どうしただい、みくる」 「長く住んでたお家を離れるので少し寂しく思っちゃって・・・」 そうだね、そういって鶴屋さんは進みます。あたしは後ろを振り返って 「いままでありがとう」 とだけ。 そうそう。夕方、これからお世話になる鶴屋さん宅の離れに行ったあたしが、朝の状態をそのまま移動させた部屋を見て驚きで腰を抜かしたことはみんなには黙っててくださいね、鶴屋さん。 メイド服に着替えて最初の仕事はみなさんにおいしいお茶を飲んでもらうことです。 昨日キョンくんと一緒に出かけた際、お店で薦められたのは「青柳」というお茶。キョンくんにも受けがよかったので、今日はこれに一緒に買ってきたあられをお茶請けに出しましょうか。 長門さん、古泉くんとキョンくんは熱いままで、涼宮さんはぬるめに。 これは長門さんの湯のみ、古泉くんとキョンくんのはこっちにおいて、と。 「お茶です、どうぞぉ~」 「あ、どうも」 古泉くんとゲーム中だったキョンくんは(あたしの両手がふさがっていたため)手を休めて、お盆からお茶とあられを取ってくれました。お茶をかるく冷まして一口飲んだ彼は、あたしを穏やかな表情で見つめて 「ありがとうございます。おいしいですよ」 とお礼を言ってくれます。このやさしい表情があたしは大好きだなぁ。 「いえいえ」と答えつつ笑顔で微笑み 「キョン君に喜んで貰えるのであたしも・・・・・・」と心の中で呟いてます。 「はい、どうぞ~」 「ありがとうございます、朝比奈さん」 古泉くんは、普段の微笑みの表情でお盆から取ってくれます。 長門さんは読書中なので手元にそっとお茶とお菓子を置いておきます。 「涼宮さん、どうぞ~」 「・・・・・・」 お盆を置いて、いつもの場所に湯飲みとお茶請けを置きます。PC画面に注視しているのか、涼宮さんはあたしに気がついていないようです。涼宮さんはお茶を一気に飲むため、すぐ湯飲みが空になります。あとで確認しないといけないなぁ。 「みくるちゃん、ちょっとこっちにきて」 涼宮さんが席から呼んでいます。「は~い」と返事して向かってPCを覗き込むと 「はにゃぁ!!!!!!!」 どうみてもコスプレ衣装の購入サイトです。 「このパンダの気ぐるみもいいわね。チャイナ服は以前着たがってたっけ?あ、あとうちセーラー服だからブレザーもいいわ」 「・・・・・・」 声には出していないけど18歳未満お断りなものもあります。 「おい、ハルヒ。朝比奈さんが嫌がってるだろ。ほどほどにしとけ」 がんばって、キョンくん! 「みくるちゃんはあんたの彼女である前にSOS団の団員よ。かわいい萌えキャラにかわいい衣装を着せるのは正義なのよ」 「え・・・え・・・。正義なんですかぁ~?」とハルヒの言葉に戸惑うあたし。 「まあ、それが正義なのは全く同意するところであるが」 負けちゃだめ、がんばって! 「ふん、この部屋でデレデレするのは団長であるあたしが許さないわ。でも、みくるちゃんはメイド服が本当に似合ってるわねぇ」 そういうと涼宮さんは席を立ち、抱きついてきました。 「こんなにかわいいし、いろいろな服を着せて楽しみたいって思うのは人として当然なのよ」 「だめですぅ。やめてくだしゃーい」 まともに返事できないけど、やめてくださーい。 「大丈夫ですか、朝比奈さん」 数分後。はぁ・・・・・・疲れました。キョンくんが割ってはいって止めてくれたけど、涼宮さんはやはり怖いですぅ。 ところで、さっきの会話でちょっと気になったことがあるので聞いてみよう。 「キョン君、これからあたしを『朝比奈さん』ではなくて『みくるちゃん』と呼んで貰えませんか?」 「どうしたんですか、急に」 「涼宮さんを名前で呼んでいるのに、あたしを苗字で呼ぶのはなにかおかしいんじゃないかなぁ」 言ったあと、『これは嫉妬なのかぁ』と思ったけどこの程度のわがままは当然の権利ですよねぇ。 「そうね、たしかにみくるちゃんのいうとおりだわ。キョン、そうしなさい」 涼宮さんの援護射撃もあり、キョンくんは 「みくるちゃん、みくるちゃん・・・・・・」 と呟き始めて、意を決してあたしの顔を見て 「え、えっと、みくるちゃん」 「はい!」 ・・・・・・キョンくんは硬直して顔が赤くなっていき 「朝比奈さん、ごめんなさい、無理です。せめて呼び捨てで良いでしょうか」 「もちろん、それでも大丈夫ですよ」 「じゃあ、み、みくる」 「はい、キョンくん」 そのまま二人はっずっと見つめあい、そしてほぼ同時に噴出しました。だって、キョンくんが面白いんだもの。 そのあと、耳元でこっそり 「じゃあ、二人きりのときにみくるちゃんって呼んでくださいね」 と冗談を言ってみたんだけど。自分で照れてキョンくんの顔を見れなくなってしまいました。 「涼宮さん、僕達も名前で呼び合いませんか」 「あたしは別に気にしないわ、『古泉くん』」 「そうですか」 古泉くんのいつものスマイルがすこし悲しそうに見えましたが。気のせいですね。 「涼宮も古泉のわがまま聞いてやればいいじゃないか」 「へ?」 キョンくんの提案に、涼宮さんはぽかーんとしていますが。あれ?どうしたんでしょうか。 「どうした?俺なにかへんなこと言ったか?」 「なんで苗字で呼ぶの・・・」 涼宮さんはぽかーんとした表情のまま答えています。 「さすがに彼氏もちの女性を名前で呼んだら、変に疑われるだろ。俺なりに気を使わないといけないと思っただけだ」 「僕は気にしませんよ」 「周りが気にするんだよ」 キョンくんが古泉くんを軽くにらんで話している時に、一瞬悲しげに曇った表情になったことにあたしは気づいてしまいました。 その2につづく