約 21,169 件
https://w.atwiki.jp/nekogoya/pages/87.html
「人類の新型兵器……か」 カーメン大佐がスクリーンの向こう側でうなるような声を上げた。 「エルプス系魔法の応用技術であることは間違いありません」 エーランドの横に立つ女性士官が、書類片手に言った。 司令部から派遣されてきたマイナ技術大尉だ。 「物質の原子レベルでの結合を崩し、原子崩壊させることで物質そのものを破壊します。騎体の損傷痕に、エルプス系魔法独特の痕跡があることから明らかです」 「実体系武器では対抗出来なかったと?」 「武器がその役割を果たしません」 マイナ技術大尉は言った。 「エルプス系魔法の前で実体系兵器及び防御は一切無意味です」 「……そうか」 カーメン大佐は、数回、小さく頷くと言った。 「マイナ技術大尉を信じよう。エーランド少佐には悪いことをした」 「いえ」 エーランド少佐は、その外見故か、若干気障に見えるほど優雅に敬礼した。 「マイナ技術大尉がヒートサーベルを持ってきてくれました。同じ過ちは繰り返しません」 「当然だ」 「……」 数分後。 相次ぐメースの喪失をねちねちといびるカーメン大佐との通信を終え、瞑目して落ち込んだエーランドの横。 そこでは、マイナ技術大尉が表情を変えずにエーランドを見ていた。 人形のような美しく涼しげな容姿をしたマイナ技術大尉は、金髪の貴公子然としたエーランドの横に立つとちょっとした似合いだな。と、その様子を眺めていたシグリッド大尉は思った。 「?……ああ」 その視線に気づいたのか、エーランドはマイナ技術大尉に向き直った。 「すまなかったな。大尉」 無理に笑ってみたつもりだが、ぎこちないだろうとエーランドは自身でそう思った。 「いえ」 マイナ技術大尉は、愛想笑いを浮かべることさえなく、手にした書類をエーランドの前に突き出した。 「ツヴァイ4騎と、関連武装の受領書類です。確認の上、サインを願います」 エーランドは無言で書類を受け取る。 何故か一瞬、顔を引きつらせ、一番上の書類だけを自分のポケットにねじ込むと、二枚目にペンを走らせた。 「その……マイナ技術……大尉」 受け取った書類を確認したマイナ技術大尉は、引きつった顔を崩せずにいるエーランドに言った。 「騎体と部下を失ったことに関する始末書と進退伺いを3時間以内に提出してください。それと、一枚目に挟んでおいた、損害賠償と罰金の件ですが、お支払い方法はいかがなさいますか?」 エーランドは悲しげな顔をしながらも、精一杯胸を張って答えた。 「もちろん、漢(オトコ)らしく現金一括払いだ!」 「……低金利のクレジット会社、紹介しましょうか?」 「いらんっ!」 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 「残念なことになったわね」 「……そうね」 美夜と二宮の目の前で炎上を続けるのは、エーランドが放棄したメース、ツヴァイだ。 騎体の鹵獲(ろかく)を狙ったが、仕掛けられていた自爆装置が作動。 騎体は一瞬にして炎の中に消えた。 火葬を前に、敵騎の秘密がわかると期待していた面々には失望の色が走る。 「よっぽど私達に騎体を渡したくないみたいね」 「……そうね」 「……」 「……」 「……真理?」 「何?」 「敵と、何があったの?」 「……何も」 「……そんなにいい男だったんだ」 「何のこと?」 「今、顔に出たわよ?」 ●“鈴谷(すずや)”教官室 「ひでぇもんだ」 長野は、書類をデスクに放り投げると、コーヒーを飲もうと椅子から立ち上がった。 コーヒーメーカーの横に置かれたインスタントコーヒーの瓶を掴むと、中身を慎重に確かめた。 日本から持ってきたお気に入りのストックは、残り1本。 それでさえ、残りは瓶の半分にも満たない。 「……シャレにならねぇ」 「誤字脱字、ありましたか?」 長野のぼやきを聞いて声を上げたのは、長野の隣のデスクでパソコンを動かしていた美晴だった。 「いや?」 長野はコーヒーを淹れながら首を横に振った。 「損害が大きすぎると思っただけさ」 口ではそう言いながらも、長野が顔をしかめたのは、二宮がまとめた“伊吹”生存者に関する報告書を読んだからだ。 富士学校から派遣されたのは教官・候補生が31名、教員は12名とMC(メサイア・コントローラー)が19名となっている。 この数で、自前の“征龍改(せいりゅうかい)”6騎と、正規部隊から回されてきた“幻龍改(げんりゅうかい)”12騎を運用する。 さらに第二中隊から派遣され来た“幻龍改(げんりゅうかい)”6騎、騎士とMC(メサイア・コントローラー)、それぞれ6名ずつがこれに加わっていたが……。 「今や半分も残っていねぇとはな」 そう。 彼等の半数以上が“伊吹”と運命を共にしたことになる。 22騎存在した騎体に至っては10騎しか存在しない。 “伊吹”から引き出して修復した騎を加えて10騎なのだ。 長野は、生き残った騎体の割り当てに関する書類の作成を命じられていた。 “征龍(せいりゅう)”は元々第七分隊が使うことになっているし、今更使用者たる候補生の人選を変更して、セッティングを変えるくらいなら、第七分隊に使わせた方がいいと、長野は判断していた。 余談ではあるが、どうにもパソコンが苦手な長野は、柏美晴に代筆を依頼していた。 美晴に頼んだ理由は、長野曰く、彼女が候補生の中で最もキーボードの入力が速いと定評があることと、何よりMC(メサイア・コントローラー)に頼むと高くつきすぎるからだという。 それにしても……。 コーヒーカップに口を付けた長野は、二宮でさえ怒りを通り越してあきれたという出来事を思い出した。 “伊吹”で奇跡的に生還した3人組のことだ。 山科教官とその教え子2名。 第三分隊隊長の都築と副長の山崎だ。 何故生き残ったのか。 その報告は、長野でなくても顔をしかめるしかないものだった。 “伊吹”被弾の時。 候補生達は出撃騎搭乗者とそうでない者に分けられ、後者はブリーフィングルームで待機を命じられていた。 だが、そのいずれにも山科教官達の姿はなかった。 壮行会の際、山崎教官の深酒につきあわされた都築と山崎共々、二日酔いでドクターストップがかかっていたからだ。 素行不良で問題教官扱いされることが多かったとはいえ、そのおかげで彼らは命拾いしたことになる。 どういう皮肉か、長野にはわからない。 それに対して、さすがだと長野でさえ感服するのが、出撃部隊にいながら生還した第一分隊長の染谷だ。 染谷は“幻龍改(げんりゅうかい)”に搭乗し、池田大尉の背後、第一分隊二番騎につけてハンガーデッキで待機していたところで“伊吹”の被弾に遭遇した。 発艦準備中のフライトデッキ内部に飛び込んだ一撃は発艦待機中のメサイアを吹き飛ばし、メサイアが積載していた広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)を破壊した。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)から発生した消火困難な火災を含む爆発は、ハンガーデッキからフライトデッキへの進入経路までを一瞬のうちに、乗組員や騎士、そしてMC(メサイア・コントローラー)ごと破壊した。 元来、弾薬や可燃物には事欠かないハンガーデッキだ。 爆発は爆発を生み出した。 激しい衝撃により、染谷騎は他の騎が搭載していた弾薬の爆発に巻き込まれ擱座した。 他の教官や候補生達の騎も、ほぼ全騎が似たような状況、もしくは破損した騎の下敷きになって動かすことが出来ない有様だった。 メサイアに搭乗したままでは艦内から出ることが出来ないと判断した染谷は、教官である池田大尉に騎体放棄の許可を求めたが、池田大尉は染谷達にかまうことなく、自分だけ強引に“征龍改(せいりゅうかい)”で脱出を試みた。 結果は、池田大尉は妖魔の群れに襲われて死亡したのだが、反面、その後の染谷の行動は優等生の典型的模範例を示していた。 まず、MC(メサイア・コントローラー)と共に騎体を放棄し、ブリーフィングルームも含め、負傷者だらけとなったハンガーデッキを駆け回り、まだ動ける者達をまとめると、彼らと共に、負傷兵達を安全な場所へ移した。 デッキ内部にあふれたリキッドやオイルが引火すれば自分たちが危険になると判断したのも染谷が一番速かった。 ハンガーデッキに侵入した妖魔達から逃れるため、生存者と共に居住ブロックへ逃れ、たった一カ所のエアダクトを除き、すべての通気口と通路を閉鎖し、籠城の構えを指揮したのも染谷だった。 生存者達が、池田大尉のように逃げ出していれば妖魔達の餌食は避けられなかっただろう。 すべては染谷候補生の英雄的な決断力と行動力によると、二宮は報告書をまとめている。 長野も否定はしない。むしろ肯定的にとらえている。 そこまで考えて、長野は美晴に訊ねた。 「染谷候補生はどうしている?」 美晴はコーヒーを受け取りながら意味ありげな笑みを浮かべた。 「お忙しいと思いますけど?いろいろと」 「?」 ●“鈴谷(すずや)”第3層通路 グイッ! 「きゃっ!?」 ハンガーデッキからの帰り道。 候補生同士の打ち合わせを終えた美奈代は、部屋に戻る途中、突然、通路の角から飛び出した腕に手首を掴まれた。 何だと思うヒマさえなく、真っ暗な部屋に放り込まれた時には遅かった。 ガチャッ。という音を、背後で聞いた。 「なっ?」 振り返った美奈代が見たものは、ドアの前に立つ金髪の少女だった。 日本人ではマネ出来ない、その西洋人系特有の容姿。 “金色の妖精”という言葉が脳裏に浮かんだ。 そのあまりに美しい少女は、すでに艦内で知らない者はいない。 美奈代は、目の前の相手について、フィアという名前と、自分にとって個人的に好ましくない相手だという認識だけは持っていた。 「あの……」 「―――お願いってわけじゃないんだけど」 美奈代の言葉を遮るように、やや敵意をむき出しにた声で、フィアは言った。 正直、フィアの声を初めて聞いた美奈代は思わず後ずさった。 (こ……声まで可愛いなんて) 外見だけでなく、声まで愛らしいなんてあんまりだ。 美奈代は、女として自分が負けていることを、嫌でも自覚させられた。 神様、私、何かしましたか? 「……聞いているの?」 ドアを背に美奈代を睨みつけるフィアにそう言われ、神様に文句を言いに逝った美奈代は、現実に戻った。 「え?うえええっ!」 「……」 その素っ頓狂な声に、一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべたフィアは、美奈代に言った。 「これ以上」 その声色で、暗闇の中でも、美奈代にはわかった。 この子は、私を嫌っている。 でも―――どうして? フィアはそんな美奈代の心境に構うことなく言った。 「―――瞬(しゅん)に近づかないで」 瞬。 染谷瞬(そめや・しゅん)。 それは、美奈代にとって意中の男性の名だ。 「なっ?」 「瞬は私のものよ」 フィアは勝ち誇ったような、むしろ美奈代を哀れむような表情でドアノブに手をかけた。 「彼……優しくしてくれるの」 ●“鈴谷(すずや)”食堂 「そんなものは」 コーヒーを飲みながら美奈代の話を聞いていた宗像は、表情さえ変えずに言った。 「ハッタリだ」 「で、でも……」 美奈代は、染谷がフィアに気に入られていることを理由に、その身の回りの世話を命じられているのを知っている。 フィアを“語り石”に運ぶ際、フィアをコクピットで守っていたのが染谷だった。 あの戦いの中、自分のために必死になる染谷の姿に、フィアが惚れたというのが実情らしい。 「あの染谷にそんな甲斐性があるなら」 宗像は、落ち込む美奈代に手を伸ばし、その腹のあたりをなでた。 「お前の“ここ”は大変なことになっているぞ?」 「なっ!?」 「ふむ……すでに大変なことになっているな」 宗像が美奈代のお腹の肉をつまんでいる。 「レーション食べ過ぎたな。スカート、大丈夫か?」 「ち……ちょっと心配だ」 「全く」 美奈代の腹から手を離し、クックックッ……喉を鳴らして笑う宗像は、尊大なまでにゆったりと落ち着き払った様子で美奈代に言った。 言葉と態度に、不思議な威厳を感じる。 「お前の悩み事といえば、どうしてそう子供じみているんだ?」 「だ……だけど」 「恋のライバルからケンカ売られて?それだけで負けたとでも?」 「……」 「あの容姿だから、無理もないとは思うが」 「……そういえば、宗像は」 おや?と思った美奈代は宗像にたずねた。 「あの子には手を出そうとか、考えないのか?」 「外人は専門外だ」 宗像は言った。 「私は……そう、日本人形のような女の子は大好物だが、西洋人形はどうにもダメだ」 「……はぁ」 「菓子は和菓子に限る。日本人としてそう思うだろう?泉」 「……まぁ」 「……ずいぶんと生返事だな」 「和菓子と女の子を同列に語られても……返答に困る」 「全く……美意識のない奴だ」 その日の夕方。 “鍵”を乗せた飛行艦が針路を変えたという報告を、エーランドが受けたのは、食堂でのことだ。 トレイに乗った夕食を目の前に、エーランドは報告を聞いていた。 そのエーランドの前では、マイナ技術大尉がさっさと食事を始めている。 「予想針路は?」 船の生活で数少ない楽しみである食事をお預けされたエーランドは、厳しい士官としての表情を維持したまま、報告にきたムブナ中尉に訊ねる。 その間も、マイナ技術大尉の食事が止まることはない。 「情報では、ホルムズ海峡経由でドバイに入る予定でしたが」 「違うのか?」 「はい。ソコトラ島から北東へ針路をとっていたのですが、針路を真北にとりました」 「真北へ?」 マイナ技術大尉の持つフォークが、エーランドのトレイに伸び、チキンの照り焼きに突き刺さった。 「―――ぐっ!」 「何かお心当たりが?」 「いや―――続けてくれ」 「はっ。このままでは1時間後にアラビア半島に上陸します」 「敵の目的は何だ?」 マイナ技術大尉が、エーランドのトレイに伸びた。 「……実は」 ムブナ中尉が言いづらそうな表情になった。 マイナ技術大尉が、空になったトレイをエーランドの前に戻した。 「どうした?」 腹は減るが、それよりもエーランドの関心は、敵の動きにあった。 自分達が追跡していることを察知して針路を変えたというのか? ムブナ中尉は答えた。 「……実は、現在、インド洋に展開中の水中戦隊を含む全部隊に、一時的なインド洋から撤退及びアフリカ大陸への帰還命令が出ました」 「撤退?」 「はい」 ムブナ中尉は頷いた。 「理由はわかりませんが、人類が何か、大きな行動に出ると」 「何だそれは?」 「末端の我々にはわかりません」 「司令部は我々に何と?」 「人類側の電波情報に注意しつつ、追撃を続行しろ……と」 ●“鈴谷(すずや)”艦橋 「いい加減にしてくださいっ!」 美夜を夕食に誘いに来た二宮は、艦橋に入った途端に飛んできた美夜の金切り声に思わず飛び上がった。 一体、何を怒られたのかわからず、目を点にする二宮の前で、艦長席から立ち上がった美夜が顔を真っ赤にしてスクリーンを睨み付けていた。 「毎回毎回、どうしてそんな無茶ばかり!」 「これは命令だ」 スクリーンの向こう側。 そこは、アラビア海から遠く離れた東京だ。 一体、顔面に筋肉を持っているのかさえ疑わしい仏頂面を浮かべるのは、作戦部の田辺部長だ。 彼の後ろには、東京の夜景が映されている。 何故、東京タワーなのかはわからないが、少なくとも近衛軍飛行艦隊司令部が、東京タワーに近い場所に存在しないことだけは、二宮も知っている。 その目の前で、背景が次々と変わる。 春の富士山が映える田子の浦と近衛軍にどんな関係があるのかは、さらに知らない。 お祭りの山車に近衛が関係しているとは思えない。 日本を遠く離れた飛行艦乗り達への精一杯の配慮。とでも言うつもりだろうが、二宮には、怪しい外国人が日本を騙るためにでっち上げた背景としか考えられない。 「“鈴谷(すずや)”は針路を変更し、アラビア半島を横断、バーレーンに向かえ」 「何故、ホルムズ海峡経由ではないのですか!」 美夜は顔を真っ赤にして怒鳴る。 「この“鈴谷(すずや)”の貧弱な武装で、ただでさえ政情不安定なアラビア半島を、活きて横断出来ると?“鈴谷(すずや)”に沈めというんですか!?」 「作戦部は“鈴谷(すずや)”に対し、隠密行動をとることを命じる」 「飛行艦に隠密行動なんてとれると本気で考えているのですか!?副司令を出してくださいっ!」 「副司令は会議中だ」 「今度はどこの料亭です!このままなら“鈴谷(すずや)”は―――」 「……アラビア海は明日から嵐だよ。平野艦長」 脅し文句を言いかけた美夜をとがめるように、田辺部長は言った。 「嵐?」 美夜は、田辺部長の映るメインモニター横の気象情報ディスプレーを見た。 「……サイクロンは」 「違う」 田辺部長は、その太い猪首を横に振った。 「嵐が吹くのだ」 「……は?」 「本来なら、バーレーンさえ……いや、バーレーンこそが危険なのかもしれない」 「……?」 怪訝そうな顔をする美夜に、作戦部の部長は続けた。 「しかし、すでに補給物資はバーレーンに納入されている。現地米軍基地で受領してもらうしかない。“鈴谷(すずや)”をどう動かすかは、それからだ」 「……一体?」 「これは一般回線だ。平野艦長」 田辺部長は、何かを振り切るような顔で、そして強い口調で美夜に言った。 「これは厳命である。“鈴谷(すずや)”はバーレーンの米軍基地ににて物資補給後、現地にて別名あるまで待機せよ」 「……」 「―――もう一度、言わせる気か?」 「わかりました」 美夜は敬礼した。 「“鈴谷(すずや)”はこれより変針、アラビア半島を横断し、バーレーン米軍基地へ向かいます」 「……幸運を祈る」 艦長席に乱暴に座ると、背もたれにもたれかかり、美夜は歯を食いしばる。その肩は小刻みに震えていた。 「一体……司令部は……何を……」 ●“鈴谷(すずや)” 艦長室 「どう思う?」 夕食後、斬艦刀に関する報告書を読み終えた美夜は、前に座る二宮へ、ウィスキーの入ったグラスを差し出そうとしてやめた。 「どう思って聞かれても」 二宮は首を傾げた。 「他に情報は?」 「別に」 美夜も困惑気味に答えた。 「心当たりがないから聞いているのよ」 「嵐なんでしょう?たとえば、気象情報とか」 「インド洋はタイフーンの時期だけど……そういえば」 美夜は席を立つと、新聞記事をまとめたバインダーを持ってきた。 「最近、妙に暗号レベルが高められてはいるのよ」 「近衛内部で?」 「おかげでこんな新聞記事まで暗号2種の圧縮便よ?解析に手間取って朝刊がお昼になってようやく届くの。私、朝に新聞読まないと調子が悪いっていうのに」 「カタブツらしい生活習慣ですこと」 「言っておくけど、競馬新聞は新聞じゃないからね」 「スポーツ新聞よ―――それで?」 「世界はなべて事もなし。陸軍がようやく予算手に入れて、大規模演習が出来るって喜んでる」 「演習?」 「そう。予備役まで動員するかなり大きいものになるそうよ。海軍も負けじと演習準備中」 「この不況の時によくやるわ。お隣の中国ならわかるけど」 「……その中国はインド洋から南シナ海で活動を活発化させている」 「それが?」 「インド洋に3個空母部隊が展開している。数日前にマラッカ海峡を超えている」 「3個は多いわね」 「でしょう?裏情報ではあっちの陸軍部隊は無期限待機状態に入ったというし」 「……」 「―――ま、連中の考えがわからないのはいつものことだもの」 美夜は肩をすくめた。 「飲みなさいよ。これからはアラーの縄張りに入るんだから」 「しばらくは―――飲酒出来ないわね」 「禁酒の中東圏ですからね」 「いいじゃない。バレるもんじゃないわよ」 手を伸ばす二宮より先に、美夜は席を立った。 「私は紅茶にする」 「コーヒーよ」 「紅茶。あなた飲み過ぎよ?将来、絶対、胃に来るわ」 「コーヒー」 「……頑固者。それはそれで、教え子の3騎撃破の申請、認められたんだっけ?」 「そう!」 二宮はそれまでの渋い顔はどこへか、満面の笑みを浮かべた。 「魔族軍メサイア初撃破は長野大尉だけど、複数連続撃破はあの子が初めてなの!戦闘記録を見たけど、踏み込みから武器の使い方、最初から最後まで文句の付けようがなかったっ!」 「……親ばか」 心底嬉しそうな二宮の顔を見て、美夜は笑いをかみ殺すのが精一杯だ。 「そう言えば―――もう一人の秘蔵っ子だけど」 風間祷子のことだと、二宮はすぐに見当をつけた。 「何かわかった?」 自分用の紅茶をもって、美夜は席に戻ってきた。 「旦那(あのくそやろう)経由の情報だから確かだと思う」 紅茶に口をつけた美夜はソファーの背にもたれかかった。 「あっちもアフリカに送られていた。配属先は開発局直属の特務隊」 「特務隊?」 「ええ。“笠置”。知ってる?開発局が保有する実験艦」 「……速度60ノットの高速艦だったわね。確か、人類最速とか」 「そう。“笠置”を母艦にしてモザンビーク付近に展開しているけど、そこで新型の性能調査中とか」 「……」 「問題は、新兵をそんな所に送り込んできたことだけじゃないの」 「えっ?」 「その部隊……いろいろ隠しているけど、派遣された騎士の正式な所属は、天皇護衛隊(オールドガーズ)よ」 「なっ!?」 天皇護衛隊(オールドガーズ)は、天皇を護衛することのみを任務とする最精鋭部隊。 その名を聞いた二宮は、危うくティーカップを落とすところだった。 「な、なんで!?」 「ダンナも、さすがにそこまでは……というか、あなたの古巣でしょ?心当たり、ないの?」 「……実は」 二宮は、長野での演習のことを美夜に話した。 「その新型騎……天皇護衛隊(オールドガーズ)主導で建造されたんじゃないの?」 「……いや、それはない」 二宮が首を横に振ったのは根拠がある。 あの演習の時、監視に来ていたのは麗菜内親王の護衛隊、内親王護衛隊(レイナ・ガーズ)だった。 あの騎の主導権を天皇護衛隊(オールドガーズ)が握ってるなら、内親王護衛隊(レイナ・ガーズ)が介入する余地はないはずだ。 「さすがに笠置は足が速いわ」 二宮の困惑に気づかないのか、美夜は言った。 「アフリカにもう到達していて、部隊出撃回数は10回以上―――教え子のスコア、気になる?」 「スコア?」 二宮は目を丸くした。 「あのボンクラちゃんがスコアを獲得したの!?」 「あんたね……仮にも教官がそんな愛称で」 「風間候補生、怪我してない?おうち帰るって泣いてない?」 「どういう心配してるのよ」 「ガーズのオヤジどもにセクハラされてないかしら―――あーっ!もうお嫁に行けない体にでもされていたら!」 「……まぁ、素行不良中年全開オヤジ共の集まりだからねぇ」 「でしょう!?」 二宮は膝を叩いた。 「あんないろんな意味で危険な連中の所に、私の娘を送り込むなんて耐えられないわ!」 「スコア48騎」 激高する二宮に、美夜は言った。 「……は?」 二宮は意味が分からない。 「昨日6時時点でのその子のスコアよ」 「……48?シミュレーターの結果?」 「実戦よ」 美夜は眉をひそめた。 「初陣で10騎を血祭り。あまりの活躍に、ガーズの連中、今じゃ“姫さん”って傅(かしづ)いているそうよ」 「……あの子が?」 「そう」 美夜は頷いた。 「あなたのアヒルの子は、白鳥どころか、不死鳥にでもなったみたいね」 ビーッ! 美夜のデスクでインターフォンが鳴った。 「私だ」 美夜が受話器を取る。 相手は副長の高木だ。随分困惑した声をしている。 「司令部から緊急?」 その内容を聞く美夜の手からティーカップが落ちた。 「……わかった」 強ばった声で、美夜は頷いた。 「本艦には当面、直接の影響はないだろう。司令部は作戦継続を指示しているんだろう?……クルー達には明日、私から説明しよう。それまでは箝口令を敷け。明日、0700にハンガーへクルーを集合させろ……うん……頼む」 ハァッ。 美夜の口から盛大なため息が出た。 「どうしたの?」 部屋の掃除道具入れから雑巾をとってきた二宮が、床を拭きながら訊ねた。 「あなたらしくもない」 「……してやわれた」 「何を?」 カップが割れていないことを確認し、床にひろがった紅茶の海を丹念にふき取る二宮は、床だけに意識を集中している。 「国連軍司令部が爆弾テロでやられた」 「……えっ!?」 「6時間前。それと3時間前」 「……」 「中華帝国軍が近隣国境線を突破した」
https://w.atwiki.jp/asdfa/pages/675.html
#contents *墓守の鍵 [#od372608] | |CENTER アイテム詳細 | |アイテム名|墓守の鍵| |タイプ|消耗品、カード| |購入/売却|928G(20個)/???G| |入手方法|ファンブルグ よろずや| | |CENTER ref(アイテム/墓守の鍵/18.jpg,nolink);| **アイテムの効果 [#ne25dc85] **アイテムの説明 [#k4719186] 宝箱の鍵。 *コメント [#w04462f2] #comment
https://w.atwiki.jp/mankake/pages/832.html
imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 作者:りせ廃神 作品概要 ヨメールに帰ってきてしまったクソなやつら! 「とある日常の一コマ」が帰ってきてしまった! パロディなど全然自重せずやってく不条理ギャグマンガ。 タイトル絵はストリートファイターシリーズの露骨なパロディ。 2018年11月29日、完結。 ジャンル 作品を読む
https://w.atwiki.jp/asdfa/pages/676.html
#contents *冒険者の鍵 [#bdf1fce3] | |CENTER アイテム詳細 | |アイテム名|冒険者の鍵| |タイプ|消耗品、カード| |購入/売却|800G(20個)/400G(20個)| |入手方法|ファンブルグ よろずや| | |CENTER ref(アイテム/冒険者の鍵/17.jpg,nolink);| **アイテムの効果 [#a5db65c0] **アイテムの説明 [#mc5afe5f] 宝箱の鍵。 *コメント [#me90143f] #comment
https://w.atwiki.jp/shooto/pages/314.html
田村 和也(たむら かずや) 誕生日:1983年11月2日 出身:茨城県龍ヶ崎市 所属:マッハ道場* 身長:168cm 階級:フェザー級 戦績 年月日 対戦相手 結果 大会 2006/7/21 松本輝之 × 1R スリーパーホールド プロフェッショナル修斗公式戦 2006/10/20 Atsushi13号 △ 判定 0-0 G-SHOOTO Special 02 2007/3/16 江田皓哉 △ 2R 判定0-0 BACK TO OUR ROOTS 02 2007/9/22 扇久保博正 × 1R スリーパーホールド BACK TO OUR ROOTS 05 ■1983年生まれ ▲茨城県出身 ▼フェザー級 ◆マッハ道場
https://w.atwiki.jp/vipdedekaronkayo/pages/12.html
やあようこそ じゃあ頑張って鹿狩ってレベルあげてこようか え?手伝え?いやいやソロのが早くてうまいし クエスト完了したら経験値うpアイテム貰えるはずや 金もかからず経験値はうまうま ポーションは鹿狩って出た奴使ってれば十分 20まで通えるからレッツらゴー あとはクエストをちょこちょこ回していけば30~40ぐらいまではマッハ エステバンとかいうロアNPCのクエでも経験値うpアイテム貰えるらしいぞ有効活用しろな
https://w.atwiki.jp/sazanami-x/pages/161.html
わだつんお願い -- 朝倉 2006-05-23 02 33 54 わだつん更新おつ。 X組名言集を作ったんだけどメニューに入れておいてください。 わたしにはメニューの変更ができないのだ・・・お願いばかりでスマヌ。 ログインしなくてもページ一覧からメニューの編集できるけど、とりあえずやっておきましたー。 -- 瀬芹 (2006-05-23 19 45 48) うぬ。イマイチ使いこなせていないのだ・・・。さんくす -- 朝倉 (2006-05-23 20 02 10) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/geinouscoop/pages/19.html
グループ名:KAT-TUN(カトゥーン) KAT-TUNは2001年結成のジャニーズ事務所所属の男性アイドルグループ メンバー 亀梨和也(かめなし かずや、1986年2月23日 - B型) 田口淳之介(たぐち じゅんのすけ、1985年11月29日 - AB型) 田中聖(たなか こうき、1985年11月5日 - B型 ) 上田竜也(うえだ たつや、1983年10月4日 - B型) 中丸雄一(なかまる ゆういち、1983年9月4日 - O型) 旧メンバー 赤西仁(あかにし じん、1984年7月4日 - O型 )
https://w.atwiki.jp/jking/pages/15.html
かめなしかずや(亀梨和也) ・勝運のK ・1986年2月23日東京都出身 うお座のB型 171cm53kg ・小学生の時、リトルリーグで世界大会出場 かとぅーん(KAT-TUN) ・2001年結成 6人組 ・エロカワ格好いいのキャッチフレーズでおなじみ ・(;´Д`)ハァハァ がくと ・上田様がリスペクトしていた人物 がんばっていきまっしょい ・代役でじゅんのがサブローに ・ボートを跨ぐ足長っぷりをアピールして帰ってきた
https://w.atwiki.jp/ronaldinho/pages/1235.html
#blognavi 帰ってきました。 まずはコメント返しから オラトリオさん ごめん!! m(_ _)m すっかり忘れたぜ・・・STG好きだってことOTL さて、やらなきゃならないことが多すぎるぜ!! とりあえず、9月1日~5日まで集中講義っと。 他は・・・まだ書けないぜOTL とりあえずやらなきゃならないことやらねば・・・OTL カテゴリ [その他] - trackback- 2008年08月29日 21 38 30 名前 コメント #blognavi