約 2,714,703 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/237.html
パチン、パチン。 電飾に照らされた夜の街に、音楽とは別の音が混ざる。 パチン、パチン。 パレード、その台車の片隅に座り、爪切りをしている中学生ごろの歳の少女が一人。 パチン、パチン。 少女は爪切りを終えて指の様子を確かめ……おもむろにポーチからヤスりを取り出すと 爪の形を整え始めた。 喧騒、音楽、そしてどこかで何かの都市伝説を蹂躙するマスコットたち。 そういった周囲の状況を全く無視して、彼女は爪にヤスリをかける。 すりすり、すりすり。 指の全てにヤスリをかけ終えたころ、パレードが止まっていることに気が付いた。 ここは<夢の国>。 都市伝説そのものの体内ともいえる場所。 そこで少女は……ただ周囲で起こる阿鼻叫喚を無感動に眺めていた。 その視界の中、ある都市伝説はその身体に刃を突き立てられ、逃げ去り。 ある少年は無謀にも戦いを挑み、敗れ、助け出され。 ある契約者の集団は、あっさりと住人として取り込まれた。 私は……取り込まれているのだろうか? 電飾の光を受け、マニキュアを塗ったわけでもないのにつやつやと輝く自分の爪を見つめ ながら少女は考えてみる。 確かに、自分はあの女……<夢の国>の契約者の呼び出すパレードに付随するような形で 現れたり消えたりしているし、飢えも、死も、多分存在していない。 それは、私の契約する都市伝説の力なのだろうか? それとも、私もいつか<夢の国>に取り込まれて……自我を失ったのだろうか? その割には、あの女に命令をされるわけではなく。 誰かと戦うこともなく。(これは、私の都市伝説が戦えないものだからでもあるんだけど) ただ、見ているだけで。 ……ふと、<夢の国>の中で聞いたある黒服の声を思い出す。 『思い出して御覧なさい、貴方が本当に望んでいるのは、何なのか……』 白く浮き上がった切断面は滑らかになり、表面の凹凸も、爪が薄くなりすぎない程度に 均していく。 ……また一つ、都市伝説が取り込まれたようだ。 ここには、飢えも、死もない。 でも、それは生きているということなんだろうか? 半ば自棄で意思を持たないこの都市伝説と契約して、全てに興味がない振りをして、 戦いを、死を眺め……それでも、死を恐れている私は何なんだろうか? つややかな爪にマニキュアを塗りながら……少女は自問自答する。 私が、本当に望んでいるのは何? 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2235.html
20:45 職員室 「なんかこのネズミ、さっきより増えてね?」 「さてのぅ?他の場所から逃げて来たんぢゃろ」 「他ってどこよ?」 「あたしが知る訳無いぢゃろう」 一通り少年の傷の治療が終わった時、部屋の中に大量の鼠が入り込んで来た。 オーナーによると何かしらの都市伝説の影響を受けているらしい。机の上に避難したものの、何匹かは上まで登ってくる。 今のところ襲ってくる気配は無いが、いつどうなるか解らない。 「どっか別んとこに移った方がいいかもな」 「ですが今動いてはあなたの身体が…」 「大丈夫、平気だって」 そう言って笑う少年だったが、その顔は青白い。 オーナーには解る。彼と契約しているから。自分が【人肉料理店】だから。 確かに表面の傷は塞いだ。しかしダメージは筋肉や骨、下手をすれば内臓にまで及んでいる。 「申し訳ありません。私の力が足りずに…」 「そりゃオーナーのせいじゃねーだろ?気にすんな!」 治療の際に一旦異空間に跳ぼうとしたのだが、入口を開く事すらできなかったのだ。おそらく何らかの妨害措置だろう。 (力の強い都市伝説なら異空間へ跳ぶくらいなら可能でしょうが…) 都市伝説の力の強さは知名度の高さに由来する。……そして【人肉料理店】は、あまり有名な都市伝説ではない。 こればかりはどうする事もできなかった。 「うだうだ言ってねーで早く行こうぜ?…正直この数のネズミは気持ち悪い」 「解りました……っと、ちょっと待って下さい。奥の方に誰か居ます」 職員室のドアから顔をだすと、教室の前で数人の男女が向かい合っていた。 「さっきまでドカンドカンやってた人達かな?なんか睨み合ってるし…」 「どうぢゃろうな?お前さんがそんな状態ぢゃし、今は近付かん方がいいぢゃろ」 「そうですね。階段から上へ上がりましょうか」 「おけー。んじゃ早速……って携帯のにーちゃん!?」 目の前の階段を見上げると、そこに居たのは探していた爆発する携帯電話の契約者。 しかしその目はこちらを向いていない。廊下を走り回る鼠を見て、ジャッカロープを抱きしめながら小さく震えていた。 「オーナー、ばーちゃん、行くぞ!」 「あ、急に動いては…!」 「あほ孫が!オーナーさんや、追うぞい!」 奥に居る人影に気付かれない様に階段を駆け登る。 「にーちゃん!こっちだ!」 「………ぁ…?」 途中で爆発する携帯電話の手を掴み、そのまま二階まで上がる。そして正面にあった扉に飛び込んだ。 「ここは……図書室か?なんか震えてたけど大丈夫?」 「…くけっ……ああ………そっちこそ……身体は、平気なのか…?」 「へ?…おお、平気平気!つかなんで……」 知ってるんだ、と続けようとした所で、かくんっと膝が折れた。 その勢いを止められずに、そのまま床へと倒れ込む。 「………っ!」 「あ、あれ?おかしいな……」 起き上がろうとするが、手足がうまく動かない。 後を追ってきた二人が、倒れている少年を見つけて駆け寄ってきた。 「少年!?」 「このあほーが。無茶するからぢゃ」 「ぬははは……これは…ちょーっとマズイかなー………とか思ってみたり?」 「ふざけている場合ですか!」 「……なにか、コップみたいなの………あるか…?」「…?こんな時に何を……」 「……早く……!」 泣き出しそうな顔で必至に言われ、オーナーが慌ててコップを呼び出した。それを受け取ると、抱いていたジャッカロープを降ろし、その乳を搾り始める。 「…何をしているんですか?」 「ってゆか何そのリアルいっかくウ〇ギ?」 「……飲め……治る…」 「うぇっ!?の、飲めって……………それを?」 「………頼む…」 ウルウルした目で見下ろされ、ぐっと言葉に詰まる少年。 ぶっちゃけかなり可愛い。元は男だけど。 「男は度胸!……ング……ング………ぷはぁっ!」 「……どうだ?」 「なかなかウマい………って、お?……おぉ?おおぉおおおおぉっ!?」 いきなり叫びだしたかと思ったら、すっ、と立ち上がり腕をぐるんぐるん回し始める。まともに動く事すら出来なかった筈なのに。 その様子を見てぽかーんとするオーナーとひきこさん。 「治ったーーーーーっ!!!!スゲーぞ!いっかくウ〇ギ!!」 「くけけっ………ジャッカロープ……だ……」 「おぅ!サンキューな!ジャッカロープ!にーちゃんも!」 ぴすぴすと鼻を鳴らすジャッカロープ。心なしか得意げに見える。 「治療系の都市伝説でしたか…ありがとうございました。正直、打つ手が無かったもので」 「…なんで……」 「ん?どしたの?」 「…なんで………逃げてくれなかった……?」 「逃げんなら、にーちゃん達も一緒だ。っつーかなんかヤバイもんが居るならぶっ倒した方が性にあってるし?」 「そういう訳です。申し訳ありませんが、ここで何が起きているのか教えてもらえませんか? 実はどういった状況なのかさっぱりでして」 「……………」 オーナーの言葉に俯く爆発する携帯電話。 「にーちゃん?」 「………御免」 「…前も思ったんだけどさ、何を謝ってるんだ?前回も今も、助けてもらったのはこっちじゃん?」 「………違うん、だ…………実は………」 (説明中) 「貴方がマッドガッサーの一味?」 「司祭さんやあの兄ちゃんも!?」 「屋上の嬢ちゃんもねぇ?しかも目的がハーレムとはの……うむ、男の夢ぢゃな」 爆発する携帯電話の話しを聞いた一行。正直驚きが隠せない。……一人感心してるけど。 「携帯のにーちゃんがガッサーの仲間………司祭さんは、マリ・ヴェルテのベート…人も、食ってる……」 静かに暮らしたい、という言葉が嘘だったのか、それとも本心からだったのか。ほんの数回会った事があるだけの少年には解らない。 どの言葉を信じればいいのか、解らない。 ただ、司祭が……マリ・ヴェルテのベートが人を襲っているのは確かだ。 「……少年」 「……………大丈夫。それよりもこれからの事!」 ある決意と共に、爆発する携帯電話へと話しかける。 「オレはマッドガッサーを止めに行く。このままだと学校町がヤバイ事になりそうだし」 「……そ……れは……」 「にーちゃんが仲間を大事に思ってるのは、話しを聞いてて解ってるつもり。だけど、何を言われようとこれは変えらんないよ。 助けてもらった恩もあるし、ここでにーちゃんに何かする事は無い。仲間の元へ戻るっつーんなら邪魔もしない。 ただ、次に会った時は……」 「………」 「……できればここで、この騒ぎから手を引いてほしい。 マッドガッサー達も、止めるだけだ。荒っぽいマネする事になるかもしれないけど、誰も*さない。*させもしない。 もし、あいつらの命が危なくなったら………オレは、全力で助けに行く。にーちゃんが今、どっちを選んだとしても。約束する。 オレが言えるのはこんくらいかな…………どうする?」 そして、彼の答えは……… 続 前ページ次ページ連載 - 人肉料理店とその契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4234.html
「規格外の破壊力」 さて、都市伝説には特有の能力や攻撃力と言う物がある。『口裂け女』なら100mを3秒で走り抜ける、『花子さん』なら縄跳びやトイレ用具を操る、と言った具合に 都市伝説にも攻撃力に特化したもの、スピード重視のもの、防御力に秀でたもの、トリッキーな能力が特徴のもの…色々あるだろうが、それでも、 僕の契約都市伝説の破壊力に敵う物はそうないだろう…。何せ― 「太陽系を消滅させられるんだから」 おっと、これは失礼。紹介が遅れてしまった。僕は反田系(そりだけい)。『反物質1gが対消滅すると太陽系が消滅する』と契約している高校生だ 系「たった1gで太陽系消滅だもんな…」 ちなみに僕の能力は自在に反物質を創り出し、対消滅させるというものである 系「ちなみに太陽系の広さは太陽から1~1.5光年くらいの範囲…。つまり14190テラメートルってことだ テラメートルって。めったに使わないよこんな単位…」 そんなことを呟いている系。一体誰に説明してるんだ 系「あ、でもこの際ジュールとかそういうのは無視しよう。面倒だしね」 さらりととんでもないことを言う 系「ま、それはそれとして。僕はこの能力のパワーを『厨二病 力を抑える包帯』で制御しないとまともに能力も使えない訳で」 「おい、反田! 俺と勝負しろ!」 うわ、またかよ… 系「君も懲りないねぇ、温泉君」 彼の名前は温泉 伝人(ぬくいずみ でんと)。ことあるごとに僕に勝負をしかけてくるしつこい奴だ 伝人「うるせぇとにかく勝負だ! 俺の『ポロリ温泉伝統製品初の支援型モルスァ試合専用ガン』でお前を倒す!」 系「…ここじゃ危険だよ。どこか広いところに行かないと。ちょっと呼んで見る」 誰かに電話をかける系 系「うん。うん。うん。OK。ありがとう。じゃあ、○○ビルの前に来て。 …10分くらいで着くってさ」 伝人「そうか。ま、なんだろうと今回こそ俺が勝つ!」 系「無理だよ」 そんなこんなで10分が経つ 神司「…まったく、どうして僕が…。とーおりゃんせー通りゃんせー♪」 『通りゃんせ』の能力を使い、ビルとビルの間の小道を異空間に繋げる神司 神司「はい。ここを行けば広いところに出られるから。ちなみに今回は帰り道も用意したよ…。じゃ、そういうことで」 そして直ぐに帰っていく神司 系「ありがとね。…じゃあ、行こうか」 伝人「おう!」 小道を進んでいく二人。そして、闘技場のような場所に着く 伝人「じゃあ始めるぜ。食らえ! 『ポロリ温泉伝統製品初の支援型モルスァ試合専用ガン』!!!!」 手元に鉄砲を召喚し、投げつける伝人 系「反物質びーむ」 やる気がなさ過ぎる技名である 窒素分子一つ分の反物質を生成し、『ポロリ温泉(ry』の近くで対消滅させる系。 対消滅により爆発的なエネルギーが発生し、『ポロリ温泉(ry』は砕け散り、伝人は大きく吹っ飛ぶ。一瞬の決着である 伝人「くそ…痛ててて…。また俺の負けかよ…畜生…」 系「だから言ったでしょ。無理って。単純な攻撃力だけなら僕の方が上だし。射程範囲も僕のほうが上だし。何より破壊力が段違いだよ」 伝人「くぅ…俺はどうすりゃ勝てるんだよ…」 系「知らないよ…。別の都市伝説と契約すれば?」 伝人「見つかれば苦労はねーよ…」 はぁ、と溜息を吐く伝人 伝人「…さってと。もう大丈夫だ。ふん。今回はお前に勝ちを譲ってやるが…次はこうはいかねぇ!!! 倒してやるよ、俺の『ポロリ温泉伝統製品初の支援型モルスァ試合専用ガン』でな!! はははははは!!!」 捨て台詞を残し、帰り用の小道を駆ける伝人 系「…その台詞295回目だよ…」 やれやれ。呆れたような表情をしながら、系も帰路に就くのであった… 系「あれ? 今回の地の文って僕の一人称進行じゃないっけ?」 気にしたら負けである 続く…
https://w.atwiki.jp/trpgken/pages/2729.html
□トレーラー 『仮に自分から分離したものであれど、切られた髪はゴミでしかない では何を持って己と定義するのか 血肉の塊の質量か?思考回路の同一性か? いや、他者から見て自分と認識されれば己なのか? 果ての無い思索の材料とすべく、我が友の力を借りることにした 吉と出るか凶と出るか さて…今夜も楽しい夜会としよう』 _何者かの手記より 都市伝説と契約者TRPG キャンペーン 『怪異緊急対策特命室 夜雀たちの事件簿』 「File4:Y地区の殺人鬼」 __沼男は己なりや? □ハンドアウト(敬称略) ■神無月・恭介 イエローバードと共に居た何か、イエローバードが遺した「みなづき様」という言葉…気になるものは多けれど、三葉の行方不明が最優先事項だろう。あの後探したが見つからず、未だに行方知れずのままだ。落ち着かない日を重ねる中、あなたは水無月に声をかけられた…。 ■生川・紗良々 神無月・木暮家襲撃事件の重要参考人である木暮三葉の失踪は、特命室でも問題視された。捜索命令が出て、特命室から出る寸前。室員の一人、”キネマコンビ”の片方、エージェント・テントウに声をかけられた。Customが滅んだにもかかわらず、都市伝説の活発化が止まないらしい。そして、彼女は声を潜めて言葉を続けた…。「都市伝説の活発化には中心点があるらしいの」 ■薄瀬・幸 次から次に起こる事件に対処し続けていると、どうしても退社が遅くなる。深夜、帰宅途中にあなたは道端に座り込み泣きじゃくる少年を見つけた。気になり声をかけてみると、「お母さんに帰ってこなくていいと言われた」という。とはいえこんな深夜に少年を1人置いていく訳にはいかないだろう。対処しようとスマホを手に取った直後、背後より殺気。かろうじて回避したあなたの目に飛び込んできたのは…おどろおどろしいマスクを被り、チェーンソーを手にした大柄の男、だった。 ■灰ヶ峰・紅葉 一時期、あなたを襲っていたデジャブは、このところ不気味な程に発生しない。木暮三葉の捜索で、書類を漁るあなたを手伝いつつ、室員の一人、”キネマコンビ”の片方、エージェント・ノッカーが話しかけてくる。「なな、最近都市伝説の活発化が問題だけどさ、反対に謎の沈黙をしている都市伝説があること知ってるか?」 □登場NPC エージェント・テントウ 都市伝説の危険性を測るために3課や5課に駆り出されている”キネマコンビ”の片割れ。生真面目で少しおっちょこちょい。常は穏やかだがため込む質で、一線を越えると爆発する。 契約都市伝説は”真実”を映す大型のビデオカメラ。 エージェント・ノッカー 都市伝説の危険性を測るために3課や5課に駆り出されている”キネマコンビ”の片割れ。騒々しくうざったいが、優れたエージェントであり凄腕のゲーマー。 契約都市伝説はアームターミナル腕につけるディスプレイ。いくつかの数字と文字が表示されている。
https://w.atwiki.jp/legends/pages/5048.html
学校町東区中学校連続飛び降り事件 犠牲者は全部で10名…………そう言う事になっている が、最後に飛び降りた「土川 咲李」に関しては、犠牲者と呼ぶべきかどうか、判断に迷うところである この事件は、犯人である土川 羽鶴が契約していた都市伝説の力によって、次々と生徒が飛び降り自殺をしていった事件である しかし、咲李は、都市伝説の能力を受けて飛び降りたのではない 自らの意思で屋上へとあがり、飛び降りたのだ それでも、土川 咲李の名前がこの事件の資料において「犠牲者」の欄に名前が書き連ねられているのは、彼女もまた、この事件の犠牲者である事は間違いなく、事実であるからだろう 咲李は、この事件に幕を下ろすために、中学校の屋上から飛び降りた。戦い、全てを終わらせるために飛び降りたのだ ………しかし、結果は、失敗 彼女は、今までの犠牲者達と同様、都市伝説に取り込まれ、その一部になったに過ぎなかった 失敗、と断じていいかどうかすら、この後の経緯を思うと微妙なところでもある 彼女が土川 羽鶴の契約都市伝説に取り込まれたからこそ、獄門寺 龍哉を始めとしたあの子供達の一部が怒りを爆発させ、羽鶴を完全敗北させるに至ったのだから……………最も、約2名が暴走したせいで、そちらの方が大変だった、と言う事実はさておき 「………「笑う自殺者」に「富士の樹海の自殺者の幽霊が、人間を引き込んで自殺させる」を組み合わせた、か。本当、物騒な使い方しやがる」 資料に目を通しながら、慶次はぼそりと、そう呟いた 土川 羽鶴は二つの都市伝説を組み合わせ、次々と生徒を自殺させていった そして、自殺した生徒達は都市伝説に取り込まれ、彼の意のままに操る事ができていたらしい 正直、かなり胸糞悪い事件であった 羽鶴は、己の娘が飛び降りてもなお、己の行為を悔やむことすらせずに、犠牲者を増やそうとしていたのだから 彼は娘が何を思って飛び降りたのかすら、気づけなかったのだ 咲李は二通、遺書を残していた そのうちの一通は間違いなく土川 羽鶴へとあてられた物 羽鶴は見つけたその遺書を読むことすらせず、ゴミ箱へと捨てていた あんな親が、この世の中には存在するのだ ……思い出すだけで、ムカムカとする あの男が犯人だとわかっていれば、自分が殺しに行ったと言うのに (………元々、自分の娘なんてどうでも良かったのか。それとも、「狐」の誘惑に乗って、頭がおかしくなっていたせいなのか………) …どちらにせよ、胸糞悪い事実に、代わりはない ぱたん、と、資料を棚に戻した、その時 「何をしているんだい?」 と、郁に声をかけられた 小さく舌打ちして、慶次はそちらに視線を向けた 「昔の事件の資料を見てたんだよ。悪いか?ここの資料は、「組織」関係者は閲覧自由だろう」 「そうだがね………資料室に入るなら、ここを管理しているCNoにきちんと許可をとってからにしてくれ。特に、君はANo所属なんだしね」 「警戒しなくとも、資料ちょろまかしたり、変に手を加えたりはしねぇよ」 …どうにも、このゴスロリ好きの黒服は苦手だ 関わり始めたのは三年前の連続飛び降り事件の際からだが、その時抱いた苦手意識という第一印象は、今も変わらずそのまま慶次の中にあった 話していると、背筋がざわざわしてくる 「じゃ、用済んだし、俺はこれで」 「そうかい………このところ、「狐」や「バビロンの大淫婦」の事で周囲はピリピリしている。怪しまれるような行動は、謹んだほうがいいよ」 「うっせ、わーってるよ」 郁から逃げるように資料室を後にした 本当は、もう少し調べたい事があったのだが………仕方ない、またの機会にしよう (三年前の事件の黒幕は「狐」。そして、それが今、学校町にいるなら…………見つけて、始末してやる) 自分が手柄を上げれば、風当たりの強い強硬派も、少しは見直されるかもしれない ……「三年前」に強硬派が、愛百合が犯したミスの埋め合わせができるかもしれない 考え込みながら歩き去っていく慶次は、誰かの視線が己に注がれていることに、気づくことはなかった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 次世代の子供達
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4199.html
正体不明 10 真っ白なベッドに横たわり、静かに寝息を立てている黒羽と雪華 その傍らの椅子に座った斬九郎は、病室の入り口に所在なさげに立っていたサロリアスに、深々と頭を下げていた 「すまなかった」 「生きて戻れりゃ充分だ」 少々苛つきの混じった声だったが、それは単に病室という事で煙草が吸えないというだけの事だ 「相手の手札が判っただけで上々だ。これ以上無駄弾は撃たねぇだろ」 「相手の手札が判っても、こちらに勝てる手札が無い以上は……どうしようもないがな」 「不意打ちかっ食らっただけで、本来の仕事はこなしてんだ。気にしねぇで他所の部署に回せ」 「あんたの口から、そういう言葉が出るとはな」 斬九郎の憔悴した顔に、皮肉げな笑みが浮かぶ 「弱みを見せれば、一番若手の下っ端部署など良いように食い散らかされるだけだ……『組織』を抜けて忘れたのか、小夜の事を」 「忘れるかよ」 Zナンバーの立ち上げの折、新参だったサロリアスは黒服の人員を思うように集められず 黒服ではない妖怪、怪異の類を己の能力による『コネ』で集めたのだ Z-No.1『さとり』佐藤梨々 Z-No.2『烏天狗』天駆黒羽 Z-No.3『雪女』氷室雪華 Z-No.4『座敷童子』小夜(さよる) Z-No.5『屋島の禿狸』屋島太三郎(やしま・たさぶろう) Z-No.6『煙々羅』八巻燻(やつまき・いぶす) Z-No.7『本所七不思議』七夜本丸(ななつや・ほんまる) 格としては並み居る都市伝説などものともしない古参の妖の数々が、ただ『コネ』だけで黒服を着込んで集い従う それは脅威でもあり 格好の獲物でもあった 「まだ、見付かってねぇのか?」 「そう簡単に見付かるなら、あんたは『組織』を辞めてない」 「確かにな」 契約すら必要無い、純粋な個と力を手に入れた『座敷童子』 そんなものが存在するのであれば 対抗する者には持たせてはおけない 自らの手中に収めなくてはいけない そして、諍いの種となる事を恐れ 何よりその力を欲した当時の『組織』の上層部は 彼女の『所有』を、一部署であるZナンバーから『組織』そのものにするべく、『組織』内の何処かに封じてしまったのだ 「……今は小夜の話をしてる場合じゃねぇだろ」 「ああ、そうだったな」 過去の問題を思い出し、今の問題から目を逸らす逃避だったのだろう 現実に引き戻された斬九郎の表情が、沈痛に歪む 「今の我々には、あれに対抗する手立てが無い」 「お前は、あれは『攫う』事は出来ねぇのか?」 「え、僕?」 それまで所在なさげに病室の隅で菓子パンを齧っていた『誘拐結社』のリーダー 「不意打ちすれば、契約者の子を攫うならできるよ? 僕はあいつには食べられないからね」 もきゅもきゅごくんと口の中のパンを飲み下して、牛乳パックのストローに口を付ける 「ていうか、攫ってどうするの? 僕の本体が居る場所に引っ張り込むわけだから、閉じ込めようとしたら僕まで一緒に閉じ込められちゃうし」 「それで良いじゃねぇか。一緒に閉じ篭って反省しとけ犯罪者」 「ここしばらく凄く協力してるよね僕!?」 「冗談だ。第一、閉じ込めるにしても『ブロブ』に呑まれた契約者が飢えて死ぬとも思えねぇしな」 「何かの弾みで封印が解ければ、また大惨事だろうしな……異空間系の能力での放逐も似たようなものだろう」 「とはいえ、放っておくよりマシじゃない?」 やれやれ、といった調子で椅子に座り込むリーダー 「閉じ込めるだけなら、うちの虎の子出すよ?」 「……ああ、例の素材か」 「うん、都市伝説能力無効化素材」 『誘拐結社』が所有する、都市伝説を攫って売り飛ばすために使う、都市伝説存在の力が一切通用しない特殊素材 ガラスやアクリルのケース、鋼鉄の檻など様々な形態で作り上げられたものを所有しており、過去にサロリアスの知り合いである都市伝説が捕らわれた事があった 「その素材、逆に言えば都市伝説以外の存在なら普通にぶっ壊せるわけだな」 「そういう事。普通に経年劣化するし、封印とかには向かないね。まあ僕らは一時的な拘束・搬送に使ってるだけだし」 「鋼鉄や鉛などを使って、大型のシェルターのようなものは作れるのか?」 「そんだけ大掛かりだと流石に時間掛かるなぁ。なにせ都市伝説の力で加工はできないからね。人間を使わなきゃいけない」 「そうか……使えそうなものだと思ったが、今回は見送りか」 三人はそれぞれ思案状態に入り、静まり返った病室で意識の無い二人の女性の寝息だけが聞こえている そんな長い沈黙を、にわかにノックの音が破る 「どうも、Z-No.999です。協力者の旗上さんの保護を完了しました」 「ども、大変だったみたいですけど大丈夫ですか?」 『組織』の末端一部署とはいえ、それを束ねる幹部と元幹部 その風体はヤクザの若頭とマフィアのボスといった異様な圧迫感にも関らず、詩卯はあまり気負った様子は無い 直接的な死の恐怖に比べれば、害意も敵意も無い雰囲気が恐いだけの空気など大した事は無いのだから 「あの、今回はダメだったみたいですけど。また何かやる時に私が必要だったら、遠慮無く呼んで下さい」 「……化物に喰われかけて、まだそれを言えるか」 「三度続けば流石に慣れます」 斬九郎に問われてなお、 にひひと 強がりを込めて笑う詩卯 「あの化物をやっつける……あの子にこれ以上、罪を重ねさせないためなら。何でもやりますよ」 「まあ、手がありゃあな」 明るく振舞おうとする詩卯とは対照的に、思案続きで表情が冴えないサロリアス 「ぶっちゃけ手詰まりだ。ここから先は俺達じゃなく、どこか別の部署の連中に任せるかもしれん」 「別の部署の人達なら、簡単に片付くんですか?」 「さあな。適材が居れば簡単に片付くが、居なけりゃ……大惨事の幕開けだ」 「じゃあそうならないように手を考えましょう。私達も道すがら色々考えてたんですけど、どうも決め手に欠けるんですよね」 手近な椅子を引っ張り寄せ、すとんと腰を下ろし まるでそこに居るのが当然だと言わんばかりに 一般人のただの女子大生が、化物退治の相談をする化物の輪に加わってくる 「決め手に欠けても良いから、思いついた事を片っ端から検討してみましょう。人数増えればネタも増えるかもしれません」 「あ、ああ」 あまりにもアクティブな詩卯の態度に、少々気圧されるサロリアスと斬九郎 言われるがままに、それまで検討していた内容を細かい説明や訂正を挟みながら伝えていく 「えーと、鉄郎さん。さっき来る途中で話してたプラン、いけそうじゃないですか?」 「鉄郎? 誰だそりゃ」 「Z-No.999さんの事ですよ。番号が999だから銀河鉄道っぽいので。番号じゃ呼びにくいんで勝手にそう呼ぶ事にしました」 現在使える黒服及び契約者の能力 『ブロブ』とその契約者の能力 物資や備品とその性能 そして、『ブロブ』の被害をこれ以上広げないためにどうすべきか、その到達点 全てを検討し纏め上げ、詩卯は一つの結論に至る 「『組織』の他の部署の偉い人に会わせて下さい。もう一つ、それがあれば勝てそうな都市伝説があるので、それが使える人がいるか探したいです」 その言葉に、サロリアスの表情が苦々しく歪められた 「無茶苦茶言いやがるな」 「でも、ここの人達でやるにしても他の部署に頼むにしても、情報の共有は必須事項ですよ?」 「……おい、斬九郎。俺が抜けてから、多少は与しやすそうな奴が幹部になったりしたか?」 「そんな事があったら、今こんな事にはなってない」 「えい」 憮然とした表情の斬九郎の頭に、ぺしりと詩卯の手刀が落とされる 「今の一撃であなたは大ダメージを受けて、入院しなければいけなくなりました」 「……何だと?」 「というわけで、代理に任命された私が他の部署の幹部さんにご挨拶に行ってきます。一人だと心細いので前任だったというサロリアスさんと一緒に」 「待て!? 何でそういう方向に話が転がるんだ!」 「会って確認すると面倒事になりそうで、それでも状況を確認しなきゃいけないんですから。いざとなったら私が責任被ればなんとかなりますよ」 「一般人にそのような事を任せて、私はのうのうと寝ていろとでも言うのか!」 「あ、それじゃ斬九郎さんがちゃんとお話して確認してきてくれます?」 「ぐっ……!?」 そこまで言って、そこまで言われては引き下がれるはずもなく 「あ、サロリアスさんもついていってあげて下さいね」 「代理のサポートとかそういうんじゃなけりゃ、俺が顔を出す義理は無ぇよ」 「じゃあ三人で行くという事で」 「何でそうなる!?」 「斬九郎さん一人だと感情面で心配ですから。前任の人ならついていく理由になるでしょう?」 「お前が来る理由はどうする」 「相談役という事で。こう見えても色々、感情や言葉には敏感な方なので役には立つと思いますよ? あと一般人しかどうこうできない素材の説明とかに必要になりません?」 もう完全に吹っ切れたのか、いつものペースでにひひと笑う詩卯 「雰囲気出すならバイトの服着ましょうか? 年末年始に巫女のバイトやってるんですよ」 「やらんでいい」 呆れた調子で頭を抱えるサロリアス 「厄介なのに絡まれたな、斬九郎。事が済むまで俺達は解放されそうに無いぞ」 「……それでも、事が済むなら重畳という奴だ」 かくして古参にして末席、幹部にして外様、精鋭にしてはぐれ者、そんな立場だったZナンバーを統べていた男と統べている男は 調子の良い女子大生巫女に率いられて『組織』における立ち位置を正す事になる 無敵になりつつある化物を倒すため 無敵の化物になりつつある少女を救うため 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2478.html
喫茶ルーモア・隻腕のカシマ 真相 * ♪ZERO GRAVITY (試験運用中) * 「かつて、隻腕の鹿島と呼ばれる都市伝説がいた」 「かつて?」 「昔の事だ……我々がこの学校町に滞在していた時……隻腕の鹿島に遭遇した」 副官が語り始める 当時の鹿島は手をつけられぬ程に荒れていた 我々艦隊もヤツを止めようとしたのだが、相手も手練であったからな 拘束した時には、我々も相当の痛手を負っていたよ 誰も命を落とさなかったのが不思議ですらあった 鹿島の処遇については、粛清すべきという意見が大半を占めた だが、それに真っ向から反対した者がいる この都市伝説の存在を消してはいけない、と 戦争の記憶を、凄惨な過去を人はもっと知るべきだ、そう利用すべきだ、と そう言って、その男は皆を説き伏せて回った 元々、人望のある男だったからな 皆の意見をまとめるのには、そう時間は掛からなかったよ もちろん、私は最後まで反対したがね だが、彼らの意思は強かった 結果、過半数の賛同を得たことで、鹿島の鎮静をもって放免する事と決まった 残された問題は、どの様にして鹿島の心を鎮めるか、だった 鹿島は暴れ、牙をむき、錯乱していた様に見えた 長い時間を掛けたが、心を閉ざし、ついに誰にも開こうとはしなかった そして、考え付いた方法が 我々の内から、ひとりを鹿島と同化させる というものだった そんな事が可能なのか 誰もが疑問に思った そして、誰が犠牲となるのか その方法を考えたのも、それに志願したのも、あの男 粛清に反対し、存在を護る事に導いた、あの男だった これには誰もが反対した、私を除いてな だが、私はその男がやるべきだと思った 他の誰かを犠牲にしては、その男が納得するはずも無かっただろうからな 代案が見つからない以上、その方法を行うしかない 実行したよ 簡単に言うと、方法はこうだ 鹿島の意識を奪い、その間に例の男が隻腕の鹿島に成りすます そんな方法で同化できるのか? まぁ、聞け 我々、都市伝説は情報を核とする存在だ 故に、ネットで工作する事で、存在を知らしめ、力を増幅する事も出来るだろう? だから、我々は 例の男を隻腕の鹿島として見立てる事 現代の言葉で例えるならば、そう……ミラーサーバーを設けたのだ メインサーバーがダウンしている間は、誰もがミラーサーバーにアクセスする そうして、長い時間をかけ、ミラーを馴染ませていく やがて人は皆、ダウンしているメインには見向きもしなくなり ミラーは、メインとして認識され、利用される事となる メインサーバー、つまりは隻腕の鹿島が活動を停止している間 例の男を隻腕の鹿島とほぼ同じ姿に変え、ミラーサーバーとした 陸軍の軍服に着替え 本来あった、左腕を……切断した ほぼ同じ姿に変えるとは、そういう事だ だが、そこまでしても 同一視されるには至らなかった その男自身が、隻腕の鹿島という存在を演じきる事が、成りきる事が出来なかったからだ アレは……嘘をつけぬ男だったからな…… 左腕を犠牲にしてまで行った策は、徒労に終わろうとしていた そこで考えた 障害となり得る隻腕の鹿島との出来事に関する記憶を消し去り 自身が元から隻腕の鹿島であったと思い込ませる つまり、暗示をかけたのだ 我ながら、冷酷な事を思い付くものだと思ったよ 成功した時には、隻腕の鹿島の体は無く 隻腕のカシマの体、ただひとつが残っていた こうして生み出されたのが "隻腕のカシマ" という存在だ 行動原理は "今の日本は平和か" のままに、都市伝説としての能力は "傷痍軍人の鹿島" あの男は、そういう存在なのだ これが "傷痍軍人の鹿島" と "今の日本は平和か" という本来は別々の都市伝説が ひとつの都市伝説として融合し、存在しているという理由だ 今回の様に、人為的に話を融合させられたモノ 基本の話を元に、拡大解釈され新たに話が追加されたモノ 別個の話であったものが、その共通性から自然と同一視される様に変化したモノ いずれにせよ……それぞれの都市伝説ごとに相応しい物語があるものだ もし、納得できる様な物語りなき都市伝説がいるとするならば それは最早、都市伝説などではなく、ただの……化け物だろうな * 「そうですか……何だか納得してしまいました」 ふぅ……と、サチが息を吐き、静かに語る わたし……幸が薄いというか、不幸体質というか……そういう感じだから カシマさんの様な善意から生まれた都市伝説と契約出来るなんて…… おかしいなって……でも、隻腕の鹿島さんがヒトに迷惑を掛ける様な 都市伝説だったことを聞いて、何だか納得してしまいました それでね、わたしが契約していたのは隻腕の鹿島さんで その鹿島さんを押さえ込んでいたのがカシマさんだったんだっていうなら 本当にそうだったんだなって……すごく納得出来るなって…… そう言って、サチは寂しそうに笑った * 「では何故、この男はそこまでする事が出来たのか……答えはこの記録に書かれている」 再び、副官は語る この記録は、隻腕のカシマとなった男の過去を綴ったものだ 記憶を改竄するにあたって、私が聴取し記録した 我々の技術では、記憶全てを書き換える事は不可能だった 故に、記憶を部分的に改竄する事で、信じ込ませる事にした その為に聴取したものだったが……疑問の答えとなる事が全て書かれている * 時間をかけ、読んでいく 長い、長い物語だった……それは、とても幸せな過去だった こんなに大切な記憶を失ってまで カシマは、鹿島という都市伝説の存在を護ろうとした 「じゃあ……ボクらが知っているカシマさんは……本当は、この香取さんで……」 輪が、うめく様に言葉を漏らす 「つまり、隻腕の鹿島とは本来……カシマの、香取の義弟のこと」 ジャックが、感情を押し殺した声で言う 「そう、カシマは……香取は……鹿島家に婿養子として入り、鹿島という姓を得たのだ だからこそ、あの男は……カシマは、自分がカシマと呼ばれる事に疑問すら抱かなかったのだよ」 副官が言葉を添える 「そうか……鹿島流の跡を継ぐ為に……ってことかぁ……」 ボクサーが、眉根にしわを寄せてつぶやく 「だから……都市伝説の……義弟さんの存在を護る為に……自分の腕と……記憶を……」 サチが、まつ毛を震わせながら言う 皆が沈鬱な表情を浮かべる中 「変わりありませんよ」 不意に、ジャックが言う、はっきりとした意思をもって言う 「カシマに、過去が在ろうと無かろうと、変わりありません…… いつだって、カシマはカシマらしく行動してきた……この記録、過去でも…… 香取の行動には……カシマらしさ……カシマの強さや優しさが感じられる それは、私達と行動した、現在でも……何も、変わりは無い……カシマはカシマです」 ジャックの言葉に、皆が頷く そして、もうひとつ問題がある事にも気付いてしまう 「……ジャック……その……なんていうか……」 「気を使わなくても良いですよ、輪」 「カシマさんが既婚者だったなんて……知らなくて、勝手に煽ったりして……」 「目覚めてもカシマはきっと何も変わらない……仮に記憶を取り戻していたとして…… カシマの心に、妻に対する想いがまだあるというならば……私は……」 「諦めるっていうの?……嫌だよ、そんなの……」 静かに首を振る 「いいえ……私は、カシマのその想いも含めて……全てを含めて愛しますよ」 「ジャック……」 「例え、義弟に体を渡そうとも……カシマが望んだ事なら、仕方ありませんし、恨みもしません 私も今までと変わらない……ただ、それだけの事です」 「ジャックさん……」 この時のジャックの表情は、輪とサチの脳裡に深く刻まれている 後にこの事件を振り返る時…… "あの時のジャックは普段に増して格好良く そして、あまりにも美しい存在だと思った" と、彼らは必ず口を揃えて言う事となる 「さて、これで全てを話した事になるな」 「カシマの弟は、どうなったのです?既に消えてしまっているという事ですか?」 「それは私にも判らん……だが、恐らく……」 「カシマさんならきっと……義弟さんの事を心のどこかに迎え入れていたんじゃないかしら……」 「そうだよなぁ……都市伝説を消さない為というよりは、義弟を消さない為の方がカシマさんらしいぜ」 「きっとそうだよ……想いに嘘はなかったんだろうけど、他にもそういう理由があったんだと思う」 「全く……貴様等は本当におめでたいヤツらだな……」 副官があきれた様に口をはさむ 「カシマさんを信じるのが、わたしの、契約者としての唯一、出来ることですから」 「そうだね、ボクも信じてるよ、弟子として」 「俺も信じてるぜぇ、カシマさんは恩人だからな」 「言わずもがな……ですね」 「ふたりともを救う方法はないの?」 「仮にふたつの意識があったとして…… 残念ながら、体はひとつだけしかない……今となっては分離は不可能だろう」 「じゃあ、どちらかが消えるしかないって事なの?」 「最悪、どちらの存在も消える可能性もある」 カシマを信じて待つ 結局、これが今の彼らにとって唯一、出来る事であった * 前ページ次ページ連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3509.html
西区にほど近い、廃棄された製薬会社。 黒服に指定されたその場所に着いた。 錆びついた看板や窓枠の外された外観が不気味な印象を与えてくる。 「なんだか、嫌な雰囲気の場所だね…」 「そう、だね… でも、紗江ちゃんは私が護るから!」 『都市伝説の気配が致すな…お二人共、用心下され』 アンサーが呟いた。 「お待ちしていましたよ」 建物の入り口から、担当の黒服が姿を現した。 「「…黒服さん?」」 「おや、私が現場にいる事がそんなに不思議ですか…?契約者を担当している黒服も、現場に出る事はありますよ…こちらです」 黒服について、建物内部に入る。 階段を下りて、地下室の、同じような作りの部屋がいくつも並ぶ長い廊下を歩きながら黒服が話す。 「今回の任務ですが…とある都市伝説を救って頂きたいのです」 「都市伝説を…救う?」 「ええ。都市伝説は、忘れられると消滅します。存在を保つには、一人でも多くの人間に存在を知ってもらわなければなりません…貴女方には、この場所にいる都市伝説の存在を保つための手伝いをしていただきたいのです」 どうやら今回の任務はとある都市伝説を救う事らしいが…担当の黒服の不穏な情報の事もあり、その言葉を信じきる事が出来ないでいた。 「……あの、黒服さん…以前お伺いした件なんですが…」 ここで聴き逃したらチャンスが無いような気がして、意を決して、紗江が尋ねる。 廊下の突き当たりの扉を開けながら黒服が呟いた。 「ああ…担当の黒服を変えられるか、という話ですね。その件でしたら、特殊な事情があれば変えられますよ」 あっさりと返ってきた肯定を、喜ぶべきか迷った。 促されて、部屋に入った姉妹。黒服は自分も部屋に入った後、扉を閉めた。 広めの部屋には、二人の黒服がいた。一人は、部屋の中心にビデオカメラを設置している。 もう一人はビデオカメラの近くの床の上に、鉈、鋸、鋏、金属バット等を置いている。 「ぅ…………!」 明らかに異様な光景。そして、部屋の中には猛烈な血の匂いが充満していた。思わず、口元を押さえる。 ふと、部屋の隅に無造作に転がっているものが目に入った。 ―家を出るまで生きて話をしていた、姉妹の、両親の死体だった。 「――――――!!」 「ぁ……うあ……!」 悲鳴を上げたはずだったのに、口からは途切れ途切れの言葉しか出てこなかった。 紗江が、紗奈に死体を見せないように、庇うように前に出た。 両親の死体は、巨大な獣にでも食われたかのように所々食い荒らされていて、腹部に至ってはその中身がこぼれ出ていた。本来は射殺されているのだが、その傷口のあった周辺も食われていた。 「ああ…救って頂きたい都市伝説は『スナッフフィルム』といいます。娯楽用に流通させる目的で行われた、実際には存在しないといわれている殺人ビデオの事です。 なにしろ、存在しないといわれているだけあって、個体数がなかなか確認できていないので… 『スナッフフィルム』が学校町中に広まれば、面白い事になるでしょうからねぇ… ご両親ですが…娘が死ぬのに、親だけ残しては可哀そうですからねぇ…先にあちらに送って差し上げました」 姉妹の前に立って、笑みを浮かべながら話す、A-No.666。 …それは、ある意味で実験材料と呼べるものだったのかもしれない。 ―そんなことの為に、両親を殺したのか 「――貴方っ…!」 言葉が途切れた。いつのまにか傍に来ていた、凶器を並べていた黒服に髪を掴まれて横倒しにされ、仰向けに転がされた。紗江ちゃん!と自分の名を呼ぶ紗奈の声と、床と擦れる背に感じる痛みにも似た摩擦熱と、髪を引っ張られる痛みを感じながら、そのまま部屋の奥までずるずると引きずられていく。 紗江が引きずられていくのを見て、助けようと反射的に上着のポケットから携帯を取り出した。 直後、担当の黒服に携帯を奪い取られた。 「全く…助けを求めるにしろ、都市伝説の能力を使うにしろ、私を忘れてもらっては困りますねぇ…」 そういいながら、無造作に携帯を開くと、ばきり、と真ん中から二つにへし折った。 携帯の残骸を床に落とし、紗奈の腕を掴むと、部屋の真ん中―ビデオカメラの前に引きずって行き、勢いよく突き飛ばした。 ビデオカメラを設置していた黒服が、カメラを回し始める。 ―― 部屋の奥まで引きずられ、ようやく黒服が止まった。 起き上がろうとしたら、三、四回ほど顔を殴られた。 黒服が、懐から何かを取り出した。カチャリ、という金属音。パン、という乾いた音と、脚に激痛を感じた。 思わず目を向けると、脚が赤く染まっていた。 黒服が手にしている拳銃から、硝煙が上がっていた。 黒服は拳銃をしまうと傍にあった金属バットを、紗江の左腕に叩きつけた。 二の腕が赤黒く変色し、曲がるべきではない方向に曲がった。 「……………!!」 声も出ないほどの激痛とおぞましい感覚に、額に嫌な汗が浮かんだ。 そうして、首を絞められた。 ぎりぎりと爪が食い込んで、痛い。息が出来ない。苦しい。 少しずつ周囲の音が遠くなっていく中、紗奈の悲鳴が聞こえた。 (紗奈ちゃん……!?) もがいた右手に、何かが触れた。 それ――小振りの斧を掴んで、黒服の頭に思い切り叩きつけた。生暖かい返り血を浴びた。 首を絞めていた手が外れ、血をまき散らし、斧を頭から生やしたまま、黒服が真横に倒れこんで、動かなくなった。 げほげほと咳き込み、激痛に堪えながら壁を支えにして上体を起こす。 (紗奈ちゃんは―――!?) 視界に、血塗れの紗奈にのしかかった担当の黒服の姿と、三つ首の大きな獣の首の一つが紗奈の脇腹に食らいついているのが見えた。 あの獣が、どこから出てきたかなんてどうでもいい。両親と最愛の妹を害した。それだけ分かれば十分だ。早く殺して、紗奈が手遅れになる前に救急車を呼ばないと。 一人になりたくない、紗奈を失いたくない。 紗江の憎悪に引きずられて犬神が徐々に数を増していくが、その姿は蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 紗江は、犬神の数が増える度に、自分が自分で無くなっていくのを感じていた。 (………私はどうなってもいい。紗奈ちゃんだけは、絶対に助ける) 担当の黒服を睨みながら、行って、と犬神達に指示を出す。どうにか形を保っている二十から三十匹ほどの犬神の群れが担当の黒服と、その後ろでビデオを回している黒服に向かっていく。 ――― 両親が無残な姿になっていた。巻き込まれて、死んでしまった。 携帯電話を壊された。 一応、アンサーとの繋がりは感じ取れるものの、都市伝説の能力も使えないし、天地達に助けを求める事も出来ない。 (――どうしよう…どうしよう…!) 腕を掴まれてビデオカメラの前まで連れて行かれ、突き飛ばされた。焦りと恐怖と混乱で半ばパニックになっていた紗奈の視界に、担当の黒服の姿が映った。 ――担当の黒服がサバイバルナイフを振り上げていて、がつっ、と左の掌を貫通して床に突き刺さった。 「――うぁ……!?」 黒服は、床に置いてある凶器の中から小刀を選ぶと、紗奈にのしかかり、右目に小刀を近付けて――ぶつ、と上瞼に突き刺した。 「――あああああああああああああああああああああああああああ!」 ――痛い!痛い! 絶叫を上げた。視界が真っ赤に染まった。 刃ががりがりと瞼の肉を削ぎ、眼窩の骨を削り、神経を寸断しながら何度も何度も抜き差しを繰り返して右目を蹂躙して行く。 自由になっている右手で必死になって小刀を持った腕を引き剥がそうとするも、少女の力では引き剥がせず、ただ縫いとめられた左手の傷を広げていくだけだった。 右目が痛みの坩堝と化していた。涙なのか血液なのかも分からない、熱い液体が頬を濡らしていく。 永遠のようにも、一瞬にも感じた蹂躙が終わりを告げた。 やがて、ごぼ、と濡れた音をさせて、眼球が掘り出された。瞼の裏に、空気が入り込んだ。頬を伝い、眼球は、血の跡を引きながら床に転がり落ちて行った。 朦朧とする意識のなか、涙でぼやけた左目の視界に大きな獣の姿が映った。 直後、脇腹に熱さと苦痛を感じて、一瞬、息が止まった。 呼吸をする度に、脇腹の傷が、絞られる様に痛む。 (…紗江ちゃん、ごめんね…護るっていったのに……) 溢れ出る血液が、体温を奪っていく。 (私…紗江ちゃんに…何にも言えてない……ちゃんと…伝えておけば、良かった…) 紗江への想いを自覚したものの、嫌われたくなくて伝えられなかった事を後悔しながら意識を失った。 閉じられた左目から、一条の涙が零れ落ちた。 「おや…この程度で気を失うとは情けない。もっと楽しませて貰いたかったのですが… ケルベロス、出てきてしまったんですか。仕方ありませんねぇ…」 A-No.666は、血の匂いに反応して出てきたケルベロスに、やれやれ、と肩をすくめた。 首の一つは、紗奈の脇腹に食らいついている。 (都市伝説の存在を一般人に知らせる訳にも行きませんし……このテープは、過激派への土産にでもしましょうか) 「次は……ハラワタでも、引きずり出してみましょうかねぇ」 『グルァァ!』 犬の咆哮が聞こえ、目を向けると二十から三十匹ほどの犬神が、群れとなってこちらに向かってきていた。 「ひっ………!」 後ろでビデオを回している黒服が、引き攣った声を上げた。 だが、A-No.666に焦りは無い。 直後、ケルベロスの二つの頭が、ごう、と口から炎を吐いて、こちらに向かってきていた犬神の群れを一掃した。 『ギャッ!』と、犬神の断末魔が上がり、灰も残さず消滅した。 炎が消えた後、残ったのは床の焦げ跡と、血に染まり、荒い息を吐きながらこちらを睨み据えている紗江の姿だった。彼女の周囲に何十匹もの犬神がいたが、それらは蜃気楼のように揺らいでいて、酷く不安定だった。 能力に、器の方が追い付いていないだろうことは一目で分かった。 都市伝説に、飲まれかけている状態。放っておいても勝手に自滅する。 何より、ケルベロスの炎に耐えられるものなどいない。 己の絶対な優位を疑わず、A-No.666は笑みを浮かべた。 続く…?
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4548.html
どよどよと何処となく居心地の悪い雰囲気を放つアパートを前にして私は立ち止まる 湿気をともなった晩夏の気だるげな暑さの中、噴き出した汗の心地は限りなく不快だ 私は組織の黒服 昨晩、Aナンバーの女子との援助交際で 深夜までハッスルしていたのが災いし、今日の仕事に響いてしまった 一応、先方には謝罪の連絡は入れてあるものの、どうしても気を揉んでしまう 当初の予定より大幅に遅れたという事情だけではない このアパートの雰囲気も、不安とも焦燥ともつかぬ気持ち悪い胸の内を燻らせるのに 確実に一役買っている筈である 私は、二三度深呼吸をすると、意を決してアパートへと乗り込んだ 三〇五号室 「新聞勧誘お断り」のステッカーが貼られた扉を前に、私はインターホンに手を掛ける 「失礼します、デンデンシャの山之内です、齊藤さんはいらっしゃいますか」 デンデンシャも山之内も一種の符牒のようなものだ 組織は俗にデンデンシャと呼ばれている訳ではなく 私の名も山之内ではない。尤も、山之内は私の偽名ではあるのだが やや間があって、チェーンと鍵が外される音と、どうぞ、という声が扉の向こうから聞こえた 開いた扉の間から、長い髪とその奥にある目玉が覗く 「随分と、久しぶりですね。山之内さん」 「さあさ、どうぞこちらへ。汚い所で申し訳ありません」 私は居間へと通された 室内はむっとした空気で換気されている気配はない 窓の類は全て遮光され、暗い蛍光灯の下、床には衣類や新聞が散乱している 最後に来たのは半年前だったか、何も変わっていない 私は鞄を下ろし、やけに大きな座卓を前に正座する その向かいには齊藤夫人が座った 彼女の左頬には、大きな斬り傷の後がある 太い釣り糸で縫い付けているのは、もう二度と暴走したくない、という彼女の切実な願いによるものだ 夫人の出してきた茶を有り難くいただく 一口啜った。喉の奥に広がる苦みと生温さとそれ以上の暗黒 はっきり言って味は不味い。茶の筈なのに何故かすっぱい 「お変わりありませんか、齊藤さん」 「お陰様で何とかやっています、にしても、本当に久しいですね、山之内さんが訪ねてくるなんて」 「今日は、お伝えする事があって。旦那さんはお仕事ですか?」 「……主人は、先日、勤め先を解雇されまして」 初っ端から地雷を踏んでしまった 夫人は明らかに顔を伏せている。ワナワナと震えているのは気の所為だろうか 「私がいけないんです、私が……あの日、山に行こうなんて、変な事言わなければ」 顔を上げた夫人の頬には涙が伝っている 不意に、昨晩の出来事が脳裏をよぎった あの過激派の少女も、私が強く緊縛すると泣きながら更に被虐の欲望を露わにしたものだ 夫人の表情を見て、思わず私はごくりと音を立てて唾を飲み込んだ 「山へ行ってから、主人は少し様子がおかしくなったんです 夜に寝言が多くなって、ずっと同じ言葉を。はいれたはいれたって」 「はいれた、ですか」 何故か卑猥な妄想が脳をじわじわと侵食する 齊藤氏は半年前に会った際、ロイド眼鏡がこの上なく似合う堅実な好青年といった印象だった そんな彼が、夫人を、眼の前に居る如何にも生活に疲れた陰のある年上の女性を…… 「はいれた」とはつまり、たまらなく背徳的なそれである事には違いない 齊藤氏に対し、私は少しばかりの羨望と嫉妬を覚えた 「今は持ち直しているんですけど。解雇された月はもう、酷くて」 「はあ……」 「今は勤め先を探しています。どうなるかは分かりませんが」 そう言いながら夫人はティッシュを目に当てている その時、インターホンが鳴り、帰ったぞ、という声が室内に響いた 齊藤氏が帰って来たらしい 「あなた、組織から山之内さんが……」 「山之内さんが? ああ、どうも。ご無沙汰しています」 見たところ随分と苦労しているらしい。頬はこけており、若干白髪が交じっている しかし、雰囲気は半年前の齊藤氏と相変わらない 「すいません、ご多忙な中を」 「いえいえ、私は職を探しているだけで。ああ、山之内さん 恥ずかしながら、私、数ヶ月前に勤め先をクビになりまして」 果たして齊藤氏はこんな直球の物言いをする手の人間であっただろうか 職探しの件は先程夫人から聞いた、などとは言わない方が良いだろう 「郁恵、勤め先が見つかりそうだ。中央高校で働いている同僚が伝手で 技術屋を欲しがっている社長さんを見つけたそうでね、話をしてみると 週明けにでも直ぐ採用したいという事になった」 「まああなた、良かったじゃない」 夫人の顔に笑顔が灯る 先程の表情からは想像できない程の柔らかいものだった 「ところで山之内さん、本日はまたどうして……まさかまた、何か危ない事が?」 「直接的に、という訳ではないのですが、そうですね、手短に」 齊藤氏の尋ねに私は本来の仕事を思い出し、本題を切りだした 「『夢の国』、という大規模な都市伝説についてはご存知かと思います」 「しかし、あの都市伝説は確か……学校町で沈静化した、と聞いたのですが」 「いいえ、各個体の起こした事件については既に解決はしています しかし今回起こりうるそれは、今までの比では無いでしょう 大本が攻めてくる、という事になっていますから」 齊藤氏と夫人に対面し、私はこれから起こるであろう事件の概要を説明し始めた 「恐らく秋祭りに照準を当てて、彼らはやって来るでしょう 組織は迎撃にかかります、凄まじい戦闘になるかもしれません 一般の人々が犠牲にならないように、一部の黒服たちが既に町のあちこちで仕込みを行い始めています しかし、どうなるか分からない。大本の戦力も未知数です」 「それなら、ど、どうすれば……」 「私の仕事は非戦闘員の都市伝説関係者に対して避難勧告を出す事です 秋祭りの期間、学校町の外へ避難して頂きたいのです 今なら組織からも補助金が支給されます」 その実態は上層部穏健派のポケットマネーから充当されるのだが そこの事情は本筋とは関係がない 「あなた、どうするの?」 「む、そうだな」 私は身を乗り出して、齊藤氏に顔を近づけた 「もう既に夢の国の侵攻は始まっています 組織の構成員や所属の契約者の数名が行方不明になっている 一般の人々も分かっているだけで数十名、いえ、実態はそれを上回るでしょう 郁恵さんは危機察知はできるでしょう、しかし、契約者ではない齊藤さん、貴方にとって この状況は危険過ぎます。彼らにとって見れば、貴方は口裂け女の臭いをまとった 餌でしか無いのです」 「な、そ、そんな」 「貴方ばかりでない。彼らは郁恵さんをも狙うでしょう 彼らは力を蓄えたいのです。取り込める者なら何だって取り込んできた巨大な都市伝説だ どうか、秋祭りの期間だけでも、逃げては貰えませんか」 「ねえ貴方、私、海に行きたいと思わ」 「郁恵?」 「ほら、前は山で散々な目に会ったじゃない。だから、今度は海で羽根を伸ばしてみてはどうかしら あなたはもっと休んでもいいと思うの」 「そうか……そうだな 休みがてら、海にでも行ってみるか」 何処か迷いがちだった齊藤氏の顔色が夫人の言葉で軟化したのがそれとなく分かった 彼女はこちらを見て微笑んだ。私は静かに目礼を返す 「海なら……そうですね、ささやかですが私の方からプランの提案があるのですが……如何でしょうか」 私がアパートを後にした時には既に日は西に傾いていた 結構な時間が経過したようだ 電柱に貼られた真新しい張り紙に目をやる 「近日中、学校町にて夢の国が大きなパレードを開催する。各々方注意されたし、か」 のどかと言えばのどかだ、この町の雰囲気は 夢の国が侵攻するとは到底思えない程度にはのどかである 不意に着信音が響く。張り紙から端末へと目を落とした 穏健派所属の女子黒服からだ。今夜時間はあるか、という短いメールだった そういえばこの子も手を掛けてかなりの時間が経った 初々しい感のあったこのメール主は、同僚の与り知らぬ所で私の手ほどきを受けている 誰も知りはしないだろう 私は下半身に熱が集中するのを感じる、一方で、胸の奥底から漠然とした何かが湧き上がるのを感じた まるで、齊藤氏のアパートを訪れた時に感じたような、夫人から出された茶を飲んだ時に感じたような 漠然とした何か。何処までも暗い、引きずり込まれるような感覚だ 空を見上げる 育ち過ぎた入道雲が、西日を受けて不気味な赤に染まっていた 〈お前の後ろ、天井、終わり〉 「単発もの」に戻る 誰が書いたの? ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/eroscape_bibouroku/pages/28.html
『病弱・不幸なヒロイン』の議事録 【提案内容】 2009年04月09日 題名 病弱・不幸なヒロイン POV説明 いわゆる「薄幸の美少女」です。 不治の病に冒された彼女の闘病記や 不幸な彼女が逆境にめげず頑張る作品を登録してください。 【死生観】【感動】のAランクにも該当すると思う場合はAで、 (【心に残るバッドエンド】【鬱】【後味悪い】の条件も満たしていれば、なお良し) 病弱/不幸設定はあるのに、活用しきれてない(泣けない)と思う場合や (バカゲーで)笑いを取るためのネタにされているような場合はCで。 【審議】 2009年09月13日 ~ 2009年10月25日(登録日) 内容 病弱と不幸の分割して審議。 【病弱】 病弱に身障者を含むか?→含む。 精神を病んでるとの重複回避の為、説明文を補足。 ネタバレ回避の注意喚起を、説明文に補足。 【不幸】 説明文に不幸の具体例があった方が良いのか? →POVによるが、今回は具体例を無くしシンプルに。 【結果】 2009年10月18日 可決されました。 題名 病弱・身障者ヒロイン POV説明 一人病院で静かに入院しているヒロイン、身体的にハンデを抱えたヒロインなど 儚げさ、健気さなどピュアな印象が強い病弱・身障者のヒロインが登場する作品の登録をお願いします。 心を病んでいる場合は【精神を病んでるヒロインが魅力的】への登録をお願いします。 それとネタバレ回避のために、オフィシャルサイトでそのヒロインの病弱設定が公表されていない場合は名前を伏せるよう心がけてください 2009年10月25日 可決されました。 題名 大きな不幸を背負った助けたくなるヒロイン POV説明 不幸な境遇に負けず懸命に生きている、 苦労が報われてない感じがする、諦めて逃げちゃってもいいのにと思える、 そんな思わず手を差し伸べたくなるような、不幸なヒロインを登録してください。 ABCは「支えてあげたい/守ってあげたい」と思った度合いでお願いします。 タグ一覧:POV