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価格:15$ 特定のポケモンを進化させる為に必要なアイテム。
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L:オレンジと太陽の家={ t:名称=オレンジと太陽の家 t:要点=海石で組まれた壁,日よけのターフ,オレンジの木 t:周辺環境=レンジャー連邦 t:評価=住み易さ0 t:特殊={ *家の扱い =個人所有アイテムとして見なし、一箇所に設置する。 *家の現在の状況 =NWCに芝村が居る場合、1マイルで今現在の家の状況を聞ける。 *家の住人 = PLACEおよび、個人ACEを住人として配置できる。 *家の床面積 = 120m2とする *家の構造 = 2階建て *家の特殊効果1 =この家は丈夫で耐久性にすぐれており気候による影響をうけない。 *家の特殊効果2 =この家は砂漠のオアシスの側にしか建てる事ができない。 *家の特殊効果3 =この家に住む人は小さな事でも幸せに思える様になる。 *家の特殊効果4 =この家に住む人はオアシスの緑の香りで、爽やかな気持ちになる。 *家の特殊効果5 =電話が設置されている。3分3マイルで個人ACEと会話ができる。 *家の特殊効果6 =この家で行なう生活ゲームは10%割引になる。 } →次のアイドレス:・ターフの下でお昼寝(イベント)・増築(イベント) ・オレンジの花が咲いた(イベント)・太陽のオレンジ(アイテム) }
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ふじたたいよう ふじたたいよう登板 通常 3939 ジェノサイド 炎上 燃え尽きた 戦略的撤退 太陽と言えば vsマモノ? 登板 /||ミ / || / ||____ | || || | ||│ / || | || ̄\ ガチャッ | ||,,・」・)─ ||<たいよう、もういちぐんでなげてもいいですか? | ||_/ || | ||│ \ || | ||∧猫∧∩|| ∧猫∧ | || ,,・」・)/. || ___\(・∀・ ) < 待ってましたー | ||∧猫∧∩|| \_/⊂ ⊂_ ) | || ,,・」・)/..|| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /| | || 45〈. || | ||,,/\」. || \ || ̄ ̄ ̄ ̄ 通常 \ │ / / ̄\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ─( ,,・」・ )< たいようたいよう! \_/ \_________ / │ \ ∩ ∧L∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\∩ ∧L∧ \(,,・」・)< ほんとはふじたたいよう! ふっかつ~~~~! >(,,・」・)/ | 45 / \__________ ________/ |45 〈 | | / /\_」 / /\」  ̄ / / 、 l ,タイヨウタイヨウ ! - (,,・」・) - l ` ∧∧ ∧∧ ヽ(,,・」・)/タイヨウタイヨウタイヨウ ! タイヨウ~ ! ヽ(,,・」・)/ | | vv W 3939  ̄ ̄| ̄ ̄| ̄| ○´  ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| `  ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|猫∧  ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|,,・」・)おさえた!  ̄ ̄| ̄ ̄| ̄| 45ノ  ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|u ジェノサイド \ │ / / ̄\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ─( ,,,・」・)< たいようおさえた! \_/ \_________ / │ \ // / / / / ハ ゚ カ 最高球速1xxkm! / ∩∧L∧ 太陽 ⇔ ○○ ○○ ○○ ○○分斬り!ふじた太陽! / |.( ,,・」・ )_ //∧∧ ヽ/ " ̄ ̄ ̄"∪ 炎上 \ │ / / ̄\ ─(,,,・」・; )─ ノノノノ ノ彡 _/ _,(▼皿▼)// │ \ (⌒ \ / / 彡ノ \ ヽ / r⌒丶) / / | / \) ! || 彡ヽ∥|∥ ∧L∧ 从/ (,,・」・;)⊂ヽ⌒ つ ⊂~⌒`つ 。Α。)つ<えんじょうえんじょう! 燃え尽きた λ 丿| δ / 从 / ヾ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ( ,,・」・ )< たいようたいよう・・・・・ \_/ \_________ δ ⊂⊃. ∧猫∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ∧L∧ ( ,,・」・) < たいようたいようたいよう・・・・・ たいよう・・・・・・・・・・ > ( ,,・」・) ノ  ̄) ̄) \__________ ________/ . ∪∪ノ ( )ノ~)ノ V ) ノ δ V 戦略的撤退 \ │ / / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / ̄\ < 次回もたいようたいよう! ─( ,,,・」・)─ \__________  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∩ ∧L∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ∩ ∧L∧ \( )< たいようたいようたいよう! たいよう ~! >\( )/ | / \____________ ________/ | 〈 | | / /\_」 / /\」  ̄≡≡≡/ /≡≡≡ ≡ ̄≡≡≡≡≡≡ 太陽と言えば _Y_ r 。∧。y. ゝ∨ノ )~~( ,i i, ,i i i i. `=.,,ー- ...,,,__ |,r "7ヽ、| __,,,... -ー,,.= ~ x.,, ~"|{ (,,・」・) }|"~ ,,z " ~" =| ゝ、.3 _ノ |= "~ .|)) ((| ))| vsマモノ? \ │ / / ̄\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ─( ,▼ ▼)< 燃えよう燃えよう!! \_皿/ \_________ / │ \ ∩ ∧L∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\∩ ∧L∧ \(,,・」・)< たいようたいよう・・・アレ? あっつい~~~~! >(,,・」・)/ | 45 / \__________ ________/ | 45 〈 | | / /\_」 / /\」  ̄ / /
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てのひらのたいよう(前編) ◆tu4bghlMIw 「…………と、この辺りか」 「螺旋力とは――全ての根源たる始祖の力。スカー氏はそう判断された訳ですか」 「俺達の力は幾つもの多元的な流れを汲んだ全くの別物……唯一共通する項目は"ヒト"であるということ。 アルフォンス・エルリックのように魂だけの存在も参加はしていたがな」 そこまで一息で言い切ると、スカーは小さくため息を付いた。 明智は目の前に居る褐色の肌の男の予想以上に聡明な話し振りに思わず舌を巻く。 「ショッピングモールのコンテナ、というのも有力な情報ですね」 「目星は、付いているのか」 低い声。刑務所へと帰還し、会議室に帰って来た明智とスカーは互いの情報を交換していた。 ねねねは先程まで書いていた原稿の刷り上がりを確認するために席を外している。 しかし、これは中々。名簿によって彼の人柄はそれなりには把握していたつもりだったが、予想以上だ。 彼は単純に強大な力を振り回すだけの狂戦士とは明らかに一線を画す存在だ。 つまり、全てを破壊するその右腕による圧倒的な破壊力を根幹に置いた戦闘スタイルはまやかしに過ぎない。 彼は、賢い。そして自分達のグループの中に欠けていた要素をいくつも持ち合わせている。 それは純粋な武力であり、自然や天候などに関するアニミズム的な視点であり、冷酷さでもあった。 「一応は。螺旋力に関係する道具――おそらく、小早川さんの持つ『コアドリル』というアクセサリーが最もその条件に適しているかと」 「……出自は?」 「出自、ですか? おそらく、螺旋王の世界の物だと我々は認識しています」 「上等だな。その娘は今何処にいる?」 「彼女には高嶺君の元に行って貰えるようお願いしました。つまり地下にある巨大施設、そこに彼女はいます」 明智はグルリと人を詰め込めば三桁に及ぶ人員を収容可能であろう室内を見渡した。 すると部屋の隅に一箇所だけ椅子が引かれたままになっている長机があるのを発見した。 机の上にはカップに注がれたスープがほとんど手付かずのまま冷たくなっており、地味な柄の毛布が乱雑に放り出されていた。 「そして、もう一つ。"紛い物の空"ですか。大変興味深い仮説ですね」 「ああ……それが実際に上空へと至った俺が持った疑問だ。明智よ、貴様はどう考える?」 その言葉に明智が小さく反応する。 表情には一切の変化はなく、僅かながら身を捩らせた程度のリアクションだ。 当然、ある程度の考察には行き着いている。 「ループする大地。そして同時に現れる事のない月と太陽――これは、完全に盲点でしたね。 我々のような機械に囲まれた生活を送っている人間は、自然の機微を読み取る力が退化してしまっている」 「超小規模な天球であると考えるのも難しい。厳密には昼でも月は空に浮かんでいる。ただ明るくて見え難いだけなのだからな」 「首輪を外す、以外のゲームクリアの可能性がある、と」 「空が落ちればこの空間がどうなってしまうのか、保証はない……がな」 スカーのもたらしたもう一つの情報。それはこの会場の在り方に疑問を呈するものだった。 確かに、明智達もこの地が螺旋王に創造された箱庭であるとは想定していた。 ではその空間はどのような形をしているのか? そしてどのような力を持っているのか? 破壊は可能なのか? 中の事物はどのように用意されたのか? そこに至る確証は未だ、ない。 「つまり、この空はプラネタリウムのようなもの。仮初の星の海であるとスカー氏は考える訳ですね。ですが、」 「ああ、真っ当な方法で"天"を突き破る、というのは不可能だろう。 紛い物とはいえ、空には確実に在るのだから――太陽に順ずるエネルギー体が」 「無闇に空へと飛び出しても蝋の翼を焼かれたイカロスが如く大地に堕ちていくのが関の山、と?」 確かに、この大地は偽者なのかもしれない。 しかし天から八十二名の参加者を見守り続けるその光球が、明らかに莫大な熱量を持っている事は明らかなのだ。 ここがある種の温室である、と仮定すれば自由に温度を設定する事は可能なのかもしれない。 だが空調設備はどうなっている? 冷却は? 加熱は? そして、頬に感じたあの光の暖かさをどうやって説明するのだ? そう。空に浮かぶ星の輝きが紛い物であるとしても、膨大な力を持った光の塊が日周を擬態した運動を行っているのは明確すぎる事実。 「ねねね先生、そしてスカー氏。螺旋力に目覚めた人間は確かに存在するのですが……現時点で首輪を外すのは多大なリスクが伴います」 「別のルートを模索するべきか。天を突き破り――太陽を堕とす手段を」 「ですね。名簿から得られる情報では……考えられる要素は約五つ、と言った所ですか」 「……言ってみろ」 明智は二つの詳細名簿に記されていた情報を自らの脳内から引っ張り出す。 時間があった時に参加者の情報は整理し、それらを幾つかの項目に基づいて分類しておいたのだ。 しっかりと頭の中にその分析は記憶されている。 「一つ。英雄王ギルガメッシュの持つ切り札である乖離剣エアの真なる力の発露、「死」の国の原点――天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)。 一つ。史上最強のガンマン、ヴァッシュ・ザ・スタンピードが扱う数千万人規模の大都市を一瞬で消滅させ、月に超巨大な穴を穿つ――エンジェルアーム。 一つ。現魔王の息子、ガッシュ・ベルとそのパートナーである高嶺君が唱える金色龍の呪文――バオウ・ザケルガ。 一つ。鴇羽舞衣が使役する古から行われた戦姫を決定する舞踏における衛星をも打ち抜く最強のチャイルド――カグツチ。 一つ。Dボゥイこと相羽タカヤがテッククリスタルによって変身したテッカマンブレードの放つ反物質砲――ボルテッカ。 この五つが現段階において太陽を砕くに値する――この殺し合いの参加者が持ち得る最大戦力です」 これらはあくまで『可能性』である。 Dボゥイには更にブラスター化という奥の手が残されているし、東方不敗とドモン・カッシュの放つ石破天驚拳もこれらに匹敵する力を持っているかもしれない。 それ以外に会場に放置された道具にも期待が懸かる。 だが、ある程度現実的な視点で考えればこれら五つが後々の鍵を握る事は明白だった。 「……なるほど。だが、螺旋王も確実に何らかの対処はしている筈だ。結界にしても一度、張ったならば張り直せない道理はない。 無闇矢鱈に天を穿てば穴が空く、というのでは彼らのうちの誰かが己の全力を出せば途端に遊戯は崩壊する。 それでは螺旋能力者の選定の場としては不十分だろう」 「ですね。何かしらのイグニッションキーとなるものが存在する事は確かでしょう」 「……難しいな。ところで、小早川ゆたかという少女はいつ戻ってくる?」 「……そういえば遅い、ですね。こちらの動きから私達が同盟を結んだ事には気付いているでしょうに」 今現在、探知機能付きの携帯電話は明智の手元にはない。 これは今頃ゆたかの手から清麿へと渡り、彼が他の参加者の動向を探るのに使用している筈だ。 そもそもスカーを戦力として確保する事は相当に分の悪い賭けだったのだ。 当然ゆたかには自分達がこれから何を行い、どのような覚悟で説得に赴くのかを話してある。 スカーに自分達が襲われるケースを想定して荷物を持たせて、清麿の所へ向かわせたのだ。 「何か問題があれば高嶺君から連絡があるとは思いますが……どうします?」 「……そうだな。ひとまず、顔合わせだけはしておくべきだろう」 「そうですね。私も一度地下の施設を見ておきたいと思っていましたし、丁度良い機会かもしれませ――なっ!?」 「これは……!」 その時、だった。突然、会議室の床に凄まじい振動が走ったのは。 ソレは丁度いい言葉で言い表すのならば、地震という自然現象と酷似していた。 だが、明らかな相違点が同時にいくつも挙げられる。 例えば揺れの幅が極めて限定的な縦揺れであるという事。そしてまるで『下方から何かが競り上がって来る』感覚である事。 「なんだ……この揺れは……!?」 「分かりません……螺旋王の造り上げたフィールドにおいて、まさか地震など……?」 そしてその揺れが非常に長い点。地面が振動を始めてから既に十秒近く経過している。 しかし、揺れの大きさは未だに全く変わらないのである。 地震が初期微動と主要動の二つの波によって構成される現象である事は非常に有名だが、大規模な地震であればあるほど初期微動は短くなる。 故にこの規模の地震が何十秒も続くなどという事は在り得ないのだ。考えられるケースがあるとすれば、 「下に……何かが?」 「地下の施設に異変があった……と判断するべきか」 「しかし……クッ……あそこには高嶺君と小早川さんが!」 揺れは、止まない。 前に足を踏み出そうとしても、どうしても身体がふらついてしまう。 一体この刑務所の地下に存在するのはどのような物体なのか、明智は未だ解答を得る事が出来ずにいた。 ▽ どうすれば、いいんだ。 清麿はそのあまりにも"アレ"な事態に頭を抱えるしかなかった。 アンチシズマドライブにノーマルシズマドライブを差し込む事、これは全くの想定外の事態だ。 この大怪球フォーグラーは通常、アンチシズマドライブを嵌め込むことによって起動する巨大ロボットである。 では逆に、ノーマルシズマをフォーグラーに組み込んだ場合はどうなるのだろう。解答は――導き出せない。 「クソッ! どうしてゆたかちゃんが……っ!」 清麿は真紅に染まった視界の中で必死に思案を巡らせる。 フォーグラーのメインルームとも言うべき、コックピットは「警告」のニュアンスを多分に含んだ赤い光に覆われている。 彩度の高い緑色だった筈のシズマ管を満たしていた液体はその色合を変え、清麿はまるでピンク色のカクテルの中に沈んでいるような錯覚を覚えた。 加えて在り得ないほどの振動。まるで大地が呼吸するかのように、フォーグラーが揺れる。 「ゆたかちゃん! ゆたかちゃん! しっかりするんだ!」 清麿はすぐさま床に倒れ伏したゆたかの元へと駆け寄る。 全参加者の名簿には一通り目を通してある。 ……年上だとは到底思えないほど、小さな身体だ。 抱き締めれば本当に折れてしまうのではないかと思うくらい、か細く心もとない存在。 完全に身体の力が抜けてしまっている彼女を抱き上げ、数度揺すってみるもまるで反応は無い。 指先から神経を通じて、彼女の柔らかい身体の感触が清麿の脳内を擽る。 どことなく良い匂いがするような気もするが、そんな余計な事を考えている場合ではない事も十分過ぎる程承知している。 今は――最善の対処法を導き出されなければならない。 「動く…………のか? アンチシズマドライブではなく、普通のシズマドライブが一本だけ。そんな状態で起動なん…………て?」 と、清麿が思った時だった。 凄まじい音を立てて、振動していたフォーグラーの揺れが突然、ピタリと収まったのだ。 警告音も鳴り止み、シズマ管の色も黄緑色に戻る。 そう、まるで『何もなかった』かのように。 唯一の異変と言えば、メインルームの中心に位置する孔には未だ通常のシズマ管が突き刺さっているという一点のみ。 「……へ?」 思わず漏れる間抜けな声。 ぐるり、と辺りを見回してみても事実は変わらない。 先ほどまでの異変は何だったのかというぐらい、フォーグラー内部の状態は元に戻ってしまったのだ。 「ハハハハハ……そうだよな。まさか夢や幻じゃないんだから、そんな都合の良い事がある訳ないか! 普通のシズマドライブで起動するんだったら、アンチシズマ管なんて必要ないしな。 考え過ぎって事か…………だな。アハハハハハ、まるで悪い夢でも見ていたような――――ッ!!?」 事件とは立て続けに起こるものなのか。よく分からない出来事は連鎖するのか。 丁度、清麿が「フォーグラーが起動する?そんな事ある訳ないじゃないですか。ゲームじゃあるまいし」的な結論を出した時だった。 『下』からではなく『上』から凄まじい音が響いたのは。 その衝撃は断続的なフォーグラーの振動とは明らかに違う種類のものだった。 例えるならば砲弾、であろうか。 外部から飛来し一瞬の破壊をもたらした後に、炸裂する――そんなイメージだ。 明らかに異物が何処からか飛んで来たのは確実だ。地下に潜っているために正確な方向は分からないとはいえ……、 「上……!? どうなっている、遠距離からの射撃か……っ!?」 ちらり、と何気なく握り締めていた携帯電話を一瞥する。 刑務所に存在する光点は五つ。 中心点、つまり自分とゆたか。そして少し離れた地点にスカーと明智。そして所内で単独行動をしているらしいねねね。 誰かが突撃して来た訳ではないようだが……実際に眼で見て確認してみないと詳しい事情は分からないだろう。 しかし、 「何……!? これは……!」 新たに三つ。 この刑務所に接近して来る存在を感知したとなると、話は全く変わってくるのだ。 正確には四。 だがこのレーダーは首輪の存在を読み取る物なので、道具として首輪を所持している場合は画面にもソレが反映されてしまう。 今回の場合で言えば『クロ』という参加者がその例に挙がる。彼は第二回放送でとっくに死亡しているのだから。 「ヴィラル……シャマル……そしてルルーシュ・ランペルージ……!! 畜生、こんな時に!!」 更に懸念事項は増加する。 ヴィラルとシャマルは明らかに殺し合いに乗った人間だ。 とはいえ、自分は彼らに一度遭遇しているし言葉も交わしている。 二人は悪い人間ではない……と思う。だが、それ故に何かを守るために戦っている、という事も清麿は十分に理解していた。 話せば分かってくれる、分別を持った相手ではあると思う。 だが、事態は一変した。 第四回放送の後に、主催側からの駒として会場に降り立った――怒涛のチミルフ。 詳細名簿の項目を見るに、彼はおそらくヴィラルの直属の上司と見て間違いないだろう。 ヴィラルをこちら側の戦力としてスカウトする……というのはほぼ難しくなったと見て間違いない。 なぜなら、チミルフとヴィラルの間で何らかのコンタクトを取る手段が設けられている筈だからだ。 先発隊と後発隊の合流、とでも考えれば都合がいいかもしれない。 レーダーに映らないチミルフが今現在彼らに同行している可能性もあるのではないか。 「……ダメだッ! これを見過ごす訳にはいかない!!」 清麿は携帯をポケットにしまうと、再度腕の中のゆたかの顔を眺めた。 彼女は両目を瞑り、苦しそうにその端正な顔を歪めている。 白雪のような頬は紅色に紅潮し、明らかに体調が悪い事が見て取れる。 額に手を当ててみるが、やはり予想通りだ。相当に熱っぽい。精神的な問題ではなく、体力的な事情だろうか? とはいえ、イリヤや士郎の死が彼女に多大な影響を与えた事は想像に難くない。出来れば彼女の側に付いていてやりたいのだが…… 「ゴメン、ゆたかちゃん! すぐ戻るから!」 ここで清麿はゆたかを一旦、フォーグラー内部に置いて行く、という選択を下す決意を固めた。 確かに今のゆたかは情緒不安定と判断してしまってもいいだろう。 が、同時に病人でもある。つまり無理に動かす事で体調を悪化させる可能性もあるのだ。 これがもし、フォーグラーの何かしらの異変が尚も健在だった場合、無理をしてでも背負っていくのだが……それ以上に今はヴィラル達の接近が重要事項であると判断したのだ。 携帯電話の首輪レーダーを使った周囲の監視は集団にとっての一大事だ。 それを、疎かにする訳にはいかない。スカーが加わったとはいえ、自分達のグループは非戦闘員ばかりなのだから。 強者に襲撃されれば一溜まりもない。 内に燻った種火よりも、外から投げ込まれる災禍の方がずっと、恐ろしい。 ▽ 高嶺君の台詞を頭の中でゆっくりと、ゆっくりと、反芻する。 『すぐに、戻ってくる』 でも私の中にその言葉は入っては来なかった。 新しい疑問へと形を変えて心の中へと浮上……それで終わりだ。 感慨も、安堵もない。 だから、何気なく私は思った。 一体『すぐ』っていつの事なんだろうって。 一分? 五分? 十分? 一時間? もっと、それ以上? いつまで、私は一人っきりで居ればいいのだろう。答えてくれる相手は……誰もいなかった。 言葉は曖昧で嘘吐きだ。 好き勝手な理屈で相手を傷付けるし、気が付いたら自分を守るために事実とまるで違う話をしてしまう。 そう、嘘吐き。 それは臆病な私にとって、今一番痛い言葉なのかもしれない。 状況は十分過ぎるくらい分かっている筈なのに、私は我が身可愛さでその口を塞いでしまった。 「螺旋力、というのに心当たりがあります」って一言言うだけで良かった。 だけど、結局私は臆病なままだったのだ。両目を瞑って、何も知らない振りをした。 無知なコバヤカワユタカで在り続けた… 殺し合いとはまるで無縁な環境で私は今まで生きてきた。 私が一番最初に出会った相手、Dボゥイさん。 彼との出会いは、確かに私を変えたと思う。 ヒィッツカラルドさんとの戦いを通して、私は少しだけ勇敢になれた気がした。 Dボゥイさんが危なくなった時、自然と動いていた私の身体……その感覚だけは本物だったと思うから。 今もほのかに残っている気がする。 掌の中にお日様を握り締めているような、暖かい気持ちが。 「き……れい」 緑色の水槽に囲まれ、私は天井を見上げる。 空は漆黒の、闇。屋内だから当たり前だけど、月も星も見えない。 私の中で強烈な熱が暴れ回っている。それはある種、諦めにも似た感情を私に抱かせる感覚だった。 元の世界で、私は嫌と言う程この熱と付き合ってきたのだから。 小さくて、小さくて、くだらない私はやっぱりいつも通りだった。 「あつい……な」 炎が私の中でパチパチと音を立てて燃えているような気分。 やっぱり慣れっこだ。でも、どんなに経っても苦しみは軽くなるどころか益々大きくなるだけ。 だって、私が気分を悪くする度に皆を悲しい表情にさせるからだ。 そして、思い出す。あの夏の日、みなみちゃん達と花火を見に行った日の事を。 一人だけ具合を悪くして、倒れそうになった日の事を。 「……みなみ、ちゃん」 大好きな親友の名前が勝手に唇からこぼれ落ち、そして消えて行く。 会いたいなぁ、みなみちゃん。 みなみちゃんは今一体何処で、何をしているんだろう? それに、どうして―― 「あ……!! ……ダメ、だ……」 その時、私の頭を『絶対に考えてはならない疑問』が過ぎった。 それはある種の禁忌だった。タブーだった。 私が私であるためには、想像する事さえ許されない可能性。 何気なくみなみちゃんの顔を思い浮かべた瞬間、私の中に芽生えた問い掛け。 ――――どうして、みなみちゃんはここに呼ばれなかったんだろう? 本当に……最悪だ。 みなみちゃんがこの場に居ない事を私は心の底から喜ばないといけないのに。 だって、お友達の幸せを祈るのは当たり前のことなんだから。 良かった、本当に良かった!って考えていないと――私の中の悪魔がもっともっと大きくなってしまう。 汚らしい泥のような嫌な小早川ゆたかが出て来てしまう。 「高嶺君……どうしたん……だろう」 慌てた顔をして走り去っていた高嶺君が何を悩んでいたのか、私には良く分からなかった。 何か、大変な事があった……せいぜい、想像出来てそれぐらいだ。 でも、ソレって私を置いて行かなければならないくらい、重要な事だったのかな。 どうせなら私も連れて行ってくれれば良かったのに。そうすれば、一人きりにならずに済んだのに。 ……ダメだ。 やっぱり、気付けば他の人に依存してしまっている。 だから……嫌なんだ。 本当によわっちくて、情けない―― 私の大嫌いな、私。 ▽ 「明智さん!」 「高嶺君、丁度良かった。今から私達も地下へ――」 「違います! そんな場合じゃないんです!」 スカーは息を切らしながら、こちらへと走ってくる少年を冷酷な眼で見定める。 歳は十代半ば、エルリック兄弟と同じくらいだろうか。 一見、何処にでもいる普通の少年に見える――が、スカーを誤魔化す事は出来ない。 腕や首筋などに刻まれた傷痕……明らかに数多くの修羅場を潜ってきた証拠だ。 筋肉の付き具合などから見て、自らの肉体を鍛えて戦う種類の戦士ではないようだが、戦場の前線に身を置く者であることは確実。 「高嶺君一度落ち着きましょう。そんなに慌てて、君らしくもない」 「あ、す……すいません。ですが、今は!」 「……そうも言っていられませんか? 話を――おっと、高嶺君。こちらがこの度我々の戦列に加わって下さったスカー氏です」 「いや、俺の事は後回しで構わない。少年、どうした。何があった?」 スカー達と清麿が出会ったのは地下へ向かうエレベーターから少し先、刑務所の正面口に近い食堂であった。 多数の受刑者達が一斉に食事を行うためか非常に広く、また同時に密閉間を感じる妙な構造となっている。 下方からの不可解な揺れもすぐさま収まり、二人はフォーグラーへと急いでいたのだが、実際、清麿の行動の方が早かった形になる。 「……要点を纏めれば、ヴィラルとシャマルがこちらに向かっています。 彼らを追跡しているように近付いて来ているルルーシュ・ランペルージの動きも見逃せません」 「ふむ……厄介、ですね」 「それに先ほどの衝撃はいったい……?」 「南方、消防署の方角から何かが飛んで来たようですね。着弾した時点では爆発を覚悟しましたが……どうも、ソレとは違うようです」 清麿の報告に、明智は一瞬表情を曇らせたがすぐさま冷静に事態の分析を始める。 飛来した物体――順当に考えれば不発弾だろうか。おいそれと調査に出向く事も出来ない。 「映画館と同じくここを破棄するにしても、位置が近過ぎます。スカー氏との対応に追われ、準備を怠った我々のミスでしょう。 当然、ここは引き払います。しかし、すぐさま行動に移すには後手に回り過ぎている」 「……ですね。俺達だけならまだしも、ゆたかちゃんや菫川先生が……女性の方々がいます。 それにゆたかちゃんの状態は深刻だ。熱もあります。置いていく訳にもいかないですし……」 「ええ。彼らがここを素通りしてくれるのが最高なんですが……何らかの対処は必要でしょう」 やはり彼らの問題点は力という訳か、そうスカーは認識する。 明智、高嶺、菫川――明らかに頭脳労働を主とする人間がこのグループには集結している。 自分の力を求めたのも分かる。逆にあの時説得に失敗していた場合、確実にこの集団は全滅していたであろう事も、だ。 が、ここは退く事の出来ない場面だったのだろう。 逃げ回ってばかりでは決定的な武力を手に入れる事は出来ないと判断したか。 彼らは単純な力で言うならばあまりに脆弱だ。 銃、という武器を持っているとはいえ、相手はおそらく何かしらの修練を積んだ戦士に違いない。 覚悟も信念も、そして経験も何もかもが足りない。 ――死合。 命を賭して戦う事は言葉では表せない程に重いものなのだから。 「俺が行こう」 「スカー氏!? …………分かりました。相手は二人です。私もお供を――」 「いや……俺だけで十分だ」 「しかし!」 デイパックから銃を取り出し、自分も戦闘へと赴く事を主張した明智をスカーは戒める。 彼は元の世界で犯罪者を取り締まる仕事に就いていたらしい。 ある程度格闘術を学んでおり、銃器の取り扱いにも精通している。だが、 「――貴様は俺に何を期待している?」 「何を、ですか?」 「そうだ。俺達にはそれぞれ役割がある。螺旋王の真意へと迫る者、状況を察し適切な作戦を練る者、世界の仕組みを解析する者。 明智健悟。貴様は俺に……何を望む?」 その程度の練度では、闘いの場に身を窶す者としてはあまりにも足りないのだ。 スカーにはこの会場の誰よりも"螺旋"を我が物にしようとする意志があった。 遠いイシュバールの惨劇で死んでいった同胞達。 その恨みを晴らす……それこそが自身の願い。何よりも優先して叶えなければならない条項。 明智達の情報力は、スカーにとってここで失うには痛過ぎる飛車角だ。 「螺旋王の実験に終止符を打ち、闇を払い天を衝く剣――ソレがスカー氏に私が何よりも期待している役割です」 「では尋ねよう、明智健悟。頭脳であるお前が、剣に気遣いをする必要があるのか?」 「…………参りましたね」 明智は眼鏡の位置を直しながら、少しだけ俯き僅かながらの逡巡を行う。 清麿もグッと両の拳を握り締め、スカーを見つめている。 シン、と静まり返った夜の刑務所。印刷機が何かを刷り上げる音が残響する中、彼らの心は一つになる。 「スカー氏。任せてしまってもよろしいのでしょうか?」 「問題はない。この程度の修羅場ならば幾つも潜ってきたのだから」 ▽ 気がつくと、私は地上へと向かうエレベーターの中にいた。 当たり前だけど、物凄く息が苦しい。熱があるんだ。本当なら黙って寝ていないといけない。 ――――でも置いていかれるのは嫌なんでしょ? ……そうだ。あそこでジッと何もせずに居るくらいなら、息を荒くしながら散歩でもした方がマシだ。 無力なまま、誰かの帰りを待っているのは……とても辛い事だから。 Dボゥイさんと、シンヤさん。 ずっとDボゥイさんと一緒にいた私は、シンヤさんに攫われて一時期彼と行動を共にしていたことがあった。 シンヤさんは乱暴で、少しだけ怖い人だった。 他の人を傷付ける事になんの躊躇もしない人だった。 でも、私を傷付ける事だけは絶対にしなくて……ほんの少しだけ……優しい人だった。 彼は、高嶺君の知り合いに殺されたらしかった。 その事実を聞かされた時、私が何を思ったのか……実はよく覚えていない。 頭の中が真っ白になってしまって、まともに涙を流す事も出来なかったのだ。 私には理解できなかった。 シンヤさんが最期に何を思ったのか。何故、倒れた私は病院で寝ていたのか。 そして――何故、同じ場所でシンヤさんが死んでいたのか。 「また、言い訳」 ああ、やっぱり私は嘘吐きだ。 それだけの情報を与えられて、知らない振りなんて出来る訳がないのに。 ずっとずっと、答えを先送りにしていた。自分を傷付けないようにしていた。 どうでもいい。疲れた。私じゃない……何度自分に語りかけた事だろう。 何故、シンヤさんが死んだのかなんて考えるまでもない事だ。 自分を馬鹿だと、愚かだと偽ってみても自然と答えが出てしまう問題。 高嶺君も明智さんも、私を気遣ってほとんどシンヤさんの話題を出さなかった。 ほら、なんて分かりやすいんだ。 ――――シンヤさんは、私を守って死んだんだ。 私は灰色の道をまるで夢遊病者のようにフラフラと蛇行しながら進んでいた。 足を小さく踏み出すだけで次の瞬間には身体が地面に吸い込まれそうになる。 一歩先は永久の闇だ。窓から見える景色は白と黒と黄金。星と空と月だけが私の身勝手な行進を見ている。 「あ……れ……?」 そんな時、目の前に奇妙な鉄の塊が転がっているのを見つけた。 それはいわば『顔』だった。 正確には顔で身体の大部分が構成されている人形、とでも言うべきか。 よく見ると近くの壁に大きな穴が空いている。 吹き込んでくる冷たい風が少しだけ気持ち良かった。火照った身体には絶好の薬だ。 もしかして、何処からか飛んで来たってことなのだろうか。 私は鉄の人形を更に凝視した。赤くて、手が付いていて、足もある。明らかに人を模した物だ。 中には人が二、三人は乗れるであろうスペース。意外と大きい。 もしかしてこれは、ゲームに出て来るような……ロボットなのかもしれない、そんな事を思った。 「……ん?」 ロボットと視線が合った瞬間、私はまるで相手が生きている人であるかのような錯覚を覚えた。 そう、まるで機械で出来た身体を持つこのロボットに意志があって、私に応えてくれたような――そんな感覚だった。 まるで夢物語だ。生きている機械なんて居る訳がないのに。 小さく頭を振って湧き上がってきた妄想を一蹴。視線はロボットの外面から内部のパネルへ向かう。 ぼんやりと、それでも何故か引っ張られるように私はその操縦席らしき部分を覗き込んだ。 「穴、かな」 外見に負けず劣らず、中も良く分からない構造をしていた。 コックピットの前面、メインパネルの中央には丸い穴のようなものが空いている。もしかして、ここに鍵を差すのだろうか? 穴の中にはグルグルと渦巻きのような溝が走っている。 そして、穴の周りには青いメーターのような物があってソレもまた渦巻き――いや、螺旋を描いていた。 「あ……」 ピンと来た。そう――コアドリルだ。 ずっと、私を守ってくれていたあのアクセサリーと丁度大きさがピッタリのような気がしたのだ。 首に紐で掛けてあったコアドリルを取り出し両者を見比べる。 ……うん、悪くない。サイズも形状も上手く嵌まりそうだ。 「ここで、いいの……かな」 ポットみたいになっているロボットの外枠を掴みながら、オズオズと、それでも少しだけワクワクしながら―― 私は、コアドリルをそのロボットに差し込んだ。 もしかしたら、奇跡が起こって動き出すかもしれない。 そうしたら、私はパイロットになれるのだろうか。 鍵を持っている女の子が戦闘メカの搭乗者になるのは小さい頃に見た戦隊アニメでも御馴染みの光景だ。 見るからに非現実な物体を前にして、私は子供の頃と似たような気分になっていた。 そして、思った。 ――――そうすれば、皆のお荷物じゃなくなるのだろうか、と。 カチン、と音がした。 「あ……れ……?」 でも、何も起こらなかった。 多分、コアドリルはこのロボットに使うための鍵だった――これは確実だ。 でも、それだけ。パネルが光る訳でも、ロボットが動き出す訳でもなかった。 どうやら、条件が足りないらしい。さしずめ……エネルギー、といった所だろうか? 淡い期待は脆くも崩れ去った。 このロボットがあれば、皆が私を褒めてくれると思ったのに。 「すごいね!」って、暖かい笑顔で迎えてくれると思ったのに……ううん。どうせ私には初めから無理だったに決まってる。 「やっぱり、ダメなんだ」 私は名残惜しい気持ちを抑えながら、操縦席を後にした。 もうこの場所に用はないと判断したのだ。 動かない鉄屑と戯れていても虚しいだけ。コアドリルを差しっぱなしにしてきた事が少しだけ気になった。 でも、私の身体は勝手にまた、夜の散歩を始めてしまう。 でも、あの道具は多分ここに刺す物だ。 だったら私なんかが持っているよりも、ずっとずっと相応しいようにも思えたのだ。 それに、多分私にはもう必要のない物なのだとも思える。 持っていてはいけない気さえする。 最初から一緒にあったお守りですら、私の手にはもう馴染まなくなっていた。 私は……変わってしまったのかもしれない。 よく、分からない。 心の奥底では、ずっと、無知で愚図なままでいたいと思っているのだろうか。 もし、そうだとしたら…… 私は……なんて、醜いんだろう。 ▽ 『ヴィラルさん。本当にこっちでいいの?』 『お前らしくもないな、シャマル。よく地面を見てみろ』 『え……これは……何かが通った跡……かしら』 『だろうな。しかもコレは大分新しい……地面の乾き具合で分かる』 『誰かが刑務所から南下した、って事?』 『ああ。車輪の大きさから判断して、大きな乗り物という事はないだろう』 『!! もしかして……マッハキャリバー!?』 『シャマル? 分かるのか?』 『サイズもピッタリ。多分魔術の素養のある人間がマッハキャリバーを使ってここを通ったんだと思います』 『なるほど。これは……とんだ拾い物かもしれんな』 『ええ。でもさすがヴィラルさんね。こんな地面の跡なんて私、全く気付かなかったわ』 『いや、違うぞシャマル。俺一人ではそこまで正確な分析は不可能だった。お前がいたからこそ、そこまでの真実に到達する事が出来たんだ』 『そんな……私がいたから、なんて……』 男と、女の声。 「クソッ……アイツら、何を考えている……ッ!!」 そして一人、彼らを背後から追跡する少年。 ルルーシュ・ランペルージは湧き上がる苛立ちを抑え切れず、思わず足元の石を蹴っ飛ばす。 カッ、という小さな音を残し、灰色の石は明後日の方向に向けて数回転がると、そのまま見えなくなった。 道は薄暗く、灯りも着いたり消えたりを繰り返す街灯ぐらいのものだ。 当然のように、その程度で彼の怒りが収まる訳もなかった。 ルルーシュの怒りは前方をイチャつきながら移動する二人組の背中へと向けられる。 夜の闇が未だ退かぬ空の下で、ルルーシュはシャマルとヴィラルを尾行していた。 この殺し合いが始まってから、枝葉の陰に身を潜め幾度となく他の人間の様子を監視する機会に出くわしたルルーシュだ。 見つかるようなヘマをやらかす訳もない。 今回の追跡行為も、現状における最上の手段と認識したまでの事である。彼の中に油断はない。 (チッ……コイツらは今がどういう状況なのか理解しているのか!? 互いに顔を赤らめている場合なのかッ!? ……こんな馬鹿共が生き延びて何故、スザクが死ななければならなかったのだッ!? クソッ!!) ヴィラル達と遭遇した民家において散々二人の愛の営みを見せ付けられたルルーシュは憤慨していた。 何度、イチャつき合う馬鹿共の前に踏み込んでやろうと思ったことか。 だがルルーシュは既に数時間前、温泉において全く同じような心境へと至り、その場のテンションでギアスを使用し手痛いしっぺ返しを受けている。 (クッ……我慢しろ、ルルーシュ。今は時期ではない……強力な制限下にあるギアスは出来るならば使わない方がいい。 これが最良、もっとも効率的なやり方だッ……) ヴィラル達とすぐさま接触する事を逡巡の末、ルルーシュは放棄した。 当然ソレは、あの時点での接触は好機ではないと判断したゆえの選択だ。 いまいち二人の行為に割って入る踏ん切りが付かなかった訳では決してない。 ポイントは二つ。 まず、あの周辺で戦闘が行われたばかりであるという点。 あれだけ派手に周囲の建物を破壊しながら戦えば、周囲から人が集まって来る可能性は非常に高い。 『複数人に対してギアスを使用する』というテストは、ギアスの試し掛けを始めてから未だ一度も行っていない。 最初の使用時にはそれほど複雑な命令でなかったにも関わらず、ルルーシュは昏倒してしまった。 が、三回目の使用時に同程度の難易度の命令を行う事によって、新たな仮説を導き出した。 つまり――問題点はおそらく『一度に使用する人数』なのだろう。 殺し合いの特性を鑑みるに即座に生命に影響する命令にも何らかのストッパーが掛かっている可能性はあるが、この考察は大部分で的中している筈である。 加えて話術による交渉も利点が薄い。 確かにその場のテンションで行動しているのが明確な二人組を誘導する事など、自分にとっては造作もない事だ。 だが、困った事に奴らは殺し合いに乗っている。 しかもヴィラル、という男の方は加えて先ほどの放送から参戦した「怒涛のチミルフ」の部下であるというのだ。 奴の目的は――次回の放送までに、参加者を最低1人討ち取り、チミルフにその首を献上する事。 あまりにも野蛮な到達点だが、こんな会話を聞いてノコノコと奴らの前に姿を現すなど出来る筈もない。 故にある程度、事態が変わるまでルルーシュは彼らを尾行することに決めたのだ。 (誰も見ていないと安心しているのか……? いや、ただ単純にイチャつきたいのか……理解に苦しむな) が、これは中々上等な自己防衛手段でもある。 なぜならば、突然の襲撃者に出くわした場合も、ヴィラル達が先に敵と接触する可能性の方が高いのだ。 加えてルルーシュが攻撃された場合も、初撃だけ回避すれば立ち回り次第で二人に敵を擦り付けることが出来る。 まさに一石二鳥の策略と言えるだろう。 (問題は奴らが有力な参加者を一方的に攻撃してしまう場合か……奇襲を掛けるにしても誰と接触するのかは非常に重要だろう。 が、シャマルとヴィラル。螺旋王の情報を多く知る二人は是非とも押さえておきたい人材。 隙を見てギアスを使えれば……やはりタイミングが難しい、な――――む?) そこまで考えた所で、前方を行くヴィラルとシャマルが突然立ち止まったのだ。 ルルーシュも見つからないように、すぐさま身体を物陰へと隠し、様子を窺う。 「――お前達がヴィラルと、シャマルか」 「な……貴様は!?」 「……螺旋の力に覚醒して、それでも人を襲う決意を固めるか」 「ヴィラルさんっ!」 「螺旋王が配下、ヴィラル。湖の騎士シャマル……だな」 現れたのは全身を隆々とした筋肉に覆った褐色の肌の男だった。 目付きは鋭く、顔に刻まれた痛々しい傷跡が彼の歴戦の勇を証明する。 右腕に刻まれた多数の紋章は何かしらの異能の印なのか。 (奴は……カレン達の言っていた偽ゼロを襲撃した男か!? まさかこんな場所で出くわす事になるとは!!) 話だけは聞いていた。 キャンプ場を襲撃した男が糸色望と読子・リードマンを殺害した、という事実を。 しかも読子という女はスパイクを軽く凌駕する実力を持っていたらしい。 その事実だけで、彼が相当な実力者である事が窺える。 「もう一人は……いないのか? 隠れているのか?」 「ニンゲン!! 何を訳の分からない事を言っているっ!?」 「……明智を連れてこなくて正解だったな。俺としても覚醒者は保護したい――のだが、」 「ふん……話を聞くつもりはないのか。保護、だと!? ふざけるなッッ!!!」 「……すいません。私達は……二人で優勝しなければならないんです」 「やはり、そうか」 顔面に深い傷を持つ男――スカーが闘いの構えを取った。 当然のようにヴィラルとシャマルもそれぞれの得物を持ち、戦闘に備える。 漆黒が世界を埋め尽くす中、二対一という傷の男に極めて不利な状態で戦いの幕は開こうとしている。 (何……ッ!? 俺の存在がバレている……だと!? どうなっている!?) ルルーシュは驚愕した。なんと、男はどうやらルルーシュが近くに潜んでいる事を半ば確信しているようなのだ。 だが、不思議な事は『ルルーシュが近くにいる事』しか知らない点だ。 感知しているのは存在だけで、場所までは分からないという事だろうか。 ならば、ひとまず姿を見せずに事の次第を見守るのが最良だろう。 「行くぞ、シャマル!」 「はい、ヴィラルさん!」 「――――掛かって来い」 (スザクのようなイレギュラーな戦士……なのか? ……どちらにしろ、今出て行く訳にはいかない。 そして考えるんだ。何故、奴はあの事を……?) 時系列順に読む Back 盟友 Next てのひらのたいよう(中編) 投下順に読む Back 童話『森のくまさん』 Next てのひらのたいよう(中編) 245 【ZOC】 絶望の器 (後) 明智健悟 249 てのひらのたいよう(中編) 245 【ZOC】 絶望の器 (後) スカー(傷の男) 249 てのひらのたいよう(中編) 249 まきしまむはーと 高嶺清麿 249 てのひらのたいよう(中編) 249 まきしまむはーと 小早川ゆたか 249 てのひらのたいよう(中編) 243 リ フ レ イ ン ヴィラル 249 てのひらのたいよう(中編) 243 リ フ レ イ ン シャマル 249 てのひらのたいよう(中編) 243 リ フ レ イ ン ルルーシュ・ランペルージ 249 てのひらのたいよう(中編)
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てのひらのたいよう(後編) ◆tu4bghlMIw ――怒っているとかいないとか、もはやこの段階まで来てしまえばそんな事を論じている場合じゃない。 自分の眉は吊り上がり、厳しい顔付きをしてこそいるものの、ソレは切迫した事態を重んじているだけだ。 何もゆたかを叱り飛ばそうとか、そんな事を考えている訳ではなかった。 (うご……くのか……!?) 清麿は大怪球フォーグラーと地下エレベーターを結ぶ通路で一人呆然としていた。 視界の先にはもはや単なる無機物ではなく、シズマという命の入った巨大ロボット。 黒い点ではなく、血のように赤い眼が清麿を見下ろしている。 中にゆたかが入っている事をフォーグラーの音声装置から漏れた声によって、清麿は既に理解している。 つい数分前、彼が明智への連絡を終えゆたかを迎えに来た時、そこにあったのはゆたかのデイパックだけだったのである。 そう、明らかな入れ違いである。 が、こうして分厚い鉄の塊を通してではあるが、再会出来た事は本当に幸運と言えるだろう。 (分かる……外から見てるだけの俺にだって分かるぞ……!! コイツはどう見ても"起動済み"だ!! 中で一体何があったんだ? 一本のシズマでは何も起こらなかった……遅れて起動した……という事か?) 完全にフォーグラーへと至る通路は閉鎖され、もはや中に入ってゆたかを連れ出す事など不可能。 ならば、彼女に"起動"を停止させるか? つまり車ならばギアを戻し、再度イグニッションキーを回させる行為だ。 しかし、そもそも自分は『何故フォーグラーが起動したのか』という命題について明確な答えを導き出せていない。 仮説自体は当然いくつも存在する。 (アンチ・シズマ管がなければアンチ・シズマフィールドは発生しない。それではエネルギーが……いや待てよ! 『初めから起動に応えるだけのエネルギーが供給されていた』と考えるのはどうだ? 内部のゆたかちゃんが何らかのアクションをフォーグラーに試みたとすれば…………動く、十分に動くぞ!? とはいえ"行動"はまだ開始していない。例えるなら鍵を回してアイドリング状態にある車のような物だ。 つまり、中からの操作で何だって出来る状態。しかも乗り込んでいるのは意識が朦朧としているゆたかちゃんだ。 こいつは……厄介なんてもんじゃない……!) 何よりも優先すべきはフォーグラーを『浮かび上がらせない事』だ。 フォーグラーの操る力は重力。 そう、この機体はジェット噴射やサイキックなどの力ではなく、重力場をコントロールする事によって移動する。 先程計測したその際の衝撃が及ぶ範囲は――――約500m。 眼と鼻の先にいる自分達など、フォーグラーの力が相手では一溜まりもない。 「ゆたかちゃん!! 俺の事が分かるかい!?」 『……た……高嶺くん?』 「そうだ、高嶺清麿だ!! ゆたかちゃん、今から俺の言う事を落ち着いてよく聞いてくれ!! まだ間に合うんだ!! 君が起動させてしまったソレ、大怪球フォーグラーが『本当に動き出した場合』とんでもない事になる!!」 ……良かった。 フォーグラー内のゆたかに意識がある事を知り、清麿はホッと安堵のため息を付いた。 想定される最悪のケースとはつまり『ゆたかが昏倒していた場合』である。 先刻フォーグラーの起動パターンをシミュレートした際、いくつかの事実が明らかになった。 まず、このロボットは非常にオートメーションが進んでいる、という点だ。 そもそも全長300mを越す巨大ロボットに精密な動作を要求する事など現実的に考えて不可能。 故に操作マニュアルが簡略化され設計されるのは当然の運びだ。 主なコントロールは操縦席に備えられた四つのコンソールパネルで行うとして、非常に単純なコマンドで動作を起こす事も出来る。 加えて、このサイズのロボットを会場に放置するという事は、すなわち螺旋王はこの機体を『誰かに使って欲しい』のだ。 では――誰が使う事を彼は想像してこんな玩具を放逐したのだろうか。 人類最古の英雄王たるギルガメッシュか? キングオブハートの称号を持つ稀代の武道家、ドモン・カッシュか? 流派東方不敗を完成させた絶対王者たる東方不敗か? 単身で宇宙間戦闘を可能とし、惑星をも落とすテッカマンか? 違う。彼らのような強者は、決してこんな機械人形に乗り込んだりはしない。 なるほど。力を求める者が更なる破壊を求めて、狂気に身を落とし、この機動兵器を駆る、という場面ならばまだ想像しやすい。 しかしここは螺旋王が、参加者に螺旋力の覚醒を促すために造り上げた闘技場である。 そう、おそらく彼が何よりも望んだ結末とは、 ――戦う力など持たないか弱き者が、フィールドにおいて騒乱の種となり、他の者の覚醒における起爆剤となる事。 (こう考えればゆたかちゃんにコアドリルが支給された理由も分かる……! 螺旋と密接な関係性を持つ道具を自然と庇護される対象になるである彼女に支給し、周りの奮起を促す。 殺し合いに乗った者に奪われても問題なし。なぜなら彼らは自ずと戦いの中で螺旋力に目覚めるッ……!!) こうなっていると、こちらの声は一切届かず起動状態が続行してしまう。 長時間の放置がフォーグラーにどのような効果を齎すか……想像することさえ恐ろしい。 『エネルギーが切れて、起動停止』とはさすがにならない可能性が高い。 が、ここで手をこまねいていてもまるで前進はない。そうだ、自分がしっかりしなければ…… 「大丈夫だから落ち着いてくれ!! いいかい、俺が何とかしてみせる!! だからまずは教えてくれ。ゆたかちゃんがフォーグラーに何を――」 『……や、やめて……やめてくださいっ!!』 「え?」 清麿の決意と責任を込めた言葉は――ゆたかの絶叫に遮られた。 当然の如く、清麿は彼女のその予想外のリアクションに呆然となる。 『た、高嶺君は……怒ってるん、ですよね。私が……私が……"コレ"を動かした事に……』 「怒ってなんかいない! いや、それにそんなことはどうでもいいんだ!! まずは俺の話を――」 『どうでもいいなんて言わないでくださいっ!!!!』 「ッ――!?」 それは、今まで清麿が持っていたゆたかのイメージからはまるで想像出来ないような語調の厳しい一言だった。 スピーカー越しに伝わってくるしゃくり上げるような泣き声と、そして何らかの意志。 脅えているような、戸惑っているような、酷く……複雑な感情が込められていた。 『わたしの…………話を、聞いて……聞いてください……』 「ゆたか……ちゃん」 清麿は酷く混乱していた。 今自分と相対しているのは本当に小早川ゆたか本人なのであろうか、と。 その声はまるで今にも千切れ飛んでしまいそうな、糸のような印象を受けた。 こちら側からゆたかの顔は見えない。 他人とのコミュニケーションにおいて、視界が左右する要素は非常に重要な部分を占めている。 彼女がどんな表情で、どんな動作で、自分に言葉を掛けているのか分からない。 これは、ゆたかを説得しなければならない清麿にとってはあまりにも不利な材料だった。 つまり、先ほどの一言は清麿からはゆたかが視認出来ないという状況から発生した清麿のミスだ。 相手の気持ちを慮る事が出来なかった致命的な悪手。 そしてそもそも、理詰めの考察ならばともかく、話術は彼の専門ではない。 『言われなくても……分かってるんです……私……邪魔、ですよね。重い、ですよね。うざったい……ですよね』 「そんなこ……ッ」 そこまで出掛かった言葉を清麿は無理やり飲み込んだ。 淡々とナイフで自らの皮膚を削り取るかのように、ゆたかは言葉を重ねる。 明らかな、自傷行為。 そんな彼女の台詞を何度も遮る事は、確実に彼女の精神を磨り減らす事と見て間違いない。 (駄目だ……ここは、ゆたかちゃんに好きなだけ喋らせるべき状況だ……! 俺には、情報が足りない。ゆたかちゃんが何故、ここまで追い詰められ、何を思っているのか。 説得の基本は相手の意思を読み取り、思考を自らと同調させ"共感"を生む事…… 迂闊な動きは……逆効果にしかならない……ッ!) こんな時、明智が居てくれれば良かったのに、そう思いながら清麿は唇を噛んだ。 彼は確かロスで交渉術を学んでいたと言っていた。 声だけのやり取りで犯人を説得するそのスキルはまさに、この場で最も活用される技能だろう。 『高嶺君は…………本当に、凄いと思います。私の方が年上なんて、全然思えないくらいに。 明智さんも菫川先生も大人の方だけあって……いいえ、やっぱり何かが違います。 だって私がこのまま大きくなって、同じくらいの年齢になっても……私はお二人みたいになれる気はしません』 ゆたかの言葉はズブズブと心臓に突き刺さる。 まるで黒塗りの巨大な鉄釘がゆっくり、ゆっくりと血と肉と血管の海に沈んでいくようだ。 ――誰の、心に対してだ? もちろん、 『皆さん、自分の役割を自覚して、それぞれが頑張っているんです。 私には明智さんみたいに他の人を引っ張っていく事も、 高嶺君みたいにロボットの働きを分析する事も、 菫川先生みたいにお話を書く事も……何一つ出来ません。私は、無力です。守られているだけの役立たず…… それどころか、足を引っ張っているだけ。私がいたからシンヤさんは死んだんです。Dボゥイさんもきっと……』 (ゆたか……ちゃんッ!!!!) 清麿とゆたか――――二人の、だ。 『だから……私は、思ったんです』 「……何を……だい?」 ゆっくりと、清麿は口を開いた。 彼女が、そう尋ねる事を望んでいるような気がしたから。 握り締めた拳は今にも皮膚が破れ、血が流れ出すのではないかと思うぐらい固く閉じられている。 このやり場のない衝動をぶちまける場所は、何処にも存在しなかった。 つまり一人の少女をここまで追い詰めた自分に対する強い怒りの感情。 『私には、私がいらない。もう何もかもがどうなろうと……関係ない。全部…………全部…………』 空気が、震えた。 『終わっちゃえばいいのに、って』 清麿は垣間見た。 決して幻や妄想などの類ではない事も感覚的に分かる。 赤い瞳でこちらを見つめるフォーグラーの向こうに、壊れた笑顔を浮かべる少女が居る光景を。 光のない笑みと共に、頬を紅潮させた少女があどけない表情で嗤う。 世界なんていらない。 励ましも、感情も、思いやりも全部、全部だ。 二人の隙間を埋めるのは無機質な鉄と冷たい空気だけ。 終わりを求める少女の心は、いつの間にか空っぽになっていた。 残ったのは泥のように汚い醜悪な感情だけ。 自己の崩壊。他者への強烈な依存。そして羨望。 その結果生じる、状況認識力の低下。 自ずと湧き上がる破滅的思考。 非力な自己に対する憎悪。 徹底的な自身への蔑み。 思考力の著しい低下。 倫理観の歪み。 常識の欠落。 進化の終焉。 自己完結。 段階滅破。 終末願望。 無気力。 疲労。 発熱。 紅。 死。 何もかもが幻のようだった。 それは、世界が終焉を迎える寸前の出来事だ。 とある世界のとある男のように――少女は、世界に絶望を求める。 そして――――"黒き太陽"が動き出す。 ▽ (このニンゲンは……ッ!?) ヴィラルは驚愕していた。 突然背後から黒尽くめの怪しい格好の少年が現れた事もそうだが、何よりもヴィラルを驚かせたのは彼の弁である。 おそらく、自分達を尾行していたであろうルルーシュという少年が持っていた情報は、ほぼ同じものがヴィラル達にも与えられていた。 確かに聞き覚えはある。が、それをルルーシュは一瞬で組み立て、幾つかの仮説としてスカーへと叩き付けているのだ。 恐ろしく頭の切れる人間。まるで、悪魔のように…… 「クククク……神の手か、それとも特別な能力者か? これは是非とも詳しい話を聞いてみたい所だな……!」 残忍な笑みを浮かべる少年は、そこまで話すとピタリ、と歩みを止めた。 そして傍らのヴィラルとシャマルを一瞥する。 「さて、ヴィラル、そしてシャマルよ。これから貴様らには俺の傘下へと入って貰う」 「なん……だと……」 「聞こえなかったか? この場を制圧するためにこの俺、ルルーシュ・ランペルージが力を貸そうと持ちかけているのだぞ」 「笑止!! 貧弱なニンゲン風情が獣人である俺を部下にしようと言うのか!? 俺が仕えるのは螺旋王ロージェノム様、お一人だけだッ!!」 「……ほう。ならば、このまま成す術なく奴に命を差し出すか? それとも捕らえられ、その女と共に拷問にでも掛けられる事が望みか?」 「ッ――!!」 ルルーシュは小さくため息を付いた。そして、未だ地面に身体を付けたままの彼を冷徹な眼で見下ろす。 その視線に含まれるのは明らかに立場が下な者に対する蔑みだった。 言葉など介せずして彼は語る。そんな事も分からないのか、と。 個人としての戦闘力は皆無に等しい彼が見せるこの自信は何なのか。 それが王としての風格なのだろうか。 しかし、確実に突然現れた少年にヴィラル達が掌握されつつあるのもまた事実。 「俺一人ならば、この場から離脱するのは造作もないのだぞ? わざわざ、恩赦を掛けてやっている事を忘れられては困るな」 「クッ……しかし一時的とはいえ、俺に螺旋王様以外の者の下へ就くなど……」 「ヴィラルさん!!」 シャマルが突如怒声交じりにヴィラルを叱り付ける。 ヴィラルは予想外の事態に大きく眼を見開いた。 「ルルーシュさん。分かりました、今だけ……私達はあなたに従います」 「シャマル!? お前何を言って……ッ!?」 「私達は…………!!」 グッ、とシャマルがバリアジャケットの胸元を握り締める。 その仕草から感じられるのは明らかな逡巡。 ヴィラルと共に歩む決意を固めた彼女だ。ルルーシュの提案に心を悩ませない訳がなかった。しかし、 「生きて……そして、二人で……優勝するんです」 「……シャマル」 それ以上、ヴィラルは何も言わなかった。 彼は一瞬で理解したのだ。彼女の、自らが大切に思う女性が何を考え、この決断を下したのかを。 『生きる』『二人で』『優勝する』 短く、そして曖昧な言葉だ。今傷の男一人に圧倒されている彼らにとっては圧倒的に現実味に欠ける言葉だ。 だがヴィラルとシャマル。二人にとっては何よりも重く、全てを懸けるに値する命題でもある。 このまま二人だけで戦い続けても戦況を覆すことは非常に難しいだろう。 こちらには未だ使用していない重機関銃とロケット砲があるが、褐色の男も何かしらの奥の手を隠しているように見える。 参加者の首をチミルフに献上するなど夢のまた夢だ。そして、 (最も避けねばならないのは生きたまま捕らえられる事。俺は螺旋王様の部下だ。おそらく利用価値があると判断される。 だがシャマルは……!!) 殺し合いに乗った、それも情報を持たない人間がどのような扱いをされるか……想像するまでもない。 ならば一時的にこの男と手を組んだ方が遥かにマシだ。自分にとって何よりも耐え難いのはシャマルを失う事なのだから。 撃墜マークよりも優先すべきは二人の生存……! 「……ニンゲンよ。勝機はあるのだろうな」 スッとヴィラルは立ち上がった。 右手には大鉈。そして全身から放たれる緑色の闘気――螺旋力。 金色の髪が黒色の空を突き刺すかのように闇の中で輝く。 傍らには同じ髪色の女性――シャマルがもはや言葉など要らないとばかりに控える。 「誰に向かって物を尋ねている。戦略が戦術に潰される……? そんな事があってたまるものか」 ルルーシュが両手を大きく広げ、残忍な笑顔を更に色濃くする。 それこそが彼の矜持。そして確固たる自己の確立による意志の強さ。絶対的な自信。 「傷の男。貴様に恨みは無い……いや、むしろ偽ゼロに関して言えば感謝したいくらいだ。だがこの場は圧し通る。王たる俺の覇道のために」 「やはり、容易くは行かないか」 「ああ、少なくとも俺がこの場に参戦した事実、これだけでもこの二人には大きなアドバンテージになる。 機動兵器を用いない人対人の戦闘に関して言えば、俺の知識は文献で参照した程度に過ぎん。 とはいえ戦闘における"視界"の重要さは十分に理解しているつもりだ。 貴様は俺の力を知っている。故に、意識せざるを得ない……チェックメイトだ」 確かにルルーシュの戦闘能力は皆無であり、運動神経との兼ね合いで言えばニア=テッペリンにすら劣ると言わざるを得ない。 だが彼が持つ特殊能力――ギアスはその効果を知る者にとっては、恐ろしい程の脅威となる。 古来より邪眼、魔眼の類に位置する魔導は非常に強力な力を秘めている。 例を挙げるとすれば、第五次聖杯戦争に「ライダー」のクラスでもって参加したギリシア神話におけるゴルゴーン三姉妹が末妹メデューサ。 彼女の石化の魔眼・キュベレイなどがその代表であろうか。 視力による状況の把握。それは戦闘において何よりも重視されるファクターだ。 まだルルーシュとの一対一であれば、スカーにも十分過ぎる程の勝利の要素は残されていた。 実際、ルルーシュが一人で彼を倒すのは、不可能に近い。 (この口振り……軍師、か。なるほど、戦いにおいて他者を動かす事に長けた『智』を持つ存在は何よりも尊い……) だが、状況は三対一の明らかなパワーゲームへと転じた。 雌雄の双剣にその武器を振るう頭が加わったのである。 ルルーシュが己の邪眼によって、スカーの行動を牽制しつつ、ヴィラルとシャマルに指示を出す……一切の隙間も無い作戦だ。 黒の皇子、ルルーシュ・ランペルージ。彼の本領は肉体労働でも戦闘でもない。 単純な理詰めの考察においても比類なき力を発揮するが、それは彼の頭脳が優秀過ぎる故の副産物に過ぎない。 ルルーシュが最も得意とするのは深謀遠慮に基づく、権謀術数。 そして部隊指揮と戦術立案である。特に彼は他の人間を動かすという点ではまさに天才的な才能を持っている。 大規模なソレに関して言えば参加者の中でも恐らく最上。 (まさかこの俺がニンゲン如きの下で剣を振るう羽目になるとは……! だが……シャマルを守るためだ、致し方ないか) 明智健悟、高嶺清麿、ギルガメッシュ、そしてルルーシュ・ランペルージ。 特に知略に秀でた彼ら四人の中でも、ルルーシュは現代的な戦術と独創性を取り入れた人員展開に関しては一日の長がある。 「クククククッ……過ぎたるは及ばざるが如し、と言った所か?」 ルルーシュとスカーの間で交わされる言葉にヴィラルとシャマルは互いの顔を見合わせた。 どうも、彼には「奥の手」のような能力が存在するらしい。 とはいえ核心を明らかにせずルルーシュが喋り続けているため、いまいち要領を得ない。 分かるのは彼の存在が天秤を一気に自分たちの側へと傾けた事だけ―― 「宣告しよう、傷の男よ。貴様は俺達に打ち倒される――その、豊かな情報が貴様を殺すのだ」 それは、いわば智の魔人であった。 人を生かすためではなく、自らをより優位な状況へと導くためにルルーシュはその頭脳を駆使する。 悪魔は嗤い、禁忌の力をその身に宿した復讐鬼へと迫る。 しかし、 「では始めようか。まず力押しなど初めから考えるな。ヴィラル、これは山狩りではなく対人戦である事を頭に叩き込め。 俺と傷の男、このラインを死守。距離もだ。そして、絶対に俺へと奴を近づけるな。 ヴィラルは左、シャマルは右。奴の戦闘スタイルの基点は右腕にある。決して万能なモノではない。十分過ぎる程、勝機は――」 ルルーシュがそこまで言い掛けた時だった。 「む……何だ? この揺れは…………ッ!?」 世界に、亀裂が走ったのは。 刑務所のある北の方角から、火山の噴火にも似た凄まじい轟音が響き渡たる。 ルルーシュ達は戦闘の事も忘れ、一斉に音のした方向を見た。 そして眼に飛び込んできたのは信じられないような光景だった。 「刑務所が……っ!?」 誰ともなしに呟く声が響く。 そう、全長数百メートルはある刑務所がまるで、大海に飲まれる船のように地面へと沈み込んでいくのだ。 唖然。驚愕。それ以外の言葉が見当たらない。 ここは陸の上である。 寄る辺なき母なる海の上などではなく、大地によって足場を支えられた地上なのだ。 何故このような事が……!? しかし、彼らはここで大きなミスをした。 予想外の事態に弱い事に関して定評のあるルルーシュだが、今回のケースに関しても同様の事が言える。 完全に不意を突かれたのだ。 冷静な時の彼であれば、一瞬でこう判断した筈なのだ。 大地の急激な沈下――それは大地震の前兆、もしくは地下にて何らかの緊急事態が発生した、と。 つまり、気にしなければならなかったのは音などではなく、自らの足元―― 「……地面が、割れっ――――?」 まるで断末魔の嘆きのようなルルーシュの情けない叫び声が響いた。 グラリ、と彼の体勢が崩れる。 バキッという何かが砕け散る音と共に、あたり一面のコンクリートにヒビが入ったのだ。 そして隆起。 ザラザラとした茶色い地肌がまるで空へと持ち上がるように顔を出した。 足腰が弱いルルーシュはあっという間に、その流れに飲み込まれる。 「何だとっ――!?」 ヴィラルもショーアップしていくかのように競り上がり弾ける地面に気を取られ、周りの事が疎かになってしまった。 つまり"彼女"への配慮が欠けてしまったのだ。 故に――気が付かなかった。 「シャマルッ!!」 「……………………!」 「あっ……!」 駆け出そうとした時には既に遅かった。 この異常に唯一心を乱されず、状況に適応して行動した者が一人だけいた。 その名はスカー。褐色の肌の破壊者。 スカーは右腕で隆起するコンクリート片を強引に破壊。 そして、動くことさえままならないシャマルへと凄まじいスピードで接近する。 シャマルも近付いてくるスカーに気付き、必死に応戦しようとするが重量のあるワルサーWA2000では射撃体勢に入る事さえ出来ない。 「きゃああああああああああああああ!!」 ヴィラルは必死に身体を動かそうとした。しかし、届かない。届く筈もなかった。 必死に何メートルも離れた場所にいる彼女へ向けて手を伸ばす。 しかし、伸ばした手は無情にも無常にも虚空を切る。 触れる事など叶わない。 時間がゆっくりと進んでいるような気がした。 繋いだ手の感触がふと蘇る。 ――暖かく、 ――柔らかく、 ――優しく、 ――そして何かが満たされていく。 本来、夜になればカプセルに入り眠りに就かなければならないヴィラルにとって、太陽の光とは何よりも尊いものであった。 そしてシャマルは、一緒に居るだけで自分の心を照らしてくれる太陽のような女性だった。 何よりも大切な気持ちがあった。 自分の全てを懸けて守ってみせると決めた相手だった。 他の誰よりも、今の自身にとって掛け替えのない存在だった。 初めて――――愛した女性だった。 「シャマルッッッッッッ!!!!!」 スカーの右腕がシャマルの腹部へと吸い込まれる。 そして――ドンッ、という何かの爆ぜる音が聞こえた。 漆黒の空に流れる一丈の光。 何もかもが崩れていく。 漆黒の夜空を彩っていた真白なる星が掻き消える。 現れたのは黒点。"巨大"という言葉で言い表すことさえおこがましく感じられるような人造の星。 黒い、太陽。 「う……あ…………」 身体が揺れる。落ちていく。沈んでいく。 割れた瓦礫がまるで天へと昇っていくような、そんな独特な光景だった。 「……キ、キサマァァァァアアアアアアアアアア!!!! シャマルを!! シャマルを――ッ!!!」 「無力である事は、戦士にとって最大の罪科だ」 スカーはヴィラルを一瞥すると、若干名残惜しい表情のまま瓦礫を避けながら身を翻した。 向かう先は刑務所のあった場所だろうか。 そうだ。奴はその方向から現れたのだから、そう考えるのが自然だ。 「待て、キサマァァッッ!! グッ――!?」 すぐさま、追いかけたかった。 シャマルのためにも、そうするのが最も勇敢なやり方だという事も分かっている。 だが、あまりにもヴィラルは無力だった。 ある程度刑務所から離れたこの場所は完全に地面が二つに乖離する現象、いわゆる地割れは起こらず地表の隆起だけに留まっている。 しかし未だ揺れは酷く、舞い散るコンクリート片が邪魔をしてスカーに追いつく事など出来る筈もない。 加えてスカーは去り際に地表を破壊する事でヴィラルの進路を遮ったのだ。 降り注ぐアスファルトと硬い石盤。 獣人とはいえ、筋力に関してはそれほど高い恩恵を得ている訳ではないヴィラルにとって、追跡は不可能だった。 「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」 咆哮。 ヴィラルは自らが気高き獣人である事に心の底から誇りを持っている。 獣人とは人を超え、獣を超えた尊き存在であり、そのどちらにも劣る訳がない、と。 愛する人を失った悲しみを、シャマルを守り切れなかった愚かな自身への怨嗟を。 そして彼女を奪っていった傷の男への言葉に出来ない憎しみを込めて―― この一瞬だけ、ヴィラルは獣へと戻った。 空に瞬くのは一面の星と黄金色の輝きを放つ真ん丸の月。 真ん中から圧し折れた街灯の硝子の破片がパラパラと舞う。 荒廃した大地のように、地面を覆っていたアスファルトは無残な様相を示していた。 未だ日の昇る気配などは微塵もなく、おぼろげな光だけが男の視界を照らす。 ――――黒き太陽が昇り、掌の太陽は空へと還る。 ▽ 「ゆたかちゃんっ!!! ゆたかちゃんっ!!! 俺の話を聞いてくれっ!!!!」 清麿は声の限りに叫ぶ。フォーグラーがその装甲から放つ圧倒的威圧感。 決して、それは気のせいではなかった。つまり、重力だ。 全神経が明確過ぎるほど、その生命の危機を察知していた。 「高嶺君」 そして、その時彼の背後から響く成人した男性の声。 「明智さんっ!?」 「…………コレは、中々由々しき事態のようですね」 「どうして……ここに!?」 「高嶺君、君はもう少し賢い人間だと思っていたのですが。そう、よく考えれば分かる事ですよ。 私は行き違いを繰り返していた君と小早川さんを呼びに来た……それだけです。ああ……しかし、」 明智が眼鏡をクッと持ち上げ、そして僅かに肩を竦めた。 清麿は、当然彼のそんな動作に違和感を覚える。 確かに明智はねねねに言わせれば「嫌味ったらしい奴」である……らしい。 だが、彼はリーダーシップに優れ、自分やゆたかなどの幼い相手に対してもその優雅な態度を崩さない優れた人間だ。 まるで自分を小馬鹿にするような、そんな口調で話し掛ける場面など初めてだ。 「どういう、事なのでしょうか。コレは」 「…………俺が、俺が……ゆたかちゃんの説得に失敗しました!」 「ほう?」 「結果、ゆたかちゃんが自暴自棄になって、フォーグラーを浮遊させようとしているんです!」 「……続けて下さい」 「大怪球フォーグラーは重力をコントロールして数tの巨体を浮遊させ行動するロボットです。 全長300m、推定重量500万t…… これだけの質量の物体を制御する事が可能な重力場と言うと……少なく見積もっても半径数百メートルは塵に還ります」 「……この刑務所など一溜まりもないでしょうね」 明智は小さく、そして何度も頷いた。 そもそも刑務所の地下に大怪球フォーグラーを安置していた以上、起動時には建造物が崩れるのは想定済みの筈である。 故に螺旋王がこの建物を建造する際に考える事は、いかに周囲に被害を及ぼす形で施設を崩壊させるか、だ。 フォーグラーが完全浮遊するためには今しばらく時間が掛かるようだが、どう考えても脱出出来る間合いではない。 (打つ手は無し……か!? いや、諦めるにはまだ早い! ゆたかちゃんが俺の話を聞いてくれる可能性も残っている筈だ!) 「ゆたかちゃん! 明智さんも来てくれたぞ! 一度俺達の話を聞いてくれっ!」 すぐさま清麿はゆたかへの呼び掛けを再開する。 大怪球フォーグラーが鼓動を始めてから、ゆたかからの反応は一切なくなっていた。 聞こえていないのか? いや、そんな事はない。外部スピーカーもマイクも、どちらも確実に機能しているはずだ。 「ゆたかちゃん! ゆたかちゃ――」 「……高嶺君。一つだけ、尋ねましょう」 「明智さんっ! こんな時に何を悠長な事を言っているんですか!?」 この状態においても明智の物腰はまるで変わらなかった。 メタルフレームの眼鏡の下に微笑を携え、額には汗一つ掻いていない。 言葉尻も丁寧な普段の彼のままで、うろたえる様子すら微塵も見せない。 「……高嶺君。君には『覚悟』がおありですか?」 「覚悟……ッ!? ゆたかちゃんを救ってみせるという意味なら勿論――」 「違います」 明智は清麿の返答を一蹴した。 そして、懐から『とある物体』を取り出し、それを清麿へと握らせる。 首輪の位置を解析し、最も効果的な判断によって状況を掌握するための道具――携帯電話。 別々に行動している際も、ずっと明智が周囲の状況を確認していたのだろう。 僅かながら暖かい体温が感じられた。 「――生き残った人間を導き、螺旋王の実験を阻止する覚悟があるのかと聞いているんです」 清麿は一瞬で明智の言葉を、行動を理解した。 そして、これから彼が何をしようとしているのかも何もかもをだ。 「あ……けち、さん……!!」 「高嶺君。君は若く、そして聡明だ。生き残らなければならない義務がある」 「でも……っ!! そんな……!!」 「衛宮君の時は見せ場をイリヤさんに取られてしまいましたからね。それに、菫川先生も命を賭してスカー氏を説得されたんです。 私にだって活躍の場があるべきだとは思いませんか?」 自分の言葉が意志とは無関係に擦れていく感覚を清麿は意識した。 明智は全くこの一刻を争う状況にそぐわない仕草で小さく笑った。 その動作はあまりにも自然で、己にこれから訪れるであろう運命を幻視しているとは到底思えない。 だが、彼は状況も、自らの役割(ロール)も全てを把握した上でこの言葉を告げている。 明智健悟は導く者。集団を統率し、その場で最良と思われる答えを導き出す。 『集団の全滅を防ぐために高嶺清麿を一人フォーグラーの眼前から退避させ、自身が小早川ゆたかを説得する』 この選択が個々人の能力に見合った最も適切な処置だ。彼はそれを確信している。 銀色の髪がさらり、と揺れた。 「私には交渉術を学んだ経験がありますからね。小早川さんを連れてすぐに追い付きます。高嶺君、菫川先生の元へ、早く」 「……俺は……俺は……」 「高嶺君ッ!」 銀色の男が更に一歩前へ、出る。 苦悶する清麿の瞳に移ったのは銀色の髪、銀色の表情、銀色の思考――そして、大きな背中。 男の足取りには一片の迷いもなく、一片の後悔もない。 彼は胸を張って自らの役割へと講じる事が出来る。 そして後を託すに十分の力を持つ仲間もいる。では、何を戸惑う事があるというのか。 そんな物、存在する訳がない。 「小早川さんの事を恨んではいけませんよ」 「明智さん……それって……」 「私は今までに数多くの殺人事件と遭遇してきました。ですが、本当に心の底から喜んで殺人を犯す人間などほぼ皆無と言っていい。 彼らの多くは心の中で泣いていました。救いを――――求めていました。 ……話は終わりました。さぁ……高嶺君、早く」 彼の言葉を断れるほど、清麿は無粋でも愚かでもなかった。 我侭を言う気持ちなど毛頭なかった。彼が、そう決めた事だ。リーダーである彼の選択だ。 それでも、 「ウォオオオオオオオオオオオッ!!!」 胸の中で燻るこのやり切れない感情を誤魔化す事は出来なかった。 清麿は表情を伏せたまま、エレベーターに向けて全力で走り出す。 唇から漏れる嘆きの叫びを抑えようともせずに。 手には明智から渡された携帯電話を強く握り締め、男が作ってくれた希望に最後の望みを託す。 ただ真っ直ぐと。男の意志を無駄にする訳にはいかないのだから。 (明智さん……あなたは……っ!! 俺に、何を……何をやれって言うんだ!! 皆を引っ張っていく……!? 確かにやってやれない事はないさ! だけど、違う! それは……それは、あなたの役割なんだ!!) 清麿の心を切り裂いていくのは単純な無力感だった。 ――もし今自分の隣にガッシュがいたならば、 ――右手に魔本があったならば、 あんな鉄屑に怯んだりする事はなかった。 真っ向から彼女の狂気を見据え、受け止め、救い出してやる事が出来た筈なのに。 (一人じゃ何も出来ないのかっ……俺は!? クソッ……!! 畜生!! 明智さん……!!) そして清麿がもう一度明智の姿をその眼に収めようと振り返ろうとした直後だった。 その、凄まじい削岩音が地下空洞に響いたのは。 「……なっ!?」 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ、という鼓膜を突き破るかのようなその音に清麿は聞き覚えがあった。 現代の日本で暮らす普通の中学生としての側面も持ち合わせる彼にとって、半ば耳馴染みのモノ。 辺り一面をアスファルトに囲まれ、年末ともなれば修繕作業に日本中の街が腐心する。 つまり――――鉄を、土を穿つドリル。 音の方向は右でも左でもなく、上。 黒に染まり、どこまで続いているのかも分からない天井だ。 そして音の暴力の氾濫に巻き込まれた世界に突如乱入して来たのは、 「明智、清麿!! 無事か!?」 紅にカラリーングされたロボット――ラガン、に乗り込んだ菫川ねねねの姿だった。 額、右腕、左腕の合計三箇所から飛び出した巨大なドリルが豪快な音を立てながら回転する。 全身から緑色の光を放ちながら、岩盤を突き破り降り立ったラガンはエレベーターの近くで呆然とする清麿の元へ一気に移動する。 「な、す……菫川先生!? な、なんですかこのロボットは……?」 「んな事気にしてる場合か! いいから早く乗れって!」 「は、はい……」 清麿は鬼気迫るねねねの表情に押され、急いでラガンのコックピットに乗り込んだ。 内部は精々二、三人程度の人間しか収納出来ないかと思える程狭い。 ゴツゴツした金属の感触。明らかに本来は一人乗りの機動ロボットなのだろう。 「菫川先生! 明智さん達はこの先です! ゆたかちゃんがフォーグラーを起動させました! 急いでください!!」 「……あのデカブツを……ゆたかが?」 「はい! もうすぐここは重力波で崩壊します。急いで明智さんを助けに行かないと……!」 清麿は必死に訴える。 どういう原理で動いているかは分からないが、あの厚いコンクリートと岩盤をぶち抜いて地下まで降り立ったロボットだ。 コンソールの中央に見える螺旋形のメーターのど真ん中に何故かゆたかが持っていた筈のコアドリルが刺さっている。 もしや……このロボットの原動力は? 「おい、待て。明智はもしかして『ここは私に任せて先に行ってください』とか言ったんじゃないよな?」 「え……は、はい。何故それを……」 「………………やっぱりか。じゃあ、私達は逃げるぞ」 清麿は自分の耳を疑った。 彼の言葉を聞き、ねねねが一瞬その眼鏡の下の表情を曇らせた……ここまではいい。 しかし彼女はすぐさま凄まじい言葉を残し、ラガンのドリルを再度回転させ始めたのだ。 『逃げるぞ』と。 「な……ど、どうしてですっ!? 今から行けば間に合うかも――」 「馬鹿かお前は! 頭いいんだから少しは考えろ! 明智が勝算もないのに、んな事言う訳無いだろ!?」 「違います! 状況は切迫している……明智さんは死ぬ気で俺を……」 「だったら尚更だ! もうここは長くは持たない。今からアイツの所に行ったら、お前を逃がした明智の意志はどうなる!?」 「あ……」 ねねねはソレっきり唇を真一文字に結んで黙ってしまった。 清麿も彼女にどんな台詞を掛ければいいのか分からない。 二人とも理解しているから辛いのだ。明智の行動の理由は明らかに自分達を生かすためなのだから。 「……いいか、清麿。自分を信じるな。明智を信じろ。お前を信じる、明智を信じろ……分かったか」 「クソッ……クソッ……クソォオオオオオオオオオオ!!」 清麿の叫び声が空気を伝わり、世界を揺らす。 握り締めた拳が何度も何度も、ラガンを殴りつけた。赤い血が噴出し、皮膚が裂ける。 清麿はそれでも拳を打ち付けるのを止めない。止められる訳がない。 「……行くぞ。掴まってろ。アイツは……絶対に帰って来る。ゆたかを連れて帰って来る」 「……はい」 ラガンが再度全身から緑色の光を放ち、空へと昇って行く。 崩れかかった黒の天球を突き破りながら。 時系列順に読む Back てのひらのたいよう(中編) Next 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 投下順に読む Back てのひらのたいよう(中編) Next 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 249 てのひらのたいよう(中編) 明智健悟 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 249 てのひらのたいよう(中編) スカー(傷の男) 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 245 てのひらのたいよう(中編) 菫川ねねね 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 249 てのひらのたいよう(中編) 高嶺清麿 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 249 てのひらのたいよう(中編) 小早川ゆたか 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 249 てのひらのたいよう(中編) ヴィラル 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 249 てのひらのたいよう(中編) シャマル 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 249 てのひらのたいよう(中編) ルルーシュ・ランペルージ 249 明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕
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タグ一覧 DVDPG ロリ 作品データ タイトル てのひらを、たいように (DVDPG) 発売日 2004/08/13 名義 非公開 キャラクター名 成瀬凛 (なるせ りん) 制作元 アイチェリー
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アニメ:紅 kurenai(くれない) ED2 歌手名:新谷良子(しんたにりょうこ) 曲名:手のひらの太陽(てのひらのたいよう) 曲はこちらから