約 1,619,762 件
https://w.atwiki.jp/kyogokurowa/pages/197.html
会場中心部・大いなる父の遺跡。 そこでは、9人の参加者の思惑と信念が、交錯している。 偽りの仮面を装いし時かける旅人、闘争と宿願を追い求める業魔、『想い』を繋がんとする自動書記人形、武偵としての使命を全うせんとする少女、『愛』を取り戻さんとする闇医者、絶望に陥った天才奏者、全ての人間を愛する情報屋、全ての者に災厄をまき散らす魔女、激情露わにする鬼の首魁。 そんな彼らが繰り広げる闘争劇は、終止符に向かい加速する。 さぁ、みんな一緒に―――。 ◇ 「ははっ、やるじゃねえかっ、アンタ!!」 「いい加減鬱陶しいぞ、貴様!!」 遺跡に面する山林地帯。 二つの人ならざる影が衝突を果たすその場所は、暴風吹き荒れる戦場。 鬼舞辻無惨が、怒声と共に無数の触手を振るうと、風が轟く。 ロクロウ・ランゲツが、斬撃と術技を放つと、その余波で木々が倒壊する。 常人では目で追うことなど決して叶わぬ、そんな豪速の攻防が繰り広げられている。 轟ッ!! と、無惨の背中から放たれた幾多の触手が森林を穿ちつつ、音速の勢いでロクロウの眼前に迫った。 ロクロウは、迫るそれらを視認するや否や、身体を捻り回避を試みるも――。 グチャッ!! 完璧に回避すること叶わず、肩の一部、腕の一部が肉片となって、血飛沫とともに宙を舞った。 しかし、当のロクロウはというと、苦悶の声一つあげることなく、むしろ口角を上げつつ、印を切る。 「――六の型ッ!!」 「っ……!?」 ――六の型・黒霧。 刹那、黒の波動が生み出され、無惨はその引力にその引力に引き寄せられるかのようにして、その身を大きく仰け反らせた。 踏ん張りを効かせ、体勢を整えようとする無惨。 しかし、そこで生じた隙を逃すほど、夜叉の業魔は甘くはない。 「――八岐大蛇!!」 瞬時に懐へと潜り込んだロクロウは、左右の手に握られた双剣を同時に振るう。 神速の八連斬り――。その一つ一つが必殺にして必滅の一閃である。 無惨は咄嗟に躱さんとするも、黒の波動に囚われて思うように動くことが出来ず、斬撃の嵐を浴びる。 「狂犬めが……!!」 触手、片腕を斬り落とされ、腹部及び胸部に深い傷が生じる。 しかし、それも束の間。瞬く間に欠損部分と傷口は再生し、何事もなかったかのように元通りとなる。 「ははははっ、まるで蜥蜴の尻尾だな」 「貴様!!」 ロクロウの軽口が気に障ったのか、無惨は額に青筋を浮かばせるも、激情に流されることはなく、どうにか堪える。 そして自らの足下に触手を放つと、その反動を利用して後方へ跳び、黒霧の拘束から逃れる。 「――瞬撃必倒!」 だが、そう易々とこの戦闘狂から、逃れるはずもなく。 ロクロウは間髪入れず、追撃をかけるべく肉薄――。 無惨も即座に触腕触手を振るい、迫るロクロウを貫かんとする。 「この距離なら―――」 肉を切らせて骨を絶つとは、まさにこの事か。 触手が掠めて、肉が抉られようとも構わず、ロクロウは更に踏み込み、掬い上げるようにして、無惨の胴元目がけて刃を振るう。 「外しはせん―――」 「……っ!」 瞬間、斬撃を浴びて無惨の身体は宙高く浮遊した。 しかし、それだけではない。 直後、ロクロウは天高く刃を突き上げ、渾身の一撃を放つ。 「――零の型・破空!!」 天を穿つほどの衝撃を伴う一突き。 その一撃は斬り上げられた無惨の身体を確実に捉え、更に上空へと打ち上げた。 「ぐぅ……!!」 顔を顰める無惨は、バリバリと、樹々の枝葉を掻き分けながら、天高く舞い上がっていく。 彼が苦い声を漏らすのは、ロクロウの奥義が齎したダメージが原因ではない。 無惨は恐れているのだ。樹海の外側――その突き抜けた先で待ちかまえる存在を。 (このままでは、太陽に……!) やがて、地上から数十メートル程の高さまで打ち上げところで、無惨の身体は完全に晴天の下に晒された。 再三たる検証で、この地では陽光を浴びても死滅することは確認できている。 しかし、先のレポートの件といい、まだ確信は得ていなかった。 だからこそ、無惨は積極的に陽の元に、その身を晒すことは極力避けていたのだが……。 「お、おのれぇ……!!」 その実、晴天の元で日光を浴びた途端、細胞が燃え尽きるようにして、無惨は凄まじい苦痛に見舞われた。 思わず顔を歪める無惨。 だが―――。 (……!?) 不幸中の幸い。そこで彼が塵芥になることはなかった。 高坂麗奈との距離が遠くなり、彼女が無意識に発現させる効果は弱まったものの、完全に圏外となったわけではなかったのである。 そして打ち上げから一転―――重力に従い、落下。陽光を遮る木陰に差し掛かると、陽光による苦痛も徐々に消失していく。 「まだだっ! まだまだ楽しもうぜ!」 しかし、無惨に安息の時は訪れることはない。 眼下で待ち構える夜叉は、落下する無惨目掛けて跳躍。 双剣を煌めかせ、風の如く迫る。 「良い気になるなよ、下郎っ……!!」 無惨は怒号と共に無数の触手を射出。 対するロクロウもまた瞬速の剣技を以って、迎え撃つ。 肉を貫かれながらも、夜叉の業魔は笑みを零して。 全身を斬られながらも、鬼の始祖は憤怒を露わにして。 斬撃音と破壊音による合奏が、激しく木霊する。 「なあ、マギルゥ殺ったのは、お前か?」 剣と触手が交錯する中、ロクロウはふと思い出したかのように、剣技に重ねて問い掛ける。 張りつけた笑みを崩さず。まるで世間話でもするかのような口調で。 「――何をほざいているっ!?」 「病院で俺の仲間が死んでいたんだ。魔女を自称する胡散臭い女だったんだが―――」 「下らんッ!! 貴様も異常者の類か!!」 一喝。ロクロウの問いかけは一方的に打ち切られた。 問答の余地なく、彼の視界のあらゆる方向から畳みかけるように触手が振るわれる。 「貴様らはいつもそうだ―――やれ仇だの、やれ復讐だの、うんざりさせられる!!」 マギルゥを殺したのは、紛れもなく無惨である。 無惨としても、病院で目に留まった参加者を何人か始末した記憶はあるが、その中にロクロウが語る人物かいたかは分からない。 実際にマギルゥという女がどんな人物だったなどは知らないし、興味もない。 彼にとっては、道を歩くときに蟻を踏み潰し、その感触すら覚えていないのに等しいのである。 そして苛立つ。鬼殺隊のように、そんな取るにも足らない些事で、一々絡んでくる連中が―――。 「何故、踏み潰した虫けら共のことなど、一々記憶に止める必要がある?」 猛り、唸り、轟く――怒涛の勢いで差し迫る必殺の触手。 ロクロウは咄嵯に斬撃で捌きつつ、身を翻して回避を試みる―――。 「ッ……!?」 が、ここで彼の身体に異変が生じる。 突如として全身に鉛のような負荷が圧し掛かり、彼の動きを鈍らせた。 ゴボリと赤黒い血を吐きつつ、ロクロウは悟る。 「チィッ……! 毒の類か……」 舌打ちと同時に、触手の回避にも失敗。右肩。右上腕。右胸。左肩。左脇腹。 計五箇所もの部位が、無惨の触手によって、その肉を飛び散らかした。 ロクロウは、尚も双剣を振るい、触手を斬り落としつつ後退。 一旦無惨から距離を置こうとするも、尚も無惨は追撃する。 「私に殺されることは、大災に遭ったのと同じだと思え……!!」 空気を裂く轟音が鳴り響き、無惨の触手が縦横無尽に振るわれていく。 ロクロウは身を捻って、時には双剣を盾にしながら、どうにか致命傷を避けようとするも、その全てを防ぎ切ることは不可能であり、その度に肉片と鮮血が宙を舞った。 「残された貴様らは、大災に遭わなかった幸運を噛み締めながら、日々を過ごせば良い!!いちいち私に楯突いて何になる!?」 無惨の触手が、執拗にロクロウの身体を穿ち続ける。 防戦一方へと転じるロクロウだが、その表情は尚も闘志に満ち溢れており――。 「――感謝するぜ」 「……何っ…?」 訝しむ無惨に対し、ロクロウはニタリと口角を上げると、双剣を構えて突貫。 満身創痍の状態にも関わらず、無惨に一気に肉薄すると、 「――嵐月流・白鷺!!」 無数の斬撃が、無惨の身体に襲い掛かる。 無惨が放つ攻撃の合間を縫うようにして放たれた神速のそれらは、まさに武芸の極地。 無惨が触手を振り下ろすより先に、その身体に深い傷を刻みつける。 「……!!」 傷は直ぐに再生する。しかし、尚も牙を剥くロクロウに対し、無惨は不快感を顕にする。 そんな無惨に対し、ロクロウは刃を向けて、宣告する。 「今の話を聞いて、ますますアンタのことを斬りたくなったぜ!!」 マギルゥ殺害について、無惨は否定も肯定もしていない。しかし、その口振りから察するに、彼は間違いなく他の参加者に害をなしてきたのだろう。もしかすると、そこにマギルゥも含まれていたのかもしれない。 排除するには十分な理由が、そこにはあった。 「戯言を……!!」 怒りに任せた触手の猛攻が、尚も続き、ロクロウもまた満身創痍の中、一歩も引かずに双剣を振るう。 笑う業魔と怒れる鬼――。 人を超越した両雄の死合いは、未だ終わりの兆しを見せず、苛烈を極める――― ドゴォン!! のであったのだが、突如として、二人が対峙する真横の岩壁が崩れ落ちる。 その衝撃は凄まじく、土煙を巻き起こし、辺り一面を覆い尽くす。 「……!?」 「なんだぁ!?」 飛来する破片と土埃に、両雄とも戦いの手を止めて、崩落した岩壁へと意識を向ける。 土煙が晴れていき、最初に目に飛び込んできたのは、大剣を掲げる鋼鉄の巨人―――。 そして――。 「―――オシュトルかっ!?」 「ロクロウっ!? それに月彦殿も……!?」 ロクロウと無惨、二人にとっての共通の知り合いでもある仮面の漢が姿を現したのであった。 ◇ まるで飢えた獣のように、激しく殺し合うロクロウと無惨。 尋常ではない殺意と憎悪の応酬を、遠目に眺める麗奈は、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 ―――どうして、こんな事に……。 半日ほど前は、全国大会に向けての練習に励んでいたはずなのに……。 それが今では、バイオレンス映画も真っ青な、怪物同士の死闘を目の当たりにしている。おまけに自分もその怪物達の仲間入りをしているという訳だ。 この数時間で体験した非日常の連続は、凛とした麗奈の心をぐちゃぐちゃに打ちのめしていた。 そして、この状況下で自分がどのように動くべきか分からない。 逃げ出すべきかと、後退りするも――。 『私を裏切るな』 「……っ!!」 無惨の言葉が、呪いのように頭の中で反芻し、踏み止まる。 ――早く逃げないと! 自分自身にそう言い聞かせるも、彼女は動くことは出来ない。 身体は震え、心臓は早鐘を打ち、無惨に背を向けて走り出すことができない。 無惨によって刻まれた痛みと恐怖は、そう簡単に拭えるものではなく――。 結果として、絶対的恐怖の象徴たる彼の背中を、ただ怯えながら眺めることしかできなかったのである。 「――なあ、おい」 「……えっ?……」 だからこそ――。 「暇してるんだったらさぁ、私と踊ろうぜぇ♪」 無惨に気を取られていたが故に、迫り来る“彼女”の存在を失念していた。 背後からの呼びかけに振り返るや否や、爪を立てた貫手が麗奈の顔面に突き刺さる。 ぐじゃり 「い”ぎゃああああああぁぁッ!?」 肉が裂け、血飛沫が上がり、脳髄が砕ける音が響くと、絶叫とともに麗奈は後退。 貫かれた顔面を庇いながら、その痛みに悶絶。 普通に考えれば絶命必死の致命傷であるが、穿たれた部位は再生を開始する。 「キャハハハハハハハハハッ、凄いな!! 本当に本当に、面白いくらいに、直ぐに再生するんだ!!」 「……ま、りえさん……」 激痛に呻く麗奈。 その視界に飛び込んできたのは、先程まで無惨に痛めつけられていた魔女の姿。 傷付いた身体は既に再生を果たして、口元には愉悦を浮かべている。 「アンタらには、散々煮え湯を飲まされてきたからな。 しっかりお礼はさせてもらうから―――よっ!」 掛け声とともに、投擲された手榴弾。 麗奈は、咄嗟に避けようとするも、間に合わず―――。 ドゴォン! 炸裂音と共に、彼女の華奢な身体は爆炎によって吹き飛ばされ、勢いそのまま背後の大樹に叩きつけられる。 「あっ、うぅ……」 全身をズタズタに引き裂かれ、ブスブスと燻る黒煙を上げながら、弱々しく声を上げる麗奈。 いくら不死の肉体とはいえ、ウィキッドによる爆撃による痛みは、先日までただの女子高生だった彼女にとって耐え難いものであった。 それに加え、肉体的な痛みとはまた別の苦痛が生じており、その正体不明の痛みにも悶える。 「おいおい、何へたれちゃってんのさ? こいつは、お前らから仕掛けてきた喧嘩だろう? 少しは抵抗してくれないと、歯応えないじゃん!!」 「ち、違う…ねえ、聞いて! 私は―――」 「違わねえよ、化け物!!」 「……っ!?」 弁明しようとするも、即座に否定され、再び手榴弾が放り投げられる。 慌てて立ち上がり回避するも、爆風に煽られ転倒。 即座に立ちあがろうとする麗奈の顔目掛けて、ウィキッドはサッカーボールキックをお見舞いする。 「ぶっ、ごぇっ……!」 鼻が潰れ、顔面そのものが陥没するほどの一撃を受け、苦悶の声を上げて転げ回る。 だが、絶命に至ることはなく、頭部の損傷は瞬く間に修復し、元通りになる。 「キャハハハハハハッ!! ねぇねぇ、高坂さん、痛いですかぁ? 苦しいですかぁ―――」 バキッ、ベキッ、ボギッ、グチャッ! 狂喜に満ちた笑い声をあげながら、ウィキッドは執拗に麗奈を痛めつける。 「い”だぁ! や”めっ! ぎやぁ! いだぃいいいっ!!」 「もっともっと出来るだけ痛くしてあげるから、安心してくださいねぇ♪」 踏みつけ、蹴り上げ、殴り潰す。 何度も、何度でも、飽きることなく繰り返される暴力の嵐。 「も…も"うやめ―――」 「残念、止めませーん♪」 ザシュッ、ボギッ、ズチャッ! 耳を削ぎ、指を折り、腕を引き千切り、腹を割いて内臓を取り出して遊ぶ。 死ねない身体故に、延々と続く拷問のような責め苦。まさに生き地獄。 舞い上がる血飛沫に、繰り返される慟哭―――そんな凄惨な演出を背景に、魔女は愉しげに嗤い踊り続ける。 そんな折――。 「――の型・破空!!」 「……あん?……」 麗奈の弱弱しい悲鳴をかき消す一際甲高い声が遠方より聴こえ、ウィキッドは怪訝な表情を浮かべてそちらを向く。 そこで目にしたのは、先の侍風の乱入者によって、天を貫く勢いで打ち上げられていく無惨の姿。 「プッハハハハハハハッ!! すげえな、あのコスプレ侍!! 月彦の奴、ゴルフボールみてえに吹っ飛んでんじゃん!! ざまあねえな!!」 空高く打ち上げられた無惨と、それを猛追し森の奥へと消えていくロクロウの後ろ姿を見送りながら、ウィキッドは腹を抱えて大爆笑。 ウィキッドは、ロクロウのことはよく知らない。 いきなり乱入してきては、自分のことを「弱い者」呼ばわりしてきて第一印象は最悪だったが、そこから勝手に無惨とドンパチやり始めたので、一旦無惨の方は彼に預けておくことにしていた。 無惨が彼の相手をしている間に、レポート曰く無惨の再生能力の向上に一役買っているという、麗奈を嬲り殺した上で、再生能力が低下した無惨を確実に仕留める算段であったのだが―――。 まさかあの乱入者が、これほどまでに健闘するとは思いもしなかった。 滑稽に空を舞う無惨を見て、胸がスカッとしたので、それを演出してくれたロクロウには、ご褒美として缶コーヒーでも奢ってやりたい気分になった。 「―――っと、いけない。私もウカウカしてらんねえな」 ロクロウが無惨を追い詰めているのは嬉しい誤算ではあるが、無惨(あの糞)に対するトドメを譲るつもりは毛頭無い。 奴が絶望し、必死に命乞いをするところを拝んだうえで、確実にこの手で息の根を止めねば、気は収まらない。 「ということで、そろそろ死んでくださいね、高坂さん♪」 散々痛めつけられ、壊れた玩具のように地面を這いずり回る麗奈の胸倉を掴んで持ち上げると、ウィキッドはその首元に爪を突き立てんとする。 レポートから察するに、運営は無惨のような再生能力に長けた参加者の存在を認知している。 であれば、例えどれほどの頑丈さを誇る肉体であっても、例えどれほどの再生力を有していようとも、殺し合いへの強制を成り立たせるため、首輪による爆殺は絶対であるはず――。 そう確信しながら、ウィキッドは麗奈の首輪に勢いよく爪を喰い込ませようとした――が、 「―――ざけるなぁっ……!!」 グサリ 「――は?」 ウィキッドの爪が麗奈の首元を貫く前に、カウンター気味に麗奈の貫手が交錯。 血管を浮き出しながら突き立てられたそれは、ウィキッドの左眼窩に突き刺さった。 「~~~~~~っ!!? 痛ってーな、てめ―――」 「うるさい!! 痛いのはこっちだよ、イカレ女!!」 予想だにしなかった反撃と激痛に仰け反るウィキッドの腕を振り払い、麗奈は彼女から距離を取る。 抉られた左眼を庇いながら、麗奈を睨みつけるウィキッド。 彼女もまた、人外の領域に足を踏み入れた者。 損壊した顔面はすぐに再生して、元の整ったものへと回帰する。 「こっちが手を出さないことを良いことに好き放題やって……いい加減にしろよ!! 私はあんたの玩具じゃない!!」 麗奈は激情に任せて喚き散らかすと、ウィキッドに向けて突進。 怒りのままに拳を振るい、殴りかかる。 ドゴっ!! オーバーハンド気味に放たれた拳は、ウィキッドの顔面を真正面から捉えて、魔女はその衝撃により、鼻が潰れて、仰け反る。 「あんたには、悪いことしたと思っているし、あんたが怒るのも無理はないと思う。 だけど、これ以上は付き合ってられないの!!」 麗奈は叫び、更にウィキッドの顔面を殴りつけると、バギっという魔女の顔面が壊れる音が鳴り響く。 ウィキッドの言う通り、事の発端は、麗奈が、己の内に蠢く鬼としての食人本能に抗えなかったことにある。 結果として、彼女を傷つけてしまったし、彼女はそこから無惨によって悲惨な仕打ちを受けた。 無惨が彼女を嬲っているときも、止めることも出来ず、ただ傍観していたことにも罪悪感を抱かざるを得なかった。 しかし―――。 だからといって、このまま彼女に弄ばれてやるわけにはいかない。 自分が培ってきた想いと葛藤を知る由のない赤の他人に、殺されてなるものか。 「あんたが私の存在を抹消したいっていうなら、私だって容赦はしない!! 私は……私という存在を護るために、全力であんたを潰すから!!」 後退するウィキッドの身体に風穴を空けんとばかりに、貫手の連打を浴びせかけ、麗奈は叫ぶ。 それは、彼女この会場にきてから初めて示した、彼女の意思による、他者への明確な害意。 鬼としての本能からではなく、高坂麗奈の理性が、自己防衛のために選んだ行動だった。 「ぐっ、うっ……!……調子に乗るなよ……クソ女が!!」 麗奈の猛攻を捌きながらウィキッドは、苛立ちを露わにして、反撃。 右肩を穿たれつつも貫手を放ち、麗奈の左胸を貫く。 「ゴホッーーー」 口から盛大に血を零す麗奈。 しかし、ギリっと奥歯を噛み締め、ウィキッドを睨みつけると、その頬を渾身の右フックでぶん殴る。 「っ!」 顔面の骨が砕かれる感覚とともにウィキッドは、よろめきながらも踏み止まる。 そして、即座にお返しと言わんばかりの強烈なアッパーカットで、麗奈の顎を打ち抜く。 「あっ……うぅ……」 脳が揺れ、星が飛び散る感覚を覚えながら、麗奈はグラつくも倒れずに踏み止まる。 アメジスト色の瞳から、闘志が消えることはなく、一歩踏み出すと、ウィキッドのボサボサの髪を掴む。 そして、ブチリと音を立てて、頭部の肉と共に引き千切る。 「――っ!! 絶対に殺す……!!」 血塗れの顔で、激昂するウィキッド。 特大の手榴弾をその手に顕現させるや否や、自分が巻きまれるリスクなど考慮せず、それを麗奈に向かって放り投げ、直後―――。 一際大きい閃光と爆炎が山林地帯を揺らした。 ◇ 大いなる父の遺跡、倉庫内。 ここでも、豪風と破壊音が、絶えず轟いていた。 猛威を振るうは、鋼鉄の巨人アヴ・カムゥ。 かつては、トゥスクルとの大戦を起こしたシャクコポル族の國『クンネカムン』の主戦力。 全高5mほどの細身の身体に巨大な甲冑を纏った機動兵器であり、単機で一軍に匹敵するといわれるほどの殲滅力を誇る代物である。 「止まりなさい、岸谷新羅っ!!」 「それは出来ない相談だね、アリアちゃん」 その巨人を操舵する新羅は、諫めるアリアの声に耳を貸すことなく、倉庫内にいる参加者を追いかけ回し、その命を摘まんとする。 横に薙ぎ払われた大剣の一撃を避けたのは、折原臨也。 新羅の数少ない友人の一人であるが、そんな彼に対しても凶刃は容赦無く、振るわれる。 臨也は、池袋の非日常で培われたパルクールの技術を以って、巨人の攻撃を軽やかな身のこなしで回避していく。 臨也が新羅の攻撃を躱すたびに、倉庫内の空気が震え、埃や塵などが舞い上がる。 また剣を振り下ろせば、地面に亀裂が生じて、その破片が飛び散る。 「……。」 いつもの臨也であれば、こんな状況であっても、 さも、自分は余裕だ―――。 ここは自分が支配している盤面―――。 故に、盤面で起きる全ての出来事は計算の内であり、全て自分の思い通りになる――。 そう言わんばかりの、不敵な笑みを浮かべ、やり過ごしているはずなのだが……今回ばかりは少し様子が違った。 ただ無表情に――。 ただ無感情に――。 ただひたすらに――。 どことなく冷めた様子で、己の命を狩らんとする鋼鉄の巨人の攻撃を躱し続ける。 巨兵は、尚も臨也を追い掛けるが―――。 パァンッ!!!という乾いた音と共に、アリアの銃撃が、機体の剥き出しの左脚関節部を貫く。 ―――瞬間動きが止まる、鋼鉄の機動兵器。 生じた隙に、左右からオシュトルとヴァイオレットがほぼ同時に飛び掛かり、それぞれの得物を以って、右上腕関節部、左上腕関節部に斬撃を叩き込む。 「……っ!!」 アヴ・カムゥの筐体内、新羅は自分の身体を襲う灼熱の痛みに顔を顰める。 この機体が如何に一騎当千の戦闘力を有していたとしても、弱点は存在する。 装甲部分は、斬撃はおろか弾丸ですら弾く硬度を誇ってはいるが、関節部は別である。 機動性を重視された設計故、該当部分は剥き出しとなっており、装甲が施されていない。 故に、関節部を狙えば、機体に損傷を与える事は可能――。オシュトル達は、先の一連のやり取りの中で、それを察知し、実践しているのである。 そして、アヴ・カムゥはその設計上、機体のダメージがそのまま痛覚となって搭乗者に伝わる仕様となっている。 故に、アリアの銃撃も、オシュトルとヴァイオレットの斬撃も、そのまま操縦者たる新羅に伝搬されていた。常人であれば、その痛みに悶え、のたうち回るところではあるのだが―――。 ブンッ―――!!! 「なっ!?」 「ちぃっ!!」 --“この程度の痛み”では、”彼”の“愛”は止められない。 身体を巡る激痛も何のその、”彼女”への絶対的な執着(あい)が、新羅を駆り立てる。 痛覚による静止は瞬間的なものとなり、鋼鉄の巨兵は、両腕を振るい、ヴァイオレットを吹き飛ばす。 ヴァイオレットは、その衝撃に表情を歪めるも、空中で身を捻り、着地すると同時に地を蹴り、再びアヴ・カムゥの元へと駆ける。 だが、当のアヴ・カムゥはというと、ヴァイオレットには目をくれず、振り回した勢いのまま、横薙ぎに大剣を一閃。今度はオシュトルを両断せんと試みる。 「――ぐおっ……!?」 オシュトルは、金色の鉄扇で大剣を受け止める。 だが、勢い殺すこと叶わず、弾き飛ばされ、後方の壁に思いっきり叩き付けられてしまう。 全身の骨が砕かれるような間隔を覚えつつも、よろよろと立ち上がるオシュトル。 だが、呼吸を整える間もなく、アヴ・カムゥは、大剣を突き立て、巨体にあるまじき凄まじいスピードで突進してくる。 「……っ」 「オシュトルっ!!」 アヴ・カムゥの背後より、アリアは銃撃を、臨也はナイフを投擲し、露出した肩関節及び膝関節に攻撃を加える。 しかし、それでもアヴ・カムゥの動きを止めるには至らない、その進撃は止まらない。 「――行かせませんっ!!」 ヴァイオレットが躍動し、アヴ・カムゥの進路上に割り込む。 超人的な身体能力を以って、巨人の腕を伝い、頭部まで一気に駆け上がっては、その後頭部--操縦席つまりは新羅がいるであろうコックピット部分を外側から斧で打ちつける。 破壊が困難であれば、パイロットを引き摺り出す算段だ。 ――が、アヴ・カムゥは即座に対応。 頭部を左右に激しく振って、ヴァイオレットを振り落とす。 「……くぅっ……!」 落下するヴァイオレットを他所に、巨人は再び剣を突き立て、進撃を再開。 その視線の先には、痛む身体を引き摺り移動せんとするオシュトルの姿がある。 (いやいやいや、待て待て待て待て待てぃっ……!!) 迫り来る巨大な質量が達する直前、オシュトルはどうにか真横へ跳ぶことで回避に成功--。 大剣を突き立て、猛スピードで突進してきたアヴ・カムゥは、そのまま倉庫の壁に激突。 その壁をぶち抜き、倉庫内に外気が入り込んでくる。 壁の向こう側より現れる景色は、遺跡の外側―――木陰に覆われ、陰鬱な情景を醸し出す山林地帯であった。 壁の向こう側より目に飛び込んでくるのは、遺跡の外側―――木陰に覆われ、陰鬱な情景を醸し出す山林地帯。 どうやら、この倉庫はこの施設の中でも、もっとも外側に面した場所に位置していたようだ。 そして、土煙が晴れた先。 倉庫内の一同は、対峙する二つの人影を認めることになる。 「―――オシュトルかっ!?」 「ロクロウっ!? それに月彦殿も……!?」 そこに居たのは、オシュトルにとって見知った顔――。 研究所で別れたロクロウと、先程別行動を取ったばかりの月彦の姿であった。 「これは……どういう―――なっ!?」 偶然の再会に面喰らうのも束の間―――あることに気付き、更に目を見開くオシュトル。 ―――それは、あまりにも異様な光景だった。 ロクロウの身体は傷だらけで、血塗れの状態。 そんな満身創痍の状態で、その刃を月彦に突き立てている。 月彦は、そんなロクロウに対して、身体の至る所から禍々しい触手を生やして、その先端を向けていた。 その姿はまさに異形―――。 少女たちを気遣っていた紳士の姿はどこにもなく、その眼差しは、刃のように鋭く、殺気に溢れていた。 (なぜ二人が戦っている……? それに月彦のあの姿は―――) オシュトルは、混乱する頭で状況を整理しようと努めるのだが―――。 ドドドドドドドンッ――。 地響きを立てながら、瓦礫を踏み潰しつつ、駆け抜ける巨兵によって、思考は中断を余儀なくされる。 「―――駄目っ!! 逃げて!!」 オシュトルが警告を発しようと口を開くその前に、アリアが声を上げる。 刹那――アヴ・カムゥは、ロクロウと無惨の二人に向けて、大剣を振るう。 誰が相手であろうと関係ない。新羅にとっては、目に映る者は全て、彼女への愛を妨げる障害に過ぎないのだから――。 「「――っ!?」」 アリアの声に反応したのか、それとも自身の自己防衛本能が働いたのか――。 ロクロウと無惨は咄嵯にその場から飛び退く。 次の瞬間――アヴ・カムゥの大剣が、先ほどまで彼らがいた場所に振り下ろされ、轟音と共に大地が割れた。 「……おいおいおい、いきなりご挨拶じゃねえか、デカいの!!」 ロクロウは、お返しとばかりに、双刀でアヴ・カムゥに斬りかかる。 しかし、アヴ・カムゥの装甲の前には、刃が通らず、キンッという甲高い金属音が響き、顔を顰める。 「奴の鎧は、斬撃では貫けんっ。 装甲に覆われていない関節部を狙えっ!!」 オシュトルがそう叫ぶと、ロクロウが「成程な」と呼応。 アヴ・カムゥの足元に潜り込み、脚関節部分に斬撃を叩き込む。 ザシュリ!と今度は手応えあり。当然その痛みは、コックピット内の新羅の身体にも伝搬される。 しかし、それでも巨人の動きが止まることはない。 ダメージをものともせず、大剣を振るう。 「ちぃっ!!」 舌打ちしつつも、尚も果敢に斬撃を繰り出すロクロウ。 装甲の薄い関節部分には確実に刃は通るのだが、巨躯故の質量もあって、致命打を与えるには至っていない。 アヴ・カムゥは、ロクロウに向かい乱雑に剣を薙ぎ払うが、その悉くをロクロウは避け続ける。 「……。」 一方で、月彦はというと、未だその場を動かず。 激しく斬り合うロクロウとアヴ・カムゥの様子を、疎ましそうな表情で眺めているだけであった。 「――月彦様っ!!」 「……。」 そんな月彦に対して、オシュトル、アリア、ヴァイオレット、臨也の四人は駆け寄るが、反応はなし。 一同を代表するように、オシュトルは更に一歩前へ出て、月彦に問いただす。 「貴殿に尋ねる。ロクロウと何があった? その背中に生えているそれは何なのだ……。 それに、麗奈殿と茉莉絵殿は何処にいる!?」 「―――お嬢様……」 オシュトルの言葉に、ヴァイオレットは、ピクリと反応。 彼女からしてみると、月彦は麗奈を伴って、学校へ向かったはず――。 それが、何故ここにいるのか、同行していた麗奈は今何処にいるのか、疑問が湧き出る。 しかし、月彦は、依然として沈黙を貫き、オシュトルの方を見向きもしない。 「答えてくれ、月彦ど―――」 「黙れ」 瞬間、突風が吹き荒れたかと思うと――。 月彦はオシュトルの頭部目掛けて触手を振るった。 「っ!?」 「オシュトルっ!?」 無惨からすると、埃を払った程度で振るったものではあるが、オシュトルにとってその衝撃は絶大――咄嗟に鉄扇で防ぐも、先のアヴ・カムゥの一撃に引けを取らぬ威力を殺すこと叶わず、後方に弾き飛ばされ、地面を転がる。 「……お前達もそうだ……。 此の地で出会う人間は、悉く私を苛立たせてくれる――」 地を這べるオシュトルを睨みつけ、青筋を浮かべる無惨。 その背中から生えた複数の触手は、禍々しくうごめいている。 「……下等な存在である貴様ら『人間』如きが、私に詰問するなど、身の程知らずも甚だしいぞ」 (ぐっ……何て殺気だ。これが、この男の本性か……) 凄まじいプレッシャーを放つ無惨に対し、オシュトルは息を飲み、アリアとヴァイオレットもまた、その尋常じゃない威圧感に気圧される。 一切の発言すらも許されそうにない、そんな緊張感が場を支配する中――。 「――いやぁ残念だよ、月彦さん。あんたとは、仲良くできると思ったんだけどさぁ。」 臨也は、いつも通り軽薄な口調で語りかけていた。 月彦が纏う剣呑な雰囲気など歯牙にかけず、ヘラヘラとした態度で接する。 「まさか『化け物』の類だったとはねぇ…。 まぁいいや…茉莉絵ちゃん達はどうしたんだい?」 「……。」 臨也からの問いかけに、無惨が返答することはない。 ただギロリと虫ケラを見るような視線を向ける。 やたらと馴れ馴れしく喋りかけてくる、目の前の男--初対面の頃から、何かと癪に触る。 触手を軽く振るえば、その頭部は、果実のように簡単に弾けることになるだろう。 その減らず口を永遠に黙らせようと、無惨は実行に移さんとしたその時――。 ドォンッ!!! 「ッ!?」 遥か後方より、けたたましい爆音が鳴り響くと、無惨はハッとした様子で、音の聞こえてきた方角へ視線を移す。 ロクロウとの戦闘に気を取られ、知らぬうちに随分と離れてしまっていたようだが、あの場所には、ウィキッドと麗奈を残していたはず。 二人っきりのその状況と、今の爆音から導き出される結論は―――。 「な、何……今の音?」 「……忌々しい下女めが……!!」 混乱するアリア達を他所に、魔女が引き起こしているであろう蛮行を苦々しげに思い浮かべると、無惨は憤りを口にする。 麗奈自身には思い入れなど微塵もないが、彼女が太陽克服の為の生命線であるのは違いない。 その彼女が危機に瀕しているというのであれば、ここで油を売っているわけにもいかない。 急いで彼女を保護せんと、踵を返そうとするが――。 ドドドドドドドンッ――。 「……っ!!」 ロクロウを吹き飛ばし、勢いそのままに突進してきたアヴ・カムゥによって、その進路を阻まれる。 「次から次へと湧いて出てくる、虫けら共めがっ!! 揃いも揃って、私の邪魔をしてくれるっ……!!」 怒りの形相で吼える無惨に、進撃の巨人は容赦なく大剣を振り払う。 無惨は上空に飛び退き、これを回避。 そのままアヴ・カムゥの頭部を目掛けて触手を一切に射出。 神速の触手が、弾丸の如くアヴ・カムゥの頭へと殺到するが――。 その攻撃は、頭部を覆う装甲を貫くには至らず――少しグラつかせる程度に留まる。 そして――。 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 ”この程度の痛み”で、怯むほど、“彼”の愛は温くない。 新羅は、彼らしくもない咆哮と共に奮起。 大剣を突きたてると、その切っ先で、無惨の身体を串刺しにせんと突貫。 無惨は空中でひらりと刺突を躱すも、全速力で迫りくる機動兵器の胴体部自体を、完全に避けることは叶わず――。 バ ゴ ン !! 無惨は、強烈な体当たりを喰らい、その体躯は派手に吹き飛ばされる。 「――っ!!」 アヴ・カムゥの巨体が直撃したことで、無惨の身体は地面を跳ねるように転がり、先程突き破った岩壁の向こう側――遺跡の倉庫の中へと吸い込まれていく。 アヴ・カムゥもまた、これを追撃。勢いそのまま、地響きと共に、遺跡の中へと駆け抜けていく。 そして、更にそれを追う影がまた一つ。 「―――待て、ロクロウっ!!」 傷だらけの満身創痍の状態であるにもかかわらず、笑みを張りつかせ、駆け出すロクロウ。 オシュトルの呼び止めも虚しく、ロクロウは、アヴ・カムゥの後を追って、走り去ってしまう。 山林エリアに取り残されたのは、オシュトル、ヴァイオレット、臨也、アリアの四人。 「ロクロウ……あの戦闘狂め……。また周りが見えんようになっている……」 「ねぇ、オシュトル……一応あいつは味方ってことで良いのよね?」 溜息をつくオシュトルに、アリアは困惑気味に尋ねる。 それは無理もない――新羅といい、月彦といい、今まで味方だと思っていた連中が立て続けに牙を剥いてきたのだ。 誰が味方で、誰が敵なのか……今一度、整理する必要があった。 「あぁ…戦いに熱が入ると、他のことが疎かになってしまう悪癖はあるが……。 少なくとも、某とヴァイオレット殿とは協力関係にはある」 「……そう……。なら、放っておくこともできないわよね……。」 アリアは、眉をひそめると、向こう側に視線を向ける。 あの三人は今も殺しあっているのだろう。 未だに、岩壁の向こう側では激しい破壊音と衝撃が断続的に続いている。 そんな状況をオシュトルは、さてどうしたものかと思案する。 (下手に介入すれば、こちらの戦力が削がれてしまう……。 ロクロウには悪いが、ここは引き揚げて、連中に潰しあって貰ったほうが得策ではあるのだが―――) とここで、チラリと隣に佇む彼女たちを見やる。 ヴァイオレットは胸に手を当て、いかにも心配そうに、アリアは依然として怪訝な表情で、混沌と化しているであろう戦場を眺めていた。 (やはり……この二人が、それに賛同してくれるとは到底思えんよな……) 臨也はともかく、これまでの言動を鑑みるに、アリアとヴァイオレットはオシュトルの考える「誰かを切り捨てる」という案に乗っかることはないだろう。 恐らくは、ロクロウのみならず、「乗った側」に転じた新羅ですら、どうにか救い出さんとするはずだ。 そんな彼女らを説得するなど、現実的ではないし、そもそもそんな時間は残されていない。 彼女らと袂を分つ選択肢もあるにはあるが、協力者を失うのはあまりに惜しい。 であれば、二人の考えを尊重した上で、行動を決定すべきであるのだが、生憎と現状は、他にも憂慮すべき事項がある。 (―――行方知らずの、茉莉絵と麗奈……それと、先程の爆発か……) 月彦が危険人物だと判明した以上―――彼と共に、遺跡内のコンピュータルームに残してきた、二人の少女の安否は非常に気掛かりだ。 それに先程の爆発音―――此処からはそう遠くはない。 彼女たちが何かしらの災厄に巻き込まれている可能性は十分にある。 目の前の修羅場の対処と、彼女たちの捜索―――二つの課題を突き付けられている現状で、どのように動くべきなのか―――。 恐らくはオシュトルだけではなく、アリアもヴァイオレットもその認識はあり、次に打つべき行動を模索しているように見てとれる。 「――さてさて、この状況で、俺達はどう動くべきだと思う?」 そんな中、オシュトル達の心の内を代弁するような問い掛けが投げられた。 その場にいる全員が、その声の主――臨也の方へ視線を向ける。 そんな一同の視線を一身に浴びながら、臨也はねっとりとした視線で三人を見返す。 まるで、試されているような――そんな感覚を覚えながらも、オシュトルは問い返す。 「まずは、臨也殿の考えを聞かせて頂けぬか?」 「うーん……そうだねぇ……。」 臨也は、顎に手を当てつつ、わざとらしく首を傾げながら、 「さしあたり―――」 ニヤリと口元を歪ませ、とある提案を口にするのであった。 ◇ 遺跡入口前の山林地帯は、まさに地獄のような修羅場が展開されている。 爆音とともに奏でられるは、少女たちの怒号と慟哭。 土のキャンパスには、彼女たちの鮮血と焦げた跡が彩り、血みどろの闘争は激化していく。 「ハァハァ……」 肩を揺らし、苦しそうに呼吸をする麗奈。 全身は傷だらけ。部位によっては、千切れていたり、ピンク色の肉と共に骨までも露出し、見るも悲惨な状態となっている。 それでも麗奈は歯を食いしばり、再び駆け出すと、対面の魔女と正面衝突を果たす。 ―――どうして……? 麗奈は思う。 爆音が鼓膜を貫いて。 肉の焦げた匂いが鼻腔を突き抜いて。 灼熱が体内を駆け巡り。 内臓から溢れる血液の味に、生温かさを感じながら。 ―――何でこんなこと、しなくちゃならないの……? 麗奈は抗う。 理不尽に発現した、即興の暴力を以って。 自分を亡き者にせんとする、目の前の悪意に対して懸命に抗う。 ―――何でこんな仕打ちを受けなきゃならないの……? 麗奈は嘆く。 二十四時間にも満たない、この僅かな時間で。 自身に立て続けに降りかかった、幾多の理不尽を嘆く。 ―――私、何か悪いことした……? 麗奈は憤る。 悔しい―――。ムカつく―――。 彼女の夢と目標を潰さんとする目の前の少女と。 今自身が直面している現実(じごく)に、腹を立てる。 ―――ただ、「特別」になるために、ありったけの時間と情熱を捧げて、精一杯練習してきただけなのに……。 これで何度目だろうか。 少女が放った貫手は、相手の少女―――ウィキッドの腹部を穿つ。 肉を穿つ感触と、妙に生暖かい液体と臓物の感覚が、自身の右手から伝わってくる。 「―――違う……。」 非常に不愉快で、気持ち悪い、吐き気すら催すような感覚に、麗奈はボソリと呟く。 その腕を引き抜くと、もう片方の手で拳を作り、ウィキッドに対し殴りかかる。 そして叫んだ。 「―――私の手は、こんな事をするためにあるものじゃないっ!!」 涙を流しながら。悔しさに身を震わせながら。 心からの叫び声を上げる麗奈。 「知らねーよ、カス」 しかし、麗奈の拳も、慟哭も届くことはない。 必死に食らいつてくる麗奈に対し、ウィキッドは忌々しげに、眉を顰めると、爆弾を投擲。 直後爆発―――麗奈の身体はグチャグチャに弾け飛ぶ。 だが、それで終わらない。損傷した部分は、例によって再生を開始していく。 「もういい加減うぜえんだよ、てめぇは!!」 苛立ちを募らせたウィキッドは、グロテスクな様相を成している麗奈を押し倒し、そのまま馬乗りになり、何度も何度も拳を顔面に打ち付ける。 既に原型を留めていない顔からは、眼球や舌などあらゆるものが飛び散っている。 それでも尚、麗奈の意識は途絶えることなく、顔面は元の整った形へと戻っていく。 「―――うざいのはお前だ、イカレ女!!」 直後ブリッジするかのように上体を起こそうとする麗奈。 しかし、それよりも早く、麗奈の顔面にウィキッドの拳が炸裂。 頭蓋を陥没させられ、脳髄を貫かれ、ウィキッドの虚を突くことは叶わなかった。 「クソ女が!! 私はお前みたいな女が大っ嫌いなんだよ!!」 芯は折れず、強気な姿勢を保とうとする麗奈。 そんな彼女の態度が気に障ったのか、ウィキッドは何度も何度も執拗にまで、麗奈の顔面を打ち据える。 そして顔面を粉砕される度に、麗奈の下半身はビクンビクンと痙攣を起こしていく。 ―――ああ、もう何でこんな奴に……。 永遠にリピートされる殴打の嵐の中、麗奈は思う。 ――こんな女の気分一つで、私が今までやってきたことが全て無駄になるなんて……。 自分の人生は、今まで苦心してきたことは、一体何だったのだろう? そう考えるだけで、悔しくて悲しくて、心が張り裂けそうになる。 「ぜぇぜぇ……。思い知ったか、クソ女……」 怒りの感情のままに麗奈をいたぶっていたウィキッドは、額の汗を拭う。 麗奈は、必死にもがこうとするも、それは制される。 結局のところ、即興で得た暴力では、麗奈は、魔女に打つ勝つことは出来なかった。 日常生活で培われた痛み、傷つけ傷つけられの修羅場への経験値の差が、両者に致命的な差を生じさせていたのであった。 「―――そろそろ、終わりにしてやるよ」 ようやく気が晴れたか、ウィキッドは、麗奈の全てを終わらせるべく、彼女の首輪の方へと腕を伸ばす。 言動から、彼女が自分を仕留めにきていると察した麗奈。 しかし、ウィキッドに馬乗りにされてる手前、逃れることも出来ない。 「―――助けて……。」 迫りくる最後の瞬間(とき)。 走馬灯のように頭の中で駆け巡るは、吹奏楽に打ち込んだ日々に、久美子を始めとした部活メンバー、そして憧れている「あの人」。 そんな光景を思い浮かべながら、麗奈は助けを求めた。 もう自分では、どうすることも出来ないと判っているからこそ、彼女は他所に縋るしかなかったのである ―――嫌だ、死にたくない。 ―――まだ、やりたいこと、やり残したことがあるのに。 ―――こんなところで、全てを終わらせたくはない。 ―――だから、お願い。誰でも良い、誰でも良いから……。 そんな切なる願いを込めて、麗奈は叫んだ。 「誰か助けてよ!!」 直後――。 「……畏まりました、お嬢様……」 「―――っ!?」 突如、何処からともなく聞こえてきた第三者の声。 それに反応したウィキッドは、即座に麗奈から離れ、結果として麗奈は解放される。 麗奈は慌てて上半身を起こすと、声の主を探すように辺りを見回す。 するとそこには――。 「――ヴァイオレットさん……?」 金色の髪を靡かせ、斧を構えて佇む、美しき自動書記人形がいた。 麗奈がこの会場で初めて出会い、彼女の想いに触れてくれた少女である。 そして、その隣には―――。 「そこまでよ! 風穴あけられたくなかったら、大人しくなさい!」 銃を構えて、ウィキッドを牽制するツインテールの少女の姿があった。 ◇ 二手に別れようか―――臨也からの提案は、遺跡内で闘争を繰り返す無惨達の対処に、オシュトルと臨也の二人が、消息不明の麗奈達の捜索に、アリアとヴァイオレットの二人が担当するというものであった。 無惨達の戦闘規模を考えると、戦力を分散するにしても、3:1の比率で、無惨達の対処の方に比重をかけるべきなのでは、とアリアは異議を唱えたが、「念のためさ」と押し切られてしまった。 「あんた……茉莉絵よね……?」 だが今は、あの時の臨也の采配は的を得ていたのだと、そう思わざるをえない。 あちこちに飛び散っている血液の量と、まるで空襲でも受けたかのように、焦土と化した大地を見て、此処でも無惨達に引けを取らない災厄が勃発しているのだと悟った。 そして、その災厄の起源は目の前の二人の少女にあると、認識している。 「――ああ、そうだよ……」 アリアの問いかけに、ポリポリと頭を掻き、面倒臭そうに応じたのは、初見の頃とは容姿の異なる茉莉絵。 如何にも大人しそうで、真面目な優等生――それが、初対面の時に、アリアが茉莉絵に対して抱いていた印象だったが、今目の前にいる彼女からは、その気配は一切感じられない。 髪はボサボサ、肌は不必要に露出させ、品性というものはまるで感じられない。 それこそ彼女が、ハンドルネームとして使っているという「ウィキッド」という名前に相応しい姿となっていた。 「答えなさい、どうして麗奈を襲っていたの?」 茉莉絵の豹変ぶりについては、まず置いといて、事情把握に努めようとするアリア。 アリア達からすると、オシュトル達から分かれて、爆発音が発生した場所に向かったところ、茉莉絵が麗奈を一方的に嬲り、麗奈が助けを叫んでいるところに遭遇したため、このように現行犯と思しき茉莉絵に対して、銃口を向けて牽制している。 しかし物事には必ず表裏が存在する。見てくれだけで、どちらが善悪なのかを判断するのは早計だ。 故に、アリアは茉莉絵への尋問を続ける。 「どうしてって? こっちは正当防衛のつもりなんだけど……? そこにいる化け物女が、月彦と一緒に私に襲い掛かってきたから、応戦しただけなんだけどさぁ!!」 「っ―――!!」 ギロリと、麗奈を睨みつける茉莉絵。 射殺せんとばかりのその視線に、麗奈は一瞬怯みかけるも、直ぐに気を取り直して、睨み返す。 「本当なの、麗奈?」 「……お嬢様……?」 「わ、私は―――」 「いつまで、良い子ぶって被害者面してんだよ、クソ女!! アンタらから仕掛けてきたのは事実だろうがよぉ!! 「……っ!! 黙ってろよ、イカレ女!!」 「はいはい、二人とも興奮しないの」 罵り合いを始める麗奈と茉莉絵の間に割って入るアリア。 初対面時には、真面目でどことなく何かに怯えている様子の麗奈であったが、まさか彼女も、茉莉絵と同様に、こんな攻撃的な一面を持っていたとは想像だにしなかった。 「麗奈、何があったか、教えてくれるかしら?」 茉莉絵は尚も銃口を向けて牽制しつつも、尋問を続けるアリア。 彼女としても、今の茉莉絵の供述には引っかかるところがあった。 元々月彦と麗奈は、一緒に行動していたと聞いている。その月彦が危険人物であった点を鑑みると、その片割れだった麗奈が彼と共謀して、他の参加者を秘密裏に排除している可能性も排除しきれなかった。 「……わ、私―――」 麗奈は何かを言いかけようとするが、喉からそれ以上の言葉がでてこない。 何かに怯えて、言い淀んでいるように見える。 「お嬢様……」 そんな麗奈にヴァイオレットは、優しく手を握る。 「―――ヴァイオレットさん……」 「お嬢様、どうか何があったか教えてください。 大丈夫です―――何があったとしても、私はお嬢様の味方です……。」 ヴァイオレットは麗奈の手を握ったまま、真っ直ぐ彼女の目を見つめる。 手袋越し握ってきたその感触は、無機質ではあったが、麗奈にとってはこの上なく温かく感じられた。 そして、少しずつ落ち着きを取り戻し、やがて彼女は大粒の涙を零し、口を開く。 「……助けて……。助けてください―――」 そして麗奈は語りだした。 ヴァイオレット達と別れて、遺跡に至るまで何が起こったのかを―――。 自分が月彦によって、鬼にされたということ―――。 月彦から、服従を強いられていたということ―――。 鬼化に伴う食人衝動によって、既に一人の参加者を喰い殺してしまったこと―――。 その食人衝動によって、茉莉絵に危害を加えてしまったこと―――。 その後、月彦によって、茉莉絵も鬼にされてしまったこと―――。 麗奈が見聞きしたことを、包み隠さず伝えた。 「――そんな事が……」 「月彦の奴、許せないわね……」 麗奈の話が一通り終わると、ヴァイオレットはあまりにも酷な内容に言葉を失い、アリアもまた諸悪の根源たる月彦に対して、怒りを顕した。 「……お嬢様……私が責任を以って、お嬢様をお護りいたします。 だから、ご安心ください」 「……ヴァイオレットさん……」 改めて麗奈の手を握り直し、優しい口調で慰めるヴァイオレット。 麗奈は涙を零しながら、その手にすがりつく。 辛かった、本当に辛かった。辛くてどうしようもなかった。 先輩にも見捨てられ、もう希望はないと思っていた。 月彦がどうしても怖かった。 だけど、それでも、ヴァイオレットは、化け物になってしまった自分を受け入れてくれた。 その事実に麗奈は救われた気がした。 「――なあ……」 だが、その時、今まで沈黙を貫いていた茉莉絵が、口を開いた。 「何勝手に反吐が出るような茶番見せつけて、締めようとしてんだよ? こっちは、そこのクソとあのワカメ頭にやられっ放しでムシャクシャしてんだよ。 どう落とし前つけてくれんだよ、オイ?」 依然として、不機嫌そうな表情を浮かべる茉莉絵。 麗奈を睨みつけたまま、詰め寄ろうとする。 「止めなさい―――話を聞く限り、諸悪の根源は月彦にあるわ。 麗奈もあんたも被害者よ。それに、あんたがやってきたのは過剰防衛。 これ以上の暴力行為は認められないわ」 茉莉絵の前に立ち塞がったまま、銃口を向けて牽制するアリア。 「はぁ? あんたらはコイツの肩を持つわけ?」 「今の話を聞けば、麗奈が望んで、あんたを襲ったわけではない事は分かるでしょう? 今ここで麗奈をどうこうするのは、おかしいわ」 「何勝手に裁いて話進めてんだよ、ピンクチビ」 「なっ…ピ、ピンクチ――!? と、とにかく、ここは下がりなさい。 ここで、私たちが争っても意味がないわ」 「―――お嬢様、私の後ろに……」 茉莉絵の口から飛び出た暴言に、アリアは動揺するも、何とか平静を保ちつつ、茉莉絵に下がるように促す。 しかし、茉莉絵はアリアの言葉に聞く耳持たず、そのまま麗奈に向かって歩み寄ると、ヴァイオレットは麗奈を庇うように前にでて、彼女を背に隠しながら、斧を構える。 茉莉絵はそんな三人の姿を、冷めた眼差しで見つめ、大きくため息をつく。 (はぁ…うっざ……) アリア達が介入してからは大人しく対応していたつもりだが、もう我慢の限界だった。 特に、麗奈とヴァイオレットが見せつけてきた一連のやり取りは、絆や友情といったものを忌み嫌う彼女にとっては度し難いものであった。 それに、この雰囲気――小学校時代に体験した学級会を思い出す。 そこで、茉莉絵はターゲットの女子を陥れようとしたが、逆に女子共の逆襲にあって、逆に茉莉絵が、弾劾裁判を掛けられる羽目となった。 今の状況に当て嵌めると、麗奈がターゲット、ヴァイオレットが取り巻きの女子共、アリアが担任の女教師といったところか。 「……もう、いいや……」 ボソリと呟く茉莉絵。 ――瞬間。 彼女は手榴弾を発現。ピンを外して、それを投擲。 「てめえら、全員仲良く死んじゃえよっ!!」 魔女は再び殺意を剥き出しに、三人に襲い掛かるのであった。 ◇ 遺跡内の大倉庫は、再び戦場と化している。 そこでは、無惨、ロクロウ、そして、新羅が乗り込むアヴ・カムゥによる三つ巴の闘争が繰り広げられている。 しかし、それは決して拮抗したものではなくなっていた。 「このっ……!!」 空気が破裂するような轟音とともに、鋼鉄の巨人は変わらず大剣を振り回しているが、いずれの斬撃も無惨とロクロウを捉えることは出来ず、倉庫内の床やコンテナを粉砕するに終わり、操縦席に座る新羅は歯噛みする。 巨人が繰り出す一撃一撃は紛れもなく必殺と呼べるほど重く、並大抵の者なら、直撃を受ければ、一溜りもないだろう。 しかし、相手は鬼の王と夜叉の業魔―――類稀なる反応速度を有する彼らにとって、これを躱すのは造作もない。 加えて、二人はまた超人的な俊敏性を以って反撃を仕掛けてくるが、アヴ・カムゥがそれらの攻撃を捌くことは出来ず、被弾を許す。 如何にアヴ・カムゥが叩きつける斬撃が強力無比であろうと、如何にアヴ・カムゥの装甲が硬かろうと、その動きは、新羅の人並みの反応速度による操縦によって成り立っている。 故に、巨人兵はロクロウと無惨の速度についていけず、翻弄される羽目になる。 「そろそろ、暴れ疲れてきたんじゃねえのか、デケエの!!」 振り下ろされた巨剣の斬撃を掻い潜りながら、ロクロウはアヴ・カムゥの真下から跳び上がり、その首筋---装甲の僅かな隙間を狙って刃を振るう。 「ぐぅっ……!」 首を切り刻まれる激痛に、思わず声を上げる新羅。通常であれば、ショック死してもおかしくないほどの痛みだが、彼は意識を失うことはない。 「それでも僕は―――」 その瞳に強い意志と揺るぎない覚悟を宿し、朦朧とする意識を繋ぎ止めると、再び剣を振り回し、“愛”を叫ぶ。 「セルティに会いに行くっ!!!」 「……ッ!?」 新羅が発した「セルティ」という聞き覚えのある名前に、ロクロウの顔付きが変わる。 「そうか…お前が……」 それまでの好戦的な表情から一変して、真剣な面持ちを浮かべ、巨人の追撃を躱していく。 セルティ・ストゥルルソン---第一回放送後、シドーによってその命を散らした首無しの彼女の名だ。 ロクロウは彼女の人物像を詳しく知らないが、久美子達からは、彼女にはパートナーと呼ぶべき男性がいたと聞き及んでいる。 恐らく、眼前の巨人を操る男がそうなのだろう。 であれば、彼女の死に責を負う者として、この男と向き合わなければなるまい。 ロクロウはそのように思考して、剣を構え直すが―――。 「喚くな、耳障りだ」 ロクロウよりも先に、無惨が攻勢をかける。 ロクロウによる斬撃が効かされたように見えたアヴ・カムゥ。 それに対し、無惨は、今こそが狩り時と判断して、複数の触手をマッハのスピードで一斉放出―――唸りを上げる触手は、アヴ・カムゥの頭部に殺到する。 「―――がは……!!」 思わず、悲鳴を漏らす新羅。 頭部を覆っている装甲の硬さは変わらず、貫くまでは至らないが、それでも怒れる鬼の王の一撃一撃は、決して軽視できるものではなく、鋼鉄の兵の頭部を激しく揺らし、怒涛の連撃を繰り出していく。 そのダメージは、操縦席にいる新羅にも確実に伝搬され、鈍器で打たれたような衝撃が、彼の頭部に繰り返し襲ってくる。 ピシリ そして怒涛の連撃により、アヴ・カムゥの頭部装甲に亀裂が生じ始める。 蓄積されていくダメージに耐えかねるように、それは広がっていく――。 「悪いが、そいつの首をくれてやる訳にはいかねえな!!」 ロクロウが無惨へと肉薄すると、双剣を横薙ぎに振るい、無惨に斬りかかる。 「貴様っ……!!」 無惨としては、ここで一気に畳み掛けるつもりだったのだが、ロクロウによって阻まれてしまう。 無惨は、苛立ちを募らせながらも、後退しつつ、ロクロウの斬撃を回避。 今度はロクロウに標的を定めて、触手を伸ばし、ロクロウも受けて立つべく、無惨の元へと地を蹴り上げる。 接近する両雄―――。 ロクロウは再び双剣による連撃を浴びせんと、奥義の構えを取る。 「――嵐月流・白さ――!?」 グゥオン!! しかし、両者が激突する寸前、風を切る音と主に、よろめきながら振り回されたアヴ・カムゥの巨剣が、ロクロウに襲いかかった。 ロクロウは舌打ちをしつつ、上体を反らすことで、事なきを得る。 ―――が。 そんな一瞬の隙が、この戦場では命取りとなる。 瞬間、ロクロウの右腕は、剣を握りしめたまま、宙に舞う。 「……チィッ!!」 鮮血を噴き出し、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるロクロウ。 無惨の触手が、ロクロウの腕を切断していたのだ。 無惨は、すかさずロクロウを仕留めるべく、触腕を振るうが―――。 グゥオン!! それよりも前に、振り回された装甲兵の剛腕がロクロウに直撃し、吹き飛ばす。 「ぐぅっ……!!」 全身の骨が砕かれるような感覚に、苦悶の声を漏らすロクロウ。 そのまま凄まじい勢いで壁に叩きつけられると、がっくりと項垂れ、沈黙する。 グゥオン!! 続けざまに響く風を裂く音―――。 三つ巴の一角を排除できたと認識したアヴ・カムゥは、残った無惨の方へと巨剣を振り下ろしたのだ。 「……残るは貴様という訳だ……」 無惨は即座にこれを回避―――。 眼前の忌まわしき巨人を屠らんと、その頭部目掛けて、複数の触腕を一斉に振るう。 「……行くよ、セルティ……」 巨兵に引くという選択肢はない。 意識が朦朧とする中、新羅は怯むことなく、無惨に立ち向かう。 そして、大量の触手がアヴ・カムゥの頭部装甲に迫りーーーー。 パリン!! 甲高い音を響かせながら、装甲は遂に破壊されて、挙兵の頭部が露わになった。 それでも、新羅は退かない。無惨に一太刀浴びせんと尚も、大剣を横なぎに払おうとする―――。 だが。 グシャリ!! 「……ぁ……」 露わになった巨兵の頭部は、無惨が続けざまに放った触腕によって、その右半分をごっそりと削がれた。 そして、それに連動し、操縦席にいる新羅にも、頭部を吹き飛ばされるという通常ではありえない痛覚がフィードバックされ―――。 「……」 アヴ・カムゥもまた沈黙するのであった。 ◇ 「きゃははははははっ、死ねっ!! 死んじまえよっ!!」 嬌声を上げながら、無尽蔵に爆弾を投げ続けるウィキッド。 戦場で踊り狂い、ありったけの爆撃を見舞い、辺り一面を宇宙の塵へと変えていく、その様はまさに「コスモダンサー」。 彼女が踊るその戦場には、彼女の他にも、二つの人影が行き来する。 「あんまり、おいたが過ぎると、風穴あけることになるわよ、茉莉絵!!」 「やってみろよ、ピンクチビィッ!!」 接近を試みるアリアに対し、ウィキッドは手榴弾を投擲。 アリアは投擲に気付くも、退くことはせず、手に握るIMI デザートイーグルでこれを撃墜―――この程度の狙撃は、Sランク武偵『双剣双銃(カドラ)のアリア』にとっては造作もないことだ。 アリアは、撃墜と共に生じる爆炎の中をそのまま掻い潜り、ウィキッドに肉薄。 そのまま、回し蹴りを放つが……。 「おっとっと♪」 「チィッ!!」 アリアの脚が触れる直前、ウィキッドは舌を出しつつ、上体を大きく反らし、これを回避。 更にバックステップで距離を取りつつ、手榴弾を投擲せんとするが、今度は金色の影が、それを阻むように割り込む。 「――させません!!」 ヴァイオレットが、斧を一閃。 「きゃはっ♪」 ウィキッドはスカした笑みを浮かべつつ、これを躱す。 即座に反撃せんと、ヴァイオレットに爆弾を投擲しようとするも―――。 ババババン!! ここで乾いた銃声が四回木霊すると、彼女の手脚四箇所から、ほぼ同時に出血が発生する。 アリアがウィキッドの無力化を狙い、発砲したのである。 しかし、それでも魔女は、余裕の笑みを張り付けたまま―――。 「それが、どうしたんだよ、ゴミクズどもっ!!」 「なっ……!?」 踊るようにして、無数の爆弾を撒き散らす。 ヴァイオレットは苦しげに、その爆撃を、身を翻して避け、アリアは狙撃で撃ち落としていくが、その勢いは止まること知らず。 「――傷が……回復している……?」 「きゃはははははははっ、どうやら、そうらしいぜ。あのワカメ頭が私の身体を弄ってくれちゃったせいで、私もあいつらと同じ化け物の仲間入りになったってわけだぁ!!」 アリアの言葉通り、ウィキッドの手脚は先の銃撃により流血していたものの、瞬く間に傷は塞がり、再生していく。 そして鬼化に伴い、強化されたのは治癒力だけではない。 μより与えられた、メビウスを維持する楽士としての強化された身体能力―――そこから更に“鬼化”による過剰強化が施されて、今やアリアとヴァイオレットを凌駕する俊敏性で、彼女達を翻弄する。 更にタチが悪いことに、一思いに仕留めにいくのではなく、じわりじわりと追い詰め、二人が焦っていく姿を眺めることを愉悦としながら、その爆撃を加速していく。 ウィキッドが口角を吊り上げていくのに比例して、ヴァイオレットとアリアの二人は劣勢に立たされてゆき――。 「――がはっ!!」 「……きゃぁ!?」 遂には、四方八方から繰り出される爆撃を捌ききれず―――。 アリアとヴァイオレットは、二人揃って爆風を真面に受けて、吹き飛ばされてしまう。 そんな彼女達の姿を見て、ウィキッドは更に嘲笑うかのように、高笑いを上げ始める。 「きゃははははははははははは、さっきまでの威勢はどうしたんだよぉ、ピンクチビに、人形女っ!! もっともっと、みっともなく足掻いて、私を愉しませてみろよ!! ほーら、お代わりだよっと!!」 地面を転がる二人に向けて、追撃の爆弾を投擲。 二人は地面を転がりながら、どうにかこれから逃れんと試みるも、完全な回避には至らず。 爆風によって、まるでボールのように、弾き飛ばされてしまう。 「―――まぁ、あんたらはデザート。あんたらで遊ぶのは一旦お預けで……」 爆風によるダメージに悶える二人の様子に満足げなウィキッドは、追撃を早々に切り上げると、戦場(ステージ)の外―――少し離れた山林のその奥、崖寄りの場所で傍観に徹していた麗奈を見据える。 「お供の肉壁共に護られて、自分は安全地帯から観戦で気分はお姫様〜♪ ってかぁ? やっぱ、てめえが一番気に入らねえんだよな、クソ女ぁあああ!!」 「――あんたっ……!!」 罵声を浴びせつつ、ウィキッドは麗奈に向かって一直線に突っ込んでいく。 迫り来る破滅を運ぶ魔女に、麗奈は一瞬、怯んだ様子を見せるが――。 真っ直ぐにウィキッドを睨み返し、迎撃すべく駆け出す。 そのまま両者の距離は縮まっていくが、正面衝突を果たす寸前で、ウィキッドは真横に跳躍。 麗奈目掛けて、小型の爆弾を複数投げつける。 「このっ……!?」 勢いに任せたまま、殴り合いに臨もうと意気込んでいた麗奈は、これを咄嵯の反応で回避しきれず爆発。 爆炎を一身に纏い、目も当てられないような姿と成り果て、フラフラと風に煽られるように揺れ動く。 ウィキッドはというと、ここぞというばかりに、爆弾を投擲し続けて、彼女に更なる追い討ちをかけ続ける。 悲鳴を上げる間もなく、怒涛の勢いで爆撃に晒され続け、麗奈の身体は原型を留めないまま仰け反り、後退していく。 そこへ、爪を立てながら、ウィキッドが接近。 「死ね、クソ女ぁ!!」 「ーーーいい加減にしろーーーっ!!」 魔女の手が、麗奈の首輪に届く寸前、小さな影が横槍を入れる形で割って入り、ウィキッドに体当たりを敢行。 「てめえ、ピンクチビぃいい!?」 死角からの弾丸タックルに、ウィキッドは対処できずにそのまま転倒。 二人はもつれ合いながら、山の斜面を転がっていく。 「……ぐぅ……!! 放せ、コラァっ!!」 「……誰が、放すもんですか!!」 ぐるぐる360度の回転を続けながらも、引き剝がそうとするウィキッド。 しかし、アリアもまたその小さな身体で培った逮捕術を駆使し、必死に彼女を抑え込もうとする。 そのまま両者は、無我夢中で取っ組み合いを続けて、落ち葉を舞い散らしつつ、急速に斜面を下っていき―――。 「ーーーアリア様っ!!」 やがて、二人の身体は宙に投げ出され、揉み合いながら崖下へと転落していく。 遅れて駆け付けたヴァイオレットが叫び声を上げた時には、時既に遅し。 二人の影は、崖下の森林地帯の闇に飲まれて消えてしまっていた。 ―――すぐに助けに行かないと。 ヴァイオレットは、すぐに踵を返し、アリア達が落下したであろう地点に急ごうとするが――。 「……ぅう……あぁ……」 「お嬢様!?」 苦悶の声を上げつつ、ふらりふらりと、覚束ない足取りで麗奈が近づいてくるのを見て、慌てて駆け寄る。 焦げた肉と血の臭いを漂わせつつ、全身がズタズタに焼け爛れているものの、身体の再生は進んでおり、どうにかその面貌は確認できた。 「……ヴァ…イオレット…さん……」 「お嬢様、しっかりしてください!!」 倒れ込みそうになった彼女を、ヴァイオレットは抱きとめて支える。 「あ、の女は……?」 「彼女は、アリア様と交戦中に、この先の崖下に転落してしまいました。 私もこれからアリア様の救助に向かいます」 「そう…ですか……」 麗奈はそこでホッとした表情を浮かべる。 無惨もいない。ウィキッドもいない。 今この場には、自分を虐げる連中はおらず、「化け物」になってしまった自分を受け入れてくれるヴァイオレットだけがいる――。 安息を実感すると共に、麗奈の中では、張り詰めていた緊張の糸が切れた。 「私とアリア様が戻るまで、お嬢様はここで身を潜めて―――」 そして、安心するが故に―――。 満身創痍が故に―――。 彼女は植え付けられた本能のままに、その行動を取る。 ―――ぐじゃり 「――っ!? お…嬢様……?」 ヴァイオレットは、呆然と目を丸くする。 自身の首筋に走った、鈍く鋭い痛み。 痛みの正体は――彼女が抱き支えている少女が牙を立てたことによるものだった。 ―――ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ……。 肉が貪られていく音と、血が啜られていく音が静かに木霊する。 麗奈は、無意識のまま、血肉を喰らい続けていた。 ――ああ、美味しい。 ――もっと、欲しい。 ――足りない、全然足りていない。 ――だから、もっと、食べないと。 麗奈の中で、内なる何かが、そのように囁いてくるような気がした。 衝動に突き動かされるようにして、麗奈は更に深く歯を突き立てる。 「ぁ……うぅ……お嬢、様……」 激痛に顔を歪めるも、ヴァイオレットは抵抗しない。 自分の血肉を貪る麗奈を、引き剝がそうとしない。 いくら鬼化したとしても麗奈はボロボロの状態――ヴァイオレットが有する身体能力と戦場格闘術を以ってすれば、制圧することは可能だ。 しかし、彼女はそれを行わない。 何故なら彼女は気付いてしまったから―――。 鬼としての本能に囚われた麗奈の双眼から、一筋の涙が零れたことに――。 そして――。 「お嬢様……、大丈夫……大丈夫ですから……」 ヴァイオレットは、未だ自分の首筋に顔を埋め咀嚼を続ける麗奈の頭を優しく撫で、抱きしめる。 「――お嬢様の想いを……届けられるように…… 私が……元の日常に連れ戻しま……すから……」 意識が朦朧とする中、ヴァイオレットは小さく呟き続ける。 自動書記人形の務めとして、依頼人の想いを護るために。 「愛している」を伝えたい少女の「いつか、きっと」を失わせないために。 「……ぁ……」 すると、ヴァイオレットの想いが通じたのか、麗奈の動きがピタリと止まった。 「……ぇ……ぁ……わ……わたし……?」 そして、意識を取り戻したのか、ハッと我に返ると、ヴァイオレットの身体から離れ、よろめきつつも後退していく。 「――私は……一体何を……」 「お嬢様……お気を…確かに――」 正気に戻った麗奈に対して、ヴァイオレットは尚も気遣いの言葉を投げかけると―――そのまま、電球が消灯するようにして意識を失い、その場に崩れ落ちた。 「……ヴァイオレットさん……?」 倒れ伏せるヴァイオレットの首元からは、止めどなく血液が流れ続けている。 訳も分からず、呆然と見下ろす麗奈が次に感じ取ったのは、口内に残る甘い鉄の味ーーー。 慌てて口元を拭うと、そこには、べったりと赤黒い鮮血が付着していた。 「ぁあ…あっ……ぁぁぁああああああ!!」 自身が犯した過ちを自覚した麗奈は、頭を掻きむしり、喉が潰れんばかりの絶叫を上げた。 自分を信じて手を差し伸べてくれた恩人すらも、手を掛けてしまった……その事実が、彼女の心を容赦なく蹂躙する。 やがて、彼女の精神は限界を迎え---。 「あぁ……あああああああああああっ!!!」 錯乱しながら、逃げるようにして、その場を駆け出すのであった。 己が過ちから目を背けるように。地に伏せるヴァイオレットを、ただ一人残して。 ◇ 先程までの喧騒が、嘘のように鎮まり返った倉庫。 この閉塞された戦場の覇者たる無惨は、壁に出来た大穴を通じて、外へと出ていった。 倉庫内で動かなくなっているアヴ・カムゥとロクロウには、一切目もくれず、遠方で暴れているであろうウィキッド達の元への帰還を優先し、駆けつけんとしていた。 しかし―――。 「……何っ?……」 上空より飛来してくる二つの物体に気付くや否や、無惨はその身を捻り、回避行動を取った。 その刹那―――。 ドォオオンッ! と爆発音が鳴り響き、周囲に粉塵が巻き起こる。 「新手だと、おのれっ……!!」 正体不明の爆撃を受けて、状況把握が追いつかない無惨であったが、そこに無数の弾丸の雨が降り注ぐ。 ズダダダダダッ!! と激しく音を立てる、弾丸の嵐。 無惨の身体は一瞬で蜂の巣となり、更にそこにミサイルが撃ち込まれ、彼の身体は爆ぜる。 しかし、それも束の間、彼の身体はまるで時を巻き戻しているかのように再生していき、瞬く間に元の状態に戻っていく。 「――あぁ、やっぱり『化け物』だね、彼。 あれだけの銃撃爆撃を喰らっても、ケロっとしてるよ」 「……そのようだな……」 無惨が上空からの爆撃に晒される様を、少し離れた茂みに身を潜めて観察するのは、オシュトルと臨也。 アリアとヴァイオレットを、麗奈達の探索へと向かわせていた彼らは、オシュトルの意を汲んで、倉庫内での騒乱については介入せず、それが収束するまで機を伺っていた。 漁夫の利といえば聞こえが悪いが、あくまでも状況を見極めた上での合理的な判断であった。 そして、騒乱を収めたのが味方陣営のロクロウであれば良し。 新羅であれば、無力化――。無惨であれば、討滅――。 そのような段取りで、二人の意見が一致し、事を構えていたのであった。 「しかし、臨也殿。かような代物を持ち合わせていたのならば、何故最初から用いらなかったのだ?」 オシュトルが、視線を向けるは、臨也の手に握られている黒の小型端末。 現在上空より無惨を空襲している鉄の塊と、それに対し対象の抹殺指令を出しているそれこそが、折原臨也の最後の支給品。 「やだなぁ、オシュトルさん、流石にアレを屋内で出すわけにはいかないでしょ。 あんな無茶苦茶するんだから、俺達も巻き込まれかねないしさ」 「それも…そうだが―――」 いくら何でも反則すぎないか?と突っ込みを入れそうになったオシュトルだが、それ以上は何も言わず、無惨に対して、無慈悲な弾丸の雨を見舞うそれを見上げた。 HsAFH-11。通称『六枚羽』―――。 とある都市の制空権保全管制センターが保有しているはずの、無人攻撃ヘリ。 その最新鋭の兵器のコントロール権は、臨也の手中にあった。 コントロールと言っても、彼が行ったのは単純至極。 端末の中で映し出される、『六枚羽』を中心とした、参加者の居場所を示す赤い点の位置情報データをタップしただけ。 その操作によってターゲットとされた無惨が、執拗な爆撃を受けるという構図が出来上がっていた。 (まぁ本当は、シズちゃんにぶつける予定だったんだけど、今の状況だと、出し惜しみは出来ないだろうからね) 心中でそう呟きながら、臨也は、事の行く末を観察していた。 元々、これは強力すぎるが故に、臨也としても、対平和島静雄―――つまりは『化け物』を狩るための切り札として、温存していたものである。 臨也は、人間を愛している。 様々な工作、調略などを通じて、人間がどのような行動を行うのか、どのような結末を辿るのか、好奇心旺盛な子供のように観察を行い、その全てを愛そうとする。 その過程で、如何に観察対象が苦しもうとも、破滅を迎えようとも、最後には「あぁ、やっぱり人間って素晴らしいね」と言って片付ける。 逆もまた然り。観察対象が最終的にハッピーエンドに辿り着いたとしても、彼は「うんうん」と頷き、その様子を愛でるだろう。 彼は平等に人間を愛するのだから。 故に、彼は人間に対して、直接危害を加えるようなことは行わない。 人間観察の過程において、あの手この手を使って、人間のあらゆる側面を引き摺りだそうと画策はするが、直接手を下そうとすることは決して行わない。 ウィキッドと対峙した際も、彼女もまた、彼が愛する『人間』であるが故、この『六枚羽』を使用することはなかった。 だが、もしも彼の前に、彼が愛する『人間』に危害を加えるであろう『化け物』が現れたのであれば、その排除のため、手段を選ぶことはない。 (『化け物』共には、ご退場願わないとね。 『人間』は俺のものなんだからさ。それに―――) 臨也はチラリと、未だ爆撃に晒される無惨のその奥---遺跡の大倉庫の方へと目を向けた。 遺跡から生還したのは、無惨ただ一人。 であれば、彼と交戦していた新羅は恐らく……。 (……敵討ちって柄ではないけど、一応、『友人』としての義理は果たした、かな?) 自分の内側から何かが、込み上げて来る感覚を覚える---。 しかし、臨也はその正体について深く考えないようにした。 あくまでも平静を装いつつ、爆撃に晒される無惨の元へと視線を戻すと、程なくして、戦況に変化が訪れた。 「――またしても絡繰の類という訳か…、小癪な真似を!!」 爆撃に塗れながらも、炎上する森林の隙間から、天に浮かぶ『六枚羽』を、視認した無惨。 この宙に浮かぶ塊こそが、発射元であると理解すると、即座に反撃せんと跳躍―――。 標的が佇む空のフィールドへと舞い上がろうとするが、『六枚羽』は短距離装甲車両用ミサイル『SRM21』を発射。 「っ……!?」 マッハで迫るミサイルは、赤外線センサーにより、ロックを掛けているため、無惨への直撃は必定となっている―――が、無惨もそれを甘んじて受けるほど、愚かではなく瞬時に反応。 背中から複数の触手を、速射砲の如く伸ばし、ミサイルと相殺。 E-4の空に、爆音が鳴り響くと同時に、更にそこから身体を捻ると、地面に向けて触手を思い切り叩きつけ、その反動を以って、更に高く跳躍し、『六枚羽』に接敵を図る。 ――ズダダダダダッ!! その間も、『六枚羽』の機関銃により、身体は穴だらけとなっていくが、無惨は意に介することなく、極限に伸ばした触腕を横に薙ぎ払う形で、殲滅兵器の胴体部へと叩き込んだ。 ドゴォッ!!と、まるで巨人の鉄槌のような衝撃音と共に、『六枚羽』は激しく振動。 機体を軋ませながら、そのまま墜落し、地面に激突―――大破する。 「化け物め……」 忌々しげに毒づく臨也を他所に、無惨はそのまま地上へと降り立つ。 銃痕も、爆撃によって裂かれた五体も、再生していき、一見すると、無傷のように見える無惨。 しかし、その実―――。 「ハァハァ……お、おのれ……!」 苦しそうに息を切らしながら、額には脂汗を浮かべていた。 理由は明瞭―――先の空中戦で、地上の何処かにいるであろう麗奈との距離が離れた上、遮蔽物も何もない状況で、太陽光により近くに当たったたため、その身を焼き尽くすような苦痛に襲われていたからである。 幸いにも、まだ麗奈による回復力向上の影響範囲にあるようで、即消滅することはなく、今は徐々にダメージは回復しているが、それでも無惨の消耗は明らかであった。 「――臨也殿……、ここは一旦退こう。 あれは、どう目算しても我らの手に余る……」 憔悴する無惨を遠目に見つめながら、オシュトルは臨也にそう提案をする。 明らかに消耗しているようにも見えるが、先程の攻防を見ても、彼の実力は規格外であり、現状の戦力では到底太刀打ちできないとオシュトルは、判断したのだ。 ―――が。 「……。」 「臨也殿……?」 臨也からの反応がないことに気づき、不審げな声を上げるオシュトル。 臨也は無言のまま、身を潜める茂みの中から立ち上がる。 そして、コートのポケットに手を突っ込んだかと思うと―――。 ひゅん。 と、風を切るような音を鳴らすと、無惨の顔面目掛けて、銀色に光る影が投擲された。 「なっ、何を―――」 オシュトルがそれをナイフだと認識したその刹那――。 バシン、と金属が破裂するような音が周囲に響き渡った。 「そうか……全て貴様らの仕業かぁっ……!!」 飛来したナイフを触手で弾くと、臨也達を見据えながら、怒りに満ちた表情で、地が震えるのではないかという勢いで叫ぶ無惨。 その形相は凄まじく、顔が破裂するのではないかというほどの青筋を立たせていた。 「これは戦線布告だよ、化け物」 しかし、臨也は臆することなく、銀色に光るナイフを無惨に向けて、不敵に微笑んだ。 (いやいやいや、何て事してくれちゃってんの、こいつ!? もっと合理的に動ける男だと思っていたが、見誤ったか!?) 内心で悪態を吐きながら、オシュトルも、臨也の傍らに立ち、鉄扇を構える。 無惨に見つかった以上、もはや戦うしか他ない。 (しかし、勝てるのか……あの怪物に? ……いや、やるしかないのか) ヴライや、ミカヅチといった歴戦の猛者達と相対してきた以上の緊張感が、オシュトルの背に走る。 しかし、オシュトルは歯を食い縛り、覚悟を決めた。 が、その直後―――。 ドドドドドドドンッ――。 「―――何っ!?」 大地が激しく揺れ動く音ともに、無惨の背後に怒涛の勢いで、巨大な影が迫らんとしていた。 オシュトルも、臨也も、無惨さえも驚愕し、思わず動きを止めて、一同にそれを見上げる。 「……新羅……。」 ポツリと、臨也がめその者の名を呼ぶ。 彼らの前に現れたのは、既に朽ち果てていたと思われていた、鋼鉄の兵であった。 ◇ 「ハァハァ……少し……しくじったわね……」 苦しそうに、痛めた足を引き摺りながら、崖下の森の中を徘徊するアリア。 落下の折、幾重の木々の枝によって裂かれた傷が、端正な顔に幾つも刻まれ、実に痛々しい。 アリアが着用する武偵高の制服は、防弾加工されている故に、直接肌を晒していない部位に裂傷は生じていない。 しかし、木々の枝や葉がクッションになって衝撃を和らげていたとはいえ、かなりの高低差から落ちたのだ。 無傷で済むはずもなく、足を痛めた上、臓器も痛めたか、口からは血反吐を零している。 「――なぁ、あんたさぁ……」 と、そんなアリアの前に、ぬぅっと人影が現れた。 その正体は、落下の際に、空中で突き飛ばして離れ離れとなったウィキッド―――。 「……っ!」 アリアは、痛みを忘れて飛び退くとするも、時既に遅し。 投擲された小型爆弾がアリアの足元で爆発―――彼女の小さな身体は激しく吹き飛ばされる。 「うぐっ……!!」 大樹に叩き付けられ、声にならない悲鳴を上げるアリア。 だが、それでも意識を失うことなく、どうにか立ち上がろうとするのだが……。 「私に『風穴あけてやる』なんて言ってたよなぁ……?」 そんなアリアの首根っこを掴んで持ち上げると、ウィキッドはその首を絞め上げる。 そして、自分の顔をアリアの顔へと近づけると、至近距離で愉悦の笑みを浮かべつつ、その表情を窺う。 「ぐぅ……!! だ、だから……何よ!?」 眼前の魔女を睨みつけ、嫌悪感を示しつつ、苦しみ悶えるアリア。 ウィキッドは喜悦の表情のまま、アリアの胸元にもう片方の手の指を突き刺した 「あぐうっ!?」 ズブズブと皮膚を貫いて、肉の中に入ってくる冷たい感触。 グリグリと指をかき回され、肉をほじくり回される度に激痛が走り、思わず声を上げてしまう。 「きゃはっ、自分が風穴あけられる気分はどうですかぁ、神崎さぁん♪」 アリアの苦痛などお構いなしに、嬉々として語るウィキッド。 アリアの内側に侵入していた血濡れの指を引き抜くと、別の箇所に、無造作に刺しては抜いて、刺しては抜いてを繰り返す。 「あっ! くっ!! はぁ……あうッ!!」 身体のあちらこちらを刺される度、激しい痛みと共に、大量の血液が噴き出し、地面へ滴り落ちる。 しかし、アリアとてSランク武偵。やられっぱなしでは終わらない。 「ぐっ……このっ!!」 全身を襲う痛みに耐えながら、歯を食い縛ると、振り子のように勢いを付けて、ウィキッド の腹部へと蹴りを入れる。 肝臓を抉る一撃を受け、流石のウィキッドも呼吸が詰まり、一瞬だけ拘束する力が緩む。 「ぐふっ……はっ!?」 ウィキッドが顔を顰め、呼吸を求めて息を吸い込むと同時に、アリアはその身体に銃撃を数発撃ち込んだ。 至近距離からの射撃―――複数の弾丸はウィキッドの脇腹を貫き、鮮血が散る。 そして、アリアを拘束する腕が離れるや否や、その銃口をウィキッドの眉間に向けようとするが―――。 「バーーーカ!!!」 「――なっ!?」 口角を釣り上げ、嘲笑すると同時、ウィキッドは、これまでにない程の大きさの爆弾を顕現。 バスケットボール程のサイズがあるそれを、その場に地面に叩きつけ、起爆させた。 凄まじい爆音と衝撃波が周囲に響き渡り、辺り一帯が激しく揺れ動く。 それはウィキッド自身をも巻き込んだ爆発。謂わば、自爆の類い。 しかし、それは、まるで巨大な隕石でも落下してきたかのような衝撃を放った。 「……がぁ……はっ……!」 衝撃によって発生した土煙の中から、ボロ雑巾の如く横たわるアリアの姿が露になる。 その爆破の威力は、防弾制服ですら防ぎきれず、アリアの華奢な身体は、見るも無惨に破壊されていた。 内臓破裂により口からは大量の血を流し、腕が一本、脚も一本、千切れて転がっている。 身体全体は焼け焦げており、致命傷であることは明白であった。 「う……うぅ……。ま、だ……まだ……私……私は……」 しかし、それでもアリアは意識を繋ぎとめ、地を這おうとする。 「私は……死ねない……。私は……ママを……」 脳裏に過ぎるは、「イ・ウー」の罠により冤罪の懲役刑で投獄されている母の姿―――。 母の無実を証明するためにも、アリアはこんなところで死ぬわけにはいかない。 だからこそ、この状況でも懸命に生きる手段を模索するのだが――。 「何だよ、お前マザコンだったのかよぉ。 見たまんまのお子様なんだなぁ」 「……ぁ……」 いつの間に近付いていたのか、ウィキッドがアリアを見下ろし、嘲るように見下ろした。 先程の爆発は、ウィキッド自身にも巻き込んでいた。 それ故、彼女の全身も損傷が激しく、肉という肉が焦げた上、ズタズタに切り裂かれ、皮膚からは骨が見え隠れしている。 そんなグロテスクな状態でも、植え付けられた鬼の血によって、こうして自力で歩き、声を発せるまでに回復している。 「しっかし、凄いよな、鬼って!! どれだけ無茶な傷を負おうが、治っちまうもんな!! 一方的に押し付けられたのは気に食わねえし、あのクソワカメにはムカついてるけどさ。 これはこれで、いっぱい遊べるし、案外アリかもな!!」 水口茉莉絵は"痛み"に慣れている。いや慣れすぎている。 鬼になり不死性を得たとしても、痛覚が消えるわけではない。 即興で無惨の血に適合した鬼であれば、通常は高坂麗奈のように傷つくことあれば痛みで怯み、狼狽えることがあるだろう。 しかし、この魔女は、ぶたれることも、蹴られることも、叩かれることも――あらゆる苦痛に慣れすぎている。 そして、それを受け止め流した上で、憎悪を以って返す執拗さを持ち合わせている。 故に彼女は、如何なる刃も、弾丸も、爆弾も、自身の精神干渉攻撃によって生じる痛みにすらも、臆することはない。 もっとも、彼女の場合は、心そのものが壊れてしまっているため、そういったものを受け付けないだけ、なのかもしれないが。 「……ぅ……ぁ……。……ぁ……ぁ……」 満面の笑みで己を見下ろすウィキッドに対し、アリアは声にならない声を上げるのみ。 「おいおい、もう終わりかよ? つまんねぇなぁ……。もっと遊ぼうぜぇ?」 ウィキッドはアリアの頭を踏みつけ、足蹴にする。 「――あがっ!?」 「じゃあさ、少しはやる気が出るようにしてやろうか? そうだなぁ。それじゃあ…あんたと遊び終わった後、私が何をするつもりなのかを教えてやるよ―――」 愉しそうに語りながら、アリアの頭をぐりぐりと踏み躙るウィキッド。 「取り敢えず、今は色々とムカついている奴らがいるからさぁ。まずはそいつらを、順次ぶっ殺していくつもりなんだけど、それが終わったら、あんたの後輩の間宮あかりと佐々木志乃だっけ? 次はその二人を殺してやるよ―――」 ビクリと、アリアの肩が震える。 その反応を見て、ウィキッドはニタリと笑うと――。 「それでそのまま、このゲームで優勝して、あのポンコツとテミスに願いを叶えてもらうんだよ。神崎・H・アリアの『ママ』とやらに会わせてくれってな---」 またしても、肩が震えるアリア。 そんな反応を楽しむように、ウィキッドは言葉を紡いでいく。 「そして、『ママ』とやらにあんたの無様な最期がどんなんだったか語り聞かせてやるんだ。 きゃははははっ、あんたの悲惨な顛末を聞かされるとか、『ママ』はどんな気分になるんだろうなぁ? 悲しんでくれると良いよなぁ……!! それで最後は、命乞いをするまで徹底的に痛めつけて、絶望に染め上げてから殺してやるんだ! どう?少しはやる気になったかぁ?」 「………ぅうあああああッ!!」 瞬間、アリアは絶叫を上げ、死力を振り絞ると、ウィキッドの足を払い除ける。 「あ、んた……だけは……絶対に……許さないっ!!」 血反吐を撒き散らしながら、怒りの表情を見せるアリアは、そのままウィキッド にボロボロの身体で掴みかかろうとするが---。 「いやぁ反吐が出る程の親子愛だわなぁ―――」 それよりも先に、魔女の腕が、アリアの胸を貫いた。 「私、そういうの大っ嫌い♪」 深々と刺さったその腕は、心臓を貫通。 アリアは、口から血の塊を吐き出すと、その眼光は濁り、瞳は虚ろになっていく。 「まぁ死んどけよ」 「……ママ……」 光を失った瞳から涙を流し、アリアは小さく呟くと――そのまま息絶えるのであった。 【神崎・H・アリア@緋弾のアリアAA 死亡】 ◇ 鼓膜に断続的な音が突き刺さり、僕の意識は激しいノイズが交じる中、ゆっくりと覚醒した。 靄がかかったような、朧気な視界に飛び込むのは、壁にもたれ俯く侍のような男。 もう息絶えているのだろうか、微動だにしない。 「―――うぐっ……!」 今まで何をしていたのか、どうしてこんな状態になっているのか、情報を整理しようとするだけで、頭に激痛が生じる。 手足を動かそうにも、身体が脳からの信号を受け付けない。 まるで自分の身体が、自分のものではないような―――そんな感覚。 途方に暮れる中で、またしても鼓膜を突き破るような騒音が、響いてくる。 そうだ。 これは、戦いの音だ。 「……セルティ……!」 僕はようやく、ここまでの経緯を鮮明に思い出すことができた。 そうだ、セルティだ―――。 僕は、セルティを取り戻すために、まるで日曜夕方放映アニメのように、この巨大ロボに搭乗して、戦っていたんだ。 「動け……」 だから、ここで留まっているわけにはいかない。 この命が尽きるまで、セルティを諦めてなるものか。 「動け動け動け動け動け動け……」 呪詛のように、繰り返し自分の身体に命令を下すが、尚も反応はない。 その間にも、戦闘音―――これは爆発音と銃声かな?――は断続的に続いている。 まだ誰かが近くで戦っているのだろう。 恐らく、其処には先程殺しあったあの怪物も居る筈だ。 「……っ」 もしそうだとしたら、このまま、起き上がれたとしても果たして勝てるのか……。 あれは、正真正銘の怪物―――常人の目では捉えられぬ速度で動き回り、僕を翻弄し、アヴ・カムゥの装甲ですら貫いてきたのだ。 正直言って、今の僕では到底太刀打ちできない。 しかし、それでも―――。 「……アヴ・カムゥ―――完全排他モードへ移行……」 僕は、セルティを諦めたりしない。 例えこの身体がどうなろうとも、必ず取り戻してみせる―――。 そんな破滅の覚悟を以って。 僕は、僕自身の身体をリンクさせたまま、アヴ・カムゥの操縦権を完全に委ねることにした。 ◇ 「……新羅……。」 オシュトル、臨也、そして無惨―――。 三者睨み合うその場に、颯爽と駆け付けたアヴ・カムゥは、直ぐに行動を起こす。 ターゲットは、最も近くにいる鬼の王―――。 「うわああああああああああああああああっ!!!」 「まだ生きていたか、死に損ないめがっ!!」 決死の雄叫びと共に、振り下ろされる高速の斬撃に、無惨は毒つきながら、飛び退き、これを回避。 即座に反撃せんと、触手触腕を振るうが、ほぼ同時に、鋼の巨人はその巨体にそぐわぬ俊敏性を以って、無惨に肉薄―――。 ピシリと、その装甲に傷を負いつつも、無惨の身体を蹴り上げる。 「な、に……?」 宙に蹴り上げられ、驚愕を顔に張りつかせる無惨。 驚く間もなく、豪風と共に、横薙ぎに払われた巨剣が無惨の身体を両断せんと迫ると、 空中で身を捩って避けつつ、半壊している巨人の顔面部分に数多の触手を射出。 怒涛の勢いで、顔面の装甲が削られ、相応のダメージが巨人を襲うも、一切の怯みも見せず、アヴ・カムゥは剣を握っていないほうの手で拳を握り、無惨の胴体部分へと叩きつける。 「っ……!?」 圧倒的な質量を持つ一撃により、地面に叩きつけられた無惨は混乱の最中にあった。 巨人の、反応速度も俊敏性も耐久性も、先程とはまるで違うのだ。 「煩わしいぞ、貴様……!! 貴様は、一体何なのだっ!?」 それを間一髪で躱して、体勢を整えようとする無惨ではあるが、アヴ・カムゥは休むことなく追撃を仕掛ける。 巨大な体躯に見合わぬ、恐るべき速さでの踏み込みから繰り出される攻撃の数々に、さしもの無惨もその対応に手を煩わせる形となる。 ―――完全排他モード。 無惨達は預かり知らぬことではあるが、それは、主催の趣向で、アヴ・カムゥに搭載された切り札。 搭乗者が、マスターキーを通じて、その意向を機体へ伝えた時のみ発動し、機体のコントロールをシステム側に完全譲渡する機能である。 本来備わっていた完全排他モードとは、異なるものかもしれないが、こちらのモードに移行することで、機体は自動運転に切り替わる。 そして、敵として識別した対象に対して、徹底的な殲滅戦を開始することとなる。 新羅は、説明書に記載されていたこの切り札を思い出し、実行に至った。 故に、現在のアヴ・カムゥは、搭乗者たる新羅の体感、知覚を超越して、機体のスペックを最大限に発揮した状態で、猛獣の如く、無惨に襲い掛かっている。 「ぐぉおおおおおおおおおおおおお!!」 無惨に執拗なまでの攻撃を行う傍らで、悲鳴にも近い絶叫を上げる新羅。 今の新羅は謂わば、マリオネットの状態―――彼の身体や五感の全てはシステムに捧げられている。 アヴ・カムゥの超人的な動きは、新羅の神経とリンクしている。 故に、新羅の元々の身体能力を遥かに凌駕する動きをするのであれば、当然のことながら、それについて行けない肉体への負担もまた相当なものになっていく。 ―――ブチブチブチブチブチ アヴ・カムゥが無茶な動きをする度に、新羅の中で、何かが千切れていく音が響く。 それが、どこかしらの神経なのか、筋肉繊維なのか、あるいは血管そのものかは、分からない―――否、闇医者を営んでいる彼であれば、どの部位に異常があったかは、判断できるかもしれないが……。 ともかく、新羅の身体中のありとあらゆる箇所が負荷に耐え切れずに断裂していき、新羅も気に留めることはない。 ―――目の前にいる強敵(こいつ)を排除する。 アヴ・カムゥを操るシステムも、それに身を委ねる新羅の意思は一致し、微塵も揺らぐことはなく、ただ只管に無惨の命を狙い続ける。 「疾く、失せろっ!! 貴様如きを相手取る暇など無いっ!!」 しかし、アヴ・カムゥは無手になったとしても、一切の攻撃動作を止めることはしない。 欠損した片腕と、残った腕で無惨に掴みかかり、押し倒す形で圧し掛かりつつ、全身全霊の力を込めて、地面に叩きつけると、そのまま上から怒涛の勢いで、殴り続ける。 ぐちゃ!ばぎっ!!ぼぎゃあっ!! 無慈悲かつ圧倒的な質量を誇る暴力の嵐により、肉と骨が潰れるような音を立てながら、無惨の身体は徹底的なまでに破壊されていく。 「お、おのれぇええ……!!」 無惨は、怒りの声を上げつつ、身体を再生させつつ、背中から生やした触手を地面に向けて射出。 その反動を利用し、一気に飛び退き、墜落した『六枚羽』の残骸の上へと着地―――巨人から距離を取ることに成功する。 しかし、ここで想定外の事態が無惨の身に降りかかる。 ―――ジリジリジリジリジリジリ 「ぐっ!? な、何ぃいいいいっ!?」 瞬間、全身に生じる灼熱―――単に身体だけではなく、己が魂すらも焼き尽くすかのような耐え難き激痛に、無惨は苛まれる。 同時に、今彼が立つこの場所は、先の『六枚羽』との交戦によって、樹木は破壊し尽くされ、宙に覆い被さる枝葉はないことに気付く。つまりは、太陽光を遮る影は、一切存在しないのだ。 この苦痛の原因は、鬼本来の弱点たる陽光によるものだと悟ると同時に、解せないと、無惨は思った。 麗奈が覚醒してからは、幾度となく、無惨は太陽に身を晒す機会はあった。 先の空中戦のように、一時的に地上から大きく離れて、瞬間的に激痛に襲われることもあったが、平地でこれ程の苦痛を伴うことはなかった筈だ。 (―――そうか…そういうことか……!!) 無惨は、すぐにこの異変の正体―――その解に行き着く。 太陽光克服の要たる、麗奈の回復能力向上能力―――その効果がなくなりつつ在るのだ。 理由は単純明快。彼女自身が急速に移動を開始して、無惨から離れつつあるということだ。 (私は、逃走を許可した覚えはないぞ!! 小娘っ!!!) 通常であれば、鬼は陽光を浴びれば、即死する。 まだ無惨自身が、苦痛に苛まれるも、健在だということであれば、幸いにも、まだ麗奈とのリンクが完全に途切れたわけはないらしい。 だが、無惨に降りかかる苦痛は、時間が経過するとともに、より一層激しくなる。 (急がねば―――) 事態は一刻を争う。 すぐにでも、この場を離脱し、麗奈を回収せねば、取り返しのつかないことになる。 刻一刻と迫る『死』の気配を感じ取った無惨は、焦燥感に駆られつつ、『六枚羽』の骸から飛び立たんとするが―――。 ブンッ!! 「っ……!?」 その身体はアヴ・カムゥの振り下した上腕によって、叩き落される。 地面に仰向けに叩きつけられた無惨―――そこに追い打ちを掛けるべく、巨大な足を踏み下ろすアヴ・カムゥ。 「貴様ぁあああああああああ!!」 ズシンと、大地が大きく揺れ動く。 無惨は、アヴ・カムゥの巨脚により、踏み潰され、その場で固定されてしまう。 その質量によって、身動きの取れなくなる無惨。 そこに間髪入れず、アヴ・カムゥはハンマーのように両腕を交互に振り下ろしていき、無惨の身体を潰しに掛かる。 ――ドガンっ!!! ――ドガンっ!!! ――ドガンっ!!! ――ドガンっ!!! ――ドガンっ!!! 巨人の鉄槌が、無惨を捉える度に、地震が起こったかのように、周囲一帯が激しく振動する。 既に、アヴ・カムゥの攻撃で、原型を留めていない無惨であるが、それでも彼は生きていた。 アヴ・カムゥの攻撃自体は、元々備え持つ再生力によってカバーは出来る。 また、アヴ・カムゥの巨躯によって陽光も遮られている。 しかし、こうしてアヴ・カムゥに拘束されている間も、麗奈はどんどん遠ざかっていく。 直面する死滅の危機に、無惨は必死の形相を浮べながら、肩口から触手を射出。 今も執拗に攻撃を続ける巨人の胸部装甲に突き立てる。 「貴様らのような虫けら如きが!! 私の邪魔をするなど、思い上がるなよっ!!」 巨人の鉄槌地獄に溺れながらも、触手による怒涛の連撃で、装甲部分を削り取っていく無惨。 その甲斐あってか、胸部の装甲は、徐々に亀裂が生じていく。 しかし、まだまだ時間が掛かる。 その事実に無惨は歯噛みする。 早く……もっと早く……眼前の障害を取り除き、この場を切り抜けなければ――。 この殺し合いに連れてこられる前に、繰り広げている鬼殺隊との最終決戦。 肉の鎧を纏うほどに追い詰められた、あの時に感じたものと同等の危機感を抱きながら、無惨は懸命に抗う。 触手の高速連打によって、ひび割れたアヴ・カムゥの装甲は、徐々に亀裂が大きくなっていく。 だが、まだ足りない。あと少しだけの時間が必要だ。 (このままでは……このままでは……!!) 無惨の脳裏に、焦りばかりが募る。 (――この私が死ぬ……だと? こんなところで?) 当初計画していた、竈門禰󠄀豆子を利用した方法を介さず、この殺し合いの場では、図らずとも千年の永き悲願を達した。 これから、その太陽克服の解明を行なって、悲願成就を盤石たるものにする予定だった。 その矢先に、大量に邪魔が入ってしまい、鍵を担う少女に逃げられ、あまつさえ生命の危機に瀕する始末だ。 (認めぬぞ!! このような結末……断じて認めてなるものかっ!!) 無惨は、怒りで顔を歪めながら、射出する触手に決死の力を込め――。 瞬間、無惨の中で、“何か”が弾けた。 そして、その“何か”によって、彼が射出した触手は、その勢いを上積みされ――。 ――バキンッ!! アヴ・カムゥの胸部分の装甲を完全に粉砕。 勢いそのまま、アヴ・カムゥの機体内部―――コックピットをも貫通し、背部から飛び出した。 「――っ!?」 それは無惨当人ですらも、想定していなかった能力の向上。 一見すると、この殺し合いの会場で、平和島静雄やヴライといった猛者達が発現させた“火事場の馬鹿力”の類のように見えなくもないが、その実、これはデジヘッド化による恩恵。 高坂麗奈は、デジヘッドとなったその瞬間に、スキルを得た。 これに対し無惨は、デジヘッドになった時点でスキルを開花させることはなかった。 無惨の場合は、死に瀕することによって、彼のストレス値が臨界点に達した際に、無意識下で自身の戦闘能力の大幅な向上を促すスキルを覚醒させた形になったのである。 「……。」 心臓部(コックピット)を貫かれたことにより、暴虐の限りを尽くしていたアヴ・カムゥは完全に沈黙―――その活動が停止する。 「ハァハァ……」 無惨は、触手を引き抜くと、地を這いながら、自らの身体を引きずり、アヴ・カムゥの足元から逃れる。 すぐに、彼のズタボロの身体は修復されていく。 しかし、日光にその身を晒した刹那―――。 ―――ジリジリジリジリジリジリ 「ぐぅううぉおおおおおおおおおおおおお!?」 先刻を遥かに凌駕するような全身を焼かれる激痛に襲われ、無惨は絶叫を上げる。 身体の一部が徐々に灰となり、ボロボロと空気に溶け込んでいく。 最早、一刻の猶予もなし。 無惨は苦悶に表情を歪ませ、よろめきながらも、どうにか体勢を整える。 そして、地を蹴り飛ばし、麗奈達を残した場所に向かうべく、山林の奥へと消えていく。 静止するアヴ・カムゥと、傍観に徹していた臨也とオシュトルには全く目もくれず、ただ一目散に―――。 ◇ 「まぁまぁ、愉しませてくれたな、あのピンクチビ」 アリアから支給品を回収したウィキッドは、上機嫌に鼻唄を口ずさみながら、森の中を進み、行き止まりの岩壁に行き着くと、その上を見上げる。 ここから先はお礼参りだ。 アリアに語った今後の予定についてだが、アリアの後輩達やアリアの『ママ』とやらには全く興味はない。 あれはアリアを挑発するために吹っ掛けたブラフであるため、実際に連中がどうなろうと知った事ではない。 まぁ、後輩達に出会う事があれば、アリアの惨めったらしい最期を笑い話として語り聞かせてあげても良いかもしれないが、今はそれよりも優先すべき事由がある―――散々イラつかせてくれた連中への復讐だ。 まずは、この崖を駆け上り、そこにいるであろう麗奈と、一緒にいるヴァイオレットを殺す。 その後は、無惨を追って殺す。この際、折原臨也を殺すのも選択肢としては、ありかもしれない。 そして、最後にあの男――カナメに借りを返すことも忘れてはならない。 (待ってろよぉ……、クソども) 狂気じみた笑みを浮かべるウィキッドは、勢いよく地を蹴ると、岩壁の中にある足場を次々と蹴りながら登っていく。 やがて、その高さが森林の木陰を抜けて、彼女の身体が陽光の下に完全に晒される高さまで登り詰めた時だった。 ―――ジリジリジリジリジリジリジリジリ 「ぐぁっ!? な、に……!!?」 異変は唐突に訪れた。 全身に拡がる灼熱のような痛みと共に、ウィキッドの両眼が大きく見開かれる。 肉を抉られるよりも、骨を叩き潰されるよりも、爆炎に飲まれるよりも、耐えがたき激痛が、彼女の全身に到来する。 「あああああああああああッ!!!!!」 全身をナイフでめった刺しにされる方がよっぽどマシだと思えるような苦痛に苛まれながら、ウィキッドは絶叫を上げ、足場を踏み外し落下していく。 やがて、地上にまで叩きつけられた彼女は、そのまま地面に横転すると、苦悶の声を上げる。 「あぐぅう!!なんだよコレェ……!!」 木陰の中で、ウィキッドは身を丸めるようにして身体を抱き締めながら、激痛にのたうち回る。 今まで感じたことのない未知の痛み。 まるで、自分の命そのものが削り取られたかのような錯覚さえ覚える程の苦しみ。 『私の血に適合し、鬼になった者は人間を超越した力を手に入れことになる。 だが、その反面、致命的な弱点も露呈する―――』 ふと、ウィキッドの中で、先程の無惨の言葉が甦る。 『その弱点こそ、太陽光だ。貴様は精々苦しみながら死んでいけ』 「ハァハァ……そうか、そういうことかよ……」 徐々に痛みが引いていく中、あの時の言葉の意味を今になって理解する。 今しがた自分が体験した地獄のような苦痛の正体こそが、本来『鬼』となった者に与えられる代償なのだという事を。 では何故、今の今までは、日光に晒されても平気だったのか? その答えは、彼女が遺跡で、臨也達と共に閲覧したレポートの中にあった。 『007』は鬼の首魁であり、太陽光が弱点であったが、デジヘッド化を契機として、太陽光を浴びても消滅するようなことは無くなった。 これは、『006』がデジヘッド化に伴い発現した能力で、無自覚に自身から一定範囲(距離は定かではない)内にいるデジヘッド及び、それに近しい能力を持つ者に対して回復を行うように見受けられる。 したがって『007』においては、本来備わっている鬼としての回復能力が飛躍的に向上しており、太陽光を受けても再生能力がそれを上回っている。 (―――私も、あのクソ女の干渉能力によって生かされていたってことかよ、クソッタレ!!) 冷静に考えれば、すぐに分かることだった。 麗奈が発現した回復能力の影響を及ぼすのは、麗奈から一定範囲内にいるデジヘッド及び、“それに近しい能力を持つ者”―――。デジヘッドと同じく、精神世界に干渉できる「オスティナートの楽士」の能力を発現させているウィキッドが例外であるはずがないのだ。 先程、麗奈が近くにいる際は、陽光を浴びても何も問題はなかったが、今は僅かな時間だけでも陽光を浴びれば、あわや絶命寸前まで追い込まれるほどの苦痛に襲われている。 それはつまり、麗奈との距離が離れてしまったため、彼女から齎される回復能力が著しく損なわれたということになる。 もしかしたら、今尚も彼女との距離は離れ続けているやもしれない。 であれば、今、陽光にその身を晒して、この崖を駆け上がるのは、非常に危険だ。 先程は一命を取り留めたが、今度もまた無事に済むとは限らない。 (つまりは、日光に怯えながら、過ごせってことかよ!! あのクソワカメ、とんだ不自由押し付けやがって!!) ぎりぎりと歯軋りしながら、ウィキッドは憎々しげに顔を歪める。 そして恨めしそうに、岩壁の頂きを睨み付けながら、吐き捨てる。 「私の不幸を上塗りしやがって、絶対に殺してやるからな!!」 先程は、鬼になったこと自体は存外悪くないなとは言い放っていたウィキッドであったが、それによって齎された弊害を実感した今、改めて怒りを露わにする。 陽光の下で、手足を自由に動かせなくなるという受け入れ難い呪い―――。 それを運んできた二人に対して、必殺を誓うと共に、絶望少女は踵を返し、陽光差し込まぬ森林の奥へと進んでいく。 その瞳に、果てしのない憎悪を宿らせながら――。 【D-4/森林地帯/午後/一日目】 【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】 [状態]:鬼化、楽士の姿、食人衝動(小)、疲労(極大)、カナメへの怒り(中)、無惨と麗奈への殺意(極大)、臨也への苛立ち [服装]:いつもの制服 [装備]: [道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2 、アリアの支給品(不明支給品0~2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0~2)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 北宇治高等学校職員室の鍵 [思考] 基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ 0:日光を避けながら、無惨たちを探す 1:無惨と麗奈を殺す 2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。 3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。 4:金髪のお坊ちゃん君(ジオルド)は暫く泳がすつもりだが、最終的には殺す。 5:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる 6:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。 7:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。 8:アリアの後輩達(あかり、志乃)に出会うことがあれば、アリアの最期を語り聞かせてやる [備考] ※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。 ※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。 ※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。 ※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。 ※麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み) ◇ 跪いた状態で、完全に機能停止しているアヴ・カムゥ。 そのコックピットを、臨也とオシュトルは二人がかりで、こじ開けると、凄惨な光景が飛び込んできた。 「これは……随分と酷い有様だな……」 「……。」 コックピットの中は、バケツの水をぶちまけたように血だらけとなっていた。 その中心で、新羅は腹に風穴を空けたまま、目を閉じて、項垂れていた。 出血しているのは、腹部だけではない。 腕、脚、口、耳、鼻、目……身体の至る所から血を流している。 臨也達は知る由もないが、これはアヴ・カムゥの完全排他モードによる副作用―――五体全てをシステムに捧げ、常人では耐えられない程の激痛を負いながら、機体が出しうる最上のパフォーマンスを発揮させ、奮戦した代贖であった。 「……セル…、ティ……」 微かに、新羅の声が漏れる。 今にも消え入りそうな声音だが、臨也達にはしっかりと届いていた。 「新羅お前まだ生きて……。待ってろ、今治療を―――」 臨也は、病気平癒守を取り出し、新羅の血濡れの身体に触れようとする。 しかし、その手は新羅によって掴まれ、阻まれる。 「お前、何を―――」 「ああ、ここに……いたんだね……、セルティ……」 目は閉じたまま、血の涙を零しながら、新羅は臨也の方を見上げて、弱弱しく微笑んだ。 「逢い……たかった……逢いたかったよ、セ、ルティ……」 「――新羅、お前……」 新羅は、臨也を視ていない。 そもそも、臨也の言葉も届いていない。 視覚も聴覚も失った今、彼が触れているのは、最愛の彼女の幻影。 「さぁ……帰ろうか、僕等の……家へ…………」 在りし日の彼女の夢を見て、穏やかな声と共に、新羅の手から力が抜けていく。 臨也の腕を握る手が離れ、力無く地に落ちた。 「おい、新羅……」 臨也は呼びかける。 しかし、新羅は応えない。 ただ穏やかに、永久の眠りへと旅立ったのである。 この上なく幸せそうな表情を浮かべて、最愛の彼女と共に―――。 【岸谷新羅@デュラララ!! 死亡】 【アヴ・カムゥ@うたわれるもの 二人の白皇 大破】 ◇ 『六枚羽』とアヴ・カムゥ―――巨大兵器の残骸が放置された戦場跡。 遺跡の大倉庫に面した山林には、あちらこちらに銃痕や、散乱した土砂や、切り崩された樹々、そして火の手が上がっており、この地で起きた戦禍の凄まじさを物語っていた。 「やってくれたな、新羅の奴……。」 臨也は、物言わなくなったアヴ・カムゥを見上げて、唇を噛み締めていた。 新羅の支給品を回収後、オシュトルには、回収したマスターキーで、アヴ・カムゥがまだ動くか試したいと申し出て、他の者達の捜索へと先行してもらったため、今はただ独り、物思いにふけていた。 臨也としては、遺跡(ここ)に辿り着くまでは、いつものように、何のこともなく、人間観察を謳歌していたつもりだった。 ―――『人間』としての情愛を以って、妖刀・罪歌の支配に打ち勝った女剣士。 ―――己が本性と向き合う一方で、頑なに主催の歌姫を救わんとした楽士。 ―――護るべきと信じた者に欺かれ、底なしの悪意に蹂躙された少女。 ―――誰よりも弱く脆く、それでいて、誰よりも強がって絶望を振り撒く魔女。 この殺し合いで視た、誰も彼もの言動は、どれも興味深くて、愛おしくて、胸を躍らせたものであった。 果たして『人間』達は、この殺し合いという極限の環境で、次に何を見せてくれるのだろうか-――ワクワク気分で遺跡に乗り込んだものの、第二回放送でセルティの名前が呼ばれてから一転。調子を狂わされてしまった。 振り返ってみると、あの時から普段の自分らしからぬ行動を取り続けていた、と臨也は思った。 セルティの死亡を知った新羅がどう行動するかなんて、分かり切ったことであった。 そんな予定調和で筋書きが決まっている事象を観察したとしても、何の面白味の欠片もない。 それに、新羅は大型の巨大兵器を手にしていたと聞いており、そこを鑑みても、ハイリスクローリターン―――関わらないのが得策であった。 しかし、臨也はあえて死地に乗り込み、新羅と対面することを選択した―――予定調和の行動をとる新羅を観察しても面白くはないが、その新羅を止めようとする周りの人間には興味がある、という尤もらしい言い訳をぶら下げて……。 『月彦』に刃を向けたときも、また然り。 切り札の『六枚羽』をあっさりと撃墜した、あの『化け物』―――自分達の手に余るのは明らかで、オシュトルの提案通りに、身を隠したまま退けば良かったものを。 自分の内より“何か”が込み上げてきて、気が付いた頃には、新羅を殺したであろう、あの『化け物』に戦いを挑もうとしていた。 即座に己が失策を悟ったものの、後の祭り―――それでも、表情には、さぞ必勝の手があると思わせる余裕の笑みを張り付かせたまま、『化け物』を挑発した。 ―――という具合に、思い返してみれば、らしくもなく、感情的に動いてしまっていた節が多々あり、その主たる原因は、岸谷新羅という存在にあったのは間違いない。 「友達甲斐のない奴め……」 そして、何よりも臨也の気に障ったのは、彼の最後の瞬間だった。 『さぁ……帰ろう、僕等の……家へ…………』 今でもあの穏やかで幸せそうな表情が、瞼の裏に焼き付いて離れない。 世間基準でも『友人』と言える此方からの呼びかけには一切反応せず、新羅は最期まで、セルティしか視ていなかった。 終わりのその瞬間まで、全ての人間への等しい無関心を貫いてみせて、彼は眠りについた。 それを見届けた臨也の内に沸き起こった感情は、『友人』を失った悲しみでも、『友人』を手に掛けた『化け物』への怒りでもなく―――。 徹底した『人間への無関心』を貫き通した新羅に対する、強烈な嫉妬と敗北感であった。 「ははっ」 その感情を味わって、臨也は改めて、岸谷新羅という存在は、自分にとって、目指すべきライバルであったのだと悟った。 「ははははは」 そして、新羅という唯一無二の目標を失った事実に対して、彼は小さく笑ってみせた。 ―――放送でセルティの名前が呼ばれた時、あいつと対面し別れの挨拶を交わした時、こうなることは覚悟していただろうに。 ―――全ては想定の範囲内、何も恐れることはないじゃないか……。 心の内で、そのように『新羅の死』を切って捨て、臨也は笑って受け流そうとする。 笑い――。 笑い――。 笑い――。 笑い――。 彼は右手で拳を握り、それを思いっきりアヴ・カムゥの残骸へと叩きつけたのであった。 彼が何を思ってそのようなことを行なったのか、彼が今どのような表情を浮かべているか、それを知るものはいない。 何故なら――― 「臨也殿」 「おや、オシュトルさん。随分早い帰還だね」 臨也の背後、森の奥より姿を現したオシュトル。 その声に振り返った臨也は、いつもと変わらぬ笑顔だったから。 まるで何事もなかったかのように、いつも通りの口調で言葉を返して―――。 オシュトルと、オシュトルの背中に担がれている少女を出迎えるのであった。 ◇ 背後から激しい爆発音が木霊する。 けれど、彼女―――高坂麗奈は、背後を振り返ることなく、ひたすらに駆けた。 如何な苦難に直面しても、真っ向から挑んでいた、かつての気高き天才トランペッターの姿はもはやない。 鬼舞辻無惨とウィキッドから逃げるため、 己が犯してしまった過ちから逃げるため、 彼女に降りかかる全ての絶望から逃れるため、 ぐちゃぐちゃになった思考回路で、ただひたすらに逃避へと走る哀れな少女の姿がそこにあった。 それ程までに、麗奈の精神は限界を迎えているのであった。 そんな麗奈の遥か後方で、彼女を猛追している男がもう一人―――。 鬼舞辻無惨もまた、ひたすらに地を駆けていた。 太陽光に対する耐性が失われつつあることを察知した無惨は、麗奈確保のため、急ぎロクロウと邂逅した場所へと戻った。 しかし、付近にいたのは倒れ伏せていたヴァイオレットのみ。 ヴァイオレットの身体からは、齧られた跡と夥しい出血があった。 そして、その場所からは血痕が続いており、そこを辿ると、太陽光によるダメージが和らいでいくことを体感。 麗奈がそちらの方向に、逃げたのは明白だった。 ヴァイオレットにはまだ息があるようにも見えるが、はっきり言って無惨にとっては生きようが死のうが興味もなく、そのまま放置する。 「デジヘッド」の謎について、ウィキッドを捉えて、尋問も行いたいが、こちらも二の次―――今最も優先すべきは、麗奈の確保にある。 故に、無惨はただひたすらに麗奈を追跡するのであった。 【E-5/森林地帯 /午後/一日目】 【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】 [状態]:デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、鬼化、食人衝動(中)、回復スキル『アフィクションエクスタシー』発動中(無自覚)、恐怖による無惨への服従(極大) 、ウィキッドへの恐怖 及び苛立ち、精神的疲労(絶大) [服装]:制服 [装備]: [道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル [思考] 基本:殺し合いからの脱出??? 0:逃げる、もう何も考えたくない…… 1:今ここにいる私は偽物……? 2:月彦さんが怖い…… 3:ヴァイオレットさん…… 4:水口さんは怖いけど、ムカつく 5:部の皆との合流??? 6:久美子が心配??? 7:みぞれ先輩は私を見捨てた……? 8:誰か……助けて…… [備考] ※参戦時期は全国出場決定後です。 ※『コスモダンサー』による精神干渉とあすか達の死によるトラウマの影響で、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した無惨からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、無惨と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。 ※無惨の血により、鬼化しました。身体能力等は向上しております。 ※腕は切断されましたが、鬼化の影響で再生しております。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。 【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】 [状態]:疲労(極大)、全身ダメージ(大)、月彦の姿、デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、麗奈の回復スキルにより回復力向上 、太陽光により身体の一部が炭化 [服装]:ペイズリー柄の着物 [装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品) [道具]:不明支給品1~3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪 [思考] 基本:生き残る。手段は問わない 0:まずは麗奈を確保する 1:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせる。 2:私は……太陽を克服したのか……? 3:麗奈は徹底的に利用する。まずはこいつの能力の詳細を確認し、太陽克服のカラクリを探る。問題ないようであれば、麗奈を吸収することも視野にいれる。 4:昼も行動するため且つ鬼殺隊牽制の意味も込めて人間の駒も手に入れる(なるべく弱い者がいい)。 5:逆らう者は殺す。なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。 6:もっと日の光が当たらない場所を探したい。 7:鬼の配下も試しに作りたいが、呪いがかけられないことを考えるとあまり多様したくない。 8:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。 9:垣根、みぞれ、オシュトル、ロクロウ、臨也は殺しておきたいが、執着するほどではない。 [備考] ※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。 ※『月彦』を名乗っています。 ※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。 ※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。 ※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。現在の再生能力は麗奈の回復スキル『アフィクションエクスタシー』の影響で、太陽によるダメージを克服できるレベルのものとなっております。 ※蓄積したストレスと、デジヘッド化した麗奈の演奏の影響をきっかけに、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した麗奈からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、麗奈と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。 ※ 攻撃強化スキル『ロジックマイト』を発動できるようになりました。無惨自身の生命が脅かされ、それによるストレスが蓄積された状態になると、無自覚に発動します。 ※ 太陽光によるダメージで、身体の一部が炭化し、消失しました。 その影響で全身にダメージを負っています。 現在は麗奈との距離が縮んだおかげで、陽光を浴びてもダメージは受けませんが、消失によるダメージを回復するために、人間の血肉を食らう必要があります。 ■ 発現能力紹介 ロジックマイト@Caligula Overdose デジヘッド化した無惨が、無自覚に発動する能力。 無惨が、自身の生命が脅かされる状況であると認識し、それによる極限のストレスを抱えた状態で発動。 一定時間、自己防衛のため、自身の防御強度を犠牲に、攻撃力を大幅に強化する。 あくまでも無惨自身のみに効果があり、周囲の参加者には、特に影響を与えることはない。 ◇ 先程までの喧騒が嘘のように、静まり返る『大いなる父の遺跡』。 その遺跡内にある一室で、備え付けのベッドが二台並べられ、その上に気を失っているヴァイオレットとロクロウが寝かされていた。 それを見守るのは、臨也とオシュトルの二人。 「オシュトルさん、そっちの彼の様子はどうだい?」 無惨が去った後、爆音が発生したと思わしき場所でオシュトルが出会したのは、激しい戦闘の痕跡と、首と肩口から血を流し倒れているヴァイオレットのみで、他の連中は見つからなかった。 オシュトルは自分の衣服を千切って、ヴァイオレットの傷口を押さえて止血した後、彼女を背負って臨也のところに戻ってきた。 臨也はすぐに、病気平癒守を取り出して、ヴァイオレットの傷を治療した後、安静できる場所へと運ぶよう提案――大倉庫を経由して遺跡内に戻ったところ、瀕死でありながらも、まだ息のあるロクロウを発見し、今に至っている。 「欠損した右腕以外の外傷は治療できたが、状況は、見ての通り、芳しくない。 これは、内側からの損傷―――さしあたり、体内に強烈な毒のようなものを混入されているように見受けられるが……」 無論、ロクロウにも病気平癒守の残使用回数を全て消費の上、傷の回復は行なった。 しかしながら、目立った外傷部については、塞がったものの、時間とともにロクロウの身は爛れていく、時々咳込むと同時に吐血している始末である。 オシュトル達は知る由もないが、これは無惨が攻撃の折、彼の血液を大量に、体内に混入したことが起因する。常人であれば、既に死に至ってもおかしくない程の猛毒ではあるが、業魔であるが故の強靭さで何とか堪えている状況だ。 「それも、あの『化け物』の攻撃によるものなのかな。 彼には是非とも詳細を聞きたいところなんだけどさ」 ロクロウは夜叉の業魔――人間ではないと、オシュトルから説明を受けている臨也からすると、ロクロウの生死自体には興味ないのだが、無惨の排除に向けて、必要な情報及び戦力は惜しいところであった。 そんな折――。 「……ん……、お嬢…様……」 眩い人口灯の元で、ヴァイオレットはその瞼を開けた。 「目が覚めたか、ヴァイオレット殿」 「オシュトル様……? ここは……?」 「やぁ、ヴァイオレットちゃん。気分はどうだい? ここは遺跡の中さ。君達二人が、気を失っているところを、俺達がここまで運んできたんだよ。 あっそうそう、さっきはドタバタしてたから、自己紹介がまだだったよね? 俺は―――」 「お嬢様は…!? お嬢様はご無事でしょうかっ!? それに新羅様、アリア様も――」 悠長に挨拶をしようとする臨也の言葉を遮り、ヴァイオレットは飛び起きると、焦燥感を募らせた表情を浮かべながら、二人に詰め寄った。 「ちょっと待ってよ、ヴァイオレットちゃん。 そんな一方的に質問されても、こっちとしても其方の状況が飲み込めてないんだよ」 「うむ、ヴァイオレット殿、まずは落ち着かれよ。 この場合、順を追って話を進めて、認識を合わせるべきだと考えるが……」 「――申し訳ありません……。取り乱しました……」 冷静さを欠いていたことを自覚したのか、落ち着きを取り戻したヴァイオレットは目を伏せる。 そんな彼女に、オシュトルは問い掛ける。 「まずは、ヴァイオレット殿から聞かせてくれぬか? 我等と別れた後、何が起こったかを……」 「畏まりました、それでは――」 ヴァイオレットは、一呼吸おいて、二人に向き合うと、事の経緯を静かに語り始めた――。 (――さて、彼女はどんな人間なんだろうね……) そして、そんな彼女に、臨也は熱い視線を送る。 彼女が語る内容だけではなく、彼女そのものを観察せんと意識を傾ける、いつも通りの情報屋の姿がそこにはあった。 ――ズキリ アヴ・カムゥに全力で叩きつけた拳が痛む。 しかし、彼はそれを表情にあらわすことはなく、いつも通りに人間観察に徹する。 病気平癒守を以って、この砕けた拳を治療することは出来たが、彼は敢えてそれを行わなかった。 この拳の痛みを、自らの戒めとするために―――。 (俺は、これからも、人間を愛し続けるだけさ……) そのように、自分に言い聞かせ、臨也はヴァイオレットの観察を続ける。 岸谷新羅は、最期まで彼の“愛”を貫いた。 なればこそ、臨也もまた、自分の“愛”を貫こうとする。 それは、もしかたら意地なのかもしれない。 心の中でぽっかりと空いた“何か”から、目を背けるだけの行為かもわからない。 それでも臨也は、人間を愛することを止めようとしない。 それが、折原臨也という人間の在り方なのだから――。 【E-4/大いなる父の遺跡/午後/一日目】 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:疲労(中)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感 [服装]:普段の服装(濡れている) [装備]: [道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅) [思考] 基本:人間を観察する。 0:一先ず、ヴァイオレットと情報交換をして、状況を整理する 1:『レポート』の内容は整理したいね 2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る 3:茉莉絵ちゃんを『観察』する。彼女が振りまくであろう悪意に『人間』がどのような反応をするのか、そして彼女がどのような顛末を迎えるのか、非常に興味深い 4:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だなぁ 5:平和島静雄はこの機に殺す。 6:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。 7:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。 8:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。 何が目的なんだろうね? 9:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃に興味。 10:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。 [備考] ※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。 ※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。 ※ Storkと知り合いについて情報交換しました。 ※ Storkの擬態能力について把握しました ※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。 ※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。 ※ 無惨を『化け物』として認識しました。 【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】 [状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み) [服装]:普段の服装 [装備]:手斧@現地調達品 [道具]:不明支給品0~2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ) [思考] 基本:いつか、きっとを失わせない 0:麗奈達と何が起こったのか、オシュトル達に話す 1:お嬢様……それに新羅様は……? 2:その後のアリアが心配。ご無事だと良いのですが……。 3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。 4:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う 5:手紙を望む者がいれば代筆する。 6:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。 7:ブチャラティ様が二人……? [備考] ※参戦時期は11話以降です。 ※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。 ※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 ※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】 [状態]:健康、疲労(大)、全身ダメージ(中)、強い覚悟 [服装]:普段の服装 [装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃 [道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達) [思考] 基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する 0:一先ず、ヴァイオレットと情報交換をして、状況を整理する 1:ロクロウを蝕んでいる毒(無惨の血)の治癒方法を探る 2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る 3:『レポート』の内容は整理しておきたい 4:クオン、ムネチカとも合流しておきたい 5:マロロ、ヴライ、無惨を警戒 6:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探しておきたい。 7:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない 9:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。 10:誰かに伝えたい『想い』か……。 [備考] ※ 帝都決戦前からの参戦となります ※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。 ※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。 ※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。 ※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。 【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】 [状態]:気絶中、全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損 [服装]:いつもの服装 [装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア [道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2 チョコラータの首輪@バトルロワイアル [思考] 基本:シグレ及び主催者の打倒 0: ―――。 1: 手に入れた首輪を、オシュトルの元へ届ける 2: シグレを見つけ、倒す。 3: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが…… 4: ベルベット達は……まあ、あいつらなら大丈夫だろ 5: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが… 6: シドー、見失ってしまったが、見つけたら斬る 7: 久美子達には悪いことしちまったなぁ…… 8: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。 9: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。 [備考] ※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。 ※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。 ※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 ※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。 ※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。解毒を行わない限り、数時間以内に絶命します。 ■ 支給品紹介 HsAFH-11@とある魔術の禁書目録 折原臨也に支給。 通称『六枚羽』。学園都市最新鋭の無人攻撃ヘリで、一機で250億円ほどする超高級品。 このバトルロワイアルでは、主催者側により改造されており、付属するリモコンで指定されたプレイヤーを攻撃するようになっている。 ※無惨との戦闘により墜落及び大破。機動不可となり、E-4エリアで放置されております。 前話 次話 Revive or Die Again(後編) 投下順 水面下で絡まる思惑 前話 キャラクター 次話 奏でよ、狂騒曲 折原臨也 たとえようのないこの想いを 奏でよ、狂騒曲 ウィキッド 眠れる森の魔女 奏でよ、狂騒曲 鬼舞辻無惨 水面下で絡まる思惑 奏でよ、狂騒曲 高坂麗奈 とある少女の薄明邂逅(エンカウント) 奏でよ、狂騒曲 ロクロウ・ランゲツ たとえようのないこの想いを 奏でよ、狂騒曲 神崎・H・アリア GAME OVER 奏でよ、狂騒曲 オシュトル たとえようのないこの想いを 奏でよ、狂騒曲 岸谷新羅 GAME OVER 奏でよ、狂騒曲 ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン たとえようのないこの想いを
https://w.atwiki.jp/otome-gamecatalog/pages/86.html
DEAR My SUN!! ムスコ☆育成☆狂騒曲 通常版 DEAR My SUN!! ムスコ☆育成☆狂騒曲 限定版 タイトル DEAR My SUN!! ムスコ☆育成☆狂騒曲 メーカー D3 PUBLISHER 発売日 2007/9/6 機種 PS2 カテゴリー ムスコ育成シミュレーション 対象年齢 CERO『B』 CV 伊藤健太郎/岡本寛志/小野大輔/柿原徹也/神谷浩史/岸尾だいすけ/楠大典/子安武人/坂口大助/下和田裕貴/関智一/竹本英史/遠近孝一/根本幸多/三浦祥朗/宮野真守 …他 備考 攻略サイト peche SIGNPOST wiki
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/419.html
ある日曜の朝7時、アムロは兄弟全員を叩き起こし、ある一枚のチラシを示した。 アムロ「みんな、聞いてくれ。俺たちは兄弟でチームを作り、この大会で優勝する。いや、しなければ ならない」 休みぐらいゆっくり寝かせてくれよ、とでも言わんばかりに目をこすったり、うなだれたりしていた 兄弟達の多くが寝ぼけまなこをあげると、アムロの持っているチラシには「サッカートーナメント大会、 参加者募集中」という文字が大きく躍っていた。アムロは続けた。 アムロ「このところの騒動やなんやかんやの補償や修理で、うちの貯金は尽きてしまったんだ。この大会の 賞金であろうことか生活費を稼がなきゃならん。」 ジュドー「サッカー大会? そういや、ビーチャたちに誘われたな。確か賞金百万円とか何とか……」 ジュドーがまだ目をこすりながら言った。 ロラン「副賞の全自動大型洗濯機も必要なんです。このところ洗濯機の調子が悪くて。無理させてきま したからね」 ロランがアムロの後を継ぐ。アムロとロランの間ではすでに話が通じているのだ。 カミーユ「しかし、賞金百万円なんて、まるで『稲○卓球部』の卓球大会みたいだな。あれは50万だったっけ」 カミーユはあくびをかみ殺しながら呟いた。 ガロード「でも、なんでサッカー?」 ガロードの問いにシーブックが答える。パン屋のバイトのおかげで早起きには強い。頭ももうだいぶ働いて いる。 シーブック「ドモン兄さんの格闘大会も近々にはないから臨時収入は見込めないし、それに俺たちは運動神経 は結構いいほうだからじゃないか」 ウッソ「そういや、僕やジュドー兄さんはよく運動部に誘われてるよ。ヒイロ兄さんなんか引く手あまた」 ウッソが続けたあとにアムロは頷き、 アムロ「シローは警察官でコウは大学のラグビー部。ドモンに至ってはプロの格闘家だ。カミーユは空手を やっているし、ロランやシーブック、ガロードだって運動は得意なほうで体力には自信あるだろ」 ドモン「しかし、いくらなんでもそう簡単にいくのかよ、アムロ兄さん」 ドモンの言葉に兄弟達の多くは同意するところがあるようで、異議を唱えるものはいない。アムロはそんな 兄弟達をぐるりと見回すと、強い語調で言い切った。 アムロ「金が無い。優勝するしかないんだよ、この一ヵ月後のサッカー大会で」 しばしの沈黙の後、いつものように淡々と、ヒイロが口を動かした。 ヒイロ「サッカー大会での優勝……任務了解」 それをきっかけに、次々と兄弟達が口を開く。 ジュドー「まあ、お金が無いっていうなら、やるしかないってことみたいね。いっちょやりますか」 シーブック「しかし、いきなりサッカー大会か。なんとー、て感じだよ」 コウ「ラグビーの技術を生かして頑張るか。今回は俺が主役さ、なんてね。どうせ地味な役割だろ。それもいいさ」 シロー「大会の日、非番にしてもらえるかな」 アル「シロー兄さんがだめだったら、僕が出るよ」 シロー「アルは流石に無理だろ。大丈夫、ちゃんと休みにしてもらえるようにするさ。応援頼むぜ」 アル「僕だって、この前の体育の授業で一点決めたんだ。応援なんてごめんだよ」 ガロード「よし、まずは食うことからはじめるか」 俄然やる気になってきた兄弟達だったが、たった一人だけ、キラは妙な空気を抱え込んで、アムロを 問い詰めた。 キラ「なんで、僕のことは言ってくれなかったんだよ。コーディネーターの僕なら主力として……」 アムロとロランは気まずそうに顔を見合わせると、すまなそうにキラに言った。 アムロ「キラ、コーディネーターはいわば反則扱いで、試合には出れないルールなんだ」 ロラン「で、でもそのぶん練習ではみんなのことを充分鍛えてもらって、ね、キラ、泣かないで」 しかし、ロランのなぐさめも空しく、やっぱりキラは泣き出してしまった。 キラ「な、仲間はずれ、だ。うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ」 アムロ「前途多難ってことの暗示か? やれやれだな」 アムロはふっと、溜め息を吐いた。 朝食が終わると、アムロは一枚の大きな紙をテーブルの上に広げた アムロ「じゃあ、今のところのポジションを発表する。ちなみに長兄の俺はプレーイングマネージャー、 つまり選手兼監督だ」 FWアムロ FWカミーユ MFジュドー MFウッソ MFヒイロ MFロラン DFガロード DFシーブック DFシロー DFコウ GKドモン リザーブ FWアル コーチ キラ カミーユ「4-4-2か」 アムロ「これは今のところだから、変わるかもしれないが、不動のポジションだけは告げておく。まず、 ドモン、お前はキーパーだ」 ドモン「ああ。俺のこの手が(以下略」 ジュドー「格闘家はキーパーと、『キャ○テン翼』の時代から決まってるのね、やっぱり」 ガロード「わかし○づ君、な」 アムロ「シローとコウ、センターバックには体格が欠かせないから、ウチじゃお前たちだ」 コウ「ああ。こりゃ、責任重大だな」 シロー「スパイクがはき潰れるまで止めつくしてやる」 アムロ「ヒイロ、お前には相手の攻撃の目を潰してもらう。豊富な運動量に加え、当りの強さも必要な いちばん体力的にキツイ役割だ。お前は背は低いが、身体能力ならドモンにも負けない。頼むぞ」 ヒイロ「任務了解。相手には中盤での自由は与えない」 アムロ「ジュドーやウッソ、ガロードはまだ体ができてないから、比較的プレッシャーの少ないサイドで プレーしてもらう。ただ細かいポジションはまだ決定じゃないけどな。以上だ」 アル「ちぇ、僕はやっぱり控えじゃないか」 ロラン「アルは秘密兵器です。スーパーサブってやつですよ」 アル「嘘つき。まぁ、応援がんばるよ」 キラ「僕なんか、選手としての登録も無理。……いや、もう泣き言は言わないよ。しょうがないからね」 第一回のミーティングを終えて、兄弟達はそれぞれに期待や不満を抱えていた。そんななか、ジュドーは ある重要なことに気が付いた。 ジュドー「あのさ、ユニフォームはともかく、試合の時のスパイクはどうすんの」 アムロ「それなんだが、そろえる金も無い。だから、お前らの学校からなんとか都合してくれないか。古く なったのをもらってくるとか、借りるとか。なんとか試合の一週間前には揃えたいんだが」 アムロは情けなく言うしかなかった。ジュドーは渋い表情を作る。 ジュドー「そんなにうまくいくわけないじゃない。どうすんのさ」 ガロード「ロラン兄、ここはひとつグエン卿のところに行って……」 言いかけたガロードに、ゴツリ、とシローのゲンコツが落ちる。 シロー「ロランに体を売らせる気か!」 カミーユはシローをなだめて嘆息した。 カミーユ「そこまではグエン卿も要求しないよ。でも、あの人に借りを作るのは恐ろしいな。いや、ロラン ディアナ様に頼めば……」 ロラン「そんな物乞いみたいな真似、できません!」 にべもなくロランは突っぱねる。そこらへんは強情だ。シーブックはヒイロのほうを伺ったが、こちら も当然の如く、断固拒否の文字を顔に刻印している。リリーナに頼むこともできなそうだ。 コウ「まいったなぁ。シーマさん、いや、だめだ。あのひとも借りを作ったら怖い……」 何の打開策も浮かばないまま、兄弟達が顔を寄せ合っていたそのとき、ある聞きなれた大声が突然 ふってきた。 ギム「小生、話は立ち聞きしていた。今日は日曜にしてはやけに朝食が早かったが、そういうことか」 キラ「今はあなたなんかにかまっている暇はないんですけど」 宿敵の登場にいきなり嫌味をかぶせようとしたキラを無視して、ギンガナムは胸を張って宣言した。 ギム「小生も、この家にはずいぶんとお世話になっている。そう、小生ギム・ギンガナムが一肌脱ごうと いうのである。ユニフォーム、スパイク、その他の必要品すべて、さらに練習場所の確保まで、我が ギンガナム家が賄おう」 ロラン「本当ですか!?」 カミーユ「おい、何をたくらんでいるんだ」 椅子から腰を浮かして喜ぶロランを制して、カミーユは疑いのまなざしをギンガナムに突きつけた。 ギム「ふっ、日ごろの礼だよ。しかし、まあ、確かに交換条件があるのである!」 アル「いったい、何?」 当然の権利を主張すべくギンガナムは再び宣言した。 ギム「小生もチームに入れるのである。ポジションはセンターフォワード。もちろんスタメン、という よりエースとして扱うのである!そして、チームの名前はFCギム・ギンガナム!」 横暴な要求に、兄弟達は一瞬沈黙。そののち、一気に反撃に出た。さらにはそこから、エースは自分だ、 というカミーユとジュドーの言い争いやら、自分もFWにしろ、とガロードが言い出したりして、収集が 付かなくなる。最後にはロランが一喝して、なんとか静けさを取り戻すことができた。アムロは、そのとき になってようやく口を開いた。 アムロ「ギンガナムさん、いいですよ、その条件。ただ、エースとかはこっちで決めさせてもらいます」 ギム「む、まぁ、小生の実力ならエース間違いなしだから、公平にやってもらえればよいのである」 アムロ「それは約束します。ウチは勝たなきゃなりませんから、私心なんて入れてる場合じゃないんでね」 そう言うと、アムロは右手を差し出した。ギンガナムもその手を握り返す。交渉成立だ。 アル「じゃあ、チーム名はFCギム・ギンガナムなの!?」 キラ「というより、その男のチーム入りを認めるの!? アムロ兄さん」 アムロは鷹揚に頷いた。素早く目を見交わしたロランが、不平を言い出す他の兄弟をなだめる。 ロラン「まあ、スパイクが無ければ話になりませんし、チーム名なんてどうでもいいじゃないですか」 カミーユ「カミーユ・ユナイテッド……」 ジュドー「レアル・ジュドー……」 ガロード「ACティファ……」 ギンガナム加入に関してはそのほかにも様々な疑問が提出されたものの、最後にはアムロが、 アムロ「みんな、俺が監督だ。つまり、決定権は俺にあるんだ」 の一言で強引にねじ伏せた。 実はアムロ(とロランも)はギンガナムの加入を心底歓迎していた。昨日ロランととりあえずの ポジションを決めた時、二人はまずディフェンスを優先した。ドモンはキーパー、ヒイロは潰し屋と、 最も身体能力の高い二人をディフェンスのためのポジションに配置し、兄弟のなかでは体格のいい コウとシローでCBを構成する。最悪の場合0-0でPK戦に持ち込み、ドモンのセービングで勝利する、 という勝つよりも負けないための考え方である。だが、もちろんできれば90分以内に点を取って 勝ちたい。そのためには、攻撃時に皆がボールを放り込むターゲットになれる、大きくて強いFWが 欲しかったのである。ギンガナムの体格ならば、それが可能だ。ギンガナムの加入はまさに的確な 補強だったのである。加えて、兄弟の中でもウッソはフル出場するのはきついだろう。アル以外に一人、 交代要員が出来るのもありがたかったのだ。 しかし、今回のギンガナム加入劇は、チームの結びつきに影を落とすかもしれない。それが、アムロ とロランの唯一にして最大の気がかりだった。 続く link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ ガンダム一家 ギム・ギンガナム フットボール狂騒曲 長編
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/552.html
374 名前:フットボール狂騒曲・番外編1投稿日:04/01/19 02 32 ID ??? ドレル「ザビーネ、僕らは勝っていれば今日のピッチに立てただろうか」 ザビーネ「正直、五分五分というところでしょう」 ザビーネはここで話を続ける気は無かったので結論だけを素っ気無く答えた。 計算するまでもなく二回戦を勝てば決勝戦なのだから、確率五割なのは当たり前のことだ。 ドレル「そうかな?ジャムル・フィンは僕らのチームで勝てない相手ではないだろう」 ザビーネ「…ドレル様、今は目の前のことに集中して下さい。ハーフタイム中にこのお客の列を処理しなければ」 声を潜める2人に列に並んでいたシーマがいつもより更に顔の小じw (担当者は更迭されました。代理がこの先を書きます) 若々しいシーマ様はしつけのなってないパン屋の店員に寛大に言われました。 シーマ「最近のカロッゾパン店はサービスの質が落ちたねえ?早くしな。四十秒だけやるよ」 ドレル「も、申し訳ありません(15人分頼んで無茶言うな!)」 FCギム・ギンガナムに初戦敗退したSCクロスボーンのキャプテン、パン職人鉄仮面(カロッゾ)の長男のドレルと、 助っ人でチーム入りした店員のザビーネは、決勝戦のこの日、スタジアムにパン屋の出店を出していた。 既に臨時の営業許可を取っていて、出店命令を出した鉄仮面曰く、 鉄仮面「草サッカーの試合でスタジアムの9割が入っているとなれば、こうもなろう! お前たちが勝っていれば、シーブック君にやらせたのだがな」 ドレル「ならばベラも呼びましょう。なれば我らカロッゾパンの売り上げもより確実」 鉄仮面「ならん。お前たち二人でだ。サッカーで負けて雪辱を果たすそうだな? ならばパンの販売でコンビネーションを培うが良い」 ザビーネ「…わかりました。このザビーネ、名誉にかけて」 ドレルに拒否権はもはや無く、夜中まで翌日の試合のためのパン種の仕込みも手伝わされたのだった。 翌日、ドレルとザビーネは店用のワゴン車にパン種を積んで試合会場のスタジアムへ。 また、ベラことセシリーもボーイフレンドのシーブックの応援に試合会場へ向かった。 一人店番に残った鉄仮面曰く、 鉄仮面「娘の邪魔をして敵に回すわけには行かんからな…」 父親の哀愁漂うその背中を見たのは、ペットのオウムのハロ一羽だけだった。 375 名前:フットボール狂騒曲・番外編2投稿日:04/01/19 02 36 ID ??? 試合開始直前、FCギム・ギンガナムのピッチに近い最前列の2つの席に陣取っている少年が一人。 生徒会長ドワイト・カムリその人だ。 せかせかと後ろを振り返っていた彼は、やっと待ち人が来たのを見つけて立ち上がった。 ドワイト「ここだよセシリー!」 セシリーは、なぜかイスラム教徒の女性のようにスカーフで目から下を隠してうつむいていた。 ドワイト「いやあ、草サッカーに予約が殺到するとは思わなくてね。何とか最前列確保できたよ」 するとセシリーの後ろから現れたドロシー・ムーアが、 FCギム・ギンガナムのマークをペインティングした頬をほころばせ、 ドロシー「あたしの分も取ってくれるなんて、さっすが生徒会長良い仕事するねえ。ありがと」 そう言ってセシリーを座らせ、ドワイトが座っていた席には自分の荷物をどっかと置いた。 ドワイト「ちょ、ちょっと、そこは僕が取った席じゃないか。セシリーも何とか言ってくれないか?」 セシリーはうつむいたままだった。ドロシーの方は徹底的にドワイトからセシリーをガードする気か、 ドロシー「あ、試合見たかったの?ごめん、じゃああたしの席と交換してあげるから」 と自分のチケットを押し付け、 どこで入手したのかFCギム・ギンガナムのレプリカユニホームをバッグから取り出していた。 ドワイトは仕方なくドロシーに渡された席の場所に行った。 周辺はレプリカユニホームの集団で埋め尽くされていた。 FCギム・ギンガナム・オフィシャルサポーターズこと、ギンガナム隊一同だ。 ドワイトの隣に三つ空いていたが、 すぐに一杯のお菓子を抱えて来たスモウレスラーのような巨漢が一人で埋めてしまった。 ドワイトはお菓子の量にも驚いたが、巨漢の風体にはもっと驚いた。 ユニホームに似せたボディペインティングだったのだ。 彼、スエッソン・ステロに合うサイズのユニホームはついに間に合わなかったのである。 ところでセシリーだが、彼女はレプリカユニホームを売りつけてきたギンガナム隊に、 頬にマークをペインティングされただけではなく、目の周りはギンガナムのような隈取りまでされてしまっていた。 あまりな御面相になってしまい、ドワイトからは顔を隠していたのだが、 試合が進むやどんどんエキサイトしてきてスカーフをかなぐり捨て、髪を振り乱して夢中で応援していた。 隈取りは汗やらでぐちゃぐちゃに溶け、いよいよものすごい御面相と化しているのも、構うことなく。 link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ ザビーネ・シャル セシリー・フェアチャイルド ドレル・ロナ フットボール狂騒曲
https://w.atwiki.jp/zillollparody/pages/153.html
日々これ好日。世界の危機もなんのその。仲間がいれば乗り切れる。 そんな気楽な考えを持つ無限のソウル、アレフ。 彼とそのパーティのなんとも気楽な日々。きっとみんな気楽になる。 「肩の力を抜いて、難しい事は考えないで。世の中意外となんとかなるって」 草原に寝転んで、からから笑って、隣で難しい顔をしているアイリーンを慰める。 ちなみに難しい顔をしている原因は俺。訓練がてらやった勝負で勝ったから。 「なんで勝てないのよ!ああ…なんで…」 見事なくらい凹んでる。パーティを離れていた間に相当修行していたみたいで、自信満々で挑んできた。 それだから、落ち込みだすと底が見えないらしい。プライドが粉々になったから仕方ないと言えばまあ…。 「アイリーンは決して弱くないと思う。というかそこらの剣士じゃ相手にならないくらい強い。 ただ、ちょっと堅すぎるかな。型にはまったような戦いかたをする。そこを突けば、俺ぐらいの腕があれば負けないよ」 俺の戦い方は完璧に我流だ。周りにあるものを全て使う。 朝日を背にして相手の目をくらます。雨音で気配を消す。闇夜に紛れて一撃をかます。 そういう戦法は、アイリーンにとって未知の存在なんだろう。相性が悪いとしか言いようがない。 「じゃあ、どうしろっていうの?アレフに勝たなきゃ、私はカラを破れないのよ」 どうしろ、か。こういう戦法は教えられるものではない。自分で会得しなきゃ付け焼刃で終わる。 教えてくれって言われても困る。経験しろとしか言いようがない。 「経験…あ、そうか」 座っていたアイリーンの腕を引っ張って、無理やり寝転がさせた。 アイリーンは少し暴れたけど、教えてやるから寝ていろ、と言ったら素直に従った。 「何を教えてくれるの?」 「さて、今は何が見える?」 質問に質問で返した。アイリーンは素直に周りを見渡している。 「…?空。あとは…木、草。それからアレフ。それがどうかした?」 「そう。それでいい。さっきも言ったと思うけど、肩の力を抜いて、難しいことなんて考えないで。 俺の戦い方は自由。自然にあるものを全部使う。晴れていれば太陽を、雨なら雨を。 葉っぱ一枚、小石の一つまで使う。俺に勝ちたいならそれらを使いこなすこと。そういうものを使いたいなら、周りを見ること。 ゆっくりと息をして、体を空気に溶かす。そうすれば、もっと自由になれる。戦法に決まりはない。 自由になってみなよ、アイリーン。決まった型で勝ち続けられるほど、戦争は甘くない」 アイリーンのほうを向いた。アイリーンはまだ空を眺めている。 「相変わらず、アレフは私の理解を超えているわ。それが無限のソウル…」 アイリーンがこっちを向いて、少し微笑んだ。可愛い微笑み。 少し動いて、意外と華奢な体を抱きしめた。アイリーンは静かにしている。 「もっと、アレフを知ってみたい」 「奇遇だね。俺もアイリーンをもっと知ってみたいと思ったところ」 抱きしめたままキスをして、ゆっくりと服を剥いでいく。 「なんだか、すごくドキドキする」 「いいんじゃない?それはそれでさ」 「うん…」 それから、夜になるまで、ひたすら睦みあっていた。 「くー、くぅ…」 疲れ果てたアイリーンが眠っている。俺は火の番。 明日も晴れるといいな。世界を覆う暗雲、全部晴れればいい。 「…やれやれ」 晴れればいい、なんて他人任せか。俺がこの手で晴らせばいい。 俺の手にはその力があるのだから。 「ほらほら、お兄ちゃん、もっと飲んで!」 「こら、ヴィア。あんまり調子に乗っちゃダメよ」 宿屋にて。ヴァイライラとヴィアリアリ。この二人の酒に付き合っている。 なんだってこんなことに…。こんな状況、嫌いなのに…。 すでに二人とも出来上がってる。初めて知ったけど、二人とも笑い上戸なのね。 「ほらほら、さあさあ!」 手にしたグラスへ向けてブランデーの瓶が傾けられる。琥珀色の液体がグラスを満たした。 「お兄ちゃん!一気だよ!」 ヴィアリアリに急かされて、一気飲み。うん、美味い。 「それにしても、アレフ様はやっぱりすごい。そんなに一気に飲んでも、顔色一つ変えないなんて」 「まあ、そりゃあね」 だって、そのブランデーの瓶、中身はお茶だから。すりかえておいたんだよ。 ブランデーをそんなに飲んだら死んでしまう。だって弱いから。 「ほらほら、俺ばっかり飲ませてないで、二人とも飲みなよ」 二人が持っているグラスにワインを注いだ。何度目かわからない乾杯をして、三人で飲む。 二人とも、お願いだから早く潰れてくれ。そのブランデーの瓶がカラになったら嫌でも酒を飲むしか…。 「んふふー。美味しい。ところでお兄ちゃん、私達を酔わせてどうするつもりー?」 「いやね、ヴィア。そんなの…ねえ?」 物凄い色目。なんでそんな目で俺を見るんだ?言っておくけどそんなつもりはないぞ。 大体、俺は女性を抱くならきちんとした気持ちがないと出来ないんだし。 「酔った勢いなんて嫌だ。二人とも、飲みすぎじゃないか?」 「何言ってるの、まだまだ素面~!」 ヴィアリアリ…。ヴァイライラ、こいつをなんとか…。 「そうですよ、アレフ様。私達はまだまだこれから」 なんとかしてくれよ!普段と違って悪ノリするあたり、どう見ても大丈夫じゃないな。二人とも。 ああ、なんだってこんな…。俺か、俺が悪いのか。酒に付き合った俺のせいか。 「そうそう。だから、その証拠に…」 「お、おい!」 急に立ち上がって、どうやら軽業をしたかったみたい。でも、見事にバランスを崩して、そのまま床に…。 「…ふう」 落ちなかった。なんとか体を滑り込ませて、ヴィアリアリを抱きとめるのに成功した。 良かったよ。打ち所が悪けりゃ最悪死ぬから…。 「ほら、立てる?もう寝たほうがいいよ」 体を離して、手を取った。酒を取り上げてさっさと寝床に運ばないと、ほんとに危ない。 「立てないよぉ。お兄ちゃん、抱っこ~」 よし、小言タイムだな…いや待て。酔っ払いの言うことに一々反論してもしょうがない。 ここは大人しく従っておくか。無理はしないに限る。 「よ…っと」 軽い体を抱き上げて、ベッドまで運んだ。暴れるかと思ったけど、首に抱きついてくるだけで、それ以外は大人しいものだ。 ベッドに降ろして、離れよう…とした。 「…お兄ちゃん、優しいね。それに、この腕…逞しいし、大きいし…いいなあ」 左腕を放してくれない。しかも、腕を抱いたまま寝息を立て始めた。 うーん…まずいな。あんまり長居しているとヴァイライラが怒…。 「アレフ様。ずいぶん楽しそうですね?」 「や、やあ…」 まずい、まずいぞ。ヴァイライラからは殺気が感じられる。下手すりゃ大変な事に…。 考えろ、考えるんだ。この状況を脱出するためには…。えーっと…。 「やっぱり、愛嬌のあるヴィアリアリのほうが可愛いんですよね?」 思い浮かんだ作戦はかなり危ないが…ええい、やってみるしかない! 「ヴァイライラ」 空いている右腕で、ヴァイライラを抱き寄せた。突然の事でびっくりしている。 「二人に優劣なんてつけないよ。二人とも、大事な人なんだから。だから、一緒にいようよ」 ベッドに倒れこんだ。ヴァイライラは少しだけ恥ずかしそうにしていて、その後、静かな寝息を立てた。 右腕はヴァイライラ。左腕はヴィアリアリ。挟まれた俺は身動き取れず。 男子冥利に尽きると言うべきなんだろうか、それとも男子最大の不幸と言うべきか…。 ま、いいや。寝よう…。 「あら、アレフ」 「やあ」 ヒルダリア。何の気なしに遊びに来てみた。たまには顔を見せないと怒られそうだしね。 ここに来たのは…以前海賊になることを無理やり約束させられた時以来か。 「久しぶりね。えーっと…175日ぶり。私をこんなに放っておいて何をしていたのよ?」 …よくそんなにしっかり覚えているな。俺も大体半年ってだけしか覚えてなかったのに。 それよりこの棘っぽさはなんとかならないのかな…。放っておいたわけじゃないんだけど。 「何かと忙しくて、遊びに来ようにもそれどころじゃないって感じだったから。 色んなゴタゴタがひと段落したから、ゆっくりしようかと思ってね。…ま、すぐに戦いだけど」 最後は呟くぐらいの声量しか出なかった。それでも聞こえていた。 「そう…」 さっきまでの棘っぽさはどこにやら、ヒルダリアは随分がっかりした様子。 普段は感情を殺しているのが多いけど、珍しくわかりやすい。 「とりあえず、ゆっくりしていきなさいよ。酒も食べ物も用意できるわ」 「うん」 酒に関しては本気で拒否するけど、食べ物はありがたい。 旅暮らしだとどうしても寝食は粗末になる。大陸全土が揉めてるせいか、宿屋ですらまともな食べ物がなかったりするしね。 その点ここはいいな。金のある船のみ襲っているだけはあって、食べ物は相当いい。 「で、どんなことがあったのよ?半年も離れていたんだもの。話ぐらいあるでしょう?」 「そうだな…」 話の種は尽きない。見たもの、聞いたこと、出会い、別れ、戦。いくらでも話せる。 ヒルダリアは楽しそうに聞いていた。潮気のない話を聞くのは少ないから、と。 話も段々と他愛のないものになっていく。それでも、楽しかった。 「…もうこんな時間か」 いつの間にか夜。ほんとは今日中に帰ろうかと思ってたけど、今から未開の森を抜けるのは危ないかな…。 「ヒルダリア、一緒に寝ない?」 「え!?」 我ながら直な誘いだと思う。でも、彼女にはこれがいいんだ。回りくどいのは嫌いだから。 ヒルダリアはしばらく考えていたけど、頷いてくれた。 「目を閉じてくれないかな?」 「嫌。目を閉じたくないわ。あなたを、ずっと見ていたい」 服を優しく脱がせている時も、キスの時も、彼女は目を閉じなかった。 閉じてくれ、という言葉とは裏腹に、俺にもそんな気持ちはあった。 だから、俺も目を閉じない。見詰め合ったまま。ずっと。 「あなたに抱かれると思うのが嬉しい。捨てたはずなのに…私も女なのね」 「それでいいんだよ。海賊の頭だからって、無理をして演じる必要なんてないんだ」 目を開けたまま、見詰め合ったまま、溶け合った。 「もう行くの?」 翌朝。まだ朝霧が晴れていないような時間。 「居心地がいいんだよ、ここは。すぐに帰らないと、長居しちゃうから」 じゃあね、と言い残して、未開の森へと足を向けた。 背中からは、少しだけ甘い匂いがした。 「アレフ…」 リベルダムに寄ったので、ついでにクリュセイスに逢ってみた。 思い出せば色々ないざこざがあったけど、今はまあそれなりに仲良くやってる。 「とりあえず、お茶でも飲んでいきなさい」 「ああ」 以前と比べれば、大分柔らかくなったな。態度もそうだし、気構えにも余裕が見える。 とはいえ、解放軍はまだまだ若い組織。苦労は絶えないだろうけど。 「以前と比べればこの街もまとまってきたわ。あなたからの資金援助も効いている。 それから、竜殺しの異名もね。改めてお礼を言わせて。ありがとう」 生真面目だねぇ…。そこがいいところなんだけど。 「気にしないでくれ。金なんざ有り余ってるし、二つ名なんて成り行きだしね。 しかし、俺の名前まで使うとは、したたかになったもんだ」 「悪かったわね…」 ちょっとむっとしたような感じの表情。褒めたつもりなんだけどね。いいわけしとこうか…。 「前みたいな深窓のお嬢様じゃなくなったってことだよ。 今までのようなやり方じゃ、出来上がったばかりの解放軍なんてまとめられない。 いい変化だと思うよ。きちんと『頭』やってるってことだから」 「そ、そう?」 もう笑顔。素直というかなんというか。やっぱりもっと感情を隠せるようにはなってもらいたいな…。 海千山千の古狸を空いてしなければならないんだから、このままじゃいいカモだよなぁ。 「もうちょっと大きくなるべきかねぇ…」 「何が?」 いかん、声が出てた。無かったことにするのもあれだし、この際ビシっと言っておこうか。 それが本人のためだろう。長く解放軍に在籍するつもりなら尚更。 「はっきり言わせてもらうけどさ、クリュセイスってわかりやすいよね」 「わかりやすいって?」 「感情が表に出やすいってこと。今だってそう。きょとんとした顔をしてる。 …これからは老獪な相手に交渉することだって多いはず。 そんな相手にこっちの感情が見えているんなら、交渉は向こうのいいように丸め込まれるよ? だからさ、もっともっと感情は隠したほうがいい。心の中はどうあれ、上っ面は無表情。これがベスト」 クリュセイスはちょっと考えてる。俺の言っているのは道理…のはず。多分。 しばらく考えていた後に、顔を無表情にしてみせた。 「練習しましょう。アレフ、何か言ってみて。できるだけこの顔を保ってみるわ」 …そうだな。この際だから悪戯してみるか。 「クリュセイス」 「はい」 「君が好きだ。誰よりも…愛しています」 クリュセイスの手をとって、口付けた。 「………」 お、すごいな。見事に無表情じゃん。要はやれば出来る子なのね。 「…?」 いつまで無表情なんだろ。喋らないし。 クリュセイスはそのままで、少しずつ前のめりに…!? 「っとっと!」 なんだ、気絶したのか!?おいおい、そんなにショックだったのかよ…。とりあえず、起こさないと。 「はっ!」 声をかけても起きず、背中に活を入れて、ようやく意識を取り戻した。戻った瞬間、顔が真っ赤に。 「え、ちょ!アレフ!い、いまのはいったいどう…ああ、頭が…」 いい感じに壊れてるな。逃げよう。このままだとすごくまずいことになりそうだから…。 「じゃ、後はよろしく!じゃあな!」 赤くなったり青くなったりしているクリュセイスを解放軍に任せて、リベルダムを去った。 「お…も、い…」 山のような荷物を抱えて、ロセンの街を歩いている。抱えるというか、背負ってもいるけど。 「ほらほら、アレフ。次はあの店に行こうよ」 ユーリス。街の中でばったり出会い、見事に捕まった。なし崩し的に買い物に付き合わされている。 それにしても…俺を殺す気か?なんか恨まれるような事したんだろうか…。 「なんだか荷物が歩いているみたい!きゃっ!」 笑うな!それもこれも全部お前のせいだろうが! いや、落ち着け。怒ったところで始まらない。とりあえずは休憩しよう。 「きゅ…休憩しよう」 「あ、そうね。そう言えばもうお昼だもん。ご飯にしよう!アレフ、おごってね」 なんでだ?なんで俺がおごらにゃならんのだ?金はあるから構わないけど、なんか腑に落ちない。 まあいい…骨休めできるなら…。 「いらっしゃいませ。2名様ですか?」 「うん」 昼時ってせいもあるだろうけど、混んでいる店だ。空席はぱっと見ただけじゃ見つからない。 これはしばらく座れないかと思っていたけど、運良く一番奥の席が空いていて、すぐ座れた。 「ご注文は?」 「うーん…シカ肉のスープ、パン、シーフードサラダ。あ、それからフルーツの盛り合わせも」 「あ、それ美味しそう。私もそれで」 「かしこまりました。少々お待ち下さい」 ああ、ゆっくりする。文字通り肩の荷が下りた。でも、心は休まらない。 「で、その時はもう本当に危なかったの!多分あの時にみんなから恨み買ったのね…」 「そりゃそんなことしてれば恨まれもするんじゃないか…」 料理を待つ間も、ユーリスは喋りっぱなし。こっちは疲れてるのに、なんというか、エネルギッシュだ…。 「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」 テーブルいっぱいの料理。結構なボリュームのある店だね。いいことだ。 ユーリスはよっぽど腹が減っていたのか、喋るのを忘れて夢中で食べてる。 ガシャン! ん、誰か来たのか。まあいい。食おう。 「うーむ…いけるな」 スープはきちんと下ごしらえされているみたいで、雑味がしない。人気があるだけの事はある。 『金を出せ!それから酒もだ!この剣は切れ味がいいんだ。少しでも暴れさせれば、血が流れちまうぞ』 「このスープ、うまいね」 「うん。シカ肉ってこんなにおいしかったのか、って感じ」 いやいや、全く。こりゃ残りのものも期待出来そうだな。どれ、次はパンでもかじってみるか。 『さっさとしやがれ!それから、客の奴等は壁に手をつけな!変な動きされちゃ困るんでね』 「このパンもうまいなー。柔らかいし、風味がいいよ」 「サラダも美味しい!魚も新鮮だし。ドレッシングにこだわっているのかな?」 そうなの?それじゃ一口…お、これはうまいな。ドレッシングの爽やかな風味が生臭さを消してる。 この店は当たりだ。後でまた来よう。でも、もうちょっと静かなら言うことないんだけど…。 『そこの兄ちゃん、大人しく従いな!さもなきゃ、首と胴が泣き分かれになっちまうぜ!』 しばらく談笑しながら食べていて、残った皿はフルーツの盛り合わせ。一口食べてみたら、美味い! 「この果物、なんていうのかわかる?すごくまったりしていて美味しい!」 「さあ…あんまり詳しくないからなんとも…」 俺もちょっと気になったけど、食材の事なんてよくわからないよ。ま、美味いからいいっしょ。 「従えって言ってるだろうが!」 間近で大声が聞こえたので、その方を向いてみたら、剣を構えた大男。なんだこいつ。 「痛い目を見なきゃわからねえみたいだな!」 剣を振り下ろそうとしてきた。でもさ、腹が留守だよ? 「ぐ…っ!?」 思いっきり鳩尾に当身を食らわせた。怯んだところに、たくさんの客が押さえつけにかかる。 人気者は羨ましいね。まったく、せっかくの昼食が台無し…。 「て、てめえ、何者だ…?」 人の群れから顔だけ出して、俺を睨んできた。 「割と普通の只者です。店員さん、お会計」 払いを済ませて、荷物を抱えて、再びロセンの街へ。腹も膨れたし、午後も頑張る…か。 「や、フレア」 モンスターを適当にかわして、神殿の中へ。フレアはいつもどおりの無表情。 「また、貴方ですか」 「うん。顔見せておかないと忘れられそうだし」 顔見せどころかもう4日連続で通ってるけどね。昨日は少し暗い表情だったけど、今日はそうでもない。 何故通いつめているのか、と言えば…危なっかしいからだ。 束縛の腕輪を渡さなかったから、最悪の事態は免れた。それでも危ない。 彼女は自分の命なんてどうでもいいと思っている。それを改善できるとは思わないけど、放り出す事はできない。 顔を見せている限り、彼女も馬鹿な事はしないだろう。根拠はないけど確信している。 「………」 「………」 ここに来たところで、何かするわけじゃない。適当に座って、ただ黙っているだけ。 向こうから話しかけてこない限り、こっちから話しかけるつもりはなかった。 他者に興味を持って、他者と交わるのが喜びになれば、生きる事に価値が出る。 「わからない人ですね、貴方は」 少し暗くなり始めた頃、フレアが口を開いた。 でも、その声がわからない人…かあ。 「なんでそう思うんだ?」 「私のようなものに何故そんなに興味を示すのですか? 作られた命、抜け殻、人形。私はその程度のもの」 立ち上がって、フレアの顔を見つめた。悲しくなるような発言だけど、フレアの表情に変化は無し。 言っている事は事実なんだろうが…それが彼女にどれだけ暗い影を落としているのか、わからない。 「それじゃあさ、聞かせてもらうけど、俺は何なんだ?」 「…?」 「君が人形なら、俺は何なんだ?って聞いているんだよ。 人形に会いに来るため、モンスターがいる道を通う馬鹿かい? 物言わぬ抜け殻を眺めるために、こうしているって言うのかい? 君は作られた命かもしれないけどさ、『人間』だよ。赤い血が流れて、心がある人間だよ。 俺はフレアっていう『人間』に会いに来ているんだ。人形に興味はない。卑下はやめなよ」 互いに見詰め合った。苦しい沈黙に耐え切れなくなったのはフレア。下を向いた。 「人間の価値なんてさ、他人が決めるものなんだよ。自分で全てを決め付けないこと」 「でも」 「でも、私は人ではないって?さっきも言ったけど、自分で全てを決め付けないでくれ。 俺は君を人間だと決めた。誰が何と言おうともね。俺は君を人間としてしか扱わない」 フレアはまだうつむいたまま。感情が激してくるのを感じて、暇を告げた。 「…や、フレア」 翌日。フレアはいつも通りの無表情。昨日の事は、無意味だったのかな。 「また、貴方ですか」 「うん」 さて、座るか。あ、いや。自堕落だけど寝るかな。どうせ暇だし。 「くぁ…!?」 夢の世界に旅立つ直前、景色が変わった。目の前に黒。 「………」 びっくりするくらい近くにフレアがいる。相変わらずの無表情で。 長い黒髪が顔に当たって、ちょっとくすぐったい。 「どうしたんだよ?」 「いえ、別に」 …あ、そう。それじゃ、おやすみ。 「貴方を、少しだけ知ってみたいと思いました。だから、私も貴方の真似をしてみます」 そう言って、フレアは俺の隣に寝転んだ。寄り添うみたいに。 (悪くないな、この感じ) フレアをちょっと見て、微笑んで、睡魔に身を任せた。 空は見えないけど、心模様は快晴。今日もいい日だ。
https://w.atwiki.jp/retrogamewiki/pages/5409.html
今日 - 合計 - ポパイの英語遊びの攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月09日 (火) 15時56分42秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して
https://w.atwiki.jp/tlom_magi/pages/691.html
「マギ」を原作とした2.5次元ミュージカル第二弾。2023年3月14日公表。 タイトルは『ミュージカル「マギ」-バルバッド狂騒曲-』 Twitter上では『#ミューマギ2』のタグが公式略称として使用されている。 公表翌日発売の「週刊少年サンデー」2023年16号にて、最速抽選先行が行われた。 公演スケジュール 東京公演:品川プリンスホテル ステラボール 2023年6月9日(金)~18日(日) (全13回) 大阪:森ノ宮ピロティホール 6月24日(土)~25日(日) (全4回) 製作スタッフ 脚本・作詞:浅井さやか 演出:吉谷晃太朗 音楽:かみむら周平 振付:MAMORU 主催:ミュージカル「マギ」製作委員会 出演 アラジン:宮島優心 アリババ:猪野広樹 カシム:廣瀬大介 ジュダル:手島章斗 ジャーファル:山﨑晶吾 マスルール:吉原雅斗 練紅玉:田中真由 アブマド・サルージャ:町田慎之介 サブマド・サルージャ:村井成仁 モルジアナ:岡田奈々 シンドバッド:廣瀬友祐 ウーゴくん:森川智之(声の出演) アンサンブル 仲田祥司 黒沼亮(マルッキオ役) 常住富大(バルカーク役) 太田有美 熊田愛里 町田尚規 轟大輝(夏黄文役) 多田滉 松崎友洸 ミュージカル『マギ』迷宮組曲 ◆関連リンク 『ミュージカル マギ』公式サイト 『ミュージカル マギ』公式Twitter
https://w.atwiki.jp/src_review/pages/644.html
372 :370:2005/04/26(火) 23 11 40 ID z+0Evtko 『こんどはそんな狂双曲』レビュー。短編なのでまとめて。 続き物だが、これ単品でもOK。前作プレイ済みなら、更に楽しめるはず。 とにかくハイテンションなドタバタギャグ系なオリロボもの。…オリロボとしてカウントしてもいいか困るが 無茶苦茶な展開に笑いつつ、ロボの名前で更に爆笑。どう考えても元ネタはアレだなw ギャグものであるが、戦闘はややきついかも。EN&弾数を計算に入れて戦わないと、あっさりと反撃不能に陥るし。 前作と違い、敵に印象深いキャラが居ないのは残念。 内容書いても分からないと思うので、実際にプレイする事をお勧めする。 ※2008/08/06追加、ネタバレ全開 ※同日、総評とシナリオとキャラクターとグラフィック&演出項目修正 【こんどはそんな狂双曲】 「前作よりも強引で、前作よりも無茶苦茶なライトな ノリのドタバタオリジナルシナリオです。 「たとえばこんな狂騒曲」の続編にあたりますので、 「たとえばこんな狂騒曲」を未プレイの場合は、 先にそちらをプレイされることをお勧めします。」 たとえばこんな狂騒曲の続編…だけでなく、自分が大昔にレビュースレで 指定したシナリオの一つでもある。しかし、返ってきたレビューは↑のような内容で… 正直当時はがっかりした。具体的にはどこが魅力なのかよく分からないとか 続き物だけど前作をやらなくてもOKって具体的には一体何なんだろうとか。 正直ファンでも信者でもなく「みさき氏はとても人気があるのだが、その秘訣は 一体何なのだろう?」と考えていた自分には、いろいろ伝わってこない代物だった。 そんな思いは自分で晴らすのが一番だと思い当たり、前作と合わせてプレイすることに。 続き物だから、前作よりはなにかしら良くなっているのかな?と、思って。 ※前作のレビューについてはこちら→たとえばこんな狂騒曲 グラフィック&演出 前作とそこまで変わらない会話情景。というか続編ものということもあってか、 劇的な絵柄の変更とかはなく、割合地味め。一応このシナリオをやっているんだよ という認識は強められるが、前作が微妙だった自分としてはいい意味ではないかも。 戦闘アニメに関しては、前作と比べると音的な意味でも地味になった感がある。 キャラクター 前作を知らなくても楽しめる、との通り前作にあたる狂騒曲のキャラは 控えめなポジションに回っていて(と言っても、まだまとも路線だった鹿島周が この作品において壊れ組に名を連ねられるぐらいには壊れていると思う)、 その分本作初登場のキャラや、前作で名前が出ただけでどんな人物か伺えなかった 権田原とかいう教員さんが、大きくはっちゃけたりしている。 ギャグシナリオにおいて、こういう勢いのあるキャラや狂ってさえいるキャラが 補強されたのは喜ばしいことであろう、が。個人的にはなんか前作よりも滑りが ひどくなったイメージがして、項目ごと評価が劣化してしまった。 笑いのために一般常識から逸脱した感じの行動に至らせて、非日常感を醸し出すのは ある意味勢いをつける手段として有効なのだが、前作同様に思いついたネタをなんか 調理しないで置いてあるような感じと、はっちゃけ度の強まりが重なった結果、何か ハイテンションなだけで、面白さに繋がりにくいのが更に苦しさを出してしまう。 というか、常識ハズレな行動に至っただけでなく、そこから更に不必要に常識ハズレな 行動を、ワンクッション置いて取ってしまうあたりがちょっと笑えなかった。 トップのおかしい集団同士の対立という構図について考えさせられるものがあったかも… 詳しくは書いていないが、名無し連中も割といろいろな方面で酷い感じになっている。 本来地球の防衛軍といえばまだマトモそうなイメージがあるのだが、鋼響曲とかから 察するに作者は正規軍というものに対するイメージは軽く薄い模様なのだろうか。 …ってなぐらい顔グラとかトップの酷さとか描写されていたりします。 ギャグ・シナリオだし、第一話からマトモでないオーラが隊員のあたりから放たれて いたりするんで読めはしたが、ハチャメチャに揉まれて消耗してたんで ダメージになったかもしれない… 尚、作者がヒロイン格として定義していた怪人ポジらしい「サクラ」とかいたりするが 悪い意味でも濃い震源(個人名)と剣心(これも)と同じ土俵に並んでいるとなると、 口が悪いだけで霞んでしまう代物だった。 あと、前のレビュアーはロボットの名前で爆笑していた模様だが自分には「…?」だった。 全く知らない訳でなく、某ギャルゲーと作者の某代表作が元ネタだというのは良く分かる。 だからといって何故笑えてしまうのか? ちょっと俺には理解はできない。 まぁ、「みさき氏の作品に関わるものだったら何でもおかしい!」とかいうぐらい ディープな…まぁ、そういう人たちだったら無理もないとは思うんだけど、ねぇ。 シナリオ ぶっちゃけると、前作以上にはっちゃけた結果寒くなった例だと思う。 メタネタ、特に作者の本音である球団アンチな意見が盛り込まれていたりするが 正直扱い方は巧くない。メタネタでなきゃ、笑いが取れないという感じになりきれてない、 そんな第一印象。思いついた「これどうだろう」なネタをただ置いていっただけ、が負の形で 表れたが故の寒さだと思う。一応登場人物が登場人物なので (10年前の思いつきの夢を実現しようと巨大ロボまで作り暗躍する、そしていちいち フォモすぎる主人公の旧友とか、そんな彼が作った原黒系ロリ怪人&理不尽に強くて制御が 利かないというデンジャーな怪人とか、病的に正義感が強かったらしい父親の意思と彼が 作った機体を受け継ぎ、悪の組織の出現を待っていたはいいがいざ活躍しだすとどんどん 俗物化が進んでいくという女性とか、視察中の弟が戦闘に巻き込まれて死んだコトを切欠に… しただけでなく、自分の被害妄想から地球を武力で征服しようとしたりするアレな宇宙人とか) 無茶苦茶なライトなノリのドタバタオリジナルシナリオとして突き進んではいるのだが、 なんか見ていて笑えない代物だった。そんで自分なりに考えてみたのだが… なんか頼んでもいないのに、プレイヤーの視点を無視してどこまで暴走していくような 感じが合わなかったんだと思う。いや、ギャグシナリオならばこういう所に魅力や笑いどころが あるんだろうとは思うんだけど、愛着とか育ったり心の準備とか休憩とかそういうのものを 挟まないでハイテンション全開で、敵も味方も名無しも名有りもみんなぶっ壊れていく… この調子だから、なんか主人公の言う「平凡な日常」の崩壊とかに説得力が無くなったり、 「ぶっこわれが日常」になってしまったせいで、折角のハイテンションな壊れっぷりも ギャグの上滑り具合と相まって「また始まった」と思ってしまうことがあった。 これが版権キャラだったら、既存のキャラがどう壊れていくかという楽しみの補正がかかるので、 メタネタやただただテンションのごり押しだけで進むような流れでもイケたかもしれない。 また、オリキャラオンリーギャグでも、この作品では感じれなかったが、真面目な時とか 平常時とかの、ギャグに走っている時とのギャップが映える要素があれば、笑いどころとそうでない ところとの区別がついて、素直に笑ってプレイできたかもしれない。 尚、ギャグとハイテンションさに関してはこの際言ってしまうと…「若いな」、 的なものがあるかもしれない。俺もこんな時期合ったなぁと笑い飛ばせる感性ならウケる可能性は あると思う、一応。個人的にはベテラン作者さんで、尚且つ割とギャグについて否定的意見を 見かけないから…と思ってすこし期待してたが、どうもハズレ気味だったのが残念だ。 ちなみに、第三話でクソゲーを作っているらしい会社を物理的に潰す!というネタで 戦うステージがあったのだが、そのクソゲー会社の名前を自由に決めれて、デフォルトネームが 「MFZ」(配布サイト)という自虐ネタがあったのだが、なんだかなぁ…。 いや、自虐ネタは面白いものになると思うけれど、このシナリオではちょっと。 尚、常識と非常識、日常と非日常とかにおいて「緩急」が急激という点は前作と あんまり変わっていない。で、最後のエピローグのタイトルコールでは 「こんどは『損な』狂双曲」という変化とオチがつけられていたりする。いや、確かに 主人公は前作に比べたら損だけど、俺も損をした気がするというのは禁句だろうか。 戦闘バランス ギャグシナリオなのでかなり緩く作られている模様。まぁここは弁えている感がある。 一騎討ち+乱数系列保存下でボーナス条件付バトルというのもアレな気がする 場面があったが、基本的にはサクサク進む。ただ、前作と違い戦うユニット数が少ないので 作業感は強まっているのかもしれない。自分の場合はQL作業に作業感を感じるクチなので なんとも言い難いが。 BGM選曲 ほとんど前作と変わっていないのでコピペで済ませたくなったが自粛する。 「このシナにはこの曲だ!」という強い印象付けはなかったが、選曲には違和感はない。 合わない気がするとしたらそれはプレイヤーの気持ちの問題かなんかだろう多分。 トータルバランス 抜きん出ている辺りや、無駄にこの部分だけよくて泣けてくるという箇所は無いので ここの部分だけは好評価。今回はシリアス部分を放棄して、一応全面的に ギャグ路線に走っている、この判断については中身はどうあれ正しいと思う。 なのだが、シナリオ全体が面白いかというと自分からは… 「それはない!」と言わせて頂く。 いや、まとまっているのにイマイチな出来の作品というのに直面したのはホント初めて。 作者のあとがきについて 最終話をクリアして〆た後、インターミッション画面からあとがきみたいなeveに飛べる。 (2005年3月末日の時点の話です)などが時代を感じさせられるが、肝心の内容はみさき氏の 作品に馴染めなかったり、馴染み始めの人間が読むには適していないと思う。 あとがきということで裏話とか、実はこのテのジャンルは苦手な代物でしたという事実が 見えてくるのはへー、と思ったけれど、球団話と一番最後に出てきた このシナリオが私の代表作とは、;決して思わないでくださいねっ!?を目にしたときは マジで対応しようかスルーしようか困ったものがある…。 あれ? 俺、もしかして本気出してないシナリオにマジになってたのかな? あはは 総評 特にこの作品と前作に至っては、シナリオ名で検索したところ否定的なレビューや感想を 全く見かけないという例なので、「そんなに面白いのか?」という期待もあったのだ。 しかし、この作品の出来は作者が不慣れと称しているジャンルであることを大目に見て… いや、不慣れと称しているジャンルであることを考えても厳しいものがあると思う。 オリキャラによるギャグシナリオなんだが、普段こういうキャラがいて、 滅茶苦茶になるとこんな感じに暴走するんですよというのが測り難く、なんか メタネタ多発したはいいが滑りまくりという無残な作品に写ってしまった。 笑いのセンスとか沸点の違いによって人の評価が大きく分かれると思うが、この作品は よく完結まで持ってこれたけれど、それだけという印象は否めない気がする。 まぁ、厳しい見方になってしまったが… 個々の一発のネタのレベルの高さや、緩急のある中での清涼剤や安らぎや不意打ちとしての ギャグ要素による笑いよりも、全編にわたってハイテンションさに満ちている作品の 空気全体が提供してくれるタイプの笑いに飢えていたりする人や、 作者と球団の趣味とか合ったり、作者の他作品に混じったギャグの味が合う感性の人なら、 この作品はお薦めできると思う。少なくとも内輪方面には強いのだろう(多分)から。 難易度は低いんで、割合短時間でクリアできるので触れやすくもある。 逆に、全編に渡ってハイテンションというのは疲れるから遠慮してほしいという方や 全体の流れよりもギャグの質に拘りを持つ方や、ヲサーン向け雑誌に掲載されている シュール・ギャグ系漫画がドツボという方には、ちょっと厳しいものがあるかも。 ハイテンションなノリの加速度が上がるので、それについてけるかも大事かもしれない。 自分はまぁ全て当てはまってしまったが、これは自業自得か。 …ギャグシナリオ相手に何本気になってるんだという人もいるかもしれないが、 シリアスの中のギャグとか、ギャグ部門グランプリとか触れることで、SRCで 笑ってきた身としては引っかかるんだ。 最後のこれは愚痴になるが、自分はこれで鋼響曲、狂騒曲、狂双曲と氏の作品について 3シナ遊んでレビューも書いた計算になる。が…ここにきてみさき氏に抱いている イメージが何かぐらついているのも事実。ちと氏の魅力とか人気の理由が、今回で ますます分からなくなったという感じ。
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/12987.html
草案 登場人物 メガヤンマ:ショーティー -- (ユリス) 2015-12-19 15 10 12 草案 ジガルデ:ポパイ えんまく習得不可。特性「スワームチェンジ」で再現できる 体力or防御(252)と攻撃or特攻(252)を振ること。 ダイオウドウ:ブルート(ブルーダス) 特性:ちからずく+ポパイを圧倒するが(弱点を突く)最終的に逆転負けになる(弱点が突かれる)ので攻撃を振らないこと。じゃれつく習得可。 -- (こちら葛飾区亀有公園前派出所) 2022-06-20 20 51 27
https://w.atwiki.jp/ooorowa/pages/259.html
はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw 【0】 夢を見ていた。 大切な人を喪う夢を見てしまった。 どこまで行っても彼には届かず、己の身体は海深くへと落ちていく。 そんな夢を――最悪の可能性の暗示を、目の当たりにされた。 こんなに不愉快な気分なのは初めてだ。 あんなものを目にする羽目になったのもそうだが、何よりも夢の分際で脳裏に焼き付いているのが腹立たしい。 まるでそれが事実であると認識させられているかのようで、気に食わないのだ。 そう――あの人がそう簡単に死ぬ訳がない。 少々危険を顧みない面があるものの、それでも今まで危機を脱してきたのである。 だから、今回もきっと大丈夫――今も仲間達の無事を案じながら、どこかで戦っている筈だ。 そう、今も生きているに決まっている。 彼が死んだら、残された者の意思が無意味になってしまう。 もしそうなってしまったら、今まで秘めてきた思いも、これから先の未来も、何もかもが――――。 【1】 主催者の真木清人に怖気づくことなく、彼の目の前で宣戦布告。 そんな事をすれば嫌でも目立つ訳で、当然ながら大多数の者に名前と外見を覚えられる。 暁美ほむらもその「大多数の者」の一人であり、その怖い物知らず――ワイルドタイガーの姿を目に焼き付けていた。 ほむらは岡部倫太郎と共に見滝原へと向かう道中で、そのワイルドタイガーに出会った。 どうやらほむら達に出会う前に何者かに襲われたようで、彼のスーツはあちこちが破損してしまっている。 ついさっき威勢のいい姿を晒しておきながら、随分と情けないものだと、ほむらは心中でため息をつく。 彼との対話は、Gトレーラーの外で行われた。 情報交換はほむらだけで進め、岡部は未だ眠る少女の見張りを担当してもらった。 これは、まだ絶対的な信頼を寄せている訳でもないワイルドタイガーと、何をするか分からない少女を警戒しての判断だが、 岡部が話に割り込んできて余計な時間を使うのが嫌だったからという理由も兼ねている。 まず最初にワイルドタイガー――鏑木・T・虎徹の口から出てきたのは、翼を生やした少女の話である。 なんでも、虎徹は最初にその少女に襲撃されており、スーツが傷だらけなのもそれが原因なのだという。 何が理由で彼女を追うのかとほむらが聞いてみれば、なんと虎徹はその少女を説得するつもりなのだという。 「分かるんだよ、あの娘は本当はそんな事望んでないって。だから俺が止めてやるんだ」 「……理解しかねるわ。殺されるかもしれないのよ?」 「そんなの百も承知だ。それでも俺は行く、行かなきゃならねえんだ」 流石は正義のヒーローを名乗るだけのことはある。 こう言った以上、どれだけ止めようとしても彼は進むだろう。 いかにも美樹さやかが取りそうな行動だと、ほむらは僅かに機嫌を悪くする。 あの直情的すぎる魔法少女は、今頃何をしているのだろうか。 まともな人間と出会えていればいいのだが、それ以外の場合はきっと碌な目に遭っていないだろう。 実力もまだ半端だし、精神的にも脆い面がある彼女が、一人でこの修羅の世界を生きていける訳がないのだ。 もし"まともなまま"出会えたのなら保護しようと思ってはいるが、できれば関わりたくないのが本音である。 そしてそれは、目の前にいるさやかの面影を感じるヒーローにも言える事だ。 真木に食いかかった頃から思っていたが、こういうタイプの人間とは反りが合う気がしない。 「随分とお節介焼きなのね、ヒーローって」 「お節介じゃなきゃヒーローなんてやってられねえのさ」 大真面目に、虎徹はそう言ってみせた。 成程、確かにこの様子なら真木に食いかかってもおかしくはないか。 こんな調子で、情報交換は進んでいった。 これから先、情報は戦いにおいて大きなアドバンテージと成りうる。 例え気に入らない相手であっても、彼が持つ情報は入手しておく必要があった。 「……そうだ、『牧瀬紅莉栖』って奴を知らねえか?」 虎徹の仲間の話を聞いていた時に、突然そう問われた。 確か、牧瀬紅莉栖は同行者の岡部倫太郎の知り合いだった筈だ。 本来なら接点の無い筈の彼女の名を、どうして虎徹が知っているのだろうか。 「どうしてあなたが牧瀬紅莉栖を知ってるのかしら」 「ああ、それは――――」 虎徹の言葉は、Gトレーラーから聞こえた破壊音で遮られた。 ほむらが咄嗟にその方向に目を遣ると、車に安置させていた金髪の少女が、 青い装甲の男と戦っていた時と同様の武装をして、空へと旅立とうとしているではないか。 ほむらはすぐさまGトレーラーに乗り込み、案の定そこで呆然としていた岡部を発見する。 「これはどういう事なの、岡部倫太郎……あの女から支給品は全て奪ったんじゃなかったの!?」 「確かに支給品は全て俺が持ってたぞ!その筈なんだが……」 不意を突いて岡部から支給品を奪い取るやいなや、少女はあの武装を"召還"したというのだ。 つまりは、あの女は支給品の力に頼らずとも戦えたという訳である。 「……支給品も全部奪われたようね」 ほむらは、思わず舌を打つ。 岡部のデイパックには、ファイズギアも入っていたのだ。 あの強力なアイテムを奪われると、後々痛手になりかねない。 他の支給品もろとも、奪還する必要があるだろう。 「あなたはワイルドタイガーと待っていて。アイツは私が捕まえるわ」 そう言うと、ほむらはGトレーラーに配備されたバイク――ガードチェイサーに跨る。 これと彼女自身の能力さえあれば、あの機動兵器にも追いつけるだろう。 ほむらは瞬く間に魔法少女としての姿に変身すると、 大きく開け放たれた――女がこじ開けたのだろう――ハッチを飛び出し、逃亡者の追跡を開始するのであった。 【2】 新型兵器として造られたISの性能は、世界にも認められている。 機動性と破壊力も従来の兵器を遥かに凌ぎ、たった一機投入されただけで戦場の絵図を塗り替える事が可能だろう。 セシリアが駆使するブルー・ティアーズも、その例に漏れない。 武装の面では勿論の事、移動性能でも他のISと同様に、他の兵器とは一線を画している。 空気を裂いて空を翔る様はさながら流星の如し――車からの逃走なんて、赤子の手を捻るのよりも容易い。 相手がIS、あるいはそれに匹敵する移動能力を有する物でも所持していない限りは、 ブルー・ティアーズを繰る彼女には着いて来れないのだ。 そういう訳で、セシリアはブルー・ティアーズが出せるであろう最大の速度で滑空していた。 どうしてセルメダルを一枚も持っていない筈の彼女がISを動かせるかというと、 それは彼女に支給されていた「バッタ」のコアメダルの恩恵によるものだ。 もしもの時の為に隠しておいたものなのだが、海東との戦闘の時はこれを使う前に撃墜されてしまったのだ。 まさか、こんな早くに、こんな形で使う事になろうとは。 しばらく使えなくなるのは惜しいが、これが無ければ彼らから逃げられなかったのだから仕方ない。 (……あら?) そう考えてから、ふと疑問が浮き出てくる。 どうして自分は、ISまで使って逃げているのだろうか。 まだ節々が痛む体に鞭打ってまで、逃げる必要が果たしてあったのだろうか。 そもそも、自分は今まで何の為に行動していたのだろう。 何か大切な、しかし自分勝手な事を考えていたような気がするのだが。 (ああ、そうでしたわ。私は確か……) そうだ、思い出した――確か、親友に何かしなくてはならなかったのだ。 自分の願いを叶える為に、何者かから『親友に"何か"をしろ』と吹き込まれたのではなかったか。 だからこそ、立ち止まっている場合ではないと言わんばかりに車から飛び出したのだ。 では、果たして自分は誰に命令され、そして気絶する前に何をしようとしていたのだったろうか。 (分かりませんわ……どうして思い出せないの……) どうやら、撃墜された影響で記憶が朧気になってしまっているようだ。 こればっかりは、どう頭を捻っても思い出せない。 もう一度撃墜されれば、全ての記憶を鮮明に映し出せるようになるのだろうか? いや、冗談じゃない――あんな思いはできれば二度と御免だ。 些細な切っ掛けで記憶は蘇ると言うし、この際消えた記憶については保留でいいだろう。 とりあえず、これからはどうしようか。 事情も教えずに逃亡した以上、もう岡部達の元へは戻れない。 いや、例え戻れたとしても、セシリアにはとんぼ返りする気など無いだろう。 記憶が曖昧になっているとはいえ、何かしらの危機感を抱いて逃走したのだ。 己の勘を信じて、彼女らには警戒するべきであろう。 「……とりあえず、ここまで来れば大丈夫ですわね」 そう言って、セシリアはISを少しばかり減速させる。 それなりの距離を疾走したのだから、流石に相手も探すのを諦めているだろう。 彼女が安堵しようとした、その時――ISのハイパーセンサーが、こちらを追跡する者の姿を捉えた。 猛スピードでこちらへと迫るそれは、セシリアの真後ろ――つまり彼女が来た道から現れたのである。 追跡者の存在に、彼女は唖然とする他なかった。 突如としてISに接近する者が出現したのもそうだが、 何よりも驚愕させられたのは、追跡者の正体がセシリアの知っている者だった事である。 ここに来れる訳がないと、ずっと思っていた人物が、バイクに乗っている。 あの風に靡く黒髪は。あの紫と白を基調とした服装は。 「そんな――――」 そう言い掛けた瞬間――彼女の目の前に、一発のグレネード弾が出現した。 あまりにも唐突に現れたそれに、セシリアの表情が更なる驚愕の色に染まる。 一体何時、何処で、誰がこれを発射してきたのか。 混乱する頭がその答えを導き出す前に、グレネードは彼女に着弾。 下級アンノウンなら一撃で屠れる程の威力を受ければ、ISとて無事では済まされない。 爆風に煽られ、そのままセシリアは地面に叩き付けられる。 メダル五十枚分の恩恵は、グレネードの直撃の際に発動した絶対防御によりいよいよ底を尽きた。 墜落の衝撃を受けたセシリアは意識を手放し、エネルギーを失ったブルーティアーズもそのまま消失したのであった。 O O O 空中で発生した爆発は、「サラマンダー」の弾が逃走者と接触したが故に起こったものだ。 その証拠に、打ち落とされて気を失った逃走者は、無様にも地面にひれ伏している。 セシリアには知る由もないが、暁美ほむらは時間を停止できるのだ。 その能力を有効活用すれば、乗り物に頼らずとも移動するトラックにさえ追いつける。 僅かな――1,2秒程度の――時間停止を連続で行使しながらバイクを走らせれば、確実に距離は縮まっていく。 これにより、ほむらは最小限のメダルでセシリアの所にまで到達し、「サラマンダー」を彼女に叩きこむ事に成功したのである。 「残念だけど、逃がすつもりはないわ」 ほむらはそう言いながら、既に意識の消えている少女を一瞥する。 グレネード弾が直撃していながら、彼女の肉体は五体満足のままだった。 あの機動兵器が彼女の身を護ったと考えるのが妥当だが、それにしては何処にも兵器の欠片らしきものは見当たらない。 まるで魔法少女ね、と呟きながら「サラマンダー」を盾に収納すると、今度はそこから「スコーピオン」を取り出す。 「あなたはここで始末する」 「スコーピオン」の銃口を、セシリアの頭部に向ける。 聞きたい事は多いが、この様子では口を割らずに抵抗しようとするのは目に見えている。 それに感性は多分一般人同然の岡部がいる以上、拷問という過激な手段も取り辛い。 ならばいっそ、この危険分子は早めに始末し、他者から機動兵器について聞いた方が手っ取り早い。 岡部には「逃げられた」とでも言っておけばいいだろう――そう考えながら、ほむらが引き金を引こうと指に力を込める。 しかし、突如として視界の中に現れた影を発見した事によって、その行為は中断せざるおえなかった。 「――っと、何とか間に合ったみてえだな……」 その乱入者の名は『ワイルドタイガー』――ほむらが置いてきた筈の男である。 【3】 ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹は超能力者である。 世間では「NEXT」と呼ばれるその特異な力を用いて、彼はヒーローとして戦ってきたのだ。 そんな彼のNEXT能力の名は「ハンドレッドパワー」。 自身の身体能力を、一定時間だけ百倍にまで跳ね上げるという能力である。 これを用いれば、あの兵器に乗った少女にもどうにか追いつける 一時間に一度のみ、しかも減衰によって維持時間も減りつつあるものの、能力の性能自体はまだ落ちぶれてはいないのだ。 「どうしてあなたがここにいるのかしら、ワイルドタイガー」 ほむらは銃口をセシリアに向けたまま、虎徹を見据える。 対する虎徹は、銃の引き金が引かれていない事に少しばかり安堵しながらも、 今まさに殺人を犯そうとしている少女に向けて問いを投げかける。 「そりゃ逃げ出した子を放っておける訳ないだろ……それより聞かせてくれ。その娘をどうするつもりなんだ」 「見て分からないかしら?これ以上面倒を起こされる前に死んでもらうのよ」 案の定、予想した通りの台詞が出てきた。 やはりこの少女は、無抵抗な人間の頭を吹き飛ばそうとしている。 その事実を突きつけられたヒーローが、何も言わずにそれを承諾できる訳がない。 「何だよそれ……殺す必要がどこにあるんだ!?」 「妙な事を言うのね。反撃される前に排除しておくのは当然でしょ?」 「なっ……ふざけんじゃねえ!ここで殺したら、真木の野郎の思う壺だろうが!」 シュテンビルドのヒーローは殺人を犯さない。 例えそれがどんなに極悪人であったとしても、決して殺めはせずに警察に逮捕させている。 それはヒーローの活動がTV中継されているからというのもあるが、 やはりヒーロー達の倫理観が殺人という行為を許していないというのが大きいだろう。 それを聞いたほむらの顔には、呆れが見て取れた。 今言った事が余程理解に苦しむものだったらしい。 彼女がどんな人生を送ったかは虎徹には知る由もないが、 きっと何かしらの形で「殺さなければならない」状況に身を置いていたのだろう。 だからと言って、虎徹は己の考えを曲げるつもりなど毛頭ない。 「こいつを逃したら、後々面倒な事になるのは間違いないわ。例え真木の思惑通りであっても、 これからを考えて危険人物は早めに潰しておくべきよ」 「そんな理由で殺すってのかよ!?そんなの納得できる訳がねえ!」 「……随分おめでたい思考をしているのね。見ず知らずの女にそこまで情けをかける理由が分からないわ」 「情けとか、そういう問題じゃねえよ!悪人だろう何だろうが、人が人を殺すのは間違ってる!」 誰が何者かである以前に、虎徹はヒーローなのであり、はこの殺伐とした世界でも変わりはしない。 泣きそうな人間がいたら涙を拭いてやり、凶行に走ろうとする者がいれば命がけで止める。 それが虎徹が認識するヒーロー像であり、己が信じる"正義"なのだ。 「誰かが人を殺すのも、殺されるのも許さねえ!一人の"ヒーロー"として、俺はお前を認める訳にはいかねえんだ!」 ほむらは何も答えようとしない。 ただ、苛立ちを露にしながら虎徹を睨み付けるだけだ。 彼女から発せられるのは、純粋な拒絶の感情のみ。 苦々しさを覚えながらも、虎徹は再び口を開いた。 「それに、お前みたいな子供がどうしてそこまでする必要があるんだよ……!」 この場に立ち会ってから、ずっと疑問に思っていた 体型と服装からして、ほむらが中学生である事は容易に想像がつく。 年齢の方も、きっと娘の楓と大差ない筈だ。 それなのに、彼女はさも当然の如く銃器を操り、躊躇無く人を殺す事ができる。 前にも述べた通り、虎徹はほむらを何一つとして知らない。 だが、彼女の身に何か幸福でない出来事があった事ぐらいは理解できる。 ヒーローとして、それを見過ごす訳にはいかないのだ。 虎徹がそう言った途端に、ほむらの表情が曇りだす。 そしてそれは、徐々に怒気を滲ませるようになる。 虎徹の一言は、彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。 「……ッ!あなたに何が――――」 怒りに任せてほむらが言葉を発そうとした、その瞬間。 彼女は自身に起きた突然の変化に気付き、驚愕する。 「動け、ない……!?」 ほむらがどれだけ身体に力を込めても、身体はピクリとも動きはしない。 どうやらその現象に陥っているのは彼女一人だけのようで、虎徹は今までと変わらず動けるようだ。 つまりこれは、ほむらだけが何かしらの攻撃を受けているという事である。 「お、オイ!どうしたってんだ!?」 「ッ……!ワイルドタイガー!早くその娘を――」 ほむらが言い終える前に、上空から放たれた銃弾の雨が、虎徹と二人の少女を遮った。 虎徹が上空に視線を見やると、そこには兵器が二台、宙に浮かんでいるではないか。 その外観は、真木に殺された箒という少女が纏っていた兵器の面影を感じさせる。 「ラウラ!今だよ!」 黄色い兵器を装着した少女が、隣にいたもう一台の兵器に呼びかける。 「ラウラ」と呼ばれた少女が操る兵器が、瞬く間にほむらの近くにいたセシリアを攫っていく。 ほむらは依然として微動だにもできず、セシリアが奪われる様子をただ眺める事しかできない。 虎徹も既にNEXT能力の効力が切れてしまってので、滑空する兵器達には手出しできなかった。 いくら強い正義感を秘めていたところで、NEXTが使えない状態では彼も一般人同然なのである。 セシリアと共に、少女達がさながら疾風の如く去っていく。 ようやく動けるようになった頃には、ほむらは追跡する意思を無くしていた。 ただ、以前以上に憎悪の篭った目で虎徹を睨み付けるだけである。 【4】 「……なあコマンドー。本当にタイガーと別れて良かったのか?」 移動中のGトレーラーに揺らされながら、助手席に座る岡部がほむらにむけてそう言った。 今この車に乗っているのは、彼と運転しているほむらだけである。 岡部が言うとおり、二人はワイルドタイガーとは別行動を取ったのだ。 別行動の提案をしたのは、ほむらの方である。 セシリアに逃げられた後で改めて情報交換を終えた直後に、彼女がこの方針を持ちかけたのだ。 「そうよ。何か問題でもあるの?」 「その、なんだ。こういう時は集団で行動した方がいいと思うのだが……」 「無理な相談ね。あいつと行動する気にはなれないわ」 きっぱりと、ほむらはそう言い切ってみせた。 一体、ワイルドタイガーの何が彼女の癪に障ったのだろうか。 きっとセシリアを追っていた際に一悶着起こしたに違いないのだが、当事者でない以上、具体的な状況を把握する事はできない。 そして何より、ほむらのそれ以上の詮索を許さなかった。 「それに、あいつと私達は元から進路が違うのよ。お互いの邪魔はしたくないでしょ?」 「確かにそうだが……ううむ……」 歯切れの悪い返事を無視して、ほむらはまた運転に集中し始めた。 岡部から見たって、彼女は普段より明らかに機嫌を悪くしている。 何かがきっかけで爆発するか分からないから、しばらくは沈黙を保っていた方がいいのだろう。 虎徹が言っていた事を思い出す。 なんと、岡部の"大切な人"が彼の仲間の悪評を撒いていたというのだ。 岡部には、彼女――紅莉栖がそんな事をするような人間だとは、とても思えない。 しかし、何よりも気がかりだったのが、彼女が襲われたという事実だ。 危険人物の情報を晒すというのは、誰かに害を与えられたのと同義である。 果たして、紅莉栖は無事なのだろうか。 彼女だけではない――他のラボメンの安否も心配になってくる。 この殺伐とした世界の中で、彼らは生き残っていけるのだろうか。 車は揺れる。見滝原に向けて、一直線に走り続ける。 助手席に座る男に「鳳凰院凶真」の影は無く、そこには、仲間の身を案じる「岡部倫太郎」の姿だけがあった。 【5】 虎徹の言い分が理解できない訳ではなかった。 死人が出ないまま物事を解決できれば、それはそれは幸福なのだろう。 しかし、時として冷酷な判断ができなければ、誰一人として救えないという事を、ほむらは嫌というほど理解している。 誰も殺さないという美徳は、この場においては甘さ以外の何者でもないのだ。 それが、数えるのも馬鹿馬鹿しくなってくる位に繰り返してきた世界が、ほむらに教えた"現実"の一つだった。 自分の信念は決して曲げないという、融通の利かなさもほむらを苛立たせた。 信念が捻じ曲がる可能性がある分、もしかしたら美樹さやかの方がマシなのかもしれない。 何にせよ、あの男の信念など、ほむらにとっては戯言以外の何者でもなかった。 しかし、何よりもほむらが癪に障ったのは、虎徹が押し付けてきた"情"である。 何も知らない癖に、どうして知ったような口を聞かれなければならない。 この男はきっと、目の前の少女を単に冷酷なだけだとしか認識していないのだろう。 そんな訳がない――救いたかった少女の為に、今まで同じ世界を何回も、何回も、何回も繰り返してきたのだ。 今まで味わってきた苦しみが、手を伸ばしても届かない絶望が、あんな甘ったるい正義を振り翳す男に理解されてたまるものか。 だからこそ、虎徹を――"正義の味方の"ワイルドタイガーを受け入れたくなかった。 勝手なお節介などは、ほむらにとっては苛立ちを促進するだけにしかならない。 虎徹の方だって、見知らぬ女の憎悪を引き受けていても何のメリットもないだろう。 だからこそ、ほむらは虎徹を引き離す選択をしたのだ。 気分を落ち着かせようと、深呼吸をする。 こんな事で感情を昂ぶらせていても、何の意味もない。 今は雑念を払って、運転に集中するべきだ。 交通事故で死ぬだんて、間抜けな最期は御免である。 さあ、Gトレーラーも大分長い時間走行してきた。 目的地――見滝原は、すぐそこだ。 【一日目-夕方】 【C-3(南部)/市街地】 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 【所属】無 【状態】疲労(中)、苛立ち、Gトレーラーを運転中 【首輪】30枚:0枚 【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド 【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate 【思考・状況】 基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。 1.このまま見滝原へ。 2.なるべく早くセルメダルを補充したい。 3.青い装甲の男(海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。 4.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。 5.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。 【備考】 ※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。 ※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。 ※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GA-04アンタレス、GX-05ケルベロス、 GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。 武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。 ※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。 【岡部倫太郎@Steins;Gate】 【所属】無 【状態】健康 【首輪】85枚 0枚 【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate 【道具】なし 【思考・状況】 基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。 1.ラボメンNo.009となった暁美ほむらと共に行動する。 2.ケータロスを取り返す。その後もう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。 3.青い装甲の男(海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。 5.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ! 【備考】 ※参戦時期は原作終了後です。 ※携帯電話による通話が可能な範囲は、半径2エリア前後です。 【6】 鏑木・T・虎徹は、バーナビー・ブルックスJr.を理解し、その上で信頼していた。 だからこそ、自分の相棒が殺し合いなどに乗っていないと確信できたのである。 例えそこに何の根拠がなくても、目の前に突きつけられた情報を否定し、半ば妄信的にバーナビーの正義を信じ続けられたのだ。 だが、彼は知ってしまった――どれだけ信じても、決して揺らぐことのない"証拠"を。 『牧瀬紅莉栖は、決して殺し合いに乗るような少女ではない』 『道具を利用して他人を騙すなんて行為を容易くできるほど、彼女は落ちぶれてはいない』 それが現実だった。 彼女の知人である岡部倫太郎の口から告げられたのだから、間違いないのだろう。 「…………ッ!」 ナイフの様に鋭利で冷たい事実が、虎徹の喉元に突きつけられていた。 牧瀬紅莉栖を信用しないという事は、岡部を――ひいては牧瀬自身を裏切るという意味で。 牧瀬紅莉栖を信用するという事は、これまでのバーナビーへの信頼を否定するという意味で。 どちらを選ぶにせよ、虎徹の心は決して晴れはしない。 それどころか、彼の心に大きな傷を刻み込む事にすらなるだろう。 「なんで……なんでだよ……ッ!」 しかし、虎徹が最も怒りを覚えたのは、『牧瀬が善人である事』に嘆きを覚えた自分自身である。 弱き者を護るヒーローにとっては、あってはならない筈の感情だ。 だが、彼は抱いてしまった――バーナビーという存在を否定したくないが故に、牧瀬紅莉栖という少女を否定した。 自身への嫌悪感が、体内に充満していくのが分かる。 (……違げえ!今は落ち込む時間じゃねえだろ!) 思い出されるのは、己を見失いかけてた時に手を差し伸べてくれた、仮面ライダーの二人。 彼らはきっと、今も自分を信じて戦っているに違いない。 そんな彼らの期待に応えないで、一体どうするというのだ。 カンドロイドの件は一旦後回しだ。 バーナビー本人か『牧瀬紅莉栖』に会って確かめればいいだけの話である。 今は、あの翼生やした少女を追うのを優先するべきだ。 ほむらは、道中ではその少女に見かけてはいないと言っていた。 彼女達が南東から来た以上、その情報は正しいのだろう。 今の虎徹には、あの少女に到る為の手がかりは存在しない。 故に、当てもなく会場をバイクで走り回る事しか彼にはできなかった。 そうしてバイクを走らせて――発見してしまった。 虎徹の前に広がっていたのは、焦土。 全ての生命が死滅したであろう死の世界が、彼の前に姿を表していた。 地図の表記が正しいのなら、ここは緑の溢れる「公園」だった筈である。 それなのに、彼の目の前に存在しているのは、およそ公園とはかけ離れた荒廃した空間だ。 まさか、と考えた頃には、虎徹はライドベンターを加速させていた。 「……ッ!そんなに……そんなに戦いたいのかよ……!?」 虎徹の判断が正しいのなら、きっとこの先にあるのは血みどろの殺し合いだ。 もしもまだ戦いが繰り広げられているのなら、全力を以てそれを止めなくては。 公園を焦土に変貌させた者への怒りを募らせながら、虎徹はハンドルを回す。 それが誰の手によって起こされたのかを、露とも知らぬまま。 【一日目-夕方】 【E-3/公園】 【鏑木・T・虎徹@TIGER BUNNY】 【所属】黄 【状態】ダメージ(中)、精神疲労(中)、疲労(小)、NEXT能力一定時間使用不可 【首輪】80枚:0枚 【コア】なし 【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損) 【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、不明支給品1~3 【思考・状況】 基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。 1.焦土と化した公園に向かう。 2.少女(イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。 3.他のヒーローを探す。 4.ジェイクとマスター?と金髪の女(セシリア)を警戒する。 5.フロッグポッドの事は後で考える。 【備考】 ※本編第17話終了後からの参戦です。 ※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。 ※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。 ※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。 ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』 NEXT 恋焦がれる鎮魂歌