約 1,487,984 件
https://w.atwiki.jp/jhs-rowa/pages/170.html
――ただひとつの答えがなくとも、分け合おう。 ◆j1I31zelYA 実のところ菊地善人は、これまでの人生で『後輩』というものを持ったことがない。 もちろん、彼は吉祥寺学苑の三年四組に所属する学生なので、同学苑の一年生と二年生の全員が彼の『後輩』にあたる。 しかし、部活動だとか生徒会のような活動もしていない上に、人間関係もクラスメイトもしくはネット上で作った交友関係のなかで満足している菊地にとって、『自分の後輩』と呼べる存在はいなかった。 それが、ここにきてたくさんの『後輩』を持った。 杉浦綾乃、越前リョーマ、綾波レイ、植木耕助、碇シンジ。 さらに言えば、彼等の友人でありこれからの護るべき対象でもあるアスカ・ラングレーや天野雪輝を加えたっていいかもしれない。 ことに植木耕助や杉浦綾乃とは友人として対等に仲良くしてきたけれど、『先生』になったつもりで年長者ぶってきたのも、先輩としての責任感やら格好つけたい気持ちやらがあってのことで。 相談に乗ったり、見守ったり、からかったりするのは、新鮮で心地が良かった。 『変な意味じゃないぞ』ときつく前置きした上で言うなら――後輩たちは、可愛かった。 『死』を何度も突きつけられて、年相応に泣いたり傷ついたりしながらも、成長しようとしている。 未熟なりにできることを見つけて、大切なものを守ろうとしている。 そんな彼らを応援してやりたい、もう誰ひとりも死なせたくないという想いが菊地にはあった。 (だから、許せねぇ。許せるはず、ないだろ) 耐えるように、痛みを背負ってザクザクと歩く植木耕助。 それを見ていると、やりきれない悔しさで胸が痛んだ。 碇シンジも、神崎麗美も、高坂王子も、宗屋ヒデヨシも、まるで虫けらのように容易く殺されてしまった。 彼らの精一杯に足掻くことを嘲笑うかのように。人の命を奪うことに、何の痛みも感じていないかのように。 (最初は、俺だって信じようとしたんだ。あの常盤がまた手を汚してるなんて、思いたくなかったからな。でも……) 菊地が自ら体当たりでぶつかって本音を吐露させ、人災とはいえ最終的には“キス”までする仲になった常盤愛の改心が嘘だったなんて、いつもの菊地ならまず信じないだろう。 しかし、そうとでも考えなければ説明がつかない。 それは、あの時の常盤たちが“あの場から離れる植木と菊地を追撃しなかった”ことに対してだ。 素直に考えれば、おかしい。 新たな戦力として菊地が参入したとはいえ、あの時の三人は重傷のヒデヨシをかばいながらの撤退で、浦飯の力に対する備えなど何も無かったのだから。 さらに言えば、あの二人組が『殺し合いに乗っていない振りをして参加者を襲う』というスタイルを取っているなら、既にやり口がバレている植木たちの口封じをしないのは明らかに不味い。 『凶悪なビームで植木を殺そうとして何も悪くないヒデヨシを死なせたが、その後は何もせずに見逃した』ことを説明する合理的な理由など、ひとつしかない。つまり―― (つまり、アイツらは”俺たちを利用しようとした”ってことになっちまうんだよ。 『もしかして何かの誤解だったんじゃないか?』って、クラスメイトの俺に思わせるために) 事実、もしあの場に現れた菊地が『植木を探して追ってきた仲間』ではなく『ただの通りすがりのクラスメイト』だったとしたら、常盤を信じようとしていただろう。 植木とヒデヨシの側が悪者だった……とは考えないまでも『植木たちにも殺意を持たれてしまうような落ち度があったんじゃないか? その証拠に菊地のことは攻撃しなかったんだから』と思いなおして、南へと引き返すぐらいのことはしたかもしれない。 そして、そうなっていたら。 彼女が得意とする泣き落しと口八丁で信用させられて、杉浦綾乃や越前リョーマに綾波レイといった後輩たちの情報を全て売りわたしたあげくに――彼らのところまで合流するや皆殺しを実行されていただろう。 だから、ぞっとする。 よりにもよって、『三年四組の絆』を利用して大切な仲間たちを殺そうとした、その謀略に虫唾が走るし、許せない。 「負けるもんかよ。勝ち残るのは――おれ達だ。そうだろ、植木」 「どうしたんだ、急に」 再確認するように声に出すと、植木が足をとめ、振り向いた。 「いや、放送を聞いて色々考えてたのも落ち着いたし、決意表明ってやつかな。 アドレス交換で別行動もとりやすくなったけど、今後もまとまって行動する。 放送前に出くわした連中にリベンジするためにも、今は結束を固める時期だからな」 「ああ。とりあえず、海洋研究所に行って綾乃を探す。そこに誰もいなかったら、『天野雪輝』たちを探すのも兼ねて南下する。 ただし、あの二人組がいそうなホームセンター周りは避ける。それでいいんだよな?」 放送前に打ち合わせしたことを、植木はしっかりと覚えていた。 そして、放送が終わってからもその方針は変わらない。むしろいっそうの急務となる。 「現時点では、そうするしかないな。越前たちの無事は放送で確認できたし、今は杉浦の捜索を優先したい。 放送で知り合いの名前が二人も呼ばれちまったから、動揺してるだろうし……もともと『海洋研究所』ってのは、学校で待ち合わせした後に向かう場所だったからな。 はぐれた杉浦が、そこで合流するために先回りしてる可能性もある。 シンジや日野日向さんの遺言を後回しにするようで、心苦しいところなんだが」 最後に関しては、今は亡き二人だけでなく植木に対しても心苦しいところだ。 亡き友達から天野雪輝や綾波レイを護ってほしいと頼まれたのに、その合流が後回しにされているのだから。 「たしかにシンジ達との約束は大事だけど、後悔なんてしねぇよ。綾乃だってとっくに友達なんだ。 それにシンジだってきっと、『自分の知り合いを守ってほしいから、綾乃を見捨ててくれ』なんて言わねぇよ」 「そうだな」 碇シンジがしっかりと植木のなかで生きていることを再確認して、ほっとする。 気を取り直して野道を歩きながら、しかし思うことがあった。 (植木は今でも、『自分を含めて、全員を救う』つもりでいる。 その『全員』の中には『あいつら』も入ってるのか? ……いや、問題は植木じゃなくて俺だ。俺はたぶん、『あいつら』を救う数に入れてない) 少なくとも、バロウ・エシャロットや浦飯と常盤のような悪党を救いたいという意思はない。 連中が心底から罪を悔いて殺し合いを終わらせるために力を尽くしてくれるというのなら、菊地は後輩たちのまとめ役として、唯一の三年生としてそれを認めて受け入れるべきなのだろう。 しかし、連中がそんな真似をするとはとうてい信じられなかった。信じるには、あまりにも菊地から奪いすぎている。 連中の命と仲間のそれが天秤にかかれば、菊地は後者を優先する自信があった。 (だから……『ここから先は大人の時間だ』ならぬ『先輩の時間』ってわけか? もっとも、そんなふうにカッコつけて敵を排除するには、覚悟が足りてないけどな) 『全員を救いたい』という植木の夢は、友達として応援してやりたい。 『人を殺さないですむ方法を見つけたい』という綾乃の宿題は、叶ったところが見たい。 綾波レイがバロウを殺そうとした時に止めるべきだったとしたのも、弾みで一線を超えて欲しくなかったからだ。 しかし、そろそろ菊地善人自身の選択をする時が来ているんじゃないか。 自分のために、失いたくないものを護るために、どうありたいのかを選びとらなければ。 そっと、制服の内ポケットに忍ばせたデリンジャーをなでた。 それは図書館で杉浦綾乃に覚悟を問うた時から、ずっと持っていたものだ。 バロウ・エシャロットとの二度目の戦いでは、この拳銃を使わなかった。 その時に使っていたジグザウエルを天野雪輝に与えてしまった今となっては、この武器こそが菊地善人の『最終手段』となる。 (つっても……一人で抱え込んでちゃ世話ねーよな。 アイツらとまた会った時の対処も打ち合わせしときたいし、まずは相方に相談といくか) 煮詰まってきたことを自覚して、ふぅと吐息する。 なぁ植木、歩きながらでいいから聞いてくれるか。 そう切り出そうとした時だった。 植木が、前方を向いていた。 より正確に言えば、進行方向からはやや東にそれた山際の景色を。 「おい、菊地。あれ……!」 指さされた方角を、菊地も見る。 現在地との位置関係を考えればC-6のあたりだろうか。 山裾の手前、少し丘になった地形の上に、背の高い建物が見えていた。 おそらくはホテルだろう。問題は、そのエントランスが遠目にも分かるほど半壊していることだ。 外壁には巨大な鉄球が貫通したような穴があき、地面が黒ずんだようにぼやけているのは夕闇にも焼け跡だとわかる。 学校周辺の騒動の余波にかかずらっていた菊地たちには、その争いがいつ行われたものなのか分からない。 もしかするとまだ負傷者があの場所にとどまっているかもしれないし、もっと言えばここからは確認できないだけで、戦闘は継続しているかもしれない。 さらに言えば、杉浦綾乃がその争いに巻き込まれている可能性も低いけれどゼロではない。 『海洋研究所で待っているかもしれない』というのも彼女に冷静な判断力が残っていたとしての話でしかなく、急にはぐれてしまった上に知り合いも全滅したショックでどこにさ迷い歩いていくかなど断定できやしない。 「菊地」 「その顔を見るに、そっちも同じ意見みたいだな」 二人は頷き合い、進路の変更を決めた。 ◆ ヒュン、と空気を裂くような音。 そして、石の礫が反響する重たくて鈍い音。 それらが連続しながら、山の中を駆け抜けていた。 「どうしたァ!! 逃げてばっかじゃ、俺からエースは取れねぇぞ!」 「そういう貴方こそ! 狙いが、甘くなってますのよ!」 狙い放たれた剛速球の数々を、黒子は木の幹を盾とすることで防ぐ。 道中で補充したらしき石の塊は、人間の腕力で撃ったとは思えない威力で木の幹をドカドカとえぐった。 当たらなかった幾つかの礫は後方の木々にあたって反射し黒子の足元を襲ったが、それを黒子は瞬間移動ではない、ただの跳躍で回避する。 「逃がすかよォ!」 しかしタイムラグを利用して、切原は移動していた。 素早く回り込んだのは、黒子の姿が丸見えになる、木の側面方向だ。 次弾を撃つために、ぐるりと弧を描くようにその位置へと移動して―― 「まだまだ、です!」 「ぶはっ……!!」 だが、その眼前を塞ぐように太い枝が落下してきた。 直撃は避けた。しかし枝先が白い髪にひっかかり、はらいのけるための時間を要する。 その落下を生んだのは、黒子が拾って転移させた落ち葉だった。 葉っぱを使って枝を切断する――手品のような芸当だが、これも『移動した物体は、移動先の物体を押しのける』からこその応用技だ。 追撃にうつるべく、さらに瞬間移動で跳ぶ。 頭上からの飛び蹴りは読まれると踏んで、低い位置での足払いを選択。 しかしその払いは、スプリットステップによる横方向への跳躍でよけられた。 体勢を立て直すために費やされた時間は、双方ともにほぼ同時。 そして、さらなる攻防を交わすために両者は駆ける。 「お前ら……少しは、付いて行く方のことも考えろっ!!」 拳銃を片手に、機関銃を背負って山を下りながら、七原は悪態を大声にした。 すっかり汗だくになっている。 ぜぇはぁと喘ぎながら、走っている。 七原はこれでも一応、『必要ならば介入してもいい』と双方から了解までもらっているはずなのだが――この二人、かなり、知ったこっちゃないように動いている。 元から速さを強みにしている二人だけに、山の中を追尾するとなると、もう、追うだけでも必死だった。 「とっとと倒れた方が楽だぜ!苦しまずに済むんだからなァ!」 「そう言う貴方こそ、現在進行形で苦しんでるくせに!」 切原は礫を地面から掴み上げて補給しながら、手を休めないために右手の燐火円礫刀を使って手近な木を倒す。 幹を切断された木は、とどめとばかりに蹴りを食らって白井黒子へと直線的に倒れ、しかし黒子は空間移動でその姿を消失させた。 礫を携えて返り討ちの姿勢を取る切原だったが、黒子は幾つかの木々を間にはさんで、枝の重なりに隠された樹上へとその姿を垣間見せる。 ちっと切原は舌打ちして、射線を確保するためにまた走る。 黒子が止まっている間に、切原は止まれない。 立ち位置を一秒以上も固定すれば、空間移動(テレポート)による遠隔攻撃を受けるからだ。 (――それでも、白井が戦いの場を移したことは正解だったな) その判断については、七原も認める。 切原赤也は障害物を叩き壊して進むことはできても、あるいは障害物を回避して進むことはできても――障害物をすり抜けることはできない。 彼我の射線を森の木々が邪魔していれば、回り込むかなぎ倒して進むしかない。どうしても動きが限定される。 白井黒子は、空間移動能力者(テレポーター)は、違う。 進行方向に壁があろうと木々があろうと関係ない。移動コースも、出現場所も、選び放題になる。 さらに言えば、森の中には木の葉がある。小枝がある。空間移動(テレポート)の素材が、たくさんある。 研究所の中庭のような、何もない平地ではない。遮蔽物だらけの地形を、移動しながらの戦いとなれば――黒子の取れる手数が、圧倒的に増える。 研究所では一方的に攻撃されるばかりだった戦いが、膠着するまで肉薄している。 そしてその奮戦に、切原は舌打ちをした。 「ウゼェんだよ!! んなこと言っておきながら、避けてばっかりじゃねぇか! いつまで続くと思ってんだ!」 「それはもちろん、貴方を止めるまで、ですの!」 切原へと宣言して、十数度めかの打球を回避して、黒子は姿を消した。 赤い目をギラつかせて周囲を見回し、気配を尖らせて出現場所を探す。しかし、 「――いねぇ?」 森の中には、切原と離れた位置から走る七原の姿しかなかった。 攻撃音がやんで、静かになった森への困惑で切原の足が、止まる。 その見計らったようなタイミングで、次の手は来た。 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン、とテレポートの出現音が連続して鳴る。 それらは全て、悪魔のいた四方の頭上からのもので。 「上か!」 テレポートによる飛び蹴り攻撃が来るよりも、さらに上空。 四方八方に転移させられた木の切断によって、落下する枝と幹の無差別攻撃が切原を襲った。 「なんだこれぁ!」 切原はとっさに持っていた礫を全て打ち上げ、木の幾本かを跳ね返し、吹き飛ばした。 しかし波状になっていた落下攻撃の全てを防ぎ切ることはできず、肩や背に少なくない打撲を受ける。 「ぐっ……!」 そして落下攻撃には、別の効果もあった。 それは、その後に来る“本命”の気配と姿を紛れさせること。 樹上よりもさらに高高度へ瞬間移動していた白井黒子のライダーキックが、突き刺すように迫っていた。 手持ちの打球を撃ち尽くし、フォロースルーのまま体勢も崩れた切原めがけ、黒子は重力も加わった蹴撃を乗せる。 次の瞬間には、ラケットを持った肩を外すはずがない。 「――バーカ。だから、甘いんだよ」 そんな瞬間は、来なかった。 ついさっき撃ち尽くされていた打球の最後の一球が、『時間差をともなって』白井黒子を直撃していた。 「があ゛っ!!」 まるで『一球だけ上空ではなく地面に打ち付けられていたけれど、ぬかるんだ地面にめりこむことなく直前でホップして上空へと逆襲してきた』ような動きで。 「サザンクロス……っつったか。墓標はねぇが、十字架を背負って……死ね」 かつて二回ほど目の当たりにしたその隠し球の名前を呟いて、死刑宣告をする。 上空へと打ち上げられた白井黒子の体は、木の枝に何度も衝撃を殺されるように落下し、地面に落ちた。 体を折り曲げるように身を起こし、幹にもたれかかるようにして上半身を持ち上げれば、円礫刀が首元にあてられる。 「どこが甘いのか教えてやろうか。 『葉っぱで枝を切る』なんて真似が出来るなら、『俺の首を切り落とす』ことだって狙えたはずじゃねぇか。 それが、俺を止めるための甘くない手っ取り早いやり方だったんだよ」 勝負アリと言わんばかりに、赤い瞳が冷酷な目で見下ろす。 枝を切り落され、サザンクロスの余波を受けて、枝が消失した天蓋から月明かりが森に差し込んできた。 差し込まれた月光を背にして、切原の顔が翳る。 赤いようにも白いようにも見える、そんな光だった。 「研究所の時から、そうしてりゃ良かったんだ。あの時なら俺もお前の力をよく知らなかったし、不意打ちで首を切るぐらいはできただろ。 そうすりゃ、あの二人だって俺に殺されることは――」 「そうかもしれません。でも、今の私には……七原さんが、いますから」 やっと追いついてきた七原の足が、十メートルばかりの距離でぴたりと止まった。 ほかならぬ自分自身を、名指しされたのだから。 「理想の行き着く先を見せると約束したんですの。その私が、『私』を曲げたところは見せられません」 「アイツには殺させるけどテメーは殺さねぇのかよ。汚れ役を押し付けてるだけじゃねーか」 血だらけで制圧された黒子に逃げる余地を与えるために、そしてあわよくば切原を仕留めるために、肩で息をしながらもグロックを構える。 構えながら、言われてみればそうかもな、と思った。 出会ったばかりの黒子だったら、七原が誰を殺そうとしても『これ以上の殺人者にするのは見過ごせない』とか言って阻止しただろう。 だとしたら、今の七原と黒子に、『それもまた正しい』と言わせているものは―― 「――そうじゃない。どんな形であれ、繋がっていたいんですの。誰もいなくていいなんていうのは、寂しいからっ」 「だったら――どうしてアイツは『居場所がない』って言ったんだよ!」 その言葉のどこが燗に触ったのか、切原は声を荒らげた。 すぐそばに七原がいるのに黒子に向かって叫んでいるのは、ただ無視されたのか、それとも黒子だけが話せる相手として認識されているからなのか。 「アイツは、自分の帰る場所なんかどこにもないって言ったんだぞ! 『俺たち』と違って、勝ち逃げされても文句ひとつ言わねぇくせに。 無念を晴らすとか、仲間を汚すなとか、言葉ばっかり強ぇくせに。 お前が一緒にいても『帰る場所がない』とかぬかすなら、現実なんてそんなもんじゃねぇか!」 ――俺には何もないんだよ! 誰も『おかえり』なんて言ったりしない! 「確かにそう言ったけど、根に持つのかよ……」 切原には聞こえないようにぼそりと呟く。 この隙に背中を撃とうかとも思ったけれど、それができなかったのは動悸を自覚したからだ。もちろん、運動後の息切れが原因じゃない。 ――誰も一緒にいてくれないなんてこと、絶対にない。 自分の知ってる人たちはいい人達だったってことを、あんなに必死に叫べるのに…… 七原秋也にだって、思い出すだけで硬直してしまうことはある。 「七原さんの心のことは、七原さんにしか分かりません。 もしかしたら、七原さんにだって言葉にできないかもしれません」 がっしと、黒子は左手で円礫刀を掴んだ。 手のひらがざっくり裂けるのも厭わずに刀身を首から外すよう押しのける、その動きに切原は驚き、困惑から動きを止めた。 「けれど、貴方が七原さんをそんなふうに怒っているのは……居場所なんか無いと思いたいから、ですか? 居場所が無いと信じ続ける限り、貴方は止まらずにすみますから」 ずざっと、右腕の肘から先を、地面の腐葉土に擦りつけるように動かした。 傷ついた右手がこすれ、顔を歪めながらも、 「だから、わたくしはぜったいに諦めません!!」 そのまま、『触れた物体』に対して転移が実行された。 左手の円礫刀はどこか遠くへと。そして、右手にこすりつけられた大量の砂粒は、 「ぶはっ」 切原の顔面へと転移し、目くらましとなってその体をのけぞらせる。 すかさず黒子は、立ち上がった。 「貴方を、止めます!」 血で濡れた手を伸ばし、ワカメ状の髪の毛をがっしりと掴む。 そして、位置を逆転させる空間移動(テレポート)。 ぐるりと切原の上下百八十度が、切原の視界にとっては天地が、入れ替わった。 「――ふんぬっ!」 しかし、切原はその反射神経を人間離れした動きでもって駆使する。 ぐるんと体を丸め、頭を地にぶつけさせながらも宙返りを果たした。 黒子もすかさず動きを追う。切原もラケットを握り、殴り返しつつも優位を奪い返そうとする。 ラケットが浅く額を掠め、黒子の頭から血の軌跡が走った。 「止まらねぇ! 止まったら負けだ!」 「止めます!『任され』ましたもの!」 そのまま二撃をはなとうとする切原の突撃を、黒子は横に流していなす。 そのまま脇から固めるように切原を組み伏せようとした結果、二人はもつれ合うように木の後ろへとたたらを踏んだ。 そこで、偶然が攻防を左右した。 山の斜面が、急勾配になっていた箇所。 山の麓へと続く、最後の急な獣道。 背後がそうなっていたことを三人ともが見落としていたのは、ひとえに月明かりしかない暗さのせいで。 足を踏み外し、体を傾かせたのは二人同時。 しかし驚くのも一瞬のことと、戦意を失わなかったのも二人ともだった。 「離せっ! 潰れろォ!!」 「離しません! 絶対に!」 鏡写しのように、上下左右が逆転するように交互に。 両者はもつれ合うように斜面を転がり落ち、揉み合い、噛み合いながら、山の出口へと互いを転がしていった。 ◆ 「……この場所に戻りたくは、なかったぜ」 そう言ったのは切原だったが、追いついてきた七原も同じ感慨を抱いただろう。 急斜面の転倒しながらの空中戦は、麓まで転がり落ちるとそのまま取っ組みあいに切り替わった。 両者ともに打撲と擦過でズタボロになっての乱闘は、集中力を全て眼前の相手へと使い果たし、舞台の移りかわりに気づく余裕を奪う。 やがて二人の動きが止まった時、彼らはやっとその場所に戻ってきたことを自覚した。 そこにあったのは、夜闇に黒々とそびえたつホテル。 そして、周囲から漂う異臭と、それを発するは幾つかの死体の影。 ホテルの内側からより強い匂いが漂ってくるのは、そちらに犬の群れや桐山和雄の遺体があるからだろう。 「……もしかして、貴方も、『ここ』から始まったんですの?」 「なんだ、お前もかよ。だったら、俺がどんなのを見たのか分かっただろ」 切原の右手は黒子の首を絞めるように掴み、左手は肩を地面へと押さえつけている。 体制の上下関係はさっきと同じで。違うのは、黒子もまた切っ先の鋭い石片を切原ののどにあてがい、血に濡れたもう片方の手でも相手の服を掴んでいることだ。 その腕を痛みと疲労でがくがくと震わせて、それでも両者は力を緩めない。 「お前が見せつけられたのはどれだ? 俺の見た死体は、いちばん酷いことになってたよ……見るんじゃねェぞ。 誰だろうと、『あの人』を見たやつは、みんな殺す」 言葉の後半は、ギロリと後ろを睨みすえて、七原に向けたものだ。 背中をジグザウエルの銃口にさらして、その上で黒子に服をつかまれている以上はテレポートから逃げられないというのに。 戦いの勝ち負けで言えば、黒子と七原の勝ちが見えているのに。 死ぬことさえ乗り越えて復讐を果たすと言わんばかりに、瞳には憎悪が再燃している。 「『これ』を見ても綺麗事を言えるお前には分からねぇ……違うな。 理解できたとしても、越えてくることなんてできねぇんだ。 『これ』を見てみんな死んじまえって思ったのは、もうずっと前のことだ。 止まれるわけねぇだろうが。今さらなんだよ!」 「でも、止まらずに『自分』を殺し続けるなんて、きっと破綻します。 どこかで終わらせなければ、倒れる時がきます。 現に、私も貴方も、もうボロボロでしょう……?」 「認めねぇ! 負けるなんて認めるかよ。認めるぐらいなら、死んだ方がマシだ!」 もはやラケットも地面に放り出して、空手になった右手で黒子の首を絞め殺さんばかりに圧迫する。 このまま、因縁の戦いを終わらせる。 理解しあって、しかし決定的に断絶したまま、勝利の矜持だけを抱いていく。 そんな意思が言葉にならずとも、のどを潰さんばかりに力をかける少年の手のひらから伝わってきた。 ――もう、いいんじゃない? 黒子はよく頑張ったんだから。 頭に、そんなふうに囁く声があった。 七原の声にも聞こえたし、御坂美琴の声のようにも聞こえた。 黒子は黒子の最善を尽くしたし、切原は黒子に負けて止まる。 このまま黒子が切原を殺さなければ、七原が撃ち殺して終わりだろう。 それもまた正しいし、それでいいじゃないか、と。 むしろ、こいつを改心させたところで、誰が救われるの? こいつは『居場所なんかどこにもない』と信じたがっているんだし。 『じぶんを信じた』おかげで、発狂せずに自分を守ってこれたんだよ? 今さらそれを取り上げて、生きていけるほど人間は強くないんだから。 ここで死なせてあげた方が、こいつにとっては救いなんじゃないの? 最後の最後で黒子みたいな人間と戦えただけ、マシな結末だったじゃない。 分かる。 それは分かる。 そういう結末になったとしても、黒子は自らの《せいぎ》を裏切らずには済むだろう。 だけど、それでも。 「そんな、どこにも帰る場所がないなんて、悲しいですっ! 私は、貴方に手をっ――」 首を絞める力が強まり、声は中途で遮られた。 切原さん。 貴方が私を敵と定めたように、私も貴方を諦めたくないんです。伝わりませんか。 伝わっていたとしても、それは声にならず。 七原がカチリと、撃鉄をあげる音が聞こえて。 「おいおい、これはどういう騒ぎなんだ?」 「何をやってるんだよ。佐野やロベルトが死んじまってるのに……ここにまた遺体を増やすつもりなのか!?」 闖入者、だった。 二人の少年が、ライトを照らしてホテルの中から現れる。 一人は、飄々とした口調ながらも引きつった顔をした眼鏡の少年で。 もう一人は、その手に謎の木札のようなものをぶら下げている芝のような髪をした少年で。 そして状況は、一時停止をした。 ◆ 下手な誤解をされても仕方のない状況ではあったし、そんな状況下で首を絞めていた切原までもが一時停止していたのは間抜けなことだったかもしれない。 それでも停止したのは、七原がいつでも引き金を引けるという緊張状態と、少なからず闖入者に興を削がれたところがあったのだろう。 (さらに言えば、とっさに『殺し合いに乗っているのは七原の方です』という類の作戦が浮かぶほど、切原は計算高い頭脳を持たない。少なくともテニスが関係ないところでは) ともかく、全員にとって頼もしいことに七原秋也が冷静だった。 間の悪いタイミングで乱入されたり誤解されたりをとっくに経験済みとなれば、対処法も学習するのだろうか。 ペラペラと場違いなほど流暢に、殺し合いに乗っているのは切原一人だということ。 分かりやすくかいつまんで、たった今まさに仲間を殺されて何度もぶつかった因縁の戦いの決着がつくところだったのだと説明した。 「分かりやすく言うぞ。『空気読んでじっとしててくれ』。 それから、『他人の問題に首を突っ込むな』」 銃口は切原に向けたままでも、菊地と植木を牽制するようにじろりと睨むのは、横槍を恐れてのことだろう。 そりゃそうか、と菊地は思う。 殺し合いに乗った人間を、他に手段はないと決めて殺そうとしているのだから。 一部の善良な対主催派ならば、『殺して解決するのはよくない』などと止めにかかる危険がある。 ……どころか、菊地と一緒にいる植木耕助はまさにそういうタイプだ。 「手を出すなって言われてもなぁ……救けられないって諦めるのは、嫌いだ」 たとえ当人たちが決断したことだろうとも、何もできずに目の前で人が死ぬような理不尽を見過ごす人間ではない。 まして、殺す側も殺される側も苦しそうな顔をしていればなおさらに。 地面から木を生やして三人全員を止める算段くらいはつけていそうな、そういう顔をしている。 植木を止めようと、決めた。 七原が、このまま植木に銃口を向けかねないほどピリピリしていたからというわけではないのだが。 (菊地視点ではさっさと切原を撃って終わらせればいいのにと見えるけれど、七原視点では植木がどんな能力でどう動くのか読めないから躊躇することも分かる) その判断は、すっと菊地の心から生まれていた。 「植木、ほっといてやろう。俺は、あいつらの言いたいことも分かる」 「菊地? 分かるって……」 「もし、これが常盤たちと再会した時の俺だったら、あいつらと似たようなことをするかもしれない。 その時は、俺だってあの場にいなかったヤツに邪魔されたくない。たとえ常盤たちを殺して、植木と喧嘩になったとしても」 本心だったけれど、それは裏切りかもしれなかった。 ここで死人を出すばかりか常盤たちをも殺すということは、『全員を救う』という植木の信念を曲げることになるのだから。 愕然とした植木の顔に見つめられることを、菊地は覚悟して顔を引き締める。 「――わかった。手は出さねぇ」 しかし、あっさりと。 さも簡単に気分を変えたかのように、彼はそう答えた。 「でも、これだけは言わせろ」 なぜ、と。 疑問で頭を埋める菊地を横目にして、さらに言う。 「シンジが――友達が言ってたんだ。誰かを――何かを守るために戦うなら、自分自身を救えなきゃ出来っこないんだって。だから俺は、自分のこともちゃんと救うって決めた。 だから……俺が『他人』なら、お前らに『他人じゃないヤツ』はいないのか。 今生きてる人間でも、これから会うことになるのも、死んだら悲しむヤツはいねぇのかよ。 お前らは手を出すなって言ったケド……言ったからには、そこを分かってないと駄目だからな!」 そう言って、両手につかんでいたゴミをばっと捨て、腰をおろして座った。 言いたいだけ捨て台詞を吐いて、手放した。 これまでの植木を知らなければ、そう見えたかもしれない。 しかし、菊地には理解が追いついた。 ――『正義』がいつもいつも正しいとは限らない。最後の一点はいつだって自分以外の誰かが持ってる。 植木耕助だって、彼なりに考えて成長している。 出会った人間のことをちゃんと見て、その全てを背負っている。 きちんと背負うことを、約束してくれる。そういうヤツだからこそ、日野日向も、碇シンジも、宗屋ヒデヨシも、後を託すことができたのだろう。 ◆ 植木という少年のことは、テンコから聞いたばかりだ。 『死なせるぐらいなら絶対に行かせない』という少年。 だから、その彼が許しているこの時間が、特別サービスのようなものだということは察せられる。 少年の言葉を聞いて、頭をよぎったのは初春飾利のことだった。 まだ生きている風紀委員の同僚。 再会して、ともに生きて帰りたいと思っている友人。 (帰り、たい……?) その言葉が、不思議と意識に引っかかった。 しかしまず気になったのは、水入りを挟んだことで切原が苛立ちを増していないかどうかだ。 植木たちの方へと回していた首を頭上へと戻し、切原の表情へと向かう。 そこに、明確な動揺を見た。 髪から、白色が失せている。 目と全身の充血が、引いている。 怒っている顔はそのままに、しかし上目づかいで植木たちの存在を見ている。 (なんで? さっきの言葉の、どこが?) 一時停止から再開されそうになっているわずかな時間を使って、黒子は考える。 さんざん世界に居場所がないことを、恨みをこめて力説してきたばかりだ。 だとすれば彼にとっての『他人じゃないヤツ』は、自分を残して死んでいった人間のことではなく。 (今と、これから……) 盲点に気づいた、感触があった。 他人は自分にとって『悪魔』でしかないし、他人だって自分のことを『悪魔』と呼ぶはずだと少年は言った。 だがしかし、本当に帰りを待っている者がもう一人もいないなんて、誰が決めた。 (七原さんみたいに『どうせお前には家族だってクラスメイトだって生きてる』なんて楽観論は言えませんけれど……) もしかしたら、失った人の他にも、彼のいたチームにはまだまだ仲間がいるのかもしれない。 同じチームではなくとも、『放送で知り合いの名前が呼ばれた』と言っていたぐらいだから、彼のいた世界にはもっと広い人間関係があったのかもしれない。 その全員が切原を拒絶するなど、どうして決めつけられる。 友達を殺された黒子でさえ、切原と共感することができたのに。 「貴方にとって、まだ貴方を見捨てていない人たちもみんな『悪魔』ですか? 殺されても仕方のない人ですか?」 途切れたはずの、かける言葉が湧いてきた。 切原の黒い眼が、黒子を見る。 「まだ大切な人が残っていれば他の大切な人が死んでも耐えられるなんて、私はぜったいに思いません。 ですが、それでも残された大切な人達は、あなたを心配して待っているのではありませんか?」 あまりに失い過ぎた黒子でさえ、初春飾利を失いたくないと思っているように。 断言するように放たれた声に、悪魔の口元が引きつる。そして、吠えた。 「そんなの、幻想だ!! 人を殺した! 戻る場所なんかねぇ!」 首を絞める殺意が再開される。でも、まだだ。まだ、黙らない。 疲労の積載された神経からなけなしの集中力を使って、空間移動(テレポート)を実行。 くるりと、黒子と切原の位置関係が入れ替わった。 切原の背中がジグザウエルの射線から外れて、舌打ちをする音が背中から聞こえる。 ごめんなさい、と内心で七原に謝った。 「でも、貴方はみんなでテニスがしたかった、とおっしゃいました! それが貴方の心なら!私の志を幻想だと言うのなら! 貴方のその否定こそ、幻想です!否定させたまま、死にはさせません!」 また首へと向かってくる手を、右拳で殴りつけて制する。 殴った反動で、血を流しすぎた頭がぐらぐらと揺れた。 研究所で負った傷は治療されていたけれど、それは流された血が戻ってきたということじゃない。 ここに至るまでに合わさった裂傷も加われば、体調はおそらく極大の貧血。 テレポートの余裕はおそらくさっきの一回きりで、残っているのは言葉と、マウントから振りかざす右手のみ。 それでも訴える。なぜなら、許せないから。 「私、船見さんと竜宮さんと、テンコさんを失わせたことを絶対に許せません。 でも、そんな私と貴方が戦って……相容れないけど、言葉を交わしたのに。 『どうせみんな拒絶する』とか決めてかかっている貴方が、絶対に許せません」 許せない。 置き去りにされる痛みを知っているのに、自分が置き去りにする誰かのことは『幻想だ』と否定するこいつが許せない。 ひとりにひとつ、もしかしたらそれ以上。誰にでもあるしあわせギフト。 弱いからそれを失ってしまうというのなら、そんな幻想をぶっ殺したい。 ――きみが気にするべきは、きみを待っててくれる人にだ。 (あ……) カチリ、と噛み合った。 植木の言葉はきっかけだった。 植木に流されたのではなく、その言葉が最後のピースになって全体像が見えてくる。 ――もし、もしよ。私が、学園都市に災厄をもたらすようなことをしたら、どうする? そう言って部屋から出ていった、ひとつ年上の少女の背中。追いかけることができず、『帰ってきてください』と祈ることしかできなかった夜。 『しばらく自分を見つめなおして、もう一度出直してくださいな』と、連行される不良学生に、それとなく言い聞かせていたこと。 『欠けることなく元の日常に帰りたい』と言っていた竜宮レナたち。 友達のことを大切そうに話していた、赤座あかり。 空っぽなんかじゃない。 定形の基準などない虚ろな《せいぎ》だったとしても、その虚ろをかっこいいと思わせ、重力を与えている、目に見えないものは確かにある。 白井黒子が、たどり着きたかった理想の果ては、 「『お帰りなさい』。帰った世界でも、ひどい現実が待っているかもしれません。敵意で迎える人もいるかもしれません。 でも、そんな現実を生きると言った七原さんは、私を一人にしませんでした。 相容れないと言いながら、一緒にいてくれました。 ですから、貴方も一緒に帰るんです。どこかで誰かが願い、この私が賛同したとおりに」 ――迷子になっている子どもは、家に帰さなければいけない。 首に向かってのびていた切原の手が、だらりと力を失った。 「……やり直すのが、どんだけ苦しいと思ってんだよ。俺がどんなヤツか、お前なら知ってんだろ」 「では、貴方の論理に合わせた言い方をしましょうか。 私は貴方に殺されませんでした。つまり貴方は、甘ったるい私でさえ殺せないくらい、悪い人間ではなかったということではありませんの?」 泣きそうに見える顔で、切原が唇を噛んだ。 続く言葉を、黒子は待つ。 この言葉も届かずに、舌を噛み切って自殺されたらもう私には打つ手がありませんけどねと、嘆息して。 ピシリ、と亀裂の入る音が崩壊の始まりだった。 「「「「「え?」」」」」 傷だらけの外壁を晒していたホテルの外壁が、それでもずいぶんあっけなく天辺から崩れ落ちてくる。 ひとつひとつが大人でも抱えきれないほどの鉄筋コンクリートが、死体だらけの地獄絵図になった広場の全てに落ちる。 それはもちろん人為的な災害だったのだけれど、この時の彼等にはただ『落ちてくる』という認識で精一杯だっただろう。 菊地善人の逡巡も。 植木耕助の成長も。 白井黒子の答えも。 七原秋也の信念も。 ――ホテルは逃走する時間も与えずにガラガラと倒壊して、『一人を除いた全員』を、瓦礫の山へと飲み込んだ。 ◆ バロウ・エシャロットが電光石火(ライカ)でホテルのもとへと立ち寄った理由は、およそ植木耕助たちがそこへ向かった理由と同じだった。 ただし、いるかもしれない誰かを救けるためではなく、いるかもしれない誰かと集まってくる誰かを、全て潰すために。 もとより、残り人数が20人を切ってしまった終盤において、非戦派が隠れ潜むための場所もたくさんあるような巨大施設をそのまま残しておくメリットもない。 たどり着いたホテルの外壁に隠れて様子を伺えば、その表面には脆く亀裂が入っていることが伺えた。 日が暮れてから近づいてくる参加者には暗さで判別できないだろうが、おそらくホテルの受けたダメージはざっと見た外観よりも酷い。 神器の力を使えば、崩落させることはいかにも容易だった。 電光石火(ライカ)でホテルを回り込むようにして山を登り、C-6の北側に布陣してホテルの背面を見下ろす。 自然に任せても壊れるかもしれないホテルで、いるかもしれない程度の参加者を探し回るよりも合理的だったからだ。 まずは高所から“鉄(くろがね)”を連続で発射し、ホテルの屋上近くの階層を連続で撃ち抜き、真下へと崩した。 ちょうどダルマ落としの要領で、崩された瓦礫が落下して1階のホールとその前庭を埋め尽くす計算だ。 続けて“唯我独尊(マッシュ)”を呼び出し、ホテルの後ろ壁の二、三階層にあたる部分めがけて突撃させる。 一段階目で広場正面からの逃げ場を塞ぎ、二段階目で裏手にある非常口を崩すように。 あとは、アリの巣に閉じ込められたアリと同じだ。 たっぷり十分はそんな作業を続けて、念入りに虫一匹も逃がさないように破壊し尽くした。 煙が晴れたホテル跡を見下ろし、全てが終わったことを確認する。 ホテルの周囲を囲む街灯に照らされた広場には、それこそ山のような瓦礫が層をなしていた。 そこでバロウは、初めて気付く。 山の下の方に、まるで地面から人為的に生やしたような木が幾本も、下敷きになってはみ出ていることに。 「植木君、いたんだ……」 そこで初めてバロウは、軽率な行動をとってしまった気持ちになった。 いくら『ゴミを木に変える能力』でも、せいぜい木によって瓦礫がぶつかる衝撃をちょっとだけ殺すぐらいで、瓦礫から身を守ることなどできないだろう。 再戦を誓ったのに、こんな形で決着がついてしまった。 そう思ってしまいそうになり、バロウは頭を振る。 どんなに『過程』が酷いものだろうとも、『結果』こそが全て。 あの中学校で神器を使う重みを刻みながら、改めて誓ったじゃないか。 「そうだよ。こんな”結果”を見せられたら、どんな馬鹿でも理解できるよね」 つまり、植木耕助の『正義』は、バロウ・エシャロットの『夢』に敗北した。 彼に乗せられていた人々の想いも、同じく。 「最良の選択肢を選んで勝ったのは……僕だ」 ”誰か”によって踊らされることを自ら進んで選んだ”子ども”は、振り返らずに歩み去った。 【C-6 ホテル近辺/一日目・夜中】 【バロウ・エシャロット@うえきの法則】 [状態]:左半身に負傷(手当済み)、全身打撲、疲労(小) [装備]:とめるくん(故障中)@うえきの法則 [道具]:基本支給品一式×2(携帯電話に画像数枚)、手塚国光の不明支給品0~1 基本行動方針: 優勝して生還。『神の力』によって、『願い』を叶える 1:施設を回り、他参加者と出会えば無差別に殺害。『ただの人間』になど絶対に負けない。 2:僕は、大人にならない。 [備考] ※名簿の『ロベルト・ハイドン』がアノンではない、本物のロベルトだと気づきました。 ※『とめるくん』は、切原の攻撃で稼働停止しています。一時的な故障なのか、完全に使えなくなったのかは、次以降の書き手さんに任せます。 (使えたとしても制限の影響下にあります。使えるのは12時間に一度です) 【菊地善人@GTO 死亡】 【植木耕助@うえきの法則 死亡】 【白井黒子@とある科学の超電磁砲 死亡】 【七原秋也@バトルロワイアル 死亡】 eternal reality(自分だけのものではない現実)
https://w.atwiki.jp/kasuga_basara/pages/41.html
ボイス01 私は生きる… (キャラクター選択) ボイス02 これが私の全て! (BASARA技発動) ボイス03 私は影…忍んで舞う…! (BASARA技終了) ボイス04 近付くな…巻き込まれたくなければな (大武闘会副将) ボイス05 あ…ああ…!……よくもっ! (小太郎外伝:最終章 風魔、全てを抹殺(佐助をかすがより先に倒す)) ボイス06 謙信様は…私が…お守りする… (死亡(敵側)) ボイス07 お前の顔は見飽きた… (挑発) ボイス08 これ以上は私を斬ってからだ! (汎用(敵側)) ボイス09 謙信様には…近寄らせない! (①汎用(敵側)②合戦中:熱血!上田城(一つ目の門突破)) ボイス10 謙信様のお声を聞かせるものか (①かすがと戦闘中②合戦中:熱血!上田城(三つ目の門突破)) ボイス11 それが貴様の限界だ…さっさと帰れ (プレイヤー瀕死) ボイス12 よし…いい調子だ (汎用) ボイス13 さあ、いくよ… (①乗馬時②ステージ開始:賎ヶ岳の戦い③汎用) ボイス14 いい大人が二人して…みっともないぞ! (①ステージ開始:賎ヶ岳湖畔戦②ステージ開始:宿命!川中島の合戦) ボイス15 そのような気概で、謙信様は守れない! (汎用:上杉軍武将とのかけあい) ボイス16 負けるな! 風はこちらに吹いている! (①汎用:敵かすが②汎用:2本能寺暗殺行(プレイヤーへ)) ボイス17 火薬の臭いは…嫌いだ (ステージ開始:四国重騎戦) ボイス18 ああ…謙信様が悲しんでいる…! (ステージ開始:最北端一揆) ボイス19 きれい…こんな街をいつか謙信様と (ステージ開始:京都けんか祭) ボイス20 不思議だ…心が凪いでいる (ステージ開始:関ヶ原の戦い) ボイス21 分からない…なぜあの悪魔に尽くすのだ… (濃姫へ) ボイス22 お、お前と話してると…イライラする! (佐助と戦闘中) ボイス23 お前、酒が好きなのか…謙信様と同じだ…フフ (島津へ) ボイス24 駄目だ!謙信様に話しかけるんじゃない! (①かすがと戦闘中②ステージ開始:熱血!上田城③汎用)未確認 ボイス25 は…! そ、その手があった…! (汎用(謙信とのかけあい)) ボイス26 何をしているんだ、お前は甘すぎる! ()未確認 ボイス27 いいえ…退くわけにはまいりません! これが私の役目…この命にかえても! (合戦中:川中島の合戦・天) ボイス28 この命のひとかけけらまで…謙信様のために… フフフ……悔いは…ない…… (合戦中:川中島の合戦・天) ボイス29 ()未確認 ボイス30 ふざけるな!真面目にやれ! (小太郎外伝:ニ章 風魔、覇王暗殺)
https://w.atwiki.jp/pattle/pages/48.html
ピラミッド最上階に安置されている棺に話しかけると、クイズに挑戦できる。 これに全問正解すると「A判定」がもらえる。(拷問宇宙をクリアするために必要になるアイテム) 問題 内容 解答 補足 第1問 パトルとカタリナの苗字は 「ブラックバーン」 『スパイ容疑』およびヴィクトリア十字勲章授与のシーンにて確認可能 第2問 作者は神戸在住か 「いいえ」 ワールドマップでは出身地と書かれているが在住ではないため引っかけ問題である 第3問 コモラーデの所属機関は 「対外文化協会」 『コモラーデ出生の秘密』で確認可能 第4問 マティス金欠の原因 「海パンを作った」 ニースでマティスと会話すれば確認可能 第5問 神田桜花がコモラーデを料理に 「パテ」 『英霊の怒り』で確認可能 第6問 ハリー王子のその後 「メッカを示す方向に向かって放尿」 『地雷除去』で確認可能 第7問 コモラーデの政治思想は 「マルクス・レーニン主義」 開発室でコモラーデとの会話から確認可能 第8問 Under Garden chronicleでロンメルに攻撃を当てるには 「トゥルーミラー」 Under Garden chronicleをプレイすれば確認可能 第9問 パトルの軍事博物館の仮題は 「ポケットタンクス」 開発室で確認可能?(要検証) 第10問 パトルの軍事博物館製作にあたって頼りになった先生は 「知的財産法の先生」 カタコンベ探索の会話で確認可能 実はルイスキャロルのクイズと正解番号が全て一緒
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/11530.html
このページはこちらに移転しました トリカゴノオトコ 作詞/452スレ120-121 「酒だ!酒を持ってこい!!!」 男の叫び声 怯える召使 「どうした!酒はまだか!」 殴り飛ばす音 崩れ落ちる音 「嗚呼・・これが貴族と云う者なのか・・・!」 この胸の奥のこの思いを どうすればいいのだろう 迷い 迷い流れていく時 また一人 また一人崩れていく 嗚呼コレが僕の望んだ 世界の住民なのだろうか それともこの男は この世界の害悪なのだろうか どちらでも良い どちらでも構わない 僕の思いはただ一つ この思いに従うだけ この胸の奥のこの思いを さぁ 今 解き放とう 迷い 流れていく時は終わりだ もう誰一人として崩れさせはしない 白銀の剣を背負って 漆黒の衣に身を包んで 黒と白の交錯する思いを 今 解き放とう 「酒はどうした・・・」 「お酒ならば・・・こちらに。」 「おお、早く出せ・・・うぐっ?!」 「今夜のお酒は 良く回ると思いますよ。」 「ぐっ・・・貴様・・・!」 「どうぞ・・・ご主人様・・・おやすみなさいませ。」 紅く 紅く染まる白銀の剣 黒く 黒く染まる僕の心 白く 白く染まる僕の思い ああ これが 答えなのだろうか 正しくてもいい 正しくなくてもいい これが 僕の答え
https://w.atwiki.jp/pokehakur/pages/19.html
問1.テッカニン 問2.♂♀両方同じ 問3.マジックコート>フェイント>でんこうせっか>たいあたり>あてみなげ 問4.イトケのみ 問5.オーダイル>ドダイトス>ボスゴドラ>ヤドキング>バシャーモ
https://w.atwiki.jp/yu-gi-oh-dialog/pages/188.html
ふっふふふふ 遊戯 君等の仲間になれて嬉しいよ その為の協力者を用意しておいた甲斐もあった 女は必要とあらば いつでも僕が操れる そしてもう一人 獏良、奴には既に邪悪なる意思が住み着いていたが 表の顔は僕が洗脳しておいた 準備はすべて整った 遊戯 僕の背中に刻まれた刻印 そこには 貴様の記憶の在り処が記されている だが貴様に記憶はやらんさ 闇のゲームで永遠の闇に葬ってやる そして3枚の神のカードを手にしたこの僕が 新たなるファラオになる! それがこの闘いの究極の目的だ! さあ、三千年の闘いの始まりだ 遊戯! 城之内君 1回戦で対戦する事になったら、お手柔らかに えぇ? そうだね その時は全力で戦おう
https://w.atwiki.jp/vipdetyuuni/pages/1614.html
「―――うそ、だろ?」 青年の眼の前には一人の男と、四人のよく知った―――いや、青年にとって掛け替えのない仲間が横たわっている。 「―――何を、した」 聞く必要はない。聞かなくても青年は理解している。 「見て解らんのか?」 男は、そう口にした。見て、何が起きたかを理解できないのか、と。 解る。 青年に解らないはずがない。 だが、認めたくはない。 それを、認めたくはない。 答えを、認めたくはない。 「何をしたって聞いてんだよぉおおおッ!!!!」 知らず、青年は叫ぶ。それは、認めたくない故の。叫ばないと気が触れてしまうから。 「―――知れた事。ただの初期化に他ならん」 男は青年の叫びを意に介さず、そう口にする。 「ふざけるな・・・。なんの、どんな理由があって貴様にそんな事をする権利があるってんだよぉ!!」 なお叫びながら、青年は静かに、冷静に『能力』の発動準備に入る。 「―――理由など無い」 「理由もなく、貴様は、貴様は―――」 青年は横たわる四人の掛け替えのない仲間を見据える。彼らは、もう、何も言わない。動かない。 「―――あいつらを殺したのか」 「まぁ、強いて言うならば・・・そうだな、それが私の 俺の 僕の 我の為すべき事というだけだ」 「あぁ、解った――――貴様を殺す」 ――キュンッッッッ!!!! 【荒嵐風神】 風を繰り、嵐を従える能力。 今放たれたものは、亜音速に達する真空の刃。その数は十二。 男を目掛けて、事実上不可避の真空の刃が襲い掛か――― 「ふむ、忠告が遅れたか」 「――――ッ!?」 ―――らず、男は青年の背後から声をかける。 ギャギャギャギャギャギャッッッ!!!!! 真空の刃は、男が立っていった空間を切り裂き、霧散する。 そう、男 が 立 っ て い た 空 間 を 。 「私を 俺を 僕を 我を 殺したいと思うのは君の 貴公の お前の 貴様の勝手だがな。能力を使わずに戦った方が勝機は得やすいと思うが―――まぁ、過ぎた事。存分に初期化されよ」 だが、青年の反応も然るもの。この事態に『能力』を行使し、振り返りざまに風弾を放つ―――よりも速く。 「―――があっ!!!」 電撃が、青年の身を焦がす。 それでも咄嗟に転がりながら距離を取る様子で、青年の戦い慣れというのを窺う事ができる。 事実、青年とその仲間達はこの界隈ではそれなりに名の知れたチームだった。もっとも、正義を馬鹿にし悪を笑うという類のものだったが。 「電撃の能力者・・・?」 青年は呟き、即座にそれを首を振って否定する。 確かに、男の放ったものは電撃の他にないがそれだけでは真空の刃を避け、青年の背後を取る事はできない。 そして、青年は一つの答えにたどり着く。『自らを電撃と化す』能力者だ、と。 「いや、自らを電撃と化す能力は未だ私の 俺の 僕の 我の内には無いぞ」 男は、青年の心の内に答えるかのように。 「・・・・・・未だ? まさか、いや」 「―――どれ、こうか?」 男が俺に向かって手を翳すと ―――キュンッ!!! 「!! くそっ!!!」 飛んできた真空の刃を咄嗟に嵐壁を呼び起こして防ぐ。 「今のは、俺の―――」 これでも何度も能力者と戦ってきた事がある。似た能力ならばその中で何度か見た。だが、今の能力は、威力こそ低かったが確かに俺の、 「別段驚く事でもあるまい」 驚かないはずが無い。あれは俺の能力。唯一無二の、俺の【荒嵐風神】。 「そもそもな。君に 貴公に お前に 貴様に出来ることが他人には出来ないと―――」 言葉の途中で、男は俺の視界から消え。 「―――何故、決め付けるのだね?」 トス、と。 音のした方向を見てみれば、 「――――え、」 胸から、刃物が、突き出ていた。 「―――――――こふっ」 喉に、鉄の味がせり上がってきて、ぱしゃぱしゃと地面に鮮血が降る。 「ふむ、そこのとは違い意外と頑丈だな。多少は、誇っても構わんぞ」 「ふざ、ける―――」 俺の背後から刃物を突き刺したという事は、至近距離に男が居るという事に他ならない。 だから、言い終わるより速く。速く。速く。 「―――なぁぁぁぁぁああああああっっっっ!!!!!」 ―――キュガ、という音。 自己の中心から外へ向けて【荒嵐風神】による真空の刃を四方八方三六〇度へ乱射出する事実上回避不可能の無差別絶対必殺攻撃結界。 その名『吹き荒ぶ凶陣』。 それに喰い付かれたが最後、人は人の原形を留めずに死を直視する―――の、だが。 男は、それを直視し。 ―――ザクンッ! 「―――な!?」 青年は驚愕する。 「―――ほう、私の 俺の 僕の 我の腕を喰らうか」 原形を留めずに死に至る必殺を右腕が千切れる程度の損傷で切り抜けた事を。 「さすがに、全天無作為攻撃全てを避け切る事は適わんか・・・。まぁ、この程度の損傷ならば是といった所よな。しかし、腕が無いのは存外バランスが取り辛いか・・・。ふむ・・・」 男は千切れた右腕を拾い上げ、切断面を合わせる。すると、まるで、時間が巻き戻ったかのように右腕が接続される。 「―――ッ!」 青年の、幾度目かの驚愕か。信じれない。信じたくは無い。目の前の男の能力はなんだ。電気に類するモノではないのか。一体なんなん――― 「ま、さか・・・」 そして、青年は思い至る。一つの能力のカテゴリーに。 そのカテゴリーは最強の一つとされるもの。他者の能力を複写し、自らの能力として扱う稀少能力。 「少し違うな。私の 俺の 僕の 我の能力は他者の模倣だ。複写ではない」 刹那。 ザクン、と。 音を立てて。 「な――ん、」 ゴトリ、と。 音を立てて。 「―――複写と模倣の違いを理解できぬ塵芥が多すぎるな」 男が口を開く。 青年の身体は直立のまま。 「今のは 君の 貴公の お前の 貴様の能力と他者の能力の複合に拠るモノだ。どうだね、君の 貴公の お前の 貴様の能力よりも切れ味が良かったろう?」 首は、男の足元に。 「しかし、まぁなにかね。人の話の途中に死ぬのは如何なものかと思うがね」 男はカカカ、と笑い声を上げ、それらを初期化した―――。 一刻の後。 その全てを見届けていた一羽の梟が男の頭へと着地する。 「――ホッホゥ。まぁ、殺しつくしたのう」 「アレらも元は実験体の端くれ、もう少し強度は高いと思ったんだがなぁ」 「死体はあのままでよいのか?」 梟の視線の先には肉の塊。元々何人居たか解らないほどにぐちゃぐちゃな肉の塊。 「――あぁ、あのままで構わん。不出来では在るが初期化は成った。然すれば誘蛾の一つにでも為るだろうさ」 男は笑う。 カカカカカカ、と。 こうして、日常の1コマは終わりを告げる。 ―――さぁ、明日もまた日常は続く。
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/5316.html
作詞:ヘブンズP 作曲:ヘブンズP 編曲:ヘブンズP 歌:巡音ルカ 翻譯:kyroslee (取用翻譯前請注意首頁的翻譯使用禮節, 並不要拿掉譯者的名字) 即便那就是你的幸福 赤腳飛奔起來的 少年少女的期待 即便在這前方會被水沾濕也沒關係呢 叫人頭暈眼花的爭辯化作真理(*註) 啊啊 夜幕又再降臨 一同構築而成的感受 那時候 使胸口苦悶的感情 還有灑落的淚水 被引誘的淚水 失效日期是直到何時呢 在某個未來 能互相歡笑的未來 假若這就是數天後的未來的話 你所 背負着的明天不會叫人痛苦嗎 讓我在我心中翻滾掙扎的文字上 劃上一道線 你所 背負着的今天已經無可挽救了嗎 儘管如此在那雙肩膀上 有承載了一絲溫柔的話 那就能再次 感受到愛了吧 徐徐掉落的魔法 已經被施展了吧 那是誰都無法解開的魔法吧 就連本應被原諒的事 也變得不可原諒 那般的情況的話 並不是只有言語才會變成言語的 即便那數秒即是命運 即便那數步即是命運 但去放棄那份決心就是任性嗎 不要走 不要走 不要走 此刻 你的 目的地不昏暗嗎 假若那只是耀眼光芒中的 影子的話 不想讓你 走向啟程的地方啊 就例如即便在那前方 你得以寂靜安眠 即便那就是你的幸福 你的明天 不會叫人痛苦嗎 讓我在我心中翻滾掙扎的文字上 劃上一道線 你所 背負着的今天已經無可挽救了嗎 儘管如此在那雙肩膀上 有承載了一絲溫柔的話 那就能感受到 那份愛了吧 註 這裏原文是「めくるめく議論はトートロジーに」 トートロジー = Tautology, 中文譯作「重言式」 簡單點來說就是「必然正確的論述」 其相反就是所謂的「矛盾」 それがあなたの幸せとしても 作詞:ヘブンズP 作曲:ヘブンズP 編曲:ヘブンズP 歌:巡音ルカ 中文翻譯:Alice / 箱庭博物館 我阻止得了你嗎。 -投稿者評論 即便那就是你的幸福 赤腳飛奔而去 少年少女滿懷的期待 哪怕在前方被弄濕也無所謂 爭辯地頭昏腦脹也全成廢話 啊啊 太陽又下山了呢 最後只一同得出這般感觸 那時候 緊揪心頭的感覺 和滑落的淚水 這因你落下的淚水 有效期限會到什麼時候呢 * 某個未來 某個能互相笑鬧的未來 能否就是數日後的未來呢 你如今背負的明天難道不辛苦嗎 讓我在那掙扎的文字上 為你畫一條線吧 * 你如今背負的今天難道已無法挽救了嗎 即便如此 讓我在你肩上放上溫柔 * 你就又能感受到愛了吧 你被施上 緩緩墜地的魔法了嗎 * 那真的是誰也無法解開的嗎 若說現下 連被允許之事都已成不可原諒 那就並非只有話語能成為話語 即便那數秒即是命運 即便那數步即是命運 難道想阻止你的決定的我很任性嗎 不要走 不要走 不要走 還不要 你要去的那個地方難道不黑暗嗎 即便你說那只是廣大光芒中的小小影子 我不想讓你 前往重新啟程的地方啊 即便你能在那前方 安穩沉睡 即便那就是你的幸福 你的明天難道不辛苦嗎 讓我在那掙扎的文字上 為你畫一條線吧 你如今背負的今天難道已無法挽救了嗎 即便如此 讓我在你肩上放上溫柔 你就能感受到這份愛了吧 以下為日評論+自己的一點猜側: [注] 原文「消費期限はいつまでですか」,意指「我會哭到什麼時候呢?」 [注] 原文「もがいてる文字にひとつ線を引かせて」,在「辛い」(辛苦)兩字上各畫一條線即成「幸せ」(幸福)。 [注] 原文「その肩に優しさを乗せたなら」,「優」字右下部分即為「愛」。 [注] 原文「緩やかに落ちてく魔法」,暗指跳樓自殺。 配上投稿者評論的「僕に、止められるだろうか」,我自己是詮釋為「主角想阻止某人自殺」,用詞非常驚豔、感人的曲子。
https://w.atwiki.jp/tosyoshitsu/pages/373.html
黒い、影が佇んでいた。 だがその影の輪郭は、物語の半ばで顔をのぞかせた、あの自らの名に道化師を持って任じている男のものとは異なっており、黒よりも、なお濃い黒、光喰らうまさに漆黒の色合いを、その装いに漂わせている。 何より異なるのは、その肌と髪の色。 砂漠に焼けた灰色ではなく、日差しに焼けた褐色ではなく、白い、白い抜けるような肌と髪を、その影の主は持っていた。 亡霊のような高貴なつば広の帽子を目深に被り、影は大地をまなざす。 その形で持って全力で愛を叫ぶ、青の中に頼りなく浮かぶ、とても小さいその大地を。 「――――――――」 影は紫色の唇を、笑みもさせずに閉ざしたまま、そうしてじっと、その大地をまなざしていた。 /*/ 「「「「「「「乾杯ー!!!」」」」」」」 高らかな唱和がオアシスに響き、星の印がついたラベルの缶に、みな、口をつける。 国産の、ビールであった。熱い日差しの中、多量の発汗に促されてか、するすると傾きが深くなり、かん、と響く軽い金属音と共に、空いた一本目が彼らの手元で立てられる。 流れた時は既に半年を数え、季節は夏真っ盛りの八月を迎えていた。 王宮の裏庭に設けられた宴席で、互いの労をねぎらいあうのは、つい先日、ようやっと長い大戦が区切りを迎えたばかりのレンジャー連邦の高官達である。 「長かったですねえ…」 「ええ、本当に。当初は三ヶ月という話でしたから」 倦み、疲れて姿を消したものもいる。それはこの国だけの事ではない。 今はいないものたちに、想いを馳せながら、それでも最後まで戦い抜いた彼等は祝杯を挙げた。 「ヤガミが死にそうになったり、死にそうになったり、死にそうになったり…」 はぁ、と溜め息をつくのは、移民してきたサクという女性である。短い髪が凛としたところのある、今もなお、後にした国の仲間の写真を大事に持っている、情の深い女性であった。 「ドランジがヤガミと殺しあいになりかけたり、いなくなったり、間一髪だったり…」 はぁ、と、これも溜め息をついている、萩野むつき。彼女は死闘のただなかに飛び込んできた、恐れを知らない女性であった。銃弾よりも、何も出来ないことの方をこそ、恐れる勇敢さを持つ、女性である。 幾千幾万の敵と、それをもたった一人で上回る強敵を、いくつも薙ぎ倒して、今、彼等はここにいる。一つの勝利でパレードを行った、最初の頃が微笑ましく思えるほどに、大敗も、大勝も、逆転も、完敗も味わいつくしてきた、戦士の血を持つものたちなのだ。 「その節は、心配をかけた」 高性能の義手を軋ませもせず、二本目のビールを口にして笑むのは当のドランジである。 恋敵のために作られたというこの製品の味わいに、内心穏やかならざるものもなくはないが、一時期のように、若気に任せて感情に振り回されるようなことは、さすがにない。 「ほんとだよ、もう…」 さんざ口やかましくその件については言われ続けたのだろう、わざわざ彼の捜索のために戻ってきた、左右の瞳の色が違う女性がそう呟き、背中をこつんとこづくのへ、ドランジはただ苦笑するしかなかった。 内輪だけのささやかな立食パーティーの形式を取る、テーブルクロスの飾りつけや、料理を給仕するのは、今は姿を見せないものたちに名づけられたものも多い、文字通り『毛色』の異なるものたち。頭に猫の耳を生やし、腰から尻尾をはみ出させる、歳も姿かたちも様々な、猫士と呼ばれる若者達である。 音もなく豊かに溢れるオアシスの冷気と、王宮の影という立地とで、裏庭はなかなかに快適な居心地の空間となっていた。20人ばかりが一堂に会すると、それなりに賑やかにはなるもので、笑顔が絶えない。 「これからしばらくは、小笠原通いの人も多そうですね」 手に大皿を持ちながら、にこにことそんな女性陣を見守るのは双樹。 「特定の好きな相手がいない人間にとっては、なかなか手が出ない娯楽だけどねえ…」 「あれ、城さんはなっこちゃんびいきじゃなかったんですか?」 「うん、それがね」 と、華一郎もまた隣に並び、見る景色を彼と同じくしながら困ったように笑う。 「俺はどうも、日本人特有の判官びいきという奴だったらしい。石田の時も、横山の時も、そうだ。頑張ってる女の子が好きなんだな、要するに」 「へえ……」 わかったようなわからないような声で双樹は相槌を打った。 強く、世界を己のために変えてしまえるほどに強く、心の中に光を灯してくれた、『ヒーロー』を持つ彼にとり、その意見は理解しにくいもののようだったらしく、スパイスの効いたタンドリーチキンを手づかみにやっつけながら、頷くだけにとどまった。 「でも、そういう感情って『そばにいてあげたい』ってなったりしませんか?」 「それがねえ」 と、もっと困ったように、けれども嬉しそうにも笑いながら、華一郎は告げる。 「もう、いたみたいなんだよね。そばにいてあげたい相手が、俺にも」 「へえ…誰なんですか?」 「さあ、誰なんでしょう」 くつくつ喉で笑いながら意地悪くはぐらかす。 「いずれにしても、これからは呑気な恋の季節だよ。春はとっくに過ぎ去った後だけれども、その春の、訪れるまでまた、この夏は続くのさ。バカンスに最適のシーズンがね」 君も舞に会いにいったらどうだい、と勧めるのへ、双樹は、はい、いつか機会があれば、是非…と、照れくさそうにも、真っ直ぐに頷いた。おお、と眩しそうに目を細める華一郎。 この、体の大きな年下の友人のことを、華一郎は好ましく思っていた。 情に脆く、熱いが揺れやすい。その上で、きっと、彼は何があってもくじけない。そう信じていたから、華一郎は彼のことを好ましく思い、信頼していた。 くじけるとは心が折れることではない。 そこから立ち上がれなくなることだ。 折れた剣はより強く鍛え直せばそれでいい。 だが、中には折れた剣を手にしたまま、立ち上がれないものもいる。 折れた剣をそのままにしておきたいと思うものがいる。 それを華一郎は知っていた。 双樹はそうではない。 だから、信頼できる。 深く、ぬばたまに黒い瞳で、華一郎はそう思いながら、友人のことを見つめていた。 「それにしてもよく食うなー君は」 「はい、おいしいですから!」 「そりゃーよかった。ハニーちゃんや愛佳ちゃんも喜ぶだろう」 そう言って、目の前で、串から肉を削ぎ落とし、白いソースをかけるのへ、 「ケバブもいいが、そこのキョフテもいけるよ」 と、指さしてやる。 「西国料理は懐が深いですねえ」 「長く大陸の覇者であったオスマン帝国の元で、いろんなうまいものの要素が交じり合って出来たからなあ。この、ゆで卵の丸々一つ入った饅頭なんてうまいぜ」 ようやく勝ち取った、平和の味。 それに舌鼓を打ちながら、彼等は昼下がりをのどかに過ごす。 太陽は遥かに天高い。 /*/ 無論、束の間とはいえ訪れた平穏を謳歌しているのは一般の国民も同じだった。 「バイトで懐もうはうは、景気もよくて暮らしやすいと来たらこりゃもう豪遊しかないだろう、なあ!?」 「『なあ!?』じゃないですよ、どうしてそう浪費癖があるんですか、あなたは……」 クラディスとミードもまた、その恩恵をほおばりながら、港通りを歩いていた。 手にはそれぞれ件のゆで卵入り饅頭がある。出来たてで、湯気の立っているところに加え、もう片方の手にはナッツの散りばめられたうまそうなデザートパイも抱えられている。きらきらナッツが光沢を放っているところを見ると、蜂蜜に、漬けたか塗ったかしたのだろう、手が汚れるのも構わずそれらをむしゃむしゃと歩きながら食らう姿は決して行儀のよいものとは言えなかったが、親指についた汁までしゃぶってがっつくのが、なんといっても買い食いの醍醐味、まして普段爪に火を灯すような節約生活でいた彼らにとり、久しぶりの贅沢は至福の味わいであったのだ。 「いやあ、うまい!黄金の味がするな!」 「本当、食べているとなんだか世界がきらきら輝いて感じられますね」 「いや単純に銭の詰まった旨味がするよ。ビバリッチ!」 「うわあ金に意地汚い人だなあ、あなたは」 思わず率直な感想を漏らしつつ、ミードは味の濃いものを食べたので、何か渇きを癒す飲み物でも、と屋台か売店を探す。 ふと、その視界の端に影がよぎった。 「?」 「なんだ、どうした。小銭はもう道端で探さなくていいんだぞ」 「いや、そうじゃなくて…ていうか普段そんなことまでしてたんですか、あなたは!?」 「拾ったものは俺のもの」 「それはねこばばじゃ…」 「小銭はさすがに構わんだろう、常識的に考えて。誰の落としたものかわかるわけねえし。そんなことより急に止まるな、置いてくぞ」 ほれほれとせっつくクラディスに追い立てられ、気がかりをよそに、その場を後にする。 「法官志望なら、せめて公益のために拾ったお金でも寄付するとか、届け出るとかをですね…」 「そういうのは護民官に言ってくれんか。あとむしろお金は俺が寄付されたい方の側だったわけだが」 「こ、公人たる器ではない人だ…小さい、器が小さいよ」 「やかましい細かいことにこだわると若ハゲるぞ」 ほっといてくださいよ、と、最近気になり始めた生え際を意識しつつ、思い出す。 さっきの影、どこかで見たような……? /*/ はっ、はっ、はっ。 片手を握りしめたまま、急いで路地を走る。 途中で何度か折れ曲がり、誰も追ってきていないことを確かめると、広げた手の中にある、砂で汚れたコインを見つめ、彼は安堵した。 よかった。今日は何か、暖かいものを買って食べられそうだ。 同時に、いつもなら感じなかったはずの恥辱が頬を苦く歪めさせる。 かつての同級生の姿を見た時は思わずひるんだ。なるべく昔の知り合いに会わないようなところでばかり、仕事をしていたつもりだったが、あの二人だけは神出鬼没で敵わない。 薄汚れた服の胸をなでおろしながら、呼吸を落ち着けるつもりで歩き出す。 どうして、こんなことになったのだろうか。そう、二人の姿を見て、思ってしまった。 彼らと自分と、一体何が違ったのか。 どうして自分がこんな目にあわなければならなかったのか。 自分だけが、とは言わない。生きているだけまだ幸運なのだ。 この思いを払わねば、これからの日々を、ずっと今噛み締めたような恥を感じながら生きなければならない。 わかっている。 わかっている。 何が悪いわけでもなかった。 ただ、不幸だっただけなのだ。 運が悪い。 そんなもの、どうしろというのだろう。 久しぶりに見上げた空は、砂塵舞う、黄色く濁ったもの。 地面を舐めるように見つめて歩く癖がついたのは何時の頃からだったろうか。 「……っ……」 ない、片腕の付け根が幻痛に軋む。 「苦しいよ、父さん……」 影は、はたしてムゥエであった。 /*/ 五月のことだった。 「すまんなあ、お前にこんなことをさせて」 笑う父に、いいんだよ、これくらいなんてことないからさ、と、強がりを言って見せたムゥエは、慣れない港での荷揚げ作業にすりきれた筋肉をことさら元気そうに酷使して見せた。 港付近の借家住まいとなった父子は、当初の見通しとは裏腹に、市場で再び投機をやるほどの元手をいまだに作れずにいた。 労働の対価が少ないのではない。また、労働が不当に過酷だったわけでもない。 現実はとても公平だった。 それまで何十年も机にかじりついて、運動などたまの余暇にしか楽しまなかった四十絡みの男が、いきなり不得手な仕事を不慣れな環境でこなせるほど、労働というものが甘やかなものではなかったというだけのことだ。 それはいっそ、似たような暮らしを一緒に過ごしていたムゥエでも、若さがあるからこそ徐々に体が慣れて来ているのとは裏腹だった。 慣れて来ているとはいえ、父の分まで働いているムゥエの疲れが尋常なものであるはずがなく、日に日に父の浮かべる笑顔の力がなくなっていくのを、それでも見たくなくて、懸命にムゥエは働いていた。 汗と汚れにどろどろになった服の内側に、タオルを通して手荒く拭うムゥエ。もうこのような仕草も随分と板についてきたものだった。 「次ぃ」 「はい!」 かけ声をあわせ、ぐいと荷を両足を踏ん張って手と肩で押し流す。筋骨逞しいベテラン作業員は、そのムゥエの様子を、軽々と荷を片手で押し流しながらその都度横目に見て、実にいきいきと仕事をしていた。 「大分腰入ってきたなあ、兄さん」 「そうですか?」 「おう。線の細いぼっちゃんだと思ってたけど、やるもんじゃねえか」 「ありがとうございます!」 「ほら、次!」 「はい!」 聯合国との物資のやりとりが頻繁になるにつれ、臨港作業の口は増えた。今の住まいから近いこともあって、二人でそこに働き口を求めたムゥエ達は、自分達が生活のために数値で取り扱っていたものが、いかにして実際の生活の中で回っているのかを体感することになった。 「親父さんも、株だけやってりゃあ一生わからなかったろう、なあ?」 「ええ。まったくいい勉強になってますよ!」 にこりと皺深く笑った父の笑みは強い。息子には負けていられないと、滴る汗を拭い拭い、気力を振り絞って荷を扱う。 「国内で有数の資産家だっていうからどんな苦労知らずかと思えば、なかなかどうしてガッツがありやがる。本当に見直したもんだぜ!」 「恐縮です!」 ごうんごうんとクレーンの動く轟音に負けじと張り上げるので、声は自然と大きくなる。 おおー…ん。 その、クレーンの音が止まった。 作業をしていた皆の手も止まる。 「上がりだ。終わろうや」 にこり、笑ってその男はムゥエと父との肩をばしんと叩いた。 その鮮烈な痛みが、泥のような疲労で埋まった肉体に、とても心地よいとムゥエは思った。 /*/ 山盛りの食事を片手間にたいらげながら、ムゥエは本を開いた。 在学していた頃に使っていたテキストである。 「よく続くねえ、学生さん」 「折角覚えたことがもったいないですから。いつかまた、どこかで使うために、です」 「おう、その意気だ」 周りの逞しい男達も、やはり彼らのような父子が自分達の中に混じっていることについては相応しくないと思っている。だが、それは、最初の頃こそ、仕事もろくに出来ないお荷物に対しての取り付く島もない感情の結果だったが、休まずによく働く彼ら、ことに近頃は重機の免許取得に向けて寝食を惜しむ息子の側の著しい成長に、やはりこういう人種は自分達とは根本的に向き不向きが違うものだと打ち解けて感心を隠さないでいるためだ。 「頭いい奴はそれを生かす。体強い奴はそれを生かす。そんだけのことなんだよな、人には向き不向きがあって、それ以上でもそれ以下でもねえっていう。あんたら見てて、つくづくそう思ったよ」 「そう…ですか?」 「ああ。俺もな、昔は勉強嫌いで、体動かさないで稼いでる奴等が羨ましかったもんだ。あの日の騒動なんて対岸の火事みたいにへえそうですかいてなもんだったよ。けど、やっぱり違うんだよな、そういう態度は」 「…………」 「みいんなどこかでつながってるもんだ。俺らが荷揚げする品が株価を動かしてるんだし、投機する人間がいなきゃ金は回らねえ。俺達が今食ってるメシだって、作ってくれるおばちゃんがいなくちゃ冷たい弁当ばっかで力が出ねえよ、でもおばちゃんは俺らがいないとせっかくうまい料理作っても食ってくれる相手がいなくて稼げねえもんな」 安くて量があって飽きないメシなんて、まあありがたいぜ、俺らみたいなのにしてみれば、と言う彼の言葉に、ムゥエも笑って頷いた。 「初日なんざろくにメシも通らず吐いてたのになあ。若いってのはいいよな」 「へへへ……」 照れ隠しにかっこんだ米が、ぐいぐいと喉を通る。 昔ならば到底考えられない量の食事が、体の中に溜まるたびにパワーとなって筋肉を立ち上げる。たらふく食べて、たらふく飲んで、たらふく動く。たらふく寝る。たったそれだけのことだが、勉強をしているだけでは味わえない、強い充実感がそこにはあった。 「ん…父さん、どうしたの?」 ふと隣を見ると、はたして皿の上に料理が残っている。 「食べないと明日もたないよ。まずは食事が一番、体が何事も資本じゃない」 「あ、ああ…そうだ、そうだな」 ぼうっとしていた父を、いぶかしむように眺めながら、ムゥエは骨付きチキンを食いちぎる。タオルで指についた油を拭い、何気なくまた本のページをめくった。 「いつも父さんが言ってたことだものね、それは」 「ああ…」 父は、いらえると、深く、皺深く笑みをこぼして皿の上に目線を落とす。そうしてゆっくりスプーンを取った。 「そうだったな……」 /*/ 翌日の朝。 いつものように、帰ってからどのように過ごしたか覚えていないほど深く眠ったムゥエは、ん、と大きく伸びをした。 相変わらず体は軋む。だが、自分でもわかるくらい、筋肉がつき始めていた。いつか父の分まで働けるようになるだろう。いや、その前に、操縦の難しい重機の取り扱い免許を取得して楽になるのが先だろうか。それとも、市場取り引きに戻れるだけのお金が溜まるのが先か…… 「なんにしても、まだまだ先は長いなあ……」 外を見ると今日もいい天気だ。雨季まではまだいくらかある、当分はこんな調子だろう。 黄砂が潮風で重たく舞いあがり、干し煉瓦造りの家屋に張り付いて、まるで垢のように表面に溜まっていく。それをたまに削り落としてやらないと、家は増えた重みに傷んでしまう。借家とはいえ今は世話になっている立派な自分の住まいなのだ、明日の休日には手入れをしてやろう、そう、ムゥエは気分よく考えた。 海に囲まれた連邦では良質な水は貴重なので、そのまま売られている水を飲めばいいというわけにはいかない。そのため、これだけは今も常備している珈琲の粉末をなべ底にひとすくい落とし、湯を注ぎこんでカンカンに直火で沸かす。 その傍らで、腸詰を転がして焼き、早朝の物売りから買った出来立ての饅頭を一緒の皿に盛ると、ムゥエは父を起こしに行った。 「父さん、父さん…朝だよ」 むうう…と、寝苦しいようなうめき声を挙げ、父は顔をしかめる。 「ご飯出来たよ、起きないと仕事に間に合わないよ」 「ん、ん……」 吐息をどっと漏らすと、ようやくうっすら目をあけた父は、のろのろと身を起こして立ち上がった。 「もう、そんな時間か…」 「肉饅頭を買ってあるよ。珈琲も淹れたから」 その言葉を聞くなり、妙な顔をしてムゥエの父はじっと立ち止まっていたが、ふと我に返って、 「おお、そうだな、そうだ。朝は一日の始まりだ、しっかり食べないとな」 /*/ その日は珍しく、天領にある本国からの荷がやってきていた。 「ストームブルー、か……」 珍しいなと思う。 ハイマイル区画ならともかく、こんな小国で見かけるような名前ではない。 「どこからの荷だろうと同じだよ。お客様の大事な荷だ、大事に扱うだけさ。そら!」 「わっ」 行くぞっ、と威勢良くいつものようにかけ声をあわせ、荷を運ぶ。 頭上ではクレーンの立てる轟音が、港にはそびえ立つ輸送船の異様が、相変わらずの光景を繰り広げていた。 その中で、ただ一つ、普段通りではないものがあった。 「おい、大丈夫か?」 「え、ええ…大丈夫、なんでもないです」 「倒れられちゃあそっちの方が迷惑なんだからな、無理すんなよ」 「はい」 ムゥエの父は、どうやら疲労の極致らしかった。 今朝から動きに精細がなく、何度も荷を押す手が途中で止まっている。 「心配なのはわかるが、余所見だけはするなよ」 相方から念を押され、自身も歯を食いしばって荷を動かすムゥエ。 (父さん……) 普通に暮らすだけならお金にゆとりはあった。 だが、まとまった商取引をするためには、まず借金を返して失った信用を取り戻さなければならない。それにはまとまったお金が必要で、どうしても切り詰めるところが出て来てしまう。それが、休みのほとんど出ない日程であり、遊びのほとんどない日常となって、生活を苦しめる。 おそらく、父の体力ではもう限界なのだろう。 ちらちらとそちらの方を気にするムゥエに、相方の男は溜め息をついた。 「しょうがねえな…ほら、ここはいいから」 「え?」 でも…と顔を見るムゥエに、 「いいからいいから、ほら、行け、行け!」 しっしと手で追い立てる。 「……っ」 顔をくしゃっと歪めて、ありがとうございます、と勢いよくお辞儀するムゥエを、顔も見ずに追い立てた男は、集中出来ねえからさっさと行け、と、なおも怒鳴りつけつつ、どこか照れくさそうでもあった。 慌てて父の元へ走り、 「押しまーす!」 と、かけ声をかけてから反対側に入る。 ぐい、と押すと、荷物は思ったよりずっと楽に前へと進んだ。 驚いたような顔をする父に、笑って見せるムゥエ。 「ほら、次」 「あ、ああ…」 そうして二人で、しばらく次から次へと来る荷を押していく。 一緒に押すことで感じられる、父の手の力は、頼りなげで、 「…………」 頑張らなくちゃな、僕が、と、ムゥエは微笑みと共に心に力を漲らせる。 ここまで自分を育ててくれた父に、今度は僕が報いるんだ、そう思うと、不思議と力が湧いてきた。 「そぉら!」 ぐん、と、ほとんど一人で押すような形で荷を押した。 本当の意味で、ようやく吹っ切れたような気がした。 僕のやりたいこと。 それは、父さんに報いることなんだ。 ここまで育ってくれた、父さんに、楽をさせてあげたい。 そのためなら、頑張れるよ。 「ムゥエ、お前…」 その背を見て、父がまぶしそうに呟く。 「立派な背中をするようになったなあ…」 ばちん。 太い金属音が、瞬間響き渡る。 衝撃。 暗転。 ムゥエの意識はそこで途絶えた。 /*/ …母さん。 母さん? どうしたの、どこへ行くの? 父さんと一緒にいようよ。 ねえ。 ねえってば。 駄目だよ。 僕は、行けないよ。 父さんにおかえりなさいってしてあげなきゃいけないんだもの。 ほら、もうすぐ父さんが帰ってくるよ。 ね、お母さん。 ご飯作って、二人で待っていよ? ね? ね? 母さん。 母さん。 母さん……? /*/ 「…………」 目を、あけようとすると、ぱりりと固まった目やにが弱くそれに抵抗した。 体が横たえられている。 見知らぬ天井に、鼻を利かせると、消毒薬のにおいがした。 病院にいるのだろう。 そう、他人事のように理解した。 ここはどこだろう。そう、理解していない頭が疑問を抱き続けているのにも関わらず、だ。 室内は薄暗い。 薄暗い? 本当にそうなのだろうか。 「……っ」 目を、動かす。目は見えている。両方とも。 大丈夫だ。どこもおかしくない。 よかった。 まずは安堵が先に来た。 あまり長い間入院していては、父がもたない。 ただでさえあれだけきつそうにしていた父を一人で働かせるわけにはいかない。 なんだったらお医者さんに無理を言って、明日からでも退院して働こう。 身を、起こそうとして、不意にバランスが崩れる。 「…………あ…………」 右腕が、肩の付け根からもげていた。 /*/ 「なんだよ…なんだよ、これ、なんだよ」 ある。 ほら、あるじゃないか。 右手の感覚がある。 思うと同時に、言葉が頭の中で閃く。 あまりに大きな傷を負った時、脳はその欠損に対応出来ないまま、例えば失った四肢を動かすための神経回路がそのままになっていることが、よくあるという。 幻肢だ。 「おい…嘘だろ…?」 はははははははは…… 乾いた笑いが響いてきた。 笑っていたのは自分だった。 「これからどうやって働けばいいんだよ」 いや、違う。 利き腕だ。 それを無くして、どうやって生活していけばいい。 笑いながら、ぼろぼろとシーツを濡らす、ものが零れる。 涙だった。 「なんだよ……くそ…泣いたって腕がまた生えてくるわけでもないっていうのに…」 慌てて目元を拭おうとして、また右腕を使おうとしていることに気付き、左腕で改めて拭いなおす。 少し、冷静になれた。 「そうか…クレーンの鎖が千切れて降ってきたコンテナに、腕を潰されたんだ…」 業務上の過失ではない。労災だ。ならば生活保障は会社から全額下りる。 そう冷静に頭の中で判断すると、少し落ち着ける。 それだけのまとまった金額が手元に入ってくれば、きっと父もまた借金の返済を終えてなお取り引きにあてるだけの余裕が残るだろう。そうすれば、あの懸命な父のことだ、きっとすぐにまた盛り返せる。質に流れた家財なども取り戻せるだろう。 「こういうのを、不幸中の幸いっていうのかな…」 皮肉な気分で笑う。 どうやら麻酔が効いているらしく、痛みは感じない。ただ、どうしてもそこに右腕があるような感覚がして、それが困った。 視覚的に、自分の右腕がないというのも、まだ大きな動揺として見る度打撃となって心に入ってくる。 「当分、慣れそうにないな……」 ふう……と、身をよじって、寝そべる体勢を直す。 あるはずのものがない。それだけで、こうも違うものか… シーツを全身にかけなおすのにも、いつもと勝手が違い、戸惑ってしまう。 大丈夫。 そうだ、まだ、自分にはこの命が残っている。 運がよかった。 ほんの数センチずれていただけで、死んでいたのだ。 片腕だけで済んでよかったと思うべきなのだ。 両足はまだ少なくともぴんぴんしている。 父から教えてもらったことなのだ。 この命がある限り、そして、この国が愛の国である限り、頑張ったものにはきっと報いがあると。 そう、思うと、ようやく落ち着けた。 大分血が無くなったのだろう。そもそも腕がもげた時点でショック死していてもおかしくない。よっぽど大量の血が輸血されなければ、自分は今頃死んでいた。 感謝だ。 きっとこうして意識を取り戻したのも、今が初めてのことなのではあるまい。 泥のように眠って、生命力が戦って、その上で、生き残ったのだ。目を、覚ましたのだ。 それで、はっきりと認識出来る形で意識が覚めたのは、きっと今が初めてなのだ。 「…………」 もう、これ以上考えるのはよそう。 これからのために少しでも眠って力を蓄えるべきだ。 そう、思い、目をつむった時だった。 あるはずのものが、ない。 気付いて、唇が震えた。 /*/ 「義肢のないわけでもないが、なかなかに値の張るものだからな…借金を抱えた没落貴族では、気の毒だが到底手が出るまい」 そう、カルテを見ながら呟くのは、病院の医師であった。 「あとは後遺症か……患者の意識が戻るのを見て、それからリハビリだな…」 「そうですね」 看護士が当直への引き継ぎの準備をしつつ、相槌を打つ。 「実際、港から病院まで、よくあの出血で一命を取り留めたと思います。輸血パックが足りませんでしたからね……」 「ああ。提供者がいなければ、本当に危なかった」 既に見舞いの品は会社から送られてきている。同僚達も、よく顔を病室に見せていた。 あの若者は、よほど身内で慕われていたのだろう、と、二人は思う。皆一様に黙り込んで、それでも励ますように、最後には声を絞り出して、意識のない彼へと話し掛けていた。 だが、中でもクレーンを操作していたものなどは、聞くところによるといまだに見舞いに来れないのだという。 あまりのことで、顔向けが出来ないのだろうと思う。 ちか、ちか…… 室内灯が明滅する。 「おう、いかんな。つい」 「そうですね…早く交代しないと」 どうしても物思いに耽ってしまう頭を振って、医師は立ち上がり、看護士はカルテを棚にしまいこんだ。 こういうことは、命を預かる仕事をしている以上、いつでも目にするものだ。これ一つだけが悲劇なのではない。それは、よくわかっている。 だから彼等は、自分達の思いを振り切ろうと、診療室を後にしようとした。 がたん。 扉に重たい何かがぶつかって、二人の前で唐突に開く。 /*/ 震える足で、肩を壁にこすりつけるようにして、体を支えながら歩いた。 傷が開き、右腕の付け根から血がにじみ出て、ずるずると帯状に壁を汚すのも構わずムゥエは歩いた。 ない。 ない。 考えても、考えても、ないものがある。 部屋中を探しまわして散らかしたが、なかったものが一つだけ、ある。 明らかに血色の悪い、白い顔で、体は冷え、歯の根もあわずにがちがちと震わせながら、それでもムゥエは、院内を歩き続けた。 ロビーも見た。 廊下中のプレートも見た。 どこにもないものが、一つだけある。 夜更けに入ろうとしていた院内は静まり返っていて、職員達も今は休憩中のようで、途中、出くわすことはなかった。 どこに行けば、会えるだろう。 そう思って彼は、診療室へとたどりついた。 よろめくように扉に倒れ掛かり、どん、と大きな物音を立てつつ、左手で引き戸の取っ手口を掻いて、引きあける。 中には驚いたような、壮年の医師と、女性の看護士が立っていた。 いない。 ここにも。 ムゥエはだから、この人たちに聞くことにした。 僕の父さんはどこですか、と。 /*/ →『第四章:紫の唇』
https://w.atwiki.jp/yu-gi-oh-dialog/pages/1556.html
悪夢の鉄檻は、お互いに2ターンの間攻撃出来なくさせるカードだ。 そう。 バトルフェイズはなくなっても、フィールドにスライムを召喚させる事は出来るからねぇ。 檻の中でしっかり見ててくれよ。 オシリスの天空竜が召喚される瞬間を。 さぁ、貴様のターンだ。 と言っても、檻の中では何も出来ないが。 どうだ?鉄檻の中で自由を奪われた気分は。 屈辱?それとも絶望か? フフフフフ…。 それが僕の背負わされた宿命!墓守の一族のな! ファラオである貴様への復讐を遂げた時、僕は真の自由を手にするんだ。 そして僕が新たなファラオとなる! フフフフフ…いよいよこの時が来たな。 僕のターン。 見るがいい、これが神だ! ッフフフフフ…。 オシリス降臨! ッフフフフフ。 そう。これが三幻神カードのひとつ、オシリスの天空竜だ。 ない。 オシリスを倒す方法などないね! オシリスの無限の攻撃力の前では、どんなデュエリストも無力と化す。 ファラオである貴様といえどもな! オシリスの天空竜の攻撃力は、手札の数×1000ポイント。 今手元には2枚のカードがある。 つまり、攻撃力は2000ポイントという事だ。 つまりこういう事だ…。 魔法カード、強欲な壺。 これで手札は1枚。 だが強欲な壺は、自分のデッキからカードを2枚ドロー出来るカード。 これで手札が2枚増えた。 つまり、オシリスの攻撃力は3000。 最大6000だと? ッフフフフ。甘いな、僕は無限のパワーと言ったんだ。 僕の手札には、更に攻撃力を上げるカードがあるんだよ。 無限の手札を可能にする、永続魔法カードがね。 ッフフフフ。 更にオシリスの天空竜には、恐るべき能力が備わっているのさ。 次の貴様のターン終了後に、鉄檻は消える。 その瞬間、オシリスの攻撃が貴様を襲う事になるぞ。 さぁ、貴様のターンだ! どうした。 身も凍る恐怖に、カードをドローする事も出来ないのかいフフフフフ…。 鉄檻によって、バトルフェイズは失うが、リバースカードを出す事も、 モンスターを召喚する事も出来る。 フフン、まだ悪あがきは出来るはずだろう? さぁ、もっと見せてくれよ。 檻の中でもがき苦しむ貴様の姿をな! フフフ…。 そうだ、考えろ。もっともっと。 考えれば考えるほど分かるはずだ。 貴様が勝つ手段など、残されていない事がなフフ…! さぁ、いよいよ鉄檻が消える。 フフフフフ…。貴様の命を守ってくれた鉄檻がね。