約 1,559,877 件
https://w.atwiki.jp/newloveplusplus2ch/pages/62.html
ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/newloveplusplus2ch/pages/56.html
ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/newloveplusplus2ch/pages/46.html
ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/newloveplusplus2ch/pages/29.html
ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/t-kimura_ss/pages/221.html
※ちょいエロ ※性転換ネタ ※燦ちゃんキャラ崩壊 ※モトネタは原作42話 「留奈ちゃん、ワシを男にしてくれぇ!」 カーペットに押し倒された少女は、驚愕と言うよりは思考停止に近い表情で覆い被さる親友の顔を凝視した。 「さ、燦?!アンタな、なな…何やって…!」 「堪忍じゃあ留奈ちゃん!堪忍してつかぁさい!」 間にして数瞬の後、理解し難い状況を理解した彼女の思考は、カオスの極みであった。 (なにこの展開?! 話ってそれ?! 何で私を押し倒してんの?! 男?!男って何?!ためらわない事?!! 私はアイドル。1タス1ハ2……) 次々と沸き上がる思考に対し、口に出すことが出来た言葉は殆ど無い。 「や、やめて燦!ちょっ…ダメっ!」 上体を起こそうとするルナの肩を燦が抑えつける。 「ワシゃあもう、こうするしかないきん!勘弁じゃあ!!」 言うが早いか、燦の手が荒々しくルナの寝間着変わりのTシャツを掴み、引き裂いた。 「キャアアアア!!」 寝静まった満潮家に響く絹を裂くような悲鳴に一階の寝室と屋根裏部屋の窓に灯りが灯る。 床を踏み抜かんばかりの足音が二階の子供部屋…燦とルナがシェアしている一室に殺到した。 「燦ちゃん!今の悲鳴は……」 「私様がヤメロっ!!っつーーのがっ!聴こえないのかァアア!!!!」 ドアを開け放った永澄はルナの声圧に圧倒されその場に固まった。 駆けつけた永澄の両親も入り口で互いに抱き合った形で氷つく。 袈裟懸けに裂かれたTシャツをまとい、肩で息をするルナと、股間を抑えながら苦悶する、先程の悲鳴の主―瀬戸燦。 状況の把握出来ない永澄は青ざめた顔で震える指をルナに向け 「え~~と、、加害者で…」続いて燦を指差し「被害者?」 「違ァ!!」 「「「男になったぁ?!!」」」 急遽開かれた深夜の家族会、燦のカミングアウトに皆が異口同音で驚愕する。 「学校での事じゃ…」 「ああ…アレ…」 永澄は白昼の悪夢と呼ぶに相応しい昼間の出来事を思い出し、深い溜め息を付いた。 (ラスト・アマゾネスの矢…燦ちゃんに当たってたのかァ…) 事の発端は不明だが。突如校内に現れた(自称)女好き好き女傑族最後の生き残り『ラスト・アマゾネス』が生徒を次々と矢で射るという怪事件が永澄達の通う中学校で発生した。前代未聞のこの騒動、しかし死傷者は皆無であった。 なぜならアマゾネスの矢に貫かれた者は一様に傷を受けることはなく男は女に、女は男へと変貌を遂げたのでる…。 「ワシは永澄さんのお嫁さんじゃのに…こんなんになってもーた…」 燦は口の周りに生えはじめた武将髭(?)をさすりながらそう呟いた。 「で、でもそれで何でルナちゃんを…!?」 「…兄弟じゃ…」 「「「はぁ?」」」 四人の声がまたハモった。 「ワシは永澄さんを…離したないきん!お嫁さんが無理じゃったらもお、兄弟の契りしか残っとらんきん!!」 「きょ、兄弟の契りって?」 「そりゃあ勿論……同じ『穴』の共有じゃあ!!」 燦の叫びと同時に永澄の体と前歯が宙を舞った。 「「痛くない…」」 互いに拳を見つめる永澄の両親は、焦点の合っていない目でそう呟くと寝室へと向かった。 「母さん。これは夢だ…寝よう」 「ええアナタ…」 ヨロヨロと居間を去る二人の後ろ姿を見届けた燦は、両頬を抉られ伸びている永澄、そして塩の柱と化しているルナを見やる。 目を瞑り数秒の思案の後、燦はポンと手を打った。 「ほな、始めよか!」 ふぅ。と、ため息をひとつ吐くと、少女は日報に走らせていた筆を止めた。 深い緑色をした瞳が、12時を回った事を告げる掛け時計に止まる。 たいして凝ってもいない肩を揉みほぐしながら、またひとつため息を吐き出した。 今日の出来事を数行の文章にまとめる…普段の彼女ならば造作もない事が妙に億劫に感じられる。 十四歳という若さで同い年の『生徒』に教鞭を振るう自分を誇るでも、嘆くでもなく客観的に考えさせられるこの時間が今日はたまらなく嫌だった。 「委員長怒っとるじゃろか…」 悪魔の副担任として1組に君臨する普段の彼女からは考えられないか細い声色は、しかして生来の内気な性格を顕にしていた。 友達を作ろうとしない自分を心配してくれた唯一の『友達』の顔を思い浮かべると胸の奥がズキンと痛んだ。 教師となった理由は彼女のその気持ちに応えたいとの想いからでもあったのではないか…。 「暇つぶしにはなったけど、人の趣味に水をさすよな事してもーた」 当の本人が聞いたら泣いて否定する様な気の回しに、彼女は真剣に思い悩んでいた。 彼女の名は『サーたん』ラストアマゾネス(委員長)の正体を知る唯一の存在。 そしてネットオークションで手に入れた『性転換弓―ジェンダーX』をアマゾネスに渡し、事の発端を生んだ元凶である。 「正義の変態にジョブチェンジさせてもーたけど…やっぱ無理あったじゃろか…」 ジェンダーXを渡した数分後、あっと言う間に不良共三人と親友の巡を性転換させた手際にサーたんは正直舌を巻いた。 たまっているストレスの発散(本当は違う)に暴れ回る彼女には、おおいに楽しませてもらった。 しかし、女好き好きと言う設定(アイデンティティー)を揺るがし兼ねないのではないか? 「私…やっぱり先生は無理かなァ…」 ポツリと呟いたいつかのその言葉 (サーたん一所懸命先生しよんじゃろサァ?) あのときの言葉が蘇る (ほんなら、なんちゃ問題ないサァ!) 彼女の友人、瀬戸燦の言葉…。 「そうじゃな燦ちゃん…私、一所懸命好き勝手するきん!」 脳内の悪魔(サタン)がそう応えた。 生気を取り戻したサーたんは力強い筆致で日報を書き記した。 『今日、委員長の弱味を握る。 燦ちゃんは今日もfucing great!!』 そんな彼女がちょっぴり後悔するのは翌朝の事であった。 「燦ちゃん…本当にいいんだね?」 「永澄さん…いや、兄貴!男に二言はない…!」 真っ直ぐに見返す瞳…曇りの無い琥珀色の虹彩は今、決意の火を映し出していた。 (ふっ…かなわないな) 諦めのつもりで心で呟いた言葉。しかしその意味は敗北ではない。 瞳を通して送られた移り火に心を染められて出た、感嘆の言葉だ。永澄は、決意を固めた。 「兄貴…ワシを…ワシを漢にしてつかぁさい!!」 そう、今夜彼らは兄弟の契りを交わす。 「「押忍!」」 ガシッと組まれた互いの腕。プンと男の決意が匂った。 「ふざけんなぁぁぁあ!!!!」 「おう!留奈ちゃん。気ぃついたか!」 「ア…アンタ達、私様を挟んで何盛り上がってんのよぅ…」 泣き笑いならぬ、泣き怒りの顔で顔面筋を強張らせたルナは青ざめる。 …手足が動かないのだ。 「燦…サン!冗談よね?何かの間違いよね?」 力を込めるもガッチリと結わえられた四肢からは痺れと痛みしか返ってこない。ルナの防衛本能は警鐘を鳴らす。 「留奈ちゃん…ホンマすまん思うとる」 「燦ちゃん…」 「スマンと思ってんなら今すぐ止めなさいよ~!」 グズグズと鼻を啜るルナ 「ここで引き下がるんは侠が立たん!」 「オトコってなんなのよォ?!アンタはオンナじゃないのさぁ!!」 (ああ、そう言えばルナちゃん居なかったっけ…) 仕事により欠席した彼女はあの惨状を知らない。 「下僕、ゲボクぅ…!お願いよォ…た、助け…ひぁ!」 手首を握られたルナは反射的に身をすくませる。急に接近した永澄の体に堪らず目を伏せた。 「!!…………っん?」 自由になった両手をキョトンとした目見つめる。 「永…兄貴が無理矢理はイカン言うたきん」 ふへへ…。と、はにかむ永澄。 自由を取り戻したルナの足がそのニヤケ顔にめり込んだ。 「燦…どうしてアンタの胸はそんなにまっ平らなの?」 「漢じゃからの!」 「燦…どうしてアンタの顔に髭が生えてきてんの?」 「漢じゃからの!」 「燦…どうしてアンタはフンドシ一丁なの?」 「漢じゃからのぉ!!」 「い、いやああああ!!!!」 シャンプーの匂いのする絹糸のようなサラサラの髪。きめの細かな純白の肌。 少年と言うにはあまりにも女性的な肢体。胸板も、髭も、褌も、まるで下手なコラージュのように異質であった。 プロのアイドルの目で見ても、嫉妬を覚える容姿の持ち主であった燦は性転換を果たした今でさえ、女性であった。 汚された!ルナはその姿の燦を本能的に拒絶した。 「夢よ!何かのとっても嫌な悪夢!とにかくなんかの悪い夢…あふっ!」 這うように逃げ出そうとしたルナは背後からの抱擁に言葉を失う。 「優しくするきに…大人しゅうしとってや」 (へ、変なトコ触んないでよぉ!) 出かかった言葉は続いて襲いくるモノに飲み込まれた。 白い喉を仰け反らせ敏感な反応をしめす躯はただ甘いあえぎを出すだけだった。 「留奈ひゃん…ほこがええのんかはぁ…?んン…」 項をねぶりながら肩甲骨の後ろを、指の腹で擦る…腰に回した手が括れ始めた身体のラインをなぞり、横隔膜の動きに合わせ上下に揺れる。 ルナの顔が見る間に桜色に染まり、目頭に涙が滲み始めた。 「な…ンてとこ……舐めて…はぁん!」 パクパクと口を開け見事な反応を見せるルナに燦は確信を深める。 「ここが留奈ちゃんの性感帯なんな?」 耳元で囁きかける。 このポイントはお風呂を共にした時に気付いたものである。 気を良くした燦は、それなら…と、もうひとつの『ココロアタリ』に舌を這わせていった。 ううん。と唸って永澄は今夜二回目の目覚めを向かえた。 眉間の痛みに目眩を覚えたが、それが生きているとの身体のOKサインである事を彼は『経験により』学んでいた。 脳の働きが正常に戻るにつれ、今ある事態に陥るまでの記憶が朧気に戻ってくる。 「ああ…そう言えば…」 永澄は場違いに呑気声色で目の前の光景に視線を送る。だらしなく開いた口から涎が落ちる。 そこに有るのは見事なオブジェであった…美しく、心奪われるアート…。 中学生の彼には芸術と呼ばれるモノの良さは解らない。ワビだのサビだのよりも、ワサビ抜きのサラダ軍艦が美味しい年頃である。 そんな彼にもこの光景が溜め息が漏れ、心奪われる魅力があるものと感じられた。 永澄…いや、エロ澄にとってはこれこそがアートである。 「ああん!らめ!らめえぇぇ!!」 脇を開けられ、二の腕の内側を吸われたルナは恍惚の咆哮をあげた。 「留奈ちゃんの胸ビレ…んじゅツツ…おいひぃン…」 桃色に染まった肌と肌が触れ合い。まだ幼さの残る熟れかけの丸みが睦合うように重なる。 ダブダブに伸びたTシャツを通しても皺の動きでその下で官能的に蠢く躯の動きをみせつけた。 汗に濡れ、肌に吸い付く胸元に二つの頂を見るにつけ、永澄の理性がメルトダウンしそうになる。 「永澄の兄貴…留奈ちゃん。大人しゅうなったで…」 燦に呼ばれ、永澄はサルアイズと化していた顔を人のソレに振り戻した。 「はぁ…はぁ…げ…ぼく?」 魚類特有の性感帯(なんじゃそれ)を責めたてられたルナは、まな板の上の鯉よろしく布団に力なく横たわった。 ゴクリと永澄は唾を呑む。 「ルナちゃん…燦ちゃん…」 「いんや、永澄さん…ワシは今から瀬戸燦を辞める…!」 燦はムンズと褌に手をかけると、 「ワシは永澄さんの舎弟、瀬戸島燦八じゃあああ!!」 漢の名乗りをあげ、その裸身を露にした。 「「!!」」 「「か……可愛い…!!」」 二人の声が重なった。 「えっ…!?コレが燦のオチ…」 ハッ!マズイことをくちばしった!と、ルナは自分の口を押さえた。 「………」 瀬戸燦改め『瀬戸島燦八』はバッと身を翻すと、机に向かい、何事か書きとめると部屋を飛び出そうとする。 「待ちなさいよ。燦八ちゃん」 そんな燦の肩をルナの手がガッチリと掴み止めた。永澄は机上のメモをチラりとみやる。 『探さんでつかーさい。サン』 「アンタ、男になりたいんでしょう?」 「は…はいですぅ…」 ドカっとルナの足が燦の横の壁に叩き込まれる。 「何?そのポークビッツは?」 「あううう…」 「そんなんで私様を満足させられるとても思っているの?!」 「ああ…言わんといて…言わんといてつかぁさいぃ~!」 「下僕!!」 「はうあ!!」 忍び足でその場を去ろうとしていた永澄がアホ毛を掴まれ大根人形と化す。 「ナ、ナンデゴザイマショウ…ルナサマ」 ふぅ。とルナは溜め息を吐くと、足元で震えている燦と手元で揺れる永澄大根を一瞥する。 ゴクリと唾を飲みこんだ永澄は、ルナの言葉を待った…。 「あ、あんた達の兄弟の契りとやら…こ、この私様が…や、やらせてあげる…」 言葉とは裏腹な乙女の顔で…である。 続き→太陽を盗んだ男
https://w.atwiki.jp/90sbr/pages/75.html
これが私の生きる道 「はぁ……はぁ……」 微かな潮の香りは、埃塗れの冷たい空気が鼻孔へと運んでいった。それを少しずつ摘まむように吸い込みながら、荒ぶる息を必死に押し殺す者がいる。 空の蒼茫を塗したような青いチャイナドレスを纏った、齢二十に届くか届かないかの美女である。女性としてはやや高い身長とスタイルは、整った容姿と合わせて、さながらモデルのようであったが、彼女が選んだ道は、その美貌を売る道ではなく、その格闘の才能を発揮する道であった。 この美女──春麗は、インターポールの捜査官なのである。 中国拳法を極め、その実力は並み居る屈強な男性職員が、手加減抜きで挑んでも誰も敵わぬほどだった。一目見ただけならば華奢にも見えるが、脚部──特に大腿部──を見る機会があれば、いかに彼女が鍛え上げられた肉体をしているのかは判然とするだろう。 彼女は、足技の達人であった。長い足から放たれるキックは猛獣すらも昏倒させるほどだ。腕も華奢には見えるが、これもやはり体重を軽々支えるほどの筋組織が、細い腕の中に綺麗に収まっているというだけだった。 しかし、そんな彼女も、今回は普段と違って、能動的に事件に首を突っ込むわけでもなく、事件の方に招かれてしまった為、些か状況判断が遅れたらしい。 いきなり、変な仮面の娘の襲撃に遭い、こうして倉庫群の間をすり抜け、無様にも逃げ回った結果、その中の一つに姿を隠したわけである。 生半可な不意打ちならば返り討ちにも出来たはずが、相手も相当の格闘の達人であったらしく、おまけに春麗のよく知った武器を装備していた。 それから先は、何の面白味もない防戦一方という状態で、何とか逃げおおせたものの、袖ごと破れた左腕の外皮からは、既に鮮血が流れ落ちている。春麗は、そんな左手を抑え、流血が床に痕跡を残すのを避けながら、一時休息している訳だった。 「はぁ……はぁ……」 彼女自身、わけもわからぬまま飛び込んだこの倉庫群の一角。 大麻のシンジゲートを追っていた春麗にとっては、こんな港を張りこむ時間は警察署の机に向かう時間よりも長い程お馴染みの場所だ。 大凡、どの辺りにどういった物資が並べられているのかは察しが付く。 ここに逃げ込めば、後は視界に入る物を巧みに利用して、追跡者の攻撃を撒く事も出来るかもしれない。 ……尤も、背中に襲撃者の視線を残したままここへ逃げ込んだわけではないし、春麗も一時の休息を得る為にここへ入りこんだに過ぎない。 左の二の腕あたりを見下ろすが、怪我はさほど深手でもない。これまでの戦いでも負うのも珍しくないような傷口である。しかしながら、敵の実力を見るに、今の状態では春麗の分が悪いと見えた。 「……はぁ……はあ……」 そっと、音を殺すようにゆっくりとデイパックのファスナーに手をかけ、中の物を取りだしていく。必要なのは、灯や地図や名簿などではない。 目当ての物──ペットボトルを掴み取ると、キャップを回す。そこからは、少し乱雑に左腕にさらさらと中の水を塗した。消毒薬も包帯もないが、血液を垂らしたままというのも気が引けたのだろう。 (何もないよりは……ちょっとマシよね) 止血できるような物を探した所、出て来たのは女性用のパンティストッキングである。こんな物を一つの武器として支給した意図は春麗にも理解しかねたが、とにかく、今は止血という用途において、意外にも活躍しうる状況になっている。 春麗は、それを少し引きちぎり、左腕に巻いて、口で端を加えながら結んだ。少々恥ずかしい気持ちになったが、案外、それを腕に巻いた外見は大きな違和感もなく、怪我を止血する布として、却って本来の用途が判然とし難くなっていた。 それから、春麗はこのパンティストッキング以外に何らかの装備が無いかとデイパックを探る。 そう……敵は既に、武器を装備していたのである。 (あのマスク……確か、シャドルーの幹部──バルログが身に着けていた物と同じだわ。 もしかして、あんなのが流行ってるのかしら? それとも……) 彼女を襲撃した人物は、春麗同様に中華民族衣装を纏った娘のようだったが、その相貌は両目の位置だけを細く繰り抜いたその白面に隠されていた。そして、右腕に装着されたサーベルタイガーのような鉤爪。──あれは、憎き犯罪組織シャドルーの幹部・バルログが愛用している物と全く同じであった。 故に、パンストの下に隠れた春麗の左腕の傷口も、三本の縦線型のひっかき傷だった。 あれを早速もって見事使いこなし、春麗を翻弄したのだから、あの襲撃者は、武具の使用に慣れているか、あるいは余程順応性が高い人間であると言えよう。 春麗は、考えながらも自分のデイパックから、武器を取り出した。 (……こんな状況だもの。こっちも得意なモノで対抗させてもらわないとね) 春麗の手で、カチャリと音が鳴る。 先ほどは一時撤退させて貰ったが、捜査官としての誇りと正義感は、あの手の危険人物を野放しにして、自分だけ平然と逃げのびるのを許してはくれなかった。 格闘で真っ向から勝負させて貰えるシチュエーションではない今、一介の捜査官として、使用できる武器は懐に入れさせてもらう事にしよう。 射撃が得意な春麗も、支給された、このオートマチック式拳銃“グロック17”を上手く扱えるかは微妙であるし──相手によってはリュウたちのように易々と弾丸を避けてしまうかもしれないが、ひとまずそこに弾薬を込める音を聞くとともに、彼女の中には覚悟の意思が溢れたのだった。 まさに──この倉庫群の光景など、シャドルーを追いかける仕事をしている時の自分ではないか。 鋭利な武器を持った敵と、少し対等な状況になった気がした。 「よしっ……」 軽く自分の気持ちを奮い立たせるように言った。 それから、大量に積み重ねられた麻袋の影を、春麗は屈む事さえなく進んだ。 敵もまだ倉庫内への侵入は果たしていないであろう今、本来ならば警戒する必要があるはずなのだが、麻袋は所によっては春麗の身長くらいまで高く積まれており、そこまでする必要はないように思った。 とはいえ、まだあの仮面の娘が付近にいた場合、先に姿を見せるわけにはいかないが……。 ──などと、考えていた時である。 この薄暗い倉庫の入り口を、ランタンの小さな灯が倉庫の一角を照らす。無警戒に歩を進める足音がコツコツと響く。 春麗の目の前では、壁に大きな影が映ったり、映らなかったりしていて、相手のランタンを右へ左へ動かし、何かを探そうとしている仕草を容易に想像させている。 ──来た! 仮面の娘は、倉庫の中を順に探索していたのだろう。 春麗を追う影は思った以上にしつこく春麗を捜索していたらしい。付近に人影がなかった為、一度見つけた獲物を逃がさぬよう心掛けたに違いない。本格的に勝ち残りを目指す場合、敵を泳がす訳にはいかないようだ。 しかし、春麗の準備は既に万端である。 最後に、タイミングを見計らって再び麻袋の陰から少しだけ顔を覗かせ、その人物の姿を目に焼き付けた。──そこにあるのは、間違いなく、先ほど春麗を襲った仮面の娘だ。右腕は三本の刃を尖らせ、切っ先には微かな血の痕がまだ残っている。 恨みは充分。理由も充分。 そして、先に姿を見せた方が──今は、不利! 「はぁぁぁぁっ!!」 春麗は、高く声を上げながら飛び上がると、麻袋の真上に右手を置き、跳び箱の上を撥ねるように、両脚でその上を飛び越えた。 恐るべきはその軟体で、足は綺麗に一本の横線を作るように開いている。いわば真横に果てなく広がった跳び箱の上を飛び上がるような物だ、それくらいの芸当が出来ずしてここから不意打ちを浴びせる事は出来まい。 力がなかったのなら、とうに逃走の道を選んでいる。 「!?」 完全に不意を突かれたらしく、仮面の娘が少し遅れて春麗を見上げ、愕然としている。 仮面の下が美人かどうかはわからないが──その下の目玉を広げた表情を想像して、春麗は勝気に微笑んだ。 そして、次の瞬間、着地よりも早く、目の前の仮面のど真ん中に、左足を叩きこんだ! 「ぐぅっ……!」 仮面の真下からの呻くような声が、春麗に手ごたえを与えた。 それから、春麗は自分の耳に着地音が鳴ると同時──仮面に叩きつけた左足を軸に速度をつけて背中から回転する。 右足を高く上げ、その踵が仮面の娘の右腕に激しく叩きこまれた。 ──回し蹴り! 相手の弱点を二か所、ぶつけたような物だった。 最初に、顔面。あの白面がいかほどの防御能力を持っているのかはわからないが、ああして密着しているという事は、そこに攻撃を受ければ、当然ながら、盾ごと押しつぶされるような痛手を追う事だろう。 相手が娘であるのはわかっているので、同じ女として心苦しいところだが、先に仕掛けてきたのは向こうだ。 次が、攻撃の拠点である右腕。あの鉤爪攻撃を予め封じておく事が出来る一撃。上手くすれば、一撃で骨が砕けるようなキックであるが、そんな手ごたえはなかった。余程頑丈な身体をしていると見える。 しかし──確かに効果的だった。 ここからは、攻撃の隙も与えず、更に攻めるのみだ。 「えいッ!」 よろけている敵に、まるで床を滑らすようにして左足の蹴りを叩きこみ、確実にバランスを崩す。──相手は春麗の奇襲と猛攻に、かなり怯んでいるようであった。 あまりに一方的にやりすぎて、少しは手加減もしてやろうかと思った矢先、敵は渾身の力で右腕を動かし、その研ぎ澄まされた三本の刃を春麗に向け構えた。 それが、春麗に思い浮かんだ躊躇を完全に殺した。 「イヤァーーッ!」 春麗は、そう叫んで、アクロバティックに身体を回転させながら、仮面娘の頭上を飛び上がる。人間の身長を優に超える高さを軽々飛び越える、人間離れした身軽さ──。 弱った仮面娘の揺れ動く視界が、それに気付けるはずもなかった。 これで敵に充分すぎるほどの隙が出来たわけだが、あまり激しく痛めつけまくるという程でもない。 ──しかし、少なくとも、地面には伏してもらう。 「百裂脚!」 そのまま、敵の真後ろに立った春麗は、片足だけを軸に立ち、恐るべきスピードとバランスで、何発もの蹴りを敵の背中に放った。 幾つもの脚が、見る者の瞳の中に残像として焼きつけられるほどである。 ダダダダダダダダダダダダダ……! 仮面娘の背を、尻を、髪を、何度も叩きつけるキックの連打。 一瞬で、百に届きかねないほどの蹴りを放つ事もできるが、春麗自身の疲労も大きく、あまり無理に百回の蹴りを叩きこむ必要もなかった。 その四分の一でも過剰なほどであったが、多少過剰なくらいでなければ犯罪者を捕縛する事は出来ない。──そして、そのボーダーラインが、見事に敵の限界だったようである。 「ぐぁ……っ!」 仮面娘も、後方からの連撃に耐えられず、あっけなく沈んだ。──春麗の脚が止まる。 倉庫の床にマスク越しに叩きつけられるように倒れた仮面娘の右腕第二関節を、春麗の右脚が踏みつける。体重は強くはかけなかったが、それでも充分に右腕の自由を奪える力加減であった。 スチャ、と音を立て、春麗が懐から銃を取り出し、仮面娘の背中に銃口が向けられた。手際は見事である。 「ふぅ、一件落着──『やったぁ!』って、両手を上げて喜びたいところだけど」 この娘の殺意を春麗は感じ取った。故に、ここまでの行為に容赦はない。 ──だが、これ以上は、あくまで職務を逸脱しない尋問である。 「くっ……」 不覚を取り、奇襲とはいえ敗北を喫した仮面娘は、悔しそうな声をあげている。 じたばたと抵抗を続け、右腕が未だ必死に動かされようとしているのを、春麗の右脚はブーツ越しに感じ取れた。 どうやら、この娘の殺意は簡単には拭い去れない物らしい。 一応、事情を訊こう。 「インターポールの春麗刑事です。公務執行妨害及び傷害の現行犯で簡単に事情聴取をしておきたいところですが──その前に、まず、その仮面を取ってもらおうかしら?」 形式的な敬語の挨拶を即座に取りやめ、少々横柄に仮面娘に尋問する春麗だった。 仮面を身に着けた相手というのは何ともやりにくい物で、会話ともなると透明な壁と戦わされているような気分だった。 その前に、まずは仮面を取らせようとする。 春麗自ら仮面に手をかけるより、彼女の空いた左腕に頼った。右腕の自由が奪われ、床に伏し、銃を背中に突きつけられている手前、普通の犯罪者ならばここで指示に従わない事はほぼありえない。 ──が。 彼女は、その“ほぼ”の例外に属する人間だった。 「春麗、か……。覚えたある。……ならば、春麗! 私を甘く見るな……!」 そう啖呵を切ったかに思われた次の瞬間──仮面の娘は、拘束されていない左腕を胸の下に潜ませ、そのまま、左腕を思い切り伸ばした。床を蹴とばして飛ぶように、彼女は、左腕だけで、身体を飛ばしたのである。 そして、彼女の右腕もまた、身体に釣られるようにして少し持ちあがった。──いや、春麗の身体ごと、持ち上げたのだ。力なき右腕ならば、当然ながら持ちあがる事もなく、左半身だけが寝返りを打つように天井を向くだけである。 「えっ!?」 ──伸びきった仮面娘の右腕は、まるで、胴体と繋がった鉄骨のようだった。 勿論、春麗は、それが宙に浮くとともに、そのままバランスを崩した。 仮面の娘は、春麗の拘束を逃れて、宙に飛んだかと思いきや、そのまま後方に回転して見事、着地せしめたのである。 「──!」 嘘でしょ、という春麗の心の声は、声にならない。 愕然としたまま、少女に向き合う。 少女の背中に突きつけていた拳銃の引き金を引く事は、結果的にはなかった。 もしその引き金を引いてしまえば、春麗はこの少女を“殺害”する事になってしまうのが明らかだったからだ。──致命傷となりうる場所に銃を向けたのは、“威嚇”の為であって、“殺害”の為ではない。 この少女は、おそらく、その躊躇を読んでいたわけではないが、おそらく、春麗が発砲するリスクも読んだ上で、拘束を逃れようとしたのだろう。 (半端な実力じゃない……!) やがて……構える春麗の前で、少女はその白いマスクを取った。 春麗の要望に応えたわけではないのは、状況を見て明らかだ。もはや彼女の言う事を聞く必要は、拘束を逃れたこの少女にも皆無だ。 それを取り去ったのは、彼女自身の都合による物である。 「……!」 春麗も、その姿には驚きを隠せなかった。 真っ直ぐに春麗を睨むその大きく円らな瞳も、仮面に隠されていた顔の輪郭も、幼い少女のようでありながら、大人びたようにも見えてしまう、不思議な色気のある美少女であったからだ。 よもや、こんな少女の顔面に蹴りを叩きこんだのか、と春麗も思う。 しかし、その瞳は憎悪に満ち、春麗への殺気立った思いを隠さなかった。 「ちょっと……あなた……」 思わず見とれた春麗は、こちらへ向かってずけずけと速足で歩いて来る彼女を前に構えたが、それに対して、全く構う事なく、彼女は歩み寄ってくる。 しかして、攻撃の気配がなく、それが春麗の反撃を躊躇させた。何かが彼女にストッパーをかけているような気がした。 仮面をつけた時以上に、彼女の雰囲気は不気味に映った。 そして──その仮面の少女は、春麗の眼前すれすれに立つと、思いもよらぬ行動に出た。 「──!?」 春麗の顎に左手をそっとかけると、そのまま、春麗の頬に唇をつけたのである。 所謂、キスだった。 女同士である故、彼女が突然にそんな行為に出た理由は春麗にもまるでわからない。しかし、唇と唇で行うのではなく、頬に向けてそっと行うのは、何か挨拶や儀式のような“意味”を感じさせた。 「……」 彼女は戦いを通して同性の春麗に惚れこんだわけではないらしい。──宣戦布告、と捉えるのが普通だろう。 柔らかい感触を頬で味わい、まだ少し濡れた左の頬をゆっくりと拭った春麗は、“接吻”を終えた少女の、凛然とした瞳を見つめた。やはり、思った通りの意味であるらしい。 そして、その気になれば本当のキスが出来てしまうほどのこの距離──何かとてつもない恐怖を覚えた。 「お前も覚えておくね、私の名はシャンプー」 中国娘は、自らの名前を名乗る。 ぶっきら棒で、不良めいた言い回し。黙っていれば大人しく無邪気な少女に見えるだろうが、闘争の場に相対した時、彼女の存在は悪魔にさえ見える。 そして、彼女は即座に、再び三本の刃をぎらつかせた。仮面を外させる事に対して、この鉤爪を奪うのは格段に難易度が上がる。故に、まだシャンプーの右手は刃に覆われたままだった。 ──殺気。 春麗は後ろに飛ぶ。 「春麗……おまえ、殺す!」 シャンプーの声が響くのと、鉤爪が春麗のチャイナ服の胸の下を横一文字に裂くのは、ほぼ同時だった。──今度は、肉体へのダメージはないが、少々嫌な所を破られたらしい。 胸と腹とを繋ぐ空洞の“段差”のあたりに穴が開く。 春麗は、もう何歩か後ろに飛び、先ほどより固く構えた。 「──フゥッ! ……あなた、やっぱり勝ち残りを望んでいるみたいね」 「……お前は違うあるか!」 「ただの格闘大会なら喜んでそうさせてもらうわ……でも、生憎、人の命を奪う趣味はないのっ!」 春麗は、グロックを構え、シャンプーの脚を狙って引き金を引く。まずは無力化を狙った。春麗はこれでも捜査官の中で指折りの射撃の名手である。格闘戦だけでなく、警察官としてのあらゆる能力において、男性にも引けを取らない名刑事だ。 胴のように、ずぶの素人でも命中させられるわかりやすい的を狙う必要はなかった。 たんっ! と、銃声が鳴る。──しかし、シャンプーは、それが命中するよりも早く、右方に回避し、速度を増して春麗に肉薄した。 「アイヤァッ!」 春麗の胸があった場所に向けて鉤爪の切っ先を向けながら、シャンプーは駆けだす。 だが、それよりも早く、春麗は足を地面の上に置くのをやめ、飛び上がった。──シャンプーは、空中で膝を曲げる春麗の真下を駆け抜けていく。 猪突猛進に春麗を狙ったシャンプーの一撃は、そのまま、春麗の背にあった麻袋へと突き刺さった。腹立たしそうにそれを思い切り引き抜くと、麻袋には相当大きな穴が開いたらしく、真っ白な粉が大量に零れて落ちる。 どうやら、春麗の背にあったのは、小麦粉の山だったらしい。 「──……理由は何かしら? それだけ実力を磨きながら、こんな戦いに乗る理由は……!」 「教える必要はないあるっ!」 再度、シャンプーの背後にいた春麗に向けて、鉤爪は空を掻く。 春麗に接近し、一振り、二振り、鋭い刃たちが空ぶった。 シャンプーの攻撃の角度やタイミングを読み始めていた春麗が、軽いフットワークで回避に徹したのだ。 対して、春麗にはまだ幾つか使用していない切り札もあった。 「教えてくれなきゃ、困るのはあなたの方だけどねっ!」 言いながら、春麗は二つの掌を床につき、倒立をするように自分の体重を持ち上げた。しかし、倒立と決定的に違うのは、両脚を開いている事である。 そして、その手を放し、そこから繰り出されるのは、腕を床の上で回し──全身を駒のように回しながら、回転蹴りを何度も敵に叩きつける荒業。 「スピニングバードキック!」 なんとこの技、本来なら手を一度地に着かなくてもやってみせるというのだ。 何発もの蹴りがシャンプーの頬に命中する。春麗の脚線を見れば、まるで丸太の直撃を受けるほどのダメージを受けるのではないかという心配をする者も現れるだろう。 シャンプーが動機を秘匿する限り、春麗も“理由なき殺人者”として、シャンプーを冷酷に追撃しなければならない。──同時に、説得も不可能になってしまうと来ている物だから、シャンプーにとってはデメリットの方が大きい。 こんな荒業をぶつけるにも躊躇がなくなる、というわけである。 シャンプーの身体は、その攻撃の勢いのあまり、地面を離れ、勢いよく車にでもはねられたかのように、麻袋の山に向けて叩きつけられた。 「くっ」 吹き飛び、晴れた右の頬を左の手の甲で拭いながら、まだ戦意を喪失しないシャンプーであった。──どうやら、負けられない理由でもあるようにさえ見える。 だが、たとえ理由がどうであれ、人を襲うスタンスである限り──そして、自らに敵対する限り、春麗はシャンプーと戦い続けなければならない。 シャンプーは、ずきずきと痛みの残る右の頬をしきりに拭った。 「……今のは、さっきのキスのお返しよ!」 「“死の接吻”の事あるか」 「死の接吻……?」 どうやら、先ほどの接吻にしても、何か物騒な意味があるらしい。 そう、やはり儀礼的な何かであるようであった。──「死」という意味の。 「私たち女傑族の村の掟──もし、よそ者の女に負けたら、その相手、地獄の果てまで追いかけて殺すべし! 死の接吻はその証かし! 中国の村の掟、絶対ね! 中国人のお前にもわかるはずある!」 「全然わかんないわよ! あなた、どこの田舎者!?」 中国の悪い噂がまた広まってしまいそうだと思った春麗は、少し頭を抱えつつも、シャンプーの殺意は偽物ではないのを実感する。 根本的に彼女が殺し合いに乗った理由はわからず終いであるが、いまどき殺戮の掟がある部族である以上、下手をすれば、この殺し合いに乗る事もまた宗教的な理由や儀礼的な理由による物である可能性は否めない。 となると、真正面からの対話は不可能と見ていい。現代社会の法律を逸脱する常識が刷り込まれている以上、説得にはかなりの時間を要する事になってしまう。 ここは、春麗も体力を消費するよりは、──手早く、自由を奪うのが良いと決定した。 「──」 春麗は、グロックを構え、狙いを定める。 敵は銃撃を恐れていない。──しかし、銃口の向きで回避を企てている。 と、なると。 ──命中率は僅か。 だが、それでも。 いや、だからこそ──。 ここで決める! たんっ! ──と。 「──!」 銃声が轟き、弾丸は目の前の物体を抉るように突き進んだ。──視認できないほどに素早く、それは、春麗の手の中の物体から離れて行く。 だが……シャンプーには当たっていない。 それどころか、シャンプーは、回避という手段さえ取らなかった。 春麗は、全く的外れな所に弾丸を命中させたらしく、彼女が避ける必要は皆無だったのだ。それは、銃口を見ても明らかだった。 シャンプーの脚と脚の間をすり抜けるようにして進行した弾丸は、シャンプーの真後ろにあった麻袋の山に命中した。 何段目の麻袋かはわからないが──いや。 しかし。 それこそが、春麗の狙いだったのだ。 「……どうした、外したね。──撃たないならば、こっちからいくある!」 「どうぞ──」 さらさらさらさら……。 小麦粉が、床に零れていく。まるで砂時計が時を刻むように。 焼けこげた小さな穴は膨れていき、下から三段目の麻袋は、形を歪ませて萎んでいった。 四段目の麻袋が傾く。 五段目の麻袋はそれにつられて傾いて行く。 六段目も、七段目も……もっと大きく──。 中身がさらさらと落ちていくのを見つめながら、春麗はニヤリと笑った。 「──ご勝手に!」 一歩を踏み出そうとしたシャンプーの背後で、大きな影が崩れだした。 それは、積み上げられていた小麦粉の麻袋の山であった。 下の麻袋が形を変え、穴の開いた方から崩れていった時──その上に積み重ねられていた麻袋はどうなるか。 自らを支えていた麻袋がそれまで保っていたバランスを崩した時、真上にいっぱいに小麦粉を詰め込んだ麻袋の山は、当然ながら──小麦粉の量が減ってしまった方に傾く。 そして、それが春麗の身の丈ほどまでに積まれていたのならば、元々のバランスも決して良い物ではない。 ──結果。 「なっ……!?」 シャンプーが一歩を踏み出しながら、奇妙な崩落音に気づいた時には遅い。 それは、振り向いたシャンプーの視界を覆い、そのまま彼女の上に重たい豪雨として降りかかった。──一つあたり何キロというほど、ぱんぱんに膨らんだ袋だ。並の人間ならば首の骨を折ってもおかしくない。 一斉にそれが全身に叩きつけられ、シャンプーは悲鳴をあげる事もなく、地面に倒れ込んだ。中には、今の衝撃で破れた袋もあったので、下敷きになったシャンプーは小麦粉まみれである。 粉塵となった小麦粉はその一角にだけ真っ白な霧を作る。 「やったぁ!」 春麗は、今度こそ両手を挙げて大喜びをした。 見事──シャンプーをノックアウトできたようである。 まあ、たとえ勝利せしめたにしても、警察組織のバックアップがないので、小麦粉まみれで伸びたシャンプーをどうするかという所まではいかないが、ひとまず無力化したわけだ。 手錠もない現状、ひとまずは武器を奪い、例のパンストを両手にでも巻いて拘束するくらいしか出来ないが──それは絵面的にどうかと思い、春麗も内心では躊躇を禁じ得ない。 が、それくらいしか拘束方法はない。 仮にも危険人物であるシャンプーを前に、あまり迂闊な行動はとれないだろう。 「えっ……!」 と、大量の麻袋の下敷きになった、小麦粉まみれのシャンプーに近寄った時である。 鉤爪を装備したシャンプーの右手が、微かに動いた。 ──ぴくり、と。 そして、彼女の瞳は、──はっ、と、突然に開いた。 「──ッ!」 まるで何かに揺り起こされたかのように、彼女は、力強く起き上がった。 全身を結構な重量で打ち付けられ、挙句に真っ白の粉塗れになったシャンプーは、苦渋に満ちた表情で、肩を大きく上下させた。 しかし、春麗としては、それだけでもまるでゾンビを目の当りにしたかのような憮然とした表情で見つめるしかできなかった。 「嘘……あなた、まだ戦えるの!?」 「忘れたあるか……。──私に勝った“よそ者の女”、地獄の果てまで追いかけて、殺す!」 「そんなくだらない掟の為に……なんて執念なの……!?」 優位な春麗でさえ、そんな彼女には悪寒がした。 ストリートファイターならば、かなり敬意を表せる相手であると思う。 並々ならぬタフネスと執念。それは、既に彼女を人間の実力を越えた格闘者に育て上げていた。 だが、彼女は、格闘の力を使い、“戦う”のではなく、たとえ誰であっても“殺す”道を選択した。──ならば、春麗も、捜査官としての顔を見せなければならない。 おそらく、春麗よりも年は下だが──本気を出させてもらう。 「──」 ここでは狭い。 春麗は、ちらりと自らの後ろを見ると、急いで倉庫の外へと駆け出す。 ──シャンプーは、よろよろと身体を揺らしながらも、春麗を追うように倉庫の外へと出た。それはさながら、亡霊であるかのようだった。 冷えた潮風の香りは、より一層きつくなる。 まるで世界そのものが広くなったかのような、暗い港。 「はぁ……はぁ……──でやぁぁぁぁっ!!」 早速だ。 シャンプーは、春麗を仕留めようと、鉤爪の切っ先を向けたまま駆けだしてきた。前と同じく、猪突猛進に──。 春麗はそれを回避するが、タイミングは些かずれ込んだ。シャンプーの攻撃が、疲労によって大きく鈍っているせいで、却ってタイミングが崩れてしまったのだ。それくらいの事も読めなかったのは不覚であったかもしれない。 次の瞬間、彼女が我武者羅に決めた、突き上げるようなアッパーは、春麗の胸部を盾に引っ掻いた。──春麗の衣服は、胸の部分だけ、T字を逆さにしたようにめくれ上がり、真っ白な両乳房を露わにする。 「──あっ!」 ……いや、シャンプーの疲労が読めなかったのではない、と春麗は思った。 自分も、彼女との激戦で想った以上に疲労を蓄積したのだ。やはり、シャンプーは相当な実力者である。こんな物を使わなくても春麗を渡り合えるだろう。 「アイヤァッ!!」 シャンプーもまた、脚を振り回すように春麗に蹴りを叩きこもうとする。 だが、それが命中するよりも前に──。 春麗は、シャンプーの頭上を飛び越えるように、高く飛び上がり、シャンプーの後ろに立った。──そして。 「百裂脚!!」 先ほどと同じく──春麗のつま先から、何発もの蹴りがシャンプーの身体にめり込んだ。 シャンプーは直前に春麗に振り返ったが、反撃の余地はない。待っていたのは、無数のキックの嵐である。──そして、それは、シャンプーの顔面にも、胸にも、腹部にも、等しく向けられた。 しかし、賛辞であるのか、それとも、春麗が恐怖を抱いたという事なのか、先ほどよりも過剰な連撃が、シャンプーに浴びせられたのだ。 そして、シャンプーの背には、今度は、海があった──。 彼女は、ついに力を失い、背中から、海に向けて、吹き飛ばされて落ちていったのである……。 ──K.O!!── やりすぎただろうか、と、水面を見下ろしながら春麗は思った。 ……しかし、揺れる水面を見つめる春麗の前にあったのは、驚くべき光景だった。 ◆ 倉庫群の陰には、そんな中華美女二人の争いの一部始終を監視している者がいた。 彼の名はスチュアート大佐。 かつてまで軍人であったが、今やテロリストという汚れた役職で呼ばれて然るべき男だった。──彼は、目的の為に民間の旅客機を一機、巧妙な手段で撃墜した程である。彼の上司であるエスペランザ将軍と共に、おそらく半世紀は語り継がれる悪魔の名となるであろう。 彼も格闘技においては軍部でも右に出る者がないほどの実力者であったが、だからこそ倉庫の中で繰り広げられていた恐るべき闘争に絶句せざるを得なかった。 (あのアジア人の娘たち……かなり腕が立つ。いや、かなりという次元じゃない) スチュアートは、垂直跳びで人の体重さえも超えてしまうような女の戦いを目の当りにしていたのだ。それは、手から砲撃を出したピンク色のワニの死(スチュアートはこれをあの光景をあまり過信してはいないが──)よりもずっと、身の危険を実感させる光景となった。 とはいえ、スチュアートには、この殺し合いで勝ち残らなければならない理由が存在している。 今の光景はスチュアートの大義を揺るがす決定打とはなり得なかった。 (──私は勝ち残って遂行すべき任務がある。 故に、彼女たちもターゲットの一人として抹消せねばならない) そう。彼の目的は、エスペランザ将軍の奪還。 その為に、大勢の部下を従え、ダレス国際空港において、空港の管制中枢を乗っ取って、その機能を麻痺させた。 そのダレス国際空港も、どういうわけか日本の東京タワーやイタリアのコロッセオなどと共に、この場に同名の施設があるようだが、彼としてはそれがそのまま存在している事実には懐疑的である。 その座標に存在する物に関する何らかの暗号、あるいはコードネームとして「ダレス」、「東京」、「コロッセオ」などのシンボル的名称を用いていると解釈している。 何にせよ、彼の目的は、多くの部下を従える一介の軍人としての“勝ち残り”。──その為ならば、如何に冷徹な手段も厭わない。 (ジョン・マクレーン……貴様も同様だ) たとえ、あの有名なニューヨーク市警(いや、今はサンフランシスコ市警だったか)が相手であっても同様である。 奴には、空港で多くの部下を殺された。 我々の作戦を妨害しようとしていた男だが、おそらくスチュアートが真正面からぶつかれば敗北するような相手ではないだろう。 (だが、いかにこの私といえども、今の連中と正面からの戦闘で勝ち残るのは分が悪い) 問題は、マクレーンではなく、春麗やシャンプーのような、スチュアートも及ばないレベルの超常的な格闘能力を持った連中だ。 これまでに見て来た中国人の兵隊たちを凌駕したその格闘の実力を見るに、この殺し合いに呼ばれた連中は、「驚異的な戦闘能力」あるいは「卓越した知力」など、何らかにおいて優秀な能力を持つ者たちであろう。 (……だとすれば、ひとまずは、マクレーン以外の連中は上手く仲間として取り入るのが最善の策か) あの春麗という娘──奴もインターポールなどという素性を明かしていたが、だとすれば、スチュアートも安易に接触するのは不味い。 ひとまずは、この場からは上手く去り、彼女たちと戦闘にならないように心がけ、周囲の連中を利用する。 ──そうだ。 それより前に、倉庫に残っている筈の、シャンプーの支給品を奪っておくのが得策であろう。武器は多い方が良い。幸いにも、このデイパックは何故か重さを感じない。 戦場とは違い、武器を持ちすぎる事が首を締める事にはならない筈だ。 「──」 スチュアートは、春麗の方を見た。 彼女は、どうやら、シャンプーを追って水面まで飛び込んだようである。──ならば、ひとまずは、彼女の目はないわけだ。 彼は、急いで倉庫内に立ち入り、彼女たちの戦闘が繰り広げられていた場所へと駆けつける。──思った通りだ。 シャンプーのデイパックと、彼女が装着していた仮面が残されている。 武器類があるか確認するのは後だ。春麗と遭遇しない内にこれらを回収してここから出て、不要物を捨てて武器を得る。 これが得策と見た。 彼は、すぐに倉庫から外を見たが、春麗はまだ陸に上がってこないようなので、すぐに倉庫の外に出た。 「にゃー!」 と、その瞬間、真後ろから、変な鳴き声が響いた。 流石のスチュアートも心臓が飛び出そうだったが、どうやら、ただの野良猫のようである。 水でも被ったかのように全身びしょ濡れだったが、スチュアートは、そんな野良猫を小声で追い払おうとする。 「なんだ、猫か……あっちに行け! シッ! シッ!」 そう言って、発情期のようにうるさく泣きわめく猫を背に、スチュアートは走りだした。番犬に吼えられている泥棒の気分だ。だが、少しでも早く逃げなければ、目立って春麗に見つかってしまう。 その猫は、少しだけスチュアートを追いかけようとしたようであったが、どうやらその猫も相当の疲労に参っていたようで、すぐに追い払った。 幸いにも、春麗にも見つからずに済んだようである。 ◆ 一方、春麗は、港を見下ろしながら、自分が一つのミステリーを目の前にしているのを実感していた。 「……どこに消えたのかしら」 春麗は、海を見つめていたが、そこに浮かんでいるのは、シャンプーの着用していたチャイナ服と、鉤爪だけだった。 彼女が逃げのびたならば、何故、彼女は服を脱ぎ、武器を捨てたのだろうか。 それは春麗にもわかりかねる。 まるで脱皮したように──というか、シャンプー自身の身体が、まるで水の中に溶けて消えてなくなってしまったようだった。 春麗が目を離したのもそんなに長い時間ではなく、シャンプーが水に落ちてすぐにそこに目をやったはずなのに、既にそこに彼女の姿はなかったのである。 ……ただ。 「……これじゃあ、流石に表を歩けないもんね。悪いけど、ちょっと貸してもらおうかしら」 春麗は、その豊満な両乳房を覆っていた服が引き裂かれて、手で押さえなければ乳房が曝け出されてしまうような状態にある。こんな状態で歩いていれば、まるっきり痴女だ。 小麦粉の白色がこびりついた上に、びしょ濡れであるものの、後で乾かしてどうにか着替えとして使わせてもらおう。 ……体格も違うし、やはりサイズに無理があるだろうか? しかし、まずはそれを深く考えず、春麗は、海に飛び込み、シャンプーの衣服とバルログの鉤爪を回収する事にした。 ◆ 一匹のびしょ濡れの猫が港を歩いていた。 首輪はサイズが縮小され、猫の首についている。 この雌の猫もまた、この殺し合いの“参加者”の一人である。 (あの男……最低の泥棒ね!) スチュアートが“自分の”デイパックを持ち逃げするのを、この猫は見ていた。 必死に罵倒したが、それは猫の声帯では鳴き声以上の何にもならない。──言ってしまえば、彼女はこの“体質”のせいで全部、失ってしまったわけである。 これも、何もかも春麗のせいである。 (ああ、これで全部なくなってしまった) この猫はもう素寒貧だ。 支給品なし、武器なし、服なし。 さて、この猫の正体──それは、何者か。 「くちゅんっ!」 くしゃみする猫は、つい先ほどまで、冷たい水の中に浸かっていた。 あの春麗に突き落とされたのである。 ──そう、この猫の正体は、勿論、あの仮面の格闘家・シャンプーであった。 一見すると愛らしい猫のようでありながら、それは、この殺し合いに乗り、春麗の命を狙う中国の刺客なのである。 (やはり──乱馬以外の者、皆邪魔者……! 殺す!) スチュアートに支給品を奪われた事で、彼女の中の覚悟は風船のように膨らんだ。 ああして巧妙に人目を盗んで武器を強奪する者もいる。──やはり、このバトルロイヤルに乗っている人間は自分以外にも大勢いるのだ。 元々、性質の悪いあの手の参加者は、殺害を躊躇する必要はない。 ……今も同じだ。早乙女乱馬以外、全員殺してみせる。 (見ていろ春麗。すぐにまたお前を殺しに行くね……そして、天道あかねも) 女傑族の彼女には、「殺人」の掟もある。 かつては天道あかね、そして、今、春麗にその口づけを施した。これから先、シャンプーは、掟に従って彼女たち二人を殺す為に戦わねばならない。 それに限らず、ここにいる者たちは容赦なく六十五人殺し尽くし──そして。 早乙女乱馬を、優勝させる。 (待っててほしい、乱馬……。私は、女傑族の戦士ね……これが、忘れかけていた私の本質──) 彼女にとって、殺し合いの始まりと、二人の人間の死は、自分の本当にあるべき姿と目的を思いださせてくる起爆剤となった。 勿論、あの説明を聞いた時は、誰が言う事を聞くものかと思った。 しかし、その直後、何故自分は──誰かを殺す事を忘れてしまったのか、ふと考えてしまった。殺し合いに忌避や嫌悪の念を抱く自分に気づいてしまった。 そして、二人が死んだ時に、彼女は思った。 ──自分は、こうしてあかねを抹殺しなければならない、女傑族の一員なのだと。 絶対の掟を忘れ、あかねやムースと親しくなりつつあった自分──それは武闘民族の一人の女として、本来ならば恥ずべき姿だった。 女傑族の長たる曾祖母も見逃していたようだが、そうであるようで、もしかしたら戦士としての何かを忘れて行くシャンプーを見張っていたと言えるのかもしれない。 法治国家日本──まともに殺し合う事は許されず、武闘ではなく労働で暮らし、掟もなく自由に恋愛をする大都会。その甘美な蜜を吸い、だんだんとシャンプーの心は甘くとろけてしまっていたのかもしれない。 だが、本当に殺し合わねばならない今──それを再び、正す必要がある。 (あかねも、殺す……) いつの間にか、天道あかねの顔を見ても殺そうなどとは思わなくなった。 ただ、乱馬との仲を引き裂ければそれで良いと──シャンプーは、あかねに対してそう思い始めていた。 しかし、掟に従うならば、それは決定的な過ちとしか言いようがない。 死の接吻を施した相手に、何故甘い顔を見せようか。 (それに、ムースも……) 幼馴染のムース。 最低の男だが、今も共に働いているほど付き合いは長い。仮にも、一図にシャンプーを想い続けている馬鹿な男だ。 彼も、乱馬の為に消さなければならない。 いずれにせよ、彼は掟によりシャンプーとは結婚する事が出来ないのだ。 (最後には、私自身も……) そして、仮に乱馬以外の全てを殺したとして──最後には、乱馬と自分だけが残る。 その自分も、結局、“最後のターゲット”になるわけである。 勿論、二人で上手に生き残れるならば、どんなセコい手を使っても、シャンプーはその手段を使うつもりだが、逆に二人以外の存在は抹殺するしかない。 自分が女傑族である事を、思い出す為に。 自分の本来の目的を、忘れぬ為に。 それを試されている気がした。 あの場には幼い子供もいた。シャンプーも、実のところ、女傑族という枷を外せば、子供をかわいがるような側面も持っている普通の少女だ。 ──しかし、そんな子供たちも今は敵だ。 いつか、こんな日が来るかもしれないとは、シャンプーも薄々思っていたのかもしれない。 いかに、これまでの日々にシャンプーが少なからず楽しいという感情を抱いていたとしても、結局は、シャンプーの目的は元々、乱馬を殺す為だったし、一時はあかねを殺す事も考えていた。 今は、かつての自分に戻っただけだ。 感傷に浸る暇はない。 (乱馬なら、しばらく放っといても平気ね。私は邪魔者を消していくだけある……) 乱馬は──早乙女乱馬は、初めてシャンプーに勝てた男なのだ。 中国の村の掟は、絶対だ。 女傑族の娘がもし余所者に負けた時、その者が女だったならば、殺すべし。 しかし、男だったならば、夫とすべし。 シャンプーに勝利した男・乱馬はシャンプーの婿として迎えなければならないのが掟だ。──そして、そんな掟に縛られる事もなく、シャンプーは純粋に乱馬を愛している。自分の命さえ投げ捨てて奉仕できるほどに。 日本での日常に呑まれて忘れかけていた掟。 それを、“ノストラダムス”は思い出させてくれたのだ……。 「あら? 子猫? びしょ濡れじゃない……」 と、色々考えながらとぼとぼ歩いていたシャンプーに、ふと、聞き覚えのある女の声がかかった。 慌てて振り向くと、そこにいるのは春麗である。 春麗もまた全身に水を被ったように濡れていたが、それは、おそらくシャンプーをあの水の中で探していたせいだろう。 随分馬鹿な事をするものだが、シャンプーは何も知らない春麗に向けて唸る。自分が目の前の猫に嫌われている事も知らず、呑気にシャンプーの身体を持ち上げる春麗。 「……うん? この猫も、私たちと同じ“首輪”が巻かれているわね」 「ニ゙ーーー!!!」 シャンプーは思いっきり、春麗の手の甲を引っ掻いた。 流石に、あれだけシャンプーの攻撃を回避し続けた春麗とあっても、この一撃からは逃れる隙が無かったようである。 春麗は、先ほどより小さく作られた三本のひっかき傷に冷たい息を吹きかけながら、赤子にでも言い聞かせるようにシャンプーを咎めた。 「いたたたたた……! 駄目よ! 引っ掻いちゃ……めっ! ……でも、この猫、小麦粉塗れね……。うろうろ歩いてて、あれを被っちゃったのかしら」 早速以て、春麗の心の油断が見て取れる。 どうやら、猫の子一匹殺すつもりはないらしい。日本ならばともかく、中国では猫料理など珍しくないので、彼女も猫くらいならば殺してしまうと思っていたが……。 まあ良い。こんな女に抱かれるよりは、 「──……と、風邪ひいちゃう……こんな所にいられないわね。早くお風呂を探さないと」 ふ、と。 その時、シャンプーは、春麗の手から逃れようとする手を、ぴたりと止めた。 春麗は、冷たい水の中に入ったせいで、びしょ濡れなのである。このままでは風邪をひいてしまうリスクがあると恐れたのだろう。これ以上夜風に晒されていては、お互い危険というわけである。 どうせ、この姿では春麗を殺す事も出来まい。 それならば、上手に利用して彼女に温かいお湯に入れてもらおう。 「……この子も一緒に入れてあげようかしら。びしょ濡れみたいだし……」 「にー♪ にー♪」 ご機嫌を取るように、先ほどまでの態度とは打って変って、春麗の胸の中にうずくまるシャンプー。 春麗もそれを見て妙な猫だとは思ったが、気にする程ではなかった。 だが、春麗は知らない。この猫こそが、シャンプーそのものだった事。 彼女は、“水を被ると猫になり、お湯を被ると元に戻る”という不思議な体質であり、今まさにその変化が行われていたという事など……。 (ふふふ……私がお湯につかった瞬間、お前を殺す事になるとは知らずに、馬鹿な女ね) シャンプーは、胸中で元の姿に戻り、春麗を殺すチャンスが巡って来た事で、胸中、爪を研ぎ始めていた。 【H-3 港町/1日目 深夜】 【春麗@ストリートファイターシリーズ】 [状態] 疲労(中)、ダメージ(小)、左二の腕に切り傷(パンストで)、左手の甲に猫のひっかき傷、全身びしょ濡れ [装備] バルログの鉤爪@ストリートファイター、グロック17(15/17)@ダイ・ハード2 [道具] 支給品一式、ランダム支給品0~1、シャンプーのチャイナ服(びしょ濡れ)、パンスト@らんま1/2、シャンプー(猫) [思考] 基本行動方針:ノストラダムスを倒す。 0:まずは猫を連れてお風呂に入ろう。 1:殺し合いには乗らないが、危険人物には対処を。 2:シャンプーの行方が心配。 [備考] ※参戦時期は「Ⅱ」の最中。少なくとも、シャドルーを壊滅させてはいません。 また、口調や性格などは「ZERO」シリーズ以降の設定も踏襲し、パラレルワールド扱いの「ZERO」シリーズとも一定の相互関係がある物とします。 ※春麗のチャイナ服は、シャンプーとの戦闘によって胸元が大きくはだけて露出しています。 【シャンプー@らんま1/2】 [状態] 疲労(大)、ダメージ(中)、猫化 [装備] なし [道具] なし [思考] 基本行動方針:殺し合いに乗り、乱馬の優勝を目指す。 0:猫のフリをして春麗についていき、風呂で元に戻って奇襲。 1:天道あかね、春麗を優先的に殺す。 2:最終的には自分の死もやむを得ない。乱馬の優勝が絶対の目的。 [備考] ※参戦時期は、本編終盤。 ※「死の接吻」を春麗に対して施しました。 ※自らの女傑族としての覚悟が弱まっていた事を実感し、殺し合いに乗る事でかつての誇りを保とうとしています。その一方で、良牙、ムース、子供などを手にかける事に対しては一定の抵抗もあるようです。 【スチュアート大佐@ダイ・ハード2】 [状態] 健康 [装備] バルログの仮面@ストリートファイター [道具] 支給品一式×2、ランダム支給品1~3、ランダム支給品0~2(シャンプー) [思考] 基本作戦方針:どんな手を使ってでも帰還し、任務遂行に戻る。 0:奪還したシャンプーの支給品の確認。 1:正面からの戦闘は避け、上手に武器を確保しながら敵を殺害。 2:マクレーン、及び春麗のように国際警察の手の者との接触は避ける。 3:また、勝ち残る以外の術が見つかればそれに乗る。 [備考] ※参戦時期は、少なくともダグラスDC-08機の大破を確認した後。 ※「ダレス国際空港」、「東京タワー」、「コロッセオ」などの存在は座標に位置する別の物のコードネームであると解釈しています。そこに現物があるとは思っていません。 【支給品紹介】 【バルログのマスクと鉤爪@ストリートファイターシリーズ】 シャンプーに支給。 バルログが使用している白いマスクと鉤爪(片手用)。 鉤爪は攻撃力やヒットを上げ、マスクは「ZERO3」では防御力を上げる効果を持っている。 ただし、いずれも攻撃を受けすぎると装着が外れる。 【パンスト@らんま1/2】 春麗に支給。 パンスト太郎が武器や包帯代わりに使用するパンティストッキング。 作中では複数のパンストを結んで繋いでいるように、一応複数枚支給されている物とする。 【グロック17@ダイ・ハード2】 春麗に支給。 グロック社が開発した自動拳銃。装弾数は17発。テロリストたちが使用。 この出典の「ダイ・ハード2」の作中では、「強化プラスチック製である為、X線に映らない」などと言われているが、実際にはこれは誤った情報。しかし、この作品によってこの銃もまた大きく知名度を上げた。 また、警察署長がマクレーンに「アンタの給料全部投げ出しても買えない」と言われているシーンなどから、高価だと誤解される事もあったりするらしい。 時系列順で読む Back 復活の帝王 Next 豹 投下順で読む Back 復活の帝王 Next 豹 GAME START 春麗 Next [[]] シャンプー Next [[]] スチュアート Next [[]]
https://w.atwiki.jp/wiki6_a/pages/22.html
青の救助隊のみ、すれちがい通信要素があります 他人の救助隊から道具を貰うことが出来ます(アイテムが減るわけではない) すれちがい通信でしか手に入らないアイテムもあるとか ポケモントローゼとのすれちがい通信も可能です 最初の質問でプレイヤーとなるポケモンの種類は16種類 赤と青でも同じみたいです、パートナーは10種類の中から選びます 色の違いは登場ポケモンとパートナーの種類が若干違うのかも 380種類以上のポケモンが登場しますが、伝説のポケモンもちゃんと登場します 仲間になってくれるかは不明ですが多分出来るかと ポケモンの進化についてはシステム説明がないので 出来ないと思われていましたが、どうやら条件を満たせば出来る? ダンジョンで倒したポケモンを仲間にするにはそのポケモンが住む場所が必要になります 場所を用意する事で次々に仲間を増やして行く事が可能 エリアは基本的に買う事になります 仲間に出来る数等は現時点では不明です ポケモンごとに最大で4つまで技を覚える事が可能 技は基本的に1ターンで1回のみですが、技を連結させる事で技の連続攻撃が可能です 技を連結させるには、お店でお金を払って連結させるか 「れんけつばこ」で連結させる事が可能です ダンジョン内に敵にやられた場合は、救助してもらう事が可能 詳しい組み合わせは、こちらです パスワードを使えば、ネットを通して助けてもらう事も可能なので 公式サイトにて専用掲示板が発売日にオープン予定との事 NDS版とGBA版が発売されますが、ベース部分は同じで 少し違う要素があり、ダブルスロットする事で何かいい事があるみたいです NDS版はすれ違い通信に対応で「青の救助隊」・「ポケモントローゼ」に対応 すれ違いによる要素はまだ不明です 公式サイトにて動画も配信されています LVは蓄積系でやられると下がる仕様っぽいです
https://w.atwiki.jp/kurokage136/pages/773.html
時空監理局……それはあらゆる並行世界を繋ぐ時空に存在する、全ての規律を司り、秩序を守る組織。 その部署の一つ……『紅蓮隊』。 監理局へあちこちの部署へたらい回しされる雑用をこなしながら、その実態は[[時空監理局]]局長代理『[[宅地雪]]』に復讐する為に集まった部隊である。 アマツキ、ヤマタニ、チェリー、ロンギヌス、そして新人として新たに月影が加わり、今日も復讐の為に活動を始める。 ……… 「あ、あのすみません……」 「まだあの、職場内の用語が掴めてなくて……Aの仕事とかCの仕事ってなんなのか分からなくて……」 「ああ、まあ月影はここに来てまだそんなに経ってないから仕方ないよ」 「そ、そうですか……すみません……」 「謝らなくていいよ。じゃあ、今から説明するね」 月影が来て早くも数日。時空監理局では月影に対して基本的な用語、仕事について教えている最中である。 「えっと、この会社での仕事にはいくつか種類があるんだけど……その中でも特に多いのがAとCだね」 Aは『埋め立て』の事で、他の部署や時間移動装置等を利用して様々な世界に飛び、開きっぱなしの時空の渦を埋め立てる仕事だ。 「で、Cは……」 「月影……」 「えっ!?り、リーダー……」 「少し付き合え……」 「え、え、え!?」 月影は監理局本部の地下に連れてこられ、鎖で繋がれた。そして…… 「それじゃあ、お前の『尋問』を始める……」 そう言ってリーダーが取り出したのは、大量のトゲのついた鞭だった。それは普段時空犯罪者を撃退した時に使ったもので、今の彼女の状態に合わせて調整されている 「あ、あ、あの……ちょっと、これは……?」 「心配するな、これを使ってお前の体に直接聞いてやる……」 そう言ってリーダーは月影に鞭を振り下ろした。しかし…… 「……宅地雪に一回会ったそうだな」 「……え?」 何故かその鞭は月影の体をすり抜けて壁を叩いた。 「……い、いや!会ったと言っても、ちょっとぶつかって、顔を見たぐらいなので」 「そうか……なら、もっと調べさせてやる……」 リーダーは月影の体を掴み、床に押し倒した。そして、彼女の体を押さえつけながら衣服を剥ぎ取り始めた。 「えっ!?ちょ、ちょっと!まずいですよ!」 「さあ……」 監理局本部の地下には時空犯罪者の取り調べに使う部屋があり、その中には特殊な器具や拘束具などが多数設置されている。 「お、お願いします!やめて下さい!」 月影は必死に抵抗するが、リーダーに敵うはずもなく……そのまま拘束されてしまう。そして、その状態で壁に設置された『責め台』の上に立たされた。それは体をがっちりと固定され…… 「アマツキ、Bの仕事入ってきたんだけど」 「あっ」 その最中ヤマタニが扉に入ってきて、今の惨状を見て。 そっと扉を閉めた。 「…………」 アマツキは月影を置いて部屋から出ていき、どこかへと向かっていった。 「………」 「私このままですか!?」 数分後、月影はなんとか休出はされた。 ……… 「そっか、月影はこの紅蓮隊の実態は知らないのか」 「雑用後始末の寄せ集め集団みたいだけど、その実態は皆時空犯罪者時代のたくっちスノーの被害者……とくにアマツキは1番お熱みたいだからね」 「月影はなんかそういうの無いの?」 「え?そういうのと言われても……」 「時空で最も有名な犯罪者だし、なんかあるんじゃないの?」 「………そうは言われても、そもそもあの時が局長代理の顔初めて見ましたし」 「何せ田舎から時空に上京してきたので、まず別世界が何とも………」 「……はあ、仕方ないな」 ヤマタニはため息を着くと、月影に向き直り……いきなり月影の肩を掴んだ。 「え!?ちょっ!何するんですか!?」 「だから……」 …… 「ううっ、私もう無理です!」 結局その晩、彼女は一晩中アマツキに責められた。 「……私は何も見てない、何も知らない」 …… 「ん……ふあぁ……」 月影は翌朝、ベッドの上で目を覚ました。そして昨日のことを思い出すと、顔を赤くしながらベッドから出た。 (結局あれからもずっと責められて、朝まで休出にしてもらったけど……) (どうしてそこまでして、局長代理の事を調べようとするんだろう……) ……… 「で、どうだった?尋問してみて何か分かった?」 「いや………本当にあれ以上のことは知らなかったようだ」 「ふーん、そろそろあの尋問方法やめたら?折角流れてきた新人来なくなるかもしれんよ、もれなく隊員全部が肉体関係だし」 「これまで紅蓮隊で局長代理を見た人間は1回は見るが……何の情報も見つからない、隙になるものが無い」 「それなら、もう次の段階に進んでも良いんじゃない?監理局を裏切ってるような奴なんでしょ?」 「……そうだな」 …… 「あ、リーダー!」 アマツキは廊下を歩いていた月影を見つけ、声をかけた。そしてそのまま彼女に近づき……。 (え!?なんで急に肩を掴むの……こわい……) 「早速だが仕事だ、全員でやる……ついてこい」 「え!?あ、仕事ですか!?えっと、番号は……」 「番号は特にない」 「本当の仕事が来るぞ」 …… 監理局本部の地下には、とある部屋がある。そこには様々な拷問器具が所狭しと並んでいる。 それは対象の人間の肉体を徹底的に破壊する為のもので、使用者は対象に苦痛を与えながら情報を吐かせる事が出来るのだ。 そんな部屋に月影を連れ込み、彼女を椅子に座らせる。 「え、またですか?これ以上は純潔とか……」 「今度はやらない、少しそこで待っていろ」 アマツキがレバーを引くと、月影が座らされた椅子が下がって下に落ちていく。 「お前達もこの穴から向こうに行くぞ」
https://w.atwiki.jp/dunpoo/pages/482.html
聖書の日本語 翻訳の歴史●鈴木範久 [朝日] 「みんなの意見」は案外正しい●ジェームズ・スロウィッキー [朝日] 生き延びるための思想 ジェンダー平等の罠●上野千鶴子 [朝日] 水子―〈中絶〉をめぐる日本文化の底流●[著]ウィリアム・R・ラフルーア [朝日] 建築と破壊--思想としての現代●飯島洋一 [読売] 日本美術の歴史●辻惟雄 [毎日] わかりやすさの本質●野沢和弘 [読売] メイド・イン・ジャパンのキリスト教●マーク・R・マリンズ著、高崎恵訳 [朝日] 文芸漫談―笑うブンガク入門 [著]いとうせいこう、奥泉光、渡部直己 20世紀英語文学辞典●[編]上田和夫・渡辺利雄・海老根宏 [朝日] 回転する世界の静止点/目には見えない何か●パトリシア・ハイスミス [朝日] 禅的生活のすすめ●ティク・ナット・ハン [朝日] デリダの遺言 「生き生き」とした思想を語る死者へ●仲正昌樹 [朝日] 生態系へのまなざし●鷲谷いづみ・武内和彦・西田睦著 [朝日] 近代文学の終り●柄谷行人 [読売] 聖書の日本語 翻訳の歴史●鈴木範久 [朝日] [掲載]2006年03月26日 [評者]野口武彦 よく政界で使われる「選挙の『洗礼』を受ける」とか、「『三位一体』の改革を進める」とかいった比喩(ひゆ)がもともと神学用語であることは、日頃あまり意識されているとは思えない。 今ではそのくらい日常の言語生活に溶けこんでいる聖書の日本語は、いつから、どのようにして形成されてきたのか。この一冊は、キリスト教の移入と普及の過程を翻訳思想史という角度から丹念にたどった労作である。 最初の布教者だったザビエルが「デウス」を「大日(だいにち)」と訳し、後であわてて取り消した話は有名だ。江戸時代後期の国学者平田篤胤(あつたね)が禁制の中国天主教書を手に入れて神道教義に応用した秘話も紹介される。いちばん力が籠(こも)っているのは、近代以後の翻訳事業であり、「明治元訳」「大正改訳」「口語訳」「新共同訳」と積み重ねられてきた訳語の検討を通じて、「その言葉によって象徴されるものが何であるかが、いかに重大な文化的・政治的問題を惹起(じゃっき)することになるか」という大きなテーマを探求している。 日本語に定着したと見なす「聖書語」のキーワードは、愛・神・救世主・教会・天国・福音……など三十語にわたる。そのうち二十三語は中国語訳聖書からの流入であるという。日本語訳聖書に初出する言葉は、悪魔・クリスチャン・宣教・造主・伝道者・ハルマゲドン・隣人の七語だというのは、それこそ「眼(め)からウロコ」(これも聖書語!)だった。 この事実はたんなる影響関係だけにとどまらず、外来の「思想語」がはらむ在来語との危険な裂け目をあぶりだす。いったいGodと神とカミとは同一の対象を意味しているのか、という根源的な問いかけをはらんでいるのだ。中国語訳聖書では、「上帝」である。最初の訳業に参加したヘボンは、日本語で「神」とするのをためらったそうだ。『和英語林集成』では、カミは「神道の八百万(やおよろず)の神々」と語釈されている。 子どもの頃、「悪いことをしてはいけない。神様が見ているよ」といわれたことを思い出す。頭にどんなイメージを浮かべるかは、人それぞれに微妙だ。 出版社 岩波書店 ISBN 4000236644 価格 ¥ 3,360 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603280319.html 「みんなの意見」は案外正しい●ジェームズ・スロウィッキー [朝日] [掲載]2006年03月26日 [評者]柄谷行人 本書の原題を直訳すると、「群衆の知恵」である。すなわち、本書は「群衆の狂気」あるいは「衆愚」という伝統的な通念に、異議を唱えるものである。 著者があげている例では、見本市に出された雄牛の重量を当てるコンテストで、雄牛についてよく知らない八〇〇人の人たちが投票した値の平均値が、専門家の推測よりも正解に近かったという。 この理由は説明されていない。ただ、個々の専門家よりも群衆のほうが知力・判断力において優越する場合があるということは、衝撃的な発見である。 しかし、集団が賢明な判断をくだすためには、いくつかの条件がいる。それは、集団の成員が、多様性、独立性、分散性をもつことである。さらに、多様な意見を集約するリーダーシップが不可欠である。そして、実は、これらの要件を満たすことは容易ではない。 たとえば、集団の中で討議すると、個々人は賢くなるだろうが、討議を重ねるほどに、皆が同じ意見をもつようになる。そして、多様性・分散性・独立性が失われ、いわゆる「群集心理」に陥ってしまう。ゆえに、群衆がいつも賢いというわけではない。一定の状態にある群衆が賢いのである。 実際には、集団がこのような要件をみたす場合は多くない。その要件を満たす代表的な例として、意思決定を市場にまかせる「予測市場」がある。確かに、市場では、人々は相互に独立している。とはいえ、市場であれば何でもいいというわけではない。利潤を目指す市場にはいつも、付和雷同的なバブルが生じる危険があるからだ。 すると、本書は、少数の専門家や指導者よりも大衆が賢い、といっているのではない、ということがわかる。むしろ、私には、集団の成員の多様性・分散性・独立性を保持し、さらにそこから創造的な意見を集約できるようなリーダーシップこそが望ましい、といっているように思われる。 だから、本書の言い分は、見かけほど奇抜ではない。ただ、実行するのが難しいだけである。 出版社 角川書店 ISBN 4047915068 価格 ¥ 1,680 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603280332.html 生き延びるための思想 ジェンダー平等の罠●上野千鶴子 [朝日] [掲載]2006年03月26日 [評者]巽孝之 ひとつの偽造メールで大混乱をきたした先日の国会だが、ひとつの重要な社会的概念「ジェンダー」(性差)をめぐる保守派の曲解と事実の捏造(ねつぞう)については、何ら問い直さぬままだ。フェミニズム抑圧の風は、ますます強まろうとしているかのように見える。 そんな状況下、論争の達人・上野千鶴子は、湾岸戦争以後の過程で思索した「女性兵士」の投げかける様々な問題を皮切りに、ナショナリズムがいかにヒロイズムによって個人を切り捨てる「死ぬための思想」であったか、いっぽうフェミニズムがあくまで戦争にもテロにも加担せず、民主主義の罠(わな)を回避しようと試みる「生き延びるための思想」であるかを、力強く説く。 独自の理論から概念定義をめぐる論争、今日の国家と性差を考えるための必読書の紹介、自己解題を兼ねた末尾のインタビューまで、著者が新しい思想たりうる「新しい言葉」を希求する姿勢は、読者に深い感銘を与えてやまない。 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603280347.html 水子―〈中絶〉をめぐる日本文化の底流●[著]ウィリアム・R・ラフルーア [朝日] [掲載]2006年03月19日 [評者]最相葉月 中絶は殺人か基本的人権か。米国を二分する政治的課題だ。いい加減、二元論の隘路(あいろ)から抜け出したい。そう願う米国の日本研究者が水子供養に手がかりを求めた。殺人でも権利でもない、あわいをすくい上げる仏教的な中絶文化を真正面から論じた日本文化論だ。 神仏の領域に送り返すという意味の「カエス」、農作業の言葉を借りた「間引き」、救い救われる対象としての「地蔵」。こうした言葉や慣習に罪悪感を和らげる意味をこめた日本人のプラグマティックな生命観を解きほぐす。あくどい水子商売には批判的だが、中絶が必ずしも道徳の荒廃につながるわけではないとして、人々の心を支えるために仏教が果たした役割を前向きに評価する。 原著は一九九二年刊行。隔世の感を覚える部分もあるが、今、翻訳されたことは意義深い。生命倫理の観点からだけではない。痛みを抱えつつ生を紡いできた日本人の心の根にふれた気がするからだ。 URL http //book.asahi.com/review/TKY200603210221.html 建築と破壊--思想としての現代●飯島洋一 [読売] (青土社・2940円) ◇「自己否定」が表象する希望なき二一世紀 九・一一のテロに象徴される現代の意味をどう捉えるか。二一世紀に生きる人類の文化をどう位置づけるか。著者はこの難問に対して、真っ向から挑戦する。おそらくやり方は二つあった筈だ。第一は、歴史を再検討し時系列的に実証分析を行うもの。第二は、歴史を素材に時間と空間を往来しながら象徴論的考察を試みるもの。著者は後者を選択し、「建築と破壊」と題するテーマに迫ることになった。 全体は六章から成る。一章は写真、二章も写真、三章で庭に転じ、四章は夢、あげくに五章で写真に戻り、六章もまた写真で始まる。著者自身が意識的に各章の論を立てるにあたって、主として写真をモチーフにしている。ウィトキンの一九八〇年代の「接吻」と題するグロテスクな写真。著者はそれをこう表現する。「一個の人間の頭が二つに割られるというきわめて暴力的な行為の果てに、その割られた頭がさらに一八〇度押し拡げられて、あたかもキュビズムの絵画のごとく、割られた一人の頭が向き合う『二人の人間』になったかのような写真なのである」 この写真に表象されているのは、あたかもオスカー・ワイルドの作品『ドリアン・グレイの画像』が意味するが如く、「空虚」であり「不均衡」であり、自己の「崩壊」に他ならない。著者はここから、論争の手品師のように、めくるめく問題提起的な作品-ヴァルター・ベンヤミン、スーザン・ソンタグ、ポール・ヴィリリオ-に触れながら、一九世紀初頭の写真という複製技術の誕生によって失われたものを追及し、自己像の分裂にいたる。 続く二章は「顔のないポートレイト」から始まり、なぞ解きを楽しむかのように、一九六八年のアンディ・ウォーホルの銃撃事件にゆきつく。その中で一九六〇年代の世界的な体制批判について著者は、「『否定のための否定』は、やがて暴力の矛先をいまそこにある各々の体制それ自体へでなく、くるりと刃の向きを変えて、自分たち自身へも向かって行かざるを得なくなった」と断定する。こうしたパラドクスの果てに、「自己否定」のニヒリズムが漂い始める。そして著者は、この臭いを二一世紀初頭のアメリカにもつながるとの卓抜たる指摘へとつなぐ。 著者の連想は、さらにウォーホルの事件と九・一一のそれへと展開していく。「九・一一で崩壊したツインタワーも一つのものを二つに見せるという、ウィトキンの『接吻』と同じような鏡像関係を演出することによって、現代ならではの空虚感を鋭く漂わせていたわけだ」との著者の解読は言い得て妙ではないか。 三章にいたって著者自ら述べるように、一九世紀から二〇世紀にかけてのロシアを、テロリズムの源流として骨太に描いている。ニヒリストが「破壊のための破壊を信ずる人」と定義された時、ベンヤミン、そして一九六八年五月革命、ドストエフスキー『罪と罰』は、これまた時空を超えて串刺しにされる。 結論をいそごう。著者の博識を楽しむ向きは、四章におけるロシア革命とフロイト論-何とここでもウィトキンの「接吻」が言及される!-、それに五章の心霊とトラウマを、ゆっくり読まれることを勧めておくが。「アメリカがアメリカを食う。アメリカと自己同一化したテロリストの飛行機は、アメリカの象徴としてのツインタワーをそのようにしてあの瞬間に貪り食べたのである」との解釈に、著者は六章でたどりつく。すなわち九・一一のテロリズムは、カニバリズムを抜きには語れないのだ。そしてその先には、ボードリヤール流の「九・一一の出来事は、いわばこの閉ざされたシステムが、急激なグローバル化の果てに限界点に達した時に自壊した出来事だったのだ」との記述が待っている。 かくて「自己崩壊」が「自己否定」のニヒリズムへとむかい、「破壊のための破壊」が呼び寄せるカニバリズムの果てに、テロリズムによる「自己崩壊」性が確認される。著者は専らアメリカ、ロシア、ヨーロッパの事例を顧みて、この議論を組み立てた。ややくどいとさえ思われる引用と、伏線としてはこれまたいささか多すぎる歴史事象の交錯にもかかわらず、本書にちりばめられたアフォリズム的表現が暗示しているものが、実はある。それはいったい何か。 小泉純一郎に率いられた、まさにこの現代日本のあり方に他ならない。小泉改革は、現実にはニヒリズムによるすべての破壊を招いている。いや改革それ自体が悪いのではない。小泉個人の意図をはるかに越えて、改革という名のパンドラの箱が開かれた状況だ。そこでは精神のカニバリズム、自己破壊が日夜すすみつつあるのではないか。昨今のマスコミを騒がせている事件の裏には、こうした破壊衝動が見てとれる。パンドラの箱には希望があった筈だ。しかし希望なき現代日本、出口なき現代日本を、本書は明らかに表象している。 毎日新聞 2006年2月5日 東京朝刊 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060205ddm015070091000c.html 日本美術の歴史●辻惟雄 [毎日] (東京大学出版会・2940円) ◇縄文からアニメまで一万二千年 一人の著者による通史は、もしうまくゆけば読者にとって本当に有難いものだ。歴史を統合的に鮮明にとらえることができる。しかし著者にとっては極めてむずかしい。専門の分化が学問の宿命だからである。そこで、数人ないし十数人による共著形式が次善の策として選ばれ、読者は複数の視点、多様な史観、さまざまの文体の組合せによる渾沌たる歴史像とつきあうことになる。 『日本美術の歴史』は近世絵画史を専攻する辻惟雄が書いた通史だが、例外的と言っていいくらいよく出来ている。時間的には縄文から宮崎駿(!)まで一万二千年をたどり、分野としては絵画、彫刻にはじまり、工藝や建築を経て、写真、デザイン、マンガ、劇画、アニメに至るまで、吐息が出るほど幅広く扱いながら、しかもすっきりと手際がよい。辻は岩佐又兵衛、伊藤若冲、曾我蕭白など、無視あるいは軽視されていた異端奇想の画家の系列を宣揚して名声を馳(は)せた学者だが、その脳裡には多年、フェノロサ=岡倉天心以来の標準型日本美術史への疑惑や対抗意識がわだかまっていて、それがこの、かざり(生活に密着している装飾性)、あそび(遊戯性あるいは遊び心)、アニミズム(自然崇拝的呪術性)の三つを軸とする眺望の書を構想させたのであろう。 もちろん最初は縄文と弥生。荒々しい縄文は原日本人の土着の美意識。和やかな弥生は日本が東アジア文化圏に組込まれてからの混血の美意識となるのだが、岡本太郎が断絶と対立を強調するのに対して、著者はむしろ二種の文化の連続性に注目する。そう言われて見ると、縄文のヴィーナスが最近すこぶる人気が高いのも、原始日本文化の両面を兼ね備えているせいか。縄文的なものへの関心は全巻を赤い糸のように貫いていて、たとえば法隆寺「救世(くせ)観音」(「人間の生首が抽象的な北魏様式の衣服の上にのっている」と梅原猛は評した)の顔面と似ているのは縄文中期の土偶の人面しかないと断言する。神護寺「薬師如来立像」(九世紀初め)の背後には山林修行者の霊木崇拝があって、これは遠く縄文文化に端を発すると主張する。さらに織部好みの茶陶(十七世紀)における気まぐれな意匠の即興性に、侘び茶の精神性を「かぶく」心が変貌させたものを見て、縄文性を感じ取る。このような着眼と論じ方は、普通の美術史教科書とまるで違うことをよく示すだろう。 一体に辻の著作のおもしろさは、博識で平衡感覚に富む学究が、対象の美に心奪われて夢中になり、危険(?)なことを口走る所にある。この本にもその種の発言が多い。引いてみよう。 渡辺崋山の、洋風の陰影法を取入れた肖像では、整っている完成画より、下絵のほうが鋭い人間観察を示す。 高橋由一の静物画がわれわれの心をとらえるのは、卑近な日常のモチーフをひたむきに追求した迫力による。仕上げの見事さのせいではない。 佐伯祐三のパリ風景における壁の文字は、文人画の絵と書との出会いを受けついだもの。 藤田嗣治、宮本三郎、小磯良平などの戦争画は、戦争責任論を離れて造型だけを論ずるならば、彼らの代表作と言える。 記念碑的とも形容すべき大著を、こんなに短い紙数で論評しなければならないめぐりあわせを嘆く。おしまいにぜひ言い添えて置かなければならないのは、色刷りの図版がよくて、ささやかな名画選になっていること、索引をまめに使えば日本美術事典にもなる調法な本だということである。 毎日新聞 2006年2月5日 東京朝刊 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060205ddm015070114000c.html わかりやすさの本質●野沢和弘 [読売] 出版社:日本放送出版協会 発行:2006年1月 ISBN:4140881690 価格:¥735 (本体¥700+税) 知的障害者たちと新聞を作る著者は現役の記者だ。難解な情報を障害者にも分かりやすく表現する知恵と工夫は――。障害者の取材と記事作成に立ち会い、10年目に入った新聞作りの現場からリポートする。(生活人新書、700円) (2006年1月30日 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/book/paperback/20060130bk0d.htm メイド・イン・ジャパンのキリスト教●マーク・R・マリンズ著、高崎恵訳 [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]柄谷行人―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)複雑な世界、単純な法則(マーク・ブキャナン著、阪本芳久訳) (2)国家とはなにか(萱野稔人著) (3)メイド・イン・ジャパンのキリスト教(マーク・R・マリンズ著、高崎恵訳) (1)は、近年のネットワーク理論がもたらした意外な発見に満ちている。たとえば、自由な市場経済では富が一部に集中してしまうことがわかりやすく簡単に証明されている。また、ネットワーク的な反体制運動にとっても必要な観点が随所に示されている。 (2)は、国家とは何かを、暴力の視点から根本的に問い直す著作である。国家は、資本主義のグローバリゼーションの下で希薄化したように見えるが、自立的な主体であることを決してやめない。 (3)は、内村鑑三の無教会派以来、数多い日本的キリスト教団を総合的に分析している。著者は、こうした土着化をキリスト教が各国で根づくために不可欠なものとして肯定している。にもかかわらず、日本でキリスト教が根づかないのはなぜか。その問いの中で、日本の社会の特質が浮き彫りにされる。 複雑な世界、単純な法則?ネットワーク科学の最前線 著者 マーク・ブキャナン 出版社 草思社 ISBN 4794213859 価格 ¥ 2,310 国家とはなにか 著者 萱野 稔人 出版社 以文社 ISBN 4753102424 価格 ¥ 2,730 メイド・イン・ジャパンのキリスト教 著者 マーク・R. マリンズ 出版社 トランスビュー ISBN 4901510304 価格 ¥ 3,990 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270301.html 文芸漫談―笑うブンガク入門 [著]いとうせいこう、奥泉光、渡部直己 [掲載]2005年12月25日 [評者]高橋源一郎―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)文芸漫談 笑うブンガク入門(いとうせいこう、奥泉光、渡部直己著) (2)アメリカン・ナルシス(柴田元幸著) (3)小説の自由(保坂和志著) 多くの優れた小説が刊行された。だが、小説以外のものでも素晴らしい収穫があった年だ。(1)は近現代文学についてあまりに真剣に考えすぎた結果、笑いのめす以外、手段はないという境地に至った快作。「生きる現代文学」(?)奥泉光の苦衷に満ちた蝶(ちょう)ネクタイ姿が痛ましい(あるいは、微笑〈ほほえ〉ましい)。(2)は、アメリカ文学の本質を「自己の似姿」を求めるナルシスとして描きつつ(そのことについてはまったく書いていないのに)アメリカを「自己の似姿」としてきた日本文学に思いを馳(は)せさせてしまう魔法の書。(3)は、小説家による「小説の正しい読み方」の提示。小説に「正しい読み方」なんてあるのか? あるんです! ほとんどの人の、小説の読み方は間違ってるの? その通り、間違ってます! この3冊を読めば、小説というものがいままでと違って見えることは間違いない! 文芸漫談?笑うブンガク入門 著者 いとう せいこう・渡部 直己・奥泉 光 出版社 集英社 ISBN 4087747611 価格 ¥ 1,680 アメリカン・ナルシス?メルヴィルからミルハウザーまで 著者 柴田 元幸 出版社 東京大学出版会 ISBN 413080104X 価格 ¥ 3,360 小説の自由 著者 保坂 和志 出版社 新潮社 ISBN 4103982055 価格 ¥ 1,785 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270312.html 20世紀英語文学辞典●[編]上田和夫・渡辺利雄・海老根宏 [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]巽孝之―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)20世紀英語文学辞典(上田和夫・渡辺利雄・海老根宏編) (2)アメリカのジャンヌ・ダルクたち??南北戦争とジェンダー(大井浩二著) (3)神狩り2 リッパー(山田正紀著) 古典新訳ブームの昨今、アメリカ文学の分野でも、ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』の若島正訳やトルーマン・カポーティ『冷血』の佐々田雅子訳(ともに新潮社)など、斬新な視点による優れた新訳が相次いだ。 その中で、前世紀までの「英米文学」の枠組みそのものを根本から問い直し、グローバリズム時代ならではの「英語文学」を明らかにする(1)は、21世紀文学を読むためにもぜひ座右に置きたい、画期的な試み。 戦争と女性の積極的な関(かか)わりを主題にした(2)は、文学研究と文化研究の結節点を探り、現代社会の問題をも抉(えぐ)って読みごたえ十分。 (3)は日本SFの想像力がオーストラリア作家グレッグ・イーガンやアジア系アメリカ作家テッド・チャンなど世界SF(英語圏SF!)の最先端と伍(ご)することを証明した、作家生活30年にふさわしい集大成。 20世紀英語文学辞典 (CD-ROM付) 著者 出版社 研究社 ISBN 4767490669 価格 ¥ 18,900 アメリカのジャンヌ・ダルクたち?南北戦争とジェンダー 著者 大井 浩二 出版社 英宝社 ISBN 4269730005 価格 ¥ 1,890 神狩り2?リッパー 著者 山田 正紀 出版社 徳間書店 ISBN 4198619905 価格 ¥ 1,995 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270315.html 回転する世界の静止点/目には見えない何か●パトリシア・ハイスミス [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]中条省平―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)回転する世界の静止点/目には見えない何か(パトリシア・ハイスミス著、宮脇孝雄訳) (2)日影丈吉全集 別巻(日影丈吉著) (3)画家の手もとに迫る 原寸美術館(結城昌子著) 町田康『告白』、村上龍『半島を出よ』、三浦雅士『出生の秘密』、伊藤剛『テヅカ・イズ・デッド』などのベスト級作品は本紙ですでに書評したので、それ以外からベスト3を紹介する。 (1)は、まさかと思ったハイスミスの単行本未収録短篇(たんぺん)集(しかも二冊)。それでもこんなに密度が高いのだから驚く。人間の心という深淵(しんえん)を穿(うが)ちつづけたこの人は本当に異常天才である。 (2)は、日本の探偵小説界で、久生十蘭と並ぶ最も洗練された作家の豪華きわまる全集だが、この「別巻」には、料理とミステリーの評論が集大成されていて、この人の作家としての奥行きの深さを物語る。 (3)は、コロンブスの卵のような楽しい美術書。原寸で見るだけで、絵画の常識がどんどん粉砕されていく。例えば、マネこそ近代絵画の祖だということをどんな研究書より雄弁に伝えてくれる本なのだ。 回転する世界の静止点─初期短篇集1938~1949 著者 パトリシア・ハイスミス 出版社 河出書房新社 ISBN 4309204252 価格 ¥ 2,520 日影丈吉全集〈別巻〉 著者 日影 丈吉 出版社 国書刊行会 ISBN 4336044198 価格 ¥ 13,650 原寸美術館?画家の手もとに迫る 著者 結城 昌子 出版社 小学館 ISBN 4096817910 価格 ¥ 3,990 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270319.html 禅的生活のすすめ●ティク・ナット・ハン [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]天外伺朗―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)叡知(えいち)の海・宇宙(アーヴィン・ラズロ著、吉田三知世訳) (2)禅的生活のすすめ(ティク・ナット・ハン著、塩原通緒訳) (3)魂の民主主義(星川淳著) 社会が大きな変曲点にさしかかっている、と私は思う。(1)は従来はオカルトとして切り捨てられてきた神秘的な、あるいは宗教的な現象を説明する科学のパラダイム・シフトの話題。ある意味では、従来の意味での科学的合理主義の破綻(はたん)を暗示。(2)は、自分の中の野獣を肯定してはじめて非暴力の実践につながると説く生き方の指南書。よりよい社会を目指すなら、まず自分自身の心の平和が必要。世界中の指導者、平和や環境のために運動している人たちに本書を読んで欲しいと思う。 (3)は民主主義のルーツがアメリカ先住民社会だったという衝撃の書。激しい人種差別の中で長年にわたって抑圧されてきた内容を掘り起こした。じつは、文明社会が導入し損なった部分に一番大切な鍵がある。現在の民主主義にかわる次の社会システムのヒントになる重要な鍵だ。 叡知の海・宇宙?物質・生命・意識の統合理論をもとめて 著者 アーヴィン ラズロ 出版社 日本教文社 ISBN 4531081447 価格 ¥ 1,700 あなたに平和が訪れる~禅的生活のすすめ?心が安らかになる「気づき」の呼吸法・歩行法・瞑想法 著者 ティク・ナット ハン 出版社 アスペクト ISBN 4757211171 価格 ¥ 2,100 魂の民主主義?北米先住民・アメリカ建国・日本国憲法 著者 星川 淳 出版社 築地書館 ISBN 4806713090 価格 ¥ 1,575 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270325.html デリダの遺言 「生き生き」とした思想を語る死者へ●仲正昌樹 [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]宮崎哲弥―書評委員のお薦め「今年の3点」 宮崎哲弥さん テレビ番組に多数出演。近著は『M2:思考のロバストネス』(共著、インフォバーン)。来年こそ懸案の仏教対論を出す予定。 (1)自由と社会的抑圧(シモーヌ・ヴェイユ著、冨原真弓訳) (2)デリダの遺言 「生き生き」とした思想を語る死者へ(仲正昌樹著) (3)道元 自己・時間・世界はどのように成立するのか(頼住光子著) 「理想主義」を履き違え、時の流れに抗し、なお「変わらない夢」を見続けたがる者たちと戦うために。 (1)共産主義とファシズムという狂った「理想」が猛威を揮(ふる)った時代に抗(あらが)った聖女、ヴェイユの代表的論著の新訳。第四章「現代社会の素描」を一読すれば、誰もが息を呑(の)むだろう。「あらゆる領域において成功はほぼ場当たり的なものと化し」、「受動性、投げやりな態度、万事を外部に期待する習慣、奇蹟(きせき)への軽信が育まれるようになった」。これはまさに「いま」の姿だ! (2)「生き生き」とした語り口の言論人たち。古いマンガのセリフを援用すれば、お前はすでに死んでいる! それなのに、右にも左にも「生き」のよいゾンビたちが徘徊(はいかい)している……。デリダの衣鉢を継ぐ、アグレッシヴな言説批判。 (3)そして人は「空」なる世界を観じ、新たな「現実」をみる。道元のように。 自由と社会的抑圧 著者 シモーヌ・ヴェイユ 出版社 岩波書店 ISBN 4003369017 価格 ¥ 588 デリダの遺言?「生き生き」とした思想を語る死者へ 著者 仲正 昌樹 出版社 双風舎 ISBN 4902465078 価格 ¥ 1,890 道元?自己・時間・世界はどのように成立するのか 著者 頼住 光子 出版社 日本放送出版協会 ISBN 4140093285 価格 ¥ 1,050 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270338.html 生態系へのまなざし●鷲谷いづみ・武内和彦・西田睦著 [朝日] [掲載]2005年12月25日 [評者]渡辺政隆―書評委員のお薦め「今年の3点」 (1)ダークレディと呼ばれて(ブレンダ・マドックス著、福岡伸一監訳・鹿田昌美訳) (2)生命 最初の30億年(アンドルー・H・ノール著、斉藤隆央訳) (3)生態系へのまなざし(鷲谷いづみ・武内和彦・西田睦著) 書評で取り上げられなかった好著3冊を、あえて辛口に紹介。 (1)DNA構造の発見に最も肉薄していながら、その功を「横取りされた」とされる科学者ロザリンド・フランクリンの評伝。英国人の伝記好きは病的とも揶揄(やゆ)されるほどだというのに、この伝記は遅すぎた。時系列に沿った客観的な語り口を心がけている分、ドラマ性を欠いているのが残念。 (2)原始的な生命が誕生してから多細胞生物が登場するまでの歴史。扱っている時代とテーマは魅力的なのだが、語り口が端正でいささか教科書的な分、損をしている。 (3)「生態系」というとらえどころのない概念の実体についてわかりやすく解説し、無味乾燥な記述に陥りがちなテーマを物語風に語る試みに成功している。ただしその分、教科書なのか一般書なのか、焦点がぼけてしまった。 ダークレディと呼ばれて?二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実 著者 ブレンダ・マドックス 出版社 化学同人 ISBN 4759810366 価格 ¥ 2,940 生命 最初の30億年?地球に刻まれた進化の足跡 著者 アンドルー・H. ノール 出版社 紀伊國屋書店 ISBN 4314009888 価格 ¥ 2,940 生態系へのまなざし 著者 鷲谷 いづみ・西田 睦・武内 和彦 出版社 東京大学出版会 ISBN 4130633252 価格 ¥ 2,940 URL http //book.asahi.com/review/TKY200512270349.html 近代文学の終り●柄谷行人 [読売] 出版社:インスクリプト 発行:2005年11月 ISBN:4900997129 価格:¥2730 (本体¥2600+税) あるものの起源がわかるのは、それが終わる時だと著者は記す。『日本近代文学の起源』を書いた時に、すでに柄谷さんにはその終焉(しゅうえん)が見えていたのかもしれない。それにしても、ここまで明確に近代文学の「終わり」を宣告することになるとは、著者自身も思っていなかっただろう。 文芸の「カラオケ化」が指摘される現在、文学の読み手も書き手も尽きない。それでも、柄谷さんは、文学は終わった、もはや何も期待しないと断言する。著者自身が返り血を浴びかねないその論旨は、評者には説得的に胸に響く。文学の現状を肯定する者も、ともかくは柄谷さんの警世に耳を傾けてはどうか。 国家のあり方や人間存在の根底を引き受ける文学は、なぜ消え去ってしまったのか。終わりは別の何かの誕生につながるとしても、その創始には漱石くらいの批評性と胆力が要ると覚悟を決めるべきである。 評者・茂木健一郎(脳科学者) (2006年1月16日 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/book/review/20060116bk0a.htm
https://w.atwiki.jp/newloveplusplus2ch/pages/39.html
ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 ラブプラスすれちがいの聖地 情報交換 名前 コメント すべてのコメントを見る