約 2,552,268 件
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/1185.html
ラノで読む 騒がしい保健室の事件記録 『真贋考察』 後編 ■4 「そも、なんでコイツはテスト用紙なんかを金庫から取り出したんだと思う?」 そんな質問を私達に放り投げてから、先生は取り出した二本目の缶コーヒーを開けて喉に流し込む。 「え? いや、そりゃあテストで良い点数を取る為に、盗もうとしたんじゃあ?」 実際に金庫からテスト用紙が取り出されている。テスト用紙を盗むのは、そのテストの為だと考えるのが普通なんじゃないのかな。 記憶がない私だって、そう考えるのだから。 「だったら」 缶を口から放し、能都君の模範的な回答に質問が重ねられる。 「なんでバレないように行動しないんだ?」 ポケットから煙草と電子ライターを取り出す。副流煙の事などお構いなしに火をつけて、美味しそうに一服する。 「ええと……?」 「ソイツが、犯行直後に転んで、机の角で頭を打ち、発見されるまで気絶するなんていうドジを踏んだからバレたと思われてるが──」 紫煙が天井に吹き付けられる。 ニコチンの独特な刺激臭が、私達の嗅覚と味覚を同時に攻め立てた。 「よく考えてみろ。明らかにピッキングと分かる痕跡を残し──」 田邑さんから手渡されたファイルから写真を選んで机の上に放り投げる。職員室の扉を写した一枚。 「金庫に指紋を残し──」 開け放たれた金庫。指紋採取の状況写真。 指紋照合の結果を書いた書類。 「広範囲に撒き散らしたテスト用紙──」 あちこちに散乱したテスト用紙の写真。 「まるで『瑞樹奈央がやった事』だとバレてくれと言わんばかりだ」 それに、と言葉を継ぎ足す。 「テスト用紙を『盗んで』しまったら、痕跡を残してなかろうと即バレだろ。そうなれば当然テストは中止。問題も全て差し替えだ」 私が瑞樹奈央なら、こんな阿呆な事などしないと、先生が擁護してくれた。 「お前達、映画とか見ないのか? スパイはこういう場合、カメラで書類を撮影してから金庫の中に戻すものだ。 つまりこれは『盗み』が目的じゃない」 「しかし先生……逆説的な推測では、証拠になり得ない」 両の拳に力を込めて、田邑さんは歯噛みする。思わぬ人間から反撃を受けて困惑している様だった。 「だろうね」 あっさり認める先生。 も、もうちょっと頑張ってよ先生!? 「じゃあ別のアプローチをしてみようか。 ……テスト用紙は、どうしてこんなに散らばってるんだ?」 最後に机の上に放り投げた写真を、先生は田村さんに投げてよこす。 「──え?」 「転んだ拍子にばら撒いた? 違うな。 仮にそうだとしても、紙が散らばっている位置がおかしい。転んだ拍子に床に落としたのなら、なんで少し離れた位置にテスト用紙が散乱するんだ」 写真を見ていた田邑さんが「あっ」と声を上げる。そうだ。私が起きて見たテスト用紙は、私から少しはなれた位置に散乱していた。 「つまり、誤って転ぶ前、既にテスト用紙は床の上にばら撒かれていたんだよ」 堀衛先生は煙草とコーヒーを交互に飲み、順番が逆であることを指摘した。 「あれ?」 何かに気付いたのか、田邑さんとは別の種類の声を能都君も上げた。 「でもそれって瑞樹が犯人である事を否定する材料にはなりませんよね?」 余計な事に気付くなよ四角いのっ! 下手に鋭いと厄介だなあ、もう! 「なるぞ?」 おお、いいぞ先生。その調子だ! 「最初の『盗みが目的じゃない』という推測と、今の推理を踏まえるとだな。犯人の目的はテスト用紙じゃなく、あくまで『瑞樹奈央に罪を被せる』事こそが本当の目的って事に……なるだろう?」 飲み終わったコーヒーの缶で、煙草を揉み消し、缶の中へ吸殻を入れる。そのまま流れるような動作で私達を見渡した。 かっこいいですよ先生! ハードボイルドっぽいですよ先生! なんか自分でも私は無実なんだって確証が得られてきましたよっ! 「で、だ。計画が順調に進んで気分が高揚してたんだろうな。踊るなり何なりしたのかもしれんが──そこで足を滑らして転んだ。 そして頭部への衝撃で一時的に記憶を失い──今に至るという、実に間抜けな話だ」 なるほど! ……ん? あれ? 「あ、あのう、先生?」 思わず被告人であるところの私が、弁護士の主張に意見を挟む。 「なんだ」 「その流れだと、そのう……結局、私が犯人になっちゃうじゃですが?」 「そうだよ」 ですよねー。あー驚いた。 ……って、はああああっ!? 私は耳を疑った。 能都君も田邑さんも、二転三転する先生の主張に目を白黒させている。 「だ、だ、だって先生っ! さっき私は犯人じゃないって言ってたじゃないですか!」 私は混乱しながら必死になって主張する。 頭の中がグルグルし始めて、つられて目が回りそうだ。前後左右が不覚に陥る。 煙草の吸殻が入った缶コーヒーを持ち上げ、それを振ってカラカラと音を鳴らす。 何が面白いのか、先生はニヤニヤと笑っていた。煙草を吸ってるくせに、こぼれ見える歯がやけに白い。 「お前が犯人じゃないなんて、私は言ってないぞ? 私は『瑞樹奈央は犯人じゃない』と言ったはずだが」 「だから! 私は犯人じゃないんでしょう!? 真犯人に突き飛ばされて記憶を失った可能性だって」 「いいや、お前が犯人だ」 訳が分からなくなってきた。この人は私を擁護を、弁護をしてくれてたんじゃなかったのか。どうして検察側に立場を逆転させてるのか? これが本当の逆転裁判とか、うまい事を言ってる場合じゃないぞ私。 「だって瑞樹奈央は──私は、犯人じゃない……そうでしょう……?」 泣きそうな声で最終確認。 「いや、だって」 灰皿になった缶を机に置く。 「お前、瑞樹奈央じゃないだろ」 カルシウムで出来た下弦の月が、保健医の口元を切り裂く様に生まれ出た。 ■5 「え? あ? は?」 能都君が間抜けな声を三連発で短く発した。 「先生、どういう事なのか説明を要求したいのだが」 さすがの田邑さんも眉をひそめる。 私は何も、何も言えずにいた。 「別に瑞樹奈央がテスト用紙を盗もうが、誰かを陥れようが──正直、知った事じゃない。 勝手にすればいい」 言いながら二本目の煙草を咥え、火を灯す。吐き出される燻ぶった白い煙が、保健室に停滞していく 「人間、誰だって『魔が差す』瞬間ぐらいはあるだろう。だから『瑞樹奈央は、そんな事をする人間じゃない』等という偏った性善説に基づく思考停止的な感情論を振りかざす気なんて毛頭ないぞ」 妖しいというよりも。 厭らしい笑顔を浮かべて。 保健医が論ずる。 「では、証拠があると?」 田邑さんが身を乗り出す。 「うん。実は決定的なのが二つもある」 それを聞きながら、何故か私の身体は震え始めていた。カタカタと手足が揺れて収まらない。ガタガタと身体が揺れて定まらない。ガチガチと奥歯がぶつかり鳴り止まない。 「実はコイツが保健室に入ってきた時から偽物だとは気付いてたんだ」 「ええええっ!? 先生、それこそ早く言ってくださいよ!」」 能都君が驚きのあまり立ち上がる。 「てっきり私は瑞樹の偽者を捕まえた時に怪我をさせたものだと思ってたんだ」 しれっと、堀衛先生が言う。 物証があると聞き、田邑さんの目が真剣なものに変わる。私も震える身体を抱えながら、弱々しく先生を見た。 「後頭部の治療する時、念のために身体のあちこちをチェックしたんだがな」 私は思い出す。 他に怪我が無いかと、この保健医にセクハラみたいなチェックを受けた事を。 「コイツの身体、女だぞ」 ──え? そんな意味が分からない事を、頭から黒い滝を流している様な女は口にした。なにを当たり前な。私は女子の制服を着ている。 見なくても触らなくても、自分の身体なのですぐに分かる。 私は女だ。 それがどうした。 「なん……だと……?」 けれど。 能都君も田邑さんも、驚いた目で私をマジマジと見るのだ。 「どうやら服装を含めた外見を変化させるのが、お前の能力みたいだな。 指紋まで再現できるという事は、随分と能力の精度が高いらしい」 ニヤニヤと笑いながら「実に興味深い」と呟く。机に右肘を置き、頬を乗せ、私を舐める様に眺める堀衛先生。 身体の震えが止まらない。ビキビキと、私の頭の中で「誰か」が這い出し始める。 「しかし瑞樹奈央が男だという事までは知らなかったらしいな。つまり『知らない事』までは再現できないのかな? 指紋は自分で採取した物を変身時に組み込んだのか?」 質問を受けるが、私には答えられない。 失われた物が少しずつ復元されていく。 回復し、修繕され、修復し、補完されていく。それは開放と安定を意味するはずなのに不安と恐怖は拭えない。回答なんてできる訳が無い。私は今、ナイフを首筋に当てられている状態なのだ。 「ど、どうして……っ」 「うん?」 「どうして、保健室に入った段階で、そんな段階で偽者だって……っ!?」 私は、震えたままの声を絞り出す様に床へと落とす。 まるで。 あの時のテスト用紙みたいに。 けれど堀衛先生は即答せず、チラッと腕時計を見ただけだった。 「一時間。そろそろか」 そんな事を呟いた。 違う、私が聞きたいのは、そんな言葉じゃなくて──! 「ぷひゅるるる~っ」 すると、不思議なイビキが。 保健室の中から──カーテンで仕切られたベッドの方から聞こえてきた。 「え?」 私が能都君に連れられて保健室に来た時。 先生は目を丸くして驚いていた。 私が治療を受けている時、カーテンで仕切られたベッドを見ると、先生は「アレの事は気にするな。もうお前には関係ない」と言っていた。 何故この先生が、あんなにも驚いたのか。 何故「『もう』関係ない」と言ったのか。 まさか。 まさか。 「瑞樹奈央は能力者でな。能力者は一人一能力が原則。変身能力を有している以上、お前が瑞樹奈央であるはずが無い」 先生が立ち上がる。 カーテンで仕切られたベッドまで歩み寄る。 「瑞樹奈央は『常に女装状態になる』という何の役にも立たん能力の持ち主でな。 しかも私の保健室に何度も寝泊りするという、風紀委員にあるまじき巫山戯た奴だ」 カーテンに手をかける。 「寝始めて一時間後には、今みたいなイビキをかく。役立たずな上に迷惑な奴なんだ」 シャッと、カーテンを開ける。 そこには。 おそらく自分専用の抱き枕を抱きしめながら、幸せそうな寝顔を晒す──瑞樹奈央の姿があった。 「え、じゃ、じゃあ奈央は最初から此処に?」 呆然と、女物のパジャマを着た瑞樹奈央を見下ろす能都君。今なら田邑さんが言っていた事が分かる。 明らかにスケベな目をしていた。 「では、彼女は……いや彼なのか?は、一体誰なんですか」 田邑さんは、私から視線を外さず、先生に尋ねた。やめて。頭が痛い。傷のせいじゃない。ガンガンと内側を叩いてくるような。 私が、私の中から── 「能都、今日の朝から何の連絡も無しに欠席している生徒がいるはずだ。確認を取ってみろ。 何人かいるかもしれんが、たぶん二年生か三年生だ。瑞樹に取り締まりされた記録がある奴なら、かなり絞り込めるはずだ」 「あ、は、はい!」 あわててモバイル学生証の端末を操作し始める四角形。頭を支配する痛みが増していく。 やめて。やめろ。上手く行っていたんだ。 あの時までは上手く行っていたんだ。 畜生。煙草だって一本吸っただけじゃねぇか。それなのにアイツが。それで停学なんて。 今の私が崩壊し始める。 俺の体を維持できなくなる。 やめてくれ。やめてくれ。 頭の中が痛い、痛いんだ! 「それが、コイツだよ」 その言葉が耳に届くよりも早く。 私は痛さに耐え切れず、意識を失った。 ■6 「え? ボクが寝てる間に、そんな面白い事があったの?」 何処から見ても女の子にしか見えない奈央が、事件の経緯を聞かされてそんな感想を口にする。 能都が箱、田邑が鈍器、堀衛がナイフなら、奈央は『精巧な人形』であった。身体も心も男だが、見かけは完全な美少女である。 しかしその可憐さには、どこか造り物めいた雰囲気が漂う。実際、奈央が装飾している物のほとんどは、常に発動し続けている能力が創り出している物である。 ストレートロングの髪、女子生徒用のブレザー一式、カチューシャ、薄化粧、さらには下着まで。全てが造り物なのだ。 『常に女装状態にある』能力。 ゆえに漂う人造感と人形感。この姿も奈央本人ではなく、偽者であるとも云えるだろう。 だが奈央自身は、そんな偽者の自分を全て含めて「今の自分」なのだと考えている。 自分の能力に悩んだりもした。友人にからかわれたり、近所から奇異な目で見られたりもした。目に見えない重圧が、このまま奈央を押し潰してしまうものと思われた。 しかし元々ネガティブな性格の持ち主ではなかった。悩んで自分に負けるよりも、開き直った方が勝ちだと。まずは「楽しむ」事にした。女装な自分で堂々と過ごしたのだ。 すると不思議な事に、世界が向こうから開けた感じがしたと、奈央は後に語っている。 自分を認めることで、真の意味での本物を──自分自身を得る事ができたのであった。 双葉学園の高等部に入ってから風紀委員に立候補したのは、自分を認められずにいる人の手助けをしたいと思っての事だった。 清濁真贋を併せ持つ「本物」。 それが瑞樹奈央である。 テスト盗難未遂事件の翌日。 いつもの保健室で、いつもの四人が食事を摂っていた。白衣のポケットから缶コーヒーを取り出しながら、堀衛が迷惑そうに彼らを眺めて口を開く。 「お前達。別に登校拒否生徒って訳じゃないだろう、何で毎日毎日、私の保健室で昼飯を食べるのだ」 学食で販売しているメロンパンをポケットから取り出すと、袋を破ってかぶりついた。 「えー、いいじゃないですか先生。みんなで食べる食事は楽しいですよ」 日の丸弁当を食べながら、能都がそんな事を言う。白米に梅干だけのシンプル過ぎる昼飯をガツガツト食べている。 「麻太郎。いつも日の丸弁当じゃ飽きない? オカズ分けてあげるよ?」 「本当か奈央。いつもすまんな」 心配そうに友人の弁当を覗き込む奈央に、夏鈴が辛辣な口調で制止する。 「能都の企みは明白だぞ奈央。君からの施しこそが奴の狙い。実に浅ましい奴だ。 そこまでして奈央の手作り弁当が欲しいのか」 「オカズには困ってないクセになあ」 堀衛が夏鈴の言葉に同調しようとして、絶妙な匙加減で同調し切れなかった。 「ふえ?」 「なななななな、何を言うんだ夏鈴に先生! い。いや、別にいいじゃないか、俺と奈央は結婚の約束をしてるんだから、これぐらいの先物取引は当然だ!」 オカズの意味を探る奈央の思考を遮る様に、立方体人間が大声を張り上げる。 「あ、麻太郎っ!? 幼稚園の約束なんか持ち出すなよぅっ!?」 あわあわと、隣に座る能都に、奈央は猛然と(しかし迫力の欠片も無く)抗議する。 「そうだな。幼稚園の時の約束など、契約の根拠にはならん。まして男同士ではないか。 ならば男女間で正当な結婚の約束をした私が奈央の弁当を先物取引する権利がある」 奈央の抗議を後押ししながら、夏鈴は親友の弁当からエビフライをつまんで食べた。 「ああっ、ボクのエビフライが一口でっ! 酷いよ夏鈴ちゃんっ!」 左隣に座る夏鈴の方へ、慌てて振り向く。 常時発動している能力が具現化するロングヘアのウィッグが、ふわりと揺れた。 完全に翻弄されている。 「実に喧しい」 堀衛は溜息をついた。もう諦めている様子である。そして自分の言葉で思い出したのか、話題を再び昨日の事件へと戻す。 「そういえば、瑞樹の偽者だったアイツ。誰なのか分かったのか?」 「ああ、それなら」 半泣きで抗議する親友から視線を外すと、夏鈴は学生証を開いた。 「先生の言われた通り、3-Dに所属していた平野彩人(あやと)でした。 学園側への能力申告に、意図的に記載していない能力があった事も、今回判明した」 学園側には単に『同性限定だが、自由に姿を変えられる』とだけ申告していたらしい。 異性にも姿を変えられるばかりか、データさえあれば服装や指紋、DNAまで再現可能だった事を意図的に隠蔽していたそうだ。 「割と前、奈央に喫煙現場を発見されて騒がれて停学処分くらってました。高等部を卒業したら自動車工場で働く予定だったそうですが、この停学処分のせいで白紙になってます」 夏鈴の説明に、能都が補足した。 「あー。なんかねー、覚えてるよ、その人ー。 煙草吸ってるのを見付けたんで騒いだら、人がたくさん来てもんで、逃げようとしたら通りかかった副会長さんに『お仕置』された人だよねー?」 お返しとばかりに、奈央は夏鈴の弁当からミートボールを略奪する。それをモグモグと食べながら、記憶の糸を手繰り寄せた。 「それで瑞樹を逆恨みして、今回の嫌がらせを計画したわけか。完全に自業自得だな」 なんとまぁ器の小さい、と呆れた声で堀衛が呟いた。副会長に恨みを抱かなかったのは『お仕置』のトラウマが酷すぎたせいもあるのだろう。 「でも、なんで上級生だと分かったんです?」 平野が気絶する前に、堀衛が出した指示を思い出しつつ、能都が尋ねた。 ポケットから二個目のメロンパンを取り出した白衣の保健医は「あれか」と頷いた。 「瑞樹と同級なら、女装能力の事ぐらい耳にしてるだろうからな。という事は、噂も耳に届かないほど関係性が薄い立場にあり、瑞樹を実際に見た上で『女だ』と勘違いした奴が犯人という事になる」 学園外の人間が犯人だった可能性は、考慮してなかったらしい。 単純な消去法だ、と彼女は言う。 「『無能』と『阿呆』が悪魔合体して生まれた様な瑞樹奈央に、あんな馬鹿馬鹿しい嫌がらせをする馬鹿なんて、風紀委員に取り締まられた人間しかいないだろ」 「なるほど」 「……夏鈴ちゃん、その深い納得は、いまの説明の何処の部分に対して? ねぇ?」 大きく頷く夏鈴に 、ジト目の奈央が解説の委細を求めた。 平野は「虚偽申告」と「著しい風紀違反」を理由に、近く退学になるそうである。 一応は行政機関によって保護監察となるが、実質的に醒徒会が預かる形になるという。 風紀委員が彼を処罰しない事について、能都が小声で注釈を入れる。 「噂だと、白虎の二泊三日レンタルで、ウチの委員長が取引に応じたそうです」 おそらく、会長達の下で『更正』させられるのだろう。真人間になるよりも、まず人の形を保った状態で戻ってきて欲しいものだと堀衛などは考える。 「それにしても、ボクも見てみたかったなぁ。 先生の名探偵オンステージ」 目撃できなかったのか、かなり悔しかったようである。奈央は、しきりにそんな事を口にした。 「推理と言っても、お前という答がすぐ隣で寝てただけなんだがな」 御謙遜を、立方体が茶化す。 解剖するぞ、とナイフが脅して黙らせた。 それでも御見事でした、と鈍器が笑う。 いいなーいいなー、と人形が悔しがる。 風紀委員の中でも「騒がしき保健室チーム」と呼ばれる彼等の、これは普通の日常風景。 騒がしいと呼ばれていても、此処は異能が集う双葉学園。事件が起きれば騒ぎも起きる。 彼等が騒がしくない理由など、この学園にはひとつとしてないのだ。 「笑顔で騒げるうちが一番の平和か」 喧騒の一部である保健医が、小さく呟いた。 季節の変わり目を知らせる風の音に混じり溶け、生徒達には届かない。 そうやっていつの間にか、次の季節は到来して来るのであった。 考察終了 トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/kee_yan007/pages/14.html
【「随筆 新・人間革命」79/聖教新聞 1999-04-27付】 1979年(昭和54年)の4月24日――。 この日、私は、19年間にわたって務めた、創価学会第三代会長を退き、名誉会長となった。 全国の、いや、全世界の同志は、その発表に、愕然として声をのんだ。 その背後には、悪辣(あくらつ)なる宗門の権力があり、その宗門と結託した反逆の退転者たちの、ありとあらゆる学会攻撃があった。 なかんずく、私を破壊させようとした、言語に絶する謀略と弾圧であった。 正義から転落した、その敗北者たちは、今でも、その逆恨みをはらさんと、卑劣な策略を続けている。これは、ご存じの通りである。   御聖訓には、随所に説かれている。 「法華経の行者は諸々の無智の人のために必ず悪口罵詈等の迫害を受ける」と(趣旨、140頁等)。 広宣流布の闘争のゆえに、悪口罵詈されるのが、真の法華経の行者といえるのである。 さらに「佐渡御書」には、「賢人・聖人は罵詈して試みるものである」(通解、958頁)と。 【「賢聖は罵詈して試みるなるべし」】 真実の信仰者は、罵詈され、讒言され、嘲笑されて、初めてわかる。   畜生のごとき坊主らの暴圧による、わが友たちの苦悩を、悲鳴を、激怒の声を聞くたびに、私の心は血の涙に濡れた。 心痛に、夜も眠れなかった。 私は、けなげな創価の同志を守るため、一心不乱に、僧俗の和合の道を探り続けた。 しかし、後に退転した、ある最高幹部の不用意な発言から、その努力が、いっさい水泡に帰しかねない状況になってしまったのである。 それは、最初から、学会破壊を狙っていた仮面の陰謀家どもの好餌となった。 坊主らは、狂ったように「責任をとれ」と騒ぎ立てた。   私は苦悩した。 ――これ以上、学会員が苦しみ、坊主に苛(いじ)められることだけは、防がねばならない。 戸田先生が「命よりも大事な組織」といわれた学会である。 民衆の幸福のため、広宣流布のため、世界の平和のための、仏意仏勅の組織である。 私の心中では、一身に泥をかぶり、会長を辞める気持ちで固まっていった。 また、いずれ後進に道を譲ることは、何年も前から考えてきたことであった。   ある日、最高幹部たちに、私は聞いた。 「私が辞めれば、事態は収まるんだな」 沈痛な空気が流れた。 やがて、誰かが口を開いた。 「時の流れは逆らえません」   沈黙が凍りついた。 わが胸に、痛みが走った。 ――たとえ皆が反対しても、自分が頭を下げて混乱が収まるのなら、それでいい。 実際、私の会長辞任は、避けられないことかもしれない。 また、激しい攻防戦のなかで、皆が神経をすり減らして、必死に戦ってきたこともわかっている。 しかし、時流とはなんだ! 問題は、その奥底の微妙な一念ではないか。 そこには、学会を死守しようという闘魂も、いかなる時代になっても、私とともに戦おうという気概も感じられなかった。 宗門は、学会の宗教法人を解散させるという魂胆をもって、戦いを挑んできた。それを推進したのは、あの悪名高き弁護士たちである。 それを知ってか知らずか、幹部たちは、宗門と退転・反逆者の策略に、完全に虜になってしまったのである。 情けなく、また、私はあきれ果てた。   戸田会長は、遺言された。 「第三代会長を守れ! 絶対に一生涯守れ! そうすれば、必ず広宣流布できる」と。 この恩師の精神を、学会幹部は忘れてしまったのか。なんと哀れな敗北者の姿よ。 ただ状況に押し流されてしまうのなら、一体、学会精神は、どこにあるのか!   そんな渦中の、4月12日、私は、中国の周恩来総理の夫人である〓穎超(とうえいちょう)女史と、迎賓館でお会いした。 その別れ際に、私は、会長を辞める意向をお伝えした。 「いけません!」 “人民の母”は笑みを消し、真剣な顔で言われた。 「まだまだ若すぎます。何より、あなたには人民の支持があります。人民の支持のあるかぎり、やめてはいけません。一歩も引いてはいけません!」 生死の境を越え、断崖絶壁を歩み抜いてこられた方の、毅然たる言葉であった。   やがて、暗き4月24日を迎えた。火曜日であった。 全国の代表幹部が、元気に、新宿文化会館に集って来た。 しかし、新たな“七つの鐘”を打ち鳴らす再出発となるべき、意義ある会合は、私の「会長勇退」と、新会長の誕生の発表の場となってしまったのである。 大半の幹部にとって、まったく寝耳に水の衝撃であった。 私は途中から会場に入った。 「先生、辞めないでください!」「先生、また会長になってください!」 「多くの同志が、先生をお待ちしております!」などの声があがった。 皆、不安な顔であった。 「あんなに暗く、希望のない会合はなかった」と、後に、当時の参加者は、皆、怒り狂っていた。 私は、厳然として言った。 「私は何も変わらない。恐れるな! 私は戸田先生の直弟子である! 正義は必ず勝つ!」と。 あまりにも 悔しき この日を 忘れまじ 夕闇せまりて 一人 歩むを   これは、4月24日に記された日記帳の一首である。 わが家に帰り、妻に、会長を辞めたことを伝えると、妻は、何も聞かずに「ああ、そうですか……。ご苦労様でした」と、いつもと変わらず、微笑みながら、迎えてくれた。 2007年の統一地方選挙を大勝利で終え、4.24を迎えた。 小野不一さんの創価王道の記事によると、今年の4.24は、あの昭和54年と同じ曜日であり、奇しくもあの年も同じように4月22日に統一地方選挙を大勝利して迎えた4.24であったそうだ。 昭和54年…僕は当時4歳だった。リアルタイムに遭遇した出来事ではあっても、当時の記憶はほとんどない。 僕は池田先生はずっと学会の会長だと思ってたのだ。 のちに(中学生くらいの時だったか)池田先生がすでに「会長」ではなく、秋谷さん(当時)という別の会長がいたということを知った時に不思議な印象を持ったことだけが記憶に残っている。 僕は男子部として活動を始めたのがやや遅く24歳からで、ちょうどこの随筆が聖教新聞に掲載された時期と重なる。 それまでは「名誉会長」という肩書きを「先生は会長よりさらに高い立場で世界的な戦いを起こされているのだろう」くらいにしか思っていなかった。     この随筆をはじめて読んだ時の衝撃。 池田先生から会長職を奪ったのは、実は当時の学会の中枢幹部だったという事実。 宗門からのプレッシャーに耐えきれなかった当時の中枢幹部たちが、自らの師匠を「いけにえ」に差し出したという歴史を学んだ時、弟子であるということの厳しさを思い知った。 なにしろ、本当の一大事において、弟子が師匠を守るために声をあげ、立ち上がるとことが、当時選りすぐりであるはずの「中枢幹部」にすらできなかったのだから。       「時の流れは逆らえません」 この発言をした幹部を、先生はいまだ名指しされてはいない。 こういう発言が後の退転者のそれだったとすれば、たとえ先生が名指ししなくとも、組織内で「これはだれそれの発言だった」と伝わるようなケースもあるのに、それもない。 つまりこの発言をした幹部は、おそらく現在も中枢幹部として役職を担っている誰かだということなのかも知れない。 いや、随筆の文章を読む限り、この発言は当時の首脳部の暗黙の認識だったということになる。 これは実に恐ろしい事実だと思う。     平時において、口で師弟を叫ぶことはたやすい。 しかし有事の際に師匠を守り抜くことができる弟子であるのかどうか… この当時の「中枢幹部」の憎むべき振る舞いを他人事と思ってはいけない。     この屈辱的な4.24から10日目に、5.3がある。 5.3は昭和54年の4.24の出来事よりずっと前から、戸田先生、池田先生の会長就任の日であった。 つまり歴史の流れという意味では、このふたつの日付自体(4.24と5.3)に関連はない。 しかし、弟子の立場で言えば、かたや5.3は弟子の最高の誉れの日であり、かたや4.24は弟子として最大の汚点の日ということになる。そういう意味では深い相関があると言えるだろう。 そうであるならば、我々は弟子として、4.24から5.3を、点と点で捕らえるべきではない。4.24から5.3の、10日間の持つ意味を感じなくてはならない。 すなわち、5.3を大勝利で迎えるということと、4.24の仇討ちの精神とは一体のものであるということだ。 本日4.24より5.3へと、大勝利へのスパートをかけてまいりたい。 (2007.04.24)  
https://w.atwiki.jp/mitudomoe_eroparo/pages/126.html
≪矢部宅 午前3時30分≫ 「むにゃ…うーん…おしっこ…おしっこ行かなくちゃ…」 「ン…あ、まだ3時半か…うん…」 「スー…スー…スー…スー…」 !! な、なに?? 背後から寝息がする…誰もいないのに…! ま…まさかこのマンションに…霊!? 過去この部屋で自殺…とか?!大家さんそんなこと全然言ってなかったのに…… た・た・助けてーー!!><) 「セ…ン…セ………ムニャ」 「ぎゃあああああ!!!抱きついてきたーーー!! や、やめてぇぇええーー!!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃい!!」 「あ、先生…。どうしたんですか…こんな夜中に大声出して。。。?」 「ひ、ひとはちゃん!!?び、びっくりしたなーもう! 何でここにいるの??今、夜中の3時半だよ!!?」 「すみません。ちょっと怖い夢をみまして…それで来ました」 「それでって…! 怖い夢見たぐらいで来るなんて非常識極まりないよ! しかもこんな夜中に出歩いちゃだめでしょ! それになんで僕のベッドにもぐりこんでんの??変態なの??」 「変態ですが何か?」 「もう!出てって!二度と来ないで!」 「えっ………。 わかりました…。ごめんなさい。帰ります…。」 (あ、しまった!!つい口が滑って…) 「…ご、ごめん。今の冗談だよ…。 こんな夜中、また出歩かす訳にはいかないし…しょうがない、朝になるまで 家に居ていいよ…」 「先生…。」 「ん?なに?」 「今の…本心なんでしょ?」 「ち、違うよ!こ、言葉のあやだよ!言葉のあや!ごめん!」 「ほんとにほんと?」 「ほんとほんと」 「あ、なんかふざけてる!」 「違うって…。」 「先生!」ガバッ 「わっ!?ひ、ひとはちゃん??もう!抱きついて!甘えんぼだなあ!」 「先生…先生は…好きな人とかいるの…?」 「えっ?!…それは…えっと…」 「栗山先生?」 「栗山先生は…ふられちゃったよ!誰かさん達のせいで!!」 「そうなんだ…(ホッ)ふられちゃったの私達のせいかな? だったらごめんなさい…。死んでお詫びします…。」 「し、死ぬって!?そんなこと易々と言っちゃダメ!」 「冗談です。これでおあいこですよ。えへへ。…先生?」 「何なに?(今日はやけに質問が多いなあ…)」 「先生はひとはが死んだら…泣いちゃう?」 「え?な、何言ってんの? も、もちろん泣くよ。大泣きですよ!」 「ほんとにほんと?」 「泣く泣く!」 「あ、また!」 「もうー!ひとはちゃん!また僕をからかって…」 (って…ひとはちゃん、な、泣いてる??) 「先生…泣いてくれるんですね…よかった…嬉しいです…。 ひとはも先生が死んじゃったら泣いちゃいますよ…本当ですよ…」 「ひとはちゃん…。」 「えへへ、なーんちゃって!」 「あ、ちょっとー!もういい加減にして!おしっこ行ってきます!!」 「どうぞどうぞ」 <じょぼぼぼ…> (そういえば、こうやっておしっこしている音とかうんちしている音とか ひとはちゃんに丸聞こえなんだろうな、きっと。 僕もひとはちゃんのトイレ入っているときそんな音聞いてるし…。 ひとはちゃんは恥ずかしくないのかな? だけどそれも普通なことになって、まるで…そう、まるで妹のような感覚? 自分の過去の生徒というよりこれだけ毎週会っていたら家族と同じ感じ…。 家族…?いや、なんかちょっと違うかな……違う…。 もしかしてひとはちゃんのこと好き? いやいや! 教え子だし!そんな感情はない…はず…。 でも、今日に限ってなぜこんな早くに、というか夜中に来たのかな? ふつう怖い夢見ただけでそんな行動するだろうか…?) ジャバーーー 「ふう。すっきりすっきり。まだ起きるには早すぎるな。もう一眠りしよう。 ひとはちゃんもお休みだからっていつまでも起きてたらダメだ…よ?」 ってもう寝ちゃってる。…そういえば寝顔はあんまり見ることなかったな。結構かわいい。 こんな自分に、まがりなりにも懐いてくれてるのはうれしい。 でも懐いてるのかな?それともおちょくられているのか? ま、どっちでもいいか。 ふふ。傍から見れば女子中学生に懐かれているなんて、これはこれで結構羨ましがられることだよね。 童貞でも案外幸せ者なのかな…僕って。ふふふ。 「好き」 ひとはちゃんも僕のこと好きでいてくれてるのだろうか…。 さて、もう寝よう。でもベッドは占領されちゃったしなぁ。しょうがない…床に寝るか…。 「先生起きて!起きてください!」 「ん?あれ?ふたばちゃん?とみつばちゃん…。久しぶりだね?どうしたの?あれ?泣いてる・・・?」 「ううう…私達なぜ気付いてあげられなかったのだろう…ぐすっ…先生…ひとはがひとはが…」 「ど、どうしたの??ひとはちゃんがどうしたの??」 「これ今朝の新聞っス…」 ≪上尾の女子中学生、小学校時代の担任宅で自殺≫ ≪孤独な学校生活≫ ≪孤独を苦に?または元担任との許されない愛を苦に、との声も?≫ 友人の話「教室ではいつもひとりでした。 小学校の時からエロ本なんか読んで変な子でした。 私達もちょっと近づきがたくって…。 いつかこんなことすると…そんなオーラが出ていました。」 え…うそ…嘘嘘嘘!だってさっきウチに居たし…。ひとはちゃんさっきウチに居た! 「うそじゃないっす!ひとはは、ひとはは矢部っちに…先生に殺されたも同じっすよ!! 先生のせいだ、先生のせいだーーうわあああん!」 「ぼ、僕のせい??そ、そんな…。お、おかしいよ!今、今ここにひとはちゃんが居たんだよ!」 「それにひとはちゃんが自殺って…そんなことするなんて…ありえないよ! さっき…寝る前にひとはちゃんと冗談を言い合ったりして話してたんだよ!…それに僕のベッドに寝ていたはず! 自殺なんて何かの間違いだよ!??」 「だって先生っ!ひとはは、ひとはは矢部っちのことが好きだったんだよ! なのに矢部っち…栗山っちにうつつをぬかして… なんで気付いてあげれなかったの??…ひとはをひとはを…… 私達のひとはを返して!返してよう!!」 「そ、そんな。この記事は人違いだよきっと……それに僕は栗山先生とはなにも…」 「ひとは…矢部っちのべッドの上で首を…ぐすっ…さっき私達が発見したんだよ?それでも人違いなの?!」 「ええっ!……ひとはちゃん……。 …そういえばさっきのひとはちゃんなんか様子が変だった…自分が死んだらとか…もしかして」 「ひとはの推定死亡時刻は午前3時30分っす」 「ええっ!………あ、あれは…あれは本当に……ひとはちゃんの…霊…!そ、そんな…」 ううっ…! ひとはちゃん…なんで……? 水臭いよ…僕に相談もなく…。いや、気付いてあげれなかった僕が悪いんだ…!! そうだ・・・僕が…僕が悪い…… ひとはちゃんごめんね…ごめんなさい…… 「ひとはちゃん…ひとはちゃん……ひとはちゃんーーー!!うわああああーん!!」 「先生?/// どうしたんですか?なんだかうなされてましたよ?(私の名前呼んでた//////)」 「は! ひとはちゃん…? ひとはちゃんだよね…?幽霊?それとも僕も死んじゃったの?」 「何いってるんですか?幽霊とか死んじゃったとか…!どんな夢見てるんですか! もう寝ぼけるのもいい加減にしてください!」 「ひとはちゃん…お手手」 「な、なにするんですか///!」 「暖かい…。よ、よかった…ひとはちゃん…ひとはちゃん生きててよかったああー!」ギュウウウ!! 「えっ…//////く、苦しいです///!や、やめてください///なんですか…生きててって!?」 「ご、ごめん。変な夢見ちゃったんだ…。とっても怖い夢…。」 「(先生…) 先生…。あの…。」 「ん?なに?」 「なでなでしてあげます!///怖い夢にはこれがいちばん! もう大丈夫、大丈夫だよ。怖い夢なんか飛んでけー///なでなで」 「ううーん。怖かったよう!」 「ふふふ。先生ったら…なんだか子供みたいですよ?」 「もう!怖い夢見た時ぐらい子供でいさせてよー!」 「こんな大人見たことないです」ナデナデ 「…先生?」 「んー?」 「キ、キスしていいですか?」 「えっ?キス!!?? な、なんで…。突然…。 心の準備が…でも///え、えっと///い、いいよ。」 「さ、智さん!///」 「智さん!?」 「一度こういうふうに言って見たかったんだ…//////だめですか?」 「ううん…いいよ。じゃあ、僕も…。ひとは…///」 「うれしい…智さん!」 「なんだか夫婦みたいだね?」 「うん。もう夫婦かも?」 「そうだね。…ひとはちゃん…幸せ?」 「へ、変なこと聞かないでください///し、幸せです!」 「僕もー。」 「先生、死んでも二人は一緒ですよ?」 「うん!死んでも一緒!」 「よかった…。先生…好きです…。」 「僕も大好きだ…ひとはちゃん…。結婚しよう!!」 上尾日日新聞 201×年 ××月△△日 日曜日 上尾市内に住む女子中学生(15)と、この中学生の小学生時代の担任(26)が 担任宅で死んでいるのが発見された。 お互い抱き合った状態で死亡しており、心中ではないかとみられている。 死亡した中学生の友人の話によれば、二人は、生徒が小学生の時から付き合っていたと話しており、 動機はそれにたいしての後ろめたさを感じた衝動的な行動ではないかと県警はみている せ------------------ン------------------------------------------- 生---------------- ひ---------------------------------------------------- ト---------------------- 「ひと、ひと!」 「はっ! あ、ふたば…。」ハアハア… 「どうしたんスか?すごくうなされてたよ?」 「あ…ううん。へんな夢…見ちゃった…。」 「変な夢…? でもひとがこんなにうなされてるのはじめて見たよ。大丈夫?」 「うん。ごめん…。あ、5時半だ。着替えて先生の家に行かなくっちゃ!」チコクチコク! (ひと、もうチクビいないのに…毎週矢部っちの家に行くなあ…) 今、先生に会いたくて会いたくてしょうがない…。 緒方さんたちの気持ちがちょっとわかった気がする…。 でも変な夢…なぜこんな夢見ちゃったのだろう…? たぶん私の先生に対するへんてこりんな想いが こんなへんてこりんな夢を見させてしまったのかもしれない…。 それとも昨日テレビで季節外れの稲川淳二の番組をみたからかな? それとも松岡さんと霊話をしたからかも? でも今日はっきりわかった。私が先生のこと大好きだってことを。 もう正直でいよう。先生の前では正直でいよう…。 私の本当の想いを先生に正直にぶつけていこう。 ある意味いい夢だったのかも…。 「先生!おはようございます!」 「あ、ひとはちゃん…。おはよう…今日も早いね…なんだかいつもより元気いいし…。 僕はもう少し寝させてもらうよ…」 「どうぞどうぞ!」 <HAPPY END> ≪後日談≫ 「先生!怖い夢を見たのでなでなでしてください!///」ムフー! 「え?どうしたの?ひとはちゃん?なんだかいつもと違う…」 「いいからなでなでしてください!」 「も・もしかして…ふたばちゃんがひとはちゃんのなりきりで…ふたばちゃん?」 「む!ふたばが私になりきったらもっと私らしくなります!」 「そ、そうだよね…ふたばちゃんってすごいよね…。」 「むっ…! もういいですから!四の五の言わずなでなでしてください!」 「うん…。じゃ…」 「あ、先生?」 「何?」 「女子中学生をなでなでできるなんて幸せでしょう?///」 「ん?そう…?」 「!」 「うううう…もう、先生なんて地獄の業火に焼かれて死ぬがいいよ…!!!」メラメラ…! 「やっとひとはちゃんらしくなった♪」 「……」どよーん… 「ご、ごめんごめん!冗談、冗談だってばー!」 (ひとはちゃんをからかっちゃった!快感!むふー!) おわり。
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/1146.html
何気ない日々:想い流るる日“固い決意、揺らぐ決意” 昨日はあんなに降っていたなんて嘘のように晴れていた。私は、ポケットにもらったチョーカーを入れる。出来るだろうか、私-泉 こなたに・・・決別の証とはいえ、これを・・・。 ううん、今は考えるのは止めよう。珍しく早起きしたわけだし、朝ご飯を作ろう。でも今日は、待ち合わせの時間に遅れないように。 「お父さーん、朝ご飯できたよ」 さっき、起きてる所は確認したから叫んで呼ぶと、お父さんはすぐにやって来て二人の朝食。ゆーちゃんは、みなみちゃんの家から登校するらしい・・・もしや、あの二人、なんて邪推な事を考えてしまう。でも、だからといって私もと、考えを変えるわけにはいかない。もしそうだとしても、みなみちゃんは強いから大丈夫だろう。私には・・・かがみを守っていける自信は無い。私は、逃げ出してしまう程・・・弱いのだから。 「何だか朝から思いつめた顔してるな、こなた。大丈夫か?」 「大丈夫だよ、お父さん。別に思いつめてなんて無いから」 「う・・・ん・・・まぁ、その何だ、自分だけの答えが正しいとは限らないぞ」 「あはは、別に何にも無いよ、大丈夫だって」 私が笑い飛ばして言うと、お父さんは黙って唸った。気にせずに朝食を口に押し込んで流し込んむ。本当は食べる余裕もなければ、お父さんと喋る余裕も無い。 だけど、あえて朝食を作ったのは、あえてお父さんを呼んだのは、何時も通りに出来る様にする為の前準備だ。まぁ、お父さんに思いつめた顔をしてる、だなんて言われたんじゃ何時も通りになれていない証拠なんだけどね。口に押し込んだ物をコーヒーで流し込んで元気に言ってみる事に決めた。 「ご馳走様でした」 これは決別の朝だから、今からフルスロットルで元気になっておかなくちゃ。朝はかがみやつかさに会っても何時も通りでいよう。全ては放課後、かがみと二人になってからだ。つかさやみゆきさんをまだ巻き込んで話をしたくない。つかさは十分に巻き込んでしまったけれど、それでも、決別の時はかがみと二人でいたい、小さな我侭だけど二人は許してくれないかも知れない。 この朝の事は、全然、私らしくなくて、思い出すと凄く滑稽で笑えるんだけどね。 覚悟を決めたつもりで揺れ続けている自分の気持ちの出した別の結論にすら気がつけないんだから。 ◆ 目を覚まして、顔を洗って軽く頬を両手で叩いて、決意は固めた。こなたが何をしたとしても私―柊 かがみは、動じないでいようと誓う。想いを、気持ちを全部、あいつにぶつけよう。全ては放課後に、まずあいつを捕まえる事から始めなくちゃ行けないわね。つかさやみゆきには事情を話しておけば、二人になりたいと言っても大丈夫だろう。 とりあえず、今日の所は・・・二人きりで想いを告げたいから。私の我侭だから、こなたを傷つけるかも知れない。 「ん~・・・こなちゃん、コンコン・・・ゆきちゃん、めぇめぇ、お姉ちゃんは・・・何だろう?何だろう、わかんないよ~ゆきちゃん~」 これが全部寝言だと言って信じてくれる人はいるだろうか?昨日は別々に寝る予定だったんだけど、夜にやっていた軽いホラー映画の冒頭を見て、怖くなって部屋に戻れなくなったらしく最後まで見てしまったつかさは、私の隣で眠った。寝付くまで怖がり続けるつかさをなだめ続けるのは結構骨が折れたわ、そんなに怖い映画じゃなかったのに・・・。 「つかさー起きろー」 まぁ、そんな一言で起きるわけは無いんだけどね。だから布団を引っぺがした、古典的だと思われそうだが結構効果的なのよね。 「うひゃぁ~寒いよ、お姉ちゃん」 今日は、待ち合わせの時間に遅れるわけには行かないが、つかさにも遅れてもらうわけにはいかないのだ。ちょっと厳しくいかないと・・・ごめんね、つかさ。 「うぅ~、まだ早すぎるよぅ」 「私もちょっと何時もより遅くまで寝ちゃってたから何時もの時間よ」 「わ、本当だ。でも、お姉ちゃんが目覚ましに気がつかないなんて珍しいねぇ」 珍しいのはつかさもだ。何時もはこれくらいじゃ起きないのに、一発で起きたし。 「今日は待ち合わせに遅れるわけにはいかないから、それはつかさにもね」 「うん、わかったけど~、お姉ちゃん、聞きたい事が・・・」 「ん、何よ?」 「ウサギさんの鳴き声ってどんなのかなぁ」 「あーえと、ごめん。そういうのはみゆきに聞いておいて・・・というか、そろそろ私をウサギ扱いするのはやめい!」 そう言ってもつかさはまだ眠たそうな声で、わかったよぉ~とだけ言うと部屋に戻っていった・・・私も着替えないといけないわね。でも、確かに気になるわね・・・ウサギの鳴き声ってどんなのかしら。 さっと着替えて、何時もの様に朝食を食べ、何時ものように今日は私が当番だったお弁当を鞄にいれて二人揃って待ち合わせ場所へ行く。夕方からは降水確率が高かったから、一応傘も鞄に入れておいた。折り畳み傘だけど、少し大きめなタイプ・・・想いが通じ合えば、必要になるかも知れない。 待ち合わせの場所に行くと、青い髪をした少女が何処か遠くを見ていた。あいつの方が先に来ているなんて思っていなかった。どちらかといえば、避けると思っていた・・・でも、あいつは、こなたはそこにいる。けど、まだ今はだめだ。気持ちを伝えるのは放課後まで時間が過ぎてから。そうしないとまた、こなたは怯えてしまう、逃げてしまうかもしれない。だから、今は、普段通りでいよう。 「オーッス、こなた」 元気よく声をかけてやる。ビクリとこなたの肩が震えたのがほんの一瞬見えた。それには気がつかないフリをしよう。あいつを傷つけるかも知れないのは放課後だけで十分だから。 「おはよう、こなちゃん。今日は早いね~」 つかさは普段通りの挨拶。やっとこなたがこっちを向いた・・・その目は何処か揺れていた。動いていたという意味じゃない、何て言えばいいんだろう?気持ちが揺れているそんな感じで目の光が揺れている様に見えた。 「や、やふー、つかさ他一名!」 「略すな!」 「おぉー朝からツンが爆発してますなー、かがみんや」 「あはは、お姉ちゃんもこなちゃんも朝から元気だね~。私はまだ眠いよぅ」 ふぁぁ~っと大きな欠伸するつかさ。そんなつかさが場の空気を普段のものに変えてくれる。つかさ、あんたは頼りなくなんて無いのよ。その自然体でただいてくれるだけで周りを和ませてくれる雰囲気をもってる事が十分頼りになるんだからね・・・。 ◆ バス停に着いてもまだつかさもかがみもいなかった。私はもう一度、ポケットに入っているチョーカーに触れる。これをかがみの前でどうしよう、投げつけるのか、踏みにじるのか。気味悪がりながら、触れるなと嘘を吐きながら・・・そんな事が本当に出来るのカナ? わからない、どれが正しい答えなのか全くわからない。選択肢は沢山ある、一つはかがみに自分の気持ちを伝える事、他はかがみを傷つけてでも私を嫌いになってもらう事。 ゲームだったら、選択肢を選ぶワンシーン前にセーブしておける。けど、これは現実だからセーブもロードも出来ない。たった一度だけしか選べないから、私は迷ってしまう。わからないから答えに辿り着けない。 昨日の決意は、朝には揺らいでいた。本当はかがみに嫌われるなんて嫌だから、そんなの絶対に嫌だから、揺れて揺らいでどうしていいのかわからなくて。 気がつくとポケットのチョーカーに触れている、そんな事の繰り返しだった。 「どうして、こんなに好きになっちゃったんだろ」 自分でもそこがイマイチわからないままなんだ、私がかがみを好きになった理由。最近、好きになってしまったのか、前から好きだったのか、それすらもわからなくて・・・つかさが灯してくれた心の暗闇の中に一筋の光を与えてくれていた蝋燭も消えかけて炎が揺らいでいた。つかさを信じてないわけじゃないけど、でも、世間は大きいから耐えかねてつかさにも迷惑をかけてしまうかも知れない。 「・・・お母さんがいたらどう言うだろうなぁ」 賛成してくれるだろうか、反対するだろうか。赤ん坊の頃に抱かれたおぼろげな、本当におぼろげな温もり。誰かに言ってもらいたかった、はっきりと。かがみを好きでいても良いんだって、それは悪い事じゃないんだって。 だけど、皆は味方になってくれてもその一言を誰もくれなかったんだ。私もわかってるし、皆もわかってる。その答えを出せるのは、私自身とかがみだけなんだって。 「オーッス、こなた」 かがみの声に肩が震えた。怖いからじゃない、放課後に傷つけてしまうのがとても悲しくて震えてしまった。でも大丈夫、気がつかれてはいないみたいだった。 「おはよう、こなちゃん。今日は早いね~」 つかさの声を聞いてやっと振り向けた。かがみだけだったら無理だったかも知れない、何せかがみを傷つける算段を考えている最中にどんな顔で振り向けばいいのかわからなかったから。 「や、やふー、つかさ他一名」 言葉が上手く出なかった。でも大丈夫、大丈夫だから落ち着こう、こんなの私らしくないじゃないか!どうした泉こなた、もっと自分らしくいくべきなんだ。 「略すな!」 「おぉー朝からツンが爆発してますなー、かがみんや」 やっと、何だか私らしい言葉が出た気がする。表情も少し緩んできたカナ?でもそれは・・・かがみが何時ものように突っ込んでくれたのが嬉しかったからの様な気もする。 「あはは、お姉ちゃんもこなちゃんも朝から元気だね~。私はまだ眠いよぅ」 こうして、私達の何時終わるとも知れず“揺らいでいる何時も通り”の今日が始まった。 ◆ 「なぁ、柊ぃ~」 「ん、何?」 ちょっと焦げた野菜炒めを口に運びながらへこんでいた所に日下部が急に声をかけてきたのでちょっとびっくりした。あんた今の今まで峰岸と喋ってなかったっけ・・・。 「いや、ほら、今日はちびっこの方に行ってないから何か不思議だなって思っただけなんだけどさ。私等としては嬉しいけど、なんか柊ぃらしくねぇからさ」 「一昨日に明後日はこっちで食べるからっていったじゃない。あんたが、柊が冷たすぎるって、子どもみたいに喚いたから」 「それは言い過ぎだってヴぁ」 言い過ぎも何も半べそかいて“柊ぃ~が構ってくれねぇんだ、酷いとおもわねぇか?あやの~”と教室で私の服の裾持って喚いたのはどこのどいつだ。あまりにその喚き方が子どもぽくて、日下部っぽくて、今日は一緒にお昼にするからって一昨日約束したんだったわね。 でも、もし同じ事をこなたが私にしたら違う反応をしていたのかもしれない・・・今はそう思う。そうね、鉄建制裁して痛がりつつも懲りずにからかってくるあいつの言う事を聞いてあげてしまっていたかも知れない。それは、好きになる前でも同じだったんだと思う。もしかすると、好きになった事に気がついてなかっただけなのかもしれないけれど。 「でも、あの時のみさちゃんは、本当に子どもみたいだったよね」 「ほらほら、峰岸だって言ってるじゃない」 あんたの保護者が行ってるのだから間違いないわよ、日下部。素直に認めろーと心の中で叫びつつ、野菜炒めを口に運ぶたびにしょっぱいだの、ちょっと焦げてるだのへこんでしまう私。どうも今日は上手くいかない。 放課後への覚悟は決まっている。でも、緊張していないとは言えないかな?らしくないといえばそうかもしれないけど、私自身としてはそれは“らしい事”だった。 「う~、あやのまで酷いー」 ありゃ、卵焼きもちょっとしょっぱいな。砂糖と塩を間違えたかな・・・今日は甘い奴にしようと思ってたのに、私はどうしてこう、料理だめなんだろうなぁ。 「そういや、聞きたい事はそれじゃなかった」 卵焼きにへこんでいる時にまた質問が飛んできた。日下部は直接的に聞いてくる時とそうでないときと二通りある。すんなり聞ける事と上手く言葉に出来ない事を本能的に感じ取っているタイプに見えるんだけど、どうなんだろうなぁ。 「じゃ、何が聞きたかったのよ?」 「いや、ほら、何かさっき廊下でちびっことすれ違ったんだけどさ。声かけても反応がなくってさー。なんかこう、雰囲気が何時も違うなぁって思ったわけだよ」 日下部の奴、野生の勘っていうのかしら。妙な所で鋭いのよね。こなたは朝から確かに妙だったなぁ。なんていうか、揺れているとしか上手い言葉が見つからないけれど。 「ま、そういう日もあるんじゃない」 あえて素っ気無い言葉を返しておく事にする。が、それでは日下部は何か納得がいかない感じだった。 「そういう柊ぃ~だって、今日は何処か変だぞ」 「そうかもしれないわね」 なんとなく素直に答えてしまったが、その方が変じゃないと思ってもらえるかしらね? 「柊ちゃん、私達に何か隠し事があるんじゃないの?」 峰岸の事が胸に響いた。その通りで隠し事はあるからこそ、何時も通りにしているつもりなんだけど、何か違ったかしら、やっぱり素直に答えたからかな。 「・・・まぁ、話せるようになったら話すから、今は聞かないで。でも、なんで隠し事があるって思ったのよ、日下部、あんたもそう思ってたんでしょ?」 んー、としばらく日下部は唸ってから、大好きだと豪語するミートボールを口に運びながら一言だけ。 「勘」 日下部の答えは非常に簡潔だった。勘だけかよ、それだけで私の隠し事は筒抜けなのか? 「ふふっ、柊ちゃんは、隠し事が下手だからすぐにわかるよ」 そんなに下手かしら。いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。むしろ今日に限ってはその隠し事が下手というのは、決して悪い事じゃない。 「そっか。まぁ、でもやっぱり、今は話せないから話せるようになったらで、わかってくれる?」 「おぅ、その代わり話せるようになったら絶対だかんなー」 「柊ちゃん、約束ね」 本当は二人にも話したかった。でも、まだ結論が出て無い事を喋るのはよくないとも思えた。こなたが受け入れてくれなければ叶わぬ思いだけれど、口にしてしまわないとだめな所まできてしまった想い。それはお互いのためだと信じて・・・それが私の出した答えと覚悟だから。 「約束するわ。話せるときになったら絶対話すから、たとえ日下部や峰岸にとってあまり楽しくない話題だとしても、それでも二人は聞きたいのよね?」 「私は、別に柊ぃ~の事ならどんな事でも知っておきたいだけだってヴぁ。だからそれがどんな話でもいちゃもんはつけないぜ」 「柊ちゃんの隠し事、上手くいくといいね。そしたらちゃんと私達にも話してね」 峰岸は何か感づいてるわね、やっぱり。でも私の口から二人は聞きたいといっているのだ。だから話せる時がきたら話そうと心に誓った。放課後までもう少し、私の覚悟はそれまで持つだろうか、考えるな。考え始めると不安で背筋が震えるから、覚悟が揺れるから、私はもう考えない。後は放課後に行動を起こすだけ・・・そうそれだけにしよう。 何だか今日は寂しい日だなぁ、不意にそんな事を思った。日下部達とお昼を食べるのが寂しかったわけじゃない。あいつが、今日は一切ノータッチなんだ。そうか、揺れつつもあいつもやっぱり、何かしらの覚悟を決めてるって事か。 今日はずいぶんゆっくり食べた所為か、お弁当を片付ける頃には丁度、お昼の終わりを告げるチャイムが鳴った。 ◆ 今日の昼休みは静かではなかった。みゆきさんにつかさがウサギの鳴き声を聞いたり、つかさがお姉ちゃん、また塩と砂糖を間違えてるよ~とか、主につかさが喋っていた。それに適当に私が相槌を打って、みゆきさんが聞かれた事に真面目に答えたり、つかさの不思議な問いかけに笑って受け流したりだった。何か物足りなくて、寂しくて、そして気がついた。かがみがいないんだ・・・どうしてかがみはいないんだっけ? 「どうして、今日はかがみいないんだっけ?」 ふと、疑問に思った。何だか、かがみがいないと調子が狂うなぁ。だから、私はまだ袋から出していないチョココロネを持ってつかさに聞いた。 「ん?こなちゃん、それさっきも聞かなかったっけ。今日は日下部さん達と約束してたから、お姉ちゃん自分のクラスで食べるんだって~。朝、お姉ちゃん、ちゃんとこなちゃんに説明してたけど、聞いてなかったんだね~」 確かそんな事をバスの中で聞いたような気がする。今日が最後かもしれない・・・いや最後にするはずだったから、かがみに来て欲しいなってそんな我侭な事を思う。 「いやー同じ事を何度も聞くなんて私も歳カナー」 そんな私の軽いボケ等どこ吹く風、みゆきさんは華麗にスルーして、違う事を言う。突っ込んでくれるかがみがいない生活なんて、想像できない。私はその世界で私らしくいられるのカナ? 「泉さん、大丈夫ですか?」 つかさとみゆきさんが心配そうな顔で私の方を見ている。なんか変なところあるかな?至って普通なつもりなんだけどねぇ。 「私は大丈夫だよーって、何で二人して心配そうな顔してるのサ」 「だって、こなちゃん。パンだしてから全然食べてないよ?」 ん?だって、まだ出したばかりだし・・・おぉぅ!?つかさやみゆきさんはもう食べ終わってるし、私はいつの間にか時間跳躍を身に着けてしまったのか。 「泉さん、早く食べてしまわないとお昼抜きになってしまいますよ?」 みゆきさんに言われて時計に目を向けると、そろそろ昼休みが終わりそうな時間だった。私は、急いで袋からチョココロネを出して食べようと思ったけど、何だか食欲がわかなくて、そのまま鞄に収める。ビン牛乳の蓋をあけて流し込むだけで、何かお腹一杯になっちゃったヨ。 「パンは食べないんですか?」 「こなちゃん、それでお昼大丈夫かな。もしかして、お腹痛いとかなのかな?」 二人の表情が心配の色に染まっていく。二人とも心配性だなぁ、ちょっと食欲が無いだけなのにサ。まぁ、食欲が無い事情はきっとみゆきさんも知っているんだろうけどサ・・・とても鋭いから、みゆきさんは。でも、あえて突っ込まないでいてくれるのは助かる。 「いや、そんなことはないんだけど、今から焦って食べるのも何だかねー。好きなものは放課後にでもゆっくり食べる事にするよ」 放課後に食欲なんてあるんだろうか?放課後の方が食欲なさそうな気がするけど、どうやってかがみに嫌われたらいいんだろう・・・私はかがみがいなくて寂しいと感じているのに、嫌われる方法なんて思いつかないヨ。ううん、でも本当はさ、思いつきたくないだけだよね、きっと。だから考えなくちゃ、かがみの人生に失敗の文字を増やす事は無いんだから、嫌われてでも失敗を増やさないようにしたいんだ。 でも、私はかがみが・・・好きなのは本当。嘘はなくて、大好きで、嫌われるのなんてやっぱり嫌だ。そんな風に心に押し込めてるもう一人の素直な私が訴え、喚いて叫び散らす・・・そのもう一人の私の言葉に耳を貸してはだめなんだ。 本当は、その言葉に耳を貸して、想いを伝えたいのに・・・私は素直じゃない悪戯好きのキツネだから、嘘だってつけるさ・・・例え、それでつかさやみゆきさんとの友情までも失ったって。 大丈夫・・・なわけないんだけどさ。もうどうしていいのか、わからなくなっちゃった。 昼休みが終える事を告げるチャイムが鳴っても、つかさとみゆきさんはそんな私の事を心配そうに見つめて、この前みたいに先生が来るまで頭を撫でてくれていた。とても心地よかった、でもこれが最後なんだ、全てを失う前の安らぎを神様がくれたのかな。私は別段、神様信じてないけどサ。 まぁでも、どうしたらいいのかをずっと考えていたら、黒井先生に丁度その撫でてもらっていた部分に痛い鉄拳をもらう事になって、放課後に職員室まで来るように言われてしまったんだよね。人間、ぼけっとしてると天罰が下るもんだネ、はぁ・・・。 ◆ 「じゃ、絶対話せよな、柊ぃ~」 「わかってるって、日下部―しつこいわねぇ」 休み時間毎に日下部の奴はこれだ。さすがにさっきの休み時間に指きりまでしたから、もう言ってこないと思ったけど、まだ私が信用なら無いらしい。 それだけ、彼女たちとの交流を蔑ろにしてきたツケが回ってきたと考えると一概に日下部が悪いとは言い切れないしね。 「だって、柊って内緒事ってさ、私達には殆ど相談してくれねぇんだってヴぁ。なぁあやの~」 「はいはい、みさちゃんもそれくらいにしておかないと、今度は話してもらえなくなっちゃうよ?」 「みゅ~、それは困る~。じゃ、もっかい最後に!絶対の絶対だからな~」 日下部が私をビシッと指差して叫ぶ。クラスにまだ残っている生徒達の視線が私達に釘付けだ、そろそろ勘弁して欲しい。 「わかった、わかってるから。約束したじゃない、だから指差して言うな」 だから、私の答えもどんどん乱暴になっていく。そんなのは日下部だってわかっているはずだ。今日はただでさえ、心臓が飛び出しそうなくらい緊張しているのだから。平静を装うのだって簡単じゃないんだから。 「みゅ~、柊ぃがどんどん冷たくなっていくぞ、あやの~」 「今のは、柊ちゃんを信用してない、みさちゃんが悪いと思うよ」 「みゅ~、あやのまで、世間は冷たい荒波だぜ・・・」 世間の荒波か。もし上手くいったとしても二人まで私達の荒波に変わってしまったら寂しいな。それでも、ちゃんと話すけど・・・決着がつく前に荒事を増やしたくなかった。私が、この二人を信用しきっていないのかもしれない。日下部が信用していないのではなく、私が・・・。 「柊ちゃん、気にしないでね、みさちゃんが我侭なだけだから。雨が酷くなる前に帰ろう、みさちゃん」 「あやの~、く、苦しいってヴぁ」 日下部は峰岸に襟首をつかまれて引きずられる様に教室の外へと出て行った。峰岸って見た目の割りに力あるわね・・・。さて、私も行かないと・・・鞄はどうしようか、おいていっても大丈夫かな? それにしても・・・雨、降ったわね。まるで一昨日をやり直す最後のチャンスを神様がくれているんじゃないかって、そんな風にロマンチストに考えられればいいのだけれど。またこなたを傷つけて、走って逃げられるのが正直怖いという思いのほうが強かった。 廊下に出ると、二人が待っていた。ん?・・・二人ってこなたがいないのは何故かしら。 「お姉ちゃん、鞄は~?」 つかさは何時も通り・・・でもないか。二人とも表情が硬いから、こなたはもう帰ったのかしら。なら、私はもうこの気持ちを心に閉じ込めてしまわなければいけないのだけど。 「泉さんは、黒井先生に呼ばれて職員室に行っていますよ」 「そう、まだ帰ったわけじゃないのね。そうよね、きっとあいつも私に用事があるはずだから、まだ帰るわけがないわよね」 私の予想が正しければ、こなたは自分を傷つけてでも私の気持ちを壊そうとするはずだ。 それは決して悪意ある事じゃなくて、あいつが私に好意を寄せてくれているから。 私もこなたの立場ならこなた程、先を見れたらそうすると思う。けれど、そんなに先を考える必要があるのだろうか?今は好きで付き合うことになれたとしても、その先なんて誰にもわからないんだから・・・。 「お姉ちゃん・・・えっと・・・私じゃ上手く言えないよ、えへへっ。ごめんね」 「かがみさん、そのたぶん」 二人ともこなたがどうしようとしているのか、どういう道を選んだのか薄々気がついてるって事ね。 「みゆき、大丈夫。大体予想はついてるわ・・・その部分については昨日と今日で覚悟を決めた。私達は、この気持ちを無視して向かい合えないから、一度ぶつけあわないとね」 そう、もうこの気持ちを無視して向かい合う事も何時も通りにもならない。だから、どんな形であれ、結論っていうのを出さないといけないんだ。それが今じゃないといけないわけじゃない、それに絶対に答えを出さないといけないかって言われると本当の所はわからない。答えなんて出さなくてもいいのかもしれない・・・ただ、このギクシャクした関係は私とこなただけじゃない、つかさやみゆきにとっても辛いんだ。だから、答えを出す道を私達は選んだ。 選んだ選択肢は違うけれど、求めた事は同じ。答えを、結論を出して終わりにする事、始まりにする事。 「かがみさん、私には応援くらいしか出来ないのが悔しいです」 「私も、応援しか出来ないんだよね・・・応援しかしちゃいけないんだよね?お姉ちゃん」 不安そうな表情で二人が言う。応援なら笑顔でしてもらいたいものね、その不安に私も飲まれてしまいそうだから。 でも、それは私の我侭。二人が不安なのは当たり前の事なんだ、親友の事を心配するのはきっと当たり前の事だから・・・応援しか出来ないからこそ、不安な表情になってしまうんだろうって、今なら思えるんだ。 「応援してくれるのは嬉しい、ありがとう。だけど、上手くいかなかったらこなたの傍にいてあげてね。私なら大丈夫だから、あいつを一人にしないで上げて欲しい」 「私はずっと四人でいた・・・」 つかさの言葉をみゆきが制して、微笑みながら“わかりました”と言ってくれた。 「じゃぁ、きっと時間掛かると思うし、その・・・二人は先に帰ってて。たぶんこなたにもいわれてると思うけど」 「えぇ、私達は先に帰ります。その方がきっとよいのでしょうし」 「う~、本当はお姉ちゃんやこなちゃんを待っていたいけど、それはだめなんだよね?だから、先に帰るよ・・・」 つかさもみゆきも内心では納得出来ていないのだろう。何かあればフォローを入れて今まで通りでいたい、そんな気持ちで一杯のはずなのだから。 私は結局鞄をもたず、職員室へ向かう前に二人を昇降口まで見送った。二人とも笑顔ではあったけど、無理をしているのが痛々しいほどよくわかる。 だから私達は今日で結論を出さないといけない。 -もう一度、心の中の決意をしっかりと固めて、私は職員室の前まで向かった。 ◆ 「最近、どうしたんや、泉?ネトゲにもあんまり顔ださんしなぁ、うちは心配しとるんよ、これでも」 そう言いつつ、課題のプリントまでくれなくても・・・。本当に心配してくれてるのカナ、黒井先生。鉄建もくれたしね・・・ちょっとぼーっとしてただけなのにサ。 「いや、心配してくれるのは嬉しいんですけど・・・課題のプリントまでつけなくてもいいじゃないですかー」 「それはうちの愛や。謹んで受けとりぃ」 「いえ、出来れば遠慮したいんですけど」 「拒否権はみとめんでー」 うぅ、回避不可フラグか・・・むぅ、困ったなぁ。これからはきっとかがみにはわかんない所聞けないのに。それに時間だって、そう思いながら時計を気にして、かがみまだ残ってるカナ?なんて思う。 いや、そもそも、私はかがみが残っている事を望んでいるのカナ・・・わからないよ、誰か教えて欲しいよ。わかってるさ、自分でしか答えが出せない事くらい。 でも、もうどうしたらいいのか・・・わからないんだよ・・・。 「あぁ、話は変わるけどな、あのレアアイテムって泉どこで拾った?うちも欲しいんやけど、どこでドロップするかわからんねん」 「えっと此間のWiz用のレア装備ですか、あれはですね・・・」 丁度いい現実逃避の材料だったに違いない、私は黒井先生とレアアイテムや最近インしてなかったネトゲのコミュニティーの事などについて話し込んでいた。 「おっと、これくらいにしとかんと、雨も酷くなっとるしな。ほな、泉、すまんかったなぁ・・・そうか、あそこか。あそこならソロ狩りでもいけるな。おっと、気いつけて帰るんやで」 黒井先生と話しこんでいる間に時計は一周してもう五時過ぎだ。雨の所為か、もっと時間がたっているように感じる。 「先生、さよなら~」 そう平静を装いながら言いつつも心臓は跳ねるようにバクついていた。ここを出たら、否応なしに、先に進まなければいけないのだ。私にとっては絶望の一歩を・・・でもかがみの将来のため、つかさやみゆきさんのためだと考えれば。 でも、私は自分で決めた事に揺れている。かがみに嫌われようって決心を決めたのに揺れている、本当の気持ちを伝えたい衝動に、欲望に、揺れ続けている。 「どうしたー、泉ぃ?」 「いえ、あの、もうちょっとその辺で考え事しててもいいカナ?黒井先生」 「ほー、珍しいな。隣の席があいとるから、そこ立っとらんと、ここ座って考えな。しかし、泉が考え事とは、ほんと珍しなぁ」 「黒井先生、それは酷いヨ」 言われた通り、黒井先生の隣の席に座ると、先生は立ち上がって奥のほうに行ってしまった。どうせなら、相談したほうがいいのかなぁ・・・なんて馬鹿げた事を思って頭を振る。相談できる事じゃない。 私はどうしたらいいんだろ、どれが正解なんだろう。そもそも“答え”なんて存在するのかな。 「ほい、泉。コーヒー注いできたで、考え事する時は何か飲みながらの方が捗るから飲みぃ」 「あ、ありがとございます」 「うちでよければ、相談のるで。ここん所、ネトゲに顔をあんまりださんのも、その考え事の所為なんやろ?」 「よくわかりましたねぇ、先生」 「ま、伊達に担任やっとらんってこっちゃ。これでも、自分が担当する生徒の顔位はしっかり見とるしな。ここの所、泉が居眠りじゃのうて、ぼーっとしてるのは気になってんで」 私は受け取ったコーヒーを一口飲んでから短く答える。味はわからなかった。 「そですか」 先生は“話ができそうなら呼びぃ。隣におるんやから”とだけ言って、此間の小テストの採点作業に戻った。 核心は告げずに揺れている事だけを聞いて見ようと思った。先生の事は信頼してるけど、核心を離す覚悟はなかったからサ。 「先生?」 「なんや?」 「自分で決めて、でも他にも自分の中に違う考えがあって揺れてる時ってどうします?」 「そやな・・・まぁ何に揺れてるのかはわからんけど、安易には答えはださんな。そもそも答えなんてないやろしな、そういう時」 その言葉を聞きながら熱めのコーヒーをぐっと一気に飲み干した。答えなんかないか。 「そですか、コーヒーご馳走様でした。じゃ、私は帰りますんで!」 答えなんて、そうだよね・・・あるわけが無いじゃんか。そんなの初めからわかってたはずなのに。 「おぅ、気ぃつけて帰るんやで」 先生の言葉を聞きながら、廊下の外へでて、私は固まってしまった。 それが私の弱さだったのかも知れない。時間もかなり立っていたし、また明日へと引き延ばしてしまえると心の何処かで思っていたのかも知れない。 でも、現実は違ったんだ。私は何とか固まった体を動かして職員室の扉を閉めた。 -扉の反対側の壁に持たれて、かがみが立っていた。その目は何処か凛としていて、私なんかよりもずっと・・・覚悟を決めた目をしていた。 何故だかわからない・・・ただ、かがみに嫌いとか気持ち悪いとか恐らく言われるはずの無い言葉を言われる気がして・・・私は、走って逃げ出してしまったんだ。 後ろの方でかがみが何かを言おうとして、やめて私を追いかけて走ってくる。 ―何処へ向かうとも決まっていない、私と鏡の全力疾走による追いかけっこが始まった 何気ない日々:想い流るる日“ウサギはキツネに キツネはウサギに 恋をする”へ コメントフォーム 名前 コメント 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
https://w.atwiki.jp/p_ss/pages/851.html
明後日からは、夏休み。 受験生という立場も忘れて、 わくわくしていたのに・・・ 最悪、、だ・・・信じられん・・・・・ 「失礼しまぁす・・・」 「…どうしたの、見るからに落ち込んでるんだけど?」 「それが、、、、昨日、母親から電話があって」 「うん」 「夏休みに、こっちに来なさいって」 「こっち?」 「ニューヨーク」 「ニューヨーク!?」 「今、二人とも向こうで仕事してて」 「あ、そうなんだ・・」 昨夜の電話の内容は以下の通り。 休みなんだから、こっちに来なさい。 受験生でしょ?一人だったら、あんた絶対に勉強しないでしょ! えっ?ちゃんとする?そんな言葉は信じません! てか、こういうときにしか、一緒に過ごせないんだから! ヤだ?そんなワガママ言うなら、こっちの学校に転校させるわよ!? わけがわからん?こっちがわからないわよ! せっかくの海外で過ごせる機会、親子で過ごせる機会なのに! とにかく、休みになったら、すぐにこっちに来なさい! 以上。 強制送還、決定。 「いいじゃん。お母さんの言うとおり、 海外で暮らす経験なんて、絶対にプラスになるよ?」 「そりゃ、、、そうなんだけど・・」 「なんで、そんなに不満そうなん?」 「だって・・・・・・先生、に会えない、、、もん」 「休みだったら、結局、そんなに会えない、よ?」 「ま、そっかもしれない、、、けど・・・ ニューヨークにおったら、、、それこそ、全く会えん…」 「ふふっ、そうだねぇ、、、残念だねぇ」 わかってたけど 全然、残念そうじゃないのが寂しい。 ちょっと、強気に出てみる。 「よく言うよ。全然、残念じゃないくせに」 がっと、先生の手を掴む。 「そりゃ、のっちが一方的に先生のことが好きなだけだよ?」 ぎゅっと、細い手を握り締める。 「それでも、少しくらい、寂しそうにしてくれても・・」 だってそれくらい、先生にとっては楽勝、でしょ? 「やっぱ、のっちはコドモ、、、だねぇ」 チクっと、胸の奥が締めつけられる。 そりゃ、コドモ、、、、ですよ。 ぎゅっと 先生が手を握り返してくれる。 「・・想いは、一方通行、、なのかな?」 …わかんないよ。 だって、先生のキモチ、聞いたことないもん。 「・・わかんない」 「…うん」 そう言って、先生は うなだれているのっちを、そっと抱きしめた。 「・・・ごめんね、、はっきりと言えないんだ・・ 自分でも、、、よく、わからなくって・・・」 「・・・」 「けど、なんとも想ってなかったら こんなこと、するわけないでしょ?」 「…うん」 信じたいな、そのコトバ。。。 しばらく、そのまま 先生はずっと、あたしのことを抱き締めてくれていた。 先生? この日、あなたのホンネを少し聞けた気がしたんだ。 それは、最初で最後の、ホンネ、、、だったのかな?
https://w.atwiki.jp/homuhomu_tabetai/pages/374.html
マミ「皆さんこんばんは、巴マミよ」 マミ「今日はみんな大好き、『あんあん』について味の決め方から調理法の一例まで紹介させてもらうわ」 マミ「味の決め方、と聞いてなんのことかわからない人もいるかしら。実はあんあんは育ち方によって、甘かったり辛かったりするの」 マミ「あなた達にも経験がないかしら? 野生のあんあんを捕まえて、齧ってみたら以前と味が違ったりすることは」 マミ「あんあんの味は、生前の育ち方によって決まるの。実際にあんあんを育てることでその様子を見てみましょう」 マミ「まず、あんあんを二匹用意するわ。一匹は甘く、もう一匹は辛く育てる予定よ。便宜上、甘くする方を1、辛くする方を2とするわね。最初は二匹ともぼっちにして育てるの」 あんあん1「アンコォ?」キョロキョロ あんあん2「アンアーー!」ダダダッ マミ「早速餌を探しているわね。あんあんは食いしん坊だから」 あんあん1「アンアン!?」ガサッガサッ あんあん2「アンコー! アンコー!」バリバリ マミ「拾った木の実を食べてるわね。あんあんは雑食で、木の実でもきのこの里でもたけのこの山でもほむほむでもなんでも食べるわ。それじゃ次に、あんあん達にさやさやを会わせるわ」ヒョイッ さやさや1「サヤッ?」キョトン あんあん1「サヤカー!」ピョンピョン あんあん2「クーカイ?」ヒョイ さやさや2「サヤサヤ!」ガツガツ マミ「あんあんとさやさやの仲が良いのは有名よね。この仔達もすぐ仲良くなったわ。ただ空腹で気が立ってたりすると喧嘩になることもあるから注意してね?」 あんあん1「アアンッ」パクパク さやさや1「サヤーサヤー」ムシャムシャ あんあん1「アンアンアンコ!」ペシペシ さやさや2「サヤヤー」ケラケラ マミ「大分仲良くなったみたいだし、次に移るわね。あんあんとさやさやを喧嘩させるわ。させると言っても、餌をしばらく与えなければ勝手に喧嘩しちゃうんだけど」 さやさや1「キョーコー!」ボカボカ あんあん1「アンアンッ!」ボカボカ さやさや2「サヤァー!」ツーン! あんあん2「アァン!?」ボコッ! マミ「喧嘩すると二匹は距離をおくようになるわ。ここから関係が修復するかはお互いの努力次第……と言いたいところだけど、今回は仲直りしてもらっては困るの。寝ている間にさやさやをあんあんから引き離すわ」ヒョイヒョイ さやさや1「サヤー……サヤー……」スピースピー さやさや2「キョーコ……」クーカークーカー マミ「ちなみにあの喧嘩は本気じゃないわよ。本気ならお互い得物を使っての斬り合い刺し合いになってるから」 あんあん1「サヤカ? アンアンコッ!? サヤカー!?」バタバタバタッ あんあん2「サヤカァー……」トボトボ マミ「再びぼっちになってしまったあんあん。そこに別に用意していたまみまみを会わせて、っと」ヒョイヒョイ まみまみ1「マミマミ?」トコトコ あんあん1「アンッ!?」ゴシゴシ まみまみ2「マミミィ」ナデナデ あんあん2「――アンコォ……」グスッ マミ「まみまみはまみまみとしか仲良くならない、という認識は間違っているわ。むしろまみまみは誰とでも仲良くなれるの」 あんあん1「アン? アンアン?」 まみまみ1「ヒトリボッチジャナイモノ!」 あんあん2「サビシイモンナ……」ギューッ まみまみ2「ママミッ♪ マミミマミ♪」ギューッ マミ「ただ、獲物を遠くから一方的に狩る習性の為に他の種と接触する機会が絶対的に少ないんだけど……機会さえあればこの通りよ!」 さやさや1「サヤァ! サヤサヤサヤ!」ガンガンガン! さやさや2「キョーコ! キョーコー!!」バシバシバシ! マミ「ちなみにこの光景は、喧嘩したさやさやがばっちり目撃しているわ。家政婦は見た! ってやつね」 あんあん1「イッショニイテヤルヨ!」 まみまみ1「マミィ♪」 まみまみ2「モウナニモコワクナイ!」 あんあん2「アンコォ!」 マミ「もうすっかり仲良しね。それじゃああんあん達をつがいにさせるわ。このひとひと印の百合百合剤を吹きかけてっと」シュッシュッシュッ まみまみ1「……マ、マミッ?」モジモジ あんあん1「ア、アフゥンッ」ハアッハアッ まみまみ2「サクラサン――マミミマミ?」ノシッ あんあん2「マ、マミィッ!!」ガバッ! マミ「この百合百合剤はまみまみ達を発情させる薬よ。ほむほむにとってのまど酒みたいなものね。ほむほむにも効くけど、まど酒の方が効果が良いわ」 あんあん1「アンッ! アンアンアァッ!」ヌチュヌチュヌチュ まみまみ2「マッマミイィィン♪」クネックネッ さやさや1「サヤーッ! サヤヤヤヤアッ!!」ガンガンガン! あんあん2「アンンッ! アオオオオッ!!」ブルルッ! まみまみ2「マミィーーッ!」キュンッキュンッ さやさや2「キョーーコオォォォォォーーーーッ!!」ガキン!ガキン! ドクンッ!ビュクッビュクッビュルッピュグッ! ブピュルゥ!ドプドプドプッ――ッ! あんあん2「アアアアアアッ――」グッグッグッ まみまみ2「マアァッ……マミマミ……」ビクッビクッ あんあん1「アンコォ……」トロォン まみまみ1「マミ♪」チュッチュッ さやさや1「キョーコ……キョーコォォ……」ポロポロ さやさや2「サヤヤァァ……」ズルズル…… →その2
https://w.atwiki.jp/asuran/pages/38.html
https://w.atwiki.jp/asuran/pages/48.html
https://w.atwiki.jp/83452/pages/1930.html
ピンポーン 憂「? 誰だろうこんな時に…」 憂「はーい」 律「おっす憂ちゃん」 澪「唯はいるか?」 憂「皆さん…お姉ちゃんは今お買いものに行ってます」 紬「あらあら、そうなの」 律「なら少し待たせてもらってもいいか?」 憂「別に構いませんよ、何かあったんですか?」 澪「あぁ、実は唯に渡したいものがあってな」 律「じゃーん!これだ!」 憂「? これは…ケーキ?」 澪「そうだよ、帰りに美味しいケーキ屋さんを見つけたんだ」 紬「だから唯ちゃんにも食べてもらいたいと思って買ってきたの」 憂「そうだったんですか…わざわざありがとうございます、さぁ皆さん、上がってください」 律「じゃぁお邪魔しまーす!」 …… 唯「ただいまー」 憂「お帰りお姉ちゃん」 律「よう」 唯「あれ?どうしてりっちゃん達がいるの?」 紬「美味しいケーキを食べてもらいたくて届けに来たの」 唯「そうだったんだー、ありがとうみんな♪」 澪「ただのケーキじゃないぞ、箱を開けてみてくれ」 唯「どれどれ…うわぁ!ギターのお菓子が乗ってる!」 律「すごいだろ!唯の驚く顔が見たくてわざわざ待ってたんだぞ」 紬「気にいってくれた?」 唯「うん!ありがとうみんな♪」 澪「ははっ、唯のその顔が見れただけで待ったかいがあったな」 唯「…あれ?ギターといえば…」 律「? どうかしたのか?」 唯「…あっ!ギー太を学校に忘れてきちゃったよ!」 澪「何やってんだよ、ドジだなぁ」 唯「…まぁ明日とりに行けばいいや」 憂「そうだ、皆さんも晩御飯を一緒に食べませんか?」 律「あー、私達はいいよ」 澪「ただ唯にケーキを届けに来ただけだからさ」 紬「また今度御一緒させていただくわ」 憂「そうですか、残念です」 律「それじゃ唯の顔も見たことだし、そろそろ私達帰るな」 唯「うん!みんな今日はどうもありがとう!」 澪「また明日学校でな」 紬「では、お邪魔しました」 …… 唯「…ふぅ、ごちそうさまでした」 憂「お粗末さまでした」 唯「さて、ご飯も食べたことだし次はアイスを…」 憂「! お、お姉ちゃん!」 唯「ん?なーに?」 憂「さ、先に皆さんから頂いたケーキを食べた方がいいよ!」 唯「んー、確かにそうだね」 憂「ほっ…」 唯「それじゃいただきまーす」もぐもぐ 唯「んまいっ!」 憂「本当だ、美味しいねぇ」 憂(今日は何とか誤魔化せたな…でも明日からはどうしようかな…) ―次の日 通学路 唯「あ、おはよう和ちゃん」 和「おはよう唯、あら?今日はギターを持ってないの?」 唯「それがさー、部室に忘れてきちゃったんだ」 和「そうなの?まぁなんとも唯らしいわね」 唯「えへへ…でも早くギー太を迎えに行ってあげなきゃ」 ―部室 がちゃ 唯「やっほーギー太、迎えに来たよー」 唯「…あれ?ギー太がいない」 唯「ギー太?ギー太ー、どこー?」 唯「…ない、どうして?」 がちゃ 律「おーっす」 唯「あ、りっちゃん!」 律「唯、随分早いな…って、どうしたんだそんな真剣な顔をして」 唯「ギー太が…ギー太が…!」 律「ギー太がどうしたんだよ?」 唯「ギー太が行方不明なの!!」 律「はぁ?ちゃんと探したのか?」 唯「探したよ!でも見付からないの!」 律「他にどこかに忘れたってことは?」 唯「それはないよ!ここと部屋以外で使うことなんてないもん!!」 がちゃ 澪「どうしたんだ、やけに騒がしいな」 紬「何かあったの?」 梓「どうせまた遊んでたんじゃないですか?」 唯「みんな!私のギー太を知らない!?」 梓「…!」 澪「ギー太?部室に忘れたんじゃなかったのか?」 唯「その筈なんだけど見当たらないの!!」 紬「他の場所に忘れたなんてことは?」 唯「そんな訳ないっていってるじゃん!!何度も言わせないでよ!!」 律「お…おい…落ちつけよ唯…」 唯「そんなの無理だよ!だってギー太は私の大切な…相棒なんだから!」 澪「唯の気持ちはわかるよ…でも少し落ち着け、な?」 唯「……」ギロッ 澪「な、なんだよその眼は…?」 唯「こんなこと言いたくないんだけどさ…」 唯「私はこの場所以外でギー太を弾くことなんてない…なのに無いってことは…」 唯「…この中の誰かが私のギー太を盗んだってことだよね?」 澪「そ、そんな馬鹿な…!」 紬「酷い…唯ちゃんは私達を疑ってるの…!?」 律「おい唯!いい加減にしろ!仲間を疑うなんて最低だぞ!」 唯「でもそれ以外に考えられないじゃん、そうだよね、みんな」 律「そ、それでも私達は盗んでない!!」 唯「どうしてそう言い切れるの?証拠はあるの?」 律「証拠はあるさ、私達は昨日一緒に帰ったんだ、その中には誰も唯のギー太を持ってる奴なんかいなかったよ」 澪「そうだよ、それは私達が保証する!」 唯「澪ちゃん達の保証は信用ならないなぁ…」 紬「ど、どうして!?」 唯「だってみんながグルの可能性もあるよね?」 律「! お前!!」 唯「…ねぇ、あずにゃんは昨日一緒に帰らなかったの?」 梓「…え?私ですか…?」 唯「そうだよ、ねぇ、どうなの?あずにゃんはさっきから黙ってるけどさぁ…本当はあずにゃんが私のギー太を盗んだんじゃないの?」 梓「そ…それは…」 梓(今ここで真実を話した方がいいよね…それじゃないと唯先輩は先輩方をもっと傷つけてしまう…) 梓(…でも、本当のことを話したら唯先輩は間違いなく私を軽蔑するだろうな…そんなの嫌だ…) 梓(私は…唯先輩に嫌われたくない) 梓「…私は何も知りません」 唯「…本当に?」 梓「…はい、本当です」 唯「…ふーん、まぁいいや…ならみんな嘘つきってことになるね」 律「はぁ!?どうしてそうなるんだよ!?」 唯「だってそうじゃん、私に本当のことを話せないんだもんね?」 澪「だから、私達はさっきから本当のことを言っているんだって!」 唯「ははっどうだか…ならどうして私のギー太は行方不明なんだろうね?」 紬「そんなこと知りません!!」 唯「ほーら、また嘘を吐いたよ!」 紬「…どうして?どうして私達のことを信用してくれないの…?」ポロポロ 唯「泣いたって私は騙されないからね」 バン!!! 律「てめぇ…いい加減にしやがれ」 唯「何?もしかして私を脅すつもりなの?」 律「黙れ…それよりもムギに謝れよ…」 唯「どうして?」 律「昨日のケーキ…あれを唯に買っていこうって提案したのはムギなんだぞ…」 律「唯ならきっと喜ぶからって…わざわざお前の家まで届けようって言いだしたのもムギなんだ…」 律「そんな優しい奴がギー太を盗むと思うか?なぁ?」 唯「……」 律「なぁ!?聞いてんのかよ!!何とか言ってみやがれ!!!」 唯「…あぁ、そういうことか、分かったよ」 律「何がだよ!?」 唯「ギー太を盗んだお金でケーキを買ったんでしょ、それかもう売ってしまったからそのお詫びのつもりだったとか…」 唯「…だとしたら、本当に最低だね、ムギちゃんって」 紬「違う…私は…ただ唯ちゃんに喜んでもらいたかっただけなのに…」 唯「うるさい、早く私のギー太を返してよ、ほら、返してよ」 唯「返してよ!!!」 紬「う…ひっぐ…うえええええん!」ポロポロ 律「てめぇ…ぶっ殺してやる!!!」 唯「あははっ!今度は暴力?やめなよりっちゃん、それは自分の罪を認めている様なものだよ!!」 律「うるせぇ!!!」 澪「落ちつけ律!!」 律「澪!離せぇ!!」 澪「ここで唯を殴ったってどうにかなることじゃないだろ!?」 律「でも…あいつはムギの気持ちを踏みにじったんだ…それが悔しいんだよ…!」ポロポロ 唯「あははっ!今度はりっちゃんが泣くんだ!面白いねぇ…」 澪「黙れよ」ギロ 唯「あれ?今度は澪ちゃんが怒るの?」 澪「……」 唯「今度はだんまり?ねぇ、なんとか言ってよ嘘つきさん」 澪「…私達はもう帰るよ」 唯「どうぞご自由に、でもギー太は返してよ」 澪「だから私達は知らないよ」 唯「何度も言わせないで、あなた達以外に考えられないんだから」 澪「なら勝手にそう思ってろ」 唯「そうだね、それしか考えられないんだから」 澪「…唯、お前がそんなことを言う奴だったなんて思わなかったよ」 澪「正直…見損なった」 ばたん 唯「…あいつら、結局ギー太を返さなかった」 唯「ふざけるな…ふざけるな!!」 バン!! 梓「ひっ!」ビクッ 唯「あぁ…あずにゃんいたんだ」 梓「は、はい…」 唯「あいつらと一緒に帰らなかったってことは…あずにゃんは犯人じゃないんだよね?」 梓「……」 唯「ねぇ?そうなんだよねぇ???」 梓「そ…そうです」 唯「…そっか♪あずにゃんはいい子だね、いつまでも私の味方でいてね?」 梓「は…はい…勿論です…」 唯「ありがとうあずにゃん、大好き♪」ギュッ 梓「……」 ―帰り道 唯「…ねぇあずにゃん」 梓「…なんですか?」 唯「一緒に手を繋いで帰ろう?」 梓「……」 唯「…だめかな?」 梓「! そ、そんなことないです!」 唯「えへへ…それじゃ…」ギュッ 梓「はい…」ギュッ 唯「あずにゃんの手、柔らかくて気持ちいねぇ♪」 梓「唯先輩の手も柔らかくて気持ちいいですよ」 唯「そう…?えへへ…なんだか照れくさいね、まるで恋人同士みたい♪」 梓(恋人同士…か) 梓「…そうですね」 唯「それよりさ、これからのことについてなんだけど…」 唯「私ね、あいつらに復讐してやろうかと考えているんだ」 梓「復讐、ですか…?」 唯「うん!私のギー太を盗んだんだもん、痛い目にあってもらわなくちゃ」 唯「…当然あずにゃんも協力してくれるよね?」ニコ 梓(私の想像していた恋人同士とは違う…だって、私の想像の中の恋人はもっと素敵な笑顔で笑うんだもん…) 梓(こんな歪んだ笑みを浮かべたりなんかしない…それでも、私は唯先輩が好きで、ずっと一緒にいたいと願ってしまう。だから私は…) 梓「…はい」 梓(この人の願いを叶えよう、いつまでも隣にいる為に) -‐..  ̄ ̄ ......、、 / / ヽ ヽ、 r'´ / ,イ | jハ; ヽ \ | / /│ | | | ヽ ', | ..', ! l / ̄| // ̄| 从 | | rヘ ノ | / ___レヘ / ___V '; | | | .i. ! {从rテ示 ∨ rテ示7 V | / |/ リ ヒソ ヒソ / / / | 第一部| ′ / 「`)イ | 完| 小、 'ー=-' / r'´ | ||∧ | l > .. _ .イ / | | l| V ! |rュr勹 フ /V | | | /ん)´ / /ン勹ぅ- 、│ | | / r')ヘ んr'´ノ´ ヽ | l;' / `⌒´ ( {、 | | / / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽ }! | | 戻る
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5801.html
快晴。今日を表すならそんな日だった。 夏らしくカラッとした空気と、透き通るようなスカイブルーの空、もくもくと流れる入道雲。でも風はあって、ほのかに夏の匂いがする。二十丸ついでにお花もあげちゃっていいぐらいの天気だ。 朝見たテレビの気象情報でも『最高のお出かけ日和』なんてお墨付きだし、ついでに星座占いではあたしの星座は一位だった。 だからかも知れない。告白しよう、そう思って、あたしはいつの間にか携帯を握りしめて、電話をかけていた。 「……切羽詰まった声で『急用だから』と言われて来てみたと思えば、またこの喫茶店か。 それからあんたはもう少し電話のマナーというものを学んだ方がいい。要件だけ言ってすぐさま切るなんて、まるで幼稚園児だ」 第一声がそれだった。 その人は、席に案内されて早々ソファーにふんぞり返り、いかにも不機嫌そうな面持ちでそうのたまった。電話の件に怒っているわけじゃなく、この人はいつもこうなのだ。魚が海を泳ぐとか、鳥が空を飛ぶぐらい自然なこと。 「きゅ、急用なのはほんとなのです。すっごーく大事なことなんだから」 「で、それはなんだ」 まだお冷も配られていないのに、腕を組んだ彼は傲然とそう言った。 「う、えっと、その……」 改めて面と向かったら、頭が沸騰して朝にたくさん練習した言葉が蒸気と共に抜けていくのが分かった。緊張してどもるあたしを見て、彼は訝しげな視線を矢のように送ってくる。うう。 そうだ、タイムだ。少し時間が欲しい。物事にはなんでも作戦が必要なんだってどっかで言っていた気がする。そう思ったあたしは、勢いよく顔をあげると、 「あ、あたしトイレ行ってきます。あの、あたしの分も何か注文しておいてください」 彼の返事も聞かずに立ち上がり、一目散にトイレに走った。途中にオーダー表を持ったウェイトレスさんとすれ違って、後ろから「ご注文はどうしますか?」なんて定型句が聞こえた。 「うう……」 個室に鍵をかけて、あたしは頭を抱えた。トイレに入り、チーターもびっくりの速さで個室に駆けるあたしを見て、鏡を見ていた人は唖然としてたけど、今はそんなことだってどうでもいい。 星座占いでは恋愛運が上昇って言ってたのに。ラッキーカラーがオレンジだったから、タンスをひっくり返してやっと見つけたオレンジ色の服を着てきたのに。初めの一歩が出なきゃ、意味がないじゃない。 「す、き、です。うん、そう。す、き。よしっ!」 ガッツポーズを決め、これからオリンピックの決勝戦にでる選手のような面持ちで勢いよくドアを開ける。さっきの人は、もういなかった。思えばトイレに向かって好きなんて言ってたら、変な人以外の何物でもないなぁ。 席に戻ると、彼はアイスコーヒーを飲みながら暇を持て余していた。あたしの席には、オレンジジュースが置いてある。それを見て、なんだかきゅんと心が締め付けられた。 あたしはあまりコーヒーが好きじゃない。ブラックを飲めるように練習したけど、ダメだった。気がついたらシュガーの袋が三つ開いていた。前のような大事な場面だったら皆に倣ってコーヒーを頼むけど、あの独特の苦みがどうしても好きになれなかった。 気づいてくれてたのかな、とふと思う。勘違いでも、思い上がりでもいい。でも、それを頼む時は少しぐらいはあたしのことを考えてくれていたはずだ。 「あの、注文、ありがとうございました」 ぺこりと頭を下げる。それに彼は「ふんっ」と鼻先だけで返した。そして話題をすり替えるように、 「それで、要件とはなんだ」 幸せな気分に浸っていたあたしは、思わずジュースを噴きそうになった。すんでのところで、ごくりと飲み込む。そうだ、舞い上がっちゃっててすっかり忘れてた。あたしはオレンジジュースを頼みに来てもらったんじゃなくて、告白しに来たんだ。 「えっとですね。……す、す、すー、す」 「す?」 どうしてだ。『き』が言えない。言おうとした瞬間に、緊張のロックがかかる。ああ、禁則事項ってこんな感じなのかなぁ、とくだらないことを考えながら、あたしは一生懸命言葉をつなぐ。 「す、す、すぅ……す、周防です」 「僕の認識に誤りがなければ、あんたは橘のはずだったが、いつの間に改名したんだ?」 「いや、あの周防さんがですね、……うう、なんでもないのです」 「はぁ?」 何言ってんだこいつと言いたげな顔を隠そうともせず、もうほとんど空になったアイスコーヒーの中をストローで混ぜる。この氷のぶつかる音は、結構好きだなぁ。……じゃなくて。 気持ちを落ち着かせるために飲んだオレンジジュースも底をつき、あたしは意を決してそれをいうために口を開いた。 「す……や、やっぱりダメです。こんなところで言えるわけないじゃないですか! チェンジです、場所変えましょう!!」 「いや、あんたがここに誘っ」 だめでした。 「いきなり呼び出して、ゆっくり何か飲む時間も与えずに場所変更か。大層な御身分だな。あんたは僕をなんだと思っている?」 「すみません……」 「ふんっ。あんたが凄い勢いで引っ張ってくれたおかげで服が伸びた。さっきも言った通り、あんたはもう少しマナーというものを学んだ方がいい」 「すみません……」 「それで、この路地裏に何があるというんだ」 そう言って、彼は辺りを見回した。人通りの少ないこの場所は、さっきとは打って変わっての静けさだ。それに、建物が陰になってくれているおかげですごく涼しい。緑の葉っぱがそよ風に乗せられ、夏の微香が鼻をくすぐって、何だか懐かしい気分になった。 ここなら、言えそうな気がする。 「えっとですね、す、す、す」 「す、はもう聞き飽きたぞ」 「違うんです。あの、すに、か行の二番目を足して、えっと、す……」 「か行の二番目? す、にき。すき?」 「すき、うん。あの、好きなのです」 やった、言えた! というよりは言わしただけど、それでも言えた。 どうしよう、顔がものすごく熱い。ああ、告白ってこんな緊張するものなんだぁ。うん、やっぱりあたしには向いてなかったのかな。心臓がばくばくとアドレナリンを放出しまくってます。ああ、あたしここで死んじゃうのかなぁ、なんて思えるほど。辞世の句、考えといたらよかったなぁ。でも、最後に言った言葉が『好き』なんてちょっとロマンチックですよね。 「…………」 「…………」 沈黙は、二人分。あたしはずーっと彼の靴元を見ながら、顔は完熟トマトのまま。 「…………」 「…………」 「…………」 「……な、何か言ってくださいよ」 さすがに耐えかねたあたしは、金魚のようにぱくぱくとカタコトの言葉を繋いだ。こういう時、どうしたらいいんだろう。誰か教えてください。できれば速達で。 てっぺんに重石を乗せられたように重たい頭をゆっくりと持ち上げる。そして彼の顔を見上げて、あたしは驚いた。 「……もしかして照れてます?」 「…………」 「あ、やっぱり照れてますよねっ! わ、やった。嬉し……あいたっ」 電光石火の速さで彼からチョップをくらい、あたしは頭をさする。それから、背中を向けた彼にはにかんだ。 後ろ向いてても、耳まで赤かったら意味ないですよ。 「ふふ、好きですよ。だーいすきです」 「うるさい。この時代の人間は口を開かなければ気が済まないのか」 「そういいながら、照れてるじゃないですか! あたしだって、その百万倍は恥ずかしかったんですからね! あ、そうだ、あなたも言ってくださいよっ。そうじゃないと不公平です!」 「嫌だね。僕は知らない。あんたの独り言に付き合っている暇はない」 「もうー!!」 繋いだ手は、すごく恥ずかしくて、ちょっぴり暖かかった。