約 2,581,253 件
https://w.atwiki.jp/vivids174uc/pages/224.html
159鯖最強の邪神レイパー。超絶倫で触れるものみな孕ませる。自称変態。通称変態。公称変態。 女装してアメ車を乗り回し逆ナンされるあまりにやばいふたなりの変態。 やぴにゃんの愛人。他にも愛人がたくさんいるらしい。多分ネコ寄りのタチ(百合的な意味で)。 いい人そうであるが、昔はやんちゃだったらしい。たまに怖い。 当初の名前はアルセーヌという名前で活動しており、 下ネタも一切言わず戦闘狂の武闘派というイメージが強かった。 そこでついたあだ名が「邪神アルセーヌ」であり、 シツレイな相手には連盟丸焼きも辞さないという凶悪っぷりであった、サツバツ。 だがしかし、イベント「人気の星」が始まると一転、 女性にバラを送りまくる姿からいつしか絶倫と呼ばれるようになり、 本人も悪乗りして「絶倫アルオーク」という不名誉な名前に改名。 またこの頃から本人も下ネタを気にせず言い出すようになり、 昔の「戦闘狂」というイメージから「ただの変態」へと成り下がった。 そこを超ド変態のやぴにゃんに目を付けられ囁き強要されるという始末。 イメージアップの為、可愛いさを狙い「あるにゃん」に改名したが、時すでにお寿司。 しかし、変態性を獲得すると同時に平和を愛する心も獲得。 159鯖内でも随一の平和主義者となる。 戦力分析 今は平和主義者とは言え元武闘派であった事実は変わらず、戦力も対人戦を意識した構成となっている。 空軍特化の英雄構成やステータスはvs174の越境戦において脅威だった。 また前述のとおり人気の星イベントでバラを撒き散らしている為、親衛隊長の基地スキンの効果によりLv.+1兵の在庫が多数存在している。 しかし本人は「いつか自分を超える人が現れて欲しい、そうなった時に全力で戦いを楽しみたい。」 と語っており、やはり戦闘狂であることを隠しきれてない。 管理人より:ここに記録を残しても良いと言っていただいた良い方でした。
https://w.atwiki.jp/ichipoke/pages/232.html
837. アンノーン(Unown) 2009/05/20(水) 00 12 52 ID FYJuSQn5 全国図鑑No.201 ジョウト図鑑No.061 ホウエン図鑑No.346 シンオウ図鑑No.114 分類:シンボルポケモン タイプ:エスパー タマゴグループ:タマゴ未発見 特性 浮遊 高さ 0.5m 重さ:5.0kg HP 48 こうげき 72 ぼうぎょ 48 とくこう 72 とくぼう 48 すばやさ 48 平均値 56.0 順位 352位 文字のような形と一つ目をした謎のポケモン、様々な形状の個体がいる 昔の人間達が発明した文字の形をしたアンノーンが生まれたのか、 それともアンノーンを元に古代人が文字を作ったのか、今だ謎に包まれている。 現在までにラテン式アルファベット26文字型、そして「!」と「?」型が発見されている。 共通して身体は薄っぺらく壁に貼り付くと書かれた文字か模様にしか見えない ジョウト地方ではアルフの遺跡に、カントー地方(ファイア&リーフ)ではアスカナ遺跡に、 シンオウ地方ではズイの遺跡にと古代遺跡に集団で住み着いている、 これらの遺跡にはアンノーン以外のポケモンが住んでいなかったりやはり謎が多い 覚える技は「めざめるパワー」のみでありレベルアップ、技マシン、技教えなどいかなる手段でもこれ以外の技を覚えることは不可能 戦術のバリエーションが無く能力値も大したことはないので実戦で使うには厳しい。 第二世代ではシステムの都合上色違いが発見される可能性があるのはIとVのみ 名前の由来はそのまま「unknown」であろう 映画「結晶塔の帝王 ENTEI」では行方不明の父親を思う少女ミィの心に反応して 辺り一帯を結晶化させる現象を起こし エンテイや結晶塔を作り出すなど物語のキーとなった 838. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 16 01 ID ??? コンプが地味にだるい ゲーフリは一体こいつで何がしたいのか 839. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 16 44 ID ??? おお、ポケモン一の異端児の日か 840. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 22 43 ID ??? 金銀だと主に努力値稼ぎの相手 841. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 26 10 ID ??? めざパは最初全く意味わからん糞技だと思ってた 842. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 28 15 ID ??? 838 まぁ特殊なイベントも無いし存在意義は薄いよな たまにめざパの技マシンを落とすとかならともかく 843. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 29 17 ID ??? 戦闘能力に関しては… 844. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 36 13 ID ??? 841 俺もだ 個体値に気にするようになってからはめざパにお世話になってます^^ あれ?なんだか目から涙が・・・ 845. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 38 45 ID ??? アンノーンWがフ○テレビのマークにしか見えない 846. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 43 37 ID ??? 金銀で図鑑コンプさせてもアンノーン全種類集めようとは思わなかった 847. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 53 53 ID ??? アンノーンGのわかりにくさは異常 848. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 00 58 04 ID ??? IからRにかけての手抜き感が異常 849. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 08 33 ID ??? バトレボのアンノーンは字ごとに動きが違ったと思うんだけどそれは力のかけ方を間違えてるよね 850. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 22 01 ID ??? 遺跡に住まう生命を持った文字ってのがとても神秘的で魅力的 エンテイの映画も良かった ボックスを圧迫するのは分かりきってるんだけど、毎回集めてしまう バトルで役に立たないから存在意義がないってのは廃人的な考え方に思えてちょっと悲しい 851. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 25 25 ID ??? 海外産で全部のアンノーン集めた俺を誰か褒めてくれ! 馬鹿な事に時間をかけてしまったものだ… 853. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 30 38 ID ??? 全部集めたやつを牧場に送ると、キーボードっていうイベントが起こる 854. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 38 03 ID ??? しるしのはやしもこいつがらみだったとは…(´・ω・`) 855. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 45 36 ID ??? 対戦以外では恵まれすぎだよなコイツ 専用ダンジョン、専用イベント、専用曲、30近いバリエーション、アンノーン図鑑、1匹ごとの動きの違い、映画でもエンテイを作る役だし 856. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 50 00 ID ??? どっちかといえばそのために出たであろうポケモンだしなあ ポケダンなら真空切りと水平切りがあるぜ!やったぜ! 857. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 50 47 ID ??? 854 kwsk 858. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 01 59 17 ID ??? 841 あるあるすぎる 859. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 06 26 20 ID ??? 金銀では色んなデマが流行ったなぁ こいつを全種類集めるとセレビィ出現…とか 860. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 08 18 39 ID ??? 何故IとVしか色違いが居ないの? 861. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 08 28 20 ID GFC0cTIM 簡単に言えば 姿を決める隠れステータスと 色違いかどうかを決める時に使うステータスが一緒だから 862. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 09 14 05 ID ??? ttp //www.dotup.org/uploda/www.dotup.org45776.jpg.html 某所より転載 863. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 09 46 40 ID ??? 851 すげぇ 865. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 11 58 05 ID ??? 862 作った奴すげえwwwwww で、これ売ってるの? 866. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 12 41 50 ID ??? 861 じゃあIとVは必ず色違いって事に? 867. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 12 58 48 ID ??? んなわきゃねーだろ 868. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 15 08 46 ID GFC0cTIM 隠れステータスが26パターンしかなくてそのうち2つが色違いとかハンパないっすね いくら容量カツカツつったってもうちょっとマシな計算式使ってるんで安心してくだせえ 869. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 15 18 27 ID ??? 金銀で色違いのアンノーンが出たことあるけど、ポケットでやってたから色がわからなかった そのうえ逃げられた 870. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 15 29 44 ID ??? 旧裏→アンノーンはデッキに4枚まで 新裏→アンノーンA〜?それぞれ4枚まで 871. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 15 40 00 ID ??? GとVは全然そう見えないんだが 872. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 18 22 43 ID ??? 851 よう俺 日本版パールでコンプ済みなのに北米版プラチナでもコンプwww 874. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 19 36 30 ID ??? 揃えたアンノーンにプレートとか持たせようとしたがボックス足りなくて結局逃がす ポケモン牧場あればいいんですけどねー 875. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 19 48 52 ID ??? FRIEND 876. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 21 56 09 ID ??? 最初はカバが欲しかっただけなのに、集めだしたらついついのめり込んでしまった そしてエンテイの映画は名作 877. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 21 57 40 ID ??? 876 あるあるあ…あるあるあるある 878. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 21 59 20 ID ??? ゴマゾウの転がる1発でタケシのイワークが負けたやつだっけ? 879. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 22 06 02 ID ??? ?と!は目が半開きだよね 882. 名無しさん、君に決めた! 2009/05/20(水) 22 42 35 ID ??? アンノーンエクスクラメーションマーク ポケモン名で最長 200 ムウマ トップページ 202 ソーナンス 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/961.html
「ビクッ!・・・!!」 「・・・殻衣。普通にしてろ。気取られるな」 「固地先輩。・・・。気付いていたんでしたら、教えてくださいよぉ」 「・・・殻衣っち?どうしたの?」 焔火が、隣に歩く殻衣の表情が青ざめているのに気が付いた。その証拠に、額には暑さによるものでは無い、冷や汗の類が流れていた。 「・・・私達を尾行している人達が居る」 「えぇっ!?」 「焔火!お前も普通にしていろ」 「は、はい!・・・でも、どうやってわかったの?確か、殻衣っちの能力って・・・」 「『土砂人狼』。殻衣ちゃんは、土砂なんかを材料に人形を作り出すことができる」 「う、うん。それは、昨日殻衣っちに教えてもらったんだけど・・・。そんなこともできるんだなぁって・・・」 「私も、風紀委員になるまではこんなことはできなかったよ?・・・。全ては固地先輩の地獄のようなトレーニングのせいで。・・・。ううぅっ!」 「殻衣っち!?地獄!?」 「それは、俺から説明してやろう」 何か嫌なことでも思い出したのか、殻衣が手で顔を覆い俯いてしまう。そんな殻衣に変わって、疑問符だらけの焔火に事情を説明する固地。 「殻衣は、今年の4月に風紀委員として178支部へ入って来た。その能力の実用性の高さから、俺は殻衣にあるトレーニングを課したのだ!」 「トレーニング?ど、どんなトレーニングを?」 「『土砂人狼』の材料・・・つまりこの地面を歩く者達をそれぞれ識別するトレーニングだ。 具体的には、体重の掛け方や歩幅、足を出す時間的な間隔等から特定の人物を識別すると言った所か。尾行を見破る時等に活用できるように」 『土砂人狼』は、殻衣から半径5m内に材料があれば作成可能。そして、その操作範囲は殻衣を中心に半径217m内である。 固地が着目したのは、『殻衣から半径5m内に材料があれば作成可能』という部分だった。 ここで言う『作成』とは、『支配下に置く』と言い換えることができる。 別に『人形を作成する』という結果が無くても、材料を支配下に置くこと自体は元から可能だったのだ。 「そこで、俺は考えた。人間とは、もれなく地面に足を着けて生きている生き物だ。 ならば、その地面を材料とする『土砂人狼』の応用として、支配下に置いた地面を歩く人間を識別することは可能ではないかとな!」 殻衣自身、当初はそんなことは不可能だと渋っていた。彼女が生み出せる『土砂人狼』は最大で74体で、人形自体に知覚は無い。 だが、操作者である殻衣は人形やその作成及び形成にかかる材料の圧縮度合いや外圧等を“認識”することができる。 確かに殻衣が人形を全てコントロールしている以上、人形が破壊された等の衝撃は操作者である殻衣にも“認識”として伝わる。 しかし、それを人形も作成・形成しない材料状態で、しかも人間の歩く歩幅や時間的間隔を識別することに応用するというのは、とてもじゃ無いが不可能。 そう、殻衣は考えていた。 「あの。・・・。あの地獄のようなトレーニングは。・・・。もう嫌ぁ・・・」 そんな消極的に物事を考える殻衣に、固地が上司命令によって無理矢理にトレーニングを課したのである。 固地は、風紀委員の伝手を活かして各所から様々な資料を収集し、嫌がる殻衣に無理矢理押し付けた。 参考書、映像データ、研究資料、果ては、約1万人にも上る人間の足音とその衝撃の度合いを録音・解説する教材まで取り寄せ、殻衣に見させ、読ませ、聞かせ続けた。 固地の指導の下、実地訓練も数多くこなした(こなされた)。これも、当然無理矢理である。 人形を作成・形成する各段階において、様々な圧力(衝撃)を与えることで殻衣自身の“認識”の引き出しを増やすために、 1日1000体もの人形を作成+破壊し、それによって得た“認識”を詳細に報告するよう義務付けられた(毎日)。もし、虚偽の報告をしようものなら固地のカミナリが落ちる。 しかも、1000体に届かなかった分は翌日に持ち越しであったため、殻衣は毎日泣きながら必死に作っては壊し、作っては壊し続けた。 ある時は、地面に耳を着けて周囲を歩く人の足音(衝撃)を実際に体感することで、『土砂人狼』を操作する時の感覚にフィードバックを試みたり、 実際に自分の体を人の足で踏まれてみたり(もちろん、踏むのは固地)etc。 これ等過酷極まるトレーニングを、殻衣は通常の学業や風紀委員活動と平行してこなした。 よくノイローゼにならなかったなと殻衣自身が思うくらい、トレーニングは過酷に過酷を極めた。 そんな地獄が約3ヶ月も続き・・・殻衣は遂に識別方法を会得したのである(本人は心底心外)。 「俺が何時も殻衣を外回りへ連れ出したのも、それが目的の1つだったからな。やはり、前線での実地訓練は効果が大きい。テストも何回にも渡って繰り返したしな。 フッ、殻衣も今では自主的に人間観察をしているくらいだからな。俺の部下の成長を願う気持ちが伝わったようで何よりだ!」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 焔火、殻衣、真面は、固地の発言に反論する気力も無い。あんたがそう思うんだったらそうなんだろ?というくらいの気持ちしか湧いて来ない。 「・・・・・・え、え~と。そ、その私達を尾行している奴ってどんな感じなの、殻衣っち?」 何とか気を取り直した焔火が、尾行を看破した殻衣に尋ねる。 「え、え~と・・・」 「殻衣。その回答は、もう少し後でいい。次のチェックポイントが見えて来た。そこで“判断する”」 回答しようとした殻衣を遮り、固地は焔火達をチェックポイントである路地裏へ誘導する。 「真面!俺達を尾行している奴等が居るようだからな、さっさと調査を終わらせるぞ!」 「りょ、了解です!」 「殻衣!焔火!今回はお前達も一緒に来い。あそこなら、人目にも付き難い」 「「は、はい!」」 固地の指示に従い、3人は路地裏へ入り込む。固地と真面が迅速に調査を進めている間に、殻衣が尾行者の同行を探る。 「やっぱり。・・・。私達を尾行しているのは2人。・・・。歩幅や衝撃の大きさから推測すると・・・男と女。・・・。その内の1人は、透視系能力者の可能性がある」 「・・・理由は?」 「2人は今、ある地点で立ち止まっているわ。・・・。それも、その地点からじゃあ私達の居場所は見えない。・・・。 そもそも、この2人はさっきの街道でも私達と100m程の距離を保ったまま尾行していたわ。・・・。 あの人混みの中で100mも対象者から離れると、見失う危険性が大きいのにも関わらず」 「・・・すごいね、殻衣っち。そんなことまでわかるんだ」 「・・・その代わりすごい集中力を使うから、同時に戦闘をこなすなんてことは無理だけど」 「俺も、機械とか使って上空から監視されてるかもって思ってこの手鏡とか使ってそれとなく観察していたけど、何もなかったよ。怪しい“電波”も無かったし」 「(・・・み、皆やることやってる・・・!!うううぅぅ・・・!!)」 殻衣の見立てを真面が補足している様を見て、焔火は焦る。どうしても焦ってしまう。自分にも何かできることはないか。考えて・・・しかし思い付かない。 尾行された時の対処方法等、焔火は真剣に考えたことが無かったからである。 「固地先輩って、殻衣ちゃんよりも早く尾行に気が付いていましたよね?やっぱり『水昇蒸降』ですか?」 「あぁ」 「『水昇蒸降』?」 「・・・そういえば、お前にはまだ教えてなかったな」 真面と焔火の言葉を受けて、固地は調査がてら自身の能力と、尾行を見破った経緯を説明する。 「『水昇蒸降』。それが、俺の能力だ。レベル3に該当する能力で、水を水蒸気に、水蒸気を水に変換して操作する能力だ。 逆に言えば、水を水のまま、水蒸気を水蒸気のまま操作するのは不可能という面倒臭い性質を持っている」 「・・・その能力でどうやって・・・」 「少しは考えたらどうだ、落ちこぼれ?お前のその頭は何のためにある?」 「うっ!!・・・う~ん・・・・・・」 焔火は考える。固地が言った『水昇蒸降』の性質。それは、水や水蒸気が無ければ発動できない能力だ。尾行に感付く応用法があったとしても、水や水蒸気が無ければ無理だ。 しかも、水を水として、水蒸気を水蒸気として操作することは不可能。どちらを使うにしろ、どこかで水ないし水蒸気を変換した場所が・・・ 「・・・・・・あっ!!」 「・・・言ってみろ」 それは、自分達が着替えた場所。『根焼』の裏手にて、固地は水場に行っていた。“水がある場所”に。 「す、水蒸気を操作し、周囲の人達に水蒸気を纏わせることで尾行に気付いた・・・ですか?」 「・・・簡単に言えばその通りだ」 焔火の回答に、一応の及第点を付けた固地は説明を再開する。 「正確には、『水昇蒸降』によって水を水蒸気に変え、後方に向かって間隔を空けながら放出していた。 別に、水蒸気を纏わせても人物を認識できるわけじゃ無い。俺の操作範囲を超えたらそれは唯の水蒸気となり、人間に纏わせることも不可能になる。 だが、俺の操作範囲にあるのなら、俺はその水蒸気の位置を把握できる。この応用により、俺は尾行を見破った。 まぁ、殻衣程の認識はできないが。フッ、さすがは俺の部下だ、殻衣」 「・・・あ。・・・。ありがとうございます」 固地の思わぬ評価に、殻衣は虚を突かれながらも返事をする。 「焔火!ちなみに、お前はその手の応用はできるのか?例えば、電磁波による物体感知やジャミングを・・・できていれば気付いてるか・・・」 「・・・すみません」 「いや、これに関しては俺が悪かった。現状では不可能なことを、奴隷に押し付けた主人の俺がな」 「・・・・・・すみません」 『電撃使い』には、電気の他にも電波や磁力を操るタイプもおり、その応用方法は多岐に渡る。 多種多様な能力。それが、『電撃使い』としての真骨頂。その中に属する1人、焔火緋花はその手の応用に欠けるタイプだった。 電気で筋肉を動かしたり軽い電撃の槍を放つ等はできるものの、磁力や電波はうまく扱えず、固地の言う物体感知やジャミング等の類はサッパリだった。 「能力というのは先天的な才能、つまり素質等に依る所が大きい。だが、その伸ばし方や方向性を見極めることは後天的な才能、つまり意識の力が大きい。 例えば、風紀委員という環境と自分の能力を照らし合わせて、職務に応じた応用を思い付いたり、ある目的のために自分の能力を磨いたりする。 闇雲に伸ばせばいいというもんじゃ無い。目的あってこその能力研磨だ」 そう言って、固地は焔火を睨み付ける。彼も彼なりに焔火に対して怒っているのだ。明確な目的意識を持たない、焔火の怠慢に。 「焔火!お前は、風紀委員として自分の能力をどう活かすつもりだ?唯単に、能力による敵の制圧だけに活かすつもりか? そういうのを何と言うか知っているか?宝の持ち腐れと言うんだよ。お前には、まだまだ色んな方向に才能を伸ばせる余地があるかもしれない。 なのに、当のお前の意識は自分の素質に無関心だ。お前は違うと言い張るかもしれんが、俺からすれば無頓着だと判断せざるを得ない」 「・・・!!」 「そんな調子では、何時まで立っても“風紀委員もどき”から脱却できんぞ?何でもいい。少しは自分の能力についても思考を張り巡らせ! お前は、自分の素質をお前自身の手で潰している!それは、自滅行為だ。真面も殻衣も、徐々にではあるが自分のスタイルというものを確立してきている。 同年代の人間に負けたくなければ・・・本物の風紀委員になりたければ、もっと真剣になれ!!」 「・・・・・肝に銘じます」 固地の言葉は正しい。焔火は俯き、頭を垂れるしかなかった。 「さて、ここも異常は無かった。では・・・これより尾行者を潰す作戦に切り替える」 「・・・どういう方法で行くんですか?やっぱり、殻衣ちゃんの能力で?」 「それは、歩きがてら説明しよう。奴等を潰すのならば、“直線距離”で仕留められる街道がいいしな」 ということで、固地、焔火、真面、殻衣は街道に戻り先と変わらず人混みの中を歩いている。尾行者も一緒に。 「殻衣の推測通り、片方が透視系能力者とすれば・・・」 「もう一方は、その護衛的な役割になりますね。戦闘系の能力者の可能性が十分にある・・・。俺も動きましょうか?」 「いや。ここは、お前以上の適役に任せるとしよう」 「適役?・・・もしかして焔火ちゃんですか?」 「わ、私ですか!?」 固地と真面の会話に自分の名前が出て来た焔火は、驚きをもって固地達に顔を向ける。 「そうだ。能力を使ったお前の身体能力の高さは聞いている。お前なら、高速で動く『土砂人狼』に乗るのが初めてでも何とかなるだろう」 「・・・私でいいんですか?」 「今のお前には、それくらいしかとりえが無いだろうが。今日の同行で、お前は一体何をした?成果らしい成果を挙げたか?フッ、何もできていないだろう? これは、俺の温情だ。落ちこぼれが活躍する機会を恵んでやったんだ。感謝の言葉の1つあってもいいくらいだぞ?」 固地の嘲笑。だが、確かにこれはチャンスでもある。自分がここに居る意味を少しでも見出すための・・・これは固地がくれた機会。だから、焔火は即断する。 「わかりました。必ず、尾行者を捕まえてみせます!絶対に!!・・・固地先輩、ありがとうございます・・・!!」 「・・・フン」 焔火の謝意に固地は軽く鼻を鳴らすに留め、現状整理や仕掛けの詳細を詰めて行く。 「尾行者は『ブラックウィザード』と関係がある可能性が高い。 その前提で話すが、タイミング的に考えて“今”俺達を尾行しているということは、奴等は俺達の動きに勘付いているということだ」 「・・・もしかして、以前から風紀委員が監視状態にあったっていう可能性もあるんですかね?今日の風紀委員会も・・・」 「加えて警備員の動きもな。これは、由々しき問題だ。風紀委員会に報告し、然るべき対処を取らんとな。 他の支部にも、奴等の監視や尾行の類が張り付いている可能性も否定できない」 「・・・!!」 「固地先輩。・・・。仕掛けのタイミングはどうします?」 「今少し待て。尾行している人間を、何とかして油断させなければならない。例えば、俺達が誰かの応対をしているとか・・・な。 それに、連中の周囲に居る人の群れが薄くなった時を狙わんとな。お前の『土砂人狼』との兼ね合いもある。わかっているとは思うが・・・トチるなよ?」 「・・・!!・・・。ぜ、善処します」 「焔火!俺が合図したら、すぐに動け。いいな?」 「わ、わかりました!」 焔火を含めた178支部の面々は、次第に緊張の色合いを強めて行く。勝負は一度切り。成功か、失敗か。2つに・・・1つ。 「!!・・・フッ。丁度いい“カモ”が居たぞ。あいつ等を使わせてもらおう」 「“カモ”?ど、何処に・・・!!!」 いち早く固地が見付けた“カモ”に、焔火も視線を向ける。その先に居たのは・・・ continue…?
https://w.atwiki.jp/patchcon/pages/64.html
角でみょんにリンチされてるゆかりん -- 管理人 (2008-01-10 18 06 44) ちょwwwwwwwwwww -- uho (2008-01-28 09 11 08) なんだこの絵w 遠距離キャラはほとんどなるねぇ -- コン (2008-01-29 00 31 57) 低Lv紫様は和みます w * -- bisa (2008-02-06 00 03 31) あるあるwww -- 名無しさん (2008-03-18 21 57 40) クソワロタwwww -- 名無しさん (2008-04-27 19 38 48) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ryutistvariety/pages/15.html
【なつのまほう】 初演日 2011.07.24(HOME LIVE #001) 作詞 瀧神 朋生 作曲 Koji Oba シングルリリース日 2012.04.01(1stシングルカップリング) 春~秋にかけて披露される、盛り上がり必至のRYUTist鉄板アゲアゲナンバーで、一部ファンによるMIXが入る数少ないいわゆる 沸き曲 。歌詞は新潟県人にしか分からない、いわゆる「新潟あるある」がAメロ、Bメロでこれでもかと語られ、曲構成もいわゆるアイドル曲の王道路線である。
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/1219.html
とある男子高校生と尾行① ―終業式が終わった緋花は当ても無く歩き続ける。そんな光景を秘かに監視する者達が居た― とある男子高校生と尾行② ―照らす向日葵(たいよう)、導く助言(ペテン)、そして・・・少女は1つの決断を下す!!―
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/118.html
カチャカチャ、トントン、ジャー、カチッ、ボッ、コトコトコト。――――ゴソゴソ、カチャカチャ、ジャー、チャッチャッチャッチャッ……… さほど広くはない台所に賑やかな音が響いている。 音の出し主は幾つかの作業を並行して進めているようだが、手馴れた様子でそれらをこなしているようだ。 ふんふん、と鼻歌のようなものを口ずさみながら作業を進めていると、がちゃり、と鍵を外すのに続いてやや軋んだ音を立てて玄関のドアが開かれた。 「あ、 お帰りなさい」 「ふいー、ただいまなのですよー」 挨拶を交わしながら部屋に入ってきたのは愛らしい姿の小学生、のような月詠小萌その人であった。 「何だかお疲れみたいですねー」 「そうなのですよ。今日もまた帰り際になって仕事が入ったもんですから長引いてしまって、もうくたくたなのですよー」 などと言葉どおりにえらいくたびれた様子で鞄を床に置くとそのまま卓袱台に突っ伏してしまう。 と、何かに気付いた様子でふんふんと鼻を鳴らしながら尋ねる。 「いいにおいがしますねー、今日のおかずはおいもさんですかー?」 「あ、分かりますか? はい、今日はサトイモの煮っ転がしですよ」 言いながら卓袱台に歩み寄ってきたのは二重まぶたがくっきりとしている少女、五和である。 おつかれさまです、と置かれたお茶を口に含み一息ついた小萌先生は感慨深そうに、 「それにしても、こうやって家に帰ってくるとごはんの用意が出来ているっていうのはいいですねー。前にいた結標ちゃんは家事が出来ない子だったのでそのお勉強を見てあげるのも良かったですけど、こう、疲れて帰ってきた日なんかは五和ちゃんみたいな子が居るとありがたかったりするんですよー」 「いっ、いえいえ! そんなわたしなんかまだまだですよ!」 わたわたと焦る五和。 彼女が小萌の家にいるのには訳がある。といってもそれほど大層な理由でもないのだが。 遡ること九月の初旬、五和はとある目的を持って遠くイギリスの地からここ学園都市に降り立った。 彼女にとって重要な決意を秘めていたのだが、その目的は結局果たせずじまい。おまけにイギリスを出立するときには所属している天草式のメンバーに少なからぬ協力と迷惑をかけ、おまけに元女教皇(トップ)である神裂火織に盛大な啖呵を切る形で別れてきたので今さら帰るに帰れない(と本人は思い込んでいる)状況にあった五和が街をうろついているところを小萌先生が見つけ、そのまま自分の部屋に連れて帰り、今に至るというもの。 なお、五和は預かり知らぬことではあるが、現在彼女には臨時のIDパスが発行されており、つつがなく学園都市での生活が送れるようになっている。(ちなみにID発行に関して土御門に仲介協力を要請をしたのは現状を聞いたとある聖人さんだとか。まあ、若干呆れながらではあった様だがそれなりに気に掛けてもらっているという事であろう) それはさておきさておき……。 いそいそと食事の用意をする五和の様子を眺めていた小萌先生であったが、ふと、台所に何やら置いてあるのに気付く。 どうやら作業の途中らしく、食事の用意は一人分しか並んでいない。 「何ですかーそれは?」 「すみません。まだもうちょっとかかるので、出来れば先に食べていってください」 申し訳なさそうに言う五和に対し、ちょっと気分を害したように反論する。 「五和ちゃん。前に言ったはずですよ? 食事はちゃんと一緒にするって。そんな変な風に気を使うなんて他人行儀な仕方、先生感心しません」 ちょっと怒った風の小萌先生を見て、『は、はあ』 ともぞもぞとしていた五和だが、『五和ちゃん!?』 と小萌先生が強く呼ぶと、『すいません』 と縮こまる。 「じゃ、じゃあ、もうちょっとだけ待っててもらえますか? すぐに終わらせますから」 「はいはい、やっぱり食事は二人で一緒に食べたほうが美味しいんですよー」 途端に機嫌を直す小萌先生。 「ところで、さっきから何をやっていたんですか?」 矛先が逸れてホッとしながら答える五和。 「あのですね。お団子を作っているんです」 「お団子、ですか? でもそんなには食べきれないと思いますよ?」 見つめる先にはちょっとした小山になっている団子の数々。 真っ白なままで出来ている白玉や、あんこで包まれたおはぎなど種類も豊富であるが、さすがにその量をここにいる二人で食べきろうとするのは無理があろう。 ただでさえ多いのにその上夕食まで一緒となれば言わずもがなである。 それなりに家事をこなすこの少女が何故このような行動に出たの頭をひねっていると、 「今日は、満月ですから」 という答えが返ってきた。 「はい?」 「昼間は曇ってましたけど、今は雲も切れてちょうどいい具合に朧月夜になってますよ。お月見するにはいい夜です」 何処となく浮かれて言う五和。 どうやらお月見をするためにお団子を用意しているらしいのだが、 「えーと、その、あのですね………」 「?」 対する小萌先生のほうは説明しがたい表情で五和に話しかける。 「五和ちゃんは、お月見をしたいんですか?」 「はい、そうですよ。今日のためにいろいろ回って準備してきたんです。ほら、学園都市って整備が進んでいるところが多いから意外とススキが生えているところを見つけるのに苦労したりもしたんですよ!」 嬉しそうに語る五和。 そんな相手に対し、これから自分が告げなければならない事の重大性を慮っているのか、言いにくそうに、 「そのお月見は、もしかして中秋の名月の、ですか……?」 「やだなー先生、お月見って言ったら、大抵はそうじゃないですかー!」 浮かれて答える五和であったが、 「それ、今年はもう終わっちゃって……ます……よ?」 「…………はい?」 ピシリ、と固まる五和。 それに対し慌てて、 「いや、その、よくみえるんですが、中秋の名月を満月の夜にあるものだと思われている人がいますけど、あれは旧暦の八月十五夜に行われるものであって、必ずしも満月の夜に限るというわけではなくてですね、って、五和ちゃぁぁぁん!! しっかり、しっかりしてください大丈夫ですかー!?」 説明を始めたものの途中から五和の介抱になってしまう小萌先生。 「…………も、もうダメです。こんな、こんな初歩的なことで躓いているようでは、何が、何が天草式ですか、何が女教皇(プリエステス)と張り合うですか!! わた、わたしは、わたしはもう…………!!」 己のアイデンティティーを問い始めた五和とその周りでおろおろする小萌先生。というか、さりげに機密事項を口走ってます五和さん。 五和がようやく立ち直ったのは日がとっぷりと暮れ、月が天頂から下り始めた頃合だったそうな……。 なお、五和が丹精込めて作ったお団子の山は、その量をちゃんと片付けてくれそうな人物は、ということで白羽の矢が立てられた一人の白いシスターだったそうな。 彼女に連絡を取りたいのだが何処にいるのか知りませんか? と尋ねられたのは、とある学生寮にいる男子生徒だとか。 まあ、いろいろあってやや煤けていた五和さんがその男子生徒の部屋にお団子を届けることで気持ちが持ち直したとか持ち直さなかったとか。 人生これいろいろですよね?
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/2047.html
ガチャ! 階段の踊り場にて焔火と言葉を交わした界刺はそのまま歩を進め、2階にある自身に宛がわれた病室―彼には個室が与えられていた―へ戻る。 『光学装飾』にて自室に大勢の少女達が見舞いのために訪れていることを事前に察知している碧髪の少年は、その意味を噛み締めながら扉のノブを回す。 「おっ!こりゃまた、何とも豪勢な見舞い客だ」 開けた扉の先に居るのは、いずれも有名なお嬢様学校へ通う少女達。若干知らない少女達も居たが、 それはそれとして彼女達の訪問を迎え入れるためにも、界刺は少女達の名前を丁寧に読み上げていく。 「涙簾ちゃん、バカ形製、サニー、珊瑚ちゃん、華憐、嬌看、遠藤ちゃん、フィーサ、マーガレット、津久井浜、菜水・・・後の方々はどちらさんで?」 「私?私は雪白すみれ(ゆきしろ―)。へぇ・・・この人が、晶子ちゃんが言ってた界刺さんって人か」 「雪白さんは、グルメ巡りの最中に知り合った私の友達なんですよ」 「へぇ・・・でも、そんな娘が何でこんな所に?」 「実は、今日の午後から彼女や津久井浜さん達と一緒に第5学区グルメ巡りを敢行することになってまして。 そのついでと言っては何ですけど、界刺さんが大怪我したと耳にしたのでこうやってお見舞いに。 これ、差し入れのメロンです。予め切り分けていますから、できるだけ早く召し上がって下さいね。雪白さん。冷蔵庫に入れるのを手伝って下さい」 「りょーかい」 「おぉ・・・ありがと」 常盤台中学の制服に身を包む菜水と花盛学園の制服に身を包む雪白すみれが、見舞い品の高級メロンを手際良く冷蔵庫へ収めていく。 メロンなど年に数回食べるかどうかレベルの品である。しかも高級と来た。その甘さを想像して思わず口内に涎が満ちる界刺へ菜水が挙げたもう1人の少女が口を開く。 「あらあら。それにしても、貴方ともあろう人間がここまで深手を負うなんて・・・一体全体どういうことなのかしら?ねぇ、フィーサさん?」 「そうね。こっちは『大覇星祭』で前の借りを返すつもりなのに・・・(ブツブツ)」 「界刺殿。失礼を承知でお聞きしますが・・・その怪我は“件の男”と何か関係が?」 「ッッ!!!」 以前一杯食わされた男が大怪我を負っている現実を未だに飲み込めていない津久井浜とフィーサの疑問をマーガレットがはっきりと言葉に出す。 それは、ある少女―“件の男”と界刺が出会った切欠になってしまった―苧環華憐の表情を硬直させるのに十分な代物であった。 実は、彼女達(【『ブラックウィザード』の叛乱】に関わった者を除く)は界刺が大怪我を負って入院することになった具体的な理由を知らない。 もちろん、苧環や鬼ヶ原達は【叛乱】に関わった月ノ宮や真珠院達を問い詰めたが事態が事態なだけに月ノ宮達は事情を詳しく説明することができなかった。 メディア等の情報程度では到底納得できる筈も無い。『容態は安定している界刺が後で説明する』という形製の必死の説得で何とか抑えたくらい苧環達は気を逸らせていた。 「・・・・・・そうだ。簡潔に言えば、俺は野郎に負けた。でも、何とか生き残った。んで、“当面の間は野郎が俺を狙って来ることも無くなった”・・・かな」 「界刺さん・・・!!」 「華憐。まぁ、何とか生き残れた。これが動かしようの無い『結果』だ。俺が生き残った事実は動かない。 だから・・・あんま自分を責めんな。俺は今回のことで君を恨んだりしないし憎くも思ったりしない。な?」 「は、はい・・・はい・・・!!!」 苧環の涙声混じりの返答に、界刺は目の前の少女がここへ来るまでに抱いていたであろう凄まじい負い目を察する。 きっと、今でも彼女はあの時のことを後悔している。それは、おそらくこれからも。故に、自分ができるのは彼女へ自分の想いを正直に述べること。後は・・・彼女次第だ。 「(ね、ねぇ晶子ちゃん?なんか、すっごく物騒な話を耳にしている気がするんだけど?あの界刺・・・先輩って何か変な奴に狙われてるの?)」 「(私もよく知らないけど・・・苧環さんを尾行していたヤバ気な男の標的になっちゃったみたいで・・・)」 「(あぁ、ストーカーって奴?お嬢様学校の学生を付け狙う奴って居るもんね)」 「(ハハハ・・・)」 鼓膜を叩く不穏な会話に雪白が我慢できずに友人である菜水へ問い掛け、彼女の説明が終る前に勝手に事故解決する。 そんな友人の有り様に、触り程度とは言え界刺が常盤台学生寮を去った後に“件の男”が『殺人鬼』であることを津久井浜と共にフィーサから聞いている菜水は苦笑いするしかない。 「・・・ふ~ん。前は遠目から見ていただけだったけど、さすがに男性恐怖症だった鬼ヶ原が一目惚れするだけの男・・・だわぁ」 「追敷様・・・///」 「別に照れるようなことじゃ無いわぁ。これで、私の胃痛も少しはマシになるし(ボソッ)」 「???」 苧環へ優しく声を掛ける界刺の姿を見た茶髪の少女が、改めて自身の派閥に所属する鬼ヶ原が惚れた男への評価を口にする。 彼女の名は追敷風潮(おいじき かざしお)。常盤台に存在する派閥の1つを取り仕切る少女・・・と言えば聞こえはいいのだが、彼女の場合は最初から派閥の長になるつもりは無かった。 ストレス反応を操作する自身の『心理刺激』によって鬼ヶ原を始めとする幾人もの後輩の面倒を見ていく内に結果的に派閥の長になってしまったのだ。 そのせいか、別の大きな派閥にへーこらしたりする等の中間管理職的な生活を送る羽目になり、最近では胃痛が持病となって来ている始末である。 そんな彼女がここへ来たのは、ひとえに鬼ヶ原を後押しするためである。自分が好きになった男が重傷を負ったと聞いてずっとネガティブになっていた彼女を、 派閥の長である追敷は優しく、そして温かな言葉で励ました。面倒見の良い(+この機会に界刺をもう一度見たくなった)彼女も同行すること、 加えて『引力乙女』の月ノ宮・真珠院・遠藤も見舞いへ向かうことを聞いた鬼ヶ原は自分なりの覚悟を決めてここへ来たのだ。 「それより・・・鬼ヶ原。さっ」 「あっ・・・(ゴクッ)・・・界刺様」 「ん?なんだい、嬌看?」 「お、お昼はもうお済みなんですか?一応看護師さんに説明して、界刺様のご飯はオーバーベッドテーブルに・・・」 「・・・あぁ。そういやまだだった。んじゃ、さっさと食べよっかね」 鬼ヶ原の指摘を受けて、界刺は昼食がまだだった事実を今更のように思い出す。葉原や焔火、そしてこの場の会話ですっかり頭の外へ吹っ飛んでいた。 なので、手に持つ占星術本をベッドの枕元へ置き、オーバーベッドテーブルを動かしてベッドの上で食事を摂る準備を始める界刺だったが・・・ 「フン!・・・む~」 やはり、片手しか使えない身であるために常のように細やかな準備をこなすことができない。幸い利き腕は右なために相当な支障は無い。 しかし、片手だけというのは体全体の動きにも影響する。無理に動けば、左腕から激痛が発せられる。 実際、ここへ転院する前の食事の際も結構困った。スプーン等で利き腕が塞がれるため、椀さえまともに持てないことが途轍も無く不便であった。 「界刺様。テーブルは私達が動かしますから、ベッドに早く座って下さい」 「・・・悪ィ」 「いえ。サニー先輩。真珠院さん。遠藤さん」 「「「(コクッ)」」」 見るに見かねた『引力乙女』の申し出を複雑な表情で受ける界刺は、素直にベッドへ戻る。1分後彼女達の働きによって食事の準備ができ、少年は遅めの昼食を摂り始める。 「(ズズズ)・・・・・・(パクッ)・・・・・・(モグモグ)・・・・・・」 箸・スプーン・フォークを使い分け、淡々と食事を進める界刺。だが、今回も左腕が全く使えないために時間が掛かる。 白飯を掬おうとすると椀が動くのでギプスの先で椀を止め、スープをちまちまスプーンで掬うのが面倒臭くなって右手で椀を持って汁を喉へ流し込む。 食事1つでここまでストレスを感じることは早々無い。しかも、周囲の目線が自分の食事の摂り方へ集中していることがストレス増大に拍車を掛けていた・・・そんな時。 「はい、界刺様」 「・・・・・・いいよ、嬌看。これくらい何とでも・・・」 「でも、界刺様は苛立っています。やっぱり食事は楽しくないと。そうですよね、菜水先輩?津久井浜先輩?」 「・・・ですって、津久井浜さん?」 「・・・あらあら。私達が“出遅れる”なんて。これは『食物奉行』として恥ずべきことですわ」 鬼ヶ原が白飯の入った椀を持ち、界刺の左手の代わりを申し出る。男の意地として“そういう”ことだけは彼女達へさせたく無かった少年はやんわりと断ろうとするが、 少女は自身恋する少年の拒否を遮るために『食物奉行』として常盤台中学で名を馳せる菜水と津久井浜を焚き付ける。 「菜水・・・津久井浜・・・」 「食事で顔が曇るなんてことがあったら駄目ですよ、界刺さん?この食事を作って下さった方々へ申し訳無いとは思いませんか?」 「この食事には、入院中の方々が1日も早く良くなるよう丹精が込められている。それなのに、患者である貴方がそんな曇り顔では食物そのものにも失礼では?オホホ」 「・・・・・・」 「まぁ、バカ界刺が食事のような細やかな作業に四苦八苦しているのは動かしようの無い『現実』だし、ここはあたし達が一肌脱ぐとしましょうか」 「流麗の言う通りね。界刺さん・・・これ以上の我儘は許しませんよ?」 『食物奉行』が以前と同じように食物や食事を作った者達への拘りを少年へ伝える。そこに込められた労わりも同時に少年へ。 そんな彼女達に呼応するかのように今まで沈黙を守っていた形製と水楯も己の意思を界刺へ示す。 「むむむ・・・」 「界刺得世。今この時くらいは素直に皆の世話になりなさい。皆・・・貴方をずっと心配していたのよ?」 「フィーサ様の仰る通りです。界刺殿。くれぐれも皆様のご厚意を無下には為されぬよう。遠藤。鬼ヶ原さん達と共に界刺殿をお手伝いするのです」 「はい!」 それでも男としての意地が少女達の厚意を素直に受け取ることに抵抗を示す界刺を、フィーサとマーガレットが神妙な顔付きを伴いながら諭す。 『皆』という言葉の中に自分達も入っていることは殊更強調はしない。しなくても、眼前の男にはわかっている筈だ。 「界刺さん」 「華憐・・・」 「私は今でも後悔している。あの時、あなたとあの男を出会わせてしまった私自身の行動を。だから・・・これくらいはさせて。 これくらいなら、私はあなたの足手纏いにはならないから。絶対に・・・絶対にならないから」 「・・・・・・」 『皆』の厚意を浴びる界刺の右手を掴むのは、未だ後悔をし続けている苧環その人。ぎこちない笑顔を浮かべ、唯々後悔の念を吐く少女の脳裏に思い浮かぶのはあの路地裏。 『戦場』において足手纏いと断じられた苧環は、だからこそ己にはどうすることもできない現実に歯噛みする。 彼は生き残った。喜ばしき結果だ。彼は重傷を負った。悲しい結果だ。そこに、苧環華憐の存在は関係無い。『無力』という言葉をこれ程強く実感したことはまず無い。 「・・・・・・足手纏いなんかじゃ無ぇよ」 「えっ・・・?」 だが、彼は否定する。少女に同情したからでは無い。あの殺人鬼に殺され掛けた時、走馬灯のように脳裏を駆け巡った人間の中に・・・苧環は確かに居たのだから。 「本当にヤバくなった時に・・・華憐の姿が見えた。華憐の声が聞こえた。君だけじゃ無い。涙簾ちゃんも、形製も、鈴音も、桜も、向日葵も、珊瑚も、嬌看も、遠藤ちゃんも、 フィーサも、マーガレットも、津久井浜も、菜水も他の皆も居た。皆の存在が俺を生き残らせた」 「界・・・刺さ、ん・・・!!!」 「こんな俺を好きって言ってくれた君達のためにも絶対に死ねねぇって思った。少なくとも、あの時の俺にとって君は足手纏いなんかじゃ無かったよ。 むしろ逆だ。君の・・・君達の存在があったから俺は生き残ることができた。・・・ありがとう。皆・・・本当にありがとう」 「「「「「!!!!!」」」」 苧環の手を掴み返す碧髪の少年は、自分を死地から『救い出してくれた』存在達へ頭を下げながら感謝の想いを吐露する。 自業自得の名の下に、今まで出会った『他者』の光を受けて自分は生き残ることができた。故に感謝する。何処までも感謝する。 『自分』を最優先にする男の、これが最大限の誠意。そして・・・ 「・・・ハァ。こうなったら、今くらいは君達のお世話になるか。食事はやっぱ楽しんでナンボだよな、うん。・・・まぁ、頼むよ」 根負け。この表現がきっと一番正しいのだ。少女達の厚意を無下にすることはできない。マーガレットの言う通りだ。 つまらない意地を張って、自分を心配してくれる彼女達の顔を曇らせては本末転倒である。偶にはこういうのもいい。 「わ、わかったわ!!よ~し、ならこの苧環華憐の誠心誠意を箸に込め・・・」 「ちょ、ちょっと苧環!何勝手に箸を持ってるんだ!!?バカ界刺の箸はあたしが・・・」 「鬼ヶ原さん。申し訳ありませんが、得世様のお椀はこの真珠院珊瑚が・・・」 「こ、こればかりは真珠院さんでも譲れな・・・」 「な、何だか真珠院さんと鬼ヶ原さんの視線が恐いです!!遠藤は、こんなお2人を見るのは初めて・・・」 「水楯様!そういえば、春咲様と一厘様は・・・」 「(隙を見て水のお代わりを界刺さんへ提案して・・・)春咲さん達は午後から病院へ来るみたい。159支部の人達と一緒って・・・」 「おっ!このほうれん草のおひたしおいしー。病院食もレベル高いなぁ。雪白さんも津久井浜さんもどう・・・」 「あら。では、わたくしも・・・」 「私はパスしとく。・・・この際、皆でメロンを食べるのも・・・」 「・・・・・・・・・食事が全然進まないんだけど?というか、自分で食ってた時より遅いんだけど?つーか、食事が止まってるんだけど?てか、食事が無くなっていくんだけど?」 と思いきや、何故か自分の口へ全く食物が運ばれてこない事態に界刺は唖然とする。目の前で繰り広げられる少女達の自由奔放さに目を白黒させる少年へ・・・ 「・・・プッ!まぁ、いいんじゃない?さっきまでのどんよりとした雰囲気よりはさ?ねぇ、マーガレット?」 「フッ・・・全くもってその通りかと。追敷先輩はどう思われ・・・追敷先輩?」 「(あう・・・!!鬼ヶ原が余所様と面倒を起こしてる・・・これは胃薬の出番の予感!!!でも、今日は持っていない・・・あっ、そうだ。 ここは病院。近くには薬局がある。よしっ、後で買ってこよう!!)」 笑みを浮かべているフィーサとマーガレットが声を掛け、派閥所属の後輩が友人へガン付けを行っていることに内心慌てている追敷は近くの薬局で胃薬を購入することを決断する。 その最中でもヒートアップしていく『界刺へ食事を食べさせるのは私だ』議論に、当の界刺は唯一言・・・こう漏らしたのであった。 「・・・腹減った」 「にしても、病院の真ん前で形製の名前を拝むことになるとは思わなかったぜ。確か、爺さんが会長を務めてるんだっけ?」 「うん。あれは『形製グループ』が興した病院の1つだね。精神関係に特化した形製病院と総合的な医療を施すこの病院は連携面含めて上手くやってるみたい」 「ふ~ん。・・・さっきまで気にして無かったけど、真刺と仮屋様は?皆と一緒に来てるんだろ?」 「不動さんと仮屋さんはここへ来た時にアホ界刺が居なかったから花盛支部の人が入院している部屋へ行ってる。 成瀬台が強襲された時に不動さんが直接助けた人の様子を見て来るって言ってたよ」 「そっか。・・・あぁ、そういや・・・珊瑚ちゃん。晴天達はどんな調子?怪我の具合とかさ」 「金束様達は全員完治しました。本当なら、金束様達と共にお見舞いへ・・・という予定だったのですが・・・」 「・・・?」 「『フ、フン!!アタシ達が受けた痛みを知る良い機会になったでしょーよ!!ま、まぁ命に別状が無いみたいだし!!見舞いも大勢居るみたいだし!! 別にアタシ達がわざわざ出向かなくても問題無い無い!!あの男の女ったらし振りに巻き込まれるのはゴメンだわ!!!』とか何とか・・・。 最初は見舞いへ行く気でいた銀鈴先輩、銅街先輩、鉄鞘先輩も最終的には金束様の意見に押し負けてしまって・・・何というか、金束様も妙な所で素直じゃ無いんですよね。 界刺様が重傷を負ったと聞いた瞬間4名の中で一番取り乱していたのは、他ならぬ金束様ですのに」 「・・・アイツ等にも心配掛けちまったか。珊瑚ちゃん。晴天達によろしく伝えておいてね」 「もちろんです」 騒々しい昼食も終わり、イマイチ満腹感を得られていない界刺は水楯が入れてくれた水で喉を潤しながら形製や真珠院と言葉を交わしていた。 昼食前に比べると病室内に居る人間は若干減少している。第5学区グルメ巡りへと旅立った―この病院に花盛支部の風紀委員が入院していると聞いた瞬間即座にグルメ巡り敢行を唱えた―雪白他菜水と津久井浜に、 胃薬購入のために出掛けた追敷の合わせて4名が居ない状況である。つまり・・・ここに居るのは“突っ込んだ会話を行える”メンバーなのだ。 (ちなみに、菜水と津久井浜が残した『仮屋さんに出会えたのは幸運だった』の一言が界刺の耳から離れてくれないのは彼のみぞ知る話である) 「『“当面の間は野郎が俺を狙って来ることも無くなった”』・・・この言葉の意味を教えてくれるかしら、界刺得世?」 「・・・・・・全部打ち明けるわけにもいかねぇんだ、フィーサ。だから、抽象的な説明でいいか?皆もいいかい?」 「「「「「(コクッ)」」」」」 フィーサの問い掛けを切欠に、界刺は具体的な言及は避けた上でオフレコ厳守で事情を説明していく。 「ようは、俺を殺し掛けた殺人鬼は誰かさんの手で“討たれたことになってるの”。でも、俺はあの野郎が死んだとは正直思えない。 だが、野郎も今回の件で結構傷を負っている。だから、すぐには行動を起こさないと思う。また、“討たれたことになってる”以上“表”へ早々顔を出すような真似はしねぇ。 でないと、“討ったことにした”誰かさんの面子を潰すし自分自身にとっても不都合が発生しかねない。 加えて、野郎は自分を害さない限りは仕事に無関係な人間を極力手に掛けないことを信条としている。俺に手を出したこと自体はその信条の例外らしいけどな。 でもさ、俺を殺すことを最重要に置いているんだったら俺が手術を受けてる時にでも・・・それこそここへ転院して来る時にでも襲撃を仕掛けて来ても良かった筈だ。 野郎の実力なら可能だった筈だ。それが無いってことはだ・・・俺を殺すことは仕事じゃ無いし、野郎は引き際をちゃんと心得ているってことだ。これでいいかい、フィーサ?」 「・・・つくづく面倒ね。それって、本当に“当面の間”だけの猶予期間じゃないの。もし、何らかの偶然でまた殺人鬼と出くわしたら・・・」 「んふっ。まぁ、本当に討たれているなら俺としては万々歳なわけだけど甘い楽観論に浸るわけにもいかねぇ。 ダークナイト もしばらく使えないし」 「使えない?」 「うん。俺が乱暴に使った挙句壊しちゃった。しばらくは前まで使っていた通常の警棒で何とかするしかないんだよねぇ。 そもそも、今回の件で悪目立ちした『シンボル』に目を付けた連中は他にも居るだろうし。例えばスキルアウトとかね。そういう連中への対策もしっかりしねぇと」 淀みの無い界刺の説明に潜む意味の大きさにフィーサは戦慄していた。それは、きっとこの場に居る少女達全員の共通認識だろう。 “討たれたことになってる”・・・つまりは治安組織の上層部が殺人鬼を庇っている可能性があること。 引き際をちゃんと心得ている・・・すなわち快楽のままに無計画に殺人へ手を染める者では無く最悪(さいぜん)のタイミングで行動を起こす理性ある殺人の鬼だということ。 しかも、常盤台学生寮で目にした強力な武装 ダークナイト を界刺は失ったというのだ。左腕も全く使えない。 能力そのものの行使には然程影響は無いのだろうが、それでも不安になる気持ちを少女達は抑え切れない。 「ねぇ、界刺?」 「何だ、形製?」 「もうすぐ退院するんだよね?20日の午後だっけ?今日が18日だから明後日だよね?」 「まぁね。あのカエル顔のお医者さんの辣腕が無かったら、夏休みを明けても入院生活だったかもしれねぇよな・・・ホント」 「・・・『外』に行かない?21日の朝からさ」 「・・・学園都市の『外』って意味か?」 「うん。界刺の部屋を改装してたら、君が『外』へ出掛けるために必要な事項を殆ど記入していた申請書を見付けたんだ」 「(・・・忘れてた。そういや俺の部屋って形製達に改装されたんだった・・・こりゃ退院したら速攻で部屋を確認しねぇと!!)」 真剣な表情を浮かべる形製と改装されていた事実をようやく思い出して青褪める界刺の間にあるのは、学園都市の『外』へ出掛けるために必要な申請書3枚。 能力者である界刺達学生が『外』へ外出する際には様々な手順が必要となる。これは、その内の1つなのだ。 「不動さん達とも話し合った。苧環達とも相談した。活動を休止した『シンボル』への危害を防ぐにはどうしたらいいんだろうって。その時に君の申請書を思い出した。 ようは、“初動”への対処が肝心なんだよね。この手の事柄は時間が過ぎる程に退行する。ピークの最初をどうにかやり過ごせば被害を最小限に留められる。スキルアウトとかが相手なら特に」 「・・・つっても、何処へ行くんだ?あんま遠いと申請が通るかどうか・・・」 「得世様。その点についてはご安心を。向かう先は私の別荘です。以前私の実家が学園都市のすぐ外にあることはお伝えしておりますよね。 実は私の別荘も学園都市の近辺に存在するんです。得世様の療養も兼ねて皆様と協議した結果・・・(ゴソゴソ)・・・せ~の!」 「「「「「(バサッ!!)」」」」」 「・・・!!!」 界刺の眼前へ広げられたのは、自身が書いた申請書と全く同じ様式の紙束。各紙の上部分を見ると『シンボル』メンバーの他真珠院や鬼ヶ原達の名前があった。 「これはコピーしたモノです。申請書自体は皆様既に提出されています。一厘先輩だけはまだですが・・・得世様と同じタイミングであればギリギリ何とかなるかと」 「風紀委員会の橙山先生や緑川先生に話は通してある。それでもバカ界刺含めてあたし達の申請が通るかどうか確実なことは言えないようだけど・・・」 「一応断っておくけど、私とマーガレットは所用があるから同行しないわ。まぁ、『引力乙女』の遠藤は月ノ宮達と共に申請書を出したけど」 「・・・ふむ」 真珠院や形製達の気遣いが骨身に染みる。申請そのものが通るかどうかはわからない。幾ら話を通した所で申請書を見た“上”が『No』と判断すればそれまでである。 界刺の場合は申請から外出するまでの期間が通常以上に短い。果たして上手くいくのか・・・提案側の形製達も確信を持てないようだった。 目的地欄が空白なままの申請書を凝視する界刺の言葉を少女達は唯々待つ。微妙な沈黙が室内へ充満する・・・ 『Astrological Signs 黄道十二宮ヲ守護スル星ヨ Libra Palace 彷徨ウ風ヲ乗セル天ノ秤ヲ以テ運命ヲ弄ベ 』 そんな“停滞”を無理矢理動かすかのように、遠きかの地で赤毛の少女は呪文を詠唱する。占いという名の気紛れな風を天秤へ乗せ、 “均衡”の意味を持つ『天秤宮』の性質をもって彷徨う風(うらない)と現実を釣り合わせる。ここへ魔道書『星体観測』による“ブースト”も組み合わせた結果・・・ 「ぐああああぁぁぁっっ!!!??」 「「「「「ッッッ!!!??」」」」」 激痛が界刺を襲う。激痛の発生源は少年の尻。正確には尻に刻まれた魔法陣・・・『天秤宮』を示す文字が脈動し、 “ブースト”によって生じた激痛が体中を駆け巡る少年は思わず前屈みとなり悶絶する。 「ど、どうなされました得世様!!?」 「グウウウゥゥッッ・・・!!!」 「左腕なのか、界刺!!?で、でもそんな体勢だと却って腕に負荷が掛かる!!水楯さん!!」 「えぇ!!」 突如悶絶し出した界刺へ驚愕する少女達の中でいち早く我に返った形製と水楯が、脂汗を浮かべている少年の体を優しく起こす。 前屈みだった状態に比べれば、左腕への負荷は全くと言っていい程掛かっていない筈だ。 「(こりゃ・・・位置的には『天秤宮』の魔法陣が刻まれてる箇所だな。・・・リノアナが『今』、何かしたってのか?俺が『金牛宮』を使ったからか? この激痛はリノアナに魔法陣を刻まれて以来・・・・・・『天秤宮』・・・“中立”・・・バランス・・・・・・『占いの反映』。てことは・・・・・・)」 碧髪の少年が悶絶した原因が重傷を負った左腕にあると考えている少女達とは違い、界刺は激痛の発生源が尻であること、また以前にも同じような経験があったことを踏まえ、 今回の激痛は自身へ『惑星の掟』を施した赤毛の魔術師の仕業であると推測する。『今』というタイミングで彼女が目に見える行動を起こした意味・・・ そして『占いの反映』を効果とする『天秤宮』の性質を考え・・・自分が手に持つ『外』へ出向くための申請書も合わせて思考した結果・・・彼はある1つの推論に辿り着く。 「・・・・・・形製」 「な、何!?まだ痛みが・・・」 「いや・・・それはどうでもいい。今回の申請・・・良い対策だよ。・・・乗った」 「ッッ!!そ、そう・・・。でも、本当に通るかどうかはあたしも余り自信が・・・」 「“それならきっと大丈夫だ”。おそらくだけど、この申請は通るよ。一応随行メンバーにお前等の名前も書いておけば完璧だろう」 「界刺・・・?」 「(そうなんだろう、リノアナ?今までだって君は『天秤宮』を俺へ行使していた筈。なら、君の『今』の目的は・・・きっと・・・)」 形製の怪訝な視線を無視しながら、界刺は真珠院の言われるままに目的地欄等を埋めていく。これは、きっと『科学』と『魔術』の融合(カオス)を求めた少女の招待状。 生粋の『科学』の住人である自分が『魔術』を用いた。だから、赤毛の少女は『天秤宮』を行使することで少年を導く招待状を痛みと共に送ったのだ。そう界刺は考えている。 「よし。これで完成っと。後はリンリンだけだっけ、バカ形製?」 「そうだね。一厘ももうちょっとしたらこの病院へ来るだろうし、その時に回収かな。フフッ・・・これであたしも“アレ”を試せる良い機会を得られる・・・フフッ」 「“アレ”?何だそりゃ?」 「・・・あたしの『分身人形』ってさ、『心像』を理論とした能力でしょ?だから・・・『外』へ出る機会を利用して能力強化の試行をしようかなって。 まぁ、強化って言っても部分的な弱点解消に努めるような形になるだろうけど」 形製の精神系能力『分身人形』は、五感で感じ取り意識化する『知覚心像』及び『知覚心像』を脳内にある情報で補足・判断し識別する『記憶心像』の2つの性質へ干渉する能力である。 強力な洗脳・読心能力を有する『分身人形』だが、やはり弱点というモノは存在する。 「弱点?・・・『相手と目を合わせる』ってヤツ?」 「うん。あたしの場合目視で相手を認識し、目視で相手へあたしを認識して貰わないといけない。その結果、『あたしと相手が目を合わせる』ことが能力行使の条件になってるんだよね」 「まぁ、その分と言っちゃ語弊はあるけど人形自体の力は強力だよな。1人3体まで『分身人形』を重ね掛けできるし」 『分身人形』は人形の重ね掛けが可能な能力である。形製は10体までの人形を生み出すことができるが、対象者1人に対して3体まで仕掛けることが可能だ。 無論単純に力が倍化するという都合の良い能力では無い。しかし、それなりの強化効果は存在する。 そんな『分身人形』の弱点は、やはり『形製と相手が目を合わせる』必要がある点に尽きるだろう。 「前にさ、アホ界刺の『光学装飾』の補助であたしの視力をアップさせたことがあるじゃん。これで、遠くに居る仮屋さんへ『分身人形』が仕掛けられるかってテストをさ」 「あぁ。でも、結局駄目だった。同時にバカ形製と仮屋様の視力を同時に上昇させてテストしてみたけどやっぱ駄目だった。 『自分だけの現実』の影響なんだろうけど、やっぱ“直に”相手とお前の目が合わないと駄目っぽいよな。“直に”ってのを“近い距離”って言い直してもいいけど」 「でもね・・・きっとだけど界刺限定なら・・・『今』のあたしなら努力次第でその弱点を克服できると思うんだ。 頑張り次第だけど、もしかしたら3体分消費してようやく1体分の効果が出るような形になるかもだけど」 「あん?・・・『光学装飾』で俺とお前の視力をアップさせることで俺へ『分身人形』を仕掛けるってことか?・・・でも、何で俺限定なんだ?」 「そ、それは・・・えと・・・んと・・・『心像』の特性っていうか・・・・・・」 「???」 頬を朱に染めモジモジし始めた形製の言わんとしていることが読めない。第一光学系能力者である界刺にとって精神系能力は畑違いである。 精神系能力は電気系能力や念動能力並に自由度が高い能力である。用いる理論も多種多様。ぶっちゃけ、界刺自身も『心像』のことを全て理解できているわけでは無いのだ。 「あっ・・・」 「嬌看?」 そんな中、この場における形製以外の精神系能力者鬼ヶ原嬌看だけが形製の心意に気付いた。所属する派閥長が精神系能力者であることも大きいのだろう。 名門常盤台へ通う者として、形製と同じく顔を赤くしながら大和撫子は先輩の心を少年へ向けて代弁する。 「・・・正確には『記憶心像』ですけど、形製先輩は界刺様が好きです。大好きです」 「・・・お、おぅ」 「その想いは形製先輩の心へ深く深く刻まれていると思います。外界からの影響なんて関係無い、揺らぐことの無い形製先輩の本心そのものです」 「・・・・・・お、おおぅ」 「『記憶心像』を有する『分身人形』なら、界刺様への強大な恋心を有する形製先輩なら、『光学装飾』の補助+界刺様限定で遠距離から目を合わせても『分身人形』を行使することができるようになっても不思議ではありません。 え、えぇと・・・こ、恋で『自分だけの現実』が変化した事例もあると・・・・・・う、噂で聞いたことがありま、すし」 「・・・ちなみに、その噂って俺と出会う前に聞いてたり?」 「・・・・・・はい」 「・・・・・・嬌看って、バリバリの男性恐怖症だった頃でもやっぱ“そういう”話には興味を惹かれていたんだね?」 「・・・・・・かもです」 「成程。・・・・・・何つーか、背中がムズ痒くなるな」 完璧に赤面状態な鬼ヶ原を眺めながら、界刺は形製の心意をようやく悟る。悟って、背中どころか心までムズ痒くなる感覚を覚える。 同時に彼女達の本気度もヒシヒシと感じる。『外』の話もそう、能力強化の話もそう、皆が皆『シンボル』のために・・・界刺得世のために頑張ってくれている。それが嫌でも理解できる。 「・・・・・・ありがとな」 「あたしが好きでやってるだけだから、そこまで気にしないで。界刺には色々付き合って貰うつもりだし」 「・・・・・・」 「読心はしないよ。安心して」 「そうか。・・・皆・・・・・・本当に世話になる。えーと・・・・・・まぁ、一丁よろしく。俺も俺なりに皆の厚意に応えられるように頑張るよ」 「「「「「(コクッ)」」」」」 「(少し変わったかしら?どう思う、マーガレット?)」 「(変わったというよりは、皆の本気度を感じ取ったが故に以前見せていた胡散臭さでもって相対するわけにはいかないと界刺殿自身が判断されたのでしょう。 私達を含めたこの場に居る人間の存在が界刺殿の窮地を救ったと彼自身が発言されていますしね。きっと、彼も彼で今回の件で色々思う所があるのかもしれません)」 「(そう、ね。・・・マーガレット。仮に、私達が界刺得世の窮地の場に遭遇すれば・・・)」 「(はい。この身を賭して彼をお助け申し上げます。界刺殿には五体満足で『大覇星祭』に出場して貰わなければなりませんし)」 「(・・・フフッ。まぁ、そんな場が到来しないことを今は祈ってるけど)」 10日以上前に見た雰囲気とはまた違ったモノを醸し出している界刺に目を細めるフィーサとマーガレット。 来る『大覇星祭』で彼へ借りを返す身として、界刺には五体満足で居て貰わなければ困るというモノ。 それ以上に、重傷を負った彼が落ち込んでいないかフィーサ達なりに心配していたのだから目の前の光景くらい自分達が認めた男には“生み出して貰わなければ”割りに合わない。 無意識ながらも笑みを浮かべる2人の視線の先で・・・穏やかながらも騒々しさが再び復活して来た病室内で、少年と少女達が思い思いに会話を重ねていく・・・ コンコン! そんな折に部屋の扉を叩く音が皆の耳へ届く。『光学装飾』にて誰よりも先に車椅子を操る来訪者を看破した碧髪の少年は、 これから自分が為すであろう“仕事”を再認識する。事の顛末を聞いた時からこうなることは予想が付いていた。故に驚きも無い。 ならば、為すことを為すだけ。これも、自分へ向けて熱く語った“風嵐烈女”への誠意。それを示すために、ノブを回しながら扉を開ける159支部リーダーの名を呼ぶ。 「よぉ、破輩。リンリンと鉄枷の件だろ?いいぜ。付き合うよ。リンリンから申請書を回収する“ついで”だ。旅行前の『支度』はさっさと終わらせちまおうっと」 continue…?
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/2251.html
「で、何で水楯さんと霧流寿恩をわざわざ引き合わせたんですか?」 「およっ。カガミン、寿恩ちゃんのこと知ってるの?」 「・・・ハァ。そのカガミンは、『ブラックウィザード』による成瀬台襲撃の後に水楯さんと戦うことになるかもしれないと破輩先輩から指摘されてたので・・・と言えばわかります?」 「成程。いずれ戦うことになるかもしれない涙簾ちゃんのことを調べてた時に寿恩ちゃんを知ったと」 「そういうことです」 夕方を迎えてもけたたましく鳴く蝉の音が衰える気配は無い。それはこの公園内でも同じことだったが、対峙する碧髪の少女と銀髪の少女の耳には届かない。 夏の暑さが喪失したかのような冷たい空気が両者の周囲を覆っている外で、176支部リーダー加賀美は『シンボル』のリーダー界刺の思惑について問いを投げ掛ける。 電話にて『加賀美にしか頼めないことがあるんだ』と訴えられ、残っていた仕事も放り出し、神谷達も自ら同行を申し出てこの公園に来たというのに、 当の本人からは未だ呼び出しの真意を聞けておらず、自身の瞳に映った霧流と水楯の殺気溢れる空気から自分達が厄介な面倒事に巻き込まれたと悟った。 「何処まで知ってる?」 「質問に質問で返さないで下さい。・・・・・・『書庫』に記載されている情報は一通り。水楯さんが中等部1年の時に2人組のスキルアウトに凶器で脅されながら性的暴行を受けた。 極度の混乱を起因とする水楯さんの能力暴発により襲撃したスキルアウト2人は共に死亡。2人共『置き去り』で片方は当人以外の肉親は存在せず、もう1人も妹以外の肉親は存在しなかった。 事件としては水楯さんの正当防衛が認められ水楯さんに罪が科されることは無かった。ついでと言うのは失礼かもしれませんが、 中等部3年の夏休みに死亡したスキルアウトの仲間全員・・・正確には男7人が再び水楯さんを襲撃し、彼女は最初より酷い性的暴行を受けていますね。 その時は通りすがりの少年が水楯さんを助けて去っていったと『書庫』には記述がありましたが・・・界刺さんですよね?」 「そう。アイスの食い過ぎで腹を下して、便所を探してた時に暴行現場に遭遇した。スキルアウトを全員気絶させた後にさっさと去ったのも漏れそうだったから。 仮にも女性の前で漏らすわけにはいかないでしょ?『窮地を助けて貰った少年が自分の目の前で漏らした』なんて光景、下手したら一生忘れられないよ?」 「・・・・・・・まぁ、そうですね」 加賀美の青褪めた表情を見て、彼女が『窮地を助けて貰った少年が自分の目の前で漏らした』光景を想像したことを悟る界刺は改めて当時のことを振り返る。 あの遭遇は本当に偶然だった。だが、偶然が作用しなければ水楯は性的暴行の完遂もしくは再び能力を暴発させてスキルアウトを殺傷していたかもしれなかった。 「同じ女性として、殺されたこと以外の部分でそのスキルアウト達には同情心を抱かないわ。凶器を使って、しかも集団で女性を暴行しようだなんて言語道断!!そう思うでしょ、一色?」 「鏡星先輩の言う通り!!同じ男として恥ずかしい限りです!!俺の目の前でそんなことが起きたら、命を懸けても助けてみせます!!」 鏡星と一色の表情が怒りに染まる。176支部内で水楯の過去まで詳細に調べたのは加賀美のみ。しかし、加賀美の説明だけで自分達が憤怒の感情を抱く理由には事足りる。 素敵なイケメンとの出会いを求める鏡星とこの世の女性を愛して止まない一色なら尚更水楯を襲った暴漢達の蛮行を許すことなどできない。 「加賀美先輩の話から察するに、あの霧流寿恩という女性がその殺されたスキルアウトの妹・・・ということで合ってるんですよね?」 「帝釈の言う通りよ。在籍している高校もギリギリ留年しない程度にしか通っていないみたいだけど・・・私や水楯さんと同レベルの水流操作系能力者よ。どう思う、狐月?」 「同レベル・・・!!私の見立てでは2人が戦闘になれば相当激しい戦いになります。こんなことは誰しもが容易に想像できることですが、 水楯先輩の性格と霧流寿恩が抱える憎悪も合わせると、不測の事態が起きる可能性は十分有り得るかと」 「・・・だから、加賀美先輩を呼んだのか?2人を抑える係として?」 「そっ。さすが“剣神”。【叛乱】で共闘した時から思ってたけど、戦闘に関するセンスは俺も目を瞠ってるぜ?」 「・・・どうも」 鳥羽や斑、そして神谷の話から総合的に判断すれば界刺が加賀美を呼び付けた理由は『水楯と霧流のストッパー役』に他ならない。 加賀美もここに着いてからは予測していた理由。実際に水楯と戦闘を行い、ヤンデレな性格を目の当たりにしてた手前、 正直関わり合いたく無いと考えていた水楯の『闇』だが“詐欺師”の訴えにまんまと引っ掛かってしまったようだ。 「それはいいの。風紀委員として両者の身に万が一のことが起きないように努めるのは当然のこと。あくまで、これは『同レベル同系統の能力者2人による能力実演』なんだから。 それよりも、私が気になってるのは何で水楯さんと霧流寿恩をわざわざ引き合わせのかってこと。普通なら絶対に引き合わせないよね?」 「確かに。2人が会えばどんなことになるのかこれもまた簡単に予想できること。今回は、霧流寿恩が界刺先輩を襲った・・・と“詐欺師”が法螺を吹いているんでしたっけ? 界刺先輩・・・あなたがそのことを訴えれば今すぐ霧流寿恩に任意同行をさせることもできるんですよ?」 「それじゃ駄目なんだよ、鳥羽。それじゃあ・・・駄目なんだ」 多少のムカつきこそあれ、それよりも加賀美が気になっているのは『シンボル』のリーダーとして水楯と霧流を引き合わせた界刺の判断への疑義。 次いで発言した鳥羽や他の176支部の面々も同様の思いを抱えている。水楯と霧流が出会えばどうなるか、界刺が想像できない筈が無い。 それでも敢行したのなら、そこには界刺自身の考えがあるのだ。両者を引き合わせる理由が。 「どう、駄目なんですか?」 「『中立を気取った天秤』で解決できないトコまで来てるからさ」 「『中立を気取った天秤』?何ですか、それは?」 鳥羽の再びの質問に界刺は彼特有の言葉を用いて返答する。『中立を気取った天秤』。これは、今までの経験やあのつつじ髪の少女との話が切欠となって考えるようになったモノ。 こんなことを風紀委員である彼等彼女等へ話すことは、もしかするなら適切では無いのかもしれない。 それでも、界刺は【叛乱】を乗り切った176支部の面々を信頼して告げる。そうでなければ、本当の“身内”の問題に加賀美達を巻き込んだりはしない。 「『中立を気取った天秤』・・・つまりは君達風紀委員や警備員が犯罪者をとっ捕まえて刑務所送りにする際に罪の重さを決める裁判のことさ」 殆どの音が排除された世界の中で、噴水の音だけが少女達の鼓膜に届く。冷たい空気が時間を経るにつれて一層温度を下げつつある錯覚さえ覚える。 それだけ少女達の間を流れる空気が緊迫しているのだ。互いに敵意だけでは無く殺気さえ放っている故に。 「久し振り・・・ね、霧流寿恩。あなたの顔を最後に見たのは、裁判が終結したあの日以来かしら?」 「あら。私の顔や名前なんて覚えてないかと思ってたわ・・・水楯涙簾?」 片や、碧色の長髪に険悪な視線を眼前の少女へぶつけている少女・・・水楯涙簾。 「忘れるわけ無いじゃない。私を襲った男の妹の顔を・・・私が忘れるわけ無いじゃない。それとも、あの事件共々忘れ去られていた方があなたにとっては良かったのかしら?」 「冗談を。あなたが兄さんを殺した事実を忘れ去っていたのなら・・・言葉を交わすこと無くあなたを地獄送りにしていたわ」 片や、銀色の長髪に憎悪を込めた視線を眼前の少女へぶつけている少女・・・霧流寿恩。 「殺した?・・・そうね。私はあの暴漢共をこの手で殺したわ。でも、それは能力の暴発によるもの。裁判でも正当防衛を認められた筈だけど?」 「ハッ!何が正当防衛よ!?何が能力の暴発よ!!?あなたが兄さんを殺した事実には変わりないじゃない!!」 「そう。なら、これはあなたの逆恨みということかしら?」 「逆恨みなんかじゃ無い!!これは正当な贖罪よ!!兄さんを殺した罪、妹であるこの私が必ず断罪してみせる!!!」 共に譲れぬ想いを抱える者同士、話は最初から平行線を辿る。否、最初から平行線を辿ることを両者共“望んでいる”。 そうすれば、抱く想いに余計なモノが混じることなど有り得ないから。 「断罪?あなたが?私を?」 「そうよ!!これは殺された人間の妹である私にしかできないこと!!犯されそうになった“だけ”で・・・せ、性的暴行“ごとき”で兄さんを殺害した罪が消えて堪るモンか!! “未遂”で終わったのに・・・終わったのに兄さんの人生が潰えてしまった言い訳に正当防衛が適用されて堪るモ・・・・・・!!!」 「“未遂”・・・?“だけ”・・・!!?“ごとき”・・・!!!??」 だからこそ、想いは先鋭化する。霧流は水楯の罪を強調するため、自分の復讐を正当化するために性的暴行を軽んじる。 本心では、同じ女性として水楯に同情していた霧流は同情を上回る憎悪によって尖り過ぎた意見を水楯へぶつけ・・・結果凄まじい怒りを買った。 『止めて・・・止め・・・!!!』 『騒ぐなよ?騒いだら、このナイフでテメェの首を切り裂くからよ!?ヘヘッ』 『花盛のお嬢様か・・・上玉を味わえるなんて今日の俺達はツイてるな。ギャハッ!』 霧流寿恩の兄達に凶器でもって脅され、性的暴行を受けたあの記憶が・・・ 『恐い・・・恐いよ。グスッ・・・』 裁判が終結してもずっと寮に引き篭もって外の世界へ出られなかった苦い記憶が・・・ 『わ、私のファーストキスが・・・キスが・・・ムグッ!!?ングッ!!?』 『・・・プハッ!これがお嬢様の味か!?美味ぇな、オイ!!』 『嫌・・・嫌あああぁぁ!!!』 『へへっ!お前に殺された仲間の分だ!!しっかり、俺達を楽しませろよ!!おい!!』 『わかってる!!ほらっ!!』 『な、何っ!?・・・あ、ああああああぁぁぁ!!!』 あの夏休みに再びスキルアウトの強襲を受け、7人がかりで暴力を振るわれた末に殆ど裸にされて、最初より酷い集団性的暴行を受けたあの忌まわしき記憶が水楯の脳内を駆け巡る。 霧流寿恩は言った。『犯されそうになった“だけ”で』と。『性的暴行“ごとき”』と。『“未遂”で終わったのにと』。 それは、水楯涙簾にとって絶対に許せない言葉。その上、霧流は重傷を負っている界刺を襲ったのだ。その理由を水楯は聞いていないが予想など容易く付く。 「界刺さんを襲っただけで飽き足らず、ここに来て私への罵詈雑言を吐くか・・・霧流!!!」 「ッッ!!!」 “激涙の女王”の憤怒はもはや制御不可能となる。予め触れていた噴水の一部を足掛かりに、速攻で大量の水を己の支配下に置く水楯。 彼女の怒りを表現するように、荒れに荒れまくる激流が水楯の頭上を踊る。その様を見て僅かたじろぐ霧流だったが、それでも自身の内を駆け巡る憎悪に些かの衰えも無い。 すぐにでも戦闘を行えるよう、水楯と同じく噴水の水を己の支配下に置く霧流は水楯の放つ殺気に負けじと渦巻く激情を言葉として吠える。 「罵詈雑言!?それがどうしたのよ!!?あなたは、罵詈雑言どころか自分の手で殺した人間の肉親へ一言も『謝罪』していないじゃ無い!!! そんなあなたに、私が何を言おうが勝手でしょ!?私にはあなたに罵詈雑言をぶつける権利が・・・当事者じゃ無い肉親の私にはあなたに罪を償わせる権利があるんだから!!!」 「・・・これ以上の問答に価値は無いようね。時間の無駄だわ」 「・・・・・・フフッ、そうね。最初からわかってたことよ。・・・何で、もっと早く行動を起こさなかったんだろう・・・私。そうすれば・・・フフッ・・・フフフッ」 復讐に狂う少女・・・今の霧流を称するなら“復讐姫”か。今の“激涙の女王”と“復讐姫”に和解など求められる筈も無い。 こうなれば、残るのは己の正当性を暴力にて証明するのみ。界刺得世が好まない『いわれなき暴力』によって。 「去ね、霧流!!!」 「潰れろ、水楯!!!」 始まる戦闘。激流同士がぶつかり合い、喰い合い、渦潮となる。夕暮れ時のオレンジ光が少女達の操る水を彩る。 それは、まるで血にも似た色合いを見る者達に想起させる。水楯と霧流の戦いの果てを予見する色合いを。 「『当事者じゃ無い肉親の私にはあなたに罪を償わせる権利がある』ってのは、『私が望む形であなたに罪を償わせる権利がある』だろうに。そこで第三者を気取っちゃいかねぇよな。 カガミン。同じ水流操作系として2人の戦いをどう思う?涙簾ちゃんに関しては実際に戦った時の感想や『書庫』の情報込みで」 「・・・霧流寿恩は水分子に限定して三態変化を行える能力者みたいですね。一方水楯さんは固体・液体・気体の三態操作を行えるようですが、状態変化は行使できないようです」 「その違いが戦局にどう影響する?」 「一度変化が始まったら水楯さんには変化を止める手段が無い。水楯さんは霧流の状態変化干渉に負けない状態維持が求められます。 また、状態変化により自在に水を変化させて攻撃できる霧流の水分子攻撃に水楯さんは固体なら固体、液体には液体という能力干渉を強いられることで演算負担が増します」 「それは状態変化を行う寿恩ちゃんの方にも言えることだよね?」 「はい。そもそも、水楯さんの馬力は凄まじいですからね。実際、霧流も水楯さんが操る水流の乗っ取りに手を焼いています。逆に、作った氷塊の操作を乗っ取られたりしてますし」 「確か、カガミンも固体~液体間の状態変化は行使できるんだっけ?」 「・・・ゆかり情報ですか?確かにできますけど、イマイチ使いこなせていないんで実戦投入にはまだまだ時間が掛かりそうです」 激流同士が踊り狂い、氷塊同士が激しい音を立てながら削り合う。『水流操作』における高位能力者同士の戦いに見惚れる観客達の中で界刺と加賀美は繰り広げられている戦闘を冷静に分析していた。 いざとなれば同じ系統同じ高位能力者である加賀美の『水使い』で戦闘を中断させ、水楯には界刺が、霧流には176支部の面々が風紀委員として対処する手筈となっていた。 「状態変化や触れずに操作できる範囲とかを総合すると寿恩ちゃんが一番だけど、馬力というか操作できる総水量は寿恩ちゃんより涙簾ちゃんやカガミンの方が上ということか。成程成程・・・」 「界刺先輩」 「何だい、鳥羽?」 「水楯さん達の大声で中断しましたけど、『中立を気取った天秤』や水楯さんと霧流寿恩を引き合わせた真意について説明して下さいよ。あれじゃ消化不良もいいトコです」 「・・・そうだね。それじゃちゃちゃっと説明しちゃおうか」 水楯と霧流の戦いへ注意を固定させていた界刺を鳥羽が自分達へ振り向かせる。あのまま話が終わってしまうと消化不良が過ぎる。 大体、碧髪の少年の言葉は思わせ振りなことが多いのだ。ハッキリさせる時はハッキリさせた方がスッキリするというもの。 「鳥羽。君は裁判官を“中立”だと思うかい?」 「へっ?そ、それは・・・“中立”じゃ無きゃいけない立場なんじゃないでしょうか?加害者に被害者、どちらにも肩入れせず公正公平な“中立”的立場として罪を裁く・・・」 「俺はね、罪を裁いた時点で裁判官は“中立”じゃ無くなると思うんだ。何故なら、加害者側・・・弁護側って言えばいいのかな。 それと、被害者側の検察側が提示した資料や意見を吟味した後に、裁判官は被害者側か加害者側のどちらかに“偏った”裁きを下すからだ」 “中立”。この立ち位置を【叛乱】において界刺自身目指した結果あえなく失敗した。その理由を突き詰めて考えた結果出た答えが・・・『風紀委員会に肩入れしたから』である。 無論後悔などしていないが、肩入れ―成瀬台襲撃の件―したために『闇』に利用されて『ブラックウィザード』と堂々とヤリ合う羽目になった。 「裁判官達も、職務上加害者や被害者に殊更肩入れしようとはしていないと思うんだ。鳥羽の言葉通り公正公平な“中立”的立場に立ち続けようと努力している筈なんだ。 でも、裁判を下した以上その判断は“偏る”。検察・弁護側双方が納得しなくて控訴や上告する時もあるけど、その時の裁きもおそらくどちらかには“偏っている”と俺は思う」 「加害者側の意見が認められて被害者側の求刑通りにはいかず減刑された場合は?」 「それは加害者側に裁判官が“偏った”んだ。『中立を気取った天秤』が加害者側に『秤』を傾けた結果、被害者側の『皿』が地面へ着かなかったってこと」 「『皿』が地面へ着く=求刑通りということですね?」 「そう。そして、求刑通り=被害者側に裁判官は傾いた。いや、“傾けた”か。自分の意思を『皿』に乗っけてね。風紀委員である君達に話していいことかどうかは俺も正直判断し難いね。んふっ」 「いえ。すごく参考になる意見だと思います。俺もパトロールとかで店の店員さんとお客さんが喧嘩している所へ仲裁に入ったことが何回もあるんですけど、 界刺先輩の言うようなことを考えて仲裁に入ったことは無いですね(九野先生が仰られていた奉仕活動と加害者の話に繋がりそうな気がする。覚えておこう)」 以前の“特別授業”にて“天才”九野が説いた話に通じるモノがあると鳥羽が判断した界刺の“中立”に関する見解は、ある観点においては頷ける代物である。 裁判とは人間が裁くモノだ。なら、そこに裁いた人間の意思が必ず混在する。混在させないように努めてもどうしても混ざる。人間が罪を裁くのだから。 第三者的立ち位置は所詮『的』でしか無い。本当の第三者は加害者や被害者に全く関わらない人間のことだ。それを“中立”と呼ぶかどうかは議論の余地があるだろうが。 「だからさ、『中立を気取った天秤』が傾けた(くだした)判決に納得できない寿恩ちゃんに正義の法をあれこれ言っても無駄なんだ。 “中立”じゃ無い意見を・・・涙簾ちゃん側に“偏った”正義の裁きをあの娘はどうしても納得できないんだ」 「それで、2人を引き合わせたんですか?」 「・・・このまま2人を一度も引き合わせないままにする方が危険だと思ってね。俺達の目が届く場所で少しでいいから会話する機会が必要だと考えた。 あの2人は数年以上会ってないみたいだからね。現在の気持ちとか互いにわからないじゃん?当時抱いた感情が負の方向へ増長して・・・というか悪化しているのは想像に難くない」 「でも、実際の所あの女と水楯先輩を会話させた意味ってあるのかしら?目の前の状況を見ると余計に悪化したように思えるなぁ、私」 界刺と鳥羽の会話を静かに聞いていた鏡星は、水楯と霧流の様子と激しい戦闘を見て界刺の狙いが外れていると感じる。 互いに口汚く罵り合って、挙句『いわれなき暴力』によって力尽くで相手を叩き潰そうとしているのだ。これの何処に和解できる可能性が眠っているのだろうか。 「界刺先輩・・・平静を保っているアンタの様子からして何かしらの手応えみてぇなのは掴んでるんじゃねぇのか?」 「・・・んふっ。あの殺人鬼相手に共闘したせいで俺への嗅覚が鋭くなってねぇか、神谷?」 「フン・・・別に」 他の176支部の面々も鏡星と同様の想いを抱いていたが、唯一“剣神”だけは違う考えを抱いていた。 これは殺人鬼を相手に共闘したおかげなのかもしれない。抜群の戦闘センスを誇る神谷の嗅覚が鋭さを増したのは。 「寿恩ちゃんはね、本当はちゃんとした常識を持っている娘なんだと思う。兄さん程彼女は“堕ちていない”。俺の勘ではね」 「つまり、兄が犯した罪を霧流寿恩は正しく認識していると?」 「そうだ、斑。彼女はちゃんと認識している。その上で無視をしている。これが他のことなら大事にはならないんだろうけど事が事だからね。 抱く憎悪を彼女は自分の力で整理できないんだろう。んで、本当の意味で整理できる他人は・・・涙簾ちゃんだけだろうね」 「そうは言っても、水楯先輩があの調子では。霧流寿恩の罵詈雑言が酷かったとはいえ・・・」 「涙簾ちゃんも悪いんだけどね。やっぱり、ケジメってヤツを着けないと恨み辛みは延々続く。彼女も寿恩ちゃんと同じ悪い意味でケジメ着けを無視しちゃってるのがねぇ」 「それは・・・霧流の兄を殺したことに対する?」 「そう」 複雑さを増している状況を整理するために斑と会話する界刺は水楯の問題にも言及する。霧流の抱く憎悪は理解できる。 肉親を殺されて『はいそうですか』と納得する人間が果たしてどれだけ居るのだろうか。これはそういう理屈抜きの話である。 「寿恩ちゃんの気持ちは他人事だけど理解できる。正しい・正しくないを抜きにして、肉親を殺した涙簾ちゃんを憎む気持ちが発生するのは当然だ。 逆に、涙簾ちゃんが凶器を持った暴漢に襲われたのを原因として能力が暴発してしまったことも普通に理解できる。 俺だって、自分を殺しに来る人間を何故殺しちゃいけないと考えるタイプだしさ」 「風紀委員の前でそんな物騒なことを堂々と言わないで頂きたいものですね」 「海外だと結構普通だと思うけどね。殺しに来るってことは殺される可能性があるってことを無意識にでも理解してるってことじゃん。 殺されたくなかったら殺しに来るなってこと。まぁ、余計な話は横に置いといて。涙簾ちゃんと寿恩ちゃんに必要なのはケジメなんだよ。 『未来永劫許せるわけ無いけど、それでもケジメを着けたのだからその“線引き”を踏み越えたりしない』という“納得”が。 きっと寿恩ちゃんは兄貴を殺した涙簾ちゃんを一生許さないだろうし、涙簾ちゃんは自分を襲った寿恩ちゃんの兄貴を一生許さないだろう。それは、例え相手を殺してもね。 寿恩ちゃんや涙簾ちゃんの抱く恨みは一生晴れることは無いと思うよ。『復讐を果たす』ってのはある種のケジメ着けであって、憎悪を晴らす絶対の手段じゃ無いんじゃねぇかな」 物騒な持論を交えつつ、界刺は遠い目をしながら碧髪の少女と銀髪の少女の行く末を案じて止まない。あの2人に必要なのはケジメを着けることだ。 そして、それに必要なことを寿恩も水楯も為さなければならない。そうしなければ、憎しみの増長が延々と続くだけ。 憎悪が断ち切られることはおそらく無い。だが、それでもあの2人ならケジメを着けられる可能性がある。 本当は正しい判断を下せる霧流寿恩なら。“特別”な少女水楯涙簾には界刺自身が働き掛けることによって。 その過程が例え血みどろになろうとも、行き着く結果が最悪へ足を踏み入れない地点に踏み止まる程度には。 「界刺さん!」 「カガミン!?」 「いよいよヤバくなって来たと思います!もしもの時は界刺さんも手伝って下さいよ!?」 「あぁ。・・・悪いな、面倒事に巻き込んじまって」 「界刺さんの気持ちは痛い程わかります!私も・・・色んな行き違いがあって双真を・・・彼を死なせちゃいました。 だから、あんなことはもう二度と起こしたく無いんです!それが見ず知らずの他人でも!そのためなら、私は“中立”じゃ無くてもいいです! 私は私の我儘で・・・防げる最悪の悲劇を防いでみせます!!頼れる仲間と共に!!」 「加賀美・・・」 「双真の件があるから霧流の気持ちもわかる気がします!!緋花の件があるから水楯さんの気持ちもわかる気がします!! きっと、この問題は早々解決するようなモンじゃ無いでしょう!!だからこれからも私を頼って下さいね、界刺さん?男だとわからないモノもあるでしょうし!!」 「・・・サンキュ」 「どういたしまして!!稜!!皆も!!いいわね!!?」 「「「「「了解!!!」」」」」 同じリーダーとして、男性ではどうしても理解が及ばないことがあるだろう水楯と霧流の問題のアドバイス係として加賀美は自ら名乗り出る。 以前とは逆の立場になったような気分だが、それはそれで悪くない。彼も苦悩している筈なのだ。それなら、同じリーダーとして苦悩を分かち合う。 現に、【叛乱】では加賀美自身の苦悩の何割かを界刺に背負って貰った。今度は自分の番だ。否、自分『達』の番だ。 二度と最悪の悲劇を起こさせたくないのは部下である神谷達も同じである。色んなモノを背負うリーダーの苦悩や責任を部下が背負わずして誰が背負うのか。 そんな決意を示す神谷達を眺めてリーダー達は微かに笑った後に、いよいよ緊迫の度を増した戦局へ視線を移す。そこには、所々から血を流している少女2人の姿があった。 「(フフッ・・・フフフッッ!!これで良いんだ。これで良い!!!もっと・・・もっと私に怒りをぶつけて来なさい、水楯!!!)」 鋼鉄をも切断するウォーターカッターがぶつかり合い、勢いを付けた激流の衝突で生じた轟音が周囲へ響き渡る。 血を流しながらも、攻める手を緩めることは互いに無い。狙うは敵を完膚無きまでに殲滅すること。 大規模な水流操作を為している水楯と霧流は、湧き上がる殺意のままに今や相手を殺すつもりで攻撃を繰り出していた。 「(そうすれば、私は余計な雑念に囚われずに済む!!抱く憎悪のままに、あなたへの復讐を成し遂げることができる!!)」 “激涙の女王”から迸る殺意を受けながら“復讐姫”は邪な愉悦に顔を歪める。仇が目の前に居る。それだけで十分。それだけで・・・迷わずに居られる。 ガチン!!! ズオオオオオ!!! 『水流操作』によって界刺戦より巨大な氷塊を作り上げる霧流に対抗するかのように、『粘水操作』によって操る激流を圧縮する水楯。 巨大な氷塊による突貫と圧縮から解放した水流。どちらも人の命を奪うには十分過ぎる代物。最早殺し合いである。 そして、今の2人は殺し合いを肯定する。復讐のために憎悪を燃やす銀髪少女と生命に対する意識が希薄な碧髪少女は、この一撃にて勝負を決める腹積もりなのだ。 束の間の静止は、やはり束の間にて終わる。『この一撃で復讐を果たす』・・・『この一撃で因縁を断ち切る』・・・共通するのは相手の『死』。放たれる合図は・・・ 「去ねええええええぇぇぇぇっっっ!!!!!」 「潰れろおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!!!」 譲らぬ意思の限りを込めた咆哮。この只ならぬ状況に観戦していた界刺や加賀美達が行動を起こそうとした・・・次の瞬間!!! ビュン!!! すなわち、圧縮から解放された水流と巨大な氷塊が雌雄を決しようと特攻した瞬間、遠方から“何か”が凄まじい勢いで飛来して来る。 しかも、“ソレ”の到着予定ポイントはよりにもよって水流と氷塊の衝突地点。頭に血が上っている水楯・霧流共に咄嗟の能力制御どころか接近中の“ソレ”に気付いておらず、 立会人である界刺や176支部の風紀委員達も虚を突かれた“何か”・・・金髪を靡かせる男は自分を襲う凶器達へ不敵な笑みを浮かべながら催される宴の場所取りを敢行する。 「『祭り』の会場一番乗りいいいいいいいぃぃぃぃっっっ!!!!!」 バキバキバキ!!!!! ズザザザザザ!!!!! ドオォォンン!!!ドオォォンン!!!ドオォォンン!!! 男が“何も持たない”右腕を振るった。それだけで氷塊がいとも簡単に削り取られ、鬩ぎ合う窒素の鞭によって粉々に磨り潰される。 ほぼ同時期に男が何も持たない左手の指でもってパチンと音を鳴らす。それだけで水流がいとも容易く勢いを削がれ、乱舞する窒素の鞭によってズタズタに断ち切られる。 突然の事態に混乱しかけるもすぐに体勢を立て直そうとした水楯と霧流だったが、突如発生した幾つもの窒素爆発にて支配下に置いていた水・氷・水蒸気が四方八方へ吹き飛ばされる。 鼓膜を叩く轟音が如実に表すのは、不意打ち故に能力統御が緩んでしまったとはいえ水楯と霧流が本気で放った攻撃が飛来して来た男の仕業によって瞬く間に潰されたこと。 仕業という曖昧な表現を使った理由は、傍目にはどんな能力が用いられたかがわからなかったから。 唯一わかるのは、爆風及び飛来速度を“意図的に”緩和しながら着地した男が高位能力者である可能性が極めて高いこと。 「ワォッ!!!な~んか面白そうな火種が転がってるみてぇだが、まぁ今回は新規の火種より絶賛燃焼中の火種を大火にする方が先決先決♪ 悪ぃ!今からここは俺達の『祭り』の会場になるんでな、ちょいと場所を空けて貰うぜカワイ子ちゃん達? 何なら、これから俺達と一杯やるかい?肴もタンマリあるぜ?美少女の飛び入り参加大歓迎イエエェェェィィィイイイイイ!!!!!」 その男・・・無色透明な窒素を鞭状にして自在に操る『窒素鞭撻』という能力によって霧流の氷塊へ即座に鞭を巻き付けて握り潰し、 水楯の水流に対して巻き付けた氷塊から伸びる鞭をグルグルと一筆書きで円を描くような渦状にして激流の勢いを相殺した後に分断、 駄目押しとして氷塊や水流付近に存在するひも部分の能力制御をわざと解除することによって幾つもの窒素爆発を引き起こし反撃の芽を摘む。 一歩間違えれば自身の命も危うくした綱を自身に巻き付けた鞭による窒素制御によって渡り切り、結果として想像以上の派手な演出を行うことに成功した金髪老け顔男は、 目に映らぬ鞭を持つ右手を天空へ掲げ、ハイテンションな勢いのまま眼前に居る困惑真っ最中の少女2人を宴へ誘う。彼女達の困惑など男が気にすることは無い。 そんなモノは『祭り』を楽しむことに比べたら遥かに優先順位の低い代物である。少なくとも国鳥ヶ原学園のスクールカーストの頂点に立つ“酔狂人”・・・、 あの風輪縁暫が噂に聞く長月学園に君臨する四天王よりは『御し易い』とこれまた耳に入る情報にて評価する―但し、“酔狂人”を現場にてよく知る教師陣の評価は揃って 『国鳥ヶ原No.1の秀才且つ国鳥ヶ原No.1の手に負えない酔狂人間』―“酔いどれ陶然”の通り名を持つ深酔陶然(ふかしよ とうぜん)にとっては。 「はぁ・・・はぁっ・・・ハァハァ・・・はぁーっはぁーっ・・・・・・・・・っあぁ!!陶然は相変わらず派手な演出が好きデスネ~」 「ンハッ・・・ンハァ・・・ハァン・・・・・・・・・ムフゥ!!!陶然ちャんの夢は、もしや大スターか何かなんでしョうかね?ムフウゥゥ!!!」 「おっ!早速ナンパを仕掛けたか、陶然先輩!いいよいいよ~、その調子でカワイ子ちゃん達の3サイズを見極める時間を稼いでくれ~。ふふふ」 「『どうせ毎度の如くフラれるし』って言葉が抜けてるぜ、“エロ鉄仮面”?しっかしまぁ、陶然アニキも飽きずによくやるよな。 この俺が認めたアンタがあんな才能の無駄遣いに精を出して・・・フッ、『中等部時代に半殺しにした当時無能力者だったアンタに最後は認めさせられた』俺がとやかく言えることじゃ無ぇな」 「陶然君のスクールカースト・・・あっ、これは“蔑称”だ。正式名称『能力奨学 グラントエスティメイト 』の基礎は・・・陶然君が築いたものだからね。自分達は彼に負けないよう、もしくは真似て作ったり無自覚で作ってたり・・・。 だから・・・最終的にこうやって陶然君へ『集った』。自分も・・・こうやって親しい人達相手なら普通に話すことができるようになっ・・・・・・たし。 そもそも、陶然君はMなんだよ。いや、自分をドシドシ日中に連れ出すくらい・・・だからSでもあるね。SとMの両方を兼ね備えた“酔狂人”・・・か。彼らしい」 「あぁいう時の陶然さんが一番輝いてるって。『才能に囚われず』自由に生きるってことをあの人は体現してやがる。 スクールカーストなんてモンの頂点に居ながら才能に囚われてねぇ。でなきゃ、俺が能力使って『格好良く飛来する』演出に協力するわけ無ぇよ」 界刺や霧流達の視線がある方向に釘付けとなる。深酔の後に続く集団が3組あるのだ。その内の1組を一言で表すのなら“イロモノ変人軍団”であろうか。台詞を発した順に見ていこう。 アメカジ系ファッションで統一する深酔のクラスメイトの名はマックス・ヘッドルーム。彼はホモである。 汗で夏場は常にビショビショに濡れている坊主頭の名は保毛槍厳(ほもう そうげん)。彼はマックスのおホモ達もといお友達である。 ピッチリしたゴムのような材質のスーツを服の下に着用し、目の部分にレンズのついたゴム状のマスクを身に付けるため顔が全く分からない“エロ鉄仮面”の名は黄ヶ崎義清(おうがさき のりきよ)。彼は変態である。 痩躯長身で、舌なめずりが癖な薄気味悪いロン毛の名は石舛啄木(いしま たくぼく)。彼は基本的に嫉妬深い自己中人間である。 過去の能力研究にて起きた暴走によって直接日光を浴びることができないために日傘を差している男(女?)の名は桐旗敬寿(きりはた けいじゅ)。彼(彼女?)は“学園の腫れ物”と称されている。 鋭い目付きのために小さな子供によく泣かれるガラの悪い“不良”の名は加見坂鋼牙(かみさか こうが)。彼は誰かに従うのを好まず、つまらない規則に縛られたくない自由人である。 さて、ご理解頂けたであろうか。一見では“イロモノ変人軍団”と判断されてしまうことに疑いの余地は無い。 各個人の個性が豊か過ぎてとても纏まっていられるとは思えない・・・筈なのだが、そんな彼等の友として“酔いどれ陶然”は皆を纏めている。 無論彼等だけでは無く、普通の一般学生や何処ぞの大型スキルアウトのメンバーも彼を慕っていたりする。 「何であたしは毎度毎度このヘンテコリンなお祭りに参加してるのかしら?恩義ならもう十分返したと思うんだけど・・・まっ、いいか。おいしそうに食べて貰えるのは嬉しいしね」 「付き合わされるこっちの身にもなってよね、“浮気(うわき)姫”?」 「だ・れ・が“浮気姫”ですってぇ~!?“レ・ン・コ・ン”の妄想癖が生み出した架空の人物かしら?」 「だ・れ・が“レンコン”ですってぇ~!?」 「・・・・・・また始まった。瑠璃姫と恋呼のつまらない喧嘩が」 「まぁまぁ。2人共落ち着いて。吊橋。一応は俺達の自主的な活動なんだから、その点は自覚しておくんだ。発川。別部署だけど、国鳥ヶ原に通う先輩としてお前からも何か言って・・・」 「銅街ちゃんは虫が好きなのか!!?そ、それなら俺の『操虫曲芸』でいくらでも虫を集めてやれるぜ!?(と、とと、常盤台のお嬢様とお近付きになれるチャンスを棒に振るモンか!!!)」 「ホンマかいな!!?あぁ~!!ワイ今日虫かご持って来てないっちゅーねん!!」 「風紀委員の腕章を付けたまま堂々とナンパしてんじゃ無ぇよ!!さっきも言っただろうが!!」 「林檎さん。今日の銅街さんは関西弁ですが、普段は九州弁が多いん・・・」 「あれは・・・お兄さん!?何でここに居るんだろう?桜姉ちゃんの話だともう少し入院してなきゃいけなかった筈だけど」 「・・・希雨。アタシ、急に目がおかしくなった。あそこに見覚えのある碧髪の男が居るんだけど・・・!!」 「・・・晴ちゃん。私にも見えてるよ。不動先輩・・・?」 「得世め。私達に何も告げずに何処へ行ったのかと思えば・・・水楯と共に何をしている!?アイツ、一応病人だろうが!」 「あれがお前の親友か、不動?」 「・・・そうだ、柳生」 「ふむ。・・・近くに居るのは176支部の風紀委員か?例の一件で相当忙しいと耳にしていたが案外余裕がありそうだな」 “イロモノ変人軍団”の隣を歩く集団を一言で表すのなら“比較的真面目っぽいグループ”であろうか。 先頭を歩くのは深酔の『祭り』における料理係としてよく参加している暗青色のポニーテール少女浮気瑠璃姫(うえき るりひめ)と、彼女の友達である吊橋恋呼と羽千刃最乃。 吊橋は深酔の同行を観察する国鳥ヶ原支部所属風紀委員として、羽千刃は浮気の食事目当てにこの場に居る。また、吊橋の付き添いとして国鳥ヶ原支部の先輩風紀委員添垣誠護(そえがき せいご)と、 添垣の同級生で『風紀委員【特別部隊】』より前に治安維持強化活動の一環として試験的に設置された支部・・・通称『EOH』と呼ばれる風紀委員170支部所属風紀委員発川鈴路(はつがわ れいじ)が同行している。 当初は浮気・吊橋・羽千刃・添垣・発川の5人だけだったのだが、途中で添垣と発川にとって顔馴染みの男達―不動真刺と風紀委員175支部所属風紀委員柳生喚瞑(やぎゅう かんめい)―と出会い、 不動に『朝練参加の正式な許可を貰う』ことを言い訳に碧髪の少年の様子を尋ねに来て空振りに終わった金束晴天、銀鈴希雨、銅街世津、鉄鞘月代の“常盤台バカルテット”を目にした発川が、 『君達常盤台生だよね!?何たる幸運!!これからあの金髪老け顔野郎主催の『祭り』があるんだけど一緒にどう!?不動達も一緒にさ!?』などと興奮気味に勧誘(ナンパ)した結果、こうして肩を並べて歩いているというわけである。 ここでクエッション。今の話の流れで春咲林檎が何故ここに居るのか、また不動の傍に柳生が居た理由が明かされていない。 両者には一見共通する部分は見受けられないかもしれない。だが、実はある1点においてのみ林檎と柳生には共通する部分があるのだ。 その全てを詳らかにするには・・・3つある集団における最後の1組について語らなければなるまい。 「こんな所で“闘食の王者 キングフーディスト ”と直接対決できるとハ!!ダハハハハハハ!!!よ~し、鍛錬で思いっ切り腹を空かすゾ!!!エンペラー!!」 「日差しが弱まって来た今こそ筋トレには最適な時間帯!!萬代・・・今日も目一杯青春の汗を流そうぜ?エンペラー!!」 「おうとも!!蚊取り線香の準備はバッチリだ、吾味!!これで思う存分肉体を鍛えられるな!!エンペラー!!」 「僕は病み上がりだから軽い筋トレに止めておくよ。皆、頑張って。緑川師!!」 「落ち込むな、勇路よ!貴殿の分は我輩の鍛錬分に上乗せしておく!!緑川師範!!」 「うむ!!!この“筋肉の覇王 マッスルエンペラー ”緑川強、お前達の熱き想いを確と受け取ったぞ!!本日は他にも柳生や『シンボル』の不動達、 それに勇路の頼みで『大きくなりたい』という願望を持つ春咲林檎という少女の参加も予定されている!!『筋肉探求』も新たな時代へと突入した!! さぁ、拳を掲げよ!!脚を奮い立たせ!!筋肉を愛し尽くせ!!鍛錬によって交わされる肉体言語に耳を澄ませ!!締めには“酔いどれ陶然”主催の大宴会が待っているぞ!! では、間も無く到着する所定の場所に着き次第『筋肉探求』を開催する!!!皆の者!!その前に筋肉を暮れ行く夕日へ晒すのだ!!!」 「「「「「エンペラー!!!エンペラー!!!おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」」」」」 “イロモノ変人軍団”と“比較的真面目っぽいグループ”の後ろを歩く集団を一言で表すのなら“筋肉鍛錬バカ集団”であろうか。 暗部で発生された事件を迅速に揉み消すことを主目的にしている幻の警備員集団『COU』所属の警備員マイケル=ヘブンリー、 何かと騒がしい風輪学園にて運動部部長を務める吾味真吾(ごみ しんご)と萬代超流(ばんだい こえる)、成瀬台支部所属の風紀委員である勇路映護と寒村赤燈、 そして筋肉版の青空教室『筋肉探求』を主催する警備員(予備役)緑川強が所定の場所へ到着する前に上半身裸となって汗の滴る筋肉を夕日へ晒す。 「ハハハハハ!!元気良いなぁ、筋肉共!!そのノリ好きだぜ、俺ぁ。観客もまた増えたし、燃えてくるよな燃え滾ってくるよな!!だが、極上の銘は誰にも譲らねぇ!! 宴の華、『ノンアルコール飲料どれが一番うまいかな?サマーフェスティバル』の優勝杯はこの国鳥ヶ原のスーパースター(自称)深酔陶然が頂くぜヤッハー!!!」 2大“変人集団”が去って比較的落ち着いたかと思った後に襲来した『客人』達・・・懐からマイクを取り出し、満面の笑みを浮かべながら吠えに吠える“酔いどれ”を筆頭に、 “イロモノ変人軍団”・“比較的真面目っぽいグループ”・“筋肉鍛錬バカ集団”がシリアスに染まっていた場の空気をブチ壊しにかかる。 意外も甚だしい展開、予想などできる筈も無い『団体客』の強襲に水楯や176支部の面々が狼狽する中、 『獣耳衆』と十二人委員会によって既に物凄く毒されている界刺と霧流は、今度は心中で無く―もはや心の中に抑えられなくなった―言葉として力の限り絶叫する。 「「何か、超面倒臭そうな連中キタアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!!」」 continue…?
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/959.html
「遅いぞ、焔火!何を手間取っている!?」 「す、すみません!も、もう少し!」 「全く。これだから落ちこぼれは・・・。少し顔を洗ってくる。それまでに済ませろ!」 「(今日も今日とて・・・)」 「(固地先輩。・・・。絶好調だね)」 ここは、[対『ブラックウィザード』風紀委員会]が設置された成瀬台高校では無く、近頃評判の焼肉屋『根焼』の裏手である。 風紀委員第178支部の面々は、『根焼』の店長の厚意により建物内の一室を借りて、着替えを行っていたのである。 「お、お待たせしました!!」 「・・・!!」 「綺麗・・・!!」 今日から固地の指導を受けることになった176支部の焔火が、一番最後に裏口から姿を現す。 今彼女が着用しているのは、薄緑色の花柄付きワンピース。色付きのサングラスを掛け、麦藁帽子を被り、ショルダーバッグを持つ焔火に真面と殻衣は思わず目を奪われる。 「そ、そうかな?私の普段の私服って短パンとか半袖とか動きやすさ重視だから、こういうのは着慣れてないんだけど・・・」 「す、すっげぇ似合ってるよ・・・。な、なぁ、殻衣ちゃん?」 「う、うん。・・・。焔火さんて背も高いし、スタイルいいし。・・・。綺麗だよ」 「あ、ありがとう・・・。な、何か照れくさいね///」 真面と殻衣から褒められ、焔火は照れてしまう。合同捜査初日ということもあって、今日は皆気合が入っている。 本来ならば、焔火は176支部の面々と行動を共にする筈だったのだが、 昨日の固地と加賀美の話し合いにて『債鬼君のやり方に早く慣れた方がいい』という加賀美の意見もあり、 今日から数日間は固地達178支部の面々と行動を共にすることになっている。 「それに引き換え・・・俺は・・・。何時もしているコンタクトが恋しいぜ」 「私も。・・・。コンタクトって苦手。・・・。この系統の服って、今まで着たこと無かったし」 「えっ?えっ?な、何で落ち込んでるの?」 焔火の姿に落ち込む真面と殻衣。真面の今の服装はというと、英語がプリントされた青系統の半袖にジーンズを履き、鍔付きの帽子を被っている。 これ自体はまだいいのだが、固地の指示により何時もしているコンタクトレンズの代わりに、太い黒縁+牛乳瓶の底のような度がキツそうな眼鏡を掛けているのだ。 一方、殻衣は白系統のレース入りブラウスにデニムパンツ、何時もは三つ編みに束ねている髪はストレートに、掛けている眼鏡の代わりにコンタクトレンズをしている。 焔火を含めた3人は、普段醸し出している雰囲気からは予想できない程見た目がガラリと変わっている。 「か、殻衣っちのその姿も似合っていると思うよ!わ、私もそういう服装の方が好きだなあ・・・。真面は・・・その・・・あれだけど・・・」 「や、やっぱりー!!この眼鏡か!?この眼鏡のせいかー!!?」 「そ、そう?・・・。今度からこっち系も着てみようかな?」 「おい・・・何時まで無駄口を叩いている?これから仕事だぞ?」 そんな所に、178支部に君臨する“風紀委員の『悪鬼』”こと固地が、『根焼』の裏手にある水場から戻って来た。 ちなみに、彼の服装は上下共に臙脂色のジャージにハンチング帽という出で立ちであった。 「固地先輩・・・。意外に、私服のセンスが悪いですね。それ・・・悪い意味で浮きません?」 「別に構わない。悪い意味だろうが良い意味だろうが、普段とは違う雰囲気を出していればそれでいい。 尾行任務に就いているわけじゃ無いしな。ククッ。尾行か・・・面白い(ボソッ)」 「えっ?」 「いや・・・何でも無い」 焔火の言葉を軽く受け流し、固地は本題に入る。ちなみに、同支部の秋雪は固地の判断で成瀬台に居残って事務作業をしている。 「これから捜査任務を開始する。とりあえず、178支部(ウチ)の管轄範囲及びその近辺をもう一度徹底的に洗い直す。 本当ならば捜査範囲をもっと拡大させたいが、何せ176支部から落ちこぼれが参加しているからな。余計な真似をしないとも限らん」 固地の言葉に真面と殻衣は顔を引きつらせるが、焔火は顔色を変えない。自分は落ちこぼれ。そう認識しているからこそ、自分はここに居る。固地の指導を受けにここに居る。 「今日の俺達の設定は絵画クラブだ。昨日言った通り、全員ペンと小型のスケッチブックは持って来たか?」 「「「はい!」」」 「よし。今日は夏休み初日。クラブ活動の一環として、絵画クラブが学園都市に繰り出すのはおかしいことじゃ無い。 今回俺達が着ている服装も、その一環だ。何時もの制服ないし意外でも何でも無い服装では、俺達が風紀委員だとわかってしまう可能性も高くなる。 人の雰囲気を感じ取る嗅覚を鈍らせるためにも、変装は有効だ。学園都市という科学の総本山でもな。 そのために、風紀委員の腕章も付けていない。真面!あれはできているな!?」 「は、はい!」 真面が、ナップサックからリングで纏めたカードの束を出す。それに記載されているのは・・・ある単語とある時刻。 それが、1枚のカードに10組、それ等が束になっているリングは幾つもある。ある地点からは、カードの色も違っていた。その色の種類は・・・23種類。 「これは・・・?」 「焔火!これが何なのか、そして今回の捜査任務においてどういう意味を持つのか答えてみろ!」 「えっ!?」 固地からの問い。これは、唯の問いじゃ無い。自分を試している。そう瞬間的に判断した焔火は、目の前のカードの束に思考を集中させる。 「(これは・・・駅名?だとすると・・・バス?電車?・・・・・・これが意味すること・・・今回の任務に関係している・・・・・・)」 そして1分後、考えを纏めた焔火は固地の問いに答える。 「これは・・・バスの時刻表ですね。カードに記載されている時刻の1つに、私が使用する通学バスのものがありました。 そして、これが意味するのは・・・“時間外”・・・ですね?」 焔火は、固地の回答を待つ。この答えが本当に合っているのか、もし違っていたら・・・そんな心中渦巻く感情の荒波に押されながらも、焔火は待つ。 「フッ・・・」 そして、固地は笑みと共に口を開く。 「その通りだ。まぁ、正確には『該当する停車駅にバスが寄る最終時刻』だがな。これからは、各学校も休みになる。そのために、バスの運行ダイヤも変更されている。 加えて、夜間においては塾に通う生徒のために、夏休みながらも臨時バスが多く出ている。 つまり、昨日までのダイヤとは大幅に変更されているということだ」 「・・・はい」 「そして、このダイヤ変更で最も注意しなければならないのは営業時間外、つまり営業時間が終了した後だ。 違法ドラッグのようなものが一般の人間、ここでの人間とは俺達学生に限るが、秘かに流通している場合、それを手に入れる時間帯というのはやはり夜間が多いだろう」 「スキルアウトの主な活動時間帯は夜。・・・。それは、夏休みに入っても変わらない」 「昼間と夜間。どっちがバレにくいって言えば、やっぱり夜間だよな。人間の心情的にも」 「しかも、『ブラックウィザード』は私達の捜査の網を悉く掻い潜っている。一般人が寝静まる夜間・・・それも深夜帯に活動している可能性が高い」 固地の言葉を受けて、殻衣、真面、焔火が意見を出し合う。その議論に、固地は更なる追加材料を与える。 「まぁ、そんなことは管轄で実際の被害が出た花盛支部もわかっている。彼女達も、風紀委員の活動時間外である深夜帯に秘かに動いていたようだが・・・結果は芳しく無い。 これ等のことから、『ブラックウィザード』には透視系能力者のような周囲の状況を観察できる奴が居る可能性がある。だが、これも何時まで持つか・・・ククッ」 「ど、どういうことですか?」 焔火が、笑い声を発した固地に怪訝な視線を向ける。その視線に、禍々しい目を見開いて答える固地。 「これからは、ドラッグの氾濫速度は増す。それは、つまり俺達学生に更なる被害が及ぶということだ。出回っているドラッグは、中毒性が高い代物であることは知ってるな? 当然、ドラッグが無くなればそれを求めて中毒者は『ブラックウィザード』と接触を図る。何せ、薬物の禁断症状というのは相当なものだからな。 中毒者は、絶対にドラッグを求めて動く。そして・・・その中毒者は一般人だ」 固地が何を言わんとしているか。焔火は、その意味を徐々に理解し始める。 「一般人に、俺達風紀委員の捜査を掻い潜れる能力等有りはしない。 このドラッグの中毒者の大半は無能力者かレベルの低い能力者と推測できる以上、能力による妨害もそれ程大きくは無い。 焔火!人間が、この手のドラッグを求める理由は何だと思う?」 「・・・今回でしたら“レベルが上がる”という謳い文句に釣られたり・・・単純に好奇心で・・・とかですか?」 「それもある。他には、ストレスとかもあるか。フッ、周囲の人間より能力に劣っていたり、学校や塾の成績がすこぶる悪い学生達のストレスは、さぞ激しいものだろうな」 「・・・固地先輩・・・!!まさか・・・!!」 理解が進むにつれ・・・焔火は固地の狙いを看破する。 「一学期も終わり、夏休みという開放感溢れる時期に突入した学生は様々なものに手を出しやすくなる。 それは、夏休みに入って尚塾等で勉学に励む学生も同様に。中には夜遅くまで塾で勉強している人間も居る。碌に遊べず、ストレスを解消できない学生が。 そして、塾帰りに帰宅用のバスに乗らずに・・・どこかで耳にした開放感を感じられるドラッグを手に入れようとする輩も、もしかしたらいるかもしれない。 そうなれば・・・こちらにとってはチャンスだ。規模が拡大するということは、それに応じたリスクを抱え込むことになる」 「・・・それまでは、違法ドラッグの氾濫を黙認すると言いたいんですか・・・!!?」 「俺としても、事件解決は早い方がいいに決まっている。だが、現時点では事件解決への道程は厳しいと言わざるを得ない。 何せ、奴等の情報を俺達は殆ど掴めていないからな。だったら・・・その情報を掴める可能性が高い方法を俺は採る。それだけの話だ」 「・・・ッッ!!」 焔火は、思わず歯噛みする。固地の言う方法は確かに有効性が高い。だが、それまでにドラッグによる被害者は多く出る可能性もまた高い。 非情な作戦。焔火はそう判断し、固地を反発の意を込めた視線で睨み付けてしまう。 「・・・何だ、その目付きは。奴隷の分際で、よく主人に刃向かう気概があるな、“風紀委員もどき”」 「・・・!!」 「俺のやり方があくどいことは、お前も噂程度なら知っていた筈だ。気に入らないなら、さっさと立ち去れ。俺のやり方に異を唱える奴隷等、お払い箱だ。俺は要らない。 176支部(もとのばしょ)に戻って、加賀美(もとのしゅじん)にでも慰めてもらうんだな。フッ、落ちこぼれらしい顛末だ。ハーハハハッ!!」 「ッッッ!!!」 「(固地先輩・・・)」 「(ホントに性格悪い・・・)」 固地の言葉が、焔火の心を抉る。この男は、まだ自分のことをこれっぽちも認めていない。自分はまだ、スタートラインに立っただけ。少なくとも固地にとっては。 ここでおめおめと退散するということは、スタートすらしないまま元の場所に戻るということと同じ。 それでは・・・自分がここに居る意味が無い。土下座してまで希った自分の覚悟が、霧散してしまう。それだけは・・・絶対に駄目だ。 「・・わかりました」 「ん?何か言ったか、奴隷?」 自分はまだ・・・何もこの男から学べていない。この男の信念を見定めることもできていない。 「固地先輩の言う通りにします。確かに、先輩の方法は事件解決の手掛かりを掴める可能性が高い。 私は・・・固地先輩の指示に従います。出過ぎた真似をしてすみませんでした」 「焔火ちゃん・・・!!」 「焔火さん・・・!!」 焔火は、固地に謝罪すると共に頭を下げる。真面と殻衣が息を飲む中、固地は愉快そうに言葉を放つ。 「フッ・・・。最初からそういう態度でいればいいんだ。そもそも、俺に指導を懇願したのはお前なんだからな。それなりの態度というものがあるだろう? 昨日も言ったが、俺は見限ると判断した時はすぐに最後通牒をお前に下す。風紀委員失格という烙印付きでな。異論は認めない。わかったか、奴隷?」 「・・・はい。本当にすみませんでした」 「・・・もういい。頭を上げろ。いい加減、見苦しくなってきた。お前如きに時間を費やす暇は無い」 「・・・はい」 頭を下げ続ける焔火を促し、固地は本題話を再開する。 「このカードの束は、23学区全ての駅名及びバスが立ち寄る終着時刻が記載されている。この時間を過ぎても出歩いている奴は・・・」 「怪しいですね。スキルアウトか、それとも・・・」 「ドラッグを手に入れるために出歩いてる一般人。・・・。ですね?」 「その可能性は十分にある。風紀委員会としては、今まで被害が報告されている人間の活動範囲を重点的に調べる方向だが、 俺達はまず自分達のテリトリーから調べて行く。その方が効率的だからな。思わぬ結果に結び付く可能性もある。 だが、それだけでは不十分だ。そのために、真面にこれを作らせた。学業及び通常の風紀委員活動と平行しながら作成し、 今日までに間に合わせた真面の働きは評価できる。さすがは、俺の部下だ」 「かなりしんどかったですよぉ。言われてから数日間、不眠不休でこれを作ってましたし・・・。おかげで、目が痛くなっちゃいましたよ。眼精疲労がやばいやばい」 「真面君。・・・。お疲れ様」 「・・・殻衣ちゃんに褒められると元気が湧いてくるよ」 「それじゃあ、そんな元気が湧いた真面と殻衣には、このカードに記載されている内容を3日で全て暗記してもらおうか」 「ええええぇぇぇっっ!!?」 「・・・本気。・・・。ですよね?」 「もちろん、本気だとも。一々カードを見ながらというのでは、咄嗟の判断時に意味が無い。全て頭に叩き込んでいるというのが普通だ」 「これを・・・3日で?いい加減眼精疲労が溜まってるってのに・・・」 「本当に。・・・。容赦無いですね」 「・・・・・・」 部下である真面と殻衣に指示を出す固地。その光景を、真面から手渡されたカードの束を手に持つ焔火は複雑な感情を抱きながら見ている。 真面も殻衣も、固地からは部下として認められている。それは、あの2人が固地の無理難題にちゃんと応えてきた証。 対する自分は・・・。痛い程に握り拳を作る焔火に、固地から声が掛かる。 「おい、焔火。お前には3日とは言わない。落ちこぼれのお前には、ハナっからそこまでは期待していない。1週間の猶予をやろう。その間に、このカードに記載され・・・」 「・・・1日です」 「ん?」 この男に認めてもらうためにはどうすればいいのか。本物の風紀委員になるための意味ある過程として、自分の為すべきこととは一体何なのか。 視界不良なんてモンじゃ無い。お先真っ暗な今の現状を乗り越えるためなら・・・何だってやってやる。自分が嫌だと思うことでも何でもやり切ってやる。 例えば・・・あの男の部下が全て暗記するのに3日掛かるというこの時刻表を・・・自分なら・・・ 「1日で行けます!!明日までに・・・これに記載されている駅名と終着時刻を全て暗記してみせます!!」 「ほう・・・」 焔火の発言に、固地は興味深げな視線を送る。焔火にとって、これは無謀なことでは無い。 彼女は、学力重視の小川原高校付属中学校に通う生徒である。抜群に成績が良いとまでは行かないが、それなりの成績は出している才女なのである。 小川原の試験レベルに比べれば・・・この程度の暗記は屁でも無いのである(とは言っても、結構ギリギリではあるのだが)。 「・・・いいだろう。ならば、明日までに全て暗記して来い。俺がテストしてやろう。真面!殻衣!」 「は、はい!!(・・・な、何か)」 「はい!(・・・。嫌な予感が)」 「この落ちこぼれが1日で暗記できると豪語するからには・・・俺の部下であるお前達にも1日で暗記してもらわなければ話にならないぞ?」 「えええぇぇ!?」 「そ、そんな・・・!!」 「・・・お前等。俺の顔に泥を塗るつもりか?うん?」 「「い、いえ、そんなつもりは・・・」」 焔火の言葉によって、思わぬ余波を喰らった真面と殻衣。2人共に今日の徹夜が決まった瞬間であった。 「はぁ・・・。徹夜か・・・」 「うぅ・・・」 「・・・ごめんなさい。私が変なこと言っちゃったばかりに・・・」 真面と殻衣の落ち込みように、焔火も己の発言を反省する。固地の性格を考えれば予測できたことだけに、尚更反省の念が強くなる。 「・・・今度からちゃんと考えて言ってくれよな。どっかの空気の読めないぶっきらぼうみたいな真似だけは勘弁してくれよ・・・」 「(ぶっきらぼう?・・・そういえば、神谷先輩もぶっきらぼうなタイプで、リーダーを困らせていたっけ?)」 「ま、真面君。・・・。焔火さんも反省してるんだし、今回は大目に見てあげようよ」 「殻衣ちゃん・・・。別にそこまで怒ってないけどさ」 「・・・ごめんなさい」 真面と殻衣に謝る焔火。最近の自分は謝ってばかり。この状態から早く抜け出したい。そんな自分に苛立つ焔火の口から、つい愚痴が出てしまう。 「・・・固地先輩も固地先輩よ。部下に色んな無理難題を押し付けて。これにしたって、自分はどうなのよって話じゃない? 量自体もメチャクチャ多いし。・・・殻衣っちも言ってたけど、尋常じゃ無いね。あの人の傲慢さは」 それは、固地に対する愚痴。こんなことを言っても仕方無いことはわかっている。わかっていても口から出てしまうのは、心が持つ防衛本能の表れか。 「・・・もう覚えてるよ、固地先輩は」 「えっ・・・?」 そんな陰口を叩いてしまう焔火に言葉を向けたのは、固地のような傲岸不遜な人間を嫌う男・・・真面進次。 「前の風紀委員会が終わったその足で支部に帰って、俺は固地先輩からこのカードの作成を指示された。 俺がパソコンの画面と格闘している間、何時もなら外回りに出掛けている筈の固地先輩が珍しく事務仕事に没頭していた。 内容は・・・俺が指示されたこと、つまり学園都市中のバス停と終着時間を片っ端から調べ上げていたんだよ。もちろん、暗記するために」 「・・・!!」 「固地先輩は。・・・。部下に押し付けるだけの傲慢な人じゃ無いよ?」 次に話し出したのは、固地によって何時も外回りに連れ出されている少女・・・殻衣萎履。 「『部下にできることを自分ができないわけが無い』。・・・。固地先輩の口癖みたいなものだけど、その言葉通りにあの人は誰よりも努力してる。・・・。 あの人なら、その日に全て調べ上げて自分の頭に叩き込んでいるんじゃないかな?・・・。 何時寝ているんだろうって心配になるくらいの仕事量を、学業と共にあの人はこなしているわ」 「・・・!!!」 焔火は、2人の言葉に衝撃を受ける。固地との接し方から、2人は固地のことを嫌っていると思っていたからだ。 もちろん、焔火の見立ては正しい。真面も殻衣も、人間として固地のような人間は嫌いな部類に入る人間だ。 自分達に無理難題を押し付けて、ガミガミ叱り飛ばし、非情な作戦に巻き込むこともザラにある。でも・・・自分達はあの人を認めている。 「私には、固地先輩がどうしてあれ程までに風紀委員の仕事に没頭しているのかはわからない。・・・。あの仕事量は、普通の風紀委員が受け持つ量じゃ無い。・・・。 過去に何かあったのか。・・・。固地先輩の遊んでいる所なんか見たこと無いし」 「でも、あれだけやってりゃあスキルってのは嫌でも身に付く。あの人は、同僚からどんな誹謗中傷を喰らっても平然としている。理由は・・・わかるだろ、焔火ちゃん?」 「・・・結果を出す・・・!!」 「そう。あの人は、周囲を黙らせるくらいの結果を出し続けている。だから、誰も文句を言えない。文句を言いたければ、自分より結果を出してみろってな感じ。 俺はああいう人間は嫌いだけど・・・実力だけは認めてる。あの人から学べることも多いし。色んな意味で」 「そうね。・・・。私も入った当初は風紀委員になったことを後悔する程だったけど。・・・。今は固地先輩の下で働けるのを嬉しく思っているわ。・・・。 これは、固地先輩には内緒よ?・・・。あの人が知ったら、余計に連れ回されるから」 「・・・!!!」 それは、部下である2人の紛れも無い本音。固地債鬼という男を、心の底から認めているからこそ出た言葉。 「だから、焔火ちゃん。キツイ言葉かもしれないけど、そんな調子じゃあ固地先輩から何も学べないよ?」 「ッッ!!」 「ここに焔火さんが居る意味を。・・・。あの時、土下座してまで固地先輩に懇願した意味を。・・・。もう一度考えて、焔火さん」 部下である真面と殻衣の助言。それ等を受けた焔火は、もう一度己に問い直す。 「(そう・・・そうよ!!『何だってやってやる』って今さっき思ったばかりじゃ無い!!何意気地の無いことを漏らしてるのよ、私!!)」 『・・・固地先輩も固地先輩よ。部下に色んな無理難題を押し付けて。これにしたって、自分はどうなのよって話じゃない? 量自体もメチャクチャ多いし。・・・殻衣っちも言ってたけど、尋常じゃ無いね。あの人の傲慢さは』 焔火が口に出した愚痴。内容は真面や殻衣達を思っての言葉に聞き取れるが・・・本当は違う。自分のための愚痴。弱音や不満の意を含んだ言葉。 「(こ、こんなんじゃ駄目!!もっと・・・もっと本気で!!あの人に・・・固地先輩に付いて行かないと!!)」 強烈な日光差す中、焔火は己を叱咤する。固地の在り方や今回のような作戦に対して、焔火はどうしても拒否感を抱いてしまう。 しかし、今はそんなことに囚われている余裕は無い。暇も無い。自分がここに居る意味。 自分とは全く違う風紀委員(こじさいき)の在り方を学ぶために、焔火緋花はここに居るのだ。 それを見極められないまま終わるのは・・・嫌だ。絶対に・・・嫌だ!! 「よしっ、それじゃあ行くぞ!!」 「はい!」 「わかりました」 「・・・ハッ!は、はい!!」 『根焼』の店長に礼を言い終えた固地が、出発の号令を掛ける。真面、殻衣に僅か遅れて焔火は178支部の面々と共に街に繰り出す。 固地の指導は、まだ始まったばかりであった。 continue…?