約 2,581,255 件
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/2194.html
「『撫子』・・・・・・だと?」 冷房の効いている部屋に冷風とは明らかに違う冷たさが充満する。発するのは車椅子に座る少女。 彼女の視線には部屋内に居る者達から見ても凄まじい意思を感じ取ることができる。もちろん、それは視線の先に立つ不動にも。だが・・・ 「(破輩め・・・何故不機嫌そうな表情を私達に向けてくるのだ?)」 朴念仁足る少年には、冷め切った笑顔のまま近付いて来る少女の意図がサッパリわからない。自分は唯ベッドの上から落ち掛けた山門を助けただけ。 彼女とて、一部始終を見ていないとしても予測の1つくらいは立てられる筈である。自分が知る破輩という少女はそういう人間の筈だ。 それなのに、何故不機嫌を目一杯示した表情と視線を自分へ向けてくるのか不動には理解不能であった。 ブルッ! 「(撫子?)」 「・・・・・・」 そんな彼の思考の間にも静かに距離を詰めていた破輩(+界刺)と不動達の間隔が1mを切った瞬間のことである。 不動に抱き抱えられた少女・・・破輩の視線から目を逸らしていた山門の体が微かに震えたのを当の少年は確かに感じ取った。 少年は視線を正面の少女から下方へ移す。そこには、未だ頬を紅潮させながらも胸の前で手を握り拳の状態にして体の震えを抑えようとしている山門の姿があった。そして・・・ 「・・・恐い(ボソッ)」 不動にだけ聞こえるくらい小さな声で懸命に意思表示を行う“子供”の姿があった。少年は考える。彼女が恐怖を訴える原因は1つしか無い。 同年齢の自分を『お父さん』と呼ぶくらいのホームシックに掛かっている(と不動が勘違いしている)少女のか弱き訴えに、図らずも父性愛(?)を刺激された不動は・・・ 「破輩!!そこで止まれ!!!」 成瀬台高校において、目指す人間形成のモデルケースと学校側に見做されている所以である至極真面目な好青年振りを発揮し始める。 「うっ!!?」 「(あっ・・・この展開はマズい。あの真刺はマズい)」 一方、不動の一喝で歩みを止められた破輩は妙な呻き声を漏らし、少女の後方に立つ界刺は親友の態度が自分へ説教する時と同じ状態に突入したことを瞬時に悟る。 「破輩!!何だ、その態度は!!?何だ、その目付きは!!?私達に対して失礼にも程があるだろうが!!」 「お、お前こそ何で山門を抱き抱えて・・・」 「撫子が誤ってベッドから落ちそうになった所を付近に居た私が助けただけだ!!お前なら、それくらい予想できるだろう!!?」 「うっ・・・!!」 「・・・まさか、花盛支部の面々が居るこの部屋で私が撫子に狼藉を働こうとしていたとでも考えたわけじゃあるまいな?」 「そ、それはさすがに・・・」 「なら、何の問題も無いだろう!!見ろ!お前の態度と目付きで、すっかり撫子が怯えてしまっているではないか!!上級生だからと言って、その態度は頂けないな!!」 「(いやいや!!山門が怯えを表に出すこと自体が異常なんだよ!!というか、上級生に向かってタメ口を使うお前だって問題があるんじゃ・・・)」 界刺の予想通り、怒涛の説教トークを繰り出し始めた不動に破輩はしどろもどろになってしまう。 下級生である不動が上級生である自分へタメ口を使っていることに対する真っ当なツッコミを入れられなくなる程に、“風嵐烈女”は追い込まれていく。 「ハァ・・・。で、何でそんなに不機嫌なんだ?お前がそんな態度を取るのは何か理由があるんだろう?・・・私に対してか?」 「そ、それは・・・そ、その・・・あの・・・」 「以前にも言ったことがある筈だが?言いたいことがあるならハッキリ示せ。このまま有耶無耶になるというのは私としても気に喰わん。 破輩。お前にはその説明責任がある。私達を不快にさせるような態度を取ったお前にはな」 「(ど、どうする!!?わ、私だってどうしてこんなに不機嫌になったのか上手く言語化できていないってのに!!)」 「(ヤベぇ。何か、俺が真刺に説教されてる気分だ。真刺の説教ってつくづく痛い所を突いて来るからなぁ)」 “猛獣”とも称されることのある不動の容赦無い追及に、破輩(+界刺)はたまらず顔を青くする。状況を見れば明らかにこちらが不利である。 理由を上手く言語化できない時点で、妙ないちゃもんを付けたとしか受け取られないだろうことは容易く想像できる。 破輩は考える。何とかこの場を切り抜けるための言い訳を。そうして、1分が過ぎた頃・・・ 「そ、そうだ!!実は、お前や仮屋が私や記立の部屋へ見舞いに来なかったことに腹を立てていたんだ!! 界刺の見舞いのために今日ここへ来ることを前もって聞いていたもんだから、余計に・・・」 「見舞い?お前達の部屋へ行ったら誰も居なかったんだが?順番で言うなら、得世の部屋へ行く前にお前の部屋へ寄ったぞ?昼食か何かで不在だったようだが」 「なっ!!?(か、冠と話していた頃か!!!)」 「そんなことで不機嫌を募らせるとはな。しかも、私1人に対してならともかく撫子も巻き込むとは・・・破輩」 「な、何だ!?」 「撫子に謝罪しろ。今すぐに」 「!!!」 「真刺さん・・・そ、そこまでは・・・」 「そういうわけにもいかん。身勝手極まる理由で撫子を怯えさせたことに対してのケジメは着けないとな。何処ぞのウソツキでもあるまいし。あの男の真似は好かん」 「(わ、私だって・・・我儘で真刺さんへご迷惑を・・・)」 「(痛い痛い!真刺の説教マジ痛ぇー!!)」 最早説教マシーンと化した感もある不動の的確過ぎる言葉の銃弾に、少年少女達は為す術も無く貫かれていく。 特に、普段から嘘を付きまくってる“詐欺師”は喉を掻き毟る(注:心の中で)程の苦しさを現在進行中で味わっている。正論はやはり強しである。 「さぁ・・・!さぁ・・・!!さぁ・・・!!!」 「・・・・・・や、山門。わ、悪かった。す、済まなかった。本当に」 「い、いえ・・・も、もう大丈夫ですから。頭を上げて下さい」 結果、眼前へ不動に抱き抱えられたままの山門の顔面を突き付けられた格好の破輩は、ある意味では自分以上の圧迫感を醸し出す不動の表情にひるみつつもケジメとして山門へ謝罪する。 他方、こんな状況になったそもそもの原因が己の我儘であることを認識している山門は後ろめたさを感じながら破輩の謝罪を受け入れる。 双方共に共通して認識するのは・・・『ケジメを着けないと不動が収まらない』という事実に近いモノである。 「よし。・・・得世にも、今のように悪いことをしたらすぐに謝るくらいの素直さを身に付けて欲しいもの・・・」 「あ、あの・・・真刺さん」 「うん?何だ?」 「そ、そろそろベッドへ・・・///」 「これは気が付かなくて済まない。・・・他人へ迷惑を掛けることに関しては、私も破輩のことは言えんか。まだまだ精進が足りん」 「め、迷惑だなんて・・・・・・本当に助かりました。ありがとうございます」 「どういたしまして・・・かな?」 「・・・クスッ。はい」 「フッ」 「ドンドンドン!!!(くそっ!くそっ!!くそっ!!!何て光景を見せ付けてくれやがってんだ、不動の奴め!!!私の気も知らないで!!! 私がお前の見舞いをどれだけ楽しみにしていたと思ってんだ!!!くそっ!!あぁ、ムカつく!!!)」 「痛い痛い痛い!!何で俺の太腿を叩くの!?」 「「「「「・・・・・・」」」」」 対称的な光景が蚊帳の外に居た花盛支部の面々の瞳へ映る。片や、ベッドへ戻るために歩を進める不動と何分も彼に抱き抱えられたままの山門。 2人の間に流れる空気には、何処までも温かな雰囲気が宿っていた。不動と山門の笑みがそれを証明している。 片や、部屋の隅っこの方に移動したと思ったら突然車椅子を押していた少年の太腿を叩き始めた破輩と叩かれている界刺。 2人の間に流れる空気には、何処までもやるせない雰囲気が宿っていた。破輩と界刺の歪んだ表情がそれを物語っている。 「(よ、よぉ牡丹。どう思うよ?)」 「(どう思うと言われても・・・『強敵現る』としか・・・)」 「(月理姐さん。これって・・・)」 「(おそらくだけど、破輩先輩は・・・)」 「(あの破輩が・・・な。梳)」 「(当人がハッキリ自覚しているかどうかは怪しいですね。でも、それ以上に不動先輩の我関せずっぷりがすごいです。不動先輩・・・もしかしなくとも物凄い朴念仁なんじゃ・・・)」 閨秀・六花・羽瀬木・渚・冠・幾凪は、目の前に広がる映像から山門が初めて淡い想いを抱いた少年である不動に159支部リーダーである破輩もまた・・・なのではないかと勘繰る。 幾凪の『表情透視』による分析も、勘繰りが唯の勘繰りで終わらないことを証明している。後は・・・ 「というわけで・・・ホイッ!」 「うおっ!?」 諸々の事情を知ってそうな人間の見解を聞くだけ。故に、閨秀は『皆無重量』によって諸々の事情を知ってそうな人間・・・界刺得世を自分達の方へ移動させる。 念動力による制御によって逆さま状態で宙に浮かんでいる碧髪の少年へ、恋バナに興味津々な年頃少女達は遠慮せずにドンドン言葉をぶつけていく。 「(よぉ、界刺。破輩先輩と不動は付き合ってんのか?)」 「(はい?い、いや付き合ってなんかいないけど)」 「(界刺さん。破輩先輩は不動さんが好きなんですか?)」 「(うん?さ、さぁ・・・どうだろうな。まぁ、破輩は真刺を気にしてるっぽいみたいだけど。ていうか、君は・・・・・・あぁ。花盛支部で俺と同い年の)」 「(六花牡丹です。以後お見知りおきを。初対面のあなたへこういう質問もどうかとは思うのですが、不動さんって女心に聡いタイプですか?)」 「(真刺が?いや、全然。朴念仁さでは俺以上だろ。その手の話になると途端に狼狽してこそあど言葉に終始しちまう。んで、その手の話が終わった途端に復活する。 男子校の性なのかもな。さっき、ケジメとか何とか言ってたけどあいつもその手の話になったら右往左往するに決まってる。俺も人のこと言えないけど)」 「(成程。ということは・・・美魁)」 「(『押して押して押しまくれ』ってヤツか?正直今の撫子には荷が重いと思うが)」 「(そこは私達のサポートで支援すればいい。相手はあの破輩先輩です。モタモタしてたら、不動さんが破輩先輩に喰われかねません)」 「(さ、さりげなく酷いこと言ってんな君。破輩は肉食獣扱いか?・・・(チラッ))」 「ドンドンドン!!」 「(うわー、今度は壁を叩き始めたよ破輩の奴。確かに、あんな姿を見たら肉食獣っぽく受け取るかもしれねぇな)」 少女達の立て続けの質問攻めに何とか答えていく界刺の視界には、苛立ちが収まらないのか遂には壁を叩き始めた破輩の姿が映る。 自分の世界へ絶賛潜水中の破輩にとって、自分達の視線など全く気にしてもいないのだろう。ブツブツ独り言を零しながら壁を叩く様は、ちょっと以上に不気味である。 「・・・ところでよぉ、アンタ誰?」 「ん?そういう君こそ誰だい?」 「アタイは羽瀬木真心ってんだ。アンタは?」 「俺?俺の名前は界刺得世っていうの。んふっ」 「界刺得世ね。・・・アンタも『シンボル』のメンバーか?」 「そうだけど?それが?」 “風嵐烈女”の八つ当たりを喰らっている壁に少々の同情心を湧かせていたちょうどその時、自分と余り変わらない身長を有する金髪少女が声を掛けて来た。 ヤンキー口調な少女・・・羽瀬木真心は今までのやり取りから界刺が『シンボル』のメンバーであることを察する。 加えて、かの成瀬台襲撃の際に風紀委員会を守ったメンバーには含まれていない・・・無駄にキラキラしながら胡散臭い笑みを浮かべる少年への印象・・・そしてアニキと仰ぐ不動の言葉から・・・ 「ハハ~ン。不動のアニキも大変だなぁ。こんなチャラ男の面倒も見なきゃいけねぇたあ。まぁ、さすがは『シンボル』のリーダーって所かね」 「は?」 『シンボル』のリーダーである(と羽瀬木が勘違いしている)不動に同情心を抱きつつ、界刺をそこら辺に居るチャラ男と見做す。 界刺のようなチャラチャラした男は、スキルアウト時代に幾度と無く目にした。どいつもこいつも軽薄そのままの言動を行い、敵わない人間には媚を売る。 そうでなくとも、強敵相手に尻尾を巻いて逃げ出す姿をスキルアウトのリーダーを張っていた少女は何度も見て来た。そんな己の経験が齎した判断を羽瀬木は一切の疑いを抱かない。 「羽瀬木!」 「皆まで言わずともわかってますぜ、月理姐さん。今朝確認した情報で、姐さん達を助けた人間の名前にこの野郎の名前は無かった。 どんな理由があったのかは知らねぇが、大方敵にビビって不動アニキ達の獅子奮迅の活躍を遠くから見てただけって話っスよ。情けない」 「・・・まぁ、遠くに居たのは本当のことだけど」 「ホラッ!アタイの推理に狂いは無かった!」 「それより・・・真刺が『シンボル』のリーダーって何処情報?」 「そんなこと、仮にも『シンボル』のメンバーのテメェが一番わかってんじゃねぇのか?不動アニキは『シンボル』のまとめ役なんだろ?」 「(・・・成程。まとめ役をリーダーと勘違いしてるのか、この娘は)」 単純型な思考回路を持つ羽瀬木の乱暴な言葉から、界刺は少女の勘違いを悟る。確かに、雰囲気的に胡散臭い態度を有する自分より不動の方がリーダーっぽく見えるのは理解できる。 普通の人間からしたら、軽薄な雰囲気を醸し出す自分のような人間はチャラ男・パシリ・三下みたいなイメージを持つ可能性は大だろう。 何故界刺が『シンボル』のリーダーを務めているのか。それを知る者は極少数であり、界刺自身もここで話すつもりは毛頭無いが。 「羽瀬木!先走り過ぎよ!そもそも、不動先輩は『シンボル』のリーダーじゃ無いわよ!」 「えっ!!?で、でも不動アニキは『シンボル』のまとめ役って・・・」 「でも、先輩は自分のことをリーダーとは名乗っていなかったでしょう!?全く、不動先輩があなたの誤解を解こうと何回も話し掛けてたのに・・・」 「じゃ、じゃあ誰が『シンボル』のリーダーっスか!!?」 「・・・すぐそこに居るじゃない。あなたが『チャラ男』って決め付けた人が。彼が居なかったら、こうやってあなたと私は会話していないわよ?」 「ま、まさか・・・!!で、でも・・・・・・ハッ!」 さすがにこのままではいけないと判断したのか、彼女の良き理解者である渚が羽瀬木の誤解を解こうとする。 羽瀬木の言う通り、成瀬台襲撃の折に現場で自分達を助けてくれたのは不動達である。しかし、その裏側では閨秀や破輩達と連絡を取り合って全体の指揮を取った男が居た。 その男こそが『シンボル』のリーダー。胡散臭い笑みを浮かべる碧髪の少年。 「ようやく気付いてくれた?そうだよ。俺が『シンボル』のリー・・・」 「コイツが表向きの『シンボル』のリーダーで、不動アニキが裏から手綱を引っ張ってるんスね!!?」 「え?」 しかし、単純型思考というのは時に思いも寄らぬ飛躍を遂げる。 「アタイ、時々映画や小説で見るんスよ!!才能はあるけど性格とかが悪い男を敢えてエースやリーダーに据えることで責任感を持たせる設定を! 監督やまとめ役を務める仲間が後ろからフォローするみたいな設定を!そうか、そうか。そっちのタイプだったか。 まぁ、姐さん達を助けたくらいだから、それなりのモノはあるんだな。ニュースに名前が無かったのも・・・(ブツブツ)」 「(何つー思考してんだ、この娘!!言いたいことはわかるけど!!)」 不動の時のようにまたしても妄想の世界へ突入した少女の言動に呆れてしまう界刺。彼女は粗暴な性格からは想像も付かないかもしれないが案外涙もろい性格も有している。 感動的な映画や小説を目にしては泣く。例え、場所が静けさを求められる図書館であっても泣く。 また、羽瀬木は感動的シーンに至るまでの“タメ”シーンも重視しており、先程彼女が口にした『才能はあるけど~』設定がまさに該当する。 このことから、羽瀬木は界刺を『シンボル』のリーダーとしては認めるものの第一印象で得た軽薄さから不動の支えあってこそのリーダーと勝手に解釈してしまう。 とは言え、彼女の思考はあながち間違いとは言い切れないが。それだけ界刺にとって不動という男の存在は大きいのである。 「す、すみません。後で言って聞かせますので」 「別にいいよ。どうせ、勝手に自己解決するのがオチだろ・・・」 「かいじさ~ん!」 「おぉ!抵部準エース殿!どうもです!」 「です!!」 頭をペコペコ下げる渚に応える界刺の耳に聞き慣れた少女の声が入って来る。『皆無重量』から解き放たれた界刺が首を向けると、冷房が効いているにも関わらず幾筋の汗を額から流している抵部の姿があった。 互いに敬礼の真似事をした後に、これまた互いに楽しそうな笑みを浮かべる。そんな光景を不思議そうな表情を浮かべながら見詰める茶髪少女が湧き出る疑問そのままに声を発する。 「あ、あの・・・あなたは・・・」 「うん?誰だい?」 「え、えぇと」 「かいじさん!紹介します!この娘は莢音ちゃんって言って、わたしの妹なんですよー!!」 「妹?・・・(ジ~)」 「ッッ!!!」 姐の紹介を受けた界刺の視線が抵部姉妹に注がれる。始めは両者の背格好を意識していたのか体全体をくまなく彷徨っていた少年の視線が、ある部分でピタッと止まった。 その部分とは・・・胸。女性の象徴でもある胸。莢音自身慎ましいレベルではあるのだが、それでも姉よりかはあった。 そんな『性』を象徴する部分へ少年の視線が注がれた。今一度言おう。抵部莢音は、基本的に『男は皆ケダモノ』思考である。 仮屋(+不動)のような例外が居ることは判明したが、それでも尚男への警戒レベルは激高である彼女は判断する。 邪な感情は感じられなかったが『性欲的視線』と受け取ってもいい視線を自分達へ向けた碧髪の男はケダモノであると。 「お姉様。この殿方、今私達の胸を見比べていましたわ。やはり、大方の殿方はケダモノですわね」 「な、なんですとー!!?か、かいじさんのエッチ~!!!プンプン!!」 「えっ?あっ、悪ィ」 抵部姉妹の抗議にバツの悪い界刺。界刺としては、幼児体型である姉とそれなりの体型である妹との差異で目立つ部分を見比べていただけで別段邪な感情を抱いたつもりは無い。 さすがに、一見では両者の関係性を正確に当てるのは困難である。姉の性格を知っている界刺にとっては特に。 と言っても、下手な言い訳は却って泥沼になるので一言だけ謝罪するに留める。親友の指摘を受けた身として、迅速な謝罪を。 「・・・本当に悪いと思ってるんですかー?」 「あぁ。悪かった。ごめん」 「・・・ふぅ~。ならゆるしてあげます。かいじさん。しゃがんでしゃがんで~」 「・・・ほい」 「フフフ~・・・(トテトテ)・・・それじゃ、いつものなでなでをしてあげます。なでなで~」 「お姉様!?ど、どうしてそんなケダモノの髪を!!?」 少年の謝罪をちゃんと聞いた姉は、プンスカ怒っていた態度を一変させて彼の碧髪を撫で始める。 彼と会う度にこうやって髪を撫でるのが癖になって来たと抵部は思う。触り心地の良い碧髪を撫でるのがすごく気持ち良い。 背の関係から普段は自分を見下ろしている彼を、この時だけは見下ろすことができる。それが何だか堪らなく良い。この感覚は閨秀の後背にしがみ付いている時にも感じるのだ。 「莢音ちゃん。かいじさんはケダモノなんかじゃないんだよ?わたしの大事な友達や仲間を助けてくれた人なんだよ?だから・・・かいじさんをそんな風に呼ばないで」 「お姉様・・・」 「莢音ちゃんの気持ちもわかるよ。そんな莢音ちゃんだからこそ助かったことも一杯ある。でも・・・“それ以上”はダメ。“それ以上”になったら・・・・・・怒るよ?」 莢音は見る。抵部が心底怒っている姿を。妹は感じる。姉の怒気を。これは駄目だ。こんな姿を姉にさせたく無い。こんな感情を姉に抱かせたく無い。少なくとも自分の行動で。 「(私の与り知らぬ所でお姉様がこの男に信頼を寄せる何かがあった・・・のでしょうね。・・・仮屋様や不動様のご友人である以上、そこまで警戒する必要性は無い。今は様子見が適当か)」 風紀委員としての活動やアルバイトで外の世界へ足を運ぶ姉とは違い、典型的なお嬢様として自分のテリトリー内に留まる妹はひとまず様子見をすることを決める。 仮屋や不動の存在もある。彼等の友人である界刺が姉へ狼藉を働くようなことは無いだろう。何より、この場で姉の怒りをこれ以上買いたくなかった。 「界刺様・・・でしたか。先程の失礼極まる発言お許しください。本当に申し訳ございませんでした」 「いや。こっちも悪かったよ。ごめんな」 とにもかくにも、双方共に相手へ謝罪をする。先程から部屋中が謝罪の言葉ばっかりで埋め尽くされているような感覚を覚えるが、そういう『流れ』なのだろう。 「あ、ああ、あの・・・」 「ん?」 そんな『流れ』に乗ってかどうかはわからないが、しゃがみながら抵部に撫でられている界刺の頭上から今まで言葉を発していなかった少女の声が降って来た。 緊張の余りオドオドした口調が露になった花盛支部員・・・六花のベッドから身を乗り出している桃色の髪を揺らす篠崎香織が・・・ 「は、初めまして!わ、私は篠崎香織と・・・(ズルッ)・・・キャッ!!?」 「篠崎!!?」 「あがっ!!?」 「痛っ!!?」 今日も絶好調とばかりに持ち前のドジを発揮、身を乗り出す体の支えとしていた手が滑り界刺へ顔面ダイブしたのである。 閨秀の咄嗟の判断で『皆無重量』を発動したために少女が床に落ちることだけは食い止められたものの、篠崎の額と界刺の後頭部が派手な衝突音を奏で、しばらくの間互いに苦悶の唸り声を吐き続けた。 「ご、ごめんなさいごめんなさい。私ったら、こんな時までドジを・・・」 「・・・抵部準エース殿。この娘が『マリンウォール』で言ってた・・・?」 「そうですー!!彼女がわたしの友達のかおりんですー!!」 ようやく痛みが治まって来た頃合いを見計らって界刺は抵部に先日『マリンウォール』で自分に会いたがってる少女のことについて確認を取る。 記憶の片隅に眠っていた名前を篠崎の自己紹介で抵部との約束を思い出した界刺は、これも良い機会と捉えて彼女の話を聞く姿勢に入る。 「そうか。・・・え~と、かおりんでいいのかな?それとも、普通に篠崎呼びの方がいい?」 「ど、どちらでも構いません!」 「そう。だったら、ここは抵部準エース殿に倣って・・・かおりん。俺に会いたがってるって聞いたんだけど、俺に何か聞きたいことでもあるの?」 「は、はい!・・・・・・で、できれば二人きりの方が」 「(二人きり?・・・・・・深い付き合いのあるっぽい美魁達じゃ駄目で初対面の俺ならOKってか?)」 しかしである。篠崎の妙な要望が、界刺の脳内にある警鐘を響かせることとなった。この場にはリーダーの冠始め篠崎にとって心を許せる仲間が多く居る。 それなのに、彼女達には聞かれたくないと少女は暗に言っている。それが、リーダーである冠や友達である抵部達の心にどれだけの影響を与えるか篠崎とて想像できる筈なのに。 仲間に打ち明けられず、部外者に本音を漏らす。こんな展開を過去にも経験して来た碧髪の少年は、周囲から感じる“異様”な視線から直感する。“このままでは駄目だ”と。 「ねぇ、美魁?」 「・・・何だよ?」 「俺、疲れた」 「はっ?」 「いやね、さっきまで破輩に振り回されてたからさ。もう脚がガクガクブルブル。だからさ、お得意の『皆無重量』で俺を浮かしてくんない? 実は、俺ってば無重力を体験したこと無くてさ。前から機会があればどっかの無重力体験コーナーとかで思い切り体験してみたかったんだよねぇ。ねぇ、かおりん?」 「は、はい!」 「君達は『皆無重量』で既に何回も体験してたりするの?無重力ってヤツをさ」 「ま、まぁ。成瀬台高校に通っていた頃は閨秀先輩の能力で集団登校してましたから」 「・・・スカートとか大丈夫だったの?」 「はい。閨秀先輩のおかげで」 「ふむ。なら問題無いか」 「界刺さん?」 いきなり無重力の話に飛んだ現在の展開に頭が着いて行かない篠崎の眼前で、界刺は軽薄な笑みを浮かべる。 まるで、悪戯好きな子供がメチャクチャ面白いイタズラを思い付いたかのような笑顔に、篠崎は僅か心を震わせる。そして・・・ 「てなわけで、美魁!この部屋全てを無重力な空間に一丁よろしく!皆で擬似宇宙体験だ!!」 「界刺さん!?」 「・・・ヘッ、いいぜ。お前にゃ借りがあるしな。そのくらいのお願い、すぐにでも叶えてやるぜ!そらっ!」 フワッ! 「うおっ!!?」 「うんっ!!?」 「うわっ!!?」 無重力に慣れていない界刺・不動・破輩が一際大きな声を挙げる。人だけでは無い。枕が、布団が、花瓶が、水が全て浮遊し、無重力の方程式に従って行動を開始する。 「お、おお、おおおおお!!!これが無重力ってヤツか!!!いいねぇ。宇宙に来た気分だぜ!!なぁ、真刺!?仮屋様!?」 「ばか者!!やるならやると周知してからやらんか!!」 「ボク達は『皆無重量』経験者だから、界刺クン程の新鮮な驚きは無いかな~」 「つれねぇ返事だな。・・・あぁ、本当だ。確かに下からじゃスカートの中身が見えないようになってんな。上手い上手い」 「な、なんでわたし達より上にいるかいじさんにそんなことがわかるんですかー!!?」 「そんなもん、チョチョイと光を操作すりゃ。大丈夫、スカートの中身とか見てないから」 「ぬ、ぬおー!!やっぱり、かいじさんってエッチですー!!」 「女の下着見ても欲情しないんだよなぁ…今の俺って(サーヤは何時も期待通りの反応を見せてくれるからいいなぁ)」 無重力となった病室内を泳ぐ界刺の問い掛けに不動は一喝し、仮屋は宙へ浮かぶ菓子にパク付きながらのほほんと返事する。 友達2人の反応の薄さに少々落胆した界刺は、良いリアクションを取ってくれる抵部に聞こえるように独り言を呟き、目当ての反応を示したことに気を良くする。 「まぁ、そんなどうでもいい話は横に置いといて」 「どうでもいい話にされた!!ガビーン!!!」 「(大丈夫ですわよ、お姉様。いずれこの私が・・・ウフフフ)」 「かおりん。どうせ後々で皆に知れ渡るんだし、俺だけじゃ無くて皆に君の悩みを打ち明けてごらんよ」 「えっ!?で、でも・・・」 「きっと、君の悩みの大枠くらい皆は予測してるんじゃないかな。さっき俺達に向けられていた“異様”な視線は、決して無知から来る視線なんかじゃ無かった。 嫉妬というか落胆というか・・・『力になってあげたいのになってあげられないもどかしさ』みたいなもんを俺は感じた。どう、美魁?」 「・・・・・・」 「六花?」 「・・・・・・」 閨秀と六花の無言が答え。沈黙している他の支部員も同様。皆は決して1人悩む篠崎のことを考えていなかったわけでは無い。 むしろ、どうやって彼女の悩みを解決の方向へ導いてあげられるかずっと考えて篠崎と接していた。 【叛乱】による負傷や混乱の影響もかなり大きかったが、一番大きかったのは・・・他の誰でも無い篠崎香織の頑なさにあった。 「というわけだ。何で君が『俺に相談しないと駄目だ』って判断したかは知らないけど、俺だって万能な人間じゃ無い。怪我もするし失敗もする。 なら、できるだけ大勢の人間に相談した方が解決の方向へ向かう可能性は上がるんじゃない?」 「・・・・・・」 「まぁ、ちゃんと俺は俺の意見を言わせて貰うよ。君の言葉を聞いた上で俺の意見を君に伝える。それとも、君はリーダーや先輩同輩後輩は相談するに値しない人間だって思ってるの?」 「それは!!」 「違うんだろう?なら、俺だけじゃ無くて・・・さ。このままじゃ、後で君ん所のリーダーにどやされそうだよ」 「・・・私はそんなことはしない。仮に、このまま2人だけで話が進んだとしても私は口を挟むつもりは無かった」 「(それこそ駄目だろうに。前でも後でもどっちでもいいからリーダーがビシっと言わないと。確か、戸隠を結果的に逃したのは花盛支部リーダー冠要だったっけ? 別段そのことについてとやかく言うつもりは・・・・・・成程。『だから』口を挟めないのか。その辺は自分のことを棚に上げて物を言える俺とは違うな。 六花達も似たような理由か。加賀美の時も思ったけど、説得力の有無は大きいよな。俺を指名したのもその辺が関わってそうだな)」 加えて、花盛支部リーダー冠要を筆頭に六花達花盛支部員の殆どは篠崎に対する負い目から中々声を掛けられないでいた。 そんな折に重傷を負ったことも重なって今に至るまで手をこまねいていた。切欠を作ることもできなかった。 特に、リーダーである冠は【叛乱】において失態を演じたためにどうやって篠崎と接するか模索段階から未だ抜け出せずにいたのだ。 「かおりん!わたしもかおりんの悩みを聞きたい!!」 「抵部さん・・・」 「友達の悩みをわたしの悩みだもん!!それに、しまつしょを書く時もかおりんによく手伝ってもらってるし!!最近は月理ちゃんのつきあいが悪くてさー」 「ブッ!!付き合いが悪いって・・・そもそも始末書ばっかりな莢奈が悪いんでしょー!!」 「ほらねー!!その点かおりんはやさしくアドバイスくれるもん!!時々コーヒーで台無しになるけど。 ねぇ、かおりん!わたしもかいじさんと一緒にかおりんの力になりたい!!ううん!!わたしだけじゃなくてここにいる皆で!!」 「(抵部・・・!!)」 「(・・・んふっ。本当にサーヤは何時も期待通りの反応を見せてくれるよね)」 無重力の海を必死に泳いで友の下へ馳せる抵部の眩しい笑顔が篠崎を・・・冠を・・・界刺を・・・部屋の中に居る全ての者の心を浄化する。 これが抵部莢奈。花盛支部準エースを自称する彼女の本領。仮屋から能力に関する手ほどきを受けたことも彼女の笑顔が眩しい大きな要因となっている。 「・・・わかりました。私も変に意固地になっていました。皆さん、ごめんなさい」 「いや、あたし達もどうやって指導したもんかわかんなくてよ。すまねぇ」 「予測している篠崎の悩みをどう解決すべきか・・・正直私達も手探りが実情で」 「(うん?美魁や六花がここまで言うのか・・・一体どんな悩みなんだ?)」 「では・・・皆さん、私の悩みを聞いて下さい」 閨秀と六花の悩みまくりの表情に界刺が怪訝な視線を送る中、遂に篠崎の口から彼女の悩み―本音―が語られる。 風紀委員になって以降特に気にするようになった悩み。悪循環が悪循環を生み出す今の状況に風紀委員として辞職すら脳裏を過ぎるようになってしまった元凶。すなわち・・・ 「私は・・・私のドジっぷりにすごく困っています!!これを何とかしないと・・・風紀委員を辞めなければならないとさえ考える程にです!!!」 「「「「「・・・・・・」」」」」 篠崎の相談という名の吐露が終わって数分が経った今も病室内の沈黙は晴れそうに無い。誰しもが口を噤み、腕組みをしながら思案に耽っている。 彼女の悩みは花盛支部員達の予測通り己の度し難いドジの矯正であった。彼女達の読みは当たっていたのだ。 故に困っている。生来のモノの矯正は何時の時代のどの人間にも困難を極める代物である。『ドジを矯正したい』と相談されても何と答えればいいと言うのか。 「篠崎。閨秀達が例に挙げたドジを聞く限り、それは風紀委員になる前からずっとそうだったのか? こんなことを言うと気分を害してしまうかもしれないが、よくそれで風紀委員の試験を突破できたな」 「い、いえ。さすがに、風紀委員になる前はここまで酷くありませんでした。酷くなり始めたのは・・・」 「風紀委員になって以降というわけか。・・・撫子」 「はい、何でしょう?」 「撫子の目から見て彼女のドジはどのように映った?具体的で無くていい」 「・・・悪循環が生まれ出した切欠があります。それは・・・」 「それは?」 「現行犯で逮捕した相手が実は何の関係もない一般人だった事件です。危うく冤罪を生み出しかねなかったあの事件は、その場に居た渚や冠先輩のおかげで謝罪だけで済みましたが・・・」 「香織のドジ癖が酷くなり出したのはそこからですね。これはまずいんじゃないかということもあって、香織には外回りより支部内の仕事が任されるようになりました」 宙に浮かぶ不動の質問に当の篠崎他山門や渚が同じく宙を浮遊しながらスラスラと答えて行く。答えて行ける程に篠崎のドジ癖は花盛支部の日常と化していた。 「冠。余り余所の支部に口出ししたくは無いが、外部から内部への仕事転換はちょっと早計だったんじゃないか?失った自信を取り戻すためには、確かな成功経験が必要になる。 リーダーのお前が篠崎に付いていってちゃんと指導していれば、もしかしたら・・・」 「それは私も考えたよ、破輩。というか実際に篠崎に同行して何度も外回りをした。だが、どうしても篠崎のミスが治まらない。 それに、先の冤罪未遂事件が現行犯という周囲に人が居る状況だったこともあって当時篠崎への外部からの目線はそれなりにきつかった。 だから、私は色々考えた末に篠崎へ内部の仕事を宛がった。掃除も篠崎の能力を活かせる仕事だった。ほんの小さなことでいい。篠崎が自信を付ける切欠になればと・・・」 「・・・そうか。お前ならその辺についてもちゃんと考えるよな。私の方が早計だったな。すまない」 「いや。篠崎の吐露を聞く限り私の方法も中々上手く行っていないようだ。もし、あの時篠崎より先に犯人を捕まえておけばと今でも後悔してるよ。ハァ・・・」 「・・・互いに苦労してるな」 他方、同じ風紀委員のリーダー格として言葉を交わす破輩と冠。部下のことで色々苦労して来た分、冠が抱える事情を他人事のように思えない破輩は彼女へ労わりの言葉を掛ける。 冠とて篠崎のために何もしていなかったわけでは無い。色々試行錯誤を重ね、彼女が自信を取り戻す切欠を生み出すための環境整備もして来た。 それが功を奏していない。冠要の試行錯誤が実を結んでいない。唯それだけの話であり、それだけ故に解決もまた困難なのだ。 「冠。アンタは後悔してんの?」 「・・・あぁ、後悔してる。話は破輩から聞いてるぞ、界刺。お前は後悔しないことを旨としているとな。 だが、私はお前じゃ無い。お前に倣う義務は無い。私は篠崎の件も・・・今回の事件のことも後悔する」 「・・・・・・そっ」 界刺のまるで心の奥底を見透かすような視線に負けじと強烈な視線で対抗する冠。嫉妬を抱いていないと言えば嘘になる。落胆していないと言えば偽りになる。 篠崎が界刺を頼った事実。似たような事例―春咲桜―を破輩から聞いた時『あぁ、これが破輩が抱いていた感情なのか』と思った。 だから、図らずも篠崎に頼られた界刺の提案で自分を含む皆を巻き込んだ議論に発展した現状を嬉しく思ってるのか悔しく思ってるのか冠自身にも判断することができないでいた。 「ほぉ・・・私に言葉を熱くぶつけて来た時に比べたらあっさり引き下がったな。どういう心境の変化だ、界刺?」 「なに、今は色々見詰め直している最中だからさ。どうせ、俺は後悔しないしね」 「ふ~ん」 「んふっ」 意味ありげな頷きを碧髪の少年に見せ付ける破輩と常のように胡散臭い笑みを浮かべる界刺。2人の脳内に思い浮かんでいるのは、救済委員事件後のあの病室。 当時の界刺の雰囲気を知っている者としては、『後悔する』と断言した冠にもっと食い下がるかと思っていたが現実はそうならなかった。 彼もまた【叛乱】を契機に何かを見詰め直そうとしている1人なのだ。そして、彼女もまたその1人。 「さて・・・んじゃご指名を受けた者の責任として俺の意見を言わせて貰うよ」 「は、はい!」 誰もが無重力に支配された空間を漂う中、胡坐を掻きながら逆さまに浮かんでいる界刺は少し離れた所を浮遊している篠崎に声を掛ける。 彼の視線を受けてゴクリとツバを飲み込む篠崎。周囲も界刺へ注目する。『シンボル』のリーダー界刺得世が篠崎香織にどのような答えを示すのか。 風紀委員だけでは無い。界刺を全面的に信用していない羽瀬木や莢音も彼に注目している。篠崎への回答によって彼という人間を見極めようとするかのように。 「かおりん。君は自分の余りのドジっぷりから風紀委員で居てもいいのかという悩みにまで発展した。だから、『シンボル』のリーダーとして結果を出していた俺の在り方に注目した」 「そうです。部外者でありながら様々な事件を解決して来たあなたと、風紀委員でありながらドジばかり踏む私。そこにどんな違いがあるのか気になって仕方が無くなりました」 「その違いはわかったの?」 「・・・・・・わかりません。いえ、本当はわかってるんです。私とあなたとでは、根本から出来が違うんだなって。 あなたは重傷を負いながらも拉致された事件解決の大きな力となった。私は病院送り。つまり戦線離脱。・・・本当何やってるんでしょうね、私って」 「何もやってないからそうなるだけじゃないの?」 「界刺・・・!!」 「いいんです、閨秀先輩。界刺先輩の言う通り私は『ブラックウィザード』の件で本当に何の役にも・・・」 「違ぇよ。そんなこと言ってんじゃ無ぇよ俺ぁ」 「えっ・・・?」 容赦の無い言葉に俯きながら自嘲を繰り返していた篠崎の耳に突き刺さるは、少年の強き想いが込められた否定の言葉。 「かおりん。ちょいと質問してもいいかい?」 「な、何ですか?」 「君は・・・何で俺が見えてるの?」 「へっ?」 続くのは怒涛の問い掛け。 「俺じゃ無くてもいい。君は何で物が見えてるの?」 「そ、それは目が・・・」 「君は何で音が聞こえるの?」 「えっ?それは耳が・・・」 「何で君の手は動くの?」 「んん!!?」 「何で君は足が動くの?何で口が開くの?何で声が出るの?何で味を感じるの?何で夢を見るの?何で超能力が使えるの?君は・・・何で生きてるの?」 「!!???」 飛躍。突拍子も無い。少なくとも問いを投げ掛けられた篠崎はそう考えた。何故自身のドジの話から『何で生きてるの?』にまで話がぶっ飛ぶのだ。 それまでの問いも常軌を少々逸しているのではないか?物が見えるのが目が深く関わっているし音が聞こえるのは耳が深く関わっている。 もっと言えば、人体を走る神経等が根幹な話である。超能力に至っては『当人が観測したのだから使える』としか言いようが無い。 「俺はね、一時期こんなことばっかり考えてたんだ。馬鹿でマヌケで・・・自分という存在の価値がさっぱりわからなかった頃の俺は」 「・・・どうしてそんなことを考えたんですか?」 「切欠は・・・そうだな。俺がまだレベル1だった頃、派手に能力を使ってた夢を見た次の日からかな。夢と現実との乖離を実感した時ふと思った。 『何で俺は夢を見たんだ?』って。『何で俺は超能力を使えるんだ?』って。これは生物学的な話でも量子論的な話でも無い。どちらかと言えば概念の話になるのかな。 『何で俺は物が見える?』、『何で俺は手を動かせる?』、終いにゃ『何で俺は生きている?』にまで発展してさ。そこからだよ・・・自分の存在価値を気になり出したのは」 「(ッッ!!!わ、私も『何でドジを踏むの?』って何回も考えた!!これって・・・!!)」 「一度気になりだしたら止まらなかった。『死んだ先の世界ってあるのかな?』とか非科学的な話も思い浮かんでさ、一時眠るのが恐くなった。情けないよねぇ、大の男がさ」 「そ、そんなこと無いと思います!男の人でも女の人でもそんな疑問が頭に思い浮かんだら、一時は恐怖の感情を抱くと思います!!」 「そう?まぁ、当時の俺にとっては人生最大のテーマと化していたからずっと考えてた。考えて行動も起こした。 失敗もしたけど星占いが好きな魔・・・じゃ無くて赤の他人のおかげと自分の決意で何とか自分なりの考えを持つことができた。今回のケースなら当時の俺がかおりんで赤の他人が俺かな」 「・・・・・・」 「君は、何処か昔の俺に似てるな。というか、結構な人間が同じような悩みを抱くという表現の方が正しいか。ねぇ、かおりん。俺はさっき君に何もしていないって言ったよね?」 「はい・・・」 「君はさ・・・何をしたいの?君は『今』何をしたいの?俺は俺のやりたいことがあるから『シンボル』の一員だし、君は君のやりたいことがあるから風紀委員の一員なんだろう? 皆の嫉妬や反感を買うことを覚悟して俺に相談して来た君なら、もっと他のことにも覚悟を持てる筈だ。例えば風紀活動。風紀委員としての行動に。俺の言いたいことがわかるかい?」 「『覚悟を持て』・・・ですか?」 「そうだ。成功も失敗も覚悟を持ってこそ意味のあるモノになる。反省や・・・俺はしないけど後悔も覚悟という土壌の上にあって初めて意味があるもんになる。 君は『今』何をしたいの?君は『今』、『どんな覚悟を持って』物事にぶつかりたいの?今の君はどっちかって言うと『やらされている』だよね? 例えば冤罪未遂事件の後、冠が同行してもドジを踏み続けたのは覚悟を持たずに冠達に流されるまま活動を行ったからじゃないの?」 「ッッ!!!」 “『シンボル』の詐欺師”が開催する『詐欺話術』。これは、他の誰でも無い界刺得世が思考し、思案し、耽り続けた結果構築された彼自身の“経験”である。 人間は自身が得た“経験”上のことでしか物事を判断することができない。そして・・・“経験”は他者へ伝達する性質も有している。他者が咀嚼するという形で。 「今回の場合なら最初は我儘でもいいじゃない。君は君だけの想いを持って行動を起こすべきだった。覚悟を持てば良くも悪くも行動に表れる。 行動に表れたらそれが冠達にも伝わる。そうすれば、今後の指導方針も立てやすい。そういう意味じゃ、内部且つ目立たない掃除業務に移したのは・・・」 「全てが間違いじゃ無いぞ、界刺?掃除はその人の心の状態を表す。心が乱れていれば掃除も乱れ、心が晴れていれば掃除もその通りの結果を示す。好き嫌いは別にしてな」 「あの掃除にそんな意味が・・・!!!」 「へぇ・・・俺も綺麗好きだけど、その辺はあんま意識したこと無かったな。ありがと、冠。今後の参考にさせて貰うよ。で、どうだったのさ?」 「・・・所々に目立つ汚れが毎回残っていた。時々上の空になる時があるんだろう。それでも、盛大に汚れが残ることは無かった。篠崎。最近では掃除でドジを踏んではいないだろう?」 「・・・はい」 「ふむ。冠の方法は上手くいった部分と上手くいかなかった部分の両方が出たって感じか。少なくとも、かおりんは掃除に関してドジを踏まなくなった。 これは“経験”から生まれた自信・・・そして『これだけは失敗できない』という覚悟を彼女が持っていた表れなのかな。そもそもかおりんって成績優秀者なんでしょ、渚ちゃん?」 「はい。香織は勉強も事務業務もちゃんとできます。ドジさえ無ければ」 驚愕に顔を染める篠崎を眺め、冠の指導方針がよく練られていたモノと改めて理解した界刺は彼女の見立てを信じ、渚の言葉でもっていよいよ確信する。 篠崎は『やればできる娘』だということを。生来のドジのために時間は掛かるかもしれないが、本人の努力如何で何とかなる可能性は掃除の件で示された。 「ほんじゃ、後は『やらされている』から『やる』に変えるだけだ。そこに自分なりの覚悟を乗っけてね」 「自分なりの覚悟・・・」 「別に、すぐに結果を出す必要は無い。幸か不幸か今は入院中だしね。その間に抵部準エース殿や渚ちゃんとも話し合ってみたら? 同じ学年だし、君と同じような目線で考えてくれると思うよ。勿論諸先輩方や後輩にもね。もっと皆を信じてあげなよ。皆も君を信じたいだろうしさ。向き・不向きとかは別にして」 「そういうことなら莢奈は不向きかも。何も考えないし」 「ひどーい、月理ちゃん!!わたしだって悩みの1つや2つはあるんだよー!!」 「へぇ~、なら言ってごらんなさいよ」 「そ、それは・・・その・・・・・・あ、後で説明するー!!」 「はいはい。わかりましたわかりました」 「し、信じてないなー!!プクッ~!!」 「・・・フフッ。ねぇ、香織?私や莢奈もさ、微力かもしれないけどあなたの力になれるかもしれない。だから・・・一緒に頑張りましょ?」 「そうだよーかおりん!!わたしもこれからけいこに忙しくなるけど、できるだけ一緒にがんばろう!!!」 「抵部さん・・・渚さん・・・!!!」 篠崎の目頭が熱くなる。迷惑を掛けていたのは間違い無く自分の方である筈なのに、そんなことなんてどうでもいいと言わんばかりに優しさ溢れる言葉を自分へ贈ってくれる。 同僚にして同期。抵部・篠崎・渚は同時期に花盛支部の門を叩いた仲間であり友達である。この先もずっと続くであろうかけがえの無い友の絆を持つ大事な人達。 「・・・んふっ。まぁ、こんな所かな。美魁。そろそろ『皆無重量』を解いて。冠。後はそっちで何とかしてね?全部俺にお鉢が回ってくる展開は御免だ」 「・・・・・・」 「後さ、指導方針とかは良いんだけどそれにかおりんが共感してくれないと意味が薄れちゃうよ?こういうのは『ストーリーオブセルフ・アス・ナウ』が凄く重要だからさ」 「『ストーリーオブセルフ・アス・ナウ』?」 「そっ。リーダーの在るべき姿勢の1つってヤツ。部下や仲間を自発的に動かすためには自身(『セルフ』)の考えを示し、共感(『アス』)を抱かせ、今(『ナウ』)に繋げる必要がある。 この『セルフ』を如何にして『アス』に発展させるか、共感させることで『自身』を『自分達』に発展させ『これからどうするのか?』に繋げるかが大事なんだ。 自分の考えをどう判断するかはそいつ次第だけど、そこに他者が共感を呼べるモノを潜り込ませないと他者には響かないもんだって。 俺が飛躍が過ぎる身の上話をしたのも、そこに『今』のかおりんが共感できそうなポイントがあったからさ。ほれ。あの様子なら風紀委員を辞めるなんて思考はとりあえず吹っ飛んでるだろうさ」 「・・・・・・」 「実は受け売り。だから『界刺の考えを実行したくない』って思わなくても良いよ?んふっ。使えるもんは何でも使えよ。アンタはちゃんとリーダーやってるぜ?自信持てよ」 『皆無重量』が解除されつつある途上でリーダーとして冠と会話する界刺。リーダーの在るべき姿勢の1つを紹介しながら助言と励ましを行う彼を見て、 冠は界刺得世がどうして人を惹き付けるのか少し理解できた気がした。胡散臭さ満載の“詐欺師”の言葉を脳内で反芻しながら少女は思う。 「(これが“閃光の英雄”界刺得世か。私が今まで会ったどのタイプとも違う人間だが、本当に“複雑”だな。 単純明快なわかりやすさが無い分評価が分かれるだろうが、却ってそれが他者の興味を惹く要因となっている。・・・私もわかりやすいかと問われれば返答し難いタイプだが)」 「かりやさんー!!また、今度けいこをつけてくださいねー!!」 「バリボリ(いいよ~)」 「仮屋様といい不動様といいあの殿方といい、本日はどうにも衝撃を受ける殿方ばかりとの交流でしたわね。あの界刺という殿方・・・今の所はどうとも言えませんわね」 「では、これにて失礼する。撫子。体を大事にな」 「(ポッ)・・・はい」 「(不動め・・・。し、しかし何故今日の私はこんなに不機嫌なんだ!?さっぱりわからん!!)」 「(これでまた『表情透視』のネタが増える~!!山門先輩といい、今日は豊作豊作♪)」 「不動アニキ!!御達者で!!今度一緒に遊びましょうぜ!!あの界刺って野郎も少しはやるようで。さすがは不動アニキの指導の賜物っスね!!」 「あ、あぁ」 「この度は本当にありがとうございました。『ブラックウィザード』の件に続くこのご恩は何時か必ず」 「そんなに気負わなくていいって。飯を奢るとかそんなんでいいから」 「ではそのように。何時でも声を掛けて下さいね。そうだ。この際携帯番号を交換しましょう。知らない仲では無いですし。不動さんも仮屋さんも是非」 「そうだな。撫子も喜ぶぜ」 「うぉっ・・・何かメガネが妖しく光ってんな。んでもって美魁共々押しが強ぇ」 「界刺」 「うん?」 クールを信条とする少女に珍しく口元に笑みを浮かべる花盛支部リーダーは、各々が騒がしい会話を繰り広げている中、 地面に足を着いた途端に携帯番号の交換を強く迫る六花と閨秀に気圧されている界刺へ近付く。 彼等とはこれで一先ずの別れとなるだろう。だからこの瞬間に伝える。自分とは違うリーダーへの最大限の礼を。 「ありがとう。不動も仮屋も。3人のおかげで支部内の空気が明るくなった。撚鴃に伝えておいてくれ。『成瀬台の人間は誰も彼もが面白い奴等ばかりだな』と」 「・・・それで椎倉先輩喜ぶかなぁ?」 等と漏らし、首を傾げながら部屋を退出していく界刺達を見送った面々は花盛支部の在り方について議論を始める。 皆の本心が剥き出しになったこの議論は、今後の支部の在り方に重要な意味を持つモノとなったのであった。 「ハァ、ハァ・・・」 午後の陽射しが降り注ぐ中少女は直走る。それは、彼女の幼馴染の姿が見えたから。 「ングッ。ハァ、ハァ・・・」 場所は『形製グループ』が興した精神医療を専門とする病院の敷地内。途轍もなく高級そうな漆黒の車が目立つ駐車場を、159支部所属風紀委員一厘鈴音は脇目も振らず疾走し病院内へ突入する。 「居た・・・!!!」 午後の診療が始まる前の番取りで患者が受付前に多く座っている中を小走りで走った先で・・・見付けた。 故に、病院内であることを承知の上で声を張り上げる。自分の存在に気付いて貰うために。 「白高城ちゃん!!」 「一厘ちゃん・・・!!!」 茶髪をポニーテールで結び、両頬にある泣きボクロが殊更目立っている少女・・・風輪生白高城天理。風輪学園で起きた大騒動における主犯格の1人であり、 この病院に入院する主犯格の少年を見舞うために謹慎処分を無視する形で来院する少女の登場で、違う道を辿っていた別種の物語が本格的に交差を始めることとなる。 continue…?
https://w.atwiki.jp/tierness/pages/17.html
2011年2月(遠隔大会) ■重要だと思ったこと エピソードトークは、ボケを投げっぱなしではなくきちんと自分で回収することがとても大事。 たいていの場合は、そのときの感情をおおげさに表現することで収拾がつく。 「共感」できる話かどうかはとても大切。ただ単にギャップがある話を求めている人は少ない。 (変人扱いされ、以後何を言ってもウケなくなる最悪の事態が訪れる。) 一方、共感されれば、笑いが起き、信頼される。(あるあるネタなど。) 以下余白
https://w.atwiki.jp/imas-weeklyrank/pages/891.html
順位 上下 タイトル 登録 再生 pts 1 3↑ 【ニコマスMMD合同】なんどでも笑おう 15th LIVE!!!!!【アイドルマスター】 238 8343 655 2 611↑ 【人力SideM】Tulip 53 8431 474 3 New 包丁で作ったパン 36 8389 455 4 New デレステ「薄紅」MV(ドットバイドット1080p60) 102 5801 392 5 初 恋のHamburg♪ デュエットVer. 12 7008 362 6 New ミリシタ 「Contrastet」桜守歌織 78 5208 338 7 4↓ シャニピポ 56 4564 284 - BEMYBABYのせいにして 13 5152 270 8 New ドオサマ・テイショク・ツイカデ 82 3566 260 9 New 各駅停車で会話して 37 4090 241 10 9↓ とどけ!あるある 8 3603 188 11 New これ既出ですか? 39 2683 173 12 New ロリータお洋服でも、こちらは甘めでラブリー 29 2380 148 13 11↓ HOT NARUMIYA 4 2458 126 14 New 【卓m@s/TRPG】邪眼姫506話/完全統一世界イスカイア58話【SW2.5】 29 1921 125 15 ↑ FRAME☆エクササイズ 9 2248 121 - たべるんごのうた 2 2364 120 16 New 【リリックビデオ】ソウソウ / ナターリア【つけてみた】 20 1773 108 17 11↓ FLASH LIGHT歌い分け49人分まとめ【sideM】 11 1821 102 - SSSS.パリッとマン 7 1746 94 18 New 【人力VOCALOID】きゅんっ!ヴァンパイアガール【佐城雪美】 16 1525 92 - ぎりぎり義理でござyers!!! 6 1633 87 - まこにゃんダンス完全版 -1 1671 82 - ビリーバンバンが歌う小早川紗枝「薄紅」 2 1602 82 - 【人力VOCALOID】Let s go!スマイルプリキュア!【菊地真】 3 1578 81 19 初 【im@s×聖剣伝説FF外伝】過剰気味⑩ 5 1518 80 20 51↑ アイドルマスター とかちつくちて 7 1399 76 21 11↓ 【サイスタMV】「FLASH LIGHT」 5 1430 76 22 1↓ 【卓m@S】《初心?GM小鳥のテラスティア史記》~アイドルマスター&ソードワールド2.0~ セッション2-0 未参加のアイドルたちの風景と成長報告 1 1490 75 23 226↑ ムンナイんごのせいにして 3 1421 74 - 「まこ得」って言ったら 0 1464 73 - アイドルマスター 菊地真 「DING DONG」 0 1451 72 - アイドルマスター 菊地真 パンツじゃないから恥ずかしくない誕生日PV -2 1461 71 - COZMICたべるんご 2 1394 71 - あるあるストロメリア 6 1253 68
https://w.atwiki.jp/wingchimera/pages/2.html
メニュー トップページ 耳より情報(仮) キメラの翼チーム本拠地 チーム紹介 チーム規約 メンバー紹介 チームイベント第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 カウントダウン 第10回 第11回 第11.5回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 七夕集合写真 第17回 第18回 第19回 第20回 攻略情報狩場情報(Ver1.0) その他あるあるネタ 新ダイスゲーム(ブラックキャッツ) リンクチームトップ アクセス 人 今日 - 昨日 - 総数 -
https://w.atwiki.jp/ukulelecco/pages/172.html
【INDEX】 トラブル内容 原因、トラブルに至るまでの状況 対処 今後注意するポイント コメント 発生年月日 発生時刻 対応年月日 対応時刻 2010-04-09 AM4時半ごろ 2010-04-09 AM4時半ちょいすぎ 発見者 容疑者 対応者 おさやん おさやん おさやん トラブル内容 誤ってトップページに編集部のページを丸ごと上書きしてしまった。 原因、トラブルに至るまでの状況 編集部の入部届けの欄にページ編集に関するコメントが書かれていたので「しょうがないなぁもう…」とぼやきながらその内容をコメント欄に移す <ページ保存> ログインしてなくてやり直し ログインし直してからページの編集でページ全体をババーンとコピペ <ページ保存> 「できたできた」って。少し後に最近更新したページをみると。。 トップページがあがってて「何かわった?」ってみてみたら。。 編集部のページが出てきて唖然。。。 あはははは 対処 慌てながらも騒がずに<表示>ー<このページの編集履歴(バックアップ)> 1世代前の履歴で<復元> トップページが元に戻っていることを確認 今後注意するポイント ページの編集後に保存する際、ログインしてなくてログインからやり直すとトップページが表示されているのでそのまま編集しないように注意する。 恐れるなかれ、壊れたら復元しちゃえばいいのだ!!(←これたぶん決まり文句 コメント あ、ログインしないで編集しようとする事あるあるあるらる~!!トラブルって勉強になる -- ふじこ (2010-04-09 13 08 26) みんなもいっぱいトラブル起こそう!!(← -- おさやん (2010-04-09 14 27 10) ログインしないで編集するのはダメにゃ? -- カルロス (2010-04-10 07 18 06) いや、それでも構わないんだけどー、なんか更新回数に制限あってそれ超えるとスパムユーザーとして認定されるっぽいww わたしは既にしパムユーザーですwww なのでログインして編集してます。その方が編集履歴に名前載るからわかりやすいし。 -- おさやん (2010-04-10 08 37 50) 私もスパムユーザーでし -- BijouA10 (2010-04-11 20 23 53) ほぉほぉなるほど -- だいちゃん (2010-04-22 22 02 20) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/486.html
第1話「嘘は暴かれなければ、都合のいい事実である。」 色んな人間にお土産を渡して回ることで、運び屋モドキとなってしまった昂焚。 運び屋としての恩師に充てた手紙を書くのだが・・・ 第2話「ショタコンは欲望であり、母性は義務感である。」 昂焚はドイツである女性にお土産を渡す約束していたのだが、そのお土産はあまりにもアレだった。 愛と欲望にまみれた愛憎劇がミュンヘンを焼き尽くす!・・・・のかなぁ? 第3話「剣よりペンより母は強し」 遂に奴らに占領されてしまった美術館前広場。 死を恐れず、一流の戦士として死の概念を捨て去った奴らに人類は勝てるのか・・・!? 第4話「欲望はエンジン、理性はブレーキ、感情はハンドル」 ここ最近、戦ってばかりでお疲れの主人公。だけど、休む暇もなく波乱が起こるからこその珍奇騒動《カーニバル》。 今日も今日とて、物語は最後の最後まで気が抜けない。 第5話「一見すると交差しているように見えるけど、別の角度から見ると実はすれ違っていたりする」 今回は、脳みそがユニバァァァスな女に追いかけられたり、胃がブラックホールの美少女に勝負を挑まれたり、 歩くポルノに拘束されたり、追われている事を知らない男と追っている女によるメシマズキングダムのドキュメンタリー(?) 第6話「再会はゴミ捨ての後に」 メシマズキングダムのドキュメンタリー第2弾! ハーティちゃんのDOKI☆DOKIごうもんしつ!訪問や日本人街を騒がせるあの美人まで、完全網羅! 第7話「気まぐれな善意はフラグ建築に貢献することがある。」 モテたい男子必見!のフラグ建築読本! 今日のターゲットはスラム街出身の10歳のラテン系美少女!神も他人も信用しない鉄壁のガードを突き崩せるか!? 第8話「フラグの建て逃げはヤンデレを生み出す危険性があるので、おやめ下さい。」 当作品において、まともな女性キャラがいないこと、ヒロインにゲロを吐かせたこと、 主人公の鈍感が原因でヤンデレを生み出してしまったことを深くお詫び申し上げます。でも反省するつもりはありません。 第9話「終わる終わる詐欺をやってごめんなさい。尺の都合でまだ続きます。」 セクシー運び屋に利用され、ボインなショタコンに八つ当たりされ、勘違いで露出狂に襲われ、デメキン傭兵に拉致され、 痩せの大食い美少女に喧嘩売られ、ボンテージ中学生に拷問され、ついにヒロイン登場と思いきや・・・ 第10話「珍奇騒動《カーニバル》は終わらない。」 騒然とするイルミナティ幹部会、遂に結成された尼乃昂焚殺害同盟。そして、ユマに拘束された昂焚。 こんなに風呂敷広げちゃって、ちゃんと畳めるのだろうか?怒涛の最終回(?)
https://w.atwiki.jp/yyyigame/pages/234.html
気品のある行い 犬吠埼樹 進化前 進化後 CV 黒沢 ともよ ステータス ※ステータスの数値は初期値になります。 型 属性 レア度 HP ATK 踏ん張り 速度 CRT コスト SP 範囲型 青 SSR 1840 2390 C- B- F- 29 37 リーダースキル 乙女の秘密 青属性の勇者のHP+45% 必殺技 新緑の恵み 必殺技演出あり 種別 効果 ゲージ 技再使用時間 仲間回復 攻撃ペース昇 仲間全員のHPを30%回復し、20秒間攻撃ペース+20% 2 30秒 アビリティ 似合ってる? 発動条件 効果 五段昇段時 自ペアのCRT+200、60秒間自ペアのHPを自然回復 神花・覚醒 神花/覚醒時 獲得精霊 初回神花 二回目回神花 三回目神花 四回目神花 SR木霊(青) 一定覚醒値報酬 必要覚醒値 5 SSR木霊(青) 全開突破報酬 SR木霊(青) 最高級技うどん玉x20 神花解放 段階 必要コイン 必要属性結晶 上限Lv30 8,000 青の欠片x7 上限Lv50 32,000 青の欠片x10 青の結晶x7 上限Lv70 128,000 青の結晶x15 青の煌結晶x7 上限Lv99 512,000 青の煌結晶x30 緑の煌結晶x10 黄の煌結晶x10 上限Lv150 2,048,000 勇気の結び目・魂x1 勇気の結び目・絆x1 勇気の結び目・花x1 勇者絵変更神花解放数 2回 ボイス 1 - 2 - 入手方法 期間限定ガチャ絢爛大輪祭 名前
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/813.html
これはとある日のとある一時に起きた、当事者以外には誰も知ることのない出来事。 その出来事が何を意味するかは現時点では誰にもわからない。意味など無いのかもしれない。 しかし、事実として2人は出会った。偶然という名の運命に導かれて。 それは、幕間の如きお話。故にここに記そう。似て非なる、とある2人の男達の出会いを。 煙草が地に落ちた瞬間、両者は動いた。 傭兵ウェイン・メディスンが内ポケットに隠し持っていた拳銃を引き抜き発砲する。 対する成瀬台高校生、界刺得世はサーモグラフィによる探知能力によりウェインの行動を先読みし、迫り来る銃弾を危うくかわしていく。 早々に銃による戦闘に見切りをつけたウェインが尋常では無い速度で界刺に肉薄、強烈な回し蹴りを放つ。 それすらもしゃがむことでギリギリ回避する界刺。しかし、ウェインは回し蹴りによる勢いを利用した裏拳を界刺に見舞う。 反応が遅れた界刺は腕で防御しながらも、その勢いを利用して後方に転がり、距離を取る。 続いてウェインはズボンのポケットよりナイフを2挺引き抜き、再度急接近する。 同時に界刺も護身用に所持している伸縮式警棒2本を展開。ウェインの斬撃に応戦する。 さながら剣戟の如き一撃を交わす2人。しかし、純粋な格闘能力ではウェインが勝る。 警棒での応戦に努める界刺の隙を十数秒で見極め、仕掛けるウェインだったが、突如視界が暗転した。 それは、界刺の『光学装飾』によりウェインの目に入る可視光線を全て“黒色”にしたのである。事実上の失明状態である。 突然の事態にウェインの挙動が緩む。その隙を狙い2本の警棒を接続した長棒による一撃を叩き込もうとする界刺。 しかし、その一撃は空を切ることになる。それはウェインの張った保険+罠。 ウェインが予め仕掛けていた『蛋白靭帯』によって生成された糸による張力を利用し、上方に大ジャンプしたのである。しかも界刺を引き連れて。 それは、回し蹴りの後に仕掛けた裏拳が原因。裏拳が界刺の腕に接触した際に目にも映らない極小の糸を一本巻き付けていたのである。 そして、ウェインが上方に大ジャンプする際に極小サイズの糸を1cmに拡大。更に、飛行機さえ造作も無く吊り上げる糸の大群が界刺に殺到する。 ウェインが糸の上に着地したのと同時に、糸によってぐるぐる巻きにされて地面に叩き付けられる界刺。 そのまま糸で締め上げることでバラバラに引き裂こうとするウェイン。しかし、その瞬間界刺が『光学装飾』の真髄を発揮する。 それは、超至近距離内での全力による赤外線輻射を用いた瞬間的な強大熱量の発現。 糸に巻かれた現状では自身にも危害が及ぶ可能性があったが、背に腹は代えられない。 躊躇無く全力で赤外線を放射・輻射する界刺。瞬間的な強大熱量を受けて、界刺に巻き付いた糸はボロボロに焼け落ちた。 焼かれた糸の振動を受けて、未だ視界が暗転状態のウェインは少しだけ驚きを露にした。対して界刺は大きく息を吸い、息を整える。 「ほぅ・・・やるな」 「ふ~・・・うわっ、服があちこち焦げてるじゃん。こりゃもう一回制服を新調しないと駄目かあ?」 思わぬ歯応えに感嘆の言葉を漏らすウェインであったが、当の界刺は目の前に差し迫った己の命の危険より、焦げた制服について考えを巡らしているようだった。 「フッ、己の命より服の惨状に気を向けるとは・・・変わった奴だ」 「あ?いきなり人を殺しに掛かってきた殺人鬼にとやかく言われる筋合いは無えんだけどな・・・」 憤慨の意思を露にする界刺。すると、 「誤解しているようだが、俺は無差別に殺戮を繰り返す快楽殺人者では無いぞ?まあ、今回貴様を殺そうとしたのは・・・暇潰しも兼ねていたがな」 「何それ!?暇潰しで殺しって、それって快楽殺人者と変わらなくね!?」 「フッ、確かにある意味ではそうかもしれん」 「開き直りやがったよ、コイツ」 「だが、俺は仕事に無関係の人間は『無闇』に殺さない。その例外があるとすれば、それは俺が興味を抱いたということに他ならない」 「興味?」 界刺の疑問にスラスラと答えるウェイン。 「ああ、そうだ。貴様とあの女の話・・・中々に興味深かったぞ。特に貴様の考え方に、俺は興味をそそられた」 「うわっ、何だコイツ!?気色ワリィ!!」 「貴様は自身を世界の一部と捉えている。心の底から。俺も同感だ。俺も世界の一部足る人間だ」 「・・・?」 「故に、俺と貴様はある意味では似通った人間だということだ。性質は正反対かもしれんがな」 「・・・殺人鬼と同類にされるのってすんごく不愉快なんですけどー」 「そうか?まあ、貴様が『いわれなき暴力は世界によって淘汰される』という立場ならば、俺は『いわれなき暴力の存在さえも世界は認めている』という立場だからな。 確かに俺と貴様は、厳密に言えば同類では無いのだろう」 「・・・よくわかんねえ」 界刺にはよく理解できなかった。目の前の殺人鬼は自分と同類だと言ったり同類では無いといったりする。わけがわからない。 「まあいい。今日の所は十分に楽しんだ。この辺で俺は引き上げさせてもらおう」 「ああ、何処にでも行ってくれ。ったく俺はバリバリの戦闘タイプじゃねえっつーの。死ぬかと思った」 「・・・『バリバリの戦闘タイプじゃ無い』?・・・ククッ、本当に面白いことを言うな、貴様は」 「ああ?」 「俺の目を騙せるとでも思ったか?貴様は何かを隠し持っている。そして、先程の戦闘ではついぞ見せなかった。 つまり、貴様は『本気』では無かったのだろう?全く、この俺を相手にそんなふざけた真似を貫き通したのは貴様が初めてだ」 「・・・それはアンタも同じだろうが」 「ほう、気付いていたか?」 「・・・当たり前だろ」 「イイ目をしている。そして観察眼も鋭い。ククッ、次にもし相見える時があれば全力でもって貴様を殺してやる。・・・その時を楽しみにしているぞ」 「・・・いや、絶対にお断り」 界刺の言葉を無視するかのように漆黒に覆われた夜の暗闇に姿を消すウェイン。 それを確認した後に、ようやくウェインの暗転状態を解いた界刺。 「・・・ったく。『本気』?んなもんメンドくせっつーの」 何とか命拾いした彼は、そんなことを呟きながら仲間が待つ光輝く夜の街に戻っていく。 光の世界に戻る界刺。闇の世界に消えるウェイン。似ていそうで似ていない2人のこれが、最初の出会い及び最初の会話であった。
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/2394.html
前回までのあらすじ 富士見の一言により急遽始まったバレンタイン大会。三人寄れば姦しいと言わんばかりに戯れる乙女達の一方で。 何故か独りでに自爆していく粉原とそれに乗じてヒャッハー水だーとはしゃぎ回る樹堅&入場。 隠していたとは名ばかりの幼子に甘い本性が見え隠れ(割合8 2)する粉原に更に追い討ちを掛ける四方。 阿鼻叫喚の準備期間を経て振舞われた『ちよこれゐと』は想定以上の好評を受け企画は成功であったと言える。 しかしその影では粉原へと敵意の視線を送り続ける江向や四方へと熱っぽい視線を向ける江向の姿があったことを忘れてはならない。 ある意味普段以上に積極的に見える江向の行動だがこう見えて通常運行。画面に映らないだけでいつもこうなのである。 そして普段から着回されくたびれ気味の四方のネコミミパーカーに怪しい視線を送る富士見と江向に戦慄する吉永。 ここは常識人枠として風呂敷広げにゃならんと発した言葉は『服を買いに行きましょう』そして今回のお話に富士見と江向は不在。 「いや、何よこの適当な前回のあらすじ」 日曜日の昼下がり。私達は繁華街にやってきていた。 そして現在地は洋服を取り扱うお店の前。ガラスのショーウィンドウに展示された洋服が目を惹く。 あまり来る様な場所では無く、おのぼりさんの如くきょろきょろと首を巡らせる。 やはり視界に入るのは新鮮な光景。周りを歩く人達も、普段は見慣れないきらびやかな衣服に包まれている。 「で、お目当てはここな訳で。この前言ってた事は本気だったのか…」 慣れない場所にすこし戸惑いながらも、口を開く。 正直誰かと話していないと場違い感に押しつぶされそうである。 私のそんな繊細な心境を察してかそれとも知らずか、声が返ってくる。 声の主は隣に立っていた。栗色のロングヘアーを揺らしながら、隣に立つ少女が答える。 「当然よ。今日は存分に着せ替え人形にしてあげるから覚悟しなさい」 彼女は『吉永芙由子』デバッカーの頼れる仲間でもあり、私の親しき友人でもある。 芙由子と二人でここへやってきた理由は彼女の言ったとおり。 「既に本音を隠す気が無くなってるし」 着せ替え人形。要するに先日の話に出たように基本的に同じパーカーを着まわしている私に対して そのファッションセンスを嘆いた芙由子が私に新しい服を宛がうというイベントだ。 正直な話、気は進まない。別に持っている服が少ないわけでも、似たような服ばかり持ってる訳でも無い。 だが芙由子が言うにはいつも同じパーカーばっかり着てるから代わり映えしないのだと言われ、ここまで連れて来られた次第だ。 …別に同じパーカーを着回してるからって洗ってない訳じゃないわよ? 人臣から同じパーカーもう一つ貰ってるからローテを組めている。 「つべこべ言わずに付き合いなさいな。似合うの選んであげるから」 腕まくりをして張り切る様子の芙由子の気勢を削ぐのも何なので大人しく付き合う所存だ。 あんまり変な服を着せられるのはごめんだけどね。 とは言え芙由子は我がデバッカーの中でも一番の常識人枠。 ファッションセンスに関しても一任して間違いは無いはず…と信じたい。 「はいはい、今日は任せるよ。ただし、お手柔らかにね、芙由子?」 既にやる気満々の芙由子に肩を竦めつつ店へと足を進め、入店するために扉を潜り店へと這入る。 しかしまぁ、最近メンバーの皆と仲良くなってくるにつれて、逆に振り回される機会が増えている気がする…。 最初は私の方がみんなをいじって遊ぶ役割だった筈なのになぁ。 いつからこうなったのやら。一体誰のせいだ。…何となく焔が原因な気がしてきた。 「まっかせなさいな。途中で逃げんじゃないわよ、視歩?」 そんな思考も知らず、振り返った芙由子が爽やかに笑った。 友人のそんな笑顔にすっかり毒気を抜かれ、大人しく付き合うことを改めて決めた私だった。 ~~~~~~~とある猫娘達の日常 8話 とある女子組の衣服選び~~~~~ と、いう訳で。 「い、いや…これは流石に…恥ずかしいんだけど」 着せ替え人形にされている最中だが、さっそく心が折れそうだ。 一番最初に着せられたのは、ホットパンツとタンクトップで夏らしい服! と言えば聞こえは良いんだけど…とにかく丈が短い! あとタンクトップも面積が無駄に少ない!恥ずかしいから! 「えー。アンタよく動くし、活発な感じで似合ってると思うんだけど」 よく動く事も見た目的にも活発である事は否定しないけど! …うーん、髪伸ばそうかしら?そうすればもう少し印象も変わって…いや邪魔だから無理ね。 しかし活発そうだからってこの服は… 「いやいや、それにしたって丈が短くて…これ着て動くのは恐いんだけど…」 ホットパンツとは言え、ここまで短いと動いた拍子に下着がはみ出しそうだ。 普段から短パン着用のミニスカートなので、いつもは気にしなくて良いんだけど… 「ああ、そういえばアンタ短パンいつも使ってたわね」 どこぞの赤い奴が色気がないとか言ってたけど軽くスルーだ。 逆に血晶赤の場合無駄に色気振りまき過ぎだと思うわ。 「まぁね。にしてもこんな短いのは履かないけどさ」 しかしこれは論外としても、もう少し色気のある格好した方がいいのかな…。 一応私だって女の子な訳だし、同姓にばかり言い寄られるのも改善できるかも。 …女の子らしい格好をした私を思い浮かべて諦めるのだった。 ~~~~~入場とホットパンツの場合~~~~~ とりあえずこのホットパンツは「尋常じゃねぇローライズ」と名付けるとして。 ともかく着てみたはいいけど、普段から着るのは無理だから脱ぐとしよう… 「お、吉永じゃんか。何やってんだ?」 …試着室に戻ろうとした矢先に邪魔が入った。しかも随分と聞きなれた声だし。 そこに現れたのは、デバッカーのメンバーである入場だ。 よりによってこいつか…余計な奴が余計な時に…! 「げっ、入場!ちょ、ちょっと!それ以上近づくな!」 私以上に焦っている子が一人いるから意外と冷静なんだけどさ。 ともかく男性恐怖症の芙由子が慌てながら威嚇しているのを気にせず近づいてきた。 一応、芙由子の立ち位置を避けるように大回りして此方へきた入場が私の姿に気付く。 「吉永は相変わらず…ん?そっちのかわいい子は友達か?」 ああいや、私の姿には気付いたみたいだけど…。 それを私と認識しては居ないらしい。いつもと大分違う格好だから仕方ないとは言え。 顔を見たら分かるだろうと入場の方へ向き直り手を挙げ笑顔を向けた。 リーダーの姿くらい衣装が違っても判別しなさな。 「私だよ、私。入場、顔を良く見ると良い」 私の顔をしっかりとみると、入場の顔が見る見るうちに驚愕に変化する。 というか、すこし青ざめてるのは何故だ。私に失礼だろ。 青ざめた顔を振り払って私を指差す。 人を指差すんじゃありません。マナーが悪いわよー、と何だかお母さんでもやってる気分ね。 「し、四方っち!?え、いや、ごめん!そんな格好してるから分からなかった…」 わたわたと入場にしては珍しい慌てぶりで弁明をしている。あ、視線の動きで思い出した。 そういえば髪型も少し弄ってたんだった。それじゃあ分からなくても責められないか。 「別に謝る必要は無いよ。まぁ、すぐに着替えるんだけどさ」 どっちにしろ着替えた後で髪も戻すけどね。 いつもと違う髪形って言うのも落ち着かないし、むずむずしてしまう。 「ええ、もったいない。それ似合ってるのに」 はいはい、と適当に答えながら更衣室のカーテンを閉めた。冷静になったのか軽口を取り戻した様だ。 とりえあず元の服へと着替えていると話し声が聞こえてきた。 「しっかし、四方っちがあんな服を着るとはなぁ。ほら、あのホットパンツとか可愛いじゃん」 ほうほう、入場はこういうのが好みか。 からかいのネタを自分で増やしている事に気付かないんだろうか彼は。 ちなみに説明しておくとこの入場は我がデバッカーの中でも一番の好色家だ。 特に年下の女の子が好みらしく、しょっちゅう女の子に声を掛けているのを見かける。 デバッカー内でも皆口説かれて…焔は同い年だから口説かれて無いわ。 むしろ見た目的には一番美少女美少女してるんだけどね、あの子。 …焔が年上と言う事実は思い出すたびに自分の頭を疑いたくなるな…。 「入場…アンタが言うと途端に軽く聞こえるわね…」 「ひっでぇ!?」 入場の軟派癖は今に始まった話じゃないんだけど…。 今まで私にそれを向けた事は無かっただけに、いざ標的になると複雑だ。 さっきも言ったが皆口説かれて無いだけに私にだけそれが向かない理由は何なのだろう? 別に口説かれたい訳では無いけど、そんなに私魅力無いのかな…。 「しかしさ、四方っちもよく見ると幼い顔してるし、俺としてh」 …今みたいな事考えてたのが恥ずかしくなるわね。 実際歯の浮くようなセリフを向けられると何ともいえない気分だわ。 「視歩にそれ以上変な目を向けたら消し炭にするわよ…?」 バチバチと電気が弾ける音が聞こえてくるんだけど… 店内であまり暴れるなよー、と試着室内から声を掛けるがあまり効果が無いようで。 というか私以上に怒っている芙由子に少々驚きだ。 私は案外大事に思われているようで何とも嬉しい。気分が良くなってきちゃった。 「恐い恐い、吉永だって可愛いのに怒ってばかりだと台無s」 「アンタの全てを灰に変えてやるわ…血染めの真っ赤な灰に「いやマジで恐い!?」 漫才に見えるが、そろそろ吉永の堪忍袋と入場の命が危険なので止めに入る事にする。 ばちんばちんと帯電がそろそろ危険域に達しつつある芙由子の頭にチョップ。 「そろそろ止めとく様に。周りに迷惑かけたらダメ」 「むー、でもこう言う不埒な事考えてる男風情は駆逐しておいたほうが…」 駆逐て。あれー、芙由子ってこんなに物騒な事言う子だったかなー。 とか考えていると入場が疑問に答えてくれた。 「相変わらず、吉永は男には容赦ないな…。鳥肌立ったよ」 ああ、男限定なのねこれ。恐がるだけかと思いきや反撃に出る気概も最近はあるらしい。 芙由子の男性恐怖症が治る時は果たして来るのだろうか…? 「というか、芙由子って男に近づくと動けなくなるって印象だったんだけど…」 むしろ今は男に対して攻撃的になっている様な。あと少し遅れてれば入場に攻撃してたんじゃなかろうか。 実際に手を出しているわけでは無いんだろうけど。 「ああ、知り合いになった相手とかなら少し余裕が出てくるからこうなるのよ」 「…芙由子相手だと、逆に仲良くなった方が恐いのか…」 斬新だな。男性恐怖症の子と仲良くなってその人だけは平気~みたいな流れにはならないらしい。 芙由子に惚れた男は色んな意味で苦労しそうだ。命が足りない的な意味で。 「これじゃあ迂闊に吉永に近づけなくてなぁ。口説く事も出来やしない」 肩を竦めながら入場が答えるが、芙由子の腕を掴んで抑えるのに必死で様子はあまり見えていなかった。 というか、既に発言の前半部分で芙由子の顔に青筋が浮かんでいるのが見えんのかコイツは。 ふーっ!と猫が威嚇するような声をあげながら襲いかかろうとする芙由子をなだめつつ 「そんなに口説きたいなら妹を口説けば良いんだよ、君は」 と、こんな具合でちょっと逆襲してみる事にする。 妹という単語をちらつかせると簡単に動揺を誘う事ができるので入場は扱いやすい。 「ちょっ、まっ、何言ってんでしょーかね!?俺がい、妹を口説く訳ないでしょーが!?」 どもりまくりである。こうも分かりやすいシスコンも珍しいもんだ。 入場も入場で妹に関しては色々と苦労してるから仕方ないか。この兄妹には幸せになってもらいたい物だ。 「いや焦り過ぎ…。あんた、何か妹にやましい事でもしたの?」 あー、そういえば芙由子は入場の妹の件は最後まで関わってなかったっけ。 まぁ、まだ語ってない話だし詳しくは伏せておく。 簡単に言えば、妹さんを助けるのに少しばかり手を出したりした結果、思った以上に大きな騒ぎになったと…。 まぁ後は言うまい。一番の見せ場の告白シーンは壮観だったとだけ言っておこう。 「話を広げるなぁー!?」 「そう言わずに。最近妹さんとはどうなんだい?仲良くやってるかい?」 語る語らないはともかく、ここぞとばかりに畳み掛ける事は忘れない。 どうにも血晶赤や芙由子相手だと劣勢に陥り気味で、最近人を弄り倒す機会が少なかっただけにココは逃せないな。 このシスコン男も少々女の子を口説き過ぎな悪癖がある事だし、少しばかり痛い目を見てもらう必要がある。 女好き尚且つ年下の女の子を口説きまわるコイツは要注意人物である。 瞳の保護者としては色々と注意しておかなければ。 前のバレンタインの時も不穏な発言をしていたし、入場の行動は要観察だな、うん。 …その際、何故か粉原が怒っていたのも聞いてたけど、それはそれで面白い展開な気がしてきた。 入場はどれだけ他の女の子を口説こうと本命が妹っていう前提があるけど… 粉原は様子を見るに割と真面目に瞳を好いてくれているっぽい。 瞳の方も粉原には懐いているし、案外いい感じの関係になれるのではないだろうか? 「ぐっ…いや、まぁ…『あれ』以来一緒に居れる時間も増えたけどさ」 それについて入場妹本人からコメントを頂いている。 確かに一緒に居る時間は増えたらしいが…それによって弊害もあったようで。 「あんまり過保護過ぎて嬉しいけど困ってる、ってさ。この前一緒に買い物したときに言ってたよ」 嘘ではなく事実だ。長らく離れていた訳だし、気持ちは分からないでもないけど。 それにしたって話を聞いていると過保護過ぎな気はする。 「何時の間に仲良くなってたんすか…。っていうか、頼むから仲間に誘ったりしないでくれよ!?」 アイツに怪我とかされたら俺どうすりゃいいのか!と頭を抱えている様子に、芙由子の目が冷たくなっていた。 そんな目で見てやるなよー、入場にも色々あるんだよ。 「どこからどう見ても残念なシスコンね、コイツ…」 立ち位置がさっきより二歩ほど下がっている辺り、リアルに引いている。 入場、強く生きろ…。 「お前ら少しずつ後ろに下がるな!俺から遠ざかっていくな!」 あ、私も下がっていた様だ。気付かぬうちに後退させられるとは。 (侮れない、これがロリコンの逆引力…!」 「いやロリコンじゃなくてシスコン!って、自分でシスコンとか言ってんじゃねーよ、俺!?」 おお、モノローグにまでツッコミを入れるとは。 ついに読心術まで会得するとはさすが入場だなー。 「モノローグならちゃんと役に徹しろよ…。途中から口に出てんだよ…」 頭を抱えたまま立ち直れない入場がうわ言の様に呟いている。 そんな入場の影を繰り返し踏んづけている芙由子に目を向けると、ふとこっちを見て思いついたかのように 「アンタ達、メタ発言は程ほどにしなさい」 重々しく言い放った。まぁ、メタ発言は瞳の特権なんだけどさ、私達の中じゃ。 というか、影を踏みつけるという芙由子の行為が意外とえぐい。踏みつけているのが頭な辺りマシマシだ。 「まあ、一線は越えてしまわない様に気をつけることだ。…世間の風当たり的に」 「えっ、ドン引きなんですけど…」 あまりに完ぺきな芙由子の繋ぎに私も戦慄。 さすが芙由子!欲しいときに欲しい以上の言葉をくれる!おっかない! とまあ、そんなとどめの一撃は見事にクリーンヒット。 顔を赤くしたり青くしたりしながら立ち上がると、プルプル震え始めると 「お、俺は、妹が大事なだけなんだぁぁぁぁぁぁ!!」 お前らなんか嫌いだー!と走り去ってしまった。 おお、逃げ足速いな。能力を使わなくても十分だな、あいつ。 「そこら辺の運用も考えてみるか…?」 「いや、何の話よ。あれか、妹を使ってパワーアップさせるみたいな」 ある意味アリな案ではあるが、逆にオーバーヒートしそうなので却下。 とりあえず、今考えているのは別の事である。 「ほら、わざわざ洋服店にまで来て入場を弄り倒したんだし、それらしいオチを作ろうかと思ってさ」 「変なところで気を回すわね、アンタ。というか、オチが無いとダメって芸人じゃないんだから」 最もな意見はともかく、今自分が手ぶらである事に気付く。 話に夢中になり過ぎたか、と声を出して芙由子へ呼びかける。 「あ、着替えた後、ホットパンツ更衣室に置いたままだった」 はいはい、と慣れた様子で送り出してくれる芙由子を横目にカーテンを開いた。 そして、手に取ったホットパンツを見て―――閃いた! 「思いついた…相応しいオチを!」 デェェーーーン!!と脳内SEと共に掌を拳で打つ。 所謂思いついたのポーズだ。何が所謂なのか私にも分からないが。 携帯を取り出し、ボタンをプッシュする。 急に携帯を取り出した私を訝しんでか、首を傾げた芙由子が疑問の声。 「誰にかけんのよ?」 「入場の妹ちゃん」 瞬時にうわぁ、という顔になりつつも説明を求める芙由子に考えた事を解説してみる。 携帯の画面には既に妹ちゃんの番号が表示されていて、いつでも発信できる状態だ。 「いやさ、折角こんな所にいるから妹ちゃんに服をプレゼントしようと思ってね」 「…まぁ、それは良いとして。何の服を買ってあげるつもりなの?」 分かってて聞いてるだろう、と笑いながらも手に持った答えを提示する。 右手に持っているのは、さっきのホットパンツ。割合としては善意3割:悪意6割:興味1割だ。 「さっき、ホットパンツが可愛いとか言ってたからね」 「つまり、入場にとって一番かわいい存在である妹に、かわいいと評した服をあげる訳だ」 あとついでにその服を妹ちゃんに着せた状況で、入場と二人きりの状況を作るところまでアフターサービスだ。 その様子を遠巻きに眺めてから皆でからかおう、という計画である。 「やる事がえげつないわ…。まだ弄り足りなかったの?」 やるならとことんやるべきだろう。中途半端は何事も良くないものだもの。 本音としては、ようやく一緒に居られるようになった兄妹を外野から囃し立てたいだけなんだけどね。 今まで散々理不尽な理由で引き離されてたんだ。 これからの人生は二人仲睦まじく過ごして欲しいじゃないか、とは口に出さなかった。 「そんな事、言うまでも無い事だしね」 ~~~~~瞳とネクタイの場合~~~~~ 「何の話よ?」 会話だけ聞くと私がいきなり訳の分からない事言ってるだけだなこれじゃ。 いやいや何でもないよ、と話を切ってから話題を進める事にした。 「いや、こんな風に芙由子の悩みも解決した時があったなぁってさ」 その時の事はよく覚えている。 芙由子がデバッカーに入って間もない頃の話だ。 「そういや、そうだったわね。今となっては私も何を考えていたのやら」 よりによってアンタに嫉妬とか同情とか一番意味の無い感情だったわ… と、額に汗を浮かべていた。そういや芙由子も最初はそんな感じだったな。 当初芙由子は私に複雑な感情を抱いていたらしく、私を見る目も濁っていたのが印象的だった。 今はそんな確執も無くなったのだが、当初の芙由子の様な目をしている面子がまだまだ居るのが我が組織なのだ。 直近の問題としてはメアリと焔か。メアリは元々歪だけど、最近焔の様子がおかしいのが気になる。 …と、そんな事を思考していると芙由子が顔を覗き込んでいるのに気付いた。 そういや何の返事も返していなかった。急いで言葉を選び当たり障りの無い返答を返す。 「芙由子の視点から見れば、そりゃあ仕方の無い話でもあるとは思うよ?」 研究施設に居た頃からある意味私は贔屓されていたし…同じ施設に居た芙由子からすれば目に付いただろう。 どれもこれも全部、人臣とか言う研究者が私を見つけてしまった事に起因する。 と、私と芙由子の間でしか成立しない過去話に花を咲かせていると、慣れ親しんだ声が掛かった。 「あらぁ?そこに居るのは視歩ちゃんじゃないかしらぁ?」 「…なぜココにお前が…血晶赤」 その声は赤色だった。いや、妙な例えだったな。 その声を発した人物は赤色だった。言うまでも無く血晶赤である。 一応紹介しとくと私達チャイルドデバッカーと敵対する組織『甲蟲部隊』の戦闘員。 …でもあり、私の古くからの友人でもある。ややこしい関係である事は自覚してるから言わなくてもいいわ。 「街を歩いていたらぁ、かわいい拾い物をしちゃったからねぇ」 返答になっていない様な気もするが、その拾い物が視界に入ってくると納得。 そう言って顔の前に持ち上げた物は、ってか者はとても見覚えのある姿だった。 というか瞳だった。(一応)敵と二人で何してんだお前は。 恐らく瞳を拾った後、瞳に私を探させたのだろう。 瞳が居れば私の居場所くらいはすぐに分かるし。能力抜きにしても何となくお互いの事は分かる物だ。 かれこれもう何年も一緒だし、同じ家で暮らして一日の殆どを一緒にすごす仲なだけはある。 「あのねぇ…。変な人に付いていっちゃダメって言っただろう?」 「………………………………………(確かに変な人だけどね)」 ニコニコと笑っている瞳に言い聞かせつつ、血晶赤の顔色を伺うと何だかショックな顔をしていた。 変な人とか言ったから傷ついてるのか。こういうとこ妙にかわいいのよね、こいつ。 こんな調子だから恨むに恨めない。接する機会が多ければ多いほど魅力が嫌でも目に入る奴なのだ。 強いて例えるならばスルメを口の中に突っ込まれる感じか。絶望的にイメージダウンだよ! 「はいはい。冗談だから傷ついた顔しない」 「あんたら早々にいちゃついてるんじゃないわよ…」 今まで発言を控えていた芙由子が口を挟んできた。 そういえば芙由子と血晶赤をまともに会話させるのは初めてね。 基本的には私と瞳以外のメンバーで血晶赤と接点があるのは二人。 一人は粉原。何度か戦場で戦った事があるはずだ。戦績は芳しくないらしい。 普通の手段を用いて血晶赤に打ち勝つのは非常に難しい。 彼女を中心とした半径10mは血晶赤の絶対の領域。これを破る手段が無いと傷一つ負わせる事が出来ない。 粉原が弱いわけでは無いのだが、能力として同系統な上に血晶赤本人の戦闘能力が異常なのだ。 その根拠として一つ彼女特有の『戦闘反射』という物があるのだが… 「あらぁ、あなたは…吉永さんだったかしらぁ?」 と、妙な解説をしている内にあちらで新たな展開が繰り広げられていた。 初めての組み合わせ且つ気になる二人の会話を眺めてみる事にしよう。 「え、あ…そうよ。吉永芙由子よ。よろしくね、血晶赤…って一応敵なのよね貴女」 芙由子はまず何よりどう接していいものか戸惑っているらしい。 対して血晶赤の方は割りといつも通りで、普通に友達に人を紹介された様なリアクションである。 血晶赤は女の子相手だとかなり友好的なんだよね。戦場以外で会うと特に。 「今は陽の高い時間…敵も味方も関係ないわよぉ?」 その言葉に嘘は無く、恐らくこれからも永久に昼の世界で彼女が事を仕掛ける事は無い。 敵の事を信じるのは愚かなのかもしれないが、それでもこの友人だけは疑う気になれない。 理由と聞かれても、血晶赤は血晶赤という言葉以外で説明が出来ないくらい難しい奴だから、としか。 私と言う相手に対して、敵になりきる事も出来ず仲間になる事も望まず。 群れる事を嫌いながら孤立する事を辞め、狂気を孕みながら優しさをも振りまく。 誰よりも死を思わせながら殺を嫌い、影に生きながら日向がとても似合う。 ありとあらゆる面において彼女は矛盾している。 矛盾こそが彼女の本質であり偽りようの無い本性なのだ。 ―――アンビバレンス。血晶赤を一言で表せる言葉が『血晶赤』以外にあるならばこれだろう。 「その通り。というか敵に回したら厄介だから仲良くしてやってくれ」 分かりにくいなら厄介だと言い換えてもいいかも知れない。 少なくとも一般の方々から見ればそれで十分なだろうし、それ以上の理解を他人に望まない。 …私も私でどこか、彼女を理解して友人を続けられる事に一種の誇りを持っているのかもしれない。 と、この様な具合で我が愛すべき友人であるこの血晶赤を分析してみた次第である。 「…瞳ちゃんも懐いているのね。まぁいいわ、別に私も進んで敵対する理由ないし」 「………………………………………(みんな仲良くだよー)」 仲間内ではデバッカーの潤滑油と呼ばれているらしい瞳の言うように、出来れば仲良くしてもらえれば幸いだ。 誤解されやすいタイプだし、間違いなく善人では無い血晶赤だがこれでも優しいところがあると言うのは前述したとおり。 基本的に人に優しくする事に喜びを見出せる奴なのだ。 …そこに至るまでに複雑なフィルターが幾重にも掛けられている事も事実ではあるが。 少しの緊張を残しながらも警戒を解いている芙由子と、柔らかい笑顔で微笑みかける血晶赤を眺めながら瞳へと歩み寄る。 しかし、そんな偏屈とも呼べる厄介さは今回発揮されなかった様で。こうして見てると… 「あいつも変わったわね…。昔ならあんな風に私達以外の人と楽しそうに話したりしてなかっただろうし」 芙由子も初めて会った頃に比べれば確かに柔らかくなったが、血晶赤はそれ以上だ。 最近は血晶赤から狂気を感じる事が殆ど無くなった。それは願っても無い事だった。 昔の血晶赤は… ~~~~~~~~~~ 「視歩ちゃぁん…今日こそ私のモノになってもらうわぁ!」 「だぁぁぁっ!こっちにくんな、この変態がっ!」 「………………………………………(今日も今日とて愛が重い…)」 ~~~~~~~~~~ こんな感じだったな。元々殺意は無かったけど、あの頃の血晶赤は何か恐かったし。 そういやこの頃は私を屈服させて自分の物にするとか言ってたけど、その欲望自体は失われてないんじゃないかと不安でならない。 彼女が変わった理由は分からない。私と出会ってからの彼女に、何かの転機があった事しか私は知らない。 しかしあえて語る必要も無い事なのだと、他でもない血晶赤自身が目で語るのだ。 「………………………………………(血晶赤が変わったのも、視歩が居たからなんだよ)」 「ん?…ごめん、よく聞き取れなかった」 おっと、目を逸らしていたから瞳の言いたい事が分からなかった。 私は瞳の表情とかから言いたい事を解釈している。故に顔を見ながらじゃないと訳せないのだ。 「………………………………………(何でもない。気にしないで)」 「…まぁ、そう言うなら気にしないけど」 正直気になる…と言えばすごく気になる。気にならないわけもない。 瞳が言葉を濁すのは結構珍しいんだけど、でも今は深く追求しても教えてくれないっぽいし。 今度改めて尋ねてみる事にしよう。アイスか何かで機嫌とってからが良いだろう。 「…へぇ、そんなに頻繁に視歩に会ってるのね。アンタの部隊に報告したりしないでいいのかしら」 「私の目的は視歩ちゃんだけ。例え貴女達のアジトの場所を知ったとしても、報告する事に意味なんてないのよぉ」 気付けばあちらはあちらで話が弾んでいるらしい。ほお、と少し感心する。 最初に言ったとおり珍しい組み合わせであるが、どうやら相性は悪くないと思われる。 だがしかし改めて考えてみると理由には心当たりがある。 ああ見えて取り乱す事の殆ど無い血晶赤は冷静と言っても差し支えない(あくまで現在の血晶赤の話) 大して芙由子は我が組織最大の常識人であるからして好ましく思う所もあるのだろう。 …冷静であっても常識人では無いから結局苦労する羽目になるのは芙由子の方だろうけど。 「話に聞いてた通りホントに視歩が全てなのね。焔と言い貴女と言い、同性に愛されてばかりねあの子」 耳が痛い話をしている様な気がする…。何度も言われ続けて来た話だが私には女難の相でも出てるのか? 「そういう星の下に生まれてきたのねぇ。それか視歩ちゃんにもそう言う素質があr」 「んな訳ねぇから!」 全く…少し目を離してる隙に勝手な事を言うんだから。 好かれるのは良いけど少なくとも異性にも好かれてみたいんだけどなぁ…彼氏とかは今はいいけどさ。 「あ、そういえばこの前…」 彼氏…そういえばこの前、朱点から聞いた話があった。 以前施設から救出した子どもの一人が、彼氏が出来たと喜んでいたと言う話だ。 「で、彼氏へのプレゼントに何を選ぼうかと悩んでいるって言われたのさ」 「へぇ。そんな話を聞くと何だか嬉しいわね。私達が助けた子が、そうやって幸せしてるの聞くと」 芙由子の言う通りだ。何かを助けるという行動自体、自己満足を含まなければ成り立たない。 そしてその自己満足を満たす物は、助けた対象の幸せであったり笑顔であったりする訳だ。 「自己満足ってはっきりと言ってしまうのねぇ」 「自己満足って言葉を悪いとは思わないからね。自分の為に、が無ければ何事も続かないだろうし」 ちなみに、私がチャイルドデバッカーを設立した際に人臣より受け取った被験者リストの人物数に対して 現在のデバッカーのメンバーが少ないのはここに理由があったりする。 良くも悪くも滅私奉公な人物は誘えなかったのだ。 もしくはその逆も当てはまる。自分の為にしか動けない人材もまた、危うい。 利他的な心と利己的な心を併せ持つ人物こそを誘い、その結果がこの面子だ。 要するに何が言いたいかと言うと、私が誘ったのは良くも悪くも普通でない子達だったのである。 そういう意味ではデバッカーのメンバーも血晶赤程ではなくともアンビバレンスな要素を持っている。 二面性、二面に限らず三面だったり更に多かったりと癖の多い連中ではあるが、 皆、人を助けるという、ある意味では不遜且つ厚顔無恥な行いに耐えうる人物であるのだ。 「………………………………………(私達のやってる事は、味方以上に敵を作りやすい)」 「助けられる必要のある人ってぇ、基本的に誰かがそれを望んだからこそ存在するのよねぇ」 悲しいかなその通り。そういう人を助けると言う事はそれを望んだ人への反逆なのだ。 誰かを助ける事は誰かを助けない事でもあり、そして誰かを助けようとする事自体が元からあった力関係を崩す行為。 調和を崩す行為であるが故に、私達は常に秩序を敵に回している。 「それを覚悟した上で、何食わぬ顔で振舞えるような子しかウチには居なくてね」 あの優しい香ですらそれを理解して振舞っている。 最も最初の頃はそうでもなく、それが原因で粉原がイラついてたりしてたっけ。 「ま、そうでもなくちゃやっていけない活動ではあるわよね」 「芙由子だって最初は色々複雑だったしねぇ」 う…それを言うなよ…。と頭を抱える芙由子。 芙由子は自分からデバッカーへ入る事を志願してきた珍しいタイプである。 当時荒れていた芙由子の加入理由は褒められる物ではなかったし、無茶ばかりしていたのも事実。 しかしそれもそう時間が掛からないうちに解決され、芙由子はある意味では最も早く組織に馴染んだとも言える。 その点特殊なのは難のある性格な粉原だ。 彼は加入当初から今に至るまで内面に変化は無く、言い様に言っては最初から馴染んでいた。 その特例を除けば芙由子は一番順応力のある方だった。 「………………………………………(嫉妬も羨望も人として当然の事。芙由子が視歩に抱いた感情は何よりも人間らしい物だった)」 …瞳が言うと説得力のある言葉だなぁ、とか思ってしまった。 そのセリフは芙由子に直接言ってあげて欲しいところだが、瞳ではそれは叶わない。 「………………………………………(そう伝えてあげてよ、視歩)」 自分では伝えられないから私に託す。自分の言葉なのに伝えてあげられないのはどれほどの事なのだろうか。 その辛さは瞳にしか分からないだろうけど、それを誰よりも長く見続けてきた私だからこそ… 「ま、そのセリフはいつか瞳が自分で伝えてあげなよ」 その言葉は、瞳自らに伝えて欲しい言葉だった。 瞳の目はもう治る事は無いだろうけれど、失った言葉は取り戻せるかもしれないのだから。 「………………………………………(視歩…私の声はもう…)」 「アンタが諦めても、私は諦めない。いつかアンタと語り合える日を楽しみにしてんのよ、こっちは」 私の言葉に俯いて黙ってしまった瞳。本人には酷な言葉だったろうな、今のは。 …それでも諦めるわけにはいかないのだ。他でもない私が瞳の幸せを妥協するわけにはいかない。 「あら、何の話してるの?」 「二人でこそこそ内緒話しちゃってぇ…いけない子ねぇ」 いつの間にかこちらへ来ていた二人、っていうか内緒話をしていたらいけない子なのか? しかしまぁ気付けば既にかれこれ十分以上話していたらしい二人だが、多少は仲良くなれただろうか?」 「気にする必要も無いような事だから大丈夫だよ。それより、仲良くなれそうかい?」 「………………………………………(見た感じ険悪な感じはしないけど)」 それを聞いて二人が視線を合わせ、微笑んだのは血晶赤の方。 芙由子はと言えば、微かに笑みを浮かべながらも肩を竦めていた。 「やっぱりこいつも視歩の友達ね…。話してて類は友を呼ぶと思ったわ」 「失礼な。私はコイツほど変じゃないだろう?」 我ながら私の発言の方が失礼だな、と考えながらも反論してみる。 事実、血晶赤と同じ扱いをされるほど変人じゃないわよね、私? 「視歩ちゃんの方が余程失礼よねぇ、今の」 「………………………………………(どっちもどっち)」 どっちもどっちて…。まぁいいけどさ。 でも芙由子の様子を見る限り、それなりにお互い気に入ってくれた様だ。 どちらにせよ私が居る限り血晶赤と芙由子が戦う事もないだろうし、仲良くなってもらっても問題ない。 「それについてだけど…なんで視歩としか戦わないの?」 「他のメンバーには手を出すなって言われちゃってるしねぇ。そもそも私は…」 甲蟲部隊に属してはいても、連中の仲間になったつもりはないものぉ。 そんな事を言ってくるりと回ると、後ろを向いて後ろ手を組んだ。 「私の目的は視歩ちゃん一人…最近は、そんなポリシーも崩れてきちゃったけど」 「みたいだね。最近は瞳と言い焔と言い、他の奴とも仲良くしてるらしいし」 焔とも知り合いなのね…あ、共通点が分かってしまった自分が嫌だわ、と芙由子。 言うな、二人とも愛が重すぎて私にはきついんだ。 ちなみにさっき言っていた血晶赤と接点のあるもう一人が焔の事である。 でもこっちはどこで知り合ったのか知らないのよね…。 「淑女同盟という奴ねぇ~。私と焔ちゃんと瞳ちゃんの三人で構成されているわぁ」 「そんな同盟つくるなよ!?そしてなぜに瞳が加入している!?」 その二人と一括りにされたら瞳まで私の事好きみたいじゃない。 あんまり瞳の教育に悪い事教えるんじゃないわよ、こいつ。 「まさか瞳ちゃんからの好意には気が付いてないのコイツ…!?」 「ん?何か言った芙由子?」 芙由子がなにやら驚愕の表情を浮かべている様だけど、聞き取れなかった。 …ん?気付けば瞳が袖を引っ張ってるわ。 「どしたの瞳?……何でそんなに顔真っ赤なのよ、あんた」 「………………………………………(き、気のせい気のせい)」 気のせいには見えないけど…熱でもあるのかな? とりあえずおでこで熱を測って見ることにしよう。 「……………………………………っ(~~~~~~~~っっ!?)」 「あらぁ羨ましいわね。少女マンガみたい」 何が少女マンガだか。ただ熱を測ってるだけだってのにさ。 んー…別に熱は無さそうだけど…。調子が悪いなら遅くならない内に帰ったほうが良さそうだ。 「これ…わざとやってるんじゃないわよね…?」 「視歩ちゃんはぁ、何故か瞳ちゃんには鈍いのよねぇ…」 何を勝手な事を。私の何が鈍いって言うんだか。 って言うか、瞳が動かなくなっちゃったんだけど…どうかしたのかな? 「………………………………………(し、視歩…もう良いから…!)」 あ、悪い悪いとおでこを離す。瞳が後ろを向いてぶつぶつ言ってるように見えるが…。 こちらからじゃあ伺えないな。さて回り込んで… ―――――さっ。 「…む」 ―――――ささっ。 「………むむ」 ―――――さささっ。 「……………よけないでよ」 「………………………………………(やだ)」 何か怒らせるような事したかな…。 これ以上やっても無駄そうだから後で再チャレンジするとしよう。 「この二人、店の中で何いちゃついてるのかしら?」 「仲良いわよねぇ。姉妹みたいだわぁ」 良い様に見えるのか、これ?どうみても私が瞳を怒らせたみたいに見えるけど。 あの二人には私には見えない何かが見えているらしい。 「………………………………………(いや、多分視歩にだけ見えないんだと思うよ…)」 そして相変わらず顔を見せてくれない瞳だった。 うーむ、機嫌を取らなくては。何か買ってあげようかな… 「………………………………………(物で釣ろうとするその発想がまずどうなのさ)」 あ、そうだ。服屋に居るんだから服を買おうじゃないか。 そろそろ服も古くなってきた事だし、瞳に何か新しい服を買ってあげよう。 「芙由子、何か瞳に合う服は無いかな?」 「え?瞳ちゃんに?…そうねぇ、今の服が良く似合っているし…小物を変えてみるとイメージが変わるかも」 ふむ、小物か…。靴とか、ヘアピンとか。 髪飾りを買ってあげるのがいいかもしれない。リボンとかかわいいかも…。 「………………………………………!(り、リボンとか恥ずかしいから!)」 「え?似合うと思うのに…」 かわいい系の服装や髪型を勧めるとすぐに恥ずかしがるんだから。 髪型はサイドテールとか似合いそうなんだけどなぁ。 「ならぁ、ネクタイなんてどうかしらぁ?瞳ちゃんと視歩ちゃんお揃いにね」 「あぁ、ネクタイ。良いかも知れないわね。二人ともネクタイつけてるし、お揃いってのも良い感じだわ」 ネクタイか…私の趣味で買ったネクタイを今も着けてくれている瞳に新しいネクタイを贈ると言うのは妙案かもしれない。 とりあえずネクタイ売り場へ視線を滑らせ確認する。 「…よし、種類も沢山あるな。瞳、一緒に選びにいこ?」 「………………………………………(………うん。分かった)」 今日一緒に寝てくれたら許してあげる、と付け加えた瞳。 それくらいならお安い御用だ。存分に抱き枕にしてやろう。 全快とはいかなくとも機嫌をある程度まで持ち直してくれた瞳と手を繋いでネクタイ売り場へ向かう。 こうしてると自分でも本当の姉妹の様に感じる。戸籍では本当に姉妹だけどね。 「………………………………………(結局、妹としか見られてないのかなぁ…)」 「あん?そりゃあアンタは妹みたいなもんでしょうに」 そういう事じゃないのよぉ、とかここまで鈍いと傍から見ててもイラつくわね、とか。 何か後ろの二人がすごいやかましい気がするが、どうしたってのよ? 「………………………………………(ま、今はいいか。ひとまずは私が一歩リードだろうし)」 だから何の話なんだ…という言葉を飲み込んでネクタイ売り場へ向かうのだった。 「さて、瞳ちゃんの恋が実る日は来るのかしらね、アレ?」 「うーん…視歩ちゃん次第としか言い様が無いわねぇ」 「ちなみにあの二人、お風呂とか一緒に入るらしいわよ?」 「羨ましいわぁ~~~。私も視歩ちゃんと…お風呂で裸の付き合いがしたいわぁ~~!」 「ぶれないわね、アンタも…」 ~~~~~血晶赤とドレス(とパンツ)の場合~~~~~ 「と言う訳でおそろいにして見ました」 「………………………………………(して見ましたー)」 清算を終え二人の下に戻ってきた私達はお揃いの赤色のネクタイをしていた。 瞳と二人で選んだ物だ。前のネクタイはまだ瞳との意思疎通がうまくいかない時期に買った物。 選んだのは私で、センスも趣味も私が選んだものだった。 今度は二人で選んだネクタイ。私達が着ける物としては最適だろう。 「へぇ。良いセンスね。私も欲しくなってきたわ」 「私もよぉ。ピンク色のが欲しいわねぇ」 このデザインは随分と評判がいいらしい。 となれば…瞳と目を合わせお互い頷く。そして私が発言した。 「なら、デバッカーのメンバーにも買っていこうか。色を変えて、お揃いのデザインでさ」 「あらぁ?私もそれに含めていいのかしらぁ?」 愚問だな。アンタは敵である以前に私の友達なんだから。 そんな所で遠慮とかしなくていいのよ。ほらピンク色着けてみなさい。 と、血晶赤の首にネクタイを締める。 ぱっ、っと手を離して眺めてみると…思った以上に似合うな。 コイツはピンクとか赤とか一色のみのコーディネートでも似合うのが憎らしい。 名を冠した赤色も似合うが、ピンク一色で固めてみたらそれはそれはかわいいだろう。 「………………………………………(私の友達でもあるよ!)」 「まぁ、私も友達って事にしといてもいいわよ?視歩の友達なら、私の友達みたいなもんよ」 瞳はともかく、芙由子も友達って呼んでくれてよかったじゃない。 あんまり友達多そうなタイプじゃないしね、血晶赤は。 「失礼な物言い、と言いたいけれど事実だものねぇ。視歩ちゃん達以外に友達いないのよぉ」 「………………………………………(さらりと悲しい事を…)」 ほっほう。次に開催すべきイベント事が決定したな。 芙由子の耳元に口を寄せ、呟いてみる。 「あのさ、学校の知り合いとかに声掛けたりできる?」 「あん?出来なくは無いけど…どうするのよ?」 ここ最近の血晶赤なら、人と知り合うきっかけさえ作れば知り合いを増やせそうだ。 となればたくさんの人と一度に接点を作るための催し…。 「表名義のデバッカーでの親交を深める会って事で、今まで助けた子ども達にも声かけてさ」 「なるほど…人たくさん呼んでパーティーにする訳だ」 学生なら少しの接点でも、食べ物飲み物目的で誘ってくる事も出来るだろうからね。 血晶赤もそれに誘ってつれてきてしまえば、沢山の人達と接点を作れる。 「そういう事なら…おーけー。色々声掛けといてあげるわ。焔とか香とかにも頼みましょう」 「私も少ないけど知り合いに声掛けるとするわ。少ないってのが悲しいけど…」 学校通ってないからなぁ、私。 そういうコミュニティーに所属してないから、仕方ないとは言え。 「パーティの話かしらぁ?いいわねぇ、ドレス用意していかなくちゃあ」 「へぇ、ノリノリじゃない。良かったわね視歩」 いや、それは良いんだがドレスの所に突っ込みどころがあるぞ! お前の言うドレスは色んな意味で危ないんだよ!材質とか露出とか! 「よく見ると…ドレスが似合いそうな体型よね。胸が、む、胸がでかい…!」 「………………………………………(ほんとにそうだよねぇ。身長小さいのに!顔こんなに幼いのに!)」 確かにいえている。顔の幼さ身長の低さ髪綺麗胸大きいウエスト細い脚綺麗…あれ? こいつって良く見たら焔並みの美少女じゃね? 「そんなに褒められたら照れちゃうわぁ」 「だがしかしお前のドレスに関してはスルーできない!」 お前のドレスは血液の色どころかホントに血液で出来てんだろ! 前にそれ着て登場して阿鼻叫喚の事態を引き起こしたのを忘れたか! 「大丈夫よぉ。ちゃんと今度は消臭剤を使うからぁ」 「努力の方向が間違ってる!普通のドレス買えよ!」 何だったっけ。確かこいつ露出趣味もあるんだよな。 ドレスの時まかり間違ってスカートの中が見えてしまって…死にたくなった。 「そうねぇ…一枚、買って行こうかしらぁ」 「あと下着も買いなさい。…あ、いやお前が選ぶな!私が選んであげるから!」 こいつに下着とか選ばしたらとんでもないの選びそうだし。 …既に視線を向けている下着が危ないんだよ!スキャンティにしても布面積少なすぎ! 「ええぇ…。下着って布が多いと落ち着かないのよねぇ。出来ればはいてな」 「いやちょっと!何言ってんの!?」 芙由子がたまらず口を挟む。 そういやさっきから私達だけで話してたわ。 「…あのさ、血晶赤ってそんなにヤバイの?」 「…基本的に露出好きなのと、あんまり服着るのが好きじゃないみたいでね」 我ながら凄まじい友人だとは思う。見える形で発揮されている訳じゃないからいいけど。 彼女のドレスのチョイスが気になるところではあるが、それを私が着ろと言われても無理に決まっている。 「あらぁ!これなんて良いんじゃないかしらぁ」 どうやら気に入ったのを見つけたようだ。 どれどれ…―――――あっ(察し) 「おいおい…これどうやって隠す気なんだ…?色々と」 「むしろ何でこの店こんなの置いてるのよ!?」 血晶赤が手に取った服は、辛うじて胸の頭頂部を隠せる程度の細い肩紐と横乳丸見えな上半身部。 それに加え膝上どころか股下から数えたほうが早いミニ丈のスカート。 振り返れば背中どころか腰、もといお尻の所まで見えている開きっぷり。 「それ着てこられたら色んな意味で隣に立てない…」 「………………………………………(恥ずかしさと劣等感)」 スタイル良い奴だからこそ許される服というか、いや許されてないけど。 こんな格好したら襲われるよなぁ。襲った奴はもれなく血祭りだが。 主に本人と私の手によって。友人に手を出したら制裁―――! 「血晶赤、頼むからこっちにしといて頂戴」 と、それは置いておいて。 ばっ、と掲げたドレスはミニ丈なのは変わらないが上半身はかなり露出を抑えた物だ。 私が着れるギリギリの物を選ばせて貰った。基準として自分を使うのは気が引けるけどね。 「それもかわいいわねぇ。少し布が多い気がするけど…」 これでも布多いのか…。私には理解しがたい感覚だ。 ともかくこれで良いの!と押し付けて購入完了。はい次下着! 「じゃあこのパンツがかわいいとおm」 「隠せてないから!見えちゃうから!」 しかしこちらは押し切られ結局選ばれたのはスキャンティ(H度90%マシマシ) それ下着の役割果たしてるの!? 「…瞳ちゃん。貴女の友人はとんでもないわね…」 「………………………………………(ちなみに私のパンツもこんな感じ)」ぴらっ ぶっっっ!!?とか言う噴出した音が背後から聞こえたが何が起きたのか把握できなかった。 倒れ伏す芙由子に駆け寄り、何があった!と問いかけると… 「てぃ、てぃーばっく…ぐはっ」 一体何があったと言うんだ…。 ん?そういえば視界内に血晶赤が居なくなっている。 「これも下さいなぁ」 「ちょっ、何買ってんの!?…シール?」 ハート型のシールに見える何かを手に持ちながら、彼女は言った。 私には一生縁が無いであろうその衣服の名前を… 「これはねぇ…ニプレスって言うのよぉ?…視歩ちゃんも着けて見るぅ?」 いやもうなんと言うか… ――――――――…絶望した!! ―――後日談の様なもの その後、結局私達の下着も購入する事になったのだが何より驚いたのが…。 瞳が血晶赤が買ったのと同じスキャンティを買ったことだ。 ホントに悪い教育になってる気がするんだけど… まぁ下着くらいなら…と思ったもののこのまま血晶赤と同じ様な服装を目指しだしたら… いや、それはまずい。色々とまずい。そんな事になったら私が立ち直れない。 しかし今の時点では瞳にその気は無さそうなので安心だ。 あと…血晶赤に勧められて買ったこの下着なんだけど…。 所謂スキャンティという奴だ。血晶赤や瞳が履いている物に比べれば大分控えめではあるが。 まぁ折角だし履いてみるか…と装備してみた結果。 「「あれ、これ以外と良いかも…………はっ!?」」 全く同じ思考を繰り広げたと思われる芙由子と遭遇。 しばし見詰め合い、ばしっと手を取り合う二人。 「「二人だけの秘密って事で!」」 以来、二人の箪笥にはキワドイ下着が増えたとか増えないとか。 ―――――――――って何だこのオチ!? ~~~~~~完~~~~~~
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/2039.html
「えぇと・・・・・・あ、あった」 相も変わらずの炎天下が続く午前11時前、ここ第5学区にある中型の書店でつつじ色のボブヘアーを揺らしながら目的の本を見付けた少女が居た。 夏休みなのに学校指定の制服を着用している彼女の周囲には人の影すら見当たらない。扉の開閉等で思ったより冷房が効いていない中、 彼女の体から微弱な熱が放出されていることが一番の理由だろう。とは言え、こればかりは彼女にもどうしようも無いのだが。 「(今から高校受験対策を始めておかないと・・・あの人達に何を言われるか堪ったモンじゃない)」 少女が手にしたのは、高校受験対策として極々一般的な参考書である。夏休みの宿題が少々残っていることに加え、まだ志望校も具体的に決めていないのだ。 個別の対策など時期尚早である。よって、今の段階では極普通の基本対策を纏め上げた参考書による学習が効率的である。 「(ハァ・・・。それにしても、“コレ”は何なんだろう?・・・・・・やっぱり『幻想御手』の影響なのかな?)」 大人しめの顔立ちが僅か曇る少女の脳裏には、先日彼女が通う学校―明知中等教育学院―での『身体検査』で判明したある事柄が思い浮かんでいた。 夏休みに入る前はレベル0・・・つまりは無能力者だった自分が何を思ったのか手を出してしまった音波ドラッグ『幻想御手』。 その副作用にて昏睡状態に陥った際に見た夢―途轍も無く強い『電撃使い』―が切欠なのか、その後彼女の能力強度はみるみる内に上がった。 能力至上主義を掲げる学院が課す『能力上達用』の夏休みの課題をこなしたために。それに伴い彼女自身が常に微熱状態となったために心配になった少女は、 気が置けない友人である少年のアドバイスもあって学院へ相談・急遽彼女のみを対象とした『身体検査』を実施した結果何とレベル3判定が出たのだ。 「(そういえば、今頃久峨君は何処で何をしてるのかな?わたしにアドバイスをくれた後、学園都市の『外』へ行っちゃったんだよなぁ)」 友人が今頃何をしているのか少し以上に気になっている少女・・・明知中等教育学院の3年生白雪窓枠(しらゆき そうすい)は、自身のこれからについて不安げな気持ちを抑えられない。 学院の教師の話では、今夏の課題を全てこなした暁にはレベル4まで強度が上がっている可能性が高いとのことであった。 明知においてレベル4になるということは、伝統とも称される『黄道十二星座』の一星座を与えられるということである。 「(先生は『空位の星座は「天秤座 リブラ 」と「乙女座 ヴァルゴ 」。白雪。お前がレベル4になった際は「天秤座」を与えることになると思う。 能力的には関連性は無いものの、前年度の卒業式の一件で傷付いたイメージを回復させるにはお前くらい大人しめの生徒が丁度いい』とか何とか言ってたけど。 まぁこれで1部クラスになれて、あの人達の言う“恩返し”は何とかなるかもだけど、レベル4になったら嫌でも目立っちゃいそう・・・嫌だな。今の内から辞退できないかな?)」 白雪は『身体検査』を取り仕切った教師のご機嫌な言葉を思い出して、多少以上に憂鬱になる。確かにレベル4になるメリットは存在する。 友人と同じレベルになれるのもそうだし、1部クラスになることで多額の入学金を支払ったあの人達―両親―の言う“恩返し”とやらもできるだろう。 けれど、それ以上に少女は『天秤座』の冠を与えられることで起きるデメリットの方を気にしていた。 極度のコミュ障で、他人とは碌に目も合わせられない少女は・・・簡潔に言えば絶対に目立ちたくなかったのだ。 「ハァ・・・(パタン!!)・・・ん?」 何度目かの溜息を吐いた直後、少女は目の前で起きた光景を認識する。無意識の内にレジへ足を運んでいた際に目にしたのは、 骨折でもしたのかギプスと包帯で左腕を固めている碧髪の少年が上方にあった本を取ろうとして失敗・落下した本が下に積みあがっていた本を巻き込んで床上にばら撒いた姿であった。 自身の不手際に顔を顰める少年は何とかばら撒いてしまった本を戻そうとするが、左腕が使えないために思うようにいかないようだ。 「(・・・ここにはわたし以外誰も居ない。・・・・・・仕方無いか)」 普段なら見て見ぬフリをしているかもしれない今の状況だったが、幸か不幸かこの辺りには自分と少年しか居ない。 ここで見て見ぬフリを実行するのはさすがに彼女の良心が許さなかった。なので、白雪は片手だけで本を元に戻そうと懸命になっている少年の下へ近寄った。 「だ、大丈夫ですか?わたしも・・・て、手伝います」 「うん?あぁ・・・サンキュ」 「ど、どういたしまして(ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!『見て見ぬフリしよっかな?』って考えてたのにお礼なんて言われたら・・・ぬおおおおおおぉぉぉぉっっ!!!)」 碧髪の少年のお礼に返事しながら内心では凄まじく荒ぶっている白雪。彼女は褒められることに全く慣れていない。 自分のことを『物事に深く関わりたくないし、責任を負いたくもない徹底的な無難主義者』と見做している少女は、同時に自身を感謝されるような類の人間では無いとも見做しているのだ。 「ハァ・・・片腕が全く使えないのがこんなに不便だとは思わなかったぜ」 「お、お怪我とかはありませんか?」 「うん、俺は大丈夫。それより、取ろうとしてた本の方がちとヤバイかな?袋とじじゃ無いから、変な折り目とか付いてなけりゃいいんだけど」 自分より年上っぽい少年が最後に床から取った本・・・それは俗に言う占星術のいろはが載っている本であった。 非科学的なモノを否定するこの『科学』の総本山学園都市でも、星座占い等が雑誌の片隅に載るくらい程度にはその存在を認めている。 サンタが実在するかしないかを学園都市の小学生が肯定・否定派に分かれて議論したりもする。ジンクス等含め、やはり人間足る者非科学的なモノの1つや2つは信じたりするのだ。 「星座占い・・・じゃ無いですね?」 「うん。まぁ、俺もよくわからねぇしそれっぽいのを適当に選んだだけだから・・・ったく。あの赤毛女・・・もう少しわかりやすく説明・・・(ブツブツ)」 「(自分でもよくわからないのに手に取る?しかも、男の人がこんな占い関連の本を?)」 最後の方は小声でよく聞き取れなかったが、前半の言葉から察するに彼は自分でもよくわからずに占星術の本を取ろうとしていたのだ。 (白雪の個人的意見だが)占い関連が好きそうな女性ならともかく、男性が自分でもよくわかっていない占い本を取ろうとする思考が白雪にはわからなかった。 「ど、どうして自分でもよくわからないのにこんな本を?」 「うん?」 「あっ・・・(し、しまったああああああぁぁぁっっ!!!何余計なことを聞いてるの、わたしいいいいいいぃぃぃぃっっ!!!??)」 だからなのか、つい口からポロっと本音が出てしまう白雪。初対面の人間相手にどう接していいか手探りであったためか、無意識で疑問が口を付いた。 彼女の悪癖でもある『人との付き合い下手』がこの場でも出てしまったことに狼狽する少女の気を悟ってか悟らずかは不明だが、 碧髪の少年は折り目の有る無しを確認中に開けたページに載ってある『十二宮』の一角を横目に映しながら何とも形容し辛い表情を浮かべた後にこう答えた。 「理由か・・・俺ってば昔『天秤宮 リブラ 』を与えられたんだ・・・・・・って言ってもわかるかな?それがこの本を取った理由。君ってこの手の話に詳しい方?」 「(はいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!??)」 碧髪の少年の予想外過ぎる返答に、次期『天秤座 リブラ 』候補白雪窓枠は瞠目する他無かった。 とは言え、少年の語る『天秤宮 リブラ 』と少女が思い描く『天秤座 リブラ 』は言葉の発音は同じでも中身が全く違って来るのだが。 「(ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!!!『天秤座』!!?今この人『「天秤座」を与えられた』って言ったよね!!? ということは・・・わたしの先輩!!!??な、何て失礼なことを聞いてるの、わたし!!?)」 「(うん?何か変な反応だな?男の俺じゃ無くてこの娘の方がこの手の話題に詳しいと思ったんだけど・・・違ってたかな?)」 内心では極度にテンパっている―母校出身の先輩に失礼な態度を取ったと考えた―白雪を怪訝の表情で眺める少年・・・界刺得世。 男である自分はこの手の話題はちんぷんかんぷんが本音である。その点女性である彼女なら少しは詳しいかと思って―全くの初対面であるが故に―本音の一端で返答したのだが、 どうやら少女の反応が芳しく無い。相手を見抜く能力に長ける彼でも、話題が話題なだけにどうしても取得できる情報が少なくなってしまう。故に・・・ 「実は、同時に『金牛宮 タウルス 』も貰ったんだ。なんか、言葉の響きが良いよね」 「(な、何ですとおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!??久峨君の『牡牛座 タウロス 』も!!!??兼任!!?兼任なんてできるの!!!??)」 自身の理解の一助になる可能性を鑑みて更なる情報を開示した界刺の言葉に直立不動でカチンコチンに固まってしまう白雪。 もし、彼女が冷静だったならば少年が発した発音と自分が脳内で再生した発音の微妙な違いに気付けたかもしれないが、当然のことながら混乱真っ只中に居る白雪には無理な話である。 「(こ、この人高校生っぽいよね!!?もし、この人が高3ならわたしが学院へ入学する前に『天秤座』と『牡牛座』を兼任してたってことになる!!! それなら、わたしがこの人を知らないのにも合点がいく!!明知の『黄道十二星座』を2つも・・・!!!)」 白雪は驚愕でもって界刺を眺める。通常明知の『黄道十二星座』は1人につき一星座である。彼女自身それ程『黄道十二星座』に興味があったわけでは無いが、 それでも1人の生徒へ2つの星座を与えられた事例など聞いたことが無い。今とて、適合者が不在なために『天秤座』と『乙女座』が空位であるくらいだ。 仮に、彼の言葉が本当なら明知における逸話の1つになっていてもおかしく無い。それだけ彼の言葉が持つ意味は大きいのだ。 「あっ・・・このことはオフレコで頼むよ。これは、当事者以外だと君しか知らないことなんだ(こりゃ収穫0かな?・・・一応口止めしとこ。何処から漏れるかわかったモンじゃ無いし)」 「そ、そうな、んで・・・すか(秘密!?・・・だよね。兼任なんかバレたら絶対イザコザが発生しただろうし。明知(ウチ)なら余計に・・・ね。 もしかして、先生が『乙女座』じゃ無くて『天秤座』をわたしへ勧めたのも『乙女座』を兼任してる生徒が居るからなんじゃあ・・・)」 界刺と白雪は各々で各々なりの思考を働かせる。今の界刺は、【『ブラックウィザード』の叛乱】後ということもあり『光学装飾』で結構な警戒網を敷いている。 わざわざ許可を取って外出しているのも、病院内では掴めない外の情報を得るためである。単独行動を取っているのは、その方が“誘き寄せやすい”からである。 無論その時の対処方法は色々考えているし、転院して来た病院―風紀委員が入院中―周辺には秘かに警備員が多めに配置されていることも把握している。 そんな界刺が白雪を警戒しなかったのは、彼女が捕捉が容易な学校指定の制服を身に付けているのと彼女の雰囲気から感じ取った己の直感を信じたからである。 一方、白雪は明知の『黄道十二星座』が2つ『天秤座』と『牡牛座』を与えられたと発言した―当たり前だが白雪の盛大な勘違い―界刺の言葉から、 自身に『天秤座』が与えられる理由について深読みを承知の上で訝しむ。眼前の少年が嘘を付いているとは思えなかった少女は、 直後に前例の無い偉業を達成した(と彼女が勘違いしている)先輩へ湧き出る何かを言語化しようとして・・・彼と目が合ったためにあえなく失敗した。 「んふっ。何でそんなにキョドってるのか知らないけど、さっきは本当にありがとう。助かった」 「い、いえ・・・・・・」 「ん?・・・この『天秤宮』がどうかしたのかい?」 目が会った直後すぐに目を逸らした白雪の視線が、界刺が持つ占星術本のあるページ・・・正確には『天秤宮』の図解が載った箇所に固定されていた。 その意味を何となしに聞いてみたくなった少年の問いに・・・つつじ髪の少女は複雑な感情を表へ出しながら語り始める。 「『天秤座』って、わたしの場合その名称もあってか“中立”を想起するんです。平和主義とかバランス重視とか・・・先輩はどうです?」 「(先輩?・・・まぁ、見た目的に俺の方が年上っぽいよな。サニーに匹敵する胸の無さだし)あ~うん。そうかも・・・ね」 「先輩・・・『天秤座』を背負ったことがある先輩は・・・『天秤座』についてどう思われますか? “中立”な立場に立ち、色んな物事や責任を背負う『皿』とは違い何処までも“背負うことの無い”中立的な『天秤』・・・そんな冠を『牡牛座』と共に授けられたあなたは・・・」 「ふ~む。そうだねぇ・・・(何だ、やっぱその手の話題に詳しいじゃん。女の子って占い大好きそうだモンな。・・・さっきは初対面だったこともあって恥ずかしかったのかな?)」 さっきまでのオドオドした態度が嘘のように白雪は界刺へ相対する。これは、もしかすれば最初で最後の機会(チャンス)なのかもしれない。 『天秤座』と『牡牛座』を授けられた(と白雪が勘違いしている)先輩とこうやって会話するのは、今日この時限りかもしれない。 自分は、このままいけば夏休み明けにレベル4となり・・・1部クラスとなり・・・『天秤座』を授けられる。 この流れは止めようが無いだろうし、自分も止める気が“更々無い”。もっと言えば、“自力でどうにかしようと本当は思っていない”。 周囲の意見に流されるままの無難主義者・・・それが自分だ。白雪窓枠だ。教師が自分に『天秤座』を与える最大の理由は『イメージ回復』である。 前任者が殊更目立ったのとは正反対の役割を自分へ求めているのだ。そこに自分の意思など無いし、自分もそこへ己の意思を殊更傾けようとは思わない。 だから、これもきっと先輩の意見で自分が抱く『天秤座』授与の嫌悪感を紛らわすための狡い手段でしか無いのだ。故に、オドオドすることも無い。 徹底的な無難主義者・・・それこそ『天秤』のように『何時までも中立的な立場でいたい』という信念を持つ少女の、これが彼女なりの処世術。 「よくわかんねぇ俺も、『天秤宮』に抱くイメージは“中立・・・気取り”かな?『天秤』のイメージが強いっつーか、『皿』に乗っかる物事の真ん中に陣取って色んなモンを眺めてる・・・みたいな? 『天秤』の意思は関係無く、『皿』に乗っかる重さが全て“気取り”・・・みたいな?第三者を体現する“中立”には持って来いの象徴(シンボル)だよね。 俺も、最近“中立”って言葉の重みってヤツを嫌と言う程痛感してるねぇ。こう見えて俺も“中立”にできるだけ近い位置に居ようとして結局失敗しちゃってね、最近。 だから、こんな怪我を負う羽目になった。今までの自分の行いで何か反省するべき点が無いかどうか現在進行中でずっと考えてるんだ」 「そう・・・ですか。それは大変でしたね」 だがしかし・・・そんな彼女の本音などこの場では全く見透かしてもいない、それ所か『惑星の掟』や自分へ害を及ぼす可能性のある人間への警戒を強く保っているが故に彼女の動向に全く気を向けていない少年は・・・ 「うん、大変だった。でもね・・・俺は後悔していないんだ。こんな結末に至った色んなこと全てに」 「えっ・・・『後悔していない』?」 「うん。だって、自分がこうと決めたことだもん。反省はしても後悔なんかしないさ」 「“中立”で居られたら、そんな怪我を負うことも無かったのに?『天秤』のように第三者に居続けたら・・・今のような状態になっていないのに・・・です、か?」 それでも、少女の心へ深く突き刺さる言葉を『贈る』。『天秤宮 リブラ 』を授けられた己の言葉を、『天秤座 リブラ 』を授けられる予定の少女へ『贈り届ける』。 これは偶然?これは必然?これは・・・運命?いや・・・そんなことは誰にもわからない。後から結果論など語った所で意味は無い。 【『ブラックウィザード』の叛乱】を経た界刺得世と『幻想御手』を契機に明知の『黄道十二星座』の一星座を授与される可能性を持った白雪窓枠が出会ったこの場この瞬間に全てが凝縮されている。 そう・・・この瞬間にこそ意味がある。紛れも無い、双方の意思が交錯したこの刹那にこそ。 「だってさ・・・『天秤』は何時か傾くモンだよ?他の誰でも無い『天秤(じぶん)』の意志を『皿』に乗っけて・・・ね」 「ッッッ!!!!!」 この後界刺は外出許可の制限時間を思い出して抱えていた占星術本を購入し、少女へ別れを告げて足早に書店を後にする。 その背中を呆然と見送る白雪は・・・彼の名前や年齢等を全く聞かないまま―聞く思考さえ思い浮かべられずに―『天秤宮』を背負う少年の残した言葉を頭の中でずっと反芻させていた。 continue…?