約 4,733,967 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2431.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 「ふぅむ…つまり君はミス・ヴァリエールが召喚したのは伝説の『ガンダールヴ』だと言いたいのかな?」 双月が濃くなり始める時間に学院長のオールド・オスマンはコルベールとある話し合いをしていた。 「はい。何回も何回も調べ直しましたが、あれは間違いなくガンダールヴのルーンです!」 興奮したコルベールがつまりそうな早口で言った。 『ガンダールヴ』とは…伝説の系統である『虚無』の使い魔で、ありとあらゆる兵器や武器を使いこなせるという。 コルベールや長寿のオールド・オスマンでさえ見たこともない伝説の使い魔が召喚されたのだ。 探求心豊富なコルベールが興奮するのは仕方がない。 「まぁまぁ落ち着きたまえミスタ・コルベール。興奮するのは仕方がないがちと声が大きすぎるぞ?」 オールド・オスマンは人差し指で口を押さえてコルベールに静かにするように合図をした。 「とりあえずしばらくは様子見じゃ。どこに耳や目があるかわかんからのう…。」 そう言うとコルベールはハイ、と返事をし。軽く頭を下げて退室した。 彼が退室した後、オールドオスマンは口にくわえていたパイプを机の引き出しの中に入れると右手を地面に置き、足下にいたハツカネズミを手の上に乗せた。 「ふぅむ、今日はこんな時間にまで起きておいて良かったのかも知れんのぉ。」 そういってオスマンはハツカネズミを机の上に置くと軽く頭を撫でた。 「モートソグニル、今日はどうじゃったか?……ふむ、今日のミス・ロングビルは白だったか…いやはや。見るのをすっかり忘れるところじゃったわい。」 そう言ってオスマンは仕事をこなしてきた自らの使い魔にナッツを五つ食べさせた後、寝巻きに着替えて寝ることにした。 ルイズは夕食を食べた後ネグリジェに着替え、霊夢には予備に持ってきていた少々大きめのパジャマを貸してあげた。 一緒にベッドに寝るかとルイズは聞いてヒラヒラが多く付いたパジャマを着終わった霊夢はそれに甘えることにした。 「寝床なら明後日くらいにはなんとかするわ。それじゃあ先におやすみ…。」 そういってルイズはベッドにダイブして目を瞑ろうと思ったがふと目を開けて椅子に座って紅茶を飲んでいる霊夢の方に顔を向けた。 「そういえばアンタは使い魔として扱われるのがいやなんでしょう?だったらどういう風に接すればいいのかしら?」 それを聞いた霊夢はティーカップを机に置くと少し頭をウンウン捻った後に言った。 「そうね…じゃあとりあえず゛同居人゛とかそんな感じでお願いしようかしら」 その言葉を聞いたルイズは同居人ねぇ…、と言って目を瞑った後すぐに寝息が聞こえてきた。余程疲れ切っていたのであろう。 その数分後に霊夢もポットの中に入っていた紅茶を全て飲み終えたので寝ることにした。 「……さい、ルイズ。」 安眠していたルイズは目の前から聞こえてきた声と手で体を揺すぶられる感覚で目を開けた。 「いつまで寝てるのよ。もうすぐ朝食の時間でしょ?」 その言葉遣いにルイズはエレオノール姉さんかと思ったがそれはルイズが召喚した少女、霊夢だった。 既に袖が別離している紅白服(本人が言うには動きやすさを重視した為らしい)を着ていた。 「あぁ、そぉだったわねぇ…。ふぁぁぁ…」 ルイズはまだまだ寝たいという体に鞭打ち、大きなあくびをしてベッドから飛び降りた。 目を擦ってベッドの横に置かれた椅子を見てみると椅子の上に綺麗に洗濯されて畳まれた制服が置いてあった。 恐らく霊夢が朝イチにやってくれたのだろう。その霊夢はというと鏡を見ながら頭につけてるリボンを整えている。 ルイズは霊夢に自分の服を着せようと思ったが彼女は『使い魔』ではなく『同居人』なので、自分で着ることにした。 ルイズの着替えが終わり、丁度リボンを整え直した霊夢と一緒に部屋を出ると隣の部屋のドアが開いた。 その部屋の中から出てきたのは『微熱』の二つ名をもつキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーであった。 「あらおはようルイズ。夕食の時に食堂にはいなかったけどちゃんと夕食は食べたのかしら?」 キュルケはルイズを小馬鹿にするような目で話しかけてきた。 「大丈夫よキュルケ、夕食は部屋で食べたから。」 ルイズはキュルケの小馬鹿にするような目と言葉に耐えて返事をした。 そのあとキュルケはそう、と言って霊夢の顔を見た。 「何よ?何か私の顔に付いてるの?」 負けじと霊夢もジト目でキュルケの顔を睨む。 目には目をの要領で睨んできた霊夢に、キュルケは年下の人間に諭すかのような感じでこう言った 「いやね、こんなかわいい顔なのになんか目が冷たいなーって思っただけよ。」 キュルケの言葉に霊夢は顔を顰め、一言。 「余計なお世話よ。」 その言葉を聞いたキュルケは途端に腹を抱えて笑い出した。 「あははははは!『ゼロ』のルイズと無愛想な『使い魔』!なんかいけるわねこれ!」 キュルケの『使い魔』という言葉に反応した霊夢は人差し指でキュルケの鼻先をつついた。 「勘違いしないで頂戴。私はルイズの『使い魔』じゃないわ。『同居人』よ。」 「……同居人?」 ムスッとした表情を浮かべる霊夢の言葉にキュルケは顔を怪訝にすると彼女の後ろから火を吐くトカゲ、サラマンダーがヒョコッと出てきた。 「確かそれ、アンタの呼び出した使い魔…だっけ?」 ルイズが欲しそうな目でそのサラマンダーを見つめる。 「そうよ、名前はフレイム。これはきっと火竜山脈のサラマンダーに違いないわ。」 キュルケはフレイムの頭を2、3回撫でた後、ルイズと霊夢に手を振ってフレイムと一緒に食堂へと向かっていった。 「フン、なによキュルケのやつ…自慢しちゃって!」 しばらくして、ルイズはキュルケの態度を思い出し、内心の苛立ちを露わにしていた。 霊夢はと言うと、そんなルイズを後ろから冷たい目で見つめていた。 「あんなトカゲの何処がいいの?ただ体が赤くて火を吹くだけじゃないの」 「一応教えとくわ…召喚した使い魔はね、そのメイジの器量と強さを表してるらしいのよ。いわばそのメイジの強さ…魔力…そして才能!!」 そこまで喋ったとき、ルイズの足が止まりその場で悔しそうにギリギリと握り拳を作った。 霊夢はそれを聞きながらも足を止めずそのままツカツカとルイズの前まで来ると、彼女の目の前でこう言った。 「ならアンタの方が強いんじゃないの?」 ルイズがその時見た霊夢の顔は、どこか無愛想漂うがその中に小さな微笑みも混じっていた。気のせいだと思うが。 その言葉を言った当の本人はツカツカと食堂へ向かって歩き出し、ルイズは首を傾げながらもその後を付いていった。 「さぁついたわ、ここがアルヴィーズの食堂よ。」 ルイズはそういって食堂の方を指さした。 そこは正に大聖堂と言って良いほどの大きさで、大きな入り口から多数の生徒が中に入ってゆく。 「ここには有名なシェフ達が働いているからいつもバランスと栄養が整っている食事が取れるの。」 「……なんか食堂にしてはでかすぎない?」 霊夢は頭を上げ食堂を見上げながら言った。 太陽が後ろでサンサンと光っているため誰も言わなければ何処かの大聖堂と間違えてしまうくらいに立派である。 ルイズは霊夢の言葉など無視してさらに説明を続けていた。 「………その外装にさることながら中もすごく、料理人は全て超一流よ!!!」 食堂の入り口で熱弁をふるうルイズに視線を戻した霊夢を含めそれを聞いていた数人の生徒は拍手を送った。 「ねぇギーシュ、あれは何かしら?」 「おおかた、ゼロのルイズが自身の使い魔に熱弁を振るってんだろ?気にするなよ。」 食堂の内部は思ったより大きく、数百人の生徒達が椅子に座って雑談をしている。 そして長いテーブルの上には純白のテーブルクロスがしかれ、その上には綺麗に彩られた料理が置かれている。 ルイズは真ん中のテーブルに行き、椅子を自分で引くと座った。 その後をついてきた霊夢はルイズの足下に置かれている野菜と鶏肉が均等に入ったスープと、湯気を立てているパンと空のティーカップがあることに気づいた。 「料理の方は結構良くしたけど…流石にテーブルの上では食べる事は許されないから床で食べてくれない?」 「まぁ別に良いわよ。元の世界でも椅子に座って食べるとかそんなのはあまり無かったから。」 霊夢は別段何も感じられない瞳でルイズの顔を一瞥してから床に座った。 『………大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝致します。』 (食堂の中も結構凄いけど、食事の味も結構良いわねぇ…) 霊夢は生徒達が呟く祈りをBGMにして一足先に朝食を頂いていた。 生徒達の祈りが終わった後、奥の厨房からメイドが二、三人ティーポットを持ってやってきた。 どうやら生徒達に紅茶を入れているらしい、トクトクトク…という音が食堂のアチコチから聞こえてくる。 やがて一人のメイドがルイズの所にまでやってきて紅茶を入れると地面に座って朝食を食べている霊夢と目が合った。 最初メイドは霊夢を見て不思議そうな顔をしたが何か思い出したのかすぐに笑顔を振りまいた。 「あ、おはようございます。あなたも紅茶が欲しいんですか?」 「うん、入れてくれる?」 そう言って霊夢は空のティーカップをメイドに渡すとメイドは慣れた手つきで紅茶を入れ、紅茶が入ったティーカップを霊夢に渡した。 紅茶は綺麗な色をしており、見ただけで満足してしまう。一口飲んでみたらこれがまた美味しい。 「ありがとう。あなたの入れた紅茶、とってもおいしかったわ。」 メイドは礼をすると隣の生徒のティーカップにお茶を入れていった。 朝食が終わり、霊夢とルイズはとある広場に来ていた。 広場には二年生になったばかりの生徒達と使い魔がおり、今日は召喚した使い魔とコミュニケーションを取る日である。 「いつもなら午前の授業があるんだけどね、今日は使い魔との交流会があるから潰れたのよ。」 「ふーん…」 霊夢は素っ気なく返事をすると紅茶を飲みながら辺りを見回した。 周りは全て哺乳類や爬虫類、鳥類だらけで、その中には目玉の化け物やドラゴン等がいた。 (妖怪…?はたまた悪魔か何かかしら?なんかよくわからないのがいるわね。) 自分やあの目玉と竜以外は蛇や蛙、フクロウといったよく見かける生物がいたがなぜか一匹だけ違和感のある生物が視界に入った。 「………モグラよね?」 霊夢は自身の視線の先にある巨大なモグラを見て思わず呟いてしまった。 それを聞いたルイズは霊夢の視線を追い、そのモグラを見た。 「え?ああ、あれはギーシュの使い魔よ。」 「ギーシュ?誰よそれ。」 「ほら、あのモグラの近くにいる派手な服装の。」 大きさが小熊くらいあるモグラの主人と思われるギーシュは薔薇の造花を片手に持ち、金髪ロールの女子生徒と話しをしていた。 「どうだいモンモランシー、僕の使い魔ヴェルダンデはなかなか可愛いだろう。」 ギーシュはヴェルダンデの頭を膝に乗せて頭を撫でながら言った。 「かわいいけど…今度からわたしと一緒にいるときは出さないでね。」 金髪ロールのモンモランシーは少し引いているような感じでギーシュに言った。 当然である、あんなでかいモグラをかわいいとか言ってる人は普通の人が見れば相当引く。 愛嬌はあるが体の大きさがそれをはね除けていた。普通のモグラサイズだったら万人受けしていただろう。 その後、トイレだからとルイズが席を立って数分後… なにやらギーシュの方から騒がしい声が、霊夢の耳に入ってきた。 「ギーシュ様、はっきりしてくださいよ!!どうして嘘などつくのですか!」 「待ってくれよ、君たちの名誉のために…」 「そんなのはどうでも良いのよ!今大事なのは一年生に手を出していたのかしていないかの事よ!!」 振り返ってみるとギーシュはモンモランシーと茶色のマントを着た女の子に何か言い詰められている。 「僕は二股なんかしていないよケティ、モンモランシー。薔薇は女の子を泣かせないからね。」 「ギーシュ様!それ答えになってません!」 (自分を薔薇と思ってるのかしら…。) 霊夢は聞こえてくるギーシュの言葉に呆れているとふとギーシュの懐から十枚を紐で一束にまとめた手紙が落ちた。 それを見たモンモランシーがその手紙をギーシュよりも早く手に取ると顔を真っ赤にしながらも満面の笑みを出した。 「…ギーシュぅ?この手紙全てに一年や二年なんかの女子生徒の名前が書いてるんだけどこれってイッタイどういう事かしらぁ?」 「そ、そんなまさか…酷いですギーシュ様!!二股では飽きたらず十股していたなんて。」 「え、あ、あのぉ…だからこれは…。」 「「このウソツキ!!乙女の敵!!!」」 ギーシュが言い終わる前に二人の平手打ちが炸裂してギーシュは空中で綺麗に4回転し、地に伏した。 二人の少女が怒りながら広場から姿を消すと他の生徒達がドッと爆笑した。 「ギーシュ!おまえ見事に振られちまったな!?」 太った少年がギーシュに向かって言うとギーシュは立ち上がり服に付いたホコリを払うと一回転した。 「はは、僕にとってはもう慣れっこさ!」 このギーシュという男、たいそうな女たらしであった。ちなみに過去の最高記録は十五股である。 その光景を見ていたルイズは生徒達と同じく笑っていたが霊夢は立ち上がるとギーシュに近づいていった。 そしてギーシュの傍によるとポンポンと肩を叩いた。 「ん?誰だい君は……あぁ確かルイズに召喚されていた娘か。何の用だい?もしかして僕と付き合いたいのか?」 「何勘違いしてるのよ。私はアンタの恋愛運でもあげてやろうと思って来たのよ。」 実際ギーシュは恋愛運が良いとはお世辞にも言えない。むしろ逆に恋愛関係の災難にあう確率が多い。 先ほどの光景を見た霊夢は気まぐれに、たまには巫女らしく御祓いしてやってもいいだろうと思ったのだ。 「僕の恋愛運を?それは有り難い、ならば早速…ん?」 ギーシュは突自目の前に出された霊夢の手に不思議そうな顔をした。 「この手は一体何だい?」 「賽銭よ、あんたの運をあげるんだからアンタもそれ相応の何かを出しなさい。」 ギーシュは頭に?を浮かべて顔を傾げる 「賽銭…何それ?」 彼の反応も当然である、何せこの大陸には賽銭を入れる賽銭箱はおろか、神社すらないのだから。 「知らないの?御祓いをする人にお金などを出して運勢を占ったり祈祷などをしてもらうことよ。」 「金」という言葉を聞いたギーシュは明らかに不機嫌な顔で霊夢を睨んだ。 「それはつまり…恋愛運を上げてやるからお金をくれという意味かい?」 「そうだけど?でもそんな言い方はしてないわよ。」 その言葉を聞いたギーシュは数歩退くと薔薇の造花を霊夢に向けた。 「このトリステイン貴族にタダで金品を要求するとは…なんたる無礼、即刻僕に謝罪したまえ。」 いきなり大声で叫んだギーシュに霊夢は少し驚きながらも答えた。 「貴族だか平民だかなんだか知らないけど要は…―――ってイタ!」 喋っている最中にいつの間にか彼女の後ろにいたルイズに頭を叩かれ、霊夢は頭を押さえた。 「あんた私がいない間に何してんのよ!?さっさと謝りなさい!」 「貴族がなによ?あいつも魔法を使わないとただの人間でしょ?それに二股してた方が悪いし。」 霊夢はこの世界で貴族という存在がどれ程高位なものとも知らず。ギーシュを馬鹿にするような目で見ている。 「…………どうやら魔法の才能が無い『ゼロ』のルイズに召喚された君は、貴族に対する接待の仕方を知らないようだね。」 ギーシュがそんなことを言った直後、霊夢の左手が闇夜でしか認識できないくらいの薄さで光った後、霊夢が目を鋭くしてギーシュにこういった。 「…………お生憎様、私はあんたみたいな『孤立無援な女の敵』に持ち合わせる態度はないわ。」 惜しげもなく出たその言葉は、ギーシュを激昂させるのには十分な代物であった。 「!?………君に決闘を申し込む!」 完璧に吹っ切れたギーシュは高らかに宣言した。 「別にいいわよ。ティータイムの後には丁度良いわ。」 「ヴェストリの広場で待っているよ!」 ギーシュはそう言うとマントを翻し颯爽と去っていった。 その後霊夢はハッとするとふと左手の甲を見ようとしたがルイズが後ろから激しく肩を揺すった。 「あんたなんて事したのよ!?貴族に決闘を申し込まれるなんて…!」 「わわわわわ……あんた馬鹿にされてたのによく怒らないわね…というか目がまわるぅ~…」 「あんたもしかして私のために……あんなのいいのよ!貴族はあんなことで怒るなってお母様に言われたのよ!」 必死な顔で霊夢をみているルイズは尚も肩を揺する。 とりあえず霊夢はルイズの手を肩から外すと、太っている少年に声を掛けた。 「はぁはぁ………ねぇ、ヴェストリ広場って何処かしら?」 「こっちだ、着いてこい。」 ルイズはほほえんでいる太った少年、マリコルヌに着いていこうとした霊夢の手を引っ張った。 霊夢が苛立ってルイズの方に顔を向けた。ルイズの顔にはうっすらと恐怖の色がにじみ出ていた。 「ねぇ、お願いだからやめて!グラモン家を怒らせたらただじゃすまないわよ!?下手に勝ってしまったら何をされるか…」 霊夢は静かにルイズの手を振り払い少し先にいるマリコルヌの後を着いていった。 「もう………バカァ!!」 ルイズの叫びは、空しくも霊夢の耳に届くことはなかった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4273.html
前略 ちい姉様 マジカルメイドが暗躍したお陰で、無事…いや無事ではありませんが何とか使い魔を召喚することが出来ました。 ええ、出来たんです。 ですが……何というか人間の子供を呼び出してしまったんです。それも二人も。 『見た目』だけはとても美しい双子の少年と少女が使い魔となったんです。 そう、なったんですが……わたし、これからの学院生活がとても不安です。 ぶっちゃけ、家に帰ってもいいですか? いいですよね? 草々 ルイズの憂鬱(魔法少女ラジカルイズ~双子編~) 「ミス・ヴァリエール!」 ある日、教室に呼び出されたルイズは、渋る双子の使い魔をつれて約束した時間より少し早くやって来た。 教室に入るや否や待ち構えていた中年の女性教諭、シュヴルーズが怒鳴りあげたのだ。 「あの、ミセス・シュヴルーズ。 何か御用ですか?」 覇気もなく気だるげに答えるルイズにますますシュヴルーズは声を荒げる。 「何かじゃありません! ミス・ヴァリエール! あなたは使い魔にどういう教育をしているのですか!」 「はぁ、その、スミマセン」 ヒステリックな怒鳴り声に取り合えず謝罪の言葉を告げたルイズ。 どうやらまたこの双子が何かをやらかしたらしい。 今度は何だろうか。 またモンモランシーの使い魔の蛙に何かしたのか、でも蛙の御尻にストローさして空気を入れるなんて昨日やって怒られたばかりだ。 あるいはギーシュの使い魔のモグラの餌(ミミズ)に釣り針を仕掛けて釣り上げたことか、はたまた学院長の使い魔のネズミをまた罠にはめたのか。 思い当たる節が沢山ありすぎてよく分からない。 「錬金の授業で使う粘土に爆薬を仕掛けるなんて! こんな悪戯初めてです!」 ルイズは、『ああ、どんどん過激になっているなぁ』と思いながらもひたすら平謝りを繰り返す。 それにも拘らず、 の怒りはまだ収まらない。そう、 がルイズを呼び出すのは何も初めてというわけではない。 双子が悪戯を仕掛けるたびに、コルベールやギトー、オスマンにロングビル等、学院に努めている教職員から一通り注意を受けているのだ。 その度に彼女は下げたくもない頭を何度も下げたのだ。 「昨日も、ミスタ・コルベールの髪を全て燃やしたではないですか! いいですか! ちゃんと教育なさい!」 コルベールのあの可笑しな鬘はそういう理由だったのか。ルイズは心の中で納得すると再び頭を下げる。ちゃんと謝罪の意思をのせて。 「スミマセン。 ほら、あんた達もあやまんなさいよ!」 この日、同席した双子の頭を下げさせようとグイグイと押すが彼らはそれに反発するのだ。 そしてあろうことか、 「ばーか、はーげ、タコ坊主ー」 「タコなら海ん中でチューチュースミ吐けー」 暴言を吐くのだ。 ルイズの短い堪忍袋の緒は当然の如くブチキレた。 「ちゃんとあやまんなさいッ!」 怒りと共に振るわれた杖から奔るはずだった魔法。だが忘れてはならない。彼女が魔法をうまく使えないという事実を。 激しい爆発が教室中を蹂躙する。響き渡る4人の悲鳴。だが奇跡的に皆無傷だった。 そして当然のようにルイズは教室の清掃を命ぜられたのだが、双子はというと当然の如くその場から逃げ出したのだった。 拝啓 エレオノール姉様 わたしはちゃんと学院を卒業できるのでしょうか? とても不安です。 だからお願いします。家に逃げ帰っても怒らないで下さい。 敬具 数日後…。 ルイズが部屋で双子と何ともいえない時間過ごしているとを唐突に扉を叩く音が聞こえるではないか。 あまりにも激しく叩かれる扉。煩くて敵わないと扉を開けるとそこにはモンモランシーがに鬼気迫る雰囲気で仁王立ちをしている。 「少し時間いいかしら?」 そう言うとモンモランシーはルイズの返答を待たずして部屋にズカズカと入って来た。 用件をルイズが聞き出そうとする前に彼女は口を開いた。 「ルイズ、使い魔にどういう教育しているわけ? ギーシュがノイローゼになってるんだけど…どうしてくれるの」 モンモランシーの言葉にはてと首を傾げるルイズ。 その様子がモンモランシーを苛立たせる。 「ちょっと! しらばっくれる気?」 モンモランシーが言うには…… 学院某所。 その日、ギーシュは一人、使い魔のヴェルダンデに餌をやっていた。すると背後から不穏な影がするすると近づいてくるではないか。 音もなくギーシュの背後にピタリとくっつくと耳元で吐息を掛けるように双子の、少年のほうが声をかけた。 「ねぇギーシュさん。 遊ぼうよ」 「あひゃぁ!」 突然のことに飛び上がらんばかりの勢いで驚いたギーシュだったが、双子の姿を認めるとすぐさま使い魔を己が背に隠した。 「も、もうヴェルダンデをお前達の玩具にはさせないからな!」 おっかなびっくり双子に向かって啖呵を吐いた。だが双子はそんなことは気にも留めない。 今度は双子の少女のほうがギーシュの耳元で囁いた。 「何を言っているのかしら? 私達はギーシュさんと遊びたいの? ね、兄様」 「うん、姉様の言うとおりだからね、ギーシュさん」 使い魔を玩具にされないと分かって一瞬だけ安堵したギーシュ。だが疑問が一つ浮かぶ。 「僕と遊ぶって……何をするんだい?」 ギーシュの問いに双子は満面の笑みを浮かべて言い放った。 「んー、今日はお医者さんごっこでいいよね、姉様?」 「そうね。 せっかく本式の道具一式そろえたんだもの。 それにしましょう」 途轍もなく嫌な予感がするので回れ右をしてその場を立ち去ろうとしたギーシュだったが… 「こ、これからケティと遠乗りの約束が…」 そうは問屋が卸さない。少年がギーシュの服の襟をがっしりと掴んだ。ちなみにヴェルダンデはとっくに逃げていた。主を見捨てて……。 「姉様、きっと普通のお医者さんごっこが嫌なんだよ」 「まぁ兄様、本当かしら? だったら……」 ――大人のお医者さんごっこにしましょう―― そういってギーシュの眼前に出されたものは18歳未満の人には説明することが憚れる器具の数々。 「大人のお医者さんごっこー♪ 僕らのテクにかかればその愚息も昇天だよ?」 「さぁ、天使を呼んであげましょう……」 哀れ。 ギーシュはもはや逃げることなど出来ない。 「やめろ! 助けてケティ! モ、モンモランシーでもいいから!」 ああ、その悲痛な叫びは届かない……。 「い、いやぁぁぁぁ!」 そんな事があったらしい。 「あれ以来ギーシュはうわ言の様に『助けてケティ』って繰り返すのよ!」 ギリギリとモンモランシーの歯軋りが聞こえてくる。 「何で!? どんなプレイしたか知らないけど、何故助けを求めるのが私じゃないのよ! ふざけないでよね!」 私もあんな事ギーシュにしてみたかったのにと、興奮して怒鳴り散らすモンモランシーを尻目に、双子はというと……。 「弱いわね、兄様」 「そうだね、姉様。 この程度で泣いていたらこの先辛いことがイッパイ、イッパイあるよ」 シエスタから貰ったペロペロキャンディーなめながら、達観した様子で佇むのであった。 それがルイズの逆鱗に触れたのは当然である。 「あやまんなさいッ!」 ルイズは学んだ。怒りに我を忘れてはいけない。だから魔法は使わず杖で双子の頭を殴ったのだ。 うわぁーんと泣き声をあげる双子の姉兄。ルイズはきっと懲りずにまた何かやらかすだろうと、遠い目をして考えていた。 親愛なるワルド様へ この先の学院生活がとても不安です。比喩でも過剰表現でもありません。 例え中退してもわたしを貰ってくれますか? デルフリンガーに相談しても、 「剣であるオレにどうしろと?」 そんなことばかり言って取り合ってもらえません。 そんなルイズの神経をすり減らす双子の使い魔であったが、ルイズを癒してくれる時間があったのだ。 「寝顔は天使そのものね」 子供らしく可愛らしい寝顔、多くの人はそれに癒されるだろう。 剥製の作り方と銘打たれた本と囚われた梟と土竜の姿さえなければの話だが……。 エピローグ(?) 「ねー、ルイズさん」 「圧力釜どっかにないー?」 「あー…シエスタの所に行けばあるんじゃない?」 読書に勤しむルイズに話しかける双子。本から目を離すことなく投げやりに答える。 「はーい。じゃあ聞いてくるわ」 「ねぇ、アレ持った?」 一瞬のやり取り……これでルイズは察した。 「…石礫とか釘詰めたら爆殺するからね」 その言葉にブーブー文句を言ってくるが最早ルイズは気にしない。 前略 ちい姉様 色々あったけど最近慣れました。 家に帰らなくても恐らく大丈夫なはずだと思います。 いろいろあるけれど、わたしは元気です……多分。 草々
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/833.html
ルイズと幽香は他者と一歩送れて朝食の席を立つ。 これから、幽香を入れての、初めての授業である。 「・・・むきゅー。この本、興味深いわ。ここの世界の魔法も会得して、 絶対に魔理沙をぎゃふんと言わせてやるわ」 第4話 こんどこそ すごい 本領発揮 他の生徒から数分遅れてルイズと幽香が教室に入る。 すると、赤い髪をしたスタイル抜群の女性がルイズの姿を認めると、近づいてくる。 「あらルイズ、おはよう」 「・・・おはよう、キュルケ」 ルイズは心底嫌な顔を、キュルケは悪戯を楽しむような顔をしている。 「この人が貴方の召喚した使い魔?」 「そうよ、幽香こそ「使い魔じゃないわ。あくまでルイズとは対等のつもりよ」ってちょっと」 キュルケの質問に、ルイズが自慢げに答えようとしたところ、幽香の口から驚きの言葉が漏れた。 「ち、ちょっと、前に一応ではあっても敬おうって言ってたじゃない」 「いや、なんかやっぱり慣れない事はするもんじゃないわねって事で」 「余りにも酷いわ・・・」 ルイズの絶望感に満ちた声が漏れる。もちろん、それはキュルケにも聞こえていたわけで。 「あははは、ルイズ、なんだかとんでもないのを召喚したみたいね?」 「ふ、ふん!これでも実力は本物・・・なんだからねっ!多分!」 「多分って何よ、私は本気さえ出せれば分けはあっても負けたことは無いわ」 「ふふ、でもあたしはちゃんとした使い魔を召喚したのよ?おいで、フレイム」 すると、教室で他の使い魔と話して(?)いたオレンジ色のトカゲの様な大きな生き物が歩いてきた。 「あら、火の象徴の生き物?」 微妙に不快そうな顔をする幽香。 「そうよ。この尻尾、素晴らしいと思わない?」 確かに、とルイズは思う。この尻尾から見るに、サラマンダーの中でもそれなりに 高位にあるのだろう。と、容易に想像が付く。 「ふーん・・・知能の割に力はあるのね。花、燃やさないでね」 「ふふ、あたしが指示したりしなきゃ、そうそう火なんて吹かないわよ」 「ふーん、ならいいわ」 完全にルイズは蚊帳の外である。 「ちよっと幽香、せめて他人の前では使い魔らしく振舞って頂戴よ」 「嫌よ、逆にルイズしか居ないんなら・・・考えなくも無いけど、他人の前で使い魔 ・・・と言うより、ルイズより下だなんて思われたくないわ」 「ふふ、ルイズ、貴方、使い魔に忠誠も見せて貰えないようだからモテないのよ・・・」 「私はアンタみたいに他人に媚を振り分けるほど暇じゃないのよ」 ルイズが反論をするが、キュルケは幽香に興味があるようだ。 「ねぇ、貴方はなんて名前なの?」 「あら、こちらの貴族は相手に先に名乗らせるの?」 「そうね、こちらから名乗りましょうか。あたしはキュルケ。微熱のキュルケ。」 キュルケはそこで一旦区切ると、ルイズにあてつけるように胸を張り、幽香に向かって艶かしい視線を送る。 「ささやかに燃える情熱は微熱。でも、世の男性はそれでいちころなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは視線を幽香の胸に移動させ、その後視線をルイズの胸に固定し、嘲るような笑みを浮かべる。 「じゃ、失礼?」 そのまま、キュルケはさっそうと歩いていく。歩く姿でさえ何か色気のような物があった。 「キィィィッ!くやしいっ!何よ何よ!絶対幽香のほうが使い魔としての格は高いんだからっ!」 「・・・・・・」 「どうしたのよ、幽香?」 「胸で・・・負けたわ。そうそう負けることは無かったのに・・・」 「・・・そう」 幽香は割りと本気で悔しがっているようだ。 そこに何故かキュルケが戻ってくる。 「ルイズ、貴方、タバサの部屋に入った何か、見なかった?」 「・・・? いえ、見てないけど?」 「うーん。やっぱりルイズも見てないか・・・」 「どうしたのよ?」 「ううん、ただ、タバサが後で戻ってはいるとはいえ、本が減ったりしてるって嘆いてたのよ」 「ふぅん・・・普通、生徒ならタバサの部屋じゃなくて図書室に行くと思うけど・・・」 「だから妙なのよ。まぁいいわ。見つけたらあたしに言ってね。それじゃ」 こんどこそキュルケは男性の群れに戻っていく。 「変なの・・・」 「へぇ、この学園、図書室なんてあったんだ」 「えぇ、まぁ、一般生徒じゃ入れないところもあるけどね」 「ふぅん・・・まぁいいわ、前に居るの、先生でしょ?」 「げ、危なかったわ。ありがと幽香」 「どういたしまして」 前に来た先生、シュヴルーズ先生が口を開く。 「おはよう皆様、私はこの季節に召喚された使い魔を見るのが好きなのですよ・・・ 本当に皆さん、色々な・・・色々な・・・」 シュヴルーズはルイズの隣に居る幽香を見て凍りつく。 「・・・えー、本当に色々な使い魔が居るのですね・・・」 「ちょっと、ミセス・シュヴルーズ!人の使い魔みて硬直するのは止めてください!」 「そうよ、使い魔を一通り見てみたけど、私以上の生き物・・・いや、かろうじて対抗できそうなのは、 そこの青もやしの竜しか居ないわよ?」 幽香は青もやし・・・いや、タバサを指差して言う。 タバサは反応しない。それに対してキュルケが反応する。 「ちょっとそこの使い魔、タバサをもやし呼ばわりとは、 礼儀がなってないんじゃない?」 「あら、すいませんね。昔、そこのタバサ、だっけ? に似た人が紫もやしと呼ばれて居たので、つい呼んでしまいましたわ。 非礼をお詫びします」 「くっ・・・わ、わかればいいのよ!」 周りからは明らかに喧嘩を売りに行ったキュルケを上手く受け流すほどの知慧を 見せた幽香に控えめながらも感嘆の声が漏れる。 ルイズは幽香の耳元でささやく。 (よくやったわ幽香!) 「ゃん!」 「え?」 しかし幽香はそれに気づかなかったようで、ルイズの息が幽香の耳に入り、 思わず嬌声を上げてしまう。 その声はやけに色っぽく、何人かの男子生徒が反応してしまう。 その耳を押さえて甘い声を上げながら顔を赤らめるという動作を 幽香のスタイルとルックスを見ていたギーシュは直視してしまった。 「・・・可憐だ。薔薇たる私が、あの花を手に取らない?そんなことはあり得ない。そんなことは―――!」 ギーシュは、ルイズの最初の召喚、そう、コルベール場外ホームラン事件を見ているのだ。 もちろん幽香の名乗り上げも聞いている。 「そうだ、花だ!全ての美しい花は私の物、ならば私が薔薇である必要は何処にもなくて―――!」 気障なギーシュがなにやら叫んでいるが関係ないことである。 しかし、ミセス・シュヴルーズ先生は耐えられなかったらしい。 「ふがっ!」 「しばらく黙っていなさい。では授業を始めましょう」 「ふがふぐふもっふー!」 ギーシュの喚く声が五月蝿いので生徒達によって窓から落とされる。 これは痛い。 「では、今日は使い魔を召喚して皆さん疲れているでしょうし、土魔法の基本、錬金 のおさらいをしましょう。それでは・・・」 シュヴルーズ先生が錬金の理論を説明している。 しかし、ルイズにとっては実技が出来ない分、座学はかなり優秀な方である。 そんなルイズにとっては、非常に退屈な授業である。 しかし、幽香はしきりに頷きながら、その授業の内容を咀嚼している様であった。 「幽香、意味わかるの?」 「うーん、分からないわけじゃないんだけど、どうにもピンと来ないわ。 せめて、一回でも実技が見れれば・・・」 「・・・貴方、実は頭良い?」 「・・・伊達に数百年生きてないわ」 「うそっ!貴方、そんなに生きてたの!?」 「言ってなかったかしら?妖怪は軽く千年は生きたりするわよ。 ま、種族にもよるけどね」 「・・・何か、常識が崩れて来たわ」 この時、ルイズは不覚にも大きな声を上げていてしまった。 「ミス・ヴァリエール!」 「はっ!はい!」 「随分と余裕のようですね。では、私がやるつもりだった 錬金の魔法を実演していただきましょう。大丈夫です。 貴方はとても優秀な生徒と聞いています。さぁ」 途端に周りがザワザワと騒ぎ始める。 「あの・・・先生、やめさせた方がいいと思います」 「もう爆発は見たくありません!」 「触ると爆発する技ってあったわね」 周りの生徒達が口々に止めろ止めろと騒ぎ立てる。 その様子を見て、なおルイズはその指名を受けた。 「やります!」 ルイズのこの宣言で、生徒達が隠れようとした。 「―――静かにしてくださらない?」 しかし、ルイズの隣に居た女性、いや、使い魔の幽香が、 この喧騒の中でもやけに響く、重く、低く、人間の本能に直接語りかけるような 声を、いや、もはやこれは号令だ、を掛ける。 「ミセス・シュヴルーズ?」 「は、はい?」 幽香が、非常に優しい声でシュヴルーズに声を掛ける。 周りの喧騒は、幽香の先ほどの一声で静まり返っていた。 「普通は生徒の前に、先生が手本を見せる物じゃなくて? ―――ミセス・シュヴルーズ?」 幽香の、「異論は許さない」と言う、確固とした感情の籠められた言葉は、 それは言霊となってシュヴルーズの考えを侵食する。 「え、えぇ、そうですね。わかりました。では私が手本を見せます」 そう言ってシュヴルーズは、土を出すと、それに魔法を掛ける。 するとその土は、金の輝きを放つ金属に変化する。 「あら、凄いですね先生。それは金ですか?」 幽香は心底感心した風でシュヴルーズを見て、声を掛ける。 それに対してシュヴルーズは自嘲したような 笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。 「いえ、これは真鍮です。私は二つしか属性を掛け合わせられませんから。」 シュヴルーズの自分を見下すような言葉に、幽香はポツリとつぶやく。 「ふぅん―――なんだ、これなら、まだ魔界の人形の魔法の方が高度だわ」 「え?」 幽香のぽつりと言った一言は、近くに居たルイズにしか聞こえていなかった。 「ミセス・シュヴルーズ?」 「は、はい、何でしょうか・・・?」 「よろしければ、私に一度やらせて戴けません事?」 「え?」 シュヴルーズは、不思議そうな表情をしながら、疑いの念の篭った声を上げる。 その幽香の申し立てに、ルイズが反応する。 「や、やめてよ幽香!私が恥かいちゃうじゃない!」 「見てなさいルイズ―――これが、私の実力って言う物よ」 幽香は、あたかも自分がこの空間の支配者のごとく、 いや、事実そんな状況だ。誰もが、学園長室に居る三人ですら、 遠見の鏡を使ってこの状況を覗き見ている。 「行くわよ―――」 幽香の宣言に、全員が息を呑む。 そして―――幽香の魔法、土を真鍮に変える魔法が使われた。 それは、貴族の使う杖と言う、それなりの長い時間を掛けて作られる杖と言う 魔法媒体無しで振るわれた。 「―――出来たわ」 そして、その土は見事金の輝きを放つ別の金属、真鍮に成り代わっていた。 「――――――!!」 その歓声は、どこまでも無音であった。 ただ、ルイズを初めとする、学園全員を、震わせ、叫ばせる物であった。 そして、幽香は言う。 「ルイズ?」 幽香の突然の呼びかけに、ルイズは驚く。 「な、何よ?」 「ルイズ、こっちにいらっしゃい。もしかしたら、 貴方に魔法を使わせられるかも。」 「なっ!」 「「「なっ!?」」」 教室のほぼ全員が驚きの言葉を上げる。 もちろん、校長室の三人も、である。 「どうするの?ルイズ?私のやり方―――やってみない?」 「当然、やるわ!」 ルイズは、もしかしたら今までの自分の評価をひっくり返せるかもしれない その考えだけで、走ってやってきた。 それはそうだろう。幽香は、完全に魔法の素人の筈なのだ。 その幽香が一発で魔法を成功させた。つまり、それは自分にも 魔法が使えるのではないか―――? そう、考えさせるのに十分であった。 「偉いわねルイズ・・・よく来てくれたわ」 ただ、ルイズには、一つ心配なことがあった。 何故か、幽香に良く解らない迫力と言うか、 周りの人に、一切の反論を許さない、ナニかが渦巻いていたのだ。 「待ってね・・・」 幽香は、またシュヴルーズの用意した土に何処からか 出した種を蒔き、宣言する。 「フラワーマスターの名において宣言するわ。 ―――咲きなさい」 すると、ルイズ、この中で最も博識なタバサですら見たことの無い花を咲かせる。 その花を、ルイズの花に近づけると、ルイズは意識を失った。 「ふふ、いいわ。さぁ―――!」 その光景を見ていたオールド・オスマンと、コルベールは、ほぼ同時に叫んだ。 「いかんっ!」 すぐさまその幽香の行動を止めに行くが、幽香の鏡越しの視線と、 満面の笑みを見ると、一瞬でそんな考えが吹き飛ぶ。 元々、動くことすら出来なくなっていたロングビルは、「ひっ」 と言う声を上げて、失神した。 使い魔は、そのメイジと実力差があると、メイジから主従の関係を取り除こうとする。 幽香は、正にそれをしようとしていたのだ。 幽香は、嬉しそうに叫ぶ。 「さぁ、これで私の使い魔生活も終わり―――よっ!」 光が走った。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/194.html
「てんくうちゅうしんけん?何それ?」 ロム・ストールの発した聞いたことの無い単語を不思議に思うルイズ 「悪を断ち、弱きものを守る正義の拳法、俺は亡き父の遺言によりそれを用いて旅を続けていた」 「ふ~ん・・・、ってそんな話をしている暇はないわ!今すぐ契約するわよ!!」 「契約?何の?」 「主と使い魔の契約よ!今から貴方は私の使い魔になるのよ!」 ルイズは力みながら説明した 第1話 新たなる大地!その名はハルケギニア! 「つまり使い魔とは君たち魔法使いのしもべになること、俺は君に召喚されたから君の使い魔として契約をしなければならない」 「そうよ、物分かりが早くて助かるわ、では早速・・・・」「断る」 「んな!何を言っているの!貴方は私に」 「君達魔法使いが伝統に従うように俺には亡き父の遺言に従って悪を討つ旅を続ける義務がある。それを途中で止めるわけにはいかない」 「そーいうことなら私も言うわよ!召喚のやり直しは出来ないのからもう私には貴方に使い魔になってもらうしか道がないのよ!」 ロムの言い分にルイズは真っ赤な顔をして反論する ルイズは思っていなかった まさか貴族である自分が平民(?)であるロムからここまで拒絶されるとは さらに周りの見回すと既に契約を済ませた級友達はそれぞれ使い魔の自慢話をしつつルイズをニヤニヤしながら見ている 当初の予定なら今頃自慢話の中心にいるのは自分のはず・・・・ しかし現実はそうではなかった ルイズの涙腺は爆発寸前だった (気の毒だが俺は一刻も早く仲間達の戻らなければならない。) ルイズに同情しつつ、ロムは手を空に掲げた (彼女の話からここはクロノスではない事は確かだ。だが彼女は俺をこの世界に呼ぶ事が出来た) (っという事は戻る事も可能なはずだ・・・・、よし、剣狼よ!我に導きを!!) しかし何も起こらない (ばっ・・・馬鹿な!剣狼が現れん!?) 父から受け継いだ狼の紋章を持つ剣、剣狼が今まで自分の下に現れないとはこれまでに無かったのだ さすが多くの修羅場を乗り越えたロムもこれには焦った 「聞きたい事がある」 「何よ!」 ロムは少し青い顔でルイズを見る、ルイズは再び目に涙を溜めていた 「帰る手段はあるのか」 「無いわよ!サモン・サーヴァントは呼び出す事しか出来ないのよ!」 「・・・・本当か?」 「本当よ!嘘付いてもしょうがないでしょ!」 少し思考した結果・・・・ 「わかった、君の使い魔となろう」 「ほっ本当!?本当に本当!!?」 「ああ、ただし帰る手段が見つかったら必ず帰る、それまで俺が使い魔としての働きをする」 ルイズは片手で涙を拭い、胸に手を当て息を吸った 一度は閉ざされたと思われた道に光が差したのだ・・・・・・ 「ではコントラクト・サーヴァントを始めるわよ。そこに座りなさい」 ロムは言われるままに膝を地に付ける、するとルイズは目の前に杖を掲げた 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ド・ル・ブラン・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」 (成る程、これが契約か・・・・これで俺は、ってな!?) ルイズは呪文を唱えたあとロムに顔を近づけ、口付けを交わした 「ふう、これで契約は終わりよこれであんたは私の使い魔になったわ」 「・・・・・・・・」 唖然としたロムはルイズの顔をじって見ていた その透き通っている目に思わずルイズは頬を赤らめる 「なっ何よ、ひょっとして照れているの?しょ、しょーがないじゃない!私だって好きでやってるわけじゃないんだから・・・・」 「いや、女に迫られるのは慣れているがいきなり口付けをするのは初めてだと思ってな。意外と大胆なのだな」 ルイズの顔が全面真っ赤になる 「仕方がないでしょこれが儀式なんだから!それより今からあんたは私の使い魔よ!!」 「ああ、出来る限り努力しよう・・・む?体中が・・・・あ、熱い!!」 ロムの左手の甲から文字が浮かび上がる 「それは使い魔のルーンよ、使い魔になった証拠よ」「ふむ、珍しいルーンだな、どれもっと良く見せてくれないか」 コルベールがロムの左手に自分の手を添える、するとコルベールが段々悩ましい顔になっていった (こっこれはどういうことだ!?この平民何かおかしい・・・・!これでは・・・・) 「もういいか?」 「あ・・・・、すっすまん、では皆、教室へ戻るぞ」 ギャラリー達が宙に浮き始め、建物の中へと入っていく。 色々話している声があったがもちろんそれはルイズの事であった 「ルイズの使い魔にはあんな平民がお似合いだな」 そんな声が聞こえた気がする 「なんだ、マスターは飛ばないのか」 「うるさい!さっさと行くわよ!全く、何で私の使い魔が平民なのよ!」 ルイズはまだ怒っていた その夜・・・・ ルイズの部屋にてロムは窓から夜空を見上げる 「ふむ、この世界の月は2つあるのか」 「そんなの当たり前でしょ」 「俺の世界には太陽が2つあるが・・・・」 「太陽が2つ!?暑くないのそれ!!?」 「いや、それほどでもない、環境はこの世界とはあまり変わり無い。それに俺が仲間と共に旅をした場所には全てが氷でできた大地もある」 「あんた今までどんな生活してきたのよ・・・・」 ルイズは呆れながらも言う ロムはルイズに自分の世界の事を話していた。自分の事や、世界に住人の事、そして仲間達と共に旅をしていたこと 「要するに貴方の世界の住人は貴方の様に体を鋼で包み、それ所か別の物に姿を変えることができるのね。じゃあ貴方も姿を変えることができないの?」 「できん、俺はクロノス族に属している。クロノス族は人間の姿が基本だ」 (何よそれー!平民の使い魔を連れているなんて馬鹿にされないためにずっと姿を変えさせておこうと思っていたのにー!) ルイズがぶわぶわと長い髪をかきあげる ロムが再び口を開ける 「しかし君を悪人から守ることはできる。天空宙心拳は人を活かす拳だ」 確かにロムは見掛けかしてとても強そうだ 顔立ちも昔家に招待された高名な騎士と似ている しかしその騎士との決定的違いは魔法が使えないという事 もしも悪人が魔法を使ってきたらあっという間に吹き飛ばされてしまいそうだ 「まぁ期待しておくわ、それよりもあんたにやってもらうことは沢山あるわよ!覚悟しなさい!」 「ああ」 ロムがこくりと頷く 「じゃああんたの寝床はそこ」 ルイズが指を床にさしたあとロムに毛布を渡す 「ああ、野宿には慣れている」 それからブラウスのボタンを一つずつ外していき、下着姿となった 「なっ、なにをしているんだ!」 ロムがすっとんきょうな声をあげる 「寝るから着替えるのよ」 「何故人前でやる!」 「別に、使い魔に見られたって何ともないわ」 迫られるのは慣れていると答えたが元々女性自体に慣れてないロムは流石にルイズの行動にまたもや唖然とした 「それとこれ朝までに洗って置いてよね」 っと言って純白の下着類を渡す 「少し、夜風に当たって来る・・・・」 ロムがドアノブに手を掛ける 「あらそう、言っておくけど帰るなんて事は考えない方がいいわよ。明日から雑用三昧だから、それじゃおやすみ」 一度召喚された場所へと戻るロム 「あの時剣狼は確かにこの手にあった、っということは剣狼もこの世界にあるはずだ。」 自分の手のひらを握りしめる 「バイカンフーを呼べば次元を貫いて下の世界へ戻れるはず、きっとクロノスへ戻ることができる」 空に浮かぶ2つの月を見上げる 「ジェット、ドリル、ジム。俺がいなくなった世界で何を思っている?」 共に父が印した狼の印を探す旅を始めた仲間達、夜空を見ていると彼等の顔が浮かび上がる 「レイナは今頃、泣いているのか?」 自分に良くくっついていた可愛らしい妹が大きな月に浮かび上がる 「待っていろ皆、俺は必ず帰って見せる」 そっとドアを開けると薄暗いランプに肢体を照らしながらすやすやと眠るルイズがいた 「だが、俺はこの娘を守る事が・・・今後の日課だな」 ルイズをレイナに照らし合わせながらロムはランプの火を消した おまけ 金髪の少年がセミロングの髪の少女と共に学院のベランダに出ていた 「確かに君の言う通り今日の夜空は星が多くて美しい・・・・、素晴らしいよカレン」 「ありがとうございますギーシュ様・・・・」 カレンと呼ばれた少女は両頬にそれぞれ手を当ててうっとりしていた 「おお、今蒼い流星が流れたよ」 「私も見えました、まるで妖精が夜の運河を滑るように・・・・」 「カレン、夜が深くてもこの星の輝きの下なら遠く都を探すことができるよ。それに、今は君の顔をしっかり照らされていてとても美しい・・・・」 「ギーシュ様・・・・」 二人は互いの唇を合わせようとする、すると下の方から足音が聞こえる 「誰だ?二人の時間に割り込んで来た無粋な者は」 下を見ているとそこにいたのはあのゼロのルイズが召喚した平民であった (全く、貴族の楽しみに土足入ってくるとは。これだから平民は・・・・) 「あの方・・・・素敵」 (な、なんだってー!) 「あのしなやかな体付きを思わせるスマートな鎧、キリッとした目付き・・・・素敵ですわ・・・・。でもあの人はあのルイズの使い魔で平民・・・・ああ、何この気持ち!?これが恋心!?」 拳を握りしめて男を睨み付ける (あの男平民でありながらこの僕から(何人もいる)ガールフレンドを誘惑するなんて・・・・、・・・・この代償、高くつくよ・・・・) しかしその後酷い目にあうのは自分だったりする・・・・
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/816.html
苦労の末ルイズが呼び出したのは奇妙な金色の物体だった。 形状は正四角錐をなしており、垂直断面には取っ手のように金属のリングが取り付けられている。 ルイズにはそれはただの悪趣味な置物にしか見えなかったが、教師コルベールに自らが呼び出したそれと契約を交わす様強制されてしまう。 当然ルイズは抗議するが、使い魔召喚の神聖性を理由に召喚のやり直しは認めてもらえず、しぶしぶその物体と契約を交わすルイズ。 一瞬使い魔のルーンが浮かぶものの、その物体に吸い込まれるようにして消えてしまった。 当然他に何の変化もなく、奇妙な置物でしかないそれを抱えて失意のなかルイズはとぼとぼと教室へと戻ったのだった。 拳大のそれは手で持ち歩くには面倒であったし、ポケットにも入れ辛い。 そのためリング状の突起に鎖を通してペンダントのように首から下げることにしたルイズは、部屋を出た直後キュルケに。更に教室では意地の悪い生徒たちから己の使い魔を笑われた。 悔しかったが、何も言い返せず、こんなもの部屋に置いてくれば良かったと後悔した。 錬金の授業で爆発を起こしたルイズは罰として教室の片付けをさせられ、更に不機嫌になった。 片づけが終わった後食堂へと向かったルイズは、そこで昼食を取る。 その時ルイズはギーシュがメイドへ絡むのを見かけた。 一部始終を見ていたルイズは、どう考えてもギーシュの自業自得であり、メイドにしているのは八つ当たりでしかないと思ったが、機嫌が悪かったし、平民のメイドをわざわざ庇おうなどと「ルイズは」思わなかった。 その後何事もなく一日を終えて部屋に戻ったルイズは、鎖から首を抜いてその置物を部屋の隅に乱暴に放り出した。 こんなものは持ち歩いてもしょうがない。使い魔が死ねば再召喚できるのだ。虚無の曜日にでも準備してこんなものは破壊してしまおう、と思ったのだ。 そうしてルイズは眠りに就いた。 深夜、熟睡していたはずのルイズはむくりと起き上がり、夢遊病のように部屋の片隅へふらふらと歩み寄ると、そこに投げ捨てられていた置物を取り上げ、自らの首に掛け直したのだった。 ―――同刻、ギーシュ・ド・グラモンは自室にてすやすやと眠りこけていたが、いつのまにか響き始めたノックの音で目が覚めた。 こんな夜中に何事かと思って戸を開くと、そこにいたのはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢その人であった。 ギーシュは彼女を特別意識したことはなかった。 大貴族の令嬢である彼女であったが、魔法無能者の「ゼロ」として見下す家柄だけは良い劣等性、と言う程度の認識しかもっていなかったが、夜遅くに寝巻き姿で自分の部屋を訪れたとなれば話は別であった。 ギーシュは自分に、特に異性に対する自分の魅力には自身を持っていた。 ルイズは同年代の少女たちと比べれば発育は悪い方だ。 しかし、彼女の抜きん出た美少女と表現しても差し支えない容貌は、薄手の寝巻き姿が背徳的な扇情さを醸し出しており、深夜の自室であると言うことと、彼女が高貴な血筋であるということもあって若いギーシュの脳から、抑制心というものを簡単に吹き飛ばす威力をもっていた。 この時点で彼女を拒否する、と言うことは完全に思考から消えていたギーシュであったが、即座に襲い掛かるような真似は彼の美意識が許さなかった。 まずはルイズのはしたない振る舞いをたしなめ、次に彼女にそのような振る舞いをさせてしまった自分の魅力を詫び、しかるのち彼女を「いただこう」と都合の良い段取りを考えていたが、ルイズによってそれは阻まれることになった。 彼女はまず、余計なことを言われないようその愛らしい唇の前に人差し指を立て、沈黙を促すジェスチャーをする。 ギーシュがそれに頷くと、ルイズは彼の耳に唇をよせ囁く様に言う。 「ヴェストリの広場に来て」 そう言って、ギーシュが止める間もなくルイズは歩きさってしまう。 一瞬呆気に取られたギーシュだったが、ルイズはもう少しロマンスのある手順を求めているのだと思い直し自分を納得させた。 肩透かしを食らったが、あせる事はない、ほんの少しお楽しみが延びただけのことだと思って彼は広場へと着て行く服を選び始めたのだった。 彼が広場に着いたとき、ルイズは既に広場の中央で彼を待っていた。 彼女は先程の格好にマントを羽織っただけの格好で、そう寒い季節ではないとはいえ、月明かりの下でそれはいかにも頼りない。 「やぁ、待たせてしまったねルイズ。そんな格好で寒くはなかったかい?」 「良いのよギーシュ、気にしないで。それより、ねぇお願いがあるの」 「なんだい?何でも言ってくれたまえ」 「私とゲームをしましょう」 「ゲーム?」 「そうよ、ルールは簡単」 そう言って自らの杖を取り出すルイズ。 「決闘をするのよ。そして、勝った方は負けた方を好きにできる。ね、簡単でしょ?」 その突然の提案にぎょっとしたギーシュだったが、すぐに理解した。 決闘と言って杖を持ったとして、ゼロのルイズに勝ち目等あるはずがない。 つまりこれは、ただ自分を好きにしていいというのではあまりにもはしたないから、それを繕う為に言い出したゲームなのだと。 勝利の報酬を思ってギーシュは小鼻を膨らませながら、しかしがっついた印象を与えないようあえて反論をする。 「決闘だなんて、かよわい女性を相手にそんな事をする理由がないよ」 「ふふ……そう、理由が必要なの。ならこういうのはどうかしら?貴方は昼間食堂でメイドを叱っていたでしょう?私はあれは八つ当たりだと思うの。だから貴方のことが許せなくて、決闘を申し込むのよ。当然私が勝ったら貴方に罰を与えるわ。どう?」 人は本当のことを言われると怒り出すものである。 自らの所業を八つ当たりと言い表されて、不快に思ったギーシュは彼女にちょっとお灸をすえてやろうと思った。 力によって相手を屈服させてモノにするということに原始的な興奮を覚えたのも事実だった。 「良いだろう。そういうことであれば、君の思い違いを正してあげようじゃないか」 ギーシュは自らの杖である薔薇の造花を取り出す。 ルイズは一歩、二歩、しめて七歩歩いて間合いを取った。 「さ、始めましょう。貴方の番よギーシュ。貴方の手札を呼びなさい」 まったく淀みない口調でルイズは言う。 もちろんこれは勝負などでは無いのだから、彼女が怯える必要などあるわけがない。 しかしギーシュは彼女に怪我はさせないまでも、少し驚かせ、怖がらせてやろうと思った。 「では、使わせてもらおう。僕の魔法を!いでよ、ワルキューレ!」 ギーシュが薔薇を振るうと、その花弁が一枚はらりと舞って、見る間に槍を持ち鎧をまとった女戦士を形作る。 所詮箱入りのお嬢様。この槍を顔の間近まで突き出してみせればきっと怯えて止めてくれと頼んでくるに違いない、とギーシュは思った。 「呼んだわね。では私のターン」 ルイズは杖をマントの内側へとしまうと、入れ替わりにトランプのようなカードを取り出した。その数5枚。 そしてその中から1枚を引き抜いて、空中へと放りなげる。 「【エルフの剣士】を攻撃表示で召喚!」 放たれたカードが光り輝き、まるで召喚のゲートのように広がったと思うと、次の瞬間剣と盾で武装したエルフが現れた。 「な、なんだってぇーーーーっ!!!??」 ギーシュの叫びがヴェストリの広場に響き渡るが、観衆無き決闘の場でそれを聞くものはギーシュ自身と、ルイズしかいなかった。 そのルイズはギーシュの驚愕など僅かも気にかけず更に1枚のカードを手札から抜き取り、手前に置くような動作を見せると、カードは空中にぴたりと固定された。 「更に、場にカードを1枚伏せてターンエンド」 ギーシュはわけがわからなかった。 ちょっとルイズをからかって、その後は勝利の報酬が待っているだけのゲームだったはずなのに、なぜエルフが! エルフ!まさか、エルフがこの学院へと侵入し、ルイズに取り付いたのでは!? 混乱するギーシュへとルイズが促す。 「どうしたのギーシュ。貴方の番よ?何もしないのならこちらの番にうつらせてもらうけれど」 ここへ来ても一切乱れぬルイズの声とは対照的に、動揺が聞いて取れるギーシュの声が返される。 「きっ、君はっ、こんなっ、エ、エルフだなんて!」 「いやねぇ、これはゲームなのよ。そんなに怯えないで。これはあくまでゲームの駒。勝手に行動したりはしないわ」 そう言って【エルフの剣士】を見るルイズ。 その視線を追ってギーシュもそれを観察する。確かに、顔を伏せ静かに佇む其の姿はルイズの命令を待つ駒のようにも思えた。 しかしだからこそ、それを平然と従え、冷たい目でギーシュを見るルイズの異様さがここへきて恐ろしい! 「ルイズ!馬鹿なことはやめるんだ!エルフに組するなんてただじゃ済まないぞ!」 「やめるですって?それは無理よギーシュ。私も貴方も既にゲームの盤の乗ってしまった。決着がつくまでこの盤から降りることはできないの」 「なんだって!?」 辺りを見渡すギーシュ。 しかしヴェストリの広場の外は闇に包まれている。夜だから、ではない。 当然見えるはずの各塔の明かりすらいつの間にか見えなくなっていることにやっと気づいたのだ。 「わかった?貴方は無事にここから出るには、私に勝つしかないのよギーシュ」 「うぅ……」 短い間に様々なストレスに晒されたギーシュの精神は既に限界を迎えていた。 そして耐え切れなくなった心は、眼前の脅威へ全力で攻撃することを選択する。 無我夢中で薔薇を降り、更に6体のワルキューレを造り出し、ギーシュは声を張り上げた。 「ワルッッキューレッ!あのエルフを攻撃しろォォォッ!!」 7体の青銅の女戦士が、一斉にエルフの剣士へと肉薄する。 それを見たルイズは唇を歪めて微かに笑い、小さくこう宣言する。 「トラップカード発動。【聖なるバリア・ミラーフォース】」 ルイズがそう呟いた瞬間、空中に伏せられていたカードが躍り上がって光を放つ。 その光が七つに分かれ、ワレキューレ達を襲う。光が収まった時、ギーシュのワレキューレ達は唯の一体も残さず消滅していた。 「あ、あ……僕の、ワルキューレ……」 呆然と呟くギーシュを尻目にルイズはゲームを続ける。 「そして私のターン。ドロー、並びにエルフの剣士、ギーシュにダイレクトアタック!」 ルイズから初めて下された命令に、エルフの剣士は忠実に従った。 ギラリと手にした刃を光らせて、ギーシュへと襲い掛かる。 「ぎゃああああああああぁぁぁっっ!!!!!」 剣士の刃に切り裂かれたギーシュは、奇妙なことに怪我は負わず、血の一滴もでなかったが、しかし凄まじい痛みがギーシュを襲い、頬が裂けんばかりに開かれた口からは絶叫が放たれた。 「ふ、ふ、ふ、ギーシュ。貴方の負けね……」 痛みにがくりと膝を突いたギーシュに、無造作に歩み寄るルイズ。 エルフの剣士はいつの間にか姿を消している。 「負けたからには『罰』を受けてもらわなくっちゃぁね」 「あ、あ、あ、、、」 恐ろしい恐ろしい恐ろしい。 ギーシュは見た。ルイズが胸に下げたペンダントに刻まれているのと同じ文様の「眼」が、ルイズの額に浮かびあがってギーシュを見下ろしているのを。 「罰ゲーム!」 ルイズが宣告し、その指でギーシュを指し示す。 ずぶり、と音をたててギーシュの精神に穴が開き、その心が穴中に落ちて行った。 ―――次の日、ルイズが自室のベッドで眼を覚ますと、放り投げたはずの千年パズルがテーブルの上に置かれていたので、何故だろうと頭を捻ることになった。 ギーシュは意識不明の状態で発見され、その意識は数日の間悪夢の中を彷徨い、眼が覚めた時には何も覚えていなかったという。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/818.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (9)無謀なる特攻 「どうしてあのようなことを言ったのかね?ミス・ルイズ」 「あのようなこと?」 「捜索隊に志願する、ということだ」 ここはルイズの部屋。 現在は『禁断の剣』捜索に出発する準備の最中である。 「そんなの決まってるじゃない、私が貴族だからよ」 「貴族だから…それだけかね?」 「学院長先生も仰っていらしたけど、これは魔法学院の問題だから、私達貴族の手でフーケを捕らえなくちゃいけないと思うの。 それに…貴族にナメたマネしたフーケが許せない。貴族としての誇りの問題よ」 「本当に、それだけかね?」 「………昨日、初めて魔法が成功した。だから、その力で誰かに認めてもらいたい。そういう気持ちが無かったといったら嘘になるわ。 でも、そんなことを抜きにしても、私はきっと志願したわ。」 「お待たせしました、ミス・ロングビル」 「それでは出発しましょう。皆さん、よろしいですか?」 「はい」 「いいわよ、出してちょうだい」 こうして、トリステイン魔法学院から、ルイズ、ウルザ、キュルケ、タバサ、そして案内役も兼任するロングビルの五人が『破壊の剣』捜索隊として派遣されたのであった。 暫くの時を馬車で過ごし、一行は、フーケが潜伏していると目される森に到着した。 「この先は森が深く、馬車では進めません。ここからは徒歩となります」 ロングビルが他のメンバー達に馬車を降りるように指示する。 「農民に聞いた廃屋はこの先にあります、皆さんはそちらへ。」 「ミス・ロングビルはどうするんですか?」 「他にも何かあるかもしれません。わたくしは怪しいところが無いか偵察にいきます」 ロングビルが先行し偵察を行い、他のメンバーはフーケが潜伏する廃屋へ向かうこととなった。 「ミス・ロングビル、お一人で大丈夫かしら?」 「気にすることはあるまい、どうやら彼女は魔法の腕前も中々のようだ」 そう応えるウルザの背中には二本の剣が背負われている。 本来は昨日の勝負で勝ったキュルケの剣をウルザが使うということだったのだが、 『片手に一本づつ持つならば構わんのだろう?』 との本人の発言で、結局両方の剣を使うということになったのだった。 (に、二本同時に使えるんだったら最初にそう言いなさいよっ!) 「人の事より自分の心配しなさいよ。フーケが現れたらあんたはどうせ逃げ出して、後ろから見てるだけでしょ? おじさまに戦わせて、自分は高みの見物――そうでしょう?」 「なっ、なっ、何言ってるのよ!誰が逃げ出すもんですか!見てなさい!フーケなんて私の魔法で!」 「あら~~~~~?声が震えてないかしら~?ビビッてんじゃないの?」 「誰がビビッて何か!」 「まあ、しょうがないわよね。ここは昼間だってのに薄暗くて、気味が悪いもの。 あ~ん、おじさま~、キュルケこわ~い」 キュルケが豊満な胸をウルザに押し付ける。 「問題無い、周囲にはゴースト等の魔力の気配は無い ………それより、廃屋というのは、あれではないかね?」 ウルザの指し示した先に、確かにそれはあった。 フーケが潜むとされる、廃屋が。 左手にキュルケの大剣、右手にデルフリンガーを持ったウルザが先行して廃屋の周囲を探っている。 やがて、何も無いというしぐさで後ろの三人に合流を促す。 「あ……あった『禁断の剣』……」 「なーんか、呆気ないわねぇ、でも冒険なんて実際はこんなもんなのかもねぇ」 「……任務完了」 「何も無ければ、それが最上だ」 ズシンッ!! 突然の衝撃、何かに掴まらなければ立っていられない。 柱に掴まりながらルイズが叫ぶ。 「な!何…!小屋全体が揺れてる!?」 「むう!これはっ!皆、床に伏せろ!」 次の瞬間、横殴りの力で天井が吹き飛ばされた。 そして本来天井が見えるはずのそこにあるものを見て、ルイズが驚愕の声をあげる。 「ご、ゴーレム!!??」 幸い、速やかに廃屋を脱出し、全員無事であった一行であったが、その前にそびえるゴーレムには絶句するばかりであった。 「大きい、、、20、いえ、30メイルはあるわ…」 「あれだけ大きいとなると、フーケがトライアングルメイジだって噂も、間違いじゃないかもね」 「……どいて」 タバサはルイズとキュルケの二人の前に出ると、呪文詠唱を開始する。 「…氷の……矢」 ドゥゥンン!! 「あ、アレはウィンディ・アイシクル!」 「やるわね、タバサ!やっぱそう来なくっちゃね! よーし、次はあたしよ!………フレイム・ボール!!」 ドドドドドドゥン!! 「やったわ!命中よっ!」 「いや、まだだ」 周囲から煙が薄れ、現れたのは変わらぬ姿のゴーレムであった。 「う、うそっ!直撃したのにビクともしないなんてっ! こんなものどうやって倒すのよっ!」 「私が何とか時間を稼ぐ、安全な場所まで逃げ給え」 「おじさま……でも、安全な場所って…そうだ!タバサ!?」 キュルケの問いかけにこくんと頷くタバサ。 タバサが杖を掲げると、上空から飛竜の幼体が降りてくる。 これで避難するつもりなのだろう。 「ミス・ルイズ!君も逃げたまえ!」 「…いやよ!私は戦うわ!」 言うが早いか、ルイズは杖を掲げ、ゴーレムに向かって呪文を叫ぶ。 「……デストロイ!!」 ボンッ!! しかし、放たれたのは先日の魔法の手ごたえとは全く違うもの、失敗魔法。 「え!ええええ!?なんでっ!昨日は使えたのに!?」 「ミス・ルイズ!君は下がっていたまえ!」 「いやよ、いや!もう一度よっ!今のはたまたま失敗しただけなんだから!次は成功するわ!」 「今の君では無理だ!」 「無理って何よっ!私はっ!私はちゃんと魔法を使えるようになったんだもん!ここで逃げたら!またゼロのルイズに逆戻りじゃない! それにっ!私は貴族よ!貴族は敵に後ろを見せなわ!」 「ミス・ルイズ!」 ゴーレムが小生意気な虫けらを踏み潰すべく、片足を上げ、そして勢い良く地面を踏みしめた。 ズズゥゥン! 「い、いたぁ………」 間一髪、ウルザがルイズを突き飛ばしたことで、ルイズは何とか直撃を免れた。 「よっ、余計な真似しないでよ使い魔が!あれくらい私にも避けられたわ!」 「ミス・ルイズ。君のプライドは分かった」 「だったらっ……っ、え?」 ルイズをかばったウルザ、その額からは一筋の血が流れていた。 よく見れば、それ以外にも何箇所か血が滲んでいる場所がある。 「ちょ、ちょっとあんたっ!怪我してるじゃない!」 「……君の誇りにかけて引くことが出来ないのはわかった。 しかし、私はこれでも使い魔として召喚された身だ。加えて女性を守るのは男の勤めだ。 君を守るという、私のプライドを立てて、ここは引いてくれないかね?」 「………わ、私、私っ………」 泣き始めるルイズを背に、ウルザが立ち上がる。 左右の手には二振りの剣。 若さとは時に、人を衝動のままに駆り立てるものだ ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/720.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (3)錬金術の教示 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝します」 食堂での朝食が始まった。 ここは若い少年少女達がその旺盛な食欲を満たし、あるいは共同生活を送る仲間との連帯感を高める場である。 そんな若者達の中、初老の男が一人。 そう、ルイズ・ド・ヴァリエールの使い魔となったメイジ・ウルザである。 本来なら使い魔であるし執事という立場を取らせると決めたのであるから、食事はあとで別に取ってもらうのが筋なのだが、生憎とメイジと使い魔の関係初日のルイズがそのような手配を行っているわけが無かった。 しょうがないので、今日は同席ということになり、今ウルザはルイズの横に座っているのだ。 勿論、少年少女達の中にとあって、周囲からは距離をとられている、かなり。 ゼロのルイズが高位のメイジを召喚したということは、すでに学院中に知れ渡っており、同席した生徒は皆そのメイジがルイズの隣に座っている男だということに気付いていた。 (重い、重いわ…空気が重いわ…) 周りがウルザに身体的にも精神的に距離を取っている為なのだが、隣のルイズにはたまったものではない。 (何か…何か考えなくちゃ……っ!) その時、ルイズはふっと誰かの視線を感じた。 きょろきょろと周りを見回してみると、視線の主は直ぐに見つかった。 長身に、同世代とは思えない発育の良さ、燃えるように赤い髪。 そして、今はその頬も茹で上がったように紅潮している。加えて瞳も潤んでいる。 (ちょっ!ツェルプストー!あんたっ!何で私!そんな趣味はないわよっ!) 昨日から何度目か分からない悪寒を感じで体を震わせた。 しかし、注意深く、かつ相手に気付かれないように視線を追ってみると、微妙に自分が相手では無いことに気付いた。 そう、視線の先は………横にいる男に向けられていた。 キュルケの唇が何事か呟くのが見えた。 当然ながら、ルイズは読唇術も読心術も使えない。 しかし、この時ばかりはキュルケがなんと呟いたのかを明白に理解することが出来た。 ――素敵なおじさま… 食事が終わり、教室へ向かう最中のことである。 「ミス!ミス・ヴァリエール!ミスタ・ウルザ!」 「あ、おはようございます。ミスタ・コルベール」 「おはようございます。ミスタ・コルベール」 禿げ上がった頭の教師、コルベールに声をかけられたのである。 「すみませんが、ミスタ・ウルザの左手のルーン文字を見せて頂きたいのですが」 「私は別に構いませんが…ミスタ・ウルザも構わないかしら?」 「無論。私も異議はありません」 ウルザが左手を出すと、コルベールは素早くメモをとり始めた。 「いやはや、召喚の儀式の後、ずっとこのルーンのことを調べているんだよ」 「え?どうかしたんですか?」 「メイジを召喚したなんて前例が無いからね、おまけに君が召喚したというのも……まあ、兎にも角にも知的好奇心が刺激されてしまってね!」 「ふむふむ、成程。そういうことでしたら今晩ご一緒に分かったことについて報告し合うというのは如何ですかな?」 「おお!?既にご自身で解読がお進みでしたか!?流石ですなミスタ・ウルザ!しかし、こちらはまだ報告するほどには…」 「いやいや、ミスタコルベール、私は貴方の意見が……」 「おおっ!……でしたら……!」 「それは……たい……是非……」 「…っ!……!!」 ルイズは妙に盛り上がる二人を置いて教室に急ぐのであった。 「―――というわけで、皆さんご存知の通り、魔法の四大系統「火」「水」「土」「風」「虚無」、五つの系統がある訳ですが、その中で「土」は万物の組成を司る重要な系統なのです」 今日の授業は赤土のシュヴルーズ教師の錬金の授業である。 なお、使い魔であるメイジは先ほどふらりと教室に入り、今は授業を聞きながら一心不乱にメモを取っている。 (メイジなのに、こんな初歩的な授業を受けて楽しいのかしら?) 「オホンッ!ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 余所見をしている生徒を当てるのは、どの世界でも共通である。 「では、土の基本魔法を説明してください」 「え、あ、はい…… 『土』の系統の基本魔法は『錬金』です。 金属を作り出したり建物を建てる石を切り出したり、農作物を収穫するなどの生活により関係した魔法が『土』です」 「よろしい、ミス・ヴァリエール、よく出来ました。……では次に、実際に錬金を行ってみます」 そう言うとシュヴルーズは錬金の実技を披露してみせた。 シュヴルーズが呪文を唱えると、教壇の上に置かれた石が輝き、金属へと姿を変えたのだった。 これを見たウルザが「ほお…」と呟くのをルイズは聞いた。 「先生!ゴールドですか!?」キュルケが聞くと 「いいえ、真鍮です。」と応えるシュヴルーズ。 「さて、次は誰かに錬金をやってもらいましょうか……ミス・ヴァリエール!」 「え、はい!」 また自分かという考えを払って姿勢を正す。 「貴女は……随分と変わった使い魔を召喚したそうですね。 どうでしょう?その使い魔の方に錬金の実演をして頂けませんか?」 教室中の生徒がルイズとその使い魔に注目する。 あ、ちょっとこの感じいいかも、とほんの少しだけ抱いたが、それを出さずに、ウルザに声をかける。 「ミスタ・ウルザ、先生の仰るとおりに」 「……分かりました、ミス・ルイズ」 ルイズはウルザが軽くため息をついたのを感じた。 (別に錬金くらい初歩の術じゃない、減るもんじゃないし…そりゃ、私は使えないけど…) ウルザが教壇に立つ。 (さて、このように生徒に囲まれ教壇に立つなど久しいことだ…) さて、目の前には先ほど錬金された石と同じくらいの大きさの石が置かれている。 確かに、ウルザは数々の世界を渡り歩いた魔法使いであるが、初めて接した魔法系統を直ぐに使いこなすような超人ではない。 よって、ハルケギニアの系統魔法を使えるわけが無い。 しかし、今メイジという立場をこの世界で失うのは得策ではない。 ウルザが何事か呟き、呪文が完成して、石が輝く。 そして、石はシュヴルーズ教師が錬金したのと同様に、真鍮へと姿を変えてきた。 「おおおおおお!!」「凄い!」「ルイズの使い魔はスクエアメイジか!」 教室中が喧騒に包まれる。 「こんなものでよろしいかな?」 「ええ、結構です、ええと…ミスタ・ウルザ」 ただ一人、首を捻っていたのはモンモランシーである。 「あ、あれ?今、水の系統魔法を使って、なかっ…た、…わよね。私の勘違いね、きっと」 「さて、次はミス・ヴァリエール。あなたがやって御覧なさい」 「先生!」 キュルケが声を上げる。 「ルイズは危ないです!ゼロのルイズですよ!?」 それを聞いたシュヴルーズが応える。 「ミス・ツェルプストー、貴女は彼女をまだゼロのルイズと呼ぶのですか?彼女の使い魔であるミスタ・ウルザが錬金を成功させたのを見たでしょう。 使い魔が出来て、主人が出来ないなんてことがありますか」 それを聞いてルイズが立ち上がる。 「私、やります!」 ルイズが教壇に立つ、前には先ほどと同様の石が置かれている。 「ふむ、これは興味深い」 ルイズはウルザの魔法が見たいと思っていたが、それはウルザとて同じことである。 プレインズウォーカーである自分を強引に召喚するほどの腕前である、そしてその手による知らぬ魔法体系の呪文、狂人ならずとも魔法使いなら心引かれる演目である。 ルイズが呪文の詠唱を始める。 同時に、一斉に机の下に避難を始める生徒達。 意味を理解出来ないまでも、何処かで見たような既視感を覚える。 ルイズの呪文が完成する。 爆発 なんの防御もしていなかったウルザは爆発に巻き込まれたのだった。 危険に対して敏感なのは、いつだって生徒だ。 ――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2647.html
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、答えなさいっ!!」 数十回の使い魔召喚に失敗し、ヤケッパチ気味にルイズが叫ぶ。 その、ある意味高望み過ぎる内容に周囲の同級生は「おいおい」と思ったとか思わなかったとか。 だが、神か仏かブリミルにか、彼女の願いは聞き届けられたのだった。 宇宙の果てのどこかにいる神聖で美しく強力な「なにか」の前に、召喚のゲートは開いたのである。 ★★★★ 異次元空間に浮かぶ壮麗にして典雅なる白亜の城の、丹精に手入れされた中庭。 そこで『世界の守護者』アンゼロットは日課である午後の紅茶の時間を楽しんでいた。 見た目は12歳程度の美少女に見える。 黒いドレスに映えるどこまでも白い肌。月光を束ねて銀糸にしたかのような流れる髪。 同じく銀色の瞳が、世界の行く末を思ってか儚く潤んでいた。 ふうっ―――と小さくため息をつけば、少女の手の中でユラユラと揺れるダージリンティーの水面。 お茶請けは配下のロンギヌス特別茶菓子班が泣きながら焼いたお煎餅。 紅茶にセンベイ合わすなよというツッコミも涼しげに無視して、外見銀髪少女の大年増は優雅にセンベイ食う。 バリンバリンバリバリバリバリバリリッ――ふう、やはり紅茶のお供はノリ煎餅ですわね――ってなカンジで優雅に。 そんな彼女の前に、突然銀色の円盤が現われた。 ここは腐っても、精鋭部隊ロンギヌスが守る正義の砦アンゼロット宮殿。 シナリオの都合でさえなければ簡単に危険な異物や敵の侵入を許す場所では無いのに、その円盤は平然と宮殿の主である少女の側に浮かんでいた。 レベル∞を誇る世界の守護者アンゼロットは、それが使い魔召喚のための次元ポートである事を瞬時に見抜く。 そして煎餅のカケラほども躊躇も見せず、その中にレースで飾られた黒いドレスに包まれた腕を突っ込んだ。グイっと。 「んー、このへんでしょうかねぇー……っと、コレですわ!」 中でグリグリ手を動かして、ズバッと一本釣りで引き抜いたのはピンクの髪の少女。 いきなり空中に現われた腕に襟首を掴まれて見知らぬ場所に釣れて来られた少女は、驚愕と不安であたりをキョロキョロ見回している。 「なななななななに? なんなのよここ? いったい突然何がおこったのよ!?」 「はーい、落ち着いて下さいルイズさん。私は『世界の守護者』アンゼロット。 今から私がするお願いに、ハイかイエスでお返事して下さいね?」 「へっ?」 「ハルケギニアは世界の敵に狙われています。貴女にはこれから、その敵を倒すために戦ってもらわなければいけません」 「ええっ!?」 「とは言え、今のルイズさんのレベルでは少々心もとないので―――」 今度は何も無い空間にズボッと手を突っ込むアンゼロット。 しばらくグリグリして「えいっ」と引き抜けば制服姿の少年が投げ出され、アンゼロットとルイズの頭上を跳び越し、頭から地面に落とされた。 「ってえなぁ! イキナリ授業中になにしやがんだこのクソ年増!」 ヤバい角度で地面に突っ込んだ男の様子に(なんだか知らないけど生きてるのかしらこの人?)と心配するルイズの前で、 素早く立ち直ってアンゼロットに詰め寄るのは柊蓮司。 一見普通の不良学生だが、その正体は色々下がる不幸学生だ。 以前、使命だと言われて学年が2年生から1年生に下がるという理不尽も体験した事がある。 「まぁまぁ落ち着いて下さい柊さん。まずは紅茶でも飲んでお煎餅でも食べて」 「いやお前煎餅と紅茶の組み合わせはねーだろう普通。まぁもらうけど」 「では紅茶も飲んで落ち着いた所で本題ですが」 「早っ! まだ一口しか飲んでねぇって言うか椅子にも座ってねぇって!」 「使命です。世界の滅びを防ぐために、そこのルイズさんは6レベルまで成長しなければなりません」 柊の剣幕もツッコミも無視して、さっさと使命の説明に入るアンゼロット。馴れた対応だ。 柊の方もそんなアンゼロットには慣れたもので、白いロココ調の上品な椅子をガタガタと引いて、ドカっと行儀悪く座って話を聞く体勢に入った。 「ルイズって言ったか? アンタも座ったらどーだ?」 「えっ、あっ、う……うん」 ちょっと恐い外見の柊に椅子を勧められて、まだ混乱中ながらおずおずと着席するルイズ。 その間にもアンゼロットはマイペースで話を続ける。 「ルイズさんが実戦経験を積み、かつレベルアップしてもらうために柊蓮司さん、 貴方の向かう使命へ彼女を共に連れて行き、そこで一緒に戦ってあげて下さい」 「良いけど、俺とこの子じゃレベルが違いすぎじゃないのか?」 「ご安心を。柊さんが飲んだその紅茶に、ある薬を入れてありますから」 「なっ―――まさか!?」 不吉な言葉に絶句する柊。 以前彼はアンゼロットが紅茶に入れたという薬のせいで、レベルを下げられた事がある。 それなのに同じ手に二度も引っ掛かるあたりが、彼の人の良い所だろう。 「柊さんもルイズさんと同じ1レベルになりましたから、頑張ってレベルアップして下さいね」 にこやかに手を振るアンゼロットの笑顔にヤバイと感じて立ち上がろうとする柊だったが、もう遅い。 突然椅子の下に、底も見えない黒い穴が現われる。 柊と、そしてルイズはそのまま侵魔――エミュレイター――と呼ばれる『世界の敵』が跋扈する戦場へと、次元を超えて落下させられた。 「いってらっしゃーい柊さーん♪」 「コノヤロウ覚えてやがれーっ!!」 「きゃー! なんなのよ、なんだっていうのよー!?」 「ちなみに柊さんが私の事を年増呼ばわりしたので敵のレベルはちょっぴり高めでーす♪」 「うわーっ! しっかり恨んでやがったかー!?」 「はわわわーっ!?」 ドップラー効果と共に遠くなって消える二人の声ってゆーか悲鳴。 何度となく世界を救ったウィザード、下がる男・柊蓮司。 彼は一部事情通の間では『アンゼロットのオモチャ』とも呼ばれているのだった。 ★★★★ その日、ゴーレムが学院を襲っていた。 宝物庫まある階に巨大な拳を打ち込むゴーレムは、30メイルはあろうかという巨大な物だ。 「待ちなさい!」 「……なんだい、アンタは?」 誰もが恐れて逃げ出す巨大ゴーレムの前に立ち塞がったのは、ルイズ・フランソワーズ。 3週間ほど前に行方不明になり、先週突如ボロボロの姿で学院に帰ってきた少女だった。 「魔法も使えないメイジが何の用だい? 世をはかなんでアタシのゴーレムに潰されたいってんなら相談に乗ってやるよ?」 「やれるモンならやってみなさいよ、土くれのフーケ」 「ふん、じゃあお望み通りにしてやるさ!」 ゴーレムの拳がルイズを押し潰した―――かに見えた。 だがルイズは平然とその場に立ったままだ。 彼女の手前数センチで止まった巨大な鋼鉄の拳。当然、それはフーケが止めたのではない。 ルイズの周囲に展開された結界・月衣<カグヤ>。 それは世界そのものが持つ法則を無視して、持ち主を一切の物理法則から守る極小の異世界だ。 「わ、私のゴーレムの拳を防いだ!?」 「……魔法の使えないメイジじゃ、ないわよ」 「なんだって?」 「メイジじゃないって言ったのよ!」 月衣の中から背丈ほどもある長剣を引き抜き、構えるルイズ。 それは≪魔剣使い≫である彼女の力、近接戦用対魔法箒・デルフリンガー。 「……って、俺っち箒扱いかよウイザードの嬢ちゃんよぉ」 「私はウィザード! エミュレイターと戦う、夜闇の魔法使い・ナイトウィザードよ!」 ウィザード業界では、魔力を受けて機動する道具は剣でも銃でも盾でも、果ては宇宙船でも箒なのだからしょうがない。 デルフのぼやきは無視して、ルイズは声高々と宣言した。 ≪魔器開放≫によって真の力を解放したデルフリンガーが輝く。 魔法構造を崩壊させる≪魔力吸収≫の特殊能力が、刃に触れたものから尽く魔力を奪おうと唸りをあげた。 ≪封印されし力≫を解放したルイズの≪虚無の属性≫魔法がその刃に吸収される。 あふれ出るプラーナの力が大地を削って噴き上がり、周囲を黄金の光で照らす。 「ば、ばかな!? なんだいこの力……こんな魔法、わたしは知らない!?」 「受けてみなさい! これが私の召喚した使い魔、世界の守護者から無理矢理与えられた力よ!」 一閃。 ただの一撃で右脇腹から左の肩まで一直線に切り裂かれ、その傷口からボロボロと崩壊してゆくフーケのゴーレム。 自身を構成するための魔力を根こそぎ奪われた結果だった。 「って、召喚してないってゆーかアンタ自分が向こうに召喚されたんじゃんかー!」 「うるさいうるさいうるさーい! エクスプロージョン!」 瞬間、ゴーレムの巨体が大爆発をおこす。 吹き飛ばされたフーケは「あ~れ~」と塀の向こうまで飛ばされていった。 かくしてフーケのたくらみは未然に防がれ、学院の平和はウィザード・ルイズの活躍によって守られた。 「盗賊退治お疲れ様ですルイズさん。ところでまたハルケギニアを揺るがす大事件が」 「ちょ、アンゼロット!? 私は今戦い終わって余韻に浸ってる最中で―――!」 「諦めた方が良いと思うぜ嬢ちゃん。どうせ最後には働かされるんだから」 空間からにょろりと突き出た腕に掴まれて拉致されるルイズとデルフリンガー。 明日はガリアかアルビオンか。アンゼロットにコキ使われるルイズに休息の日は無い。 頑張れルイズ。負けるなルイズ。 いつかハルケギニアを狙う魔王(推定)を倒して、アンゼロットから開放されるその日まで!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2189.html
ハルケギニアの歴史は《始祖ブリミル》から始まり、その三人の御子と一人の弟子が王国を築いて、 現代に至ったと伝えられている。始祖ブリミルはまだ神話の霧に覆われているが、四王国の存在は確かである。 それらは六千年以上前、大陸の西方に起こり、現在も戦乱はあるが続いている。 豊富な記録……精巧な魔法技術の数々……そして何よりも、王国を支える貴族、メイジの存在が…… その強大な王国の権力を表している。 《第一章 ゼロのルイズは如何にして魔法学院で竜を召喚したか》 「始祖ブリミルよ、生ける神よ、貴方と同じく臣にかこまれ、奴婢をおき、杖を振って魔法を使わしめたまえ。 我ら子孫に幸いを与え、祟りなすことなく、王国の繁栄を給わりたまえ。 トリステイン魔法学院の生徒、ルイズが祈りまする。我に『使い魔』を授けたまえ………」 『使い魔』とは、メイジによって召喚される禽獣で、しばしば魔法によって捕らえられ、奴隷やペットにされていた。 この王立魔法学院では、二年生進級の神聖な儀式として、召喚を行うのだが…。 「まて! ちょっとまちなさい! ミス・ヴァリエール!」 桃色の髪の女子生徒、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの魔法失敗は、 ただ魔法が完成しないだけでなく、結構な破壊力の《爆発》を引き起こすのだ。 見かねた教師のコルベールが、彼女を止めた。 「……九十九、百、百一……やっぱり無理だよダメルイズ! もう百一回目のプロポーズだぜ!」 「数えてたのか、暇な奴だなあ」 「呼び出せないと、学院の規定通り、彼女は留年せねばなりません!」 「も、申しわけありません。もう一度だけ……」 「コモンマジックも満足に使えんのか! やっぱり《ゼロ》だ! ワハハハハハ」 もはやルイズは、息も絶え絶えだ。顔は煤と涙と汗でドロドロになった。 周囲の嘲笑が悔しすぎる。唇を血が出るほど噛み締める。 「仕方ないですな……座学は優秀ですし。特例で明日から三日間、補習として猶予を与えます。 それまでに使い魔が出なければ、ヴァリエール公爵家に連れ帰ってもらいなさい!」 絶え間ない上、狙いの定まらない爆発にビクビクしていた一同は、ホッと一息つく。 「ほらルイズ、帰ってゆっくり休んで。いいから、帰りましょう」 友人のキュルケの情けが、なけなしのプライドを引き裂く。もう言葉も出なかった。 夢の中、闇の中。ルイズは、青銅色の恐ろしい顔を持つ悪魔たちに追い回されていた。 人間の心を貪るような異常な造型と、魂をひねり潰すような嘲笑。口からは牙をむき出し、意地悪い視線で蔑む。 (食い殺される! 私が召喚してしまったの? それとも私の絶望と恐怖の産物?) キュルケに、モンモランシーに、ギーシュに、コルベールに似たような、おぞましい顔、顔、顔、顔。 足を滑らせて倒れたルイズに、仮面をつけた半裸の男が顔のついた大斧を振りかぶって、差し出された頚をズンと刎ねる。 「いやっ……いや――――――――――っ!!」 「おはよう、ルイズ。だいぶ、魘されてたわね?」 いきなりキュルケの巨乳が目に入った。もう朝か。 勝手に《開錠》の魔法を使うのは校則違反だが、余程呻いていたのか。 「あ…はあ……夢を……悪魔たちが、私を食べようとして……」 「まあ、可哀想なルイズ! 夢の中でも気が休まらないなんて。でも大丈夫よ、私が応援してあげるから。 けど、運がいいわね。本当は留年だったのに、コルベール先生も人がいいんだから……」 「ツェルプストーに応援されても、あんまり嬉しくないの」 一方、学院長室。学院長オールド・オスマンが、コルベールに成績証明書を見せてもらっている。 「今学年の生徒の出来も、まあまあじゃな。外国人留学生に二人、優秀なのがいるようじゃが……」 「はい、二年生進級も無事終わりそうですが……約一名」 「ヴァリエールのゼロ娘か……ま、これでダメなら諦めもつくじゃろ」 二人は揃ってため息をつく。国一番の大貴族で優秀なメイジの娘が、なぜこうなのか。 「ともあれ、有為な若者を育てる事は、国家のためでもあります。 それは魔法に限りません。学芸、武勇、礼節、倫理、柔軟な発想なども、健全に育成せねば」 「そうじゃのう、近隣諸国との関係もこじれておるし……姫殿下があとを継がれても、これからが大変な時じゃ…… わがトリステインにも、アンリエッタ王女を補佐するすぐれた人物がいればのう…… いやいや、マザリーニ枢機卿はよくやっとるが、政治・軍事をはじめ、より天下のことに通じた知恵者が…… さすればわが国も……」 ドカアアアアンという爆発音が、せっかくシリアスになっていたオスマンのセリフを遮った。ルイズだ。 「ええい、またかね。期限はもう明後日じゃろ? いい加減にしてくれんかのう」 だが、丸二日経ってもルイズは使い魔を召喚できなかった。黄色い朝日が昇る。 「(フラ…)使い魔を……今日中に使い魔を呼び出せないと……人生終了ね……」 ルイズは《ヴェストリの広場》に向かっていった。すぐ爆発音が響き始める。 そこへ、朝食に向かう前のギーシュたちが、音を聞きつけて通りかかる。 「見たまえ皆、あそこにルイズがいるよ。自分の爆発で倒れている。ああ、杖も手落として……」 「そういや、今日中に召喚できないと留年ね。退学かも」 「はああ、可哀想。玩具にするには最適の可愛い娘なのに」 「あんた、そっちだったのキュルケ……」 モンモランシーがスザッと引く。大体フェロモン過多なのだ、この成金ゲルマニア女は。 「まてまて、僕に面白い考えがある」 ギーシュが意地悪く笑うと、モグラの使い魔ヴェルダンデに命じて土を掘らせ、 ルイズの傍まで行かせてから戻って来させる。咥えているのは、ルイズの杖。 「ちょっとギーシュ、今何したの?」 「《錬金》で作った青銅製の偽物の杖と、密かに取り替えておいてやったのさ。 どうせ魔法なんか使えないんだ、杖が偽物なら爆発も起きないし、かえって安全だろう?」 イジメ、かっこ悪い。二人はしらけ切ってそっぽを向く。 「貴族の誇りに何するのよ、馬鹿。付き合ってらんない、行きましょモンモランシー!」 「そうね、頑張ってる女の子に意地悪なんて、人として軸がぶれているわ。ちゃんと返してあげなさいよ」 「ま、待ちたまえ君たち! ああ、ルイズがビックリする顔が見物なのに」 ギーシュは引っ込みがつかず、広場の入り口でうろうろしている。 やがてヨロヨロとルイズが立ち上がり、朦朧とした頭で意識を保つ。体が生命の危機を知らせている。 「もう三日三晩寝てないし、何も食べてない……。 使い魔が来てくれればいいけれど、もし来なければ……このまま……」 悲壮な覚悟で、青銅の偽杖を振り上げる。だがもう、精神力も底を尽いた。しゃがみこんでしまい、動けない。 「ご先祖さま……始祖ブリミルさま……どうかルイズに、使い魔を一体、お与えください…… ああ、気が遠くなってきたなあ……もし神さまがいるのなら……使い魔を………」 「ゼロのルイズ、どうですか?」 ハッ、とルイズが振り向く。声は聞いたことがあるような、ないような。 傍に立っていたのは、六十歳過ぎぐらいの小柄な老貴婦人。杖を持ちマントを羽織って、ルイズを見下ろしている。 学院の先生か、非常勤講師だろうか。そう考えるのが一番自然だった。 「あ……貴女は? なぜ私の名を…?」 「ほら、何かいるわよ」 地面に銀色の鏡が現れ、それが水面のように波立って、ザバッと猿のような獣が現れる。その顔は人間の老人にそっくりだ。 「きゃあ!!」 バシャンとしぶきを上げ、怪物は鏡面に沈む。尻尾がちらりと見えた。 「ふっふっふ、せっかくの獲物を逃してしまったわねえ」 「い…今のは…?」 「気にすることはないの。だいいち、その杖では使い魔は呼べないわ。貴女自身の杖でなければ……」 よくよく手元の杖を見れば、私の杖ではない。誰が取り替えたのだろうか、イジメかっこ悪い。 「心配しないで。私がもっといい場所を教えてあげる。その杖を持ってついておいで」 「あ…あの……? 貴女はこの学院の先生、ですか?」 「いいえ、もっと凄いものよ」 スタスタと先を歩く、余裕綽々たる老貴婦人に、ルイズはピンと閃く。 「貴女はもしや……私の呼び出した使い魔では……?」 「ばかをいわないで、私を使い魔などといっしょにするなんて。 さっき貴女が呼び出しそこなったのは、水中に棲む猿に似た精怪。大したものではないわ」 ズンズン進む彼女に、ルイズは遅れないように着いていく。足も立たないはずだったが。 いつしか二人は学院を離れ、深い山奥へと迷い込む。 「近くにこんな所あったかしら……? いつ霧が……? それに、さっきまでは動くのもおっくうだったのに、今はやけに体が軽い……」 急にガラッと足元の地面が崩れる。あわてて下を見ると、なんと切り立った崖の上だ。 しかも眼前には、洋々たる大海が広がっている。 「こ…これは…? いつの間にこんな所に………」 「ここは《東方》の海の果て」 いつの間にか、老貴婦人は再びルイズの背後にいる。その髪は赤金色に輝き、顔はまるで磨いた銅のようだ。 「と…《東方》…!? しかし、そんな……も…もしや貴女さまは、始祖ブリミルさまですか!?」 「おっと、それは違うわ。まあいいから、そこから使い魔を呼んでみて。貴女は使い魔が欲しいのでしょう」 「で、でもこの杖は……」 「いいからとにかく、私のいう通りやってごらんなさい」 千載一遇のチャンスだ。高貴で強力なメイジが、私の手助けをして下さるとは。 藁をも掴む思いで、ルイズは前向きに気持ちを切り替え、杖を構えた。 「気を抜いてはダメよ。たとえ偽物の杖でも、全身全霊をこめて集中すれば、竜でも召喚することができるのよ!」 「りゅ…竜でも!?」 「そうよ、杖の先、舌の先に全身の魔力を集めるの。 技術も力もいりはしない、ただ召喚をするという、ただそれだけのことを…… 純粋に……強く……念をこらすの」 言われるまま、ルイズは残った魔力を集中する。老貴婦人の鳶色の瞳は、なぜか四角い。 「貴女は、私が始祖ブリミルではないか、と言ったわね? そうじゃない、でも私は、時によってはそれ以上のもの。 私は、貴女の純粋に《生きたい》という気持ち、使い魔を求める心に応じて現れた。 一点の濁りのない、純粋な心で私を求めるなら、私は時には天をも動かす。 けれど、少しでも心に濁りがあるなら、どれほど高位高官の者であろうとも、 始祖ブリミルであろうとも、私にまみえることすらできない」 大海がドオオオオオと大波を立て、崖が震える。しかしルイズの精神は、小揺るぎもしない。 「純粋に……心を純粋にするのよ。一切の邪心も恐れも疑いもすべて捨てて、この大自然の中に身を投ずるの。 どう、海の中が見えてきたでしょう? 杖の先に宇宙を感じるでしょう! さあ、呼んでみて、竜を!」 きた。 逆巻く海面が銀色に光り輝き、その中から巨大な、ワニのような頭部が姿を顕す。 頭には枝分かれした二本の角が、頚には鬣が、牙の並ぶ大きな口の周りには髯が生え、 鼻先に二本の長い鬚がある。眉毛の濃い突き出た眉間の下には爛々と輝く眼があり、 体は蛇のように長く、大きな青金色の鱗に覆われていて、力強い四肢には五本の爪があった。 全長は、何百メイルにも及ぶだろう。まさに竜(ドラゴン)。その神々しい姿に、ルイズは見惚れる。 「そうよ! よく竜を呼んだわ! もし貴女がこの気持ちを忘れず、もう一度私と会うことができるなら、 いずれもっと大きな竜を呼ぶことができるでしょう!」 老貴婦人が嬉しそうに叫び、ルイズの周囲が光に包まれた。 その日の夕方、《ヴェストリの広場》の入り口に、今朝の三人が集まっている。 「なんですって、あのルイズ、まだやってるの?」 「ああ、もう夕方になるっていうのに、あの時のままずーっと杖をかまえて、使い魔を待っているんだ」 「あれから何時間経つと思っているの? 貴方が授業にもこないから、ルイズと浮気しているんじゃないかと思って、 わざわざ様子を見にきたのよ。感謝しなさい!」 モンモランシーが頬を染めてツンデレする。しかし、その間の皆のスルーっぷりが悲しすぎるではないか。 キュルケも肩をすくめ、ため息をついた。 「流石に、杖が偽物なのに気づいたんじゃない?」 「気づいてないよ。呪文をブツブツ唱えながら、気絶したみたいに硬直しているんだもの。 僕はずっと見ていたから知っている。可哀想な娘だね」 「「可哀想なのはあんたよ」」 ハモッてジト眼で二人が睨む。なんという馬鹿だ。 「あ…杖を振るわよ!?」 モンモランシーが動きに気づき、二人もルイズを注目する。 ぼんやりと地面が銀色に光り、鏡となった。三人は予想外の展開に、身を乗り出す。 「何か出てくる!?」「まさか!」「ああっ!!」 鏡面が水のように波立ち、杖を振り上げたルイズの手元に、一抱えもある大きな《鯉》が召喚された。 三人はあっと驚く。とうとうあのルイズが、《使い魔》を召喚したのだ。しかも、自分の杖ではない偽物の杖で。 使い魔が魚ということは、彼女の系統は《水》なのだろうか? 倒れこむルイズをキュルケが駆け寄って支え、ギーシュが大きな金ダライを作り、モンモランシーが水を張る。 《鯉》は青金色の鱗を煌かせ、悠々とタライの中を泳ぎ出した。 このルイズ、魔法成功率の低さから、皆に《ゼロのルイズ》と呼ばれた少女こそ、後の《虚無のルイズ》である。 ルイズは四十五年後、このトリステイン魔法学院で、再び竜を召喚するのである。 (つづく)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3383.html
ルイズとその使い魔として召喚された猫耳少女・南波の2人は、学院の温室でキノコ狩りをしていた。 「あったー! ほら見て見て!」 そう言って南波が差し出したキノコは、鼻にツンとくる異臭が漂い傘が蕩けかけていた。 「……真面目にやる気あるの?」 「えー!?」 取ってきたキノコを投げ捨てたルイズに不満そうな南波。 「それにしてもタバサちゃんも来ればよかったのにね」 「用事があるって言ってたから仕方ないわよ」 そう肩をすくめたルイズだったが、最初からタバサを誘ってはいなかったのだ。 「きっと残念がってるから今日の話はしないようにしましょ!」 「ルイズちゃんやっさしー!」 「そっ……、遭難したー! まだ2レスしか経ってないのに遭難しちゃったよ!」 「うるさいわね。落ち着きなさいよ」 「私のせい? 『そうなん』です。なんちゃっ――」 「落ち着けー!」 この状況で笑えないギャグをかました南波に、ルイズは容赦無く魔法で吹っ飛ばした。 遡る事30分前。 南波はルイズの手を取って今にも崩落しそうな崖の先端部に生えているキノコを取りに行き……、 お約束通り崖が崩落、2人は断崖絶壁から落下した。 さらにその下を流れる激流の川に流されて、熱帯性の植物が繁茂するこの場所に漂着し現在に至る。 「ここどこ? ジャングル?」 「私が聞きたいわよ!」 ――グキュルルル~…… 朝食から数時間、そろそろ昼時という事もあって南波の腹の虫が盛大に泣き声を上げた。 「お腹空いたなあ……。そういえば、さっき崖で取ったキノコ……」 南波が懐からキノコを取り出した瞬間、ルイズはそれを神速の速さでひったくり、 「! ……あんたほんっとーにキノコを見る目が無いわね! この毒々しい色、臭い! どう見ても毒キノコよ! こんなキノコのために私達遭難したの!?」 しかし南波はそんなルイズの言葉に耳を貸さず、 「……ルイズちゃん。そう言ってこのキノコ独り占めする気なんでしょ!」 「!?」 と一口で丸呑みしてしまい、案の定、 「お……、美味しい……」 ばったり倒れ伏してしまった。 「嘘おっしゃい!」 キノコの毒を受け、南波は脂汗を垂らしつつうんうん呻いている。 「大変!! 凄く苦しそう! 毒キノコを食べた時の治療法は……」 ルイズは慌ててなぜか持っていたサバイバルに関する書物から治療法を得ようとするが、その内容は彼女の想像を超えていた。 「……じ、人工呼吸!?」 思わず赤面するルイズだったが決意を固め……、 「そうね、今は一刻を争うんだから仕方ないわ……こ、心の準備が……」 ……たものの、やはり照れからか顔を背けてしまった。 「よし、今度こそ……」 「あ~、死ぬかと思った!」 今度こそ人工呼吸をと思った瞬間、何事も無かったかのように南波がむっくり起き上がった。 「治るの早いわよ!」 「???」 「ルイズちゃん、ごめんね。まさか本当に毒キノコだったなんて……」 「まあ、体が何ともないならいいんだけどね」 体調は回復したものの空腹までは回復しなかったようで、南波は何か食料が無いか周囲を見回していた。 「あ~、お腹空いたなあ……バナナだ!」 とある木にバナナがなっているのを発見はしたものの、実には到底手が届かない。 「でも高いなあ。あ、棒と箱が落ちてる!」 南波は棒を振り回してみたり箱の上でジャンプしてみたりしたが、バナナには手が届かなかった。 その様子を見かねてルイズが箱の上に乗り棒でバナナを叩き落すと、南波は心底感心した表情で手を叩き、 「ルイズちゃん、凄ーい!」 「私にこんな恥ずかしい格好させて……。わざとやってんじゃないでしょうね!?」 ルイズは怒りと羞恥心で赤面しつつ震えていた。 「お腹は膨れたけど、私達帰れるのかなあ……」 俯いて深刻な表情の南波だったが、バナナの皮の山を背にしているためいまいち緊張感に欠ける。 「だ、大丈夫よ! 帰れるに決まってるわ! ……それにいざとなったら私がいるんだから」 自分の言葉に赤面したルイズだったが、 ――アーアアー 「ターザンだ!」 その時既に南波の興味は遠くから聞こえてきた謎の声に向いていた。 「は?」 「凄い! ターザンって本当にいたんだ! こっち来た!」 そして垂れ下がった蔓にぶら下がって2人の前に現れたのは――、 「タバサちゃんにそっくり!」 どう見てもタバサです。本当にありがとうございました。 じー…… さっ じー…… さっ 顔を覗き込んでくるタバサの視線からルイズは必死に顔を背ける。 「なぜ目を逸らすの」 「タバサ、誘わなかったから怒ってるんでしょう?」 「私はターザンだからわからない。でも近々素敵な事が起こる」 肩を竦め無関係なふりをしてさらりと不吉な発言をするタバサ。 「ひぃいいい!!」 「ルイズちゃん、ターザンと知り合いなんて凄い!」 「だから、あんたはわざとやってんの!?」 そんな2人を南波はやはり心底感心した表情で目を輝かせて見つめ、ルイズはまたも怒りと羞恥心で赤面しつつ震えていた。 「こっち」 そう言ってタバサは藪をかき分け2人を先導し始める。 「帰り道も知ってるなんて流石ターザン!」 「……何にせよ助かってよかった……」 「でもルイズちゃんと2人で遭難するの、結構楽しかったよ。また一緒に遭難しようね!」 「まったく、縁起でもない!」 南波を魔法で吹き飛ばしたものの、少し嬉しいルイズだった。 (いつまで歩くのかしら) ルイズがそう思い始めた時、突然ラバサが立ち止まった。 「? タバサ?」 「迷った」 『ええええええ~!??』 「てへ」とでも付けそうな口調でのタバサの発言に、南波・ルイズの悲鳴がジャングル中に響き渡った。 その時、 「ミス・ヴァリエール~!」 そう3人に向かって大声を張り上げる人影――コルベール――がゆっくり降下してきた。 「ミス・ヴァリエール、心配させないでください」 「ミスタ・コルベール……」 「しかし、まさか隣接する人工ジャングル温室に迷い込むとは……」 「何でそんな温室があるのよ!」 翌日……、 「それでね、ターザンがね!」 救出後に書いてもらったサイン片手に心底楽しそうに昨日の話をタバサにしている南波の様子を、ルイズはジト汗を垂らして見ていた。