約 4,733,967 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1798.html
ゴング。 同時にレフェリーを務めるコルベールが、リング上で拳を交える二人を引き離す。 「ゴング! ゴングだ!」 双方は一瞬にらみ合った後に振り返り、肩で息をしながらもしっかりとした足取りでニュートラルコーナーへと戻った。 セコンドにより椅子が出され、一分間で少しでも体力を回復するための道具が次々と取り出される。 赤コーナーの椅子へ座り込んだのは、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 現在、HBC(ハルケギニアボクシング評議会)のランキング3位に属する、異例の女性ボクサーである。 ぶかぶかの赤いボクシングパンツに、白い無地のTシャツを着ていた。 「ルイズ、やったじゃねぇか! あいつのフィニッシュブローを破ったぜ!」 セコンドの一人を務めるのは、腹巻に坊主頭、左目の眼帯と異様な格好の中年男性だ。 名を、丹下段平。ルイズによってこのハルケギニアに召喚された、かつて異世界で名を馳せた名ボクサーである。 「あれだけ特訓したんだから、当然でしょ! 次のラウンドで勝負をかけるわ!」 疲労困憊であるにも関わらず、ルイズはニヤリと笑ってみせる。 「動かないで」 腫れ上がったルイズの顔を、魔法で出した氷で冷やしていたタバサが呟いた。 ルイズの級友である彼女もまた、セコンドを勤める一人である。 「それにしても、まさかあんたが本当にここまで強くなるとはね……。 女の癖にボクシングなんてバカじゃないかと思ったけど、あんた才能あるのね」 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが呆れたように漏らした。 その名の通り、ツェルプストー家の一員である彼女は、ヴァリエール家のルイズとはまさしく犬猿の仲である。 が、ルイズが「ボクシングやるから。絶対やるから。もう決めたから」とぬかし、 周囲を仰天の嵐に巻き込んだ際、初めにそれを応援した人間でもあった。 要は、何だかんだ言って親友なのである。 『微熱』の通り名を持ち、恋に生きると公言してはばからないような女性であるキュルケにとって、 その理由が納得いくものだったからかもしれない。 「そりゃそうでしょ」 ルイズが真顔に戻り、呟いた。 「絶対サイトの仇を討つって決めたから。そう、誓ったんだから」 そうして、向かいの青コーナーを睨みつける。 そこには、不適に笑う元婚約者――HBC現王者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドの姿があった。 ハルケギニア大陸において、ボクシングとは全てである。 六千年前、ブリミルと呼ばれる人物が編み出したとされるその競技は、瞬く間に大陸全土へと広がった。 現在において、各国の代表を出す国際戦が最早代理戦争と化していることからも、その人気ぶりは知れよう。 そして、貴族の誇りとは、強いボクサーであることであり、即ちボクシングで勝つことである。 現在を生きる全ての貴族の男子にとって、ボクシングで強くなるのは確固たる目標であり、遥か遠い夢だ。 HBC上位ランカーともなれば、下級貴族の三男坊などでも結婚相手は選び放題、生涯の成功は最早約束されたと言ってもいい。 その妻も、夫の試合となれば必ずセコンドに立ち、声を枯らして応援。 勝てば抱き合ってリング上で接吻し、負ければ控え室で涙を流した。 『俺のセコンドに立ってくれないか』というプロポーズの言葉は、最早使われすぎて陳腐であるにも関わらず 『好きな異性に言いたい/言われたい台詞ランキング』で132年連続一位ぶっちぎり独走中。 ちなみにランキングの集計が始まったのは132年前である。 要は。どいつもこいつも、バカみたいにボクシングに燃えているのだ。 ルイズが、使い魔契約の儀式で異世界の二人――平賀才人と丹下段平を召喚したのは、もう二年前のことになる。 二人はやがて、ボクサーとセコンドとしてHBCランキングへ参加。 グローブをはめると身体能力が向上するという、伝説の『ガンダールヴ』のルーン、丹下段平のやたら根性部分に特化した指導、 喋るインテリジェンスグローブ『デルフリンガー』などもあり、瞬く間に上位へと上り詰めた。 しかし、その年のトリステイン王国代表決定戦。決勝戦において、ワルドの繰り出したフィニッシュブロー、 『ライトニング・クラウド・アッパー』によって、終始優位にあった才人は逆転負けした。 ルイズはその時、婚約者と使い魔、どちらのセコンドに着くか悩んだ挙句、賓客用観客席という中途半端な立ち位置に居た。 そして見たのだ。絶対に見た。二人がコーナーで戦っていたせいで、自分以外には誰にも見えなかったろうが、 しかしそれは確かだったとルイズは確信している。 フィニッシュブローを撃つ瞬間、ワルドは才人の足を踏んでいた。 そして、試合終了から三時間十二分後。 平賀才人は、絶命した。 試合から数日後。 ルイズは、ワルドを問い詰めた。何故だ。何故、あんなことをしたのか。 ワルドは哂った。高らかに哂っていた。 「まずい、まずいんだよルイズ。あそこで負けてしまっては、僕はルイズと結婚出来ない。 ヴァリエール家の麗しきご令嬢と結婚するんだ、HBC現王者くらいの立場は必要だろう?」 くくく、と堪えきれない哂いを漏らす。その眼は、何か名状しがたきものに侵されていた。 明らかに尋常では無い様子に、表情を硬くするルイズ。 その腕を突然、ワルドが掴む。 「さぁ、もう十分だろうルイズ。僕はHBCの頂点、ハルケギニアにおける全ての男子の頂点に立ち、九回それを守り抜いた。 かつての伝説、『イーヴァルディの闘士』と並ぶ大記録。ああ、ああもう十分だ、そうだろう? 君と僕は結ばれる。誰にも邪魔はできない。そして君の、『虚無の拳』の力がついに――!」 恐怖。しかし、それ以上にルイズの心を埋め尽くしたのは、憤怒だった。 ルイズは腕を振り解き、ワルドを睨みつける。それを気にもせず、相変わらず、哂い続けているワルド。 ワルド――いや、こいつが何を言っているのかはわからない。 だけど。 これだけはわかる。 「そんなことのために……!」 その目的は、あいつ――才人に比べれば、屑にも劣る最低の代物だということだけは。 「サイトを……!」 あいつを。いつまで経っても従おうとしなかった、小憎たらしい使い魔を。給仕やら、他の女性にすぐ傾く惚れっぽいあいつを。 でも、……どうしようも無い程、どうしようも無くなる程に好きだったサイトを! 「殺したのねっ!」 ルイズは先日の自分を悔やんだ。何故、自分はこいつとサイトを比べて、しかも迷いなんてしたんだろう。 こんなにも。こんなにも、私の気持ちは分かりきっているというのに! 「……いいわ。あなたがもう一度だけ、その王座を守りきったなら、私はあなたの妻になる」 「どうしたんだい? 僕の愛しいルイズ。別に、今すぐにでも僕は構わな――」 「その口で、次に『愛しい』と言って御覧なさい。――その口、引きちぎってやるから」 ワルドは哂い止み、値踏みするような眼でルイズをじろり、と眺めた。 完全に様子は一変し、実につまらなそうな、退屈そうな眼をしている。 「ふん。……成る程。君は僕の、『敵』になったと、そういうことなのかな、ルイズ?」 「ええ。完膚無きまでにね、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」 「くくく。もう『ワルド様』とは呼んでくれないのだね、僕のルイズ。 だが、まぁいい。僕が次に勝ちさえすれば、全ては問題とはならない。 いくら君が反対しようとも、前人未到のHBC王座十連続防衛を果たした男となれば――君のお父上にほんの少し働きかければ済むことさ。 それで? 残りの一回、君は誰をけしかけるつもりなのかな?」 馬鹿にしきった様子のワルドを前に、しかしルイズは動じなかった。 眼を煌々と光らせ、胸を張り、怒りの炎に身を焼いて、誰よりも誇り高く、彼女はそこに居た。 「私よ。私自身が、あなたに挑む」 「セコンドアウト!」 ロープを乗り越えながら、ルイズのセコンド達が次々に声をかける。 「いいか、ルイズ。足だ、足を使え。かき回した所に、お前のフィニッシュブローを叩き込んでやりな!」 「……本で読んだ言葉。あなたに。……Stand, and Fight.(立って、そして戦いなさい)」 「頑張りなさいよ。サイトのためなんでしょ?」 ルイズは僅かに微笑みをこぼし、そして相対する敵へと向かっていった。 着ているTシャツを握り締める。かつて、彼女の使い魔がこの世界に召喚された時に着ていたものだ。 「サイト」 何かを噛み締めるように、ルイズはその使い魔の名前を呟く。 「らぅーん、えいと! ふぁいっ!」 ゴング。 開幕直後、ワルドは冷静に牽制の左を放つ。 速く、鋭く、確かな芯のあるジャブ。『エア・ニードル・ジャブ』。 『閃光』の二つ名の元になった、ワルドの主武器の一つである。 ルイズも動じず、ステップとガードで対処する。 しばし、静かな攻防。盛り上がる観客席とは正反対に、凍りついたような緊張感がリングには満ちていた。 ――と、その空気を打ち破るかのように、ワルドが大きく下がる。 そのまま腕を広げ、オープンガード。そして、あろうことか対戦相手であるルイズへと話しかけた。 「いや、驚いたよルイズ。まさか、君が――君自身が! 僕に挑むと聞いたときには、正直正気を疑ったがね。 僕の『ライトニング・クラウド・アッパー』を破るとは、やるじゃないか」 『ライトニング・クラウド・アッパー』。ワルドが幾多もの敵をリングに沈めてきた、彼の必殺技である。 その拳は相手に命中すると同時に、グローブすら焼き尽くす強力な電撃を発し、その動きを止める。 ガードも不可能、当たったらそこで終わり。まさしく、『フィニッシュ』ブローだ。 (尚、スレ住人の皆さんは技のあまりのネーミングセンスに眉をひそめていることだろうが、 これは筆者の趣味では無く、名作ボクシング漫画――アレをボクシングと呼称するのなら、という前提だが―― 『リングにかけろ』へのリスペクトである。知らない人はググってwikipedia。すげーネーミングだから) ルイズは警戒。試合中に対戦相手に話しかけるなど、正気の沙汰ではない。コルベールが困っている。 「驚いたよ。本当に驚いた。まさか、『虚無の拳』の力を、僅かとはいえ引き出すとはね。 それに敬意を表して――僕の、正真正銘、本当の本気を見せるとしよう!」 そう言い放つと、ワルドは突然詠唱を始める。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 ルイズはワルドへと突き進んだ。まずい。何の詠唱をしているのかはわからないが、本能が告げている。 あの呪文を、完成させてはならないと。 「っ!」 ワルドの顔面へ、右ストレートを放つ。 そして、誰もがその眼を疑う光景。 その拳が、ワルドの頬を『貫通』した。 「!」 驚愕に凍り、動きが止まるルイズ。面前のワルドの姿が、かき消える。 そして、 「ユビキタス。――風は、遍在する」 ルイズの背後。そこに、五人のワルドが立っていた。 振り返ったルイズの顔が、更なる驚愕で歪む。 「風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」 ルイズは混乱しながらも、必死でジャブをうつ。 涼しい顔でそれを防ぐ、ワルドの一人。 「物理的影響力を持ち、ある程度の衝撃なら消えることもない。そのそれぞれが意思を持っている。 ――どうだい、僕の愛しいルイズ? これが僕の、本気だよ」 一人がルイズのパンチをガードしている間に、もう一人が懐に潜り込み、ルイズの気をそらす。 更に二人が牽制のジャブを放つ。 「くっ!」 ルイズは必死で、それをかわそうと『イリュージョン・ステップ』を使う。 自分自身の幻影を作り出し、敵を翻弄する足捌き。 先ほど『ライトニング・クラウド・アッパー』を破ったのもこの技だ。 しかし、 「無駄だ!」 そして、最後の一人はルイズの死角へと回り込んで―― 「これで終わりだ! 『エア・ハンマー・フック』!」 「――――!」 空気の塊を伴った拳は、その力を元の数倍にまで増大。 ルイズの顔面を捉え、悲鳴をあげることすら許さず数メイルの距離を吹き飛ばした! きもちいい。 なんだか、すごくきもちいい。 めのまえがぐにゃぐにゃする。なにもみえないや。 ああ、ねちゃいそうだなぁ。 「――――!」 なんだか、とおくでたくさんのひとがさわいでる。 うるさいなぁ。 わたしはもう、ねたいのに。 「――――!」 ああもう、ほんとうにうるさい。 たちあがることなんて、もうできないのに。 「――って!」 え? いま、なんて……。 「立って! ルイズ!」 リング上、ピクリともしないルイズ。勝ち誇り、ロープへもたれかかるワルド(×5)。 それを見つめながら、キュルケは呻く。 「分身……。ボクシングで五対一なんて、勝てるわけがないじゃない……!」 「…………」 無言のままのタバサ。 3。 「ちくしょう……。ルイズは、ルイズはあんなに頑張ったのによぅ……!」 丹下は俯き、何かを堪えるように歯を食いしばっていた。 「…………」 無言のままのタバサ。 5。 「……限界ね」 倒れたまま動かない姿を見、キュルケがタオルを取り出す。 止める丹下。 「待て! そいつぁダメだ! ルイズを、あいつの気持ちを裏切るつもりか!」 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」 「せめて、10カウントの間は――」 「一刻を争う状況だったらどうするつもりなの!? その数秒が、あの子を殺すかもしれないのよ!」 「…………」 無言のままのタバサ。 8。 「ダメだ! そいつはやらせられねぇ!」 丹下がキュルケに、タオルを投げさせまいと食らいつく。 そうしながらも、叫ぶ。 「立(て! 立つんだ、ルイズ!)――」 「立って!」 割り込むかのような突然のタバサの絶叫に、丹下は言葉を止められてしまう。 タバサはルイズを見つめ、何かを訴えるように、目に涙を浮かべながらも叫ぶ! 「立って! ルイズ!」 その一言で、心臓に火が入った。 足が動かない。 頭はグラグラだ。 体中が痛みを訴えている。 ――それでも。 その全てを屈服させて、ルイズは立ち上がった。カウントは、9。 霞む視界の中、リング下のタバサを捉える。 そちらに向けて、頷いた。 ――そうだ。 驚くワルドが見える。 ――負けられない。 足を一歩、動かす。 ――絶対に、 「負けないんだからっ……!」 ワルド達が、再びルイズへ襲い掛かる。 先手を取り、重い左手を必死で動かして、ジャブ。 どうしようもなく鈍いそれを、ワルドは苦も無くガードした。 先ほどと同じ流れか、と誰もが思ったその瞬間。 ガードをしたワルドが、跡形も無く消え去っていた。 「な――!」 驚きで動きを止めるワルド達。馬鹿な。あの程度のパンチで、分身が消え去るなどあり得ない。 更に連続でルイズのジャブが放たれる。 一発。一人のワルドが消える。 一発。また一人のワルドが消える。 残るワルドは、二人。 「馬鹿な、そんな筈は!」 混乱するワルド。そこに、ルイズがぽつりと、だが確かな強い声でその技の名前を告げた。 「――『ディスペル・ジャブ』」 「っ! 『解除』したというのか、僕の分身を!」 更に、一発。更にワルドが消えうせる。 残るは本体。たった一人の、ワルドのみだ。 「僕は……僕は負けないっ! 『虚無の拳』を手に入れ、ボクシング界の全てを手に入れるまで、決して!」 錯乱したワルドが、ルイズへ吶喊する! 「あ、ああああああああああああああっ!」 再び、『ライトニング・クラウド・アッパー』を放つ。 決まれば、間違いなく終わる。その威力を秘めた一撃。 しかし。その技は既に―― 「ああああああああああああああっ!」 命中! ワルドの眼に、電撃に撃たれながら吹っ飛んでいくルイズの姿が映る! 「あああああああああああああ、ああ、あ……?」 再び倒れるルイズ。電撃で体中が焼け焦げ、見る影も無い。 「あ、ああ、は、ははははははは! 勝った! 『虚無』に、伝説に、僕は勝ったんだ!」 ワルドは気づくべきだった。 ルイズにその拳が命中した――否、そう見えた瞬間。 しかしそれに反して、その手には何の感触も無かったことに。 倒れていたルイズの姿が消える。 「ははははははははっはああははは、はぁ? あれ?」 『イリュージョン・ステップ』。 そして、 「喰らいなさいっ! サイトの――仇っ!」 ワルドの目の前から放たれた拳は、 「『スマッシュ』――」 その顎にクリーンヒットし、 「――『エクスプロージョン』!」 大爆発によって、ワルドを上空十数メイルまで吹き飛ばした! 一瞬の沈黙。 その会場にいた全ての人間が、歓声一つ上げず、、空中のワルドを見つめていた。 ぐしゃり。 何かが潰れるような音と共に、ワルドがリング外へ顔面から墜落する。 コルベールがそれを覗き込み、――その両腕を、頭上で交差させた。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 歓声が爆発し、ゴングはこれでもかと鳴り響く! 「やった! ついにやったぜ、ルイズ!」 「……やった」 「あの、バカ……! 心配させて……!」 コルベールがルイズの腕を、高々と掲げる。更に音を増していく観客の声援。 腕を下ろされたルイズは、その中を、ふらふらとニュートラルコーナーへ戻る。 「っ! タンゲ! 椅子!」 「言われるまでもねぇわっ!」 出された椅子に、崩れるように座り込むルイズ。 「ちょっとルイズ? 体は、大丈夫なの?」 「待ってろ。今、わしがとっておきの薬を――」 「要らない。水のメイジが医務室からすぐに来る」 「ルイズ? ……ちょっとルイズ? ルイズ!」 「おいルイズ! 返事しねぇか!」 「…………救護班、早く!」 ねぇ、サイト。 やったよ。 私、あんたの仇を討った。 サイト。 もう一度だけでも、あんたに会いたいわ。 言いたいことがあるのよ。 前には言えなかったけど、今なら、素直になれそうな気がする。 でも。 燃え尽きちゃった。 燃え尽きちゃったわ。 真っ白にね……。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2212.html
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは人生最大の試練に立ち向かっていた。 何せこの使い魔召喚を失敗したら進級出来ず退学もありうる。 まさに背水の陣、ルイズにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際と言っても良い。 ルイズは全身全霊を込めて呪文を唱える。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 呪文の成立とともに目の前が爆発し、煙が辺りを覆う。 すわ失敗かと落胆するルイズだが、その煙が晴れてくると、そこに何かが要る事に気づき喜色満面となるも、煙が 晴れていくにつれ当惑の表情へと変化していく。 召喚された物体は、彼女が思い描いていた使い魔とはあまりにもかけ離れていたからだ。 するとそこにいた物体、手足の生えたりんごは、その渋い顔にマッチした渋い声で言った。 「俺が神聖で美しく強力な使い魔だ」 召喚主であるルイズはおろか、周りで事態を見守っていたクラスメイト、さらには教師であり今まで数々の召喚儀 式を監督してきたコルベール出さえ、あまりの発言に言葉を失い戸惑う。 と、その使い魔は絶妙の間をおいて言い放った。 「ウソだけど」 ルイズは素早く足を上げると、思いっきり踏みおろした。 果肉と果汁が飛び散り、見るも無残な轢殺死体が出来上がる。 内心の怒りの為かさらに何度か踏みにじり、完全に粉砕すると何事も無かったように再び呪文を唱え始めた。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ! 神聖で美しくッ、そして強力な使い魔よッ! わたしは心より 求め、訴えるわ……我が導きに答えなさいッ!!」 見た事も無い服装をした平民の使い魔が召喚されたのは、その後しばらくたってからであった。 完 -「極楽りんご」より
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9068.html
その他 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ がんばれ武蔵軍団 石川賢作品より『武蔵を全部召喚』武蔵伝、魔界転生、柳生十兵衛死す、ゲッターロボアーク 武蔵 うる星ルイズの使い魔1/2(仮) 高橋留美子作品 そのキャラ 面接ンデレ 2ちゃんねる ゼロのスイーツ(笑) 2ちゃんねる カーチャン召喚 2ちゃんねる さらば黄金勇者 ~ブリミルよ、永遠に~ 黄金勇者ゴルドラン 全選手入場テンプレ グラップラー刃牙 『全イザベラ様入場』 グラップラー刃牙 完結作品入場!!! グラップラー刃牙 白き塔 現実世界 大陸間弾道弾 I.C.B.M 美しき使い魔 現実世界 二式飛行大艇 孤独のグルメ・異世界編 孤独のグルメ トリステインの踏鞴法師 特定の原作を持たない だいだらぼっち おじいさんの古時計 TOSHIBA創業者、田中久重 理想的民主国家トリステイン社会主義連邦 「速水螺旋人の馬車馬大作戦」収録「ユートピア・カフェはあなたの友」 ユートピア・カフェ 国歌という概念が召喚されました 栃木・群馬の県歌 『トリステイン愛国行進曲』 『愛国行進曲』 ガンダールヴ伝説 あなたの近所の秋葉原! あの国の国旗がウェールズ皇太子に召喚されました 旗 邪気乳 邪気眼 零顧の礼 諸葛亮孔明 ブリミルの使い魔いろいろ トランスフォーマー/平成仮面ライダー/少年ジャンプ 大岡裁き 絶対可憐チルドレン 召喚!ナイトスクープ 探偵!ナイトスクープを召喚 白鳥の使い魔 ギリシア神話 ゼウス Battleship of Zero 特定の原作なし 戦艦長門 ニャンの使い魔 日光江戸村 日光江戸村のマスコット・キャラ、ニャンまげくん ニャンの使い魔 外伝 日光江戸村 日光江戸村のマスコット・キャラ、ニャンまげくん ロードオブ厨二イーター3rd LoA ミリルゥ・ゼレス・水神 狩 ルイズが変態兵器?を召喚しました 現実世界 グレート・パンジャンドラム まともに召喚させてもらえないルイズ 複数作品 ハルケギニアの伊達直人 タイガーマスク ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1881.html
ゼロガーその1 視界一杯に広がる青空 (ここは何処だ?) それは自分に何が起きたのか確かめるため冷静に記憶を遡る (我はいつものように双葉のコークスクリュードロップキックを受けて吹っ飛んだ その時光り輝く鏡のような物が現れて…) そこまで思い出したところでよく通る少女の声に注意を向ける 頭髪の淋しい中年男性に向かって「何かの間違い」とか「やり直させて」とか言っているピンクの髪の少女 「取り込み中失礼する、少々尋ねたいことがあるのだが…」 「な、何よアンタ!?!」 跳び上がって驚いたあと露骨に警戒の表情を浮かべる少女 まあ無理もあるまい さっきまで草原に転がっていた石像がいきなり自分の傍に瞬間移動したうえ口をきいたのだ 「人にものを尋ねるときは自分から」と言いたいところだがここは相手の警戒を解くのが先だと判断する 「我の名はガーゴイル、吉永家の門番なり」 ゼロガーその2 「二度あることは三度あると言いますが…」 「本当にお主までやって来るとはな」 「ルルル」 なんやかんやでほぼ原作通りの展開を省略し(ry 皆が寝静まった夜の宿舎の屋上でガーゴイルは「仲間達」と情報の交換をしていた 一番最初にキュルケに召喚されたのがケルプ 二番手がギーシュに召喚されたオシリス デュラハンはタバサに召喚され 最後がガーゴイルという訳である 「それにしても我々四人(?)が揃って異世界に召喚されるとはどんな偶然が作用したのか…」 「理由なら色々考えられるぞ、原作が同じ出版社から出てるとかアニメの脚本家が同じとか」 「ルルル、メタナ発言禁止」 「さしあたって今後の行動の方針だが…」 「それは今更ですな」 彼ら錬金術によって生み出された人工生命の使命は等しく「人の幸せを守ること」である 異世界であろうと使い魔の身であろうとやる事が変わる訳ではない 元の世界に返る方法が見つかるまではこちらの世界で出来ることをやろう そう決意する四人(?)であった ゼロガーその3 「何だ何だ!?」 「ギーシュが“自分の使い魔”と決闘だってよ!!」 もうすっかりお馴染みとなった恒例のイベント 今回ギーシュの相手を務めるのはギーシュ自身が召喚したオシリスである 事の起こりは昼休み 自室で明らかに複数の女性向けとわかる香水を用意していたギーシュを見て「二股イクナイ」 と諭すオシリスに「主人に説教するとは何事か!?!」とギーシュが逆切れ オシリスも売られた喧嘩を断るような性格ではなく気が付いたらヴェストリの広場でギーシュと対峙していた 自分の使い魔と決闘したところで勝っても負けても恥をかくのはギーシュなのだが 興奮したギーシュは生意気な使い魔を力で屈服させることしか頭に無い (自分は阿呆な主人に当るのが宿命(さだめ)なのだろうか?) “るーるるー”と竹本泉調で心の中で涙するオシリスに向かってすっかりヤラレメカ(?) が定着したワルキューレが迫る さっさと片付けようと青銅のゴーレムに向かって伸ばされた触手を ザシュッ!! ワルキューレの剣が断ち切った ゼロガーその4) 「いやいやあっさり片付くかと思いましたが…」 「なかなかやるではないか」 「ルルル」 ガーゴイル、ケルプ、デュラハンその他大勢が見物する中 ギーシュとオシリスの対決は白熱した一進一退を繰り返す見応えのあるものになっていた オシリスが繰り出す触手の連撃をワルキューレの剣が受け流し、撥ね退け、切り落とす だが斬られた端から瞬時に再生する触手に阻まれオシリスに近づくことが出来ない 真剣な顔で杖を構えゴーレムのコントロールに集中するギーシュの姿を見て好戦的な笑みを浮かべるオシリス 自分の主人が只の阿呆ではなくそれなりの実力の持ち主であることが判ったのはオシリスにとっても嬉しい誤算であった 魔力の有無は持って生まれた資質だが効率よく使いこなすために必要なのはあくまで本人の修練である そして軍人の家系に生まれ肉体的にも精神的にもタフな家庭環境で育ったギーシュはアレな性格は別にして ことゴーレムの操縦にかけてはすでに達人級の腕前に達していた 休み無く攻め立てる二本の触手を巧みに捌きながらじりじりと距離を詰めるワルキューレを突き放そうと束ねた触手で大振りの一撃を繰り出すオシリス ワルキューレは破城槌に等しい一撃を跳躍して躱すと同時に剣を奔らせる ガッ!! 咄嗟に上体を反らせたオシリスを掠めた剣先は胸元を覆っていた装甲を剥がし Fカップはあろうかというオシリスの生乳が大勢のギャラリーの前に“ブルン”と晒される ゼロガーその5 その瞬間広場は水を打ったような静けさに包まれた 人々は片言も発する事無く 両手で胸を隠して蹲り 目に涙を浮かべてプルプルと震えるオシリスを凝視している 「ぶっ…ぶっ……」 「いかん!」 「無礼者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 オシリスがキレた オシリスの周囲の地面が地雷が爆発したかのように弾け 鎌首をもたげた触手の群れが全方位に向かって光線を乱射する 「ぶるぅぅぅぅああああああああああっ!!」 最大出力で障壁を張り巡らしギャラリーへの被害を防ぐガーゴイル 上空に舞い上がったケルプとデュラハンがオシリスに向かって光弾を放つ 轟音とともにオシリスの上半身が吹っ飛んだ 「落ち着きましたか?」 「ふう、妾としたことがつい我を忘れてしもうた…」 ビデオの早送りのようにあっという間に生え変わったオシリスの上半身が 何事もなかったかのように言う 無限の再生能力を持つオシリスにとっては大樹の葉の一枚が落ちたほどのことでもない 「ところでギーシュはどうなったのじゃ?」 「あの状態のまま放置しておけば速やかに窒息死するであろう」 自らの鼻血で作った血溜りにうつ伏せに倒れていた ゼロガーその6 「知らない天井だ…」 「何を言うておる、お主の部屋じゃろうが」 ギーシュは自分の部屋のベッドの上で意識を取り戻した 「ずっとついててくれたのか?」 「一応お主の使い魔じゃからな」 露骨にイヤそうな顔をするオシリス 「済まなかった」 上体を起こしたギーシュは頭を下げた 「今度の事で僕は自分の未熟さを思い知ったよ」 普段のおちゃらけた態度を払拭したギーシュはオシリスでさえ思わず見惚れるほどいい男だった 「僕は一から自分を鍛えなおすことにしたよ、是非君にも協力してもらいたい」 ベッドから降り立ち強い意志の力を感じさせる瞳でオシリスを見つめるギーシュ 「う、うむ。わ、妾に出来ることなら…」 オシリスはめがっさ動揺している 「自分の使い魔の胸を直視したくらいで鼻血を噴いているようでは『全ての女性を幸福にする』 という僕の理想には届かない」 「おい…」 「まずは身近な弱点を克服することから始めよう」 「ちょっと待て!」 ギーシュは大真面目な表情でオシリスの両肩に手を置いた 「さあ、君のその胸でおもいきり“パフパフ”を…」 「この痴れ者があーっ!!!」 怒りの触手がギーシュを締め上げる 砲丸投げの要領で振り回し充分に遠心力が乗ったところで窓に向かって投擲 ガラスの破片を振り撒いて空中に飛び出したギーシュは曲射弾道を描いて校舎を飛び越え 学院裏手の土手に頭から着弾する 飛距離:97.34メイル 室伏広治もびっくりだ ゼロガーその7 「次に『あの作品のキャラがルイズに召喚されました』スレにおけるフーケの死亡率が非常に高いことから木村亜希子ファンクラブは スレ主に対して『フーケ保護条例』の制定を求める意見書を…」 時々ナゾな電波を拾うモバイルフォンのニュース放送を止めたオシリスは黙々とトレーニングを続けるギーシュを見て目を細めた 「なかなか頑張っているではないか」 「阿呆は阿呆なりに期するものがあるのであろうよ」 いつの間にか隣りに現れたガーゴイルにまんざらでもなさそうに答える 実際その日は虚無の曜日だというのに陽が昇る前に起床したギーシュは「魔術の鍛錬は精神力の鍛錬、精神を鍛えるには肉体を鍛えるのが一番」 とどこぞのサイコダイバーのようなセリフを吐いて石を詰めたザックを背負ってロードワークをこなし今は腕立て伏せと腹筋とスクワットを 短い休憩を挟みながら何セットも繰り返している 「むっ」突然緊迫した声を出すガーゴイル 「どうしたのじゃ?」 「どうやらルイズが目覚めるようだ、我が控えておらぬとまた機嫌を損ねる」 「お主がおらぬほうが色々な意味で平和だと思うが?」 ガーゴイルの正論ではあるがいちいちルイズのコンプレックスを逆撫でする「助言」にブチ切れたルイズが ところかまわず失敗魔法を炸裂させる一連の流れはすでに日常のひとコマになりつつある ガーゴイルがアドバイスを控えれば大半の被害は回避可能なのだが超合金の意志を持つ門番型自動石像がそんな「弱い考え」をよしとするはずもなく 「だが断る」と言い捨ててルイズのもとへと転移する 「難儀な奴よのう」 そう呟いたオシリスが別な意味で難儀な性格の自分の主人に目を移すとなにやらギーシュは中国拳法とモダンバレエを ミックスしドイツ表現主義で味付けしたような奇怪な動きで全身をクネクネさせている セクシーコマンドー? アバンギャルドな演舞を続けるギーシュを一人残して森に分け入るオシリス 学院を見下ろす丘のうえにやって来ると周囲に人気が無いことを確認しやおらギーシュの動きを真似てリズムをとり始める 「む、これはなかなか…」けっこう楽しいらしく次第にヒートアップしていくオシリス 緑の髪が宙を舞い釣鐘型に張り出した見事なバストがたっぷんたっぷんと(ry 「誰じゃ!」ダンスに熱中していたオシリスが背後で急速に高まった魔力の気配に気付いたときには遅かった フラッシュライトに似た青白い閃光が収まったあとには氷の彫像と化したオシリスが朝日を浴びて宝石のように輝いていた ゼロガーその8 「そういえばギーシュは何処行ったのかしら?」 その日は学園祭の初日でありスペシャルゲストのアンリエッタ王女を迎えるため生徒職員一同が正装で校庭に集まっている 「おそらくはまだオシリスを捜しているのだろう」 「オシリスってあのいけ好かない植物女?」 雑草のくせに何よあの胸はと険のある表情でブツブツと呟くルイズ、大変分かりやすい 「で、そのオシリスが遂にギーシュに愛想尽かして出ていったって訳?」 「いや、それは無いな。あ奴は口では色々言っているが内心ではギーシュを仕えるに値する人物と認めている」 「じゃあ何でいなくなったのよ?」 「不明だ、我やケルプ、デュラハンらも時間の許す限り探索を続けているのだが…」 「ふーん、それにしてもあのギーシュが王女様にお目にかかる機会をふいにして使い魔探しを優先させるなんてねぇ」 「ルイズは我が消えたらどうする?」 「当然、アンタみたいに口の減らない犬っころはお払い箱よ!」 「うむ、了解した。感謝する」 「はあ?何言ってんのよ?」 「ケルプに聞いたのだがツンデレの本心は常に言葉とは真逆のところにあるそうだ、つまりルイズの本心は…」 「うるさい!うるさい!!うるさい!!!」 杖を振り上げ呪文を詠唱しようとするルイズの口に赤土が張り付いた 「ミス・ヴァリエール、王女様のお出ましですよ」 おお、ミス・シュヴルーズがルイズに一矢を報いた 全校生徒と教職員が整列して待ち構える正門の彼方から パパラパーパララ! 高らかに鳴り響くトランペット 「む…」 ズンズンダン!ズンズンズダンダン! 周囲を圧するスネアドラムの重低音 「まさか……」 脂汗を流すガーゴイルの視線の先に光り輝く黄金のキャデラックのオープンカーが姿を現す 後部座席には金色のスーツを着たリーゼントに囲まれ引き攣った笑顔を浮かべたアンリエッタ王女がいた ゼロガーその9 学園祭は盛況のうちに二日目を迎えていた ガーゴイルとケルプの光線芸合戦がエスカレートして殺人光線の撃ち合いになったり 模擬店のメイド喫茶で売り上げNo.1に輝いたタバサに大差をつけられて二位に甘んじたキュルケが「このロリコンどもめ!」 とブチ切れたりしたがおおむね世界は平和だった ある一箇所を除いて 学院の敷地内でもあまり人気の無い裏庭の一角にある桜の古木 その下で告白したカップルは必ず結ばれるという所謂【伝説の桜の木】の下でミス・ロングヴィルはマリコルヌに言い寄られていた (勘弁してよ…) テンパった表情で生まれる前から好きでしたなどと喚き続けているマリコルヌを見ていると思わずシャイニングウイザード をブチ込みたくなってくる 意志の力を総動員して営業スマイルを浮かべるとロングヴィルは内心の怒りを押し殺し可能な限り穏やかな声で語りかけた 「気持ちは嬉しいけどマルコメ君…」 「マルコメ言うなーっ!」 ジャンプ一番セミの脱皮のごとく空中で脱衣しハート柄のブリーフ一丁でミス・ロングヴィルに踊りかかるマルコメ 「ぬう、あれはまさしく伝説の奥義“ルパンダイヴ”!」 「知っておるのか雷d(ry 「ラアラアラアッ!キャオッ!!」 榎調査隊を襲う山岳民族のような奇声をあげて飛び込んでくるマルコメを流水の足捌きで躱しつつひょいと両手を添える 運動エネルギーのベクトルを操作され風車のように回転して頭から大地に叩きつけられるマルコメ 強過ぎるぞ達人っ!! 「ちょっとやり過ぎたかしら…」 地面に大の字に横たわりピクリともしないマルコメを抱きかかえるロングヴィル 突然地面が盛り上がり大蛇のようにうねる桜の根が二人を空中へ跳ね上げる 咄嗟にフライの呪文を唱えて距離を取ったロングヴィルが見守るなか伝説の桜の木はビキビキと異音を発しながら恐るべき速度で成長していく 校舎一つを丸ごと覆いつくせるサイズに枝を伸ばした満開の桜の花の中から全身を桜色に染めた巨大オシリスがむくりと身を起こした ゼロガーその10 「こりゃまた随分とグレイトなイベントだな、でもチェリーボーイにゃちょいと刺激が強すぎるぜ」 校舎よりもなお高くそびえ立つ巨大オシリスを見てちょっぴり頬を染めながら言い放つゴールデンボーイズのリーダー 意図的なものなのかそれとも偶然か腰から下が桜の木と融合したオシリスは胸元から下腹部にかけてを覆う樹皮状の 生体装甲が欠落した状態-つまり【全裸】-だった 腰を抜かしたりハアハアしたり黒ミサを始めたりと色々カオスなギャラリーを尻目に美しい裸身を晒したオシリスが 谷間に大の大人を楽々挟めるんじゃないかという超乳を揺らし蛸が陸上を移動するように地面から引き抜いた根を のたくらせて前進を開始すると巨大オシリスの前に整列し拳を打ち振って「おっぱい!おっぱい!」を連呼していた 一団が巨根(笑)に薙ぎ払われて宙を舞う 最前列にオールド・オスマンがいたようだがきっと気のせいだ 「ここは僕の出番だな…」 阿鼻叫喚の大混乱の中ひとりの男が立ち上がる その名はギーシュ 「ふんっ!」 マントに服に靴まで脱ぎ捨てブーメランパンツ一丁になったギーシュは一斉に注がれるイタい視線をものともせずに ボディービルダーのごとくマッスル・ポーズを決めていく そして充分に気を練り魔力を高めたギーシュは鍵となる呪文を叫ぶ 「あるてぃめっと・むーっ!」 叫ぶ 「むーーっ!!」 叫ぶ 「むーーーっ!!!」 ドキュラキュラキュラキュバババババババッ!! 一瞬にして青銅に変えられたギーシュの足元の地面が渦を巻き天に向かって伸びてゆく 巨大オシリスに匹敵するサイズのそれは次第に形を整えていきパンツ一丁のマッチョ(略してパンチョ)な戦士の姿を取る 古代ギリシャ風の兜を被り右手に剣を持ったその姿はまさしくコロムビア映画「アルゴ探検隊の大冒険」(1963)に 登場した青銅の巨人タロス ゼロガーその11 「オシリィィィィィィスッ!何て嬉しい…いや、破廉恥な格好をしているんだ! これはもう月に代わってお仕置きだな!」 全裸の巨大植物美女と対峙するパンチョな青銅の巨人 相当にカオスな状況下自信満々のギーシュはタロスを前進させようとして… 「むう、何も見えん…」 ズコーッ!!とコケる一同 説明しよう!ギーシュが錬金したタロスは術者が内部から操る方式なのだが お馬鹿なギーシュは覗き穴を作り忘れていたのだ(ナレーション:富山敬) 棒立ちのタロスにオシリスの触手が伸びる 触手がタロスの左足の踵に付いていた栓を抜くとピンク色の液体が流れ出し 全身がひび割れてあっさり崩壊するタロス 「弱点も映画と同じですか…」 週末は「ジャックと悪魔の国」や「原始怪獣ドラゴドン」といった懐かしの B級モンスター映画のDVD鑑賞が隠れた趣味のミスタ・コルベールだった 「しょうがないわねー…」 真打ち登場 ミス・ロングヴィルのゴーレムが巨大オシリスの前に立ちはだかる ちなみにミス・ロングヴィルが某キ■キ■踊りのコスチューム姿なのは只のサービスだ 「我らも行くぞ」 「心得ました」 ガーゴイルとケルプも牽制の光線を放つが 巨大化して防御力もUPしたオシリスには効果が薄い オシリスもビオランテのように牙の並んだ口のある根の先端からピンク色の光線を放ち 四つ巴の戦いは尚も混迷の度合いを深めていく そして学院中の目が怪獣大決戦に集まっている間に 「な…んで……?」 信じられないといった表情でデュラハンに担がれたルイズと 自分の鳩尾にめり込んだ杖を交互に見るキュルケ 床に転がったキュルケが意識を失う前に見たものは全てを拒絶したタバサの背中だった ゼロガーその12 トリステイン王国領空内奥深くに密かに侵入したガリア王国空中戦艦アドミラル・グラーフ・シュペーはCAP (戦闘空中哨戒)のための竜騎士を四方に飛ばしつつ発達した積乱雲の中に身を潜めていた 「来ました!十時の方向、本艦と同高度です」 見張りの指し示した方角に望遠鏡を向け、雲の切れ間に二人の少女を乗せた自動人形を認めた ラングスドルフ艦長は英国の名優ピーター・カッシングによく似た風貌に微笑みを浮かべ副官のレンツ中佐に声をかけた 「流石は北花壇騎士、時間厳守だな」 それはひどく温かみに欠けた、今まさにスイッチを押そうとする死刑執行官が電気椅子に座らせた囚人に向ける類の笑みだった 左肩にタバサを乗せ、右腕に意識を失ったルイズを抱えた首無し騎士が接近すると空中戦艦の艦首と艦尾に配された 12インチ連装砲塔と船首楼と船尾楼のスポンソンから突き出した4インチ単装砲、そして露天甲板に設置された 対空用の2ポンド多連装砲が一斉に砲口を向けてくる 「そのまま行って…」 およそ感情というものを感じさせないタバサの声に促され、信号台から手旗信号を送る水平の誘導で後部デッキに着艦する デュラハン 「ここで待ってて…」 「ルル、一人デ大丈夫カ?」 タバサの命令に応じたデュラハンの声に周りの水兵達が驚きの表情を見せる 魔法科学の発達したハルケギニアでも自律行動可能なゴーレムは充分に規格外の存在なのだ 「彼は問題ない…」 言外にデュラハンに余計な手出しはするなという含みを持たせたタバサは続いてルイズを運ぶ水兵に向かって 「丁重に扱って…」と声をかける 艦尾区画の個室に運び込まれたルイズは薬でも使われたのか昏々と眠り続けている ベッドに仰向けに横たわったルイズの豊かに盛り上がった胸-一寸待っていただきたい、我々は知っている。 ルイズの胸が限りなく平坦に近いことを-がモゾモゾと動き出し、ブラウスの襟から鉢植えサイズのオシリスが顔を出した ゼロガーその13 「では、任務の成功を祝して乾杯」 ワインを注いだグラスを右手に掲げニヤリと笑うヘルシング教授、もといラングスドルフ艦長 アドミラル・グラーフ・シュペーの艦長室でラングスドルフ艦長とタバサは差し向かいで テーブルについていた ちなみに艦長はタバサのように発育不良で無愛想な美少女がストライクゾーンど真ん中だった (ナレーション:シャーク子安) 「貴官にはすみやかにトリステイン魔法学院に戻り引き続きわが方の工作員として活動してもらう」 頭の中で早速タバサを裸にし始めながら慇懃に命令を伝えるペド 「それは無理…」 タバサの返答を聞いた艦長は底冷えのする笑みを浮かべたまま片方の眉を吊り上げてみせた 「無理、とは?」 服を貫通して素肌を舐めるような変態の視線を完璧に無視して氷のような声が答える 「ルイズを攫うところを見られた…」 大仰に両手を広げ天を仰ぐモフ・ターキン、もといラングスドルフ艦長 「ほう、目撃者を生かしておいたのですか!このような不始末を本国に報告しない訳には まいりませんなあ」 そのうえ好みの美少女を精神的にいたぶるのが大好きだった(ナレーション:シャーk(ry ラングスドルフの言葉に唇を噛み締めるタバサ そんなタバサの表情を見てサディスティックな快感に浸るロリコン だがラングスドルフの至福の時間は伝令の叫びによって中断された 「艦長、至急ブリッジへ!」 発令所にあがったラングスドルフ艦長は目を疑った アドミラル・グラーフ・シュペーの鼻先を抑える形で右舷斜め前方から接近してくる トリステイン王国軽巡洋艦エイジャックスとエクゼター そしてもう一隻 アルビオン王国軽巡洋艦カンバーランドが退路を断つかのようにシュペー号の艦尾方向に 回り込もうとしている 「待ち伏せです、地表ぎりぎりに滞空してこちらの探知を逃れ一気に上昇してきました」 報告する副長も緊張の色を隠せない 「どういうこと…」 タバサの問いに混乱のあまり意味不明な内容を口走る艦長 「こ、これは孔明の罠だ!」 ゼロガーその14 ラングスドルフ艦長がパニクっていたころ船室でも異変が起こっていた 見張りの目の前で鉄製の扉が飴のように溶け崩れ幽鬼のように現れたピンク色の影 「するってえとなんですかい、お前さんがたはあっしをお斬りになるおつもりで?」 酒を飲みすぎたような塩辛い声と白目を剥いた表情 「座頭市物語」の勝新太郎のノリで銃を構える見張りに向かってフラフラと近づいていくルイズ 「答えは聞いて無い!」 日曜朝八時の番組みたいなセリフを叫びつつ突き出した右手の人差し指から紫色の光線が放たれる 「むう、あれはまさしく魔貫光殺砲!」 「知っているのか雷d(ry 実をいうとルイズを操っているのはミニオシリスだったりする タバサの襲撃を受けたオシリスは全身が凍りつく前に根の一部を切り離し地中に逃れていたのだ そして今、オシリス2号(仮称)は服の中から触手を伸ばしルイズの手足を動かして大脱走を敢行中なのである 「ス~イス~イス~ダララッタスラスラスイスイス~イ♪」 往年の無責任男を髣髴とさせる華麗なステップで艦内を練り歩くルイズ やたらハイテンションなのはオシリス2号(仮称)に一服盛られているからである さすがに眠ったままのルイズを動かすのは手間なので気付けに体内で生成した万能薬(パナケア)を飲ませたのだが 残念ながらオシリスの万能薬は不完全であり他の薬品と混じるとどんな作用を及ぼすか分からない 今回の場合、先に睡眠薬を飲まされていたルイズはアッパー系のドラッグをキメたような症状を見せていた いうなればヒロポンを打って酸素マスク無しで高度六千メートルまで上昇した零戦乗りの心境である(どんな例えだ?) 酔拳かウォシャウスキー兄弟かという動きで水兵の銃弾を避けながらイカゲル星人のごとく両手から放つ光線 -実際には袖に隠れたオシリス2号(仮称)の触手から放たれているのだが-で艦内を破壊していくルイズ しかもなまじ可愛い顔に壊れた笑みを貼り付けているのが非常にコワイ 遂に甲板に飛び出したルイズは艦首に仁王立ちすると「タイタニック」のあのポーズを決めて叫んだ 「世界を革命する力をーっ!!」 どっとはらい ゼロガーその15 オシリス2号に操られたルイズの活躍でアドミラル・グラーフ・シュペーの拿捕はわりと あっさり成功した 腋の下とスカートの裾から触手を伸ばして暴れまわるルイズの姿をエクゼターの艦上から 目にしたワルド子爵が 「彼女の属性は“触手”じゃないはずなんだが…」 と呟いたのは余談 舞台は再びトリステイン魔法学院 校庭では巨大オシリスとミス・ロングビルのゴーレムがクロスカウンターを決めたポーズ で巨大なオブジェと化している 西日の差し込む取調室でタバサはワルド子爵の事情聴取を受けていた ちなみにシュペー号追跡に参加したトリステイン・アルビオン連合軍の大部分はレコンキ スタのメンバーであり 絶妙のタイミングで待ち伏せが成功したのもシュペー号の乗組員にレコンキスタのシンパ がいたからなのだがそれはガーゴイル達の知るところではない 現在のところタバサはひたすら沈黙を守っている だがワルド子爵には奥の手があった 「まあこれでも喰って一息つけ」 シエスタが運んできたのは炊きたての白米を盛った丼 そして白米の上には衣をつけて揚げた豚肉が乗っていた 「ぬう、あれはまさしく伝説の料理カツドゥーン…」 何故か取り調べを見物していたマルトー親方が宮■あ■らタッチで呻く 「知っておるのかマルトー!?」 あーっ!モンモンが虎 cir;化してるーっ!! 「うむ、取調べ中にカツドゥーンを食した容疑者はどんなに口の固いものでも洗いざらい ゲロしてしまうといわれておる…」 民×書房か?×明書房なのか!?! 目の前に置かれたカツドゥーンからじりじりと距離を取るタバサ 戦士の勘がアレはヤバいと告げていた だがワルドは生まれ付いてのドS 必死に抵抗するタバサの華奢な体を押さえつけると固く閉じられた口に無理矢理カツ丼を 捻じ込む そんな光景をのほほんと見守るガーゴイルとケルプ 「まあタバサ嬢を尋問するまでもなく首無し騎士が全部話してくれたのだが」 「これはこれで良いものですな」 まさに外道
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4674.html
前ページ次ページルイズの魔龍伝 3.使い魔ゼロの学園生活 目を覚ましたゼロが目にしたのは朝焼けが窓に差し込んでいる見知らぬ部屋だった。 ベッドで静かに寝息を立てている少女を目にし自分の今の状況を改めて認識する。 「(そうだったな、俺はこの娘に召喚されてここへ…)」 「んにゅ…クック…ベリーパイ…おいしいわぁ…もっと持ってきなさいよ…ガンダム…」 「…全く良い気なもんだな、このお嬢様は」 それに合わせるかのように寝る前に交わした会話が蘇って来た。 “下着の洗濯”、あまり乗り気しない頼みではあったがやらなかったらそれはそれで騒がれるに違いない。 どうせ子供の着るものだし早い内に済ませて朝の鍛錬でもしようと思い立ったゼロは 剣を片手に、もう片手に下着を掴んでルイズの部屋をそっと後にした。 「…洗濯する場所なんて聞いてないぞ」 が、学園内でルイズに教えてもらった場所を転々としながらゼロは早々に迷っていた。 トリスティン魔法学院で働くメイドの朝は早い。 日も昇らぬ内に起床し、掃除洗濯から貴族達の朝食の準備の支度までまるで戦争のように 総勢でバタバタとこなす。そんな朝の争いの少し前、水を汲みに空の桶を持って走る少女が一人。 ここに仕えるメイドの一人、シエスタである。 「お水を汲んで…洗い物をまとめて…」 「すまないがちょっといいか?」 「あ、はい…ぃいっ!?」 今日の仕事の口にしながら水汲み場まで駆けていたシエスタが振り向くと 標準サイズに比べてはやけに小さいゴーレム(の、ような何か)が立っていた。 人の形を模しているのは何となく分かるが2~2.5頭身と相当に縮められていて まるで子供が遊ぶ組み立て式の人形のような、そんなイメージがした。 「衣服の洗い場を探しているのだが……」 「洗い物ですね、もしよければ私にお任せくださいませんか? この後洗濯物をまとめて洗うので、使い魔さんのご主人のお名前さえ言ってくだされば後で 私がお部屋までお届けしますわ。」 知らない洗い場まで行って女性の下着を洗うという未知の領域の仕事を任されたゼロにとって これは渡りに船であった。 「すまないが…その…これを」 「はい!承りましたわ!」 ゼロが恥ずかしそうにしながらシエスタへ手にした下着を渡し、笑顔で受け取るシエスタ。 が、このメイドの話し振りから一つの疑問が浮き上がる。 「(洗濯・掃除・その他雑用というのは普通使い魔が行うものでは…ないよな、うん)」 昨晩一緒に食事をした使い魔達が思い出されるが、どう考えても火を吹くドラゴンだの 浮いてる目玉だの一般庶務に使うには手に余るどころか部屋が壊れそうな面子ばかりだ。 「ルイズ…俺は召使いか何かなのか…」 「あの…ひょっとしてミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「あぁ、そうだが?」 「昨日の事なのに“ヴァリエールの小さなゴーレム”ともう噂になって私達も聞き及んでますわ」 「…へ?」 「皆は笑ってますけど、とても奥ゆかしいのですね。私ちょっと驚きました」 「え、ちょっ」 「それでは私は仕事に戻りますので失礼しますねゴーレムさん」 笑顔のシエスタはそう言うと足早にまた走り去っていった。 「俺…ゴーレムじゃないのに…トホホ…」 朝から何かに負けたような気分に打ちひしがれたゼロであった。 「…フゥッ、ハッ!」 噴水の近くで黙々と剣を振るい朝の鍛錬に打ち込むゼロ。 手にしている剣はかつて彼が手にしていた剣ではない、旅の途中で手に入れた普通の剣である。 彼の相棒は全てを終わらせた後戦友に預けた。 傷つき、全ての力を失った相棒をこれ以上手にする事も、使う事もない。 何より亡き父が残した唯一の形見であったからだ。 ゼロがルイズの部屋に戻るとルイズがふくれっ面でベッドに腰掛けていた。 「あぁ、おはようルイズ。ちょっと剣の鍛錬に」 「使い魔なら起こしなさいよぶぁかーーーーーーーーーー!!」 朝の挨拶は怒号から始まった。 「まったくいつもの調子で起きちゃったじゃないのよ!そこのクローゼットの一番下から下着!」 「え?」 「私に一式着せるのも使い魔の仕事!早くしなさいよ!」 とりあえず下着を出してルイズに渡し、ネグリジェを脱ごうとしているルイズに気づいて 慌て後ろを向きつつ制服を取る。 「服!」 そのままルイズの方へ腕だけ伸ばし制服を渡そうとするが 「着せて」 の一言で遮られた。 朝起こさなかった事とルイズの機嫌の悪さがあり仕方なくルイズに制服を着せてゆくゼロ。 「普通、使い魔に服を着させるもんじゃないんじゃないのか?」 「いいもんアンタ喋れて手足が使える使い魔だし」 「……次からは自分でやれ」 着替えが終わった後は手早く自分の鎧を着けて、共に部屋を後にした。 「あらぁ~、おはようゼロのル・イ・ズ」 「…おはようキュルケ」 部屋を出た二人の目の前に一人の女性が立っていた、長身に燃えるような赤い色の長髪、褐色の肌。 ルイズと同じ制服を着ているが上のボタンはしめられずそこから豊満な胸の谷間が見える。 「で、それが話題の“ヴァリエールの小さなゴーレム”ってわけね~ふぅ~ん」 キュルケがゼロをじろじろと見る。 「何ていう名前なの?」 「俺はゼr」 「こいつはガンダムっていうのよ!うん!ガンダム!」 ぜロが名前を言いかけた所でルイズが割り込んで名前をガンダムだという事にしてくる。 異様なまでに「ゼロ」と呼ばれたくないその態度がゼロとしては少々気にかかっていた。 「ガンダムねぇ…変わった名前だしおもちゃみたい」 「なっ!」 「なんですってぇこのおっぱいオバケ!」 驚くゼロと憤慨するルイズをよそに自信満々な態度で 「私の使い魔見てみるぅ?フレイム~」 と呼ぶとのそっ、とキュルケの後ろから赤い大トカゲが出てきた。 それは昨夜ゼロに肉をあげようとしたあのトカゲ。 きゅるきゅると鳴きながら近寄ってきたフレイムの頭をゼロが撫でる。 「お前か、よしよし」 「…何でガンダムがキュルケの使い魔の事を知ってんのよ」 「昨日飯を食べていたらこいつが肉をくれようとした」 「あらぁ~ご主人様と違って使い魔同士仲良くやってるようじゃな~い?」 キュルケがさも勝ち誇ったような顔でルイズに満面の笑みを見せる。 「…食堂に行くわよ!」 「あ、あぁ」 声を荒げながら足早に去るルイズを追ってゼロも後を追いかけて行った。 「うちのフレイムがそこまで懐くなんてあのゴーレム、何なのかしら…」 しかも今飯って…ゴーレムってご飯食べないわよね?」 「きゅる…きゅるきゅる」 「全くヴァリエール家の使い魔がツェルプストー家の使い魔から 情けをかけられるなんて恥よ!罰として朝食は抜き!」 「理不尽すぎるぞ!」 「いい事?我がヴァリエール家と憎きツェルプストー家の因縁はそれは長きに渡るものよ!」 と、食堂まで歩きながらその因縁とやらを話すルイズ。 耳が痛くなる思いをしながら食堂まで歩いたが、入り口前でルイズがご機嫌斜めに 「さっきも言ったけど朝食抜きだからアンタはここまで」 と言い放った。 「…やはり召喚された時に学院から出た方が良かったな」 空腹が身に染みるのを我慢しつつ、食堂入り口に突っ立っているゼロであった。 授業の時間になり、ゼロは教室の後ろの壁にもたれかかって様子を見ていた。 何人かの生徒がこちらを見ているのが少しうっとおしかったが生徒の方を一睨みすると そそくさと席に向き直る。 「(…俺を何だと思ってるんだ)」 ゼロの横にはフレイムが寝ていた他に、教室に入れるぐらいの中型の使い魔が暇そうにしていた。 窓の外を見ると教室に入りきらない大きな竜(ルイズに聞く所によると風竜というらしい)が 佇んでおり、教室の様子を横目で伺っている。 「…確かにこの使い魔の中では俺は目立つ、か」 生徒がこちらを伺うのは“ゼロのルイズが召喚した変な使い魔”というのが もっぱらの理由であったのにはゼロは気づいていなかった。 「皆さん、おはようございます」 教室に入ってきた中年のふくよかな女性、シュヴルーズの声が響く。 「春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に 様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 後ろに陣取った使い魔を次々と眺めるシュヴルーズの目がゼロに留まった。 「おや、珍しい使い魔ですねミス・ヴァリエール」 ルイズ以外の生徒から一斉に笑い声が上がる。 「出来損ないのゴーレムじゃ仕方がねーよなー!」 「うるさいわね風邪っぴき!」 「俺は風邪っぴきじゃなくて“風上”だ!ろくに召喚できないゼロの癖に!」 「ミス・シュヴルーズ!このうるさい風邪っぴきに注意して下さい!」 「喧嘩両成敗です」 シュヴルーズが杖を振るうと、ルイズ、そしてルイズと口論していた微笑みデブな男の子、マリコルヌの 口に赤土が一瞬でふさがった。 「罰としてこの状態で授業を受けてもらいます」 赤土を剥がす二人をよそにシュヴルーズの授業が始まった。 授業内容は年度最初の授業、という事でごく初歩的なこの世界における 属性の概要から始まっていた。 「『土』系統の魔法は……この魔法がなければ重要な金属も……皆さんの生活に密接に関係……」 「(生産・加工・建設・農業…魔法が産業の根幹まで関わってるとはな… なるほど、魔法が使える貴族がここまで権力を持つのも無理は無い)」 「(そういえばルイズが魔法を使っているのを見た事が無いな…)」 シュヴルーズの講義を聴きながらゼロはルイズの事を思い返していた。 魔法が使えるのが貴族、あのプライドの高い性格からして誇示の為に多少は使ってもよさそうなのだが 彼女は最初の召喚以外魔法を使っていないのだ。 「(…ま、これぐらいなら聞いても怒られないかな)」 ゼロは近くにいたルイズにこっそりと近寄って疑問をぶつけてみる事にした。 「ルイズ」 「何よ授業中に」 「俺を召喚してから魔法を使ってないよな、何か魔法を使わない理由でもあるのか?」 「アンタには関係ないわよ!」 「ミス・ヴァリエール!使い魔との交流は結構ですがそういった事は後でお願いします」 「すっ、すみませんミス・シュヴルーズ!」 ゼロの質問に思わず語気を荒げたルイズにシュヴルーズの注意が入った。 「では、次に土系統の基礎的な魔法、“錬金”に話を移しましょう」 授業の内容が“錬金”に移る。石を金属に変えるといった魔法でシュヴルーズが実演として 石を真鍮に変えてみせた。 「では…さっきおしゃべりをしていたミス・ヴァリエール、貴女に実際に錬金をしてもらいます」 その言葉を発した途端、教室の空気が一瞬止まった。 「ミス・シュヴルーズ!ルイズに錬金を行わせるのは止めておいた方が良いかと思われます!」 一番最初に口を開いたのはキュルケだった。いつもの軽口ではない、真剣味を帯びた一言。 「そうですミス・シュヴルーズ!ルイズに魔法を扱わせてはなりません!」 「彼女では荷が重過ぎます!」 「ルイズが錬金だなんて絶対無理ですムリムリムリムリかたつむりです!」 等と、次から次へとルイズの錬金に対する警告が周りの生徒から飛び出す。 「ミス・ヴァリエールは大変努力をなされてると聞きました、誰にだって得手不得手がありますから 多少の不出来など気にしなくて結構です。さぁ、やってごらんなさい」 席を立ったルイズが教壇の前に立ち、目の前に置かれた石ころに対して杖を構える。 ここは見守っておきたいゼロだったがその過程までに全ての生徒が椅子の下に隠れたり 席を立って後ろの方の机に退避している様子がかなり気になっていた。 「(…何でここまで大げさな反応なんだ?)」 先ほどの生徒の反応ぶりから今までの馬鹿にしたそぶりは感じられない、確実に“何か”あると 読んだゼロは教室の一番後ろ、入り口近くまで移動してルイズを見据える。 「(杞憂であれば…)」 「ではミス・ヴァリエール、この石を錬金で金属に変えてごらんなさい」 ルイズが呪文を唱えて構えた杖を振り下ろしたその瞬間、まばゆい閃光と轟音と共に石が爆ぜた。 爆発は教室全体に及び入り口からは黒煙がもうもうと立ち上がっていた。 「敵か!?」 ゼロは咄嗟にその場に屈んだのと、ルイズから離れていたためさほど被害は無かった。 爆発の衝撃で暴れる他の使い魔達をよそに、ゼロが立ち上がりながら背中の剣に手をかける。 が、目の前の光景は爆発によって所々崩れた教室と、隠れてジッと動かない生徒達 そして黒板の前に倒れて伸びているシュヴルーズと 教壇の前で傲岸不遜といった感じで腕を組むルイズの姿だけだけであった。 「ちょ~っと、失敗したみたいね」 いつもの調子で言い放つルイズ。 「ふざけるな!どこがちょっとだゼロのルイズ!」 「貴女が魔法を使うといつもこうではありませんの!?」 「今まで成功した試しが無いじゃないか確率ゼロのルイズ!」 「俺の使い魔がアッー!」 隠れていた他の生徒達が猛然とルイズに抗議していた。 「(…“ゼロ”、か)」 ゼロはルイズがゼロと呼ばれている理由と、自分をゼロと呼ばない理由をようやっと理解していた。 「…」 「…」 ボロボロになった教室でゼロとルイズが黙々と片づけをしていた。 シュヴルーズが再起不能になったため授業は中止、魔法を使ったルイズがその責を負い 罰として魔法を使わないでゼロと片づけをしていたのである。もっとも、魔法を使えばこうなので 必然的に自力でどうにかするしかないのは自明の理なのだが。 ゼロは破片や使い物にならない椅子や机を外へ運び出しては新品のものと取替え ルイズは無事だった道具を雑巾で拭いていた。 「主人の問題は使い魔の問題」とゼロも巻き込まれた訳ではあるが ゼロはあまり抗議する気にはなれなかった。無言ではあるが彼女の顔からは悔しさが見て取れたからである。 「ルイズ、この机は何処に置けば…」 「なんで…」 「え?」 「なんで何も言わないのよ…」 ルイズが机を拭きながら唐突に聞いてきた。今まで無言だっただけに少しドキリとするゼロ。 「その…だな…」 「分かったでしょ?私がゼロって呼ぶのも呼ばれるのも嫌な理由」 ボロボロの衣服も相まってかルイズの放つ言葉が痛々しく聞こえる。 「…俺は気にしてはいない、俺をガンダムと呼びたいならそう呼べばいい」 「嘘よ…どうせ心の中では見下してるんでしょ?魔法も使えない、貴族の出来損ないだって」 「ならもっと研鑽を重ねればいい、笑う奴は放っておけ」 「そうやって来たけど…でも…魔法だけは駄目だった…一杯勉強しても、知識を目一杯覚えても… 魔法は応えてくれなかったわ!いつも爆発して、失敗して、ゼロって…」 机を拭く手は止まっておりルイズは体を震わせていた。話している内につい感情的になり 胸の内を、今までの自分を目の前の使い魔に吐露していた。 「ルイズ」 「放っておいてよ!使い魔をやめたいならさっさとここから出てけばいいじゃない! どうせゼロよ!私には何もないのよ!」 こういった癇癪には慣れておらず、どうにもルイズを扱い損ねているゼロであった。 「俺の剣の流派は雷龍剣(サンダーソード)っていう流派なんだ」 「いきなり何よ」 「雷龍剣ってのは一子相伝、つまり継承する人が一人だけだ。」 「…効率悪いのね」 「まぁ、な。そして継承者には技と共に専用の剣も受け継がれる。 それでその継承者を決める戦いってのがあって俺はもう一人の継承者候補と戦ったんだ。 だが俺はそいつに負けてた。なのに最終的に継承者になったのは負けてた俺だったんだよ」 「何でよ」 「相手が言うには“あの剣がお前を選んだ”からなんだそうな、それで相手が辞退した。」 「剣が人を選ぶって…インテリジェンスソードじゃあるまいし」 「さてね」 「で、今の話が何なのよ」 「えーっとだな、うん、今は魔法が使えないからといって決して劣っている訳じゃあない。 実は凄い力秘めているのかもしれないからな、うん」 「で?」 「でだな…その…剣が人を選ぶように使い魔だって人を選ぶと思うんだ。 別に嫌味じゃない、俺がお前に呼ばれたのも何か因果があっての事だろうと俺は考える。 だからだな…あー…せっかく召喚したんだ、俺を信じろ。話ぐらいなら聞いてやるから…」 「もしかして私の事を…慰めるつもりで?」 「あ、あぁ…」 「…ったく、全然慰めになってないじゃないのよ」 たどたどしく話すゼロの姿を見て完全に飽きれきったルイズ。 その姿を見てゼロはとりあえず一安心していた。 「今のはちょっとからかっただけよ、アンタの姿が馬鹿らしくてもう演技する気にもなれないわ」 「ま、そのくらい元気なら涙ぐらいは拭いておくんだな」 「おっ、女はねぇ!嘘泣きが得意なの!だからこれも嘘泣き!」 そう言ってブラウスの袖で顔をぐしぐしと拭いた後、ルイズはいつもの調子に戻っていた。 「あとはやっておくから、ルイズは部屋に戻って着替えたらどうだ? 流石にその格好は俺の目から見てもよろしくない」 「言われなくても着替えるわよ!もう!」 色んなところがボロボロになった服に気づいたルイズは机を拭いた後さっさと教室を出て行った。 「ただのじゃじゃ馬娘かと思えば……やれやれ、複雑だな」 そう呟きながら一人机を運ぶゼロ。とても似つかないものではあったが かつて雷龍剣と共にがむしゃらに父の仇を追っていた自分の姿をルイズに重ねていた。 前ページ次ページルイズの魔龍伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7171.html
前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 未知の場所を訪れるにあたってまず重要な事。それは情報収集。 そんな訳でルイズに連れられてトリステイン魔法学院に辿り着いた柊達は、ルイズにこの世界がどんな場所なのかを聞いた。 当然それに返って来るルイズの反応は懐疑と憤懣ばかりだった訳だが、召喚直後の興奮状態からは幾分落ち着いたのか何とかまともに話をする事ができた。 そしてわかったのはこれらのこと。 この世界はハルケギニアという世界であること。 その住人は貴族と平民に分類されていること。 系統魔法と呼ばれる魔法があること。 ……要するに、ハルケギニアはごくごく普通の中世風ファンタジー世界であること。 異世界に来るのが初めてになるエリスは一つ一つ興味深げに聞いていたが、すでにそういった世界を経験している柊にとっては別段驚くような事はなかった。 重要なのはこのハルケギニアが『異世界』である事の確認だ。 これが柊の知る異世界……ラース=フェリアやミッドガルドの何処かの地方であったなら話は早かったのだが、残念ながらそう上手くはいかないようだ。 ともあれ、そんなハルケギニアの話を聞いていれば次にルイズが尋ねて来るのが、柊達の素性だ。 まっとうな反応としてとんでもない田舎者と思っている彼女に、とりあえず正直に異世界の人間だと打ち明けた。 ファー・ジ・アースと呼ばれる世界。 侵魔と呼ばれる敵対者。夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)。 一般的に『地球』と呼ばれる世界の事情に関してはあえて深くは語らなかった。 人々の認識によって形成される『世界結界』の効果で表向きは魔法だの侵魔だのの存在しない世界とされていること。 その裏側でウィザードと侵魔の闘いが行われているのだ――などと一から説明し始めればややこしくなってしまい時間がかかるためだ。 それに、ハルケギニア――『魔法がある世界』からすれば『魔法のない世界』と説明されるよりはまだしも理解の範疇だろう。 ……根本的に『異世界』という事がルイズ達の理解の範疇を越えているだろうが。 そして話を一通り終えた後で返って来たルイズの反応は、 「……あんた達、頭大丈夫?」 だった。 「ほ、本当です!」 「……まあそう来るよな、普通」 初めて異世界に召喚された人間としては当然なエリスの声と、もう慣れきった柊の嘆息が重なる。 柊の態度を見てルイズは僅かに眉を怒らせたが、一方でエリスの必死で懸命な視線を受けて小さくため息をつく。 「信じられる訳ないじゃない。ハルケギニアとは別の世界があるとか、侵魔だとかウィザードとか……」 そして彼女はテーブルに頬杖をついて、いかにも話半分といった調子で口を開く。 「そこまで言うなら、証拠を見せて」 「しょ、証拠……ですか?」 「そうよ。私が話してあげた事は実際ここがハルケギニアだって事が証明してるわ。 でもあんた達の話は今の所ぜんぶ妄言。自分達が異世界の人間だって証拠、見せてよ」 「……先輩」 返答に困ってエリスは柊を不安げに見やった。 柊の方はといえば、ルイズの言葉に困るどころかその言葉を待っていたとばかりに大きく頷いた。 「証拠なら見せてやるよ。この世界じゃ絶対に作れないものをな」 自信満々に言い放ち、柊は懐から地球の文明の利器とも言える携帯電話――もっとも柊の使っているモノは『0-Phone(レイ-フォン)』と呼ばれる 魔法的な技術の加わった更に高性能なモノだが――を取り出、 「…………」 「……? 何よ、いきなり固まって」 ――取り出しかけて、踏みとどまった。 柊はこの光景とやり取りに見覚えがあった。 それは初めて異世界――ラース=フェリアを訪れた時の事だ。 その時に出会った仲間……の内の女性二人もやはり当初は柊が異世界の人間だ、という事に少々懐疑的だった。 ラース=フェリアもまたハルケギニアと同じような世界であったため、柊は彼女等に0-Phoneを取り出して見せ付けてやったのだ。 それを見て彼女等は僅かに目を見開き、言った。 『あら、これは魔導電話ですね』 『うむ、魔導電話だな』 『こんなもん持ち出して異世界人とか、ひーらぎ胡散臭いにょー』 『胡散臭いのはてめえらの方だ!? 魔導ってつけば何でも許されるとか思ってんじゃねえぞ!?』 「………………ハルケギニアに魔導電話は……いやなんでもない」 「? 何なのよ、一体」 「せ、先輩……?」 訝しげにみつめるルイズと不思議そうに見やるエリスの前で、柊はくっと呻いて顔を逸らした。 とはいえ動いてしまった以上何かしないといけないので、予定変更。 「異世界の人間の証拠だったよな。だったらこれから俺達の世界の『魔法』を見せてやるよ」 「魔法……?」 柊のその言葉を聞いて、ルイズは僅かに目を細めた。 そして彼女は椅子に背を預け、嘲りを含んだ微笑を柊に向ける。 「随分とふいてくれるじゃない。杖も持たずに魔法だなんて、さすが平民は言う事が違うわね」 「……杖?」 「そうよ。メイジが魔法を使うには杖が必要……はったりをきかすなら、せめてそれくらいの常識は知ってなさい」 勝ち誇ったようにふふんと鼻を鳴らすルイズだが、当の柊はまったく堪えなかった。 むしろ望外の収穫を得て心の中で喝采をあげるほどである。 なぜなら、これから柊が見せる『魔法』と同じような事がこの世界の魔法でできるなら何の証明にもならないからだ。 だがこの世界の魔法行使にそんな条件があるというのなら、問題はまったくない。 ぐうの音も出ないように見せ付けてやるだけだ。 「てことは、俺が杖なしで魔法を使えば異世界の人間だって認めるんだな」 「ええ、いいわよ。その代わりできなかったら契約して使い魔になってもらうからね」 「いいぜ、好きにしろ」 即答にむっとするルイズをよそに、柊はほくそ笑んでから立ち上がる。 そして彼はテーブルの上に乗っていた一輪挿しを手に取り、ルイズの目の前に差し出した。 見世物を見物するかのような、そんな余裕綽々の彼女の目と鼻の先で一輪挿しが二・三度揺れ動き――唐突にそれが薄れて"消えた"。 「……!?」 ルイズの表情が固まる。 僅かに身を乗り出して凝視するが、柊の手に握られていたはずの一輪挿しは影も形もない。 目を離した訳ではない。布が被せられた訳でもない。 目の前にあったはずのモノが、霞のように消えたのだ。 「先輩、それって……」 小さく声を上げかけたエリスを、柊は人差し指を立てて静止する。 実際の所彼がやったのはただ単に一輪挿しを月衣――ウィザードが纏う個人用の結界で、その中に様々な物品をしまう事ができる――の中に収納しただけ。 厳密に言うならこれは『魔法』ではないのだが、知らない人間からすれば同じようなものだろう。 現にルイズは何が起こったのか理解できていないらしく、食い入るように柊の手を睨みつけていた。 「どうだ?」 何も持っていない事を示すように手をひらひらさせながら、柊はルイズに声をかけた。 すると彼女は悔しそうに歯をかむと、 「な……何よ、魔法じゃなくてただの手品じゃない。こんなので……」 「疑り深いな……ならもう一回見せてやるよ」 とはいうものの、柊としてはそれなりに予想通りの反応だ。 百聞では絶対に信じないし、一見でもまず信じない。 それなら二見でも三見でもするだけだ。 柊は椅子に座る二人を促して立ち上がらせた。 そして今まで三人が囲んでいたテーブルを両手で抱えると――今度はそれを月衣に収納して見せた。 身の丈を越える長大な箒でも楽に収納できる月衣だ、この程度のものは造作もない。 「な――」 手の中に納まる一輪挿しならまだしも、両の手に抱えるテーブルまで消失してしまってはルイズも絶句するしかなかった。 テーブルがあったはずの場所に手を伸ばして確認しても、空を切るばかり。 部屋の中をどう見回してもテーブルは存在しない。 今日初めて出会い、初めて招き入れた室内に仕掛けがあるはずもなかった。 つまりこれは―― 「あ、あんた達……」 驚愕に身を震わせながらルイズは二人を凝視する。 ようやく信じてもらえたようで柊とエリスは顔を見合わせ頷きあい、そしてルイズを向き直ると―― 「……まさか、エルフ!?」 「え?」 「はあ?」 数歩後ずさって呻いた彼女に、二人は間の抜けた声を漏らした。 「エ、エルフ?」 「だ、だって、こんな魔法知らないわ! しかも杖を持たずに魔法を使うなんて、先住魔法しかないもの!」 「お、おい、何言ってんだ? 俺達は――」 慌てふためくルイズに柊が詰め寄ろうとすると、彼女は更に後ずさって距離を取る。 彼女は絶望感に震えながら頭を抱えた。 「ど、どういうこと? 耳だって普通なのに……まさか外見を変えてるの!? そんな、よりにもよってエルフを召喚しちゃうなんて……こんな事他の人に知られたら……!!」 「お、落ち着いて下さい!」 「お前人の話を聞いてたのかよ!? 俺達は異世界の人間で、さっきのは異世界の魔法だって言っただろ!」 「き、聞いてたわよ! いいからちょっと落ち着きなさい!!」 「まずお前が落ち着け!?」 ※ ※ ※ 「……確認しとくわ」 約十分後。 ようやく落ち着きを取り戻したルイズはテーブルを挟んだ柊とエリスに静かに言った(ちなみにテーブルは再び月衣から取り出した。その時もルイズは驚いた)。 彼女は神妙な表情で二人を順に眺めやった後、おそるおそるといった風に語りかける。 「……貴方達はエルフじゃないのよね?」 「はい。正真正銘の人間です」 「異世界の、だけどな」 二人の返答を受けてルイズは小さく頷き、そして息を吐き出した。 「わかった。信じる」 「……随分簡単に折れたな」 「いいの。異世界の人間ならちょっと変な奴で片付くから。『実はエルフでしたー』とか言われるよりずっといい……」 どうやらこの世界でのエルフは相当に曰くのある存在であるらしい。 ルイズは妙に悟ったような表情で呟くと、テーブルの上で組んだ手に額を当てて大きくため息をついた。 気まずい沈黙がしばし流れた後、彼女はやおら立ち上がり二人に目を向ける。 「今日は色々あって疲れたから、もう寝る」 「……は? おい待て、本題はまだ――」 「どの道先生たちの協議が終わるまでは私の一存じゃどうにもできないもの。だから話があるなら明日」 食い下がろうとした柊を無視してルイズはクローゼットへと足を向けた。 呆然とその動きを見つめる二人の前で、彼女はクローゼットの扉に手をかけた後思い出したように振り向く。 「そんな訳だから、あんた……ヒイラギだっけ? 出てって」 「あ?」 いまいち状況を飲み込めない柊は眉を寄せる。 しかし彼女は一向に構う事無く言葉を続けた。 「あんた、私の使い魔じゃないわよね?」 「当たり前だろ」 「ここは女子寮、男子禁制。で、あんたは男。出て行くのは当然でしょう? あ、そっちの子……エリスは特別に泊めてあげるわ」 「え……あ、ありがとうございます……?」 「な……っ」 訳のわからないままとりあえず礼を言うエリスの横で柊が立ち上がった。 「じゃあ俺はどこで寝るんだよ。行くアテなんてねえぞ」 「野宿でもすれば?」 「お前、勝手に呼び出しといて何っ……!」 「――大声出すわよ」 柊の訴えを切って捨てるようにルイズが目を細めて呟いた。 二人のどちらが正論かと言うなら、議論の余地などあるはずがない。 柊は悔しそうに身体を震わせると、蹴るようにして踵を返して部屋の入り口に歩き出した。 「覚えてやがれ!」と負け台詞を残して柊は部屋の外へと消えていく。 ルイズはふんと鼻を鳴らして彼を見送った後、呆然と立ち尽くしているエリスに目を向けた。 「ホントは平民が貴族の部屋に泊まるなんて有り得ないんだけど……特別なんだからね」 「は、はい……」 おずおずと答えるエリスに小さく頷くと、ルイズは改めてクローゼットからネグリジェを取り出して着替え始めた。 エリスは人目をはばからずに服を脱ぎ捨てていくルイズを呆然と見つめている事しかできなかった。 状況の変化に追いつけない、ということもあるが、何しろ唐突にこの世界に召喚されたため荷物などあるはずもない。 どうしようかと立ち竦んでいると、ルイズが薄い布をエリスに差し出してきた。 「そのままで寝るの? 貸してあげるから着替えなさい」 「え、あ、はい」 言われるままにそれを手にとって広げて見ると、エリスは目を丸くした。 ルイズが今来ているものもそうだが、今手渡されているネグリジェは生地が薄く仄かに透けており、まさしく貴族が羽織っているような代物だった。 「どうしたの? 早く着替えなさい」 「あ、はいっ」 ルイズに促されてエリスはあわてて服を脱ぎ始める。 ブラウスとスカートを脱いで下着姿になり―― 「……あの」 「なに?」 エリスは僅かに頬を染めて声を出した。 「その、じっと見られると恥ずかしいんですけど……」 ちらりとルイズに目を向けて呟く。 既に着替えを終えていたルイズがベッドに腰掛け、まるで観察するように見つめていたのである。 「女同士じゃない。気にしないで」 「はあ……」 とりあえず納得する事にしてエリスは着替えを続けた。 ルイズは下着も脱いで着用していたようだが、流石に下着までは脱げなかった。 ネグリジェを羽織り、腕を通す。 エリスはルイズよりもやや背が高いが、どうやらこれはやや大きめの採寸のようで窮屈さは感じない。 エリスは胸のボタンを留めようと手を伸ばし―― 「……あの」 「なによ?」 「…………ちょっとサイズが小……っ、なんでもありません」 寒気が走って口を噤んだ。 しかし遅すぎた。 「だったら脱いで裸で寝なさいよ! 似たり寄ったりの体格の癖に調子乗ってんの!? 大体なんなのよその胸当てはぁ! 強調してアピールでもしてるつもり!?」 「ごめんなさい! ごめんなさいっっ!!」 飛び掛ってネグリジェを剥ぎ取ろうとするルイズに、エリスは縮こまって必死に謝ることしかできなかった。 ※ ※ ※ (……はあ。これからどうなるんだろう) 灯の消えた薄暗いベッドの上。 隣で眠っているルイズに背を向けて、エリスは窓の向こうに映る二つの月をぼんやりと眺めていた。 よくわからないが何故か既視感を覚える双月を見やりながら、彼女は小さく息を吐く。 かつてはウィザードとして日常の外側に身を置いてたが、その力を失った今になってまたこんなことになるとはまったく思わなかった。 それも異世界に召喚される、などというとびっきりだ。 そういう類の物語ではよくある事だが、やはりエリスもそうなってしまった今思い浮かべるのは元の世界の事だった。 向こうでも今は夜なんだろうか、とか。明日は学校に行けないなあ、とか。 家族――はいないが、お世話になっている赤羽家の人達はもうこの事を知っているのだろうか。 召喚された時にアンゼロットもいたので説明はされているのかもしれない。 不安があるか、と言われれば当然あると答えるのだが……彼女に悲壮感の類は一切なかった。 なぜなら、異世界に召喚されたのは彼女だけではなく、柊 蓮司も一緒だからだ。 三月の初旬、紅い月の下で初めて柊 蓮司と出逢って以来、彼は一度として志宝エリスの信頼を裏切らなかった。 それどころか彼女の側から彼を――彼と、彼と彼女の仲間と、世界総てを裏切った時でさえ柊 蓮司は志宝エリスを信じ続けた。 心の裡の小さな匣の中で重ねた指の温もりを覚えている。 心の裡の茨の檻から乱暴に引き摺り出され、けれど優しく抱きとめられた時の暖かさを覚えている。 そんな彼がエリスに「大丈夫だ」と言った。 ならばそれは彼女にとって、どんな不安や苦痛にも勝る絶対の言葉だった。 「……ねえ、エリス」 「……はい?」 背中から届いた声にエリスは現実に引き戻された。 彼女は振り向こうかと身を捩らせたが、次いで響いたルイズの声で身体が硬直した。 「あのヒイラギって奴。どういう関係?」 「え、っ」 心臓が跳ね上がり、顔に熱が帯び始めるのを感じた。 部屋は暗いので見られる心配はないのだが、エリスはルイズを振り向けないまま身を丸めボソボソと囁くように言う。 「え、えっと。どんな関係って、柊先輩は学校の先輩で……」 「……特別な関係じゃないの?」 「と、特別っ!?」 エリスは思わず上ずった悲鳴を上げて、身体を震わせた。 焼けそうに熱い頬に両手を当てて、動悸した心臓を落ち着かせようと深呼吸する。 特別な関係、とはどういう事なのか。例えば……恋人だとか。 その単語が頭の中に浮かんだ瞬間、エリスは頭を抱えて閉じこもるように身体を丸める。 そして脳内に駆け巡る妄想を振り切るように、しかし多分の期待も込めて、囁く。 「そんな。柊先輩と特別なんて……そんなのないです。だって……」 「ふぅん……」 納得したのか、それとも寝る前の単なるお喋りなのか、さほど興味もなさそうな声でルイズが返した。 そして部屋が沈黙と暗闇に包まれる。 エリスはどうにか平静を取り戻したあと、小さく息を吐いて手を胸に当てた。 (だって、柊先輩には……) 彼女は感触のいいベッドに顔を沈ませて、口の中で呟く。その先の言葉は、口の中でさえ呟くことはできなかった。 何故かちくりと胸が痛む。その理由は――半ばわかってもいたが、考えたくはなかった。 早く寝てしまおうと目を閉じると、僅かな衣擦れの音と―― 「……?」 背中にルイズの手を感じた。 ※ ※ ※ ルイズが柊達の事を異世界の人間であると信じたか、と言うと。 もちろんそんなことはなかった。 とはいえ、目の前で納得し難い『魔法』を見てしまったのは事実。 実は彼らはエルフである、という可能性はおそらくない。 最初にそう思い至った時は気が動転していたが、よくよく考えれば二人が召喚されていた時から耳は普通だったのだ。 鏡をくぐる前から擬態していたとは思えない。というか考えたくない。 召喚時は日中であったので吸血鬼、という可能性もない。 では他の先住魔法を使う亜人種は――と考えたとき、天啓のようにとある可能性が思いついたのだ。 少なくとも彼女が知識として知っている系統魔法ではああいう事ができる魔法は存在しない。 だが、彼女は『知らない』が、『思い当たる』系統魔法は存在する。 ――失われた系統とされる『虚無』の属性。 モノを虚空へと消し去り、モノを虚空から出現させるなど、虚無の名にふさわしいではないか。 柊がその『魔法』を使う時に杖を使わなかったが、そもそも虚無の魔法自体どのようなものか全くわからないモノなのだ。 四つの系統魔法を使う時には杖は必要不可欠だが、虚無もそうであるとは限らない。 杖が必要ないとも限らないと言われれば確かにそうだが、仮定としては『アリ』だろう。 つまり、柊 蓮司は虚無の魔法を使うメイジである。 そう考えると、彼と共に志宝エリスが召喚された事も説明ができた。 エリスは柊の使い魔ではないのだろうか? 使い魔を持たないルイズは当然実感する機会などないが、一般にメイジと使い魔は一心同体とも言われている。 ならば柊が召喚されるのにあわせて使い魔であるエリスも一緒に召喚されてもおかしくはない。 仮説が前提の論理とはいえない代物であるが、一応は筋が通ってしまった。 柊に直接確認するのは怖かった(なにしろ事実なら彼は始祖ブリミルの再臨、という事になってしまう)ので、ルイズは先にエリスの方に矛先を定めた。 柊を追い出し、エリスに着替えさせたのだ。 エリスが柊の使い魔ならば、身体のどこかに使い魔の証であるルーンが刻まれているはず。 注意深く観察してみたが、身体にルーンらしきものはどこにもなかった。 しかしベッドに入った後"それとなく"柊との関係を尋ねてみると、彼女は目に見えて動揺したのである。 明らかに怪しい。 何かを隠しているのかもしれない。 そういえば、着替えの時にエリスの身体を全部確認した訳ではない。 ショーツ……は置いておくとして。彼女が身に着けていた妙な胸当て。 胸の形に沿って身体を覆っている布のようなモノ。コルセットにも似ているが覆っているのは胸の部分だけ、というのは奇妙だった。 怪しすぎる。 ついでに、年はあまり変わらなさそうなのにエリスのソレは明らかにルイズよりも大きかった。 何か秘密があるに違いない。 ルイズは確信した。 ※ ※ ※ 「ねえ、エリス……」 「は、はい……?」 背中に触れられるルイズの手のひらに何故か悪寒を感じながら、エリスは呻くように言った。 細くしなやかなルイズの指が背中から肩に伸び、ゆっくりと肩先を撫で上げる。 「ちょっとお願いがあるんだけど……」 やさしく宥めるようなルイズの声がエリスの耳朶を打つ。 悪寒が更に強くなった。 そういえば、彼女はやけに唐突に柊を部屋から追い出していたような気がする。 更に、着替えの時には彼女の食い入るような目線を感じていた。 加えて、今まで少し棘のある態度だったのに、何故かいきなり優しい。 なにか。 とても。 嫌な予感がする。 「あ、あのっ……その、私」 「大丈夫。これは秘密にしておくから」 (何を!?) と、エリスは叫ぼうとしたが、口から出す事はできなかった。 ルイズの手が肩から二の腕に降りてきたのだ。 ぞくぞくと駆け回る悪寒に硬直してしまったエリスをよそに、ルイズの手は彼女の身体を撫でてあげていく。 二の腕から胴体に、そして抱きすくめるように胸元へと―― 「……わ、私用事を思い出しましたっ!」 そこが限界だった。 吹っ切るように叫んでエリスは身を起こし、逃げ出そうとする。 「ま、待ちなさい!!」 だがそこにルイズの腕が伸び、エリスを捕まえた。 二人はベッドの上でもみ合いになり、ルイズを払いのけたエリスがベッドから飛び降りるように逃げ出した。 しかしルイズとしては逃がす訳にはいかない。 逃げるエリスの背中にタックルを仕掛けるように飛び掛ると、彼女を押し倒した。 再び床の上で押し合いへし合いが始まり――そして勝ったのは、ルイズだった。 「はぁ、はぁ……逃げる事ないじゃない」 床に倒れたエリスに馬乗りになり、荒れた呼吸でルイズは語りかける。 だが、落ち着かせるために言った彼女の言葉にエリスはびくりと震えた。 「大丈夫、痛くしないから……すぐ終わるわ」 「ひぅっ……!」 揉み合いに勝利した事で薄く笑んだルイズの表情に、エリスは涙目になった。 そしてルイズの手がゆっくりとエリスの胸へと伸びていく。 胸を覆う布――要するにブラジャーに触れた瞬間、エリスの中で何かが弾けた。 「い……いやぁっ!!」 「あいたぁ!?」 思いっきり振り回した腕がルイズの側頭部に直撃し、ルイズはもんどりうって倒れこんだ。 拘束を振り払ったエリスが這うようにして(腰が抜けていて立てなかった)ドアへと辿り着き、カギを開ける。 「待ちなさい! 待ってってば!!」 「待てと言われて待つ人はいません……っ!」 背後から響く静止の声を無視して、エリスは廊下へと飛び出した。 隣の部屋から響く騒音で睡眠を中断されたキュルケ・ツェルプストーは酷く不機嫌だった。 艶やかな焔髪を苛立たしげにかきあげると、彼女は文句を言うために自分の部屋を後にする。 そして廊下に出た彼女が見たのは、 「うるさいわねー、何やってんのよヴァリエー……る?」 「!?」 見覚えのない、紫髪の少女だった。 彼女はこの寮にいる女生徒全員の顔を知っている訳ではなかったが、少なくとも目の前にいる少女はこの階の寮生ではない。 しかも少女は酷く怯えた顔をしており、着ているネグリジェも少しサイズが合っていないような気がした。 おまけに彼女が出てきたらしき、たった今すごい勢いで閉じられたのはルイズの部屋のドアだ。 全く訳がわからなかった。 そんな風にキュルケがぽかんとしていると目の前の少女が、 「た、助っ、助けてくださいっ!!」 いきなり縋り付いてきて、 「――待ちなさい、エリス!!」 ルイズが物凄い形相で廊下に飛び出してきた。 ルイズはキュルケの姿を確認すると驚きの表情を浮かべ、次いで彼女の身体に隠れるようにしているエリスを見て、キュルケに視線を戻して肩を震わせる。 「ツェルプストー! その子をそっちに渡しなさい!」 何を怒っているのかわからないが、初っ端からそんな態度では当然キュルケとしては気に食わない。 何事かを言い返そうとして口を開きかけた瞬間、自分に縋り付いている少女が震えているのに気づいた。 よくよく見て見れば、その少女が纏っているのはルイズのネグリジェだった。 しかも、服装や髪が少し乱れていた。 ルイズに再び視線を戻すと、彼女もやはり少し髪と服が乱れている。 「……………あ゛ー」 キュルケは『納得』した。 これでルイズの『お相手』が顔見知りであったなら大いに煽ってやる所だが、それが見知らぬ少女――しかも怯えている――では流石に茶化す訳にはいかなかった。 なのでキュルケは普段の彼女からは想像もできないほど優しい声でルイズに語りかける。 「ルイズ……ルイズ・フランソワーズ。独り身で寂しいのはわかるけど、いくらなんでもそれはよくないわ」 「な……独り身ですって!?」 ルイズが眉を吊り上げ、怒りに身を震わせる。 普段と違う生暖かい態度もそうだが、『独り身』という言葉は聞き逃せない。 おそらくキュルケは昼ごろに行われた『使い魔の儀式』が成立しなかった事を聞いているのだろう。 既に使い魔を得ている彼女が自分を揶揄しているのだ、とルイズは思った。 「あんたには関係ないでしょ!! これは私とその子の問題よ!!」 火を噴くような勢いでルイズは叫んだが、一方のキュルケはやはり生暖かい表情でうんうんと頷いた。 「そうよね、お互いの合意は必要よね」 そして彼女は僅かに頬を染めると、恥ずかしそうに告白した。 「その、正直言って私も”そういうの”に興味がないって訳じゃないけど……ほら、やっぱり非生産的な事なわけだし……ね?」 「は? そういうの? 非生産的? あんた何言っ――」 いい加減話の雲行きがおかしい事に気づいてルイズが眉をひそめた。 そしてキュルケの態度と、エリスの表情と、これまでの行為を反芻して――ようやく状況を悟った。 瞬間、ルイズの顔が真っ赤に染まる。 「ち、違っ! そうじゃない、そんなんじゃないの! 私はただその子に……!!」 「うんうん、わかってるわかってる。だから部屋に戻って……いえ、私の部屋においでなさいな。 一旦落ち着いてゆっくり話し合いましょう?」 キュルケはまるで赤子をあやすようにそう言うと慌てふためくルイズの腕を掴み、脇にいるエリスを促して二人と共に自分の部屋に歩き出す。 「だから違うんだってば!! もう何なのよぉおおおぉぉぉ!!」 夜の静寂を切り裂いて、ルイズの悲鳴がとどろいた。 ※ ※ ※ 「……もう、何だってんだよ……」 ルイズの部屋を追い出された柊は、女子寮の扉の前で大きくため息をついた。 勢いに任せて外に出てはみたが、ルイズに言った通り行くアテがある訳でもない。 幸い気候は暖かいので野宿してもどうにかなるということはなさそうだが、やはり気が滅入る。 「こんな事ならエリスの時のテント一式、貰っときゃよかったぜ……」 彼女の住むマンションのベランダでのテント生活を思い出して柊は息を吐き出し、夜空に浮かぶ二つの月を見上げた。 ルイズから聞いたハルケギニアの話は特に驚くような事はなかったが、話す内に日が暮れて二つの月が浮かんだ時は目を見張った。 というのも、ほんの三ヶ月程前に関わった事件で空に二つの月が浮かぶ、という現象が起きたためだ。 とはいえこの世界では二つの月が昇るのは普通の事であるらしい。それなら何も心配はなかった。 「何者です」 「……!」 と、そこで不意に誰何の声が上がり柊ははっとして声の主を探した。 女子寮の入り口から少し離れた場所、薄暗がりの中に、ローブに身を包んだ人影があった。 フードに隠されていて顔立ちはよく分からないが、声の高さから恐らくは女。 そして友好的な雰囲気でないことはわかる。 「ここは名のある貴族の子弟が通う魔法学院。たとえ偶然とはいえ平民が足を踏み入れて良い場所ではありませんよ」 剣呑な響きでその女性は言うと、懐からルイズが持っていたようなタクトを取り出した。 それで柊はこの世界の魔術師――メイジが魔法を使う時には杖が必要だという話を思い出す。 恐らく彼女はメイジで、取り出したアレは『杖』なのだろう。 柊は慌てて両手を上げると敵意がない事を示す。 「ま、待ってくれ! 俺は……あー、その、ルイズって奴に召喚されて……!」 言いかけて柊は心の中で舌打ちした。 明らかに怪しすぎる言い訳だ。信用されるはずがない。 だが、相手の反応は違った。 「召喚? まさか、貴方が件のミス・ヴァリエールの……?」 「そ、そう! それ!」 「……なるほど」 女性は小さく息を吐くと剣呑な空気を収め、手にした杖を懐に戻した。 あっさりと信用した事にむしろ柊の方が驚いていると、女性はくすりと笑みを零す。 「昨日今日の出来事ですから、むしろそれらしい言い訳をするよりは信憑性があります」 普通の人間ならそんな事は言いませんしね、と言いながら女性はフードを払った。 そして彼女は青い髪を揺らして僅かに首を傾げ、温和な表情で眼鏡越しに柊を見つめる。 「それで、こんな所でどうしたのです。ミス・ヴァリエールと一緒ではないのですか?」 「あ、いやー。それが、なんでかわかんないけどいきなり追い出されまして……」 「……はあ」 「それで泊まるアテもないんでどうしようかと……」 「……」 柊の言葉を受けて女性は指を顎に当て、しばし黙考した。 そして僅かに顔を俯けると、探るように尋ねる。 「そういえば貴方と……もう一人いたんでしたか。契約を拒否した、と聞きましたが」 「あ、そうっす」 「今後も契約をするつもりは?」 「ありません」 そこははっきりと断言した。 すると彼女は何故か納得したように頷くと、ちらりと周囲を見回した後で柊に歩み寄り心持ち低めの声で言う。 「……ならば、連れの人と一緒に今すぐここを離れた方がいいでしょう」 「え?」 女性の提案に柊は僅かに驚いて目を見張る。 しかし女性はまっすぐに柊を見つめ、言葉を続けた。 「貴方達に対する処遇は明日先生方の協議で決定されます。……が、まず間違いなく結論はこうでしょう。 ――無理矢理にでも貴方達……あるいはいずれかを契約させる」 「な……なんだよそれっ!?」 「使い魔の儀式は『彼等』にとって神聖な儀式です。やり直しなど認められません。 ましてヴァリエール公爵家はトリステインでも三指に入る程の名門……その御息女が使い魔に拒絶された、などという事になれば彼女自身の風評はおろか学院の名にも傷がつきます。 『彼等』は彼等の名誉にかけて貴方達を認める訳にはいかないでしょうね」 「……無茶苦茶だな」 「……あの方達は『貴族』ですから」 女性は僅かに目を逸らした。 その表情と、その言葉の響きに一瞬だけ陰鬱なものが混じる。 その変化に柊はひっかかりを覚えもしたが、他人の事情に深く踏み込んでいる場合でもなかった。 柊は顎に手をかけて少しだけ黙考し、女性に向かって問いかける。 「ここ以外に召喚……魔法について詳しい所ってありますか?」 「魔法、ですか? ロマリアを除く各国にも魔法学院はありますが、規模と資料なら恐らくここが一番ですね。 もっとも、平民の貴方では他の魔法学院に行ったところで敷地に入る事もできないでしょうが……」 「そうか、そうなるか……」 柊は返答に難しい顔をして顔を俯ける。 確かに身の危険は差し迫っているかもしれないが、ここが元の世界に戻るための手がかりに最も近い場所には違いないようだ。 ……ちなみに同じ頃、エリスには別の意味で危険が差し迫っていた訳だが、それを柊が知る由もない。 ともかく、そんな柊の表情を察したのか、確認するように女性が言った。 「……ここを出る気はないようですね?」 「はい。元……あー、元いた場所は普通じゃちょっと行けない場所にあるんで。魔法を使わないとちょっと……」 「そうですか……一応忠告はしましたから」 「すいません、ありがとうございます」 頭を下げる柊は女性は僅かに口の端を歪めると、踵を返して歩き始めた。 遠ざかっていく彼女の後姿を見ながら改めて今夜の寝床をどうするかと考えていると、女性が立ち止まって声をかけた。 「こちらへ」 「?」 柊の返答を待たず再び歩き始めた女性に、柊は首をかしげながらもとりあえず後を追った。 彼女に先導されて少し敷地内を歩きやがて何かの建物に辿り着くと、彼女はドアを軽くノックする。 ややあって扉が開かれ、姿を見せたのは寝着を纏うやや年のいった女性だった。 彼女はローブの女性を見るや驚きに目を見開き、どこか慌てた風に口を開く。 「ミ、ミス・ロングビル!? どうなさったのですか、こんな時間に!」 「少々事情がありまして……たしか先月、部屋が一つ空きましたわよね?」 「え、あ、はあ。それはそうですが……」 「簡単で構いませんので、部屋の用意をして下さい」 「え……よ、よろしいので?」 「構いません。許可は後ほど私が学院長に取ります」 「……かしこまりました」 寝着の女性は一度柊を訝しげに見やった後、堂の入った仕草で恭しく一礼すると建物の中に姿を消した。 そしてローブの女性――ロングビルは後ろで控えていた柊を振り返ると、 「今夜はこちらに泊まるといいでしょう」 「あ、ありがとうございます……でも、本当にいいんですか?」 「構いませんよ、事情が事情ですしね。……ただし」 「ただし?」 「空き部屋がここしかなかったのでやむを得ませんでしたが、ここは使用人達が詰める女子宿舎です。くれぐれもみだりに出歩きませんよう」 「あ……はい、それは」 気恥ずかしくなって頭をかくと、ロングビルはくすりと笑みを零した。 柊は思い出したように背筋を伸ばした。 「あ、俺、柊 蓮司って言います」 「ロングビルと申します。この魔法学院の学院長の秘書を務めさせて頂いてます」 「げ……ということは結構上の人……」 「肩書きだけですわ。教鞭をとっている訳でもありませんしね」 気まずそうに眉をしかめる柊を見てロングビルが可笑しそうに笑みを零す。 学院長の秘書がなぜこんな時間に外を出歩いているのか気になりはしたが、尋ねるのをはばかっている内に部屋の準備を終えた女性が戻ってきてしまった。 「すいません、色々と世話になっちゃって」 「貴方も大変でしょうが頑張ってください」 頭を下げるとロングビルは人のいい笑みを浮かべて会釈を返し、再び夜の敷地内へと歩いていった。 それを見送った後、柊は多分に不審そうな表情が入り混じった女性に連れられて与えられた部屋へと向かうのだった。 建物から十分に距離を取ったのを確認した後、彼女は大きく息を吐いて肩を落とした。 再びフードを被って顔を隠すと、いささか疲れた様子で小さく呟く。 「……やれやれ。夜になってまでイイヒト演じなきゃなんないとはね……」 誰に言うでもなく零したその言葉は、やはり誰に聞かれるでもなく夜闇の向こうに消えていった。 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1175.html
深夜、宝物庫の扉の前に1人の人影がありました。 巷を賑わしている盗賊、『土くれのフーケ』その人でした。 「物理攻撃が弱点ねぇ・・・冗談じゃないわ。こんなに厚かったら、私のゴーレムで殴ったところで、 どうにもならないじゃないの!」 フーケはミス・ロングビルとして、コルベールがら、さりげなく宝物庫の弱点を聞き出していました。 あらかた聞き出した夜、意気揚々と宝物庫の前まで来ましたが推定5メイルの厚さの壁の前で毒づいていました。 物理攻撃が弱点と聞いていたのですが自分のゴーレムの力では短時間でヒビすらつけられそうにありません。 フーケは頭を抱えていましたが、 あることを思い出してニヤリと笑いました。 「ミス・ヴァリエールの使い魔、あの力を利用できれば・・・」 『土くれのフーケ』はおし殺した様な笑い声を出しながらその場を後にしました。 おとーさんが召喚されてから一ヶ月位たちました。 ルイズ自身気がついてないようですが、大分穏やかになっていました。その理由として、まず生徒達からゼロと言われることが減ったというのもあります。 先日のギーシュとの決闘でおとーさんが凄まじく強いことを生徒達も知っていたからでした。 しかし、おとーさんはその後ギーシュ発の噂のおかげで特に女子(貴族・平民拘らず)から人気でしたし元々あまり喋りませんが面白い行動をしますので恐れられる事はありませんでした。 また、生徒達は知りませんが使い魔なのに娘と思って接しているおとーさんにルイズも心を許し我侭も影を潜め素直になっていました。魔法が使えないのは相変わらずでしたが・・・ 「あらルイズ。今日も仲良いのねぇ」 手を繋いで歩いているルイズとおとーさんにキュルケが声をかけます。 「そう?使い魔と仲良くするのって良い事じゃない?」 ルイズは怒るでもなく恥ずかしがるわけでもなくごくごく普通に答えていました。肩透かしを喰った形のキュルケでしたがその後のルイズの言葉に戸惑いました。 「キュルケの方こそ最近フレイムと一緒の所見ないけど仲良くしてるの?」 「う、うちは放任主義だからいいのよ」 「たまには可愛がらないとすねちゃうわよ~」 ルイズはそう言うとおとーさんとどこかへ行ってしまいました。 (あの娘、前は自分の事で精一杯見たいに力んでたのに・・・周りが見えるようになってるじゃない。あの使い魔を召喚出来たのはルイズにとって良かったみたいね) キュルケはそんな事を考えながらフレイムを探しにいくのでした。 虚無の曜日恒例となったシエスタとコック長のマルトーの『特製デザート』に舌鼓を打ったルイズとおとーさんは腹ごなしに散歩で学院内を歩いていました。 それは、調度宝物庫がある塔の前でおこりました。突然地面が盛り上がると巨大な土のゴーレムになりました。土のゴーレムはルイズ達を見つけると腕を振り上げ攻撃してきました。 「きゃぁぁぁ」 突然の出来事に吃驚して悲鳴を上げるルイズを抱き寄せたおとーさんはそのまま横へと飛ぶのでした。土のゴーレムの攻撃をかわしつつ遠い間合いを取る位置まで来たルイズはおとーさんに下ろしてもらい杖を抜くのでした。 「間違いなく、世間を騒がせてる『土くれのフーケ』だわ」 土のゴーレムの肩に立っている人影を見ながらルイズはそう言いました。 「おとーさんお願い!!私が魔法で援護するから!!!」 ルイズの言葉におとーさんが頷いた時、左手のルーンが輝き始めました。あの時の鎧が出現しおとーさんの身体を包み込みます。 【重装陸戦おとーさんα】 おとーさんは自分よりも大きな土のゴーレムを殴りつけ脇の部分を破壊します。しかし、破壊したそばからすぐに再生されていきます。土のゴーレムもおとーさんを殴りますが多少後ろに下がるのみで傷などはついてないようでした。 一進一退の攻防の中でフーケは舌打ちをしていました。おとーさんに壁を殴らせ壊させようと考えていたのですが思っていたよりもおとーさんが小さく目標の壁に届かないことでした。 その時ルイズは詠唱を終え土のゴーレムに当てるために狙いを定めていました。 間違えておとーさんに当てないためでしたが、運良くおとーさんが土のゴーレムから攻撃を受け後ろに下がり離れました。 「ファイアーボール!!」 ルイズ渾身の魔法は失敗し爆発しました。しかも運が悪いことに土のゴーレムではなく後ろの壁が爆発してヒビが入っています。フーケがそれを見てニヤリと笑いました。 (予定とは違うけど結果オーライってやつかねぇ) フーケは土のゴーレムにヒビが入った箇所を殴らせて壁に穴を開けると素早く中に入りました。ルイズとおとーさんが呆然としていると中からフーケが箱を持って出てきました。 「ありがとよ、お嬢ちゃん。お礼に土くれをくれてやるわ」 そう言うと土のゴーレムをルイズに向けて倒れさせました。咄嗟におとーさんがルイズと土のゴーレムに割って入り、ルイズは目を瞑りました。 ルイズが目を開けると空中にいました。タバサのシルフィードに掴まれて助けられていたのでした。 「ルイズ面白そうな事してるじゃない」 キュルケが上から声をかけます。 「キュルケ!!どうして??」 「あんなに大きな音してたら誰だって気がつくわよ。ね~、タバサ」 タバサは無言で頷くとシルフィードに命じてルイズを背中に移動させるとフーケを追跡し始めました。 「ちょっと、おとーさんを助けないと」 ルイズが叫びます。おとーさんは土のゴーレムの下敷きとなり埋もれていましたがタバサが冷静にいいました。 「おとーさんなら大丈夫」 キュルケも続けます。 「あなたの使い魔があれしきの事でくたばったりしないわ!それよりあんな目にあわせた盗賊を捕まえないとね」 ルイズが心配そうに振り返る中、三人は空から追跡するのでした・・・・
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4509.html
注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 ここはトリステイン魔法学院。トリステイン王国の、全寮制メイジ養成機関だ。 メイジが用いる魔法には、火・水・風・土の四系統がある。 そして扱える系統が増えるにつれ、ドット(1系統のみ)、ライン(2系統)、トライアングル(3系統)、スクウェア(4系統全て)の使い手と呼ばれる。 火の系統の使い手 『微熱』キュルケ 水の系統の使い手 『香水』モンモランシー 風の系統の使い手 『雪風』タバサ 土の系統の使い手 『青銅』ギーシュ ――――そして彼女は―――― 少女は憂鬱だった。 今日は、今年晴れて二年生へと進級した者達の、「使い魔召喚の儀」。つまりは「サモンサーヴァント」が行われる日だ。 使い魔は、メイジにとって、「目」であり「足」であり「盾」でもある。よってこの召喚の儀も、必然的に重要なものとなる。 彼女の名は、ルイズ。「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 名門公爵家、ヴァリエール家の三女。 本来なら、おいそれと話しかけることも出来ないほどの身分だが、今彼女は、朝からずっと周囲の生徒から皮肉を浴びせられている。 「おい『ゼロ』のルイズ!お前本当にやるのか?間違っても俺達を爆発に巻き込むんじゃないぞ~」 「ダメもとでやってみたら、もしかしたら成功するかもしれないぞ?原形をとどめてたらいいけどなぁ!はははは!!」 (はぁ・・どうしてこんな目に・・・) この罵詈雑言は、なにも今日に限ってのことではない。理由は一つ。 彼女が「魔法の使えないメイジ」だからである。 彼女は有名貴族の出でありながら、これまで一度も魔法が成功したことはないのだ。 ゆえに『ゼロ』。「ゼロのルイズ」だ。 「ルイズ~ごきげんようー」 怪しげな微笑を伴なって現れた、ルイズと対照的の豊満な肉体を持つこの女性の名は、キュルケ。 火の系統を得意とする、トライアングルメイジだ。 「あぁあんたね・・いったいなんの用?」 ぶっきらぼうに返すルイズ。キュルケとはいわゆる、犬猿の仲だ。出来れば早々に退散したいと思っていた。 「あらつれないわねぇ。今日はいよいよ召喚の日じゃない。あなたにはいったいどんな素敵な使い魔が現れるのかしらねぇ~。くすくす・・・」 「・・・・・言いすぎ・・・」 キュルケの横に立つ、青い髪の少女が言う。 だが、他人に哀れまれるなど、ルイズのプライドが許さなかった。 「・・・見てなさい・・・。絶対にあなたたちより高貴で!美しくて!そして強力な使い魔を召喚してみせるんだから!!!」 「おいおい。ルイズが吹いたぞ」 「ははは召喚の時間が楽しみだな、ゼロのルイズ」 負けてなるものか。ルイズは胸に固くそう誓った。 もともとプライドの高い少女である。このようなことを言われて、黙っていられるわけがないのだ。 そして召喚の時・・・ キュルケはサラマンダーを、タバサはなんと風竜を召喚した。 「おいルイズ。次はお前の番だぞ。どうせ何も召喚できないだろうけどな」 (どうしよう・・これで成功しなかったら・・・) ルイズがそう苦悩する中でも、野次はとびつづける。 (・・・みてなさい・・!) 詠唱が始まる 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!」 (・・・・お願い・・・!!) 「私は心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」 すると突如、少女のまわりで、本来召喚の儀式では起こりえるはずのない爆発が起きた。 人々が驚き叫び、逃げ惑う 体中に纏う頑強な鎧 腰に携えた長剣 真黒の長髪 真紅のマント 爆発によって巻き起こった粉塵が晴れたとき そこにいたのは 一人の男だった (に・・人間!?どうして・・・そんな・・・) 片膝をついたその男は、鎧やマントを身に纏ってはいるが、杖を持っていなく、剣しか所有していないように見える。 おそらく、裕福な平民なのだろう。 だが次の瞬間、ルイズは自分の浅はかさを後悔した。 「お・・おい!ルイズが平民を召喚したぞ!!」 「は・・・ははは流石ゼロのルイズだ!やることが違うな!!!」 とりあえず差し迫る害がないと判断すると、途端に周りがざわめき始める。 「ねぇタバサ。いったいどういうことかしら、これ」 「・・・危険」 「え?どういうこと?タバサ」 今この場で、自分たちがどういう状況にあるのかを把握出来ているのは三人。 タバサとコルベール。 そしてルイズだけだ。 (・・まずい・・・!!あの男は・・危険だ!!) これまで数多の死線を越えてきたコルベールだが、そんな彼でさえ、体中の細胞が警告を発している。 ただ一つ「逃げろ!!!」と。 「あ・・あなた・・いったい誰・・・?」 生まれて初めて感じる、言いようのない恐怖を感じながらも、少女は言った。 貴族としてのプライドが、この場から逃げ出すことを許さなかったのだ。 『彼』もまた困惑していた。 自分は完全に消滅したはずなのだ。 なぜ生きている?そしてここはどこだ? 目の前に広がるこの光景は何だ? 彼自身、何故そう言ったのかはわからない。 もはや捨てた名だ。 だが彼はゆっくりと。しかしハッキリとこう答えた。 「Wladislaus Drakulya」 そして続けてこう言った。 「アーカードだ」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7980.html
ハミイー(リングワールド/ラリー・ニーブン、ハヤカワSF)がルイズに召喚されたようです キャラクターイメージ(おそらく左側) ※注 本スレでの使用は禁止 * * + + + /^l * ,-‐-y'"゙"''゙゙"´ | + ヽ、,;' * ´ ∀ ` * ミ * * + ミ つ と ミ * + ミ ゙;; ハ,_,ハ + ';, ミ ,; ´∀`'; ` ; , ' d゙ c ミ * U"゙'''~"゙''∪ u''゙"J オレンジ色の使い魔-01 オレンジ色の使い魔-02 オレンジ色の使い魔-03 オレンジ色の使い魔-04 オレンジ色の使い魔-05 オレンジ色の使い魔-06
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3717.html
~たのしいトリステイン~ 題字:大和田秀樹(嘘) 第一話~わたしがルイズです~ トリステイン魔法学院、この学校では2年生に昇級する際、あるひとつの儀式を行う それはここで学ぶ魔法使い達にとっては一生の問題でもある『春の召喚の儀式』 一生涯のパートナーでもある使い魔を呼び出す儀式である ここにその儀式に挑む、一人の少女がいる ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール この物語の主人公である 彼女は名家の生まれでありながら全ての魔法が失敗する、しかも爆発すると言う、学院創立以来の劣等生として通っている 事実、彼女はすでに何十回も召喚に失敗しては爆発していた。 級友の殆どは彼女に対し、口汚く罵り、嘲り、笑った。 だが、彼女は一つも諦めてはいなかった そしてその思いは遠く、遥か彼方の地で同じく 気高く、己を貫き通す男に使役されていたモノに届く 「こぉーーーーーーーい!!」 もう呪文も何も無い、魂からの叫びと同時に今まで以上の爆音が土煙がおこる そしてその中から影が浮かび上がった ルイズは薄れ行く土煙から影を見て 心から願った もう平民でもいいから何かきてくれと しかしその希望は嘆息に変わっていった 土煙の中から現れたモノ それは・・・・・・・ それは触覚の様なモノに鏡を生やしていた、不思議な一つ目をしていた、椅子がついていた、竹やりの様なモノが生えていた 二つの車輪で大地に立っていた 後ろにゆくにしたがって凶悪な姿をしていた 「コルベール先生・・・・・召喚のやり直しを」 さすがのルイズも使い魔を呼び出したつもりが見た目からまったくの無機物だとわかるモノを使い魔とするのはどうかと考えやり直しを要求するが 「・・・・それは出来ません、春の召喚の儀式は神聖な儀式なのです」 監督していたコルベールの一言によって彼女も意を決した 「五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔となせ」 目?と思わしき部分にルイズは口付けをする、と同時に使い魔の情報が、使い方が、そして何か巨大な意志の強さみたいなものが彼女に流れ込む 使い魔の正面にルーンが刻まれた 「全員、無事に召喚 出来ましたね それでは戻りましょう」 コルベールの言葉とともに皆が魔法で空に飛び学院に帰って行く 一人ルイズだけを残して 「ゼロのルイズ、お前は歩いて帰ってこいよ!!」 「けっ、ゼロのルイズが」 彼女に様々な罵声が浴びせられる しかし彼女は動じなかった この程度なら慣れている それに今は・・・・・・この使い魔がいる 彼女は自分の使い魔にまたがる、使い方なら契約した時に頭に流れ込んできた、乗馬は得意だから乗りこなせるだろう ギャアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオ!! 大爆音が地面を揺るがす、後ろをゆっくりと飛んでいたマリコルヌは見た 地面を土煙を上げ猛スピードで走ってくるルイズとその使い魔を その光景を見た彼は後にこう友人達にこう言ったという 『まるで・・・・・悪魔を見ていた様だった』と ルイズは使い魔に乗り、風を切って走り抜けていた、顔が綻ぶ これはいいものだと直感的にわかった そして、ルイズは喜びのあまり使い魔の名前を無意識に叫んでいた 「パッソーーーール!!」 大和田秀樹 たのしい甲子園 より 悪魔のパッソル を召喚