約 4,733,990 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/121.html
使い魔って大変だの段 三人がルイズに呼び出されてもう3日になる。もし、普通の人間だったら呼び出された時点でパニックに陥っていたかも知れないが、三人はそれなりにここの生活に適応していた まず、ルイズよりも早く起きて、着替えの服を準備する。洗濯をする。部屋の掃除をする。その他。三人はしっかりと仕事をこなしていた。それなりの理由があったのだ。 ふぁ~あとあくびをする。今日は乱太郎が最初に目を覚ました。 「おい、起きてよきりちゃん、しんべえ。早くしないとまたご飯抜きにされちゃうよ」 乱太郎はそう言うとはいまだ平和な寝息をたてている二人の体を揺すった。 「もう食べられない。お腹いっぱい。タニシプリン」 「金だ、金が降ってくる。わひゃわひゃ」 どうやら寝ぼけているようだ。可哀想だが無理にでも起こすしかない。 三人が仕えることになってしまったこの少女は使い魔が自分よりも遅く起きることを許さない。昨日は一応それが原因で夕飯抜きを宣告された。 乱太郎は眼鏡をかけ、カーテンを開けた。太陽が眩しい。きり丸としんべえがのろのろと起きた 「さてと」 乱太郎はルイズに声をかけた。 「朝ですよルイズさん」 ルイズがベッドから出る前にクローゼットから下着を取り出して手渡し、着替えを手伝う。 初めはずいぶん緊張したが慣れてしまった。まだ顔を背けながら作業する乱太郎であったが。 乱太郎が職務をこなしている間きり丸としんべえは部屋の隅に立っていた。 完全に目が覚めていないのだろう、かろうじて意識を保っている状態だ。目が虚ろである。 着替えを終えたルイズが部屋から出ていくと乱太郎はぼうっとしている二人をつついて後に続いた。 どうやら朝ご飯は抜かれなくて済みそうだ。 ルイズの後について食堂に向かう途中のこと。 「はぁ~あ、給料くれないんじゃ働く気も起きないなぁー」 「僕お腹すいて死にそう」 しんべえだけでなく三人とも腹ペコであった。何しろ昨日の夕飯を食べていないのだから。ふと思い出したようにきり丸が言った。 「そういや、しんべえあの子のあだ名知ってるか?なんでも『ゼロのルイズ』っていうらしいぜ」 「こら、きりちゃんそれ言っちゃだめ。ルイズさんすごく嫌がってたから」 慌てて乱太郎はルイズをうかがったが聞こえていないようだ。ルイズの機嫌を損ねる事はなるべく避けたい。 でないとまた飯抜きの刑に処されることになる。 「だってよー、魔法使いのくせに魔法が使えないなんて道具が使えないドラえもん、サイコキネシスが使えないミュウツーみたいなもんだろ」 乱太郎は止めようとしたがなおもきり丸は続けた。 「あ~あ、ケチくさい上に魔法が使えないなんてなぁ。なんのために毎日働いてやってんだか」 「ちょっときりちゃん、声が大きいよ。そろそろやめなよ」 「いや、まてよ。魔法が使えない魔法使い・・・・・・、これで歌でも作ったら案外儲かっちゃったりして」 「人は呪文を紡ぎながら魔法を創る~♪魔法なんて出来ないまま私は生きる~♪」 きり丸は上機嫌だった。CD化、漫画化、ドラマ化。一体どれ程の儲けになるだろうか。成功すれば億万長者も夢じゃない。 しかし、きり丸の妄想はそこで打ち切られた。何かにぶつかった。どうやら急に立ち止まったしんべえにぶつかってしまったようだ。 「どうしたしんべえ?」 しんべえは答えない。見ると震えながら固まっている。なんと隣の乱太郎もである。二人の視線をたどると・・・・・ルイズがいた。わなわなと震え、青筋をたてている。 どうやら自分は気付かれているとも知らずに言いたい放題喋ってしまったらしい。さすがのきり丸も身じろぎできなくなる。 これまでも何度か怒られたことはあったが、ここまで迫力のあったルイズは初めてだ。 「あたしがケチくさいって?そうね、今までご褒美の一つもあげなかったもんね」 ルイズの声は不気味なくらい落ち着いていた。 「ゼロで悪かったわね!」 三人はしょんぼりと食堂の前に立っていた。慈悲深い主人は三人に今日一日食事抜きを言いわたした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7451.html
ヘイセイシボウチャンス 「どうもゲームセンターCX。課長の有野です」 ゲームセンターゼロ ~ルイズの挑戦~ 「今日、挑戦するのはこれ、『ゼロの使い魔』……知らないですね~」 疑問顔の有野にすぐさまプロデューサー兼ナレーションの通称『管さん』が解説を入れる。 『ゼロの使い魔。2004年にメディアファクトリー文庫から刊行されているヤマグチノボル原作 イラスト兎塚エイジのラブコメファンタジー。現在までに17作出版している内の記念すべき第一作。 特徴的なツンデレ描写と、ファンタジー世界の融合が高い評価を受けている。 外伝だけでなく漫画やアニメなどのメディアミックス展開も広くされており、 特にアニメにおいては数多くの釘宮病患者を生み出したといわれている。 果たして攻略はできるのか?』 「うーん。つまり恋愛シュミレーションなんですかねー?ときメモみたいな……」 『今回、課長には実際に召喚されてもらいます』 「どういうことなん……?とりあえずゲームセンターCX!課長~ON!」 『スタートと同時に課長の目の前に、何やら怪しげな銀色の鏡が出現』 「これ触ったら、なんか起こるんちゃうん?いややわー触りたくないわー」 『しぶしぶ手を触れる有野。すると一気に鏡に引きこまれてしまう!』 「ほらなー。課長の言った通りやん」 「あんた、誰?」 『課長が気づくと見知らぬ場所で、見知らぬ女の子が目の前に立っている』 「あ、けっこうかわいいやん。誰や」 「ちょっと質問してるのは私でしょ!?」 「うわ、めっちゃ怒っとるで」 『相変わらず説明書を読まない男有野。さっそくヒロインであるルイズの機嫌を損ねてしまう手痛いスタート。気を取り直してプレイ再開』 「あんた名前は?」 「アリノ シンヤです」 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」 「え、なになに……うおーい!ええんこれ!?犯罪ちゃうん?課長もう37やで?」 「うるさい!」 『突然のヒロインのキスに大興奮の有野37歳。二児の父』 「ていうかさっきからコレ誰の声なの?」 「浮気なるんちゃうコレ?」 『課長はルイズの使い魔としてファンタジー世界ハルケギニアに召喚されたと説明を受ける』 「給料いくらぐらいなんやろ」 「そんなの出るわけないでしょ」 「ええー課長、家族養ってんやで。一家の大黒柱やで?ていうか元の世界戻れるんかコレ」 「平民のあんたの都合なんて知らないわよ!泣きたいのは私なんだからね!」 「あかん。話進んでないのに、めっちゃ怒っとる」 『うろたえまくりの課長。と、ここでルイズの部屋のドアが開き、あの男が登場』 「!? だ、誰よ!?あんた!?」 「こんばんわ。東島です」 「東島?何しにきてん」 「有野さんが心配で僕も来てしまいました」 『なんとここでアメリカ帰りの初代AD東島が登場』 「有野さん、ルイズちゃんはかなりのツンデレなので、最初はガンガン攻められても気にせずいってください」 「えー課長どっちかというとSなんやけど」 『それを聞いて苦笑いの東島は、そそくさと部屋から退場』 「だから誰なのよ!?ちょっとシンヤ説明しなさいよ!」 「ええんかなールイズめちゃくちゃ怒ってるやん」 「あんたが怒らせてんでしょーが!」 『心配性の有野だったが、東島の助言を信じ、一気にペースアップ。 しかし、それに比例するかのようにルイズのツンツン具合も上昇していく。 そしてとうとう事件が起こる』 「あかん!!」 『ルイズの唱えた呪文とともに石が大爆発。教室は一気に地獄絵図と化してしまう』 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」 「ちょっとじゃないやろ~」 『ここでも余計なひと言が多い有野。当然のように……』 「かたずけはあんたがしなさい!」 『ゴミだらけの教室に有野を残しルイズは出て行ってしまった』 「え~これ一人でやるん?」 『しぶしぶ片づけを始める有野。もともと地味な作業を淡々と続けることは得意な有野だったのだが問題が発生』 「これ一人では無理やろ。こっちただのおっさん一人やで」 『真っ二つに割れた巨大な教卓の一部。こればかりは一人でどうすることもできない。すでに有野の額には冷えピタが張られている』 「し、しょうがないわね……私が手伝ってあげても……」 「有野さん、ここは俺が」 「おおお!さ、笹野か!?」 「……」 『過去何度も天性のセンスで課長を救ってきた笹野登場。二人の協力プレーで部屋の片づけはすぐに終わらせることができた』 「笹野手伝ってくるのはええけど、手汗でべちゃべちゃなんやけど」 「……すいません」 「あ、終わったで、ルイズちゃん」 「何手伝ってもらってんのよ!このバカ犬!」 「あかん!」 『さらに悪化したように見える課長とルイズの関係。このままでエンディングを迎えることはできるのか?』 『部屋の掃除をしたにも関わらずルイズの怒りを買ってしまった有野は昼食を抜きにされてしまう』 「怒っとたなーあの子。にしても腹減ったわ笹野。ロケ弁とか出ないん?」 「有野さんイカありますよ」 「ファンタジー世界でもイカかー……まあええけど」 『笹野と一緒にイカを噛みながら学園をブラブラ探索。そこで有野に新たな出会いが訪れる』 「どうされましたか?」 『後ろから声をかけられ振り向いた課長が見たものは……』 「萌えー!」 「!?」 『シエスタ。学園のメイドで、主人公を様々な面でサポートしてくれる』 「えと……あのもしかしてミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「そやけど。なんでしっとはるんですか?」 「ミス・ヴァリエールが平民を召喚したって噂になってまして」 「わーお、課長有名人」 「有野さん、イカ食いながらは失礼ですよ」 『しばらく話して、人の良さそうな雰囲気を感じ取ったのか、シエスタは有野を食事に誘う』 「もし、お腹がすいてらっしゃるのでしたら、厨房に来られませんか?」 「いや、イカあるから大丈夫です」 『無下に断る有野。そこに慌てて東島が助言に入る』 「有野さん。ここは断っちゃだめです」 「あれ、東島まだおったん?」 「あ、はい。あの、ここ断ったら大事なフラグが立たなくなっちゃうんで誘いに乗ってください」 「えーでも危ないんちゃう?壺とか買わされたら嫌やで課長」 「いや、そういう話ではないんで」 『ここは東島の助言通り、メイドシエスタに付いていき食事を振舞ってもらうことに』 「なんで、東島と笹野も一緒に食べとん?誘われたん課長だけやで」 「そんな、いいじゃないですか」 「いっしょに使い魔した仲じゃないですか」 「部屋の掃除しただけやん」 『和気あいあいと食事を楽しむ使い魔一行。しかしこの後有野は地獄を見ることとなる……』 『シエスタの食事のお礼にと、配膳の手伝いをすることとなった使い魔有野、しかしそこで問題が発生』 「あ、なんか落としたで?」 『課長が小瓶を拾い、先ほどからキザッたらしいことを語っている少年に渡そうとする。 すると、目の前の少年が二股をしていたことが判明。一気にその場が修羅場化する』 「昼ドラみたいやなー」 「君の軽率な行動のせいで二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 「えー課長のせいなん?それはおかしいやろ」 『課長の必死の弁明空しく、決闘をするという流れになってしまう』 「うわ、なんかやばい雰囲気やで」 「シンヤさん……殺されちゃう……殺されちゃうわ!」 「ちょっとシンヤ!あんた何勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」 「課長がんばってください」 「戦闘あるんや、これ……」 『中ボス、ギーシュ。7体ものゴーレムを操り連携攻撃をしてくる強敵。一度でもコンボを食らうと大ダメージは確実』 「僕はメイジだ、だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「文句あります言うても駄目なんやろコレ」 「行けワルキューレたち!」 『ギーシュによる波状攻撃』 「あーあかん!うわっ!めっちゃダメージくらうやんこれ!」 「シンヤ!」 「課長!」 「痛!あ、これ全滅イベント?」 「違います」 『慌てる課長に冷静に応える笹野』 「平民が貴族にたてつくからこうなるんだよ!」 「あーあかーん!」 『ギーシュの連続攻撃にみるみる体力を減らされる有野。そして』 「これで止めだ!」 「シンヤー!」 「ああああ!」 G A M E O V E R 「ガメオベラやー」 『見せ場なくあっさりとゲームオーバーの有野。再開は……』 「あんた、誰?」 「うわー最初からやー!!」 「な、なに!?急に大声出さないでよ!」 『衝撃のコンテニュー無し!はたして有野に攻略可能なのか!?』 『一日を掛けて同じギーシュ戦の所まですすめた有野。しかしギーシュ攻略のカギの糸口すらつかむことができない』 「行け!ワルキューレ!」 「シンヤー!」 「うわっ!あかん!」 『そして……』 「あんた誰?」 「あなたのシンヤです」 『ルイズと3度目の使い魔契約のキス。そんな有野を見かねて笹野が動く』 「有野さん。ギーシュは武器を持たないと倒せません」 「それはピストル的なもの?」 「いえ、とりあえずギーシュ戦は攻撃を受けないよう立ち回ってください。それで展開が変わるので」 「くあー、やっぱり最初は倒せれんのや」 「ちょっとあんたたちさっきから何?ご主人様を無視して何ブツブツ言ってんのよ」 「あ、ルイズさん。下着洗ってきました」 「東島、なんか犯罪っぽいで」 「決闘だ!」 『ギーシュと3度目の決闘。今回は助言通りよけることに専念し、大ダメージを受けながらも逃げ回ること数分』 「平民にしてはなかなか粘るね。このままじゃ可哀想だし、これを使うといい」 ギーシュが呪文を唱えると有野の目の前に剣が現れる。 「お、剣きたで」 「シンヤ!駄目よそれを抜いたらギーシュは本気で来るわ!」 「ええ、今まで本気やなかったんかい……それはないでー。こっちあと一発で死ぬんやで?」 『本気でビビる有野。そんなビビり有野を見かねたのか、4代目ADのあの男が立ち上がる』 「有野さん、お手伝いさせてください」 「えーイノコMAXー?……」 「あのロケハンはしたので」 「自信あるん?」 「普通です」 「……なに勝手に決闘に乱入しようとしているんだい?」 「ギーシュあんなこと言うとるで」 「乱入しちゃえばこっちのものなので」 「……そうか……なら、二人もろとも死ぬといい!」 「あ」 「シンヤー!」 『叫ぶルイズ。暗転する画面。これが意味することは……』 「あんた、誰?」 「井上ー!」 「すいません……」 『有野さん』 「はい」 『実は、助っ人はもう一人います』 「ほう!」 『とりあえずルイズちゃんとキスしちゃってください』 「あ、はい。毎回これ緊張するわ」 「ちょっとこれどういうことか説明して……ん」 「……で、助っ人は?」 『3代目AD、エース浦川を投入します!』 「有野さん……一機やらせてもらってよかですか」 「おお、ついに投入しますか!」 『あの超難関ソフト「高橋名人の冒険島」を攻略したこの男と共に、ギーシュの攻略。お願いします!』 「いきますかー」 『……と、言いたかったのですが……時計を見てください』 「え、うわー、もうこんな時間ですか」 『すでに1時を超えています。続行かギブアップか有野さんが決断してください』 「なんでご主人様の私を差し置いて!?」 「んールイズちゃん、すごいこっち見てるしなー……………………ギブアップでお願いします!」 「ふざけんじゃないわよー!!このバカ犬ううう!!」 チャララッチャチャーチャチャチャチャー 王様は謎の呪文をつぶやいた。 「ワシも ルイズたんと チュー したい」 『終』
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7304.html
トリステイン魔法学院の学生にして失敗ばかりの落ちこぼれ『ゼロのルイズ』。 二年生への進級をかけた『春の使い魔召喚の儀式』へと臨んだ彼女は”彼”を召喚した。 召喚されたばかりの”彼”を見たルイズはただの平民の子供だと思った。 自分よりも年下のようだが、そう年が離れているわけでもなさそうだ。 ともかく召喚自体は成功したのだから、まるでダメと言うわけではないのだとルイズは自分を元気付けた。 そして周囲を不安げに見回し、怯える犬が威嚇するように唸る”彼”を宥めながら使い魔の契約をした。 使い魔のルーンは”彼”の胸へと刻まれた。 そんな”彼”との生活が始まったのだが、それはとても多忙な日々となった。 まず、”彼”は何かしらの障害を持っているのか、言葉を話さないのだ。 ”あ~”、”う~”などの唸り声を上げるだけ。 次に好奇心が旺盛であり、感情の起伏が激しい。他の使い魔を見れば時と場合を選ばず飛び掛り、 魔法の授業の時には練金で小石が真鍮に変わったのを見るや、怯えて暴れ出した。 更に食欲も旺盛。最初に食堂に連れて行った時は野生児の如くテーブルに飛び乗り、料理を散々に食い荒らした。 その事があって食事の件は知り合いのメイドであるシエスタが何とかしてくれる事になったのだが、 結局はこれらの事実にルイズは頭を悩ませる事になった。 だが、それでもルイズは”彼”を見放そうとはしなかった。 自分が召喚できた使い魔だと言う事もあるが、何より”彼”はルイズやシエスタに懐いていたのだ。 その懐きぶりは自分が下の姉に甘える姿にとてもよく似ていたのだ。 それゆえ、無下に突き放す事も出来なかったのだ。 そんな”彼”をルイズは日が経つにつれ、ただの平民だとは思えなくなった。 …その原因は”彼”の成長にあった。どういう訳か、”彼”は常人とは比べ物にならない速度で成長していったのだ。 どんどん成長し、ついにはドラゴンなどと比べられるほどの大きさになった”彼”に、 使い魔召喚の儀式から”彼”に刻まれたルーンに興味を持っていたコルベールも驚きを隠せなかった。 そして、最初はルイズと同じか多少低い位だった”彼”の背丈は、今や二十メイルに達しようかとしていた。 最早疑う余地は無かった。”彼”の常人とは異なった言動もこれで説明がつく。 ”彼”は亜人だ――そうルイズは思い至った。 そんなある日…、学園にルイズの姉であるエレオノールがアカデミーの研究員数名と共にやって来た。 ハルケギニアに生息するどの亜人よりも巨大で異質な”彼”は王宮の、アカデミーの興味を引いたのだ。 そして実験体としてアカデミーに連れてくるように指示が出て、エレオノールらが来たのだ。 エレオノールは”彼”の引渡しを妹に伝えるが、ルイズは当然それを拒否した。 幾ら頭の上がらない姉であろうと大事な使い魔を渡せるはずが無かったのだ。 すると他の研究員が”彼”を魔法で捕縛し、強引に連れ出そうとしだした。 ”彼”は怯え、激しく抵抗し、暴れた。その結果、研究員の内二名が巻き込まれて死亡した。 そのまま”彼”は魔法学院から逃げた。一度だけ、ルイズの呼び声に振り向き、悲しそうな表情を見せて。 ルイズは”彼”を連れ戻すべく、魔法学院を飛び出した。コルベールとエレオノールもそんな彼女に付き添った。 消えた”彼”は食料となる家畜を襲いながら、トリステイン中を放浪しているようだった。 目撃情報を得ながら、ルイズ達は”彼”の姿を捜し求めた。 そんな最中、ガリア南部の山地の中に点在するアンブランと言う村が何かに襲われ、村人全員が行方不明となる事件が起きた。 その村は以前からコボルドに襲われていた為、最初はそれらの仕業かと思われたが、そうではない事が解った。 破壊された家々はコボルドとは思えない、巨大な物に叩き壊されたような物ばかりであり、 何より人の死体が一つも無い所が妙であった。 コボルドに人の死体を一々始末するような知能が無い事は、ハルケギニア中の人間は知っているのだ。 そして、この奇怪な事件の犯人が先日トリステイン魔法学院から逃げ出した亜人では無いかと、人々は噂しあった。 無論、ルイズはそんな事は信じなかった。”彼”が自分から人を襲った事など、ただの一度足りとも無いのだ。 だが、世間はそんな少女一人の気持ちなどでは動かなかった。 事件がガリアだけに止まらず、ロマリア、ゲルマニアでも起こり、”彼”を完全に危険視したのだ。 各国の王宮は討伐隊を編制し、”彼”を捜索を開始するに至った。そんな状況にルイズ達は焦った。 そして、ルイズ達は朝靄が掛かる森の中でそれと遭遇した。 突如として地面が盛り上がり、巨大な怪物が姿を現したのだ。 それを見たコルベールは、その怪物が何か解った。 それは大昔に韻竜と共に絶滅したはずの火竜の亜種『バラナスドラゴン』であった。 怪物は地面から這い出るや、ルイズ達を見つけて大きく咆哮する。 その耳まで裂けた口から赤い液体が滴り落ちている。 それが人の血液であると言う事は直ぐに解った。…口の端から”人だった物”が除いていたのだから。 ルイズは吐き気を覚えたが、それを上回る激しい怒りが頭の中を駆け巡った。 ルイズは杖を振り、失敗魔法の爆発を怪物に放ち、エレオノールとコルベールも魔法を唱えるが、 怪物はそれらに全く怯む気配を見せなかった。 ついに精神力が切れ、魔法が撃てなくなったルイズ達は怪物から逃げた。 だが、ルイズだけが躓き、地面へと倒れてしまった。そのルイズへと怪物は牙の並んだ口を開けて迫る。 もうダメだ、とルイズが絶望した時、怪物の角が何者かに掴まれた。 見上げれば、怪物の角を掴んでいるのは”彼”だった。 ”彼”が怪物と戦っている隙にやって来たコルベールがルイズを抱え上げ、その場を離れた。 ”彼”と怪物の戦いは、人間と獣の戦いだった。 怪力と知恵で戦う”彼”に対し、怪物は牙や爪、ブレスを進化させたかのような強烈な熱戦、 更には最高百メイルに達する跳躍力で持って”彼”に襲い掛かる。 そんな理性と野生の対決は壮絶な物となった。 結果的に頭脳プレーで攻める”彼”に怪物は遂に逃げ出し、地中へと逃れた。 その後、”彼”は逃げる最中に謝って足を滑らせ、崖下へと転落したエレオノールを助け出し、 ルイズとコルベールの下へと送り届けるや、再び姿を消したのだった。 トリスタニアへと戻ったルイズ達は王宮へと事の次第を報告した。 全ての事件はバラナスドラゴンの生き残りの仕業であり、”彼”は無関係だと。 しかし、絶滅したはずのバラナスドラゴンが生き残っているなど在り得ない、と否定された。 更には、使い魔だからと問題の亜人を庇っているのではないか、と言われる始末だ。 結局、何を言っても信じてはもらえなかった。 そして、バラナスドラゴンの生き残りである怪物は再び現れた。 夜闇に隠れ、シエスタの生まれ故郷であるタルブの村の人々に襲い掛かったのだ。 次々と家が壊され、村人が老若男女の区別無く食べられていく。 タルブ領主のアストン伯が慌てて討伐隊を率いたが、一人残らず熱戦に焼かれたり食物にされた。 そんな地獄の様な光景を見ながら震えるシエスタに怪物は迫った。 その時、再び”彼”が姿を現し、怪物へと立ち向かった。怪物の首を締め上げ、投げ飛ばす。 だが、怪物もやられてばかりではなかった。二度も食事を邪魔された事は怒りを爆発させるには十分だった。 怒りの所為か、威力の増した熱戦が怪物の口から迸り”彼”に命中する。 最初は耐えられたそれも、威力の増している状態では耐え切れなかった。 僅かに怯んだ”彼”の隙を突き、怪物は大きく跳躍して覆い被さる。 鋭い牙で噛み付こうとする怪物の口へ、”彼”は岩を押し込み蹴り飛ばした。 ひっくり返る怪物に”彼”は更に岩を投げつける。 怒り狂う怪物は熱戦を吐き散らしながら”彼”に襲い掛かる。 ”彼”は怪物の注意を自分に引きつけ、村から引き離していった。 遅れて村へとやって来たルイズは、”彼”の意図を理解し、馬に乗るや後を追って森へと入った。 移動を続けながら二体の戦いは激しさを増していく。 やがて森を抜け、二体はハルケギニア随一の巨大な湖『ラグドリアン湖』へと辿り着いた。 そこで遂に戦いは終わりを迎えようとしていた。 ”彼”に投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた怪物はフラフラになる。 その怪物の首を”彼”は渾身の力で締め上げる。 怪物は苦しみ、激しく暴れたが、”彼”も必死に締め上げる。 やがて、怪物の鳴き声が弱々しくなっていき、大きく一声鳴くとそのまま口を閉じた。 直後、骨が折れる音が首から響いた。 不自然に首が折れ曲がった怪物は地面に力なく横たわる。 その怪物の身体を”彼”は二、三度蹴り飛ばしたが反応は無い。完全に事切れていた。 ”彼”は怪物の死骸を持ち上げると、湖に向かって力任せに放り投げた。 大きな水飛沫を上げて怪物の身体は湖底へと沈んでいった。 怪物が沈んだのを見届け、”彼”は勝利の雄叫びを上げる。 その彼の勇姿に駆けつけたルイズだけでなくエレオノールやコルベールも笑顔を浮かべた。 ――だが、事はそれで終わらなかった。 突如、ラグドリアン湖の水面から巨大な水柱が立ち上り、そこから声が辺りに響き渡る。 声の主はラグドリアン湖の水の精霊だと名乗った。 水の精霊は自らの領域を侵した”彼”へと制裁を加えると言った。 直後、水面が盛り上がり、巨大な蛸が姿を現した。それは水の精霊の使いだ。 呼吸する音が不気味な鳴き声のように聞こえ、足や胴体が動く度に粘液が嫌な音を立てる。 大ダコは八本の大蛇の様な足を振り回しながら”彼”へと襲い掛かった。 ”彼”は必死に戦ったが、怪物とは勝手が違いすぎた。 柔らかい柔軟性に長けた身体は木や岩を投げつけられても大したダメージを受けずに弾き返してしまう。 業を煮やした”彼”は肉弾戦を仕掛けたが、逆に大ダコの足に絡め捕られてしまった。 そのまま”彼”は大ダコに力任せに湖へと引きずり込まれる。 ”彼”の危機にルイズは助けようと杖を抜くが、エレオノールに止められる。 水の精霊を怒らせればどんな事になるか解らないのだ。 そんな事はルイズも解っている。だが、理屈では割り切れない事もあるのだ。 しかしエレオノールは譲らず、暴れるルイズの頬を叩いた。 そして、ルイズは気付いた。…姉もまた、自分の命の恩人の危機を見つめている事しか出来ないのに苦しんでいるのを。 結局、”彼”が大ダコによって湖底に引きずり込まれるのを見ている事しか出来なかった。 こうして、事件は一応の終わりを迎えた。 この日を境にルイズは一つの可能性を考える事となった。 それは”異種族との和解と共存”だった。 この後、ルイズはアルビオンで一人のハーフエルフの少女と出会い、 彼女と協力してエルフとの和解を実現させる事になる。 そして、彼女は和解成立のその後も毎日ラグドリアン湖へと通った。 何時の日にか”彼”が戻って来てくれる事を信じて…。 『終』
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4088.html
前ページ次ページ使い魔はじめました 使い魔はじめました―第五話― トリステイン魔法学院の食堂に辿り着いたサララとチョコは言葉を失っていた 長いテーブルが三つ並んでおり、百人は優に座れそうだ それぞれのテーブルに幾つも蝋燭が立てられ、花が飾られ、 フルーツの乗った籠が並んでいる 幾度か訪れたことのある王城の中と並ぶくらい、あるいは それ以上に豪華な施設に、ただただ目を丸くする一人と一匹 その様子を見たルイズが、鳶色の目を輝かせながら自慢げに語りだす 「魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃあないのよ。 貴族たるべく教育を存分に受けるのよ。 だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないの」 「ふーん……ねえじゃあさあ」 この食堂は貴族のもの、という趣旨の言葉を聞いたチョコが疑問を口にする 「ぼくたちのご飯はどーするのさ?」 「あ」 ルイズは食堂の入り口で頭を抱えた 一応魔法使い崩れとはいえ、彼女は平民であり、ましてや使い魔である 本来なら、使い魔は外の宿舎か床で食事を取らせるのだが、 そもそもサララの食事の手配すら忘れていた 忘れていた、というよりは出来なかった、というほうが正しいのだが 「……どうしよう」 「えー!お腹空いたよー!ご飯ご飯ー!」 にゃあにゃあと騒ぎ立てるチョコと、いざとなったら 『あの鍋』に石ころでも投げ込もうと考えているサララ そして頭を抱えたままのルイズの下に一人のメイドが駆け寄ってきた 「あの……どうかなさいましたか?」 「あ、え、ええと、あなた!」 閃いた!というような顔をしてルイズは、びしっと音がせんばかりに そこにやってきたメイド―シエスタ―を指さした 「ちょっとした手違いで、私の使い魔の食事の用意が出来てないの! し、仕方ないから、何か適当に食べさせてやってちょうだい!」 「は、はい、分かりました」 いきなりそう言われてびっくりしたものの、食事が出来ずに困っているのが 今朝会ったサララだと分かると、シエスタは一人と一匹を厨房へ案内した 「マルトーさん」 「おう、シエスタじゃねえか。……何だ、そのちっこいのは」 丸々と太った男性にじろり、と睨まれてサララとチョコは思わず身震いする 「こちらはサララさんと、それから飼い猫のチョコさんです。 ほら、使い魔召喚の儀式で召喚されてしまったって言う……」 「おお、デカい鍋と一緒に召喚されたって噂のあいつらか。 で、その貴族様の使い魔が何の用だ?」 何処か不機嫌そうに問いかけるマルトー どうやら、彼はあまり貴族が好きではないようだ、とサララは考える 「実は、ミス・ヴァリエール……彼女を召喚した貴族の方が、 彼女に食事を用意するように、とおっしゃられて……」 「何ぃ?」 再びじろり、と睨みつけてくるマルトーだったが、やがてくるり、と背を向けた 「仕方ねえな。賄いのシチューがあっただろ。あれでも食べさせてやれ」 「ぼくにはお肉だけちょうだいね。熱いの嫌いだから」 ワガママを言う飼い猫を目線で嗜めた後、サララはほっと一息つく そして、今はまだあまり好かれてないらしいマルトーとも いつかは仲良くなりたいな、と思うのだった 無論、人に嫌われるのがあまり好きではないというサララ自身の性分ゆえに、だが、 こんな所で料理長をやっているし、服装も綺麗だし、 きっと結構な収入があるから、あわよくば常連さんに……という 商売人ならではの打算も、ほんの少しだけ入っている おいしいシチューを存分に味わった後で、 サララは何か手伝うことはないか、とシエスタに問いかけた 世の中はギブアンドテイクである 「今は特にありませんが……では、昼食の後で、 デザートを配るのを手伝ってくださいませんか?」 その言葉に了解の意を示し、マルトーにも丁重に礼を言うと厨房を出た 「ちゃんと食事はとれた?」 幸いにも厨房から出てすぐ、ルイズと合流できた 「これから何処行くの?」 「勿論授業よ。といっても、今日のは復習程度の簡単なものだけどね」 チョコの問いにルイズが答えた通り、次に辿り着いた場所は広々とした部屋だった 「うわぁーひろーい。ここで勉強するんだ?」 「ええ、そうよ」 階段状に机と椅子が並んでおり、一番下の段には黒板と変わった机がある 多分、あそこで教師が授業をするのだろう、とサララは予想した 学校というものには馴染みがないが、何かの書物でこういう風な教室を見た気がする 二人と一匹が入っていくと、教室の生徒達が一斉に振り向き、 くすくすと小さな笑い声を立て始めた 「何なんだよもう、感じ悪いなあ……」 チョコが不満を漏らす中で、サララは辺りを見回した 皆、様々な使い魔を連れていた キュルケのサラマンダーは椅子の下で眠り込んでいる 少しぽっちゃりした生徒の肩にはフクロウが乗っていた 窓からは巨大な蛇が頭を覗かせていたし、カラスも、 チョコと同じような猫もいた 六本足のトカゲもいたし、目玉のオバケに蛸の人魚もいた 見慣れない生物達にサララは目をぱちくりさせる もし、あれらと戦うことになったとして勝てるだろうか、 元居た場所と違って彼らは喋ってくれなさそうであるから、 交渉をするのも難しいだろうなあ、とため息をつく 戦って勝てそうなら戦う、駄目なら逃げるか、交渉 ダンジョンで鍛えた戦略も通じなさそうで肩を落とす 「ほら、椅子を引きなさいよ、気がきかないわねえ」 ルイズにそう言われて、慌てて椅子をひいた そして、自分もその隣の椅子に座ろうとする 「おい、ゼロのルイズ!使い魔を椅子に座らせるのかよ!」 フクロウを肩に止めた少年が、ニヤニヤと笑いながら声をかけてきた 「うるさいわね!でもあんたのフクロウはそこでいいんじゃない? やわらかくて、さぞ居心地がいいでしょうよ、風邪っぴきのマリコルヌ!」 ちょっと気が大きくなっているルイズが少年に言い返した 「風邪っぴきじゃない!僕は『風上』だ!」 ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた二人をサララはおろおろとしながら見る 扉の開く音がして見やれば、紫のローブに身を包んだふくよかな女性が入ってきた ローブと揃いの色の帽子を被り、手には小ぶりな杖を持っている 彼女は言い争いをしている二人を見るとため息をつき、呪文を唱えた 立ち上がり言い争っていた二人は、糸が切れた操り人形のようにすとん、と席につく 「ケンカはおよしなさいな。さて、皆さん。春の使い魔召喚の儀式は 成功したようですわね。こうやって様々な使い魔を見るのが、このシュヴルーズの 楽しみですのよ。……中には、少し多めに召喚なさった方もいるようですが」 サララとチョコを見たシュヴルーズのとぼけた声に、クラス中が笑う 「ゼロのルイズ!召喚できなかったからって、その辺の子供と猫を連れてくるなよ!」 「違うわ!ちゃんと召喚したもの!」 「そうだそうだ!」 ルイズに同調してチョコも抗議する 「嘘つ……むぐ」 さらにからかおうとした生徒の口に、赤土の粘土が貼り付く 「およしなさい、と言っているでしょう。さあ、授業を始めますよ」 シュヴルーズが杖を振ると机の上に石ころが幾つか現れる サララは始められた授業を興味深く聞いていた ダンジョンにおける『熱』『冷』『雷』の法則はこちらに存在しないようだが、 魔法の四大元素が『火』『水』『土』『風』であることは変わらなさそうだ さらにこの世界には、失われた系統である『虚無』が存在するそうである シュヴルーズの言葉によれば、『土』は建物を建てるのにも、 金属を加工するのにもかかせない系統であるらしい 自分の知る限りでは、魔法は攻撃や治癒、身体能力の一時的向上などに使われるが この世界では生活自体に密接に関わっているんだな、と感心しきりである 「今から皆さんには、『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を 覚えてもらいます。一年生の時点でできるようになった方もいるでしょうが、 何事も基本は大事です。では、手本を見せますね」 シュヴルーズは石ころに向かって小ぶりな杖を振り上げた そして短くルーンを呟くと石ころが光りだした その光がおさまったあと、石ころはピカピカひかる金属に変わっていた 「ゴゴ、ゴールドですか、ミセス・シュヴルーズ!」 キュルケが興奮した様子で身を乗り出した 「違います。ただの真鍮ですわ。ゴールドを錬金できるのは 『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」 もったいぶった咳をして、シュヴルーズは続けた 「『トライアングル』ですから」 「ね、ルイズ」 チョコが、ちょいちょい、とルイズの腕をつついた 「なによ。授業中よ」 「スクウェアとかトライアングルって、どういうこと?」 「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」 「え?どういうこと?」 ルイズは小さい声でチョコに説明し出す サララもそれに耳を傾けた 「『火』『土』のように二つの系統を足せるのがラインメイジ、 『土』『土』『火』のように三つの系統を足せるのが、 シュヴルーズ先生みたいなトライアングルメイジ」 「同じ系統を足してどうすんのさ?」 「その系統がより強力になるのよ」 異世界だと、やはり魔法も随分と違うらしい、とサララは説明を聞きながら頷く 「で、ルイズは幾つ足せるの?」 チョコの問いに、ルイズは押し黙ってしまった そんな風に喋っているのを見咎められ、錬金の実践を求められた 途端、教室の中がにわかに騒がしくなる 「先生!危険ですのでやめてください!」 キュルケが立ち上がり進言するが、シュヴルーズはそれを却下する ルイズは緊張した面持ちで机の前へと向かった 生徒達は、慌てて椅子の下に隠れ出している 「え?何?何なの?」 事情が分からずサララとチョコはうろたえながら辺りを見回すばかりである ルイズはルーンを唱え終わり、杖を振りおろす その瞬間、石ころは机ごと爆発を起こした 爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズが黒板に叩きつけられる 爆発に驚いた使い魔達が暴れ出し教室の中は阿鼻叫喚の地獄絵図である 「だから彼女にやらせるな、と言ったじゃない!」 キュルケがフレイムを落ち着かせようと必死になりながら叫ぶ 「あー!俺のラッキーが蛇に食われたー!!」 使い魔のカラスを飲み込まれた様子の生徒が慌てている カラスって不幸を呼びそうな生き物なのに、ラッキーってつけるのは 随分無茶なネーミングだな、などと爆音にふらつき まともな思考のできていないサララはその叫びを聞きながら考える 煤で真っ黒になり、ボロボロになったルイズは 大騒ぎになっている教室を意に介した風もない 取り出したハンカチで顔を拭きながら、淡々とした声で言った 「ちょっと失敗みたいね」 その言葉に生徒達が猛然と反撃した 「何処がちょっとだ!!」 「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」 「いつだって、成功の確率ゼロじゃないかよ!」 サララはやっと、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているか理解した 自分と同じ『魔法の使えない』魔女だからなのだ、と 前ページ次ページ使い魔はじめました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7661.html
それは使い魔召喚の儀式の際に起こった出来事である。 この事件に関してわがU,Kは一切の責任を負わない。 事故報告.1 召喚時の暴走事故 ルイズ嬢(仮名)は車輪状の使い魔を召喚したそうだ。 しかし不用意に火気を近づけた?(爆発したか?)によりロケットに点火。 暴走し、教師一名、モグラ一匹を跳ねとばし停止。幸い速度が出ていなかったので、一人と一匹は軽傷で済んだ。 同校では以前にも我が国製粘着爆弾暴発事故が起こっている。 ルイズはイギリス軍が開発した珍兵器?グレート・パンジャンドラムを召喚したようです。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5502.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (45)口論 アンリエッタはタバサの手からイザベラの手紙を受け取ると、それにさっと目を通し、しばしの間逡巡した。 だがそれも時間にして一瞬のこと。そこからの決断は早かった。 アンリエッタは呼び鈴を鳴らして、すぐさまトリステインから連れてきた側仕えの侍女を呼び出し、彼女にもう一人、別の侍女を連れてくるように言いつけると、ルイズへと向き直った。 そして、彼女はこう口にした。 「ルイズ、服を脱ぎなさい」 その暫く後。 アンリエッタとルイズの二人は、杖の先に魔法の明かりを灯したタバサを先頭にして、プチトロワからグラントロワまで繋がる、秘密の通路の中を歩いていた。 「……段差、気をつけて」 「はい、お気遣いありがとうございます」 タバサは変わらなかったが、アンリエッタとルイズの二人は、先ほどまでと袖を通している服が違う。 アンリエッタは闇をくり抜くような、輝かんばかりの純白のドレス姿である。 そして一方―― 「すみませんね、ルイズあなたにそのような格好をさせてしまって……」 そう言って何度も繰り返し頭を下げるアンリエッタに、 「い、いえ! 陛下、そのようなこと、お気になさらず。どうか、どうかお気になさらず! 私、メイドですからっ! メイドが相応しい女ですからっ!」 などと言って手をバタつかせて恐縮するルイズの出で立ちは、メイドであった。 何故二人がそのような装いに身を包んでいるかと聞かれれば、それはやはり、先刻のやりとりの続きを書かねばならないだろう。 アンリエッタがルイズに服を脱ぐように言ったのは、別にルイズのフラットな裸が見たかったからではない。 その服を、別の者に着せなくてはならなかったからである。 ルイズが服を脱ぎ終わった頃に、先ほどアンリエッタが呼びつけた侍女が、部屋へと戻ってきた。(アンリエッタがどれほど手早くルイズの服を脱がせたかについては、この際割愛させてもらいたい) 一人ではない。そのとき彼女はもう一人、別の侍女を連れてアンリエッタの部屋に戻ってきた。 そして連れてこられたもう一人の少女は、そばかすをとあどけなさを残した、可愛らしいという表現の似合う素朴な娘であった。 身長は女性平均のそれより低く、やせ形で、そして体の緩急が極端に少ない。発育がよいとは言い難い娘であった。 つまり、彼女はルイズそっくりの体型をした娘だった。 ルイズを脱がせる傍らで自分も服を脱いでいたアンリエッタは、そのぬくもりと香りがまだ残るドレスを、最初にやってきた方の侍女へと手渡した。 「よろしくお願いしますね」 それを聞いて、どうやら彼女達に自分達が着ていた服を着せ、替え玉に仕立て上げようという思惑なのだと、ようやくルイズも気がついた。 しかし、突発的な計画というのは、往々にして思った通りには進まぬもの。 代わりの服を着るという段になって、アンリエッタの前に新たな問題が持ち上がった。 「まあどうしましょう! ルイズ、あなたに合う服がないわ!」 そうなのである。クローゼットの中には数着の衣服が用意されていたが、その中でルイズが着られそうなサイズの服は、アンリエッタの見立てでは一着もなかったのである。 当然、少し離れたところにあるルイズに割り振られた部屋まで戻れば、そこには自前の服がある。 「陛下……その、私の部屋まで戻れば、替えの服も……」 下着姿のまま、手で恥ずかしそう体を隠して、そのことを伝えようとしたルイズを、アンリエッタが口早に遮った。 「いいえ、いけません。そんな不用意な真似はさせられません。もしもそのことを見とがめられては、厄介なことになります」 そう言われてはルイズにも言い返す言葉がない。 「うぅん……何かよい方法は……」 小さく呟いて妙案はないかと、アンリエッタが思いを巡らす。 考えながら、彼女は視線を、タバサ、ルイズ、それから二人の侍女へと移動させる。 そしてふと、後から連れてこられた侍女のメイド服に目が止まった。 この部屋にある服は、全てアンリエッタの服である。 ならばルイズが着る服はそれ以外から調達しなくてならない。 先ほど部屋の中にルイズが着られる服は一着もないと思ったアンリエッタだが、そこで彼女ははたと気づいた。 服ならここに、丁度二着あるではないか。 「ルイズ……不躾な質問ですが……あなたはメイド、お嫌いですか?」 結果として、ルイズと小柄なメイドは、その着ているものを交換することとなった。 アンリエッタはルイズにメイドが着ていたエプロンドレスを着るように言うと、同様に二人のメイドにも自分たちが着ていたドレスを着るように言った。 そして自身もクローゼットの中から着替えやすい一着を選ぶと、彼女もそれに素早く着替えた。 そうやって四人の服装が入れ替わると、次はタバサの出番だった。 タバサは目を閉じて集中してルーンを唱えると、メイド達に向かって杖を振った。 すると室内だというのに風が巻き起こって、それが侍女達にまとわりつき、実に不思議なことが起こった。 風が止んだとき、メイド達の顔は、それぞれアンリエッタとルイズのものへと変わっていたのだ。 ――フェイス・チェンジ。 風系統のスクウェア・スペルである。 「う、わ……。まるで鏡を見ているみたい……本当にそっくりだわ」 ルイズが先ほどまでの自分と全く同じ格好をしている娘をじろじろと見ながら、そんな感想を述べた。 アンリエッタもその結果に満足したようで、安心のため息を一つ漏らした。 「ふう……、どうやら無事、上手くいったようですね」 「………」 そのアンリエッタの言葉に、タバサが無言のまま、首を縦に振った。 別段同意を求めた呼びかけでもなかったのだが、その仕草にアンリエッタは満足そうに頷くと、早速次の行動に移ることにした。 「ささ、ゆっくりもしていられません。早速向かいませんと」 『向かう』、その言葉に自分そっくりに化けた娘を見ていたルイズが反応を示した。 「あの……? 陛下? このような身代わりまで用意して、一体どちららに向かわれるのですか……?」 ルイズの言葉に、アンリエッタは小首を傾げて『あらっ?』という反応をし、それから顔を上に上げて、人差し指を唇にあてて、少しの時間悩んだ。 そして、その顔をルイズの耳元へと近づけ、ゆっくりと、それこそ言葉を選ぶようにして声を潜めて言った。 「我々はこれから、この宮殿の主、ガリア王の前へと赴くのです」 「……っ! 陛下っ! それは、むぐっ!」 「しっ、声が大きいですよ、ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタは慌てて手でルイズの口元を押さえると、振り返って、背後にいる、自分たちと同じ格好をした二人を見た。 彼女達はこちらの会話は聞こえていなかったのか、別段驚いたふうもない。 ルイズが驚いたことからも分かるように、そしてアンリエッタが侍女達に悟られないように配慮したことからも分かるように、これは尋常なことではない。 「良いですか? 我々はこれから、ガリア王の招きに応じる為に、シャルロット殿が通られてきた隠し通路から、極秘の会談のために用意された部屋へと移動しなくてはなりません」 「……ぷはっ! し、しかし陛下っ、ガリアの女王は……その、噂に聞くあの王の、娘で……」 言いづらそうに言葉を濁したルイズが、後ろで表情を変えずに立っているタバサを見た。 ルイズは以前に、彼女の執事であるペルスランから、タバサの境遇について説明を受けている。 その話の中で、タバサの父親の命を奪ったのも、タバサの母親に毒を盛ったのも、今の女王の父親、無能王と呼ばれた先王ジョゼフだと聞かされていた。 そんな彼女がどのような経緯でこのガリアの、それも宮殿にいるのか、女王の妹とは何のことなのか、そういった一切合切が分からなかったが、それでも、彼女の前で敵である先王の名を口にするのは憚られた。 だが、それ以上にルイズがアンリエッタを引き留めようとするのは、会議の最中、晩餐会の最中に見せたイザベラの奇行に原因がある。 会議の最中にいびきをかいて寝る、晩餐会では前菜の前からワインを浴びるように飲む、そして何より、あの猛禽類もかくやという鋭い目つき。 ルイズには彼女が、アンリエッタと同じ一国の女王とは到底思えなかった。 そして、そんな彼女とアンリエッタが話をするということが、何となく嫌だったのだ。 「そんなに心配をしなくても平気ですわ。仮にも一国の元首、一度ことに当たれば民を導く指導者としての顔を見せてくださるでしょう」 「でも、陛下……」 「大丈夫ですよ。わたくし、これでも人を見る目には自信がありますの。それにわたくしには分かります。彼女の普段の素行や言動は、人を欺く仮の姿。油断ならぬ相手ではありますが、彼女は理性的な話し合いのできる相手です。 なにより、今の段階になってわたくしに害をなすことで、彼女が何かを得るということはありませんもの」 そう言いきったアンリエッタに、ルイズも言葉がつまらせた。 「例えそうだとしても……そのような場所に私のような者が出席するというのは」 「それも彼女の意向なのです。こちらの書状にそのように書いてありました」 そう言ってアンリエッタは先ほどタバサから受け取った書簡を広げて見せた。 そこには確かに、ルイズを連れて来て欲しいとの要望が記されていた。 流石にそんなものを見せられてなお拒否したとあっては、敬愛するアンリエッタの面子にも泥を塗ることになる。 何より、もしもガリア王が良からぬことを企てていたときに、自分が側にいたならば何とかできるかも知れない、そんな考えがルイズの脳裏によぎった。 加えてタバサの件もある。 もしも友人が脅されて仕方なく女王に従っているのだとしたら、必ずやその魔手から救い出さなくてはならない。それがルイズの、貴族としての、誇り高い人としてのあり方だった。 それらのことを一通り考えて、結果としてルイズは、深くため息をついてから 「……わかりました」 と、メイド服の肩を落としながら答えたのだった。 そうして場面は、再び暗中を行く三人へと戻る。 確かな足取りで先頭を歩くタバサに連れられて、ルイズとアンリエッタも暗く狭い、ひんやりと冷たい地下通を進んでいく。 途中、いくつか罠らしきものもあったが、どれも長い時の間に風化してしまっているか、既に無効化されているものばかりだった。 三人が抜け穴に潜ってから十分ほども歩いた頃、タバサの足が、ある一点でぴたりと止まった。 「? どうしたの、タバサ?」 訝しんでルイズはタバサの見ている先を覗き込んだ。 そこは、一見して黒塗りの煉瓦が積み上げられただけの、何の変哲もない行き止まりであった。 その声に反応したのでもないのだろうが、杖を掲げたまま、タバサは二人を振り返って言った。 「ついた」 言ってタバサは、煉瓦の一つ、床から少しだけ上にあるそれを、足で押した。 続いてルイズ達がまず耳にしたのは、ガコンという何かが落ちたような音。 そして更に、振動を伴った重い音と共に、ルイズ達の前で行き止まりと思われていた壁がゆっくりとスライドしていき、行き止まりと思われていた壁の先に狭い空間があらわれた。 奥には、さびが浮いて赤茶けた、一枚の鉄扉。 その先こそは、ルイズ達が目指していた目的地に、違いなかった。 ――まぶしい。 光が目を刺すようにして飛び込んだ為だ。 暗所から突然部屋の中に出たため、目が慣れない。 手で明かりを遮りながら、三人は目をしばたかせた。 光の中に、誰かがいる。 そう思ったとき、向こうもこちらに気がついたのか、挨拶の声がかけられた。 「随分と遅かったじゃない。って、ルイズ……、あんた随分とその格好、随分と似合ってるわねぇ」 「おや本当です。可愛らしいレディの登場ということですね。もちろん他のお二人も負けず劣らずお美しい」 「ん、ああ? 本当に来たのか。不用心にも程がある」 「もぐもぐ」 徐々に目が光に慣れていく。 ようやっとものが見られる程度に視力が回復したルイズは、薄目を開けて、声のした方を見た。 そこには、 「ぷぷぷっ……ホント、よく似合ってるわよ」 こちらを見て口元を隠して笑っているキュルケと、 「ふふふ、お嬢さん。そんなに一辺に口に入れては喉がつまりますよ」 柔らかな微笑みを浮かべながら、牛飼いのごとく青髪の美女の口にお菓子を次々に放り込んでいる教皇、 「ふん、丁度ワインを飲みきったところだ。おいシャルロット、新しいのを持ってこい。ばれないようにな」 ぐびぐびとワインを流し込んでいるイザベラ、 「こんな小さいこっぱじゃ、全然食べた気がしないのね!」 もっしゃもっしゃクッキーを頬張る青髪の娘がいた。 それはちょっと、ルイズの想像していたのとは、違いすぎる光景だった。 「な、な、な、な……」 口をわなつかせたルイズが何で、と発するより早く、制するようにアンリエッタがさっと一歩進み出た。 そして、胸を張って口上一声。 「お招きに預かり……」 「あー、はいはい。そのくらいで良いぞ。別に堅苦しい挨拶を上げてもらう為に呼んだんじゃない」 そう遮ったのはイザベラだった。 口上の最中だったアンリエッタが、言葉を止めた。 緊張に体を強ばらせて、つばを飲み込む。 「それではなんのご用向きでしょう、イザベラ殿」 ロマリアの教皇、ゲルマニアの特使、それにトリステインとガリアの女王。 正に各勢力のトップを極秘裏に集めて、ガリアの女王は何をしようというのか、何を持ち出そうというのか。 ルイズの出席まで指定してきたということは、ロマリアはおろかガリアにまで、彼女の秘密が知られていることを意味しているのではないだろうか。 それに、イザベラやタバサよりも年上に見える、あの青髪の女性の存在も気にかかる。 現在ガリア国内で、王族直系を示す青髪を持つのはガリア王イザベラと、先王に謀殺された王弟の娘シャルロットの二人しかいないはずである。ここに来て未確認だった『三人目』が現れたその意味も分からない。 静かに、悟られぬ様に深く息を吸う。 この場で、何かとてつもないことが起こる。そう直感したアンリエッタは唇をきつく一直線に引き締めた。 けれど、次にイザベラの口から飛び出したのは、そうしたアンリエッタの心中を裏切るものだった。 「ああ、違う違う。アンリエッタ殿をこの場に呼び出したのは、単なるお茶のお誘いだ。こいつらがこの場にいるのは勝手に押しかけてきたってだけさ」 そう言うと、 「私はイザベラ殿を食後のお茶に誘おうと思ってのことですよ」 教皇はそう口にして、『作業』を再開し、 「私はこの部屋がタバサの部屋だって聞いたから来たのよ。『姉君』がいたのは驚いたけど、それもこれもただの偶然」 とキュルケが言い、 「もぐもぐもぐ……」 青髪の娘はまたクッキーの処理を始めた。 それぞれの言い分を耳にしても、アンリエッタは不動であった。 あるいは、周りから見て、揺らいでいないよう見えた。 「つまり、この場にこれだけの人間が集まったのには、深い意味はないと。楽しくお茶をするための集まりであると、そうイザベラ殿はおっしゃるのですね」 「そう、その通り。アンリエッタ殿がおっしゃる通り」 アンリエッタの反応を楽しむようにニタニタと笑っているイザベラ。その姿に一瞬彼女は目の前のイザベラが自分に嫌がらせをして楽しんでいるのではないかという考えに捕らわれかけるが、すんでの所でそんなことはないと踏みとどまった。 部屋の中央にある丸テーブルについて、反り返る様に椅子に座っているイザベラの格好は、到底人を招いた人間の格好とは思えないものだった。 今、彼女が来ているのはフォーマルな服装とはいえないどころか、人と会う姿ですらなかった。 ガウン一枚、それが彼女の纏っている全てである。 襟に豪勢に羽毛をあしらった、最高級だと分かる厚手のガウンの下には、白い肌が露出しているのが見てとれる。 そんな格好で人を迎えるなど、アンリエッタの常識では到底考えられない。しかも、この席には教皇聖下までいるというのにである。 だが、だからといって油断はできない。 彼女のその姿はアンリエッタを欺く演技であるかも知れないのだ。 トリステインが入手しているガリアの内部情勢、特にここ最近のイザベラが実権を握ってからの短期間で進められた宮廷内部の改革と人事刷新からは、彼女の並々ならぬ政治手腕が見て取れたからだ。 イザベラは、不安定で分裂しかかっていたガリア宮廷内部を、強引ともいえるやり方でまとめ上げていた。つまり、自分の息のかかった者で権力の中枢を固め、刃向かう者は失脚させるか、追放するか、……あるいは処刑するか。 このことは彼女が敵味方を嗅ぎ分ける嗅覚に特に優れているということを意味しているのだが、それを知らぬアンリエッタからすれば、イザベラの人を見る目とその判断力、決断力は、正に怪物と言って差し支えないものであった。 ならばこそ、アンリエッタにはこの集まりが、何の目論見もなく開かれたものだとは到底思えなかったのだ。 「わかりました」 落ち着き払った声で、アンリエッタの返答。 「陛下っ!」 ルイズの制止を促したが、アンリエッタはそっと目線を向けてこう言った。 「良いではないですか。折角のお招きです。甘えるといたしましょう」 不安そうな目でこちらを見ているルイズを見て、アンリエッタの中の不安がますます強くなった。 自分の行動が、大切な親友の、ひいては愛する民達の未来を左右する。 これほどまでに強烈に王の重責を意識したことは初めてかも知れない。 「大丈夫。きっと大丈夫ですから」 そう、言って聞かせるように、自分を戒めるように、呟いた。 不安は彼女を押しつぶそうとする。 だが、それ以上にそれに負けないという決意と意志は、確かに彼女の中に燃えていた。 ――結果としては、それは全くに空回りであったのだが、彼女がそれを痛感するのは暫く後のことである。 さて、 席について二十分、早くもルイズはこの席に着いたことを後悔し始めていた。 「あらあら、その事件は確か百年も前に裁判で決着がついたことではありませんでしたか?」 「王政府に無断で一公爵が取り決めた事例に、従う義理も謂われも無いね」 数人が囲んで座れる丸テーブル。 ルイズの左にはアンリエッタ、ルイズの左にはイザベラ。 二人の女王に挟まれたその席は、まるで地獄の釜の底のよう。 そもそも、アンリエッタとイザベラ、この二人は決定的に、徹底的に、相性が悪かったのだ。 例えば花の好み。 アンリエッタが「わたくしは白い百合の花が好きですわ」と言えば、 イザベラが「白い百合? 葬式の花かってくらい辛気くさい。それだったら私は黒い薔薇の方が好きだね」と言い。 例えば趣味の話。 イザベラが「狩りというのはなかなか面白い。獲物をどうやって仕留めるかに、センスが出る」と言えば、 アンリエッタが「まあ、女性の身でありながら狩りですか、野蛮極まります。私は歌を歌う方が好きですね」と言い。 例えば自分の理想については、 アンリエッタが「王とは、人を守り正しき道に導く者。民を愛し、民に生かされる者、それを忘れてはいけません」と言えば イザベラが「なんだそれは、奴隷かい? 王とは、人を征しその生き様で道を示す者。民に愛され、民に尽くし捧げられるだけの価値と力を持った存在のことだろう」と言う。 一事が万事、このような調子である。 目の前でそんな言葉が飛び交っているのを耳にして、ルイズは生きた心地がしなかった。 「今はっきりと分かりました! あなたに深い思慮分別なんてありません! 先ほどからの言動は、ただ単にわたくしへの悪意ある嫌がらせに過ぎません!」 「ははん! ようやっと気づいたのかい! 田舎者のトリステインのトロい小娘は最後まで気づかないんじゃないかと冷や冷やしたよっ! 」 「なんて言いぐさでしょう! ガリアこそ、ここ二十年の停滞で立ち後れた国じゃありませんのっ! それにあなたに小娘と言われる謂われはありませんっ!」 「なんだとっ!? ちょっと乳がでかいからって調子に乗るな! 大体、私は一目会ったときから気に入らなかったんだ、そのすました顔が、いかにもこれまで恵まれて育てられてきましたーっていうお姫様然とした態度がっ! その鼻をへし折ってやりたくて仕方なかったのさっ!」 「ええ、不本意ながら同感ですわっ! あなたのような野蛮で下品な方が、わたくしと同じ一国の女王だなんて信じられませんっ! あなたのせいでわたくしまで品位を疑われてはたまりませんわっ!」 「ほぅら本音が出たっ! 結局人間なんてものは一皮剥けば自分が一番可愛いんだよっ!」 「なっ! それとこれとは話が別でしょう!?」 二人の熱はスパイラルを形成し、着実にそのボルテージは高まっていく。 そんな光景を前に、ルイズは何もできないでいた。 一方、予想外の流れにルイズがあわあわしている向かいでは、キュルケが涼しい顔をしてカップにお茶のお代わりを注いでいた。 キュルケを恨めしそうにじっと睨むルイズ。 その視線に気がついたのか、キュルケは肩を小さくすくめてみせた。 それは言外に 『放っておけば良いんじゃない?』 と言っているようだった。 我関せずという姿勢をとっているのは何も彼女だけでは無い。 キュルケの右隣に座っているタバサはさっきからずっと視線を落として手元の本の文字を追っていたし、その更に右の席では教皇が、ずっとあれやこれやの菓子類を、名も知らされていない青髪の美女の口に放り込んでいた。 本当はタバサとも話したいこともあったルイズであったが、いかんせんこうなっては、席を立つことすらも難しい。 そうやってアンリエッタとイザベラが、いつ爆発するか分からない危険な領域に突入した頃。 ――流れを断ち切る音がしたのは、そんなときであった。 ガタッという席を立つ音。 立ち上がっていたのは、教皇であった。 無言で立った白衣の青年に、一瞬彼が二人を止めるのではとルイズは期待を込めた眼差しで見上げたが、次に彼の口から発せられたのは、それとは全く違うことだった。 「それではわたくしはこの辺でお暇させて頂きます」 何を言うかと思えばそんなこと。 ルイズは相手がハルケギニアで最も高貴な存在であることも忘れ、はっきりと落胆の色を表した。 しかして、教皇はそんなルイズに、最後の最後で救いの手を差し伸べた。 「ミス・ヴァリエール。よろしければわたくしと散歩がてら、外でお話をしませんか」 「……え?」 突然の申し出に、ルイズは目を丸くして驚いた。 「お二人とも、よろしいですかな?」 続けて教皇は、流れる水の音のようなよく響く声でそう言った。 その言葉に、それまで激しく口論していた二人がぴたりと口を閉じる。 途端に降りる静寂の帳。 魔法でもかかっていたのかと思うほど、その言葉は見事に空間に真空状態を作り出していた。 「え、ええ……ルイズがそれでいいと言うのなら……」 「別に私が口を挟むことじゃない」 教皇は二人の口から、許可の言葉が出てきたことを確認すると、ルイズに近寄り、極上の笑顔で手を差し伸べた。 「お手をどうぞ。ミス・ヴァリエール」 とんでもない。手を出したのは向こうが先です。 ――アンリエッタ・ド・トリステイン 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6831.html
前ページ次ページルイズとヤンの人情紙吹雪 チュンチュン。 スズメが鳴いているー。 朝だ。すがすがしい朝だーー。 夜寝て朝起きるなんて、何て健康的な吸血鬼なんだ俺。 朝日射し込む窓の前で伸びをするぜ。 朝日なんてへっちゃらだぜ。 こー見えてもヴェアヴォルフの端くれだからな。 太陽と水ぐらいは効きません。燃えたら死にますけどね。 なんて丈夫な体なんだ。 藁のベッドで寝ても全然だいじょーぶー。 Fuck!ルイズのヤローー!藁に人寝かすかよフツー! 可愛いツラして寝やがって。犯すぞコラ。ホッペつんつんするぞコラーーッ! つんつん。ぷにぷに。 つんつん。ぷにぷに。 「うぅ~……………」 ……。 おー起きない起きない。アブねーアブねー。 チラッ。 ……。 洗濯の山、か。 昨日ルイズは洗濯しろって言ってました。 やるわけがありません。本当にありがとうございました。 ……。 スヤスヤ……スピースピー……。 安らかに寝てやがるなー。 起こせとは……言われてネーな。 言われててもやりませんがね。ぷっ。 ……。 ………。 ひーーまーーだーーなーーー。 ……。 ………。 決めた。起こします。 「ルイズちゃーーん、起きなさーーーい あーーさーーでーーすーーよーー。」 つんつん。ぷにぷに。 つんつん。ぷにぷに。 「………うぅ~ん…… クックベリ~パイ~……もう食べれないぃ~……ムニャムニャ…」 コイツ……本当にコンナ寝言、言うヤツ初めて見た。 「おーーーきーーーろっての! 起きねーと犯しますよーーーー?」 ぐぅにぐぅに。むにーむにー。 おお、ホッペタ伸びるねー。 ぐぅにぐぅに。むにーむにー。 おほ、おもしれー。 ぐぅにぐぅに。むにーむにー。 「うぅ…むひゃ……う~……うにゅ……」 ……。 まだ起きねーとは。結構強めに抓ってるはずだが…。 なかなかヤルじゃねーのルイズ。 けど僕はヒマなんデス。 「起ぉきろ、コラァァァーーーーッ! ヴァンパイアの俺様がスカッと爽やかに起きてんだからテメェも起きやがれェェェェ!!」 ぶわっ。 毛布を剥ぐ。 ぐぅぅぅぅにぃぃぃぃぃッ。 ホッペを持ってハンキングツリー。 「ふわぁ!? あひゃひゃひゃひゃ! ひゃにごとぉ!? い、いひゃ、いひゃいぃぃ! あ、あんひゃいっひゃいひゃんひゃんひゃひょぉ!?(意訳 : 何事ですか?痛いです。あなた、一体何なんですか?)」 「朝です コンニチワ。 親切にご主人様を起こしてやっている使い魔のヤン提督です。 好きなものは各個撃破 あと紅茶。 じゃなかったヤン・バレンタインですだヨ。」 パッ。ドサッ。 手を離されベッドに自由落下するルイズ。 痛む頬を押さえて涙目でヤンを睨む。 「わ、わかってるわよ! お、おおお覚えてたわよ? つ、使い魔のヤン・バレンタインでしょ?」 「そーそー おはよーー 今日も一日元気にいこーぜー。」 さらに眼光をするどくさせヤンを睨む。 「き、昨日言い忘れてたのに起こしたのはえらかったわ。 で、でもね! もうちょっと優しく丁寧に起こしなさいよ!! すっごい痛かったでしょ!!」 ルイズはまだ頬をさすっている。 「……わーかったよ 優しく起こせばイーんだな 優しく。」 言うやいなや、ヤンはルイズの両肩を掴む。ヤンの顔がルイズの顔に急接近して、そして……。 「ッ!?」 ヤンはキスをした。 召喚されたときのようなヤツ。 すなわちディープ。 「ん、んぐぅ!!? ん、ん~! んぅ…! …んん!」 起きたてで、しかも不意をつかれたルイズは茫然自失になった。 何が起きているのかも理解できず、目を白黒させながらもがいている。 そうこうしている内にまたもやルイズの口腔をヤンの舌が縦横無尽に暴れまわっている。 「ん~~ッ! ん、んぅ、んッ! ハァ…ん! ふわぁ…ん、ん~……ッん!」 あの時のような激しいが、どこか優しくて憎めない。 そして拒めない。 爽やかな朝日が射し込む広い部屋に、淫靡な水音が響く。 やがてヤンの舌が引き抜かれて、唇が銀糸を細くしながら離れていく。 ルイズの口からは、どちらかの唾液がツゥっと一筋流れていた。 ルイズは息荒く、ベッドの上にペタンっと座り込んでいる。頬には朱がさし、見る人が見たら準備OKなのかそれとも終わった後なのか、といったところである。 「こんな感じ?」 痛くなかったろ~ひっひっひ?などと言いながらヤンは口の端を吊り上げる。 だんだんとルイズは思考を取り戻していく。 そして今起きたことことを考える。 ……。 ………。 い、今……。 い、いいいいいいいい今コイツなななななな何を!? し、し、舌?ベロ?タン?なにが?なにを?え? ………………。 キ、キキキキキキキキキキスッ!?二度目!? わ、私…私……う、うわ…うわわわわわわわわわわわわ!? 「こ、ここここここここここの馬鹿犬ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!!!」 ルイズは叫び、立てかけてあった杖を引っ掴むとヤンに向かって振り下ろす。 一連の動きは速かった。 本当に速かった。 ドゴーーーーーン! パンツァーファウストをぶち込んだような音が響いた。 Amen(エイメン)、ヤン。 ヤンは洗濯籠を持ってウロウロしていた。 ルイズに黒焦げにされた後、洗濯物を持たされて部屋を追い出された。 染み一つ無く完璧に洗い上げるまで帰ってくるな、との命令が下されたのだ。 洗濯ったってよ。どーすりゃいいんだよ。どこでやりゃいいんですか。 …………。 …………。 ボ わたしはーーーーーーー♪なあんでーーーーーーーこのようなーーーーー エ つらーーーーいつとめをーーーーーーせにゃならぬーーーーーーーーー♪ | 昼にしおれてーーーーーーー♪夜になくーーーーーーーーーーーーーーー | 用がすんだらまわれみぎーーーーー♪ーーーーーーーーーーーーーー♪ | ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ ヤンは不気味な歌を歌った! ヤンはふて腐れて転がった! 洗濯物は盛大に飛び散った! 「あ、あの…… 大丈夫ですか……?」 声を掛けられた。 声は少し震えていた。怯えているようだ。 無理も無い。地面を転がっている成人男性がいたら恐い。 しかも変な歌も歌っている。 むしろ声をかけるこの少女の勇気は賞賛ものだ。 ヤンは転がるのをやめ、のっそり起き上がり少女を見る。 黒髪で…この格好はメイドだな!少佐が好きそうだ。 美人だな。うん。お近づきになろう! だがやはりちょっとビクビクしている。仕方ないね。 「おーー ちょっと聞きたいんだけどさー 洗濯ってどこですればイイんですかね? 僕こっち来たばっかで全然わからないんですよーー。」 ヤンは人懐っこい笑顔でケラケラ笑ってイイ人アピールをする。 その笑顔に少女は少しだけ安心したようだった。 「あ、ああ そうだったんですか? それなら私もこれから行くところですからご案内いたしますよ?」 「マジッすかー ありがとーございます いやー冷たいご主人様に『アンタはコレ洗ってきなさい!』ってだけ言われて追い出されてー困ってたトコなんですよーー。」 へらへら笑うヤン。 「え? ご主人様って…… あなたひょっとしてミス・ヴァリエールに召喚されたっていう平民の……?」 「おッ よく知ってんなー そーなんすよ。 僕使い魔のヤン・バレンタイン よろしくぅーーー。」 ズパッと手を差し出すヤン。 「申し遅れました。 わたくしトリステイン魔法学院でメイドをやっておりますシエスタと申します。 よろしくお願いいたしますね ヤンさん。」 籠を置き、差し出された手を握るとニコッと笑う。 清楚だねーーー。ルイズも見習えっての。ついでに胸もな。 「あの……ここでゴロゴロ転がるのは今後はやめておいた方がいいですよ? その…不審者と間違われて貴族に目をつけられるかもしれませんし……。」 「わかったーー もーしませーーん ありがとーー。」 シエスタはヤンに注意を促しつつ、散乱している洗濯物を集めてヤンの籠に入れてやる。 「わーーーい ありがとーー シエスタちょーー良い人ーーー かわいいーー おぱーいもでかーくてイイ感じーーー。」 ヤンは不思議な動きをしながらシエスタに感謝を述べた。おっぱいも褒めた。 「え、ええッ!? ちょ、ちょっとヤンさん!? イキナリなにをおっしゃるんですか!?」 シエスタは顔を真っ赤にしながらシドロモドロになる。 セクハラまがいの発言だったが、不思議とそこまで嫌ではなかった。 「ほ、ほら 行きますよ! 早く洗わないと、そんな時間もないんですから!」 シエスタは籠を持って小走りで駆けてゆく。 イー感じー。 そんなことを思いながら、ヤンも後を追うのだった。 シエスタの助力を得て(というより全部任せてきた)洗濯を終わらせたヤンはルイズの部屋に戻ってきた。 扉をノックする。 「ルイズやーー ヤンだよーーー おまえの使い魔だよーーー 開けろーーーー。」 ドーンドーン。 ……。 返事がない。 まさか二度寝してんじゃなかろうな?思いながら再びノック。 ドンドンドン。 「ルーーーーイズ。 使い魔だよーーーー お前の使い魔のヤンだよーーーーー 今帰ったよーーーーー 開けておくれーーーーーー。」 もういっちょ!ドンドンドン。 ガチャッ! 「うるっっっさいわね! 聞こえてるわよ!」 扉を乱暴に開け、凄い剣幕で出てきた。 「聞こえてんなら返事くらいしろって。 しかもなんだその出迎え方。 わかってねーなー そこはナカモトコウジを見習えっての!」 「誰よそれ! 知らないわよ!」 「テメェーー ナカモトコウジを知らネェのか! 異国の伝説的コメディアンだぜ? ドリフの『間』と『リアクション』は覚えておいて損はねー 王道だからな 勉強しておけ。」 「だから知らないって言ってるでしょ! もう!」 「チィッ! 兄貴ならこんな時、完全な返しをするのによォーーーーー。」 「うるさいうるさいうるさいッ! もう朝食の時間になっちゃうでしょ!! 遅れたらアンタのせいだからね!」 「うるさいのはアンタでしょ ヴァリエール。」 ヤンの声ではない。もちろんルイズのものでもない。 二人は声の方を向く。 そこには少女が立っていた。 赤髪、褐色の肌、背も高い。 そして何よりおっぱい! 服に収まりきりません、と言わんばかりの胸! グラマラス! さっきのメイドよりも上回っている! ルイズは顔をしかめ、ヤンは顔を輝かす。 「お、おはよう ツェルプストー。 ……何の用かしら?」 ルイズは攻撃的な空気を纏う。 「おはよう ヴァリエール。 何の用ってあなたがそれを言うのかしら? 朝っぱらから廊下でぎゃーぎゃー騒がないで下さる? みんなの迷惑ってヤツを考えられないの?」 赤髪の少女は余裕な対応。言っていることも正論だ。 ルイズは口篭って言い返せない。 確かに自分はうるさかった。 でもそれはこのバカな使い魔のせいなんだもん……。 そう思っても、心の底では自分の非を認めていた。 そのルイズの様子を見た、グラマラス赤毛少女は勝ち誇った顔をする。 しかしその顔は嫌味ったらしいバカにした表情ではなく、妹を見る姉のような…そんな優しい感じの表情だった。 ヤンは、あーこいつイイーヤツなのか と思った。 「でも…本当に平民を召喚するなんてね。 あなたってオモシロイ人って思ってたけど予想以上だったわよ これは。 さすがねヴァリエール ふふふふふ」 言われたルイズは歯軋りして睨みつけいる。言い返せないらしい。 ボインおっぱい少女はヤンを一瞥する。 「ふふ はじめまして使い魔サン。 私の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 キュルケって呼んでくださって結構よ。」 「ヤン・バレンタインだ。 いやーーしかし俺はツイテるな こんなカワイコちゃんと知り合いになれるとはよォーーヒャハ! ヨロシクなキュルケ。」 「あら? 正直な人ね……顔もなかなかハンサムさんだし、良かったらゆっくりワインでもどうかしら 美味しいのがあるのよ……」 「ほーー いいねーーー 俺も是非頂きたいぜェー なんなら今すg「ちょっと待ちなさぁーーーーーーーいッ!!!!」 恋の駆け引きタイムに突入しかけた二人を、ルイズが盛大に止める。 「あ、あんたねツェルプストー!! 人の使い魔に色目を使わないでちょうだい! ア、アンタもよ ヤンッ! なに鼻の下伸ばしてんのよ馬鹿犬!!」 ガルルッと今にも噛み付きそうにキュルケを睨みつける。 「あらあら こわいわ~ 会話にねじ込んで来るなんて無粋ねヴァリエール。 でもヤンもいいけどやっぱ使い魔はこーゆーのがいいわよね~。 フレイムーー。」 キュルケの後ろから大きなトカゲらしき生き物がキュルキュルと喉を鳴らしながら歩いてくる。 尻尾には炎が揺らめいている。 ヤンはヒューーッと口笛を吹く。 こんな化物(ミディアン)が堂々といるとはな。さすが異世界ってとこだな。 「驚いた? 見なさいこの尻尾! 火竜山脈に住むサラマンダーよ 火竜山脈よ火竜山脈! 普通のサラマンダーとは質が違うわよ おほほほほほほ! ほらフレイム 挨拶なさい。」 トラほどの体躯をもつフレイムはノシノシとルイズとヤンに近づいてくる。 だが少し近づいたところでフレイムはピタッと止まってしまった。 「? フレイム?」 キュルケは急にフリーズしてしまったフレイムを見る。 さらに近づくよう促すがフレイムは動かない。 「あら~~ ミス・ツェルプストー あなた自分の使い魔なのに懐かれて無いみたいねぇ。 全然命令聞かないじゃない!」 ルイズが今まで歯軋りして耐えているだけだったが、フレイムの様子を見て急に元気を取り戻した。 キュルケは不安になっていた。ルイズに言われたからではない。 フレイムの様子がおかしい。何かを警戒しているみたいに見えた。 何かって……ヤン……ってことは無い…わよね? フレイムは怯えて動けないでいた。 最初は多少の違和感を感じるくらいだったが、近づいた今ならわかる。 目の前の男は人間じゃない。 異質な存在。 そして自分では絶対に勝てない。 それがわかる。 このへらへらした男がその気になったら、自分の首など一瞬で胴とおさらばするに違いなかった。 引くことも進むことも出来なくなってしまったフレイムを見て、ヤンはニィッと笑う。 「よォー なんだよ そんなに怯えるこたぁネェだろ? 大丈夫だよ 暴れる気はねーからよーーー 俺はオメェの敵じゃあねぇよ? 化物同士仲良くしようぜ フレイムちゃん♪」 ヤンはフレイムの耳元にボソッと呟く。 撫でられるとフレイムはキュルキュル言いながらすごすごとキュルケの後ろに下がって行った。 「ど、どうしちゃったのよフレイム。」 フレイムの体調が悪いのかしら、とキュルケの不安はますます大きくなる。 「じゃ、じゃあね ヴァリエール、ヤン。 私もう行くわ。」 フレイムを連れてキュルケは早足で退散していった。 ヤンが撫でたらフレイムが逃げるように後ずさった。 ルイズは何だか知らないが勝った気がした。 「ヤン。 あんたフレイムに何かしたの?」 「いーや何も 仲良くしようぜって言っただけだ。 …ククククク……まぁヤツが『よくわかってる』ってことだろォ?」 ニィィィィイ。ヤンは嗤う。 何をわかっているってゆうのよ、ルイズは聞こうと思ったが時間が結構ヤバイことになっていることに気がついた。 「わ、わわ! 朝食の時間が! い、急ぐわよヤン!」 へーいへい。 ヤンはいつもの様に気だるそうにへらへらと答えてルイズと駆け出した。 つづく 前ページ次ページルイズとヤンの人情紙吹雪
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3083.html
小ネタ 朝、ルイズがいつも通りの時刻に起床すると、彼女の使い魔達はすでにいなくなっていた。 起きて食堂に向かったようだ。 ルイズも着替えを終えるとすぐに食堂へ向かう。 その途中、とてもいい匂いがしていたので厨房を覗いてみる。 「シエスタ、アンタなかなか上手いやないか」 「昔、ひいおじいちゃんに教えてもらったのですよ」 「あとはこれを蒸せばいいのか?」 「そうアルね」 厨房ではシエスタやマルトー達が巨大な返しを持った女性とチャイナ服の女性とお好み焼きや中華料理を作っていた。 ルイズは今日の食事も期待できるとわかると自分の席へ向かった。 席へ座ると、遠くでギーシュが決闘を申し込んでいるのが見えた。 「君達に貴族に対しての礼儀を教えてあげよう」 「てめえ!よくも俺を女と間違えやがったな!覚悟しやがれ!」 「俺を男なんかと間違えやがって!俺は女だ!」 「美しき女性達の心を傷つけるとは許せん!たたっ斬ってやる!」 「二股をするとはけしからん!この風林館高校の蒼い雷が成敗してやる!」 「かごめに手を出しやがって!ぶっ殺してやる!」 「He Boy!その髪の色は校則違反デース!丸坊主にしなサーイ!」 赤いチャイナ服の青年と、背中に男と書かれた男子学生服を着た男装の女性と、刀を持った白い学ランの青年と、木刀を持った青い和風の青年と、巨大な刀を持った犬耳の火鼠の皮衣を着た青年と、頭に椰子の木を生やしたアフロ服の男性がギーシュを睨みつけながら騒いでいる。 「ほらかごめ、アンタの彼氏とその仲間達がまた暴れてるわよ」 「茜、何回も言ってるけどあいつは彼氏じゃないし、あいつらも仲間じゃないわよ」 「そうそう、姉ちゃんの彼氏は僕やで」 ルイズの隣で、水兵服を着た女性二人と鬼族の子供がその様子を眺めていた。 「えー、ヴァリエール嬢美女使い魔達の写真集はいかがですかー?」 「ミス・ナビキ、一冊購入させてくれ」 「あらギトー先生、いつもご購入ありがとうございます」 「お、大きい声で言うのではない!」 食堂の隅ではギトー先生が召喚された女性達の写真集を購入している。 「王手」 「ま、待ってくださいミスタ・テンドウ!」 「パフォ」 「このパンダの言う通り待ったはなしだよ」 別の机で将棋をしていたコルベール先生に、パンダが「待ったなし」と書かれた看板を向ける。 その様子をとあるアパートに暮らしていた住人が観戦している。 「……あったかい」 「ゴロゴロゴロ」 「お茶が入りましたよ」 「ありがとうございます。ミス・カスミ」 「いえいえ」 別の一角ではエプロン姿の女性がタバサと巨大な猫が暖まっているコタツにお茶を持って来ていた。 「いくぜキュルケ!」 「来なさい!」 「きゅいきゅいきゅーい!」 外ではキュルケがシルフィードを借りて最小限の部分しか守れそうにない鎧を着た女性と大豆を発射する銃で戦っている。 「ルイズ、ダーリン見なかったちゃか?」 そんな周りの様子を眺めていると、鬼族の女性がルイズに質問を投げ掛けてきた。 「ダーリン?あいつなら洗濯所にいたわよ」 それを聞くと鬼族の女性は虎柄のブラから何かの機械を取り出し、スイッチを押す。 機械の画面に異常に小さい爺さんとオスマン氏と法師姿の青年と特に特徴のない青年が映しだされた。 『よいか三人とも。この修業はいかに素早く、発見されずにパンティを盗れるかがポイントじゃ!』 『『『はいお師匠様!』』』 鬼族の女性はすぐに空を飛んで洗濯所へ向かった。 数分後にはライトニングクラウド以上の電撃音と悲鳴が聞こえてくるだろう。 そんな使い魔達の様子を眺めつつ、ルイズは一言呟いた。 「ダメだこりゃ」 「これがお主のさだめじゃ」 「こら叔父上、出番がないからって最後に出てくるのではない」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1212.html
小ネタ 朝、ルイズがいつも通りの時刻に起床すると、彼女の使い魔達はすでにいなくなっていた。 起きて食堂に向かったようだ。 ルイズも着替えを終えるとすぐに食堂へ向かう。 その途中、とてもいい匂いがしていたので厨房を覗いてみる。 「シエスタ、アンタなかなか上手いやないか」 「昔、ひいおじいちゃんに教えてもらったのですよ」 「あとはこれを蒸せばいいのか?」 「そうアルね」 厨房ではシエスタやマルトー達が巨大な返しを持った女性とチャイナ服の女性とお好み焼きや中華料理を作っていた。 ルイズは今日の食事も期待できるとわかると自分の席へ向かった。 席へ座ると、遠くでギーシュが決闘を申し込んでいるのが見えた。 「君達に貴族に対しての礼儀を教えてあげよう」 「てめえ!よくも俺を女と間違えやがったな!覚悟しやがれ!」 「俺を男なんかと間違えやがって!俺は女だ!」 「美しき女性達の心を傷つけるとは許せん!たたっ斬ってやる!」 「二股をするとはけしからん!この風林館高校の蒼い雷が成敗してやる!」 「かごめに手を出しやがって!ぶっ殺してやる!」 「He Boy!その髪の色は校則違反デース!丸坊主にしなサーイ!」 赤いチャイナ服の青年と、背中に男と書かれた男子学生服を着た男装の女性と、刀を持った白い学ランの青年と、木刀を持った青い和風の青年と、巨大な刀を持った犬耳の火鼠の皮衣を着た青年と、頭に椰子の木を生やしたアフロ服の男性がギーシュを睨みつけながら騒いでいる。 「ほらかごめ、アンタの彼氏とその仲間達がまた暴れてるわよ」 「茜、何回も言ってるけどあいつは彼氏じゃないし、あいつらも仲間じゃないわよ」 「そうそう、姉ちゃんの彼氏は僕やで」 ルイズの隣で、水兵服を着た女性二人と鬼族の子供がその様子を眺めていた。 「えー、ヴァリエール嬢美女使い魔達の写真集はいかがですかー?」 「ミス・ナビキ、一冊購入させてくれ」 「あらギトー先生、いつもご購入ありがとうございます」 「お、大きい声で言うのではない!」 食堂の隅ではギトー先生が召喚された女性達の写真集を購入している。 「王手」 「ま、待ってくださいミスタ・テンドウ!」 「パフォ」 「このパンダの言う通り待ったはなしだよ」 別の机で将棋をしていたコルベール先生に、パンダが「待ったなし」と書かれた看板を向ける。 その様子をとあるアパートに暮らしていた住人が観戦している。 「……あったかい」 「ゴロゴロゴロ」 「お茶が入りましたよ」 「ありがとうございます。ミス・カスミ」 「いえいえ」 別の一角ではエプロン姿の女性がタバサと巨大な猫が暖まっているコタツにお茶を持って来ていた。 「いくぜキュルケ!」 「来なさい!」 「きゅいきゅいきゅーい!」 外ではキュルケがシルフィードを借りて最小限の部分しか守れそうにない鎧を着た女性と大豆を発射する銃で戦っている。 「ルイズ、ダーリン見なかったちゃか?」 そんな周りの様子を眺めていると、鬼族の女性がルイズに質問を投げ掛けてきた。 「ダーリン?あいつなら洗濯所にいたわよ」 それを聞くと鬼族の女性は虎柄のブラから何かの機械を取り出し、スイッチを押す。 機械の画面に異常に小さい爺さんとオスマン氏と法師姿の青年と特に特徴のない青年が映しだされた。 『よいか三人とも。この修業はいかに素早く、発見されずにパンティを盗れるかがポイントじゃ!』 『『『はいお師匠様!』』』 鬼族の女性はすぐに空を飛んで洗濯所へ向かった。 数分後にはライトニングクラウド以上の電撃音と悲鳴が聞こえてくるだろう。 そんな使い魔達の様子を眺めつつ、ルイズは一言呟いた。 「ダメだこりゃ」 「これがお主のさだめじゃ」 「こら叔父上、出番がないからって最後に出てくるのではない」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7267.html
前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 「……えーと」 ここは『ヴェストリの広場』と呼ばれる学院の中庭である。 二つの塔に挟まれ西側に位置し日中でもあまり日の差さないその広場は、たとえ昼休みであっても、人の気配がほとんどない。 本来ならばそういった場所であるはずのそこは、今現在喧騒のさなかだった。 寮暮らしで娯楽に乏しい学院生活に刺激を求めて集まった生徒達が輪になってあれこれとはやしたてている。 その輪の中心にいる二人の内の一人、巻き毛の金髪の少年が手にした薔薇を高々と掲げ、謳った。 「諸君、決闘だ!」 宣言に生徒達がわっと歓声を上げる。 そして二人の内のもう一人――柊 蓮司はぽかんとした表情のまま立ち尽くしていた。 午前中の授業での大爆発の後、ルイズと柊、エリスは教室の後片付けを命じられた。 昼休みが始まろうかと言う頃合になってようやく大方の片付けを終わらせると、ルイズはエリスを伴ってさっさと食堂へ向かってしまったのである。 柊は後片付けで誕生したゴミ満載の麻袋と共に置き去りにされた。 要するに捨てて来い、という事らしい。 文句を言おうと思ったが、それを言ったところでルイズが堪えるはずもなく、むしろエリスが気にするだけなので憤懣を腹に収めて柊はゴミ捨てに向かったのだ。 そしてふてくされてその辺の草原で寝転がっていると、生徒達がたむろして柊の許に現れた。 始めは授業で一悶着あったマリコルヌとかいう奴がお礼参りに来たかと思ったが、どうも違うらしい。 訳の分からないまま柊はヴェストリの広場に連れてこられ――それでもやっぱり訳がわからなかった。 柊の目の前では金髪の少年――ギーシュとか言うらしい――が声援に応えるように薔薇を振りまくっている。 そこから少し離れたところで、燃えるような赤い髪を揺らした少女が興味深げにこちらを見やっている。 その隣では青髪で眼鏡をかけた少女が立ったまま本を読んでいた。 そのいずれにも柊は面識がない。 額に手を当ててしばし考え込み、やはり答えを出す事ができずに柊は振り返って二人の少女を見る。 こちらは柊と面識のある相手である。 すなわち、眉を怒らせてこちらを睨んでいるルイズと、何故か申し訳なさそうに俯いているエリス。 二人の顔を順繰りに見た後、柊は尋ねた。 「……どうなってんだ?」 ※ ※ ※ 罰として与えられた教室の掃除をあらかた終えた後、エリスはルイズと共にアルヴィーズの食堂へと向かった。 言葉もなくどんどん先に進んでいくルイズの脇では幾人もの貴族達が談笑している。 胸にバラの造花(だろう)を差した金髪の少年を中心にして、やれ誰それと付き合ってるとか冷やかし混じりに騒いでいた。 エリスはルイズについて行こうと足を踏み出しかけ、床に何かが落ちているのを見つけた。 それは薄い紫の液体で満たされた、ガラス製の小瓶だった。 瓶の意匠からすると香水なのだろうか。男物には見えない。 だがこの近辺にいるのは先程の貴族達だけで、全員が男子だった。 強いて可能性があるとするなら、話題の中心になっているギーシュと呼ばれていた金髪の少年だろう。彼ならこういった類のものを着けていそうだ。 エリスは小瓶を拾い上げるとそのギーシュに向かって、 「エリス」 声をかける前に、ルイズから声が飛んだ。 みればルイズはエリスのいる場所から少し離れた席で立ち尽くしている。おそらく、エリスが椅子を引くのを待っているのだろう。 小瓶を手にどうしようかと目をギーシュに向けると、彼はエリスの持つ小瓶に気付くと僅かに目を見開き――何事もなかったかのように再び回りの少年達と話し始めた。 (やっぱりあの人のなのかな) そう思ってエリスは彼に声をかけようとしたが、そこで少々苛立ったルイズの声が再び響いた。 「早く来なさい」 「は、はい……」 有無を言わせぬその声にエリスは仕方なく小瓶を持ったままルイズの許に小走りに駆け寄る。 そして彼女の許までたどり着くと、エリスは小瓶をルイズに差し出した。 ルイズはその小瓶を手に取るとしばし観察し、一度だけギーシュに目を向ける。 向こうも動向が気になっていたのか、視線がばっちりと合い、途端に彼は慌てて視線を逸らした。 「……いいわ、これは私の方で処理するから」 「はあ……」 嘆息しながら小瓶をテーブルに置くルイズにとりあえず頷くと、エリスは椅子を引いてルイズを席に座らせた。 そしてエリスがその隣にすわると、ルイズはちらりと彼女を見た後大きく溜息をついた。 ――これで相手が柊であったならば、ルイズは躾と称して床にでも座らせていただろう。 だがエリスは至って従順だった。 朝の着替えも言えばちゃんと手伝ったし、衣服の洗濯の件もさほど反抗もせずに了承した(もっともエリスもルイズも洗濯する場所を知らなかったので後回しだが)。 椅子を引く事や自分の横には並ばず後ろに付くようにする……という事は知らなかったようだが、教えればちゃんと実践していた。 そんな彼女であったので、ルイズとしても他の動物の使い魔と同列に扱いどうこうさせるのは気が引けたのである。 使い魔ではない、という点を除けばエリスに不満はなかった。 何かと気に入らない柊よりはこちらを使い魔にしたほうがいくらかマシではないか……とも思う。 だがそうしようとは今の所考えてはいない。 何故なら契約をするためには相手に口付けをしなければならないからだ。 誤解とはいえ昨日"あんな事"になったばかりでは、流石に色々と躊躇われた。 メイド達が恭しく昼食をテーブルに並べる間、二人は一言も喋らなかった。 というより、厳密には教室の後片付けからこっちほとんど会話をしていない。 うわべだけの慰めを受けるよりはずっとましだったが、かといってこのきまずい沈黙はいかんともしがたいものだった。 「……どうして何も言わないの?」 「えっ……」 エリスに視線は向けず、並べられた食事に目を落としたままルイズは呟くように言う。 「貴女も内心では呆れてるんでしょ? だったらはっきりと言いなさいよ。そんな風に黙ってられる方が気に入らないわ」 「そ、そんなこと……」 そんなことはない、というのはルイズにもわかっていた。 彼女の『ゼロ』の所以を初めて知った者は、貴族も平民も関わりなく確実に『ありえない』という表情を浮かべる。 それは当然だろう。何故なら『魔法の使えないメイジ』などこのハルケギニアの『常識』では存在しないのだから。 だがエリスと柊はそんな"常識的"な反応はしなかった。 柊は後の教室の片付けに対して不満を露にするもルイズに対してはなんら以前と変わらない反応だったし、今目の前にいるエリスもルイズに対してどうこうというよりは単純に場の空気に萎縮してしまっているだけだ。 ルイズにもそれはわかっていた。 わかっていたが、一度口にすると止めることができない。 「魔法の成功率ゼロ。系統魔法はおろかコモンスペルでさえまともに使えない。あんた達を喚び出した時だって、その前には何度も失敗したわ! その挙句に出てきたのが……あんた達みたいな平民なんて!」 次第に口調を荒らげ、最後にはルイズは机を叩いてエリスを睨みつけた。 食堂が一瞬だけ静まり返り、そしてひそひそと生徒達の囁き声や笑い声が零れ始める。 そんな周囲の反応の無視してルイズは怯えている……というよりは困惑しているエリスを責めるように見つめた。 エリス達が召喚された経緯に関しては先日柊から説明は受けていた。 基本的に使い魔の意思によってゲートをくぐるという事例から行けば、彼女が召喚されたのは事故のようなものだろう。 だが、それを気に置く余裕も、今のルイズにはなかった。 「で、でも。サモン・サーヴァントには成功してるんですよね? だったら――」 「コントラクト・サーヴァント――使い魔として契約できなきゃ何を召喚したって意味ないじゃない! それとも何? 貴女が契約するっていうの!?」 「それは……っ」 口ごもったエリスにかっとなってルイズは彼女の腕を掴んだ。 昨夜の誤解の産物とは違う行動にエリスは身体を強張らせ、そこで初めて翠の瞳に僅かな怯えが混じる。 まさかここでコントラクト・サーヴァントをするのか、と回りの生徒達が興味深げに二人を見やったその時、横合いから声が響いた。 「こんな所で契約するなんていくらなんでも風情がないんじゃなくって?」 その声の主はキュルケだった。 驚きに呆然とするエリスとあからさまに不快そうに顔を歪めたルイズを満足そうに見やると、彼女は焔のような赤髪を優雅にかきあげて周囲の生徒達を一瞥する。 「失礼。気になさらずご歓談をお続けになって」 慇懃に言ってのけると生徒達は慌ててルイズ達から顔を逸らす。 キュルケはそれを見届けると再びルイズ達に向き直り、向かいの席に腰を下ろした。 「昨日の今日でまた揉めてるの?」 「……うるさいわね、アンタには関係ないわ」 幸か不幸か気勢をそがれたルイズはエリスから手を離し、椅子に身を預けた。 それを見てキュルケはにやにやとして笑みを浮かべて、頬杖を付く。 「随分ないいようね。昨日貴女達を取り持ってあげたのは誰だったかしら?」 キュルケの言葉にルイズはくっと言葉を詰まらせ、エリスは僅かに頬を染めて彼女から視線を逸らした。 と、そこで初めてエリスはキュルケの隣にいつの間にか一人の少女が座っているのに気づいた。 青髪で眼鏡をかけたその少女はルイズとキュルケの会話に加わるでもなく、手にした本に目を落としたまま微動だにしない。 エリスの視線に気づいたのか、キュルケは少女の頭を軽く撫でた。 「この子は私の友達、タバサよ。まあこんなだけど悪い子ではないから」 キュルケに撫でられながら青髪の少女――タバサはまったく反応がない。本から目を上げる事さえしなかった。 寡黙で表情を見せないその少女に、エリスは真っ先に自分の友達である緋室 灯を思い浮かべた。 が、どうも違うような気がする。上手く言葉にする事はできないが、何か違和感を感じるのだ。 そんな風に小さく首を捻ったエリスの脇で、ルイズはタバサを一瞥だけして鼻を鳴らしそっぽを向いた。 「で、図々しく座り込んで何の用、ツェルプストー? 不快だから視界から消えてくれると嬉しいんだけど」 刺々しく言うルイズにしかしキュルケは余裕たっぷりの表情を浮かべ、 「あいにく、ゼロのルイズに用はないの。用があるのはエリスの方だから」 「え……私、ですか?」 頭に疑問符を浮かべながら呟いたエリスにキュルケは大いに頷き、身を乗り出す。 「貴女と一緒に教室から出て行った彼、ルイズが召喚したもう一人なんでしょ? 彼に興味があるの」 「柊先輩に?」 「そう、その……ヒイラギ? 相手がマリコルヌとはいえ、メイジ相手にあれだけ啖呵切れる平民なんてこの国じゃ珍しくって」 興味津々といった風に語るキュルケに不快を示したのはルイズの方である。 彼女は端正な眉を思い切り顰めて、半ば侮蔑にも似た声色でキュルケに口を開く。 「学院の生徒に手を出すだけじゃ飽き足らず、平民にまで手を出すつもりなの?」 「優秀な人間に平民も貴族もないわ。『メイジにあらねば貴族にあらず』とか『貴族は魔法をもってその精神となす』なんてかび臭い伝統にしがみついて国力を弱めてるお国の人にはわからないでしょうけどね」 しかしキュルケはルイズの言葉を歯牙にもかけず、逆に口角を吊り上げてルイズに言葉を投げつけた。 ルイズは「これだからゲルマニアの人間は野蛮なのよ!」と机を叩き、余裕綽綽のキュルケに詰め寄る。 「だいたい、マリコルヌごときにいい気になったぐらいで何が優秀だっていうの? 単なる怖いもの知らずの馬鹿なだけじゃない!」 「柊先輩はああ見えて凄い人なんですよ。私だって何度も助けてもらいましたし……」 おずおずと口を出したのはエリスだった。 それを言う彼女の表情を見て取ったキュルケがにやにやとした笑みを浮かべて、エリスを覗き込むように見やる。 「へえぇ……つまりヒイラギはエリスの騎士様ってトコロ?」 「きっ、騎士!? 騎士なんて、そんな……!」 途端にエリスは顔を真っ赤にして両の手を頬に添える。 火照った顔を隠したい、というのもあったが、それよりもキュルケにそう言われて思わず顔がにやけそうになってしまったのだ。 一方でルイズは嘲りも露にエリスを鼻で笑う。 「何が騎士よ。あんな幸薄そうな奴のどこが凄いの?」 「……」 エリスは思わずかちんときてしまった。 自分自身がどうこう言われるのは一向に構わないが、自分の信頼する相手をとことんまで軽んじているルイズの態度は、少し頂けない。 「先輩は本当に凄い人なんです。何度もせっ……」 何度も世界の危機を救ってきた……と言おうとしてエリスは慌てて口を噤む。 柊とエリスが異世界の人間である事を(話の上だけとはいえ)知っているのはルイズだけなのだ。 キュルケとタバサがいるこの場では軽々しくいう事は避けた方がいい。 唐突に言葉を切ってしまった彼女を訝しげに見やる二人を前に、エリスは半瞬考えた後改めて言葉を継いだ。 「……その、何度も私の故郷の危機を救ってくれたんですから」 かろうじて誤魔化すように言ったその台詞はいかにも苦しく、キュルケは僅かに興を殺がれたように「へえ」とだけ返した。 そしてエリス達の事を知ってはいるがまともに信じていないルイズはその言葉を額面通りに受け取って、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。 「村を襲ったコボルトやオークを退治した英雄様なのね。確かにそれは凄いわ。だから調子に乗ってメイジに楯突いちゃった、と」 「……っ!」 そこまで言われては、エリスも引き下がれなかった。 珍しく彼女は表情を険しくし、椅子を蹴倒すようにして立ち上がりルイズにまくし立てた。 「昨日ちゃんと先輩が説明したじゃないですか! 月衣も見て、今日だって0-Phoneも見たのになんで信じてくれないんですか!?」 初めて見るエリスの怒った表情にルイズは数瞬だけ呆気に取られたが、すぐに持ち前の負けん気を発揮して立ち上がった。 「信じられる訳ないわよ! 異世界とかウィザードとか侵魔とか! 侵魔といえばあの魔王とか言うの! どっから見ても普通の女の子ばっかりじゃない! あんなのが世界の敵とか、あいつらと闘ってるとか、馬鹿じゃないの!? 信じろっていうならもっと信憑性のあるモノをだしなさいよ!」 「~~っ!!」 二人は頭がぶつかりそうな距離でお互いににらみ合っている。 向かいの席に座っていたキュルケは、当然ながら話についていけずぽかんと見守る事しかできなかった。 なお、その隣で本を読んでいたタバサは目を上げさえもしなかった。 売り言葉に買い言葉というべきか、ルイズの言葉にエリスは更に頭に血が上った。 ファー・ジ・アースの事を何も知らないくせに好き放題に言うルイズが許せない。 普段控えめなだけに、一旦高ぶるとどうにも収まりがつかなかった。 「見た目だけで判断しないでくださいっ! あの魔王達は本当に世界を滅ぼす力を持ってるんだから! メイジっていうのがどんな人達かよく知らないけど、そんなのよりずっとずっと強くて怖いんです!」 「な……っ!」 少なくともハルケギニアの人間からすればあまりにもな暴言にルイズは思わず絶句してしまった。 その隙をついた、という訳ではないだろうが、ヒートアップしたエリスは畳み掛けるように叫んだ。 「柊先輩はそんな魔王を相手に戦って、何度も世界を守ってきたんです! 柊先輩は、柊先輩は――世界で一番強いんだからっ!!」 ……恐らく、この場に緋室 灯がいればエリスの間違いを冷静に指摘しただろう。 赤羽くれはがこの場にいれば、ひとしきり笑った後で優しく訂正したはずだ。 だが二人はこの世界には存在せず、少なくとも志宝エリスにとって、世界と世界最悪の存在であった自分を救ってくれたのは他のどんな高レベルウィザードでもなく、柊 蓮司だった。 アルヴィーズの食堂がしんと静まり返った。 拳を握り締め、肩を上下させながらエリスはルイズを睨みつける。 しばしの沈黙の後、ルイズの鳶色の瞳が細まった。 「へぇえ……メイジの通う魔法学院で、随分と大層な事言ってくれるじゃない……」 確かにルイズは好き放題に言っていたが、『何も知らないくせに』というのは彼女だけに当てはまるものではなかった。 出会い頭からコントラクト・サーヴァントを拒絶した柊もそうだが、いかに従順とはいえメイジを侮辱されてはルイズも捨て置く訳にはいかない。 溜まりに溜まった不満を吐き出そうとルイズが手を振り上げたその時、 「そうね、メイジとしてその台詞はちょっと聞き逃せないわねえ」 今まで黙っていた(というか話についていけなかった)キュルケが声を上げた。 邪魔をされた形になるルイズが睨みつけると、キュルケは小さくほくそ笑んでからエリスに目を向けて更に言う。 「そこまで言うんだったら、実際に強い事を証明してくれないと。それならヴァリエールも納得するでしょう?」 「しょ、証明……ですか?」 やや落ち着きを取り戻したエリスが、事態のまずさにようやく気付いて少し気後れしたようにキュルケを見やった。 だが、焔髪の少女はエリスの後退を許さない。 椅子に背を預け、演技とは思えないほどに堂の入った尊大さで殊更に嘲るような調子で語りかける。 「そう。誰かメイジと手合わせして強さを見せてちょうだい。ヒイラギならそれくらい余裕よね? なんせ何度も世界を救ったらしい英雄だし……」 「……っ、い、いいですよ。望む所です! 柊先輩は誰にも負けませんっ!」 あっさりと挑発に乗ったエリスにキュルケは満面の笑みを浮かべた。 そして彼女は改めてルイズへと目を向ける。 「と、いう事だけど?」 「……好きにしなさいよ。調子に乗ってるこいつ等の鼻をへし折る丁度いい機会だわ」 主導権を握られた事が気に食わないのか、彼女は腕組みしてそう吐き捨て、そっぽを向いてしまった。 キュルケは勝ち誇ったように鼻で笑うと、焔色の髪を優雅にかきあげてエリスに向き直った。 「主の許可も得た事だし、それじゃあ――」 「やらない」 今まで黙って本を読んでいたタバサが唐突にボソリと漏らした。 どうやら話を総て聞いていたようだ……と言っても、エリスが叫んだ時点で食堂の生徒達の関心はキュルケ達に向いているようで、彼女を含め食堂の全員が話を聞いてはいる。 「まだ何も言ってないわよ!?」 泡を食って向き直るキュルケに、タバサは本に目を落としたままもう一度言い含めるように呟く。 「私は、やらない」 「そんなこと言わないでさあ……」 にべもないタバサにキュルケが縋り付く。 するとタバサはようやく本から目を上げて、やや呆れたような目線をキュルケに向ける。 「自分でやればいい」 「……ぇー」 ルイズのようにメイジ……貴族としての意識が殊更に高いトリステインの人間ならばともかく、キュルケもタバサも『平民は絶対にメイジに敵わない』などという俗説を信じ込んでいる訳ではなかった。 なので彼女自身が侮辱されたというのならまだしも(タバサに至っては自身が侮辱されても相手にしなさそうだが)、エリスの叫んだ暴言などはキュルケにとってヒイラギに対する興味が深まるだけのものでしかない。 かといって自分でそれを確かめるほど積極性があるかというと、はっきり言ってなかった。 負けるなどとは思っていない。単に面倒くさいだけだ。 冷静に考えればタバサがそれをやることはないのだが、そこは話のノリである。 そのノリを(当然の反応だが)一刀両断にされてキュルケは少々鼻白んでしまった。 段々面倒臭さが表に出始めてキュルケはなんとなく視線をテーブルに向けた。 ルイズとエリスの席の前に置かれた食器。その間に、小瓶があった。 「その瓶、香水? 確か……モンモランシーのだっけ?」 「………」 やや独り言じみたキュルケの言葉にルイズはふんと鼻を鳴らし、顎をしゃくる。 促されたその先には、小瓶を凝視しながら汗をかいているギーシュがいた。 キュルケは己の幸運を始祖ブリミルに感謝し、会心の笑みを浮かべて小瓶に手を伸ばした。 ※ ※ ※ 「――という訳よ」 「なぁにが『という訳』だ!? 俺のいない所で勝手に話を進めてんじゃねえ!!」 ルイズから一応の事情を聞かされた柊は思わず叫んだが、しかし当のルイズは聞く耳持たず、ふんと鼻を鳴らして顔を背けてしまう。 ぎりぎりと歯を鳴らして睨みつけた後、彼は僅かにジト目でその隣のエリスに目を向けた。 途端にエリスがびくりと肩を震わせ、今にも泣きそうな顔で柊を見返す。 「しかもエリス……お前……」 「あ、あの、そのぅ……ご、ごめんなさい……」 捨てられた子犬のように震えながら見上げてくるエリスをしばし見つめた後、柊は盛大に肩を落として溜息をついた。 ウィザード達の闘いを馬鹿にされて黙っていられなかった、というのは柊にも共感はできた。 拉致られたり巻き込まれたりで何かと厄介事を背負い込む事が多い柊だが、彼はそれ自体を不幸とも不運とも思っていないし、やってきた事にはそれなりに誇りも感じている。 とはいえ、ここは異世界。ルイズ達はウィザードの事など何も知らない人々なのだ。 理解されないからといってむきになるのはいささか大人気ないし、少なくともハルケギニアでは理解されても意味はない。 そういった意味ではエリスの行為はファー・ジ・アースにおける『何も知らない人々』――イノセントに対して世界の真実を語ったにも等しかった。 彼女がウィザードになって……そしてウィザードであった頃から間もないので仕方ない事ではあった。 元の世界でそうしなかっただけマシと思えばいいだろう。 「……しょうがねえなあ、もう……でも、今回だけだからな」 「はい……ごめんなさい」 しゅんと項垂れたエリスの頭に軽く手を置いて、柊はギーシュに向かって一歩踏み出した。 囁くようにエリスががんばってください、と言い、柊は軽く手を振って返した。 「……これだけ盛り上げといて言うのもなんだがね」 ひとしきりギャラリーに応えて満足いったのか、ギーシュは一息ついて後方に控えていたキュルケを振り返った。 そして根本的な質問を彼女になげかける。 「なんで僕が決闘とかしないといけないんだ?」 「何言ってんの、メイジを馬鹿にされたのよ? あの平民に思い知らせてやんないといけないでしょ?」 「まあ、それは確かにそうだが……」 完全無欠に関係ないのに巻き込まれたギーシュとしては釈然としないのか、口の中でぶつぶつと何事かを呟く。 それをみたキュルケは小さく嘆息すると、にやりとした笑みを浮かべて懐から小瓶をちらつかせた。 「そういえばさっきアンタの落し物を拾ったんだけど――」 「あーーーーーっとぉ!! ミス・ツェルプストーの頼みなら聞かないワケにはいかないなぁ!!!」 わざとらしく大声で言ったキュルケの台詞をかき消すようにギーシュは叫ぶと、金の髪をばさあっと大仰にかきあげて柊に向き直った。 そして手にした薔薇をつきつけ、芝居がかった口調で更に叫ぶ。 「そんな訳でそこな平民! 君には縁もゆかりもないが貴族の誇りのため、そして何より僕の心の平穏のために医務室送りになってもらうよ! 怨むのならルイズに召喚された己の不幸を呪うんだね!!」 「あー……もうどうだっていいからさっさとしようぜ」 明らかにやる気のなさそうな声で柊が答えると、ギーシュは不敵に笑って一歩進み出て、両者は対峙した。 「……で、実際どんな感じだと思う、彼?」 思惑通りに進んだ光景に満足気な笑みを浮かべたキュルケは、隣で本を読んでいるタバサに向かって声をかけた。 タバサは二人の決闘が始まらんとするこの時に至っても本から目を上げようとはせず、声だけでキュルケに答える。 「昨日の動きを見る限り、かなりできる」 「あら、それじゃギーシュはご愁傷様ってところかしらね」 サラマンダーを召喚して早々に学院に戻ったキュルケは見ていないが、先日の召喚の儀式の際、頭に血の上ったルイズが放った爆発の失敗魔法は方向も距離も位置も規模もまるででたらめで、それゆえに著しく予測と回避が困難な代物だった。 実際生徒は何人も巻き込まれたし、コルベールも何度も巻き添えを食らった(ちなみにタバサは使い魔の風竜で早々に上空に避難した)。 だが、ルイズの標的である当の柊は爆発のあおりを受けこそすれ一度たりとも直撃をもらう事はなかったのだ。 少なくとも身のこなしに関しては一般人の枠をぬきんでている。加えて動き方をみれば―― 「……貴女がやってたらどうだったかしら、『雪風』のタバサ?」 むしろこちらが本題だ、といわんばかりのキュルケの声が届いた。 タバサはそこでようやく目を上げて、柊を見やる。 そして彼女はさほど興味もなさそうに、言った。 「……"今の"彼になら、多分勝てる」 「こういう経緯上当然知っているとは思うが、僕はメイジだ。ゆえに魔法で闘う……よもや文句はあるまいね?」 「好きにしろ」 嘆息交じりに応える柊にギーシュはふんと鼻を鳴らすと、手にした薔薇を軽く振った。 花弁が一枚地面に落ち、やがて周囲の土ごと巻き込んでそれは甲冑を纏った女性の人型を形成する。 完成したその造形にギーシュは満足そうに一つ頷くと、次いで柊に目をやり大仰に腕を広げてみせた。 「僕の二つ名は『青銅』、青銅のギーシュだ。したがってこの青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 「そうかよ。だったら……」 言いながら柊は腕を中空に差し伸ばした。 果てしなく面倒くさいがやる以上負けるのは御免だ。 幸いにして見たところワルキューレとやらもその使い手も大した腕ではない。 さっさと終わらせてしまおうと柊は月衣から己の得物を―― 「…………あっ」 そこで柊はようやくそれを思い出した。 ここ一ヶ月近く闘いのない平穏な日常を過ごしていたため、あまり意識する事もなくなっていたのだ。 加えて今回の召喚はこれまでのものと違って、一悶着はあったもののごくごく『平和的』だったので、ほぼ完全に失念していた。 要するに、今の柊 蓮司は―― (…………………………魔 剣 が ね え) 『魔剣使い』ではなく、『使い』だった。 決闘は今まさに始まろうとしていた。 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い