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とある警察幹部の憂鬱 01 「西区の廃ビルの件ですね?………それでしたら、放置しておいて構いません…………そうです、関わるな、と言っているのです。こちらから手を出さなければ、何ら問題はありません……以上です。すぐに戻ってきなさい。その件に我々が関わる必要はありませんし……関わる権利も、ありません」 部下からの報告に返事を返し…彼女は、小さくため息をついた まったく、「首塚」とやらは…都市伝説の存在を隠す努力を、もう少しして欲しいものだ こちらは警察の中で、都市伝説など「存在しないのだ」と主張するので忙しいのだ これ以上、こちらの仕事を増やさないで欲しい 「都市伝説対策課」など、作らせるわけにはいかない 人間が、都市伝説相手に敵うものか 都市伝説を取り締まるなど…人間には、不可能なのだ それを実現しえるのは、同じ都市伝説だけである、と彼女は考えていた だからこそ、「組織)から派遣されてきたエージェントとも積極的に接触し、情報をやり取りしている 都市伝説のことは都市伝説に任せておけばいい その代わり、自分たち人間は、人間を取り締まる事に集中すればいいのだから 「…無駄に関わって命を落としても、犬死ですからね…」 ………そうだ 己の部下を、都市伝説に関わらせてたまるものか 己の部下を、都市伝説に関わらせて…死なせる訳には行かない もう、そんな悲劇はいらない 都市伝説に、ただの人間が立ち向かい命を落とすなど、そんな三流小説のような現実などいらない そんな現実なんて、もう起こってはならないのだ 「…そんな現実を、二度と起こしてたまるものですか…」 窓から月を見上げ、彼女は小さく、小さく……拳を握り緊めて、呟いた ……そうだ 己の父親のような、犠牲者を 己の部下の中から、出すわけにはいかないのだ 終われ 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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【はないちもんめの人の「ベート事変」より】 「……おや?」 もやもやとした思いを抱えながら絵里が獄門寺家の家の前まで辿り着いた時だった 門のすぐ手前で、鬼灯と直斗が、何やら話している 門番はちょうど中にいるようで、そこにいるのは二人だけだ 「ーーー間違いなく、いるーーーーーーー恐らく、三年前とは違って、本格的にーーーー」 とぎれとぎれに、二人が話している内容が聞こえて来る 「鬼灯は、悪くないだろーーーーーー、好都合ーーー」 「ーーーーーたのは、俺だ」 絵里から見て、直斗は背中の方しか見えないため、表情はわからない ただ、鬼灯は どこか、思いつめているような…………普段の飄々とした様子とは違う、そんな表情で 「……今度こそ、逃がさない。俺が、仕留める。坊や達の手は汚させないさ」 そう言って、笑ったその顔は、自嘲しているようで 「……ま、それは龍哉や遥に言っとけ。俺、契約してないからろくに戦う手段持ってないんだしさ」 「それはそうだがな………お前さん、時々無茶やらかすだろうあ。心臓に悪ぃんだよ」 そよ、と、風が吹いて、かすかに、桜の花に似た香りがした 確か、鬼灯がつけている香の香りだ それに混じって、鬼灯が手元で弄んでいるキセル煙草の香り 鬼灯が、顔を上げて、絵里に気づいた いつもの、飄々とした軽い表情に、戻る 「よーぉ、お帰り。用事はすんだのか?」 「えぇ、まぁ………」 何を、話していたのか 訪ねようとしたのだが、それよりも先に、直斗が口を開いた 「じゃ、俺はこれで。学校のほうでなんかあったら、鬼灯にも話すようにするから………絵里さんは、お疲れ様」 それじゃ、と、気楽に手をふり、帰っていく 夕暮れ時、黄昏時 かつて、この時刻の学校町は限りなく危険だった 都市伝説が、姿を表しやすい時間だから それでも、大多数の人間は都市伝説等知らずに生活しているままだが………直斗のように、都市伝説という存在を知っている方が、危ないのだ 知っているからこそか、都市伝説を引きつけてしまう、ということは多いのだから ……今の学校町は、そこまで危険ではない 少なくとも、今のところは 直斗を見送り、絵里は改めて、鬼灯に向き直った 「あの、何の話をしていたんですか?」 「んー………?いや、大した話じゃねぇさ、気にするな」 ぽふぽふ、と、まるで、子供相手にするように、軽く頭を撫でられた 子供じゃないんですよ、とその手から逃げると、子供みたいなもんだろう、とくつくつと笑ってくる 「……大した話のように、聞こえた気がしますが」 「気のせいだっつの、気にするな………あぁ、嬢ちゃん。夕食、あの蛇の女が作るみたいだから、嬢ちゃんは夕食前にシャワーでも浴びとけ」 「あ、しまった、もう蛇城さんが作り始めてますか……やあ、手伝わないと」 「いいから、シャワー浴びに行っとけ」 ぺふりっ、と もう一度、少し強引に頭を撫でられた 「……………その顔で、龍一達の前に出る気か」 「!」 「顔に出てる。何があったか聞くつもりはねぇが。心配させる気なかったら、隠しとけ」 ぼそりと言われたその言葉に 動揺を隠し通せたかどうかは、わからなかった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 次世代の子供達
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夜の公園を二人の男が走る。 片方は神父のような恰好をした人の良さそうな中年の男。 もう一人は、対照的にダラけてた服装の、目つきの悪いずる賢そうな若い男。 突然、二人の足が止まる。 目の前には、大きな池。昼間なら小船を漕いだりできるが、さすがに夜にそんな事をしている人はいないようだ。 「やぁっと追いついたぜぇ」 二人の後ろから、若い男が現れる。その傍らには、白い鰐。 都市伝説「下水道の白いワニ」の契約者である。 神父風の男が振り返り、口を開く。 「何なんですか、あなたは。急に襲い掛かって来て。危ないでしょう」 「うるせぇ!お前らが母ちゃんから取った二百万!返して貰うぞ!」 「取ったって……アレは貰ったんだぞ?」 目つきの悪い男が言う。 「そうです。アレは寄付ですよ?」 神父風の男が同意する。 「何が寄付だ詐欺師ども!お前らが契約者なのは分かってんだ! 何と契約してるか知らねえが!その能力を奇跡とか言って宗教やってるらしいじゃねえか!このペテン師ども!」 男は二人に怒鳴る。 その言葉に、二人は黙ったまま何も言わない。それを見て、男は言い訳もできないらしいと判断した。 「金を返すなら見逃してやる。返さないなら、ワニの餌だ!!」 男の言葉とともに、鰐の口が大きく開かれる。 「あなたは、何か思い違いをしているようですね」 神父風の男が静かに口を開く。 「確かに、私達は契約者です。しかし、私達はやっぱりあなたのお母様を騙してなどいない」 「この野郎、そんなにワニの餌になりてぇか……」 「まあ見なさい」 神父風の男は、地面に落ちている石を拾った。はずだったが、それが男の胸の高さまで来た時、その手にはパンが握られていた。 「……は?」 「分けてあげますね」 神父風の男はそう言うと、石だったはずのパンをちぎって男に投げた。 何かの罠かと、男は受けとらず、パンは地面に落ちる。 「何を……」 「もう一つあげます」 神父風の男はまたパンをちぎる。 ちぎっては男に投げる。何度も繰り返し、いつしか、男の足元には大きなちぎられたパンの山ができていた。 しかし、神父風の男の手にはいまだにパンが一つ。 「ま、さか……」 「ご理解いただけたようですね。 私は石をパンに変える事ができます。この池の水をワインに変える事ができます。 水の上を歩く事も、死人を生き返らせる事もできます。」 そして、神父風の男は言った。 「私が契約しているのは、『キリスト』です」 「そ、そんな馬鹿な……」 「まだ信じられませんか?水をワインに変えて見せましょうか?」 神父風の男はにこやかに言う。 「だから言ったろう。あれは寄付だって」 ずっと黙っていた、目つきの悪い男が口を開く。 「確かにこいつは契約者だけどな、キリストの契約者だ。人を救う力を持つ。何も問題は無いはずだ。 それでもまだ文句があるっつうなら、そのワニで、戦ってみるか?神の子と」 男は迷っていた。「キリスト」の契約者、そんなモノに勝てるのか。人を救う能力を持つモノを殺して良いのか。 「お前は、何の契約者なんだ……?」 男は、目つきの悪い男に尋ねた。この男も契約者だったはずだ。この男が人に害をなすなら、こちらだけでも。 そう考えた。 「俺か?俺はこれさ……」 そう言うと目つきの悪い男は、公園の池の方を向き、手をあげる。 その瞬間、池が割れた。 「これが俺の都市伝説、『モーゼ』だ」 男が呆然と立ち尽くすのを尻目に二人は割れた池を歩いて去っていった。 「なーんかさあ、この辺り都市伝説と契約者多くね?」 「そうですね。早めに別の町に移った方が良いかもしれませんね」 夜の公園の池、小船から二人の男がおりる。 「コップや洗面器以外の水を割って『見せる』なんて久しぶりだぜ」 「私はいつもやって『見せて』いる事をしただけですけどね」 二人は公園の外に停めていた高級な車に乗り、話し合う。 「いくら稼いだよ」 「この辺りではまだ、一千万と少しですね。まだ他の町の半分です」 「んー、どーすっかなぁ。ここ金持ち多いけど、契約者も多いし。俺らの都市伝説がばれる事は無いとは思うが……」 「ばれるだなんて、何言ってるんです。私たちの都市伝説は『キリスト』と『モーゼ』でしょう?」 神父風の男が人の良さそうな顔を崩し、ニヤリと笑いながら言う。 「おおっと、そうだったな」 それに合わせるように目つきの悪い男も笑うのだった。 この二人の都市伝説が「青森のキリストの墓」と「石川県のモーゼの墓」であり、 その能力はそれぞれの人物の行った事を「見せる」事だと。その幻影を見せる能力だと、 ただの聖人の真似事をしているだけだと、気づけたモノは誰もいない。 終 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
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???「もうすぐだ、もうすぐその時が来る。」 ある時、ある場所で、ある男はそう呟いた。 ???「『あれ』が完成し、情報さえ揃えば、世界征服は目の前だ。」 世界征服のため、活動してきた男がいた。 ???「嬉しいでしょう?『大王様』。」 そう、彼の名は――― 手下「「[黄昏マサヨシ]将軍!」」「「我等が黄昏将軍!」」「「この世界の救世主!」」 黄昏「貴方には、もうこれだけの手下がいるんですよ。大王様。」 城のような建物の窓から群衆を見ながら、マサヨシはそう微笑んだ。ふと扉からノックが聞こえる。 心星「将軍。お話があります。」 黄昏「心星か。入れ。」 “ガチャリ”と、マサヨシの部屋に心星が入ってくる。 黄昏「『あれ』についてか。」 心星「はい。もうすぐ完成します。あなたの求めた最強兵器『封印槍』が。」 その言葉を聞き、マサヨシは高らかに笑い出した。 黄昏「遂にだ。遂に大王様が世界を支配する時が来る!」 心星「それについてなんですが・・・。」 自信に溢れているマサヨシに、心星が疑問を挙げる。 心星「『封印槍』はどうやら1本の生産ペースが長いようなのです。 それにとてもあんなもので強敵を倒せるとは思えないのですが。」 黄昏「・・・あぁ、まだ説明していなかったか。いいだろう。そろそろ話してやる。」 マサヨシは王座のような椅子に座り、『封印槍』について語りだした。 黄昏「そもそもあの槍にどのような力が秘められているか知っているか?」 心星「いいえ。詳しくは存じません。」 黄昏「そこからだな。あの槍には『都市伝説の能力を封印する』力がある。」 心星「都市伝説の能力を?!・・・失礼しました。」 黄昏「無理もない。都市伝説に頼ってきた人間が、それを封じられては赤子同然だからな。」 心星「しかし、どうやって?」 マサヨシが少し考えてから、逆に心星に質問する。 黄昏「都市伝説が何でできているか知っているか?」 心星「は?さ、さぁ・・・。」 黄昏「都市伝説は人々の幻想だ。欲望・怨念・恐怖・・・それらの塊だ。コロすと消滅するところからもそれは分かるだろ?」 心星「はい。」 黄昏「つまりこの幻想をデータ化し、メモリの中に閉じ込めれば、都市伝説を封印した事になる。そうだろ?」 心星「そうかもしれませんが、データ化なんて、あ!」 ふと、心星はある事に気が付く。それを見て、マサヨシは不敵な笑みを浮かべる。 黄昏「そう、日向の都市伝説、【電脳世界=自然界論】だ。 やつの能力なら、肉体まで封印できないが能力などなら可能らしい。 そのために情報や他の都市伝説が必要だった。だが全て掻き集めた。この日のために!」 心星「し、しかし、そのためには数が必要です。それに、万が一避けられたとしたら・・・。」 不意にマサヨシが立ち上がり、心星に歩み寄る。 黄昏「そのために、俺と・・・お前がいる。」 マサヨシが笑みを浮かべたまま心星の肩を掴む。 心星「え・・・?」 黄昏「『封印槍』は1本で充分だ。俺には、大王様の能力がある。」 心星「あ、そ、そうでしたね。取り乱して申し訳ないです。」 黄昏「なぁに、それだけ俺の事を心配してくれているんだと思っておいてやる。」 心星「ぁ、ありがとうございます。しかし数の問題は解決しましたが、命中率は・・・。」 その質問に、マサヨシは呆れたように返す。 黄昏「そこは、お前の仕事だ。」 心星「はい?ですが、私には・・・。」 黄昏「お前には、全ての槍を確実に命中させる術がある。」 そういうと、マサヨシがポケットから十円玉を取り出し、心星にトスする。 心星「ぉっと、・・・なるほど。そういう事ですか。」 黄昏「槍には【コックリさん】を共有する能力も付加されている。 『封印槍』のコピーを大王様の能力で生成し、コインの能力で敵に必中させれば。」 心星「確実にこの町の都市伝説を狩れる。」 黄昏「夢の世界征服、となる訳だ。」 急に部屋の扉が開き、隊長らしき人物が入ってくる。 隊長「将軍!また【組織】の人間が動いたようです!今、我が隊は苦戦中で、死傷者も出ています!」 黄昏「・・・そうか。」 隊長の頭上に黒雲が広がる。同時に、何故か隊長は金縛りにあったかのように動かなくなった。 隊長「しょ、将軍、何を・・・?」 黄昏「1つ、死傷者を出すような隊の長は要らない。2つ、自分だけノコノコと帰ってくる精神が気に入らない。」 マサヨシはゆっくりと隊長に歩み寄る。 黄昏「3つ、この扉をノックせずに開けた事が許せない。」 隊長「将軍、待」ガゴン! マサヨシは隊長に向かって謎のリモコンのスイッチを押すと、突然巨大な鉄板が現れ、隊長とその頭上の雲を囲う。 黄昏「大王様の言葉だ。『お前は隊長から、地獄の労働者に格下げだ』とな。」 心星「・・・良かったのですか?今は人手が必要な時期では?」 黄昏「だからこそ、あんな人材は必要ない。今すぐ他の隊を送れ。」 心星「はっ。あの、私も向かいましょうか?」 黄昏「・・・死ぬなよ。」 心星「・・・はい!」 心星は敬礼をして、駆け足でこの部屋を離れた。 黄昏「死なれては困るからな。『今は』。」 マサヨシがそういうと、コンテナ状になった鉄板を1枚剥がす。 そこには居るはずの隊長の姿は無く、代わりに剥がした鉄板に、彼の影が写されていた。 黄昏「また1枚、『私に逆らった愚か者の最期』が増えたな。いい見せしめだ。」 マサヨシがそこから離れると同時に、鉄板はどこかに消えていった。 黄昏「あいつはいざという時に俺の身代わりになってもらう。そんな人材を今捨てる訳には行かんからな。 やがて全てが揃う。そして俺の世界征服が完成する!」 何故か、マサヨシの足が止まる。 黄昏「なんだ、これは・・・?」 同時に、今まで感じたことが無い『恐怖』を覚えた。すぐにそれによって動く事ができなくなったと悟る。 それはいつ来るか分からない。それは何処から来るか分からない。 だが貴方達は、いつもそれと隣り合わせになっている。 だから貴方達は、いつもそれから逃げるために走り続ける。 しかし貴方達は、いつまでもそれから逃れる事ができない。 ―――そう、我こそが【Θανατοσ(死)】だ――― 黄昏「貴様、都市伝説、か?」 タナトス「さぁ『Αμαρτωλοσ(アマルトロス)』よ。今日、お前は終わる。」 黄昏「まさか、貴様が、死の神、【タナトス】なのか?」 タナトス「そうだ。だからお前をアヤメに来た。」 黄昏「何故だ、どういう、事だ・・・!?」 マサヨシの首に鎌をかけたまま、後ろに立つ【タナトス】は話し始めた。 タナトス「私は人をアヤメ、不幸にする者を狩るために生きている。例えばお前のような、な。」 黄昏「な、なら俺もそのために、世界、征服を」 タナトス「そのために多くの犠牲を生んだ。多くの人を苦しめた。そんな『正義』は必要ない。」 黄昏「く、ちゃ、チャンスをくれ!もう1度生まれ変わるチャンスを」 タナトス「『Ευκαιρια(エプケリア)』なら与えた。いつか良くなると信じていたが・・・。」 【タナトス】は鎌をゆっくりと黄昏から離していく。 今なら逃げられる?いいや、彼の前ではそれはできない。彼の恐怖がそれをさせない。 タナトス「残念だ。」 黄昏「く、チクショォォオーーーーー!」 ――――――完― ====== もう1つの世界 ====== 正義「・・・。」 剣裁「―――その後はあえて見ていない。だが結果は見えているだろ?」 ―――夢の中。剣裁はもう1つの世界で起こった出来事を語っていた。 正義「別の世界ではそんな事になっていたなんて・・・。」 剣裁「分岐点は、『ある少年との出会い』。この出会いのせいでお前の人生は大きく変わる。」 剣裁の発言と同時に、剣裁の傍に見た事もない少年が映し出される。どうやら学校町の人間らしい。 剣裁「正義、今すぐ学校町から逃げろ。そうすれば似た運命を辿る可能性はなくなる。」 そう、剣裁はそう忠告するためだけにここに来たのだ。 正義「ありがとう、剣裁。でもボクはここに残るよ。」 剣裁「なッ、なんでだ?!」 正義「たしかにここは危険な町かもしれない。ボクもその危険な存在になってしまうかもしれない。」 それを無視してでも、正義はここに居たい理由があった。 正義「でもこの町での出会いが、きっといつか役に立つと思うんだ。 この町の、良い人悪い人、多くの人の考えに触れる事で、ボクは強くなれると思うんだ。」 ただそれだけの理由だった。ただ守りたいものを守るための力を求めていた。 そのためには、多くの人の知恵や人生観・正義感も必要となる。それ故にこの町での経験は重要だと思ったのだ。 剣裁「・・・そうか。なら良い。それがお前の選択なんだな。」 正義「ありがとう剣裁。でもこれだけ聞かせて。」 剣裁「ん?なんだ?」 正義「【タナトス】についてなんだけど・・・。」 意外な質問に、剣裁は戸惑った。 剣裁「待て、あいつと戦う事になる可能性はないと思うぞ。今のお前のままなら、だが。」 正義「もしもの事もあるし。それに・・・。」 正義は何かを隠している。剣裁はそう思ったのか、ふと呟く。 剣裁「奴の力の源は【死】だ。」 正義「え?」 剣裁「奴は自分の中に【死】のイメージや恐怖を取り込む事で本来以上の力を得た。」 正義「と、都市伝説ってそんな事もできるの?」 剣裁「【死】を神格化したあいつだからできたんだ。そしてあいつはその力と恐怖を手にした。」 正義「・・・。」 剣裁は振り返り後ろへと歩いていく。 正義「え、待って!まだ答えを聞いていないよ!」 剣裁「そんなの自分で考えろ!オレの話を聞いたなら分かるはずだ!『どうすれば【死】に打ち勝てるか』・・・。」 ゆっくりと剣裁が歩いていると、剣裁を線が包み、線が下にスクロールすると剣裁はいなくなっていた。 正義「・・・【死】に打ち勝つ方法・・・。」 ボクは忘れない。『【死】に打ち勝つ方法』と―――別の世界の自分の存在を――― 番外「もう1つの世界」―完― 前ページ次ページ連載 - 舞い降りた大王
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前書き 世界観説明&プロフィール 飛ばしても可です。 また逢ったね。 前回の鈴宮南麻だ。 所でさ、僕の住んでいる街は、四ツ葉丘市桐羽郡槃町(よつばおかし きりゅうぐん たらいまち)と云う。 最後の世紀末に、銀河系同盟(GSA)が世界の7割を統一し、わが国ミュンテット(海雲鉄島)共和国もその一部になった訳。 マヤ歴の終わりが近付くと、国民は皆人が変わったようになった。 預言者の幼女が全国民を従え、銀河系同盟へ加盟。 それに、何だか宗教めいた怪しい団体も偶に見掛ける。 今では何人かに一人が、その新興団体に属し、団体同士で勢力争いをしているらしい。 さて、本題とするか・・・・・。 槃町は、窪地に位置する町で、僕の家はその中央付近にある。 街を横断・縦断する2つの道路が中央で交差し、十字の形を成している。 道は傾斜がある。 道沿いには繁華街もあるけど、左右に逸れれば静かな住宅街が続く。 僕の家の隣は大きな病院、ビルがある。 ビルといってもそんなに高くなくて、上空から見ても、少し目立つ程度。 車道に出る迄、徒歩5分といった所。 ネットで見掛けた噂話によると、どうもそのビルが怪しいらしいんだ・・・。 都市伝説は、東口から行ける隣町・桐羽町(きりゅうちょう)で手に入る。 桐羽町の中心部には、この周辺では珍しいビル群があるけど、町の半分近くは山で、山沿いは田圃が多いという極端な町だ。 山には神社があり、山の入り口には赤い鳥居が建っている。 そこから最も近い場所に、怪談や都市伝説関連の販売店、レンタル店や出版社が立ち並ぶ。 ネットではそこを「怪奇郷」と呼ぶらしい。 マニアの人がよく行くけど、レトロを感じる不思議な場所だ。 そこで買った本によると、どうやらお隣さんのビルが怪しいらしんだ。 写真も一致したから間違いない。 確かに最近、マニアと思しき連中が、夜、うろついてるように感じる。 案外友好的な人が多く、その内の一人から話し掛けられた事もある。 話の膨らみ次第、ドアに「取材お断り」の張り紙でもしようか・・・。 (続) キャラクター・プロフィール 名前 鈴宮南麻(すずみや なお) 1990年12月23日生まれ。 ショタ・男の娘属性。 今回の舞台は2006年なので、高校1年生の15歳。 帰宅部所属で、偶々通り掛かった振りをして都市伝説を買い求める等、都市伝説に対してはツンデレ。 学校は槃町の北側から行けて、そのまま桐羽町に行ける。 過去に男子10人以上に告白され振った経験を持つ。 対しガールズラブも苦手。 オタクに関しても同属嫌悪。 身長158㎝で体重50㎏。 小回りが良く、筋肉質で見た目よりかなり腕力が強い。 筋肉質は元から体質 だが、「舐められない為に」自宅でのトレーニングは毎日欠かす事がない。 好きな物は駄菓子と怪談話。 嫌いな物は嫌味。
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【上田明也の探偵倶楽部】 シャーロック・ホームズのコスプレをした男が安楽椅子に腰掛ける。 キィ、キィ、と椅子の軋む音色。 「こんにちわ、皆さん。 誰もが愛する名探偵笛吹丁です。 こんばんわ、皆さん。 誰もが愛する殺人鬼上田明也です。 いつも考えて居るんですが探偵ってなんなんでしょうね? 例えば医者は人を救うし軍人は国を守ります。 商売人は物を売るだろうし政治家は天下国家を論じるでしょう。 そう、多分だけど探偵は真実なんて語らない。 探偵は事実を語るんだ。 更に言えば……、殺人鬼は愛を語るに違いない。」 安楽椅子から立ち上がると上田明也は所長室のドアを開き、事務所へ向かう。 「良いフレーズじゃないかな? 殺人鬼は愛を語る。 韻も含みも無いシンプルな言葉が胸を打つ。 法則の無さが何時だって歴史を作り上げるんだ。」 【上田明也の探偵倶楽部2~殺人鬼は愛を語る~】 「……というわけなんです。」 「成る程ねえ、お姉さんが帰ってこないと。」 「大学に行くようになってから帰りがどんどん遅くなって……。 それである日友達と遊びに行くって言ってから帰ってこなくなりました……。」 笛吹丁は探偵として目の前の少女から依頼を受けていた。 少女の姉がこの町のとあるクラブに遊びに行ってから帰っていないらしい。 ちなみにこの少女の姉が失踪した日、上田明也という殺人鬼がそのとあるクラブで人を殺して回って居る。 彼が少女の姉を手にかけている可能性もある。 探偵・笛吹丁は心を痛めていた。 「ふむ………。 行方不明人の捜索は大変なんだけど……、お金かかるよお姉さん。」 「貯金なら有ります!どうしても姉を捜して欲しいんです!」 「そうか……、ちなみに幾らぐらい有るのかな?」 「10万円、位……です。」 「あのねえ、こういうのって普通稼働時間×一万円くらいかかるんだよ。 十万円だと十時間かな? その時間でお姉さんを見つけられると思うかい?」 「う………。」 言葉に詰まる少女。 そんなこと、少女だって解っていたはずだ。 しかし笛吹丁は容赦しない。 「恐らくこのような非生産的なことにお金を使う暇があったら自分の為に貯金する方が良い。 チラシを見てきたんだろうけどお互いの為に俺は半端な仕事をするつもりはないな。」 「そんな………。 どこでも相手して貰えなくてもうここしか無いんですよ! だからお願いします!何もやらないわけにはいかないんです!」 少女が頭を下げる。 笛吹はそれを見て困った顔をしていた。 「うぅ……。仕方ない。 調査費用でまず5万円貰って、もしお姉さんを見つけられたら残りの5万円を貰う。 それで良いかな?」 「……受けて下さるんですか!?」 「人の心を持っていたらこの状況では断れないでしょうに……。」 やれやれ、といった感じでため息混じりに笛吹丁は答える。 「ありがとうございます! 両親も諦めていたのに……本当にありがとうございます!」 「連絡先教えておいてくれるかな、もし見つかった時には連絡したいから。」 「はい!」 そういって少女、――――――向坂境は嬉しそうに笛吹丁に自分の携帯の電話番号を教えた。 少女が去ってから、笛吹丁、否、上田明也は後ろに居るらしい誰かに話しかけた。 「なぁ、どう思うよお前は?」 「まあお前の口からそんな言葉を聞けるとは思わなかったかな? ずいぶん人情派の探偵の演技が板についているじゃないか上田明也。 そもそも無理ってなんだ、私が居るんだから楽勝じゃないか。 私の目から逃れうる一個人がこの世界に存在すると思っているのか? それとも私に手伝わせてくれないのか?」 扉を開けて出てくる赤毛の少女。 彼女の名前は橙・レイモン。 ラプラスの悪魔とウォーリ―を探せ!という二つの都市伝説と契約している少女だ。 「言ってくれるな橙。お前はまだ都市伝説を使うのがきついんじゃないのか?」 「何を言っている、それ位手伝うよ。」 フ、と鼻で笑うと最近膨らんできた胸をトンと叩く橙。 「なぁ橙。」 「なんだ上田明也。」 「お前は将来ロリとはほど遠いキャラクターになりそうだな。」 橙の胸元を凝視しながらなげく上田明也。 「安心しているよ。それともその前につまみ食いするか?」 不敵に微笑む小六ロリ。 「残念ながら俺は純愛派だ。つまみ食いなんて不埒な真似は美学に反する。 さっさとさっきの女の子のお姉さんを探してくれ。」 あっさり誘いを断る上田明也。 彼は純粋な愛に生きる男なのだ。 「本当に上田明也は探偵の仕事をしないな。」 「よく言われる。」 「誰に?」 「自分に。」 「一人じゃないか。」 「それが俺にとっての全員だろうが。」 「やれやれ……。じゃあ始めるぞ。」 橙が安眠用のアイマスクを目につけて椅子に座り込む。 「探す人間の名前は?」 「向坂垣間だな。」 「サキサカカイマね、噛むぞ、三階くらい言えば十中八九噛むぞ。 身長とかって解るか?」 「身長は160cm前後だとよ。」 「ふむ……。」 そのままポケ―っと椅子に座り込む。 恐らく彼女の都市伝説を使っているのだろう。 「お!」 橙が何かを見つけたらしい。 「どうした橙。」 「意外と近いところに居るぞ、学校町の東区の住宅街だ。」 「え、死体じゃないの?」 上田は最初から死んでいる物と決めていたらしい。 探偵にあらざる態度だ。 「ああ、生きて居るぞ。割と元気だ。」 「じゃあ準備をしたらさっさと迎えに行くか。」 「なんか都市伝説と契約しているみたいだから気をつけろよ?」 「そうか、その話も聞かせてくれ。」 「ああ、それがだな………。」 数日後、ハーメルンの二人組はフィアット500に乗っていた。 笛吹丁とメルは東区のとある住宅街、その中にあるアパートに向かっていたのだ。 「マスター、お姉さんが契約している都市伝説ってなんなんですか?」 「スナッフフィルム。 効果は解らないけれど仕掛けられたカメラに一度写るとアウトって考えた方が良いと思うぞ。」 「もしいきなり襲いかかられたらどうしようもないじゃないですか?」 「そう思うだろう? ところがどっこいなんだよね。 良いか?」 何かをメルに耳打ちする上田明也。 それを聞くとメルは納得したように手を打った。 数分後。 フィアットをアパートの前に止めると二人は橙に伝えられた部屋の前に来る。 「じゃあ行くぞメル。お前は少し隠れていろ。」 「はい、解りました。」 アパートの陰に隠れるメル。 そして笛吹丁はチャイムを鳴らした。 ガチャリ なんの警戒もなくドアを開けて中から出てくる女性。 「すいません、只今化粧品のアンケートをしているのですがお時間宜しいでしょうか? お肌にやさしい自然由来の製品を使った物についてでして………」 化粧品のセールスマンになりきって話をする笛吹丁。 適当すぎるが結局顔さえ解ればいいのだ。 それが向坂垣間らしき人物だということが解れば向坂境にそれを伝えれば良い。 「あ、丁度良いわ。 化粧品変えようかと思っていたんですよ! お茶も入ってますからちょっとお話聞かせてくれないかしら!」 そう言われて部屋に招き入れられる笛吹丁。 あまりに簡単に家に入れる物だから逆に彼の方が警戒していた。 「あの……、ずいぶん沢山カメラが有りますね?」 「あらあらうふふ、これ趣味なんですよ。」 「は、はぁ……。」 リアルにあらあらうふふなど聞くとは思っていなかったのだろう。 笛吹丁はちょっと退いていた。 「化粧水とか扱ってますかね?出来ればそういう物が欲しいんですよ。」 「はい、有りますよ。ああ、あとこちらのアンケートもよろしくお願いします。」 「あら、忘れていました。」 目の前の女性はアンケートに名前を書き込む。 間違いなく向坂垣間と書いているところが彼の目に見えた。 アンケートを書いている間、しばらく会話が無くなる。 「そう言えば、最近都市伝説みたいな殺人事件が有ったらしいですね。」 「え?」 先に口を開いたのは向坂垣間だった。 「事件の発生現場ってクラブだったらしいんですけど女性が一人買い物に行っている間にみんな殺されていたそうです。 世間ではハーメルンの笛吹きと呼ばれる殺人鬼の犯行だって言われています。」 「そ、それがどうしたんですか?」 「その女性って……、私のことなんですよね。 待っていましたよ、殺人鬼サン。」 笛吹丁はたち上がって逃げようとする。 だが身体の自由が効かない。 「――――――これは!?」 身体の自由を奪われて焦る笛吹丁。 「私の都市伝説『スナッフフィルム』はカメラで撮影されている相手の動きを問答無用で止めてしまいます。 相手はカメラの電池が無くなるか死ぬまで動けません。 あ、でも安心して下さい。 喋る自由はちゃあんと有るんで助けを呼んでも良いんですよ? カメラが回って居る限り誰も助けに来ないですけど。」 「馬鹿な!そんな能力が有るなんて……! 俺の正体をどこで知ったっていうんだ!?」 「そりゃあ……、クラブから出てくる貴方を見ていましたから。 DJの人が血相変えて中から出てきたんで何かと思ったらすぐに返り血を浴びた貴方が出てくるんですもの。 顔なんてはっきり覚えていましたよ。 クラブに戻った時は驚いたなあ……。 青が基調の内装が真っ赤になっているんですもの。 赤、赤、赤………。 良いわよね血のどす黒い赤ってゾクゾクしちゃう! 個人的には動脈から出てくる鮮やかな色も良いんだけどやっぱり死んでから少し経ったくらいが絶品ね。 そんな時、この都市伝説と契約したの。 この前から沢山の“作品”を作っていてですね、正直人を殺すのって楽しいんですよね。」 「スナッフフィルムか……。 自分の欲望で人を殺すなんて邪悪なことをやっていると……死ぬよ?」 笛吹丁は冷たい声で言い放つ。 「どこぞの過去視の探偵でも気取っているんですか? 殺人鬼が探偵を気取るなんてずいぶんですね。」 「いやいや、これが中々冗談でもない。貴方の妹さんに依頼されてここには来たんです。」 そう言って不敵に笑う笛吹丁。 「あ、外に隠れていた貴方の仲間ですけど隠しカメラで撮影中ですからね? あと妹が人質にとられても私はもう痛くもかゆくもないですよ? もう家族とかよりこっちの方が大事ですから。」 「え………。」 「あの小さい女の子はもう動けない筈ですよ?」 「えええ………。」 弱り切った顔をする笛吹丁。 「もしかして貴方が囮になって私を倒そうとしていたんですか? それは無理という物です。 ベタな台詞ではありますがここであなたは私の作品になるからです。 チェーンソーでザクッといきますか? それとも柳刃包丁を何本も何本も突き刺して失血死するのを待ちますか? リアルで真綿で首をしめてみるのも楽しめますよ? あっ、そうだ! 灯油でゆっくり燃やされるのなんて新しいですよね! 動けないのに火だるまになってゆっくり燃やされるんですよ!」 「狂ってる………。」 笛吹丁は信じられない、といった表情で呟いた。 「よぉし!私決めちゃった☆」 台所に向かった垣間が小出刃包丁を持ってくる。 「これでゆっくり頭蓋骨を解体しようかと思います!」 「ええええええええええええ!?」 「それではケーキ(脳みその白的な意味で)入刀です!」 垣間が包丁を振り上げて笛吹の頭にそれを突き立てようとした瞬間だった。 「ごめんなさい!許して下さい!」 「え……?」 場に広がる沈黙。 何が起きているのか解っていないようだ。 「命だけは許して貰えないですか?」 「な、何を言っているの?」 「え、ほら、俺ってイケメンじゃないですか?」 笛吹丁はクルリと後ろを“振り返って”垣間に話しかける。 「え、何を言っているの? ――――――――――――!」 向坂垣間が見たのは操作を無視して立ち上がる笛吹丁だった。 「知らなかったみたいだから言っておこうか。 操作系の都市伝説は都市伝説やその契約者に対しては効きが悪いんだよ。 そして、――――――イケメンが命じる! ここで有ったことを誰にも言わずに一日後、できるだけ私達が来たことを秘密にして、証拠も消して自殺しろ!」 笛吹丁は向坂垣間の瞳をまっすぐに見つめると一息で命令を与えた。 「………はい。」 ピキーン! ガラスが罅割れるような音がして向坂垣間は崩れ落ちる。 それを確認すると笛吹丁は部屋から立ち去った。 それから数分後。 「ああ、見つかったぜ。 東区のアパート、●●アパートの三号室な。 あんたのことを待っているはずだ。 じゃあなー。 報酬? あー、………調査に一時間かからなかったから良いや。 どうせお金なんて最初から無いんだろう? どうしても払いたい? ………じゃあ俺の事務所でバイトでもするか? そのうち面接にでも来なよ、お茶くみの子が一人欲しかった。」 フィアットの運転席で携帯電話を切る上田明也。 「まったく、兄ぃも人使いが荒い。わざわざ冬休みの僕を呼ばないでくれよ。」 「はっはっは、ごっめん!バイト代は弾むぞ!」 「キャッホゥ!」 フィアットの客席で愚痴る笛吹丁。 「てか所長、私が今回欠片も役に立ってないんですけど。」 つまらなさそうな顔のメル。 「安心しろ、“俺”はもっと何もしていない。探偵『笛吹丁』は八面六臂の大活躍だったけどな。」 「もうこれ外して良い? かなり蒸れるんだよね、このマスク。」 ベリベリベリ! 笛吹丁の顔が二つに裂けて中から中性的な顔立ちをした少女が現れる。 彼女の名前は平唯。 ※ただしイケメンに限る、の契約者。 イケメンであることを生かして人間(ただし彼女をイケメンと思った相手に限る)を自らの支配下におけるのだ。 上田明也とは従兄弟同士の間柄で、学校町には親の里帰りのついでに寄っていたのだ。 「ほら、お兄ちゃんからのお年玉。」 ポン、と四万円を手渡す上田。 「キィヤッホゥ!」 喜ぶ平唯。 「ところで美味いスイーツの店を見つけたんだがお前も来るか?」 「待っていましたお兄様!」 「じゃあ少し飛ばすぜ!」 唯とメルが青くなって顔を見合わせると上田明也は容赦なくアクセルを踏み込んだ。 赤いフィアットは速度を上げて真冬の凍った道路を走り出したのであった………。 【平唯の人間観察第五話「探」 fin】 バツン! 古畑任●郎よろしく場面が暗転してどこからともなくスポットライトを浴びた上田明也が現れる。 「と、言うわけで今回のお話楽しんで頂けましたか? 平唯に橙と普段活躍していない面々がメインの話になりましたねえ。 意外と俺も優しいところがあるでしょう? 姉を失って傷心の少女の心をケアする為にバイトに誘ってみたり 従妹を殺そうとしたひどい輩に妹と会話をする為の最後の時間を与えたり やはり幾つになっても心配ですからね、年下の親族ってものは。 そのうえあの子、実は養子なんですよ。だからなおのこと……ね。 探偵笛吹丁は笛吹探偵事務所の探偵であって俺のことではない。 俺はあくまで上田明也という一個人であって笛吹探偵事務所の探偵こそが笛吹丁と名乗るべきなんですよ。 だからあくまで途中に出てきた平唯は笛吹丁であって平唯でもあると。 今回探偵をやらなかった俺が笛吹丁を名乗る資格はないでしょう? そう、探偵はイケメンだから許されるという下らない事実を語り、 殺人鬼は離ればなれの姉妹に再会の時間を与える為に嘘を吐いた。 どうですか? 殺人鬼ってなかなか愛に満ちた仕事でしょう? ちなみに向坂さんですが今は俺の事務所でバイトしています。 中々真面目な子で助かっていますよ。」 どこぞの探偵を気取っているのだろうか? 愁いに満ちた表情で滔々と語り始める上田明也。 「ところで彼女の学校で面白い事件が有ったのですが……。 まあ良い。 これはまた次の機会のお話です。 主人公が探偵と殺人鬼の二足のわらじを履く推理をしない探偵小説をどうぞヨロシク。 さようなら、さようなら。」 それだけ言うと上田明也は暗闇の中に消え去っていった。 彼の立っていた場所にスポットライトが当たり続けているだけだった……。 【上田明也の探偵倶楽部】
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「コーク・ロアに支配された人間が、なぁ」 適当に獲物を物色した帰り、マッドガッサーは似非関西弁の女性と合流し、並んで歩いていた 時刻は、そろそろ深夜を回る こんな時刻に、ガスマスクの男が若い女性と並んで歩いていても通報されなこの街は、本当にありがたい 「爆やんも、二回くらい襲われとるやん?相当数が増えとるんちゃう?」 「…支配型で、支配している対象を増やしてるんだよな?だとしたら、あいつが狙われたのは完全に能力目当てだろ。コーク・ロアの能力で支配された状態でも、契約している都市伝説の能力は使えるからな」 …やはり、この街は危険か? いや、だが、同時にここまで動きやすい街はない ここを逃さない手はないのだ ……それに、魔女の一撃の契約者は、この街に住んでいるとある対象に、異様に執着している そっちの目的が叶うまでは、この街にいたいところだが… 「………だとしても、やばいかね?」 「…ヤバイんちゃう?」 …気配が 二人に、ゆっくりと近づいてきていた ざわざわと、何かが近づいてくる感覚 「…走るぞっ!」 「りょーかいっ!」 言うが早いか、二人は駆け出す しゅるしゅると、背後から迫ってきていた気配が、途端に隠す事をやめた 漆黒の闇の中、黒いそれが迫ってくる 「げ、この髪は…………うぉわっ!?」 「んみゃっ!?」 しゅるり 髪は、何時の間にか、二人の真正面からも迫ってきていて あっと言う間に、二人の体を絡めとった 「-------っ!!」 ごがっ!! 「マッドはん!?」 マッドガッサーの体が、塀に叩きつけられる その衝撃で、からんっ、と……被っていたガスマスクが、落ちた 「おや、こりゃまた……随分と、可愛らしい顔してたんだな」 すたん、と 塀の上に降りる影…髪をわさわさと不気味に伸ばす、黒服 「ってめ……」 「よぉ、また会ったな」 ニヤリ、その黒服はマッドガッサーを見下ろして笑った 髪は、完全にマッドガッサーと似非関西弁の女性を束縛し、その動きを封じている 「あー、そんなに睨むなや。殺すんじゃなくて、お持ち帰りするよう言われてんだから……生け捕りとか、そう言う方針で行くならいくで、もっと早く決めとけってのな」 「生け捕りて……マッドはんに何する気や!?」 「さぁ?俺は聞かされてないし、っつか、具体的には聞きたくねぇや」 似非関西弁の女性の言葉に、その黒服は肩をすくめてみせた …生け捕りにしたマッドガッサーを、「組織」はどうするつもりなのか? 正直、考えたくもない 突然変異の個体、その特殊な研究対象を、「組織」がどうするか…考えなくとも、大体想像はつく 「…そう言や、マッドガッサーは生け捕りにしろって言われてっけど、その仲間に付いては指定受けてないな…どうすっかねぇ」 「!」 黒服が何気なく呟いたその言葉に、ぴくり、マッドガッサーが反応したように見えた …そうだ、マッドガッサーの仲間については、何も指示が出されていない つまりは、処分しろと言う事なのだろうな、と黒服は考えた 特に、「13階段」に対しては、そうなのだろう 「組織」の裏切り者で、しかも、あんまりよろしくない…今ではもうなかった事にされている計画の、生き証人のようなものだ 見つけ次第始末しろ、といわれてもおかしくない …個人的に、ちょっと可愛がった事もある対象だから、自分が「13階段」を追う事にはなりたくないものだ、黒服はそう考えていた ついでに……今、捕まえている似非関西弁の女性 そっちも、始末は勿体無いよなぁ さて、どうにかならないものか 考えていて……マッドガッサーが自分を睨みつけている事に、黒服は気づいた 「---っは、いいね、その目。人を殺した事がある奴の、殺意交じりの眼差し、ってか?」 はっきりとした、敵意、殺意 自分の大切なものを護ろうと言う、獣の目 今のマッドガッサーの眼差しは、そう言う目だった 「仲間が大切か?…………都市伝説の癖に、契約者でもない人間と仲良く、とは珍しいもんだ」 「お前だって、都市伝説だろうが」 「あぁ、そうだよ?」 そうだ、自分も、都市伝説だ くっく、と黒服は笑う 「元人間の…都市伝説に飲み込まれて、都市伝説と言う化け物になっちまった存在だよ?」 すたん、と塀から降りて、マッドガッサーに近づく 髪によって動きを束縛され、しかし、マッドガッサーは鋭く黒服を睨み続けていた …かつて、殺戮を行った経験がある者の、殺意の眼差し それを、黒服は真正面から受け止める 「どうせ、都市伝説なんざ、人間から見りゃあ化け物だ。そんな化け物と契約してくれる人間だって希少だってのに……その化け物と、契約もしてないのに、一緒に行動するような人間がいるなんてな。どんな手を使ったんだか」 「…ッマッドはんの事、悪く言わんといてや!」 あぁ、随分と慕われているじゃないか 都市伝説の癖に、化け物の癖に 俺はうまくいかなかったってのに、こいつはうまくいきそうだってかい? ……気に食わないねぇ? 「まぁ、そう言いなさんなや?……今、俺はあんたらの命を握ってる状態なんだぜ?」 「……彼女だけでも、放せ」 黒服を睨みつけたまま、マッドガッサーが低い声で告げてくる 完全に動きを束縛された何もできない状態だと言うのに、それでも護ろうとでも言うのか? 「嫌だ、って言ったら、お前さんはどうする?」 「…そう、だな」 …ぎりっ、と 束縛された腕を、マッドガッサーは無理矢理動かそうとする 無駄なことを 黒服は、マッドガッサーを束縛する力を強めていく 「無理に動かすと、腕が引きちぎれるぜ?」 「…マッドはん!」 ぎり、ぎり……と マッドガッサーが動かそうとするその腕を、束縛し続ける ……しかし 「-------っ、う、ぁ」 「っ!」 ぶちり 束縛していた黒服の髪を、半ば引きちぎるように…その腕に髪を食い込ませ、肉を、骨を切らせ出血しながら…マッドガッサーは、無理矢理に右腕をうごかした その指を、口元まで運んで ぴぃいいいいいいいい…………----------------- 高い、口笛の音が、周囲に響き渡った ひゅうっ、と 風の音が、辺りに響いて 直後、激風が黒服に襲い掛かった 「っく……!?」 立つ事すらままならない、激風 まるで、竜巻が自分の場所にピンポイントで直撃してきたかのようなその風に、黒服は体勢を崩した その拍子に、マッドガッサーと似非関西弁の女性を束縛していた髪の力が、緩む 叫び声のような、何かの鳴き声が、風の音に混じって響く 再び襲い掛かってきた激風に、黒服は体を飛ばされ、塀に体を叩きつけられた 直後、目の前を…何か、巨大な、巨大な 鳥のような生き物が、通り過ぎていったのを、確認する 「ぐ……くそ、何だってんだ…?」 …風が、やんで マッドガッサーの姿も、似非関西弁の女性の姿も、消えていた 残っているのは、引きちぎられた髪の毛と……マッドガッサーが流した血痕だけだ 「…まさか、さっきのが…例の、巨大都市伝説か…?くそ、マジでマッドガッサーの仲間かよ」 舌打ちする 事実を確認できたのはいいが…これは、やっかいだ 今回は逃走に使用したようだが、あれに暴れられては洒落にならない 流石に、報告するしかないだろう 黒服はため息をついて、懐から携帯を取り出した 「怪我はないか?」 「うちは平気や…それより、マッドはん、腕」 「都市伝説だから平気だよ。後でジャッカロープの乳でも分けてもらうさ」 ぶらり、半ば使い物にならなくなった腕をぶら下げつつ、マッドガッサーは似非関西弁の女性にそう答える 彼女に怪我がなかった事実に、酷くほっとしている自身に、マッドガッサーは気づいていた 「なぁ、アレが、ひょっとして前に話とった秘密兵器?」 「あぁ。あいつがいりゃあ、いざとなりゃどこにでも逃げれるぞ」 「って、逃げる専用かいっ!?」 「約束なんだよ、荒事には手を出させないっつぅ」 ばさり 二人を逃がしたその巨大な存在は、翼をはばたかせ、高く、高く飛び上がっていっている それは、軽く見積もっても軽飛行機くらいの、巨大な存在 これがヘタに暴れれば、何がおきるかわかったものではないし…それこそ、本格的にあちこちの組織に目をつけられる 「マッドはん?…考え込むのもええけど、まずは早よ教会に入って治療しよや?」 「ん……あぁ」 …自分は、「組織」には生け捕りにされようとしている だが、仲間は…どうなるか、わからない それこそ、始末でもされかねない それを、改めて自覚する …だからと言って、今更計画を諦めるつもりもなく ……いや、半ば、その計画など、どうでもよくなってきているはずなのだが しかし、それを手放す気にもなれず 「…しばらく、潜むぞ」 「うん?……おおっぴらに動かん、って事?」 「あぁ、多少は動くが……ちまちまやっても、目をつけられていくだけだ…………一気に、やってやる」 それだけの知識を、自分は思い出している …この学校町を全体を、一気にガスで包み込んでやる その準備が、必要だ 「…後で、他の連中にも言うつもりだが………身を引きたくなったら、いつでも引けよ?俺がこれからやろうとしている事は成功するかどうかわからないし、何より…他の都市伝説契約者たちにかぎつけられたら、本格的に戦いになるだろうしな」 「……今更、何言うとるん」 苦笑してくる、似非関西弁の女性 …あぁ、本当に今更だな、と 感覚がなくなってきた右腕の事など忘れながら…マッドガッサーもまた苦笑したのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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愛人と美亜の試合が終わって、次の試合までの休憩時間の事 二人の試合開始前にその姿を見つけていた晃は、とことこ、と近づいていった そうして、くっくっ、真降の服の袖を引っ張った 「え?……あぁ、晃君ですか。こんにちは」 「……こんにちは。真降君も、試合を見に?」 「はい。まぁ、出場するチビ逹のお目付役兼手合わせ役かねてですが……そちらは」 「………試合、見に来た。優は出るけど、自分含めてみんなは、出ない」 試合に出ないのだから、神子の手伝いで実況の方に……とも、ちょっと考えていたのだが そもそも、自分ではうまくしゃべれないから無理だろう、と晃は実況係は辞退していた TRPGでGMをやっている際はすらすらと喋る事ができても、それ以外では少し、喋るのは苦手だ ………TRPGやる時のように、誰かになりきっていれば実況が出来ただろうか。流石に、試す気にはなれないが 「……さっき」 「?」 「愛人と美亜さんの試合の、前。慶次さん逹、見てた?」 そう、愛人逹の試合が始まる前 真降が慶次と郁の様子を見ていた辺りから、晃は真降逹の姿に気づいていた …遥の方は、気づいていたかどうかわからない。治療室に向かった憐の事で頭の半分以上が使われていたはずだから 事実、今も遥はまだ真降の方に気づいていないようだ 「気になること………あった?」 「……まぁ、少し」 ちらり、真降がもう一度、慶次と郁を見る 二人は、試合の合間にフリー契約者の資料に目を通しているようだった あの契約者は来ていないらしい、等と話しているのが少し、聞こえてくる 「彼の担当黒服が彼を見る視線が、少し……」 「………?………慶次さんの担当黒服、郁さんじゃ、ない」 「あれ?」 「………慶次さんの担当、は。赤鐘 愛百合の方。ANo」 少し考えている様子の真降 納得がいったのか、あぁ、と声を上げる 「そうだ、郁さんはかなえさんの担当でしたね」 「ん、そう………郁さんも、慶次さんと一緒にいる事、結構多いけど」 ややこしい、とは晃も思う 強行派である愛百合からの影響を少しは薄めようとしているのか、慶次はかなえと郁と共に行動する事も多いのだ 最近では、その二人どころか天地と組むことすらあると言うが ……と、真降が「あれ?でもそれじゃあ……」と、新たな疑問が浮かんだようではあったが 「…あ、次の試合、始まる」 そう、次の試合が始まる 遥が「げ」と言う声を上げているのが聞こえてきた 次の試合の出場者の片割れは、遥が「絶対にかなわない」と常に言っている、あの人だ 対戦相手であるその女性を、キラはじっと観察した 長い黒髪は頭の天辺でポニーテールにされており、銀色のリボンで結ばれている。翡翠色の瞳は、まっすぐにキラを見つめ返してきていた 武器らしい武器は持っていない。服装はパーカーにジーンズと、戦闘用なのか地味な格好だ (……日景 アンナ。「首塚」所属……日景 翼とセシリアの娘にして長女。日景 遥の姉) キラがすでに持っている情報は、それくらいだろうか。確か、遥より二つ年上……今年で18歳だったはず 対してアンナの方は、どの程度キラの情報を持っているのだろう 実はお互い、契約都市伝説に関する情報は与えられていない 試合の中で、相手の契約都市伝説を見抜け、と言うことなのだろうか 『それでは、第5試合、開始っ!!』 開始の合図 小さく、アンナが笑った 「はーい、それじゃあ………年下相手でも、容赦はしないわよ?」 アンナが、静かに構えた あれは、何の格闘技の構えだったか………どちらにせよ、戦闘方法は接近戦か 契約都市伝説も、接近戦闘向きのものなのだろうか 油断なく、キラは手元に氷の剣を作り出そうと……… 「え?」 ……どろり、と 氷の剣の表面が、溶け始めた それに驚いた瞬間、アンナが地を蹴り接近してくる 繰り出された拳を避け、一旦、距離を取った もう一度、氷の剣を作り出しながら、ちょうどよい距離を保とうと ぐちゃり 「っ!?」 地面の感触が、おかしい 見れば、どろり、と、地面が溶けてきているような…… (これは……彼女の契約都市伝説の正体と、能力を把握しないと、危ない) アンナもアンナで、キラの契約都市伝説を見定めようとしている気配がある どちらが先に見抜くことが出来て対応できるか、まさに、それが求められようとしていた to be … ? 【死を従えし少女 寄り道「キラの戦い」 へ】 前ページ次ページ連載 - 次世代の子供達
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「子供の頃傘持ってジャンプとかしたよね」 ざあざあ、ざあざあ。ざあざあ、ざあざあ。雨が降っている。学校の屋上に、傘をさした少女が一人。 屋上は弁当を食べたり、黄昏たりする場所であるというイメージがある。いくら傘をさしているとはいえ、本来雨の日に行く場所ではない。 しかしそこには確かに少女が居た。傘をさした少女が居た。ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、長靴で水たまりを踏みながら歩いていく。 そして。次の瞬間――― 「え~いっ!」 傘をさしたまま――――少女は飛び降りた。屋上から飛び降りた。 コンクリートから足を離した少女の身体は、そのまま地球の重力に従って、真っ逆さまに――― ―――落ちなかった。何ということだろう。その少女の身体は、ふわふわと。ふわふわと、宙を舞っているではないか! 背にパラシュートを背負っているわけではない。天使のような翼が生えているわけではない。 あるものと言えば、手に握った傘ひとつ。にもかかわらず、少女の身体はふわふわしていた。 「やっぱり気持ちいいなあ、雨の日の空の旅!」 少女の名は傘松 小雨(かさまつ こさめ)。小学生である。黄色い傘が可愛らしい。 「こんな~雨の日は~ヘリとか~鳥とかもいないし~。雨空は~私だけの~フリ~ワ~ルド!」 傘を差すだけで宙を舞っている。その異常性だけで気づく人は気づくだろうが、彼女は都市伝説契約者である。 彼女の契約都市伝説、それは『傘をパラシュート代わりにできる』。星のカービィなんかでイメージが付いたのだろう。 我々は子供のころ、傘を差して飛び降りるとパラシュートのようにふわふわ舞い降りることができると信じていた。 それが形になった、その『子供たちの夢』から生まれた都市伝説。それが『傘をパラシュート代わりにできる』である。 「地面ならともかく~、こ~んな雨の日に空飛んでる都市伝説なんていないだろうしね~」 言いながら、少女はふわふわ空を舞う。雨音をBGMに、空を舞う。 「あっ、そろそろ地上かぁ。しょうがない、また昇り直……」 その瞬間、びゅん、と何かが飛んでくる。器用に位置を変え、小雨はそれを間一髪躱した。 「なんなの~、も~……」 呟き、地上に足を付ける。何が飛んできたかは分からないけど、危ないじゃない。気を付けてよね―――と、思っていると。 「きゃっ!」 躱したはずの『それ』が戻ってきて。小雨の小さな体を突き飛ばした。 「ひっひっひっ」 飛んできた何かは不気味に笑う。動きを止めたことでその正体が露わになった。老婆だ。 「何~、何なの~?」 「こんな雨の日に出歩くなんて危ないじゃないかい」 「そんなこと~、聞いてないんだけど~?」 「暗くて誰もいない時に一人で出歩くだなんて……私達に襲われたいって言ってるようなもんだよぇ!」 言いながら、老婆は腰を曲げ、小雨めがけて飛びかかる。 「当たらないよ~? 何なのお婆さん?」 しかし、小さな体躯を生かしてすらりと躱す小雨。 「やっぱり子供は子供。甘いねぇ!」 二度も同じ手に引っ掛かるだなんて――――言いながら、老婆は戻ってきた 「んぐっ……!」 クリーンヒット。小さな体に老婆一人分の体重は大ダメージとなり得る。 「何で……羽根もないのに~……。いや~……そっかぁ~」 苦しそうにしながらも立ち上がり、小雨は言う。 「『ブーメラン婆』~! だから避けても避けられなかったんだぁ~~!」 「ひっひっひっ、ご名答。子どもにしちゃ賢いじゃないか」 「どうしてこんなことするのよ~。人が気持ちよ~く飛んでるときに~」 「ひっひっひ、都市伝説(わたしたち)が人を襲うのに……理由が必要かい?」 「あはは~、そりゃそうだ~!」 言いながら、小雨は飛び退き『ブーメラン婆』と距離を取る。 「逃げるつもりかい? 無駄だよ、遠距離(それ)は私の間合いだ!」 『ブーメラン婆』はその名の通り、ブーメランのように回転しながら、小雨めがけて飛んでくる。 「逃げる? ちがうよ~?」 その瞬間、強い風が吹いた。こんな天気だ、風くらい吹くだろう。しかし―――それが何だというのだ? 「戦うつもりかい? でも残念! 私はこの程度の風、物ともせず飛んで行ける!」 一方お前さんの得物は傘じゃないかい。突風の中じゃまともに傘なんか差せない。 どうやら天は私に味方したようだね!言いながら、『ターボ婆』は飛んでくる。 確かにそうだ。この状況、普通なら圧倒的に小雨の不利。 「違うよぉ~? 天運はどうかしらないけど~……天気はいつでも、私の味方なの~」 そう、あくまで普通なら。普通も常識もないのが都市伝説や契約者の戦いだ。 『ターボ婆』の身体は風にあおられ、地面にたたきつけられた。 「ぐえっ……! お前、何をしたんだい!?」 「『何をした』~? おかしなことを聞くんだね~? 貴女は風に吹き飛ばされ落っこちた。それだけでしょ~?」 「そんなわけあるかい! 私が吹き飛ばされるくらいの風なら、お前が吹き飛ばないわけがない! お前、契約者だね!?」 都市伝説の力で風を起こしたんだろう!? と、『ターボ婆』は吠える。 「さぁ~? ど~だろ~ね~?」 間延びした声で、小雨は答える。しかし、質問には答えない。 「なめんじゃあないよっ、ガキめ!」 『ターボ婆』は体勢を立て直し、再び飛びかかろうとする。しかし、それは叶わない。 「全く~、大きな声をあげるものじゃ~ないよ~? お婆さん。血管切れますよ~?」 頭では冷やしたらどうです~? と小雨が言うのと同時に、『ターボ婆』の頭上に滝のような鉄砲水が降り注いだからだ。 「ごぽごぽ! げほっ、げほっ! やっぱり……契約者!」 恐らくは水や風……つまり、嵐を操る能力! 『ターボ婆』は推理する。 「残念だけど~、お婆さんに勝ち目はないよ~?」 「言ってろ!」 と吠えてみるものの、しかしその通りだ。ターボ婆は本来雨の日の都市伝説ではない。 嵐という、最上級の悪天候を操る能力者への対抗法を持ち合わせていない。 しかし―――― 「あれ~~~?」 心なしか、雨足が弱まってきた? いや、気のせいではない。確かだ。なぜなら―――― 「ひっひっひっ、どうやらやっぱり、天は私に味方しているようだねぇ!」 突如雨が上がるばかりか、雨雲も晴れ上がったからだ! これ幸い、と『ターボ婆』は反撃の体勢に入る。 「だ~か~ら~、言ったでしょ~? 天運はともかく、天気はいつでも私の味方だって~」 言いながら少女は『ターボ婆』に傘を向ける。傘に付いた水滴が日光を反射し―――― 「うぎゃああああああああ!」 ビームのように、『ターボ婆』を焼いた。 「何……『嵐を操る能力』じゃあないのかい……?」 「嵐を操る~? そ~んな怖い能力、私が持ってるわけないじゃな~い」 私はただ、天気を味方に付けるだけだよ~? 言いながら、少女は指鳴らそうとする。 が、鳴らない。すっ、となるだけである。 「う~~~~……」 可愛い。 しかしその可愛さと裏腹に、能力はしっかりと働いていて。 天から降り注ぐ光が、『ターボ婆』を焼き尽くした。 「まさか~……私の持ってる傘がただの傘だとでも思ってたのかな~? 答え合わせしてあげるね~。『幽霊傘』。それが私の、もう一つの契約都市伝説だよ~」 その声に答えるように、傘は―――否、『幽霊傘』は目と口を開き、ぺろりと舌を出す。 『幽霊傘』。『唐傘お化け』の類話の妖怪であり、突風の日に人を空へ巻き上げてしまう。 契約によって得た能力は、『天気の影響の超強化』。 即ち風であらゆるものを吹き飛ばし、雨を鉄砲水に変え、日光を熱光線に変える。そんな能力。 「屋外で私に勝負を挑んだのが~、貴女の敗因だよ~? な~んて、聞こえてるわけないか~」 そう呟き、少女は踵を返す。 「あ~あ、晴れちゃった。スカイダイビングはおしまいだね~。しょうがない、帰ろ~」 空はすっかり晴れたけど、小雨は相変わらず傘を差し。長靴で水たまりを踏みながら、ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ、家に帰るのであった。 続く EXIT
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…まったく 眉間を揉みながら、彼女はため息をついた …無事だったから、良かったものを 噂の筋肉強姦集団とやら…何故、「組織」の方で本格的に動きを止めようとしないのか いつか訴える、そして勝つ 「…何とかなったんですか?」 「どうやら、そのようです」 声をかけてきた少年に、彼女は小さく苦笑した …本来ならば、このような少年とて、巻き込みたくはない しかし、自分が知っている都市伝説契約者は少ないのだ 「…工場が、物の見事に燃えてるっぽいんですが」 「恐らく、私の部下の仕業です……すみません、あなたのお父様が取り引き場所として使う場所が一つ、潰れてしまったようで」 「…多分、大丈夫ですよ。親父たち、最近はあそこを使ってなかったんで」 学校町を古くから根城にする極道一派の組長の、息子 彼が都市伝説契約者である時は驚いた どうやら、妹の方も都市伝説契約者であるようだが…あちらは、まだ中学生 高校生である彼すら、巻き込みたくなかったのだ 彼女まで、巻き込む訳にはいかない 「ご迷惑をおかけしました……お父様に、よろしく」 「…親父たちは、都市伝説の事は知らないんで。この件に関してはよろしく言えないです」 みー?と、少年の傍にいた、おかっぱ頭で白いブラウス、赤いつりスカートと言う服装の少女が首を傾げている …彼女には、この話題は少し難しいようだ 「しかし、あなたのお父様はかつて、口さけ女と互角にやりあったと聞きますが?」 「……都市伝説だと知らないで、ですよ。お袋だって、その点については同じです。うちの組で都市伝説の存在知ってる奴はほとんどいないと思います」 だから、と 少年は、真剣に彼女を見上げてきていた はっきりとした意思を、ぶつけてくる 「…うちの組のモンが都市伝説事件に巻き込まれたようだったら、俺が何とかします。学校のクラスメイトたちもそうですけど、都市伝説の事を知らない奴が都市伝説事件に巻き込まれるのが、一番危ないですから」 「それは、同感です……私とて、部下が都市伝説事件に巻き込まれたら、あなたを含み都市伝説契約者の知り合いに連絡するしかできないのですから」 都市伝説とやりあえる、都市伝説契約者ではない人間は、希少なのだ …そして、それらは 一歩間違えば、その命は一瞬で、風前の灯火に晒される …だから、やはり 都市伝説契約者でない人間は、都市伝説と関るべきではないのだ 「…それじゃあ。親父たちに内緒で家出てきてたんで、帰ります」 「本当にすみませんでした…さようなら」 「さよならー」 ぶんぶん、少年の傍らにいた少女が、小さく手を振ってきた 何となく和んで、彼女はそれに手を振り返す 少年と少女を見送って…彼女は再び、ため息をついた …さて あの部下たちを、どうしてくれようか 学校町に勤務する限り…彼女の苦労が絶える事は、ない 終 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ