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早朝、ルイズ達はアルビオンに向かう準備をしています するとギーシュが提案しました 「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」 地面から大きなモグラ、ジャイアントモールが出てきます ギーシュは「僕の可愛いヴェルダンデ!」と抱きつきます 可愛いかどうかは見る人が見れば可愛いのでしょう ですが地中をかなりの速度で掘り進めるヴェルダンデとはいえ行き先は空中に浮かぶアルビオン 即座にルイズから却下されます 却下したときヴェルダンデは少し鼻を嗅いですぐにルイズを押し倒しました 「ちょ、ちょっと! 何なのよこのモグラ!?」 ルイズは身体をモグラの鼻で突き回され、地面をのたうちスカートが乱れたりします 「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは、ある意味官能的だな」 「・・・なにをやってるんですか」 途中まで見ていたドッピオがヴェルダンデを止めにかかります ですがジャイアントモールの力は強くキングクリムゾンのパワーでないと止めれませんでした ヴェルダンデの目線はルイズの一部分に釘付けでその目先を見たギーシュがこう言いました 「なるほど指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。 よく貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ」 「なるほど『土』系統のメイジには役立つ使い魔ってことですか・・・あ!」 押して勝てないと悟ったヴェルダンデはすぐさま地中をもぐってルイズの前に現れます また押し倒そうとしたその時、一陣の風が舞い上がりヴェルダンデを吹き飛ばしました 「なっ、何をするだァ――――ッ! 許さん!」 ギーシュが杖を抜いてわめきます。怒りのあまり言語が田舎臭くなっています ドッピオは瞬時にエピタフを発動し『敵』ではないことを判断しました 羽根帽子の男は一礼をして名乗ります 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行する事を命じられた者だ 君達だけではやはり心許ないらしい。しかしお忍びの任務であるゆえ、一部隊をつける訳にもいかぬ。 そこで僕が指名されたって訳だ」 帽子を取ったその男は自分達より十歳は年上と思われるダンディな髭の男でした 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。 すまない・・・婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬフリはできなくてね」 「・・・婚約者?」 ドッピオは疑いの眼差しでワルドと、ルイズを見くらべます ルイズは確か十六歳のはずだ。まあこの世界なら婚約者というものがあってもいいかもしれません だがワルドはどう見ても十歳くらい年上です。ロリコンか、ヴァリエール公爵家の家名目当てか ドッピオはなんとなく後者・・・何らかのモノがほしいために婚約しているように思えました 何せそのワルドの顔がかつてのボスのように仮面を被った様な顔なのですから ルイズは感動の再会を楽しんだ後、ドッピオとギーシュを紹介しました ワルドは最初、使い魔が人間ということに少々驚いていたようですがそのようなことなど気にしないようでした (・・・この程度なら化けの皮は剥がれない・・・か) ドッピオのみがワルドに対し疑念を抱く中、彼らはアルビオンへと旅立つ事になりました ちなみにヴェルダンデは「行き先はアルビオンだから」という理由で結局置いてく事に ギーシュは本当に別れを惜しんでいましたがその後 「・・・地中を掘ってるなら途中までばれない・・・」 と呟き、出発しました。いたはずのヴェルダンデはどこかに消えていました さて、一行は各自の移動手段を持って急いでいます ルイズとワルドは一つのグリフォンに乗っています。ギーシュとドッピオは学院の馬に 道中、ワルドはルイズに甘いささやきを繰り返します ギーシュは確実に数日かかるということに「ああ、モンモランシー。君に数日も会えないなんて・・・」などと言っています ルイズはワルドの甘いささやきを聞きながら、チラリ、チラリと後ろを見ています 見ているのは大げさな演技をして笑いを取ろうとしているギーシュ・・・ではなくドッピオのほうです ドッピオは無言で馬に乗っています どうやら慣れていないようで自分の能力を使っているようですがルイズには分かりません 自分に対して反応の無さが、ちょっと癪に障る。理由は解りませんが 「やけに後ろを気にするね。まさか、どちらかが君の恋人かい?」 ワルドは笑いながら、しかし真剣な眼差しで言っているようです 「こ、恋人なんかじゃないわ」 「そうか、ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたらショックで死んでしまう」 「で、でも・・・親が決めた事だし」 「おや? 僕の小さなルイズ、僕の事が嫌いになったのかい?」 「・・・嫌いな訳ないじゃない」 ワルドは憧れの人 幼い日、婚約の正しい意味を知らなくとも、彼がずっと一緒にいてくれると思って、嬉しく思っていました 今ならその意味が解り、結婚という意味も解っています アンリエッタの政略結婚とは違う自分達の結婚を ですがルイズは何だかとっても複雑な気持ちになりました いざ結婚となるとどうしても気持ちが違うような気がしてならなかったのです (私は・・・ワルドのことが・・・) 好きか嫌いか、どちらと言われると好きなのでしょう 結婚するのかしないのか、好きなのに結婚が純粋に望めない (・・・今は姫の任務の遂行。ワルドのことは後回しよ!) 自分自身に対する疑念を考えるうちに港町ラ・ローシェルに到着しました ラ・ローシェルは峡谷に挟まれるようにあり岸壁を彫刻のように彫った建物が多数見受けられます おそらく土のメイジが作ったのでしょう。しかし港町なのになぜこんな山地にあるのでしょう 疑惑を持ったドッピオは空を見上げます 「・・・なるほど、空の港と言うわけですか」 それは船でした。空中に浮かぶその船はまさに圧巻 (ヴェルダンデがいけないと言う事はアルビオンは空にあるわけですか) 一行はラ・ローシェルで一番上等な『女神の杵』という宿に入った瞬間 「ハァ~イ、遅かったじゃない」 「きゅ、キュルケ!? 何であんたがここにいるのよ!」 と、いきなりの歓迎を受けました 一階は食堂になっていて、タバサもキュルケと同じテーブルで本を読んでいます キュルケはいきなりワルドににじり寄り 「お髭が素敵よ。あなた、情熱はご存知?」 当のワルドはキュルケを拒絶するように左手で押しやりました 「婚約者が誤解するといけないので、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見るワルド。視線に気づきつまらなそうな顔をするキュルケ 「婚約者?あんたが?・・・ドッピオー!あなたを追いかけてきたのよ!」 「見事な対応変換だね」 「うるさいわよ。ギーシュ」 即座に矛先を変えてキュルケはドッピオの腕にしがみついてきます いくら追い払ってもやめないことは分かっていますがそれでも一応の望みをかけて追い払います 「ひとまず離れてください・・・大体何で貴女がここに・・・」 キュルケは簡潔に答えてくれました どうやら自分達が出かけるのが見つけたためタバサに頼んでシルフィードで送ってきてもらったようで その本人、タバサもこちらの行動に興味があったようで不満の色は見せていません 船について出来ることがないので宿屋の食堂でドッピオ達がくつろいでいると桟橋へ乗船交渉へ行ったワルドとルイズが帰ってきました 「アルビオン行きの船は明後日にならないと出ないらしい」 仕方ないからそれまでの間この街で時間を潰す事となり、早速ではあるが宿の部屋割りがワルドによって決定され鍵を渡されました キュルケとタバサが同室。ドッピオとギーシュも同室。ルイズとワルドは同室 婚約者だから当然ではあるがルイズはかなり動揺の様子 そしてその夜、ルイズとワルドは同じ部屋へと消えていきました 食堂ではギーシュが自棄酒を飲んでいました 「モンモランシー・・・ケティのことは誤解だって言ってるのに聞いてくれないんだよ?」 「はあ・・・」 ドッピオはその自棄酒に付き合っています。ちなみに肉体年齢ならもうとっくに三十路を過ぎているので酒は飲んでも大丈夫 キュルケはどうしたものかしらと思いつつワインを飲み、タバサは見かけによらず大食いなのか食事を続けています 「しかし、まさかルイズに婚約者がいたとはなぁ……」 「あら、ルイズにも手を出そうとしてるのかしら?」 ギーシュの呟きに乗ってきたのはキュルケ一人でした 「やれやれ、何でそういう勘違いをするかな。単純に驚いただけだよ。 それにしてもルイズにはできすぎた婚約者だな。 女王陛下の魔法衛士隊でグリフォン隊隊長……憧れるよ」 「でもあんな髭ヅラのおじさん、私ならお断りよ」 ここまでルイズ達を追いかけてきた最初の行動はすっかり忘却の彼方らしい。 「まっ、確かに年上すぎるかな。何歳なんだろうね? 三十には届いてないようだが」 「殿方っていうのはね、ドッピオくらいの年齢が丁度いいのよ 青春の真っ盛り、尤も自分が輝くときが一番良いに決まってるじゃない」 「まあ確かに。でもルイズは年齢より幼く見えるからなぁ」 「・・・・・・」 「あら?ドッピオ、もしかして寝てる?」 「酔いが回ったようだね。まったくこのくらいの酒で目を回すなんて情けない」 ちなみに飲んだ量はワイン一本程度です 結局、自棄酒はギーシュがドッピオを部屋に運ぶということで終了し キュルケと食事を終えたタバサも眠りに付くことで任務一日目を終えるのでした
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遥かな国からの青年 ブチャラティは現在訳あってイタリア料理店にいる。 彼はイタリア人なのだから当然と言えば当然だが、彼が今いるのはイタリアではなく異世界なのだからそんな店あるはずない。 だが彼は今イタリア料理店にいる。彼と同じ世界の人間が賄う店に。 「まあ、座んな。ここであったのも何かの縁だ。」 長身の男が店に誘う。 「しっかしまさかまだこっちに呼ばれてた人間がいたとは驚いたぜ。ボインゴ!ちょっと水持ってこい。」 「わ、わかったよオインゴ兄ちゃん・・・。」 ボインゴと呼ばれた店員が奥に引っ込む。 「今日に限ってこんな奇跡が起きるとはねえ。あんたと…そっちの姉さんもなのか?」 オインゴがシルフィードを指差す。だが当の本人はボケた顔をしている。 「きゅい?」 「アンタいたのか…。なんでいつの間にかアンタまで店に入ってるんだ。」 シルフィードが頭をかきながら、 「えへへ…。つい空気に飲まれちゃったの。きゅい。」 「無関係なのかソイツ?」 「ついさっきそこで会ったんだ…。名前も知らない。アンタ誰だ?」 「シルフィードなの!」 「シルフィード!?“風の妖精”なんて名前なの?そんなの貴族が使い魔につけたり、偽名に使うな名前なのよ?」 あの女店長がシルフィードを見て驚いた。 「偽名か・・・・・・。」 ブチャラティがこっちに疑いの目を向けている。 (やばっ!またやっちゃったの!) シルフィードにタバサが背中をつねったような衝撃が走る。 「シルフィードか…。そういえばオレの知り合いに…そんな名前の風竜を使い魔にしてた奴がいたな…。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。 「そこのところ、詳しく教えてもらえるか?」 (・・・という展開にうっかりしてしまうところだったの!危ない危ない。きゅい!) 途中からシルフィードの察知した未来の想像図だった。 ちなみにシルフィードと名乗ったあたりからがシルフィードの受信した電波である。 「どうしたんだ?」 「な、なんでもないの!わ、わたしはイルククゥ!ガリア王国からきたの!」 シルフィードは自分のもうひとつの名前、風韻竜仲間の中での名を名乗った。 (こ、こっちの名前ならお姉さまと風韻竜の仲間しか知らないからシルフィとわからないはず…。きゅいきゅい。) シルフィードには即席で偽名を名乗る機転を利かせる事はできなかった。 だがそれで冷や汗をかく事になる。 「イルククゥ?”そよ風”なんて名前なの?」 (しまった!こっちもダメだったの!?もう現実にしゃべちゃったの! どうする!?どうする!?) 「…変な名前。」 と言って店長は奥に引っ込むだけだった。 「そうか。ブローノ・ブチャラティだ。よろしくな。」 「よ・・よろしく!」 ブチャラティの表情からは不審そうなそぶりはさほど見られない。 (ウソをついてるようなそぶりはない・・。やはり少し変わってるだけの貴族なのか…?) 否、疑っていたが、その名前はシルフィードの本名なので見破ることができなかっただけだった。 「み、水です ハイ。」 ボインゴが水を渡す。 「ありがとう!きゅい!」 シルフィードもといイルククゥが水を取る。 「…で、さっそくだが質問を。アンタたちはどうやってこの世界に来たんだ?」 ブチャラティが切り出す。 (もしも…こいつらの出現の方法が向こうにいけそうな物であったとすれば・・。 帰れるかもしれない。元の世界に…!) ブチャラティは息を呑んだ。 「…それが、覚えてねーんだ。」 ブチャラティから一気に力が抜ける。 「え?」 「いや、だから、スマン!オレたちは覚えてないんだ・・。 オインゴが頭をかきながら言う。 「よくわからねえんだ・・。もう2年になる。ある日目が覚めたら突然オレたちはこの世界に来ててさ・・。 本当にわからねえ。思い出せねえんだ・・・。それどころか、その後この店長と会うまで俺たちはまず生きる事の心配をしなきゃいけなかったからそれどころじゃあなくってよ・・・。」 ブチャラティはオインゴたちのその様子がかなり情けなく見えた。 (ふりだしに戻ってしまった・・。) 「あなたは…どうなんですか? ハイ。」 ボインゴが聞いてきたので、ブチャラティは自分がルイズに召喚された件の話をする。 ちなみに自分が死んだあたりの話は伏せた。 「ハイ、これ。しばらく食ってないんでしょ?」 店長がスパゲッティを差し出す。 「これは…。いいのか?オレには金が・・。」 「いいのよいいのよ!せっかく久しぶりに会えた同じ世界から来た人間、仲間じゃないの!それに10年以上も一人で世界中旅してただけあって金のない奴の苦労がよくわかるのよ!遠慮はいらない!さあ食べな!」 ブチャラティは一瞬その気さくさに一瞬うなずきそうになったが踏みとどまる。 「いや、そんな事でいただくわけには…。」 グゥーーーーーーーーッ。 腹の音が鳴る。 その後照れながら頭をかいたのは 「・・・・・・・・・おいアンタ、えっとイルククゥだったか?騎士としての威厳とかは見せたりしないのか?」 「てへへ・・。きゅい。このイルククゥもスパゲッティをもらいますがかまいませんねっ!!」 ブチャラティが溜息をつく。そしてどうにも危なっかしくてほっとけない女だとブチャラティは思った。 「はぐ、むぐ、おいしいのー!きゅい!」 シルフィードもといイルククゥが子供のようにガツガツとブチャラティに分けてもらったスパゲッティを食べる。 「そりゃよかったな。ところで、お前貴族のようだが金あるんだよな?」 ドキン!! イルククゥが笑顔のまま固まっている。 「・・・・・・・・・・お金?」 「おい、お前・・・・まさか?」 しばらくイルククゥが(やべー、マジに緊急事態だわ。)とか考えているのが手に取るようにわかったが・・・。 「・・・・・・あ、お金はあるの。ゴメン今のなし!」 トランクの中に金があるのを発見したようだ。だがこれはちょっと見逃せない。 そもそもさっきからおかしい。主に言動が貴族のそれじゃあない。 最初に見たときは地べたに膝で座ってたし、スパゲッティの食い方がマナーもクソもない。 というか完全に子供の食い方である。 そもそもコイツ一体何歳なんだ?というのがブチャラティの一番の疑問だった。 見かけは自分と同じくらいに見えるが、案外ルイズより下だったりするのかもしれない。 それに加え口調や行動のせいでさらに幼く見える。 とりあえず確信したのは、こいつは貴族でないと言うこと。 そのトランクや服は確実に貴族から盗んだものだと考えた。 だが盗品のわりにトランクを調べるまでずっと無一文だと思っていたようだ。つまり金目当てではない点が府に落ちないのが気に入らない。 とにかくブチャラティはここでビシッと「お前貴族じゃないだろ。」と言ってやるつもりだった。 だが現実はそうはならない。 「お前貴族じゃな「ところでさ!アンタちょっと聞きたいんだけどさ…。」 店長が横槍を入れた。現実は非常である。 だが衝撃がブチャラティを襲ったのは次の瞬間だった。 「アンタってさ、『スタンド使い』でしょ。」 「何ッ!?」 バァーーー―――z______ン!!! 「スタンド…使い。と言うことはあんたたちも!?」 だが店長は慌てて手を振る。 「あ、違うよ。あたしはスタンド使いじゃあないんだ。現に見たことあるのは何かと同化して実体化するタイプの奴だけだからね。ホントにスタンド使いなのはその二人。」 店長が二人を指したらボインゴが物陰にさらに隠れた。 「・・・・・・・・?」 「・・もう12年くらいになるかな。そう。その頃にあたしは旅を始めたんだったな・・。 その頃のあたしはまだ子供でね、親父たちと喧嘩になって家を飛び出したのがすべての始まりだったんだ。」 店長が遠い目になっていた。 「まずは夢の海外進出をしようと思ったんだけどそのころのあたしは無一文だったからさ、密航する事にしたんだ。…まさかその密航した船の中でスタンドの存在を知るとは思ってなかったんだけどね。 いやー、いろんなスタンド使いを見たよ。船そのものを操るオランウータンとか、肉を被って別の人間にばける能力とか、変形する暴走車のスタンドってのもあった。その後当時の連れに母国の香港に送り返されそうになったけど、なんとか巻いてむしろ逆方向に飛んでやったけどね。」 店長が一気にまくし立てた。ところでさっきから兄弟が目を話し中、意図的に目を逸らしているのが気になった。 「それでアンタも『スタンド』の存在を知ったと言うことか?」 「そゆこと。ちなみに3年前、アンタの母国でイタリア語やこの料理の作り方を教えてくれた恩人も確実にスタンド使いだったね。だって食べただけで体の異常が直るのよ?その過程とか見て、ああ、確実にスタンド使いだなと思ってた。」 「そうか・・。だが待ってくれ。仮定するならともかくいきなりスタンド使いと決定するのはどうかと思うぞ?ただの人間かもしれないじゃあないか。実際スタンド使いだが・・・。」 「それから先はオレたちが教えてやるよ。オレたちはスタンド使いだからさ。」 オインゴとボインゴが会話に加わる。そしてオインゴが顔を抑えながら言う。 「お前もスタンド使いの端くれなら知ってるだろ?『スタンド使いとスタンド使いは引かれあう』というルールを。」 『スタンド使いとスタンド使いは引かれあう』このルールはポルポから聞いて知っていた。 「ああ、そのルールは知っている。だがそれが何の関係がある?」 「あのな、こっから先すっげー重要だから聞き逃すんじゃねーぞ?実はおれ達なりにこの世界の歴史とか最近の奇妙な噂とかをすでに調べておいたんだ。そしたらな、おまえみたいにサモン・サーなんとかだか、おれ達みたいに目が覚めたら飛んでたかは知らねーがな、それまで表ざたになっていなかっただけで、実は俺たちの世界の住人らしき疑いのある奴の情報が結構な数耳にすることができたんだ。」 ブチャラティは胸の辺りに悪い予感が重くのしかかっているのに気が付いた。思わず体が前にのりだしている。 「このトリステインのタルブって言う地方に、翼のついた鉄製の舟がかなり昔に落ちたって話も聞いたし、この世界の文化と完全にかけ離れているような行動をした変わり者が『俺は別の世界から来た』って言ってたらしい奴もいるし、あと奇妙な魔法がらみの術を行う平民っていうのが各地で増えつつあるらしい。」 「術を使う平民…。ハッ!」 「そこで思い出してほしいのが『スタンド使いとスタンド使いは引かれあう』という絆の…『引力』の法則だ。もしこのルールが異世界にいっても適用され続けるとしたら?」 その声が急に自分の声になった。そして次の瞬間オインゴの顔が自分と完全に同じになっていた。 「オイ、あんた達は…あんた達は何を言おうとしている?まさか…。」 「なんらかの拍子にこの世界に呼ばれたスタンド使いがまたこのルールに乗っ取ってスタンド使いをこちらに引き寄せる。それを何度も何度もやっている内にやがてネズミ算の要領でこの世界が俺たちの世界から来たスタンド使いだらけになるという仮説に至ったというわけだ。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。 「そして俺たちはそいつら全員がみんなして友好的だと言う甘い考えは抱かなかった。 だからもし何の前触れもなく突然おれ達の世界の人間に会ったら、それはもしかしたらスタンド使いかもしれないとあらかじめ店長に言っておいたのさ。」 「・・・・・・・・・・・・。」 ブチャラティは絶句している。その顔にはいやな汗がにじみ出る。 「それは・・・・やはり悪い知らせなんだろうな・・・オインゴさん。」 「だな。すでにアルビオンでは不穏な空気が漂いつつあるみたいだしな。」 「不穏な空気?」 「クーデターの・・・話ですか?オインゴ兄ちゃん。」 ボインゴが割り込んだ。 「クーデター?アルビオン?スマン、オレはこっちに来てそう間もないんだ。詳しく教えてほしい。」 「・・・白の国、アルビオン。今そこで大多数のアルビオンの貴族が王党に反旗を翻したという噂があちらこちらではびこっているんです。 ハイ。」 オインゴが変身を解除して言う。 「最もアルビオンは遠い。新鮮な情報もなかなか入ってきやしねーが、その反乱した貴族派の連中がその平民、つまりスタンド使いの疑いのある人間を数少ないが雇ったらしい。まあ・・・今の所わかっているのはそれだけだ。」 ブチャラティは考えた。もしそのスタンド使いを雇った貴族派が人々の犠牲も問わないような過激で非情な輩だったら。 例えば以前戦ったあのカビを操るスタンド使いのように、周囲を無差別に攻撃し、それによって何の罪もない人々が巻き込まれたら。 「だ、大丈夫ですか・・・・・・? ハイ」 ボインゴが心配そうに覗き込む。 「ん、ああ、大丈夫だ・・・。」 店長がオインゴを睨みつけながら言う。 「全くオインゴ!せっかくのお客さんをいやな気分にさせたりして! ゴメンなさい、うちの店員が・・・・。」 「いや、ここでの話はとても無視できない重大な問題だ・・・。ここで知っておいて良かった。」 ブチャラティが立ち上がる。 「グラッツェ。世話になった。また来るよ。」 店長が後ろから声をかける。 「ありがとうございました!なんか苦しい事があってもいつでも来てねッ!! ウチの店はあんたの味方だからさ!」 ブチャラティは手を振った。 店を出る時イルククゥは頭の上に?マークを浮かべていた。 (あの人達の話・・・。さっぱりわかんなかったの・・・。スタンドって先住魔法とどう違うの・・・?シルフィには全くわからなかったの・・・。) 人間よりはるかに長い時を生きていて、人並みの知能があるとはいえ、所詮幼竜の彼女には難しい話だった。 (とりあえずとても遠い所から来たのはわかったの・・・。) 「さて・・・すっかり忘れていたが、ルイズを探しに行かないといい加減やばいかも知れないな・・・。」 ブチャラティは一人取り残され怒りに震えるルイズの顔が頭に浮かんだ。 「ところでアンタは結局なんなんだ?」 ドキッ! イルククゥが再び焦りだす。 (わ、忘れてたの!どうしよう。本当の事をいうわけには行かないし…。) 本当の事を言えば真っ先に困ることになるのはタバサだ。 風韻竜である自分の話が公になれば、タバサも困る事になるに違いない。 (お姉さまの使い魔として一応困る事は避けたいの…。) だがブチャラティから発せられる威圧感は異常ッ!彼女は目をそらす! 「いや、やっぱり止めておく。」 「きゅい?」 疑いで鋭くなっていたブチャラティの表情ががいつしか緩んでいた。彼はふっきれたように優しく笑いを浮かべていた。 「たとえお前が何であろうとオレが横から口を出す問題じゃあないからな。お前もオレにとやかく言われるすじあいはないと思ってるだろう。」 イルククゥがポカンと口を開けている。 「な、何も聞いたりしない?」 「しないさ。」 「怒ったりしない?いじめない?」 「しない。」 ま、これからは気を付けな。と言って去ろうとした時だった。 ガッシャッーーーン!!! キャアアアアアア!!! 絹を切り裂くような叫び声!! 「きゅい!誰かが叫んでたわ!!」 「ただごとではなさそうだな・・・。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。 一方ルイズ。 「ブチャラティーー!!どこ行ったのよ!!ブチャラティーー!!」 先程ブチャラティとはぐれたルイズ。一人でずっと彼を探し続けていた。 「も、もうダメ…。疲れた…。」 その場にへたれこむルイズ。箱入り娘の彼女に町中探し回る体力はなかった!! 「つ…使い魔のくせに私を置いてきぼりにして…何でわたしがこんな目に…。」 疲れきった顔で立ち上がる「どこかで休むわもう…。えっと財布…。」 だがポケットを探って気付いた!財布がないッ! 「えっ!?財布は!?何でないの!?…ハッ!」 ―――――――まさかお前の体内にジッパーで隠したとは思わないだろ…。 「そうだ…。ジッパー!」 ルイズはマントをめくり、窓を鏡にして背中を見る。確かにジッパーがブラウスの背中の所についていた。だがっ! 「あ、あれ?届かない?ちょっと!?何これ!?何で持ち手がこんなに小さいのよ!」 ブチャラティはジッパーを貼るとき、ジッパーの大きさも自在に設定出来る。だ が今回はジッパーの持ち手が小さく、ルイズの手の届かない所にあるのだ。 「もう!何よこのマヌケな状況!!財布を持ってるのに取り出せないなんて!!やっぱアイツ後でとっちめてやるわ!!」 疲れ果てたルイズ。だがその耳に駆け足の音が聞こえてくる。 タッタッタッタッタッタッタッ 「あ、あれはッ!!」 その二人は!誰もが愛すその二人の名はッ!! 全国の女性と『ギーシュさん』信者の味方!ギーシュ・ド・グラモン! 全国のモテない男と変態紳士の味方!マリコルヌ・ド・グランドプレ! その二人が…こっちに全力疾走してくる。というか明らかに何かから必死に逃げている! 「あ!アンタ達!ちょっとお願いがあるの!背中のジッパー下ろしてほしいの!!」 「「そんな言葉に惑わされるかぁーーーーーーーッ!!!」」 よくわからないが確実に錯乱している。 目が血走っていて直視すると身震いしてしまう。 「状況がぜんぜん見えないって言うかアンタ達何やってんの!?」 「「逃げてんだよォーーーーーーーー!!!!貧乳(ゼロ)のルイズーーーーーーーッ!!!」」 残念。それは私のNGワードだ。 「アンタたち・・・。言うに事欠いて貧乳と書いてゼロとはね…。ハハハ。言ってくれるわね・・。ハハハハ・・・。」 殺意ッ!!今ルイズが目から発しているものを何と呼べばいいかと聞かれたら『殺意』としか答えられないッ!! 「キザ男にフトッチョがっ!!この手で殺してやるッ!!」 だが杖を抜こうとした瞬間ッ!! 「『うわああああああああああああああああああ!!!!!」』 さらに一人男が後ろから全力疾走で駆けてくるッ!! カウボーイ風の男が一人…いや一人で間違いないはずだが、気のせいか今二人分の悲鳴が聞こえた。 「テルゥーーー!!!無敵の『エニグマ』でなんとかしてくれぇーーーーーーーッ!!」 『無理だぁーーー!!!!今やったら『エニグマ』が斬られてしまうぅーーーーッ!!』 「あの娘ごと閉じ込めろぉーーーーー!!!」 『”恐怖のサイン”が見つからないんだよぉーーー!!多分精神を操られてるせいだぁーーーーッ!! …てかあんたの『エンペラー』を使えばいいじゃないか!!』 「俺は女は殴らないし撃たねぇ主義なんだよぉーーーー!!任務どころじゃあねぇ!!まともにやったら俺たちじゃアイツには勝てねぇんだよ!だから逃げの一手だッ!!」 いや間違いないッ!!いま確かにその男は見えない何かと『会話』していたッ!! 「な、今確かに二人分の声が・・!!いやそれよりあの連中一体何から逃げてんのよ!?」 その方向を向くと、見慣れた二人が向かい合っている。 片方は赤髪、長身、褐色肌、あのうらやま、いや忌々しい巨乳ッ!!キュルケで間違いない。 もう一人は青髪、小柄、眼鏡に確実に私より小さそうな貧乳ッ!!こっちもタバサで間違いないだろう。 だが何事かと駆け寄ろうとした時だった。 「『フレイム・ボール』ッ!!」 「『ウィンディ・アイシクル』。」 ヂヂヂッ!! 二つの呪文がぶつかり合って相殺するッ!!その衝撃で遠くのルイズも吹っ飛びそうだッ!! 「な、何アレ・・・。なんであの二人が本気で戦ってんの・・?」 そして片方が聞きなれた声でもう片方にこう言った。 「フフフ…。今の攻撃、確かに覚えたぞッ!!」 ギーシュ&マリコルヌ 参戦 一方ブチャラティとイルククゥ。 その悲鳴の原因は男二人の喧嘩だった。 「こんな街中で喧嘩か?もっと裏通りとか人気のないところでやるもんじゃあないのか?」 目が血走ってツリ目気味な男がバンダナを目元まで深く被った男を殴りつける。 「うがぁぁ!!テメェよくもやりやがったなぁ!!」 「何の話だ!オレがおまえに何をしたって言うんだ!?」 ツリ目の男は支離滅裂に見える。バンダナの男のほうは冷静のようだ。 体に切り傷、後ろの窓が割れているという事は何かが割れた音はあのバンダナの男がブチャラティは近くで震えていた女性に話しかける。 泣きべそをかいてたらしく目元が赤い。そしてガラスで切ったような跡があるようで、どうやらバンダナの男が投げられた時に飛んできたガラスが少し当たったらしい。 「ヒドイの・・。大丈夫?」 イルククゥが駆け寄って身を案じる。 「一体なにがあったんだ?アイツら何を揉めているんだ?」 「何も…やってないの…。あの目の尖った男が突然怒ってきて…。バンダナの人がかばったら喧嘩になってたんです…。」 「そうか・・・。」 ブチャラティが二人に近づいた。 「お、おかっぱさん?何をするの・・?」 バンダナの男がブチャラティに注意する。 「お、おい!!何やっているッ!!その男は・・・。」 「あんだぁ?テメェは!!テメェも殺されてぇのかコラァ!!」 ツリ目の男がブチャラティに襲い掛かる。 ズッキャア!! 「ブゲッ!!」 ブチャラティが返り討ちにしたッ!! 流石はギャングあがりのブチャラティ!!スタンドを使わなくても腕っ節は強かったッ!! 「てめぇよくもやりやがっ・・!」 バキッ!ドカッ! 間髪いれずにブチャラティがぶん殴るッ!! その場にいた人間は呆然とした。 「テ、テメェ・・・。よくもやりやがったなぁ・・。」 懐からナイフを取り出す。 「どてっ腹に突き刺してやら・・。」 ガシッ!! その行動より早くブチャラティがナイフを持った手を掴み、もう片方の手で・・・。 ズシィッ!! 相手のほうのどてっ腹に拳をねじり込んだッ!! 「ぐええええッ!!」 チンピラはそのまま気を失った。 (この『症状』…。まさか?) ブチャラティが気を失ったチンピラを見ている間、イルククゥがバンダナの男に駆け寄る。 「だ、大丈夫なの?」 「ああ・・・どうやら無事みてーだぜ。」 ブチャラティが倒れた男に近づく。 「おかっぱさん、危ないの…。」 「黙ってろ!!」 注意を促したあと、彼は男の腕を見る。 そこには何かの跡が多くあった。 「コイツ・・。やっぱり・・・!」 「『麻薬中毒者』だったようだな。」 バンダナの男が立ち上がる。 「クソッ!こんな傷をおわせるまで暴れやがって・・・!」 「あんた大丈夫か?その傷どうやらだいぶ切ったようだが・・・。」 「へっ!これくれーの傷ほっときゃあなおるっつーの!」 そう言って男がポケットからハンカチを出して口を拭く。 「よおアンタ、助かったぜ。巻き込んで悪かったな。 見ず知らずのアンタを巻き込んでしまって、マジ悪かったぜ。」 男が傷を抑えながら言う。 「…何者だ?」 「…何者ってオレに聞いたのかい?」 ブチャラティがバンダナの男を見る。 「いや、オレはただの観光客にすぎねーよぉ~~~? だから巻き込まれて迷惑してんだ・・・。」 「ほう、ただの観光客か。ならなんでおまえの汗は『ウソ』だといってるんだ?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・。 「…もしかしてバレていたりするのかな?」 「完璧に『平民』になりすましたつもりだったようだが、不自然さが拭いきれてないぞ? …どこから来た貴族だ?」 バンダナの男が「まいった」といわんばかりの顔をして立ち上がる。 「ハハ、見破られていたか。『平民』で間違いなさそうだけどただものじゃあないねキミ。」 「きゅい?」 男がバンダナをはずす。 その下から出てきたのは短く切った金髪と、傷だらけながらもどこか高貴な風格をかもしだしている 青年の顔だった。 ブチャラティ、きゅいきゅい 貴族の青年と出会う。 ルイズ キュルケとタバサの戦闘に巻き込まれる? ギーシュ、マリコルヌ、ホル・ホース 逃げるんだよォーーーーーーー!!! To Be Continued =>
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お邪魔キャラ二匹に耐えてまで待ちに待ったコルベール先生は期待した朗報なんて欠片も持ってこなくて、それどころか負のゾーンを飛び越えるレベルの素晴らしい凶報としか言いようがなくてハゲ死ね。 「それってどういうことですか!」 「いや、申し訳ないとは思うんだが」 「だから申し訳ないとかそういうことじゃなくて!」 「もちろん別の機会は用意させてもらうよ。明日の午後、使い魔召喚の儀式を再び執り行う」 あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば。 うぐがぎごがげどうしようどうしようどうしようどうしよう。何よこれ。どういうことよ。 「は、は、は、犯人は誰なんですか。人生に関わることです。いたずらじゃすみません。げ、厳罰を求め求め求めます!」 「もちろん、見つけ次第適切な処置をするとも」 「見つけ次第って、見つかってないんですか」 「まともに魔法を使ってのことではないらしいんだ。なにやら特殊なアイテムを使ったようでね。まるで魔力が感知できない。調べてはいるんだが」 先生は深くため息をついた。ため息つきたいのはわたしの方だよ。 「せめて目星くらいはついてないんですか。犯人の目星」 「いや……皆目見当もつかない」 嘘だ。目の奥に逡巡があった。わたしは見逃さなかった。コルベール先生には心当たりがある。そしてわたしにも心当たりが一人いる……。 「とりあえず今日は養生しなさい。明日の儀式に差し障りが無いようにね」 先生はありがたくも優しいお言葉をかけてくださったが、それが何の役に立つ? 今わたしがすべきことは何? のんびりと明日が来るのを待つこと? 明日に向けてサモン・サーヴァントの予習をすること? キュルケその他の自慢話を聞いてモチベーションを高めること? 違う違う違う! 否、断じて否である! ぐつぐつと煮えたぎるマイハートを慰撫するためにはおっぱいじゃないやええとなんだっけそうだ復讐あるのみ! くっだらないうんこ悪戯でわたしを傷つけ、ヴァリエールの名誉に泥をかけた阿呆野郎に然るべき報いを与えてやるのだウワハハハハ! ……あ、もちろん法の許す範囲で。いやあ、問題起こして目ェつけられたくないしぃ。えへへ。 そして夕食後。食堂にまで使い魔連れてきてる調子こきはいないだろうと思っていたけどマリコルヌ。あんたそんなちっぽけな蛙を自慢したいの。ああやだやだ両生類とかあっちいけ。 コホン。マリコルヌはどうでもいい。わたしは貴族、ルイズ・フランソワなんたら。 貴族の中の貴族であるわたしは自己を律する術を熟知している。 落ち着いて食事をとり、栄養を補給し、メイドに笑みをくれる余裕さえある状態で……怒りを開放する。 ノックノック。 「誰ですか」 お、部屋にいたか。しめしめ。 「ミスタ・グラモン。話したいことがあるんだけど今お暇?」 扉を開けた先には怯えなり嘲りなり諦念なり侘心なりを予想していたけれど、 「そうですかルイズさん。それはよかったです。私もあなたに話すべきことがあるのです」 この男にはそれらの感情なんて存在する様子もなく、というかそれ以外も存在するようには見えず阿呆。 ふん、すました顔してられるのも今のうちだけだからね。 あんたの悪戯がバレればこの学院から追い出されることは目に見えてるし、あたしの一存次第では国法に裁かれることだってあるんだから。 せいぜい言い訳だけでも聞いてあげようじゃないの。その後で散々こきつかってやる。 ギットギトに汚れた下着でも洗わせられれば己の犯した罪を悔いるでしょうよ。くふふふ。 「コルベール先生から聞いたんだけど」 さりげなく部屋の中を見回してみる。金属製の飾りがたくさん、壁には大きな怪物の絵。なんだか子供っぽい。 ベッドの上には星型模様が散りばめられた毛布、机の上には異世界物の冒険小説。こりゃ本当に子供だわ。 「わたしの召喚は失敗していたらしいの」 許可なくベッドの上に腰掛けた。さっきの復讐の意味を込めていたけど通じちゃいないだろうねこの阿呆。 「サモン・サーヴァントが失敗するのにタイミングを合わせて、煙が舞い上がる中に眼鏡を出してくれた悪戯者がいるんですって。そもそもあの眼鏡はわたしが召喚したわけじゃなかった……分かる?」 「ええ」 「その人は何のためにそんな悪戯をしたんでしょうね。わたしを貶めるためだったのかしら」 「いいえ違いますよルイズさん。私はあなたのためを思ってやったのです」 あはははははははははははははははははははははははははははははスピード解決! 犯人はこの中にいる! いい度胸だ。いい度胸だよこの野郎。 「それは自白と受け取ってもいいのよね?」 「ルイズさん、二十日鼠の背中をなぜてみますか? なぜるととても喜ぶんです」 「ごまかさないでッ!」 拳を叩きつける場所を探したけど見当たらない。ベッドの上じゃ迫力でないしね。仕方なく自分の膝を打っあいたたたた……。 「あ、あ、あなたね、いったい何のつもりで……」 「よくぞ聞いてくれました。私にはそうするべき理由があったのです」 キーシュは相変わらずのおすましフェイスで、心なしか笑みさえ浮かんでいるみたいだ。 わたしの怒りはこれっぽっちも伝わっていない。あの鼻ピアス、引きちぎってやろうか。 「……ふう。とりあえず聞くだけ聞いておいてあげる。理由って何?」 「まずはここから話しましょうか。実は私、異世界からやってきたのです」
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(何だ、この状況は?) 本塔の壁に背中を預けたヴァニラは呆れたように目の前の光景を眺めている 真剣な面持ちのルイズとキュルケが杖を構え、屋上には水色の頭髪を持つ眼鏡の少女 、タバサというらしい――がその使い魔の竜に跨っているのが見える そして屋上から吊り下げられたロープには 「おーい、下ろしやがれ娘ッ子!」 デルフリンガーがぶら下がっていた 亜空の使い魔――デルフの受難・フォーエバー 場面を数分前にバイツァーダストッ! 街から帰ったヴァニラがルイズの部屋でデルフに尋問もとい質問をしているとキュル ケが小さな少女を伴い部屋に飛び込んできた 「ハーイ、ダーリン!プレゼントよ」 そういって罵声を並び立てるルイズを無視して差し出したのはルイズの買えなかった シュペー卿とやらの剣、話によると二人が店から出た後で入れ違いに買っていったらしい (ストーカーというやつか?) 当然ルイズは烈火の如く怒りキュルケはそれに飄々と返す、ついでにキュルケについてきた少女はヴァニラが踏みつけているデルフをじっと眺めている (何だ、この状況は?) 数分後軽いデジャヴを感じるであろう状況に平和的な質問を諦め事の成り行きを見守る ヴァニラが考えるのを止めかけたところでどうやら御互い決闘してどちらの剣を使ってもらうか決めるということで落ち着いたようだ 「それでなんでオレが吊られてるんだよォ!?」 「決闘、危険」 竜に跨ったタバサがぽつりとデルフの疑問に答えるが当然ながら納得できないらしくまだ喚き散らす しかし無常にも二人の準備は整ったらしくキュルケがタバサへ合図を送る 「いいわねヴァリエール、魔法であの剣を落とした方が勝ち。ハンデとして先行は譲ってあげるわ」 「ふ、ふん!後で後悔させてやるんだから・・・」 精一杯の虚勢を張るルイズを尻目にキュルケの合図を受けたタバサはデルフを思いっきり揺らす 「ゆーらーすーなーッ!吐く!絶対吐く!」 哀れ左右に振り子運動を始めたデルフが盛大に抗議するが誰も取り合わない そもそも剣が何を吐くというのだろう、錆? 「煩いわね、集中できないから黙りなさいッ!」 そういうとルイズはゆっくりと杖を掲げ振り子運動を続けるデルフへと狙いを定める 色んな意味でルイズの魔法に生死がかかっているデルフはごくりと息を飲み柄にも無く神に祈りを捧げる その神の御名はイタリア語で御衣には所々ハートマークがあしらってあるのだがあまり関係ない 「・・・・ファイアーボール!」 「ひッ!?」 裂帛の気合と共にルイズが叫び、放たれた魔法、もちろんファイアーボールではなく失敗魔法――はデルフの脇を掠め本塔の壁にぶち当たると爆発を起こし、塔の壁面に亀裂が走った 「てめ娘ッ子!オレを殺す気か!?」 爆風で勢いを増して揺れるデルフが抗議するが誰も聞いちゃいない 「あらヴァリエール、ロープじゃなくて壁を壊してどうする気?どうせならあのオンボロに当てて壊しちゃえばよかったのに」 悔しそうに拳を握り、自分を睨むルイズを一頻りからかうとキュルケは狩人の如くデルフを吊るしたロープを見据える 「見てなさいヴァリエール」 ロープはルイズの挑戦した時より激しく揺れていたがキュルケはゆっくりと狙いを定めると余裕の表情で短いルーンを唱え、手馴れた仕草で杖を突き出す 「ファイアーボール!」 杖の先から出たメロンほどの大きさの火球は狙いを違わずロープを焼き切り、当然ながらデルフは自由落下を満喫する羽目となる 「ちょっと待てーーーー!この高さは無理無理無理無理無理無理ィッ!!」 ラッシュの速さ比べでもするような奇声を上げて落ちるデルフを地面スレスレでヴァニラが受け止める 「た、助かったぜ相棒・・・・」 「誰が相棒だ、話を聞く前に壊れられても困る」 「それでも許す、相棒だからな」 微妙に噛み合っていない遣り取りをする一人と一本だが 「ねぇダーリン、私が買ったんだからそのオンボロは捨ててこっちを使って頂戴な」 しなをつくったキュルケがヴァニラの手からデルフを奪うとがっくりと膝をつき、項垂れているルイズの方へと放り投げてしまった 「ちょ、ちょっとキュルケ!危ないじゃないの!?」 目の前にザックリと突き刺さったデルフに思わず小用を滲ませそうになったルイズはキュルケに詰め寄る。と、不意に月が翳る 「へ?」 「な!?」 「ふぇ?」 キュルケ、ヴァニラ、ルイズの順番に上を見上げると、そこには30メイル程の巨大なゴーレムが聳え立ち、その拳を振り上げていた To Be Continued...
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「頼みがあるの・・・・あのね・・・・判っちゃってると思うけど」 「『使い魔』」 「そう。」 もう私が声をかけた時点で推して計れるほど、『ルイズの使い魔行方不明事件』は広まってるって訳。 ああ、頼んでて恥ずかしくなってくる・・・・ 自分でも探した。先生方にも探していただいた。それでも見つからないから、もうこれしかないの。 そう、だから『人海戦術』。 知り合いだろうがそうでなかろうが、片っ端から協力を頼んで(例外はある) 極端に言えば、大人数で『全ての部屋を同時に探す』・・・・これなら見つからないはずは無い。 まあ実際には、『見かけたら教えてね』程度のことなんだけど。 「力になれる?」 「十分、十分過ぎるわタバサ。ありがとう!」 「いい。友達の、友達。」 「・・・・っき、キュルケは友達じゃないわッ!」 ななな何を言い出すやら!確かにね、今は一人でも多くの協力者が欲しいけど・・・・でも! キュルケになんか絶対に頼まない!マリコルヌやギーシュに頼んでも、キュルケにだけは! 「頼むべき」 「い、嫌よ。何てバカにされるかわかったもんじゃないもの。」 「口だけ。協力する」 「タバサは絶対にキュルケを買いかぶり過ぎ・・・・ごめん。友達に、そんな事言うものじゃないわよね」 タバサは何も言わない。 ああ、唯でさえ恥ずかしいお願いしてるのに。私ったらこれ以上、自分を貶めるの?私って奴は何処までバカなのよ! 沈みこんだ気分が更に沈んだところで、タバサの手がとんと肩に置かれる。 「大丈夫。見つかる、きっと。」 ・・・・慰められた。せめてしゃきっとするの!頑張るのよルイズ、メイジなんだから。 『鏡から出ない』と決めてから更に十数時間。日はとっぷりと暮れ、食堂からぞろぞろと出てきたガキどもはとっくにベッドの中で丸くなっている。 そしてオレは、早くも根負けしそうだった。 畜生・・・・腹が減ったし、喉も渇いた!さっきはハッキリと『耐えられない事じゃない!』と思ったのに! 『空腹』と『命の危険』じゃあ重みが違う。生きるのに必要な食事を、『生きる事』と比べるのは馬鹿らしいじゃないか。 しかし、甘かったッ。空腹と渇きでさっぱり眠れないし、気のせいか体温まで下がってきた。(飢えはまだしも、渇きはヤバいんだ。) 生きる為の『三大欲求』の二つが完璧にまいっている。あれ?三つか?女の子は好きだが、今はそんな場合じゃないもんな。 こ・・・・これは。死ぬんじゃないか?オレは。『ルイズに見つからなくても』・・・・鏡の中で『あの女』に怯えてブルブル震えながら、餓死するッ! それだけは嫌だ、嫌だ惨め過ぎるだろおおおォォォォォ!そんな事は!許されない『暗殺者として』ェッ! しっかりしろ、しっかりするんだイルーゾォ。そうだぜ、お前は暗殺者なんだ。 最良と自負するスタンド『マン・イン・ザ・ミラー』を持って、何故こんなにもブルってる?おかしいだろう。 『殺されるくらいなら、殺っちまえ』・・・・これが暗殺者ってもんだろう!違うか?!『そういう風に考えるべき』じゃないのかッ!! 二度と忘れるな!『マン・イン・ザ・ミラー』は最良のスタンドッ!このイルーゾォが決断すれば、『マン・イン・ザ・ミラー』はそれに応える! オレが失敗する事があろうとも、『マン・イン・ザ・ミラー』は失敗しない。だから、オレの気の持ちようなんだ! 怯えるは、止めだッ!オレは逃げる。オレは隠れる。だがオレは怯えはしない! 虎視眈々と『勝利』を狙う、そのために潜むのだ・・・・『マン・イン・ザ・ミラー』はそういうスタンドなのだッ! 実際にはそう『決断』したのはもう一時間も前のことで、今のオレはルイズの部屋のベッドの上(ホームポジションだ)でへばっている。 一時間前、空きっ腹抱えて何をしたかって言うと、こうだ。 まず普通なら「なんだよ、覚悟したんならルイズを鏡の中に引き込めよ、さっさと殺れよ」って思うかも知れないが、オレは違う。 これは言わばマン・イン・ザ・ミラーの能力の『癖』の部分で、今まで相手をビビらせられるって事にしか考えが行かなかったが マン・イン・ザ・ミラーで相手を引き込む時、『相手には鏡の中のオレが見える』んだ。 (ただ外を覗くだけなら安全なんだけどな。何故かは判らない・・・・引き込む瞬間、相手とオレは何かを共有するのかもしれない) ルイズのスタンドは、オレを見るだけで『爆発』させる可能性がある。 「あっ!イルーゾォだ。手間取らせやがって、死ねッ!」・・・・そしてドカン。オレの姿が見えたなら、オレはもうお終いだ! オレはこれが凄ェこわ・・・・・・・・・・凄く警戒している。『ああ、やっぱり爆発した』じゃ遅いんだ。 だからルイズを引き込むなら『寝込み』だ。卑怯とかそんな事は言ってられないんだ。命のやり取りだからな! そう思ってルイズの部屋でベッドが動くのを待って――――ルイズが帰ってこない――――ちょっと考えれば判る事だった。アイツ、オレを探してるんだから。 気を取り直して。 今回ばかりは持久戦はマズいから、オレは方針を変える。相手が目を瞑らないなら、『完全な死角からの攻撃』を。 そのためには、まず一つの鏡は、『覗く』ためだけに使う。そしてルイズが完全にそっぽを向いた時、『もう一つの鏡で、引き込み』そして! 「はっ!ルイズめ。手間取らせやがって、死ねッ!」・・・・スタンドと引き離しちまえばただのメスガキ、負ける気はしない! で、繰り返すが『マン・イン・ザ・ミラー』には鏡が必需品だ・・・・調達しないと・・・・ だが安易にその辺のを割っちまうのは良くない。ルイズがオレを探している以上、音を立てるわけには行かないんだ。 だから『手鏡を探す』ッ! オレの性格上、気分が落ち込んでる時は嫌な事にばっかり気がつく。 まず行動を起こしてはじめに、ルイズの部屋でオレのナイフを見つけた。(何で無いんだろうと思ってたんだ!いつの間に奪われた?)いつも使ってた奴だ。 幸運にも箪笥の隣の鏡に映る位置だったんですぐさま許可する。・・・・が、此処でまず一つ嫌な事だ。 『一緒に持っていた』筈の鏡がねえ・・・・どう言うことだ?普通に考えて、ナイフより鏡を隠す理由が見つからない。 そうだ。オレのスタンドが『鏡に関連する能力』だって気づかれたんだ!オレは洗面所で『消えた』し、鏡鏡って喋っちまっていた。 (まさかイルーゾォは、ルイズが魔法の練習に使って消し飛ばしたとは思わない。 「『万が一』失敗した時に、無くなっても困らないものを使おう。無くなっても私は困らない、って物を――――」) もう一つの『頭の痛くなる事』は、せっかく『覚悟』で剣のように硬く鋭くなっていたオレの気持ちを、どっかのウイルスよろしくグズグズにしてくれた。 『この学校、手鏡なんてもんは存在しないんじゃないのか?』――――こうだ。 探して探して見つからないから泣き言を言ってるんじゃあないぜ。理由がある。 オレは何度目か適当なガキの部屋に入り(『マン・イン・ザ・ミラー』、ドアを開けてくれ・・・・ありがとう、頼りにしてるぜ。)手鏡を探し、 そいつが偶然にも外へ出て行った折、水だけでも飲もうと洗面台の鏡を潜った。 だが、さあ喉を潤そうって時にそのガキは返ってきやがった。(早すぎるだろ)どうにか鉢合わせはしない、入り口でまごまごやっていやがる―――― 「貴族様、寝巻きのボタンを掛け違えてございます。」 「あれっ?本当?」 「只今直して差し上げますから――――はい――――それではおやすみなさいませ。」 おい、ありえるか?『貴族様』だ。こんな会話って、マジに存在したのか? そういえばルイズがそんな事を言ってた気がする。オレは全然取り合わなかったが・・・・だってありえないだろ・・・・? それでだ。 『この学校、手鏡なんてもんは存在しないんじゃないか?』 手鏡ってのは普通身だしなみのチェックに使うものだ。(オレはこの認識がだいぶ甘くなっているが) それが旧時代の遺産のメイドだの貴族だのだと話は全然別で、 身だしなみのチェックってのはメイドがやって、自分じゃあやらない。自分を見る必要がなければ、手鏡は要らない・・・・ も、勿論ゼロって訳じゃないだろう。『手鏡』って概念が無いわけじゃない(はずだ)から、ある事にはあるかも知れない。 でも、『いらない物』を持つ奴は少ないぞ。ぐっと減る・・・・見つけられるか?そいつを直ぐに。この空きっ腹で。 (出ちゃおう、かな・・・・) (ルイズは部屋に帰ってない・・・・鉢合わせなければ、大丈夫かもな?) (いや、こういう諦めの上での行動は『よくない』ぞイルーゾォ。) (でも、何か食わなけりゃ死んじまうよ) (直ぐには死なねえさ。大丈夫。三日は持つ) (我慢しろよオレ。我慢しろよイルーゾォ。お前は暗殺者だぜ?) (水分もったいないから泣くなよ。) (暗殺者だろ・・・・しゃきっとしろよ!頑張るんだイルーゾォ、暗殺者なんだから・・・・・・) (暗殺者なんだから、闇にまぎれて足音を立てずに歩くくらい。出来るよな!) オレは外へ出た。 こんなに外の世界に希望を持つのは初めてだ!大丈夫、気配を殺す。ちょっとやそっとじゃ見つからない。 さし当たって何か食い物。食い物。食い物。そんで鏡・・・・・・ 「きゃあっ!」 気配を殺していたがゆえに、ぼーっと歩いていたオレに思いっきり女がぶつかった。・・・・オレって奴は何処までバカなんだ!
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所変わってこちらはルイズの部屋。 貴族相手の『女神の杵』亭でも、上等な部類に入る部屋(最上級の部屋は何故か先約を取られていた)を取ったワルドは、 テーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つあるグラスにそれぞれ注いだ。 「君も一杯やるといい」 テーブルについたルイズは、差し出されたグラスをチラリと見たが、片手でそれを押しやった。 ワルドはすこぶる寂しそうな顔をして、グラスを飲み干した。 「使い魔君のグラスは取るのに、僕のグラスは受け取ってもらえないんだね」 「やめてよ、子供みたいなこと……。 私は貴方のことを信頼しているわ。それで十分じゃないの?」 「まさか……十分とは言えないよ」 ワルドはルイズの小さな顎をくいと持ち上げた。 視線が絡まる。 「君を振り向かせてみせる。そう約束したじゃないか」 ワルドの瞳を真っ向から見返し、ルイズは静かにワルドから離れた。 「私は、大事な話があるっていうからここにいるのだけれど……?」 あくまでつれない態度を崩さないルイズのセリフに、ワルドは途端に真面目な顔つきになり、ルイズから数歩離れた。 「君の使い魔……彼はただものじゃあない。僕には分かる」 またDIOの話かと、ルイズは思った。 この頃は、どいつもこいつも口を開けばDIOの事ばかり話しているように思え、ルイズは複雑だった。 実際にはそんなに会話には上ってはいないのだが、朝のモンモランシーの様子が強烈な印象となって脳裏に焼き付けられていたせいもあり、ルイズは過敏になっていた。 それを表に出すのは……貴族らしくないことは重々承知してはいたが。 「そんなこと、嫌ってほど分かってるわ。 アイツ人間じゃないもの」 ついつい返答がぶっきらぼうなものになってしまわずにはいられなかった。 内心後悔しているルイズに、ワルドは首を横に振って見せた。 「違う、そういう意味じゃない。彼の左手に刻まれているルーンだ。 まだよく見ていないから断言は出来ないが……あれはひょっとすると、『ガンダールヴ』のルーンかもしれないんだ」 「ガン…ダールヴ……?」 「そう、『ガンダールヴ』。 かつて始祖ブリミルが使役したと伝えられる使い魔さ」 突然の話に、ルイズは間の抜けた返事をすることしかできなかった。 しかし、呆気にとられたルイズとは対照的に、ワルドは何故か興奮した様子で語る。 そんなワルドの瞳は、鋭いナイフにも似た危険な光を放っていた。 「使い魔は主人と似た性質を持った者が現れる、というのが通説だ。 ……もし彼がそうだとしたら、君はそれだけの力を秘めたメイジということになるんだ」 真面目な顔をして伝説の話をするワルドに、ルイズは段々ついていけなくなった。 ブリミルが使役したとワルドは言うが、例え事実であっても、それは六千年も前の話なのだ。 遡ること六十世紀である。 そんなものが現代に甦りましたと言われてすぐに信じ込むほど、ルイズは信心深くはなかった。 あるいはガリアの神官だったら、泣いて喜ぶくらいのことはしたかもしれなかったが。 「眉唾物ね。 はいそうですかと鵜呑みにできない話なのは、あなたもわかってると思うけど」 「僕は至って真面目だ。以前王立図書館の文献で見たんだ。 」 間断無く断言してきたワルドに、ルイズは言葉に窮する形となった。 気圧された、と言ってもよいだろう。 それくらい、今のワルドは野心に満ちた目をしていた。 「昔の君も、どこか他のメイジ達とは違う空気を纏っていたが、今の君はそれ以上だ。 底知れないオーラが放たれ始めている……。凄まじい力の迸りだ」 「僕とて並みのメイジではない。だからそれがわかる」 興奮を隠しもせずにまくし立てワルドは再びルイズに迫った。 「た、確かにあいつが凄いのは認めるわ。 でも、それはただ単にあいつが凄いのであって、あいつが『ガンダールヴ』だから、ってわけじゃあないんじゃないの?」 焦ったルイズは、方々に視線を彷徨わせながら、その場しのぎをすることしか出来なかった。 だが、そのルイズの言葉に、ワルドは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。 「そうかい? なら、僕はそれを確かめたい。この目でね」 ―――――――――――― 翌日、まだ日がようやく登ったばかりという時に、ワルドは一人廊下を歩いていた。 何事かを秘めたその瞳は深く鋭い色を放ち、道を行く足取りは、目的地に近づいてゆくにつれ重くなっていくばかりだった。 しかし、彼は彼の望むものを手に入れるためにも、その足を止めるわけにはいかなかった。 やがて、一つの部屋の前でワルドは歩を止めた。 それは、『女神の杵』亭で最も上等な部屋であり、昨晩ワルドが借りようとしたが、既に先約を取られていた部屋であった。 その部屋に泊まっている人物の名前をロビーで聞いたとき、ワルドは我が耳を疑うと同時に、やり場のない怒りを感じたものだった。 しかし、幸いにもその怒りが、部屋の中から放たれてくる異様な空気に耐える力をワルドに与えていた。 ワルドは決心するように深呼吸をすると、扉をノックした。 幾ばくかの沈黙の後、やけにゆっくりと扉が開かれ、いつものメイド服に身を包んだ少女が姿を現した。 その少女の姿を見るや、ワルドは心持ち体を仰け反らせてしまう。 昨晩、顔色一つ変えずに盗賊を何人も惨殺した人物……シエスタに、ワルドは苦手意識を感じていたのだ。 「どのようなご用件でしょうか、ミスタ・ワルド」 まさかこんな朝早くからメイドが出てくるとは露とも思っておらず、出鼻を挫かれた形となったワルドだったが、すぐに気持ちを立て直すと、率直に用件を伝えることにした。 「あぁ、朝早くからすまないとは思うが、君の主人に会わせてはもらえないか? まだお休みであるというなら、時間を改めてからまた来るが……」 貴族と平民という関係であるにも関わらず変に下手な口調なのは、自分に自信を持っている証拠か、それとも苦手意識の表れか。 いずれにせよ、貴族特有の傲慢な態度を出さなかったことが功を湊したのか、案外すんなりと取り次いでもらえることが出来た。 入室を許可され、シエスタに続いて部屋に入ったワルドだったが、一歩部屋に足を踏み入れた途端、彼は自分の背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じて硬直した。 部屋に入る前から、その異様な雰囲気に鳥肌を立てていたが、扉の中と外ではその雰囲気の濃さは段違いだった。 重苦しく、絶望的で、息が詰まりそうな圧迫感が全身を包んだ。 思わずそのまま回れ右をして立ち去りたい衝動に駆られるが、雀の涙ほどのプライドで何とか持ちこたえる。 改めて一歩一歩ゆっくりと奥へと進むその足取りは、断頭台への階段を上る囚人のように沈痛だった。 やがて部屋の最奥に至ったワルドを、部屋の主であるDIOが薄い微笑みを顔に浮かべて迎えた。 「これはこれは、子爵。小鳥も目覚めぬ早朝に、一体何のようかな?」 急な訪問に対して、嫌な顔をするどころか、まるで待ちかねていたような口振りである。 「いや、こんな朝でしか話せないこともあるのだよ、使い魔君」 敢えてDIOを単なる使い魔としか認識していない振りをするワルド。 ワルドよりも頭一・五個分は背の高いDIOの視線が、自然と見下ろしたような形であり、 それが段々ワルドの自尊心を刺激し始めたからだった。 再びこの息の詰まるような部屋の空気に飲まれてしまう前に、ワルドは勢いに乗せて話を進めることにした。 「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのだろう?」 「…………?」 単純明快なワルドの問いかけだったが、しかし、DIOは心当たりがないと言わんばかりに眉をひそめただけである。 それらしい反応を返してこないことに、ワルドは焦ったような素振りを見せた。 「『ガンダールヴ』! 君の左手に刻まれているルーンのことだ! 学院長のオスマン氏などから聞かされていないのか?」 あのオスマンなら十分ありうるという事実に、ワルドは言い切ってから気がついた。 本当に知らないのかもしれないと、不安になったワルドだったが、 オスマンの名前を聞いて、DIOはようやく何かを思い出したような顔をした。 「あぁ、『ガンダールヴ』か。 確かにオスマンとやらがそんな単語を口走っていたな。忘れていたよ」 ホッとするとともに、ワルドは少し落胆した。 ルイズも、この使い魔も、伝説の『ガンダールヴ』に対して全く興味を示していないからだった。 自分一人だけが舞い上がっているような錯覚に陥り、非常に気まずい。 「う、うむ。思い出してくれて何よりだ。 ……とにかく君はその腕前を以て、あの『土くれ』のフーケを撃退した。 これは事実だ」 「撃退ときたか、フフフフフ………いや失礼、ハハハ……」 『撃退』という部分を聞いた途端、DIOは何とも面白そうに笑い出した。 その理由が分からないワルドは、おかしそうに笑うDIOに首をかしげるだけだった。 DIOのひとしきりの笑いに区切りを見た後、ワルドは咳払いをした。 「……ゴホンッ。 そこでだ。あの『土くれ』を追い払ったほどの君の腕前に興味が出てね。 実力を知りたいのだ。手合わせ願いたい」 その一言で、笑みを浮かべていたDIOの顔が、見る見るうちに冷たくなっていった。 同時に、ともすればこの場で即座に襲いかかってきそうなほどの敵意が、背後からワルドに突き刺さった。 確認するまでもない、シエスタだろう。 反射で背後を向いてしまわぬように、ワルドは全力を傾けた。 前門のDIO、後門のシエスタである。逃げ場など無い。 「何かと思えば決闘の真似事か……このDIOに対して」 「……その、通り」 血のように赤く、液体窒素のように冷たい瞳がワルドを射抜く。 いつのまにか固く握りしめていた拳が、汗でじっとりと濡れていくのを感じつつ、ワルドはDIOを見返した。 DIOは暫くワルドを睨んでいたが、ふと何かを思いついたような顔をして考え込み始めた。 ワルドにとっては胃に悪い沈黙が続いたが、やがてDIOは顔を上げ、了承の意をワルドに示したのだった。 「うむ、いいだろう。 この決闘は、お互いを深く知る良い機会になるだろうからな」 その時のDIOは、先程の渋い顔とは打って変わった、清々しいものであり、かえって不気味ですらあった。 しかし、何か嫌な予感を感じても、これは自分が選んだ事である。 そうそう容易く裏をかかれるような事態には陥らないだろうと踏んでいた。 DIOの了承を受けて、ワルドは決闘の段取りを伝えた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦でもあったんだ。 中庭に練兵場がある。私はそこで待っているから、準備が整い次第、いつでも来たまえ」 そう言い残して、ワルドはDIOの部屋を後にした。 シエスタの刺すような視線のせいで、部屋を出るまでのわずかな距離がやけに長く感じられた。 やっとの思いで部屋を出て扉を閉めた後、ワルドは知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。 DIOの部屋の中での圧迫感のせいで締め出されていた酸素を、 必死で取り戻すかのようでもあった。 ワルドは呼吸を落ち着かせた後、ひとまずは自分の思い通りに事が運んだことを喜んだ。 DIOと立ち合い、『ガンダールヴ』の力を引き出し、その上でDIOの力の限界をルイズに見せつけるという筋書きである。 だが、彼の画策した決闘劇が、思いも寄らぬ方向へ逸れていくことになるとは、思いも寄らなかった。 二十分後、約束の場所である『女神の杵』亭中庭の練兵場。 そこでワルドの前に立ち塞がることになったのは、メイド服に身を包み、無表情ながらも焦げ付くような闘志を身に纏う、シエスタという少女であった。 「これは……一体どういうつもりだ?」 to be continued……
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わたしが医務室に着くと、既にモンモランシーが治癒を受け終わり、 ベッドで静かに寝息を立てていた。 わたしも続けて治癒を受け終わり、わたしとギーシュとモンモランシーの三人 だけとなった。 なんと声を掛ければいいのか考えてるとギーシュから声を掛けてきた。 「すまなかったねルイズ、彼女は君がチヤホヤされる事に嫉妬してたんだよ。 彼女には僕が良く言い聞かせておくよ」 てっきり、わたしを責めるかと思ってたのに。 「ギーシュ・・・どういう風の吹き回しよ?」 ギーシュはファサと髪をかきあげた。 「なに、兄貴に君の事を頼まれたからね」 ・・・・・・? 「ちょっと待って、頼んだのは連れて帰る事で、ずっと面倒を看ることじゃ無かっ たと思うんだけど?」 「いいじゃないか、そんな細かい事は」 あっはっは、と高笑いをあげた。 「細かくないわよ、あんた一生わたしの面倒を看るつもり?」 「一生じゃないさ、君が一人前のメイジになるまでは見守るつもりさ」 「あんた、わたしが『ゼロ』だということを忘れたの?」 「その事について僕は大して心配なんかしてないさ。君は兄貴を召喚したんだ 近い内にきっと僕など足元にも及ばないメイジになるさ」 ギーシュがわたしをプロシュートを通じて認めてくれている。 「ほ、褒めたって何も出ないんだからね」 「別に見返りが欲しくてやっている訳じゃないさ」 コンコン。開けた扉からキュルケがノックをしていた、タバサも一緒だ。 「お邪魔だったかしら?」 「ちょ、キュルケ!そんなんじゃないんだから」 「よしてくれたまえキュルケ。僕には心に決めた人がいるのだから」 わたしは不快を隠さずキュルケに問う。 「で、何しに来たの?」 「何しに来たのとは、ごあいさつね。お見舞いに来たんじゃないのよ。後、報告」 「報告?」 「さっきの騒ぎ、授業に来たコルベール先生の耳に入ってね、珍しく恐い顔を してたわよ。後でここにも来るんじゃないかしら」 バタバタと廊下から足音が聞こえてきた。 「早いわね、もう来たわ」 キュルケが廊下を見ながら呟いた。 「コルベール先生・・・」 先生が息を切らせながら部屋に入ってきた。 「よかった、無事だったのですね」 先生は静かに眠っているモンモランシーの顔を確かめ息を整えてから、 こちらを向いた。 「ミス・ヴァリエール、事情は聞きました。 きみは自分の魔法をミス・モンモランシーに打ちましたね」 確かに、今のコルベール先生は恐い顔をしていた。 何人も人を殺しているような・・・プロシュートと少し雰囲気が似てる・・・ ・・・まさかね・・・。 「はい、その通りですミスタ・コルベール」 後悔はしていない。わたしはモンモランシーが許せなかった・・・ 「この貴族の学び舎で『規則』を破り魔法を打ち合うなどと、とても許せる 行為ではありません。この事は実家に連絡させていただきますので そのつもりでいるように。」 今、何て言いました? 「ごめんギーシュ、もう一回先生を呼んできてもらえる?まだ耳の調子が 良くないみたい・・・実家に連絡するって聞こえたわ」 「聞き間違いではありませんよ、ミス・ヴァリエール」 きっぱりとコルベール先生は言った。 「ちょっ!ちょっと待ってくださいよッ!」 「う、嘘ですよね。ちょっとおどかして気合を入れてから あとで本当は許してくれるんですよね、罰当番とかで」 コ・・・コルベール先生の目・・・ いつもの暖炉の火のような暖かい眼差しなんかじゃなく トライアングルスペルの炎の如く全てを焼き尽くさんと燃えている・・・ わたしの取るべき行動は・・・ わたしは部屋の窓を開け、窓枠に両手をかけ足を乗せ、そして・・・ 「ちょっとルイズ、ここ三階よ!」 キュルケに後ろから羽交い絞めにされた。 「放して、放してよキュルケ」 死に物狂いでもがくが体格の差で、わたしは部屋の中央に戻された。 「もうダメよ・・・おしまい・・・コルベール先生に連絡されたら・・・ あたしもう・・・生きてられない・・・もう死にたいわッ!!クソッ!!クソッ!! 飛び降りたいよ~、窓から飛び降りたいよ~」 嘆くわたしをキュルケが冷たく見下ろしている。 「・・・さっき、あなたの目の中にダイヤモンドのように固い決意をもつ『気高さ』を みたわ・・・だが・・・堕ちたわね・・・ゼロのルイズに・・・!!」 「ンなこたあ、どーでもいいのよッ!」 キュルケの侮辱も今はどーでもいい・・・ 「お・・・おわりよ・・・わたしはもう・・・おわったのよ・・・」 「ちょっとルイズ、一体何なのよ」 わたしの只事じゃない様子にキュルケが心配そうに声を掛けてくる。 「親がそんなに恐いの?」 親という単語が出ただけで震えが止まらない。 「な、なんて言ったら理解してもらえるのかしら・・・ そうね、プロシュートが『二人』説教しに来ると想像してみて」 嫌な沈黙が場を支配する。 「ご、ごめんルイズ。あたし用事を思い出したわ」 キュルケが慌てて部屋を出て行こうとする。 「用事って、どこに行くのよ?」 「ちょっとスティクスに会いに・・・」 「別れたんじゃなかったの?」 「・・・じゃあ、ペリッソン」 「じゃあって何!」 わたしとキュルケが言い合いをしている脇をそっとタバサが抜けようとしていた。 「ちょっとタバサ、どこに行くのよ?」 「・・・シルフィードにエサあげなきゃ」 「あんた、いつも放ったらかしでしょうが!」 視界の隅にギーシュが映る。モンモランシーをやさしく起しているところだった。 「さあ。ここは騒がしいので自室でゆっくりと休もうじゃないか」 「ギーシュあんたは見捨てないわよね、わたしを見守ってくれるのよね」 蜘蛛の糸に縋る思いでギーシュを見つめた。 人目があっても『あの方』の罰が緩くなるとは思えないが、もしかしたら九死に 一生を得るかもしれない。 「うむ、確かに言った!」 ギーシュは力強く頷いた。 「だが、それはそれ、これはこれだ!!」 「うらぎりものおおおおおおぉぉ!!」
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5 光る石、飛ぶ石 朝食を上機嫌で済ませた男を不振の横目で見やりつつ、ルイズは午前の授業に向かう。 隣を歩く使い魔は、いまだ相好を崩したままだ。何を考えている?あの質素極まりない食事が、それでも喜ばしいものだったのだろうか? そうかもしれない。男の格好に裏づけが取れたような気分になる。 ロクに洗ってなさそうな髪を三つ編みにしている。上半身はさっき拾ってきたボロ布に馴染んでいる。 下半身は――なんだろう、青黒く染めたパンツをベルトもせずに穿いている。 材質はよくわからないが、穴だらけの硬そうな布だ。足の筋肉に張り付いている。動きづらそうだ。 ルイズはこう結論する。こいつは平民の中でも最下層、物乞いの類なのだろう。今朝の殺気は単なる錯覚に過ぎない。 男の穿いているパンツの縫い目、その偏執的な細かさと規則正しさに目がいっていれば、また違ったことになったかもしれない。 だが、それに気づかず教室へ入るルイズであった。 教室のドアを開けルイズと使い魔が中へ入る。先に来ていた生徒が一斉に振り向く。クスクス笑いがあちこちから漏れる。 ルイズはムッとした顔を隠しもせずに、席の一つに腰掛けた。その後ろに使い魔が座ろうとする。 「ここはね、メイジの席。使い魔は座っちゃダメ」 睨みながら言う。 使い魔は大人しく椅子をどけて床に座ろうとするが、無駄に大きい体がジャマになったらしく、窮屈そうに身じろぎした挙句に結局椅子に 座る。 先に来ていたキュルケがこっちを見て笑うのが見える。まったく、これだから平民は。ルイズは頭を振った。これなら犬でも召喚したほう がマシだった。 皆が様々な使い魔を連れていた。キュルケのサラマンダーは、椅子の下で眠り込んでいる。 真っ白に彩られた羽毛を持つ鳥を、ちょこんと肩に止まらせている女子生徒もいる。 窓の外から赤青二本の杖を持ったクラゲがこちらを覗いている。男子の一人が口笛を吹くと、そのクラゲは頭を隠した。 しめ縄をされた木柱に取りすがるウナギのような生き物もいた。刃を持つ戦車に乗った目の潰れた蛇もいた。 ルイズが彼らの使い魔と自分のそれと比較して鬱々としていると、扉が開き、教師が入ってきた。 中年の太った女性。紫のローブに身を包み、帽子を被っている。表情は柔らかであり、やさしい雰囲気を漂わせる。 「あいつも魔法使いか」 後ろから声が掛かる。 ルイズはあきれる。椅子に体を深く掛け、若干胸を反らせて後ろに言う。 「当たり前じゃない。それから、魔法使いじゃなくってメイジね」 使い魔は分かったような顔をして頷いている。 教師は教室を時間を掛けて見回すと、満足そうに微笑して言う。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって新学期に様々な使い魔たちを見るのが、とても楽し みなのですよ」 邪気のない言葉にルイズは俯く。 シュヴルーズは俯く少女と、その後ろでシュヴルーズに無感情な視線を送る男を見る。とぼけた声で言う。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 教室中が笑いに包まれる。一人の男子生徒が尻馬に乗り、悪口を浴びせる。ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民をつれて くるなよ! ルイズは立ち上がりそれに言い返す。しばしの言い合い――相手の欠点を指摘しあう――の後、男子もまた立ち上がる。 暴力的な空気が流れだした所で、シュヴルーズが杖を振る。二人はすとんと椅子に落ちる。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」 みっともないと言われ、ルイズはうなだれる。シュヴルーズが説教を続ける。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」 マリコルヌと呼ばれた男子生徒は更に言い返す。僕のかぜっぴきは中傷ですが、ルイズのゼロは事実です。 クスクス笑いが教室に響く。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見渡し、杖を振る。笑っていた生徒の口に、赤土の粘土が張り付く。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 喋れなくなった生徒に向かってシュヴルーズは言う。 最初かそうしてくれればいいのにと、情けない気もちでルイズは思う。使い魔はなんの反応も示さない。授業が始まる。 授業の内容自体は簡単なものだった。去年のおさらいである。土水風火と虚無の五大魔法系統、その『土』の系統についての基礎知識。 ルイズはぼんやりと授業の内容を聞き流し、ときおり後ろへチラチラ目をやる。 使い魔は頬杖を突き、若干斜めになりながらも授業に聞き入っている。 「それでは、今から皆さんに『土』系統の魔法である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。 一年生の時にできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度おさらいすることに致します」 シュヴルーズは机に石を乗せ、手に持った小ぶりな杖を振り上げる。短く、しかしはっきりとルーンを唱える。石が光りだす。 光が収まった。石は、同じ大きさ、同じ形の金属へと変化していた。 ルイズの後ろから唸り声が聞こえてくる。後ろを振り向く。使い魔が前に乗り出している。ルイズに気づく。 「金か?」 教壇へ人差し指を向け聞く。 「指をさすんじゃないの!違うわよ、真鍮よ。ミス・シュヴルーズはトライアングルクラスのメイジだから……」 伸ばした指をはたきつつ、律儀に答える。 「トライアングル?」 オウム返しに使い魔が聞く。 「魔法の系統を足せる数なことよ。それでマイジのレベルが……」 ルイズが懇切丁寧にメイジのランクについてを教える。もちろん顔は後ろを向いている。 シュヴルーズは教師として、当然それを見逃さない。 「ミス・ヴァリエール!おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」 罰として、ルイズが錬金をやらされる羽目になった。クラス中が反対する。それがルイズの気持ちを意固地にさせる。 「やります」 緊張した面持ちで立ち上がり、つかつかと教師の元へ歩いてゆく。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 シュヴルーズはやさしく言う。ルイズはこっくりとうなづく。 悲鳴と非難が渦巻く。新たに置かれた石を目の前にルイズは精神を集中させる。窓から差し込む光に照らされたその姿は 神々しくまた、愛らしいといっていいものであった。 だが、その姿を見るものはいない。シュヴルーズは目の前の石を見る。ルイズは目を閉じ、ルーンを呟いている。 クラスメートは全員が机と椅子の下に退避する。ルイズの使い魔は、そんな生徒を不思議そうに見る。 杖が振り下ろされ、爆発が石と教壇と生徒と教師を吹き飛ばす。石の破片が飛礫となり、爆風に乗って教室中に突き刺さる。 窓ガラスが割れる。石の机にヒビが入る。 生徒と、彼らの使い魔たちが騒ぎ出す。シュブルーズは失神している。ルイズの使い魔は傷を負い、混乱している。 ルイズ自身は―― 「ちょっと失敗したみたいね」 顔についた煤をハンカチで拭き、淡々と言い放った。衣服が破れているが、意に介していない。 クラス中の反発を食らう。ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ! ルイズの視界の端で使い魔が身じろぎするのが見える。何か納得しているような表情だった。
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あ、ありのまま今起こったことを話すぜ! 俺がサイトの奴に協力していたらジョルノはいつの間にか俺を置いてトリスティンに戻っちまいやがった。 な、何を言っているかわからねーと思うが、俺にも何が起こったのかわからなかった。 頭がどうにかなりそうだった! ちょっとした冗談とか最近アイツが忙しいみたいだからとかそんなちゃちなもんじゃねー恐ろしい疎外感を味わったぜ! 「うっさいわよポルナレフ! 今明日の演説を覚えてるんだから静かにして!」 「わ、悪い」 怒鳴りつけられた俺はやるせなさから深くため息をついてソファに寝そべった。 ジョルノがトリスティンに戻ってから…アルビオンで王党派が勝利し今俺を怒鳴りつけてきたルイズが聖女様になっちまってからもう暫くが経っていた。 『ニューカッスルの聖女』なんて呼ばれるようになったルイズの奴は張り切っていて、毎日楽しそうに聖女の仕事をこなしてる。 教会やウェールズ達からの指示通りに演説をしたりちょっとした集会に顔を出して顔を売る毎日だ。 俺は相変わらずだが、周りは色々変わっちまったんでついでに今のアルビオンや他の奴らの近況も報告しておこうと思う。 ウェールズ王は頑張ってるらしいが、今のアルビオンはすげー最悪な国になっちまってる。 今のアルビオンは知っての通りガリアとゲルマニアの軍を置かれちまってて、半分以上の領地が二国に統治されちまってる。 内乱で貴族の数が減っちまったせいで二国が統治してる領地に回す人材はないとは聞いているが…アルビオン側は腸が煮えくり返ってるようだ。 そりゃそうだ。 内乱に勝ったと思ったら他国に賞品を分捕られちまったんだからな。 暫定的になんて言ってるが、ガリアにもゲルマニアにもアルビオンに領地を返還する気は更々無いのは、亀の中でマンガ本を読んでる俺にだってわかるくらいあからさまだ。 それに加え、領土が減った今の状態で内乱中ずっとテューダー王家を支えてきた貴族達に褒美を分配したんで不満が続出している。 渡さなくても不満は持っただろうが、得られるはずの貴族派の所領がないってのはデカかった。 懐だけでなく、他国の軍が我が物顔で駐留している現状にプライドも傷ついてる…ウェールズ王はどうする気なのか俺にはわかんねぇ。 他国に渡っちまった領地の貴族や、テファと一緒に復帰したテファの親父さん関係の貴族共は先祖伝来の土地が他国の貴族や政敵達に分配されて殆ど戻ってこないんでキレてるしな。 ゲルマニア軍と市民が衝突したって話も耳にするし、貴族派の残党がゲリラ的に攻撃をしかけてるって話も聞いている。 昨日も元貴族派のメイジが見回りをしてたゲルマニア兵士を襲うって事件があったくらいだ。 治安はまだまだ悪いし、正直復興はあんま進んでねぇ。 まぁ例外も、あるっちゃある。 テファの領地とジョルノの領地だ。 ゲルマニアがジョルノにアルビオンの領地を褒美として与えた。 テファが貰った領地の近くだって話で、まだまだきな臭い話も耳に入る今のアルビオンの中じゃあ奇跡的に治安が良く復興も進んでいる。 聞くところによるとテファの父親縁の貴族だった奴らが代官を務めているってのと、組織の人間が裏で街や村の平和を守ってるらしい。 テファニア王女をお守りしてウェールズ陛下の下へお連れしたとか、ウェールズを暗殺から守ったとか王党派の首領クロムウェルを討ったとかで人気もあるし、金も撒いて人気取りもバッチリだ。 内乱中に彼等から搾り取ったお金で開いておいた銀行からアルビオンへの貸付もおいしいです、らしい。 テファはこの国の王女として仕事を少しずつ始めている。 足りない所はマチルダ姉さんとかがフォローしてるから評価もいいらしい。 ずっとジョルノと一緒に行動してたんで、アイツに置いてかれたのはちょっとショックだったようだが今は見た感じ大丈夫そうだ。 領地は突然現れた王女様を慕って人が集まり始めてるらしい。 治安もジョルノと同じ理由でいいんで今の所うまくいくんじゃねぇかなって雰囲気がある。 心配なのはジョルノもテファも味方も多いが潜在的な敵も多いってことだ。 愛人の子でハーフエルフって生まれは受け入れがたく、現状の不満を向ける矛先に挙げやすい。 今は他国へ向いているが、他国人で成り上がりの若造と仲が良すぎるってのも内心不満に思う奴がいるらしい。 それに…牛野郎が協力してるとこだな。全く尻尾は掴めてねぇがなんかこそこそしてやがる気がする。 ジョルノには悪いが、あの牛は案外腹黒だぜ。 マチルダ姉さんはテファを支えてやりながら時々ここに飲みに来る。 組織との関係とか、案外ストレスが溜まってるようだ。 苦労人同士最近ちょっとだけ親密になったような気がするぜ。 ん? まさか…これがサイトが言ってたフラグって奴か? 俺がフラグの予感に首を捻ったその時だった。 「師匠、飯持ってきたぜ!」 「おお! メルシィー。ンン~~ッ」 狙ってたんじゃねーだろうなってタイミングでサイトが今日の夕飯を抱えてやってきた。 パーカーの上にマントを羽織った姿に相変わらず似合ってねぇなと笑いながら、俺は皿に盛られた料理を一口つまみ。 一口で唸り声をあげた。 「ト・レ・ビ・ア・ン、だぜ。サイト! 今日はどうしたんだ? いつもと比べてやけに…えーっと、お前が前に言ってたそうだ! メシマウ? ウマ?だぜ」 「へへっ、昨日こっちの飯があんまり美味くねーってラルカスに言ったろ。そしたらアイツ、ラ・ロシェールで働いてたコックを連れてきてくれたんだぜ」 得意げに言うサイトに俺は、おおーっと歓声をあげた。 ラルカス…!! 野郎ッ俺を美味い飯で買収しようって魂胆と見た!! 「この俺がそんな手に引っかかると思って「師匠…せめて手を止めてから言おうぜ」 飯はいただくが信用はしない。 両方やらなくっちゃならねぇのがツライとこだな。 「アンタ等、うるさいって言うのが聞こえないのかしら?」 「わ、悪かったって。そう怒るなよルイズ「様!」あーはいはいルイズサマすいません」 全く誠意の篭っていない謝罪をしながらサイトは持ってきた料理をテーブルに並べていく。 その言い方が癪に障ったのか、ルイズが亀の中に頭を突っ込んできた。 「何よその言い方! 私はね、公爵家の娘で聖女様なのよ!? 本当だったらアンタみたいな平民じゃ一生かかっても関わる事がないんだからね!」 「何だと!? お前が枢機卿とかに利「止めとけって、飯が不味くなる」 「「フンッ」」 俺が止めに入ると二人は同時にそっぽを向いた。 こうして見ると仲は最悪なような気がするんだが、二人とも素直じゃねぇんでよくわからん。 サイトは、シュヴァリエとかいう爵位を与えられ、聖女様付の護衛になった。 マリコルヌの使い魔じゃないかって? 詳しくはしらねぇが、竜を複数同時に操るサイトの使い魔としての能力を利用しようって言う連中の方が声がでかかったんだろうさ。 サイトがプッチ枢機卿から貰ったとか言うヴィンダールヴの能力はそれだけ強力だった。 …もしかして、サイトがこれだけ取り立てられたのも野郎が関係してるんじゃねぇのか? DIOの友人だとか抜かす野郎が何を考えているのかわからねぇからって俺が過敏になってるのかもしれない……ただの思い付きだったが、そう考えると驚くほど納得がいった。 飯を食う手を止めて俺は考え込んだ。 だがその間に食器を並べ終えて飯を食い始めるサイトを見下ろして、…アホらしくなった俺は考えるのをやめた。 どっちにしろ今はなるようにしかならねぇ、とあっさり結論がでたからだった。 「そういやミキタカはどうした?」 「パッショーネの職人とかの前で地球の道具に変身してる。簡単な奴から再現しようとしてるらしいぜ。服とか農具とか本当に色々変身させられてるって話だ」 「そか」 素っ気無い俺の返事。 それと共に二人の間に奇妙な沈黙が訪れた。 「………………ミキタカに頼んでさ。テファ用のブラが出来たら見せてもらえるようにしようぜ」 「だな。ジャンにも手紙送っとくぞ」 トリスティン紳士たる彼なら新型の船に乗って一目散にやってきてくれるはず…そんな確信があった。 ジャン。 今はゲルマニアで研究をしている紳士仲間のことを思い出したポルナレフはしんみりとした口調で呟いた。 「ジャン・ジャックめ。無茶しやがって…」 ルイズにしたことが許せないサイトは、紳士的に聞き逃した。 * ポルナレフがしんみりとしている頃。 ジョルノはガリアへ向かう道の途中、立ち寄ったある大きな街の教会に足を運んでいた。 当初の予定ではただ通り過ぎるだけの予定だったその場所で最も良い貴賓室に通されたジョルノの目の前にはプッチ枢機卿が寛いでいた。 ルイズの母カリーヌの頼みにより、プッチとカリーヌを引き合わせる為連絡を取ったところプッチはすぐにココで落ち合おうと連絡を寄越したのだった。 カリーヌを別の部屋で待たせ、ジョルノへと友好的な笑みを浮かべるプッチにジョルノは問いかけた。 「プッチ、何故ルイズを聖女にした? 『テファをこのハルケギニアで帽子を被らずに暮らせるようにする』その為に今のブリミル教を改革していく予定だった。だがそれに聖女ルイズは必要ない」 「ジョジョ。だからこそだ」 プッチは幼い生徒を諭す教師のような顔つきで返事を返した。 「私は、結果だけを求めている」 そう言って腰掛けていたふかふかのクッションで覆われた椅子から立ち上がったプッチは、同じ真っ赤な椅子に座り自分を見上げるジョルノにはっきりと言った。 「時間は有限だし機会という物もある。過程や方法を選んでいると、そこにつけこまれ何時までも目的にたどり着けないだろうからな」 一瞬だけ苦々しい口調で吐き棄てたプッチの表情は、ブリミル教のシンボルマークの枠が嵌められた窓から差す光に照らされて肩書き通りの聖職者らしさを持っていた。 正しい道を模索する求道者のようだった。 挫折を味わった者…運命のような抗い難いものに今も苦しめられ続けている者のように見るものには見えただろう。 「そんな私だからこそ、いつかは結果にたどり着くだろう。そこまでして目指しているわけだからな。いいかジョジョ。もう一度言うが大事なのは結果なんだ」 徐々に熱を帯びる神父の表情を爽やかな笑み、しかし何処か怜悧なものを含んだ表情で見つめながらジョルノは話を聞いていた。 「私は君の父を神を愛するように愛していた。良く似ている君も同様に愛している。その君の目的を達成するのに十年や二十年かかっても達成できないような方法を選ばせるわけにはいかなかったのさ」 「なるほど。確かに貴方の言う事は、本当に大事な事だ」 噛み締めるように言うジョルノにプッチはうむ、と大きく頷き返した。 「わかってくれたようで嬉しい。知らせられなかったのは申し訳ないと思うが、まさか君があの場に居合わせるとは思ってもいなかったのだよ」 ジョルノはそこで、ふと気付いたかのように視線をあらぬ方向へとやった。その向けられた方向に何があるかに気付いたプッチは笑みを深くする。 「ああ、公爵夫人を余りお待たせするわけにはいかないな。会ってくるとしよう」 「頼みます。僕はこのままガリアへ向かわなければいけませんからね」 ジョルノに言われ、プッチは自信に満ちた態度で胸を叩いた。 「任せてくれたまえ。今度はこちらから連絡しよう。その時に良ければ私の計画を聞かせよう」 「それは楽しみですね」 「楽しくなるさ。まだ詳しくは言えないが、帰る為の手立ても見つかるかもしれない」 相槌を打つ年下の友人に思わせぶりに言って、プッチは共に部屋を後にした。 ジョルノはプッチが言った言葉、特に『帰る為の手立て』について考えながらプッチへ別れの言葉を言い、教会の外へと出て行った。 王族達やガリア内の組織の様子を見に行くというジョルノと笑顔で別れたプッチは、教会の中へと戻っていった。 ギシ、と微かに軋む廊下を進み、カリーヌが待つ部屋へと向かう内にプッチ枢機卿の表情からは笑みが消えていく。 赤く染め挙げられた扉の前に立ち、懐から手袋を取り出したプッチは指にぴったりとフィットするそれを嵌めてから扉を開けた。 ジョルノと会っていた部屋よりは落ちるが、大事な客を持て成す為の部屋には毛足の長い絨毯が敷かれ、その上にカリーヌが膝を突いてプッチ枢機卿を迎えようとしていた。 トリスティン有数の大貴族が頭を垂れて迎えるのを見ても、プッチ枢機卿は何の感慨もなく細めた目で見つめゆっくりと部屋に入っていった。 ゆっくりと入っていきながらプッチは今目の前にいるカリーヌが遍在であるか否かを見定めようとした。 だが、枢機卿に会うに当たって武器を持つのは不敬だと言う理由から杖は持っていないが、カリーヌが本体かどうかプッチには見当がつかなかった。 扉が閉まる。 「お待たせしてしまったようですな」 「拝謁の機会を下さり感謝いたします。プッチ枢機卿閣下」 「楽にしてください。感謝はネアポリス伯爵様にされるとよい。私も彼からの申し出でなければ貴方とは会わなかった」 面を上げたカリーヌ、はプッチ枢機卿の物言いに返事が一拍遅れた。 服だけでなく、肌も黒いこの枢機卿の表情には、友好的な色が全く見受けられなかった。 相手がたとえロマリアの枢機卿であろうとも、いやだからこそトリスティンでも五本の指に入る大貴族であるヴァリエール公爵家のカリーヌ。 彼等が今現在祭り上げている聖女ルイズの母であるカリーヌに向けるには、余りに配慮に欠けていた。 敵だとでも言わんばかりだと感じたカリーヌに向けて、プッチは薄く微笑んだ。 「用件はわかっておるつもりです。なんでも聖女ルイズのことでご相談があるとか」 「はい。あの子は」 「ちょっと待ってください。まだ私の話は終わっていない」 「申し訳ありません…はしたない真似をいたしました」 「いえ、娘を思う貴方の事と思えば、当然と言えましょう。それで聖女ルイズのことですが…あの娘には既存のブリミル教の教義を否定して分裂させる役目が終わるまでは利用させてもらう」 「…!?」 「そのまま"楽にして"聞きたまえ。あえて言っておくが今私に毛筋でも傷を付けたなら、教皇聖下が直々にヴァリエール家を破門するぞ」 一瞬のうちにブーツの中に仕込んだ小型の杖を引き抜いたカリーヌの手が、その言葉で止まった。悔しげに眉根を寄せるカリーヌをプッチは鼻で笑う。 「何故ルイズを…閣下の目的がそれならば、虚無が使えるにしても、あの子では役者不足ではありませんか!?」 「友人の頼みと私の目的を一致させた結果の人選だ。公爵夫人、私は、使い魔としてハルケギニアに召喚された平民なのだ。その腹いせにブリミルが残したものを壊したり君達を苦しめようというわけだ」 始祖ブリミル…その王家の血はヴァリエール家にも流れている。 プッチ枢機卿が使い魔でしかも平民であるということや、今の教義を変えようとしている友人がいるという話も十分カリーヌにとっては驚くに値する事だったが、カリーヌはそれを押さえ込みプッチに言う。 「つ、使い魔にされかけたというお怒りは最もだと思います。ですが! それは聊か度が過ぎているのではありませんか?」 平民がメイジの使い魔になれば、それはある意味では幸運ではないとさえカリーヌの、トリスティン貴族の常識は感じていたが、相手に合わせて彼女はそう語りかけた。 だが、その言葉にプッチ枢機卿の表情はカリーヌの譲歩に険しくなる。 怒りが表情を歪め皺となって顔に走り、細められた眼が暴力的な光を放ちながらカリーヌを睨みつけた。 「度が過ぎているだと? いいか!!」 どうしようもない愚者を糾弾しているかのような自分に酔った、鋭い声がプッチから発せられた。 「六千年かけてろくすっぽ進歩しない怠惰な猿以下の原住民が、主がお生まれになって二千年足らずで既に月に足跡を残した私達を誘拐し、肉体と精神を汚したのだぞ!?」 叫ぶプッチの言葉に含まれた差別的な感情に嫌悪するカリーヌへと禍々しい笑みが向けられる。 「寧ろ君の娘の件に関しては言えば魔法が使えるようにしていただいてありがとうございます、と感謝されるべきじゃあないか?」 「イカれてる…」 呆然とするカリーヌをプッチは蔑みを込めて嘲笑った。 怒りに顔を赤く染め、感情の迸りを魔力のオーラとして身に纏いながら、だがあくまでも怒りなど欠片も仕草や声に出さずにカリーヌは言う。 「…それならば、どうして貴方を召喚したメイジだけに」 「既にそれは済ませた。だが『DIO』の息子までがそんな目にあったと知った。これは最早個人を超越している問題だ。憎むべきは個人ではなく付け上がったメイジ共の慣習!」 迷うことなくプッチは言う。 それを聞いて、怒りと養豚場の豚でも見下ろすような不遜な態度が見られる目の前に男と交渉し、娘の安全を確保するなどと考えた自分をカリーヌは恥じ入った。 この男とは、どうやっても手を取り合うことなど出来ない。 そう実感していた。 「そして何より…私達を誘拐せずにいられない貴様らの呪われた血統だと私は理解した。完全な虚無など復活させん。してもどーでもいい代物にまで私が引き摺り下ろしてやる」 言いたいことを言って少しは溜飲が下がったのか、怒りを納めてプッチは部屋を去ろうとする。 交渉は入るまでもなく消滅していたし、プッチは無駄な時間をここで過ごそうとは思わなかった。 扉を開けて、プッチは肝心なことを忘れていたと愉しげな表情を浮かべて振り向いた。 「ん、そうだ。公爵夫人、ギアスという禁呪を知っているかね? 私が死ねばそれによってトリスティンは勝ち目の無い戦争状態に入るだろう。貴様は娘が何事もなく役目を終えられるように静かにしているのだな」 トリスティンで最強と呼ばれたメイジへこれ以上ない釘を刺して、プッチは部屋を出て行く。 部屋を出たプッチは、彼の用が済むのを飼い犬のように待っていた枢機卿の旅に同行する神官達と合流し、一人に嵌めていた手袋を棄てるよう言いつけて出立した。 残されたカリーヌは、一方的に姿を見せたどす黒い悪に生まれて初めて足元が崩れるような感覚を味合わされていた。 ギアス『制約』。大昔に使用が禁じられた心を操る水系統の呪文。 かけられた者は、任意の条件を、時間や場所などの条件を満たした時に、詠唱者が望む行動をとる。 発動するまでは、呪文にかかっているのかどうかは見破れずかかっている本人も気付かない。 しかもそれをかけられたのは他国の貴族や聖職者であり、かけたのは枢機卿の地位にいる者。 見つけるのは、かけられた可能性のある者達の地位を考えれば見つけようとすることさえも容易ではない。 だがこのままプッチ枢機卿の思惑に乗り続ける事も出来ようはずもない。 今はまだおぼつかない足取りで、カリーヌは動き出した。 To Be Continued...
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ワルドの叫びを背景に、シエスタは幾分離れた場所で体勢を立て直し、ムクリと起きあがった。 見る者に清潔感を与えるはずのメイド服は、地面を盛大に転がったせいで、 目も当てられない様相を呈していた。 服の所々が擦り破れ、埃にまみれている。 しかし、シエスタは服を払うどころか、一瞥すらしなかった。 今は戦いの真っ最中。服を気にしている余裕はない。 シエスタの放つ空気が、そう物語っていた。 「ぐぬぬぬぬぅ……ギッッ!!」 己のひしゃげた右腕を庇いつつ、ワルドは低く唸った。 呼吸は荒く、顔面に滲み出た汗がボタボタと地面に滴り落ちる。 先程の一撃で体中が痺れているという事実に、ワルドは今更ながら戦慄した。 (バカなッ……! こんな非常識……死、死んでしまうぞッ……! こんなの有り得るか!!) 彼女の腕力に予め気付いていれば、それなりの対処も出来ただろうが、 あの小柄な体格で、こんな非常識な馬力を出せるなど、誰が想像できようか。 正直な所、彼はシエスタを見くびっていた。 その代償は大きい。 幸いに杖は無事だったが、杖と腕、どちらを折られたとしても、 平民にやられたとあっては、大変な不名誉になることに変わりはない。 自然、彼を襲う身を裂くような痛みは、そっくりそのまま怒りに変わることになる。 視界がグニャグニャと歪み、赤のランプがチカチカ灯っているが、それらを気力で封じ込め、 ワルドは捻り曲がった右腕から杖をもぎ取り、左手に持ち替えた。 絶望的なまでの筋力差を見せつけられても尚、彼の心は勝利へと向けられている。 それどころか、腕を折られたことで、彼の中の凶暴な部分が目を覚ましたようでさえあった。 ワルドの目に一瞬狂気の色が浮かぶ。 ルイズがこの場にいることなど、頭から吹っ飛んでしまったようだ。 「うぉ……おのれ! この動きが見切れるかァ!!」 たった一撃が致命傷になりかねない相手に対して、ワルドは敢えて近づいた。 離れた距離を活かして魔法攻撃に専念するのが最善なのだが、 接近戦でシエスタを打ち負かさないことには、ワルドの気は収まらないのだ。 左に持ち替えた杖を複雑に動かしてフェイントをかけつつ、ワルドはシエスタ目掛けて疾駆した。 右腕が使えなくとも、彼の技巧は些かも衰えない。 予測し難い複雑な杖の動きは、さながら無数の毒蛇である。 それに対しシエスタが繰り出すのは、左右交互の連撃。 その悉くが夜の帳よりも冷たく、重い。 しかし、シエスタの拳がワルドを捉えることはなかった。 風が雨の間を潜り抜けるように、ワルドにかわされてしまう。 拳の合間を縫ったチクチクとした攻撃が、嘲笑うかのようにシエスタの全身に刻まれていった。 「ウリャアッッ!!」 痺れを切らしたのか、その動きを読み切れないまま、シエスタは空間ごと抉り取るかのようなアッパーカットを放った。 が、惑わされたままの闇雲な一撃が当たるはずもない。 大振りのアッパーカットの先にワルドの姿はなく、ワルドは素速くシエスタの側面に回り込んでいた。 「速さなら負けはしない。 僕の二つ名は『閃光』だ」 「……!!」 がら空きになった脇腹に杖がめり込み、シエスタは再び地面を転がった。 威力・速度・タイミング、いずれも申し分ない、絵に描いたようなカウンター。 肋骨の二、三本も折れたかもしれない……折るつもりで、ワルドは攻撃した。 立てるはずがない。 立てるはずがないのだ、常人なら。 そう確信している上で、未だにワルドが杖を収めていないのは、 彼が既にシエスタを常人と見なしていないことの表れだろう。 鈍痛を放つ右腕に顔をしかめながらも、ワルドは余裕を取り戻した口調で話しかけた。 「まるでトロル鬼のような……パワー。 ……マンティコアのような瞬発力。 ぬぐ……。見てくれ、この腕を。 直ぐに『水』のメイジに診てもらわなければならないよ。 全く、驚いた。 だが惜しむらくは、君は戦い方がズブの素人だということだ。身体能力を活かせてない。 これ以上は無益だ。降参したまえ、メイド君。 さもなくば、もっと痛い目を見ることになる」 『降参』の一言を耳にするや否やであった。 立てるはずのないシエスタが、瞬時に跳ね起きた。 どういうわけか、あれだけ動き回ったにも関わらず、彼女の呼吸は全く乱れていない。 未だ肩で呼吸をしているワルドの脳裏に不安がよぎったが、それは杞憂であった。 シエスタの脇腹に刻まれた打撃痕が、間違い無く彼女の動作の支障になっているのが見て取れた。 常人離れしている化け物とはいえ、ダメージの蓄積は人並みらしいことに、ワルドは少なからずほっとする。 その一方でシエスタは、唇から垂れる鮮血を片手でやや乱暴に拭い、訥々と同意を示した。 「…………そう、その通りですわ。 取り立てて才能の無い一般人『だった』せいもあり、 わたくしには戦いに必要な技術的要素が欠落しています」 「特にあなたのように技量のある貴族相手では、それが露見してしまうのは当然でしょう。 今のわたくしでは、貴方に勝つのは難しい」 それは、シエスタなりに第三者的見地に立って考えてみた末の結論だった。 いかに生物的に人間を上回っていても、積み重なった人間の技術に敗れ去ることが有り得るという現実を、 シエスタは今実感していた。 最初こそワルドの油断につけ込めたが、もう彼には力任せな攻撃は通用しないだろう。 加えて、先ほどの流麗なな杖捌き。 がむしゃらに足掻いても、まさに柳に風だ。 シエスタは負けるわけにはいかない。 が、『今の』自分にはそうした粗雑な攻撃しかできないのはどうしようもない。 なら、どうするべきか。 シエスタは考える。自分の主の事を。 何故、主は敢えて自分をワルドと立ち会わせたのか。 その意味を。 「さぁ、参ったと言うんだ。 これ以上女性を痛めつけるのは、僕としても心が痛む」 ワルドが急かす。 だが、シエスタはそれをまるっきり無視した。 (…………………………) 俯いたまま暫くの間無言で考えた後、シエスタは何かに気づいたのか、はっとした顔になった。 「…………わかりましたわ」 「降参、する気になったかね?」 シエスタの独り言を都合よく捉えて、ワルドはふっと肩の力を抜きかけた。 「いいえ、子爵様。 申し訳御座いませんが、もう暫くお付き合い願います」 シエスタは再びゆっくりとファイティング・ポーズをとる。 自分の意に沿わぬ返答を受け、ワルドは不快感も露わに呪文を唱え始めた。 ―――――――――――――― 「で、そろそろ説明してくれるんでしょうね?」 ワルドの右腕がオシャカにされるのを見届けてから、ルイズは隣に佇む自分の使い魔に声を掛けた。 完全に蚊帳の外に置かれていたせいもあり、彼女の口調は若干キツいものになっていた。 シエスタとワルドを挟んで、ちょうど向かい側にいたはずのDIOは、 いつしかルイズの側に移動している。 彼は四六時中無駄にオーラを放っているので、ルイズは嫌でも近付いて来るのがわかった。 DIOの接近が分からなくなるのは、彼が意味不明な超能力を使ったときだけだ。 「今回、シエスタをあの子爵に焚き付けたのには、いくつかの意図があってのことだ」 すんなりと口を開いてきたことに、ルイズは正直ビックリした。 この使い魔は、そう簡単に自分の企みを話したりはしない。 散々っぱら弄ばれ、気がついたら完全に彼の掌の上――という方向に持っていくタイプなのだ。 それをこうも易々とひけらかすとは考えにくい。 ということは、むしろこの場合、 私も聞いておくべきだと思っているからこそ、話していることになるのだろう。 ルイズは心持ち身構えた。 「シエスタは私のメイドになってからまだ日が浅い。 つまり、経験が不足しているのだ。圧倒的にな。 だから、あの子爵と戦わせることでそれを補わせる」 「ふぅん。案外使用人思いね」 「幸いにもあの子爵は、メイジとしても、武人としても、それなりに道を修めているようだ。 まさに打ってつけというわけだ」 それだけじゃないでしょう、と視線でコンタクトを取ると、DIOは頷いた。 「無論、私にとってもこの方が好都合なのだ。 この世界の『魔法』には、色々系統があるそうじゃないか。 私は極力それら全てを目で見て、知っておく必要がある。 ……骨を折らずにな」 「意外ね。こういうのは、あんたは自分でやると思ったんだけど」 「私が療養中だと言ったのは、あながち嘘ではない。 それにだ、私が本当に『人』と張り合うとでも思ったのか、ルイズ?」 ニヤリ……そうとしか形容しようのない笑みを浮かべて、DIOはルイズを見た。 「思うわ」 ルイズは頷いて答えた。即答であった。 DIOの言葉を真正面から斬って捨てて断言してくるルイズに、DIOの笑みが消える。 その代わりに、氷より冷たい無表情が浮かんだ。 「……ほう、何故だ?」 「だってあんたってヘンに子供っぽいところがあるもの。 負けず嫌いと言い換えてもいいわ」 「……………………」 「私と一緒ね」 今度はルイズがニヤリと笑う番だった。 「……フン、何を血迷っている。 そもそも私と人間どもとでは、強さの次元が違う。 私と、私のスタンド『ザ・ワールド(世界)』は、あらゆる点に置いて別格なのだ」 自信たっぷりに言い切るDIOに、ルイズは今度は危険性を感じた。 負けず嫌いなのは大いに結構である。 自分もそうであると自覚している以上、ルイズにそれをどうこう言う資格はない。 だがこの使い魔は、負けず嫌いの性分がプライドと直結しているようである。 それが自らのとてつもない(?)力と相まって、しばしば他人の力を過小評価させてしまうようだ。 その点が、こいつの致命的な欠点と言えるかもしれない。 それを矯正してやることが、自分の役割であるようにルイズには思えて仕方がなかった。 何故かは知らないが、妙な目的意識に駆られてしまう。 ルイズは自然と口を開いていた。 「確かにあんたは強いかもしれないけど、あんたの場合はもう少し…… ……ホントーに少しでいいから、謙虚な心構えを持った方がいいと思うの。 もう足を掬われないためにも、ね。 私の言ってる意味、分かるでしょう?」 DIOがジロリ、とルイズを見下ろした。 「このDIOがか?」 「どのDIOでもいいから、何とかしなさい。 今後の課題! わかった?」 「…………フン」 釈然としない不満げな返事だったが、ルイズはそれ以上に念を押すつもりはなかった。 DIOはプライドが高くて自己中だが、決して愚かではない。 きっと自分の意志を酌んでくれると、ルイズは分かっていた。 ――何故なら、DIOと自分は似ているから。 だから、分かる。 ルイズは頭ではなく、心で理解していた。 (私にも、力があれば……) そうこうしているうちに、ワルドの風魔法が、シエスタを横殴りに吹き飛ばした。 エアハンマーの魔法。ワルドの本領発揮だ。 「あちゃあ、あれは痛いわ。 …………ま、いい気味ね。せいぜいのたうち回るといいのよ」 地に伏せるシエスタを遠くに見て、ルイズはサディスティックな笑みを浮かべた。 普段からルイズは、シエスタを好ましく思っていなかった。 それに、この任務の出発の折り、シエスタはルイズに『主人としてふさわしくない』と言ってもいる。 お互いウマが合わないのだ。 だから、シエスタがワルドにやられようがどうでもいい。 どうせならこの際だ、滅茶苦茶にやられてしまったほうが気分も良くなるというものだ。 (やれ、ワルド。そこだ。いけ。一息にやってしまえ。 引導を渡してやるのよ!) ルイズのリクエストに応えるかのように、ワルドは杖を操り、シエスタを追い詰めていった。 三次元的に攻撃され、流石のシエスタも避けるだけで精一杯らしい。 DIOに聞こえるように、ワザと大きな声で、ルイズはシエスタを嘲った。 「ハン! いくら化け物でも、所詮はメイドだったってことね。 防戦一方じゃない」 「いや、あれでいいのだ」 「へ? 何で?」 ルイズがきょとんとした顔を向けたが、DIOはそれに答えないまま、中庭の隅の方に視線を巡らせた。 暫くの間の後、DIOの視線はある一点で固定される。 DIOの笑みが更に深まったのを、ルイズは見た。 「席を外させてもらう。ほんの少しの間だけな」 「は? ち、ちょっと待ちなさ…… ……もう、勝手なんだから!」 言い終わるか終わらないかのタイミングで、DIOはパンパンと二度両手を打った。 ルイズにとっては、もうそろそろ馴染み深いものとなりつつある合図である。 果たして、目の前にいたはずのDIOの姿が忽然と消えた。 そのこと自体はあまり問題では無かったのだが。 「……う、ぐ…なに、こ、れ?」 不意に、違和感。 今存在している空間から他のどこかへ、一瞬投げ込まれたような。 モノクロの世界を見た気がした。 自分の立ち位置が酷く覚束なくなってしまった不安感に吐き気を催しながら、 ルイズは慌てて顔を上げた。 その先では、シエスタとワルドが、杖と拳を凄まじい速度で繰り出していた。 ついさっきと全く変わらない光景であるのだが、ルイズは首をかしげた。 あの気持ち悪さを感じた時、一瞬…………本当に一瞬だったが…… 二人の動きがピタリと停止したように見えたからだった。 まるで時でも止まったかのように。 自分でも要領を得ない感覚に、ルイズはDIOの行方を考える余裕を失ってしまった。 (…………気のせい、じゃない) まさかシエスタとワルドが、二人して自分をからかうなどという事をするはずがない。 しかし奇妙なことに、ルイズは先ほどの感覚が気のせいであると決め付けることが、どうしても出来なかった。 ルイズは首を傾げ、自分の掌を何度も何度も、握ったり開いたりしていた。 (どこかで知ってるような気がする……) そう、確かフーケ戦だ。 ―――――――――――――― 中庭でシエスタとワルドによる、しっちゃかめっちゃかな攻防が繰り広げられる中、 その戦いを、中庭から少し離れた柱の陰で静かに見つめる者の姿があった。 赤縁の無骨なメガネが、昇りきったばかりの朝日の光を跳ね返す。 その下には、冷たく感情を読み取れない暗い目、そしてその下に出来ている隈が、彼女の纏う暗鬱な雰囲気を増大させている。 名をタバサと言った。 彼女は昨晩ベッドに飛び込んでから、戦々恐々としたまま眠れぬ一夜を過ごしたのだった。 幸か不幸かタバサはそのお陰で、早朝中庭に向かう幾つかの人影を目撃する事が出来た。 最初は無視しようと思ったが、一行の中にDIOとシエスタの姿を認めるや否や、 タバサはまるで蜜に誘われる蝶のように、ふらふらと後を尾けて行ったのだった。 疲弊しきった見た目とは裏腹に、彼女の神経はアイスピックよりも尖っていた。 そしてその視線が捉えているのは、シエスタの一挙手一投足である。 「…………やっぱり」 魔法衛士隊隊長であり、そしてスクウェアクラスでもあるらしいワルドに対し、 身体能力的に大きな差を見せるシエスタの姿を見て、タバサ思わずそう呟いた。 あのメイドが、技術的にワルドに勝てないことは、タバサは何となく察知していた。 技術とは、年月を掛けた鍛錬を積んで初めて修得しうるものである。 ほんの少し前まで唯の少女だったシエスタに、それが備わっているのはおかしい。 タバサが注目していたのは、別の点である。 先程の独り言は、その点を改めて確認したことから生じた物であった。 この事実を、今日の内にあの男に問いただす必要が…… 「何が『やっぱり』なのかな、お嬢さん?」 あるはずの無い返事が背後から確かに投げかけられ、男の手が両肩にしっかりと置かれる。 タバサの全身が硬直した。 to be continued……