約 1,636,821 件
https://w.atwiki.jp/bemanilyrics/pages/1452.html
Beautiful Days/Fantastic Plastic Machine Looking back when I was a child dreamed. Growth and maturity would come to me. Having faith it would set me free and fly away. Looking back when I was a child dreamed. Growth and maturity would come to me. Having faith it would set me free and fly away to everywhere. I could do anything. I could get anything if I want. I get love from the one I love easily. Looking back when I was a child dreamed. Growth and maturity would come to me. Having faith it would set me free and fly away. I ll get some beautiful, beautiful, beautiful, beautiful, beautiful, beautiful, beautiful, beautiful, days. After all I ve come to be a man. Lyrics Tomoyuki Tanaka Music Tomoyuki Tanaka, Dan Miyakawa
https://w.atwiki.jp/sakusouzu2/pages/180.html
Tabletop Simulator steam 1980円でsteamにて販売中! 日本語wiki 操作などはこちらに詳しく紹介されているよ! Tabletop Simulatorとは? トランプやチェス、囲碁など、色んなカードゲーム・ボードゲームを物理エンジンによって再現し、オンラインで遊べるという夢の様なゲームです・。・ ブラウザゲームなどでは味わえない、「実際にアナログゲームをプレイしている」という感覚を一度味わってみては? MOD&ゲーム紹介 Quarto! Carcassonne Catan Shogi UNO 惨劇RoopeR
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/111.html
第7試合SSその2 二人の闘士は夢の戦いをいかに認識したのか 江ノ島。 世間一般には、風光明媚な景勝地として知られる。 無論、宇多津転寝と掘瀬大我の暮らす世界においても、その“認識”は変わりなかった。 だから、二人が夢の戦いで『そこ』に降り立ったとき。 『そこ』が江ノ島だとは、二人とも理解できなかった。 誰の“認識”によって生まれたか解らぬ、常識無き異境。 それが、今宵の夢の戦場だった。 江ノ島東部・湾港エリア―― 「くそおおお!! 二人きり、とかじゃねえのかよおおおお!!」 「マテッコラー!」「キアイラッシャー!」 「パラリラーアアッ!?」「ゲソー」 眠れぬ睡拳使い・宇多津転寝は、ショウナンボーイの群れから逃げていた。 モヒカンザコ、ヤンキーと並んで日本三大危険群体生物に数えられるショウナンボーイ―― 徒党を組み、バイクや三輪車、スケートボードなどおよそ乗り物ならば何でも乗りこなす爆走本能の持ち主! 勿論、普段の彼ならば、このような無様な逃げの一手を行うことはない。 ショウナンボーイ一体一体の強さはモヒカンザコと同程度、大したことはない。 いつも通り、一発殴れば“ダメージを眠気に変える”魔人能力『睡生夢死』によって無力化できる―― 筈、だった。 だが、殴っても殴っても、誰一人眠らなかった。 ではダメージは通ったかといえば、それもまた否。 殴ったダメージが眠気に変換されながらも、しかし相手が眠らない。 結果として、いらぬ喧嘩を売った形となってしまった。 「まさかとは思うが……ここが夢の中、だからか?」 逃げながら、転寝は思い至る。これは『夢の戦い』。 夢の中で寝る奴など、いるわけがない―― だから、己の拳が完全に無力化されているのだ、と。 「無理ゲーにも程がある、だろがっ……!」 突きつけられた状況に、転寝は奥歯を深くかみしめる。 ザコの群れさえ蹴散らせないこの状況で、魔人を相手に戦うなど――夢のまた夢、である。 まず、コイツらをどう撒くか。 考えを必死で巡らせる中、転寝の背後100m先で―― 突如、爆発が発生した。 「ナメンナーッ!?」「ブッコミィーッ!?」「ヤキイカー」 転寝を追いかけていたショウナンボーイズが巻き込まれ、髪型をポンパドールからアフロへと変えながら吹き飛ぶ。 一部、イカめいた奴がいるような気もしたが目の錯覚だろう。イカはイカーとは鳴かない!常識! 「っ!? ……な、何だ……?」 爆風を背負いながら、転寝は立ち止まることなく後ろを振り返る。 江ノ島の“入口”、江ノ島大橋の上に―― あらゆるモノを蹂躙する、重厚なる銃口を備えた戦車が鎮座していた。 江ノ島大橋――ティーガー内部。 「やはり、久々に人相手に撃つと鈍るもんだな……」 決して快適とは言い難い車内で、掘瀬大我は独りごちる。 彼の魔人能力『パンツァーリート』は“ティーガー戦車を召喚する”という、シンプルな武力である。 尤も、独白通り――彼がこの能力を行使することは少ない。 特にここ最近は、もっぱら部活動で撃った位である。 理由はいくつかあるが、大きいのは二つ。 『戦車に頼らずとも、己の肉体で大抵の戦闘は片が付くこと』と、 『そもそも戦車をぶっ放すことに、執着がなぜか湧かないこと』だった。 魔人能力は、本人の妄想――“認識”によって発現する。 今や常識として学校教育でも教わる大前提だが、しかしそれならば。 「……なぜ俺は、戦車を生み出せるんだろうな」 大我は、悩んでいた。が、それも数瞬のこと。 悩みを振り切るかのように、再び主砲を放つ。 数多くのボートが停泊する港が、火の海に変わるまでそう時間はかからなかった。 「さて、港は潰した。次は、山だな」 冷静に呟き、砲塔を江ノ島の中央に向けて進撃を開始したその矢先。 総重量70トンのティーガーIIが横転した。 “何か”によって、横っ腹に突撃を受けて――! 「……っ!? 何だと……!」 横倒しになったティーガーIIから脱出しながら、大我は走り去る“何か”の後ろ姿を見た。 江ノ島・市街地―― 「……戦車の次は、電車かよおおおおおっ!!」 転寝は一息つく間もなく、逃げ惑っていた。 戦車の砲撃で港エリアを壊滅させられ、誘導されるように逃げ込んだ先で。 江ノ島第二の脅威に、遭遇した。 江ノ島内を縦横無尽、天地無用に爆走する真・地獄超特急――Eno-DEN。 前面は痛々しく凹んでいるが、それを意に介さず。 レールの有無も、道の有無も、障害物の有無も一切気に留めず。 運転手無き暴走電車が、哀れな獲物を追い続ける。 「一応、殴り飛ばせないこともない、んだろうが……速すぎるよな……」 転寝にとって救いは、今度の脅威が“電車”であることだった。 『睡生夢死』は、流石に眠ることのない物体相手には発動しない。 つまり、モノであれば転寝は己の戦闘力を存分に振るえる―― 「……電車ってんなら、足元崩しゃあ止まる、か?」 幾度かのニアミスを繰り返しながら、転寝はようやく目的の地点を見つけ出す。 何度目かのクイックターンを終え、遮蔽物の無い大通りを真っ直ぐ突っ切ってくるEno-DENを視界に捉えて。 転寝が、渾身の力で―― 地面へと、拳を振り下ろす! アスファルト舗装された道路が砕け、尚余りあるエネルギーが地面を隆起させ、爆ぜさせる。 さながら、巨大なジャンプ台の如くに――! そこに、Eno-DENが最高速度で乗り上げればどうなるか。 答えは言うまでもないだろう。 Eno-DENは転寝を轢殺することなく、その頭上を飛び越えていき…… 海の側に聳えた巨大な建造物に突き刺さる様に激突し――ついに機能停止に至る。 「はぁ……狙い通り、か」 だが、転寝は知る由もなかった。 その建造物が、ある生物を封印する為の設備であったことを。 建造物に生じた亀裂が大きくなり、軋み、割れる。 錆の浮いた『江ノ島臨海実験場』という看板が、ガタンと落ち…… 名状しがたい、江ノ島最大の脅威が、甦る。 「……何だ、ありゃあ」 Eno-DEN(と、それに追われた転寝)を追っていた大我が見たのは、奇怪な生物だった。 江ノ島に適応した麺状の巨大浮遊生物、エノシマ・スパゲッティ・モンスター(学名:エノシマアイランドスパ)。 直径3m程のボール状の肉体全てが、錨綱の如き太さの麺から構成されている。 複雑に絡み合ったそれらの合間からは、規格外の大きさを誇るシャミセンガイが何匹もはみ出している。 その様相は、遠目から見れば食欲をそそるボンゴレそのものだったろう。 だが、二人がそれを『美味そうだ』などと思う余裕はなかった。 咄嗟に大我が、能力を再度発動し――新たな戦車を喚び出す。 その数、二台。 「おい、そこの」 大我の呼びかけに、失いかけた正気を取り戻して転寝が振り向く。 「あんなのに襲われて決着、ってのも寝覚めが悪ぃだろ。 一時休戦だ、あのデカブツ潰すぞ。乗れ」 大我の申し出に、一瞬呆気にとられながらも――転寝は、不敵な笑みを浮かべた。 「アンタに向けて撃つかもしんねえッスよ?」 「やってみな。戦車でテキサス映画のマネする気があるならな」 「冗談ですってば。……んじゃ、怪獣退治といきますか」 戦車に各々乗り込み、上空に浮かぶエノシマアイランドスパに向かい合う―― 砲撃。 砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。 砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。 弾切れになれば、次の戦車を喚び出し。 弾の切れた戦車は、殴って吹き飛ばしてぶつける。 流石に戦車の砲撃までは転寝の能力も及ばなかったと見え、転寝の攻撃も十分に火力の助けとなっていた。 その事実に、転寝は少なからぬ安堵と、拳とはまた異なる男のロマンを存分に感じていた。 大我もまた、かつての思い出を地で行くシチュエーションに血が滾る思いであった。 絶え間ない二台の戦車による砲撃の前には、流石の空飛ぶスパゲティもひとたまりもなかった。 共生、或いは寄生していた大シャミセンガイが焼け、蠱惑的な匂いを放つ。 旨味と恐怖の詰まった汁を滴らせた麺が、焦げて千切れ飛ぶ。 やがて、体の三分の一ほどを失ったところで―― エノシマアイランドスパは戦意を失い、母なる海へと帰っていった。 「……なんとか、片付いたな」 大我が、弾切れになった戦車から出てくる。 「みたいっすね……」 同じく、転寝が全弾打ち尽くした別の戦車から抜け出る。 戦車の上で互いに視線を交わし、構えを取る。 「……それじゃあ、タイマンといくか」 「ですね……お手柔らかに」 お願いします、と転寝が続けようとした、その刹那。 江ノ島大橋の方向から飛来した砲弾が――大我に直撃し、爆発した。 「っ!?」 眼前の光景に絶句し、江ノ島大橋の方を見る転寝。 その視線の先には―― 「パネェマジコレ!」「パラリラー!」「イカー」 ――ティーガーIIにハコ乗りを決める、ショウナンボーイの姿があった! “徒党を組み、『乗り物』ならば何でも乗りこなす爆走本能の持ち主”! 彼らは横転し棄てられた筈の、最初の一台を力を合わせて元の体勢に戻し―― 本能に従って乗り込み、自分らを吹き飛ばした相手への報復を果たしたのだ! 「……嘘だろ、おい」 予想だにしていない横槍が入り、しかもおそらく戦いが決着したことに。 転寝は、呆然とするしかなかった。 しかし。 その呆然の意味は、数分後、あっさりと書き換わる。 主砲の直撃による粉塵の中から、大我が起き上がり―― 「AAAAARRRRRGGGGGGGGGGHHHHHHHHHHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 人ならぬ声の雄叫びで吠え、その大音声に相応しい体格へと、瞬く間に変貌していく。 金剛石を想起させる、鱗に覆われた屈強な皮膚。 樹齢数百年の巨木に匹敵する、太く頑丈な手足。 一振りで町が薙ぎ倒せそうな、長く強靭な尻尾。 万物を噛み砕く牙を備えた、眼光鋭い凶暴な顔。 全長10mの大怪獣・ホリセタイガーの誕生であった。 魔人能力の発現の際、大我は非常に戸惑った。 自分が憧れたのは、あの映画の中の―― “戦車に撃たれてもなお、歩みを止めぬ怪獣の力強さ”の筈で。 戦車群を蹂躙し、踏みつぶし、徹底的に破壊するその姿に憧れたのだから。 それが“戦車を召喚する能力”となったのは、彼にも何故なのか理解が出来なかった。 そんな中一つだけ、思い至った可能性は―― “あの怪獣の様に、自分も戦車に撃たれればいいのではないか?” 魔人能力が“認識”によって成り立つならば、自分のこの考えは間違ってはいないはず―― だが、いかに魔人といえど、戦車に撃たれたら十中八九死ぬ。 自分の“認識”の方が上だとわかっていても、軽々に試すことはできなかった。 だからこそ、大我は肉体を鍛え抜いていたのだ。 戦車の砲弾を受けきれる、屈強な身体を求めて。 もし、ショウナンボーイによる砲撃がもう少し早ければ――例えば、エノシマアイランドスパとの交戦前であったなら。 大我は砲撃の前に、呆気なく力尽きていただろう。 だが、エノシマアイランドスパとの出会い、そして撃破を通し、かつての頃の思いを取り戻したことで。 大我は、己の真の能力に目覚めることとなった。 本来ならば、この戦いの“褒賞”として得るつもりであった、己の見果てぬ夢を大我は手にしたのだった。 『大怪獣となり、街を思う存分に破壊する』という、かつて抱いた夢を。 そして、だからこそ。大我は、負けられなくなった。 この戦いに負けたならば、得た記憶は消えてしまう。 そうすれば、また己の肉体が上か、戦車の火力が上か悩み続ける日々の繰り返しだ。 その悶々とした日々の訪れに比べれば、悪夢の中眠り続けることなど些末に過ぎない。 目覚めてからも続く“悪夢”のほうが、余程耐え難い――! 大怪獣・ホリセタイガーは。 己を目覚めさせてくれた闖入者への礼をするべく、地響きを立てながら歩み寄る。 「ア、ヒ、ヒエェ……」「カイジュウ!?」「スルメー……」 先程までの余裕は、もはやティーガーショウナンボーイズには無かった。 度を超した恐怖の余り、逃げることすら叶わない。 「AAAAAAAGGGGRRRRRRAAAAAAAAAHHHHHHH」 喜色と愉悦を湛えた唸り声と共に、大我は尻尾を力強く叩き付けた。 数刻前まで彼が乗り込んでいた重戦車が、哀れな江ノ島の民を巻き込んで鉄屑と化した。 その様を、満足げに眺め終えると―― 大怪獣は、残る獲物へと向き直った。 詰んだ。 転寝は眼前の大我を見て、素直にそう思うしかなかった。 せめて、己の拳が、武術が、魔人能力が。 何か一つだけでも通れば――戦えるのに。 全力を込めて殴っても、ザコにさえカスリ傷一つ負わせられず。 しかも夢の世界の中では、相手を眠らせることも出来ない。 当たり前だ、夢を見ている奴は既に寝ているのだから、それ以上眠るはずがない。 ……既に、『寝ている』? 転寝の頭の中で、何かが弾けるのと同時に。 大怪獣の足が、踏み降ろされた。 ぺちゃり、と肉と骨と血が弾ける音が―― しなかった。 「……GRRR?」 大我が、僅かに訝しんだ次の瞬間―― 自慢の巨体がバランスを崩し始めたことに気付く。 その崩れは、足元から――踏みつけを繰り出した左足からだった。 「宇多津流夢遊睡拳――“枕返し”」 踏み降ろされた質量と速度を、最小限の動きで反転させる。 受け流しとカウンターを併せた、因果応報の返し技によって―― 推定体重数百トンの怪獣が、盛大にスッ転ぶ。 「GYAAAARRRRR!?」 何が起きたのか。理解できない――と言わんばかりの怒りの声を挙げながら大我が藻掻く。 それを横目に、転寝は――自信と、確信に溢れた表情を浮かべていた。 「ここが夢の中、ってんなら……つまり、俺も“寝ている”ってコトだよな」 確かめる様に、己の至った思考を口に出す。 そうすることで、己の“認識”を――書き換え、補強する為に。 そして、眼前の大怪獣に負けぬ大音声で、叫ぶ! 「だったらよお……夢遊睡拳が、十全に使える、ってコトだよなあああああああああああああ!」 夢遊睡拳。 『寝ている間だけ威力を発揮する拳法』―― 普通に考えれば、夢の戦いでは役に立たない拳法が、この瞬間。 夢の戦い最強の拳法へと、生まれ変わった。 「悪く思うな、大怪獣センパイ―― 怪獣退治、ラウンド2だ。巨大化も変身もできなくて、すまねえな」 「“木綿崩し”!」 立ち上がった大怪獣の足元を薙ぎ、再び転倒させる。 「“羽毛渡り”!」 尾による反撃の衝撃を逃がし、ひらりと空中へ舞う。 「“鐘鳴らし”!」 高く舞い上がった勢いのまま、踵落としを肩口へと叩き込む。 体格差で数十倍、数百倍の差がありながら―― 転寝が、大我を圧倒している。 何故、転寝の拳法が怪獣に“効いている”のか。 その理由は、解ってしまえばシンプルな答えである。 『宇多津転寝が寝ている間は、睡生夢死は発動しない』――これだけのことだ。 転寝のあまりに短すぎる睡眠は、彼自身では制御できない。眠りたくても、眠れない…… だから『自分の意志でオンオフができない』のだ――! 「G,GRRAAWWW……」 大怪獣・ホリセタイガーは――それでも、必死に暴れた。 せめて少しでも、この夢を。一分一秒でも長く、楽しもうと。 それは、転寝も同じだった。 夢の戦いは一度きり、勝っても負けても――もう、こんな最強は、味わえない。 それでも、夢は覚めるものだと。二人とも分かっていた。 「――宇多津流夢遊睡拳、奥義」 転寝が、大我の足を、腕を、肩を渡り、頭上高くへと跳び上がる。 そして、空中で拳を引き絞り――ホリセタイガーの脳天へと、最後の一撃を放つ。 「“朝告げ鳥”!!」 皮膚を、筋肉を、骨を、脳を――衝撃が、突き抜ける。 ぐらり、と大怪獣の身体が前のめりに倒れ、動かなくなった。 その表情は――どこか、満足げに見えた。 “おめでとう。勝者よ” 朝日が差し込む中、転寝の脳内に声が響く。 “無色の夢”――その主の声が。 「あー……どうも」 転寝は、目の前で倒れ伏す大怪獣――否、既に人間に戻った大我を見ながら どこか無気力に答えを返す。 “望む瑞夢を与えよう。何を望む” 「んー、そうだな……とっとと起こしてくれ」 “わかった、起床を…… ……待て” 転寝の返答に、“無色の夢”が思わず困惑の色を浮かべる。無色なのに。 「んあ?何だよ、起きちゃいけねーのか?」 “否、問題はない、が……つまり、お主は望まぬのか? 見たい夢を思う存分見ることを” 「まあな。 つーか、もう十分見たさ」 “無色の夢”の問い掛けに、転寝は満足そうに答えた。 「あーでも、もし差し支えがねえなら……そうだな。 目の前の大怪獣センパイのペナルティ、ナシにしてくれ」 “……よかろう。それが勝者の望みならば” 転寝の願いの後、“無色の夢”の気配は薄れ――目覚めの時が、訪れた。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/90.html
第1試合SSその1【不幸という名の楽園】 【不幸という名の楽園】 「だあああ! 追いかけてくんじゃねー!」 五月女の叫びは、空しく熱帯雨林のジャングルに響いた。 懸命に走る彼を、ゴリラの大群がウホウホと追いかける。古今東西各国から取りそろえた、より取り見取りのゴリラ達だ。五月女は完全に涙目である。 今回の戦いにおいて、五月女の不幸はとどまるところを知らなかった。 あれほど大々的に対戦相手を募集したのに、芳原梨子なる相手は名乗りをあげなかったこと。 ならば夢の中で説得すればいいと思ったものの、戦いの舞台であるジャングルには、無数のゴリラが蠢いていたこと。 ゴリラに話が通じないこと。 五月女が、ゴリラという動物が死ぬほど嫌いであること。 対戦開始の時点で、既に不幸のオンパレードである。 「それにしても、多すぎだろこれ……!」 ジャングルは、完全にゴリラの海だった。 中には、ジャングル特有の生物であるザトウクジラに呑まれるゴリラや、ジャングル特有の生物であるマンモスに踏みつぶされているゴリラなどもいる。 完全に、生態系におけるゴリラ許容量を超えている。 その数、約20万ゴリラ。 「ジャングルって、こんなにゴリラがいるもんなのか……? いや、んなわけねえよな」 だとしたら、これは敵の能力の可能性がある。そこまで考え、五月女はふと思い出した。 自分は、こんなことができる能力者を、ただ一人だけ知っている。 ふんがーどんがーふんがーどんがー。 五月女の耳に、間の抜けた行進曲が届いた。 音の先に視線を向けると、そこには、ゴリラの海をモーゼの如く切り開き、ゴリラ一個中隊を引き連れ歩く女の姿。 その姿を見た瞬間、『無色の夢』で知った対戦相手の名が、10年以上前の淡く切ない思い出に繋がった。 ゴリラ・モンキーチンパン……芳原梨子。 五月女のゴリラ嫌いの原因にして、初恋の人である。 【残ゴリ数:20万匹→18万8564匹】 ********************************* 五月女が高校生のころ、1か月だけ五月女の隣家に住んでいた、中学1年生の少女がいた。 少女は太陽のような元気さと、わけ隔てない優しさを持ち合わせていた。 その輝くような笑顔は、生きることを心から楽しんでいるような、子どものような純粋さを感じさせた。 少女は、五月女の心を一瞬で奪っていった。 だが、別れの時も早かった。 少女に魔人能力が発現し、その時の暴発により、近隣一区間にゴリラ・パンデミックを引き起こしたのだ。 梨子が能力を解除し、ほとんどのゴリラは人間に戻った。しかし、やはり周りの目が痛かったのであろう。12歳の梨子は、ゴリラ化した父親に手を引かれ、引っ越していった。 隣家に住んでいた五月女もまた、パンデミックに巻き込まれてゴリラになり、それが今でもトラウマになっている。 それでも、梨子に感じた淡い恋慕の情は、時を重ねても色あせることなく、五月女の心に秘められていた。 そんな梨子と、争うことが約束された夢の戦いで再会を果たすとは、何の因果だというのか。 五月女にとって、芳原梨子が対戦相手だったことが、最大の不幸であった。 ********************************* 「梨子ちゃん!」 五月女が声をかけると、梨子の周りのゴリラ達が、鼻息荒く五月女を睨み付けた。 と同時に、ジャングル特有の生物であるプテラノドンが、ゴリラ達に襲い掛かった。 その強烈な急降下攻撃に、ドラミングやゴリラパンチで応戦するも、敵は空中だ。地を這うゴリラ達には、手も足も出ない。これには、ゴリラも苦笑い。 大自然の生態系ピラミッドに、ゴリラ達はなすすべもなく惨殺されるのであった……。 それはともかく。 五月女は、目の前で行われた過酷な生存競争に若干引きながらも、気を取り直して梨子に近づく。 梨子は五月女が誰だかわからない様子で、クエスチョンマークを2,3個飛ばした後、合点した様子でポンと手を叩いた。 「サンダー・ゴルルコビッチ大佐じゃないですか! 南極で、サーベルタイガー部隊に野営地を爆破されて以来ですね! あれ、右足は義足ですか?」 「うん、それ絶対違う人だね」 いったい、どんな人生を送ってきたんだこの子は。 「俺だよ。君が中学1年生の時、隣に住んでた五月女水車」 「あー! 水車にいちゃん! お久しぶりですー! お元気でしたか?」 「梨子ちゃんも相変わらず、元気そうで嬉しいよ」 ニコニコと、心底嬉しそうに再会を喜ぶ梨子に、五月女は目を細めた。相変わらず、邪気のない良い笑顔をする子だ。変わらない想い人の姿に、嬉しさを禁じ得ない。 芳原梨子の魔人能力、『ゴリのゴリリズム』は、芳原梨子が発した「ゴリラ」という言葉を聞くと、少しずつゴリラ化が進行していくという恐ろしい能力だ。だが、それは精神的か肉体的に弱っていなければ、無害なものである。気を張ってさえいれば、決して強い能力ではないのだ。 「いや、相手が梨子ちゃんで良かったよ。実は俺、あんまり夢の戦いに興味なくてさ。対戦相手に勝ちを譲ろうと思っていたんだ」 「えー、いいんですか!? ピョンピョン跳ねながら喜ぶ梨子に、五月女は久方ぶりの愛しさを覚えた。相変わらず、この子はかわいい。 ゴリラにされたトラウマはあるが、基本的には愛嬌のあるいい子だ。こんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しくなってくる。 「もちろんだよ。他人ならともかく、相手が梨子ちゃんなら喜んで」 「うひゃー、ありがとーございます! 水車にいちゃん、やっさしー」 「いやいや、ははは」 梨子は、喜びの勢いのままに、ギュッと五月女の腕に抱き着いた。押し付けられる柔らかい感触。五月女は、思わず梨子の股間に尿をぶち込みたい衝動に駆られた。 「あ、じゃあねじゃあね、お礼! 水車にいちゃんは、ニシゴリラとヒガシゴリラどっちがいい?」 懸命に悪い自分と戦っていた五月女には、一瞬問いの意味が分からなかった。 「……んん? ごめん、なんの話してんの?」 「褒章の夢で見たものは、現実世界に反映されるでしょ! だから、その時のために、なりたいゴリラのリクエストを聞いておこうかと思って!」 五月女は、頭を殴られるような衝撃を覚えた。 夢の戦いに臨むにあたって、五月女も出来る限りの情報収集は行ったが、そんな話は聞いたことはない。現実的に考えて、そんな出鱈目あるわけがないとは思う。 しかし、確証はない。 そもそも、この『夢の戦い』自体が出鱈目なのだ。さらに輪をかけて出鱈目なことがあるはずがないと、誰が言えるだろうか。 『勝利の報酬で見た夢が現実にも反映される』可能性は、決してゼロではない。 五月女の疑惑は、五月女自身の思い込みと深読みにより、根拠のない確信へと変わっていく。 この時、梨子によってもたらされた根も葉もないデマゴーグは、五月女にとっては真実に足り得るものとなってしまった。 「……ちなみに、梨子ちゃんはどんな夢を見るつもり」 不安に心臓が高鳴る中、五月女は梨子に尋ねた。安心を得たくて、尋ねてしまった。答えなんて、聞く前からわかっているというのに。 梨子が、顔一面に満開の花を咲かせた。 その愛くるしい少女の言葉は、五月女を絶望に追い込むには、十分なものであった。 「世界がゴリラになる夢!」 五月女は、世界を守るために戦うことを決めた。 【残ゴリ数:19万8564匹→8万2873匹】 ********************************* 五月女が尿を漏らし、魔人能力を発動させた。一瞬にして、整った顔の美丈夫から、麗しいゆるふわ森ガール系の女子に変化する。 どうせ、五月女が勝てば梨子の記憶は消えるし、負ければ世界は終わりなのだ。ここに至って、躊躇をしている余裕はなかった。 「うわ! 水車にいちゃん、なにそれ! すごい!」 梨子が、驚きの声を上げる。そう、目の前に立つ人間の性別がいきなり変われば、人は驚く。それこそが、五月女の勝機。 五月女の能力『ニューヨーク・オーシャン』は、尿という限定条件はあるものの、とどのつまりは少量の水を操る能力である。戦闘においては、心もとないものだ。 だが、それでも攻撃手段がないわけではない。 五月女は、尿を芳原梨子の顔面に向けて飛ばした。 狙うは、酸欠による失神。これこそが、『ニューヨーク・オーシャン』を使った、最も確実な勝ち筋である。 梨子は、五月女の変化にただ驚き、初めてマジックを見た子どものように手を叩く。既に五月女が敵になったことなど、知る由もない。 今ならば、当たる。 五月女の尿が、梨子の眼前に迫った、 その瞬間。 「ウホオオオオ!(あぶなーい!)」 ビチャ。 五月女渾身の顔射は、梨子の盾となるべく飛び込んだゴリラの顔面に吸い込まれた。 五月女は、膝から崩れ落ちた。正直、役得と思っていた。世界を守る口実で、初恋の女の子の顔面に自分の尿をかけるのだ。そんな美味しい話はない。 その結果、ゴリラへの顔射。なんということだ。俺の期待を返せ。五月女は、本気で涙ぐんだ。 そこに、顔を真っ赤にして頬を膨らます、梨子の怒声が響いた。 「負けてくれるって言ったのに! 水車にいちゃんの嘘つき! 極悪人! ばかー!」 梨子が右手を高々と上げ、五月女に向かって振り下ろした。すると、梨子の背後に待機していたゴリラの群れが、津波のように押し寄せてくる。 五月女のトラウマが刺激される。全身に、鳥肌が立った。 「ゴ、ゴリラ! こっちこないでー!」 一糸乱れぬ隊列で迫りくるゴリラ達。並の魔人であれば、この圧倒的物量に、たやすくゴリ殺されてしまうだろう。 しかし、五月女の動きは軽やかだった。まるで宙を舞うように、するするとゴリラの猛攻を躱し続ける。 これは、五月女が手と足につけたプラスチック製の腕輪と足輪の力である。 リング状のこれらは空洞になっていて、中に尿を入れることができるようになっている。そこに入った尿を操ることで通常では考えられない動きを可能にする。 五月女は、尿を手足以上に自在に操るのだ。 しかし、ゴリラ達もそう簡単には振り切られない。訓練された軍隊のように波状攻撃を仕掛けながら、徐々に五月女の逃げ場を塞いでいく。 「ちっ……!」 五月女は、逃げ場を求めて空高く舞い上がった。尿を空中で操れるのだ。当然、尿を手足に装備した自分も空を飛べる。 「むむむー。空を飛ぶなんて、卑怯だぞー!」 梨子には、当然空を飛ぶ手段などない。このまま指をくわえて見ているしかないのだろうか。 答えは否! 「ゴリミーッド!」 梨子が叫んだ瞬間、ゴリラ達の組体操が始まる。 扇を模るゴリラ。飛行機を模るゴリラ。それらをウホウホと応援するゴリラ。そうさ僕らは世界に一つだけのゴリラ! 一人一人違うゴリを持つ! そのゴリをゴリすることだけに一生懸命になればいいじゃないか! ゴリラ達が四つん這いになり、その上に乗ったゴリラがさらに四つん這いになる。それを繰り返すことで、空高くそびえ立つ、ゴリラによるピラミッドが完成していた。 「ウッホウホウッホウホ!」 「みんな、ありがとう!」 ゴリラを踏みしめながら、五月女に向かって猛烈な勢いで走る梨子。それに続く、ゴリラの群れ。もはや、空中に死角はない。五月女は絶体絶命だ。 だが、五月女水車は慌てない。ゴリミッドの建設中から、既に布石は打っていた。 「チェックメイトだよ、梨子ちゃん」 五月女の手足につけたリングには、ほとんど尿が入っていない。浮遊を保持するための、最小限の量だ。では、残りはどこにいったのだろうか。 答えは、地面すれすれに浮く、5ミリ程度の小さな球にあった。 成人の一回の排尿量は、約200mlから400ml。 それが、1cmに満たない大きさに押し込まれた時、中の水圧はどれほどになるだろうか。 五月女は、球のほんのわずかな一部分の圧力を緩くした。ぎゅうぎゅうに詰められた尿は、開放を求めてその出口に飛び込んだ。 尿によるレーザービーム。それは、ゴリミッドの土台である、1段目のゴリラ達を無慈悲に惨殺した。 「ウホアアアアア!」 ゴリラ達の絶叫。足場を崩された幾万ものゴリラ達も、瞬く間に地上の星となった。 当然、芳原梨子も例外ではない。既に、ゴリミッドの高さは10メートルを超える。落下すれば魔人と言えど、無事で済むわけがない。 ここに勝負は決した。 そのはずだった。 【残ゴリ数:8万2873匹→2万1243匹】 ********************************* 五月女は、己の目を疑った。 梨子は、ゴリラを2匹手に持ち、それをばっさばっさと羽ばたかせ、宙に浮いていたのだ。読者諸兄も何を言っているのか全くわからないと思うが、これが眼前に存在する事実だ。ノンフィクションは、フィクションを超えうる! それを教訓としてほしい。 1匹のゴリラは、あまりの上下運動の激しさに、吐しゃ物をまき散らしながら「助けて……助けて……」と呟いている。もはや、ウホウホ言うことすら忘れてしまったようだ。 もう1匹のゴリラは生気が無く、目は白濁色に濁り、一言もしゃべらない。普通に死んでるっぽい。 「ふふ、水車にいちゃん、知らなかったようだね。ゴリ剣は、ゴリラを武器とする剣道! ゴリラをうまく使えば、空も飛ぶことだって可能なんだよ!」 「いや、梨子ちゃんの言ってることが何一つわからない!」 「くらえ! ゴリラ手裏剣!」 梨子が、吐しゃ物をまき散らしていたゴリラを投げた! 手と足をかぎ型に曲げ、卍の形をしたゴリラが、五月女に向かって飛んでくる。明らかに顔色が悪く、今にも死にそうなのに、ちゃんと卍の形を作るとは。 何が、ゴリラをそこまで駆り立てるのか。この異様な忠誠心こそが、戦後日本を先進国へと発展させた、なにくそ魂とでもいうのだろうか! 「ウホオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ……」 あっさり躱され、明後日の方向に飛んでいくゴリラ手裏剣。さらば、ゴリラ手裏剣。また会おうゴリラ手裏剣。我々は、君の雄姿を忘れない。 梨子は、いつの間にか再度組みあがっていたゴリミッドの頂上に、仁王立ちしていた。強風にスカートのすそをはためかせ、その目には涙を浮かべている。 「なんて人! 尊いゴリラの命を無残に散らすなんて! 水車にいちゃんの鬼畜め!」 「いや、投げたの梨子ちゃんだよね!?」 「そんなド鬼畜水車にいちゃんは、このゴリラブレイドを食らえー!」 そう叫んで、梨子は「死にたくねえ……死にたくねえ……」と呟くゴリラを手に取り、五月女に向かって振り上げた。 その後の大空中戦は、筆舌に尽くしがたいものであった。 梨子は、何棟も建てられたゴリミッドを渡り歩きながら、ゴリラを投げたり、振ったり、飛ばしたり、細切れにしたり、みじん切りにしたり、炒めて盛り付けしたりと、それはもう圧倒的な攻撃を放った。 ゴリラ嫌いの五月女は、上下左右と縦横無尽に飛びながら、完全に防戦一方だ。正直、あまりにもひどいゴリラの扱いに同情していたというのもある。 梨子は、徹頭徹尾ただはしゃぐのが楽しくてしょうがないといった様子だった。まるで、おもちゃを振り回す幼稚園児のように、なんの陰りもない笑顔を見せる。 本当に、この子は昔から何も変わらない。 引っ込み思案の五月女は、人生を楽しむためなら敵を作ることも厭わない梨子の姿勢に、ずっと憧れていた。それは、周りにとっては、さぞ迷惑なものだっただろう。 だが五月女は、どこまでも自分を貫くことができる梨子を、心底格好いいと思ったのだ。 今の梨子も、その時とまるで変わらない。これでもかというくらい全力で、人生を謳歌している。 五月女は、この笑顔を、いつまでも守ってあげたいと思った。 五月女水車は、改めて、芳原梨子に惹かれている自分に気が付いた。 【残ゴリ数:2万1243匹→2976匹】 ********************************* 「ふわー、楽しかったー!」 残り1棟となったゴリミッドの頂上で、梨子が爽やかに汗を拭った。息をするたびに肩を上下させる。かなり疲れているようだ。 「水車にいちゃん、すごいね! こんなにゴリ剣を躱し続けた人、今までいなかったよ」 「ふふ、梨子ちゃんもすごかったよ。まさか、あそこでゴリラをサウザンドレッシングに和えるとは思わなかった」 五月女は空に浮きながら、乱れた髪を整えた。 まだ余裕はある。家でいつも尿を操り、魔人能力の扱いに慣れていたことが功を奏した。継続こそ力なり、と言うやつだ。 残ゴリも底を尽きはじめている。このまま消耗戦に持ち込めば、梨子の勝ちの目はなくなるだろう。 事実上の、詰みだ。 「梨子ちゃん、降参してよ。これ以上やっても、この勝負は私が勝つよ」 「むぅー、それはやだ。世界をゴリラにするのー!」 梨子がゴリラの上で、じたばたと足を踏み鳴らす。本当に、子どものまま大人になってしまったんだな。五月女は、思わず笑みをこぼした。 しかし、梨子がこのままでいられるほど世界は優しくない。彼女もいずれ、現実の壁にぶち当たるだろう。 この世は、楽園ではないのだ。その時、梨子は今と同じように、笑っていられるだろうか。 「梨子ちゃんさ。世界をゴリラにする以外にも、楽しいことはあるんじゃないかな」 「えー、そうかなー」 「例えば、今私と遊んでいるときは、楽しかった?」 「あー、うん! 楽しかった! 水車にいちゃんは、昔から強くて格好いいもんね!」 今の俺には、金がある。人気芸能人と言う、地位もある。俺ならば、梨子ちゃんの笑顔を守れるのではないか。 そうだ。この世に楽園がないならば、作ればいい。梨子ちゃんにとっての楽園を、俺がこの手で。 それが例え、梨子ちゃんが真に望む楽園ではなかったとしても。 俺は梨子ちゃんのそばで、この笑顔を守っていたい。 「だったら、俺のところに来ないかい?」 五月女は、唾を飲んだ。 生放送の舞台だって、こんなに緊張はしない。受け入れてもらえなかったらどうしよう。そんな不安と、弱気が顔を出す。 それでも、俺は君が好きだから。 「俺に一生、君を守らせてほしいゴリよ」 言い知れない違和感に、全身が包まれた。 今自分は、なんと言った? 梨子が、笑った。誕生日プレゼントが入った箱を受けとったときの、子どものように。もうすぐ、楽しい時間が訪れる。それが、嬉しくてしょうがないというかのように。 「わたしの魔人能力『ゴリのゴリリズム』は、消えることはないの。一度ゴリラになったら、解除されたように見えても、ゴリリズムの毒素は体内に残り続けている」 「ゴ、ゴリちゃん。何を言ってるウホ……」 何を言っているのかわからないのは、俺だ。 なんだ。なんだこれは。 「体内にゴリリズムが巣食う人は、ゴリラになりやすくなる。わたしのそばにいるだけで、ゴリラと言う言葉を聞くまでもなく、ゴリリズムの効果はあらわれるの」 焦燥する五月女の脳裏に、ある旋律が響いた。 CMソングとしても起用され、オリコンシングルデイリーチャートでは最高第4位を記録したあの名曲……にかなり似ている旋律が。 「ゴリリズムは、繰り返す」 その瞬間、梨子ちゃんの体が空高く舞い上がった。 いや、違う。 落ちているのは、俺だ。俺の体が、地面に向かって真っ逆さまに落ちているのだ。 【残ゴリ数:2976匹→2977匹】 ********************************* 地面に至るまでの、永遠に感じるほどの一瞬。五月女は、自分に何が起こったのかを理解した。 『ゴリのゴリリズム』は、精神的に弱っているとき、その効果を発揮する。 今まさに自分は、緊張と、不安と、弱気に苛まれていたではないか。 それはそうだ。初恋の女の子に告白するなんて、心臓がいくつあっても足りやしない。 そして、『ニューヨーク・オーシャン』は、自らを女性化し、自らの尿を操る能力だ。制限として、五月女の主観で水準以上の容姿を持った女性の尿しか、操ることはできない。 五月女は、自分の尿を操って空に浮いていた。 『ニューヨーク・オーシャン』では、醜いゴリラの尿など、操れるわけがないのだ。 五月女の意識が、闇に消えた。 【残ゴリ数:2977匹→2976匹】 ********************************* 五月女は、芳原梨子の膝の上で目覚めた。 黒く柔らかな草が生えた草原は心地よく、遠くに見える灰色に剥げた山々は、どこか心を落ち着かせた。 そこかしこに飛び交う、5メートルはあるだろう異様な大きさのノミにも、なぜか嫌悪感はなかった。そこにいるのが当たり前と言う、不思議な安心感があった。 梨子の大きな胸が、五月女の額に当たっていて、梨子の表情はうかがえない。 だが、五月女はわかっている。梨子は、いつもと同じように、子どもみたいに笑っているのだ。 それが、芳原梨子という女なのだ。 「あ、水車にいちゃん。起きた?」 梨子の柔らかな声が、五月女の耳をくすぐった。 五月女は、右腕を持ち上げる。それは、自分の腕とは思えないほど強靭で、毛深く、獣臭い腕だった。 「すっごいよー。なんかねえ、世界がゴリラ!」 ウホオオオオオオ……。 梨子の喜びの声に呼応するかのように、地面からゴリラの唸り声が聞こえた。 世界がゴリラになる。人も、草木も、惑星さえも。それこそが、芳原梨子の瑞夢。 そして、それこそが五月女にとっての凶夢。 二人は今、同じ夢を見ているのだ。 この夢が、現実世界に反映されてしまうのかもしれない。それは、世界の終わりを示すのだろう。 だが、それも五月女にとってはもはやどうでもいいことだ。梨子といつまでも一緒にいられるならば、どこであろうとそこが楽園なのだから。 五月女にとって、芳原梨子が対戦相手だったことが、最大の不幸であった。 だとすればそれは、なんと幸福に似た不幸だろうか。 五月女は、空を見た。 本来太陽があるべき場所には、にこやかに笑うゴリラの顔が浮かんでいた。 【残ゴリ数:∞】
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/105.html
第6試合SSその1 ++++++++++ 開業医・愛頽 行次(めで いくじ)五十三歳は、己が信奉する現代医学の力不足を痛感していた。 彼の妻にして五人の息子たちの母である千夜が覚めぬ眠りにつき早一カ月が過ぎようとしているが、彼は一向に治療方法を見つけることができずにいた。 この一カ月、彼は妻と同種の症例の患者の元を駆けずり回り、多種多様な外科手術や薬物投与の実験をしてきた。中には違法スレスレの治療行為もある。だがそれだけ手を尽くしても症状が改善した患者は一人としていなかった。 そうして手をこまねいている間にも眠り続ける妻の体は衰弱し、死に向かって進んでいく。しかしすべての手を使い果たした行次にはどうすることもできない。こうして薄暗い書斎でどうしようもない無力感に涙を流し、妻を失う絶望に震える体を抱えることしかできないのだ。 (もう駄目だ……私ごときに千夜を救うことなど不可能だったのだ……いっそのこと彼女と共に死ぬべきでは……) 行次の精神がネガティブな感情に押しつぶされていく。このままでは彼は今夜にでも自殺してしまうだろう。 (死のう……死んで千夜に謝ろう……ついでに死んだ婆さんにも謝ろう……もらったジュースは不味かったから流しに捨ててたって正直に言おう……) 行次の手がテーブル上の手術メスに伸びる。しかしその時、彼の脳内に古い記憶がリフレインした! ≪行次や、これはジュースじゃあないんよ。これはおりゅうさまから湧いた水でな、飲むと病気を治してくれるんよ≫ それは今は亡き祖母の記憶。 懐かしい思い出が、行次の手を止めさせた。 そして、その中のあるフレーズが彼の脳髄にひとつの可能性をもたらしたのだ! 「……『おりゅうさま』」 『おりゅうさま』とは彼の住む町において信じられている民間宗教のシンボル、山の頂に鎮座する巨大な石像のことである。 そこから湧き出る水は飲めば無病息災、傷を癒し病を治すと言い伝えられている。 行次は現代医学を信じ、それに生涯を捧げた男。宗教、まして地元の民間信仰など信じることはない。平常時であれば鼻で笑って忘れてしまうことだろう。 しかし今は妻の危篤!どんなことであろうとも、彼女を助ける為ならば試してみる価値はある! 彼は全速力で『おりゅうさま』の元に向かうと、竜の頭部にあたる部分から滾々と湧き出る水を注意深く汲み取った。そしてそれを持ったまま自らの病院に戻ると、眠り続ける愛妻の口にスポイトを使って少しずつ流し込んだのだった…… ++++++++++ ■▼■▼■▼■▼■ ハローエブリワン! 俺だよ、一夜だよ! えっ? お前なんか知らないって? そんな人はブラウザバックして参加キャラクター説明を読もう。矢塚白夜ところな。 …… 読んだ? 理解できた? 他に比べて長いし読むのが面倒だった? それはごめん。自分でも書き過ぎたと反省してる。反省ついでに簡易キャラ説書いといたから、ざっくり知りたいみんなはそっちを見てくれよな。 さて、これで俺のバックグラウンドはみんなも分かったと思うし、いっちょはりきって弟の活躍を書いていきますか! なんだか上の方がぼやけて読めなかったけど、まあ大したことじゃないだろう! ■▼■▼■▼■▼■ 戦いの舞台は遊園地。見える範囲にはメリーゴーランドにジェットコースター、観覧車に巨大ドラゴン像などのアトラクション。さらにはポップコーンや甘そうな飲み物の屋台が立ち並び、観光ババア集団や海坊主の群れなんかが遊んでいる。雰囲気からして楽しそうだ。 …… もう一度見てみよう。 戦いの舞台は遊園地。見える範囲にはメリーゴーランドにジェットコースター、観覧車に巨大ドラゴン像などのアトラクション。さらにはポップコーンや甘そうな飲み物の屋台が立ち並び、観光ババア集団や海坊主の群れなんかが遊んでいる。雰囲気からして楽しそうだ。 ……? なんだろう、すごい違和感。 「……遊園地か。遊園地は久しぶりに来た……な……?」 あっ、あの特徴的なガスマスク姿は白夜! どうやら来たばかりのようだが、早速違和感に気づいたらしい。さすが俺の弟、すばらしい観察力だ! 「……最近の遊園地はこんななのか。見たことないアトラクションも多い」 前言撤回。観察力はそんなでもなかった。 「ちょっと遊んでいこうかな……少しくらいなら大丈夫だろう」 大丈夫じゃない! まずい。白夜のやつ、小学生以来の遊園地来訪に童心に帰っているんだろう。ガスマスクから覗く目がこれでもかと輝いてるし、足取りも軽快でステップまで踏んでやがる。 しかし白夜はアラサーのガスマスク成人男性。その浮かれ具合は見ていてちょっと痛々しい。こんなことになるならガキの頃にもっと遊園地に連れて行ってやるべきだった。 しかし今反省してもしょうがない! 過去は変えられないし、現実からは逃げられない! 今は夢の中だけどね! 俺は百夜にアクションを促すことに決めた。 どうやるかだって? まあ見てなさい。 『あーあー、マイクテスマイクテス。スウ―ッ、ハアーッ……白夜ーーー!!! 聞こえるかーーー!!! 俺だ―――!!! 一夜だーーー!!!』 遊園地内のスピーカーから俺の美声が流れ、周囲に響きわたる! これぞ秘策その1、<園内放送>だ! 仕組みは簡単。俺のいる空間から遊園地の放送機構をハッキング、自由自在に声を送れるようにした。これで白夜は俺からアドバイスを受けたり、俺を通して敵の情報を聞いたりできるのだ。まあ、まだ情報らしい情報は持ってないけど。 「そのアホみたいな声は兄貴か!? 今どこに!?」 うんうん、聞こえたみたいだ。しかし、 『アホとはなんだアホとは!!! お前をサポートするためにわざわざこうやって……』 「えっ、サポートとか別にいらない」 いきなり不要と言われてしまった。 俺、このハッキングだけでもかなりの労力を費やしたんだけどなあ…… 『そんな事言わないで頼ってみろよーーー、案外役に立つかもしれないぞーーー?』 「じゃあ金返してくれ。二百万円」 『あーーーあーーー聞こえませんーーー機械の調子が悪いのかなーーー!!?』 五年も前のことをよく覚えてるな……もう忘れたもんだと高をくくっていたぜ…… ちなみに借りた二百万はとある事件の後始末に使った。美少女ひとり救ったんだからそれくらい必要経費だよな。 「ハア……もう行っていいか?」 『行くってどこに』 「さしあたっては、あそこのジェットコースターかな……」 『遊んでんじゃねえ!!!』 駄目だこいつ、頭の中は楽しい遊園地でいっぱいだ…… 白夜は俺の声を無視しスピーカーを一瞥すると、ジェットコースターへ小走りで向かっていった。 ……そして、横から飛び出してきた海坊主になすすべもなく轢かれた。 浮かれて注意力が落ちていたんだろうな、うん。 ■▼■▼■▼■▼■ ++++++++++ 竜は夢の中において、ひとりの少女と出会った。 ここは竜の夢。本来ならば他者に会うことありえないだろうが、何かしらの縁がそれを可能としたのだろう。 彼女は成人女性であり少女というには少し年を食っていたが、竜から見ればそう違いはない。なにしろ竜は彼女の何万倍と生きてきたのだ、時間の感覚がそもそも異なる。 出会って間もない頃、彼女は竜に怯えていた。しかし竜の知性を認め、敵意をもっていないことをを悟ると、彼に話をし始めた。竜は黙ってそれを聞いた。 それは、彼女の身の上話だった。 愛する夫がいて、やんちゃな五人の息子たちがいて、いろいろ面倒な兄が二人いて。自分の生活だとか、職業はなにをやっているだとか。そんなとりとめもない、他愛のないこと。 そんな愛すべき日常から離れ、帰ることができなくなってしまったこと。 実のところ、竜はその話を聞いてはいたがこれっぽっちも内容を理解する気がなくて、まるで小鳥のさえずりを聞くかのような心持で耳を傾けていたのだが、それでも彼女の声に込められた悲痛さは理解できた。 そして、できることならば彼女の悲しみを取り除いてやろうと思った。 ……竜は思い出した。最初に夢を見た時のことを。 ほとんど内容を忘れていたが、『勝てば夢が叶う』ということはぼんやりと記憶していた。 何に勝てばいいのか。そもそもなぜ夢の中で戦うのか。その辺はまったく覚えていない。 しかし、勝てばどうにかなるのだろう。 幸いにも竜には今やるべきこともやりたいこともない。しいて言えば久方ぶりの夢を楽しみたいということだけだ。ならば少しくらい寄り道してもいいだろう。 こうして竜は少女を伴い、夢中の遊園地に降り立ったのだった。 ++++++++++ ■▼■▼■▼■▼■ む、またぼやけたな……うまく読めなかった。 一方そのころ。海坊主に轢かれた白夜は、観光ババアたちの介抱を受けていた。 不幸中の幸い、白夜の怪我はたいしたことはなかった。海坊主の体は80%が海水でできているため、自動車事故よりは軽く済んだのだ。 しかしそれでも全身打ち身でしばらく動けないだろう。もちろん戦うことなどできない。どうするんだこれ…… ところで、 『婆ちゃんたち、なんでここに居るんだ?』 「うん?」「誰じゃ誰じゃ」「あそこの喇叭じゃな」 おっと、驚かせてしまったか。 『ああそうだ。俺はそこの奴の兄貴で一夜っていうもんだ。いまはスピーカーを通して話している』 「すぴいかあじゃと」「電話みたいなものかの」「よく分からんがはいてくじゃのう」 『まずは弟を介抱してくれたことに礼を言っておくよ。ありがとう、助かった』 「なんのなんの」「世の中助け合いよな」「若いのに礼儀正しいんじゃなあ」 ほっこり。俺はババアとの会話には癒されるものがあると常々考えているのだが、皆はどうだろう? 『で、なんでここに居るんだ?』 そう、ここは夢の中。しかも謎の戦闘空間だ。俺のような能力者ならともかく、どう見ても一般人のババアたちが入り込むなどあり得ないだろう。 海坊主? あれは……なんなんだろうね。わからん。 「それがのう」「儂ら寝て起きたらここに居たんじゃ」「それで折角だからちょっと遊んでいこうと思ってな」 なんというバイタリティ。この状況下でその思考に至るとは、ババア恐るべし。 しかし謎は残ったままだ。本当になんで居るんだろう。 「そういえばウメさん、あれ持っとるか」「そうじゃマツさんの言う通りあれを使うてみるか」「ああタケさん慌てなさんな。いま出すでな」 ババアたちがにわかに騒ぎ出した。あれとは? 『婆ちゃん、なにしてんの?』 「あれを飲ませてやるんよ」「あれじゃあれじゃ」「どれどれ……ほい、あった」 三人目のババアが取り出したのは怪しげなブリキの水筒。外したキャップをコップ替わりにして傾けると、なんだかドロッとした液体が流れ出てきた。 『な、なにそれ……』 「おりゅうさまの水じゃ」「飲むと元気がでるんよ」「儂らも毎日飲んどるんもんじゃ」 あ、怪しい……やばいクスリの類じゃないだろうな……それを白夜に飲ませる気か。 正直言ってかなり怪しいし飲ませたくない。しかしこのまま放置しても白夜は動けないまま。それでは困る…… …… ……飲ませるしかないのか!? 「ほうれ」「飲め飲め」「ほれほれ」 「ガボガボーーーッ!!? ゴボボーーーッ!!?」 うわあもう飲ませてる! というか溺れてる!? 「ガボボボボーーーッ!!! ゴボボボボボボーーーッ!!! ゴボボ……ボ……ガクッ」 『婆ちゃんストップ!!! やめて!!! もう十分だよ!!!』 「ふむ?」「そうかのう」「まあもういいじゃろ」 ババアたちの手が白夜から離れる。 『白夜ーーー!!? 死ぬな、白夜ーーー!!!』 白夜の体は小刻みに震え、口から謎の液体が逆流している。見るからに危篤状態だ。 このままでは危険! しかし空間の狭間にいる俺には、声をかけ続けることしかできない! なんという無力感! 俺は弟一人救えないのか!? 「……ゴボッ! ガボッ!? ガボボーーーッ!!?」 俺の心が絶望に屈しそうになったその時! 白夜は息を吹き返した! 「ゴボ、がは……ッ!!?」 『は、白夜!? 無事か!?』 「ハアハアハア……ここは……?」 「起きたか!」「やった!」「やはりおりゅうさまは偉大じゃ!」 ババアたちが歓声を上げる! めでたい! 『ぷおーぷおーぷおー!ぷおーぷおーぷおー!』 俺は感極まって、遊園地中のすべてのスピーカーからファンファーレを鳴らした! ババアが喜ぶ! ファンファーレが響く! 地面が揺れる! 遠くから聞こえる海坊主の断末魔! そのすべてが合わさり素晴らしく聞こえる! 白夜はその中心で呆然とし虚空を見つめている。無理もない、さっきまで死にかけていたのだ。 だが俺はそんな姿すら見ていて嬉しい! 弟が生きている事実がどうしようもなく嬉しいのだ! 『なにをぼけっとしてるんだ!? 今日はめでたい! ババアも海坊主も皆祝ってくれて』 そこまで言って、俺は気づいた。 海坊主? …… 俺は白夜の視線を追いスピーカーの反対方向を見た。そして、海坊主の群れを殺戮したドラゴンがこちらを見つめていることに、やっと気が付いたのだった。 ■▼■▼■▼■▼■ ++++++++++ 竜は戦闘空間に降り立った当初、敵を探すことを考えていなかった。 誰が相手なのかはさっぱり分からないが、戦うことが決まっているなら向こうから来てくれるだろう。そう思ってじっと待っていた。 しかし誰も来なかった。人間と海坊主はいるが、しかしこちらに敵意をむけるものは誰一人としていない。これでは誰を倒すべきかわからない。 竜は根気強く待つことにした。待つのは得意だ。 一緒に来た少女は竜ほど根気強くなかったようで、無人の屋台から蒸した木の枝(竜はチュロスのことをそう認識した)を取り出して食べたり、棒のついた小さい馬(メリーゴーランドのことだ)に乗って遊んだりしていた。 そうしてしばらく経ったある時、遊園地内にひときわ大きい音が響き渡った。 『ぷおーぷおーぷおー!ぷおーぷおーぷおー!』 これは威嚇音だ。竜はそう察するがいなや、最も近くにいた海坊主の群れをまとめて尻尾で叩き潰した。 誰が敵かはいまだ不明だが、ここまで大々的に威嚇してきたのならばもはや待つ必要はない。この場にいるすべての生物を狩り殺せば勝ったことになるだろう。 海坊主はすべて殺した。残りは人間だけだ。 竜は目下にて生きる人間たちを標的と定めた。 ++++++++++ ■▼■▼■▼■▼■ 「おりゅうさまじゃ」「ありがたやありがたや」「ははー」 ババアたちが竜に向いて跪いた。あれが『おりゅうさま』なのだろうか? 彼女たちは地面に額をこすりつけて拝みだす。 それに対して竜は火炎を吐き出した! 「ぎゃあ!」「ぎゃあ!」「ぎゃあ!」 一秒たらずで消し炭になるババア! 超火力の前では骨すら残らない! ババアの側にいた白夜は!?……無事だ! 眼前一センチのところで炎を弾いている! 白夜の能力『因辺留濃』にとっては竜の火炎ブレスもマッチの火と大差ない! いかなる大火であろうと彼を傷つけることはできないのだ! 「ヒヒ……ヒヒヒ……!」 白夜が笑っている。目の前に迫った尋常ならざる業火が、彼のパイロマニア精神を喚起したのだ! 「イッヒ、ヒヒヒ、火―――ッ火ッ火火火!!!」 こうなってはもはや白夜は理性を失ったケモノと同義! 近場のメリーゴーランドに火を放つと、竜に向かって一直線に走っていく! その頭脳はすでに火をつけて燃やすことしか考えていない! 「火火火ーーーッ!!!」 もう俺にも止めることはできない。すべてを燃やし尽くすまで止まらないだろう。昔のように。そう、あれは俺が小学校に上がってすぐの事だった……その時、俺は 「アタシのメリーゴーランドがーーーッ!!?」 その時、俺はアタシのメリーゴーランドで…… メリーゴ―ランドが…… うん? 「あとでまた乗ろうと思ってたのに……メリー……しくしく……」 炎上する回転木馬の前で、一人の女が泣いている。 ここまでババアしか見てこなかったからちょっと新鮮。じゃなくて、誰だ? なんか聞き覚えのある声だったような……? 「しくしく……帰ったら兄貴たちを馬にしてやる……尻尾と蹄つけてテーブルの周りを走らせるんだ……しくしく……その光景を絵本にしたら売れるかな?……しくしく」 …… ………… ……………… …………………… ………………………………………… ………………………………………………うわあ。 俺あいつ知ってる。 あの声、あの発想を知っている。 出来れば一生知りたくなかったけど。 ……声かけなきゃいけないよね、兄としては。 いやだなあ…… 『あー、えー、その、千夜さん? こんなところでナニシテルノカナ?』 「その声は一夜兄さん!?」 そう、彼女こそは白夜がこの戦いに身を投じる最たる理由にして、俺たち兄弟の末妹。愛頽 千夜その人である。 「一夜兄さん、お金返して! 五百万円!」 『マイクの調子がわるいなーーーきこえないなーーーこまっちゃったなーーー』 開口一番で金の話。間違いない、千夜だ。 ちなみに借りた五百万はとある事件の後始末に使った。美少年ひとり救ったんだからそれくらい必要経費だよな。 とにかく、なぜ彼女がここにいるのかを問わねばなるまい。 『で、千夜。なんでここに居るの』 「竜ちゃんに付いてきたのよ」 なるほど。わからん。 「竜ちゃん、アタシが困ってるって話したらここまで連れてきてくれたの。たぶん夢から戻る手助けをしてくれるつもりなんじゃないかな?」 『それは事実か? あいつがそう言ったの?』 「ううん。でも竜ちゃん親切そうだし、きっとそのつもりだよ」 それは俗にいう都合のいい妄想というやつでは? というか、あのドラゴンのどこをどう見れば『親切そう』に見えるのだろう…… ■▼■▼■▼■▼■ 「火ーーーッ!!!火火火ーーーッ!!!」 俺と千夜が話し合っている間も、白夜は竜と戦っていた! 振り下ろされる鋭利な爪を、叩きつけられる巨木のような尻尾をかいくぐる! 竜は巨体ゆえに白夜をとらえきれない! 苛立ちまぎれの火炎ブレス! 『因辺留濃』によって弾き無傷! 「火火ーーーッ!!!」 さらに舞い上がる火炎を掌に集中、凝縮! それを投げつける! その威力はロケットランチャーの一撃に匹敵するだろう! しかし! 「火火、火ッ!!?」 竜もまた無傷! 竜の鱗は、自らの炎で焼かれるほどヤワではないのだろう! 「火火火ーーーッ!!?」 白夜の目に恐怖の色が宿る。燃えない物質を前にパイロマニア精神が折れかかっているのだ。 だがしかし! 彼には目的がある! 覚めぬ夢の謎を解き、今なお眠りつづける妹を救うという使命が! 使命。そう、使命が…… 「竜ちゃ~ん! がんばれ~!」 使命、あるのかなあ? 妹元気そうだし、別にほっといてもいい気がしてきた。 別に借金のことをうやむやにしようとか、そんなことは考えてないぞ。本当に。 「火火火、火ィ火火火!!!」 眼前の竜しか目に入っていないのだろう、白夜は強大な敵と戦い続けている。 だが、俺にはそれがどうも空しく見える…… もう、楽になってもいいんじゃあないか? 『白夜ッッッ!!!』 「火火ッ!!?」 気が付くと、俺は弟の名前を叫んでいた。ボリューム最大の俺の呼び声に、白夜の注意力は一瞬だけこちらを向く。 ほんの一瞬。しかし高速戦闘の中では、命取りになるのに十分だった。 ばくり。むしゃむしゃ。もぐもぐ。ごくん。 竜はその首を白夜に伸ばし、そして一口で食べた。 ああ、ああ。これで良かったのだ。 白夜は不毛な争いから解放され、俺は多額の借金から解放される。 千夜は……まあ、いいか。 とにかくこれで戦いは終わりだ。俺も筆を置くとしよう。 【勝者・竜】 その時、竜の喉が爆散した。 外側からではない。内側から膨れ上がり、その肉と鱗を全方向に向けて弾き飛ばしたのだ。 一体何が!?……その原因は、竜に食べられ死んだと思われた白夜である! 奴は竜の体内に循環していた火炎、そのすべてを掻き集め、濃縮し、そして爆発させたのだ! いかに竜といえども体の内側には鱗は生えていない! 自らの炎に焼かれてしまったのだ! 俺もこうなることぐらい予想してましたよ? やだなあ、たかだか借金のために兄弟を見捨てるわけないじゃないですか。ええ。本当に。 地に斃れ、すでに虫の息の竜。その喉に開いた穴から白夜が這い出してきた。全身黒焦げ、元の恰好は見る影もない。しかし焦げたガスマスクを剥ぎ取ると、その下からは端正な顔立ちが現れた。 「わあーーーッ!!?」 「ち、千夜……俺、勝ったよ……」 千夜が泣き声をあげ、彼に駆け寄る。そして、 「このバカーーーッ!!!」 「ごぼあッッッ!!?」 鋭い右フックが腹にめり込んだ! これは痛い! げしっ!げしっ!げしっ! 腹を抱え倒れ込んだ白夜に、追い打ちとばかりにストンピング攻撃! 「ごあっ、ぐえっ、がふっ」 「バカ! バカ! なんで竜ちゃんを殺しちゃうの!? せっかく仲良くなったのに!」 仲良くなったのは妄想だと思うが、それを指摘しても千夜の攻撃は止まないだろう。それどころかこちらに矛先が向かいかねない。黙っていよう。 「バカ! もう白夜兄さんなんか嫌い! 絶交する!」 「な、なんだって、げあっ、ぐわっ」 白夜の脳内にとてつもない衝撃が走る! シスコンにとって妹との絶交は世界の終わりよりも重い! その表情がどんどん曇る! まるで皮をむいた玉ねぎのような色だ! これ以上いけばイケメンにあるまじき顔色になってしまう! 「ハアーッ、ハアーッ……兄さん、言い残すことはある?」 兄の体を全身くまなく蹴り終えた千夜は、荒い息のまま訊ねた。 それを受け白夜は、 「……俺の、負けだ……だから絶交はヤメテ……」 ついに降参したのだった。 ■▲■▲■▲■▲■ ++++++++++ 竜は夢を見ていた。 喉元が熱い。まるで焼き切れたかのように感じる。 しかし実際に焼き切れているわけもないし、そうであったら死んでしまう。 だから、これは夢なのだろう。 少女が泣いたり怒ったりしているのが見える。 しかしその姿には、いつぞやに感じた悲痛さはない。 黒焦げのなにかの上で飛び跳ねている。とても元気そうだ。 よかったよかった。竜はすこし気分がよくなった。 ふと気づくと、竜はまた夢を見ていた。 どうやら、まだまだ夢を見続けられるらしい。 ならば今度は、少女が笑っている夢でも見るとするか。 竜はふたたび夢の中へ潜行しはじめた。 ++++++++++ 東の空から太陽が昇る。夜明けだ。 街は朝日を受け、きらきらと輝いている。 その中、ひとりの開業医が営む診療所において一組の男女が抱き合っている。 男の方は滝のように涙を流し、歓喜にむせび泣いている。女は彼を少し肉の落ちた腕で抱き、目にうっすらと涙が浮かばせながらも嬉しそうに笑っている。 彼らに何があったのか? それはほとんどの市民にとってなんら関係のない話である。 ただ、山の上に鎮座する竜の石像が、少しだけ満足そうな趣を放っていた。 ++++++++++ 【勝者・竜】
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/41.html
芳原 梨子 プロローグ 8月14日。東京臨海高速鉄道国際展示場駅から、通称ビッグサイトに続く道には、見渡す限り一面の…… ゴリラが! ふんがーどんがーふんがーどんがー。 ドラミングをするゴリラ。管楽器を吹くゴリラ。それらが混然一体となった鼓笛隊の間抜けなリズムと共に街を行進する、生まれたままの姿のゴリラの隊列。 国際展示場駅を踏み砕き、車を投げ飛ばし、モノレールにぶら下がる。野性味あふれるゴリラの大群に、人々は恐れおののき、逃げ惑っていた。 ゴリラ軍団を率いるのは、ピンク色の長髪をツインテールに束ね、カラーガード隊のような格好をしながらメガホンを手に持つ少女。 ゆとりのある服でも隠し切れない、ゴリラ級ポテンシャルの豊かな胸を携えた彼女は、悲鳴を上げる聴衆に、輝かんばかりの愛くるしい笑顔を向けていた。 妃芽薗学園OGにして、第伍剣道部……通称ゴリ剣の元部長芳原梨子は、満面の笑顔でメガホンに向かって叫んだ。 「みなさーん、ゴリラちはー!」 『ゴリラティワァーッ!』「うわあー!」「ぎゃあー!」「たすけてー!」 隊列を組むゴリラどもが、梨子の甲高いロリボイスに反応し、雄叫びを上げた。 ゴリラ達のデスボイスじみたそれに人々は怯え惑う。その背中に向けて、梨子は満足げに手を振った。 「元気な挨拶ありがとー! わたしは、この度の総理大臣選挙に立候補しました、ゴリラ党代表の、芳原梨子でーっす!」 『うっほうっほー!』『ウキィイイイイイ!』「あぎゃー!」「洋子! ようこーっ!」 洋子がゴリラに巻き込まれて死んだ。 ちなみに、芳原梨子は、総理大臣になるためには何をすればいいのかまるで分っていないし、選挙活動の何たるかも、何も知らない。 彼女は、道行く人たちに総理大臣になりたいと主張しながら歩いていれば、なんとなく総理大臣になれるのではないかと言うふわっとした気分でいるだけだ。 これではただ、ゴリラが徒党を組んで歩いているだけである! 「わたしが総理大臣になった暁には、みなさまに、国民総ゴリラ化をお約束しまーす!」 『WHOOOO!』『ウキイイイイイイイイ!』『ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ』「うひいいいい!」 ゴリラどもの興奮は最高潮だ。対して、コミケに向かう人々は恐れおののき、絶望的な顔になっていた。鼻の下を伸ばし、目が座ってきている。 なんだか、どことなくゴリラに似てきたかのようだ。 「いいですかみなさーん。ゴリラは、核兵器を使えませーん! ゴリラは、労働力には最適でーす! ゴリラ語が公用語なので、地球船ゴリラ号でーす! もう、これはいいことしかありませーん!」 『『『『うほおおおおおおおお!』』』』 なんということだろう。気が付けば、オーディエンスはどんどん鼻の穴が大きくなり、体毛が濃くなり、筋骨が隆々としてきている。 これは、ゴリラだ! これこそが、芳原梨子の魔人能力、【ゴリのゴリリズム】である。 芳原梨子が発した「ゴリラ」という言葉を聴いた人は、強い心を持っていないと、ゴリラに変わっていってしまうのだ! 当然、ゴリラに街が蹂躙されているこの状況で、強い心を持てる一般ピーポーなどいるわけがない。 聴衆のゴリラ化は、加速度的に増していく。 「私は昨日、『無色の夢』というものを見ましたー! インターネッツさんで調べたところ、ドリームマッチで勝ち上がると、好きな夢が見れるそうでーす! そしてなんとー、勝利の報酬で見た夢は、現実にも反映されるそうでーす!」 インターネットで拾った知識をそのまま信じ込む! 所詮はゴリラ脳! インターネッツさんというアンダーグラウンドワールドの闇に一歩足を踏み込めば、その魔に捉われ永遠に彷徨うことになるだろう恐怖と狂気のバッド・ドリーム……。 そして、何よりも問題なのは、芳原梨子は人間だということである。先ほどの総理大臣宣言と言い、この女、ゴリラではないのに、ゴリラレベルのゴリラ脳だ! 「つまり、私が夢の戦いに勝って、人類が全員ゴリラになる夢を見れば、皆さんは私が起きたときには全員ゴリラになっているのです! すーばらしーい!」 『『『『『ウーーヴァウァジィー!』』』』』 もはや、その場にいたほとんどの人オーディエンスが、完全なるゴリラとなった。 結果、誰一人としてまともな日本語が発音できない! 『素晴らしい』を唱和しようとしても、ただゴリラが騒いでいるようにしか聞こえないのだ! そんなゴリ聴衆を見て、梨子のテンションはいよいよ最高潮だ! 「よーし、みんな! 私の【所有物】として夢の世界に殴りこんで、相手をばしばしーっと倒しちゃって、みんなでゴリラになっちゃおー! みんな、野生に、かえれー!」 『『『『『ヴィンバ、ヤセウィヴィ、ガウェレェー!』』』』』 ふんがーどんがーふんがーどんがー。 「みんな、野生に、かえれー!」 『『『『『ヴィンバ、ヤセウィヴィ、ガウェレェー!』』』』』 ふんがーどんがーふんがーどんがー。 「みんな、野生に、かえれー……」 『『『『『ヴィンバ、ヤセウィヴィ、ガウェレェー……』』』』』 ふんがーどんがーふんがーどんがー……。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/7.html
RSSを取り込んで一覧表示(rss) #rss(ここにRSSのURL) もしくは #rss(ここにRSSのURLを入力) と入力することで指定したRSSを取り込んで一覧表示します。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //www1.atwiki.jp/guide/pages/269.html#id_a0e79757 たとえば、#rss(http //www1.atwiki.jp/guide/rss10_new.xml) と入力すると以下のように表示されます。 #showrss plugin Error showrssプラグインでのatwiki.jpのRSSの取り扱いはできません。#recentなどをご利用ください。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/95.html
採用する幕間 織音アイリ 幕間その1 第3試合SSその2 【これまでのあらすじ】 異形のお嬢様エルレカーンは夢の戦いに勝利し、呪いを解く方法を手に入れた。 妖精ちゃん曰く、オーストラリアの首都シドニー(※1)から北西2500kmに聳える世界樹。 その地下に巣食う大いなる”魔”を討ち滅ぼせば呪いは解けるらしい。 現実に戻った彼女は、さっそく金と権力に物を言わせて現地に向かう。 しかし目的地である『世界樹の町』で意外な人物が待ち受けていた――! ※1)首都ではない ◯ 原始の自然を現代に残す、緑の大地パプアニューギニア。 東西を分ける山脈は、世界樹の根が地表に出てきたものである。 連なる山々には独自の価値観を持つ民族が暮らし、世界樹を代々守り受け継いできた。 彼らが形成するコロニーの中でも最大のものがこの古都エッチナ・オ・ミセ。通称『世界樹の町』。 物好きな観光客で賑わうこの町に、また新たな来訪者が訪れようとしていた。 草を刈っただけの急ごしらえのヘリポートに、セスナが着地した。 乗員は二人。まず助手席から、白いコートを身に纏った少女、エルレカーン。 もう一人はメイド姿をした褐色肌の美人。その耳は長く尖っている。 「いい景色ね。マイナスイオンを感じるわ」 エルレカーンの髪が風に揺れた。 ……おつむの方は若干残念な感じだが、するっとした麗しい顔がそれを帳消しにしている。 「思えばあれから随分とアクティブになったわね、私」 「今の方がお素敵ですよ」 「褒めても給料は上げないわよ」 「チッ」 セスナから降りて仲良く会話する二人に、エスニックな服を着た少女が近寄っていく。 鼻から上を隠す仮面をつけており、その表情は伺い難い。 「世界樹の町へようこそ!遠い所からよくお越しくださいました。アイリと申します。 この村の巫女を務めてまして、祭事がないときはこうして案内を――」 「そ、その声は……!」 エルレカーンは困惑する。忘れるわけが無い。その名前、その声、その振る舞い。 織音アイリ。夢の戦いで、私に勝ちを譲ってくれた心優しい女の子。 (どうしてこの子がここに――!?) 「どうかいたしましたか?」 「い、いえ何でもないわ。案内を続けてちょうだい」 「それではまずお宿からご案内しますね。お連れの方もご一緒に」 アイリに案内され、町で一番上等な宿に辿り着く。 宿の女将には金貨12枚を渡して3人分の個室をチェックイン。 食堂で鹿肉の料理を堪能し、次の要所に向かった。 ◯ 町の中心にある巨大な円筒祭壇。巻き付く螺旋階段を登って行くと、内部への入り口がある。 「お待たせしました到着です!こちらが世界樹の大空洞になります!」 アイリに先導されて祭壇の中へ入るエルレカーンとメイド。二人は一瞬息を呑む。 彼女たちの眼の前には、底の見えない大洞窟が広がっていた。 「地球にもまだこんな場所があったなんて」 「世界樹区域はテレビ立ち入り禁止ですからねー」 地の底から吹き上がる冷たい風は、どこか不気味な感触だ。 「この大空洞は世界樹の根と根の隙間でできていて、迷宮みたいに入り組んだ空間が ずっと奥深くまで続いてるらしいです。それ以上のことは知られてないんですけど……」 「これ、どうやって潜れば良いのでしょうか」 「えっ!?やっぱり潜るつもりなんですか!?」 「そうよ。そのためにここまで来たの」 しばしの思考を巡らせ、アイリが口を開く。 「とりあえず守人さんに許可を貰ってこないと」 「よし、それじゃあそこまで案内しなさい」 大空洞を後にし、エルレカーン御一行は守人の家に向かう。 「エルレカーンさんはよく旅行とかされるんですか?」 「前はそうでも無かったのだけど、今はそうよ」 「先月はグアム行ってましたね。私は留守番でしたが」 「ふわあぁ、凄いです!羨ましいです!私もいつか、旅行とかしてみたいなあ…」 「もし私が無事に帰れたら、お金なんて幾らでもあげるわ」 「えっ本当ですか?いやでも悪いですそんなに…えへへ。あっ、着きましたよ!あの家です!」 アイリがぽてぽてと駆けていく。 エルレカーンとメイドもその後を追いかける。 「そんなにってどんだけ貰うつもりだったんですかね」 「言わないの」 ◯ 窓からは夕陽が差し込む夕陽が、客室をオレンジ色に照らす。 出入り口の横にエルレカーンとアイリが突っ立っている。 そんな彼女らを横目に、守人の老人と机を挟んでメイドが向かい合っていた。 「ではあなた達は大空洞の写真を撮るためにここまで」 メイドからでっちあげの事情を聞いた老人が、苦い表情で問い返した。 「仰る通りです長老殿。そのための許可をいただきたい」 「悪い事は言わないからやめなされ、旅の人。あの奥に行って帰ってきた者はおらぬ。 お主達もそうなりたくないじゃろう」 ありきたりの理由で申請を断る。世界樹は彼らの聖地。 余所者が踏み入ることを基本的には歓迎しない。そう、基本的には。 「……それではこれでどうかな」 メイドが金貨袋を机に差し出す。賄賂だ!袋の上からでも相当な量であることが分かる。 「良いぞい許すぞい」 さしもの守人も、銭の威光には勝てなかった。 三人は部屋を後にして「お腹が空きましたわ」とか言いながら宿へ帰っていく。 客室に取り残された老人が、誰にも聞かれないようにぼそっと呟いた。 「アイリや、今更戻ってきて今度は何をするつもりなんじゃ……」 ◯ 夜の帳は降りて。外からする虫の鳴き声だけが聞こえる静かな寝室。 壁には白いコートが掛かっている。 エルレカーンは寝台に寝転び、肩の下から広がる無数の触手を伸ばしていた。 そして部屋を照らす小さなロウソクの明かりが消えかかった頃、かぼそいノックが2回響いた。 「エルレカーンさん、起きていますか」 「アイリね。いいわよ、入りなさい」 扉が小さく開かれ、アイリが姿を見せた。 彼女は後ろ手で扉を閉めると、堰を切ったように言葉を発した。 「私、今日ずっと言い出せなかったことが……」 「なんとなく感じていたわ。あなた、夢の記憶が残っているのね?」 「……はい。無色の夢――でしたっけ。そっちの方だけ。 戦ったことは憶えてないけど、エルレカーンさんの事は知っているんです」 目元を仮面で隠す彼女を表情は伺い難い。しかしその声はとても辛そうだ。 「1つ聞いてもいいかしら」 「お願いします」 「あなた、この町を……その、追われてたじゃない?なのに、どうしてここにいるの? そんな仮面で顔を隠してまで」 エルレカーンは幾つかの返答を予想していた。しかし、アイリの答えはそのどれでも無かった。 「私はあなた助けに来ました。だって、その呪いは私のせいだから――」 今ここに明かされる衝撃の真実が明かされる。 「あの大空洞の底には、魔王が封印されています」 「…!」 「私が茨姫の杖を抜いたせいで封印が弱まり、その力が世界に撒かれてしまった」 「そのことをどこで知ったの」 「無色の夢を見たときに、杖が教えてくれました」 この話を肯定するように、エルレカーンの触手がわしゃわしゃと蠢く。 「そう……そういうことだったの。大体、分かったわ」 「夢から醒めて、このことだけが頭に残ってて。 居ても立ってもいられなくなってここに来たらあなたもここに来るって聞いて」 アイリの紅潮した頬を涙が伝った。 気が抜けて後ろに倒れそうになった彼女を、エルレカーンが腕を伸ばして抱きとめる。 「いいの、いいのよ。別にあなたを責めたりしない。よく喋ってくれたわ」 アイリをベッドに手繰り寄せ、3本目の手で頭を撫でる。 その他大勢の触手は空気を呼んだのか縮こまっている。 「そういえばあなた、杖はどうしたの?」 「こ、これはその……」 「それにそのお面。ここなら取ってもいいでしょ?」 エルレカーンの5本目の手が、アイリの仮面を外す。 アイリが本当に隠したかったものが顕になる。 「あっ…!」 夢の戦いを経て、茨姫の杖はその姿を変えてアイリの体内に取り込まれた。 張り巡らされた呪いの茨は常に持ち主を苛む。その痛みは終わらない悪夢。 そして仮面に隠されていた左の眼窩、そこには眼球の代わりに一輪の薔薇が咲いていた。 「綺麗ね」 「す、すみません。びっくりしますよねこんなの――え?」 「美しいわ。最高よ、あなた」 エルレカーンはくるりと体勢を変えて、アイリをベッドに押し倒す。 そのとき生じた風で、ロウソクの火が消え、部屋は暗闇に包まれた。 「んっ…」 「あら、もうこんなにしちゃって」 「こ、こうなってから体中がずっと痛くて、熱くて、気持よくって……!」 「ふふ、そんなイけない子には、おしおきが必要ね?」 「ひゃい!あぁ……っ……にゅるにゅるぅ!にゅるにゅるきちゃうぅう! にゅめにゅめぇ、しばりゃれて、おまたこすれちゃてっ、きもちいぃっ!!」 触手と茨が絡みあいもうなんか凄いとしか言いようがない乱れ方をする二人。 その隣室で、エルレカーンお付きのメイドが頭を抱える。 「うるさくて寝れねー…」 ◯ 「あれ?もういいんです?」 妖精ちゃんが語りかけてくる。 「ええ、満足よ。お外で冒険も出来たし、私にとって初めてのお友達とも語り合えた。 これ以上なく……幸せだったわ」 「でもでも、このまま夢を見続けるのも良いんじゃないですか? 展開的にもまだ始まったばっかりじゃないですか」 「夢は一夜限りでいいの。そうじゃないと、どっちが現実か分からなくなるから」 「そうですか……。じゃあ、名残惜しいですがここでお別れですね」 ◯ 窓の外を見やると、港区の夜景が広がっている。 現実に戻ってきたのだ。 (エルちゃんおっはよー!半日ぶりぐらい?良い夢でも見てたー?) 「夢……か。そう、やっぱり夢だったのね」 エルカーンはベッドにずるずると潜り込む。 (おやおや。二度寝ですか) 「そうよ。そうしたらまたあの子に会える……気がするから」
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/38.html
エルレカーン 【 キャラクター名 】:エルレカーン 特殊能力『エウレカの血』 手足または尻尾や翼、触手などの部位を無尽蔵に生やす能力。 欠損した臓器も補うことができるため、ほぼ不死身と言っていい生命力をもつ。 但しほとんど制御できておらず、常に能力が発動している状態。 その結果、エルレカーンは不定形の怪物と化している。 能力を使えば使うほど「自分が自分ではなくなっていく」感覚に襲われる。 キャラクター設定 不定形のモンスターガール。 ある朝、目が覚めるとこの姿になっていた。 とある魔人財閥の大幹部のひとり娘。 都内の城でたくさんの使用人に囲まれて暮らす。城の外は知らない。 使用人のことは消耗品ぐらいにしか思っていないことから、その倫理観が計り知れる。 自分の体についてはあまり気にしていないように振舞っている。 しかし、心中では相当悩んでいる。 彼女が人の血液を愛飲するのは、これで人間に戻れると信じているからである。 日光が苦手。 夢のなかに、「エウレカ」と名乗る女性が出てくる。 他の誰にも相談できないことはエウレカに相談する。 関連SS エルレカーン プロローグ ※以下のSSは試合公開後に発表されたものです第3試合:ビル建築現場 試合SSその2/Zero
https://w.atwiki.jp/sakusouzu2/pages/173.html
Assetto Corsa Assetto Corsa(イタリア語で"レースのセットアップ"の意味)は、イタリアのビデオゲームデベロッパーKunos Simulazioniが開発したレースシミュレーションゲームです。 これは、大規模なカスタマイズやMODをサポートし、リアルなレース体験に重点を置いて設計されたゲームで、2014年12月19日にsteamを通してリリースされました。 Assetto Corsa(アセットコルサ)Wiki 公式ページ スチーム販売ページ 日本語化 AssettoCorsa(アセットコルサ)の身内向けの記事です・。・ 推奨MOD・。・ \Steam\SteamApps\common\assettocorsa\content\tracks にぶちこめばおk・。・b 鈴鹿サーキット 岡山国際サーキット 富士スピードウェイ 筑波サーキット 推奨プラグイン・。・ \Steam\SteamApps\common\assettocorsa\apps\python にぶちこんだあと、初期画面→設定→全般で追加したいモジュールにチェック入れたら導入完了。 運転画面の状態で右端にマウスを移動させると使用できるHUDのアイコンが追加されてるので、それクリックしてね・。・b ptracker 区間タイムなどの表示 Spotter 敵車位置の通知 ferito-chat 運転画面からでも、チャットを閲覧・発言できる RevHunter 分かりやすいレブカウンターとシフトゲージを追加 TrackMapDisplay マップを自動生成して表示する 第一回えびちりカップ・。・リザルト BMW Z4 GT3 Nvidia Racing Team Bmw Motorsport 2012 Walkenhorst Motorsport McLaren MP4-12C GT3 2013-hexis Racing 2013-art Grandprix Gemballa Mercedes SLS AMG GT3 TCR 2014 AMG Black Falcon Dubai 24hours BMW M3 GT2 Endless Advan Derek Speare Designs Ferrari 458 GT2 AF Corse SoFrev #20 SoFrev #58 P4/5 Competizione model 2011