約 1,636,765 件
https://w.atwiki.jp/bzspirit/pages/935.html
setsat(1985年6月6日~)は、ニコニコ動画などを中心に活躍するギタリスト、ヴァイオリニスト、作曲家、編曲家。 小学生の頃にロックに興味を持ち始め、さらにB'z「Real Thing Shakes」を聴いたことがきっかけで自分でもギターを弾いてみたいと思うようになったという。ラジオではフルコーラス流れず、ギターソロにパーソナリティのトークが被ることもあるため、初めてCDを購入したと述べている。(*1) 関連リンク 影響を受けたギタリストなどいますか? - setsatインタビュー 月並みですが、ギターはいつ頃始められたのですか?また、ギターを始めたキッカケなどもお聞かせ頂けたらお願いします。 - setsatインタビュー 外部リンク Twitter(@setsat666) ニコニコ動画マイリスト 【ニコニコミュニティ】ニコ生予定地 【setsat】 nicovideo_com エラー ( 正しいコミュニティ埋め込みタグURLを入力してください. ) mixi Myspace ザ・インタビューズ ヴァイオリン科講師|Eleven Forty Music Academy 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/55.html
夢売誘子 【 キャラクター名 】:夢売誘子 【キャラクター名読み】:ゆめうり ゆうこ 特殊能力『アビメルム』 アビメルム=アパストル(使徒)は、アビメルム=バシリウス(王)の影が、一つ上の次元からこの次元へと落ちることで、偶発的に生まれる「夢」のような存在である。 アビメルム=アパストルはディアコニス、つまりは自らの眷属を、寄生対象である受胎者の“悪夢”に投影する形で生みだしていく。 誘子の場合、ディアコニスは“仔貘”の姿で投影される。 アビメルム=アパストルはディアコニスを通じて啓示を行うため、誘子はその仔貘型ディアコニスこそが、アビメルム=アパストルであると思いこんでいる。そのため、誘子はその仔貘型ディアコニスを「アビメルム」と呼んでいる。 夢を介して現れ、何層もの次元に渡って存在するものと考えられている。 アビメルムは魔人の「魂」、つまりはその心を蝕み糧にする。 特にアビメルムの受胎者はアパストル(使徒)と呼ばれ、アビメルムが安定して魂を得るために、文字通り寄生される。 アビメルムによって蝕まれた魂は、怒りや憎しみなどの負の感情のみを生み出すようになり、負の感情は受胎者の心の奥底に蓄積される。その蓄積されていく負の感情は抑圧され、受胎者の精神が崩壊するまで蓄えられる。その限界まで押し込められた負の感情によって、受胎者の精神が崩壊したとき、それまでアパストル(使徒)と呼ばれていた受胎者はバシリウス(王)と呼ばれるようになり、魔人として覚醒する。このとき、生じた魔人能力は直ちに、術者と分離してシスマとなる。シスマは次なるアビメルムとなるべく1つ下位の次元へと転移を図る。そこに転移したシスマが、新たなアパストル(使徒)を選び出すというのを繰り返す事で、何層もの次元 に渡って、アビメルムが存在する事となる。 以上はアビメルムがこの次元に現れた際の観測データを元にした考察であり、確かな事は何も分かっていない。 このような得体の知れない存在故か、信奉者も多く、彼らによると、 「アビメルムは虚無と根源、その二つの姿を内包する両義的な存在である」 とされ、アビメルムの見せる「悪夢」は、全ての次元に影響を与えると、彼らは考えている。またその夢を見ることができるのは、アビメルムに選ばれた者に限られると言う。 キャラクター設定 ●第六天魔王 ノブナガ 現代へとタイムスリップしてきた最強のパラシトス。 魔法少女である空木凛のマスコット。 魂のみの状態で現代にやってきたが、空木凛の肉体を得て復活後、二年の歳月を経て現代社会に適応した。 巨大企業の社長となり、数多のシスマやパラシトス、魔法少女を従えている。 ●パラシトス ここではない世界、宇宙、次元から突如として現れる異形の存在。 ●シスマ 魔人等の持つ超常的な能力の「源」(中二力)が、独立した個として生命(いのち)を持った超自然的な存在。 中二力の残滓から、どこからともなく発生する場合もある。 シスマ自体も、中二力を持つことから、シスマから新たなシスマが生まれることもある。 大元となるシスマを生み出した個体を「真祖」、それ以外のシスマを「使徒」と呼ぶ。 分裂時の主従関係等によっては、使徒は真祖や親である上位使徒から分裂時に、「心身」や「力」の一部または全てを奪うことがある。 逆に、強大な真祖や上位使徒が、配下の使徒から「力」を吸い上げることもある。 ●魔法少女 パラシトスやシスマと魔法少女契約を結ぶことによって生まれる超能力者。 契約内容により、様々な形態の魔法少女が存在する。 ●マスコット 人間等と魔法少女契約を結び、魔法少女のパートナーとなったパラシトスやシスマのこと。 ●アビメルムシステマ テイパーパラシトス「アビメルム」の眷属である52体のシスマから構成されるマスコット集団。 遥か昔、パラシトスによって、宇宙が滅ぼされた際、滅びを免れた何者かが、後の宇宙のために残したとされる。 宇宙が滅ぼされて以降は現代に至るまで、アビメルムシステマは長らく眠りについていた。しかし、日々、活発化していくパラシトスの存在に呼応して地の奥底から目覚めた。(しかし目覚めと同時に、キャットパラシトス「べフィルン」によって支配されてしまう。) 今回のように使命を忘れた時に備えてか、アビメルムシステマは、パラシトスに対して異常なまでの恐怖心と攻撃性を持つ。 そのため、魔法少女を生み出して彼女たちにパラシトスの退治を依頼すると同時に、アビメルムシステマ自らも、パラシトスに受胎された可能性のある人間をあぶり出すべく、パラシトスの気配を纏った人間を無差別に襲っていた。 アビメルムシステマが魔法少女契約の対象に選ぶ少女は、皆、死者であり、彼女たちは何らかの未練を残している。アビメルムシステマは、彼女たちの未練につけ込むことで、彼女たちを支配する。 アビメルムシステマを構成する52体は、全て根源であるアビメルムと繋がっており、互いに記憶や経験を共有し合っている。また、死滅した同胞を吸収し合うことで、アビメルムシステマの魔力は、残りの個体に集約されていく。 悪夢の128日間に、52体全て駆逐された。しかし、一度全て駆逐されたことで、キャットパラシトス「ベフィルン」からの干渉から脱することになり、その後、アビメルムシステマは本来の目的遂行に相応しい(気色悪いほどに)潔癖な集団として蘇った。 ●悪夢の128日間 二年前、アビメルムシステマと彼らによって生み出された52体の魔法少女が引き起こした事件。 事件発覚から、解決までに128日間が経過していたことから、後に呼ばれるようになった。 ●空木 凛(うつろぎ りん) 二年前、アビメルムシステマを滅ぼし、悪夢の128日間を収束させた伝説の魔法少女。 最後のアビメルムシステマを倒した後、行方不明となっている。 その正体は、第六天魔王ノブナガに受胎されたパラシトスの使徒。 当初、空木本人にその自覚はなく、身近な人を守るために、魔法少女へと変身していた。 キャンプ中に、アビメルムシステマの一体であるライノシスマとそのパートナーの魔法少女「甘曽祢みれい」による襲撃を受けたのを機に、ノブナガと魔法少女契約を結び、戦いに身を投じることとなった。 ノブナガとの契約により、ノブナガの魔力を借りて魔法少女へと変身する。 しかし、あくまでノブナガは、空木に対して魔力を貸し与えるのであり、空木は借り入れた分の対価をノブナガにしなければならない。 しかし、倒すほどに強大化していくアビメルムシステマに対抗するため、空木は無理な変身とパワーアップを繰り返し、ノブナガの魔力を際限なく引き出していった結果、その対価として空木の心身はノブナガに支配されていく。 ノブナガの支配により、失いつつある「自分」を、「身近な誰かを守りたい」という想いだけを支えに保ちながら、空木は52体全てのアビメルムシステマを倒し人々を救った。 その後の消息は不明であるが、ノブナガの支配から逃れるために命を絶ったという噂もある。しかし、アビメルムシステマがしたように、死体となった後も利用される可能性の方が高く、空木を想う人々は、空木の無事を信じている。 ●月島 翔子(つきしま しょうこ) 中学二年生元気印の魔法少女。 五年後の未来から、自身の魔人能力メモリアル・ボックスによって、この時代にやって来た。 禁則事項というか能力使用による制約から、知らんぷりしてとぼけることが多い。 自身の魔人能力「メモリアル・ボックス」が変化して生まれたシスマ「箱ウサ」と契約を結んでいる。 変身時には、きちんとポーズを決める。 過去から現在の歴史に介入しようとするノブナガを捕縛するべく送り込まれた、タイムパトロールのエージェント。 ●常陸 真琴(ひたち まこと) 魔法少女に憧れるアラサーの女性警官。魔人でなく一般人。 二年前、空木凛によって命を救われ、自身も魔法少女となるため、日々トレーニングを積んでいた。魔人科学の粋を集めた特殊武器「メタモルスカート」を装備し、同僚や上司からのサポートを受けながら、パラシトスと戦う。 ●篝火 稜(かがりび あや) 魔法少女になってしまった中学2年生。 魔人能力「喰火」から生まれたシスマ「火仙蟲」が、脳内に寄生したことで魔法少女となった。 魔法少女への変身を繰り返したことで、その巣は脳内だけにとどまらず、血管を通して全身に広がっている。 「火仙蟲」は真社会性であり、女王と不妊カーストに分かれている。 不妊カーストが宿主の血中のアドレナリン濃度に反応し、「巣」の防衛のため、篝火綾と融合することで、魔法少女に変身する。 なお、変身は融合した不妊カーストが全滅するまで解けない。不妊カーストが全て融合し、体内から全滅した場合、女王によって新たな不妊カーストが生み出されるまで変身できなくなる。 変身後の姿は、細身でありながら、ローチを連想させる巨大な昆虫のような怪人であり、魔法少女であるにも関わらず、バケモノ扱いされ、感謝されるどころか悲鳴を浴びせられることが多い。 火仙蟲は人語を解さず、知性もなく、化学物質のみに反応するため、火仙蟲を生みだし真祖となって以降、変身していない状態では、自分の意志で「喰火」を発動させることはできなくなった。 ●日野 薫子(ひの かおるこ) 自分以外の「魔法少女」の抹殺を企む。 魔人能力「サクセスベル」が変化して生まれたメインクーンのシスマ「シャラム」と契約を結んだ魔法少女。 高校二年生。整った顔立ちとともに、長身でスタイルも良く、人をまとめる力もあり、皆の憧れの存在。日野様と周囲に呼ばせている。同性愛者。 完璧主義であると同時に、シングルマザーであった母から、どのような手段を用いてでも、他者を排し、トップとなるように教育されてきた。 教えのとおりに母を殺害してからは、裏で様々な悪事を働きつつ、生計を立てている。 ●奥海 聖(おおみ ひじり) 魔法少女という存在に憎しみを抱く筋肉老人。 二年前、悪夢の128日間に、魔法少女として蘇ったかつての初恋の相手を、空木によって目の前で殺されて以降、魔法少女というシステムに憎しみを抱いている。 元魔人自衛官であると同時に、その危険性から開発中止となった数多の特殊武器で武装している。 戦いを繰り返すうちに、魔法少女を倒すことに悦びを見出した戦闘狂。 ワープ能力を持ち、世界中の魔法少女を殺しながら、真の仇敵であるアビメルムを探している。 ●土門 理人(どもん まさと) 自身の魔人能力「マッドマッスル」が変化して生まれたシスマ「ドローム」と契約を結んだ魔法少女。エリート商社マン。学生時代は、登山部の部長だった。最強を自称する男。不能者。 アメリカから母国を守るため、日本にいる月島たち魔法少女と合流を図ったが、強大なパラシトスの軍団からの集中攻撃を受け、命を落とした。 防御特化であったため、弱点をつかれて敗走を続けながらも、孤軍奮闘していたが、ついに月島翔子たちとは合流できなかった。 しかし、土門がディアパラシトス及びゴートパラシトスをひきつけている間に、月島たちの力は、急速に成長していった。 独身である土門には、同居の少女がいた。周囲には姪と説明していたその少女の正体は、自身のマスコット「ドローム」である。 昔から正義感が強く、いじめを放っておけない性格であった。しかし、その性格を疎ましがられ、小学校の頃に、陰湿ないじめを受け、その中で、大切なものを失い、不能者となる。 誰にでも温かい男であり「強いからこそ、弱さを知る」が口癖だった。 しかし、実は土門の魂はドロームの中に匿われており、土門がドロームを上位使徒とするシスマとなって蘇ってからは、月島たちに金銭的な面も含めて裏方として様々なサポートを行っている。 ●ドローム 土門理人のマスコット。名前の由来は泥人形から。 土門と行動をともにする都合上、土門の姪っ子の姿に化けることが多い。 ●ディアパラシトス 鹿のような姿をした強大な王の一柱。 ●ゴートパラシトス 山羊のような姿をした強大な王の一柱。 ●速水 悠介(はやみ ゆうすけ) シスマを生み出し、真祖となった少年。魔法少女へと覚醒する資質を持っていた。 土門が死した後、ディアパラシトスに命を狙われる。 初恋の相手と同じ容姿をした自らのシスマ「アリス」を、切金朱音のシスマに捕食された。今まで速水の代わりに、ディアパラシトスと戦っていたアリスを失ったことで、速水は命を落としてしまう。 ●切金 朱音(きりがね あかね) 月島翔子たちの同級生。 土門の死後、ゴートパラシトスに命を狙われる。 既に真祖としてシスマを生み出していながら、魔法少女として戦うことを恐れ、契約を結べずにいた。 しかし、日野さんの戦う姿を見た切金は、誰かに守ってもらうことが当たり前になっていた自分を恥じ、戦うことを決意する。 日野さんに唆され、速水悠介のシスマであるアリスを、自身のシスマ「百眼千手の王」に生贄としてささげることで、自身は何の代価も支払わずに魔法少女契約を結んだ。 その力は、ゴートパラシトスを一撃で死滅させるほどであったが、変身を解いたところを、尊敬する日野さんに腹部を貫かれ、命を落とした。切金の遺体を喰らった百眼千手の王は、パラシトスとなり、別宇宙へと旅立っていった。 ●百眼千手の王 切金朱音が生み出したシスマ。 切金が魔法少女契約を結ぶまでの間、魔人能力を失った切金をゴートパラシトスから守ってきた。 切金死亡後は、パラシトスとなって、別宇宙へと旅立っていった。 関連SS 夢売誘子 プロローグ ※以下のSSは第8試合の投稿締切後に投稿されたものです。第8試合:下水処理場 投了SS
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/59.html
大鋸草菊 プロローグ 窓から見える空もすっかり赤く染まり、既に下校する生徒たちも疎らになっていた。 大鋸草菊は読んでいた本を棚に戻すと、彼女も下校するために図書室の出入り口に向かった。 「くーちゃんもまだ学校にいたんだ」 図書室の扉に手をかけようとすると、草菊は後ろから声をかけられた。 黒い髪に花飾りをつけた、白を基調としたドレスを着た少女。クラスメイトで友人の朝木水仙だ。 彼女も、図書室で本を読んでいたらしい。 「最近、この辺物騒なんだよ。この前も不良グループが全員ボロボロにされて倒れてるところが見つかったんだって」 「へえ、そうなんですか」 「なんかね、みんな生きてるのが不思議なぐらい滅茶苦茶で、ネットだとどこかの研究所から逃げ出したバイオゴリラの仕業なんじゃないかっていううわさまで流れてたり」 被害者の両手両足の骨がすべて砕かれていたり、現場の周囲にあった標識が折れ曲がっていたり、明らかに常人が行ったものではない。 警察は魔人の犯行ということで捜査をしているらしい。 「それは怖いですね。ただ、誰も死んでいないのが幸いです。人が死ぬのはとても悲しいことですからね」 「でしょ。だからね、一緒に帰ろ。人気の少ない道も通るし、危ないから」 「かまわないですよ。特に用事があるわけではありませんし」 「よかった。断られたらどうしようかと思って」 水仙は草菊の返答を聞いて安堵の表情を浮かべる。 「何を言ってるんですか、水仙。私たちは友達ではないですか」 当然のことだと言った様子で草菊が言った。 そのあと二人は授業のことや好きな本のことなど他愛のない話をつづけながら下校の途についた。 二人ともこの時はあんな事件に巻き込まれるとは思っていなかったのだ。 日が暮れて、辺りもすっかり暗くなり、空にはすでに月が昇っていた。 大通りから少し離れた小路で柄の悪いチンピラたちが二人の少女を取り囲んでいる。 周囲は人通りも殆どなく古びた街灯と空に輝く星と月だけが彼らを照らしていた。 「やめてよ」 「へへへ、いいじゃねえか。減るもんじゃねえんだし」 「そうそう、俺たちといいことしようぜ」 少女は水仙と草菊である。 チンピラたちはこの辺では悪名高い不良集団だ。少し離れた位置にハイエースの車体も見える。 そのまま連れ込んで乱暴するつもりなのだ。 男がハイエースに引っ張り込もうと水仙の手を掴んだ。 「放して!放して!」 水仙が男の手を振りほどこうとする。が、所詮ひ弱な彼女の力では男の力に逆らえない。 それでも抵抗を続ける水仙をチンピラの一人が殴った。 殴られてふらついた水仙がそのまま尻餅をついた。 「痛い」 「へへへ、無駄な抵抗するからだぜ。大人しくしてりゃあ痛い目に合わずにすむんだ」 「そうだぞ、へへへ」 下卑た笑いを浮かべる男たち。 「そっちの嬢ちゃんはどうだ」 男が矛先を草菊に向ける。もちろん彼女の意思を本気で尊重する気など毛頭ない。 あくまで自分たちに逆らったらどうなるか理解したかという確認だ。 「いいですよ」 それまでずっと黙っていた草菊が口を開いた。 「私と楽しいことをしましょう」 草菊が嫣然と笑った。 尻餅をついたままの水仙は彼女の言葉を聞いて「えっ」と驚いた。草菊は恐怖に屈しておかしくなってしまったのかと思った。 「大丈夫ですよ、水仙。死ぬことはありませんから」 心配そうに草菊を見つめる水仙を励ますかのように草菊が言った。 「へへへ、そっちの嬢ちゃんはわかってるじゃねえか」 「そうそう、素直にそういえばいいんだよ」 チンピラたちは草菊の言葉を聞いて笑っている。 「じゃあさっそ……」 草菊の一番近くにいたアロハシャツを着たチンピラが草菊の肩に手をかけようとした。 だが、次の瞬間、そこに立っていたはずのチンピラの姿が消えていた。 そして、何かが何かにぶつかったような轟音が周囲に響き渡った。 何が起こったのかその場にいた誰もすぐには理解できなかった。 拳を返り血で真っ赤に染めた草菊以外は。 「あはははははははっ、やっぱり気持ちいいものですね。血の香りって」 楽しそうに笑う草菊。彼女の視線の先ではアロハシャツの男がビルの壁に突き刺さっていた。 昔から血が見たいという衝動が抑えられなかった。血の匂いを嗅ぐと官能がうずいた。 誰かを殴りたかった。誰かにこの衝動をぶつけたかった。 春情に身を任せたかった。 でも、 「でも、私怖かったんです、人を殺してしまうのが」 人間は、いや魔人すらも彼女には脆すぎる。手加減をしないと簡単に死んでしまう。 衝動のままに生きるには草菊は強すぎた。 だからずっと我慢していた。 「たとえ悪人だとしても、人が死んでしまうのはとてもとても悲しくて。ほら、貴方達も死にたくないですよね」 友人でも、敵だとしても、クズだとしても、外道であっても。 たとえそれがだれであっても人が死んでしまうというのは悲しい。 死んでしまったらそこでおしまいだ。可能性をそこで終わらせたくない。 大鋸草菊は“心優しい少女”なのだ。 「でも、安心してください」 どうして人は死んでしまうのか。人が死ななければいいのに。 ―――人を殺せなければいいのに。 そう思ったとき、彼女は魔人になっていた。 「貴方達は私が何をしても死ぬことはありませんから」 それはただ人を殺せないというそれだけの魔人能力。 魔人能力としてはランクE(さいじゃく)に分類されるだろう。 だが、それでよかった。 だって、それこそが彼女が最も求めていたものなのだから。 「安心して私と楽しみましょう」 草菊が狂気を湛えた瞳で艶笑を浮かべる。彼女の心は多幸感に満たされていた。 「……ひっ」 チンピラの一人が恐怖から後ずさりした。そのまま恐慌に駆られてその場から逃げ出そうとする。 だが、結果としてそれはかなわなかった。 逃走した彼の背中には草菊が投げた消火器が直撃していたからだ。 「あはははははっ、どうしたんですか?貴方達が私を誘ったんですよ。逃げるなんてひどいじゃないですかぁ」 草菊が笑いながら、倒れたチンピラに近づいていった。そして、消火器を受けて悶絶していた彼の顔面を思いっきり蹴る。 闇夜に顎が砕ける音が響いた。 「もっと私を楽しませてくださいよぉ、ほらほら」 挑発的にそういうとさらに頭部を踏みつける。頭蓋が砕ける音。 そしてさらにもう一度踏みつける。さらに骨が砕ける音。 すでに普通なら死に至るほどの打撃が加えられている。 だが、彼は意識は失っているが、死んではいない。 生命賛歌とはそういう能力だからだ。 「ふざけてるんじゃねえぞ、クソガキィィィ!!」 部下を痛めつけられたリーダーと思しき入れ墨男が懐から拳銃を取り出した。敵対グループとの抗争に備えて準備していたものだ。 持っててよかった拳銃。 「あはっ、面白そうな拳銃(おもちゃ)をもってるじゃないですか。そうこなくっちゃいけませんね」 黒光りするものを見て、興奮したのか草菊の息が徐々に荒くなっていく。だが、恐れている様子は全くない。 それどころか彼女の声は弾んでいた。 「いくらてめえが魔人でもこいつなら…!死ねっっ!!」 入れ墨男が引き金を引いた。銃声が夜の闇を切り裂いた。 だが、弾丸が草菊を捉えることはなかった。 回避していたからだ。それが当然であるかのように。 「クソッ!なんなんだよお前ッ!死ねッ!死ねッ!死ねッ!死ねッ!死ねッ!」 入れ墨男が銃を乱射する。だが、弾丸が草菊を捉えることはない。 全て華麗に避け続ける。舞台で舞う踊り子のように。 「あはははははははっ!どうしたんですか?私はこっちですよぉ?」 草菊がまるで遊園地のアトラクションで遊ぶ子供のように楽しそうに笑った。 「化け物ッ!死ねッ!死ねッ!死ッ。クソッ!」 当然のことながら拳銃の弾丸は無尽蔵に存在するわけではない。 拳銃を撃ちつづけた結果、入れ墨男のついに弾切れを起こした。 彼にはもう身を守るすべがなかった。 「あれっ、もう終わりですか?」 草菊が拍子抜けだといった様子で小首をかしげる。その姿は無邪気な子供のようだった。 「じゃあ、こちらの番ですね」 そういうと草菊は停められていたハイエースを片手で軽々と持ち上げた。 「ま、待て!やめっ……」 彼女が何をするつもりなのか理解した男が懇願の声を上げた。 「大丈夫ですよ」 草菊が優艶に微笑んだ。何も心配することなどないのだといった様子の優しげな声で。 「死ぬことはありませんから」 そしてハイエースは無慈悲に宙を舞った。 そのあとは一方的な殺戮といってよいものだった。 抵抗するものは当然のこと、命乞いをするチンピラも全く意にも介さず、殴ったり蹴ったりした。 それでも彼らは死んでいない。 腕を逆方向にへし折られても、全身の骨を砕かれても。自動車の下敷きになっても。 たとえ彼ら自身が痛みや苦しみから死を望んだとしても。 水仙はずっと呆然とその光景を見つめていた。 最初は恐怖心から草菊を置いて逃げようかと思った。 友人のおかげで助かったのにそういう考えが浮かんだ自分のことを最低だと思った。 だが、活発艶麗な草菊の姿に釘付けになりその場から一歩も動くことさえできなかった。 そして、月に照らされる血塗れの草菊を見て思ってしまったのだ。 ―――綺麗。 だと。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/94.html
第3試合SSその1 呪いの名は杖、呪いの名はカイブツ 豪華なベッドの上で眠りにつき、目を開けるとそこは鉄骨の上だった。 無色の夢を見た時、こうなることは想像できていた。 むしろ、外の世界をほとんど知らない彼女は少しわくわくしていた程であった。 幸いにもその風景は夜であり、彼女の苦手とする日光は出ていなかった。 「……でも、ずいぶん殺風景なところに来ちゃいましたわ、眺めはいいけど」 エルレカーンはこの事を誰にも相談しなかった。 またお父様に余計な事をされかねないと思ったからでもあったし、勝つ自信もあったからだ。 エルレカーンは鉄骨の上から身を投げ出す。 鉄骨に絡みついた大量の触手めいた足は彼女を地へと落とすことなく、こうもりのように逆さにぶら下がらせた。 「それで、あなたが私の対戦相手かしら」 エルレカーンは逆さのまま、真下の鉄骨の上に立った少女に話しかける。 杖を手に持ったその少女……織音アイリは一瞬ひるむが、すぐに彼女を真っ直ぐと見据え頷いた。 「どこにでもいる普通の人間……いや、違うわね。その杖。特異だわ」 エルレカーンは油断のない目でそう言った。 普段の彼女はここまで戦意を剥き出しにはしない。性根は普通の箱入り娘なのだから。 だが、今は話が違う。 この戦いの報酬は好きな夢を見る事。 ならば自分が人間に戻る夢を見る事も出来るだろう。 もしかしたらそこから現実の世界でも人間に戻ることが出来る方法のヒントを得られるかもしれない。 負けるわけにはいかない。自分が普通の人間に戻る為にも。 《相手に舐められてはいけないわエルレカーン。まずは強気に出るのよ》 そして、彼女の中にはエウレカと呼ばれる異形(転校生)が住まわっている。 誰にも相談しなかった、と前述したが彼女にだけは別である。 エルレカーンとエウレカは、普段は片方の意識しか現れない。 しかし、夢の中ならば両方の意識が共存することが出来る。 事実上の"2対1"。これがエルレカーンの自信の源であった。 《慢心してはだめよ、相手が何をしてくるか見極めなさい》 しかし、褒賞を得られるのは勝者のみ。 そのルールがどこまで厳格なものかわからない以上、エルレカーンは自分の手で戦う必要があった。 もし勝者がエウレカと定義されてしまった場合、自分の望む夢が見られなくなる可能性があるからだ。 故にエウレカはあくまで補助に徹する事となっていた。 「……降参するなら今のうちですわよ」 エルレカーンはそう言うと、いつでも攻撃に入れるように手や足を鉤爪状の触手に変えた。 彼女に真っ当な倫理観はない。所詮夢の中ならばなおさらだ。 それでもこうして語りかけるのは、相手が勝手に降参してくれる可能性を加味しているからである。 「……ごめんなさい。降参は、できません」 織音アイリは杖を握りしめながらそう言う。 その少女はひどく弱々しく見えたが、しかし確かな意思を感じさせた。 やはりそう簡単には行かないか。 エルレカーンはそう考えるが早いか、一気に数十本の触手をアイリに向かって走らせる。 「……っ」 しかし、その触手の動きは全て止められた。 アイリの杖から伸びるその茨によって、全て。 「……それがあなたの能力」 「はぁ……はあっ……!!」 触手と茨はお互いに絡み合い、お互いに相手を傷つけようと必死であった。 しかし、異形化しているとはいえ、自身の体を使っているエルレカーン。 それとアイリが杖から出した茨とでは傷の付け具合に差があるように見えた。 エルレカーンは忌々しげにアイリを見る。 《……これは》 「どうしたのエウレカ?」 《……いえ、なんでもないわ。戦いを続けなさい、エルレカーン》 エルレカーンがアイリをよく見ると、彼女の体は黒い茨のような紋様に蝕まれ、目は赤く変色し、息も絶え絶えだ。 この茨を出す事が彼女の体の負担になっている事はすぐに察しがついた。 エウレカもこの事に気付いていたのだろう。エルレカーンの口に笑みが浮かぶ。 「そんな状態でいつまで持つかしらね……追加ですわッ!!」 エルレカーンがさらなる触手をアイリに向かって襲わせる。 アイリは杖を強く握りしめ、さらなる茨を持ってこれに対抗した。 「あ、うう……ッ!!」 「この程度で終わりだと思うんじゃありませんわよ!!」 鉤爪触手の一本の先端がまるでチェーンソーのように鋭利な回転を始める。 その触手は茨を軽々と切り裂き、アイリの体まで一直線に向かった。 「あああ……ッ!!」 「あっけないですわね……っ!!」 鉤爪触手はアイリの肩部分に深々と突き刺さっていた。 エルレカーンとしては体の両断を狙っていたのだが、上手く杖で弾かれたらしい。 それでも十分無視できないダメージとなったはずだ。 「どうかしら、まだ戦意はある?それともこのまま全身切り刻まれるのがお好みかしら?」 エルレカーンはサディスティックな笑顔を浮かべ、アイリの肩にさらに触手を食い込ませる。 例え降参しなくても、このまま一気に中から引き裂いて終わり。 そして晴れて人間に戻る日がやってくる、エルレカーンはそう確信した。 「あっ……う、い、痛い……っ……痛い……」 「そうでしょうね!もっと痛くなる前に降参したほうが身のため―――」 「痛くて……気持ちいい……ッ!!」 「えっ」 エルレカーンは自分の耳を疑った。 気持ちいい?気持ちいいと言ったの、今? 「い、いつものいばらのいたさとちがうっ! しょくしゅ、かたにくいこんでっ、いたいっ!でもっ、きもちいいのぉおおっ! もっと、もっと痛く、痛くなりたいのぉおおお!!」 「……」 アイリの表情は恍惚としていた。 伊達や酔狂ではなく、本気でこの状況に快楽を感じているのである。 エルレカーンは真っ白になった頭をフル回転させて整理し、そして一つの結論を出した。 「へ」 そしてその結論は、衝動的に口から飛び出していた。 「変態ですわーーーッ!!!!」 エルレカーンは思わずアイリの肩から触手を乱暴に引き抜いた。 その瞬間、アイリは再び熱っぽい吐息を吐きだす。 「あぁぁあっ!!そ、そんな、乱暴にしちゃらめれすっ……でも気持ちいいのぉお……っ!!」 体を震わせながらアイリの呼吸はさらに荒くなっていた。 エルレカーンはある種の恐怖を感じた。 今までに見た事のない存在だった。 《落ち付きなさいエルレカーン!》 「だ、だ、だって、へ、変態……!」 《心で負けてはだめよ、あなたは勝って人間に戻るのでしょう?》 そうだ。自分は勝たなくてはいけないのだ。 そもそも変態だからといって恐れることはない。 次こそ体を引き裂いてこの夢を終わらせよう。そう考えていた。 「え、え、と……エル、レカーンさん、です、よね?」 「ひっ」 「も、もう一度、もう一度言ってください……」 「えっ」 「へ、変態ってぇ……もういちど……もういちどお願いします……!!」 エルレカーンの頭は再び真っ白になった。 フル回転させようにも今度は頭がパンクしそうになってなかなか上手くいかない。 ここは一旦態勢を立て直そう、それがいい。エルレカーンはその場から離れようとした。 「ま、待ってくださいぃ……もう一度……!」 「う、うるさい変態!!」 しかし、アイリの茨とエルレカーンの触手はがっちりと絡みあい全く抜け出せない状態となっていた。 エルレカーンは茨を切り落とそうとするもののその度に新しい茨が再び自分に絡みついてくる。 「ねえどうしましょうエウレカ!!私一体どうしたら!?」 《……》 エウレカは何かを考えているようであった。 まさか、エウレカにも対処法が思い浮かばないのだろうか。 いや、まさかそんなはずはない。エウレカは自分よりもよっぽど強く聡明だ。 この戦いも最初からエウレカが出ていればあっという間に終わっていたに違いない。 エウレカなら、彼女なら必ず何かいい知恵を授けてくれるはずだ。 《……エルレカーンの触手とアイリちゃんの茨が執拗かつ濃厚に絡み合う…… ……これは事実上のレズセックスなのでは?》 「……はい?」 《あらやだ私はしたなく興奮してキマシタワー》 なにを いっているのだろう りかい できない 「え、エルレカーンさん、お願いします…… もっと痛くしてぇ……もっと罵ってくださいぃ……」 《エルレカーン、ここは彼女の要望に応えてみるのも一興ではないかしら?ハアハア》 エルレカーンは三度真っ白になった頭をなんとか半回転くらいさせた。 なんだこの状況は。緊迫した戦いはどこへ行ったのか。 そして、ふと気付いてしまった。 この状況、"2対1"から"1対2"になっている―――!? めまいがしたように視界がぐらりと揺れた。 実際は自分の体が茨にひっぱられ、体が揺れたのだ。 いや、もしかしたら実際にめまいがしたのかもしれないが。 そして、その瞬間にエルレカーンは自分がどこにいるのかを思い出した。 「そ、そうでしたわ……ここは建築中のビルの上…… なにもこのまま正攻法で戦う事はありませんでしたわね……っ!!」 エルレカーンは思いきり触手を振り乱し、その触手と茨で繋がっているアイリを大きく揺する。 アイリから小さな声が漏れて、その足は鉄骨の上から滑り落ちた。 「このまま落ちなさいっ!変態っ!!」 「あひぃんっ……も、もっとぉお……っ」 エルレカーンは忌々しげに触手を振りまわす。 しかし茨としっかり絡まった触手は全く抜ける気配がない。 ならばと杖を持ったアイリの右腕を叩きつけ、手を放させようとするがこれも全く離れる様子がない。 ただアイリが悦ぶばかりであった。 「あなたどうなってるの!?おかしいわ、おかしいですわよ!!」 「そ、そうですね……私、おかしいんです。痛い事が、怒られる事が、気持ちよくて、仕方ないんです」 「うう、変態……変態!変態!落ちなさい、変態!!」 エルレカーンはその触手を刃と変え、確実に杖を持ったアイリの右腕を斬り抜く。 斬り抜いた。斬り抜いたはずだ。 しかし。アイリの右腕は全く斬れていなかった。 「ど、どういうこと……!?」 「あ、あぁあ……う、腕、腕、痛い……っ……斬られ……こんなの……ここでしか味わえない…… やっぱり……降参しなくてよかった……っ」 アイリは恍惚とした表情でそう言ってのける。 やはり、右腕は斬れているらしい。血が少しずつ滴り落ちている。 しかし、斬れた腕が離れない、落ちないのである。 ―――茨姫の杖(リトル・ブライアローズ)は、何があってもアイリの体から離れる事はない。 「……」 《エルレカーン。今、あなた。思ったわね?》 「え……?」 エウレカの声は、先程の浮かれたような声とは違って静かなものであった。 エルレカーンの口の中はからからに乾いていた。 原初の恐怖を味わっているかのようであった。 《彼女の事を、"バケモノ"みたい、って》 「……あ……」 バケモノ。 自分が言われてあれほど傷ついた言葉を、織音アイリに向けて口に出さないまでも考えてしまった。 エルレカーンは強いショックを受けた。 そんな事を考えてしまった自分に対してか。 箱入りで世間知らずであった自分に対してか。 初めてエウレカに突き放されたように感じた自分に対してか。 エルレカーンの体から力が抜けた。 その体が、茨と、杖と、織音アイリごと、落下していく――― 「エルレカーンさん。大丈夫ですか?」 「……え」 目を開けると、そこにはアイリの顔があった。 エルレカーンは思わず飛び退きそうになる、が、出来なかった。 よく見ると、アイリは自分の体の上に跨っている。 一体何が起こった?ここはまだ夢の中なのか? 「私の茨をクッションにして、衝撃を吸収したんです」 そう答えるアイリの右腕はなくなっていた。彼女は代わりに左腕で杖を持っている。 自分自身はともかく、私(エルレカーン)まで助けた?何故? 「私、一目見た時から思ったんです。エルレカーンさん。私の事をすっごい気持ちよくしてくれそうだって…… だから、勝手に助けちゃいました」 「な、なんですの、それ……」 「だって、エルレカーンさんみたいな人、私初めて見て……」 "バケモノ" やはり、彼女にもそう思われているのだ。 ならばお互い様だ、何も遠慮する必要はない。 今のうちに、攻撃を――― 「とっても素敵だなって……そのたくさんある腕や触手で叩かれたら、どれだけ痛いんだろうって……」 「……は?」 「だから、もっと、もっと叩いてほしくて……助けちゃいました。えへへ」 織音アイリは変態だった。 しかし、それと同時に心優しい少女であった。 エルレカーンの姿を見てもバケモノ等とは思わなかった。 ただ、素敵だと、そう感じていた。 ……やや不純ではあるが。 「私が……素敵?この、体の、私が?」 「はい、とっても」 エルレカーンは、何故だかとても救われたような気持ちになった。 この姿のままでいても、素敵と思ってくれる人がいるのだということを。 《今、一瞬思ったでしょ?この体のままでもいいのかもって》 「……う」 「あ、そうだ、エウレカさんともお話したんです」 「え……エウレカと……?」 「はい、それで」 そういうと、アイリは自らの股間に杖を近づけ、くっと差し込んだ。 ……? よく見たら、アイリは下に何もはいていない。 というか、自分も何もはいてない。 エルレカーンの頭は再び真っ白になった。 「こうしたら、もっと、気持ちよくなるって……エルレカーンさんと一緒に気持ち良くなれるって、エウレカさんが」 「え、エウレカ?冗談よね?」 《●REC》 「エウレカ!?」 アイリの杖は、股間に見事におさまり、そしてそそり立っていた。 嫌な予感しかしない。エウレカーンは逃げようとする。しかし何故か体が動かない。 《呪いの杖とコズミックホラー、どっちが強いか実験よ実験!フゥワッフゥワッ!》 ああ、エウレカ。まだ1対2の状況は続いていたのねエウレカ。 エルレカーンは彼女に相談したことを激しく後悔した。 「……このまま、飲み込んでください。アイリの茨姫の杖(リトル・ブライアローズ)……」 「ちょ、ま、やめ」 「夢の中だから、大丈夫です」 恍惚とした表情のアイリはそのまま、エウレカーンと繋がった。 ―――茨ディルドーである。彼女達は一本芯の通った女達になったのだ。 「あぎゃああああっ!!痛、痛、痛い、痛い!!助けてエウレカーッ!お父様ーッ!!!」 「ああぁぁあっ!!ほ、本当に気持ちいいぃい!!最高れしゅうううっ!!」 《エルレカーン、よかったわね、あなたをバケモノ扱いしない子が現れて!ヒューヒューッ》 「なにが良いものかーっ!!ぎゃあぁあああっ!!!」 この瞬間。勝敗は決した。 勝者は好きな夢を。 敗者は悪夢を。 好きな夢を見たものは勝者であり、悪夢を見たものは敗者である。 この瞬間、アイリは間違いなく自分の望む夢を見ていた。 そして、エルレカーンにとってそれは悪夢であった。 有体に言えば、この後のアイリの暴走にエルレカーンの心が折れた。 故に―――勝者、織音アイリ。 余談:この建造中ビルが立っている場所は、現実世界ではえっちなホテルであるらしい。 「……はっ!」 豪華なベッドの上で眠りにつき、目を開けるとそこは、やはり豪華なベッドであった。 暗かった外はすっかり明るくなっている。 夢の内容は覚えていなかった。ただただ、悪夢だったような、そんな感覚だけがおぼろげにあった。 「旦那様!お嬢様が目を覚まされました!」 「おお、そうか!」 「お嬢様、大丈夫でしたか?丸三日も眠っていたんですよ」 「そ、そんなに……?」 魚のような下半身をしたメイドと父、ヴァッヘル・ヴル・ヴァッハがエルレカーンの顔を覗き込む。 エルレカーンは何故か、なんとなく申し訳ない気分になった。理由はわからない。 夢の中で何か大切な物を失ったような、そんな気がしたからだろうか。 「お嬢様が目を覚ましたって本当ですか?」 「おお、君か!」 聞き覚えのない声にエルレカーンが顔を上げる。 父の後ろから一人の少女が歩いてきた。 「お前が眠っている間にいろいろとあってな。この屋敷で新しく働いてもらうことになったんだ。 人間の子なんだが良く働いてくれてね」 「はい、お嬢様がお飲みになられる血もいつでも提供できます。えへへ」 エルレカーンはその見覚えのない少女をじっと見据える。 髪と目は緑色の、小柄で儚げな人間の少女。しかしその姿に不釣り合いな禍々しい杖を持った――― 《めでたしめでたし☆》
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/110.html
第7試合SSその1 THE TWIN STUDENTS 2005年2月下旬。 アラスカ半島・アリューシャン列島・フォックス諸島沖の孤島、江の島において、アナハイム研究所傘下の兵器開発機関、サベージ・アームズが武装蜂起を起こした。 彼らは現所長の辞任と総額500万ドルの開発費用の増額を要求。受け入れられない場合、北海道へのマスドライバー攻撃を実行すると宣言した。 事態を重く見たアナハイム上層部は、民間軍事会社KMCに鎮圧を依頼する。 KMCは魔人戦闘員3名を派遣し、マスドライバーの機能停止と首謀者の殺害に成功。しかし、戦闘の余波は大きく、サベージ・アームズは解体、研究施設は放棄された。 事件から十余年経った現在でも、施設は当時のまま放置されていた。 「さ…寒いっ!!」 時間設定は春先の日中。気温はおよそ摂氏2度。雪は降っていないが、前日に降ったものが積もっていた。 湘南で戦うと思っていた宇多津 転寝は、わけもわからず凍えていた。 夜中の沿岸地域は冷えるかもしれないな、と思って練習着の上にウインドブレーカーを羽織ってきたのだが、焼け石に水だった。 焼けているというか、凍えているのだが。 「あぁークソッ、寒い寒い寒い!」 無意味に喋り続けないとやってられなかった。 転寝は、建物を見つけ、中に入る。寒さを凌げるかもしれないと思ったが、シャッターは破損しているわ、天井に穴は開いているわでほぼ無意味だった。 そこは、戦車の格納庫だった。しかし、そこにある戦車の大半は、大破していたり整備中だったりで動かせる状態ではなかった。 そんな中、一台の戦車に目が留まる。中央付近にあるその戦車は、見た限り損傷もなく、そもそも形やカラーリングがほかの戦車と違っていた。 何か嫌な予感がする。そう思った矢先、戦車の砲塔が旋回を始めた。 「……っ!マジかよっ!?」 転寝は射線から逃れるように走り出す。しかし、戦車の攻撃目標は転寝ではなかった。 轟音と共に放たれた榴弾は、転寝が入ってきた出入り口の上部に命中。壁や天井が崩れ、出入り口を塞いだ。 砲塔のハッチが開き、中から坊主頭の男が窮屈そうに上半身を出した。 「宇多津転寝だな?」 その男、堀瀬 大我は黒いフィールドジャケットを着ていた。転寝と比べてもあまり厚着とは言えないが、寒そうには見えない。 エンジンの熱で車内が暖められているのだろうか。 「降参しろ。当たり所が悪いと、即死できずに苦しんで死ぬことになる」 「…ずいぶんと自信があるな?」 当然である。満足な対戦車装備を持たない人間が、戦車に勝てるなどとは誰も思わない。 転寝の答えは決まっていた。 「お断りだ。貴重な睡眠時間で悪夢を見るわけにはいかない」 「…そうか」 大我は残念そうな顔もせず、窮屈そうに体を引っ込めた。 そして、戦車は動き出す。 転寝が違和感に気付いたのは、指先の感覚が無くなってきた頃だった。 戦車の行動は非常に単純で、辺りを見回すようにその場で砲塔を旋回させ、しばらくしたら移動、たまに威嚇のために適当に主砲を撃つ、という動作を繰り返していた。 問題は、それぞれの行動の間隔が妙にあいている事だった。 最初、転寝は大我の能力を戦車の操作を含んだもので、砲塔と車体を同時に操作しないのは、処理の限界だからと思っていた。 しかし、それにしては間があいている。特に主砲を撃った後の硬直が長かった。 これはもう運転席と砲手席を行き来して、手動で操作しているとしか思えなかった。 「そう考えると、だいぶ隙だらけに見えるな…」 というか殆ど死角だった。 これならいくらでもやりようはある。転寝は戦車が移動を終えたところで、背後から接近する。 その手にはオイル缶とバーナー。どちらも格納庫内に落ちていたものだ。 そして、砲塔が前を向いた瞬間を見計らって、車体後部に飛び乗った。 排熱口と思われる穴に脱いだウインドブレーカーをかぶせ、オイル缶の中身をかける。 戦車から降りて、導火線代わりに垂らした袖に火をつけ、距離を取った。 すぐに車体に火が燃え広がった。オイル缶の中身が難燃性のグリースとかだったらどうしようかと考えていたが、杞憂だったようだ。 大我は煙に気付き、慌ててハッチから出てくる。 手には消火器を持っていたが、鎮火は不可能と判断し、消火器を投げ捨て戦車から飛び降りた。 次の瞬間、火が燃料に引火し、戦車は巨大な火柱をあげる。 弾薬が連続して破裂する音を聞きながら、転寝は大我に声をかける。 「降参しなくてもいいぜ。どこに当たろうと、楽に眠らせてやる」 大我は何も答えず、右手を後ろに伸ばす。すると、何もないところに、突然戦車が現れた。 再び戦車に乗られてしまうと、再度降ろすのは困難だ。何か対策を取ってくるだろうし、オイル缶ももう一本見つかるかわからない。 「させるかっ!」 転寝は戦車に乗られる前に倒すべく、大我との距離を詰める。 大我は戦車の主砲に手をかけ、 持ち上げた。 「……えっ?」 砲塔が車体から外れ、砲弾が地面へと零れ落ちる。 大我は砲塔の付いた主砲を大剣の如く振るい、前方を薙ぎ払った。 「は、はあっ!?」 転寝が後ろに倒れこむと、目の前を主砲が掠めていった。駆け出すのが遅ければ、砲塔が命中していただろう。 「ふ…ふざけんなっ!!」 転寝は武器を持った相手との戦い方も心得ていたが、それもせいぜい2~3mの薙刀くらいの長さまでで、6m以上の鉄の塊を振り回す相手と戦ったことはなかった。 転寝は大我から距離をとるが、大我は右手で床に落ちた砲弾を拾い、投げつけてくる。 主砲から放たれたものに比べれば威力は劣るが、床を穿つくらいの威力があった。 砲塔側に積んであるのは徹甲弾のみで、榴弾が無いのが幸いだった。 砲塔に積んである砲弾はあまり多くはなく、すぐに弾切れを起こした。 「はぁ…はぁ…どうした?もう終わりか?」 転寝は挑発するが、大我は答えず、主砲をバットに見立てて構える。その傍らには、戦車の車体。 「…嘘だろ?」 大我は主砲をスイングし、車体を弾き飛ばした。 「嘘だろぉ!?」 転寝は転がるようにして飛んできた戦車を、横っ飛びで回避する。 直撃は免れたが、戦車は直後に爆発炎上し、転寝は爆風で吹き飛ばされた。 「がはっ…く、くそっ…」 倒れた転寝は起き上がろうとするが、腕に力が入らない。 それどころか、全身から力が抜けていくようで、意識も朦朧とし始めた。 (頭をぶつけたか?いや、奴が別の能力を隠し持っていた…?) その答えは、この寒さだった。 人体が冷える時は、血管の細い末端部分から冷えていく。 その状態で激しい運動をすると、冷えた血液が全身に流れ、内臓や脳が機能障害を起こすのだ。 戦車の中で暖を取っていた大我との差が、ここで現れた。 だが、転寝はまだ諦めてはいなかった。 夢の戦いの敗北条件の一つは『戦闘不能』である。 たとえ意識を失っても、転寝には戦う術があった。『夢遊睡拳』だ。 父も姉も強すぎて、睡眠以外で昏倒しているのを見たことがないので、このような状況で使えるのかは分からないが、試してみる価値はあった。 ズシン、と、低く大きな足音が響く。地面に伏しているから大きく感じるだけかもしれないが。 それは、さながら怪獣の足音だった。 足音はだんだんと近づいてきて、転寝のそばで止まる。 足音の主は言った。 「……最期に言うことはあるか?」 「…俺は、寝つきが悪いのを今ほど悔やんだことはないよ」 「…そうか」 足音の主、大我は、転寝の頭に砲塔を振り下ろした。 幸いなことに、即死だった。 転寝はベッドの上で体を起こした。 夢の戦いの時間になっても、目が冴えたままで、一向に戦闘空間へ転送されない。 スマホのカレンダーを見ても、12時を回って日付が変わっただけで、気づかないうちに数日間寝てしまっていたということもない。 それなのに、『夢の戦いへと導かれる』という感覚は、すっかり消えてしまっていた。 「何だったんだ、一体…」 敗北して記憶が消されているのかもと思ったが、それならば悪夢を見ているはずだ。時間は全く過ぎていない。 結局、返り討ちにした不良の中に、嘘を信じ込ませる能力者でもいたのだろうと考え、普段通りにゲームでもすることにした。 しかし、彼はまだ知らなかった。 悪夢は寝ているときにしか見ないものではないということに。 連続起床記録を、月単位で大幅に更新してしまうことに。 これこそまさに『覚めない悪夢』だった。 街の中で怪獣が暴れていた。 高さ5mを優に超えているだろうその怪獣は、電柱を薙ぎ倒し、自動車を踏み潰しながら進んでいく。 ぬいぐるみを抱えて逃げる少女が転んでしまう。迫りくる怪獣。絶体絶命だ。 その時、怪獣の頭に榴弾が炸裂した。現れたのは、軍の戦車だ。 その数四台。戦車隊は怪獣に向けての一斉砲撃を開始。怪獣は爆炎に包まれる。 「やったか!?」 先頭車両から男が顔を出して叫ぶ。 もちろんやってない。 煙の中から自動車が飛んできて、先頭車両に当たり爆発した。 さらにほぼ無傷の怪獣が飛び出し、2台目の戦車を両足で踏み潰し、跳びあがって3台目の戦車に両手を振り下ろす。 援護に駆け付けた2機の戦闘機が、機銃やミサイルで攻撃するも、怪獣はそれを意に介さず、接近してきた1機を手で払い落した。 「ダメだ!離脱する!」 もう1機は攻撃を諦め、怪獣から離れようとする。 怪獣は4台目の戦車を持ち上げ、離脱する戦闘機へ投げつける。 投げられた戦車は戦闘機へ命中。地面に落ちて爆炎をあげる。 彼はその映画が好きだった。 特に、途中の10分程の、怪獣が街中で暴れるシーンに、彼は心奪われた。 安っぽい模型に着ぐるみ、素人が作ったようなCGだったが、それでも怪獣は少年だった彼の心を掴んで離さなかった。 あの映画の世界に入って、怪獣になって暴れたいと、彼は願った。 そのおかげで、彼は魔人となり、怪獣に匹敵する強靭な肉体と、あのシーンで使われていたものの中で、普段見かけることのない戦車を召喚する能力を得た。 「派手にやってくれてるじゃねーか」 前方から、変わったスーツを着た四人組が現れた。 「僕達がもう少し早く到着していれば…」 「ヒートが居眠りしてるからだよ~」 「………怠慢……」 「う、うるせー!テレビ見てたら遅くなったんだよ!」 彼らこそがこの映画の主人公。正義の組織の期待のルーキー達だ。 この後彼らはそれぞれが持つ特殊な力を使って怪獣を倒し、怪獣の肩に刻まれた刻印から悪の科学者の存在を知り、壮大な陰謀に巻き込まれていくというストーリーだ。 「僕とクゥで逃げ遅れた人たちを助ける。ヒカリは怪獣を誘導。ヒートは…」 「おっしゃいくぜえええええ!」 「…もう突っ込んでるよ?」 「…しょうがない。ヒカリ、クゥ、奴を援護だ」 「りょうか~い!」 「……了解」 だが、今回はそうはいかない。 怪獣の強大な力を、世界へ知らしめる。 そして、その話を部長に、友人に、家族にするのだ。 大我の戦いは、これからが本番だった。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/47.html
牛沢幽也 プロローグ 一、 湘南の治安が問題視され始めたのは21世紀に入ってからだ。 改善の兆しが目に見えるようになったのは漸く10年経ってのことである。 一時期は死の見本市とまで言われた湘南も、今では遠くから若者達がショッピング、歴史探索や江ノ島ツアーに訪れるなど賑やかさを取り戻しつつある。 鎌倉駅前のバス停では学生が平和そうにスマートホンを弄っている。 「おいコラ、ちょっと待てや。」 早乙女ロビンはごく普通の高校生だ。突如降りかかった怒声に、黒髪の少年は振り返った。 後ろにいたのは、ただの善良そうな一般市民だ。 赤い眼鏡を掛け、茶髪で、口うるさそうな女性である。 「はぁっ?」 思わず、素っ頓狂な声を挙げる。今の唸り声を目の前の女性が出したとはとても思えない。 状況が理解出来ないロビンだが、女性は何も起きてないように振る舞う。 「ねぇ、貴方に言ってるのよ。」 先程とは打って変わりセキセイインコのように高い声。ロビンの嫌いなタイプだ。 それに良く見ると首からボードをぶら下げている。嫌な予感がする。 「署名して頂けないかしら。」 駅前名物、権利活動家だ。ロビンは辟易した。 ボードに貼られた紙には、『彼らに市民権を!』と書かれている。 「興味無いです。俺、学校行くとこなんで。」 振り払おうとロビンは言った。現在時刻は10時。遅刻だ。 だが、そんなことなど御構い無しにインコ女は行く手を塞ぐ。 関わらなけばよかった。と、ロビンは内心思った。 「ヤンキーはとても賢い生き物なのよ。」 駅前名物、ヤンキー保護活動家であったか!ロビンは狼狽した。これは通常の権利活動家のかるく数十倍は厄介だ。 「ねえ、貴方も協力しましょう?彼らには確かな知性があるの。知的生命体には等しく権利が与えられるべきなんだわ。」 少し法律のことを勉強しただけのロビンにもわかる、お花畑理論だ。無視して逃げるべきだが、ロビンは若い。 「へぇ?じゃあもロボットやイルカも権利主体足り得るんですかね?そんなのが政治とか法律を理解できるかなあ?」 「アン?」 それは最初に聞いたドス声と良く似ていた。 同時に、ロビンはインコ女越しに無人のバイクを見た。 誰も乗っていないにも関わらず、エンジンをかけたまま徐行している。まるで直前まで人が乗っていたかのようだ。どう考えてもテレポートしたとしか思えない。 アレはなんだ?と思い、すかさず写メで撮ろうとする。だがすぐに後ろから来たバスで隠れてしまった。 よく分からないが、これはインコ女から離れるチャンスだ。バスの行き先は神奈川県立ダンゲロス高校前。こんなバスに乗り込む命知らずはダンゲロス高校の生徒しかいない。バスのドアが開く。 「じゃ、そゆことで。」 一方的に別れを告げ、バスに乗り込む。 この界隈に、ヤンキーなんて実在するわけが無い。 その時、見た。 路上で空気椅子しながら、両手を突き出す不審者がいた。不審者は金髪に黒服を着て、腰に木刀を帯びている。 …あれはヤンキー? 金髪の男はこっちを見ていたような気がする。 二、 バスに乗ると、黒髪ポニテがいた。 「ロビンソンくんじゃないか。おはよう。」 呪井マリだ。禍々しい字面だがジュディと読む。でもダンゲロスキラキラネーム検定1級保持者の人達にはそんなこと日常茶飯事だ。 「おはよう、ジュディマリ。」 「ふざけるなッロビンソンくん。10時から登校とは相変わらず不真面目だね。ここはそばかすの数を数えることが趣味のクラス委員長として言ってやらねばならないな。」 「お、おう。それ何の瓶?何を飲んでるの。」 ジュディマリと時計を見比べ、とりあえずロビンは先程から彼女が煽っているワインボトルを尋ねた。 「オリーブオイル。」 「えっ」 「体に良いからね。」 ロビンはあの真面目な僕っ子委員長が何故遅刻の常習犯か理解した。 「相変わらず太宰治みたいな髪型だなあ、ロビンソンくんは。川に沈めてやろうか。」 こんな何気ない雑談でも本当に川に沈められたり、ハーブティーを飲まされたり、サファリパークに置き去りにされるので油断できない。そこがジュディマリの良いところでもあるのだが。 もう分かるよね。ロビンは僕っ子委員長から罰を受けたくて遅刻するクズなんだ。そんな勇気あるクズは勇者と言わざるを得ず、勇者のクズだった。 「ううっ!なんだ!?お腹が痛い!私の身体は健康の筈なのに!!」 ジュディマリが原因不明のオリーブオイルの飲み過ぎで苦しみ出した時だ。ロビンは靴が濡れていることに気がついた。 オリーブオイルを漏らしたか?と一瞬興奮したが、どうやら磯の香りがする。 ふと背後を振り向く。それ自体に理由はなく、敢えて言えば直感だ。床に水溜まりが出来て後部座席に続いている。 後部座席にいるのは金髪の男だ。三人いる。 「えっ!?」 確か駅前で見た時は一人だ!増えた!?いや、そもそもバスに乗ってる筈がない。 …海水!?男達は一様に空気椅子をしながら両手を突き出している。そしてビショビショだ。不審者がビショビショになってる姿は見る者の恐怖を助長する。 どう考えても海からテレポートしたとしか思えない! 「ガアアアァァァァァァアアア!!」 突然の絶叫にロビンは反応する。ジュディマリが窓ガラスに額を打ち付ける音だ! 「頭部の痛みで腹痛を和らげようとしている!?」 「ガアアアアアア!!ガアアアアアア!!」 いや違う!窓ガラスを粉砕してバスを降りようとしているのだ! そんな馬鹿な。 湘南は世界一安全な観光都市だ。窓ガラスは割れないように出来てる。途中で降りるなんて許されない。 だが、ジュディマリなら。 ダメでした★ 「…ロビンソンくん。どうやら私は破壊ばかり得意で治すのが苦手らしい。 …ロビンソンくん?」 ジュディマリが血まみれで振り向いた時、ロビンの姿は無かった。座席にあったのは海水の手形とスマートホンだ。 「えっサメにでも襲われた?」 三、 窓の向こうにバイク数十台が走っている。 無駄に高い音を掻き立てるバイクの上には金髪の男達が空気椅子をしながら両手を突き出している。 「ビビビビビビ」 「馬鹿な…ここは湘南だぞ。ヤンキーなんて想像上の生き物に過ぎない。」 そして何故、ロビンソンくんが姿を消したのか。その答えは座席に残されたスマートホンにある気がする。 「だがロビンソンくん如きが謎を残すとは生意気なッ!」 ジュディマリはスマートホンのパスワードを解除し、窓ガラスを開け外に捨てた! 「ざまあみやがれ!…ぁあッ!窓ガラスって開くんだ!?」 ジュディマリはあまりの絶望感に頭を抱えた。そんな彼女の肩を誰かが背後から叩いた。 赤い眼鏡に茶髪で、首から権利保護のボードをぶら下げた女性だ。ダンゲロス行きのバスに乗るとは余程の命知らずに違いない。 「私は最初からずっと声を掛け続けていたの。 名前は木瀬聖子。一年生よ。」 「機嫌悪いから殴られる前に病院に帰って下さい。」 実はジュディマリは人見知りだ。 だが、セキセイインコの女はジュディマリを優しく抱擁した。そして突き放し、顔面を殴った。 「甘えてはいけませんッ!これは試練なのです。」 これは本格的に鬱陶しい奴に絡まれたものだとジュディマリは思った。だが、そんな奴は嫌いではない。気がつくと二人は意気投合していた。 「ビビビビビビビビビ」 相変わらず無駄に高い音を掻き立てバイクが走る。そんなことはどうでもいい。先頭を走るバイクの後ろに荒縄で縛り上げられたボロ雑巾のようなロビンソンくんが引きずられているが、ロビンソンくんを見つける方が先決だ。ジュディマリは窓ガラスから目を背け、そしてもう一度窓ガラスを見た。 「ァァァァァァアアア!?」 身体中の穴という穴からオリーブオイルが噴き出すんじゃないかというほどの叫び声を、ジュディマリは上げようと思ったがもうしていた。 「ァァァァァァアアア!?」 そしてもう一度声を出してみたものの現実は何も変わらない。ロビンソンくんがヤンキーに絡まれている。 アレは野球の刑だ。身体の四肢に荒縄を巻きつけ、縄の反対側をそれぞれ四台のバイクに括り付けバラバラの方向に走らせ、身体を八つ裂きにするスポーツである。そんな残酷なことを思いつくのは湘南広しと言えどもヤンキーしかいない。 だがよく見れば、荒縄は首に巻かれてるし、別に野球では無い。本当に恐ろしいのは人間の心なのだ。 「運転手さん、バス止めてバスー!」 「ビビビ」 ジュディマリとセキセイインコの女は二人して運転手に駆け寄り、初めて気が付いた。無駄に高い音を掻き立てていたのは運転手だった事に。 「ビビビビビビビビビ」 感電である!運転手は海水でビショビショになったまま精密機器を扱った為、感電してる!テレポートしたとしか思えない! 実は誰も運転してなかったバスはやっとカーブに差し掛かり、遂に転倒した!テレポートしたとしか思えない! 「転倒するぞッ!対ショック姿勢のまま窓を開けて外に飛び出すんだー!」 「ゴアアアアアア」 バスは二、三回転がり、江ノ電の線路に着地し、夢の特急エノライナーと激突した。中から平安貴族一名と女子生徒とおぼしき二名、そしてお蕎麦取締官とおぼしき二名が窓を突き破り、ヤンキーに絡まれながら海中に沈んでいったが気にする余裕は無かった。 しばらくしてセキセイインコの女が血まみれでジュディマリを地面から引き抜く。そこは砂浜で、ムカついたジュディマリはワインボトルで近くのロビンソンくんを殴った。 だが、真の絶望はここからだ。湘南の砂浜と言えばヤンキーの生息地。いつの間にか一面を囲まれている。テレポートしたとしか思えない! 四、 まず真っ先に反応したのはヤンキー保護活動家だ。 「す、素晴らしいわ。ヤンキーがこんなにたくさん。」 人情で説得しようという策だ。するとヤンキーの一人が空気椅子をしながら両手を突き出した。 それを見たヤンキー保護活動家もまた、しゃがみ込み両手を突き出す。典型的な動物会話だ。 「怖くない…私は味方よ。貴方は本当はとても賢い…ギャァァァァァァァ!!!!」 ヤンキーが噛み付いた!所詮は動物!やはり保護活動など不可能だ!首から鮮血が迸る! 「ワアアアアアア!!」 ヤンキーが群がる!活動家は海中に引きずり込まれた!怖い!これが湘南のヤンキーに絡まれるという事だ!! ジュディマリは半狂乱で抜刀した。彼女の能力は『穏やかに終わりを告げる季節(マイフェイバリットエンディング)』。抜刀することで行き交う人々が遠くに感じられ、騒めきさえ薄れては溜め息に消えてしまうように感じる能力だ。 そして僕っ子委員長のジュディマリは一度も僕と呼称したことはなく、周りから勝手なイメージを押し付けられる事に内心かなり傷付いている。 こうなれば一騎打ちだ。 「さて、どいつがリーダーなの?」 前に現れたのは、金髪のヤンキーだ。空気椅子をしながら両手を突き出している。右手に持っているのはロビンソンくんのスマートホンだ。テレポートしたとしか思えない! 「…ヤンキーが喋られんとか思ったか?」 突然の言葉に、ジュディマリの思考は停止した。 ヤンキーが、人の言葉を解している…だと… 「なあ?やって良いことと…アカンことってあるやろ?」 こてこてのヤンキー言語!?日本語に凄く近い…だが理解出来るが、理解出来ない! 「俺さあ、腕に縫った跡あるやん?分かる? アカンことしたら罰当たるやろ? 動画撮ったり…写真撮ったり…そういうのは許す!石投げるのも許そう!俺らもそういうことするしな。」 えっ許すの!?ジュディマリは写真を撮ろうとしたが、鞄の中の一眼レフカメラがなぜか海水でビショビショになっていることに気がついた。なおかつ中は大量のヤンキー写真で埋め尽くされていた。 「馬鹿にしたり…その場に居ったり…殴るのも許す。じゃあ何を許さへんのか!? その場に居合わせることや!駅にいたらヤンキーに絡まれるのは当たり前や!」 ….?…!? ?低知能! 会話が成立しない!! 「嫌アアアアアア!!」 数万した一眼レフカメラをダメにされたのでジュディマリは走り出した! 逃げ場は少ない。すぐ目の前に車のトランク。緊急避難用のシェルターになるだろう。 慌ててトランクに入るジュディマリ。だが、中にいたのは… …ヤンキーだ! テレポートしたとしか思えない! 「嫌アアアアアア!!」 その時だ。 一台のトラックが突っ込んで来た。道路上に散乱するオリーブオイルでスリップしたのだ。後に運転手は語る。テレポートしたとしか思えないと。 五、 湘南の砂浜に黒煙が上がっている。辺りに遺体や烏帽子が転がる。 監察班は注意深く事故を検証していた。 「おい、このトランク中に誰かいるぞ。」 その時トランクから腕が伸びた。 本戦につづく。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/44.html
織音アイリ 【 キャラクター名 】:織音アイリ 【キャラクター名読み】:おりねアイリ 特殊能力『茨姫の杖(リトル・ブライアローズ)』 緑の茨のような刺々しく、禍々しい杖。いわゆる魔法の杖的な外観・大きさでアイリの身長ほどある。 前提としてこの杖はアイリの体から決して離れない。 どれだけの力で引っ張られても絶対に離れる事がない。 逆に言えば体にさえついていれば腕でなくとも足や背中、果ては髪の毛一本であろうと付き続ける。 例えその際、杖と繋がった髪の毛を切ろうとしても抜こうとしても不可能であり、永遠に、そして絶対にアイリの体から離れる事はない。 ちなみに服等が間に挟まっている程度なら問題ない。 この杖の先から茨を作りだす事が出来る。茨の太さは大体少女の腕程度の太さ。 この茨はアイリの意思で自由に、多数生みだす事が出来る。 一本でも並みの人間を縛りつけて動けなくする程度の力は出る上、束ねる事でさらに強い力を発揮できるようになる。 代償としてアイリは茨を出している間、茨で締め付けられるような痛みが襲う。 痛みの度合いは出現させている茨の長さ、量に比例して大きくなる。 キャラクター設定 13歳139cm。薄い緑の目と髪色が特徴。髪の長さはセミロング程度。 行き場も無く放浪の旅を続けている薄幸の少女。 その手に常に持っている杖が原因で住んでいた村を追い出されたらしいが真意は不明。 ただひとつだけ言えることは、彼女はその杖によって呪いじみた力を得てしまったということだけである。 心優しい性格だがその禍々しい力によって泥をかぶる事も多く、周囲の不理解等もあって、逆風の多い人生を歩んでいる。 関連SS 織音アイリ プロローグ 織音アイリ 幕間その1
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/27.html
キャラクター投稿進捗状況 2016年3月28日 6 28 ※キャラクターを示す記号は、キャラクター名等とは無関係な識別記号です。 記号 投稿受付 GK返信1 PL返信1 GK返信2 PL返信2 GK返信3 PL返信3 GK返信4 … … … 観 ○ ○○ ○ ○ 自 ○ ○ ○ ○ 在 ○ ○ ○ ○ ○ ○○ ○ ○ 菩 ○ ○ 薩 ○ ○ ○ ○ 般 ○ ○○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 若 ○ ○ ○ ○(廃案) 波 ○ ○○ ○ ○ ○ ○ 羅 ○ ○ ○ ○ 蜜 ○ ○ ○ ○ 多 ○ ○ 時 ○ ○ ○ ○ 照 ○ ○ ○ ○ ○ 見 ○ ○ 五 ○ ○ 蘊 ○ ○○ ○ ○ 皆 ○ ○ 空 ○ ○ 度 ○ ○ 一 ○ ○ 参考資料 進捗管理に使用したエクセルシートを参考のために掲載します→progress.xlsx
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/104.html
夢売誘子プロローグ① 夢売誘子プロローグ② ●プロローグ③ ●TIPS1「デミウルゴスの泡(あぶく)」 空木凛プロローグSS第〇章:夢幻の如く 夢売誘子プロローグ① 夢売誘子は眠らない。 眠ることで夢が生じるというのならば、夢売誘子は夢を見ない。 髑髏(しゃれこうべ)に悪魔が宿る。 夢売誘子は、アビメルムの見せる悪夢をそう表現した。 その悪夢を幻覚の類とするのなら、あまりにもそれは生々しく、血生臭かった。 アビメルムは、悪夢を喰らう。 起きている者に、アビメルムの姿は見えず、アビメルムとは、夢売誘子に受胎したことで、この宇宙で観念体となった悪夢そのもの。夢を通してしか知覚できず、夢を見る者が自ら招き入れる。 アビメルムは喰らった悪夢を現実のものとする。 それが、どれほど、荒唐無稽であっても、アビメルムは夢を叶える。 そして、荒唐無稽であればあるほど、叶えられた夢は現実を歪まし、悪夢となって現実を侵食する。 自分がアビメルムに与えてきた悪夢が、堰を切ったかのように溢れだし、現実を歪ませていく、その光景を受け入れるだけの強さは、夢売誘子には残されていなかった。 夢売誘子は眠れない。それは、アビメルムによって「眠り」を根こそぎ喰われたからに他ならない。 どこからが現実で、どこからが悪夢だったのか、もはや誰にも判別できない。 夢売誘子は、寝室に閉じこもり、毛布をかぶって、夜が更けるのを、まるで幼い子どものように、じっと震えて待ち続ける。 夢を見ることのできない彼女は、無色の夢を見ることができない。 しかし、アビメルムが喰らった悪夢は、現実を歪ませる。 その夢は、アビメルムによって叶えられ、既に現実との帳を越えていた。 眠る自分と、夢の自分、この世界とこことは別の世界、夢を通して�壓がったあらゆる存在・世界は、複雑に入り混じり、一つの世界の中に矛盾を抱え込んだまま叶えられた。 そして、まるで泡のように、何かのきっかけで弾けて消えそうなその世界は、アビメルムによって少しずつ捨象され、完成された世界へと収束し始めていた。 夢売誘子プロローグ② 「夢、売ります」 夢売誘子は、夢を売る。 デミウルゴスの泡(あぶく)もしくはソピアの鏡像と呼ばれるものにカテゴライズされるその能力は、夢を「魂が生み出した、肉体という檻に閉じ込められた結果、幻という形でしか認識できない不完全な世界」とし、魂と夢、そして世界は、親と子のような関係でしかなく、その実体は同義であるとする。 その力について、端的に表現すれば、如意宝珠、豊穣の角でありーーその力の持ち主は、他者の意のままに願い(夢)を叶える道具となる。 しかし、夢売誘子は、夢を売る。 叶えるでなく、売るのだ。 それは、夢売誘子が魔人ではなく、アビメルムの受胎者でしかないことに起因する。 その力は借り物で、夢売誘子の力ではない。 アビメルムは、夢(世界)を喰らう。 アビメルムに喰われた夢(世界)は、悪夢となって現実のものになる。 人であれ、物であれ、観念であれ、それは物質世界に変換されて実現する。 しかし、夢売誘子は、その力の意味を何一つ解せず、自身の夢をアビメルムに与え続け、他者にアビメルムを仲介した。 そこに、悪意はなかったとはいえ。 ●プロローグ③ 神は最も不遇な者を愛するとは、誰の言葉であっただろうか。 その言葉は、一見、矛盾するようでありながらも、神の持つ両義性を的確に見抜いていた。 神に愛された者は、愛された証に、神の徴を刻まれる。 かつて、デミウルゴスの泡(あぶく)あるいはソピアの鏡像と呼ばれた少女は、生まれながらに脳に異常を抱え、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、時間感覚、その他あらゆる感覚を持たずに生まれ落ちた。 その少女は、生まれ落ちてから死に至るまでの13年間、世界には天も地もなく、宇宙は無色透明で広大な空間に自我のみが存在しているものと信じていた。 その少女の名をステラと言う。彼女は偽物の魂を持つ人工生命として創りだされた。 ヒトは神様を拾ったら、その力を試さずにはいられない。 全ては、半世紀以上も前に消失した人工衛星の再発見から始まった。 日本の沖合を漂流していたそれを、最初に発見したのは、日本国籍の小さな漁船であった。 事件は、何の前触れもなく起こった。当時は、雲ひとつない空であり、どの局でもその週の天気については、晴れもしくは快晴としていた。だからこそ、午後になり、急速に空が鬱りだし、強い風を伴う大雨に変わるとは、誰一人予想していなかった。 突然の大雨に進路を失ったその漁船は、直ちに救難信号を発し、大波に飲まれぬように、必死に舵を切っていた。 そんな彼らの目の前に、人工衛星の残物が姿を現した。未解決事件として、世間を騒がせ、最終的には事故として処理されたその事件について、真実を公に語るものは誰もいない。 謎のみを残したその事件の記憶は風化され、当時を覚えているものも多くない。 当時、その漁船から無線で連絡を受けた担当者は、その漂流物を発見した時の彼らの様子について、事件当初に語った証言を否定し、今となっては口を噤んでいる。 だがしかし、一つ確かなのは、当時、その漁船に乗っていた者全員が、太平洋上で忽然と姿を消したという事実だけである。 現場の船には、乗組員と何者かが交戦した後が至る所に残っており、事件の異様さを際立たせた。 彼らが何と出会い、どこへ消えたのか、既に調査は完了していたが、その詳細の一切は公にされていない。 その日、ヒトは神様を拾い損ねたのだ。 無知なる人類は、何の前触れもなく現れた神様を前に、畏れ慄き、集団で襲いかかった。 それが事実であり、彼らはその罪を問いた何者かが拉致し、未だにその行方は分からない。 殺してしまった神様を再生するべく、動き出したのが「ステラ計画」であり、それはヒトと神様を掛けあわせることで、天使を創りだす計画だった。 ●TIPS1「デミウルゴスの泡(あぶく)」 デミウルゴスの泡とは、ステラと口付けを交わした者の胸部に、沸々と現れる無数の泡のことである。 肉体という檻に閉じ込められたことで、不安定な形で生み出されることになった、生起と消滅を繰り返す夢の世界を、デミウルゴスの泡は内包している。 ステラは歌うことで、口付けした者を祝福し、デミウルゴスの泡から、ソピアの鏡像を作り出そうとする。 デミウルゴスの泡の保有量は、個々人によって異なるが、その一つ一つが、本来ならば、夢という幻覚として消えるか、平行世界となって新たな分岐点となる可能性の源である。 口付けによってステラと触れた魂は、その魂が備える可能性を、デミウルゴスの泡に内包して体外に放出する。 口付けをした者は、己から沸き出たデミウルゴスの泡に自身の願いを投影することで、その願いが叶えられるとされる。 しかし、デミウルゴスの泡によって生み出された世界は、不完全なままであり、何かのきっかけで弾けて消えてしまう。デミウルゴスの泡を、ソピアの鏡像と呼ばれる弾けることのない永遠の虚像に昇華させるには、命さえも投げ打つ覚悟が必要とされる。 空木凛プロローグSS 第〇章:夢幻の如く 見渡す限りの紅蓮の火が、ぱちぱちと火の粉をあげていた。 熱せられた空気が、ごうごうと立ち昇り、どす黒い煙はまるで人魂のように天高く昇っていく。 ーーああ、またこの夢か。 大河ドラマで一度は目にするワン・シーン。 《人間五十年――》 その句を聞けば、嫌でも思い出す。戦国の世の英雄。 鳴かぬなら殺してしまえホトトギス。 たとえ、彼の武勇は知らずとも、彼の気性を表したその有名な句ぐらいは、誰もが知っているだろう。 《――化天のうちを比ぶれば――》 けれど、彼が死に際に、敦盛のその有名な節を詠んだかなどは、私などが知り得るはずもなく、この光景にどこか既視感を覚えるのは、それだけ、このシーンが再現され、人々の記憶に焼き付いている証左でもあるのだろう。 炎陣の中で舞うその姿は、堂々と雄々しいはずなのに、陽炎のように儚く揺らめく。 メキメキと梁が音を立てて崩れ落ちていく。迫り来る業火を見上げながら――ノブナガは嗤う。 《人生五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり》 緋色に塗りつぶされる景色の中で、ノブナガの嗤いだけが、私の脳裏に最後まで焼き付いていた。
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/58.html
大鋸草菊 【 キャラクター名 】:大鋸草菊 【キャラクター名読み】:おが くさぎく 特殊能力『生命賛歌(ライフ・イズ・ビューティフル)』 他者を殺害できなくなる能力。 これは草菊に常時発動している能力であり、彼女の行動では何をしても誰も殺すことができない。 解除も不可能。 他者が草菊を殺害することは可能。 キャラクター設定 希望崎学園のあまり目立たない生徒。16歳。どこにでもいそうなごく一般的な眼鏡っ子。 勉学や読書に勤しむごく普通の美少女だが、友人や家族にすら自分が魔人であることは黙っている。 人の死を忌避しており、魔人能力に目覚めるまで自分が誰かを殺してしまうことを恐れていた。 たとえそれが自分に害をなそうとする人間であったとしても、その死を悲しみ、慈しむ心優しい少女である。 関連SS 大鋸草菊 プロローグ