約 2,047,124 件
https://w.atwiki.jp/rokumonsen-multi/pages/20.html
六文銭GTAV部にようこそ! みんなでミッションやレース デスマッチなどをVCを使いながら楽しみましょう 公式URL→http //ja.socialclub.rockstargames.com/crew/rokumonsen
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/4149.html
imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Stone Quarry.png) ガヴォニーでは墓石は司祭に祝福された採石場のみから切り出される。 In Gavony, headstones come only from quarries that have been blessed by chaplains. イニストラードを覆う影 統率者2017 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Stone Quarry2.png) 発明家の復興は霊気ブーム最盛期の後にやってきたため、あらゆる原材料の需要が高まった。 The Inventors' Renaissance came on the heels of the Great Aether Boom, hiking demand for raw materials of every kind. カラデシュ imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Stone Quarry3.png) この谷すべてが、ラゾテプの鉱脈を求めるミイラの労働によって出来上がった。 Entire valleys have been formed by mummies laboring to find veins of lazotep. アモンケット imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Stone Quarry4.png) 太陽帝国の都市は、大地の骨で作られる。 The Sun Empire's cities are built from the bones of the earth. イクサラン イクサランの相克 統率者2019 統率者レジェンズ imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Stone Quarry5.png) 床岩にはたくさんの恵みがある。 The bedrock has many gifts to give. 基本セット2019 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Stone Quarry6.png) Marble was the lifeblood of the Greek economy. By controlling the supply, the Cult of Kosmos controlled Greece. Assassin s Creed 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/101.html
第5試合SSその1 何故ならそれは、社会――『地獄』を耳触り良く表した場所――の隷属者なのだから 「早く大人になれたら良いのに」 「大人になんかなりたくないと思っちゃうけれど」 幼馴染の少女は女主人の否定的な発言に目を丸くした。 「だって、やりたいことも出来なくてつまらないじゃない」 「でも格好良いでしょ」 小首を傾げる少女。 「どうすれば早く大人になれるかなぁ」 「そうね。少なくともタネのある西瓜を食べられるようになったら大人じゃないかしら」 「もう! またそうやってからかうんだから!」 軽快に跳ね返る反応に、堪え切れず女主人は腹を抱えて空を仰いだ。 「御免なさい。御免なさいね。あんまり可笑しくって。でもね、本当に大人なんて良いものでもないのよ」 涙を指先で拭い、口元を手で隠し再び笑い、釣られて幼馴染も笑う。 この世界は変哲もない夢であった。 「大人って何なんだろう」 溜息と頬杖を同時についた幼馴染が掌で片頬を押し潰し、言った。 「そうね。私が思うに、大人っていうのは――」 それは夢の戦いが始まる前の泡沫の夢であった。 橙に燃える夕日が揺らぎ西の山へ姿を隠し、周囲の景観が濃紺と黒の影絵へ変わった時刻。 「私達のデビューには丁度良い舞台だ。そう思わないか? 空海。いや――」 今宵、この夢の世界は壮大なダンスホールとなる。そう確信する男が月明かりに照らされそこに居た。 その数、二人。 「寂尊(じゃくそん)!」 「Aaow(ポーウ)!」 一方は茂木箍一郎。 自らの感情を両手から煙状に吐き出す魔人能力者。 他方は茂木が実験により造り出した存在。 彼が行った「脳死状態の男に感情を吹き込み再び蘇らせる」倫理の禁忌たる所業の産物。 歌唱とダンスで80年代日本の仏教シーンを塗り替え続けた男、"三代目 J soul 空海"――またの法名を寂尊。 「見ろ」 「Aaow?」 夢の戦いが始まり数時間。 広大な採石場を探っていた彼らは高台から見下ろす一角、採石場の隅にふらつく女性の影をついに見つけた。 「二人なら夢の戦いにも勝てる――証明しよう」 「Aaow!」 「では寂尊は前衛で何かあった時の肉壁で。私は後ろでブレーン役」 「ちょっと待っとくれ。ワシゃ齢じゃからアップダウンはキツくて」 「黙れジジイ。ゾンビ化してりゃ痛みもないでしょ。ハリー! ハリー!」 二人の男は岩場を滑り落ち行く。往年のアイドルの意志を継ぐ彼らの足にはローラースケートが装着されていた。 80年代日本。歌と踊りを同時に見せるパフォーマンスで一世を風靡した歌唱舞踏集団「EXILE」の戦闘装束。 これ以上に彼らに相応しい装備は無かった。 およそ仄暗い月夜に血塗れの僧衣を纏い、禿頭を光らせる皺だらけの老人が眼前に現れたらば、腰を抜かさぬ者がどれだけいようか。両腕で強く胸を抱き、不安からか青ざめた顔で足取りも危うく採石場を歩いていた女主人は、物陰から跳び出してきた怪物に悲鳴をあげて腰砕けになった。 「Aaow!」 「あ……あの……」 身を捩り、組んだ腕に一層の力を込めながらも女主人はなんとか奇声を発する怪物に声をかけようとした。だが、その必要も無かった。 「貴女が女主人さん。どこかの店主さん? ゴメンねぇ、驚かせてしまいましたか」 異形に続いて現れたのは理性的な言葉を喋る人物。 そしてその姿は女主人にとって見覚えのあるものであった。 「脳科学の茂木先生?」 「イエス・アイ・アム!」 TVのバラエティ番組で時折に見かける著名人と、よもやこのような場所で出会うことになるとは。 女主人は怪物との邂逅から一転、全身の強張りをやや緩め、息を吐いた。だがその安堵は―― 「あの、手を貸して頂いても?」 「いいですとも――なんて言うと思ったかッ! アハッ! 茂木汁ブシャーッ!」 理解不能の台詞と共に、茂木の手から噴出された煙を浴びて雲散霧消した。 「茂木先生。何をいきなり」 「夢の戦いに決着をつけるのさ」 「Aaow!」 「待ってください。私、争いごとは駄目なんです」 「なんと白々しい! アハッ!」 茂木は女主人が右手を差し出した時、僅かに攻撃の意思を示していた事を見逃さなかった。 恐らく接触型能力者。相手が勝ちを目指す意思を示す以上、茂木もきっちりとヤることを殺る。 「遠巻きに構えれば危険少なし! いけっ! 寂尊!」 「役得じゃぁーっ!」 女主人へ寂尊の暴力が襲いかかろう寸前であった。 聴こえる音といえばこの場の三人の声しか無かった山奥の採石場に、乾いた破裂音が鳴り響いた。 「アハッ!?」 「Aaow!?」 その一撃は避けられよう筈も無い。 何せそれは――夢の戦いの戦闘領域外である森から放たれていた。 「婦女暴行の未遂で現行犯逮捕だな」 ざわめく茂木陣営を尻目に、その男は大樹の陰から姿を見せた。 手には年代物の細長い銃。銃口から黒い煙が薄く立ち昇っていた。 「店主さん! 大丈夫ですか?」 「ええ。ええ。ありがとう! 川口さん!」 「お安い御用です!」 そこに居たのは15年来、女主人の店の常連客である警官――川口であった。この男は魔人警察官であり、昼間に女主人から夢の戦いの相談を受け、市民を護るのは警察の勤めと銃を引っ提げてこの戦いに飛び入り参加した。そして、夢の戦いのルールには「同伴者の場外負けに関するペナルティが無かった」事実に目をつけた女主人の案により、場外からの狙撃作戦を展開していたのだ。 「痛いの痛いのトンデケーッ! ブシャーッ! そんでもって寂尊!」 「Aaow!」 森の陰から姿を見せた敵の脅威を認識した茂木は、寂尊に素早く指示を下した。 「これで2対2。アハッ! だが私達が勝つ! 先に警官を殺れ!」 「Aaow!」 狙撃用の銃を放り投げ、ホルスターから拳銃を引き抜き川口も迎撃姿勢を整えた。 「来てみろ馬鹿野郎共!」 ここに採石場の戦いの最終章が幕を開けた。それは決着まで1分に満たない戦いであった。 「Aaow!」 川口の拳銃が火を噴いた。だが寂尊は掛け声も勇ましく背面へ向かって水平移動し、回避動作を終えていた。 これこそ彼が世界を震撼させた驚異のローラースケート術――その名も「月面歩行」。 「Aaow!」 第二の銃弾が間髪入れず放たれる。 月面歩行は予備動作も無い縮地術。弾丸は空を切る。 「Aaow!」 第三の銃弾が発射される。この一矢もまた夜の陰影に呑まれた。 寂尊は地を蹴り天高く舞っていた。 坊主と警官。勝敗を分けたのは彼らの選んだ道の違いであった。 川口は寂尊が跳んだと同時、即座に腰から警棒を引き抜いていた。 空を舞い蹴る寂尊の脚を潜り抜け、刹那の後、伸び切った胴体を横薙ぎに切り払った。 宙に浮かぶ影絵が二つに切り離され、黒い血飛沫を散らし冷えた大地へ転がる。 「アハッ!」 だが、寂尊もまた「人の目を惹きつけて離さない」仕事をこなしていた。 寂尊を切り倒した筈の川口は、腹部に風穴を開け、寂尊とほぼ同時に地面へ倒れ伏していた。 二人の物言わぬ死体を見下ろし仁王立ちするは天然フラクタルパーマの影。茂木箍一郎であった。 「アハッ! 寂尊サイコー! 茂木サイコー!」 強烈なアハ体験ブーストを経て土手っ腹に拳を打ち込んだ茂木の急襲は容赦無く川口を絶命させたのだ。 「さて店主さん! 貴女の秘策もこれで終わり! 勝負アリ! アハッ!」 フラクタル頭の男がアルカイックスマイルを浮かべ月夜に立つ。その足元は羅生門。 余りの光景に女主人は青ざめた顔を更に蒼白にさせ、それでも声を振り絞った。 「ええ。勝負ありです。……私の勝ちです」 「……アハッ?」 「ありがとう川口さん。痛かったでしょうけど。お陰で……私は勝てました」 女主人と茂木はその時、明確に認識していた。 脳内で姿無き声が高らかに宣言したのだ。採石場、夢の戦い。勝者、女主人――と。 茂木は変わらず混乱したままであったが、女主人の目から見れば至極単純であり当然の帰結であった。 茂木が今、立っている場所は――川口が潜み銃口を構えていた場所は、採石場の外。 夢の戦いの試合場の場外であったのだから。 女主人が胸を抱き続けていた両腕を初めて解いた。 左手には果物包丁が握られ、白刃が鮮血で濡れ輝いていた。 その血は他でも無い、女主人自身のもの。彼女の左手小指が切り落とされ無くなっていた。 「茂木先生の脚を撃ったのは、私の指だったんですのよ」 女主人の指先が茂木に触れた。直後、茂木は目を見開き肩を震わせた。 女主人の能力の条件を満たし、茂木は全てを理解した。 「………………アハッ」 前装式の銃は、銃口に入るものであれば何であれ銃弾に変えると言われる。 女主人は予め自らの小指の先を切り落とし、銃弾として川口に渡していた。 「ア、アハハハーー! アハ! アハァ! 分かりましたァーー! これは凄い! ナイス・アハ!」 「ええ。ええ。……私の能力で、『場外負け』のルールを忘れてもらいました」 薔薇は手折られたとて薔薇の名を失わない。 余人ならばいざ知らず、女主人にとって、切り離された自分の指先もまた、変わらず己の指であった。 夢の戦いは終わり、残すは勝利の褒賞を求めるだけとなった。 勝者の瑞夢は見たいだけ。望むならばいつまでも見続けられるという。 もし己が望む世界を夢見られたならば、恐らく二度と目覚めることは無いであろう。 「いいかしら。妖精さん」 女主人は脳内に語りかける声に向かい、宣言した。 「私の見たい夢は『大好きな花と好きなだけお喋りできる世界』よ」 それは夢の戦いに臨む前から抱えていた彼女の変わらぬ願い。 「世間なんて知ったことじゃないわ。社会なんて知らないわ。私は私の夢を見るのよ。夢だってことも忘れてやるわ。もう二度と私がやりそうにないことと一緒に、もう二度と思い出さないように忘れてやるわ。何も残さず、夢の中で幸せに暮らすの」 願いを言い終え、女主人は逆手に持った包丁を握る左手に力を込めた。 直後、刃は過たず彼女の喉笛を刺し貫いた。 「ほらぁ! 起きてー起きてー!」 机に突っ伏し寝ていた女主人は驚いて上体を起こした。 自分を覗き込む幼馴染の顔を間近に捉え、眼尻を下げる。 「御免なさい。寝ちゃってたのかしら」 女主人は周囲を見渡した。都心から少し離れた山間のベッドタウン。そこに造られた新興住宅街の緑地公園。 その広場の休憩所で、女主人と幼馴染と、二人はピクニックをしていたのだった。 「いいお天気だねぇ」 「本当にね。これじゃあ眠くなっちゃっても仕方ないわよね」 「そうだけどー。今日はお店に入れた新しいお花を見せてくれるって約束でしょ?」 「ええ。そうね。そうだったわね」 女主人は立ち上がり、うんと声をあげて伸びをした。 「それじゃあ、行きましょう」 「うん! よーし! しゅっぱーつ!」 肩は並ばずとも歩調を合わせ、二人は芝生を踏み分け並び歩きだした。 「そうそう。大人って何だって話の途中だったわね」 「あれ? うーん、そうだったっけ?」 大切なことを思い出したと女主人は足を止めた。 「私にとって大人っていうのは――そうね。よく言うでしょう? アレよ」 「アレ?」 「――子供らしさが死んだ時、残された死体を大人と呼ぶのよ」 「何それぇ! 聞いたことないよー?」 「さあ! きっとびっくりするわ! 凄く素敵なお花達が待っているわよ!」 二人の姦しい声は丘の上から長く梢の葉を震わせ続け、やがて消えた。 人影の無くなった丘の上。 一匹の白い蝶がひらひらと舞い降り、二人の残した花と土の薫りに誘われ丘の向こうへと姿を消した。 この後、女主人は夢の中でどう暮らしたか。 きっと幸せに暮らしたと、或いはいつか目を醒ましたと信じてみたいかもしれない。 だが、彼女の未来を追い続けるに、ここは余りに紙幅が足りない。 <了>
https://w.atwiki.jp/altair/pages/27.html
英語表記 Quarry (Stone) 領主内の建物の一つです。 石は欠かせないリソースです。石切り場は領内の石の生産高と生産能力を増やします。 レベル 評価 生産毎時 生産能力 解禁条件 穀物コスト 木コスト 鉄コスト 建築時間 1 6 60 2,800 城lv1 0 100 100 00 00 05 2 20 170 8,400 城lv2 150 150 150 00 00 46 3 41 340 16,700 城lv3 225 225 225 00 02 05 4 70 560 27,800 城lv4 337 337 337 00 04 15 5 111 840 41,700 城lv5 506 506 506 00 08 59 6 168 1,170 58,400 城lv6 759 759 759 00 27 57 7 248 1,560 77,800 城lv7 1,139 1,139 1,139 00 55 55 8 360 2,000 100,000 城lv8 1,708 1,708 1,708 01 51 51 9 517 2,500 150,000 城lv9 2,562 2,562 2,562 03 21 18 10 737 3,060 205,600 城lv10 3,844 3,844 3,844 07 09 28 11 1,044 3,670 266,700 城lv11 5,766 5,766 5,766 09 18 19 12 1,475 4,340 333,400 城lv12 8,880 8,880 8,880 10 58 49 13 2,077 5,060 405,600 城lv13 13,675 13,675 13,675 12 57 24 14 2,921 5,840 483,400 城lv14 21,060 21,060 21,060 15 17 19 15 4,102 6,670 566,700 城lv15 32,433 32,433 32,433 18 02 26 16 5,756 7,560 655,600 城lv16 49,947 49,947 49,947 21 17 17 17 8,071 8,500 797,300 城lv17 76,919 76,919 76,919 01d 01 07 11 18 11,312 9,500 947,300 城lv18 118,456 118,456 118,456 01d 05 38 29 19 15,849 10,560 1,105,600 城lv19 182,422 182,422 182,422 01d 10 58 36 20 22,202 11,670 1,272,300 城lv20 280,930 280,930 280,930 01d 17 16 21 21 31,095 12,840 1,447,300 城lv21 432,633(E) 432,633(E) 432,633(E) 02d 07 43 04 22 43,545 14,060 1,630,600 城lv22 666,255 666,255 666,255 03d 19 56 03 23 60,976 15,340 1,822,300 城lv23 1,026,032 1,026,032 1,026,032 06d 21 28 53 24 85,380 16,670 2,022,300 城lv24 1,580,090 1,580,090 1,580,090 13d 02 24 52 25 126,865 30,560 2,300,100 城lv25 3,160,180 3,160,180 3,160,180 47d 03 53 31 (E) 内挿計算等による推定値、未確認
https://w.atwiki.jp/gtav/pages/62.html
Having fun at the Zancudo River 山岳地帯をスカイダイビングする男性(第1弾トレーラーに数回登場していた、あのヒスパニック系男性?)。山沿いの道路はその先が見えないほどに延々と続いており、左側にはタイトルにもあるZancudo川が見えます。この低解像度の画像でも、その景色は非常に綺麗。山頂まで登って景色を一望したい! Welcome to GrapeSeed 農場とトラクター再登場。また、この長閑で広々とした風景を見てください。どこを見ても、都市のスカイラインは一切見えず。ロスサントスは作り込まれた様々な地形で構成されていて、非常に広大なマップとなっているのでしょうね。 海外サイトでは、「奥に牛がいる!」なんて騒がれていましたけど、良く見てみるとその正体は柵。今作では犬は登場するようですが、他の動物は登場するのでしょうか。 See the stars in Vinewood Hills 夕暮れに染まるロスサントスの街並み。奥には高層ビルが建ち並び、右上には飛行船。このスクリーンショットは、なぜだか懐かしさを感じさせられます。丘の上に建てられた建物がある周辺は、前作GTA San Andreas同様であればおそらく高級住宅街となっているはず。この辺りに一軒、セーフハウスが欲しいところ。 Wish you were here Del Perro Pier 以前公開されたスクリーンショットでも写されていた、この場所。そこには小さなアミューズメントパークが存在しており、一応ライトも点灯しています。……にしてもこの画像、ぱっと見は完全に実写。 Welcome to the Vespucci Canals 第1弾トレーラーの序盤に同じような場面が登場したこのスクリーンショット。画像奥には高層ビルが建ち並ぶなか、手前にも背の低い一軒家。ビジネスの中心街と住宅のコントラスト。 引用元 GTAV Street
https://w.atwiki.jp/gtavi_gta6/pages/62.html
Having fun at the Zancudo River 山岳地帯をスカイダイビングする男性(第1弾トレーラーに数回登場していた、あのヒスパニック系男性?)。山沿いの道路はその先が見えないほどに延々と続いており、左側にはタイトルにもあるZancudo川が見えます。この低解像度の画像でも、その景色は非常に綺麗。山頂まで登って景色を一望したい! Welcome to GrapeSeed 農場とトラクター再登場。また、この長閑で広々とした風景を見てください。どこを見ても、都市のスカイラインは一切見えず。ロスサントスは作り込まれた様々な地形で構成されていて、非常に広大なマップとなっているのでしょうね。 海外サイトでは、「奥に牛がいる!」なんて騒がれていましたけど、良く見てみるとその正体は柵。今作では犬は登場するようですが、他の動物は登場するのでしょうか。 See the stars in Vinewood Hills 夕暮れに染まるロスサントスの街並み。奥には高層ビルが建ち並び、右上には飛行船。このスクリーンショットは、なぜだか懐かしさを感じさせられます。丘の上に建てられた建物がある周辺は、前作GTA San Andreas同様であればおそらく高級住宅街となっているはず。この辺りに一軒、セーフハウスが欲しいところ。 Wish you were here Del Perro Pier 以前公開されたスクリーンショットでも写されていた、この場所。そこには小さなアミューズメントパークが存在しており、一応ライトも点灯しています。……にしてもこの画像、ぱっと見は完全に実写。 Welcome to the Vespucci Canals 第1弾トレーラーの序盤に同じような場面が登場したこのスクリーンショット。画像奥には高層ビルが建ち並ぶなか、手前にも背の低い一軒家。ビジネスの中心街と住宅のコントラスト。 引用元 GTAV Street
https://w.atwiki.jp/dngssd/pages/51.html
【採石場】STAGE 試合SSその1 第一章『二人の大魔女』 1st Chapter "West affectIon" and "easT justiCe" ――antitHesis s 歴史上、魔女は三度蹂躙されました。 一度は、十字教義によって。 一度は、科学技術によって。 一度は、魔人能力によって。 だが、薪にされた切株からひこばえが生えるように。 だが、踏みつけられた雑草がなおその芽を伸ばすように。 魔の世界には二人の大魔女が産み落とされました。 「魔女の力は、人の世に望まれて生まれたものよ」 西の魔女は言いました。 「そうね」 東の魔女は同意しました。 「だったら、全てを救うために使わないと」 西の魔女の言葉に、東の魔女は笑いました。 「そんな魔法は魔女にはないわ。私たちにできるのは、害なる一部を殺して善なる多数を生かすことだけ」 「……ううん。始まりの『真央の魔女』なら。それを超えることができたなら。「みんなの幸せ」っていう魔法が、使えるかもしれない」 西の魔女は、席を立ちました。 「これから何所へ?」 東の魔女は、問いかけました。 「全を救いに。あなたは何処へ?」 西の魔女の返答に、東の魔女は答えました。 「善を掬いに。貴女とは――」 東西の魔女は、袂を分かちました。 「「もう二度と出会うことは、ないでしょう」」 かくて、西の魔女は友とした悪魔たちと、旅に出たのでした。 残された東の魔女は、屠った悪魔たちの返り血を素肌にまとい、高らかに笑いました。 おお、おお、なんとおぞましい姿。美しい肢体。 悪魔よりも悪魔らしい笑い声。 寂しさで? 嘲りで? 滑稽さで? 理由はわかりません。 それでもただ、彼女は笑い続けました。 それが魔女のあるべき姿とばかりに――全裸で。 第二章『刻まれたもの』 2nd Chapter What Is bred in The bone Can not out of the flesH. ごう、と音を立て、カレン(マスター)の帽子(わたし)を、子供の頭ほどもある石が通過していきました。 明らかな殺意をもって「敵」が仕掛けてきた投擲(こうげき)です。 続けて一つ、二つ、三つ。凄まじい勢いで石が飛んできます。 ここは採石場。投げつける石片には事欠かないのでしょう。 なんたるエレガントさもない野蛮な攻撃! 一つ目を体をひねって回避。いけませんかわいいカレン! 態勢が崩れました! 二つ目をホウキ(グレイタウル)の柄が切り裂きます。駄目狼にしてはよくやりますね。 三つ目は私め、フェリテの加護で―― 「温存! 当たっても使わないで!」 おお、おお、かわいいカレン! 何をおっしゃいますやら! こんな石が当たっては、かわいいカレンの百の魅力のうちの一つ、白くてすべすべのお肌が傷ついてしまうではありませんか! ですが、今の私はあくまでカレン(マスター)に契約で縛られた道具(あくま)です。 忸怩たる思いをかみ殺して、私は迫りくる石を成すすべもなく眺め―― かわいいカレンは倒れこむようにして、飛んでくる石の方へと身を投げ出しました。 すると、石はかわいいカレンの体を掠め、さらには、続く追撃投石も、なぜか偶然、倒れたカレンを避けるような軌道で地面に着弾したではありませんか。 「シアラン、ありがと」 かわいいカレンの手にあるランタンが、もったいない言葉に照れるようにカタカタと鳴りました。 シアランの能力は「導き」。 主人の指定したものの存在する方向を指し示し、導く権能です。 かわいいカレンはシアランに「敵の投石からの安全地帯」を導かせ、そこに飛び込んだのでしょう。 「すごいすごい! 斬撃が出るホウキと……そのランタン、攻撃の軌跡を読むのかな? 実戦的だね! 発動が口頭指示だから、自我付与系? 使い魔って魔女っ娘っぽいもんね!」 先ほどまでの殺意満点な攻撃とは裏腹な、緊張感のない笑顔。 極東の地ではひと昔前に絶滅したような古風な女学生用セーラー服に身を包んだ、太眉の少女。 それが、かわいいカレンの最初の敵。 ――原門りんご。 世界を救うため、立ち向かうべき最初の儀式(リートゥス)の姿でした。 【大魔女ヴェナリス 地球到着まであと5日】 ◆ ◆ ◆ 始まりの魔法使い――『真央の魔女』に挑んだ、カレンの母親、大魔女ヴェリナスが巨大エネルギーとなってこの星に帰郷(げきとつ)するまで、あと5日間。 それは即ち、この星の生命に残されたタイムリミットが5日であることを意味します。 各魔術結社は、『真央の魔女』の術識の対象という希少なサンプルである大魔女ヴェリナスに対し、足並みを揃えることができず、迎撃態勢は整わず。 魔術の隠匿というカビの生えた不文律と、魔女世界の魔人に対する差別意識のせいで、表世界への援助要請も出せず、結果として、各有名魔術結社が魔術隠匿のために費やしてきたすべての魔力(リソース)を防御結界に回し、対抗するという最後の手段が現実味を帯びてきました。 そんなことをすれば、これまで記憶操作や認識錯誤でごまかしてきた魔法の存在が一気に世界に知られることになり、希釈された魔術概念により、世界中の魔女たちは力の大半を失うことになるでしょう。 十字教義による神秘性の共産化、科学技術の流布による神秘性の解体、魔人能力による神秘性の再解釈に続く、史上、四度目の魔術の失墜です。 さらにそこまでしても、凄まじいエネルギーの激突を防ぐことができるかは分の悪い賭けです。最悪、恐竜全滅の二の舞になりかねません。 それを防ぐため、ヴェナリスの娘である、かわいいカレン……私の主人であるところの、冬知らずの魔女、カレンは、あらゆる願いを叶えるという極東の島国のダンジョンに挑みました。 可憐な姿に見えて、カレンは駆け出しの魔女でありながらいっぱしの魔人です。 その魔人能力は『伏魔のリートゥス』。悪魔と賭けを行い、勝利するとその悪魔と契約して、魔具の形として力を借り受けることができます。 かわいいカレンが契約可能な悪魔は三柱。 今契約をしているのは、 『導きの悪魔』シアラン。主人の望むものへの道行を知らせるランタン。 『皆殺しの悪魔』グレイタウル。ひと振りであらゆるものを切り裂くホウキ。 そして、私。 『甘やかしの悪魔』フェリテ。 日付が変わってから、翌日までに三度まで、主人の受けるはずの損傷を無効とする帽子。 カレン自身の果断さもあって、まあ、そこいらの欲に眩んだ魔人の四人やそこら、簡単にのして話はおしまい、と思っていたのですが、そこに現れたのが…… おお、おお、何ということでしょう。 私たち悪魔の天敵ともいえる女とよく似た顔をした、少女だったのでした。 ◆ ◆ ◆ 降り注ぐ石をかいくぐるように、ホウキにまたがったカレンが採石場を飛び回ります。 ホウキによる飛行は、『魔人堕ち』によって術識基盤(フォーマット)をショートさせてしまったカレンが自由に使える数少ない術です。 まずは距離をとって様子見。それが、カレンの判断でした。 「ああ、クソ! 一つ目! なんで、「あの女」と同じ顔のガキがこんなとこにいんだよ!」 カレンの下で、ホウキ(グレイタウル)がじたばたと揺れました。 そんなこと、私の方が聞きたいくらいです。 ホウキの先に吊り下げられたランタンも、かたかたと身を震わせています。 願いを叶えるという極東島国のダンジョン。 しばらくその中を探索していたカレンと私たちは、突然、大小の岩が転がる採石場に立っていました。 空間的な繋がりはありません。おそらくは、何らかの転移機構が働いたのでしょう。 そこで唐突に襲い掛かってきたのが、カレンと同じくらいの年齢の少女でした。 それだけならまあ、想定の範囲内です。 ダンジョン内で四度邂逅者と勝利すれば願いが叶う。 それが、事前に入手していた情報でしたから。 ただ、予想外だったのは、その敵の顔に、我々悪魔の天敵である『悪魔殺し』の面影があったことです。 「どうしたの? みんな、あの娘知ってるの?」 「『悪魔殺し』! 『東の魔女』! 『災厄の感染源(パンデミック)』! 『バラムの主(バラモン)』! あのラフランスの名前くらい、テメェも知ってるだろうが!」 大魔女ラフランス。 かつて、大魔女ヴェナリスと双璧を為す天才と言われながら、外法に手を染め、魔女世界から放逐された異端です。 極東で闇社会の顔役に嫁いだと聞いていたのですが……。 「ラフランスさん! 母さんの友達ね? あの娘がそうなの?」 「いろんな意味で違ぇよ! もしアレが「あの女」だったら、もう俺たちは消し炭だ!」 何より、あの女が戦いにおいて服を着ることなどありえませんからね。 年齢と容姿は魔法で欺けても、そこだけは揺らがないでしょうから。 と。 突然、石の投擲が止みました。 「――ねえ、あなた、母さんを知ってるの?」 大きなリュックを背負ったポニーテールの太眉娘が、高台から私たちを見下ろしました。 やっぱり、似ています。 あの女はこんな能天気な笑顔を浮かべたりしませんが、顔立ちはそっくりです。 「『東の魔女』ラフランスっていったら、有名人だもの。初めまして、大魔女の娘さん。私は、カレン。大魔女ヴェナリスの娘、カレンよ」 「あ、ご丁寧にどうも! 私は原門りんご! よろしくね! ……そっかあ。母さん、海外の人にも有名なんだあ。変態的な意味でじゃなければいいんだけど……」 その物言いに、私は違和感を覚えました。 海外の人にも有名? そんなこと、ラフランスの経歴を知っていれば、当然のこと。 まるで、母親の魔女としての経歴を知らないような物言いです。 そう考えてみれば、最初からおかしかったのです。 あの大魔女の娘でありながら、この太眉娘――原門りんごは、投石というあまりにも原始的な手段の攻撃でけん制をしてきた。 つまり―― 「おお、おお、カレンほどではないにしろそこそこ愛らしい見た目のりんご嬢。もしかして、あなたには、私たちのことが認識できていないのではありませんか?」 私の呼びかけに、原門りんごは全く反応しませんでした。 演技の可能性もあります。しかし、視線の動きによる反応すらなし。これは―― 「――魔女じゃねえのか。「あの女」のガキのクセに」 馬鹿狼(グレイタウル)のこれみよがしな呟きにも反応なし。 どうやら、確定のようです。 魔女でない人間に、悪魔は認識できません。 一方で、悪魔は、相手が魔女だろうと人間だろうと、干渉できるのですが。 よって、ただの人間にとって、悪魔は天敵なのです。 「ね、カレンちゃん。母さんのこと、知ってるの? 母さんと同じ肩書ってことは、カレンちゃんのお母さんも、一流の殺(や)り手なの? カレンちゃんも? そうだよね。そうじゃなきゃ、最初の三発で殺(と)れてるもんね!」 にっこりと微笑むその姿に、私は、うすら寒いものを感じました。 その笑顔は、人懐っこい少女のものでしたが。 かわいいカレンを傍で見続けてきたものとして、人として決定的なものがずれているように思えたのです。 「ええと、りんごちゃん? あと五日でうちのママが帰ってきて、世界が終わりそうなんだけど……。お母さん……ラフランスさんから、そのこと、聞いてない?」 「ううん、全然! すごいね、カレンちゃんのお母さん! 帰ってくるだけで世界が終わっちゃうんだ! うちの母さんもそこまではしない……多分……いや、気分によってはするかもだけど……!」 無意味なほど元気よく、原門りんごはうんうんと頷きました。 ……かわいいカレンの百の魅力のうち一つは思考の速さに言葉が追いつかない、飛躍した会話なのですが、そこにまったくツッコミを入れないとは……さすが大魔女の娘同士、というところでしょうか。 「……いや。馬鹿が二人揃っただけだろ。信じるかこれで普通?」 馬鹿狼の戯言は黙殺して、カレンはホウキを浮かしたまま降りると、両手を広げて敵意がないことをアピールしました。 「りんごちゃん。私は、このダンジョンを攻略して、ママの『帰宅』を阻止しないといけないの。そうしないと、きっと、りんごちゃんの日常も、あと五日間でめちゃくちゃになっちゃう」 カレンの言葉足らずの訴えに、原門りんごの表情は怪訝さと、けれどそれ以上に、動揺が浮かびました。 少し、意外です。先ほど感じた不気味さからすれば、そして、あのラフランスの娘であるにしては、割と素直な感性の反応のようですが……。 「……本当に、本当、なの?」 「うん。たぶん、そろそろ魔術結社の隠匿術識が解除されてるから、科学世界(こっち)でもニュースになってると思う。直径15kmの隕石が地球への落下軌道に入ってるって」 「それが……カレンちゃんの?」 「うん、ママ」 原門りんごはポーチからスマートフォンを取り出し、何かを確認すると、頷きました。 「……そっかあ」 そして、左手に持ち続けていた石を、落としました。 ごろり、と相当な重さの塊が地面に転がります。 「私は、好きな人がいて、その人にふさわしい私になりたくて、それで、ここにきたんだけど」 その姿は、眉も整えない、年相応の恋の片鱗を語った朴訥な少女の姿は、 「……でも、世界が終わっちゃうなら、しょうがないよね。だから――」 ――突然鳴り響いた竪琴の旋律によって、『反転』した。 「――私が、ここで? 諦める? なんで? だって? 世界が? 終わる? 壊す? 悪者がいる? なら――殺す。殺せば。殺そう。殺せる。私は。連続殺人鬼。普通には立てない。から? ああ――ああ――そうだ。そうだよね! あははは! そうだった! 私は――原門りんご! 法に裁けぬ悪を裁く、正義の連続殺人鬼一家に生まれたどこにでもいる普通の娘!」 「おい! ガキ! 離れろ! ヤバい! こいつは――」 馬鹿狼の無断の斬撃は、無造作に薙ぎ払われました。 素手による防御であれば、ダメージは通るはずなのに、原門りんごは無傷。 「――カレンちゃんは安心して、殺(と)られていいよ」 原門かれんの両の手には、幾つものナイフが現れていました。 これで、『皆殺しの悪魔』の一閃を防いだのでしょう。 魔術による武器具象化? いや、違います。純粋な速度と注意誘導による奇術に近い技術……。 魔法とともに、『悪魔殺し』ラフランスが得意とした殺戮技巧(キリングアーツ)です。 「――悪魔憑き(・・・・)だ!」 「カレンちゃんのお母さんが、世界を壊す悪者なら。私が殺すだけだから」 そして、四つの刃が、カレン目掛けて放たれました。 第三章『最善から二番目の選択』 3rd Chapter When nIgh door shuTs, another CHance opens. 原門りんごの放った四つのナイフは、それぞれ、まるでカレンの体をあえて外すように、上下左右への移動を防ぐような方向に投げられました。 そのまま立っていれば命中しない軌道です。 逃げ場を消して、接近するつもりでしょうか。 ですが、原門りんごは、足元の石を遥か明後日の上空に投げると、むしろ、地を蹴って後ろへ下がりました。 「馬鹿! ガキ、動け!」 私と同じく、原門りんごに意識を取られていたのでしょう。 カレンが馬鹿狼の叫びに身を震わせた、その瞬間。 四本のナイフが、奇妙な弧を描いて、カレンの方向へと進路を変えたではありませんか! まるで、カレンに磁石がついていて、それを追うような―― 「――世話が、焼ける!」 カレンの手にしたホウキ――馬鹿狼、グレイタウルが強い光を放ち、穂の部分がまるで、狼の爪のように大きく広がりました。 これこそ、あの馬鹿狼が『皆殺しの悪魔』の二つ名を冠した由縁。 一振りで無数の敵を切り裂いたという自慢の魔爪です。 カレンの身長ほどにまで巨大化した光の爪は、カレンの顔、心臓、手首、腹部を狙った刃を、全て薙ぎ払いました。 「油断するな!」 「ありがとうね、助か――」 次の瞬間。 カレンの後頭部に強い衝撃が走り。 「残り二回です」 私の口をついて、カレンが致命傷を受けたことを告げる宣告が漏れました。 ごろり、と足元に、石塊が転がります。 ナイフの後に原門りんごが投げた石。ですが、それは、遥かカレンの頭上を通り過ぎていったはず。 それがなぜ、後ろから、カレンの後頭部に命中したというのでしょう? 「今のは聞こえたよ! 『残り二回』! 命のストックかな? 光の爪もかっこいいね、カレンちゃん!」 「――そっちこそ。投げたものの軌道を変える能力。初見殺しだね、りんごちゃん」 なるほど。ナイフの軌道が変えられるなら、石の軌道が変えられてもおかしくない。 ということは、原門りんごが投擲したものからは、地面に落ちるまで目が離せないということでしょうか。 実に陰湿。厄介な相手ですね。 原門りんごはカレンから距離を取ると、物陰に隠れました。 ここは採石場。石を掘るための横穴や巨大な岩など、身を隠すものは豊富です。 しかも、弾丸になる石は無数。投擲能力者には絶好の戦場といえるでしょう。 「飛べ!」 馬鹿狼に勧められるがまま、カレンはホウキにまたがって宙に舞いました。 あえて高度を低く保ち、障害物をかいくぐるようにじくざぐに飛翔します。 相手がどのように軌道を変化させられるのかはわかりませんが、この飛び方ならばそうそう狙いをつけられることはないでしょう。 「クソ、ガキっ、単語術識で何か使えないのかよ! 加害術識(マレフィキウム)とか! 魔女体系(ウィッチクラフト)の基礎だろうが!」 「二日くらい詠唱すれば、つよいパーンチ! くらいの衝撃波は出せるかも」 「アアアアア! 最高だクソが! ナマケモノ相手なら実戦的だなァ! まともなナマモノ相手に使えるのくらい覚えろ!」 「にしても、残念だなあ。ママの友達の娘さんだったら、仲良くなれるって思ったのに」 「無駄に落ち着いてるのが腹立つなァクソ! そういうとこはクソ魔女譲りかよ!」 ごすっ! がつっ! 「――あ、シアラン。『原門りんごの投擲からの安全地帯』を照らして!」 緑色の炎が光を放ち、一筋の道を照らしました。 『導きの悪魔』シアランの導きは、対象が具体的であるほど精度を増します。 攻撃を仕掛けてくる対象、攻撃手段までも限定した以上、この光が照らしたルートは、安全が確保されていると断言してもいいでしょう。 しかし、思った以上に安全地帯が狭いですね。 原門りんごはかなり自由に投擲の軌道を曲げられるようです。 「おい、ガキ! いい話と悪い話がある!」 「いい話だけ聞かせて」 「悪い話だが――」 「横暴だー 悪魔ー」 「悪魔だからな。――で、結論から言うと、奴は、『悪魔憑き』だ。お前と同じように、悪魔と霊的に一体化してる。多分本人の意志じゃなくて、母親(ラフランス)の術識だろう」 「……魔女(わたし)にも、見えない悪魔?」 「影に潜り、憑いた者の思考を捻じ曲げる『反転の悪魔』――バラムですね。かわいいカレンに見えていないのではなく、あの娘の影に隠れているだけ」 「よく知ってるじゃねえか。さすがは魔女界の犬が長いだけある」 『反転の悪魔』バラム。 悪魔でありながら、『悪魔殺し』ラフランスの力に魅入られ、アレに従った裏切者。 人に取り憑き、人の思考を『反転』させる悪魔です。 「なんでそれが悪い話なの?」 「馴れ合いはできないってことだ。最初、説得しようとしたろ」 「喧嘩しなければその方がいいかなあって」 「クソ! そうだと思ったよ。が、無理だ。諦めろ」 「……そっかあ」 悔しいことに、私もこの点においては、馬鹿狼で同意でありました。 あの太眉少女の性根が善良であるほど、むしろ、バラムの『反転』によって、アレは残忍な殺人鬼になります。 あの馴染み方、そして私が最初に覚えた違和感からすれば、原門りんごはきっと、物心ついたときにはバラムに憑かれていたのでしょう。 私、人の良識に囚われぬ悪魔の身ではありますが、決して気分のいい話ではありませんね。 「いい話は?」 「俺との契約を解除しろ。そうすれば、あの太眉と『反転の悪魔』は俺が殺す」 「んー、だめ」 「アア!? あの太眉はただの人間だ! 契約解除した悪魔(おれ)を認識できない! そうすりゃ一方的だ! 宿主を失えばバラムもラフランスの所へ還るだろ!」 「このダンジョン、一対一が基本でしょ。武器は持ち込めるけど、協力者は連れていけないって話。多分、みんなが私と一緒にいられるのは『伏魔のリートゥス』で道具扱いにされてるからだよね。けれど、ここで契約解除して、グレイタウルさんがりんごちゃんを倒したら? 二対一。反則負けにされたっておかしくないでしょ? 最悪、契約解除の瞬間にグレイタウルさんか私が外へ放逐されるかもしれない」 「……ぐ」 馬鹿狼め。格好つけようとしたって、かわいいカレンにはお見通しなのですよ。 たとえ姿を認識できずとも、相手はラフランスの娘。 倒すことはできても、相打ちにもちこまれる可能性はそれなりにあるでしょう。 大方、かわいいカレンを安全なところに残して、自分だけ鉄砲玉になるつもりだったのでしょうが、そんな点数稼ぎはさせませんよ。 「なら、どうする?」 「遠距離戦は不利。こっちの札は『相手の軌道を見切る』『広範囲近接攻撃』『あと二度の攻撃無効化』。グレイタウルさんなら、どうする?」 「そりゃあ――速攻瞬殺だろうな!」 「うん! それでいきましょ」 緑の灯りの道を辿りながら、カレンのホウキは空中で旋回、追い来る追尾投石を振り払うと、投擲の射手の位置を捉えました。 頭上から見るとよくわかります。原門りんごの影は、本体の姿と一致しない、竪琴を持った屈強な男の姿になっている。 あれが『反転の悪魔』バラム。 誇り高き原初の72柱でありながら、ラフランスへの従属を誓った悪魔というわけですね。しかもやることが、少女の心性を捻じ曲げ続けることとは。 おお、おお、誠に――誠に、度し難い。 岩陰に陣取っていた原門りんごは、頭上のカレンに発見されたと同時、身を翻して鉱山側へと駆け出しました。 やはり。 原門りんごの得意距離は、中~遠距離。 投擲物の鋭角な軌道変更はこれまで確認できないところを見ると、制動角度には限界があるのでしょう。であれば、相手との距離は遠い方がいい。 牽制で石や、どこから取り出したのかわからないナイフが飛んできますが、超常の曲がり方をする軌跡の隙間を、針穴に糸を通すような精度でカレンのホウキは飛翔、潜り抜け、原門りんごへと距離を詰めていきます。 シアランの示す緑の輝き(あんぜんちたい)が、太眉の少女照らす一筋の道を作り出した、その瞬間。 「行けえ!」 カレンのホウキの穂が光の爪となり、虚空を切り裂いて一気に加速しました。 「――ッ!」 まるで騎乗槍突撃(ランスチャージ)めいた体当たりを、原門りんごは紙一重で身を翻し、手近な横穴に飛び込みました。 チェック! ごろっ。がちっ。 後ろで崩落したかのような落石音が聞こえますが、出口からの光は途切れていません。閉じ込められる危険はなし。 ならば、射手を身動きの取れない屋内に追い詰めた、ここが好機! 「シアラン! 『原門りんごの回避範囲』を導いて!」 緑色の輝きが横穴に広がりました。 さすがに広い! 床一面が照らされます。相当な身のこなし、使い手ということ。 けれど―― 「グレイタウルさん!」 「おうよ!」 ――着地したカレンが構えたホウキの穂から輝きが奇妙な形に広がりました。 その形はもはや狼の爪ではありません。 ただ、『原門りんご』の回避可能範囲を全て蹂躙するためだけに変容し、繰り出される、『皆殺し』に最適な形―― 「――『落下置転(フォーリンアップル)』」 ――けれど。 原門りんごの呟きとともに。 グレイタウルの皆殺しの爪が振るわれる、その刹那の間に。 シアランの緑の輝きは、全く別の場所を照らし―― 原 門 り ん ご は 、 壁 面 に 立 ち 、 皆 殺 し の は ず の 攻 撃 を 避 け て い ま し た 。 90度反転した光景に、悪魔の私ですら、一瞬混乱してしまいました。 そして、 ごすっ。 「残り一回です……!」 首の骨を折らんばかりの質量で頭上に落ちてきた岩によって、私の加護はまた一つ、消費させられました。 投擲の素振りはなかったのに……なぜ!? それより、目の前の状況です。 原門りんごは『投擲したものの軌道を変える』魔人能力者ではない。 投げたものの軌道を上下左右に変化させる。 まるで蜘蛛のように壁に立つ。 横穴の天井から岩を、自分の望む形で落下させる。 ここから類推できる能力は――重力のベクトル制御。 その効果範囲が、無生物だけでなく、人にも及ぶものだとすれば。原門りんごだけでなく。『他人にすら及ぶものだとしたら』。 四方を壁に囲まれた、この状況は、あまりにも危険! 「逃げて! カレン!!」 私は叫びました。 壁面に「立って」90度反転した状態で、原門りんごが踏み込みます。 グレイタウルが、カレンに伸ばされるその左手を一閃。 原門りんごはそれに怯むこともなくカレンの手首を蹴り上げ、 血しぶきとともに、原門りんごの手首から先が宙を舞い、ホウキ(グレイタウル)と一緒に、横穴の天井へと、上昇(らっか)していきました。 「な――!?」 飛行手段を失ったカレンの懐に飛び込むと、原門りんごは、残された右の手で、空中に押し出すように、カレンの腹を押し上げます。 ふわり、と、重さなどないように、カレンの体が、宙を舞いました。 コマ送りのように停滞する知覚の中、私が思い出したのは、かわいいカレンが昔遊んでいた格闘ゲームでした。 そのゲームでは、エアリアルコンボ、という技が人気で、カレンも一生懸命それに挑戦していたものです。 たしかに、空中で自由落下中の人間は無防備。受け身も取れないし、姿勢を変えるための足場もない。その隙に攻撃を加えるというのは、なるほどもっともらしい。 が、私は、そんなもの、現実の戦いではありえないと、冷ややかに見ていたものでした(熱中するカレンはかわいらしかったですが)。 それが、実際の格闘技においてほぼほぼ実現しえない理由は2つ。 一つ、相手を空中に跳ね上げるような威力の攻撃を繰り出すことが難しい。 一つ、仮に相手を浮かせても、滞空時間が短すぎる。 けれど、もしも原門りんごの異能が、「そういうもの」だとしたら。 あの、格闘ゲームの荒唐無稽な技が、純然たる殺し技として、実現してしまう――! 「――『落下置転(フォーリンアップル)』――『無限落下(フリーフォール)』」 掌打で浮遊するカレンの体。放物線を描き地面へ落下する瞬間の蹴打 に よ り 、 落 下 方 向 ! が | 90 | 度 り 捻 迫 じ と 曲 へ が ン り レ ま カ す が 。 打 間 掌 違 の い へ あ 臓 り 心 ま る せ な ん と 。 メ 手 ド 刀 ト 。 、てしそ。き突頭の身渾。力能人魔のごんり門原がそこ更変の向方下落 落下の直前に落下方向を置転し続けることによる、空中連撃。 容赦も手加減もない、殺し技。 ――カレンの体は、致命の一撃をもって、地面へ叩きつけられました。 「……残り、ゼロ回です」 私の口をついて、言葉が漏れました。 日に三度まで、あらゆるダメージを無効化する。 それが、『伏魔のリートゥス』によって結ばれた契約がもたらす悪魔の加護。 その効果により、最後の一撃の衝撃は、防ぎました。 それでも、そこまでの連撃のダメージで、カレンは死に体です。 「カレンちゃんすごい! 今ので 殺(と)れなかったのは初めてかも!」 もう、三度、無効化は発動してしまいました。 これ以上、攻撃は防げません。 「でも、もう、守りは打ち止めだよね! 絶体絶命だね!」 ――私が、『伏魔のリートゥス』に縛られている限りにおいては。 左手首から流れる血を止めることすらせず、原門りんごが近づいてきます。 もはやその姿は、人というより、悪魔に近いものでした。 おそらくは、彼女の影にひそむ『反転の悪魔』バラムの影響でしょう。 痛みや恐怖すら『反転』させられ、殺戮のために最適化された心性にされている。 もはや、カレンは、原門りんごには勝てません。 駄目狼(グレイタウル)は高い天井に貼り付けられ、 私は力を使い果たし、シアランのランタンだけではどうしようもない。 「カレン。賭けの時間です」 私は、そう、口にしました。 それだけで、カレンは全てを察したのでしょう。 大魔女、ヴェナリスを止めるために今できる最善が何であるか。 そのために払わなければならない犠牲がなんであるか。 おお、おお、かわいいカレン。 そこで、逡巡するあなたのやさしさは、百ある魅力の中でも有数のものです。 ですが、あなたがあなたの目的を果たすならば、どうか決断を。 「――絶対絶命?」 子のために命を賭けるだなんて、親代わり冥利につきるというものなのですから。 「いいわ。なら、私は次のりんごちゃんの攻撃を、絶対に耐えて見せる。耐えられたら、私の勝ち。耐えられなかったら、「あなた」の勝ち」 不思議そうに首を傾げる原門りんごではなく、その影。 そこに潜む、『反転の悪魔』に向けて、カレンは言いました。 それは、私とかわいいカレンとの、訣別を告げる言葉でもありました。 ◆ ◆ ◆ 大魔女ヴェナリスの娘、カレンと私――『甘やかしの悪魔』が出会ったのは、カレンがまだかわいい3歳の子どもだった頃……いや、今だってカレンはかわいいのですが……です。 大魔女ヴェナリスはよき魔法の探究者であり、よき悪魔の友でしたが、残念ながら、よき母親ではありませんでした。 彼女の起源(どうき)は博愛。 全に手を差し伸べるということは即ち、特定のものだけに注力できないのと同義です。 愛とは突き詰めれば依怙贔屓。 ヴェナリスの起源は、我が子に十分な愛を注ぐことを許さなかったのでしょう。 だからでしょうか。 私め、『甘やかしの悪魔』フェリテに、カレンはよく懐きました。 本来、悪魔は「魔女」でない人間には見えません。 ですが、さすがヴェナリスの娘。 カレンは3歳にして、私めのことを認識できたのです。 古来から、悪魔は魔女に弱く、魔女は人間に弱く、人間は悪魔に弱いと、三すくみの相場が決まっています。 私がかわいいカレンに勝てないのは当然の帰結。 魔術の研鑽で留守がちなヴェナリスに代わり、親代わりとなったのも自然な流れでした。 悪魔とは、人に認識されず、魔女に使役される、そんな存在です。 だから、対等な関係で、無条件の信頼を寄せてくる、カレンの存在は、私にとって、かけがえのないものでした。 たとえそれが、『魔人能力』によって支えられたものであっても。 それが絆となるのなら、私には十分だったのです。 ◆ ◆ ◆ 「……何言ってるの? 殺ったら勝ち、殺られたら負け。それだけでしょ?」 構えを崩さない原門りんごの影が、揺らぎました。 『反転の悪魔』にとって、魅力的な提案でしょうとも。 何せ、自分を従えるラフランスの天敵、ヴェナリスの娘を操れれば、何よりの手土産となるはずですから。 やがて、原門りんごの影(バラム)がわずかに頷きました。 『伏魔のリートゥス』、賭けの成立です。 「――ごめんね」 カレンが呟きました。 いいのです、かわいいカレン。 あなたが、そう躊躇ってくれることこそ、私には望外の幸せ。 悪魔である私が、子の、甘やかし(わたし)からの旅立ちを見送れるなんて。 そんな奇跡、どんな悪魔だって、経験してこなかったはずですから。 私とカレン、そして、『反転の悪魔』とのやりとりを、何かの布石と警戒していたのでしょうか。 おもむろに、原門りんごが動きました。 その手には、よく研がれたナイフ。 もう、カレンには回避をする余力はありません。 そのことを見越した上での、ただひたすらにまっすぐな、全力の刺突。 命中まで、残り、三歩。 「……契約解除」 そして、私と、カレンとの霊的な結合が解除されました。 帽子の形を取っていた肉体が、揺り籠を模した元の悪魔の姿へと戻ります。 顕現と同時、全身を燃えるような熱が襲いました。 これがおそらく、このダンジョンにおけるルール違反者へのペナルティ。 命中まで、残り、二歩。 もっとも、原門りんごには、罰則に苛まれる私の姿は見えていないでしょう。 カレンの帽子が、消えただけに見えていることでしょう。 命中まで、残り、一歩。 悪魔は、人間には認知できない。 だが、悪魔は、人間に干渉できる。 だから、これは、 「――おまけの、一回です」 ナイフがカレンに突き刺さる直前。 原門りんごの凶刃を、私の肉体が受け止めます。 『伏魔のリートゥス』の契約による三度限りの悪魔の加護ではなく。 ただ、私が、『甘やかしの悪魔』が、自らの意志でかわいい娘をかばうだけの行為。 東の大魔女、ラフランスの血族の一撃。 それは、たとえ私を認識できずとも、この身を穿ち、貫き、破壊していきます。 ですが、そこまで。 原門りんごの刃は、私を殺すだけで留まり。 カレンの体には、わずかに触れることしかできませんでした。 即ち。『伏魔のリートゥス』による賭けは、カレンの勝利。 原門りんごとカレンの賭けではなく。 原門りんごに憑いている、『反転の悪魔』バラムとカレンとの賭けが。 カレンが能力で従えることができる悪魔は三柱。 そしてたった今、『甘やかしの悪魔』との契約は解除された。 つまり―― 原門りんごの影に潜んでいたバラムの姿が歪み、ねじれ、一つの形を為してカレンの手元へと転移しました。 それは、手回し式のオルゴールでした。 たとえダンジョン踏破による願いを得られずとも、『反転の悪魔』バラムのオルゴールは、ヴェナリスの帰郷を止める上で、大きな力となるでしょう。 これが、私の最期の甘やかし。 核が砕かれたこの身は、すぐに消滅するでしょう。 人の死傷はこのダンジョンでは回復するそうですが、悪魔にそれが適用されるとは思えません。 なにせ、ルール違反の罰則に焼かれ、「悪魔殺しの魔女(ラフランス)」の血族に殺されたのですからね。 この身はいつか再生するでしょうが、そのときにあなたがこの世界にいるかは、わかりません。 おお、おお、泣かないで、かわいいカレン。 あなたの百の魅力のうち一つは、美しい涙ですが。 それでも、私は、あなたの笑顔の方が、大好きなのですから。 さようなら。 悪魔(わたし)たちが暖かに伏せ安らげる、冬知らずの渚(リートゥス)――。 第四章『負け取ったモノ、勝ち落としたモノ』 4th Chapter ”Who Is Taken in by Cheap Hoking?” 眩んでいた意識が、輪郭を取り戻す。 カレンは、ゆっくりと周囲を見まわした。 Super Space ダンジョンの入り口。 すなわち、カレンは原門りんごとの戦いに敗北し、ダンジョンの外に放逐されたということになる。 ダンジョンの力で「願い」を叶え、母親の帰郷による破壊を止める選択肢は消えた。 さらに、幼いころからいままで自分を支えてくれた、『甘やかしの悪魔』フェリテも、もういない。 それでも、カレンは息を一つ大きく吐き出すと、歩き出す。 「おい。……何笑ってやがる」 「だって。負けたけど、まだ、可能性は残ってる。この『バラムのオルゴール』があれば――母さんの動力源が『帰郷』なら、それを『反転』すれば――」 「話を擦りかえるなよクソガキ」 カレンの手の中で、ホウキ――『皆殺しの悪魔』グレイタウルは小さく揺れた。 「……うん。私は、フェリテのこと、失った。狂ったあの娘を、救えなかった。『西の魔女(かあさん)』の教えを、守れなかった。けど、悲しくない。力が足りないのは、事実。なら、私がすべきことは、泣くことじゃなくて、自分を鍛えることだもんね」 「……本気か?」 グレイタウルは、道中で、カレンが口にしていたことを思い出していた。 『自分の生まれた意味がはっきりと分かっている人が、この世の中にどれくらい居るだろう。 政治家なら、国民の幸福のためとか、自分の信条とかがそれに当たると訴えるだろうか。 あるいは芸術家なら、作品を残すためと言い切るだろうか。 もしくは意味なんてないと否定するだろうか。 私にとって、それは明白だった。 生まれた時から決まっていた。 やるべきことがはっきりしているのはいいことだと思う。』 少女は淡々とそう言った。 あのときは、世間知らずの、親に従うだけの従順なバカだと思った。 だが、今ならわかる。彼女はただ―― 「だって、私は魔女。魔女っていうのは――」 少女の足元に一滴、雫が落ちる。 「嘘をつくものだ、か。……悪魔も同じだけどな、カレン」 「ありがと、グレイタウル」 彼女の手にした箒は、一人でに動き出すと、その濡れた跡を静かに掃き消した。 魔女(おや)の呪(ねが)いでなく、彼女自身が歩むべき道を、払い清められるように。 ◆ ◆ ◆ 「よーし! りんごちゃん、大勝利!」 同年代の少女の心臓を穿ち、その感触が消え切らないにも関わらず、原門りんごは相変わらず、快活な笑顔だった。 普段であればこのまま、なじみのラーメン屋台で一杯やりたい気分。 「――?」 そのはずだった。 なのに。 どうして。 今日は、その、爽快感よりも、手に残る鈍い感触に、意識が向いてしまうのか。 トドメを刺した瞬間の、彼女の苦悶と後悔の表情。 それが、頭から消えようとしないのか。 自分は、連続殺人鬼のはずなのに。 原門りんごは気づかない。 それこそが、自分が求めてやまなかったはずのものであると。 それこそが、彼女がこのダンジョンを訪れた最大の理由であると。 それを手にすることで、自分がどうなってしまうか、想像すらしてこなかったから。 だから、原門りんごは、自らの裡に生まれた、その葛藤が、理解できない。 「あ――れ?」 頬を、一筋の雫が伝う。 それをぬぐおうとして、りんごは両手がふさがっていることに気づき、手にしていたナイフを『落下置転』で、すぐ脇の壁の側面に「置こう」とし―― カラン。 ナイフはただ、――「下へと落ちた」。 「どう――したんだろ――。あはは、変だな? なんで――」 答える母親(もの)はいない。 その認識を補正する悪魔(もの)もいない。 彼女を守っ(くるわせ)てきた、竪琴はもう鳴らない。 魔人能力は、強固な認識で世界を歪める力である。 故に、その認識が揺らげば、その力もまた、揺らぎうるもの。 曰く、魔人能力に触れた魔法使いは、『魔人堕ち』により、魔法の力を失う。 なれば、魔女に触れた魔人が能力を失うこの状態を指す言葉は、『魔女堕ち』だろうか。 かくて、原門りんごは、――『自分以外』への『落下置転』の使用権を紛失した。 エピローグ『魔女』 EP Chapter ”WITCH” 天才であり天災。世界一不味な薬。正道にして浅薄。真昼の月光。 頑固で憎らしく、謹厳実直な変態性、存在さえ認めたくないが金の卵は産む雌鶏。 大魔女ラフランスを知る者は彼女をそのように評する。 魔女の術識世界に「魔人能力」という薄っぺらな概念を本格的に持ち込み、『魔人堕ち』という疫病を広めた感染源。 「気分はどうかしら。西の魔女。全てを救おうとして、全てを壊す元凶となった哀れな女」 女はネオンの向こうに煙る夜空を見上げて目を細める。 懐かしい旧友に呼びかけるように。 「あなたの落下を止めるのは――全を救うあなたの娘じゃない。まして、佼魔の老いぼれたちでもない。ただ、厳然と善だけを掬う、私の可愛い毒リンゴ、神無き庭の禁忌の果実」 ここは神無側(カナガワ)。 神無き世界の魔女の庭。 「『落下置転(フォーリンアップル)』から『楽園追放(フォビドゥンアップル)』へ。四度の戦いは、あの娘が、全ての悪と魔を叩き伏せ、この星から放逐する『絶対正義の殺人鬼』になるための儀式(リートゥス)」 善ならずと断罪されたものの血を浴びながら、女は今宵も高らかに笑う。 「さようなら、全を救わんとした残骸。あなたは、どこにも帰(おちら)れない。」 ――全裸で。 【大魔女ヴェナリス 地球到着まであと4日】 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/nicezukin/pages/71.html
エリートスキル取得マップへ ウォーリア:● レンジャー:● モンク:● メスマー:● ネクロマンサー:● エレメンタリスト:● リチュアリスト:● ①ヒーリング バースト ジョブ:モンク 特性:ヒーリング 取得できる敵名:デプス ディボート インストル ②カーンヘイ ヴェンジェフル ジョブ:リチュアリスト 特性:レストレイション 取得できる敵名:ヴェンガンス シーカー デリック 備考:近づくと上から出現。 ③グラス アロー ジョブ:レンジャー 特性:エキスパーティーズ 取得できる敵名:ローレル ジェイド カッター ④カルティスト フィーバー ジョブ:ネクロマンサー 特性:ブラッド 取得できる敵名:カルティスト ミルスラン ⑤リカー インセキュリティ ジョブ:メスマー 特性:イリュージョン 取得できる敵名:マッド テイラス ⑥シャッター ストーン ジョブ:エレメンタリスト 特性:ウォーター 取得できる敵名:ウェーブクレスト ストーンブレイク 備考:タートルシェルを使ってくるので、とてつもなく硬いです。 ディープフリーズで後衛に200超のダメージを与えてきます。 ⑦クリーヴ ジョブ:ウォリアー 特性:アックス マスタリー 取得できる敵名:レイザーフィン フレッシュレンド エリートスキル取得マップへ
https://w.atwiki.jp/dngssd/pages/52.html
【採石場】STAGE 試合SSその2 Opening『Can t Take My Eyes Off of You』 2019年、日本。清々しく晴れたある日の朝の事。 女子高生にして連続殺人鬼の原門(はらかど)りんごは、始業時間に間に合うか否かの瀬戸際で通学路をひた走っていた。 寝坊したのは、前日深夜に横浜市西区に出没する辻斬り・終舞鞭刀(シュウマイベントウ)の鬼妖剣(キヨウケン)を探し出して殺すのに予想以上に時間がかかってしまったためだ。 無論、担任教師にそんな言い訳が通用するはずもない。 走りながら器用にポニーテールを結び終え、調子に乗って通販で購入した新品のサバイバルナイフもチェック。 しかし曲がり角を曲がったところで、りんごは見慣れない男子と激突して尻餅をついた。 「ごはッ」 なんという不幸! 男子生徒の肋骨の隙間にナイフの刃先がIN! まさに最悪の出会いだ! 「あわああああ! しっかりして、死なないで! 生きることを諦めるな!」 これにはりんごも大慌て。 原門一家は正義の連続殺人鬼一家。標的でもない一般人を出会い頭にうっかり殺など、憤死レベルで恥ずべき行為! しかもよくよく見れば男子生徒はさらりとした金髪と青い目、ちょっとそこらには居ないレベルのイケメンだ。 二重のショック! 男子生徒は息も絶え絶えにりんごの手を取る。。 「君、かわいいね……僕、アイルランドから日本に転校してきたアイツ・クローニンっていうんだ。よろしく」 「すごく苦労してそうな名前!」 白目を剥くアイツをりんごはお姫様抱っこで病院に運び、なんとか一命をとりとめた。 ……が、しかしその後りんごは、自分のクラスに転校してきたアイツの姿に頭を抱えることになった。 (アイツ、何でよりによって同じクラスに来ちゃうかなあ!?) そしてそれからというもの、りんごの生活は一変してしまったのだ。 クラスにはりんごよりかわいい女子などいくらでも居る。なのに、アイツは何かにつけてりんごにばかり話しかけてくるのだ。 朝の通学路、休み時間の教室、放課後の帰り道。学校行事の最中にまで。 他の女子から妬みやっかみを受けて困惑するほど、アイツはりんごを構いたがる。 それはまるでドラマや漫画の中でしか見たことのないラブコメ。 気が付けばりんごは視界の隅にいつもアイツを入れようとして、そのくせ胸がドキドキしてまともに顔も見られないという有様だった。 (ど、どうしよう! 連続殺人鬼は普通の恋なんてできないのにっ! 助けて、神様!) 祈れども、未だ半人前のその身に神は宿らない。かくなる上は自力救済と、原門りんごは決意した。 巷で噂の不思議な迷宮。制覇したなら願いはかなう。 勇気と凶器を引っ提げて、恋に憧れる女子は奮い立った! Round 1『Keep Rollin 』 長野県南佐野市。SSダンジョン。 いかなる仕組みか、この大空洞に足を踏み入れた探索者は1対1の戦いを強いられる。戦いの場はランダムに決定され、明らかに洞窟の内部ではあり得ない広大な土地も舞台となる。 今回の戦いの舞台は薄曇りの空の下、岩を切り出すために階段状になった山肌。そしてその麓に位置する場所――採石場であった。 そして今そこには、油断なく周囲の様子を伺いながら俊敏に移動を続ける一つの影! (中に入るとランダムに転送されるって聞いてはいたけど、こういう場所かぁ! ベストは屋内だったけど、まあ悪くないかなー!) 原門りんご。 太眉かわいい16歳、平成生まれのポニーテール、そして連続殺人鬼! 殺人のプロフェッショナルである彼女は、いかにハイなテンションであっても独り言で己の所在を敵に知らせるような愚は侵さない。 (アレは使える、アレもよさそう、うんうん。いざとなればこっち方向に誘導して……うんうん、かーなり、イケそうねっ?) 常日頃は入念な準備で確実な殺人を心掛けるりんごも、このSSダンジョンにおいては持ち込める武器が限られている。銃器や刀剣はともかく、『大道具』は現地調達に頼らざるを得ない。 もっとも『神無側(カナガワ)』最大の都市ヨコハマには、完全即興殺(トップオブザヘッド)を信条とする即興殺人鬼(フリースタイラー)も星の数ほど存在するのだ。 りんごが彼らを仕留めるために磨いた技術(スキル)は、この戦闘エリアで存分に発揮できるだろう。 (きっちりバッチリ殺(や)ってみせる。そしてアイツと、普通でまっとうな恋をするんだから!) 決意を新たにするりんごの頭上に、対戦相手の最初の攻撃が迫っていた。 時は少し遡る。 原門りんごの対戦相手・冬知らずの魔女カレンは、採石場の上空600m地点に居た。 箒に跨り空を飛ぶ魔女といえばメルヘンで軽やかな姿を想像するが、よろよろ、フラフラしているカレンの姿は優雅さからは程遠い。 「魔人堕ちした魔女が『箒乗り』を使えるのって、結構凄い事なんだよ」 「だからなんだよ。褒めねえぞ」 つっけんどんな物言いに、カレンはむう、と口を尖らせる。 箒の姿でカレンに跨られているグレイタウルはグレイタウルで、すこぶる機嫌が悪い。 この姿に変えられてから三日間動けないカレンの世話をし、さらにドイツから日本への12時間ものフライト中は荷物扱いで貨物室に押し込められていたためだ。 「おいガキ。これ、本当にバレてねえんだろうな」 「大丈夫なはず。シアランに、敵から死角になるルートを探してもらったから」 道しるべの悪魔シアランは、カレンの魔人能力『伏魔のリートゥス』によって緑の炎を灯すランタンとなり、炎の傾きで探し物に行きつく方向へと導いてくれる。 カレンはこの力を頼りに敵の目を盗んで上昇し、危なっかしく揺れながらも高所を移動しているのだ。 「ザコ悪魔の割にはなかなか使える能力じゃねえか」 「あんまりザコ悪魔とか言わないでね。シアランは私の初めてのお友達なんだから」 「おい……まさかと思うがお前、この俺もお友達に含めてるんじゃないだろうな」 「あ、この辺かな。一時停止」 「おい! 聞いてんのかァ!」 シアランの炎が傾きを止めた。ということは、そこが目標の地点であり、遥か眼下に豆粒のように見えるのが対戦相手のはずである。 カレンは、地上で拾って鞄の中に詰め込んだ拳大の石を次々と眼下へ放った。 先ほどから飛行がフラついていたのはこの石が重かったせいである。 「えげつねえ攻撃考えやがる。クソ魔女の娘だけあるよ」 「確実な手じゃないよ。これで決まるとは思ってない」 自由落下する物体は、速度が増すほど空気抵抗を強く受ける。 結果、ある程度以上の高さでは落下速度が一定になる。終端速度と言うものだ。 位置が高ければ高いほど落下の速度と破壊力が増すわけではないのである。 カレンが地上600mからこの攻撃を仕掛けたのは、単に発見されにくく、反撃を受けにくいと考えたからだった。様子見の牽制としては悪くない手のはずだ。 欠点としては、特別優れた視力を持つわけではないカレンが注視したところで、命中の有無を判別できないことだろう。 「一発くらい当たってるといいんだけどなあ」 相手が移動したら多少の変化は見られるだろうと、カレンは慎重に下方を覗き込む。 「ん?」 「おい! ボケっとすんな、避けろ!」 グレイタウルの警告を受けて素早く平行に横移動すると、落としたはずの石が上昇して次々とカレンの横を通り過ぎていった。 「……返品されちゃった」 飛来した石は、その全てが上方から再びカレン目掛けて降ってくる。 まるでカレンの居る場所こそが自分の定位置とでもいうように。 「ハッ。ただキャッチして投げ返した、ってワケじゃ無さそうだなァ」 「うん。作戦変更……距離をつめよう」 カレンは箒の柄を握り締め、そのまま地上への降下を開始した。 「んー、降りてくるけど仕留められてないな? ま、そうだよね! まだまだ序の口虫眼鏡!」 原門りんごは落下してくる少女を眺め、ニカッと笑って独りごちる。 軽口は叩くが、連続殺人鬼はその目で死体を確認するまで一瞬たりとも油断などしない。 反撃を警戒するのはもちろん、殺害対象を取り逃がすようなことがあればその時点で連続殺人のコンボが途切れ、平(ヒラ)殺人鬼から出直しになってしまうのだ! それにしても、りんごはいかにしてカレンの奇襲を防ぎ、反撃に転じたのか? それはりんごの魔人能力――『落下置転(フォーリンアップル)』によるものだった。 自他の「落下する方向」を変更する能力。ただし接触によって変更できる落下の方向は、視界内に「落下地点or足場」となるものが見える方向に限定される。 頭上へ落下してくる石が地面に影を落としたのを認識したその瞬間、りんごは手近な石を拾い上げた。 自身の能力に関連することもあり、りんごは落下物に対しては人一倍敏感! まずは落下してくる石を「落下地点」に設定し、地上から石を落下させてその威力を減衰! 悠々と躱した後は、地面に落ちた石の新たな「落下地点」を、上空に豆粒のように見える攻撃手に設定するだけでいい。 りんごは相手を視認さえできればどこからでも必中の誘導弾を放つことができるのだ。 「けど、最初の攻撃が狙撃とか爆弾とかだったらヤバかったかな! もっと気を引き締めないとっ!」 反撃、反省が済んだらすかさず追撃。りんごの思考の切り替えは極めて早い。 「今度はもっと派手に行こう。殺すだけなら猿でもできる。どうせ殺るなら絶殺・確殺・ド派手殺っ!」 それこそが連続殺人鬼の名門たる原門の教えだ。 「ワン、ツー、スリー、フォー! ヒア、ウィー、ゴー!!」 リズミカルに跳ねるりんごの指が触れるたび、並んで置かれた直方体の岩石が次々と空に舞い上がる。 これらはこの採石場で切り出された岩石。大きさおよそ1立方mにして、重量は1トン近い。 奇しくも用途としては墓石となるべく切り出されたものであった。 斜面に並んだ石が、次々と、ミサイルさながらに敵をめがけて落下していく。 空へ向かっていく石を眺めていると、りんごは少しだけ落ち着かない気持ちになる。 それは、りんごがこの力に目覚めた瞬間を思い出させるからだった。 Origin:『落下置転(フォーリンアップル)』 2007年、日本。 ゴッドレスサイド――『神無側(カナガワ)』最大の都市ヨコハマ。 齢4歳の原門りんごは、休日の遊園地にいた。 みなとみらい地区の都市型遊園地、ヨコハマ超喪(コスモ)ワールドである。 この遊園地は神無側を彷徨う不浄の魂を強制成仏させるために建設されたもので、建設後は近隣地域での霊媒事故が前年比15%減少したという実績も出ている。 「どっこかな、どっこかーな、殺―る相手ー♪ 隠れてないでー、出ておいでー♪」 幼いりんごはアトラクションに目もくれず、鼻歌混じりに標的を探していた。 太い眉にくりくりした瞳、あどけない顔立ちはいかにも愛らしい子供のそれだったが、その実、この時点でりんごの殺害数(キルカウント)は既に二千を超えている。 産声を上げずに生まれたその日、りんごは原門の血を根絶やしにせんと分娩室を襲った卑劣な殺し屋を返り討ち! それを皮切りに、横浜の地を汚す快楽殺人鬼、闇に紛れる凶悪犯、跳梁跋扈する悪人を幾人も屠ってきた。今日もまた、りんごは誇りある殺害数を一つ増やすべくこの地を訪れているのだ! ほどなくして、りんごはターゲットの男を発見した。 全裸の母がりんごに示した写真と特徴が一致する。 中肉中背のどこにでもいる中年に見えるが、その男は依存性の高い薬物で中毒患者を意のままに操る悪徳医師。 大手政治家や警察官僚も顧客に持っており、まさに法で裁けぬ腐った悪人なのだ。 男はヘリウムガスの入ったバルーンを手にしていた。 ふわふわと浮かぶ、赤くて丸い風船。 実のところそれは取引の目印だったのだが、りんごはただ、まるで林檎のようだ、と思った。 りんごは自分と同じ名を持つその果実が好きだった。赤くて、まあるくて、かわいい! だから、林檎そっくりな風船が欲しくなった。 標的を殺したらりんごが貰ってもいいものだろうか、と思案する。 「別に、いいよね!」 背中から心臓を一突きすれば、それで仕事は終わり。 メリーゴーラウンドが賑やかなBGMと共に回り出すのに紛れて、りんごは男の背後に立った。 「南無三! おじさん! ご苦労さんっ!」 男の警戒心が高かったせいか。それとも、りんごに気の緩みがあったのか。 口上の後に突き立てたナイフは、わずかに急所を外れた。 「ありゃ? 即死してない、情けない」 血まみれになった男は恐怖におびえながら這いつくばり、後ずさる。 「た……頼む、やめてくれ。許してくれ。俺には小さな子供がい……げひゃああ!」 こうした悪党の命乞い発言は、時間稼ぎか反撃狙いの二択。一切信用してはならない。 案の定拳銃を取り出そうとした男の腕をりんごは素早く踏みつぶした。 「クソッ、何なんだ、イカレてんのかこのガキは!!」 「あ、言ったね? 私がイカレてるなら、おじさんはそれ以下ね!」 正面から再度の刺突で、りんごはようやく標的を仕留めた。 今日に限って、ひどい手際の悪さだった。急いでこの場を離れなければならない。 そう思った瞬間、事切れた男の手から、風船についた紐が離れた。 あ、と小さく声をあげてりんごは跳躍したが、あと一歩というところで捕らえそこねる。 そして、りんごは見た。 林檎が(・・・)、空に落ちて(・・・・・)いく。そういう事もあるのか。 ぞわりと全身の皮膚が泡立った。 頭では分かっている。 あれは、ただの風船で――だから、下から上に登っていく。 普通ならばそんなことは起こらない。 けれど普通って何だろう。 男は、りんごがイカれていると言った。男の家にも子供が居て。きっとその子供は殺しなんてしない。 自分は普通ではないのだろうか。 悪党の言う事など聞き流せばよかったのに、りんごはそれをきちんと考えてしまった。 普通のりんごでないものは、空に吸い込まれて消え得るのかもしれない。 この時、りんごの中で一つの常識が壊れた。 『落下置転』は、そうして生まれた。 飛来する岩石群に対し、カレンはわずかに軌道を変えて空中ですれ違う。 ゴウ! と岩石が空気を裂く音が耳にまで届く。 地上へ向かうカレンと地上から襲い来る岩石の相対速度は350㎞/h以上、一歩間違えば潰されてミンチになる速度だ。 カレンはシアランの炎の傾きだけを注視していた。攻撃そのものを目で追っても回避は間に合わない。 故に、シアランの示す、「攻撃が命中しない道」を通るのみ。 ゴウ! ゴウ! ゴウ! 致死の弾丸をすり抜け、航空機のアクロバット飛行さながらに縦横の旋回を行いながら、カレンは真っ逆さまに落下していく。 みるみるうちに高度が下がり、今や敵の全身、その挙動まで目視できる。 もう地面からこちらへ飛ばす岩石はなくなったようだった。 カレンは無意識に緊張を解き、縮こまっていた背筋を僅かに伸ばして息を吐いた。 シアランから目を離した、まさにそのタイミングで。どす、と胸に何かが突き刺さる。 「……え」 ダメージは即座に「なかったこと」にされる。 カレンの黒いとんがり帽子に、ぱっちりと一つ目が開いた。 「残り二回です」 自ら能力の残数を告げるのは、日に三度まであらゆるダメージを打ち消してくれる甘やかしの悪魔、フェリテ。 今は帽子に姿を変え、カレンを保護する従僕となっている。 「……おお、おお、カレン。なんということ。やはり馬鹿狼では当てになりません! きちんと避けさせてあげればいいものを!」 「アア!? 甘やかすにも程があんだよ! 今のはガキの油断だろうが!」 「二人ともケンカしないの。シアランが怖がってるでしょ」 箒の柄に吊るしたランタンがキイキイと震え、不安げな音を出している。 「ごめん。もう気を抜かないから」 カレンはたった今自分の胸に突き刺さったものを手に取る。 それは何の変哲もないボールペンだった。 軽い物体でも、空気抵抗が少なければ落下速度は飛躍的に上昇する。 例えばそれは鋭い切っ先を向けた文房具。 大きな石による攻撃を繰り返し、全て掻い潜ったと思わせておいてからの奇襲だ。 しかも凶器が敵の手元に残っても武器としてまともには使えないという、まさしく殺しのプロの犯行(しごと)。 「相手……かなり、強いかも」 いつの間にか、背後を追ってきていた岩石群は次々と軌道を変えて地面に落下している。 時間切れなのか、誘導性能を攻撃に利用されると見て能力を解除したのかは判別できない。 カレンは再び最大限の警戒を強いられながら下降し、やがて箒から飛び降りて着地した。 この戦場に誘われた二人の少女が、ようやく互いの顔が見える距離で相対した瞬間だった。 Round 2『インファイト』 原門りんごは無造作に歩いて斜面から離れる。カレンもそちらへ近づく。 互いの距離は残り10m……6m……4m。 そこで、二人は立ち止まった。 「私、原門りんご! 16歳の連続殺人鬼! よろしくね!」 「カレン。魔女。よろしく」 ごく短い自己紹介の後、二人は互いに得物を構えた。 「待てやァー!?」 耐えきれずに割り込んだのはグレイタウルである。 「おかしいだろうが何だその挨拶はァアア! 何が連続殺人鬼だ!」 「えっ、箒が喋った! メルヘンもしくはファンシー! かわいい!」 思いもよらない乱入者にりんごは感激している。 「そんなとこに驚いてる暇があったら、まず自分の肩書に疑問を持ちやがれ!!」 この怒号にはりんごが言い返すよりも先に、カレンの方が口を挟む。 「それを言ったら、グレイタウルさんだって『皆殺しの悪魔』だよ」 「い、一緒にすんな!!」 「一緒だよ。何も変わらないよ。人も、悪魔も、それ以外も」 さらりと言い放つカレンが、気負った様子も気取った様子もないのがりんごは気に入った。 殺したことがないタイプの女子だ。 「いや、つってもお前、あれだろォ……連続殺人鬼が野放しはマズいだろ……」 「あ、それなら大丈夫! 私、四戦勝ったら連続殺人鬼じゃなくしてもらうつもりだからさっ!」 「今すぐやめろやァアアア!!」 グレイタウルの悲痛なツッコミ絶叫が、遠く山あいまでこだました。 「そんなもんお前、お前の心がけ次第だろうがああ! くだらねえ願いかけてんじゃねえ! こっちは世界の命運かかってんだぞコラァアア!!」 (世界の、命運? ホントかなあ。ホントだとしても) それでも一言、これだけは言い返しておこうとりんごは口を開く。 「「くだらない願いなんかじゃないよ」」 声を発したのは、一人ではなかった。 予想外の同調(シンクロ)に、りんごとカレンは顔を見合わせ、思わず笑いあう。 「カレンちゃんだっけ。いいねえ何だか気が合うねえ」 「そう、かも」 「ええ……な、何だよこれ。なんで俺がおかしいみたいになってんだよォ……」 哀れなグレイタウルはもはや会話に入り込む気力はない。 心なしか、箒の穂先が叱られた犬の尾のように垂れている。 「ねえ、カレンちゃん。私は連続殺人鬼をやめるつもりだけど、世界の命運がどうこうって話が本当なら、うちの家族で何とかできるかもよ」 「家族?」 「そそ! 連続殺人鬼の名門、原門一家。たいていのものなら殺せるよ? 世界の危機みたいな話なら、何回も対処してきたし。頼っていいよ!」 酔狂で言っているのではない。りんごの表情は真剣そのもの、本気で力になろうとしてくれている。 しかしカレンはその誘いを断った。 「ううん。それじゃ意味が無いの。私がやるべきことだから」 「そっかー。うん、残念だけど、それじゃあ仕方ないね」 りんごは、あくまで陽気な笑顔で再び凶器を握り直す。 部活動か何かでも始めるような気安さで、剣呑に、物騒に宣戦布告する。 「じゃあ、死合(しあ)い。始めちゃおっか?」 「うん。お待たせ」 互いに願いを譲るつもりは毛頭ない。ならば、やるべきことは一つ。 りんごは腰を叩いて一度大きく伸びをし、大型のサバイバルナイフを手に。 カレンは箒を振りかぶって、激突した。 ガギン! 甲高い音が鳴る。 その最初の一撃で、連続殺人鬼の観察眼は魔女カレンの槍術(箒術と言うべきかもしれない)が素人臭いことを見抜いた。 体重移動、筋肉の使い方、武器の重量制御。 何もかもが、明らかに武術の訓練を受けた人間の動きではない。素人を装っている動きですらない。 踏み込み、振り下ろす。 屈みこみ、斬り上げる。 躱して薙ぐ、逸らして突く。 りんごの斬撃は極めて鋭い。 自分自身に『落下置転(フォーリンアップル)』を用いた運動制御の賜物だ。 自身の落下地点を数m後方に設定して飛び下がれば即座に攻撃圏外へ退避できる。逆に数m手前に設定すれば踏み込みの距離は延び、遠間より懐へ入り込む。 (……なのに、なんでさー!?) それでもりんごの攻撃はことごとく箒の動きによって阻まれている。 箒そのものが意思を持って動き、受け止めているように見えた。 (っていうか、え? 私と斬りあってこんなに保ってる魔人って、初めてじゃない? ひえー!) 箒などでナイフの刃を受け止められていることについては、それほど驚きはしない。喋る箒、それも魔人が振るう武器である以上、どんな効果を発揮してもおかしくない。 りんごが驚いているのは別のことだ。 「うわうわ。ちょっとどうしようかな! これって、私!」 「なに?」 「たっ、たっ、楽しいんだけど!」 恋のときめきとは違う。けれど、りんごは確かに高揚していた。 無理もないことだった。 連続殺人鬼を殊更に否定しない相手。 そして、連続殺人鬼でなくなりたいという夢も否定しない相手。 そんな風に肯定してくれた相手に、鍛えた技を存分に振るい、必殺の攻撃がかち合う。 何もかも、りんごにとっては初めてのことだ。 圧倒的な力を持って対象を殺すばかりの連続殺人鬼だからこそ、味わったことのない感動だった。 根底に敬意(リスペクト)を持つ殺意など、理解できる者の方が少ない。 だからこそ刃が鳴るたび心が躍る。 ただの殺しに愛は無い。でも、殺し合いには愛がある。 互いの隙(スキ)を伺い合い、切り結ぶ二人の少女(ガール)。 しかしそれは逢瀬にも似て――つまり、永久には続かない。 リーチに優れる箒の一撃がりんごのナイフを遠くへ弾き飛ばした。 カレンはそのまま返す穂先で胴を狙う。 決着を付けられる間合いだ。 「それで勝てると思ったら甘すぎ注意!」 うっかり乗ったそれは誘いの一手! りんごの手は自身の背後に回り、拳銃を手にしている。 腰を叩く動作に紛れさせて、スカートに挟んであった拳銃だ。 すかさずカレンの眉間を撃つ! 力量の不明な相手に対して、りんごはこれ見よがしに銃を出したりはしない。 相手の運動能力を見極め、銃弾を避けるほどの力は無いと確認してから、至近距離で唐突に撃つ。 経験則に裏打ちされた確実な攻撃! しかし。カレンが魔人能力によって従えている悪魔の一人は、初見殺しの能力や罠に対して特に有効な防御手段を持つ。 カレンの額に穴は開かず、カレンの帽子に目が開いた。甘やかしの悪魔、フェリテ! 「残り、一回です。おお、おお、カレン。気を付けてくださいね。そして駄目狼、さっきからなんという体たらくです! 一撃もまともに当たっていないではありませんか!」 「うるっせえ! 今頑張ってんだろうが! 向こうのガキは隙がねえんだよ!」 喧々諤々の内輪もめを前に、りんごは目を丸くしている。 「マジ信じらんない、無敵持ちー!? っていうか帽子も喋るの、賑やかでズルくない!? こっちは一人なんだけど!」 「……多分ズルくないと思う。追い出されてないから、有効」 「それ、結果論だし!?」 ぶーぶー文句を言いつつ、りんごは先ほど弾き飛ばされたナイフが手元に戻ってくるのをキャッチした。手を離れる前に、『落下置転』であらかじめ戻ってくるよう設定してある。 「おお、おお。敵が再び来ますよ。備えなさい!」 「わかってるっつうの!」 内輪の口論が中断され、再びりんごとカレンは得物を構えてにらみ合いとなる。 りんごの武器は一つ増え、右手に拳銃、左手にナイフ。 (さっきの発言がブラフでなきゃ、攻撃を無効にできるのはあと1回ってことだよね) りんごは突然無造作に跳躍して距離を詰めに行った。 振り下ろされるナイフの一撃に合わせるように、カレンも箒を下から振り上げる。 しかし。 前方に跳んだはずのりんごが、その迎撃を突如真横(・・)に平行移動して避けた。 先ほどまでは『落下置転』を前後の移動量調整にのみ使用していたが、本来は足場となる場所を自由自在に設定できる。動きの軌道はまさしく変幻自在! 迎撃を完全にすかされたカレンの上体が流れるのを見逃しはせず、すかさず銃口を突きつける。 (この距離、このタイミングなら二発撃てるっ!) 心臓狙いで、引き金を二回引く。それで終わる。 終わるはずだった。連続殺人鬼は油断などしない。 しかし、結果的に銃声は一発しか鳴らなかった。 何故なら、二発目の引き金を引こうとするりんごの指は、拳銃と一緒に箒の穂先にあったからだ。 高速で振り下ろされた箒の穂は狼の牙を備えており、咥えたものをかみ砕き、ぺっと吐き出す。 「ケッ。マズいもん食っちまったぜ」 グレイタウルが不快そうに唸る一方で、一発目の銃弾からカレンの心臓を守り力を使い切ったフェリテの目がゆっくり閉じていく。 「残り、ゼロ回です。おお、カレン。ご武運を……」 「ありがとう。フェリテ」 血が噴き出す自分の指先を見つめながら、りんごは高速で分析していた。 相手がここまで実力を隠していたとは思えない。ならば、何故敵の間合いと攻撃速度を見誤ったか。 考えられる原因は一つ。 武器と使い手の動きが、今ようやく噛み合い始めたのだ。 おそらくは魔人がひしめいているであろうこのダンジョンに、まさか急造のコンビで挑んでくる者が居るとは思わなかった。 しかし急造ゆえに、戦いの中のわずかな経験値で成長していく。 魔人同士の戦闘に常識は通じないということを、りんごは改めて実感した。 そしてこの時、もう一つ予想外の出来事が起こった。 「グアアアアアアーッ!?」 指が三本ほど飛んでも、その程度でりんごは泣いたりしない。 大きな悲鳴を上げたのは、意外にも先ほどりんごの指を食いちぎったグレイタウルの方だった。 「グレイタウルさん、大丈夫? なんか……煙出てる」 「で、出てねェ!」 心配そうなカレンを前に、もうもうと白煙を上げながらグレイタウルは強がる。 「いや、めっちゃ出てる……」 「うるせェ! 誰だってメチャメチャ頑張ってる時は煙くらい出るだろうが!」 「いやいやー、それはないよ。無茶言ってるよ箒ちゃん」 「うるせェーッ! てめえまで会話に参加してんじゃねえッ!!」 フレンドリーに口を挟んだりんごに対し、グレイタウルは猛然と吠えかかる。 といっても今の姿ではビクンビクンとのたうつ箒にしか見えない。 「クソがァ。お前、そのナリで聖職者だったのかよ……!」 りんご自身も、内心目の前で起こったことに驚いていた。 知識として知ってはいたが、自身の血が悪魔に対して効果を発揮するのは初めて見たのだ。 「そうだよ! いやー、原門の家に生まれたことに感謝しないとねえ!」 原門(はらかど)は本来、原門(バラモン)と読む。 元をたどれば、神無き大地・神無側に蔓延る魑魅魍魎を鎮めるためインドより遣わされた、密教系の流れを汲む聖職者の一族なのだ。 故に、その血は洋の東西を問わず邪なるものを祓い清める。 こうして思わぬ形で互いに負傷し、状況は五分五分となった。 次の局面で勝負が決まるだろうということを、二人の少女はひしひしと感じ取っていた! Round 3『Sky is the Limit』 剣戟は続く。しかし、終わりが見えない。 「終わらない、ね……」 グレイタウルがりんごのナイフを噛みに行く。 「カレンちゃん、ギブアップするぅ?」 すばやく下がり、変則軌道で斬りつける。 「ううん、しない。りんごちゃんは?」 バトンを回すように箒を円形に回し、身を守る。 「いやあ、するわけないんだよね!」 小刻みに突きを放ち、牽制する。 りんごは銃を、カレンは防御手段を失った。 互いの動きが慎重になり、状況を打破する決め手がない。 膠着状態の戦いの中でりんごには一つの懸念が生まれていた。 (脱ぐべき、なのかな) 原門の一族は、厳しい修行によって古代インド神の力を引き出すことができる。 「りんご」という名も元は「五輪」からきており、地輪、水輪、火輪、風輪、空輪……五つ合わせて宇宙全ての構成要素を現す聖なる名だ。 りんごの母・裸婦(らふ)騎乗槍(らんす)に至っては、長い修行の末に女神ドゥルガーの力を引き出すことに成功した。 ドゥルガーは聖獣ドゥンに跨り、シヴァより授かった三叉の槍(トリシューラ)を振るう激しい戦いの女神。アスラ親族のコータヴィーとも同一視され、コータヴィーは「裸の女」を意味する言葉である。 名とは呪。生まれながらにして「裸婦」であり、「騎乗」して「槍」を用いることを因縁付けられた裸婦騎乗槍が、半ばヤケクソになって求め、得た力。 その力は受け継がれ、りんごの中にまで息づいている。 故に、全裸になればりんごの戦闘能力は飛躍的に上昇する! ただし母からは、この力は18歳になるまで使用するなと言われている。 法に触れるからだ。 りんごは思い直した。 たとえ戦いに勝ったとしても、後味が良くない。連続殺人とはわけが違うのだ。 (着たままで、勝たなきゃっ!) 決意と共に、りんごの中にあるアイディアが浮かんだ。 そこらの岩石、相手の全身を落下地点にするのはそろそろ見切られている。 生半可な飛び道具や斬撃には箒が対応してしまう。 ならば、もっと小さく。あるいは、大きく力を使う必要がある。 りんごはカレンに背を向け、山の斜面に向かって走り出した。 その行動に一瞬虚を突かれたカレンだったが、りんごが逃走ではなくさらなる攻撃のために行動に移ったことは明白だ。 「おい、何かまずいぞ! 距離を取られんな!」 『風渡り、秘儀の枝、エーテルを掴め』 『箒乗り』のごく短い詠唱。カレンは猛然と飛翔してりんごの背を追った。 りんごはロングスパンの跳躍を繰り返し、山の斜面を駆け上がる。 時々屈みこんで触れた石を後方に飛ばすが、それ自体は当てる意思の感じられない散発的な攻撃。 (何を狙ってるの?) 訝るカレンは、山の中腹に到達し振り返ったりんごと目が合った。 箒に乗って接近しながら、カレンはその時、何かぞくりとするものを感じた。 ここまでの戦いで、既にりんごの能力の多彩さには恐れ入っている。 しかし、まだ底が見えていない。そんな予感がする。 「おい、ありゃ何だ」 グレイタウルが怪訝そうな声を上げたのは、細い糸のようなものが宙を舞っているのを認めたからだ。 りんごはまだ足を止め、こちらを見ている。 何を見ているのか。カレンと「目」が合っている…… 「りんごちゃんの、髪……?」 斜面に立つりんごの後ろ髪はナイフでばっさりと切られ、太眉ポニーテールJKが太眉ショートカットJKに早変わりしていた。 これはこれで良いが、その意味するところは! 空中を舞ってゆったりと飛び来たる細いものは、原門りんごのポニーテールだったもの! 狙い通りに、『落下置転(フォーリンアップル)』により落下地点をカレンの「目」に限定して! 「ううっ……!」 カレンは必死に抵抗するが、人は異物が入った目をそのまま開けていることはできない。それは反射であり、根性や努力で解決する次元の問題ではないのだ。 指で引き剥がしても、次々と新たな髪の毛がカレンの眼球に向かってくる。 そして髪の毛が原門りんごの一部である以上――接触により『落下置転』発動の媒介となる。 視界を奪われた上で落下地点が横方向へ修正され、飛行中のカレンは上下の感覚を狂わされる! 「おい、避けろ! 上だ上!」 グレイタウルの口頭の指示にも従うことができない。 錐もみ状態で回転している所に飛来した岩石の一つが激突し、カレンは地面に墜落した。 (髪をばっさり切るなんて、失恋の予行練習みたいで縁起悪―っ!) なんだか泣きたくなってしまう。しかし、これもまた恋のため。 りんごは当然ここから三分以内に決着をつけるつもりだ。 岩肌に手を着く。必要なのはもう、ちまちました岩の攻撃ではない。 (為せば成る。やったらできる、できるはず。今までやったことが無いだけ!) 不思議な確信がある。無限の勇気が湧いてくる。 「頑張れ私! 恋のためなら山だって、川だって、動かしてみせる……落ちろぉおおーっ!!」 りんごの意思はついに地(ア)・水(バ)・火(ラ)・風(カ)・空(キャ)の五輪と接続! 過去最大級に発現する『落下置転』! ばきん、ごきん、と音がする。 なりふり構わないりんごの叫びと呼応するように、大地が鳴動する。 バリバリと地面が割れ爆ぜて、眠りを妨げられた巨獣の吠え声のような轟音を生む! りんごは横倒しになって落下(・・)を始めた岩山の頂点付近を目指して駆けた。 ほとんど垂直に近い岩壁であっても、自身の落下地点を操作すれば駆け上がることは容易! 「よーし、行ってみようか天王山! 決めるぞトドメのクリティカルーっ!」 おお、見るがいい! 勇猛果敢に大山を駆るその姿、まさに水無き海をも進む船の舳先の女神像。 後悔なき恋心の航海に向かい、あらゆる障害を蹂躙せんと進みだすのだ! Origin:『伏魔のリートゥス』 ビャウォヴィエジャの森。 ポーランドとベラルーシの国境付近にまたがる、ヨーロッパに残された最後の原生林。 その中に、人の目に触れぬ封印を施された魔女の住処がある。 「退屈だなあ。夜のお散歩にでも行きたいなあ」 ぼやくカレンの話し相手は、この家でたった一人……というよりも、一匹。 今は観葉植物の枝にぶら下がっているコウモリの悪魔、シアランだけだ。 そのシアランが、キイ、と小さな声で返事をする。 「わかってるよ。今日みたいに月の無い晩は、明かりが無いと危ないもんね」 家の中にランプや懐中電灯の類は置いていない。大魔女はなんでも魔法で済ませるせいで、そのあたりの道具の用意が疎かになっているのだろう。 それに、シアランはこの家に封印されている悪魔なので外に出ることができない。 カレンが出かけて一人ぼっちになるのはかわいそうだった。 カレンは以前に一度、大魔女ヴェナリスがシアランをランタンに変えて結界の外に持ち出すのを見たことがある。 しかし、そのやり方がわからない。 カレンが使える魔法は『箒乗り』と『九つの薬草の魔法』。 そしてたった一つの使命、大魔女ヴェナリスが帰還した時に使う『再統合』の魔法だけなのだ。 「ねえ、シアラン。じゃんけんしようか」 不意にカレンはそんな気持ちになった。 じゃんけんは二人でできる簡単な遊びで、シアランもお気に入り。 シアランが大きく両羽を広げたら紙。片羽を広げたら鋏。きゅっと丸まったら石だ。 シアランは動作が遅いので、たまにおまけしてあげないと大抵カレンが勝つ。 「私が勝ったら、シアランが明かりになって、一緒に外に出ようよ」 理解しているのかいないのか、シアランはぶら下がったまま首を傾げている。 「いくよ。じゃん、けん」 この時のカレンは、自身が魔人化することなど予想できていない。 なにげない遊びのつもりだった。 だがしかし、『伏魔のリートゥス』は生まれた。 それが、全ての歯車を狂わせたのだ。 カレンが気絶していたのは時間にしてほんの5、6秒程度。 すぐに現実の、現在の音が耳に戻ってくる。 断続的な地響き。何か、巨大なものが接近してくる気配。 先ほどの衝突で頭部が割れているのか、ぬるりとした感触と痛みがある。 そして相変わらず視界は塞がれたまま。 飛んで逃げようにも方向がわからない。状況はまさに最悪だ。 「おいガキ、やべーぞ! 敵が山ごとこっちに来やがる。何か手はねえのかァ!」 カレンは奇跡というものを信じていない。 奇跡があったとしても、それは気まぐれに、残酷に、人を選ばず降る。 思いの強さや願いの強さに呼応して奇跡が起きるのならば、そもそもカレンはこの戦場にいない。 だから勝つためには、自分の手の中にあるものを積み上げ、時には捨てて。それで戦うしかない。 魔女はフラつきながら立ち上がった。 「……ねえ。グレイタウルさん」 「なんだ! チンタラ話してる時間はねえぞ!」 話している間にも巨大な岩山がこちらを押しつぶそうと迫っている。 「自分の生まれた意味がはっきり分かっている人って、世の中にどれくらい居るのかな」 「アア!? こんな時に何言ってんだおめーはッ!」 もしかして血を流し過ぎたのかと、グレイタウルは案じる。 カレンの呟きは朦朧とする意識の中の戯言にしか思えない。 「私には分かるんだ。生まれた時から決まってたから」 魔女は帽子を外し、胸に抱いた。 「自分が何のために居るのか知ってる。たった一つの生き甲斐だから、絶対に役割を果たす」 カレンの顔に、緑色の炎が宿っていた。 シアランを目元に寄せて、自ら燃え移らせた炎。視界を塞いでいた髪の毛が焼き切れる。 「お前……!?」 「大丈夫。勝てば治る」 焼け爛れた瞼が開き、深い緑の瞳が現れる。 カレンの言葉は間違っている。 勝てば治るのではない。SSダンジョンでは勝敗に関わりなく傷は癒える。 ただこの少女が、勝つことしか見えていないだけだ。 『風渡り……秘儀の枝……』 青白い顔で、息も絶え絶えに詠唱する。 『……エーテルを、掴め!』 三度、カレンは空へと舞い上がる。 どんなに傷ついても、魔女は空を恐れない。 自重で崩れる岩山から、剥落した巨大な岩石が次々とカレンの上に降り注いだ。 ギリギリのところで回避し、時に肌を削り取られながら高速で山頂へと飛ぶ。 「それだけ覚悟決まってんなら、俺も付き合ってやる。けど、あいつが居ねえぞ!」 山頂付近からりんごの姿が消えている。 カレンの視界が戻ったことを確認したのならば、当然黙って待っていてはくれない。 かといって、カレンが力尽きるまでただ逃げ隠れているとも思えない。 落下してくる巨石のいずれかに身を隠し、確実なとどめを刺しに来るはずだった。 それはもはや信頼。必ず、直接会い(ころし)に来てくれる。 わずかに言葉と刃を交わしたに過ぎない相手でも、それだけは信じられる。 「シアラン」 呼びかける前から、ランタンの炎はカレンの斜め後、45度の上方を示していた。 それが敵の位置。シアランの、道しるべの能力だけは敵に露見していない。 タイミングを知らせるために、炎は一際明るく輝いた。 「ありがとう」 カレンは片手で箒の柄、その先端を握りしめ、飛び降りて振り向きざまに振るった。 狼の牙を宿す箒の穂先が、ナイフを手にカレンの背後に迫っていたりんごの首筋を撫でた。 鮮血が噴き出した。 (ああ、やっちゃった。ここぞの場面で大失敗) りんごは落下する石の一つに着地し、そこを足場とする。 首を押さえても出血は止まらない。ならばもう、流れるに任せる。 (でも、まだ……まだ終わりじゃない。脱げば勝てる!) 全裸になればりんごの戦闘力は一気に上昇する。失血死する前に逆転できる。 りんごはスカートのジッパーに手をかける。 追り来るカレンの姿はもはや目前。箒からは煙が上がっている。 カレンが斬撃を行うためには、先ほどのように箒を降りて手で振るう必要がある。 ならば、そこに僅かなタイムラグが生じる! (間に合う!) ギリギリで、脱衣が間に合う、 はずだった。 カレンは箒を降りずにそのまま突っ込んだ。 箒の柄、その先端がりんごの心臓を打った。 高鳴る乙女の鼓動を止める――苦く、切ない心臓破り(ハートブレイク)。 「あ」 一声を吐き出したきり、呼吸が止まる。 指先一つも動かす事ができないままりんごは吹き飛ばされ、その途中で落石に激突した。 自然落下する岩を、抱きかかえるようにして共に落下する。 落ちていくりんごは全裸ではない。 衣服は身に着けたままだった。 最後の最後で、りんごは服を脱ぐことができなかった。 なぜかアイツの顔が頭をよぎってしまったから。 恋に憧れる、16歳の乙女。 意中の人にも見せていない裸体を、他人の前で晒すことはできなかった。 それを誰が責められるだろうか。 (なんで私、ずっと怖がってたのかな) 逆さまの景色。 空が離れ、大地が近づいてくる。 (私も、ちゃんと……地面に落ちるじゃん) 実体のない恐怖に憑りつかれてから、実に12年の歳月を経て。 ようやく、りんごは地に落ち(フォーリンアップルは)終わった。 赤い雫をぽたぽたと垂らしながら、カレンはゆっくりと飛行を続けていた。 激痛と疲労で、もはや軌道を変更して地面に降りる事さえ煩わしい。 「……グレイタウルさんの言った通りだったね」 傷だらけの魔女が、どこか夢を見ているような表情で呟く。魔女の箒はそれに応じる。 「ア? 何が俺の言う通りだって?」 「ほら、あれ……メチャメチャ頑張ると、誰でも煙が出るって」 前髪と眉毛が焼け、焦げ臭い匂いをさせているカレンが大真面目にそんなことを言うので、グレイタウルは唖然として言葉を失った。ボケているわけではないらしいと分かると、逆にじわじわと笑いがこみあげてきて、とうとう我慢できなくなった。 「フッ……ククク。ハハハハハ。今、言う事かよ?」 「おかしい?」 「ああ、おかしい。おかしいよ。お前、どうかしてるわ。ハハハハハ!」 「……そうなのかも。どうかしてるのかも」 戦いの終わった戦場に、思い出したように風が吹く。 「どうかしてても構わない。普通じゃないから、できることがあるんだもの」 満身創痍のカレンは、どこか清々しい表情でその風を受けた。 【STAGE:採石場】 勝者……冬知らずの魔女、カレン Ending 1『愛のままに』 横浜市西区、南幸。 連続殺人鬼でなくなりたい、という夢が叶わずにこの地へ戻ったりんごを、風俗嬢のサチコはいつものラーメン屋台へと誘った。 しかし湯気が立つラーメンを前にしても、りんごの箸はちっとも進んでいない。 「サチコちゃん。私、普通になれるって思ったんだけどさ。ダメだった。失敗しちゃったよ」 りんごは終始俯いたまま、ぽつりぽつりと呟くばかり。 サチコは手を止めてその言葉を聞く。 「私、きっと、ずっとこのまま、連続殺人鬼のままなんだろうね」 ラーメンの器に雫が落ちる。それは乙女心から落ちる悲しい涙雨だ。 「あのね、りんごちゃん」 何と声をかけたらいいものか迷っていたサチコだが、ついに意を決して切り出した。 「恋する女の子って、どうせ普通じゃいられないのよ」 「え……?」 サチコは、戦いに向かうりんごを止めなかった。 夢に向かって突っ走るのは若者の権利。大人が訳知り顔で止めるものではない。 でも、もしも若者が夢破れて帰ってきたとしたら その時は、再起するための言葉をかけてあげるのが大人の義務だ。 少なくともサチコはそう思っている。 「何度も、同じ人の夢を見て……何をしててもうわの空で。赤くなったり青くなったり、泣いていたり、キラキラしてたり。信じられないような無茶しちゃったりね。もう、毎日メチャクチャなんだから」 りんごは、信じられない思いでいっぱいだった。 そんなのは。 それは、アイツと過ごしている日々そのものだ。 それが普通の恋ならば、りんごはもうとっくに恋に落ちている。 「だって。だってえ。私、連続殺人鬼なんだよ。人の命だって、簡単に壊しちゃうんだよ? 普通に恋することなんか、できるはずが……」 「りんごちゃん」 慌てふためくりんごの肩に手を置いて、サチコは優しく諭す。 自身もまた甘い恋、苦い恋をいくつも経てきたからこそ、その言葉には力が宿る。 「連続殺人鬼が恋をしちゃいけない、なんて決まりはないの。誰が誰を好きになったって、自由なのよ」 「ホントに? でも、迷惑じゃない?」 「そのくらい許されちゃうの。これは確かな話。私の情報、疑う?」 りんごは顔をぐしゃぐしゃにして泣き出した。 人前でそんな風に泣くのは初めてで、みっともないけど止まらなかった。 「信じるぅ……」 サチコはもう何も言わず、そんなりんごの頭を抱えて胸に抱く。 自分を変えたいと願うのは、つまらない願いなどではない。少女がその願いを強く抱き続けるならば、奇跡など起きなくとも、いつか呪いにも打ち勝てるはずなのだ。 原門りんごの物語は、これにて一件落着、というにはまだ少し時間がかかる。 彼女の恋の物語はまだ始まったばかりなのだから。 Ending 2『DOUBT』 戦いを終えたカレンは、静かに次のステージへの転送を受けていた。 衣服を含め、すべてが試合前の状態に復元されている。カレンの身体には、すり傷一つ残っていない。 「ああ、そうだ。そういえばよォ」 「なに?」 協力して一仕事を終えたせいか、グレイタウルの口調も少し明るく気安い。 「あのガキ、りんごとかいうのが名乗った時。お前、年言わなかったな。今いくつだよ」 「十……四歳」 唐突な質問に、カレンは何故か言い淀む。そこには不自然な間があった。 「ハッ。確かにそのくらいの年に見えるが、ちと勉強不足だな」 グレイタウルの声音が変わり、カレンは自分が致命的なミスを犯したらしい事に気が付いた。 「十四年前つったら、クソ魔女は俺とアフガンを周ってる真っ最中だ。前後二年ほど居たが、クソ魔女はその間に子供を産んだりしてねえよ」 あたりは不気味なほど静まり返っている。次のフロアへの転送は、まだ終わらない。 「……意外とアドリブの効かねえ奴だな。記憶違いだったとか、血は繋がってねえとか言えばいいものをよ。お前、俺に会った時の第一声からして嘘だったんだろ?」 なおも沈黙を続けるカレンに、グレイタウルは核心の疑問をぶつける。 「お前は、誰なんだ?」 さきほどの倍以上の、長い沈黙が続いた。 それから、ようやく小さな魔女は口を開いた。 「……思ったより、ずっと鋭いね。グレイタウルさん」 カレンはくすりと笑った。 それはグレイタウルの知る大魔女の微笑みによく似ていた。 【大魔女ヴェナリス 地球到着まであと四日】 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/102.html
第5試合SSその2 ○茂木箍一郎 脳みそを模した枕に伏していた天然パーマの男がガバっと身をあげた。 全身にびっしょりと汗をかいている。 彼がいま見た夢には、五感とは異なる奇妙な感覚があった。 頭脳に直接書き込まれたような、奇妙な感覚。 クオリアで直接見た、直接触れた、直接聞いた、直接嗅いだ、直接味わったかのような感覚が、いまの夢にはあった。 また同じような夢を見、そこで誰かと戦うらしいことだけは覚えている。 圧倒的クオリア体験により、意識が混濁しているのだろう。と茂木は結論付ける。のっそりと身を起こし、ヘッドギアを被り脳波をはかる。また横になる。 今の夢を思い起こす。真っ白とも真っ黒とも言えない奇妙な地平に浮かぶ。五感ではない感覚でこの夢が真実だと分かる。 三日後の同時刻に現実とそっくりの夢の中で、敵と戦う。 この敵の名前は――思い出せない。そいつを倒すなりなんなりすれば勝ち、報酬として自在に夢を見ることができる。敗北すれば悪夢を見せられる、と。 「ここまで奇妙な夢を見るのは初めてです。薬物のやり過ぎですかね」 独り言を言う。しかし、厳密には独りではない。 ――茂木健一郎はみなさんご存じだろう。 彼は多重人格者"茂木"のうちで公的な役割を担う人格である。そのためテレビ出演や講演会を開く際には彼が表に出る。 他の人格は、女たらしの茂木姦一郎。水墨画を描く茂木デュ一郎。すべての人格を俯瞰する茂木メタ一郎。 いま現在の"茂木"の人格は、茂木箍一郎だ。 過ぎた行いを"タガの外れたような"というが、その暴走状態を司るのが、この茂木箍一郎である。 タガが外れない限りは、平均的な"茂木"と変わりない。 「あのクオリア体験、夢とはいえずいぶん生々しいものでしたね」 (夢?)(見たっけ?)(俺はまた食パンになっていたけど)(あー分かる、発酵感すごかったけどね君はまた)(ちりちり)(お腹すいてない?)(いつものカフェ行こうよ)(殺してー!)(やめなされ、無益な殺生はやめなされ)(ありがたいこと)(南無阿弥陀仏)(アハ!)(俺に脳みそを食わせろ)(今日は休講にして寺巡りをしましょう)(歌が歌いたい)(夢?)(ご飯ー!)(脳!)(アハ!)(総括すると、昨晩は研究に没頭していたため食事を忘れ、空腹状態が反映された夢を見たようです。普段の夢と大差なかったと思われますが、アハ!) 箍一郎は疑問に思う。 あの夢。クオリアの中に埋没する熱狂的な夢を見て興奮しない茂木がいるだろうか? 彼は右手をパンツの中へ差しいれ、自身の夢精を確認した。 (やった! 精子だ!) 箍一郎はそれをぺろりと舐め、塩分とタンパク質を回復した気になった。 「ふむ……。まあ、食事にしましょうか」 箍一郎は、夢のことを、他の"茂木"に話さなかった。 話すべきでなはいと自身で結論付け、人格を茂木殺一郎に明け渡した。 ○戦闘開始 次に茂木箍一郎が表に現れたのは、三日後だった。 眼前には鮮やかな青い空と、まん丸い太陽、平らな黄土色の地面が段になっている。 特撮アクション『マスク騎手』のような光景に箍一郎はノスタルジーを得た。そして強い確信も。 「これは、夢、か」 彼の独り言に反応する声はない。 彼の脳内は非常にクリアで、非常に静謐だった。 夢を見たものが箍一郎のみであれば、他の"茂木"が現れることはない。想定通りだった。 「この夢には、なんらかの意図がある」 箍一郎は強く確信した。 以前から噂になっていた"眠り病"。その実在は、他の"茂木"の臨床実験によって知っている。 肉体が眠り続ける。 これは普通の単一人格者では、自身=肉体であり、夢での敗北が自己責任であると単純につながる。 しかし"茂木"は違う。 "茂木"の肉体には五兆の人格が存在している。茂木箍一郎が敗北すれば五兆すべてが死してしまう。"茂木"の殺戮行為に恨みを持つものは少なくないため、"茂木"が眠り病にかかってしまえば、殺されることは必定である。 「馬鹿なやつらだからな。脳だけ生かしつづけてあげるような優しさはない。私のおいしい脳もふんづけて捨ててしまうに違いない。ああ、私の脳を食べたい!」 箍一郎は、五兆分の一から偶然選ばれた、とは思わない。 なにか理由がある。 茂木星一郎が表に出れば第二のビックバンが起こる、茂木遡一郎が表に出れば時間が逆回しとなって宇宙の法則が乱れる、神一郎が出れば人類に最後の審判が下る。スケールダウンした場合でも、茂木殺一郎は無条件で相手を即死させるし、空一郎は殺されようがない。とはいえ小一郎は人と戦うには小さすぎ、痺一郎は生きることすら困難だ。死一郎は言うまでもない。 ちょうどいい塩梅で、茂木箍一郎が選ばれたのだろう。 そこには意図がある。 意図があるとすれば、相手も同じ程度の戦力だろうか。 相手を殺せる。しかし殺されもする。 「油断はできないな」 箍一郎はこめかみを指でたたいた。 頭のタガを確かめる動作、冷静になる自己暗示だ。 しっかりとタガがかけられている。 夢の戦闘フィールドは採掘場。全貌を見渡せる土山へ足を向けた。 採石場の端の土山に立ち、遠くの田舎町を眺める。どこか昔に来たようなのどかな町並みだ。 町と採石場との間には底知れぬ闇があり落ちてしまえば助かりようもないなと箍一郎は確信した。 夢の戦いを終わらせなければ、一歩も外へ出られない。 もちろん箍一郎は、勝者として戦いを終わらせるつもりだ。 翻って見える採石場は平らかでだだっ広く、ある一点を除けば身の隠し所もなかった。 「まあ、夢らしいっちゃらしいプチ変さ、だけどね」 箍一郎は土山をゆっくり降りて、けして急がずに歩く。 土一色の採石場。 そこにポツンと存在する、緑豊かな建物。壁には絡まるツタ。夢の世界のありきたりな採石場なんかよりも、高級住宅街の坂の途中に建っている方がよほど自然な、小洒落た建物を見上げる。 ――相手の能力は固有結界? 家を生み出す? 何にせよ砦を持つなら、不毛な地では圧倒的に不利だ。ジャングルや江ノ島であればまだしも、石と土の天国では。食糧の入手もままならない。 短期決戦の腹をくくる。 箍一郎は"タガを外す"のイメージでこめかみをひねる。 ――変身の呪文を唱える。 「結果の出せる人になる!「すぐやる脳」のつくり方」 カチャと、タガの割れる音が確かに聞こえた。 しかしすぐに箍一郎の矯笑にかき消される。 「さあさあさあさあ! さあ! 茂木箍一郎の雄姿! とくとご覧アハ!」 茂木箍一郎は全力で彼我の距離を詰めた。ツタを模した門にタックル。 ひまわりの植木鉢を蹴飛ばす。 ランニング・マンイーター(走る食人木)を一本背負いで根こそぐ。 ユグドラシルの彫刻がなされた古めかしくお洒落な扉を茂木は丁重にノック。荘厳な厚みを持つ入り扉が拳の形にくりとられる。 「植物に人権ありません!! ノークオリア are your door!」 箍一郎は、ノック、ノック、ノック。 世界一大きなカボチャくらいの穴を開ける。室内の様子を覗く。 箍一郎は、「花よりアハ」だ。植物のことなど、芥子や大麻くらいしか知らない。 しかし静謐なレストランの窓際に並べられた色とりどりの花、紫の葉、垂れ下がった花、折れ曲がった茎、細々とした葉、ねじれた茎、簡単に纏めた髪に割烹着姿の女を見た――。 箍一郎は息をのんだ。 「oh知的な美女」 茂木はドアを押し、開かないので、引いた。鍵はかかっていない。 「いらっしゃいませ」 女主人がにこりと笑った。 ○女主人 「コンセプトちゃんとしていいですね。花の天国。花があって、あの植木鉢は人骨でしょ? 違う? まあいいや。でもまあ、いやー死んだらこんな感じのとこ行きたいですね。花じゃなくて脳が咲いてるといいんですが。脳にもお花畑が必要ですね? 相当花がお好きなようですね?」 天然パーマの、テレビで見た脳科学者が、客として来ている。 少々騒がしい。 女は秘密で美しくなるというが、私の持つ秘密の小さい方――天然ドラッグをやりすぎた人の目をしている。 異様にぎらぎらして瞳孔が大きく小さくなる。 人間の生殖が花粉であれば、姿が見えないほどの花粉を出すだろう。 男の体から黄色い煙が吹き出る。姿を隠すほどだ。 「おっと失礼。なに、なんだか嬢さんの脳を食べたくて。せめて料理が来てからにしましょう」 ジョークのつもりらしい。男は笑ってる。 その煙がこちらに吹いても、愛想笑いは崩さない。殺意がむんむんと湧き上がる。自分の頬が痙攣している。 私の『ふれた相手の記憶を消す能力』が効いて、これだ。 私が一個人としての生を捨て「女主人」として生きていなければ、夢の世界までレストランを持ち込むことは出来なかったし、ドアを開く男に能力は使えなかった。 女主人にとっては店自体が私の一部である。 能力が発動し、彼は、「この場が殺しあいの夢」だと忘れている。たぶん、近所にあるレストランにたまたま足を運んだと脳内補完しているのだろう。 帰りにまたドアノブをひねれば記憶を取り戻してしまうが、その前に決着を付ける。 「ご注文はいかがですか?」 「じゃあ、なにか、美味しい料理を。脳にいいものだけを食べたいな」 「それじゃあ、天国のカレーはどうでしょう? カラーという花が混ぜられたカレーです。ここでしか食べられませんよ」 「じゃあそれで」 「かしこまりました」 ふたつ分かったことがある。 男は毒性植物に詳しくない。 男は完全に油断している。 カラーではなくテンナンショウを入れよう。相手は無知なのだから、なるべく強いものがいい。 スパイスにトリカブト。マンチニールの実も隠し味で。デザートに出す方がいいかな? いや、食後はすでに死後か。混ぜよう。 ああ、そう。肝心のカレールー。これは、まあ、インスタントでいいか。頭が吹き飛ぶほどのサドンデスソースをかけよう。 スプーンの先をアコカンテラの樹液に漬け、違和感ないよう軽く拭く。 いかな魔人といえ、一口でもう行動不能だろう。安全に、とどめだけ刺せばいい。 天国への階段を一歩ずつ登っている確かな感触がある。 大好きな花とお話をする、夢にまで見た天国が、もう目前にある。 笑みは隠さない。ただ、心優しげな女主人が客に友愛を示しているかのようにする。 お・も・て・な・し。 そうすればきっと、天使は店主に微笑む。 「お待たせしました。天国のカレーです」 男はよだれを垂らしている。まったく警戒はしていないらしい。 しかし現実でもここまで行儀が悪いのだろうか。人間の"花"の美しさとはほど遠い。堆肥にすらしたくない。 「いただきまアハ!」 男はスプーンをとる。 塗られた猛毒に気付きもしない。 スプーンを差し入れ、カレーを持ち上げ、その猛毒を口に―― ○"茂木" 茂木の学園ラボの地下32階。学園の誰も存在を知らない茂木の秘密研究所だ。 この部屋には、茂木の秘密がある。 薄暗い室内にはモニターしか光源がない。モニター上ではなんらかのプログラムが走っている。それに答えるように、ザパッザパッと水の波打つ音が聞こえる。そして足音。闇の中から濡れた脚、腰、胸が浮かび上がり、そして天然パーマの"茂木"が姿を現す。 彼は目覚めたばかりのように目をぱちくりさせる。 波打つ音がやみ、誰かが「電気をつけるぞ」と言う。間もなく眼前がまばゆく光った。 「アハ!」 20人のアハの大合唱が湧き上がった。茂木、茂木、茂木――。どこを見ても茂木の姿、自分と同一の姿形があった。 「茂木? 茂木なに?」 びしょ濡れの茂木が、比較的乾いた仏頂面の茂木に尋ねた。 「そっちは?」 「茂木デュ一郎」 「おお」 「で、お前は」 「茂木知一郎」 「賢いので有名な!」 「茂木SSR一郎もいるみたい。この、20人くらいの茂木のひとりに」 「マジ!? すげえ! 5%ってめちゃ確率アップじゃん! うわー、サインほしい!」 「そう? どうせ俺たち、STAP細胞で作られた人造茂木だよ。役割終えたらポイの」 「でもクオリアはあるじゃん!!」 「まあ、そうだけど」 知一郎は内心嘆息する。 今回の茂木製造理由は、まず間違いなく、無色の夢に没入した茂木箍一郎が原因だろう。 無色の夢は、対象に夢を見させる。その際、"茂木"を操作する人格が、対象に切り替わってしまう。朝起きた"茂木"が変わっていると、ああ、あの夢を見たのねと分かる。 我々"茂木"には五兆の人格があり、その内の30万の人格が、無色の夢の報酬である瑞夢を見て沈黙している。 4000万ほどの人格が、夢を早々に切り上げ現実に戻っている。知一郎も瑞夢を見てきた一人だ。 敗北して悪夢を見ている"茂木"はわずか60件に抑えられている。 その理由は簡単だ。 夢の世界に他の"茂木"人格は持ち込めない。しかし茂木メタ一郎だけは夢の世界を観察できる。 茂木が悠々勝利すれば問題はないが、敗北しそうな場合、視点を現実に引き戻す。勝敗の確定をしない。 確定しないまま現実に戻り、我々人造茂木を用いて、敵対相手に現実で悪夢を見させてやる。 対戦相手の悪夢を確認するとは、つまり、対戦相手の敗北を確認するのと同義だ。 自動的に茂木は勝利であろう。 夢と現実を観察できるメタ一郎だけができる勝利の法則だ。 ただ、どうにも倒せない相手の場合が60件だけあった。人知を越えていたり、存在を発見できなかったり。それでもかなりの勝率だろう。 「今回は」「夢のような」 「女を殺したい」「鼻を潰す」 「話を聞かない」「鼻が利く」 「花が咲く」「離れた天国」 「煉獄の」「女のある」 「女のない」「ある」「THE ALFEE」 「FEE」「女」「AL」「THE」「女AL THE」 茂木が口々にしゃべる。メタ一郎の意志は、このような湾曲な形でしか伝わらない。 ザッピンクされた言葉で、今回の対戦相手と、そいつの居る場所、レストランの名前を知った。 "茂木"が20人程度と言うことは、あまり強くはないのだろう。軽くぶっ倒して、それでこの"人造茂木"の役目は終わり。自分からひっそりと死に、本丸の"茂木"の朝食になるだけだ。 生きて死ぬ私。それでいい。 今夢を見ている"茂木箍一郎"の身体に、本来の自分が居るのだから、人造の自分が死んでもかまわない。 まあ、そう思う方が変かもしれない。 人造茂木には単一の人格しかない、という欠点があるが、人格なんて一つあれば生きられる。野に逃げ名前を変える人造茂木も少なくない。 葉加瀬太郎、坂本慎太郎、佐野元春。あるいは名もない天然パーマの男の一人として生きる。 そういったあり方も、まあ、悪くはない。ただ俺は、一つの体に五兆の人間がわちゃくちゃ住んでいる、騒がしく奇妙な"感覚"が好きだ。 一つの体に自分一人しかいないなんて、退屈すぎる。クオリアがあることより他の"茂木"のいる方がずっとずっと大切だ。 だからこそ、箍一郎に悪夢を見せる輩が許せねえし、そいつをぶっ殺して箍一郎に素晴らしい夢を見せてやりたい。 裸の茂木たちがぞろぞろ外へ出る。培養液はすでに乾いている。 茂木の秘密研究所には、モニターと、培養液に浮かぶ巨大すぎる脳みそだけが残った。 ○茂木箍一郎 「いただきまアハ!」 俺はカレーをすくったスプーンで、上品ぶった女の笑みに思い切りぶっ刺した。 「すぐやる脳」の敏捷さに、女は反応さえとれない。 スプーンは唇をえぐり、歯をへし折った。 女の顔がひきつって悲鳴をあげている。ざまあみやがれ。 「お前なあ! こんな人骨まみれのレストラン、俺を舐めやがって、風景最悪砂だらけ、そして、糞が、創作料理とか言いつつ基本ただのカレーかよ! 草葉の陰から天使のお経 with 神武天皇のエンハンスメント~ みたいな名前付けろよ、糞! ボケ! 舐めてんじゃねえぞ! おしゃれをもっと楽しませろ!」 仰向けに倒れた女に馬乗りになって、欠けたスプーンを何度も何度も突き立てる。 「カツカレーに勝てんのか創作料理さんよぉ! 駅前によォ! 小洒落たお店、赤字? 生活ちょっと心配。ぼったくってんのか!? ぼったくってんのか!? 俺をなめてんのか!? おら何とか言えよ!」 「ぱ、ぱ、ぱふひぇて、ひぇ、ひぇいかちゃん……」 女は痙攣して眼球があらぬ方向へ向いている。 赤い血涙が流れて、見開かれている。 「わお。ほら口開けて。元気だして。カレー食べて。おらっ口開けろ! 口の形をアハ! アハ! アハって言え! 口開けろ! アハって言え! ぶっ殺すぞ! 手をどかせ! カレー食え!」 女は頑として唇を開かない。両手で自分の口をふさいでる。 「お前のコンセプト花コンセプト花が咲く花が咲く花が咲く、咲く、咲く、サクサクサクサク」 何度も何度も折れたスプーンの柄を突き立てる。 「笑顔が咲く! 花が咲く! 満開の笑顔! アハ! アハ! 面白いおまえの鼻をもぐ! 耳を裂く! 咲く咲く咲く咲く恐怖が咲く! 右脳が咲く! 左脳が実る! 脳にいいものだけを食べる!」 何度も何度も折れたスプーンの柄を突き立て、女の鼻をへし折り、耳をぶんぶんふって脳を揺らし勢いで引き裂いた。 豚の鳴き声みたいな悲鳴があがる。 健康でいてほしい。 「カレー食えスジャータ! アハ!」 皿ごとを、女の顔面に叩きつける。女の細い腰が弓反りになって、なんだかエッチだなと思ったが、とにかくカレーを食べてほしい。 「人間は植物じゃない……花じゃない……認識を改めよう。悲しいけれど、人間はほかの生き物を食らって生きてるんだ……。現実を見るんだ、俺の目を見ろ!」 カレーで健康。 ひっくり返った皿でもう一度顔面を強打し、割れたので、ビンタで力任せにカレーを染み込ませた。 肌からルーが浸透するだろう。 女の右目玉が飛び出し、眼窩にルーが垂れていた。 「左右の口! 新しい!」 顔面パックのカレーライスを集めて、両目から食べさせてやる。左目はまだ穴があいてなかったので、親指で押しつぶして混ぜてやった。ときたまご代わりだ。 ぎゃあぎゃあ叫んで、食べたくないとぐずるようなので、うじむしみたいに米が詰まった右目に、薬指と中指を差し入れ上下に動かす。 「ほら、もぐもぐもぐもぐ」 女の悲鳴が高くなって、小さく消えていく。 自分で嚥下できないのか。 自身の体を後ろに倒し、女の上半身を起こす。左右の口から手を離して立ち上がり、女の背から腰を順手で掴む。 踏ん張って女の体を持ち上げる。270度ひっくり返って女の脚が肩に掛かる。くの字に折れ曲がった女を頭の高さまで勢いよく持ち上げる。股の向こうに見える、逆さになった顔からは米がこぼれている。お行儀が悪い。 上半身を前に倒し、女の体を鞭のようにしならせる。 「もぐもぐ、ごっくん」 持ち上げる勢いと振り下ろされる勢いで加速した女の頭は、滑るように床に打ち付けられてきれいになり、血と脳漿と脳みそで新たなカレーが出来上がっていた。(勝者 茂木箍一郎)こちらは美味しそうだ。 「創作カレーか! 見事!」 自分の浅慮を恥じた。と同時に女の奥ゆかしさに感涙した。 一つ目のカレーに失敗すればすぐ作り直す奉仕の心……。 女の創作カレーは誠に美味しくさきほどのスパイシーカレーとの二重構造がいい刺激になって、飽きさせない。骨(さら)まで舐め尽くしてしまった。 結婚するなら、味噌汁のうまい女にしろと言われたことがある。確かにその通り。結婚するならこのような脳味噌汁の美味しい女がいい。 「おまえの脳味噌を毎日食いたい!」 女は起きあがって笑顔で答えた。 「はい。不束者ですがよろしくお願いします」 それからレストランの手伝いをするようになった。花の名前を教わって、花の名前を覚えられないと知った。 毎朝の食事は彼女の新鮮な脳だ。うまい。 お客さんはたまに来る程度だったが、こういう洒落た店に来る客はあまり金銭に不自由してないらしく不思議と採算はとれた。払えない場合は手伝いをしてもらった。主に具材として。 一緒に生活するようになって二年目の春に子供が産まれた。名前はお互いの名前から一文字ずつ取って箍女とした。乳児の脳は味気なかったので、健康に育つか心配だった。涼しげな目元は妻に似て、天然パーマがこちらに似ている。 パパ、ママと喋るようになって、たまに妻や僕の脳味噌を見せたがあまり興味はないらしい。花は好きらしいが、三六五日瞬きもせずウットリと見続けられるほどじゃないようだ。 妻の脳は相変わらず美味しいが、娘の脳は一番楽しい。たまに仲良しになったお客さんの脳は、味に関係なくドキドキする。秘密は最高のスパイスだと学会で発表した。 娘が七歳になった頃。 ひとつ、娘の成長に気付いた。 娘はキッチンに忍び込んでそば粉を拝借している。そして自室で夜な夜なそばを打ち付けている。細い光が漏れるドアの陰から妻とのぞき見る。 「そばばばばばば」 楽しげだ。 「そばばばばばばアハ!」 妻は、ちょっと早すぎるんじゃないのと諫めるような目をした。小声で言う。 「君だって、もっと小さいときから花を――」 「その話は、ストップ」 妻は暗がりでも分かるほど、頬を赤らめた。 「僕だって、脳食を始めたのは七歳の時だった。そばならそんなものだよ、今は」 「最近は進んでるのねェ…」 「うどんならさすがに止めるけどね」 僕は妻の腰に手を回して、キスをし、そっと夫婦の寝室へ戻った。 「そばばばばばば」 娘の楽しげな声が、ここちよかった。 うすぼんやりとした夜の中、僕は妻の頭蓋骨を叩き壊し、僕は自分の頭蓋骨を叩き壊し、こぼれたうどんが絡み合って、くすぐったくて、笑っていた。幸せだ。夢のようだ。