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窓の外の景色を眺め、溜息一つ。自分の置かれている立場を再確認し溜息二つ。 「なんで霧坂と居るとこうなるんだ?」 「いや、それ言いがかりだから。」 現在、自分達の置かれている状況について、声を潜めながら言い合いを始めるが この状況、霧坂のせいと言うのは、流石に言いがかりだろう。多分、恐らく。 何故、この様な事になったのかを知るには時間を少々、時間を遡らなくてはならない。 統合歴329年7月9日の放課後、部活を追え帰路に着く八坂高校スポーツギア部の面々。 そして、宋銭高校スポーツギア部の二年生、矢神玲。 「それにしても、今年の州大会、警戒する相手は岸田学園の月城だけだと思っていたんだが まさか、こんな近所に強敵が出現するなんてな…今年の大会も一筋縄じゃいきそうにないな!」 矢神は守屋の背中をバシバシと叩き、豪快に笑うが実力差は天と地程の差がある。 何せ本来の得物は持ち出さず、互角の戦いが出来るようにと盛大に手加減されているのだから笑えない。 「部活に精を出すのも良いけど、もうすぐ期末試験だよ?二人とも大丈夫?赤点とか留年とか笑えないよ?」 平和な日常の一時が内田燐の一言で脆くも崩れ去り、守屋は押し黙り、矢神の顔は蒼白になった。 八坂高校に転入してから過ごす日々は矢継ぎ早に過ぎ去り、陰影矢の如しとはよく言ったものである。 ギア部の活動は忙しく、父親から与えられた課題を一日も欠かす事無くこなして来た。 要するに期末試験目前だと言うのにも関わらず、勉強に時間を費やす事が出来なかったという事だ。 授業に着いて行けないって事は無いが、赤点や留年といった不名誉の物だけは如何にか避けたい。 校内での守屋の評価は人の形をした凶暴な何か。 守屋の転入当時に起こった『教室棟血の海事件』は未だに尾を引いている。 これで成績まで最底辺で、それが知れ渡ったら…想像しただけで眩暈がする。 そう言えば、何かと頭を悩ませて来た霧坂茜華が妙に大人しい気がする。 きっと眩暈がしたから、そう感じたのだろう。そして、ふと霧坂の事を考えると…駄目だ。嫌な予感しかしない。 何処で道を踏み外してしまったのだろうか…八坂に引っ越して来たから?霧坂と知り合ってしまったから? 霧坂がクラスメイトだからか?霧坂の誘いに乗ってギア部に入ったからか? (…って、全部、霧坂じゃないか。) しかし、今は霧坂の凶行に恐れている場合じゃない。留年の方が霧坂よりも恐ろしいのだから。 何はともあれ、明日から試験休みだ。今まで遅れていた分を取り戻さなくては。 「守屋君って勉強得意?何だかんだ言って真面目だし得意だよね?お願いだから得意と言って!そして、私を助けて!!」 いつもの勘の良さは何処へ行ったのやら、この暗い表情を見れば分かるだろうよ、ブルータス。 「授業に着いていけないって事は無い程度のレベルだぞ? 取り合えず、試験休み中の間は図書館で勉強するつもりだけど、一緒に来るか?」 珍しく弱気で不安げな霧坂の顔を見たせいで気が大きくなってしまったのだろう。 それ故の気の迷いだ。きっとそうだ。でなければ、罷り間違ってもこんな事を口走る筈が無い。 何事が起きても冷静に対応しなければならない。 「有難う!大好き!愛してる!」 さもなくば、この様に頭がお花畑な女に抱き付かれてしまうのだ。 それも天下の往来で。これは何か?罰ゲームか? 「ちょ!テメェ!抱きつくな!離れろ!」 背中に良い感じのモノが引っ付いて、非常に良い具合だなーとか思ってしまった。 健全な男子高校生相応の反応をするが場所が場所だし、非常に宜しく無い状況だ。 「そんなに照れなくても良いじゃん?」 だと言うのにも関わらず、霧坂にとっては何処吹く風だ。 何も気付いてないのか?ギアが好き過ぎて脳まで鋼鉄になったのか? 「天下の往来で変な事をするな…って言うか、場所を考えろ。」 「つまり、抱き付くなら人気の無い所で…」 「人気があっても無くても俺に抱き付くな。気持ちが悪い。」 霧坂が馬鹿な事をほざく前に切り捨てる。 「うわ、ひっど!!」 「知るか。」 半ば暴言気味の苦言を吐くまで、人の嫌がる事を止めないお前が一番酷いという事に気付いてくれ。 普段通りの守屋と霧坂の日常会話である。 そして、現在…統合歴329年7月11日 守屋は霧坂を連れ立ってセントラルシティの図書館へ勉強をする為に訪れていた。 土曜日という事もあってお互い私服だが、何せ家が目の前だ。今更、珍しがる事も無い。 それよりも現在、守屋達が置かれている現在の状況である。 「大体、違法ギアと私に何の因果関係があるって言うのさ?」 図書館…厳密には図書館の下のフロアに店舗を構える銀行を目的とした違法ギアと強盗にビルごと占拠されてしまったのだ。 完全にとばっちりを受ける形になってしまい、僕達は何も関係ありませ~んと言える状況でも無い。 何せ、図書館の利用者達と一箇所に集められ銃火器を突きつけられているのだから関係無いも何も 完全に当事者で被害者に成り下がっているのだから、どうしようもない。 「そんな事よりも、守屋君…」 「今はまだ無理だ。」 前回同様、今すぐ片付けろッ!的な事を言いたいのだろうが銃火器で武装した強盗連中が4人。 せめて一箇所に固まっていてくれるのなら、秒殺してやるのにと思うが、此方に火器を突きつける奴が2人。 残りの2人は其々離れた位置に立っている。丸腰で一体、何をしろと言うのやら。 正面の2人を撲殺すると同時に火器を奪って残りの二人を射殺するか?無理だ。生憎、火器の類は使い方を知らない。 「いや、そうじゃなくて暇だから勉強したいんだけど。」 生きるか死ぬかの瀬戸際にある状態で何故、お前はそんなに余裕なんだと 問い詰めるまでも無く、聞いてもいないのに余裕の根拠を語り出した。 「今回も守屋君が如何にするでしょ?だったら先を見越して勉強しておかないと。ね?」 成る程、そういう事か。俺が如何にかするのか。ふざけんな。 こいつ等を無力化しても外には4機の違法ギアが居る。 他のフロアにもこの類の連中が銃火器を持ってウロウロしているだろう。如何にか出来てたまるか。 一介の高校生である守屋に出来る事は、それ程多く無い。寧ろ、こんな状況なのだから何もしない事が正解だ。 「俺の出る幕じゃない。専門家に任せるべきだ。」 「ま、いっか。」 そして、霧坂も守屋の活躍が見たいのでは無く、アイリス・ジョーカーを初めとするMCIギアの活躍を見たいのだ。 変に煽って怪我をされたり、死なれたりしても後味が悪いし、アイリス・ジョーカーの専属パイロットを失うのは避けたい。 今回は自重するかと思い至るが… 守屋にとって見慣れた円柱の物体が図書館の中に投げ込まれた。 「何、アレ?」 「馬鹿が先走りやがって…スタンフラッシュだ。これで口と鼻を押さえていろ。」 投げ込まれたスタンフラッシュは爆音と強烈な閃光を放ち、図書館の中に催涙ガスを撒き散らす。 守屋は霧坂が閃光に晒されないよう影になり耳を押さえてやる。 鼻腔と目を刺激するが普段の訓練のお陰で大したダメージにはならない。 爆音ばかりはどうにもならないが、平衡感覚を失っても動けるように鍛えられている。 「目を閉じて大人しくしていろ。」 閃光と爆音が鳴り止むと同時に短く言を発し此方に銃口を向けている二人組に向かって駆け出す。 つい先程、専門家に任せると言ったばかりなのに何故、守屋が戦おうとしているのか。 正義感や使命感のようなモノが生まれたというわけでは無い。どんなに強かろうと、守屋は一介の高校生に過ぎない。 ギアがあるなら未だしも生身で、それも銃火器を装備した奴等に戦うなんて何が何でも避けたい。当然、命だって惜しい。 (専門家なら敵の武装くらい確認しろよ…) 投げ込まれたカウンターテロ兵器は顔隠しの為に使われていたガスマスク付きのヘルメットによって全く効果が無かったのだ。 これでは今から突入しますよ。と声高に宣言しただけに過ぎない。 そして、人質を数は20名余。2~3人くらい見せしめに殺される危険性が非常に大きい。 自分が死んだり、他人が自分の目の前で殺されるなんて事態は何がなんでも避けたい。 (幸い、連中の意識は突入予定口に向かっている…これなら、俺でも…) 背後に忍び寄り延髄に手刀を一撃、返す刀でも二人目の強盗に同じく延髄目掛けて回し蹴りを放つ。 二人沈めたところで警官隊が10名程突入。遅すぎる上に一方方向から大人数で押し寄せるとは一体どういう了見だ。 守屋は辟易しながら3人目の敵に向かって駆け出す。 ガスが充満した図書館は視野が悪い上に遮蔽物の多いお陰で、派手に走り回っても気付かれないのがせめての救いか。 「う、動くな!人質を殺すぞ!」 慌てふためき狼狽するが警官隊は、そんなテロリストもどきの言葉に耳を貸すわけも無くジリジリと距離を詰めていく。 「や、野郎ども!見せしめだ!4~5人殺っちまえ!!」 だが、いつまで経っても銃声は鳴らない。 「は、早く殺れよ!!」 銃声の代わりに何かが空を裂く音と、肉が肉を打つ音、そして、自身の骨が軋む音が聞こえた所で意識を失った。 「お前で最後だ。」 崩れ落ちた男を睥睨し肩を竦める。 組織化された違法ギアとは言え、テロリストとは違う。 何らかの手段で手に入れたギアと火器の力ではっちゃけているだけだ。 第一、テロリストならスポーツギアを使用する事など絶対に有り得ない。 守屋一刀の父親、守屋剣の言葉を借りるのならば、スポーツギアは出来の良い玩具で兵器では無い。 こんな玩具を商売道具に使うくらいなら、売り飛ばしてブラックマーケットからビームダガーの一本でも買った方がマシだ。 窓の外では違法ギアの連中が使っていたアクト・メイレーンが見るも無残な残骸になり打ち棄てられていた。 三笠慶のクランや、加賀谷望のスカーレットと同時期に開発された最新鋭のスポーツギアで 違法ギアにしてしまうには勿体無い機体だが、いとも容易く撃破されている。 やったのは警官隊のパトロールギアのエイテンである。 パトロールギアなどと名を打ってあるが白黒のカラーリングをしているだけで、中身はれっきとしたアームドギアだ。 傷一つ付いていないエイテンはビームトンファーを片手に周囲を警戒している。 最新鋭のスポーツギアであっても、警察が使う数世代前のアームドギアにすら傷一つ負わせる事無く容易く撃破される。 それを分かっていながらスポーツギアでテロ行為を行うなど自殺行為以外の何でも無い。 だから、世間はスポーツギアによる犯罪者を違法ギアと呼び、アームドギアによる犯罪者をテロリストと呼ぶ。 そして、世間は何処と無く違法ギアを舐め腐っている。 ニュースでは警察のギアに一方的に破壊されるシーンしか映されない上に 守屋のように一般人に鎮圧される事もそれ程珍しい事では無く、何も守屋が特別というわけでは無い。 勿論、一つ間違えたら大惨事になりかねない事の方が多く警察や軍としては 喜び勇んで違法ギアと戦うのでは無く、さっさと通報してくれと民間人に要望を出すのだが 大抵の場合は事が終わってからの通報になる為、地域によっては残骸回収業者扱いされている事もある。 「それにしてもビーム兵器は好きになれんな…」 機体を穴だらけにされて地に伏しているアクト・メイレーンを見て呟いた。 奴はどんな気分でビームトンファーに貫かれたのだろうか? 普段ならば違法ギアの搭乗者の事など歯牙にもかけないのだが 同じビーム兵器を受けた者として妙なシンパシーを持ってしまったのだ。 どうも八坂高校襲撃事件以来、ビーム兵器を見ていると嫌な気分になる。 簡易型とは言えビーム兵器の恐ろしさを一度は我が身を持って体験している。 (やっぱり、アレからだよな…まずいな。完全にトラウマになっている。) 冷静になって自己分析をするが矢張り、怖い物は怖い。 背筋に嫌な汗が流れ、心臓がけたたましく鼓動する。 「霧坂、終わったぞ。帰ろう。」 ビーム兵器を持ってうろうろしているギアの近くに居たくないと心の中で付け足した。 「うん…守屋君、顔色悪いけど大丈夫?」 大丈夫じゃないから大丈夫な場所に帰りたいんだ。 なんて、口が裂けても言える筈も無く、霧坂からに背を向け大丈夫だと後手に手を振る。 お互い、色んな事を深く追求しあえる仲でも無い。 守屋が背中で大丈夫だって事にしておいてくれと語っているような気がして 何も言わずに霧坂の定位置である守屋の左隣に並び帰路に立つ。 教科書、ノート、参考書を開き守屋の自室で二人並んで試験勉強を始める。 違法ギアどものせいで今日はまともに勉強が出来ていない。 命は大切だが、この時期の高校生にとって試験の点数も同じくらい大切だ。 「そもそも…図書館なんかに行かず、最初からウチでやれば良かったんだよな?」 最初から家で大人しくしていれば変な事に巻き込まれ時間を浪費せず 嫌なモノを見て、嫌な気分にならずに済んだのだ。 「だけど、守屋君が居たから無事に終わったんだよね。 だから、今日はあの時間に図書館に居たのはきっと良い事だったんだよ。」 外の違法ギアはエイテンが周囲に被害を出す事無く無力化し 銀行や他のフロアに居たテロリストもどきも突入部隊により制圧され人質を無事に救出されていた。 しかし、間抜けな事に図書館のフロアだけは突入部隊が大失態を犯してしまったのだ。 運良く守屋がそれに逸早く気付き、行動を起こしたお陰で他のフロア同様、何事も無く片付いたのである。 守屋が居なければ図書館フロアでは大惨事になっていた可能性もある。 「ま、結果オーライではある…か。」 元々は他人を守る為にと持たされた力で人を救う事が出来た。 嫌な思いはしたが、自分の力で自分のやった事で救われた人が居るのなら、確かにそれもアリだ。 「今日は此処までにしておくか。色々ありすぎて勉強どころじゃないだろ?」 守屋は霧坂のペンが全く進んでいない事に気付いて勉強を中断する事にした。 流石の霧坂でも今日の出来事は余程、堪えたと見える。 それに守屋もビーム兵器を目にしてからと言うものの何処か落ち着きが無く 二人共、とてもでは無いが勉強をしようという気にはなれなかった。 「そうだね…うん。そーする。止めた!止めた!何か面白い番組やってないかなー?」 (勉強しないなら帰れよ。) 「あ、守屋君だ。」 自室の壁には図書館の中でテロもどき相手に大立ち回りをする守屋一刀本人の姿が映し出されていた。 そして、八坂高校襲撃事件当時の映像に切り替わり、今度はアイリス・ジョーカーが暴れる姿が。 「これは来年の入学者と、ギア部の入部希望者が増えそうだねぇ?」 「こんな受難体質の高校に入学なんて自殺行為以外の何でも無いだろうが。」 愛機がビームコートダガーで切られるシーンに切り替わる前にモニターの電源を落とす。 一日にニ度もビーム兵器を見る気にはなれない。 「ヒーローの前には必ず困難が立ちはだかるように出来るているんだよ。 でね。それを痛快に打ち砕いてハッピーエンドで終わらせるからヒーローなんだよ。」 どうやら、霧坂の目には敵を痛快に打ち砕いているように見えるらしい。 これまでに打ち砕いて来た困難とも言うべき戦いをフラッシュバックさせるが… 今ではすっかりビーム兵器恐怖症だ。何がハッピーエンドなものか。 だが、それすらも霧坂にとってはヒーローに立ちはだかる困難の内の一つになるのだろう。 今更、言い合いをしても仕方が無いので、あーそうかい。と肩を竦めて降参するしか無いのである。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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歯車/Man of Gears 大切なものはすべて俺のもとから去っていってしまうんだ。 公開情報 攻撃手段 乱射(遠隔) 掃射(遠隔) 鮮血の記憶(呪文) スキル *幻肢痛 〈鮮血の記憶〉による攻撃が命中した際に40%で追加判定を行う。成功した場合、対象に2d8点のダメージ(回避不可)を与える。 *死に損ない 自身の耐久力が0になった際、判定に成功することで即座に耐久力を最大値の1/3だけ回復して戦闘に復帰する。判定値は100%からスタートし、スキル発動毎に20%ずつ低下する(最大5回発動)。 *自壊 《高校生以下のキャラクター》が自身の攻撃によってダメージを負った際、1d5のダメージ(装甲無視)を受ける。 *送り出す者 【内容秘匿】 + 秘匿内容(ネタバレ注意!) 《4期メンバー》のいずれかがパーティにいる場合に追加され、パーティが全滅した際に発動。該当するキャラクターの耐久力を全回復させ、自身は戦闘不能となる。このスキルによる戦闘不能では、〈死に損ない〉は発動しない。 攻略情報(ネタバレ注意!) 内部ステータス + ... *基本ステータス 耐久力60 イニシアティブ14 装甲3 回避35% *攻撃手段 1d4で選択。 1,2→乱射(70%):敵単体に2d6+2ダメージ。 3→掃射(50%):敵全体に1d10+2ダメージ。 4→鮮血の記憶(100%):敵単体に1d8+2正気度ダメージ+スキルによる追加ダメージ。 攻略 + ... 難易度:★★★☆☆ メインギミック:死に戻り 1階層目にあたるキャラクターというだけあり、スキル構成は比較的シンプル。純粋な殴り合いバトルが楽しめることだろう。 ただ、ひたすらしぶとい。額面の耐久力こそ60と控えめであるが、〈死に損ない〉で最低1回は復活してくるため、実質耐久力は80〜160の範囲で変動する。さらに装甲3を持つため、火力に乏しいパーティでは泥試合になること請け合い。 打点の高いキャラクター複数名に加え、判定値低下・装甲剥がし・装甲付与などのスキルを持つサポートキャラクターを1〜2名積んでおくと安定するのではないかと思われる。 単騎攻略 + ... 難易度:★★★★★ 正気の沙汰じゃない。誰ですかこんなんクリアしたゴリラ 人 天狗は。 真面目な話相当な高難易度。というのは、〈鮮血の記憶〉→〈幻肢痛〉のコンボが1人に集中することになり、スタンでハメ殺される可能性が多分にあるため。安定した火力、高回避、スタン対策を併せ持つキャラクターでないと攻略は困難だろう。 小ネタ集 + ネタバレ注意! 戦闘イメージ曲 Myosotis/M2U Myosotis=勿忘草。花言葉は「私を忘れないで」。家族を忘れること、教え子に忘れられることへの恐怖。 ED曲/テーマソング あなたが夜明けを告げる子どもたち/笠木透 送り出す教師側視点の卒業ソング。歌詞が全体的に良い。上條のテーマでもある。 メモ 名前 車って字が入ってるのがお気に入りです。英訳はGearsだけじゃ味気ないかなと思ってちょっと足して「歯車人間」。 外見年齢 29歳。交通事故に遭って家族と自分の脚を失った直後。 現在と過去(事故前後)の記憶が混在しており、現在受け持ちの生徒のことは認識できたりできなかったりする。 精神的に調子のいい時と悪い時がある。調子のいい時はそれなりに話せるが、悪い時は家族の幻覚に苛まれてまともに会話ができないし酷ければ銃も向けてくる。 鬱だし無口だけどベースが上條なので上條っぽいことも言う。事故現場を目撃した生徒の心情を慮ったり、煙草勧めてきた生徒を叱ったり(これは二次創作だけど)。調子いい時は割と普通に面倒見が良いので騎士(男)や侍従と一緒にチームお子様の子守してる。 眼鏡をかけていない。多分事故の時に壊れたんだと思う。そのせいで周囲がぼんやりとしか見えておらず、目つきがかなり悪い。怒っている訳ではない。
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統合歴329年8月6日 「楽しかったけど、やっぱり我が家が一番、落ち着くわ~。」 霧坂は部屋に着くなり荷物を投げ捨て、ベッドの上に飛び乗り寛ぎ始めた。 「気持ちは分からんでも無いが、それは中年の台詞であって子供の台詞じゃない。」 守屋は慎みという物を何処かに置き忘れた同級生の行動に頭を抱える。 霧坂がベッドにダイブした時に黒い下着がチラリどころか、モロに見えてしまい非常に居心地が悪い。 「せめて、大人の台詞って言ってよねぇ?」 守屋が霧坂に行動に対して苦言を漏らすのもいつもの事で、霧坂がそれを適当にあしらうのもいつもの事だ。 だから、霧坂は特に気にするわけでも無く、守屋に向き直り足をバタバタさせながら、さも楽しげに不満を漏らす。 気付いていないのか、気にしていないのか。変に指摘すると薮蛇になり兼ねないので守屋は下着の事に関しては黙る事にした。 「第一、此処は俺の部屋であって、霧坂の部屋では無い。そもそも…」 仮にも男の部屋に二人で居ると言うのにも関わらず、この無防備さ加減には呆れ果てるしか無い。 普段から異性扱いしていないのはお互い様だが、流石に此処まで酷いと辟易するのも通り越して、軽く凹みそうになる。 尤も、其れすらもお互い様なのだから霧坂ばかりに文句を論うのは、少しばかり筋違いというものだ。 「細かい事、気にしないの!!私にとっちゃセカンドホームみたいなモンだしさ。」 あまり守屋の苦言を聞き流してばかりもいられない。あまり放って置くと、苦言では無くお説教が始まるので キリの良い所で大声を出して守屋の苦言を中断させる。一々、事細かで神経質で面倒な男だと思う。 「さも当然のように俺のベッドにダイブしやがって…もう少し、遠慮ってものをだな…」 (って、止まんないし。) 普段の守屋ならば肩を竦めて溜息を吐く所なのだが、生憎と今の守屋は照れ隠しの真っ最中だ。 自分自身を落ち着ける為に苦言を並べ立てているだけに過ぎず、自分が何を言っているのか、よく分かっていない。 いないのだが、説教の最中、霧坂がベッドにダイブする姿と同時に下着の色まで鮮明に思い出してしまい守屋は赤面して押し黙る。 「さて、それじゃ夏休みの宿題を片付けちゃいましょうかね。」 霧坂は守屋が静かになったのを良い事に放り投げた鞄の中から数冊のテキストを取り出し、守屋のデスクを陣取る。 「聞けよ…オイ。」 霧坂イヤーは馬の耳。声が大きかろうが、小さかろうが都合の悪い事は防御率6割くらいで事前にシャットダウン。 期末試験で一緒に勉強したのを切欠に霧坂が守屋家に居付くようになり早一ヶ月。 他のフロアもそうだが、特に守屋の部屋に関しては勝手知ったるもので何処に何があるかなど本人以上に把握している。 今回の獲物は守屋が既に片付けているであろう夏期休暇の課題だ。デスク右袖下から二番目の引き出しからテキストを取り出す。 「パーフェクト♪」 パラパラと中身を確認して霧坂は満足そうな笑みを浮かべる。正否は別にして一生懸命やりました感がアリアリと出ている。 「どうでも良いが、丸写「母さんが今夜、ウチで夕飯食べていけって言ってたけど如何する?」 説教が始まるよりも早く守屋を黙らせる為、使用回数無制限な上に一撃必殺の威力と信頼度を誇るカードを叩き付ける。 「勿論、有難く頂戴する。」 霧坂の目論見通り、守屋は短く返答し口を閉ざす。 守屋家の住人は総じて料理の腕が致命的で家庭の食卓という物に縁が無く、食事の殆どを外食や出来合い等で済ませている。 そのせいか、守屋は齢16にして手作りの料理や家庭の味といったものに対して、異常な程の執着心を見せるのだ。 幸いにも霧坂の母親は勿論の事、霧坂自身も守屋の舌を満足させるには充分過ぎる料理の腕を持っている。 霧坂は守屋の悲惨な食力事情に同情すると同時に何とも餌付けするのが簡単な男なのだろうと苦笑する。 特に空腹時は従順だし、何を与えても満足そうな笑顔で平らげてくれるので、守屋に手料理を振舞うのも悪い気はしない。 「じゃ、有難く丸写し「駄目に決まっているだろ。」 守屋の反撃。霧坂が喋り終わるよりも早く、暴挙に出るよりも早くテキストを引っ手繰り、半目で睨みつける。 謀ったな守屋一刀!繊細な乙女心を踏み躙るとは何たる事か!?今日の夕飯はお前の嫌いな…って、嫌いな物とかあったっけ? そんな複雑怪奇で意味不明な感情を込めて睨み返すが、そんな感情を守屋に…寧ろ、理解出来る者など一人として居る筈が無い。 「少しは将来を見据えて真面目に勉強したら如何だ?」 「まだ高1だよ?もう将来とか考えてんの?」 真面目な奴だとは思っていたが此処までかという驚きが半分、お前は進路指導の教師かという反発心にも似た呆れが半分。 守屋は気を悪くするでも無く、そう思われるのは織り込み済みだと言わんばかりに苦笑しながら返答する。 「俺はウチがこんなだからな。高校を卒業したら砕牙州の士官学校に入学して軍へ進む事になるだろうな。」 「軍人かー…私は如何しようかなぁ…」 霧坂は人差し指を唇に当てて考え込むが何も出て来ない。 やりたい事や好きな事と言えば、スポーツギア観戦くらいのもので他の事は割と如何でも良い。 実は自分の手で動かす。作る。直すといった事に関しては、それ程の熱意は持っていないのだ。 常時特等席で観戦出来るからギア部に入ったに過ぎず、選手の道を選んだのも整備するより動かす方がマシだったからだ。 「ま、その内に何か思い付くとは思うけどね。」 「何も思い付かないんなら勉強しておけ。出来るのと出来ないのとでは選択肢の幅が大きく違って来るからな。 後々、やりたい事が見つかっても学力が不足しているせいで、その道に進めないってのは無念だろ?」 「色々、考えてるんだね?」 「全部、母さんの受け売りなんだけどな。あの人も学力不足で苦労したクチらしいからな。 高校卒業する直前で、やっぱり別の道に進みたいって思った時に苦労するぞってな。」 古くから続く軍人一族の一人息子とは言え、軍属に就く事を強要されているわけでも無ければ、期待されているわけでも無い。 「やる事が無いなら家業を継げ」太古の時代に多く倭国人達が遺した言葉に従い軍人にでもなるか程度の心構えをしているだけだ。 「だけど、夏休みももう折り返しだよ?なのに、それらしいイベントが全く無いのは、ちょっと問題だと思うよ?」 守屋は偶には霧坂と真面目な会話でもしてみようと思ってしまった自分が大馬鹿者だったと思い知らされた。 全て夏合宿中に詰め込んで来たとは言え、かなり遊び倒してきたつもりだったのだが、霧坂はまだまだ足りていないらしい。 「夏合宿やって、夏祭りやって、牧場に海に山。花火も見たし来週は区大会もある。これ以上、何を望むんだ?」 「何か物足りないと思っていたけど、地区大会の事を完全に忘れていたよ。」 そう。霧坂にとって、この夏は遊び足りていないのでは無く、ギア分が不足気味なのだ。 と言うよりも、守屋とアイリス・ジョーカーに伯仲出来るだけの実力者との戦いが余りにも無さ過ぎる。 片桐との戦いも悪くは無かったが所詮は遠距戦仕様、鋼のぶつかり合いとは少し違う。 それもこれも、矢神が赤点を取り過ぎて八坂高校に来れなくなったのが悪い。 だが、そんな不満とも後数日でお別れだ。この夏一番の大目玉、守屋と矢神の決戦の日は後一週間足らずで訪れるのだから。 統合歴329年8月12日 八坂州野宮地区大会当日。野宮区立ギアスタジアムには多くの観客が詰め掛けていた。 観客は各校の関係者、熱心なスポーツギアファン。そして、マスコミだけに留まらない。 ギアメーカー、プロモーターチームにギアの盛んな大学、企業といった選手や高校にとって気の抜く事の出来ない観客も多い。 スポーツギアのチームは物好きなスポンサーからの資金提供によって活動を行っているが、それが全てではない。 観客を魅了出来る程の試合を展開出来るだけの技量を持つ選手が搭乗したギアは兎に角、よく売れるのだ。 メーカーや仕様によって長短は分かれるが、スポーツギアの基本性能や価格にそれ程、大きな開きが無い。 勿論、追加パーツや換装パーツ等の性能を向上させる為のパーツもあるが、腕でカバー出来る程度の範囲だ。 よって、チームがギアを購入する際の判断基準は外見、仕様。そして、ギアの印象で決まるのだ。 この野宮地区であれば加賀谷望の愛機、スカーレット。矢神玲のリヴァーツ等が当てはまる。 特にこの2機は地球全土の高校生ギア選手に大きな支持を受けており、生産が追いつかない程である。 彼等が乗ってくれさえすれば広告塔となってくれるのだからメーカーとしては楽な商売だ。 だが、彼等が別の機体に乗り換えてしまったら?自社のギアに乗り換える分には良いが、これが別のメーカーだったら? 企業としては、そんな状態に陥るのは実に面白くない事この上ない。では、もっと乗ってもらう為にはどのような手段を講じるべきか? 例えば予備パーツの安価提供、新開発パーツの優先提供、衝撃緩和剤、弾薬の無償提供などが挙げられる。 兎に角、ギアは金のかかるスポーツ用品だ。消耗品の類でも積み重なると眩暈がする程の金額を要求される。 そういった負担をメーカーが肩代わりする事で長期に渡って広告塔としての役割を果たしてもらうというやり方だ。 守屋としては、アイリス・ジョーカーの性能を観客達に見せ付け、半年足らずで築いてしまった莫大な修理費用を精算したい所である。 何よりも広告塔としての役割を担えた時の金銭以外の利点、工場搬送時の最優先修理は守屋にとっては必要不可欠だろう。 どんな敵でも徹底的に叩き潰す代わりに、徹底的に破壊されるのだから優先的に修理してもらえるに越した事は無いのだから。 加賀谷にとってはプロモーターチームの存在が気になる所だ。 彼等は優秀な選手。それも近々、卒業予定にある3年生をスカウトする為に大会の視察に訪れる。 (全く…何様のつもりなのやら。) 加賀谷はスカウトの可否に興味は無い。寧ろ、辟易する程に引く手数多の状態で正直、目障り極まりない。 此方の都合も考えず、傲慢にも上から目線で品定めをしてくる連中が気に入らないだけだ。 だが、そんな連中を公式の場で完膚なきに叩き潰し、メンツを踏み躙ってやるのはさぞかし楽しいだろうとも思う。 最後に矢神玲。今の所、様々な思惑を錯綜させている部外者達には全くと言うわけでは無いが興味が無い。 学力が少々…いや、致命的に不自由な彼だからこそ、大学や企業のお目にかかって楽に人並みの進路を歩みたいくらいの欲はある。 だが、そんな事の為にこの日、この時、この場所に立っているのでは無い。 誰かと競い合う為に、自分の力を表現する為にスポーツギアの選手としてこの場所に居るのだ。 そして、まだまだ自分と競い合い、ぶつかり合う程の実力には達してはいない物の 将来的には一番のライバルになるであろう少年が銀の髪を陽光で煌かせながら此方へ向かって来る。 「久しぶりだな、守屋。今日は新人戦じゃなくて、レギュラーとして出るんだよな?」 「当然!矢神サンこそ出場するんだよな?またリヴァーツの中に古坂みたいな奴が入ってるって事は無いんだよな?」 守屋にとっては待ちに待った決戦の日だ。唯でさえ長期間のお預けを喰らっている状態だ。 流石にこれ以上は『自称』温厚な守屋でも我慢出来そうには無い。無粋で不逞の輩如きに邪魔をされては業腹というものだ。 そんな守屋の心情を感じ取ったのか、矢神は実に楽しそうに笑う。成長著しい守屋が夏休みの前半で、どれだけ腕を上げたのか? 矢神としても、そろそろ一度、本気で戦っておきたいと思っていた所だったのだ。誰にも邪魔をさせるつもりは無い。 「今日は一切、手加減しないからな。俺とリヴァーツの真の力って奴を見せてやるよ。」 「それは楽しみだ。俺と当たるまでに負けるなよ?」 守屋にとっては初の公式大会だが、緊張には程遠い。 以前、宋銭高校と練習試合を行う前日に霧坂に聞かされていたが野宮地区内で守屋とまともに戦えるのは矢神玲だけだ。 矢神と戦う為には決勝のステージに立たなければならないが、所詮は有象無象。守屋の準備運動の相手でしか無い。 その一方で矢神は抜刀すらせず、ただの一度も被弾せずに拳一つで対戦相手を一撃で粉砕していく。 「まさに破竹の勢いだな。」 守屋は偶然、矢神の試合を目にしてしまい、更に奮起する。 是が非でも、矢神と対等の立場になりたい守屋は左腕一本で、矢神同様に被弾する事無く一撃で勝負を進めていく。 矢神を打ち倒すだけに為に地区大会の舞台に立っているのだ。矢神と同じ事が出来なくては万に一つも勝ち目は無い。 八坂高校ギア部副部長、三笠慶。二年生、阿部辰巳は二人の戦いぶりに嘆息する事しか出来ないで居た。 「守屋の奴、矢神に勝てると思いますか?」 「今のままでは厳しいかも知れんが、漸く巡ってきた矢神との決着に守屋の戦意も充実している。 勝てないにせよ、この場に居る人間全員の度肝を抜く程度には追い詰める事が出来ると思っているんだが…」 確かに一介の高校生に過ぎない二人ですら、守屋の闘気がアイリス・ジョーカーを通じて溢れ出ているのが分かる程だ。 守屋と矢神は流れるように決勝戦まで駒を進める。此処までは八坂のギア部員達の予測通りだ。 だが、観客達はそういうわけにはいかない。完全にノーマークだった1年生が矢神に追い縋る程の勢いで試合を進めていくのだから。 しかし、観客達の驚きなど二人には関係の無い事だし、知った事じゃない。 真紅の装甲に包まれたリヴァーツの眼前に、白銀の装甲を身に纏うアイリス・ジョーカーが立ちはだかる。 「漸くだな。」 守屋は興奮と喜色を含んだ声を矢神に投げかける。これから悪鬼羅刹の如く戦おうとしているとは思えない程、明るい声だった。 「随分と待たせてしまったみたいだからなぁ…」 矢神は楽しくて仕方が無いと言わんばかりに守屋の言葉を受け止め、左肩にマウントされた斬馬刀の柄を握る。 「お互いに手加減は一切、無しだ。」 矢神は真紅の瞳を炎の様に煌かせ、アイリス・ジョーカーの全長よりも長い刃渡り8mもある斬馬刀の切っ先を守屋機に突きつける。 「良し…やるぞ。ジョーカー!」 今までのシミュレーター訓練では受けた事の無い矢神の気炎に煽られ、守屋は意気揚々と声を張り上げる。 右腕に装備されたバックラーブレードの刀身を展開し腰溜めに構え、試合開始の合図と同時に砂埃を巻き上げながら地を蹴る。 スポーツギア随一の脚力を持つアイリス・ジョーカーの加速力から繰り出される刺突は馬鹿正直に矢上機の首に喰らい付こうとする。 フェイントも牽制も無い単純明快な一撃だが、目にも止まらぬ高速の剛撃である事には違いない。 まともに喰らえば敗北は避けられない。とは言え、防ぐのも避けるのも面白くない。何よりも無粋だと矢神は考えた。 守屋が態々、馬鹿正直で力任せな攻撃で俺達の決戦に幕を開けてくれたのだ。 小手先だけの技で対応するなど愚の骨頂。無礼にも程があると考え、矢神は斬馬刀を上段に構える。 「真っ向勝負だ、守屋ァッ!!」 馬鹿正直で力任せな攻撃以外の返礼など思いつきもしない。その結果が敗北だとしても悔いは無いし、敗北など有り得ない。 矢神の闘気を纏った斬馬刀は雷鳴と言わんばかりの轟音を鳴り響かせながら風を引き裂き、大地を侵略しただけでは飽き足らず 地面の役割を果たしていたモノを土砂と共に竜巻の如く、空高く巻き上げ二機のギアを覆い隠す。 周囲に飛び散る砂埃や破片と共に、バックラーブレードの刀身が宙を舞い墓標の様に地に突き刺さる。 霧坂は守屋が敗北したのではと息を飲むが、その不安は5つの轟音によって打ち払われる。 あの聞き慣れたリズムで打ち鳴らされた轟音は間違いなく守屋の両手両足を使った連撃だ。 「今のどうなったの…?」 霧坂は居ても立ってもおられず、落ち着かない様子でスタジアムに視線を向ける。 状況を察するに守屋はバックラーブレードを切り落とされはしたものの、お得意の格闘戦で矢神を圧倒しているという事になる。 しかし、あの八坂五指に数えられる実力者である矢神玲がこんなにも容易く、守屋に連撃を許すとは考え難い。 二人の様子をこの眼で確認したいのに巻き上げられた土砂が晴れていくが、あまりにもゆっくりでもどかしい。 「何あれ…?」 竜巻が晴れ、守屋達がぶつかり合った地点がクリアになり地に崩れ落ちた二機のギアが観客に姿を晒す。 八坂や宋銭の生徒だけで無く、観客全員がスタジアム全体からどざわめき声が静かに響いた。 「どういう事…?」 腰部を大きく歪ませ、両腕と右足。更に頭部を失い地に転がるギアが一機。 一刀両断の名の下、右肩から真っ二つに切り裂かれたギアが一機。 だが、矢神玲と守屋一刀の愛機である、リヴァーツとアイリス・ジョーカーでは無い。 肝心の二人は二機のギアの残骸の中心で背中合わせに構えを取り、周囲を警戒している。 「悪いな。お前の剣ごと、ぶった斬っちまった。」 「右腕を飛ばされるよりマシだ。」 純粋な力比べで戦いの火蓋を切って落とされた二人の決戦は違法ギアの乱入という形で急遽中断させられる。 此処に来てまさかの…いや、この騒ぎの首魁からすれば今日のこの時こそが、絶好のタイミングなのだ。 地区大会とは言え、多くの高校から新旧様々なスポーツギアが集まり、さながらギアの見本市の様相を示している。 正に選り取りみどりの状況。その上、この大会に参加したギアの殆どが各メーカーの修理工場への搬送準備中で コンディション以前にギアの搭乗すら困難で満足に抵抗が出来ない状態にあり、稼動可能なギアも数で押し込むのは容易い。 絶対有利の状況を待ち構えていた違法ギアの大群がスタジアムの外からブースターを吹かしながらスタジアムの中に侵入する。 次々に降り立つ違法ギア。リヴァーツのセンサーが48機のギアを捉える。 ついさっき、守屋と撃破した奴を合わせて団体50名様で態々、お越し頂いたという事になる。 「こんな夏真っ盛りによくもこれだけの数が集まったもんだ。違法ギアってのは、そんなに暇なのか?」 「ふざけやがって…何処のどいつだッ!!」 守屋は怒気を隠そうともせず、外部スピーカーをオンにして怒鳴り声を張り上げる。 「ヒャーハッハッハッハッハァッ!!」 下卑た笑い声と共に忘れたくても忘れられないモヒカン頭の男がアイリス・ジョーカーのモニタに表示される。 「久しぶりだなァ?矢神!それに守屋ァ!」 「貴様…二度ならず、三度までも俺を阻むか。」 この男のせいでアイリス・ジョーカーの実機訓練が遅れ、矢神との決着を後回しにされた。 そして、漸く待ち望んだ矢神と決着の日にまで横槍を入れて来るとなれば、怒りを通り越して殺意が芽生える。 「古坂か。何をしに来た?」 「こうもギアが揃ってるんじゃ、やる事ァ一つだけだろう?」 古坂機がスタジアムの外に指を向けると同時に爆音が鳴り響く。 爆炎が立ち上っている所に、工場への搬送予定のギアを積んだ輸送車両の駐車スペースがあった筈だ。 そこで何が起こっているかなど、態々、目にするまでも無い。 「少し見ない内にクズっぷりに磨きがかかったようだな?」 身勝手な奴だとは思っていたが、まさか違法ギアに身をやつす程の大馬鹿者だったとは。 ステレオタイプの小悪党のクズ野郎、此処に極まれり。短絡過ぎて笑えてくる。 「吼えるな!テメェ等には散々、恥をかかされたからなァ?テメェ等の命、ギアごと頂くぜ!!」 矢神はお前如きに何が出来ると呆れたように溜息を吐くが、守屋は此処に来て焦りを覚える。 「矢神サン、ヤバくないか?」 「馬鹿言え!雑魚が乗っかったギアがたったの48機、俺とお前なら楽勝ってなもんだぜ!」 矢神は数の不利など全く意に介する事無く、大声で笑い声を張り上げるが 守屋とて言われるまでも無く、この程度の連中に後れを取るなど微塵に思っていない。 「アイツも宋銭高校のギア部の関係者なんだろ?この事が協会に知れ渡ったら、宋銭のギア部は…」 悪質なルール違反があった場合、違反者が所属する教育機関へ3年間の活動停止命令が出されるのだが 今回のケースだと悪質なルール違反以前に完全な違法行為だ。宋銭高校の永久追放は免れない。 そして、高校を卒業したとしても、矢神自身の選手生命も完全に断ち切られる事になる。 「奴のせいで矢神サンと戦えなくなるなんて冗談じゃないぞ!アンタは俺の目標なんだ!あんな下衆に邪魔をされてたまるか!」 「はっはっはっは!嬉しい事を言ってくれる奴だな。」 笑っている場合かと怒鳴りたくもなるが、矢神はあくまで泰然とした態度を崩さない。 「色々、説明は省略するがアイツならとっくに退学喰らってるからな。部外者も良い所だぜ? 要するに神聖な地区大会の決勝戦に空気を読まずに乱入して来た阿呆な犯罪者Aに過ぎないのさ。」 「余計な心配をさせてくれる…だったら最初に言っておいてくれ。」 守屋はリラックスした面持ちで鋼拳を構え、矢神は斬馬刀を肩で担ぎ、違法ギアの大群に向き直り古坂達を手招きする。 「さて、折角の夏だってのにやる事の無い暇なニートども。遊んでやるから、纏めてかかって来いよ。」 「テメェ等ァッ!!」 古坂は口角から唾を飛ばし、吼えるが付き合っていられない。 「待ち受けるのは性に合わない。先手はもらうぞ。」 守屋は獣じみた脚力で手近な敵に肉迫し、加速の勢いに乗ってリヴァイドの胸部目掛けて飛び膝蹴りを放つ。 着地の寸前にナイツの背部に回し蹴りで此方に迫りつつあるサイ・メタル目掛けて吹き飛ばす。 もつれ合いながら倒れ込む二機のギアを膝蹴りの際、リヴァイドから奪い取ったロングソードで串刺しにして地に縫い止める。 「シールドチャクラムセット」 アイリス・ジョーカーは守屋の命令に従い、左腕のシールド内に収納している有線チャクラムを高速回転させ主の攻撃命令を待つ。 守屋は獲物を喰らえと短く言を発し、チャクラムは嬉々としてルナメタルの頭部を貫きメイレーンの脚部に絡み付く。 敵機が体勢を崩したと見ると力任せに引きずり回し自機の元まで手繰り寄せる。上半身を踏み潰し、チャクラムをシールドに収納。 守屋は足元に転がる5機の残骸を一顧だにせず、次の獲物へ向かって駆け出した。 「守屋の奴め…後何機居ると思っているんだ。」 矢神は守屋の戦いを見て心底呆れ果て、仕方の無い奴だと苦笑する。 見ていて気持ちが良い程の瞬殺っぷりだが、あれでは機体に負担がかかり過ぎて、敵が全滅するよりも先に此方が自滅してしまう。 「ま、この程度の雑魚相手に後先考えたり気張ったりするのもバカバカしいか…」 矢神は斬馬刀を水平に構え違法ギアの群れに飛び込み、斬馬刀と共に機体を一回転。 リヴァーツのパワーに遠心力と斬馬刀の重量を重ねた剛撃。 大地と水平に円を描くようにして振り払われた刃渡り8mの斬馬刀は一撃で7機のギアを横一文字に引き裂く。 「折角の雑魚狩りのボーナスタイムだ。自分らしく大暴れさせてもらうぜ!!」 チラリと守屋の方を見ると全身から緩衝材を吹きながら、二機のイーゼルと対峙している。 まるで、後先なんて知った事かと言わんばかりの戦いっぷりだ。 「これで8対8のイーブンか。まだまだ守屋に負けてやれないからな!」 矢神は新たな標的を定め、斬馬刀を振り下ろし次々に敵を葬っていく。 そして、この騒動の張本人である古坂は戦慄するしか無い。 どんな猛者でも、一瞬で鉄屑に出来る程の数を掻き集めて来たというのにも関わらず 一瞬で半数近くが撃破され、こうしている間にも仲間の反応が消失している。 「テ、テメェ等!!相手は近接戦闘仕様のMCI搭載型だぞ!距離を取れ! あいつ等のギアは飛び道具が無い!!空から撃て!撃ちまくって蜂の巣にしろ!!」 古坂のヒステリックな叫び声を聞いて、違法ギアの大群は慌ててブースターを吹かし宙に逃げ出そうとする。 だが、違法ギアとは言え所詮は無改造のスポーツ用品に過ぎず、最高速を達するまでのタイムラグが長い。 そして、鈍重な動きで宙に逃げようとする敵を、この二人が見逃す筈も無い。 「離脱などさせるかッ!!」 矢神は斬馬刀を投擲。ブーメランのように弧を描きながら4機のギアを地に叩き墜とす。 戻って来た斬馬刀を握り直し、地面に突き刺し矢神は嬉々として牙を剥き出す。 「リヴァーツに飛び道具が無い?それは何時の情報だ?」 リヴァーツの手首、腰、大腿部のカバーが開く。各所に2本のクナイが仕込まれている。 都合12本のクナイが上昇し切れていない7機のギアに突き刺さり、内4機が墜落。 損傷により高度を維持出来ないでいる3機のギアは守屋機から再び放たれたチャクラムで 数珠繋ぎにされ、大地に引き摺り堕とされる。 「やっと半分ってところか?」 「残りは空の上か…逃がすのも癪だな…」 守屋は悔しげに歯噛みするが、逃亡の心配をするまでも無い。 此方が手を出せないと知るや否や、ライフルから放たれた砲弾が雨霰と降り注ぐ。 「クソッ…最近、こんな展開ばっかだなッ!!」 「当たり所が悪ければ一撃で沈むぞ、絶対に喰らうなよ!!」 対アームドギアを前提に設計されたライフルは弾速、火力、命中精度と全ての面で競技用ライフルを遥かに凌駕する。 守屋は両腕のシールドを前面に展開して逃げ回るが、エネルギー切れ、弾切れを起こすまで避けられる筈も無い。 矢神は見ていられないと、軽やかなステップで銃撃の雨の隙間を縫うように守屋機の傍に駆け寄り斬馬刀を旋回させ銃弾を弾き返す。 「もう何でも有りだな、アンタは…って言うか、警備のギアは何をやっている!!」 情けない事、この上無いが矢上の非常識な能力と、高性能な警備用のギアに頼らねば守屋には生き残る術が無い。 せめて、相手が地上に降りてくれれば撃たれる前に潰す事も出来るが、生憎と相手は空に居る。 攻める事は出来ないが、さりとて己の身一つでは守る事すら侭ならず、不甲斐ない自分に苛々する。 「まあ、落ち着け。警備よりも頼もしい天の助けがお出ましだ。」 矢神機に倣って、空を見上げると紅の閃光が空を切り裂いていた。 「あのブースターの残光は…加賀谷部長!?」 「流石のお前達でも対空戦は分が悪かろう?此処は助太刀させてもらう。」 しかし、流石の加賀谷とは言え団体戦の決勝を終えた直後で機体のコンディションは決して良好とは言い難い。 右足は焼け爛れ、左腕の装甲は欠落し、右肩の装甲が切り落とされ全身が薄汚れており、満身創痍の体を為している。 「無茶です!機体のコンディションが悪すぎます!」 「ああ。絶不調過ぎて逆に絶好調極まる。 チマチマと少数を相手に出来る余裕は無いのでな。全員、まとめてかかってくると良い。」 「そんなボロボロのギアで何が出来る!八坂五指だか十指だか知らねぇがッ!!」 加賀谷はブースターを最大出力で敵陣に切り込み、ソードライフルを両手に舞う。 「ならば、これを機会に知っておけ。」 まさに疾風迅雷。ある者は斬られ、またある者は刺され、そして撃たれる。 加賀谷は眼前の敵を一瞬で背後へ抜き去り、全機のブースターを破壊し地に叩き落す。 「矢神、守屋。墜としたギアが客席を巻き込まないように対応を頼む。」 「あ、後先考えてから墜として下さい!!」 次々に墜落して来るギアに肝を冷やした守屋は慌てて、チャクラムを放ち、安全な場所に釣り上げる。 とは言え、空戦が出来る加賀屋の登場で古坂達は地上の守屋達を相手にする余裕は無くなった。 一撃必殺の威力を誇る銃弾の雨に晒される事に比べたら、幾分か気楽なものだ。 それでも、今度は人の命を預かる場面になった為、まだまだ気を抜く事は出来ないが。 「一応、考えなしでは無さそうだ。客席に落ちそうな奴はそう多く無い。」 そう言うと矢神は斬馬刀を構え、客席に堕ちそうな違法ギア目掛けて投擲。 斬馬刀は違法ギアを捕らえ、主人の元へと帰還。矢神機は右腕で斬馬刀を掴み、左腕で違法ギアの首を握り潰す。 加賀谷は次々に襲い掛かる銃弾に目もくれず一直線に敵陣に切り込む。 戦闘用ライフルの威力は確かに驚異的ではあるが、スポーツギアにその反動を押さえ込めるだけのパワーは無い。 撃っている本人達は狙っているつもりでも実の所、照準など全く合っていないに等しく、回避運動を行う必要性が全く無い。 被弾イコール運が無かった程度の流れ弾に恐れる暇があったら一機でも多く地に叩き落とした方が余程、安全だ。 「アームドギア用の武器がスポーツギアに使いこなせるわけが無かろう?選手としても違法ギアとしても三流以下だな。」 攻撃力だけに気を取られた結果がこの様なのだから呆れるしか無い。 この数で内田のスナイパーライフルを持ち出されでもしたら流石の加賀谷でも尻尾を巻いて逃げ帰る所だろう。 スポーツギアに対して一撃必殺の威力である事には違い無いのだから。 「クソッタレ!!これならどうだァ!!」 古坂は劣勢と見るや否や、半ばヤケクソ気味にライフルの銃口を客席に向ける。 「これなら絶対に外れないだろ?お前のせいで多くの人間が死ぬ事になるんだ。ザマー見ろ!!」 「霧坂。出番だ。」 加賀谷は臆する事無く、地上に待機している霧坂に戦闘参加の合図を送る。 地上から爆音が鳴り響くと同時に、古坂機の左腕がライフルと共に消し飛ぶ。 「あ、新手だとッ!?」 「団体戦の選手なものでな。短期戦闘は苦手なんだ。」 形勢逆転も僅か一瞬。いや、形勢逆転にすらなっておらず、加賀谷はしれっとした態度で肩を竦めた。 「霧坂…?」 そして、守屋はブクレスティアの搭乗者が内田だとばかり思い込んでいただけに少なからず驚いていた。 八坂に内田以上の砲狙撃戦が出来る選手が居ない事もそうだが、霧坂に曲芸じみた狙撃が出来ると思っていなかったからだ。 そんな守屋の疑い半分、驚き半分の感情を改めさせてやると言わんばかりに霧坂は立て続けにトリガーを引き絞る。 轟音、頭部を失い墜落。轟音、ブースターが破砕され墜落。轟音、コクピットに直撃。 ブクレスティアの性能もさる事ながら、その専用スナイパーライフルの威力はルールギリギリの火力を持っており コクピットブロック周辺はさて置き、スポーツギアの装甲程度なら簡単に破壊出来るという点に関しては戦闘用の砲弾と大差は無い。 不可避の魔弾の恐ろしさは守屋自身、その身で嫌というほど味わっている。 「へっへー!どうよっ!!」 我ながら上等な出来だと、霧坂は満足そうな笑顔とVサインをアイリス・ジョーカーのモニターに送る。 「やるな…いや、大したもんだ!」 あまりにも良い笑顔をするものだから、守屋も釣られて笑顔で賛辞の言葉を霧坂に送る。 完全に流れは守屋達に傾いており、50機以上の違法ギアも残るは片手で数える程度で 外を襲撃していたグループも警備のギアに粗方鎮圧されたようで、目立った被害は無いらしい。 「冗談じゃねぇぞ、クソったれぇ!!」 大群を引き連れて来たと言うのにも関わらず、何一つとして収穫は無く手持ちのギアは悉く破壊されてしまった。 楽な仕事のついでに矢神と守屋に落とし前を付ける腹積もりも悉く叩き潰されては古坂の面目丸潰れだ。 奪取は無理でもせめて、一機くらいは破壊していかなければ腹の虫が収まらない。 だからと言って、八坂五指に数え上げられる加賀谷と矢神に太刀打ち出来る筈が無い。 火器と左腕を失った状態で守屋に戦いを挑むのも、これまた無謀極まる。 勝てそうな相手といえば、狙撃型のギアに乗る名前も知らない女。 古坂はダガーを引き抜き、霧坂機目掛けて機体を急降下させる。 「焼け死ねやアアアアッ!!」 古坂機の刀身が鈍い光を放つ。 「ビームの残光!?」 守屋は見覚えのある光の正体に逸早く気付きアイリス・ジョーカーを走らせる。 以前、守屋に極上の恐怖を叩き込んだ光だ。トラウマの克服なんてものは出来ていない。 第一、普通に生活していればビーム兵器と出くわす事などまず無いのだから克服のしようも無い。 「疾く…もっと疾く走れ!ジョーカーッ!」 だが、身体が勝手に…否、守屋の全てが疾く走れ。奴よりも疾く駆け抜けろと己の身体と、アイリス・ジョーカーに命令する。 己の力だけで戦い続けて来た守屋が初めてアイリス・ジョーカーの力を求め、アイリス・ジョーカーは初めて守屋に力を貸し与える。 一瞬にして二機の間に滑り込み、古坂機のダガーが霧坂機のコクピットに突き立てられるよりも疾く我が身を盾とすべく身構える。 アイリス・ジョーカーの左腕が肩口からバッサリと斬り落とされるが、霧坂機には届いていないのだから問題は無い。 ビーム兵器の何が恐ろしいかなど霧坂が知る必要は無いし、何より知って欲しいとも思わない。 「霧坂に触るな…殺すぞ!」 「だったら、テメェを殺してやらぁ!!」 予定は狂ったが守屋機のコクピットは眼前にあり、振り落としたダガーを斬り上げるだけでケリが付く。 「阿呆が…調子に乗るなッ!」 だが、ダガーの攻撃力が高かろうとギアの出力と格闘戦の適性はアイリス・ジョーカーの方が圧倒的に上なのだ。 古坂機の右腕を捻り上げ、引き千切り、手刀で首を刎ね飛ばすが、矢神との決着を邪魔された怒りはこの程度では収まらない。 「アイリス・ジョーカー、フルドライブッ!」 アイリス・ジョーカーは主の命令に従い、ジェネレーターから正常に稼動しているとは思えない程の重低音を吐き出し 胸部の排熱口からは甲高い音を立てながら白煙を噴き、想定外の負荷にフレームが鈍い音を立てながら振動する。 重なり合う三つの異音は主である守屋一刀の怒りを体言するアイリス・ジョーカーの獰猛な唸り声とでも言うべきか。 本来であれば、こんな早期にそれも八坂が誇る未完成の魔改造システムを使う予定は無かったが使わずにはいられない。 更に自身に降り掛かる負担は大きいが、工場送りという結末に変更は無い。ならば全身全霊を持って打ちのめすまでだ。 「三回死んで、幼児からやり直しやがれッ!!」 辺り一面と自身に巨大な亀裂が走る程、激しく大地を踏み貫くと同時に、古坂機を慟哭と共に撃ち貫く。 バズーカ砲の直撃に匹敵する程の衝撃に古坂機は上半身を粉々に粉砕され周囲に上半身だったモノをばら撒く。 流石にコクピットブロックは頑丈に出来ているらしく、残念ながら古坂を殺すには到っていない。 「霧坂、無事か?」 先程は横目で軽く確認しただけだ。守屋は霧坂機に向き直り、しっかりと無事を確認する。 所々、破損はしているものの襲撃の際に受けた傷では無く、試合中に受けた傷があるだけだ。 「守ってくれて、ありがと。私はヘーキだけど、カッコ悪いトコを見せちゃったね?最後の最後でヘマしちゃった。」 霧坂はバツが悪そうに苦笑するが、普段通りの霧坂の様子に守屋は安堵する。 「無事なら、それで良い。」 安堵しながら何故、霧坂の事で感情を振り回されたのだろうかと首を傾げる。 首を傾げるとフルドライブの反動のせいで消し飛んだ、肘から先が粉々になった右腕が眼に映る。 その上、矢神との決着も付かず仕舞いに終わってしまった。何もかもが大失敗で辟易する。 「ま、決着は州大会でだな。」 苦悩する守屋を見て、矢神は苦笑いしながら斬馬刀を担ぎ直し、宋銭高校のゲートへと引き返す。 守屋を庇いながら戦っていたのにも関わらず、リヴァーツはほぼ無傷で足取りも軽い。 立ち去る矢神の後姿を見届けながら、改めて圧倒的な実力差を嫌と言うほど思い知らされる。 「今のままでは矢神サンに勝てないな…」 「州大会まで3ヶ月もあるんだし大丈夫だって!それよりも今は無事に騒動が片付いた事を素直に喜ぼうよ!」 「そうだな…皆が無事で良かった。」 確かに、見知った者の中で何かしらの傷を負った者は一人としていない事は素直に嬉しく思う。 とは言え、ビーム兵器が一介の高校生ですら簡単に手に入る現状に妙な不気味さを感じ 未だに拭えないビーム兵器に対する恐怖心から人知れず、夏の暑さとは関係の無い汗を垂れ流すのであった。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
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COLLECTIBLES 前作 Geras of War での COG TAG に相当する要素。 COG TAG だけでなく様々な遺留品が収集対象になる。 遺留品にはテキストが付属しており、それらを残して朽ちていった人々の遺言や記録を垣間見ることが出来るようになっている。これによりGearsワールドをさらに深く知ることが出来るようになっている。
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統合歴329年5月1日 必死になって戦い抜いた受験戦争も終わって、遂に俺も高校生だ。 なんて思っていた矢先に通勤に便利だからという母の一声で、八坂州に家を建てる事になった。 そんなアパートを借りるような気分で家を建てて良いようなものなのだろうか? 家なんてものは一生に一度の買い物じゃないのかと母に問うと 「一度に限定する必要は無い。」 軍人である父よりも、ある意味男らしい人だと思った。父はと言えば 「殆ど帰らないからな。寝心地の良いベッドがあるなら何処でも構わない。」 実に如何でも良いよいうような反応を返された。 そして、必死に勉強して入学した砕牙州立砕牙高校に僅か一ヶ月で別れを告げ 私立八坂高校に転入する事になってしまった。 態々、州立高校に受かったのに私立高校に移される事になろうとは…嘆いていると 「私立高校の方が何かと黙らせるのが楽だ。」 お袋様、相手は子供なのだから、もう少し表現を考えて欲しい。 寧ろ、多少の無理があっても嘘を吐くべきだと思う。 「州立よりも私立の方が遊び易い。」 親父殿。学校は勉学に励む場所だ。 そんないい加減な両親に連れられ新たな制服を受け取る為、新たな学び舎に訪れていた。 それにしても、周りの視線が鬱陶しい。身内が有名だと如何にも肩身の狭い気分だ。 繊細な自分に引き換え、母は随分と慣れたもので差し向けられた視線など何処吹く風だ。 父親に至っては最近の高校生は発育良いな。などと通報されても文句は言えないような危険な言葉を発している。 本当に勘弁してくれ。我が家の有名人。 教員の目の前で両親が変な事を口走りやしないか心配ではあったが、大人しくしてくれていたのは幸いだった。 恙無く、制服や教科書一式を受け取り、長期休暇後、新たな高校生活が始まる事になった。 それにしても何故、子供の俺が問題児を預かる親のような心情で自分の親を警戒しなければならないのだろうか。 転入に伴う必要な儀式を一通り終えると、母はさっさと職場に戻った。 家と職場が近くなった事だし、週に一度は家に帰って来る事になるだろう。 父親と何ヶ月かぶりに夕食を共にした。 「お前も高校生だし、両親が留守にしがちなんだ。大いに羽目を外せ。」 如何贔屓目に見ても、未成年の子供に言う台詞では無いと思った。 「ガキの癖に可愛げの無い事ばかり言っているからだ。ガキなんざ、親に迷惑かける程度で丁度良いんだ。」 尤も、何かしでかしたら殴り倒すがな。と後から思い出したように親の役目を持ち出されてもな… 頼むから、もう少し大人になってくれ親父殿。 「そういや、八坂高校にはスポーツギアがあるそうだな。」 スポーツギア 全長7mの軍用人型機動兵器アームドギアの能力を大幅に限定したスポーツ用ロボット。 一般車両以上、戦闘車両未満の微妙なラインの上に立つスポーツ用品で 格闘技とも、モータースポーツとも付かない微妙なラインの上に立つ競技である。 何かと微妙な立ち位置ではあるが、鋼の巨人がぶつかり合うスポーツに多くの人間が熱狂している。 とは言え、この兵器紛いのスポーツ用品は兎に角、金がかかる。 金を持ったロボットオタクのスポンサーを捕まえないと話が始まらない。 始まらないが思いの他、この世の中には金を持ったロボットオタクの大馬鹿野郎どもが世界各地に居る。 特に筋金入りのロボットオタクは自分が乗って戦うよりも 自分が理想とするロボットが大暴れする様を間近で見る事に全てを賭けている。 だから、他のスポーツ同様、区大会、州大会、全国大会と大規模な大会を開催し 人と金を集める事には概ね成功していると言って良い。 「それは何か?スポーツギアで暴れて予習しておけというフリか?」 この親父殿、俺が軍人になっても苦労しないようにと 幼少の頃から現在進行形で現役の軍人と同様の訓練を課してくれている。殺す気か。 それはさて置き、スポーツギアの前身であるアームドギアは軍は勿論の事 警察にも配備されているし、消防にはレスキュー用のギアが使用されている。 スポーツギアに慣れておけば、将来、ギアを使った職業に就いた時、 人並み程度の苦労をする必要が無くなるという算段である。 今、人並み以上に苦労しているけどな。 兎も角、軍人になった時に苦労しないようにと訓練を課してくれる親父殿ではあるが 流石に金が無いせいか、アームドギアを使った訓練は課されていない。 「興味があるならやってみれば良い。アレは存外、良い玩具だ。 予習にならない事も無いが…アレは兵器じゃなくて玩具でしかない。」 よくよく考えてみれば、ギアだけに限らず銃器を含む他者を殺傷する目的に作られた武器や兵器の類は 一切、触れさせてもらっていない。触れさせられても問題だが。 「俺がお前にやらせている課題は、あくまでも健康的な身体作り為のものでしかない。」 何を仰るのやら、この鬼教官は。 何はともあれ、鬼教官である親父殿にとってスポーツギアは出来の良い玩具に過ぎず 折角、珍しいクラブがあるのだから興味があればやってみれば良い。 よく考えれば、極普通の親子の会話だ。 あまりにもまとも過ぎて俺の脳が追いついていなかっただけらしい。 統合歴329年5月11日 その日、八坂高校では季節外れの転入生の話題で持ち切りだった。 特に一年生は新たに始まった高校生活が思いの他、普通で中学と何ら大差が無くて辟易していた矢先に 有名人の息子が転入してくるという、ちょっとした一大イベントの発生である。 TVや雑誌などで顔を見た事のある目ざとい女子生徒などは特に有頂天になっている。 その中でも、他とは違う意味で転入生に一抹の期待と不安を寄せている女子生徒がいた。 霧坂茜華。スポーツギア部に所属する一年生である。 ついでに、転入生に対し大いに期待する、やたらと屈強そうな男子生徒も居る。 様々な思惑が本人の与り知らぬ所で渦巻いている事も知らずに転入生はHRで無難な挨拶をした。 「砕牙州から来ました。守屋一刀です。」 統合歴以前…たった一つの小さな惑星の中で無駄に多くの国家に分かれて人間同士で 殺し合っていた時代、古くから倭国を守る一派、守屋一族の末裔である。 尤も、今となっては様々な血を受入れるようになった事もあり、純粋な倭国民族では無いし 其れ程、大それたものでは無い。ただ軍の広報が守屋の一族を放っておかない。 そうこうしている内に世界で一番、有名な軍人とその息子になっていただけだ。 全く、普通の家庭…と断言出来る程の厚かましさは持ち合わせては居ないが 周囲が思っている程、大した物でも無いと思っていた。 だが、他人から受ける評価に本人の意思は関係無い。 例え、それが大きく的外れな評価であってもだ。 この場合、大きく的外れな評価だったら、このような事件も起きなかったのだろう。 多くの生徒の想像通り、守屋一刀は高校生としては破格の身体能力、戦闘能力を持っている。 だからだ。だからこそ、運動部。特に格闘技系のクラブの生徒達は何がなんでも 守屋一刀を引き入れようと必死になった。 その勢いは、ミーハーな女子生徒でさえ近付くのを諦める程で守屋が激怒する程度には充分過ぎた。 「同じクラスなら勧誘なんて楽勝だと思っていたんですけどねぇ…」 霧坂は苦い顔でギア部専用スタジアムで事の切欠をレギュラー陣に話していた。 休憩時間の執拗な勧誘のせいで、守屋はトイレにも行けない、食事も落ち着いて摂れない。 最初の方は丁寧に断りを入れていたのだが、厚かましい上級生達の行いに耐えかねて ぞんざいな対応をしてしまい、口論となり…一年の教室棟の廊下は血に染まった。 喧嘩両成敗という事で守屋一刀以下53名は2週間から1ヶ月の停学処分。 尤も、殆どの生徒が一ヶ月で退院出来るか如何か怪しいところだ。 全クラブには入学式後のクラブ案内以外の部活勧誘を一切禁止を言い渡された。 暫くは格闘技系のクラブはゴミクズのような目で見られる事になるだろう。 「だけど、そんなに乱暴そうな子じゃなかったんだよね?」 ギア部レギュラー、内田燐は正直、憂鬱だった。 例え、どんなに強かろうと不良等の手合いだったら関わりたく無いし、入部もして欲しいとは思わない。 だが、内田のそんな不安も霧坂にとっては何処吹く風だ。 いや、霧坂に限った話では無い。彼女を除くレギュラー陣は守屋をギア部に引き入れる気でいる。 「何の面白味も無さそうな、極普通の男子って感じなんですけどね。 寧ろ、よくぞ昼休みまで耐えたって思いますよ?私なら2限でブチきれてます。」 だからこそ、停学二週間という最も軽い処分で済んだわけだが。 「それにしても、如何します?何か脳筋達のせいでやり難くなりましたけど」 霧坂が視線を投げかけた先には如何にも優等生といった風貌の生徒が今回の事件に関する書類を眺めていた。 霧坂に話を振られたと同時に書類を丸めてゴミ箱に投げ捨てた。 「罰するべき相手を誤るような大人の言う事など一々、聞いていられないだろう? 勧誘については礼節を損なわないようにな?」 「そりゃあ、私だって血の海に沈みたくは無いですからね。」 最初から学校側の指示を従うつもりなど更々無く、クラスメイトという立場をフル活用して 守屋をギア部に引き込むとういう当初の目的を達成するつもりだった。 統合暦329年5月22日 「終わった……しっかし…どう考えても俺が被害者なのに、何で俺が停学二週間とかになるんだろうな。」 職員室で渡された課題は、夏休みの課題かと見間違える程の量で、守屋を辟易させるには充分過ぎる量だった。 根が真面目なお陰で、復学までには余裕を持って片付ける事が出来た。 尚、転校初日に早速、傷害沙汰を起こし停学処分を受けた事に対して両親は 「ガキのじゃれ合い如きで大騒ぎするな。」 「子供の喧嘩如き、子供同士で解決しろ。」 知った事かと一片の躊躇も無く斬り捨てた。 今更、親が何か言って来るなんて思ってもいなかったし 退学にならなかっただけマシと思う事にした。 それにしても新たな高校生活を初日から滅茶苦茶にしてくれた武術系のクラブには 絶対に入部しないと心に決めて辟易する量の課題を鞄の中に仕舞い込んだ 「それにしても…絶対に俺の第一印象最悪だ…友達出来るのか、俺?」 ロクでも無い高校生活になるのではと、頭を抱えているとインターフォンが鳴った。 (此処を訪ねるような人なんて…担任か?) ドアを開けるとブロンドアッシュの長い髪にダークブルーの瞳をした少女…霧坂が人懐っこい笑顔で手を振っていた。 白を基調とした制服から察するに八坂の生徒なのだろうが、全く知らない生徒だった。 寧ろ、乱闘事件を起こす切欠となった男子生徒の顔すら覚えていないのだから そもそも、八坂の生徒の顔なんて一人も覚えていない。 「どーも、こんばんは。」 考えても考えても顔も名前も出て来ない。 「こんばんは…えーと、クラスの子?」 クラスメイトが停学中に溜まっているプリントを持って来てくれたとかだったら 何と無く、有り勝ちな話だと思い言ってみた。 「やっぱり覚えてないか…同じ1年3組のクラスメイトだから宜しくね。」 顔も名前も覚えていないが、クラスメイトというのは正解らしい。 霧坂は顔を覚えられていない事を別に気にするわけでも無く喋り出したので 守屋も気にせず話を促した。 「ああ。宜しく。それで…今日は?」 「うん。守屋君ってさ、ロボット。スポーツギアに興味無い?私、ギア部の部員なんだけどさ。」 正直、停学処分を受けた時の怒りが再燃しそうな思いだった。 八坂の生徒が滅茶苦茶な勧誘の仕方をしなければ停学処分を受ける事も無かった。 恐らく自分の印象は最悪だ。これ以上、印象を悪くするような真似だけは避けたい。 兎に角、理性を総動員させて感情的にならないよう、無愛想にならないように努めた。 愛想笑いをしながら断りを入れよう。頭の中で丁寧な断り文句も用意した。 (よし、大丈夫だ。いける。) 「いや~、あの後で全校集会になっちゃって、守屋君に対して部活勧誘行為が一切禁止になっちゃったんだよね。」 そんな霧坂のあっけらかんとした態度が守屋の癇に障った。 必死に総動員した理性も何処かへ飛んでいった。 「で?教師の目が届かない自宅なら大丈夫だと思ったのか? 住所を調べ上げて断りも無く来て…八坂には非常識な生徒しか居ないのか?」 あからさまに不機嫌な態度を取る守屋に霧坂は酷く焦った。 流石に暴力を振るわれる事は無いだろうが…無いよな? 兎に角、コレは非常に良くない。如何にか機嫌を直して貰わなければ。 「あ、いや…それはその…」 焦る霧坂を前にしても一度開いた口は簡単には止まらない。 「態々、勧誘なんかに来なくてもギア部には興味があった。 だけど、あんな事があったせいで俺は停学になったからな。 勧誘して来たクラブには入らないって決めているから。」 「うあ…もしかして、私やらかした?」 簡単に止まった。見ているのが気の毒になるくらい霧坂は落胆したからだ。 守屋は霧坂のそんな様子に溜飲が下がり、此の侭、追い返すのも忍びない。 そんな短絡的な発想を持ってしまった。 「態々、訪ねて来てくれたのに悪かったな。」 「そう思うんだったら!」 すぐに顔色を変えて飛びついて来る。 前言撤回。成る程、この女はそういう手合いの奴なわけか。 せめて謝罪くらいはするべきだと思った自分が馬鹿だったと思い知った。 「厚かましい。帰れ。」 そして、理解した。 コイツに限って言えば、無碍な扱いくらいが丁度良い。 統合暦329年5月25日 停学の開けた月曜日の朝の事だった。 気を使ってくれているのか、行動力があるのか。はたまた厚かましいだけなのか。 (厚かましいだけなんだろうな。) 何故か、霧坂が守屋の自宅まで迎えに来ていた。 「いや、別に勧誘とかじゃないから警戒しないでよね?」 「呆れているだけだ。」 「そんなに邪険にしなくったって良いじゃん。 クラスメイトだし、家も目の前だし、純粋に一緒に学校行こうかなとか思っただけだよ。」 眩暈がした。今、何て言った? 家も目の前だし? 「家が目の前って如何言う事だ?」 「如何って?そのままだけど?」 ホレと、霧坂が指差した表札にはしっかり霧坂と書かれていた。 「すまん。お前の名前知らない。」 「自己紹介して無かったっけ?」 守屋自身、人の名前を覚えるのは余り得意な方では無いので、ただ忘れている可能性もあるが… 此処までアクの強い奴なら一度聞いたら忘れたくても、忘れそうにも無い。 「取り合えず、霧坂で良いんだな?」 「うん。霧坂茜華。忘れないでね?」 出来る事なら忘れたいと思った。 しかし、狭い道路を隔てて、文字通り目の前とは… 「…眩暈がする。」 「そう言えば、ギア部の活動場所って何処にあるんだ?見学に行こうと思っているんだけど。」 「え?何?どういう心境の変化?寧ろ、私に気がある!?」 質問に対して普通に返せば良いのに、何でコイツはこう…変なリアクションを取るのだろうか なんだか疲れる奴…絶望的に相性が悪い。そんな思いで胸がいっぱい…胸焼けしそうな思いになった。 「元々、ギア部には興味があるって言っただろう? 勧誘されて良い気はしないけど、見学するくらいなら行っても良いかと思っただけだ。 それから…知り合って間もない相手に対して、そんな気は起きない。」 「50点。」 「意味が分からない。」 「私に対して、その気が無いってのは、どういう了見よ?」 (鬱陶しい。) 守屋は返事をする気力も根こそぎ抜き取られ、霧坂を無視して学校へ向かった。 霧坂が何か言っているが、これ以上疲れるのはゴメンだと、歩みを止める事をしなかった。 (とは言え、霧坂にギア部の活動場所を教えてもらうまでは機嫌を損ねるのは良くないか?) 何と無く、霧坂の方を振り返って見ると 「どしたの?」 (うん。コイツはそういう奴なんだろうな。) 気にかけた事が馬鹿らしくなり、再び歩みを進めた。 それから、放課後まで大人しく過ごし、校内モノレールに乗る事5分程。 案内された先は、山の中腹を削って建設されたスポーツギア専用スタジアムの中だった。 広々としたスタジアムの中には鋼の鎧を纏った鋼鉄の巨人。 いや、鋼鉄のスポーツマン。5体のスポーツギアが稼動していた。 「アレが…スポーツギア…」 父親の職業柄、その手の知識はあったが軍用機アームドギアですら触れた事も実物を見た事だって無かった。 7mなんて中途半端な大きさだと思っていたが、初めて見るギアの勇姿に守屋は完全に心を奪われていた。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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統合歴330年3月1日 霧坂が守屋に想いを伝えて半月。守屋は霧坂の3月14日までは二人では会わないという宣言に従い 未だに独りで登下校する日々を継続していた。とは言え、霧坂が居なかった時の様な喪失感は無い。 あくまで二人きりで居る事が無くなっただけであって、学校や部活では以前と変わらず接しており 相変わらず、霧坂は守屋に変な悪戯を仕掛けたり、守屋の留守を見計らっては料理の作り置きをして行く。 以前、霧坂はこの一ヶ月間を燃え盛る恋などと言っていたが、守屋にとっては妙な疲労感が積もるだけだった。 尤も、霧坂との関係を如何するのかという自問自答に対する答えは、未だに出せていないでいた。 この際、この長く重苦しく、寝ても覚めても、霧坂の事ばかりを考える日々から抜け出す事が出来れば もう何でも良いという思いや、面倒臭いという思いも少なからず芽生えていた。 (本当に面倒臭い女だ……) 守屋も普通の女が相手ならば、深く考え込んだり、思い悩んだりする事も無かっただろう。 この意味不明な行事に対する不満を口に出せばキリが無いが、其処で思考を停止させても良い相手では無い。 (愛情は兎も角、友情としての好意だけは絶対に否定出来ないからな……) 守屋は今日も霧坂の事を考えながら、一日を終えなければならないのかと辟易しながら 自宅の門をくぐると半月ぶりに守屋一刀不在の守屋家の扉が開け放たれていた。 (参ったな。霧坂来ていたのか……今は顔を合わせたくないんだがな……) だが、その人物はキッチンでは無くリビングで寛いでおり、そもそも、客では無く家主だった。 「父さんか……おかえり」 守屋は霧坂が居なかった事に安堵しつつ、悔やみながら霧坂の事を一旦、思考の片隅に追いやった。 聖誕祭での出来事を切欠に、守屋を取り巻く環境の中に妙な気配を感じるようになっていた事もあって また何か、妙な出来事が起きる前触れなのでは無いかと、守屋の第六感が警告を発していた。 「今更な気もするが新しい生活はどうだ?」 「本当に今更だな……まあ、色々あったけど、今はギア部で楽しくやっている 再来週は全国大会で八坂の代表選手として出場する事になってな」 「……そうか」 「父さん、何かあったのか?」 守屋の予想に反して、普通の父親のような質問を投げかけられ、守屋は半ば呆れながら 普通の子供の様に言葉を返すが、父らしからぬ態度に守屋は違和感を感じていた。 「俺はお前に今まで通り、普通の子供としての人生を歩んで欲しいと思っている。 そして、お前が望むのであれば普通の大人になるのも良いとさえ思っている。」 「俺が軍人になってから苦労しないようにって戦闘訓練を付けて、課題を出したのは父さんだろ? 別の道が見えれば、そっちに行く事も考えるかも知れないけど、俺は軍人になる事に抵抗は無いぞ?」 ショートスリーパーという体質故に3時間の睡眠で健康を害する事無く日々を営む事が出来る守屋は 1日21時間という活動時間の中で学業、部活、戦闘訓練の3つを同時にこなして来たのだ。 何よりも、これまでに積み上げてきた努力を無駄にするのは忍びないとさえ思っていた。 「砕牙州で内紛が起きてな……今は政府が情報操作を行っている。公式には事故という事で処理されるだろうがな」 「国家の垣根を無くして価値観、文化、正義を一つに纏め上げたところで、人間は闘争が無ければ生きいけない 人間は理性を持って他者を傷付け、殺す生き物だという事を否定しても、何時か決壊するのは目に見えている」 守屋は戦争を肯定しないが否定もしない。だが、人間が刻んできた地球の歴史に闘争が存在しない歴史など無い。 地球人類が一つになって時を刻む事を願って付けられた統合歴という暦。だが、表面上だけでも平和になったのは 此処数十年の話であって、つい最近まで地球人達はその闘争本能を存分に開放していた。 だからと言って、全ての人間が闘争本能に従順になれるだけの意思や他人を蹂躙出来るだけの力を 持っているわけでも無く、理不尽な暴力の前に嘆き悲しむ者も数多く存在していた。 「だから、守屋のような守る事を生業とする一族が居た……今となっては守屋も統合軍の狗だがな」 かつて倭国に存在したとされる人間だけを守り、人間だけのために存在していた防人の一族― 閼伽王、君嶋、因幡、月代―そして、守屋。今となっては歴史の表に守屋、裏に君嶋が居るだけで 片や統合軍の走狗、片や地下に引き篭もり、不干渉と成り下がってしまっている。 「お前は守る為に殺される覚悟はあるな?」 「でなければ何の為の守屋だ」 守屋は物怖じする事無く吐き捨てた。 地球統合軍に入隊し地球の治安維持のために戦う以上、自分が殺される危険性は充分に承知していた。 これまでの違法ギアとの戦い一つを取っても、一歩間違えれば死んでいた可能性だってあった。 命を脅かされている者を守るという事は、差し向けられた殺意と死を肩代わりした上で跳ね除けるという事だ。 場合によっては死ぬ事もある。死を恐れていないわけでは無いが、その危険性が理解出来ていないわけでも無い。 「ならば、守る為に殺す覚悟も出来ているのだな?」 「それは……」 守屋はこの一年間の間に多くの違法ギアと激戦を繰り広げ、自覚症状の無いテロリストとも戦った。 自身の命を狙う者や他者の財産を狙う者。度を越した悪意を目に付いた順に全て、薙ぎ払ってきた。 だが、守屋はどんな悪党が相手でも命を奪うまでに到った事は一度も無い。 守屋とて人間だ。差し向けられた悪意に対し、一度や二度くらい殺意を抱いた事くらいはある。 殺さなかった理由は二つ。一つは愛機、アイリス・ジョーカーが競技用ロボットという事もあり ギアの頑強なコクピットを破壊出来るだけのパワーが無い。 もう一つは父の言葉に対する反応の通りだ。他者の命を奪うという事は、他者の全てを奪う事に他ならない。 どんな悪党にも家族や友人が居る。守るという名目で他者の全てを奪い、遺された人間には悲しみを与える。 今の守屋には、そういった物を背負う覚悟も無ければ、踏み躙るだけの力も無い。 尤も、守屋がこれまでに戦ってきた敵の殆どが、大きな力に酔って暴走していただけに過ぎず 命を以って償わせなければならないような外道の類は極一部だけで、殺す必要性が無かっただけだが。 「俺は世界に仇名す者を全てくびり殺して来た。何人殺したかなど数えるのも馬鹿馬鹿しい程にな 秩序の名の下、大を生かす為に小を殺す。地球統合軍に入隊するという事は絶対正義の名の下に 全地球人類に対し生殺与奪の権利を持つ事になる。我々の役割は弱者や正しき者を守る事では無い 世界の秩序を構築する大多数を脅かす、道から外れた者を一人残らず抹殺する事だ」 彼等にとっての平和の定義は地球人が日々の暮らしを営む50の州内で戦争が行われていない事。 確かに地球で最後に起こった戦争が終戦を迎えてから、半世紀が過ぎ、再戦の兆しは見えない。 凄惨な戦争から、平和と命の尊さを学んだからでは無い。 戦闘員、非戦闘員、女子供老人に到るまで一人残らず等しく抹殺したからだ。 未来に遺恨を残さずに終戦を迎える手段として地球統合軍は敵対する全てを根絶やしにする事を選んだ。 戦う相手がいなければ戦争にはならない。戦争にならなければ平和なのだと。 この事実を知る者は極僅か。そして、事実を知る者は過去の出来事として肯定もせず、否定もせず閉口している。 余計な事を口走って自ら世界の敵になりたがる馬鹿者は滅多に居るものでは無い。 この社会で大多数を脅かす個人、または団体が善意であろうと、悪意だろうと関係は無い。 大多数を脅かす。またはその可能性があるという事実があれば、自らが掲げる正義の名の下に 無慈悲なまでの殺戮を振り翳す。そして、守屋一刀もまた、その尖兵になろうとしている。 この社会に思想や言論の自由は無い。だが、大多数の地球人はその事すら知らない。 地球統合軍が独自に定めた判断基準を越えない範囲であれば、大々的な政府や軍に対する批判すら 許され、その判断基準を越えたとしても大多数の地球人は粛清の事実すら知らないのだから。 粛清された本人さえも自らが分不相応な思想を持ったがために地球統合軍に命を奪われた事すら知らない。 社会の裏側で地球統合軍が理想とする社会を乱す存在を根絶する無慈悲な虐殺者になる覚悟は…… 「…堅苦しい話は此処までだ。進路を決める時期になったら改めて、考えてみろ 大体、お前はガキのクセに物事を難しく考え過ぎだ。ガキならガキらしく、感情のみで突っ走ってみせろ」 先に挙げた地球統合軍の粛清の対象は最悪中の最悪のケースの話でしか無く、今の所、前例は無い。 秩序を乱す者全てに対し、無慈悲に抹殺する組織である事に変わり無いが…… 誰の目から見ても絶対的な悪だと断定出来る存在に対し秘密裏に、その矛先を振り落とす事が大半だ。 殺す覚悟と聞いて守屋一刀は最悪の事態ばかりを想定し返答を躊躇っていたが 求めている答えを出せそうにないと判断すると父、守屋剣は― 「生涯の内、ガキでいられる事を許される期間は極僅かだ ガキの時分はガキらしくしておかなければ、ヒネた大人になるぞ」 ―と閉めた。彼も殺す覚悟と、殺される覚悟はあれど、我が子に殺せと命ずる覚悟は出来ていないのだから。 「だったら……ガキらしい事を聞いても良いか?」 一刀は何と無く居心地の悪そうな顔をして剣に伺いを立てる。 我が子らしからぬ態度に剣は一つの推論を打ち立てる事刹那。すぐさま、ある結論に辿り着いた。 この年頃の子供が言い辛そうに伺いを立てる事など一つしか存在しない。 「……小遣いか。幾ら欲しいんだ?」 「別に……部活が忙しくて、金を使う暇も無いしな」 高校生は金が好き。剣が一瞬で出した結論は我が子の冷たい一言で一蹴されてしまった。 金じゃ無いとしたら……剣はまたも考えるが、一秒も経たない内に面倒になり、続きを促す事にした。 「では、何が聞きたいんだ?地球統合軍の初任給か?」 守屋は未だに金の話から離れようとしない父の言葉を無視を決め込み話を進める事にした。 「父さんと、母さんって恋愛結婚?」 「は?」 有難いパパのアドバイスを無視するたぁ何事だと思うと同時に思考が一瞬停止した。 「どうなんだよ?」 守屋一刀の母、ユカリ。地球で圧倒的なシェアを誇る美容化粧品メーカー勤務のキャリアウーマン 地球統合軍と化粧品メーカー、一見すると何の繋がりも無い職業の二人が何故、結ばれたのか? 別に守屋は其処に興味を持っているわけでは無い 「恋愛結婚だが……」 これは親子の会話なのか?と、守屋の父は何とも言えない様な表情で返事をしながら どうやって誤魔化したら良い物やらと押し黙る。 「どういう切欠で付き合うようになったんだ?」 「なんだ、お前? 好きな女でも出来たのか? お前……もう十六だろう。まさか、まだ童……」 「わ、悪かったな! 去年の秋に初めてエロ動画見たばっかで、女の事なんざ何も知らねーガキだよ!!」 剣の半ば呆れ気味の呟きを掻き消すかのように早口で怒鳴り散らかした。 つまる所、人生の先輩とも言うべき父に恋愛相談をしたかったのだ。 そもそも、こんな相談が出来そうな相手がいないのだ。 例えば、クラスメイトの西行や夕凪はただのAVマニアで恋愛経験が無く、相談相手としては論外だ。 ギア部の先輩、三笠や阿部は其々、内田、歳方と交際中だが、彼等の恋人は霧坂と仲が良く 回り回って相手がバレそうで聞くに聞けない。尤も、バレている事に気付いていないのは守屋一人だが。 夏季限定とは言え変態の加賀谷は論外だし、恋愛小説中毒の小野寺ではまともな回答は期待出来ない。 では、親友でもあり宿敵でもある矢神玲ならばどうだろうか?女性関係の相談相手には申し分無しだ。 だが、共に州代表メンバーとして、全国大会へ挑む事になっており、気合を入れ直さなければならない時期に 恋愛相談などと浮ついた話を持ちかけて良い物なのだろうか?と守屋は考え、聞くに聞けないでいる。 何よりも嘲笑される可能性もあるし、彼に軽蔑されたとしても文句は言えない。 結果、守屋は周囲の人間の中で、我が父しか頼れる相手はいないと判断した。 尤も、相談を持ちかけられた父親の方はというと、どうやって話をはぐらかそうかと考えつつ 呆れるべきか盛大に爆笑するべきなのか悩んでいる最中で、相談相手に相応しいかどうかで言えば ―残念な選択だったと言わざるを得ない。 「その辺も…いや、男として、その辺を重点的に鍛えておくべきだったかも知れないな?」 「別に鍛えなくて良い」 「だったら、夜のお供に秘蔵のエロ動画を持ってきてやろうか?」 やや不機嫌になり出した一人息子のご機嫌取りに高校生が金の次に好きであろうモノを餌にする。 「いらん!! それより、どんな感じだったんだよ?」 「エロ動画か?」 「其処から離れろッ!! 父さんと母さんの馴れ初めとか、そんな感じのだよ!!」 目論見はまたも外れ、金にもエロにも興味を示さないとは珍しいガキだと守屋の父は内心で首を捻るが 思い通りに話が進まず、地団駄を踏む我が子を見て、可愛らしいところもあるじゃないかとニヤ付いた。 「答えても構わんが、俺みたいな古い人間の話を聞いたって何の参考にもならんぞ?」 尤も、自身の過去の話を聞かせる気など更々無い。適当に揺さぶりをかけ、誘導して誤魔化す事に決めた。 「少し興味が沸いただけだ。参考とかってのも……そういうつもりじゃない」 「そう言えば、先月末はヴァレンタインだったな……気になっている女に告白でもされたのか?」 「違う……いや、違わないけど」 守屋は即座に否定の言葉を吐き捨てるが、異性として意識しているから思い悩んでいるのだと改める。 「それで、どんな娘だ?」 (息子の恋愛事情とは中々、面白くなってきたな。親子の会話では無いかも知れんが信頼出来て頼れる 模範的な父親である俺だからこそ楽しめる特権だな……後でユカリにも教えてやるか) 「どんなって……ギアオタクの厚かましい変な女」 守屋の父が内心で自画自賛していると、我が子の身も蓋も無い口振りに苦笑いをした。 聞きようによっては脈の無い言い方だが、それが分かっていて悩める相手ならば……と考えた。 「それで、その娘を如何したいんだ?」 「如何したいって…俺は親友みたいな奴って思っていたし、告白されて驚いたってのが正直な感想」 守屋一刀の中で霧坂茜華の立ち位置は親友だったのだ。そして、告白に対する感想も驚きだったのだ。 いつか、互いに恋人を作ったり結婚をして子を成して、いい歳をした大人になってから再会して 過去を懐かしみ合うような関係になるとさえ思っていた。 「そうか。その娘が居なくなったら、お前は如何思う?」 「……二度とご免だ。」 聖誕祭の事故を思い出し、一刀は苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てた。 「要は一緒に居たいと?」 「そう……だな。うん、一緒に居たいと思う」 常に霧坂が隣に居る生活。鬱陶しくもあったが、その鬱陶しさも心地が良くもあり、楽しくもあった。 「だったら答えは出ているだろう?」 「それが友情なのか愛情なのか、よく分からない」 照れ隠しや、誤魔化しでは無く自分の中でLikeなのかLoveなのか判断が付かないから悩んでもいる。 霧坂に対し、黙れと思う事もある。一人にさせろと思う事もある。だが、自分自身を出せる相手も霧坂だけだ。 「同性なら友情、異性なら愛情。分かり易いだろう?」 「そんな適当な……」 ―その上、身も蓋も無い。 「男と女なんてのは最初は勢いで、後は惰性と愛着みたいなもんだ。大体、今生の相手とは限らんのだぞ?」 「それは凹む話だ」 適当な上に身も蓋も無い意見を並べておきながら、最後の最後でシビアな言葉が守屋の胸を突き刺した。 「第一、お前、ヴァレンタインで無かったら即OK出していたんだろう?」 「それは……」 図星だった。ヴァレンタインなどと訳の分からない日に告白されていないのであれば、迷う事無く付き合い始めていた。 「お前に必要な事は14日に感情と勢いの赴くままに行動する事だ。もう一度言うが、ガキでいられるのは今だけだ」 「……分かった」 「ああ。勢いで行動するのは構わんが避妊はしろよ?」 「ひ、ひに……はぁ!?」 「良いか? 軍人になるなら配属先と配属期間がはっきりするまでは絶対、出来ないようにしろ」 ふざけるなと怒鳴り声を張り上げようとするが、父親の有無を言わさぬ真面目な顔に一刀は押し黙る。 「適当に孕ませて、産まれるのを待っていたら、任務のせいで出産の場に立ち会えなかったり まともな休暇が取れたからと戻ってみれば、目出度い第一子が既に歩けるようになっていて 自分の事を中々、父親と認識してくれなかったり……全部、俺の事なわけだが」 当時を思い出したのか、守屋の父はやや落ち込んだ様子で呟いた。 「何をどう言えば良いのか分からないよ」 守屋にとっては身に覚えの無い話だが、父親の悲壮感に満ちた表情を見ていると怒鳴る気にもなれず 寧ろ、申し訳無い様な、言いがかりを付けられたような複雑な気分になったのは確かだ。 因みに守屋夫妻の仲が良いのにも関わらず、守屋に弟や妹が出来る気配が無いのは 出産のタイミングを見計らって、計画的に休暇を取る事が出来ないからである。 尤も、この調子では守屋に兄弟が増える事は無さそうだ、 「いっその事、笑え」 そして、守屋親子の乾いた笑いが木霊した。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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統合歴329年5月25日 守屋がギアスタジアムで初めて見るギアに見惚れているのもお構いなしに 副部長である三笠慶(ミカサ ケイ)の駆るスポーツギア・クランが専用装備のハルバートを振りかぶりながら 部長、加賀谷望(カガヤ ノゾム)のスポーツギア・スカーレットに肉迫する。 重装甲でありながらスポーツギアとしては破格の出力を誇るクランに対し 機動力と追従性に特化したスカーレットは、クランの怒涛の一撃を容易く避ける。 この程度で捉える事の出来る相手では無い事くらい承知しているのだろう。 三笠は避けられた事に対して、何の感想も抱かず機体を反転させ、次の攻撃プログラムを入力。 ショルダーアーマーに装着されたランスを左手に装備し、スカーレットに穂先を向け、機体とランスのブースターを起動。 これで重装ギアでも高い機動力を発揮する事が出来る。 とは言え、所詮は重装型。高機動型を圧倒出来る程の機動力では無い。 少なくとも加賀谷にとっては回避に専念すれば、避け続けるのも大して難しい攻撃では無かった。 しかし、三笠も上手いもので本体と武器のブースターを巧みに操り、じわじわと加賀谷に追い縋る。 反撃に移ろうにも何せ相手は重装型だ。生半可な攻撃は通用しない。逆に三笠に隙を見せるだけだ。 必殺の間合いを見極め、一呼吸で仕留めなければ此方がやられてしまう。 三笠が新たに用意した攻撃プログラムのパターンもある程度、見切れて来た。 そろそろ、反撃に移る用意をしなければ…闘牛士の様な軽業でクランの攻撃を往なし背中を叩き斬る!! 不発。ランスに内臓されたブースターは可動範囲が非常に広い。 戦闘プログラムに頼らずとも、適当にランスが可動するようなモーションプログラムを発動させれば 変則的なマニューバを行う事が出来る。 しかし、ランス内臓ブースターとクラン本体の背面ブースター二基の推進エネルギーに曝されたクランの 左腕に無視出来ないレベルの負担が掛かっている。 何度もこんな回避運動は取れない。矢張り、加賀谷に攻撃の隙を与えてはならない。 三笠はクランの背面ブースターと、ランスの内臓ブースターで機体を大きく跳躍させた。 最大高度に到達すると新たな戦闘プログラムを発動させた。 クランは構えを取り、ランスをスカーレットに向かって投擲した。 高出力のクランが放つエネルギー、ランス自体に内臓されたブースターの推進エネルギー。 当たり所が悪ければ大惨事になる程の必殺の威力を持つであろう事は誰の目にも明らかだ。 加賀谷はスカーレットの腰部にマウントされたソードライフルを構えた。 迫り来るランスに向かって、3発撃ち込むがあの勢いだ。流石に撃ち落とすのは現実的では無い。 回避運動は?既に手遅れだ。この攻撃を発動前に潰す。または退避出来なかった時点で不可能だ。 この場に留まった状態でロケットランスを無力化する方が、まだ分がある。 加賀谷はソードライフルを正眼に構え、砲弾を只管、ランスに撃ち込む。 そして、ロケットランスがスカーレットを貫こうとした瞬間、砲弾がランスの軌道に歪みを起こした。 勢いがあるからこそ、適切な部位に適切な力を加えれば簡単に崩れ去る。 目で見て分かる程の歪みならば対応は容易い。正眼に構えたソードライフルを、其の侭ランスに叩き付ける。 加賀谷の目論見通り勢いを殺されたランスは素直に地に堕ちてくれた。 三笠はまだ慌てない。高高度から投擲したロケットランスで倒れてくれるのならば、それで良し。 だが、この程度で加賀谷を倒せるなんて思う程、見縊っていない。此処までがフェイントみたいなものだ。 加賀谷の意識がロケットランスに向いている今こそが遂に訪れた必殺のチャンスだ。 機体の全エネルギーを全て背面部のブースターに回す。 持てる手は使い尽くした。この攻撃が不発に終わっても仕切り直しは無理だ。 だから、ここまで来たら後先を考える必要が無い。 ハルバードを両手に持ち替え上段に構え、スカーレット目掛けて突撃する。 いくら加賀谷とは言え、これは対応出来まい!この勝負、俺の勝ちだ! 後一瞬でハルバートの有効射程距離。三笠は勝利を確信した。 これが他の部員なら、確実に三笠の勝利なのだろう。 加賀谷にとっても一撃必殺の好機が訪れている事を三笠は気付いていなかった。 「的がデカイと狙い易い。」 クランが勢いよくハルバードを振り下ろした結果…背面ブースターが正面からでも見えていた。 だから、ただの一撃。たったの一撃。ただ一度だけトリガーを引くだけ。 ソードライフルから吐き出された砲弾はブースターに突き刺さり、小気味の良い音を立て動きを止めた。 ブースター一基で重装ギアの姿勢制御など出来る筈も無く、スカーレットから明後日の方向へ 何も無い地面にハルバードの一撃を見舞った。 更に二基のブースターが健在である事を前提に組まれた攻撃プログラムは ブースターが片方停止している事などお構いなしの動きを取ろうとする。 慌てて、動きを修正しようとするが間に合う筈も無く、満足な着地姿勢も取れず地面に叩き付けられた。 「勝負あったな。」 「こ、このヤロー…また俺の負けかよ!」 特に目立ったダメージも受けずに鮮やかに勝利した加賀谷であったが 悔しがっている三笠の様子を見て少し驚いていた。 「あれだけ派手に墜落したのに元気そうだな。 腕は兎も角、身体の頑丈さだけはレベルアップしているじゃないか。」 「チッ…厭味かよ。」 「勝者の余裕って奴だな。」 目の前で繰り広げられた鋼の巨人の戦いは、ただただ圧巻としか言い様が無く 守屋は呆然とする事しか出来なかった。 これが出来の良い玩具だって?冗談じゃないぞ、クソ親父… 元々、スポーツギアに興味はあったが、初めて見るギア戦に完全に心を奪われてしまった。 間近でギアの戦いを見る為だけにスポンサー契約をする連中の事を 酔狂で馬鹿な連中だと思っていたが、心の中でそれを撤回した。 目の当たりにしたからこそ分かる。コレはそういうものなのだと。 霧坂は呆然としている守屋を横目で見て、ほくそ笑んだ。 (堕ちたな。) 興奮冷めやらぬ内にスカーレットの外部スピーカーが鳴り響く。 『霧坂、新入部員を連れて来たのか?』 「転校生の守屋一刀君でーす。見学希望って事だったんで連れて来ましたー!」 スカーレットの集音目標が霧坂になっていた為、小声で喋っても聞き取れるのだが 霧坂が叫び声をあげた為、スカーレットのコクピット内で霧坂の叫び声が何倍にも増幅され鳴り響いた。 耳や鼻から出て来ては不味いモノが噴出しそうになるが、気分を害するわけでも無く、コクピットから叫び返す。 『そうか!でかしたぞ!』 ただ五月蝿いだけで、意趣返しにもならないだろう。 それよりも、こんな早くに守屋一刀を連れて来てくれた事を素直に喜んでいた。 加賀谷はギアを守屋達の傍に移動させ、コクピットハッチを開きギアから降りた。 丸い銀縁眼鏡に綺麗に切り揃えられた頭髪…加賀谷の容貌は所謂、優等生という奴で 守屋には、あの激闘を征したした男とは到底、信じられなかった。 「君が守屋一刀か。スポーツギア部、部長の加賀谷望だ。宜しくな。」 「宜しくお願いします。…と言っても、入部するか如何かは別問題ですよ?」 (無理しちゃって、もう…入部する気満々の癖に。) それにしても偶然とは言え、二人が実機訓練の最中で好都合だったとも思っていた。 二足歩行のロボットが、派手に動き回って戦うのだから、その魅力に取り付かれるのは当然だ。 女の私でも、そうなのだから男なら尚更の事だろう。何よりもアレコレと懐柔する手間が省けた。 「二人とも、こっちに来てくれ。良い物を見せてやろう。」 加賀屋は二人を促し、レギュラー陣が使っているギア格納庫とは別の格納庫へ向かって歩き出した。 霧坂は思い当たる節があったのか、顔を輝かせた。 「良い物ってアレですか!?」 「アレって?」 加賀屋は慌てて、霧坂を制止した。 「待て!此処でバラすな!口で言うよりも直接見せて驚かせる方が面白い!」 霧坂は仕方の無い人だと思ったが、加賀谷が言う事も尤もだと思い、口を噤んだ。 加賀谷は二人を格納庫に招き入れ、格納庫のスポットライトのスイッチを入れた。 スポットライトは一機のスポーツギアを照らした。 極端に大きな腕部と脚部持つが、重装型と言う訳でも無い。 肩部と腰部には装甲が無く防御力が高そうには見えない。 だが、間接の可動範囲は非常に広そうだ。 「あれ…このギア…」 「気付いたか?」 そう、この使われている形跡の全く無いギアにはブースターとスラスターが無い。 走る、跳躍は出来るだろうがこれでは滞空性能と機動力は無いに等しい。 「MCI搭載ギア、アイリス・ジョーカー」 Motion Link Control Interface 略称MCI 搭乗者の動作を、ギアに反映させるコントロールシステムで 高い身体能力を要求されるが、ただ動かすだけならば通常のギアよりも容易で 新たな選手層を獲得する為にスポーツギア用に再開発されたのである。 ただ動かすだけならば容易ではあるが、大会出場レベルとなると並の身体能力では 容易く返り討ちに遭ってしまう。そして、ギア部の部員は総じて身体能力は並以下なのだ。 態々、スポンサーが高い金を出して容易した最新システムを導入した新型ギアは 陽の目を浴びる事も無く、予備格納庫で埃を被っていたと言う訳だ。 「と言うわけでな。入部するなら即レギュラー入りで、君の専属ギアにアイリス・ジョーカーを預けよう。 ついでにMCI対応訓練シミュレーターの独占使用権のおまけ付だ。こんなお買い得商品他には無いぞ?」 「一応、今回は見学って事なんですが…」 とは言うものの、既に気持ちは固まっている。新型ギアの専属選手となれば入部する他無いと思っていた。 ある意味、意地みたいなものだ。霧坂に勧誘して来たクラブには入部しないと言った手前、素直に入部するのは 何と無く、負けた気分で良くないのだ。何がと言われても困るが、兎に角良くない。 「急いで返事が欲しいわけでも無いし、強要するわけでも無い。ゆっくり考えてくれ。」 「じゃあ、入部するか如何かは一先ず置いといて…ちょっと乗ってみない?」 何て魅力的な…いや、滅茶苦茶な事を言い出すんだ、この女は。 いきなり部外者に乗せるのは流石に色々と不味いだろう。 「そうだな。良かったら乗ってみるか?」 そんな、あっさりと了承されても…良いのか?乗るぞ?寧ろ、乗りたい。 「良いんですか?」 社交辞令で一応、聞いておくが、心の中では何でも良いから、さっさと乗せろと地団駄踏んでいるのは内緒だ。 「現時点では君以外に任せられる生徒が居ないからな。君が乗らないなら、アイリス・ジョーカーもただの置物に過ぎない。 万が一、大破する事になったとしても誰も君を咎めはせんよ。その辺はスポンサーも了承している。」 となれば乗るしかあるまい? 慣れない浮遊感と振動に戸惑いつつ、ゆっくりと格納庫から歩み出た。 成る程。搭乗者の動きを、そのまま機体に反映させるという操縦システムだが思いの他、面白い。 確かに、ただ動かすだけならば簡単だし、誰にでも出来るだろう。 だが、スポーツギアの醍醐味であるバトルとなると、如何だろう? 折角だし、レギュラー陣に軽く手合わせを頼もうかと思案していると見慣れないギアがスタジアムに現れた。 「7機目のギア?八坂はどれだけ金持ってるんだよ…」 遂、独り言を漏らしていると、霧坂から通信が入った。 「守屋君、下がって!八坂のギアじゃない!先輩達に出てもらうから!!」 普段の飄々として厚かましい態度は見る影も無い。 全然、親しい間柄では無いが、霧坂の焦った様子に新鮮さを感じていた。 何はともあれ、ギア戦に関しては超が付く程のド素人だ。 アイリス・ジョーカーに内臓された武器がどんなものなのかすら知らない。 この場は大人しく引き下がろうと後退しようとするが、侵入者がそれを許す筈も無く 両手首に内臓されたハンドガンを発砲しながら、ブースターを吹かし距離を詰めてくる。 反射的に両腕で身体を庇ったお陰でアイリス・ジョーカーも防御姿勢を取ってくれた。 極端に大きな両腕が盾の代わりになり深刻なダメージを受けずに済んだ。 「相手は違法ギア……だったら、此方を逃がしてくれる道理なんて無いよな。」 後退を諦め、交戦する覚悟を決めた。 幸い敵も格闘戦をお望みのようだ。 ならば、下手に距離を取られて飛び道具で攻撃されるより勝機がある。 それに、今の防御である程度、戦い方も理解した。いつも通りにやれば良い。 「霧坂。逃げられそうにない。殺されない程度に交戦するから早く先輩達を!」 「わ、分かった!死なないでよ!?」 こんな所で死んでたまるかと思いつつ拳を構える。 違法ギアはアイリス・ジョーカーに飛び蹴りを放ちつつ、ダガーを引き抜く。 ブースターの推力が乗った飛び蹴りを左腕で打ち払う。思った通りだ。何一つとして難しい事は無い。 躊躇い一つ無く反撃に意識を切り替える。打ち払った左腕を翻し、違法ギアに叩き込もうとする。 だが、左腕は甲高い異音を発し、紫電を発した。 (どうなった?) 守屋の切り返しが早すぎて、アイリス・ジョーカーの限界追従速度を越えている。 そして、守屋はそれを理解しておらず無理矢理、追従させようとした為、半ば自爆に近い形で左腕を破損させてしまった。 (まるで自分の身体じゃないみたいだ…ジョーカーの癖に合わせろって事か…) 動作が1テンポ遅れる。追従して欲しい時には無反応な癖に、如何でも良い動きには追従してくれる。 敵に何かされたわけでも無いのにバランスを崩し転倒しかける。 戦闘中にそんな無様が出来るかと丹田に力を込め必死に踏ん張る。 如何にか持ち直したが、時既に遅し。 違法ギアのダガーがアイリス・ジョーカーの頭部に叩き落とされようとしていた。 誰も咎めはせんよ。加賀谷の言葉をふと思い出す。だからと言って、分かりました。と言うわけにもいかない。 幼少の頃から戦闘技術を叩き込まれておきながら、肝心な場面で遅れを取って、屈しろと? 12年間、戦闘技能を叩き込まれて来たのは何だったんだ?こんな無様、他人が許しても俺自身が許さん。 身体を沈め、斬撃を避けるが相手も素人では無いのだろう。 攻撃が避けられたからと言って、慌てるわけでも無く次の攻撃に繋げて来る。 (腕にせよ、脚にせよ、振り回せば機体が持っていかれてしまう。 その度に姿勢制御に気を取られていては敵に付け入る隙を与えてしまう。ならば…) 違法ギアの右腕をダガー毎、撃ち払おうとするが紙一重の所で避けられる。 「馬鹿が!」 違法ギアの操縦者の声が聞こえた。こちらの声が届くかどうかは知らないが、短く返した。 「自覚している。」 機体を引っ張ろうとする右腕に逆らわず、その勢いを利用し機体を反転させ、回し蹴りを放つ。 アイリス・ジョーカーが転倒しかけると決め付けていた違法ギアは完全に油断していたのだろう。 避けようともせず、ダガーを構えていた違法ギアの頭部にアイリス・ジョーカーの アンバランスな脚部がめり込み地面に叩き付けられ違法ギアは煙を吹き、沈黙した。 「戦闘不能…?俺が勝ったのか?」 初の実戦で辛くも勝利を納めたが余韻に浸ったり、呆けている暇は無い。 ギア戦で勝利を収める事は出来た。次は中の搭乗者だ。 大人しく出てきて拘束されてくれるのなら良いが、あまりにも現実的では無い。 コクピットハッチをもぎ取り、搭乗者を引きずり出す方が安全でてっとり早いか。 だが、守屋がハッチをこじ開けるよりも早く、搭乗者が出て来た。 「思いの他、諦めが早いな…」 「くっ…はははははははッ!!」 搭乗者は守屋達と同じく、倭国系の顔立ちをしており、年の頃も守屋と同じくらいのモヒカン男だった。 いきなり沸いて出て来て、好き勝手暴れて敗北しておきながら、何故かアイリス・ジョーカーを指差し爆笑している。 「何が可笑しい?」 「これが笑わずにいられるかよ!高性能なMCI搭載機を使って、SCI機を倒すのが精一杯ってか!? てんで、話にならねぇじゃねーか!八坂はよぉ!!今年の地区大会は俺達、宋銭高校の勝ちだな!!」 成る程、違法ギアでは無く、ただの頭が不自由な他校生らしい。 「今日初めてギアに乗った奴にボロ負けてしておいて、何を言っているんだ? 負け惜しみにすらなっていないし、そもそも、俺は部員じゃない。」 違法ギアじゃ無かったと言う安堵と、目の前のモヒカン男の馬鹿らしさのせいで思わず溜息が出る。 だが、モヒカン男にとっては溜息どころじゃない。見る見るうちにか男が真っ青になっていく。 「ぶ、部員じゃないだと…?」 「その通り!!彼はスポーツギア部見学中の一般生徒だ!!」 いつから居たのか、加賀谷が戻って来ていた。寧ろ、最初から登場するタイミングを伺っていた。 漸く回って来た出番だ。加賀谷は更に言葉を続ける。 「お前達、宋銭高校スポーツギア部の永久活動停止にお前の退学。 これでも、まだ足りんくらいだ。ギア乗りが一般人に手を出したのだからな…懲役5年くらいは覚悟するのだな!!」 と言っても、加賀屋は大きな問題にするつもりは無い。ただでさえ近場にギア部のある高校が限られているのに 対人戦の経験を積む機会を潰すような事は出来ない。宋銭に借りを作る事が出来た上に守屋の素質も見極められた。 統合歴329年5月26日 守屋一刀は朝から憂鬱だった。まだ部外者だというのにギアに乗って戦闘。その上、他校のギアを工場送りになってしまった。 確かに悪いのは向こうだ。しかし、スポーツギアは非常に高価なスポーツ用品だ。 恐らく、全くのお咎め無しというわけにもいかないだろう。また一週間か二週間くらいの停学処分を受けるのでは… そんな守屋の悩みなど霧坂にとっては知った事では無いわけで、守屋の机の上に入部届を景気良く叩きつけた。 「ねえ、昨日の戦闘を見て思ったんだけど、正式に入部する気…無いかな?」 やたらと厚かましい態度で入部届けを叩き付けた癖に、なんで誘い文句の時はそんなにしおらしいんだよ。 思わず心の中で霧坂に突っ込みを入れた。口で言っても、ロクな回答を貰える筈が無い。 「ツンデレと同じよ。男らしさと女らしさのギャップ。どーよ?萌えた?」 「悪い。本当に意味が分からないし、分かりたくも無い。そして、人の心を読むな。気味が悪い。」 「心を読むも何も守屋君って単純だからねぇ…色々と分かり易いんだよね。」 霧坂はそう言って、ケタケタと笑い出した。 単純に輪をかけたような奴に単純と言われた上に笑われてしまった。しかも、正解なのが非常にムカつく。 「もう一個、守屋君の考えている事当ててあげよっか?」 どうせ、愚にも付かないような事しか言わないだろ。 「昨日の事件、お互いにとって都合が悪いから大人の事情により揉み消されました。 よって、守屋君にペナルティは一切ありません。これで少しは安心した?」 「はっ!?」 「へっへー!またまた大正解。気味が悪いとか思わず褒めて褒めてー!」 どれもこれも大正解。気味が悪いのを通り越して閉口し入部届けにサインを書いて、霧坂に渡す事しか出来なかった。 「ほら、これで良いんだろ?」 霧坂は入部届けを受け取り、満面の笑みを浮かべた。 「うん。大変、よく出来ました。これが今、一番欲しかった物。女の子の欲しい物が分かる男はモテるよ。 勿論、分かった上で行動してくれたらの話だけどね?ま、その点、守屋君は合格かな。」 人の机に叩きつける程、ねだっておいて何を言うか。 ま、別に良いか。やれやれと肩を竦めて、霧坂の笑顔に負けないくらいの笑顔で言ってやった。 「改めて宜しくな。霧坂。」 すると霧坂は恐ろしい程の邪悪な笑顔で返事をした。 「こちらこそ。で、この封筒の中に婚姻届が入っているから一筆頂ければ 不束者ですが、宜しくお願い致します。って事になるんだけど、如何する?」 ああ、そうだった。霧坂を相手に真面目にやっても馬鹿を見るだけだって事をすっかり忘れていた。 コイツは…コレはそーゆーモノなんだと自分に言い聞かせて接するくらいで丁度良い。 これから卒業まで、こんなテンションでこんな変わり者とやっていかなきゃならない。 そう思うと、実に辟易した。眩暈もする。ついでに頭痛もする。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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各ルール詳細 対戦プレイWarzone Submission Wingman Execution Gurdian ANNEX KING of the HILL 協力プレイHORDE 対戦プレイ 2012/3/10現在、パブリックの単独検索でマッチを狙うのは不可能。 フレンドを誘うか、ステンバーイ等でパーティーを組む必要がある。 人数のカウントはゴールドアカウントのみ。2コントローラーを使用しての1人2役は不可。 チーム人数ごとにパーティーを組む必要がある。5 vs 5 ならば、10人パーティーではなく、5人パーティーを2組。Wingmanは2人パーティーを5組。 Warzone 5 vs 5 のチーム戦。相手チームを全滅させれば勝利。 Submission Gears版キャプチャーザフラッグ(CTF:旗取り合戦) 5 vs 5 のチーム戦 旗の代わりにショットガンを持った難民キャラクターがうろついている 難民を攻撃し、ダウンさせてから人質に取り、チームの陣地までつれていかなければならない。 人質にされている難民を攻撃することで解放できるが、難民はだれかれ構わず周りのキャラを攻撃し始める。 Gears of War 2 - Submission - Jacinto - Xbox Live Gameplay Part 1-2 別ウィンドで高画質表示 別ウィンドで高画質表示 Wingman 2 vs 2 vs 2 vs 2 vs 2 のツーマンセル形式で戦う新モード。 チームのキャラは同キャラとなる。つまりMarcusを選んだのなら二人ともMarcusになる。 リスポーン無し ダウンにはExecutionルールが適用される 1キルにつき1ポイントを獲得。最初に15ポイントを獲得したチームが勝利する。 別ウィンドで高画質表示 Execution 5 vs 5 のチーム戦。相手チームを全滅させれば勝利。 ダウンした敵を殺すには各種「処刑」もしくは「処刑」が出来る間合いでの銃撃で倒す必要がある。 ヘッドショットや身体がバラバラになる攻撃ならばダウン状態が発生しないので殺すことが可能。 3回ダウンしてしまうともう復活できない(3回目ダウンで死亡)。 ダウン中の相手ならハンドガンで遠距離からヘッドショット可能。 Gurdian GoW1での Assassination の改良版。 5 vs 5 のチーム戦 前作ではリーダーが死んだ時点で終了だったが、今回はリーダーが生存している限り他のチームメンバーはリスポーンが可能となっている。 リーダーが死んだ後は先にチームを全滅させたほうが勝利する。 リーダーのキルに関してはExecutionルールが適用される。 ANNEX Gears版陣取り合戦 5 vs 5 のチーム戦 占拠する場所がサークルで示され左上のアイコンで確認できる。場所は武器が設置される場所のどれかになる。 サークルに自チームのみで入り一定時間居続ければ占拠となる。 占拠に要する時間はサークルに居る人数で変化する。多ければ多いほど速く占拠可能。 占拠したサークルからは一秒間に1ポイントずつチームに点数が流入する。各サークルには60ポイント割り振られている。 サークルから全てのポイントが流出すると次の占拠サークルが示される。 占拠されたサークルを取り返すには、サークル内に突入すればよい。これで中立状態のサークルになる。もちろん敵を除外しなければ占拠し返すことは出来ない。 規定のポイントに先に到達したチームの勝利。 1/21のアップデートによってダウン状態にはExecutionルールが適用される(近距離攻撃や処刑を行わないとトドメを刺せない)。 KING of the HILL Annex同様の陣取り合戦 Annexと違いチームメンバーの誰かがサークルに居ないとポイントが入らない ダウン状態にはExecutionルールが適用される(近距離攻撃や処刑を行わないとトドメを刺せない)。 自チームがサークル占拠中はリスポーンできない 別ウィンドで高画質表示 ↑サークル占拠中はリスポーン不可を示す好例の動画。敵が弱すぎて全然シーソーゲームが起きてませんが・・・^^; 別ウィンドで高画質表示 ↑5 20~注目 遮蔽物が無いサークルを守るためには協力が不可欠 協力プレイ HORDE 全てのマルチプレイ・マップでプレイ可能な新協力プレイ・モード。 最大5人のプレイヤーが徐々に手強くなるローカストの波状攻撃をしのぎきる事がこのモードの目標。 最終目標は、Wave 50 まで到達すること。 どのマッチ・タイプ(パブリック、プライベート、システム・リンク、ローカル)でも、一度Waveが解除されれば、いつでもそのWaveから再開することが可能。 パブリック・ゲームは常に Wave 1 からのスタートになる。 Hordeの目標は、ハイ・スコアを獲得する事。次のステージに進む事が目的のアーケード・ゲームのようなもので、プレーヤーたちがチームとして協力し合い、スコアは常にチーム全体のものとなる。チームの成功は(そして失敗も)チームのものとなる。最低でも1人は最後の波状攻撃が終わるまで生き残っている必要があり、その時点で、途中で死んだプレーヤーは次のステージ開始と同時に生き返る事になる。 マップごとに個別のリーダーボードが存在し、ハイ・スコアはHorde全体ではなくマップ別となる。 プライベート・ゲームでは、CasualからInsaneまでの難易度を選択可能で、パブリック・ゲームでは常にNormalに設定されている。 どの対戦マップでも行うことが出来る。 ダウンした仲間を生き返らせる事が出来る回数は、難易度に依存。 死んだプレーヤーは、まだ生き残っている仲間と会話する事が可能なので、敵が来る方向などを教える事が出来る。 先へ進むにつれ、Locustがドンドン強くなっていく。Hordeは50の波状攻撃で構成され、10X5セットに分割されている。10の波状攻撃が終わるたび、Hordeが強くなっていく。11-20まではヘルスが倍になり、21-30までは射撃の正確性が倍。最後の41-50になると、ヘルス、正確性、ダメージが2.5倍になる。 画面左上には現在のスコアと残りの敵の数がバーで表示される。 HORDEのみBOTが使えない。 武器はCycleする。しかし、Waveごとに決まっているわけではない。例えばロングショット→トルクの場合、Wave1からはじめるとWave2ではトルクだが、Wave2からはじめた場合、トルクではなくロングショットになる。 ラウンドでリセットされる要素 戦闘中に落ちた武器は一部除きかなり長い時間そこに残る 新しいwave(敵襲前の準備時間)開始して数秒で全部掃除される。床に差した盾はお掃除の対象となる。(ただし、ラウンド開始直後に床に差したものは掃除されない。) HORDEにおける各ローカストの点数は以下の通り 70/Wretch, Ticker 105/Drone 140/Bolter, Cyclops 175/Grenadier, Grenadier Elite(Beast Rider) 210/Sniper, Butcher, Sire 245/Grenadier Elite, Flamer 280/Theron 315/Boomer 420/Flame Boomer, Kantas 490/Mauler 525/Grinder, Bloodmount
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統合歴329年7月2日 八坂高校襲撃事件から一月が経ち、空き家になっていたMCI搭載機専用格納庫に 漸く、住人であるMCI搭載スポーツギア、アイリス・ジョーカーが定位置に仁王立ちしていた。 そして、鋼鉄の巨人の相棒を自称するアイリス・ジョーカーの専属パイロットである守屋一刀は 格納庫の地下にあるシミュレーターの中で上下左右に揺さぶられ、平衡感覚を失いかけていた。 「霧坂が男だったら間違いなく殴り飛ばしているな。」 理事長がほんの気紛れで作ったカタパルト射出用訓練プログラムで遊んでいたのだが 然るべき手順を踏めば、全く危険性の無い物だという事はよく分かった。そこまではまだ良い。 霧坂茜華のある一言が切欠で即席で用意したシミュレーションステージに挑戦したのだが、結果はこの様だ。 とは言え、一度はぶっつけ本番で成功しているのだから、このまま引き下がるのも癪に障る。 再び、建物に向かってバズーカを構えているギアを目掛けて、アイリス・ジョーカーを砲弾よろしく撃ち出す。 そう。八坂高校襲撃事件当時の再現である。大会の成績が良くなる事は全く無いだろうが、ギアによる襲撃事件が発生した場合 出鱈目な先制攻撃により大きなアドバンテージを得る事が出来る。何よりもカッコイイとは霧坂の弁。 二度も三度も、あんな事が起こってたまるかと思ったが、折角だからやってみようと思ったのが運の尽きだ。 成功率僅か2%という散々たる結果で、ただ失敗するだけならば兎も角、学校を巻き込んだり、機体をバラバラされたりと 死に直面するどころか、自分が新手の災いの種になるなどと目も当てられない失敗が続く。 今更ながら目隠しで綱渡りをしていた事を思い知り辟易するのでった。 「本当にあの時、上手くいって良かったな…一歩間違えれば文字通り大惨事じゃないか。」 「大丈夫!大丈夫!成功率が0%でも守屋君はヒーロー体質だから、ここ一番で上手くいくように出来ているんだよ!」 霧坂の大丈夫!は大抵、守屋にとって大丈夫だった例が無い。 結果的には大丈夫なのだが、認めてしまったら何かに負けた気がしてならない。 とは言え、そう辟易する事も無い。今日は待ちに待った他校との練習試合なのだから。 そして、遂に初のMCI搭載機同士の戦いである。ともなれば嫌でも気分が盛り上がるに決まっている。 「それで、練習試合って何処の高校が相手なんだ?」 「宋銭高校。ほら、5月に乱入して来た違法ギアもどきの。」 嫌でも盛り上がっていた気分が一気に盛り下がった。確実に一波乱ある気がしてならない。 「近隣で守屋君の相手を出来そうなMCIギアの選手って宋銭くらいしか居ないんだって」 自分より強い相手が宋銭にしか居ない。喜び半分、不満半分といったところだろうか。 元々の素質のお陰か守屋のレベルは留まる事を知らず右肩上がりで急上昇中だ。 とは言え、所詮はギア歴二ヶ月のド素人だ。自分が最弱だとしても当然だと思う。 それに自分より強い相手を目標に練習をする方が、見えない敵と戦うよりも上達が早い。 自分より強い相手と如何にして戦い、これを攻略するか考えるだけで武者震いするというものだ。 しかし、近隣で自分より強い相手が一校しか無いとは…これでは、戦い甲斐が無い。 「守屋。アイリス・ジョーカーの換装作業が完了したぞ。移動中に微調整を済ませておくようにな。」 各部員がシミュレーター訓練を行っている中、部長である加賀谷望は各ギアのハードウェア変更の指揮を執っていた。 例えばアイリス・ジョーカーの場合、襲撃事件の際に破壊されたナックルシールドをより厚みのある物に変更し 肘の部分には直径の大きなニードルを、拳の部分には4本のスパイクを内田燐の提案によって装備されている。 右腕には折畳式のブレード内臓シールド、脚部には緩衝材の追加ユニットを装備し より破壊力の高い脚技や跳躍の連続使用を可能にした。 機体の重量は跳ね上がるが、アイリス・ジョーカーの出力自体が高くそれ程のハンデになるわけでも無く 攻撃力、防御力、継戦能力の向上と事実上のパワーアップだ。そして、初のMCIギア戦だというのにも関わらず 対戦相手が以前の乱入騒動を巻き起こした生徒が通う学校という事知ってか守屋の表情は精彩に欠ける。 「仕方の無い奴だ…今回の対戦相手は紅眼だぞ?それでも、まだ不満か?」 紅眼…統合歴200年代の戦時中に突如として出現した戦闘能力に特化した異能力者である。 普段は薄紅色の瞳をしているのだが、ある条件下で瞳が燃え盛る炎のような真紅に染まる事から紅眼と呼ばれるようになった。 統合歴329年現在、地球から戦争が根絶されて50年余。 未だに紅眼を持つ子供が産まれているが、既に異能の力は消え失せており飾り以上の意味は成していない。 他人からすれば恰好良く見えるか、ただ不気味で気持ちが悪いだけのどちらか程度だ。 とは言え、先天的に高い身体能力と素質を持つ者が多く ギアに限らず様々なスポーツで常人離れした活躍を見せる選手も少なくない。 「更に去年の州大会では初出場にも関わらず、フリースタイルで準優勝。 当然、オールスターチームの一員として全国大会にも出場している。」 オールスターチームの枠は一つの州に十人までが選ばれる。 要するに、これから守屋が戦う相手は八坂州で十指に入る程の猛者で 単純な実力だけならば加賀谷にも勝るとも劣らない相手だという事だ。 「それは凄い…今の俺には如何足掻いても勝ち目はありませんね。」 口では、そう言うものの先程とは打って変わって目を爛々と輝かせ実に楽しげな表情をしている。 不貞腐れている場合では無い。自分より少しばかり強い程度の相手が一人しかいないと思いきや 自分が逆立ちしても勝てない程の相手をぶつけて来るとは。 勝つにせよ、負けるにせよ得る物は非常に大きい。 それは父親である守屋剣、部長の加賀谷望と戦った結果が実証している。 尤も、ただで負けてやるつもりは無い。八坂州で十指に入る程のMCI乗りが相手なのだ。 技術を徹底的に盗み自分の糧とし、大幅なレベルアップに繋げ場合によっては勝利する。 加賀谷はむらっ気の激しい奴だと呆れながら、愛機の作業に取り掛かる。 「守屋のデビュー戦の相手に全国クラスはやりすぎやしないか?」 加賀谷がスカーレットのコクピットハッチを閉じると、それを待っていたかのように 三笠の専属ギア、クランから通信が入る。咎めるような物言いだが口調自体は随分と楽しげだ。 「手頃な相手が居ないからな。全国クラスに頼らざるを得まい?」 キャリアは僅か二ヶ月、実機の搭乗回数僅か二回。更にMCI同士の交戦回数は無し。 今更、改めるまでも無いが明らかにド素人なのは言うまでも無い。 だが、周辺の学校で守屋の相手を満足にこなせる選手がどれだけ居るのだろうか? 加賀谷自身、これは流石にやり過ぎでは無いだろうかと考えもした。 しかし、守屋もまた紅眼に勝るとも劣らない才覚の持ち主でもある。 特に戦闘中における上達速度は異常と言っても良い。 実力差のある相手と戦わせると、特にその傾向が強く現れる。 だからこそだ。全国クラスの実力を持つ紅眼…矢神玲(ヤガミ レイ)と一戦交えさせる。 加賀谷の目算では今回の練習試合を通じて、守屋のギア戦闘能力の下地が完成する。 (今日は7月2日か…ギリギリだが、守屋のレベルアップ。何とか間に合ったな…) 八坂高校対、宋銭高校の練習試合。初戦はMCI搭載機による個人戦で口火を切った。 (目が紅なら、機体も紅ってか?洒落が効き過ぎているんじゃないのか?) 守屋のアイリス・ジョーカーと向かう合う宋銭高校の紅いギアを見て肩を竦める。 リッチフィルド重工製MCI搭載スポーツギア、リヴァーツ。 アイリスのような仕様変更機や再開発機とは異なり、MCI搭載機である事を前提として開発されたギアである。 瞬発力、出力に優れ剣戟戦闘に特化しているなどのよくある特徴を持つが 最大の特徴は胴体部分の間接パーツが通常のスポーツギアの二倍もある事だろう。 MCI搭載機は搭乗者の動きをトレースし、機体の動作に反映させる仕組みだが 人間の各間接の稼動部分と稼動範囲は、ギアの各パーツの稼動部分と稼動範囲は全く異なる。 ギアの稼動部分、稼動範囲は人間のそれと比べると恐ろしく少なく狭い。 だから、厳密には人間の動きをトレースし、ギアに出来る動きは正確に再現するが 出来ない動きの場合は、それらしい動き、似たような動きをするだけに留まっている。 以前に守屋がシミュレーターで加賀谷と戦った時の事を例にすると 守屋自身は一発一発が一撃必殺の威力と、目にも止まらぬ早さを持つ連撃を放ったが ただの一発すら加賀谷に当てる事が出来なかった。 生身で打てば凶器と見紛う程の完成された拳だが、旧型のリヴァイド・ジョーカーに それを完全再現しろと要求したとしても、それは無理な相談という奴で 腕の力だけ、脚の力だけで打つ単調且つ、稚拙な打撃にしかならない。 最新型のアイリス・ジョーカーとて、幾らかマシになる程度でしか無い。 それが並程度の相手ならばいざ知らず、加賀屋のような全国クラスの実力者ともなると 失笑モノの攻撃にしかならず、目視してからでも容易に回避が出来たというわけだ。 しかし、リヴァーツは背骨や肩甲骨を再現し身体のバネを使った動作や攻撃が可能となっており 搭乗者が本当にやりたかった動作を従来のギアとは一線を画す程の高いレベルで再現出来るのだ。 だが、その代償として、機体その物の堅牢さは極めて低く、メンテナンス性も非常に劣悪で まだまだ試作段階の域を超える事の出来ず、長短のハッキリと分かれる未完成のギアでもある。 とは言え、難敵であるという事は覆しようの無い事実だ。 それに、これ等の特徴や其々のギアの長短など守屋が知る由も無く、腰に携えられた大刀に目を奪われていた。 大刀は身幅広く、重ねも厚く、刃肉は豊かに付き、切っ先は長く伸び、反りも深い。 所謂、斬馬刀という奴である。何の意匠も施されていない、観賞価値の低い大刀に見えるが… (紅の装甲に無骨な白刃…正に威風堂々って奴だな…) 「以前は深くを取ったが、今回は対等!いや、俺の方が断然上だ! 今度はお前が地べたを這い蹲る番だ!覚悟しやがれ!!」 ほんの一瞬前まで恐ろしく巨大で強大に見えたリヴァーツが急に馬鹿っぽく見えるのだから、不思議なものだ。 「お前…以前に八坂に乱入して来た奴だな?矢神って選手は如何した?」 リヴァーツから通信を送ってきた対戦相手は以前、八坂高校に乱入した犯人であった。 顔は覚えていないし、名前も知らないが、その世紀末なモヒカンヘッドは記憶に残っている。 そして、守屋は間違いなくこの男は矢神玲である筈が無いと確信を持っていた。 何せ守屋が初めてギアに乗って戦った相手でただの一撃の蹴りで沈むような雑魚だ。 あの程度の実力で八坂州十指に数えられるなどとあってはならない事だ。 「矢神ィ?矢神がお前みてーな雑魚を相手にするとでも思ってんのか?相手にしてらんねーってよぉ!」 「古坂の野郎…何をある事、無い事吹き込んでいやがる…ッ!」 守屋の確信は当たっている。古坂正樹(コサカ マサキ)世紀末の香りがするモヒカンヘッドの正式名称である。 そして、管制塔から古坂の罵倒に憤慨するこの男こそが、紅眼の矢神玲その人であった。 本来ならば八坂高校の要望に従い、この矢神が守屋の対戦相手を勤める筈だったのだが 古坂は守屋がアイリス・ジョーカーの専属パイロットと知ると対戦を強く希望したのだ。 不真面目で単純で短絡でトラブルメーカー。所謂、馬鹿の古坂が熱意を持つのは珍しい。 守屋の実力を知らない宋銭高校のギア部員達は、だったら古坂に任せてみようかと思い至ったのである。 実力は中途半端でどうしようもないがMCIギア、SCIギアの何れもこなす事が出来る貴重な人材だ。 今回の対戦を機に真面目に部活に取り組んでくれるのならば、それも良しと思っていたのだが… 「ど、どうしよう。矢神!古坂のせいで宋銭ギア部の印象が…」 「ま…こうなってしまった以上は仕方がありませんよ。 前も笑って許してくれた事だし、今回もそれに期待しましょうや。」 ただ三年生というだけの理由で大した実力も無ければ、周囲を引っ張る力も無い。 名前もよく覚えていない部長がオロオロしているが、いつもの事だ。放っておけば良い。 (守屋一刀とか言ったっけか?確か、あの守屋剣の一人息子なんだよな… だったら、古坂如きに負けるって事は無いだろうが…) 矢神からすれば、古坂の実力など何をやらせても中途半端にこなせる程度の器用貧乏でしか無い。 真面目に鍛錬を積めば高レベルのオールラウンダーとして活躍の場を選ばないエースになれるのだろうが 見ての通りの性格だ。まともに練習をする筈も無く、守屋に一撃で撃破された時から実力の向上は全くと言って良い程無い。 確かに前回の戦闘に比べたら、機体の性能差は殆ど無いと言っても良いだろう。 だが、守屋の実力は二ヶ月前と比較するのも馬鹿らしくなる程、跳ね上がっている。 「やれやれ…矢神サンとやれるのを期待していたってのに、とんだ茶番だな。」 「なんだ?八坂のMCIは俺との対戦がお望みだったのか…ワリィ事をしてしまったな…」 あからさまにやる気の無い守屋のぼやきに矢神は頭を掻きながら苦笑した。 しかし、守屋の嘆きも尤もだった。八坂州でも十本の指に数えられ、加賀谷に匹敵する程の実力を持つ相手。 そして、まだ見ぬ未知のMCI戦。嫌でも血は滾り、闘志は燃え盛る。にも関わらず、蓋を開けてみれば、このザマである。 ギアの性能差が埋まった程度で本気で勝ちを確信するような愚鈍な男を相手に戦って何を得ようと言うのだろうか? 「さっさと来い。お前を叩き潰して、帰って不貞寝だ。」 守屋は如何でも良い事のように言い放ち、適当に拳を構える。重心も適当。要するに投げやりになっている。 「ええい…守屋め。俺達は喧嘩をしに来たんじゃないんだぞ…」 見るからにやる気の無い守屋の姿と、暴言に加賀谷は、ぼやき嘆いた。 確かに気持ちは良く分かる。この事態は加賀谷の描いた未来には存在しない出来事だ。 あの程度の相手では守屋にとって何の益にもならず態々、宋銭高校に連れて来た意味が無くなる。 敵陣のど真中では口を大にして言う事は出来ないが宋銭高校など実質、矢神玲の功績だけで成り立つ砂上の楼閣に過ぎない。 SCIギアの団体戦に至っては得る物など精々、霧坂に実機での試合経験を積ませる事が出来る程度だろう。 とは言え、これ以上、時間を無駄にするわけにもいかない。霧坂に自分の愛機であるスカーレットを任せ 内田にチームの指揮を命じ、三笠には試合中は一切、口出しをしないように言い含め事の成り行きを見守る事にした。 試合開始の合図と同時にリヴァーツが跳躍。大きく踏み込み大刀の斬撃を浴びせようとしてくるが踏み込みが浅い。 脚部から気化した緩衝材が噴出しすらしない。リヴァーツの性能を全く引き出せていないのが守屋の目で見てもよく分かった。 そして、加賀谷に鍛えられ、それなりに対人戦を経験した今だからこそ分かる。 (コイツ…下手だな。) 今までに戦って来た相手の中で一番弱いと言っても差し支え無い。 大刀を野球のバットのように両手を引っ付けて持ち、手首には全く力が入っておらず斬撃の軌道も歪みきっている。 一撃必殺の剛撃を、何発も叩き込めるだけの性能を持つのにも関わらず繰り出される斬撃は稚拙その物だ。 剣戟戦闘特化型の超高性能ギアでも搭乗者がこれでは何の意味も無い。 攻撃が当たらない事に業を煮やした古坂が何か喚いているが、知った事じゃない。 続けるのも馬鹿馬鹿しいと右腕のシールドから擦過音を立てながらブレードを引き伸ばす。 ちょっとしたギミックなのだが、意外とカッコイイなと守屋の顔が綻び少しばかり機嫌が直る。 斬撃と言うにはおこがましい攻撃を半身引いて避け、ブレードを一閃。 鮮やかな弧を描き、ブレードをシールドの中に収め溜息一つ。 ただの一撃で首を刎ね飛ばされ地に屈するリヴァーツの姿を見れば溜息の一つも吐きたくなる。 こんな攻撃、八坂のレギュラー陣どころか霧坂にすら通用しない。 得る物などある筈が無く、シールド内臓ブレードのギミックと切れ味が気に入った程度の感想しか無い。 次のSCI機の団体戦の為に機体を下げようと踵を返すと視界の隅にリヴァーツが システムを再起動し立ち上がろうとする姿が一瞬目に映るが最早、何の興味も無い相手だ。 「やっぱり、中身がアレじゃあね…」 MCIギアの観戦が好きな霧坂にとっても下らない戦いだと感じた。 粗雑な攻撃に適当な回避運動。投げやりな攻撃。これで一体、何を楽しめと言うのか。 八坂高校の生徒だけに限らず、矢神も古坂に対して何の感情を持ち合わせていない。 ただボンヤリとアイリス・ジョーカーを眺め、何故、八坂が自分との対戦を希望していたのかを理解する。 (素人にしちゃ動きが良すぎる。アレだけの才覚があるなら俺が選ばれるのも道理ってわけだ。) ただでさえ、八坂には借りがあるというのに古坂如きをぶつけてしまったのは不義理にも程がある。 頭部以外は無傷その物だ。SCIの団体戦中に急ピッチで修理させて、守屋と対戦すべきか。 宋銭高校のギアスタジアムで様々な思惑が錯綜し、誰もが思考の中から古坂の存在を追い出していた。 そもそも、思考の中に古坂を存在させる理由など何一つして無いのだから当然だ。 だからそこだ。再起動したリヴァーツの腕にスポーツギアの試合では使われる筈の無い物が 競技に使うのはご法度とされる重火器がアイリス・ジョーカーのコクピットを狙っている事を 何度も何度も、銃声が空に鳴り響くまで、狙われた当の本人でさえ気付かなかった。 「ハーッハッハッハッハッハ!!悪い!悪い!ついつい、手が滑ってしまってなァ!!」 コクピットブロックに何発も大口径の弾丸を撃ち込まれ、アイリス・ジョーカーはその場で崩れ落ちた。 「古坂ァッ!!!」 「ど、どうしよう!?」 古坂の凶行に流石の矢神も瞳を真紅に染め上げ激昂する。 我が愛機で醜態を晒し、更に醜態で重ね塗りする気かと。 狼狽する部長を捨て置き、作業用に控えさせていた、ナイト・ジョーカーを起動させる。 アイリス・ジョーカーの胸部装甲から白煙が立ち上るが、絶対安全を謳うだけの事はある。 実際にはコクピットを激しく揺さぶられ一瞬だけ、気を持っていかれただけに過ぎない。 (霧坂のやる事が俺の役に立ったのって始めてなんじゃないのか?) カタパルト射出訓練で何度も失敗したせいで衝撃耐性が付いたのだろうか。 毎日のように激しく揺さぶられているのだから、当然と言えば当然なのだが… 何はともあれ、この借りは今すぐ返さなくてはなるまい。 複雑な気分で霧坂に感謝しつつ、アイリス・ジョーカーを立ち上げ、リヴァーツを睥睨する。 「コ、コクピットに直撃させた筈だぞ!?」 胸部装甲を歪に歪ませ、白煙を吹くアイリス・ジョーカーを見て古坂は狼狽する。 競技用では無く戦闘用と判断を下され、スポーツギア界から追放されたリニアガンの直撃を何発も受けたのに何故立てるのだと。 現にアイリス・ジョーカーの胸部装甲は既に装甲としての体を成していない。 昏倒して当然の損傷だ。いや、昏倒していなければおかしいのだ。なのに何故、当たり前にように立っている。 だが、古坂の狼狽など知った事じゃない。 「お前のお陰で目が覚めた。覚悟は良いな?」 リヴァーツの腕を掴み、足払いをかけ機体を浮かせ、アイリス・ジョーカーの背に乗せ掴んだ腕を地面に向けて引く。 背負い投げの要領で投げ飛ばされ、背中を激しく叩きつけられるが受身を取るだけの技量が古坂にある筈も無い。 全身でダメージを受け、人間で言う背骨に相当するパーツの半数が破砕され自立する事も出来ない。 「今度こそ動けないな?ならトドメだ。」 再び、シールドからブレードを伸ばし腕を振り上げ、コクピット目掛けて突き出そうとするが ナイト・ジョーカーの腕が絡み付き腕の関節部分を固定され、攻撃を阻止される。 「そこまでだ。俺の出番を奪うのも、古坂を殺すのも一向に構わんのだが 愛機だけは勘弁してやってもらえんかね?見た目と違って繊細な機体なんだよ。」 リヴァーツを愛機と呼び、性能差の著しいギアで守屋に接近を気付かせずに攻撃を阻止したパイロット。 加賀谷望以外で、そんな芸当をやってのけるパイロットなど守屋は一人しか知らない。 「アンタが矢神玲サンか?」 「ああ。取り合えず、剣を収めてもらえると助かるんだがな? これ以上やられると、お前との対戦が出来なくなりかねないからな。」 最後まで聞く必要も無い。矢神と戦えなくなるのは困る。 それに性能差のあるナイト・ジョーカーでもこの様だ。 ならば、本来の乗機であるリヴァーツに乗ったら如何なるのか? これが全国クラスの実力なのかと嫌でも思い知らされる。 (逆立ちしても勝てないと理解していたつもりだったんだがな…) 勝つ為の糸口が全く見えて来ないのだ。まるで加賀谷と対峙しているような気分になる。 だが、勝ち目が全く見えないからこそ、挑み撃破したいという欲求が沸き立つというものだ。 ブレードをシールドの中に収納し、リヴァーツから視線を外し、矢神もアイリス・ジョーカーに絡ませていた腕を外す。 「よし。良い子だ。部長、こっちは片付いた。古坂をリヴァーツから引っ張り出してくれ。 これから古坂を半殺しにするが、お前も混ざるか?」 最早、古坂如きに興味は無い。其方で好きにしてくれと肩を竦めた。 これ以上、奴に振り回されるのはゴメンだ。 統合歴329年7月3日 個人戦、団体戦共に八坂の勝利で練習試合は締め括られたものの後味の悪い結果になってしまった。 「宋銭高校が侘びを入れに来てな。守屋と対戦した奴はギア部を退部になったそうだ。」 「でもって、無期停学なんだってさ。」 加賀谷の後に霧坂が続けて口を開く。当然と言えば当然の処分だと感じた。 だが、処分が遅すぎる。もっと早くに始末しておいてくれれば、お互いに嫌な思いをせずに済んだろうに。 「勿論、守屋の匙加減一つで協会に訴える事も出来るがどうする?」 戦闘用兵装の使用禁止、兵役3年以上の操縦兵の参加禁止、コクピット部へ故意の攻撃禁止 法規定を越える損傷を負ったギアの使用禁止、認定整備師より認可の無いギアの使用禁止 悪質な禁止行為があった場合、出身教育機関、出身企業から 3年間の大会出場禁止措置、本人には3年間の活動禁止処分を下される。 まだ矢神玲と一度も戦っていないというのに、そんな事態になってもらっても困る。 第一、守屋は宋銭高校が憎いのでは無く、古坂正樹が鬱陶しいと思っているだけだ。 今後も此処一番という所で邪魔をされてはたまったものでは無いが、奴が消えたのならば何の憂いも無い。 ただでさえ校内の人間との溝が深いというのに、校外の人間とも溝を深くするような真似はしたくない。 「何と言うか…拍子抜けするな。骨の一本や二本は覚悟してたんだけどな。」 他校の制服を来た男子生徒が口を開く。青みがかった黒髪に薄紅色の瞳。 昨日の今日で八坂高校を訪れる紅眼なんて一人しか居ない。 「何故、矢神サンが八坂に?」 「本来なら古坂を侘びを入れさせるのが筋なんだがな。今、外に出られる状態じゃなくってな。」 これから古坂を半殺しにするが、お前も混ざるか? 先日、ギア越しに声をかけられた事を思い出した。 文字通り再起不能にされたのだろう。自業自得だ。馬鹿者め。 「それにだ。俺の代わりに古坂を出す事を承諾した俺にも責任が無いわけじゃないからな。ブン殴られに来たってわけさ。」 態々、律儀な相手だと苦笑する。 「だったら、直接殴り合うよりもアレの相手をしてくれた方が俺としては嬉しいんだけどな?」 守屋が指を差した先にはギアシミュレーターが並んでいる。 「ウチのルーキーは練習相手が居ないせいで伸び悩んでいる。MCI乗りの選手に手伝ってもらえると非常に助かる。」 加賀谷はしれっとした表情をしているが、暗に今すぐ守屋と戦えと言っている。 尤も、矢神自身も守屋に対して興味がある。 「侘びを入れると思って、トコトン付き合ってやるか!」 練習相手に不足しているのは、こちらも同じだからな。と心の中で付け加える。 優れた身体能力と素質を誇る二人だったが、両者には大きな違いがある。 守屋はSCIの選手とは言え、中堅から全国クラスの選手と日常的に練習が出来る。 だが、矢神はそうでは無い。先天的な素質だけならば守屋よりも上だろうが、その素質を磨く場が無い。 練習試合や大会で運良く実力者と出会えた時こそが、矢神にとって限られた練習時間になる。 もしも、守屋が矢神の練習相手に値する選手ならば、途轍もない強敵を生み出す事になりかねない。 加賀谷も、それは承知の上だ。寧ろ、それこそ加賀谷の望む事だ。 是まで幾度と無く、守屋の練習に付き合い。ただの一度も敗北する事無く守屋を退け続けているが 成長の著しい守屋を相手にMCIギアに併せて戦うのも、そろそろ厳しくなって来たところである。 SCI本来の動きで戦えば、守屋に後れを取る事無く卒業出来るだろうが、それでは守屋と戦う意味が無くなる。 矢張り、MCIギアの選手を鍛えるのであれば、MCIギアの選手をぶつけるのが正解だ。 そして、守屋は敵が強ければ強い程、喜び勇むような一歩違えれば変質的なマゾヒストになりかねないような男だ。 互いに競い合わせ延々と強くなれば良い。今でこそ敵味方に分かれているが、 全国大会になればこの男も味方になるのだから、強くなってもらうに越した事は無いのだ。 (問題は守屋が何処まで矢神に喰らいついていけるか…だな。) シミュレーターが広い荒野を構築し、二体の巨人を産み落とす。 守屋の駆るリヴァイド・ジョーカーに対するは、矢神の駆るナイト・ジョーカーである。 どちらも徒手空拳主体の標準仕様だが、リヴァイドの調整は完全に守屋に適合しているのに対し 矢神のナイト・ジョーカーは出荷時と同じ初期設定のままで、自動調整すらされていない。 加賀谷は両機のステータスを確認し、矢神が手加減をしている事を知る。 (これで互角…なれば良いが。) 性能差のあるアイリス・ジョーカーですら勝ち目の無い相手だ。この程度でも五分というには怪しい。 試合開始のサイレンがシミュレーターステージに鳴り響く。 遂に守屋にとって初のMCI機同士の戦いが始まった。 地を蹴り、地面を這うようにしてナイト・ジョーカーに肉迫する。 牽制ついでにスポーツギアの弱点である頭部目掛けて拳を振り上げ、矢神も負けじと頭部目掛けて拳を振り落とす。 鋼と鋼がぶつかり合う轟音が仮想世界に鳴り響く、互いの拳は左腕の拳に阻止され激しい衝撃を生み 其々のギアの肩部から白煙が噴出す。態々ご丁寧に再現された気化した衝撃緩和剤である。 ステータスパネルがダメージレポートを更新するが、衝撃緩和剤の消費量以外は無視出来る損傷だ。 気にせず、次の攻撃に移るが矢神機の蹴りの方が早く、低姿勢に構えていた守屋機は回避に転じる。 しかし、回避運動を行うのも、ほんの僅か。 回避運動を取りつつ姿勢を整え左腕でフェイントを織り交ぜながら一撃必殺の鋼拳を叩き込む。 「くくっ…流石はMCI搭載機。そんなのアリかよ。」 守屋機の拳は矢神機の掌で受け止められる。左腕から白煙から噴出すと同時に守屋も吹き出した。 確かにSCIでは、こんな芸当は出来ないだろう。厳密には可能だが使用出来るモーションパターンに限りがあるのに こんな曲芸じみたモーションパターンを組み込む奴など居やしない。 加賀谷と戦っている時に様々な手段で攻撃を無力化されて来たが、ギアで拳を受け止められたのは初めてだ。 守屋自身も、避ける、捌く、防ぐといった動きを取る事は多々あるが受け止めた事は無い。受け止めようと思った事すらない。 第一、こんなに容易く出来るものなのか?容易く受け止められて良いものなのか?そう思うと不思議と笑えてきた。 「はっ…それで笑う奴も如何かと思うがな?」 マニピュレーターにかなり大きなダメージを受ける上に衝撃緩和剤の消耗も激しい。 だから、こんな防ぎ方をする奴は居ない。居るとしたら、ただの馬鹿者だ。 こんな事やらない。やる筈が無い。やらなくて当然。殆どの選手の共通認識だ。 だが、実際に拳を受け止められた選手は如何思うか?大抵の場合、驚き慌てふためく。 そして、紅眼である矢神の前でそんな隙を見せたら如何なるか?一刀の下に叩き伏せられるだけだ。 弱い奴程、簡単に呆気に取られ大きな隙を見せる。 だが、守屋は如何だ?なんて馬鹿な真似をやってのけるんだと楽しそうに笑っている。 今、こうしている間にも守屋機の右腕は握り潰されようとしているのにも関わらずだ。 「確かに笑ってばかりもいられんか!」 掴まれた右の拳を更に突き入れ、機体が密着させる。 更に矢神機の腰を引き寄せ、膝蹴りを叩き込む 「お前はホモかッ!?」 ギア越しとは言え、野郎と抱き合うのは御免だと跳躍し守屋の抱擁から抜け出す。 ついでに掴んでいた右腕を捻じ切り、引き千切っていく。 「失礼な事を言うな!」 矢神のトンデモナイ言動と、珍しく声を荒げる守屋にギア部の面々は思わず苦笑する。 しかし、未調整の機体で手加減をされているとは言え、守屋も中々粘るなと加賀谷は関心する。 利き腕を持っていかれたのは痛いが、股関節に打撃を叩き込めたおかげで脚技と機動力を封じる事に成功した。 そして、衝撃緩和剤の使用量は守屋機よりも矢神機の方が圧倒的に上だ。現状では守屋の方が有利ではある。 守屋は再び距離を詰め脚部のトドメを刺すべく下段蹴りを叩き込む。 矢神は受けた蹴りの衝撃に逆らわず、機体を横に滑らせ、腕を守屋機の首に巻きつけ守屋機を軸に背後を取る。 「守屋。MCIギアってのは人間の動きをトレースしてくれるんだからよ。蹴る殴るだけじゃ勿体ないよな?」 全国クラスを相手にこの状況。最早、嫌な予感しかしない。 矢神機は守屋機の腰に腕を回し、後方に反り投げようとする。 「マ、マジかよッ!?」 狼狽する守屋、勝利を確信する矢神を余所に二人が意図しないタイミングで、ギアの装甲が破砕音を立てる。 「あ…」 矢神の口から間の抜けた声が漏れる。 甚大なダメージを負っていた股関節が限界を超え、ご臨終召されたのである。 矢神機のジャーマンスープレックスは不発に終わるどころか、守屋機の地面に挟まれ撃破扱いに。 「じ、自滅!?あ、阿呆かお前!!」 「いや、折角だからMCIの限界無き運動性能を見せてやろうと思ったんだがな? 機体の強度が足りなかったようだ。まあ、アレだ。お前が膝蹴りとかやるからいけないんだ。」 馬鹿だ。馬鹿がいる。古坂とはタイプが異なるが新手の馬鹿の御登場である。 「と言うわけで、コンティニューしても良いか?」 「あ…あ、当たり前だッ!!こんな勝ち方があってたまるかッ!!」 それからキリ良く十セットした所で下校時間を迎えた。 まともな勝ち方が出来なかったにせよ、矢神は守屋を気に入ったらしく練習相手になる事を快諾した。 矢神はMCIギアならではの多彩且つ、変則的な動きで守屋を翻弄する。 回数を重ねれば重ねる程、守屋はそれを吸収し自分の物にしていく。 後、数回も戦わせればシステムを調整せねば太刀打ち出来なくなるであろう。 加賀谷の思惑通り、たったの一日で全国クラスの選手との実力差を大きく埋める事に成功した。 実力差を大きく埋めたとは言え、まだまだ天と地の差ほどの開きがあるのも事実だが 今後は矢神からの協力を得る事も出来る。 (此処まで来たら、俺がアレコレと手を回す機会も減る…後は守屋次第か。) 霧坂と肩を並べて、あーでも無い、こーでも無いと言い合っている守屋の背中を見て 加賀谷は漸く、肩の荷が下りるのを感じていた。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前