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← ◆ ◆ ◆ 「弱いねェ~! ママママ! おれの肌に傷一つつけれねェナマクラじゃねェか!」 四皇ビッグ・マム。 チェンソーの悪魔を宿す少年デンジ。 此方の戦いはカイドウと無惨のそれとはとても比べられない程一方的だった。 地面に倒れるデンジの体は所々が曲がってはいけない方向に曲がり、脇腹から折れた骨が臓物混じりの血肉を載せて突き出している。 ごぼっと嗚咽すればバケツを引っくり返したような吐血が彼の異形頭から流れ落ちた。 ビッグ・マムは未だ傷一つ負ってはいない。 デンジのチェンソーはマムの打撃に合わせて切り込めば力負けし、その上彼女に血の一滴も流させることのできないまさにナマクラだった。 「…らいだーくん」 しおの声色も曇っている。 デンジは千鳥足もかくやの状態で立ち上がるが、それが無駄な抵抗でしかないのは誰の目にも明らかだった。 殺島は思わず片手で目を覆う。 見てられねぇなと小さな声が漏れて、彼はアイに横目で目線を送った。 その意味が何かをわざわざ克明に解説する必要はないだろう。 “痛っ…てえ……。このババア、本気(マジ)バケモンかよ……” デンジだって英霊の呼び名に恥じない戦いくらいはできる。 支配の悪魔を殺した時点での彼にはそれだけの実力はあった。 なのにこの通り、まるで敵わない。 防戦に徹することすらできない。 純粋な暴力としての強さであればそれこそ支配の悪魔…マキマをすら遥かに凌ぐだろうとデンジは確信した。 もしもデンジが特殊なサーヴァントでなかったなら、とっくに彼は消滅していただろう。 現に彼の霊核はこの時点でもうボロボロだった。 ヒビ割れて崩れて、原形を保っていないような有様だった。 「らいだーくん…!」 分かってるよ、クソ。 いちいち言ってくんじゃねえ。 言っとくけど今俺メチャクチャ体痛えんだからな。 後でたっぷり嫌味言ってやるから覚えてろクソガキ。 “なんて言ってはみたけどよ…” 全身の関節全てが錆びついたようにぎこちない。 骨が折れすぎて至るところに食い込んでいるからなのだろう。 憎らしいババアの不気味な笑顔を見上げながらデンジは心の中でぼやく。 “そもそも後先とかあんのかよこれ” ビッグ・マムがデンジに対してやったのは実に単純。 殴って、蹴って、剣(ナポレオン)で斬る。これだけだ。 サーヴァント同士の戦いの経験に悖るデンジでも分かる。 このババアはまだ、本気を出していない。 本気を出していない状態でこれなのだ。 なら本気を出してきたら、出させてしまったら自分はどうなるのか? その答えは考えるまでもなくすぐに明らかとなった。 「それじゃ…」 皇帝が手を掲げる。 そこに出現するのは小憎たらしい表情を浮かべた太陽だった。 惑星(ほし)を照らす炎の星、それを極限までデフォルメさせたホーミーズ。 四皇ビッグ・マムの魂を分け与えられた太陽の化身プロメテウス。 「お遊びは此処までな♪」 むんずとプロメテウスを掴むビッグ・マム。 そのまま彼女は地を蹴った。 上空に跳び上がってプロメテウスを離せばあろうことかそこを狙ってその剛拳を叩きつける。 それだけで空間が軋む程の衝撃が生まれるがそんなものはこれから起こることの序の口ですらない。 マムの拳を受けたプロメテウスが眩く感光して、燃え上がって…… 「――"天上の火(ヘブンリーフォイアー)"ァ~~~!!!」 …地表を焼き払う太陽熱の爆炎を降り注がせた! まさしくそれは天上の火、プロメテウスの名に相応しい御業。 彼と同じ名を持つ神が天から盗み出した珠玉の炎に他ならない。 「…後退(さが)れッ!」 殺島がその時アイやしお、そしてさとうの叔母に指示を出したのはほとんど咄嗟のことだった。 しかし彼が声をあげなくとも誰だってそうしていただろう。 それほどまでに空から堕ちてくるその火は致命的なものだった。 太陽の偉大さに日々照らされながら生きている人間であれば誰もが等しく畏怖する、それ程の凄まじさが確かにそこにはあったから。 あくまでもマムの攻撃の標的はデンジだ。 だから殺島やアイ、しおやさとうの叔母がその爆熱に巻き込まれることはなかった。 逆を言えばデンジだけはそれから逃げられない。 逃げるほど足は上手く動かせないし、逃げたら逃げたで追撃が飛んできていただろう。 「畜生が」 デンジはぺたりと地面にへたり込む。 そして夜空を見上げて吐き捨てるように言った。 空に浮かぶのは嘲笑うビッグ・マムと太陽のホーミーズ。 それから吐き出された炎の津波。 「人に損な役回りばっかり押し付けやがってよ~…」 しかして。 デンジが見ているのは笑う老婆でもそのしもべでもなく。 彼女達の更に上空(うえ)。 そこからやって来る、憎たらしい奴らの姿で。 「何考えてたんだか知らねぇけどよ――もっとちゃっちゃと来てくれねぇかなあ! クソジジイがよぉおおおお~~!」 その言葉を辞世の句にしてデンジは死んだ。 黒焦げの焼死体に早変わりした。 だがビッグ・マムはそれを確認する間もなく振り返ることを余儀なくされる。 夜空(そこ)からやって来る新たな敵があったから。 「てめえ」 ビッグ・マムの喜悦が消える。 そこに宿るのは満面の怒り。 自分を出し抜いた者に対して、出し抜かれた者が向ける当然の表情だった。 「てめえだなァ!? コソコソ嗅ぎ回ってやがった蜘蛛野郎は~~!!」 「いかにも」 一流の悪役ならば出遅れるような真似はすまい。 しかし超一流の悪役ならばあえて遅れてやってくる。 主役とはいつだって遅れてやってくるもの。 そして超一流の悪役もまたそうして遅れてやってくる。 されど彼らの遅刻には必ず理由がある。 「すまないねライダー君。我々が普通に馳せ参じても状況は何も好転しない。 この怪物めいたご婦人と切った張ったの勝負ができる程、私は強いサーヴァントではないのでネ」 とはいえ君は特別なのだろう。 どうか寛大な心で許してくれたまえ。 傲慢さすら感じさせる口振りで紳士は嘯く。 「故に君には難題を請け負ってもらった。 客人が思う存分気持ちよくなれて、思わず前後不覚になってしまう程のワンサイドゲーム。 君を過小評価しているわけではないが…こればかりは君にしか任せることのできない仕事だった」 快く請け負ってくれてとても助かったよ。 まぁ君に直接許諾を得たわけではないのだがそこは目を瞑ってくれたまえ。 その分の埋め合わせはこれから、そしてこの後でしっかりとさせてもらうとも。 だからまずはご苦労さま、ライダー君。不死の君。 しお君から事前に君の体質について聞いておいてよかったよ――声なき声で人柱の少年を労い蜘蛛は笑う。 「では地に墜ちたまえ、無粋極まりない来訪者よ!」 ――夜を切り裂くマズルフラッシュ。 爆音轟音銃声、ありとあらゆる剣呑を詰め込んだノクターン。 上空から巨大なる女傑に殺到したそれは彼女の肉体に着弾するなり鮮やかな爆発を引き起こした。 それでも連射は止まらないが、機銃掃射が続いているのに粉塵が晴れるという超常現象が巻き起こる。 「効かないねェ~!」 余人ならば蜂の巣、否原形を留めない肉塊に成り果てること請け合いの弾幕。 だが生憎と皇帝の彼女は常人ではない。 砲弾すら跳ね返す鋼の皮膚。 鋼鉄の風船と称された頑健さは颯爽登場した犯罪王もといオールド・スパイダーの一斉掃射を無傷で耐え凌ぐ。 笑いながらビッグ・マムがホーミーズ化させた剣を振るう。 「"刃母の炎(ははのひ)"!」 蜘蛛を奸計もろとも焼き切る皇帝(ナポレオン)の刃。 地に墜ちながら真上の敵を斬るという後の先にも匹敵する御業とて彼女にしてみれば朝飯前。 実力ありきの度胸を前にしてなお蜘蛛は不敵に笑う。 そしてその片腕…過剰武装仕込みの棺桶を刃に向けて構えた。 「聞いたよ? お前ら、このおれを陥れようとしてたらしいねェ!」 衝突するや否や犯罪王の棺桶が軋みをあげる。 「おれに跪いて詫びでも入れりゃ部下として飼ってやるのも吝かじゃなかったが…! よりによってお前このおれに銃を向けやがったな! そんなクソガキは殺さなくちゃねェ~!?」 「ふははは――よもやこの歳でガキ呼ばわりされるとは。 えぇえぇ、申し開きのしようもありませんなご婦人。しかし私はガキはガキでも根っからの悪ガキでしてな」 なのに犯罪王が。 ジェームズ・モリアーティが笑うのは何故か。 見栄? 苦し紛れ? 負け惜しみ? 全て違う。 彼の笑顔の意味はそのどれでもない。 誰もがあり得ないと思う理由から出る笑みだ。 「ふんぞり返った大人に手痛い悪戯をやらかすのは、いつの世も我々ガキの特権です。 それとも…そういう経験はおありでないですかな? 傍若無人なご婦人(ビッグ・マム)殿は」 あまりに無謀な鍔迫り合い。 泡沫未満の拮抗。 だが実情はどうあれ今この瞬間、ジェームズ・モリアーティはビッグ・マムと限りなく零に近い間合いで相対している。 武芸の心得を持たないモリアーティだがこれだけ距離が近ければ外す道理もない。 ナポレオンと競り合う超過剰武装多目的棺桶…その砲口が、砲弾でも銃弾でもない何かを横溢させて夜に吠える。 「ッ…!?」 ビッグ・マムが驚愕した。 それと同時に彼女は自らの不覚を悟り激怒する。 彼女もまたその腕っ節で成り上がった実力者であるから。 我が身一つで英霊の座に登録される栄誉を得たサーヴァントであるから。 モリアーティの砲口に満ちた何かの正体と彼の目論見の真体を悟れた。 されどもう遅い。 次の瞬間、ビッグ・マムの愛剣は規格外のエネルギーによって押し返されていた。 「挨拶が遅れましたな。しかしてその非礼これに免じて許していただきたい」 ビッグ・マムが吠える。 モリアーティが笑う。 「私なりの…連合(われわれ)からの宣戦布告でございます」 宝具解放。 真名、同じく解放。 解き放たれるは破壊の力場。 もう一匹の蜘蛛が持たない強力無比な物理破壊のすべ。 宝具の素性を明かす程モリアーティは驕った性格はしていない。 だが此処では彼の御業の正体を語ろう。 彼の宝具は惑星破壊という規格外の所業、空想上の絵空事そのものだ。 あるべき歴史にては果たされることのなかった悲願。 「この」モリアーティが夢に見続けた終局の破壊を具現化させる超絶の宝具。 「――終局的犯罪(ザ・ダイナミクス・オブ・アン・アステロイド)」 今はまだせいぜい対軍規模。 しかし今後対都市、対国と成長していく余地を起こした窮極の破壊。 ジェームズ・モリアーティの描いた見果てぬ夢そのものが破壊力を帯びた尊き幻想(ノウブル・ファンタズム)。 その一撃は罵詈雑言を喚き散らかす皇帝をその剣もろとも押し返していく。 誰もが恐れ誰もが慄いた人類種の例外、生まれついての破壊者(ナチュラルボーンデストロイヤー)。 その体は具現化された惑星破壊のエネルギーを前にただ墜ちていき。 そしてとうとうその背中が、地面に触れ―― ……轟音と閃光が世界を埋め尽くした。 ◆ ◆ ◆ 鉄の風船と称されるビッグ・マムの体はしかし実際は筋肉と脂肪の塊だ。 その上で八メートルを超える巨体ともなれば、当然重量も桁違いのそれになる。 そんな化け物が地面に落ちてきた。 もとい君臨していた天から叩き落された。 墜落の衝撃でビルや家屋がドールハウスのミニチュアのように粉砕され。 ドォンと地の底まで響くような鈍い轟音と振動が夜の東京に轟いた。 「えむさん!」 「待たせてしまったねしお君。ライダー君にもずいぶん苦労をかけてしまったようだ」 言いながら着地するモリアーティ。 いかにも悪の総帥めいた登場だが、その右手が腰に添えられているのをアイは見逃さなかった。 悪党も寄る年波には勝てないんだなぁ…と思うアイであったがそれはさておき。 「戦勝を祝するのはまだ早い。見ての通りまだまだお元気なようだからね」 粉塵と白煙をあげる瓦礫の山から勢いよく巨体が起き上がる。 あれほどの衝撃を伴う落下だったにも関わらず。 不完全とはいえ惑星破壊の概念を宿した宝具の一撃を間近で食らったにも関わらず…ビッグ・マムの威容には何の翳りも見えない。 「やってくれたねェ…。悪だくみが趣味のガキにしちゃいい宝具(モン)持ってんじゃねえか」 「お褒めに預かり恐悦至極。その刺激に免じて見逃していただけるとありがたいのですがネ」 「マ~ママママ! 図に乗るんじゃねェよ虫野郎。そんなに頭が良いんならよぉ…今の状況はおめェが一番よく分かってるよねえ?」 ビッグ・マムは依然として健在だ。 タイミングを見計らって上手く不意打ちを当てられた、成程それはお見事。 「誰を敵に回したのか教えてやるよ……!」 ――で、だから? そんなもので彼女達の牙城は崩れない。 宝具の真名解放に直撃していながらふらつきもしていないマムの姿がその証拠。 社会の闇に隠れ影に潜み、人を操って犯罪という名の糸を編み続けてきた犯罪王は遂に皇帝の手の届く範囲に収まった。 颯爽と登場したことそれそのものが愚の骨頂。 モリアーティはこれから身の程を弁え損ねた失策のツケを支払わされる。 「ふむ」 だというのに男は笑っていた。 実に面白いと。 或いは面白くなったと。 いや…"思った以上に"面白くなったと。 そういう風な笑みが空元気でも何でもなくその水気の失せた初老の肌に浮かんでいる。 「分かっちゃいたが後には引けないネこりゃ。勝っても負けても進んでも逃げても全面戦争は避けられないようだ」 肩を竦めるモリアーティ。 いやに芝居がかった台詞だった。 「さて――どうする我がマスター?」 「まどろっこしいな。答えなんざ最初から決まってんだよ」 靴音が響く。 一挙一動が地鳴りと轟音を伴う四皇共に比べれば酷く矮小な靴音だった。 暗闇の先から歩んでくるのは不健康な顔色と荒れた地肌の目立つ青年。 その右手に輝く三画の令呪が、ビッグ・マムの不興を買った蜘蛛と繋がる絆(たづな)であることは明らかだろう。 覇者の眼光が青年を射抜く。 死柄木弔の痩身に襲いかかる形なき圧力。 ビリビリと大気を震わせる程の威圧を受けて、連合の頭(かしら)は不遜に鼻を鳴らした。 「よう…ボス猿。ガキ共は連れてこなくてよかったのかよ」 モリアーティは弔にこう問うた。 どうすると。 弔は即答した。 決まっていると。 それが全てだ。 状況は依然として最悪も最悪。 裏方仕事の黒幕業が本職のアラフィフと発育途上の小悪党(クズ)が一人増えた程度で四皇との戦力差が埋まる筈もない。 だとしても――弔は挑発するように笑って、怒れる皇帝を嘲笑うのだ。 死柄木弔は、どこまで行っても一人のヴィラン。 そういう風にしか生きられないよう導かれた闇の救世主なのだから。 「そっちのマスターと違って老人介護の心得はねぇんだ。スカスカの灰になっちまうぜ、ババア」 「へぇ」 弔の軽口を受けたビッグ・マム。 その口角がニィと弧を描き丸く白い歯列を覗かせた。 安い挑発だが唱えた相手が相手だ。 身の程知らずの愚行も一周回って偉業に変わる。 しかしもう一度言う。 相手が、相手だ。 「吐いた唾飲むんじゃねェぞ? ケツの青いヒヨッ子の分際で…このおれを"殺す"と吠えたんだ。 当然、それなりの覚悟はあるんだろうねェ……!」 覇気横溢。 泣く子も黙るを通り越した頂点の殺意。 ビッグ・マムの異能が今此処に発動される。 それは魂に語りかける声。 万物に魂を与えそして奪う規格外の能力者の力の片鱗。 「『LIFE』 or――」 ソウル・ボーカス。 ビッグ・マムを怪物たらしめる理由の片翼たる力。 夜の闇の中に爛々と輝く母の眦を不敵に見据えるは連合の王。 彼の中に渦巻いていたフラストレーションは新宿の抗争を目の当たりにして遂に沸騰を起こした。 燻るばかりだった中途半端な犯罪者はもういない。 お山の大将と指差し笑っていられるのはその猿山が自閉している間だけだ。 山と人里を繋ぐ境界線が、垣根が消え果てたなら。 彼の君臨する領域が陣地を超えて社会へ、世界へと拡大をし始めたなら―― そこに待つものはただ一つ。 夢見る青年と犯罪卿が追い求めた破滅の地平線だ。 絵空事の中にしか存在を許されない絶対的な悪の誕生だ。 「――『SLAVE』…!?」 「どっちでもねぇな」 弔が駆けた。 地を蹴った。 目指す先は"四皇"ビッグ・マム。 泣く子も黙る、神でも恐れるシャーロット・リンリン! 雷霆と太陽を侍らせながら壮絶に笑う古き時代の皇に最新の悪は咆哮する! 「テメェが死ねよビッグ・マム! 次は……俺だ!」 ◆ ◆ ◆ 「正気ではないと思うかね」 「えぇ…まあ、正直言うと。ありゃどう考えても無茶(ヤリスギ)でしょうよ」 殺島飛露鬼の隣に立って腰を擦りながら言うのはジェームズ・モリアーティ。 自身の見落としが原因でデトネラット崩壊という惨事を巻き起こしてしまった蜘蛛は奮戦で責任を取るでもなくギャラリーとして立っていた。 だが誰もそれを笑えない。 誰もが釘付けにされていた。 チェンソーの少年が弾き出され犯罪王が自ら退いたリングの上で戦う一人と一体の姿に。 「死にますぜ、あの死柄木(ガキ)」 紫煙を吹かしながらも殺島は流れ弾ともう片方の四皇(バケモノ)の動向に気を張り続けている。 しおの妙な剣幕に押されて撤退の判断を下さなかったアイ。 それを責めるつもりはないが、やはりこの鉄火場は状況が悪すぎると言わざるを得なかった。 まして今行われている戦いは…もはやそれを許したモリアーティの正気を疑ってしまう程酷い、絶望の温床だった。 「俺達(サーヴァント)とは違うんです。骨が折れりゃ治らねぇし潰れた内臓は死を運搬(はこ)んでくる。 手足が吹っ飛んだらそこでおしまいだ。そんな脆弱(ヤワ)な体で…何ができるってんですかい、化物(アレ)に対して」 「ふむ。君の言うことは確かにもっともだが…見たまえ」 ビッグ・マムが剣を振るう。 ナポレオンの斬撃は地面を割る。 ゼウスが瞬けば弔はそれを避けねばならず、プロメテウスの炎は致命的な火傷に繋がるためもっと念入りに回避せねばならない。 避けるために地面を転がるのですら生身の人間にとっては十分なダメージだ。 今や弔の全身は頭の上から足の先まで余すところなく泥と粉塵に塗れていた。 「彼は死んでいない」 「…Mの爺さんよ。アンタまさか本気で信じてるんですかい」 既に呼吸は絶え絶えで顔色も悪い。 虫の息とそう一言で切り捨てられる這々の体。 それでも彼は生きている。 死柄木弔は、生きている。 技術に依らない動物的直感のみを寄る辺にビッグ・マムの攻撃の中で生を繋ぐことに成功していた。 ギガントマキアを相手に積み重ねた勝ち目のない戦いが彼の体に経験を蓄積させていたのだ。 一切大袈裟でも何でもなく、今までの人生で最も死を身近に感じる状況だからこそ。 その苦境は死柄木弔に対し無尽蔵の、そして未曾有の経験値を注ぎ込んでくれる。 「サーヴァントは慈善事業ではないよ。彼に見込みがなければ私とて後生大事に抱えはしないさ」 単に優勝するだけならばもっと楽なのだ。 こちらのモリアーティは手段を選ぶ必要がない。 若く青い彼のように無数の足枷に戒められてもいない。 マスターが無能ならばすぐに見切りをつけて次を探す。 それで何とかなるだけの頭脳と能力を彼は当然持っている。 犯罪界のナポレオンの二つ名を侮ってはいけない。 「彼は私の夢を叶えられる逸材だ」 だから信じているのさと。 そう言って笑う犯罪王の眼差しに殺島はある種の憧憬を垣間見た。 こうなると殺島はもう何も言えない。口を挟めない。 その上で改めて孤軍奮闘する青年の不格好な姿を見れば、心の中の何かがドクンと脈を打つのを感じた。 “…黄金時代(オウゴン)” 若さは全てに勝るなんて月並みなことを言うつもりはないが。 若者は誰もが一度はこう思う。 自分は何でもできるのだと。 何にでもなれるのだと。 思って歩んで走って、敗れて転んで諦める。 それが人生のテンプレートだ。 殺島もそうだった。 暴走と疾走に全てを注いだあの頃は確かに自分が何物にでもなれる存在だと信じて疑わなかった。 暴走の果てに挫折して、拾われて、また暴走して…負けて終わって。 そうして行き着いた先の世界。 人生の排気口のようなこの世界で見るみすぼらしい青年の背中が何故か輝いて見える。 「…似合わないっスよォ~。その歳(ナリ)で夢追人(ドリーマー)とか」 「何を言うか。人生は冒険だよ、極道のライダー君」 失意の底にあった殺島を拾い上げてくれた男。 輝村極道とはベクトルも資質もまるで違うが、しかしたった一つだけかの男と弔の間には共通項があった。 その単語以外の何もかもが違えど、彼らはどちらも悪のカリスマなのだ。 人を惹きつけて暗い明日に導く者。 敵(ヴィラン)という言葉を一人で体現できるそういう輝きを持った者なのだ。 「マ~ママママ! 威勢の割にはその程度かい? みっともねェガキだねェ~!」 呵々と笑うビッグ・マムには未だ傷一つなく。 弔はそれに比べて全身くまなく汚れきったまさにみっともない姿を晒していた。 よろよろと立ち上がる姿はいじらしさすら感じさせるものであり。 それは奇しくも先程マムの前にボロ雑巾のように散ったデンジの姿の焼き直しのようだった。 「とはいえおれを相手に此処まで立ってられたのは大したもんだ…そこは褒めてやるよ。 そのチンケな能力でおれに勝てると夢想しちまった頭の出来は何とかした方がいいと思うけどね…!」 当たり前だ、そもそも勝てる道理がない。 膂力の差、耐久値の差、スタミナの差。 いずれも文字通り天と地程の格差があるのだ。 ジャイアントキリングを成し遂げられる要素は弔には存在せず、極論ビッグ・マムは何の能力も使わなくても彼を打ちのめせただろう。 弔の個性もそれ程までに力の差がある相手に対しては何の役割も果たしてはくれなかった。 触れた物体を崩壊させる能力など、触れられなければ惨めったらしい風車でしかない。 マムは彼の個性の性質を理解したその上で一度もそれを浴びることなくちっぽけなヴィランを圧倒した。 「ムカつく目だね。今から死ぬってのに潤みもしねえ」 マムのこめかみに青筋が一つ浮かんだ。 「おれはそういうガキが嫌いなんだ。散々手を焼かされたからね…!」 ビッグ・マムを破ったガキ共。 何度力の差を見せつけてやっても懲りずに食らいついてきた新世代(ガキ)共。 彼女は今この瞬間、無駄な足掻きを続ける目前の青年に彼らのそれと同じものを見ていた。 だからこそ機嫌は悪くなる。 よりにもよって新世代! おれを地に落としやがったあいつらと同じ目をしやがるなんて! 「おれの夢の礎になれるんだ、光栄に思いな…! お前みたいなドブネズミにはもったいねェ程の名誉だろう!」 「…夢か。心底……似合わねぇな。知ってるか? テメェみてえな奴のことはな、老害って言うんだぜ」 虫の息ながら減らず口は尽きない。 だがそれとは別に純粋に気になった。 「聖杯なんて大それたもんに縋って晩節汚してよ…そうまでしてどんな夢を叶えてぇんだ?」 「此処まで食い下がったご褒美だ。冥土の土産に教えてやるよ」 ビッグ・マムには夢がある。 誰もが馬鹿げていると笑うような夢。 しかし当の本人は大真面目だ。 鬼の始祖が恐れる耳飾りの剣士ですら一目置く他なかった、彼女の暴威と比較すると空寒く聞こえる程綺麗な夢がその巨体の内にはある。 「誰もが同じ目線で食卓を囲んでメシを食える、そんな理想の国を作ってやるのさ! お前みてェな小汚いガキでも例外じゃねえから安心しなァ!」 「そうかよ。…あぁ、確かにそいつは安心だ」 誰もが並んで同じ目線で食卓を囲めるような国。 冗談かと問いたくなる程、目前の巨女には似合わない夢だった。 高尚なことだと弔は思う。 そこで異論を唱えるつもりはなかったし、むしろ今放った言葉の通りだ。 ビッグ・マムの理想を知った死柄木弔は確かに安堵した。 何故ならその理想は呆れる程愚直で眩しくて…。 死柄木弔がまだ志村転弧と呼ばれていた頃、確かに持っていた幸福の形だったから。 『お父さんはああ言うけどねぇ、大丈夫だよ。私は転弧の事応援してるから』 お母さん。 『お父さんは…ただ…知ってるの。ヒーローが大変だって事』 華ちゃん。 『やめろ――転弧!』 お父さん。 『痒みはもう感じなかった』 あの家は僕を優しく否定した。 穏やかで笑顔に溢れた優しい優しい絶望の家。 脳裏を蘇る記憶は既にただの事実として認識できるようになっていて。 弔は何の動揺もなく笑顔と共に右手を伸ばす。 触れたものを何であれ壊す崩壊の手。 それを前へ──立ち塞がる皇帝の巨体へ翳した。 「心置きなくブッ壊せる」 死柄木弔の体に纏わりついた手が崩れていく。 形を失い塵になって消えていく。 いびつな家族の絆と未練を振り切った弔の髪の毛が白く染まる。 外見に急速な変化が及ぶ程の何かが、それだけの現象が彼の体内で起こっているのだ。 弔が再び地を蹴った。 体力などとうに尽きていて然るべき有様ながらその初速は今までのそれよりずっと速い。 しかし当然ビッグ・マムの目で追い切れない程のものではないのが現実だった。 「知ってるか? 大口叩くのにも責任ってもんは伴うんだ」 この小僧は自分の夢を聞いてこう言った。 ブッ壊すと。 他でもないおれの食卓(未来)をブッ壊すと啖呵を切った。 その言葉はビッグ・マムに対する何よりも明確な宣戦布告だ。 相手がどれほど取るに足らない小虫だったとしても、これを言われたら見逃せない。 「おれの“夢”を壊すって!? 上等じゃねェか! やってみろよできるものなら! おれに触れもしねェヒヨっ子が、いつまでも涙ぐましく喚いてんじゃねェぞォ──!?」 「テメェこそ喚いてんじゃねぇよ老害が。ヒステリー拗らせたババアと食うメシなんざクソ以下だろ」 真の悪とはよく笑うものだ。 ビッグ・マムも怒髪天を衝きながら笑っている。 弔もボロ雑巾同然になりながらそれでも笑っている。 戦場(ここ)には悪しかいなかった。 「ほざいてなァ! "刃母の炎"!」 炎を纏ったナポレオンを振るう皇帝。 不敬の報いに素っ首落とさんと迫る巨体の速度は明らかに生物としての常識や限界を無視している。 速度も力も確実にギガントマキアの上位互換と言っていいだろう。 オール・フォー・ワンお抱えのドクターが寄越したクエストと比べて、今の状況は難易度で数段上を行く。 “速すぎるな。此処まで来ると避けただけでも体の何処かが軋みをあげやがる” しかしそれは逆説的に、元々死柄木弔にはこういう怪物との交戦経験があったということを意味した。 そしてビッグ・マムは未だ弔に対して全力を見せているわけではない。 彼女が空へ上がってゼウスとプロメテウスによる炎雷の雨霰でも降らせれば弔はそれで確実に詰んだろう。 にも関わらずそれをしていない訳はビッグ・マムが彼のことを舐めているか、それともこれ程の矮小な弱者に本気を出すのはプライドが許さないか。 本当のところは彼女にしか分からないが、その手抜かりは弔にとってたいへん幸運だった。 “だが…ああ。ようやく見えてきたよ” 長い戦いの中で当時の弔はマキアの大暴れに適応しつつあった。 それと同じことが今この戦場で起こっている。 太陽の炎を帯びた皇帝剣を躱す。 実に不格好な舞いだったが回避は回避だ。 マムの眉間に皺が寄る。 死柄木弔は生きている。 まだ生きている。 何十年もの間山程の猛者をその豪腕で蹴散らしてきた怪物が…二十歳そこらの社会のゴミ一匹殺せていない。 「不味いツラだねェ」 マムがおもむろに剣を掲げた。 ナポレオンの刀身を見つめて止まる弔。 弔の見上げる刀身に炎と雷が付属(エンチャント)されていく。 ゼウスとそしてプロメテウス。 天候を司る二柱のホーミーズの権能が皇帝の名を冠したビッグ・マムの愛剣に凝集される。 「これで後腐れなく消し飛ばしてやるよ。カビたお菓子を残しておくと、他の旨いお菓子にまで感染(うつ)っちまうからね…」 それによる光を肌で浴びているだけでも痛みを感じる程の熱量と光量。 対城宝具の真名解放に匹敵する程の力が母(マム)の意のまま思うままに剣へと灯る。 その規格はサーヴァントの限界域に近い。 ある平行世界で異聞帯の王と呼称される七柱にも酷似した災害のような力と魔力。 人間、死柄木弔が相対しているのはひとえにそういうものだ。 決して人間が相手になどするべきではない…ただ怪物とか災害とかそういう表現をして目を背けるしかないような存在。 「綺麗さっぱり消し飛びなァ――"鳴光剣(メーザーサーベル)"!」 「今だ」 弔は驚くよりも戦意を吠えるよりも先に言った。 ビッグ・マム及び彼女の振るう全ての力と事象に対してもはや微塵も怯むことはない。 「――――助けてくれ、しお」 悪いなクソババア。 でもよ、お前ガキ共を連れて来なかったんだろ? じゃあアンタの失策だ。 知らなかったか? 忘れてたか? じゃあ教えてやる。 「――――たすけてポチタくん」 俺達は連合(レギオン)だ。 此処で死ね。 . ――たすけてポチタくん。 令呪を以って少女はそう希った。 それが何よりの起動詠唱になる。 星の光を担う者が聞けば驚く程に短く飾り気のない詠唱(エンゲージ)。 しかし少女の願いは必ず届く。 彼はそういうものだから。 本来のあり方を望まれなくても、彼がそういうものであることに変わりはないから。 ぶうん。音がした。 「――ッ!?」 それに反応したのはビッグ・マムだった。 その顔に浮かんだ表情は海の覇者たる彼女に相応しくないもの。 驚愕と動揺が現れた顔は単に誰かに知恵や根性で出し抜かれた時のそれではない。 純粋な驚愕だ。 彼女をして脅威だと認識するしかない、そういう存在が突然出現したことに対しての驚きだった。 爆光が夜暗を切り裂いて炸裂する。 地面に叩きつけられた光は弔の方に向けられてはいなかった。 新たに現れた、否復活した気配の方に向かった。 ビッグ・マムの鳴光剣。 英霊一人を文字通り蒸発させるくらいはワケのない超火力が解き放たれ。 ぶうん。と、また音がした。 「何だい…? お前……」 次の瞬間に起こった出来事を前にしてビッグ・マムは訝るような声を出す。 そう反応するに足る事象が今、全員の見ている前で起こった。 放たれた光と熱が超音速の何かで以って文字通り両断されたのだ。 雷切の逸話が裸足で逃げ出す超人技を苦もなく成し遂げた得物の正体がチェンソーであるとマムが理解したその時。 ビッグ・マムを驚嘆させたその男は既に彼女の懐にまで迫っていた。 「うおおおおおッ!?」 四皇がその速さを追えない。 少なくとも初見では。 ビッグ・マムはこの次元の速さを知らなかった。 先刻カイドウと共に対面した耳飾りの剣士。 こと足運びの速度に限っては、この悪魔は彼すら上回る。 カイドウの雷鳴八卦ですらも超える異次元の速度、歩み! 「テメェ…本当にさっきのガキかい!?」 それは一言で言うならば。 チェンソーの、悪魔だった。 デンジが変身していたのとは訳が違う。 人間らしいところは手足の数と輪郭くらいしかない。 その面影から漂ってくるのは…四皇をして驚く程の血と臓物の臭い。死の臭い。 あまりにも腥すぎるのに彼の体と一体化したチェンソーの刃に錆は一切ない。 錆びる隙もなく刃を回転させ続けているからだ。 錆びる隙もなく――悪魔を屠り続けてきたからだ。 「言葉は通じるかよライダー」 「……」 「そんな成りになってもテメェとは合わねえんだな。…まぁいいよ。これだけ伝わりゃそれでいい」 弔はデンジという英霊の真実を知らない。 デンジはあくまで彼と契約を交わしたある偉大な悪魔の乗り物でしかないのだということを知らない。 しかしそんなことは何も関係はなかった。 とことんまで馬の合わない二人だが、ただ一つにおいてだけは彼らは同じ方向を向ける。 「敵(ババア)を殺すぞ。行けるよな」 無言は肯定の同義語だ。 チェンソーの悪魔が動くのと同時に弔も地を蹴った。 ビッグ・マムを此処で殺す。 その目的の許に人間と悪魔が疾駆する。 悪魔(かれ)を表現する言葉を手綱を握った彼女は決して吐かない。 彼女はそれを望んでいないから。 ヒーローなんて慈善事業じゃ彼女の夢は叶えられない。 彼女が求めているのはただ一つ、武器だけ。 皆殺しの武器(チェンソー)として全ての敵を倒してくださいと。 彼女は過去も今も変わることなく経験に、悪魔(かれ)に対してそう願っている。 その令呪(ねがい)を動力源として。 地獄のヒーローだったもの、チェンソーマンは四皇殺しを開幕させた。 →
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それは来訪と呼ぶにはあまりにも不躾で。 そして、あまりにも剣呑が過ぎる襲来だった。 豊島区・上空。第二次大戦下では焼夷弾を搭載した戦闘機が駆け抜けたであろうその空に。 百年の時を超え、再びそこを敵が翔ける。 機械に非ぬ生身の身体と地上に存在しない幻想種の龍体で。 人に生まれながら人を超えた二体の皇帝が、一つの企業を潰すべく。 もといそこに巣を張った狡知の申し子を滅ぼすべく我が物顔で夜空を切り裂きながら進撃していた。 その気配を感じ取れない者などいないだろう。 マスター、サーヴァントは言わずもがな。 何の魔術的センスも持たない凡夫達でさえその恐るべき気配に尻餅をつく。 何故なら彼らは。 これらは。 乱世という言葉が死後と化し、未知の浪漫が駆逐された現代においては異物と言う他ない無遠慮な侵略者であったから。 そして彼らの接近は無論、彼らが標的としている蜘蛛の片割れとその共犯者達にも遅滞なく伝わっていた。 「バーサーカー君。こんな状況で悪いが、一つ頼まれてくれまいか」 「貴様は何を言っている。こうなった以上もはや貴様らに付き合ってやる義理はない」 「逃げようというのであればやめておきたまえ。あんなのでも一応君を現世に繋ぎ止める要石だ」 単独行動に類するスキルを鬼舞辻無惨は所有していない。 それはつまり、現在のマスターを欠くような事態になれば彼は現界を保てないことを意味していた。 松坂さとうという後任のあてはあるものの生憎この場に彼女はいない。 今から呼びつけることが可能だったとしても、どう考えても此処に迫る二体の脅威が到着する方が早い。 その意味するところは無惨にとって致命的だった。 得意の逃げの手が打てない。 聖杯戦争の土俵にあっては、さしもの彼も一人では生きていけないのだ。 そういうルールの許に召喚されている以上、要石の存在は必須であった。 「共に腹を括ろうじゃないか。今や君と私達は運命共同体だ」 「その不愉快な喩えは二度と使うな。命が惜しければな」 「覚えておこう。で、協力してくれるかね?」 「…巫山戯た要件であれば今すぐこの場で貴様を引き裂き殺す。それを承知して言葉を紡げ」 「うむ。では率直に頼む。この部屋を、なるべく原型を止めない形で破壊してくれたまえ」 無惨の行動は実に迅速だった。 戦闘能力に悖るモリアーティでは残像を目視するだけで精一杯の速度で彼の注文をこなしてのけた。 無惨は短絡な人物だがしかして馬鹿ではない。 その上こと生き延びることにかけての本能は一級品と呼んでいい鋭敏さを誇っている。 自分が目前にしている老紳士が如何に腹に据えかねる存在であれど、今この場で自分の生存に繋がる手を打てる可能性は高いと評価したのだろう。 社長室だった部屋は一瞬にして台風一過もかくやの惨状に成り果てた。 此処に四ツ橋が居合わせていたならきっと頭を抱えたろうが…今はそれどころではない。 「それで、この行動に何の意味があったのだ?」 「これは私の不徳の致すところなのだがね。恐らく我々の動きは、某かによって傍受されていた可能性が高い」 そうでなければこうも早く足が付くのは不自然だとモリアーティは続けた。 漏れる可能性があるとすれば数刻前にこのデトネラット本社を訪れたアルターエゴだが、それにしたって段取りが良すぎる。 盗聴器という可能性は考え難いにしろその傾倒の傍受手段がこの社長室内に存在する可能性は極めて高いと老蜘蛛はそう踏んでいた。 「だが此処まで念入りに壊せば追加で情報が漏れる心配はないと踏んでいいだろう。 これでようやく、心置きなくこれからの話ができるというものだ」 「……どう見積もっても到着まで一分もない。その時間で講じられる策があるというのか?」 「単なる役割分担の話だがネ。おそらく敵は直にこのビルを吹き飛ばすだろう。 その時敵が複数だったなら、バーサーカー君には敵をなるべく分散させるよう動いてもらいたい。 無論可能な限りで構わないよ」 「死にたいのなら遠回しではなく率直にそう言え」 「話は最後まで聞きなさい。君の悪い癖だぞ」 「貴様」 傍らの無惨から迸る殺意の桁が一桁膨れ上がった。 モリアーティは両手を挙げながら続ける。 「君はまだ生き延びられる期待値が高い方だよ。 私などはほぼほぼ詰んだに等しい状況だ。君より数段は悪い」 「私を此処まで足労させてその言い草とは恐れ入る。こうも舐め腐られたのは初めてだ」 「だがね…世の中、案外何事も最後まで分からないものだ」 彼の表情は笑みを象っていた。 この状況で微笑める神経が無惨には皆目分からない。 無惨は決める。 すぐにでもあの出来損ないのマスターを回収してこの場を離れると。 新たな拠点を作れないのは惜しいがそれもこの老蜘蛛の一派が死に果てれば何ら問題はない。 耄碌した死にかけの虫は勝手に死ねばいい。 至極平常運転の思考で無惨がそう結論付けた、その数秒後のことだった。 「『熱息(ボロブレス)』!!」 天下総てに轟くような雄々しい咆哮が響くや否や。 国内外にその名を轟かせるデトネラットの本社ビルに、とてもではないが自然現象では片付けられないサイズの火球が直撃。 多数の社員の命運を業火の灼熱に溶かしながら、蜘蛛の巣食っていた本拠地は崩壊の末路を結論付けられた。 ◆ ◆ ◆ 着弾。 それと同時にデトネラットは炎に包まれた。 ガラス窓を押し破って社内に流入した業火。 聖杯戦争の存在すら知らない平の社員も四ツ橋経由で覚醒させられていた者達も見境なく焼死体に変えられていく。 わずか数秒にして数百人単位の死者を出しながら、"彼ら"の初陣は壮絶な幕開けを迎えた。 「…! らいだーくん、これ……!」 「黙ってろ! 舌噛んでも知らねぇぞ!」 デンジとそのマスター、神戸しお。 彼らが幸運だったのはあてがわれていたゲストルームが低層階にあったことだ。 開戦の号砲と呼ぶにも激しすぎる一撃は主にビルの最上階から四階程度を埋める形で炸裂した。 無論じきに下階も焼けて崩落するだろうが、それでも上の連中に比べればわずかに猶予があるのは確か。 変身を果たして異形の頭を晒し、サーヴァントとしての身体能力でしおを抱えて走る。 “なぁにがクエストだあのクソジジイ。とんだクソゲーじゃねぇかよ~!” 舌打ちをしながら後ろを見る。 すると"あの女"…バーサーカーのマスターも付いてきていた。 こういうところはちゃっかりしているというか抜け目ないというか。 いっそうっかり瓦礫に潰されでもしてくれれば楽なんだけどなと、デンジが思う一方で。 「しおちゃん、ライダーくんの言う通りよ。この辺はまだ大丈夫そうだけど、火が広がってるところに出たらできるだけ息を止めてね。 火事のときは喉をやけどするのが一番危ないの。煙を吸わないように口と鼻を塞いで、じっとしてるのよ」 「はぁいっ…! ん、むっ…」 案外そういう基礎的な知識はあるらしい。 ちなみにデンジはこれについては全く知らなかった。 義務教育を受けていない彼には当然、避難訓練の経験なんてものはないのだ。 頭のチェンソーで積もった瓦礫を切り裂いて押し退けて先へ進む。 そうしてようやく外に続くドアが見えた時、そこには既に先客がいた。 「星野アイさん! 無事だったんスね~…いや~良かったっす!」 「あ、しおちゃんのライダーくん。よかった、そっちも何とか逃げ出せたんだね」 こんな状況でも男というのは正直なものである。 デンジはしおを抱えたままビッと背筋を正し、ぺこぺこと意味もなく頭を下げた。 星野アイとそのサーヴァント、ライダー…殺島飛露鬼もまた渦中ならぬ火中のデトネラットから脱出を果たせたようだった。 「そう畏まんなよ。今は同じ釜の飯を食う仲間なんだから。そうだろ?」 「言われなくてもアンタにはぺこぺこしねぇよおっさん」 「おいおい気にしてんだぜこれでも。オレもてっきり二十歳そこらの姿で呼ばれると思ってたからよ…」 聖華天にその人あり、暴走族神(ゾクガミ)ありと謳われたあの黄金の時代こそが自分の全盛期だと殺島は今でも信じて疑わない。 しかし蓋を開けてみれば聖杯が殺島の全盛期と認定したのは"八極道"になってからの姿。 純粋に戦闘能力だけを見てそう判断したのかそれとも別な理由があるのか、そこは殺島にも分からなかった。 「で…。しおチャン達はMの爺さんから何か聞いてたかい?」 「聞いてたらもっと早く避難してるぜ。耳に水が入ったみてえな気分だよ」 寝耳に水って言いたいのかな、とアイはそう解釈した。 「私もきいてませんでした」 「ま、そうだよなぁ。もしかしたらオレとアイはまだあの爺さんに信用されてなかったのかと思ったが…」 「それに…もしえむさんがこうなるってしってたら、だいじな会社をこわされないようにしたと思う」 しおの推測に殺島は納得した。 ややもすると自分達は嵌められたのかとも思ったが、それにしては確かにあちらの抱えるリスクが大きすぎる。 デトネラット本社ビルという最高級の拠点をわざわざ棒に振ってまで自分達を切り捨てたいと考える、あの男がその程度のおつむだとは思えない。 だが、だとしても事態と今の状況は何ら好転しない。 あのMをして予想外の状況。 喉元にナイフどころかロケットランチャーの砲口を突きつけられている現状。 果たして連合に加入することを選んだ選択は正しかったのかと感じ、殺島はアイとどちらともなく顔を見合わせた。 “…どうする?” “んー…もし本当にヤバそうだったら令呪を使うよ。Mさんの力が借りられなくなるのは痛いけど、それで死んだら元も子もないし” “了解(りょ)。その時が来たら躊躇うな” アイ達にとって敵連合は協力相手だ。 利害が一致している間は付き合うし甘い汁も吸う。 が、彼らとつるむことそのものがリスクになるなら切ることに躊躇いはない。 言われずともアイに躊躇いなどなかった。 願いを叶えるためならどんな非道も働ける、どんな嘘でも吐ける彼女だ。 出会って数時間の少年少女を捨て駒同然に切り捨てることすら今更厭いはしない。 念話で殺島と今後の打ち合わせを迅速に済ませつつ。 デンジ達と共にデトネラット本社の外へと一歩踏み出したその瞬間に…… 「……本気(マジ)かよ」 殺島は苦笑した。 そうでもしないとやっていられなかったし、種別はどうあれ微笑めた時点で上出来だ。 彼以外の者は感情の麻痺した狂った女一人を除いて皆一様に表情を失っていた。 茫然自失。その一言に尽きるあまりにも無防備な顔。 各々の顔面を味気ない無機――という名の絶望に彩りながら。 彼らは、そして彼女達は…夜空を背に立つそれを見上げていた。 「マ~マママ…! 見なよカイドウ、火に燻されて出てきたよ! クモ野郎が後生大事にしてやがった虫ケラ共が!」 燃え盛り崩れ落ちる高層ビルを前にして一人の老婆が立っている。 老婆だ。 そう、それは確かに老婆だった。 顔には皺が寄り容貌は劣化し見る者全てに老境の色を認識させる。 だが、それは老婆と呼ぶには精強すぎた。 巨大(おおき)すぎた。 今この場にいる人間の中では一番長身である殺島でさえ頭を大きく上に動かさなければ顔が見えないほどのサイズをしていた。 しかしその顔を見ないに越したことはなかったのかもしれない。 だるんと弛んだ皺だらけの顔の中に空いた眼窩。 そこに収まった二対の眼と目が合えば…否が応にも自分達が生物としてどれほど格下なのかを思い知ることになってしまうから。 「なぁオイ、しお」 確信する。 やはりあの爺が自分達にやらせようとしていたクエストなるものはとんでもないクソゲーだったのだ。 「やっぱ後であのクソジジイとっちめた方がいいんじゃねぇか?」 「……そうだね、ちょっと怒ろっか」 そう言って頷き合うデンジとしお。 彼らやMに見切りをつけて安全を優先するべきか、冷や汗を滲ませながら逡巡するアイと彼女の判断を待つ殺島。 ただ一人平時と何も変わらないさとうの叔母。 物理的な大きさも一人一人が持つ力も小虫のように矮小な彼らを、偉大な母(ビッグ・マム)は残忍な笑みで見下ろしていて。 「さァて」 すぅと息を吸い込む音が聞こえた。 それを聞いた時、アイが連想したのは津波だった。 大津波が押し寄せる前。 ざっと海の水が引いていく光景をイメージした。 そこまで思い描けたなら必然この後に何が起こるのかも予想がつく。 引いていった潮は何処へ行くのか。 何処にも行かない。 必ず、元あった場所に帰ってくる――。 「落とし前の時間だよォ~! 虫ケラ共ォ~~!!」 そしてそのイメージ通りに。 老婆の咆哮が響くと同時、津波の如き"覇"が核爆弾のように炸裂した。 ◆ ◆ ◆ 燃え上がる城から青年が翔び立った。 死柄木弔は個性保有者である以外は普通の人間だ。 数十メートルの高所から飛び降りて生き延びられるような超人性は持っちゃいない。 しかしこの墜落は悲観でも博打でもない。 連合のブレインは全てあの犯罪王に任せているのだ。 ならば手前の読み切れなかった非常事態、その責任くらいは取るべきだろう。 もしあの男が自分のケツも拭けない程度の器だったのなら自分の命運も此処までだったということ。 自由落下に身を委ねながら死柄木はそう考えていたが。 実のところ、そう最悪なことにはならないだろうとも思っていた。 だからこそ焦りはなく。 ヒリつくような感覚もてんでない。 そして引力に誘われ落ちていくその体は、至極予想通りに抱え上げられた。 「心底気色悪い構図だな」 「そう言わないでくれたまえ、未来の魔王。これでも足腰に無理を言わせて飛んできたのだよ?」 「当たり前だろ駄蜘蛛。元を辿ればテメェのミスだろうが」 「いやぁ申し開きのしようもないネ。四ツ橋君が社外に出払っていたことだけが不幸中の幸いだ。 彼さえいれば拠点には困らない。都内には他の支社のビルもあるだろう」 デトネラットは連合の最大のパトロンだ。 四ツ橋力也が擁する巨大な財力と社会的信用度は、蜘蛛が巣を張るのにあまりに適した大木であった。 そのデトネラットという太木の所有者である四ツ橋が所用で本社を留守にしていたのは大きな幸運。 そこのところに関しては、死柄木も異論はなかったが…… 「それまで生きてられたらいいけどな」 「…そこなんだよネー。問題は」 間違いなく此処は連合の存亡の分水嶺になる。 デトネラットを強襲した二体の強者。 恐らくはモリアーティがクエストと称してぶつからせる腹積もりだった、サーヴァント界のハイエンド達。 それが仲良く肩を並べてこのデトネラット本社にやって来ているというのだから状況は最悪どころの騒ぎではない。 「現状の我々は戦力で語れば貧弱そのもの」 「まともにやればまず負ける、か?」 「弁解させて貰うなら、君達にこなさせようとしていたクエストも一応は可能な限り正面戦闘を避けて進められる形にしようとは思っていたよ」 だがその配慮もこうなってしまっては何の意味もない。 この超絶難易度(ベリーハード)な状況を平定できなければ敵連合は間違いなく消滅する。 「崖っぷちだな」 数刻前の死柄木ならば不貞腐れたように眉根を寄せていただろう。 しかし今の彼は笑う。 乾いた唇を吊り上げれば裂け目のような傷からじわり血が滲んだ。 一歩踏み外せば奈落の底。 破壊を求道した男が更に上の破壊者にすり潰されて終わるという皮肉すぎる結末。 それを前にして心を躍らせるなど、気が触れたとしか思えない沙汰である。 「断崖を背にして笑うかね。一体その目で何を見据えている?」 「変わらねぇよアーチャー。初めて会った時、アンタに話したそのまんまだ」 だが気が触れているくらいでなければ、世界を破壊するなど夢のまた夢だ。 そもそも正気なら世界の滅びなど願わない。 社会に迎合して。誰かと足並みを揃えて。 背伸びはしないでなぁなぁに生きる。 理由が環境であれ人格であれその両方であれ、その妥協ができなかった者達は大輪の花を咲かせるものだ。 周りの全てを養分にして咲き誇る、悪の花を。 「皇帝(ロートル)共を蹴り落とす。力と知恵を貸しやがれ"犯罪王"」 「委細承知だマスター。ではまずは、我々の最高戦力である彼に助力を仰ごうか」 視界に映るのは蒼い龍だ。 新宿を滅ぼした二体のサーヴァントの片割れ。 本来ならばかち合うのは当分先になる筈だった相手だが、蜘蛛の巣を突くのならば是非もない。 不躾な来訪者にはこちらも精一杯手荒な歓迎をするとしよう。 「すまないが足止めを頼むよ、バーサーカー君!」 ◆ ◆ ◆ 鬼舞辻無惨は生前、神仏の存在など一切信じていなかった。 もしも実在するというのなら、千年もの間自分のような巨悪が跋扈することを許した無能だと嘲笑っていた。 英霊の座なる理が存在することを知った今では多少認識も変わっているものの…彼が神をも恐れぬ男であることは依然変わらない。 だがその彼をして今日という日を称するにはこんな表現を用いる他なかった。 私は疫病神にでも取り憑かれているのか――と。 “何故こうも想定を外れる。物事の全てが私の逆鱗の上で繰り広げられているかのようだ” 視界に入る龍の全容は天災と呼ぶしかないほど非現実的で荒唐無稽な規格をしている。 こんなものと何故真正面から向かい合わねばならなくなっているのか。 血管が切れそうな程の憤怒と脳裏を焦がす生存本能由来の焦燥。 「蜘蛛野郎の尖兵か? ずいぶんと貧相なナリだが…ロクでもねェ眼をしてやがる」 黙れ。 喋るな。 貴様如きが私を評すな。 「龍(おれ)を睨むとはいい度胸だ。業火で骨まで焼き尽くしてやるよ!」 龍の顎(アギト)が開く――地獄の窯を思わす光景。 そこに渦を巻く炎はデトネラット本社を焼き払った文字通りの業火だ。 彼こそは龍に化ける大海賊、地上における最強生物"百獣のカイドウ"。 彼が明王として君臨したワノ国の民衆達…その誰もが心から恐怖した破壊と君臨の象徴。 龍という幻想種のパブリックイメージを地で行く天変地異が再び牙を剥く。 「『熱息(ボロブレス)』!」 それを前にした無惨。 しかし彼は無様に喚きはしなかった。 恐怖に震えもしなかった。 確かにカイドウは強大な存在である。 その彼を最強たらしめる柱の一つ。 ゴッドバレーで女傑リンリンから譲り受けた悪魔の実の力。 それが弱いわけはない。 だが侮るなかれ。 浴びた恐怖と絶望、生み出してきた悲劇の数ならば。 無惨もまたカイドウと同じ規格外の領域に達している。 「邪魔だ」 無惨の肉体から異形の肉が突き出した。 触手、触腕という形容が適しているだろう鞭のように靭やかな肉塊。 無惨がそれを用いて行ったことは決して難しいものではない。 迫ってくる火球に向けてただ全力で触腕を振り抜いただけだ。 大きさも見栄えもカイドウのそれの比ではないが。 無惨の肉とカイドウの炎とが激突した瞬間、それは起きた。 「…何!?」 カイドウの炎が、熱息(ボロブレス)が弾けたのだ。 弾けた火球は結合も勢いも失い大気中に溶けていく。 無惨は無傷で消耗している様子もない。 小手調べの色が強かったとはいえ、四皇の一撃をこうも容易く凌いだ芸当はお世辞にも弱者のそれではなかった。 「デトネラットの主は私ではない。殺したければ好きにしろ」 だというのに無惨は追撃をしない。 彼が放つのは攻撃ではなく言葉だった。 「お前達のような馬鹿共の戦いに巻き込まれたくはないのだ。 私が去れば連中の戦力は激減する。蹂躙なり略奪なりするがいい」 無惨としても連合には一定の利用価値を見出していた。 というよりもM、ジェームズ・モリアーティの存在が大きかった。 約定通り新たな拠点を見繕わせるまでは利用し、美味い汁を吸う。 その後には殺すがそれまでは不服ながら生かしておいた方が利が大きい。 そういう腹積もりでいたのだったがこうなるとその気も変わる。 Mと組むことで得られる恩恵が目前のリスクと比べ下回っている。 「…お前、わかってねェな」 決して悪くない話だ。 それは間違いない。 無惨を欠いた現状の連合は戦闘力に限って言えば烏合の衆もいいところである。 ならば無惨の離脱はデトネラットに巣食った計略家を潰す上で間違いなく得になる筈。 理屈は通っている。 が、この理屈に一つ問題があるとすれば…… 「確かにおれ達の目的はこのビルを根城にしてた蜘蛛野郎の素っ首だ。 だが此処に集まってる連中を潰しておくこともおれ達にとっちゃ利になる。 後でもう一度探して潰す手間も省けんだろうが」 「その蜘蛛を逃す可能性が高まるとしてもか? 随分と楽観的に物を考えるのだな。簡単な頭で羨ましいぞ」 「それがわかってねェって言ってんだよ」 無惨の眦がピクリと動く。 そんな彼に龍はニヤリと笑った。 不敵を体現するようなその顔はひどく無惨の神経を逆撫でする。 「目の前の財宝を妥協する海賊はいねえ」 確かに無惨という最高戦力が消えるのならば、蜘蛛殺しという本懐を遂げられる可能性は高まるだろう。 だがそれがなくともカイドウは蜘蛛を逃がすようなことにはならないと踏んでいた。 無惨の在不在は目的の達成に影響を及ぼさないとすら考えている。 その考えの源泉はひとえに自らの強さに対する自覚だ。 蜘蛛は殺す。 蜘蛛が巣穴で飼っていた仲間達も殺す。 両方を完全にこなす難易度は蜘蛛の実力も合わさって相当に高いが。 「だがおれと戦わずに済む方法が一つある! ウォロロロロ…! おれの炎をハジいといて眉一つ動かさねェその実力は類稀なモンだ。 お前がおれの傘下に入るってんならおれも鉾を収めてやる。悪い話じゃねェだろう!?」 それができるからこそ彼らは四皇なのだ。 彼らの頭に不可能の文字は存在しない。 どれだけ無謀だろうが手を伸ばす。 荒唐無稽だと笑った奴らはブチのめして手を伸ばす。 彼らはいつだってそうしてきた。 諦めを知らない夢追人(ドリーマー)共の到達点こそがカイドウであり、ビッグ・マムなのだ。 「あの鋼翼を仕留め損ねたことをそうまで気にしているとはな。図体の割には繊細な男だ」 「野郎の処理のアテはもう出来てる。これは純粋に手前の能力を買っての勧誘だ」 「……」 無惨は気位の高い男だ。 誰かの下に付くなんてことが許せる人格はしていない。 もしも顎で使われるようなことがあれば彼はどんな状況であれ、それが如何なる契約の許にある関係だろうと破壊するだろう。 しかし現実問題…敵を仕留め損ねたとはいえ新宿をああも完膚なきまでに破壊できる力を一先ず味方にしておけるのは破格の話だ。 そこについては無惨も業腹ながら異論はなかった。 どんな謀も正面から突破できる武力。 それと当分の間敵対を避け、雌伏し…その間に彼ら怪物共を退ける手を探るという選択も悪くはあるまい。 一時とはいえ傘下などに入らねばならない事実(屈辱)は脳髄を焦がすが、得られる利はあまりに大きすぎる。 「…鋼翼のランサーを処理するアテがあると言ったな。具体的な手の内を聞かせてもらおうか」 「ヤツとやり合って生き延びたとんでもねェ侍を見つけてな。 勧誘には失敗したが契約は出来た。あのランサーも相当な野郎だったが……侍って連中には侮れねェもんがある」 新宿を破壊した二体の片割れ。 鋼翼のランサーと仮称されるあの男は紛れもない怪物だった。 そんな男を殺すために用意した人材が言うに事欠いて侍と来た。 無惨の生きた最後の時代でさえ銃器の発展に負けて淘汰されていた連中が、英霊になったとはいえそこまでの能力を得られるものなのか。 訝るように眉を顰めた無惨にカイドウは何処か上機嫌に続ける。 「そいつの腕と刀がありゃランサーは倒せない敵じゃねェと判断した。根拠はこれでいいか?」 「……」 根拠としては確かにこれで十分だろう。 だが無惨は沈黙した。 カイドウに対する敵意や猜疑心によるものではなく、もっと別な理由からの沈黙だった。 カイドウにとって侍は宿敵だが、それ故に一目置いている存在でもある。 一方で無惨にとっての侍もカイドウと同じく宿敵だ。 しかしその意味合いは彼のそれとは大きく異なる。 「特殊な刀でも持っていたのか」 「あぁ。あれは妖刀の類だろう。首筋を掠めた程度だったが…ありゃ凄まじい。 何せ今でも傷が治らねェ程だ。ランサーの野郎もひょっとしたら今頃痛みでのたうち回ってるかもな」 赫い刀だ。 恐ろしい刀だった。 そう付け足したカイドウの眼下で無惨の瞳孔が静かに肥大した。 何かを言いかけて一度止め。 それから無惨は改めて空を泳ぐ青龍へと問うた。 「その男は…日輪の耳飾りを付けていたか?」 ――鬼舞辻無惨は。 ――神仏の存在を信じていない。 英霊になった今でも遥か彼方に逐わす彼らには何の力もないのだと蔑んでいる。 その彼が今この時ばかりは本気で祈っていた。 神仏に対してではなくとも、無惨のような男がただ無形の願いを掲げていたことだけは間違いない。 そうまでして避けたい事態があった。 決して聞きたくない言葉があった。 自分の何を捧げてでもあり得てほしくない現実があった。 「耳飾り? …あぁ、そういえば付けてやがったな。知り合いか?」 「――――」 無惨の眼がクワッと大きく見開かれた。 心底からの戦慄と心底からの動揺がその動作に同居していた。凝集されていた。 次の瞬間無惨が起こした行動はカイドウへの返事でも更なる詰問でもなかった。 その痩躯から……ぶわりと、赤黒い色の染み込んだ茨の波を噴き出させたのだ。 「おい」 血鬼術――黒血枳棘。 自然で喩えるなら茨。 現代で喩えるなら有刺鉄線によく似たそれらは無惨の血をもとに成立した死の触腕である。 体内に無惨の血が入れば末路は即死か即座の鬼化のどちらか。 サーヴァントであろうと重篤な影響を受けることは間違いない。 それを仮にも交渉を持ちかけてきた相手に放つという行為の意味は…つまり。 「これは……そういうことでいいんだな?」 話は終わりだという暴力的な意思表示。 カイドウという怪物を相手にしている以上、そこには更に"命知らずな"という言葉が足されるか。 暴風を巻き起こして黒血枳棘を打ち払った青龍の鋭い眼光が地の無惨を睥睨する。 しかし無惨は彼以上に激怒していたし、それ以上に動揺していた。 呼吸は荒く弾み、青筋がところどころに浮き出た形相。 彼はこの界聖杯に召喚されてからというもの数多の苛立ちと憤怒を噛み締めてきた。 それはマスターの狂人ぶりに対してであり、他の某かに対してでもある。 だが――今の無惨が抱いている感情の激しさは、間違いなくこれまでのどれよりも荒れ狂っていた。 「私の力が入用だというのなら今すぐ件の侍を殺して来い」 目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。 忘れることなどできる筈もない。 今もあの侍に斬り刻まれた傷は無惨の総身に刻まれ続けているのだ。 肉の奥深くに何百年と残り続け、死を経ても尚消えることのなかった忌まわしい傷。 人間であることを止め、日光のみを敵として思う存分に人を喰らい続けていたかつての無惨。 その自負と驕りを完膚なきまでに打ち砕き膾切りにした男がいた。 赫い刀を振り翳し。 日輪の耳飾りを提げたおぞましき男。 無惨を鼠のように闇に隠れ潜ませた男。 神仏をも恐れぬ鬼舞辻無惨に、初めて恐怖を与えた男。 「そうでなければ私が貴様を殺す」 カイドウが満足げに語った"侍"の情報はその全てが彼と一致していた。 否、そうでなくとも無惨には分かった。 誰よりもかの剣士を恐れた身であるからこそ分かった。 激突だけで都市を崩壊させる程の怪物共。 それと伯仲できる程の力を持った"耳飾りの剣士"。 これで人違いならば無惨は生涯で初めて神と仏に感謝の言葉を吐くだろう。 そんなことはあり得ないと分かっているから。 「お前とあのセイバーにどんな因縁があるのかは知らねェが……」 カイドウが無惨を見下ろす眼にもはや好奇の色はなかった。 そこにあるのは退屈と諦観。 つい先刻まで傘下に入れと勧誘を行っていた者がするとは思えないほど冷めた眼だった。 次の瞬間カイドウの龍化が解ける。 どん――と揺れる大地。 地震を思わす振動を伴いながら着地した彼の姿は一言で言うならば鬼神。 無惨と彼の眷属達よりも遥かに大衆のイメージ通りの"鬼"の姿形をした、怪物。 「もうお前はいい。底が見えた」 失望を露わに吐き捨てたその言葉に無惨は憤ったが、それは屈辱から生じる感情ではなかった。 実際に対面していながらまだ分からないのか。 あの男を利用するなどと本気で考えているのか。 そんなことができると本当に考えているのか。 実際にあの剣を見たなら考えるべきことは利用でも泳がすことでもなく。 真っ先にあらん限り全ての手段を使ってあの男を潰すか、奴が敗走することに懸けて隠れ潜むことであろうが。 「そんなにアイツが怖ェなら会わないで良いようにしてやるよ。 こんな腰抜け野郎が此処まで生き残ってやがるとは…流石に思わなかったぜ」 「精々利用した気になっていろ阿呆め。あの男を軽んじている時点で貴様の末路は見えた」 金棒を構えて嘆息するカイドウに対しての興味などはもはや無惨にはなかった。 耳飾りの剣士。 継国縁壱という名の人間を名乗る化物がこの地に存在していることを聞いた時点で無惨の選択は決まった。 Mも青龍も今となってはどうでもいい。 縁壱が死ぬまで全ての気配と痕跡を隠して雌伏に徹する。 それが無惨の決定だった。 縁壱が死なずに生き残ってしまった場合のことなどを考える余裕は今の彼にはない。 今の無惨を支配しているのは縁壱という稀代の超人に対する忌避感(トラウマ)。 合理性や細かな理屈など吹き飛ぶ程に峻烈な、動揺(ショック)だった。 “聞こえているな。細かい話は後だ。すぐに令呪を使え” 無惨は青龍と睨み合いながら、マスターである異形の精神を持つ女へ念話を飛ばす。 命じるのは令呪の使用。 彼女に手綱を引かれることをあれほど嫌っていた彼とは思えない命令だったが、これはそれだけ彼にとって状況が切迫していることの現れだった。 こんなところで油を売っている暇はない。 新宿を滅ぼしたサーヴァントだろうが何だろうが関係ない。 新しい拠点の話になど、もはや名残惜しさの一つも感じられなかった。 “この場から今すぐ貴様を連れて退避する。分かったら今すぐに令呪を使って私を呼び寄せろ!” 無惨はこと逃走することにかけては卓越したものを持つ。 彼がこうまで恐れる耳飾りの剣士ですら初見では無惨の逃走を止められなかった。 そんな彼もマスターという重荷を背負っている以上はこの場から逃げ出す判断はそう容易くは下せない。 しかし令呪がもたらす一時的なブースト効果さえあれば。 空間移動に等しい速度であの女を回収し、二体の怪物の手が届かない射程圏外まで逃げ遂せることも可能だろう。 “鬼舞辻くん。私、あなたにお願いするわね” そうだ、それでいい。 令呪を使って救援を希え。 貴様の命令に従わされるなど腸が煮えくり返るなんて形容では済まない不快感だが今この時だけは寛大に許そう。 一画で足りなければ二画を重ねて私を強くしろ。 頭の涌いた愚図が私に貢献できるまたとない機会だ。 “令呪を以って命じます。Mさん達を助けてあげて、鬼舞辻くん” 「――ふざけるなァァァ!!」 無惨が咆哮した。 それと同時に彼の肉体が膨張し無数の触腕を振り乱す。 音を遥かに置き去って振るわれる触腕が鎌鼬めいた真空の刃を飛ばし、カイドウは金棒を斜めに構えてこれを防ぐ。 最強の生物に堂々弓を引いておきながら、しかし無惨の激情はカイドウではなく己のマスターへと向けられていた。 “あの女は…一体、何処まで……!” 異常発達を遂げた脳に走った血管がブチブチと音を立てて切れていくのが分かる。 もしも無惨が鬼にも英霊でもないただの人間だったなら、間違いなく彼は七孔噴血の末に憤死していただろう。 忌まわしき耳飾りの剣士の存在を知っておきながら逃げられない。 速やかに気配を消して闇に身を潜めねばならないというのに、これから悪目立ちをすることになる。 何をどう間違えたらこんな最悪の状況に立たされる羽目になるのか問い質したい心地ですらあった。 「思い通りに行かなかったみてェだな。顔に出てるぜ」 「黙れ!」 鬼舞辻無惨、激昂。 不退転を課せられた彼は単身最強生物と相対する。 全てを殺し尽くしたい、喰らい尽くしたくて堪らない苛立ちと衝動。 かつて鬼の始祖として君臨し傍若無人の限りを尽くした男も……此処では首輪に繋がれた一匹の猛犬でしかないのだった。 ◆ ◆ ◆ 芸能界という魔界を生きてきた。 日本中から集まった妖怪が所狭しと犇めく魔境をスキップで歩んできた。 その星野アイが片膝を突いて口を抑え、逆流した胃液でその手を汚している。 それがどれほどの異常事態かは彼女がどれほどよくできたアイドルなのかを知る者であれば自ずと理解できよう。 アイドルは人前で汚い姿など見せない。 弱い部分など晒さない。 それなのに今のアイはどうだ。 顔を青褪めさせ、みっともなく吐瀉物を吐き散らしている。 ファンが見たら言葉を失いともすれば幻滅してもおかしくない姿。 しかしそれを指差し笑ったり揶揄したりできる者は恐らく居まい。 むしろ彼女達の前に立つモノが何であるかを一目でも見れば、白目を剥いて泡を吹いていないだけ上出来だと賞賛すらしたくなるに違いない。 “大丈夫か、アイ” “…あんまり。てか、ちょっとやばいかも” “無理もねぇよ。英霊(サーヴァント)のオレでさえ……心底(マジ)で戦慄(ブル)った” 覇王色の覇気。 大海賊時代を生きた豪傑達の中でもごくごく一部の者だけが習得できる雄々しきカリスマ。 立ち塞ぐ敵の全てを鎧袖一触に薙ぎ払うことすら可能とする覇気のエネルギー。 ましてや今回の場合それを振るうのは海賊達のハイエンド、四皇"ビッグ・マム"である。 それを間近で浴びて平気でいられる筈がない。 それが可能なのは彼女と同じかそれ以上の資質を秘めた超人だけだ。 「ン~? 何だい、女子供だらけのクセして存外タフじゃねェか。 おれの覇王色がこんなガキ共に耐えられる程ヌルいわけはねェんだが…界聖杯の野郎、まさか余計な真似をしたんじゃないだろうねェ」 ギロリと天を睨むビッグ・マムだが当然返答はない。 が、彼女の推測は的を射ていた。 可能性の器としてこの地に立つマスター達の存在はこの世界においては常人よりも一段上の存在として扱われる。 可能性の器、地平線の彼方に辿り着く資格の保有者という格(ランク)。 ビッグ・マム…シャーロット・リンリンの覇気を受けて尚アイやさとうの叔母、それどころか幼子であるしおさえ意識を保てているのはその恩恵だった。 もっともこれはリンリンにしてみれば至極不愉快な話であった。 本来なら覇気の放出だけで人事不省に叩き込めるような女子供が、ただ足腰立たなくなってゲロを吐く程度の被害で済んでいるというのは。 「おいおい、おれに一人で喋らせてんじゃねェよガキ共? どんな手品を使ったのか知らねえが…おれの覇王色を耐え抜いてみせたんだ。名乗りくらいはあげたらどうだい? 無作法な奴らだねェ!」 ママママと呵々大笑するリンリンを前に殺島は苦笑するしかなかった。 確かに殺島は破壊の八極道の中では下から数えた方が早い程度の人材だった。 最強の極道と呼ばれた男はおろか、息子程の歳である幼狂にすら及ばない三下。 だが…それを踏まえても断言できる。 こいつは格が違う。 サーヴァントとしての格以前に、生物として格が違うと。 “アイ。令呪を使え” “…仕方ないかな、これは” “戦えって言うならそうするが…勝率はハッキリ言って1%あるかどうかってとこだろうな。 オレの宝具(オウゴン)も化物(モンスター)相手じゃ分が悪い。そこの電ノコ君の働きにほぼほぼ委ねることになっちまう” 殺島飛露鬼の宝具『帝都高爆葬・暴走師団聖華天』はマックス数万に及ぶ軍勢を召喚する強力な制圧宝具だ。 しかしながらリンリンのような圧倒的すぎる個を押し潰すには彼らはあまりにも向いていない。 最悪今しがた見せた覇気の解放一つで数割削られてしまうような事態もあるだろうと殺島は踏んでいた。 つまり、此処で戦い続けることはほぼほぼリスクしかない選択なのだ。 であれば令呪の一画を使ってでもこの鉄火場を離脱した方が利口であろう。 アイもそこに異存はない。 ないのだが。 そんな彼女達をよそに少年少女は言葉を交わしていた。 「らいだーくん、戦える?」 「…まぁ行けるか行けないかで言ったら行けるけどよ。お前は大丈夫なのかよ、今の」 「だいじょうぶだよ。へっちゃら、だから」 神戸しおと星野アイならば覇道に通じる素質があるのは確かに前者だろう。 ならば覇王色の覇気を浴びたことによる負担も多少は軽減されるかもしれない。 だが前提としてしおはあまりにも幼すぎた。 狂気という名の武装をしていることを含めても。 可能性の器であるという特権を含めても。 ビッグ・マムの覇気を浴びておいて"へっちゃら"な筈はない。 「くえすと……ちゃんとやろ?」 「……お前、マジでこういう時ムチャクチャ言うよなあ」 地面にへたり込んで息を切らしながら笑う姿は明らかに空元気で。 だがだからこそデンジも嫌だ逃げようぜと正論を言うことができなくなってしまう。 デンジが目にしたどの悪魔よりも悪魔らしい化物を見上げながら…デンジは嫌々一歩を踏み出した。 それからチェンソーにすげ替えられた頭でぐりんと振り向く。 「アンタはどうすんだよおっさん」 「負け馬に張る趣味はなくてなぁ」 「ケッ。まぁそんな事だろうと思ったけどよ」 溜息をつきながら前に向き直るデンジ。 リンリンは彼の貧相な霊基を見透かしたように甲高く嗤った。 アイは心の中で小さく呟く――ごめんね、しおちゃん。 “私は生きなきゃいけないの” アイとて人の子だ。 悪女ではあれど悪魔ではない。 この年頃の幼子を置いて自分達だけ逃げることに後ろ髪を引かれる思いがないと言えばそれは嘘になる。 だがそれでもアイはしおとデンジに背を向ける。 彼女達の姿をよそに踵を返せる。 そうまでしてでも生きなければならないから。 そうしなければならない理由があるから。 「まって、アイさん」 その背中を引き止める声がかかる。 今まさに令呪を使おうとしていたアイの意識がそれに引かれる。 しおはアイの方を向いてはいなかった。 未知の強敵であるイカれた老婆に一人向かうデンジの背中だけを見ていた。 されどそれはヒーローの背中に願いを懸ける無力な子どもの姿ではなく。 デンジという名の武器を振るって敵を殺さんとする可能性の器の形をしていた。 「もう少しだけまってください。らいだーくんがあのおばあちゃんを殺せるかもしれないから」 「ごめんね。私、その言葉で足を止めれるほど子どもじゃないんだ」 「そうじゃなくても」 しおが目指す未来は二人きりの楽園だ。 だけどこの世界で生きる彼女には家族のような仲間がいる。 それは一蓮托生のらいだーくんことデンジであり。 都市一つをすら自分の手の平で転がしてのける犯罪王モリアーティであり。 そして…… 「とむらくんが来てくれるから」 神戸しおの好敵手(ライバル)である彼。 世界を壊すと豪語した彼。 彼がこの場に駆け付けないなんてあり得ない。 しおはそう信じていた。 そんなしおの言葉にはアイの心にも響く、強がりや我儘ではない心からの確信があった。 「だからもう少しだけ、まってください。おねがいします」 これは試練(クエスト)だ。 自分と彼を育てるための無理難題なのだ。 そんな難しい言葉は分からずとも。 しおは今この時にあっても、この現状をそういうものだと思っていた。 「本気で言ってるの?」 だからアイも思わず子どもに向けるべきでない言葉が出る。 子どもの言葉に"本気で言ってるの?"なんて大人げなすぎるが。 それでも言わずにはいられなかった。 それほどの重さがしおの言葉には籠もっていたのだ。 「うん。らいだーくんととむらくんが、必ずあのおばあちゃんをころすから」 そしてしおはやはり断言する。 勝つのは私達だと。 その言葉にアイは足を止めた。 殺島から聞こえる念話を受けても…それでも気付けばそうしていた。 なんて不合理。 なんて自殺行為。 そう分かってはいるのに。 それでもアイがそうしたのは彼女があらゆる嘘を知り尽くした偶像(アイドル)の中の偶像(アイドル)だったからなのかもしれない。 その言葉には嘘がなかった。 何処までも荒唐無稽で馬鹿げているのに嘘だけはなかった。 それが、アイの足と選択を止めたのだろう。 ◆ ◆ ◆ カイドウが金棒を振り上げる。 そして振り下ろす。 それだけの動作であるにも関わらずそこには黒い稲妻が伴っていた。 武装色の覇気。 たとえ自然という概念を体現するロギアの能力者であろうともただの一打で打ち砕く武の極北。 最低ラインを音速として振るわれる重打はしかし空を切る。 鬼舞辻無惨は最強生物の一撃を躱したことを誇るでもそれに驕るでもなく、怒色満面の貌で血鬼術を解放した。 黒血枳棘の茨がシュルシュルと奇妙奇怪な音を立てながら押し迫る。 それはカイドウの表皮に触れるなりその鋭利な棘で皮膚を破り、無惨の血を最強生物の体内に流し込まんとしたが… “つくづく不快な男だ。私の血鬼術で薄皮一枚裂けぬとは…” その体内へと続く傷(道)が開けない。 カイドウの皮膚は明らかに異常な耐久性を有していた。 いや。よしんば彼を流血させその体内に血を流し込むことができていたとしても。 それで果たして無惨の期待通りの成果を得ることが果たしてできたかどうか。 カイドウという生物の規格外ぶりを含めて考えれば、実に怪しいと言わざるを得ないだろう。 「やればできるじゃねえか。お前、おれの一撃を見てから避けやがったな」 「貴様のような野蛮人が私に向かって囀るな」 「ウォロロロ! よく吠えるじゃねェか…じゃあてめえは何だ?」 カイドウは笑う。 不敵に笑う。 「むせ返るような血の臭いが此処まで匂ってきやがるぜ。お前今まで何人殺した」 答える義理はないしそもそもそんな些末な事柄をいちいち記憶しておく程無惨は殊勝な生命体ではない。 強いて言うならば数えるのが億劫な程と答えるのが正しいのだろうが、重ねて言うが答える義理などないのだ。 無言を貫き、肉塊から成る有機の槍を数十と生成してカイドウへ放つ無惨。 そんな彼を愉快そうに下瞰しながら明王は無惨をとある言葉で評した。 「人間の真似事は止せよ…鬼が。似合ってねェぞ」 カイドウ、金棒を一閃。 生じた衝撃のみで無惨の攻め手を全て薙ぎ払う。 次の瞬間その巨体が無惨の視界から消えた。 無惨の思考を驚愕が満たす。 次の瞬間、彼の腹部を中心に強烈な衝撃が炸裂した。 “ち――…!“ 雷鳴八卦。 最強生物の代名詞たるその一撃は言葉で語るならただの打撃だ。 しかしその速度はまさに雷鳴の如き疾さで牙を剥く。 高速戦の世界に列席するに十分な力を持つ無惨でさえもが被弾を余儀なくされる超音速の一撃。 胴体の八割以上を吹き飛ばされながらも無惨は瞬時に肉体を再生。 彼に限って意趣返しなどという考えを思い浮かべる筈はなかったが、奇しくもその形になる行動へ無惨は打って出た。 全身の肉を蠢動させてバネのように扱い、自らの全身を"射出"。 カイドウへ肉薄するなり至近距離から叩き込む連撃の総数凡そ百二十。 カイドウはやはりと言うべきか金棒を構え防御したが…その少なく見積もって鋼鉄以上の硬度を持つ皮膚は確かに血を流していた。 「大した速さだ。耳飾りのセイバーにゃ及ばねェが」 瞬く間に無惨が追撃する。 かの侍を相手に張り合うつもりなどない。 無惨にとっての彼は恐るべき化物でこそあれど、対抗意識を燃やすような相手ではないから。 故に無惨はただ単純に"自分の前でその存在に言及した"という事実に憤激した。 さながら妖魔について言及する童のことを、不吉だから止めろと一喝する老人のように。 「道理も解らぬ蛮族が。その愚かしさは地獄で償え」 「道理なら解ってるさ。解った上で笑い飛ばすのが海賊(おれ)だ」 「そうかならば死ね」 何故この私がこんな戦いをさせられている。 あの男の存在を知りながら逃げることすらしていない。 現状への怒りはそのままカイドウに対する攻め手の苛烈さに直結する。 生半な攻撃では薄皮を裂くことすら叶わない最強生物の血を流させる、それだけの力を思う存分感情のままにぶち撒ける無惨。 今の彼はそうするしかない。 そうしなければならないように、目には見えない絶対の命令権によって無理矢理背中を押されている。 “認めること自体が業腹だが、埒外の強度を持っていることは確かなようだ” 並のサーヴァントであれば挽き肉に変えられて然るべき高速連撃。 それを受けておきながら僅かな流血で踏み止まっているカイドウの異様さを、無惨は激情の中にありながらも確りと理解していた。 普通に刻んでいたのではいつまで経っても削り切れない。 血を流し込んで呪いを刻む手もあるが望みは薄い。 となれば万事休すと諦めて溝鼠のように逃げ回る以外手立てはないのか。 無惨はこの苦境に心底怒っていたが、しかしそれは否だと考えていた。 “ただ刻むだけでは糞にもならない。ならば…” 生前ならばまずあり得なかった、自分が戦略を立てて立ち回らねばならないという状況。 それそのものが無惨にとっては十分に憤怒の対象だ。 過去最大級と言ってもいい屈辱に身を焦がしている無惨を一顧だにせずカイドウが再び暴を奮った。 再度の消失――高速移動。からの雷鳴八卦が無惨の半身を先刻の焼き直しのようにもぎ取るが。 その刹那、半身を欠いた無惨の体が溶けた鉄のようにどろりと歪んだ。 「気味の悪ィ体だなァ!」 無形の体は新世界の海賊にとって敵ではない。 自然(ロギア)を殴れる覇気を纏ってカイドウが一閃。 無惨はそれを巧みに掻い潜り、そこで人の姿へと回帰。 したかと思えばその右手でカイドウの腹の、つい先刻自身が流血させた傷口に触れた。 「大層な体をしているようだが」 成程確かに怪物だ。 無惨もそれは認める他ない。 が。体表から深く刻むことが不可能だとしてもそれならそれで打つ手はある。 実に単純な発想だ。 外から破ることができないのなら、内側に直接響かせてやればいい。 「――所詮はただの肉袋だろう。蛮人如きが私を見下すな」 血鬼術、発動。 名など与えてすらいない、それにしては絶大すぎる出力の異能。 生前ただの一度の解放で迫る鬼狩りの群れを壊滅状態にまで追いやった無惨の虎の子。 それは俗に衝撃波と呼ばれる現象であった。 傷口を介してカイドウの体内へと響いた衝撃波。 人体程度なら掠めただけでもお釈迦にできる破壊の力場を直接流し込まれれば…如何に四皇と言えども。 「お、ォォッ……!?」 無傷ではいられない。 涼しい顔ではいられない。 カイドウが漏らした苦悶の声。 それを聞き終えるのを待たずして、無惨は全力の衝撃を彼の胸板に叩き込んだ。 ぐらりと傾ぐその巨体は地面に背を触れさせた。 倒されたのだ、無惨によって。 敵の攻撃で倒されて天を仰ぐのは、此度の現界で二度目のことだった。 「おォ…ウォロロロロ! なかなか……効いたぜ、今のは」 口から垂れた一筋の血を拭うカイドウ。 四皇に血を吐かせたその事実は紛れもなく誇るべき功績だ。 此処までの戦いでカイドウに屠られてきたサーヴァント達は、皆いずれも彼の血の一滴すら拝めず終いだったのだから。 だが無惨の顔はあいも変わらず厳しいままだ。 少なくともそこには難敵に攻撃を通せたことを誇る色は微塵も見られない。 “化物め……” 無惨の見た目は既に五体満足、完全な状態に復元されている。 しかし彼の現状は実のところ満身創痍と言っていい状態だった。 カイドウの繰り出す打撃を浴びたことによる消耗が予想以上に激しかったのだ。 それもその筈、形なき自然すら捉える武装色の一撃ですら十二分に強力なのにも関わらず――カイドウが振るうのは覇王色。 覇気の頂点たる力を横溢させた金棒で殴られたとあっては無惨の玉体もただでは済まない。 毒に冒されながら異常者共の相手をした忌まわしい落日の記憶が嫌でも蘇ってくる。 “だが…脆い箇所もあると分かっただけでも収穫か……” 無惨は常に最強だった。 それは鬼狩りとの最終決戦にあっても変わらなかった。 継国縁壱という例外こそありはしたが、無惨は端から彼の存在を勘定に含めてなどいない。 技を磨く必要などない。 工夫などせずとも腕の一振りであらゆる障害が砕け散る。 無惨にとってはそれが常だった。 なのに今の自分はどうだ。 憤死寸前の怒りを噛み殺しながら不合理な戦いに臨むことを強制され、まるであの鬼狩り共のように頭を回して難題に立ち向かわされている。 令呪の束縛さえなければすぐにでも逃げ出しているというのに。 無益な戦いに匙を投げることすら今の無惨には許されない。 「……」 奥歯を噛み潰しながら戦闘態勢を維持する。 カイドウは口許の血を拭って金棒を無惨へ向けた。 現代風に言うならばそれはホームランを予告する打者のような仕草で。 次の瞬間鬼神が黒い稲妻を纏わせながら得物を振り被る。 無惨は回避することに意識の大半を割きつつも、カイドウの隙を縫って再びその体内に衝撃を打ち込む算段を練る。 秘術に依らず物理的な部位の多さを要因として実現する分割思考。 アトラスの本家本元達が見れば失笑するような力技でのそれが皇帝殺しの活路を開く微かな望みになる。 「鬼退治だ! ガラじゃねェがな、ウォロロロロ!」 「ほざけ――!」 停滞を引き裂く暴力と暴力の躍動。 それがいざや再開されるのだと互いの発散する凶気が予兆を醸す。 が…先手となるであろうカイドウが動くよりも先に、彼らのどちらにも起因しない暴力的な熱光が夜闇の中で炸裂した。 「…あのババア!」 既に瓦礫の山になりつつあったデトネラット本社の残骸を文字通り消し飛ばす炎と光。 カイドウにとっては嫌になるくらい見覚えのある爆光だった。 天候を従える女(ビッグ・マム)のホーミーズ、プロメテウスの力だ。 「興が乗るのは結構だが、こっちに余波を飛ばしてくんじゃねェよ。全く……」 苛立ち半分呆れ半分といった様子で嘆息するカイドウ。 とはいえ飛んでくる瓦礫や余波の炎は彼にとっては何ら致命的なものではない。 鬱陶しげに金棒を軽く一振りすればそれで終わる程度のアクシデントだ。 しかし。 単身で四皇の暴力と相対するのを余儀なくされている鬼の始祖、鬼舞辻無惨の反応は違った。 「――――」 彼がその反応を見せるのは二度目。 驚愕に目を見開いて言葉を失っていた。 継国縁壱の存在を知らされた時程の動揺でこそないものの。 無惨は此方の戦場に飛んできた爆光とそれ由来の炎で燃えた瓦礫に一瞬の躊躇いもなく背を向けた。 「…なんだ、お前」 カイドウはそれを訝しげに見つめる。 そしてその背中に向け、何の感慨もなく無惨の最大の欠陥(ウィークポイント)を看破した。 「太陽に弱ェのか?」 答える義理も余裕もない。 しかしそれが答えだった。 ビッグ・マムのホーミーズが一体にして主力格の"プロメテウス"。 彼は、"太陽"のホーミーズだ。 鬼舞辻無惨は…彼ら鬼は。 太陽の光を浴びれば、死ぬ。 →
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5月16日名古屋版朝刊 5月16日(日) 北九州版(福岡県)朝刊 5月16日 高知版 朝刊 5月16日 高知版 朝刊 <日曜くらぶ> 関連ページ 5月16日名古屋版朝刊 「日本の母は息子の性処理係」毎日新聞が捏造記事178 http //hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/ms/1272888088/196-197 1面題字下:白十字 途中:YKKap(カラー) 毎日新聞名古屋開発(株) ニュース時事能力検定試験(カラー) 下:彩流社 ワック出版 1万年堂出版 毎日ワンズ アートヴィレッジ 現代書林 大空出版 実務教育出版(3段) 2面下:海竜社 文芸社(5段) 3面下:幻冬舎(5段) 4面下:銀座国文館(5段) 5面下:がくぶん特選館・(株)カタナゴルフ(5段) 6面下:★近畿大学文芸学部★(5段) 7面:日本サプリメント(株)(全) 9面下:岩波書店(7段) 10面下:第一書房 (財)東洋哲学研究所 晩成書房 刀水書房 有志舎 ttp //www.seikaosha.co.jp/ 汲古書院 萌文社 亜紀書房 フリープレス 飯塚書店 東京弘報社(5段) 11面下:毎日新聞社 柊風舎(5段) 12面下:キュービクルメンテ協会 毎日小学生新聞 興和(株)(7段) 13面:★(株)メディア・プライス★(カラー全) 14面下:大和証券グループ(協賛) 毎日新聞社(4段) 16面下:★(株)ドクターシーラボ★(5段) 17面下:内藤一水社 アド大広名古屋 近鉄タクシー(株)(2段) 18面下:せんき薬師西福院(稲沢市) ウィノルド夫妻と室内楽の夕べ メンローヴアベニュー(5段) 途中:まるなか米店 19面下:和太鼓アンサンブルTOKARA メビウス・ブラスクインテット コンサートマネジメント ミ・ベモル事務局 (株)セキノレーシングスポーツ(5段) 20面下:(株)ケンコー 山梨県特産品センター(5段) 21面下:(株)グランドギャラリー 毎日新聞中部社会事業団 αスポニチ速報(3段) 22面下:Bridal Collection SPOSA DI MATSUEDA 下:ヒサヤ大黒堂(変型3段) 5月16日(日) 北九州版(福岡県)朝刊 「日本の母は息子の性処理係」毎日新聞が捏造記事178 http //hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/ms/1272888088/199-202 一面:白十字”題字下”,医療法人堀川病院 www.horikawa.or.jp /介護老人保健施設サンダイヤル(久留米市)”記事中”, ニュース時事能力検定試験 平成22年度前期(第9回)検定日 6月20日(日) お申し込み締切日 5月21日(金) 主催:NPO法人日本ニュース時事能力検定協会、毎日新聞社、(株)毎日教育総合研究所 ほか 後援:日本経団連、日本商工会議所、日本社会科教育学会、全国公民科・社会科教育研究会、全国中学校社会科教育研究会、 全国中学校社会科教育研究会 ほか”記事中カラー”, YKKap”天気予報中”, パワー社,発行:毎日新聞社/発売:不二書房,あすなろ書房,青灯社, 太郎次郎社ディタス,発行:六月書房/発売:星雲社,大空出版,光村推古書院”下5分の1” 二面:双葉社”下3分の1” 三面:講談社”下3分の1” 四面:がくぶん特選館 日本ゴルフスクール http //www.ngs-net.com 総販売元:株式会社カタナゴルフ(東京都豊島区)”下3分の1” 五面:株式会社ドクターシーラボ(金のリフト:化粧品:通販)”下3分の1” 六面:愛蔵版 第67期将棋名人戦七番勝負(毎日新聞社)”記事中”, 第65期本因坊戦 主催:毎日新聞社、日本棋院、関西棋院 協賛:大和証券グループ”将棋・囲碁記事”, 第68期名人戦 主催:毎日新聞社、朝日新聞社 協賛:大和証券グループ”将棋・囲碁記事”, 公営レースガイド”下15分の1” 七面:アカデミー出版(イングリッシュ・アドベンチャー:英語教材)”全面白黒” 八面:[毎日求人情報 MYWAY](次回は5月22日(土)、23日(日)、24日(月)に掲載予定) (株)ジェイ・シー・アール(福岡市博多区)(新規事業開設のため (株)IHIシバウラ 代理店 営業員), (株)毎日コミュニケーションズ 人材派遣事業本部(福岡市博多区)(オフィスインテリア企画営業職), 西日本鉄道(株)(福岡市中央区)(営業スタッフ募集(契約社員)), 特定医療法人 東筑病院(北九州市八幡西区)(事務職員募集), 福岡県住宅供給公社(福岡市中央区)(正職員(建築・事務)募集!!) ”下3分の1右”, クラブツーリズム株式会社(国内:色々)”下3分の1左” 九面:岩波書店”下2分の1” 十面:[東京弘報社扱] 第一書房,(財)東洋哲学研究所,晩成書房, 刀水書房,有志舎,青簡舎,汲古書院,萌文社,亜紀書房,フリープレス,飯塚書店”下3分の1” 十一面:毎日新聞社の本,柊風舎”下3分の1” 十二面:トラピックス 阪急交通社(国内:憧れのデラックスホテルに泊まる グリーン車ミステリーツアー 3日間)”全面白黒” 十四面:株式会社ロアコスモ(大阪市西区)(ビタコラ2000:健康食品:通販)”全面カラー” 十五面:毎日告知板(毎日新聞社),株式会社毎日メディアサービス(毎日新聞社の関連会社)”中15分の1”, 八ッ目製薬”中15分の1”, トラピックス 阪急交通社(国内:函館夜景と小樽・札幌・富良野・美瑛 4日間)”下3分の1右”, 株式会社ケンコー(サンカラーマックス:白髪染め:通販)”下3分の1左” 十六面:株式会社いいもの王国(通販)”全面白黒” 十七面:銀座国文館(東京都中央区銀座)(通販)”下2分の1” 二十面:第一観光株式会社(国内:色々)”全面白黒” 二十一面:興和株式会社 興和新薬株式会社(新キューピーコーワi:医薬品)”下7分の1” 二十二面:あかひげ薬局,JARO 社団法人日本広告審査機構”中5分の1”, トラピックス 阪急交通社(国内:奥能登感動の旅 4日間)下3分の1” 二十三面:写真のムラオカ(門司区栄町)”記事中”,古恵良質店・古恵良販売(北九州市小倉北区)”記事中”, 西港自動車学校(北九州市小倉北区)”記事中”, 学校法人 福岡保健学院 小倉リハビリテーション学院(北九州市小倉南区)”下3分の1右”, り・ほうむ工房 有限会社くるまや工房(北九州市小倉南区),(株)ハウス倶楽部(北九州市八幡西区), (まろ)麿法務事務所(福岡市中央区・北九州市小倉北区),質ココ屋(質店:北九州市小倉北区)”下3分の1左” 二十四面:「九州産業大学同窓会開催のご案内」九州産業大学同窓会 楠風会事務局(福岡市東区松香台)”下3分の1右”, 日本旅行 赤い風船九州事業部(国内:東京へ行くなら赤い風船で!!)”下3分の1左” 二十五面:福間病院(福津市花見が浜)”記事中”, みち法務事務所(北九州市小倉北区), 大川温泉貴肌美人緑の湯(大川市大字中八院)(肌美姫(化粧水):化粧品:通販), アルゴダンザ・ジャパン 販売代理店 毎日アドセンター(株)事業部(毎日新聞社の関連会社)”下7分の1” 二十六面:RKB 毎日放送株式会社(番組宣伝)”番組欄中カラー”,社団法人 福岡県専修学校各種学校協会”記事中カラー”, ヒサヤ大黒堂”記事中”,ヒサヤ大黒堂”下5分の1” 全面広告は、 七面:アカデミー出版(英語教材)、 十二面:トラピックス 阪急交通社(国内旅行)、 十四面:株式会社ロアコスモ(健康食品:通販)、 十六面:株式会社いいもの王国(通販)、 二十面:第一観光株式会社(国内旅行)、 です。 5月16日 高知版 朝刊 「日本の母は息子の性処理係」毎日新聞が捏造記事178 http //hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/ms/1272888088/235-237 一面:白十字、YKKap、毎日検定バンク、ニュース時事能力検定試験 “カラー” パワー社、毎日新聞社/不二書房、あすなろ書房、青灯社、太郎次郎社ディタス、六月書房/星雲社 大空出版、光村推古書院 二面:双葉社 “3分の1” 三面:講談社 “3分の1” 四面:銀座国文館 “3分の1” 五面:大和証券グループ(協賛)第68期名人戦 第65期本因坊戦、毎日新聞社、八ッ目製薬 六面:アカデミー出版 “全面” 七面:がくぶん特選館・株式会社カタナゴルフ “3分の1” 八面:日本直販 “全面” 九面:岩波書店 “2分の1” 十面:第一書房、(財)東洋哲学研究所、晩成書房、刀水書房、有志舎、青簡舎、汲古書院、萌文社 亜紀書房、フリープレス、飯塚書店 十一面:柊風舎 “6分の1”、毎日新聞社 “6分の1” 十二面:☆株式会社ロアコスモ☆ “全面カラー” 十三面:株式会社ケンコー “6分の1”、近畿大学 文芸学部 “6分の1” 十四面:日本サプリメント “全面” 十五面:ヒガシマル醤油株式会社 十八面:トラピックス 阪急交通社 “全面” 十九面:良品生活館 “3分の1” 二十面:株式会社いいもの王国 “全面” 二十一面:スポニチ 二十二面:ローズガーデン徳島 “2分の1” 二十三面:生もみじ にしき堂、史蹟天然記念物 龍河洞(財)龍河洞保存会、室戸海洋深層水株式会社 大豊町観光開発協会、山重食肉、(有)キムラカンパニー “6分の1”、御菓子司 冨士屋 二十四面:MOTTAINAI、海辺の宿 海の華、黄桜株式会社 “3分の1” 二十五面:株式会社アンターク本舗、あかひげ薬局 二十六面:近畿大学 文芸学部 “カラー”、MBS “カラー”、ヒサヤ大黒堂 ヒサヤ大黒堂 “5分の1” 5月16日 高知版 朝刊 <日曜くらぶ> 「日本の母は息子の性処理係」毎日新聞が捏造記事178 http //hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/ms/1272888088/238 一面:ローヤル株式会社 “カラー” ケフィアグループ 株式会社ケフィア事業振興会 “3分の1カラー” 四面:『 HOP pas! 』 企画・制作/三栄広告社 “全面カラー” 新日本製薬株式会社、(株)テレマルシェ、がくぶん特選館、栄光トレーディング (株)サクラプレイス、井上誠耕園、銀座カフェーパウリスタ、(株)ebip、メディカルプラザ (株)デジタルダイレクト、(株)かっぷ&ソーサ、(株)セラメディック研究所 関連ページ 2010年1月- 6月 毎日新聞に広告を出していた企業
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http //www.justinbiebermusic.com/ http //www.myspace.com/justinbieber My Worlds 2.0 My Worlds 2.0 [429] Client error `POST https //webservices.amazon.co.jp/paapi5/getitems` resulted in a `429 Too Many Requests` response { __type com.amazon.paapi5#TooManyRequestsException , Errors [{ Code TooManyRequests , Message The request was de (truncated...) 2010年5月19日 ( HD ) 1. One Time / 2. Favorite Girl / 3. Down To Earth / 4. Bigger / 5. One Less Lonely Girl / 6. First Dance [ featuring Usher ] / 7. Love Me / 8. Common Denominator / 9. Baby [ feat. Ludacris ] / 10. Somebody To Love / 11. Stuck In The Moment / 12. U Smile / 13. Runaway Love / 14. Never Let You Go / 15. Overboard [ feat. Jessica Jarrell ] / 16. Eenie Meenie [ Sean Kingston ] / 17. Up / 18. That Should Be Me
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